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特表2024-520722不良な認知を有するうつ病患者の治療方法及びベンジルピペラジン-アミノピリジン剤の恩恵を受ける他の患者の選択
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】不良な認知を有するうつ病患者の治療方法及びベンジルピペラジン-アミノピリジン剤の恩恵を受ける他の患者の選択
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/497 20060101AFI20240517BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 31/661 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
A61K31/497
A61P25/28
A61P25/24
A61K45/00
A61P25/18
A61P25/00
A61K31/661
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574712
(86)(22)【出願日】2022-06-03
(85)【翻訳文提出日】2023-11-30
(86)【国際出願番号】 US2022032136
(87)【国際公開番号】W WO2022256636
(87)【国際公開日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】63/202,254
(32)【優先日】2021-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/263,168
(32)【優先日】2021-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/264,269
(32)【優先日】2021-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523453662
【氏名又は名称】オルト・ニューロサイエンス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アミット・エトキン
(72)【発明者】
【氏名】ダン・セガル
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ・ウ
(72)【発明者】
【氏名】リ・シェン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィニット・シャー
(72)【発明者】
【氏名】アダム・サヴィッツ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZA021
4C084ZA122
4C084ZA181
4C084ZC412
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC48
4C086DA34
4C086GA07
4C086GA08
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA12
4C086ZA15
(57)【要約】
本発明は、認知障害があるか、または不良なもしくは緩慢な認知を有するか、または意思決定が困難であるか、またはある特定のEEG特性を示す患者における大うつ病性障害、双極性障害、心的外傷後ストレス障害、物質使用障害、及び統合失調症のうつ病関連の側面(例えば、陰性症状)を含む、抑うつ症状が顕著である精神疾患の治療における(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノン(NSI-189)またはその薬学的に許容される塩の使用に関する。また、本発明は、かかる化合物から最も利益を受けるであろうバイオマーカー(例えば、EEG)及び/または臨床症状を有する患者の選択にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
客観的に判断された認知障害または不良な認知を有するヒト患者における大うつ病性障害を治療する方法であって、約40~約240mgの(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩を前記患者に毎日経口投与することを含む、前記方法。
【請求項2】
約60~約100mgの(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩が、毎日投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
約80mgの(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩が、毎日投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ヒト患者が、単純反応時間テスト、選択反応時間テスト、1バックワーキングメモリタスク、及び視覚的学習タスクのうちの1つ以上によって示されるように、認知障害、不良なもしくは緩慢な認知、または意思決定の困難を被る、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒト患者が、単純反応時間テスト、選択反応時間テスト、1バックワーキングメモリタスク、または視覚的学習タスクからの1つ以上の結果に少なくとも部分的に基づいている複合スコアによって示されるように、認知障害、不良なもしくは緩慢な認知、または意思決定の困難を被る、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記患者が、快感消失、自殺傾向、またはその両方を被る、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記患者が、低下した情報処理速度を被る、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記患者が、低下した注意力、記憶力、学習能力、ワーキングメモリ、または前述のうちのいずれかの任意の組み合わせを被る、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記患者が、第2の抗うつ薬で同時に治療されない、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記患者が、第2の抗うつ薬で同時に治療される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
低下した情報処理速度、注意力、記憶力、学習能力、ワーキングメモリ、または前述のうちのいずれかの任意の組み合わせを有するヒト患者における大うつ病性障害を治療する方法であって、約40~約240mgの(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩を前記患者に毎日経口投与することを含む、前記方法。
【請求項12】
約60~約100mgの(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩が、毎日投与される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
約80mgの(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩が、毎日投与される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
大うつ病性障害に罹患しているヒト患者における客観的測定によって判断される、認知障害、不良なもしくは緩慢な認知、意思決定の困難、または低下した情報処理速度を治療するための方法であって、約40~約240mgの(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩を前記患者に毎日経口投与することを含む、前記方法。
【請求項15】
約60~約100mgの(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩が、毎日投与される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
約80mgの(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩が、毎日投与される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも50歳のヒト患者における晩年のうつ病を治療する方法であって、約40~約240mgの(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩を前記患者に毎日経口投与することを含む、前記方法。
【請求項18】
前記患者が、少なくとも65歳である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記患者が、第2の抗うつ薬で同時に治療されない、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
前記患者が、現在、第2の抗うつ薬で治療されている、請求項17または18に記載の方法。
【請求項21】
心的外傷後ストレス障害、双極性うつ病、物質使用障害または統合失調症に罹患しているヒト患者における、抑うつ症状、快感消失、関心の喪失、意欲喪失、感情表現の低下、感覚不能、無気力、無関心、緩慢な思考、精神運動障害、倦怠感、または前述のうちのいずれかの任意の組み合わせから選択される1つ以上の症状を治療する方法であって、約40~約240mgの(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩を前記患者に毎日経口投与することを含む、前記方法。
【請求項22】
約60~約100mgの(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩が、毎日投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記患者が、統合失調症に罹患している、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記患者が、認知障害、不良なもしくは緩慢な認知、意思決定の困難、または情報処理速度の低下を被る、請求項21~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記患者が、1種以上の抗精神病薬、気分安定剤、または前述のうちのいずれかの任意の組み合わせで同時に治療される、請求項21~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記患者が、抗うつ薬で同時に治療されない、請求項21~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
ヒト患者における統合失調症の陰性症状を治療する方法であって、約40~約240mgの(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩を前記患者に毎日経口投与することを含む、前記方法。
【請求項28】
約60~約100mgの(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩が、毎日投与される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記患者が、認知障害、不良なもしくは緩慢な認知、意思決定の困難、または情報処理速度の低下を被る、請求項27または28に記載の方法。
【請求項30】
前記患者が、1種以上の抗精神病薬、気分安定剤、または前述のうちのいずれかの任意の組み合わせで同時に治療される、請求項27~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記患者が、第2の抗うつ薬で同時に治療されない、請求項27~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記患者が、第2の抗うつ薬で同時に治療される、請求項27~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
患者における大うつ病性障害、双極性障害、晩年のうつ病、統合失調症、心的外傷後ストレス障害、物質使用障害、抑うつ症状または陰性症状を治療する方法であって、
(a)前記患者の1つ以上の神経生理学的尺度から構成されるデータを受け取ることと、
(b)任意選択で、前記患者における認知障害、不良なもしくは緩慢な認知、意思決定の困難、または情報処理速度の低下のうちの1つ以上のインジケータから構成されるデータを受け取ることと、
(c)前記患者に有効量の(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩を投与することであって、前記1つ以上の神経生理学的尺度、及び任意選択で前記認知障害、不良なもしくは緩慢な認知、意思決定の困難、または情報処理速度の低下のうちの1つ以上のインジケータから構成される前記データに基づいて、前記患者が、(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩に応答すると判断される、前記投与することと、を含む、前記方法。
【請求項34】
