(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】S-ヒドロキシクロロキンを用いた抗リン脂質症候群の処置
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4706 20060101AFI20240517BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240517BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20240517BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20240517BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20240517BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20240517BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240517BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240517BHJP
A61P 15/06 20060101ALI20240517BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
A61K31/4706
A61P37/02
A61K9/16
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/14
A61K9/08
A61K9/10
A61P15/06
A61P7/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574870
(86)(22)【出願日】2022-06-01
(85)【翻訳文提出日】2024-01-29
(86)【国際出願番号】 US2022031806
(87)【国際公開番号】W WO2022256426
(87)【国際公開日】2022-12-08
(32)【優先日】2021-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523455079
【氏名又は名称】ジェノベート バイオテクノロジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ジェン
(72)【発明者】
【氏名】チュウ,チアチェン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA22
4C076AA30
4C076AA31
4C076AA36
4C076AA53
4C076BB01
4C076CC07
4C076CC44
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC28
4C086GA13
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA23
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA41
4C086MA43
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA54
4C086ZA81
4C086ZB07
(57)【要約】
S-(+)-ヒドロキシクロロキンおよび薬学的に許容される賦形剤を含有する医薬組成物を患者に投与することによって、抗リン脂質症候群を処置する方法。医薬組成物は、(R)-(-)-ヒドロキシクロロキンを実質的に含まない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗リン脂質症候群(APS)の処置方法であって、
APSに罹患している対象を特定すること、及び
(S)-(+)-ヒドロキシクロロキンおよび薬学的に許容される賦形剤を含有する医薬組成物の有効量を前記対象に投与し、それによってAPSを処置すること
を含み、前記医薬組成物が(R)-(-)-ヒドロキシクロロキンを実質的に含まない方法。
【請求項2】
