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特表2024-520701眼科薬の長期放出薬物送達システムおよび使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】眼科薬の長期放出薬物送達システムおよび使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/10 20060101AFI20240517BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20240517BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240517BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240517BHJP
   A61K 47/08 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
A61K9/10
A61K47/24
A61K47/42
A61K47/36
A61K47/14
A61K47/12
A61K45/00
A61K47/26
A61K47/40
A61P27/02
A61P43/00 123
A61K47/22
A61K47/10
A61K47/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574610
(86)(22)【出願日】2022-06-01
(85)【翻訳文提出日】2024-01-31
(86)【国際出願番号】 US2022031777
(87)【国際公開番号】W WO2022256412
(87)【国際公開日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】63/195,697
(32)【優先日】2021-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/281,052
(32)【優先日】2021-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523453101
【氏名又は名称】アイディア バイオ,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100133765
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 尚志
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア,アンドレス
(72)【発明者】
【氏名】リウ,シュンペイ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA22
4C076BB11
4C076BB24
4C076BB32
4C076CC10
4C076DD37
4C076DD40
4C076DD41
4C076DD44
4C076DD45
4C076DD59
4C076DD63
4C076DD68
4C076EE30
4C076EE39
4C076EE41
4C076FF31
4C076FF68
4C084AA17
4C084MA23
4C084MA58
4C084NA12
4C084NA15
4C084ZA33
(57)【要約】
本明細書に記載されているのは、様々な原薬を眼内および眼の周辺に送達するための治療用組成物および使用方法であって:1種または複数の複合体形成剤微粒子と非共有結合的に相互反応して、原薬-複合体微粒子を形成する原薬を含み、原薬-複合体微粒子が、疎水性分散媒内で混和され、これにより安定な多相コロイド懸濁液が集合的に形成され、これが、眼科薬送達のための長期放出薬物送達システムとしての機能を果たす、治療用組成物および使用方法である。多相コロイド懸濁液中の原薬の配合物は、眼内および眼の周辺に投与されて、再処置を必要とせずに、眼組織内における治療レベルの原薬の徐放性を1カ月または複数月にわたり生成し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒に混和された原薬および1種または複数の複合体形成剤を含む、多相コロイド懸濁液の組成物。
【請求項2】
薬剤放出の1つまたは複数の相の放出プロファイルを有する分散媒に混和された原薬および1種または複数の複合体形成剤を含む多相コロイド懸濁液の組成物であって、1種または複数の複合体形成剤が、原薬への非共有結合による可逆的結合によって原薬-複合体微粒子を形成する不規則形状の微粒子として配合され、脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物、荷電リン脂質、荷電タンパク質、リボ核酸および多糖の1つであり、さらに、分散媒が、飽和脂肪酸メチルエステル、不飽和脂肪酸メチルエステル、飽和脂肪酸エチルエステル、不飽和脂肪酸エチルエステルの少なくとも1つを含む疎水性液体油である、組成物。
【請求項3】
薬剤放出の1つまたは複数の相の放出プロファイルを有する分散媒に混和された原薬および1種または複数の複合体形成剤を含む多相コロイド懸濁液の組成物であって、1種または複数の複合体形成剤が、原薬への非共有結合による可逆的結合によって原薬-複合体微粒子を形成する不規則形状の微粒子として配合され、脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物、荷電リン脂質、荷電タンパク質、リボ核酸および多糖の1つであり、さらに、原薬が、小分子、小型ポリペプチド、タンパク質、アプタマー、核酸医薬、疎水性化学物質および親水性化学物質の1つを含み;さらに、分散媒が、飽和脂肪酸メチルエステル、不飽和脂肪酸メチルエステル、飽和脂肪酸エチルエステル、不飽和脂肪酸エチルエステルの少なくとも1つを含む疎水性液体油である、組成物。
【請求項4】
1種または複数の複合体形成剤が、原薬への非共有結合による可逆的結合によって原薬-複合体微粒子を形成することが可能であり、脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物、荷電リン脂質、荷電タンパク質、リボ核酸および多糖の1つである、不規則形状の微粒子として配合される化学物質である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
1種または複数の複合体形成剤が、CH3(CH2)COOHの化学式(式中、nは4から30に等しい)を有する脂肪族鎖を有するカルボン酸を含み、飽和または不飽和である、及び塩またはエステルである、脂肪酸であり、また、パルミチン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、パルミチン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウムの1つまたは複数を含む、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
1種または複数の複合体形成剤が、ケト-エノール互変異性体を形成し得、ケトンまたはアルデヒドからなるケト形とエノール形との間における化学平衡を受けることが可能である有機化合物を含み、フェノール化合物、トコフェロール化合物、キノン化合物、リボ核酸化合物の1つまたは複数を含む微粒子複合体形成剤である、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
1種または複数の複合体形成剤が、荷電リン脂質であり、アニオン性リン脂質、レシチン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、正電荷を有する合成リン脂質およびDLin-MC3-DMAの1つまたは複数を含む微粒子複合体形成剤である、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
1種または複数の複合体形成剤が、正または負の荷電タンパク質であり、アルブミン、合成ポリペプチド、血漿タンパク質、アルファ2-マクログロブリン、フィブリンおよびコラーゲンの1つまたは複数を含む微粒子複合体形成剤である、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
1種または複数の複合体形成剤が、リボ核酸、5-炭素糖、リン酸基および窒素塩基を含むヌクレオチドを含むバイオポリマー高分子の1つまたは複数である微粒子複合体形成剤である、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
1種または複数の複合体形成剤が、グリコシド結合により一緒に結合しているモノサッカリド単位を含む長鎖ポリマー炭水化物を含む多糖であり、環状多糖分子、シクロデキストリンおよび包摂化合物の1つまたは複数を含む、微粒子複合体形成剤である、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
原薬が、非共有結合性複合体を微粒子複合体形成剤と形成し、小分子、小型ポリペプチド、タンパク質、アプタマー、核酸医薬、疎水性化学物質および親水性化学物質の1つを含む、請求項1から10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
原薬が、式(I):
R’-R(I)
(式中、R’は、切断可能な結合を経由して、非共有結合性複合体を5種の分類の複合体形成剤の1つと形成する共役部分であるRに共有結合で連結しているいずれかの有効活性成分(API)であり、ならびにR’およびRを連結する共有結合は、酵素切断、触媒、加水分解または他の反応により除去して、遊離API R’および共役部分Rを得ることができ、Rが:
C4~C30脂質部分(脂肪酸または脂肪族アルコール)、
C4~C30直鎖もしくは分枝脂肪族部分、
2-merから30-merのペプチド部分、
Peg化部分、または
炭水化物部分から選択される)のプロドラッグである、請求項1から10のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
切断可能な共有結合が、エステル結合、ヒドラゾン結合、イミン結合、ジスルフィド結合、チオエステル結合、チオエーテル結合、リン酸エステル結合、ホスホン酸エステル結合、ボロン酸エステル結合、アミド結合、カルバミン酸エステル結合、カルボン酸エステル結合および炭酸エステル結合の1つを含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
共役部分Rが、先行するリンカー部分の有無を問わず、tert-ブチルアルコール、tert-アミルアルコール、3-メチル-3-ペンタノール、1-ヘプタノール(エナントアルコール)、1-オクタノール(カプリルアルコール)、1-ノナノール(ペラルゴンアルコール)、1-デカノール(デシルアルコール、カプリンアルコール)、ウンデシルアルコール(1-ウンデカノール、ウンデカノール、ヘンデカノール)、ドデカノール(1-ドデカノール、ラウリルアルコール)、トリデシルアルコール(1-トリデカノール、トリデカノール、イソトリデカノール)、1-テトラデカノール(ミリスチルアルコール)、ペンタデシルアルコール(1-ペンタデカノール、ペンタデカノール)、1-ヘキサデカノール(セチルアルコール)、cis-9-ヘキサデセン-1-オール(パルミトレイルアルコール)、ヘプタデシルアルコール(1-n-ヘプタデカノール、ヘプタデカノール)、1-オクタデカノール(ステアリルアルコール)、1-オクタデセノール(オレイルアルコール)、1-ノナデカノール(ノナデシルアルコール)、1-エイコサノール(アラキジルアルコール)、1-ヘンエイコサノール(ヘンエイコシルアルコール)、1-ドコサノール(ベヘニルアルコール)、cis-13-ドコセン-1-オール(エルシルアルコール)、1-テトラコサノール(リグノセリルアルコール)、1-ペンタコサノール、1-ヘキサコサノール(セリルアルコール)、1-ヘプタコサノール、1-オクタコサノール(モンタニルアルコール、クルイチルアルコール)、1-ノナコサノール、1-トリアコンタノール(ミリシルアルコール、メリシルアルコール)の1つまたは複数を含む脂肪族アルコールである、請求項12または13に記載の組成物。
【請求項15】
共役部分Rが、先行するリンカー部分の有無を問わず、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、(9Z)-ヘキサデセン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン酸、(9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-9,12,15-トリエン酸、(6Z,9Z,12Z)-オクタデカ-6,9,12-トリエン酸、(5E,9E,12E)-オクタデカ-5,9,12-トリエン酸、(6Z,9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-6,9,12,15-テトラエン酸、(Z)-オクタデカ-9-エン酸、(11E)-オクタデカ-11-エン酸、(E)-オクタデカ-9-エン酸、ノナデカノン酸およびエイコサン酸の1つまたは複数を含む脂肪酸である、請求項12または13に記載の組成物。
【請求項16】
Rが、先行するリンカー部分の有無を問わず、アニオン性、カチオン性または中性の1つであり、ポリ-グルタメート、ポリ-アスパルテートまたはグルタメートおよびアスパルテートの組合せ;ポリ-アルギニン、ポリ-リジン、ポリ-ヒスチジン、アルギニンおよびリジンの組合せ、アルギニンおよびヒスチジンの組合せ、ヒスチジンおよびリジンの組合せまたはアルギニン、ヒスチジンおよびリジンの組合せの1つまたは複数を含む天然または合成アミノ酸を含む2-merから約30-merのペプチド部分であり;ペプチド部分が、ポリエチレングリコール(PEG)基を付加するための1つまたは複数のPEG化部分を有し;ペプチド部分が、グリコシル化を含む糖または炭水化物分子の付加による修飾のための1つまたは複数の部分を有する、請求項12または13に記載の組成物。
【請求項17】
Rが、直鎖状、分枝状、Y-字型もしくは多分岐ジオメトリーのPEGポリマーを含むポリエチレングリコール(PEG)ポリマー、Peg化ペプチドまたはPeg化スクシネートの1つである、請求項12または13に記載の組成物。
【請求項18】
Rが、先行するリンカー部分の有無を問わず、グルコース、ガラクトース、ラクトース、マンノース、リボース、フコース、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルグルコサミン、N-アセチレンウラミン酸、またはグルコース、ガラクトース、ラクトース、マンノース、リボース、フコース、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルグルコサミンおよびN-アセチレンウラミン酸のエピマーもしくは誘導体の1つまたは複数を含む、2から20個の糖の炭水化物を含む炭水化物部分である、請求項12または13に記載の組成物。
【請求項19】
R’がAPIであり、Rが、複数のAPIに共有結合で連結して、プロドラッグのダイマーまたはマルチマーを形成するリンカーまたは多量体化ドメインであり、nが2から約100に等しく、Rが、PEG、PEGポリマー、ポリビニルアルコール(PVA)またはペプチドの1つである、請求項12に記載の組成物。
【請求項20】
分散媒が、飽和脂肪酸メチルエステル、不飽和脂肪酸メチルエステル、飽和脂肪酸エチルエステル、不飽和脂肪酸エチルエステルの少なくとも1つを含む疎水性油を含む多相コロイド懸濁液を形成することが可能である液体油である、請求項1から19のいずれかに記載の組成物。
【請求項21】
分散媒が、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、ペンタン酸メチル、ヘキサン酸メチル、ヘプタン酸メチル、オクタン酸メチル、ノナン酸メチル、デカン酸メチル、ウンデカン酸メチル、ドデカン酸メチル(ラウリン酸メチル)、トリデカン酸メチル、テトラデカン酸メチル、メチル9(Z)-テトラデセノエート、ペンタデカン酸メチル、ヘキサデカン酸メチル、ヘプタデカン酸メチル、オクタデセン酸メチル、ノナデカン酸メチル、エイコサン酸メチル、ヘンエイコサン酸メチル、ドコサン酸メチル、トリコサン酸メチルなどの1つまたは複数を含む飽和脂肪酸メチルエステルを含む、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
分散媒が、メチルエステルメチル10-ウンデセノエート、メチル11-ドデセノエート、メチル12-トリデセノエート、メチル9(E)-テトラデセノエート、メチル10(Z)-ペンタデセノエート、メチル10(E)-ペンタデセノエート、メチル14-ペンタデセノエート、メチル9(Z)-ヘキサデセノエート、メチル9(E)-ヘキサデセノエート、メチル6(Z)-ヘキサデセノエート、メチル7(Z))-ヘキサデセノエート、メチル11(Z)-ヘキサデセノエートの1つまたは複数を含む不飽和脂肪酸メチルエステルを含む、請求項20に記載の組成物。
【請求項23】
分散媒が、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、ペンタン酸エチル、ヘキサン酸エチル、ヘプタン酸エチル、オクタン酸エチル、ノナン酸エチル、デカン酸エチル、ウンデカン酸エチル、ドデカン酸エチル(ラウリン酸エチル)、トリデカン酸エチル、テトラデカン酸エチル、エチル9(Z)-テトラデセノエート、ペンタデカン酸エチル、ヘキサデカン酸エチル、ヘプタデカン酸エチル、オクタデセン酸エチル、ノナデカン酸エチル、エイコサン酸エチル、ヘンエイコサン酸エチル、ドコサン酸エチル、トリコサン酸エチルの1つまたは複数を含む飽和脂肪酸エチルエステルを含む、請求項20に記載の組成物。
【請求項24】
分散媒が、エチル10-ウンデセノエート、エチル11-ドデセノエート、エチル12-トリデセノエート、エチル9(E)-テトラデセノエート、エチル10(Z)-ペンタデセノエート、エチル10(E)-ペンタデセノエート、エチル14-ペンタデセノエート、エチル9(Z)-ヘキサデセノエート、エチル9(E)-ヘキサデセノエート、エチル6(Z)-ヘキサデセノエート、エチル7(Z))-ヘキサデセノエート、エチル11(Z)-ヘキサデセノエートの1つまたは複数を含む不飽和脂肪酸エチルエステルを含む、請求項20に記載の組成物。
【請求項25】
分散媒に混和されて、予め特定された原薬の放出速度および量に合う原薬および1種または複数の複合体形成剤を含む多相コロイド懸濁液の組成物を設計する方法であって、様々な結合能およびKdを有する様々な原薬-複合体微粒子の比および量を変動するステップを含む、方法。
【請求項26】
様々な結合能およびKdを有する様々な原薬-複合体微粒子の比および量を変動するステップが、高い結合能、および微粒子複合体形成剤に対する原薬の親和性が低いことを指し示す高いKdを有する原薬-複合体微粒子を添加して、放出の速度の短期的上昇、または初期バーストを作り出すステップを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
高い結合能、および微粒子複合体形成剤に対する原薬の親和性が高いことを指し示す低いKdを有する原薬-複合体微粒子を添加することにより、インプラントから原薬を放出する持続時間を延長するステップをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
眼注入用の原薬-多相コロイド懸濁液を、流動性のボーラスインプラント、原薬-多相コロイド懸濁液で満たした侵食性もしくは非生体内侵食性チューブインプラント、または特定の大きさおよび形状の、また、インプラント治療のために構成された固体モールド中で作られた原薬-多相コロイド懸濁液の1つとして配合するステップをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
眼の障害および疾患を処置する方法であって、原薬-多相コロイド懸濁液が、眼内および眼の周辺において、以下の組織区画の1つ中に、硝子体液、房水中、脈絡膜上腔中、網膜下、結膜下、テノン嚢下、または眼窩組織中に投与されて、眼組織内における治療レベルの原薬の徐放性を1カ月または複数月にわたり生成する、方法。
【請求項30】
高度に持続させた実薬の網膜および網膜色素上皮(RPE)組織レベルを生成する長期放出薬物送達システムの配合物の硝子体内または眼周囲注入により、対象における視力喪失を処置する方法であって、
長期放出薬物送達システムと組み合わせたプロドラッグである原薬を、処置のスタート時に、対象の眼の中に送達するステップ、
対象の眼におけるエステラーゼまたは生物活性酵素の作用により、プロドラッグを切断して、第1の相の間にバースト相放出速度で、プロドラッグの有効活性成分(API)を眼の中に放出するステップ、および
エステラーゼまたは生物活性酵素の作用により、プロドラッグを切断して、第2の相の間に定常状態の投与速度で、APIを眼の中に放出するステップを含み、バースト相速度が定常状態の放出速度を超え、さらに第1の相が、処置のスタートから約2~6週間にわたり延長し、後続の相が第1の相の終わりから1カ月または複数月にわたり延長する、方法。
【請求項31】
高度に持続させた実薬の網膜およびRPE組織レベルを生成する長期放出薬物送達システムの配合物の硝子体内または眼周囲注入により、対象における網膜神経感覚上皮および/または網膜色素上皮(RPE)の萎縮の発症を防止する、または萎縮の進展を遅くする方法であって、
長期放出薬物送達システムと組み合わせた有効活性成分(API)のプロドラッグである原薬を、処置のスタート時に、対象の眼の中に送達するステップ、
対象の眼におけるエステラーゼまたは生物活性酵素の作用により、プロドラッグを切断して、第1の相の間にバースト相放出速度で、APIを眼の中に放出するステップ、および
エステラーゼまたは生物活性酵素の作用により、プロドラッグを切断して、第2の相の間に定常状態の投与速度で、APIを眼の中に放出するステップを含み、バースト相速度が定常状態の放出速度を超え、さらに第1の相が、処置のスタートから約2~6週間にわたり延長し、後続の相が第1の相の終わりから1カ月または複数月にわたり延長する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の請求
本特許出願は、2021年6月1日に出願された、「INTRAVITREAL MITOCHONDRIAL-TARGETED PEPTIDE PRODRUGS AND METHODS OF USE」と題した米国仮特許出願第63/195,697号、および2021年11月18日に出願された、「INTRAVITREAL CORTICOSTEROID EXTENDED RELEASE IMPLANT AND METHODS OF USE」と題した米国仮特許出願第63/281,052号に対する優先権を請求し、これらのそれぞれは、本明細書において参照によりその全体が組み込まれる。
【0002】
参照による組み込み
本明細書で言及されるすべての公報および特許出願は、個々の公報または特許出願それぞれが、参照により組み込まれると具体的かつ個々に指し示されているのと同程度に、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
長期放出薬物送達システム(XRDDS)は、具体的な投与経路用の特定の治療目標に最適化した薬剤放出動態を調節する手法において、特定の原薬の設計、製造および投与に使用されるデバイス、組成物、配合物または他のシステムを含む。
【0004】
いくつかのXRDDSが開発され、眼内および眼の周辺における薬物送達のために用いられているが、これらのシステムには、あるタイプの原薬のみに対する適合性の限定、薬剤ペイロードの急激および過剰な放出(すなわち「ダンピング(dump)」)、最適以下の速度または量(すなわち、不十分または治療量以下の薬剤放出)、または最適以下の薬剤放出の持続時間(すなわち、短すぎるまたは長すぎる持続時間)を含めて限界がある。
【0005】
現在利用できる眼のXRDDSは、特定の動態的薬剤放出プロファイルをカスタマイズする限定された能力しか有さない。大多数はゼロ次(すなわち直線的)放出動態を示すが、短い直線的放出、続いて短い過剰な逆行性放出(excessive recessive release)または残った原薬すべての「ダンピング」を示し得るもの(具体的には急激な過剰放出を示すもの)もある。しかし、カスタマイズ可能な、また、2相の放出動態および3相の放出動態を含む異なる放出の動態を備えることができるXRDDSの需要はある。例えば、多くの眼の疾患、例えば湿性加齢性黄斑変性(AMD)および糖尿病性黄斑浮腫(DME)は、既存の疾患発現を処置および無効化するために薬剤のより多くの初期投与量を必要とし、続いて薬剤の投与量を減少させて疾患再発を防止するので、これらの疾患は2相放出動態に理想的である。
【0006】
網膜のいくつかの疾患、例えば乾性加齢性黄斑変性(AMD)、ならびに視神経、ブドウ膜および前眼部の疾患を含むいくつかの眼の疾患には、限定された治療しかない、または有効な治療がないが、一部では眼に対する徐放性薬物送達のための有効および多目的技術がないことがその理由である。
【0007】
湿性AMD、糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫(DME)および網膜静脈閉塞(RVO)などの疾患では、有効な治療法は、硝子体内の抗VEGF薬剤および副腎皮質ステロイドの形態で利用できるが、これらの薬剤は、最適な処置結果を達成するために1~2カ月おきに投与されなければならない。このことは、罹患した患者およびその介護者、ならびに処置医に著しい処置の負担をもたらす。これは、利用できる処置の効能にかかわらず、最終的に処置不足または不十分処置、結果として、高い割合の罹患した患者で最適以下の視力(すなわち、限定された視力向上または視力喪失)につながる。
【0008】
病的状態、例えば緑内障では、局所点眼薬(topical eyedrop drugs)は、眼圧を低下させるのに、また、関連する視力喪失の危険性を低下させるのに有効である。しかし、自己投与に対する服薬遵守の不備および間欠的投与により、罹患した患者に対して処置不足および最適以下の結果が引き起こされる。
【発明の概要】
【0009】
したがって、小分子、抗体、生物製剤、大型タンパク質、ペプチドおよび治療利益を達成するために望ましい薬剤放出の動態および持続時間を達成するのにカスタマイズ可能なものを含む、多彩な薬剤のタイプと適合する薬物送達の徐放性のための新たな、かつ有効な多目的技術を提供することがきわめて望ましい。
【0010】
長期放出薬物送達システム(XRDDS)は、特定の治療目標に、および具体的な投与経路に最適化した薬剤放出動態を調節する手法における特定原薬の設計、製造および投与に使用される組成物、配合物、デバイスおよび/またはシステムを含む。
【0011】
本明細書に記載されているのは、様々な原薬を眼内および眼の周辺に送達する、多目的長期放出薬物送達システム(XRDDS)のための組成物、ならびに作成および使用方法であって:1種または複数の複合体形成剤微粒子と非共有結合的に相互反応して、原薬-複合体微粒子を形成する原薬を含み、原薬-複合体微粒子が、疎水性分散媒内で混和され、これにより安定な多相コロイド懸濁液が集合的に形成される、組成物、ならびに作成および使用方法である(図1)。
【0012】
本明細書の原薬は、様々な小型ポリペプチド、タンパク質、アプタマー、他の核酸医薬、疎水性化学物質、親水性化学物質および治療目的に使用される他の化合物を含み得、これらは、6種の分類の複合体形成剤:脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物、荷電リン脂質、荷電タンパク質、リボ核酸および多糖の1つ;ならびに切断可能な共有結合を経由して共役部分に連結するいずれかの有効活性成分(API)のプロドラッグへの非共有結合性複合体を直接的に形成することが可能であり、共役部分は、6種の分類の複合体形成剤の1つ:脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物、荷電リン脂質、荷電タンパク質、リボ核酸および多糖と複合体を形成する。
【0013】
共役部分は、APIに共有結合し得るいずれかの化学物質であり得る。ある共役部分は、ネイティブAPIが実証しない性質を備える能力、とりわけ可逆的非共有結合性複合体を複合体形成剤と形成する能力について選択され得る。
【0014】
複合体は、原薬と複合体形成剤との間における非共有結合性相互反応と定義される。
複合体形成剤は、大きさ1ナノメートル(nm)から1000マイクロメートル(μm)の範囲の、不規則に形作られた微粒子として配合される化学物質と定義され;既知量の複合体形成剤に結合する原薬の量と定義される、選択された原薬の測定可能な結合能を実証し;特定の分散媒内の測定可能な非結合-結合比、またはKdと定義される薬剤結合の可逆性を実証し;以前に公知ではなく、または複合体を選択された原薬と形成すると予想されない化学物質である。原薬の複合体形成剤への結合は、直接的に、またはプロドラッグでは共役部分を経由して、原薬-複合体微粒子の形成を引き起こす。医薬品産業に利用される添加剤および賦形剤を含むある周知の化学物質は、不規則な微粒子として配合された場合、様々な原薬に対して複合体形成剤としての役割を果たす、これまでに知られておらず、想定外の性質を実証する。これらは、不規則に形作られた微粒子として配合された場合、様々な原薬に対して複合体形成剤としての役割を果たす、これまでに知られていない6種の分類の化学物質:脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物、荷電リン脂質、荷電タンパク質、リボ核酸および多糖を含む。
