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特表2024-520774トラクション係数添加剤を含む潤滑剤組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】トラクション係数添加剤を含む潤滑剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 129/40 20060101AFI20240517BHJP
   C10M 129/42 20060101ALI20240517BHJP
   C10M 101/02 20060101ALI20240517BHJP
   C10M 107/02 20060101ALI20240517BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20240517BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20240517BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20240517BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240517BHJP
【FI】
C10M129/40
C10M129/42
C10M101/02
C10M107/02
C10N20:02
C10N20:00 Z
C10N40:04
C10N30:06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575548
(86)(22)【出願日】2022-06-08
(85)【翻訳文提出日】2024-01-15
(86)【国際出願番号】 EP2022065499
(87)【国際公開番号】W WO2022258664
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】2108216.9
(32)【優先日】2021-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523354897
【氏名又は名称】カーギル・バイオインダストリアル・ユーケイ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CARGILL BIOINDUSTRIAL UK LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】ムーディ、ギャレス
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB32C
4H104BB33C
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104EA01A
4H104EA02C
4H104EB05
4H104EB07
4H104EB08
4H104EB09
4H104EB13
4H104EB14
4H104LA03
4H104PA02
4H104PA03
(57)【要約】
本発明は、電気車両に使用するのに好適な潤滑剤組成物に関する。当該滑剤組成物はトラクション係数添加剤を含み、トラクション係数添加剤はエステルであり、エステルは炭素数12~32の少なくとも1種の飽和分岐鎖脂肪族一価アルコールと炭素数6~32の少なくとも1種の脂肪族カルボン酸との反応生成物である。本明細書に記載の潤滑剤組成物は、電気車両ギア油を提供し、使用時に望ましいトラクション係数特性を付与する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラクション係数添加剤を含む、電気車両における使用に好適な潤滑剤組成物であって、前記トラクション係数添加剤がエステルであり、前記エステルは、
i)12~32個の炭素原子を有する少なくとも1種の飽和分岐鎖脂肪族一価アルコールと、
ii)6~32個の炭素原子を有する少なくとも1種の脂肪族カルボン酸の反応製品である、潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1種の脂肪族カルボン酸が飽和である、請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1種の脂肪族カルボン酸がモノカルボン酸又はジカルボン酸であり、前記エステルがモノエステル又はジエステルである、請求項1又は2に記載の潤滑剤組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1種の飽和分岐鎖脂肪族一価アルコールが、12~24個の炭素原子を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1種の飽和分岐鎖脂肪族一価アルコールが、12~20個の炭素原子を有する、請求項4に記載の潤滑剤組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1種の飽和分岐鎖脂肪族一価アルコールが、2-ブチルオクタノール、イソミリストイルアルコール、2-ヘキシルデカノール、イソステアリルアルコール、2-オクチルデカノール-1,2-ヘプチルウンデカノール-1,2-オクタドデカノール-1,2-ノニルトリデカノール-1及び2-デシルテトラデカノール-1並びに2種以上のそのようなアルコールの混合物から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1種の飽和分岐鎖脂肪族一価アルコールが、C12ゲルベアルコール、C14ゲルベアルコール、C16ゲルベアルコール、C18ゲルベアルコール、C20ゲルベアルコール、及びC24ゲルベアルコール、又はこれらの混合物から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項8】
前記トラクション係数添加剤が、40℃で0.131W/mKより高い熱伝導率を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項9】
