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特表2024-520653長いサイクル寿命、急速な充電及び高い熱安定性を実現する、高性能電解質及び酸化ケイ素活性材料を有するリチウムイオンセル
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】長いサイクル寿命、急速な充電及び高い熱安定性を実現する、高性能電解質及び酸化ケイ素活性材料を有するリチウムイオンセル
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0568 20100101AFI20240517BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20240517BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20240517BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240517BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240517BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240517BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240517BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20240517BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240517BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240517BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240517BHJP
   H01M 50/105 20210101ALI20240517BHJP
   H01M 50/103 20210101ALI20240517BHJP
   H01M 50/107 20210101ALI20240517BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALI20240517BHJP
【FI】
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M10/0567
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M4/587
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/36 A
H01M4/36 E
H01M4/525
H01M4/505
H01M50/105
H01M50/103
H01M50/107
H01M10/0587
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574409
(86)(22)【出願日】2022-06-02
(85)【翻訳文提出日】2024-01-31
(86)【国際出願番号】 US2022031969
(87)【国際公開番号】W WO2022256535
(87)【国際公開日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】63/196,536
(32)【優先日】2021-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520223365
【氏名又は名称】アイオンブロックス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Ionblox, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】ドン,インナン
(72)【発明者】
【氏名】ロペス,ハーマン エイ
(72)【発明者】
【氏名】ヘイズ,ケビン
(72)【発明者】
【氏名】ホアン,ユー-シン
【テーマコード(参考)】
5H011
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H011CC10
5H011KK02
5H011KK06
5H029AJ05
5H029AJ07
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL18
5H029AM03
5H029AM07
5H029BJ02
5H029BJ14
5H029DJ02
5H029DJ08
5H029EJ04
5H029EJ12
5H029HJ00
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ07
5H029HJ10
5H029HJ17
5H029HJ18
5H029HJ19
5H050AA07
5H050AA13
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA02
5H050DA03
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA23
5H050EA24
5H050EA28
5H050FA05
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA07
5H050HA10
5H050HA17
5H050HA18
5H050HA19
(57)【要約】
リチウムベースのセルのための改善された電解質は、ヘキサフルオロリン酸リチウム及びリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド又はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの二塩の組み合わせと、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及び5~25体積パーセントのフルオロエチレンカーボネートを含む溶媒とを含み得る。改善された電解質は、添加剤であるリン酸トリエチル、エトキシ(ペンタフルオロ)シクロトリホスファゼン、1,3-プロパンスルトン又はそれらの混合物を含み、且つ限定された少量の追加の共溶媒及び/又はリチウムフリーの有機添加剤を有し得る。改善された電解質は、負極としてのケイ素ベースの活性材料及び正極としてのニッケルリッチリチウム金属酸化物を用いてリチウムベースのセルを作製するために使用され得る。リチウムベースのセルは、高いエネルギー、高い出力、急速な充電及び長いサイクル寿命と共に良好な熱安定性を実現し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムベースのセルのための電解質であって、
約0.05M~約0.6MのLiPF、約0.75M~約1.8Mのリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)又はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)及び約5モルパーセント以下の任意選択的な他のリチウム塩から本質的になる、約1.1M~約2.2Mのリチウム塩と;
約5体積パーセント(体積%)~約25体積%のフルオロエチレンカーボネート、約50体積%~約90体積%のジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート又はそれらの混合物並びに0~約35体積%の、プロピレンカーボネート、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸プロピル及びそれらの混合物からなる群から選択される任意選択的な共溶媒から本質的になる溶媒と;
約10重量パーセント(重量%)以下の、リン酸トリエチル(TEP)、エトキシ(ペンタフルオロ)シクロトリホスファゼン(PFPN)、1,3-プロパンスルトン(PS)及びそれらの混合物からなる群から選択される任意選択的な添加剤と;
約5重量%以下の追加の共溶媒及び/又はリチウムフリーの有機添加剤と
から本質的になる電解質。
【請求項2】
前記リチウム塩は、約0.3M~約0.6MのLiPF及び約0.8M~約1.4MのLiTFSIから本質的になり、及び前記溶媒は、約60体積%~約80体積%のエチルメチルカーボネート及び約5体積%~約20体積%のフルオロエチレンカーボネートから本質的になる、請求項1に記載の電解質。
【請求項3】
前記任意選択的な有機添加剤は、約0.5~約5重量%のPFPNを含む、請求項2に記載の電解質。
【請求項4】
前記任意選択的な共溶媒は、約5体積%~約15体積%のプロピレンカーボネートを含む、請求項2又は3に記載の電解質。
【請求項5】
前記任意選択的な有機添加剤は、約0.5重量%~約3重量%のTEPを含む、請求項2又は4に記載の電解質。
【請求項6】
前記任意選択的な有機添加剤は、約0.5~約5重量%のPSを含む、請求項2又は4に記載の電解質。
【請求項7】
前記溶媒は、約60体積%~約75体積%のエチルメチルカーボネートと、約10体積%~約20体積%のフルオロエチレンカーボネートと、5体積%~25体積%の、プロピレンカーボネート、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸プロピル及びそれらの混合物からなる群から選択される共溶媒とから本質的になる、請求項1~3又は5若しくは6のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項8】
リチウムイオンセルであって、
約75重量%~約96重量%の活性材料、約0.1重量%~約7重量%のナノスケール導電性炭素及び約4重量%~約20重量%のポリマーバインダーを含む負極であって、前記活性材料は、約45重量%~約100%のケイ素ベースの活性材料及び0~約55重量%のグラファイトカーボンを含む、負極と;
リチウム金属酸化物、導電性炭素及びポリマーバインダーを含む正極と;
前記負極と前記正極との間のセパレータと;
約1.1M~約2.2Mのリチウム塩及び非水性溶媒を含む電解質であって、前記リチウム塩は、約60モルパーセント~約100モルパーセントのLiTFSIを含み、前記非水性溶媒は、約5体積%~約25体積%のフルオロエチレンカーボネート、50体積%~90体積%のジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート又はそれらの混合物並びに約35体積%以下の、プロピレンカーボネート、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸プロピル及びそれらの混合物からなる群から選択される任意選択的な共溶媒を含む、電解質と;
前記負極、前記正極、前記セパレータ及び前記電解質を封入する容器と
を含み、2.5Vと、前記カソード活性材料の重量に基づく選択された充電電圧との間において、少なくとも約120mAh/gの、4Cのレートでの室温放電比容量を有するリチウムイオンセル。
【請求項9】
前記ケイ素ベースの活性材料は、ケイ素-酸化ケイ素炭素複合材料を含む、請求項8に記載のリチウムイオンセル。
【請求項10】
前記グラファイトカーボンは、約1m/g~約20m/gのBET表面積を有する、請求項8又は9に記載のリチウムイオンセル。
【請求項11】
前記負極の前記ポリマーバインダーは、ポリイミドと水ベースのポリマーバインダーとのブレンドを含む、請求項8~10のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項12】
前記負極の前記ポリマーバインダーは、少なくとも約50重量%のポリイミドと、ポリフッ化ビニリデン、セルロース、スチレン-ブタジエンゴム、リチウム化ポリアクリル酸、それらのコポリマー及びそれらの混合物からなる群から選択される第2のポリマーバインダーとのブレンドを含み、前記ポリイミドは、少なくとも約40%の伸び率を有し、及び前記第2のポリマーバインダーは、前記ポリイミドのものよりも大きい弾性を有する、請求項8~10のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項13】
前記負極の前記ポリマーバインダーは、水溶性バインダーを含む、請求項8~10のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項14】
前記水溶性バインダーは、少なくとも約5モルパーセントのアクリル酸塩部分及び少なくとも約5モルパーセントのアクリルアミド部分を有するポリ(アクリルアミド-コ-アクリル酸塩)を含む、請求項13に記載のリチウムイオンセル。
【請求項15】
前記水溶性バインダーは、対応するモノマーからの金属-ポリアクリル酸/アクリレート(M-PAA)部分を含み、Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム又はそれらの混合物のカチオンである、請求項13に記載のリチウムイオンセル。
【請求項16】
前記リチウム金属酸化物は、式LiNiMnCo(式中、0.45≦x、0.05≦y、z≦0.35、x+y+z≒1である)によって概ね表されるリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物を含む、請求項8~15のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項17】
前記リチウム金属酸化物は、式Li1+bNiαMnβCoγδ2-z(式中、b+α+β+γ+δ≒1であり、bは、約0.04~約0.3の範囲であり、αは、0~約0.4の範囲であり、βは、約0.2~約0.65の範囲であり、γは、0~約0.46の範囲であり、δは、約0~約0.15の範囲であり、及びzは、0~0.2の範囲であるが、ただし、α及びγの両方が0であることはなく、Aは、リチウム、マンガン、ニッケル及びコバルトと異なる金属である)によって表されるリチウム及びマンガンリッチリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物をさらに含む、請求項16に記載のリチウムイオンセル。
【請求項18】
負極の第1サイクルの不可逆容量損失の約80%~約180%の量の補足的なリチウムをさらに含み、約1.10~約1.95の、正極容量で割った負極容量の、C/3の放電レートでの第4サイクルにおける比率を有する、請求項8~17のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項19】
前記負極活性材料は、約60重量%~約95重量%の酸化ケイ素ベースの材料及び約5重量%~約40重量%のグラファイトを含む、請求項8~18のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項20】
前記溶媒は、約60体積%~約85体積%のエチルメチルカーボネートと、約10体積%~約20体積%のフルオロエチレンカーボネートと、25体積%以下の、プロピレンカーボネート、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸プロピル及びそれらの混合物からなる群から選択される任意選択的な共溶媒とから本質的になる、請求項8~19のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項21】
前記リチウム塩は、約0.3M~約0.6MのLiPFと、約0.8M~約1.4MのLiTFSIと、約5モルパーセント以下の任意選択的な他のリチウム塩とから本質的になる、請求項20に記載のリチウムイオンセル。
【請求項22】
前記電解質は、
リチウム塩と、
溶媒と、
約10重量パーセント(重量%)以下の、リン酸トリエチル(TEP)、エトキシ(ペンタフルオロ)シクロトリホスファゼン(PFPN)、1,3-プロパンスルトン(PS)及びそれらの混合物からなる群から選択される任意選択的な添加剤と;
約5重量%以下の追加の共溶媒及び/又はリチウムフリーの有機添加剤と
から本質的になる、請求項21に記載のリチウムイオンセル。
【請求項23】
4Cのレートにおいて、2.5Vと、前記選択された充電電圧との間で第7サイクルから第700サイクルまで室温でサイクルされる場合、第7サイクルにおける容量の少なくとも約80%の前記容量を第700サイクルにおいて有する、請求項8~22のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項24】
リチウムイオンセルであって、
約75重量%~約96重量%の活性材料、約0.1重量%~約7重量%のナノスケール導電性炭素及び約4重量%~約20重量%のポリマーバインダーを含む負極であって、前記活性材料は、約45重量%~約100%のケイ素ベースの活性材料及び0重量%~約55重量%のグラファイトカーボンを含む、負極と;
リチウム金属酸化物、導電性炭素及びポリマーバインダーを含む正極と;
前記負極と前記正極との間のセパレータと;
約1.0M~約2.5Mのリチウム塩及び非水性溶媒を含む電解質であって、前記リチウム塩は、約60モルパーセント~約100モルパーセントのLiTFSIを含み、前記非水性溶媒は、約5体積%~約25体積%のフルオロエチレンカーボネートを含む、電解質と;
前記負極、前記正極、前記セパレータ及び前記電解質を封入する容器と
を含み、2.5Vと、前記カソード活性材料の重量に基づく選択された充電電圧との間において、少なくとも約120mAh/gの、4Cのレートでの室温放電比容量を有し、
4Cのレートにおいて、2.5Vと、前記選択された充電電圧との間で第7サイクルから第700サイクルまで室温でサイクルされる場合、第7サイクルにおける容量の少なくとも約80%の前記容量を第700サイクルにおいて有するリチウムイオンセル。
【請求項25】
前記容器は、ポーチである、請求項24に記載のリチウムイオンセル。
【請求項26】
前記容器は、キャニスターであり、且つ前記負極及び前記正極は、円筒形又は角柱形に巻かれる、請求項24に記載のリチウムイオンセル。
【請求項27】
前記非水性溶媒は、約50体積%~約90体積%のジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート又はそれらの混合物並びに約35体積%以下の、プロピレンカーボネート、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸プロピル及びそれらの混合物からなる群から選択される任意選択的な共溶媒を含む、請求項24~26のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項28】
前記ケイ素ベースの活性材料は、ケイ素-酸化ケイ素炭素複合材料を含む、請求項24~27のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項29】
前記グラファイトカーボンは、約1m/g~約20m/gのBET表面積を有する、請求項24~28のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項30】
前記負極の前記ポリマーバインダーは、ポリイミドと水ベースのポリマーバインダーとのブレンドを含む、請求項24~29のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項31】
前記負極の前記ポリマーバインダーは、少なくとも約50重量%のポリイミドと、ポリフッ化ビニリデン、セルロース、スチレン-ブタジエンゴム、リチウム化ポリアクリル酸、それらのコポリマー及びそれらの混合物からなる群から選択される第2のポリマーバインダーとのブレンドを含み、前記ポリイミドは、少なくとも約40%の伸び率を有し、及び前記第2のポリマーバインダーは、前記ポリイミドのものよりも大きい弾性を有する、請求項24~29のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項32】
前記負極の前記ポリマーバインダーは、水溶性バインダーを含む、請求項24~29のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項33】
前記水溶性バインダーは、少なくとも約5モルパーセントのアクリル酸塩部分及び少なくとも約5モルパーセントのアクリルアミド部分を有するポリ(アクリルアミド-コ-アクリル酸塩)を含む、請求項32に記載のリチウムイオンセル。
【請求項34】
前記水溶性バインダーは、対応するモノマーからの金属-ポリアクリル酸/アクリレート(M-PAA)部分を含み、Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム又はそれらの混合物のカチオンである、請求項32に記載のリチウムイオンセル。
【請求項35】
前記リチウム金属酸化物は、式LiNiMnCo(式中、0.45≦x、0.05≦y、z≦0.35、x+y+z≒1である)によって概ね表されるリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物を含む、請求項24~34のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項36】
負極の第1サイクルの不可逆容量損失の約80%~約180%の量の補足的なリチウムをさらに含み、約1.10~約1.95の、正極容量で割った負極容量の、C/3の放電レートでの第4サイクルにおける比率を有する、請求項24~35のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項37】
前記負極活性材料は、約60重量%~約95重量%の酸化ケイ素ベースの材料及び約5重量%~約40重量%のグラファイトを含む、請求項24~36のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項38】
前記溶媒は、約60体積%~約85体積%のエチルメチルカーボネートと、約10体積%~約20体積%のフルオロエチレンカーボネートと、25体積%以下の、プロピレンカーボネート、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸プロピル及びそれらの混合物からなる群から選択される任意選択的な共溶媒とから本質的になる、請求項24~37のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項39】
前記リチウム塩は、約0.3M~約0.6MのLiPFと、約0.8M~約1.4MのLiTFSIと、約5モルパーセント以下の任意選択的な他のリチウム塩とから本質的になる、請求項38に記載のリチウムイオンセル。
【請求項40】
前記電解質は、
リチウム塩と、
溶媒と、
約10重量パーセント(重量%)以下の、リン酸トリエチル(TEP)、エトキシ(ペンタフルオロ)シクロトリホスファゼン(PFPN)、1,3-プロパンスルトン(PS)及びそれらの混合物からなる群から選択される任意選択的な添加剤と;
約5重量%以下の追加の共溶媒及び/又はリチウムフリーの有機添加剤と
から本質的になる、請求項39に記載のリチウムイオンセル。
【請求項41】
リチウムイオンセルであって、
約75重量%~約96重量%の活性材料、約0.1重量%~約7重量%のナノスケール導電性炭素及び約4重量%~約20重量%のポリマーバインダーを含む負極であって、前記活性材料は、約45重量%~約100%のケイ素ベースの活性材料及び0~約55重量%のグラファイトカーボンを含む、負極と;
リチウム金属酸化物、導電性炭素及びポリマーバインダーを含む正極と;
