(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】プロトン交換膜
(51)【国際特許分類】
C08F 259/08 20060101AFI20240517BHJP
C08F 8/36 20060101ALI20240517BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240517BHJP
C08L 51/00 20060101ALI20240517BHJP
B32B 3/24 20060101ALI20240517BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240517BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20240517BHJP
H01M 8/1067 20160101ALI20240517BHJP
H01M 8/1023 20160101ALI20240517BHJP
H01M 8/1039 20160101ALI20240517BHJP
H01M 8/1069 20160101ALI20240517BHJP
H01M 8/1081 20160101ALI20240517BHJP
H01M 8/106 20160101ALI20240517BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240517BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
C08F259/08
C08F8/36
C08L101/00
C08L51/00
B32B3/24
B32B27/30 D
H01M8/10 101
H01M8/1067
H01M8/1023
H01M8/1039
H01M8/1069
H01M8/1081
H01M8/106
H01B13/00 Z
H01B1/06 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573643
(86)(22)【出願日】2022-05-31
(85)【翻訳文提出日】2024-01-29
(86)【国際出願番号】 FR2022051032
(87)【国際公開番号】W WO2022254143
(87)【国際公開日】2022-12-08
(32)【優先日】2021-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アントニー・ボネ
(72)【発明者】
【氏名】サミュエル・ドゥヴィズム
(72)【発明者】
【氏名】エレーヌ・メエユスト
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4J026
4J100
5G301
5H126
【Fターム(参考)】
4F100AK04
4F100AK04A
4F100AK07
4F100AK07A
4F100AK17
4F100AK173
4F100AK18
4F100AK18A
4F100AK49
4F100AK49A
4F100AK54
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5G301CA30
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5H126HH03
5H126HH04
5H126HH10
5H126JJ00
5H126JJ05
(57)【要約】
本発明は、プロトン交換膜、前記膜を調製する方法、及び排水処理や電気化学等イオン交換を必要とする分野又はエネルギーの分野における前記膜の使用に関する。特に、この膜は、燃料電池膜の設計において使用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末形態であり、スチレンモノマー及びニトリルモノマーがグラフトされている、照射されたPVDFからなる材料であって、照射され、グラフトされた前記PVDFが、プロトン交換スルホネート基を有する材料。
【請求項2】
前記のスチレンモノマー/ニトリルモノマー比が、0.7から1.3の範囲である、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
PVDFが、ポリ(フッ素化ビニリデン)ホモポリマー及び二フッ素化ビニリデンとリスト:フッ素化ビニル、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、3,3,3-トリフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、ヘキサフルオロイソブチレン、ペルフルオロブチルエチレン、1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)、ブロモトリフルオロエチレン、クロロフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロプロペン、エチレン及びこれらの混合物から選択される少なくとも1種のコモノマーとのコポリマーから選択される、請求項1または2に記載の材料。