【0015】
本明細書で使用されている、原薬に対する具体的な複合体形成剤は、溶解した個々の分子と対照的に、これまでに知られていない、または予想されない性質を表す、ステアリン酸マグネシウム、レシチン、アルブミン、シクロデキストリンなどの不規則な微粒子配合物を含む。
【0016】
分散媒は、コロイド混合物に利用されるビヒクルである。本明細書では、分散媒は、4種の分類、飽和脂肪酸メチルエステル、不飽和脂肪酸メチルエステル、飽和脂肪酸エチルエステルまたは不飽和脂肪酸エチルエステルのうちから選択される疎水性の粘性油状物と定義され、原薬-複合体微粒子と混和した場合、原薬多相コロイド懸濁液を形成し得、多相コロイド懸濁液を、選択された原薬および選択された複合体形成剤と形成することは、これまでに知られていない。
【0017】
コロイド懸濁液は、微粒子の移行または沈降がない微粒子の安定な分散を形成し得る粘性、流動性の注入可能な液体(すなわち、コロイド混合物)である配合物を含む。
多相コロイド懸濁液を含有することは、原薬が少なくとも2つの相:遊離した非結合原薬および複合体形成剤に結合した原薬(ならびにさほど重要ではないが、薬剤-薬剤凝集物)に存在するコロイド懸濁液を指す。原薬-複合体微粒子は、微粒子が分散媒中で混和される場合、原薬の貯蔵所として働く。
【0018】
したがって、原薬多相コロイド懸濁液は、移行または沈降がない安定的に分散した原薬-複合体微粒子を生じる粘性、流動性の注入可能な液体を含み得、これにより、遊離原薬が原薬-複合体微粒子から解離して、分散媒中の遊離原薬濃縮物を作り出すことが可能になり得;原薬は、多相コロイド懸濁液システムを通してインプラントを出て、隣接した眼の生理学的環境へと自由に拡散できる。原薬がプロドラッグである場合、プロドラッグが眼の生理学的環境に曝露すると、共役部分に連結する共有結合は切断され、遊離APIを放出する。
【0019】
原薬多相コロイド懸濁液により、薬物送達システムが可能になるが、その理由は、微粒子が結合した原薬の貯蔵所であり、各々が特有の結合能およびKd(非結合-結合比)を有し、これにより、続いて分散媒中の遊離原薬の複合体量が決定されるためである。各原薬-複合体微粒子のKdおよび結合能の知識を使用して、システムにおける遊離原薬の合計量を計算でき、これにより、続いて放出の速度および量が決定される(図2)。様々な原薬-複合体微粒子の相対比および量は、システム内に計算できる非結合遊離原薬を作り出す手法で調整され得る。インプラントの耐用期間にわたる、システム内における非結合遊離原薬の動的な変化は、原薬多相コロイド懸濁液内の原薬-複合体微粒子の結合能およびKdにより決定される。
【0020】
本明細書に記載されている方法および組成物では、原薬多相コロイド懸濁液は、太さ20-ゲージから30-ゲージの針(用途に応じて)を介して注入可能であり、インプラントの耐用時間の持続時間(1から12カ月)にわたり眼の生理学的環境に曝露した場合、移行または沈降がない微粒子の安定な分散体が得られる。眼の生理学的環境は、硝子体で通常見出される酵素およびタンパク質を含有する、37℃のリン酸緩衝生理食塩水(または類似の水性溶媒)を用いた(硝子体中への注入を表す)、または、血漿を含有する37℃のリン酸緩衝生理食塩水を用いた(様々な眼周囲組織中への注入を表す)in vitro状態と定義される。あるいは、眼の生理学的環境は、インプラントのin vivoでの、硝子体中または眼周囲組織中への注入を表し得る。
【0021】
原薬多相コロイド懸濁液は、眼の生理学的環境に曝露した場合、生分解性の性質も表し、生分解性は、分散媒の溶解により発生する。生分解の速度は、眼の生理学的環境における分散媒の溶解度に比例する。より高い溶解度を有する分散媒は、眼の生理学的環境に曝露した場合、多相コロイド懸濁液のより速い生分解を可能にする一方、より低い溶解度を有する分散媒は、眼の生理学的環境に曝露した場合、多相コロイド懸濁液のより遅い生分解を可能にする。原薬多相コロイド懸濁液のこの性質は、眼の生理学的環境におけるインプラントの耐久性を判定するために注入されたインプラントの体積と共に使用できる。
【0022】
多相コロイド懸濁液中の原薬の配合物(図1)は、インプラントといわれ、眼内および眼の周辺、すなわち硝子体液中、房水中、脈絡膜上腔中、網膜下、結膜下、テノン嚢下、眼窩組織中に投与されて、様々な疾患および障害の処置に望ましい持続時間(1から12カ月)にわたり、眼組織内における放出の望ましい動態(図3)のために、原薬の治療レベルの徐放性を生成し得る。
【0023】
本明細書に記載されている長期放出薬物送達システム(XRDDS)は、1種または複数の微粒子複合体形成剤と混和されて、「薬剤-複合体」微粒子を形成する原薬からなり、この微粒子は、選択された分散媒内で組み合わせられ、分散して、安定な多相コロイド懸濁液を形成する(図1)。
【0024】
コロイドは、微粒子物質が、分散媒といわれるビヒクル内に安定的に分散しているが、沈降または移行しない混合物である。これは、コロイドを、粒子が重力のため懸濁液ビヒクル内に沈降している懸濁液と区別する。コロイドについての典型的な微粒子の大きさは、ナノメートルの範囲内である。コロイドにおいての、混合物の決定的特性は、微粒子が、沈降または移行を最小限にとどめ、安定的に分散したままでいることである。微粒子が液体に分散しているコロイド混合物は、「ゾル」といわれる。微粒子が固体または半固体に分散しているコロイド混合物は、「固体コロイド」といわれる。微粒子が粘性半固体または固体分散媒に安定的に分散しているコロイド混合物は、規定された名称が与えられていない。本明細書では、本発明者らは、安定的に分散している微粒子を「コロイド懸濁液」と言及する。本明細書に記載されている方法および組成物では、分散媒は、安定なコロイド懸濁液を促進する疎水性分散媒であり得る。原薬多相コロイド懸濁液は、原薬が、遊離薬剤、薬剤-薬剤凝集物、および最も重要なことには、複合体形成剤微粒子に非共有結合的に結合している薬剤を含む1つ超の相に存在する懸濁液である。
【0025】
複合体形成は、2つの物理化学的状況で発生する。1つのケースでは、複合体形成は、個々の分子間における非共有結合による相互反応(例えば、受容体-リガンド相互反応)で発生する。このタイプの複合体形成は分子複合体形成といわれ、本組成物では想定されない。
【0026】
第2の状況は、化学物質の分子、本ケースでは薬剤の分子に関与し、この分子は、微粒子、本ケースでは複合体形成剤の表面に非共有結合的に結合または吸着する。このタイプの複合体形成は、微粒子複合体形成といわれる。異なる微粒子吸着剤または複合体形成剤は、微粒子の大きさおよび形状、微粒子の表面に存在する官能基、ならびに表面の凹凸および多孔度に基づく異なる吸着性を有する。微粒子複合体形成の有用性は、以下を含む他の学問領域で把握されている、土壌学、化学吸着剤(例えば、アルミナ、シリカゲル、活性炭)は、土壌中の特定の化学物質(多くは異物)と相互反応する;炭化水素産業、吸着剤(例えば、ポリプロピレン、バーミキュライト、パーライト、ポリエチレンなど)が、油漏れを清掃するために、または残留した油を削孔装置およびフラッキング設備から除去するために使用される;ならびに、産業用コーティング(例えば、ゼオライト、シリカゲル、リン酸アルミニウム)、吸着剤は、様々な目的(すなわち、潤滑、表面冷却)のために化学物質を結合するために使用される。
【0027】
医療用途では、吸着剤は、服用による急性中毒の処置に使用され(例えば、活性炭、カルシウムポリスチレンスルフェート(calcium polystyrene sulfate)、ケイ酸アルミニウム)、吸着剤は、毒素に結合して、全身循環に至る腸からの吸着を限定する。医薬品産業では、吸着複合体形成の原理は、血液中の血漿タンパク質への薬剤結合の化学、in situ薬剤放出のための固体スキャフォールド上の薬剤コーティング(例えば、薬剤-溶出ステント)、ならびに経口バイオアベイラビリティおよび腸吸収を改善するために賦形剤の不溶性薬剤への付与を理解するために使用される。
【0028】
本明細書に記載されている方法および組成物は、微粒子複合体形成を利用し得、複合体形成剤は、したがって、不規則に形作られた微粒子として配合された場合に眼組織と適合する化学物質であり、原薬に非共有結合的に結合し、原薬-複合体微粒子を形成する能力を有する。1種または複数の原薬-複合体微粒子は、疎水性分散媒中に組み込まれ、混和されて、眼の中および周辺に安全に送達される安定な多相コロイド懸濁液を形成して、処置の望ましい持続時間にわたり、眼組織における予測可能な治療レベルの原薬への連続した曝露を生じる。複合体形成剤は、脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物、荷電リン脂質、荷電タンパク質、核酸および多糖を含む6種の分類の化学物質の1つから選択される。
【0029】
原薬がプロドラッグである場合、プロドラッグの共役部分は、具体的には、1種もしくは複数の微粒子複合体形成剤と複合体形成して、または、それとの非共有結合による相互反応を形成して、プロドラッグ-複合体微粒子を形成する能力のために選択される。1種または複数のプロドラッグ物質-複合体微粒子は、疎水性分散媒中に組み込まれ、混和されて、眼の中および周辺に安全に送達される安定な多相コロイド懸濁液を形成して、処置の望ましい持続時間にわたり、眼組織における予測可能な治療レベルの原薬への連続した曝露を生じる。複合体形成剤は、脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物、荷電リン脂質、荷電タンパク質、核酸および多糖を含む6種の分類の化学物質の1つから選択される。
【0030】
本明細書に記載されている方法および組成物は、不規則な表面を有する不規則に形作られた微粒子の形態の場合、原薬に対して有効な複合体形成剤としての役割を果たし得るという、これら6種の分類の化学物質、脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物、荷電リン脂質、荷電タンパク質、核酸および多糖の、これまでに把握されていない新たな性質について開示する。複合体形成剤の基準は、以下4つの特徴を含む:(1)原薬が微粒子複合体形成剤に結合し、これが顕微鏡法による画像化により実証可能である(図4~7を参照されたい);(2)物質の微粒子が原薬の溶液に添加される場合、微粒子を遠心分離およびプルダウンすると、薬理学的に有意な量の原薬が、微粒子に対して複合体形成することが観察され、複合体形成剤の結合能の定量的基準が得られる(図15、18、20、24を参照されたい);(3)原薬-複合体微粒子が、適切な分散媒に再懸濁された場合、薬剤の部分的な放出を実証し、具体的な分散媒中の所定の原薬-複合体形成剤のペアに対する薬剤のKdまたは非結合-結合分画の判定を可能にする(図25を参照されたい);ならびに(4)原薬-複合体微粒子が、分散媒中に混和された場合、有用な薬物動態的放出プロファイルを示して、原薬多相コロイド懸濁液を形成する(図9を参照されたい)。これら4つの性質は集合的に、複合体形成剤を定義し、ここに記載されている複合体形成に基づくXRDDSを可能にする。
【0031】
対照的に、例えばシリコーンビーズ、ラテックスビーズおよびあるポリマー性微粒子を含む、球形の滑らかな表面および非反応性のコーティングを有する球形微粒子は、原薬との安定な複合体の形成に失敗するので、排除できる。
【0032】
複合体形成剤の一分類は脂肪酸であり、これは、飽和または不飽和であり得、塩またはエステルの形態であり得る脂肪族鎖を有するカルボン酸である(図4における例を参照されたい)。例えば、脂肪酸は、CH3(CH2)COOHの化学式を有し得、nは4から30に等しい。塩形態の脂肪酸の特定の例は、ステアリン酸マグネシウム、パルミチン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、パルミチン酸カルシウムなどを含む。
【0033】
複合体形成剤の一分類は、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物である。互変異性体は、ケト形(ケトンまたはアルデヒド)とエノール形(アルコール)との間における化学平衡を受けることが可能である分子を指す。通常、ケト-エノール互変異性を受けることが可能である化合物は、本明細書で描写されているように、ヒドロキシル(-OH)基に隣接した二重結合している炭素原子の対C=C-OHを含有するエノール互変異性化と平衡なカルボニル基(C=O)を含有する:
【0034】
【化1】
ケトおよびエノール形の相対濃度は、特定の分子、および平衡、温度またはレドックス状態を含む化学的微小環境の化学的性質により判定される。ケト-エノール互変異性化が可能である有機化合物は、フェノール、トコフェロール、キノン、リボ核酸などを含むが、それらに限定されない。
【0035】
複合体形成剤の一分類は、荷電リン脂質である(図7における例を参照されたい)。一般に、リン脂質は、グリセロール分子、2種の脂肪酸、およびアルコールにより修飾されるリン酸基からなり、リン脂質の極性頭部は、典型的には負に荷電している。例は、レシチン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、油中の異なるリン脂質、およびその他多数を含み、これらは、個々に、または組み合わせて使用されて、複合体形成剤としての役割を果たすことができる。アニオン性リン脂質は、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリン(phophatidyl serine)、スフィンゴミエリンまたはホスファチジルイノシトール(phophatidyl inositol)の1つを含み得る。いくつかの例では、正電荷を有するイオン化可能な合成リン脂質が製造され得、例えばDLin-MC3-DMAを含むが、それらに限定されない。追加のカチオン性リン脂質は、ホスファチジルコリンのカチオン性トリエステル;1,2-ジミリストイルsn-グリセロール-3-ホスホコリン(DMPC);1,2-ジオレオイル-sn-グリセロール-3-ホスホコリン(DOPC);1,2-ビス(オレオイルオキシ)-3-(トリメチルアンモニオ)プロパン(DOTAP);1,2-ジオレオイル-sn-グリセロール-3-ホスホエタノールアミン(DOPE);1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロール-3-ホスホコリン(DPPC);1,2-ジオレオイル-sn-グリセロール-3-エチルホスホコリン(EDOPC);1,2-ジミリストイル-sn-グリセロール-3-エチルホスホコリン(EDMPC);1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロール-3-エチルホスホコリン(EDPPC)の1つを含み得る。製薬科学では、リン脂質は、バイオアベイラビリティを改善する薬剤配合物および送達用途、毒性の低下、ならびに細胞透過性の改善に使用されている。しかし、本明細書に記載されている方法および組成物では、リン脂質は、原薬に非共有結合的に結合する複合体形成剤微粒子として使用でき、原薬-複合体微粒子が組み込まれ、そこに分散している安定な多相コロイド懸濁液の分散媒中の遊離原薬を調節する目的で原薬-複合体微粒子を形成することができる。
【0036】
複合体形成剤の一分類は、荷電タンパク質である。タンパク質は、アミノ酸残基の1つまたは複数の長鎖(long changes)を含む大きい生体分子および高分子である。タンパク質をなすアミノ酸は、正荷電性、負荷電性、中性または極性の性質であり得、タンパク質を含むアミノ酸は集合的に、タンパク質にその全体的な電荷を与える。多彩なタンパク質が、大きさ、分子量、微粒子を容易に形成する能力、および眼組織との適合性に基づいて、複合体形成剤としての役割を果たすことができる(図5における例を参照されたい)。タンパク質の荷電は、負に荷電したタンパク質が、正に荷電した原薬と容易に複合体形成する一方、正に荷電したタンパク質(例えば、正電荷を有するArg-Gln-Ile-Arg-Arg-Ile-Ile-Gln-Arg-NHおよび合成ペプチド)は、負に荷電している原薬と容易に複合体形成するように、特定原薬に対するその適合性を決定する。複合体形成剤としての役割を果たすことができるタンパク質の例は、アルブミンおよびコラーゲンを含む。
【0037】
複合体形成剤の一分類は、核酸であり、これは5-炭素糖、リン酸基および窒素塩基からなるヌクレオチドで構成されるバイオポリマー高分子である。生物学的機能および遺伝情報のコード化に関する核酸の重要性は、十分に確証されている。しかし、核酸は、核酸酵素(例えば、炭素ナノ材料)、アプタマー(例えば、抗体のような形式で作用する核酸ナノ構造および治療分子を形成するための)、およびアプタザイム(例えば、in vivo画像化に使用できるもの)を含む多彩な用途も有する。製薬科学では、特別に設計された核酸は、核酸が様々なタイプの薬剤に対して担体システムとしての機能を果たす、担体に基づくシステムにおける使用が考えられ、それに適用されている。しかし、本明細書に記載されている方法および組成物では、核酸は、担体システムとは考えられず、高度に負に荷電しているので、微粒子として配合されるように、むしろ複合体形成剤と考えられ、次いで、正に荷電した原薬に対して複合体形成剤としての役割を果たすことができる。
【0038】
複合体形成剤の一分類は、多糖であり、これは、グリコシド結合により一緒に結合しているモノサッカリド単位で構成される長鎖ポリマー性炭水化物である。多くは、これらはかなり不均質であり、モノサッカリドの繰り返し単位の若干の変更を含有する。構造に応じて、これらは水に不溶性であり得る。多糖微粒子複合体形成剤の、原薬に対する複合体形成は、様々な静電相互作用を介して発生し得、原薬および多糖の電荷密度、多糖複合体形成剤原薬の比、イオン強度および他の性質により影響を受け得る(図6における例を参照されたい)。複合体形成剤としての役割を果たし得る多糖の例は、環状多糖分子、シクロデキストリン、包摂化合物、セルロース、ペクチン、またはカルボキシル基、リン酸基もしくは他の同様に荷電した基を含有する多糖である酸性多糖を含む。
【0039】
本明細書に記載されている方法および組成物では、選択された原薬は、所定の複合体形成剤に対する特定の親和性を有し、それと複合体形成し、原薬-複合体微粒子を形成する。この親和性は、選択された分散媒中の所定の原薬-複合体微粒子に対する原薬の非結合-結合分画であるKdとして測定され得る。
【0040】
原薬-複合体微粒子の別の性質は、結合能であり、これは、既知量の複合体形成剤に結合している原薬の量と定義される。
特定の複合体形成剤に対する原薬の親和性および結合能は、したがって、所定の分散媒で、原薬-複合体微粒子から放出するのに利用できる遊離薬剤を限定するのに役立つ。
【0041】
本長期放出薬物送達システム(XRDDS)の多相コロイド懸濁液に配合された原薬は、様々な小型ポリペプチド、タンパク質、アプタマー、他の核酸医薬、疎水性化学物質、親水性化学物質、ならびに6種の分類の複合体形成剤の1つ:脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物、荷電リン脂質、荷電タンパク質、リボ核酸および多糖への非共有結合性複合体を直接的に形成することが可能である治療目的に使用される他の化合物を含み得る。
【0042】
原薬は、不規則に形作られた微粒子として配合される6種の異なる分類の物質の1つ:脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機分子、荷電リン脂質、荷電タンパク質、核酸および多糖への非共有結合性の親和性が高い相互反応(または結合)を直接的に形成する。分散媒中で混和され、得られた原薬-複合体微粒子は、多相コロイド懸濁液内で遊離した非結合薬物の放出を調節し、これにより、眼の生理学的環境中に投与されると、配合されたインプラントからの制御された長期放出が可能になる(図1~3を参照されたい)。
【0043】
多相コロイド懸濁液中で配合された原薬は、切断可能な共有結合を経由して共役部分に連結したいずれかの有効活性成分(API)のプロドラッグ(図1を参照されたい)でもあり得、共役部分は、6種の分類の複合体形成剤の1つ:脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物、荷電リン脂質、荷電タンパク質、リボ核酸および多糖と複合体を形成する。
【0044】
プロドラッグは、式(I):
R’-R (I)
(式中、R’は、切断可能な結合を経由して、非共有結合性複合体を5種の分類の複合体形成剤の1つと形成する共役部分であるRに共有結合で連結しているいずれかの有効活性成分(API)であり、R’およびRを連結する共有結合は、酵素切断、触媒、加水分解または他の反応により除去して、遊離API R’および共役部分Rを得ることができ、Rは、C4~C30脂質部分(脂肪酸または脂肪族アルコール)、C4~C30直鎖もしくは分枝脂肪族部分、2-merから30-merのペプチド部分、Peg化部分、または炭水化物部分から選択される)を有する。
【0045】
原薬の共有結合で連結した共役部分は、不規則に形作られた微粒子として配合される6種の異なる分類の物質の1つ:脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機分子、荷電リン脂質、荷電タンパク質、核酸および多糖に結合する、非共有結合性の親和性が高い相互反応を形成する(図4C、5C、6C、7Cを参照されたい)。プロドラッグ-複合体微粒子の形成は、多相コロイド懸濁液に対して適合性であるAPIの物理化学的性質を最適化し、プロドラッグ-複合体微粒子は、多相コロイド懸濁液内で遊離した非結合プロドラッグの放出を調節する分散媒中で混和され、これにより、眼の生理学的環境中に投与されると、配合されたインプラントからの制御された長期放出が可能になる。
【0046】
原薬がプロドラッグである場合、プロドラッグの重要な特徴は、APIを共役部分に連結する結合が、酵素反応、触媒、加水分解または他の化学反応により容易に切断されることである。プロドラッグにおいてこの結合を切断すると、放出されたAPIは、その作用機序に十分な生物活性を保つ(図29A~29Cにおける例を参照されたい)。
【0047】
切断可能な共有結合は、エステル結合、ヒドラゾン結合、イミン結合、ジスルフィド結合、チオエステル結合、チオエーテル結合、リン酸エステル結合、ホスホン酸エステル結合、ボロン酸エステル結合、アミド結合、カルバミン酸エステル結合、カルボン酸エステル結合および炭酸エステル結合の1つを含み得る。
【0048】
一般に、APIが共有結合で連結する共役部分Rは、標的に対する生物活性または作用機序に基づいて選択されない。
好ましい実施形態ではないが、本明細書で開示されているのは、機能的に切断可能な共役部分としての役割を果たし得、リンカー部分としての役割を果たす化学物質に直接的に、もしくは間接的に一緒に連結する任意の原薬のホモ-もしくはヘテロ-ダイマー、トリマー、マルチマーからなる原薬である。
【0049】
本明細書に記載されているように、APIであるR’は、以下の5種の分類の化学物質のうち1つ:C4~C30脂質部分、C4~C30直鎖もしくは分枝脂肪族部分、2-merから30-merのペプチド部分、Peg化部分または炭水化物部分から選択される共役部分Rに共有結合で連結し得る。
【0050】
共役部分の一分類は、脂質部分をAPIに結合する先行するリンカー部分の有無を問わず、C4~C30脂質部分である(図27Aにおける例を参照されたい)。本明細書では、脂質は、水中で不溶性であるが、有機溶媒中で可溶性である有機化合物と定義される。脂質は、脂肪酸、脂肪族アルコール、グリセロ脂質、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質、ポリケチド(ケトアシルサブユニットの縮合に由来する)、ステロール脂質、プレノール脂質(イソプレンサブユニットの縮合に由来する)、リン脂質、油、ワックスおよびステロイドを含む。
【0051】
共役部分の一分類は、脂肪族炭化水素をAPIに結合する先行するリンカー部分の有無を問わず、C4~C30直鎖もしくは分枝脂肪族部分である。この分類は、アルカン、アルケンおよびアルキンおよび4から約30個の炭素から構成されている他の炭化水素部分を含む。
【0052】
共役部分の一分類は、ペプチドをAPIに結合する先行するリンカー部分の有無を問わず、ペプチド部分であり(図27B~27Cにおける例を参照されたい)、ペプチド部分は、天然もしくは合成アミノ酸ポリマーまたは2-merから30merの長さを有するポリペプチド鎖を含み、これらは、電荷がアニオン性、カチオン性または中性であり得、均質または不均一なアミノ酸反復を含有する。
【0053】
アニオン性ペプチド部分は、ポリ-グルタメート、ポリ-アスパルテートまたはグルタメートおよびアスパルテートの組合せの少なくとも1つを含み得る。
カチオン性ペプチド部分は、ポリ-アルギニン、ポリ-リジン、ポリ-ヒスチジン、アルギニンおよびリジンの組合せ、アルギニンおよびヒスチジンの組合せ、ヒスチジンおよびリジンの組合せ、アルギニン、ヒスチジンおよびリジンの組合せの少なくとも1つを含み得る。
【0054】
ペプチド部分は、ポリエチレングリコール(PEG)基を付加するための1つまたは複数のPEG化部分を有し得る、またはグリコシル化を含む、糖または炭水化物分子の付加による修飾のための1つもしくは複数の部位を有し得る。
【0055】
共役部分の一分類は、Peg化化合物をAPIに結合する先行するリンカー部分の有無を問わず、直鎖状、分枝状、Y-字型もしくは多分岐ジオメトリーのポリエチレングリコール(PEG)ポリマー、Peg化ペプチドもしくはタンパク質、またはPeg化スクシネート、例えばコハク酸スクシンイミジルを含むPeg化化合物部分である(図27Dにおける例を参照されたい)。
【0056】
共役部分の一分類は、炭水化物をAPIに結合する先行するリンカー部分の有無を問わず、モノサッカリドまたは2から20個の糖のオリゴ糖を含むが、それらに限定されない炭水化物分子部分である。炭水化物分子は、グルコース、ガラクトース、ラクトース、マンノース、リボース、フコース、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルグルコサミン、N-アセチレンウラミン酸(N-acetyleneuraminic acid)またはこれらのいずれかのエピマーもしくは誘導体の1つまたは複数を含み得る。
【0057】
プロドラッグが多相コロイド懸濁液中にどのように組み込まれ得るかの一例は、式(II):
H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R、EY005-R(II)と指定される
【0058】
【化2】
(式中、Rは、MTTの4位におけるアミノ酸のヒドロキシル基のエステル結合を経由して共有結合で連結し、以下5種の分類の化学物質のうちの1つ:C4~C30脂質部分、C4~C30直鎖もしくは分枝脂肪族部分、2-merから30-merのペプチド部分、Peg化部分または炭水化物部分から選択される(図26))の縮合またはエステル化反応の生成物であるプロドラッグを形成するために使用され得るミトコンドリア-標的化テトラペプチド(MTT)の分類のうちのものである。
【0059】
EY005-プロドラッグの一具体例は、EY005-ステアリル(図27Aで描写されている)を含み、EY005は、エステル結合を経由して長鎖飽和脂肪族アルコールの群からの一メンバーであるステアリルアルコールに連結する。エステル結合を切断すると、プロドラッグEY005-ステアリルは、EY005 MTTを放出する。これを実験的に実証するために(図28)、EY005-ステアリルを、カルボキシエステラーゼ(0.1μg/mL)と37℃にてin vitroでインキュベートして、眼の生理学的環境、およびその内部である硝子体内で多量になりやすいエステラーゼのタイプを模倣した。EY005-ステアリルのカルボキシエステラーゼとのインキュベーションにより、プロドラッグのエステル結合の急激な切断が生成され、溶液中のEY005 MTTおよびEY005-ステアリルプロドラッグの高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析および定量により明白なように、EY005が放出された(図28B)。EY005-ステアリルプロドラッグを、37℃にてエステラーゼなしでリン酸緩衝生理食塩水溶液に添加すると、EY005-ステアリルプロドラッグのエステル結合は、加水分解でよりゆっくり(約36時間)切断される(図28C)。したがって、眼の生理学的なシステムでは、MTTを不活性の共役に連結させるプロドラッグの共有結合は、酵素切断により、または加水分解によりさらにゆっくり、容易に切断され、活性なMTTが放出される。
【0060】