前記負極と前記正極との間のセパレータと;
約1.1M~約2.2Mのリチウム塩及び非水性溶媒を含む電解質であって、前記リチウム塩は、約90モルパーセント~約100モルパーセントのLiPFを含み、前記非水性溶媒は、約5体積%~約25体積%のフルオロエチレンカーボネート、50体積%~80体積%のジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート又はそれらの混合物、約5体積%~約15体積%のプロピレンカーボネート及び約5体積%~約20体積%の酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル又はそれらの混合物を含む、電解質と;
前記負極、前記正極、前記セパレータ及び前記電解質を封入する容器と
を含み、2.5Vと、前記カソード活性材料の重量に基づく選択された充電電圧との間において、少なくとも約120mAh/gの、4Cのレートでの室温放電比容量を有し、1Cのレートにおいて、2.5Vと、前記選択された充電電圧との間で第7サイクルから第650サイクルまで室温でサイクルされる場合、第7サイクルにおける容量の少なくとも約80%の前記容量を第650サイクルにおいて有するリチウムイオンセル。
【請求項42】
前記非水性溶媒は、約50体積%~約90体積%のジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート又はそれらの混合物並びに約35体積%以下の、プロピレンカーボネート、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸プロピル及びそれらの混合物からなる群から選択される任意選択的な共溶媒を含む、請求項41に記載のリチウムイオンセル。
【請求項43】
前記ケイ素ベースの活性材料は、ケイ素-酸化ケイ素炭素複合材料を含む、請求項41又は42に記載のリチウムイオンセル。
【請求項44】
前記グラファイトカーボンは、約1m/g~約20m/gのBET表面積を有する、請求項41~43のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項45】
前記負極の前記ポリマーバインダーは、ポリイミドと水ベースのポリマーバインダーとのブレンドを含む、請求項41~44のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項46】
前記負極の前記ポリマーバインダーは、少なくとも約50重量%のポリイミドと、ポリフッ化ビニリデン、セルロース、スチレン-ブタジエンゴム、リチウム化ポリアクリル酸、それらのコポリマー及びそれらの混合物からなる群から選択される第2のポリマーバインダーとのブレンドを含み、前記ポリイミドは、少なくとも約40%の伸び率を有し、及び前記第2のポリマーバインダーは、前記ポリイミドのものよりも大きい弾性を有する、請求項41~44のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項47】
前記負極の前記ポリマーバインダーは、水溶性バインダーを含む、請求項41~44のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項48】
前記水溶性バインダーは、少なくとも約5モルパーセントのアクリル酸塩部分及び少なくとも約5モルパーセントのアクリルアミド部分を有するポリ(アクリルアミド-コ-アクリル酸塩)を含む、請求項47に記載のリチウムイオンセル。
【請求項49】
前記水溶性バインダーは、対応するモノマーからの金属-ポリアクリル酸/アクリレート(M-PAA)部分を含み、Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム又はそれらの混合物のカチオンである、請求項47に記載のリチウムイオンセル。
【請求項50】
前記リチウム金属酸化物は、式LiNiMnCo(式中、0.45≦x、0.05≦y、z≦0.35、x+y+z≒1である)によって概ね表されるリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物を含む、請求項41~49のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項51】
負極の第1サイクルの不可逆容量損失の約80%~約180%の量の補足的なリチウムをさらに含み、約1.10~約1.95の、正極容量で割った負極容量の、C/3の放電レートでの第4サイクルにおける比率を有する、請求項41~50のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項52】
前記負極活性材料は、約60重量%~約95重量%の酸化ケイ素ベースの材料及び約5重量%~約40重量%のグラファイトを含む、請求項41~51のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項53】
前記溶媒は、約60体積%~約75体積%のエチルメチルカーボネート及び約10体積%~約20体積%のフルオロエチレンカーボネートから本質的になる、請求項41~52のいずれか一項に記載のリチウムイオンセル。
【請求項54】
前記電解質は、
リチウム塩と、
溶媒と、
約10重量パーセント(重量%)以下の、リン酸トリエチル(TEP)、エトキシ(ペンタフルオロ)シクロトリホスファゼン(PFPN)、1,3-プロパンスルトン(PS)及びそれらの混合物からなる群から選択される任意選択的な添加剤と;
約5重量%以下の追加の共溶媒及び/又はリチウムフリーの有機添加剤と
から本質的になる、請求項53に記載のリチウムイオンセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に組み込まれる、2021年6月3日に出願された、「Lithium Ion Cells With High Performance Electrolyte and Silicon Oxide Active Materials Achieving Long Cycle Life,Fast Charge and High Thermal Stability」という名称の、Dongらへの米国仮特許出願第63/196,536号明細書に対する優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、高容量酸化ケイ素活性材料を組み込んだ負極を用いて機能しつつ、良好なサイクル能、ガス放出の低減及び幅広い商業用途での安定性を実現することが発見された、電解質を有するセルのアセンブリに関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムバッテリーは、それらの比較的高いエネルギー密度のため、消費者向け電子及び電気機器において広く使用されている。いくつかの現在市販されているバッテリーに関して、負極材料は、グラファイトであり得、且つ正極材料は、酸化リチウムコバルト(LiCoO)、酸化リチウムマンガン(LiMn)、リン酸リチウム鉄(LiFePO)、酸化リチウムニッケル(LiNiO)、酸化リチウムニッケルコバルト(LiNiCoO)、酸化リチウムニッケルコバルトマンガン(LiNiMnCoO)、酸化リチウムニッケルコバルトアルミニウム(LiNiCoAlO)などを含み得る。負極に関して、チタン酸リチウムは、良好なサイクリング特性を有するグラファイトの代替物であるが、より低いエネルギー密度を有する。酸化スズ及びケイ素などのグラファイトの他の代替物は、エネルギー密度の増加を提供する可能性を有する。しかしながら、いくつかの高容量負極材料は、特にケイ素に関して、リチウムのインターカレーション/合金化に関連する構造変化及び非常に大きい体積膨張に関連する高い不可逆容量損失並びに不十分な放電及び充電サイクルのため、商業的に不適切であることがわかっている。構造変化及び大きい体積変化によって電極の構造完全性が損なわれ得、それによりサイクリング効率が低下し得る。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1A】2部分のポーチケースから分離されたバッテリーコアを有するポーチバッテリーの分解図である。
図1B図1Aの組み立て型ポーチバッテリーの透視下面図である。
図1C図1Bのポーチバッテリーの底面図である。
図1D】電極スタックを含むバッテリーコアの実施形態を示す。
図2】65℃に保持されたポーチセル内の電解質E1~E4のガス発生性能を示すプロットである。プロットは、時間の関数としてのポーチセルの厚さの変化率を示す。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC622、負極活性材料について酸化ケイ素複合材料SOCであった。
図3A】電解質E1~E4を用いて作製したコインセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。コインセルは、1C充電/1C放電レートでサイクルされた。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC622、負極活性材料について酸化ケイ素複合材料SOCであった。
図3B図3Aに示すデータに関する、正極活性材料の重量を基準とする正規化されていない比放電容量のプロットである。
図3C】サイクルが4C充電/1C放電レートで実行された場合の、図3Aに記載されたコインセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。
図3D図3Cに示すデータに関する、正極活性材料の重量を基準とする正規化されていない比放電容量のプロットである。
図3E】サイクルが様々な充電及び放電レートで実行された場合の、図3Aに記載されたコインセルのサイクル数の関数としての放電容量のプロットである。
図4A】電解質E1、E5及びE9を用いて作製したコインセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。コインセルは、4C充電/1C放電レートでサイクルされた。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC622、負極活性材料についてSOCであった。
図4B図4Aに示すデータに関する、正極活性材料の重量を基準とする正規化されていない比放電容量のプロットである。
図5A】電解質E1及びE5を用いて作製したコインセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。コインセルは、C/3充電/C/3放電及び1C充電/1C放電レートでサイクルされた。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC811、負極活性材料についてSOCであった。
図5B図5Aに示すデータに関する、正極活性材料の重量を基準とする正規化されていない比放電容量のプロットである。
図5C】サイクルが4C充電/1C放電レート(室温)及び1C充電/1C放電レート(45℃)で実行された場合の、図5Aに記載されたコインセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。
図5D図5Cに示すデータに関する、正極活性材料の重量を基準とする正規化されていない比放電容量のプロットである。
図6A】電解質E1及びE3を用いて作製したコインセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。コインセルは、図5Cで説明したようにサイクルされた。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC811、負極活性材料についてSOCであった。
図6B図6Aに示すデータに関する、正極活性材料の重量を基準とする正規化されていない比放電容量のプロットである。
図7A】電解質E1及びE6を用いて作製したコインセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。コインセルは、図5Cで説明したようにサイクルされた。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC811、負極活性材料についてSOCであった。
図7B図7Aに示すデータに関する、正極活性材料の重量を基準とする正規化されていない比放電容量のプロットである。
図8A】電解質E1及びE7を用いて作製したコインセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。コインセルは、図5Cで説明したようにサイクルされた。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC811、負極活性材料についてSOCであった。
図8B図8Aに示すデータに関する、正極活性材料の重量を基準とする正規化されていない比放電容量のプロットである。
図9A】電解質E1及びE8を用いて作製したコインセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。コインセルは、図5Cで説明したようにサイクルされた。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC811、負極活性材料についてSOCであった。
図9B図9Aに示すデータに関する、正極活性材料の重量を基準とする正規化されていない比放電容量のプロットである。
図10】65℃に保持されたポーチセル内の電解質E1、E2、E10及びE21~E24のガス発生性能を示すプロットである。プロットは、時間の関数としてのポーチセルの厚さの変化率を示す。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC622、負極活性材料についてSOCであった。
図11A】電解質E1及びE21を用いて作製したコインセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。全てのサイクルが室温で実行されたことを除き、コインセルは、図5Cで説明したようにサイクルされた。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC622、負極活性材料についてSOCであった。
図11B図11Aに示すデータに関する、正極活性材料の重量を基準とする正規化されていない比放電容量のプロットである。
図12A】電解質E1及びE22を用いて作製したコインセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。サイクルが室温で実行されたことを除き、コインセルは、図5Cに記載されたようにサイクルされた。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC622、負極活性材料についてSOCであった。
図12B図12Aに示すデータに関する、正極活性材料の重量を基準とする正規化されていない比放電容量のプロットである。
図13A】電解質E1及びE23を用いて作製したコインセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。サイクルが室温で実行されたことを除き、コインセルは、図5Cに記載されたようにサイクルされた。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC622、負極活性材料についてSOCであった。
図13B図13Aに示すデータに関する、正極活性材料の重量を基準とする正規化されていない比放電容量のプロットである。
図14A】電解質E1及びE24を用いて作製したコインセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。サイクルが室温で実行されたことを除き、コインセルは、図5Cに記載されたようにサイクルされた。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC622、負極活性材料についてSOCであった。
図14B図14Aに示すデータに関する、正極活性材料の重量を基準とする正規化されていない比放電容量のプロットである。
図15A】電解質E1及びE25を用いて作製したコインセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。サイクルが室温で実行されたことを除き、コインセルは、図5Cで説明したようにサイクルされた。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC622、負極活性材料についてSOCであった。
図15B図15Aに示すデータに関する、正極活性材料の重量を基準とする正規化されていない比放電容量のプロットである。
図16】電解質E1及びE10~E12を用いて作製したコインセルの、様々なレートにおける正規化されていない比放電容量のプロットである。データは、正極活性材料の重量を基準とする。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC622、負極活性材料について酸化ケイ素複合材料SOCであった。
図17】電解質E10、E11及びE13を用いて作製したコインセルの、様々なレートにおける正規化されていない比放電容量のプロットである。データは、正極活性材料の重量を基準とする。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC622、負極活性材料について酸化ケイ素複合材料SOCであった。
図18】電解質E14を用いて作製したコインセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。コインセルは、1C充電/1C放電レートでサイクルされた。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC811、負極活性材料について酸化ケイ素複合材料SOCであった。
図19A】電解質E2及びE15を用いて作製したコインセルのサイクル数の関数としての正規化されていない比放電容量のプロットである。データは、正極活性材料の重量を基準とする。コインセルは、実施例8に記載されたように、異なる充電レートでサイクルされた。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC811、負極活性材料について酸化ケイ素複合材料SOCであった。
図19B図19Aに記載されたコインセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。コインセルは、1Cの充電レート及び1Cの放電レートでサイクルされた。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC811、負極活性材料について酸化ケイ素複合材料SOCであった。
図19C】正極活性材料の重量を基準とする正規化されていない比放電容量のプロットである。サイクルは、4C充電/1C放電レート(室温)で実行される。
図20A】電解質E3、E5及びE7を用いて作製したポーチセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。ポーチセルは、1C充電/1C放電レートでサイクルされた。電極活性材料は、正極活性材料について市販の単結晶NMC811、負極活性材料について酸化ケイ素複合材料SOCであった。
図20B図20Aに示すデータに関する、正極活性材料の重量を基準とする正規化されていない比放電容量のプロットである。
図21A】サイクルが4C充電/1C放電レートで実行された場合の、図20Aに記載されたポーチセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。
図21B図21Aに示すデータに関する、正極活性材料の重量を基準とする正規化されていない比放電容量のプロットである。
図22A】カソード活性材料として電解質E3及び市販の単結晶NMC811を用いて作製したポーチセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。ポーチセルは、1C充電/1C放電レートでサイクルされた。
図22B図22Aに示すデータに関する、正極活性材料の重量を基準とする正規化されていない比放電容量のプロットである。
図23A】カソード活性材料として電解質E3及び市販の単結晶NMC811を用いて作製したポーチセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。ポーチセルは、4C充電/1C放電レートでサイクルされた。
図23B図23Aに示すデータに関する、正極活性材料の重量を基準とする正規化されていない比放電容量のプロットである。
図24A】カソード活性材料として電解質E3及び市販の単結晶NMC811を用いて作製したポーチセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。ポーチセルは、1C充電/1C放電レートでサイクルされ、温度は45℃であった。
図24B図24Aに示すデータに関する、正極活性材料の重量を基準とする正規化されていない比放電容量のプロットである。
図25】E1、E26及びE27を用いて作製したコインセルのサイクル数の関数としての正極活性材料の重量を基準とする比容量のプロットである。サイクルは、4.2Vから2.5Vまで1C充電/1C放電レートで実行された。
図26】E1、E26及びE27を用いて作製したコインセルのサイクル数の関数としての正極活性材料の重量を基準とする比容量のプロットである。サイクルは、4.2Vから2.5Vまで4C充電/1C放電レートで実行された。
図27A】E3、E28及びE29を用いて作製したコインセルのサイクル数の関数としての正極活性材料の重量を基準とする比容量のプロットである。サイクルは、4.2Vから2.5Vまで4C充電/1C放電レートで実行された。
図27B図27Aに示すデータの容量保持率のプロットである。
図28】E30~32電解質との組み合わせでSOCアノード及びNMC811カソードを有するポーチセルに関する、65℃での保存時間対厚さの変化率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0005】
第1の態様において、本発明は、リチウムベースのセルのための電解質であって、
約0.05M~約0.6MのLiPF、約0.75M~約1.8Mのリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)又はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)及び約5モルパーセント以下の任意選択的な他のリチウム塩から本質的になる、約1.1M~約2.2Mのリチウム塩と;
約5体積パーセント(体積%)~約25体積%のフルオロエチレンカーボネート、約50体積%~約90体積%のジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート又はそれらの混合物並びに0~約35体積%の、プロピレンカーボネート、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸プロピル及びそれらの混合物からなる群から選択される任意選択的な共溶媒から本質的になる溶媒と;
約10重量パーセント(重量%)以下の、リン酸トリエチル(TEP)、エトキシ(ペンタフルオロ)シクロトリホスファゼン(PFPN)、1,3-プロパンスルトン(PS)及びそれらの混合物からなる群から選択される任意選択的な添加剤と;
約5重量%以下の追加の共溶媒及び/又はリチウムフリーの有機添加剤と
から本質的になる電解質に関する。
【0006】
さらなる態様において、本発明は、リチウムイオンセルであって、
