IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トパス セラピューティクス ゲーエムベーハーの特許一覧

特表2024-520699N末端リンカーを含むペプチドを含むナノ粒子
<>
  • 特表-N末端リンカーを含むペプチドを含むナノ粒子 図1
  • 特表-N末端リンカーを含むペプチドを含むナノ粒子 図2
  • 特表-N末端リンカーを含むペプチドを含むナノ粒子 図3
  • 特表-N末端リンカーを含むペプチドを含むナノ粒子 図4
  • 特表-N末端リンカーを含むペプチドを含むナノ粒子 図5
  • 特表-N末端リンカーを含むペプチドを含むナノ粒子 図6
  • 特表-N末端リンカーを含むペプチドを含むナノ粒子 図7
  • 特表-N末端リンカーを含むペプチドを含むナノ粒子 図8
  • 特表-N末端リンカーを含むペプチドを含むナノ粒子 図9
  • 特表-N末端リンカーを含むペプチドを含むナノ粒子 図10
  • 特表-N末端リンカーを含むペプチドを含むナノ粒子 図11
  • 特表-N末端リンカーを含むペプチドを含むナノ粒子 図12
  • 特表-N末端リンカーを含むペプチドを含むナノ粒子 図13
  • 特表-N末端リンカーを含むペプチドを含むナノ粒子 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】N末端リンカーを含むペプチドを含むナノ粒子
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/51 20060101AFI20240517BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20240517BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240517BHJP
【FI】
A61K9/51
A61P37/06
A61P37/08
A61P37/02
A61P17/00
A61P35/00
A61P9/00
A61P7/04
A61P27/02
A61P25/00
A61P21/04
A61P3/10
A61P11/06
A61P11/00
A61P7/06
A61P17/14
A61K38/08
A61K38/10
A61K38/16
A61K47/34 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574586
(86)(22)【出願日】2022-06-02
(85)【翻訳文提出日】2024-01-24
(86)【国際出願番号】 EP2022065036
(87)【国際公開番号】W WO2022253950
(87)【国際公開日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】21177499.7
(32)【優先日】2021-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522324509
【氏名又は名称】トパス セラピューティクス ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス ポールナー
(72)【発明者】
【氏名】レイナルド ディジゴウ
(72)【発明者】
【氏名】バーバラ メッツラー
(72)【発明者】
【氏名】サビヌ フライシャー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA65
4C076CC01
4C076CC07
4C076CC10
4C076CC26
4C076CC31
4C076EE17
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA02
4C084BA17
4C084BA18
4C084BA19
4C084NA14
4C084ZA01
4C084ZA59
4C084ZA89
4C084ZA94
4C084ZB07
4C084ZB08
4C084ZB26
4C084ZC35
(57)【要約】
本発明は、(a)20,000g/mol以下の数平均分子量(Mn)を有する両親媒性ポリマーと;(b)該ポリマーに共有結合的に連結しているペプチドであって、少なくとも1つのArgアミノ酸残基を含むN末端リンカー配列と、T細胞受容体エピトープを含むMHC結合配列を含む配列とを含む、8~50個のアミノ酸を含む前記ペプチドとを含むナノ粒子を提供する。本発明は、さらに、治療用化合物(タンパク質、ウイルスベクター、脂質小胞)、アレルゲンに対する若しくは自己抗原に対する寛容を誘導する際に使用するための、又はアレルギー、自己免疫疾患、外因性抗原(移植抗原、薬物)、若しくは食物不耐性を治療するために使用するための、それぞれのナノ粒子と、液体の又は凍結乾燥された担体とを含む組成物、並びに本発明のナノ粒子及び組成物を含む。
【選択図】
なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)20,000g/mol以下の数平均分子量(Mn)を有する両親媒性ポリマーと;
(b)該ポリマーに共有結合的に連結しているペプチドであって、少なくとも1つのArgアミノ酸残基を含むN末端リンカー配列と、T細胞受容体エピトープを含むMHC結合配列を含む配列とを含む、8~50個のアミノ酸を含む、前記ペプチドと
を含む、ナノ粒子。
【請求項2】
(a)20,000g/mol以下の数平均分子量(Mn)を有する両親媒性ポリマーと;
(b)該ポリマーに共有結合的に連結しているペプチドであって、少なくとも1つのArgアミノ酸残基を含むN末端リンカー配列と、T細胞受容体エピトープを含むMHC結合配列を含む配列とを含む、8~50個のアミノ酸を含む、前記ペプチドと
(ここでは、該N末端リンカー配列を含むペプチドの配列は、
【化1】
ではない)
を含む、ナノ粒子。
【請求項3】
前記両親媒性ポリマーが、次の構成単位
【化2】
(式中、Rは、ヒドロカルビル基又は置換されたヒドロカルビル基であり、本発明の好ましい実施態様では、Rは、C4~C22アルキル基、例えばC7~C19アルキル基である)
を含む、請求項1又は2記載のナノ粒子。
【請求項4】
前記両親媒性ポリマーが、ポリ(マレイン酸-1-オクタデセン)、ポリ(マレイン酸-1-テトラデセン)、又はポリ(マレイン酸-1-ドデセン)を含む群から選択され、好ましくは、該ポリマーが、ポリ(マレイン酸-1-オクタデセン)であり、該ポリマーの数平均分子量が、6,000~1,000g/molである、請求項1~3のいずれか一項記載のナノ粒子。
【請求項5】
前記N末端リンカー配列を有しないペプチドが、6よりも低いIEPを有する、請求項1~4のいずれか一項記載のナノ粒子。
【請求項6】
前記ペプチドへの前記N末端リンカー配列の付加が、好ましくは6を超える、7を超える、8を超える、又は9を超えるIEPへの、ペプチドのIEPの増大をもたらす、請求項1~5のいずれか一項記載のナノ粒子。
【請求項7】
前記ペプチドが、前記N末端リンカーを介して、前記ポリマーに共有結合的に連結している、請求項1~6のいずれか一項記載のナノ粒子。
【請求項8】
前記ペプチドが、少なくとも1つのArgアミノ酸残基を含むN末端リンカーと、
【化3】
からなる群から選択されるペプチド配列とを含む、請求項1~7のいずれか一項記載のナノ粒子。
【請求項9】
前記N末端リンカー配列が、少なくとも2つのArgアミノ酸残基を含む、請求項1~8のいずれか一項記載のナノ粒子。
【請求項10】
(a)超常磁性のイオンコア(SPION)を含む;又は
(b)超常磁性のイオンコア(SPION)を含まない、
請求項1~9のいずれか一項記載のナノ粒子。
【請求項11】
0.1~200nmのサイズを有する、請求項1~9のいずれか一項記載のナノ粒子。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項記載のナノ粒子と、液体の又は凍結乾燥された担体とを含む組成物。
【請求項13】
それぞれの型が、他の型のナノ粒子のペプチド配列(単数)又はペプチド配列(複数)とは異なる少なくとも1つのペプチド配列を含む、少なくとも2つの異なる型のナノ粒子を含む、請求項12記載の組成物。
【請求項14】
それぞれの型が、他のすべての型のナノ粒子のペプチド配列とは異なる1つのペプチド配列を含む、2~8つの異なる型のナノ粒子を含む、例えば:
(a)5つの異なる型のナノ粒子を含み、ここでは:
(a1)それぞれの型のナノ粒子が、少なくとも1つのArgアミノ酸残基のN末端リンカーと、
【化4】
からなる群から選択される特定のペプチド配列とを含む、同一のペプチドを含む;又は
(a2)それぞれの型のナノ粒子が、
【化5】
からなる群から選択される配列を有する同一のペプチドを含む;又は
(b)3つの異なる型のナノ粒子を含み、ここでは:
(b1)それぞれの型のナノ粒子が、少なくとも1つのArgアミノ酸残基のN末端リンカーと、
【化6】
からなる群から選択される特定のペプチド配列とを含む、同一のペプチドを含む;又は
(b2)それぞれの型のナノ粒子が、
【化7】
からなる群から選択される配列を有する同一のペプチドを含む、又は
(c)4つの異なる型のナノ粒子を含み、ここでは:
(c1)それぞれの型のナノ粒子が、少なくとも1つのArgアミノ酸残基のN末端リンカーと、
【化8】
からなる群から選択される特定のペプチド配列とを含む、同一のペプチドを含む;又は
(c2)それぞれの型のナノ粒子が、
【化9】
からなる群から選択される配列を有する同一のペプチドを含む、
請求項12又は13記載の組成物。
【請求項15】
液体担体中の請求項1~11のいずれか一項記載のナノ粒子、又は請求項12~14のいずれか一項記載の組成物を含む、治療用化合物(タンパク質、ウイルスベクター、脂質小胞)、アレルゲンに対する若しくは自己抗原に対する寛容を誘導する際に使用するための、又はアレルギー、自己免疫疾患、外因性抗原(移植抗原、薬物)、若しくは食物不耐性を治療するために使用するための、組成物。
【請求項16】
それぞれの型が、他の型のナノ粒子のペプチド配列(単数)又はペプチド配列(複数)とは異なる少なくとも1つのペプチド配列を含む、2~8つの異なる型のナノ粒子を含む、請求項15記載の使用のための組成物。
【請求項17】
それぞれの型が、他のすべての型のナノ粒子のペプチド配列とは異なる1つのペプチド配列を含む、2~8つの異なる型のナノ粒子を含む、
例えば:
(a)セリアック病抗原に対する寛容を誘導する際に使用するためのものであり、ここでは:
(a1)異なる型のナノ粒子を含み、且つそれぞれの型のナノ粒子が、少なくとも1つのArgアミノ酸残基のN末端リンカーと、
【化10】
からなる群から選択される特定のペプチド配列とを含む、同一のペプチドを含む;又は
(a2)異なる型のナノ粒子を含み、且つそれぞれの型のナノ粒子が、
【化11】
からなる群から選択される配列を有する同一のペプチドを含む;又は
(b)セリアック病抗原に対する寛容を誘導する際に使用するためのものであり、ここでは:
(b1)異なる型のナノ粒子を含み、且つそれぞれの型のナノ粒子が、少なくとも1つのArgアミノ酸残基のN末端リンカーと、
【化12】
からなる群から選択される特定のペプチド配列とを含む、同一のペプチドを含む;又は
(b2)異なる型のナノ粒子を含み、且つそれぞれの型のナノ粒子が、
【化13】
からなる群から選択される配列を有する同一のペプチドを含む;又は
(c)尋常性天疱瘡抗原に対する寛容を誘導する際に使用するためのものであり、ここでは:
(c1)異なる型のナノ粒子を含み、且つそれぞれの型のナノ粒子が、少なくとも1つのArgアミノ酸残基のN末端リンカーと、
【化14】
からなる群から選択される特定のペプチド配列とを含む、同一のペプチドを含む;又は
(c2)異なる型のナノ粒子を含み、且つそれぞれの型のナノ粒子が、
【化15】
からなる群から選択される配列を有する同一のペプチドを含む、
請求項15又は16記載の使用のための組成物。
【請求項18】
(a)前記アレルギーが、ピーナッツアレルギー、花粉アレルギー、又はネコアレルギーから選択される;又は
(b)前記自己免疫疾患が、尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡、後天性表皮水疱症、水疱性類天疱瘡、瘢痕性類天疱瘡、グッドパスチャー症候群、顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症(ウェゲナー肉芽腫症)、血栓性血小板減少性紫斑病、免疫性血小板減少性紫斑病、ぶどう膜炎、HLA-B27関連急性前部ぶどう膜炎、多発性硬化症、視神経脊髄炎、I型糖尿病、脱力発作を伴う又は伴わないナルコレプシー、セリアック病、疱疹状皮膚炎、アレルギー性気道疾患/喘息、重症筋無力症、橋本甲状腺炎、自己免疫性甲状腺疾患、グレーブス病、自己免疫性甲状腺疾患、自己免疫性副甲状腺機能低下症、自己免疫性甲状腺疾患、抗リン脂質抗体症候群、自己免疫性アジソン病、自己免疫性溶血性貧血、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、ギラン・バレー症候群、自己免疫性好中球減少症、線状限局性強皮症、バッテン病、後天性血友病A、再発性多発軟骨炎、アイザックス症候群(後天性神経性筋強直症)、ラスムッセン脳炎、モルバン症候群、全身硬直症候群、悪性貧血、フォークト・小柳・原田症候群、原発性胆汁性肝硬変、自己免疫性肝炎I型、自己免疫性肝炎II型、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、多発性筋炎/皮膚筋炎、シェーグレン症候群、強皮症、白斑、及び円形脱毛症を含む群から選択される;又は