前記トラクション係数添加剤が、100℃で8.0cSt以下の動粘度を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項10】
前記トラクション係数添加剤が、100℃で3.3cSt以下の動粘度を有する、請求項9に記載の潤滑剤組成物。
【請求項11】
前記トラクション係数添加剤が、40℃で30cSt以下の動粘度を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項12】
前記トラクション係数添加剤が少なくとも130の粘度指数を有する、請求項1~11のいずれかに記載の潤滑剤組成物。
【請求項13】
前記トラクション係数添加剤が、22重量%以下の250℃でのNOACK蒸発損失を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項14】
前記トラクション係数添加剤が、9重量%以下の200℃でのNOACK蒸発損失を有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項15】
前記潤滑剤組成物が、最大50重量%までの前記トラクション係数添加剤を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項16】
前記潤滑剤組成物が、少なくとも3重量%の前記トラクション係数添加剤を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項17】
前記潤滑剤組成物が最大25重量%までの前記トラクション係数添加剤を含む、請求項15又は16に記載の潤滑剤組成物。
【請求項18】
前記潤滑剤組成物が、グループI~グループIV基油から選択される少なくとも1種の基油、又はそれらの2種以上の混合物を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項19】
グループIII又はグループIVの基油の少なくとも1種を含む、請求項18に記載の潤滑剤組成物。
【請求項20】
前記潤滑剤組成物が以下の添加剤タイプ:分散剤、酸化防止剤、耐摩耗剤、乳化剤、解乳化剤、極圧剤、多機能添加剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、抑泡剤、及び摩擦調整剤のうちの1つ以上を更に含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項21】
配合物の総重量に基づいて少なくとも0.5重量%、好ましくは少なくとも1重量%の前記1つ以上の添加剤タイプを含む、請求項20に記載の潤滑剤組成物。
【請求項22】
配合物の総重量に基づいて最大30重量%までの前記1つ以上の添加剤タイプを含む、請求項20又は21に記載の潤滑剤組成物。
【請求項23】
前記潤滑剤組成物の総重量に基づいて0.01~30重量%の他の添加剤レベルを更に含む、請求項1~22のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項24】
請求項1~23のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物を含む、ギア油。
【請求項25】
電気車両におけるエネルギー効率を改善する方法であって、請求項1~23のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物を使用することを含む、又は前記電気車両のパワートレインにおいて請求項24に記載のギア油を使用することを含む、方法。
【請求項26】
前記潤滑剤組成物又はギア油が、前記電気車両のパワートレイン内の少なくとも1つのシステムにおいて使用され、前記システムが、アクスル、ディファレンシャル、トランスミッション、バッテリパック及びパワーエレクトロニクスから選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記潤滑剤組成物又はギア油が、前記電気車両のギアボックスにおいて使用される、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
電気車両パワートレインにおける、請求項1~23のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物の使用、又は請求項24に記載のギア油の使用。
【請求項29】
電気車両統合ギアボックスにおける、請求項28に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクション係数添加剤を含む、電気車両での使用に好適な潤滑剤組成物に関する。本明細書に記載の潤滑剤組成物は、とりわけ電気車両ギア油において、特に電気車両のトランスミッション液において有用性を提供し、使用時に、改善されたトラクション特性を提供する。
【背景技術】
【0002】
電気車両は、1つ以上の電気モータを使用して推進される車両である。電気車両は、性質が完全に電気(純電気若しくは全電気車両としても知られている)又はハイブリッドであり得る(ハイブリッド電気車両では、推進は、時々炭化水素由来燃料などの代替手段から達成され得る)。電気車両はまた、車両が電気モータ及びプラグインバッテリによって電力供給される航続距離延長電気車両を含むが、車両はまた、バッテリ充電を補うためだけに使用され、主推進源としては使用されない補助燃焼エンジンを備える。本発明は、これらのタイプの電気車両の全てにおいて使用するのに好適である。
【0003】
ギア油はサブクラスの潤滑剤であり、典型的には、その主成分として潤滑ベースストック(又は基油)を含む。潤滑油に利用される潤滑ベースストックの選択は、酸化及び熱安定性、揮発性、低温流動性、添加剤、汚染物質、及び分解生成物の溶解力、並びにトラクションなどの特性に大きな影響を及ぼす可能性がある。より具体的には、トラクション係数はベースストック流体の固有の特性であり(すなわち、基油の化学組成に基づく)、トラクション係数は添加剤によって影響されないことが、業界によって伝統的に教示されている。ベースストック流体の粘度が、使用時のトラクションの潤滑剤係数を決定することは、業界において広く信じられている。