【請求項4】
PVDFが、フッ素化ビニリデンホモポリマーである、請求項1から3のいずれか一項に記載の材料。
【請求項5】
PVDFが、フッ素化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマーであり、コポリマーの質量に対して1質量%から35質量%、好ましくは2質量%から23質量%、好ましくは4質量%から20質量%の、ヘキサフルオロプロピレンモノマー単位の質量パーセントを有する、請求項1から3のいずれか一個に記載の材料。
【請求項6】
PVDFが、不均質熱可塑性コポリマーであり、且つ二つ以上の共連続相を含み、前記共連続相が、
a)25質量%から50質量%の第一の共連続相であって、90質量%から100質量%のフッ素化ビニリデンモノマー単位及び0質量%から10質量%の少なくとも1つの他のフルオロモノマー単位を含む、第一の共連続相と、
b)50質量%超から75質量%の第二の共連続相であって、65質量%から95質量%のフッ素化ビニリデンモノマー単位並びにヘキサフルオロプロピレン及びペルフルオロ(ビニルエーテル)からなる群から選択される1つ又は複数のコモノマーを含み、第一の共連続相からの第二の共連続相の相分離をもたらす、第二の共連続相と
を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の材料。
【請求項7】
前記スチレンモノマーが、α-メチルスチレン、α-フルオロスチレン、α-ブロモスチレン、α-メトキシスチレン、及びα,β,β-トリフルオロスチレンの群から選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の材料。
【請求項8】
前記ニトリルモノマーが、アクリロニトリル、2-メチル-2-ブテンニトリル、2-メチレングルタロニトリル、及びメチルアクリロニトリルの群から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の材料。
【請求項9】
前記PVDFが、α-メチルスチレン及び2-メチレングルタロニトリルでグラフトされており、且つクロロスルホン酸で官能化されている、請求項1から8のいずれか一項に記載の材料。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の材料を調製する方法であって、前記方法が、照射されたPVDF粉末にスチレン及びニトリルモノマーの混合物をグラフトさせた後、かくして照射されてグラフトされたPVDF粉末の後処理を行う工程を含む、方法。
【請求項11】
以下の工程:
・前記PVDF粉末を、電子線、ガンマ線、又はX線から選択される電離放射線に曝露する工程;
・照射されたフィルムを、α-メチルスチレン、α-フルオロスチレン、α-ブロモスチレン、α-メトキシスチレン、α,β,β-トリフルオロスチレンの群から選択されるスチレンモノマー、及びアクリロニトリル、2-メチル-2-ブテンニトリル、2-メチレングルタロニトリル及びメチルアクリロニトリルの群から選択されるスチレンモノマーを含むモノマーの混合物に曝露する工程;
・グラフトされたPVDF粉末を、クロロスルホン酸を用いた後官能化反応、次いで水又はアルカリ性溶液中での加水分解にかける工程;
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から9のいずれか一項に記載のPVDF材料からプロトン交換ポリマー電解質膜を製造するための方法であって、前記方法が、PVDF粉末をフィルム形態に変換する工程を含む、方法。
【請求項13】
請求項1から9のいずれか一項に記載のPVDF材料の混合物と、ポリメチルメタクリレート及びそのコポリマー、フルオロポリマー、ポリウレタン及びポリエステルから選択される別のポリマーとの混合物から、プロトン交換ポリマー電解質膜を製造するための方法であって、前記混合物をフィルム形態に変換する工程を含む方法。
【請求項14】
プロトン交換ポリマー電解質膜であって、前記膜が、請求項1から9のいずれか一項に記載のPVDF材料から得た膜からなる、プロトン交換ポリマー電解質膜。
【請求項15】
