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特表2024-520767COVID-19、自己免疫疾患、又はサイトカインストーム応答を処置するためのリドカイン又はアルチカイン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】COVID-19、自己免疫疾患、又はサイトカインストーム応答を処置するためのリドカイン又はアルチカイン
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/167 20060101AFI20240517BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240517BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240517BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 31/381 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
A61K31/167
A61P31/14
A61P37/02
A61K47/10
A61K47/34
A61P11/00
A61P17/00
A61P21/00
A61P17/06
A61P25/16
A61K31/381
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575452
(86)(22)【出願日】2022-06-01
(85)【翻訳文提出日】2024-01-30
(86)【国際出願番号】 IB2022055134
(87)【国際公開番号】W WO2022254363
(87)【国際公開日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】2107966.0
(32)【優先日】2021-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523456320
【氏名又は名称】スティヒティング・メディシュ・クリニーク・フェルゼン
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(72)【発明者】
【氏名】オーストワウダー,クルネリス・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】カンハイ,ロベルト・チャンダープレカシュ・ジャイクリシナ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076BB22
4C076CC07
4C076CC35
4C076DD37
4C076EE23
4C086AA01
4C086AA02
4C086BB02
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA57
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA59
4C086ZA89
4C086ZA94
4C086ZB07
4C086ZB33
4C206AA01
4C206AA02
4C206GA19
4C206GA31
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA05
4C206MA77
4C206NA14
4C206ZA02
4C206ZA59
4C206ZA89
4C206ZA94
4C206ZB07
4C206ZB33
(57)【要約】
本発明は、疾患又は感染に起因する免疫応答がサイトカインストームを引き起こす、COVID-19又は自己免疫疾患又は病態の処置に使用するための、リドカイン若しくはその塩又はアルチカイン若しくはその塩の高用量/低体積の製剤に関する。より具体的には、本発明は、ロングCOVIDの処置に関するものであり、毒性を引き起こすことなく全身炎症を処置するために、有効用量のリドカイン又はアルチカインを血漿に取り込む課題に取り組むものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疾患又は感染に起因する免疫応答がサイトカインストームを引き起こす、COVID-19又は自己免疫疾患又は病態の処置に使用するための、リドカイン若しくはその塩又はアルチカイン若しくはその塩。
【請求項2】
COVID-19及び/又はロングCOVIDの処置に使用するための、請求項1に記載のリドカイン若しくはその塩又はアルチカイン若しくはその塩。