前記神経生理学的尺度が、脳波(EEG)記録を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記患者の前記脳波(EEG)記録が、シータ周波数の中心頭頂電極での低パワー、アルファ周波数の中心頭頂電極での低パワー、アルファ周波数の前方電極での低パワー、1つ以上の後方電極での高い非周期指数、または前述のうちのいずれかの任意の組み合わせを示す、請求項33または34に記載の方法。
【請求項36】
前記認知障害、不良なもしくは緩慢な認知、意思決定の困難、または情報処理速度の低下のうちの1つ以上のインジケータが、単純反応時間タスク、選択反応時間タスク、1バックワーキングメモリタスク、及び視覚的学習タスク、ならびに自己報告質問票からの1つ以上の測定値を含む、請求項33~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記認知障害、不良なもしくは緩慢な認知、意思決定の困難、または情報処理速度の低下のうちの1つ以上のインジケータが、健常な集団に対して前記患者を正規化するzスコアとして計算される、請求項33~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記認知障害、不良なもしくは緩慢な認知、意思決定の困難、または情報処理速度の低下のうちの1つ以上のインジケータが、複合認知タスクパフォーマンススコアにマージされる、請求項33~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
約40~約240mg/日の(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩が、前記患者に投与される、請求項33~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
約60~約100mg/日の(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩が、前記患者に投与される、請求項33~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
約80mg/日の(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩が、前記患者に投与される、請求項33~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記患者が、(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩による治療の前に、1種以上の抗うつ薬で治療され、前記(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩による治療の間、前記1種以上の抗うつ薬の治療を継続する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記1種以上の抗うつ薬が、モノアミンオキシダーゼ阻害剤(MAOI)または三環式抗うつ薬を含まない、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記1種以上の抗うつ薬が、セロトニン再取り込み阻害剤、セロトニン及びノルエピネフリン再取り込み阻害剤、ミルタザピン、ブプロピオン、ならびに前述のうちのいずれかの任意の組み合わせから選択される、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
約40mgの(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンホスフェートが、1日2回経口投与される、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
システムであって、
少なくとも1つのデータプロセッサと、
命令を記憶する少なくとも1つのメモリとを含み、前記命令が前記少なくとも1つのデータプロセッサによって実行されると、
(a)患者の1つ以上の神経生理学的尺度から構成されるデータを受け取ることと、
(b)任意選択で、前記患者における認知障害、不良なもしくは緩慢な認知、意思決定の困難、または情報処理速度の低下のうちの1つ以上のインジケータから構成されるデータを受け取ることと、
(c)多変量モデルを使用して、(i)前記患者における前記1つ以上の神経生理学的尺度から構成されるデータ、及び(ii)任意選択で、前記認知障害、不良なもしくは緩慢な認知、意思決定の困難、または情報処理速度の低下のうちの1つ以上のインジケータから構成される前記データを分析し、(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩に対する前記患者の応答性を予測することと、
(d)前記分析されたデータに基づいて、(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩に対する前記患者の前記応答性の予測を出力することと、を含む、前記システム。
【請求項47】
有効量の(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩を投与するための推奨を出力することをさらに含む、請求項46に記載のシステム。
【請求項48】
前記神経生理学的尺度が、脳波(EEG)記録を含む、請求項46または47に記載のシステム。
【請求項49】
前記患者の前記脳波(EEG)記録が、シータ周波数の中心頭頂電極での低パワー、アルファ周波数の中心頭頂電極での低パワー、アルファ周波数の前方電極での低パワー、1つ以上の後方電極での高い非周期指数、または前述のうちのいずれかの任意の組み合わせを示す、請求項46~48のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項50】
前記認知障害、不良なもしくは緩慢な認知、意思決定の困難、または情報処理速度の低下のうちの1つ以上のインジケータが、単純反応時間タスク、選択反応時間タスク、1バックワーキングメモリタスク、視覚的学習タスク、数字記号置換タスク、オッドボールタスク、フランカータスク、ウィスコンシンカード並べ替えタスク、トレイルメイキングタスク、コルシブロックタスク、ディジットスパンタスク、逆ディジットスパンタスク、言語学習及び記憶タスク、言語流暢性タスク、記号数字モダリティテスト、ウェクスラー成人知能スケール(WAIS)コーディングサブテスト、ディジット覚醒度テスト、d2注意テスト、WAISシンボル検索サブテスト、WAISキャンセレーションサブテスト、神経心理評価バッテリ(NAB)数字及び文字サブテスト、Ruff 2&7選択的注意テスト、Stroop Color/Wordテスト、NAB迷路及び他の迷路テスト、Delis-Kaplan実行機能システム(D-KEFS)デザイン流暢性サブテスト、ならびに神経心理学的状態の評価のための再現可能なバッテリ(RBANS)コーディングサブテスト及び自己報告質問票からの1つ以上の尺度を含む、請求項46~49のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項51】
前記認知障害、不良なもしくは緩慢な認知、意思決定の困難、または情報処理速度の低下のうちの1つ以上のインジケータが、健常な集団に対して前記患者を正規化するzスコアとして計算される、請求項46~50のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項52】
前記認知障害、不良なもしくは緩慢な認知、意思決定の困難、または情報処理速度の低下のうちの1つ以上のインジケータが、複合認知タスクパフォーマンススコアにマージされる、請求項46~51のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項53】
(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩の推奨投与量が、約10~約130mg/日の範囲である、請求項46~52のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項54】
(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩の前記推奨投与量が、約80mg/日である、請求項46~53のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項55】
ヒト患者における大うつ病性障害を評価及び治療する方法であって、
(a)大うつ病性障害を有する患者が認知障害があるか、不良なもしくは緩慢な認知を有するか、意思決定が困難であるか、または情報処理速度が低下しているかを客観的に評価することと、
(b)前記患者が、認知障害があるか、不良なもしくは緩慢な認知を有するか、意思決定が困難であるか、または情報処理速度が低下しているというステップ(a)からの評価に応じて、約40~約240mgの(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩の、前記患者への毎日の経口投与を開始することと、
(c)前記患者が認知障害がないか、不良なもしくは緩慢な認知を有していないか、意思決定が困難でないか、または情報処理速度が低下していないというステップ(a)からの評価に応じて、(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたは薬学的に許容される塩による治療を開始しないことと、を含む、前記方法。
【請求項56】
ヒト患者における大うつ病性障害を評価及び治療する方法であって、
(a)大うつ病性障害を有する患者が、低下した情報処理速度、注意力、記憶力、学習能力、ワーキングメモリ、または前述のうちのいずれかの任意の組み合わせを有するかどうかを評価することと、
(b)前記患者が、低下した情報処理速度、注意力、記憶力、学習能力、ワーキングメモリ、または前述のうちのいずれかの任意の組み合わせを有するというステップ(a)からの評価に応じて、約40~約240mgの(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩の前記患者への毎日の経口投与を開始することと、を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年6月3日に出願された米国仮出願第63/202,254号、2021年10月28日に出願された米国仮出願第63/263,168号、及び2021年11月18日に出願された米国仮出願第63/264,269号の利益を主張するものであり、これらの全ては参照によりそれら全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、患者、例えば認知障害があるか、または不良なもしくは緩慢な認知を有するか、または意思決定が困難であるか、またはある特定のEEG特性を示す患者における大うつ病性障害(MDD)、双極性障害、心的外傷後ストレス障害、物質使用障害、及び統合失調症のうつ病関連の側面(例えば、陰性症状)を含む、抑うつ症状が顕著である精神疾患の治療における(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノン(NSI-189)またはその薬学的に許容される塩の使用に関する。また、本発明は、かかる化合物から最も利益を受けるであろうバイオマーカー(例えば、EEG)及び/または臨床症状を有する患者の選択にも関する。
【背景技術】
【0003】
うつ病の臨床ケアには、抑うつ気分、快感消失、思考または集中力の低下、食欲の変化、睡眠、及び精神運動の変化など、臨床医が評価し、患者が報告した一連の症状に基づく評価及び診断が含まれるが、特に生物学的または定量的な行動変数に基づくものではない。磁気共鳴画像法(MRI)スキャンまたは血液検査などの評価を行う場合、腫瘍、甲状腺機能低下症、認知症または代謝障害などの原因を含む、抗うつ薬以外の治療を必要とする可能性のあるうつ病の非精神的原因を排除することである。大うつ病性障害(MDD)などのうつ病を有する患者を診断した後、臨床医は、主に選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)、セロトニンノルエピネフリン再取り込み阻害剤(SNRI)、及びノルエピネフリンドーパミン再取り込み阻害剤(NDRI)、または非定型抗うつ薬などの薬物を含む複数の抗うつ薬治療のうちの1つを処方し得る。しかしながら、特に、抗うつ薬の選択は、純粋に試行錯誤によって行われ、薬物選択に情報を提供するための症状プロファイル、または生物学的もしくは定量的行動尺度はない。典型的には、SSRIは、それらの一般により良好な忍容性に基づいて第一選択治療として選択されるが、それらが一般により効果的であることが知られているからではなく、その特定の患者に対してより効果的であることが知られているからでもない。しかしながら、ほとんどの患者は、最初の薬物に十分に応答せず、その時点で次の薬物の選択は、再び試行錯誤のプロセスに従う。実際、平均して、1つのSSRIが失敗しても、SNRIまたはNDRIと比較して別のSSRIに対する異なる応答を必ずしも予測するわけではないことが見出されている。Rush et al.,N Engl J Med.2006,354:1231-1242。したがって、典型的な臨床評価は、後続の薬物試験の選択に十分に有用な情報を提供しないため、薬物選択を改善するために、臨床医が入手できない外部情報が必要とされる。
【0004】
うつ病の経済的、社会的、個人的なコストは非常に大きく、うつ病は世界中の障害の主な原因である。これは、治療抵抗性うつ病についてさらに顕著であり(Amos et al.,J Clin Psychiatry,2018;79)、したがって、治療過程の早い段階で個人に最適な薬物を見つけることは、患者及び社会全体に多くの下流の利益をもたらすことを示唆している。
