(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】細胞膜透過性CRISPR-CASシステムを用いた初代免疫細胞における遺伝子編集
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20240517BHJP
C12N 9/16 20060101ALI20240517BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240517BHJP
C07K 14/16 20060101ALI20240517BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20240517BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20240517BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240517BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240517BHJP
C07K 14/025 20060101ALI20240517BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240517BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240517BHJP
C12N 15/49 20060101ALN20240517BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N9/16 Z ZNA
C07K19/00
C07K14/16
C07K7/08
C07K7/06
C12N5/10
C12N5/0783
C07K14/025
A61K35/17
A61P31/00
C12N15/49
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574376
(86)(22)【出願日】2022-06-02
(85)【翻訳文提出日】2024-01-18
(86)【国際出願番号】 US2022031983
(87)【国際公開番号】W WO2022256546
(87)【国際公開日】2022-12-08
(32)【優先日】2021-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500429103
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ ペンシルバニア
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】バーガー シェリー エル.
(72)【発明者】
【氏名】ウェリー イー. ジョン
(72)【発明者】
【氏名】シー ジュンウェイ
(72)【発明者】
【氏名】チェン ゼユ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン ジェン
(72)【発明者】
【氏名】コーリ ラフル エム.
(72)【発明者】
【氏名】パーカー ジャレッド ビー.
(72)【発明者】
【氏名】バクスター エイミー エリザベス
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA92X
4B065AB01
4B065AC12
4B065AC14
4B065BA01
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4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
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4C087NA14
4C087ZB31
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA41
4H045CA01
4H045CA05
4H045CA11
4H045DA89
4H045EA50
4H045EA51
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、細胞膜透過性Casとエンドソーム脱出ペプチドとを含む細胞膜透過性CRISPR-Casシステムを用いる、インビトロおよびインビボでの遺伝子編集のための組成物および方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 細胞膜透過性ペプチド(CPP)に連結されているCRISPR関連(Cas)タンパク質と、(b) CPPに連結されているエンドソーム脱出ペプチドとを含む、ペプチド支援型ゲノム編集(Peptide-Assisted Genome Editing)(PAGE)システム。
【請求項2】
Casが、Cas9であるか、またはCas12aであるか、またはCas誘導体である、請求項1に記載のPAGEシステム。
【請求項3】
Cas誘導体が、別のタンパク質または触媒ドメインに連結されているCasタンパク質である、請求項2に記載のPAGEシステム。
【請求項4】
前記タンパク質または触媒ドメインが、AIDデアミナーゼ、APOBECデアミナーゼ、TadAデアミナーゼ、TET酵素、DNAメチルトランスフェラーゼ、トランス活性化ドメイン、逆転写酵素、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、サーチュイン、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデメチラーゼ、キナーゼ、およびホスファターゼからなる群より選択される、請求項3に記載のPAGEシステム。
【請求項5】
前記エンドソーム脱出ペプチドが、SEQ ID NO: 1434~1523に記載のアミノ酸配列のうちの任意のものを含む、前記請求項のいずれか一項に記載のPAGEシステム。
【請求項6】
前記エンドソーム脱出ペプチドがdTAT-HA2を含む、前記請求項のいずれか一項に記載のPAGEシステム。
【請求項7】
Casが核局在化シグナル(NLS)配列を含む、前記請求項のいずれか一項に記載のPAGEシステム。
【請求項8】
NLS配列がアミノ酸配列PAAKRVKLD(SEQ ID NO: 1)を含む、請求項7に記載のPAGEシステム。
【請求項9】
NLS配列がGGSリンカーをさらに含む、請求項7または8に記載のPAGEシステム。
【請求項10】
CPPが、SEQ ID NO: 10~1422に記載のアミノ酸配列のうちの任意のものを含む、前記請求項のいずれか一項に記載のPAGEシステム。
【請求項11】
CPPが、HIV-1由来のトランス活性化転写活性化因子(Tat)に由来する配列を含む、前記請求項のいずれか一項に記載のPAGEシステム。
【請求項12】
Tat配列がアミノ酸配列GRKKRRQRRRPQ(SEQ ID NO: 2)を含む、請求項11に記載のPAGEシステム。
【請求項13】
PAGEシステム、および少なくとも1種類のsgRNAまたはcrRNAを細胞に導入する段階であって、PAGEシステムが、CPPに連結されているCasタンパク質と、CPPに連結されているエンドソーム脱出ペプチドとを含む、段階
を含む、遺伝子編集のインビトロ方法。
【請求項14】
PAGEシステム、および少なくとも1種類のsgRNAまたはcrRNAを細胞に導入する段階であって、PAGEシステムが、CPPに連結されているCasタンパク質と、CPPに連結されているエンドソーム脱出ペプチドとを含む、段階、ならびに
該細胞を対象に投与する段階
を含む、遺伝子編集のインビボ方法。
【請求項15】
Casが、Cas9であるか、またはCas12aであるか、またはCas誘導体である、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
Cas誘導体が、別のタンパク質または触媒ドメインに連結されているCasタンパク質である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記タンパク質または触媒ドメインが、AIDデアミナーゼ、APOBECデアミナーゼ、TadAデアミナーゼ、TET酵素、DNAメチルトランスフェラーゼ、トランス活性化ドメイン、逆転写酵素、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、サーチュイン、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデメチラーゼ、キナーゼ、およびホスファターゼからなる群より選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記エンドソーム脱出ペプチドが、SEQ ID NO: 1434~1523に記載のアミノ酸配列のうちの任意のものを含む、請求項13~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記エンドソーム脱出ペプチドがdTAT-HA2を含む、請求項13~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
CasがNLS配列を含む、請求項13~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
NLS配列がアミノ酸配列PAAKRVKLD(SEQ ID NO: 1)を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
NLS配列がGGSリンカーをさらに含む、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
CPPが、SEQ ID NO: 10~1422に記載のアミノ酸配列のうちの任意のものを含む、請求項13~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
CPPが、HIV-1由来のトランス活性化転写活性化因子(Tat)に由来する配列を含む、請求項13~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
Tat配列がアミノ酸配列GRKKRRQRRRPQ(SEQ ID NO: 2)を含む、請求項24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
エレクトロポレーションを必要としない、請求項13~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
PAGEシステムが、血清を含まない培地中にある細胞に導入される、請求項13~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記エンドソーム脱出ペプチドが約25~75 μMの濃度で細胞に導入される、請求項13~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
Casが約0.5~5 μMの濃度で細胞に導入される、請求項13~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
細胞が免疫細胞である、請求項13~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
細胞が、初代ヒトCD8 T細胞、ヒトiPSC、およびCAR T細胞からなる群より選択される、請求項13~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
sgRNAが、Ano9、Pdcd1、Thy1、Ptprc、PTPRC、またはB2Mを標的とする、請求項13~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
対象が疾患または障害についての処置を必要としており、かつ編集された細胞が該対象に投与された際に、疾患または障害が該対象において処置される、請求項13~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
疾患または障害が感染である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
疾患または障害がT細胞の疲弊に関連する、請求項34に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、35 U.S.C.§119(e)のもとで、2021年6月2日に提出された米国特許仮出願第63/196,144号に対する優先権を有するものであり、該仮出願はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
連邦政府の支援を受けた研究または開発についての声明
本発明は、国立衛生研究所(National Institutes of Health)によって授与されたAI117950、AI108565、およびCA077831のもとで、政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
本発明の背景
CRISPR-Casシステムは、遺伝子編集のための有益なツールを提供するものである。しかしながら、初代T細胞を編集するための多くの方法は、エレクトロポレーションを必要とするものであり、ゲノム上でオフターゲット効果を引き起こす可能性があり、かつ高価となり得る。当技術分野においては、インビトロおよびインビボの両方で高い遺伝子編集効率を達成し、かつより安価であってかつより容易に実験ワークフローに導入できる、CRISPR-Casシステムが必要とされている。本発明は、この必要性に対処する。
【発明の概要】
【0004】
本発明の概要
本明細書に記載されるように、本開示は、ペプチド支援型ゲノム編集(Peptide-Assisted Genome Editing)(PAGE)のための組成物および方法を提供する。1つの局面において、本開示は、(a) 細胞膜透過性ペプチド(CPP)に連結されているCRISPR関連(Cas)タンパク質、および(b) CPPに連結されているエンドソーム脱出ペプチドを含む、ペプチド支援型ゲノム編集(PAGE)システムを提供する。
【0005】
ある態様において、Casは、Cas9であるか、またはCas12aであるか、またはCas誘導体である。ある態様において、Cas誘導体は、別のタンパク質または触媒ドメインに連結されているCasタンパク質である。ある態様において、タンパク質または触媒ドメインは、AIDデアミナーゼ、APOBECデアミナーゼ、TadAデアミナーゼ、TET酵素、DNAメチルトランスフェラーゼ、トランス活性化ドメイン、逆転写酵素、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、サーチュイン、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデメチラーゼ、キナーゼ、およびホスファターゼからなる群より選択される。
【0006】
ある態様において、エンドソーム脱出ペプチドは、SEQ ID NO: 1434~1523に記載のアミノ酸配列のうちの任意のものを含む。ある態様において、エンドソーム脱出ペプチドはdTAT-HA2を含む。
【0007】
ある態様において、Casは核局在化シグナル(NLS)配列を含む。ある態様において、NLS配列はアミノ酸配列PAAKRVKLD(SEQ ID NO: 1)を含む。ある態様において、NLS配列はGGSリンカーをさらに含む。
【0008】
ある態様において、CPPは、SEQ ID NO: 10~1422に記載のアミノ酸配列のうちの任意のものを含む。ある態様において、CPPは、HIV-1由来のトランス活性化転写活性化因子(Tat)に由来する配列を含む。ある態様において、Tat配列はアミノ酸配列GRKKRRQRRRPQ(SEQ ID NO: 2)を含む。
【0009】
本開示の別の局面は、遺伝子編集のインビトロ方法を提供し、該方法は以下の段階を含む:PAGEシステム、および少なくとも1種類のsgRNAまたはcrRNAを細胞に導入する段階であって、PAGEシステムが、CPPに連結されているCasタンパク質と、CPPに連結されているエンドソーム脱出ペプチドとを含む、段階。
【0010】
本開示の別の局面は、遺伝子編集のインビボ方法を提供し、該方法は以下の段階を含む:PAGEシステム、および少なくとも1種類のsgRNAまたはcrRNAを細胞に導入する段階であって、PAGEシステムが、CPPに連結されているCasタンパク質と、CPPに連結されているエンドソーム脱出ペプチドとを含む、段階、ならびに該細胞を対象に投与する段階。
【0011】
ある態様において、Casは、Cas9であるか、またはCas12aであるか、またはCas誘導体である。ある態様において、Cas誘導体は、別のタンパク質または触媒ドメインに連結されているCasタンパク質である。ある態様において、タンパク質または触媒ドメインは、AIDデアミナーゼ、APOBECデアミナーゼ、TadAデアミナーゼ、TET酵素、DNAメチルトランスフェラーゼ、トランス活性化ドメイン、逆転写酵素、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、サーチュイン、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデメチラーゼ、キナーゼ、およびホスファターゼからなる群より選択される。
【0012】
ある態様において、エンドソーム脱出ペプチドは、SEQ ID NO: 1434~1523に記載のアミノ酸配列のうちの任意のものを含む。ある態様において、エンドソーム脱出ペプチドはdTAT-HA2を含む。
【0013】
ある態様において、CasはNLS配列を含む。ある態様において、NLS配列はアミノ酸配列PAAKRVKLD(SEQ ID NO: 1)を含む。ある態様において、NLS配列はGGSリンカーをさらに含む。
【0014】
ある態様において、CPPは、SEQ ID NO: 10~1422に記載のアミノ酸配列のうちの任意のものを含む。ある態様において、CPPは、HIV-1由来のトランス活性化転写活性化因子(Tat)に由来する配列を含む。ある態様において、Tat配列はアミノ酸配列GRKKRRQRRRPQ(SEQ ID NO: 2)を含む。
【0015】
ある態様において、方法は、エレクトロポレーションを必要としない。ある態様において、PAGEシステムは、血清を含まない培地中にある細胞に導入される。ある態様において、エンドソーム脱出ペプチドは約25~75 μMの濃度で細胞に導入される。ある態様において、Casは約0.5~5 μMの濃度で細胞に導入される。
【0016】
ある態様において、細胞は免疫細胞である。
【0017】
ある態様において、細胞は、初代ヒトCD8 T細胞、ヒトiPSC、およびCAR T細胞からなる群より選択される。
【0018】
ある態様において、sgRNAは、Ano9、Pdcd1、Thy1、Ptprc、PTPRC、またはB2Mを標的とする。
【0019】
ある態様において、対象は疾患または障害についての処置を必要としており、かつ編集された細胞が対象に投与された際に、疾患または障害が対象において処置される。ある態様において、疾患または障害は感染である。ある態様において、疾患または障害はT細胞の疲弊に関連する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明の、上述の特徴および利点ならびに他の特徴および利点は、添付の図面を伴う例示的な態様についての以下の詳細な説明から、より完全に理解されるであろう。
【0021】
【
図1A】
図1A:TAT-4xMyc NLS-Cas9発現構築物の作製についての概略図。
【
図1B】
図1B:TAT-4xMyc NLS-Cas9の精製。TAT-4xMyc NLS-Cas9発現構築物を用いてRosetta 2 (DE3) pLysSが形質転換され、そしてIPTGによる該構築物の誘導が行われた。レーン1:IPTG誘導後の細菌溶解物;レーン2:Strep-Tactinアフィニティー精製のフロースルー;レーン3:SUMOプロテアーゼULP1によるカラム内消化後のフロースルー;レーン4:IEC(HiTrap SP HP)後のTAT-4xMyc NLS-Cas9;レーン5:SEC(Superdex 200 increase 10/300 GL)後のTAT-4xMyc NLS-Cas9。
【
図1C】
図1C:TAT-4xMyc NLS-Cas9によるインビトロ切断アッセイ。精製されたspCas9またはTAT-4xMyc NLS-Cas9を、8.7 kbのDNA断片を標的とするsgRNAとインキュベートすることによって、Cas9 RNPは組み立てられ、そしてCas9 RNPは、37度で1分間、5分間、10分間、および15分間にわたり、該DNA断片とインキュベートされた。反応を停止させ、そしてDNA産物を0.8% アガロースゲルにおいて分離した。未切断のバンド(およそ8.7 kb)、ならびに2種類の切断されたバンド(およそ2.7 kbおよびおよそ6 kb)がゲル上に示されている。
【
図2A】
図2A:Cas9の編集効率に関して用いられるEL4 mCherryレポーター細胞株の概略図、および実験ワークフロー。mCherryと、mCherryを標的とするsgRNAとを安定的に発現するレンチウイルスレポーター構築物を、EL4細胞に感染させた。TAT-4xMyc NLS-Cas9およびdTAT-HA2とインキュベートされた際に、フローサイトメトリーによって測定されたように、細胞はmCherry蛍光を喪失し、そして4日後にmCherry
-細胞の出現頻度の増加が引き起こされた。
【
図2B】
図2B:エンドソーム脱出ペプチド(dTAT-HA2)およびTAT-4xMyc NLS-Cas9の濃度が高いほど、編集効率は増加した。10 μMまたは40 μMのdTAT-HA2の非存在下または存在下であって、かつ0.5 μMまたは4.0 μMのTAT-4xMyc NLS-Cas9の非存在下または存在下で、EL4レポーター細胞は1時間インキュベートされた。完全培地はインキュベーション後に交換され、そしてフロー解析が4日間のインキュベーション後に実施された。
【
図2C】
図2C:低FBSにより、編集効率が増加した。10% FBSの存在下またはFBSの非存在下において、10 μMまたは40 μMのdTAT-HA2の非存在下または存在下であって、かつ0.5 μMまたは4.0 μMのTAT-4xMyc NLS-Cas9の非存在下または存在下で、EL4レポーター細胞は1時間インキュベートされた。フロー解析は、4日間のインキュベーション後に実施された。
【
図2D】
図2D:10% FBSの存在下またはFBSの非存在下において、75 μMのdTAT-HA2の非存在下または存在下であって、かつ・または5.0 μMのTAT-4xMyc NLS-Cas9の非存在下または存在下で、EL4レポーター細胞は30分間インキュベートされた。フロー解析は、4日間のインキュベーション後に実施された。
【
図3A】