プロトン交換ポリマー複合膜であって、前記膜が、溶媒及び/または水性ルートによって請求項1から9のいずれか一項に記載のPVDF材料で含浸された多孔性支持体からなり、前記多孔性支持体が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ素化ビニリデン(PVDF)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PESU)、ポリイミド(PI)、及びポリアリールエーテルケトン(PAEK)から選択されるポリマーである、プロトン交換ポリマー複合膜。
【請求項16】
プロトン交換ポリマー複合膜であって、前記膜は、少なくとも一部が請求項1から9のいずれか一項に記載のPVDF材料の繊維からなり、残りは、以下:ポリメチルメタクリレート及びそのコポリマー、フルオロポリマー、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ素化ビニリデン(PVDF)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PESU)、ポリイミド(PI)、及びポリアリールエーテルケトン(PAEK)から選択されるポリマーの1つであり、エレクトロスピニングによって得られた前記膜が、その後、溶媒または水性ルートによって前記PVDF材料で含浸される、プロトン交換ポリマー複合膜。
【請求項17】
2×10
-2mL/min.cm
2未満の水素透過度を有する、請求項14から16のいずれか一項に記載の膜。
【請求項18】
0.05MのKOH水溶液による滴定によって測定される0.6mmol/g超のイオン交換容量(IEC)を有する、請求項14から17のいずれか一項に記載の膜。
【請求項19】
請求項14から18のいずれか一項に記載の膜を含む燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン交換膜、前記膜を調製する方法、及びイオン交換、例えば電気化学等を必要とする分野又はエネルギー分野における前記膜の適用に関する。特に、この膜は、燃料電池膜、例えば、H2/空気又はH2/O2燃料電池(これらの電池は、PEMFCという「プロトン交換膜燃料電池」の略語によって公知である)又はメタノール/空気燃料電池(これらの電池は、DMFCという「直接メタノール燃料電池」の略語によって公知である)のためのプロトン伝導膜の設計において、使用される。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料酸化反応の化学エネルギーを酸化剤の存在下で電気エネルギー、熱及び水に変換する電気化学的発電機である。一般に、燃料電池は、直列に搭載された複数の電気化学電池を含み、電池はそれぞれ、固体電解質として働くプロトン交換膜によって分離された極性が逆の2本の電極を含む。膜によって、燃料の酸化中にアノードで形成されたプロトンがカソードに流れることが可能になる。
【0003】
膜は、燃料電池のコアに構造を与え、結果として、良好なプロトン伝導性能に加えて反応性ガス(PEMFC燃料電池ではH2/空気又はH2/O2、DMFC燃料電池ではメタノール/空気)に対する低透過性も確実に備える。膜を構成する材料の特性は、本質的な熱安定性、加水分解及び酸化に対する抵抗性、並びにある程度の機械的柔軟性である。
【0004】
一般に使用され、これらの要件を満たす膜は、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリフェニレン、及びポリベンゾイミダゾールのファミリーに属するポリマーから得られた膜である。しかしながら、これらの非フッ素化ポリマーは、燃料電池環境において比較的急速に劣化し、それらの実用寿命は、今のところ、PEMFC適用には依然として不十分であることが見出された。
【0005】
ほとんどのプロトン交換膜は、スルホネート官能を有する長分枝鎖又は短分枝鎖を有するペルフッ素化ポリマーの化学的性質に基づいている。コストが高いことに加えて、これらの様々なポリマーは、ヒドロキシラジカルに対する耐性が低いために燃料電池環境における耐久性が制限され、また機械的強度も低い。さらに、これらの膜のイオン伝導度/水素透過度の比では、高い不透過性と高い伝導性を兼ね備えた薄膜を得ることが不可能である。更に、ペルフッ素化膜には温度使用限界があり、80℃を超える温度で長時間使用することができない。
【0006】
80℃を超える温度でのプロトン伝導性の点で長期の有効性を得るために、ポリマーマトリックスに加えて、プロトン伝導性粒子を含み、このため、伝導性が膜を構成するポリマーのみに由来するものではない、より複雑な材料を提案する著者もいる。これは、国際公開第2014/173885号に当てはまり、これには、ポリマーマトリックスと無機イオン交換粒子からなる充填剤とを含む複合材料であって、前記粒子がフッ素化ポリマーマトリックス内でin situ合成される、複合材料が記載されている。これらの膜は、ポリマーマトリックス内でより均一な無機粒子分布を示す。しかしながら、このタイプの膜は、ポリマーマトリックス単独で作製された膜と比べて機械的特性に劣り、燃料電池の作動時における大きさの変動のために、粒子-マトリックス界面でキャビテーションのリスクがあり、工業規模での製造が困難である。
