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特表2024-520690皮膚神経線維腫の治療に使用するためのニトロキソリン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】皮膚神経線維腫の治療に使用するためのニトロキソリン
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/47 20060101AFI20240517BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 31/4184 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
A61K31/47
A61P17/00
A61P25/02
A61P35/00
A61K31/4184
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574531
(86)(22)【出願日】2022-06-09
(85)【翻訳文提出日】2023-12-01
(86)【国際出願番号】 GB2022051442
(87)【国際公開番号】W WO2022258972
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】2108224.3
(32)【優先日】2021-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521362427
【氏名又は名称】ヒールクス リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HEALX LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100230891
【弁理士】
【氏名又は名称】里見 紗弥子
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド ブラウン
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC28
4C086BC39
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA55
4C086MA57
4C086MA60
4C086MA63
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA20
4C086ZA90
4C086ZB26
(57)【要約】
本発明は、皮膚神経線維腫の治療又は予防に使用するための、ニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩を含む組成物に関する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚神経線維腫の治療又は予防に使用するための、ニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩を含む組成物。
【請求項2】
皮膚神経線維腫の治療において使用される、請求項1に記載の使用するための組成物。
【請求項3】
前記治療又は予防の対象は神経線維腫症I型を有する、請求項1又は2に記載の使用するための組成物。
【請求項4】
前記治療又は予防の前記対象がヒトである、前述の請求項のいずれか一項に記載の使用するための組成物。
【請求項5】
前記組成物は、30mg~600mg、好ましくは50mg~500mg、より好ましくは100mg~400mg、更により好ましくは150mg~350mg、最も好ましくは200mg~300mgのニトロキソリンを含む、前述の請求項のいずれか一項に記載の使用するための組成物。
【請求項6】
投与は1日2回の用量で行われる、前述の請求項のいずれか一項に記載の使用するための組成物。
【請求項7】
前記用量はニトロキソリン45mg~900mg、好ましくは75mg~750mg、より好ましくは150mg~600mg、更により好ましくは225mg~525mg、最も好ましくは300mg~450mgである、請求項6に記載の使用するための組成物。
【請求項8】
投与は1日3回の用量で行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用するための組成物。
【請求項9】
前記用量は、ニトロキソリン30mg~600mg、好ましくは50mg~500mg、より好ましくは100mg~400mg、更により好ましくは150mg~350mg、最も好ましくは200mg~300mgである、請求項8に記載の使用するための組成物。
【請求項10】