図3A:RN2-Cas9細胞におけるCD45.2 sgRNAの効率についての試験。Cas9を安定的に発現するRN2-Cas9細胞に、mCherryと、細胞表面マーカーであるCD45.2を標的とするsgRNAとを発現するレトロウイルスか、またはmCherryと、Rosa26を標的とする対照sgRNAとを発現するレトロウイルスを感染させた。CD45.2の発現レベルは、感染の3日後にフローサイトメトリーによって測定された。
【
図3B】
図3B:マウス初代T細胞におけるTAT-4xMyc NLS-Cas9によるインビトロ編集を示す実験の概略図。
【
図3C】
図3C:RosaおよびCD45.2についてのsgRNA+Cas9+のパーセンテージを示すフロープロットの一例。
【
図3D】
図3D:フローサイトメトリーによって測定されたように、インビトロ培養の第1日~第5日の間に標的遺伝子はノックダウンされる。
【
図3E】
図3E:インビトロ培養中の、ソートされたsgRNA+細胞のGFP(TAT-4xMyc NLS-Cas9)の正規化されたMFI。sgRNA+細胞のMFIは、TAT-4xMyc NLS-Cas9処理を受けていないsgRNA+細胞のMFIに対して正規化されている。
【
図4A】
図4A:マウス初代T細胞におけるTAT-4xMyc NLS-Cas9によるインビボ編集を示すワークフローの概略図。ドナーマウスのCD8 P14細胞が単離されそして活性化された、一方レシピエントマウスには、第-2日にLCMVクローン13を感染させた。24時間後(第-1日)、Ano9を標的とするsgRNAを発現するか、またはPdcd1(PD-1をコードする)を標的とするsgRNAを発現するレトロウイルスベクター(VEX+)を、24時間にわたり細胞に感染させた。細胞は次に、TAT-4xMyc NLS-Cas9、dTAT-HA2、0.25% トリプシン、およびDNアーゼIで処理され、そして、sgRNA+Cas9+(VEX+GFP+)P14細胞がソートされた。5 x 10
4個のソートされた細胞が、LCMVクローン13を感染させたレシピエントマウスに養子移植された。6日後、脾臓および肝臓が採取され、そしてこれらは、PD-1の発現レベルおよびP14細胞の拡大に関して、フローサイトメトリーによって解析された。
【
図4B】
図4B:sgRNA+ P14細胞へのCas9GFP+形質導入のフロープロット。
【
図4C】
図4C:細胞移植後第6日における肝臓および脾臓中のP14細胞のPD-1ノックダウン効率についての、ヒストグラムおよび統計学的解析。Ano9_e3.2 sgRNAは、ここでは対照として使用されている。
【
図4D】
図4D:PD-1のノックダウンにより、細胞移植後第6日に、肝臓および脾臓においてT細胞の拡大が誘導される。
【
図5A】
図5A:ヒト初代T細胞におけるTAT-4xMyc NLS-Cas9によるインビトロ編集を示すワークフローの概略図。ヒト全T細胞は、正常ドナーのPBMCから単離され、そして第0日に、CD3/CD28 Dynabeads、IL-2、およびIL15によって活性化された。24時間後(第1日)、
図2Aのとおりに、レンチウイルスレポーター構築物を2日間にわたり細胞に感染させた。mCherry+細胞は第3日~第9日にブラストサイジンによって選択され、そして続いて、TAT-4xMyc NLS-Cas9およびdTAT-HA2によって処理された。mCherry
-細胞の出現頻度は、フローサイトメトリーによって第12日~第14日に測定された。
【
図5B】
図5B:mCherry-ヒトT細胞のパーセンテージは、dTAT-HA2およびTAT-4xMyc NLS-Cas9での細胞の処理後第3日および第5日に、フローサイトメトリーによって測定された。T細胞は、3名の正常ドナーから単離されたものであった。
【
図5C】
図5C:0.5 μMのTAT-4xMyc NLS-Cas9および50 μMのdTAT-HA2での細胞の処理後第5日における、mCherry-ヒトT細胞のヒストグラムの一例。
【
図6A】
図6A:iPSCに、
図2Aにおけるものと同じレンチウイルスレポーター構築物を感染させた。TAT-4xMyc NLS-Cas9およびdTAT-HA2とインキュベートされた際に、フローサイトメトリーによって測定されたように、細胞はmCherry蛍光を喪失し、そして4日後にmCherry
-細胞の出現頻度の増加が引き起こされた。
【
図6B】
図6B:dTAT-HA2およびTAT-4xMyc NLS-Cas9での細胞の処理後第4日における、mCherry- iPSCのヒストグラムの一例。
【
図7】
図7:本試験において使用されたペプチド支援型ゲノム編集(PAGE)システム構築物の概略図。THとはdTAT-HA2であり;TとはTATであり;HとはHA2であり;Cas9-T6N
CPPとはTAT-4xNLS
MYC-Cas9-2xNLS
SV40-sfGFPであり;Cas9-T8N
CPPとはTAT-6xNLS
MYC-Cas9-2xNLS
SV40-sfGFPであり;Cas9-TH6N
CPPとはTAT-HA2-4xNLS
MYC-Cas9-2xNLS
SV40-sfGFPであり;Cas9-R6N
CPPとはR9-4xNLS
MYC-Cas9-2xNLS
SV40-sfGFPであり;Cas9-6N
CPPとは4xNLS
MYC-Cas9-2xNLS
SV40-sfGFPであり;Cas9-6S
CPPとは4xNLS
SV40-Cas9-2xNLS
SV40-sfGFPであり;opCas12a-T8N
CPPとはTAT-6xNLS
MYC-opCas12a-2xNLS
SV40-sfGFPであり;Cas9-BE-T6N
CPPとはTAT-4xNLS
MYC-evoA1-nCas9-2xNLS
SV40-sfGFPであり;RNPとはリボヌクレオタンパク質であり;sgRNAとは1本鎖ガイドRNA(Cas9に関連する)であり;crRNAとはcrispr RNA(opCas12aに関連する)であり;P14とはLCMV-P14 T細胞受容体であり;Cas9-BEとはCas9塩基エディターであり;d2GFPとは不安定化GFP蛍光タンパク質である。
【
図8A】
図8A~8E:EL4レポーター細胞における、ペプチド支援型細胞膜透過性Cas9システムの最適化。
図8A:Cas9-CPPの編集効率に関して用いられるEL4 mCherryレポーター細胞株の概略図。マウスTリンパ芽球であるEL4は、mCherry(mChe)蛍光レポーターと、mCherry遺伝子を標的とするsgRNAとを安定的に発現するデュアル発現ベクターか、またはmCherry(mChe)蛍光レポーターと、陰性対照としてAno9遺伝子を標的とするsgRNAとを安定的に発現するデュアル発現ベクターを用いて、レンチウイルスにより形質導入された。EL4-mChe細胞は、さまざまなCas9-CPPタンパク質に加えて、エンドソーム脱出性または細胞膜透過性のさまざまな化学物質およびペプチドとともにインキュベートされた。タンパク質、化学物質、およびペプチドは、30分間のインキュベーション後に洗浄除去された。処理後第4日に、フローサイトメトリーを用いて、mChe蛍光の喪失に基づいて遺伝子編集効率が評価された。
【
図8B】
図8A~8E:EL4レポーター細胞における、ペプチド支援型細胞膜透過性Cas9システムの最適化。
図8B:EL4-mCheレポーターにおいてエンドソーム脱出性または細胞膜透過性のさまざまな化学物質およびペプチドを併用した場合の、Cas9-T6N
CPPの編集効率の定量化。化学物質である200 mMのクロロキンもしくは1 mg/mlのポリブレンの存在下で、または75 μMの支援ペプチドであるKALA、トランスポータン、ペネトラチン、ペネトラチン-Arg、dTAT-HA2E5、もしくはTHの存在下で、EL4 mCheレポーター細胞は0.5 μMのCas9-T6N
CPPで処理された。編集効率を測定するため、mCherryを喪失した細胞のパーセンテージが、処理後第4日にフローサイトメトリーによって測定された。試験されたこれらの化学物質およびCPPペプチドの中で、mCherryOFFの最大のパーセンテージ(>90%)はTH(dTAT-HA2)とのインキュベーションによって示されたが、これは、THとのインキュベーションにより遺伝子編集が強く引き起こされたことを示唆する。
【
図8C】
図8A~8E:EL4レポーター細胞における、ペプチド支援型細胞膜透過性Cas9システムの最適化。
図8C:Cas9-T6N
CPPおよびTHで処理されたEL4細胞から調製された、核画分、細胞質画分、および全細胞溶解物における、Cas9-T6N
CPPのレベル、ラミン-B1のレベル、およびα-チューブリンのレベルについてのウエスタンブロッティング。EL4細胞は、5 μMのCas9-T6N
CPPおよび75 μMのTHを用いて37度で30分間処理された。細胞はPBSを用いて洗浄され、そして、細胞表面に結合したCas9-T6N
CPPを除去するためにトリプシン処理された。核画分および細胞質画分が分離され、そして、Cas9に対する抗体、核マーカーであるラミンB1に対する抗体、および細胞質マーカーであるα-チューブリンに対する抗体を用いたイムノブロッティング解析に供された。データは、THを添加すると、TH処理なしの細胞と比較して、Cas9-T6N
CPPの、細胞への移動、細胞質画分への移動、および特に核画分への移動が増加したことを示すものであった。
【
図8D】
図8A~8E:EL4レポーター細胞における、ペプチド支援型細胞膜透過性Cas9システムの最適化。
図8D:EL4-mCheレポーターにおいてさまざまな濃度のTHペプチドを併用した場合の、Cas9
CPPバリアントの編集効率の定量化。EL4 mCheレポーター細胞は、25~75 μMのTHの存在下で、0.5 μMのCas9
CPPバリアントで処理された。編集効率を測定するため、mCherryを喪失した細胞のパーセンテージが、処理後第4日にフローサイトメトリーによって測定された。
【
図8E】
図8A~8E:EL4レポーター細胞における、ペプチド支援型細胞膜透過性Cas9システムの最適化。
図8E:EL4 mCherryレポーター細胞株における遺伝子編集のためのCas9-PAGEシステムの最終的なワークフロー。細胞膜透過性Casタンパク質と、エンドソーム脱出ペプチドとの組み合わせが、ペプチド支援型ゲノム編集(PAGE)と称されている。
【
図9A】
図9A~9E:EL4レポーター細胞におけるCas9-PAGEシステムの最適化。
図9A~9B:THまたはCas9-T6N
CPPのいずれかのタイトレーションを用いた、遺伝子編集効率の定量化。mCherryを喪失した細胞のパーセンテージは、処理後第2日にフローサイトメトリーによって測定された。
図9A:EL4 mCherryレポーター細胞は、0.5 μMのCas9-T6N
CPP、および5~100 μMのさまざまな濃度のTHとインキュベートされた。THの濃度は、遺伝子編集効率の増加と正に相関していた。
【
図9B】
図9A~9E:EL4レポーター細胞におけるCas9-PAGEシステムの最適化。
図9A~9B:THまたはCas9-T6N
CPPのいずれかのタイトレーションを用いた、遺伝子編集効率の定量化。mCherryを喪失した細胞のパーセンテージは、処理後第2日にフローサイトメトリーによって測定された。
図9B:EL4 mCherryレポーター細胞は、0.05~5 μMのさまざまな濃度のCas9-T6N
CPP、および75 μMのTHで処理された。Cas9-T6N
CPPの濃度を増加させると、遺伝子編集効率の増加がもたらされた。
【
図9C】
図9A~9E:EL4レポーター細胞におけるCas9-PAGEシステムの最適化。
図9C:漸増濃度のTHで処理されたEL4細胞の生細胞回収の定量化。
【
図9D】
図9A~9E:EL4レポーター細胞におけるCas9-PAGEシステムの最適化。
図9D:Cas9-T6N
CPPの漸増量に対する関数としての、GFP陽性細胞集団の定量化。GFP陽性細胞のパーセンテージは、細胞膜透過性効率の代用値である。
【
図10】
図10A~10B:THはPAGEシステムをトランスに支援する。
図10A:THを短縮化した際の遺伝子編集効率の定量化。TH(dTAT-HA2)ペプチドは、EL4 mCherryレポーター細胞においてCas9-T6N
CPPの編集効率を増強したが、T(dTAT)ペプチド単独とH(dHA2)ペプチド単独はいずれも編集効率を増強しなかった。EL4 mCherryレポーター細胞は、75 μMのTペプチド、Hペプチド、またはTHペプチドの存在下で、0.5 μMのCas9-T6N
CPPとインキュベートされた。mCherryを喪失した細胞のパーセンテージは、処理後第4日にフローサイトメトリーによって測定された。
図10B:dTAT-HA2(TH)がシスに添加された際の、Cas9-T6N
CPPの遺伝子編集効率およびCas9-TH6N
CPPの遺伝子編集効率の定量化。mCherryを喪失した細胞のパーセンテージは、処理後第4日にフローサイトメトリーによって測定された。THペプチドがシスに存在しているか否かに関わらず、THはCas9
CPPをトランスに促進した。
【
図11】
図11:さまざまな細胞型における遺伝子編集のためのPAGEシステム。さまざまな細胞型における、Cas9-PAGEシステムが媒介する遺伝子編集の効率の定量化。mCherry陽性レポーターは、記載される細胞型において確立された:ヒト骨髄系細胞株モデルであるMOLM-13、ヒトナチュラルキラー細胞株であるNK-92、および3名の健康なドナーのPBMCから単離されたヒト初代T細胞。mCherryレポーター細胞は、記載されるCas9-T6N
CPPおよびTHと30分間インキュベートされた。mCherryを喪失した細胞のパーセンテージは、処理後第4日にフローサイトメトリーによって測定された。
【
図12A】
図12A~12G:レトロウイルス性のsgRNAを用いたCas9-PAGEに媒介される、マウス初代CD8 T細胞におけるエクスビボでのゲノム編集。
図12A:マウス初代CD8 T細胞においてエクスビボでPAGEシステムを評価する実験ワークフローの概略図。マウス初代T細胞は、抗CD3、抗CD28、およびIL-2を用いて活性化され、続いて、mCherry蛍光マーカーに連結されているsgRNA発現ベクターを用いた、レトロウイルスによる形質導入が行われた。FACSソーティングにより富化されたmCherry陽性細胞は、Cas9-T6N
CPPおよびTHペプチドとインキュベートされ、該ペプチド等はその後、30分間のインキュベーション後に洗浄除去された。遺伝子編集は、記載される遺伝子産物に対するフローサイトメトリーによって、または標的であるゲノム領域の直接サンガーシーケンシングによって、さまざまなタイムポイントにおいて評価された。
図12B~12E:THはマウス初代CD8 T細胞においてCas9-T6N
CPPによる遺伝子編集を促進した。細胞は、sgThy1_IG1またはsgNegのいずれかを用いて形質導入され、続いて、さまざまな濃度のTHと5 μMのCas9-T6N
CPPとの30分間のインキュベーションが行われた。フローサイトメトリー解析は、処理後の記載される日に実施された。
図12B:漸増濃度のTHで処理されたCD8 T細胞における、CD90タンパク質発現の経時的解析。
図12C:
図12B(左パネル)に記載される処理の4日後におけるフローサイトメトリー解析の、平均蛍光強度(MFI)による定量化。
図12D:sgThy1_IG1またはsgNegのいずれかを用いて形質導入された細胞における、処理の4日後のCD90の代表的なフローサイトメトリープロット。
図12E:漸増濃度のTHで処理されたCD8 T細胞の生細胞回収の定量化。
図12F:マウス初代CD8 T細胞における、Thy1遺伝子を標的とする追加のsgRNAを用いたPAGE、およびPtprc遺伝子を標的とする追加のsgRNAを用いたPAGEの、処理後第4日の遺伝子編集効率についての概略的な棒グラフ。
図12G:
図12Fにおいて使用されたPAGE sgRNAについてのTracking of Indels by DEcomposition(TIDE)変異導入アッセイ。ドットプロットは、記載されるsgRNAについてのTIDEアッセイスコア(インデルの%)を示している。ゲノムDNAは、PAGEでの処理後第6日に単離され、サンガーシーケンシングされ、続いて、オンラインTIDE解析ツールによる定量化が行われた。sgThy1_IG1、sgThy1_IG2、sgThy1_IG3は、Thy1遺伝子の免疫グロブリンドメインを標的とするsgRNAである;sgPtprc_CAT1およびsgPtprc_TM1は、Ptprc遺伝子の触媒ドメインまたは膜貫通ドメインのいずれかを標的とするsgRNAである;Ano9遺伝子を標的とするsgRNAであるsgNegは、ここでは陰性対照として使用された。
【
図13】
図13A~13D:マウス初代T細胞におけるエクスビボでのPAGEゲノム編集のための、細胞膜透過性リボヌクレオタンパク質(RNP)複合体。
図13A:マウス初代T細胞におけるRNP-PAGE実験のための一連のCas
CPPバリアントの概略図。Cas9-T6N
CPP(TAT-4xNLS
MYC NLS-Cas9-2xNLS
SV40-sfGFP);Cas9-T8N
CPP(TAT-6xNLS
MYC NLS-Cas9-2xNLS
SV40-sfGFP);opCas12a-T8N
CPP(TAT-6xNLS
MYC NLS-opCas12a-2xNLS
SV40-sfGFP)。
図13B:マウス初代T細胞におけるCas9/opCas12a-RNP-PAGEによるエクスビボ編集を示す実験の概略図。ナイーブであるかまたは2日間活性化されたかのいずれかであるマウス初代CD8 T細胞は、5 μMのRNP複合体、およびさまざまな濃度のTHと、37度で30分間インキュベートされた。細胞は1回洗浄され、そしてGFP+細胞をソートして、またはソートせずに、5日間培養され、そして編集効率が、標的遺伝子の発現についてのフローサイトメトリーによって測定された。
図13C:さまざまなCas9/opCas12a-RNP-PAGEシステムで処理されたナイーブCD8 T細胞または活性化CD8 T細胞のいずれかにおける、CD90の発現レベルの解析。ナイーブであるかまたは活性化された、マウス初代CD8 T細胞は、
図13Bに記載されるように、25 μMのTHを併用して、CD90のIGドメインを標的とするガイドRNAをともなった、5 μMの、Cas9-T6N
CPP RNP複合体、Cas9-T8N
CPP RNP複合体、またはopCas12a-T8N
CPP RNP複合体で処理された。CD90の発現は、処理後第5日にフローサイトメーターによって測定された。opCas12a-RNP-PAGEは、マウス初代T細胞において、Cas9-RNP-PAGEを上回る優れた遺伝子編集効率を示した。
図13D:初代マウスCD8 T細胞におけるopCas12a-RNP-PAGEの送達のための、TH濃度の最適化。マウス初代CD8 T細胞は、2日間活性化され、そして、25~50 μMのさまざまな濃度のTHの存在下で、CD90のIGドメインを標的とする5 μMのopCas12a-T8N
CPP RNPで処理された。CD90の発現は、処理後第5日にフローサイトメトリーによって測定された。
【
図14】
図14A~14C:ヒトキメラ抗原受容体(CAR)T細胞におけるエクスビボでのopCas12a-RNP-PAGEによるゲノム編集。
図14A:CAR T細胞におけるopCas12a-RNP
CPPによるエクスビボ編集を示す実験の概略図。健康なドナー由来のヒト初代T細胞は、単離され、そして抗CD3、抗CD28、およびIL-2を用いて活性化された。活性化T細胞は、第1日に、CAR19レンチウイルスを用いて形質導入された。第6日に、CAR19+細胞はFACSソートされ、その後、5 μMのopCas12a-T8N
CPP RNPおよび25 μMのTHとの30分間のインキュベーションが行われた。細胞は処理後さらに10日間培養され、そして標的遺伝子の発現がフローサイトメトリーによって測定された。
図14B~14C:ヒトCAR T細胞は、25 μMのTHの存在下で、CD45(PTPRCによってコードされる)の触媒ドメインを標的とするか、またはβ-2-ミクログロブリン(B2Mによってコードされる)の免疫グロブリンドメインを標的とする、5 μMのopCas12a-T8N
CPP RNPで処理された。CD45の発現(
図14B)またはB2Mの発現(
図14C)は、処理後第6日にフローサイトメトリーによって測定された。
【
図15A】
図15A~15G:マウス初代T細胞における、臨床的意義のある遺伝子のCas9-PAGEシステムによる高効率インビボ編集。
図15A:マウス初代CD8 T細胞においてインビボでPAGEシステムを評価するための実験ワークフローの概略図。P14トランスジェニック(CD45.1+またはCD45.1/2+コンジェニック)マウス由来のドナーCD8 T細胞は単離され、そして抗CD3、抗CD28、およびIL-2を用いて活性化され、続いて、蛍光マーカーに連結されている、試験物のsgRNA発現ベクターまたは陰性対照のsgRNA発現ベクターのいずれかを用いた、レトロウイルスによる形質導入が行われた。sgRNAを用いて形質導入されたT細胞は、5 μMのCas9-T6N
CPPおよび25 μMのTHペプチドと30分間インキュベートされ、その後、Cas9陽性であってかつsgRNA陽性である(二重陽性)集団を富化するためのFACSソーティングが行われた。試験物のsgRNAを用いて形質導入されたP14 T細胞、および陰性対照のsgRNAを用いて形質導入されたP14 T細胞は、1:1の割合で混合され、続いて、LCMVクローン13ウイルスに感染させたCD45.2+コンジェニックレシピエントマウスへの養子移植が行われた。遺伝子編集およびP14 T細胞集団は、フローサイトメトリーによって30日間にわたり経時的に評価された。
図15B:感染後第8日における、sgThy1_IG1が媒介する編集の後のCD90の表面発現についてのフローサイトメトリープロットの一例であり、かつ(
図15C)はCD90の表面発現の定量化である。
図15D~15E:sgPdcd1_IG44が媒介する編集の後の、PD-1についてのものである点を除き、
図15B~15Cと同様である。
図15F:記載されるsgRNAを用いて形質導入され、同時移植されたたP14 T細胞の、血中における経時的な比率。
図15G:30日間の期間にわたる血中の全CD8 T細胞のうちの比率としての、記載されるsgRNAを用いて形質導入されたP14 T細胞。タイムポイント1つにつきn = 5~10であり、データは2つの実験の代表値である。
【
図16】
図16A~16C:Cas9-BE PAGEは、K562 d2GFPレポーター細胞株において塩基編集を示す。
図16A:Cas9-BE発現構築物の概略図。
図16B:K562 d2GFPレポーター細胞株においてCas9-BE PAGEシステムの塩基編集効率を評価する実験ワークフローの概略図。K562細胞は、d2GFP蛍光レポーターと、d2GFP蛍光レポーター遺伝子を標的とするsgRNAとを安定的に発現するデュアル発現ベクターか、またはd2GFP蛍光レポーターと、陰性対照としてAno9遺伝子を標的とするsgRNAとを安定的に発現するデュアル発現ベクターを用いて、レンチウイルスにより形質導入された。K562 d2GFP細胞は、Cas9-BE-T6N
CPPおよびTHペプチドと30分間インキュベートされ、続いて、該タンパク質およびペプチドの洗浄除去が行われた。GFPに連結されているCas9-BEタンパク質が完全に分解した際の、d2GFPレポーターの蛍光の喪失に基づいて、塩基編集は処理後第5日に評価された。
