(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】神経原性炎症の予防または治療のための多イオン複合体
(51)【国際特許分類】
A61K 33/14 20060101AFI20240517BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240517BHJP
A61K 33/32 20060101ALI20240517BHJP
A61K 33/34 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
A61K33/14
A61P29/00
A61K33/32
A61K33/34
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575390
(86)(22)【出願日】2022-06-03
(85)【翻訳文提出日】2024-01-22
(86)【国際出願番号】 EP2022065271
(87)【国際公開番号】W WO2022254042
(87)【国際公開日】2022-12-08
(32)【優先日】2021-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523455910
【氏名又は名称】オリス・ファーマ・ソチエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100133765
【氏名又は名称】中田 尚志
(72)【発明者】
【氏名】バン・ブセポエル,フィリッペ
(72)【発明者】
【氏名】プルケル,ジャン-フランソワ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA01
4C086HA02
4C086HA09
4C086HA23
4C086HA24
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086NA14
4C086ZB11
4C086ZC61
(57)【要約】
本発明は、神経原性炎症に対する、特に神経-免疫-皮膚-内分泌系(NICE)のレベルでの、増強された治療反応を提供する生物活性相乗性多イオン複合体に関する。これは、リチウム、マグネシウム、およびカリウムの、それぞれ少なくとも1つの無機塩を、リチウム1-マグネシウム[0.13~0.34]-カリウム[1.20~2.40]のモル比で含むことを特徴とする、無機塩を含んだ組成物である。本発明による組成物は、他の無機塩、添加剤、および/または賦形剤も含んでいてよい。組成物は、(糖尿病性または内科的治療後の)神経障害性疼痛、痛みを伴う傷跡、アトピー性皮膚、自己免疫性皮膚疾患、糖尿病性足病変、および/または創傷(火傷、手術創傷など)などの細胞変性を伴う急性または慢性病態と関連した神経原性炎症の予防および/または治療のために、好ましくは局所的に、薬物、医療機器、または化粧剤として使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム、マグネシウム、およびカリウムの、それぞれ少なくとも1つの無機塩を、次のモル比:
リチウム1-マグネシウム[0.13~0.34]-カリウム[1.20~2.40]
で含む、無機塩を含んだ多イオン組成物。
【請求項2】
前記リチウムが0.1~10mmol/kgの濃度で含まれる、請求項1に記載の多イオン組成物。
【請求項3】
カリウムが1.55~1.75のモル比で含まれる、請求項1または2に記載の多イオン組成物。
【請求項4】
マグネシウムが0.15~0.30のモル比で含まれる、請求項1~3のいずれか1項に記載の多イオン組成物。
【請求項5】
少なくとも50重量%の水を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の多イオン組成物。
【請求項6】
pHが6.0~7.5である、請求項1~5のいずれか1項に記載の多イオン組成物。
【請求項7】
塩化リチウム、炭酸リチウム、および/または水酸化リチウムの形態のリチウムを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、および/またはケイ酸マグネシウムの形態のマグネシウムを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、リン酸カリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、ケイ酸カリウム、および/または硫酸カリウムの形態のカリウムを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
少なくとも1種のケイ素塩(silicon salt)、好ましくはケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、および/または任意の他の薬学的に許容されるケイ素の無機塩などのケイ酸塩をさらに含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
さらにマンガンの無機塩を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
さらに銅無機塩を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
安定化剤、乳化剤、保存料、酸化防止剤、および/またはゲル化剤から選択される少なくとも1つの添加剤を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の組成物を調製する方法であって、
・水溶液のpHを6.0~7.5に調整する工程;および、
・リチウム、マグネシウム、およびカリウムの、それぞれ少なくとも1つの無機塩を含む1つ以上の濃縮溶液を前記水溶液に加えて、次のモル比:
リチウム1-マグネシウム[0.13~0.34]-カリウム[1.20~2.40]
を得る工程;
を含む、方法。
【請求項15】
リチウム、マグネシウム、およびカリウムの、それぞれ少なくとも1つの無機塩を含む1つ以上の濃縮溶液を50℃超の温度で加える、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記組成物がケイ素塩をさらに含む場合、あらかじめ別の濃縮水溶液中に溶解され、pH調整の前に加えられる、請求項14または15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記リチウム、マグネシウム、および/またはカリウムの、それぞれ少なくとも1つの無機塩を含む濃縮溶液が、前記組成物の最終濃度に対して100~1000倍の濃度である、請求項14~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
ヒト用の薬剤として使用するための、請求項1~13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項19】
獣医用の薬物として使用するための、請求項1~13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項20】
医療機器として使用するための、請求項1~13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項21】
請求項1~13のいずれか1項に記載の組成物の、非治療用化粧品としての使用。
【請求項22】
局所使用のための、請求項18~20のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項23】
神経原性炎症の局所予防および/または治療に使用するための、請求項18~20のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項24】
神経原性炎症が、神経障害性疼痛、筋骨格疼痛、口腔顔面痛、ヘルペス後疼痛、酒さ、乾癬、アトピー性皮膚炎、結節性痒疹、じんましん,痛みを伴うまたは痛みを伴わない傷跡、糖尿病性足病変、および/または創傷と関連する、使用のための、請求項23に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経原性炎症を予防および/または治療し、細胞恒常性を回復させるための治療反応の分野である。
【背景技術】
【0002】
細胞が(精神的、代謝的、化学的原因などによる)損傷またはストレスを受けると、細胞内マグネシウムMg2+の枯渇が誘発され、損傷を受けた場合には40~60%の濃度に低下する可能性がある(Neuropsychiatric Disease and Treatment 2017:13 275-302)。しかし、Mg2+の細胞内濃度のわずかな変動が細胞過程に影響を与える可能性がある。Mg2+の調節異常は、糖尿病、神経変性疾患、およびメタボリックシンドロームなどに罹患している患者で頻繁に見られる(Magnesium Is a Key Player in Neuronal Maturation and NeuropathologyInt. J. Mol. Sci. 2019, 20, 3439)。
【0003】
マグネシウムは、300を超える酵素反応におけるコファクターとして作用し、エネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)の代謝にとって極めて重要である(Magnesium in Prevention and Therapy, Nutrients, 2015, 7)。
【0004】
