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特表2024-520584医療用注射器用低シリコーンオイルシステムの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】医療用注射器用低シリコーンオイルシステムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61J 1/05 20060101AFI20240517BHJP
   A61M 5/315 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
A61J1/05 311
A61M5/315 512
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574115
(86)(22)【出願日】2022-06-03
(85)【翻訳文提出日】2023-11-30
(86)【国際出願番号】 EP2022065190
(87)【国際公開番号】W WO2022254007
(87)【国際公開日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】21305749.0
(32)【優先日】2021-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】310021434
【氏名又は名称】ベクトン ディキンソン フランス
(71)【出願人】
【識別番号】595117091
【氏名又は名称】ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エロイーズ ペリン
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン ジュフレ
(72)【発明者】
【氏名】ギョーム ルヘ
(72)【発明者】
【氏名】ネスター ロドリゲス サン ファン
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス デルイ
【テーマコード(参考)】
4C047
4C066
【Fターム(参考)】
4C047AA27
4C047BB01
4C047BB11
4C047BB23
4C047BB26
4C047BB35
4C047CC04
4C047DD05
4C047GG14
4C047GG37
4C066BB01
4C066CC01
4C066GG07
4C066HH13
(57)【要約】
医療用注射装置として使用するための予充填シリコーン不含有バレル内に物品を貯蔵する方法であって、バレルは、内面および外面を有する管状部材を含み、物品は、少なくともその前面にフルオロポリマー材料の少なくとも部分的なコーティングを有するエラストマー材料を含み、物品は、該バレルの内面に対して2~4つの周囲接触面を有し、周囲接触面は、物品およびバレルの長手方向の長さに沿って、互いに対して別個に配置され。予充填シリコーン不含有バレル内に物品を貯蔵する方法は、予充填シリコーン不含有バレル内の物品を-80℃~-40℃の範囲内の温度で低温貯蔵する工程を含み、周囲条件への解凍時に、予充填シリコーン不含有バレル内の物品の容器閉鎖完全性(CCI)は、維持される方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用注射装置として使用するための予充填シリコーン不含有バレル内に物品を貯蔵する方法であって、
バレルは、内面および外面を有する管状部材を含み、
物品は、少なくともその前面にフルオロポリマー材料の少なくとも部分的なコーティングを有するエラストマー材料を含み、
物品は、該バレルの内面に対して2~4つの周囲接触面を有し、
周囲接触面は、物品およびバレルの長手方向の長さに沿って、互いに対して別個に配置され。
予充填シリコーン不含有バレル内に物品を貯蔵する方法は、予充填シリコーン不含有バレル内の物品を-80℃~-40℃の範囲内の温度で低温貯蔵する工程を含み、周囲条件への解凍時に、予充填シリコーン不含有バレル内の物品の容器閉鎖完全性(CCI)は、維持されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
(a) 第1の予充填シリコーン不含有バレル内に第1の物品を供給する工程;
(b) 第2の予充填シリコーン不含有バレル内に第2の物品を供給する工程;
(c) 少なくとも7日間にわたって、-80℃~-40℃の範囲内の温度で、第1の予充填シリコーン不含有バレル内に第1の物品を貯蔵する工程;
(d) 20℃から25℃の間の温度で、第2の予充填シリコーン不含有バレル内に第2の物品を貯蔵する工程;
(e)第1の予充填シリコーン不含有バレル内の第1の物品の容器閉鎖完全性(CCI1)を測定する工程;
(g)20℃から25℃の間の温度で、第1の予充填シリコーン不含有バレル内の第1の物品の滑動力(GF1)および第2の予充填シリコーン不含有バレル内に第2の物品の滑動力(GF2)を測定する工程、
を含み、GF2はGF1より高く、CCI2はCCI1と同等であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
バレル内の物品の最大滑動力が約25N未満、好ましくは20N未満であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
最大滑動力は、バレルに注射用水を充填し、少なくとも7日間から1ヶ月間にわたって、充填されたバレルを-80℃以上40℃以下または25℃以上40℃以下の温度で保存することによって測定されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
バレル内の物品の組立てが、バレル内面に対して約1.5~2.0MPaの径方向の接触圧力を及ぼすことを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
医療用注射装置として使用するためのバレル内で物品を移動させるために使用される潤滑剤の量を減少させる方法であって、バレルは、内面および外面を有する管状部材を含み、方法は:
物品が、少なくともその前面にフルオロポリマー材料の少なくとも部分的なコーティングを有し;
物品が、バレルの内面に対して2つ~4つの周囲接触面を有し;
物品がバレル内に配置されているとき、バレル内の潤滑剤の総量は、20μg/cm以下、好ましくは、16μg/cm以下であり;
-80℃~-40℃の範囲内の温度の低温貯蔵所で、物品をバレル内に貯蔵することが可能であり;および
周囲条件への解凍時に、バレル内の物品の容器閉鎖完全性(CCI)が維持される
ことを特徴とする、方法。
【請求項7】
潤滑剤がシリコーン油を含み、物品は、その表面に輸送用シリコーンを含み、バレル内の内容物に接触するシリコーンの総量が約6~34μgであることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
バレル内の物品の最大滑動力が約25N未満、好ましくは20N未満であることを特徴とする、請求項6または請求項7に記載の方法。
【請求項9】
最大滑動力は、バレルに注射用の薬剤または水を充填し、少なくとも3~12日間にわたって、充填されたバレルを-80℃~40℃または-80℃~-40℃の温度で保存することによって測定されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
