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特表2024-520815神経線維腫性障害を処置するための組成物および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】神経線維腫性障害を処置するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/864 20060101AFI20240517BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240517BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240517BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240517BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240517BHJP
   C12N 15/37 20060101ALN20240517BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20240517BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N5/10
C12Q1/02
A61P35/00
A61K35/76
A61P35/02
A61K45/00
C12N15/12 ZNA
C12N15/37
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575918
(86)(22)【出願日】2022-06-08
(85)【翻訳文提出日】2024-02-05
(86)【国際出願番号】 US2022032679
(87)【国際公開番号】W WO2022261209
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】63/202,359
(32)【優先日】2021-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523460590
【氏名又は名称】エヌエフ2 セラピューティクス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】プロトキン, スコット アール.
(72)【発明者】
【氏名】ウートン, マイケル
(72)【発明者】
【氏名】スヒー, デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】カオ, シー-チュー
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR79
4B063QS40
4B063QX10
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BB40
4B065BC50
4B065BD50
4B065CA44
4C084AA13
4C084MA55
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA05
4C084ZB26
4C084ZB27
4C087AA01
4C087AA02
4C087CA12
4C087MA55
4C087MA65
4C087MA66
4C087NA05
4C087ZB26
4C087ZB27
(57)【要約】
例えば、ウイルスベクターからMerlinタンパク質またはその機能的フラグメントを発現して、神経線維腫性障害を処置するための組成物および方法が、本明細書で提供される。いくつかの実施形態において、本明細書で提供されるとおりのAAVを含む組成物が提供される。いくつかの実施形態において、本明細書で提供されるとおりのAAVおよび薬学的に受容可能なキャリア含む薬学的組成物が提供される。いくつかの実施形態において、Merlinタンパク質を細胞に送達する方法であって、上記方法は、上記細胞と本明細書で提供されるとおりのAAVとを接触させる工程を包含する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
AAVカプシドタンパク質および全長Merlinタンパク質(例えば、Merlinのアイソフォーム1またはMerlinのアイソフォーム2)、あるいは限定されないが、Merlinのアイソフォーム1の残基1~359、Merlinのアイソフォーム1の残基1~313、Merlinのアイソフォーム1の残基1~219、Merlinのアイソフォーム1の残基1~73、Merlinのアイソフォーム1の残基312~595、Merlinのアイソフォーム1の残基479~595、Merlinのアイソフォーム1の残基503~595、またはこれらの組み合わせなどの1もしくはこれより多くのその活性フラグメントをコードする導入遺伝子を含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)。
【請求項2】
前記導入遺伝子は、AAV逆位末端反復配列内にある、請求項1に記載のAAV。
【請求項3】
前記導入遺伝子は、宿主細胞において異種遺伝子の発現を誘導する調節配列に作動可能に連結される、請求項1または2に記載のAAV。
【請求項4】
前記調節配列は、プロモーターを含む、請求項3に記載のAAV。
【請求項5】
前記プロモーターは、限定されないが、本明細書中で提供されるものが挙げられるが、これらに限定されないニューロン特異的または神経組織特異的プロモーターなどの構成的または組織特異的プロモーターである、請求項4に記載のAAV。
【請求項6】
前記プロモーターは、CAGプロモーター、CMVプロモーター、CBAプロモーター、またはSV40プロモーターである、請求項5に記載のAAV。
【請求項7】
前記カプシドタンパク質は、AAV9カプシドタンパク質である、前述の請求項のいずれかに記載のAAV。
【請求項8】
前記AAV9カプシドタンパク質は、以下のアミノ酸配列:
配列番号3のアミノ酸残基1~736;
配列番号3のアミノ酸残基138~736;または
配列番号3のアミノ酸残基203~736、
を有するタンパク質を含む、請求項7に記載のAAV。
【請求項9】
前記AAV9カプシドは、配列番号3のアミノ酸残基203~736と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項7に記載のAAV。
【請求項10】
前記導入遺伝子によってコードされる前記Merlinタンパク質は、配列番号1または配列番号8の配列と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一または相同である配列を含む、前述の請求項のいずれかに記載のAAV。
【請求項11】
前記導入遺伝子によってコードされる前記Merlinタンパク質は、配列番号1または配列番号8の配列、またはその活性フラグメントを含む、前述の請求項のいずれかに記載のAAV。
【請求項12】
前記導入遺伝子は、配列番号1または配列番号8の配列、またはその活性フラグメントを含むタンパク質をコードする核酸分子を含む、前述の請求項のいずれかに記載のAAV。
【請求項13】
前記Merlinタンパク質をコードする前記核酸分子は、配列番号2、配列番号9の核酸配列、または前述の各々のコドン最適化バージョンを含む、請求項12に記載のAAV。
【請求項14】
前記AAV逆位末端反復配列は、AAV-2逆位末端反復配列である、請求項2に記載のAAV。
【請求項15】
AAV2逆位末端反復配列は、配列番号4の配列を含む、請求項14に記載のAAV。
【請求項16】
前記AAVは、前記導入遺伝子の上流かつ5’(左側)AAV ITRの下流に核酸分子スタッファー配列を含む、前述の請求項のいずれかに記載のAAV。
【請求項17】
前記スタッファー配列は、配列番号6の配列を含む、請求項16に記載のAAV。
【請求項18】
前記AAVは、前記導入遺伝子の下流かつ右側(3’)AAV(例えば、AAV2)ITRの上流にあるヌクレオチドイントロン配列を含む、前述の請求項のいずれかに記載のAAV。
【請求項19】
