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特表2024-520795マイクロ流体ゲル構造を形成する方法及び装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】マイクロ流体ゲル構造を形成する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20240517BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20240517BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
C12M1/34 B
C12M3/00 Z
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575782
(86)(22)【出願日】2022-06-08
(85)【翻訳文提出日】2024-01-22
(86)【国際出願番号】 EP2022065506
(87)【国際公開番号】W WO2022258668
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】2028424
(32)【優先日】2021-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517423062
【氏名又は名称】ミメタス ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】アル-マルディーニ、クラウディア
(72)【発明者】
【氏名】バートン、トッド ペーター
(72)【発明者】
【氏名】トリエッチ、セバスチャン ヨハネ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA07
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B029FA15
4B029GA08
4B029GB09
4B063QA01
4B063QA18
4B063QR48
4B063QR77
4B063QR82
4B063QS40
4B063QX02
4B063QX04
(57)【要約】
内腔化ゲル構造を作るための方法が記載される。本方法は、ゲル前駆体溶液を含む第1の液体をマイクロ流体ネットワークに導入するステップであって、マイクロ流体ネットワークは、マイクロ流体ネットワークの第1の領域と第2の領域との間の境界を概ね画定する位置に毛細管圧力障壁を含むステップと、第1の液体がマイクロ流体ネットワークの第1の領域に入り、毛細管圧力障壁に沿ってそれ自体を整列させることができるようにし、それにより、マイクロ流体ネットワークの第1の領域と第2の領域との間の境界に第1の液体の液体-空気メニスカスを形成するステップと、第1の液体を第2の液体と接触させることにより第1の液体を通る内腔を形成するステップであって、第2の液体は、第1の液体の粘性よりも低い粘性を有するステップと、第1の液体のゲル化を許容するか又は引き起こして、その中を通る内腔を含むゲル構造を形成するステップとを含む。また、内腔がその中を通って延在するゲルを含む装置、並びにアッセイにおける装置及び内腔化ゲル構造の使用も記載される。
【選択図】図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内腔化ゲル構造を作るための方法であって、
ゲル前駆体溶液を含む第1の液体をマイクロ流体ネットワークに導入するステップであって、前記マイクロ流体ネットワークは、前記マイクロ流体ネットワークの第1の領域と第2の領域との間の境界を概ね画定する位置に毛細管圧力障壁を含むステップと、
前記第1の液体が前記マイクロ流体ネットワークの前記第1の領域に入り、前記毛細管圧力障壁に沿ってそれ自体を整列させることができるようにするステップであって、それにより、前記マイクロ流体ネットワークの前記第1の領域と前記第2の領域との間の境界に前記第1の液体の液体-空気メニスカスを形成するステップと、
前記第1の液体を第2の液体と接触させることにより前記第1の液体を通る内腔を形成するステップであって、前記第2の液体は、前記第1の液体の粘性よりも低い粘性を有するステップと、
ゲル構造の中を通る内腔を含む前記ゲル構造を形成するために前記第1の液体がゲル化することを許容するか又は引き起こすステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記ゲル構造は、前記内腔に対向する第1の表面と、前記マイクロ流体ネットワークの前記第2の領域に対向する第2の表面とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ゲル構造は、200μm以下、好ましくは100μm未満である、前記第1の表面と前記第2の表面との間の厚さを有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
第2の毛細管圧力障壁が、前記マイクロ流体ネットワークの前記第1の領域と第3の領域との間の境界を概ね画定する位置に設けられ、
前記第1の液体は、前記第2の毛細管圧力障壁に沿ってそれ自体を整列させ、それにより、前記マイクロ流体ネットワークの前記第3の領域に対向する前記ゲル構造の第3の表面を形成する、
請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記ゲルは、コラーゲンI、コラーゲンIV、フィブリン、フィブリノゲン、ラミニン、マトリゲル(登録商標)、ヒアルロン酸、及び合成ヒドロゲルのうちの1つ又は複数から任意選択的に選択される細胞外マトリックスを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ゲル前駆体溶液を前記第2の液体と接触させるステップは、
形状が凸状であると共に第1の主曲率半径を有する、前記第2の液体のメニスカスを形成するステップ
を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記内腔を形成するステップは、
前記マイクロ流体ネットワーク内の第1の位置において前記ゲル前駆体溶液を前記第2の液体と接触させるステップと、
前記第1の位置から間隔をあけた第2の位置において前記ゲル前駆体溶液を第3の液体と接触させるステップであって、前記第3の液体は前記第1の液体の粘性よりも低い粘性を有する、ステップと
を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ゲル前駆体溶液を前記第3の液体と接触させるステップは、
形状が凹状であるか、或いは形状が凸状であると共に前記第1の主曲率半径よりも小さい第2の主曲率半径を有する、前記第3の液体のメニスカスを形成するステップ
を含む、請求項6に従属する場合の請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記内腔を形成するステップは、表面張力又は重力を用いて前記第1の液体を通して前記第2の液体を受動的にポンピングするステップを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記マイクロ流体ネットワークの前記第2の領域に第2のゲル前駆体溶液を導入して、前記第2のゲル前駆体溶液を前記毛細管圧力障壁の長さに沿って前記ゲル構造と接触することを許容するステップと、
前記第2のゲル前駆体溶液と、前記第2のゲル前駆体溶液の粘性よりも低い粘性を有する液体とを接触させることにより、前記第2のゲル前駆体溶液を通る内腔を形成するステップと、
第2のゲル構造の中を通る内腔を含む前記第2のゲル構造を形成するために前記第2のゲル前駆体溶液がゲル化することを許容するか又は引き起こし、前記第1のゲル構造と接触させるステップと
をさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の液体はゲル前駆体溶液を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記第2の液体と、前記第2の液体の粘性よりも低い粘性を有する液体とを接触させることにより、前記第2の液体を通る内腔を形成するステップと、
層状ゲル構造の中を通る内腔を含む前記層状ゲル構造を形成するために前記第1のゲル構造内で前記第2の液体がゲル化することを許容するか又は引き起こすステップと
をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ゲル前駆体溶液は、例えば、間質細胞、筋細胞、周皮細胞、線維芽細胞、及び筋線維芽細胞から選択される、間葉由来の1つ又は複数の細胞を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
1つ又は複数の細胞を前記ゲル構造の前記内腔に導入するステップであって、例えば、前記1つ又は複数の細胞は、内皮細胞又は上皮細胞を含む、ステップ
をさらに含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記1つ又は複数の細胞は内皮細胞又は上皮細胞を含み、
前記1つ又は複数の細胞が前記内腔の表面を覆い、前記内腔内に細管を形成できるようにするステップ
をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第2の領域に少なくとも部分的に細管を形成するために1つ又は複数の細胞を前記マイクロ流体ネットワークの前記第2の領域に導入し、前記細胞が前記ゲル構造の前記第2の表面及び前記マイクロ流体ネットワークの前記第2の領域を少なくとも部分的に被覆できるようにするステップであって、例えば、前記1つ又は複数の細胞は、内皮細胞又は上皮細胞、間葉由来の細胞、例えば、(平滑)筋細胞、周皮細胞、有足細胞、線維芽細胞、筋線維芽細胞、星状細胞、又は1つ若しくは複数のスフェロイド若しくはオルガノイドから選択される、ステップ
をさらに含む、請求項2~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記第1の表面と前記第2の表面との間の前記ゲル構造の厚さを減少させることにより、及び/又は1つ又は複数のECM成分を分泌することにより、前記1つ又は複数の細胞が前記ゲル構造を再構築することを許容するか又は刺激するステップ
をさらに含む、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
例えば、間質細胞、筋細胞、周皮細胞、線維芽細胞、及び筋線維芽細胞から選択される間葉由来の細胞を、前記内腔内の前記細管及び/又は前記第2の領域の前記細管を実質的に包囲するように前記マイクロ流体ネットワークに導入するステップ
をさらに含む、請求項15~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
1つ又は複数の免疫細胞、例えば、T細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、及び/又はB細胞を、前記1つ又は複数の免疫細胞が前記ゲルの前記第1の表面又は存在する場合には前記細管に接着するように、或いは前記ゲル構造内に提供されるように、前記内腔及び/又は前記ゲルに導入するステップ
をさらに含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記1つ又は複数の免疫細胞が前記細管の上皮又は内皮血管壁を横断し、任意選択的に前記ゲル構造を通って遊走することを刺激するか又は許容するステップ
をさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記毛細管圧力障壁は前記マイクロ流体ネットワークの内表面上に提供され、前記マイクロ流体ネットワークの前記内表面との水の接触角を増大させる材料の稜、溝、又は線を含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記マイクロ流体ネットワークは少なくとも2つの入口を含み、前記少なくとも2つの入口は前記第1の領域に接続される、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記マイクロ流体ネットワークは少なくとも3つの入口を含み、前記少なくとも3つの入口のうちの2つの入口は前記第1の領域に接続され、前記少なくとも3つの入口の第3の入口は前記第2の領域に接続され、
好ましくは、前記マイクロ流体ネットワークは4つの入口を含み、前記少なくとも4つの入口のうちの2つの入口は前記第1の領域に接続され、前記少なくとも4つの入口のうちの2つの入口は前記第2の領域に接続される、
請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
マイクロ流体ネットワークを含む装置であって、前記マイクロ流体ネットワークは、
少なくとも2つの入口と、
前記マイクロ流体ネットワークの第1の領域と第2の領域との間の境界を画定する位置にある毛細管圧力障壁と、
前記少なくとも2つの入口のうちの2つの入口間に延在する前記第1の領域に提供され、前記毛細管圧力障壁によって前記第1の領域に留められたゲルと
を含み、
前記ゲルは、前記少なくとも2つの入口のうちの前記2つの入口間に、その中を通って延在する内腔を含み、前記ゲルは、前記内腔に対向する第1の表面、前記マイクロ流体ネットワークの前記第2の領域に対向する第2の表面を有し、前記第1の表面と前記第2の表面との間の前記ゲルの厚さは200μm以下である、
装置。
【請求項25】
前記装置は、薄い間質腔を有する3D構成組織の形成を許容するように構成されるか又は薄い間質腔を有する3D構成組織を含む、請求項24に記載の装置。
【請求項26】
前記ゲルの前記第2の表面は、前記毛細管圧力障壁の長さ全体に延びる、請求項24又は25に記載の装置。
【請求項27】
前記第1の表面と前記第2の表面との間の前記ゲルの厚さは100μm以下、例えば50μm以下である、請求項24~26のいずれか一項に記載の装置。
【請求項28】
前記内腔は実質的に円筒状であり、例えば、前記内腔は実質的に円形の断面を含む、請求項24~27のいずれか一項に記載の装置。
【請求項29】
前記マイクロ流体ネットワークは開口を含み、前記ゲル構造は、前記開口に対向する及び/又は前記開口を実質的に密封する表面を形成する、請求項24~28のいずれか一項に記載の装置。
【請求項30】
前記内腔は前記開口まで延出しない、請求項29に記載の装置。
【請求項31】
前記毛細管圧力障壁は、前記マイクロ流体ネットワークの内表面上に提供され、前記マイクロ流体ネットワークの前記内表面との水の接触角を増大させる材料の稜、溝、又は線を含む、請求項24~30のいずれか一項に記載の装置。
【請求項32】
前記毛細管圧力障壁は、生体構造を模倣するために前記マイクロ流体ネットワークの内表面上にパターニングされており、例えば、前記毛細管圧力障壁は、陰窩絨毛構造を模倣するために正弦波形状を含む、請求項24~31のいずれか一項に記載の装置。
【請求項33】
前記内腔に対向する前記ゲルの前記表面は、第1の細管を形成する、内皮細胞又は上皮細胞の層を含む、請求項24~32のいずれか一項に記載の装置。
【請求項34】
前記マイクロ流体ネットワークの前記第2の領域と、前記第2の領域に対向する前記ゲルの前記第2の表面とは、第2の細管を形成する、内皮細胞又は上皮細胞の層を含む、請求項24~44のいずれか一項に記載の装置。
【請求項35】
前記第1の細管及び/又は前記第2の細管は、間葉由来の細胞によって実質的に包囲されており、例えば、前記間葉由来の細胞は、前記ゲル構造内に存在する、請求項33又は34に記載の装置。
【請求項36】
前記ゲルを通る、前記第1の細管から前記第2の細管までの距離は、200μm以下、例えば100μm以下、例えば50μm以下、例えば10μm以下、例えば1μm以下である、請求項34又は35に記載の装置。
【請求項37】
前記マイクロ流体ネットワークは、前記マイクロ流体ネットワークの前記第1の領域と第3の領域との間の境界、又は前記マイクロ流体ネットワークの前記第2の領域と第3の領域との間の境界を画定する、第2の毛細管圧力障壁を含む、請求項24~36のいずれか一項に記載の装置。
【請求項38】
前記マイクロ流体ネットワークの前記第3の領域にゲルが提供され、前記第2の毛細管圧力障壁によって前記第3の領域に留められる、請求項37に記載の装置。
【請求項39】
前記ゲルは、1つ若しくは複数の細胞又は1つ若しくは複数の種類の細胞、例えば、免疫細胞又は間葉由来の細胞を含む、請求項24~38のいずれか一項に記載の装置。
【請求項40】