投与は1日4回の用量で行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用するための組成物。
【請求項11】
前記用量はニトロキソリン15mg~500mg、好ましくは50mg~400mg、より好ましくは100mg~300mg、更により好ましくは125mg~225mg、最も好ましくは150mg~200mgである、請求項10に記載の使用するための組成物。
【請求項12】
経口又は静脈内投与される、前述の請求項のいずれか一項に記載の使用するための組成物。
【請求項13】
非経口、経皮、舌下、直腸又は吸入投与により投与される、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用するための組成物。
【請求項14】
ニトロキソリン又は薬学的に許容される塩は、前記組成物中の唯一の活性剤である、前述の請求項のいずれか一項に記載の使用するための組成物。
【請求項15】
前記組成物は、セルメチニブ又はその薬学的に許容される塩を更に含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用するための組成物。
【請求項16】
セルメチニブ又はその薬学的に許容される塩を含む第2の組成物と組み合わせて使用するためのものであり、前記2つの組成物は、前記対象に同時に、別々に、又は連続的に投与される、請求項1~14のいずれか一項に記載の使用するための組成物。
【請求項17】
セルメチニブの量は、1mg~75mg、好ましくは5mg~50mg、より好ましくは10mg~35mg、最も好ましくは15mg~30mgである、請求項15又は16に記載の使用するための組成物。
【請求項18】
皮膚神経線維腫の治療又は予防に使用するための薬剤の製造における、ニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項19】
請求項2~17に記載の追加の特徴のいずれかを有する、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
ニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩を含む組成物を患者に投与することを含む、皮膚神経線維腫を治療又は予防する方法。
【請求項21】
請求項2~17に記載の追加の特徴のいずれかを有する、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトロキソリンの新しい用途に関する。
【背景技術】
【0002】
神経線維腫は、末梢神経系の良性神経鞘腫瘍である。症例の90%では、これらは独立した腫瘍として発見されるが、残りは常染色体優性遺伝疾患である神経線維腫症I型(NF1)の患者で発見される。神経線維腫は、身体的変形や痛みから認知障害に至るまで、様々な症状を引き起こす可能性があり、悪性腫瘍に変化する可能性がある。
【0003】
皮膚(又は真皮)神経線維腫(cNF)は皮膚の神経に由来し、通常は単一の末梢神経と関連している。すべての神経線維腫は、NF1変異シュワン細胞(SC)と、軸索、線維芽細胞、肥満細胞、マクロファージ、及び内皮細胞などの他の神経線維要素との混合物で構成されている。3種類のcNFが以下のように区別される。1)不連続なcNF:皮膚上の無茎性又は有茎性の腫瘤で、肉厚で圧痛がなく、サイズは様々である。2)不連続な亜cNF:皮膚の下にあり、皮膚の隆起のように見え、時には圧痛を伴うこともある。3)深部結節性神経線維腫。真皮の下の組織及び器官を侵すが、それ以外は皮膚及び皮下の神経線維腫に類似する。
【0004】
NF1は、ニューロフィブロミンというタンパク質をコードするNF1腫瘍抑制遺伝子の生殖細胞系列変異によって引き起こされる。ニューロフィブロミンはGTPase活性化(GAP)タンパク質として機能し、活性型のGTP結合型を不活性型のGDP結合型に変換することで細胞内シグナル伝達タンパク質Rasを不活性化する。これは次にRas活性の下方制御につながる。ニューロフィブロミン活性の喪失によりRas活性が増加し、これにより細胞の成長と増殖に必要な多くの遺伝子の転写が促進される。皮膚神経線維腫は、NF1患者の少なくとも99%に発生し、真皮のシュワン細胞系列に由来する。
【0005】
cNFは通常、思春期に発生し、生涯を通じて数が増加する傾向があり、その結果、その数は数千に達することがある。これらの腫瘍は良性であるが、外観を損ない、しばしばかゆみや痛みを伴うため、生活の質に重大な影響を与える。
【0006】
皮膚神経線維腫を治療するための薬理学的標的を同定するための多大な努力もなされてきた。特に皮膚神経線維腫は、開発中の薬剤の転用取り組み及びリポジショニングの頻繁な標的となっている。このタスクには、多くの異なる標準と手法が適用されている。多くの場合、転用候補は主に臨床パターンマッチングに基づいて特定されているが、他の場合では、治療標的を同定するために基本的な疾患機序が広範に研究され、その後、徹底的な前臨床検証が行われている。