【0005】
同様の臨床的ニーズは、抑うつ症状が存在する他の関連する状態にも存在する。かかる症状には、気分の低下、快感の経験の欠如(快感消失)、モチベーションの障害、及び注意、認知、または意思決定の障害が含まれる。これらの状態には、大うつ病性障害、双極性うつ病(双極性I型または双極性II型障害など)、心的外傷後ストレス障害、物質使用障害、及び統合失調症のうつ病関連の側面(例えば、陰性症状)が含まれる。重要なことに、これらの異なるうつ病関連の症状または機能不全の領域が共存し、機能的に関連し得る。例えば、大うつ病の患者は、抑うつ気分及びモチベーションの欠如を報告することがある。同様に、双極性うつ病、心的外傷後ストレス障害または物質使用障害などの同様の障害が共存し得る他の状態と診断された患者によって、同じ症状が報告され得る。統合失調症は、顕著な幻覚及び妄想に関してしばしば考えられるが、うつ病様の陰性症状は、長期的な障害及び機能障害のより大きな原因であることが多い。したがって、これらの複数の及び関連する機能系を包含する治療アプローチは、これらの臨床状態のうちのいずれか1つにとって重要であり、等しくそれら全体に適用可能であり得る。
【0006】
うつ病及び抑うつ症状は、成人の脳における神経増殖の障害、神経の成長及び分化、神経通信に重要な神経下部構造の精緻化、ならびに神経可塑性の障害に少なくとも一部起因することが提案されている(1~7)。さらに、これらの機能不全のうちの1つまたは複数を逆転させる薬物が有効な抗うつ薬であると理論化されている(1~7)。例えば、うつ病を有するヒトにおいて有効な抗うつ薬であることが臨床的に証明されている薬物はまた、成体動物の脳内のニューロンの成長及び分化を誘導することが実証されている(1、3、4)。
【0007】
以前の研究では、ある特定のベンジルピペラジン-アミノピリジンまたはその開放鎖形態が、動物の成体脳におけるニューロンの増殖及び成熟を誘導することができることが見出された(8、9)。かかるベンジルピペラジン-アミノピリジンの1つであるNSI-189は、海馬神経新生のためのインビトロモデルに対して化学ライブラリをスクリーニングすることによって発見された。最近FDAが承認した抗うつ薬(選択的セロトニン再取り込み阻害剤、SSRIなど)とは異なり、NSI-189の正確な作用機序は理解されていない。FDAの承認を受けたクラスのメンバーは存在しない。大うつ病を有する患者を対象とした初期の小規模な第1b相臨床研究では、総1日用量40mg、80mgまたは120mgで投与されたNSI-189の潜在的な抗うつ薬の有効性について有望な証拠が見出された(10)。しかしながら、この研究は少数の患者サンプルで実施され、安全性及び忍容性を確立することを目標としていたため、全ての有効用量条件でわずか18人の患者(プラセボでは6人)で決定的な有効性データは得られなかった。
【0008】
その後、大うつ病を有する220人の患者を対象に第2相研究を行った(11)。その研究では、患者を、臨床試験デザインのステージ1において、総1日用量40mgもしくは80mgのNSI-189またはプラセボを受けるように無作為化した。次いで、プラセボを受けており、プラセボに応答しなかった患者を、試験のステージ2において40mg、80mgまたはプラセボに再ランダム化した。いずれかのステージでの治療を6週間行った。このデザインは、逐次並列臨床デザイン(SPCD)と呼ばれ、各ステージにおいて個々に関連群(例えば、薬物対プラセボ)間の転帰の差について事前に定義された方法で結果を組み合わせることによって統計的に分析される。成人の評価のために、米国食品医薬品局(FDA)によって受け入れられている2つのうつ病転帰尺度が存在する。2018年6月のFDAドラフトガイダンス「Major Depressive Disorder:Developing Drugs for Treatment」を参照されたい。これらは、この研究の主要アウトカムであったMontgomery-Asberg Depression Rating Scale(MADRS)、及び重要な副次アウトカム尺度であったHamilton Depression Rating Scale(HDRS)である。しかしながら、動物研究と初期のヒト研究の約束にもかかわらず、この220人の患者の研究の結果は、完全なSPCD分析または各ステージ単独の分析のいずれにおいても、MADRS主要アウトカム尺度またはHDRS重要な副次尺度(11)における抗うつ薬の有効性の証拠を示すことができなかった。80mgの1日用量は、いずれの研究尺度においても有効性を実証しなかった(11)。うつ病及び認知に対するNSI-189の任意の利点は、独立した効果であると報告された(27)。
【0009】
いくつかの副次尺度において、プラセボと比較して(80mg用量ではなく)40mg用量について名目上有意な効果が観察されたが、これらの結果は、複数の比較について補正されず(補正後も生存しなかった)、投薬のための抗うつ薬の有効性を支持する米国FDAに許容される尺度を反映していない。したがって、NSI-189は、有効な抗うつ薬であることは見出されなかった。さらに、副次尺度における未修正の結果を使用しても、化合物の有効性に関する肯定的な結論を導き出すことができるため、これらは、80mgではなく40mgの潜在的な有効性を指摘する。これは、反転した用量反応曲線を反映するので驚くべきことであるが、典型的な期待は、より高い用量がより低い用量よりも効果的であるということである。これらの結果により、NSI-189の開発は中止された。
【0010】
現在治療に使用されているものとは異なる作用機序を有する抗うつ薬などの、うつ病のための改善された治療に対する継続的なニーズが存在する。
【発明の概要】
【0011】
本発明者らは、80mgの(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノン(NSI-189)が、客観的に判断された認知的に不良な、緩慢な、もしくは障害のある患者、または意思決定が困難な患者のうつ病の治療に有効であることを発見した。これは、NSI-189が大うつ病性障害の治療に効果がないことが以前に報告されており、80mg用量が、研究集団全体(全ての副次尺度を含み、多重比較を補正しない場合でさえも)のいずれの研究尺度においても有効性を示さなかったため、特に驚くべきことである。
【0012】
一実施形態は、客観的に判断された認知障害、不良なもしくは緩慢な認知を有するヒト患者、または意思決定が困難な患者における大うつ病性障害を治療する方法であり、患者に有効量のNSI-189またはその薬学的に許容される塩を(例えば、経口)投与すること(例えば、約40~約120、160、または240mg(例えば、約40~約120mg、または約60mg~約100mg)のNSI-189またはその薬学的に許容される塩を、毎日、経口投与すること)を含む。好ましい実施形態では、約80mgのNSI-189またはその薬学的に許容される塩(例えば、NSI-189リン酸塩)が、毎日、経口投与される。患者の認知障害、不良なもしくは緩慢な認知、または意思決定の困難は、単純反応時間テスト、選択反応時間テスト、1バックワーキングメモリタスク、及び視覚的学習タスクのうちの1つ以上によって診断され得る。一実施形態では、患者は、快感消失、自殺傾向、またはその両方も被る。別の実施形態では、患者は、NSI-189以外の抗うつ薬で同時に治療されない。さらに別の実施形態では、患者は、1種以上の抗うつ薬(NSI-189またはその薬学的に許容される塩以外)で同時に治療される。さらに別の実施形態では、患者は、NSI-189による治療の前に、抗うつ薬(NSI-189またはその薬学的に許容される塩以外)で治療されるが、それにもかかわらず、抑うつ症状を有し続ける。
【0013】
別の実施形態は、大うつ病性障害に罹患しているヒト患者における客観的に判断された認知障害、不良なもしくは緩慢な認知、意思決定の困難、または情報処理速度の低下を治療するための方法であり、患者に有効量のNSI-189またはその薬学的に許容される塩を投与すること(例えば、約40~約120、160、または240mg(例えば、約40~約120mg、または約60mg~約100mg)のNSI-189またはその薬学的に許容される塩を、毎日、経口投与すること)を含む。好ましい実施形態では、約80mgのNSI-189またはその薬学的に許容される塩(例えば、NSI-189リン酸塩)が、毎日投与される。
【0014】
さらに別の実施形態は、情報処理速度が低下した、意思決定が遅い、または意思決定が困難なヒト患者の大うつ病性障害を治療する方法であり、患者に有効量のNSI-189またはその薬学的に許容される塩を投与すること(例えば、約40~約120、160、または240mg(例えば、約40~約120mg、または約60mg~約100mg)のNSI-189またはその薬学的に許容される塩を、毎日、経口投与すること)を含む。好ましい実施形態では、約80mgのNSI-189またはその薬学的に許容される塩(例えば、NSI-189リン酸塩)が、毎日、経口投与される。一実施形態では、患者は、快感消失、自殺傾向、またはその両方も被る。別の実施形態では、患者は、NSI-189以外の抗うつ薬で同時に治療されない。さらに別の実施形態では、患者は、1種以上の抗うつ薬(NSI-189またはその薬学的に許容される塩以外)で同時に治療される。
【0015】
さらに別の実施形態は、注意力、記憶力、学習能力、情報処理速度、ワーキングメモリ、または前述のうちのいずれかの任意の組み合わせの低下を有するヒト患者における大うつ病性障害を治療する方法であり、患者に有効量のNSI-189またはその薬学的に許容される塩を投与すること(例えば、約40mg~約120、160、または240mg、例えば、約40~約120mgまたは約60mg~約100mgのNSI-189またはその薬学的に許容される塩を、毎日、経口投与すること)を含む。好ましい実施形態では、約80mgのNSI-189またはその薬学的に許容される塩(例えば、NSI-189リン酸塩)が、毎日、経口投与される。注意力、記憶力、学習能力、情報処理速度、またはワーキングメモリの低下は、数字記号置換タスク、オッドボールタスク、フランカータスク、ウィスコンシンカード並べ替えタスク、トレイルメイキングタスク、コルシブロックタスク、ディジットスパンタスク、逆ディジットスパンタスク、言語学習及び記憶タスク、言語流暢性タスク、記号数字モダリティテスト、ウェクスラー成人知能スケール(WAIS)コーディングサブテスト、ディジット覚醒度テスト、d2注意テスト、WAISシンボル検索サブテスト、WAISキャンセレーションサブテスト、神経心理評価バッテリ(NAB)数字及び文字サブテスト、Ruff 2&7選択的注意テスト、Stroop Color/Wordテスト、NAB迷路及び他の迷路テスト、Delis-Kaplan実行機能システム(D-KEFS)デザイン流暢性サブテスト、ならびに神経心理学的状態の評価のための再現可能なバッテリ(RBANS)コーディングサブテストなどの当該技術分野で知られているテストによって診断され得る。これらのタスクにおける測定値には、反応時間、精度、及び反応時間の変動が含まれる。学習タスクの場合、測定値にはさらに、学習速度、リコールされた項目、認識された項目、及び集中を妨げるもののリストからの干渉効果が含まれる。一実施形態では、患者は、快感消失、自殺傾向、またはその両方も被る。別の実施形態では、患者は、NSI-189以外の抗うつ薬で同時に治療されない。さらに別の実施形態では、患者は、1種以上の抗うつ薬(NSI-189またはその薬学的に許容される塩以外)で同時に治療される。
【0016】
さらに別の実施形態は、ヒト患者における大うつ病性障害を評価及び治療する方法であり、
(a)大うつ病性障害を有する患者が認知障害があるか、不良なもしくは緩慢な認知、意思決定の困難、または情報処理速度の低下を被るかを客観的に評価することと、
(b)患者が、認知障害があるか、不良な認知を有するというステップ(a)からの評価に応じて、約40~約120、160、または240mg(例えば、約40~120mg、約60mg~約100mg、または約80mg)の(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩の、患者への毎日の経口投与を開始することと、
(c)患者が認知障害を有しておらず、不良な認知を有していないというステップ(a)からの評価に基づいて、(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたは薬学的に許容される塩による治療を開始しないことと、を含む。一実施形態では、患者は、1種以上の抗うつ薬(NSI-189またはその薬学的に許容される塩以外)で同時に治療される。
【0017】
さらに別の実施形態は、ヒト患者における大うつ病性障害を評価及び治療する方法であり、
(a)大うつ病性障害を有する患者が、情報処理速度、注意力、記憶力、学習能力、もしくはワーキングメモリが低下したこと、意思決定が遅いこと、意思決定が困難であるか、または前述のうちのいずれかの任意の組み合わせを有するかどうかを評価することと、
(b)患者が、情報処理速度、注意力、記憶力、学習能力、もしくはワーキングメモリが低下したこと、意思決定が遅いこと、意思決定が困難であること、または前述のいずれかの任意の組み合わせを有するというステップ(a)からの評価に応じて、約40~約120、160、または240mg(例えば、約40~約120mg、約60mg~約100mg、または約80mg)の(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンまたはその薬学的に許容される塩の、患者への毎日の経口投与を開始することを含む。一実施形態では、患者は、1種以上の抗うつ薬(NSI-189またはその薬学的に許容される塩以外)で同時に治療される。