1つ又は複数の種類の免疫細胞、例えば、T細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、及びB細胞が、前記1つ又は複数の免疫細胞が前記ゲルの前記第1の表面に接着するように、又は存在する場合には前記第1の細管に接着するように、或いは前記ゲル構造内に提供されるように、前記内腔及び/又は前記ゲル内に提供される、請求項24~39のいずれか一項に記載の装置。
【請求項41】
前記マイクロ流体ネットワークは少なくとも3つの入口、好ましくは少なくとも4つの入口を含み、少なくとも2つの入口が前記第1の領域に接続され、1つ又は2つの入口が前記第2の領域に接続される、請求項24~40のいずれか一項に記載の装置。
【請求項42】
アッセイ、例えば、バリア機能アッセイ、経上皮電気抵抗(TEER)アッセイ、免疫細胞接着アッセイ、免疫細胞遊出アッセイ、トランスポーターアッセイ、及び血管拡張又は血管収縮アッセイのうちの1つ又は複数から選択されるアッセイにおける、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法によって製造される内腔化ゲル構造の使用、又は請求項24~39のいずれか一項に記載の装置の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルガノイドアッセイ及び/又は細胞培養の制御された確実な血管新生及び/又は灌流を可能にする、細胞の3D培養を可能にする方法及び装置に関する。本発明は同様に、本装置及び方法によって得られる、刺激剤に対する細胞応答を調査するための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞培養においてこれまで以上に生理的に適切な条件をエミュレートする動きにおいて、薬物有効性及び/又はADME安全性を評価するための細胞ベースの前臨床モデルにおいて、例えば、灌流フロー及び共培養を可能にするために多数のモデルが開発されてきた。
【0003】
マイクロ流体工学は、複雑なマイクロ流体ネットワークの作製を促進及び可能にするマイクロエンジニアリング技術の進歩と共に、使用中の液体又は培地の固有の流れのために、このようなインビトロ細胞培養モデルのためのよく知られたプラットフォーム技術となっている。しかしながら、ヒト又は動物の体の様々な器官の細胞環境をシミュレート又は再現するモデルの作成に対して依然として大きな関心が集まっている。
【0004】
オルガノイド培養、又はより一般的に言えば3D細胞培養は、様々な方法で実行することができる。3Dスフェロイドは、いわゆるハンギングドロッププレート(例えば、国際公開第2010/031194号パンフレットを参照)又は低接着性マイクロタイタープレートで形成することができる。これらのスフェロイドは、標準的な細胞培養に対して著しく改善された予測性を有すると主張されているが、ほとんどのオルガノイド培養には使用されていない。その理由は、オルガノイドが通常、ハンギングドロッププレート又は低接着性プレートのスフェロイド中に存在しない、マトリゲル又はコラーゲンなどの細胞外マトリックス成分を必要とするからである。並行した努力により、細胞が細胞外マトリックスに埋め込まれて増殖される3D細胞培養モデルの開発につながった。このアプローチは分化した機能の発現を増強し、組織機構を改善する(Pampaloni et al.(2007).Nat Rev Mol Cell Biol 8:839-84)。
【0005】
オルガノイドを増殖させるための典型的なプラットフォームは、標準的なペトリ皿、マイクロタイタープレート、及び場合によりCorning製のTranswell(登録商標)プレートを含む。これらの場合、オルガノイドは、細胞外マトリックス(ECM)中又はECM被覆ウェル上で増殖される。上記で既に取り組まれたように、これらのオルガノイドは脈管構造の存在を欠いており、したがって、一定のサイズを超えると低酸素、そして後期には壊死性のコアが形成され得るので、それらの増殖は制限される。また、内皮は標的組織のために重要な因子を排出するので、内皮の存在は、生理的に適切な組織への発達のために重要であると仮定される。
【0006】
マイクロ流体細胞培養はますます重要な技術となっており、薬物スクリーニング、組織培養、毒性スクリーニング、及び生物学的研究での用途が見出される。
【0007】
国際公開第2008/079320号パンフレット、国際公開第2013/151616号パンフレット、国際公開第2010/086179号パンフレット、国際公開第2012/120101号パンフレットなどの特許文献に開示されるもの、又は例えば、Mimetas,Leiden,The Netherlandsから市販されているもの(例えば、OrganoPlate、www.mimetas.com)を含む、多数のマイクロ流体のシステム、デバイス、方法及び製造技術が知られている。これらの出願及び文献から、本明細書に提示される任意の請求項に特定の限定を読み取るべきではないが、これらの文献は、有用な背景材料を提供する。
【0008】
A Novel Dynamic Neonatal Blood-Brain Barrier on a Chip.S.Deosarkar,B.Prabhakarpandian,B.Wang,J.B.Sheffield,B.Krynska,M.Kiani.PLOS ONE,2015では、マイクロ流体デバイスは、血液脳関門型構造を生成する試みにおいて、内皮を星状細胞から分離するためにふるい分け様構造を使用する脈管構造を生成するために開発された。国際公開第2007/008609A2号パンフレットでは、例えば肝臓の生理機能をよりよく模倣する組織形態を作り出すために、同様のふるい様構造を使用して細胞凝集体を形成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
インビボ状況によりよく似ているECM支持生体組織の灌流培養を可能にする方法及び装置が依然として必要とされている。特に興味深いのは、隣接する構築物における複数の細胞型のパターニングを可能にすると同時に、このような構築物間の空間的分離及び物理的障害を最小限にする方法及び装置である。またこの技術は、現在の読み出し及び処理装置と適合しなければならない。
【0010】
本発明の目的は、上述の必要性の一部又は全てに対処することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様によると、内腔化ゲル構造を作るための方法であって、
ゲル前駆体溶液を含む第1の液体をマイクロ流体ネットワークに導入するステップであって、マイクロ流体ネットワークは、マイクロ流体ネットワークの第1の領域と第2の領域との間の境界を概ね画定する位置に毛細管圧力障壁を含むステップと、
第1の液体がマイクロ流体ネットワークの第1の領域に入り、毛細管圧力障壁に沿ってそれ自体を整列させることができるようにするステップであって、それにより、マイクロ流体ネットワークの第1の領域と第2の領域との間の境界に第1の液体の液体-空気メニスカスを形成するステップと、
第1の液体を第2の液体と接触させることにより第1の液体を通る内腔を形成するステップであって、第2の液体は、第1の液体の粘性よりも低い粘性を有するステップと、
ゲル構造の中を通る内腔を含む前記ゲル構造を形成するために第1の液体がゲル化することを許容するか又は引き起こすステップと
を含む方法が提供される。
【0012】
本発明の第2の態様によると、マイクロ流体ネットワークを含む装置であって、マイクロ流体ネットワークは、
少なくとも2つの入口と、
マイクロ流体ネットワークの第1の領域と第2の領域との間の境界を画定する位置にある毛細管圧力障壁と、
少なくとも2つの入口のうちの2つの入口間に延在する第1の領域に提供され、毛細管圧力障壁によって第1の領域に留められたゲルと
を含み、
ゲルは、少なくとも2つの入口のうちの2つの入口間に、その中を通って延在する内腔を含み、ゲルは、内腔に対向する第1の表面、マイクロ流体ネットワークの第2の領域に対向する第2の表面を有し、第1の表面と第2の表面との間のゲルの厚さは200μm以下である、
装置が提供される。
【0013】
第3の態様によると、アッセイ、例えば、バリア機能アッセイ、経上皮電気抵抗(TEER)アッセイ、免疫細胞接着アッセイ、免疫細胞遊出アッセイ、トランスポーターアッセイ、及び血管拡張又は血管収縮アッセイのうちの1つ又は複数から選択されるアッセイにおける、第1の態様の方法によって製造される内腔化ゲル構造の使用が提供される。
【0014】
本発明の第4の態様によると、アッセイ、例えば、バリア機能アッセイ、経上皮電気抵抗(TEER)アッセイ、免疫細胞接着アッセイ、免疫細胞遊出アッセイ、トランスポーターアッセイ、及び血管拡張又は血管収縮アッセイのうちの1つ又は複数から選択されるアッセイにおける、第2の態様で定義される装置の使用が提供される。
【0015】
他の好ましい実施形態は、以下の説明及び従属請求項において定義される。
【0016】
本発明者らは、予想外に、粘性フィンガリング(viscous fingering)技術と組み合わせた毛細管圧力障壁の戦略的な位置決めによって、マイクロ流体ネットワークの第1の領域に、マイクロ流体ネットワークの別の領域に対向する露出表面を有する内腔化ゲル構造を形成可能であることを見出した。これまで、マイクロ流体ネットワーク内の内腔化ゲル構造は、マイクロ流体チャネルを満たし、あらゆる面でチャネル壁と接触しているか、或いはゲル内へ及びゲルからの拡散を可能にするために膜により支持されているかのいずれかであった。粘性フィンガリング技術は、ある液体が別の液体を通る内腔を形成することに依存しているので、粘性フィンガリングの内腔化が、固定されたメニスカスの崩壊につながり得る、毛細管圧力障壁に固定された第1の液体の表面張力を破壊しなかったことは予想外である。内腔化液体が側方に流れ出すのを防止するための支持壁の必要性が予想され得るが、本発明は、拘束壁を用いずに開放空間に非常に近接して内腔の形成を可能にする予想外の方法を示す。
【0017】
本発明の方法及び装置は、薄い間質腔を有する細胞外マトリックスにおける3D構成組織の形成を可能にし、したがって、これまでは膜を使用しないと達成できなかった方法でインビボ状況を模倣する。これにより、生理的に現実的な環境において、組織特異的細胞の単層及び/又は三次元培養に極めて近接した内皮化内腔の制御された共培養、例えば、既存のマイクロ流体血液脳関門モデルよりも現実的な配置及びマトリックスにおける内皮、周皮細胞、星状細胞及びニューロンの共培養が可能になる。
【0018】
定義
本発明の装置、方法、使用及び他の態様に関する種々の用語は、本明細書及び特許請求の範囲全体にわたって使用される。このような用語は、他に記載されない限り、本発明が関連する技術分野におけるその通常の意味が与えられるものとする。他の具体的に定義された用語は、本明細書で提供される定義と一致する形で解釈されるべきである。本明細書に記載されるものと類似又は同等の任意の方法及び材料を本発明の試験の実施において使用することができるが、好ましい材料及び方法は本明細書に記載される。
【0019】
本明細書で使用される場合、「a」、「an」、及び「the」の単数形は、内容が他に明白に指示しない限り、複数の指示対象も含む。したがって、例えば「細胞(a cell)」への言及は、2つ以上の細胞の組合せなどを含む。
【0020】
本明細書で使用される場合、「約(about)」及び「およそ(approximately)」:これらの用語は、量、持続時間などの測定可能な値に言及する場合、特定の値から±20%又は±10%、より好ましくは±5%、さらにより好ましくは±1%、またさらにより好ましくは±0.1%の変動を包含することを意味し、これは、このような変動が、開示される方法を実行するのに適切であるからである。
【0021】
本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」は、包括的でオープンエンドであり、排他的でないと解釈される。具体的には、この用語及びその変化形は、特定の特徴、ステップ又は成分が含まれることを意味する。これらの用語は、他の特徴、ステップ又は成分の存在を排除すると解釈されるべきではない。
【0022】
本明細書で使用される場合、「例示的な」は、「例、実例、又は例証としての役割を果たす」ことを意味し、本明細書に開示される他の配置を排除すると解釈されてはならない。
【0023】
本明細書で使用される場合、「マイクロ流体ネットワーク」という用語は、上部基板又はカバーによって被覆された材料の層上又は層を通る1つ又は複数のチャネルを指し、長さ、幅又は高さの寸法の少なくとも1つは、低ミリメートル(例えば、5mm未満又は2mm未満)又はサブミリメートル範囲である。この用語は、直線状のチャネルであるチャネルと、分岐しているか又はその経路内に屈曲若しくは角を有するチャネルとを包含することが理解されるであろう。マイクロ流体ネットワークは通常、ある体積の液体を投与するための少なくとも1つの入口を含むが、マイクロ流体ネットワークの異なる領域へある体積の液体を投与するための複数の入口を含んでいてもよい。マイクロ流体ネットワークによって取り囲まれる容積は通常、マイクロリットル又はサブマイクロリットルの範囲である。マイクロ流体ネットワークは通常、下にある材料の上面であり得るベースと、少なくとも2つの側壁と、マイクロ流体ネットワークを覆う上部基板の下面であり得る天井とを含み、必要に応じて、任意の配置の入口、出口及び/又は通気口を有する。ベース、側壁及び天井はそれぞれ、マイクロ流体ネットワークの内側表面と呼ばれることもあり、集合的に内側表面と呼ばれることもある。いくつかの例では、マイクロ流体ネットワークは円形又は半円形の断面を有することができ、その場合、それぞれ1つ又は2つの内側表面を有すると考えられる。
【0024】
本明細書で使用される場合、「毛細管圧力障壁」という用語は、毛細管力によって特定の位置に固定された液体-空気メニスカスを保持する装置の特徴を指す。毛細管圧力障壁は、容積V0を有するマイクロ流体ネットワークを、異なる流体を導入することができる2つの領域すなわち副容積V1及びV2に分割すると考えることができる。言い換えると、毛細管圧力障壁は一般に、マイクロ流体ネットワークの第1の領域と第2の領域との間の境界を画定する。毛細管圧力障壁は一般にマイクロ流体ネットワークの領域間の境界を画定するが、結果として生じる1つの領域に固定された液体のメニスカスは、毛細管圧力障壁の正確な位置では固定されず、固定されたまま毛細管圧力障壁を越えて隣接する領域に伸展又は隆起し得ることが理解されるであろう。例えば、液体メニスカスは形状が凸状であってもよく、毛細管圧力障壁によって固定され、凸状の液体前面が毛細管圧力障壁のフットプリントを越えて延出する。また液体メニスカスは凹状であってもよく、溶媒前面は細管圧力障壁によって固定され、毛細管圧力障壁の反対側のマイクロ流体ネットワークの表面で毛細管圧力障壁のフットプリントを越えて伸展する。
【0025】
本明細書で使用される場合、「直線状の」毛細管圧力障壁は、直線に限定されると解釈されてはならない。代わりに、2つの端部を有するが、1つ又は複数の屈曲又は角度を含み得る配置を有すると解釈されるべきである。直線状の毛細管圧力障壁は通常、各端部でマイクロ流体ネットワークの側壁と交差する。
【0026】
本明細書で使用される場合、「内皮細胞」という用語は、内皮由来の細胞、又は細胞を内皮細胞として特定するマーカーを発現する状態に分化した細胞を指す。
本明細書で使用される場合、「上皮細胞」という用語は、上皮由来の細胞、又は細胞を上皮細胞として特定するマーカーを発現する状態に分化した細胞を指す。
【0027】
本明細書で使用される場合、「生体組織」という用語は、本明細書に記載される方法で培養及び/又はアッセイされる、同一、類似又は異なるタイプの機能的に相互接続された細胞の集合を指す。細胞は、細胞凝集体、管状構造又は単層であってもよいし、又はそれらの形態をとってもよい。生体組織は、複数のサブタイプの細胞で構成され得る。例えば、「生体組織」という用語は、細胞株、オルガノイド、組織生検、腫瘍組織、切除された組織材料、及び胚体に由来するか、又はそれらを含む細胞を包含する。
【0028】
本明細書で使用される場合、「細胞凝集体」という用語は、通常は単層で増殖する表面付着細胞とは対照的に、細胞の3Dクラスターを指す。細胞の3Dクラスターは通常、よりインビボ様の状況に関連する。対照的に、表面付着細胞は基板の特性に強く影響される可能性があり、脱分化を受けるか、又は他の細胞型への移行を受けることがある。
【0029】
本明細書で使用される場合、「オルガノイド」という用語は、インビトロで生成され、内因性の三次元器官構造を示す組織の小型形態を指す。
【0030】
本明細書で使用される場合、「共培養」という用語は、本明細書に記載される装置で2つ以上の異なる細胞型が培養されることを指す。異なる細胞型は、装置の同じ領域(例えば、第1の領域又は第2の領域)及び/又は異なる領域(例えば、第1の領域で1つの細胞型、及び第2の領域で別の細胞型)で培養され得る。
【0031】