図16C:
図16Bに記載される、K562 d2GFPレポーター細胞株におけるd2GFP発現の喪失の定量化。
【発明を実施するための形態】
【0022】
詳細な説明
本明細書において、最適化されており、高効率であり、安価であり、かつ新規である遺伝子編集方法であって、エンドソーム脱出ペプチドに連結されている細胞膜透過性Casタンパク質を用いる方法が、細胞において確立された。本研究は、この細胞膜透過性Casツールについての新規な組成物を作製したものである。細胞膜透過性CRISPR-Casシステムを用いる既報の遺伝子編集方法(Ramakrishna et al., (2014) Genome Res 24, 1020-1027; Staahl et al., (2017) Nat Biotechnol 35, 431-434)と比較して、本方法は、インビトロおよびインビボの両方において、高い遺伝子編集効率を達成する。マウス初代T細胞のための既報の遺伝子編集方法は、リボヌクレオタンパク質(RNP)複合体のエレクトロポレーションを必要とするCRISPR-Casシステムを用いるものである(Kornete et al., (2018) J Immunol 200, 2489-2501; Nussing et al., (2020) J. Immunol)が、これと比較して、本方法はより安価であり、かつより容易に実験ワークフローに導入できる。本方法はエレクトロポレーションを必要としないが、その一方で、以下のいずれかを必要とする:(1) 細胞膜透過性Casタンパク質およびエンドソーム脱出ペプチドを、sgRNA発現構築物を感染させた細胞とインキュベートすること、または(2) 細胞膜透過性Cas・sgRNAリボヌクレオタンパク質(RNP)複合体、およびエンドソーム脱出ペプチドを、細胞とインキュベートすること。さらに本方法では、遺伝子編集を達成するのに、Casタンパク質を発現するトランスジェニックマウスを必要としないため、特異的なCasトランスジェニックマウス系統を作製する時間および費用が不要になる。重要なことに、インキュベーションの2日後に、細胞は細胞膜透過性Casタンパク質の大半を喪失するため、これは、Casタンパク質の免疫原性を低下させ、かつ/または他の研究において観察されているゲノム上のオフターゲット効果を減少させる。
【0023】
マウスおよびヒトの初代T細胞、または他の初代免疫細胞(ヒト免疫細胞が含まれる)における遺伝子編集を達成するために、ならびにCRISPR-CASスクリーニングを可能にするために、研究者は本方法を使用することが可能である。本方法において使用されるセッティングはまた、Cas9に加えて、他のCasタンパク質、すなわち、Cas12a、およびCas9塩基エディターにも適用することが可能である。
【0024】
本開示に記載される方法は、本明細書に開示される特定の方法および実験条件に限定されるものではなく、そのため、方法および条件は変化し得ることが理解されるべきである。本明細書において使用される用語は、ある特定の態様を記述することのみを目的としていて、限定することを意図してはいないこともまた、理解されるべきである。
【0025】
さらに、本明細書に記載される実験は、別途指定されない限り、当業者の技能内である、慣用の分子生物学的技術および細胞生物学的技術、ならびに慣用の免疫学的技術を使用している。そのような技術は当業者に周知であり、かつ文献において十分に説明されている。たとえば、以下を参照されたい:全ての補遺を含めたAusubelら編 "Current Protocols in Molecular Biology", John Wiley & Sons, Inc., NY, N.Y. (1987-2008)、MR GreenおよびJ. Sambrookによる"Molecular Cloning: A Laboratory Manual"(第4版)、ならびにHarlowら "Antibodies: A Laboratory Manual" 第14章、Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor(2013、第2版)。
【0026】
A. 定義
別途定義されない限り、本明細書において使用される科学用語および技術用語は、当業者が通常理解している意味を有する。何らかの潜在的多義性が生じた場合には、辞書による定義または外部による定義よりも、本明細書に提供される定義が優先される。文脈が他を必要としない限り、単数形は複数のものを含むものとし、かつ複数形は単数のものを含むものとする。「または」の使用は、別途指定されない限り、「および/または」を意味する。「含む(including)」との用語、ならびに他の形、たとえば「含む(includes)」および「含まれる(included)」などの使用は、限定するものではない。
【0027】
概して、本明細書に記載される、細胞培養および組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、ならびにタンパク質化学および核酸化学、ならびにハイブリダイゼーションに関して使用される専門用語は、当技術分野において周知であり、かつ広く使用されているものである。別途指定されない限り、本明細書に提供される方法および技術は、概して、当技術分野において周知の慣用の方法にしたがって、かつ、本明細書の全体で引用されかつ論じられているさまざまな総合的な参考文献およびさまざまなより詳細な参考文献に記載されているように、実施される。酵素反応および精製技術は、当技術分野において一般的に行われているように、または本明細書に記載されるように、製造元の仕様書にしたがって実施される。本明細書に記載される、分析化学、合成有機化学、ならびに医薬品化学および薬化学に関して使用される専門用語、ならびにそれら分野の実験手技および技術は、当技術分野において周知であり、かつ広く使用されているものである。化学合成、化学分析、医薬の調製、医薬の製剤、および医薬の送達、ならびに患者の処置に関しても、標準的な技術が使用される。
【0028】
本開示がより容易に理解されるように、抜粋された用語が定義される。
【0029】
「1つの(a)」および「1つの(an)」との冠詞は、本明細書において、1つの、または複数の(すなわち少なくとも1つの)、該冠詞の文法上の目的語を指すために使用される。一例として、「要素」とは1つの要素または複数の要素を意味する。
【0030】
「約」とは、本明細書において使用される場合、測定可能な値、たとえば量、持続時間等を指す際に、指定された値からの±20%または±10%の変動、より好ましくは±5%の変動、さらにより好ましくは±1%の変動、そしていっそうより好ましくは±0.1%の変動であって、開示される方法を実施するために適切であるような変動を包含することを意味する。
【0031】
「活性化」とは、本明細書において使用される場合、検出可能な細胞増殖を誘導するのに十分な刺激がなされている、T細胞の状態を指す。活性化はまた、誘導されたサイトカイン産生、および検出可能なエフェクター機能にも関連し得る。「活性化T細胞」との用語は、とりわけ、細胞分裂を行っているT細胞を指す。
【0032】
本明細書において使用される場合、疾患を「緩和する」とは、疾患の症状のうちの1種または複数種の重症度を減少させることを意味する。
【0033】
「抗原」との用語は、本明細書において使用される場合、免疫応答を引き起こす分子として定義される。この免疫応答は、抗体産生もしくはある特定の免疫担当細胞の活性化のいずれか、またはそれらの両方を伴い得る。事実上全てのタンパク質またはペプチドを含めた任意の高分子が抗原として作用することが可能であることを、当業者であれば理解するであろう。
【0034】
さらに、抗原は組み換えDNAに由来してよく、またはゲノムDNAに由来してもよい。したがって、免疫応答を誘発するタンパク質をコードするヌクレオチド配列またはそのような部分的なヌクレオチド配列を含む、任意のDNAが、本明細書において使用される用語としての「抗原」をコードすることを、当業者であれば理解するであろう。さらに、当業者であれば、抗原をコードするのは、必ずしも遺伝子の全長ヌクレオチド配列だけではないことを理解するであろう。本発明は、複数の遺伝子のヌクレオチド配列を部分的に使用することを含むものであるが、これに限定されないことは明白であり、かつ、所望の免疫応答を誘発するために、これらのヌクレオチド配列がさまざまな組み合わせで配置されることも明白である。さらに、当業者であれば、抗原が「遺伝子」によってコードされる必要は全くないことを理解するであろう。抗原を合成して作製してよく、または抗原が生物学的試料に由来してもよいことは、明白である。そのような生物学的試料には、組織試料、腫瘍試料、細胞、または生物学的流体が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0035】
本明細書において使用される場合、「自家」との用語は、それが後に再導入される個体と同じ個体に由来する、任意の材料を指すことが意図される。
【0036】
「共刺激分子」とは、共刺激リガンドに特異的に結合し、それにより、T細胞による共刺激応答を媒介する、T細胞上のコグネイト結合パートナーを指し、ここで共刺激応答とは、たとえば増殖であるが、これに限定されない。共刺激分子には、MHCクラスI分子、BTLA、およびTollリガンド受容体が含まれるが、これらに限定されない。
【0037】
「共刺激シグナル」とは、本明細書において使用される場合、一次シグナル、たとえばTCR/CD3の会合などと組み合わせられて、T細胞の増殖、および/または重要な分子の上方制御もしくは下方制御を引き起こす、シグナルを指す。
【0038】
「疾患」とは、動物はホメオスタシスを維持することが不可能であって、かつ、該疾患が好転しない場合には、動物の健全性がその後悪化し続けるという、動物の健康状態である。対照的に、動物における「障害」とは、動物がホメオスタシスを維持することは可能であるが、該動物の健康状態が、障害の非存在下で生じ得るものと比べて好ましいものではない、健康状態である。処置されないままでも、障害は動物の健康状態のさらなる低下を必ずしも引き起こすわけではない。
【0039】
「下方制御」との用語は、本明細書において使用される場合、1つまたは複数の遺伝子の遺伝子発現の、減少または消失を指す。
【0040】
「有効量」または「治療的有効量」は、本明細書において互換性をもって使用され、かつこれらは、ある特定の生物学的結果を達成するのに有効な、または治療的もしくは予防的恩恵を提供するのに有効な、本明細書に記載される化合物、製剤、物質、または組成物の量を指す。そのような結果には、哺乳動物に投与された際に、本発明の組成物の非存在下で検出される免疫応答と比較して、検出可能なレベルの免疫抑制または免疫寛容を引き起こす量が含まれ得るが、これらに限定されない。免疫応答は、当技術分野において認識されている多くの方法によって、容易に評価することが可能である。当業者であれば、本明細書において投与される組成物の量は変化するものであり、かつ、たとえば以下のようないくつかの因子に基づいて容易に決定可能であることを理解するであろう:処置されている疾患または異常、処置されている哺乳動物の年齢ならびに健康状態および身体状態、疾患の重症度、投与される特定の化合物、等。
【0041】
「コードする」とは、ポリヌクレオチド、たとえば、遺伝子、cDNA、またはmRNAなどにおける、特定のヌクレオチド配列の生来の特性であって、ヌクレオチドの規定の配列(すなわち、rRNA、tRNAおよびmRNA)またはアミノ酸配列の規定の配列のいずれかを有し、かつそれらに起因する生物学的特性も有する他のポリマーおよび高分子の、合成のための鋳型として、生物学的プロセスにおいて作用する、という特性を指す。したがって、ある遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳により、細胞または他の生物学的システムにおいてタンパク質が産生される場合、該遺伝子はタンパク質をコードする。コーディング鎖は、そのヌクレオチド配列がmRNA配列と同一であってかつ通常配列表に提供されるものであり、また非コーディング鎖は、遺伝子またはcDNAを転写するための鋳型として使用されるものであり、これらは両方とも、該遺伝子またはcDNAに対応するタンパク質または他の産物をコードする、と称され得る。
【0042】
本明細書において使用される場合、「内在の」とは、生物、細胞、組織、またはシステムの内部由来であるか、または生物、細胞、組織、またはシステムの内部で産生された、任意の材料を指す。
【0043】
「エピトープ」との用語は、本明細書において使用される場合、免疫応答を誘発することが可能である、抗原上の小さな化学的分子として定義され、これはB細胞応答および/またはT細胞応答を誘導する。1つの抗原は、1つまたは複数のエピトープを有し得る。大半の抗原は多数のエピトープを有する;すなわち、それら抗原は多価である。概して、エピトープのサイズは、大まかに言って約10個のアミノ酸および/または糖というものである。好ましくは、エピトープは約4~18アミノ酸であり、より好ましくは約5~16アミノ酸であり、かつさらにより最も好ましくは6~14アミノ酸であり、より好ましくは約7~12、かつ最も好ましくは約8~10アミノ酸である。一般的には、分子の特異的な線状配列よりも3次元構造全体のほうが抗原特異性の主な基準となっていること、かつそれにより、あるエピトープと別のエピトープとが区別されることを、当業者であれば理解している。本開示に基づけば、本発明において使用されるペプチドはエピトープであり得る。
【0044】
本明細書において使用される場合、「外来の」との用語は、生物、細胞、組織、またはシステムの外部から導入されたか、または生物、細胞、組織、またはシステムの外部で産生された、任意の材料を指す。
【0045】
「拡大」との用語は、本明細書において使用される場合、数の増加を指し、これは、T細胞の数の増加などである。1つの態様において、エクスビボで拡大させたT細胞は、培養物中に元々存在する数と比べて、その数が増加している。別の態様において、エクスビボで拡大させたT細胞は、培養物中の他の細胞型と比べて、その数が増加している。「エクスビボ」との用語は、本明細書において使用される場合、生きている生物(たとえばヒト)から移動させた細胞、および生物の外部で(たとえば、培養皿において、試験管において、またはバイオリアクターにおいて)増殖させた細胞を指す。
【0046】
「発現」との用語は、本明細書において使用される場合、そのプロモーターによって駆動されるある特定のヌクレオチド配列の、転写および/または翻訳として定義される。
【0047】
「発現ベクター」とは、発現させようとするヌクレオチド配列に機能的に連結されている発現制御配列を含む組み換えポリヌクレオチドを含む、ベクターを指す。発現ベクターは、発現のために十分なシス作用性エレメントを含む;発現のための他のエレメントは、宿主細胞によって、またはインビトロ発現システムにおいて、供給され得る。発現ベクターには、当技術分野において公知のもの全てが含まれ、これはたとえば、組み換えポリヌクレオチドを包含する、コスミド、プラスミド(たとえば、ネイキッドのもの、またはリポソーム中に含まれるもの)、ならびにウイルス(たとえばセンダイウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)などである。
【0048】
「同一性」とは、本明細書において使用される場合、2つのポリマー分子の間、特に2つのアミノ酸分子の間、たとえば2つのポリペプチド分子の間などにおける、サブユニット配列の同一性を指す。2つのアミノ酸配列が同じ位置において同じ残基を有している場合;たとえば、2つのポリペプチド分子のそれぞれにおいて、ある位置がアルギニンによって占められている場合、両配列は当該位置において同一である。同一性、またはアラインメントにおいて2つのアミノ酸配列が同じ位置に同じ残基を有している度合いは、しばしばパーセンテージとして表現される。2つのアミノ酸配列の間の同一性は、マッチしているかまたは同一である位置の数の、一次関数である;たとえば、2つの配列における位置の半分(たとえば、10アミノ酸の長さのポリマーにおける5つの位置)が同一である場合、該2つの配列は50%同一である;位置のうちの90%(たとえば10個中9個)がマッチしているかまたは同一である場合、該2つのアミノ酸配列は90%同一である。
【0049】
「免疫応答」との用語は、本明細書において使用される場合、抗原に対する細胞応答であって、リンパ球が、抗原性分子を異物として識別し、そして抗原を除去するように、抗体産生を誘導かつ/またはリンパ球を活性化する際に生じる、細胞応答として定義される。
【0050】
「免疫抑制」との用語は、本明細書において、免疫応答全体を低下させることを指すために使用される。
【0051】
「挿入/欠失」は一般的に「インデル」と略されるが、これは、ゲノムにおいてある特定のヌクレオチド配列が存在する(挿入)かまたは非存在である(欠失)という、遺伝学的多型の一種である。
【0052】
「単離された」とは、天然の状態から変化していること、または天然の状態から切り離されていることを意味する。たとえば、生きている動物において天然に存在している核酸またはペプチドは、「単離され」ていないが、その天然の状態において共存している物質から部分的にまたは完全に分離されている同じ核酸またはペプチドは、「単離されている」。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に精製された形態で存在してよく、または非天然の環境中に、たとえば宿主細胞内などに、存在してもよい。
【0053】
「ノックダウン」との用語は、本明細書において使用される場合、1つまたは複数の遺伝子の遺伝子発現の、減少を指す。
【0054】
「ノックイン」との用語は、本明細書において使用される場合、標的配列(たとえば内在の遺伝子座に挿入されている、外来の核酸配列を指す。いくつかの態様において、標的配列が遺伝子である場合、ノックインが起こると、標的遺伝子の発現を制御する上流および/または下流の任意の調節エレメントと機能的に連結されている、外来の核酸配列が生じる。いくつかの態様において、ノックインが起こると、標的遺伝子の発現を制御する上流および/または下流のいかなる調節エレメントとも機能的に連結されていない、外来の核酸配列が生じる。
【0055】
「ノックアウト」との用語は、本明細書において使用される場合、1つまたは複数の遺伝子の遺伝子発現の、消失を指す。
【0056】
「レンチウイルス」とは、本明細書において使用される場合、レトロウイルス科(Retroviridae family)の属の1つを指す。レンチウイルスは、非分裂細胞に感染することが可能である点において、レトロウイルスの中でも独特である;レンチウイルスは、相当量の遺伝学的情報を宿主細胞のDNAに送達することが可能であるため、該ウイルスは、遺伝子送達ベクターとして最も効率的な手法の1つとなっている。HIV、SIV、およびFIVは全て、レンチウイルスの一例である。レンチウイルスに由来するベクターは、インビボにおいて、顕著なレベルの遺伝子移入を達成する手段を提供する。
【0057】
「改変された」との用語は、本明細書において使用される場合、本発明の分子または細胞の、変化した状態または変化した構造を意味する。分子は、化学的改変、構造的改変、および機能的改変を含めた、多くの様式において改変され得る。細胞は、核酸の導入によって改変され得る。
【0058】
「調節する」との用語は、本明細書において使用される場合、処置もしくは化合物の非存在下での対象における応答レベルと比較して、および/または未処置である点以外は同一である対象における応答レベルと比較して、対象において応答レベルの検出可能な増加または減少をもたらすことを意味する。該用語には、天然のシグナルまたは応答を乱し、かつ/またはそれらに影響を及ぼし、それにより、対象、好ましくはヒトにおいて有益な治療応答をもたらすことが、包含される。
【0059】
本発明の文脈においては、一般的に存在する核酸塩基について以下の略称が使用される。「A」とはアデノシンを指し、「C」とはシトシンを指し、「G」とはグアノシンを指し、「T」とはチミジンを指し、かつ「U」とはウリジンを指す。
【0060】
「オリゴヌクレオチド」との用語は、典型的には短いポリヌクレオチドを指す。ヌクレオチド配列がDNA配列(すなわち、A、T、C、G)によって表されている場合、これには、「T」が「U」に置き換わっているRNA配列(すなわち、A、U、C、G)もまた含まれることが理解される。
【0061】
別途指定されない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」には、互いの縮重バージョンであるヌクレオチド配列、および同じアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列が全て含まれる。タンパク質またはRNAをコードするヌクレオチド配列、との表現には、タンパク質をコードするヌクレオチド配列の一部のバージョンにはイントロンを含むものがあり得る、という程度において、イントロンもまた含まれ得る。
【0062】
免疫原性組成物の「非経口」投与には、たとえば、皮下(s.c.)への、静脈内(i.v.)への、筋肉内(i.m.)への、または胸骨内への、注射技術または注入技術が含まれる。
【0063】
「ポリヌクレオチド」との用語は、本明細書において使用される場合、ヌクレオチドの鎖として定義される。さらに、核酸とはヌクレオチドのポリマーである。したがって、核酸とポリヌクレオチドは、本明細書において使用される場合、互換性がある。当業者であれば、核酸とはポリヌクレオチドであって、これはモノマーである「ヌクレオチド」へと加水分解することが可能であることについての一般的な知識を有している。モノマーであるヌクレオチドは、ヌクレオシドへと加水分解することが可能である。本明細書において使用される場合、ポリヌクレオチドには、当技術分野において利用可能な任意の手段によって入手される全ての核酸配列が含まれるが、これに限定されず、ここで、該手段には、組み換えによる手段、すなわち、通常のクローニング技術およびPCR等を用いて、組み換えライブラリーまたは細胞のゲノムから核酸配列をクローニングすること等が含まれ、かつ、合成による手段も含まれるが、これらに限定されない。
【0064】
本明細書において使用される場合、「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「タンパク質」との用語は互換性をもって使用され、かつ該用語は、ペプチド結合によって共有結合したアミノ酸残基から構成される化合物を指す。タンパク質またはペプチドは、少なくとも2つのアミノ酸を含まねばならないが、タンパク質配列またはペプチド配列を構成することができるアミノ酸の最大数については制限はない。ポリペプチドには、ペプチド結合によって互いに結合した2つ以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質が含まれる。本明細書において使用される場合、該用語は短い鎖と長い鎖の両方を指し、ここで短い鎖とは、当技術分野において一般的に、たとえば、ペプチド、オリゴペプチド、およびオリゴマーとも称されるものであり、かつ長い鎖とは、当技術分野において通常タンパク質と称され、多くのタイプが存在しているものである。「ポリペプチド」には、とりわけ、たとえば、生物学的に活性な断片、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモダイマー、ヘテロダイマー、ポリペプチドのバリアント、改変されたポリペプチド、誘導体、アナログ、融合タンパク質などが含まれる。ポリペプチドには、天然のペプチド、組み換えペプチド、合成ペプチド、またはそれらの組み合わせが含まれる。
