(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】Gタンパク質ゲート-K+チャネルを介した桿体-錐体ジストロフィー(RCD)における光感受性の増強
(51)【国際特許分類】
C12N 15/63 20060101AFI20240517BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240517BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20240517BHJP
C12N 15/861 20060101ALI20240517BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20240517BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20240517BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20240517BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20240517BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240517BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20240517BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20240517BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240517BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20240517BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240517BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20240517BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
C12N15/63 Z ZNA
C12N15/12
C12N15/864 100Z
C12N15/861 Z
C12N15/867 Z
C12N15/86 Z
C12N15/113 Z
C12N7/01
A61K35/76
A61K35/761
A61K35/545
A61K48/00
A61K9/127
A61K47/36
A61K9/14
A61K9/51
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573592
(86)(22)【出願日】2022-05-25
(85)【翻訳文提出日】2024-01-25
(86)【国際出願番号】 EP2022064349
(87)【国際公開番号】W WO2022248634
(87)【国際公開日】2022-12-01
(32)【優先日】2021-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523449573
【氏名又は名称】スパーリングヴィジョン
(71)【出願人】
【識別番号】523446619
【氏名又は名称】ルール-ウニヴェルジテート ボーフム
(71)【出願人】
【識別番号】514282002
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュ ナシオナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】513015441
【氏名又は名称】サントゥル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック - セーエヌエールエス
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE - CNRS
【住所又は居所原語表記】3,rue Michel Ange,F-75016 Paris 16,France
(71)【出願人】
【識別番号】507416908
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ダルカラ,ドゥニ
(72)【発明者】
【氏名】ヘルリツェ,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ミュッヒャー,ブリクス
(72)【発明者】
【氏名】カブ,ハナン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C076AA12
4C076AA31
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4C084MA17
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4C084MA38
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4C084NA05
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4C084ZA33
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB57
4C087BB65
4C087BC83
4C087MA17
4C087MA24
4C087MA38
4C087MA41
4C087MA58
4C087MA66
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA33
(57)【要約】
本発明は、変性した錐体に発現する錐体オプシンによってリクルートされるGタンパク質によって活性化される、Gタンパク質ゲート-K+チャネル(GIRK)、特にGIRK1 F137Sによって媒介される、進行期の桿体-錐体ジストロフィー(RCD)における変性した錐体の光感受性を増加させる新しい遺伝子治療アプローチに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Gタンパク質ゲート内向き整流カリウムチャネルのサブユニット1(GIRK1)F137Sをコードするヌクレオチド配列を含む、ベクター。
【請求項2】
前記ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス、SV40ウイルスベクターから選択されるウイルスである、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
前記ベクターは、VP1カプシドタンパク質のGHループに7~11アミノ酸長の挿入ペプチドを含むAAV2ウイルスまたはAAV9ウイルスであり、前記挿入ペプチドは、アミノ酸配列LGETTRP(配列番号7)を含む、請求項1または2に記載のベクター。
【請求項4】
Gタンパク質ゲート内向き整流カリウムチャネルのサブユニット1(GIRK1)F137Sをコードする前記ヌクレオチド配列は、錐体特異的プロモーターの制御下にある、請求項1~3のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項5】
前記錐体特異的プロモーターは、pR1.7もしくはその機能的変異体、または最小M-オプシンプロモーター、特にpMNTC発現カセットにて、またはGRKプロモーターもしくはその切断型である、請求項4に記載のベクター。
【請求項6】
GIRK1 F137Sをコードする前記ヌクレオチド配列は、配列番号3を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項7】
前記ベクターは、以下を含む組換えAAV9ベクターである、請求項1~6のいずれか1項に記載のベクター:
-野生型AAV9 VP1カプシドタンパク質のアミノ酸588と589との間に局在する位置で、野生型AAV9 VP1カプシドタンパク質に対して前記VP1カプシドタンパク質の前記GHループに7~11アミノ酸長の挿入ペプチドが挿入されたVP1カプシドタンパク質であって、前記ペプチドはアミノ酸配列LGETTRP(配列番号5)を含む、VP1カプシドタンパク質;および
-pR1.7プロモーターの制御下にあるGIRK1 F137Sをコードする、前記ヌクレオチド配列。
【請求項8】
前記挿入ペプチドは、アミノ酸配列AALGETTRPA(配列番号10)、LALGETTRPA(配列番号11)、またはGLGETTRPA(配列番号12)を含むか、またはこれらからなる、請求項1~7のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項9】
哺乳類の錐体オプシンをコードするヌクレオチド配列をさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に定義されるベクターを含む、薬学的に許容される担体。
【請求項11】
哺乳類の錐体オプシンをコードするヌクレオチド配列を含むベクターをさらに含む、請求項10に記載の薬学的に許容される担体。
【請求項12】
前記ベクターは、哺乳類の錐体オプシンをコードするヌクレオチド配列を含む、請求項10に記載の薬学的に許容される担体:
a)は、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス、およびSV40ウイルスベクターからなる群より選択される;または
b)は、前記VP1カプシドタンパク質の前記GHループに7~11アミノ酸長の挿入ペプチドを含むAAV2ウイルスまたはAAV9ウイルスであり、前記挿入ペプチドは、アミノ酸配列LGETTRP(配列番号7)を含む;または
c)は、以下を含む組換えAAV9ベクターである:
-野生型AAV9 VP1カプシドタンパク質のアミノ酸588と589との間に局在する位置で、野生型AAV9 VP1カプシドタンパク質に対して前記VP1カプシドタンパク質の前記GHループに7~11アミノ酸長の挿入ペプチドが挿入されたVP1カプシドタンパク質であって、前記ペプチドは、アミノ酸配列LGETTRP(配列番号7)を含む、VP1カプシドタンパク質;および
-pR1.7プロモーターの制御下にある前記哺乳類の錐体オプシンをコードする、前記ヌクレオチド配列。
【請求項13】
前記担体は、固体-脂質ナノ粒子、キトサンナノ粒子、リポソーム、リポプレックスおよびカチオン性ポリマーからなる群から選択される、請求項10~12のいずれか1項に記載の薬学的に許容される担体。
【請求項14】
前記哺乳類の錐体オプシンは、短波長錐体オプシン(SWO)である、請求項1~9のいずれか1項に記載のベクターまたは請求項10~13のいずれか1項に記載の薬学的に許容される担体。
【請求項15】
請求項1~9および14のいずれか1項に記載のベクター、または請求項10~14のいずれか1項に記載の薬学的に許容される担体を、薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤とともに含む、医薬組成物。
【請求項16】
哺乳類の錐体オプシンをコードするヌクレオチド配列を含むベクターをさらに含む、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
桿体-錐体ジストロフィー(RCD)の治療に使用するための、請求項1~9および14のいずれか1項に記載のベクター、請求項10~14のいずれか1項に記載の薬学的に許容される担体、または請求項15もしくは16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記ベクター、前記薬学的に許容される担体または前記医薬組成物は、窩の距離に網膜下注射によって投与される、請求項17に記載の使用のためのベクター、薬学的に許容される担体または医薬組成物。
【請求項19】
前記ベクター、前記薬学的に許容される担体または前記医薬組成物は、a)網膜動脈の上側枝または下側枝に隣接する領域に;b)前記窩の中心から視蓋直径2~3の距離に;かつc)側頭網膜動脈および側頭網膜静脈の枝によって画定される幾何学的形状に局在する位置に、網膜下注射によって投与される、請求項17または18のいずれか1項に記載の使用のためのベクター、薬学的に許容される担体または医薬組成物。
【請求項20】
前記ベクター、前記薬学的に許容される担体または前記医薬組成物は、硝子体内注射によって投与される、請求項17に記載の使用のためのベクター、薬学的に許容される担体または医薬組成物。
【請求項21】
桿体-錐体ジストロフィー(RCD)の治療に使用するための、Gタンパク質ゲート内向き整流カリウムチャネルのサブユニット1(GIRK1)F137Sをコードする配列を含む、核酸。
【請求項22】
桿体-錐体ジストロフィー(RCD)の治療に使用するための、Gタンパク質ゲート内向き整流カリウムチャネルのサブユニット1(GIRK1)F137Sをコードする異種核酸を含む、錐体前駆細胞。
【請求項23】
前記錐体前駆細胞は、治療される前記RCDの対象から得られる、請求項22に記載の使用のための錐体前駆細胞。
【請求項24】
前記錐体前駆細胞は、治療される前記RCDの対象の体細胞から得られた分化誘導多能性幹細胞によって得られる、請求項22または23に記載の使用のための錐体前駆細胞。
【請求項25】