マグネシウムは、強力な抗酸化、抗壊死、および抗アポトーシス効果を有する。Mg2+はそれ自体、広範な損傷に対して概して細胞保護的、心臓保護的、および神経保護的である(Neuropsychiatric Disease and Treatment 2017:13 275-302)。
【0005】
体内で4番目に多い無機元素であるマグネシウムは、神経伝達および神経筋伝導にも重要な役割を果たす。低マグネシウム濃度はグルタミン酸作動性神経伝達の上昇と関連しており、興奮毒性を起こしやすい環境をもたらし、それが酸化ストレスおよび神経細胞死をもたらす可能性がある。この過程は、慢性疼痛などのいくつかの神経障害に関与している(The Role of Magnesium in Neurological Disorders, Nutrients, 2018, 10, 730)。
【0006】
マグネシウム欠乏はインスリン抵抗性指数(HOMA-IR)に悪影響を及ぼす。マグネシウムはまた、タンパク質合成、ならびにDNAおよびRNA合成にも不可欠である(Magnesium in Prevention and Therapy, Nutrients, 2015, 7)。マグネシウムは、カリウムおよびカルシウムの膜間移動を調節する。
【0007】
動物においてリチウムを不足させる実験に基づき、リチウムは人体の機能のための必須栄養素と考えられている。他の生物学的に活性なイオンとは異なり、多細胞動物の体液中のリチウム濃度は厳密に制御されていない。その濃度は大きく異なりうる。
【0008】
リチウムは高い生物学的活性を有するが、体液中濃度の極めて大きな変化も許容される。このリチウムの生物学的調節の欠如は、リチウム特異的結合部位および選択性フィルターを欠くことによるものと考えられる。そのため、リチウムは、他の陽イオン、特にナトリウムおよびマグネシウムに対して比較的特異的な高分子部位において、他の元素と競合することにより、その多くの生理的および生化学的効果を発揮する(Towards a unified understanding of Lithium action, Topical Review, 2017, 586)。
【0009】
リチウムおよびマグネシウムは、同様のイオン半径(それぞれ0.60および0.65オングストローム)および同様の物理化学的特性を有しており、依存的マグネシウム酵素(dependent magnesium enzymes)のいくつかの部位に競合的に結合することができる(Lithium: the pharmacodynamic actions of the amazing ion Ther. Adv. Psychopharmacol. (2013) 3(3) 163-176)。これらのイオン半径により、リチウムおよびマグネシウムは容易に細胞膜を通過できる。
【0010】
Li+イオンは、イノシトールモノホスファターゼ(IMPase)/イノシトールポリリン酸 1-ホスファターゼ(IPPase、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK-3))の阻害などの生存および回復メカニズムを活性化する。したがって、リチウムは、優れた保護、抗アポトーシス、抗無酸素、細胞可塑性、および回復反応を生じさせる(A fully integrated new paradigm for lithium’s mode of action - lithium utilizes latent cellular fail-safe mechanisms - Neuropsychiatric Disease and Treatment 2017:13 275-302)。
【0011】
リチウムの標的であるグリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK-3)はセリン/スレオニンキナーゼであり、哺乳類の細胞代謝において調節的な役割を果たす。GSK-3は発生過程の中枢神経系における神経発生、神経分極、および軸索成長を調節する。GSK-3は全ての組織において構成的に活性である(Role of glycogen synthase kinase-3b in ketamine-induced developmental neuroapoptosis in rats - British Journal of Anaesthesia 110 (S1): i3-i9 (2013))。
【0012】
リチウムはGSK-3を阻害し、それによってin vitroおよびin vivoで示されているようにBDNF(脳由来神経栄養因子)の活性を改善する。リチウムがBDNFの発現を増加させる役割を担い、かつBDNFがニューロンの生存に役割を果たしているということは、リチウムが神経変性疾患の治療の役割を担うことを示唆している。Wntシグナル伝達経路は神経変性疾患および癌に関与している。GSK-3のリチウム阻害は、Wntシグナル伝達経路を特異的に阻害することが示されている(Towards a unified understanding of Lithium action, Topical Review, 2017, 586)。
【0013】
GSK3βの阻害による予防的リチウム治療は、ラットにおけるタキソール誘発性GSK3β活性の増加を防止し、これがAKT(プロテインキナーゼB)およびmTOR(ラパマイシンの機構的なターゲット(mechanistic target of rapamycin))活性を同時に減少させ、それによって、タキソール誘発性神経障害性疼痛の発症を予防する(Inhibition of glycogen synthase kinase 3beta activity with lithium prevents and attenuates paclitaxel-induced neuropathic pain Neuroscience. 2013 December 19; 254)。
【0014】
リチウムは、炎症性サイトカインおよびインターロイキンTNF-αの濃度をともに低下させる、抗炎症性を有する。その一方で、リチウムは、セロトニンおよびグルタミン酸などの各種神経伝達物質および/または関連受容体の生合成を調節する。リチウムは抗アロディニア効果を持つことに加え、強い鎮痛性を有するMORアゴニストである脳β-エンドルフィンの産生を刺激する効果も有する(Lithium reverses mechanical allodynia through a μ opioid-dependent mechanism Molecular Pain 2018 Volume 14: 1-8)。
【0015】
リチウムはまた、カルシウム恒常性にも寄与し、依存的アポトーシス促進シグナル伝達経路のカルシウム活性化を妨げる。これはリチウムの細胞保護作用を裏付けるものである(Molecular actions and therapeutic potential of lithium in preclinical and clinical studies of CNS disorders Pharmacol Ther. 2010 November; 128(2): 281-304)。
【0016】
Li+イオンは、いくつかのシグナル伝達系の中心に位置づけられる重要な酵素であるGSK-3酵素を阻害する。そのため、イオンチャネル型グルタミン酸シグナル伝達、複数の転写因子、Wingless(Wnt)/βカテニン関連統合経路(integration pathway)など、複数の下流ターゲットに影響を与える。Wntシグナル伝達は、神経の発達、シナプス形成、および神経可塑性などの構造的な脳プロセスに関与している(Lithium in the treatment of bipolar disorder: pharmacology and pharmacogenetics Mol Psychiatry. 2015 June; 20(6): 661-670)。
【0017】
二金属リン酸ATP-Mg-Li複合体は、血漿または細胞質に見られる通常濃度のATPおよびMg2+で形成される。さらに、生物学的活性に対応する、または細胞質、細胞小器官(ミトコンドリアなど)、および細胞外マトリックスにおけるストレスに応答する、高いATP濃度は、リチウム(Li+)イオンを蓄積するための潜在的なリザーバとして機能する。二金属リン酸複合体ATP-Mg-Liは、リガンドを有するホスフェートまたは受容体コファクターまたは酵素にMg2+と同時結合することによる、リチウムの生物活性型であることが見出されている。ATP-Mg-Li複合体によって、細胞表面プリン受容体のリガンドとしてのATPの正常な機能を調節することによる、リチウムイオンの作用が可能となる。前記受容体には2種のサブタイプがある:P2Xは、細胞外カルシウムイオン(Ca2+)の細胞質への流入を媒介するイオンチャネルであり;P2Yは、Gタンパク質共役受容体(GPCR)であって、イノシトール三リン酸のセカンドメッセンジャー経路を活性化し、細胞に貯蔵されているカルシウムイオンを放出して、中枢神経系および末梢のシグナル伝達を調節する(A Molecular Model for Lithium’s Bioactive Form - Biophysical Journal 111, 294-300, July 26, 2016)。
【0018】
カリウムも必須元素である。これは、細胞内液中に最も多量に存在する陽イオンであり、特に筋肉および神経などの興奮性細胞において、細胞機能の維持に重要な役割を果たす。カリウム欠乏は、耐糖能異常および糖尿病と関連する。K+と細胞外Na+の相互作用は、リチウムなどのイオンの交換と平衡を促す水の移動を増加させる(Potassium Intake, Bioavailability, Hypertension, and Glucose Control Nutrients 2016, 8, 444)。