(c)前記治療用化合物が、治療用タンパク質、治療用抗体、ウイルスベクター、又は脂質小胞である、
請求項15~17のいずれか一項記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、自己免疫疾患、アレルギー、抗薬物抗体、又は他の慢性炎症性状態の予防及び治療に使用するためのナノ粒子を提供する。これらのナノ粒子は、血液由来の抗原に対する寛容を生じる肝類洞壁内皮細胞(LSEC)を標的として、肝臓の自然免疫能力を利用することによって、抗原特異的な免疫寛容を誘導する。これらのナノ粒子は、20000g/mol以下の数平均分子量(Mn)を有する両親媒性ポリマーを含む。
【0002】
本発明は、特に、20,000g/mol以下の数平均分子量(Mn)を有する両親媒性ポリマーと;そのポリマーに共有結合的に連結しているペプチドとを含むナノ粒子に関する。ここでは、ペプチドは、少なくとも1つのアルギニンアミノ酸残基を含むN末端リンカー配列と、T細胞受容体エピトープを含むMHC結合配列を含む配列とを含む、8~50個のアミノ酸を含む。
【0003】
本発明は、さらに、これらのナノ粒子を含む組成物に関する。
【0004】
本発明は、さらに、治療用化合物(タンパク質、ウイルスベクター、脂質小胞)、アレルゲンに対する若しくは自己抗原に対する寛容を誘導する際に使用するための、又はアレルギー、自己免疫疾患、外因性抗原(移植抗原、薬物)、若しくは食物不耐性を治療するために使用するための、ナノ粒子と液体若しくは凍結乾燥された担体とを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0005】
(発明の背景)
肝臓は、循環に侵入する血液由来の抗原、例えば食物抗原に対する望まれない免疫応答の抑制において中心的役割を果たす。肝臓のこの基本的機構を用いて、外来タンパク質抗原又は自己抗原に対する有害な免疫応答を特異的に下方制御することができる。
【0006】
肝臓の独自に免疫寛容を誘発する環境内の抗原提示は、免疫寛容と恒常性を維持するように工夫されている。これは、活性化T細胞の維持及び排除並びに制御性T細胞の誘導を含めた、細胞固有の調節機構と能動的な調節機構との両方を包含する、肝臓における寛容の様々な機構を通じて達成される。
【0007】
肝臓における神経細胞由来の抗原の異所性発現は、多発性硬化症の動物モデルであるマウスの実験的自己免疫性脳脊髄炎において、自己免疫性の神経炎症を予防することができる。
【0008】
有効な取り込み及び免疫寛容誘発性の提示のために抗原を肝臓に向けるために、肝類洞壁内皮細胞(LSEC)の非常に有効な捕捉機能を使用して、血液由来の抗原を除去することができる。この目的のために、抗原ペプチドを、血液由来の抗原を模倣するように設計された小さい(<200nm)ナノ粒子に結合させる。これらの注入されたナノ粒子結合体は、血液由来の抗原と同様に、肝臓を標的にし、肝臓で、LSECによって、まず取り込まれる。いくつかの適応症についてのいくつかの機構及び疾患動物モデルにおける概念実証研究は、免疫寛容誘発性ナノ粒子ペプチド結合体によって媒介される、MHCクラスI制限ペプチドとクラスII制限ペプチドの両方についての有効な免疫調節を実証している。
【0009】
疾患特異的抗原ペプチドをその粒子表面に結合させたナノ粒子は、静脈内注射後に肝臓を標的にし、血液由来の抗原と同様に、LSECによって、まず内在化される。これらのペプチドは、細胞内に取り込まれてプロセシングされると、MHC/HLA分子に結合し、細胞表面に提示されるようになり、細胞表面で、こうしたペプチド/MHC複合体は、特定のT細胞によって認識される。肝臓の免疫寛容誘発性環境内では、このT細胞抗原認識が、T細胞寛容をもたらす。異なる抗原ペプチドと結合させたナノ粒子の混合物を適用することによって、より広範な免疫寛容を誘導することができる。注目すべきことに、これらは、単一の免疫原性タンパク質(デスモグレイン-3など)にも、異なるタンパク質から(例えば、グルテンタンパク質グリアジン、グルテニン、又はホルデインにも)由来し得る。
【0010】
いくつかの異なる動物モデルにおいて、疾患特異的抗原ペプチドと結合させたナノ粒子を使用して、MHC/HLA-クラスI制限ペプチドとクラスII制限ペプチドの両方が、抗原特異的な様式で寛容性を誘導し、それによって疾患又は望まれない免疫応答を予防又は改善することができることが示された。
【0011】
これらの目的のために、両親媒性ポリマーシェルを含むナノ粒子を使用することができる。ポリマーシェルは、自己抗原ペプチドの共有結合を可能にする表面構造を有するミセル構造を形成する。
【0012】
WO 2013/072051は、特定の免疫応答の抑制が有益である疾患を治療又は予防するための、対象における少なくとも1種のT細胞エピトープに特異的な制御性T細胞を産生する際に使用するための医薬組成物を開示している。ナノ粒子は、両親媒性ポリマーを含むミセルと、ミセルの外側に結合された少なくとも1つのT細胞エピトープを含むペプチドとを含む。
【0013】
EP 20157797.0は、20,000g/mol以下の数平均分子量(Mn)を有する両親媒性ポリマーを含むミセルと、少なくとも1つのT細胞エピトープを含む少なくとも1つのペプチドとを含むナノ粒子に関する。
【0014】
しかし、ナノ粒子の表面に高密度のペプチドがカップリングされた、すべてのペプチドナノ粒子の組み合わせを生成することができるとは限らないことが判明した。ある種の医療用途では、効率的な精製方法を使用して、非常に高い密度のペプチド装填並びに高濃度の純度を有するナノ粒子を生成できることが重要である。
【0015】
したがって、当技術分野では、特定の免疫応答の抑制が有益である疾患を治療及び予防するための、例えば、自己免疫疾患における、アレルギーにおける、移植における、治療薬若しくは遺伝子ベクターに対する抗薬物抗体(ADA)の抑制における、又は炎症が過度、慢性、若しくは有害である、且つ前記医薬組成物がヒト対象に使用するのに適している疾患における、改良されたナノ粒子の必要性が、依然として存在する。
【発明の概要】
【0016】
(発明の概要)
本発明によれば、先述の問題は、
(a)20,000g/mol以下の数平均分子量(Mn)を有する両親媒性ポリマーと;
(b)そのポリマーに共有結合的に連結しているペプチドであって、少なくとも1つのArgアミノ酸残基を含むN末端リンカー配列と、T細胞受容体エピトープを含むMHC結合配列を含む配列とを含む、8~50個のアミノ酸を含む前記ペプチドと
を含むナノ粒子によって解決される。
【0017】
関連する実施態様では、本発明は、
(a)20,000g/mol以下の数平均分子量(Mn)を有する両親媒性ポリマーと;
(b)そのポリマーに共有結合的に連結しているペプチドであって、少なくとも1つのArgアミノ酸残基を含むN末端リンカー配列と、T細胞受容体エピトープを含むMHC結合配列を含む配列とを含む、8~50個のアミノ酸を含む前記ペプチド(ここでは、N末端リンカー配列を含むペプチドの配列は、
【化1】
ではない)と
を含むナノ粒子を提供する。
【0018】
ナノ粒子は、ポリマーミセルによって被覆される固体の疎水性コア(例えば超常磁性のイオンコア(SPION))をさらに含むことができるか、又は固体の疎水性コアを含まない。
【0019】
該ペプチドは、N末端リンカーを介して、ナノ粒子ミセルの表面上のカルボキシル基に共有結合することができる。
【0020】
本発明者らは驚いたことに、T細胞受容体エピトープを含むペプチド配列に対する少なくとも1つのアルギニンアミノ酸残基を含むN末端リンカー配列を使用することが、ナノ粒子の表面上のペプチドのカップリングを増大させるのに有益であることを発見した。
【0021】
LSECによるナノ粒子の取り込みの結果として、ナノ粒子の外側に結合された、T細胞受容体エピトープを含むMHC結合配列を含む少なくとも1つのペプチドが、エンドソーム中でおそらくタンパク質分解的に放出され、あたかも血液由来の抗原であるかのようにプロセシングされ、免疫寛容誘発性環境においてT細胞に提示されることが、現在分かっている。
【0022】
驚いたことに、その等電点(IEP)が6よりも高くなると、ナノ粒子の表面上のペプチドカップリングの収量が改善されることが判明している。したがって、一態様では、本発明は、N末端リンカー配列を有しないペプチドが6よりも低いIEPを有するナノ粒子を提供する。関連する実施態様では、ペプチドへのN末端リンカー配列の付加が、好ましくは6を超える、7を超える、8を超える、又は9を超える等電点への、ペプチドのIEPの増大をもたらす。
【0023】
さらに、本発明者らは驚いたことに、6よりも低いIEPを有するペプチドへの、N末端リンカー配列の付加が、ペプチドのIEPの増大をもたらすことを発見した。このようにして、ペプチドは、よりプラスに帯電するようになり、これによりナノ粒子へのカップリングが容易になる。したがって、一態様では、本発明は、N末端リンカー配列を有することなく6よりも低いIEPを有するペプチドを含むナノ粒子を提供する。関連する実施態様では、ナノ粒子は、少なくとも1つのArgアミノ酸残基のリンカーを含むペプチドを含み、6を超える、7を超える、8を超える、又は9を超えるIEPを有する。
【0024】
コンピュータでの解析を実施すると、このN末端リンカー配列が、MHC/HLA分子へのある種のペプチドの結合親和性を増大させることができることがさらに判明した。
【0025】
したがって、本発明はさらに、免疫寛容誘発性のナノ粒子ペプチド結合体の製造最適化及び機能性改良のための方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】例示的なナノ粒子の概略構造である。
図2】オレイン酸鉄錯体合成のフローチャートである;図2では(並びに図3~5、7及び8では)、図の左側の薄い青色の矢印が合成ステップを示すのに対して、図の右側の 濃い青色の矢印は精製ステップを示すことに留意されたい。
図3】SPION合成のフローチャートである。
図4】LM-PMAOD合成のフローチャートである。
図5】LM-PMAcOD合成のフローチャートである。
図6】SPIONのポリマー被覆である。
図7】PMAcOD-SPION粒子合成のフローチャートである。
図8】ペプチドカップリング及びナノ粒子合成のフローチャートである。
図9】Bolt 12% Bis-Tris Plusゲル(Invitrogen社)を使用するペプチドカップリングのSDS PAGEゲル(実施例2)である。
図10】Bolt 12% Bis-Tris Plusゲル(Invitrogen社)を使用するペプチドカップリングのSDS PAGEゲル(実施例3、2,5時間)である。
図11】Bolt 12% Bis-Tris Plusゲル(Invitrogen社)を使用するペプチドカップリングのSDS PAGEゲル(実施例3、16時間)である。
図12】1つ又は2つのアルギニンでのアゴニスト的CD8 T細胞エピトープのN末端修飾は、ペプチドアゴニスト特性を保持する
図13】1つ又は2つのアルギニンでのアゴニスト的CD4 T細胞エピトープのN末端修飾は、ペプチドアゴニスト特性を保持する
図14】1つ又は2つのアルギニンでの自己抗原由来CD4 T細胞エピトープのN末端修飾は、ペプチドアゴニスト特性を保持する
【発明を実施するための形態】
【0027】
(発明の詳細な説明)
本発明によれば、20,000g/mol以下の数平均分子量(Mn)を有する両親媒性ポリマーと;そのポリマーに共有結合的に連結しているペプチドであって、少なくとも1つのArgアミノ酸残基を含むN末端リンカー配列と、T細胞受容体エピトープを含むMHC結合配列を含む配列とを含む、8~50個のアミノ酸を含む前記ペプチドとを含むナノ粒子が提供される。
【0028】
ある代替形態では、N末端リンカー配列を含むペプチドの配列は、
【化2】
ではない。
【0029】
本出願によれば、用語「ナノ粒子」は、「ナノスケール粒子」と互換的に使用される。こうした粒子は、1~999nmの、好ましくは2~600nm、5~500nm、10~300nm、30~100nm、又は40~50nmの直径を有する。
【0030】
本発明の文脈では、ナノ粒子は、少なくとも1つのミセルと、ミセルに結合されているペプチドとによって形成される構造である。ペプチドは、ミセルの外側に結合されていてもよいし、ミセルの内側に封入されていてもよい。
【0031】