約75重量%~約96重量%の活性材料、約0.1重量%~約7重量%のナノスケール導電性炭素及び約4重量%~約20重量%のポリマーバインダーを含む負極であって、活性材料は、約45重量%~約100%のケイ素ベースの活性材料及び0~約55重量%のグラファイトカーボンを含む、負極と;
リチウム金属酸化物、導電性炭素及びポリマーバインダーを含む正極と;
負極と正極との間のセパレータと;
約1.1M~約2.2Mのリチウム塩及び非水性溶媒を含む電解質であって、リチウム塩は、約60モルパーセント~約100モルパーセントのLiTFSIを含み、非水性溶媒は、約5体積%~約25体積%のフルオロエチレンカーボネート、50体積%~90体積%のジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート又はそれらの混合物並びに約35体積%以下の、プロピレンカーボネート、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸プロピル及びそれらの混合物からなる群から選択される任意選択的な共溶媒を含む、電解質と;
負極、正極、セパレータ及び電解質を封入する容器と
を含み、2.5Vと、カソード活性材料の重量に基づく選択された充電電圧との間において、少なくとも約120mAh/gの、4Cのレートでの室温放電比容量を有するリチウムイオンセルに関する。
【0007】
さらなる態様において、本発明は、リチウムイオンセルであって、
約75重量%~約96重量%の活性材料、約0.1重量%~約7重量%のナノスケール導電性炭素及び約4重量%~約20重量%のポリマーバインダーを含む負極であって、活性材料は、約45重量%~約100%のケイ素ベースの活性材料及び0重量%~約55重量%のグラファイトカーボンを含む、負極と;
リチウム金属酸化物、導電性炭素及びポリマーバインダーを含む正極と;
負極と正極との間のセパレータと;
約1.0M~約2.5Mのリチウム塩及び非水性溶媒を含む電解質であって、リチウム塩は、約60モルパーセント~約100モルパーセントのLiTFSIを含み、非水性溶媒は、約5体積%~約25体積%のフルオロエチレンカーボネートを含む、電解質と;
負極、正極、セパレータ及び電解質を封入する容器と
を含み、2.5Vと、カソード活性材料の重量に基づく選択された充電電圧との間において、少なくとも約120mAh/gの、4Cのレートでの室温放電比容量を有し、
4Cのレートにおいて、2.5Vと、選択された充電電圧との間で第7サイクルから第700サイクルまで室温でサイクルされる場合、第7サイクルにおける容量の少なくとも約80%の容量を第700サイクルにおいて有するリチウムイオンセルに関する。
【0008】
さらなる態様において、本発明は、リチウムイオンセルであって、
約75重量%~約96重量%の活性材料、約0.1重量%~約7重量%のナノスケール導電性炭素及び約4重量%~約20重量%のポリマーバインダーを含む負極であって、活性材料は、約45重量%~約100%のケイ素ベースの活性材料及び0~約55重量%のグラファイトカーボンを含む、負極と;
リチウム金属酸化物、導電性炭素及びポリマーバインダーを含む正極と;
負極と正極との間のセパレータと;
約1.1M~約2.2Mのリチウム塩及び非水性溶媒を含む電解質であって、リチウム塩は、約90モルパーセント~約100モルパーセントのLiPFを含み、非水性溶媒は、約5体積%~約25体積%のフルオロエチレンカーボネート、50体積%~80体積%のジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート又はそれらの混合物、約5体積%~約15体積%のプロピレンカーボネート及び約5体積%~約20体積%の酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル又はそれらの混合物を含む、電解質と;
負極、正極、セパレータ及び電解質を封入する容器と
を含み、2.5Vと、カソード活性材料の重量に基づく選択された充電電圧との間において、少なくとも約120mAh/gの、4Cのレートでの室温放電比容量を有し、1Cのレートにおいて、2.5Vと、選択された充電電圧との間で第7サイクルから第650サイクルまで室温でサイクルされる場合、第7サイクルにおける容量の少なくとも約80%の容量を第650サイクルにおいて有するリチウムイオンセルに関する。
【0009】
本明細書に記載されているリチウムイオンバッテリーは、高いエネルギー、高い出力、急速な充電及び長いサイクル寿命と共に良好な熱安定性を実現し得る。リチウムイオンセルは、ケイ素ベースの活性材料が大部分を占める負極と併用することで、サイクル寿命及び熱安定性を向上させる新規な電解質配合物を用いて開発されている。例示された実施形態では、リチウムイオンセルは、SiOx-グラファイト複合材料アノードと対になったニッケルリッチカソード材料を使用する。高エネルギーを維持しながら長いサイクル寿命を達成するために、様々なSiOxアノード配合物が以前の特許出願に記載されている。本出願では、本出願人の高性能電極設計の適応を用いて、サイクル寿命、急速充電サイクル及び熱安定性を改善する電解質配合物を使用してリチウムイオンセルを開発した。車両用途に実用的なセルを配合することに関して、サイクル性能又は高出力及び/又は急速充電を可能にする高レート能力を犠牲にすることなく、セルからのガス発生を低減することができる電解質が開発されてきた。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるリチウムイオンセルは、使用される塩のより高い熱分解温度による安全性の向上と共に、改善されたガス発生挙動を示す。
【0010】
いくつかの実施形態では、電解質は、ブレンドされた有機溶媒中のリチウム塩、LiPF、LiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)、LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)の混合物をベースとしているが、他の実施形態では、改善された低ガス発生電解質は、有機溶媒のブレンドと共に本質的にLiPFのみをベースとし、改善された特性をもたらす。ブレンドされた有機溶媒は、一般的にフルオロエチレンカーボネートと、追加の溶媒、例えば、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及び/又はプロピレンカーボネートなどの共溶媒を含む。いくつかの実施形態では、電解質配合物は、特定の性能特性を高めるために異なる種類の添加剤及び/又は共溶媒を使用し得る。例えば、酢酸メチル及び酢酸エチルなどの共溶媒は、電解質の導電性を高め、TEP(トリエチルホスファイト)及びPS(1,3-プロパンスルトン)などの添加剤は、ガス発生を低減し、PFPN(エトキシ(ペンタフルオロ)シクロトリホスファゼン)は、難燃性を高めることができる。LiPFをベースとする低ガス発生電解質は、アルキルアセテート、例えば酢酸メチル若しくは酢酸エチルなどの共溶媒と共に有機溶媒を含む。低ガス発生電解質は、中程度の充電レートで同等のサイクルを示し、ガス発生量が少ないため、セル製造に有利である。本明細書に記載された混合リチウム塩電解質は、高い充電レートで良好なサイクルを提供しながら、より低いガス発生量をもたらすことができる。
【0011】
本明細書に記載された電解質及び対応する電極は、比較的大きい割合のケイ素ベースの負極活性材料を使用する商業的なセルに必要な重要な特性を提供するように設計されている。本出願人は、二次リチウムイオンセルの車両用途のためのケイ素ベースの負極の適切なサイクルを達成することができた。特に、高出力及び高エネルギーの特性の組み合わせは、飛行体に関して特に望ましい。飛行体は、離着陸時に高い電力を必要とする。着陸は明らかに飛行の最後に行われるため、飛行の妥当な距離を提供するためにバッテリー容量の適切な消費後に高出力を利用できる必要がある。計画中及び開発中の飛行体には、例えば、垂直離陸タクシー、ドローンなどが含まれる。高性能車及びボート並びに一部の商用車などのその他の高性能用途も同様に、高出力セルの利用可能性に基づいて特定の性能上の利点を提供することができる。
【0012】
リチウムは一次セル及び二次セルの両方に使用されてきた。セル又はバッテリーで使用されるリチウムの魅力的な特徴は、軽量であることと、それが最も電気陽性の金属であるという事実であり、これらの特徴の態様は、リチウムベースのセルでも有利に取り込むことができる。ある種の金属、金属酸化物及び炭素材料の形態は、インターカレーション、合金化又は同様のメカニズムによってリチウムイオンを電解質からその構造に取り込むことが知られている。リチウムベースのセルの正極は、一般に、リチウムと可逆的にインターカレート/合金化する活性材料を含む。リチウムイオンセルは、一般に、負極活性材料もリチウムインターカレーション/合金化材料であるセルを指す。リチウムセルは、一般に、負極活性材料がリチウム金属又はその合金であるセルを指す。本明細書で使用あれる場合及び便宜上、セル及びバッテリーという用語並びにその変形は、明確な区別が明記されていない限り、互換的に使用される。
【0013】
本明細書に記載されるセルは、リチウムカチオン及び適切なアニオンを含む非水電解質溶液を使用するリチウムイオンセルであるが、リチウムセルには電解質も適している。充電中の二次リチウムイオンバッテリーに関して、カソード(正極)において酸化が発生し、そこでリチウムイオンが抽出され、電子が放出される。放電中、カソードにおいて還元が発生し、そこでリチウムイオンが挿入され、電子が消費される。同様に、充電中、アノード(負極)において還元が発生し、そこでリチウムイオンが取り込まれて、電子が消費される。放電中、アノードにおいて酸化も発生し、リチウムイオン及び電子が放出される。特に明記されない限り、本明細に記載される性能値は、室温、すなわち約23±2℃におけるものである。
【0014】
「元素」という用語は、本明細書では、元素が組成物中にある場合に元素が適切な酸化状態を有し、且つ元素形態にあることが示される場合に元素がその元素形態Mにある、周期表の一員を意味するという従来の様式で使用される。したがって、金属元素は、一般に、その元素形態の金属状態又は金属の元素形態の適切な合金でのみ存在する。すなわち、金属合金以外の金属酸化物又は他の金属組成物は、一般に金属ではない。
【0015】
リチウムイオンバッテリーを使用する場合、正極及び負極からのリチウムの取り込み及び放出により、電気活性材料の構造における変化が誘導される。これらの変化が本質的に可逆性である限り、サイクルによって材料の容量は変化しない。しかしながら、程度の差はあるが、サイクルによって活性材料の容量が減少することが観察されている。したがって、多数のサイクル後、セルの性能は、許容値より低くなり、セルが交換される。セルの第1のサイクルでは、一般に、後続のサイクルでの1サイクルあたりの容量損失よりも有意に大きい不可逆容量損失も発生する。不可逆容量損失(IRCL)は、新しいセルの充電容量と第1の放電容量との間の差である。リチウム金属酸化物をベースとする正極は、いくらかのIRCLを示し得、その結果、サイクルのために利用可能なリチウムに関して負極にいくらかの補充がもたらされる。不可逆容量損失により、初期サイクル間のセル材料の変化によってセルの容量、エネルギー及び電力における対応する減少がもたらされ得る。
【0016】
元素ケイ素及び他のケイ素をベースとする活性材料は、リチウムの取り込み及び放出に関するケイ素の非常に高い比容量のため、負極材料の候補として非常に注目されている。元素ケイ素は、リチウムとの合金を形成するが、理論的にはケイ素1原子あたり5個以上のリチウム原子に対応するリチウム含有量を有することが可能である(例:Li4.4Si)。したがって、ケイ素の理論上の比容量は、4000~4400mAh/g程度であり、これは、グラファイトに関する約370mAh/gの理論容量よりも有意に大きい。グラファイトは、6個の炭素原子に対して約1個のリチウム原子のレベルまでリチウムをインターカレーションすると考えられている(LiC)。元素ケイ素、ケイ素合金、ケイ素複合材などは、グラファイトに類似してリチウム金属に対して低い電位も有し得る。しかしながら、リチウムとの合金化により、ケイ素は、非常に大きい体積変化を受ける。初期体積の2~3倍程度以上の大きい体積膨張が観察され、大きい体積変化は、ケイ素ベースの負極を有するバッテリーのサイクリング安定性における有意な減少と関連する。亜酸化ケイ素、すなわちx<2であるSiOもリチウムベースのバッテリーに関して所望の活性材料であることが発見されている。これは、いくつかの実施形態では、リチウム合金化に関して高い比容量を有することが可能である。亜酸化ケイ素を参照することにより、二酸化ケイ素をケイ素の完全酸化形態として認識することができる。便宜上、亜酸化ケイ素は、一般に、酸化ケイ素と呼ばれ得、これは、特に指示がない限り、一酸化ケイ素(SiO)に限定されない。酸化ケイ素は様々な分野で広く使用されている材料であり、分野によって用語が微妙に異なり得る。酸化ケイ素は、SiOも指し得る。
【0017】
特に興味深い実施形態では、ケイ素ベースの活性材料は、元素状ケイ素、亜酸化ケイ素及び/又は炭素などとの複合材料を主要活性材料として含むことができる。亜酸化ケイ素は、より長いサイクル安定性を達成するために特に有効であることが判明している。ケイ素ベースの活性材料を安定化させ、導電性を高めるために、炭素を複合活性材料に組み込むことができる。ナノスケールの元素状ケイ素及び/又は酸化ケイ素を有する炭素複合材料に関しては、長いサイクル安定性は依然として困難であるが、本出願人は、消費者用電子機器用途及び車両用途の両方に関して設計されたセルでサイクル安定性に大きい成功を収めている。本明細書では、電気活性グラファイト及びケイ素ベースの複合材料の混合物を用いて、より長いサイクル安定性を例示するが、用途に応じて、ケイ素をベースとする複合材料を単一負極活性材料として用いて適切なサイクルを達成することもできる。以下に詳述するように、ケイ素ベースの電極は、ナノスケール炭素などの追加の導電源をさらに含むことができる。
【0018】
本明細書では、リチウムイオン二次セルのための活性材料としては、一般に、例えばリチウムに対して適度に高い平均電圧を有する正極(すなわちカソード)活性材料及び負極(すなわちアノード)のためのケイ素ベースの活性材料が含まれる。一般に、様々なカソード材料を使用することができる。例えば、既存の入手可能な市販製品と一緒に市販品として入手可能なカソード活性材料を使用することが可能である。このようなカソード活性材料としては、例えば、酸化リチウムコバルト(LiCoO)、LiNi1/3Mn1/3Co1/3(L333又はNMC111)、LiNiCoAlO(NCA)、他の酸化リチウムニッケルマンガンコバルト(NMC)、LiMn(酸化リチウムマンガンスピネル)、それらの変性型又はそれらの混合物が挙げられる。
【0019】
ニッケルリッチ酸化リチウムニッケルコバルトマンガン(LiNiMnCo、0.45≦x、0.05≦y、z≦0.35)は、酸化リチウムコバルトに対して、より低いコスト及びより低い可燃性のリスクのため並びに所望の電圧範囲でのサイクル能力のために関心を引き得る。具体的には、ニッケルリッチ-リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(N-NMC)から望ましいサイクル結果を得ることができる。これは式LiNiMnCoで表すことができ、x≧0.45及びx+y+z≒1であり、特に興味深い特定のカソード組成物を以下に説明する。業界では、NCM及びNMCの両方は、コバルト及びマンガンが対応する順序で記載されているが互換的に使用され、表示は、同等であり、個人的な好みに基づくのみである。参照により本明細書に組み込まれる、「Positive Electrode Active Materials With Composite Coatings for High Energy Density Secondary Batteries and Corresponding Processes」という名称の、Sharmaらへの米国特許10,193,135号明細書に記載されているように、リチウムコバルト酸化物は、より高い電圧で効果的にサイクルするために安定化させることもできる。
【0020】
リチウムイオンセルの設計に関して、電解質は電極の設計及びセルの性能基準に基づいて確立される。本明細書に記載された改善された電解質は、優れたサイクル性能を提供しながら、卓越した電力及びエネルギー出力を提供する。様々なパラメータの調整により、パラメータマトリックスの全ての部分が、目標性能を達成するために共に機能するように適切であるマトリックスが提供される。改善された電解質と対応する電極を組み合わせることで、比較的多量のケイ素ベースの活性材料を含むセルでも良好なサイクルを維持しながら、急速充電及びガス発生の大幅な低減が可能になる。
【0021】
電解質
望ましい電解質は、ブレンドされた有機溶媒中のリチウム塩:ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(FSO又はLiFSI)及びリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(SOCF又はLiTFSI)の混合物をベースとすることができる。いくつかの実施形態では、電解質は、本質的に単一のリチウム塩としてLiPFをベースとする。いくつかの実施形態では、改善された電解質は、LiPF及びLiFSIの混合物又はLiPF及びLiTFSIの混合物を含む。いくつかの実施形態では、改善された電解質は、LiPF及びLiFSIの混合物又はLiPF及びLiTFSIの混合物を含み、リチウム塩の大部分はLiFSI又はLiTFSIである。より一般的には、電解質は、特定のリチウム塩、非水溶性溶媒のブレンド及び狭い範囲の任意追加成分を含む可能な添加剤から本質的になる。これらの電解質は、本明細書に記載されている所望の高出力セル性能を提供し、許容可能な任意成分は、特定の用途の特定の性能基準を微調整するために使用することができる。
【0022】
様々なリチウム塩の特性を表1に示す。LiFSIの特性はHan et al.Journal of PowerSources,2011,196,3623に記載されており、表2に要約されている。LiFSIは200℃まで熱的に安定であり、アルミニウムを含むバッテリー構造で使用した場合、アルミニウムは高電位領域(Li+/Liに対して3.0~5.0V)で安定であることが判明した。LiFSIは、30/70体積%のEC/EMC中でリチウム塩を含む溶液について測定された場合、イオン伝導度が最も高い(LiFSI>LiPF>LiTFSi>LiClO>LiBF)。テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)及び過塩素酸リチウム(LiClO)の選択された特性を表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
異なるリチウム塩を含む電解質の特性を表2に示す。電解質は、表5に示されるE10~E12である。
【0025】
【表2】
【0026】
いくつかの実施形態では、改善された高出力電解質は、一般的にフルオロエチレンカーボネート(FEC)と、ジメチルカーボネート(DMC)及び/又はエチルメチルカーボネート(EMC)などの追加溶媒とから本質的になるブレンド有機溶媒を含む。いくつかの実施形態では、電解質配合物は、特定の性能特性を高めるために異なる種類の添加剤及び/又は共溶媒を使用し得る。例えば、プロピレンカーボネート(PC)、酢酸メチル(MA)及び酢酸エチル(EA)などの共溶媒は、電解質の導電性を高めることができるが、亜リン酸トリエチル((CO)P又はTEP)又は1,3-プロパンスルトン(COSO又はPS)は、ガス発生を低減することができ、エトキシ(ペンタフルオロ)シクロトリホスファゼン((CO)F)又はPFPN)は、難燃性を高めることができる。
【0027】
リチウム塩は非水性溶媒中に溶解される。いくつかの実施形態では、非水性溶媒は、一般に、体積の大部分のEMC及び/又はDMC、中程度の量のFEC及び任意選択的に二次溶媒又は共溶媒として一般により少ない量のPC、酢酸エステル又はそれらの混合物を含む。いくつかの実施形態では、安全性の懸念のため及び/又は上記のようなガス発生をさらに低減するために、追加の添加剤を含み得る。レート性能の改善は、DMCの代わりにEMCを使用することで得られる。
【0028】
いくつかの実施形態では、電解質は、非水性溶媒中、約1.1M~約2.2Mの濃度でリチウム塩を含む。リチウム塩は、一般に、約3:1~約1.25:1のモル比、さらなる実施形態では約2.5:1~約1.35:1のモル比、他の実施形態では約2.25:1~約1.45:1のモル比で(LiTFSI又はLiFSI)及びLiPFを含むか又はそれらから本質的になる。これらの塩の量を表すための別の形式は、個々のモル比である。混合リチウム塩の実施形態では、電解質は、約0.05M~約0.4MのLiPFを有し得、さらなる実施形態では約0.075M~約0.375M、他の実施形態では約0.1M~約0.35MのLiPF及び約0.7M~約2.15Mの(LiFSI又はLiTFSI)を有し得、さらなる実施形態では約0.8M~約2M、他の実施形態では約0.9M~約1.9Mの(LiFSI又はLiTFSI)を有し得る。一部の低ガス発生電解質は、LiPFを本質的に単一のリチウム塩として形成される。混合塩電解質又はLiPFベースの電解質の場合、電解質中のいずれの追加のリチウム塩も全リチウム塩の約10モルパーセント(モル%)以下、他の実施形態では約7.5モル%以下、さらなる実施形態では約5モル%以下、さらなる実施形態では約2モル%以下、いくつかの実施形態では約1モル%以下の量で存在する。当業者であれば、上記の明示的な範囲内のリチウム塩濃度の追加範囲が想定され、それが本開示の範囲内であることを認識するであろう。
【0029】
他のリチウム塩としては、例えば、リチウム4-ピリジルトリメチルボレート(LiB(CN)(OMe)又はLPTB)、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiB(C又はLiBOB)、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiBF(C)又はLiFOB)、リチウムビス(モノフルオロマロナト)ボレート(LiBFMB)、(LiB(リチウムテトラシアノボレート(LiB(CN))、リチウムビス(ペルフルオロエタンスルホニル)イミド(LiN(SOCF又はLiBETI)、リチウムシクロジフルオロメタン-1,1-ビス(スルホニル)イミド(LiDMSI)、リチウムジシアノ-トリフルオロメチル-イミダゾール(LiTDI)、リチウムジシアノ-ペンタフルオロエチル-イミダゾール(LiPDI)、リチウムジシアノ-ヘプタフルオロプロピル-イミダゾール(LiHDI)、リチウムフルオロアルキルホスフェート(LiFAP又はLiF(C2y+1、(式中、x=1~3、y=1~3及びx+z=6))、リチウムジシアノトリアゾレート(LiDCTA)、リチウムトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メタニド(LiTriTFSM)、リチウムトリシアノメタニド(LiTCM)、リチウムトリフルオロメタンスルホネート(リチウムトリフレート又はLiSOCF)、水素化ホウ素リチウム(LiBH)、過塩素酸リチウム(LiClO)及び混合物を挙げることができる。
【0030】