【0019】
これら3つのイオンの活性の調節不全は、特に神経-免疫-皮膚-内分泌(Neuro-Immuno-Cutaneous-Endocrinien)(NICE)系における神経原性炎症と関連する。神経原性炎症は、特に、神経障害性疼痛(糖尿病性末梢神経障害性疼痛、腫瘍内科的治療後の神経障害性疼痛など)、筋骨格疼痛(腰痛、線維筋痛、変形性関節症、複合局所疼痛症候群)、口腔顔面痛、ヘルペス後疼痛、酒さ、乾癬、アトピー性皮膚炎、結節性痒疹、じんましん,痛みを伴うまたは痛みを伴わない傷跡(火傷痕、手術瘢痕など)、糖尿病性足病変(乾燥-硬結-潰瘍など)、および創傷と関連する。
【0020】
これらの調節不全は、個別にまたは同時に強い影響を及ぼす。
特に、例えば細胞変性、角質増殖、乾燥症、剥離、創傷などの、また神経皮膚レベルでは灼熱感、電撃、刺痛、そう痒、および末梢疼痛などの、神経原性炎症およびその生理学的影響に対する治療反応を提供するためには、同時的な、バランスの取れたアプローチが望ましい。
【発明の概要】
【0021】
本発明者らは、リチウム、マグネシウム、およびカリウムの特定のモル比の特定の混合物を含む組成物が、それ単独で、とりわけ局所投与において、神経原性炎症の予防および/または治療を特に効果的な様式で可能にすることを見出した。
【0022】
本発明は、神経原性炎症に対する増強された生物学的反応を提供する、生物活性相乗性多イオン複合体に関する。
これは、リチウム、マグネシウム、およびカリウムの、それぞれ少なくとも1つの無機塩を、次のモル比:
リチウム1-マグネシウム[0.13~0.34]-カリウム[1.20~2.40]
で含む、無機塩を含んだ多イオン組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
好ましくは、組成物中のリチウム濃度は、0.1~10mmol/kgである。
好ましくは、マグネシウムのリチウムに対するモル比は、[0.14~0.32]、好ましくは[0.15~0.30]、好ましくは[0.18~0.25]である。
【0024】
好ましくは、カリウムのリチウムに対するモル比は[1.30~2.30]、好ましくは[1.30~2.15]、好ましくは[1.~2.15]、好ましくは[1.55~1.75]、好ましくは[1.58~1.72]、また好ましくは[1.61~1.70]である。
【0025】
本発明による無機塩とは、炭酸塩を例外として、炭素を含まない塩のことを指す。
この生物活性多イオン複合体は、モル比の特定のアルゴリズムに従った「マグネシウム-リチウム-カリウム」の新規組み合わせからなる。神経原性炎症に対する治療反応に応じて成分のうちの1つを適合させれば、他の2元素の濃度が比例的に適合されることとなる。
【0026】
この新規アルゴリズムによる組み合わせは、特に局所適用によって、自ずから進行する炎症促進の悪循環を断ち切ること、多くの病状で変化が見られるこれらイオンの細胞恒常性を回復させること、これらイオンの結合部位の動的競合を促進し、修正された生理学的反応(酵素反応、代謝反応、および神経伝達など)を得ること、および、損傷に対する細胞応答を強化する増強された相乗反応を生み出し、神経原性炎症を迅速かつ持続的に管理すること、を同時に可能にする。
【0027】
その作用は、神経原性炎症によって変化した恒常性、特にマグネシウムとそのイオン形態Mg2+の恒常性の回復を促進し、それらの濃度に大きく影響を与えて、最適な細胞生理機能の回復、細胞代謝の改善、皮膚および神経皮膚レベルでの細胞保護機能の回復、ならびに神経レベルでの抗アポトーシス活性に寄与することができる。
【0028】
その作用はカリウムのリバランスを促進し、特に神経細胞などの興奮性細胞において、細胞機能を維持する上での重要な役割を回復させる。また、カリウムとナトリウムの相互作用をイオン形態のK+と細胞外Na+の相互作用として促進し、イオン、特にリチウムイオンの交換および平衡を促す液体の移動を増加させる。リチウムは強力な生物学的活性を持つ。リチウムの濃度は細胞内および細胞外液で大幅に変化することがあるが、リチウムはその濃度を調節するための独自の系を持たない。したがって、外部取り込み量を治療上の必要性に応じて調整し、重み付けを行って、適合させる必要がある。
【0029】
生物活性多イオン複合体は、リチウム、マグネシウム、およびカリウムを結びつけるものであり、これらが上記の複数の生理的および生化学的効果を発揮する。
リチウムは、その重要な抗炎症特性に加えて、痛みを軽減する脳β-エンドルフィンの産生を刺激する効果を有するセロトニンやグルタミン酸などの神経伝達物質の生合成の調節作用を有している。
【0030】
リチウムとマグネシウムは連結している。ATP-Mg-Li二金属リン酸複合体は、リガンドを有するホスフェートまたは受容体コファクターまたは酵素にMg2+と同時結合することによって作用する、リチウムの生物活性型であることが見出されている。この二金属リン酸複合体は、血漿または細胞質に見られる通常濃度のATPおよびMg2+で形成される。また、細胞質、およびミトコンドリアなどの細胞小器官のATP濃度を上昇させるような高ストレスの状況では、細胞外マトリックスがLi+を蓄積する潜在的なリザーバとして機能する。
【0031】
本発明に従ったモル比の具体的な組み合わせのみが、細胞毒性の無いことを保証し、したがって、組織、特に感受性がより高い神経組織の恒常性との適合性を保証し、神経原性炎症の予防および/または治療のための重要な有効性を得ることを可能にする。本発明に従った定義を満たす組成物のみが、特にニューロンの保護作用、ならびに神経原性炎症の誘導因子とみなされる治療法であるシスプラチンによって引き起こされる損傷に対する、神経突起(軸索-樹状突起)およびミエリン鞘の保護および修復作用、を可能にする。このような驚くべき効果の達成の背後にあるメカニズムを前もって判断するものではないが、本発明に従ったモル比のリチウム、マグネシウムおよびカリウムのこの組み合わせのみが、ヒトおよび動物の複雑な環境において、これら元素のそれぞれの生物学的活性を最適化することを可能にすると考えることができる。それは、炎症促進の悪循環のレベルでの抑制効果、これらイオンに変化が見られる場合の、特に、ミトコンドリアの最適な機能に不可欠なマグネシウムとそのイオン形態Mg2+の細胞恒常性に変化が見られる場合の、それらイオンの細胞恒常性の回復;ならびにイオンチャネルのレベルでの、およびこれらのイオンの結合部位に対する、動的競合効果であって、リチウムの毒性を減ずるための細胞内および細胞外液の移動の増加と関連した効果;の両者を含み、特に、免疫、酵素、代謝、および神経伝達反応の活性化、損傷に対する抵抗性および細胞応答を皮膚および神経皮膚レベルでの細胞保護作用によって強化する、増強された相乗反応、ニューロン興奮性のポテンシャルの回復、ならびに、細胞外ATPによって活性化されたアポトーシス経路の阻害を含む。
【0032】
リチウムは組成物中に0.1~100mmol/kgの濃度で存在する。組成物中のリチウムの濃度は、好ましくは0.5~50mmol/kgであり、より好ましくは1~25mmol/kgであり、例えば、1.1~6mmol/kgであり、または、1.7~6mmol/kgである。局所適用の場合、標的細胞の効果的な曝露(exposition)は、剤形および/または皮膚の状態に依存する。理想的には、標的細胞は10mmol/kg超の濃度で曝露されない。そうでない場合、毒性が神経原性炎症治療の利益を上回るおそれがある。0.1mmol/kg未満では、その有効性が不十分である。
【0033】
局所適用の状況において、本発明の組成物は、これらのイオン、特にMg2+の細胞恒常性を回復させて結合部位に対する動的競合を促し、また、増強された相乗反応を生み出すことを同時に目的とする。
【0034】
好ましくは、本発明による組成物は水性組成物であり、好ましくは6.0~7.5のpHを有する。必要な場合、緩衝液を用いてpHを調整する。調整は局所適用の媒介物(vector)に応じて、例えばスプレーの形態の水であるか、またはゲル、クリームもしくはゲルクリーム、あるいは他の媒介物であるかに応じて行う。このpHは理想的には、イオンの細胞および膜透過を最適化するために、6.5±7.5のオーダーの中程度の酸性度を目指す。
【0035】
本発明の組成物は、神経原性炎症の予防および/または治療、特に神経-免疫-皮膚-内分泌系(NICE)のレベルでの予防および/または治療に関する。
神経原性炎症は、特に、神経障害性疼痛(糖尿病性末梢神経障害性疼痛、内科的治療後の神経障害性疼痛)、筋骨格疼痛(腰痛、線維筋痛、変形性関節症、複合局所疼痛)、口腔顔面痛、ヘルペス後疼痛、酒さ、乾癬、アトピー性皮膚炎、結節性痒疹、じんましん,痛みを伴うまたは痛みを伴わない傷跡(火傷痕、手術瘢痕など)、糖尿病性足病変(乾燥-硬結-潰瘍)、および創傷と関連する。
【0036】
実際、本発明による、この生物活性多イオン複合体「マグネシウム-リチウム-カリウム」は、特に、皮膚レベルでは角質増殖、乾燥症、落屑、創傷などの、また、神経皮膚レベルでは灼熱感、電撃、刺痛、そう痒、およびの末梢疼痛などの、神経皮膚病態の生理学的および細胞学的影響に対して調節可能な治療反応を提供する。
【0037】
本発明の組成物を、皮膚神経原性炎症の予防および/または治療、ならびに神経-免疫-皮膚-内分泌系の恒常性の回復のために、特に局所的に、使用してよい。
リチウム、マグネシウム、およびカリウムの、それぞれ少なくとも1つの無機塩とは、これらの種が水中でイオン形態で存在することを意味する。陽イオンLi+、Mg2+、およびK+は1つ以上の陰イオンと関連する。すなわち、それらは塩の混合物由来、および/またはそれぞれが異なる塩に由来するものでありうる。
【0038】