【0065】
「特異的に結合する」との用語は、本明細書において抗体に関して使用される場合、試料において、ある特異的な抗原を認識するが、他の分子を認識したり他の分子に結合することが実質的にない抗体を意味する。たとえば、ある1つの生物種由来の抗原に特異的に結合する抗体は、1つまたは複数の生物種由来の抗原にも結合する可能性がある。しかしながら、そのような種間交差反応性それ自体は、抗体を特異的であると分類した点に変化を及ぼすものではない。別の例において、ある抗原に特異的に結合する抗体は、該抗原の、異なるアレル型にも結合する可能性がある。しかしながら、そのような交差反応性それ自体は、抗体を特異的であると分類した点に変化を及ぼすものではない。いくつかの例において、「特異的な結合」または「特異的に結合する」との用語は、ある抗体かタンパク質かまたはペプチドと、第2の化学種との相互作用に関して、該相互作用が、該化学種におけるある特定の構造(たとえば抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存性であることを意味するために使用され得る;これはたとえば、ある抗体が、タンパク質全般ではなく、ある特定のタンパク質構造を認識しかつそれに結合することなどである。ある抗体がエピトープ「A」に対して特異的である場合、標識されている「A」と該抗体とを含む反応において、エピトープAを含む分子(または遊離している未標識のA)が存在するのであれば、標識されているAであって該抗体と結合しているAの量は、減少するであろう。
【0066】
「刺激」との用語は、刺激分子(たとえばTCR/CD3複合体)がそのコグネイトリガンドと結合し、それがシグナル伝達イベントを媒介することによって誘導される、一次反応を意味し、ここでシグナル伝達イベントとは、たとえばTCR/CD3複合体を介したシグナル伝達であるが、これに限定されない。刺激は、ある種の分子の発現の変化を媒介し得、これはたとえば、TGF-βの下方制御、および/または細胞骨格構造の再構成等である。
【0067】
「刺激分子」との用語が本明細書において使用される場合、これは、抗原提示細胞に存在するコグネイト刺激リガンドに特異的に結合する、T細胞上の分子を意味する。
【0068】
「刺激リガンド」とは、本明細書において使用される場合、抗原提示細胞(たとえば、aAPC、樹状細胞、B細胞等)に存在する場合に、T細胞上のコグネイト結合パートナー(本明細書において「刺激分子」と称される)と特異的に結合することが可能であって、それにより、T細胞による一次反応であって、活性化、免疫応答の開始、増殖等が含まれるがこれらに限定されない一次反応を媒介する、リガンドを意味する。刺激リガンドは当技術分野において周知であり、かつ、とりわけ、ペプチドがロードされているMHCクラスI分子、抗CD3抗体、スーパーアゴニスト抗CD28抗体、およびスーパーアゴニスト抗CD2抗体を包含する。
【0069】
「対象」との用語は、免疫応答を生じさせることが可能な生きている生物(たとえば哺乳動物)を包含することが意図される。「対象」または「患者」とは、本明細書において使用される場合、ヒトまたは非ヒト哺乳動物であり得る。非ヒト哺乳動物には、たとえば家畜およびペットが含まれ、これはたとえば、ヒツジ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、およびネズミである哺乳動物などである。好ましくは、対象はヒトである。
【0070】
「標的部位」または「標的配列」とは、核酸の一部分を規定する核酸配列であって、結合が生じるのに十分な条件下で、そこに結合分子が特異的に結合し得るという、核酸配列を指す。いくつかの態様において、標的配列とは、核酸の一部分を規定するゲノムの核酸配列であって、結合が生じるのに十分な条件下で、そこに結合分子が特異的に結合し得るという、核酸配列を指す。
【0071】
「治療」との用語は、本明細書において使用される場合、処置および/または予防を意味する。治療効果は、病的状態の、抑制、寛解、または根絶によって得られる。
【0072】
「移植物」とは、移植される、生体適合性ラティス、またはドナーの組織、器官、もしくは細胞を指す。移植物の一例には、皮膚細胞または皮膚組織、骨髄、ならびに、たとえば、心臓、膵臓、腎臓、肺、および肝臓などといった固形臓器が含まれ得るが、これらに限定されない。移植物とはまた、宿主に投与される任意の材料をも指し得る。たとえば、移植物とは、核酸またはタンパク質を指し得る。
【0073】
「トランスフェクト」または「形質転換」または「形質導入」との用語は、本明細書において使用される場合、外来の核酸が宿主細胞に移入されるかまたは導入されるプロセスを指す。「トランスフェクトされた」または「形質転換された」または「形質導入された」細胞とは、外来の核酸を用いて、トランスフェクトされている、形質転換されている、または形質導入されている、細胞である。細胞には、対象の初代細胞およびその子孫が含まれる。
【0074】
疾患を「処置する」とは、本明細書において該用語が使用される場合、患者が経験する疾患または障害の、少なくとも1種類の徴候または症状の、頻度または重症度を減少させることを意味する。
【0075】
「ベクター」とは、単離された核酸を含んでいて、かつ該単離された核酸を細胞の内部へと送達するために使用可能である、組成物である。当技術分野においては多数のベクターが公知であり、これには、線状ポリヌクレオチド、イオン性または両親媒性の化合物と会合しているポリヌクレオチド、プラスミド、およびウイルスが含まれるが、これらに限定されない。したがって、「ベクター」との用語には、自立的に複製するプラスミドまたはウイルスが含まれる。該用語には、細胞への核酸の移入を促進する、プラスミドではなくかつウイルスでもない化合物が含まれると解釈されるべきでもあり、該化合物はたとえば、ポリリジン化合物、リポソーム等といったものである。ウイルスベクターの例には、センダイウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター等が含まれるが、これらに限定されない。
【0076】
範囲:本開示の全体にわたり、本発明のさまざまな局面は、範囲の形式をとって表現され得る。範囲の形式をとる記載は、単に利便性および簡潔性のためにそうされているのであって、本発明の範囲に対する固定的な限定として解釈されるべきではないことが、理解されるべきである。したがって、範囲の記載は、該範囲内にある、可能な全ての部分範囲と可能な全ての個々の数値とを具体的に開示している、とみなされるべきである。たとえば、1~6のような範囲の記載は、その範囲内にある、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6等といった部分範囲と、1、2、2.7、3、4、5、5.3、および6などといった個々の数とを具体的に開示している、とみなされるべきである。これは、範囲の幅にかかわらず適用される。
【0077】
B. 遺伝子編集のインビトロ方法およびインビボ方法
本明細書において、ペプチド支援型ゲノム編集(PAGE)システムと称される、新規なCRISPR-Casシステムを用いた(インビトロ、エクスビボ、およびインビボでの)遺伝子編集方法が提供される。PAGEシステムは、細胞膜透過性Cas(たとえば、細胞膜透過性ペプチド(CPP)に連結されているCas(たとえばCas9またはCas12a))、およびCPPに連結されているエンドソーム脱出ペプチド(たとえばdTAT-HA2)を含む。本方法を用いて、Casは、ウイルス依存性ではなくエレクトロポレーション依存性でもない様式において、細胞(たとえば初代休止T細胞)へと導入される。次に、1種類の1本鎖ガイドRNA(sgRNA)もしくはCRISPR RNA(crRNA);または複数種類のsgRNAもしくはcrRNAが、(たとえば、レトロウイルス発現構築物またはRNPによって)細胞に導入されて、インビトロでの、エクスビボでの、およびインビボでの、細胞(たとえば初代CD8 T細胞)の編集が達成され得る。
【0078】
1つの局面において、本開示は遺伝子編集のインビトロ方法を提供し、該方法は以下の段階を含む:細胞膜透過性Casおよびエンドソーム脱出ペプチドを含むPAGEシステム、ならびに少なくとも1種類のsgRNAまたはcrRNAを、細胞に導入する段階。細胞膜透過性Casは、CPPに連結されているCas(たとえば、Cas9、Cas12a)を含む。エンドソーム脱出ペプチドは、CPPに連結されている。
【0079】
別の局面において、本開示は遺伝子編集のエクスビボ方法またはインビボ方法を提供し、該方法は以下の段階を含む:細胞膜透過性Casおよびエンドソーム脱出ペプチドを含むPAGEシステム、ならびに少なくとも1種類のsgRNAまたはcrRNAを、細胞に導入する段階、ならびに該細胞を対象に投与する段階。細胞膜透過性Casは、CPPに連結されているCas(たとえば、Cas9、Cas12a)を含む。エンドソーム脱出ペプチドは、CPPに連結されている。
【0080】
ある態様において、CasはCas9である。本発明において使用され得る例示的なCas9ヌクレアーゼには、S. ピオゲネス(S. pyogenes)Cas9(SpCas9)、S. アウレウス(S. aureus)Cas9(SaCas9)、S. サーモフィルス(S. thermophilus)Cas9(StCas9)、N. メニンギティディス(N. meningitidis)Cas9(NmCas9)、C. ジェジュニ(C. jejuni)Cas9(CjCas9)、およびゲオバチルス(Geobacillus)Cas9(GeoCas9)が含まれるが、これらに限定されない。ある態様において、CasはCas12a(Cpf1)であり、これには、ブチリビブリオ属種(Butyrivibrio sp)のもの(BsCas12a)、チオミクロスピラ属種XS5(Thiomicrospira sp. XS5)のもの(TsCas12a)、モラクセラ・ボーボクリ(Moraxella bovoculi)のもの(MbCas12a)、プレボテラ・ブリアンティイ(Prevotella bryantii)のもの(PbCas12a)、バクテロイデス・オラル(Bacteroidetes oral)のもの(BoCas12a)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)細菌のもの(LbCas12a)、およびアシダミノコッカス属種(Acidaminococcus sp)のもの(AsCas12a)が含まれるが、これらに限定されない。ある態様において、CasはCas12aである。ある態様において、Casは、Cas12b、Cas12d、Cas12f、T7、Cas3、Cas8a、Cas8b、Cas10d、Cse1、Csy1、Csn2、Cas4、Cas10、Csm2、Cmr5、およびFok1からなる群より選択される。
【0081】
ある態様において、CasはCas誘導体である。ある態様において、Cas誘導体は、別のタンパク質または触媒ドメインに連結されているCasタンパク質である。Casタンパク質は、当技術分野において公知の任意の手段によって、別のタンパク質または触媒ドメインに連結されてよく、該手段はたとえば、化学結合、融合、または翻訳後修飾などであるが、これらに限定されない。ある態様において、タンパク質または触媒ドメインは、AIDデアミナーゼ、APOBECデアミナーゼ、TadAデアミナーゼ、TET酵素、DNAメチルトランスフェラーゼ、トランス活性化ドメイン、逆転写酵素、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、サーチュイン、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデメチラーゼ、キナーゼ、およびホスファターゼからなる群より選択される。
【0082】
ある態様において、Casは核局在化シグナル(NLS)配列を含む。当技術分野において公知であるかまたは本明細書に開示される、任意のNLSが使用可能である。ある態様において、CasはMyc NLS配列を含む。ある態様において、Myc NLS配列は、アミノ酸配列PAAKRVKLD(SEQ ID NO: 1)を含むか、または該アミノ酸配列からなる。ある態様において、Casは、4xMyc NLS配列または6xMyc NLS配列を含む。ある態様において、NLS(すなわち4xMycまたは6xMyc)配列は、GGSリンカーをさらに含む。
【0083】
ある態様において、細胞膜透過性Casは、細胞膜透過性ペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むか、または細胞膜透過性ペプチドを含むアミノ酸配列を含む。細胞膜透過性ペプチド(CPP、タンパク質導入ドメイン、PTDとしても知られる)とは、細胞膜を容易に通過することが可能な、小さなペプチドドメイン(概して40アミノ酸未満)を有する担体である。ナノサイズの粒子から小さな化学的分子の範囲にわたるさまざまな分子カーゴの細胞内取り込みを促進するとして、複数種の細胞膜透過性ペプチドが同定されている。細胞膜透過性配列は、ペプチド配列を伸長するように使用することが可能であって、それにより、該ペプチド配列が細胞膜に対してより透過性になり、または細胞膜透過性配列は、他のカーゴ分子に連結させることが可能であり、これは該カーゴ分子の取り込みを増強する。細胞膜透過性配列は、カーゴ分子に直接融合しているか、またはカーゴ分子に化学的に連結しているかのいずれかであってよい。そのような細胞膜透過性ペプチドの例には、HIV-1由来のトランス活性化転写活性化因子(Tat)、オリゴ-Arg、KALA、トランスポータン、ペネトラチン、ペネトラチン-Arg、TAT-HA2、およびdTAT-HA2E5が含まれるが、これらに限定されない。PAGEシステムは、2種類の異なるCPPを含んでよく、または同じCPPを2つ含んでもよい。CPPは、当技術分野において公知の任意の手段によってCasまたはエンドソーム脱出ペプチドに連結されてよく、該手段はたとえば、化学結合、融合、または翻訳後修飾などであるが、これらに限定されない。ある態様において、CPPは、表2に列挙されるペプチドを含む。ある態様において、Casは、表2に列挙されるCPPに連結されている。ある態様において、エンドソーム脱出ペプチドは、表2に列挙されるCPPに連結されている。ある態様において、CPPは、SEQ ID NO: 10~1422に記載のアミノ酸配列のうちの任意のものを含む。ある態様において、Casは、SEQ ID NO: 10~1422に記載のアミノ酸配列のうちの任意のものを含むCPPに、連結されている。ある態様において、エンドソーム脱出ペプチドは、SEQ ID NO: 10~1422に記載のアミノ酸配列のうちの任意のものを含むCPPに、連結されている。
【0084】
ある態様において、細胞膜透過性Casは、HIV-1由来のトランス活性化転写活性化因子(Tat)に由来する配列を含む。ある態様において、Tat配列はアミノ酸配列GRKKRRQRRRPQ(SEQ ID NO: 2)を含む。
【0085】
ある態様において、細胞膜透過性Casは0.05 μM~10 μMの濃度で細胞に導入される。ある態様において、細胞膜透過性Casは約0.5 μMの濃度で細胞に導入される。
【0086】
ある態様において、エンドソーム脱出ペプチドはdTAT-HA2を含む。使用され得る他のエンドソーム脱出ペプチドには、EED、HA2-ペネトラチン、GALA、INF-7等が含まれるが、これらに限定されない。ある態様において、エンドソーム脱出ペプチドは、表1に列挙されるペプチドまたは配列のいずれか1つを含む。エンドソーム脱出ペプチドは、表1に列挙されるものに関して、該ペプチドに対する化学修飾、または該ペプチドの化学修飾誘導体、または該ペプチド中の特定の化学的リンカー、またはアミノ酸のD型の、あらゆるものを包含することが可能である。ある態様において、エンドソーム脱出ペプチドは、SEQ ID NO: 1434~1523に記載の配列のいずれか1つを含む。ある態様において、エンドソーム脱出ペプチドは、SEQ ID NO: 1434~1523に記載の配列のいずれか1つと、化学修飾および/または化学的リンカーとを含む。化学修飾の例には以下が含まれるが、これらに限定されない:リン酸(PO3)、トリフルオロメチル-ビシクロペント-[1.1.1]-1-イルグリシン(CF3-Bpg)、アミノイソ酪酸(Aib)、ステアリル化(ステアリル)、6-アミノヘキサン酸(Ahx)、L-2-ナフチルアラニン(Φ)、および3-アミノ-3-カルボキシプロピル(acp)。
【0087】
ある態様において、エンドソーム脱出ペプチドは10 μM~100 μMの濃度で細胞に導入される。ある態様において、エンドソーム脱出ペプチドは約75 μMの濃度で細胞に導入される。
【0088】
ある態様において、細胞は免疫細胞である。ある態様において、細胞は、マウス初代CD8 T細胞であるか、ヒト初代T細胞であるか、またはヒトiPSC(人工多能性幹細胞)である。
【0089】
ある態様において、方法は、エレクトロポレーションを必要としない。ある態様において、PAGEシステムは、ウシ胎児血清(FBS)も血清も含まない培地中にある細胞に導入される。ある態様において、PAGEシステムは、FBSまたは血清を含む培地中にある細胞に導入される。
【0090】
本方法は、細胞(たとえば真核細胞/ヒト細胞)における、任意の遺伝子/ゲノム領域/ヌクレオチド配列を標的としていると解釈されるべきである。したがって、本明細書における方法とともに使用するために、1種類のsgRNAもしくはcrRNA、または複数種類のsgRNAもしくはcrRNAが、細胞(たとえば真核細胞/ヒト細胞)において任意の遺伝子/ゲノム領域/ヌクレオチド配列を標的とするように、設計され得る。ある態様において、sgRNAは、Ano9またはPdcd1を標的とする。ある態様において、sgRNAは、ヒトAno9またはPdcd1を標的とする。ある態様において、sgRNAは、ヌクレオチド配列
を含むか、または該ヌクレオチド配列からなる。ある態様において、sgRNAは、ヌクレオチド配列
を含むか、または該ヌクレオチド配列からなる。ある態様において、sgRNAは、PtprcまたはThy1を標的とする。ある態様において、sgRNAは、ヌクレオチド配列
を含むか、または該ヌクレオチド配列からなる。ある態様において、sgRNAは、ヌクレオチド配列
を含むか、または該ヌクレオチド配列からなる。ある態様において、sgRNAは、ヌクレオチド配列
を含むか、または該ヌクレオチド配列からなる。ある態様において、sgRNAは、ヌクレオチド配列
を含むか、または該ヌクレオチド配列からなる。ある態様において、sgRNAは、ヌクレオチド配列
を含むか、または該ヌクレオチド配列からなる。ある態様において、crRNAは、PTPRCまたはB2Mを標的とする。ある態様において、crRNAは、ヌクレオチド配列
を含むか、または該ヌクレオチド配列からなる。ある態様において、crRNAは、ヌクレオチド配列
を含むか、または該ヌクレオチド配列からなる。ある態様において、crRNAは、ヌクレオチド配列
を含むか、または該ヌクレオチド配列からなる。ある態様において、crRNAは、ヌクレオチド配列
を含むか、または該ヌクレオチド配列からなる。ある態様において、crRNAは、ヌクレオチド配列
を含むか、または該ヌクレオチド配列からなる。
【0091】
ある態様において、本明細書に開示される方法は、疾患または障害に関して対象を処置するために使用される。該方法は、細胞膜透過性Casおよびエンドソーム脱出ペプチドを含むPAGEシステム、ならびに少なくとも1種類のsgRNAまたはcrRNAを、細胞に導入する段階と、それに続く、該細胞を対象に投与する段階とを含む。編集された細胞が対象に投与された際に、疾患または障害は対象において処置される。ある態様において、対象において処置されようとする疾患または障害は、感染である。ある態様において、疾患または障害はT細胞の疲弊に関連する。
【0092】
ある態様において、PAGEシステムはCRISPR/Cas9システムを含む。CRISPR/Cas9システムは、標的型の遺伝学的変化を誘導するための、容易であってかつ効率的なシステムである。Cas9タンパク質による標的の認識は、ガイドRNA(gRNA)中の「シード」配列を必要とし、かつ、gRNA結合領域の上流にある、保存されたジヌクレオチドを含むプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列をも必要とする。そのためCRISPR/Cas9システムは、gRNAを再設計することによって、細胞株(たとえば293T細胞など)および初代細胞において事実上あらゆるDNA配列を切断するように操作することが可能である。CRISPR/Cas9システムは、1種類のCas9タンパク質を2種類以上のgRNAと共発現させることによって、ゲノム上の複数の遺伝子座を同時に標的とすることが可能であり、そのためこのシステムは、複数遺伝子の編集に、または標的遺伝子の相乗的活性化に適したものとなっている。
【0093】
Cas9タンパク質とガイドRNAは複合体を形成し、これが標的配列を識別しそして切断する。Cas9は6つのドメインから構成されている:REC Iドメイン、REC IIドメイン、ブリッジヘリックスドメイン、PAM相互作用ドメイン、HNHドメイン、およびRuvCドメインである。REC IドメインはガイドRNAに結合し、一方でブリッジヘリックスドメインは標的DNAに結合する。HNHドメインおよびRuvCドメインはヌクレアーゼドメインである。ガイドRNAは、標的DNA配列に対して相補的である5'末端を有するように操作される。ガイドRNAがCas9タンパク質に結合すると、コンフォメーション変化が生じて該タンパク質は活性化される。Cas9は活性化されると、そのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列にマッチする配列と結合することによって、標的DNAを探索する。PAMとは、ガイドRNAに対して相補的な領域の下流1ヌクレオチド以内にある、ヌクレオチド2つまたは3つの塩基配列である。非限定的な一例において、PAM配列は5'-NGG-3'である。Cas9タンパク質は、適切なPAMとともにあるその標的配列を発見すると、PAMの上流の塩基をほどき、そしてそれらを、ガイドRNA上の相補的領域と対形成させる。次に、RuvCヌクレアーゼドメインおよびHNHヌクレアーゼドメインが、PAMの上流側3つ目のヌクレオチド塩基の後で、標的DNAを切断する。
【0094】
遺伝子発現を阻害するために使用されるCRISPR/Casシステムの非限定的な一例である、CRISPRiは、米国特許出願公開第20140068797号に記載されている。CRISPRiは、永続的な遺伝子破壊を誘導するものであり、これは、RNA誘導型Cas9エンドヌクレアーゼを利用してDNAの2本鎖切断を導入し、エラープローン修復経路を始動させてフレームシフト変異をもたらす。触媒不活性型Cas9はエンドヌクレアーゼ活性を欠いている。ガイドRNAと共発現された際に、DNA認識複合体が産生され、これは、転写伸長か、RNAポリメラーゼの結合か、または転写因子の結合を特異的に妨害する。このCRISPRiシステムは、標的遺伝子の発現を効率的に抑制する。