前記錐体前駆細胞は、網膜下腔注射によって投与される、請求項22~24のいずれか1項に記載の使用のための錐体前駆細胞。
【請求項26】
GIRK1 F137Sまたはその機能的誘導体をコードする異種核酸を含む錐体前駆細胞を調製する方法であって、前記方法は、請求項1~9および14のいずれか1項に記載のウイルスベクター、または請求項10~14のいずれか1項に記載の薬学的に許容される担体を錐体前駆細胞に感染させることを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔本発明の技術分野〕
本発明は、変性した錐体に発現する錐体オプシンによってリクルートされるGタンパク質によって活性化される、Gタンパク質ゲート-K+チャネル(GIRK)、特にGIRK1 F137Sによって媒介される、進行期の桿体-錐体ジストロフィー(RCD)における変性した錐体の光感受性を増加させる新しい遺伝子治療アプローチに関する。
【0002】
以下の記述において、角括弧([ ])内の参考文献は、文末の参考文献リストを参照されたい。
【0003】
〔技術状況〕
網膜は、シナプスによって相互接続された3層のニューロンを構成する眼の光感受性組織である。網膜の主要ニューロンは光を感知する光受容体(PR)であり、夜間視力の桿体(Rod)および昼間視力の錐体(Cone)の2種類がある。錐体を介する視力は主に窩によって支えられており、私たちの日常的な視覚作業にとって最も価値のある高い明瞭度の中心視力を担っている(Sinhaら,2017)[1]。光受容体において、フォトンの捕獲を膜の過分極につながる細胞内シグナル伝達に結びつける光感受性Gタンパク質共役受容体は、オプシンと呼ばれている(YauおよびHardie,2009)[2]。霊長類の網膜には、桿体に見出される1種類の桿体オプシン、および3色の視覚を担う3種類の錐体オプシンが存在する。これらのオプシンの構造的特性および光伝達カスケードは類似している。
【0004】
光伝達カスケードは、正常な網膜の光受容体外片に集中するいくつかのタンパク質から構成されている(
図1A)。光受容体の役割は、この光伝達カスケードを介して光を感知し、電気信号を誘導することであり、この電気信号は処理された後、下流のニューロンに向かって伝達される(EbreyおよびKoutalos,2001)[3]。
【0005】
フォトンの吸収は、2つの部分から構成されるオプシンを活性化する:タンパク質部分、およびレチナール(ビタミンAの誘導体)である光吸収部分。後者は、11-シス-レチナール(暗順応状態)から全-トランス-レチナール構成(明順応状態)に異性化する。その結果、オプシンはGタンパク質トランスデューシンを触媒的に活性化する。トランスデューシンのα-サブユニットは、GDPがGTPに置き換わることによって活性化される。その後、α-サブユニットは、βγ-サブユニットから解離し、その2つの抑制性γサブユニットと結合することによって、膜に結合したホスホジエステラーゼ6(PDE)を活性化する。活性化されたPDEは、cGMPをGMPに加水分解する。cGMPが減少すると、ヌクレオチドゲートチャネル(CNG)がクローニングされ、カチオンの侵入が停止するため、PRが過分極し、光受容体によるグルタミン酸塩の放出が減少する(Larhammarら,2009)[4]。
【0006】
別のフォトンに反応するために、この光伝達カスケードは、以下の2つのメカニズムによって不活性化される:(i)トランスデューシンは結合したGTPを加水分解することによってそれ自身を不活性化し、(ii)ロドプシンキナーゼ(GRK)は制御タンパク質アレスチンと相互作用するオプシンをリン酸化し、オプシンの不活性化をもたらす。レチナールはその後、網膜色素上皮(RPE)およびミュラーグリア細胞によって再利用される。このカスケードの各々のタンパク質は、光信号を電気信号に変換し、2次ニューロンおよび3次ニューロンに伝達する上で重要な役割を果たしている(前田ら、2003)[5]。
【0007】
遺伝性網膜変性は、ほとんどが光受容体またはRPE細胞の突然変異によるもので、桿体の変性に続き、錐体外分節の変性が起こり、最終的には失明に至る(Buchら,2004)[6]。その中でも、桿体-錐体ジストロフィー(RCD)は、遺伝的原因が非常に不均一である最大のカテゴリーを代表する。桿体光受容体または網膜色素上皮に発現する60以上の異なる遺伝子が関与している(Wrightら,2010)[7]。RCDに関連する最初の遺伝子はロドプシン遺伝子RHOであり、RCD常染色体優性遺伝症例の25%を占める。その他にも、cGMP-PDEサブユニット遺伝子および環状GMPゲートチャネルタンパク質αサブユニット遺伝子など、多くの原因遺伝子が同定されている。多くの原因遺伝子が存在するが、結果として生じるRCDの表現型は異なる変異でも同じである(Ferrariら,2011)[8]。一般的なRCDの表現型は、桿体変性が進行し、夜盲を引き起こし、その後、末梢の錐体変性が進行し、「トンネル視」を引き起こし、残った窩の錐体のみによって調節され、最終的には疾患の末期には完全な失明に至るという特徴がある。通常、RCDと診断された患者はすでに夜盲を示すが、これは桿体が変性していることを意味する。しかし、錐体は疾患の後期まで残存しており、特に高い明瞭度を担う窩領域では、早期にはトンネル視に至る(Liら,1995)[9]。疾患の後期では、これらの錐体は外分節構造を失い、錐体ソーマおよびペディクルが完全に失われる前に完全な失明に至る(Liら,1995)[9]。
【0008】
光に敏感な錐体細胞体を呈するこれらの患者の視力を維持するために、1つの革新的な戦略は網膜遺伝子治療であり、これは広義には治療効果を媒介するために治療遺伝子を網膜細胞に導入することを指す(Bennet,2017)[10]。遺伝子治療の最初の臨床試験の成功は、劣性突然変異を持つ遺伝子を機能的なcDNAコピーで置換する遺伝子置換に焦点を当てたものであったが、網膜変性の大部分には使用できないため、この戦略には限界がある(Bennet,2017)[10]。例えば、RCDでは、突然変異が非常に多様であるために、各々の特定の変異に適用することが困難である。さらに、優性突然変異はこのアプローチを用いて治療することができない。さらに、50%の症例では、原因変異が解明されていないか、または最も頻度の高い変異を持つ桿体光受容体が、すでに失われている(Dalkaraら,2015)[11]。このような理由から、変異遺伝子を知らなくても多くの患者を治療できるように、桿体消失以外にも適用できる変異独立遺伝子治療が開発されなければならない。
【0009】
この目標を考慮して、先行研究では、双極細胞におけるチャネルロドプシンまたは錐体PRにおけるハロロドプシンのような微生物オプシンの異所性発現を用いて、膜電位を調節し、それぞれ脱分極または過分極を誘導した(Busskampら,2012;DalkaraおよびSahel,2014;Schollら,2016)[12-14]。したがって、RCDにおいて、オプトジェネティクスは、失明網膜の視力を回復させる治療戦略として用いることができる(BakerおよびFlannery,2008)[15]。考慮すべきパラメータは多い:(i)脳に最も解釈しやすい信号を送る網膜回路を最大限に活用するための細胞ターゲットの選択(ii)これらの標的細胞で自然に近い電気生理学的反応を得るための適切な光遺伝学的ツールの選択。第2のポイントに関して、微生物オプシンの比較的弱い能力は、主に以下に限られる:原核生物由来のオプシンを使用することによる潜在的な免疫原性、ハロロドプシン(BakerおよびFlannery,2008)の症例のように、単細胞微生物由来の直接光ゲートチャネルおよびポンプによるシグナル増幅がないために必要とされる高強度[15]、(Cehajic-Kapetanovicら,2015;Gaubら,2015;Van GelderおよびKaur,2015;van Wykら,2015)[16-19]。ロドプシンまたは錐体オプシンとは異なり、微生物オプシンは健常網膜に存在する光伝達カスケードなどのGタンパク質共役カスケードを活性化することができない。微生物オプシンの限界を超える可能性のある方法の一つは、全てGタンパク質共役受容体である動物オプシンを利用することである。しかし、この分野での研究は、今のところ全て網膜内ニューロンに焦点を当てている(Berryら,2019;Cehajic-Kapetanovicら,2015;De Silvaら,2017;Gaubら,2015;Linら,2008;van Wykら,2015)[20、16、21、17、22、19]。
【0010】
以前の研究では、2つの動物の錐体オプシンの光活性化が、in vitroおよびin vivoにおいて、ヒト腎臓細胞および神経細胞におけるG
i/oシグナル伝達経路を刺激できることが示されている(Masseckら,2014)[23]。この経路は、ニューロン活動の高速減衰および内在性イオンチャネルの阻害に関与している。しかし、動物の錐体オプシンは、任意の所定の細胞で共発現すると、Gタンパク質ゲート内向き整流カリウムチャネル(GIRK)を直接調節できることも示されている(Berryら,2019;Masseckら,2014)[20,23]。GIRKチャネルは、2つのサブユニットから構成されている。サブユニットには、GIRK1~4の4種類が存在する。GIRK1およびGIRK3はホモ4量体を形成することができず、機能するためにはGIRK2と結合する必要がある(MarkおよびHerlitze,2000)[24]。逆に、GIRK2単独ではホモ四量体を形成することができる。単一の点変異体GIRK1 F137Sは、機能的なホモメリックチャネルを形成することが示唆された(Chanら,1996)[31]。GIRKチャネルは、静止膜電位では主に閉じている。G
i/oタンパク質のβγサブユニットによって活性化された後、カリウムイオンが細胞から流出し、それと共に、ニューロンを過分極させる(
図1B)。したがって、脊椎動物の錐体オプシンSWO(短波長オプシンの意)およびLWO(長波長オプシンの意)を用いて、不安回路(anxiety circuitry)においてin vivoで特定の波長のG
i/oを繰り返し活性化することが可能であり、錐体オプシンとGIRKとの組み合わせは、低光強度において微生物オプシンよりも効率的であることが証明されている(Masseckら,2014)[23]。
【0011】
〔本発明の説明〕
そこで本発明者らは、この錐体オプシンに基づくシステムを視力回復の場で実施することが可能かどうかを調査し、臨床候補の選択に備えて患者の網膜を調査した。そこで、光感受性錐体再活性化戦略を開発するために、まず、変性中の錐体における光伝達カスケード要素の発現を2つのRCDマウスモデルで調べた。2つのRCDマウスモデルでリン酸化伝達カスケードを探索した後、残存する錐体オプシンの活性化によってリクルートされるGi/oタンパク質を介して作用する標的分子アプローチが初めて提案された。これにより、PDEおよびトランスデューシンの発現に依存しない新たな「短い光伝達カスケード」が構築された。
【0012】
まず、疾患の進行を通じて変性した錐体における内因性光伝達カスケードの状態を調べた。両モデルマウスにおいて、外分節変性後の錐体細胞体への移行は、オプシンおよびアレスチンのみであった。したがって、錐体オプシンシグナル伝達に基づく錐体の再活性化が実現可能であり得、それによって高感度視力の回復が可能になるという仮説が立てられた。rd10マウスモデルでは、内因性の錐体オプシンが錐体細胞体のレベルで依然として発現していることが判明した(
図3)。これは、トランスデューシンおよびホスホジエステラーゼが存在しない場合でも、GIRK2チャネルなどのGIRKチャネルにその活性を結び付けることができる可能性を示唆している(
図1B)。この構成では、GIRKチャネルの開口により、休眠錐体の静止膜電位によるカリウムイオンの流出が可能になる(Busskamp,2010)[25]。GIRKチャネルを介したK
+の流出は、RCDの2つのマウスモデルで見られたように、光に反応して錐体を過分極させる。
【0013】
次に、錐体オプシンによってリクルートされたGタンパク質によって活性化されるGIRK2チャネルが、変性した錐体で発現された。さらに、錐体細胞体に残存するオプシンは依然として機能的であり、変性した錐体において光反応を誘導するのに十分であるため、全ての錐体にGIRK2を挿入すると、色覚を維持する各々のオプシンのスペクトル特性に従った光反応が得られる。この結果は、錐体外片の変性中および変性後のRCD網膜の錐体において、光感受性が亢進していることを示唆している。この結果から、脊椎動物の光感受性タンパク質とGIRKチャネル、特に内因性Gタンパク質によって活性化されるGIRK2チャネルを組み合わせることで、網膜電図および作用によって示されるように、2つのモデルマウスの視覚機能を改善できることが示された。これは、光に鈍感な哺乳類のイオンチャネルが内在性オプシンと結びついた初めての例であり、完全な外分節変性が起こる前であっても光感受性を高めることができる、視力回復の新たな道を提供するものである。この新しいシステムは、変性した錐体に発現する内在性オプシンを利用するため、色覚の回復/維持も初めて可能になる。
【0014】
RCDマウスモデルと同様に、錐体オプシンおよび錐体アレスチンは、RPヒト患者の錐体細胞体に残存する(
図12)。この結果は、短いGIRK2/オプシン光伝達カスケードを用いて、RCDヒト患者の窩領域における錐体機能を再活性化することが可能であることを示している。光刺激によって残存する錐体オプシンが活性化されると、疾患の中期または進行期であっても、短い光伝達カスケードが発動され、RCD患者の視力回復につながる。