【0007】
現在、cNFに対して承認された薬剤はない。物理的除去は依然としてcNFを治療するための最も効果的な方法であり、すなわち、COレーザーによる外科的切除又は破壊、電気乾燥、及びアブレーションである。除去が直面する課題には、不完全な切除による腫瘍の再増殖、重大な瘢痕化、及び費用負担が含まれる。神経線維腫症1型及び皮膚神経線維腫の患者の治療におけるセルメチニブに関するパイロット第II相試験研究が進行中である。しかし、これがどの程度成功するかは現時点では不明である。セルメチニブは、マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(MAPKキナーゼ、MEK、MAP2K、及びMAPKK)の選択的阻害剤であり、系統名は6-(4-ブロモ-2-クロロアニリノ)-7-フルオロ-N-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルベンズイミダゾール-5-カルボキサミドである。
【0008】
全体として、皮膚神経線維腫を治療するための取り組みは、いくつかの興味深い可能性をもたらしたが、多くの努力にもかかわらず決定的な成功には至っていない。このことは、新しい治療法の必要性を浮き彫りにしている。
【0009】
ニトロキソリンは抗生物質として人間に使用されており、広く使用されていないが、1960年代から市販されている。これは、尿路感染症などのバイオフィルム感染症の治療又は予防に使用される。これはバイオフィルムを破壊するのに特に効果的であり、この作用の原因は金属カチオンのキレート化特性であると考えられている。ニトロキソリンは肝臓で代謝されて、対応する硫酸塩及びグルクロニド代謝物になる。これらの代謝産物は両方とも抗菌活性を共有しているという証拠がある。また、抗増殖作用を介して抗癌治療にも使用されている。ニトロキソリンの系統名は、5-ニトロキノリン-8-オールである。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、皮膚神経線維腫の治療又は予防に使用するための、ニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩を含む組成物である。以下に示すin vitroデータから明らかなように、ニトロキソリンは皮膚神経線維腫の治療及び予防に効果的である。
【0011】
本発明の第1の態様は、皮膚神経線維腫の治療又は予防に使用するための、ニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩を含む組成物である。
【0012】
本発明の第2の態様は、皮膚神経線維腫の治療又は予防に使用するための薬剤の製造における、ニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩の使用である。
【0013】
本発明の第3の態様は、皮膚神経線維腫を治療又は予防する方法を提供し、この方法は、ニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩を含む組成物を患者に投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】in vitro研究用の浮遊球培養物の調製及び継代を示す図である。
図2】Tom+NF1+/-細胞及びTom+NF1-/-細胞の増殖におけるニトロキソリンの用量応答効果を示す図である。
図3】Tom+NF1+/-細胞及びTom+NF1-/-細胞の細胞死を誘導するニトロキソリンの用量応答効果を示す図である。
図4】マウス皮膚の蛍光cNF腫瘍細胞を低倍率(5倍)で拡大した図である。A~Dは、ビヒクル処置1か月後の2匹のマウスのTom+細胞の代表的な画像である。E~Hは、ニトロキソリン処置1か月後の2匹のマウスのTom+細胞の代表的な画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明では、以下のin vitro及びin vivoデータによって実証されるように、ニトロキソリンは、NF1-/-マウスモデル由来の皮膚神経線維腫から単離された腫瘍細胞の細胞増殖を阻害し、アポトーシスを増加させ、したがって皮膚神経線維腫の効果的な治療法である。好ましくは、ニトロキソリンは、皮膚神経線維腫の治療又は予防のために使用され、対象は神経線維腫症I型を有する。
【0016】
本明細書で使用される「治療(treatment)」又は「治療する(treating)」という用語は、皮膚神経線維腫のサイズ又はcNFの数を減少させることを含めて、治療的(治癒的)処置及び/又は改善処置(患者の状態の改善)を指す。本明細書で使用される「予防(prevention)」又は「予防する(preventing)」という用語は、cNFの形成を防ぐための「予防的」処置を指す。これには、NF1を有するが、皮膚神経線維腫が発症していない患者、又はcNFを有するが、さらなる発症を防ぐことを目的とする患者に本発明の組成物を投与することが含まれる。