【請求項3】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の処置に使用するための、請求項1に記載のリドカイン若しくはその塩又はアルチカイン若しくはその塩。
【請求項4】
自己免疫疾患の処置に使用するための、請求項1に記載のリドカイン若しくはその塩又はアルチカイン若しくはその塩。
【請求項5】
強皮症;
皮膚筋炎;
パーキンソン;及び
乾癬
のうちの1以上の処置に使用するための、請求項4に記載のリドカイン若しくはその塩又はアルチカイン若しくはその塩。
【請求項6】
口腔粘膜又は舌下送達のために製剤化される、請求項1~5のいずれか1項に記載のリドカイン若しくはその塩又はアルチカイン若しくはその塩。
【請求項7】
高用量/低体積の単位形態である、請求項6に記載のリドカイン若しくはその塩又はアルチカイン若しくはその塩。
【請求項8】
リンパ系を標的とする、請求項1~7のいずれか1項に記載のリドカイン若しくはその塩又はアルチカイン若しくはその塩。
【請求項9】
単位用量として40~100mgのリドカイン若しくはその塩又はアルチカイン若しくはその塩を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のリドカイン若しくはその塩又はアルチカイン若しくはその塩。
【請求項10】
1種以上の好適な賦形剤によってリンパ系による取り込みを促進するように製剤化される、リドカイン若しくはその塩又はアルチカイン若しくはその塩を含む医薬製剤。
【請求項11】
1種以上の好適な賦形剤が親油性賦形剤を含む、請求項10に記載の医薬製剤。
【請求項12】
親油性賦形剤がメントールである、請求項11に記載の医薬製剤。
【請求項13】
極性溶媒をさらに含む、請求項10~12のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項14】
極性溶媒がエタノールである、請求項13に記載の医薬製剤。
【請求項15】
1種以上の共溶媒をさらに含む、請求項10~14のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項16】
1種以上の共溶媒がポリエチレン及びポリプロピレングリコールを含む、請求項15に記載の医薬製剤。
【請求項17】
甘味料及び香味料をさらに含む、請求項10~16のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項18】
単位用量で60~100mgのリドカイン若しくはその塩、又は40~100mgのアルチカイン若しくはその塩を含む、請求項10~17のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項19】
0.5ml以下の体積を有する単位用量を含む、請求項10~18のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項20】
0.5ml以下の体積中少なくとも20重量%のリドカイン又はその塩の溶液を含む、請求項10~19のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項21】
0.5ml以下の体積中少なくとも10重量%のアルチカイン又はその塩の溶液を含む、請求項10~19のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項22】
疾患又は感染に起因する免疫応答がサイトカインストームを引き起こす、COVID-19又は自己免疫疾患又は病態を患う対象を処置する方法であって、好適な高用量/低体積の単位剤形中の、リンパ系を標的とする有効量のリドカイン若しくはその塩又はアルチカイン若しくはその塩を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項23】
リドカイン若しくはその塩又はアルチカイン若しくはその塩が、口腔粘膜投与又は舌下投与される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
リドカイン若しくはその塩又はアルチカイン若しくはその塩が、40~100mgの量の単位用量で提供される、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
単位用量が0.5ml以下の体積を有する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
COVID-19又はロングCOVIDを処置するための、請求項22~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を処置するための、請求項22~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