フルオロポリマーコーティングが、前面に隣接して位置する第1周囲接触面の少なくとも一部を覆うことを特徴とする、請求項1から請求項9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
周囲接触面が少なくとも第1リブおよび第2リブを含み、好ましくは周囲接触面の数が3であることを特徴とする、請求項1から請求項10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
フルオロポリマーコーティングが、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)コーティング、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)コーティング、ポリフッ化ビニル(PVF)コーティング、およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)コーティングの少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1から請求項11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
物品がガンマ線滅菌可能である、請求項1から請求項12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
物品が、ゴム材料、好ましくはブチルゴムまたはスチレンブタジエンゴムの少なくとも1種を含む、請求項1から請求項13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
医療用注射装置として使用するための、第1の予充填シリコーン不含有バレル内の第1の物品と第2の予充填シリコーン不含有バレル内の第2の物品とを比較する方法であって、バレルは、内面および外面を有する管状部材を含み、物品は、少なくともその前面にフルオロポリマー材料の少なくとも部分的なコーティングを有するエラストマー材料を含み、物品は、バレルの内面に対して2つから4つの周囲接触面を有し、周囲接触面は、物品およびバレルの長手方向の長さに沿って、互いに対して別個に配置され、方法は、以下の工程:
(a) 少なくとも7日間にわたって、-80℃~-40℃の範囲内の温度で、第1の予充填シリコーン不含有バレル内に第1の物品を貯蔵する工程と;
(b) 20℃から25℃の間の温度で、第2の予充填シリコーン不含有バレル内に第2の物品を貯蔵する工程と;
(c) 第1の予充填シリコーン不含有バレル内の第1の物品の容器閉鎖完全性(CCI1)を測定する工程と;
(d) 第2の予充填シリコーン不含有バレル内の第2の物品の容器閉鎖完全性(CCI1)を測定する工程と;
(e) 20℃から25℃の間の温度で、第1の予充填シリコーン不含有バレル内の第1の物品の滑動力(GF1)および第2の予充填シリコーン不含有バレル内の第2の物品の滑動力(GF2)を測定する工程と、
を含み、GF2はGF1より高く、CCI2はCCI1と同等であることを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バレル内のエラストマー物品の滑動力(gliding force)を改善する方法、および/または医療用注射装置のバレル内のエラストマー物品の移動に必要な潤滑剤の量を低減する方法に関する。より詳細には、本発明は、医療用注射装置と共に使用するために低温で貯蔵されるシリコーン不含有バレル内のガンマ線滅菌可能なエラストマー物品の滑動力を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(関連出願の相互参照)
本出願は、参照によりその開示全体が本明細書の一部をなすものとする、2021年6月3日に出願された「Method of Making a Low-Silicone Oil System for a Medical Injection Device」の名称を有する欧州特許出願第21305729.0号の優先権を主張する。
【0003】
(背景技術)
注射器アセンブリ、特に皮下注射器は、薬剤のような流体を投与するための医療分野においてよく知られている。従来の注射器は、通常、対向する近位端と遠位端とを有する細長いバレルと、それらの間に流体を受容するためのチャンバとを含む。流路は、注射器バレルの遠位端を通って延在し、チャンバと連通している。注射器バレルの遠位端は、チャンバおよび流路から流体を送達するための針カニューレに接続されている。注射器バレルの近位端は、その端部に配置されるエラストマー物品(ストッパのようなもの)を有するプランジャロッドを摺動可能に受容し、プランジャロッドに加えられる力がストッパをバレルに沿って付勢し、液体をチャンバから針カニューレを通して推進するようになっている。
【0004】
注射器アセンブリは、一般的に薬剤のバイアルと一緒に使用され、使用者は、患者に対する流体の注射および送達の直前に流体を注射器中へと収集または吸引する。しかし、集団予防接種クリニックでの使用のように、時間を節約し、かつ一貫した容量の送達を維持する方法として、予充填注射器アセンブリを提供することがより普及してきている。多くの場合、予充填注射器および予充填定量注射器は、製造施設における薬剤のような液体の充填、および包装の後に、医療施設に出荷される。施設に到着後、多くの場合、これらの注射器は、管理された貯蔵庫および/または冷蔵/冷凍庫に置かれる。敏感なワクチンを含む一部の予充填注射器は、-40℃~-80℃の温度における深冷(deep cold)保存が必要な場合がある。深冷保存の問題点として、深冷保存から予充填注射器を取り出して周囲条件に戻す際に、予充填注射器の容器閉鎖完全性(CCI)が損なわれる可能性があることである。
【0005】
予充填注射器は製造施設において事前に包装され、注射現場に出荷されるため、活性化力すなわち「脱束縛(breakloose)」力、および/またはバレル内でのストッパの滑動力に関して問題が発生する恐れがある。活性化力すなわち「脱束縛」力とは、バレル内のプランジャロッド/ストッパアセンブリの初期移動を引き起こすために必要な力の量、すなわちバレル内のプランジャロッド/ストッパアセンブリの静摩擦に打ち勝つために必要な力の量を意味する。滑動力は、静摩擦を克服した後に、バレル内でプランジャロッド/ストッパの動きを維持するのに必要な力である。これらの力を克服する従来のアプローチは、面対面(surface-to-surface)の界面に潤滑剤を塗布することであった。このような慣用のストッパおよびバレル潤滑剤は、医薬品の投与に一般的に使用されるビヒクルのような種々の流体に可溶性であるという欠点がある。加えて、これらの潤滑剤は空気酸化を受け、粘度変化および好ましくない発色を引き起こす。さらに、これらの潤滑剤は、面対面の界面から移動する可能性が特に高い。一般的に、このような潤滑油の移動は、パーキングにおける時間の経過に伴う脱束縛力の増加の原因であると考えられており、シリコーンオイル粒子を発生させる。
【0006】