有利には、リチウムは塩化リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、および/または任意の他の薬学的に許容される無機塩の形態で組成物に導入される。好ましくは、局所使用のため、組成物は塩化リチウムを含む。
【0039】
有利には、マグネシウムは塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、および/または任意の他の薬学的に許容される無機塩の形態で組成物に導入される。
【0040】
好ましくは、局所使用のため、組成物は塩化マグネシウムを含み、これは水和した形態であってもよい。
有利には、カリウムは塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、リン酸カリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、ケイ酸カリウム、硫酸カリウム、および/または任意の他の薬学的に許容される無機塩の形態で組成物に導入される。好ましくは、局所使用のため、組成物は塩化カリウムを含む。
【0041】
本発明の組成物は、他の無機塩を含んでいてよい。
組成物は、例えば、少なくとも1種のケイ素塩(silicon salt)、好ましくは、水和物であってもよいケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)もしくはケイ酸カリウムなどのケイ酸塩、および/または任意の他の薬学的に許容される無機塩を、特に局所適用において、含んでいてよい。
【0042】
ケイ素は、線維芽細胞の刺激に関与するプロリルヒドロキシラーゼのコファクターである。ケイ素は、毛細血管の透過性を減少させ、抗浮腫、鎮静、および回復効果を有し、特に深い火傷における肉芽出現時間を短縮し、表皮形成およびそれによる治癒過程を促進する。
【0043】
ケイ素は、免疫および炎症反応に影響を与えるリンパ球周期の調節に関与する。
ケイ素は、内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)、血管内皮増殖因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、上皮増殖因子(EGF)、活性化B細胞軽鎖カッパ-リリービング(kappa-relieving)核因子(NF-κB)、および各種サイトカイン(TNF-αおよびIL-1β)の創傷における発現量を低下させる。
【0044】
提案された病態の基礎となる皮膚神経原性炎症に応じて、他の塩に対するケイ素の割合を適合させる。
組成物は、例えば、塩化マンガン、硫酸マンガン、炭酸マンガン、および/または、薬学的に許容される任意の他のマンガンの無機塩などの、マンガンの少なくとも1種の無機塩を、特に局所適用において、含んでいてよい。
【0045】
マンガンは、多くの酵素プロセスにおけるコファクターとしての役割を介して、神経組織の生理学および生物学に関与している。マンガンはまた、角化細胞の遊走を促進するインテグリンの調節を介して創傷治癒に有益な効果を有する。マンガンはまた、マグネシウムと相乗的に作用することによって、耐糖能を調節する重要な役割を果たしており、特に神経および表皮の代謝ストレスの減少を可能にする。
【0046】
組成物は、慢性創傷(潰瘍、褥瘡)、急性創傷(火傷、外傷、手術創傷など)の治療のために、例えば、硝酸銀などの少なくとも1種の銀無機塩を、その抗菌性を理由として含んでいてよい。
【0047】
組成物は、例えば、クエン酸塩、オロエート(oroate)、硫酸亜鉛などの亜鉛の少なくとも1種の無機塩を含んでいてよい。これらは、DNAおよびタンパク質合成、創傷治癒、インスリン代謝、神経系の発達および適切な機能など、多くの不可欠な酵素プロセスで重要な役割を果たしている。
【0048】
組成物は、例えば、炭酸銅などの少なくとも1種の銅無機塩を含んでいてよい。銅は、炭水化物、脂肪、および鉄の代謝に関与するいくつかの酵素の構成要素である。銅は抗酸化作用がある。
【0049】
局所組成物は、治療(治癒または予防)対象の身体の部分に直接適用することを意図した組成物である。その部分は皮膚でありうる。また、その部分は口腔粘膜などの粘膜でありうる。本発明の組成物は皮膚用であってよい。すなわち、皮膚への外用を意図するものであってよい。好ましくは、組成物は、クリームまたはゲルの形態であり、したがって、ゲルまたはクリームの形成に必要な賦形剤を含んでいてよい。
【0050】
本発明の組成物の無機塩は水に溶解させる。すなわち、組成物の主溶媒は好ましくは水である。水は、組成物の少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%、少なくとも80%、また好ましくは90%に相当する。組成物は、他の液体成分、特に、脂肪性物質、軟化剤、乳化剤、界面活性剤、グリセリンなどの、無機塩の皮膚吸収を促進するための液体成分;または、当業者が有用とみなす任意の他の薬剤;を含んでいてよい。
【0051】
本発明の組成物は、他の分子、添加剤、または賦形剤、例えば、保存料、抗生物質、安定化剤、増粘剤、酸化防止剤なども含んでいてよい。これらの添加剤は、本発明の組成物の保存や、組成物の最終的なテクスチャーにとって有用であり得る。
【0052】
例えば、ゲル化剤を使用して、皮膚上に拡げるゲルの形態で組成物を製剤化することができる。スプレーの形態の製剤の場合、粘度は低目のままであるのが好ましい。
組成物は、例えば、ビタミンEなどの1つ以上のビタミンを含んでいてよい。ビタミンEは強力な抗酸化物質であり、免疫機能を調節する。
【0053】
本発明はまた、組成物を調製する方法であって、
・水溶液のpHを6.5~7.5に調整する工程;および、
・リチウム、マグネシウム、およびカリウムの、それぞれ少なくとも1つの無機塩を含む1つ以上の濃縮溶液を前記水溶液に加えて、次のモル比:
リチウム1-マグネシウム[0.13~0.34]-カリウム[1.20~2.40]
を得る工程;
を含む方法に関する。
【0054】
好ましくは、0.1~10mmol/kgのリチウム濃度が得られる。
好ましくは、リチウム、マグネシウム、およびカリウムの、それぞれ少なくとも1つの無機塩を含む1つ以上の濃縮溶液を、50℃超の温度で加える。
【0055】
組成物がケイ素塩を含む場合、それは別の水溶液にあらかじめ溶解されたものであり、その水溶液は好ましくはpH調整の前に添加される。例えば塩化水素、任意に例えば水酸化ナトリウムによって緩衝した塩化水素を用いて、この溶液のpHを6.5~7.5の値に達するように調整し、その後、溶液をリチウム、マグネシウム、およびカリウムを含む組成物に加えることができる。
【0056】
リチウム、マグネシウム、および/またはカリウムの、それぞれ少なくとも1つの無機塩を含む濃縮溶液は、組成物の最終濃度と比較して好ましくは100~1000倍、好ましくは300~800倍に濃縮されたものである。
【0057】
使用する塩の溶解限度が、この濃縮溶液の可能な最高濃度を決定する。ミネラルを濃縮した溶液を使用することで、これらミネラルの再沈殿が回避される。このためには、pH調整が不可欠である。
【0058】
本発明はまた、皮膚治療のための本発明による局所組成物であって、リチウム、マグネシウム、およびカリウムの、それぞれ少なくとも1つの無機塩を水中に含み、次のモル比:リチウム1-マグネシウム[0.13~0.34]-カリウム[1.20~2.40]および0.1~10mmol/kgのリチウム濃度を特徴とする、局所組成物に関する。
【0059】
局所組成物は、好ましくは溶液、ゲル、クリーム、またはスプレーである。
本発明は、本発明による組成物の、ヒト用または獣医用の医薬としての使用に関する。
本発明はまた、本発明による組成物の、医療機器としての使用に関する。
【0060】
本発明はまた、本発明による組成物の、非治療用化粧品用途に関する。
好ましくは、本発明による組成物は、治療用途では局所的に使用され、化粧品用途における場合と同様である。
【0061】
本発明による組成物は、特に、神経原性炎症の予防および/または治療のために特に局所的に使用してよく、また、特に炎症促進の悪循環を断ち切ることに使用してよく、ニューロンの保護、神経突起(軸索-樹状突起)およびミエリン鞘の保護および修復、ならびに細胞機能および組織恒常性の回復を特に神経-免疫-皮膚-内分泌系のレベルで保証するために、使用してよい。
【0062】
神経原性炎症は、神経障害性疼痛(糖尿病性末梢神経障害性疼痛、内科的治療後の神経障害性疼痛)、筋骨格疼痛(腰痛、線維筋痛、変形性関節症、複合局所疼痛)、口腔顔面痛、ヘルペス後疼痛、酒さ、乾癬、アトピー性皮膚炎、結節性痒疹、じんましん,痛みを伴うまたは痛みを伴わない傷跡(火傷痕、手術瘢痕など)、糖尿病性足病変(乾燥-硬結-潰瘍)、および/または創傷と関連するものであってよい。
【0063】
局所治療、特に皮膚治療は、神経原性炎症が介在する神経-免疫-皮膚-内分泌(NICE)病態の予防または治療であってよい。
皮膚治療は、皮膚修復または火傷を含む傷の修復を意図するものであってよい。この場合、ケイ素の存在が望ましい。なぜなら、ケイ素は冷却効果を与え、毛細血管の透過性を減少させ、メディエーターおよび炎症促進免疫細胞の通過を調節し、肉芽形成および構造的な再上皮化を促進するためである。
【0064】
皮膚修復のための本発明の局所組成物は、有利に包帯に吸収されたものであってよく、好ましくは無菌的に包装されたものであってよい。
本発明はまた、対象における疾患、特に神経原性炎症を予防および/または治療する方法であって、本発明による組成物の治療的有効量を、好ましくは局所的に、特に皮膚および/または粘膜に、投与することを含む方法に関する。
【0065】
対象は、それを必要とする任意の対象、特に神経原性炎症に罹患している、または罹患するおそれのある対象でありうる。対象は好ましくはヒトまたは動物である。