非水性溶媒は、一般に、約50~約90体積パーセント(EMC、DMC又はそれらの混合物)、約5~約25体積パーセントのFEC、任意選択的に約5~約15体積パーセントのPC、任意選択的に約5~約15体積パーセントの酢酸アルキル(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、他のC3~C10アルキルアセテート又はそれらの混合物)及び約10体積パーセント以下の他の有機液体/添加剤を含む。本明細書で例示するように、EMCを有する電解質は、ガス発生がより低く、望ましいサイクルを提供する。さらなる実施形態では、電解質は、約60体積パーセント~約80体積パーセントのEMC若しくはDMC又はDMCとEMCとの混合物、約9体積パーセント~約20体積パーセントのFEC、任意選択的に5体積パーセント~約10体積パーセントのPC及び任意選択的に約5体積パーセント~約10体積パーセントの酢酸アルキルを含む。他の任意選択的な共溶媒添加剤に関して、いくつかの実施形態では、電解質は約7体積パーセント以下、さらなる実施形態では約5体積パーセント以下、さらなる実施形態では約2体積パーセント以下、いくつかの実施形態では約1体積パーセント以下の全共溶媒添加剤を含む。他の任意選択的な共溶媒添加剤とは、PC及び酢酸アルキル以外の共溶媒を指す。当業者であれば、上記の明確な範囲内の溶媒成分濃度の追加範囲が想定され、それが本開示の範囲内であることを認識するであろう。電解質配合物のより詳細な考察が以下に提供される。
【0031】
電解質は、任意選択的に、他の環状カーボネート(例えば、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート及びその誘導体並びにビニルエチレンカーボネート(VEC))、ラクトン(例えば、ガンマ-ブチロラクトン(GBL)、ガンマ-バレロラクトン(GVL)及びアルファ-アンゲリカラクトン(AGL))、他の線状カーボネート(例えば、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルブチルカーボネート(MBC)及びジブチルカーボネート(DBC)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,2-ジエトキシエタン及び1,2-ジブトキシエタン)、ニトリル(例えば、アセトニトリル及びアジポニトリル)、エステル(例えば、プロピオン酸メチル、ピバリン酸メチル、ピバリン酸ブチル及びピバリン酸オクチル)、アミド(例えば、ジメチルホルムアミド)並びにこれらの組み合わせなどの他の共溶媒を含むことができる。一般に、ケイ素をベースとするアノードは、一般に、EC溶媒を用いた場合、良好にサイクルしないため、電解質はエチレンカーボネート(EC)を含まないか、非常に少量(0.5体積%未満)含む。当業者であれば、上記の明確な範囲内の添加剤濃度の追加範囲が想定され、それが本開示の範囲内であることを認識するであろう。
【0032】
他の任意選択的な添加剤は、上記のように、防ガス効果を提供し、燃焼性を低下させ、且つ/又は他の安全効果を提供することができる。所望のサイクル安定性を維持するのに役立ついずれの添加剤も選択することができる。
【0033】
電解質は、0~約10重量パーセント、さらなる実施形態では約0~約7重量%、他の実施形態では約0.1重量%~約5重量%の濃度の非イオン性有機添加剤を含むことができる。いくつかの実施形態では、非イオン性有機添加剤は、TEP、PS、PFPN、LPTB、プロペンスルトン、ジメチルスルホン又はジビニルスルホンなどのスルホン、ジオキサシラン-2,2-ジオキシド(DTD)、フェニルトリフルオロメチルスルフィド(PTS)、トリビニルシクロトリボロキサン(tVCBO)、フェニルボロン酸エチレングリコールエステル(PBE)、ホウ酸トリメチル(TMB)、ホウ酸トリエチル(TEB)、亜リン酸トリス(トリメチルシリル)(TMSPi)並びにリン酸トリメチル及びリン酸トリオクチルなどの有機リン酸塩からなる群から選択することができる。当業者であれば、上記の明確な範囲内の添加剤濃度の追加範囲が想定され、それが本開示の範囲内であることを認識するであろう。
【0034】
LiFSIを使用する電解質を用いてアルミニウム集電体の腐食を低減するためのFECの使用は、参照により本明細書に組み込まれる「Nonaqueous Electrolyte Solution for Lithium Ion Secondary Batteries and Lithium Ion Secondary Battery Having the Same」という名称の、Shinyaらへの特開2014-203748号公報に記載されている。ケイ素ベースの電極と共に使用するための、リチウム塩、LiPF及びLiFSIのブレンドを用いた電解質は、参照により本明細書に組み込まれる「Lithium Ion Secondary Battery」という名称の、Simanukiらへの米国特許出願公開第2020/0168955号明細書(以下、’955出願)に記載されている。’955出願は、特定の溶媒によるジアルキルスルトン添加剤の含浸に焦点を当てている。新規添加剤に関する’955出願に記載された目的には、リチウムの配合による活性材料の膨張の減少が含まれ、これは「耐久性」を補助すると推測されている。本明細書に記載された電解質は、ケイ素ベースのアノード活性材料を用いて、良好なサイクルを維持しながら、改善された高出力バッテリー性能を提供する種々の配合を有する。
【0035】
本出願人は、参照により本明細書に組み込まれる「Lithium Ion Cells with High Performance Electrolyte and Silicon Oxide Active Materials Achieving Very Long Cycle Life Performance」という名称の、Dongらへの米国特許出願公開第2020/0411901号明細書(以下、’901出願)に記載されているように、以前に開発された電解質を使用して、ケイ素ベースの電極の非常に良好なサイクルを達成した。’901出願は、ケイ素ベースのセルのサイクル寿命性能における重要なブレークスルーを達成したが、本明細書における成果は、広範な商業的応用に望まれるガス発生の低減及び安定性の改善に向けられたものである。実施例で使用される参照電解質は、’901号出願の電解質に基づくものであり、命名法に特別な意味はなく、E1と記載される。
【0036】
いくつかの実施形態では、本研究で記載される電解質配合物は、FEC及びDMC溶媒中のLiPF塩からなる参照電解質配合物と同等又はそれより良好なサイクル寿命を示しながら、より優れた熱特性及びガス発生の低減を示す。本明細書で例示するように、電解質の第一のファミリーは、FEC、EMC、PC及びMA又はEAのいずれかからなる溶媒中にLiPF及びLiTFSI塩のブレンドを有する配合物を有する。新規電解質の第二のファミリーは、任意選択的にDMCと一緒に、FEC、EMC、PC及びMA又はEAのいずれかからなる溶媒中にLiPF塩を有する。電解質は、FEC、EMC及びPCからなる溶媒中の個々の塩、LiPF、LiFSI又はLiTFSIによっても例示される。これらの例示された電解質は、教示されたこれらの明確な範囲内での他のバリエーションを示唆している。
【0037】
電子車両は、商業用途のリチウムイオンセルに関して優位に興味深いものである。適切な車両としては、例えば、自動車、トラック、バン、スポーツユーティリティビークル、クロスオーバースタイル、商用トラック、建設機械、フォークリフトなどのユーティリティビークル、パーソナルエアビークルなどの有人飛行ビークル、トラクター、ピープルムーバーなどの無人陸上ビークル、ドローンなどの無人飛行ビークル及び同様のビークルが含まれる。これらの用途では、フレキシブルな筐体を持つポーチ型セルを使用することが望ましくなり得る。フレキシブルな筐体では、セルを所定の体積内に保持するバッテリーパックにセルを組み込むことが望ましくなり得る。このような体積拘束効果は、実施例で使用したコインセルの実施形態などの金属容器内に組み立てられたセルでも同様に示される。パック内のセルの位置決めは、サイクルを損ない得る電極スタックの分解を制御するためにセルを固定することに相当することが可能である。以下の実施例では、ガス発生の影響を試験するために、固定していないポーチセルに関してセル膨張を試験する。拘束構成では、セルは膨張することができないが、ガス発生は圧力の増加を通して発現する。圧力の上昇は、温度の上昇によって悪化し得る。これらの理由から、45℃でのサイクル性能は、ガス発生を制御する能力を反映し得る。
【0038】
一般的なバッテリーの特徴
負極及び正極構造を適切なセルに組み立てることができる。下記でさらに説明される通り、電極は、一般に、電極構造を形成するために集電体と会合して形成される。セパレータが正極及び負極間に配置されてセルを形成する。セパレータは、2つの電極間に少なくとも選択されたイオン伝導性を提供しながら、電気的に絶縁されている。セパレータとして様々な材料が使用可能である。いくつかの市販のセパレータ材料は、イオン伝導性を提供する多孔性シートであるポリエチレン及び/又はポリプロピレンなどのポリマーから形成可能である。市販品のポリマーセパレーターとしては、例えば、旭化成(日本)からのCelgard(登録商標)ラインのセパレータ材料が含まれる。セパレータのためにセラミック-ポリマー複合材料も開発されている。これらのセラミック複合材セパレータは、高温でも安定であり得、且つ複合材料は、火災リスクを低減することができる。リチウムイオンバッテリーセパレータ用ポリマーセラミック複合材料は、Evonik Industries,GermanyによるSeparion(登録商標)、Tiejin Lielsort Korea Co.,Ltd.によるLielsort(登録商標)、Celgard(登録商標)からのQ-Seriesセラミックコートポリマーセパレータの商標で販売されている。ゲル形成ポリマーでコーティングされた多孔性ポリマーシートを使用してセパレータを形成することも可能である。このようなセパレータの設計については、参照により本明細書に組み込まれる、「Battery Separator for Lithium Polymer Battery」という名称の、Wensleyらへの米国特許第7,794,511B2号明細書にさらに記載されている。適切なゲル形成ポリマーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(pvdf)、ポリウレタン、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリアシロニトリル、ゼラチン、ポリアクリルアミド、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリテトラエチレングリコールジアクリレート、それらのコポリマー及びそれらの混合物が含まれる。
【0039】
電解質は、充電及び放電プロセス中にバッテリーのアノード及びカソード間でのイオン輸送をもたらす。リチウムイオンバッテリーのための電解質は、非水性溶媒及びリチウム塩を組み込む。ケイ素ベースの電極のための改良された電解質は、以下に詳細に記載される。電解質は、一般に、ケースを密閉する前にセルに浸出される。
【0040】
本明細書に記載される電極は、角柱形バッテリー、巻き付け状円筒形セル、コインセル又は他の適切なセル/バッテリー設計などの様々な市販のセル/バッテリー設計に組み立てることができる。セルは、単一の電極対又は並列及び/若しくは直列電気接続で組み立てられた複数の電極対を含むことができる。電極スタックは、容器内での配置に都合よくなるように、スタックの他端と同一極性を有するようにスタックが終了するように追加の電極を有することが可能である。本明細書に記載される電極構造を一次又は単一充電のためのバッテリーで使用することができるが、その結果として得られるバッテリーは、一般に、バッテリーの複数回サイクリング上での二次バッテリー用途のための所望のサイクリング特性を有する。
【0041】
いくつかの実施形態では、正極及び負極を、それらの間にセパレータを用いてスタッキングし、その結果として生じるスタック構造を円筒形又は角柱形構成に巻いてセル構造を形成することができる。集電体に適切な導電性タブを溶接することなどが可能であり、負極タブ及び正極タブが適切な外部接点に溶接された状態で、結果として生じるジェリロール構造を金属キャニスター又はポリマーパッケージ中に配置することができる。キャニスターに電解質を添加し、キャニスターを密封してセルを完成させる。いくつかの現在使用されている充電式の市販のセルとしては、例えば、円筒形18650セル(直径18mm及び長さ65mm)、26700セル(直径26mm及び長さ70mm)が含まれるが、他のセル/バッテリーサイズ並びに選択されたサイズの角柱形セル及び箔ポーチセル/バッテリーを使用することができる。
【0042】
ポーチバッテリーは、スタッキングの利便性及び比較的低い容器重量のため、特定の車両用途を含む様々な用途に特に望ましくなり得る。高容量カソード活性材料を組み込んだ車両用バッテリーに関するポーチバッテリーの設計は、両方とも参照により本明細書に組み込まれる、「High Energy Lithium Ion Secondary Batteries」という名称の、Buckleyらへの米国特許第8,187,752号明細書及び「Battery Packs for Vehicles and High Capacity Pouch Secondary Batteries for Incorporation into Compact Battery Packs」という名称の、Kumarらへの米国特許第9,083,062B2号明細書にさらに記載されている。ポーチバッテリーの設計は、特定のバッテリーパック設計での使用に特に都合がよいが、ポーチバッテリーは、他の状況でも効果的に使用可能である。
【0043】
図1A~1Dにポーチバッテリーの代表的な実施形態を示す。本実施形態では、ポーチバッテリー100は、ポーチエンクロージャ102、電極コア104及びポーチカバー106を含む。電極コアについて以下にさらに説明される。ポーチエンクロージャ102は、キャビティ110及びキャビティを囲むエッジ112を含む。キャビティ110は、電極コア104がキャビティ110内に適合可能であるような寸法を有する。図1B及び1Cに示すように、ポーチカバー106は、エッジ112の周囲で密封され、密封されたバッテリー内に電極コア104を密封することができる。末端タブ114、116は、電極コア104との電気的接触のために、密封されたポーチから外側に延在する。図1Cは、3-3線に沿って見られるときの図1Bのバッテリーの概略断面図である。エッジ及びシールの様々な構成を用いて、ポーチバッテリーの多くの追加的な実施形態が可能である。
【0044】
図1Dは、一般に電極スタックを含む電極コア104の実施形態を示す。本実施形態では、電極スタック130は、負極構造132、134、136、正極構造138、140並びに隣接する正極及び負極間に配置されたセパレータ150、152、154、156を含む。セパレータは、電極構造がセパレータのひだ内に配置された単一折り畳みシートとして提供することができる。負極構造132、134、136は、それぞれ集電体172、174、176のいずれかの側面に配置された負極160、162、負極164、166及び負極168、170を含む。正極構造138、140は、それぞれ集電体188、190の反対側面に配置された正極180、182、正極184、186をそれぞれ含む。タブ192、194、196、198、200は、直列又は並列で個々の電極の接続を容易にするために、それぞれ集電体172、188、174、190、176に接続される。車両用途に関して、タブは、一般に並列に接続されており、タブ192、196、200は、容器の外側から接近可能な電気接点に電気的に接続され、及びタブ194、198は、容器の外側から接近可能な反対極として電気接点に電気的に接続される。
【0045】
電極スタックは、容器に隣接する両方の外側電極が負極であるように、追加の負極を有することが可能である。一般に、本明細書に記載される寸法の電極がスタッキングされた電極によるバッテリーは、5~40個の負極要素(集電体が活性材料によって両側でコーティングされる)、さらなる実施形態では7~35個の負極要素を有する。対応する数の正極要素は、一般に負極要素より1個少ない。当業者は、上記の明示的範囲内の電極数の追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。
【0046】
上記のように、巻回電極は、円筒形バッテリー又はほぼ角柱形のバッテリーのいずれかに対応して使用可能である。円筒形リチウムイオンバッテリーの巻回セルについては、参照により本明細書に組み込まれる、「Lithium Ion Secondary Battery」という名称の、Kobayashiらへ米国特許第8,277,969号明細書にさらに記載されている。巻回電極を有する角柱形バッテリーについては、参照により本明細書に組み込まれる、「Electrode Assembly and Lithium Ion Secondary Battery Using the Same」という名称の、Yeoへの米国特許第7,700,221号明細書(‘221特許)に記載されている。Kobayashiの‘969特許及びYeoの‘221特許には、ケイ素ベースの活性材料を用いて適切なサイクリング又は高エネルギー密度を達成する方法について記載されていない。巻回電極を用いた角柱形バッテリーの設計については、例えば、上記‘221特許にさらに記載されている。電極のスタッキングされた組合せ又は巻回セルのいずれかの特定の設計もバッテリーの目標寸法及び目標容量によって影響を受け得る。
【0047】
改良された負極を様々な用途及びセル/バッテリー設計に関して使用することができる。電極スタックに関して、特定の用途に対する体積及び設計上の制約に基づいて電極の面積を適切に選択することができる。以下の議論は、ドローン、自動車、トラック、飛行体又は他の車両などの車両用途用に一般に設計された大型セルに焦点を置いている。しかしながら、本明細書に記載される改良された負極は、より小型のセル形態をベースとすることができる消費者向け電子機器用途に関して効果的に使用可能である。ケイ素ベースの活性材料を使用する消費者用電子機器セルの一般的な設計は、参照により本明細書に組み込まれる「Lithium Ion Batteries With High Capacity Anode Active Material and Good Cycling for Consumer Electronics」という名称の、Amiruddinらへの米国特許出願公開第2015/0050535号明細書(以下、’535出願)に記載されている。自動車は、より小型の消費者向け電子機器セルを使用することも可能であり、Tesla車は、現在、それらのバッテリーパックに数千の小型の消費者向け電子機器セルを使用することで知られていることが注目されるべきである。一般に、特定の範囲内において、より大型のセル/バッテリーほど、大きいエネルギー密度を達成することができる。エネルギー密度などの様々な考慮事項のバランスをとるために、特定の用途に基づいて正極活性材料を選択することが望ましくなり得る。
【0048】
電極パラメータを選択することで、高重量エネルギー密度セルの設計に電極面積、電極構造の数、バッテリー容量などの要素のバランスを組み込むことができる。電極面積とは、集電体の片側に沿った1つの電極の空間的範囲を指す。図1Aは、電極コア104の長さ「L」を示し、及び図1Cは、電極の面積がL×Wとして定義されるような幅「W」を示す。いくつかの実施形態では、電極スタックを含むバッテリーの寸法が、スタック中の各電極の長さ及び幅に類似する長さ及び幅を有することができるように、各電極の面積が類似し得る。いくつかの実施形態では、セパレータは、電極の面積よりわずかに大きい面積を有するシート状であり得、及びいくつかの実施形態では、セパレータは、折り畳まれるか、プリーツを付けられるか又はポケットを有するように形成され得、電極がセパレータのひだ又はポケットに配置される。特定の全セル容量を達成するための高容量ケイ素ベースの活性材料を用いたセルの設計は、参照により本明細書に組み込まれる「Battery Designs With High Capacity Anode Materials and Cathode Materials」という名称の、Masarapuらへの米国特許第9,780,358号明細書に記載されている。
【0049】
電極構造
セルの電極は、バインダー及び導電性添加剤と一緒に活性材料を含む。電極は、所望の密度及び空隙率を達成するためにシートに成形され、乾燥され、プレスされる。一般に、電極シートは、金属箔又は薄い金属グリッドなどの金属集電体上に直接形成される。多くのセル構造では、組み立てられたセル又はバッテリーで望ましい性能を提供するように、電極層が集電体の両側に形成されている。集電体の両側の電極層は、セル内で同一電位にあるため、同一電極構造の要素を考慮することができるが、集電体自体は、電極構造の一部であるが、電気化学的に不活性であるため、一般に、電極の一部と見なされない。したがって、電極の物理的態様への参照は、一般に、電極構造内の一層の電極組成物を指す。導電性集電体は、電極及び外部回路間の電子の流れを促進することができる。
【0050】
いくつかの実施形態では、正極又は負極が高い装填レベルを使用する場合、電極の密度は、減少し、電極の良好なサイクリング安定性を提供することができる。電極の密度は、プレス圧力の適切な範囲内での関数である。一般に、電極の密度は、より高い放電レートで所望のサイクリング性能及び容量を達成しながら、装填レベルに関する性能を犠牲にすることなく任意に増加することが不可能である。以下の項目において、特定の負極層及び正極層の特徴について説明する。
【0051】
いくつかの実施形態では、集電体は、ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼、銅などから形成することができる。電極材料を薄膜として集電体上にキャストすることができる。次に、電極から溶媒を除去するために、集電体と一緒に電極材料を例えばオーブン中で乾燥させることができる。いくつかの実施形態では、乾燥した電極材料に、集電体箔又は他の構造と一緒に接触している状態で約2~約10kg/cm(平方センチメートルあたりのキログラム)の圧力を受けさせることが可能である。正極中で使用される集電体は、約5ミクロン~約30ミクロン、他の実施形態では約10ミクロン~約25ミクロン、さらなる実施形態では約14ミクロン~約20ミクロンの厚さを有することが可能である。一実施形態では、正極は、アルミニウム箔集電体を使用する。負極中で使用される集電体は、約2ミクロン~約20ミクロン、他の実施形態では約4ミクロン~約14ミクロン、さらなる実施形態では約6ミクロン~約10ミクロンの厚さを有することが可能である。一実施形態では、負極は、銅箔を集電体として使用する。当業者は、上記の明示的範囲内の集電体の厚さの追加的範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。
【0052】
負極
基本的な電極設計は、活性組成物、ポリマーバインダー及び導電性希釈剤のブレンドを含む。上記の通り、いくつかの実施形態では、改良された電極設計は、ポリマーバインダーブレンド及び活性組成物のブレンド並びにナノスケール導電性炭素添加剤を含み得る。活性材料ブレンドは、いくつかの実施形態では、大部分の酸化ケイ素複合材などのケイ素ベースの活性材料と、少なくとも10重量パーセントの別個のグラファイトとを含み得る。相乗効果的なバインダーブレンド中でなお良好な電極性能を提供する、より変形性のポリマーの部分と共に高い機械的強度を提供するためのポリイミドのブレンドにより、ケイ素ベースの活性材料による電極サイクリングの安定化を得ることができることも発見されている。グラファイトは、電極に導電性を提供することができるが、それにもかかわらず、いくつかの実施形態では、別個のナノスケール導電性炭素の量は、長期サイクリング負極を製造する能力に有意であり得る。一般に、グラファイトは、電気化学的に活性であるが、ナノスケール導電性炭素は、電気化学的に活性であると考えられない。これらの改良された設計態様は、したがって、さらなる以前に発見されたケイ素ベースの電極の改良点と一緒に電極に組み込まれる。