ストッパおよび/またはバレルの表面に潤滑剤を塗布することに関する更なる問題は、そのような潤滑工程は、潤滑剤および潤滑器具のコストを必要とし、潤滑工程を操作および実行するための時間およびエネルギーが必要であることである。また、深冷保存に供された場合、予充填潤滑注射器アセンブリまたは予充填シリコーン化注射器アセンブリは、常温に戻される際に、漏れが生じたり、容器閉鎖完全性(CCI)が低下したりすることが判明している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
潤滑剤の使用に付随する問題のため、シリコーン不含有のバレルおよびプランジャロッド/ストッパシステムが開発されてきた。典型的には、満足できる滑動性能を提供するために、これらのシステムでは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で完全にコーティングされたストッパが使用される。しかしながら、PTFEコーティングのストッパはガンマ線滅菌ができない恐れがある。エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)またはポリフッ化ビニリデン(PVDF)のようなフッ素樹脂でコーティングされたストッパはガンマ線滅菌が可能である。しかしながら、これらのタイプのストッパは、無被覆(bare)のガラスまたは無被覆のプラスチックバレルと組み立てられた場合、および/または無被覆のガラス表面または無被覆のプラスチック表面に隣接して配置された場合、PTFE被覆ストッパと比較して満足できる滑動性能を示さない。その結果、シリコーン不含有容器に適合し、ガンマ線照射に適合するフルオロポリマーコーティングストッパは確認されていない。これらの理由から、2つの表面の静止接触から摺動接触への円滑な移行が達成され、追加の潤滑を必要とせず、深冷保存から周囲条件への移行時に容器閉鎖完全性を維持しながら深冷保存に耐えることができ、ガンマ線照射に適合する、大きな活性化力および滑動力を克服できる、より優れた注射器組立システムが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの態様によれば、本開示は、医療用注射装置として使用するために、予充填シリコーン不含有バレル内に物品を収納する方法を指向する。バレルは、内面および外面を有する管状部材を含む。本方法は、少なくともその前面にフルオロポリマー材料の少なくとも部分的なコーティングを有するエラストマー材料から物品を形成することを特徴とし、物品は、バレルの内面に対して2つ~4つの周囲接触面を有し、周囲接触面は、物品およびバレルの長手方向の長さに沿って、互いに対して別個に配置されている。予充填シリコーン不含有バレル内に物品を収納する方法は、-80℃から-40℃の範囲内の温度の低温貯蔵所で、予充填シリコーン不含有バレル内に物品を貯蔵することを特徴とし、予充填シリコーン不含有バレル内の物品の容器閉鎖完全性(CCI)は、周囲条件への解凍時に維持される。
【0009】
バレル内の物品の最大滑動力は、約25N未満、好ましくは20N未満である。この最大滑動力は、注射用水をバレルに充填し、充填されたバレルを25℃~40℃の温度で少なくとも1ヶ月間または3ヶ月間にわたって貯蔵することにより測定される。1つの実施形態によれば、最大滑動力は、注射用水をバレルに充填し、7日間にわたって充填したバレルを室温(約25℃)で貯蔵することにより測定される。他の実施形態によれば、バレルを充填し、-85℃~40℃または-45℃~40℃の温度、たとえば-80℃~-40℃-80℃~40℃、-80℃~0℃、-40℃~40℃、-40℃~0℃、0℃~40℃、0℃~25℃、25℃~40℃の間、またはこれらの範囲内の他の変動の温度で保存することができる。バレル内の物品の組立ては、バレル内面に対して約1.5~2.0MPaの径方向の接触圧力を及ぼす。
【0010】
別の態様によれば、本発明は、医療用注射装置として使用するためのバレル内で物品を移動させるために使用される潤滑剤の量を低減する方法を指向する。バレルは、内面および外面を有する管状部材を含む。本方法は、物品が、の少なくとも前面にフルオロポリマー材料の少なくとも部分的なコーティングを有し、物品がバレルの内面に対して2つ~4つの周囲接触面を有することを特徴とする。周囲接触面は、物品およびバレルの長手方向の長さに沿って、互いに対して別個に配置される。バレル内の潤滑剤の総量は、物品がバレル内に配置されている場合、20μg/cm以下、好ましくは16μg/cm以下である。物品は、-80℃~-40℃の範囲内の温度の低温貯蔵所でバレル内に貯蔵することが可能であり、周囲条件への解凍時に、バレル内の物品の容器閉鎖完全性(CCI)は、維持される。1つの実施形態によれば、潤滑剤はシリコーン油を含み、物品はその表面に輸送用シリコーンを含む。バレル内の内容物に接触するシリコーンの総量は、約6~34μgであり、最小限の16μg/cmの輸送用シリコーンのみとみなす場合、12~34μgである。バレル内の物品の最大滑動力は、約25N以下、好ましくは20N以下である。最大滑動力は、バレルに薬剤または注射用水、好ましくは注射用水を充填し、充填されたバレルを、少なくとも3~12日間にわたって、典型的には少なくとも1ヶ月間にわたって、あるいはまた少なくとも3ヶ月間にわたって、0℃~40℃の温度で保存することにより測定される。
【0011】
上記の態様によれば、フルオロポリマーコーティングは、前面に隣接して位置する第1周囲接触面の少なくとも一部を覆う。周囲接触面は、少なくとも第1リブおよび第2リブを含む。1つの実施形態によれば、周囲接触面の数は好ましくは3つである。フルオロポリマーコーティングは、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)コーティング、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)コーティング、ポリフッ化ビニル(PVF)コーティング、およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)コーティングの少なくとも1種を含むことができる。好ましくは、フルオロポリマーコーティングは、ガンマ線滅菌可能なフルオロポリマーを含む。好ましくは、物品はガンマ線滅菌可能である。1つの実施形態によれば、物品は、ゴム材料、好ましくはブチルゴムまたはスチレンブタジエンゴムの少なくとも1種を含む。バレルは、連続的な円筒形内面を含むことができ、ガラスおよび/またはプラスチック材料、好ましくは医療材料(好ましくは冷蔵ワクチン材料)を収容するように設計されたガラス材料から形成することができる。
【0012】
別の態様によれば、本発明は、医療用注射装置として使用するための、第1の予充填シリコーン不含有バレル内の第1の物品と第2の予充填シリコーン不含有バレル内の第2の物品とを比較するための方法であって、バレルは、内面および外面を有する管状部材を含み、物品は、少なくともその前面にフルオロポリマー材料の少なくとも部分的なコーティングを有するエラストマー材料を含み、物品は、バレルの内面に対して2つ~4つの周囲接触面を有し、周囲接触面は、物品およびバレルの長手方向の長さに沿って、互いに対して別個に配置される、方法を指向する。本方法は、以下の工程を特徴とする:(a)第1の物品を、第1の予充填シリコーン不含有バレル内に、少なくとも7日間にわたって、-80℃から-40℃の範囲内の温度で貯蔵する工程;(b)第2の物品を、第2の予充填シリコーン不含有バレル内に、20℃から25℃の範囲内の温度で貯蔵する工程;(c)第1の予充填シリコーン不含有バレル内の第1の物品の容器閉鎖完全性(CCI1)を測定する工程;(d)第2の予充填シリコーン不含有バレル内の第2の物品の容器完全性(CCI2)を測定する工程;および(e)20℃から25℃の間の温度で、第1の予充填シリコーン不含有バレル内の第1の物品の滑動力(GF1)および第2の予充填シリコーン不含有バレル内の第2の物品の滑動力(GF2)を測定する工程。