前記イントロン配列は、HPRE配列である、請求項18に記載のAAV。
【請求項20】
前記HPRE配列は、配列番号5の配列を含む、請求項19に記載のAAV。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか1項に記載のAAVおよび生理学的に適合性のキャリアを含む組成物。
【請求項22】
請求項1~20のいずれか1項に記載のAAVおよび薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物。
【請求項23】
Merlinタンパク質を細胞に送達する方法であって、前記方法は、前記細胞と請求項1~20のいずれか1項に記載のAAVまたは請求項21もしくは22に記載の組成物とを接触させる工程を包含する、方法。
【請求項24】
NF2を有する被験体を処置する方法であって、前記方法は、NF2を有する前記被験体に、請求項1~20のいずれか1項に記載のAAVまたは請求項21もしくは22に記載の組成物を投与する工程を包含する、方法。
【請求項25】
前記投与は、脳室内、大槽内、髄腔内、線条体内、胸膜腔内、筋肉内、硝子体内、静脈内、または腫瘍内である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
被験体において神経鞘腫、髄膜腫、または上衣腫の増殖を阻害する方法であって、前記方法は、前記被験体に、請求項1~20のいずれか1項に記載のAAVまたは請求項21もしくは22に記載の組成物を投与する工程を包含する、方法。
【請求項27】
前記被験体は、神経鞘腫症などのNF2またはNF2欠損症を有する被験体である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記投与は、髄腔内、静脈内、脳室内、線条体内、胸膜腔内、筋肉内、大槽内、または腫瘍内である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
被験体において神経鞘腫、上衣腫または髄膜腫の増殖または形成を防止する方法であって、前記方法は、前記被験体に、請求項1~20のいずれか1項に記載のAAVまたは請求項21もしくは22に記載の組成物を投与する工程を包含する、方法。
【請求項30】
前記被験体は、神経鞘腫症などのNF2またはNF2欠損症を有する被験体である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記投与は、髄腔内、静脈内、大槽内、または腫瘍内である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
merlin欠損症と関連する障害(例えば、神経線維腫症2型、神経鞘腫症、またはがん)を有するか、またはその障害のリスクにある被験体を処置する方法であって、前記方法は、前記被験体に、請求項1~20のいずれか1項に記載のAAVまたは請求項21もしくは22に記載の組成物を投与する工程を包含する、方法。
【請求項33】
前記障害は、神経線維腫症2型、神経鞘腫症、神経鞘腫(例えば、前庭神経鞘腫);がん(例えば、血液のがん(例えば、若年性骨髄単球性白血病)、白血病(例えば、成人急性リンパ芽球性白血病、小児急性リンパ芽球性白血病、成人急性骨髄性白血病、小児急性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、またはヘアリー細胞白血病);リンパ腫(例えば、AIDS関連リンパ腫、皮膚T細胞性リンパ腫、成人ホジキンリンパ腫、小児ホジキンリンパ腫、成人非ホジキンリンパ腫、小児非ホジキンリンパ腫、中枢神経系原発性リンパ腫、セザリー症候群、皮膚T細胞性リンパ腫、皮膚ワルデンシュトレーム・マクログロブリン血症);慢性骨髄増殖性障害;ランゲルハンス細胞組織球症;多発性骨髄腫/形質細胞新生物;骨髄異形成症候群;骨髄異形成/骨髄増殖性新生物);卵巣がん(例えば、卵巣漿液性癌);乳がん、浸潤性乳癌;または神経皮膚障害;(例えば、中皮腫、腹膜中皮腫、皮膚扁平上皮癌、尿路のがん、甲状腺がん、胃がん、神経鞘腫、腎細胞癌、下垂体のがん、卵巣がん、髄膜腫、黒色腫、肺がん(例えば、扁平上皮癌、非小細胞肺がん、混合型肺がん、肺腺癌)、肝臓がん、大腸がん、肝細胞癌、急性骨髄性白血病(AML)、気道消化管のがん(扁平上皮癌)、膀胱がん、骨がん(例えば、骨の肉腫)、結腸直腸癌、上衣腫、結腸直腸癌、子宮内膜(混合型腺扁平上皮癌)、または神経膠腫、または白内障、網膜剥離、眼の神経への損傷、乳頭浮腫(視神経乳頭浮腫)、眼性片頭痛(網膜性片頭痛)、網膜色素変性症(RP)(網膜変性)、網膜およびRPEの混合性過誤腫、網膜微細動脈瘤、網膜前膜結膜炎、フィジオペディア(重症ドライアイ)、眼振-動揺視(眼球粗動/交叉)、複視(diplopia)(複視(double vision))、または注視誘発性耳鳴り(GET)である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記AAVは、少なくとも6ヶ月ごと、9ヶ月ごと、12ヶ月ごと、15ヶ月ごと、18ヶ月ごと、21ヶ月ごと、2年ごと、3年ごと、4年ごと、5年ごと、6年ごと、またはこれより長い期間ごとに投与される、請求項23~33のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
前記AAVは、静脈内に、皮内に、皮下に、髄腔内に、全身に、大槽内に、脳室内に、実質内に、胸膜腔内に、線条体内に、筋肉内に、硝子体内に、または局所的に投与される、請求項23~34のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
配列番号2と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるか、または配列番号2と同一である配列を含む、核酸分子。
【請求項37】
前記核酸分子は、単離された核酸分子である、請求項30に記載の核酸分子。
【請求項38】
前記核酸分子は、配列番号2の配列を含む、請求項36または37に記載の核酸分子。
【請求項39】
前記核酸分子は、AAV逆位末端反復配列を含む、請求項36~39のいずれか1項に記載の核酸分子。
【請求項40】
配列番号2の配列は、前記AAV逆位末端反復配列内に結合される、請求項39に記載の核酸分子。
【請求項41】
前記AAV逆位末端反復配列は、AAV2逆位末端反復配列である、請求項39または40に記載の核酸分子。
【請求項42】
前記AAV2逆位末端反復配列のうちの一方(例えば、3’ AAV ITR)は、配列番号4の配列を含む、請求項41に記載の核酸分子。
【請求項43】
配列番号2を含む前記核酸は、配列番号2によってコードされるタンパク質の発現を誘導する調節配列に作動可能に連結される、請求項36~42のいずれか1項に記載の核酸分子。
【請求項44】
前記調節配列は、プロモーターを含む、請求項44に記載の核酸分子。
【請求項45】
前記プロモーターは、構成的プロモーターまたは組織特異的プロモーターである、請求項44に記載の核酸分子。
【請求項46】
前記プロモーターは、CAGプロモーター、CMVプロモーター、またはSV40プロモーターである、請求項37または38に記載の核酸分子。
【請求項47】
前記核酸分子は、配列番号2の導入遺伝子の上流かつ5’(左側)AAV ITRの下流にスタッファー配列を含む、請求項36~46のいずれか1項に記載の核酸分子。
【請求項48】
前記スタッファー配列は、配列番号6の配列を含む、請求項47に記載の核酸分子。
【請求項49】
前記核酸分子は、配列番号2の下流かつ右側(3’)AAV(例えば、AAV2) ITRの上流にあるヌクレオチドイントロン配列を含む、請求項36~48のいずれか1項に記載の核酸分子。
【請求項50】
前記イントロン配列は、HPREイントロン配列である、請求項49に記載の核酸分子。
【請求項51】
前記HPREイントロン配列は、配列番号5の配列を含む、請求項50に記載の核酸分子。
【請求項52】
前記分子はプラスミドである、請求項36~51のいずれか1項に記載の核酸分子。
【請求項53】
請求項36~52のいずれか1項に記載の核酸分子およびキャリアを含む組成物。
【請求項54】
前記キャリアは、トランスフェクション試薬である、請求項53に記載の組成物。
【請求項55】