本発明のある実施態様によれば、ナノ粒子は、20,000g/mol以下の数平均分子量(Mn)を有する両親媒性ポリマーと;そのポリマーに共有結合的に連結されたペプチドであって、少なくとも1つのArgアミノ酸残基を含むN末端リンカー配列と、T細胞受容体エピトープを含むMHC結合配列を含む配列とを含む、8~50個のアミノ酸を含む前記ペプチドとを含むミセルを含む。
【0032】
本発明の一実施態様では、本発明のナノ粒子は、固体の疎水性コアと、20,000g/mol以下の数平均分子量(Mn)を有する両親媒性ポリマーを含む、そのコアを被覆するミセルと、そのポリマーに共有結合的に連結されたペプチドであって、少なくとも1つのArgアミノ酸残基を含むN末端リンカー配列と、T細胞受容体エピトープを含むMHC結合配列を含む配列とを含む、8~50個のアミノ酸を含む前記ペプチドを含む。
【0033】
固体の疎水性コアとそのコアを被覆するミセルとを含み、ミセルが、20,000g/mol以下の数平均分子量(Mn)を有する両親媒性ポリマーを含む、本発明のナノ粒子は、水性液体中で溶解様の分布挙動を示す。
【0034】
該ペプチドは、N末端リンカーを介して、該ポリマーに共有結合することができる。
【0035】
本発明の好ましい実施態様では、ナノ粒子は、
a)次の構成単位
【化3】
(式中、Rは、ヒドロカルビル基又は置換されたヒドロカルビル基であり、好ましくは、Rは、直鎖アルキル基、好ましくは直鎖C11~C17アルキル基である)
を含む両親媒性ポリマーであって、6,000~1,000g/molの数平均分子量(Mn)を有する前記ポリマーを含むミセルと、
b)該ポリマーに共有結合的に連結された少なくとも1つのペプチドであって、少なくとも1つのArgアミノ酸残基を含むN末端リンカー配列と、T細胞受容体エピトープを含むMHC結合配列を含む配列とを含む、8~50個のアミノ酸を含む前記ペプチドと、
c)ミセルによって少なくとも一部分が被覆される固体の疎水性コアであって、酸化鉄、CdSe/CdS/ZnS、銀、及び金を含む基から選択される追跡可能な無機材料を含む前記コアと
を含む。
【0036】
特に好ましい実施態様では、1つのナノ粒子b)のポリマーに共有結合的に連結されたすべてのペプチドは、同じアミノ酸配列を有し、低分子量ポリ(マレイン酸-alt-1-オクタデセン)で構成される両親媒性ポリマーシェルa)と超常磁性の酸化鉄ナノ粒子(SPION)コアc)とを含むミセル構造の外側に共有結合されている(概略構造は、図1に示される)。
【0037】
ナノ粒子の別の構成成分は、以下のセクションにおいて、より詳細に説明される。
【0038】
(ミセル)
本発明の文脈では、用語「ミセル」は、水溶液中に分散した両親媒性分子の凝集体に関する。この両親媒性分子の親水性部分は、周囲溶媒と接しており、両親媒性分子の疎水性の「尾部」領域はミセルの内部に隔離され、したがって、水性液体中でのナノ粒子の溶解様の分布挙動がもたらされる、すなわち、ナノ粒子が水溶性になる。この型のミセルは、順相ミセル(又は水中油型ミセル)としても公知である。
【0039】
ミセルは、1つ、それだけでなく2つ以上、例えば、2つ、3つ、又は4つの両親媒性高分子によって形成することができる。ミセルは、同じ又は異なる両親媒性高分子によって形成することができる。一般に、本明細書の文脈では、「a」又は「the」は、特に記述されない限り、「1つ」に限定されることは意図されない。
【0040】
好ましい実施態様では、ミセルは、単層の両親媒性ポリマーによって形成される。
【0041】
こうしたミセルは、両親媒性ポリマーによって形成される二重層又はリポソームとは構造的に異なる可能性がある。この場合、これらの構造は、本発明のナノ粒子には含まれない、又は有意な割合までは含まれない(例えば、10%を超えない、5%を超えない、又は好ましくは1%を超えない)。
【0042】
本発明の一実施態様では、両親媒性ポリマーを使用して、ミセルの少なくとも70%、好ましくは少なくとも90%を生成する。好ましい実施態様では、ミセルは、両親媒性ポリマーで構成される。
【0043】
本発明のいくつかの実施態様では、ナノ粒子は、固体の疎水性コアを含まない。他の実施態様では、ナノ粒子は、ミセルと固体の疎水性コアとを含む。
【0044】
本発明の一実施態様では、ミセルは、脂肪酸又はホスファチジルコリンなどのさらなる構成成分で共安定化(co-stabilize)することができる。これに関して、好ましい脂肪酸は、ステアリン酸又はオレイン酸であり、好ましいホスファチジルコリンは、Lipoid S100である。コレステロールも、共安定剤(co-stabilizer)として使用することができる。
【0045】
(両親媒性ポリマー)
本発明の両親媒性ポリマーは、一般に、8~23個、好ましくは8~21個、最も好ましくは16~18個の炭素原子の長さを有する疎水性脂肪族鎖を含む疎水性領域を含む。
【0046】
両親媒性ポリマーの親水性領域は、水溶液中で負に帯電していることができる。
【0047】
本発明の好ましい実施態様では、両親媒性ポリマーは、溶液中で自然にミセルを形成する。固体の疎水性コアが存在する場合、両親媒性ポリマーは、固体のコアの周囲にミセルを形成し、これにより、水性液体中でのナノ粒子の溶解様の分布挙動がもたらされる、すなわち、ナノ粒子が水溶性になる。
【0048】
両親媒性ポリマーの数平均分子量(Mn)は、20,000g/mol以下、好ましくは10,000g/mol以下、又は6,000g/mol以下、より好ましくは6,000~1,000g/mol、最も好ましくは3,000~6,000g/molである。
【0049】
数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を使用して、好ましくは較正標準物質としてポリスチレンを使用して、決定することができる。
【0050】
好ましい実施態様では、数平均分子量は、35℃の温度の示差屈折率検出器及び較正標準物質としてのポリスチレンと組み合わせて、40℃の温度のPL-gel mixed Dカラム、テトラヒドロフラン/酢酸90/10%(v/v)で構成される移動相、1.0ml/分の流速を使用して決定される。
【0051】
最も好ましい実施態様では、数平均分子量の決定は、GPC及び次の測定条件を使用する:
【0052】
【表1】
【0053】
両親媒性ポリマーは、交互コポリマーであり得る。交互コポリマーは、交互に並んで分布する2種類のモノマー単位を含むコポリマーである。
【0054】
本発明の一実施態様では、両親媒性ポリマーは、無水マレイン酸と少なくとも1種のアルケンとのコポリマーである。
【0055】
両親媒性ポリマーの生成に使用されるアルケンは、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、又は1-エイコセンのうちの1つ以上から選択することができ、好ましくは、アルケンは、1-オクタデセンである。
【0056】
本発明の好ましい実施態様では、両親媒性ポリマーは、無水マレイン酸とアルケンとのコポリマーである。
【0057】
本発明の好ましい実施態様では、両親媒性ポリマーは、疎水性のアルキル側鎖を有する、親水性のポリ無水マレイン酸主骨格を有する。典型的には、側鎖は、5~23個の炭素原子、特に9~21個の原子を有することができる。最も好ましい実施態様では、側鎖は、直鎖であり、10~18個の炭素原子を有する。
【0058】
両親媒性ポリマーは、次の構成単位
【化4】
(式中、Rは、ヒドロカルビル基又は置換されたヒドロカルビル基である)
を含むことができる。本発明の好ましい実施態様では、Rは、C4~C22アルキル基、例えばC7~C19アルキル基である。
【0059】
よりいっそう好ましい実施態様では、Rは、直鎖アルキル基、好ましくは直鎖C7~C17アルキル基であり、最も好ましくは、Rは、直鎖ペンタデシル基又は直鎖ノニル基である。
【0060】
両親媒性ポリマーは、先に定義された構成単位で構成され得る。
【0061】
本発明に従う他の実施態様では、両親媒性ポリマーは、少なくとも50%の、好ましくは少なくとも70%の、最も好ましくは90%を超える、先に定義された構成単位を含む。
【0062】
好ましい実施態様では、両親媒性ポリマーは、ポリ(マレイン酸-1-オクタデセン)、ポリ(マレイン酸-1-テトラデセン)、又はポリ(マレイン酸-1-ドデセン)を含む基から選択され、好ましくは、ポリマーは、ポリ(マレイン酸-1-オクタデセン)であり、ポリマーの数平均分子量は、6,000~1,000g/molである。
【0063】
特に好ましい実施態様では、両親媒性ポリマーは、ポリ(マレイン酸-alt-1-オクタデセン)、ポリ(マレイン酸-alt-1-ドデセン)、及びポリ(マレイン酸-alt-1-テトラデセン)を含む基から選択され、好ましくは、ポリマーは、ポリ(マレイン酸-alt-1-オクタデセン)であり、ポリマーの数平均分子量は、5000~1000g/molである。
【0064】
(ペプチド)
本発明のナノ粒子は、ポリマーに共有結合的に連結しているペプチドであって、少なくとも1つのArgアミノ酸残基を含むN末端リンカー配列と、T細胞受容体エピトープを含むMHC結合配列を含む配列とを含む、8~50個のアミノ酸を含む前記ペプチドをさらに含む。
【0065】
該ペプチドは、N末端リンカーを介して、該ポリマーに共有結合的に連結されていることができる。
【0066】
好ましい実施態様では、該ペプチドは、カルボジイミド又はスクシンイミドカップリングなどの、当技術分野で公知の、ペプチドを共有結合的にカップリングする方法を使用して、該ポリマーに共有結合的に連結される。好ましくは、該ペプチドは、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)化学を使用して、該ポリマーに共有結合的に連結される。
【0067】
本発明の好ましい実施態様では、該ペプチドは、10~30、例えば11~25又は12~24個のアミノ酸を含む。
【0068】
本発明の好ましい実施態様では、T細胞受容体エピトープを含むMHC結合配列を含む配列は、11~22個のアミノ酸を含む。特に好ましい実施態様では、T細胞受容体エピトープを含むMHC結合配列を含む配列は、13~21、好ましくは15個のアミノ酸を含む。
【0069】
本発明の好ましい実施態様では、N末端リンカー配列は、少なくとも2個のArgアミノ酸残基を含む。特に好ましい実施態様では、N末端リンカー配列は、2個のArgアミノ酸残基を含む。
【0070】
本発明の好ましい実施態様では、少なくとも1つのArgアミノ酸残基のリンカーを含むペプチドは、6を超える、7を超える、8を超える、又は9を超える等電点を有する。等電点は、ペプチドの正味電荷が0であるpHである。
【0071】
あるpHでのペプチドの正味電荷Zは、次式:
【数1】
(式中、Niは、N末端及びアルギニン、リジン、及びヒスチジンの側鎖の数、pKaiは、pKa値である。j指数は、C末端及びアスパラギン酸、グルタミン酸、システイン、チロシンアミノ酸に関する。異なるpKa値は、CRC化学・物理学ハンドブック、第87版(CRC Handbook of Chemistry and Physics, 87th edition)から得ることができる)によって推定することができる。
【0072】
等電点は、Innovagen社のペプチド計算機(Peptide Calculator)などのオンラインツールを使用して算出することができる。
【0073】
該ペプチドは、T細胞受容体エピトープを含むMHC結合配列を含む配列を含む。T細胞受容体エピトープを含むMHC結合配列を特定するための方法は、当技術分野で公知であり、例えば、Sidney、Peters、Setteらの文献、Semin Immunol 2020, Aug;50:101418. doi: 10.1016/j.smim.2020.101418に記載されている。
【0074】
本発明の文脈では、MHC結合配列は、MHC分子に結合するペプチド配列である。
【0075】
本発明の文脈では、T細胞エピトープは、T細胞を活性化する能力があるアゴニスト的ペプチド配列である。少なくとも1つのエピトープが、ナノ粒子が投与されることとなる対象の細胞によって提示されることが可能である必要がある。好ましくは、該ペプチドは、複数の主要組織適合複合体の型において提示されることが可能ないくつかのエピトープを含む。
【0076】
MHCクラスII分子によるペプチド提示は、CD4+制御性T細胞の誘導のために特別に関心が持たれているものである。さらに、MHC-クラスI制限CD8 T細胞はまた、MHCクラスIによって提示されるペプチドによって、肝臓において調節される。対象、例えば、ヒト対象のHLA型は、エピトープの選択の一環として、容易に検査することができる。特定のMHC分子上に提示される可能性がある特定のペプチドのエピトープは、公知である、且つ/又は、例えば適切なアルゴリズムによってコンピュータで選択することができる。
【0077】
ペプチドは、これが、-指定されたHLA制限要素に関して-高親和性でMHC/HLAと結合する、且つT細胞を大いに刺激し活性化することを確実にするように、公開されたデータに基づいて設計される。理想的には、最適なペプチドは、自然にプロセシングされたペプチドから推論され、免疫優性と特徴付けられる。
【0078】