【0015】
この新しいアプローチは、ヒト患者において、低い光強度のみを必要とする高い視力および色覚を、維持および/または回復する可能性を有する。
【0016】
微生物オプシンの明確な利点は、その頑健性およびミリ秒スケールの動態である(Packerら,2013)[26]。他のオプシンを用いたシステムでは、別の光刺激に反応するためには、カスケードを不活性化して光感受性を回復しなければならないことを考慮すべきである。これがない場合には、錐体はGIRK2チャネル活性化の後に、過分極したままとなり、動体視力に適合した動画速度でシナプス伝達を調節する能力が制限される可能性がある。今回のアプローチでは、両方のRCDモデルにおいて、疾患の非常に後期でも依然として維持されているアレスチンのために、錐体の脱分極が可能になった。このことは、反復光刺激時の網膜の反応を示すフリッカーERGのトレース、ならびに治療マウスの視覚性運動反射の改善によっても顕著であった。
【0017】
最後に、GIRK2を組み込むことによって、完全な外分節欠損の前であっても、錐体における既存の光反応が増強されるという事実は、疾患の中期でこの遺伝子治療を実施できる可能性を提供する。マウスの網膜変性はヒトよりもはるかに速いため、マウスにおける数日の治療の有効性はヒトにおける数年に相当する。それにもかかわらず、内因性の光反応が消失しても、GIRK2を発現している網膜は、依然として光に反応することができ、残存する錐体数に対応する反応振幅を生成する。このことは、たとえ治療開始時に検出可能な光知覚がなくても、窩に錐体が残存する患者は、この治療から利益を得られることを示唆している(
図10)。したがって、この方法は錐体細胞が残存する限り使用することができる。実際、処理した錐体の光刺激に対する反応の減少が記録されたが、これは錐体数の減少と一致しており、網膜下注入のために全ての錐体を導入しなかったという事実は、有益な効果をさらに制限した。より良好な水平展開を示すAAVベクターは、ブレブを超えて形質導入された錐体数を増加させるために使用することができる(Khabouら,2018;国際特許出願WO2018134168)[27,28]。治療の窓を拡大するために、神経栄養因子を本発明のアプローチと並行して実施することができる。実際、桿体由来錐体生存因子(RdCVF)などの神経栄養因子のAAV媒介分泌は、錐体細胞死を遅延させることが示されており、GIRK2媒介感作と組み合わせることができる(Byrneら,2015)[29]。
【0018】
現在、GIRK1チャネルの変異型であるGIRK1 F137Sは、短いGIRK/オプシン光伝達カスケードの文脈において、GIRK2よりもかなり多くのイオン流出を誘導することが見出されている。この結果は、GIRK1 F137Sを錐体に組み込むことで、RCDのGIRK2遺伝子治療よりも改善された遺伝子治療を提供することを示唆している。
【0019】
したがって、本発明の目的は、Gタンパク質ゲート内向き整流カリウムチャネルのサブユニット1(GIRK1)F137Sをコードするヌクレオチド配列を含むベクターである。
【0020】
GIRK1 F137Sをコードするヌクレオチド配列は、pR1.7もしくはその機能的変異体などの錐体特異的プロモーター、または最小M-オプシンプロモーター、特にpMNTC発現カセットにて、またはGRKプロモーターもしくはその切断型(Gタンパク質共役受容体キナーゼ、特にGRK1)の制御下にあってもよい。
【0021】
本発明のベクターは、哺乳類の錐体オプシンをコードするヌクレオチド配列をさらに含むことができる。例えば、哺乳類の錐体オプシンは、短波長錐体オプシン(SWO)であり、例えば、ハツカネズミ由来またはヒト錐体オプシン由来である。同じベクター中に存在する場合には、GIRK1 F137Sをコードするヌクレオチド配列、および哺乳類の錐体オプシンをコードするヌクレオチド配列は、好ましくは、同じプロモーター、特にpR1.7またはその機能的変異体などの錐体特異的プロモーター、または最小M-オプシンプロモーター、特にpMNTC発現カセットにて、またはGRKプロモーターまたはその切断型(Gタンパク質共役受容体キナーゼ、特にGRK1)の制御下にある。
【0022】
本発明の目的において、「GIRK1 F137S」は、Phe137のSerによる置換を含む野生型ヒトGIRK1(配列番号1)またはマウスGIRK1(配列番号4)の変異型をコードするヌクレオチド配列であって、オプシンとの共発現時に光に反応する能力を保持するヌクレオチド配列を意味する。GIRK1 F137Sは、野生型GIRK1とは、Phe137のSerによる置換のみ(例えば、配列番号2のような)によって、または限定された数の変異(例えば、Phe137のSerによる置換に加えて、最大でも1、2、3、4、または5個のアミノ酸の置換および/または欠失および/または挿入)によって異なっていてもよい。例えば、GIRK1 F137Sをコードするヌクレオチド配列は、配列番号2のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むか、またはそれらからなり、配列番号3のヌクレオチド配列を含むか、またはそれらからなり、配列番号5のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むか、またはそれらからなる。
【0023】
【0024】
本発明の別の目的は、本発明のベクターを含む薬学的に許容される担体である。
【0025】
本発明の特定の実施形態によれば、薬学的に許容される担体は、上記のようなGIRK1 F137Sをコードするヌクレオチド配列を含むベクターと、哺乳類の錐体オプシンをコードするヌクレオチド配列を含むベクターとを含むことができる。例えば、哺乳類の錐体オプシンは、短波長錐体オプシン(SWO)であり、例えば、ハツカネズミ由来またはヒト長波長感受性(OPN1LW)、中波長感受性(OPN1MW)、短波長感受性(OPN1SW)由来である。実施形態によれば、哺乳類の錐体オプシンは、ヒト長波長感受性オプシン1(配列番号6)である。
【0026】
【0027】
本発明の特定の実施形態によれば、薬学的に許容される担体は、例えば、固体-脂質ナノ粒子、キトサンナノ粒子、リポソーム、リポプレックスまたはカチオン性ポリマーから選択される。
【0028】
本発明の特定の実施態様によれば、本発明のベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス、SV40ウイルスベクターから選択されるウイルスである。本発明の特定の実施態様によれば、本発明は、30nmに等しいか、または30nm未満の大きさである。例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)、好ましくはAAV8、または国際特許出願WO2012/145601に記載されているようなAAV2-7m8またはAAV9-7m8カプシド変異体である。
【0029】
AAV2-7m8またはAAV9-7m8カプシド変異体は、VP1カプシドタンパク質のGHループに7~11アミノ酸長の挿入ペプチドを含むAAV2ウイルスまたはAAV9ウイルスであり、挿入ペプチドはアミノ酸配列LGETTRP(配列番号7)を含む。
【0030】
AAVの様々な血清型のゲノム配列およびポリペプチド配列、ならびにネイティブな逆末端反復配列(ITR)、Repタンパク質、およびVP1タンパク質を含むカプシドサブユニットの配列が、当技術分野で知られている。このような配列は、文献またはGenBankもしくはProtein Data Bank(PDB)などの公開データベースで見つけることができる。例えば、GenBankおよびPDB AF043303および1LP3(AAV2)、AY530579および3UX1(AAV9(単離株hu.14))を参照し、これらの開示は、AAV核酸およびアミノ酸配列の教示について参照によって本明細書に組み込まれる。AAV9およびAAV2の野生型VP1の例示的なアミノ酸配列を、それぞれ配列番号8および配列番号9に示す。
【0031】
【0032】
好ましくは、VP1カプシドタンパク質のGHループにおける挿入ペプチドの挿入部位は、AAV2野生型VP1カプシドタンパク質のアミノ酸587と588との間、AAV9野生型VP1カプシドタンパク質のアミノ酸588と589との間である。
【0033】
いくつかの実施形態によれば、挿入ペプチドは、7アミノ酸、8アミノ酸、9アミノ酸、10アミノ酸、または11アミノ酸の長さを有する。
【0034】
挿入ペプチドは、アミノ酸配列LGETTRP(配列番号7)のN末端および/またはC末端に、1つ以上のスペーサーアミノ酸を含んでいてもよい。好ましくは、スペーサーアミノ酸は、Ala、Leu、Gly、Ser、およびThrからなる群から選択され、より好ましくは、Ala、Leu、およびGlyからなる群から選択される。
【0035】
実施形態によれば、挿入ペプチドは、配列AALGETTRPA(配列番号10)、LALGETTRPA(配列番号11)、またはGLGETTRPA(配列番号12)を含むか、またはそれらからなり、好ましくは、配列AALGETTRPA(配列番号10)またはLALGETTRPA(配列番号11)を含むか、またはそれらからなる。
【0036】
特定の実施形態によれば、ウイルスベクター、特にAAV、AAV8、AAV2-7m8またはAAV9-7m8は、錐体特異的プロモーター、好ましくはpR1.7もしくはその機能的変異体、または最小M-オプシンプロモーター、特にpMNTC発現カセットの制御下にある目的のポリヌクレオチド(GIRK1 F137Sをコードするヌクレオチド配列もしくはその機能的変異体、および/また哺乳類の錐体オプシンをコードするヌクレオチド配列)を含む。前記AAVにおいて、錐体特異的プロモーター、例えばプロモーターpR1.7、最小M-オプシンプロモーターまたはpMNTCに作動可能に連結される目的のポリヌクレオチドは、好ましくは2つのアデノ随伴ウイルス逆末端反復(AAV ITR)、好ましくはAAV2 ITRによって挟まれる。
【0037】
pR1.7は、Hum Gene Ther.2016 Jan;27(1):72-82に記載のヒト赤オプシンプロモーター配列に基づく1.7キロベース合成プロモーターである。本明細書で使用される場合には、「pR1.7」は、配列番号13のプロモーターおよびその機能的変異体を示す。pR7.1プロモーターの「機能的変異体」は、典型的には、ネイティブpR7.1プロモーター(配列番号13)に対して1つ以上のヌクレオチド変異(ヌクレオチドの欠失、付加、および/または置換など)を有し、これは、目的のポリヌクレオチドの転写を有意に変化させない。本発明の文脈において、前記機能的変異体は、錐体光受容体において、目的のポリヌクレオチドの強力な発現を駆動する能力を保持する。このような能力は、Yeらによって記載されるように試験され得る(Hum.Gene Ther.2016;27(1):72-82)およびKhabouら(JCI Insight.2018,3(2):e96029)。
【0038】
使用され得る錐体特異的プロモーターの別の例は、WO2015142941に開示されるような最小M-オプシンプロモーター領域、特にWO2015142941に開示される配列番号55または配列番号93である。インスタント配列番号14は、WO2015142941の配列番号93と同一である。
【0039】
一実施形態において、最小M-オプシンプロモーター領域の制御下に置かれる目的のポリヌクレオチドは、最適化されたエンハンサー、最適化されたプロモーター、最適化された5’UTR、最適化されたイントロン、最適化されたコザックおよび最適化されたポリA領域(WO2015142941の配列番号95)を含むpMNTC発現カセットに挿入される。
【0040】
【0041】
プロモーターおよび目的のポリヌクレオチドは、作動可能に連結されている。本明細書で使用する場合には、用語「作動可能に連結された」は、互いに機能的な関係にあるように物理的に連結された2つ以上の核酸またはアミノ酸配列要素を指す。例えば、プロモーターが、コード配列の転写および/または発現を開始するか、または他の方法で制御/調節することができる場合には、プロモーターは、コード配列に作動可能に連結され、この場合には、コード配列は、プロモーターの「制御下にある」と理解されるべきである。一般に、2つの核酸配列が作動可能に連結している場合には、それらは同じ配向にあり、通常は同じ読み枠にもある。これらは通常、本質的に連続しているが、これは必要ではないかもしれない。
【0042】
一実施形態によれば、ベクターは、以下を含むAAV9(AAV9-7m8-pR1.7)またはAAV2(AAV2-7m8-pR1.7)である:
-野生型AAV9 VP1カプシドタンパク質のアミノ酸588と589との間に局在する位置で、野生型AAV9 VP1カプシドタンパク質に対して前記VP1カプシドタンパク質の前記GHループに7~11アミノ酸長の挿入ペプチドが挿入されたVP1カプシドタンパク質であって、前記ペプチドは、アミノ酸配列LGETTRP(配列番号7)を含む、VP1カプシドタンパク質;および
-pR1.7プロモーターの制御下にある目的のポリヌクレオチド(GIRK1 F137Sをコードするヌクレオチド配列および/または哺乳類の錐体オプシンをコードするヌクレオチド配列)。
【0043】