【0018】
さらに別の実施形態は、少なくとも50歳のヒト患者における晩年のうつ病を治療する方法であり、患者に有効量のNSI-189またはその薬学的に許容される塩を投与すること(例えば、約40~約120、160、または240mg(例えば、約40~約120mg、約60mg~約100mg、または約80mg)のNSI-189またはその薬学的に許容される塩を、毎日、経口投与すること)を含む。好ましい実施形態では、約80mgのNSI-189またはその薬学的に許容される塩(例えば、NSI-189リン酸塩)が、毎日投与される。一実施形態では、患者は、少なくとも60歳または65歳である。別の実施形態では、患者は、抗うつ薬(NSI-189以外)で同時に治療されない。さらに別の実施形態では、患者は、1種以上の抗うつ薬(NSI-189またはその薬学的に許容される塩以外)で同時に治療される。一実施形態では、患者は、晩年発症のうつ病を有する。
【0019】
さらに別の実施形態は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、双極性うつ病、物質使用障害または統合失調症に罹患しているヒト患者における、抑うつ症状、快感消失、関心の喪失、意欲喪失、感情表現の低下、感覚不能、無気力、無関心、緩慢な思考、精神運動障害、倦怠感、または前述のうちのいずれかの任意の組み合わせを含む1つ以上の症状を治療する方法であり、患者に有効量のNSI-189またはその薬学的に許容される塩を投与すること(例えば、約40~約120、160、または240mg(例えば、約40~約120mg、約60mg~約100mg、または約80mgのNSI-189またはその薬学的に許容される塩を、毎日、経口投与すること)を含む。好ましい実施形態では、約80mgのNSI-189またはその薬学的に許容される塩(例えば、NSI-189リン酸塩)が、毎日投与される。一実施形態では、患者は、認知障害、不良なもしくは緩慢な認知、意思決定の困難、または情報処理速度の低下を被る。別の実施形態では、患者は、抗うつ薬(NSI-189以外)で同時に治療されない。さらに別の実施形態では、患者は、1種以上の抗うつ薬(NSI-189またはその薬学的に許容される塩以外)で同時に治療される。さらに別の実施形態では、患者は、1種以上の抗精神病薬、気分安定剤、または前述のうちのいずれかの任意の組み合わせで同時に治療される。
【0020】
さらに別の実施形態は、ヒト患者における統合失調症の陰性症状及び/または認知症状を治療する方法であり、患者に有効量のNSI-189またはその薬学的に許容される塩を投与すること(例えば、約40~約120、160、または240mgのNSI-189またはその薬学的に許容される塩を、毎日、経口投与すること)を含む。好ましい実施形態では、約80mgのNSI-189またはその薬学的に許容される塩(例えば、NSI-189リン酸塩)が、毎日投与される。一実施形態では、患者は、統合失調症の陰性症状に対して治療される。別の実施形態では、患者は、統合失調症の認知症状に対して治療される。さらに別の実施形態では、患者は、統合失調症の陰性症状及び認知症状に対して治療される。一実施形態では、患者は、認知障害、不良なもしくは緩慢な認知、意思決定の困難、または情報処理速度の低下を被る。別の実施形態では、患者は、1種以上の抗精神病薬で同時に治療されない。さらに別の実施形態では、患者は、1種以上の抗精神病薬、気分安定剤、または前述のうちのいずれかの任意の組み合わせで同時に治療される。別の実施形態では、患者は、抗うつ薬(NSI-189以外)で同時に治療されない。さらに別の実施形態では、患者は、1種以上の抗うつ薬(NSI-189またはその薬学的に許容される塩以外)で同時に治療される。
【0021】
また、NSI-189またはその薬学的に許容される塩の効果は、行動または脳波(EEG)尺度によって予測することができることも見出されている。これらの尺度は、プラセボよりも著しくかかる化合物の恩恵を受ける患者を特定する。例えば、シータ周波数の中心頭頂電極での低パワー、アルファ周波数の中心頭頂電極での低パワー、アルファ周波数の前方電極での低パワー、1つ以上の後方電極での高い非周期指数を示す患者が、NSI-189による治療に応答性であることが見出された。したがって、本発明は、NSI-189による治療から最も利益を得るであろう患者を特定する方法としてのこれらの尺度の使用を含む。本明細書に記載される方法のうちのいずれかの一実施形態では、患者のEEG記録が、シータ周波数の中心頭頂電極での低パワー、アルファ周波数の中心頭頂電極での低パワー、アルファ周波数の前方電極での低パワー、1つ以上の後方電極での高い非周期指数、または前述のうちのいずれかの任意の組み合わせを示す。
【0022】
一実施形態は、患者における大うつ病性障害、双極性障害、晩年のうつ病、統合失調症、心的外傷後ストレス障害、物質使用障害、抑うつ症状または陰性症状を治療する方法であり、
(a)患者の1つ以上の神経生理学的尺度から構成されるデータを受け取ることと、
(b)任意選択で、患者における認知障害、緩慢なもしくは不良な認知、または意思決定の困難のうちの1つ以上のインジケータから構成されるデータを受け取ることと、
(c)患者に有効量のNSI-189またはその薬学的に許容される塩を投与することであって、患者が、1つ以上の神経生理学的尺度、ならびに任意選択で認知障害、緩慢なもしくは不良な認知、または意思決定の困難のうちの1つ以上のインジケータから構成されるデータに基づいて、NSI-189に応答性であると判断される、投与することと、を含む。一実施形態では、患者は、双極性障害、晩年のうつ病、統合失調症、心的外傷後ストレス障害、または抑うつ症状が顕著である物質使用障害に罹患している。一実施形態では、患者は、1種以上の抗うつ薬(NSI-189もしくはその薬学的に許容される塩以外)、気分安定剤、または前述のうちのいずれかの任意の組み合わせで同時に治療される。別の実施形態では、患者は、抗うつ薬(NSI-189以外)で同時に治療されない。
【0023】
神経生理学的尺度は、脳波(EEG)記録などの脳活動の尺度であってもよい。脳波(EEG)記録は、1つ以上の周波数のパワー、周波数間のパワー比、コーダンス、パワーエンベロープ接続性、コヒーレンス、虚部コヒーレンス、位相ロック値、位相遅延インデックス、重み付け位相遅延インデックス、共分散、周波数間カップリング、非周期指数、アルファピーク周波数、アルファピーク周波数近接性、または情報理論インデックス及びエントロピーを測定することができる。一実施形態では、患者のEEG記録が、シータ周波数の中心頭頂電極での低パワー、アルファ周波数の中心頭頂電極での低パワー、アルファ周波数の前方電極での低パワー、1つ以上の後方電極での高い非周期指数、または前述のうちのいずれかの任意の組み合わせを示す。
【0024】
認知障害、緩慢なもしくは不良な認知、または意思決定の困難のうちの1つ以上のインジケータは、例えば、単純反応時間タスク、選択反応時間タスク、1バックワーキングメモリタスク、及び視覚的学習タスク、ならびに自己報告質問票からの1つ以上の測定値を含み得る。他のインジケータには、例えば、数字記号置換タスク、オッドボールタスク、フランカータスク、ウィスコンシンカード並べ替えタスク、トレイルメイキングタスク、コルシブロックタスク、ディジットスパンタスク、逆唱ディジットスパンタスク、言語学習及び記憶タスク、言語流暢性タスク、記号数字モダリティテスト、ウェクスラー成人知能スケール(WAIS)コーディングサブテスト、ディジット覚醒度テスト、d2注意テスト、WAISシンボル検索サブテスト、WAISキャンセレーションサブテスト、神経心理評価バッテリ(NAB)数字及び文字サブテスト、Ruff 2&7選択的注意テスト、Stroop Color/Wordテスト、NAB迷路及び他の迷路テスト、Delis-Kaplan実行機能システム(D-KEFS)デザイン流暢性サブテスト、ならびに神経心理学的状態の評価のための再現可能なバッテリ(RBANS)コーディングサブテストからの1つ以上の測定値が含まれる。認知障害の1つ以上のインジケータは、健常集団に対して患者を正常化するzスコアとして計算することができる。一実施形態では、認知障害、緩慢なもしくは不良な認知、または意思決定の困難のうちの1つ以上のインジケータは、複合認知タスクパフォーマンススコアにマージされる。
【0025】
一実施形態では、機械学習または多変量モデリングを適用して、NSI-189の投与に対する患者の応答性を予測する。
【0026】
本明細書に記載される方法のうちのいずれかの一実施形態では、約40~約120、160、または240mg/日のNSI-189またはその薬学的に許容される塩が患者に投与される。例えば、約40~約120mg、約60~約120mg/日、約70~約120mg/日、または約80~約100mg/日のNSI-189またはその薬学的に許容される塩が患者に投与される。好ましい実施形態では、約80mg/日のNSI-189またはその薬学的に許容される塩が患者に投与される。本明細書に記載される方法のうちのいずれにおいても、好ましい投与経路は、経口である。
【0027】
別の実施形態は、患者に有効量のNSI-189またはその薬学的に許容される塩を投与すること(例えば、約40~約160mg、約40~約120mg、約60mg~約100mg(例えば、80mg)のNSI-189またはその薬学的に許容される塩を経口投与すること)によって、シータ及び/またはアルファ周波数の頭頂及び/または前頭電極(例えば、中心頭頂電極)のEEGシグナルに基づいて診断されたヒト患者におけるPTSD、双極性うつ病、物質使用障害または統合失調症に関連する(i)大うつ病性障害、(ii)晩年のうつ病、または(iii)抑うつ症状を治療する方法である。一実施形態では、NSI-189またはその薬学的に許容される塩を投与される患者は、シータ及び/またはアルファ周波数の頭頂及び/または前頭電極(例えば、中心頭頂電極)で低パワー(例えば、平均パワー未満)を示す。別の実施形態では、NSI-189またはその薬学的に許容される塩を投与される患者は、後頭電極、頭頂電極、及び/または側頭電極において高い非周期指数(例えば、平均を上回る非周期指数)を示す。別の実施形態では、患者は、1種以上の抗うつ薬(NSI-189またはその薬学的に許容される塩以外)で同時に治療される。一実施形態では、患者は、1種以上の気分安定剤で同時に治療される。
【0028】
さらに別の実施形態は、患者に有効量のNSI-189またはその薬学的に許容される塩を投与すること(例えば、約40mg~約120、160、または240mg、例えば、約40~約120mg、または約60~約100mg(例えば、80mg)のNSI-189またはその薬学的に許容される塩を経口投与すること)によって、物質使用障害及び認知障害、緩慢なもしくは不良な認知、または意思決定の困難を被っている患者を治療する方法である。
【0029】
さらに別の実施形態は、患者に有効量のNSI-189またはその薬学的に許容される塩を投与すること(例えば、約40~約120、160、または240mg、例えば、約40~約120mg、または約60mg~約100mg(例えば、80mg)のNSI-189またはその薬学的に許容される塩を経口投与すること)によって、大うつ病性障害に罹患しているヒト患者における悲しみ、気分の低下、感覚障害、快感消失、精神運動障害、倦怠感、自殺傾向、罪悪感または集中困難を治療する方法である。別の実施形態では、患者は、1種以上の抗うつ薬(NSI-189またはその薬学的に許容される塩以外)で同時に治療される。
【0030】
前述の方法のうちのいずれかの一実施形態では、患者は、以前に1種以上の抗うつ薬で治療されたが、それらに応答せず、NSI-189(またはその薬学的に許容される塩)の治療が開始された後でも、1種以上の抗うつ薬で治療され続ける。言い換えれば、NSI-189またはその薬学的に許容される塩は、1種以上の抗うつ薬に対する補助療法として提供される。一実施形態では、1種以上の抗うつ薬は、モノアミンオキシダーゼ阻害剤(MAOI)または三環式抗うつ薬を含まない。別の実施形態では、1種以上の抗うつ薬は、セロトニン再取り込み阻害剤、セロトニン及びノルエピネフリン再取り込み阻害剤、ミルタザピン、ブプロピオン、ならびに前述のうちのいずれかの任意の組み合わせから選択される。患者は、大うつ病性障害及び/または心的外傷後障害に罹患し得る。一実施形態では、40mgのNSI-189またはその薬学的に許容される塩(例えば、NSI-189リン酸塩)が、1日2回経口投与される。
【0031】
一実施形態では、患者は、快感消失を被る。別の実施形態では、患者は、自殺傾向を被る。
【0032】
さらに別の実施形態は、
少なくとも1つのデータプロセッサと、
命令を記憶する少なくとも1つのメモリとを含み、命令は、少なくとも1つのデータプロセッサによって実行されると、
(a)患者の1つ以上の神経生理学的尺度から構成されるデータを受け取ることと、
(b)任意選択で、患者における認知障害または不良な認知のうちの1つ以上のインジケータから構成されるデータを受け取ることと、
(c)多変量モデル(例えば、機械学習モデル)を使用して、(i)患者における1つ以上の神経生理学的尺度から構成されるデータ、及び(ii)任意選択で、認知障害または不良な認知のうちの1つ以上のインジケータから構成されるデータを分析して、NSI-189に対する患者の応答性を予測することと、
(d)分析されたデータに基づいて、NSI-189に対する患者の応答性の予測を出力することと、を含む、動作を結果として生じる。
【0033】