該ペプチドは、合成する、又は組換えによって発現させる、又は天然源から単離若しくは修飾することができる。それに対するT細胞寛容が誘導されることとなる該ペプチド又は少なくともそのエピトープは、好ましくは、例えば自己免疫疾患又はアレルギーの治療又は予防という状況では、それに対する炎症性免疫応答が抑制されることとなるペプチド/タンパク質由来である。該ペプチドは、例えば、アレルゲン、公知の自己免疫抗原、又はそれらの断片又は誘導体であり得る。該ペプチドは、様々な抗原由来の様々なエピトープを組み合わせることができる。
【0079】
本発明の好ましい実施態様では、該ペプチドは、少なくとも1つのArgアミノ酸残基を含むN末端リンカーと、
【化5】
からなる群から選択されるペプチド配列とを含む。
【0080】
本発明の関連する実施態様では、該ナノ粒子は、N末端リンカーを介してポリマーに連結されるペプチド配列が
【化6】
からなる群から選択されるような、それぞれが2つのArgアミノ酸残基で構成されるN末端リンカーを含むペプチドを含む。
【0081】
一態様では、本発明のナノ粒子は、ペプチドを含み、ここでは、このペプチドは:
(a)少なくとも1つのArgアミノ酸残基を含むN末端リンカーと、
【化7】
からなる群から選択されるペプチド配列とを含む;又は
(b)
【化8】
からなる群から選択される。
【0082】
別の態様では、本発明のナノ粒子は、ペプチドを含み、ここでは、このペプチドは:
(a)少なくとも1つのArgアミノ酸残基を含むN末端リンカーと、
【化9】
からなる群から選択されるペプチド配列とを含む;又は
(b)
【化10】
からなる群から選択される。
【0083】
さらなる態様では、本発明のナノ粒子は、ペプチドを含み、ここでは、このペプチドは:
(a)少なくとも1つのArgアミノ酸残基を含むN末端リンカーと、
【化11】
からなる群から選択されるペプチド配列を含む;又は
(b)
【化12】
からなる群から選択される。
【0084】
(固体の疎水性コア)
本発明の一実施態様では、ナノ粒子は、ポリマーによって少なくとも一部分が被覆された固体の疎水性コアを含む。
【0085】
コアは、好ましくは酸化鉄、CdSe、銀、又は金を含む、無機コアであり得る。
【0086】
コアの直径は、2~500nm、好ましくは3~25nm、より好ましくは、5~15nmであり得る。コアの直径は、透過型電子顕微鏡法(TEM)又はX線小角散乱法(SAXS)を使用して決定することができる。
【0087】
例示的な無機コアは、オレイン酸又は別のカルボン酸(C14~C22、好ましくはC16~C18)によって安定化させた酸化鉄ナノ粒子、量子ドット(例えばトリオクチルオキシンホスフィンオキシド(trioctyloxinphosphinoxide)によって安定化させたCdSe/CdS/ZnS)、例えばスルホン化合物によって安定化させた金ナノ粒子である。
【0088】
こうした無機コアは、単独では、典型的には、水などの水性溶媒中で安定ではないが、無機コアを高分子ミセルに埋め込むことで、これは水溶性となる。両親媒性ポリマーの疎水性部分は、ナノ粒子の疎水性コアと相互作用し、コアの周囲に単一被覆層のポリマーの形成をもたらす。被覆プロセスにおいて、両親媒性ポリマーは、リガンド交換によって、コアの疎水性部分と置き換わることができ、したがって、コアの周りに二重層ミセルが形成される。本発明の一実施態様では、ポリマーは、コア粒子の表面上のオレイン酸と少なくとも一部分が置き換わり、ポリマーの親水性部分は、酸化鉄コアの表面と相互作用し、ポリマーの疎水性部分は、互いに相互作用し、酸化鉄コアの周りに二重層ミセルが形成され、ポリマーで被覆された酸化鉄がもたらされる。
【0089】
本発明の好ましい実施態様によれば、コアは、超常磁性である。
【0090】
本発明の特に好ましい実施態様では、コアは、オレイン酸によって安定化させることができる超常磁性の酸化鉄ナノ粒子(SPION)である。
【0091】
コアは、好ましくは、例えば蛍光、電子顕微鏡法、又は他の検出方法におけるその特性によって、本発明のナノ粒子を追跡可能にする。
【0092】
(ナノ粒子)
本発明者らは、本発明に使用するためのナノ粒子が、該ペプチドを対象の肝類洞壁内皮細胞にインビボで移動させるのに適していることを発見した。
【0093】
該ナノ粒子は、ある部分、例えば、肝類洞壁内皮細胞及び/又はクッパー細胞などの特定の細胞を標的にする、又は標的にすることを促進する炭水化物又はタンパク質をさらに含むことができる。こうした部分は、例えば、受容体介在型エンドサイトーシスを介する循環からの取り込みを増強又は加速する可能性がある。好適な修飾の例は、マンノースなどの炭水化物である。
【0094】
本発明のナノ粒子は、動的光散乱法(DLS)によって測定された場合に、10~100nm又は10~70、好ましくは10~50、より好ましくは20~40m、最も好ましくは26~36nmの流体力学的直径(z-平均)を有することができる。
【0095】
本発明のナノ粒子は、動的光散乱法(DLS)によって測定された場合に、0.50未満、好ましくは0.05~0.45、より好ましくは0.10~0.40の多分散指数(polydispersity index)を有することができる。
【0096】
流体力学的直径及び多分散指数の決定は、電気泳動光散乱分析方法、好ましくはMalvern社のZetasizerを使用して実施される。一実施態様では、流体力学的直径及び多分散指数を決定するための方法は、電気泳動光散乱法、使い捨てのポリスチレンキュベット、Zetasizerソフトウェア7.12、ミリQ水を使用して実施される。20nm及び100nmのナノ球体サイズ標準物質(NIST認証又は等価物)を、0.9%塩化ナトリウム水溶液に希釈し、試験試料を水に希釈する。すべての水性試薬は、使用前に0.22μm膜で濾過する。本発明の最も好ましい実施態様では、流体力学的直径及び多分散指数を決定するための方法は、以下の分析条件と組み合わせて、電気泳動光散乱法を使用して実施される:
【0097】
分析条件の一覧:
【表2】
【0098】
データの評価は、粒度分布(size distribution)の尺度として使用される、DLSにおいてキュムラント平均(cumulants mean)及び多分散指数(PDI)としても公知のパラメータである、平均直径(z-平均、nm、強度による)に基づく。
【0099】
本発明のナノ粒子は、ポリマーに共有結合的に連結している、多くの量のペプチドを含む。具体的には、本発明のナノ粒子は、0.1mg/mLを超える、好ましくは0.5~4mg/mLを超える、より好ましくは1mg/mLを超える、GC/MSによって決定される総ペプチド含有量を有することができる。
【0100】
その鏡像異性体を伴うすべてのタンパク質原性アミノ酸及び大部分の非タンパク質性アミノ酸の分離のために、キラル固定相でのキャピラリーガスクロマトグラフィーを使用する。定量的アミノ酸分析は、鏡像異性体標識によって実施する。この場合、分析前に、アミノ酸の光学対掌体を、試料に添加する。したがって、試料及び標準物質の鏡像異性体純度を考慮に入れる。
【0101】
ペプチドのすべてのアミノ酸の混合物を、等しい濃度で試料に添加する。アミノ酸標準物質を含まない第2の試料を調製する。乾燥させた試料を、真空中で48時間、110℃のチオグリコール酸を含有する濃HCl中で加水分解させる。48時間後、HClを、Speed-Vacで除去する。加水分解後、固相抽出を使用して、試料をマトリックスから分離する。次いで、アミノ酸を精製し、HCl(エタノール溶液)でエステル化し、再び精製し、乾燥させ、残渣をジクロロメタンに溶解し、GC/MSに注入する。
【0102】
分析条件についての一覧:
【表3】
【0103】
好ましい実施態様では、ペプチドは、0.8mg/mLを超える、好ましくは1mg/mlを超える、より好ましくは1.5mg/mlを超える、BCAアッセイによって決定されるペプチド含有量を有する。
【0104】
BCAアッセイは、試料中のペプチドの量を決定する、Sigma Aldrich社の市販品として入手可能なキットである。ペプチド標準物質は、次のペプチド濃度(0、0.020、0.040、0.060、0.080、及び0.100mg/mL)を用いるナノ粒子カップリングに使用されたペプチド回分と同じ回分から調製する。試料(ペプチドとカップリングさせたナノ粒子)並びに標準物質を、BCA試薬と混合する。次いで、すべての試料及び標準物質を、60℃で15分間インキュベートし、それに続いて、12000rpmで10分間、遠心分離を行う。その後、すべての試料及び標準物質を、562nmでの吸光度を用いて、プレートリーダーで測定する。標準物質の吸光度を使用して検量線をプロットする(濃度に対する吸光度)。線形回帰を計算し、試料の濃度を算出する。
【0105】
(組成物)
本発明は、さらに、本発明のナノ粒子と液体の又は凍結乾燥された担体とを含む組成物を提供する。
【0106】
好ましい実施態様では、該組成物は、液体担体中に本発明のナノ粒子を含む。液体担体は、好ましくは、水、又は水をベースにする、例えば緩衝液、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、リンゲル液、TRIS緩衝液、又は塩化ナトリウム溶液である。好適な保存剤を、含有してもしなくてもよい。
【0107】
使用されるペプチドは、0.01~2mM、好ましくは0.1~1mM、最も好ましくは0.45mM~1mMの濃度で、組成物中に存在することができる。
【0108】
特に、ヒト対象への投与については、組成物は、無菌且つ生物学的に適合性があることが好ましいことが明らかである。
【0109】
本発明の好ましい実施態様では、組成物は、D-マンニトール、TRIS、及び/又はL-乳酸中に分散された、本発明のナノ粒子を含む。
【0110】
さらに、該組成物は、2以上の型の本発明のナノ粒子を含むことができ、ここでは、異なる型のナノ粒子は、ポリマーに共有結合的に連結された異なるペプチドを有する。ナノ粒子の混合物を使用することによって、同時にいくつかの自己抗原ペプチドによる、より広範な免疫寛容を誘導することができる。これらのペプチドは、単一の免疫原性タンパク質にも、異なるタンパク質にも由来し得る。
【0111】
本発明の好ましい実施態様では、該組成物は、それぞれの型が、他の型のナノ粒子のペプチド配列(単数)又はペプチド配列(複数)とは異なる少なくとも1つのペプチド配列を含む、少なくとも2つの異なる型のナノ粒子を含む。
【0112】
本発明の好ましい実施態様では、該組成物は、それぞれの型が、他の型のナノ粒子のペプチド配列とは異なる特定のペプチド配列を有するペプチド配列を含む、少なくとも2つの異なる型のナノ粒子を含む。
【0113】
特に好ましい実施態様では、該組成物は、5つの異なる型のナノ粒子を含み、ここでは:
(a)それぞれの型のナノ粒子が、少なくとも1つのArgアミノ酸残基のN末端リンカーと、
【化13】
からなる群から選択される特定のペプチド配列とを含む、同一のペプチドを含む;又は
(b)それぞれの型のナノ粒子が、
【化14】
からなる群から選択される配列を有する同一のペプチドを含む。
【0114】
別の特に好ましい実施態様では、該組成物は、3つの異なる型のナノ粒子を含み、ここでは:
(a)それぞれの型のナノ粒子が、少なくとも1つのArgアミノ酸残基のN末端リンカーと、
【化15】
からなる群から選択される特定のペプチド配列とを含む、同一のペプチドを含む;又は
(b)それぞれの型のナノ粒子が、
【化16】
からなる群から選択される配列を有する同一のペプチドを含む。
【0115】
特に好ましい実施態様では、該組成物は、4つの異なる型のナノ粒子を含み、ここでは:
(a)それぞれの型のナノ粒子が、少なくとも1つのArgアミノ酸残基のN末端リンカーと、
【化17】
からなる群から選択される特定のペプチド配列とを含む、同一のペプチドを含む;又は
(b)それぞれの型のナノ粒子が、
【化18】
からなる群から選択される配列を有する同一のペプチドを含む。
【0116】
該組成物は、100μM未満、好ましくは0.5~80μM、最も好ましくは1~50μMの濃度のナノ粒子を含むことができる。組成物中に2種以上のナノ粒子が存在するならば、それぞれが、100μM未満、好ましくは0.5~80μM、より好ましくは1~50μMの濃度で存在することができる。
【0117】
本発明の組成物は、等モル濃度の異なる型の ナノ粒子を含むことができる。
【0118】
したがって、一態様では、本発明は、
a)次の構成単位
【化19】
(式中、Rは、ヒドロカルビル基又は置換されたヒドロカルビル基であり、好ましくは、Rは、直鎖アルキル基、好ましくは直鎖C11~C17アルキル基である)
を含む両親媒性ポリマーであって、6,000~1,000g/molの数平均分子量(Mn)を有する前記ポリマーを含むミセルと、
b)該ポリマーに共有結合的に連結しているペプチドであって、少なくとも1つのArgアミノ酸残基を含むN末端リンカー配列と、T細胞受容体エピトープを含むMHC結合配列を含む配列とを含む、8~50個のアミノ酸を含む前記ペプチドと、