【0004】
米国石油協会(American Petroleum Institute、API)は、潤滑剤ベースストックの5つのグループを定義する(API Publication 1509)。
【0005】
グループI、II、及びIIIは、それらが含有する飽和物及び硫黄の量及びそれらの粘度指数によって分類される鉱油である。以下の表1は、グループI、II、及びIIIについてのこれらのAPI分類を例解する。
【0006】
【表1】
【0007】
グループIのベースストックは、溶剤精製された鉱油であり、製造するのに最も安価なベースストックである。それらは、満足のいく酸化安定性、揮発性、低温性能、及びトラクション特性を提供し、添加剤及び汚染物質に対して特に良好な溶解力を有する。
【0008】
グループIIのベースストックは、主に水素化処理された鉱油であり、これは典型的には、グループIのベースストックと比較して改善された揮発性及び酸化安定性を提供する。グループIIストックの使用は、米国市場の約30%まで成長している。
【0009】
グループIII(グループIII+を含む)のベースストックは、高度に水素化処理された鉱油であるか、又はワックス若しくはパラフィンの異性化によって製造することができる。それらは、グループI及びIIのベースストックよりも良好な酸化安定性及び揮発性を有するが、市販の粘度の限られた範囲を有することが知られている。グループIII+ベースストックは、GTL(ガス液化)燃料流から誘導されるものを含む。
【0010】
グループIVのベースストックは、合成ベースストック、例えば、ポリアルファオレフィン(polyalphaolefin、PAO)であるという点でグループI~IIIとは異なる。PAOは、良好な酸化安定性、揮発性、及び低い流動点を有する。欠点としては、極性添加剤、例えば、耐摩耗添加剤の適度な溶解性が挙げられる。
【0011】
グループVのベースストックは、グループI~IVに含まれない全てのベースストックである。例としては、アルキルナフタレン、アルキル芳香族化合物、植物油、エステル、ポリカーボネート、シリコーン油、及びポリアルキレングリコールが挙げられる。
【0012】
乗用車の電化への急速な動きは、OEM及び調整器の現在のギア油仕様の理解及び仕様を超えている。現世代のハイブリッド車両及び電気車両は、この用途のために特に設計されていなかった標準的な自動トランスミッション液(automatic transmission fluid、ATF)配合物を依然として使用している。現在のギア油は、電気車両技術、ATFベース流体、及びアドパックにおける急速な進歩のために、OEMの動的要件を満たしていない。更に、EV内の電気モータは高効率であるため、EVパワートレインシステム内のギア潤滑剤の損失は非常に大きい可能性がある。エネルギー損失の低減は、使用中のEVにおけるバッテリ寿命の改善を提供し、これは、バッテリ範囲が増加するにつれて、EVが必要とする充電頻度が少なくなることを意味する。
【0013】
更に、電気車両における部品の熱管理が重要性を増している。車両のバッテリにおいて、熱管理は、安全な走行及び使用を保証するために極めて重要である。現在、バッテリを誘電性冷却流体と直接接触させる浸漬冷却式バッテリシステムを検討するために多くの研究が行われている。したがって、高い熱特性、例えば、熱容量及び熱伝導率を有する流体が、この用途に必要とされる。電子パワーシステム、例えば、電気モータ及びトランスミッションの冷却も、過熱することなくそれらを効果的に機能させ続けるために必要とされる。電子システムから過剰な熱を除去することはまた、電気抵抗を低減するのに役立ち、したがって、エンジン効率を改善するのに役立つ。したがって、電気車両での使用に好適な潤滑剤組成は、自動車の燃焼エンジンでの使用のために開発されたものとは大きく異なる。
【0014】
したがって、内燃機関、ハイブリッド及び電気車両におけるトランスミッション並びにギアボックスのための潤滑剤技術の継続的な開発にもかかわらず、潤滑油の寿命にわたってエネルギー効率が改善された潤滑油配合物に対する必要性が依然としてある。より具体的には、従来の燃焼エンジンの要件とは要件が異なる電気車両ギアボックスの要件を満たすように最適化及び調整された潤滑剤技術に対する必要性が存在する。したがって、電気エンジンにおいて高い性能(特に、低トラクション及び高熱伝導率)を提供するが、電気車両の乗用車市場にとって商業的に実現可能である新しい基油が、依然として積極的に求められている。
【0015】
本発明の目的は、電気車両のギアボックスでの使用に好適な潤滑剤組成物を提供することにより、改善された低トラクションを提供し、したがってエネルギー損失を最小化することである。低トラクションを提供するだけでなく、潤滑剤組成物は、十分な酸化安定性を有するべきであり、また良好な低温特性並びに、エラストマ及び銅などの材料との適合性を有するべきである。
【発明の概要】
【0016】
したがって、本発明は、トラクション係数添加剤を含む、電気車両における使用に好適な潤滑剤組成物を提供し、トラクション係数添加剤がエステルであり、エステルは
i)12~24個の炭素原子を有する少なくとも1種の飽和分岐鎖脂肪族一価アルコールと
ii)6~24個の炭素原子を有する少なくとも1種の脂肪族カルボン酸の反応製品である。
【0017】
本発明はまた、本発明の第1の態様による潤滑油を使用することを含む、ギアボックスにおけるトラクション係数を低減する方法を提供する。
【0018】
本明細書に記載のトラクション係数添加剤は、低減されたトラクション係数を提供することによって、潤滑剤組成物が適用されるギアボックスの性能を有利に改善することができる。
【0019】
本明細書に記載のトラクション係数添加剤は、潤滑剤組成物中、より具体的にはギアボックス用のギア油中、特に電気車両のギアボックス用のギア油中のトラクション係数低減添加剤として使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書中で使用される任意の上限若しくは下限の量又は範囲の限界は、独立して組み合わせられ得ることが理解される。