ステップ(c)の前に、多変量モデル(機械学習モデルなど)を使用して、NSI-189(またはその薬学的に許容される塩)を受けた以前の患者からのデータ、及びそれらの神経生理学的尺度のうちの1つ以上、及び任意選択でそれらの認知障害のインジケータのうちの1つ以上を分析することができる。
【0034】
一実施形態では、命令は、有効量のNSI-189またはその薬学的に許容される塩を投与するための推奨を出力することをさらに含む動作をもたらす。
【0035】
神経生理学的尺度は、脳波(EEG)記録などのEEG記録であり得る。脳波(EEG)記録は、1つ以上の周波数のパワー、周波数間のパワー比、コーダンス、パワーエンベロープ接続性、コヒーレンス、虚部コヒーレンス、位相ロック値、位相遅延インデックス、重み付け位相遅延インデックス、共分散、周波数間カップリング、非周期指数、アルファピーク周波数、アルファピーク周波数コヒーレンス、または情報理論インデックス及びエントロピーを測定することができる。一実施形態では、患者のEEG記録が、シータ周波数の中心頭頂電極での低パワー、アルファ周波数の中心頭頂電極での低パワー、アルファ周波数の前方電極での低パワー、1つ以上の後方電極での高い非周期指数、または前述のうちのいずれかの任意の組み合わせを示す。
【0036】
認知障害、緩慢なもしくは不良な認知、または意思決定の困難のうちの1つ以上のインジケータは、単純反応時間タスク、選択反応時間タスク、1バックワーキングメモリタスク、及び視覚的学習タスク、ならびに自己報告質問票からの1つ以上の測定値を含み得る。他のインジケータには、数字記号置換タスク、オッドボールタスク、フランカータスク、ウィスコンシンカード並べ替えタスク、トレイルメイキングタスク、コルシブロックタスク、ディジットスパンタスク、逆唱ディジットスパンタスク、言語学習及び記憶タスク、言語流暢性タスク、記号数字モダリティテスト、ウェクスラー成人知能スケール(WAIS)コーディングサブテスト、ディジット覚醒度テスト、d2注意テスト、WAISシンボル検索サブテスト、WAISキャンセレーションサブテスト、神経心理評価バッテリ(NAB)数字及び文字サブテスト、Ruff 2&7選択的注意テスト、Stroop Color/Wordテスト、NAB迷路及び他の迷路テスト、Delis-Kaplan実行機能システム(D-KEFS)デザイン流暢性サブテスト、ならびに神経心理学的状態の評価のための再現可能なバッテリ(RBANS)コーディングサブテストからの1つ以上の測定値が含まれる。認知障害、緩慢なもしくは不良な認知、または意思決定の困難のうちの1つ以上のインジケータは、健常な集団に対して患者を正常化するzスコアとして計算することができる。これらのzスコアは、反応時間、精度、及び反応時間の変動などの測定値に基づいて計算され得る。一実施形態では、認知障害、緩慢なもしくは不良な認知、または意思決定の困難のうちの1つ以上のインジケータは、複合認知タスクパフォーマンススコアに併合される。
【0037】
一実施形態では、機械学習または多変量モデリングを適用して、NSI-189の投与に対する患者の応答性を予測する。
【0038】
一実施形態では、約10~約130mg/日のNSI-189またはその薬学的に許容される塩が患者に投与される。例えば、約20~約120mg/日、約80~約120mg/日、または約10~約40mg/日のNSI-189またはその薬学的に許容される塩が患者に投与される。好ましい実施形態では、約80mg/日のNSI-189またはその薬学的に許容される塩が患者に投与される。
【0039】
特徴及び利点を含む本発明のより完全な理解のために、付属の図面とともに本発明の詳細な説明を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1A】全ての患者におけるステージ1及びステージ2中のMADRS抑うつスコアを示すグラフである(すなわち、来者全員(all-comers)分析)。
図1B】プラセボまたは40mgもしくは80mgのNSI-189を受けている不良な認知の患者(認知複合スコアが患者の平均を下回ることによって定義される)における研究のステージ1及びステージ2中のMADRS抑うつスコアを示すグラフである。
図1C】プラセボまたは40mgもしくは80mgのNSI-189を受けている良好な認知の患者(認知複合スコアが患者の平均を下回ることによって定義される)における研究のステージ1及びステージ2中のMADRS抑うつスコアを示すグラフである。
図2A】不良な認知の患者(選択RTタスクのパフォーマンスが患者の平均を下回ることによって定義される)における研究のステージ1及びステージ2中のMADRS抑うつスコアを示すグラフである。
図2B】良好な認知の患者(選択RTタスクのパフォーマンスが患者の平均を上回ることによって定義される)における研究のステージ1及びステージ2中のMADRS抑うつスコアを示すグラフである。
図2C】不良な認知の患者(単純RTタスクのパフォーマンスが患者の平均を下回ることによって定義される)における研究のステージ1及びステージ2中のMADRS抑うつスコアを示すグラフである。
図2D】良好な認知の患者(単純RTタスクのパフォーマンスが患者の平均を上回ることによって定義される)における研究のステージ1及びステージ2中のMADRS抑うつスコアを示すグラフである。
図2E】不良な認知の患者(ワーキングメモリタスクのパフォーマンスが患者の平均を下回ることによって定義される)における研究のステージ1及びステージ2中のMADRS抑うつスコアを示すグラフである。
図2F】良好な認知の患者(ワーキングメモリタスクのパフォーマンスが患者の平均を上回ることによって定義される)における研究のステージ1及びステージ2中のMADRS抑うつスコアを示すグラフである。
図2G】不良な認知の患者(視覚的学習タスクのパフォーマンスが患者の平均を下回ることによって定義される)における研究のステージ1及びステージ2中のMADRS抑うつスコアを示すグラフである。
図2H】良好な認知の患者(視覚的学習タスクのパフォーマンスが患者の平均を上回ることによって定義される)における研究のステージ1及びステージ2中のMADRS抑うつスコアを示すグラフである。
図3】全12週間の治療にわたる、ステージ1からの80mgの治療群における、不良な認知の患者対良好な認知の患者(それぞれ、患者の平均を下回るかまたは上回る複合スコアによって定義される)におけるMADRS抑うつスコアを示すグラフである。これらの患者は、試験のステージ2中にNSI-189を継続し、認知障害のある患者における薬物の治療効果の耐久性の検査を可能にした。
図4】6週間の治療後のステージ1の(複合認知タスクパフォーマンススコアに基づく)来者全員及び不良な認知の患者の寛解率(MADRS抑うつスコアによって決定される)を示す棒グラフである。
図5A】不良な認知の患者(複合認知タスクパフォーマンススコアが患者の平均を下回ることによって定義される)における研究のステージ1及びステージ2中のHDRS抑うつスコアを示すグラフである。
図5B】良好な認知の患者(複合認知タスクパフォーマンススコアが患者の平均を上回ることによって定義される)における研究のステージ1及びステージ2中のHDRS抑うつスコアを示すグラフである。
図6A】不良な認知の患者(複合認知タスクパフォーマンススコアが患者の平均を下回ることによって定義される)における研究のステージ1及びステージ2中のCGI重症度を示すグラフである。
図6B】良好な認知の患者(複合認知タスクパフォーマンススコアが患者の平均を上回ることによって定義される)における研究のステージ1及びステージ2中のCGI重症度を示すグラフである。
図7】6週間の時点で示される、治療研究のステージ1及びステージ2についてのMADRS上の来者全員及び不良な認知の患者(認知複合スコアまたは選択RTタスクのいずれかが患者平均を下回っていることによって定義される)の効果サイズ(コーエンのdを使用して)を示す表である。効果サイズは、80mg群とプラセボ群との間の差異を反映する。
図8A】認知複合スコアが患者平均を下回ることによって定義される認知障害のある患者におけるMADRS抑うつスコアを示すグラフである。
図8B】CPFQスコア>25によって定義される認知障害のある患者におけるMADRS抑うつスコアを示すグラフである。
図9A】晩年のうつ病患者(50歳以上)におけるMADRS抑うつスコアを示すグラフである。
図9B】非晩年のうつ病患者(50歳未満)におけるMADRS抑うつスコアを示すグラフである。
図10】プラセボと比較した80mg群における治療前から6週間の治療への変化に関する研究のステージ1及びステージ2中のMADRSアイテム効果サイズを示す表であり、コーエンのd効果サイズ尺度として表される。正の値は、プラセボと比較して80mg群でより大きな症状軽減を示す。
図11】以下のタスク:単純反応時間(RT)タスク、選択反応時間タスク、エリクセンフランカータスク、数字記号置換タスク(DSST)、コルシブロックタスク、言語学習及び記憶タスク、言語流暢性のタイピング適応バージョン、トレイルメイキングテスト、ウィスコンシンカード並べ替えタスク(WCST)、遅延割引タスク、報酬タスクのための努力的支出、及び表情認識テストを含むバッテリからの複数の認知テストにおける、健常な個体、認知が緩慢である中等度から重度のうつ病患者、認知が緩慢でない中等度から重度のうつ病患者(クラスタリング分析に基づいて定義される)のパフォーマンスを示す。全てのスコアは、これらが結果を混乱させないことを確実にするために、年齢及び性別を除外した後、zスコアとしてプロットされる。統計的検定は、緩慢な患者群と緩慢でない患者群との比較を反映する。
図12A】治療転帰を予測するEEGの画像を示す。示されているのは、目を閉じた状態での安静時のEEGパワーと、治療によるMADRS低下スコアにおける治療前マイナス治療後の変化との間の相関である。各画像対において、左図は、治療転帰と正または負の相関がある位置を示し、相関係数をプロットする。右図は、電極及びその有意性を示す(p<0.05で閾値化)。画像の上のセットは、NSI-189(「NSI」)を受けている患者間の相関についてのものであり、画像の下のセットは、プラセボ(「PBO」)を受けている患者間の相関についてのものである。最も強い予測シグナルは、シータ及びアルファ周波数の中心頭頂電極ならびにアルファ周波数の前頭電極であり、より低いパワーは、薬物でのより良い治療転帰を予測した(負の相関によって明らかである)。プラセボで治療された患者の場合、相関はより弱く、わずかに正であった(すなわち、薬物と反対方向に弱い)。
図12B】治療転帰を予測するEEGの画像を示す。具体的には、画像は、目を開いた状態及び目を閉じた状態での非周期指数と、治療によるMADRS抑うつスコアの治療前マイナス治療後の変化との間の相関を示す。(非周期指数の説明は、A.T.Hill et al.,Dev.Cogn.Neurosci.54:101076,2022に提供され、その図1A及び図1Bに例示されている。)各画像対において、左図は、治療転帰と正または負の相関がある位置を示し、相関係数をプロットする。右図は、電極及びその有意性を示す(p<0.05で閾値化)。最も強い予測シグナルは、後方電極(後頭、頭頂、及び側頭)であり、より高い非周期指数は、薬物によるより良い治療転帰を予測した(正の相関によって明らかである)。プラセボで治療された患者の場合、相関はより弱く、負であった(すなわち、薬物とは反対方向)。
【発明を実施するための形態】
【0041】
具体的に述べられるか、文脈から明らかでない限り、本明細書で使用される場合、「または」という用語は、包括的であることが理解される。
【0042】
具体的に述べられるか、文脈から明らかでない限り、本明細書で使用される場合、「a」、「an」、及び「the」という用語は、単数形または複数形であることが理解される。
【0043】
本明細書において提供される範囲は、その範囲内の全ての値の簡略表記であることが理解される。
【0044】
具体的に述べられるか、文脈から明らかでない限り、本明細書で使用される場合、「約」という用語は、当該技術分野における通常の許容範囲内、例えば、平均の2標準偏差内にあるものと理解される。約は、述べられる値の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、または0.01%以内にあるものと理解され得る。別段文脈から明確でない限り、本明細書において提供される全ての数値は、約という用語によって修飾され得る。
【0045】
「含む(comprising)」という移行語は、「含む(including)」、「含む(containing)」、または「を特徴とする(characterized by)と同義であり、包括的または非制限的であり、付加的な記載されていない要素または方法ステップを除外しない。対照的に、移行句「~からなる(consisting of)」は、特許請求の範囲において特定されていない任意の要素、ステップ、または成分を除外する。「~から本質的になる(consisting essentially of)」という移行句は、特許請求の範囲を、特定された材料またはステップ、ならびに請求項にかかる基本的及び新規な特徴(複数可)に実質的に影響を及ぼさないものに限定する。
【0046】
別段の指示がない限り、「NSI-189」という用語は、以下の構造を有する(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンを指す。
【化1】