自己免疫疾患を処置するための、請求項22~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
自己免疫疾患が
強皮症;
皮膚筋炎;
パーキンソン;及び
乾癬
から選択される、請求項28に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明は、疾患又は感染に起因する免疫応答の処置が必要である、自己免疫疾患又は病態を処置するための組成物及び方法に関する。このような免疫応答は、限定するものではないが、サイトカインストーム等の過剰炎症を引き起こすものであり、SARS-CoV-2疾患(COVID-19)で起こり得るような急性呼吸窮迫症候群(ARDS)又はサイトカインストーム症候群(CSS)を生じさせる。本発明は、ロングCOVIDで起こるような感染後の全身性炎症(過剰炎症を含む)及びその症状の処置にさらに関するものである。
【背景技術】
【0002】
[0002]COVID-19パンデミックにより、多くのグループが、COVID-19の症状及び感染による長期的影響に対処することができる承認薬の転用を緊急に検証した。
【0003】
[0003]急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、コロナウイルス疾患19(COVID-19)の罹患率及び死亡率の主因であり、これについては呼吸補助及び高用量のデキサメタゾンの使用以外、今のところ有効な処置がない。
【0004】
[0004]多くの薬物、例えばクロロキン及びイベルメクチンは、SARS-CoV-2感染の重度の徴候を有する入院患者で研究されたが、いずれも成功しなかった。
【0005】
[0005]ARDSは、サイトカインの大量放出(サイトカインストーム)、びまん性肺水腫、炎症性細胞浸潤、及び播種性凝固を特徴とする制御不能の炎症活性化に起因し、それにより維持される。マクロファージ及びTリンパ球の機能不全はこの症候群において中心的役割を果たす。
【0006】
[0006]いくつかの実験的なin vitro及びin vivoモデルでは、これらの病理生理学的変化の多くは、P2X7受容体の刺激が引き金となって起こる。
【0007】
[0007]これに関して、気道のウイルス性病原体は、細胞ストレス及びその後の自然免疫応答を引き起こす。これは、大量のATP開口分泌を引き起こし、細胞外ATP濃度が高くなる。最初に、ATPはプリン作動性P2Y2及びP2X4受容体を刺激し、短期間のサーファクタント開口分泌が起こるが、ATPレベルが上昇し続けるため、P2X4及びP2Y2受容体は非感受性となり、サーファクタントの正常な放出が阻止される。細胞外ATPレベルが、自然免疫細胞の細胞表面に位置するP2X7細胞外ATP受容体(P2X7R)の活性化のための低い閾値を超え始めると、自然免疫の炎症促進性応答、続いて炎症性メディエーターの大量放出及びその後のサイトカインストームを引き起こす。結果として生じる血管漏出及び肺水腫は、肺胞虚脱及びガス交換の低下に至るARDSの病原体に重要な要素である肺サーファクタントの分解及び不活性化を誘導する。
【0008】
[0008]出願人は、このP2X7受容体が、COVID-19関連ARDS及びロングCOVIDにおいて標的とするのに理想的な候補であり得ると仮定した。残念なことに、公知のP2X7受容体遮断薬の大部分が、有効な処置に必要とされる用量レベルで患者に与えた場合毒性となる。
【0009】
[0009]出願人は、自己免疫疾患も、同じ手法、すなわちリドカイン又はアルチカイン等の酷似する薬物を有効量で用いてP2X7受容体を遮断することにより処置することができると仮定した。アルチカインはベンゼン環ではなくチオフェン環を含有し、これは脂溶性を高め、したがって拡散を増加させる利点があるので、効力がより高くなり(×1.5)、毒性がより低くなる(0.6)。
【0010】
[0010]同定された先行技術としては以下が挙げられる:
[0011]Trials、第22巻、第1号、2021、Muller Marie等「impact of intravenous lidocaine on clinical outcomes of patients with ARDS during COVID-19 pandemia(LidoCOVID):A structured summary of a study protocol for a randomised control trial」131頁;