請求項1~20のいずれか1項に記載のAAV粒子を生成する方法であって、前記方法は、細胞と請求項36~52のいずれか1項に記載の核酸分子または請求項53もしくは54に記載の組成物とを接触させて(例えば、トランスフェクトして、またはエレクトロポレーションして)、前記AAVを生成する工程を包含する、方法。
【請求項56】
前記細胞は、AAVパッケージング細胞株の細胞である、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記AAVパッケージング細胞株は、AAV9パッケージング細胞株である、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
AAVカプシドタンパク質をコードする組換え核酸分子およびMerlinタンパク質をコードする組換え核酸分子を含む培養宿主細胞。
【請求項59】
前記カプシドタンパク質は、前記AAV9カプシドタンパク質である、請求項58に記載の細胞。
【請求項60】
前記カプシドタンパク質をコードする前記核酸分子は、配列番号3のアミノ酸残基1~736;配列番号3のアミノ酸残基138~736;または配列番号3のアミノ酸残基203~736のアミノ酸配列を有するタンパク質と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一であるか、あるいは前記タンパク質と同一であるタンパク質をコードする、請求項58または59に記載の細胞。
【請求項61】
前記Merlinタンパク質をコードする前記組換え核酸分子は、配列番号1、配列番号8、もしくはその活性フラグメントの配列と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一もしくは相同であるか、あるいは前記配列と同一であるタンパク質をコードする、請求項58~60のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項62】
前記Merlinタンパク質をコードする前記組換え核酸分子は、配列番号1、配列番号8、またはその活性フラグメントの配列を含むタンパク質をコードする、請求項58~61のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項63】
前記Merlinタンパク質をコードする前記組換え核酸分子は、配列番号2または配列番号9と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である配列を含む、請求項58~62のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項64】
前記Merlinタンパク質をコードする前記組換え核酸分子は、配列番号2または配列番号9の配列を含む、請求項58~63のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項65】
前記組換え核酸分子はプラスミドである、請求項58~64のいずれか1項に記載の細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年6月8日出願の米国仮特許出願第63/202,359号(これは、その全体において本明細書に参考として援用される)の優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
背景
神経線維腫症2型(NF2)は、Merlin(腫瘍サプレッサータンパク質)をコードするNF2遺伝子における生殖細胞系列変異によって引き起こされる稀少遺伝子障害である。これらの変異は、接触阻害、増殖、およびアポトーシスを含む細胞プロセスを調節するMerlinタンパク質の欠損症をもたらす。NF2は、ゆっくりと増殖する腫瘍(例えば、神経鞘腫(シュワン細胞から生じる)、髄膜腫(くも膜細胞から生じる)、上衣腫(上衣細胞から生じる)、ならびに若年性白内障、および網膜過誤腫によって特徴づけられる。
【0003】
NF2の代表的な症状としては、第8脳神経で起こる多葉性腫瘤(multi-lobular mass)である両側の前庭神経鞘腫が挙げられる。前庭神経鞘腫は、難聴(hearing loss)、耳鳴り、聴覚消失(defness)、眩暈、および平衡感覚の喪失を引き起こす。患者は、代表的には、腫瘍増殖の影響(音の感覚に関与する内耳の細胞の死滅に至る耳に対する耳毒性効果を含む)または腫瘍を管理するための介入(聴神経の部分除去または完全除去を含む)のいずれかが原因で、耳が聞こえない状態になる。管理されずに放置されれば、これらの腫瘍は、最終的には脳幹を圧迫して死を引き起こし得る。さらなる症状としては、外観を損なう、顔面脱力、頭痛、および視力喪失が挙げられ得る。
【0004】
ほぼ全ての罹患個体は、これらの神経鞘腫を30歳までに発症する。散発性のNF2を有する個体(半数よりわずかに多い)に関しては、NF2の診断の平均年齢は、18~24歳の間である。NF2を有する患者の平均余命は、69歳であり、一般的な集団の平均余命より11年短い。
【0005】
NF2を有する患者は、髄膜腫を発生させる生涯確率が80%である。髄膜腫は、脳または脊髄の内層である髄膜で起こり、くも膜細胞に由来する。これらの患者が発症する髄膜腫のメジアン数は、3である。その腫瘍のうちの33%超が、顕著に増殖する(>1mm/年)として特徴づけられる。さらに、髄膜腫は、NF2遺伝子における体細胞変異に起因して、散発性の(非NF2)患者においても起こる。散発性の髄膜腫は、最も一般的な脳腫瘍であり(全ての脳腫瘍のうちの約35%)、脳または脊髄の圧迫に起因して神経障害を引き起こし得る。髄膜腫の発生は、NF2患者における永続的な罹病率および死亡率の最大の駆動因子である。
【0006】
髄膜腫のFDA承認薬は現在存在しない。現在の標準ケアとしては、手術および放射線療法が挙げられる。再発は、完全に除去されている髄膜腫に関しては希である。対照的に、完全ではない切除は、高い再発率と関連する。放射線療法は、非外科的髄膜腫を有する患者にとっては合理的選択肢である。しかし、放射線は、続発性のがんの割合の増大と関連し、これは、腫瘍サプレッサー症候群(tumor suppressor syndrome)の文脈においては特に問題である。この理由のために、多くの臨床医が、NF2患者、特に若年の患者における放射線の使用を最小限にしている。
【0007】
NF2患者は、脊髄上衣腫を発生させる増大した危険にある。これらの腫瘍は、上衣細胞から生じ、代表的には、脳幹または脊椎内で起こる。上衣腫はしばしば、頚椎に多数の病変を伴う「数珠つなぎになった真珠」パターンで発生する。上衣腫のわずかな部分セットが、処置を必要とする。標準的なアプローチは外科的切除であり、放射線は、外科的切除後に再発する病変のために確保されている。
【0008】
第8脳神経(CN8)、または内耳神経に加えて、NF2を有する患者は、一般に、以下を含む他の脳神経に神経鞘腫を発生させる: CN3:動眼神経、CN4:滑車神経、CN5:三叉神経、CN6:外転神経、CN7:顔面神経、CN9:舌咽神経、CN10:迷走神経、CN11:副神経、CN12:舌下神経。それら神経のうちのいずれかにおける機能の損傷または喪失は、頭頚部における広く種々の状態を引き起こし得る。
【0009】
NF2患者はまた、以下を含む多くの眼の状態を発生させ得る:白内障、網膜剥離、眼の神経への損傷、乳頭浮腫(視神経乳頭浮腫)、眼性片頭痛(網膜性片頭痛)、網膜色素変性症(RP)(網膜変性)、網膜およびRPEの混合性過誤腫、網膜微細動脈瘤、網膜前膜結膜炎、フィジオペディア(physiopedia)(重症ドライアイ)、眼振-動揺視(眼球粗動/交叉(cross))、複視(diplopia)(複視(double vision))、および注視誘発性耳鳴り(gaze-evoked tinnitus)(GET)。
【0010】
従って、NF2患者を処置するための組成物および方法が必要である。本実施形態は、これらおよび他の必要性を満たす。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
要旨