c)ミセルによって少なくとも一部分が被覆される固体の疎水性コアであって、酸化鉄、CdSe/CdS/ZnS、銀、及び金を含む基から選択される追跡可能な無機材料を含む前記コアと
を含む、ナノ粒子を含む、組成物を提供する。
【0119】
好ましい態様では、本発明は、それぞれのナノ粒子が、
a)次の構成単位
【化20】
(式中、Rは、ヒドロカルビル基又は置換されたヒドロカルビル基であり、好ましくは、Rは、直鎖アルキル基、好ましくは直鎖C11~C17アルキル基である)
を含む両親媒性ポリマーであって、6,000~1,000g/molの数平均分子量(Mn)を有する前記ポリマーを含むミセルと、
b)該ポリマーに共有結合的に連結しているペプチドであって、少なくとも1つのArgアミノ酸残基を含むN末端リンカー配列と、T細胞受容体エピトープを含むMHC結合配列を含む配列とを含む、8~50個のアミノ酸を含む前記ペプチドと;
c)ミセルによって少なくとも一部分が被覆される固体の疎水性コアであって、酸化鉄、CdSe/CdS/ZnS、銀、及び金を含む基から選択される追跡可能な無機材料を含む前記コアと
を含む、少なくとも2つの異なる型のナノ粒子を含み、その少なくとも2つの異なる型のナノ粒子のペプチド配列が互いに異なり、且つその異なるペプチドが、少なくとも1つのArgアミノ酸残基を含むN末端リンカーと、
【化21】
からなる群から選択されるペプチド配列とを含む、組成物を提供する。
【0120】
(組成物の使用)
液体担体中に本発明のナノ粒子を含む、本発明の組成物は、治療用化合物(タンパク質、ウイルスベクター、脂質小胞)、アレルゲンに対する若しくは自己抗原に対する寛容を誘導する際に、又はアレルギー、自己免疫疾患、外因性抗原(移植抗原、薬物)、若しくは食物不耐性を治療するために使用することができる。
【0121】
これは、特定の免疫応答の抑制が有益である疾患を有する対象への投与のために製剤化することができる。
【0122】
この医薬組成物は、それを必要とする対象に投与することができる。対象への投与に必要とされる用量及び濃度は、その症例の事実及び状況に従って、責任ある主治医(medical attendant)によって決定することができる。例示的な用量は、例えばヒト対象について、患者の体重あたり0.03μmol~0.90μmolを含むであろう。
【0123】
投与は、例えば、1、2、3、4、5、6、7、10、又は14日の投与間隔で、例えば2回、3回、又は4回繰り返すことができる。
【0124】
好ましい実施態様では、該組成物は、それぞれの型が、他の型のナノ粒子のペプチド配列(単数)又はペプチド配列(複数)とは異なる少なくとも1つのペプチド配列を含む、2~8、好ましくは2~6つの異なる型のナノ粒子を含む。
【0125】
好ましくは、該組成物は、それぞれの型が、他の型のナノ粒子のペプチド配列(単数)又はペプチド配列(複数)とは異なる少なくとも1つのペプチド配列を含む、少なくとも2つの異なる型のナノ粒子、例えば2~8つの異なる型のナノ粒子を含む。
【0126】
より好ましくは、該組成物は、それぞれの型が、他の型のナノ粒子のペプチド配列(単数)又はペプチド配列(複数)とは異なる少なくとも1つのペプチド配列を含む、3~6つの異なる型のナノ粒子を含む。
【0127】
好ましい実施態様では、該組成物は、それぞれの型が、他の型のナノ粒子のペプチド配列とは異なる1つのペプチド配列を含む、少なくとも2つの異なる型のナノ粒子、例えば2~8つの異なる型のナノ粒子を含む。
【0128】
より好ましくは、該組成物は、それぞれの型が、他の型のナノ粒子のペプチド配列(単数)又はペプチド配列(複数)とは異なる1つのペプチド配列を含む、3~6つの異なる型のナノ粒子を含む。
【0129】
一実施態様では、本発明は、セリアック病抗原に対する寛容を誘導する際に使用するための組成物であって:
(a)異なる型のナノ粒子を含み、且つそれぞれの型のナノ粒子が、少なくとも1つのArgアミノ酸残基のN末端リンカーと、
【化22】
からなる群から選択される特定のペプチド配列とを含む、同一のペプチドを含む;又は
(b)異なる型のナノ粒子を含み、且つそれぞれの型のナノ粒子が、
【化23】
からなる群から選択される配列を有する同一のペプチドを含む
前記組成物を提供する。
【0130】
代替実施態様では、本発明は、セリアック病抗原に対する寛容を誘導する際に使用するための組成物であって:
(a)異なる型のナノ粒子を含み、且つそれぞれの型のナノ粒子が、少なくとも1つのArgアミノ酸残基のN末端リンカーと、
【化24】
からなる群から選択される特定のペプチド配列とを含む、同一のペプチドを含む;又は
(b)異なる型のナノ粒子を含み、且つそれぞれの型のナノ粒子が、
【化25】
からなる群から選択される配列を有する同一のペプチドを含む
前記組成物を提供する。
【0131】
さらなる実施態様では、本発明は、尋常性天疱瘡抗原に対する寛容を誘導する際に使用するための組成物であって:
(a)異なる型のナノ粒子を含み、且つそれぞれの型のナノ粒子が、少なくとも1つのArgアミノ酸残基のN末端リンカーと、
【化26】
からなる群から選択される特定のペプチド配列とを含む、同一のペプチドを含む;又は
(b)異なる型のナノ粒子を含み、且つそれぞれの型のナノ粒子が、
【化27】
からなる群から選択される配列を有する同一のペプチドを含む
前記組成物を提供する。
【0132】
疾患は、定義された自己抗原と関連する自己免疫疾患であり得る。本発明の文脈では、用語「自己免疫疾患」は、Hayterらの文献(Autoimmunity Reviews 11 (2012) 754-765)によって定義されるものと理解される。
【0133】
好ましい実施態様では、自己免疫疾患は、尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡、後天性表皮水疱症、水疱性類天疱瘡、瘢痕性類天疱瘡、グッドパスチャー症候群、顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症(ウェゲナー肉芽腫症)、血栓性血小板減少性紫斑病、免疫性血小板減少性紫斑病、ぶどう膜炎、HLA-B27関連急性前部ぶどう膜炎、多発性硬化症、視神経脊髄炎、I型糖尿病、脱力発作を伴う又は伴わないナルコレプシー、セリアック病、疱疹状皮膚炎、アレルギー性気道疾患/喘息、重症筋無力症、橋本甲状腺炎、自己免疫性甲状腺疾患、グレーブス病、自己免疫性甲状腺疾患、自己免疫性副甲状腺機能低下症、自己免疫性甲状腺疾患、抗リン脂質抗体症候群、自己免疫性アジソン病、自己免疫性溶血性貧血、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、ギラン・バレー症候群、自己免疫性好中球減少症、線状限局性強皮症、バッテン病、後天性血友病A、再発性多発軟骨炎、アイザックス症候群(後天性神経性筋強直症)、ラスムッセン脳炎、モルバン症候群、全身硬直症候群、悪性貧血、フォークト・小柳・原田症候群、原発性胆汁性肝硬変、自己免疫性肝炎I型、自己免疫性肝炎II型、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、多発性筋炎/皮膚筋炎、シェーグレン症候群、強皮症、白斑、及び円形脱毛症を含む群から選択される。
【0134】
好ましい実施態様では、アレルギーは、ピーナッツアレルギー、花粉アレルギー、又はネコアレルギーから選択される。
【0135】
Topasナノ粒子は、自己免疫疾患における自己抗原に対する寛容誘導に加えて、移植寛容を促進するために同種抗原ペプチドに、また、例えば、ピーナッツアレルギーなどの食物アレルギー、及び例えば、ネコアレルギーがそうであるように花粉及び動物の毛成分に対する空中アレルギーにおける治療的介入のためにアレルゲン由来のT細胞エピトープに結合することができる。
【0136】
さらに、Topasナノ粒子は、生物学的薬物由来のT細胞エピトープに結合することができる。治療用化合物は、治療用タンパク質、治療用抗体、ウイルスベクター、又は脂質小胞であり得る。
【0137】
本発明によれば、用語「治療すること」は、対象におけるある特定の疾患の症状の軽減、及び/又はある特定の障害と関連する確認可能な測定値の改善を指すために使用される。
【0138】
(ナノ粒子を生成する方法)
本発明のナノ粒子は、
a)疎水性コアナノ粒子を得ることと、
b)好ましくはラジカル共重合を使用して、20,000g/mol以下の数平均分子量(Mn)を有する両親媒性ポリマーを得ることと、
c)該両親媒性ポリマーを任意に精製することと、
d)該疎水性コアナノ粒子と該両親媒性ポリマーを混合して、ミセルを形成することと、
e)少なくとも1つのペプチドを添加して、ナノ粒子を形成することと
を含む方法によって生成することができる。
【0139】
ペプチドがミセルによって封入される本発明の実施態様では、ステップd)の前に、ステップe)が実施される。これらの実施態様では、ミセル形成の前に、両親媒性ポリマーにペプチドが添加される。
【0140】
ステップa)の疎水性コアは、溶液中で適切な反応物を使用して合成することができる。好ましくは、疎水性コアは、有機溶媒の存在下で、反応物としての金属塩及びカルボン酸の塩を使用して合成される。好ましくは、反応は、酸素制限下で、高温で行われる。
【0141】
20,000g/mol以下の数平均分子量(Mn)を有する両親媒性ポリマーを得る一つの方法は、無水物のポリマーを生成するステップと、この無水物を加水分解して酸を得るステップとを含む2ステップ方法を使用して、これを合成することに帰する。
【0142】
本発明のナノ粒子に使用される両親媒性ポリマーは、ラジカル開始剤を使用するラジカル共重合によって調製することができる。
【0143】
ポリマーの分子量は、反応物の濃度又はラジカル開始剤の量を変えることによって制御することができる。ポリマーの分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって分析することができる。
【0144】
共重合は、1,4ジオキサン、キシレン、又はクロロベンゼンなどの有機溶媒中で行うことができる。
【0145】
多くのラジカル開始剤が、当技術分野で公知である;これには、様々な過酸化物及びアゾ系化合物が含まれる。好適な過酸化物の例は、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル、過酸化ジ-t-ブチル、過酸化2,4-ジクロロベンジル、ヒドロ過酸化t-ブチル、ヒドロ過酸化クメン、過酸化ジアセチル、ペルオキシ炭酸ジエチル、過安息香酸及び過ホウ酸t-ブチルである。好適なアゾ系化合物には、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、ホウフッ化p-ブロモベンゼンジアゾニウム、p-トリルジアゾアミノベンゼン、水酸化p-ブロモベンゼンジアゾニウム、アゾメタン、及びハロゲン化フェニルジアゾニウムが含まれる。好ましくは、ラジカル開始剤は、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)である。
【0146】
共重合は、70~120℃、好ましくは90~110℃などの高温で行うことができる。
【0147】
好ましくは、共重合は、混合物を、70~120℃、好ましくは90~110℃に加熱することによって開始される。
【0148】
ステップb)は、反応物を混合するステップと、混合物を脱酸素するステップと、混合物を加熱するステップと、次いで混合物を冷却するステップとを含むことができる。その後、ポリマーを、一晩、溶解及び撹拌することができる。形成された固体を、好ましくは遠心分離を使用して、回収することができる。
【0149】
ステップb)は、ポリマーへの塩基の添加を含むことができる(例えばNaOH)。好ましくは、ほとんどすべての固体が溶解するまで、塩基を、高温、好ましくは50℃~70℃、例えば60℃で、ポリマーと反応させる。得られた懸濁液を、酸性化することができる(例えばpH<2)。その後、反応混合物を、酢酸エチルなどの有機溶媒で抽出することができる。有機層を、水酸化ナトリウム溶液で抽出することができる。この水溶液を、酢酸エチルなどの有機溶媒で再び抽出し、次いで乾燥させて、精製された両親媒性ポリマーを得ることができる。
【0150】
ポリマーは、さらに精製することができる(ステップc)。好ましくは、ポリマーは、ポリマーをn-ヘキサン又はn-ヘプタンで抽出することによって、さらに精製される。抽出は、10g/Lを超える、好ましくは100g/lの濃度で実施することができる。さらに、両親媒性ポリマーの追加の精製ステップを追加することができる。この追加の精製ステップでは、重合の粗反応生成物を、溶解及び沈殿させる。好ましい実施態様では、溶媒はジクロロメタンであり、ポリマーを、メタノール/ヘプタン又はアセトニトリル/イソプロパノールの混合物を使用して沈殿させる。使用される混合物は、例えば95/5%(v/v%)メタノール/ヘプタン、10/90(v/v%)アセトニトリル/イソプロパノール、又は5/95(v/v%)アセトニトリル/イソプロパノールを含有することができる。好ましい実施態様では、沈殿混合物は、-10~10℃、好ましくは-5~5℃の温度で添加される。
【0151】