NSI-189は、米国特許第7,560,553号、同第7,858,628号、同第9,278,933号、及び同第9,572,807号(各々が参照によりその全体が組み込まれる)に記載されるように合成することができる。NSI-189の薬学的に許容される塩には、限定されないが、ハロゲン化物、マレイン酸塩、コハク酸塩、硝酸塩、及びリン酸塩が含まれる。NSI-189の好ましい薬学的に許容される塩は、(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンホスフェート(例えば、(4-ベンジルピペラジン-1-イル)-[2-(3-メチルブチルアミノ)ピリジン-3-イル]メタノンモノホスフェートは、NSI-189リン酸塩とも称される)である。NSI-189またはその薬学的に許容される塩は、経口剤形(例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、または経口液剤)などの1つ以上の薬学的に許容される賦形剤を含有する剤形の形態で投与することができる。
【0047】
大うつ病性障害、双極性障害、双極性I型障害、双極性II型障害、外傷後ストレス障害、物質使用障害及び統合失調症という用語は、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders,5th Ed.(“DSM-5”),American Psychiatric Association,2013(これは参照により本明細書に組み込まれる)に定義されているとおりであることを意図する。
【0048】
本明細書で使用される場合、「脳活動」または「脳活動レベル」という用語は、測定可能な(例えば、定量化可能な)神経活動を指す。測定可能な神経活動には、活動の大きさ、活動の頻度、活動の遅延、または活動の持続時間が含まれるが、これらに限定されない。脳活動レベルは、刺激が提示されない期間中に測定する(例えば、定量化する)ことができる。実施形態では、刺激の不在下で測定される脳活動レベルは、ベースライン脳活動レベルと称される。代替的に、1つ以上の刺激が送達されるとき(例えば、感情的葛藤タスク)、脳活動レベルが測定(例えば、定量化)されてもよい。実施形態では、刺激の存在下で測定される脳活動レベルは、脳活動レベル応答と称される。脳活動レベルは、脳全体にわたって同時にまたは逐次に測定されてもよく、または特定の脳領域(例えば、前極性皮質、外側前頭前皮質、背側前帯状皮質、及び前部島)に限定されてもよい。実施形態では、脳活動レベルは、ベースライン期間中にとられたベースライン脳活動レベルに対して決定される。ベースライン期間は、典型的には、刺激が提示されない、または十分な時間(例えば、少なくとも0.05、0.1、0.15、0.25、0.5、1、2、3、4、5、10、15、30、60秒またはそれよりも長い時間)提示されていない期間である。
【0049】
脳活動レベルは、機能的な脳領域の接続性を評価することも包含し得る。例えば、複数の脳領域に記録された神経活動は、機能的な脳接続性パターンを明らかにするために相関させることができる脳領域にわたる特定の時間経過を有し得る(例えば、第1の時点では、第1の脳領域は神経活動の増加を示し、第2の時点では、第2の脳領域は活動の増加を示す)。したがって、実施形態では、脳活動レベルは、複数の脳領域にわたる神経活動の時間経過の測定(例えば、定量化)である。実施形態では、脳活動レベルは、経時的に異なる脳領域にわたって測定された(例えば、定量化された)一連の脳領域活動レベルである。実施形態では、脳活動レベルは、機能的脳領域接続性パターンである。
【0050】
「脳波(EEG)」という用語は、脳内の電気活動を測定及び記録するために電子モニタリング装置を使用する非侵襲的神経生理学的技法を指す。
【0051】
患者への治療法の投与の文脈における「治療する(treat)」、「治療(treatment)」、及び「治療すること(treating)」という用語は、疾患もしくは状態の進行及び/または持続期間の低減もしくは阻害、疾患もしくは状態の重症度の低減もしくは改善、及び/または1つ以上の治療法の投与に起因するその1つ以上の症状の改善を指す。
【0052】
「投与すること(administering)」という用語は、対象への経口投与、座剤としての投与、局所接触、静脈内投与、経皮投与、非経口投与、腹腔内投与、筋肉内投与、病巣内投与、髄腔内投与、鼻腔内投与、直腸投与、経皮投与、もしくは皮下投与、または徐放器具、例えばミニ浸透圧ポンプの埋め込みを含むが、これらに限定されない。投与は、非経口及び経粘膜(例えば、頬、舌下、口蓋、歯肉、鼻、膣、直腸、または経皮)を含む、任意の経路による。非経口投与としては、例えば、静脈内投与、筋肉内投与、関節内投与、皮内投与、皮下投与、腹腔内投与、脳室内投与及び頭蓋内投与が挙げられる。実施形態では、投与は、列挙される活性剤以外の任意の活性剤の投与を含まない。好ましい投与経路の1つは、経口経路である。
【0053】
「有効量」は、化合物の不在と比較して述べられた目的を達成する(例えば、それが投与される効果を達成する、疾患を治療する、酵素活性を低減する、酵素活性を増加させる、シグナル伝達経路を低減する、または疾患もしくは状態の1つ以上の症状を低減する)のに十分な量である。「有効量」の例は、疾患または障害の症状(複数可)の治療、予防、遅延、阻害、抑制、または低減に寄与するのに十分な量であり、これは、「治療有効量」とも称され得る。症状(複数可)の「低減」(及びこの句の文法的等価物)は、症状(複数可)の重症度または頻度の低下、または症状(複数可)の除去を意味する。薬物の「予防有効量」は、対象に投与されたときに、例えば、傷害、疾患、病状、もしくは状態の発症(もしくは再発)を予防もしくは遅延するか、あるいは傷害、疾患、病状もしくは状態、またはそれらの症状の発症(もしくは再発)の可能性を低減するなどの、意図される予防効果を有するであろう薬物の量であり得る。完全な予防効果は、1用量の投与によって必ずしも生じるとは限らず、一連の用量の投与後にのみ生じる場合もある。したがって、予防有効量は、1回以上の投与で投与することができる。正確な量は、治療目的に左右されることがあり、当業者は、既知の技法を使用して、正確な量を確認することができる(例えば、Lieberman,Pharmaceutical Dosage Forms(vols.1-3,1992)、Lloyd,The Art,Science and Technology of Pharmaceutical Compounding(1999)、Pickar,Dosage Calculations(1999)、及びRemington:The Science and Practice of Pharmacy,20th Edition,2003,Gennaro,Ed.,Lippincott,Williams&Wilkinsを参照)。投薬量は、患者及び用いられる化合物の要件に応じて変化することができる。患者に投与される用量は、本開示の文脈において、患者において有益な治療応答を経時的にもたらすのに十分であるべきである。用量のサイズはまた、任意の有害な副作用の存在、性質、及び範囲によって決定され得る。具体的な状況のための適切な投薬量の決定は、医師の技術の範囲内である。
【0054】
精神障害(例えば、うつ病、大うつ病)における治療の有効性を決定するために、質問票(例えば、自己報告または臨床医が実施する質問票)を使用してもよい。精神障害(例えば、うつ病、大うつ病)における治療の有効性を評価するのに有用な質問票の非限定的な例としては、ハミルトンうつ病評価尺度(HDRS)、ハミルトンうつ病評価尺度17項目(HDRS17またはHDRS-17)、21項目のHDRS(HDRS21)、24項目のHDRS(HDRS24)、抑うつ症状のクイックインベントリ(QIDS)、患者健康質問票(PHQ-9)、認知及び身体機能質問票(CPFQ)、不安の覚醒、快感消失性うつ病、及び一般的苦痛の気分及び症状質問票サブスケールスコア、モンゴメリー・アスベルグうつ病スケール(MADRS)、ベックうつ病インベントリ、臨床総合印象(GCI)スケール、ならびにスナイス・ハミルトン快楽スケール(SHAPS)が挙げられる。質問票は、治療前、治療中、及び治療後に完了してもよく、スコアの変化を使用して治療有効性を決定することができる。実施形態では、HDRS17を使用して、治療有効性を決定する。実施形態では、HDRSを使用して、治療有効性を決定する。実施形態では、HDRS21を使用して、治療有効性を決定する。実施形態では、HDRS24を使用して、治療有効性を決定する。実施形態では、QIDSを使用して、治療有効性を決定する。実施形態では、不安の覚醒、快感消失性うつ病、及び一般的苦痛の気分及び症状質問票サブスケールスコアを使用して、治療有効性を決定する。実施形態では、MADRSを使用して、治療有効性を決定する。実施形態では、ベックうつ病インベントリを使用して、治療有効性を決定する。実施形態では、臨床総合印象(CGI)スケールを使用して、治療有効性を決定する。実施形態では、治療有効性は、HDRS17スコアの変化を測定する(例えば、定量化する)ことによって決定される。実施形態では、治療有効性は、HDRS21スコアの変化を測定する(例えば、定量化する)ことによって決定される。実施形態では、治療有効性は、HDRSスコアの変化を測定する(例えば、定量化する)ことによって決定される。実施形態では、治療有効性は、HDRS24スコアの変化を測定する(例えば、定量化する)ことによって決定される。実施形態では、治療有効性は、QIDSスコアの変化を測定する(例えば、定量化する)ことによって決定される。実施形態では、治療有効性は、不安の覚醒、快感消失性うつ病、及び一般的苦痛の気分及び症状質問票サブスケールスコアの変化を測定する(例えば、定量化する)ことによって決定される。実施形態では、治療有効性は、MADRSスコアの変化を測定する(例えば、定量化する)ことによって決定される。実施形態では、治療有効性は、ベックうつ病インベントリスコアの変化を測定する(例えば、定量化する)ことによって決定される。実施形態では、治療有効性は、CGIスコアの変化を測定する(例えば、定量化する)ことによって決定される。実施形態では、治療有効性は、治療開始または治療終了から1、2、3、4、6、8週間以上後に報告された本明細書に記載される質問票上のスコアに対して、治療前のベースライン期間中の本明細書に記載される質問票上のスコアを測定する(例えば、定量化する)ことによって決定される。
【0055】
治療は、症状の軽減(例えば、応答)または寛解をもたらし得る。実施形態では、症状の軽減は、応答と称される。実施形態では、応答は、症状の50%以上の減少である。治療に対する応答(例えば、症状の50%以上の減少)は、その実施形態を含む、本明細書に記載される質問票において、その実施形態を含む、本明細書に記載されるスコアの変化を測定する(例えば、定量化する)ことによって判断されてもよい。実施形態では、寛解は、HDRS17上のエンドポイントにおける7以下のスコアである。実施形態では、寛解は、HDRS上のエンドポイントにおける7以下のスコアである。実施形態では、寛解は、HDRS24上で10以下のスコアである。実施形態では、寛解は、QIDS上で5以下のスコアである。実施形態では、寛解は、MADRS上で9以下のスコアである。
【0056】
「不良な認知」(または「認知的に不良」)は、別途定義されない限り、認知機能の1つ以上のテストによって測定されるように、同様の年齢の健常な対象の50パーセンタイルを下回る認知機能を有する対象を指す(zスコア<0)。Zスコアは、健常な対象分布に対する認知タスクのパフォーマンスの変化を反映しており、その変化において年齢、教育、及び性別などの要因を考慮することができる。ゼロを下回るzスコアは、同様の健常な対象の50パーセンタイルを下回る対象のパフォーマンスを示し、ゼロを上回るzスコアは、同様の健常な対象の50パーセンタイルを上回るパフォーマンスを示す。例えば、対象は、ゼロ未満、z=-0.5未満、z=-1、またはz=-2(例えば、約-0.5~約-1もしくは約-2のzスコア、または約-1~約-2のzスコア)を有する同様の健常な対象の50パーセンタイル未満の認知スコアを有し得る。
【0057】
認知は、DSM-5に記載されているものを含む、当該技術分野で既知の方法によって評価することができる(例えば、593~595ページを参照)。例えば、認知は、単純反応時間テスト、選択反応時間テスト、1バックワーキングメモリタスク、視覚的学習タスク、または前述のうちのいずれかの任意の組み合わせによって測定することができる。一実施形態では、対象の認知能力は、Maruff et al.,Arch Clin Neuropsychol.2009,24(2):165-78(これは参照により本明細書に組み込まれる)に記載されるCogstate Brief Batterを用いて測定される。認知のテスト(情報処理速度、ワーキングメモリ、学習能力、及び注意力を評価するなど)には、数字記号置換タスク、オッドボールタスク、フランカータスク、ウィスコンシンカード並べ替えタスク、トレイルメイキングタスク、コルシブロックタスク、ディジットスパンタスク、逆ディジットスパンタスク、言語学習及び記憶タスク、ならびに言語流暢性タスクが含まれるが、これらに限定されない。情報処理速度の低下、緩慢な意思決定、または意思決定の困難は、速度ベースのタスク命令(例えば、数字記号置換タスクにおける正しい記号の数の減少、または割り当てられた時間の固定量での言語流暢性の減少)の下で反応時間またはパフォーマンスを評価するテスト、例えば、J.DeLuca and J.H.Kalmar,Information Processing Speed in Clinical Populations,Taylor&Francis Group(2008)(これは参照により本明細書に組み込まれる)に記載されるものによって診断され得る。意思決定(遅い意思決定及び意思決定の困難を含む)は、競合する代替案(例えば、シミュレートされたギャンブル)に直面して意思決定のプロセスを評価するタスクのパフォーマンスによって評価することができる(DSM-5、593ページ)。
【0058】
注意力の低下は、以下の方法で評価することができる。
【0059】