【0053】
ケイ素をベースとする高容量負極活性材料にかなりの関心が向けられている。本出願人の最近の研究までは、ケイ素をベースとする活性材料は、一般に、有意量のケイ素を含むバッテリーの自動車用途に適切なサイクル安定性を達成していなかった。’535出願では、少なくとも80%の初期容量値で約200~300サイクルまでのサイクルで、消費者用電子機器用途などに適切なサイクルの成功が実証された。本出願人は、サイクル安定性に関して特に成功を収め、主に酸化ケイ素複合材料をベースとする材料を用いて達成された。適切な電解質と共に改善された電極構造を本出願人が開発したことにより、車両用途に適したサイクルを達成しながら、ケイ素ベースの活性材料を大部分とするセルの特性評価が可能になった。本明細書で実証されるように、妥当なレートで広い電圧範囲にわたってサイクルしながら、80%未満の容量低下が生じることなく、800サイクル以上、高出力でサイクルすることに成功する電極が提供される。このように、本研究は、サイクル安定性を車両使用に適した領域まで拡大することに向けられている。特に、飛行体は、高出力性能に特に依存している。
【0054】
本明細書に記載されるように、ケイ素ベースの活性材料及びグラファイト炭素とブレンドされた活性組成物により、改善されたサイクリングの結果が得られる。一般に、負極ブレンド活性材料の全体容量は、C/3のレートにおいて5ミリボルト(mV)から1.5Vまでリチウム金属に対してサイクルされて少なくとも約750mAh/g、さらなる実施形態では少なくとも約900mAh/g、追加的な実施形態では少なくとも約1000mAh/g及び他の実施形態では少なくとも約1100mAh/gであり得る。ブレンドされた活性材料は、少なくとも約40重量%のケイ素ベースの活性材料、さらなる実施形態では少なくとも約50重量%のケイ素ベースの活性材料、他の実施形態では約55重量%~約95重量%のケイ素ベースの活性材料及び追加的な実施形態では約60重量%~約90重量%のケイ素ベースの活性材料を含み得る。これに対応して、ブレンドされた活性材料は、約5重量%のグラファイト~約65重量%のグラファイト、さらなる実施形態では約7重量%のグラファイト~約60重量%のグラファイト、追加的な実施形態では約8重量%のグラファイト~約55重量%のグラファイト及び他の実施形態では約10重量%のグラファイト~約50重量%のグラファイトを含み得る。当業者は、上記の明示的範囲内のケイ素ベースの活性材料の比放電容量及び濃度の追加的範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。
【0055】
ケイ素と同様に、酸素欠乏性酸化ケイ素、例えば、酸化ケイ素、SiO(0.1≦x≦1.9)は、酸素欠乏性酸化ケイ素がリチウムベースのセルの活性材料として機能するように、リチウムとインターカレート/合金化することができる。酸化ケイ素は比較的多量のリチウムを取り込むことができるため、大きい比容量を示すことができる。しかし、酸化ケイ素は、一般的に、セルサイクルに伴って比較的早く容量が低下することが観察されている。SiOを含む市販のケイ素ベースの材料は、いくつかの供給元からのものは炭素及びケイ素ナノ結晶との複合材料であり得、Alfa Aesar(USA)、Sigma-Aldrich(USA)、信越化学工業株式会社(日本)、大阪チタニウム株式会社(日本)、Nanostructured and Amorphous Materials Corp.(USA)から入手可能である。ケイ素をベースとする組成物の追加の具体的な適切な配合物は、以下にさらに記載される。本出願人は、改善された電極配合物を用いて、酸化ケイ素ベースの複合材料活性材料のサイクル安定化を達成しており、これらの進歩は、本明細書において、レート能力及び対応する出力をさらに改善するために継続されている。いくつかの実施形態では、比容量の許容可能な減少を伴うサイクル寿命の延長のために、グラファイトカーボン活性材料及びケイ素ベースの活性材料の組み合わせを含む負極を有することが望ましくなり得、本明細書で例示される優れたサイクル性能は、そのような活性材料ブレンドを使用する。
【0056】
上記の通り且つ以下で詳細に説明するように、適切なケイ素ベースの活性材料は、炭素成分との複合材を含み得る。以下の項目において、ケイ素ベースの活性材料について詳細に説明する。複合材とは、ポリマーバインダーによって一緒に保持された混合物を含むブレンドとは対照的に、適切なスケール上で効果的な均一性を有する一体材料中に密接に組み合わされた成分との粒子状材料を指す。複合材成分は、例えば、ケイ素、酸素、炭素などを含むことができる。理論によって制限されることを望まないが、一般に、ケイ素との複合材の炭素成分が電気化学的に活性であるとは考えられず、一般にグラファイト系ではない。しかしながら、活性は、複合材及び結晶構造中の所与の密接な組合せが非常に複雑で評価が困難であり得るという抽象的概念である。いずれにしても、複合材料の炭素成分は、活性材料ブレンド中の複合材にはない、別個のグラファイトから区別可能であるものとして当業者に容易に理解される。以下の実施例は、組み合わせられた複合材粒子状材料中に主に亜酸化ケイ素並びにいくらかの量の元素ケイ素結晶及び元素炭素を含むと考えられる市販の複合材組成物をベースとするものである。
【0057】
グラファイトは、天然及び合成形態で商業的に入手可能であり、且つ適切なグラファイトとしては、天然又は合成グラファイトなどが含まれる。グラファイトは、炭素の結晶形態であり、シート中に共有結合された炭素を含む。本明細書において使用される場合、グラファイトは、完全結晶性を必要とせずにグラファイト炭素を意味し、いくつかの天然グラファイト材料は、いくらかの結晶性不純物を含み得る。しかしながら、グラファイトは、一般に、当技術分野において認識されるようなグラファイト構造によって支配される材料を意味する。グラファイトは、結晶中に積層された共有結合炭素シートの平面に沿って導電性である。グラファイト形態の結晶炭素は、リチウムをインターカレーションすることが可能であり、したがってリチウムイオンバッテリーのために確立された電気化学的に活性な材料である。
【0058】
グラファイト粒子は、約1ミクロン~約30ミクロン、さらなる実施形態では約1.5ミクロン~約25ミクロン及び他の実施形態では約2ミクロン~約20ミクロンの平均粒径を有することが可能である。一般に、凸凹のある電極表面を避けるために、グラファイトが電極の厚さより大きい粒子を含まないことが望ましいと考えられ、1ミクロンよりも有意に小さいサイズを有するグラファイト粒子は、結晶性が低下し得る。いくつかの実施形態では、グラファイト炭素は、約5ミクロン~約50ミクロン、さらなる実施形態では約7ミクロン~約45ミクロン及び追加的な実施形態では約10ミクロン~約8ミクロン~約40ミクロンのD50(質量中央径)を有することが可能である。いくつかの実施形態では、(ISO 4652に従って評価可能な)グラファイト炭素活性材料のBET表面積は、約1m/g~約25m/g、さらなる実施形態では約1.25m/g~約20m/g及び追加的な実施形態では約1.5m/g~約12m/gでもあり得る。当業者は、グラファイト炭素活性材料の粒径及び表面積の追加的な範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。対照的に、導電性カーボンブラックなど(準結晶と呼ばれる)は、一般に、約40m/g~1000m/g又はそれを超える表面積を有する。
【0059】
ポリマーバインダーに関して、本出願人は、高引張強度バインダー、例えばポリイミドバインダーを使用してケイ素ベースのセルの適切なサイクリングを得た。参照により本明細書に組み込まれる、「Silicon Oxide Based High Capacity Anode Materials for Lithium Ion Batteries」という名称の、Dengらへの米国特許第9,601,228号明細書(以下、‘228特許)を参照されたい。より長期のサイクリング安定性を得るためのいくつかの実施形態では、驚くべきことに、ポリマーバインダーブレンドがサイクリングをさらに安定化することが見出された。特に、(より高い弾性に対応する)より低い弾性率を提供する第2のポリマー又はポリマーの組合せを高引張強度ポリイミドとブレンドすることができる。バインダーブレンドは、一般に、少なくとも約50重量%のポリイミド、さらなる実施形態では少なくとも約55重量%のポリイミド及び他の実施形態では約60重量%~約95重量%のポリイミドを含む。同様に、バインダーブレンドは、一般に、以下にさらに明示されるように、少なくとも約5重量%の低弾性係数を有するポリマー、さらなる実施形態では少なくとも約10重量%及び他の実施形態では約12重量%~約40重量%の低弾性係数を有するポリマーを含む。当業者は、上記の明示的範囲内のポリマーの量の追加的範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。ブレンドのポリマーは、同一の溶媒中に溶解するように選択することが可能である。
【0060】
ケイ素ベースの材料はサイクル中に体積が大きく変化するため、望ましいサイクルを実現するために、電極設計はケイ素ベースのアノードを用いたセルの構築において重要な態様である。電極設計の一部には、サイクル中に電極の完全性を維持しやすくするポリマーバインダーの選択が含まれる。適切な容量及びエネルギー密度を有するセルにおいてケイ素ベースの活性材料の安定したサイクルを達成するためには、有意なセルエンジニアリングが必要であった。本出願人は、当初、ポリイミドバインダー及びナノスケールのカーボン導電材料を用いて、ケイ素ベースの活性材料を用いた負極のサイクルにおいて大きい進歩を達成した。参照により本明細書に組み込まれる「Battery Cell Engineering and Design to Reach High energy」という名称の、Masarapuらへの米国特許第10,290,871号明細書を参照されたい。高い引張強度及び高い伸び率は、サイクル特性に寄与するポリイミドの重要な特徴であると考えられた。ポリイミドバインダーは有機溶媒とのプロセスが可能であったが、最近開発されたポリイミドは水加工が可能である。UBE Industries polyimidesを参照されたい。
【0061】
ポリイミドは当初、その機械的強度から、ケイ素ベースの材料に有用なポリマーバインダーとして識別された。このように、リチウムの取り込み又は放出に伴う活性材料の材料変化に伴うポリマーの機械的な力により、ポリイミドは電極にある程度の安定性を与える。ポリイミドバインダーを用いることで、良好なサイクルが得られ、特に消費者用電子機器に適した良好なサイクルが達成された。上記の本出願人の’535出願を参照されたい。その後、本出願人は、ポリイミドとより弾性のあるポリマーをブレンドすることで、電極性能がさらに向上することを発見した。参照により本明細書に組み込まれる「Electrodes with Silicon Oxide Active Materials,for Lithium Ion Cells Achieving High Capacity,High Energy Density and Long Cycle Life Performance」という名称の、Venkatachalamらへの米国特許第11,094,925号明細書(以下、’925特許)を参照されたい。溶媒ベースのポリマーバインダーに代わる、より環境に優しいアプローチとして、適切な水ベースのバインダーも現在識別されている。参照により本明細書に組み込まれる「Lithium Ion Cells With Silicon Based Active Materials and Negative Electrodes With Water Based Binders Having Good Adhesion and Cohesion」という名称の、Hayesらへの米国特許出願公開第2022/0006090号明細書を参照されたい。本明細書の実施例は、有機溶媒処理されたバインダーに基づいているが、本出願人は、溶媒ベース及び水ベースの負極バインダーの両方で同様の良好なサイクルを達成している。
【0062】
ポリイミドは、イミドモノマー構造の繰り返し単位に基づくポリマーである。ポリイミドポリマー鎖は、脂肪族であり得るが、高引張強度用途では、一般に、ポリマー主鎖は、芳香族であり、ポリイミド構造のN原子に沿ってポリマー主鎖が延在する。サイクリング間に有意な形態変化を示すケイ素ベースのアノードに関して、熱硬化性ポリイミドポリマーが高容量負極に関して望ましいことが見出された。これは、高い機械的強度のためであり得る。表3は、高引張強度ポリイミドポリマーの供給元及び対応するポリイミドポリマーの名称を示す。
【0063】
【表3】
【0064】
ポリイミドポリマーは、少なくとも約60MPa、さらなる実施形態では少なくとも約100MPa及び他の実施形態では少なくとも約125MPaの引張強度を有することが可能である。高引張強度を有するいくつかの市販のポリイミドは、比較的高い伸び値を有することもできる。伸び値とは、ポリマーが引裂かれるまで耐える伸び量である。いくつかの実施形態では、ポリイミドは、少なくとも約40%、さらなる実施形態では少なくとも約50%及び他の実施形態では少なくとも約55%の伸びを有することが可能である。引張強度及び伸び値は、プラスチックの引張特性に関するASTM D638-10標準試験法又は薄プラスチックシートの引張特性に関するASTM D882-91標準試験法の手順に従って測定可能であり、これらの両方は、参照により本明細書に組み込まれる。商業的供給元によって報告される値に基づき、これらの別のASTMプロトコルからの結果は、ポリイミドに関して互いに類似しているように見える。当業者は、上記の明示的範囲内のポリマー特性の追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。
【0065】
セルの電気化学に対して不活性であり、且つポリイミドとの加工に適合可能である、適切なより可撓性のポリマー成分を選択することができる。特に、適切なより可撓性のポリマー成分としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、セルロース、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、リチウム化ポリアクリル酸(LiPAA)又はそれらの混合物が含まれる。ポリマー特性に関して、高容量負極用途に関するいくつかの有意な特性を表4にまとめる。
【0066】
【表4】
【0067】
PVDF、CMC、SBRは、多くの供給元から市販されている。LiPAAは、水酸化リチウム(LiOH)及び市販のポリアクリル酸(PAA)から製造可能である。例えば、PAAのモノマー単位あたり1モルのLiOHを用いて、化学量論量のLiOHをPAAの溶液に添加することができる。LiPAAの形成及び使用については、参照により本明細書に組み込まれるLiらの“Lithium polyacrylate as a binder for tin-cobalt-carbon negative electrodes in lithium-ion batteries”,Electrochemica Acta 55(2010)2991-2995にさらに記載されている。
【0068】
伸びとは、ポリマーを引裂く前の伸び率を意味する。一般に、ケイ素ベースの材料に対応するために、少なくとも約30%、いくつかの実施形態では少なくとも約50%及びさらなる実施形態では少なくとも約70%の伸びが望ましい。ポリマーバインダーブレンドに関して、より弾性のポリマーバインダー成分は、約2.4GPa以下、さらなる実施形態では約2.25GPa以下、他の実施形態では約2GPa以下及び追加的な実施形態では約1.8GPa以下の弾性係数(代わりにヤング率又は引張係数と呼ばれる)を有することが望ましくなり得る。当業者は、上記の明示的範囲内のより弾性のポリマー成分の特性の追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。
【0069】
電極を形成するために、ポリマーを溶解するための溶媒などの適切な液体中で粉末をポリマーとブレンドすることが可能である。ポリイミド及びPVdFは、一般に、N-メチルピロリドン(NMP)中で加工することが可能であるが、他の適切な有機溶媒が使用され得る。水性加工可能なポリイミドは、市販品として入手可能であり、且つこれらの水性加工可能なポリイミドは、広範囲の他のポリマーとのブレンドに適切である。ペーストを形成する前に電極の粒子状成分、すなわち活性材料及びナノスケール導電性炭素を溶媒中でポリマーバインダーブレンドとブレンドすることができる。得られたペーストを電極構造にプレスすることができる。
【0070】
バインダーの活性材料装填量が大きいことが可能である。いくつかの実施形態では、負極は、約75重量%~約92重量%の負極活性材料、他の実施形態では約77重量%~約90重量%の負極活性材料、さらなる実施形態では約78重量%~約88重量%の負極活性材料を有する。いくつかの実施形態では、負極は、約6重量%~約20重量%のポリマーバインダー、他の実施形態では約7重量%~19重量%のポリマーバインダー、さらなる実施形態では約8重量%~18重量%のポリマーバインダーを有する。いくつかの実施形態では、負極は、約1重量%~約7重量%のナノスケール導電性炭素、さらなる実施形態では約1.5重量%~約6.5重量%、追加的な実施形態では約2重量%~約6重量%のナノスケール導電性炭素も含む。当業者は、上記の明示的範囲内のポリマー装填量の追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。
【0071】
負極の改善されたサイクリングのために、ナノスケール炭素添加剤又はその組合せが特に望ましいことが見出された。ナノスケール導電性炭素とは、一般に、サブミクロンである一次粒子の少なくとも2つの寸法を有する、表面積の大きい元素炭素の粒子を指す。適切なナノスケール導電性炭素としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーが含まれる。いくつかの実施形態では、負極に使用されるナノスケール導電性炭素添加剤は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノ粒子(例えば、カーボンブラック)又はそれらの組合せを含み得る。いくつかの実施形態では、性能の向上を達成するために、導電性添加剤は、少なくとも約40S/cm、いくつかの実施形態では少なくとも約50S/cm、さらなる実施形態では少なくとも約60S/cmの導電率を有することができる。当業者は、上記の明示的範囲内の粒子装填及び導電性の追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。
【0072】
抵抗の逆数である電気伝導率は、販売業者によって報告されている場合があり、且つ電気伝導率は、一般に、販売業者によって開発された特定の技術を使用して測定される。例えば、カーボンブラックの電気抵抗の測定は、Super P(登録商標)カーボンブラックを用いた2つの銅電極間で実行される。Timcal Graphite&Carbon,A Synopsis of Analytical Procedures,2008,www.timcal.com)を参照されたい。適切な補足的導電性添加剤を添加して、より長期のサイクリング安定性を提供することもできる。いくつかの供給元は、導電性パーコレーション閾値を達成するための導電性炭素濃度も記載している。
【0073】
カーボンブラックは、合成炭素材料を意味し、且つ代わりに合成アプローチを示唆するアセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック又は他の名前で示されことも可能である。カーボンブラックは、一般に非晶質炭素と記載されるが、カーボンブラックの少なくともいくつかの形態では、グラファイト又はダイヤモンド結晶構造に対応する短い範囲又は中程度の範囲の小ドメインの示唆がある。しかしながら、実用的な目的に関して、材料は、非晶質であると見なすことができる。ISO Technical Specification 80004-1(2010)に基づき、カーボンブラックは、ナノ構造化材料である。カーボンブラックの一次粒子は、数十ナノメートル以下の範囲であり得るが、一次粒子は、一般に連鎖又は他の凝集体に硬質融合し、最小分散単位は、なおサブミクロンである約80nm~800nmであると考えることができる。Super-P(登録商標)(Timcal)、Ketjenblack(登録商標)(Akzo Nobel)、Shawinigan Black(登録商標)(Chevron-Phillips)及びBlack Pearls 2000(登録商標)(Cabot)など、所望のレベルの電気伝導率を提供するために合成されたカーボンブラックが市販品として入手可能である。
【0074】
カーボンナノファイバーは、一般にプレート、コーン又は他の形態のグラフェン層を含む高アスペクト比の繊維であり、カーボンナノチューブは、チューブ中に折り畳まれたグラフェンシートを含む。カーボンナノファイバーは、250nm以下の直径を有し、且つ例えばPyrograf(登録商標)カーボンナノファイバー(Pyrograf Products,Inc.)又はAmerican Elements,Inc.から市販品として入手可能である。カーボンナノチューブは、正極又は負極のいずれかのサイクリング性能を向上させることができる望ましい導電性添加剤であることが見出された。シングルウォール又はマルチウォールカーボンナノチューブは、American Elements,Inc.(CA,USA)、Cnano Technologies(China)、Fuji,Inc.(日本)、Alfa Aesar(MA,USA)又はNanoLabs(MA,USA)からも入手可能である。
【0075】
本明細書に記載されるセル中で使用される負極は、適切に高い電極密度と共に高い活性材料装填レベルを有することが可能である。特定の活性材料装填レベルに関して、密度は、厚さと反比例するため、より高い密度を有する電極は、より低い密度を有する電極よりも薄くなる。装填量は、密度に厚さを掛けた値と等しくなる。いくつかの実施形態では、バッテリーの負極は、少なくとも約1.5mg/cm、他の実施形態では約2mg/cm~約8mg/cm、追加的な実施形態では約2.5mg/cm~約6mg/cm、他の実施形態では約3mg/cm~約4.5mg/cmである負極活性材料装填レベルを有する。いくつかの実施形態では、バッテリーの負極は、いくつかの実施形態では約0.5g/cc(cc=立方センチメートル(cm))~約2g/cc、他の実施形態では約0.6g/cc~約1.5g/cc、追加的な実施形態では約0.7g/cc~約1.3g/ccの活性材料密度を有する。同様に、酸化ケイ素ベースの電極は、少なくとも約15ミクロン、さらなる実施形態では少なくとも約20ミクロン、追加的な実施形態では約25ミクロン~約75ミクロンの平均乾燥厚さを有することが可能である。得られる酸化ケイ素ベースの電極は、少なくとも約3.5mAh/cm、さらなる実施形態では少なくとも約4.5mAh/cm、追加的な実施形態では少なくとも約6mAh/cmの単位面積あたりの容量を示すことが可能である。当業者は、上記の明示的範囲内の活性材料装填レベル及び電極密度の追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。
【0076】
高容量ケイ素ベースのアノード材料