前記S-ヒドロキシクロロキンが薬学的に許容される塩の形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記薬学的に許容される塩が、塩酸塩、硫酸塩、又はリン酸塩である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記対象に投与されるS-ヒドロキシクロロキンの用量が1日あたり100mg~800mgである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記用量が1日あたり150mg~500mgである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記医薬組成物が、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、又はシロップ剤の形態である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記APSが、原発性APS、二次性APS、又は劇症型APSである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記APSが血栓性APS又は産科APSである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
背景
抗リン脂質症候群(APS)は、血栓症及び流産に関連する自己免疫疾患であり、肺及び脳内で生命を脅かす血栓を引き起こし得る。APSは、50歳未満の人の脳卒中の主な原因である。妊娠中の女性では、自然流産及び死産をもたらすことがよくある。
【0002】
報告によると、APSは人口の0.3~1%に罹患する。McDonnellら,Blood Review 39,1-14(2020)を参照されたい。現在、治癒しない。長期抗凝固薬であるワルファリンは、血栓のリスクを減らすためのAPS関連血栓症の標準処置である。しかし、出血性合併症のリスクが高くなる。Randら,Blood 112,1687-95(2008)を参照されたい。
【0003】
APSに関する追加の参考文献については、Agarら,Blood 116,1336-43(2010);Randら,Blood 115,2292-99(2010);Randら,Lupus 17,922-30(2008);及びContiら,Clin Exp Immunol 132,509-16(2003)を参照されたい。
【0004】
抗マラリア化合物であるヒドロキシクロロキン(HCQ)は、傷害誘発性血栓症の動物モデルにおいて血栓症の広がりを低減させ、抗リン脂質(「aPL」)抗体誘発性の血小板活性化を逆転させる役割を果たすことが示唆された。Randら(2008)を参照されたい。その有効性と安全性は、大規模な臨床試験ではまだ決定されていない。
【0005】
HCQは、2つの光学異性体、すなわち、(R)-(-)-異性体(「R-HCQ」)及び(S)-(+)異性体(「S-HCQ」)を有する。R-HCQとS-HCQを50:50で含有するラセミ混合物が上述の全ての研究で使用された。
【0006】
HCQの長期及び高用量の投与は、かすみ目を引き起こし、場合によっては網膜、角膜、又は網膜黄斑を損傷し、眼組織内の蓄積により一部の患者で視力障害をもたらし得る。
【0007】
HCQは、心毒性があることも知られている。HCQは、心室間伝導遅延、Q波からT波への間隔延長、トルサード・ド・ポワント、心室性不整脈、低カリウム血症、及び低血圧を引き起し得る。米国特許出願第17/176,679号を参照されたい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
APSを安全に有効に処置する方法を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の必要性を満たすために、S-(+)-ヒドロキシクロロキン(「S-HCQ」)と薬学的に許容される賦形剤を含有する医薬組成物でAPSを処置する方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
したがって、本発明は、APSを処置する方法であって、
(i)APSに罹患している対象を特定する工程、並びに(ii)S-HCQ及び薬学的に許容される賦形剤を含有する医薬組成物の有効量を対象に投与し、それによってAPSを処置する工程を含む方法に関する。医薬組成物は、(R)-(-)-ヒドロキシクロロキン(「R-HCQ」)を実質的に含まない。
【0011】
本発明の方法は、全てのタイプのAPS、例えば、一次APS、二次APS、及び壊滅的APSの処置に適している。
【0012】