前記AAV9-7m8またはAAV2-7m8において、挿入ペプチドは7アミノ酸、8アミノ酸、9アミノ酸、10アミノ酸、または11アミノ酸の長さを有する。好ましくは、挿入ペプチドは、アミノ酸配列LGETTRP(配列番号7)のN末端および/またはC末端に1つ以上のスペーサーアミノ酸を含む。好ましくは、スペーサーアミノ酸は、Ala、Leu、Gly、Ser、およびThrからなる群から選択され、より好ましくは、Ala、Leu、およびGlyからなる群から選択される。実施形態によれば、挿入ペプチドは、配列AALGETTRPA(配列番号10)、LALGETTRPA(配列番号11)、またはGLGETTRPA(配列番号12)を含むか、またはそれらからなり;好ましくは、配列AALGETTRPA(配列番号10)またはLALGETTRPA(配列番号11)を含むか、またはそれらからなる。
【0044】
本発明のベクターは、当技術分野で公知の方法を用いて製造される。要するに、この方法は一般に、(a)宿主細胞へのAAVベクターの導入、(b)宿主細胞へのAAVヘルパー構築物の導入、ここでヘルパー構築物はAAVベクターから欠落しているウイルス機能を含んでいる、および(c)宿主細胞へのヘルパーウイルスの導入を含む。AAVベクターのAAVビリオンへの複製およびのパッケージングを達成するためには、AAVビリオンの複製およびパッケージングのための全ての機能が存在する必要がある。宿主細胞への導入は、標準的なウイルス学的技術を用いて同時または逐次的に行うことができる。最後に、宿主細胞を培養してAAVビリオンを産生させ、イオジキサノールもしくはCsCl勾配などの標準的な技術またはその他の精製法を用いて精製する。精製されたAAVビリオンはすぐに使用する準備ができている。
【0045】
本発明の別の目的は、医薬品として使用するための、上記のGIRK1 F137Sをコードするヌクレオチド配列を含む核酸である。特に、前記核酸は、桿体-錐体ジストロフィー(RCD)の治療に使用するためのものである。換言すれば、本発明の別の目的は、それを必要とする哺乳動物においてRCDを治療する方法であって、該方法は、上記のようなGIRK1 F137Sをコードするヌクレオチド配列を含む核酸を該哺乳動物に投与することを含む。
【0046】
一実施形態において、GIRK1 F137Sをコードするヌクレオチド配列を含む核酸は、配列番号2のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むか、またはそれらからなり、ヌクレオチド配列番号3を含むか、またはそれらからなる。
【0047】
GIRK1 F137Sをコードするヌクレオチド配列を含む核酸は、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス、およびSV40ウイルスベクターからなる群から選択されるベクター中にあってもよい。
【0048】
実施形態によれば、GIRK1 F137Sをコードするヌクレオチド配列を含む核酸は、pR1.7プロモーターまたは前記プロモーターの機能的変異体の制御下にある。
【0049】
一実施形態によれば、GIRK1 F137Sをコードするヌクレオチド配列を含む核酸は、VP1カプシドタンパク質のGHループに7~11アミノ酸長の挿入ペプチドを含むAAV2またはAVV9ウイルスであるベクター中にあり、挿入ペプチドはアミノ酸配列LGETTRP(配列番号7)を含む。
【0050】
好ましくは、ベクターは、以下を含む組換えAAV2ベクターまたはAAV9ベクターである:
-野生型AAV9 VP1カプシドタンパク質のアミノ酸588と589との間に局在する位置で、野生型AAV9 VP1カプシドタンパク質に対して前記VP1カプシドタンパク質の前記GHループに7~11アミノ酸長の挿入ペプチドが挿入されたVP1カプシドタンパク質であって、前記ペプチドは、アミノ酸配列LGETTRP(配列番号7)を含む、VP1カプシドタンパク質;および
-pR1.7プロモーターの制御下にある前記哺乳類の錐体オプシンをコードする、前記ヌクレオチド配列。
【0051】
実施形態によれば、前記挿入ペプチドは、アミノ酸配列AALGETTRPA(配列番号8)、LALGETTRPA(配列番号9)、またはGLGETTRPA(配列番号10)を含むか、またはそれらからなる。
【0052】
一実施形態によれば、GIRK1 F137Sをコードするヌクレオチド配列を含む核酸は、上記のように、哺乳類の錐体オプシンをコードする配列をさらに含む。
【0053】
別の実施形態によれば、GIRK1 F137Sをコードするヌクレオチド配列を含む核酸は、上記のように、哺乳類の錐体オプシンをコードする別の核酸と組み合わせてRCDを治療するのに使用するためのものである。換言すれば、本発明の別の目的は、それを必要とする哺乳動物においてRCDを治療する方法であって、該方法は、GIRK1 F137Sをコードするヌクレオチド配列および哺乳動物の錐体オプシンをコードする別の核酸を含む核酸を哺乳類に投与することを含む。前記方法において、核酸はしたがって別々の形態であり、単一の医薬組成物中に製剤化されてもよいし、別々の医薬組成物中に製剤化されてもよい。
【0054】
一実施形態において、GIRK1 F137Sをコードするヌクレオチド配列を含む核酸は、プラスミドpAAV2-5’ITR-pR1.7-hGIRK-F137S-BGHpA-AAV2-3’ITR(配列番号16に記載の配列を有する)、pAAV2-5’ITR-pR1.7-hGIRK-F137S-WPREmut6-BGHpA-AAV2-3’ITR(配列番号17に記載の配列を有する)、またはpAAV2-5’ITR-pR1.7-hGIRK-F137S-WPREmut6deltaATG-BGHpA-AAV2-3’ITR(配列番号18に記載の配列を有する)からの発現カセットを含む。
【0055】
【0056】
本発明の別の目的は、本発明のベクターまたは薬学的に許容される担体と、薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤とを含む医薬組成物である。
【0057】
本発明の別の目的は、桿体-錐体ジストロフィー(RCD)の治療に使用するための、本発明のベクター、担体または医薬組成物である。
【0058】
桿体-錐体ジストロフィー(RCD)は、網膜色素変性症(RP)、特に非症候性X連鎖網膜色素変性症(XLRP)、常染色体劣性RP、常染色体優性RPなどの異種の疾患群である。RCDの最も一般的な症候群型は、アッシャー症候群、バルデ-ビードル症候群、レフスム病、バッセン-コルンツヴァイク症候群、バッテン病を含む。
【0059】
治療の対象となるRCDは哺乳動物、特に非ヒトまたはヒト霊長類、好ましくはヒトである。哺乳動物におけるRCDは、疾患の初期、中期または進行期にあり得る。疾患の中期または進行期にあるRCD対象では、GIRK1 F137Sをコードするヌクレオチド配列を用いて対象の錐体を形質導入することは、錐体オプシンおよび錐体アレスチンが患者の錐体細胞体で依然として発現していれば、視力回復を達成するのに十分であろう。錐体細胞体がもはや錐体オプシンを発現していないRCD対象では、GIRK1 F137Sをコードするヌクレオチド配列および哺乳類の錐体オプシンを用いて対象の錐体を形質導入することが必要であろう。
【0060】
したがって、RCDの治療は、GIRK1 F137S導入遺伝子、またはGIRK1 F137Sおよび哺乳類の錐体オプシン導入遺伝子を有する錐体の形質導入を達成するように、本発明のベクター、担体または医薬組成物を哺乳動物に投与することによって実施され得る。
【0061】
換言すれば、本発明の別の目的は、それを必要とする哺乳動物においてRCDを治療する方法であって、該方法は、本発明の医薬組成物のベクターまたは担体の有効量を該哺乳動物に投与することを含む。
【0062】
従って、第1の実施形態において、GIRK1 F137Sをコードするヌクレオチド配列を含むベクター、前記ベクターを含む担体、またはベクターもしくは担体を含む医薬組成物は、錐体細胞が内因性錐体オプシンを依然として発現しているRCD哺乳類対象における桿体-錐体ジストロフィーの治療に使用するためのものである。一実施形態によれば、ベクターは、哺乳類の錐体オプシンをコードするヌクレオチド配列をさらに含む。別の実施形態によれば、ベクターは、哺乳類の錐体オプシンをコードするヌクレオチド配列を含まない。一実施形態によれば、担体は、哺乳類の錐体オプシンをコードするヌクレオチド配列を含むベクターをさらに含む。別の実施形態によれば、担体は、哺乳類の錐体オプシンをコードするヌクレオチド配列を含むベクターを含まない。
【0063】
第2の実施形態において、GIRK1 F137Sをコードするヌクレオチド配列を含むベクター、前記ベクターを含む担体、またはベクターもしくは担体を包む医薬組成物は、錐体細胞がもはや内因性錐体オプシンを発現しないRCDの哺乳類対象における桿体-錐体ジストロフィーの治療に使用するためのものである。この実施形態によれば、ベクターは、哺乳類の錐体オプシンをコードするヌクレオチド配列をさらに含み、または担体は、哺乳類の錐体オプシンをコードするヌクレオチド配列を包むベクターをさらに含む。
【0064】
RCDの治療は、哺乳類の錐体前駆細胞を、本発明のベクター、担体または医薬組成物で形質導入し、形質導入された哺乳類の錐体前駆細胞をRCD哺乳動物の網膜、特に窩領域に投与することによっても実施され得る。
【0065】
換言すれば、本発明の別の目的は、それを必要とする哺乳動物においてRCDを治療する方法であって、該方法は、本発明の医薬組成物のベクターまたは担体で形質導入された有効量の哺乳類の錐体前駆細胞を該哺乳動物に投与することを含む。
【0066】
本発明はまた、RCDを治療する方法において使用するための、GIRK1 F137Sをコードする異種核酸、またはGIRK1 F137Sおよび哺乳類の錐体オプシンをコードする異種核酸を含む錐体前駆細胞に関する。従って、それを必要とする哺乳動物においてRCDを治療する方法であって、GIRK1 F137Sをコードする異種核酸、またはGIRK1 F137Sおよび哺乳類の錐体オプシンをコードする異種核酸を含む錐体前駆細胞を哺乳動物に投与することを含む方法も提供される。本明細書において、用語「異種核酸」は、自然環境には存在しない遺伝子、ポリヌクレオチドまたは核酸配列を指す。
【0067】
錐体前駆細胞は、錐体細胞への分化が約束された、完全には分化されていない、非分裂細胞である。
【0068】
一実施形態では、錐体前駆細胞は、ドナー(例えば、死体眼ドナー)の網膜、または治療対象RCDの網膜から得られ、好ましくは治療対象RCDから得られる。別の実施形態では、錐体前駆細胞は、幹細胞、特に胚性幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、成体幹細胞または胎児幹細胞から得られる。別の実施形態では、錐体前駆細胞は分化した胚性幹細胞から得られる。一実施形態によれば、胚性幹細胞は非ヒト胚性幹細胞である。別の実施形態によれば、方法自体または関連する行為がヒト胚の破壊を含まないという但し書き付きで、ヒト胚性幹細胞が使用され得る。好ましくは、錐体前駆細胞は、幹細胞の分化、好ましくは成体幹細胞または人工多能性幹細胞の分化から、より好ましくは、治療されるRCD対象の体細胞、例えば線維芽細胞から得られた人工多能性幹細胞の分化から得られる。
【0069】
胚性幹細胞は、未分化状態を維持することもできるし、外胚葉、内胚葉、中胚葉の3つの胚葉層全てに由来する系統に沿って成熟するように誘導することもできる。国際特許出願WO2018055131に記載されているように、主要な発生シグナル伝達経路を操作することによって、胚性幹細胞を錐体光受容体へと再プログラムすることができる。例えば、アクチビンAおよび血清に加えて、結節経路およびwnt経路のアンタゴニストが用いられ得る(Watanabe Kら,Nat Neurosci.2005 Mar;8(3):288-96)、あるいはNotchシグナル伝達経路の阻害が実施され得る(Osakada Fら,Nat Protoc.200;4(6):811-24)。錐体前駆細胞は、当業者に公知の任意のプロトコールを用いて胚性幹細胞から得ることができる(Osakada Fら Nat Biotechnol.2008 Feb;26(2):215-24;Amirpour Nら Stem Cells Dev.2012 Jan;21(l):42-53;Nakano Tら Cell Stem Cell.2012 Jun 14;10(6):771-85;Zhu Yら Plos One.25 2013;8(l):e54552;Yanai Aら Tissue Eng Part C Methods.2013 Oct;19(10):755-64;Kuwahara Aら Nat Commun.2015 Feb 19;6:6286;Mellough CBら Stem Cells.2015 Aug;33(8):2416-30;Singh Kら Stem Cells Dev.2015 Dec l;24(23):2778-95)。
【0070】
好ましくは、錐体前駆細胞はiPS細胞または成体幹細胞から得られ、より好ましくはiPS細胞から得られる。人工多能性幹(iPS)細胞は、リプログラミングとして知られるプロセスによって非多能性細胞、典型的には成人の体細胞から誘導され、細胞を多能性にするためにいくつかの特定の遺伝子(例えば、ヒト細胞ではOCT4、SOX2、KLF4およびC-MYC)の導入のみが必要である。iPS細胞を使用する利点の一つは、胚細胞の使用を完全に避けることができることであり、それゆえ倫理的な問題が生じることもない。光受容体前駆細胞は、当業者に公知の分化方法を用いてiPS細胞から得ることができる。