一般に、本明細書のバッテリー設計は、高容量アノード活性材料に基づくものである。具体的には、アノード活性材料は、一般に、0.005V~1.5Vでリチウム金属に対してC/10のレートでサイクルされた場合、少なくとも約800mAh/g、さらなる実施形態では少なくとも約900mAh/g、追加的な実施形態では少なくとも約1000mAh/g、いくつかの実施形態では少なくとも約1150mAh/g、他の実施形態では少なくとも約1400mAh/gの比容量を有する。したがって、負極活性材料の比容量は、リチウム金属対電極を用いたセルで評価することができる。しかしながら、本明細書に記載されるバッテリーでは、高容量のリチウム金属酸化物正極活性材料に対してサイクルされた場合、負極は、適切に同程度の比容量を示すことができる。非リチウム金属電極を用いるバッテリーでは、バッテリー容量を活性材料のそれぞれの重量で割ることにより、それぞれの電極の比容量を評価することができる。本明細書で記載されるように、ケイ素ベースの活性材料及びグラファイト炭素活性材料を組み合わせることにより、良好な容量が観察され、所望のサイクリング結果を得ることができる。
【0077】
元素ケイ素、ケイ素合金、ケイ素複合材などは、グラファイトに類似してリチウム金属に対して低い電位を有することが可能である。しかし、元素ケイ素は、リチウムとの合金化により、非常に大きい体積変化を受ける。初期体積の2~4倍以上の程度の大きい体積膨張が観察され、大きい体積変化は、ケイ素ベースの負極を有するバッテリーのサイクリング安定性における有意な減少と関連する。
【0078】
本明細書に記載されるセルには、市販品として入手可能な亜酸化ケイ素、元素ケイ素及び炭素の複合材を使用することができる。高容量且つ適切なサイクリング特性をケイ素ベースの負極活性材料の他の配合物も開発されている。市販品として入手可能なSiOベースの組成物に代わり得、有望な代替品を提供するいくつかのケイ素ベースの組成物が以下に記載される。本明細書に記載される改良された電解質配合物は、ケイ素ベースの負極活性材料並びにケイ素ベースの活性材料とグラファイトとのブレンドで特に有効であることが見出された。
【0079】
リチウムベースバッテリーの負極中のケイ素ベースの高容量材料は、いくつかの配合物において、バッテリーの第1の充電/放電サイクルにおいて大きい不可逆容量損失(IRCL)も示し得る。ケイ素ベースのアノードのIRCLが高いと、バッテリーのエネルギー出力に利用可能な容量の有意部分を消費し得る。カソード、すなわち正極は、従来のリチウムイオン電池中で全てのリチウムを供給しているため、アノード、すなわち負極における高いIRCLは、低エネルギーバッテリーをもたらし得る。大きいアノードIRCLを埋め合わせするために、補足的なリチウムを負極材料に直接又は間接的に添加して、IRCLを埋め合わせすることができる。ケイ素ベースの電極の性能を改善するための補足的なリチウムの使用についても、上記の両方とも参照により本明細書に組み込まれる‘694特許及び‘228特許に記載されている。改良されたバッテリー設計における補足的なリチウムの使用について以下にさらに記載される。
【0080】
本明細書に記載されるバッテリーのアノード、すなわち負極は、体積膨張に対してより良好に適応し、したがって機械的な電極の安定性及びバッテリーのサイクル寿命を維持するためにナノ構造化活性ケイ素ベースの材料を使用することができる。ナノ構造化ケイ素ベースの負極組成物は、‘694出願、‘228特許及び参照により本明細書に組み込まれる、「Porous Silicon Based Anode Material Formed Using Metal Reduction」という名称の、Anguchamyらへの米国特許第9,139,441号明細書(‘441特許)に開示されている。適切なナノ構造化ケイ素としては、例えば、ナノポーラスケイ素及びナノ微粒子ケイ素が含まれ得る。ナノ構造化ケイ素は、炭素との複合材及び/又は他の金属元素との合金に形成することもできる。改良されたケイ素ベースの材料の設計の目的は、高い比容量を維持しながら、いくつかの実施形態では、第1の充電及び放電サイクルにおいて不可逆容量損失を減少させながら、サイクリングにおいて負極材料をさらに安定化することである。さらに、熱分解性炭素コーティングも、バッテリー性能に関してケイ素系材料を安定化させることが観察されている。
【0081】
所望の高容量負極活性材料は、多孔質ケイ素(pSi)ベースの材料及び/又は多孔質ケイ素ベースの材料の複合材を含み得る。一般に、pSiベースの材料は、高い表面積及び/又はバルクケイ素に対して高い空隙量を提供することができる高度に多孔質の結晶ケイ素を含む。ナノ構造化多孔質ケイ素は、ケイ素ウエハーの電気化学エッチングなどの様々なアプローチによって形成可能であるが、酸化ケイ素粉末の金属還元により得られるナノ構造化多孔質ケイ素から特に優れたバッテリー性能が得られた。特に、材料は、高い比容量を維持しながら、特に優れたサイクリング特性を有する。炭素ベースの材料又は金属とのpSiベースの材料の複合材の形成により、サイクリングを向上させるために負極をさらに機械的に安定させることが可能である。酸化ケイ素の還元からのpSiベースの材料の追加的な記載については、上記で参照される‘441特許に見ることができる。
【0082】
複合材料に関して、密接な複合材料内でナノ構造化ケイ素成分を例えばカーボンナノ粒子及び/又はカーボンナノファイバーと組み合わせることができる。成分は、例えば、材料が密接に会合する複合材を形成するために粉砕することができる。一般に、このような会合は、より硬質の炭素材料上にコーティングされたか、又はそれと機械的に固定されたより軟質のケイ素などの機械的な特徴を有すると考えられる。追加的な又は代わりの実施形態では、ケイ素を金属粉末と一緒に粉砕し、対応するナノ構造を有し得る合金を形成することができる。炭素成分をケイ素-金属合金と組み合わせて多成分複合材を形成することができる。
【0083】
ケイ素ベースの材料上に炭素コーティングを適用し、導電性を改善させることもできる。炭素コーティングは、サイクルの改善及び不可逆容量損失の減少に関して、ケイ素ベースの材料を安定化させるようにも見える。所望の炭素コーティングは、有機組成物を熱分解することによって形成可能である。有機組成物を相対的に高い温度、例えば約800℃~約900℃で熱分解して、硬質非晶質コーティングを形成することができる。いくつかの実施形態では、ケイ素ベースの成分と組み合わせるための水及び/又は揮発性有機溶媒などの適切な溶媒中に所望の有機組成物を溶解することができる。この分散体をケイ素ベースの組成物と十分混合することが可能である。溶媒を除去するために混合物を乾燥させた後、炭素前駆体によってコーティングされたケイ素ベースの材料との乾燥混合物を、酸素を含まない雰囲気中で加熱し、有機ポリマー、いくらかの低分子固体有機組成物などの有機組成を熱分解して、炭素コーティングを形成することができる。
【0084】
ケイ素と同様に、酸素欠乏性の酸化ケイ素、例えば酸化ケイ素、SiO(0.1≦x≦1.9)は、酸素欠乏性の酸化ケイ素がリチウムイオンバッテリー中で活性材料として機能することができるように、リチウムとインターカレーション/合金化することが可能である。これらの酸素欠乏性の酸化ケイ素材料は、一般に、酸化ケイ素ベースの材料と呼ばれ、且ついくつかの実施形態では様々な量のケイ素、酸化ケイ素及び二酸化ケイ素を含有することができる。酸素欠乏性の酸化ケイ素は、材料が大きい比容量を示すことができるように比較的大量のリチウムを組み込むことができる。しかしながら、酸化ケイ素は、元素ケイ素に関して観察されたものと同様に、一般にバッテリーサイクリングによって急速に低下する容量を有することが観察される。
【0085】
酸化ケイ素ベースの組成物は、上記で参照された‘228特許に記載されるように、高容量及び非常に良好なサイクリング特性を有する複合材料に形成される。特に、酸素欠乏性の酸化ケイ素は、驚くべきことに、高い比容量値を提供しながら、サイクリングを有意に改善する、導電性炭素又は金属粉末などの導電性材料との複合材に形成されることができる。さらに、サブミクロン構造化材料などのより小さい粒子に酸化ケイ素を粉砕することで材料の性能をさらに改善させることができる。
【0086】
一般に、広範囲の複合材が使用可能であり、且つこれは、酸化ケイ素、グラファイト粒子(Gr)などの炭素成分、不活性金属粉末(M)、元素ケイ素(Si)、特にナノ粒子、熱分解炭素コーティング(HC)、カーボンナノファイバー(CNF)又はそれらの組合せを含み得る。成分構造は、複合材料内の成分の構造に対応しても又はしなくてもよい。したがって、複合材の一般組成は、αSiO-βGr-χHC-δM-εCNF-φSi(式中、α、β、χ、δ、ε及びφは、α+β+χ+δ+ε+φ=1であるように選択され得る相対重量である)として表すことができる。一般に、0.35<α<1、0≦β<0.6、0≦χ<0.65、0≦δ<0.65、0≦ε<0.65及び0≦φ<0.65である。これらの複合材範囲の特定のサブセットは、特に興味深いものである。いくつかの実施形態では、SiO及び1つ以上の炭素ベース成分による複合材が望ましく、それは、式αSiO-βGr-χHC-εCNF(式中、0.35<α<0.9、0≦β<0.6、0≦χ<0.65及び0≦ε<0.65(δ=0及びφ=0)であり、さらなる実施形態では0.35<α<0.8、0.1≦β<0.6、0.0≦χ<0.55及び0≦ε<0.55であり、いくつかの実施形態では0.35<α<0.8、0≦β<0.45、0.0≦χ<0.55及び0.1≦ε<0.65であり、追加的な実施形態では0.35<α<0.8、0≦β<0.55、0.1≦χ<0.65及び0≦ε<0.55である)によって表すことができる。追加的な又は代わりの実施形態では、式αSiO-βGr-χHC-δM-εCNF(式中、0.35<α<1、0≦β<0.55、0≦χ<0.55、0.1≦δ<0.65及び0≦ε<0.55である)によって表すことができる、SiO、不活性金属粉末及び任意選択的に1つ以上の導電性炭素成分による複合材を形成することができる。さらなる追加的な又は代わりの実施形態では、式αSiO-βGr-χHC-εCNF-φSi(式中、0.35<α<1、0≦β<0.55、0≦χ<0.55、0≦ε<0.55及び0.1≦φ<0.65であり、さらなる実施形態では0.35<α<1、0≦β<0.45、0.1≦χ<0.55、0≦ε<0.45及び0.1≦φ<0.55である)によって表すことができる、SiOと元素ケイ素及び任意選択的に1つ以上の導電性炭素成分による複合材を形成することができる。当業者は、上記の明示的範囲内の追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。本明細書で使用される場合、複合材という記載は、複合材を形成するとは考えられない単純なブレンドとは対照的に、材料を密接に会合するためのHEMM粉砕などの有意な結合力を適用することを意味する。
【0087】
種々のSi-SiO-C-M(M=金属)複合材の合成に関する解決策に基づくアプローチについては、参照により本明細書に組み込まれる、「Silicon-Based Active Materials for Lithium Ion Batteries and Synthesis With Solution Processing」という名称の、Hanらへの米国特許出願公開第2014/0308585号明細書に記載されている。グラフェンシートを用いたケイ素ベースの炭素複合材については、参照により本明細書に組み込まれる、「Silicon-Silicon Oxide-Carbon Composites For Lithium Battery Electrodes and Methods for Forming the Composites」という名称の、Anguchamyらへの米国特許出願公開第2014/0370387号明細書に記載されている。SiO-Si-C又はSiO-Si複合材を含むと考えられる市販の材料が実施例のバッテリーに使用される。
【0088】
アノードの容量は、バッテリーのエネルギー密度に有意に影響する。アノード材料の比容量が高いほど、同一出力のセル内でアノードの重量が低くなる。負極がケイ素ベースの材料で製造される場合、電極は、リチウム金属に対して1.5V~5mVのC/3放電において約800mAh/g~2500mAh/g、さらなる実施形態では約900mAh/g~約2300mAh/g、他の実施形態では約950mAh/g~約2200mAh/gのC/3のレートにおける放電比容量を有することができる。当業者は、上記の明示的範囲内の放電比容量の追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。
【0089】
正極
上記の改良された負極を用いて、様々な正極化学特性を効果的に導入することができる。選択された組成物を適切なバインダー及び導電性材料と一緒に正極中にブレンドすることができる。本項目は、高電圧サイクリング及び適度に高容量に関して特に望ましい正極活性材料に焦点を当てるものである。本項目は、全体的な電極の組成及び特性についても記載する。
【0090】
最終セルの望ましい適用は、ある程度まで正極組成物の選択に影響を与え得る。このような観点から、以下に広範囲の組成物が記載されている。自動車用途及び同様の用途に関して、特定の正極化学特性は、少なくとも80%の容量を維持しながら、600サイクル超のサイクリングと一緒に高エネルギー密度を達成することに関して望ましいことが見出されているが、いくつかの材料は、いくらか低いサイクリング安定性によって有望な結果が得られる。特に、ニッケルリッチ酸化リチウムニッケルマンガンコバルトは、本明細書に記載される改良された電解質に基づく非常に長いサイクリング性能を提供する。別の実施形態では、ニッケルリッチ酸化リチウムニッケルマンガンコバルト及び(リチウム+マンガン)リッチ酸化リチウムニッケルマンガンコバルトのブレンドをブレンドすることにより、望ましい正極性能が提供される。さらに、ニッケルリッチ酸化リチウムニッケルマンガンコバルトは、活性材料として単独で、本明細書に記載されるケイ素ベースの負極と組み合わせた場合、良好なサイクリングを有する平均放電電圧により、望ましい高エネルギー密度を提供することができる。以下では、ニッケルリッチ酸化リチウムニッケルマンガンコバルト単独に関する実施例を示す。
【0091】
ニッケルリッチ酸化リチウムニッケルマンガンコバルト(N-NMC)は、本明細書に記載されるリチウムイオンバッテリーに関して望ましいサイクリング及び容量特性を提供することができる。特に、ニッケルリッチ組成物は、式LiNiMnCo(式中、x+y+z≒1、0.45≦x、0.025≦y、z≦0.35であり、さらなる実施形態では0.50≦x、0.03≦y、z≦0.325であり、且つ0.55≦x、0.04≦y、z≦0.3である)によって概ね表すことができる。いくつかの実施形態では、y及びzはほぼ等しい。ニッケルの量は、サイクル安定性及び放電エネルギー密度のバランスをとるために選択された充電電圧に影響を与え得る。0.525≦x≦0.7の範囲内のxの値の場合、選択された充電電圧は4.25Vから4.375Vとすることができる。0.7≦x≦0.9の範囲のxの値の場合、選択された充電電圧は4.05Vから4.325Vとすることができる。当業者であれば、上記の明示的な範囲内の組成及び選択された充電電圧の追加範囲が想定され、それが本開示の範囲内であることを認識するであろう。これらの組成物は、比較的安定した高電圧サイクル、良好な容量及び望ましいインピーダンスを提供することが見出されている。N-NMC粉末は、共沈法などの技術を用いて合成することができ、これらは、BASF Corp.(Germany),TODA Corp.(Japan),L&F Materials Corp.(Korea),Umicore N.V.(Belgium)及びNingbo Jinhe New Materials Co.,Ltd.(China)である。これらの化合物の市販品として入手可能な配合物としては、例えば、LiNi0.5Mn0.3Co0.2(BASF)、LiNi0.6Mn0.2Co0.2(L&F,Korea及びUmicore,Belgium)、LiNi0.8Mn0.1Co0.1(L&F,Korea,BASF,Germany,Umicore,Belgium及びLG Chemical,Korea)が挙げられる。
【0092】
N-NMC組成物に関して、ニッケル量が増加するにつれて、平均電圧がわずかに大きくなる傾向があるが、安定なサイクリングに対する充電電圧は、ニッケル量が増加するにつれて、わずかに低くなる傾向がある。したがって、N-NMC活性材料は、良好なサイクリング及び適切に高い容量及びエネルギー密度を提供することができるが、活性材料の選択は、犠牲を伴い得る。
【0093】
上記のように、望ましいブレンドは、N-NMCと(リチウムリッチ+マンガンリッチ)リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(LM-NMC又はHCMR(商標))を含むことができる。正極用の活性材料ブレンドに関して、活性材料は、約3重量%~約85重量%のLM-NMCを含むことができる。これらの組成物は、式Li1+bNiαMnβCoγδ2-z(式中、b+α+β+γ+δ≒1であり、bは、約0.04~約0.3の範囲であり、αは、0~約0.4の範囲であり、βは、約0.2~約0.65の範囲であり、γは、0~約0.46の範囲であり、δは、約0~約0.15の範囲であり、及びzは、0~0.2の範囲であるが、ただし、α及びγの両方が0であることはなく、Aは、リチウム、マンガン、ニッケル及びコバルトと異なる金属である)によって概ね表すことができる。いくつかの実施形態では、Aは、Mg、Sr、Ba、Cd、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、Cr、Fe、V又はその組合せであり得る。追加的な又は代わりの実施形態では、Li1+bNiαMnβCoγδ(式中、0.05≦b≦0.125、0.225≦α≦0.35、0.35≦β≦0.45、0.15≦γ≦0.3、0≦δ≦0.05である)及び最大5モルパーセントの酸素をフッ素ドーパントとも置き換え可能である。当業者は、上記の明示的範囲内の組成物の追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。参照により本明細書に組み込まれる、「Very Long Cycling of Lithium Batteries With Lithium Rich Cathode Materials」という名称の、Amiruddinらへの米国特許第8,928,286号明細書に記載される通り、長期サイクル安定性は、(リチウム+マンガン)リッチNMC活性材料に関して、比較的高いサイクリング電圧において達成されている。
【0094】
LM-NMC正極活性材料に関して、材料上でコーティングを施すことにより、対応するセルの性能を改善できることが見出された。一般にバッテリーサイクリング間に電気化学的に不活性であると考えられる適切なコーティング材料は、金属フッ化物、金属酸化物又は金属の非フッ化物ハロゲン化物を含み得る。適切に設計された厚さを有する改良された金属フッ化物コーティングについては、参照により本明細書に組み込まれる、「Coated Positive Electrode Materials for Lithium Ion Batteries」という名称の、Lopezらへの公開された米国特許第9,843,041号明細書に記載されている。
【0095】
正極活性材料は、酸化リチウムコバルト、LiNi0.33Mn0.33Co0.33(NMC111)、LiNi0.8Co0.15Al0.05(NCA)、酸化リチウムマンガン(LiMn)、リン酸リチウム鉄(LiFePO)などのリン酸リチウム金属、それらの混合物などの他の材料を含むことができる。当業者であれば、上記の明示的な範囲内の組成物ブレンドの追加範囲が想定され、それが本開示の範囲内であることを認識するであろう。
【0096】
上記のように、正極は、一般に活性材料を含み、バインダー内に導電性物質が含まれる。電極中の活性材料装填量は、大きいことが可能である。いくつかの実施形態では、正極は、約85重量%~約99重量%の正極活性材料、他の実施形態では約90重量%~約98重量%の正極活性材料、さらなる実施形態では約95重量%~約97.5重量%の正極活性材料を含む。いくつかの実施形態では、正極は、約0.75重量%~約10重量%のポリマーバインダー、他の実施形態では約0.8重量%~約7.5重量%のポリマーバインダー、さらなる実施形態では約0.9重量%~約5重量%のポリマーバインダーを有する。
【0097】
一般に、正極組成物は、電気活性組成物と異なる導電性添加剤を含むことも可能である。いくつかの実施形態では、正極は、0.4重量%~約12重量%の導電性添加剤、さらなる実施形態では約0.45重量%~約7重量%、他の実施形態では約0.5重量%~約5重量%の導電性添加剤を有することが可能である。当業者は、上記の明示的範囲内の粒子装填量の追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。正極の活性材料については、上記されている。正極のための適切なポリマーバインダーとしては、例えば、PVDF、ポリエチレンオキシド、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリレート、ゴム、例えばエチレン-プロピレン-ジエンモノマー(EPDM)ゴム又はSBR、それらのコポリマー又はそれらの混合物が含まれる。正極に関して、PVDFを良好な結果で使用でき、且つ実施例の正極は、pvdfバインダーを使用する。導電性添加剤については、負極に関して詳細に記載されており、且つナノスケール導電性炭素を正極に関して効果的に使用することができる。
【0098】
特定の装填レベルに関して、(活性材料の)電極密度は、厚さと反比例しているため、より高い密度を有する電極は、より低い密度を有する電極よりも薄くなる。装填量は、密度に厚さを掛けた値と等しくなる。いくつかの実施形態では、バッテリーの正極は、約10mg/cm~約40mg/cm、他の実施形態では約12mg/cm~約37.5mg/cm、追加的な実施形態では約13mg/cm~約35mg/cm、他の実施形態では20mg/cm~約32.5mg/cmである正極活性材料の装填レベルを有する。いくつかの実施形態では、バッテリーの正極は、いくつかの実施形態では約2.5g/cc~約4.6g/cc、他の実施形態では約3.0g/cc~約4.4g/cc、追加的な実施形態では約3.25g/cc~約4.3g/ccの活性材料密度を有する。さらなる実施形態では、正極は、圧縮及び乾燥後、集電体の各側面上で約45ミクロン~約300ミクロン、いくつかの実施形態では約80ミクロン~約275ミクロン、追加的な実施形態では約90ミクロン~約250ミクロンの正極材料の厚さを有することが可能である。当業者は、上記の明示的範囲内の活性材料装填レベル、電極の厚さ及び電極密度の追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。
【0099】
補足的なリチウム
本明細書に記載される改善された高エネルギーバッテリー設計は、一般に補足的なリチウムを含み、且つ本項目は、適切な実施形態のための補足的なリチウムの組み込みのためのアプローチに関する。一般に、ケイ素ベースの負極活性材料を用いるセルに関して、材料がバッテリーの初期充電中に比較的高い不可逆容量損失を示し得るため、補足的なリチウムの組み込みが望ましい。補足的なリチウムは、驚くべきことに、LM-NMCのサイクリングも安定化させる。バッテリー中への補足的なリチウムの導入に様々なアプローチを使用することができるが、対応する初期反応及び/又は充電後、負極は、補足的なリチウムからのサイクリングに関する過剰量のリチウムと会合する。補足的なリチウムを有するバッテリー中の負極に関して、負極の構造及び/又は組成は、第1のサイクル後並びに追加サイクル後、その初期構造及び組成と比較して変化し得る。一般的に、正極は、抽出可能なリチウムを備えており、セルの開始又は形成には、正極からリチウムを抽出するための初期充電が必要であり、これは、一般的に、サイクル容量以上である。補足的なリチウムは、正極活性材料に含まれる初期リチウムを補足するものと考えることができる。