【0013】
次に、本開示のさらなる例を、以下の符号を付した節において説明する。
【0014】
<第1項>
医療用注射装置として使用するための予充填シリコーン不含有バレル内に物品を貯蔵する方法であって、バレルは、内面および外面を有する管状部材を含み、物品は、少なくともその前面にフルオロポリマー材料の少なくとも部分的なコーティングを有するエラストマー材料を含み、物品は、該バレルの内面に対して2~4つの周囲接触面を有し、周囲接触面は、物品およびバレルの長手方向の長さに沿って、互いに対して別個に配置され。予充填シリコーン不含有バレル内に物品を貯蔵する方法は、予充填シリコーン不含有バレル内の物品を-80℃~-40℃の範囲内の温度で低温貯蔵する工程を含み、周囲条件への解凍時に、予充填シリコーン不含有バレル内の物品の容器閉鎖完全性(CCI)は、維持される方法。
【0015】
<第2項>
(a) 第1の予充填シリコーン不含有バレル内に第1の物品を供給する工程;
(b) 第2の予充填シリコーン不含有バレル内に第2の物品を供給する工程;
(c) 少なくとも7日間にわたって、-80℃~-40℃の範囲内の温度で、第1の予充填シリコーン不含有バレル内に第1の物品を貯蔵する工程;
(d) 20℃から25℃の間の温度で、第2の予充填シリコーン不含有バレル内に第2の物品を貯蔵する工程;
(e)第1の予充填シリコーン不含有バレル内の第1の物品の容器閉鎖完全性(CCI1)を測定する工程;
(g)20℃から25℃の間の温度で、第1の予充填シリコーン不含有バレル内の第1の物品の滑動力(GF1)および第2の予充填シリコーン不含有バレル内に第2の物品の滑動力(GF2)を測定する工程、
を含み、GF2はGF1より高く、CCI2はCCI1と同等である、第1項に記載の方法。
【0016】
<第3項>
バレル内の物品の最大滑動力が約25N未満、好ましくは20N未満である、第1項に記載の方法。
【0017】
<第4項>
最大滑動力は、バレルに注射用水を充填し、少なくとも7日間から1ヶ月間にわたって、充填されたバレルを-80℃以上40℃以下または25℃以上40℃以下の温度で保存することによって測定される、第3項に記載の方法。
【0018】
<第5項>
バレル内の物品の組立てが、バレル内面に対して約1.5~2.0MPaの径方向の接触圧力を及ぼす、第1項から第4項のいずれかに記載の方法。
【0019】
<第6項>
医療用注射装置として使用するためのバレル内で物品を移動させるために使用される潤滑剤の量を減少させる方法であって、バレルは、内面および外面を有する管状部材を含み、方法は:物品が、少なくともその前面にフルオロポリマー材料の少なくとも部分的なコーティングを有し;物品が、バレルの内面に対して2つ~4つの周囲接触面を有し;物品がバレル内に配置されているとき、バレル内の潤滑剤の総量は、20μg/cm以下、好ましくは、16μg/cm以下であり;-80℃~-40℃の範囲内の温度の低温貯蔵所で、物品をバレル内に貯蔵することが可能であり;周囲条件への解凍時に、バレル内の物品の容器閉鎖完全性(CCI)が維持されることを特徴とする、方法。
【0020】
<第7項>
潤滑剤がシリコーン油を含み、物品は、その表面に輸送用シリコーンを含み、バレル内の内容物に接触するシリコーンの総量が約6~34μgである、第6項に記載の方法。
【0021】
<第8項>
バレル内の物品の最大滑動力が約25N未満、好ましくは20N未満である、第6項または第7項に記載の方法。
【0022】
<第9項>
最大滑動力は、バレルに注射用の薬剤または水を充填し、少なくとも3~12日間にわたって、充填されたバレルを-80℃~40℃または-80℃~-40℃の温度で保存することによって測定される、第8項に記載の方法。
【0023】
<第10項>
フルオロポリマーコーティングが、前面に隣接して位置する第1周囲接触面の少なくとも一部を覆う、第1項から第9項のいずれかに記載の方法。
【0024】
<第11項>
バレル内の物品の組立てが、バレルの内面に対して、約1.5~2.0MPaの径方向の接触圧力を及ぼす、第6項から第10項のいずれかに記載の方法。
【0025】
<第12項>
フルオロポリマーコーティングが、前面に隣接して位置する第1周囲接触面の少なくとも一部を覆う、第1項から第11項のいずれかに記載の方法。
【0026】
<第13項>
周囲接触面が少なくとも第1リブおよび第2リブを含み、好ましくは周囲接触面の数が3である、第1項から第12項のいずれかに記載の方法。
【0027】
<第14項>
フルオロポリマーコーティングが、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)コーティング、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)コーティング、ポリフッ化ビニル(PVF)コーティング、およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)コーティングの少なくとも1種を含む、第1項から第12項のいずれかに記載の方法。
【0028】
<第15項>
物品がガンマ線滅菌可能である、第1項から第14項のいずれかに記載の方法。
【0029】
<第16項>
物品が、ゴム材料、好ましくはブチルゴムまたはスチレンブタジエンゴムの少なくとも1種を含む、第1項から第15項のいずれかに記載の方法。
【0030】
<第17項>
バレルが、連続的な円筒形内面を含み、ガラスおよび/またはプラスチック材料、好ましくは冷蔵ワクチン材料を収容するように設計されたガラス材料から形成される、第1項から第16項のいずれかに記載の方法。
【0031】
<第18項>
医療用注射装置として使用するための、第1の予充填シリコーン不含有バレル内の第1の物品と第2の予充填シリコーン不含有バレル内の第2の物品とを比較する方法であって、バレルは、内面および外面を有する管状部材を含み、物品は、少なくともその前面にフルオロポリマー材料の少なくとも部分的なコーティングを有するエラストマー材料を含み、物品は、バレルの内面に対して2つから4つの周囲接触面を有し、周囲接触面は、物品およびバレルの長手方向の長さに沿って、互いに対して別個に配置され、方法は、以下の工程:
(a) 少なくとも7日間にわたって、-80℃~-40℃の範囲内の温度で、第1の予充填シリコーン不含有バレル内に第1の物品を貯蔵する工程と;
(b) 20℃から25℃の間の温度で、第2の予充填シリコーン不含有バレル内に第2の物品を貯蔵する工程と;
(c) 第1の予充填シリコーン不含有バレル内の第1の物品の容器閉鎖完全性(CCI1)を測定する工程と;
(d) 第2の予充填シリコーン不含有バレル内の第2の物品の容器閉鎖完全性(CCI1)を測定する工程と;
(e) 20℃から25℃の間の温度で、第1の予充填シリコーン不含有バレル内の第1の物品の滑動力(GF1)および第2の予充填シリコーン不含有バレル内の第2の物品の滑動力(GF2)を測定する工程と、