さらに、原薬の共有結合を切断すると、APIであるネイティブMTTペプチドは、ミトコンドリア機能不全を処置するための生物活性を保つ。例えば、図29A~29Cに描写されているように、乾性AMDのin vitro細胞培養モデルにおいて、EY005-ステアリル(5μM)を、ヒドロキノン(HQ)への曝露により誘導されたミトコンドリア機能不全を示すRPE細胞(内因性エステラーゼを所有する)に添加した。EY005-ステアリルは、EY005ネイティブペプチド(5μM)を用いた処置に等しい効能で、RPE細胞におけるHQに誘導されたミトコンドリア機能不全を効率的に無効化した(細胞のフラボタンパク質-自己蛍光により描写されているように)。EY005-ステアリルも、別の媒体中でカルボキシエステラーゼ(0.1μg/mL)と予めインキュベートした。切断したEY005(5μM)を含有する回収した媒体を、ミトコンドリア機能不全のこのRPE細胞モデルに添加し、これは同様に有効であり、RPEミトコンドリア機能不全の無効化に対してEY005ネイティブペプチドに等しい効力を有していた。したがって、これらの研究から、原薬から切断される活性なMTTが、ミトコンドリア機能不全を処置するための本質的かつ未修飾の生物活性を保つことが確認される。
【0061】
いくつかの例では、これらの分類の2種以上からの要素を組み合わせることができる共役部分は、APIの複数の分子に共有結合で連結している多量体のリンカー部分としての役割を果たして、ダイマーおよび/またはマルチマーを形成し得る。ミトコンドリア標的化ペプチドのダイマーまたはマルチマーを生成することが可能なそのようなリンカーは、「多量体化ドメイン」といわれ得る。
【0062】
多量体化ドメインを有するプロドラッグは、式(III):
(R’)-R (III)
(式中、Rは、複数のAPIであるR’に共有結合で連結して、APIのダイマーまたはマルチマーを形成するリンカーまたは多量体化ドメインであり、nは、2から約100に等しい)を有する。例は、PEGポリマー(図27D)、ポリビニルアルコール(PVA)ポリマーまたはポリペプチドを含み、リンカー共役部分Rは、API R’の2個以上の分子に共有結合で連結して、ダイマー、トリマー、マルチマーなどを形成する。いくつかのケースでは、多量体化ドメインは、アルコール、すなわち複数の「-OH」基を有し、これにAPI単位R’が結合する。この設定で、多量体化ドメインに共有結合で(例えば、エステルまたは別の動的共有結合を経由して)連結する複数のAPIは、APIマルチマーといわれ得る。
【0063】
そのようなプロドラッグマルチマーの一例は、式:
【0064】
【化3】
のPVA化合物に連結するミトコンドリア-標的化テトラペプチドH-d-Arg-DMT-Lys-Pheであり、「n」はPVAポリマーを含む数である。
【0065】
原薬多相コロイド懸濁液の分散媒は、本明細書において、中で原薬および微粒子複合体形成剤が混和されて、安定な多相コロイド懸濁液を形成する疎水性液体と定義される。
安定な多相コロイド懸濁液を定義する基準は、in vitroでの眼の生理学的環境(すなわち37℃の緩衝生理食塩水、硝子体酵素、希釈血清)、または眼の中に注入される場合はin vivoへの曝露後、インプラントの耐用時間の予め特定された持続時間にわたる、微粒子の沈降、分離または解離なしの原薬-複合体微粒子の均一な混合物および分布を含む。安定性は、原薬-複合体微粒子対油の相対的パーセンテージ(重量対重量)、ならびに微粒子の大きさおよび質量によっても左右される。
【0066】
本明細書に記載されている方法および組成物は、有効な分散媒としての役割を果たすことを可能にするある油のこれまでに把握されていない性質について記載する(図12A~12Fにおける例を参照されたい)。これらは、疎水性、高い初期粘度、および原薬-複合体微粒子と混和した場合、安定な多相コロイド懸濁液を形成することを可能にする他の性質を含む。
【0067】
分散媒に対するこれらの基準に合う油の4種の分類は、飽和脂肪酸メチルエステル、不飽和脂肪酸メチルエステル、飽和脂肪酸エチルエステルまたは不飽和脂肪酸エチルエステルを含む。分散媒は、これらの分類の1つからの個々の油であり得、または、安定なコロイド懸濁液の望ましい目標を達成するように具体的に設計され、混和されている異なる粘度値を有する油の混合物として設計され得る。
【0068】
分散媒としての役割を果たし得る飽和脂肪酸メチルエステルは、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、ペンタン酸メチル、ヘキサン酸メチル、ヘプタン酸メチル、オクタン酸メチル、ノナン酸メチル、デカン酸メチル、ウンデカン酸メチル、ドデカン酸メチル(ラウリン酸メチル)、トリデカン酸メチル、テトラデカン酸メチル、メチル9(Z)-テトラデセノエート、ペンタデカン酸メチル、ヘキサデカン酸メチル、ヘプタデカン酸メチル、オクタデセン酸メチル、ノナデカン酸メチル、エイコサン酸メチル、ヘンエイコサン酸メチル、ドコサン酸メチル、トリコサン酸メチルなどを含む。
【0069】
分散媒としての役割を果たし得る不飽和脂肪酸メチルエステルは、メチル10-ウンデセノエート、メチル11-ドデセノエート、メチル12-トリデセノエート、メチル9(E)-テトラデセノエート、メチル10(Z)-ペンタデセノエート、メチル10(E)-ペンタデセノエート、メチル14-ペンタデセノエート、メチル9(Z)-ヘキサデセノエート、メチル9(E)-ヘキサデセノエート、メチル6(Z)-ヘキサデセノエート、メチル7(Z))-ヘキサデセノエート、メチル11(Z)-ヘキサデセノエートを含む。
【0070】
分散媒としての役割を果たし得る飽和脂肪酸エチルエステルは、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、ペンタン酸エチル、ヘキサン酸エチル、ヘプタン酸エチル、オクタン酸エチル、ノナン酸エチル、デカン酸エチル、ウンデカン酸エチル、ドデカン酸エチル(ラウリン酸エチル)、トリデカン酸エチル、テトラデカン酸エチル、エチル9(Z)-テトラデセノエート、ペンタデカン酸エチル、ヘキサデカン酸エチル、ヘプタデカン酸エチル、オクタデセン酸エチル、ノナデカン酸エチル、エイコサン酸エチル、ヘンエイコサン酸エチル、ドコサン酸エチル、トリコサン酸エチルを含む。
【0071】
分散媒としての役割を果たし得る不飽和脂肪酸エチルエステルは、エチル10-ウンデセノエート、エチル11-ドデセノエート、エチル12-トリデセノエート、エチル9(E)-テトラデセノエート、エチル10(Z)-ペンタデセノエート、エチル10(E)-ペンタデセノエート、エチル14-ペンタデセノエート、エチル9(Z)-ヘキサデセノエート、エチル9(E)-ヘキサデセノエート、エチル6(Z)-ヘキサデセノエート、エチル7(Z))-ヘキサデセノエート、エチル11(Z)-ヘキサデセノエートを含む。
【0072】
対照的に、ある他の油、ならびに水、シリコーン油、粘性ゼラチンおよび粘性プロテオグリカンを含む粘性物質は、生理学的な眼の微小環境(例えば37℃、緩衝生理食塩水、硝子体酵素、希釈血清)に、または眼の中に注入される場合はin vivoで曝露した場合、安定な多相コロイド懸濁液の形成に失敗する、または急速に代償不全になる(図10、11、13、14における例を参照されたい)。
【0073】
分散媒内での微粒子複合体形成剤への原薬の複合体形成は、遊離原薬の分散媒中への放出を限定するのに役立つ。分散媒が、水の原薬-複合体微粒子への接触を制約する一方、遊離した非結合原薬は分散媒内を自由に拡散し、分散媒は、遊離した非結合薬物を保たず、非結合薬物は、多相コロイド懸濁液から外に拡散することがある。
【0074】
原薬多相コロイド懸濁液は、様々なKdおよび結合能を有する様々な原薬-複合体微粒子の比および量を変動させることにより、予め特定された原薬の放出速度および量に合う特定のプロセスにより設計され得る(図2および16を参照されたい)。Kdの性質は、所定の複合体形成剤に対する原薬の親和性の測定値であり、所定の分散媒中の原薬-複合体微粒子に対する原薬の非結合-結合分画と定義される。具体的なKd値は、本明細書に記載されているように特定された放出アッセイにより測定できる。結合能の性質は、既知量の複合体形成剤に結合する最大量の薬剤と定義される。
【0075】
原薬のインプラントからの放出は、分散媒内の非結合分画により部分的に判定され、これは続いて、様々な原薬-複合体微粒子で、Kd値および結合能値により部分的に判定される。Kdおよび結合能の知識(図15、18、20、24を参照されたい)により、特定の組合せの異なるプロドラッグ-複合体形成剤微粒子を選択して、分散媒内の薬剤の非結合分画を長期間にわたって調節すること、ひいては予め特定された放出動態プロファイルを達成することが可能となる(図2、3、および16を参照されたい)。
【0076】
例えば、高い結合能、および複合体微粒子に対する原薬の親和性が低いことを指し示す高いKdを有する原薬-複合体微粒子の添加を使用して、放出の速度の短期的上昇、または初期バーストを作り出すことができる。高い結合能、および複合体微粒子に対する原薬の親和性が中等度なことを指し示す中等度のKdを有する原薬-複合体微粒子の添加を使用して、経時的なより低い放出速度を作り出して、インプラントからの原薬放出の持続時間を延長することができる。これらの2つのタイプの原薬微粒子の組合せは、望ましい比および濃度で選択および混和して、インプラントからの原薬の2相放出動態を有するインプラントを作り出すことを達成できる(図2および3)。この放出動態プロファイルを有するインプラントは、確立された疾患の病状を処置および無効化する「充填」相を必要とする疾患に有用になり得る一方、第2の「定常状態」相は、新たな、または再発性疾患の発症の防止に有効になり得る。
【0077】
別の例では、高い結合能、および複合体微粒子に対する原薬の親和性が低いことを指し示す高いKdを有する原薬-複合体微粒子の添加を使用して、放出の速度の短期的上昇、または初期バーストを作り出すことができる。高い結合能、および複合体微粒子に対する原薬の親和性が中等度なことを指し示す中等度のKdを有する原薬-複合体微粒子の添加を使用して、経時的なより低い放出速度を作り出して、インプラントからの原薬放出の持続時間を延長することができる。高い結合能、および複合体微粒子に対する原薬の高い親和性を指し示す低いKdを有する原薬-複合体微粒子の添加は、放出を遅くして、インプラントの耐用時間における後期のバーストを作り出し得る。これら3つのタイプの原薬微粒子の組合せは、望ましい比および濃度で選択および混和して、インプラントからの原薬の3相放出動態を有するインプラントを作り出すことを達成できる(図3)。この放出動態プロファイルを有するインプラントは、確立された疾患の病状を処置および無効化する「充填」相を必要とする疾患に有用になり得る一方、第2の「定常状態」相は、新たな、または再発性疾患の発症の防止に有効になり得、さらに第3の相の「後期バースト」は、タキフィラキシー、または薬剤標的の下方調節もしくは原薬への応答性の低下を媒介する他の機構により、インプラントの耐用期間における後期に薬剤に対する標的の応答の低下が生じる疾患に有用になり得る。
【0078】
そのような例では、選択された分散媒中に組み込まれた2つ以上の原薬-複合体微粒子の組合せでの合わせた効果は、原薬多相コロイド懸濁液中に組み込まれ、分散される個々の薬剤-複合体形成剤微粒子成分からの放出速度の積分に基づく2つ以上の相における原薬の放出である(図2を参照されたい)。
【0079】
原薬多相コロイド懸濁液により達成される実際の放出動態は、in vivo硝子体濃度において、1カ月以上の長期放出持続時間にわたりEC50を満たし得る、または超え得る。EC50は、原薬の所定の作用機序に対する最大応答の治療効果の50%を達成する原薬の濃度を反映する。
【0080】
2相放出動態を有する原薬多相コロイド懸濁液の配合物において、硝子体における原薬の濃度は、初期バースト相中に、無効化のためのEC50(すなわち、最大効果の50%を達成するのに必要とされる薬物濃度)を超えることがあり、続いて第2の(定常状態)相で防止のためのEC50を超えることがあり、薬剤放出の予め特定された放出動態および望ましい持続時間は、本明細書に記載されている多相コロイド懸濁液中での様々な原薬-複合体微粒子の特定の設計および使用により達成された。
【0081】
原薬多相コロイド懸濁液の配合物は、流動性のボーラスインプラント、原薬多相コロイド懸濁液で満たした侵食性もしくは非生体内侵食性チューブインプラント、または特定の大きさおよび形状に作られ、乾燥および硬化させ、また、インプラント治療のために構成された原薬多相コロイド懸濁液の固体モールド(図33)を含む3種の異なるインプラント様式の1つとして送達され得る。これらの配合物のいずれかは、眼内および眼の周辺、すなわち、硝子体液中、房水中、脈絡膜上腔中、網膜下、結膜下、テノン嚢下または眼窩組織中に注入されて、様々な疾患および障害の処置に望ましい持続時間(1から12カ月)にわたり、眼組織内における治療レベルの原薬の徐放性を生成し得る。
【0082】
本明細書に記載されている多相コロイド懸濁液は、非共有結合性複合体を微粒子複合体形成剤と直接的に形成する多彩な原薬、ならびに切断可能な共有結合を経由して共役部分に連結した有効活性成分(API)からなる多彩なプロドラッグを組み込み得、プロドラッグの共役部分は、非共有結合性複合体を微粒子複合体形成剤と形成する(図1、2、3)。具体的には、多相コロイド懸濁液は、様々な疎水性化学物質、親水性化学物質、小型ポリペプチド、タンパク質、アプタマー、他の核酸医薬および他の化合物を組み込み得る。
【0083】
いくつかの例は、薬物送達のための複合体形成の原理を実証するために本明細書で論じられている。
例えば、蛍光標識されたカチオン性小分子は、既知量の選択された個々の複合体形成剤と混和した(図4F、5F、6F、7Fを参照されたい)。様々な蛍光標識された小分子-複合体微粒子を、次いで適切な分散媒に混和し、蛍光顕微鏡法下で視覚化した。このアプローチを使用して、蛍光標識された小分子は、蛍光標識された小分子-複合体微粒子をいくつかの異なる複合体形成剤と形成することを観察したが、シリカマイクロビーズに吸着しなかった(図8F、複合体形成剤ではない)。
【0084】
別の例では、蛍光標識された、C12(すなわち、12-炭素)脂質分子は、既知量の選択された個々の複合体形成剤と混和した(図4E、5E、6E、7Eを参照されたい)。異なる蛍光標識された脂質分子-複合体微粒子を、次いで適切な分散媒に混和し、蛍光顕微鏡法下で視覚化した。このアプローチを使用して、蛍光標識された脂質分子は、蛍光標識された脂質分子-複合体微粒子をいくつかの異なる複合体形成剤と形成することを観察したが、シリカマイクロビーズに吸着しなかった(図8E、複合体形成剤ではない)。
【0085】
別の例では、テトラペプチドH-d-Arg-DMT-Lys-Pheは、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)で蛍光標識し、既知量の選択された個々の複合体形成剤と混和した(図4B、5B、6B、7Bを参照されたい)。様々な蛍光標識された小分子-複合体微粒子を、次いで適切な分散媒に混和し、直接蛍光顕微鏡法下で視覚化した。このアプローチを使用して、異なる複合体形成剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、アルブミン、シクロデキストリン(cylclodextrin)、レシチン)と混和した場合、FITC-標識されたH-d-Arg-DMT-Lys-Pheは、目視可能な薬剤-複合体微粒子を生成しなかった。FITC-標識されたH-d-Arg-DMT-Lys-Pheは、シリカマイクロビーズに吸着した(複合体形成剤ではない、図8B)。これは、安定な複合体形成を表さなかったが、H-d-Arg-DMT-Lys-Phe/マイクロビーズのコロイド懸濁液が、in vitroで眼の生理学的環境に添加されると消える、微粒子の親和性が弱い相互反応が蛍光性を引き起こしたためである。(図25Aを参照されたい)。
【0086】
別の例では、同一のテトラペプチドH-d-Arg-DMT-Lys-Pheは、エステル結合によりステアリルアルコールに連結して、プロドラッグH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリルを形成する。プロドラッグH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリルlは、FITCで蛍光標識し、異なる複合体形成剤と混和した(図4C、5C、6C、7Cを参照されたい)。得られた混合物を、次いで直接蛍光顕微鏡検査法下で視覚化した。このアプローチを使用して、FITC-標識されたH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリル(テトラペプチドは、FITCで標識されている)は、薬剤-複合体微粒子をいくつかの異なる複合体形成剤:ステアリン酸マグネシウム(以前に記載され、予想されている通り);大型の荷電担体タンパク質アルブミン;および大型の環状炭水化物分子シクロデキストリン(cyclodextran)、ならびに荷電リン脂質レシチンと形成することを観察した。対照的に、FITC-標識されたH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリルは、シリカマイクロビーズに吸着しなかった(図8C、複合体形成剤ではない)。
【0087】
共役部分を有するH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリルプロドラッグのみが薬剤-複合体微粒子を形成したので、複合体形成は、プロドラッグの共役部分により媒介されたことが推測される。これを評価するために、複合体形成剤と混和したFITC-標識されたH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリル(テトラペプチドは、FITCで標識されている)を、カルボキシエステラーゼ(0.1μg/mL)の水溶液で処理して、プロドラッグのエステル結合を加水分解し、蛍光性ペプチドを放出した。複合体形成した微粒子は、顕微鏡法によればもはや蛍光標識されておらず(図4D、5D、6D、7Dを参照されたい)、プロドラッグの複合体形成は、その共役部分により特異的に媒介されることが確認され、適合性の共役部分を有するプロドラッグを使用して、複合体形成を媒介する概念が検証された。
【0088】
さらに、本明細書に記載されているように、複合体形成剤が薬剤に高い親和性を有する薬剤-複合体微粒子の形成は、実験的に定量および検証され得る。例えば、プロドラッグH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリルは、既知量の選択された個々の複合体形成剤と混和した(図24および25を参照されたい)。H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリル-複合体形成剤混合物を、次いで適切な分散媒(このケースではラウリン酸メチル)に添加し、遠心分離して、分散媒に存在する非結合プロドラッグからの複合体形成剤に結合しているH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリルを「プルダウン」または分離した。H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリル内容物からプルダウンされた微粒子および分散媒のHPLC分析により、複合体形成剤に結合しているプロドラッグの分画、ならびに非結合対結合の係数であるKd値の計算、およびプロドラッグ-複合体形成剤微粒子の結合能(図24)が判定された。このタイプのアッセイを使用して、Kd値および結合能は、選択された分散媒において、特定のプロドラッグ-複合体形成剤の対で生成され得る。
【0089】
さらに、共役部分のH-d-Arg-DMT-Lys-Pheネイティブペプチド(EY005と指定される)への付加は、in vitroでの眼の生理学的環境に添加される多相コロイド懸濁液からの動態放出プロファイルを劇的に変化させた手法での、様々な複合体形成剤に対する非共有結合性複合体形成を可能にした(図25)。分散媒中で個々の複合体形成剤と混和したEY005の様々な配合物において、4日目までに、EY005ネイティブペプチドは、すべての配合物から急速に「ダンピングされる」、すなわち、EY005ペプチド薬剤の100%が、すべての配合物から完全に放出される(図25A)。対照的に、分散媒(すなわち、マルチコロイダル懸濁液)中の個々の複合体形成剤に対して複合体形成するH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリル(EY005-ステアリルと指定される)の様々な配合物は、in vitroでの眼の生理学的環境に添加された場合、個々の複合体形成剤のKdおよび結合能に基づく変動性の放出動態で、EY005-ステアリルプロドラッグの徐放性を長期間にわたって生成した(図25B)。
【0090】
いくつかの実施形態では、多相コロイド懸濁液中の原薬の配合物(このケースでEY005-プロドラッグ)は、2つの別個のプロドラッグ-複合体微粒子、この実施例ではステアリン酸マグネシウムおよびアルブミンからなり、特有の動態放出プロファイルを生成し、動態放出プロファイルは、それ自体の特有のKdおよび結合能の性質を有する別個のプロドラッグ-複合体微粒子の比および濃度の積分を反映する(図25B)。
【0091】
したがって、いくつかの例では、プロドラッグの形成は、APIの物理化学的性質を実質的に変えて、複合体形成、および多相コロイド懸濁液における配合物に対する適合性の最適化を可能にする。図25の例では、API H-d-Arg-DMT-Lys-Pheは、高度に親水性であり、上記のように、複合体形成剤と混和して、目視可能な薬剤-複合体微粒子を生成しなかった。未修飾API H-d-Arg-DMT-Lys-PheのKdおよび結合能は、実質的に異なる。エステル結合を経由したステアリルアルコールへの連結は、プロドラッグH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリルを生成し、これは、未修飾APIと比較して高度に疎水性である(図24および25)。さらに、このMTT-プロドラッグの共役部分の疎水性長鎖脂肪族アルコールと、微粒子複合体形成剤との間における高い親和性の相互反応はMTT-プロドラッグを結合するのに役立ち、MTT-プロドラッグ-複合体微粒子が分散している分散媒からの放出に利用できる、遊離した非結合MTT-プロドラッグを限定する(図25)。
【0092】
プロドラッグの別の特定の例は、H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-トリ-アルギニン(トリArg)を含み(図27C)、H-d-Arg-DMT-Lys-Pheは、エステル結合を経由して、非共有結合性複合体を、負に荷電している微粒子複合体形成剤と容易に形成して、MTT-プロドラッグ-複合体微粒子を形成する、アルギニントリマー/トリペプチドである正に荷電したペプチド共役部分に連結する。このMTT-プロドラッグの正の共役部分と、微粒子複合体形成剤の負の荷電との間における高い親和性の相互反応は、このMTT-トリArgプロドラッグを結合するのに役立ち、MTT-プロドラッグ-複合体微粒子が分散している分散媒からの放出に利用できる、遊離した非結合MTT-プロドラッグを限定する。
【0093】
プロドラッグの別の特定の例は、H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-トリ-グルタメート(トリGlu)を含み(図27B)、H-d-Arg-DMT-Lys-Pheは、エステル結合を経由して、非共有結合性複合体を、正に荷電した微粒子複合体形成剤と容易に形成するグルタメートトリマー/トリペプチドである負に荷電しているペプチド共役部分に連結して、MTT-プロドラッグ-複合体微粒子を形成する。このMTT-プロドラッグの負に荷電している共役部分と、微粒子複合体形成剤の正電荷との間における高い親和性の相互反応は、MTT-トリGluプロドラッグを結合するのに役立ち、MTT-プロドラッグ-複合体微粒子が分散している分散媒からの放出に利用できる、遊離した非結合MTT-プロドラッグを限定する。
【0094】
いくつかの例は、分散媒としての役割を果たし得る物質(および果たし得ない物質)を具体的に特定および区別するために、本明細書で論じられている。
本明細書では、分散媒は、原薬-複合体微粒子と混和した場合、眼の中または周辺における投与のためにインプラント中で形成される安定な多相コロイド懸濁液を形成し得る、疎水性の粘性油状物と定義される。本明細書では、コロイダルは、微粒子が均一に分散し、安定であることを指し示し、これにより、微粒子が、インプラントの意図されている耐用時間の持続時間にわたり、沈降または移行せずに分散したままでいることが指し示される。
【0095】
これらの性質をより良好に理解し、分散媒としての役割を果たし得る液体物質を特定するために、2つの異なる大きさ、3μm(マイクロメートルまたはミクロン)および10μmの蛍光性微粒子ビーズを、原薬-複合体微粒子の代用物として使用した(微粒子の可視化および画像化を促進するために)。これらの蛍光性微粒子ビーズは、浅い円筒形の小型ウェルにおいて様々な液体中で懸濁し、これを次いで、微粒子ビーズの分布を評価し、様々な深さの液体を評価する共焦点機能により確かめる共焦点蛍光顕微鏡法により、蛍光性ビーズ微粒子の一定の沈降が発生するかどうかを評価した。
【0096】
例えば、蛍光性微粒子ビーズが水中(図10A~10F)およびシリコーン油中(図11A~11F)中で混和された場合、これらは、下部レベルの流体において、実質的により多い数および高い密度の微粒子ビーズ、ならびに、上部の液体において相対的にはるかに少ないビーズを実証した。したがって、水およびシリコーン油は、微粒子を均一に分散させず、微粒子は液体媒体内に沈降するので、コロイド懸濁液は形成されなかった。
【0097】
別の例では、蛍光性微粒子ビーズを、脂肪酸メチルエステルであるラウリン酸メチル中で混和した(図12A~12F)。共焦点顕微鏡法は、液体の深さに関係なく微粒子の均一な分布を実証し、ラウリン酸メチルの均一に分散した微粒子は、多相コロイド懸濁液を形成することが指し示された。眼の生理学的環境と接触するこの懸濁液の検査(典型的には眼組織に含有される酵素およびタンパク質を含有する)は、コロイド懸濁液内の移行なしで長期間、1日、1週間、および1カ月にわたって、微粒子の均一な分布の安定性を実証した。
【0098】
別の例では、蛍光性微粒子ビーズを2%ゼラチン中で混和した(図13A~13F)。共焦点顕微鏡法は、液体の深さに関係なく微粒子の均一な分布を実証し、2%ゼラチンに均一に分散した微粒子は、コロイド懸濁液を形成することが指し示された。しかし、in vitroでの眼の生理学的環境中へと2%ゼラチンコロイド懸濁液(コラゲナーゼを含有する)を入れた後、懸濁液内における微粒子の分布は、長期間にわたって安定なままでおらず;微粒子は、移行および沈降し、ゼラチンベースの媒体は、コロイド懸濁液の安定性を長期間にわたって維持できなかったことが指し示された。
【0099】
いくつかの例は、多相コロイド懸濁液中の様々な原薬の配合および徐放性についての概念証明を実証するために、本明細書で論じられている。
例えば、多相コロイド懸濁液中の疎水性小分子フルオシノロンアセトニド(FA)の配合物を開発した(図15~17)。FAを異なる微粒子複合体形成剤と混和して、様々なFA-複合体微粒子配合物を形成した。分散媒中における各FA-複合体微粒子に対するKdおよび結合能の性質を計算した(図15)。2相動態放出プロファイルは、この実施例では望ましかった。これに基づき、ステアリン酸マグネシウムおよびレシチンの複合体形成剤は、FAと共に分散媒ラウリン酸メチル中に組み込むために、FA多相コロイド懸濁液の生体侵食性チューブ配合物での2相放出を達成する特定の比および濃度で選択した。配合物は、薬剤の所定のペイロードに対してFA-複合体形成剤微粒子の比を調整することにより反復して精製して、初期バースト相の放出、続いて定常状態の放出でおよそ6カ月の放出の持続時間を達成した。図16Bは、他の配合物を例証し、FAの所定のペイロードに対して、より高い親和性(Kd)を有する複合体形成剤(KET)の比率が、配合物全体で上昇するにつれて、様々な比の薬剤-複合体微粒子は、放出の動態を変化させた。多相コロイド懸濁液におけるFAの様々な配合物について(図17)、in vitroにおける薬剤放出の動態(曲線)と、眼の中のin vivoにおける放出の動態(網膜組織レベルを反映する特定の時点での着色された点)との間に強い相関がみられた。
【0100】
別の例では、多相コロイド懸濁液中の親水性小分子リン酸デキサメタゾン(DexPh)の配合物を開発した(図18~19)。Kdおよび結合能の性質を、分散媒中の各DexPh-複合体微粒子で計算した(図18)。原薬の物理化学的性質が、複合体形成の性質との相互反応にどのように影響を与えるかを理解するために、DexPhおよびFA(同じペイロードで)を、それぞれ同じ微粒子複合体形成剤(ステアリン酸マグネシウムおよびトコフェロール)および分散媒(ラウリン酸メチル)と混和した(図19、DexPhに対する曲線、FAに対する曲線)。DexPhの配合物は、DexPhの急激および過剰な放出、または「ダンピング」を実証した。異なる複合体形成剤レシチンを添加し、他の複合体形成剤の比を低下させると、所定のペイロード(オレンジ色曲線)で、動態放出プロファイルを変化させて、DexPhのダンピングを最小化し、より望ましい徐放性プロファイルを得、複合体形成剤を選択する重要性は、目的の特定原薬との好都合な非共有結合性複合体形成に基づくことが実証された。