【0095】
標的遺伝子に対して特異的であるガイド核酸配列、およびCasエンドヌクレアーゼが細胞に導入され、そしてこれらが、Casエンドヌクレアーゼが標的遺伝子における2本鎖切断を導入することを可能にする複合体を形成した際に、CRISPR/Casによる遺伝子破壊が生じる。ある態様において、CRISPR/Casシステムは発現ベクターを含み、これはたとえばpAd5F35-CRISPRベクターなどであるが、これに限定されない。他の態様において、Cas発現ベクターは、Cas9エンドヌクレアーゼの発現を誘導する。他のエンドヌクレアーゼもまた使用されてよく、これには、Cas12a(Cpf1)、T7、Cas3、Cas8a、Cas8b、Cas10d、Cse1、Csy1、Csn2、Cas4、Cas10、Csm2、Cmr5、Fok1、当技術分野において公知の他のヌクレアーゼ、およびそれらの任意の組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0096】
ある態様において、Cas発現ベクターの誘導は、Cas発現ベクター中の誘導性プロモーターを活性化する作用物質に、細胞を曝露することを含む。そのような態様において、Cas発現ベクターは誘導性プロモーターを含み、これはたとえば、抗生物質(たとえば、テトラサイクリン、または、ドキシサイクリン等のテトラサイクリン誘導体)への曝露によって誘導可能なものなどである。当業者に公知の他の誘導性プロモーターもまた使用可能である。誘導性物質は、誘導性プロモーターの誘導を引き起こす選択的条件(たとえば、抗生物質等の作用物質への曝露)であり得る。これは、Cas発現ベクターの発現を引き起こす。
【0097】
本明細書において使用される場合、「ガイドRNA」または「gRNA」との用語は、細胞において、RNA誘導型ヌクレアーゼ、たとえばCas9などの、標的配列(たとえば、ゲノム配列またはエピソーマル配列)への特異的な結合(または「ターゲティング」)を促進する、任意の核酸を指す。
【0098】
本明細書において使用される場合、「モジュラー」ガイド、または「デュアルRNA」ガイドは、複数の、かつ典型的には2つの、別個のRNA分子、たとえばCRISPR RNA(crRNA)およびトランス活性化crRNA(tracrRNA)などを含み、これらは、たとえば2連にすることによって、通常は互いに連結されている。gRNAおよびその構成要素はさまざまな文献に記載されている(たとえば、参照により組み入れられるBriner et al. Mol. Cell, 56(2), 333-339 (2014)を参照されたい)。
【0099】
本明細書において使用される場合、「単分子gRNA」、「キメラgRNA」、または「1本鎖ガイドRNA(sgRNA)」には、1つのRNA分子が含まれる。sgRNAは、一緒に連結されたcrRNAおよびtracrRNAであり得る。たとえば、crRNAの3'末端は、tracrRNAの5'末端に連結されていてよい。crRNAおよびtracrRNAは連結されて、1つの単分子gRNAまたは1つのキメラgRNAとしてよく、これはたとえば、crRNA(その3'末端において)とtracrRNA(その5'末端において)との相補的領域の橋渡しをする、4つのヌクレオチド(たとえばGAAA)の「テトラループ」配列または「リンカー」配列を用いることによる。
【0100】
本明細書において使用される場合、「リピート」配列または「リピート」領域とは、crRNAの3'末端かまたはその近くにあり、tracrRNAのアンチリピート配列に対して相補的である、ヌクレオチド配列である。
【0101】
本明細書において使用される場合、「アンチリピート」配列または「アンチリピート」領域とは、tracrRNAの5'末端かまたはその近くにあり、crRNAのリピート配列に対して相補的である、ヌクレオチド配列である。
【0102】
ゲノム編集のための、gRNA/Cas9複合体を含めたガイドRNAの構造および機能に関するさらなる詳細は、少なくとも以下に見いだされ得る:Mali et al. Science, 339(6121), 823-826 (2013);Jiang et al. Nat. Biotechnol. 31(3). 233-239 (2013);およびJinek et al. Science, 337(6096), 816-821 (2012);これらは参照により本明細書に組み入れられる。
【0103】
本明細書において使用される場合、「ガイド配列」または「ターゲティング配列」とは、gRNAが単分子型かモジュラー型かに関わらず、細胞のゲノム上の、編集が望まれるDNA配列中の標的ドメインまたは標的ポリヌクレオチドに対して完全にまたは部分的に相補的である、gRNAのヌクレオチド配列を指す。ガイド配列は、典型的には10~30ヌクレオチドの長さであり、好ましくは16~24ヌクレオチドの長さ(たとえば、16、17、18、19、20、21、22、23、または24ヌクレオチドの長さ)であり、かつこれは、Cas9 gRNAの5'末端かまたはその近くにある。
【0104】
本明細書において使用される場合、「標的ドメイン」または「標的ポリヌクレオチド配列」または「標的配列」とは、gRNAのガイド配列に対して相補的である、細胞のゲノム上のDNA配列である。
【0105】
CRISPR複合体の形成の文脈において、「標的配列」とは、それに対していくらかの相補性を有するようにガイド配列が設計される配列を指し、ここで、標的配列とガイド配列との間のハイブリダイゼーションにより、CRISPR複合体の形成が促進される。ハイブリダイゼーションが引き起こされ、かつCRISPR複合体の形成が促進されるのに十分な相補性があれば、完全な相補性は必ずしも必要ではない。標的配列は任意のポリヌクレオチドを含んでよく、これはたとえば、DNAポリヌクレオチドまたはRNAポリヌクレオチドなどである。ある態様において、標的配列は、細胞の核または細胞質に位置する。他の態様において、標的配列は、真核細胞のオルガネラの内部に、たとえば、ミトコンドリアまたは核の内部にある。典型的には、CRISPRシステムの文脈において、CRISPR複合体(標的配列にハイブリダイズしているガイド配列であって、かつ1つまたは複数のCasタンパク質と複合体を形成しているガイド配列を含む)の形成は、標的配列において、またはその近くにおいて(たとえば、約1塩基対以内、約2塩基対以内、約3塩基対以内、約4塩基対以内、約5塩基対以内、約6塩基対以内、約7塩基対以内、約8塩基対以内、約9塩基対以内、約10塩基対以内、約20塩基対以内、約50塩基対以内、またはさらに離れて)、1つまたは両方の鎖の切断を引き起こす。標的配列と同様に、機能的であるのに十分であれば、完全な相補性は必要ではないと考えられている。
【0106】
ある態様において、CRISPRシステムの構成要素の1つもしくは複数の発現を駆動する1種または複数種のベクターが、宿主細胞に導入され、その結果、CRISPRシステムの構成要素が発現して、1つまたは複数の標的部位におけるCRISPR複合体の形成を引き起こす。たとえば、Casヌクレアーゼ、crRNA、およびtracrRNAはそれぞれ、別個のベクター上で、別個の調節エレメントに機能的に連結されていてよい。あるいは、同じかまたは異なる調節エレメントから発現する構成要素の2つ以上が、1つのベクターに組み合わせられてよく、これとともに、CRISPRシステムの任意の構成要素であって第1のベクターに含まれない構成要素を提供する、1種または複数種の追加のベクターが用いられてよい。1つのベクターに組み合わせられたCRISPRシステムの構成要素は、任意の適切な方向に配置されてよく、これはたとえば、ある1つの構成要素が、第2の構成要素に対して5'側(「上流」側)に位置するか、または第2の構成要素に対して3'側(「下流」側)に位置する配置などである。ある1つの構成要素のコーディング配列は、第2の構成要素のコーディング配列と同じ鎖に位置してよく、または逆の鎖に位置してもよく、かつ、それらは同じ方向に配置されてよく、また逆の方向に配置されてもよい。ある態様において、CRISPR酵素をコードする転写物の発現、ならびに、1つまたは複数のイントロン配列に埋め込まれている、ガイド配列、tracrメイト配列(任意で、ガイド配列に機能的に連結されている)、およびtracr配列(たとえば、それぞれが別個のイントロンに埋め込まれているか、少なくとも1つのイントロンに2つ以上が埋め込まれているか、または1つのイントロンに全てが埋め込まれている)のうちの1つまたは複数をコードする転写物の発現を、1つのプロモーターが駆動する。
【0107】
ある態様において、CRISPR関連(Cas)酵素は融合タンパク質の一部であり、ここで該融合タンパク質は、1つまたは複数の異種性のタンパク質ドメインを含む(たとえば、CRISPR酵素に加えて、約1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、もしくはそれ以上のドメイン、または約1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、もしくはそれ以上より多いドメインを含む)。CRISPR酵素融合タンパク質は、任意の追加のタンパク質配列を含んでよく、かつ任意で、任意の2つのドメイン間のリンカー配列を含んでもよい。CRISPR酵素に融合され得るタンパク質ドメインの例には、エピトープタグ、レポーター遺伝子配列、および以下の活性の1つまたは複数を有するタンパク質ドメインが含まれるが、これらに限定されない:メチラーゼ活性、デメチラーゼ活性、転写活性化活性、転写抑制活性、転写終結因子活性、ヒストン修飾活性、RNA切断活性、および核酸結合活性。CRISPR酵素を含む融合タンパク質の一部を形成し得る、さらなるドメインは、参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第20110059502号に記載されている。ある態様において、標的配列の位置を識別するために、タグ付けされたCRISPR酵素が使用される。
【0108】
哺乳動物細胞および非哺乳動物細胞に、または標的組織に核酸を導入するために、慣用の、ウイルスに基づく遺伝子移入方法、およびウイルスに基づかない遺伝子移入方法が使用され得る。そのような方法は、CRISPRシステムの構成要素をコードする核酸を、培養下の細胞に、または宿主生物中の細胞に投与するために使用され得る。ウイルスではないベクターによる送達システムには、DNAプラスミド、RNA(たとえば、本明細書に記載されるベクターの転写物)、ネイキッド核酸、および送達ビヒクルであってたとえばリポソームなどの送達ビヒクルと複合体を形成している核酸が含まれる。ウイルスベクターによる送達システムには、DNAウイルスおよびRNAウイルスが含まれ、これらは細胞に送達された後で、エピソーマルであるかまたはゲノムに組み込まれるかのいずれかである(Anderson, 1992, Science 256:808-813;およびYu, et al., 1994, Gene Therapy 1:13-26)。
【0109】
いくつかの態様において、CRISPR/Casは、II型のCRISPR/Casシステムに由来する。他の態様において、CRISPR/CasシステムはCas9ヌクレアーゼに由来する。本発明において使用され得る例示的なCas9ヌクレアーゼには、S. ピオゲネスCas9(SpCas9)、S. アウレウスCas9(SaCas9)、S. サーモフィルスCas9(StCas9)、N. メニンギティディスCas9(NmCas9)、C. ジェジュニCas9(CjCas9)、およびゲオバチルスCas9(GeoCas9)が含まれるが、これらに限定されない。
【0110】
一般的に、Casタンパク質は少なくとも1つのRNA認識および/またはRNA結合ドメインを含む。RNA認識および/またはRNA結合ドメインはガイドRNAと相互作用する。Casタンパク質はまた、ヌクレアーゼドメイン(すなわちDNアーゼまたはRNアーゼドメイン)、DNA結合ドメイン、ヘリカーゼドメイン、RNAアーゼドメイン、タンパク質間相互作用ドメイン、二量体化ドメイン、および他のドメインをも含み得る。Casタンパク質は、核酸結合の親和性および/もしくは特異性を増加させるように改変されてよく、酵素活性を変化させるように改変されてよく、かつ/または該タンパク質の別の特性を変化させるように改変されてよい。ある態様において、融合タンパク質のCas様タンパク質は、野生型Cas9タンパク質またはその断片に由来してよい。他の態様において、Casは改変されたCas9タンパク質に由来してよい。たとえば、Cas9タンパク質の1つもしくは複数の特性(たとえば、ヌクレアーゼ活性、親和性、安定性等)を変化させるように、該タンパク質のアミノ酸配列を改変してよい。あるいは、改変型Cas9タンパク質が野生型Cas9タンパク質よりも小さくなるように、Cas9タンパク質の、RNA誘導型切断に関与しないドメインが、Cas9タンパク質から除去されてよい。概して、Cas9タンパク質は少なくとも2つのヌクレアーゼドメイン(すなわちDNアーゼドメイン)を含む。たとえば、Cas9タンパク質は、RuvC様ヌクレアーゼドメインおよびHNH様ヌクレアーゼドメインを含んでよい。RuvCドメインおよびHNHドメインは協働して、DNAにおいて1本鎖を切断して2本鎖切断を作り出す(Jinek, et al., 2012, Science, 337:816-821)。ある態様において、Cas9に由来するタンパク質は、機能的なヌクレアーゼドメインを1つのみ(RuvC様ヌクレアーゼドメインまたはHNH様ヌクレアーゼドメインのいずれか)含むように改変されてよい。たとえば、Cas9に由来するタンパク質は、ヌクレアーゼドメインのうちの1つを欠失させるように改変されてよく、またはヌクレアーゼドメインのうちの1つがもはや機能的ではない(すなわち、ヌクレアーゼ活性が存在しない)ように変異させてもよい。ヌクレアーゼドメインのうちの1つが不活性であるいくつかの態様において、Cas9に由来するタンパク質は、2本鎖核酸にニックを導入することが可能である(そのようなタンパク質は「ニッカーゼ」と称される)が、2本鎖DNAを切断することはできない。上述の態様の任意のものにおいて、周知の方法を用いて、たとえば、部位特異的変異導入、PCRが媒介する変異導入、および全遺伝子合成、ならびに当技術分野において公知の他の方法を用いて、欠失変異、挿入変異、および/または置換変異の1つまたは複数により、ヌクレアーゼドメインのいずれかまたは全てを不活性化させてよい。
【0111】
非限定的な1つの態様において、ベクターはCRISPRシステムの発現を駆動する。当技術分野においては、本発明に有用である適切なベクターが豊富に存在している。使用されるベクターは、真核細胞において、複製に適しており、任意で組み込みにも適しているものである。典型的なベクターは、所望の核酸配列の発現を調節するのに有用な、転写終結因子および翻訳終結因子、開始配列、ならびにプロモーターを含む。本発明のベクターはまた、核酸についての標準的な遺伝子送達プロトコルにおいても使用され得る。遺伝子送達のための方法は当技術分野において公知である(それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,399,346号、同5,580,859号、および同5,589,466号)。
【0112】
さらにベクターは、ウイルスベクターの形態で細胞に提供されてよい。ウイルスベクター技術は当技術分野において周知であり、かつ、たとえば、Sambrookら(第4版"Molecular Cloning: A Laboratory Manual", Cold Spring Harbor Laboratory, New York, 2012)に記載されており、かつウイルス学および分子生物学についての他の手引書にも記載されている。ベクターとして有用であるウイルスには、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、シンドビスウイルス、ガンマレトロウイルス、およびレンチウイルスが含まれるが、これらに限定されない。概して、適切なベクターは、少なくとも1種類の生物において機能的な複製起点、プロモーター配列、都合の良い制限エンドヌクレアーゼ部位、および1つまたは複数の選択可能マーカーを含む(たとえば、WO 01/96584;WO 01/29058;および米国特許第6,326,193号)。
【0113】
【0114】
C. 細胞の供給源
本明細書に開示される方法を用いて、任意の型の細胞を編集することが可能である。ある態様において、細胞は免疫細胞である。免疫細胞とは免疫系の細胞であり、これはたとえば、自然免疫系または適応免疫系の細胞などであって、たとえばリンパ球、典型的にはT細胞および/またはNK細胞を含めた、骨髄系細胞またはリンパ系細胞などである。他の例示的な細胞には幹細胞が含まれ、これはたとえば、人工多能性幹細胞(iPSC)を含めた、複能性幹細胞および多能性幹細胞などである。いくつかの局面において、細胞はヒト細胞である。免疫細胞は、多数の供給源から入手することが可能であり、該供給源には、血液、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、脾臓組織、臍帯、リンパ、リンパ器官が含まれる。
【0115】
ある態様において、免疫細胞はT細胞であり、これはたとえば、CD8+ T細胞(たとえば、初代CD8+ T細胞、CD8+ナイーブT細胞、セントラルメモリーT細胞、もしくはエフェクターメモリーT細胞)、CD4+ T細胞、ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)、制御性T細胞(Treg)、幹細胞メモリーT細胞、リンパ球前駆細胞、造血幹細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、または樹状細胞などである。ある態様において、細胞は単球または顆粒球であり、これはたとえば、骨髄系細胞、マクロファージ、好中球、樹状細胞、マスト細胞、好酸球、および/または好塩基球などである。ある態様において、細胞は、人工多能性幹(iPS)細胞、またはiPS細胞に由来する細胞であり、これはたとえば、対象から作製され、1つもしくは複数の標的遺伝子の発現を変化させるように(たとえば、該遺伝子において変異を誘導するように)操作され、または該発現を操作するように操作され、そして、たとえば、T細胞であってたとえばCD8+ T細胞(たとえば初代CD8+ T細胞、CD8+ナイーブT細胞、セントラルメモリーT細胞、もしくはエフェクターメモリーT細胞)、CD4+ T細胞、幹細胞メモリーT細胞などのT細胞、リンパ球前駆細胞、または造血幹細胞などに分化させた、iPS細胞などである。
【0116】
いくつかの態様において、細胞には、T細胞または他の細胞型の、1種または複数種のサブセットが含まれ、これはたとえば、全T細胞集団、CD4+細胞、CD8+細胞、およびそれらのサブ集団などであり、該サブ集団は、たとえば以下によって定義されるものである:機能、活性化状態、成熟度、分化についての潜在能力、拡大についての潜在能力、再循環についての潜在能力、局在化についての潜在能力、および/もしくは持続性についての潜在能力、抗原特異性、抗原受容体のタイプ、ある特定の器官もしくは区画における存在、マーカーのプロファイルもしくはサイトカイン分泌のプロファイル、ならびに/または分化の程度。T細胞のサブタイプおよびサブ集団、ならびに/またはCD4+ T細胞および/もしくはCD8+ T細胞のサブタイプおよびサブ集団には、以下のものがある:ナイーブT細胞(TN)、エフェクターT細胞(TEFF)、メモリーT細胞およびそのサブタイプであってたとえば幹細胞メモリーT細胞(TSCM)、セントラルメモリーT細胞(TCM)、エフェクターメモリーT細胞(TEM)、または最終分化型エフェクターメモリーT細胞などのサブタイプ、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、未成熟T細胞、成熟T細胞、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞、粘膜関連インバリアントT細胞(MAIT)、内在性のおよび適応性の制御性T細胞(Treg)、ヘルパーT細胞であってたとえばTH1細胞、TH2細胞、TH3細胞、TH17細胞、TH9細胞、TH22細胞、濾胞ヘルパーT細胞などのヘルパーT細胞、α/βT細胞、ならびにδ/γT細胞。ある態様において、当技術分野において利用可能であるあらゆる種類のT細胞株が、使用され得る。
【0117】
ある態様において、細胞はキメラ抗原受容体(CAR)を含む。ある態様において、細胞はCAR T細胞である。例示的なCARには、本明細書に開示されるものが含まれ、US10357514B2、US10221245B2、US10603378B2、US8916381B1、US9394368B2、US20140050708A1、US9598489B2、US9365641B2、US20210079059A1、US9783591B2、WO2016028896A1、US9446105B2、WO2016014576A1、US20210284752A1、WO2016014565A2、WO2016014535A1、およびUS9272002B2に開示されるものも含まれ、かつ当技術分野において一般的に公開されている任意の他のCARも含まれるが、これらに限定されない。本開示には当技術分野において公知の任意のCARが含まれている、と解釈されるべきである。
【0118】
いくつかの態様において、本方法は、対象から免疫細胞を単離する段階、免疫細胞を調製する段階、免疫細胞を処理する段階、免疫細胞を培養する段階、および/または免疫細胞を操作する段階を含む。いくつかの態様において、細胞の調製は、1つまたは複数の培養段階および/または調製段階を含む。記載されるように操作するための細胞は、試料、たとえば生物学的試料などから単離されてよく、これはたとえば、対象から入手されたか、または対象に由来する生物学的試料である。いくつかの態様において、細胞の単離元となる対象は、疾患もしくは異常を有している対象であるか、または細胞療法を必要とする対象であるか、または細胞療法が施される予定の対象である。いくつかの態様における対象は、ある特定の治療的介入を必要とするヒトであり、該治療的介入は、たとえば養子細胞療法などであって、該療法に関して細胞が単離され、処理され、および/または操作される。したがって、いくつかの態様において細胞は初代細胞であり、これはたとえば初代ヒト細胞、たとえば初代ヒトCD8+細胞などである。試料には、対象から直接採取される、組織、流体、および他の試料が含まれるとともに、1つまたは複数の処理段階に由来する試料もまた含まれ、該処理段階は、たとえば、分離、遠心分離、遺伝子操作(たとえば、ウイルスベクターを用いた形質導入)、洗浄、および/またはインキュベーションなどである。生物学的試料は、生物学的供給源から直接入手された試料であってよく、または処理された試料であってもよい。生物学的試料には、体液、たとえば、血液、血漿、血清、脳脊髄液、滑液、尿、および汗などが含まれ、組織および器官に由来する処理された試料を含めた、組織および器官の試料も含まれるが、これらに限定されない。
【0119】