例えば、本明細書に記載される装置は、開放内腔を有する細管として増殖された第1の領域の内皮細胞と、第1の領域のゲルの薄層によって分離された第2の領域の器官特異的(実質)細胞とを有し得る。いくつかの例では、装置は、第1の領域の内皮で覆われた少なくとも1つの内腔化ゲル構造と、第2の領域の組織特異的細胞とを含み得る。組織特異的細胞は第2の領域においてゲル構造全体にわたって配設されてもよく、第1の領域のゲル構造(内皮で覆われた内腔を含む)と接触する細管を形成するために第2の領域を覆うか、又は第2の領域のゲル構造を通して延在する内腔を覆う。
【0032】
本明細書で使用される場合、「内腔化ゲル構造」という用語は、ゲルを貫通する内腔を有する生体適合性ゲル、より好ましくは生物学的に適切なゲル、例えば細胞外マトリックスを指し、例えば、頂端面及び基底面を有する微小血管の形成を可能にする。「内腔化(lumenized)」及び「内腔化(lumened)」は、同じ意味を有するものとして互換的に使用できることは理解されるべきである。
【0033】
本明細書で使用される場合、「内腔化細胞成分」という用語は、内腔を有する生体組織(すなわち、細胞で構成される)、例えば、頂端面及び基底面を有する微小血管を指す。
【0034】
本明細書で使用される場合、「移植する」又は「移植」という用語は、組織、例えば組織外植片、又は細胞凝集体を、ある位置から別の位置、例えば貯蔵容器から細胞培養装置へ移すことを指す。
【0035】
本明細書で使用される場合、そして他に明言されない限り、粘性への言及は動的粘性への言及であり、Kane et al(AIP Advances 8,125332(2018))により記載されるように決定される。内腔形成と粘性との間の関係は、Saffman-Taylor不安定性として当業者により理解され、1958年にSaffman及びTaylorによって記載されている(Proceedings of the Royal Society of London.Series A.Mathematical and Physical Sciences.245(1242):312-329)。マイクロチャネル寸法と、細胞外マトリックスに関連する他の適切な特性との間の関係は、例えば、Bischel et al(Journal of Laboratory Automation 17(2)96-103)に記載されている。
【0036】
本発明は次に、単なる例として図面を参照して記載される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1A】内腔化ゲル構造を形成するための本明細書に記載される方法による一連のステップの断面図を示す。
図1B】内腔化ゲル構造を形成するための本明細書に記載される方法による一連のステップの平面図を示す。
図1C】内腔化ゲル構造を形成するための本明細書に記載される方法による一連のステップの断面図を示す。
図2】内腔化ゲル構造を形成するための本明細書に記載される方法による一連のステップの断面図を示す。
図3】内腔化ゲル構造を形成するための本明細書に記載される方法による一連のステップの断面図を示す。
図4A】内腔化ゲル構造を形成するための本明細書に記載される方法による一連のステップの断面図を示す。
図4B】内腔化ゲル構造を形成するための本明細書に記載される方法による一連のステップの断面図を示す。
図5】2つの隣接する内腔化細胞成分と、細胞外マトリックスの再構築とを含む装置の断面図を示す。
図6A】内腔化細胞成分を含む本開示の例示的な装置の断面図を示す。
図6B】内腔化細胞成分を形成するために内腔化ゲル構造を利用する、本開示の例示的な装置の断面図を示す。
図7】3つの内腔化細胞成分を含む本開示の例示的な装置の断面図を示す。
図8】3つの内腔化細胞成分を含む本開示の例示的な装置の断面図を示す。
図9A図8による装置の実験的に得られた共焦点顕微鏡断面図を示す。
図9B図5による装置の実験的に得られた共焦点顕微鏡平面図を示す。
図10】本開示によるさらなる装置の実験的に得られた共焦点顕微鏡断面図を示す。
図11A】2つの内腔化細胞成分を含む本開示のさらなる例示的な装置の断面図を示す。
図11B図11Aによる装置の実験的に得られた位相差顕微鏡平面図を示す。
図12】3つの隣接する内腔化細胞成分を含む図8の装置の実験的に得られた位相差顕微鏡の平面図の画像を示す。
図13】本開示によるさらなる装置の実験的に得られた平面図の高解像度画像を示す。
図14】本開示に従って作り出された血液脳関門モデルの実験的に得られた位相差顕微鏡断面図を示す。
図15】本開示に従って作り出された血液脳関門モデルの実験的に得られた共焦点顕微鏡断面図を示す。
図16A】1つの内腔化細胞成分を含む図7の装置の実施形態の断面図を示す。
図16B図16Aによる装置の実験的に得られた位相差顕微鏡平面図を示す。
図17A】2つの内腔化細胞成分を含む図7の装置の実施形態の断面図を示す。
図17B図17Aによる装置の実験的に得られた位相差顕微鏡平面図を示す。
図18A】本開示に従って作り出された冠動脈モデルの実験的に得られた共焦点顕微鏡断面図を示す。
図18B】本開示に従って作り出された冠動脈モデルの実験的に得られた共焦点顕微鏡断面図を示す。
図18C】本開示に従って作り出された冠動脈モデルの実験的に得られた共焦点顕微鏡断面図を示す。
図19】本開示に従って作り出されたT細胞遊走モデルの実験的に得られた位相差顕微鏡断面図を示す。
図20】比較T細胞遊走モデルの実験的に得られた位相差顕微鏡断面図を示す。
図21図19及び図20に示されるモデルから得られた定量的データを示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
装置
装置について説明される。装置は、本明細書ではマイクロ流体デバイスとも呼ばれるマイクロ流体装置であり得る。装置は、少なくとも1つのマイクロ流体ネットワーク、例えば複数のマイクロ流体ネットワークを含む。マイクロ流体デバイスは、好ましくは、インビトロ細胞ベースアッセイ、医薬品スクリーニングアッセイ、毒性アッセイなどにおけるその使用を可能にするためにマルチアレイ形式/マルチウェル形式、特にハイスループットスクリーニング形式である。このようなマルチウェル培養プレートは、矩形マトリックスに配列された6、12、24、48、96、384及び1536個のサンプルウェルで入手可能であり、本発明との関連において、本明細書に記載されるマイクロ流体ネットワークのマルチアレイ配置は、マイクロ流体デバイス内に存在する。一例では、マイクロ流体デバイスは、標準ANSI/SLASマイクロタイタープレート形式の1つ又は複数の寸法に適合する。代替の実施形態では、マイクロ流体デバイスは、顕微鏡ガラススライドの寸法を有するマルチアレイ形式である。いくつかの例では、マイクロ流体デバイスには、電気的実験を行うための1つ又は複数の電極、光学的な測定を行うことを可能にするための透明材料、窓又は他の変形例などを含む1つ又は複数の機能が提供される。
【0039】
したがって、マイクロ流体デバイスは、好ましくは、本明細書に記載される複数のマイクロ流体ネットワークを有する。一例では、複数のマイクロ流体ネットワークは互いに流体的に切断されている、すなわち、各マイクロ流体ネットワークは、マイクロ流体デバイス上に存在する任意の他のマイクロ流体ネットワークとは独立して動作する。他の例では、後述されるように、マイクロ流体ネットワークは、1つ又は複数の接続チャネルによって接続され得る。
【0040】
一般に、マイクロ流体デバイスは、少なくとも、マイクロ流体チャネルを有するマイクロ流体ネットワークを含むマイクロ流体デバイスである。マイクロ流体チャネル又はネットワークの異なる配置が本発明の範囲内で可能であるが、例えば、ゲル、例えば細胞外マトリックスを受け入れて留めるための1つ又は複数の領域を含むことができる。
【0041】
マイクロ流体デバイスは一般にマイクロ流体ネットワークを含み、これについて次に詳細に説明する。
【0042】
マイクロ流体ネットワーク
マイクロ流体デバイスのマイクロ流体ネットワークは一般に、ベース、マイクロ流体チャネル又はマイクロ流体層、及び本明細書ではカバー層とも称されるカバーを含み、様々な方法で作製することができる。
【0043】
本明細書ではベース層又は下部基板とも称されるベースは、好ましくは、ガラス又はプラスチックなどの実質的に剛性の材料から形成され、マイクロ流体ネットワークの残りの部分のための支持表面を提供する働きをする。一例では、ベースは、標準ANSI/SLASマイクロタイタープレートのウェル区域と同一又は同様の寸法を有する。
【0044】
マイクロ流体デバイス又はネットワークは、ベース上に配設されたマイクロ流体チャネル又はマイクロ流体層を含む。いくつかの例では、マイクロ流体ネットワークは異なる領域を含むか、又は例えば本明細書に記載される毛細管圧力障壁の存在によって、異なる領域に分割され得る。いくつかの例では、マイクロ流体ネットワークは、第1の領域及び第2の領域を含み得る。毛細管圧力障壁は一般に、ネットワークの隣接する領域間、例えば第1の領域と第2の領域との間の境界を画定し得る。いくつかの例では、マイクロ流体ネットワークは1つ又は複数のマイクロ流体チャネルを含み、それぞれがマイクロ流体ネットワークの領域を形成し、それ自体の専用の入口及び/又は出口によって供給される。
【0045】
第1の領域及び第2の領域はそれぞれ、約100μm~約10mmの間、又は約200μm~約500μmの間、又は約300μm~約400μmの間の幅寸法を有することができる。
【0046】
マイクロ流体ネットワークを作製する典型的な方法は、ポリジメチルシロキサンなどの成形可能な材料をモールド上にキャストして、マイクロ流体ネットワークをシリコンゴム材料にインプリントし、それによりマイクロ流体層を形成するものである。ネットワーク又はチャネルが埋め込まれたゴム材料は続いてガラス又は同じ材料のベース層上に置かれ、したがって密封される。或いは、チャネル構造はガラス又はシリコンなどの材料にエッチングされ、その後、上部基板又は下部基板(本明細書ではカバー層及びベース層とも称される)に接合され得る。プラスチックの射出成形又はエンボス加工、及びその後の接合は、マイクロ流体チャネルネットワークを作製するための別の方法である。マイクロ流体チャネルネットワークを作製するためのさらに別の技術は、SU-8又は種々の他のドライフィルム若しくは液体フォトレジストなどのフォトパターニング可能なポリマーにマイクロ流体チャネルネットワークをフォトリソグラフィー的にパターニングし、その後接合ステップを行うことによる。接合に言及する場合、それは、カバー又はベースによるチャネルの閉鎖を意味する。接合技術には、特に、陽極接合、共有結合、溶剤接合、接着剤接合、及び熱接合が含まれる。
【0047】
上記の種々の製造方法から推定されるように、マイクロ流体層は、ベース層上に配設されたマイクロ流体チャネルを含む副層を含み得るか、又はカバー若しくはベース層のいずれかにおいてパターニングされる。使用時の姿勢では、マイクロ流体副層はベース層の上面上に配設される。マイクロ流体チャネルは、ベース層上に配設された材料の副層を通るチャネルとして形成され得る。一例では、副層の材料はベース層上に配置されたポリマーであり、その中にマイクロ流体チャネルがパターニングされる。いくつかの例では、マイクロ流体層は、互いに流体連通し得る2つ以上のマイクロ流体ネットワークを含む。
【0048】
マイクロ流体デバイスのマイクロ流体ネットワークの任意の特定の使用のために必要に応じて、マイクロ流体チャネルには、1つ又は複数の流体入口と、1つ又は複数の出口又は通気口とが設けられてもよい。マイクロ流体ネットワークを通した流体の充填、排出及び灌流を可能にするために、マイクロ流体チャネルには、好ましくは、少なくとも2つの入口が設けられる。一例では、少なくとも2つの入口のそれぞれは、好ましくは、カバー層の開口である。通常、入口と出口の間には幾何学的な区別はなく、多くの場合、これらは、入口又は出口として互換的に使用可能であることが理解されるであろう。特に、液体が導入される入口開口の反対側の領域に流体的に接続された入口開口は、その時点で出口(又は通気口)として機能することになり、空気又は過剰な液体の排出を可能にすることが理解されるであろう。
【0049】
マイクロ流体ネットワークは少なくとも2つの入口を含むことができ、そのそれぞれは、マイクロ流体ネットワークの第1の領域への液体の導入、又は第1の領域からの液体の除去を可能にするように構成される。いくつかの例では、マイクロ流体ネットワークは少なくとも3つの入口、例えば少なくとも4つの入口を含むことができ、入口のうちの少なくとも2つは、マイクロ流体ネットワークの第2の領域への液体の導入、又は第2の領域からの液体の除去若しくは空気の排出を可能にするように構成される。いくつかの例では、マイクロ流体ネットワークはさらに2つのさらなる入口を含むことができ、それぞれ、マイクロ流体ネットワークの第3の領域への液体の導入、又は第3の領域からの液体の除去若しくは空気の排出を可能にするように構成される。マイクロ流体ネットワークの任意の所与の領域への液体の導入を可能にするように構成された入口は、例えば、領域への又は問題の領域と連通するマイクロ流体チャネルへの液体の注入又はピペッティングを可能にする流体界面による、その領域への流体的な接続を意味することが理解されるであろう。毛細管圧力障壁の位置は、マイクロ流体ネットワークの2つの異なる領域間の境界を示し得る。2つの領域間の境界は一般にこのような毛細管圧力障壁と1つの平面内で整列されているが、2つの領域間の界面は、毛細管圧力障壁の投影から離れるように任意の方向に湾曲し得ることが理解されるものとする。
【0050】
いくつかの例では、マイクロ流体デバイスは、上述のカバー層上に配設された上部層をさらに含み、上部層は、マイクロ流体デバイスの残りの部分と流体連通する1つ又は少なくとも1つのウェル又はリザーバを有する。いくつかの例では、上部層は、複数のこのようなウェルを有し、少なくとも1つ、例えば少なくとも2つ、例えば少なくとも3つのウェルは、デバイスのマイクロ流体ネットワーク又はチャネルと連通する。例えば、上部層は、マイクロ流体ネットワークのカバー層に設けられた入口開口を介してマイクロ流体ネットワークと流体連通するウェル又はリザーバを含むことができ、それにより、SLAS準拠のウェルプレートを形成する。いくつかの例では、少なくとも1つのウェルを有する上部層及びマイクロ流体層は、一体的に形成される。例えば、マイクロ流体チャネルは、少なくとも1つのウェルを有する射出成形されたマイクロタイタープレートの下側にパターニングされ得る。
【0051】
毛細管圧力障壁
装置のマイクロ流体ネットワークは、ネットワークの第1の領域とネットワークの第2の領域との間のマイクロ流体ネットワークの境界を概ね画定する毛細管圧力障壁を含む。
【0052】
毛細管圧力障壁の機能及びパターニングは、例えば、国際公開第2014/038943A1号パンフレットに既に記載されている。以下に記載される例示的な実施形態から明らかになるように、毛細管圧力障壁は、壁(又は、例えば液体で充填可能なキャビティ)として理解されるべきではなく、代わりに、このような液体が表面張力によって広がらないことを保証する構造からなるか又はそれを含む。この概念は、メニスカスピンニングと呼ばれる。したがって、マイクロ流体ネットワークの領域への液体の安定した閉じ込めを達成することができる。一例では、毛細管圧力障壁は閉じ込めフェーズガイドと呼ばれることもあり、細胞培養デバイスの通常の使用中にオーバーフローしないように構成される。液体の閉じ込めの性質は、本発明の方法の説明と関連して本明細書に記載される。
【0053】
一例では、毛細管圧力障壁は、マイクロ流体ネットワークの内表面に提供され、マイクロ流体ネットワークの内表面に関して増大した水-空気接触角を有する材料の稜、溝、又は線を含む。一例では、毛細管圧力障壁は、マイクロ流体ネットワークの内表面から突出する材料の縁又は稜、又はマイクロ流体ネットワークの内表面の溝を含むか、又はそれらからなる。良好な障壁を提供するために、縁又は稜の側壁と、縁又は稜の上部とによって形成される内角は、好ましくは、110°未満、例えば約90°、いくつかの例では90°未満である。稜の側壁と、毛細管圧力障壁が配置されるマイクロ流体ネットワークの内表面との間の角度についても同じことが言える。同様の要件は、溝として形成された毛細管圧力障壁にも課される。
【0054】
毛細管圧力障壁の代替の形態は、マイクロ流体ネットワークの内表面に対して異なる湿潤性を有する材料の領域であり、毛細管力/表面張力による広がりを防ぐ役割を果たす。結果として、液体は細管圧力障壁を越えて流れることが防止され、ネットワークの領域内に安定して留められた容積の形成が可能になる。一例では、マイクロ流体ネットワークの内表面は親水性材料を含み、毛細管圧力障壁は、疎水性又は比較的低親水性の材料の領域である。一例では、マイクロ流体ネットワークの内表面は疎水性材料を含み、毛細管圧力障壁は、親水性又は比較的低疎水性の材料の領域である。