いくつかの実施形態において、アデノ随伴ウイルスカプシドタンパク質、および全長Merlinタンパク質または1もしくはこれより多くのその活性フラグメント(例えば、Merlinのアイソフォーム1の残基1~359、Merlinのアイソフォーム1の残基1~313、Merlinのアイソフォーム1の残基1~219、Merlinのアイソフォーム1の残基1~73、Merlinのアイソフォーム1の残基312~595、アイソフォーム1の残基479~595、Merlinのアイソフォーム1の残基503~595、またはこれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない)をコードする導入遺伝子を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)が、提供される。
【0012】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供されるとおりのAAVを含む組成物が提供される。
【0013】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供されるとおりのAAVおよび薬学的に受容可能なキャリア含む薬学的組成物が提供される。
【0014】
いくつかの実施形態において、Merlinタンパク質を細胞に送達する方法であって、上記方法は、上記細胞と本明細書で提供されるとおりのAAVとを接触させる工程を包含する。
【0015】
いくつかの実施形態において、NF2を有する被験体を処置する方法であって、上記方法は、上記NF2を有する被験体に、本明細書で提供されるとおりのAAVを投与する工程を包含する。
【0016】
いくつかの実施形態において、被験体において神経鞘腫、髄膜腫、または上衣腫の増殖を阻害する方法であって、上記方法は、本明細書で提供されるとおりのAAVを投与する工程を包含する。
【0017】
いくつかの実施形態において、被験体において神経鞘腫、上衣腫または髄膜腫の増殖または形成を防止する方法であって、上記方法は、上記被験体に、本明細書で提供されるとおりのAAVを投与する工程を包含する。
【0018】
いくつかの実施形態において、merlin欠損症と関連する障害(例えば、神経線維腫症2型、神経鞘腫症、またはがん)を有するか、またはその障害のリスクにある被験体を処置する方法であって、上記方法は、上記被験体に、本明細書で提供されるとおりのAAVを投与する工程を包含する。
【0019】
いくつかの実施形態において、配列番号2と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である配列を含む核酸分子、またはMerlinタンパク質またはその活性フラグメントをコードする核酸配列が、本明細書で提供される。
【0020】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供される核酸分子およびキャリアを含む組成物が提供される。
【0021】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供されるとおりのAAVを提供する方法であって、上記方法は、細胞と本明細書で提供されるとおりの核酸分子とを接触させて、上記AAVを生成する工程を包含する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図面の簡単な説明
本特許または本出願のファイルは、カラー作成された少なくとも1枚の図面を含む。本特許または本出願のカラー図面付きの公報の写しは、請求および必要な料金の支払いがあれば、当該官庁によって提供される。
【0023】
図1図1は、CAGプロモーターの下でMerlinタンパク質をコードする核酸分子を含むAAV粒子を生成して、Merlinタンパク質を発現させるために使用され得る組換えDNAプラスミドの非限定的なベクター(プラスミド)マップを図示する。
【0024】
図2図2は、CAGプロモーターの制御下でMerlinタンパク質をコードする核酸分子を含むAAV粒子を生成して、Merlinタンパク質を発現させるために使用され得る組換えDNAプラスミドの非限定的なベクター(プラスミド)マップを図示する。この例は、図4で図示されるプラスミドと比較して、HPRTスタッファー配列、HBVの転写後調節エレメント、および改変された左側のAAV2 ITRを含む。さらに、細菌の骨格が、ヒト臨床試験における試験を容易にするためにカナマイシン選択遺伝子を使用して改変されている。
【0025】
図3図3は、AAV9-CAG-Merlin-v2で形質導入されたHEK 293T細胞が、Merlin(NF2)を過剰発現し得ることを明らかに示す例示的なウェスタンブロットを示す。
【0026】
図4図4は、例示的な小脳組織切片を図示する、この切片は、大槽内(intracisternal magna)(ICM)注射によるAAV9-CAG-Merlin-v2(2TX-G38)またはAAV9-CAG-eGFP(2TX-C10)の投与から28日間で、カニクイザルから得て、免疫組織化学によってeGFPに対して染色されており、AAV9-CAG-eGFPの小脳体内分布を明らかに示す。
【0027】
図5図5は、ICM注射によるAAV9-CAG-GFPの投与後1ヶ月で、2ヶ月齢のPostn-Cre;Nf2flox/floxマウスから得た、eGFPの存在に関して染色した頸部DRG組織切片の例示的な増強型免疫蛍光顕微鏡写真を示す。これは、大槽へとAAV9-CAG-GFPを注射したPostn-Cre;Nf2flox/floxマウスのDRGにおけるeGFPの顕著な体内分布を明らかに示す。
【0028】
図6図6は、ICM注射による低用量(群3; 5.6 E12vg/kg)のAAV9-CAG-GFPの投与後の4週間で2ヶ月齢のPostn-Cre;Nf2flox/floxマウスから得た、eGFPの存在に関して染色した頸部DRG組織切片の例示的な増強型免疫蛍光顕微鏡写真を示す。これは、上記マウスのDRGにおける軸索細胞を取り囲むSCでのGFP発現を明らかに示す。
【0029】
図7図7は、ICM注射による低用量(群3; 5.6 E12vg/kg)のAAV9-CAG-GFPの投与後4週間で2ヶ月齢のPostn-Cre;Nf2flox/floxマウスから得た、DRGの遠位側の神経を伴う組織切片のeGFPの存在に関して染色した例示的な増強型免疫蛍光顕微鏡写真を示す。これは、eGFPが、ICMを投与したNF2ノックアウトマウスのDRGの遠位側の神経においても観察されることを明らかに示す。
【0030】
図8図8は、ICM注射によるAAV9-CAG-MerlinまたはAAV9-CAG-GFP投与から5ヶ月の、6ヶ月齢のPostn-Cre;Nf2flox/floxマウスに由来する後根神経節(DRG)の切片におけるシュワン細胞(SC)核の密度(核/μm)を示すグラフである。これは、AAV9-CAG-GFPコントロールベクターを注射したマウスと比較して、AAV9-CAG-Merlinを投与したNF2ノックアウトマウスにおいてSC増殖の有意な低減が存在し得ることを明らかに示す。
【0031】
図9図9は、CAGプロモーターの制御下でMerlinをコードする核酸分子を含むAAV粒子を生成するために使用され得るpAAV_CAG_Merlin_Kan (配列番号7)についてのベクターマップの非限定的な実施形態である。このベクターマップは、図2に類似であり、選択を補助するためのカナマイシン耐性遺伝子とともに図示されるが、他の選択遺伝子も使用され得る。
【発明を実施するための形態】
【0032】
列挙される実施形態
1 AAVカプシドタンパク質および全長Merlinタンパク質(例えば、Merlinのアイソフォーム1またはMerlinのアイソフォーム2)、あるいは限定されないが、Merlinのアイソフォーム1の残基1~359、Merlinのアイソフォーム1の残基1~313、Merlinのアイソフォーム1の残基1~219、Merlinのアイソフォーム1の残基1~73、Merlinのアイソフォーム1の残基312~595、Merlinのアイソフォーム1の残基479~595、Merlinのアイソフォーム1の残基503~595、またはこれらの組み合わせなどの1もしくはこれより多くのその活性フラグメントをコードする導入遺伝子を含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)。