【0021】
置換基中の炭素原子の数(例えば、「C1~C6」)を記載する場合、その数は、任意の分岐基中に存在する任意のものを含む、置換基中に存在する炭素原子の総数を指すことが理解されるであろう。追加的に、例えば、脂肪酸中の炭素原子の数を説明するとき、これは、カルボン酸における炭素原子、及び任意の分岐基中に存在する任意の炭素原子を含む炭素原子の総数を指す。
【0022】
記載された、請求項に係る発明に関する、本明細書において使用される場合、文脈に応じて、「重量%」という用語は、潤滑剤組成物の総重量の百分率として言及される成分の重量百分率を示す。文脈が特定の成分、例えばNOACK蒸発損失を指す場合、「重量%」という用語は、成分の総重量の重量百分率を示す。
【0023】
本発明によれば、トラクション係数添加剤を含む、電気車両における使用に好適な潤滑剤組成物が提供され、トラクション係数添加剤はエステルであり、エステルは
iii)12~32個の炭素原子を有する少なくとも1種の飽和分岐鎖脂肪族一価アルコールと
iv)6~32個の炭素原子を有する少なくとも1種の脂肪族カルボン酸の反応製品である。
【0024】
好適には、脂肪族カルボン酸は、飽和又は不飽和、直鎖又は分岐鎖であり得る。好ましくは、脂肪族カルボン酸は、飽和であり、それにより改善された酸化安定性を提供する。
【0025】
望ましくは、カルボン酸は植物性脂肪及び/又は油から誘導され得る。したがって、好ましくは、脂肪族カルボン酸は脂肪酸であってもよい。脂肪酸は、飽和又は不飽和であり得る。脂肪酸は、直鎖又は分岐鎖であり得る。好ましくは、脂肪酸は飽和である。当然のことながら、脂肪鎖に偶数の炭素を有する脂肪酸は、自然においてより豊富であり、したがって、より容易かつ安価に入手可能であり、したがって、これらの形態の脂肪酸、特にC6、C8、C10、C12、C14、C16、C18、及びC20鎖長を有するものが好ましい場合がある。脂肪酸は、好ましくは6~18個の炭素を含有する脂肪鎖を提供する中鎖脂肪酸鎖を含有すると理解することができる。
【0026】
好ましくは、カルボン酸はモノカルボン酸又はジカルボン酸であり、エステルはモノエステル又はジエステルであり、最も好ましくは、カルボン酸はモノカルボン酸であり、エステルはモノエステルである。好適には、カルボン酸は、以下の1つ以上から選択され得る。ヘキセン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、ヘキセン酸デセン酸、リノール酸、リノレライジン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸、ネルボン酸、イソヘキサン酸、4-メチルペンタン酸、イソオクタン酸、2-エチルヘキサン酸、イソステアリン酸、イソベヘン酸、2-エチル-1-ブタン酸、2-ブチル-オクタン酸、2-ヘキシル-デカン酸、2-オクチルドデカン酸、2-デシルテトラデカン酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フェロゲン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、脂肪酸、トール油、アクリル酸との反応生成物、及びアルケニルコハク酸。
【0027】
好適には、12~32個の炭素原子を有する少なくとも1種の飽和分岐鎖脂肪族一価アルコールは、任意の好適な供給源から得ることができ、典型的には、ゲルベアルコール、オキソアルコール、アルドール縮合誘導アルコール、及びこれらの混合物から選択することができる。
【0028】
好ましくは、少なくとも1種の飽和分岐鎖脂肪族一価アルコールは、12~32個の炭素原子、より好ましくは12~24個の炭素原子、最も好ましくは12~20個の炭素原子を有する。好ましいより短い鎖長は、意図された使用のためのエステル粘度にプラスの効果を有する。より具体的には、12~32個の炭素原子を有する少なくとも1種の飽和分岐鎖脂肪族一価アルコールは、主炭素鎖上のβ位で分岐したアルコールである。好ましくは、このようなアルコールは、2-ブチルオクタノール、イソミリストイルアルコール、2-ヘキシルデカノール、イソステアリルアルコール、2-オクチルデカノール-1,2-ヘプチルウンデカノール-1,2-オクタドデカノール-1,2-ノニルトリデカノール-1及び2-デシルテトラデカノール-1並びに2種以上のこのようなアルコールの混合物から選択され得る。このようなアルコールは、好都合にはゲルベアルコールであり、好ましくは、アルコールは、C12ゲルベアルコール、C14ゲルベアルコール、C16ゲルベアルコール、C18ゲルベアルコール、C20ゲルベアルコール、及びC24ゲルベアルコール、又はこれらの混合物から選択され得る。好ましいゲルベアルコールの使用は、それらの所与の粘度に対して異常に高い熱伝導率を有するエステルを提供すると考えられ、すなわち、トラクション係数添加剤の熱伝導率は驚くべきものであり、本発明の潤滑剤組成物を電気車両での使用に好適なものにする。本発明によるモノエステルは、特に、他のエステルと比較して例外的に低いトラクションを提供しながら、低粘度、低極性及び低揮発性を有することも見出された。
【0029】
好適には、トラクション係数は、40℃で0.131W/mK、好ましくは40℃で0.135W/mK、より好ましくは40℃で0.141W/mK、最も好ましくは40℃で0.151W/mKよりも高い熱伝導率を有する。熱伝導率は、実施例に関して以下に記載される方法に従って測定される。
【0030】
好ましくは、トラクション係数添加剤は、100℃で8.0以下、好ましくは6.0cSt以下、最も好ましくは4.0cSt以下の動粘度を有し、いくつかの特に好ましい実施形態において、トラクション係数添加剤は、100℃で3.3cSt以下の動粘度を有する。追加的に又は代替的に、トラクション係数添加剤は、40℃で30cSt以下、好ましくは20cSt以下、最も好ましくは10cSt以下の動粘度を有する。
【0031】
好ましくは、トラクション係数添加剤は、少なくとも130、好ましくは少なくとも140の粘度指数を有する。