【0007】
放射線誘発グラフトによって製造されたイオン伝導性膜は、それらの化学安定性を改善するためのもう一つの選択肢である。放射線誘発グラフト反応は、モノマーのフィルム中での拡散及びモノマー重合反応によって制御される。反応は、照射されたフィルムの表面で始まり、次第にフィルムの大部分に及ぶ。エチレン-テトラフルオロエチレン(ETFE)、フッ素化エチレン-プロピレン(FEP)及びエチレン-クロロトリフルオロエチレン(ECTFE)をベースにしたフィルムが、特に両性イオン交換膜用に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
改善された特性、特に改善された熱抵抗性及びより高い伝導度/気体透過度の比を有するプロトン交換膜が真に求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の欠点を克服するために、本発明者らは、粉末形態の、フッ素化ビニリデンベースのポリマー(PVDF)から出発して得られた非常に特殊な形態を有する膜を開発した。
【0011】
第一の態様によれば、本発明は、照射されたPVDFからなり、粉末形態であり、スチレンモノマー及びニトリルモノマーがグラフトされている材料に関し、照射され、グラフトされた前記PVDFが、プロトン交換スルホネート基を有する材料に関する。
【0012】
前記PVDFは、ポリ(フッ素化ビニリデン)ホモポリマー及び二フッ素化ビニリデンとリスト:フッ素化ビニル、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、3,3,3-トリフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、ヘキサフルオロイソブチレン、ペルフルオロブチルエチレン、1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、1、 2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)、ブロモトリフルオロエチレン、クロロフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロプロペン、エチレン及びこれらの混合物から選択される少なくとも1種のコモノマーとのコポリマーから選択される。
【0013】
第二の態様によれば、本発明は、前記材料を調製する方法であって、照射されたPVDF粉末にスチレン及びニトリルモノマーの混合物をグラフトさせた後、かくして照射され、グラフトされたPVDF粉末をスルホン化によって後処理する工程を含む、方法に関する。
【0014】
第3の態様によれば、本発明は、プロトン交換ポリマー電解質膜に関し、前記膜は、前記PVDF材料から得られるフィルムからなる。
【0015】
第4の態様によれば、本発明は、プロトン交換ポリマー電解質膜を、粉末形態の、照射され、グラフト化され、官能化された前記PVDF材料から製造するための方法に関し、前記方法は、PVDF粉末をフィルム形態に変換することを含む。
【0016】
別の態様によれば、本発明は、プロトン交換ポリマー複合膜に関し、前記膜は、溶媒及び/または水性ルートによって前記PVDF材料で含浸させた多孔性ポリマー支持体からなる。
【0017】
別の態様によれば、本発明は、プロトン交換ポリマー複合膜に関し、前記膜は、少なくとも部分的に前記PVDF材料の繊維からなり、残りはポリマーであり、エレクトロスピニングによって製造されたものである。この膜は、次いで、溶媒または水性ルートによって前記PVDF材料で含浸される。
【0018】
別の態様によれば、本発明は、以下の分野:
・燃料電池、例えばH2/空気若しくはH2/O2燃料電池又はメタノール/空気燃料電池;
・電解槽;
・前記膜が電解質の組成の一部でありうるリチウム電池
におけるプロトン交換ポリマー電解質膜の応用に関する。
【0019】
本発明により、先行技術の不利な点を克服することが可能になる。更に詳細には、本発明は、
・140℃未満の温度に対して流動せず、フィルムの熱抵抗性を改善すること;
・ヒドロキシラジカルに対する抵抗性を、市販のNAFION型膜と比べて改善すること;
・伝導度/水素透過度の比を、先行技術と比べて改善すること
を可能にする技術を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明を、続く説明においてより詳細に非限定的な形で記載する。
第一の態様によれば、本発明は、照射されたPVDFからなり、粉末形態であり、スチレンモノマー及びニトリルモノマーがグラフトされている材料に関し、照射され、グラフトされた前記PVDFが、プロトン交換スルホネート基を有する材料に関する。