【0017】
「患者」及び「対象」は同義で使用され、ニトロキソリンが投与される対象を指す。好ましくは、対象は、ヒトである。好適には、対象は神経線維腫症I型を有する。一実施形態では、対象は成人である。「成人」とは18歳以上の人を指す。別の実施形態では、対象は思春期を迎えており、例えば対象は8歳~18歳である。
【0018】
一実施形態では、ニトロキソリンは皮膚神経線維腫の治療又は予防のために使用され、患者は皮膚神経線維腫の一部若しくはすべてを除去する手術を受けたか、又は受ける予定である。これは、皮膚神経線維腫が大きい、及び/又は組織境界を越えて拡大しているため、手術によってすべてを除去することは困難であり、及び/又は少なくともその一部を迅速に除去することが望ましい/有益な場合に、特に有利であり得る。
【0019】
「手術」という用語は、当該技術分野における通常の意味を有する。手術は、診断又は治療上の理由から、臓器/器官系/組織に対する物理的介入を基本原則とする侵襲的技術である。
【0020】
本明細書で使用される場合、薬学的に許容される塩は、薬学的に許容される酸又は塩基との塩である。薬学的に許容される酸には、塩酸、硫酸、リン酸、二リン酸、臭化水素酸又は硝酸などの無機酸と、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、コハク酸、酒石酸、安息香酸、酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、サリチル酸、ステアリン酸、ベンゼンスルホン酸又はp-トルエンスルホン酸などの有機酸の両方が含まれる。薬学的に許容される塩基には、アルカリ金属(例えば、ナトリウム又はカリウム)及びアルカリ土類金属(例えば、カルシウム又はマグネシウム)の水酸化物、並びにアルキルアミン、アリールアミン又は複素環式アミンなどの有機塩基が含まれる。
【0021】
本発明は、皮膚神経線維腫の治療又は予防に使用するための、ニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩を含む組成物を対象とする。
【0022】
代替の実施形態では、本発明は、皮膚神経線維腫の治療又は予防に使用するための、ニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩を含む組成物を対象とし、ここで、ニトロキソリンは、この組成物中の唯一の活性剤である。唯一の活性剤とは、組成物が皮膚神経線維腫の治療又は予防に使用できる他の成分を含まないことを意味する。代替の実施形態では、組成物は皮膚神経線維腫を治療するための第2の活性剤を更に含み、好ましくは第2の活性剤はセルメチニブ又はその薬学的に許容される塩である。
【0023】
代替の実施形態では、本発明は、セルメチニブ又はその薬学的に許容される塩を含む第2の組成物と組み合わせて使用するための、ニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩を含む組成物を対象とし、ここで、2つの組成物は、対象に同時に、別々に、又は連続的に投与される。
【0024】
本明細書で使用される場合、「別々の」投与とは、薬物が同じ全体的な投与計画(数日を含む場合もある)の一部として投与されることを意味するが、同じ日に投与されることが好ましい。本明細書で使用される場合、「同時に」とは、薬物が一緒に摂取されるか、又は単一の組成物として処方されることを意味する。本明細書で使用される場合、「連続的に」とは、薬物がほぼ同時に、好ましくは互いに約1時間以内に投与されることを意味する。好ましくは、薬物は同時に投与される、すなわち一緒に摂取されるか、又は単一の組成物として処方される。最も好ましくは、薬物は単一の組成物として処方される。
【0025】
本発明の組成物は、薬学的に許容される担体を含んでもよい。「薬学的に許容される担体」とは、組成物の他の成分と適合し、受容者にとって有害ではない、充填剤又は結合剤などの任意の希釈剤又は賦形剤を意味する。薬学的に許容される担体は、標準的な薬学的慣行に従って、所望の投与経路に基づいて選択することができる。
本発明では、組成物は様々な剤形で投与することができる。一実施形態では、組成物は、経口、直腸、非経口、鼻腔内若しくは経皮投与、又は吸入若しくは座薬による投与に適した形式で製剤化することができる。
【0026】