【0032】
好ましくは、トラクション係数添加剤は、-30℃以下、より具体的には-35℃以下、特に-40℃以下の流動点を有する。
【0033】
好ましくは、トラクション係数添加剤は、22重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは18重量%以下の250℃でのNOACK蒸発損失を有する。追加的に又は代替的に、好ましくは、トラクション係数添加剤は、9重量%以下、好ましくは7重量%以下、より好ましくは5重量%以下の200℃でのNOACK蒸発損失を有する。
【0034】
好ましくは、トラクション係数添加剤は、少なくとも200℃、より好ましくは少なくとも210℃、より具体的には少なくとも220℃の引火点を有する。
【0035】
好ましくは、トラクション係数添加剤は、EP-B-0792334に記載されているように、少なくとも80、好ましくは少なくとも90の非極性指数(NPI)を有する。
【0036】
好ましくは、トラクション係数添加剤は、-20℃で1週間保持した場合に安定である。この低温安定性は、約30mlの試料をガラスバイアル中に保存し、バイアルを-20℃のフリーザーユニット中に1週間置き、試料を一定間隔でチェックし、結晶形成又はゲル化の任意の徴候を記録することによって試験することができる。
【0037】
本発明のトラクション係数添加剤の更なる利点は、FKM及び/又はHNBRエラストマに対して最小の膨潤効果を有することが見出されたことであり、したがって、従来の潤滑油添加剤に対してより高い含有レベルで使用することができる。したがって、いくつかのあまり好ましくない実施形態では、潤滑剤組成物は、トラクション係数添加剤のみからなっていることがある。あるいは、潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物が50重量%を超えるトラクション係数添加剤を含むように、大部分のトラクション係数添加剤を含んでもよい。しかしながら、好ましくは、潤滑剤組成物は、最大50重量%までのトラクション係数添加剤を含む。好ましくは、潤滑剤組成物は、少なくとも3重量%、より好ましくは少なくとも5重量%のトラクション係数添加剤を含む。潤滑剤組成物は、最大45重量%まで、より好ましくは最大35重量%まで、特に最大25重量%までのトラクション係数添加剤を含むことができる。本発明の一実施形態において、潤滑剤組成物は、3重量%~25重量%、好ましくは5重量%~20重量%のトラクション係数添加剤を含む。
【0038】
好ましくは、潤滑剤組成物は、少なくとも1種の基油を含み、好適には、少なくとも1種の基油は、グループI~グループIVの基油、又はそれらの2種以上の混合物から選択される。好ましくは、潤滑剤組成物は、少なくとも1種の基油を潤滑剤組成物の主成分として含む。本発明の1つの利点は、トラクション係数添加剤がグループI~グループIVの基油と良好な相溶性を有し、潤滑剤組成物中の基油の選択における柔軟性を可能にすることである。しかしながら、電気車両において使用するためには、グループIII又はグループIV基油の少なくとも1種を含む潤滑剤組成物が好ましい場合がある。適切なグループIII基油の例としては、鉱油、並びに、天然ガス(すなわち、メタン及び高級アルカン)を合成ガス(一酸化炭素及び水素)に変換し、次いでオリゴマ化を介して(例えば、フィッシャー・トロプシュプロセスを介して)、要求される潤滑油沸点/粘度範囲のイソパラフィンを生成するために水素化分解される高分子量分子に変換することによって作製されるグループIII+GTL基油の例が挙げられる。好適なグループIV基油の例としては、C~C12α-オレフィンから誘導され、100℃で2cSt~8cStの範囲の動粘度を有するポリ-α-オレフィン(PAO)が挙げられる。PAOの例としては、Exxonから入手可能なSpectraSyn MaXが挙げられる。グループVの基油の例としては、ポリアルキレングリコール(PAG)、アルキルベンゼン及びエステルが挙げられる(この場合、グループVのエステル基油は、上記のトラクション係数添加剤以外のエステルであることが理解されたい)。エステルの例としては、Priolube 3970(商標)、TMPnC/nC10ポリオールエステルが挙げられる。
【0039】
本発明の一実施形態において、潤滑剤組成物は、本質的にトラクション係数添加剤及び少なくとも2種の基油からなり、少なくとも2種の基油は、少なくとも1種のグループV基油、特にエステルを含む。
【0040】
一実施形態では、ギア油配合物は、非水性である。しかしながら、潤滑剤組成物の成分は、少量の残留水(水分)を含有し得、したがって、潤滑剤組成物中に存在し得ることが理解されるであろう。潤滑剤組成物は、組成物の総重量に基づいて、5重量%未満の水を含み得る。より好ましくは、潤滑剤組成物は、実質的に水を含まない、すなわち、組成物の総重量に基づいて、2重量%未満、1重量%未満、又は好ましくは0.5重量%未満の水を含有する。好ましくは、潤滑剤組成物は実質的に無水である。
【0041】
潤滑剤組成物をその意図された用途、特にギア油としての使用に更に適合させるために、組成物は、以下の添加剤タイプの1つ以上を含んでもよい。
1.分散剤:例えば、アルケニルスクシンイミド、アルケニルコハク酸エステル、他の有機化合物で変性されたアルケニルスクシンイミド、エチレンカーボネート又はホウ酸で後処理することによって変性されたアルケニルスクシンイミド、ペンタエリスリトール、フェナート-サリチレート及びそれらの後処理された類似体、アルカリ金属又は混合アルカリ金属、アルカリ土類金属ボレート、水和アルカリ金属ボレートの分散液、アルカリ土類金属ボレートの分散液、ポリアミド無灰分散剤など、又はそのような分散剤の混合物。