本発明はまた、対象に、好ましくは局所的に、特に皮膚および/または粘膜に、本発明による組成物を投与することを含む、美容法に関する。対象はヒトまたは動物でありうる。
【0066】
本発明は、以下の説明を用いてよりよく理解されるであろう。
実施例1 - メタケイ酸ナトリウムを濃縮した溶液1
45gのメタケイ酸ナトリウム五水和物(212mmol;CAS 10213-79-3、VWR製品番号28092)を500gの純水(milliQ)に溶解し、溶液1とする。
【0067】
実施例2 - リチウム、マグネシウム、およびカリウムを濃縮した溶液2
36.7gの塩化リチウム(866mmol;CAS 7447-41-8;VWR Analar NORMAPUR(登録商標)欧州薬局方試薬規格、分析用)、38.5gの塩化マグネシウム六水和物(189.4mmol;CAS 7791-18-6、AMRESCO製品番号0288)、および104.84gの塩化カリウム(1406mmol;CAS 7447-40-7;VWR塩化カリウムGPR RECTAPUR(登録商標))を500gの純水(milliQ)に溶解し、溶液2とする。
【0068】
実施例3 - マンガンを濃縮した溶液3
550mgの塩化マンガン(II)四水和物(2.78mmol;CAS 13446-34-9、VWR NORMAPUR(登録商標)ACS、分析用)を500gの純水(milliQ)に溶解し、溶液3とする。
【0069】
実施例4 - 溶液4
10.05kgの植物性グリセリン、2.01kgのエチルヘキサン酸セテアリル(Massocare(商標)CO)、1.00kgのMontanov(商標)L乳化剤、および0.67kgのLipocire(商標)A SG(Gattefosse)を容器に入れ、82℃で加熱する。
【0070】
実施例5 - 組成物1
撹拌機能を備えた100kg DUMEKタンクに、50,527kgの浸透水(osmosis water)を入れる。72.76gの溶液1(すなわち28.3mmolのSi元素)を加えた。溶液を80℃±2℃に加熱し、撹拌する。溶液の温度上昇の間に、濃塩酸(5.9g)を加えてpHを調整し、pH7.13にする。
【0071】
次に、68.71gの溶液2(すなわち87.5mmolのLi、19.1mmolのMg、および142.0mmolのK)ならびに50.52gの溶液3(すなわち0.3mmolのMn)を加え、ホモジナイズする。
【0072】
次に、溶液4を82℃で加え、ホモジナイズする。
次に、65℃±2℃で冷却し、737gのポリアクリル酸ナトリウム(Safit Care T SP)(ここでは増粘機能を有する)を加え、ホモジナイズする。
【0073】
次に、溶液を55℃で冷却し,670gのジメチコン(Xiameter PMX1503液)を加え、ホモジナイズした。ジメチコンは、その皮膜形成効果のためにここで使用されており、脱水を減らして鎮静効果を提供する。
【0074】
次に、防腐剤として804gのMikrokill(商標)COS(Lonza)を加え、ホモジナイズする。
次に、溶液を27℃で冷却し、335gのビタミンEアセテートを加えてホモジナイズすることにより、pH6.1および密度1.018を有することを特徴とする67.00kgの最終組成物を得る(体積65.81L)。
【0075】
したがって、組成物1(ゲルクリーム)の無機元素の最終濃度は以下の通りである:
・0.42mmol/kg Si
・1.31mmol/kg Li
・0.28mmol/kg Mg
・2.12mmol/kg K
・0.004mmol/kg Mn。
【0076】
実施例6 - 生物学的活性
以下に定義する多イオン組成物の予防的および治療的神経保護特性を、感覚ニューロンのin vitro培養で研究した。
【0077】
感覚ニューロンは末梢神経系の一部である。それらの細胞体は脊髄に沿って背側脊髄神経節(「脊髄後根神経節」D.R.G.)に位置しており、四肢遠位端まで伸びている。感覚ニューロンの特性の1つは、それらが神経切断後に伸長部分を再生する能力である。この性質は、軸索の成長のための特定の成長因子を放出する末梢神経系のシュワン細胞、栄養細胞、およびミエリン化細胞の存在と関連している。
【0078】
使用されるin vitroモデルは、シュワン細胞によってミエリン化された感覚ニューロンの培養物である(Callizot et al.,2011, Exp Cell Res 317:2374-2383)。96ウェル内に小型化されたこのモデルにより、感覚ニューロンの発達およびシュワン細胞による軸索のミエリン化に及ぼす、各種分子の効果を分析することが可能である。
【0079】
感覚ニューロンとシュワン細胞の共培養のプロトコル:
妊娠15日目の雌のラットを頸椎脱臼により屠殺し(Wistarラット;January Lab)、胎仔を子宮から取り出した。胚DRGを回収し、2%ペニシリン・ストレプトマイシン(PS;PanBiotech、製品番号:P06-07100、バッチ:7390220)および1%ウシ血清アルブミン(BSA;PanBiotech、製品番号:P06-1391100、バッチ:H200403)を含むLeibovitz 15(L15;PanBiotech、製品番号:P04-27055、バッチ:4590720)の氷冷培地(icy medium)中に入れた。DRGを、37℃で20分間(min)のトリプシン処理により分離した(トリプシンEDTA 1X;PanBiotech、製品番号:P10-023100、バッチ:3590720)。反応をDNase IグレードII(0.1mg/ml;PanBiotech、製品番号:P60-37780100、バッチ:H181015)および10%ウシ胎仔血清(FCS;Invitrogen、製品番号:10270106、バッチ:2232584)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;PanBiotech、製品番号:P04-03600、バッチ:4080720)の添加により停止させた。その後、10mlピペットを3回通過させることで細胞を機械的に分離した。次に、細胞を、L15培地中のBSA(3.5%)の層上において+4℃で10分間、180×gで遠心した。上清を捨て、細胞ペレットを、2% B27(Invitrogen、製品番号:17504-044、バッチ:2193553)、L-グルタミン(2mM;PanBiotech、製品番号:P04-80100、バッチ:3301019)、2% PS、および50ng/ml NGF(Sigma、製品番号:N1408、Lバッチバッチ:SLCG1641)を含むNeurobasal(Invitrogen、製品番号:21103049、バッチ:2176355)からなる合成培地中に再懸濁した。次いで、トリパンブルー排除試験を用いて、生細胞をノイバウアーサイトメーターでカウントした。細胞を、96ウェルプレート(ポリ-D-リジンであらかじめコーティングしたもの;Greiner、製品番号:655940、バッチ:E20093UL)に12,000~20,000細胞/ウェルの密度で播種し、加湿空気(95%)/CO2(5%)雰囲気中で37℃で増殖させた。中央の半分を、新鮮な中央と2日ごとに交換した。細胞を7~12日間保持し、シュワン細胞および感覚ニューロンを増殖させる。8日目に、培地に50μg/mlのアスコルビン酸(AA;Sigma、製品番号:092902、バッチ:05316HJ-438)を加え、シュワン基底細胞(Schwann basal cells)からミエリン化シュワン細胞への分化を開始させる。
【0080】
この条件下でAAを用いた5日間の培養後、ミエリン鞘をミエリンの初期マーカーに対する抗MAG抗体(ミエリン抗原糖タンパク質)で検出する。
A.シスプラチン中毒後のミエリン化感覚ニューロンに対する多イオン組成物の神経保護特性の研究:治療プロトコル
本研究の目的は、培養下のミエリン化感覚ニューロンのシスプラチン中毒後における、多イオン組成物の神経保護効果を、3種の異なるリチウム濃度で評価することである。この培養においては、多イオン組成物をシスプラチンと同時にインキュベートする。
A.1.プロトコル
A.1.1.シスプラチン調製、曝露、および処理:治療プロトコル
シス-ジアンミンプラチン(II)ジクロリド(シスプラチン;Sigma、製品番号:P4394、バッチ:MKCL0026)を、培地で10mg/mlにした(ストック溶液)。対照環境を同じ条件で準備した。AAを用いた12日間の培養後、一次感覚ニューロンを、多イオン組成物を用いて、シスプラチン中毒有りまたは無しで、24時間処理した。対照培地中に12μMの最終濃度に希釈したシスプラチン製剤をニューロンに対して使用し、24時間の培養を行った。試験対象の多イオン組成物は、塩化リチウム、塩化マグネシウム六水和物、および塩化カリウムを水に溶かして得られ、以下を含む。
【0081】
1. KY21400: Li 10.37mmol/kg、Mg 2.27mmol/kg、K 16.88mmol/kg
2. KY21310: Li 5.76mmol/kg、Mg 1.26mmol/kg、K 9.38mmol/kg
3. KY21200: Li 1.73mmol/kg、Mg 0.38mmol/kg、K 2.81mmol/kg
次の条件を試験した。
【0082】
・対照培地
・対照+シスプラチン(12μM、24時間)
・多イオン組成物KY21400、KY21310、またはKY21200+シスプラチン(12μM、24時間)
・多イオン組成物KY21400、KY21310、またはKY21200
・対照+各種濃度の個々のイオン
・対照+シスプラチン(12μM、24時間)+各種濃度の個々のイオン
培養は各条件ごとに6個のウェルを用いて行った。