【0033】
2 前記導入遺伝子は、AAV逆位末端反復配列内にある、実施形態1に記載のAAV。
【0034】
3 前記導入遺伝子は、宿主細胞において異種遺伝子の発現を誘導する調節配列に作動可能に連結される、実施形態1または2に記載のAAV。
【0035】
4 前記調節配列は、プロモーターを含む、実施形態3に記載のAAV。
【0036】
5 前記プロモーターは、限定されないが、本明細書中で提供されるものが挙げられるが、これらに限定されないニューロン特異的または神経組織特異的プロモーターなどの構成的または組織特異的プロモーターである、実施形態4に記載のAAV。
【0037】
6 前記プロモーターは、CAGプロモーター、CMVプロモーター、CBAプロモーター、またはSV40プロモーターである、実施形態5に記載のAAV。
【0038】
7 前記カプシドタンパク質は、AAV9カプシドタンパク質である、前述の実施形態のいずれかに記載のAAV。
【0039】
8 前記AAV9カプシドタンパク質は、以下のアミノ酸配列:
配列番号3のアミノ酸残基1~736;
配列番号3のアミノ酸残基138~736;または
配列番号3のアミノ酸残基203~736、
を有するタンパク質を含む、実施形態7に記載のAAV。
【0040】
9 前記AAV9カプシドは、配列番号3のアミノ酸残基203~736と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を含む、実施形態7に記載のAAV。
【0041】
10 前記導入遺伝子によってコードされる前記Merlinタンパク質は、配列番号1または配列番号8の配列と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一または相同である配列を含む、前述の実施形態のいずれかに記載のAAV。
【0042】
11 前記導入遺伝子によってコードされる前記Merlinタンパク質は、配列番号1または配列番号8の配列、またはその活性フラグメントを含む、前述の実施形態のいずれかに記載のAAV。
【0043】
12 前記導入遺伝子は、配列番号1または配列番号8の配列、またはその活性フラグメントを含むタンパク質をコードする核酸分子を含む、前述の実施形態のいずれかに記載のAAV。
【0044】
13 前記Merlinタンパク質をコードする前記核酸分子は、配列番号2、配列番号9の核酸配列、または前述の各々のコドン最適化バージョンを含む、実施形態12に記載のAAV。
【0045】
14 前記AAV逆位末端反復配列は、AAV-2逆位末端反復配列である、実施形態2に記載のAAV。
【0046】
15 AAV2逆位末端反復配列は、配列番号4の配列を含む、実施形態14に記載のAAV。
【0047】
16 前記AAVは、前記導入遺伝子の上流かつ5’(左側)AAV ITRの下流に核酸分子スタッファー配列を含む、前述の実施形態のいずれかに記載のAAV。
【0048】
17 前記スタッファー配列は、配列番号6の配列を含む、実施形態16に記載のAAV。
【0049】
18 前記AAVは、前記導入遺伝子の下流かつ右側(3’)AAV(例えば、AAV2)ITRの上流にあるヌクレオチドイントロン配列を含む、前述の実施形態のいずれかに記載のAAV。
【0050】
19 前記イントロン配列は、HPRE配列である、実施形態18に記載のAAV。
【0051】
20 前記HPRE配列は、配列番号5の配列を含む、実施形態19に記載のAAV。
【0052】
21 実施形態1~20のいずれか1項に記載のAAVおよび生理学的に適合性のキャリアを含む組成物。
【0053】
22 実施形態1~20のいずれか1項に記載のAAVおよび薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物。
【0054】
23 Merlinタンパク質を細胞に送達する方法であって、前記方法は、前記細胞と実施形態1~20のいずれか1項に記載のAAVまたは実施形態21もしくは22に記載の組成物とを接触させる工程を包含する、方法。
【0055】
24 NF2を有する被験体を処置する方法であって、前記方法は、NF2を有する前記被験体に、実施形態1~20のいずれか1項に記載のAAVまたは実施形態21もしくは22に記載の組成物を投与する工程を包含する、方法。
【0056】
25 前記投与は、脳室内、大槽内、髄腔内、線条体内、胸膜腔内、筋肉内、硝子体内、静脈内、または腫瘍内である、実施形態24に記載の方法。
【0057】
26 被験体において神経鞘腫、髄膜腫、または上衣腫の増殖を阻害する方法であって、前記方法は、前記被験体に、実施形態1~20のいずれか1項に記載のAAVまたは実施形態21もしくは22に記載の組成物を投与する工程を包含する、方法。
【0058】
27 前記被験体は、神経鞘腫症などのNF2またはNF2欠損症を有する被験体である、実施形態26に記載の方法。
【0059】
28 前記投与は、髄腔内、静脈内、脳室内、線条体内、胸膜腔内、筋肉内、大槽内、または腫瘍内である、実施形態26に記載の方法。
【0060】
29 被験体において神経鞘腫、上衣腫または髄膜腫の増殖または形成を防止する方法であって、前記方法は、前記被験体に、実施形態1~20のいずれか1項に記載のAAVまたは実施形態21もしくは22に記載の組成物を投与する工程を包含する、方法。
【0061】
30 前記被験体は、神経鞘腫症などのNF2またはNF2欠損症を有する被験体である、実施形態29に記載の方法。
【0062】
31 前記投与は、髄腔内、静脈内、大槽内、または腫瘍内である、実施形態30に記載の方法。
【0063】
32 merlin欠損症と関連する障害(例えば、神経線維腫症2型、神経鞘腫症、またはがん)を有するか、またはその障害のリスクにある被験体を処置する方法であって、前記方法は、前記被験体に、実施形態1~20のいずれか1項に記載のAAVまたは実施形態21もしくは22に記載の組成物を投与する工程を包含する、方法。
【0064】
33 前記障害は、神経線維腫症2型、神経鞘腫症、神経鞘腫(例えば、前庭神経鞘腫);がん(例えば、血液のがん(例えば、若年性骨髄単球性白血病)、白血病(例えば、成人急性リンパ芽球性白血病、小児急性リンパ芽球性白血病、成人急性骨髄性白血病、小児急性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、またはヘアリー細胞白血病);リンパ腫(例えば、AIDS関連リンパ腫、皮膚T細胞性リンパ腫、成人ホジキンリンパ腫、小児ホジキンリンパ腫、成人非ホジキンリンパ腫、小児非ホジキンリンパ腫、中枢神経系原発性リンパ腫、セザリー症候群、皮膚T細胞性リンパ腫、皮膚ワルデンシュトレーム・マクログロブリン血症);慢性骨髄増殖性障害;ランゲルハンス細胞組織球症;多発性骨髄腫/形質細胞新生物;骨髄異形成症候群;骨髄異形成/骨髄増殖性新生物);卵巣がん(例えば、卵巣漿液性癌);乳がん、浸潤性乳癌;または神経皮膚障害;(例えば、中皮腫、腹膜中皮腫、皮膚扁平上皮癌、尿路のがん、甲状腺がん、胃がん、神経鞘腫、腎細胞癌、下垂体のがん、卵巣がん、髄膜腫、黒色腫、肺がん(例えば、扁平上皮癌、非小細胞肺がん、混合型肺がん、肺腺癌)、肝臓がん、大腸がん、肝細胞癌、急性骨髄性白血病(AML)、気道消化管のがん(扁平上皮癌)、膀胱がん、骨がん(例えば、骨の肉腫)、結腸直腸癌、上衣腫、結腸直腸癌、子宮内膜(混合型腺扁平上皮癌)、または神経膠腫、または白内障、網膜剥離、眼の神経への損傷、乳頭浮腫(視神経乳頭浮腫)、眼性片頭痛(網膜性片頭痛)、網膜色素変性症(RP)(網膜変性)、網膜およびRPEの混合性過誤腫、網膜微細動脈瘤、網膜前膜結膜炎、フィジオペディア(重症ドライアイ)、眼振-動揺視(眼球粗動/交叉)、複視(diplopia)(複視(double vision))、または注視誘発性耳鳴り(GET)である、実施形態32に記載の方法。
【0065】
34 前記AAVは、少なくとも6ヶ月ごと、9ヶ月ごと、12ヶ月ごと、15ヶ月ごと、18ヶ月ごと、21ヶ月ごと、2年ごと、3年ごと、4年ごと、5年ごと、6年ごと、またはこれより長い期間ごとに投与される、実施形態23~33のいずれかに記載の方法。
【0066】