を含み、GF2はGF1より高く、CCI2はCCI1と同等であることを特徴とする、方法。
【0032】
本開示の前述および他の特徴および利点、ならびにそれらを達成する方法は、添付の図面と併せて考慮される本開示の実施形態の以下の説明を参照することにより、より明らかになり、本開示自体がよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の1つの実施形態にしたがう、医療用注射器用の注射器バレル内での使用に適したエラストマー物品の断面図である。
図2】本発明の1つの実施形態にしたがい、注射器バレル内に配置された図1のエラストマー物品の断面図である。
図3】本発明の1つの実施形態にしたがい、付随するプランジャロッドを含む、図2のエラストマー物品の断面図である。
図4】本発明の1つの実施形態にしたがう、医療用注射器用の注射器バレル内での使用に適したエラストマー物品の断面図である。
図5】本発明の1つの実施形態にしたがう、医療用注射器用の注射器バレル内での使用に適したエラストマー物品の断面図である。
図6A】本発明の1つの実施形態にしたがい、異なるレベルの滅菌および貯蔵時間における図1および図4(例1および例2)のエラストマー物品の滑動力の箱ひげ図である。
図6B】本発明の1つの実施形態にしたがい、図6Aと同じ条件を用いた図1および図4(例1および例2)のエラストマー物品の活性化力の箱ひげ図である。
図7A】本発明の1つの実施形態にしたがい、バレルに水を充填し、種々の時間にわたって室温で貯蔵した場合の、図1および図4(例1および例2)のエラストマー物品の活性化力の箱ひげ図である。
図7B】本発明の1つの実施形態にしたがい、図7Aと同じ条件を用いた図1および図4(例1および例2)のエラストマー物品の滑動力の箱ひげ図である。
図8】本発明の1つの実施形態にしたがう物品の直径を示す、図1のエラストマー物品の断面図である。
図9】本発明の1つの実施形態にしたがう、図1図4および図5のエラストマー物品の反力または接触力を示す表である。
図10】本発明の1つの実施形態にしたがう、図9の表の値を示すグラフである。
図11】本発明の1つの実施形態にしたがう、図1図4、および図5のエラストマー物品のバレルに対する反力または接触力の最小値、最大値、および公称値を示すグラフである。
図12】本発明の1つの実施形態にしたがう、図1のエラストマー物品の透視図である。
図13】本発明の1つの実施形態にしたがう、図1のエラストマー物品の第1リブ、第2リブ、および第3リブの接触圧力を示すグラフである。
図14A】本発明の1つの実施形態にしたがい、予充填注射器システムを室温および深冷保存で貯蔵する際の、無被覆バレルおよびシリコーン化バレル内の図1図4または図5のエラストマー物品の活性化力を比較する箱ひげ図である。
図14B】本発明の1つの実施形態にしたがい、図14Aと同一の条件を用いて図1図4、または図5のエラストマー物品の滑動力を比較する箱ひげ図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
複数の図を通して、対応する参照符号は、対応する部分を示す。本明細書に記載された例示は、本開示の例示的な実施形態を示すものであり、かかる例示は、本開示の範囲をいかなる方法によっても限定するものとして解釈されるものではない。
【0035】
以下の説明は、当業者が本発明を実施するために企図された記載された実施形態を作製および使用できるようにするために提供される。しかしながら、当業者にとって、種々の修正、等価物、変形、および代替物は容易に明らかなままであろう。そのような修正、変形、等価物、および代替物の全ては、本発明の真意および範囲に含まれることが意図される。
【0036】
以下の説明において、用語「上」、「下」、「右」、「左」、「縦」、「横」、「頂部」、「底部」、「横」、「縦」、およびこれらの派生語は、図面中で方向付けられた概念に関するものとする。しかしながら、別途の明示的規定がなされている場合を除いて、本概念は、種々の代替的変形を想定し得ることを理解されたい。また、添付の図面に図示され、以下の明細書に記載された特定の装置は、概念の単なる例示的な実施形態であることを理解されたい。したがって、本明細書に開示された実施形態に関連する特定の寸法および他の物理的特性は、限定的なものと見なされない。
【0037】
また、本発明の記載において、用語「遠位端」は、注射針が突出する注射器の端部、および注射針に近い物品またはストッパの端部を指示することを意図する。一方、用語「近位端」は、注射器のホルダーにより近く、注射針先端/ルアーから最も遠い注射器の端部、および注射針先端から最も遠い物品またはストッパの端部を指示することを意図する。
【0038】
ここで、第1の設計、すなわち「例1」にしたがう、一般的に10として示されるエラストマー物品を示す図1図3を参照する。エラストマー物品10は、その近位端に、プランジャロッド16の遠位端14を受容するように設計されている開口部12を有する。エラストマー物品10の近位開口部12およびプランジャロッド16の遠位端14は相補的なネジ山18、20を含んで、エラストマー物品10を固定することができる。プランジャロッド16に近位方向または遠位方向の力を加えることにより、エラストマー物品10がバレル22内で移動し、流体のバレル内への引き込みまたはバレルからの吐出をもたらす。バレル22は、内面24および外面26を有する管状部材を含む。このような配置は、医薬品またはワクチンを患者に注入するため、水または消毒剤を患者または別個の装置に供給するための医療用注射装置として使用することができる。
【0039】
引き続き図1図3を参照すると、エラストマー物品10は、少なくともその前面30上にフルオロポリマー材料の少なくとも部分的なコーティング28を含む。フルオロポリマーコーティング28は、前面30に隣接して位置する第1周囲接触面32aの少なくとも一部を覆うことができる。好ましくは、フルオロポリマーコーティングは、第1周囲接触面32aを完全に覆う。有利なことには、他の接触面(32b、32c)はフルオロポリマーコーティングで被覆されない。フルオロポリマーコーティング28は、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)コーティング、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)コーティング、ポリフッ化ビニル(PVF)コーティング、およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)コーティングの少なくとも1種を含むことができる。エラストマー物品10は、ガンマ線滅菌可能である。好ましくは、フルオロポリマーコーティングはETFEコーティングである。
【0040】
エラストマー物品10は、バレル22の内面24に対して2つから4つの周囲接触面(図1に示す32a、32b、32c)を有することができる。周囲接触面32a、32b、32cは、エラストマー物品10およびバレル22の長手方向長さ「L」に沿って、互いに対して別個に配置されている。図1図3に示す設計によれば、周囲接触面32a、32b、32cの数は、好ましくは3つである。周囲接触面32a、32b、32cは、少なくとも第1リブ32aおよび第2リブ32bを含むことができる。1つの実施形態によれば、エラストマー物品10は、ゴム材料、好ましくはブチルゴム、ブロモブチルゴムまたはスチレンブタジエンゴムの少なくとも1種を含む。バレル22は、連続的な円筒形内面を含むことができ、ガラスおよび/またはプラスチック材料、好ましくは冷蔵ワクチン材料を収容するように設計されたガラス材料から形成することができ、バレルにはワクチン材料を予め充填される。