A.1.2.主要評価項目:シスプラチン中毒後、および中毒無しの場合の、感覚ニューロン総数の測定、ならびに感覚ニューロンの神経突起の長さおよびミエリン鞘の長さの評価
シスプラチン中毒有りまたは無しで24時間処理を行った後、細胞を酢酸/エタノール(5/95)の溶液で5分間、-20℃で固定し、対照条件についても同じ手順に従って固定を行った。次に、細胞を透過処理し、非特異的部位を、0.1%サポニン(Sigma;製品番号:S7900、バッチ:BCBL8667V)および1%FCSを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS;PanBiotech;製品番号:P04-36500、バッチ:2620121)で室温にて15分間~30分間ブロックした。次に、細胞を、1%FCSおよび0.1%サポニンを含むPBS溶液中のウサギ抗ニューロフィラメントポリクローナル抗体(NF;1/500、Sigma;製品番号:N0142、バッチ:083M4833)および抗MAGマウスモノクローナル抗体(1/400、Sigma;製品番号:MAB1567、バッチ:3227322)と4℃で12時間インキュベートした。
【0083】
個々のイオンの毒性を評価するために、細胞を3日間の処理後に固定する。細胞を、ブロッキング緩衝液中の抗β-チューブリンマウスモノクローナル抗体(1/2000、Sigma;製品番号T8660-.2mL;バッチ:034M4790V)とともに4℃で12時間インキュベートする。
【0084】
これらの抗体を、1% FCSおよび0.1%サポニンを含むPBS中のAlexa Fluor 488ヤギ抗マウスIgG(1/400、Molecular Probes、製品番号:A11001、バッチ:2247988)およびAlexa Fluor 568ヤギウサギ抗ウサギIgG(1/400,Molecular Probes、製品番号:A11011、バッチ:2017252)を用いて、室温で1時間可視化した。細胞核を、同一緩衝液中の蛍光マーカー(Hoechst溶液、Sigma;製品番号:H-33258、バッチ:046M4048V)で標識した。
【0085】
各条件について、ウェルあたり20枚の画像をInCell Analyzer(登録商標)2200(GE Healthcare)を用いて20倍の倍率で撮影した。各ウェルの培養物の画像は同じ条件下で撮影された。分析は、Developerソフトウェア(GE Healthcare)を使用して行った。各実験条件あたり計6データを提供した。
A.1.3.統計
データは平均±標準誤差で表した(各条件あたり6データ、1回の培養より)。データのグローバル分析を、Dunnett検定に続いて一方向分散分析(ANOVA)を用いて行った。
【0086】
有意水準はp<0.05に設定される。p値が0.05以上となる結果は有意ではない(「n.s.」)とみなし、確定的ではないものとする。
A.2.結果
A.2.1.感覚ニューロンの生存に対する多イオン組成物の効果
多イオン組成物のみ(KY21400、KY21310、およびKY21200)による24時間の処理では、細胞生存率は調節されない(対照に対してそれぞれ95%、96%、および101%)。
【0087】
12μMのシスプラチンは、感覚ニューロンの生存率の有意な低下を誘導する(細胞死61%、p<0.001)。
24時間のシスプラチン傷害中に多イオン組成物(KY21400、KY21310、およびKY21200)で処理することにより、ニューロンの細胞死を部分的かつ有意に予防することができる(それぞれ死細胞32%(p<0.05)、31%(p<0.05)、および32%(p<0.05))。
A.2.2.感覚ニューロンの神経突起の長さに対する多イオン組成物の効果
健常細胞を多イオン組成物KY21400、KY21310、およびKY21200で24時間処理すると、感覚ニューロンの神経突起の長さのわずかな増加が誘導されるが、増加は有意ではない(対照に対してそれぞれ31%、34%、および54%)。
【0088】
12μMのシスプラチンは、感覚ニューロンの神経突起の長さの有意な減少を誘導する(神経突起の65%を喪失、p<0.01)。
本発明による多イオン組成物KY21310およびKY21200を用いた処理により、シスプラチン傷害の感覚ニューロンの神経突起の長さを24時間効果的に保護することができる(神経突起の喪失はそれぞれ19%(p<0.05)および11%(p<0.05))。
【0089】
しかし、多イオン組成物KY21400を用いた処理では、シスプラチン傷害の感覚ニューロンの神経突起の長さを24時間、部分的に保護することができるが、保護は有意ではない(神経突起の喪失は28%)。
【0090】
並行して、個別のイオンの、または2種ずつのイオンの組み合わせの、感覚ニューロンの生存率および神経突起の長さに対する効果も、同じ条件下で評価した。溶液は全て試験対象イオンの塩化物から調製した。
【0091】
結果を表1に示す。
【0092】
【0093】
表の12~13行目は、リチウムをマグネシウムまたはカリウムイオンの一方のみと組み合わせた場合には40mg/kgで強い毒性があることを示しているが、リチウムは同一濃度の他の2種のイオンの存在下では、もはや毒性がない。したがって、リチウム、マグネシウム、およびカリウムの3つのイオンの組み合わせは相乗効果を実際に有している。
【0094】
個別のイオンが感覚ニューロンの生存率および神経突起の長さを保護する能力についても並行して試験した。結果を表2に示す。
【0095】
【0096】
多イオンの組み合わせはシスプラチン誘発アポトーシスから感覚ニューロンを有意に保護するが、個別のイオンはいずれも、同様の濃度で試験した際に感覚ニューロンを有意に保護しない。カリウムとマグネシウムの組み合わせに対しても同様なことが言え、感覚ニューロンの生存率を有意に改善しない。この違いはおそらく、個別のイオンと比較して多イオンの組み合わせのほうが毒性が低下し、したがって毒性よりも保護効果が優勢になるためである。
【0097】
マンガンも同じ条件下で0.15mg/kg~1.2mg/kgの濃度範囲で試験したが、ニューロンの生存率または神経突起の長さに有意な効果を示さなかった。
本発明によるリチウム-マグネシウム-カリウムの他の組み合わせも試験した。それらを表3に示す。
【0098】
【0099】
組成物C12~C16は本発明に従ったモル比の範囲外であり、他の組成物、C1~C11は本発明のアルゴリズムを代表するものである。
イオンの組み合わせが感覚ニューロンの生存率および神経突起の長さに及ぼす効果を、上記と同じ条件下で評価した。溶液は全て試験対象イオンの塩化物から調製した。
【0100】
結果を表4に示す。
【0101】
【0102】
上記結果は、本発明の組成物が、シスプラチンによって誘発された感覚ニューロンのアポトーシスを、請求項に記載した全範囲にわたって有意に減少させることを示している。カリウムおよび/またはマグネシウムが本発明に従ったモル比の範囲を下回る場合および/または上回る場合(C12~C16)は、前記組み合わせはもはや機能しない。
【0103】
A.2.3.感覚ニューロンのミエリン鞘の長さに対する多イオン組成物の効果(予防プロトコル)
健常細胞を多イオン組成物KY21400、KY21310、およびKY21200で24時間処理しても、感覚ニューロンのミエリン鞘の長さは調節されない(対照に対してそれぞれ89%、97%、および89%)。
【0104】
12μMのシスプラチンは、感覚ニューロンのミエリン鞘の長さの有意な減少を誘導する(ミエリンの78%を喪失、p<0.001)。
多イオン組成物KY21310およびKY21200を用いた処理により、シスプラチン傷害の感覚ニューロンのミエリン鞘の長さを24時間有意に保護することができる(ミエリンの喪失はそれぞれ46%(p<0.05)および34%(p<0.01))。
【0105】
しかし、KY21400多イオン組成物を用いた処理は、24時間のシスプラチン傷害後のミエリン鞘の長さのわずかな増加を誘導するが、増加は有意ではない(ミエリンの喪失は66%)。
B.シスプラチン傷害後のラットミエリン化一次感覚ニューロンに対する多イオン組成物の神経保護効果:保護プロトコル
本研究の目的は、シスプラチン傷害後のラットミエリン化感覚ニューロンに対する、多イオン組成物の神経保護効果を調べることであった。
B.1.プロトコル
B.1.1.シスプラチン調製、曝露、および処理
シス-ジアンミンプラチン(II)ジクロリド(シスプラチン;Sigma、製品番号:P4394、バッチ:MKCL0026)を、培地で10mg/mlにした(ストック溶液)。対照環境を同じ条件で準備した。AAを用いた12日間の培養後、3種濃度の多イオン組成物で一次感覚ニューロンの前処理を2時間行い、その後、シスプラチンによる中毒化を行った。対照培地中で12μMの最終濃度に希釈したシスプラチン製剤をニューロンに対して使用し、24時間インキュベートした。
【0106】
試験対象の多イオン組成物は、水中に以下を含む。
1. KY21400: Li 10.37mmol/kg、Mg 2.27mmol/kg、K 16.88mmol/kg
2. KY21310: Li 5.76mmol/kg、Mg 1.26mmol/kg、K 9.38mmol/kg
3. KY21200: Li 1.73mmol/kg、Mg 0.38mmol/kg、K 2.81mmol/kg
次の条件を評価した。
【0107】
・対照培地
・対照+シスプラチン(12μM、24時間)
・多イオン組成物KY21400、KY21310、またはKY21200+シスプラチン(12μM、24時間)
・多イオン組成物KY21400、KY21310、またはKY21200。
【0108】
本研究は、各条件ごとに6個のウェルを用いて行い、結果のバリデーションのために二重に行った。上記2回の研究の結果を合わせたデータを取得し、分析を行った。