35 前記AAVは、静脈内に、皮内に、皮下に、髄腔内に、全身に、大槽内に、脳室内に、実質内に、胸膜腔内に、線条体内に、筋肉内に、硝子体内に、または局所的に投与される、実施形態23~34のいずれかに記載の方法。
【0067】
36 配列番号2と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるか、または配列番号2と同一である配列を含む、核酸分子。
【0068】
37 前記核酸分子は、単離された核酸分子である、実施形態30に記載の核酸分子。
【0069】
38 前記核酸分子は、配列番号2の配列を含む、実施形態36または37に記載の核酸分子。
【0070】
39 前記核酸分子は、AAV逆位末端反復配列を含む、実施形態36~39のいずれか1項に記載の核酸分子。
【0071】
40 配列番号2の配列は、前記AAV逆位末端反復配列内に結合される、実施形態39に記載の核酸分子。
【0072】
41 前記AAV逆位末端反復配列は、AAV2逆位末端反復配列である、実施形態39または40に記載の核酸分子。
【0073】
42 前記AAV2逆位末端反復配列のうちの一方(例えば、3’ AAV ITR)は、配列番号4の配列を含む、実施形態41に記載の核酸分子。
【0074】
43 配列番号2を含む前記核酸は、配列番号2によってコードされるタンパク質の発現を誘導する調節配列に作動可能に連結される、実施形態36~42のいずれか1項に記載の核酸分子。
【0075】
44 前記調節配列は、プロモーターを含む、実施形態44に記載の核酸分子。
【0076】
45 前記プロモーターは、構成的プロモーターまたは組織特異的プロモーターである、実施形態44に記載の核酸分子。
【0077】
46 前記プロモーターは、CAGプロモーター、CMVプロモーター、またはSV40プロモーターである、実施形態37または38に記載の核酸分子。
【0078】
47 前記核酸分子は、配列番号2の導入遺伝子の上流かつ5’(左側)AAV ITRの下流にスタッファー配列を含む、実施形態36~46のいずれか1項に記載の核酸分子。
【0079】
48 前記スタッファー配列は、配列番号6の配列を含む、実施形態47に記載の核酸分子。
【0080】
49 前記核酸分子は、配列番号2の下流かつ右側(3’)AAV(例えば、AAV2) ITRの上流にあるヌクレオチドイントロン配列を含む、実施形態36~48のいずれか1項に記載の核酸分子。
【0081】
50 前記イントロン配列は、HPREイントロン配列である、実施形態49に記載の核酸分子。
【0082】
51 前記HPREイントロン配列は、配列番号5の配列を含む、実施形態50に記載の核酸分子。
【0083】
52 前記分子はプラスミドである、実施形態36~51のいずれか1項に記載の核酸分子。
【0084】
53 実施形態36~52のいずれか1項に記載の核酸分子およびキャリアを含む組成物。
【0085】
54 前記キャリアは、トランスフェクション試薬である、実施形態53に記載の組成物。
【0086】
55 実施形態1~20のいずれか1項に記載のAAV粒子を生成する方法であって、前記方法は、細胞と実施形態36~52のいずれか1項に記載の核酸分子または実施形態53もしくは54に記載の組成物とを接触させて(例えば、トランスフェクトして、またはエレクトロポレーションして)、前記AAVを生成する工程を包含する、方法。
【0087】
56 前記細胞は、AAVパッケージング細胞株の細胞である、実施形態55に記載の方法。
【0088】
57 前記AAVパッケージング細胞株は、AAV9パッケージング細胞株である、実施形態56に記載の方法。
【0089】
58 AAVカプシドタンパク質をコードする組換え核酸分子およびMerlinタンパク質をコードする組換え核酸分子を含む培養宿主細胞。
【0090】
59 前記カプシドタンパク質は、前記AAV9カプシドタンパク質である、実施形態58に記載の細胞。
【0091】
60 前記カプシドタンパク質をコードする前記核酸分子は、配列番号3のアミノ酸残基1~736;配列番号3のアミノ酸残基138~736;または配列番号3のアミノ酸残基203~736のアミノ酸配列を有するタンパク質と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一であるか、あるいは前記タンパク質と同一であるタンパク質をコードする、実施形態58または59に記載の細胞。
【0092】
61 前記Merlinタンパク質をコードする前記組換え核酸分子は、配列番号1、配列番号8、もしくはその活性フラグメントの配列と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一もしくは相同であるか、あるいは前記配列と同一であるタンパク質をコードする、実施形態58~60のいずれか1項に記載の細胞。
【0093】
62 前記Merlinタンパク質をコードする前記組換え核酸分子は、配列番号1、配列番号8、またはその活性フラグメントの配列を含むタンパク質をコードする、実施形態58~61のいずれか1項に記載の細胞。
【0094】
63 前記Merlinタンパク質をコードする前記組換え核酸分子は、配列番号2または配列番号9と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である配列を含む、実施形態58~62のいずれか1項に記載の細胞。
【0095】
64 前記Merlinタンパク質をコードする前記組換え核酸分子は、配列番号2または配列番号9の配列を含む、実施形態58~63のいずれか1項に記載の細胞。
【0096】
65 前記組換え核酸分子はプラスミドである、実施形態58~64のいずれか1項に記載の細胞。
【0097】
詳細な説明
本明細書で提供される実施形態は、部分的に、NF2疾患またはMerlinタンパク質欠損症に関する状態、腫瘍、もしくは障害を処置するための組成物、方法および他の実施形態に関する。
【0098】
機能的Merlin(これは、腫瘍サプレッサータンパク質として重要な役割を果たす)の低減が原因で、神経線維腫症2型またはMerlin欠損症に関する状態、腫瘍、もしくは障害がもたらされ、NF2遺伝子の機能的コピーを送達することによるMerlin活性の回復は、有効な処置をもたらし得る。
【0099】
よって、いくつかの実施形態において、Merlinタンパク質をコードする導入遺伝子を含む組換えウイルスが、提供される。使用されるウイルスのタイプは、細胞または被験体に感染させるために使用される場合に、上記細胞または上記被験体において上記導入遺伝子および上記Merlinタンパク質、またはその任意の部分の発現がもたらされる任意のウイルスであり得る。いくつかの実施形態において、上記部分は、Merlinタンパク質のN末端フラグメントである(Tikoo et. al., An Anti-Ras Function of Neurofibromatosis Type 2 Gene Product (NF2/Merlin), The Journal of Biological Chemistry, Vol. 269, No 38, Issue of September 23, 1994 pp. 23387-23390; Cui et. al., The NF2 tumor suppressor merlin interacts with Ras and RasGAP, which may modulate Ras signaling, Oncogene, Vol. 38, 2019, pp. 6370-6381)。いくつかの実施形態において、コードされるMerlinのN末端フラグメントは、Merlinのアイソフォーム1のアミノ酸残基1~359を含むかまたはそれからなる。いくつかの実施形態において、コードされるMerlinのN末端フラグメントは、Merlinのアイソフォーム1のアミノ酸残基1~313を含むかまたはそれからなる。いくつかの実施形態において、コードされるMerlinのN末端フラグメントは、Merlinのアイソフォーム1のアミノ酸残基1~219を含むかまたはそれからなる。いくつかの実施形態において、コードされるMerlinのN末端フラグメントは、Merlinのアイソフォーム1のアミノ酸残基1~73を含むかまたはそれからなる。いくつかの実施形態において、上記部分は、Merlinタンパク質のC末端フラグメントである(Cui et. al., The NF2 tumor suppressor merlin interacts with Ras and RasGAP, which may modulate Ras signaling, Oncogene, Vol. 38, 2019, pp. 6370-6381)。いくつかの実施形態において、コードされるMerlinの上記C末端フラグメントは、Merlinのアイソフォーム1のアミノ酸残基312~595を含むかまたはそれからなる。いくつかの実施形態において、コードされるMerlinの上記C末端フラグメントは、Merlinのアイソフォーム1のアミノ酸残基479~595を含むかまたはそれからなる。いくつかの実施形態において、コードされるMerlinの上記C末端フラグメントは、Merlinのアイソフォーム1のアミノ酸残基503~595を含むかまたはそれからなる。