【0021】
別の態様によれば、本発明は、プロトン交換ポリマー電解質膜に関し、前記膜は、前記PVDF材料から得られる。
様々な実施態様によれば、前記材料及び前記膜は、適切な場合には組み合わせで、以下の特徴を備える。示された内容は、特記のない限り質量で表される。
【0022】
PVDF
本発明で使用され、一般にPVDFの略称で示されるフルオロポリマーは、二フッ素化ビニリデンをベースとするポリマーである。
一実施態様によれば、PVDFは、ポリ(フッ素化ビニリデン)ホモポリマーまたはフッ素化ビニリデンホモポリマーの混合物である。
一実施態様によれば、PVDFは、ポリ(フッ素化ビニリデン)ホモポリマーまたは二フッ素化ビニリデンと二フッ素化ビニリデンと相溶性のある少なくとも1種のコモノマーとのコポリマーである。
二フッ素化ビニリデンと相溶性のあるコモノマーは、ハロゲン化(フッ素化、塩素化または臭素化)または非ハロゲン化であってよい。
【0023】
適切なフッ素化コモノマーの例は:フッ素化ビニル、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロプロペン、特に3,3,3-トリフルオロプロペン、テトラフルオロプロペン、特に2,3,3,3-テトラフルオロプロペンまたは1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、ヘキサフルオロイソブチレン、ペルフルオロブチルエチレン、ペンタフルオロプロペン、特に1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、または1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、ペルフルオロアルキルビニルエーテル、特に一般式Rf-O-CF=CF2のものであり、Rfはアルキル基、好ましくはC1-C4アルキル基(好ましい例はペルフルオロプロピルビニルエーテル及びペルフルオロメチルビニルエーテル)である。
【0024】
フッ素化コモノマーは、塩素原子または臭素原子を含むことができる。これは特に、ブロモトリフルオロエチレン、クロロフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、及びクロロトリフルオロプロペンから選択することができる。クロロフルオロエチレンは、1-クロロ-1-フルオロエチレンまたは1-クロロ-2-フルオロエチレンを示すことができる。クロロ-1-フルオロエチレンの異性体が好ましい。クロロトリフルオロプロペンは、好ましくは1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンまたは2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンである。
【0025】
VDFコポリマーはまた、非ハロゲン化モノマー、例えばエチレン、及び/またはアクリルもしくはメタクリルコモノマーを含むことができる。
【0026】
フルオロポリマーは、好ましくは、少なくとも50mol%の二フッ素化ビニリデンを含む。
一実施態様によれば、PVDFは、フッ素化ビニリデン(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)とのコポリマー(P(VDF-HFP))であり、コポリマーの質量に対して1質量%から35質量%、好ましくは2質量%から23質量%、好ましくは4質量%から20質量%の、ヘキサフルオロプロピレンモノマー単位の質量パーセントを有する。
一実施態様によれば、PVDFは、ポリ(フッ素化ビニリデン)ホモポリマーとVDF-HFPコポリマーとの混合物である。
【0027】
一実施態様によれば、本発明のフッ素化ビニリデンコポリマーは、溶融変換可能な不均質熱可塑性コポリマーであり、2つ以上の共連続相を含み、前記共連続相は、
a)25質量%から50質量%の第一の共連続相であって、90質量%から100質量%のフッ素化ビニリデンモノマー単位及び0質量%から10質量%の少なくとも1つの他のフルオロモノマー単位を含む、第一の共連続相と、
b)50質量%超から75質量%の第二の共連続相であって、65質量%から95質量%のフッ素化ビニリデンモノマー単位並びにヘキサフルオロプロピレン及びペルフルオロ(ビニルエーテル)からなる群から選択される1つ又は複数のコモノマーを含み、第一の共連続相からの第二の共連続相の相分離をもたらす、第二の共連続相と
を含む。
【0028】
前記不均質コポリマーは、固体状態の共連続構造を生成する2相以上を含む。共連続相は互いに異なり、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することができる。本発明による不均質コポリマーは、単相を含む均質コポリマーとは異なる。