組成物は、例えば錠剤、トローチ、ロゼンジ、水性又は油性懸濁液、分散性粉末又は顆粒として経口投与することができる。好ましくは、組成物は、経口投与に適するように製剤化され、例えば錠剤及びカプセルである。錠剤及びカプセルは、シロップ、アカシア、ゼラチン、ソルビトール、トラガカント、セルロース、又はポリビニルピロリドンなどの結合剤、ラクトース、スクロース、コーンスターチ、リン酸カルシウム、ソルビトール、又はグリシンなどの充填剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、又はシリカなどの滑沢剤、及びラウリル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤を用いて調製することができる。液体組成物は、例えばソルビトールシロップ、メチルセルロース、シュガーシロップ、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、又は食用脂肪などの懸濁剤、レシチン又はアカシアなどの乳化剤及び界面活性剤、アーモンド油、ココナッツ油、タラ肝油、又はピーナッツ油などの植物油、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)及びブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)などの防腐剤のような従来の添加剤を含んでもよい。液体組成物を、例えばゼラチン中に封入して、単位剤形を得ることができる。
【0027】
組成物はまた、皮下、静脈内、筋肉内、胸骨内、経皮的、又は注入技術によって、非経口的に投与することもできる。
【0028】
組成物はまた、吸入によって投与することもできる。吸入薬の利点は、経口経路で摂取される多くの薬剤と比較して、血液供給が豊富な領域に直接送達されることである。したがって、肺胞は巨大な表面積と豊富な血液供給を有し、初回通過代謝が回避されるため、吸収は非常に迅速である。
【0029】
本発明はまた、本発明の組成物を含む吸入装置を提供する。典型的には、上記装置は定量吸入器(MDI)であり、薬剤を吸入器から押し出すための薬学的に許容される化学推進剤を含む。
【0030】
組成物はまた、鼻腔内投与によって投与することもできる。鼻腔の透過性の高い組織は薬剤を非常に受け入れやすく、迅速かつ効率的に吸収する。経鼻薬物送達は注射よりも痛みや侵襲が少ないため、患者の不安を軽減する。この方法では吸収は非常に速く、初回通過代謝は通常回避されるため、患者間の変動が低下する。更に、本発明は、本発明による組成物を含む鼻腔内装置も提供する。
【0031】
組成物はまた、経皮投与によって投与することもできる。局所送達には、経皮及び経粘膜パッチ、クリーム、軟膏、ゼリー、溶液若しくは懸濁液、又はマイクロニードリングを使用することができる。したがって、本発明は、組成物を含む経皮パッチも提供する。
【0032】
組成物はまた、舌下投与によって投与することもできる。したがって、本発明は、組成物を含む舌下錠も提供する。
【0033】
組成物はまた、患者の正常な代謝以外のプロセスによる物質の分解を低減する薬剤、例えば抗菌剤、あるいは、患者に又は患者上若しくは患者内に生息する共生生物若しくは寄生生物に存在する可能性があり、かつ化合物を分解することができるプロテアーゼ酵素の阻害剤と共に製剤化されてもよい。
【0034】
経口投与用の液体分散液は、シロップ、エマルション、及び懸濁液であってもよい。
懸濁液及びエマルションは、担体として、例えば、天然ゴム、寒天、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、又はポリビニルアルコールを含んでもよい。筋肉内注射用の懸濁液又は溶液は、活性化合物と共に、薬学的に許容される担体(例えば、滅菌水、オリーブ油、オレイン酸エチル、グリコール(例えば、プロピレングリコール))、及び所望であれば、適切な量の塩酸リドカインを含んでもよい。
【0035】
注射又は注入用の溶液は、担体として、例えば滅菌水を含んでもよく、又は好ましくは、それらは滅菌水性等張生理食塩水の形態であってもよい。
【0036】
本発明の一実施形態において、組成物は、皮膚神経線維腫を治療又は予防するのに有効な量で投与される。有効量は当業者には明らかであり、年齢、性別、体重を含む多くの要因に依存し、医師は有効量を決定することができるであろう。
【0037】
好ましい実施形態では、組成物は、30mg~600mg、好ましくは50mg~500mg、より好ましくは100mg~400mg、更により好ましくは150mg~350mg、最も好ましくは200mg~300mgのニトロキソリンを含む。
【0038】
組成物は、1日1回、1日2回、1日3回、又は1日4回投与されてもよい。
【0039】
本発明の一実施形態では、組成物は少なくとも1日1回投与される。好ましくは、1日1回の用量として投与される。好ましくは、1日1回の用量は、ニトロキソリン90mg~1800mg、好ましくは150mg~1500mg、より好ましくは300mg~1200mg、更により好ましくは450mg~1050mg、最も好ましくは600mg~900mgである。