2.酸化防止剤:酸化防止剤は、鉱油が使用中に劣化する傾向を低減させ、その劣化は、金属表面上のスラッジ及びワニス様堆積物などの酸化生成物によって、及び粘度の増加によって証明される。酸化防止剤としては、例えば、4,4’-メチレン-ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-イソプロピリデン-ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-ノニルフェノール)、2,2’-イソブチリデン-ビス(4,6-ジメチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール)、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-l-ジメチルアミノ-p-クレゾール、2,6-ジ-tert-4-(N,N’-ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4’-チオビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-チオビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルベンジル)-スルフィド、及びビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)などのフェノール系酸化防止剤が挙げられる。他のタイプの酸化防止剤としては、アルキル化ジフェニルアミン(例えば、Irganox L-57、例えば、BASF、金属ジチオカルバメート(例えば、亜鉛ジチオカルバメート)、及びメチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)が挙げられる。
3.耐摩耗剤:その名前が示すように、これらの薬剤は移動する金属部品の摩耗を減少させる。このような薬剤の例としては、ホスフェート、ホスファイト、カルバメート、エステル、硫黄含有化合物、及びモリブデン錯体が挙げられる。
4.乳化剤:例えば、直鎖アルコールエトキシレート。
5.解乳化剤:例えば、アルキルフェノールとエチレンオキシドの付加生成物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、及びポリオキシエチレンソルビタンエステル。
6.極圧剤(EP剤(extreme pressure agent)):例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(一級アルキル、二級アルキル、及びアリール型)、硫化油、硫化ジフェニル、トリクロロステアリン酸メチル、塩素化ナフタレン、フルオロアルキルポリシロキサン、及びナフテン酸鉛。好ましいEP剤は、例えば、耐摩耗性油圧作動油組成物のための共添加剤成分の1つとしての、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(zinc dialkyl dithiophosphate、ZnDTP)である。
7.多機能添加剤:例えば、硫化オキシモリブデンジチオカルバメート、硫化オキシモリブデン有機ホスホロジチオエート、オキシモリブデンモノグリセード(monoglycehde)、オキシモリブデンジエチレートアミド、アミン-モリブデン錯体化合物、及び硫黄含有モリブデン錯体化合物。
8.粘度指数向上剤:例えば、ポリメタクリレートポリマー、エチレン-プロピレンコポリマー、スチレン-イソプレンコポリマー、水素化スチレン-イソプレンコポリマー、ポリイソブチレン、及び分散型粘度指数向上剤。
9.流動点降下剤:例えば、ポリメタクリレートポリマー。式(I)の化合物の流動点がギアボックス油としての使用に好適であることは本発明の利点であるが、比較的長い鎖の直鎖分子を利用する実施形態は、流動点降下剤の添加から利益を得ることができる。追加的に、いくつかの代替添加剤の存在は、配合物の流動点に悪影響を及ぼし、流動点降下剤の添加を魅力的なものにし得る。
10.抑泡剤:例えば、アルキルメタクリレートポリマー及びジメチルシリコーンポリマー。
11.摩擦調整剤:アミド、アミン、及び多価アルコールの部分脂肪族エステルが挙げられ、例えば、グリセロールモノオレエート、オレイルアミド、及び「Perfad」の商品名でCrodaから入手可能な、又は「Ethomeen」の商品名でNouryonから入手可能な代替摩擦調整剤が挙げられ得る。
【0042】
好適には、潤滑剤組成物は、配合物の総重量に基づいて、少なくとも0.5重量%、好ましくは少なくとも1重量%、より好ましくは少なくとも5重量%の1つ以上の添加剤タイプを含み得る。潤滑剤組成物は、配合物の総重量に基づいて、最大30重量%まで、好ましくは最大20重量%まで、より好ましくは最大10重量%までの1つ以上の添加剤タイプを含み得る。
【0043】
他の添加剤もまた、潤滑剤組成物の総重量に基づいて、0.01~30重量%、より好ましくは0.01~20重量%、特に0.01~10重量%のレベルで、既知の官能基の潤滑剤組成物中に存し得る。これらには、洗浄剤、腐食防止剤、防錆剤、及びそれらの混合物が含まれ得る。腐食防止剤としては、サルコシン誘導体、例えば、Croda Europe Ltd.から入手可能なCrodasinic Oが挙げられる。無灰洗浄剤としては、カルボン酸分散剤、アミン分散剤、マンニッヒ分散剤、及びポリマー分散剤が挙げられる。灰含有分散剤としては、酸性有機化合物の中性及び塩基性アルカリ土類金属塩が挙げられる。添加剤は、単一材料中に2つ以上の官能基を有し得る。
【0044】
添加剤(複数可)は、市販の添加剤パックの形態で入手可能であり得る。このような添加剤パックは、添加剤パックの必要とされる使用に応じて組成が変動する。当業者は、ギア油のための好適な市販の添加剤パックを選択し得る。ギア油に特に好適な添加剤パックの例は、Evogen 5201、例えば、Lubrizol,USAであるが、これは、特に電気車両での使用のために設計されている。
【0045】
潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物の総重量に基づいて、好ましくは少なくとも0.05重量%、より好ましくは少なくとも0.5重量%、特に少なくとも1重量%、とりわけ少なくとも1.5重量%の更なる添加剤(添加剤パック)を含む。潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物の総重量に基づいて、好ましくは最大15重量%まで、より好ましくは最大10重量%まで、特に最大4重量%まで、とりわけ最大2.5重量%までの更なる添加剤(添加剤パック)を含む。