【0055】
したがって、いくつかの例では、毛細管圧力障壁は、材料の縁若しくは稜、溝、孔、又は疎水性線、或いはこれらの組合せから選択される。別の実施形態では、毛細管圧力障壁は、選択された間隔の柱によって作ることができ、その配列は、第1の領域、すなわちゲルによって占められる区域を画定する。一例では、柱はマイクロ流体ネットワークの高さ全体に延びる。
【0056】
一例では、毛細管圧力障壁は、マイクロ流体チャネル又はネットワークの幅又は長さ全体に広がる実質的に直線状の毛細管圧力障壁であり、各端部においてマイクロ流体ネットワークの側壁と交差する。
【0057】
別の例では、毛細管圧力障壁は直線状ではなく、1つ又は複数の屈曲又は弓状部分を含む。例えば、毛細管圧力障壁は、蛇行した形状又はさらに直角の形状が作られるように、連続した角度の付いた屈曲又は弓状部分を含み得る。このようにして毛細管圧力障壁に沿って導かれる流体の経路は、流体が直線状の毛細管圧力障壁に沿って流動し得る経路に沿って延びている。非直線状の毛細管圧力障壁を有する利点は、このような毛細管圧力障壁に沿って整列された流体内に作られた内腔が、例えば、小腸の陰窩絨毛構造を模倣する非直線状の形状を有し得ること、及び/又は非直線状の内腔の長さがその直線状の対応物に比べて延長されることである。
【0058】
毛細管圧力障壁と、マイクロ流体チャネルの1つ又は2つ以上の側壁との交差は、毛細管圧力障壁の下流側において第1の流体の想定される充填方向に関して70°よりも大きい、より好ましくは約90°、より好ましくは90°を超える角度を有し得る。この角度は、国際公開第2014/038943号パンフレットに記載されるように、良好な障壁を提供するためにできるだけ大きいことが好ましい。
【0059】
いくつかの例では、毛細管圧力障壁は、生体構造を模倣するためにマイクロ流体ネットワークの内表面上でパターニングされる。毛細管圧力障壁を、生体構造を模倣するための形状又は配置で形成することにより、インビボシステムによりよく似ているインビトロシステムの形成が容易になる。例えば、毛細管圧力障壁は、陰窩絨毛構造を模倣するために正弦波形状を含み得る。
【0060】
第2の毛細管圧力障壁
いくつかの例では、装置のマイクロ流体ネットワークには第2の毛細管圧力障壁が設けられ、その形態及び機能は、実質的に上記の通りである。誤解を避けるために、第2の毛細管圧力障壁がマイクロ流体ネットワーク内に存在する場合、「毛細管圧力障壁」への言及は、「第1の毛細管圧力障壁」への言及として理解されるべきである。
【0061】
いくつかの例では、第2の毛細管圧力障壁は、マイクロ流体ネットワークの第1の領域と第3の領域との間の境界、又はマイクロ流体ネットワークの第2の領域と第3の領域との間の境界を画定する。したがって、2つの毛細管圧力障壁を有するマイクロ流体ネットワークは第1の領域、第2の領域及び第3の領域を含むことができ、それぞれの領域は、少なくとも1つの専用の流体界面、例えばそれ自体の専用の入口及び出口又は通気口によって供給され得る。いくつかの例では、第2の毛細管圧力障壁は、マイクロ流体ネットワークの第1の領域と第3の領域との間の境界を概ね画定する位置に提供され、したがって、液体は、第1の毛細管圧力障壁及び第2の毛細管圧力障壁に沿ってそれ自体を整列させることができ、それにより、マイクロ流体ネットワークの第3の領域に対向するゲル構造の第3の表面が形成される。いくつかのさらなる例では、第2の毛細管圧力障壁は、第2の領域と第3の領域との間の境界を概ね画定する位置に提供され、任意選択的に、パターニングを可能にし、そして潜在的に第3の領域での第2のゲルの内腔の形成を可能にする。複数の毛細管圧力障壁、領域及びゲル構造が組み合わせられて、ますます複雑なマイクロ流体ネットワーク及びゲル構造になり得ることが理解されるであろう。
【0062】
ゲル
ゲルは、マイクロ流体ネットワークの第1の領域内に提供され、2つの入口の間に延在し、毛細管圧力障壁によって第1の領域に留められる。ゲルは、2つの入口の間に、その中を通って延在する内腔を含み、内腔に対向する第1の表面、マイクロ流体ネットワークの第2の領域に対向する第2の表面を有し、第1の表面と第2の表面との間のゲルの厚さは200μm以下であり得る。いくつかの例では、内腔は実質的に円筒状であり、例えば、実質的に円形の断面を有する。
【0063】
ゲルを通る内腔の形成は、本明細書に記載される方法に従って実行することができる。毛細管圧力障壁と、ゲルによる内腔形成との組合せにより、ゲルの2つの表面が提供され、したがって、これまで達成できなかった方法でインビボ状況を模倣する、薄い間質腔を有する3D構成組織の形成が可能になるか又は許容される。
【0064】
ゲルは、例えば第1の領域に供給する入口を介して、ゲル前駆体溶液を第1の領域に導入することによって、マイクロ流体ネットワークの第1の領域に提供されることが可能であり、内腔は、本明細書に記載される方法に従ってゲル前駆体溶液を通して形成される。
【0065】
ゲル又はゲル前駆体は、細胞培養に適していることが当該技術分野で知られているあらゆるヒドロゲルを含む。細胞培養に使用されるヒドロゲルは無数の天然及び合成材料から形成することができ、広範囲の機械的及び化学的特性が提供される。適切なヒドロゲルは、天然材料から形成される場合には細胞機能を促進し、合成材料から形成される場合には細胞機能に許容的である。細胞培養のための天然ゲルは通常、コラーゲン、フィブリン、フィブリノゲン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸、ラミニン、又はマトリゲル(登録商標)などのタンパク質及びECM成分、並びにキトサン、アルギン酸塩又はシルク線維などの他の生体源に由来する材料から形成される。それらは天然源に由来するので、これらのゲルは本質的に生体適合性であり、生物活性がある。許容的な合成ヒドロゲルは、ポリエチレングリコール)(PEG)、ポリ(ビニルアルコール)、及びポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)などの純粋に非天然の分子から形成することができる。PEGヒドロゲルは、カプセル化細胞の生存率を維持し、分解するにつれてECM沈着を可能にすることが示されており、インテグリン結合リガンドがなくても合成ゲルが3D細胞培養プラットフォームとして機能し得ることが実証される。このような不活性ゲルは高度に再現可能であり、機械的特性の容易な調整を可能にし、簡単に加工及び製造される。ゲル又はゲル前駆体は、基底膜抽出物、ヒト又は動物の組織又は細胞培養由来の細胞外マトリックス、動物組織由来の細胞外マトリックス、合成細胞外マトリックス、ヒドロゲル、コラーゲン、軟寒天、卵白、及びマトリゲルなどの市販の製品を含み得る。
【0066】
基底層を含む基底膜は、インビボで上皮細胞の下にある薄い細胞外マトリックスであり、タンパク質及びプロテオグリカンなどの細胞外マトリックスで構成される。一例では、基底膜は、コラーゲンIV、ラミニン、エンタクチン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン及び多数の他の微量成分で構成される(Quaranta et al,Curr.Opin.Cell Biol.6,674-681,1994)。インタクトな基底膜だけでなく、これらの成分も単独で、生物学的に活性であり、細胞の接着、遊走、そして多くの場合、増殖及び分化を促進する。マトリゲルは、基底膜に基づくゲルの一例であり、上皮細胞の基層としてインビトロで生物学的に非常に活性である。
【0067】
本明細書に記載される方法及び装置における使用に適した多くの異なるゲルが市販されており、マトリゲルrgf、BME1、BMEIrgf、BME2、BME2rgf、BME3(全てマトリゲル変異体)、コラーゲンI、コラーゲンIV、コラーゲンIとIVの混合物、又はコラーゲンIとIV、及びコラーゲンIIとIIIの混合物)、puramatrix、ヒドロゲル、Cell-Tak(商品名)、コラーゲンI、コラーゲンIV、マトリゲル(登録商標)マトリックス、フィブロネクチン、ゼラチン、ラミニン、オステオポンチン、ポリリジン(PDL、PLL)、PDL/LM及びPLO/LM、PuraMatrix(登録商標)又はビトロネクチンを含むものが挙げられるが、これらに限定されない。1つの好ましい実施形態では、マトリックス成分は、市販のCorning(登録商標)マトリゲル(登録商標)マトリックス(Corning,NY 14831,USA)として得られる。
【0068】
毛細管圧力障壁のメニスカスピンニング効果及びゲル(又は前駆体)の内腔化によって、マイクロ流体ネットワーク(例えば、ネットワークの第1の領域)内のゲルは、空気にさらされる可能性がある(例えば、形成された内腔から第2の液体を抜き出すことによる)及び/又は表面と接触させるための他の液体の導入に利用可能である、2つの表面を有する。便宜上、内腔に対向するゲルの内表面は一般に第1の表面として説明され、マイクロ流体ネットワークの隣接する領域(例えば、第2の領域)に対向するゲルの外側表面は一般に第2の表面として説明されることになる。第2の表面は、ゲル前駆体溶液が第1の領域に導入されたときに毛細管圧力障壁によって固定されたゲル前駆体溶液のメニスカスに対応し、したがって、毛細管圧力障壁の長さを延長し得ることが認識されるであろう。第1の表面は、毛細管圧力障壁に至るまで及び毛細管圧力障壁から離れるネットワークの部分を含む、マイクロ流体ネットワークの全長に沿って延在することができ、したがって第2の表面よりも長くなり得ることが理解されるであろう。
【0069】
ゲルは、第1の表面と第2の表面との間で200μm以下の厚さを有し得る。ゲルの厚さは、第1の表面と第2の表面との間の全長に沿って均一でなくてもよく、200μm以下の厚さは最小の厚さであっても、又は最大の厚さであってもよいことを意味することが理解されるであろう。いくつかの例では、第1の表面と第2の表面との間のゲルの厚さは、150μm以下、例えば100μm以下、例えば50μm以下、例えば40μm以下、例えば30μm以下、例えば20μm以下、例えば10μm以下、例えば約1μmであり得る。いくつかの例では、ゲルは、インビボの基底層を複製するために、第1の表面と第2の表面との間の厚さがゼロに近づき、例えば、1μm未満、例えば500nm未満、例えば250nm未満、例えば100nm未満、例えば50nm未満の厚さを有し得る。いくつかの例では、ゲルは、20nm~200μm、例えば100nm~150μm、例えば500nm~100μm、例えば1μm~50μmである、第1の表面と第2の表面との間の厚さを有する。
【0070】
上記のように、ゲルは、マイクロ流体ネットワークの第1の領域に存在し、毛細管圧力障壁で固定されたゲルによって、マイクロ流体ネットワークの第2の領域に対向する表面を有し得る。いくつかの例では、ゲルは、マイクロ流体ネットワークの第1の領域と第3の領域との間の境界を画定する第2の毛細管圧力障壁によっても固定される。これらの例では、ゲルは、第3の領域に対向する第3の表面を含む。第3の表面は、第2の表面と同様に、形状が凹状、又は凸状であってもよく、固定されたまま毛細管圧力障壁の物理的な位置を越えて延出又は隆起し得ることが認識されるであろう。
【0071】
他の例では、第2の毛細管圧力障壁が存在するが、これは、マイクロ流体ネットワークの第2の領域と第3の領域との間の境界を画定する。これらの例では、内腔化ゲルを含む第1の領域は、第2の領域によって第3の領域から隔てられる。
【0072】
いくつかの例では、マイクロ流体ネットワークは、液体の充填又は通気のために使用される任意の入口開口とは異なる開口であり得る開口を含み、ゲル構造は、開口に対向し、及び/又はそれを実質的に密封する表面を形成する。開口は、それ自体が毛細管圧力障壁として機能し、開口からの液体の流れを防止し得る。いくつかの例では、内腔は開口まで延出せず、代わりに開口の下にあるゲルを通って延在する(ゲルを含むマイクロ流体ネットワークが、使用中に、開口の下の平面内にある場合)。したがって、ゲル構造は、開口に対向し、及び/又は実質的にそれを密封する表面を有することができ、これは、対象の液体と接触して、その長さに沿って内腔の始端と終端との間の位置でゲルへのアクセスを提供することが可能である。
【0073】
いくつかの例では、第2の領域もゲル又はゲル前駆体溶液を含み、第1の領域内のゲルとのゲル間接触を形成する。いくつかの例では、マイクロ流体ネットワークは、第2の毛細管圧力障壁によって示される第3の領域を含み、第3の領域もゲル又はゲル前駆体溶液を含む。これらの例では、第3の領域は、第1の領域又は第2の領域に隣接し得る。したがって、第3の領域は、第1の領域内のゲルとのゲル間接触を形成するゲル、又は第2の領域内のゲルとのゲル間接触を形成するゲル、又は第1及び第3の領域で2つの間にゲル間接触のないゲルを含み得る。存在する場合、第2の領域内のゲル及び第3の領域内のゲルは、本明細書に記載される方法を用いて形成される内腔化ゲル又はゲル構造であってもよい。
【0074】
本議論は、1つ又は2つの毛細管圧力障壁の存在と、それに続くマイクロ流体ネットワークの第1、第2及び第3の領域内でのゲル構造の形成とに焦点を合わせているが、本開示はこのような配置に限定されず、マイクロ流体ネットワークのなおさらなる領域を提供するなおさらなる毛細管圧力障壁も含まれ得ることが理解されるであろう。したがって、マイクロ流体ネットワークは一般に、N個の領域又はレーンと、各領域又はレーンを分割するN-1個の毛細管圧力障壁とで構成され得る。したがって、記載される方法は、自立メニスカスが形成される場合に任意のNレーンでゲルを形成するために使用することができ、マイクロ流体ネットワーク内のN個のレーンに対してN個の内腔を作ることができる。
【0075】
マイクロ流体ネットワーク内のゲル構造が本明細書に記載される方法によって内腔化されたら、本開示の方法に関連して以下に記載されるように、例えばゲルに支持される細管又は血管を形成する目的で、1つ又は複数の細胞又は細胞型をマイクロ流体ネットワークに導入することができる。
【0076】
内腔化ゲル構造を作るための方法
内腔化ゲル構造を作るための方法であって、
ゲル前駆体溶液を含む第1の液体をマイクロ流体ネットワークに導入するステップであって、マイクロ流体ネットワークは、マイクロ流体ネットワークの第1の領域と第2の領域との間の境界を概ね画定する位置に毛細管圧力障壁を含むステップと、
第1の液体がマイクロ流体ネットワークの第1の領域に入り、毛細管圧力障壁に沿ってそれ自体を整列させることができるようにし、それにより、マイクロ流体ネットワークの第1の領域と第2の領域との間の境界に第1の液体の液体-空気メニスカスを形成するステップと、
第1の液体を第2の液体と接触させることにより第1の液体を通る内腔を形成するステップであって、第2の液体は、第1の液体の粘性よりも低い粘性を有するステップと、
ゲル構造の中を通る内腔を含むゲル構造を形成するために第1の液体がゲル化することを許容するか又は引き起こすステップと
を含む方法が本明細書に記載される。
【0077】
図1A、1B及び1Cは、本明細書に記載される方法による一連のステップを示す。図1Aはマイクロ流体ネットワークを含む装置の側面図又は断面図を示し、図1Bは同じ装置を平面図で示し、図1Cは同じ装置を図1Aの図に垂直な断面で示す。
【0078】
装置100はマイクロ流体ネットワーク102を含み、この例では、ネットワークの両端に2つの入口(番号付けなし)が設けられ、ウェル105を含むカバー層103を介して上からアクセスされる。
一例では、ゲル前駆体溶液を含む第1の液体は、例えば注入又は挿入によって、マイクロ流体ネットワークへのアクセスを提供する入口を介してマイクロ流体ネットワークに導入される。より具体的には、マイクロ流体ネットワーク及び入口は、入口がマイクロ流体ネットワークの第1の領域と連通するように構成され、すなわち、入口及びマイクロ流体ネットワークは、入口から第1の領域への流路を画定する。第1の液体は、例えば注入によってマイクロ流体ネットワークに導入されると、例えば流路を通って第1の領域に入り、毛細管圧力障壁に沿ってそれ自体を整列させることができる。通常、毛細管力は、第1の液体がマイクロ流体ネットワークを通って流れるようにするのに十分であり、継続的な注入圧力又は背圧は必要とされない。いくつかの例では、第1の液体が第1の領域に入り、毛細管圧力障壁に沿ってそれ自体を整列させることを可能にするために背圧が加えられる。
【0079】