【0041】
次に、第2の設計、すなわち「例2」にしたがう一般に110と示されるエラストマー物品を示す図4と、第3の設計、すなわち「例3」にしたがう一般に210と示されるエラストマー物品を示す図5を参照する。エラストマー物品110および210は、その近位端に、内部ネジ山118、218を含む開口部112、212を有し、それらはプランジャの遠位端を受容するように設計されている。これらの物品すなわちストッパの設計は、バレル内に収容された流体を投与するためのプランジャロッドとともに使用することもでき、かつ、医療用注射装置として使用することもできる。エラストマー物品110、210は、少なくともその前面130、230に、少なくとも部分的なフルオロポリマー材料のコーティング128、228を含み、フルオロポリマー材料は、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、および/またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなものである。フルオロポリマーコーティング128、228は、前面130、230に隣接して位置する第1周囲接触面132a、232aの少なくとも一部を覆うことができる。好ましくは、フルオロポリマーコーティングは、第1周囲接触面132a、232aを完全に覆う。エラストマー物品110、210は、図4に示す132a、132b、132c、および132d、ならびに図5に示す232a、232b、232cのような、2つから4つの周囲接触面を有することができる。図4の設計では、第1周囲接触面132aはトリム領域を含み、残余の周囲接触面132b、132c、132dは、バレルの内面に接触するように設計されたリブを含む。図5の設計では、3つのリブ232a、232b、232cが設けられている。周囲接触面132a、132b、132c、132dおよび/または232a、232b、232cは、エラストマー物品110、210の長手方向長さ「L」に沿って、互いに対して別個に配置されている。エラストマー物品110、210は、ゴム材料、好ましくはブチルゴム、ブロモブチルゴムまたはスチレンブタジエンゴムの少なくとも1種を含むことができる。また、エラストマー物品は、ガンマ線滅菌可能である。バレルは、連続的な円筒形内面を含み、ガラスおよび/またはプラスチック材料、好ましくは、冷蔵ワクチン材料を含むように設計されたガラス材料から形成することができる。バレルは、ワクチン材料を予め充填される。
【0042】
次に、図6A図6Bを参照する。図6A図6Bは、それぞれ12=25kGyおよび25kGy超のガンマ線照射滅菌レベルにおける、例1および例2にしたがうエラストマー物品の滑動力(動きを維持するのに必要な力)の箱ひげ図、ならびに活性化力(動きを開始するのに必要な力)の箱ひげ図を示す。図6A図6Bにおいて、T0は初期時点(バレル充填後24時間)、T1は1ヶ月間のエージング、T3は3ヶ月間のエージングを示す。なお、1Gy=1m-2である。T0における100サンプル(N=100)、およびT3における30サンプル(N=30)による結果を得た。この試験では、所定の速度(通常380mm/分)でロッドがストッパを押すトラクションベンチを用いて実験的に測定する。意外ではないが、試験(図6A)は、充填直後のバレル内での実施例1のエラストマー物品の最大滑動力が35Nより大きく、注射には許容できないことを示した。しかしながら、驚くべきことに、図6Aの試験は、1ヶ月から3ヶ月間の貯蔵後に測定した場合、バレル内の実施例1のエラストマー物品の最大滑動力が、約25N未満、好ましくは20N未満であることも示した。この最大滑動力は、バレルに注射用水を充填し、充填されたバレルを25℃から40℃の間の温度で1ヶ月から3ヶ月間保存することにより測定される。比較として、シリコーン化バレル内での例1にしたがうストッパの最大滑動力は10Nより低い。25Nより低い、好ましくは20Nより低い最大滑動力は、開業医が容易に達成できる「円滑な」注射を達成するにあたって、大いに許容される。
【0043】
バレルは、他の温度、45℃~40℃、たとえば、-40℃~40℃、-40℃~0℃、0℃~40℃、0℃~25℃、または25℃~40℃の間、あるいはこれらの範囲内の他の変動である温度において、充填および貯蔵できることが理解できる。また、バレルは、箱ひげ図に含まれない他の長さの時間にわたって、充填および貯蔵できることも理解できる。
【0044】
図6Bは、例1または例2のエラストマー物品について、図6Aと同一条件で測定した活性化力を示す。この図6Bは、貯蔵中に活性化力がわずかに増加するが、要求事項(20Nより低い)に関しては大いに許容できるままであることを示す。
【0045】
図7Bには、例1および例2のエラストマー物品について、バレルに注射用の水を充填し、充填されたたバレルを室温(約25℃)で貯蔵することにより、最大滑動力が測定されている。測定は、バレルの充填直後(T00)、前記充填から12時間後(T0)、および前記充填から3日後(T3)、7日後(T7)、14日後(T14)、28日後(T28)および35日後(T35)に実施した。
【0046】
図7Bは、測定された最大滑動力が保存中に急速に減少し、保存3~7日後に最小値に安定することを示す。図7Aは、最大活性化力の結果を示す。活性化力は、T00およびT0ではかなり低く、その後わずかに上昇し、貯蔵3~7日後には低い段階に達する。これらの数値は、少なくとも3~7日間の保存後、シリコーン不含有バレル内にエラストマー物品を装着した場合、許容可能な滑動力および活性化力が得られることを示す。
【0047】
図8は、図1のエラストマー物品の断面図を示し、「実施例1」は、図9~11に示され、以下でより詳細に議論される結果に使用するためのエラストマー物品の直径を示す。試験目的のために、例1、ならびに例2および例3のエラストマー物品の直径は、最小締め代であり、約6.4mmの直径を有するバレルに関して、約6.7mmであった。例1、ならびに例2および例3のエラストマー物品の最大締め代時の直径は、約6.4mmの直径を有するバレルに関して、約6.9mmであった。
【0048】
次に図9および図10を参照すると、例1、例2および例3の各々について接触圧力場を積分することにより、(バレル上のエラストマー物品の)等価反力が計算される。図9は、例1、例2および例3のエラストマー物品のバレルの最小反力、最大反力、および公称反力の値を示し、これらは図10にグラフ形式で示されている。図中、最大締め代の場合のバレル直径は6.3mm、最小締め代の場合のバレル直径は6.4mm、公称干渉の場合のバレル直径は6.35mmである。図10に示すように、締め代が最大となる例2は、接触ストッパ/バレルが最も顕著な反力をもたらす設計である。逆に、締め代が最小の例3は、最も顕著性の低い反力を有する。
【0049】
次に、例1、例2、例3の接触力を示す図11を参照する。第1リブ、第2リブ、第3リブで測定した値を用い、公称締め代、最大締め代、最小締め代の値を示している。接触力は滑動力に比例すると期待される。例1は、例3よりも高い接触力(したがって期待される高い滑動力)を示しているが、寸法公差に関するばらつきは小さい。特に、最大滑動力は、例1の方が例3よりも低くなると予想される。例2は、すべての設計で期待される滑動力が最も高いことを示す。