【0040】
本発明の一実施形態では、組成物は1日2回投与される。好ましくは、各用量はニトロキソリン45mg~900mg、好ましくは75mg~750mg、より好ましくは150mg~600mg、更により好ましくは225mg~525mg、最も好ましくは300mg~450mgである。
【0041】
本発明の一実施形態では、組成物は1日3回投与される。好ましくは、各用量は、ニトロキソリン30mg~600mg、好ましくは50mg~500mg、より好ましくは100mg~400mg、更により好ましくは150mg~350mg、最も好ましくは200mg~300mgである。
【0042】
本発明の一実施形態では、組成物は1日4回投与される。好ましくは、各用量は、ニトロキソリン15mg~500mg、好ましくは50mg~400mg、より好ましくは100mg~300mg、更により好ましくは125mg~225mg、最も好ましくは150mg~200mgである。
【0043】
好ましくは、投与計画は、ニトロキソリンの1日の総投与量が1500mgを超えないようなものである。
【0044】
好適には、ニトロキソリンの有効量は、細胞内で1~75μM、好ましくは5~50μM、より好ましくは10~40μMの濃度をもたらす。
【0045】
好適には、ニトロキソリンを含む組成物、及び第2の活性剤、好ましくはセルメチニブを含む第2の組成物は、1日1回の用量である。好適には、2つの組成物は同時に投与される、すなわちニトロキソリンとセルメチニブは一緒に摂取される。組成物はまた、連続的に、すなわちほぼ同時に、好ましくは互いに約1時間以内に投与することもできる。
【0046】
組成物がセルメチニブを含む実施形態、又は組成物がセルメチニブを含む第2の組成物と組み合わせて使用するための実施形態では、好適には、セルメチニブを含む組成物は、1mg~75mgのセルメチニブ、好ましくは5mg~50mgのセルメチニブ、より好ましくは10mg~35mgのセルメチニブ、最も好ましくは15mg~30mgのセルメチニブを含む。
【0047】
好適には、対象に投与されるセルメチニブの有効量は、セルメチニブ1mg/m~75mg/m、好ましくはセルメチニブ5mg/m~50mg/m、より好ましくはセルメチニブ10mg/m~35mg/m、最も好ましくはセルメチニブ15mg/m~30mg/mである。
【0048】
皮膚神経線維腫を治療又は予防するために、ニトロキソリンを含む組成物は、長期的な投与計画、すなわち、長続きする長期治療において使用される。好適には、この計画は少なくとも1か月間、好適には少なくとも2か月間、例えば少なくとも3か月間続く。
【0049】
本発明はまた、皮膚神経線維腫の治療又は予防において同時に、別々に、又は連続的に使用するためのキットに関し、このキットは、(i)少なくとも1回用量のニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩、及び任意に、(ii)少なくとも1回用量のセルメチニブ又はその薬学的に許容される塩を含む。
【0050】
本発明はまた、皮膚神経線維腫の治療又は予防に使用するための薬剤の製造における、ニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩の使用に関する。本発明のこの実施形態は、上述の好ましい特徴のいずれをも有することができる。
【0051】
本発明はまた、皮膚神経線維腫を治療又は予防する方法に関し、この方法は、ニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩を含む組成物を患者に投与することを含む。本発明のこの実施形態は、上述の好ましい特徴のいずれをも有することができる。投与方法は、上記の経路のいずれに従ってもよい。
【0052】
誤解を避けるために、本発明はまた、in vivoで反応して本発明の化合物を生成するプロドラッグを包含する。
【0053】
実験セクション
実施例1-cNFの起点にあるTomato(Tom)+幹様グリア細胞を利用したin vitro薬物試験
本試験では、ヒトの疾患を忠実に再現する皮膚神経線維腫(cNF)を発症するNf1-KOマウス系統(Prss56Cre/+、R26tdTom/+、NF1fl/fl)を使用する(Radomska et al.,2019)。このモデルでは、Nf1の同時二対立遺伝子喪失とTomato蛍光レポーターの発現を、cNFの起点にあるグリア幹様細胞に標的化した。このアッセイを、皮膚由来のNf1-/-及びNf1+/-幹様細胞を発現するTomatoを増幅することができる非接着性細胞を使用してex vivoで実施し、それらの特性を更に特徴付けた。この実験条件では、すべての分化した細胞は急速に(24時間)死滅するが、cNFの起点にあるグリア幹様細胞は生き残り、増殖し、長期間増殖できるニューロスフェア(多細胞緻密構造)を形成するため、それらのin vivoでの特性を保持する。この系では、Nf1-/-細胞は高レベルのp-ERKを発現し(RAS経路の永続的な活性化により予想されるとおり)、対照と比較してはるかに速く増殖し、解離及び再プレーティング後に球を再形成する能力を保持する。更に、Nf1-/-及びNf1+/-細胞をセルメチニブ(MEK1/2阻害剤)とインキュベートすると、Nf1+/-細胞に影響を与えることなく増殖活性が低下し、変異体の死滅が促進されることが観察され、これは、薬物スクリーニング研究を実施するためのin vitro系の頑健性を裏付けている。