B.1.2.主要評価項目:シスプラチン中毒後、および中毒無しの場合の、感覚ニューロン総数の測定、ならびに感覚ニューロンの神経突起の長さおよびミエリン鞘の長さの評価
シスプラチン有りまたは無しで24時間処理を行った後、細胞を酢酸/エタノール(5/95)の溶液で5分間、-20℃で固定し、対照条件についても同じ手順に従って固定を行った。次に、細胞を透過処理し、非特異的部位を、0.1%サポニン(Sigma;製品番号:S7900、バッチ:BCBL8667V)および1%FCSを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS;PanBiotech;製品番号:P04-36500、バッチ:2620121)で室温にて15分間ブロックした。次に、細胞を、1%FCSおよび0.1%サポニンを含むPBS溶液中のウサギ抗ニューロフィラメントポリクローナル抗体(NF;1/500、Sigma;製品番号:N0142、バッチ:083M4833)および抗MAGマウスモノクローナル抗体(1/400、Sigma;製品番号:MAB1567、バッチ:3227322)と4℃で12時間インキュベートした。
【0109】
これらの抗体を、1% FCSおよび0.1%サポニンを含むPBS中のAlexa Fluor 488ヤギ抗マウスIgG(1/400、Molecular Probes、製品番号:A11001、バッチ:2247988)およびAlexa Fluor 633抗ヤギウサギIgG(1/400,Molecular Probes、製品番号:A21070、バッチ:1700326)を用いて、室温で1時間可視化した。細胞核を、同一緩衝液中の蛍光マーカー(Hoechst溶液、Sigma;製品番号:H-33258、バッチ:046M4048V)で標識した。
【0110】
各条件について、ウェルあたり20枚の画像をInCell Analyzer(登録商標)2200(GE Healthcare)を用いて20倍の倍率で撮影した。各培養ウェルの画像は同じ条件下で撮影された。分析は、Developerソフトウェア(GE Healthcare)を使用して行った。2回の研究のそれぞれについて、各実験条件あたり計6データを提供した。
B.1.3.統計
データは平均±e.g.で表した(2回のクロップ(crop)に対して、各クロップの各条件あたり6データ)。データのグローバル分析を、Dunnett検定に続いて一方向分散分析(ANOVA)を用いて行った。有意水準はp<0.05に設定される。
B.2.結果
B.2.1.感覚ニューロンの生存に対する多イオン組成物の効果
多イオン組成物(KY21400、KY21310、およびKY21200)による健常細胞の24時間の処理では、細胞生存率は調節されない(対照に対してそれぞれ 91%、89%、および95%)。
【0111】
12μMのシスプラチンは、ニューロンの生存率の有意な低下を誘導する(細胞死64%、p<0.0001)。
シスプラチン傷害の2時間前、および24時間のシスプラチン傷害の間の、多イオン組成物KY21400、KY21310、およびKY21200)を用いた前処理により、ニューロンを細胞死から部分的に、かつ有意に、保護することが可能である(それぞれ死細胞35%(p<0.0001)、30%(p<0.0001)、および30%(p<0.0001))。
B.2.2.感覚ニューロンの神経突起の長さに対する多イオン組成物の効果
24時間のKY21400多イオン組成物による処理は、感覚ニューロンの神経突起の長さに影響を与えない(対照に対して111%)。
【0112】
24時間のKY21200多イオン組成物による処理は、感覚ニューロンの神経突起の長さを有意に増加させる(対照に対して140%(p<0.01)。
12μMのシスプラチンは、感覚ニューロンの軸索長の有意な減少を誘導する(神経突起の喪失は51%(p<0.0001))。
【0113】
多イオン組成物KY21400、KY21310、およびKY21200を用いた2時間の前処理により、シスプラチン傷害の感覚ニューロンの神経突起長を24時間にわたって効果的に維持することができる(それぞれ対照に対して83%(p<0.01)、100%(p<0.0001)、および102%(p<0.0001)。
B.2.3.感覚ニューロンのミエリン鞘の長さに対する多イオン組成物の効果
健常細胞を多イオン組成物KY21400およびKY21200で24時間処理すると、感覚ニューロンのミエリン鞘の長さのわずかな増加が誘導されるが、増加は有意ではない(対照に対してそれぞれ138%および129%)。健常細胞をKY21310多イオン組成物で24時間処理しても、ミエリン鞘の長さに影響を与えない(対照に対して111%)。
【0114】
12μMのシスプラチンは、感覚ニューロン伸長部分のミエリン鞘の長さの有意な減少を誘導する(ミエリンの69%を喪失、p<0.0001)。
多イオン組成物KY21400、KY21310、およびKY21200を用いた2時間の前処理により、シスプラチン傷害の感覚ニューロンのミエリン鞘の長さを24時間有意に保護することができる(ミエリンの喪失はそれぞれ29%(p<0.001)、37%(p<0.01)、および29%(p<0.001))。
【0115】
一方、KY21400、KY21310、およびKY21200の組み合わせで使用した濃度の個々のイオンは、いずれもミエリン鞘の長さに対して有意な保護効果を示さなかった。
【0116】
マンガンも同じ条件下で0.15mg/kg~1.2mg/kgの濃度範囲で試験したが、ミエリン鞘の長さに対して有意な効果を何も示さなかった。
C.2D敏感肌モデル上においてTh2刺激条件下で培養されたヒト角化細胞に対する、93個の遺伝子のトランスクリプトミックスクリーニングによる、KY21400多イオン組成物処理の利点の分析
目的:Th2型環境を模倣するサイトカインカクテルを適用したin vitro 2D角化細胞モデルに対する、多イオン組成物KY21400(Li 10.37mmol/kg、Mg 2.27mmol/kg、K 16.88mmol/kg)の保護および修復効果を、93個の表皮ターゲットの遺伝子発現の調節に関するトランスクリプトーム解析(TLDA;TaqMan Low Density Array)を用いて評価する(RT-qPCRによる)。このモデルは、Hubaux et al. 2018の研究論文に記載されている3Dモデルを適合させたものであり、アトピー性皮膚炎およびアトピー傾向の敏感肌に見られるようなin vivoの障害を再現することを可能にする。これには軽度の過剰増殖と、炎症、脂質恒常性、皮膚バリア、およびそう痒に関連した遺伝子のパネルの変化とが含まれる。
【0117】
前記in vitroモデルでは、正常なヒト包皮由来の表皮角化細胞の培養を用いる(NHEKs、Lonza、00192906)。細胞を、ヒト角化細胞増殖サプリメント(HKGS、Fisher Scientific、S-001-5)および抗生物質(ゲンタマイシン、Fisher Scientific、15710-049)を添加したEpilife培地(Fisher Scientific、M-EPI-500-A)中で培養した。細胞を、5%CO2雰囲気の37℃の湿潤インキュベーター中に置いた。
C.1.プロトコル.
C.1.1.Th2を用いた炎症モデルの誘導
細胞を、アトピー性皮膚炎の発症に重要な役割を果たし、表皮バリアの機能を損なうことが知られている3種のTh2結合サイトカイン(IL-4、IL-13、およびIL-25)で刺激した。前記3種のインターロイキンを、IL-4およびIL-13については50ng/ml、IL-25については20ng/mlの濃度で、サブコンフルエントな細胞単層に48時間適用し、アトピー性皮膚炎および敏感肌を想起させる遺伝子発現の変化を誘導した。
C.1.2.多イオン組成物KY21400を用いた処理
Th2による刺激を行うのと同時に、細胞をKY21400多イオン組成物とともにインキュベートした。組成物は培地で希釈し、濾過してから48時間の適用を行った。
C.2.遺伝子発現変化の分析
C.2.1.全RNA抽出
Th2刺激およびKY21400による48時間の処理の終わりに、Qiagen RNeasyキット(Qiagen;74106)を使用して全RNAを抽出した。細胞を冷PBSでリンスし、キットに添付のバッファーで溶解した。使用説明書に従って抽出を行った。回収したRNAを-80℃で保管した。
C.2.2.RNA完全性分析
RNA濃度を分光光度測定(QIAxpert、Qiagen)によって決定し、RNA品質をキャピラリー電気泳動(Agilent Bioanalyzer 2100 - Agilent RNA 6000 Nano Kit、5067-1511)によって分析した。
【0118】
インタクトなリボソームRNAバンドを可視化することによって、全RNAの完全性を評価した。高等真核生物の全RNAの場合、リボソームバンドのサイズは18S RNAが1.9kb、28S RNAが4.7kbとなるはずである。28S RNAに対応するバンドの強度は、18S RNAに対応するバンドの強度よりも高くなるはずである。低分子量RNA(tRNAおよび5SリボソームRNA)を示す、ぼやけた低分子のバンドが存在する場合がある。RNA分解は、リボソームRNAバンドのスメア、および高分子量のバックグラウンドノイズという形で明らかとなる。
C.2.3.cDNA合成
High Capacity RNA-to-cDNA Kit(Applied Biosystems;438706)を用いて、取扱説明書に従い、全RNAからの逆転写を行った。その後、ポリメラーゼ連鎖反応に使用するまで、cDNAを-20℃で保管した。
C.2.4.個別TaqManアッセイによる試験システムの検証