【0046】
上記の例にもかかわらず、潤滑剤組成物を電気車両での使用に好適なものにするために、任意の添加剤の選択は、銅適合性(電気モータの要件のため)、並びに低い(しかし、必ずしもゼロではない)導電率を提供するか又は呈することを考慮に入れるべきであるが、燃焼エンジン自動車エンジンに一般的に利用される全ての添加剤が、電気車両(electric ah vehicle)パワートレイン流体での使用に好適であるわけではない。
【0047】
潤滑剤組成物は、ISOグレードによる動粘度を有し得る。ISOグレードは、40℃での試料の中間点動粘度をcSt(mm/秒)で指定する。例えば、ISO100は、100±10cStの粘度を有し、ISO1000は、1000±100cStの粘度を有する。潤滑剤組成物は、好ましくはISO10~ISO1500、より好ましくはISO68~ISO680の範囲の粘度を有する。
【0048】
本発明はまた、上記の潤滑剤組成物を含むギア油を提供する。ギア油は、潤滑流体であると考えることができ、熱伝導性及びトラクションが重要でない場合であっても、潤滑剤として他の領域において有用性を有し得る。ギア油配合物は、任意のタイプのトランスミッションシステムにおける使用のための工業用、自動車用及び/又は船舶用ギア油としての使用に好適であり得る。しかしながら、ギア油は、ギアボックス油、より具体的には、電気車両での使用に好適な一体化されたギアボックス油を好適に提供し、これは、上記の潤滑剤組成物が、使用時に、有利な熱伝導特性及び望ましいトラクション特性を提供するためである。追加的に、ギア油における良好な熱特性の提供は、エンジン寿命の寿命を増強させ得る。
【0049】
基油が、熱伝達流体としての有用性を見出し得ることも想定される。このような熱伝達流体は、システムから熱を除去する手段を提供することができる。熱伝達流体の使用を必要とするか、又は熱伝達流体の使用から利益を得るそのようなシステムは、機械システム又は電気システムであり得る。本発明の基油は、電気システムにおける熱伝達流体として使用するのに十分に適し得、より具体的には、電気車両における熱伝達流体として使用するのに十分に適し得る。
【0050】
本発明の別の実施形態によれば、電気車両におけるエネルギー効率を改善する方法であって、電気車両のパワートレインにおいて本発明の第1の態様による潤滑剤組成物を使用することを含む、方法が提供される。潤滑剤組成物は、アクスル、差動装置、トランスミッション、バッテリパック、及びパワーエレクトロニクスなどのパワートレイン内の様々なシステムにおいて使用され得る。潤滑剤組成物は、電気車両での使用のために最適化されたトラクション、熱、伝導性、及び粘度特性を含む、電気車両パワートレインでの使用に好適な特性を有する。更なる代替において、電気車両パワートレインからの熱除去を改善する方法であって、電気車両パワートレインにおいて本発明の第1の態様による基油を使用することを含む、方法が提供される。
【0051】
追加的に、又は代替的に、電気車両におけるエネルギー効率を改善する方法であって、電気車両のギアボックスにおいて本発明の一態様による潤滑剤組成物を使用することを含む、方法が提供される。より具体的には、電気車両におけるエネルギー効率を改善する方法は、一体化されたギアボックス内に潤滑剤組成物を提供するステップを含む。したがって、車両パワートレインにおける本明細書に記載されるような潤滑剤組成物の使用、より具体的には電気車両一体化ギアボックスにおける使用が提供される。より具体的には、潤滑剤組成物又はギア油は、アクスル、差動装置、トランスミッション、バッテリパック、及びパワーエレクトロニクスのようなパワートレイン内のシステムにおいて使用され得る。
【0052】
本発明による潤滑剤組成物は、電気車両パワートレインでの使用に好適なものを含む。より具体的には、潤滑剤組成物は、電気モータに一体化されている及び一体化されていないギアシステムの両方での使用に好適なギア油である。そのようなシステムは、アクスル、差動装置、及びトランスミッションを含む。なお、電気車両には、2つ以上の電気モータが提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0053】
ここで、以下の実施例及び添付の図面を参照して、本発明を説明する。
図1】40℃における実験試料及び市販試料のMTMトラクション係数データを示す。
図2】60℃における実験試料及び市販試料のMTMトラクション係数データを示す。
図3】75℃における実験試料及び市販試料のMTMトラクション係数データを示す。
図4】100℃における実験試料及び市販試料のMTMトラクション係数データを示す。
図5】120℃における実験試料及び市販試料のMTMトラクション係数データを示す。
【0054】
材料
以下の材料が本実施例において利用される。
グループIII基油Yubase 4. ex.SK潤滑剤
グループIV基油SpectraSyn PAO 4 ex.エクソンモービル。
市販の低粘度の従来の自動車用摩擦調整添加剤-Priolube 3959 ex.クローダ。
【0055】
本発明を、以下の実施例を参照して更に説明する。
【0056】
1.実施例
本発明による試料を以下の表1に詳細に示す。試料材料を製造する方法は、当業者に公知の従来のエステル化方法による。エステル実施例試料のそれぞれにおけるアルコールは、サソールからイソフォル(ISOFOL)の商品名で入手可能なゲルベアルコールによって提供される。
【0057】
【表2】
【0058】
2.試験
以下の試験を使用して、実施例の基油の特性を評価した。
2.1 酸化安定性は、Anton Paar RapidOxyマシンを使用して測定した。4グラムの試料を圧力容器に入れ、700kPaで酸素を充填した後、140℃まで加熱する。圧力が10%低下するのに要した時間を酸化誘導時間(Oxidative Induction Time、OIT)として測定する。これは、試験された試料の酸化分解に対する耐性の相対的尺度を提供し、OITが長いほど、試料は酸化安定性である。