医薬組成物は、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、又はシロップ剤を含む任意の形態で投与される。好ましくは、医薬組成物は、1日あたり100mg~800mg(例えば、120mg~600mg、150mg~500mg、及び180mg~450mg)のS-HCQの用量で患者に投与される。
【0013】
S-HCQは、化合物自体及びその薬学的に許容される塩を指す。その塩の例としては、塩酸塩、硫酸塩、及びリン酸塩が挙げられる。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態の詳細を、以下の説明と図面の両方に記載する。本発明の他の特徴、目的、及び利点は、明細書及び添付の特許請求の範囲からも明らかである。最後に、本明細書で引用される全ての刊行物及び特許文献は、その全体が参照により組み込まれる。
【0015】
以下の説明は添付図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、分子ドッキング研究から得られ、4つの結合部を含むa-ヘリックス型の構造を有するβ2-糖タンパク質Iに結合するHCQ(S-HCQ又はR-HCQ)分子を示す写真を含む。
【発明を実施するための形態】
【0017】
詳細な説明
上記で要約したように、高純度のS-HCQと薬学的に許容される賦形剤を含有し、実質的にR-HCQを含まない医薬組成物をAPS患者に投与することによってAPSを処置する方法が提供される。
【0018】
S-HCQの純度は、S-HCQとR-HCQのモルパーセンテージの差として定義される鏡像異性体過剰によって測定され、S-HCQとR-HCQの合計モルパーセンテージは100%である。例えば、99%の鏡像異性体過剰のS-HCQの純度は、S-HCQを99.5モル%、R-HCQを0.5モル%含有する。医薬組成物は、99%以上(例えば、99.2%以上、99.5%以上、及び99.8%以上)の鏡像異性体過剰のS-HCQを含有する場合、R-HCQを実質的に含まないとみなされる。
【0019】
このような高い鏡像異性体過剰を有するS-HCQ調製物は、米国特許出願第17/176,679号及び米国特許第5,314,894号に記載されている。
【0020】
医薬組成物中のS-HCQは、遊離塩基又は薬学的に許容される塩のいずれかである。薬学的に許容される塩は、硫酸塩、リン酸塩、及び塩酸塩であり得るが、これらに限定されない。好ましくは、それは硫酸塩である。
【0021】
医薬組成物は、重量で5重量%~95重量%、例えば、30重量%~80重量%、40重量%~70重量%、40重量%~55重量%、及び60重量%~70重量%の範囲でS-HCQを含有する。
【0022】
医薬組成物は、R-HCQを実質的に含まず、例えば、R-HCQを2重量%以下(例えば、1%以下及び0.5%以下)含有する。
【0023】
例示的な医薬組成物は、S-HCQを50%~70%、及び1以上の医薬賦形剤を30%~50%含有する。
【0024】
本発明の方法を実施するために、APSに罹患している対象は、典型的には、100mg~800mg(例えば、200mg及び400mg)のS-HCQの1日用量に対応する医薬組成物の有効量を投与される。
【0025】
S-HCQの投与は、R-HCQ及びラセミHCQ(すなわち、S-HCQとR-HCQの等モル混合物)と比較して、特に心毒性に関する副作用がほとんどない。
【0026】
S-HCQに加えて、医薬組成物は、薬学的に許容される賦形剤も含み、これは、結合剤、希釈剤、界面活性剤、崩壊剤、滑沢剤、流動化剤、及び着色剤を含むが、これらに限定されない、医薬分野で使用される任意の生理学的に不活性な賦形剤であり得る。賦形剤の例については、米国特許出願公開第2008/020634号を参照されたい。
【0027】
医薬組成物は、任意の形態、例えば、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、及びシロップ剤で提供される。それは、多くの刊行物に記載されている従来の方法に従って調製することができ、例えば、米国特許出願公開第2018/0194719号を参照されたい。
【0028】
本発明の方法は、原発性APS(血栓性APS及び産科APS)、二次性APS、及び劇症型APSに罹患している対象の処置において驚くほど効率的である。
【0029】