【0101】
別の例では、多相コロイド懸濁液中の親水性小分子リンゴ酸スニチニブの配合物を開発した(図20~22)。スニチニブを異なる微粒子複合体形成剤と混和して、様々なスニチニブ-複合体微粒子配合物を形成した(図20)。選択された複合体形成剤に対するスニチニブの複合体形成は、スニチニブ-複合体微粒子の混和およびプルダウンにより視覚的に確認され、これは、黄色がかったオレンジ色の微粒子により(スニチニブはオレンジ色の着色を有する)確認された(図21)。スニチニブ多相コロイド懸濁液の生体侵食性チューブ配合物中のスニチニブの配合物は、設計および製造され、in vivoでウサギ眼にインプラントされた場合、放出の望ましい組織レベルおよび耐久性を生成した(図22)。
【0102】
例えば、多相コロイド懸濁液中の疎水性小分子アキシチニブの配合物を開発した。単一相の動態放出プロファイルを有する配合物が望ましかった。これに基づき、アキシチニブを、ボーラスインプラントとして配合される選択された分散媒中で、高い結合能および低いKd(高いアフィニティーを指し示す)を有する複合体形成剤と混和し、これにより、組織において検出可能な薬剤を用いての配合物の遅い放出、および放出の望ましい耐久性が生成された(図23)。
【0103】
別の例では、多相コロイド懸濁液中で、EY005-ステアリルと指定されるプロドラッグH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリルの配合物を開発した(図24~32)。EY005-ステアリルを異なる微粒子複合体形成剤と混和して、様々なEY005-ステアリル-複合体微粒子配合物を形成した。Kdおよび結合能の性質は、分散媒中の各Y005-ステアリル-複合体微粒子で計算した(図24)。様々なEY005-プロドラッグ複合体微粒子の配合物は、急速に放出される、ダンピング型配合物のEY005ネイティブペプチドの比較可能な配合物と比較したin vitroでのEY005-プロドラッグの徐放性を示した(図25)。in vitro動態研究では、ボーラスインプラントとしてのプロドラッグ多相コロイド懸濁液のパイロット配合物は、放出のゼロ次(すなわち直線的)動態を達成し、薬剤放出の望ましい耐久性3カ月を達成し、多相コロイド懸濁液からのプロドラッグの放出後に、プロドラッグは分散媒に存在し、遊離APIはin vitro生理学的環境に存在した(図30)。
【0104】
in vitro効能研究では、プロドラッグ多相コロイド懸濁液のボーラスインプラントを、内因性エステラーゼとRPE細胞培養モデルに添加した。細胞培養データは、細胞骨格の回復を実証し、細胞ミトコンドリア機能不全の無効化を伴って21日時点で約80%が改善した(図31A~31D)。このデータは、安定な多相コロイド懸濁液を形成するために、複合体形成剤と混和し、分散媒中に組み込んだプロドラッグが、予測可能な治療レベルでプロドラッグの徐放性を生成し得ること、および、周囲のin vitro生理学的環境で、MTT-プロドラッグを切断する際に、APIが生物活性のままであることを確認する。
【0105】
in vivo動態研究では、LC/MS分析を使用して、高い網膜レベル(>300ng/g)のMTT-プロドラッグを、ウサギ眼におけるプロドラッグ多相コロイド懸濁液(H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリルペイロード1mg)のボーラスインプラントの硝子体内注入で6週間の間持続させ(図32、IVT MitoXRからのEY005-ステアリル(Seteryl)放出)、プロドラッグの放出について良好なin vivo-in vitro相関を確認した。回収されたボーラスは、約50%の残留ペイロードを有し、プロドラッグのボーラスインプラントは、ゼロ次放出動態を踏まえ、望ましい約90日のインプラントの放出動態を達成することを指し示した。
【0106】
さらに、生物活性テトラペプチドAPI(プロドラッグなし)の、同一の複合体形成剤との、および、同一の分散媒中への組み込みにより、in vitroで生物活性APIの過剰放出、または「ダンピング」が生成される(図25A図30)。さらに、硝子体中に投与されるネイティブAPIの多相コロイド懸濁液ボーラス配合物は、21日を超えて検出可能な組織レベルを生成せず(図32、配合されたボーラスからのEY005ペプチド放出)、これは、in vivoでのネイティブAPIの過剰放出を同様に指し示す。さらに、回収されたボーラスに残留した薬剤はなく、過剰薬剤放出、または「ダンピング」と一致する。したがって、ネイティブ未修飾APIの多相コロイド懸濁液への組み込みは、徐放性を生成するには不十分であり、長期放出薬物送達システムの仕様達成に失敗する。重要なことには、これらのデータは、多相コロイド懸濁液XRDDSからの活性APIの、制御され、耐久性がある放出を達成するために、複合体を別途形成しない一部のAPIで、プロドラッグ構築物、および原薬-複合体微粒子を形成するプロドラッグ共役部分と複合体形成剤の間における特定の相互反応の必要性を確認および強調する。
【0107】
原薬多相コロイド懸濁液の配合物は、インプラントといわれ、眼内および眼の周辺に、すなわち、硝子体液中、房水中、脈絡膜上腔中、網膜下、結膜下、テノン嚢下、眼窩組織中に投与されて、眼組織内における治療レベルの原薬の徐放性を望ましい持続時間(1から12カ月)にわたり生成し得る。
【0108】
原薬多相コロイド懸濁液の配合物を使用して、発症を防止する、または進展を遅くする、疾患の病状を改変する、視力喪失を防止する、または視力を改善する、または発症を防止する、または、乾性加齢性黄斑変性(AMD)、湿性AMD、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、網膜静脈閉塞(RVO)、および遺伝性網膜変性(IRD)、網膜変性、外傷性負傷、虚血性脈管障害、後天性もしくは遺伝性視神経症、緑内障、眼内炎、網膜炎、ブドウ膜炎、網膜およびブドウ膜の炎症性疾患、フックス角膜ジストロフィー、角膜浮腫、眼表面疾患、ドライアイ疾患、結膜の疾患、眼周囲組織の疾患、および眼窩の疾患を含む眼の状態および疾患の他の破壊性もしくは変性態様を改善することができる。
【0109】
方法は、血管内皮成長因子の阻害、補体阻害または抗炎症薬、例えば副腎皮質ステロイドの投与を含む他の処置様式と共に使用され得る。
本明細書に記載されている方法および装置のすべては、いかなる組合せでも、本明細書において想定され、本明細書に記載されている利益を達成するために使用され得る。
【0110】
例えば、本明細書に記載されているのは、分散媒に混和された原薬および1種または複数の複合体形成剤を含む多相コロイド懸濁液の組成物である。1種または複数の複合体形成剤は、原薬への非共有結合による可逆的結合によって原薬-複合体微粒子を形成することが可能であり、脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物、荷電リン脂質、荷電タンパク質、リボ核酸および多糖の1つである、不規則形状の微粒子として配合される化学物質であり得る。
【0111】
例えば、複合体形成剤は、CH3(CH2)COOH(式中、nは4から30に等しい)の化学式を有する脂肪族鎖を有するカルボン酸を含む脂肪酸であり得、これは、飽和または不飽和であり、塩またはエステルであり、パルミチン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、パルミチン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウムの1つまたは複数を含む。
【0112】
微粒子複合体形成剤は、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物であり得、ケトンまたはアルデヒドからなるケト形とエノール形との間における化学平衡を受けることが可能であり、フェノール化合物、トコフェロール化合物、キノン化合物、リボ核酸化合物の1つを含む。いくつかの例では、微粒子複合体形成剤は、荷電リン脂質であり、アニオン性リン脂質、レシチン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、正電荷を有する合成リン脂質およびDLin-MC3-DMAの1つまたは複数である。微粒子複合体形成剤は、正または負の荷電タンパク質であり得、アルブミン、合成ポリペプチド、血漿タンパク質、アルファ2-マクログロブリン、フィブリンおよびコラーゲンの1つまたは複数である。微粒子複合体形成剤は、リボ核酸、5-炭素糖、リン酸基および窒素塩基を含むヌクレオチドを含むバイオポリマー高分子であり得る。微粒子複合体形成剤は、グリコシド結合により一緒に結合しているモノサッカリド単位を含む長鎖ポリマー炭水化物を含む多糖であり得、環状多糖分子、シクロデキストリンおよび包摂化合物の1つまたは複数を含む。
【0113】
原薬は、非共有結合性複合体を微粒子複合体形成剤と形成し得、小分子、小型ポリペプチド、タンパク質、アプタマー、核酸医薬、疎水性化学物質および親水性化学物質の1つを含み得る。いくつかの例では、原薬は、式(I):R’-R(I)(式中、R’は、切断可能な結合を経由して、非共有結合性複合体を5種の分類の複合体形成剤の1つと形成する共役部分であるRに共有結合で連結しているいずれかの有効活性成分(API)であり、ならびにR’およびRを連結する共有結合は、酵素切断、触媒、加水分解または他の反応により除去して、遊離API R’および共役部分Rを得ることができ、Rは、C4~C30脂質部分(脂肪酸または脂肪族アルコール)、C4~C30直鎖もしくは分枝脂肪族部分、2-merから30-merのペプチド部分、Peg化部分、または炭水化物部分から選択される)のプロドラッグである。切断可能な共有結合は、エステル結合、ヒドラゾン結合、イミン結合、ジスルフィド結合、チオエステル結合、チオエーテル結合、リン酸エステル結合、ホスホン酸エステル結合、ボロン酸エステル結合、アミド結合、カルバミン酸エステル結合、カルボン酸エステル結合および炭酸エステル結合の1つを含み得る。
【0114】
共役部分は、先行するリンカー部分の有無を問わず、tert-ブチルアルコール、tert-アミルアルコール、3-メチル-3-ペンタノール、1-ヘプタノール(エナントアルコール)、1-オクタノール(カプリルアルコール)、1-ノナノール(ペラルゴンアルコール)、1-デカノール(デシルアルコール、カプリンアルコール)、ウンデシルアルコール(1-ウンデカノール、ウンデカノール、ヘンデカノール)、ドデカノール(1-ドデカノール、ラウリルアルコール)、トリデシルアルコール(1-トリデカノール、トリデカノール、イソトリデカノール)、1-テトラデカノール(ミリスチルアルコール)、ペンタデシルアルコール(1-ペンタデカノール、ペンタデカノール)、1-ヘキサデカノール(セチルアルコール)、cis-9-ヘキサデセン-1-オール(パルミトレイルアルコール)、ヘプタデシルアルコール(1-n-ヘプタデカノール、ヘプタデカノール)、1-オクタデカノール(ステアリルアルコール)、1-オクタデセノール(オレイルアルコール)、1-ノナデカノール(ノナデシルアルコール)、1-エイコサノール(アラキジルアルコール)、1-ヘンエイコサノール(ヘンエイコシルアルコール)、1-ドコサノール(ベヘニルアルコール)、cis-13-ドコセン-1-オール(エルシルアルコール)、1-テトラコサノール(リグノセリルアルコール)、1-ペンタコサノール、1-ヘキサコサノール(セリルアルコール)、1-ヘプタコサノール、1-オクタコサノール(モンタニルアルコール、クルイチルアルコール(cluytyl alcohol))、1-ノナコサノール、1-トリアコンタノール(ミリシルアルコール、メリシルアルコール)の1つまたは複数を含む脂肪族アルコールであり得る。
【0115】
共役部分は、先行するリンカー部分の有無を問わず、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、(9Z)-ヘキサデセン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン酸、(9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-9,12,15-トリエン酸、(6Z,9Z,12Z)-オクタデカ-6,9,12-トリエン酸、(5E,9E,12E)-オクタデカ-5,9,12-トリエン酸、(6Z,9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-6,9,12,15-テトラエン酸、(Z)-オクタデカ-9-エン酸、(11E)-オクタデカ-11-エン酸、(E)-オクタデカ-9-エン酸、ノナデカノン酸およびエイコサン酸の1つまたは複数を含む脂肪酸であり得る。
【0116】
いくつかの例では、Rは、先行するリンカー部分の有無を問わず、アニオン性、カチオン性または中性の1つであり、ポリ-グルタメート、ポリ-アスパルテートまたはグルタメートおよびアスパルテートの組合せ;ポリ-アルギニン、ポリ-リジン、ポリ-ヒスチジン、アルギニンおよびリジンの組合せ、アルギニンおよびヒスチジンの組合せ、ヒスチジンおよびリジンの組合せまたはアルギニン、ヒスチジンおよびリジンの組合せの1つまたは複数を含む天然または合成アミノ酸を含む2-merから約30-merのペプチド部分であり;ペプチド部分は、ポリエチレングリコール(PEG)基を付加するための1つまたは複数のPEG化部分を有し;ペプチド部分は、グリコシル化を含む糖または炭水化物分子の付加による修飾のための1つまたは複数の部分を有する。いくつかの例では、Rは、直鎖状、分枝状、Y-字型もしくは多分岐ジオメトリーのPEGポリマーを含むポリエチレングリコール(PEG)ポリマー、Peg化ペプチド、またはPeg化スクシネートの1つである。いくつかの例では、Rは、先行するリンカー部分の有無を問わず、グルコース、ガラクトース、ラクトース、マンノース、リボース、フコース、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルグルコサミン、N-アセチレンウラミン酸、またはグルコース、ガラクトース、ラクトース、マンノース、リボース、フコース、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルグルコサミンおよびN-アセチレンウラミン酸のエピマーもしくは誘導体の1つまたは複数を含む、2から20個の糖の炭水化物を含む炭水化物部分である。
【0117】
R’はAPIであり得、Rは、複数のAPIに共有結合で連結して、プロドラッグのダイマーまたはマルチマーを形成するリンカーまたは多量体化ドメインであり、nは2から約100に等しく、Rは、PEG、PEGポリマー、ポリビニルアルコール(PVA)またはペプチドの1つである。
【0118】
これらの組成物のいずれかにおいて、分散媒は、飽和脂肪酸メチルエステル、不飽和脂肪酸メチルエステル、飽和脂肪酸エチルエステル、不飽和脂肪酸エチルエステルの少なくとも1つを含む疎水性油を含む多相コロイド懸濁液を形成することが可能である液体油であり得る。
【0119】
飽和脂肪酸メチルエステルは、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、ペンタン酸メチル、ヘキサン酸メチル、ヘプタン酸メチル、オクタン酸メチル、ノナン酸メチル、デカン酸メチル、ウンデカン酸メチル、ドデカン酸メチル(ラウリン酸メチル)、トリデカン酸メチル、テトラデカン酸メチル、メチル9(Z)-テトラデセノエート、ペンタデカン酸メチル、ヘキサデカン酸メチル、ヘプタデカン酸メチル、オクタデセン酸メチル、ノナデカン酸メチル、エイコサン酸メチル、ヘンエイコサン酸メチル、ドコサン酸メチル、トリコサン酸メチルなどの1つまたは複数を含み得る。
【0120】
不飽和脂肪酸メチルエステルは、メチル10-ウンデセノエート、メチル11-ドデセノエート、メチル12-トリデセノエート、メチル9(E)-テトラデセノエート、メチル10(Z)-ペンタデセノエート、メチル10(E)-ペンタデセノエート、メチル14-ペンタデセノエート、メチル9(Z)-ヘキサデセノエート、メチル9(E)-ヘキサデセノエート、メチル6(Z)-ヘキサデセノエート、メチル7(Z))-ヘキサデセノエート、メチル11(Z)-ヘキサデセノエートを含み得る。
【0121】
飽和脂肪酸エチルエステルは、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、ペンタン酸エチル、ヘキサン酸エチル、ヘプタン酸エチル、オクタン酸エチル、ノナン酸エチル、デカン酸エチル、ウンデカン酸エチル、ドデカン酸エチル(ラウリン酸エチル)、トリデカン酸エチル、テトラデカン酸エチル、エチル9(Z)-テトラデセノエート、ペンタデカン酸エチル、ヘキサデカン酸エチル、ヘプタデカン酸エチル、オクタデセン酸エチル、ノナデカン酸エチル、エイコサン酸エチル、ヘンエイコサン酸エチル、ドコサン酸エチル、トリコサン酸エチルを含み得る。
【0122】
不飽和脂肪酸エチルエステルは、エチル10-ウンデセノエート、エチル11-ドデセノエート、エチル12-トリデセノエート、エチル9(E)-テトラデセノエート、エチル10(Z)-ペンタデセノエート、エチル10(E)-ペンタデセノエート、エチル14-ペンタデセノエート、エチル9(Z)-ヘキサデセノエート、エチル9(E)-ヘキサデセノエート、エチル6(Z)-ヘキサデセノエート、エチル7(Z))-ヘキサデセノエート、エチル11(Z)-ヘキサデセノエートを含み得る。
【0123】
また、本明細書に記載されているのは、薬剤放出の1つまたは複数の相の放出プロファイルを有する分散媒に混和された原薬および1種または複数の複合体形成剤を含む、多相コロイド懸濁液の組成物であって、1種または複数の複合体形成剤が、原薬への非共有結合による可逆的結合によって原薬-複合体微粒子を形成する不規則形状の微粒子として配合され、脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物、荷電リン脂質、荷電タンパク質、リボ核酸および多糖の1つであり、さらに、原薬が、小分子、小型ポリペプチド、タンパク質、アプタマー、核酸医薬、疎水性化学物質および親水性化学物質の1つを含み;さらに、分散媒が、飽和脂肪酸メチルエステル、不飽和脂肪酸メチルエステル、飽和脂肪酸エチルエステル、不飽和脂肪酸エチルエステルの少なくとも1つを含む疎水性液体油である、組成物である。
【0124】
例えば、多相コロイド懸濁液の組成物は、薬剤放出の1つまたは複数の相の放出プロファイルを有する分散媒に混和された原薬および1種または複数の複合体形成剤を含み得、1種または複数の複合体形成剤は、原薬への非共有結合による可逆的結合によって原薬-複合体微粒子を形成する不規則形状の微粒子として配合され、脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物、荷電リン脂質、荷電タンパク質、リボ核酸および多糖の1つであり;さらに、分散媒は、飽和脂肪酸メチルエステル、不飽和脂肪酸メチルエステル、飽和脂肪酸エチルエステル、不飽和脂肪酸エチルエステルの少なくとも1つを含む疎水性液体油である。
【0125】
いくつかの例では、多相コロイド懸濁液の組成物は、薬剤放出の1つまたは複数の相の放出プロファイルを有する分散媒に混和された原薬および1種または複数の複合体形成剤を含み、1種または複数の複合体形成剤は、原薬への非共有結合による可逆的結合によって原薬-複合体微粒子を形成する不規則形状の微粒子として配合され、脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物、荷電リン脂質、荷電タンパク質、リボ核酸および多糖の1つであり、さらに、原薬は、小分子、小型ポリペプチド、タンパク質、アプタマー、核酸医薬、疎水性化学物質および親水性化学物質の1つを含み;さらに、分散媒は、飽和脂肪酸メチルエステル、不飽和脂肪酸メチルエステル、飽和脂肪酸エチルエステル、不飽和脂肪酸エチルエステルの少なくとも1つを含む疎水性液体油である。
【0126】
また、本明細書に記載されているのは、分散媒に混和されて、予め特定された原薬の放出速度および量に合う原薬および1種または複数の複合体形成剤を含む多相コロイド懸濁液の組成物を設計する方法である。例えば、方法は、様々な結合能およびKdを有する様々な原薬-複合体微粒子の比および量を変動するステップを含み得る。様々な結合能およびKdを有する様々な原薬-複合体微粒子の比および量を変動するステップを含み得る方法は、高い結合能、および微粒子複合体形成剤に対する原薬の親和性が低いことを指し示す高いKdを有する原薬-複合体微粒子を添加して、放出の速度の短期的上昇、または初期バーストを作り出すステップを含む。これらの方法のいずれかは、高い結合能、および微粒子複合体形成剤に対する原薬の親和性が高いことを指し示す低いKdを有する原薬-複合体微粒子を添加することにより、インプラントから原薬を放出する持続時間を延長するステップを含み得る。これらの方法のいずれかは、眼注入用の原薬-多相コロイド懸濁液を、流動性のボーラスインプラント、原薬-多相コロイド懸濁液で満たした侵食性もしくは非生体内侵食性チューブインプラント、または特定の大きさおよび形状の、また、インプラント治療のために構成された固体モールド中で作られた原薬-多相コロイド懸濁液の1つとして配合するステップを含み得る。
【0127】
また、本明細書に記載されているのは、これらの組成物のいずれかを使用した処置の方法である。例えば、本明細書に記載されているのは、眼の障害および疾患を処置する方法であり、原薬-多相コロイド懸濁液は、眼内および眼の周辺において、以下の組織区画の1つ中に、硝子体液、房水中、脈絡膜上腔中、網膜下、結膜下、テノン嚢下、または眼窩組織中に投与されて、眼組織内における治療レベルの原薬の徐放性を1カ月または複数月にわたり生成する。
【0128】
例えば、高度に持続させた実薬の網膜および網膜色素上皮(RPE)組織レベルを生成する長期放出薬物送達システムの配合物の硝子体内または眼周囲注入により、対象における視力喪失を処置する方法は、長期放出薬物送達システムと組み合わせたプロドラッグである原薬を、処置のスタート時に、対象の眼の中に送達するステップ;および対象の眼におけるエステラーゼまたは生物活性酵素の作用により、プロドラッグを切断して、第1の相の間にバースト相放出速度で、プロドラッグの有効活性成分(API)を眼の中に放出するステップ;およびエステラーゼまたは生物活性酵素の作用により、プロドラッグを切断して、第2の相の間に定常状態の投与速度で、APIを眼の中に放出するステップを含み得、バースト相速度が定常状態の放出速度を超え、さらに第1の相が、処置のスタートから約2~6週間にわたり延長し、後続の相が第1の相の終わりから1カ月または複数月にわたり延長する。
【0129】
例えば、高度に持続させた実薬の網膜およびRPE組織レベルを生成する長期放出薬物送達システムの配合物の硝子体内または眼周囲注入により、対象における網膜神経感覚上皮および/または網膜色素上皮(RPE)の萎縮の発症を防止する、または萎縮の進展を遅くする方法は、長期放出薬物送達システムと組み合わせた有効活性成分(API)のプロドラッグである原薬を、処置のスタート時に、対象の眼の中に送達するステップ;および対象の眼におけるエステラーゼまたは生物活性酵素の作用により、プロドラッグを切断して、第1の相の間にバースト相放出速度で、APIを眼の中に放出するステップ;およびエステラーゼまたは生物活性酵素の作用により、プロドラッグを切断して、第2の相の間に定常状態の投与速度で、APIを眼の中に放出するステップを含み得、バースト相速度が定常状態の放出速度を超え、さらに第1の相が、処置のスタートから約2~6週間にわたり延長し、後続の相が第1の相の終わりから1カ月または複数月にわたり延長する。
【0130】
本明細書に記載されている方法および装置のすべては、いかなる組合せでも、本明細書において想定され、本明細書に記載されている利益を達成するために使用され得る。
本明細書に記載されている方法および装置の特徴および利点のより良好な理解は、例証の実施形態を明記する以下の詳細な説明、およびその添付の図面への言及により得られる。
【図面の簡単な説明】
【0131】
図1図1は、多相コロイド懸濁液の成分を例証し、原薬(100)(様々な小型ポリペプチド、タンパク質、アプタマー、他の核酸医薬、疎水性化学物質、親水性化学物質および治療目的に使用される他の化合物と定義される)またはプロドラッグ(101)(例えば、5種の分類の共役部分(105)の1つに、切断可能な共有結合を経由して連結したいずれかの有効活性成分(103))が添加され、疎水性分散媒中で(107)1種または複数の複合体形成剤へと混和される。これらは、例えば、眼、眼周囲の組織および眼窩の様々な疾患を処置するために、1~12カ月の処置の持続時間を達成する様々な配合物として、眼内および眼の周辺に投与され得る(109)多相コロイド懸濁液長期放出薬物送達システムを集合的に形成する。
図2図2A~2Eは、多相コロイド懸濁液長期放出薬物送達システムを使用して、特定の薬物動態放出プロファイルに対して、配合物を数式によりカスタム設計するアプローチを例証し、この具体例では、本明細書に記載されている原薬の放出に対する2相放出プロファイル(図2A)を構成する一方法を含む。
図3図3A~3Cは、(図3A)1相(ゼロ次)放出動態、(図3B)2相放出動態、および(図3C)3相放出動態を含む、多相コロイド懸濁液からの原薬の異なる潜在的放出動態プロファイル3種を例証する。
図4図4A~4Fは、蛍光顕微鏡検査法を使用してアッセイした様々な蛍光性小分子とステアリン酸マグネシウムの複合体形成を例証する。図4Aは、低い固有の蛍光性を示すステアリン酸マグネシウム単体を示す。図4Bは、FITC-標識EY005ネイティブペプチド(H-d-Arg-DMT-Lys-Phe)とインキュベートしたステアリン酸マグネシウムを示す。FITC-標識EY005ネイティブペプチド単体は、ステアリン酸マグネシウムとの最小限の複合体形成を示し、これは微粒子の最小限の蛍光標識により反映された。図4Cは、FITC-標識EY005-ステアレートプロドラッグ(H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリル)とインキュベートしたステアリン酸マグネシウムを示す。EY005-ステアリルプロドラッグとステアリン酸マグネシウムの複合体形成は、画像化したステアリン酸マグネシウム微粒子の中等度の蛍光性のため、明白であった。図4Dは、試料Cからのマグネシウムと複合体形成したFITC-標識EY005-ステアリルプロドラッグ(FITC標識したペプチドおよび標識していないステアリル共役部分)を、カルボキシエステラーゼ(0.1μg/mL)で処理すると、蛍光性のレベルが低下したことを示し、これにより、複合体形成は、具体的にはステアリル共役部分により媒介されることが実証される。図4Eは、蛍光性C12脂質化合物とインキュベートしたステアリン酸マグネシウムを示す。C12脂質化合物とステアリン酸マグネシウムの強力な複合体形成は、画像化したステアリン酸マグネシウム微粒子の明るい蛍光のため、明白であった。図4Fは、蛍光性カチオン性小分子とインキュベートしたステアリン酸マグネシウムを示し、これは、ステアリン酸マグネシウム微粒子の明るい蛍光によりわかるように、ステアリン酸マグネシウムと強力に複合体形成した。
図5図5A~5Fは、蛍光顕微鏡検査法を使用してアッセイした様々な蛍光性小分子とアルブミンの複合体形成を例証する。図5Aでは、アルブミン単体は、低い固有の蛍光性を示す。図5Bは、FITC-標識EY005ネイティブペプチド(H-d-Arg-DMT-Lys-Phe)とインキュベートしたアルブミンを示す。FITC-標識EY005ネイティブペプチド単体は、溶解したFITC-標識EY005ネイティブペプチドから広まった蛍光に囲まれている、アルブミン結晶のネガティブ染色により反映されるように、アルブミンとの最小限の複合体形成を示した。図5Cは、FITC-標識EY005-ステアレートプロドラッグ(H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリル)とインキュベートしたアルブミンを示す。EY005-ステアリルプロドラッグとアルブミンの強力な複合体形成は、画像化したアルブミン結晶の明るい蛍光として明白であった。図5Dでは、試料Cからのアルブミンと複合体形成したFITC-標識EY005-ステアリルプロドラッグ(FITC標識したペプチドおよび標識していないステアリル共役部分)を、カルボキシエステラーゼ(0.1μg/mL)で処理すると、蛍光性のレベルが低下し、これにより複合体形成は、具体的にはステアリル共役部分により媒介されることが実証された。図5Eは、蛍光性C12脂質化合物とインキュベートしたアルブミンを示す。蛍光性C12脂質化合物のアルブミンとの強力な複合体形成は、画像化したアルブミン微粒子の明るい蛍光として明白であった。図5Fは、蛍光性カチオン性小分子とインキュベートしたアルブミンを示し、これは、アルブミン微粒子の中等度の蛍光によりわかるように、アルブミンと中等度に複合体形成した。