図1A図1Cの第2の画像は、マイクロ流体ネットワーク102に導入されているゲル前駆体溶液を含む第1の液体104を示す。図1B及び図1Cに見られるように、毛細管圧力障壁112がマイクロ流体ネットワーク102に提供され、これは、マイクロ流体ネットワークの第1の領域114と第2の領域116との間の境界を概ね画定する。毛細管圧力障壁112は、マイクロ流体ネットワーク102の床から本体又はチャネル内に突出する材料の稜として提供される(図1Bでは破線で示される)。マイクロ流体ネットワーク102に導入されると、第1の液体104は、第1の領域114を充填し、毛細管圧力障壁112に沿ってそれ自体を整列させ、毛細管圧力障壁112に沿って又はそれに平行に走る液体-空気メニスカスを形成するので、概ね第1の領域114と第2の領域116との間の境界に位置する。メニスカスは毛細管圧力障壁112によって固定されるが、マイクロ流体ネットワークの天井と接触するメニスカスの部分は、第2の領域116内に部分的に延出することが、図1Cにおいて見られる。しかしながら、第1の液体の液体-空気メニスカスは、毛細管圧力障壁112のメニスカスピンニング効果によって、依然として概ね境界に配設されていることが理解されるであろう。
【0080】
適切なゲル及び前駆体溶液としては、マトリゲル、マトリゲルgfr、BME1、BME1gfr、BME2、BME2gfr、BME3(全てマトリゲル変異体)、コラーゲンI、コラーゲンIV、コラーゲンIとIVの混合物、又はコラーゲンIとIV、及びコラーゲンIIとIIIの混合物)、puramatrix、ヒドロゲル、Cell-Tak(商品名)、マトリゲル(登録商標)マトリックス、フィブロネクチン、ゼラチン、HA、ラミニン、オステオポンチン、ポリリジン(PDL、PLL)、PDL/LM及びPLO/LM、PuraMatrix(登録商標)又はビトロネクチンを含むものが挙げられるが、これらに限定されない。1つの好ましい実施形態では、ゲル前駆体溶液として導入されるマトリックス成分は、市販のCorning(登録商標)マトリゲル(登録商標)マトリックス(Corning,NY 14831,USA)として得られる。
【0081】
次に、マイクロ流体ネットワーク内の第1の位置で第1の液体を第2の液体と接触させることにより、第1の液体を通る内腔が形成され、ここで、第2の液体は、第1の液体の粘性よりも低い粘性を有する。この技術は、粘性フィンガリング、又はSaffman-Taylor不安定性として知られており、内腔の形成のための2つの液体の相対的な粘性が異なることに依存する。透過性マトリックスにおいて三次元内腔構造を作る方法は、当該技術分野で知られている(Bischel et al.J Lab Autom.(2012)17:96-103、及びBischel et al.Biomaterials(2013)34:1471-1477)。
【0082】
内腔化が生じ、その結果として、粘性の高い第1の液体が粘性の低い第2の液体によって置換されるためには、圧力勾配を作り出さなければならない。この圧力勾配は、限定はされないが、液滴の表面張力によるラプラス力(受動的ポンピング)、静水圧、空気圧、機械的圧力(例えば、シリンジポンプによる)を含むいくつもの方法によって達成することができる。
【0083】
第1の液体、すなわちゲル前駆体溶液は、画定された構造を形成するのに十分に高い粘性を有し得るが、それでも、より低い粘性を有する第2の液体が、例えば、外圧に駆動される流れを必要とせずに表面張力に基づく受動的ポンピングによって第1の液体を通って分散し、第1の液体の一部を除去することを可能にし、それにより、第1の液体を通って又は第1の液体内に延在する内腔が作られる。
【0084】
いくつかの例では、第1の液体は、約5cP~約106cP、例えば約5cP~5000cP、例えば約30cP~1000cPの粘性を有することができる。第1の液体を通って分散する第2の液体の組成及び/又は粘性は、第1の液体の粘性と共に変わり得る。一般に、第1の液体の粘性が高いほど、第2の液体が第1の液体を通って延出し、その中を通る内腔を作るために、第2の液体の粘性はより高くされる必要があり得る。いくつかの例では、第2の液体は、約0.5cP~約5cPの粘性を有し得る。一般的に使用されるヒドロゲルの粘性の絶対値が、多くのゲル前駆体が非ニュートン流体であるという事実の結果として、せん断、ひずみ及び粘弾性特性などの動的特性を含む多くの因子に依存することは認識されるものとする。しかしながら、これらの範囲内で、ゲル前駆体は常に、水又は細胞培養培地などの内腔化のために使用される流体(例えば、約1cP)よりも著しく高い粘性、例えば>5cPを有する。ゲル前駆体の変動及び動的な粘性が常に第2の流体よりも高い粘性を有することが予想され得る限り、提唱される方法は、ゲルの厳密な粘性が変化している場合、又は近似的にしか定義されていない場合でも適用可能である。
【0085】
すなわちゲルマトリックス(ECM)を形成するためのゲル前駆体溶液の粘性を変更する方法は、当該技術分野で知られており、例えば、溶液中のポリマー(例えば、コラーゲン)の濃度を調整すること(より高い濃度はより高い粘性をもたらす)、溶液の部分的なゲル化を引き起こすこと(より多くのゲル化はより高い粘性をもたらす)、温度を変化させること(より低い温度はゲル化を遅くするが、ゲル化していないゲル前駆体の粘性を高くする)、或いはポリエチレングリコールなどの粘性調節剤を溶液に導入することが含まれる。
【0086】
図1A図1Cの第3の画像は、マイクロ流体ネットワーク102を充填する第1の液体104の上部に導入された第2の液体106の液滴を示す。説明のために、第2の液体106は、第1の液体104と同じ入口を通して導入され、これは、第1の位置と考えることができる。第1の液体104を通して第2の液体106を押し進め、第1の液体104を内腔化するために、第3の液体108が、第1の位置から間隔をあけた第2の位置、例えば、第2の液体106が導入された入口から間隔をあけたマイクロ流体ネットワーク102への入口に適用され得る。第3の液体108は、第2の液体106と同様に、第1の液体104の粘性よりも低い粘性を有し得る。
【0087】
第3の液体108は、第2の液体106が入口の界面で表面張力によりその入口に拘束される場合に導入され得る。第3の液体108の導入は、表面張力を破壊するのに役立つことができ、したがって、より低い第2の液体106の圧力を必要とする。第3の液体108は、第2の液体106と同じ又は異なる組成を有することができ、HBSS、細胞培養培地、PBS、TRIS、水、HEPES、アルブミン溶液、平衡塩類溶液、第2のゲル若しくはゲル前駆体溶液、又は緩衝剤から選択される液体であり得るが、これらに限定されない。第3の液体は、第2の液体と同一であってもよい。第3の液体の粘性は、第1の液体よりも低くても、同様であっても、又は高くてもよい。いくつかの例では、第2の液体106は、第3の液体108が導入される前に導入されるが、他の例では、添加の順序は逆である。
【0088】
いくつかの例では、ゲル前駆体溶液104を第2の液体106と接触させるステップは、形状が凸状であると共に第1の主曲率半径を有する、第2の液体106のメニスカスを形成するステップを含み、また、ゲル前駆体溶液104を第3の液体108と接触させるステップは、形状が凹状であるか、或いは形状が凸状であると共に第1の主曲率半径よりも小さい第2の主曲率半径を有する、第3の液体108のメニスカスを形成することを含む。形状が凹状であるか、或いは形状が凸状であると共に内腔110を形成し得る第2の液体106の主曲率半径よりも小さい主曲率半径を有するメニスカスを形成する第3の液体108を提供することにより、有利に、第1の液体104の表面張力が低下され、又は低下され、第2の液体106が第1の液体104を通して穿孔できるようになり、内腔110が形成される。
【0089】
このようにして、第1の液体ゲル前駆体104の粘性よりも低い粘性を有する第2の液体106の受動的圧力に駆動される流れは、図1A図1Cの下側の画像に見られるように、第1の液体104に略円形又は楕円形の内腔110をパターニングすることができる。いくつかの例では、受動的ポンピングは、例えば、マイクロ流体ネットワークの傾斜を調整することによって、1つの入口から別の入口への圧力差を加えるために重力を用いて促進され得る。他の例では、第3の液体108は使用されず、外圧を加えて、第1の液体104を通して第2の液体106を押し進めることができる。
【0090】
内腔の寸法は、チャネル寸法、第1の液体と第2の液体との間の相対的な粘性、第1の液体を通って流れる第2の流体の体積流量及び/又は圧力、並びにこれらの組合せを含むがこれらに限定されない、いくつかの因子によって変わり得る。いくつかの実施形態では、内腔の断面積は、チャネルの断面積の50%を超えてもよい。いくつかの実施形態では、内腔の断面積は、チャネルの断面積の90%を超えてもよく、例えば、98%又は99%であり得る。いくつかの例では、内腔は、約10μm~約1000μmの寸法を有することができる。いくつかの実施形態では、内腔は、20μm~約500μm、例えば50μm~約250μmの寸法を有することができる。
【0091】
第1の液体104が内腔化されると、すなわち、第2の液体106を用いて第1の液体を通る内腔110が形成されると、ゲル前駆体溶液104のゲル化又は重合により、その中を通って延在する内腔110を含むゲル構造、例えば細胞外マトリックスゲル構造が生じる。
【0092】
いくつかの例では、ゲル前駆体溶液を含む第1の液体104は、内腔化の前に部分的ゲル化を受ける。他の例では、内腔化は、第1の液体104のゲル化の前に起こる。第2の液体106は、入口又は出口を形成する任意の開口に正圧又は負圧を加えることによって内腔110から抜き出すことができ、ゲル化が生じる前又は生じた後に抜き出し、したがってゲル構造の内側表面を露出させることができる。図1Cの最下部画像に見られるように、第1の液体104から形成されたゲル構造は、内腔110に対向する第1の表面と、第2の領域116に対向する第2の表面とを有し、これらはいずれも、後述されるように、1つ又は複数の細胞型の添加によって変形され得る。
【0093】
いくつかの例では、第2の液体106はそれ自体が、第2の液体106の粘性よりも低い粘性を有する穿孔液体によって内腔化することができるゲル前駆体溶液を含んでいてもよい。したがって、記載される方法は、第2の液体と、第2の液体の粘性よりも低い粘性を有する液体とを接触させることにより、第2の液体を通る内腔を形成するステップと、そして層状ゲル構造の中を通る内腔を含む層状ゲル構造を形成するために第1のゲル構造内での第2の液体がゲル化することを許容するか又は引き起こすステップとを含み得る。第1の液体104のゲル前駆体溶液の組成に対して第2の液体106のゲル前駆体溶液の組成を変えることにより、層状で潜在的に同心のシステムを作り出すことができる。特に、いくつかの例では、第1の液体104及び第2の液体106の一方又は両方が、独立して、1つ又は複数の細胞型、例えば、間質細胞、筋細胞、周皮細胞、線維芽細胞、及び筋線維芽細胞から選択される、例えば1つ又は複数の間葉由来の細胞を含み得る。
【0094】
上記の方法は、マイクロ流体ネットワークの2つの領域を画定する1つの毛細管圧力障壁を有するマイクロ流体ネットワークを参照して記載されている。しかしながら、この方法は、マイクロ流体ネットワークの3つ以上の領域をもたらす2つ以上の毛細管圧力障壁を有し、それぞれが1つ又は複数の入口を有し、そして内腔化されていてもいなくてもよいマトリックスゲル構造を用いて、及び/又は問題の領域の表面を覆うオルガノイド本体又は脈管構造を形成することができる1つ又は複数の細胞型を用いて独立してパターニング可能である、より複雑なシステムに適用できることが理解されるであろう。
【0095】
したがって、いくつかの例では、本方法は、図2及び3に示されるように、さらなる液体、例えば第2のゲル前駆体溶液をマイクロ流体ネットワークの第2の領域に導入し、第2のゲル前駆体溶液を毛細管圧力障壁の長さに沿ってゲル構造と接触させるステップと、第2のゲル前駆体溶液と、第2のゲル前駆体溶液の粘性よりも低い粘性を有する液体とを接触させることにより、第2のゲル前駆体溶液を通る内腔を形成するステップと、第2のゲル構造の中を通る内腔を含む第2のゲル構造を形成するために第2のゲル前駆体溶液がゲル化することを許容するか又は引き起こし、第1のゲル構造と接触させるステップとを含み得る。
図2及び図3はいずれも、212及び220で示される2つの毛細管圧力障壁を有するマイクロ流体ネットワークを含む装置200を示す。毛細管圧力障壁212及び毛細管圧力障壁220はいずれも、マイクロ流体ネットワークの床又はベースからチャネル内に突出する稜として提供されるが、本明細書に記載されるように、毛細管圧力障壁の他の配置も可能であることが認識されるであろう。
【0096】
図2において、毛細管圧力障壁212は、第1の領域214と第2の領域216との間の境界を画定する。この例では、毛細管圧力障壁220は、第2の領域216と第3の領域218との間の境界を画定する。
【0097】
図2の第2の画像は、第1の液体204aのゲル前駆体溶液が第1の領域214に導入されていることを示し、第3の画像にはその中を通る内腔210の形成が示される。第1の液体204aをゲル化してゲル構造を形成した後、第2のゲル前駆体溶液204bを第2の領域216に導入することができ、これも、第3及び第4の画像に見られるように、粘性フィンガリング方法を用いて本明細書に記載されるように内腔化されて、第2の内腔222を提供することができる。第2のゲル前駆体溶液204bをゲル化して、内腔を有するゲル構造を形成した後、第3のゲル前駆体溶液を第3の領域218に導入することができ、第3の内腔224が提供される。
【0098】
代替の一連のステップは図3に示されており、図2と同じ配列が生じる。図3において、第1の領域214は、マイクロ流体ネットワークの中央にあると考えることができ、それと左側の第2の領域216との間の境界は毛細管圧力障壁212であり、第1の領域214と第3の領域218との間の境界は毛細管圧力障壁220である。
【0099】
図3の第3の画像に見られるように、本開示の方法及び配列は、3つの表面を有する内腔化ゲル構造の形成を可能にする:第1の表面は内腔210に対向し、第2の表面は第2の領域216に対向し、第3の表面は第3の領域218に対向する。このような配列は、特定の用途のために有利であり得るが、図3は、ゲル前駆体溶液204b及び204cをそれぞれ第2の領域216及び第3の領域218に導入し、第2の領域216及び第3の領域218を通る内腔222及び224をそれぞれ形成することも可能であることを示す。
【0100】
図2及び図3の一連のステップは、3つの領域全てをゲルで充填し、3つ全てを内腔化することを示しているが、第1の領域214及び第2の領域216にのみ内腔化ゲル構造を形成して、第3の領域218は、培養培地又は試験溶液が利用できる状態にしておくことに利点があり得ることが認識されるであろう。
【0101】
図4A及び図4Bは、任意の専用の流体界面入口及び出口に加えて開口340が提供される代替の装置300を示す。開口340は毛細管圧力障壁として機能することができ、メニスカスと、開口340を横切って延在する表面とを形成するように、第1の液体304を固定する。上記の方法と同様に、第1の液体ゲル前駆体溶液304は、装置300のマイクロ流体ネットワークに導入され、第2の液体306及び第3の液体308は、ネットワークの両端部で導入されて表面張力を破壊し、第1の液体304の内腔化を引き起こす。
【0102】
図4A及び図4Bに見られるように、内腔310は、第1の液体306から第2の液体308まで延在しており、開口340までは延出しない。したがって、マイクロ流体ネットワークの所与の領域は、入口又は出口と考えられる複数の開口を有することができ、内腔化は、内腔がマイクロ流体ネットワークの所望の位置(開口)の間にだけ延在するように制御できることが分かる。例えば、内腔を形成することは、複数の開口のうちの1つの開口における主曲率半径を最小化して、内腔をその1つの開口に、そしてその1つの開口のみに延出させることを含み得る。これは、第2の液体を開口に適用し、その開口における表面張力を最小化することによって達成することができる。
【0103】
このようにして、内腔化は、開口の平面よりも下方で起こり、ゲル構造のさらなる表面をもたらすことができる。図13は、このような装置の上から撮られた高解像度画像を示しており、開口を通して開口の下方のゲルを貫通する内腔が見られる。画像に重ねられた矢印は、ゲル及び内腔の経路を示す。
【0104】
図5の上部画像は、ゲル前駆体204aから形成されたゲル構造が第1の領域214に提供され、毛細管圧力障壁によって固定された装置を示す。内腔222はゲル構造を通して延在し、内皮又は上皮細胞であり得る細胞228の細管で覆われている。ゲル構造を含まない第2の領域216には、細胞230の第2の細管が存在し、細管間には「a」で示される間質腔がある。細胞228及び/又は細胞230は、第1の表面と第2の表面との間のゲル構造の厚さを低減することによって、及び/又は1つ又は複数のECM成分を分泌することによって、ゲル構造の再構築が許容又は刺激され得る。細胞は、成長因子、グルコース及び酸素レベルによって刺激され、代謝活性が高くなるか又は低くなり得る。より増殖性及びより運動性の細胞は、通常、ECMをより活発に分解する。MMP-3、プラスミン、カリクレイン、トリプターゼ、フューリンなどの活性化因子による、ECM分解及び再構築酵素、例えば、MMP又はADAMTSの活性化は、ECMの分解及びゲル構造の厚さ減少をさらに促すことになる。逆に、ECMの再構築は、より厚いゲル構造を保存し得るMMP阻害剤、ROCK阻害剤などを用いて阻害することができる。