ある態様において、免疫細胞の供給源は、エクスビボ操作のための対象から入手される。エクスビボ操作のための細胞の供給源には、たとえば自家または異種性ドナーの、血液、臍帯血、または骨髄もまた含まれ得る。たとえば、免疫細胞の供給源は、本発明の改変された免疫細胞で処置されようとする対象由来であってよく、該供給源はたとえば、対象の血液、対象の臍帯血、または対象の骨髄などである。対象の非限定的な例には、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、およびそれらのトランスジェニック種が含まれる。好ましくは、対象はヒトである。
【0120】
ある態様において、細胞は、本明細書において意図される方法を用いて改変される;これはたとえば、細胞膜透過性Cas9または細胞膜透過性Cas12aとエンドソーム脱出ペプチドとを含む、細胞膜透過性CRISPR-Cas9システムまたは細胞膜透過性CRISPR-Cas12aシステムを、細胞に導入することによるものであり、その後、改変された細胞が対象に投与される。ある態様において、対象は、疾患または異常についての処置を必要としている。処置されようとする対象に対して、細胞は同種かつ/または自家であってよい。細胞は、典型的には初代細胞であり、これはたとえば、対象から直接単離された細胞、および/または対象から単離されそして凍結された細胞などである。
【0121】
いくつかの局面において、細胞がそれに由来するかまたはそれから単離される試料は、血液であるか、もしくは血液に由来する試料であるか、またはアフェレーシスもしくは白血球アフェレーシスの産物に由来する。例示的な試料には、全血、末梢血単核細胞(PBMC)、白血球、骨髄、胸腺、組織バイオプシー、腫瘍、白血病、リンパ腫、リンパ節、腸管関連リンパ組織、粘膜関連リンパ組織、脾臓、他のリンパ組織、肝臓、肺、胃、腸、結腸、腎臓、膵臓、乳房、骨、前立腺、子宮頸部、精巣、卵巣、扁桃、もしくは他の器官、および/またはそれらに由来する細胞が含まれる。細胞療法、たとえば養子細胞療法の文脈において、試料には、自家供給源由来の試料および同種供給源由来の試料が含まれる。
【0122】
いくつかの態様において、細胞は細胞株に由来しており、これはたとえばT細胞株などである。いくつかの態様における細胞は、異種供給源から、たとえば、マウス、ラット、非ヒト霊長類、およびブタなどから、入手される。いくつかの態様において、細胞の単離には、調製段階、および/または親和性に基づかない細胞分離段階が、1回または複数回含まれる。いくつかの例において、たとえば、望まれない成分を除去するために、望ましい成分を富化するために、ある特定の試薬に対して感受性である細胞を溶解または除去するために、細胞は洗浄され、遠心分離され、かつ/または1種もしくは複数種の試薬の存在下でインキュベートされる。いくつかの例において、細胞は、1つまたは複数の特性に基づいて分離され、該特性はたとえば、密度、接着特性、サイズ、ある特定の成分に対する感受性および/または抵抗性などである。
【0123】
いくつかの例において、対象の循環血由来の細胞は、たとえばアフェレーシスまたは白血球アフェレーシスによって、入手される。いくつかの局面において、試料は、リンパ球であって、T細胞、単球、顆粒球、B細胞、他の有核白血球を含めたリンパ球、赤血球、および/または血小板を含み、かつ、いくつかの局面において、試料は、赤血球でもなく血小板でもない細胞を含む。いくつかの態様において、対象から採取された血液細胞は、たとえば、血漿画分を除去するために、およびその後の処理段階にとって適切な緩衝液または培地中に細胞を置くために、洗浄される。いくつかの態様において、細胞はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて洗浄される。いくつかの局面において、洗浄段階は、製造元の使用説明書にしたがったタンジェンシャルフロー・フィルトレーション(TFF)によって達成される。いくつかの態様において、細胞は洗浄後に、生体適合性であるさまざまな緩衝液に再懸濁される。ある態様において、血液細胞試料中の成分が除去され、そして該細胞が培養培地に直接再懸濁される。いくつかの態様において、方法には、密度に基づく細胞の分離方法が含まれ、これはたとえば、赤血球を溶解することによる末梢血からの白血球の調製、およびPercoll勾配またはFicoll勾配を用いた遠心分離などである。
【0124】
1つの態様において、免疫が得られ、個体の循環血由来の細胞がアフェレーシスまたは白血球アフェレーシスによって入手される。アフェレーシス産物は、典型的には、リンパ球であって、T細胞、単球、顆粒球、B細胞、他の有核白血球を含めたリンパ球、赤血球、および血小板を含む。アフェレーシスによって採取された細胞は、血漿画分を除去するために、およびその後の処理段階にとって適切な緩衝液または培地中に細胞を置くために、洗浄されてよく、ここで該緩衝液または培地はたとえば、カルシウムを欠きかつマグネシウムを欠いてもよい、または全部ではないにしても多くの2価カチオンを欠いてよい、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)または洗浄溶液などである。洗浄後、細胞は、生体適合性であるさまざまな緩衝液に再懸濁されてよく、これはたとえば、Ca不含、Mg不含のPBSなどである。あるいは、アフェレーシス試料のうちの望ましくない成分は除去されてよく、そして細胞が培養培地に直接再懸濁される。
【0125】
いくつかの態様において、単離方法には、1種または複数種の特異的な分子、これはたとえば表面マーカーなどであって、たとえば表面タンパク質、細胞内マーカー、または核酸などであるが、このような特異的な分子が、細胞で発現していることまたは細胞に存在していることに基づいて、異なる細胞型を分離することが含まれる。いくつかの態様において、そのようなマーカーに基づいて分離するための任意の公知の方法が使用されてよい。いくつかの態様において、分離は、親和性に基づく分離、または免疫親和性に基づく分離である。たとえば、いくつかの局面における単離には、1種または複数種のマーカー、典型的には細胞表面マーカーの、細胞における発現に基づくかまたは発現レベルに基づく、細胞の分離および細胞集団の分離が含まれ、これはたとえば、そのようなマーカーに対して特異的に結合する抗体または結合パートナーとのインキュベーションと、一般的にはそれに続く、洗浄段階、および抗体または結合パートナーに結合していない細胞からの、抗体または結合パートナーに結合している細胞の分離による。
【0126】
そのような分離段階は、正の選択に基づいてよく、これは、試薬に結合している細胞を、さらなる使用のために保持するものであり、かつ/またはそのような分離段階は、負の選択に基づいてよく、これは、抗体もしくは結合パートナーに結合していない細胞を、保持するものである。いくつかの例において、さらなる使用のために、両方の画分が保持される。いくつかの局面において、不均一な集団においてある細胞型を特異的に識別する抗体が利用できず、したがって、所望の集団以外の細胞が発現するマーカーに基づいて分離を実施することが最良である場合に、負の選択は特に有用である。分離は、ある特定の細胞集団か、またはある特定のマーカーを発現する細胞の、100%の富化または100%の除去をもたらすことは必要としない。たとえば、ある特定の型の細胞、たとえばあるマーカーを発現する細胞の、正の選択または富化とは、そのような細胞の数またはパーセンテージを増加させることを指すが、これは、該マーカーを発現しない細胞の完全な非存在をもたらすことは必要としない。同様に、ある特定の型の細胞、たとえばあるマーカーを発現する細胞の、負の選択、除去、または枯渇とは、そのような細胞の数またはパーセンテージを減少させることを指すが、これは、そのような細胞全ての完全な除去をもたらすことは必要としない。
【0127】
いくつかの例において、複数ラウンドの分離段階が実施され、ここで、ある1つの段階からの、正または負に選択された画分は、たとえば次の正または負の選択である、別の分離段階に供される。いくつかの例において、1回の分離段階で、複数種のマーカーを発現する細胞を同時に枯渇させることが可能であり、これはたとえば、負の選択の標的であるマーカーに対してそれぞれ特異的である、複数種の抗体または結合パートナーと、細胞をインキュベートすることによる。同様に、さまざまな細胞型において発現しているマーカーに対する複数種の抗体または結合パートナーと、細胞をインキュベートすることによって、複数種の細胞型を同時に正に選択することが可能である。
【0128】
いくつかの態様において、T細胞集団の1種または複数種においては、1種または複数種の特定のマーカー、たとえば表面マーカーなどが、陽性である(マーカー+)かもしくはそれらを高レベルで発現する(マーカー高)細胞についての富化もしくは枯渇、または1種または複数種のマーカーが陰性である(マーカー-)かもしくはそれらを相対的に低レベルで発現する(マーカー低)細胞についての富化もしくは枯渇が行われる。たとえば、いくつかの局面において、T細胞のある特定のサブ集団、これはたとえば、1種もしくは複数種の表面マーカーが陽性であるかまたはそれら表面マーカーを高レベルで発現する細胞であって、たとえば、CD28+、CD62L+、CCR7+、CD27+、CD127+、CD4+、CD8+、CD45RA+、および/またはCD45RO+であるT細胞などであるが、このようなサブ集団が、正のまたは負の選択技術によって単離される。いくつかの例において、そのようなマーカーは、T細胞のある集団(たとえば、メモリー細胞ではない細胞の集団)において非存在であるかまたは相対的に低レベルで発現しているが、T細胞の他のある集団(たとえばメモリー細胞集団)において存在しているか相対的に高レベルで発現しているマーカーである。1つの態様において、細胞(たとえば、CD8+細胞またはT細胞、たとえばCD3+細胞)においては、CD45RO、CCR7、CD28、CD27、CD44、CD127、および/もしくはCD62Lが陽性であるかもしくはそれらを高い表面レベルで発現する細胞についての富化(すなわち正の選択)が行われ、かつ/またはCD45RAが陽性であるかもしくはそれを高い表面レベルで発現する細胞についての枯渇(たとえば負の選択)が行われる。いくつかの態様において、細胞においては、CD122、CD95、CD25、CD27、および/またはIL7-Ra(CD127)が陽性であるかまたは高い表面レベルでそれらを発現する細胞についての、富化または枯渇が行われる。いくつかの例において、CD8+ T細胞においては、CD45ROが陽性(またはCD45RAが陰性)であり、かつCD62Lが陽性である細胞についての富化が行われる。たとえば、CD3+であってCD28+であるT細胞は、CD3/CD28をコンジュゲートさせた磁気ビーズ(たとえば、DYNABEADS(登録商標)M-450 CD3/CD28 T Cell Expander)を用いて、正に選択することが可能である。
【0129】
いくつかの態様において、T細胞ではない細胞、これはたとえば、B細胞、単球、または他の白血球などであるが、これらにおいて発現するマーカー、たとえばCD14などについての負の選択によって、T細胞はPBMC試料から分離される。いくつかの局面において、CD4+またはCD8+の選択段階は、CD4+ヘルパーT細胞およびCD8+細胞傷害性T細胞を分離するために使用される。そのようなCD4+集団およびCD8+集団は、ナイーブT細胞集団、メモリーT細胞集団、および/またはエフェクターT細胞集団の1種または複数種において発現しているマーカーか、またはそれらにおいて相対的に高度に発現しているマーカーについての正または負の選択によって、サブ集団へとさらにソートすることが可能である。いくつかの態様において、CD8+細胞においては、たとえば、それぞれのサブ集団に関連する表面抗原に基づく正または負の選択によって、ナイーブ細胞、セントラルメモリー細胞、エフェクターメモリー細胞、および/またはセントラルメモリー幹細胞についての、さらなる富化またはさらなる枯渇が行われる。いくつかの態様において、セントラルメモリーT(TCM)細胞の富化は、有効性を増加させるために実施され、これはたとえば、長期間の生存、拡大、および/または投与後の生着を改善することなどであり、これらは、いくつかの局面において、そのようなサブ集団において特に堅固である。いくつかの態様において、TCMが富化されたCD8+ T細胞と、CD4+ T細胞とを組み合わせることで、有効性がさらに増強される。
【0130】
いくつかの態様において、メモリーT細胞は、CD8+末梢血リンパ球のうちの、CD62L+サブセットおよびCD62L-サブセットの両方に存在する。PBMCにおいては、たとえば抗CD8抗体および抗CD62L抗体を用いて、CD62L-CD8+画分および/またはCD62L+CD8+画分についての富化または枯渇が行われ得る。いくつかの態様において、CD4+ T細胞集団、およびCD8+ T細胞サブ集団、たとえばセントラルメモリー(TCM)細胞が富化されたサブ集団。いくつかの態様において、セントラルメモリーT(TCM)細胞の富化は、CD45RO、CD62L、CCR7、CD28、CD3、および/またはCD127が陽性であるか、またはそれらの表面発現が高度であることに基づいている;いくつかの局面において、該富化は、CD45RAおよび/またはグランザイムBを発現するかまたは高度に発現する細胞の、負の選択に基づいている。いくつかの局面において、TCM細胞が富化されたCD8+集団の単離は、CD4、CD14、CD45RAを発現する細胞の枯渇と、CD62Lを発現する細胞の正の選択または富化とによって、実施される。1つの局面において、セントラルメモリーT(TCM)細胞の富化は、CD4の発現に基づいて選択された細胞の負の画分から開始されて、これが、CD14およびCD45RAの発現に基づく負の選択と、CD62Lに基づく正の選択とに供されることで実施される。そのような選択は、いくつかの局面においては同時に実施され、かつ、他の局面においてはいずれかの順序で連続的に実施される。いくつかの局面において、CD8+細胞集団またはCD8+細胞サブ集団を調製する際に使用されたのと同じ、CD4発現に基づく選択段階が、CD4+細胞集団またはCD4+細胞サブ集団を作製するためにも使用され、その場合には、CD4に基づく分離に由来する正の画分および負の画分の両方が保持され、そして任意で、1つまたは複数のさらなる正または負の選択段階の後で、方法のその後の段階において、それら両方の画分が使用される。
【0131】
CD4+ Tヘルパー細胞は、細胞表面抗原を有する細胞集団を識別することによって、ナイーブ細胞、セントラルメモリー細胞、およびエフェクター細胞へとソートされる。CD4+リンパ球は、標準的な方法によって入手することが可能である。いくつかの態様において、ナイーブCD4+ Tリンパ球は、CD45RO-、CD45RA+、CD62L+、CD4+のT細胞である。いくつかの態様において、セントラルメモリーCD4+細胞は、CD62L+かつCD45RO+である。いくつかの態様において、エフェクターCD4+細胞は、CD62L-かつCD45ROである。1つの例において、負の選択によってCD4+細胞を富化するために、モノクローナル抗体カクテルは、典型的にはCD14、CD20、CD11b、CD16、HLA-DR、およびCD8に対する抗体を含んでいる。いくつかの態様において、抗体または結合パートナーは、固体の支持体またはマトリックス、たとえば、磁気ビーズまたは常磁性ビーズなどに結合していて、これは、正および/または負の選択による細胞の分離を可能にする。
【0132】
いくつかの態様において、細胞は、遺伝子操作の前に、または遺伝子操作に関連して、インキュベートおよび/または培養される。インキュベーション段階には、培養、育成、刺激、活性化、および/または増殖が含まれ得る。いくつかの態様において、組成物または細胞は、刺激条件または刺激物質の存在下でインキュベートされる。そのような条件には、集団における、細胞の増殖、拡大、活性化、および/もしくは生存を誘導するように、抗原への曝露を模倣するように、かつ/またはたとえば組み換え抗原受容体の導入などといった遺伝子操作のために細胞をプライミングするように、設計された条件が含まれる。条件には、以下の1つまたは複数が含まれ得る:特定の培地、温度、酸素含量、二酸化炭素含量、時間、作用物質であってたとえば栄養素、アミノ酸、抗生物質、イオンなどの作用物質、ならびに/または、刺激因子であってたとえばサイトカイン、ケモカイン、抗原、結合パートナー、融合タンパク質、組み換え可溶性受容体、および細胞を活性化するように設計された他の作用物質などの刺激因子。いくつかの態様において、刺激条件または刺激物質には、1種または複数種の作用物質が含まれ、これはたとえば、TCR複合体の細胞内シグナル伝達ドメインを活性化することが可能なリガンドである。いくつかの局面において、作用物質は、T細胞において、TCR/CD3細胞内シグナル伝達カスケードを作動または開始させる。そのような作用物質には、たとえば、ビーズなどといった固体の支持体に結合しているような、抗体が含まれてよく、これはたとえば、TCRの構成要素および/もしくは共刺激受容体に対して特異的な抗体であって、たとえば、抗CD3抗体、抗CD28抗体などであり、かつ/または、そのような作用物質には1種もしくは複数種のサイトカインが含まれてよい。任意で、拡大方法は、抗CD3抗体および/または抗CD28抗体を(たとえば、少なくとも約0.5 ng/mlの濃度で)培養培地に添加する段階を、さらに含んでよい。いくつかの態様において、刺激物質はIL-2および/またはIL-15を含み、これはたとえば、少なくとも約10ユニット/mLの濃度のIL-2である。
【0133】
別の態様において、T細胞は、赤血球を溶解し、そして、たとえばPERCOLL(商標)勾配を用いた遠心分離によって、単球を枯渇させることによって、末梢血から単離される。あるいは、臍帯からT細胞を単離することが可能である。いずれにしても、正または負の選択技術によって、ある特定のT細胞サブ集団をさらに単離することが可能である。
【0134】
そのように単離された臍帯血単核細胞においては、ある特定の抗原を発現する細胞を枯渇させてよく、該抗原には、CD34、CD8、CD14、CD19、およびCD56が含まれるが、これらに限定されない。これらの細胞の枯渇は、単離された抗体、抗体を含む生物学的試料であってたとえば腹水などの生物学的試料、実体的な支持体に結合している抗体、および細胞に結合している抗体を用いて、達成することが可能である。
【0135】
負の選択によるT細胞集団の富化は、負に選択される細胞に固有の表面マーカーを指向する抗体の組み合わせを用いて、達成することが可能である。好ましい方法は、負に選択される細胞に存在する細胞表面マーカーを指向するモノクローナル抗体のカクテルを使用する、負の磁気免疫付着(negative magnetic immunoadherence)またはフローサイトメトリーによる、セルソーティングおよび/または選択である。たとえば、負の選択によってCD4+細胞を富化するために、モノクローナル抗体カクテルは、典型的にはCD14、CD20、CD11b、CD16、HLA-DR、およびCD8に対する抗体を含んでいる。
【0136】
正または負の選択による所望の細胞集団の単離に関し、細胞の濃度、および表面を提供するもの(たとえば、ビーズなどといった粒子)の濃度は、変化し得る。ある態様において、細胞とビーズとの接触が最大になることを確実にするために、ビーズと細胞とが一緒に混合される際の量を顕著に減少させる(すなわち細胞の濃度を増加させる)ことが望ましい場合がある。たとえば、1つの態様において、細胞20億個/mlという濃度が使用される。1つの態様において、細胞10億個/mlという濃度が使用される。さらなる1つの態様において、細胞1億個超/mlが使用される。さらなる1つの態様において、細胞1000万個/ml、細胞1500万個/ml、細胞2000万個/ml、細胞2500万個/ml、細胞3000万個/ml、細胞3500万個/ml、細胞4000万個/ml、細胞4500万個/ml、または細胞5000万個/mlという細胞濃度が使用される。さらなる別の態様において、細胞7500万個/mlから、細胞8000万個/ml、細胞8500万個/ml、細胞9000万個/ml、細胞9500万個/ml、または細胞1億個/mlという細胞濃度が使用される。さらなる態様において、細胞1億2500万個/mlまたは細胞1億5000万個/mlという濃度が使用され得る。高い濃度を使用することで、細胞収量の増加、細胞活性化の増加、および細胞拡大の増加がもたらされ得る。
【0137】
T細胞はまた、洗浄段階の後で凍結することも可能であり、これは単球を除去する段階を必要としない。理論に拘束されるものではないが、凍結とそれに続く解凍の段階は、細胞集団において顆粒球とある程度の単球とが除去されるために、より均一な産物を提供するものである。血漿および血小板を除去する洗浄段階の後で、細胞は凍結溶液中に懸濁されてよい。多くの凍結溶液および凍結パラメーターが当技術分野において公知であって、かつそれらはこの文脈において有用であり、また一方で、非限定的な一例において、ある1つの方法は、20% DMSOおよび8% ヒト血清アルブミンを含むPBS、または他の好適な細胞凍結培地を使用することを伴う。細胞は次に、1分に1度の速度で-80度に下げて凍結され、そして気相式の液体窒素凍結保存タンク内で保存される。他の制御凍結方法も使用されてよく、かつ、-20度での、または液体窒素中での、制御されない迅速凍結も同様に使用されてよい。
【0138】
1つの態様において、T細胞集団は、たとえば、末梢血単核細胞、臍帯血細胞、T細胞の純化された集団、およびT細胞株などといった細胞の中に含まれる。別の態様において、末梢血単核細胞はT細胞集団を含む。さらなる別の態様において、純化されたT細胞は、T細胞集団を含む。
【0139】
ある態様において、試料から制御性T細胞(Treg)を単離することが可能である。試料には臍帯血または末梢血が含まれ得るが、これらに限定されない。ある態様において、Tregは、フローサイトメトリーソーティングによって単離される。当技術分野において公知の任意の手段によって単離する前に、試料は、Tregについて富化されてよい。単離されたTregは凍結保存されてよく、かつ/または使用前に拡大させてもよい。Tregを単離するための方法は、米国特許第7,754,482号、同8,722,400号、および同9,555,105号、ならびに米国特許出願第13/639,927号に記載されており、これら文献の内容は、それらの全体が本明細書に組み入れられる。
【0140】
D. 組成物
1つの局面において、本開示は、細胞(たとえば初代CD8 T細胞)を効率的に編集することが可能である、新規な細胞膜透過性PAGEシステムを提供する。PAGEシステムは、細胞膜透過性Cas(たとえば、CPPに連結されているCas(たとえばCas9またはCas12a))、およびCPPに連結されているエンドソーム脱出ペプチド(たとえばdTAT-HA2)を含む。
【0141】
ある態様において、CasはCas9である。本発明において使用され得る例示的なCas9ヌクレアーゼには、S. ピオゲネスCas9(SpCas9)、S. アウレウスCas9(SaCas9)、S. サーモフィルスCas9(StCas9)、N. メニンギティディスCas9(NmCas9)、C. ジェジュニCas9(CjCas9)、およびゲオバチルスCas9(GeoCas9)が含まれるが、これらに限定されない。ある態様において、CasはCas12a(Cpf1)であり、これには、ブチリビブリオ属種のもの(BsCas12a)、チオミクロスピラ属種XS5のもの(TsCas12a)、モラクセラ・ボーボクリのもの(MbCas12a)、プレボテラ・ブリアンティイのもの(PbCas12a)、バクテロイデス・オラルのもの(BoCas12a)、ラクノスピラ科細菌のもの(LbCas12a)、およびアシダミノコッカス属種のもの(AsCas12a)が含まれるが、これらに限定されない。ある態様において、Casは、Cas12b、Cas12d、Cas12f、T7、Cas3、Cas8a、Cas8b、Cas10d、Cse1、Csy1、Csn2、Cas4、Cas10、Csm2、Cmr5、およびFok1からなる群より選択される。