原発性APSは、併存疾患がない状態で、再発性動脈血栓症及び静脈血栓症、再発性流産、並びに血栓性素因及び妊娠の罹患率に関与する循環aPL抗体の存在を特徴とする血栓性状態である。二次性APSを有する患者では、既存の自己免疫状態がある。APSの最も重篤な形態である劇症型APSは、aPL抗体に関連する多系統自己免疫状態であり、小血管閉塞を伴う多臓器不全が同時に発生する場合の血管血栓症又は流産を特徴とする。
【0030】
患者ごとに異なるAPSの症状には、血栓、流産、発疹、慢性頭痛、認知症、発作、動脈血栓症、自己免疫性血小板減少症、常染色体優性遺伝、かすみ目、網膜中心動脈閉塞症、虹彩炎、角膜炎、狼瘡抗凝固剤、網膜剥離、網膜血管炎、強膜炎、静脈血栓症、視力喪失、及び硝子体炎などの兆候が含まれる。
【0031】
理論に縛られることなく、HCQは、APSに関連する血中タンパク質であるβ2-糖タンパク質I(「β2-GP1」)と結合することによってAPSを処置すると考えられている。β2-GP1は、血液凝固を調節できる高濃度、すなわち0.2mg/mLで血液中を循環する。McDonnellらを参照されたい。
【0032】
β2-GP1は、2つの立体構造、すなわち閉じた環状型と開いた直鎖型で存在する。β2-GP1がこれら2つの形態の間で立体構造を変化させるきっかけは不明である。その中で、β2-GP1の90%は血液中を環状型で移動する。Agarら,Blood 116,1336-43(2010)を参照されたい。β2-GP1は、その直鎖型では、2つのドメイン、すなわち、N末端ドメインI(「DI」)とC末端ドメインV(「DV」)を露出する。DIは、抗体、例えば、aPL抗体を受け取るための主要な領域である。DVは、血液細胞膜への結合に関与している。β2-GP1が環状型から直鎖型に変化すると、抗体の血液細胞膜への結合が促進され、凝固反応が始まる。これはβ2-GP1-抗体複合体を形成することによって達成され、APSへの重要な病原性経路である。
【0033】
β2-GP1-抗体複合体は、他のメカニズムの中でも特に、血液細胞上の抗凝固アネキシンVシールドを破壊することにより、血液凝固作用を発揮することが認識されている。McDonnellらを参照されたい。
【0034】
細胞タンパク質であるアネキシンVは、血液細胞膜のリン脂質に結合することによって血栓の形成を阻害し、抗体がリン脂質を攻撃するのを遮断するシールドを形成する。APS患者では、アネキシンVシールドはβ2-GP1を介した抗体によって破壊される。
【0035】
HCQは、β2-GP1がその立体構造を直鎖状に変化するのを防ぐことにより、上記の病原性経路を破壊すると考えられている。
【0036】
これ以上詳しく説明しないが、当業者なら、本明細書の開示に基づいて、本開示を最大限に活用できると考えられる。
【0037】
したがって、以下の具体例は、単に説明的なものとして解釈されるべきであり、決して本開示の残りの部分を制限するものではない。
【0038】
実施例
実施例1:β2-糖タンパク質I上でのS-HCQとR-HCQの分子ドッキング
S-HCQ及びR-HCQとβ2-GP1の結合安定性を評価するために、生体高分子構造データの世界規模のオープンアクセスアーカイブであるProtein Data Bank(PDB:1AV1)から構造を取得して、分子ドッキングをシミュレーションした。BIOVIA(登録商標)Discovery Studioソフトウェア(Dassault Systemes,San Diego,California)を用いて、タンパク質構造とアミノ酸配列のアライメントと編集を行った。スイスバイオインフォマティクス研究所(Swiss Institute of Bioinformatics)が提供するドッキングサービスであるSwissDockにより、β2-GP1の疎水性領域を予測するためにコンピューター解析を行った。UCSF Chimeram(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)のソフトウェアを使用して、分子構造を可視化し、解析した。
【0039】
分子ドッキングは、HCQがβ2-GP1に結合し、その立体構造変化を阻害する方法を理解するのに役立つ。S-HCQとR-HCQに対して、β2-GP1との分子ドッキングシミュレーションを別々に行った。抗体に結合すると、β2-GP1は、閉じた形態(環状)から開いた形態(直鎖状)に立体構造変化を起こす。後者は、β2-GP1抗体複合体の形成を促進し、血栓症を引き起こす。したがって、HCQの結合がβ2-GP1の立体構造変化を妨げることできるかどうかを知ることが非常に重要である。
【0040】