【0100】
補足的なリチウムの導入のためのアプローチ次第で、正極は、最初に補足的なリチウムの供給源を含み得、且つ/又は補足的なリチウムを含む犠牲電極を導入することが可能である。追加的に又は代わりに、補足的なリチウムを負極と会合させることが可能である。いくつかの実施形態では、純粋な化学的又は機械的方法とは対照的に、電気化学的方法を使用して補足的なリチウムを負極に導入することが可能である。補足的なリチウムが最初に正極又は別の電極に配置される場合、負極は、バッテリーが充電されるまで又は少なくとも電解質及びセパレータの存在下、負極と、補足的なリチウムを有する電極との間の回路が閉じるまで、リチウムが存在しない不変の形態であり得る。例えば、正極又は補足的な電極は、他の電極成分に加えて、元素リチウム、リチウム合金及び/又は他の犠牲リチウム供給源を含むことができる。
【0101】
いくつかの実施形態では、補足的なリチウムの少なくとも一部分は、最初に負極と会合する。例えば、補足的なリチウムは、負極活性材料よりも電気陰性であるリチウム合金又は他のリチウム供給源の形態であり得る。元素リチウムは、蒸着、スパッタリング又はアブレーションによって形成されるものなどの薄膜、リチウム合金箔及び/又は粉末の形態であり得る。特に粉末形態の元素リチウムをコーティングして、取扱い目的のためにリチウムを安定化させることができる。FMC Corporationからの粉末などの市販のリチウム粉末は、安定性のための独自のコーティングが施されて販売されている。このコーティングは、一般に、電気化学用途のためのリチウム粉末の性能を変化させることはない。負極を電解質と接触させた後、反応が発生可能であり、補足的なリチウムが負極活性材料に輸送される。電極は、内部導電性であるため、反応から電子フローを得るために回路を閉じる必要はない。このプロセス中、固体電解質インターフェイス(SEI)層も形成され得る。したがって、補足的なリチウムは、負極活性材料中に装填され、その少なくとも一部は、一般にSEI層の形成において消費される。負極に配置された補足的なリチウムは、電圧印加によって同一電極において活性材料と補足的なリチウム供給源が反応しないため、負極活性材料よりも電気陰性であるべきである。
【0102】
いくつかの実施形態では、負極と会合する補足的なリチウムを負極内に粉末として組み込むことが可能である。特に、負極は、活性負極組成物と、ポリマーバインダーマトリックス内の補足的なリチウム供給源と、存在する場合には導電性粉末とを含み得る。追加的な又は代わりの実施形態では、補足的なリチウムは、電極表面に沿って配置される。例えば、負極は、活性負極組成物を有する活性層と、活性層の表面上の補足的なリチウム供給源層とを含み得る。補足的なリチウム供給源層は、リチウム又はリチウム合金箔シート、ポリマーバインダー内の補足的なリチウム粉末及び/又は活性層の表面上に配置された補足的なリチウム供給源材料の粒子を含み得る。代わりの構成において、補足的なリチウム供給源層は、活性層と集電体との間にある。いくつかの実施形態では、負極は、活性層の両方の表面上に補足的なリチウム供給源層も含み得る。
【0103】
リチウムの電気化学的事前装填を実行するための配置は、集電体上に形成されたケイ素ベースの活性材料を有する電極を含み得、これは、電解質と、電極に接触しているリチウム供給源材料のシートとを含有する容器中に配置される。リチウム供給源材料のシートは、リチウム箔、リチウム合金箔又は任意選択的に導電性粉末と一緒のポリマーバインダー中のリチウム供給源材料を含み得、これは、それぞれの反応が生じている間に電気的中性を維持するために、電子が材料間において流動することができるようにリチウムによって事前装填される負極と直接接触している。後続反応において、リチウムは、インターカレーション、合金化などを介してケイ素ベースの活性材料中に装填される。いくつかの実施形態では、電極内のリチウム源は、リチウムが予め装填された電極と一緒にセルに組み立てることができる。それぞれの電極の間にセパレータを配置することができる。制御された電気化学的プレリチウム化を提供するために、電極間に電流を流すことができる。
【0104】
代替的又は追加的な実施形態では、負極活性材料は、それぞれの材料が電解質中で自発的に反応することができるように、ポリマーバインダーによって電極に形成する前に、電解質及び補足的なリチウムを組み込むためのリチウム源材料に混合することができる。市販のSiO-Si-C複合材組成物は、現在、信越化学工業株式会社(日本)のKSCシリーズ製品などから市販されている。補足的なリチウムをセルに組み込むための様々なアプローチは、参照により本明細書に組み込まれる「Lithium Ion Batteries With Supplemental Lithium」という名称の、Amiruddinらへの米国特許第9,166,222号明細書に記載されている。
【0105】
一般に、補足的なリチウムが使用される実施形態に関して、活性組成物中に事前装填されるか又は装填可能である補足的なリチウムの量は、容量の少なくとも約2.5%、さらなる実施形態では容量の約3%~約55%、追加的な実施形態では容量の約5%~約52.5%、いくつかの実施形態では負極活性材料容量の約5%~約50%の量であり得る。補足的なリチウムは、負極のIRCLのバランスを概ね調整するように選択することができるが、必要に応じて他の量の補足的なリチウムを使用することもできる。いくつかの実施形態では、添加される補足的なリチウムは、負極の第1のサイクルIRCLの60%~180%に対応する酸化容量を有する量であり、さらなる実施形態では、これは、80%~165%であり、他の実施形態では90%~155%である。当業者は、上記の明示的範囲内のパーセントの追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。したがって、バッテリーの測定されたIRCLが、補足的なリチウムの存在によって減少しない正極のIRCLからの部分的又は大部分の寄与を表すように、補足的なリチウムの添加により、負極のIRCLへの寄与は効果的に減少又は除去され得る。当業者は、上記の明示的範囲内のIRCLの追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。
【0106】
カソード及びアノードのバランス
バッテリーの全体的性能は、負極及び正極の両方の容量並びにそれらの相対的なバランス次第であることが見出された。電極のバランスは、バッテリーに関する特に高いエネルギー密度を達成すること及び良好なサイクリング特性を達成することに関して重要であることが見出された。いくつかの実施形態では、より長いサイクリング安定性及びエネルギー密度を達成することに関して犠牲が生じ得る。より長いサイクリング安定性を達成するために、比較的低いエネルギー密度を達成するためにバッテリーのバランスをとることが望ましいが、より広範囲の作動パラメータにおける安定した長期使用に適切であるバッテリーを使用することが望ましくなり得る。適切に選択された活性材料、所望の電極設計及び改良された電解質配合物により、80%以下の容量低下で800サイクル超のサイクリングを得ながら、高いエネルギー密度はなお入手可能である。電極バランスは、いくつかの別の方法で評価することができ、これは、特定の評価アプローチを適切に考慮する場合に効果的に作用することができる。
【0107】
活性材料の試験は、リチウム金属電極を使用するリチウムセルで実行される。そのようなセルは、一般にハーフセルと呼ばれ、(フルセルと呼ばれる)両方の電極がリチウム合金又はインターカレーション材料を含むリチウムイオンセルとは対照的である。ケイ素ベースの電極を用いるハーフセルにおいて、リチウム電極は、負極として機能し、ケイ素ベースの電極は、正極として機能する。これは、リチウムイオンセルの負極としての通常の役割と反対である。
【0108】
正極活性材料容量は、リチウム金属箔に対して材料をサイクルさせることによって測定可能である材料の容量から推定可能である。例えば、所与の正極に関して、第1の充電/放電サイクル間に挿入容量及び抽出容量を決定することで容量を評価することができる。このとき、リチウムは、材料化学に基づいて選択された電圧及びセル設計の選択された充電電圧(一般に4.2V~4.5V)に正極から脱インターカレーション又は抽出され、リチウム金属に対する最終アノードの電圧に基づき、リチウム金属に対してより高い充電電圧まで、わずかな微調整、例えば一般に0.1Vを用いて、C/20のレートで2Vに正極にインターカレーション又は挿入されて戻される。同様に、所与のケイ素ベースの電極に関して、ケイ素ベースの活性材料を含む正極及びリチウム箔負極を有するバッテリーを使用して、挿入能力及び抽出能力を評価することができる。この容量は、リチウムが5mVまでケイ素ベースの電極にインターカレーション/合金化され、C/20のレートで1.5Vまで脱インターカレーション/脱合金化される、第1の充電/放電サイクル間のバッテリーの挿入容量及び抽出容量を決定することによって評価される。実際の使用において、観察された容量は、高レート作動及び電圧範囲の変化などの様々な要素のため、試験された容量から変化し得、これは、バッテリー設計のため及びリチウム金属ではない対電極の組成のためであり得る。いくつかの評価アプローチに関して、第1のサイクル後の後続の容量を使用して電極バランスを評価することができ、必要に応じてC/3又はC/10などのより高い放電レートを使用することが可能である。形成サイクル又はいくつかの形成サイクル後のバランスの使用は、バランスがバッテリー使用間の条件により基づくという点で望ましくなり得る。
【0109】
ほとんどの市販品として入手可能な炭素ベースのバッテリーにおいて、リチウムめっきを防ぐために、カソードより約7~10%過剰量のアノードが使用される。過剰量のアノードの重要な懸念事項の1つは、セルの重量が増加して、セルのエネルギー密度が低下することである。約7%の第1のサイクルIRCLを有するグラファイトと比較して、高容量ケイ素ベースのアノードは、約10%~約40%の範囲のIRCLを有することが可能である。容量の大部分は、第1の充電-放電サイクル後にセル内で非活性になり得、バッテリーに有意なデッドウェイトを加え得る。
【0110】
高容量アノード材料に関して、負極不可逆容量損失は、一般に、正極不可逆容量損失よりも大きく、このことからセルの追加的なリチウム入手可能性が生じる。負極が正極よりも有意に高い不可逆容量損失を有する場合、負極の初期充電は、リチウムを不可逆的に消費するため、その後の放電時、負極は、正極の完全なリチウム受容能力を満たすために正極に十分なリチウムを提供するために十分なリチウムを供給できない。これにより、正極容量が無駄になり、それに対応して、サイクリングに寄与しない重量が増加する。正味のIRCL(負極IRCL-正極IRCL)からのリチウム損失のほとんど又は全ては、上記のように補足的なリチウムによって埋め合わせ可能である。第1の形成サイクル間の電極バランスの評価は、補足的なリチウムを考慮しても又はしなくてもよい。形成サイクル又は数サイクル後の後続サイクルにおいて、IRCLに関して消費されない、いずれの過剰量の補足的なリチウムは、一般にアノード材料に合金化される。電極バランスは、そのサイクルで使用される選択されたレートでの4回目のサイクルなどの形成後のサイクリング段階で評価でき、これらの容量は、電極性能から推定可能である。
【0111】
上記のように、補足的なリチウムを様々な方法で導入することができる。セルの組み立て前に負極活性材料に補足的なリチウムを導入すれば、負極は、補足的なリチウムを導入するための他のアプローチと比較して、不可逆容量損失の有意な減少を示すことができる。理論に限定されることは望まないが、不可逆容量損失に関連する材料の変化は、セルの組み立てに行われるプレリチウム化プロセス中に起こり得る。不可逆容量損失が減少すると、電極バランス(正極容量対負極容量)は、IRCLからの調整するための初期の不均衡が少なくなる。この状況を考慮する同様の方法は、負極の測定容量を、負極活性材料に供給される補足的なリチウムを差し引いた仮想的な全容量とみなすことができるように、補足的なリチウムを考慮して負極容量はすでに調整されていることである。これらの実施形態に関して、バランスを評価するために第4サイクルの容量を考慮することは依然として有効であるが、第4サイクルの容量が第1サイクルの容量により同様となることが可能である。
【0112】
安定したより長期のサイクリング性能を提供するという観点から、両方の電極容量を効果的に使用すること及びサイクリング間のリチウム金属のめっきを避けるために電極のバランスを調整することが望ましくなり得る。一般に、電極のバランスは、リチウム金属に対する電極の初期容量を参照して、電極の組み立て時に考慮される。
【0113】
一般に、一定の放電レートでエネルギー出力が初期容量から約20%低下した場合に終了するようにバッテリー寿命を選択することができるが、必要に応じて他の値を選択することもできる。本明細書に記載される材料に関して、負極のサイクリングによる容量の低下は、一般に、正極に関するものよりも大きく、そのため、サイクリングによるリチウム金属堆積を回避することは、サイクリングをさらに安定化させるための負極のより高い過剰容量を示唆する。概ね、負極容量が正極容量の約2倍の速さで減少する場合、サイクリングに対応するために、少なくとも10%の追加的な負極容量を含むことが望ましいと考えられる。堅牢なバッテリー設計において、様々な放電条件において、少なくとも約10%の追加的な負極が望ましくなり得る。一般に、リチウムに対して開回路電圧から1.5VまでC/20レートで評価される初期負極充電容量が、開回路からセル設計の充電電圧(一般に4.2V~4.6V)までC/20レートにおける初期正極充電容量+いずれの補足的なリチウムの酸化容量の合計に対して約110~約195%、さらなる実施形態では約120%~約185%、追加的な実施形態では約130%~約190%であるようにバランスを選択することができる。代わりに、電極バランスは、約110%~約195%、さらなる実施形態では約120%~約185%、追加的な実施形態では約130%~約190%の正極容量に対する負極容量で、C/10又はC/3の放電レートで4回目のサイクルにおいて評価することができる。当業者は、上記の明示的範囲内のバランスの追加範囲が本開示内で考えられ、且つ本開示内であることを認識するであろう。このようなバランスについては、以下に記載されるバッテリー設計において説明される。
【0114】
セル性能特性
本明細書で記載される設計上の特徴の組み合わせにより、所望の高出力セル性能を維持しながら、より長いサイクル安定性を提供することができる。特定の用途では、充電前のセル寿命の後半で出力能力を維持することが重要となり得る。換言すれば、実用的な解決策となるには、サイクル寿命を維持しながら、セルが高レート能力及び高容量を有する必要がある。長期間の高出力サイクルを達成するには、特に負極のセル設計パラメータのバランスと共に、上記の改善された電解質を使用する必要がある。
【0115】
選択された充電電圧は、正極活性材料に影響され得る。一般的に、これらのセルに関して選択された充電電圧は約4.05V~4.4Vである。上記のように、アノードは関連する電圧範囲にわたって元素リチウムに対して低い電圧を有するように設計されているため、選択された充電電圧は、一般的に、カソード活性材料に基づく。セルは、高い放電レートを伴う高出力発生を生じる非常に良好なサイクル性能を示すことができる。いくつかの実施形態では、セルは、室温で、選択された充電電圧から2.5Vまで1Cのレート又は4Cのレートで放電された第6サイクル容量の少なくとも約75%、他の実施形態では少なくとも約80%の放電容量を700サイクル目において示し、追加の実施形態では、室温において、選択された充電電圧から2.5Vまで1C充電レートでサイクルされる場合、第6サイクル放電容量に対して少なくとも約82%の放電容量を700サイクル目において示すことができる。同様に、バッテリーは、室温で、選択された充電電圧から2.5Vまで1Cのレートで放電された第6サイクル容量の少なくとも約75%、他の実施形態では少なくとも約80%の放電容量を825サイクル目において示し、追加の実施形態では、室温において、選択された充電電圧から2.5Vまで1Cのレートでサイクルされる場合、第6サイクル放電容量に対して少なくとも約82.5%の放電容量を825サイクル目において示すことができる。当業者であれば、上記の明示的な範囲内の追加範囲が想定され、それが本開示の範囲内であることを認識するであろう。
【実施例
【0116】
一般的な方法及び材料。一般的な方法及び材料は、上記で引用した’925特許に記載されている。電解質配合物は、活性材料として酸化ケイ素ベースの複合材料及びグラファイトのブレンドを組み込んだNMC正極及び負極を使用して、コインセル及びポーチセルに組み込むことによって試験された。具体的には、正極用の活性材料は、式LiNi0.6Mn0.2Co0.2(NMC622)又はLiNi0.8Mn0.1Co0.1(NMC811)を有する市販のリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物であった。NMC811は、多結晶体又は単結晶体として異なる供給元から市販品として入手可能であり、正極用の活性材料としてこれらをそれぞれ用いて、異なる実施例を行った。負極活性材料には、電気化学的に活性なグラファイトとブレンドされた市販のSiO-Si-C(SiOx)複合材料(SOCと記載される)を用いた。
【0117】
正極は、1重量%~4重量%のPVDFバインダー及び1重量%~3重量%のナノスケールカーボンとブレンドされて、約93重量%~97.5重量%の活性材料の装填率を有した。カソード材料はNMP溶媒とブレンドされ、アルミ箔集電体上に広げられ、プレスされ、乾燥された。
【0118】
酸化ケイ素ベースの活性材料を用いて負極を形成するために、活性材料は、特に明記されない限り、65重量%~80重量%の市販の酸化ケイ素/ケイ素/炭素複合材料(本明細書中、SiO/Si/Cと記載する)の粉末と、残り(20重量%~35重量%)の電気活性グラファイト(KS 6合成物グラファイト、Imerys S.A.)とをブレンドすることによって形成された。負極活性材料を1重量%~7重量%のナノスケール炭素導電性添加剤と十分に混合し、均質な粉末混合物を形成した。負極は、導電性添加剤として2~6重量%の炭素ナノチューブを有した。電極の粉末成分、活性材料及び炭素ナノチューブを混合し、均質な粉末混合物を形成した。負極は、1~7重量%より低弾性率のバインダー及び7~15重量%のポリイミドを有した。ポリイミドに対するより低弾性率のバインダーの重量比は0.714であった。
【0119】
負極を形成するために、ポリマーバインダー、ポリイミドバインダー及び低弾性係数バインダーのブレンドをNMP(Sigma-Aldrich)と混合し、一晩撹拌して、ポリマーバインダー-NMP溶液を形成した。次いで、均質粉末混合物をポリマーバインダー-NMP溶液に添加し、約2時間混合し、均質スラリーを形成した。スラリーを銅箔集電体上に適用して湿潤薄膜を形成し、ラミネートされた集電体を減圧オーブン中で乾燥してNMP除去し、ポリマーを硬化させた。次いで、ラミネートされた集電体をシートミルのローラー間で押圧し、所望のラミネート厚さを得た。乾燥ラミネートは、2~20重量%のバインダーを含有し、電極の残り部分は、粉末によって寄与される。負極は、アノードの不可逆容量損失によるリチウム損失の100%~160%を埋め合わせするために十分なリチウムによって電気化学的にプレリチウム化された。
【0120】
コインセルを形成するために、負極の一部をセパレータと一緒にサイズを合わせて切断し、正極の一部もサイズを合わせて切断した。4サイクル目の負極容量は、4サイクル目の正極容量の105%~150%で均衡を保った。これらのセルのためのセパレータは、Celgard(登録商標)多孔質ポリマー膜であった。間にセパレータを有する電極をコインセルの筐体中に入れた。後述するように選択された電解質をセル内に入れ、セルを密閉した。
【0121】
いくつかの実施例について、図1A~1Dに示したものと類似のデザインを有するポーチセルを以下のように調製した。角柱形状のポーチセルは、タブを無視して、145mm×64mm×7.7mm(厚さ)のおおよその寸法を有した。電極は上記のように形成し、セパレータシートは、メッキ加工された電極をセパレータの折り目の中に配置した状態でプリーツ加工した。ポーチセルのためのセパレータは、ゲル形成ポリマーコーティングを有する多孔性ポリマー複合材シートであった。補足的なリチウムは、ケイ素ベースの負極活性材料のIRCLの約100%~160%を補うために、組み立て前に負極表面にリチウム粉末(SLMP(登録商標)、Livent Corp.)を適用することによって供給された。バッテリーは、30℃でC/3の放電レートで約11Ahの総容量を有するように設計された。
【0122】
実施例で使用した電解質塩、溶媒、共溶媒及び添加剤を表5に示す。以降の実施例では、選択される電解質に基づいてセルの性能を評価する。
【0123】
【表5】
【0124】
【表6】
【0125】
実施例1 - 様々な溶媒を用いた、LiPF/LiTFSI電解質のガス発生性能
本実施例では、本明細書に記載の種々の電解質を用いて製造されたセルからのガス発生について調査する。
【0126】
リチウムイオンセルは、E2~E9電解質と組み合わせてSOCアノード及びNMC622を有する正極を有し、これは、既知の電解質を含むバッテリーと比較して、より少ないガス発生を示し得る。図2は、NMC622カソード及びSOCアノードを有するポーチセルと組み合わせて使用された電解質E1~E4について、65℃での保存時間対厚さ変化率を示す。電解質が充填されたポーチセルを65℃で保存し、48時間間隔で厚みを測定する。オーブンから取り出したセルからの各測定後、セルを室温で30分間休ませる。室温まで冷却後、再び厚さを測定し、次の間隔のためにセルをオーブンに戻す。図2に示すように、E1電解質を使用したポーチセルは、E2、E3、E4電解質を含むポーチセルと比較して、48時間にわたる厚みの変化が大きく、あまり望ましくないことが示された。
【0127】
実施例2 - 様々な溶媒を用いた、LiPF/LiTFSI電解質の種々のレートでのサイクル性能
本実施例では、種々の他の溶媒成分と一緒に異なる量のFECを有する電解質を用いて、サイクル性能を調査する。
【0128】
リチウムイオンバッテリーは、電解質E2、E3、E4と組み合わせて使用した場合、ガス発生が低減された既知の電解質を含むバッテリーと比較して、改善されたか又は同等のサイクルを示し得る。NMC622正極活性材料及びSOCアノードを用いたコインセルを、電解質E1~E4のそれぞれを用いて作製した。種々の条件下でのコインセルのサイクル性能を測定し、結果を図3A~3Eに示す。サイクルに関しては、C/10レートで2サイクル、C/5レートでサイクル3及び4、C/3レートでサイクル4及び5を実施し、サイクル7以降をより長いサイクルのために所望の試験レートで実施した。50サイクルごとに、セル性能を確認するためにC/3でサイクルを行った。特に指示がない限り、このサイクル形式は他の実施例にも用いられた。図3Aは、4.3Vから2.5Vまで、1C充電/1C放電レートでサイクルされたコインセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。電解質E2、E3、E4は、E1と比較して同様のサイクル挙動を示す。全てのセルは、容量が7サイクル目の容量の80%未満まで低下する前に、1C/1Cの充電及び放電レートで700サイクルより多くを達成した。図3Bは、図3Aに示すデータに関する、正規化されていない比放電容量のプロットを示す。本明細書で使用される場合、正規化されていない比放電容量は、正極活性材料の重量を基準として記載される。