2.2 動粘度(KV)は、アントンパールSVM粘度計を使用して100℃及び40℃で測定した。試験した材料の粘度指数(VI)も提供する。VI値が高いほど、材料はある温度範囲にわたってより安定である。
2.3 熱伝導率は、熱線過渡法に基づくThermtest THW-L2を使用して測定した。信頼できる平均を作成するために、40℃及び80℃の温度で10個のデータ点を収集し、各データ点の間を5分として流体を沈降させた。試験電力は、測定された出力電力が70~90mWであり、かつ約3℃の温度上昇を与えるように設定し、試験時間は1秒に設定した。
2.4 ISL Mini Pour Point 5Gsで流動点試験を行って、ASTM D97及びD2500に相関する物質が依然として流動する最低温度を判定した。
2.5 摩擦係数は、ミニトラクションマシン(MTM)を使用して測定され、試験はPCS MTM 1に対して行われた。MTMを設定するのに必要とされる全ての試験片、及びPCSによって供給された標準試験片を(以下の表2に示されるように)、Camsonix C940超音波浴を使用して、へプタン中で15分間3回音波処理し、へプタンを排出し、次いで、各音波処理後にリフレッシュした。全ての試験片は、MTMで組み立てる前に窒素を使用して乾燥させた。試験プロファイルは、16Nで0~100%の滑り対転がり比(SRR)を示し、トラクション曲線を作成するために所与の温度で41個のデータ点を取る。これを40℃、60℃、75℃、100℃、及び120℃で繰り返して、広範囲の温度にわたる性能を示す。試験パラメータを表3に詳述する。
2.6 250℃でのNOACK揮発性は、標準試験方法ASTM D5800に従って測定される。電気車両はそのような高温では動作しないので、ASTM D5800に基づくが200℃の温度での修正試験も実施して、200℃測定でのNOACK揮発性を提供する。
2.7 15日間にわたって測定した加水分解安定性(RR1006)。
油250g及び水25gをコニカルフラスコ中で混合し、水トラップ(エアロック)を取り付ける。これを90℃のオーブンに15日間入れ、酸価を数日毎に1回試験する。
2.8 シール膨潤試験。異なる材料のシールを、試験される試料中に100℃で2週間浸漬させる。
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
3.試験データ
表1に詳述した試料材料、並びに上記で詳述したグループIII及びグループIVからの市販の基油を、上記のセクション2に概説した試験に供した。
【0062】
【表5】
【0063】
本発明の実施例試料は、電気車両で使用するための潤滑剤組成物で使用するための添加剤として有用なものにする物理的特性を有する。特に、動粘度(KV)と熱伝導率との間のバランスは、電気車両のパワートレインでの使用に特に望ましい。より具体的には、DE10766として示される試料は、100℃でわずか2.9cStの低動粘度材料、優れた粘度指数(VI)、及びその粘度の非常に低いNOACK(NOACKデータは以下の表5に提供される)を有するため、電気車両での使用に特に適した材料を提供する。DE10766の流動点は、電気車両潤滑剤用途における使用にも許容される。
【0064】
【表6】
【0065】
試料DE10766を更に試験して、その電気絶縁破壊電圧を検討したが、これは電気車両での使用に好適な流体にとって重要な検討事項である。電気的破壊電圧値は予想よりも低かった。
【0066】
【表7】
【0067】
試料DE10766の加水分解安定性は優れており、15日間にわたってわずか0.38 AV単位だけ変化する。これはモノエステルにとって驚くべきことであり、ゲルベアルコールの使用は加水分解に対するいくらかの耐性を提供すると考えられているが、この理由はまだ理解されていない。
【0068】
エンジンシールとの適合性は、電気車両のパワートレインに使用される任意の添加剤の別の重要な特徴である。試料DE10766も、2週間の期間にわたってシール膨潤にアクセスするために試験した。一般に、低粘度材料は極性が高く、エラストマを著しく膨潤させる。比較添加剤として、Priolube 3959(100℃で2.5cStのKVを有する市販の潤滑油添加剤ジエステル)も試験した。少量のシール膨潤が望ましいので、DE10766の結果は、Priolube 3959がエラストマをより大きく、望ましくない程度まで膨潤させる場合に望ましい。FKMにおける1%膨潤の結果は、その低い粘度にもかかわらず、DE10766が高い処理率で使用できることを意味する。
【0069】
【表8】
【0070】
40℃では、試験された試料の全てが、グループIII及びグループIV基油の両方よりも有意に低いトラクションを有し、この傾向は60℃及び75℃で続いたが、100℃では、731-90として示される試料は、低い滑り対転がり比で高いトラクション係数を示し始めた。731-90試料の非常に低い粘度がこの理由であり(2.2cStの100℃でのKV)、試料は低スライドロール比条件下で潤滑剤膜を維持することができないと考えられる。120℃では、731-84と表示された試料はまた、トラクション係数の増加を示す。この理由は、試料731-84が、高温であっても低いトラクションレベルを維持することができるDE10766よりも高い粘度を有するので不明であり、より高い粘度の材料がより良好に機能することが予想される。しかしながら、いずれの場合も、電気車両における動作温度は典型的には100℃未満であるため、本明細書で調製される全ての実施例試料は、電気車両パワートレインにおける使用に有用性を有すると考えられる。特に、DE10766は、電気車両におけるトラクションの低減に使用するための優れた選択であるように思われる。それは低粘度、低極性であり、優れた熱特性、低トラクション特性及びエラストマ相溶性を有する。更に、本明細書で試験した他の実施例試料は、イソフォル12及びイソフォル16を含有する試料が望ましく非常に低いトラクションを与えることを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】