分子ドッキングの結果を
図1に示す。図示されているように、β2-GP1は、5つのドメインと4つの結合部(図では1、2、3、及び4として示されている)を有する擬連続性の両親媒性a-ヘリックスを含有する。隣接する2つのa-ヘリックスドメインは結合部で連結されている。4つの結合部は、共に又は別々に、a-ヘリックスの移動を可能にし、それによりβ2-GP1立体配置を環状型と直鎖型の間で変化させる。
【0041】
分子ドッキングにより、HCQ分子が4つの結合部(1、2、3及び4)のいずれか1つに結合できることが示された。なかでも、結合部3への結合は、立体構造変化を阻害するために有効である。結合の強さは、分子ドッキング研究で計算された親和性エネルギーによって測定される。親和性エネルギーが高いほど、結合が強いことを示す。
【0042】
S-HCQは、非常に高い値の12.6kcal/molの親和性エネルギーで結合部3に結合する。β2-GP1のa-ヘリックスの結合部3を固定することにより、S-HCQは、APS病原性経路に必要である抗体がβ2-GP1と結合して複合体を形成するのに必要とされる環状型から直鎖型への立体構造変化を阻害する。そのため、S-HCQはこの経路を遮断し、それによってAPSを有効に処置する。
【0043】
対照的に、R-HCQは、わずか10.5kcal/molの親和性エネルギーで結合部3に結合し、このエネルギーレベルは、β2-GP1のa-ヘリックスの立体構造変化を防止するためにあまり有効ではない。さらに、β2-GP1のa-ヘリックス上でのR-HCQの結合角度(angel)がS-HCQのそれと異なるため、R-HCQは立体配置変化を抑制するためにあまり有効ではなくなる。
【0044】
実施例2:HCQによるβ2-GP1-抗体形成の阻害
インビトロ研究で、S-HCQ及びR-HCQを試験し、単球性白血病患者由来のヒト単球細胞株であるTHP-1を用いてaPL抗体とβ2-GP1の結合を低下させるその有効性を示した。
【0045】
THP-1は、β2-GP1を高発現するヒト末梢血単球であり、患者のAPSの増加に関連する。HCQで処置する前に、THP-1細胞を3.7%パラホルムアルデヒド溶液で固定し、1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)でブロッキングし、マウスaPL抗体(A500-006A,Bethyl Laboratories,Montgomery,Texas)とインキュベートした。細胞免疫蛍光染色を用いて、β2-GP1の発現を測定した。
【0046】
ドットブロットアッセイのために、以下のように、別々の試料を調製した:THP-1全可溶化液をフッ化ポリビニリデン膜にロードし、1%BSAを含有するPBSでブロッキングし、マウス抗β2-GP1 A500-006A及びS-HCQ、R-HCQ、又はラセミHCQと各々10mg/mLの濃度でインキュベートした。対照試料を、HCQを添加しないことを除いて、上記と同じ手順に従って得た。
【0047】
続いて、S-HCQ又はR-HCQがβ2-GP1-抗体複合体のTHP-1膜への結合を阻害するどうかかを決定するために、ELISAアッセイを実施した。このようにして処理したTHP-1細胞を、80%のRPMI-1640(Thermo Fisher Scientific,Waltham,Massachusetts)、HEPES緩衝生理食塩水(HBS,pH7.45)中20%の抗β2-GP1免疫グロブリンG(「IgG」)(0.2mg/mL)、及びS-HCQを含有する培地で密度3.6×105細胞/mLの密度に再懸濁した。異なるS-HCQ濃度、すなわち、1μg/mL、2.5μg/mL、又は5μg/mLを有する培地から3つの試料を各々調製した。対照試料を、S-HCQを添加しないことを除いて、上記と同じ手順に従って得た。光学吸光度を450nmで測定した。
【0048】
上記の全てのアッセイを3連で行った。報告された結果を平均値±S.E.M.として表す。全ての統計分析を、GraphPad Prism(登録商標)(バージョン8.0 GraphPad Software Inc,San Diego,California)の商標のソフトウェアを使用して実行した。2つの群間の比較には、スチューデント検定を用いた。p値<0.05を統計的に有意であるとみなした。
【0049】
細胞免疫蛍光染色を用いて、本研究のTHP-1細胞は、β2-GP1を高レベルで発現することが見出され、このことは核の青色の点を有する丸い単一細胞形態として示されるTHP-1細胞に緑色の丸い点が重なることにより確認された。