【0050】
次に、図12図13を参照する。これらは、例1の設計のストッパ/バレルの径方向接触力の計算を指向する。6.62~6.65mmの物品すなわちストッパの直径、6.35mmのバレルの直径を有する最小締め代設計における径方向接触力Fradは、プランジャロッドがない場合は19.1N、プランジャロッドがある場合は19Nである。
6.99~7.00mmの物品すなわちストッパの直径、6.35mmのバレルの直径を有する最小締め代設計における径方向接触力Fradは、プランジャロッドがない場合は48.9N、プランジャロッドがある場合は55Nである。この計算は、いくつかの長手方向経路に沿って接触圧力をプロットすることによって実施される。線形力Flinは、曲線(図12に示す)を積分し、(Flinの値から)平均線形力を計算し、次いでFlinおよびバレル内径から総力を計算することにより、各経路について計算される。周方向経路における接触圧力の潜在的な変動を低減するために、いくつかの経路(約4本)を用い、平均化する。図13に示すように、バレル内の物品の組立ては、バレル内面に対して、約1.5~2.0MPaの径方向接触圧を及ぼす。
【0051】
注射器システムを深冷保存(すなわち、-40℃~-80℃)にかけた場合の、シリコーン化バレルシステムと無被覆バレルシステムの容器閉鎖完全性(CCI)すなわち「リークテスト」を測定するために、上述の活性化および滑動試験で使用したものと同種の予充填注射器システムについて試験を実施した。後述の実施例1に示すように、シリコーン化バレルシステムと無被覆バレルシステムはいずれも-40℃の温度で良好な容器閉鎖完全性(CCI)を示したが、より低温の-80℃では、無被覆バレルシステムのみが良好な容器閉鎖完全性(CCI)を維持した。
【0052】
例1:
各サンプルは、1回の凍結および解凍サイクル(F/Tサイクル)を経る。これらのサンプルを、先端をCO豊富雰囲気中とし、7日間にわたって-80℃または-40℃まで凍結し、ヘッドスペース分析(HSA)の前に3時間かけて周囲温度で解凍する。HSAは、COの吸収帯(24)に同調させた近赤外(NIR)ダイオードレーザーを用いた周波数変調分光法(Frequency Modulation Spectroscopy)技術を用いて実施した。深冷保存中に容器閉鎖完全性(CCI)が破られた場合、ヘッドスペースにCOが侵入することになり、注射器を常温に戻した後にヘッドスペース中のCO分圧の上昇をもたらす。リークが発生した場合、この方法ではガス漏れがいつ発生したかを識別できないことに注意する必要がある。
【0053】
サンプルは、F/T前(T0)とF/Tサイクル後(T7)に検査・分析される。
Ref: 1. Method Development for Container Closure Integrity Evaluation via Gas Ingress by Using Frequency Modulation Spectroscopy. Ken G. Victor, Lauren Levac, Michael Timmins, James Veale. 2017, PDA Journal of Pharmaceutical Science and Technology, Vol. 17, pp. 429-453.
【0054】
結果
その結果、-40℃の低温貯蔵を経たアセンブリでは、T0およびT7においてCOの侵入は検出されなかった。
【0055】
-80℃では、無被覆バレルアセンブリーのみがCOの侵入を示さなかったのに対して、シリコーン化バレルの大部分はCCIの侵入をもたらした。
【0056】
【表1】
【0057】
0074
したがって、深冷貯蔵条件下(すなわち、-80℃~-40℃)で使用される無被覆バレル注射器システムは、シリコーン化バレルシステムと同様の滑動力および活性化力を有するが、無被覆バレルシステムは、シリコーン化バレルシステムよりも容器閉鎖完全性(CCI)が大幅に改善されることが見出された。
【0058】
深冷貯蔵庫に貯蔵された物品を周囲温度で貯蔵された物品と比較するための1つの方法は、第1の予充填シリコーン不含有バレル内に第1の物品を提供する工程と、第2の予充填シリコーン不含有バレル内に第2の物品を提供する工程と;(a)少なくとも7日間にわたって、第1の予充填シリコーン不含有バレル内の第1の物品を-80℃から-40℃の範囲の温度で貯蔵する工程と;(b)第2の予充填シリコーン不含有バレル内の第2の物品を20℃から25℃の範囲の温度で貯蔵する工程と;(c)第1の予充填シリコーン不含有バレル内の第1の物品の容器閉鎖完全性(CCI1)を測定する工程と;(d)第2の予充填シリコーン不含有バレル内の第2の物品の容器完全性(CCI2)を測定する工程と;e)20℃から25℃の間の温度で、第1の予充填シリコーン不含有バレル内の第1の物品の滑動力(GF1)および第2の予充填シリコーン不含有バレル内の第2の物品の滑動力(GF2)を測定する工程とを含むことができ、GF2はGF1より高く、CCI2はCCI1と同等である。
【0059】
本発明により、無被覆バレル22内でエラストマー物品10、110、210を移動させるために必要な潤滑剤の量が減少することも見出した。物品がバレル内に配置される際に、バレル内の潤滑剤の総量は、20μg/cm以下、好ましくは16μg/cm以下であると決定されている。1つの実施形態によれば、潤滑剤は、シリコーンオイルを含む。エラストマー物品10、110、210は、その表面に輸送用シリコーンを含み、バレル内の内容物に接触するシリコーンの総量を、約6~34μg、16μg/cmの輸送用シリコーンだけを最小とみなした場合は12~34μgとする。特に、ストッパは、その表面に輸送用シリコーン(350cts、約16μg/cm)と、機能性シリコーン(1.00cst、30~90μg/cm)を含み、バレル内容物と接触する総量は約15~20μgである。ストッパは、ガンマ線滅菌(12~30kGy)または蒸気滅菌が可能である。バレルが潤滑されていないため、注射中のバレル内容物/製剤との接触が前方リブの潤滑を補助する。本発明は、満足のいく活性化および滑動力試験の結果をもたらす。ストッパは、慣用の組み立て方法に最小限の変更を加えるだけで、ベントチューブによって組み立てることができる。
【0060】
本開示は例示的な設計を有するものとして説明されてきたが、本開示は、本開示の真意および範囲内でさらに変更することができる。したがって、本出願は、本開示の一般的な原理を用いた本開示のあらゆる変形、使用、または適応を対象とすることを意図している。さらに、本出願は、本開示に関連する技術分野における公知または慣用の範囲内からもたらされ、かつ添付の特許請求の範囲の規定内となる、本開示からの逸脱をカバーすることを意図する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
【手続補正書】
【提出日】2023-12-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用注射装置として使用するための予充填シリコーン不含有バレル内に物品を貯蔵する方法であって、
バレルは、内面および外面を有する管状部材を含み、