【0100】
いくつかの実施形態において、「活性フラグメント」とは、本明細書で使用される場合、生物学的活性を有する野生型Merlinのフラグメントである。いくつかの実施形態において、「アイソフォーム」とは、本明細書で使用される場合、野生型Merlinの選択的スプライシング改変体である。
【0101】
いくつかの実施形態において、上記ウイルスは、アデノ随伴ウイルス(AAV)である。AAVは、使用され得る多くの天然に存在する血清型を有する。いくつかの実施形態において、上記AAV血清型は、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、またはAAV-DJである。血清型とは、上記AAVの特定の株によってコードされるカプシドタンパク質に言及する。さらに、異なるAAV血清型のカプシドタンパク質を含むタンパク質は、増強された特性を有するように操作され得るか、または天然に存在する血清型から改変され得る。カプシド操作の結果としての増強された特性は、AAVの製造が容易に拡大縮小可能であること、免疫原性の低減、組織向性の変更および/または治療適用にとって有利な特性を提供することが挙げられ得るが、これらに限定されない。従って、いくつかの実施形態において、AAVカプシドタンパク質およびMerlinタンパク質をコードする導入遺伝子を含むAAVが、提供される。AAVを作製する方法は、当該分野で公知であり、例えば、米国特許第7,906,111号(これは、その全体において本明細書に参考として援用される)に見出され得る。上記導入遺伝子は、AAV逆位末端反復配列および上記Merlinタンパク質をコードする配列を含むミニ遺伝子といわれ得るものの中に組み込まれ得る。上記導入遺伝子の配列はまた、宿主細胞において上記Merlinタンパク質の発現を誘導する調節エレメントまたは配列に作動可能に連結され得る。
【0102】
上記調節エレメントは、従来の制御エレメントを含み得、これは、上記プラスミドベクターでトランスフェクトされたかまたは上記ウイルスに感染させた細胞において、上記導入遺伝子の転写、翻訳および/または発現を可能にする様式で、上記導入遺伝子に作動可能に連結される。本明細書で使用される場合、「作動可能に連結される」配列は、目的の遺伝子と連続している発現制御配列および目的の遺伝子を制御するためにトランスでもしくは一定の距離で作用する発現制御配列の両方を含む。
【0103】
発現制御配列は、適切な転写開始、終結、プロモーターおよびエンハンサー配列;効率的RNAプロセシングシグナル(例えば、スプライシングシグナルおよびポリアデニル化(ポリA)シグナル);細胞質mRNAを安定化する配列;翻訳効率を増強する配列(すなわち、Kozakコンセンサス配列);タンパク質安定性を増強する配列;および望ましい場合には、コードされる生成物の分泌を増強する配列を含み得る。多数の発現制御配列(天然の、構成的な、誘導性のおよび/または組織特異的なプロモーターを含む)が当該分野で公知であり、利用され得る。
【0104】
構成的プロモーターの例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:CAGプロモーター(Miyazaki et al, Gene. 79 (2): 269-77; Niwa et al., Gene. 108 (2): 193-9)、レトロウイルスであるラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター(必要に応じてRSVエンハンサーとともに)、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(必要に応じてCMVエンハンサーとともに)(例えば、Boshartら, Cell, 41:521-530 (1985)を参照のこと)、シミアンウイルス40(SV40)プロモーター、ジヒドロ葉酸レダクターゼプロモーター、βアクチンプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーター、ヒト伸長因子1α(EF1)プロモーター(Qin, J. Y., Zhang, L., Clift, K. L., Hulur, I., Xiang, A. P., Ren, B. Z., et al. (2010). Systematic comparison of constitutive promoters and the doxycycline-inducible promoter. PLoS One 5 (5), e10611. doi: 10.1371/journal.pone.0010611)、およびヒトユビキチンCプロモーター(UBC)(Qin, J. Y., Zhang, L., Clift, K. L., Hulur, I., Xiang, A. P., Ren, B. Z., et al. (2010). Systematic comparison of constitutive promoters and the doxycycline-inducible promoter. PLoS One 5 (5), e10611. doi: 10.1371/journal.pone.0010611)。誘導性プロモーターは、遺伝子発現の調節を可能にし、外因的に供給される化合物、環境因子(例えば、温度)、または特定の生理学的状態(例えば、急性相)の存在、細胞の特定の分化状態によって、または複製中の細胞のみにおいて調節され得る。誘導性プロモーターおよび誘導性のシステムは、種々の市販の供給源から入手可能である。多くの他のシステムが記載されており、当業者によって容易に選択され得る。外因的に供給される化合物によって調節される誘導性プロモーターの例としては、亜鉛誘導性ヒツジメタロチオネイン(MT)プロモーター、デキサメタゾン(Dex)誘導性マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、T7ポリメラーゼプロモーターシステム(国際特許公報番号WO 98/10088);エクジソン昆虫プロモーター(No et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93:3346-3351 (1996))、テトラサイクリン抑制システム(Gossen et al, Proc. Natl. Acad Sci. USA, 89:5547-5551 (1992))、テトラサイクリン誘導システム(Gossen et al, Science, 268:1766-1769 (1995), see also Harvey et al, Curr. Opin. Chem. BioL, 2:512-518 (1998))、RU486誘導システム(Wang et al, Nat. Biotech., 15:239-243 (1997) and Wang et al, Gene Ther., 4:432-441 (1997))およびラパマイシン誘導システム(Magari et al, J. Clin. Invest., 100:2865-2872 (1997)) が挙げられる。この文脈において有用であり得る誘導性プロモーターの他のタイプは、特定の生理学的状態(例えば、温度、急性相、細胞の特定の分化状態、または複製中の細胞のみにおいて)によって調節されるものである。
【0105】