[0012]Bone Marrow Transplantation、第28巻、第1号、Voltarelli J C等「Beneficial effect of intravenous lidocaine in cutaneous chronic graft-versus-host disease secondary to donor lymphocyte infusion」、97~99頁;
[0013]LUNG、第182巻、第1号、2004 Huang T K等「Surfactant lavage with Lidocaine improves pulmonary function in piglets after HCl-induced acute lung injury」、15~25頁;
[0014]RU2742505;
[0015]CN111150738;
[0016]CN103142643;及び
[0017]CN104127397。
【0011】
[0018]本発明の第1の目的は、疾患又は感染に起因する免疫応答の処置が必要である、自己免疫疾患又は病態の処置に使用するための、1つ以上の薬物を同定することであった。
【0012】
[0019]第2及びさらなる目的は、このような使用のためにこのような薬物を製剤化することであった。
【0013】
[0020]第3及びさらなる目的は、有効な処置を促進する方式及び用量でこのような薬物を送達することであった。
【発明の概要】
【0014】
[0021]本発明の第1の態様によれば、疾患又は感染に起因する免疫応答が過剰炎症を引き起こす、自己免疫疾患又は病態の処置に使用するための、リドカイン若しくはその塩又はアルチカイン若しくはその塩が提供される。
【0015】
[0022]1つの実施形態において、これはサイトカインストームを引き起こす。
【0016】
[0023]自己免疫疾患は、以下に列挙するもののいずれかであり得る:
・アカラシア
・アジソン病
・成人スティル病
・無ガンマグロブリン血症
・円形脱毛症
・アミロイドーシス
・強直性脊椎炎
・抗GBM/抗TBM腎炎
・抗リン脂質症候群
・自己免疫血管浮腫
・自己免疫自律神経障害
・自己免疫脳脊髄炎
・自己免疫肝炎
・自己免疫内耳疾患(AIED)
・自己免疫心筋炎
・自己免疫卵巣炎
・自己免疫精巣炎
・自己免疫膵炎
・自己免疫網膜症
・自己免疫蕁麻疹
・軸索型及びニューロン型ニューロパチー(AMAN)
・バロー病
・ベーチェット病
・良性粘膜類天疱瘡
・水疱性類天疱瘡
・キャッスルマン病(CD)
・セリアック病
・シャーガス病
・慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)
・慢性再発性多発性骨髄炎(CRMO)
・チャーグストラウス症候群(CSS)又は好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)
・瘢痕性類天疱瘡
・コーガン症候群
・寒冷凝集素症
・先天性心ブロック
・コクサッキー心筋炎
・CREST症候群
・クローン病
・疱疹状皮膚炎
・皮膚筋炎
・デビック病(視神経脊髄炎)
・円板状ループス
・ドレスラー症候群
・子宮内膜症
・好酸球性食道炎(EoE)
・好酸球性筋膜炎
・結節性紅斑
・本態性混合型クリオグロブリン血症
・エバンス症候群
・線維筋痛症
・繊維性肺胞炎
・巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)
・巨細胞性心筋炎
・糸球体腎炎
・グッドパスチャー症候群
・多発血管炎性肉芽腫症
・グレーブス病
・ギランバレー症候群
・橋本甲状腺炎
・溶血性貧血
・ヘノッホシェーンライン紫斑病(HSP)
・妊娠性疱疹又は妊娠性類天疱瘡(PG)
・化膿性汗腺炎(HS)(反対型ざ瘡)
・低ガンマグロブリン血症
・IgA腎症
・IgG4関連硬化性疾患
・免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)
・封入体筋炎(IBM)
・間質性膀胱炎(IC)
・若年性関節炎
・若年性糖尿病(1型糖尿病)
・若年性筋炎(JM)
・川崎病
・ランバートイートン症候群
・白血球破砕性血管炎
・扁平苔癬
・硬化性苔癬
・木質性結膜炎
・線状IgA病(LAD)
・ループス
・慢性ライム病
・メニエール病
・顕微鏡的多発血管炎(MPA)
・混合性結合組織病(MCTD)
・モーレン潰瘍
・ムッハハーベルマン病
・多巣性運動ニューロパチー(MMN)又はMMNCB
・多発性硬化症
・重症筋無力症
・ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質抗体障害
・筋炎
・ナルコレピシー
・新生児ループス
・視神経脊髄炎
・好中球減少症
・眼瘢痕性類天疱瘡
・視神経炎
・回帰性リウマチ(PR)