【0071】
特に、光受容体前駆細胞は、Garita-Hernandezら,2019,Nat Commun 10,4524に開示されるような方法によって、ヒトiPS細胞から得ることができる。ヒトiPSは、iPS培地(例えば、Essential 8(商標)培地、GIBCO、Life Technologies)中でコンフルエンスまで増殖させる。80%コンフルエントした後、培地をプロネオ培地(例えば、1%N2サプリメント(100X)を添加したEssential 6(商標)培地;GIBCO,Life Technologies)に切り替えた。培地は2-3日ごとに交換した。分化の4週間後、神経網膜様構造が培養物から成長し、機械的に単離された。RPEを生じる色素部分は注意深く除去した。成熟培地(DMEM/F-12培地に2% B-27(商標)Supplement(50X)、無血清、1% MEM Non-Essential Amino Acids Solution(100X);GIBCO,Life Technologies)中にて3次元培養を続けたところ、網膜オルガノイドが形成された。この時点で10ng/mlの線維芽細胞増殖因子2(FGF2、Preprotech)を添加すると、網膜オルガノイドの増殖が促進され、RPE系譜の代わりに網膜ニューロンにコミットした。網膜前駆細胞の光受容体へのコミットメントを促進するため、ガンマセクレターゼ阻害剤DAPT(10μM、Selleckchem)を用いて、分化42日目から1週間、Notchシグナルを特異的にブロックした。浮遊オルガノイドを6ウェルプレートで培養し(1ウェルあたり10個のオルガノイド)、培地を2日ごとに交換した。
【0072】
光受容体前駆細胞はまた、当業者に公知の任意の他のプロトコールを用いてヒトiPS細胞から得ることもできる(Lamba,Osakadaおよびcolleagues(Lambaら Proc Natl Acad Sci USA.2006 Aug 22;103(34):12769-74;Lambaら Plos one.2010 Jan 20;5(l):e8763;Osakadaら Nat.Protoc.2009;4(6):811-24;Meyer JSら Proc Natl Acad Sci USA.2009 Sep 29;106(39):16698-703;Meyer JSら Stem Cells.2011 Aug;29(8):1206-18;Mellough CBら Stem Cells.2012 Apr;30(4):673-86;Boucherie Cら Stem Cells.2013 Feb ;31(2):408-14;Sridhar Aら Stem Cells TransI Med.2013;2(4):255-64;Tucker BAら Elife.2013 Aug 27,2:e00824;Tucker BAら Stem Cells TransI Med.2013 Jan;2(1):16-24;eichman Sら Proc Natl Acad Sci USA.2014 Jun 10;111(23):8518-23;Zhong Xら Nat Commin.2014 Jun 10;5:4047;Wang Xら Biomaterials.2015 Jun;53:40-9)。
【0073】
錐体前駆体は、i)GIRK1 F137Sをコードする異種核酸、またはii)GIRK1 F137Sをコードする異種核酸および哺乳類の錐体オプシンを含む。錐体前駆細胞が、GIRK1 F137S、またはその機能的誘導体、および哺乳類錐体オプシンをコードする異種核酸を含む場合には、錐体前駆細胞は、i)GIRK1 F137Sおよび哺乳類錐体オプシンの両方をコードする異種核酸、またはii)GIRK1をコードする異種核酸、および哺乳類錐体オプシンをコードする別の異種核酸のいずれかを含む。
【0074】
前記錐体前駆細胞は、当業者に公知の任意の方法によって、前記異種核酸(単数または複数)、または前記核酸(単数または複数)を含む発現カセットもしくはベクターを前記錐体前駆細胞に導入することによって調製され得る。一実施形態によれば、GIRK1 F137Sfをコードする異種核酸、またはGIRK1 F137Sおよび哺乳類の錐体オプシンをコードする異種核酸を含む錐体前駆細胞は、上記のようなウイルスベクター、特にAAVベクター、好ましくはAAV8、AAV2-7m8またはAAV9-7m8を用いて錐体前駆細胞を感染させることによって調製される。
【0075】
別の態様では、したがって本発明はさらに、GIRK1 F137Sをコードする異種核酸、またはGIRK1 F137Sおよび哺乳類の錐体オプシンをコードする異種核酸を含む錐体前駆細胞を調製する方法であって、前記方法は、本発明によるウイルスベクターまたは担体を用いて錐体前駆細胞を感染させること、および感染した錐体前駆細胞を回収することを含む方法を指す。
【0076】
ベクター、担体、または医薬組成物、または錐体前駆細胞は、特に硝子体内投与または網膜下投与または脈絡膜上投与によって、当業者に公知の任意の適切な経路で投与され得る。
【0077】
実施形態において、ウイルスベクター、担体または医薬組成物は、107~1015vg/眼の間、好ましくは1011~1015vg/眼の間、さらにより好ましくは1011および1013vg/眼を含む用量で注射される。
【0078】
実施形態において、ウイルスベクター、担体または医薬組成物は、硝子体内注射によって投与される。
【0079】
一実施形態では、AAVベクターはAAV2もしくはAAV9、またはAAV2-7m8もしくはAAV9-7m8などのそれらの改変バージョンであり、前記ベクターは硝子体内注射によって投与される。
【0080】
実施形態において、ウイルスベクター、担体または医薬組成物は、網膜下注射によって投与される。
【0081】
窩は、霊長類の網膜中央部にある直径約0.5mm以下の小さな領域で、錐体光受容細胞のみを含み、網膜全体で錐体の密度が最も高い。窩は高い明瞭度色覚を提供することによって霊長類の視覚知覚を支配している。錐体の密度が最も高いのは窩の中心(窩の中心から0.3mm以下)であり、桿体光受容体は存在しない。錐体の密度は窩から離れるにつれて最大100倍まで減少する。
【0082】
網膜色素変性症のような遺伝性網膜疾患の治療を目的とした遺伝子治療では、窩洞の錐体細胞が主要な標的である。通常、治療タンパク質をコードするウイルスベクターは、「網膜下」、すなわち光受容体と網膜色素上皮(RPE)細胞との間の網膜下腔に注入され、錐体への遺伝子導入が行われる。
【0083】
網膜下への導入は、注入された眼の網膜下腔内に液体が充満したポケットを意味する「ブレブ(bleb)」の形成をもたらす。この方法では、遺伝子導入は、注入された液体の局所的なブレブに接触する細胞に限定される。網膜剥離、特に窩剥離は、網膜下への注入中に起き、網膜変性のある眼では懸念される。
【0084】
有利には、ベクターがAAV9-7m8ベクター(特に、AAV9-7m8-pR1.7ベクター)である場合には、ベクター(または前記ベクターを含む医薬組成物の担体)は、遠位網膜下注射によって、または窩の周辺部に投与することができ、次いで、窩領域に到達するように側方に広がる。一実施形態によれば、ブレブは、窩領域を剥離することなく、窩の中心から0.5ミリメートル以上離れて形成される。一実施形態において、前記AAV9-7m8ウイルスベクターは溶液中に製剤化され、50~100μLの溶液が20~30秒で連続的に注入される。実施形態において、前記AAV9-7m8ウイルスベクターは、1×1010~1×1012vg/mL(ウイルスゲノム/mL)、好ましくは0.5×1011~5×1011vg/mL、さらに好ましくは1×1011vg/mLの濃度で溶液中に製剤化される。好ましくは、錐体前駆細胞は眼内注射によって、好ましくは網膜下腔注射によって、より好ましくは神経網膜とその上のPEとの間の注射によって投与される。投与する錐体前駆細胞の量は、当業者によく知られた標準的な手順によって決定され得る。適切な用量を決定するために、患者の生理学的データ(例えば、年齢、体格、および体重)、ならびに治療される疾患の種類および重症度を考慮しなければならない。錐体前駆細胞は、単回投与でも複数回投与でもよい。特に、各々の単位用量は、1μΙあたり100,000個から300,000個までの錐体前駆細胞、好ましくは1μΙあたり200,000個から300,000個までの錐体前駆細胞を含むことができる。
【0085】
〔図の簡単な説明〕
〔
図1〕
図1は、光伝達カスケード(A)通常の光伝達カスケード(B)動物オプシンおよびGIRK2チャネルを用いた短い光伝達カスケードを表す。PDE:ホスホジエステラーゼ。CNG:環状ヌクレオチドゲートチャネル。cGMP:環状グアノシン一リン酸。
【0086】
〔
図2〕
図2は、プラスミド(A)CMV-GIRK2-GFPおよび(B)CMV-SWO-mCherryを表す。
【0087】
〔
図3〕
図3は、免疫組織化学を用いてrd10マウスの光伝達カスケードに残存したものを表す。(A-D)(A)オプシン、(B)トランスデューシン、(C)PDEおよび(D)錐体アレスチンで染色した対照WTマウスの網膜断面。(E-H)(E)オプシン、(F)トランスデューシン、(G)PDEおよび(H)錐体アレスチンで染色したP14のrd10マウスの網膜断面。(I-L)(I)オプシン、(J)トランスデューシン、(K)PDEおよび(L)錐体アレスチンで染色したP150のrd10マウスの網膜断面。ONL:外側核層。INL:内核層。GC:神経節細胞。スケールバーは50μmである。挿入スケールバーは25μmである。
【0088】
〔
図4〕
図4は予備データを表す。(A)注入1週間後のrd10マウスにおけるGIRK2-GFP発現の眼底(
*注入部位)(B)AAV-SWO-tdTomatoおよびAAV-GIRK2-GFPを注入したP33のrd10マウスにおける光視性ERG振幅。対照マウスはAAV-GFPを注射した(n=12)。P=0.0002。(C)P33での代表的なフリッカーERG。(D)AAV-SWO-tdTomatoおよびAAV-GIRK2-GFPを注射したrd10マウスにおける視覚性運動試験による視力の測定。対照マウスにはAAV-GFPを注射した。対照マウスにはAAV-GFPを注射した(n=8)。
【0089】
〔
図5〕
図5は、GIRK2を介した視覚を表す。(A)AAV-SWO-tdTomatoおよび/またはAAV-GIRK2-GFPを注射したP41のrd10マウスの光視性ERG振幅。対照マウスにはAAV-GFPを注射した(n=12)。P
SWO+GIRK2=0.0381およびP
GIRK2=0.0021。(B)AAV-SWO-tdTomatoおよび/またはAAV-GIRK2-GFPを注射したrd10マウスにおける視覚性運動試験による視力の測定。対照マウスにはAAV-GFPを注射した。対照マウスにはAAV-GFPを注射した(n=7)。(C)P41での代表的なフリッカーERG。
【0090】
〔
図6〕
図6は、長期の有効性を表す。(A)AAV-GIRK2-GFPを注射したrd10マウスの光視性ERG振幅。対照マウスはPBSを注射した(n=6)。(B)AAV-GIRK2-GFPを注射したrd10マウスにおける視覚性運動試験による視力の測定。対照マウスにはPBSを注射した(n=6)。(C)野生型マウスおよび非注射rd10マウスの経時的な錐体数(n=6)。P値
(P50-P365)=0.0022。(D)rd10マウスのERG振幅と錐体数との間の線形回帰相関(n=6)。P値
非注射=0,0482。P値
AAV-GIRK2-GFP=0.0007。P値
PBS=0.0104。
【0091】
〔
図7〕
図7は、免疫組織化学を用いて、huP347S
+/-マウスにおいて光伝達カスケードに残存したものを表す。(A-D)(A)オプシン、(B)トランスデューシン、(C)PDEおよび(D)錐体アレスチンで染色した対照WTマウスの網膜断面。(E-H)(E)オプシン、(F)トランスデューシン、(G)PDEおよび(H)錐体アレスチンで染色したP14のhuP347S
+/-マウスの網膜断面。(I-L)(I)オプシン、(J)トランスデューシン、(K)PDEおよび(L)錐体アレスチンで染色したP150でのhuP347S
+/-マウスの網膜断面。ONL:外側核層。INL:内核層。GC:神経節細胞。スケールバーは50μmである。挿入スケールバーは25μmである。
【0092】
〔
図8〕
図8は、アプローチの普遍性を表す。(A)AAV-GIRK2-GFPを注射したhuP347S
+/-マウスにおける光視性ERG振幅。対照マウスにはPBSを注射した(n=6)。(B)AAV-GIRK2-GFPを注射したhuP347S
+/-マウスにおける視覚性運動試験による視力の測定。対照マウスにはPBSを注射した(n=6)。(C)野生型マウスおよび非注射huP347S
+/-マウスの経時的な錐体数(n=6)。P値
(P50-P365)=0.0022。(D)huP347S
+/-マウスのERG振幅と錐体数との線形回帰相関(n=5)。P値
非注射=0.0313。P値
AAV-GIRK2-GFP=0.0146。P値
PBS=0.0497。
【0093】
〔
図9〕
図9は、2つのプラスミドでトランスフェクトされたHEK細胞におけるマウスGIRK2の有効性を表す:CMV-SWO-mCherryおよびCMV-GIRK2-GFP。
【0094】
〔
図10〕