【0029】
一実施態様によれば、PVDFは、2種以上のVDF-HFPコポリマーの混合物である。
一実施態様によれば、PVDFは、以下:カルボン酸、カルボン酸無水物、カルボン酸エステル、エポキシ基(グリシジルなど)、アミド、ヒドロキシル、カルボニル、メルカプト、スルフィド、オキサゾリン、フェノール、エステル、エーテル、シロキサン、スルホン酸、硫酸、リン酸またはホスホン酸の少なくとも1つの官能基を有するモノマー単位を含む。官能基は、当業者には周知の技術に従って、フッ素化モノマーと、前記官能基及びフッ素化モノマーと共重合可能なビニル官能基の少なくとも1つを有するモノマーとのグラフト化または共重合であってよい化学反応によって導入される。
【0030】
一実施態様によれば、官能基は、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、及びヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレートから選択される(メタ)アクリル酸タイプの基であるカルボン酸官能を有する。
一実施態様によれば、カルボン酸官能を有する単位は、酸素、硫黄、窒素、及びリンから選択されるヘテロ原子をさらに含む。
【0031】
一実施態様によれば、官能性は、合成プロセス中に使用される移動剤によって導入される。移動剤は、モル質量が20000g/モル以下であり、以下の基:カルボン酸、カルボン酸無水物、カルボン酸エステル、エポキシ基(グリシジルなど)、アミド、ヒドロキシル、カルボニル、メルカプト、スルフィド、オキサゾリン、フェノール、エステル、エーテル、シロキサン、スルホン、硫酸、リン酸またはホスホン酸から選択される官能基を有するポリマーである。このタイプの移動剤の一例は、アクリル酸のオリゴマーである。
PVDF中の官能基の含有量は、少なくとも0.01mol%、好ましくは少なくとも0.1mol%、多くても15mol%、好ましくは多くても10mol%である。
【0032】
PVDFは好ましくは高分子量を有する。ここで使用される「高分子量」なる語は、100Pa.s超、好ましくは500Pa.s超、より好ましくは1000Pa.s超、有利には2000Pa.s超の溶融粘度を有するPVDFを意味すると理解される。粘度は、標準ASTM D3825に従い、キャピラリーレオメーターまたは平行平板型レオメーターを用いて、232℃、100s-1のせん断勾配で測定する。この2つの方法では、同様の結果が得られた。
【0033】
本発明で使用されるPVDFホモポリマー及びVDFコポリマーは、公知の重合法、例えば乳化重合によって得ることができる。
【0034】
一実施態様によれば、これらはフッ素化界面活性剤の非存在下での乳化重合プロセスによって調製される。
【0035】
PVDFの重合は、一般に10質量%から60質量%、好ましくは10質量%から50質量%の固形分含量を有し、1マイクロメートル未満、好ましくは1000nm未満、好ましくは800nm未満、より好ましくは600nm未満の質量平均粒径を有するラテックスをもたらす。粒子の質量平均サイズは、一般に少なくとも10nm、好ましくは少なくとも50nmであり、有利には、平均サイズは100から400nmの範囲内である。ポリマー粒子は、二次粒子と呼称される凝集体を形成することができ、その質量平均サイズは5000μm未満、好ましくは1000μm未満、有利には1から80マイクロメートル、好ましくは2から50マイクロメートルである。凝集体は、製剤化中及び基材への塗布中に別個の粒子に分解することができる。
【0036】
いくつかの実施態様によれば、PVDFホモポリマー及びVDFコポリマーは、バイオベースのVDFで構成される。「バイオベース」なる語は、「バイオマス由来」を意味する。これにより、膜のエコロジカルフットプリントを改善することが可能になる。バイオベースVDFは、再生可能炭素の含有量、すなわち、バイオ材料またはバイオマスに由来する天然由来の炭素の含有量が、規格NF EN 16640に従い14Cの含有量によって決定されて、少なくとも1原子%であることを特徴とすることができる。「再生可能な炭素」なる語は、以下に示すように、炭素が天然由来であり、バイオ材料(またはバイオマス)由来であることを示す。いくつかの実施態様によれば、VDFのバイオ炭素含有量は、5%超、好ましくは10%超、好ましくは25%超、好ましくは33%以上、好ましくは50%超、好ましくは66%以上、好ましくは75%超、好ましくは90%超、好ましくは95%超、好ましくは98%超、好ましくは99%超、有利には100%に等しいことが可能である。
【0037】
乳化重合は、約200nmの粒子のラテックスの製造を可能にするが、これにより、乾燥後、例えばスプレー乾燥後、10から50μmの範囲の体積平均直径(Dv50)を有する粒子が得られる。