【0054】
このモデルを使用して、Nf1-/-腫瘍細胞の増殖及び細胞死に対するニトロキソリンの効果を評価した。
【0055】
モデル特性評価
このin vitro培養系では、長期間増幅及び増殖できるcNFの起点にあるTomato(Tom)+幹様グリア細胞を使用する。簡単に説明すると、若い変異体(NF1-/-)及び対照(NF1+/-)マウスの皮膚を解剖し、解離させ、細胞懸濁液を2つのマイトジェン、FGF及びEGFの存在下、非接着条件下でインキュベートした。このような条件では、幹様細胞のみが生き残り、増殖し、ニューロスフェアと呼ばれる緻密な多細胞浮遊構造を形成する。Tom+グリア幹様細胞に加えて、皮膚には他の様々な種類の幹細胞(Tom-)が含まれているため、ニューロスフェアはTom+細胞とTom-細胞が混在して構成されている。変異条件では、ニューロスフェアはTom+、Nf1-/-及びTom-、Nf1+/+細胞を含むが、Nf1+/-対照条件では、ニューロスフェアはTom+、Nf1+/-及びTom-、Nf1+/+細胞で構成される。この試験では、NF1-/-及びNfF1+/-マウス由来のTom+における薬物効果を分析した。
【0056】
実験設計
細胞調製、クローン増殖及び薬物処理
本試験では、新生マウスの皮膚から単離されたNf1+/-(Prss56Cre、R26Tom、Nf1flox/+)及びNf1-/-(Prss56Cre、R26Tom、Nf1flox/flox)グリア細胞の浮遊球培養物を使用した。次に、それらを別々にプレートし、処理し、分析する。この目的で、Nf1+/-及びNf1-/-球を継代3まで増幅した(1継代は7日間の培養に相当する)。P0の終わり(10日)に、細胞を4つの同一のバッチ(クローン1~4)に分割し、P3まで増幅した(図1)。
【0057】
P3の終わりに、各クローンからの球体を解離させ、細胞を2つの12ウェルプレートに移した。6つの異なる濃度(100μm、33μm、10μm、3μm、1μm、及び0μm)の薬物を添加し、細胞を72時間インキュベートした。DMSO(薬物の再懸濁に使用されるビヒクル)を有する細胞を含む追加の12ウェルプレートを、結果を正規化するための参照として使用した。72時間後、非固定細胞の増殖アッセイ及び細胞死アッセイを分析した。
【0058】
結果
増殖活性
増殖活性の分析には、細胞トラッカー親油性色素(CellTrace Proliferation Kit、Thermo Fishers)を使用した。細胞トラッカーを薬物と同時に添加した。細胞を72時間インキュベートし、LSR Fortessa X20(BD Biosciences)を用いたサイトメトリー分析によって増殖活性を測定した。この方法では、各条件の平均蛍光強度(MIF)を測定する。DMSOを用いた条件を参照として使用した。
比率:MIF(DMSO)/MIF(処理)=
比率<1の場合:DMSOと比較して増殖が減少
比率>1の場合:DMSOと比較して増殖が増加
【0059】
このアッセイで試験したニトロキソリンの最高濃度である100μMは、NF1+/-及びNf1-/-細胞の大量の非特異的死を促進するため、分析から除外した。33μM~1μMの範囲の濃度のニトロキソリンは、NF1-/-細胞の増殖活性を低下させた(クローン3を除く)が、NF1+/-細胞の増殖は影響を受けなかった(図3)。
【0060】
高濃度(33μM:MIF比率の平均=0.39+/-0.11、及び10μM:MIF比率の平均=0.5+/-0.18)では、低濃度(3μM:MIF比率の平均=0.60+/-0.22及び1μM:MIF比率の平均=0.7+/-0.26)と比較して、NF1-/-細胞の増殖はより影響を受け、これは、NF1-/-細胞の増殖速度が薬物用量依存性であり、このアッセイにおける33μM及び10μMの濃度が最良の有効性/毒性比を示すことを示唆している。
【0061】
細胞死
培養72時間後、DAPI(4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)を使用して細胞死を定量化するために細胞を標識した。標識した細胞を、LSR Fortessa X20(BD Biosciences)を用いたサイトメトリーによって分析した。