図10は、対象となる患者集団について、正常なボランティアおよび網膜色素変性症患者の表現型分類を表す。上段(A)は、網膜の錐体優位領域の適応制御光学画像とともに、健常者の眼底および眼球後部のOCT画像を示す。中段(B)は進行したRCD患者の円グラフ分布を示す。下段は異なる患者のOCT画像およびAOSLO画像を表す。網膜色素変性症患者(77歳、男性)のAOSLO共焦点(上)およびAOSLO分割検出(下)のin vivo網膜画像。獲得野は、休止状態の錐体と推定される領域(すなわち、形態学的に無傷-OCTで見えるIS/OS線、AOSLO分割検出で見える明瞭な内分節モザイク、およびAOSLO共焦点で無傷の内分節および外分節を示す明瞭な錐体モザイク-ただし患者の視力によって機能は低下している;黄色のバー)と、損傷または欠落した錐体(OCTにおいて欠落したIS/OSライン、AOSLO分割検出および共焦点においてそれぞれぼやけた内分節および錐体のモザイクによって示される;赤色のバー)。黄色の矢印は、変性していると思われる錐体を示し、共焦点ではOSが存在しないが、分割検出ではISが存在する。スケールバー、200μm。
【0095】
〔
図11〕
図11は、正常およびRPヒト網膜における錐体光伝達カスケードタンパク質を標識した免疫組織化学を表す。(A)86歳の対照ヒト網膜の網膜断面(20倍)。(B)網膜色素変性症(RP)に罹患し、夜盲と周辺視力低下とを有する75歳の老齢のヒトの網膜断面(40倍)。(A-B)Opn1mw(明)および核染色DAPI(暗)で染色。ONL:外側核層。INL:内核層。GC:神経節細胞。スケールバーは50μmである。挿入スケールバーは25μmである。
【0096】
〔
図12〕
図12は、HEK293細胞におけるmOpn4Lの活性化によって惹起されるGIRK1 F137S電流の特性を示す。A)青色光(471nm、横軸に10秒から20秒までの露光)で活性化する場合には、mOpn4Lは強いGIRK1 F137S媒介電流を誘導し、それは石灰光(560nm、横軸に20秒から60秒までの露光)で刺激すると終了し、B)HEK293膜を通るイオンのフラックスおよびC)容量あたりの電流密度に統計的に有意な差が生じる。
【0097】
〔
図13〕
図13は、青色光(471nm、横軸に10秒から20秒までの露光)で活性化され、石灰光(560nm、横軸に20秒から60秒までの露光)で刺激すると終了する場合の、HEK293細胞におけるmOpn4Lの活性化によって誘発されるGIRK1またはGIRK2電流の特性を示す。
【0098】
〔
図14〕
図14:A1)hGIRK1 F137S、B1)hGIRK2、またはC1)切断されたrGIRK2を発現するHEK293細胞の容量あたりの電流密度を示す。mOpn4の活性化によって誘発される電流反応を、c末端eGFP融合構築物および遺伝子導入されていない細胞との比較で示す。個々の細胞の電流密度は、個々のデータポイントによって示されている。条件間の有意差を
*印で示す(全てのペアでの複合的な比較手順を有するランク上の分散のクラスカル-ワリスワンウェイ分析(ダンの方法)P<0.05)。条件間の有意差を
*印で示す(マン-ホイットニーランクサム検定;P=0.002)。青色光で活性化する場合には、mOpn4はGIRK媒介電流を誘導し、石灰光で刺激すると、A2)hGIRK1 F137S、B2)hGIRK2、およびC2)切断されたrGIRK2 T構造物の例示的なトレースで見られるように終了する。
【0099】
〔
図15〕
図15A)mOpn4と、hGIRK1 F137S、hGIRK1 F137S-eGFP、またはhGIRK2のいずれかを発現するHEK293細胞の刺激は、全細胞パッチクランプ記録において確実に観察可能な電流を生じるが、mOpn4活性化後のhGIRK2-eGFP、rGIRK2、またはrGIRK2-eGFPの電流は、観察可能である可能性が低い。B)異なるGIRK構築物(上)またはそれらのeGFPタグ付きバージョン(下)を発現するHEK293細胞の容量あたりの電流密度。個々の細胞の電流密度は、個々のデータポイントによって示されている。条件間の有意差を
*印で示す(全てのペアでの複合的な比較手順を有するランク上の分散のクラスカル-ワリスワンウェイ分析(ダンの方法)P<0.05)。
【0100】
〔
図16〕
図16は、ビヒクル注射したrd10マウスまたはナイーブ(非注射)rd10マウスと比較した、5E7vg/眼または5E8vg/眼でAAV8-pR1.7-hGIRK1F137SをP15で両側網膜下注射した後のrd10マウスの視力を表す。
【0101】
〔
図17〕
図17は、プラスミドpAAV2-5’ITR-pR1.7-hGIRK-F137S-BGHpA-AAV2-3’ITRを表す。
【0102】
〔
図18〕
図18は、プラスミドpAAV2-5’ITR-pR1.7-hGIRK-F137S-WPREmut6-BGHpA-AAV2-3’ITRを表す。
【0103】
〔
図19〕
図19は、プラスミドpAAV2-5’ITR-pR1.7-hGIRK-F137S-WPREmut6deltaATG-BGHpA-AAV2-3’ITRを表す。
【0104】
〔実施例〕
〔実施例1:材料および方法〕
〔1.動物〕
これらの実験には、C57BL/6jrd10/rd10(rd10)マウスが用いられた。このマウスは桿体PDE遺伝子に変異があり、光伝達カスケードの機能不全および桿体-錐体ジストロフィーを引き起こす。2番目のモデルは、huRhoP347S+/-マウスである。このマウスのホモ接合体ストランドには、マウスロドプシン(mRho)遺伝子のKOと、変異(P347S)を有するヒトロドプシン(huRho)のKIとが存在する(Millington-Wardら、2011)[30]。ホモ接合体の雄をC57BL/6j(野生型)の雌と交配させ、ヘテロ接合体マウスを得た。これらのマウスはrd10マウスと同様の表現型を有するが、変性率は低い。
【0105】
〔2.AAV注射〕
まず、マウスは0.9%NaClで希釈した0.2ml/20gのケタミン(Ketamine 500,Vibrac France)およびキシラジン(Xylazine 2%,Rompun)の腹腔内注射で麻酔された。8%ネオシネフリン(Neosynephrine Faure 10%,Europhta)および42%Mydriaticum(Mydriaticum 0.5%,Thea)を0.9%NaClで希釈したもので眼を拡張した。
【0106】
総量1μlのベクター溶液を網膜下に注入した。注入後、眼軟膏であるフラデキサムを塗布した。注入したウイルスベクターのリストを以下に示す:
【0107】
【0108】
〔3.眼底検査〕
網膜下注射の1週間後、マウスはイソフルオラン吸入によって麻酔された。眼を拡張し、Lubrithal eye gel(VetXX)で保護した。生きた麻酔されたマウスでGFPまたはtdTomatoの発現をモニターするために、特定のフィルターを装着した眼底カメラ(Micron III;Phoenix research Lab)を用いて眼底撮影を行った。
【0109】
〔4.網膜電図(ERG)記録〕
網膜機能を評価するために、網膜電図記録(ERG)を記録した(espion E2 ERG system;Diagnosys)。ウイルスベクターの注射後、異なる時点でいくつかの試験を行った。マウスは、0.9%NaClで希釈した0.2ml/20gのケタミン(Ketamine 500,Vibrac France)およびキシラジン(Xylasine 2%,Rompun)の腹腔内注射で麻酔された。その後、マウスを37℃の加温パッド上に置いた。0.9%NaClで希釈したネオサイヘフリン(Neosynephrine Faure 10%,Europhta)およびMydriaticum(Mydriaticum 0.5%,Thea)で眼を拡張した。各々の眼の角膜表面上に電極を貼る前に、ルブリタール・アイジェルで眼を保護した。基準電極は額の皮下に、アース電極は背中の皮下に挿入した。
【0110】
ERG記録は、2つの条件下で行った:(i)錐体主導の光反応を反映する光視性条件-20cds/mで5分間の順応の後、光強度を増加させながら(0.1/1/10/50cds/m)60秒間、6msの光フラッシュを1秒ごとに照射した-、ならびに(ii)錐体機能を反映する速い周波数の光刺激であるフリッカー条件(10Hz、1cd s/mで70回のフラッシュ)。
【0111】
グラフおよび統計分析は、GraphPadを用いて行った。
【0112】
〔5.視覚性運動試験〕
視力は、動くバーの前に置かれたマウスの頭を回す動きを得点化する視覚性運動試験を用いて測定された。視覚性運動室を形成するために、試験は正方形に配置された4台のコンピューターモニターからなるコンピューターベースの機械を用いて行われた。視覚性運動刺激の生成には、黒および白の縞が交互に動くことからなるコンピュータープログラムが指定された。空間周波数は0.03cyc/degから0.6cyc/degまでの範囲である。このプログラムにより、縞の幅とバーの移動方向とを調節することができた。
【0113】
〔6.免疫組織化学および共焦点の撮影〕
動物はCO2の吸入によって犠牲にし、眼球を摘出し、4%パラホルムアルデヒド-PBS中にて室温で1時間固定した。眼球は免疫組織化学用のアイカップとして、または細胞計数用の平板マウントとして解剖した。その後、アイカップをPBS-ショ糖10%のグラジエントで1時間、さらにPBS-ショ糖30%で一晩凍結保護した。アイカップをOCTに包埋し、厚さ12μmのクライオスタット切片(ThermoFisher)を切り出し、スライドガラス上に固定した。切片をPBS中で洗浄し(3×5分)、異なる抗体(下表参照)とDAPI(1:2000)とで染色した。最後に、切片をPBSで洗浄し、Fluoromount Vactashield(Vector Laboratories)中で固定し、レーザー共焦点顕微鏡(Olympus IX81)を用いた撮影のためにカバースリップした。フラットマウント網膜染色について、組織を凍結保護しなかった以外は、プロトコールは同じである。画像はFIJIソフトウェアを用いて解析した。
【0114】
【0115】
〔7.細胞数〕
rd10およびhuRhoP347S+/-マウスのフラットマウント網膜を、マウス錐体アレスチン-mCAR(1:10000)およびDAPI(1:2000)に対する抗体を用いて染色した。二重染色した細胞を異なる年齢で計算した。各々の年齢で5匹(n=10)の動物の網膜を使用し、背腹側と鼻側頭側とに方向付けた。外核層(ONL)全体の厚さをカバーするように連続光学切片を得た。全ての網膜の4つの領域の各々において、211.97μm×211.97μmの走査領域を2つずつ作成した。錐体細胞の計算は、ONLの厚さ全体をカバーする画像(zスタック)の再構成によって、FIJIソフトウェアを使用して手動で行った。各々の網膜の平均密度値を計算し、異なる年齢における1mm2あたりの錐体細胞数を求めた。
【0116】
〔8.マウスGIRK2の有効性に関するin vitro試験〕
HEK細胞を2つのプラスミドで遺伝子導入した:CMV-SWO-mCherryおよびCMV-GIRK2-GFP(
図2)。HEK293細胞は遺伝子導入後、暗室条件で培養され、記録された。細胞は、25倍の水浸対物レンズ(XLPlanN-25×-W-MP/NA1.05、Olympus)を備えた顕微鏡の記録チャンバーに入れ、1mM9-シス-レチナールを加えて濃縮した酸素添加(95% O2/5%CO2)したエームス培地(Sigma-Aldrich)中で36℃に保った。高い細胞外カリウム濃度を得るため、外部溶液にKGluconateを添加し、細胞カリウム逆転電位を-40mVとした。
【0117】
全細胞記録では、Axon Multiclamp 700B アンプ(Molecular Device Cellular Neurosciences)を使用し、GIRK媒介K+電流は、-80mVでの電位固定配置で、ホウケイ酸塩ガラスピペット(BF100-50-10,Sutter Instrument)を用い、5MΩに引き、115mMKグルコン酸塩、10mM KCl、1mM MgCl2、0.5mM CaCl2、1.5mM EGTA、10mM HEPES、および4mM ATP-Na2(pH7.2)で満たし、記録した。
【0118】
実験中、CCDカメラ(Hamamatsu Corp.)を用い、透過型赤外光を用いて細胞を可視化させた。電気生理学的実験では、単色光源(Polychrome V、TILL photonics)を使用して、400nmの光フラッシュで細胞を刺激した。
【0119】
〔9.患者眼底撮影〕
適応制御光学走査型レーザー検眼鏡検査(AOSLO)(Roordaら Opt Exp 2002)を用いて、細胞分解能で錐体光受容体のモザイクを画像化した。使用したAOSLO装置(MAORI、PSI、Andover、MA、USA)は、光軸に沿って散乱された光(共焦点モード)から内分節および外分節の両方(IS、OS)と、軸外に散乱された多重散乱光(分割検出モード)から内分節と、を有する無傷の錐体を、2度の視野にわたって同時に撮影することができる。これにより、各々の錐体についてIS対IS+OSの差分撮影を行い、錐体の存在および健全性を評価することができる。
【0120】
〔実施例2:結果〕
〔1.変性した錐体における光伝達カスケードの変化〕
光伝達カスケードは、まずrd10マウスモデルにおいて、網膜変性中の異なる時点において、免疫組織化学を用いてその構成要素を調べることによって分析した。錐体オプシンと直接相互作用する光伝達カスケードのうち、錐体オプシン、トランスデューシング、ホスホジエステラーゼ、および錐体アレスチンタンパク質に対する免疫蛍光染色が行われた。