【0142】
ある態様において、Casタンパク質(すなわち、Cas9、Cas12a、Cas誘導体)は、DNA修飾因子またはその触媒ドメインに、融合されているか、それらと化学的に連結されているか、または翻訳後にそれらと連結されたかのいずれかであり、それらには、AIDデアミナーゼ、APOBECデアミナーゼ、TadAデアミナーゼ、TET酵素、DNAメチルトランスフェラーゼ、トランス活性化ドメイン、逆転写酵素、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、サーチュイン、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデメチラーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ等が含まれるが、これらに限定されない。
【0143】
ある態様において、エンドソーム脱出ペプチドはdTAT-HA2を含む。使用され得る他のエンドソーム脱出ペプチドには、EED、HA2-ペネトラチン、GALA、INF-7等が含まれるが、これらに限定されない。ある態様において、エンドソーム脱出ペプチドは、表1に列挙されるペプチドのいずれか1つである。ある態様において、エンドソーム脱出ペプチドは、SEQ ID NO: 1434~1523に記載の配列のいずれか1つを含む。ある態様において、エンドソーム脱出ペプチドは、表2に列挙されるCPPの任意のものに連結されている。ある態様において、エンドソーム脱出ペプチドは、SEQ ID NO: 10~1422に記載のアミノ酸配列のうちの任意のものを含むCPPに、連結されている。
【0144】
ある態様において、Casは核局在化配列(NLS)を含む。NLSには、当技術分野において公知であるかまたは本明細書に開示される、任意のNLSが含まれ得る。ある態様において、Casは、4xMyc NLS配列または6xMyc NLS配列を含む。ある態様において、Myc NLS配列はアミノ酸配列PAAKRVKLD(SEQ ID NO: 1)を含む。ある態様において、NLS(すなわち、4xMyc NLSまたは6xMyc NLS)配列は、GGSリンカーをさらに含む。
【0145】
ある態様において、細胞膜透過性Casは、細胞膜透過性ペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むか、または細胞膜透過性ペプチドを含むアミノ酸配列を含む。CPPの例には、HIV-1由来のトランス活性化転写活性化因子(Tat)、オリゴ-Arg、KALA、トランスポータン、ペネトラチン、ペネトラチン-Arg、TAT-HA2、およびdTAT-HA2E5が含まれるが、これらに限定されない。CPPの例は、本明細書における表2にも列挙されている。ある態様において、CPPは、SEQ ID NO: 10~1422に記載のアミノ酸配列のうちの任意のものを含む。ある態様において、細胞膜透過性Casは、HIV-1由来のトランス活性化転写活性化因子(Tat)に由来する配列を含む。ある態様において、Tat配列はアミノ酸配列GRKKRRQRRRPQ(SEQ ID NO: 2)を含む。使用され得る短縮型または改変型である他のTatペプチドには以下が含まれるが、これらに限定されない:短縮型Tat:
、ならびに改変型Tat:2xTat、3xTat、4xTat、nxTat、等。
【0146】
PAGEシステムは、2種類の異なるCPPを含んでよく、または同じCPPを2つ含んでもよい。CPPは、当技術分野において公知の任意の手段によってCasまたはエンドソーム脱出ペプチドに連結されてよく、該手段はたとえば、化学結合、融合、または翻訳後修飾などであるが、これらに限定されない。
【0147】
本明細書に記載される本発明の組成物を含む、および/または本明細書に記載される本発明の方法を実施するための、キットもまた提供される。たとえば、いくつかの態様において、本発明の方法を実施するためのキットは、細胞膜透過性Casとエンドソーム脱出ペプチドとを含む細胞膜透過性PAGEシステムを含む組成物を含む。
【0148】
さらに、キットの構成要素を用いて実施されるプロトコルにおいて必要とされるかまたは望ましい、さらなる試薬も存在していてよく、ここで、さらなる試薬には以下が含まれるが、これらに限定されない:sgRNA、ヌクレアーゼフリー水、担体、および試薬(たとえばヌクレオチド、緩衝液、カチオン等)など。キットの構成要素は別個の容器中に存在していてよく、または構成要素の1種または複数種が同じ容器中に存在していてもよく、ここで容器は、保存容器であってよく、かつ/または、アッセイ用に設計されたキットについてはアッセイ過程で利用される容器であってもよい。
【0149】
上述の構成要素に加えて、キットは、本明細書に記載される方法を実施するための指示書をさらに含んでよい。該指示書は、当該キットにおいてさまざまな形態で存在してよく、そのような指示書の1種または複数種が、キットに存在していてよい。該指示書が存在し得る形態の1つは、キットの包装物や添付文書等としての適切な媒体または基材上に印刷された情報としてであり、これはたとえば、情報が印刷された1枚または複数枚の紙などである。指示書のさらなる別の形態には、情報が記録されているコンピューター可読媒体、たとえばCD等が含まれ得る。指示書のさらなる別の形態にはウェブサイトアドレスが含まれてよく、これは、離れた場所にある情報にアクセスするために、インターネットを介して使用されてよい。任意の都合の良い手段がキットに存在していてよい。
【0150】
本明細書において言及または引用される、論文、特許、および特許出願の内容、ならびに他の全ての文献および電子的に利用可能な情報の内容は、個々の刊行物がそれぞれ参照により組み入れられるように具体的にかつ個々に指示されている場合と同程度に、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる。出願人は、そのような論文、特許、特許出願、または実体的および電子的な他の文献の任意のものから、あらゆる素材および情報を本出願に実体的に組み入れる権利を保有する。
【0151】
本発明は、その特定の態様を参照して記載されているが、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、さまざまな変更がなされ得ること、および等価物が置き換えられ得ることを、当業者であれば理解するはずである。本明細書に記載される方法の、他の適切な改変および適合が、本明細書に記載される態様の範囲から逸脱することなく適切な等価物を用いてなされ得ることは、当業者には明白であろう。加えて、ある特定の状況、材料、組成物、プロセス、プロセスの単数または複数の段階を、本発明の目的、精神、および範囲に適合させるために、多くの改変が行われ得る。そのような改変は全て、本明細書に添付の特許請求の範囲のうちにあることが意図される。これよりある特定の態様が詳細に記載されるが、該態様は、例示のみを目的として含められているのであって限定することを意図していない、以下の実施例を参照することによって、さらに明確に理解されるであろう。
【実施例】
【0152】
実験例
これより本発明は、以下の実施例を参照して説明される。これらの実施例は例示のみを目的として提供されるのであって、本発明はこれらの実施例によって限定されることはなく、本発明は、本明細書において提供される教示の結果として明らかとなる、全てのバリエーションを包含している。
【0153】
実施例1:TAT-4xMyc NLS-Cas9の精製
TAT-4xMyc NLS-Cas9発現構築物は、Cas9のN末端にある4xSV40 NLS(PKKKRKV(SEQ ID NO: 1423))(Staahl et al., (2017) Nat Biotechnol 35, 431-434)を、Myc NLSの間にリンカー「-G-G-S-」を有する4xMyc NLS(PAAKRVKLD(SEQ ID NO: 1))と置き換えることによって作製された。HIV-1由来のトランス活性化転写活性化因子(Tat)に由来する細胞膜透過性ペプチドである、TATの配列(GRKKRRQRRRPQ(SEQ ID NO: 2))(Frankel and Pabo, 1988; Green and Loewenstein, 1988)がN末端に付加され、そしてTAT-4xMyc NLS-Cas9は、Twin-StrepおよびSUMOタグとともに、細菌の組み換えタンパク質発現ベクター(Gootenberg et al., 2017)にクローニングされた(
図1A)。次に、TAT-4xMyc NLS-Cas9タンパク質は、Strep-Tactinアフィニティークロマトグラフィーと、それに続く、SUMOプロテアーゼによるカラム内消化、イオン交換クロマトグラフィー(IEC)、およびサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって、精製された(
図1B)(Gootenberg et al., (2017) Science 356, 438-442)。精製されたTAT-4xMyc NLS-Cas9タンパク質は、インビトロDNA切断アッセイにおいてDNAを効率的に切断した(
図1C)。
【0154】
実施例2:EL4細胞におけるTAT-4xMyc NLS-Cas9によるゲノム編集
TAT-4xMyc NLS-Cas9がゲノムを編集する能力を有するかどうかを決定するため、EL4胸腺腫細胞株が使用された。mCherryと、mCherryを標的とするsgRNAとを安定的に発現するレンチウイルスレポーター構築物を、EL4細胞に感染させた。EL4レポーター細胞においてTAT-4xMyc NLS-Cas9が細胞膜を透過しそしてmCherryを編集するのであれば、フローサイトメトリーによって測定された際に、mCherry蛍光の喪失に起因して、mCherry
-細胞の出現頻度は増加する(
図2A)。これに関し、細胞を0.5 μMのTAT-4xMyc NLS-Cas9のみと1時間インキュベートした場合、未処理の細胞と比較しての、mCherry
-細胞の出現頻度の増加は観察されなかった(
図2B)。一方、エンドソーム脱出ペプチドであるdTAT-HA2がインキュベーション中に添加された場合(最大で40 μM)、mCherry
-細胞のパーセンテージは44.1%に増加した(
図2B)。細胞を4.0 μMのTAT-4xMyc NLS-Cas9とインキュベートした場合、mCherry
-細胞のよりいっそう強力な増加が観察され、これは、dTAT-HA2が40 μMの場合に62%であった(
図2B)。
【0155】
インキュベーション中のFBSのパーセンテージがTAT-4xMyc NLS-Cas9の編集効率に対する影響を有するかどうかもまた、試験された。FBSのパーセンテージを10%から0に減少させ、そして細胞を10 μMのdTAT-HA2および0.5 μMのTAT-4xMyc NLS-Cas9で共処理した場合、mCherry
-細胞のパーセンテージは4.26%から15.9%へと増加した(
図2C、左パネル)。TAT-4xMyc NLS-Cas9の濃度を4.0 μMに増加させた場合、mCherry
-細胞のパーセンテージは44.3%から69.1%へと増加した(
図2C、左パネル)。dTAT-HA2の濃度を40 μMへとさらに増加させたところ、mCherry
-細胞のパーセンテージも、10 μMのdTAT-HA2での処理と比較して増加した(
図2C、右パネル)。最大の編集効率を達成するため、TAT-4xMyc NLS-Cas9の濃度を5 μMに増加させ、dTAT-HA2を75 μMに増加させ、インキュベーション時間を30分に減少させたところ、インキュベーション中にFBSが添加されなかった場合に、mCherry
-細胞のパーセンテージは92.9%に到達した(
図2D)。
【0156】
実施例3:マウス初代T細胞におけるTAT-4xMyc NLS-Cas9によるインビトロ編集
マウス初代T細胞においてTAT-4xMyc NLS-Cas9によるインビトロ編集を試験するのに先立って、細胞表面マーカーであるCD45.2を標的とする2種類のsgRNAが設計され、そして該sgRNAの編集効率が、Cas9を安定的に発現するRN2-Cas9細胞において試験された。RN2-Cas9細胞に、sgRNAおよびmCherryを発現するレトロウイルスを感染させ、そして感染の3日後に、CD45.2の発現レベルがフローサイトメトリーによって測定された。CD45.2を標的とするsgRNAは両方とも、Rosa26を標的とするsgRNAと比較して、効率的にCD45.2をノックダウンした(
図3A)。次に、TAT-4xMyc-Cas9がマウス初代CD8 T細胞においてゲノムを編集することが可能であるかどうかが試験された。実験の概略図は
図3Bに示される。手短に述べると、初代CD8 T細胞は、第-2日に3か月齢のマウスの脾臓から単離され、そして24時間にわたりCD3、CD8、およびIL-2によって活性化された。第-1日に、sgRNAおよびmCherryを発現するレトロウイルスを、24時間にわたり活性化細胞に感染させた。細胞は次に、5 μMのTAT-4xMyc NLS-Cas9(GFPタグ付き)および75 μMのdTAT-HA2で処理され、そして1%のFBSおよび50 μMの2-メルカプトエタノールを添加されたRPMI 1640中で、37度のインキュベーターにおいて40分間インキュベートされた。細胞は、PBSを用いて2回洗浄され、細胞表面に結合したTAT-4xMyc NLS-Cas9を除去するために37度で10分間トリプシン処理され、室温で3分間DNアーゼI(400 U/ml)で処理され、中和され、そして完全RPMI 1640培地を用いて1回洗浄された。洗浄直後、インビトロ培養のため、100,000個のsgRNA
+Cas9
+(mCherry
+GFP
+)細胞が37度でソートされた(
図3C)。CD45.2の発現レベルは、第1日から第5日にかけて、フローサイトメトリーによって測定された。CD45.2 sgRNA_1を感染させた細胞に関し、CD45.2ノックダウン細胞のパーセンテージは、第1日の後で増加し、そして第4日に、最大であるおよそ60%に到達した。Rosa26 sgRNAまたはCD90.2 sgRNAを感染させた細胞においては、そのような増加は観察されなかった(
図3D、左パネル)。CD90.2 sgRNA_2またはCD90.2 sgRNA_3を感染させた細胞に関し、CD90.2ノックダウン細胞のパーセンテージは、第1日の後で劇的に増加し、そして第3日に、最大に到達した(sgRNA_3ではおよそ70%、かつsgRNA_2ではおよそ90%)。Rosa26 sgRNAまたはCD45.2 sgRNAを感染させた細胞においては、CD90.2のノックダウンの増加は観察されなかった(
図3D、右パネル)。TAT-4xMyc NLS-Cas9の安定性は、GFPの正規化された平均蛍光強度(MFI)を測定することによって、細胞において評価された。GFPのMFIは第1日におよそ75%減少し、そして第2日に90%超減少した(
図3E)が、これは、他のシステム(Ajina et al., (2019) Oncoimmunology 8, e1577127; Chew et al., (2016) Nat Methods 13, 868-874; Wang et al., (2015) Hum Gene Ther 26, 432-442)において構成的に発現するCasと比べて、TAT-4xMyc NLS-Cas9の免疫原性が低いことを示すものであった。
【0157】
実施例4:マウス初代T細胞におけるTAT-4xMyc NLS-Cas9によるインビボ編集
TAT-4xMyc NLS-Cas9のインビボ編集効率について試験するための図式的なワークフローは、
図4Aに示される。LCMV GP33-41エピトープに対して特異的なT細胞受容体(TCR)を発現する、ドナーマウスのCD8 P14細胞が単離され、そして活性化された。同日(第-2日)に、レシピエントマウスにLCMVクローン13を感染させて、慢性感染およびT細胞疲弊を誘導した。24時間後(第-1日)、Ano9を標的とするsgRNAを発現するか、またはPdcd1(PD-1をコードする)を標的とするsgRNAを発現するレトロウイルスベクター(VEXレポーターを有する)を、24時間にわたり細胞に感染させた。細胞は、本明細書に記載されるように、TAT-4xMyc NLS-Cas9、dTAT-HA2、0.25% トリプシン、およびDNアーゼIで処理され、そしてsgRNA
+Cas9
+(VEX
+GFP
+)P14細胞がソートされた(
図4B)。5万個のソートされた細胞が、尾静脈注射によって、LCMVクローン13を感染させたレシピエントマウスに養子移植された。6日後、脾臓および肝臓が採取され、そしてこれらは、PD-1の発現およびP14細胞の拡大に関して、フローサイトメトリーによって解析された。PD-1発現の劇的な減少が観察された;Ano9を標的とするsgRNAに感染させた細胞と比較して、Pdcd1を標的とする両方のsgRNAに感染させた細胞において、脾臓および肝臓の両方でおよそ20%にまで低下した(
図4C)。重要なことに、sgRNA
+ P14 T細胞集団のパーセンテージ、およびsgRNA
+ P14 T細胞の総数は、脾臓および肝臓の両方において、Ano9を標的とするsgRNAと比較して、Pdcd1を標的とする両方のsgRNAにおいて増加した(
図4D)。これは、PD-1の遺伝学的枯渇の結果として、初期の慢性感染の過程で、抗原に特異的なCD8 T細胞の拡大が増強されることと一致する。
【0158】
実施例5:ヒト初代T細胞におけるTAT-4xMyc NLS-Cas9によるインビトロ編集
ヒト初代T細胞においてTAT-4xMyc NLS-Cas9のインビトロ編集効率について試験するための図式的なワークフローは、
図5Aに示される。ヒト全T細胞は、正常ドナーのPBMCからヒトT細胞単離キットによって単離され、そして第0日に、5% ヒト血清および1x Glutamax Iが添加されたOpTmizer T細胞拡大培地において、CD3/CD28 Dynabeads、IL-7、およびIL-15によって活性化された。24時間後(第1日)、
図2Aのとおりに、レンチウイルスレポーター構築物を2日間にわたり細胞に感染させた。mCherry+細胞は第3日~第9日にブラストサイジンによって選択され、それに続いて、T細胞拡大完全培地において、0.5 μMのTAT-4xMyc NLS-Cas9、および25~75 μMのdTAT-HA2によって、37度で30分間処理された。細胞はPBSを用いて1回洗浄され、そしてさらに5日間培養された。mCherry
-細胞の出現頻度は、第12日~第14日(mCherry D3~mCherry D5)にフローサイトメトリーによって測定された。mCherry D3において、3名の正常ドナーから単離されたT細胞では、mCherry
-細胞の出現頻度は約20%から約35~70%に増加し(0.5 μMのTAT-4xMyc NLS-Cas9、および25 μMのdTAT-HA2)、かつ、dTAT-HA2の濃度を25 μMから50 μMまたは75 μMへと増加させても、mCherry
-細胞の出現頻度は45~75%に増加した(
図5B、左パネル)。mCherry D5において、mCherry
-細胞の出現頻度は約70~90%に増加した(0.5 μMのTAT-4xMyc NLS-Cas9、および25 μMのdTAT-HA2)(
図5B、右パネル)。一方、mCherry
-細胞の出現頻度は、sgRosa26を感染させたT細胞においては増加しなかった(
図5B)。0.5 μMのTAT-4xMyc NLS-Cas9および50 μMのdTAT-HA2での細胞の処理後第5日における、mCherry-ヒトT細胞のヒストグラムの一例が、
図5Cに示される。
【0159】
実施例6:iPSCにおけるTAT-4xMyc NLS-Cas9によるインビトロ編集
iPSCに、
図2Aにおけるものと同じレンチウイルスレポーター構築物を感染させ、そして該iPSCは
図2Aのとおりに処理された。0.5 μMのTAT-4xMyc NLS-Cas9および75 μMのdTAT-HA2とインキュベートされた場合、mCherry
-細胞の出現頻度は、処理後第4日に約20%から60%へと増加した。一方、mCherry
-細胞の出現頻度は、sgRosa26を感染させたiPSCにおいては増加しなかった(
図6A)。0.5 μMのTAT-4xMyc NLS-Cas9および75 μMのdTAT-HA2での細胞の処理後第4日における、mCherry- iPSCのヒストグラムの一例が、
図6Bに示される。
【0160】
本開示は、マウスおよびヒトのCD8 T細胞、ヒト初代T細胞、ならびにヒトiPSCのインビトロおよびインビボでのCRISPR編集のための新規な方法を提供するものである。該編集の効率は、CD90.2のインビトロ編集およびPD-1のインビボ編集に関して最大90%に到達し得るものであり、これは、ゲノム編集のために細胞膜透過性Cas9を用いる既報の他の方法(Staahl et al., (2017) Nat Biotechnol 35, 431-434)と比べてはるかに高い。加えて、マウスCD8 T細胞のゲノムを編集するための既報の方法はエレクトロポレーションやCas9トランスジェニックマウスを必要とするが、本方法はそれらを必要としないために、タイムリーであってかつ経済的な様式でゲノム編集を達成することが可能である。したがって本開示は、インビトロおよびインビボの両方においてCD8 T細胞のゲノムを編集するための、簡便で、効率的で、かつ経済的な手法を記載するものである。
【0161】
実施例7:ペプチド支援型ゲノム編集(PAGE)
PAGEシステム構築物は、細胞膜透過性CRISPR関連(Cas)タンパク質(Cas9、Cas12)と、支援/エンドソーム脱出ペプチド(TAT、HA2)とを含むように作製された(
図7)。ペプチド支援型細胞膜透過性Cas9システムは、EL4レポーター細胞において最適化された(
図8A~8E)。マウスTリンパ芽球であるEL4は、mCherry(mChe)蛍光レポーターと、mCherry遺伝子を標的とするsgRNAとを安定的に発現するデュアル発現ベクターか、またはmCherry(mChe)蛍光レポーターと、陰性対照としてAno9遺伝子を標的とするsgRNAとを安定的に発現するデュアル発現ベクターを用いて、レンチウイルスにより形質導入された(
図8A)。EL4-mChe細胞は、さまざまなCas9-CPPタンパク質に加えて、エンドソーム脱出性または細胞膜透過性のさまざまな化学物質およびペプチドとともにインキュベートされた。タンパク質、化学物質、およびペプチドは、30分間のインキュベーション後に洗浄除去された。処理後第4日に、フローサイトメトリーを用いて、mChe蛍光の喪失に基づいて遺伝子編集効率が評価された(
図8A)。
【0162】