・PANDAS
・傍腫瘍性小脳変性症(PCD)
・発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)
・パリーロンバーグ症候群
・毛様体扁平部炎(周辺部ぶどう膜炎)
・パーソネージターナー症候群
・天疱瘡
・末梢性ニューロパチー
・静脈周囲脳脊髄炎
・悪性貧血(PA)
・POEMS症候群
・結節性多発動脈炎
・多腺性症候群I、II、III型
・リウマチ性多発筋痛症
・多発性筋炎
・心筋梗塞後症候群
・心膜切開後症候群
・原発性胆汁性胆管炎
・原発性硬化性胆管炎
・プロゲステロン皮膚炎
・乾癬
・乾癬性関節炎
・赤芽球ろう(PRCA)
・壊疽性膿皮症
・レイノー現象
・反応性関節炎
・反射性交感神経性ジストロフィー
・再発性多発軟骨炎
・下肢静止不能症候群(RLS)
・後腹膜線維症
・リウマチ熱
・関節リウマチ
・サルコイドーシス
・シュミット症候群
・強膜炎
・強皮症
・シェーグレン症候群
・精子及び精巣自己免疫
・全身硬直症候群(SPS)
・亜急性細菌性心内膜炎(SBE)
・スザック症候群
・交換性眼炎(SO)
・高安動脈炎
・側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎
・血小板減少性紫斑病(TTP)
・甲状腺眼疾患(TED)
・トロサハント症候群(THS)
・横断性脊髄炎
・1型糖尿病
・潰瘍性大腸炎(UC)
・未分化結合組織病(UCTD)
・ぶどう膜炎
・血管炎
・白斑
・フォークト小柳原田病
[0024]これらの炎症性疾患のうち、サイトカインストーム症候群が出現するものが、処置の特定の標的である。
【0017】
[0025]処置に特に好ましい疾患はARDS、COVID-19、及びロングCOVIDである。
【0018】
[0026]リグノカインとしても公知のリドカインは、商品名Xylocaine(登録商標)で販売されている。リドカインはアミノアミド型の局所麻酔薬である。
【0019】
[0027]承認薬として、リドカインは静脈内、皮下、局所、及び経口で使用される。
【0020】
[0028]しかし、これらの形態では、リドカインは、リンパ系を標的とし、P2X7受容体を遮断することによって過剰炎症を処置し、このようにしてSARS-COV-2疾患(COVID-19)及び他の自己免疫疾患において生命を脅かすARDSの原因となり得る「サイトカインストーム」を停止するのに特に適しているわけではない。
【0021】
[0029]関連薬であるアルチカインは、アドレナリン含有又は不含のものがヨーロッパで入手可能である。エピネフリン不含(アドレナリン不含)型は、Ultracain D(4%)の商品名で販売されている。エピネフリン(アドレナリン)含有型は、1:200,000のエピネフリン濃度でSupracain 4%の商品名でヨーロッパで入手可能である。
【0022】
[0030]したがって、本発明の第2の態様によれば、1種以上の好適な賦形剤を組み込むことによってリンパ系による取り込みを促進するように製剤化されるリドカイン若しくはその塩又はアルチカイン若しくはその塩を含む医薬製剤が提供される。
【0023】
[0031]さらに、医薬製剤は好ましくは口腔粘膜投与又は舌下投与のための送達形態で使用説明書と共に梱包される。
【0024】
[0032]送達形態は好ましくは、リドカイン及びアルチカインの現在承認されている剤形と比較して、高濃度のリドカイン若しくはその塩又はアルチカイン若しくはその塩を含有する1ml以下、より好ましくはさらに0.5ml以下の体積の単位用量である。
【0025】
[0033]したがって、リドカインの単位用量は60~100mgを含有し、アルチカインの単位用量は40~100mgを含有する。
【0026】
[0034]好ましくは、必須ではないが、リドカイン又はアルチカイン、又はこれらの塩は、極性溶媒を用いた取り込みを達成することが可能であるが、1種以上の親油性賦形剤に溶解される。
【0027】
[0035]長鎖脂肪酸、並びに/又はポリエチレングリコール(PEG)及び/若しくは界面活性剤等の表面改質剤の使用が好ましい。
【0028】
[0036]好ましい送達系としては、ナノ粒子、微粒子、リポソーム、乳化薬物送達系(EDDS)並びにその変形、例えば自己乳化薬物送達系(SEDDS)、自己マイクロ乳化薬物送達系(SMEDDS)、及び自己ナノ乳化薬物送達系(SNEDDS)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0029】
[0037]最も単純な形態は中鎖トリグリセリド等の油中の薬物である。
【0030】
[0038]したがって、好適な製剤としては、親油性及び極性溶媒、共溶媒、粘度調節剤、界面活性剤、甘味料及び香味料等の機能性賦形剤を挙げることができる。