図6図6A~6Fは、蛍光顕微鏡検査法を使用してアッセイしたシクロデキストリンガンマと様々な蛍光性小分子の複合体形成を例証する。図6Aでは、シクロデキストリン単体は、低い固有の蛍光性を示す。図6Bは、FITC-標識EY005ネイティブペプチド(H-d-Arg-DMT-Lys-Phe)とインキュベートしたシクロデキストリンを示す。FITC-標識EY005ネイティブペプチド単体は、シクロデキストリン単体のものを超える、蛍光性における最小限の増大により反映されるように、シクロデキストリンとの最小限の複合体形成を示した。図6Cは、FITC-標識EY005-ステアレートプロドラッグ(H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリルとインキュベートしたシクロデキストリンを示す。EY005-ステアリルプロドラッグとシクロデキストリンの複合体形成は、画像化したプロドラッグ-シクロデキストリン微粒子の中等度の蛍光として明白であった。図6Dは、試料Cからのシクロデキストリンと複合体形成したFITC-標識EY005-ステアリルプロドラッグ(FITC標識したペプチドおよび標識していないステアリル共役部分)を、カルボキシエステラーゼ(0.1μg/mL)で処理すると、蛍光性のレベルが低下することを示し、これにより、複合体形成は、具体的にはステアリル共役部分により媒介されることが実証された。図6Eは、蛍光性C12脂質化合物とインキュベートしたシクロデキストリンを示す。蛍光性C12脂質化合物のシクロデキストリンとの複合体形成は、画像化したシクロデキストリン微粒子の中等度の蛍光として明白であった。図6Fでは、シクロデキストリンは、シクロデキストリンとより強力に複合体形成する蛍光性カチオン性小分子とインキュベートし、これにより、明るく蛍光性の微粒子が作り出される。
図7図7A~7Fは、蛍光顕微鏡検査法を使用してアッセイしたレシチンと様々な蛍光性小分子の複合体形成を例証する。図7Aでは、レシチン単体は、低い固有の蛍光性を示す。図7Bは、FITC-標識EY005ネイティブペプチド(H-d-Arg-DMT-Lys-Phe)でインキュベートしたレシチンを示す。FITC-標識EY005ネイティブペプチドは、レシチン単体のものを超える、蛍光性における最小限の増大により反映されるように、レシチンとの最小限の複合体形成を示した。図7Cは、FITC-標識EY005-ステアレートプロドラッグ(H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリル)とインキュベートしたレシチンを示す。レシチンとEY005-ステアリルプロドラッグの複合体形成は、すべてのレシチン試料の明るい蛍光として明白であった。図7Dでは、試料Cからのレシチンと複合体形成したFITC-標識EY005-ステアリルプロドラッグ(FITC標識したペプチドおよび標識していないステアリル共役部分)を、カルボキシエステラーゼ(0.1μg/mL)で処理すると、蛍光性のレベルが低下し、これにより複合体形成は、具体的にはステアリル共役部分により媒介されることが実証された。図7Eは、蛍光性C12脂質化合物とインキュベートしたレシチンを示す。蛍光性C12脂質化合物のレシチンとの複合体形成は、すべてのレシチン試料の明るい蛍光として明白であった。図7Fは、蛍光性カチオン性小分子とインキュベートしたレシチンを示し、これは、レシチン試料における暗い蛍光のみによる証拠として、レシチンと最小限の複合体形成を示した。
図8図8A~8Fは、蛍光顕微鏡検査法を使用してアッセイした様々な蛍光性小分子と、複合体形成剤としての役割を果たさない微粒子であるシリカマイクロビーズの複合体形成を例証する。図8Aでは、シリカマイクロビーズ単体を、陰性対照として画像化し、最小限の固有の蛍光性を示した。図8Bは、FITC-標識EY005ネイティブペプチド(H-d-Arg-DMT-Lys-Phe)とインキュベートしたシリカマイクロビーズを示す。蛍光性の円形を作り出し、眼の生理学的環境への多相コロイド懸濁液の添加の際に分散するシリカマイクロビーズと複合体形成したFITC-標識EY005ネイティブペプチドを示し、これは、複合体形成の親和性(aviditiy)が低いことを指し示す。図8Cは、FITC-標識EY005-ステアリルプロドラッグ(H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリル)とインキュベートしたシリカマイクロビーズを示す。EY005-ステアリルプロドラッグとシリカマイクロビーズの複合体形成の証拠はなかった。図8Dでは、試料Cからのシリカマイクロビーズと複合体形成したFITC-標識EY005-ステアリルプロドラッグ(FITC標識したペプチドおよび標識していないステアリル共役部分)を、カルボキシエステラーゼ(0.1μg/mL)で処理すると、きわめて低いレベルの蛍光性は変化しなかった。図8Eは、蛍光性C12脂質化合物とインキュベートしたシリカマイクロビーズを示す。シリカマイクロビーズの表面における暗い蛍光は、蛍光性C12脂質化合物との最小限の複合体形成を示唆する。図8Fは、シリカマイクロビーズと広範に複合体形成する蛍光性カチオン性小分子とインキュベートしたシリカマイクロビーズを示し、これは、明るく蛍光性の円形を作り出す。
図9図9は、フルオシノロンアセトニド(F17 FA)、デキサメタゾン遊離塩基(F10 DEX)およびリン酸デキサメタゾン(F1 DEX PHOS)の、様々な配合物の1日の放出速度により、放出する動態の例を実証する。
図10図10A~10Fは、水中の蛍光性マイクロビーズ(3μmおよび10μm)を例証する。ごくわずかなマイクロビーズしか示さないきわめて急激な沈降が混合物の上部領域で発生し、混合物の下部レベルは、きわめて密集したマイクロビーズを示す。したがって、この混合物は、微粒子が均一に分散していないので、多相コロイド懸濁液として機能しない。
図11図11A~11Fは、シリコーン油中の蛍光性マイクロビーズ(3μmおよび10μm)を例証する。わずかなマイクロビーズしか示さないきわめて急激な沈降が混合物の上部領域で発生し、混合物の下部レベルは、きわめて密集したマイクロビーズを示す。したがって、この混合物は、微粒子が均一に分散していないので、多相コロイド懸濁液として機能しない。
図12図12A~12Fは、ラウリン酸メチル中の蛍光性マイクロビーズ(3μmおよび10μm)を例証する。ビーズは均一に分散したままでいて、沈降または移行の証拠はない。したがって、ラウリン酸メチルは、安定な多相コロイド懸濁液を形成するので有効な分散媒である。
図13図13A~13Fは、2%ゼラチン中の蛍光性マイクロビーズ(3μmおよび10μm)を例証する。ビーズは均一に分散したままでいて、沈降または移行の証拠はなく、コロイド懸濁液の形成を指し示す。
図14図14A~14Fは、コラゲナーゼで処理した2%ゼラチン中の蛍光性マイクロビーズ(3μmおよび10μm)を例証する。処理後、ビーズは急速に沈降し、下段ウェルにおいてビーズの比率がより高くなり、ゼラチンが、ゼラチンを分解する多量の酵素を有する眼の生理学的環境において、分散媒としての役割を果たし得ないことが指し示される。したがって、これは、安定な多相コロイド懸濁液を表さず、2%ゼラチンは、有効な分散媒ではない。
図15図15は、インキュベーションの1時間後、微粒子を遠心分離およびプルダウンした、ラウリン酸メチルに添加され、様々な複合体形成剤と混和されるフルオシノロンアセトニドの結合能(複合体形成剤mg当たりの複合体形成フルオシノロンアセトニドμg)およびKd(非結合-結合比)を例証する表1を示す。各複合体形成剤で複合体形成したフルオシノロンアセトニドの量は、HPLCにより判定した。これらのデータから、各分類の複合体形成剤との様々な程度の複合体形成が実証された。
図16図16Aは、薬剤および複合体形成剤(複数可)の異なる代表的な配合物が、in vitroで特定の、および異なる放出動態をどのように生成するかを例証し、各配合物の薬剤放出動態は、この実施例では、2つの異なる複合体形成剤の比を変動させることにより予測可能な形式で設計および調整する。配合物1は、より短い持続時間の放出プロファイル(すなわち120日)を描写する一方、配合物2は、より長い持続時間(すなわち210日)を有する2相放出プロファイルを描写する。図16Bは、所定の薬剤ペイロードに対する本明細書に記載されている時間放出動態への、様々な比率の複合体形成剤の効果を例証する。図2に記載されているように、個々の薬剤-複合体から測定した薬剤放出動態を利用して、2つ以上の薬剤-複合体のブレンドで予測される標的放出動態を判定でき、これは、図9のようにin vitro放出研究により実験的に確認され得る。
図17図17Aおよび17Bは、多相コロイド懸濁液中のフルオシノロンアセトニドの2つの異なる配合物に対する、良好なin vitro対in vivoの相関を例証する。描写されている曲線は、in vitro放出プロファイルを反映する一方、個々の着色された丸い点は、ウサギ眼からのin vivo放出データを表す。
図18図18は、表2を示し、インキュベーションの1時間後、微粒子を遠心分離およびプルダウンした、ラウリン酸メチルに添加され、様々な複合体形成剤と混和されるリン酸デキサメタゾンの結合能(複合体形成剤mg当たりの複合体形成フルオシノロンアセトニドμg)およびKd(非結合-結合比)を例証する。各複合体形成剤で複合体形成したリン酸デキサメタゾンの量は、HPLCにより判定した。これらのデータから、各分類の複合体形成剤との様々な程度の複合体形成が実証された。
図19図19は、原薬のどの物理化学的性質が、複合体形成の性質との相互反応に影響を与えるかを例証する。親水性原薬リン酸デキサメタゾン(DexPh)および疎水性原薬フルオシノロンアセトニド(FA)(同じペイロードで)はそれぞれ、同じ微粒子複合体形成剤(ステアリン酸マグネシウムおよびトコフェロール)および分散媒(ラウリン酸メチル)と混和した(DexPhは丸、FAは下側曲線の三角形)。DexPhの配合物は、DexPhの急激および過剰な放出、または「ダンピング」を実証した。異なる複合体形成剤レシチンの添加は、所定のペイロードで他の複合体形成剤の比が低下し(三角形、中間の曲線)、動態放出プロファイルを変化させて、DexPhのダンピングを最小化し、より望ましい徐放性プロファイルを得た。
図20図20は、表3を示し、インキュベーションの1時間後、微粒子を遠心分離およびプルダウンした、分散媒に添加され、様々な複合体形成剤と混和されるリンゴ酸スニチニブの結合能(複合体形成剤mg当たりの複合体形成フルオシノロンアセトニドμg)およびKd(非結合-結合比)を例証する。各複合体形成剤で複合体形成したリンゴ酸スニチニブの量は、HPLCにより判定した。これらのデータから、各分類の複合体形成剤との様々な程度の複合体形成が実証された。
図21図21は、複合体形成が、ある化合物の比色分析によっても評価され得ることを例証する。スニチニブは、明るく着色された黄色化合物である。複合体形成を評価するために、様々な複合体形成剤を、マレイン酸スニチニブ溶液と1時間にわたりインキュベートした。複合体形成剤を次いで5回すすいで、すべての遊離スニチニブを除去した。すすいだ後で、複合体形成剤を画像化して、スニチニブ複合体形成の相対的程度を評価した。見ての通り、比色変化が各複合体形成剤で様々な程度に発生して、様々なレベルのスニチニブとの複合体形成が示唆される。
図22図22は、複数の時点における、ウサギの網膜組織において検出可能な薬剤レベルでの、低および高用量インプラントのリンゴ酸スニチニブの配合物(生体侵食性チューブ中の多相コロイド懸濁液として)および原薬放出、ならびにそれぞれの放出の耐久性を例証する。高用量インプラントでの組織レベルは、一貫してスニチニブのIC90レベルを上回ったままであった。
図23図23は、複数の時点における、インプラントのウサギの網膜組織において検出可能な薬剤レベルでの、アキシチニブの配合物(流動性のボーラスとしての多相コロイド懸濁液として)および原薬放出、ならびに放出の耐久性を例証する。組織レベルは、一貫してアキシチニブのIC90レベルを上回ったままであった。
図24図24は、表4であり、インキュベーションの1時間後、微粒子を遠心分離およびプルダウンした、分散媒に添加され、様々な複合体形成剤と混和されるEY005-ステアリルプロドラッグの結合能(複合体形成剤mg当たりの複合体形成フルオシノロンアセトニドμg)およびKd(非結合-結合比)を例証する。各複合体形成剤で複合体形成した遠心分離物の量は、HPLCにより判定した。これらのデータから、各分類の複合体形成剤との様々な程度の複合体形成が実証された。
図25図25Aは、ラウリン酸メチルを分散媒として使用してEY005 MTTが様々な複合体形成剤と配合される、加速させたin vitro放出アッセイからのデータを示す。すべてのケースにおいてすべてのEY005が急速に、いくつかのケースでは数時間以内、すべてのケースにおいて3日目までに放出された。図25Bは、ラウリン酸メチルを分散媒として使用して、EY005-ステアリルプロドラッグが様々な複合体形成剤と配合された、加速したin vitro放出アッセイからのデータを示す。複合体形成剤を伴わない配合物は、EY005の媒体中への急激な放出を示す。EY005-ステアリルプロドラッグと複合体形成しない、シリカマイクロビーズを用いた配合物は、EY005の媒体中への急激な放出も示す。それに反して、他の複合体形成剤を用いた配合物は、様々な速度でのEY005の徐放性を実証する。特に注意すべきは、ステアリン酸マグネシウムおよびアルブミンが両方とも、同一の配合物に複合体形成剤として使用される場合、EY005は、配合物のそれらの間で、いずれかの複合体形成剤単体を使用して中等度の速度で放出される。
図26図26は、ミトコンドリア-標的化テトラペプチドEY005(103)の一例を概略的に例証し、これは、いくつかの分類の共役部分(105)の1つに連結した場合、ミトコンドリア-標的化ペプチドプロドラッグ(101)を構成する。このミトコンドリア-標的化ペプチドプロドラッグは、分散媒中の選択された複合体形成剤と混和されて、ボーラス配合物(107)中の多相コロイド懸濁液を形成し、これが、硝子体内の(IVT)長期放出薬物送達システムの一部として、眼(109)の硝子体中に注入され得る。
図27図27Aは、ミトコンドリア標的化テトラペプチドにエステル結合により連結しているステアリルアルコールまたはオクタデシル部分を含むEY005ミトコンドリア標的化テトラペプチドのプロドラッグの例である。図27Bは、エステル結合を経由してEY005に連結しているペプチドモチーフ(例えば、アニオン性トリ-Gluペプチド)およびリンカー部分を含むEY005ミトコンドリア標的化テトラペプチドのプロドラッグの例である。図27Cは、エステル結合を経由してEY005に連結しているペプチドモチーフ(例えば、カチオン性トリ-Argペプチド)およびリンカー部分を含むEY005ミトコンドリア標的化テトラペプチドのプロドラッグの例である。図27Dは、エステル結合によりEY005に連結しているポリエチレングリコール(PEG)を含むEY005ミトコンドリア標的化テトラペプチドのプロドラッグの例である。
図28図28A~28Cは、カルボキシエステラーゼによる、および自発的加水分解によるEY005-ステアリルプロドラッグに基づくエステルの切断を実証する。図28Aは、EY005-ステアリルプロドラッグ(上のトレース線)およびEY005 MTT(下のトレース線)のベースラインHPLC分析を示す。EY005-ステアリルは、眼の生理学的環境および硝子体内で多量になりやすいエステラーゼのタイプを模倣するために、37℃にてin vitroでカルボキシエステラーゼ(0.1μg/mL)とインキュベートした。カルボキシエステラーゼとのEY005-ステアリルのインキュベーションにより、プロドラッグのエステル結合の急激な切断が生成され、高速液体クロマトグラフィーでのEY005-ステアリルプロドラッグピークの消失およびEY005ピークの出現により明白なように、EY005が放出される(図28B)。EY005-ステアリルプロドラッグを、37℃にてエステラーゼなしでリン酸緩衝生理食塩水溶液に添加すると、EY005-ステアリルプロドラッグのエステル結合は、加水分解でよりゆっくり切断される(図28C)。6時間後、EY005-ステアリルプロドラッグのEY005 MTTへの部分的な切断が示される。
図29図29Aは、乾性AMDのin vitro培養モデルを示し、ここでは、内因性エステラーゼを所有するRPE細胞が、ヒドロキノン(HQ)に曝露して、ミトコンドリア機能不全を誘導する。ミトコンドリア機能不全は、フラボタンパク質の自己蛍光増大として(上段パネル)、およびアクチン細胞骨格の異常形態として(下段パネル)現れる。EY005-ステアリル(5μM)は、EY005ネイティブペプチド(5μM)を用いた処置に等しい効能で、RPE細胞においてHQで誘導されたミトコンドリア機能不全を効率的に無効化した(細胞のフラボタンパク質-自己蛍光および標準化されたアクチン細胞骨格機能不全の低下により描写される)。EY005-ステアリルも、別の媒体中でカルボキシエステラーゼ(0.1μg/mL)と予めインキュベートした。切断したEY005(5μM)を含有する回収した媒体を、ミトコンドリア機能不全のこのRPE細胞モデルに添加し、これは同様に有効であり、RPEミトコンドリア機能不全の無効化に対してEY005ネイティブペプチドに等しい効力を有していた。図29Bは、図29Aで表されている各条件の少なくとも3回の反復からのフラボタンパク質の自己蛍光(FP-AF)の定量を示す。EY005-ステアリルおよびエステラーゼ-切断EY005-ステアリルの両方が、ネイティブEY005ペプチドに等しい効力を示す。図29Cは、図29Aで表されている各条件の少なくとも3回の反復からのアクチン細胞骨格の異常形態の定量を示す。EY005-ステアリルおよびエステラーゼ-切断EY005-ステアリルの両方が、ネイティブEY005ペプチドに等しい効力を示す。
図30図30は、Mito XR(三角形)のパイロット配合物のin vitro薬物動態を示す。Mito XRは、EY005生物活性テトラペプチドの放出のゼロ次(すなわち直線的)動態を達成し、これは、3カ月の薬剤放出の望ましい耐久性を達成し、分散媒内の遊離生物活性MTTは、インプラントから眼の生理学的環境中へと放出された。それに反して、同じく配合されたEY005ネイティブペプチド(丸)は、きわめて急激な放出を示し、薬剤放出の望ましい耐久性が得られなかった。
図31図31A~31Cは、乾性AMDのin vitro培養モデルを描写し、ここでは、内因性エステラーゼを所有するRPE細胞が、ヒドロキノン(HQ)に曝露して、ミトコンドリア機能不全を誘導する。ミトコンドリア機能不全は、アクチン細胞骨格の異常形態として現れる。これらの効能研究では、Mito XRのボーラスインプラント(多相コロイド懸濁液中にEY005-ステアリルを配合した)を、内因性エステラーゼが存在する乾性AMDのRPE細胞培養モデルに添加した。Mito XRインプラントを用いた処置では、ミトコンドリア機能不全の無効化、およびアクチン細胞骨格の形態の同時回復が生じた。図31Dは、図31A~31Cからのデータのグラフ表示を示す。培養したRPE細胞は、対照、HQに曝露した細胞、およびHQに曝露し、Mito XRで処理した細胞におけるアクチン細胞骨格の異常形態の重症度について等級分けされた。少なくとも3回の反復からの結果を定量した。Mito XRで処理した培養物は、対照、HQに曝露した細胞と比較して、RPE細胞のアクチン細胞骨格の異常形態の重症度における80%の低下を実証する。
図32図32は、Mito XRとして配合されたEY005-ステアリルプロドラッグの、優れたin vivo薬物動態を示す。ウサギに、配合されたEY005-ステアリルプロドラッグを含有する硝子体内のMito XRインプラント(IVT MitoXRからのEY005-ステアリル放出)、またはEY005ネイティブペプチド(配合されたボーラスからのEY005ペプチド放出)を含有する同一のボーラス配合物を注入した。Mito XRとして配合されたEY005-ステアリルプロドラッグは、ミトコンドリア機能不全の無効化についてのEC50を上回る網膜組織の濃度を示した。これらの治療薬レベルを7週間時点まで持続させ、そこで依然50%ペイロードを含有するMito XRインプラントを回収し、これにより、この配合物が、望ましい90日間の耐久性を達成することが指し示される。それに反して、ネイティブEY005ペプチドは、3.5週間までにほぼ検出できない組織濃度で急速に放出された。回収されたインプラントは、EY005ネイティブペプチドを含有しておらず、これは、薬剤のin vivoでの急激なダンピングを示唆している。
図33図33A~33Cは、ミトコンドリア-標的化テトラペプチドのプロドラッグと非共有結合的に複合体形成する1種または複数の複合体形成剤を含んでいることがある多相コロイド懸濁液長期放出薬物送達システムのいずれかのインプラントを送達するための送達の形態または様式の例を例証する。図33Aは、ボーラス注入の例を示し、ここでは、長期放出薬物送達システム材料が注入可能な液体ボーラスとして配合される。図33Bは、MTT-プロドラッグ多相コロイド懸濁液が、プロドラッグおよび複合体形成剤を含有する多相コロイド懸濁液で満たした生分解性外側スリーブ/チュービングを有するチューブインプラントとして配合される例である。図33Cは、長期放出薬物送達システム材料が、インプラント治療用に固体状態の具体的な形状に成形される例である。図33Dは、多相コロイド懸濁液の配合物を、ボーラス注入またはチューブインプラントのいずれかとして、眼の中に注入する2つの方法を例証する。
図34図34A~34Bは、複合体形成に基づくXRDDSの注入可能なチューブインプラント様式の開口端の様々な内径/半径の効果を例証する。放出速度は、チューブ末端の半径/直径に比例して予測通り低下した。図34Aは、チューブ(デポー)の末端の寸法を例証する。図34Bは、所定の長期放出副腎皮質ステロイド配合物の2つの例に対する長期間(日数)にわたって放出速度を示し、それぞれが異なる内径/半径(r)のチューブから放出されたグラフである。予測されたように、r値が低いPE10チューブ内の配合物は、r値が高いPE50内の配合物と比較して、低い放出速度を有する。図34Cは、硝子体内の注入に適切な超薄肉25ゲージ針の使用を例証し、これは、25ゲージ針の管腔から出る、長期放出副腎皮質ステロイド配合物を放出するための生体侵食性または非生体内侵食性チューブ(デポー)を有する。
図35図35A~35Dは、2相薬剤放出プロファイル(図35B)を可能にし得る生体侵食性チューブの組成物、または3相薬剤放出プロファイルを可能にし得る生体侵食性チューブの組成物が、後に放出の加速を可能にすることを例証する。図35Aでは、生体侵食性チューブは、PLGA組成物82L/18Gチューブのチューブであり、これは、薬剤のすべてが放出された後に無傷であるチューブを示す。図35Bは、長期放出副腎皮質ステロイド配合物で満たした図35Aのチューブで生じた2相動態プロファイルを示すグラフである。図35Cは、薬剤のすべてが放出される前に分解するPLGA組成物80L/20Gチューブを有する生体侵食性チューブを示し、図35Dに示されているように、長期放出副腎皮質ステロイド配合物を放出する場合、3相放出プロファイルが生じる。
図36図36Aおよび36Bは、XRDDSマトリックスにおける副腎皮質ステロイド薬剤の照射が、特に放出の初期バースト相および後続する放出の定常状態の早い期間に対して、放出速度を調整するために使用され得、より高い用量で照射したインプラントから、より多くの薬剤放出がみられることを例証する。図36Aは、照射しなかった(「非照射」)長期放出副腎皮質ステロイド配合物(フルオシノロンアセトニド)の一例の、照射した(「40kGy照射」)同一の配合物と比較した、長期間にわたる放出速度を示す。図36Bは、照射しなかった(「非照射」)長期放出副腎皮質ステロイド配合物(フルオシノロンアセトニド)のさらに別の例の、照射した(「40kGy照射」)同一の配合物と比較した、長期間にわたる放出速度を示す。両方のケースで(図36Aおよび36B)、照射したインプラントは、非照射インプラントと比較して、1カ月目に初期バースト中のより高い放出速度、ならびに保全相の1カ月目により高い放出速度を示す。
図37図37Aおよび37Bは、例えば、より長い、またはより短い生体侵食性または非生体内侵食性チューブを使用してインプラントの長さを制御することによる、薬剤放出の持続時間の調整を例証し、より短いチューブは、比較的短い持続時間の放出を示し、より長いチューブでは、より長い持続時間の薬剤放出が生じる。図37Aは、生体侵食性チューブの模範的な寸法を例証する。図37Bは、4mm長さのインプラントに対して6mm長さのインプラントの場合における、経時的(日)な長期放出副腎皮質ステロイド配合物のin vivoでの放出の持続時間を比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0132】
本明細書に記載されているのは、様々な原薬を眼内および眼の周辺に送達する、新規な多目的長期放出薬物送達システム(XRDDS)のための、組成物および使用方法であって:1種または複数の複合体形成剤微粒子と非共有結合的に相互反応して、原薬-複合体微粒子を形成する原薬を含み、原薬-複合体微粒子が、疎水性分散媒内で混和され、これにより安定な多相コロイド懸濁液が集合的に形成される、組成物および使用方法である(図1)。
【0133】
本明細書では、原薬は、1)様々な小型ポリペプチド、タンパク質、アプタマー、他の核酸医薬、疎水性化学物質、親水性化学物質ならびに6種の分類の複合体形成剤の1つ:脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物、荷電リン脂質、荷電タンパク質、リボ核酸および多糖への非共有結合性複合体を直接的に形成することが可能である治療目的に使用される他の化合物、ならびに2)切断可能な共有結合を経由して共役部分に連結したいずれかの有効活性成分(API)のプロドラッグを含み得、共役部分は、6種の分類の複合体形成剤の1つ:脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物、荷電リン脂質、荷電タンパク質、リボ核酸および多糖と複合体を形成する(図1)。
【0134】
共役部分は、APIに共有結合し得るいずれかの化学物質である。ある共役部分は、ネイティブAPIが実証しない性質を備える能力、とりわけ可逆的非共有結合性複合体を複合体形成剤と形成する能力について選択され得る。
【0135】
複合体は、原薬と複合体形成剤との間における非共有結合による相互反応と定義される。
複合体形成剤は、大きさ1ナノメートル(nm)から1000マイクロメートル(μm)の範囲の、不規則に形作られた微粒子として配合される化学物質と定義され;既知量の複合体形成剤に結合する原薬の量と定義される、選択された原薬の測定可能な結合能を実証し;特定の分散媒内の測定可能な非結合-結合比、またはKdと定義される薬剤結合の可逆性を実証し;以前に公知ではなく、または複合体を選択された原薬と形成すると予想されない化学物質である。原薬の複合体形成剤への結合は、直接的に、またはプロドラッグでは共役部分を経由して、原薬-複合体微粒子の形成を引き起こす。医薬品産業に利用される添加剤および賦形剤を含むある周知の化学物質は、不規則な微粒子として配合された場合、様々な原薬に対して複合体形成剤としての役割を果たす、これまでに知られておらず、想定外の性質を実証する。これらは、不規則に形作られた微粒子として配合された場合、様々な原薬に対して複合体形成剤としての役割を果たす、これまでに知られていない6種の分類の化学物質:脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物、荷電リン脂質、荷電タンパク質、リボ核酸および多糖を含む。
【0136】
ステアリン酸マグネシウム、レシチン、アルブミン、シクロデキストリンなどの、個々の分子に溶解されない不規則な微粒子配合物はすべて、これまでに知られていない、または予想されない性質である原薬に対する微粒子複合体形成剤の定義を満たす(図4~7)。
【0137】
分散媒は、コロイド混合物に利用されるビヒクルである。本明細書では、分散媒は、4種の分類、飽和脂肪酸メチルエステル、不飽和脂肪酸メチルエステル、飽和脂肪酸エチルエステルまたは不飽和脂肪酸エチルエステルのうちから選択される疎水性の粘性油状物と定義され、原薬-複合体微粒子と混和した場合、原薬多相コロイド懸濁液を形成し得、多相コロイド懸濁液を、選択された原薬および選択された複合体形成剤と形成することはこれまでに知られていない。
【0138】
本明細書では、コロイド懸濁液は、微粒子の移行または沈降がない微粒子の安定な分散を形成する粘性、流動性の注入可能な液体(すなわち、コロイド混合物)である配合物である。
【0139】
多相コロイド懸濁液を含有することは、原薬が少なくとも2つの相:遊離した非結合原薬および複合体形成剤に結合した原薬(ならびにさほど重要ではないが、薬剤-薬剤凝集物)に存在するコロイド懸濁液を指す。原薬-複合体微粒子は、微粒子が分散媒中で混和される場合、原薬の貯蔵所として働く。
【0140】
したがって、本明細書に記載されている原薬多相コロイド懸濁液は、移行または沈降がない安定的に分散した原薬-複合体微粒子を生じる粘性、流動性の注入可能な液体であり得、これにより、遊離原薬が原薬-複合体微粒子から解離して、分散媒中の遊離原薬濃縮物を作り出すことが可能になり得る。原薬は、多相コロイド懸濁液システムを通してインプラントを出て、隣接した眼の生理学的環境へと自由に拡散できる。原薬がプロドラッグである場合、プロドラッグが眼の生理学的環境に曝露すると、共役部分に連結する共有結合は切断され、遊離APIを放出する。
【0141】