加水分解及び後処理後の両親媒性ポリマーの純度を、1H NMRによって測定することができる。
【0152】
ミセルは、両親媒性ポリマーを含有する溶液を形成することによって形成することができる(ステップd))。好ましくは、ミセルは、水溶液中で形成される。両親媒性ポリマーに、補助安定剤(co-stabilizer)を添加して、ミセル形成を改善することができる。好ましくは、ステップd)は、両親媒性ポリマー及びコア粒子を可溶化するサブステップと、薄膜が形成されるまで溶媒を除去するサブステップと、上昇温度及び周囲圧力で塩基性水溶液を添加して、水性のコロイド分散を形成させるサブステップと、溶液を希釈するサブステップと、これを任意に濾過するサブステップとを含む。その後、数回の洗浄ステップを適用することができる。
【0153】
ステップe)に使用されることとなるペプチドは、最先端の固相化学を使用して合成することができる。
【0154】
好ましい実施態様では、ペプチドの合成は、固相ペプチド合成(SPPS)を使用して、CからN方向に、Fmoc化学を介して達成される。各アミノ酸のαアミノ基が、フルオレン-9-イルメトキシカルボニル(Fmoc)基で保護されるのに対して、側鎖官能基も、様々な適切な保護基でブロックされる。一般に、SPPSは、N末端の脱保護、それに続くカップリング反応のサイクルの繰り返しで構成される。最初のFmoc保護されたアミノ酸は、樹脂にカップリングされる。その後、アミン基が、ピペリジンをジメチルホルムアミド(DMF)に入れた混合物で脱保護され、次いで、第2のFmoc保護されたアミノ酸の遊離の酸とカップリングされる。このサイクルが、所望される配列が得られるまで繰り返される。各ステップ間で、樹脂を洗浄する。各カップリング反応の完了は、定性的なニンヒドリン試験によって観察する。合成の最後のステップでは、未精製のペプチド樹脂を、DMF及びメタノールで連続的に洗浄し、乾燥させる。次いで、ペプチドから保護基を除去し、トリフルオロ酢酸(TFA)を使用してペプチドを樹脂から切断する。得られた未精製のペプチドを、エーテル沈殿によって、切断混合物から単離する。さらに、分取HPLCを通じてペプチドを精製して純度要件に到達させ、適切な溶媒-緩衝液系を使用することによって、対イオンTFAを塩化物イオンと置き換える。最後に、精製されたペプチドを凍結乾燥させる。
【0155】
本発明の方法の好ましい実施態様では、該ペプチドは、当技術分野で公知のペプチドカップリング技術、例えばカルボジイミド又はスクシンイミドカップリングを使用して、該ナノ粒子の表面にカップリングされる。
【0156】
本発明の方法の特に好ましい実施態様では、該ペプチドは、水相中でEDC化学(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)を介して、該ナノ粒子の表面にカップリングされる。
【0157】
得られたナノ粒子は、強力洗浄及び濾過ステップを使用して精製して、カップリング試薬(1種又は複数)及びあらゆる低分子量成分を除去することができる。
【実施例
【0158】
(実施例)
本発明を、本発明によるペプチドカップリングの有効性を詳細に説明している以下の実施例によって例示する。
【0159】
これらの実施例は、本発明の範囲を限定するとみなされるべきではなく、例示するとみなされるべきである。
【0160】
(実施例1:ナノ粒子の調製)
(a)超常磁性の酸化鉄結晶コア(SPION)の調製)
オレイン酸鉄錯体の合成を、図2に模式的に示す。SPIONの合成を、図3に模式的に示す。
【0161】
オレイン酸鉄錯体を、オレイン酸と共に、室温で1-オクタデセンに溶解し、完全な溶解まで撹拌した。この溶液を脱酸素し、110℃で脱水し、次いで、酸化鉄ナノ結晶の形成のために300℃で加熱した。冷ました後、この生成物を、磁気分離を使用して、アセトン及びテトラヒドロフランでの数回の洗浄ステップによって精製した。次いで、精製されたSPIONを、クロロホルムで希釈し、ロータリーエバポレーター中で濃縮し、最後に、以下に記載する通りに、さらなる製造ステップに使用するために、クロロホルムで希釈した。
【0162】
第2のステップ(図3)では、オレイン酸鉄錯体を、オレイン酸と共に、室温で1-オクタデセンに溶解し、完全な溶解まで撹拌した。この溶液を脱酸素し、110℃で脱水し、次いで、酸化鉄ナノ結晶の形成のために300℃で加熱した。冷ました後、この生成物を、磁気分離を使用して、アセトン及びテトラヒドロフランでの数回の洗浄ステップによって精製した。次いで、精製されたSPIONを、クロロホルムで希釈し、ロータリーエバポレーター中で濃縮し、最後に、以下に記載する通りに、さらなる製造ステップに使用するために、クロロホルムで希釈した。
【0163】
(b)低分子量ポリ(マレイン酸-alt-1-オクタデセン)(LM-PMAcOD)の調製)
低分子量ポリ(マレイン酸-alt-1-オクタデセン)(LM-PMAcOD)の合成を、図4及び5に模式的に示される2ステッププロセスで達成した。
【0164】
第1のステップ(図4)では、AIBN(2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル))(1,4-ジオキサン中)によって開始される、1-オクタデセンと無水マレイン酸との共重合が達成された。この生成物を、ジクロロメタンとの共蒸発及びイソプロパノール及びアセトニトリルでの沈殿によって精製し、数平均分子量(Mn)2500~4000g/molを有する低分子量ポリ(無水マレイン酸-alt-1-オクタデセン)、すなわちLM-PMAODをもたらした。
【0165】
第2のステップ(図5)では、LM-PMAODを、水酸化ナトリウム溶液中で、ポリ(マレイン酸-alt-1-オクタデセン)(LM-PMAcOD)に加水分解した。さらに、生成物の精製のために、また残留1-オクタデセンなどの不純物を除去するために、H2SO4、酢酸エチル、及びNaOHでの酸塩基抽出を実施した(図6)。この生成物を、硫酸マグネシウムで乾燥させ、クロロホルムと共蒸発させ、最後に、n-ヘプタン中で、固液抽出によって精製した。
【0166】
(c)SPIONのポリマー被覆)
SPIONのポリマー被覆を、図6に模式的に示す。PMAcOD-SPION粒子合成のフローチャートを、図7に示す。
【0167】
両親媒性ポリマーPMAcODをSPIONコアの周囲に配列させることによって、ミセル構造を形成した。SPIONの表面上に存在するオレイン酸分子の大部分を、PMAcOD単位とのリガンド交換によって置き換えた。それによって、疎水性ポリマー側鎖は、疎水性の二重層を形成し、負に帯電したミセル構造が構成される。ミセルの表面上の帯電したカルボキシル基は、ペプチドのためのアンカーとして働く。
【0168】
被覆手順のために、ポリマーとSPIONを、クロロホルムに溶解した。薄膜が形成されるまで、回転蒸発を介して溶媒を除去した。水酸化ナトリウム溶液を添加し、透明な暗褐色の水性のコロイド分散が形成されるまで、フラスコを上昇温度及び周囲圧力で回転させた。この分散を、水酸化ナトリウム溶液で希釈し、0.2μmフィルターで濾過する。次いで、低分子量成分の分離のためのタンジェンシャルフロー濾過(TFF)を使用して、水及びNaOH/NaCl(水溶液)での数回の洗浄ステップを実施し、それに続いて、より大きい粒子及び凝集物を除去するために、また、PMAcOD-SPION分散の滅菌のために、0.1μmフィルターでの濾過を行った。最終のナノ粒子を、水に分散させた(図7)。
【0169】
(d)ペプチド及びペプチドカップリング)
ペプチドカップリング及びナノ粒子合成を、図8に模式的に示す。
【0170】
ペプチドの合成は、固相ペプチド合成(SPPS)を使用して、CからN方向に、Fmoc化学を介して達成した。各アミノ酸のαアミノ基を、フルオレン-9-イルメトキシカルボニル(Fmoc)基で保護したのに対して、側鎖官能基も、様々な適切な保護基でブロックした。
【0171】
分取HPLCを通じてペプチドを精製して純度要件に到達させ、適切な溶媒-緩衝液系を使用することによって、対イオンTFAを塩化物イオンと置き換えた。最後に、精製されたペプチドを凍結乾燥させた。
【0172】
遊離のペプチド(出発材料)の特性決定を、LC-MSによって実施した。ペプチドの分子量を、マルチモードエレクトロスプレー・大気圧化学イオン化質量分析によって測定した。
【0173】
ペプチドを、ホウ酸/四ホウ酸ナトリウム十水和物(SBB)緩衝液中で、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)化学を使用して、ポリマー表面にカップリングさせた。次いで、得られたTPC調製物を濾過し、TFF精製によって精製した。最終のナノ粒子を、水に分散させ、0.2μmフィルターで濾過し、無菌容器に収集した。
【0174】
(実施例2:免疫寛容誘発性抗原ペプチド0051、0078、及び0080(N末端リンカーを有しない)のペプチドカップリング)
この実験では、HLA-DQ8遺伝子型を有するセリアック病(CeD)患者に認められるグルテンタンパク質の抗原エピトープを代表する3つの抗原ペプチド(表1参照)を、実施例1に記載した通りに、SPIONを含有するナノ粒子に使用した。この場合には、天然のペプチドエピトープ配列に、N末端リンカー配列を付加しなかった。
【0175】
表1:グルテンタンパク質の抗原エピトープのペプチド配列(HLA-DQ8遺伝子型)
【表4】
*等電点
**分子量
【0176】
ペプチドは、ホウ酸/四ホウ酸ナトリウム十水和物(SBB)緩衝液中で、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)化学を使用して、ポリマー表面にカップリングさせた。
【0177】
これについては、30mLの2×SBB(pH9.0、100mM(185.4mg)ホウ酸、100mM(1.14g)四ホウ酸ナトリウム十水和物)を、新しく調製した。EDC溶液(28.76mg/mL(150mM)EDC・HClを含有する水溶液)を、新しく調製した。
【0178】
ペプチド溶液は、表2に記載した通りに、新しく調製した。
【0179】
表2:ペプチド溶液(0051、0078、0080、及び0088)
【表5】
【0180】
さらに、154mM NaCl溶液を、BBraun社から購入し、さらに希釈して50mM NaClとした。ナノ粒子の精製及び濾過のために、100kDa Amicon 50mL回転フィルター(spin filter)及び0.2μm PESフィルターを使用した。
【0181】
以下の反応を、Nalgeneバイアルに準備した。試薬は、以下の順で添加した(表3参照)。
【0182】
表3:ペプチドカップリング条件(TPC0051、TPC0078、TPC0080、及びTPC0088)
【表6】
【0183】
この反応をインキュベートする一方で、100kDa回転フィルターを、50mM NaClで、4200rpmで5分間遠心することによって予洗した。その後、収集管を、完全に空にした。
【0184】
反応混合物を、前処理した回転濾過遠心管(centrifugal spin filtration tube)に移し、50mM NaCl溶液で希釈して15mLにした。この管を、4200rpmで5分間遠心した。最初の遠心分離サイクル後に2mL未満を含有していたフィルターは、完了したとみなされた。2mL超を含有していたフィルターは、追加の2分間、4200rpmで遠心した。
【0185】
濾液を除去し、残渣を50mM NaClで希釈して15mLにし、前のステップのように遠心した。
【0186】
濾過を、さらに4回繰り返した。最後の3回の繰り返しでは、洗浄は、超純水で実施した(遠心分離4分)。
【0187】
残渣を、無菌0.2μm PESフィルターで濾過し、それに続いて、0.1μmでの濾過を行い、無菌バイアルに移し、ペプチドにカップリングされたPMAcOD-SPION粒子(Topas粒子結合体(Topas Particle Conjugate)(TPC))を、さらなる特性決定のために、4℃で保管した。
【0188】
次いで、TPCを、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって分析して、動的光散乱法(DLS)によってメインピークの割合(表4参照)を確認し、SDS-PAGEによって粒度分布(表5参照)を決定し、ペプチドカップリング効率(図9参照)及びBCAアッセイを定性的に確認し、ペプチドカップリング効率(表6参照)を定性的に決定する。
【0189】
サイズ排除クロマトグラフィーを、0.5mL/分で0.1% SDS(LiChrosolv水中)の溶離液を用いて、50℃のSepax SRT SEC-2000カラムを使用して実施した。波長215.8nmで、実行時間30分で、10μLの試料注入。結果を、以下の表に示す。
【0190】
表4:SEC結果
【表7】
【0191】
流体力学的直径及び多分散指数(PDI)の決定は、Malvern社のZetasizerによる動的光散乱(DLS)分析を使用して実施される。試料を、使い捨てのポリスチレンキュベット中で、200~500kcps(1:50v/v)の平均カウントレートに到達するように、ミリQ水で希釈する。すべての水性試薬は、使用前に0.22μm膜で濾過する。試料を、以下に記載される分析条件に従うDLSによって測定する:
【0192】
分析条件の一覧:
【表8】
【0193】
データの評価は、粒度分布の尺度として使用される、DLSにおいてキュムラント平均及び多分散指数(PDI)としても公知のパラメータである、平均直径(z-平均、nm、強度による)に基づく。
【0194】
表5:DLS(強度)による粒径分布
【表9】
【0195】
BCAアッセイ(Sigma Aldrich社のBCAキット)を実施して、各試料中のペプチドの量を決定した。BCA試薬(4,59mL)の調製のために、BCAキットからの、4.5mLの試薬A(0.1N NaOH中に、ビシンコニン酸、炭酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、及び炭酸水素ナトリウムを含有する溶液)を、0.09mLの試薬B(CuSO4.5H2O(4% (w/v))と混合した。次いで、ナノ粒子カップリングに使用されたのと同じペプチドバッチから、ペプチド標準物質を調製した。ペプチドストック水溶液(1.0mg/mL)を調製し、以下のペプチド濃度(0、0.020、0.040、0.060、0.080、及び0.100mg/mL)を用いて、水で希釈した。試料(ペプチドとカップリングさせたナノ粒子)を、水に分散させ、25μLの試料及び標準物質を、あらかじめ調製された500μLのBCA試薬と混合した。次いで、すべての試料及び標準物質を、60℃で15分間インキュベートし、それに続いて、12000rpmで10分間、遠心分離を行った。その後、すべての試料及び標準物質を、3連(150μl)として96ウェルプレートに移し、次いで、562nmでの吸光度を用いて、プレートリーダーで測定した。標準物質の吸光度を測定し、検量線をプロットする(濃度に対する吸光度)。線形回帰を計算し、試料の濃度を算出した。
【0196】
表6: BCAアッセイ結果
【表10】
【0197】
試料を、Bolt 12% Bis-Tris Plusゲル(Invitrogen社)を使用するSDS PAGEによって分析した。ゲルは、200Vで23分間流し、その後、画像化した。このゲルを、水ですすぎ、InstantBlueゲル染色溶液(Expedeon社)中でおよそ1時間染色した。次いで、染色溶液を捨てた。このゲルを、水で2回すすぎ、次いで、脱染のために水に一晩入れておいた。次いで、このゲルを、再び画像化した。試料は、以下に記載される通りに調製した:
【0198】
【表11】
【0199】
(SDS PAGE分析)
ペプチド0051、0078、及び0080結合物を、PMAcOD-SPION粒子(Topas粒子(TP))にカップリングさせた。サイズ排除分析を実施し、凝集量は、およそ16%~25%(メインピーク84%~75%)と測定された。観察された流体力学的直径は、28~34nmであり、0.210~0.232のPDI値であった。
【0200】
Bolt 12% Bis-Tris Plusゲル(Invitrogen社)を使用するSDS PAGEゲルの結果を、図9に表す。このSDS-PAGEは、3つすべてのペプチドがTPにカップリングされたことを確認する。試料番号2、4、及び6は、純粋なペプチド(それぞれ0051、0078、及び0080)であり、試料番号1及び8は、タンパク質標準物質であり、試料番号3、5、及び7は、それぞれ、TPC0051、TPC0078、及びTPC0080である。SDS PAGEゲルを使用して、TPへのペプチドのカップリングを定性的に確認する。染色前に、鉄コアのおかげで、TPCの褐色をはっきりと認識することが可能である。TPC試料(3、5、及び7)のスメアリングは、TP表面へのペプチドの共有結合に起因している。純粋なペプチド(試料2、4、及び6)は、ゲル中に3kDaで示される。ペプチド含有量を、BCAアッセイを介して数量化し、得られた結果は、0.12mg/mL(TPC0051)、0.17mg/mL(TPC0078)、及び0,23mg/mL(TPC0080)であった。
【0201】
SDS PAGEゲルは、TPへのペプチド0051、0078、及び0080のカップリングを定性的に示したが、BCAアッセイは、これらのペプチドが、TPの表面に不十分にカップリングすることを量的に示した。
【0202】
(実施例3:異なるカップリング条件を使用する免疫寛容誘発性の抗原ペプチド0051及び0087(N末端リンカーを有しない)のペプチドカップリング)
HLA-DQ8遺伝子型を有するセリアック病(CeD)患者に認められるグルテンタンパク質の抗原エピトープを代表する2つの抗原ペプチド(0051及び0087)(表7参照)を、PMAcOD-SPION粒子にカップリングさせた。先ほどと同様、この場合には、天然のペプチドエピトープ配列に、N末端リンカー配列を付加しなかった。この実験では、ペプチドカップリングの量を最適化しようという試みで、異なるカップリング条件を使用した。
【0203】
表7:グルテンタンパク質の抗原エピトープのペプチド配列(HLA-DQ8遺伝子型)
【表12】
*等電点
**分子量
【0204】
ペプチド0087の最初のアミノ酸残基、グリシンは、グリアジンγ1a配列の一部ではなく、カップリングを容易にするために付加されたに過ぎない。
【0205】
ペプチドを、ホウ酸/四ホウ酸ナトリウム十水和物(SBB)緩衝液中で、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)化学を使用して、ポリマー表面にカップリングさせた。この実験では、EDCの存在下で異なるカップリング条件を使用して、Topas粒子(TP)の表面上へのペプチドの装填を改善した。
【0206】
これについては、30mLの2×SBB(pH9.0、100mM(185.4mg)ホウ酸、100mM(1.14g)四ホウ酸ナトリウム十水和物)を、新しく調製した。EDC溶液(28.76mg/mL(150mM)EDC・HClを含有する水溶液)を、新しく調製した。ペプチド溶液は、表8に記載した通りに、新しく調製した。
【0207】
表8:ペプチド溶液(0051及び0087)
【表13】
【0208】
さらに、154mM NaCl溶液を、BBraun社から購入し、さらに希釈して50mM NaClとした。ナノ粒子の精製及び濾過のために、100kDa Amicon 50mL回転フィルター及び0.2μm PESフィルターを使用した。
【0209】
以下の反応を、ガラスバイアルに準備した。試薬は、以下の順で添加した(表9参照)。
【0210】
表9:ペプチドカップリング条件(TPC0051及びTPC0087)
【表14】
【0211】
この反応をインキュベートする一方で、100kDa回転フィルターを、50mM NaClで、4200rpmで5分間遠心することによって予洗した。その後、収集管を、完全に空にした。
【0212】
反応混合物を、前処理した回転濾過遠心管に移し、50mM NaCl溶液で希釈して15mLにした。この管を、4200rpmで5分間遠心した。最初の遠心分離サイクル後に2mL未満を含有していたフィルターは、完了したとみなされた。2mL超を含有していたフィルターは、追加の2分間、4200rpmで遠心した。
【0213】
濾液を除去し、残渣を50mM NaClで希釈して15mLにし、前のステップのように遠心した。
【0214】
濾過を、さらに4回繰り返した。最後の3回の繰り返しでは、洗浄は、超純水で実施した(遠心分離4分)。
【0215】
残渣を、無菌0.2μm PESフィルターで濾過し、それに続いて、0.1μmでの濾過を行い、無菌バイアルに移し、Topas粒子結合体(TPC)を、さらなる特性決定のために、4℃で保管した。
【0216】
次いで、ナノ粒子を、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって、2つの反応時間、すなわち2.5時間及び16時間後に分析して、動的光散乱法(DLS)によってメインピークの割合(表10参照)を確認し、SDS-PAGEによって粒度分布(表11参照)を決定し、ペプチドカップリング効率(図10及び11参照)及びBCAアッセイを定性的に確認し、ペプチドカップリング効率(表12参照)を定性的に決定する。
【0217】
サイズ排除クロマトグラフィーを、0.5mL/分で0.1% SDS(LiChrosolv水中)の溶離液を用いて、50℃のSepax SRT SEC-2000カラムを使用して実施した。波長215.8nmで、実行時間30分で、10μLの試料注入。結果を、下の表に示す。
【0218】
表10: SEC結果
【表15】
【0219】
流体力学的直径及び多分散指数(PDI)の決定は、Malvern社のZetasizerによる動的光散乱(DLS)分析を使用して実施した。試料を、使い捨てのポリスチレンキュベット中で、200~500kcps(1:50v/v)の平均カウントレートに到達するように、ミリQ水で希釈する。すべての水性試薬は、使用前に0.22μm膜で濾過する。試料を、以下に記載される分析条件に従うDLSによって測定する:
【0220】
分析条件の一覧:
【表16】
【0221】
データの評価は、粒度分布の尺度として使用される、DLSにおいてキュムラント平均及び多分散指数(PDI)としても公知のパラメータである、平均直径(z-平均、nm、強度による)に基づく。
【0222】
表11:DLS(強度)による粒径分布
【表17】
【0223】
試料を、Bolt 12% Bis-Tris Plusゲル(Invitrogen社)を使用するSDS PAGEによって分析した(図10及び11参照)。ゲルは、200Vで23分間流し、その後、これを画像化した。このゲルを、水ですすぎ、InstantBlueゲル染色溶液(Expedeon社)中でおよそ1時間染色した。次いで、染色溶液を捨てた。このゲルを、水で2回すすぎ、次いで、脱染のために水に一晩入れておいた。次いで、このゲルを、再び画像化した。染色前に、鉄コアのおかげで、TPCの褐色をはっきりと認識することが可能である。TPへのペプチドのカップリングを定性的に確認するために、純粋なペプチド(0051及び0087)並びに試料DM008、DM009、DM010、DM011、DM012、MS005、MS006、MS007、及びMS008並びにタンパク質標準物質を、ゲルに流している。
【0224】
この実験では、残念ながら、染色は極めて不十分であったが、それでもTPへのペプチドのカップリングを確認することは可能であった(薄い青色、試料における「スメアリング」)。残念ながら、純粋なペプチドの染色は認識できなかった。
【0225】
BCAアッセイは、これらのプローブについて、先に記載したのと同じ方法を用いて実施した。
【0226】
表12:BCAアッセイ結果
【表18】
【0227】
異なるカップリング条件下でのペプチド0051及び0087のカップリングは、コロイド安定ナノ粒子を生じる。しかし、すべての条件における、ペプチド装填の観点からのカップリング効率は、非常に低いままであった。したがって、N末端リンカー配列を有しないペプチドを使用してカップリングを最適化することは可能ではなかった。
【0228】
(実施例4:免疫寛容誘発性の抗原ペプチド0149、0151、0153、0155、及び0159(N末端リンカーを有する)のペプチドカップリング)
この実験では、HLA-DQ8遺伝子型を有するCeD患者に認められるグルテンタンパク質の抗原エピトープを代表する5つの抗原ペプチド(表13参照)を、PMAcOD-SPION粒子(Topas粒子(TP))にカップリングさせた。この場合には、天然のペプチドエピトープ配列に、2つのArgアミノ酸残基を含むN末端リンカー配列を付加した。
【0229】
この実験では、ペプチド0149の配列は、N末端に2つのArg残基を付加した、先に使用されたペプチド0051の配列と一致する。ペプチド0151の配列は、N末端に2つのArg残基を付加した、先に使用されたペプチド0087の配列と一致する。しかし、カップリングを容易にするためにペプチド0087に付加された最初のグリシンは、ペプチド0151では取り除かれた。ペプチド0155の配列は、N末端に2つのArg残基を付加した、先に使用されたペプチド0078の配列と一致する。最後に、ペプチド0159の配列は、N末端に2つのArg残基を付加した、先に使用されたペプチド0080の配列と一致する。
【0230】
表13:グルテンタンパク質の抗原エピトープのペプチド配列(HLA-DQ8遺伝子型)
【表19】
*等電点
**分子量
【0231】
ペプチドを、ホウ酸/四ホウ酸ナトリウム十水和物(SBB)緩衝液中で、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)化学を使用して、ポリマー表面にカップリングさせた。
【0232】
これについては、30mLの2×SBB(pH9.0、100mM(185.4mg)ホウ酸、100mM(1.14g)四ホウ酸ナトリウム十水和物)を、新しく調製した。EDC溶液(28.76mg/mL(150mM)EDC・HClを含有する水溶液)を、新しく調製した。
【0233】
ペプチド溶液は、表14に記載した通りに、新しく調製した。