【0050】
ドットブロット分析により、S-HCQは、β2-GP1と抗体の結合を97%(±2%、p<0.05)という驚くべきレベルで阻害することが示された。比較として、R-HCQは、β2-GP1と抗体の結合をわずか23%(±17%)阻害し、ラセミHCQは結合を80%(±4%)阻害した。
【0051】
ELISAアッセイにより、S-HCQがβ2-GP1と抗体の結合を用量依存的に阻害する、すなわち、1μg/mLのS-HCQで25%、2.5μg/mLのS-HCQで60%、及び5μg/mLのS-HCQで90%の阻害率(p<0.05)で阻害することが実証された。
【0052】
S-HCQは、β2-GP1と抗体の結合を有効に阻害し、R-HCQ及びラセミHCQよりも驚くほど有効であることが見出された。
【0053】
実施例3:HCQによる細胞膜上でのアネキシンA5抗凝固シールドの修復
上記で指摘したように、内因性タンパク質であるアネキシンA5は、血液細胞表面でシールドを形成し、血液凝固を抑制するため、APSのリスクを低下させる。この実施例で、S-HCQは、aPL抗体によって破壊されたアネキシンA5抗凝固シールドを顕著に修復した。
【0054】
THP-1細胞を、最初に、10%ウシ胎児血清、2mMのL-グルタミン、及び50U/mLのペニシリン-ストレプトマイシン抗生物質を含有するRPMI1640培地(Thermo Fisher Scientific,Waltham,Massachusetts)で維持した。次に、それらを96ウェル培養プレートに8×104細胞/ウェルの密度で播種し、コンフルエンスにさせた。続いて、THP-1細胞を0.5μg/mLのHCQの存在下で抗β2-GP1 IgGで処理した。IgG処理THP-1細胞をHBS-CaCl2溶液ですすぎ、遊離アネキシンVを除去し、細胞表面に付着したアネキシンVのみを残した後に、細胞表面上のアネキシンVのレベルを光学吸光度によって測定した。
【0055】
3つの試料を、3つのHCQ(すなわち、S-HCQ、R-HCQ、及びラセミHCQ)溶液の1つで各々調製した。比較試料を、HCQを添加しないことを除いて、上記と同じ手順に従って得た。β2-GP1-抗体を含有する患者血清を対照試料として使用した。
【0056】
細胞免疫蛍光染色により、免疫蛍光画像において緑色の点としてアネキシンVの高発現レベルを確認した。加えて、THP-1におけるアネキシンVの発現をウェスタンブロットによって確認した。
【0057】
S-HCQ処理THP-1細胞は、R-HCQ処理THP-1細胞で見られる相対レベル2.54及びラセミHCQ処理THP-1細胞で見られる相対レベル3.09と比較して、相対レベル3.45でアネキシンVを有していた。比較試料は、アネキシンVの相対レベルがわずか1であることを示した。
【0058】
上記の結果は、S-HCQがAPSの処置においてR-HCQ及びラセミHCQよりも驚くほど有望であることを示している。
【0059】
実施例4:HCQによる生体内血栓形成の減少
血栓症の抑制に対するHCQの治療効果を、APS関連血栓症動物モデルによって評価した。
【0060】
抗β2-糖タンパク質Iの単離
6人のAPS患者(すなわち、患者1~6)の血清および血漿を、本研究に参加するために選択した。APS確認のために、抗カルジオリピン(aCL)、抗β2GPI、及びループス抗凝固(LA)活性を測定した。APS由来の抗β2GPI試料を、rProtein A/Protein G GraviTrap(商標)(Cytiva(商標),Merck KGaA,Darmstadt,Germany)を用いて血清試料の精製によって得た。各試料中の抗β2GPI抗体の濃度を、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)(Eagle Biosciences,Inc.,Amherst,New Hampshire)によりβ2GPIへの結合を用いて試験した。
【0061】
インビトロ内皮細胞活性化を、上記で得た抗β2GPI抗体によって誘導した。内皮細胞(すなわち、HUVEC)を播種し、APS由来の抗β2GPI抗体とインキュベートした。陽性対照として、一部のHUVECをリポ多糖(LPS、3mg/mL)で処理した。E-セレクチン、細胞間接着、及び血管細胞接着分子1(VCAM-1)の表面発現が検出され、β2GPI IgGの量と正の相関があることが見出された。
【0062】
APS関連血栓症マウスモデル