本明細書で定義されている混和により発生する、原薬多相コロイド懸濁液中に安定的に分散した原薬-複合体微粒子の形成は、スタンドパドル混合(stand paddle mixing)、遠心分離せん断混合(centrifugal shear mixing)、高せん断混合、リボンブレンダー、アンカーミキサー、スタティックミキサー、Vブレンダー、遊星型ミキサー、混練、混練および折込み、かき混ぜ、共鳴音響ミキサー、バンバリーミキサー、分散ミキサー、真空ミキサー、高せん断ローターミキサー、および様々な他のタイプの混合技術を含む、多彩な混合技術を組み込む方略を使用することによる、原薬および1種または複数の複合体形成剤の分散媒中の混合および組込みを指す。最終混和物は、均質に混合され得る(例えば、均一または実質的に均一な分布を有する)。いくつかの例では、最終混和物は、非均質に混合され得る(例えば、例えば分散媒内の原薬複合体微粒子の分布または勾配を有し得る)。
【0142】
原薬多相コロイド懸濁液により、薬物送達システムが可能になるが、その理由は、微粒子が結合した原薬の貯蔵所であり、各々が特有の結合能およびKd(非結合-結合比)を有し、これにより、続いて分散媒中の遊離原薬の複合体量が決定されるためである。各原薬-複合体微粒子のKdおよび結合能の知識を使用して、システムにおける遊離原薬の合計量を計算でき、これにより、続いて放出の速度および量が決定される。様々な原薬-複合体微粒子の相対比および量は、システム内に計算できる非結合遊離原薬を作り出す手法で調整され得る(図2A~2E)。インプラントの耐用期間にわたる、システム内における非結合遊離原薬の動的な変化は、原薬多相コロイド懸濁液内の原薬-複合体微粒子の結合能およびKdにより決定される。
【0143】
本明細書に記載されている方法および組成物では、原薬多相コロイド懸濁液は、太さ20-ゲージから30-ゲージの針(用途に応じて)を介して注入可能であり、インプラントの耐用時間の持続時間(1から12カ月)にわたり眼の生理学的環境に曝露した場合、移行または沈降がない微粒子の安定な分散体が得られる。眼の生理学的環境は、硝子体で通常見出される酵素およびタンパク質を含有する37℃のリン酸緩衝生理食塩水(または類似の水性溶媒)を用いた(硝子体中への注入を表す)、または、血漿を含有する37℃のリン酸緩衝生理食塩水を用いた(様々な眼周囲組織中への注入を表す)in vitro状態と定義される。あるいは、眼の生理学的環境は、インプラントのin vivoでの、硝子体中または眼周囲組織中への注入を表し得る。
【0144】
原薬多相コロイド懸濁液は、眼の生理学的環境に曝露した場合、生分解性の性質も表し、生分解性は、分散媒の溶解により発生する。生分解の速度は、眼の生理学的環境における分散媒の溶解度に比例する。より高い溶解度を有する分散媒は、眼の生理学的環境に曝露した場合、多相コロイド懸濁液のより速い生分解を可能にする一方、より低い溶解度を有する分散媒は、眼の生理学的環境に曝露した場合、多相コロイド懸濁液のより遅い生分解を可能にする。原薬多相コロイド懸濁液のこの性質は、眼の生理学的環境におけるインプラントの耐久性を判定するために注入されたインプラントの体積と共に使用できる。
【0145】
多相コロイド懸濁液中の原薬の配合物は、インプラントといわれ、眼内および眼の周辺、すなわち硝子体液中、房水中、脈絡膜上腔中、網膜下、結膜下、テノン嚢下、眼窩組織中に投与されて、様々な疾患および障害の処置に望ましい持続時間(1から12カ月)にわたり、眼組織内における原薬の治療レベルの徐放性を生成し得る。
【0146】
本明細書に記載されている多相コロイド懸濁液長期放出組成物(例えば、長期放出薬物送達システム、XRDDS)は、1種または複数の微粒子複合体形成剤と混和されて、「薬剤-複合体」微粒子を形成する原薬を含み得、これは、選択された分散媒内で組み合わせられ、分散して、安定な多相コロイド懸濁液を形成する。
【0147】
コロイドは、微粒子物質が、分散媒といわれるビヒクル内に安定的に分散しているが、沈降または移行しない混合物である。これは、コロイドを、粒子が重力のため懸濁液ビヒクル内に沈降している懸濁液と区別する。コロイドについての典型的な微粒子の大きさは、ナノメートルの範囲内である。コロイドにおいての、混合物の決定的特性は、微粒子が、沈降または移行を最小限にとどめ、安定的に分散したままでいることである。微粒子が液体に分散しているコロイド混合物は、「ゾル」といわれる。微粒子が固体または半固体に分散しているコロイド混合物は、「固体コロイド」といわれる。微粒子が粘性半固体または固体分散媒に安定的に分散しているコロイド混合物は、規定された名称が与えられていない。本明細書では、本発明者らは、安定的に分散している微粒子を「コロイド懸濁液」と言及する。本明細書に記載されている方法および組成物では、分散媒は、安定なコロイド懸濁液を促進する疎水性分散媒であり得る。原薬多相コロイド懸濁液は、原薬が、遊離薬剤、薬剤-薬剤凝集物、および最も重要なことには、複合体形成剤微粒子に非共有結合的に結合している薬剤を含む1つ超の相に存在する懸濁液である。
【0148】
複合体形成は、2つの物理化学的状況で発生する。1つのケースでは、複合体形成は、個々の分子間における非共有結合による相互反応(例えば、受容体-リガンド相互反応)で発生する。このタイプの複合体形成は、分子複合体形成といわれ、本組成物では想定されない。
【0149】
第2の状況は、化学物質の分子、本ケースでは薬剤の分子に関与し、この分子は、微粒子、本ケースでは複合体形成剤の表面に非共有結合的に結合または吸着する。このタイプの複合体形成は、微粒子複合体形成といわれる。異なる微粒子吸着剤または複合体形成剤は、微粒子の大きさおよび形状、微粒子の表面に存在する官能基、ならびに表面の凹凸および多孔度に基づく異なる吸着性を有する。微粒子複合体形成の有用性は、以下を含む他の学問領域で把握されている、土壌学、化学吸着剤(例えば、アルミナ、シリカゲル、活性炭)は、土壌中の特定の化学物質(多くは異物)と相互反応する;炭化水素産業、吸着剤(例えば、ポリプロピレン、バーミキュライト、パーライト、ポリエチレンなど)が、油漏れを清掃するために、または残留した油を削孔装置およびフラッキング設備から除去するために使用される;ならびに、産業用コーティング(例えば、ゼオライト、シリカゲル、リン酸アルミニウム)、吸着剤は、様々な目的(すなわち、潤滑、表面冷却)のために化学物質を結合するために使用される。
【0150】
医療用途では、吸着剤は、服用による急性中毒の処置に使用され(例えば、活性炭、カルシウムポリスチレンスルフェート、ケイ酸アルミニウム)、吸着剤は、毒素に結合して、全身循環に至る腸からの吸着を限定する。医薬品産業では、吸着複合体形成の原理は、血液中の血漿タンパク質への薬剤結合の化学、in situ薬剤放出のための固体スキャフォールド上の薬剤コーティング(例えば、薬剤-溶出ステント)、ならびに経口バイオアベイラビリティおよび腸吸収を改善する賦形剤の不溶性薬剤への付与を理解するために使用される。
【0151】
本明細書に記載されている方法および組成物は、微粒子複合体形成を利用し得、複合体形成剤は、したがって、不規則に形作られた微粒子として配合された場合に眼組織と適合する化学物質であり、原薬に非共有結合的に結合し、原薬-複合体微粒子を形成する能力を有する。1種または複数の原薬-複合体微粒子は、疎水性分散媒中に組み込まれ、混和されて、眼の中および周辺に安全に送達される安定な多相コロイド懸濁液を形成して、処置の望ましい持続時間にわたり、眼組織における予測可能な治療レベルの原薬への連続した曝露を生じる。複合体形成剤は、脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物、荷電リン脂質、荷電タンパク質、核酸および多糖を含む6種の分類の化学物質の1つから選択される。
【0152】
原薬がプロドラッグである場合、プロドラッグの共役部分は、具体的には、1種もしくは複数の微粒子複合体形成剤と複合体形成して、または、それとの非共有結合による相互反応を形成して、プロドラッグ-複合体微粒子を形成する能力のために選択される。1種または複数のプロドラッグ物質-複合体微粒子は、疎水性分散媒中に組み込まれ、混和されて、眼の中および周辺に安全に送達される安定な多相コロイド懸濁液を形成して、処置の望ましい持続時間にわたり、眼組織における予測可能な治療レベルの原薬への連続した曝露を生じる。複合体形成剤は、脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物、荷電リン脂質、荷電タンパク質、核酸および多糖を含む6種の分類の化学物質の1つから選択される。
【0153】
本明細書に記載されている方法および組成物は、不規則な表面を有する不規則に形作られた微粒子の形態の場合、原薬に対して有効な複合体形成剤としての役割を果たし得るという、これら6種の分類の化学物質、脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物、荷電リン脂質、荷電タンパク質、核酸および多糖の、これまでに把握されていない新たな性質について開示する。複合体形成剤の基準は、以下4つの特徴を含む:(1)原薬が微粒子複合体形成剤に結合し、これが顕微鏡法による画像化により実証可能である(図4A~4F、5A~5F、6A~6Fおよび7A~7F);(2)物質の微粒子が原薬の溶液に添加される場合、微粒子を遠心分離およびプルダウンすると、薬理学的に有意な量の原薬が、微粒子に対して複合体形成することが観察され、複合体形成剤の結合能の定量的基準が得られる(図15、18、20、24を参照されたい);(3)原薬-複合体微粒子が、適切な分散媒に再懸濁された場合、薬剤の部分的な放出を実証し、具体的な分散媒中の所定の原薬-複合体形成剤のペアに対する薬剤のKdまたは非結合-結合分画の判定を可能にする(図25A~25Bを参照されたい);ならびに(4)原薬-複合体微粒子が、分散媒中に混和された場合、有用な薬物動態的放出プロファイルを示して、原薬多相コロイド懸濁液を形成する(図9を参照されたい)。これら4つの性質は集合的に、複合体形成剤を定義し、ここに記載されている複合体形成に基づくXRDDSを可能にする。
【0154】
対照的に、例えばシリコーンビーズ、ラテックスビーズおよびあるポリマー性微粒子を含む、球形の滑らかな表面および非反応性のコーティングを有する球形微粒子は、原薬と複合体の形成に失敗するので(図8A~8F)、本明細書に記載されている方法および組成物から排除される。
【0155】
複合体形成剤の一分類は脂肪酸であり、これは、飽和または不飽和であり得、塩またはエステルの形態であり得る脂肪族鎖を有するカルボン酸である。例えば、脂肪酸は、CH3(CH2)COOHの化学式を有し得、nは4から30に等しい。脂肪酸は、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、(9Z)-ヘキサデセン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン酸、(9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-9,12,15-トリエン酸、(6Z,9Z,12Z)-オクタデカ-6,9,12-トリエン酸、(5E,9E,12E)-オクタデカ-5,9,12-トリエン酸、(6Z,9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-6,9,12,15-テトラエン酸、(Z)-オクタデカ-9-エン酸、(11E)-オクタデカ-11-エン酸、(E)-オクタデカ-9-エン酸、ノナデカノン酸、エイコサン酸など)の1つを含み得る。脂肪酸は、C14からC20の間の非分岐脂肪酸であり得る。脂肪酸は、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、ステアリン酸(オクタデカン酸)、アラキン酸(エイコサン酸)の1つを含む飽和脂肪酸であり得る。塩形態の脂肪酸の特定の例は、ステアリン酸マグネシウム(図4A~4F)、パルミチン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、パルミチン酸カルシウムなどを含む。
【0156】
複合体形成剤の一分類は、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物である。互変異性体は、ケト形(ケトンまたはアルデヒド)とエノール形(アルコール)との間における化学平衡を受けることが可能である分子を指す。通常、ケト-エノール互変異性化を受けることが可能である化合物は、本明細書で描写されているように、ヒドロキシル(-OH)基に隣接した二重結合している炭素原子の対C=C-OHを含有するエノール互変異性体と平衡なカルボニル基(C=O)を含有する:
【0157】
【化4】
ケトおよびエノール形の相対濃度は、特定の分子、および平衡、温度またはレドックス状態を含む化学的微小環境の化学的性質により判定される。ケト-エノール互変異性化が可能である有機化合物は、フェノール、トコフェロール、キノン、リボ核酸などを含むが、それらに限定されない。
【0158】
複合体形成剤の一分類は、荷電リン脂質である。一般に、リン脂質は、グリセロール分子、2種の脂肪酸、およびアルコールにより修飾されるリン酸基からなり、リン脂質の極性頭部は、典型的には負に荷電している。例は、レシチン(図7A~7F)、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、油中の異なるリン脂質、およびその他多数を含み、これは、個々に、または組み合わせて使用されて、複合体形成剤としての役割を果たすことができる。アニオン性リン脂質は、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリンまたはホスファチジルイノシトールの1つを含み得る。いくつかの例では、正電荷を有するイオン化可能な合成リン脂質が製造され得、例えばDLin-MC3-DMAを含むが、それらに限定されない。追加のカチオン性リン脂質は、ホスファチジルコリンのカチオン性トリエステル;1,2-ジミリストイルsn-グリセロール-3-ホスホコリン(DMPC);1,2-ジオレオイル-sn-グリセロール-3-ホスホコリン(DOPC);1,2-ビス(オレオイルオキシ)-3-(トリメチルアンモニオ)プロパン(DOTAP);1,2-ジオレオイル-sn-グリセロール-3-ホスホエタノールアミン(DOPE);1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロール-3-ホスホコリン(DPPC);1,2-ジオレオイル-sn-グリセロール-3-エチルホスホコリン(EDOPC);1,2-ジミリストイル-sn-グリセロール-3-エチルホスホコリン(EDMPC);1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロール-3-エチルホスホコリン(EDPPC)の1つを含み得る。製薬科学では、リン脂質は、バイオアベイラビリティを改善する薬剤配合物および送達用途、毒性の低下、ならびに細胞透過性の改善に使用されている。しかし、本明細書に記載されている方法および組成物では、リン脂質は、原薬に非共有結合的に結合する複合体形成剤微粒子として使用され、原薬-複合体微粒子が組み込まれ、そこに分散している安定な多相コロイド懸濁液の分散媒中の遊離原薬を調節する目的で原薬-複合体微粒子を形成する。
【0159】
いくつかの例では、アニオン性リン脂質は、非共有結合性複合体形成をプロドラッグのカチオン性共役部分と形成し得る。カチオン性リン脂質は、非共有結合性複合体形成をプロドラッグのアニオン性共役部分と形成し得る。
【0160】
複合体形成剤の一分類は、荷電タンパク質である。タンパク質は、アミノ酸残基の1つまたは複数の長い変化(long changes)を含む大きい生体分子および高分子である。タンパク質をなすアミノ酸は、正荷電性、負荷電性、中性または極性の性質であり得、タンパク質を含むアミノ酸は集合的に、タンパク質にその全体的な電荷を与える。多彩なタンパク質が、大きさ、分子量、微粒子を容易に形成する能力、および眼組織との適合性に基づいて、複合体形成剤としての役割を果たすことができる。タンパク質の荷電は、負に荷電したタンパク質が、正に荷電した原薬と容易に複合体形成する一方、正に荷電したタンパク質(例えば、正電荷を有するArg-Gln-Ile-Arg-Arg-Ile-Ile-Gln-Arg-NHおよび合成ペプチド)は、負に荷電している原薬と容易に複合体形成するように、特定原薬に対するその適合性を決定する。複合体形成剤としての役割を果たし得るタンパク質の例は、アルブミン(図5A~5F)およびコラーゲンを含む。
【0161】
複合体形成剤の一分類は、核酸であり、これは5-炭素糖、リン酸基および窒素塩基からなるヌクレオチドからなるバイオポリマー高分子である。生物学的機能および遺伝情報のコード化に関する核酸の重要性は、十分に確証されている。しかし、核酸は、核酸酵素(例えば、炭素ナノ材料)、アプタマー(例えば、抗体のような形式で作用する核酸ナノ構造および治療分子を形成するための)、およびアプタザイム(例えば、in vivo画像化に使用できるもの)を含む多彩な用途も有する。製薬科学では、特別に設計された核酸は、核酸が様々なタイプの薬剤に対して担体システムとしての機能を果たす、担体に基づくシステムにおける使用が考えられ、それに適用されている。しかし、本明細書に記載されている方法および組成物では、核酸は、担体システムとは考えられず、高度に負に荷電しているので、微粒子として配合されるように、むしろ複合体形成剤と考えられ、次いで、正に荷電した原薬に対して複合体形成剤としての役割を果たすことができる。
【0162】
複合体形成剤の一分類は、多糖であり、これは、グリコシド結合により一緒に結合しているモノサッカリド単位で構成される長鎖ポリマー性炭水化物である。多くは、これらはかなり不均質であり、モノサッカリドの繰り返し単位の若干の変更を含有する。構造に応じて、これらは水に不溶性であり得る。多糖微粒子複合体形成剤の、原薬に対する複合体形成は、様々な静電相互作用を介して発生し得、原薬および多糖の電荷密度、多糖複合体形成剤原薬の比、イオン強度および他の性質により影響を受け得る。複合体形成剤としての役割を果たし得る多糖の例は、環状多糖分子、シクロデキストリン(図6A~6F)、包摂化合物、セルロース、ペクチン、またはカルボキシル基、リン酸基もしくは他の同様に荷電した基を含有する多糖である酸性多糖を含む。
【0163】
複合体形成剤は、金属イオンを含有する化合物であり得る。
これらの治療用組成物のいずれかでは、広範な非共有結合による相互反応を形成する中心イオンの周辺で、イオン配位複合体形成が発生し得る。中心イオンは、銅、鉄、亜鉛、白金またはリチウムの1つを含む中心金属イオンであり得る。
【0164】
イオン配位複合体形成は、中心イオン、通常は広範な非共有結合性の静電相互作用を、幅広い化学物質と形成することが可能である金属の周辺での化学的な複合体形成プロセスである。これは、自然において最も普通の化学プロセスの1つである。結合の親和性は、異なる配位イオンのうちで様々であり、そのいくつかはほぼ不可逆的であるが、その他のものは比較的不安定な結合を表す。中心金属イオンは、銅、鉄、亜鉛、白金、リチウムなどを含む。薬物送達のための複合体形成剤としての役割を果たし得る3種の分類は、キレート化剤(EDTA)、ある特定の金属(白金、リチウム、ランタン)に対する複合体形成、および金属タンパク質の要素を有する分子(亜鉛または銅結合ドメインを有するヘモグロビン、ポルフィリン、スーパーオキシドディスムターゼなど)である。
【0165】
複合体形成剤は、金属、金属タンパク質またはスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)に対する複合体形成のために構成されたキレート化剤を含み得る。複合体形成剤は、白金、リチウム、ランタン、ヘモグロビン、ポルフィリン、亜鉛結合ドメインまたはスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)の1つまたは複数に対する複合体形成のために構成されたキレート化剤を含み得る。
【0166】
本明細書に記載されている方法および組成物では、選択された原薬は、所定の複合体形成剤に対する特定の親和性を有し、それと複合体形成し、原薬-複合体微粒子を形成する。この親和性は、選択された分散媒中の所定の原薬-複合体微粒子に対する原薬の非結合-結合分画であるKdとして測定され得る。
【0167】
原薬-複合体微粒子の別の性質は、結合能であり、これは、既知量の複合体形成剤に結合している原薬の量と定義される。
特定の複合体形成剤に対する原薬の親和性および結合能(図15、18、20、24)は、したがって、所定の分散媒で、原薬-複合体微粒子から放出するのに利用できる遊離薬剤を限定するのに役立つ。
【0168】
したがって、疎水性分散媒中に組み込まれた1種または複数の原薬-複合体微粒子からなる多相コロイド懸濁液では、バイオアベイラビリティを改善する、多相コロイド懸濁液の配合物である複合体形成の使用ではなく、遊離した非結合原薬を限定する複合体形成の使用が、多相コロイド懸濁液の所定の分散媒からの放出に利用できる。
【0169】
本長期放出薬物送達システム(XRDDS)の多相コロイド懸濁液に配合された原薬は、様々な小型ポリペプチド、タンパク質、アプタマー、他の核酸医薬、疎水性化学物質、親水性化学物質、ならびに6種の分類の複合体形成剤の1つ:脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物、荷電リン脂質、荷電タンパク質、リボ核酸および多糖への非共有結合性複合体を直接的に形成することが可能である治療目的に使用される他の化合物を含み得る。
【0170】
原薬は、不規則に形作られた微粒子として配合される6種の異なる分類の物質の1つ:脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機分子、荷電リン脂質、荷電タンパク質、核酸および多糖への非共有結合性の親和性が高い相互反応(または結合)直接的に形成する。分散媒中で混和され、得られた原薬-複合体微粒子は、多相コロイド懸濁液内で遊離した非結合薬物の放出を調節し、これにより、眼の生理学的環境中に投与されると、配合されたインプラントからの制御された長期放出が可能になる。
【0171】
多相コロイド懸濁液中で配合された原薬は、切断可能な共有結合を経由して共役部分に連結したいずれかの有効活性成分(API)のプロドラッグでもあり得、共役部分は、6種の分類の複合体形成剤の1つ:脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機化合物、荷電リン脂質、荷電タンパク質、リボ核酸および多糖と複合体を形成する。
【0172】
プロドラッグは、式(I):
R’-R(I)
(式中、R’は、切断可能な結合を経由して、非共有結合性複合体を5種の分類の複合体形成剤の1つと形成する共役部分であるRに共有結合で連結しているいずれかの有効活性成分(API)であり、R’およびRを連結する共有結合は、酵素切断、触媒、加水分解または他の反応により除去して、遊離API R’および共役部分Rを得ることができ、Rは、C4~C30脂質部分(脂肪酸または脂肪族アルコール)、C4~C30直鎖もしくは分枝脂肪族部分、2-merから30-merのペプチド部分、Peg化部分、または炭水化物部分から選択される)を有する。
【0173】
プロドラッグは、APIと共役部分との間における縮合またはエステル化反応の生成物であり得る。
薬理学では、プロドラッグは、APIの化学修飾物である。プロドラッグは、組織酵素により、または加水分解により、受容者内で遊離APIおよび不活性共役部分に代謝される。プロドラッグは一般的に、APIの物理化学的性質を変更して、吸収、バイオアベイラビリティまたは薬物動態(PK)を改善するために使用される。しかし、本明細書に記載されている方法および組成物では、プロドラッグ方略の目的は、多相コロイド懸濁液長期放出薬物送達システム(XRDDS)に対する適合性のために、薬剤の物理化学的性質を最適化することである。大半のケースでは、これにより、APIの非プロドラッグネイティブ形態を用いた他の方法では達成できない、調節された放出速度のAPIが得られる。
【0174】
原薬の共有結合で連結した共役部分は、不規則に形作られた微粒子として配合される6種の異なる分類の物質の1つ:脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成し得る有機分子、荷電リン脂質、荷電タンパク質、核酸および多糖に結合する、非共有結合性の親和性が高い相互反応を形成する。プロドラッグ-複合体微粒子の形成は、多相コロイド懸濁液に対して適合性であるAPIの物理化学的性質を最適化し、プロドラッグ-複合体微粒子は、多相コロイド懸濁液内で遊離した非結合プロドラッグの放出を調節する分散媒中で混和され、これにより、眼の生理学的環境中に投与されると、配合されたインプラントからの制御された長期放出が可能になる。
【0175】
原薬がプロドラッグである場合、プロドラッグの重要な特徴は、APIを共役部分に連結する結合が、酵素反応、触媒、加水分解または他の化学反応により容易に切断されることである(図28A~28C)。プロドラッグにおいてこの結合を切断すると、放出されたAPIは、その作用機序に十分な生物活性を保つ(図29A~29C)。
【0176】
エステラーゼ、ペプチダーゼ、ホスファターゼ、オキシム加水分解酵素、ケトン還元酵素などを含む多数の代謝酵素が、眼組織で検出された。本明細書に記載されているプロドラッグでの共役部分への連結は、これらの代謝酵素のいずれかにより特異的な切断を達成するように構成され得る。
【0177】
切断可能な共有結合は、エステル結合、ヒドラゾン結合、イミン結合、ジスルフィド結合、チオエステル結合、チオエーテル結合、リン酸エステル結合、ホスホン酸エステル結合、ボロン酸エステル結合、アミド結合、カルバミン酸エステル結合、カルボン酸エステル結合、炭酸エステル結合または医薬品化学業者に公知のその他の1つを含み得る。
【0178】
エステルプロドラッグは、詳細には、眼組織が豊富なエステラーゼ活性を含有するので、望ましいことがある。
プロドラッグのいくつかの例では、遊離APIの切断および放出は、in vitro放出アッセイで評価され得、プロドラッグは、カルボキシエステラーゼ(または他の天然もしくは合成エステラーゼ)を含有する溶液中でインキュベートし、動物(例えば、ブタ、ウサギなど)から回収した硝子体を単離した、またはヒト供与体から回収した硝子体を、摂氏37度、摂氏25度、または他の温度にて単離した。分析方法、例えばHPLCまたは質量分析は、インキュベーションのスタート後に様々な時点で、遊離APIおよび未変化のプロドラッグの量を計算するために使用され得る(図28B)。
【0179】
いくつかの例では、遊離APIの切断および放出は、in vitro放出アッセイで評価され得、プロドラッグは、摂氏37度、摂氏25度、または他の温度の媒体中でインキュベートする。分析方法、例えばHPLCまたは質量分析は、インキュベーションのスタート後に様々な時点で、遊離APIおよび未変化のプロドラッグの量を計算するために使用され得る(図28C)。
【0180】
いくつかの例では、遊離APIの切断および放出は、前臨床動物モデル(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ブタなど)の硝子体腔または眼周囲組織中へのプロドラッグのin vivo注入後に評価され得、眼組織は回収され、分析方法、例えばHPLCまたは質量分析は、in vivo注入後に様々な時点で、遊離APIおよび未変化のプロドラッグの量を計算するために使用され得る(図31A~31D)。
【0181】
一般に、APIが共有結合で連結する共役部分Rは、標的に対する生物活性または作用機序に基づいて選択されない。
好ましい実施形態ではないが、本明細書で開示されているのは、機能的に切断可能な共役部分としての役割を果たし得、リンカー部分としての役割を果たす化学物質に直接的に、もしくは間接的に一緒に連結する任意の原薬のホモ-もしくはヘテロ-ダイマー、トリマー、マルチマーからなる原薬である。
【0182】
本明細書に記載されているように、APIであるR’は、以下の5種の分類の化学物質のうち1つ:C4~C30脂質部分、C4~C30直鎖もしくは分枝脂肪族部分、2-merから30-merのペプチド部分、Peg化部分または炭水化物部分から選択される共役部分Rに共有結合で連結し得る。
【0183】
共役部分の一分類は、脂質部分をAPIに結合する先行するリンカー部分の有無を問わず、C4~C30脂質部分である。本明細書では、脂質は、水中で不溶性であるが、有機溶媒中で可溶性である有機化合物と定義される。脂質は、脂肪酸、脂肪族アルコール、グリセロ脂質、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質、ポリケチド(ケトアシルサブユニットの縮合に由来する)、ステロール脂質、プレノール脂質(イソプレンサブユニットの縮合に由来する)、リン脂質、油、ワックスおよびステロイドを含む。
【0184】