(1)持続的注意について:経時的な注意の維持(例えば、トーンが聞こえるたびに、及び一定の期間にわたってボタンを押す)、
【0060】
(2)選択的注意について:競合する刺激及び/または集中を妨げるものにもかかわらず注意を維持する:読まれた数字及び文字を聞き、文字のみを数えるように求められる、ならびに
【0061】
(3)分割的注意について:同じ期間内に2つのタスクに参加する:読まれているストーリーを学習しながら素早くタップする。処理速度は、任意のタスクをタイミング調整(例えば、ブロックの設計をまとめる時間、記号と数字を一致させる時間、計数速度またはシリアル3速度などの応答速度)することによって、定量化され得る。
【0062】
ワーキングメモリの低減は、情報を短期間保持し、それを操作する能力(例えば、数字のリストを加算する、一連の数字または単語を後方に繰り返す、または一連の動作を繰り返す)によって評価することができる。
【0063】
また、記憶の低減は、(上述のワーキングメモリ評価方法に加えて)以下の方法によって評価することができる。
【0064】
(1)直接記憶範囲:単語または数字のリストを繰り返す能力。
【0065】
(2)近時記憶:新しい情報(例えば、単語リスト、ショートストーリー、図)をコードするプロセスを評価する。の側面新しい情報(例えば、単語リスト、ショートストーリー、図)をコードするプロセスを評価する。テストされ得る近時記憶の側面には、1)自由な想起(できるだけ多くの単語、図、またはストーリーの要素を想起するように求められる)、2)手がかりの想起(「リストにある全ての食品項目をリストアップする」または「ストーリーから全ての子供の名前を言う」などの意味的な手がかりを提供することによって、審査官が想起を助ける)、3)認識記憶(審査官が特定の項目について尋ねる。例えば、「リストに「リンゴ」があったか?」または「この図または形を見たか?」)、及び4)集中を妨げる項目または単語のリストを提示した後、元の項目または単語のリストの想起が含まれる。評価され得る記憶の他の側面には、意味的記憶(事実の記憶)、自伝的記憶(個人的な出来事または人々の記憶)、及び暗黙的(手続き的)学習(スキルの無意識の学習)が含まれる。
【0066】
「緩慢な認知」という用語は、別段の定義がない限り、情報処理速度の1つ以上のテスト(単純反応時間テストまたは選択反応時間テストなど)によって測定されるように、同様の年齢の健常な対象の50パーセンタイル未満の緩慢な認知機能(より長い応答までの時間)を有する対象を指す(zスコア<0)。
【0067】
処理速度は、任意のタスクをタイミング調整(例えば、ブロックの設計をまとめる時間、記号と数字を一致させる時間、計数速度またはシリアル3速度などの応答速度)することによって、定量化され得る。
【0068】
学習能力の低下は、直接記憶範囲及び近時記憶について上述した方法によって評価することができる。
【0069】
一実施形態では、認知障害、不良なもしくは緩慢な認知、または意思決定の困難は、少なくとも部分的に、注意力、記憶力、学習能力、ワーキングメモリの低下、または前述のうちのいずれかの任意の組み合わせに起因する。
【0070】
本明細書で使用される場合、「対象」及び「患者」という用語は、別段の指示がない限り、同義的に使用され、ヒト患者を指す。
【0071】
併用療法に好適な抗うつ薬としては、(i)モノアミンオキシダーゼ阻害剤(MAOI)、(ii)三環式抗うつ薬(TCA)(アミトリプチリン、イミプラミン、クロミプラミン、及びデシプラミンなど)、(iii)セロトニン及びノルエピネフリン再取り込み阻害剤(SNRI)(ベンラファキシン、デュロキセチン、ミルナシプラン、シブトラミン、SEP-227162、またはLY2216684など)、(iv)選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)(エスキタロプラム、フルオキセチン、フルボキサミン、セルトラリン、シタロプラム、ビラゾドン、及びパロキセチンなど)、(v)非定型抗うつ薬(アゴメラチン、ミアンセリン、ミルタザピン、ネファゾドン、オピプラモール、チアンテプチン、及びトラゾドンなど)、ならびに(vi)ノルエピネフリン及びドーパミン再取り込み阻害剤(NDRI)(ブプロピオン、アミネプチン、プロリンタン、デクスメチルフェニデート、及びピプラドロールなど)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
好適な気分安定剤としては、炭酸リチウム、ジバルプロエックスナトリウム、バルプロ酸、バルプロ酸セミナトリウム、バルプロ酸ナトリウム、チアガビン、レベチラセタム、ラモトリジン、ガバペンチン、カルバマゼピン、オクスカルバゼピン、トピラメート、ゾニサミド、アリピプラゾール、リスペリドン、オランザピン、クエチアピン、アセナピン、パリペリドン、ジプラシドン、ルラシドン、ベラパミル、クロニジン、プロプラノロール、メキシレチン、グアンファシン、及びオメガ-3脂肪酸が挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
実施例1-NSI-189を用いた第2相臨床試験
上述したNSI-189の220人の患者の第2相研究の後ろ向き分析を行った。この研究では、大うつ病性障害を有する患者を、臨床試験デザインのステージ1(最初の6週間)において、1日総用量40mgまたは80mgのNSI-189またはプラセボを受けるように無作為化した。次いで、プラセボを受けており、プラセボに応答しなかった患者を、試験のステージ2(次の6週間)において40mg、80mgまたはプラセボに再ランダム化した。残りの患者は、試験のステージ2のために治療を継続した。いずれかのステージでの治療を6週間行った。患者は、18~60歳の間であり、DSM-5に従って少なくとも8週間持続する現在の大うつ病性障害を有し、スクリーニング及びリモート評価来院中のDSM-5臨床試験バージョン(SCID-5-CT)の構造化臨床面接によって診断され、モンゴメリー・アスベルグうつ病評価スケール(MADRS)でスクリーニング、リモート評価、及びベースライン来院時に少なくとも20点を採点された場合、研究参加の資格があった。第2相研究は、治療前の認知タスクパフォーマンスデータを収集し、次いで治療プロトコルのステージ1及びステージ2の両方の後に再び収集した。それを行う目的は、この化合物による治療が、様々な行動尺度によって測定されるように、認知機能の改善をもたらすかどうかを判断することであった。
【0074】
発明者の後ろ向き分析の前に、治療転帰を予測するために行動尺度を使用することについての考慮はなく、このために実施された分析もなかった。認知パフォーマンスを予測因子として使用することは考慮せず、転帰尺度としてのみ考慮した。本明細書に記載される分析がCogstateバッテリに含まれる4つの認知タスク尺度に焦点を当てているのは、これらのデータが、各個体のパフォーマンスが大規模な健常集団のパフォーマンスに正規化されたzスコアとして利用可能であるからである。このバッテリのタスクには、単純反応時間(RT)タスク、選択RTタスク、1バックワーキングメモリタスク、及び視覚的学習タスクが含まれていた。さらに、zスコアへの変換を考慮すると、複合認知タスクパフォーマンススコアは、バッテリ内の4つのタスクの各々についてのzスコアを平均化することによって計算され得る。分析は、研究のMADRS主要アウトカムに焦点を当て、その後、HDRSの重要な副次アウトカムならびにCGIを調べることによって裏付けとなるエビデンスが得られた。当初の研究で報告され、したがってアラインされたSPCD分析アプローチを使用して、(ステージ1及びステージ2のアウトカムの両方を組み込んだ)完全な試験に最初に焦点を当てた統計分析を、当初の統計分析計画と比較することができた。我々は、線形混合モデルを使用して、臨床スコアのベースライン(2週目、4週目、及び6週目)からの変化を予測し、時間、時間×群、時間×ベースラインMADRS、及びベースラインMADRSの共変量を含めた。これらの共変量は、当初の研究でも同様に使用されたため、ここでの結果を以前に報告された来者全員の結果と比較することができる。したがって、統計的有意性は、主要アウトカム(SPCDデザイン全体での6週目のベースラインからのMADRS変化)及び同様の副次アウトカム(6週目のベースラインからのHDRS及びCGIの変化)について評価した。追加の質問に答えるために、SPCD分析フレームワーク外の特定の側面に焦点を当てたフォローアップ分析。来者全員(すなわち、当初のサンプル)分析におけるMADRSスコアの変化を、認知タスクパフォーマンスによって定義される下位群との比較のために図1Aに示す。
【0075】
ベースライン認知の臨床転帰への影響を調べるために、各タスクのzスコアの平均と、全てのタスクにわたる平均zスコアの平均(したがって認知複合スコア)で個体を分割した。これにより、各テストに対して2つの分類を生成し、これを不良な認知(平均を下回る)または良好な認知(平均を上回る)と呼んだ。不良な認知群は、認知障害とも呼ぶことができる。我々は、認知複合スコアで最初の分析を行い、次に行われた認知テストの各々について同様の分析を行った。良好な認知群と不良な認知群との間のカットオフが行われた複合スコア平均は、z=-0.32であった。注目すべきことに、この平均は、一般的なうつ病における中等度の障害のある認知タスクパフォーマンスの期待に沿っている(12、13)。
【0076】
驚くべきことに、当初の来者全員分析では主要MADRSアウトカムの統計的有意性を見出すことができなかったが、認知複合スコアを使用した不良な認知群のMADRSスコアの変化に対して、80mg群対プラセボでは堅牢かつ統計的に有意な効果を見出した(SPCD分析p=0.014、図1B)。40mg群は、80mg及びプラセボ群に対する転帰において視覚的に中間であったが、この効果は有意ではなかった(p=0.39、図1B)。対照的に、良好な認知群において、薬物群とプラセボとのいずれの間にも有意差は見出されなかった(p=0.25、図1C)。したがって、認知タスクパフォーマンスは、薬物とプラセボとの間の転帰を示差的に予測することに成功するだけでなく、これは、40mgと比較して80mgの治療では実質的に強くなるようであり、これは、上述のようなデータの以前の治療主効果分析からの期待に反している(11)。これはまた、抑うつ患者の複数の研究において、不良な認知がSSRI及びSNRIに対する不良な応答を一貫して予測することが以前に報告されているため、驚くべきことである。Groves et al.,Front.Psychiatry 9:382,2018、Etkin et al.,Neuropsychopharmacology 40(6):1332-1342,2015.
【0077】
次に、認知テストの各々から別々に決定された群(すなわち、選択RT、単純RT、ワーキングメモリ、及び視覚的学習)を使用して、患者を良好な認知群と不良な認知群とに分けたときのMADRSスコアの変化を調べた。これらの分析を図2A~2Hに示す。認知テストのうちのいずれかを使用して、不良な認知群について同様のパターンの変化が観察されたため、80mg群の改善は、プラセボ群よりも視覚的に優れており、40mgは、典型的には中間であった。SPCD統計分析を適用すると、80mg群は、選択RTタスク(p=0.005)を使用して定義されるように、不良な認知についてプラセボよりも堅牢かつ有意な改善をもたらし、単純RTタスク分類(p=0.09)及び1バックワーキングメモリ(p=0.08)に対してトレンドレベルの有意性をもたらしたことを見出した。
【0078】
さらに、80mg対プラセボ比較の上記の効果が、選択RTタスクにおける不良な認知群を定義するために使用されるカットオフに依存するかどうかを試験した。80mgは、z=0(p=0.007)で認知障害のよりリベラルな定義を使用し、z=-0.5(p=0.009)でより厳格な定義を使用した場合、プラセボよりも有意な優位性を有することが見出された。z=+0.5(いくつかの良好な認知の患者を含む)ではるかに寛大な定義を使用したが、有意な効果は得られなかった(p=0.12)。したがって、NSI-189の有意な抗うつ効果は、うつ病における不良なまたは緩慢な認知、意思決定の困難または認知障害の概念に広くマッピングされ、この構築物を定義するための正確な閾値の選択に依存しない。
【0079】
ステージ1で薬物を受けた患者は、試験のステージ2の間に薬物を継続したため、認知の関数としての治療転帰の差異の持続性を調べることもできた。図3は、良好な認知の患者と比較して(複合スコアを使用して)不良な認知の患者における80mg群の有益性が、これらの患者の治療の12週間全てにわたって安定し、一貫していたことを示す。
【0080】
次に、ステージ1での6週間の治療後の寛解(MADRSで10以下のスコア)を定量化することによって、上記発見の臨床的意義を評価した。80mgは、プラセボのわずか16%の寛解率と比較して、(複合スコアを使用して)不良な認知の患者において47%の寛解率をもたらす(カイ二乗p=0.017、図4)。臨床転帰におけるこの顕著な差の大きさは、薬物応答のオッズ比として定量化することができ、来者全員のサンプルの1.3から不良な認知部分集団の4.7に増加する。同様に、1回の寛解を達成するために治療に必要な数は、来者全員サンプルの19.6から、不良な認知部分集団の3.2に低下する。これらの結果は、ここで使用されているような尺度でより認知障害のある患者が既存の抗うつ薬に応答しにくいことを示す、広範な以前の研究の文脈で特に説得力がある(14)。したがって、この患者集団は、既存の抗うつ薬によって特に十分に提供されていない。したがって、我々の驚くべき発見は、抑うつ症状及び認知障害を有する患者の治療におけるNSI-189の固有の可能性を支持する。良好な認知群について、寛解率の観点からの有益性は観察されなかった。80mg群では、不良な認知の患者の寛解率もまた、良好な認知の患者の寛解率より有意に良好であった(47%対12%、カイ二乗p=0.014)。