【0234】
表14:ペプチド溶液(0149、0151、0153、0155、及び0159)
【表20】
【0235】
さらに、154mM NaCl溶液を、BBraun社から購入し、さらに希釈して50mM NaClとした。ナノ粒子の精製及び濾過のために、100kDa Amicon 50mL回転フィルター及び0.2μm PESフィルターを使用した。
【0236】
以下の反応を、Nalgeneバイアルに準備した。試薬は、以下の順に添加した(表15参照)。
【0237】
この実施例では、実施例2における表3に記載したのと同じ反応条件及び同じモル当量比のEDC/ペプチド(750:150)を使用した(Topasカップリング標準手順)。違いは、反応スケールに関するものであり、この実施例における反応スケールは、実施例2におけるスケールよりも大きい。反応のスケールは、カップリング効率に影響を及ぼさない。
【0238】
表15:ペプチドカップリング条件(TPC0149、TPC0151、TPC0153、TPC0155、及びTPC0159)
【表21】
【0239】
この反応をインキュベートする一方で、100kDa回転フィルターを、50mM NaClで、4200rpmで5分間遠心することによって予洗した。その後、収集管を、完全に空にした。
【0240】
反応混合物を、前処理した回転濾過遠心管に移し、50mM NaCl溶液で希釈して15mLにした。この管を、4200rpmで5分間遠心した。最初の遠心分離サイクル後に2mL未満を含有していたフィルターは、完了したとみなされた。2mL超を含有していたフィルターは、追加の2分間、4200rpmで遠心した。
【0241】
濾液を除去し、残渣を50mM NaClで希釈して15mLにし、前のステップのように遠心した。
【0242】
濾過を、さらに4回繰り返した。最後の3回の繰り返しでは、洗浄は、超純水で実施した(遠心分離4分)。
【0243】
残渣を、無菌0.2μm PESフィルターで濾過し、それに続いて、0.1μmでの濾過を行い、無菌バイアルに移し、TPCを、さらなる特性決定のために、4℃で保管した。
【0244】
次いで、ナノ粒子を、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって分析して、動的光散乱法(DLS)によってメインピークの割合(表16参照)を確認し、粒度分布(表17参照)、BCAアッセイを決定し、GC/MSによってペプチドカップリング効率(表18参照)及びペプチド含有量を定性的に決定し、ペプチドカップリング効率(表19参照)を定性的に決定する。
【0245】
表16:SEC 結果
【表22】
【0246】
表17:DLS(強度)による粒径分布
【表23】
【0247】
表18: BCAアッセイ結果
【表24】
【0248】
表19:GC/MSによるペプチド含有量
【表25】
【0249】
ペプチド0149、0151、0153、0155、及び0159は、PMAcOD-SPION粒子に成功裏にカップリングされた。サイズ排除分析を実施し、凝集量は、およそ12%未満(メインピークおよそ89%)と測定された。DLS測定を利用して、粒度分布及び多分散指数を観察した。観察された流体力学的直径は、30~34nmであり、0.222~0.282のPDI値であった。5つすべてのバッチのペプチド含有量は、1.20mg/mL(0.667mM)~2.39mg/mL(0.879mM)の範囲である。
【0250】
したがって、カップリング効率は、Argアミノ酸残基を含むN末端リンカー配列の付加によって、大きく改善された。
【0251】
(実施例5:抗原ペプチド0151及び0152(N末端リンカーを有する)のペプチドカップリング)
この実験では、HLA-DQ8遺伝子型を有するCeD患者に認められるグルテンタンパク質の抗原エピトープを代表する2つの抗原ペプチド(表14参照)を、PMAcOD-SPION粒子(Topas粒子(TP))にカップリングさせた。この場合には、天然のペプチドエピトープ配列に、1つ及び2つのArgアミノ酸残基を含むN末端リンカー配列を付加した。
【0252】
表14:グルテンタンパク質の抗原エピトープのペプチド配列(HLA-DQ8遺伝子型)
【表26】
*等電点
**分子量
【0253】
ペプチドを、ホウ酸/四ホウ酸ナトリウム十水和物(SBB)緩衝液中で、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)化学を使用して、ポリマー表面にカップリングさせた。
【0254】
これについては、30mLの2×SBB(pH9.0、100mM(185.4mg)ホウ酸、100mM(1.14g)四ホウ酸ナトリウム十水和物)を、新しく調製した。EDC溶液(28.76mg/mL(150mM)EDC・HClを含有する水溶液)を、新しく調製した。
【0255】
ペプチド溶液は、表15に記載した通りに、新しく調製した。
【0256】
表15:ペプチド溶液(0151及び0152)
【表27】
【0257】
さらに、154mM NaCl溶液を、BBraun社から購入し、さらに希釈して50mM NaClとした。ナノ粒子の精製及び濾過のために、100kDa Amicon 50mL回転フィルター及び0.2μm PESフィルターを使用した。
【0258】
以下の反応を、Nalgeneバイアルに準備した。試薬は、以下の順に添加した(表16参照)。
【0259】
この実施例では、実施例2における表3に記載したのと同じ反応条件及び同じモル当量比のEDC/ペプチド(750:150)を使用した(Topasカップリング標準手順)。違いは、反応スケールに関するものである。反応のスケールは、カップリング効率に影響を及ぼさない。
【0260】
表16:ペプチドカップリング条件(TPC0151及びTPC0152)
【表28】
【0261】
この反応をインキュベートする一方で、100kDa回転フィルターを、50mM NaClで、4200rpmで5分間遠心することによって予洗した。その後、収集管を、完全に空にした。
【0262】
反応混合物を、前処理した回転濾過遠心管に移し、50mM NaCl溶液で希釈して15mLにした。この管を、4200rpmで5分間遠心した。最初の遠心分離サイクル後に2mL未満を含有していたフィルターは、完了したとみなされた。2mL超を含有していたフィルターは、追加の2分間、4200rpmで遠心した。
【0263】
濾液を除去し、残渣を50mM NaClで希釈して15mLにし、前のステップのように遠心した。
【0264】
濾過を、さらに4回繰り返した。最後の3回の繰り返しでは、洗浄は、超純水で実施した(遠心分離4分)。
【0265】
残渣を、無菌0.2μm PESフィルターで濾過し、それに続いて、0.1μmでの濾過を行い、無菌バイアルに移し、TPCを、さらなる特性決定のために、4℃で保管した。
【0266】
次いで、ナノ粒子を、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって分析して、動的光散乱法(DLS)によってメインピークの割合(表17参照)を確認し、粒度分布(表18参照)及びBCAアッセイを決定し、ペプチドカップリング効率を定性的に決定する。
【0267】
表17:SEC結果
【表29】
【0268】
表18:DLS(強度)による粒径分布
【表30】
【0269】
表19:BCAアッセイ結果
【表31】
【0270】
ペプチド0151及び0152は、PMAcOD-SPION粒子(TP)に成功裏にカップリングされた。簡単に言うと、サイズ排除分析を実施し、メインピークは、およそ16%未満と測定された。DLS測定を利用して、粒度分布及び多分散指数を観察した。観察された流体力学的直径は、およそ30nmであり、0.222~0.234のPDI値であった。ペプチド含有量を、BCAアッセイを介して数量化した。得られた結果は、2つのArgアミノ酸残基を有するプローブ(TPC0151)について1.20mg/mL、及び1つのArgアミノ酸残基を有するプローブ(TPC0152)について1.06mg/mLであった。
【0271】
したがって、カップリング効率は、1つ及び2つのArgアミノ酸残基を含むN末端リンカー配列の付加によって、大きく改善されたのに対して、2つのArgアミノ酸残基の付加は、1つのみのアミノ酸残基を有するプローブと比較して、さらに高いカップリング効率を示した。
【0272】
(実施例6:1つ又は2つのN末端アルギニンで修飾されたCD4及びCD8 T細胞エピトープの機能性検証)
CD4及びCD8 T細胞エピトープが、N末端で1つ又は2つのアルギニンで伸長された場合に、そのアゴニスト特性を保持することを実証するために、実験を実施した。
【0273】
N末端が修飾されたペプチド又は修飾されていないペプチドと結合させたTPCの機能特性を、インビトロT細胞活性化アッセイにおいて検証した。オボアルブミン由来の外因性ペプチドの例、及び自己抗原ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)由来のペプチドの例を使用して、これらのペプチドに対する特異性を有する受容体を発現しているT細胞が、R及びRR修飾ペプチドとそれぞれの修飾されていないペプチドに、同様に応答することが可能であることが示された。
【0274】
これらのペプチドを、実施例2に記載された手順に従って、ナノ粒子とカップリングさせ、特性決定を行った。表20、21、22、及び23は、カップリングパラメータ及び分析データをまとめて示す。
【0275】
表20:ペプチド配列
【表32】
*等電点
**分子量
【0276】
表21:ペプチド溶液
【表33】
【0277】
表22:ペプチドカップリング条件
【表34】
【0278】
表23:分析結果
【表35】
【0279】
N末端が修飾されたペプチド又は修飾されていないペプチドと結合させたTPCの機能特性を、インビトロT細胞活性化アッセイにおいて検証した。下の図12~14に表されたすべてのデータは、増殖性T細胞活性化の読み出し値としてのインターフェロンγ(IFNγ)の濃度を示す。
【0280】
(CD8 T細胞エピトープ)
OVA257-264「SIINFEKL」に特異的なトランスジェニックT細胞受容体を発現するOT-1マウスのプールされた脾臓及びリンパ節細胞から、単細胞懸濁液を調製した。平底96ウェルプレートのウェルあたり5×105個の細胞を、溶液中の又はTPC結合体としての調節された量の指示されたペプチドと共にインキュベートした。3日の培養後、上清を回収し、使用まで-80℃で保管した。上清を、標準の酵素結合免疫吸着測定法(ELISA、R&D Systems社)を使用して、IFNγについて測定した。IFNγ濃度は、製造者の指示に従って、検量線から決定した。
【0281】
図12は、CD8 T細胞エピトープを代表するペプチドが、1つ又は2つのN末端アルギニンを伴って、そのアゴニスト特性を保持することを実証する。
【0282】
(CD4 T細胞エピトープ)
OVA323-339に特異的なトランスジェニックT細胞受容体を発現するOT-2マウスのプールされた脾臓及びリンパ節細胞から、単細胞懸濁液を調製した。平底96ウェルプレートのウェルあたり5×105個の細胞を、溶液中の又はTPC結合体としての調節された量の指示されたペプチドと共にインキュベートした。3日の培養後、上清を回収し、使用まで-80℃で保管した。上清を、標準の酵素結合免疫吸着測定法(ELISA、R&D Systems社)を使用して、IFNγについて測定した。IFNγ濃度は、製造者の指示に従って、検量線から決定した。
【0283】
図13は、CD4 T細胞エピトープを代表するペプチドが、1つ又は2つのN末端アルギニンを伴って、そのアゴニスト特性を保持することを実証する。
【0284】
(CD4 T細胞自己抗原エピトープ)
MOG35-55に特異的なトランスジェニックT細胞受容体を発現する2D2マウスのプールされた脾臓及びリンパ節細胞から、単細胞懸濁液を調製した。これらのT細胞及びこのペプチドは、ヒト自己免疫疾患の多発性硬化症のモデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)のマウスモデルにおける自己免疫応答に役立つ。
【0285】
平底96ウェルプレートのウェルあたり5×105個の細胞を、溶液中の又はTPC結合体としての調節された量の指示されたペプチドと共にインキュベートした。3日の培養後、上清を回収し、使用まで-80℃で保管した。上清を、標準の酵素結合免疫吸着測定法(ELISA、R&D Systems社)を使用して、IFNγについて測定した。IFNγ濃度は、製造者の指示に従って、検量線から決定した。
【0286】
図14は、CD4 T細胞自己抗原エピトープを代表するペプチドが、1つ又は2つのN末端アルギニンを伴って、そのアゴニスト特性を保持することを実証する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【手続補正書】
【提出日】2024-03-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
2024520699000001.app
【国際調査報告】