【0105】
図5の第2の画像に見られるように、ゲルマトリックスは、細管間の距離がほぼゼロになるまで再構築(この場合、分解)されており、隣接する細管の間で(ほぼ)直接的な細胞間接触が生じる。
【0106】
マイクロ流体ネットワークに存在する任意の細胞、例えば、ゲル前駆体溶液を介して導入される細胞、又はゲル構造の内腔に導入される細胞(細胞細管として、又は細胞細管を介して)、又はゲル構造に対向するマイクロ流体ネットワークの領域に導入される細胞が、ゲル構造を再構築し得ることは認識されるであろう。
【0107】
図5は、細胞外マトリックスゲルの再構築によってゼロ又はほぼゼロにすることができる細管間の間質距離を提供するための、本明細書に記載される装置及び方法の可能性を示す。一般に、1つ又は複数の細胞型をマイクロ流体ネットワークに導入することができ、ゲル構造の厚さを低減することにより、ゲル構造の再構築が許容又は刺激される。いくつかの例では、ゲル構造の厚さは、ゲル構造の第1の表面と第2の表面との間(すなわち、内腔に対向する表面とゲル構造の外表面との間)で再構築される。再構築は、任意のECM成分の沈着又は分解を含むことができる。1つ又は複数の細胞は、再構築をもたらす1つ又は複数のECM成分を分泌し得る。
【0108】
細胞外マトリックスゲルの分解及び再構築は、例えば、コラーゲン繊維などのマトリックス成分を方向付けることにより、細胞の移動又は遊走を促進することができる。厚さの減少又は繊維の配向などの組織分布的変化をもたらす再構築されたECMは、癌上皮細胞が侵入する区域で観察されることが多いが、再構築されたECMは局所環境における間質、内皮又は免疫細胞の挙動にも影響を与える可能性があり、したがって、細胞外マトリックスの再構築における細胞の挙動、又は再構築された細胞外マトリックスに応答する細胞の挙動を調査することが必要とされる。本明細書に記載される方法及び装置はその必要性に対処する。
【0109】
図5の下部画像において、細胞(この場合、上皮細胞)は、糖タンパク質及びコラーゲンを分泌することによりECMを再構築して、細管間に新しい基底層236を形成することが可能にされている。このようにして、調査のためにより現実的な共培養モデルを得ることができ、再構築されたECMは、第1の表面と第2の表面との間の厚さがゼロに近づき、例えば、1μm未満、例えば500nm未満、例えば250nm未満、例えば100nm未満、例えば50nm未満の厚さを有し得る。
【0110】
本発明は、図6A及び6Bを参照して説明され得る3レーンのマイクロ流体デバイスにおける非内腔化ゲル構造に対して、特に有利である。図6Aは、3レーンシステムにおける生体構造間の間質層を横切る分子輸送を調査するための典型的なモデルを示す。このモデルでは、ゲル前駆体溶液から形成されたゲル構造は、毛細管圧力障壁214及び220で固定されたマイクロ流体ネットワークの中央の領域に提供される。
【0111】
ゲル構造は、コラーゲン又はマトリゲル(登録商標)などの細胞外マトリックスを含有又は包含することができ、ゲルを通って分散された細胞(例えば、間質細胞)234bを含み得る。ゲル構造の右側には、内腔224を有する細胞230(例えば、内皮又は上皮細胞)の単層細管があり、ゲル構造の左側には、細胞226及び232で形成された二重層細管があり、これは、例えば上記のような周皮細胞/内皮で覆われた細管であり得る。
【0112】
一例として、ここでは二重層及び間質細胞が導入される。本発明は、2つの単層管に対して同様に十分に機能し、ECMゲルに細胞は添加されない。
【0113】
この設定では、任意の材料(試験化合物、栄養培地)は、二重層細管又は単層細管を介してマイクロ流体ネットワークに導入されなければならず、細胞226及び232で形成される二重層細管内のブロックされた矢印で示されるように、細管を形成する細胞の層を通過しなければならないので、隣接するゲル構造及び/又は他の細管に容易に到達し得ない。
対照的に、二重層細管が図6Bのように内腔化ゲル構造で形成される場合、3レーンシステムの1つのレーン(例えば、図6Bの第3の領域218)は、トリガー、薬物、染色試薬、マーカー又はレポーター分子を添加するために保持され得るか、又は例えば、排出代謝産物及び基礎的な排出サイトカインをサンプリングするために使用され得る。ゲル構造は、膜を必要とせずに毛細管圧力障壁220によって固定されているので、ゲルの表面は第3の領域218に対向し、第3の領域218に導入される任意の溶液と接触することができ、それにより、間質ゲル構造を通って細管への材料の交換及び輸送が促進され、その結果、第3の領域内の流体と、ゲル構造と、細管の基底側との間で代謝産物、栄養物、化合物、薬物、トリガー、ケモカイン、サイトカイン及び酸素が自由に交換される。
【0114】
言うまでもなく、当業者は、細胞外マトリックス環境(すなわち、ゲル構造)内の細胞が、ゲルネットワークを通って依然として運動性であることを認識し得る。運動性は、インテグリンなどの接着斑による細胞マトリックス相互作用、アクチン再構築、コラゲナーゼ、及び細胞外マトリックス環境における細胞の運動性を可能にする多くの他の機構によって可能になる。また細胞は実験の過程でECMゲルの内外に、及び/又は上皮又は内皮障壁を横切って、遊走する可能性がある。これは全て、ゲル構造内の内腔化成分と、第3の領域218に対向するゲルの自由表面とによって可能になる。
【0115】
図7に見られるように、1つ又は複数の細胞をマイクロ流体ネットワークの第2又は第3の領域に導入し、細胞が、ゲル構造の第2又は第3の表面及びマイクロ流体ネットワークの第2又は第3の領域を少なくとも部分的に被覆できるようにして、第2又は第3の領域に少なくとも部分的に細管を形成することも可能であり、例えば、1つ又は複数の細胞は、内皮細胞又は上皮細胞、間葉由来の細胞、例えば(平滑)筋細胞、周皮細胞、有足細胞、線維芽細胞、筋線維芽細胞から選択される。
【0116】
図7において、第1の領域214は、マイクロ流体ネットワークの3つの領域の中央にあるとして示されており、細胞228の単層細管(例えば、内皮細管)を有する。第2の領域216は、第1の領域214の右側にあるとして示されており、ゲル構造を含まないものとして示されている。この例では、マイクロ流体ネットワークの第2の領域216及び第2の領域216に対向する第1の領域214に形成されたゲルの第2の表面は、細管を形成する内皮細胞又は上皮細胞の層を含む。すなわち、細胞230は、領域216の表面と、第1の領域214のゲル構造の表面とを被覆して、第2の領域216において細管を形成している。
【0117】
結果として、細管はそれ自体で、第2の領域216を通って延在する内腔224を形成し、これは、栄養培地又は試験溶液で灌流され得る。図7において、第3の領域218にはゲル構造及び細胞系が提供されている。これらの図は、全ての細管がゲル構造内に存在する細胞、例えば間葉由来の細胞によって実質的に包囲されていることを示しているが、第1の細管及び/又は第2の細管のみが、ゲル構造内に存在する細胞、例えば間葉由来の細胞によって実質的に包囲されている代替のモデルも可能であることは認識されるであろう。
【0118】
一般に、1つ又は複数の細胞又は細胞型をマイクロ流体ネットワークに導入することは、1つの入口から別の入口/出口へマイクロ流体ネットワークを通して、細胞を含有する液体を灌流することを含み得る。液体の灌流は、例えば、入口から出口への圧力差を加える、及び/又はマイクロ流体ネットワークの傾斜を調整することを含み得る。細胞含有液体は、流体界面が設けられたマイクロ流体ネットワークの任意の領域を通して、そしてその領域に存在する任意の内腔及び/又は細胞細管を通して灌流可能であることが認識されるであろう。いくつかの例では、1つ又は複数の細胞又は細胞型をマイクロ流体ネットワークに導入することは、細胞ペレットをマイクロ流体ネットワークの領域に導入又は播種することを含み得る。いくつかの例では、細胞ペレットを領域に播種する前に、培養培地などの低粘性の液体が導入され得る。
【0119】
いくつかの例では、第1~第3の領域のいずれかは、T細胞、単球、マクロファージ、好中球、好酸球、マスト細胞、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞、及びB細胞から選択され得るがこれらに限定されない、1つ又は複数の種類の免疫細胞を含むゲル構造を含み得る。1つ又は複数の種類の免疫細胞は、マイクロ流体ネットワークの領域に導入されたゲル前駆体溶液中に存在してもよいし、或いはゲル構造の内腔、例えば細胞に覆われた内腔、例えば内皮又はリンパ管に提供されて、第1の表面、例えば内皮又はリンパ管に接着することが許容又は刺激されてもよく、内腔側からECM側に溢出することが可能になる。また免疫細胞は、ゲル構造を全く含まず、栄養培地及び/又は試験溶液のための灌流導管として構成されたマイクロ流体ネットワークの領域に添加されてもよい。
図8は、2つの毛細管圧力障壁214及び220を含む実例の装置を示し、それらの圧力障壁は、マイクロ流体ネットワークの第1の領域214、マイクロ流体ネットワークの第2の領域216、及びマイクロ流体ネットワークの第3の領域218間の概念的な境界を示している。3つの領域は全て、それぞれゲル前駆体溶液204a、204b及び204cを含む液体で充填されており、続いて、内腔210、222及び224を形成するように内腔化され、ゲル化されている。
【0120】
まず第1の領域214を見ると、ゲル前駆体溶液204aから得られるゲルは細胞234aを含むことが分かり、細胞234aは、好ましくは、前駆体溶液の一部として導入されたものであるが、ゲル化後に導入され、上皮又は内皮血管壁を横切ってゲル構造内に遊走することが刺激又は許容されることもあり得る。細胞234aの細胞型は、必要性に基づいて選択することができる。いくつかの例では、細胞234aは、内皮細胞又は上皮細胞、間葉、内胚葉及び外胚葉由来の細胞、例えば(平滑)筋細胞、周皮細胞、有足細胞、線維芽細胞、筋線維芽細胞、星状細胞、又は1つ若しくは複数のスフェロイド若しくはオルガノイドから選択される、1つ又は複数の細胞を含み得る。装置が血液脳関門を調査するためのモデルを提供する例では、細胞234aは、前駆体溶液204aから形成されたゲルマトリックスを通って分散されたヒト初代星状細胞を含み得る。
【0121】
同様に、第2の領域216及び第3の領域218において前駆体溶液204b及び204cから形成されるゲル構造も、ゲル構造を通って分散された1つ又は複数の細胞234a及び234bを含むことができ、細胞は、内皮細胞又は上皮細胞、間葉由来の細胞、例えば(平滑)筋細胞、周皮細胞、有足細胞、線維芽細胞、筋線維芽細胞、星状細胞、又は1つ若しくは複数のスフェロイド若しくはオルガノイドから独立して選択される。
【0122】
したがって、本方法は、例えば、間質細胞、(平滑)筋細胞、周皮細胞、線維芽細胞、及び筋線維芽細胞から選択される間葉由来の細胞を、内腔内の細管及び/又は第2の領域の細管を実質的に包囲するようにマイクロ流体ネットワークに導入することを含み得る。間葉由来の細胞は、最初から実質的に細管を包囲するようにゲル前駆体溶液中に存在してもよいし、或いは輸送チャネルを介してマイクロ流体ネットワークに導入され、その後、実質的に細管を包囲するようにゲル構造を通って遊走してもよい。
【0123】
いくつかの例では、ゲル構造は、培養培地の組成、存在し得る他の細胞型、及び細胞外マトリックスに応じて培養中に増殖及び/又は分化することができる上皮細胞を含む。したがって、マイクロ流体ネットワークへ導入された後、水性培地、好ましくは増殖培地を使用するか、又はゲル(前駆体)を使用することにより、上皮細胞は次に、ゲル構造内で増殖及び/又は分化することができる。1つ又は複数の細胞型又は細胞凝集体、例えば上皮細胞の培養は、マイクロ流体ネットワークへの培地の導入によって達成され、細胞が培養されるように適切な条件下で継続される。
【0124】
第2の例では、ゲル又はゲル前駆体溶液中に存在する少なくとも1つの細胞型又は細胞凝集体は、線維芽細胞、平滑筋細胞、筋線維芽細胞、周皮細胞、星状細胞、乏突起膠細胞などの上皮細胞及び間葉由来の細胞を含む。したがって、ゲル(前駆体)を使用してマイクロ流体ネットワークに導入された後、上皮細胞及び間葉由来の細胞は次に相互作用して、任意選択的に増殖及び/又は分化することが可能な組織を形成することができる。
【0125】
さらなる例では、少なくとも1つの細胞型は、上皮細胞及び間葉由来の細胞、免疫細胞(例えば、T細胞、マクロファージ、クッパー(Kuppfer)細胞、樹状細胞、好中球、好酸球、NK細胞、B細胞、顆粒球、マスト細胞)及び/又は内皮細胞の任意の組合せを含む。
【0126】
記載される方法は、1つ又は複数の細胞をゲル構造の内腔に導入するステップも含み、例えば、1つ又は複数の細胞は、内皮細胞、上皮細胞又は間葉由来の細胞を含み、これらは、内腔の表面を覆い、内腔内に細管を形成することができる。いくつかの例では、内腔に対向するゲルの表面は、第1の細管を形成する内皮細胞又は上皮細胞の層を含み得る。
【0127】
図8に見られるように、第1の領域214の内腔210は、2つの異なる細胞型で覆われて、細胞の一次細管226と、一次細管226内の二次細管232とを形成しているが、内腔222及び224は、細胞228及び230の単層で覆われている。
【0128】
例えば、細胞228及び/又は230は内皮細胞であってもよく、内腔222及び224に対向するゲル構造の第1の表面には内皮細胞228及び230が集合して、開放内腔を有する内皮細管を生成することができる。しかしながら、細胞228及び230は、調査されるモデルのタイプに応じて、上皮細胞、又は他の場所に記載されるような間葉由来の細胞であるように選択されてもよい。
【0129】
一例では、内腔に導入される流体は、内皮細胞を含み得る。一般に、内皮細胞は、心臓から最小のリンパ毛細管までの循環系全体の内部表面を覆う細胞として知られている。血液と接触する場合、これらの細胞は血管内皮細胞と呼ばれ、リンパ系と接触する場合、これらはリンパ内皮細胞と呼ばれる。特定の実施形態では、本方法は、マイクロ流体ネットワークの内腔に内皮細胞を導入するステップと、前記内皮細胞が内腔に対向するゲルの表面を覆うことを引き起こすか又は許容する、すなわち、内皮細胞が内腔内に細管を形成することを引き起こすか又は許容するステップとを含む。
【0130】
或いは、第1の領域214の内腔210と同様に、細胞の溶液を順次内腔に導入することによって、多層細管が可能である。例えば、細胞226は周皮細胞であってもよく、内腔210には、まず周皮細胞226が集合し、内腔210において単層又は多層細管の形成が許容又は刺激される。細胞232は、内皮細胞であることができ、内皮が周皮細胞を被覆している開放内腔を有する、周皮細胞/内皮で覆われた管を生成するために導入され得る。或いは、多層細管は、2つの異なる細胞型(例えば、内皮細胞及び平滑筋細胞)の溶液を導入し、異なる細胞型を自己組織化させて多層細管にすることによって形成することができる。
【0131】
上記のように、本方法は、1つ又は複数の免疫細胞をマイクロ流体ネットワーク導入するステップを含み得る。いくつかの例では、本方法は、1つ又は複数の免疫細胞、例えばT細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、及び/又はB細胞を、1つ又は複数の免疫細胞がゲルの第1の表面に接着するように、又は存在する場合には細管に接着するように、或いはゲル構造内に提供されるように、内腔及び/又はゲル構造に導入するステップを含み得る。マイクロ流体ネットワークに導入されると、免疫細胞は、細管の上皮又は内皮血管壁に接着し、任意選択的にその後血管壁を横切ってゲル構造内に遊走することが刺激又は許容され得る。
【0132】
或いは、免疫細胞は、マイクロ流体ネットワーク内に形成された内皮に接着し得る。また免疫細胞は、本開示の方法及び装置から生じるマイクロ流体ネットワークを用いて実行され得るアッセイに関連して以下で説明されるように、マイクロ流体ネットワークの別の領域におけるその挙動を観察するためにゲル構造を通って遊走することが刺激又は許容され得る。
【0133】
図5図8のいずれかにおいて、層230は、例として、腸細管(小腸、結腸、回腸、直腸、十二指腸を含む)、網膜色素上皮、腎臓上皮(近位細管、遠位細管、ヘンレ係蹄、有足細胞を含む)、皮膚、胃上皮、胆菅を含むがこれらに限定されない上皮細管であり得る。