【0121】
図3は、錐体オプシンおよびアレスチンのみが、依然として疾患の後期においても発現し、錐体細胞体の周囲に局在していることを示している。
【0122】
〔2.錐体オプシンおよびGIRK2を介した視力回復〕
免疫組織化学、およびニューロンにおいて発現した錐体オプシンに関するこれまでの知見に基づいて、まず、tdTomatoと融合したマウス短波長錐体オプシン(SWO)と、GFPと融合したラットの切断されたGIRK2とを、等モル比で混合した2つのAAVベクターを用いて送達することで、光に対する錐体細胞の反応が増強される理由を調べた。そこで、2つのAAVをp15で変性したrd10マウス網膜に網膜下注射した(
図4A)。この結果、処理した眼の光刺激性ERG振幅は対照と比較して有意に増加した(
図4B)。フリッカーERGは、GIRK2を発現するこれらの錐体細胞において回復メカニズムが依然として活性であり、速い刺激に追従できることを確認した(
図4C)。GIRK2で処理したrd10動物は、対照と比較して視覚性運動反射の改善も示した(
図4D)。
【0123】
次に、変性した錐体に依然として存在する内因性の錐体オプシンが機能的であり、このマウスモデルにおいてGIRK2チャネルを活性化するのに十分であるかどうかが研究された。このために、GIRK2をGFPと融合してコードする単一のAAV8ベクターを投与した。この結果、処理した眼では、光視性ERG振幅および視覚性運動反射が、対照と比較して同様に増加し、GIRK2単独で錐体オプシンが関与するGタンパク質共役シグナルを介して光感受性を増加させるのに十分であることが確認された(
図5A-B)。フリッカーERGもまた、このアプローチにより強固に増幅された(
図5C)。
【0124】
〔3.GIRK2を介した視力回復:長期的有効性〕
光刺激に対する錐体反応をモニターするため、GIRK2投与後および非投与時の異なる時点で光視性ERG記録を行った。これらのERGは2つの条件下で行われた:(i)光強度を増加させながら60秒間1秒ごとに光フラッシュを照射する明順応化、ならびに(ii)60秒間繰り返しフラッシュを照射するフリッカー刺激。データはp50までは週単位で、その後11週齢までは10~13日ごとに収集され、対照の眼および処置された眼の両方でERG振幅が徐々に低下することが示された(
図6A)。さらに、これらの結果は視覚性運動試験と一致しており、GIRK2を投与した対照の眼および処置された眼の両方で、視覚性運動反射が経時的に低下したことを示す(
図6B)。rd10マウスでは錐体数も経時的に減少していることから、この減少は予想されたことであった(
図6C)。rd10網膜に残存する錐体光受容体の数を数え、錐体数の減少とERG振幅の減少とを関連付けた。実際、光反応の減少は、残存する光受容体の数に比例していた(
図6D)。したがって、GIRK2は、錐体が生きて残存している限り、残存する錐体の光反応を増加させたが、予想通り、錐体細胞の消失を遅らせなかったと結論づけられた。
【0125】
〔4.変異型ロドプシンに起因するRCDモデルにおけるGIRK2を介した視力回復〕
変異に依存しない治療法を開発するという目標を念頭に置いて、このアプローチを異なる原因変異を持つ別のマウスモデルで試験した。この目的のために、P347S変異ヒトロドプシンをノックインしたmRho
-/-huRhoP347S
+/-と呼ばれるヘテロ接合体マウスモデルで実験が行われた。変異ヒトロドプシンおよびマウスロドプシンの欠失が、この相補的モデルにおける桿体-錐体ジストロフィーにつながった。ここでは、rd10マウスモデルで行ったのと同じ一連の実験を繰り返した。まず、異なる時点における錐体オプシンと相互作用する光伝達カスケードタンパク質を分析した(
図7)。その結果、以下のことがわかった:(i)変性速度はrd10と比較して遅かった、ならびに(ii)rd10モデルと同様に、P150ではオプシンおよびアレスチンだけが錐体細胞体に残存していた。
【0126】
次に、GFPと融合したGIRK2をコードする同じAAVベクターをP15でマウスに注射し、様々な時点で光刺激に対する錐体反応をモニターするためにERGを記録した(
図8A)。処理した眼の反応振幅は、P100まで対照の眼の反応振幅よりも有意に高かった。さらに、フリッカーERG反応もこのマウスモデルで同様に改善した。rd10マウスと同様に、このマウスモデルでも視覚性運動反射が改善され、対照条件および処置条件の両方で経時的に減少することを示している(
図8B)。このRCDマウスモデルでは、錐体数も経時的に減少するため、この減少は予想されることである(
図8C)。ERG振幅の時間的減少も、このモデルにおける錐体数の減少と相関している(
図8D)。これは、このアプローチでは変性は止められなかったが、GIRK2を介して光感受性を高めることができたという事実と再度一致した。
【0127】
〔5.in vitro試験におけるマウスGIRK2の有効性〕
GIRKおよびSWO(短波長オプシン)の両方を発現するHEK細胞では、光刺激(400nm、5秒、全視野)によってGIRK電流が活性化された(
図9)。GIRKチャネルはGi/o経路を介して膜限定的かつ高速に調節され、マウスGIRKチャネルの発現は膜結合型であった。SWOによるGIRKチャネルの光誘導活性化および不活性化の振幅および動態は、5秒間の光パルス中に大きなGIRK電流振幅を誘導する。
【0128】
〔実施例3:GIRK1 F137Sは、青色光(471nm)で刺激すると、GIRK2よりも強い電流を誘発する〕
マウスOpn4L-mCherryを安定的に発現するヒト胚性腎臓293(HEK293)は、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、4.5g/l D-グルコース、10%ウシ胎児血清(Gibco)およびペニシリン/ストレプトマイシンの添加、5%CO2下の加湿インキュベーター中、37℃で維持される。HEK293細胞は、FuGENE(登録商標)HD(Promega)を用いて製造元のプロトコールに従って遺伝子導入し、記録前に18~24時間インキュベートする。レチナールアルデヒドは最終培地濃度が1μMになるように添加する。
【0129】
GIRKチャネルの記録のために、Opn4L-mCherryを安定的に発現するHEK293細胞でGIRK構造物を発現させる。遺伝子導入後、暗室条件下で細胞を培養し、記録する。GIRKを介したK-電流は、以下に記述するように測定および解析される。外部溶液は、以下の通りである:20mM NaCl、120mM KCl、2mM CaCl2、1mM MgCl2、10mM HEPES-KOH、pH7.3(KOH)。パッチピペット(2-5MΩs)には内溶液を充填した:100mM アスパラギン酸カリウム、40mM KCl、5mM MgATP、10mM HEPES-KOH、5mM NaCl、2mM EGTA、2mM MgCl2、0.01mM GTP、pH7.3(KOH)。細胞は1μM 9-cisレチナール(Sigma)を含む外部溶液中で記録される。実験操作中、細胞は透過型赤色光(590nm)または緑色光フィルター(480nm)を用いて可視化される。HEK293細胞の全細胞パッチクランプ記録は、EPC10アンプ(HEKA)を用いて行った。電流はデジタル化され、EPC10アンプの2.9kHz 4極ベッセルフィルター(フィルター2)と直列に、内蔵の10-kHz 3極ベッセルフィルター(フィルター1)でフィルタリングされる。直列抵抗は70~90%の間で部分的に補完される。
【0130】
GIRK電流を分析および比較するために、HEK293細胞を-60mVで電圧クランプする。基準電流を決定するために、光照射前に-100mVから+50mVまで500msの長電圧ランプを照射する。その後、-60mVで471nmの光パルスを10秒間照射する。GIRK電流の大きさは、光活性化前後の細胞のコンダクタンスに関連している。
【0131】
異なるGIRK電流間のGタンパク質の調製および脱感作の有効性における可能性のある差異を分析するために、0.1~60秒の範囲で光パルスを照射し、我々の出版物に記載されているように光の強度を変化させる(Eickelbeck, D.ら Commun. Biol.2,(2019);Spoida, K.ら Melanopsin Curr. Biol.26,1206-1212(2016);Masseck,O.a.O.A.ら Neuron 81,1263-1273(2014))。
【0132】
図12および
図13の比較から明らかなように、GIRK1 F137Sは、HEK細胞における短いGIRK/オプシン光伝達カスケードの文脈において、切断されたラットのGIRK2よりも有意により多くのイオン流出を誘導し(約17倍高い)、一方で、野生型GIRK1はイオン流出の誘導に効果がない。この結果は、錐体にGIRK1 F137Sを組み込むことで、RCDのGIRK2遺伝子治療よりも改善された遺伝子治療が可能になることを示唆している。
【0133】
図14および
図15もまた、GIRK1 F137S(GFPタグの有無にかかわらず)が、ヒトまたはラットのGIRK2(GFPタグの有無にかかわらず)と比較して、有意にイオン流出を誘導することを確認している。
【0134】
〔実施例4:変異型ロドプシンによるRCDモデルにおけるGIRK1 F137Sの視力回復〕
実施例2.2と同じ実験モデルを用いて、rd10マウスの眼におけるヒトGIRK1 F137SのAAV媒介発現が、視覚性運動試験によって決定されるP37での視力向上につながることを実証した。結果を
図16に示す。
【0135】
P15 rd10/rd10マウスに、AAV8-PR1.7-hGIRK1 F137Sを5e8vg/眼または5e7vg/眼の用量で網膜下注射した。P30およびP37で、視機能を評価するためにOKT測定を行った。5e8vg/眼の投与3週間後に、P37で有意な視覚機能の改善が観察された。
【0136】
〔参考文献リスト〕
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【図面の簡単な説明】
【0137】
【
図1】
図1は、光伝達カスケード(A)通常の光伝達カスケード(B)動物オプシンおよびGIRK2チャネルを用いた短い光伝達カスケードを表す。PDE:ホスホジエステラーゼ。CNG:環状ヌクレオチドゲートチャネル。cGMP:環状グアノシン一リン酸。
【
図2】
図2は、プラスミド(A)CMV-GIRK2-GFPおよび(B)CMV-SWO-mCherryを表す。
【
図3】
図3は、免疫組織化学を用いてrd10マウスの光伝達カスケードに残存したものを表す。(A-D)(A)オプシン、(B)トランスデューシン、(C)PDEおよび(D)錐体アレスチンで染色した対照WTマウスの網膜断面。(E-H)(E)オプシン、(F)トランスデューシン、(G)PDEおよび(H)錐体アレスチンで染色したP14のrd10マウスの網膜断面。(I-L)(I)オプシン、(J)トランスデューシン、(K)PDEおよび(L)錐体アレスチンで染色したP150のrd10マウスの網膜断面。ONL:外側核層。INL:内核層。GC:神経節細胞。スケールバーは50μmである。挿入スケールバーは25μmである。
【
図4】
図4は予備データを表す。(A)注入1週間後のrd10マウスにおけるGIRK2-GFP発現の眼底(
*注入部位)(B)AAV-SWO-tdTomatoおよびAAV-GIRK2-GFPを注入したP33のrd10マウスにおける光視性ERG振幅。対照マウスはAAV-GFPを注射した(n=12)。P=0.0002。(C)P33での代表的なフリッカーERG。(D)AAV-SWO-tdTomatoおよびAAV-GIRK2-GFPを注射したrd10マウスにおける視覚性運動試験による視力の測定。対照マウスにはAAV-GFPを注射した。対照マウスにはAAV-GFPを注射した(n=8)。
【
図5】
図5は、GIRK2を介した視覚を表す。(A)AAV-SWO-tdTomatoおよび/またはAAV-GIRK2-GFPを注射したP41のrd10マウスの光視性ERG振幅。対照マウスにはAAV-GFPを注射した(n=12)。P
SWO+GIRK2=0.0381およびP
GIRK2=0.0021。(B)AAV-SWO-tdTomatoおよび/またはAAV-GIRK2-GFPを注射したrd10マウスにおける視覚性運動試験による視力の測定。対照マウスにはAAV-GFPを注射した。対照マウスにはAAV-GFPを注射した(n=7)。(C)P41での代表的なフリッカーERG。
【
図6】
図6は、長期の有効性を表す。(A)AAV-GIRK2-GFPを注射したrd10マウスの光視性ERG振幅。対照マウスはPBSを注射した(n=6)。(B)AAV-GIRK2-GFPを注射したrd10マウスにおける視覚性運動試験による視力の測定。対照マウスにはPBSを注射した(n=6)。(C)野生型マウスおよび非注射rd10マウスの経時的な錐体数(n=6)。P値
(P50-P365)=0.0022。(D)rd10マウスのERG振幅と錐体数との間の線形回帰相関(n=6)。P値
非注射=0,0482。P値
AAV-GIRK2-GFP=0.0007。P値
PBS=0.0104。
【
図7】
図7は、免疫組織化学を用いて、huP347S
+/-マウスにおいて光伝達カスケードに残存したものを表す。(A-D)(A)オプシン、(B)トランスデューシン、(C)PDEおよび(D)錐体アレスチンで染色した対照WTマウスの網膜断面。(E-H)(E)オプシン、(F)トランスデューシン、(G)PDEおよび(H)錐体アレスチンで染色したP14のhuP347S