【0038】
粉末形態のPVDF材料
本発明による材料は、粉末形態の、スチレンモノマー及びニトリルモノマーがグラフトされている、照射されたPVDFからなり、照射され、グラフトされたPVDFは、プロトン交換スルホネート基を有する。
【0039】
この材料は、照射されたPVDFにスチレンモノマーとニトリルモノマーの混合物をグラフトさせる工程に次いで、かくして、照射され、グラフトされたPVDF粉末の、スルホン化による後処理を含む方法に従って調製される。
この方法の各工程を以下に詳述する。
【0040】
一実施態様では、PVDF粉末をまず電離放射線に暴露して、PVDFポリマー鎖に活性部位を導入する。前記粉末は、電子線、ガンマ線またはX線源によって、25から150kgrayの間、好ましくは30から125kgrayの間の線量で照射される。照射は真空下、空気下または窒素下で行われる。かくして照射PVDF粉末が得られる。照射PVDF粉末は、次いで、スチレンモノマーとニトリルモノマーとを含むモノマーの混合物を使用するグラフト化工程を経る。
一実施態様によれば、前記スチレンモノマーは、α-アルキルスチレン型であり、そのアルキル基は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、及びヘキシルから選択される。
一実施態様によれば、前記スチレンモノマーは、群:α-メチルスチレン、α-フルオロスチレン、α-ブロモスチレン、α-メトキシスチレン、及びα,β,β-トリフルオロスチレンから選択される。
一実施態様によれば、前記スチレンモノマーは、α-メチルスチレン(AMS)である。
一実施態様によれば、前記ニトリルモノマーは、群:アクリロニトリル、2-メチル-2-ブテンニトリル、2-メチレングルタロニトリル、及びメチルアクリロニトリルから選択される。
【0041】
一実施態様によれば、グラフトPVDF粉末は、イソプロパノールですすぐ前に、30%から50%のα-メチルスチレン、30%から50%のメチレングルタロニトリル、及び0%から40%のイソプロパノールを含む60℃の浴に通される。
一実施態様によれば、スチレンモノマー/ニトリルモノマーのモル比は0.7から1.3の範囲である。
一実施態様によれば、前記ニトリルモノマーは、2-メチレングルタロニトリル(MGN)である。
【0042】
一実施態様によれば、PVDF粉末は、前記スチレンモノマー及び前記ニトリルモノマーを含むモノマーの混合物の存在下で照射される。粉末は、25から150kgray、好ましくは30から125kgrayの線量で、電子線、ガンマ線、又はX線源によって照射される。照射は、真空下、空気中又は窒素中で行われる。
【0043】
次いで、照射され、グラフトされたPVDF粉末は、クロロスルホン酸を用いた後官能化反応、次に水又はアルカリ性溶液中における加水分解にかけられる。これにより、カチオン交換-SO3H官能基がPVDF表面に導入できる。
【0044】
一実施態様によれば、グラフト粉末のスルホン化は、クロロスルホン酸を含むジクロロメタン溶液中、室温で行われる。
共有結合した-SO3H官能基を有するグラフトPVDF粉末は、次に蒸留水で、すすぎ水のpHが中性になるまですすぎ、その後80℃で加水分解し、次いで風乾させる。かくして変換された粉末の質量は、25%から60%、好ましくは35%から55%増加する。
透過赤外(IR)分光法による測定は、PVDF基準ピークに対する芳香族基の特定のピーク及び/またはニトリル基の特定のピークの面積の比に基づく較正曲線を介して、25%から60%、好ましくは35%から55%の質量による粉末PVDFのグラフト化率を示す。
【0045】
ポリマー電解質膜
別の態様によれば、本発明は、粉末形態の、照射され、グラフト化され、官能化された前記PVDF材料から、プロトン交換ポリマー電解質膜を製造するための方法に関し、前記方法は、PVDF粉末を、膜を構成するフィルムの形態に変換する工程を含む。PVDF粉末をフィルム形態に変換するこの工程は、当業者に公知の任意の技術:押出吹込成形、フラットフィルム押出成形、また、例えば、溶液流延法によるフィルム製造によって実施される。
別の態様によれば、本発明は、プロトン交換ポリマー電解質膜に関し、前記膜は、前記PVDF材料から得られるフィルムからなる。
【0046】
別の態様によれば、本発明は、粉末形態の、照射され、グラフトされ、官能化された前記PVDF材料と、ポリメチルメタクリレート及びそのコポリマー、フルオロポリマー、ポリウレタン及びポリエステルから選択される別のポリマーとの混合物から、プロトン交換ポリマー電解質膜を製造するための方法に関する。前記混合物は、粉末形態の、照射され、グラフト化され、官能化された前記PVDFを100質量%から50質量%含む。この方法は、前記混合物をフィルム形態に変換する工程を含む。混合物をフィルム形態に変換するこの工程は、当業者に公知の任意の技術:押出吹込成形、フラットフィルム押出成形、また、例えば、溶液流延法によるフィルム製造によって実施される。