比率:死細胞(処理)%/死細胞(DMSO)%=
比率>1の場合:DMSOと比較して死細胞が多い
比率<1の場合:DMSOと比較して死細胞が少ない
【0062】
100μMのニトロキソリンは、おそらくその毒性効果により、NF1-/-及びNF1+/-細胞の大量の細胞死を促進するため、分析から除外した。興味深いことに、33μMのニトロキソリンは、NF1+/-細胞に影響を与えることなく、NF1-/-の細胞死を促進した(死細胞比率の平均=8.86+/-0.66)。ニトロキソリンの濃度が低いと、対照条件に影響を与えることなく、変異細胞の死滅がわずかに促進される(10μM:死細胞比率の平均=2.04+/-0.63)。
【0063】
実施例2-Nf1-KOマウスにおけるin vivo薬物試験
動物
この試験では、in vitro試験に使用したのと同じマウスモデル、Prss56Cre/+、R26tdTom/+、NF1fl/flマウス(Radomska et al.,2019)を使用する。この試験は、本分野での標準的な実験設計であり、エンドポイントは試験全体を通しての長期的なものではなく、最終的なものである。
【0064】
Prss56Cre/+、R26tdTom/+、Nf1fl/fl(本明細書ではNf1-KOマウスと呼ぶ)は、1歳後にcNFを発症する。しかし、cNFの発症は、マウスの正常な行動であるマウスの闘争によって誘発された皮膚損傷後、より早い年齢で発生する。この実験では、少なくとも5匹の6週齢Nf1-KO雄マウスを一緒にケージに入れ、マウスが闘争によってある程度の皮膚損傷を負ったら、ケージから取り出して観察した。約3か月齢で、闘争による損傷を負ったマウスはいくつかのcNFを発症した。Nf1が欠失した細胞では蛍光レポーター遺伝子がオンになるため、落射蛍光顕微鏡(Leica MZ75)を用いた皮膚の蛍光イメージングによってcNFの発症をモニターすることができた。1~2か月後、成熟したcNFが確立したマウスを薬物治療研究に登録した。マウスを、強制経口投与によるビヒクル(80%コーン油中20%DMSO)又は強制経口投与による120mg/kgのニトロキソリンで1日1回(5日間投与、2日間休薬)、1か月間処置した。
【0065】
Ex vivo分析
処置1か月後にマウスを殺処分した。落射蛍光イメージングを使用して、cNFが存在する皮膚領域の解剖を誘導した。cNFをパンチ生検(5mm)によって切除し、4%PFA中で一晩固定し、次いで30%スクロース中で凍結保護した。最後に、サンプルをゼラチン/スクロース(15%/7.5%)に包埋した。cNFを凍結切片(14μm)にし、蛍光顕微鏡(Leica M165FC)を使用して蛍光Tom+細胞を画像化した。
【0066】
結果
In vivo有効性
Nf1ヌルであるシュワン細胞も、蛍光レポーターtomato(Tom+)を発現する。cNFはTom+であるNf1ヌルSCに由来するため、蛍光を使用して腫瘍を同定することができる。本発明者らは、低倍率(5倍)を使用して、マウス皮膚内の蛍光cNF腫瘍細胞を視覚化することができた(図4)。これらの画像では、処置1か月後、ニトロキソリンで処置されたマウス(E~H)の腫瘍は、ビヒクルで治療されたマウス(A~D)の腫瘍よりも小さいことがわかる。したがって、これらの画像は、1日1回120mg/kgでのニトロキソリン処置により、皮膚内のcNF腫瘍細胞の全体的な存在量が減少することを示す。
【0067】
結論
ニトロキソリン(10μM~33μM)は、NF1-/-マウスモデル由来の皮膚神経線維腫から単離された腫瘍細胞の増殖を阻害し、細胞死を誘導する。この効果は、NF1+/-由来のマウスの細胞では観察されず、このことは、ニトロキソリンの効果がニューロフィブロミンの完全な欠失に依存していることを示唆する。in vitroでの発見に加えて、本発明者らはまた、ニトロキソリンがマウスで発症するcNF中の腫瘍細胞の数を(in vivoで)減少させることができることを示した。したがって、ニトロキソリンは皮膚神経線維腫を軽減、治療、及び予防することが期待される。
【0068】
参考文献
Radomska KJ,Coulpier F,Gresset A,Schmitt A,Debbiche A,Lemoine S,Wolkenstein P,Vallat JM,Charnay P,Topilko P.Cellular Origin,Tumor Progression,and Pathogenic Mechanisms of Cutaneous Neurofibromas Revealed by Mice with Nf1 Knockout in Boundary Cap Cells.Cancer Discov.2019 Jan;9(1):130-147.
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】