物品は、少なくともその前面にフルオロポリマー材料の少なくとも部分的なコーティングを有するエラストマー材料を含み、
物品は、該バレルの内面に対して2~4つの周囲接触面を有し、
周囲接触面は、物品およびバレルの長手方向の長さに沿って、互いに対して別個に配置され。
予充填シリコーン不含有バレル内に物品を貯蔵する方法は、予充填シリコーン不含有バレル内の物品を-80℃~-40℃の範囲内の温度で低温貯蔵する工程を含み、周囲条件への解凍時に、予充填シリコーン不含有バレル内の物品の容器閉鎖完全性(CCI)は、維持されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
(a) 第1の予充填シリコーン不含有バレル内に第1の物品を供給する工程;
(b) 第2の予充填シリコーン不含有バレル内に第2の物品を供給する工程;
(c) 少なくとも7日間にわたって、-80℃~-40℃の範囲内の温度で、第1の予充填シリコーン不含有バレル内に第1の物品を貯蔵する工程;
(d) 20℃から25℃の間の温度で、第2の予充填シリコーン不含有バレル内に第2の物品を貯蔵する工程;
(e)第1の予充填シリコーン不含有バレル内の第1の物品の容器閉鎖完全性(CCI1)を測定する工程;
(g)20℃から25℃の間の温度で、第1の予充填シリコーン不含有バレル内の第1の物品の滑動力(GF1)および第2の予充填シリコーン不含有バレル内に第2の物品の滑動力(GF2)を測定する工程、
を含み、GF2はGF1より高く、CCI2はCCI1と同等であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
バレル内の物品の最大滑動力が約25N未満、好ましくは20N未満であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
最大滑動力は、バレルに注射用水を充填し、少なくとも7日間から1ヶ月間にわたって、充填されたバレルを-80℃以上40℃以下または25℃以上40℃以下の温度で保存することによって測定されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
バレル内の物品の組立てが、バレル内面に対して約1.5~2.0MPaの径方向の接触圧力を及ぼすことを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
医療用注射装置として使用するためのバレル内で物品を移動させるために使用される潤滑剤の量を減少させる方法であって、バレルは、内面および外面を有する管状部材を含み、方法は:
物品が、少なくともその前面にフルオロポリマー材料の少なくとも部分的なコーティングを有し;
物品が、バレルの内面に対して2つ~4つの周囲接触面を有し;
物品がバレル内に配置されているとき、バレル内の潤滑剤の総量は、20μg/cm以下、好ましくは、16μg/cm以下であり;
-80℃~-40℃の範囲内の温度の低温貯蔵所で、物品をバレル内に貯蔵することが可能であり;および
周囲条件への解凍時に、バレル内の物品の容器閉鎖完全性(CCI)が維持される
ことを特徴とする、方法。
【請求項7】
潤滑剤がシリコーン油を含み、物品は、その表面に輸送用シリコーンを含み、バレル内の内容物に接触するシリコーンの総量が約6~34μgであることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
バレル内の物品の最大滑動力が約25N未満、好ましくは20N未満であることを特徴とする、請求項6または請求項7に記載の方法。
【請求項9】
最大滑動力は、バレルに注射用の薬剤または水を充填し、少なくとも3~12日間にわたって、充填されたバレルを-80℃~40℃または-80℃~-40℃の温度で保存することによって測定されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
フルオロポリマーコーティングが、前面に隣接して位置する第1周囲接触面の少なくとも一部を覆うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
周囲接触面が少なくとも第1リブおよび第2リブを含み、好ましくは周囲接触面の数が3であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
フルオロポリマーコーティングが、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)コーティング、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)コーティング、ポリフッ化ビニル(PVF)コーティング、およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)コーティングの少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
物品がガンマ線滅菌可能である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
物品が、ゴム材料、好ましくはブチルゴムまたはスチレンブタジエンゴムの少なくとも1種を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
医療用注射装置として使用するための、第1の予充填シリコーン不含有バレル内の第1の物品と第2の予充填シリコーン不含有バレル内の第2の物品とを比較する方法であって、バレルは、内面および外面を有する管状部材を含み、物品は、少なくともその前面にフルオロポリマー材料の少なくとも部分的なコーティングを有するエラストマー材料を含み、物品は、バレルの内面に対して2つから4つの周囲接触面を有し、周囲接触面は、物品およびバレルの長手方向の長さに沿って、互いに対して別個に配置され、方法は、以下の工程:
(a) 少なくとも7日間にわたって、-80℃~-40℃の範囲内の温度で、第1の予充填シリコーン不含有バレル内に第1の物品を貯蔵する工程と;
(b) 20℃から25℃の間の温度で、第2の予充填シリコーン不含有バレル内に第2の物品を貯蔵する工程と;
(c) 第1の予充填シリコーン不含有バレル内の第1の物品の容器閉鎖完全性(CCI1)を測定する工程と;
(d) 第2の予充填シリコーン不含有バレル内の第2の物品の容器閉鎖完全性(CCI1)を測定する工程と;
(e) 20℃から25℃の間の温度で、第1の予充填シリコーン不含有バレル内の第1の物品の滑動力(GF1)および第2の予充填シリコーン不含有バレル内の第2の物品の滑動力(GF2)を測定する工程と、
を含み、GF2はGF1より高く、CCI2はCCI1と同等であることを特徴とする、方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0002
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0002】
(関連出願の相互参照)
本出願は、参照によりその開示全体が本明細書の一部をなすものとする、2021年6月3日に出願された「Method of Making a Low-Silicone Oil System for a Medical Injection Device」の名称を有する欧州特許出願第21305749.0号の優先権を主張する。
【国際調査報告】