Th2刺激の影響を制御し、試験システムを検証することを目的として、特定のチャレンジに反応して調節されることが、またはアトピー性皮膚炎において調節されていることが、文献で報告されている、選択されたターゲットの増幅を行った。次の5個の遺伝子をターゲットとした:ABCA1(ATP結合カセットA1)、CA2(炭酸脱水酵素2)、CCL2(C-Cケモカインリガンドモチーフ2)、NELL2(神経EGFL様2)、およびPOSTN(ペリオスチン)である。
【0119】
対象遺伝子の標的配列を、TaqMan(Applied Biosystems)遺伝子発現試験を用いて増幅した。これらのキットには、TaqManプローブおよび2つの特異的プライマーが含まれており、各プライマーが18μM、プローブが5μMの濃度であらかじめ混合されている。この混合物は20倍濃度である。TaqManプローブには、5’末端のフルオロフォア(FAM)および3’蛍光クエンチャーが連結されている。
【0120】
PCRは、Quantstudio7(Applied Biosystems)リアルタイムPCRシステムを使用して行った。簡単に述べると、4μlのcDNA(4ng)を、10μlのTaqMan Fast Advanced Master Mix(Applied Biosystems;4444557)、1μlのTaqMan Gene Expression Assay、および5μlのRNAaseフリーの水と混合した。熱サイクルのプログラムは、最初の変性ステップを95℃で20秒間とした。増幅プロトコル後に40サイクル(95℃を1秒間、および60℃を20秒間)を行った。
【0121】
結果を標準化するため、同じcDNA試料に対してハウスホールド遺伝子YWHAZ(チロシン3-モノオキシゲナーゼ)を使用した。増幅のネガティブコントロールとして、cDNAを含まない対照を並行して行った。これにより、混入物が無いことの確認が可能になった。相対発現量を比較Ct法(ΔΔCt)により計算した。
2.5.TaqManマトリックス、qPCR、およびCt解析の管理
TaqMan qPCRマイクロ流体チップ(またはTaqMan低密度チップ;TLDA)がStratiCellによって設計され、Applied Biosystemsによってオンデマンド製造された。上記遺伝子のうち、3個の内部対照遺伝子またはハウスホールド遺伝子、および93個の対象遺伝子を調べた。
【0122】
TaqManチップは使用説明書(Micro Fluidic Card Getting Started Guide、Applied Biosystems)に従って処理されたものである。
【0123】
cDNAを特定の緩衝液(TaqMan Fast Advanced Master Mix、4444557、Applied Biosystems)と混合した後でチップに注入し、遠心分離によってウェル内に分散させた。チップを密封し、Quantstudio7リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)およびそのソフトウェア(QuantStudio Real-Time PCR v1.3ソフトウェア、Applied Biosystems)を使用してqPCRを実行した。
【0124】
各遺伝子について閾値サイクル(Ct)を得た。結果ファイルをqPCR装置からエクスポートし、比較Ct法(ΔΔCt)を用いて遺伝子発現の相対定量化を行うように設計されたDataAssistソフトウェア(v3.01、Applied Biosystems)を使用して、統計解析の組み合わせにより解析を行った。
【0125】
Th2によって刺激した未処理の状態について得られたデータを、刺激無しの未処理の状態のデータと比較した。Th2によって刺激し、多イオン組成物KY21400で処理した状態を、Th2によって刺激した未処理の状態と比較した。Ct値を、チップ上に存在する2個のハウスホールド遺伝子(YWHAZおよびB2M)のCtの平均値に対して標準化した。Ctの最大閾値は36サイクルに設定された。すなわち、36よりも高いCt値を有する遺伝子は解析では考慮しなかった。
C.2.6.統計分析
統計結果について、対応のあるStudentのt検定によって分析を行い、特定の対照条件に対して、処理された条件の比較を行った(*p<0.05、**p<0.01、および***p<0.001)。
C.3.結果
C.3.1.KY21400多イオン複合体の、炎症遺伝子マーカーへの影響
KY21400複合体を用いた処理により、炎症反応に関与するTNFAIP6(p=0.0006)、CXCL10(p=0.009)、およびCXCL11(p=0.0271)遺伝子の、Th2刺激によって誘導される発現の増加が有意に抑制された。
C.3.2.KY21400多イオン複合体の、ヒト皮膚の脂質恒常性遺伝子マーカーへの影響
KY21400を用いた処理は、セラミド、脂肪酸/トリアシルグリセロール、およびコレステロールの合成、それらの代謝、ならびに角化細胞内でのそれらの輸送に関与する遺伝子の発現の調節を変化させることにより、脂質恒常性の広範な変化を誘導する。KY21400複合体を用いた処理により、脂質皮膚恒常性に関与する、ABCG1遺伝子の発現(p=0.0211)、GPAT3遺伝子の減少(p=0.0188)、ならびにSULT1E1(p=0.0096)、FA2H(p=0.0385)、およびNR1H2(p=0.0045)遺伝子の発現の増加に対するTh2刺激の効果が有意に逆転した。
C.3.3.KY21400多イオン複合体の、角化細胞の最終分化およびヒアルロン酸代謝の遺伝子マーカーに対する影響
KY21400を用いた処理は、角化細胞の最終分化およびヒアルロン酸代謝のための2つの遺伝子の発現を有意に回復させる。これは、バリア特性、ならびにアトピー性皮膚炎および湿疹で起こる海綿状態に対して、好ましい影響があることを示唆している。表皮の湿潤(epidermal hydration)および角化細胞の最終分化に関与するHAS3およびCASP14遺伝子は、それぞれ、KY21400処理により、有意な下方制御(p=0.0422)および上方制御(p=0.0346)の遺伝子発現を示した。KY21400は、角膜エンベロープ(corneal envelope)の形成に関与する2つの遺伝子、SPRR1A(p=0.0025)およびIVL(p=0.0054)の発現の予期せぬ「救命(life-saving)」下方制御を誘導する。KY21400はヒアルロン酸受容体CD44をコードする遺伝子を下方制御した(p=0.0378)。
C.3.4.KY21400多イオン複合体の、過敏およびそう痒遺伝子マーカーへの影響
KY21400複合体を用いた角化細胞の処理により、サイトカインのTh2カクテルを用いた刺激後に観察される効果が逆転した。これは、過敏およびそう痒の潜在的な発症に対する予防効果を示す。研究を行った遺伝子のうち3個は、処理によって発現が低下するか、または発現が基底水準にまで戻ることさえある:NGF(p=0.0141)、ANOS1(p=0.0294)、およびSEMA3A(p=0.0034)。
C.3.5.KY21400多イオン複合体の、アトピー性皮膚炎の特異的遺伝子マーカーへの影響
KY21400を用いた処理はCA2発現を下方制御した(p=0.0064)。これは、この複合体の特異的な抗アトピー性皮膚炎効果を示唆している。
D.糖尿病性末梢神経障害性疼痛患者における局所治療の予備的評価
本発明によるゲルクリームを、末梢神経障害性疼痛を有する糖尿病患者が使用するために調製した。クリームゲルは実施例5の方法によって調製され、72gのpH7~7.5に調整した溶液1、136gの溶液2、および100gの溶液3から得た水溶液を75.70%含有する。
【0126】
ゲルクリーム中のICP-MSで分析されたミネラルの最終濃度は以下の通りである:
・12ppm(1.31mmol/kg)のLi(モル比=1)
・9.4ppm(0.38mmol/kg)のMg(モル比=0.29)
・107ppm(2.72mmol/kg)のK(モル比=2.07)
・11.7ppmのSi、および
・0.31ppmのMn。
【0127】
選択された患者は、神経障害性疼痛の診断に使用される標準的なDN4質問票に基づくスコアが少なくとも4であり、筋電図によって診断が確認される。選択された患者には、通常の薬物治療(デュロキセチン、プレガバリン、ガバペンチンなど)に加えて前記クリームゲルの塗布を行い、研究中に治療の用量を変更しなかった。
【0128】
患者は1ヶ月間、1日に2回(朝夕)の頻度で、ゲルクリームを下肢の膝下まで、そしておそらくつま先の間まで塗布し、一番最初の塗布は夕方に行った。
評価を行った:
・最初の塗布の前
・最初の塗布から10分後
・2回目の塗布前(翌朝)
・使用15日目
・使用30日目。
【0129】
評価は、0(存在しない)~10(非常に強く存在する)のスケールで、糖尿病性末梢神経障害性疼痛の症状を代表する6つの基準のスコアをつけることからなる。
患者には、平均年齢63.8歳の13名の女性と11名の男性とが含まれ、平均DN4スコアは6.6である。9名の患者は症状を1~5年間有し、9名の患者は症状を5~10年間有し、5名の患者は症状を10年間超有していた。
【0130】
結果:1ヵ月後、患者の58%(14名)が疼痛の30%以上の減少を報告し、そのうち46%が疼痛の50%以上の減少を示す。
1か月の時点での、痛みを伴う症状の種類別の結果の詳細を、下記表5に記載する。
【0131】
【0132】
この研究は、糖尿病性末梢神経障害性疼痛の軽減における、単なるプラセボ効果(20%と推定)を超えた、クリームゲルの有効性を示している。副作用は認められなかった。
さらには、1か月後、16名の患者は睡眠の質および気分の改善、立位バランスおよび歩行ペリメーター(walking perimeter)の改善、ならびに足底および脚の感覚の回復を自発的に報告した。
【国際調査報告】