EL4-mCheレポーター細胞においてエンドソーム脱出性または細胞膜透過性のさまざまな化学物質およびペプチドを併用して、Cas9-T6N
CPP(TAT-4xNLS
MYC-Cas9-2xNLS
SV40-sfGFP)の編集効率が定量化された(
図8B)。化学物質である200 mMのクロロキンもしくは1 mg/mlのポリブレンの存在下で、または75 μMの支援ペプチドであるKALA、トランスポータン、ペネトラチン、ペネトラチン-Arg、dTAT-HA2E5、もしくはTH(dTAT-HA2)の存在下で、EL4 mCheレポーター細胞は0.5 μMのCas9-T6N
CPPで処理された。編集効率を測定するため、mCherryを喪失した細胞のパーセンテージが、処理後第4日にフローサイトメトリーによって測定された。試験されたこれらの化学物質およびCPPペプチドの中で、mCherryOFFの最大のパーセンテージ(>90%)はTH(dTAT-HA2)とのインキュベーションによって示されたが、これは、THとのインキュベーションにより遺伝子編集が強く引き起こされたことを示唆する(
図8B)。
【0163】
EL4細胞は、5 μMのCas9-T6N
CPPおよび75 μMのTHを用いて37度で30分間処理され、その後細胞は、PBSを用いて洗浄され、そして、細胞表面に結合したCas9-T6N
CPPを除去するためにトリプシン処理された。核画分および細胞質画分が分離され、そして、Cas9に対する抗体、核マーカーであるラミンB1に対する抗体、および細胞質マーカーであるα-チューブリンに対する抗体を用いたイムノブロッティング解析に供された。Cas9-T6N
CPPおよびTHで処理されたEL4細胞から調製された、核画分、細胞質画分、および全細胞溶解物における、Cas9-T6N
CPPのレベル、ラミン-B1のレベル、およびα-チューブリンのレベルについてのウエスタンブロットが、
図8Cに示される。データは、TH処理なしの細胞と比較して、THの添加により、Cas9-T6N
CPPの、細胞への移動、細胞質画分への移動、および特に核画分への移動が増加したことを示すものであった(
図8C)。EL4-mCheレポーター細胞においてさまざまな濃度のTHペプチドを併用して、0.5 μMのCas9-CPPバリアントの編集効率が定量化された(
図8D)。細胞膜透過性Casタンパク質と、エンドソーム脱出ペプチドとの組み合わせが、ペプチド支援型ゲノム編集(PAGE)と称されている(
図8E)。
【0164】
Cas9-PAGEシステムは、EL4レポーター細胞において最適化された(
図9A~9E)。遺伝子編集効率は、THまたはCas9-T6N
CPPのいずれかのタイトレーションを用いて定量化された(
図9A~9B)。mCherryを喪失した細胞のパーセンテージは、処理後第2日にフローサイトメトリーによって測定された。EL4 mCherryレポーター細胞は、0.5 μMのCas9-T6N
CPP、および5~100 μMのさまざまな濃度のTHとインキュベートされた。THの濃度は、遺伝子編集効率の増加と正に相関していた(
図9A)。EL4 mCherryレポーター細胞は、0.05~5 μMのさまざまな濃度のCas9-T6N
CPP、および75 μMのTHで処理された。Cas9-T6N
CPPの濃度を増加させると、遺伝子編集効率の増加がもたらされた(
図9B)。漸増濃度のTHで処理されたEL4細胞の生細胞回収の定量化は、
図9Cに示される。Cas9-T6N
CPPの漸増量に対する関数としての、GFP陽性細胞集団の定量化(
図9D)。GFP陽性細胞のパーセンテージは、細胞膜透過性効率の代用値である。
【0165】
TH(dTAT-HA2)は、PAGEシステムをトランスに支援する。遺伝子編集効率は、THの短縮化の後で定量化された。EL4 mCherryレポーター細胞は、75 μMのTペプチド、Hペプチド、またはTHペプチドの存在下で、0.5 μMのCas9-T6N
CPPとインキュベートされた。mCherryを喪失した細胞のパーセンテージは、処理後第4日にフローサイトメトリーによって測定された。TH(dTAT-HA2)ペプチドは、EL4 mCherryレポーター細胞においてCas9-T6N
CPPの編集効率を増強したが、T(dTAT)ペプチド単独とH(dHA2)ペプチド単独はいずれも編集効率を増強しなかった(
図10A)。dTAT-HA2(TH)がシスに添加された際の、Cas9-T6N
CPPの遺伝子編集効率およびCas9-TH6N
CPPの遺伝子編集効率が定量化された。mCherryを喪失した細胞のパーセンテージは、処理後第4日にフローサイトメトリーによって測定された。THペプチドがシスに存在しているか否かに関わらず、THはCas9-
CPPをトランスに促進した(
図10B)。
【0166】
Cas9-PAGEシステムが媒介する遺伝子編集の効率は、さまざまな細胞型において定量化された(
図11)。mCherry陽性レポーターは以下の細胞型において確立された:ヒト骨髄系細胞株モデルであるMOLM-13、ヒトナチュラルキラー細胞株であるNK-92、および3名の健康なドナーのPBMCから単離されたヒト初代T細胞。mCherryレポーター細胞は、Cas9-T6N
CPPおよびTHと30分間インキュベートされ、そしてmCherryを喪失した細胞のパーセンテージが、処理後第4日にフローサイトメトリーによって測定された。データは、さまざまな細胞型における遺伝子編集のためにPAGEシステムが利用可能であることを証明した(
図11)。
【0167】
PAGEシステムは、マウス初代CD8 T細胞においてエクスビボで評価された。マウス初代T細胞は、抗CD3、抗CD28、およびIL-2を用いて活性化され、続いて、mCherry蛍光マーカーに連結されているsgRNA発現ベクターを用いた、レトロウイルスによる形質導入が行われた。FACSソートされた富化されたmCherry陽性細胞は、Cas9-T6N
CPPおよびTHペプチドとインキュベートされ、続いて該ペプチド等は、30分間のインキュベーション後に洗浄除去された。遺伝子編集は、記載される遺伝子産物に対するフローサイトメトリーによって、または標的であるゲノム領域の直接サンガーシーケンシングによって、さまざまなタイムポイントにおいて評価された(
図12A)。初代CD8 T細胞は、sgThy1_IG1またはsgNegのいずれかを用いて形質導入され、続いて、さまざまな濃度のTHと5 μMのCas9-T6N
CPPとの30分間のインキュベーションが行われた。フローサイトメトリー解析は、処理後第2日、第4日、および第6日に実施された。漸増濃度のTHで処理されたCD8 T細胞におけるCD90タンパク質発現の経時的解析は、
図12Bに示される。処理の4日後におけるフローサイトメトリー解析の、平均蛍光強度(MFI)による定量化は、
図12Cに示される。sgThy1_IG1またはsgNegのいずれかを用いて形質導入された細胞における、処理の4日後のCD90の代表的なフローサイトメトリープロットは、
図12Dに示される。漸増濃度のTHで処理されたCD8 T細胞の生細胞回収の定量化は、
図12Eに示される。追加のsgRNAが試験されたが、これは、Thy1遺伝子を標的とするもの(sgThy1_IG1、sgThy1_IG2、sgThy1_IG3:Thy1の免疫グロブリンドメインを標的とするもの)、ならびにPtprc遺伝子を標的とするもの(sgPtprc_CAT1およびsgPtprc_TM1:Ptprcの触媒ドメインまたは膜貫通ドメインのいずれかを標的とするもの)であった;また、Ano9遺伝子を標的とするsgRNAが、陰性対照として使用された。マウス初代CD8 T細胞における、Thy1遺伝子を標的とする追加のsgRNAを用いたPAGE、およびPtprc遺伝子を標的とする追加のsgRNAを用いたPAGEの、処理後第4日の遺伝子編集効率についての概略的な棒グラフは、
図12Fに示される。Tracking of Indels by DEcomposition(TIDE)による変異導入アッセイが、
図12Fに記載のPAGE sgRNAを用いて実施された。結果は、それぞれのsgRNAについてのTIDEアッセイスコア(インデルの%)を示すドットプロットとして表される(
図12G)。ゲノムDNAは、PAGEでの処理後第6日に単離され、サンガーシーケンシングされ、続いて、オンラインTIDE解析ツールによる定量化が行われた。結果は、レトロウイルス性のsgRNAを用いたCas9-PAGEが、マウス初代CD8 T細胞においてエクスビボでゲノム編集を媒介したことを証明した(
図12A~12G)。
【0168】
PAGEゲノム編集のための細胞膜透過性リボヌクレオタンパク質(RNP)複合体は、エクスビボでマウス初代T細胞において試験された(
図13A~13D)。マウス初代T細胞におけるRNP-PAGE実験のための、以下を含む一連のCas
CPPバリアントが作製された:Cas9-T6N
CPP(TAT-4xNLS
MYC NLS-Cas9-2xNLS
SV40-sfGFP)、Cas9-T8N
CPP(TAT-6xNLS
MYC NLS-Cas9-2xNLS
SV40-sfGFP)、およびopCas12a-T8N
CPP(TAT-6xNLS
MYC NLS-opCas12a-2x\NLS
SV40-sfGFP)(
図13A)。Cas9/opCas12a-RNP-PAGEによるエクスビボ編集は、マウス初代T細胞において実施された(
図13B)。ナイーブであるかまたは2日間活性化されたかのいずれかであるマウス初代CD8 T細胞は、5 μMのRNP複合体、およびさまざまな濃度のTHと、37度で30分間インキュベートされた。細胞は1回洗浄され、そしてGFP+細胞をソートして、またはソートせずに、5日間培養され、そして編集効率が、標的遺伝子の発現についてのフローサイトメトリーによって測定された(
図13B)。CD90の発現レベルは、さまざまなCas9/opCas12a-RNP-PAGEシステムで処理された、ナイーブCD8 T細胞または活性化CD8 T細胞のいずれかにおいて測定された(
図13C)。ナイーブであるかまたは活性化された、マウス初代CD8 T細胞は、
図13Bに記載されるように、25 μMのTHを併用して、CD90のIGドメインを標的とするガイドRNAをともなった、5 μMの、Cas9-T6N
CPP RNP複合体、Cas9-T8N
CPP RNP複合体、またはopCas12a-T8N
CPP RNP複合体で処理された。CD90の発現は、処理後第5日にフローサイトメトリーによって測定された。結果は、マウス初代T細胞において、opCas12a-RNP-PAGEが、Cas9-RNP-PAGEを上回る優れた遺伝子編集効率を示したことを表すものであった(
図13C)。THの濃度は、初代マウスCD8 T細胞におけるopCas12a-RNP-PAGEの送達のために最適化された(
図13D)。マウス初代CD8 T細胞は、2日間活性化され、そして、25~50 μMのさまざまな濃度のTHの存在下で、CD90のIGドメインを標的とする5 μMのopCas12a-T8N
CPP RNPで処理された。CD90の発現は、処理後第5日にフローサイトメトリーによって測定された。
【0169】
opCas12a-RNP-PAGEによるゲノム編集は、ヒトキメラ抗原受容体(CAR)T細胞において、エクスビボで証明された(
図14A~14C)。CAR T細胞におけるopCas12a-RNP
CPPによるエクスビボ編集を示す実験の概略図は、
図14Aに示される。健康なドナー由来のヒト初代T細胞は、単離され、そして抗CD3、抗CD28、およびIL-2を用いて活性化された。活性化T細胞は、第1日に、CAR19レンチウイルスを用いて形質導入された。第6日に、CAR19+細胞はFACSソートされ、その後、5 μMのopCas12a-T8N
CPP RNPおよび25 μMのTHとの30分間のインキュベーションが行われた。細胞は処理後さらに10日間培養され、そして標的遺伝子の発現がフローサイトメトリーによって測定された。ヒトCAR T細胞は、25 μMのTHの存在下で、CD45(PTPRCによってコードされる)の触媒ドメインを標的とするか、またはβ-2-ミクログロブリン(B2Mによってコードされる)の免疫グロブリンドメインを標的とする、5 μMのopCas12a-T8N
CPP RNPで処理された(
図14B~14C)。CD45の発現(
図14B)またはB2Mの発現(
図14C)は、処理後第6日にフローサイトメトリーによって測定された。
【0170】
Cas9-PAGEシステムによる、臨床的意義のある遺伝子の高効率インビボ編集が、マウス初代T細胞において証明された(
図15A~15G)。マウス初代CD8 T細胞においてインビボでPAGEシステムを評価するための実験ワークフローの概略図は、
図15Aに示される。P14トランスジェニック(CD45.1+またはCD45.1/2+コンジェニック)マウス由来のドナーCD8 T細胞は単離され、そして抗CD3、抗CD28、およびIL-2を用いて活性化され、続いて、蛍光マーカーに連結されている、試験物のsgRNA発現ベクターまたは陰性対照のsgRNA発現ベクターのいずれかを用いた、レトロウイルスによる形質導入が行われた。sgRNAを用いて形質導入されたT細胞は、5 μMのCas9-T6N
CPPおよび25 μMのTHペプチドと30分間インキュベートされ、その後、Cas9陽性であってかつsgRNA陽性である(二重陽性)集団を富化するためのFACSソーティングが行われた。試験物のsgRNAを用いて形質導入されたP14 T細胞、および陰性対照のsgRNAを用いて形質導入されたP14 T細胞は、1:1の割合で混合され、続いて、LCMVクローン13ウイルスに感染させたCD45.2+コンジェニックレシピエントマウスへの養子移植が行われた。遺伝子編集およびP14 T細胞集団は、フローサイトメトリーによって30日間にわたり経時的に評価された。感染後第8日に、CD90の表面発現はsgThy1_IG1が媒介する編集の後で減少し(
図15B~15C)、PD-1についてもsgPdcd1_IG44が媒介する編集の後で同様であった(
図15D~15E)。記載されるsgRNAを用いて形質導入され、同時移植されたP14 T細胞の血中における経時的な比率は、
図15Fに示される。30日間の期間にわたる血中の全CD8 T細胞のうちの比率としての、記載されるsgRNAを用いて形質導入されたP14 T細胞は、
図15Gに示される。
【0171】
Cas9-BE PAGEによる塩基編集は、K562 d2GFPレポーター細胞株において証明された(
図16A~16C)。Cas9-BE発現構築物が作製され(
図16A)、そしてCas9-BE PAGEシステムの塩基編集効率がK562 d2GFPレポーター細胞株において評価された(
図16B)。K562細胞は、d2GFP蛍光レポーターと、d2GFP蛍光レポーター遺伝子を標的とするsgRNAとを安定的に発現するデュアル発現ベクターか、またはd2GFP蛍光レポーターと、陰性対照としてAno9遺伝子を標的とするsgRNAとを安定的に発現するデュアル発現ベクターを用いて、レンチウイルスにより形質導入された。K562 d2GFP細胞は、Cas9-BE-T6N
CPPおよびTHペプチドと30分間インキュベートされ、その後、該タンパク質およびペプチドは洗浄除去された。GFPに連結されているCas9-BEタンパク質が完全に分解した際の、d2GFPレポーターの蛍光の喪失に基づいて、塩基編集は処理後第5日に評価された(
図16C)。
【0172】
番号付けされた態様
番号付けされた態様が以下に提供されるが、その番号付けは、重要度のレベルを示していると解釈されるべきものではない。
態様1は、以下を提供する:
(a) 細胞膜透過性ペプチド(CPP)に連結されているCRISPR関連(Cas)タンパク質と、(b) CPPに連結されているエンドソーム脱出ペプチドとを含む、ペプチド支援型ゲノム編集(Peptide-Assisted Genome Editing)(PAGE)システム。
態様2は、以下を提供する:
Casが、Cas9であるか、またはCas12aであるか、またはCas誘導体である、態様1のPAGEシステム。
態様3は、以下を提供する:
Cas誘導体が、別のタンパク質または触媒ドメインに連結されているCasタンパク質である、態様2のPAGEシステム。
態様4は、以下を提供する:
前記タンパク質または触媒ドメインが、AIDデアミナーゼ、APOBECデアミナーゼ、TadAデアミナーゼ、TET酵素、DNAメチルトランスフェラーゼ、トランス活性化ドメイン、逆転写酵素、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、サーチュイン、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデメチラーゼ、キナーゼ、およびホスファターゼからなる群より選択される、態様3のPAGEシステム。
態様5は、以下を提供する:
前記エンドソーム脱出ペプチドが、SEQ ID NO: 1434~1523に記載のアミノ酸配列のうちの任意のものを含む、前記態様のいずれか1つのPAGEシステム。
態様6は、以下を提供する:
前記エンドソーム脱出ペプチドがdTAT-HA2を含む、前記態様のいずれか1つのPAGEシステム。
態様7は、以下を提供する:
Casが核局在化シグナル(NLS)配列を含む、前記態様のいずれか1つのPAGEシステム。
態様8は、以下を提供する:
NLS配列がアミノ酸配列PAAKRVKLD(SEQ ID NO: 1)を含む、態様7のPAGEシステム。
態様9は、以下を提供する:
NLS配列がGGSリンカーをさらに含む、態様7または8のPAGEシステム。
態様10は、以下を提供する:
CPPが、SEQ ID NO: 10~1422に記載のアミノ酸配列のうちの任意のものを含む、前記態様のいずれか1つのPAGEシステム。
態様11は、以下を提供する:
CPPが、HIV-1由来のトランス活性化転写活性化因子(Tat)に由来する配列を含む、前記態様のいずれか1つのPAGEシステム。
態様12は、以下を提供する:
Tat配列がアミノ酸配列GRKKRRQRRRPQ(SEQ ID NO: 2)を含む、態様11のPAGEシステム。
態様13は、以下を提供する:
PAGEシステム、および少なくとも1種類のsgRNAまたはcrRNAを細胞に導入する段階であって、PAGEシステムが、CPPに連結されているCasタンパク質と、CPPに連結されているエンドソーム脱出ペプチドとを含む、段階
を含む、遺伝子編集のインビトロ方法。
態様14は、以下を提供する:
PAGEシステム、および少なくとも1種類のsgRNAまたはcrRNAを細胞に導入する段階であって、PAGEシステムが、CPPに連結されているCasタンパク質と、CPPに連結されているエンドソーム脱出ペプチドとを含む、段階、ならびに
該細胞を対象に投与する段階
を含む、遺伝子編集のインビボ方法。
態様15は、以下を提供する:
Casが、Cas9であるか、またはCas12aであるか、またはCas誘導体である、態様13または14の方法。
態様16は、以下を提供する:
Cas誘導体が、別のタンパク質または触媒ドメインに連結されているCasタンパク質である、態様15の方法。
態様17は、以下を提供する:
前記タンパク質または触媒ドメインが、AIDデアミナーゼ、APOBECデアミナーゼ、TadAデアミナーゼ、TET酵素、DNAメチルトランスフェラーゼ、トランス活性化ドメイン、逆転写酵素、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、サーチュイン、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデメチラーゼ、キナーゼ、およびホスファターゼからなる群より選択される、態様16の方法。
態様18は、以下を提供する:
前記エンドソーム脱出ペプチドが、SEQ ID NO: 1434~1523に記載のアミノ酸配列のうちの任意のものを含む、態様13~17のいずれか1つの方法。
態様19は、以下を提供する:
前記エンドソーム脱出ペプチドがdTAT-HA2を含む、態様13~18のいずれか1つの方法。
態様20は、以下を提供する:
CasがNLS配列を含む、態様13~19のいずれか1つの方法。
態様21は、以下を提供する:
NLS配列がアミノ酸配列PAAKRVKLD(SEQ ID NO: 1)を含む、態様20の方法。
態様22は、以下を提供する:
NLS配列がGGSリンカーをさらに含む、態様20または21の方法。
態様23は、以下を提供する:
CPPが、SEQ ID NO: 10~1422に記載のアミノ酸配列のうちの任意のものを含む、態様13~22のいずれか1つの方法。
態様24は、以下を提供する:
CPPが、HIV-1由来のトランス活性化転写活性化因子(Tat)に由来する配列を含む、態様13~23のいずれか1つの方法。
態様25は、以下を提供する:
Tat配列がアミノ酸配列GRKKRRQRRRPQ(SEQ ID NO: 2)を含む、態様24の方法。
態様26は、以下を提供する:
エレクトロポレーションを必要としない、態様13~25のいずれか1つの方法。
態様27は、以下を提供する:
PAGEシステムが、血清を含まない培地中にある細胞に導入される、態様13~26のいずれか1つの方法。
態様28は、以下を提供する:
前記エンドソーム脱出ペプチドが約25~75 μMの濃度で細胞に導入される、態様13~27のいずれか1つの方法。
態様29は、以下を提供する:
Casが約0.5~5 μMの濃度で細胞に導入される、態様13~28のいずれか1つの方法。
態様30は、以下を提供する:
細胞が免疫細胞である、態様13~29のいずれか1つの方法。
態様31は、以下を提供する:
細胞が、初代ヒトCD8 T細胞、ヒトiPSC、およびCAR T細胞からなる群より選択される、態様13~30のいずれか1つの方法。
態様32は、以下を提供する:
sgRNAが、Ano9、Pdcd1、Thy1、Ptprc、PTPRC、またはB2Mを標的とする、態様13~30のいずれか1つの方法。
態様33は、以下を提供する:
対象が疾患または障害についての処置を必要としており、かつ編集された細胞が該対象に投与された際に、疾患または障害が該対象において処置される、態様13~32のいずれか1つの方法。
態様34は、以下を提供する:
疾患または障害が感染である、態様33の方法。
態様35は、以下を提供する:
疾患または障害がT細胞の疲弊に関連する、態様34の方法。
【0173】
本明細書において言及または引用される、論文、特許、および特許出願の内容、ならびに他の全ての文献および電子的に利用可能な情報の内容は、個々の刊行物がそれぞれ参照により組み入れられるように具体的にかつ個々に指示されている場合と同程度に、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる。出願人は、そのような論文、特許、特許出願、または実体的および電子的な他の文献の任意のものから、あらゆる素材および情報を本出願に実体的に組み入れる権利を保有する。
【0174】
本発明は、ある特定の態様を参照して開示されているが、他の当業者が、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく本発明の他の態様およびバリエーションを案出し得るであろうことは、明らかである。添付の特許請求の範囲は、そのような態様および等価のバリエーションの全てを包含すると解釈されることを意図している。
【0175】
(表2)細胞膜透過性ペプチド(CPP):例示的な配列
【配列表】
【国際調査報告】