【0134】
第2の細管228又は232は、任意選択的に、周皮細胞、有足細胞、平滑筋細胞、間葉由来の細胞によって包囲される(226)、血液又はリンパ管であり得る。間質腔234a及びbに沈着された細胞は、例として、線維芽細胞、筋線維芽細胞、又は筋肉組織などの間葉由来の細胞、並びに常在免疫細胞、又は浸潤した免疫細胞であり得る。
【0135】
このようにして、ヒトの器官の完全な機能単位を再現することができる。腸管モデルの例の場合、このモデルは、上皮、粘膜下層、間質細胞、血管区画、リンパ区画、及び免疫活性化プロセスを模倣する可能性を含む、ヒトの腸に関連する全ての要素を含む。上皮管の内腔には、さらに粘液及び細菌叢も補充され得る。
【0136】
このようなモデルは、疾患のモデリング(例えば、炎症性腸疾患)のために、そして化合物の吸着及び輸送を模倣するために重要である。任意の器官のほぼあらゆる機能単位がこれらの同じ要素を含み、正しい細胞の助けにより、それに応じてモデル化され得ることは当業者によく知られている。
【0137】
アッセイ
また本発明は、本明細書に記載される装置、又は本明細書に記載される方法によって製造された内腔化ゲル構造を用いる1つ又は複数のアッセイにも関する。
【0138】
アッセイは、バリア機能アッセイ、経上皮電気抵抗(TEER)アッセイ、免疫細胞接着アッセイ、免疫細胞遊出アッセイ、トランスポーターアッセイ、及び血管拡張又は血管収縮アッセイを含み得る。しかしながら、本開示は、これらのアッセイにおける本装置又は本方法によって製造された内腔化ゲル構造の使用に限定されるものではなく、本発明により、細胞型、細胞起源、及び実行される試験に応じていくつものアッセイが可能であることは当業者には明らかであろう。
【0139】
いくつかの例では、マイクロ流体ネットワークに導入される前述の1つ又は複数の細胞、又は細胞凝集体のいずれかは、不死化細胞株又はオルガノイド株、初代細胞、人工多能性幹細胞由来の細胞を含む細胞株を含むことができ、クラスター細胞、印刷された細胞、オルガノイド、組織生検、腫瘍組織、切除された組織材料、器官外植片又は胚体であり得るが、これらに限定されない。
【0140】
1つ又は複数の細胞、又は細胞凝集体は、特定の生体組織、例えば、肝臓、腎臓、脳、乳房、肺、皮膚、膵臓、腸、網膜又は毛髪に関連する表現型から得られる、それらの表現型に由来する、又はそれらの表現型を示す、1つ又は複数の細胞型を含み得る。1つ又は複数の細胞又は細胞凝集体は健康な組織又は罹患した組織を含むことができ、患者から得ることができる、又は患者に由来し得る。細胞は、中胚葉由来、内胚葉由来又は外胚葉由来であり得る。
【0141】
一実施形態では、内腔に血管形成するために使用される内皮細胞は、患者から得ることができる、又は患者に由来し得る。一実施形態では、患者から得られた、又は患者に由来する内皮細胞は、血液増殖内皮細胞、又は多能性幹細胞に由来する内皮細胞を含み得る。
【0142】
同じ患者からの1つ又は複数の細胞又は細胞凝集体を含む生体組織と組み合わせて自己内皮細胞を使用することにより、血管形成されたシステムは、個別化された医薬の分野に、そして特定の薬剤に対する患者の予想される応答を決定又は予測するための臨床モデル及びアッセイの開発に特に適している。
【0143】
例えば、患者から得られた腫瘍組織の使用は、上記のような患者に由来する内皮細胞を用いるその腫瘍組織の血管新生と共に、化学療法に対する患者の予想される応答の完全な分析を可能にする。さらに、1つ又は複数の種類の患者自身の免疫細胞をこのようなシステムに導入することにより、所与の薬剤に対する予想される免疫応答についての判定を行うことが可能になる。
【0144】
バリア機能アッセイ
バリア機能アッセイは、上皮又は内皮細胞の特性及び挙動、すなわち上皮又は内皮細管を形成する細胞と、物質に対するその透過性とを調査する。これらのアッセイは、フルオレセインなどの色素物質の添加と、色素物質が上皮又は内皮を通って拡散するかどうかの観察とを含むことができる。
【0145】
本発明は、簡単なバリア機能アッセイを可能にする。例えば、装置には、図8の上部画像に示されるようなマイクロ流体ネットワークを提供することができ、細胞228及び230は上皮細胞又は内皮細胞であり得る。拡散色素を内腔222に導入して、周囲のゲルマトリックス、細胞230の細管によって形成された内腔、及び自由輸送チャネルのうちのいずれか1つ又は複数における拡散色素の存在についてシステムを監視することができる。
【0146】
経上皮電気抵抗(TEER)アッセイ
TEERアッセイはバリア機能アッセイの具体的な例であり、上皮細胞層を横切る電気抵抗を監視することによってバリア透過性を調査する。マイクロ流体ネットワーク内の細胞層で実行されるTEERアッセイは、例えば国際公開第2019/166644号パンフレットに記載されており、その内容は、参照によって本明細書中に援用される。国際公開第2019/166644号パンフレットの図2から、本明細書に記載されるような3レーンのマイクロ流体ネットワークには、TEERバリア機能アッセイにおいて電気的活動を測定するために最大6個の電極対が提供され得ることが分かる。
【0147】
免疫細胞接着アッセイ
既に説明されたように、本発明の方法は、免疫細胞をマイクロ流体ネットワークに導入するステップを含むことができる。免疫細胞は上記の通りでよく、上記のようなネットワークの任意の位置でマイクロ流体ネットワークに導入され得る。
【0148】
免疫細胞接着、例えば上皮又は内皮組織へのT細胞接着は、炎症反応における重要なステップであり、したがって、これらの組織への免疫細胞接着についての調査を可能にするシステム、例えばマイクロ流体ネットワークを含む装置を有することが望ましい。
【0149】
したがって、本発明は、生体構造への免疫細胞接着を調査するためのアッセイにおける、本明細書に記載される装置及びマイクロ流体ネットワークの使用にも関する。
【0150】
免疫細胞遊出アッセイ
既に説明されたように、本発明の方法は、免疫細胞をマイクロ流体ネットワークに導入するステップを含むことができる。免疫細胞は上記の通りでよく、上記のようなネットワークの任意の位置でマイクロ流体ネットワークに導入され得る。
【0151】
本発明は、上皮及び内皮を通る免疫細胞の遊走の動態学及び制御機構についての調査を可能にする。
【0152】
主要な疾患に対する信頼できる免疫療法を開発することに対して相当な関心が集まっており、したがって、免疫細胞遊出アッセイ、特に制御性T細胞の遊走を調べるアッセイは、多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチ、及び癌(例えば、肺癌、結腸直腸癌、上咽頭癌及び乳癌)を含む自己免疫疾患におけるTregの基本的な機能的役割を理解するのに役立つことができる。例えば、同種移植片拒絶を防止するために、Tregは、移植片とリンパ節の両方に遊走しなければならない。さらに、腫瘍部位における機能的に抑制性のTregの遊走及び蓄積は、癌の進行に関連する。
したがって、本発明は、免疫細胞の遊出を調査するためのアッセイにおける、本明細書に記載される装置及びマイクロ流体ネットワークの使用にも関する。
【0153】
トランスポーターアッセイ
既に説明されたように、本開示は、マイクロ流体ネットワークの内腔化ゲル構造の内腔を用いた、単層生体構造及びより複雑な多層生体構造の形成に関する。これらの生体構造は、例えば、血液脳関門、腸、及び腎臓又は肝臓などの他の器官のインビボ環境を再構築することができる。
【0154】
所与の任意の生体膜又は障壁を横切る透過性の欠如は、薬物候補の有効性を低下させ得るので、潜在的な治療薬がこのような生体構造を横切ってどのようにして輸送されるかを理解することは、臨床的に非常に重要である。記載されるマイクロ流体ネットワークの内腔化ゲル構造において生物学的に適切な組織を形成することにより、任意の薬物輸送にどの輸送タンパク質が関与するかについての薬物動態学的調査が可能になる。例えば、化合物は、細管、例えば腸細管の頂端側に投与することができ、その濃度は、内腔化ECM中に存在する血管において測定され得る。化合物は、蛍光イメージング、質量分析、ELISAによって定量化され得る。
【0155】
血管拡張又は血管収縮アッセイ。
記載される装置及びマイクロ流体ネットワークは、上皮若しくは内皮細胞、又は筋細胞、線維芽細胞、心筋細胞に基づいて内腔化生体組織の形成を可能にし、例えば、内皮血管をもたらすが、上皮細胞は、腸管タイプの内腔又は腎細管タイプの内腔を形成することができ、心筋細胞は、心房又は心室タイプの内腔を形成することができる。
【0156】
したがって、このような組織を有するマイクロ流体ネットワークは、血管拡張/血管収縮、腸の蠕動運動、腎細管の圧迫、血管の圧迫、又は心筋細胞の作動などのプロセスの研究に特によく適している。細管を支持する(非常に薄い)ECMは、収縮又は拡張する細管又は他の移動組織によって容易に変形することができ、それにより、細胞がより剛性の表面に直接付着した構築物よりも感度の高い組織運動性のアッセイが可能になる。
【0157】
したがって、本発明は、血管拡張又は血管収縮アッセイ、並びに生体系に対する刺激剤又は抑制剤の効果を調査するために腸の蠕動運動、腎細管の圧迫、血管の圧迫、及び心筋細胞の作動を調査するアッセイにおける、本明細書に記載される装置及びマイクロ流体ネットワークの使用にも関する。
【0158】
実施例 本発明は、これから以下の実施例を参照して単なる例として説明される。
【実施例1】
【0159】
内腔における細胞の播種及びゲルに対する細胞の播種
材料:
EGM-2(商品名)培地:
EBM-2基礎培地(Lonza,Cat.No.CC-3156)
EGM-2 SingleQuotsサプリメント(Lonza,Cat.No.CC-4176)
1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma,Cat.No.P4333)
EMEM:
イーグル最小必須培地(EMEM)(ATCC,Cat.No.30-2003)
10%ウシ胎仔血清(Gibco,Cat.No.16140-071)
1%非必須アミノ酸(LifeTech,Cat.No.11140050)
1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma,Cat.No.P4333)
HBSS(ハンクス平衡塩類溶液、Sigma Aldrich,Cat.No.H6648)
PBS(リン酸緩衝食塩水、Gibco,Cat.No.700130656)
【0160】
この例では、3つのレーン及び2つの毛細管圧力障壁のマイクロ流体ネットワークを含む、400μmの幅広レーンを有する3レーンOrganoPlate(登録商標)(MIMETAS)を使用した。
【0161】
中央レーンに中和ウシI型アテロコラーゲン溶液(Advanced BioMatrixからのPureCol(登録商標)EZゲル 5mg/ml)を入口で充填した、溶液は毛細管圧力障壁で固定され、上方及び下方レーンの気液界面に自立メニスカスが残された。
【0162】
30μLのHBSS溶液を中央レーンの入口に導入し、ドーム形状を形成する中央レーンの出口の孔に1μLのPBS中5%のFBS溶液を導入した。これらの溶液は、PureCol(登録商標)EZゲルよりも低い粘性を有する。これにより、液滴の表面張力及び結果として生じるラプラス圧のために、出口から入口への圧力が生じ、内腔化が開始された。1分後に、50μLのHBSSを出口に添加し、OrganoPlateを37℃及び5%CO2の湿度制御環境に1時間置いた。
【0163】
ECMのレオロジーについての代表的な測定結果は、Fleming et al(https://doi.org/10.1063/1.5067382)によって公開されている。一般的に使用される細胞培養培地の粘性は、例えば、Poon(https://doi.org/10.1101/2020.08.25.266221)によって公開されている。
【0164】
細胞播種のために、10,000細胞/μLを含有する1μLの初代ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の細胞ペレットを中央レーンの出口に播種した。
【0165】
細胞を2~6時間付着させた。この後、入口及び出口の容積が50μLになるようにEGM-2細胞培養培地を中央レーンに添加し、細胞培養培地が内腔を通して受動的に灌流され得るように、OrganoPlate(登録商標)を7°、8分の間隔の揺動プラットフォーム上に置いた。
【0166】
2日後、同じ手段でCaco-2細胞を上部レーンの入口に添加し、6,000細胞/μLを含有するCaco-2細胞ペレットを上部レーンの出口に播種した。細胞を2~6時間付着させた。付着の後、入口及び出口の両方が50μLの完全EMEM培地を含有するように、完全EMEM培地を上部レーンに添加した。細胞培養培地が内腔を通して受動的に灌流され得るように、OrganoPlate(登録商標)を7°、8分の間隔の揺動プラットフォーム上に置いた。
【0167】
1~3日以内に、OrganoPlate(登録商標)内で両方の細胞型が細管を形成し、200μm未満のECMにより分離される。細胞培養を10日間維持した後、3.7%ホルマリン溶液で固定した。Caco-2細胞を上皮細胞接着分子(EPCAM)について、HUVECをVE-カドヘリンについて染色して、結果として得られた共焦点3D再構築は、図9A及び9Bにおいて見ることができる。図9Aは細管に沿った図を示し、図9Bは上からの図を示す。両方の図において、左側の細管はCaco-2細胞から形成され、右側の細管はHUVEC細胞から形成される。毛細管圧力障壁214の位置と、それにより細管、特にHUVEC細管がとる幾何構造とが明白に見られる。
【0168】
またこれらの図から、Caco-2細胞及びHUVEC細胞は緊密に接触しており、インビボ状況によりよく似ている組織培養モデルにおける細胞間の連通が促進されることも分かる。これは、貯蔵時間の長さに応じて15~150μmであると測定された。
【0169】
別の例では、Caco-2細胞を上記と同じ方法で最下部レーンに播種して、3つの細管からなる構築物を形成した(図10を参照)。これは、細管の支持においても第3のレーンが有用であることを説明する。
【0170】
2つのさらなる例は、2つ、さらには3つのチャネルがその後どのようにして内腔化され得るかを示す。図11Aは、2レーンOrganoPlate内の内腔化ECM内の2つのCaco-2細管の概略図を示し、実験的に得られた平面図の位相差顕微鏡画像は図11Bに示される。上記に示される手順に従って、Purecol EZ溶液を上部チャネルに導入し、粘性フィンガーパターニングを用いて内腔を形成した。次に、Purecol EZ溶液を下部チャネルに導入し、内腔が形成された。Caco-2細胞を上部チャネルの内腔に播種し、HUVEC細胞を下部チャネルの内腔に播種した。このようにして、両方が細管を含む2つの内腔化ECMの構築物が形成された。
【0171】
同様の方法で、図12は3つの内腔化ECMの構築物を示し、3つ全てが、Caco-2細胞からなる細管を含む。
【実施例2】
【0172】
内腔化血液脳関門モデル
内皮培地:
内皮細胞培地(Cell biologics,Ca.No.H1168)
内皮細胞培地サプリメントキット(Cell biologics,Ca.No.H1168)
NSC分化培地:
以下を含む自社独占製剤
Neurobasal培地(Gibco,Cat.No.21103049)
【0173】
この例では、3つのレーン及び2つの毛細管圧力障壁のマイクロ流体ネットワークを含む、400μmの幅広レーンを有する3レーンOrganoPlate(登録商標)(MIMETAS)を使用した。
【0174】
上部レーンに中和ウシI型アテロコラーゲン溶液PureCol(登録商標)EZゲル 5mg/ml(Advanced BioMatrix)を入口で充填した、溶液は毛細管圧力障壁で固定され、上方及び下方レーンの気液界面に自立メニスカスが残された。
【0175】
30μLのHBSS溶液を上部レーンの入口に導入し、実施例1と同様に、ドーム形状を形成する上部レーンの出口の孔に1μLのPBS中5%のFBS溶液を導入した。これにより、液滴の表面張力及び結果として生じるラプラス圧のために出口から入口への圧力が生じた。1分後に、50μLのHBSSを出口に添加し、OrganoPlateを37℃及び5%CO2の湿度制御環境に1時間置いた。
【0176】
ゲルにおける星状細胞の播種のために、5,000細胞/μLを含有するコラーゲンI 4mg/mL(Cultrex)中の星状細胞懸濁液2μLを中央レーンの出口に播種した。
【0177】
細胞を37℃及び5%CO2の湿度制御環境で2~6時間付着させた。
【0178】
次に、15,000細胞/μLを含有する2μLのニューロン細胞ペレットを下部レーンの出口に播種した。
【0179】