脂肪族アルコールは、tert-ブチルアルコール、tert-アミルアルコール、3-メチル-3-ペンタノール、1-ヘプタノール(エナントアルコール)、1-オクタノール(カプリルアルコール)、1-ノナノール(ペラルゴンアルコール)、1-デカノール(デシルアルコール、カプリンアルコール)、ウンデシルアルコール(1-ウンデカノール、ウンデカノール、ヘンデカノール)、ドデカノール(1-ドデカノール、ラウリルアルコール)、トリデシルアルコール(1-トリデカノール、トリデカノール、イソトリデカノール)、1-テトラデカノール(ミリスチルアルコール)、ペンタデシルアルコール(1-ペンタデカノール、ペンタデカノール)、1-ヘキサデカノール(セチルアルコール)、cis-9-ヘキサデセン-1-オール(パルミトレイルアルコール)、ヘプタデシルアルコール(1-n-ヘプタデカノール、ヘプタデカノール)、1-オクタデカノール(ステアリルアルコール)、1-オクタデセノール(オレイルアルコール)、1-ノナデカノール(ノナデシルアルコール)、1-エイコサノール(アラキジルアルコール)、1-ヘンエイコサノール(ヘンエイコシルアルコール)、1-ドコサノール(ベヘニルアルコール)、cis-13-ドコセン-1-オール(エルシルアルコール)、1-テトラコサノール(リグノセリルアルコール)、1-ペンタコサノール、1-ヘキサコサノール(セリルアルコール)、1-ヘプタコサノール、1-オクタコサノール(モンタニルアルコール、クルイチルアルコール)、1-ノナコサノール、1-トリアコンタノール(ミリシルアルコール、メリシルアルコール)の1つまたは複数を含み得る。
【0185】
脂肪酸は、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、(9Z)-ヘキサデセン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン酸、(9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-9,12,15-トリエン酸、(6Z,9Z,12Z)-オクタデカ-6,9,12-トリエン酸、(5E,9E,12E)-オクタデカ-5,9,12-トリエン酸、(6Z,9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-6,9,12,15-テトラエン酸、(Z)-オクタデカ-9-エン酸、(11E)-オクタデカ-11-エン酸、(E)-オクタデカ-9-エン酸、ノナデカノン酸およびエイコサン酸の1つまたは複数を含み得る。
【0186】
共役部分の一分類は、脂肪族炭化水素をAPIに結合する先行するリンカー部分の有無を問わず、C4~C30直鎖もしくは分枝脂肪族部分である。この分類は、アルカン、アルケンおよびアルキン、ならびに4から約30個の炭素から構成されている他の炭化水素部分を含み、非分岐、分枝状および環状基を含み得る。
【0187】
共役部分の一分類は、ペプチドをAPIに結合する先行するリンカー部分の有無を問わず、ペプチド部分であり、ペプチド部分は、天然もしくは合成アミノ酸ポリマーまたは2-merから30merの長さを有するポリペプチド鎖を含み、これらは、電荷がアニオン性、カチオン性または中性であり、均質または不均一なアミノ酸反復を含有する。
【0188】
共役部分基Rとしての役割を果たし得るアニオン性ペプチド配列の例は、ポリアスパラギン酸(アスパルテート)、ポリグルタミン酸(グルタメート)、ポリ-(アスパラギン酸-グルタミン酸)またはポリ-(グルタミン酸-アスパラギン酸)反復からなるペプチドを含むが、それらに限定されない。
【0189】
共役部分基Rとしての役割を果たし得るカチオン性ペプチド配列の例は、ポリ-リジン、ポリ-アルギニン、ポリ-ヒスチジン、ポリ-(リジン-アルギニン)(またはアルギニン-リジン)反復からなるペプチド、ポリ-(リジン-ヒスチジン)(またはヒスチジン-リジン)反復からなるペプチド、ポリ-(アルギニン-ヒスチジン)(またはヒスチジン-アルギニン)反復からなるペプチド、ポリ-(リジン-アルギニン-ヒスチジン)反復からなるペプチド、ポリ-(リジン-ヒスチジン-アルギニン)反復からなるペプチド、ポリ-(アルギニン-リジン-ヒスチジン)反復からなるペプチド、ポリ-(アルギニン-ヒスチジン-リジン)反復からなるペプチド、ポリ-(ヒスチジン-アルギニン-リジン)反復からなるペプチド、ポリ-(ヒスチジン-リジン-アルギニン)反復からなるペプチドを含むが、それらに限定されない。
【0190】
ペプチド部分は、ポリエチレングリコール(PEG)基を付加するための1つまたは複数のPeg化部分を有し得る。
ペプチド部分は、グリコシル化を含む、糖または炭水化物分子の付加による修飾のための1つまたは複数の部位を有し得る。
【0191】
共役部分の一分類は、Peg化化合物をAPIに結合する先行するリンカー部分の有無を問わず、直鎖状、分枝状、Y-字型もしくは多分岐ジオメトリーのポリエチレングリコール(PEG)ポリマー、Peg化ペプチドもしくはタンパク質、またはPeg化スクシネート、例えばコハク酸スクシンイミジルを含むPeg化化合物部分である。
【0192】
共役部分の一分類は、炭水化物をAPIに結合する先行するリンカー部分の有無を問わず、モノサッカリドまたは2から20個の糖のオリゴ糖を含むが、それらに限定されない炭水化物分子部分である。炭水化物分子は、グルコース、ガラクトース、ラクトース、マンノース、リボース、フコース、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルグルコサミン、N-アセチレンウラミン酸、またはこれらのいずれかのエピマーもしくは誘導体の1つまたは複数を含み得る。
【0193】
プロドラッグが多相コロイド懸濁液中にどのように組み込まれ得るかの一例は、式(II):
H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(II)
【0194】
【化5】
(式中、Rは、MTTの4位におけるアミノ酸のヒドロキシル基のエステル結合を経由して共有結合で連結し、以下5種の分類の化学物質のうちの1つ:C4~C30脂質部分、C4~C30直鎖もしくは分枝脂肪族部分、2-merから30-merのペプチド部分、Peg化部分または炭水化物部分から選択される)の縮合またはエステル化反応の生成物であるプロドラッグを形成するために使用され得るミトコンドリア-標的化テトラペプチド(MTT)の分類のうちのものである。
【0195】
いくつかの例では、プロドラッグH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-Rは、H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O-)-非極性脂質の式を有する。非極性脂質は、オクタデシル(式中、-O-Rは、ステアリルアルコールに由来する)(図27A)またはヘキサデシル(式中、-O-Rは、パルミチルアルコールに由来する)または他の共役部分と類似の分子を含むいくつかの分子の1つを含み得る。共役部分として非極性脂質を有するプロドラッグは、非極性脂質でもある複合体形成剤を含む脂質ベースの複合体形成剤に対して適正であり得る、本明細書に記載されているプロドラッグの一分類にすぎない。非極性脂質は、ケトアシルおよびイソプレン基を包括的に含有する、27℃から50℃の間の温度にて固体である疎水性分子であるが、脂肪酸、グリセロ脂質、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質、ポリケチド(ケトアシルサブユニットの縮合に由来する)、ステロール脂質およびプレノール脂質(イソプレンサブユニットの縮合に由来する)に制約されない。
【0196】
H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-Rの一具体例は、H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ステアリル(図27Aで描写されている)を含み、H-d-Arg-DMT-Lys-Pheは、エステル結合を経由して、長鎖飽和脂肪族アルコールの群からの一メンバーであるステアリルアルコールに連結する。エステル結合を切断すると、プロドラッグH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ステアリルは、ネイティブMTTを放出する。これを実証するために、実験的にH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ステアリルを、37℃にてin vitroでカルボキシエステラーゼ(0.1μg/mL)とインキュベートして、眼の生理学的環境、およびその内部である硝子体内で多量になりやすいエステラーゼのタイプを模倣した。H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ステアリルのカルボキシエステラーゼとのインキュベーションにより、プロドラッグのエステル結合の急激な切断が生成され、溶液中のH-d-Arg-DMT-Lys-PheおよびH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ステアリルプロドラッグの高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析および定量により明白なように、H-d-Arg-DMT-Lys-Pheが放出された(図28B)。H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ステアリルプロドラッグを、37℃にてエステラーゼなしでリン酸緩衝生理食塩水溶液に添加すると、H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ステアリルプロドラッグのエステル結合は、加水分解でよりゆっくり(約36時間)切断される(図28C)。したがって、眼の生理学的なシステムでは、MTTを不活性の共役に連結させるプロドラッグの共有結合は、酵素切断により、または加水分解によりさらにゆっくり、容易に切断され、活性なMTTが放出される。
【0197】
さらに、原薬の共有結合を切断すると、APIであるネイティブMTTペプチドは、ミトコンドリア機能不全を処置するための生物活性を保つ。例えば、図29A~29Cに描写されているように、乾性AMDのin vitro細胞培養モデルにおいて、H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ステアリル(5μM)を、ヒドロキノン(HQ)への曝露により誘導されたミトコンドリア機能不全を示すRPE細胞(内因性エステラーゼを所有する)に添加した。H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ステアリルは、H-d-Arg-DMT-Lys-Pheネイティブペプチド(5μM)を用いた処置に等しい効能で、RPE細胞におけるHQに誘導されたミトコンドリア機能不全を効率的に無効化した(細胞のフラボタンパク質-自己蛍光により描写されているように)。H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ステアリルも、別の媒体中でカルボキシエステラーゼ(0.1μg/mL)と予めインキュベートした。切断したH-d-Arg-DMT-Lys-Pheを含有する回収した媒体(5μM)を、ミトコンドリア機能不全のこのRPE細胞モデルに添加し、これは同様に有効であり、RPEミトコンドリア機能不全の無効化に対してH-d-Arg-DMT-Lys-Pheネイティブペプチドに等しい効力を有していた。したがって、これらの研究から、プロドラッグから切断される活性APIは、ミトコンドリア機能不全を処置するための本質的かつ未修飾の生物活性を保つことが確認される。
【0198】
いくつかの例では、共役部分は、これらの分類の2種以上からの要素を組み合わせることができ、APIの複数の分子に共有結合で連結している多量体のリンカー部分としての役割を果たして、ダイマーおよび/またはマルチマーを形成し得る。ミトコンドリア標的化ペプチドのダイマーまたはマルチマーを生成することが可能なそのようなリンカーは、「多量体化ドメイン」といわれ得る。
【0199】
多量体化ドメインを有するプロドラッグは、式(III):
(R’)-R(III)
(式中、Rは、複数のAPIであるR’に共有結合で連結して、APIのダイマーまたはマルチマーを形成するリンカーまたは多量体化ドメインであり、nは、2から約100に等しい)を有する。例は、PEGポリマー、ポリビニルアルコール(PVA)ポリマーまたはポリペプチドを含み、リンカー共役部分Rは、API R’の2個以上の分子に共有結合で連結して、ダイマー、トリマー、マルチマーなどを形成する。いくつかのケースでは、多量体化ドメインは、アルコール、すなわち複数の「-OH」基を有し、これにAPI単位R’が結合する。この設定で、多量体化ドメインに共有結合で(例えば、エステルまたは別の動的共有結合を経由して)連結する複数のAPIは、APIマルチマーといわれ得る。
【0200】
そのようなプロドラッグマルチマーの一例は、式:
【0201】
【化6】
のPVA化合物に連結するミトコンドリア-標的化テトラペプチドH-d-Arg-DMT-Lys-Pheであり、「n」はPVAポリマーを含む数である。
【0202】
原薬多相コロイド懸濁液の分散媒は、本明細書において、中で原薬および微粒子複合体形成剤が混和されて、安定な多相コロイド懸濁液を形成する疎水性液体と定義される。
安定な多相コロイド懸濁液を定義する基準は、in vitroでの眼の生理学的環境(すなわち37℃の緩衝生理食塩水、硝子体酵素、希釈血清)、または眼の中に注入される場合はin vivoへの曝露後、インプラントの耐用時間の予め特定された持続時間にわたる、微粒子の沈降、分離または解離なしの原薬-複合体微粒子の均一な混合物および分布を含む。安定性は、原薬-複合体微粒子対油の相対的パーセンテージ(重量対重量)、ならびに微粒子の大きさおよび質量によっても左右される。
【0203】
本明細書に記載されている方法および組成物は、有効な分散媒としての役割を果たすことを可能にするある油のこれまでに把握されていない新たな性質について記載する。これらは、疎水性、高い初期粘度、および原薬-複合体微粒子と混和した場合、安定な多相コロイド懸濁液を形成することを可能にする他の性質を含む。
【0204】
分散媒に対するこれらの基準に合う油の4種の分類は、飽和脂肪酸メチルエステル、不飽和脂肪酸メチルエステル、飽和脂肪酸エチルエステルまたは不飽和脂肪酸エチルエステルを含む。分散媒は、これらの分類の1つからの個々の油であり得、または、安定なコロイド懸濁液の望ましい目標を達成するように具体的に設計され、混和されている異なる粘度値を有する油の混合物として設計され得る。
【0205】
分散媒としての役割を果たし得る飽和脂肪酸メチルエステルは、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、ペンタン酸メチル、ヘキサン酸メチル、ヘプタン酸メチル、オクタン酸メチル、ノナン酸メチル、デカン酸メチル、ウンデカン酸メチル、ドデカン酸メチル(ラウリン酸メチル)(図12A~12F)、トリデカン酸メチル、テトラデカン酸メチル、メチル9(Z)-テトラデセノエート、ペンタデカン酸メチル、ヘキサデカン酸メチル、ヘプタデカン酸メチル、オクタデセン酸メチル、ノナデカン酸メチル、エイコサン酸メチル、ヘンエイコサン酸メチル、ドコサン酸メチル、トリコサン酸メチルなどを含む。
【0206】
分散媒としての役割を果たし得る不飽和脂肪酸メチルエステルは、メチル10-ウンデセノエート、メチル11-ドデセノエート、メチル12-トリデセノエート、メチル9(E)-テトラデセノエート、メチル10(Z)-ペンタデセノエート、メチル10(E)-ペンタデセノエート、メチル14-ペンタデセノエート、メチル9(Z)-ヘキサデセノエート、メチル9(E)-ヘキサデセノエート、メチル6(Z)-ヘキサデセノエート、メチル7(Z))-ヘキサデセノエート、メチル11(Z)-ヘキサデセノエートを含む。
【0207】
分散媒としての役割を果たし得る飽和脂肪酸エチルエステルは、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、ペンタン酸エチル、ヘキサン酸エチル、ヘプタン酸エチル、オクタン酸エチル、ノナン酸エチル、デカン酸エチル、ウンデカン酸エチル、ドデカン酸エチル(ラウリン酸エチル)、トリデカン酸エチル、テトラデカン酸エチル、エチル9(Z)-テトラデセノエート、ペンタデカン酸エチル、ヘキサデカン酸エチル、ヘプタデカン酸エチル、オクタデセン酸エチル、ノナデカン酸エチル、エイコサン酸エチル、ヘンエイコサン酸エチル、ドコサン酸エチル、トリコサン酸エチルを含む。
【0208】
分散媒としての役割を果たし得る不飽和脂肪酸エチルエステルは、エチル10-ウンデセノエート、エチル11-ドデセノエート、エチル12-トリデセノエート、エチル9(E)-テトラデセノエート、エチル10(Z)-ペンタデセノエート、エチル10(E)-ペンタデセノエート、エチル14-ペンタデセノエート、エチル9(Z)-ヘキサデセノエート、エチル9(E)-ヘキサデセノエート、エチル6(Z)-ヘキサデセノエート、エチル7(Z))-ヘキサデセノエート、エチル11(Z)-ヘキサデセノエートを含む。
【0209】
対照的に、ある他の油、ならびにシリコーン油、粘性ゼラチンおよび粘性プロテオグリカンを含む粘性物質(図10A~10F、11A~11F、13A~13Fおよび14A~14F)は、生理学的な眼の微小環境(例えば37℃、緩衝生理食塩水、硝子体酵素、希釈血清)に、または眼の中に注入される場合はin vivoで曝露した場合、安定な多相コロイド懸濁液の形成に失敗する、または急速に代償不全になる。
【0210】
分散媒内での微粒子複合体形成剤への原薬の複合体形成は、遊離原薬の分散媒中への放出を限定するのに役立つ。分散媒が、水の原薬-複合体微粒子への接触を制約する一方、遊離した非結合原薬は分散媒内を自由に拡散し、分散媒は、遊離した非結合薬物を保たず、非結合薬物は、多相コロイド懸濁液から外に拡散することがある。
【0211】
この複合体形成に基づくXRDDSの特徴は、眼科薬送達のために確立されたXRDDSの従来技術とは明らかに異なる。
保持ビヒクルは、保持ビヒクルからの放出を制約または限定する手法で、ビヒクルが原薬との相互反応のための物理化学的性質に基づいて選択される液体または半固体物質である。例は、水中油エマルション、油中水エマルション、粘性ゼラチン、ヒドロゲルおよび粘性コンドロイチン硫酸を含むが、それらに限定されない。保持ビヒクルに基づくXRDDSは、原薬-複合体微粒子を安定に分散させる必要性が一切なく、薬剤放出は、保持ビヒクルの原薬との相互反応により決定され、保持ビヒクルは、ビヒクルから眼の生理学的環境中への拡散を遅らせる、または遅くする。これらの性質は、多相コロイド懸濁液XRDDSにおける原薬の好ましい実施形態とは異なり、原薬-複合体微粒子は、沈降または移行せずに安定的に分散し、分散媒がインプラントからの原薬の拡散を遅らせる、または遅くする必要性がない。
【0212】
担体に基づくXRDDSは、受動的に放出する生体侵食性配合物の方略を表す。担体に基づくXRDDSは、原薬を特定の担体に物理的に閉じ込めるように設計されるが、次いでシステムは、遊離原薬を放出するために、XRDDS内に固有の機構ではなく、組織との相互反応を経由して分解されなければならない。いくつかの実施形態では、担体配合物は、組織からの原薬を区画する単一のデバイスを含む。例は、ポリマーベースロッドまたは他の形状(化学物質に閉じ込められた薬剤をロッドに押し出した、または異なる形状に成形した)、PLGAからなる光重合もしくは光架橋ブロックポリマー、およびポリマー内に原薬が閉じ込められ、注入可能な粘性ポリマー、またはポリマーベースロッド、または他の形状に配合された他の架橋性基材、ポリマーベース微小粒子(薬剤を閉じ込める小型ブロックポリマーの化学的共有結合の架橋を必要とする)、薬剤を閉じ込めるように超音波処理したリポソーム(水中リン脂質エマルション)を含むが、それらに限定されず、これらのすべては、原薬を配合するために使用できる。すべての担体に基づくシステムに共通の特徴は、原薬が担体材料内に閉じ込められることであり、担体が分解、溶解またはそうでなければ崩壊すると、遊離原薬が組織中に放出される。これは、組織の微小環境により得られる化学または酵素反応を必要とすることがある。さらに、分解中に担体システムに欠損が生じると、微小環境から水へのアクセスが可能となり、これにより原薬の放出がさらに促進される。担体に基づくシステムは、疎水性分散媒を有する多相コロイド懸濁液と異なるので、水がシステムに入らないようにする。さらに、多相コロイド懸濁液では、インプラントから原薬が放出するため、組織との相互反応を経由して分解するシステムの必要性がない。放出動態は、多相コロイド懸濁液に閉じ込められた薬剤によって決定されない。
【0213】
したがって、本多相コロイド懸濁液は、代わりに眼への徐放性薬物送達に特化した複合体形成システムの化学を利用するため、これまでに考案および設計されたシステム、例えば保持ビヒクルおよび担体に基づくシステムと異なる。本システムは、生体侵食性様式または配合物において、放出するのに利用できる非結合の遊離薬剤を限定し、眼組織中の薬剤放出の動態を調節する方法として、1種または複数の複合体形成剤上での薬剤の複合体形成を使用する。
【0214】
原薬多相コロイド懸濁液は、様々なKdおよび結合能を有する様々な原薬-複合体微粒子の比および量を変動させることにより、予め特定された原薬の放出速度および量に合う特定のプロセスにより設計され得る(図2A~2E)。Kdの性質は、所定の複合体形成剤に対する原薬の親和性の測定値であり、所定の分散媒中の原薬-複合体微粒子に対する原薬の非結合-結合分画と定義される。具体的なKd値は、本明細書に記載されているように特定された放出アッセイにより測定できる(図15、18、20、24)。結合能の性質は、既知量の複合体形成剤に結合する最大量の薬剤と定義される。
【0215】
原薬のインプラントからの放出は、分散媒内の非結合分画により部分的に判定され、これは続いて、様々な原薬-複合体微粒子で、Kd値および結合能値により部分的に判定される。Kdおよび結合能の知識により、特定の組合せの異なるプロドラッグ-複合体形成剤微粒子を選択して、分散媒内の薬剤の非結合分画を長期間にわたって調節すること、ひいては予め特定された放出動態プロファイルを達成することが可能となる(図2A~2Eおよび9)。多相コロイド懸濁液における1種超の複合体形成剤の包含は、長期間にわたって分散媒内の薬剤の非結合分画、ひいてはシステムの放出動態を調節するために使用され得る。
【0216】
例えば、高い結合能、および複合体微粒子に対する原薬の親和性が低いことを指し示す高いKdを有する原薬-複合体微粒子の添加を使用して、放出の速度の短期的上昇、または初期バーストを作り出すことができる。高い結合能、および複合体微粒子に対する原薬の親和性が中等度なことを指し示す中等度のKdを有する原薬-複合体微粒子の添加を使用して、長期間のより低い放出速度を作り出して、インプラントからの原薬放出の持続時間を延長することができる。これらの2つのタイプの原薬微粒子の組合せは、望ましい比および濃度で選択および混和して、インプラントからの原薬の2相放出動態を有するインプラントを作り出すことを達成できる(図3B)。この放出動態プロファイルを有するインプラントは、確立された疾患の病状を処置および無効化する「充填」相を必要とする疾患に有用になり得る一方、第2の「定常状態」相は、新たな、または再発性疾患の発症の防止に有効になり得る。
【0217】
別の例では、高い結合能、および複合体微粒子に対する原薬の親和性が低いことを指し示す高いKdを有する原薬-複合体微粒子の添加を使用して、放出の速度の短期的上昇、または初期バーストを作り出すことができる。高い結合能、および複合体微粒子に対する原薬の親和性が中等度なことを指し示す中等度のKdを有する原薬-複合体微粒子の添加を使用して、長期間のより低い放出速度を作り出して、インプラントからの原薬放出の持続時間を延長することができる。高い結合能、および複合体微粒子に対する原薬の高い親和性を指し示す低いKdを有する原薬-複合体微粒子の添加は、放出を遅くして、インプラントの耐用時間における後期のバーストを作り出し得る。これら3つのタイプの原薬微粒子の組合せは、望ましい比および濃度で選択および混和して、インプラントからの原薬の3相放出動態を有するインプラントを作り出すことを達成できる(図3C)。この放出動態プロファイルを有するインプラントは、確立された疾患の病状を処置および無効化する「充填」相を必要とする疾患に有用になり得る一方、第2の「定常状態」相は、新たな、または再発性疾患の発症の防止に有効になり得、さらに第3の相の「後期バースト」は、タキフィラキシー、または薬剤標的の下方調節もしくは原薬への応答性の低下を媒介する他の機構により、インプラントの耐用期間における後期に、薬剤の効力の低下、または薬剤に対する標的の応答の低下が生じる疾患に有用になり得る。
【0218】
そのような例では、選択された分散媒中に組み込まれた2つ以上の原薬-複合体微粒子の組合せでの合わせた効果は、原薬多相コロイド懸濁液中に組み込まれ、分散される個々の薬剤-複合体形成剤微粒子成分からの放出速度の積分に基づく2つ以上の相における原薬の放出である。
【0219】
例えば、図2は、原薬に望ましい薬剤放出動態プロファイルを生成する、長期放出薬物送達システム(XRDDS)インプラントを設計および構築するための理論上の根拠を概略的に例証する。最初に、理論上の薬物動態放出曲線(すなわち、標的放出プロファイル)は、この描写において、log変換により直線化される、望ましい初期バースト相および後続の定常状態の放出相を表すように設計されて、望ましい1日の放出速度、合計の送達持続時間、および最終配合物における薬剤ペイロードが得られる。反復プロセスは、原薬の物理化学的性質に基づき、原薬との非共有結合による相互反応を形成すると予想される、2または3種の異なる分類の複合体形成剤からの特定のメンバー化合物を同定するために行われる。各原薬-複合体微粒子は、最初に、初期量および比で組み合わせられ、薬剤-複合体微粒子を次いで混和し、目的の分散媒内に組み込む。原薬多相コロイド懸濁液を「シンク」状態とし、原薬-複合体微粒子の2つの性質:1、3、7、14および21日目におけるKd(非結合-結合分画)(バーストおよび一般的な結合親和性の良好な指標);ならびに放出動態(長期間にわたって放出された薬剤の初期ペイロードの%)を測定し、Kd1は原薬-複合体1に相当し、Kd2は原薬-複合体2に相当する。
【0220】
カーブフィッテングは、次いで各薬剤-複合体の放出曲線に適用され、直線化曲線は、次いで予め決定された望ましい複合標的生成物プロファイルに合う放出動態が得られる(2または3種の特定薬剤-複合体の対の)正しい組合せを決定するように解釈される。
【0221】
図2に示されているように、2または3種の原薬-複合体微粒子の組合せを含有する、この「理論的に設計された」配合物は、次いで配合され、実際の放出動態についてテストされる。必要な場合は、2~3種の選択された原薬-複合体微粒子の比は、最終的な放出動態が所定の標的生成物放出プロファイルに合うまで、反復して再調整できる。
【0222】
いくつかの例では、原薬がプロドラッグである場合、第2または第3の原薬-複合体微粒子では、生物活性薬剤は、異なる共役部分に共有結合で連結して、異なるプロドラッグ構造を形成し得、複合体形成剤は、第1のものとは異なる可能性があり、Kd値が異なり、原薬-複合体微粒子のKd1およびKd2は、対の間における異なる共役部分および異なる複合体形成剤の両方に基づく。
【0223】
あるいは、いくつかの例では、原薬がプロドラッグである場合、プロドラッグの共役部分は、第1および第2の薬剤-複合体の対の間で異なる可能性があるが、複合体形成剤は同一であり得、Kd値が異なり、薬剤-複合体の対のKd1およびKd2は、対の間における異なる共役部分に基づく。
【0224】
複合長期放出薬物送達システムは、システムから組織への遊離原薬の放出を調節する原薬の物理化学的性質のために設計およびカスタマイズされる。
原薬多相コロイド懸濁液により達成される実際の放出動態は、in vivo硝子体濃度において、1カ月以上の長期放出持続時間にわたりEC50を満たし得る、または超え得る。EC50は、原薬の所定の作用機序に対する最大応答の治療効果の50%を達成する原薬の濃度を反映する。
【0225】
2相放出動態を有する原薬多相コロイド懸濁液の配合物において、硝子体における原薬の濃度は、初期バースト相中に、無効化のためのEC50(すなわち、最大効果の50%を達成するのに必要とされる薬物濃度)を超えることがあり、続いて第2の(定常状態)相で防止のためのEC50を超えることがあり、薬剤放出の予め特定された放出動態および望ましい持続時間は、本明細書に記載されている多相コロイド懸濁液中での様々な原薬-複合体微粒子の特定の設計および使用により達成された。
【0226】
原薬多相コロイド懸濁液の配合物は、流動性のボーラスインプラント、原薬多相コロイド懸濁液で満たした侵食性もしくは非生体内侵食性チューブインプラント、または特定の大きさおよび形状に作られ、乾燥および硬化させ、また、インプラント治療のために構成された原薬多相コロイド懸濁液の固体モールド(図33A~33D)を含む3種の異なるインプラント様式の1つとして送達され得る。いくつかの例では、チューブはそれ自体が、長期放出薬物送達システムで形成されていることがある。他の例では、チューブは、眼組織と適合する生体侵食性ポリマー(例えば、ポリ(乳酸-共-グリコール酸、PLGA)からなることがある。いくつかの例では、チューブは、ミトコンドリア標的化長期放出化合物を放出するために開口している端の一方または両方を有し得る。
【0227】
これらの配合物のいずれかは、眼内および眼の周辺、すなわち、硝子体液中、房水中、脈絡膜上腔中、網膜下、結膜下、テノン嚢下または眼窩組織中に注入されて、様々な疾患および障害の処置に望ましい持続時間(1から12カ月)にわたり、眼組織内における治療レベルの原薬の徐放性を生成し得る。