8~12週齢のC57BL/6雄マウス(BioLasco,Taiwanから購入)を本研究で使用した。全ての手順は、台北医科大学の施設動物管理委員会によって承認された。
【0063】
内皮損傷モデルを用いてマウスにおいて静脈血栓症を誘発した。7.5% FeCl3(陽性対照)、生理食塩水(陰性対照)、又はAPS由来抗β2GP1抗体(患者2由来)を100、200、又は300AU(試験群)の投与量でマウスに静脈内(IV)注射した。注射後72時間の時点で麻酔をかけた。右大腿静脈を露出し、1500g/mm2の圧力でつまみ、血栓の形成を誘発した。
【0064】
抗β2GP1抗体は、3つの濃度、すなわち、100、200、及び300AUの全てで有効に血栓を誘発することが決定された。そのため、以下の全ての研究では、抗β2GP1抗体をマウスに100AUで注射した。
【0065】
APS関連血栓症マウスモデルにおけるラセミHCQによる血栓形成の減少
上記の手順に従い、マウス(すなわち、HCQ処置マウス)に、患者5由来の抗β2GP1抗体100AU及び2000μgのラセミHCQ(10mg/mlで200μl)を注射した。対照としてのマウス群(n=4;APS誘発マウス)に、抗β2GP1抗体を100AUのみ注射した。72時間後、各マウスの右大腿静脈を露出させ、1500g/mm2の圧力でつまみ、血栓形成を誘発した。血栓症時間(分単位)を記録した。健常マウス群(n=2)の血栓症時間は5分であったのに対し、APS誘発マウスの平均血栓症時間は2分であった。対照的に、HCQ処置マウスの血栓症時間は5分で、健常マウスと同じであった。結果から、抗β2GP1抗体はAPS誘発マウスの血栓症を加速する一方で、ラセミHCQは抗β2GP1抗体の機能を阻害することが示された。
【0066】
5分間ピンチした後、血栓を大腿静脈から除去した。ラセミHCQは、HCQ処置を行わなかったマウス群と比較して、血栓サイズを有意に低減させた。
【0067】
結果から、S-HCQとR-HCQの両方を含むラセミHCQが、APS患者の血栓形成を低減させることにより、APSの処置に有用であることが示される。
【0068】
APS関連血栓症マウスモデルにおけるS-HCQによる血栓形成の低減
APS関連血栓症と静脈血栓塞栓症(VTE)の危険因子は重複しており、主に内皮機能障害(ED)に関連する。E-セレクチンおよびVCAM-1は、APS関連血栓症の高リスクに関連する。
【0069】
上記のAPS動物モデルに基づき、血栓症を減少させるために、R-HCQ及びS-HCQをマウスに投与した。マウスを6群に分け、それらの各々に(1)対照群としてIgG、(2)比較群として抗β2GPI-抗体100AU、(3)処置群3として抗β2GPI抗体100AUとS-HCQ300μgの組み合わせ、(4)処置群4として抗β2GPI抗体100AUとS-HCQ200μgの組み合わせ、(5)処置群5として抗β2GPI抗体100AUとR-HCQ200μgの組み合わせ、又は(6)処置群6として抗β2GP1抗体100AUとR-HCQ100μgの組み合わせを注射した。
【0070】
APS関連血栓症の2つのバイオマーカーであるE-セレクチンとVCAM-1の血清発現レベルを測定した。処置群3~6における阻害のパーセンテージを、比較群と比較したE-セレクチン及びVCAM-1の発現レベルに基づいて計算した。結果については、以下の表1を参照されたい。E-セレクチン又はVCAM-1の発現レベルが低いと、血栓症の阻害は高いことを示す。
【0071】
表1に示すように、300μg又は200μgのS-HCQで処置したマウスは、R-HCQで処置したマウスと比較して、E-セレクチンとVCAM-1の両方の発現がはるかに低かった。驚くべきことに、200μgのS-HCQで処置したマウスは、200μgのR-HCQで処置したマウスのわずか26.5%と比較して、血栓症を51.4%阻害することが見出された。
【表1】
【0072】
他の実施形態
本明細書に開示される特徴の全ては、任意の組み合わせで組み合わせてもよい。本明細書において開示される各特徴は、同一、同等、又は類似の目的を果たす代替の特徴と置き換えてもよい。別段の明示的な記載がない限り、開示される各特徴は、同等又は類似の特徴の一般的なシリーズの一例にすぎない。
【0073】
上記から、当業者なら、本発明の本質的な特徴を容易に把握することができ、その趣旨及び範囲を逸脱することなく、本発明を様々な用途及び条件に適合させるために様々な変更及び改変を行うことができる。そのため、他の実施形態も以下の特許請求の範囲に含まれる。
【国際調査報告】