【0031】
[0039]製剤は、口当たりを良くするために、甘味料、例えばサッカリン及び香味料、例えばバナナフレーバーを含む。
【0032】
[0040]低体積の単位用量(1ml以下、より好ましくはさらに0.5ml以下)へのその溶解性を促進させるために、極性溶媒も使用される。好ましい極性溶媒はエタノールである。
【0033】
[0041]さらに、1種又は複数の共溶媒が使用される。好適な共溶媒としてはポリエチレングリコール(Macrogol400)及びプロピレングリコール(E1520)が挙げられる。
【0034】
[0042]特にリドカインの使用に関する問題は、その公知の毒性である。実際に、アルチカインの利点は、リドカインより毒性が低く、効力があることである。
【0035】
[0043]リドカイン等の局所麻酔薬は、メトヘモグロビン血症を引き起こす可能性がある。メトヘモグロビン血症は、リドカインを高用量で、典型的には、局所麻酔薬で4~5mg超/kg体重、又は血漿レベル>5mg/Lで投与した場合に起こる可能性がある。
【0036】
[0044]リドカイン又はアルチカインを口腔粘膜投与又は舌下投与することにより、吸収は、静脈系ではなくリンパ系で主に行われる。これは、毒性血漿レベル及び肝初回通過除去を回避し、リドカイン又はアルチカインの血漿レベルが低くなり、それによりメトヘモグロビン血症を回避する。
【0037】
[0045]いずれの薬物についても毒性を引き起こさない有効量を見出すことは必須であった。
【0038】
[0046]P2X7受容体を遮断するためのIC50を達成するには、0.3mMの血漿濃度(66.07μg/ml)が必要とされる。一方、ヒトにおけるリドカインの最大許容血漿濃度は0.02mM(4.7μg/ml)であり、このレベルを上回るとリドカインは毒性となる。P2X7受容体の少なくとも50%の阻害効果は、伝統的な静脈経路を用いたリドカインの投与では達成できないとの結論に至る。これは、比較的程度は低いが、アルチカインにも当てはまる。
【0039】
[0047]この問題を解決するために、出願人は、口腔粘膜投与又は舌下投与のための高用量/低体積の単位用量の溶液にリドカインを(アルチカインに適用する同じ論理的根拠で)製剤化した。舌下粘膜はその高い透過性(ヒト皮膚と比較して20倍超の吸収速度)が公知であり、さらに口及び口腔底はリンパ節が集中しているので、リンパ系及び免疫系を標的とするのに最適である。
【0040】
[0048]口腔粘膜又は舌下送達されるリドカインの有効な成人単位用量は、1日4~6回の送達で60~100mgであることが判明した。目標は、有効量のリドカインを血漿中<4.7μg/mlで提供することであった。
【0041】
[0049]アルチカインのより高い効力を考えると、等しい用量は、1日4~6回の送達で40~67mgである。そのより低い毒性により、1日2~4回でリドカインに等しい投薬量(60~100mg)も達成することができた。
【0042】
[0050]このような送達方法の適性を証明するために、リドカイン製剤は、リドカインの濃度を10%から25%に高めることにより、Astra Zeneca Xylocaine 10%スプレー製剤から改変された。
【0043】
[0051] 製剤は、スプレーを送達するのではなく、液滴として送達するための小さい単一単位用量の密閉バイアル(0.4ml体積)から送達された。
【0044】
[0052]0.5ml以下の体積中60~100mgのリドカインの単位用量を送達することが重要であった。
【0045】
[0053]アルチカインについては、等しい単位用量が、0.5ml以下の体積中40~67mgのアルチカインであった。しかし、その低い毒性により、この体積で最大100mgの用量を投与することができた。
【0046】
[0054]現行の製剤より濃度が著しく高いリドカイン製剤は、10体積%超、より好ましくは20体積%超、典型的には25体積%のリドカインを含む。これは、許容されにくい、標準IV製剤(10%濃度)で起こる口腔閉塞感及び付随する唾液分泌過多を回避する利点がある。
【0047】
[0055]アルチカイン製剤も現行の製剤より濃度が高く、4体積%超、より好ましくは8体積%超、典型的には10体積%以上のアルチカインを含む。アルチカイン製剤も、単位用量形態で提供することができる。
【0048】
[0056]本発明の第3の態様によれば、疾患又は感染に起因する免疫応答がサイトカインストームを引き起こす、COVID-19又は自己免疫疾患又は病態を患う対象を処置する方法であって、好適な高用量/低体積の単位剤形中のリンパ系を標的とする有効量のリドカイン若しくはその塩又はアルチカイン若しくはその塩を対象に投与することを含む、方法が提供される。