+/-マウスの網膜断面。(I-L)(I)オプシン、(J)トランスデューシン、(K)PDEおよび(L)錐体アレスチンで染色したP150でのhuP347S
+/-マウスの網膜断面。ONL:外側核層。INL:内核層。GC:神経節細胞。スケールバーは50μmである。挿入スケールバーは25μmである。
【
図8】
図8は、アプローチの普遍性を表す。(A)AAV-GIRK2-GFPを注射したhuP347S
+/-マウスにおける光視性ERG振幅。対照マウスにはPBSを注射した(n=6)。(B)AAV-GIRK2-GFPを注射したhuP347S
+/-マウスにおける視覚性運動試験による視力の測定。対照マウスにはPBSを注射した(n=6)。(C)野生型マウスおよび非注射huP347S
+/-マウスの経時的な錐体数(n=6)。P値
(P50-P365)=0.0022。(D)huP347S
+/-マウスのERG振幅と錐体数との線形回帰相関(n=5)。P値
非注射=0.0313。P値
AAV-GIRK2-GFP=0.0146。P値
PBS=0.0497。
【
図9】
図9は、2つのプラスミドでトランスフェクトされたHEK細胞におけるマウスGIRK2の有効性を表す:CMV-SWO-mCherryおよびCMV-GIRK2-GFP。
【
図10】
図10は、対象となる患者集団について、正常なボランティアおよび網膜色素変性症患者の表現型分類を表す。上段(A)は、網膜の錐体優位領域の適応制御光学画像とともに、健常者の眼底および眼球後部のOCT画像を示す。中段(B)は進行したRCD患者の円グラフ分布を示す。下段は異なる患者のOCT画像およびAOSLO画像を表す。網膜色素変性症患者(77歳、男性)のAOSLO共焦点(上)およびAOSLO分割検出(下)のin vivo網膜画像。獲得野は、休止状態の錐体と推定される領域(すなわち、形態学的に無傷-OCTで見えるIS/OS線、AOSLO分割検出で見える明瞭な内分節モザイク、およびAOSLO共焦点で無傷の内分節および外分節を示す明瞭な錐体モザイク-ただし患者の視力によって機能は低下している;黄色のバー)と、損傷または欠落した錐体(OCTにおいて欠落したIS/OSライン、AOSLO分割検出および共焦点においてそれぞれぼやけた内分節および錐体のモザイクによって示される;赤色のバー)。黄色の矢印は、変性していると思われる錐体を示し、共焦点ではOSが存在しないが、分割検出ではISが存在する。スケールバー、200μm。
【
図11】
図11は、正常およびRPヒト網膜における錐体光伝達カスケードタンパク質を標識した免疫組織化学を表す。(A)86歳の対照ヒト網膜の網膜断面(20倍)。(B)網膜色素変性症(RP)に罹患し、夜盲と周辺視力低下とを有する75歳の老齢のヒトの網膜断面(40倍)。(A-B)Opn1mw(明)および核染色DAPI(暗)で染色。ONL:外側核層。INL:内核層。GC:神経節細胞。スケールバーは50μmである。挿入スケールバーは25μmである。
【
図12】
図12は、HEK293細胞におけるmOpn4Lの活性化によって惹起されるGIRK1 F137S電流の特性を示す。A)青色光(471nm、横軸に10秒から20秒までの露光)で活性化する場合には、mOpn4Lは強いGIRK1 F137S媒介電流を誘導し、それは石灰光(560nm、横軸に20秒から60秒までの露光)で刺激すると終了し、B)HEK293膜を通るイオンのフラックスおよびC)容量あたりの電流密度に統計的に有意な差が生じる。
【
図13】
図13は、青色光(471nm、横軸に10秒から20秒までの露光)で活性化され、石灰光(560nm、横軸に20秒から60秒までの露光)で刺激すると終了する場合の、HEK293細胞におけるmOpn4Lの活性化によって誘発されるGIRK1またはGIRK2電流の特性を示す。
【
図14】
図14:A1)hGIRK1 F137S、B1)hGIRK2、またはC1)切断されたrGIRK2を発現するHEK293細胞の容量あたりの電流密度を示す。mOpn4の活性化によって誘発される電流反応を、c末端eGFP融合構築物および遺伝子導入されていない細胞との比較で示す。個々の細胞の電流密度は、個々のデータポイントによって示されている。条件間の有意差を
*印で示す(全てのペアでの複合的な比較手順を有するランク上の分散のクラスカル-ワリスワンウェイ分析(ダンの方法)P<0.05)。条件間の有意差を
*印で示す(マン-ホイットニーランクサム検定;P=0.002)。青色光で活性化する場合には、mOpn4はGIRK媒介電流を誘導し、石灰光で刺激すると、A2)hGIRK1 F137S、B2)hGIRK2、およびC2)切断されたrGIRK2 T構造物の例示的なトレースで見られるように終了する。
【
図15】
図15A)mOpn4と、hGIRK1 F137S、hGIRK1 F137S-eGFP、またはhGIRK2のいずれかを発現するHEK293細胞の刺激は、全細胞パッチクランプ記録において確実に観察可能な電流を生じるが、mOpn4活性化後のhGIRK2-eGFP、rGIRK2、またはrGIRK2-eGFPの電流は、観察可能である可能性が低い。B)異なるGIRK構築物(上)またはそれらのeGFPタグ付きバージョン(下)を発現するHEK293細胞の容量あたりの電流密度。個々の細胞の電流密度は、個々のデータポイントによって示されている。条件間の有意差を
*印で示す(全てのペアでの複合的な比較手順を有するランク上の分散のクラスカル-ワリスワンウェイ分析(ダンの方法)P<0.05)。
【
図16】
図16は、ビヒクル注射したrd10マウスまたはナイーブ(非注射)rd10マウスと比較した、5E7vg/眼または5E8vg/眼でAAV8-pR1.7-hGIRK1F137SをP15で両側網膜下注射した後のrd10マウスの視力を表す。
【
図17】
図17は、プラスミドpAAV2-5’ITR-pR1.7-hGIRK-F137S-BGHpA-AAV2-3’ITRを表す。
【
図18】
図18は、プラスミドpAAV2-5’ITR-pR1.7-hGIRK-F137S-WPREmut6-BGHpA-AAV2-3’ITRを表す。
【
図19】
図19は、プラスミドpAAV2-5’ITR-pR1.7-hGIRK-F137S-WPREmut6deltaATG-BGHpA-AAV2-3’ITRを表す。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-01-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Gタンパク質ゲート内向き整流カリウムチャネルのサブユニット1(GIRK1)F137Sをコードするヌクレオチド配列を含む、ベクター。
【請求項2】
前記ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス、SV40ウイルスベクターから選択されるウイルスである、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
前記ベクターは、VP1カプシドタンパク質のGHループに7~11アミノ酸長の挿入ペプチドを含むAAV2ウイルスまたはAAV9ウイルスであり、前記挿入ペプチドは、アミノ酸配列LGETTRP(配列番号7)を含む、請求項1または2に記載のベクター。
【請求項4】
Gタンパク質ゲート内向き整流カリウムチャネルのサブユニット1(GIRK1)F137Sをコードする前記ヌクレオチド配列は、錐体特異的プロモーターの制御下にある、請求項
1に記載のベクター。
【請求項5】
前記錐体特異的プロモーターは、pR1.7もしくはその機能的変異体、または最小M-オプシンプロモーター、特にpMNTC発現カセットにて、またはGRKプロモーターもしくはその切断型である、請求項4に記載のベクター。
【請求項6】
GIRK1 F137Sをコードする前記ヌクレオチド配列は、配列番号3を含む、請求項
1に記載のベクター。
【請求項7】
前記ベクターは、以下を含む組換えAAV9ベクターである、請求項
1に記載のベクター:
-野生型AAV9 VP1カプシドタンパク質のアミノ酸588と589との間に局在する位置で、野生型AAV9 VP1カプシドタンパク質に対して前記VP1カプシドタンパク質の前記GHループに7~11アミノ酸長の挿入ペプチドが挿入されたVP1カプシドタンパク質であって、前記ペプチドはアミノ酸配列LGETTRP(配列番号5)を含む、VP1カプシドタンパク質;および
-pR1.7プロモーターの制御下にあるGIRK1 F137Sをコードする、前記ヌクレオチド配列。
【請求項8】
前記挿入ペプチドは、アミノ酸配列AALGETTRPA(配列番号10)、LALGETTRPA(配列番号11)、またはGLGETTRPA(配列番号12)を含むか、またはこれらからなる、請求項
1に記載のベクター。
【請求項9】
哺乳類の錐体オプシンをコードするヌクレオチド配列をさらに含む、請求項
1に記載のベクター。
【請求項10】
請求項
1に定義されるベクターを含む、薬学的に許容される担体。
【請求項11】
哺乳類の錐体オプシンをコードするヌクレオチド配列を含むベクターをさらに含む、請求項10に記載の薬学的に許容される担体。
【請求項12】
前記ベクターは、哺乳類の錐体オプシンをコードするヌクレオチド配列を含む、請求項10に記載の薬学的に許容される担体:
a)は、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス、およびSV40ウイルスベクターからなる群より選択される;または
b)は、前記VP1カプシドタンパク質の前記GHループに7~11アミノ酸長の挿入ペプチドを含むAAV2ウイルスまたはAAV9ウイルスであり、前記挿入ペプチドは、アミノ酸配列LGETTRP(配列番号7)を含む;または
c)は、以下を含む組換えAAV9ベクターである:
-野生型AAV9 VP1カプシドタンパク質のアミノ酸588と589との間に局在する位置で、野生型AAV9 VP1カプシドタンパク質に対して前記VP1カプシドタンパク質の前記GHループに7~11アミノ酸長の挿入ペプチドが挿入されたVP1カプシドタンパク質であって、前記ペプチドは、アミノ酸配列LGETTRP(配列番号7)を含む、VP1カプシドタンパク質;および
-pR1.7プロモーターの制御下にある前記哺乳類の錐体オプシンをコードする、前記ヌクレオチド配列。
【請求項13】
前記担体は、固体-脂質ナノ粒子、キトサンナノ粒子、リポソーム、リポプレックスおよびカチオン性ポリマーからなる群から選択される、請求項10~12のいずれか1項に記載の薬学的に許容される担体。
【請求項14】
前記哺乳類の錐体オプシンは、短波長錐体オプシン(SWO)である、請求項
1に記載のベクターまたは請求項1
0に記載の薬学的に許容される担体。
【請求項15】
請求項
1に記載のベクター、または請求項1
0に記載の薬学的に許容される担体を、薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤とともに含む、医薬組成物。
【請求項16】
哺乳類の錐体オプシンをコードするヌクレオチド配列を含むベクターをさらに含む、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
桿体-錐体ジストロフィー(RCD)の治療
のための
、請求項1
5に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記医薬組成物は、窩の距離に網膜下注射によって投与される、請求項17に記載の
桿体-錐体ジストロフィー(RCD)の治療のため
の医薬組成物。
【請求項19】
前記医薬組成物は、a)網膜動脈の上側枝または下側枝に隣接する領域に;b)前記窩の中心から視蓋直径2~3の距離に;かつc)側頭網膜動脈および側頭網膜静脈の枝によって画定される幾何学的形状に局在する位置に、網膜下注射によって投与される、請求項1
7に記載
の医薬組成物。
【請求項20】
前記医薬組成物は、硝子体内注射によって投与される、請求項17に記載の
桿体-錐体ジストロフィー(RCD)の治療のため
の医薬組成物。
【請求項21】
桿体-錐体ジストロフィー(RCD)の治療
のための、Gタンパク質ゲート内向き整流カリウムチャネルのサブユニット1(GIRK1)F137Sをコードする配列を含
む核酸
を含む、医薬組成物。
【請求項22】
桿体-錐体ジストロフィー(RCD)の治療
のための、Gタンパク質ゲート内向き整流カリウムチャネルのサブユニット1(GIRK1)F137Sをコードする異種核酸を含
む錐体前駆細胞
を含む、医薬組成物。
【請求項23】
前記錐体前駆細胞は、治療される前記RCDの対象から得られる、請求項22に記載の
桿体-錐体ジストロフィー(RCD)の治療のための錐体前駆細胞
を含む医薬組成物。
【請求項24】
前記錐体前駆細胞は、治療される前記RCDの対象の体細胞から得られた分化誘導多能性幹細胞によって得られる、請求項2
2に記載の
桿体-錐体ジストロフィー(RCD)の治療のための錐体前駆細胞
を含む医薬組成物。
【請求項25】
前記錐体前駆細胞は、網膜下腔注射によって投与される、請求項2
2に記載の
桿体-錐体ジストロフィー(RCD)の治療のための錐体前駆細胞
を含む医薬組成物。
【請求項26】
GIRK1 F137Sまたはその機能的誘導体をコードする異種核酸を含む錐体前駆細胞を調製する方法であって、前記方法は、請求項
1に記載のウイルスベクター、または請求項1
0に記載の薬学的に許容される担体を錐体前駆細胞に感染させることを含む、方法。
【国際調査報告】