細胞を2~6時間付着させた。この後、入口及び出口の容積が50μLになるように下部レーンにNSC分化培地(Gibco)を添加し、細胞培養培地が内腔を通して受動的に灌流され得るように、OrganoPlate(登録商標)を7°、8分の間隔の揺動プラットフォーム上に置いた。
【0180】
1~7日以内に、星状細胞は中央レーンのゲル中に細胞ネットワークを形成し、ニューロンは下部レーンに細胞ネットワークを形成した。7日後、10,000細胞/μLを含有する1μLのHBMEC細胞ペレットを上部レーンの出口に播種することにより、同じ手段でヒト脳微小血管内皮細胞(HBMEC)を上部レーンに播種した。細胞を2~6時間付着させた。
【0181】
細胞が付着したら、入口及び出口の両方が50μLの細胞培養培地(Cell Biologics)を含有するように、細胞培養培地(Cell Biologics)を上部レーンに添加した。細胞培養培地が内腔を通して受動的に灌流され得るように、OrganoPlate(登録商標)を7°、8分の間隔の揺動プラットフォーム上に置いた。上部及び下部レーンの培地の補充は、2~3日ごとに実行した。
【0182】
1~3日以内に、HBMECは、ゲル中の星状細胞と直接接触して、OrganoPlate(登録商標)内に細管を形成した。細胞培養を14日間維持し、ナトリウムフルオレセイン(希釈1:100)及び4.4kDaのTRITC(希釈1:50)を用いて、HBMECにおいてバリア完全性アッセイを実行した。
【0183】
図14(コラーゲンI中の星状細胞)及び図15(PureCol(登録商標)中の星状細胞)は、これらの実験の結果を示す高解像度画像である。両方の図から、HBMEC及び星状細胞は緊密に接触しており、インビボ状況によりよく似ている組織培養モデルにおける細胞間の連通が促進されることが分かる。
【実施例3】
【0184】
チューブインチューブ型内皮細胞/周皮細胞の共培養
MV2培地:
MV2(Promocell,Cat.No.C22022)
サプリメントミックス(Promocell,Cat.No.C39226)
1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma,Cat.No.P4333)
周皮細胞培地:
周皮細胞増殖培地(Promocell,Cat.No.C-28041)
【0185】
この例では、3つのレーン及び2つの毛細管圧力障壁のマイクロ流体ネットワークを含む、400μmの幅広レーンを有する3レーンOrganoPlate(登録商標)(MIMETAS)を使用した。
【0186】
上部レーンに中和ウシI型アテロコラーゲン溶液PureCol(登録商標)EZゲル 5mg/ml(Advanced BioMatrix)を入口で充填した、溶液は毛細管圧力障壁で固定され、上方及び下方レーンの気液界面に自立メニスカスが残された。
【0187】
30μLのHBSS溶液を上部レーンの入口に導入し、実施例1と同様に、ドーム形状を形成する上部レーンの出口の孔に1μLのPBS中5%のFBS溶液を導入した。これにより、液滴の表面張力及び結果として生じるラプラス圧のために出口から入口への圧力が生じた。1分後に、50μLのHBSSを出口に添加し、OrganoPlateを37℃及び5%CO2の湿度制御環境に1時間置いた。
【0188】
周皮細胞及びヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の細胞播種のために、15,000細胞/μLのHUVEC及び5,000細胞/μLの胎盤周皮細胞を含有する1μLの細胞ペレットを上部レーンの出口に播種した。細胞ペレットの表面張力に起因するラプラス圧によって細胞懸濁液はマイクロ流体ネットワーク内に駆動された。
【0189】
細胞を2~6時間付着させた。この後、入口及び出口の容積が50μLになるように、MV2培地及び周皮細胞増殖培地の1:1混合物を上部レーンに添加し、細胞培養培地が内腔を通して受動的に灌流され得るように、OrganoPlate(登録商標)を7°、8分の間隔の揺動プラットフォーム上に置いた。
【0190】
1~3日以内に、細胞は共培養でそれ自体を組織化した。HUVECはOrganoPlate(登録商標)内で細管を形成し、胎盤周皮細胞はECM内に遊走し、細胞細管を包囲した。中央及び下部チャネルに培地を充填した。図16Aは概略断面図を示し、図16Bは、チューブインチューブ型HUVEC/周皮細胞の共培養の実験的に得られた共焦点顕微鏡断面図を示す。
【実施例4】
【0191】
ゲル中での間質細胞との三重共培養
MV2培地:
MV2(Promocell,Cat.No.C22022)
サプリメントミックス(Promocell,Cat.No.C39226)
1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma,Cat.No.P4333)
EMEM:
イーグル最小必須培地(EMEM)(ATCC,Cat.No.30-2003)
10%ウシ胎仔血清(Gibco,Cat.No.16140-071)
35 1%非必須アミノ酸(LifeTech,Cat.No.11140050)
1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma,Cat.No.P4333)
【0192】
この例では、3つのレーン及び2つの毛細管圧力障壁のマイクロ流体ネットワークを含む、400μmの幅広レーンを有する3レーンOrganoPlate(登録商標)(MIMETAS)を使用した。
【0193】
中央レーンに、5,000細胞/μLの濃度の腸線維芽細胞を含有する中和ウシI型アテロコラーゲン溶液PureCol(登録商標)EZゲル 5mg/ml(Advanced BioMatrix)を入口で充填した。溶液は毛細管圧力障壁で固定され、上方及び下方レーンの気液界面に自立メニスカスが残された。30μLのHBSS溶液を中央レーンの入口に導入し、実施例1と同様にドーム形状を形成する中央レーンの出口の孔に1μLのPBS中5%のFBS溶液を導入した。これにより、液滴の表面張力及び結果として生じるラプラス圧のために出口から入口への圧力が生じた。1分後に、50μLのHBSSを出口に添加し、OrganoPlateを37℃及び5%CO2の湿度制御環境に1時間置いた。
【0194】
細胞播種のために、10,000細胞/μLを含有する1μLの初代ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の細胞ペレットを中央レーンの出口に播種した。細胞を2~6時間付着させた。この後、入口及び出口の容積が50μLになるように、MV2細胞培養培地を中央レーンに添加し、細胞培養培地が内腔を通して受動的に灌流され得るように、OrganoPlate(登録商標)を7°、8分の間隔の揺動プラットフォーム上に置いた。2日後、Caco-2細胞を同じ手段で上部レーンの入口に添加し、6,000細胞/μLを含有するCaco-2細胞ペレットを上部レーンの出口に播種した。細胞を2~6時間付着させた。付着の後、入口及び出口の両方が50μLの完全EMEM培地を含有するように、完全EMEM培地を上部レーンに添加した。細胞培養培地が内腔を通して受動的に灌流され得るように、OrganoPlate(登録商標)を7°、8分の間隔の揺動プラットフォーム上に置いた。
【0195】
1~3日以内に、OrganoPlate(登録商標)内で両方の細胞型が細管を形成し、200μm未満のECMにより分離される。ゲルには、HUVEC細管を包囲し、HUVEC細管とCaco-2細管の間にある線維芽細胞が含有された。図17Aは、三重共培養の概略断面図を示す。
【0196】
細胞培養を7日間維持した後、3.7%ホルマリン溶液で固定した。Caco-2細胞を上皮細胞接着分子(EPCAM)について、HUVECをVE-カドヘリンについて染色して、線維芽細胞を含む3つの細胞型は全て、アクチンについて染色した。結果として得られた共焦点3D再構築は、図17Bに示される。
【実施例5】
【0197】
収縮性内腔の可視化
MV2培地:
MV2(Promocell,Cat.No.C22022)
サプリメントミックス(Promocell,Cat.No.C39226)
1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma,Cat.No.P4333)
【0198】
この例では、3つのレーン及び2つの毛細管圧力障壁のマイクロ流体ネットワークを含む、400μmの幅広レーンを有する3レーンOrganoPlate(登録商標)(MIMETAS)を使用した。プレートに追加の湿度を提供するために、観察窓(3つのレーンが収束する点)でネットワークに50μLのHBSSを充填した。
【0199】
中央レーンに中和ウシI型アテロコラーゲン溶液PureCol(登録商標)EZゲル 5mg/ml(Advanced BioMatrix)を入口で充填し、溶液は毛細管圧力障壁で固定され、上方及び下方レーンの気液界面に自立メニスカスが残された。
【0200】
30μLのHBSS溶液を中央レーンの入口に導入し、実施例1と同様にドーム形状を形成する中央レーンの出口の孔に1μLのPBS中5%のFBS溶液を導入した。これにより、液滴の表面張力及び結果として生じるラプラス圧のために出口から入口への圧力が生じた。1分後に、50μLのHBSSを出口に添加し、OrganoPlateを37℃及び5%CO2の湿度制御環境に1時間置いた。
【0201】
細胞播種のために、10,000細胞/μLの初代ヒト冠動脈内皮細胞(HCAEC)及び2,500細胞/μLの初代ヒト冠動脈平滑筋細胞(HCASMC)を含有する1μLの細胞懸濁液を中央レーンの出口に播種した。細胞ペレットの表面張力に起因するラプラス圧によって細胞懸濁液はマイクロ流体ネットワーク内に駆動された。
【0202】
細胞を2~6時間付着させた。この後、入口及び出口の容積が50μLになるように、MV-2細胞培養培地を中央レーンに添加し、細胞培養培地が内腔を通して受動的に灌流され得るように、OrganoPlate(登録商標)を7°、8分の間隔の揺動プラットフォーム上に置いた。1~3日以内に、細胞は、OrganoPlate(登録商標)内に作られた内腔内に細管を形成する。
【0203】
内腔内のECMは200μm未満であるため、刺激にさらされたときの細管の収縮を可視化することが可能である。このために、細胞をまず3日目に1μM、10μM及び100μMの濃度のノルエピネフリンにさらし、次に6日目に5μM、50μM及び500μMの濃度のシルデナフィルにさらし、培地のみ及びビヒクル対照を含めた。位相コントラストImageExpress Nano顕微鏡(Molecular devices)を用いて、画像を1分間隔で30分間撮影した。
【0204】
図14A図14Cは、シルデナフィルへの曝露後のHCAEC及びHCASMC共培養の収縮を示す。図18Aは、曝露前に撮られたものであり、図18Bは、曝露の30分後に撮られたものであり、図18Cは、刺激にさらされると内腔の直径が変化することを示す合成図を示す。これは、内腔化の間に生成された薄いECMの結果として必要とされる力が小さいため、視覚化が可能となった。
【実施例6】
【0205】
上皮細管から腫瘍細胞へのT細胞の遊走
MCDB131培地:
MCDB131(Thermo Fischer,Cat.No.10372019)
10ng/mlのhEGF(Sigma,Cat.No.E9644)
1μg/mlのヒドロコルチゾン(Sigma,Cat.No.H0135)
10mMのL-グルタミン(Sigma,Cat.No.G7513)
10%ウシ胎仔血清(ATCC,Cat.No.30-2020)
1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma,Cat.No.P4333)
AIM-V培地:
AIM-V(Thermo Fischer,Cat.No.12055091)
【0206】
この例では、3つのレーン及び2つの毛細管圧力障壁のマイクロ流体ネットワークを含む、400μmの幅広レーンを有する3レーンOrganoPlate(登録商標)(MIMETAS)を使用した。
中央レーンに中和ウシI型アテロコラーゲン溶液PureCol(登録商標)EZゲル 5mg/mL(Advanced BioMatrix)を入口で充填した、溶液は毛細管圧力障壁で固定され、上方及び下方レーンの気液界面に自立メニスカスが残された。
【0207】
30μLのHBSS溶液を中央レーンの入口に導入し、実施例1と同様にドーム形状を形成する中央レーンの出口の孔に1μLのPBS中5%のFBSを導入した。これにより、液滴の表面張力及び結果として生じるラプラス圧のために出口から入口への圧力が生じた。1分後に、50μLのHBSSを出口に添加し、OrganoPlateを37℃及び5%CO2の湿度制御環境に1時間置いた。
【0208】
細胞播種のために、10,000細胞/μLを含有する1μLの初代ヒト乳腺上皮細胞(HMEC)ペレットを上部の出口に播種した。細胞を2~6時間付着させた。この後、入口及び出口の容積が50μLになるように、MCDB131細胞培養培地を上部レーンに添加し、細胞培養培地が内腔を通して受動的に灌流され得るように、OrganoPlate(登録商標)を7°、8分の間隔の揺動プラットフォーム上に置いた。
【0209】
5日後、同じ手段でA375腫瘍細胞を中央入口に添加した。この目的で、10,000細胞/μLを含有する2.5μLのA375腫瘍細胞ペレットを中央レーン出口に播種した。細胞を2~6時間放置した。細胞が付着したら、入口及び出口の両方が50μLのAIM-V細胞培養培地(Thermo Fischer)を含有するように、AIM-V細胞培養培地(Thermo Fischer)を中央レーンに添加した。細胞培養培地が内腔を通して受動的に灌流され得るように、OrganoPlate(登録商標)を7°、8分の間隔の揺動プラットフォーム上に置いた。1~3日以内に、OrganoPlate(登録商標)内で上皮細胞は細管を形成し、200μm未満のECMによって腫瘍細胞から分離された。
【0210】
2つの細胞型を分離するECMが200μm未満であるため、上皮細管から腫瘍細胞区画へ遊走するT細胞の数を調査するために、T細胞遊走アッセイを実行することが可能である。このために、6日目にバフィーコートから単離したT細胞を、T細胞ペレットを2.5μMのCellTracker CMRA(Invitrogen)中に再懸濁させることによって蛍光標識した。標識T細胞を上部入口、すなわち上部レーンの上皮細管に添加した。最初に、400,000細胞/mLを含有するAIM-V細胞培養培地中の50μLのT細胞懸濁液を上部レーン入口に添加した。次に、50μLのAIM-V細胞培養培地(Thermo Fischer)を上部レーンの出口に添加した。細胞は上皮細管に入るように放置された。
【0211】
位相コントラストImageExpress Nano顕微鏡(Molecular devices)を用いて、T細胞播種の24時間、48時間及び72時間後に画像を撮影した。図19から、上皮細胞区画及び腫瘍細胞区画はインビボ状況に極めてよく似ており、T細胞はECMを通って腫瘍細胞区画内に遊走することが分かる。
【0212】
比較として図20が参照され、通常の3レーンOrganoPlate(登録商標)において同じ実験が実行されたが、上皮細管を含有する上部レーン(図19と同様)は、中央レーンの約400μmのECMによって腫瘍細胞(今回は下部レーンに存在した)から分離された。
【0213】
図21は、それぞれ図15及び図16のシステムにおけるT細胞遊走の定量化のグラフを示す。図21に見られるように、上皮細胞及び腫瘍細胞が400μm幅のECMによって分離された実験(図21の「通常の3レーン」)と比較して、24時間及び48時間後に、本発明の方法を用いて形成された腫瘍区画(図21の「内腔化ECM」)では、2倍の量のT細胞が観察された。
【0214】
したがって、本発明は、マイクロ流体ネットワークにおいて複数の種類の初代細胞型、例えばヒト脳由来の血管細胞(例えば、内皮細胞、周皮細胞及び星状細胞)と、腫瘍モデルとを共培養し、それらの正常の3D空間関係(特に、わずか数十ミクロン、例えば50μm以下の薄い間質層)が保持されたシステムを作ることを可能にする。これは全て構造的な膜を使用することなく達成され、したがって、インビボ環境を忠実に模倣しながら、これらの細胞の挙動をインビトロで調査することができる。
【0215】
上記の例は、本発明を実施する方法を当業者に教示することを目的としたものであり、本記載を読めば明らかになり得る全ての修正及び変形を詳述することは意図されない。しかしながら、このような修正及び変形は全て、特許請求の範囲で定義される本発明の範囲内に含まれることが意図される。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図17A
図17B
図18A
図18B
図18C
図19
図20
図21
【国際調査報告】