【0047】
別の態様によれば、本発明は、プロトン交換ポリマー複合膜に関し、前記膜は、溶媒及び/または水性ルートによって前記PVDF材料を含浸させた多孔性支持体からなり、前記多孔性支持体は、以下:ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ素化ビニリデン(PVDF)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PESU)、ポリイミド(PI)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)ファミリー、例えばPEEKまたはPEKKから選択されるポリマーである。この多孔性支持体は、当業者に公知の技術、例えば転相、押出しに続く逐次延伸、メルトブローンもしくはスパンボンド押出し、またはエレクトロスピニングに従って製造することができる。
【0048】
別の態様によれば、本発明は、プロトン交換ポリマー複合膜に関し、前記膜は、少なくとも一部が前記PVDF材料の繊維で構成され、残りは、以下:ポリメチルメタクリレート及びそのコポリマー、フルオロポリマー、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ素化ビニリデン(PVDF)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PESU)、ポリイミド(PI)、及びポリアリールエーテルケトン(PAEK)のファミリー、例えばPEEKまたはPEKKから選択されるポリマーの1つである。この複合膜はエレクトロスピニングによって製造される。この膜は、次に、溶媒または水性ルートによって前記PVDF材料に含浸される。
【0049】
有利には、電解質膜のイオン交換容量(IEC)は、0.6mmol/g超である。IECは、以下の通り:1cm×1cmの試料を、0.5MのKCl溶液に、撹拌しながら一晩浸漬することで測定される。溶液中に存在する水素イオンは、スルホネート基におけるK+との交換後に、0.05MのKOH溶液でpH=7に滴定される。次いで、イオン交換容量は、以下の方程式に従って計算される。
【0050】
【0051】
式中、n(H+)は、プロトンのモル数であり、Wdryは、乾燥膜のそのH+形の質量であり、c(KOH)は、KOHの濃度であり、V(KOH)は、滴定のために添加されたKOH溶液の体積であり、WKは、乾燥した膜のそのK+形の質量であり、M(K+)及びM(H+)は、質量である。
【0052】
有利には、一実施態様により、本発明による電解質膜の水素透過度は、2mA/cm2未満である。この測定では、膜は、燃料電池のセルに配置され、次いで水素流がカソードで適用され、一方では窒素流がアノードで適用される。次いで、電位を両側にかけ、水素の膜輸送によって得られた電流を測定する。
【0053】
有利には、一実施態様により、本発明による電解質膜の水素透過度は、2×10-2mL/分cm2未満である。この測定では、膜は、ガスクロマトグラフに連結された透過率計のセルに配置される。透過率計電池は、ヘリウムでパージされ、次いで水素流が、膜の上面に0.1MPaの圧力で適用される。次いで、膜を通って下側部分に拡散する水素流は、ガスクロマトグラフィーによって測定される。
【0054】
-40℃から140℃の動的機械分析(DMA)は、膜が溶融しないことを示す。20μmのフィルムの厚さで、23℃、相対湿度50%の下に、20mm/分の速さで測定されたその破断点伸びは、100%より高い。
【0055】
膜電極接合体(MEA)では、この粉末は、触媒、他の電子伝導性添加剤、及び膜の間のバインダーとして使用することができる。
【0056】
別の態様によれば、本発明は、以下の分野:
- 燃料電池、例えばH2/空気若しくはH2/O2燃料電池又はメタノール/空気燃料電池;
- 電解槽;
- 前記膜が電解質の組成の一部でありうるリチウム電池
におけるプロトン交換ポリマー電解質膜の応用に関する。
【0057】
一実施態様によれば、ポリマー電解質膜には、電極-膜-電極アセンブリ内の燃料電池デバイスに挿入されることが意図される。
これらの膜は、有利には薄膜の形態であり、例えば10から200マイクロメートルの厚さを有する。
【0058】
こうしたアセンブリを調製するために、膜は、2本の電極間に配置されうる。次いで、2本の電極間に配置された膜によって形成されたアセンブリは、良好な電極-膜接着を得るために適切な温度でプレスされる。
【0059】
次いで、電極-膜-電極アセンブリは、2枚のプレート間に配置され、電気伝導及び電極への反応物の供給が確実になる。これらのプレートは、通常、双極板と呼称される。
【国際調査報告】