【0129】
図3Cは、4C充電/1C放電レートでサイクルされたコインセルの、サイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。50サイクルごとに1C充電/1C放電サイクルを実行し、セルの性能を確認した。E3及びE4電解質は、E1と比較して同様のサイクル挙動を示すが、E2はE1よりも悪い。これは、サイクル性能を犠牲にすることなく高レート充電を行うには、わずかに高いFEC濃度が有益であることを示唆している。E1、E3及びE4は、容量が2サイクル目の容量の80%未満に低下する前に、少なくとも750サイクルを達成した。図3Dは、図3Cに示されたデータに関する、正規化されていない比容量のプロットを示す。
【0130】
図3Eは、様々な放電レートでサイクルされたコインセルの、サイクル数の関数としての放電容量のプロットである。これらのデータを作成する際に利用した充電レートプロトコルを表6に示す。
【0131】
【表7】
【0132】
電解質E2、E3及びE4は、E1電解質と比較して、2C充電/1C放電レートより高いレートで、より低いレート容量を示した。E2、E3及びE4のより低いレート容量は、E1のDMCと比較してEMCを使用しているためであり得る。E1と比較して、E2、E3及びE4では、同等か又はそれより高いイオン伝導度が予想される。
【0133】
実施例3 - 種々の溶媒、添加剤及び共溶媒を用いたLiPF/LiTFSI電解質のサイクル性能
0.5~5重量%のPFPNを含む電解質E5並びに0.1~2重量%のLPTB及び5~30重量%のEAを含む電解質E9について、サイクル性能を測定して、添加剤及び共溶媒の影響を決定した。電解質E5及びE9のそれぞれを用いて、NMC622正極活性材料及びSOCアノードを用いたコインセルを作製した。図4Aは、45℃で4C充電/1C放電レートでサイクルされたコインセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。50サイクルごとに1Cのレートの容量確認を行った。図4Bは、図4Aに示したデータに関する、正規化されていない比容量のプロットである。電解質E5(E3+PFPN)及びE9(E2+LPTB及びEA)では、短時間サイクルでの初期低下を除き、電解質E1と比較してサイクル性能の改善が観察された。
【0134】
実施例4 - 選択される溶媒、添加剤及び共溶媒並びにNMC811正極活性材料を用いたLiPF/LiTFSI電解質のサイクル性能
本実施例では、同一ケイ素ベースのアノードを用い、本明細書に記載された種々の電解質を用いた、NMC811活性材料を用いたセルのサイクル結果を示す。
【0135】
NMC811正極活性材料及びSOCアノードを用いたコインセルを、電解質E1及びE5のそれぞれを用いて作製した。コインセルのサイクル性能は、実施例2に関して記載された通りに測定し、結果を図5A~5Dに示す。図5Aは、C/3充電-放電レート及び1C/1C充電-放電レートでサイクルされたコインセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。E1と比較してE5では同等のサイクル寿命が得られ、各電解質をベースとするセルは、7サイクル目に関して80%の容量を達成しながら900サイクル以上サイクルした。図5Bは、図5Aに示したデータの正規化されていない比容量のプロットを示す。
【0136】
図5Cは、4C/1C充電-放電レート(室温)及び1C/1C充電-放電レート(45℃)でサイクルされたコインセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。E1と比較して、E5では優れたサイクル寿命が予測される。図5Dは、図5Cに示したデータの正規化されていない比容量のプロットを示す。一般に、高レート条件又は高温条件下では、E5は、NMC811に関して、E1よりも優れたサイクル性能を有した。電解質E5には添加剤PFPNが含まれていた。
【0137】
図6Aは、電解質E1及びE3を用いて作製したコインセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。コインセルは、図5Cに記載の通りにサイクルされた。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC811、負極活性材料についてSOCであった。セルは、45℃で1C充電/1C放電又は室温で4C充電/1C放電でサイクルされた。1C/45℃では、E1及びE3電解質は、同等の性能を示したが、4C/1Cのサイクルでは、E3電解質はE1電解質ほどの性能を示さなかった。図6Bは、図6Aに示したデータの正規化されていない比容量のプロットを示す。
【0138】
図7Aは、電解質E1及びE6を用いて作製したコインセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。このコインセルは、45℃で1C充電/1C放電及び室温で4C/1C放電で再びサイクルされた。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC811、負極活性材料についてSOCであった。E6は、45℃でわずかに優れたサイクル性能を有したが、著しく悪い高レートサイクル性能を有した。図7Bは、図7Aに示したデータの正規化されていない比容量のプロットである。
【0139】
図8Aは、電解質E1及びE7を用いて作製したコインセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。電解質E7は添加剤TEPを含んでいた。コインセルは、45℃で1C充電/1C放電及び室温で4C/1C放電で再びサイクルされた。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC811、負極活性材料についてSOCであった。E1と比較して、電解質E7を用いたセルは良好な高温サイクルを示したが、高レートサイクルは不良であった。図8Bは、図8Aに示したデータの正規化されていない比容量のプロットである。
【0140】
図9Aは、電解質E1及びE8を用いて作製したコインセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。電解質E8は添加剤TEPも含んでいた。コインセルは、45℃で1C充電/1C放電及び室温で4C/1Cでサイクルされた。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC811、負極活性材料についてSOCであった。電解質E8を用いたセルの性能は、電解質E7を用いたセルと同様であった。電解質E7及びE8を用いたセルの高充電レート性能は、電解質E1を用いたセルよりは劣るが、これらのセルは依然として80%の容量で700サイクル以上、十分サイクルする。図9Bは、図9Aに示したデータの正規化されていない比容量のプロットを示す。
【0141】
実施例4のデータは、E1電解質と比較して、PFPN、TEP及びPFPNとTEPとの組み合わせを有する電解質E3及びE5~E8の改善されたサイクル寿命を示す。特に、E5は、45℃で保存した場合、1C/1C及び4C/1Cの両レートにおいてより良好なサイクル寿命を示し、より良好な1C/1Cサイクルを示す。
【0142】
実施例5 - 種々の共溶媒を用いたLiPF電解質のガス発生挙動
本実施例では、表3から選択される電解質を用いて形成したポーチセルの膨潤挙動を調査する。
【0143】
E21~E24電解質並びに参照電解質E1と組み合わせて、SOCアノード及びNMC622カソードを有するリチウムイオンセルを作製し、実施例2について上記したように試験を実施した。図10は、ポーチセルと組み合わせて使用されたE21~E24電解質並びにE1、E2及びE10電解質に関して、65℃での保存時間対厚さの変化率を示す。図10に示されるように、ベースラインE1電解質を有するポーチセルは、他のポーチセルと比較して、48時間の期間にわたって厚さの最大の望ましくない変化を示した。
【0144】
実施例6 - 種々の共溶媒を用いたLiPF電解質のサイクル性能
E21~E25電解質を用いたコインセルについて、異なるレートでのサイクル性能を測定した。E21~E25電解質のそれぞれのデータをE1電解質のデータと比較して示す。
【0145】
図11Aは、電解質E1及びE21を用いて作製したコインセルの、サイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。コインセルは、全てのサイクルが室温で行われたことを除き、図5Cに記載されたようにサイクルされた。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC622、負極活性材料についてSOCであった。電解質E21は、1C充電/1C放電レートが利用された場合、E1と同様の挙動を示したが、4C充電/1C放電レートが利用された場合、劣った挙動を示した。図11Bは、図11Aに示したデータの正規化されていない比放電容量のプロットである。
【0146】
図12Aは、電解質E1及びE22を用いて作製したコインセルの、サイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。コインセルは、サイクルが室温で行われたことを除き、図5Cに記載されたようにサイクルされた。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC622、負極活性材料についてSOCであった。電解質E22は、1C充電/1C放電レートが利用された場合、E1と同様の挙動を示したが、4C充電/1C放電レートが利用された場合、劣った挙動を示した。図12Bは、図12Aに示したデータの正規化されていない比容量のプロットである。
【0147】
図13Aは、電解質E1及びE23を用いて作製したコインセルの、サイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。コインセルは、サイクルが室温で行われたことを除き、図5Cに記載されたようにサイクルされた。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC622、負極活性材料についてSOCであった。電解質E23は、1C充電/1C放電及び4C充電/1C放電レートが利用された場合、E1と比較して劣った挙動を示した。図13Bは、図13Aに示したデータの正規化されていない比容量のプロットである。
【0148】
図14Aは、電解質E1及びE24を用いて作製したコインセルの、サイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。コインセルは、サイクルが室温で行われたことを除き、図5Cに記載されたようにサイクルされた。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC622、負極活性材料についてSOCであった。電解質E24は、1C充電/1C放電及び4C充電/1C放電レートが利用された場合、E1と比較して劣った挙動を示した。図14Bは、図14Aに示したデータの正規化されていない比容量のプロットである。
【0149】
図15Aは、電解質E1及びE25を用いて作製したコインセルの、サイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。コインセルは、セルが室温でサイクルされたことを除き、図5Cに記載されたようにサイクルされた。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC622、負極活性材料についてSOCであった。電解質E25は、1C充電/1C放電レートが利用された場合、E1と同様の挙動を示したが、4C充電/1C放電レートが利用された場合、劣った挙動を示した。図15Bは、図15Aに示したデータの正規化されていない比容量のプロットである。
【0150】
このデータは、単一塩LiPF電解質が利用される場合、EMCをDMCに置き換えることで同様の結果が得られることを示唆しているが、電解質中に共溶媒が存在するかどうかにかかわらず、ほとんどの場合劣った結果が得られる。
【0151】
実施例7 - LiPF/LiFSIを含む種々のリチウム塩による電解質の種々のレートでのサイクル性能
単一塩電解質LiPF、LiFSI及びLiTFSI並びに二塩電解質LiPF/LiFSIを含む電解質E1及びE10~E13によるコインセルについて、サイクル数の関数としての種々の放電レートにおける放電容量を測定した。
【0152】
レート性能を評価するための急速充電試験プロトコルを表7に示す。
【0153】
【表8】
【0154】
図16は、電解質E1及びE10~E12(いずれも単一塩電解質)を用いて作製したコインセルの、サイクル数の関数として放電容量のプロットであり、サイクルは表7に示す試験プロトコルに従って実施した。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC622、負極活性材料について酸化ケイ素複合材料SOCであった。LiFSIによる電解質E11は、E1と比較して改善された4C放電を示した。電解質E10~E12は、導電率の関数としてのレート性能を示した。すなわち、LiFSI>LiPF>LiFSIであった。
【0155】
図17は、電解質E10及びE11単一塩電解質並びに電解質E13二塩電解質を用いて作製したコインセルのサイクル数の関数としての放電容量のプロットである。サイクルは表7に示す試験プロトコルに従って実施した。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC622、負極活性材料について酸化ケイ素複合材料SOCであった。電解質E13は、電解質E10と同様の「15分-4C充電」性能を示した。二塩LiPF/LiFSI電解質は、単一塩LiFSI電解質と同様の性能を示した。
【0156】
図18は、電解質E14二塩LiPF/LiFSI電解質を用いて作製したコインセルのサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。E14の各塩LiPF及びLiFSIの濃度は同一であったが、LiFSIの濃度はE13のLiPFの濃度よりも高かった。このコインセルは、1C充電/1C放電レートでサイクルされた。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC811、負極活性材料について酸化ケイ素複合材料SOCであった。
【0157】
LiFSI及びLiPFの混合塩系による電解質は、純粋なLiFSIを用いたセルよりも良好な4C充電性能を示すように見えたが、製造上の欠陥によるものと思われる性能劣化が1回示された。
【0158】
実施例8 - 低沸点溶媒を使用しないLiPF/LiFSI及びLiPF/LiTFSI電解質のサイクル性能
図19Aは、電解質E2及びE15を用いて作製されたコインセルのサイクル数の関数としての正規化されていない比放電容量のプロットである。電解質E15は、沸点242℃の共溶媒PCと一緒に二塩電解質LiPF/LiFSIを含む。電解質E2は、沸点77℃の共溶媒EAに加えて、同二塩の組み合わせ及び共溶媒PCを含む。データは、正極活性材料の重量を基準とする。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC811、負極活性材料について酸化ケイ素複合材料SOCである。以下の表8に示す充電率プロトコルに従い、異なる充電レートでコインセルをサイクルさせた。
【0159】
【表9】
【0160】
このデータから、E15はE2を超えるか、又はE2と同程度であることがわかる。このように、低沸点成分を含まない溶媒を利用することで、良好な高レートサイクル性能を得ることが可能となる。
【0161】
図19Bは、コインセルの1C充電/1C放電レートサイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。コインセルは、1C充電/1C放電レートでサイクルされた。電極活性材料は、正極活性材料についてNMC811、負極活性材料について酸化ケイ素複合材料SOCである。図19Cは、図19Bに示したデータの、正極活性材料の重量を基準として、4C充電及び1C放電レートでサイクルされた正規化されていない比放電容量のプロットである。
【0162】
実施例9 - ポーチセルにおけるLiPF/LiTFSI電解質のサイクル性能
本実施例では、ポーチバッテリー又はセルにおける様々な電解質のサイクル性能を調査する。NMC811正極活性材料及びSOCアノードを用いたポーチセルをE3、E5、E7の各電解質によって作製した。このポーチセルは、セルの総重量に基づいて315Wh/kgのエネルギー密度及びC/3で12Ahの容量を有した。種々の条件下でポーチセルのサイクル性能を測定し、結果を図20A~21Bに示す。
【0163】
図20Aは、4.2Vから2.5Vまで、1C充電/1C放電レートでサイクルしたポーチセルの、サイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。電解質E3、E5及びE7は同様のサイクル挙動を示し、正規化容量が90%未満に低下することなく1000サイクルが実施された。図20Bは、図20Aに示したデータの、正極活性材料の重量を基準とする正規化されていない比放電容量のプロットを示す。
【0164】
図21Aは、4.2Vから2.5Vまで、4C充電/1C放電レートでサイクルしたポーチセルの、サイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。50サイクルごとにC/3キャップチェックを行った。電解質E3、E5及びE7は同様のサイクル挙動を示し、正規化容量が90%未満に低下することなく1000サイクルが実施された。電解質E3は、正規化容量が90%未満に低下することなく1200サイクルが実施されるサイクル挙動を示した。図21Bは、図21Aに示すデータの、正極活性材料の重量を基準とする正規化されていない比放電容量のプロットを示す。
【0165】
実施例10 - 種々の正極活性材料を含むポーチセルにおけるLiPF/LiTFSI電解質のサイクル性能
本実施例では、種々の正極活性材料を含むポーチセルにおけるE3のサイクル性能を調査する。NCM811カソードは、以前に報告された多結晶NCM811カソードと比較して本質的に単結晶である。このポーチセルは、セルの総重量に基づいて325Wh/kgのエネルギー密度及びC/3で12Ahの容量を有した。種々の条件下でのポーチセルのサイクル性能を測定し、その結果を図22A~24Bに示す。
【0166】
図22Aは、4.2Vから2.5Vまで、1C充電/1C放電レートでサイクルされたポーチセルの、サイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。800サイクル後、セルの正規化容量は80%より高いままであった。図22Bは、図22Aに示したデータの、正極活性材料の重量を基準とする正規化されていない比放電容量のプロットを示す。
【0167】
図23Aは、4.2Vから2.5Vまで、4C充電/1C放電レートでサイクルされたポーチセルの、サイクル数の関数としての正規化容量のプロットである。50サイクルごとにC/3キャップチェックを行った。600サイクル後、セルの正規化容量は80%より高いままであった。図23Bは、図23Aに示したデータの、正極活性材料の重量を基準とする正規化されていない比放電容量のプロットを示す。
【0168】
図24Aは、4.2Vから2.5Vまで、1C充電/1C放電レートでサイクルされたポーチセルの、サイクル数の関数としての正規化容量のプロットであり、ポーチセルのサイクルは、45℃で実施された。500サイクル後、セルの正規化容量は、90%より高いままであった。図24Bは、図24Aに示したデータについて、正極活性材料の重量を基準とする正規化されていない比放電容量のプロットを示す。
【0169】
実施例11 - 添加剤PSを添加した電解質のサイクル性能
E1、E3及びE26~E29を用いて作製したコインセルについて、PSを添加剤として含む電解質のサイクル性能を測定した。コインセルは、単結晶NCM811正極活性材料及びSOC負極を含む。種々の条件下でのコインセルのサイクル性能を測定し、結果を図25、26、27A及び27Bに示す。
【0170】
図25は、E1、E26及びE27を用いて作製したコインセルのサイクル数の関数としての正極活性材料の重量を基準とする比容量のプロットである。サイクルは、4.2Vから2.5Vまで、1C充電/1C放電レートで実施された。データは、比容量が約150サイクル後に低下し始め、約300サイクル後に急速に劣化することを示す。
【0171】
図26は、E1、E26及びE27を用いて作製したコインセルのサイクル数の関数としての正極活性材料の重量を基準とする比容量のプロットである。サイクルは、4.2Vから2.5Vまで、4C充電/1C放電レートで実施された。50サイクルごとにC/3キャップチェックを行った。データは、比容量が約400サイクル後に低下し始めることを示す。
【0172】
図27Aは、E3、E28及びE29を用いて作製したコインセルのサイクル数の関数としての正極活性材料の重量を基準とする比容量のプロットである。サイクルは、4.2Vから2.5Vまで、4C充電/1C放電レートで実施された。50サイクルごとにC/3キャップチェックを行った。データは、比容量が約350サイクル後に低下することを示す。図27Bは、図27Aに示すデータの容量保持率のプロットである。データは、図27Aに示したデータと同様である。
【0173】
実施例12 - 種々の添加剤を用いた電解質のガス発生挙動
E30~32電解質と組み合わせてSOCアノード及びNMC622カソードを有するポーチセルを作製し、実施例1について上記したように試験を実施した。図28は、65℃での保存時間対セルの厚さ変化率を示す。このデータは、電解質にPFPNを添加することでガス発生が少なくなり、PFPN及びPSを添加することでさらにガス発生が少なくなることを示す。
【0174】
上記の実施形態は、説明のためのものであり、限定するものではない。追加的な実施形態は、特許請求の範囲内である。加えて、本発明は、特定の実施形態を参照して記載されているが、当業者は、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形状及び詳細における変化形態がなされ得ることを認識するであろう。上記の文献の参照による任意の組み込みは、本明細書の明示的開示に反する主題が組み込まれないように制限される。特定の構造、組成物及び/又はプロセスが構成要素、要素、成分又は他の区分によって本明細書に記載される範囲において、本明細書の開示は、他に特に明記されない限り、本議論において示される通り、特定の実施形態、特定の構成要素、要素、成分、他の区分又はそれらの組合せを含む実施形態並びに主題の基本的性質を変更しない追加的な特徴を含み得る、そのような特定の構成要素、成分、他の区分又はそれらの組合せから本質的になる実施形態を包含することが理解される。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B
図15A
図15B
図16
図17
図18
図19A
図19B
図19C
図20A
図20B
図21A
図21B
図22A
図22B
図23A
図23B
図24A
図24B
図25
図26
図27A
図27B
図28
【国際調査報告】