【0228】
多目的長期放出薬物送達システム(XRDDS)として、本明細書に記載されている多相コロイド懸濁液は、非共有結合性複合体を微粒子複合体形成剤と直接的に形成する多彩な原薬、ならびに切断可能な共有結合を経由して共役部分に連結した有効活性成分(API)からなる多彩なプロドラッグを組み込み得、プロドラッグの共役部分は、非共有結合性複合体を微粒子複合体形成剤と形成し得る。具体的には、多相コロイド懸濁液は、様々な疎水性化学物質、親水性化学物質、小型ポリペプチド、タンパク質、アプタマー、他の核酸医薬および他の化合物を組み込み得る。
【0229】
いくつかの例は、薬物送達のための複合体形成の原理を実証するために本明細書で論じられている。
例えば、蛍光標識されたカチオン性小分子は、既知量の選択された個々の複合体形成剤と混和した(図4F、5F、6F、7F)。様々な蛍光標識された小分子-複合体微粒子を、次いで適切な分散媒に混和し、蛍光顕微鏡法下で視覚化した。このアプローチを使用して、蛍光標識された小分子は、蛍光標識された小分子-複合体微粒子をいくつかの異なる複合体形成剤と形成することを観察した。
【0230】
別の例では、テトラペプチドH-d-Arg-DMT-Lys-Pheは、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)で蛍光標識され、既知量の選択された個々の複合体形成剤と混和されている(図4B、5B、6B、7B)。様々な蛍光標識された小分子-複合体微粒子を、次いで適切な分散媒に混和し、直接蛍光顕微鏡法下で視覚化した。このアプローチを使用して、異なる複合体形成剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、アルブミン)と混和した場合、FITC-標識されたH-d-Arg-DMT-Lys-Pheは、目視可能な薬剤-複合体微粒子を生成しなかった。
【0231】
別の例では、同一のテトラペプチドH-d-Arg-DMT-Lys-Pheは、エステル結合によりステアリルアルコールに連結して、プロドラッグH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリルを形成する。プロドラッグH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリルlは、FITCで蛍光標識し、異なる複合体形成剤と混和した(図4C、5C、6C、7C)。得られた混合物を、次いで直接蛍光顕微鏡検査法下で視覚化した。このアプローチを使用して、FITC-標識されたH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリル(テトラペプチドは、FITCで標識されている)は、薬剤-複合体微粒子をいくつかの異なる複合体形成剤:ステアリン酸マグネシウム(以前に記載され、予想されている通り);大型の荷電担体タンパク質アルブミン;および大型の環状炭水化物分子シクロデキストランと形成することを観察した。対照的に、FITC-標識されたH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリルは、薬剤-複合体微粒子をシリカマイクロビーズと一貫して形成することが観察されず(図8C)、複合体形成および薬剤-複合体微粒子形成のプロセスは、薬剤と複合体形成剤との間で好都合な非共有結合による相互反応に高度に左右されることが指し示された。
【0232】
共役部分を有するH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリルプロドラッグのみが薬剤-複合体微粒子を形成したので、複合体形成は、プロドラッグの共役部分により媒介されたことが推測される。これを評価するために、複合体形成剤と混和したFITC-標識されたH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリル(テトラペプチドは、FITCで標識されている)を、カルボキシエステラーゼ(0.1μg/mL)の水溶液で処理して、プロドラッグのエステル結合を加水分解し、蛍光性ペプチドを放出した(図4D、5D、6D、7D)。複合体形成した微粒子は、顕微鏡法によればもはや蛍光標識されておらず、プロドラッグの複合体形成は、その共役部分により特異的に媒介されることが確認され、適合性の共役部分を有するプロドラッグを使用して、複合体形成を媒介する概念が検証された。
【0233】
さらに、本明細書に記載されているように、複合体形成剤が薬剤に高い親和性を有する薬剤-複合体微粒子の形成は、実験的に定量および検証され得る。例えば、プロドラッグH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリルは、既知量の選択された個々の複合体形成剤と混和した(図24)。H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリル-複合体形成剤混合物を、次いで適切な分散媒(このケースではラウリン酸メチル)に添加し、遠心分離して、分散媒に存在する非結合プロドラッグからの複合体形成剤に結合しているH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリルを「プルダウン」または分離した。H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリル内容物からプルダウンされた微粒子および分散媒のHPLC分析により、複合体形成剤に結合しているプロドラッグの分画、ならびに非結合対結合の係数であるKd値の計算、およびプロドラッグ-複合体形成剤微粒子の結合能(図24)が判定された。このタイプのアッセイを使用して、Kd値および結合能は、選択された分散媒において、特定のプロドラッグ-複合体形成剤の対で生成され得る(図24を参照されたい)。
【0234】
したがって、いくつかの例では、プロドラッグの形成は、APIの物理化学的性質を実質的に変えて、複合体形成、および多相コロイド懸濁液における配合物に対する適合性の最適化を可能にする。API H-d-Arg-DMT-Lys-Pheは、高度に親水性であり、上記のように、複合体形成剤と混和して、目視可能な薬剤-複合体微粒子を生成しなかった。エステル結合を経由したステアリルアルコールへの連結は、プロドラッグH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリルを生成し、これは、未修飾APIと比較して高度に疎水性である。さらに、このMTT-プロドラッグの共役部分の疎水性長鎖脂肪族アルコールと、微粒子複合体形成剤との間における高い親和性の相互反応はMTT-プロドラッグを結合するのに役立ち、MTT-プロドラッグ-複合体微粒子が分散している分散媒からの放出に利用できる、遊離した非結合MTT-プロドラッグを限定する(図25B)。
【0235】
プロドラッグの別の特定の例は、H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-トリ-アルギニン(トリArg)を含み(図27Cで描写されている)、H-d-Arg-DMT-Lys-Pheは、エステル結合を経由して、非共有結合性複合体を、負に荷電している微粒子複合体形成剤と容易に形成して、MTT-プロドラッグ-複合体微粒子を形成する、アルギニントリマー/トリペプチドである正に荷電したペプチド共役部分に連結する。このMTT-プロドラッグの正の共役部分と、微粒子複合体形成剤の負の荷電との間における高い親和性の相互反応は、このMTT-トリArgプロドラッグを結合するのに役立ち、MTT-プロドラッグ-複合体微粒子が分散している分散媒からの放出に利用できる、遊離した非結合MTT-プロドラッグを限定する。
【0236】
プロドラッグの別の特定の例は、H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-トリ-グルタメート(トリGlu)を含み(図27Bで描写されている)、H-d-Arg-DMT-Lys-Pheは、エステル結合を経由して、非共有結合性複合体を、正に荷電した微粒子複合体形成剤と容易に形成するグルタメートトリマー/トリペプチドである負に荷電しているペプチド共役部分に連結して、MTT-プロドラッグ-複合体微粒子を形成する。このMTT-プロドラッグの負に荷電している共役部分と、微粒子複合体形成剤の正電荷との間における高い親和性の相互反応は、MTT-トリGluプロドラッグを結合するのに役立ち、MTT-プロドラッグ-複合体微粒子が分散している分散媒からの放出に利用できる、遊離した非結合MTT-プロドラッグを限定する。
【0237】
EY005-プロドラッグの共役部分がPeg化ペプチドである例、例えばEY005-ポリエチレングリコール(PEG)(図27D)では、複合体形成剤は、その大きさおよび荷電に基づくPEGまたはPEG化共役部分との非共有結合による相互反応を形成し得る。
【0238】
いくつかの例は、分散媒としての役割を果たし得る物質(および果たし得ない物質)を具体的に特定および区別するために、本明細書で論じられている。
本明細書では、分散媒は、原薬-複合体微粒子と混和した場合、眼の中または周辺における投与のためにインプラント中で形成される安定な多相コロイド懸濁液を形成し得る、疎水性の粘性油状物と定義される。本明細書では、コロイダルは、微粒子が均一に分散し、安定であることを指し示し、これにより、微粒子が、インプラントの意図されている耐用時間の持続時間にわたり、沈降または移行せずに分散したままでいることが指し示される。
【0239】
これらの性質をより良好に理解し、分散媒としての役割を果たし得る液体物質を特定するために、2つの異なる大きさ、3μm(マイクロメートルまたはミクロン)および10μmの蛍光性微粒子ビーズを、原薬-複合体微粒子の代用物として使用した(微粒子の可視化および画像化を促進するために)。これらの蛍光性微粒子ビーズは、浅い円筒形の小型ウェルにおいて様々な液体中で懸濁し、これを次いで、微粒子ビーズの分布を評価し、様々な深さの液体を評価する共焦点機能により確かめる共焦点蛍光顕微鏡法により、蛍光性ビーズ微粒子の一定の沈降が発生するかどうかを評価した。
【0240】
例えば、蛍光性微粒子ビーズが水中(図10A~10F)およびシリコーン油中(図11A~11F)中で混和された場合、これらは、下部レベルの流体において、実質的により多い数および高い密度の微粒子ビーズ、ならびに、上部の液体において相対的にはるかに少ないビーズを実証した。したがって、水およびシリコーン油は、微粒子を均一に分散させず、コロイド懸濁液は形成されなかった。
【0241】
別の例では、蛍光性微粒子ビーズを脂肪酸メチルエステル中で混和した(図12A~12F)。共焦点顕微鏡法は、液体の深さに関係なく微粒子の均一な分布を実証し、ラウリン酸メチルの均一に分散した微粒子は、多相コロイド懸濁液を形成することが指し示された。眼の生理学的環境と接触するこの懸濁液の検査(典型的には眼組織に含有される酵素およびタンパク質を含有する)は、コロイド懸濁液内の移行なしで長期間、1日、1週間、および1カ月にわたって、微粒子の均一な分布の安定性を実証した。
【0242】
別の例では、蛍光性微粒子ビーズを2%ゼラチン中で混和した(図13A~13F)。共焦点顕微鏡法は、液体の深さに関係なく微粒子の均一な分布を実証し、2%ゼラチンに均一に分散した微粒子は、多相コロイド懸濁液を形成することが指し示された。しかし、in vitroでの眼の生理学的環境中へと入れた後(典型的には眼組織に含有される酵素およびタンパク質を含有する)(図14A~14F)、懸濁液内における微粒子の分布は、長期間にわたって安定なままでおらず;微粒子は移行し、2%ゼラチンは侵食および破壊された。
【0243】
いくつかの例は、多相コロイド懸濁液中の様々な原薬の配合および徐放性についての概念証明を実証するために、本明細書で論じられている。
例えば、多相コロイド懸濁液中の疎水性小分子フルオシノロンアセトニド(FA)の配合物を開発した。FAを異なる微粒子複合体形成剤と混和して、様々なFA-複合体微粒子配合物を形成した(図15、16A~16Bおよび17~17B)。異なる分散媒中における各FA-複合体微粒子に対するKdおよび結合能の性質を計算した(ラウリン酸メチルの分散媒について示されているデータ)。2相動態放出プロファイルは、この実施例では望ましかった。これに基づき、ステアリン酸マグネシウムおよびトコフェロールの複合体形成剤は、FAと共にラウリン酸メチルの分散媒中に組み込むために、FA多相コロイド懸濁液の生体侵食性チューブ配合物での2相放出を達成する特定の比および濃度で選択した。配合物は、薬剤の所定のペイロードに対してFA-複合体形成剤微粒子の比を調整することにより反復して精製して、初期バースト相の放出、続いて定常状態の放出でおよそ6カ月の放出の持続時間を達成した。
【0244】
別の例では、多相コロイド懸濁液中の親水性小分子リン酸デキサメタゾン(DexPh)の配合物を開発した(図18~19)。原薬の物理化学的性質が、複合体形成の性質との相互反応にどのように影響を与えるかを理解するために、DexPhは、同一の微粒子複合体形成剤、ステアリン酸マグネシウムおよびトコフェロール、および疎水性小分子FAのために選択される分散媒と混和した。DexPhの配合物は、DexPhの急激および過剰な放出、すなわち「ダンピング」を実証した。異なる複合体形成剤を添加し、他の複合体形成剤の比を低下させると、所定のペイロードで、動態放出プロファイルを変化させて、DexPhのダンピングを最小化し、より望ましい徐放性プロファイルを得、複合体形成剤を選択する重要性は、目的の特定原薬との好都合な非共有結合性複合体形成に基づくことが実証された。
【0245】
別の例では、多相コロイド懸濁液中の親水性小分子リンゴ酸スニチニブの配合物を開発した。スニチニブを異なる微粒子複合体形成剤と混和して、様々なスニチニブ-複合体微粒子配合物を形成した(図20~22)。選択された複合体形成剤に対するスニチニブの複合体形成は、スニチニブ-複合体微粒子の混和およびプルダウンにより視覚的に確認され、これは、黄色がかったオレンジ色の微粒子により(スニチニブはオレンジ色の着色を有する)確認された。スニチニブ多相コロイド懸濁液の生体侵食性チューブ配合物中の、2相放出動態を示すスニチニブの配合物が設計および製造された。薬物動態は、多量の初期バースト、続いて定常状態の放出での2相放出を実証した。スニチニブ-複合体微粒子の比を変化させると、初期バースト中に放出される薬剤の量が減少し、定常状態の放出が減少した。
【0246】
例えば、多相コロイド懸濁液中の疎水性小分子アキシチニブの配合物を開発した。アキシチニブを異なる微粒子複合体形成剤と混和して、様々なアキシチニブ-複合体微粒子配合物を形成した(図23)。単一相の動態放出プロファイルを有する配合物が、この実施例では望ましかった。これに基づき、アキシチニブを、ボーラスインプラントとして配合される選択された分散媒中で、高い結合能および低いKd(高いアフィニティーを指し示す)を有する複合体形成剤と混和し、これにより、組織において検出可能な薬剤を用いての配合物の遅い放出が生成された。
【0247】
別の例では、多相コロイド懸濁液中のプロドラッグH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリルの配合物を開発した(図24~32)。in vitro動態研究では、ボーラスインプラントとしてのプロドラッグ多相コロイド懸濁液のパイロット配合物は、放出のゼロ次(すなわち直線的)動態を達成し、薬剤放出の望ましい耐久性3カ月を達成し、多相コロイド懸濁液からのプロドラッグの放出後に、プロドラッグは分散媒に存在し、遊離APIはin vitro生理学的環境に存在した(図30を参照されたい)。
【0248】
in vitro効能研究では、プロドラッグ多相コロイド懸濁液のボーラスインプラントを、内因性エステラーゼとRPE細胞培養モデルに添加した(図31A~31D)。細胞培養データは、細胞骨格の回復を実証し、細胞ミトコンドリア機能不全の無効化を伴って21日時点で約80%が改善した(図31D)。このデータは、安定な多相コロイド懸濁液を形成するために、複合体形成剤と混和し、分散媒中に組み込んだプロドラッグが、予測可能な治療レベルでプロドラッグの徐放性を生成し得ること、および、周囲のin vitro生理学的環境で、MTT-プロドラッグを切断する際に、APIが生物活性のままであることを確認する。
【0249】
in vivo動態研究では、LC/MS分析を使用して、高い網膜レベル(>300ng/g)のMTT-プロドラッグを、ウサギ眼におけるプロドラッグ多相コロイド懸濁液(H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(O)-ステアリルペイロード1mg)のボーラスインプラントの硝子体内注入で6週間の間持続させ(図32)、プロドラッグの放出について良好なin vivo-in vitro相関を確認した。回収されたボーラスは、約50%の残留ペイロードを有し、プロドラッグのボーラスインプラントは、ゼロ次放出動態を踏まえ、望ましい約90日のインプラントの放出動態を達成することを指し示した。
【0250】
関係Css=放出速度/クリアランスおよび半減期(t1/2)は、長期放出薬物送達システムインプラントのおよそ望ましい1日の放出速度および薬剤ペイロードを計算するために利用され得る。
【0251】
さらに、生物活性テトラペプチドAPI(プロドラッグなし)の、同一の複合体形成剤との、また、同一の分散媒中への組み込みにより、in vitroで生物活性APIの過剰放出、または「ダンピング」が生成される(図30)。さらに、硝子体中に投与されるネイティブAPIの多相コロイド懸濁液ボーラス配合物は、21日を超えて検出可能な組織レベルを生成せず(図32)、これは、in vivoでのネイティブAPIの過剰放出を同様に指し示す。さらに、回収されたボーラスに残留した薬剤はなく、過剰薬剤放出、または「ダンピング」と一致する。したがって、ネイティブ未修飾APIの多相コロイド懸濁液への組み込みは、徐放性を生成するには不十分であり、長期放出薬物送達システムの仕様達成に失敗する。重要なことには、これらのデータは、多相コロイド懸濁液XRDDSからの活性APIの、制御され、耐久性がある放出を達成するために、複合体を別途形成しない一部のAPIで、プロドラッグ構築物、および原薬-複合体微粒子を形成するプロドラッグ共役部分と複合体形成剤の間における特定の相互反応の必要性を確認および強調する。
【0252】
原薬多相コロイド懸濁液の配合物は、インプラントといわれ、眼内および眼の周辺に、すなわち、硝子体液中(図33D)、房水中、脈絡膜上腔中、網膜下、結膜下、テノン嚢下、眼窩組織中に投与されて、眼組織内における治療レベルの原薬の徐放性を望ましい持続時間(1から12カ月)にわたり生成し得る。
【0253】
原薬多相コロイド懸濁液の配合物を使用して、発症を防止する、または進展を遅くする、疾患の病状を改変する、視力喪失を防止する、または視力を改善する、または発症を防止する、または、乾性加齢性黄斑変性(AMD)、湿性AMD、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、網膜静脈閉塞(RVO)、および遺伝性網膜変性(IRD)、網膜変性、外傷性負傷、虚血性脈管障害、後天性もしくは遺伝性視神経症、緑内障、眼内炎、網膜炎、ブドウ膜炎、網膜およびブドウ膜の炎症性疾患、フックス角膜ジストロフィー、角膜浮腫、眼表面疾患、ドライアイ疾患、結膜の疾患、眼周囲組織の疾患、および眼窩の疾患を含む眼の状態および疾患の他の破壊性もしくは変性態様を改善することができる。
【0254】
方法は、血管内皮成長因子の阻害、補体阻害または抗炎症薬、例えば副腎皮質ステロイドの投与を含む他の処置様式と共に使用され得る。
本明細書に記載されている方法および装置のすべては、いかなる組合せでも、本明細書において想定され、本明細書に記載されている利益を達成するために使用され得る。
【0255】
先述の概念、および以下でより詳細に論じられている追加の概念のすべての組合せは、本明細書で開示されている本発明の主題の一部であると想定され(ただしそのような概念は相互に矛盾しない場合)、本明細書に記載されている利益を達成するために使用され得ることは認識されるべきである。
【0256】
本明細書で記載されている、および/または例証されているプロセスパラメーターおよびステップのシークエンスは、単なる例として示され、所望に応じて変動させてよい。例えば、本明細書で例証されている、および/または記載されているステップは、具体的な順序で示されている、または論じられていることがあるが、これらのステップは、必ずしも例証されている、または記載されている順序で行われる必要はない。本明細書で記載されている、および/または例証されている様々な例の方法は、本明細書で記載されている、もしくは例証されているステップの1つもしくは複数を省いてもよく、または開示されているものに加えて、追加のステップを含んでもよい。
【0257】
特徴または要素が、本明細書において別の特徴または要素「上」といわれる場合、それは他の特徴または要素上に直接的にあり得る、または介在する特徴および/または要素も存在し得る。対照的に、特徴または要素が、別の特徴または要素「上に直接的に」といわれる場合、介在する特徴または要素は存在しない。特徴または要素が、別の特徴または要素に「接続している」、「付着している」または「つながっている」といわれる場合、それは他の特徴または要素に直接的に接続しており、付着しており、もしくはつながっており、または介在する特徴または要素が存在し得ることも理解される。対照的に、特徴または要素が、別の特徴または要素に「直接的に接続している」、「直接的に付着している」または「直接的につながっている」といわれる場合、介在する特徴または要素は存在しない。一実施形態に関して記載されている、または示されているが、そのように記載されている、または示されている特徴および要素は、他の実施形態に適用され得る。別の特徴に「隣接して」配置される構造または特徴への言及は、隣接した特徴と重なる、またはその下にある部分を有し得ることは、当業者によっても認識され得る。
【0258】
本明細書で使用される専門用語は、詳細な実施形態を記載する目的のためのものにすぎず、本発明を限定することを意図するものではない。例えば、本明細書で使用されている、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が別途明らかに指し示さない限り、複数形を同様に含むことが意図される。「含む」および/または「含むこと」という用語は、本明細書で使用される場合、定められた特徴、ステップ、操作、要素および/または成分の存在を指定するが、1つまたは複数の他の特徴、ステップ、操作、要素、成分および/またはそれらの群の存在または付加を除外しないことがさらに理解される。本明細書で使用されている「および/または」という用語は、関連して列挙される項目の1つまたは複数のいずれか、およびすべての組合せを含み、「/」と省略されることがある。
【0259】
空間的な関係を示す用語は、例えば「下に」、「下部に」、「低部に」、「上に」、「上部に」などは、記載の容易さのために本明細書で使用して、1つの要素または特徴の、図に例証されるように、別の要素(複数可)または特徴(複数可)に対する関係を記載することができる。空間的な関係を示す用語は、図で描写されている向きに加えて、使用または操作におけるデバイスの異なる向きを包含することが意図されることが理解される。例えば、図におけるデバイスが倒置された場合、他の要素または特徴の「下に」または「真下に」と記載されている要素は、他の要素または特徴の「上に」向けられる。したがって、模範的な用語「下に」は、上および下向きの両方を包含し得る。デバイスは、別途向けられることがあり(90度または他の向きに回す)、空間的な関係を示す本明細書で使用される記述語は、それに従って解釈される。同様に、「上向きに」、「下向きに」、「垂直」、「水平」などという用語は、別途具体的に指し示されない限り、説明する目的のためだけに、本明細書で使用される。
【0260】
「第1の」および「第2の」という用語は、様々な特徴/要素(ステップを含む)を記載するために本明細書で使用され得るが、これらの特徴/要素は、文脈が別途指し示さない限り、これらの用語により限定されるべきではない。これらの用語は、ある特徴/要素と別の特徴/要素を区別するために使用され得る。したがって、以下に論じられている第1の特徴/要素は、第2の特徴/要素といわれる可能性があり、同様に、以下に論じられている第2の特徴/要素は、本発明の教示から逸脱することなく、第1の特徴/要素といわれる可能性がある。
【0261】
本明細書および後続する特許請求の範囲の至る所で、文脈が別途必要としない限り、「含む(comprise)」という言葉、および変形、例えば「含む(comprises)」および「含むこと(comprising)」は、方法および物品(例えば、デバイスおよび方法を含む組成物および装置)に同時に連帯して用いられ得る様々な成分を意味する。例えば、「含むこと」という用語は、いずれかの他の要素またはステップの排除ではなく、いずれかの定められた要素またはステップの包含をほのめかすと理解される。
【0262】
一般に、本明細書に記載されている装置および方法のいずれかは、包括的と理解されるべきであるが、成分および/またはステップのすべてまたは小集団は、あるいは排除され得、様々な成分、ステップ、小集団またはサブステップ「からなる」あるいは「本質的にそれからなる」として表現され得る。
【0263】
本明細書で使用されているように、明細書および特許請求の範囲において、実施例に使用されているものを含み、また、別途明示的に指定されない限り、すべての数は、用語が明示的に現れない場合でさえも、「約」または「およそ」という言葉により前置きされるかのように読み取られ得る。「約」または「およそ」という語句は、記載されている値および/または位置が、値および/または位置の妥当な予想される範囲以内であることを指し示す規模および/または位置を記載する場合に使用され得る。例えば、数字の値は、定められた値(または値の範囲)の+/-0.1%、定められた値(または値の範囲)の+/-1%、定められた値(または値の範囲)の+/-2%、定められた値(または値の範囲)の+/-5%、定められた値(または値の範囲)の+/-10%などである値を有し得る。本明細書で示されているいずれかの数値は、文脈が別途指し示さない限り、約またはおよそのその値を含むとも理解されるべきである。例えば、「10」という値が開示されている場合、「約10」も開示される。本明細書で挙げられているいずれかの数字範囲は、その中に包摂されるすべての下位範囲を含むことが意図される。値が開示される場合、当業者により適切に理解されるように、その値「以下」、「値以上」および値の間の考えられる範囲も開示されることも理解される。例えば、値「X」が開示されている場合、「X以下」ならびに「X以上」(例えば、Xは数値である)も開示される。本出願全体で、データは、いくつかの異なるフォーマットで示されていること、およびこのデータは、終点および始点、ならびにデータポイントのいずれかの組合せに対する範囲を表すことも理解される。例えば、具体的なデータポイント「10」および具体的なデータポイント「15」が開示されている場合、10および15超、以上、未満、以下およびそれらに等しいは、10から15の間と同様に開示されていると考えられることは理解される。2つの具体的な単位の間における各単位も開示されることも理解される。例えば、10および15が開示される場合、11、12、13および14も開示される。
【0264】
様々な例証の実施形態が上に記載されているが、いくつかの変化のいずれかが、特許請求の範囲により記載されている本発明の範囲から逸脱することなく、様々な実施形態に行われ得る。例えば、様々な記載されている方法のステップが行われる順序は、代替実施形態では、多くの場合変化させてよく、他の代替実施形態では、1つまたは複数の方法のステップは、完全にスキップしてよい。様々なデバイスおよび系の実施形態の任意選択の特徴は、いくつかの実施形態に含まれてよく、他の実施形態に含まれなくてよい。したがって、先述の記載は、主に模範としての目的のために用意され、特許請求の範囲に明記されている本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【0265】
本明細書に含まれる例および例証は、主題が実践され得る特定の実施形態を例証する目的で示され、限定の目的ではない。言及されているように、他の実施形態は、本開示の範囲から逸脱することなく、構造的および論理的置換および変化が行われ得るように利用でき、そこから誘導できる。本発明の主題のそのような実施形態は、便宜上、単に「発明」という用語により個々に、または集合的に本明細書で言及され得、本出願の範囲を、ある単一の発明または発明の概念に自発的に限定することを、1つ超が実際に開示されている場合、意図しない。したがって、特定の実施形態は本明細書で例証され、記載されているが、同一の目的を達成すると計算されたいずれかの配置は、示されている特定の実施形態で置換され得る。本開示は、様々な実施形態のいずれか、およびすべての適応または変動をカバーすることが意図される。上の実施形態の組合せ、および具体的に本明細書に記載されていない他の実施形態は、上の記載を再検討すれば当業者に明らかである。
図1
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【国際調査報告】