【0049】
[0057]高用量/低体積の単位剤形とは、リドカイン若しくはその塩又はアルチカイン若しくはその塩の相対濃度が、1ml以下、より好ましくは0.5ml以下の単位用量体積で既存の剤形(リドカイン又はその塩については10%、アルチカイン又はその塩については4%)より著しく高いことを意味する。
【0050】
[0058]好ましくは、リドカイン若しくはその塩又はアルチカイン若しくはその塩は、口腔粘膜投与又は舌下投与される。
【0051】
[0059]好ましくは、単位用量は、60~100mgのリドカイン若しくはその塩、又は40~100mgのアルチカイン若しくはその塩を含む。
【0052】
[0060]好ましくは、単位用量は0.5ml以下の体積を有する。
【0053】
[0061]処置は、COVID-19、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、ロングCOVID、又は自己免疫疾患、特に、限定されるものではないが、強皮症;皮膚筋炎;パーキンソン;及び乾癬の処置であり得る。
【0054】
[0062]最も好ましくは、処置は、ロングCOVID、又は疲労、中等度から重度の息切れ、疼痛、不眠、呼吸困難、眩暈、筋痙攣及び/又は動悸を含むその症状の処置のためのものである。
【0055】
[0063]処置の主目的は、全身性過剰炎症を低減することである。これは、例えばインターロイキン6、フェリチン、白血球、好中球、リンパ球、血小板、C反応性タンパク質、プロカルシトニン、乳酸脱水素酵素、アスパラギン酸アミノ基転移酵素、クレアチニン、及びD-ダイマー等のバイオマーカーを測定することにより決定することができる。
【0056】
[0064]本発明の様々な態様及び実施形態を、詳細な説明を参照しながら以下にさらに記載する。
【発明を実施するための形態】
【0057】
[0065]治験製剤を実施例1に例示する。
【実施例
【0058】
実施例1a
製剤
[0066]活性成分
・リドカイン:100mg
[0067]賦形剤:
・親油性溶媒-レボメントール
・極性溶媒-エタノール96% 241mg/ml
・共溶媒-ポリエチレングリコール(マクロゴール400)
・共溶媒-プロピレングリコール(E1520)
・甘味料-サッカリン(E954)
・香味料-バナナフレーバー
・希釈剤-(精製)水
・合計0.4ml
[0068]本発明の製剤を「オフラベル」で使用して、実施例2に示すように複数の患者を処置し、その効果を決定した。
【0059】
[0069]実施例1b
活性成分がアルチカインであった以外は実施例1aと同様。
【0060】
実施例2
患者治験データ
[0070]オランダにおいて、22人の患者を、実施例1aの製剤で以下のように処置した。
【0061】
[0071]10人の患者はCOVID-19の症状を有していた(陽性であり、一般医により診断された)。10人の患者はすべて、呼吸窮迫の初期兆候;頻呼吸(1分間に30呼吸超)、高熱、及び乾性咳嗽、並びに低下したSpO<90を呈した。患者が舌下によるリドカインに十分に応答したため、COVID-19による入院を回避することができた。
【0062】
[0072]6人の患者は、COVID後の呼吸愁訴を有していた。患者は、咳嗽、疲労、及び息切れから不安及び身体的制約にわたる長期愁訴を経験していた。
【0063】
[0073]6人の患者は、以下の様々な自己免疫疾患を患っていた:
・1人の患者は関節リウマチを有していた;
・1人の患者は強皮症を有していた;
・1人の患者は皮膚筋炎を有していた;
・1人の患者はパーキンソン病を有していた;
・2人の患者は乾癬を有していた。
【0064】
[0074]全患者に上の実施例1aに記載した製剤を1日最大6回、最大2週間与えた。
【0065】
[0075]合計22人の患者のうち8人が数時間以内にこの処置に応答し、数日以内に問題なく回復した。
【0066】
[0076]COVID-19を有する10人の患者及びCOVID後の呼吸愁訴を有する6人の患者は、2週間以内に完全に回復した。
【0067】
[0077]特定された自己免疫疾患を有する6人の患者のうち5人が、処置の2週間後に著しい改善を経験し、全員副作用がなかった。
【0068】
[0078]1人の患者だけがわずかな改善を示し、この患者は重度の慢性関節リウマチを有する56歳の男性患者であった。
結論
[0079]対象のリンパ系を標的とするリドカインの投与は、COVID-19及びロングCOVIDを処置するのに有効と思われる。舌下/口腔粘膜手法は、単純で有効で非侵襲性の手法である。0.5ml未満の小体積中10%超のリドカインの高濃度低体積の単位用量が最適である。
【国際調査報告】