【0081】
これらの発見の臨床的有意性を判断する別の方法として、図5に示されるのは、複合認知タスクパフォーマンススコアに基づいて、不良な認知の患者及び良好な認知の患者におけるHDRSの症状変化である。MADRSについて示される結果と一致して、HDRSの結果は同様に、不良な認知の患者においてプラセボよりも80mgの有意に高い有効性を示す(p=0.038)。同様に、選択RTタスクに基づいて不良な認知を定義するとき、プラセボと比較して80mg群の堅牢かつ有意な効果が観察された(p=0.008)。したがって、FDAによって受け入れられた黄金律のうつ病スケールの両方は、同じ変化パターンを示している。
【0082】
同様に、FDAによって受け入れられた主要な副次アウトカム尺度である臨床総合印象(CGI)重症度スケールでも同じパターンが見られた(図6)。具体的には、80mgは、不良な認知の患者(p=0.002)ではプラセボよりも有意に有効であったが、良好な認知の患者では有効ではなかった。選択RTを使用して同じ分析を行い、不良な認知の患者を同様に定義したところ、プラセボよりも80mgの堅牢かつ有意な利点が明らかになった(p=0.0002)。
【0083】
不良な認知の臨床改善の大きさ、ならびにその臨床的有意性を定量化するために、図7に示されるのは、来者全員分析とともに、上記の転帰(MADRS、HDRS、CGI)の各々の認知複合スコアまたは選択RTのいずれかによって定義される、不良な認知群のステージ1及びステージ2のコーエンのd効果サイズである。6週目の80mg対プラセボ比較の効果サイズを示す。この図から明らかなように、来者全員のサンプルと比較して患者の不良な認知部分集団において効果サイズが実質的に増加し、時には非常に大きな効果サイズに達する。コーエンのd効果サイズの典型的な解釈は、0.3が小さい、0.5が中程度、0.7が大きいというものである。
【0084】
不良な認知を代替方法で定義できるかどうか、すなわち自己報告質問票で認知度を評価するよう患者に依頼することによってテストした。かかる質問票の1つが、認知及び身体機能質問票(CPFQ)である(15)。このスケールは、FDA及び欧州医薬品庁(EMA)の両方による承認で抗うつ薬ボルチオキセチンの分析に使用されたため、注目に値する。これらの分析では、不良な主観的認知を25超のCPFQスコアとして定義し、したがって、CPFQに基づく認知障害がNSI-189による治療から優先的に利益を得る個体を特定できるかどうかを調べた。複合認知タスクパフォーマンススコア(前述のとおり)を使用して定義された不良な認知を、CPFQによって定義された不良な認知と対比する図8に示されるように、自己報告された不良な認知の患者の治療群間に差は見られない。したがって、驚くべきことに、不良な客観的認知がより良い薬物応答の予測因子であるだけでなく、この障害は、ここで使用されるもの(単純RT、選択RT、ワーキングメモリまたは視覚的学習)などの認知タスクのパフォーマンスによって測定されなければならない。客観的測定は、患者が報告した認知症状の使用に置き換えることはできない。これはさらに、CPFQ上の不良な主観的認知を定義するために複数の他のカットオフが使用され、いずれも薬物応答を予測するものではなかったため、CPFQ上で使用されるカットオフに依存しなかった。
【0085】
より良い治療転帰を予測する不良な認知の発見に基づいて、晩年のうつ病(LLD)を次に検討した。LLDは、50歳未満の非LLD患者と比較して、50歳以上の患者として定義した。LLDは認知障害と関連しており(16)、したがって、LLD患者は、非LLD患者と比較してプラセボよりも80mgについてより優れた症状改善を経験すると仮定された。図9に見られるように、MADRS抑うつスコアの改善は、LLD群ではプラセボよりも80mgでより優れていたが、非LLD群では2つのアーム間で区別できなかった。
【0086】
認知障害のある患者における80mgの薬物の臨床効果をよりよく理解するために、80mgとプラセボ群との比較のための6週間の治療におけるMADRSの各項目について、各ステージにおけるコーエンのd効果サイズを定量化した(図10を参照)。見ることができるように、効果サイズは、全ての項目にわたって等しいわけではない。むしろ、両方のステージにわたって、悲しみ(項目1)、活動に対する感覚障害及び興味の喪失(快感消失とも称される、項目8)、精神運動遅滞及び倦怠感(動機喪失とも称される、項目7)、悲観的思考(項目9)を反映する項目に顕著な影響がある。したがって、これらの結果は、より大きな薬物効果が見られる項目のタイプによって抑うつ症状がより重度に優勢である個体が、薬物に応答する可能性がより高いことを示唆する。例えば、特に高い快感消失または精神運動遅滞を有する個体は、特に薬物に応答性である。同様に、抑うつ症状が顕著であり、不良な認知が同様に蔓延している他の障害は、特に薬物に対して感受性であり得る。これには、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、双極性うつ病、物質使用障害、及び統合失調症などの障害が含まれる。例えば、DSM-5によると、PTSDには、自己/他者についての強い否定的な信念、罪悪感/恥、興味の喪失、遠く離れていると感じること、肯定的な感情を経験することが困難であること、集中することが困難であることなどの症状が含まれる。これらは、認知障害のある個体において薬物に対する特に高い感受性を示す項目にうまくマッピングされる。PTSDはまた、ここで検討されたものと同様の頻繁な認知障害と関連している(17)。双極性うつ病は、大うつ病(例えば、MADRS及びHDRS)に使用されるものと同じ症状尺度で評価され、したがって、認知障害のある患者は、不良な認知の大うつ病患者と同様の方法で、薬物に対して特に感受性であり得る。物質使用障害は、主に適応不全の物質使用及び依存の結果によって支配されるが、しばしば抑うつ症状を含む。これらの症状は、実際には、中毒を自己投薬しようとする試みとして、患者をさらなる薬物乱用に駆り立てる可能性がある。様々な物質使用障害もまた、不良な認知と関連している(18)。したがって、物質使用障害及び不良な認知を有する患者は、薬物の影響に特に敏感であり得る。統合失調症に関して、DSM-5は、陽性症状(例えば、幻覚及び妄想)ならびに思考または行動の混乱を超えた統合失調症の症候群の顕著な部分として、陰性症状(例えば、快感消失、感情表現または経験の低下)を認識している。統合失調症を有する患者はまた、否定的な認知バイアス(例えば、悲観的な思考)を有する。統合失調症もまた、深刻で頻繁な認知障害の疾患である。したがって、統合失調症の陰性症状、特により不良な認知の患者では、薬物の効果に特に感受性である統合失調症を有する患者を特定することができる。
【0087】
よりよく理解するために、発明者らは、精神的に健常な310人の個体、及び中等度から重度のうつ病を有する310人の個体の群におけるより広範な認知バッテリに関するデータを収集した。このバッテリには、以下のタスクが含まれていた:単純反応時間タスク、選択反応時間タスク、エリクセンフランカータスク、数字記号置換タスク、コルシブロックタスク、言語学習と記憶タスク、言語流暢性のタイピング適応バージョン、トレイルメイキングテスト、ウィスコンシンカード並べ替えタスク、遅延割引タスク、報酬タスク及び表情認識テストのための努力的支出。全ての行動データは、年齢及び性別を除外した後、zスコアに変換された。緩慢な認知の患者群(n=170)及び緩慢でない認知群(n=140)を定義するために、(反応時間及びエラーに基づく)選択反応時間タスクのパフォーマンスを使用して、クラスタリングアルゴリズムを患者データに適用した。図11は、緩慢な認知の患者と緩慢でない認知の患者との間に有意差があったタスク及び尺度を示す。示されているように、緩慢な認知の患者は、以下の尺度で不良な認知を示した:言語流暢性の低下(手がかりに応答して生成された単語数)、単純反応時間タスクでの反応時間の遅れ、一致及び不一致の刺激への反応時間の遅れ、反応時間の標準偏差の増加及びエリクセンフランカータスクの誤差の増加、トレイルメイキングテストのトレイルA及びBの時間の延長、数字記号置換テスト(DSST)のトータルコレクトライアルの減少、コルシブロックタスクのブロックスパンの短縮、ウィスコンシンカード並べ替えタスク(WCST)のエラー総数の増加、言語学習と記憶タスクにおける集中妨害後の正しい単語認識の低減及び単語想起の低減、表情認識テストにおける幸せ、怒り、または恐れの表情の認識精度の低下、高報酬及び高勝利確率条件で獲得された報酬の低下、低勝利確率条件で獲得された報酬の増加及び報酬タスクのための努力的支出における低勝利確率条件でのハードタスクの選択の増加、ならびにタイピングテストにおけるタイピング速度の減速。したがって、それらの中のこれらのタスク及び措置を使用して、不良な認知または緩慢な認知を有する患者を特定することができる。
【0088】
実施例2-NSI-189を用いた第1b相臨床試験
認知タスク行動に加えて、患者が目を開いた状態または目を閉じた状態で休んでいる間に脳波(EEG)で捕捉された脳活動が治療転帰を予測することができるかどうかを調べた。かかる発見は、NSI-189からより多くの利益を得る患者を特定することができる追加のモダリティを確立するであろう。そのために、プラセボを受けた6人の患者とともに、3つの用量(総1日用量40mg、80mg、または120mg)のうちの1つを受けた18人の患者に関するデータを含む、NSI-189の第1b相研究中に収集された安静時EEGシグナルを調べた。薬物予測シグナルを特定するために、NSI-189の18人の患者をプールした。図12Aに示されるのは、MADRSうつ病スコアのベースラインから治療終了までの変化によって測定されるように、治療転帰を有意に予測した頭皮地形図にプロットされたEEGシグナルである。チャネルレベルの周波数帯域制限パワーを反映するこれらのEEG測定は、安静時脳活動をEEGで定量化できる複数の方法のうちの1つである。様々な形態の接続性(例えば、パワーエンベロープ接続性、コヒーレンス、周波数間のパワー比、コーダンス、想像上のコヒーレンス、位相ロック値、位相遅延インデックス、重み付け位相遅延インデックス、共分散、アルファピーク周波数、アルファピーク周波数近接、及びクロス周波数カップリング)、ならびに情報理論インデックス及びエントロピーなどの他の高次尺度を含む、将来の治療応答者を特定するために同様に使用され得る他の一般的な尺度。図12Aに見られるように、シータ(4~7Hz)及びアルファ(8~12Hz)周波数範囲における頭頂電極及び前頭電極の低パワーは、プラセボではなく薬物でのより良い治療転帰を有意に予測した。興味深いことに、シータ周波数振動は、海馬及び前頭前野が互いに連通する重要な手段である(19)。したがって、かかる連通のための能力の低下は、動物モデルにおいて観察され、上述されている、推定される神経原性及び可塑性促進機序のために、NSI-189の治療効果に関連し得る。
【0089】
EEGデータのパワースペクトル密度分布も調べた。EEGパワースペクトル密度を示す概略図は、A.T.Hill et al.,Dev.Cogn.Neurosci.54:101076,2022の図1A及び図1Bに提供される。データ内のバックグラウンド傾向は、バックグラウンド神経活動の尺度として定量化することができ、1/fの関係(fが周波数である)を有する。このシグナルの定量化は、非周期指数と呼ばれ、これは、両対数空間におけるパワースペクトル密度の1~50Hzの範囲にわたる最良適合線の負の傾きとして推定される(T.Donoghue,et al.,Nat Neurosci,23(12):1655-1665,Dec.2020)。図12Bに示されるように、後方電極(頭頂、後頭、側頭)の非周期指数が高いほど、プラセボではなく、薬物を用いた治療転帰が良好になることが有意に予測された。特に、最近の研究では、より低い非周期指数が、阻害性神経活動と比較して興奮性の増加に機械的に関連していることが示された(R.Gao,et al.,e,158:70-78,2017)。この発見は、NSI-189が、興奮に対して過剰な阻害を有する患者などの興奮性及び阻害性神経活動のバランスが損なわれた患者に好適であり得ることを示唆する。
【0090】
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【0091】
本明細書に引用される全ての出版物、特許、及び特許出願は、それら全体が本明細書に記載されるかのように参照により本明細書に組み込まれる。本発明は、例示的な実施形態を参照して説明されているが、この説明は、限定的な意味で解釈されることを意図するものではない。例示的な実施形態、ならびに本発明の他の実施形態の様々な修正及び組み合わせは、本説明を参照すると当業者には明白であろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、かかる修正及び改良を包含することが意図される。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図3
図4
図5B
図6B
図7
図8B
図9B
図10
図11-1】
図11-2】
図11-3】
図12A
図12B
【誤訳訂正書】
【提出日】2023-12-13
【誤訳訂正1】
【訂正対象書類名】図面
【訂正対象項目名】全図
【訂正方法】変更
【訂正の内容】
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11-1】
図11-2】
図11-3】
図12A
図12B
【国際調査報告】