いくつかの実施形態において、上記プロモーターは、CAGプロモーターである。いくつかの実施形態において、上記プロモーターは、SV40プロモーターである。いくつかの実施形態において、上記プロモーターは、CMVプロモーターである。いくつかの実施形態において、上記プロモーターは、構成的プロモーターである。いくつかの実施形態において、上記プロモーターは、組織特異的または細胞特異的プロモーターではない。いくつかの実施形態において、上記プロモーターは、組織特異的または細胞特異的プロモーターである。いくつかの実施形態において、上記プロモーターは、誘導性プロモーターではない。
【0106】
いくつかの実施形態において、Merlin生成物に関して天然のプロモーターが使用される。上記天然のプロモーターは、Merlinの発現が天然の発現を模倣するべきことが望ましい場合に使用され得る。上記天然のプロモーターは、導入遺伝子の発現が、一時的にもしくは発生的に、または組織特異的様式において、あるいは特定の転写刺激に応答して調節されなければならない場合に使用され得る。いくつかの実施形態において、他の天然の発現制御エレメント(例えば、エンハンサーエレメント、ポリアデニル化部位またはKozakコンセンサス配列)は、天然の発現により似せて模倣するために、プロモーター配列の中に含められ得る。
【0107】
いくつかの実施形態において、上記導入遺伝子は、組織特異的プロモーターに作動可能に連結された遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、上記プロモーターは、ニューロンまたは神経組織特異的プロモーターである。このようなプロモーターの例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:とりわけ、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター(Andersen et al., Cell. Mol. Neurobiol., 13:503-15 (1993))、神経フィラメント軽鎖遺伝子(Piccioli et al., Proc. Natl. Acad Sci. USA, 88:5611-5 (1991))、ニューロン特異的VGF遺伝子 (Piccioli et al., Neuron, 15:373-84 (1995))、またはヒトシナプシンプロモーター(Syn1)(Kugler, S., Kilic, E., and Bahr, M. (2003). Human synapsin 1 gene promoter confers highly neuron-specific long-term transgene expression from an adenoviral vector in the adult rat brain depending on the transduced area.(Gene Ther. 10 (4), 337-347. doi: 10.1038/sj.gt.3301905 , Kugler, S., Meyn, L., Holzmuller, H., Gerhardt, E., Isenmann, S., Schulz, J. B., et al. (2001). Neuron-specific expression of therapeutic proteins: evaluation of different cellular promoters in recombinant adenoviral vectors. Mol. Cell Neurosci. 17 (1), 78-96. doi: 10.1006/mcne.2000.0929 , McLean, J. R., Smith, G. A., Rocha, E. M., Hayes, M. A., Beagan, J. A., Hallett, P. J., et al. (2014). Widespread neuron-specific transgene expression in brain and spinal cord following synapsin promoter-driven AAV9 neonatal intracerebroventricular injection.. Neurosci. Lett. 576, 73-78. doi: 10.1016/j. neulet.2014.05.044 )、またはニワトリβアクチン(CBA)、またはCBh(CBAのハイブリッド)(Gray et. al., Optimizing Promoters for Recombinant Adeno-Associated Virus-Mediated Gene Expression in the Peripheral and Central Nervous System Using Self-Complementary Vectors, HUMAN GENE THERAPY 22:1143-1153 (September 2011) a Mary Ann Liebert, Inc.)、またはMeCp2(Gray et. al., Optimizing Promoters for Recombinant Adeno-Associated Virus-Mediated Gene Expression in the Peripheral and Central Nervous System Using Self-Complementary Vectors, HUMAN GENE THERAPY 22:1143-1153 (September 2011) a Mary Ann Liebert, Inc.)、またはPDGFβ(Ingusci et. al., Gene Therapy Tools for Brain Diseases, Selene Ingusci, Frontiers in Pharmacology, July 1, 2019)、星状細胞特異的(例えば、GFAP)(Smith-Arica, J. R., Morelli, A. E., Larregina, A. T., Smith, J., Lowenstein, P. R., and Castro, M. G. (2000). Cell-type-specific and regulatable transgenesis in the adult brain: adenovirus-encoded combined transcriptional targeting and inducible transgene expression. Mol. Ther. 2 (6), 579-587. doi: 10.1006/ mthe.2000.0215 , ; Lee, Y., Messing, A., Su, M., and Brenner, M. (2008). GFAP promoter elements required for region-specific and astrocyte-specific expression. Glia 56 (5), 481- 493. doi: 10.1002/glia.20622)、オリゴデンドロサイト特異的(例えば、ヒトミエリン関連糖タンパク質(MAG))(von Jonquieres, G., Mersmann, N., Klugmann, C. B., Harasta, A. E., Lutz, B., Teahan, O., et al. (2013). Glial promoter selectivity following AAV-delivery to the immature brain. PLoS One 8 (6), e65646. doi: 10.1371/journal.pone.0065646 )、またはミエリン塩基性プロモーター(MBP) (von Jonquieres, G., Frohlich, D., Klugmann, C. B., Wen, X., Harasta, A. E., Ramkumar, R., et al. (2016). Recombinant human myelin-associated glycoprotein promoter drives selective AAV-mediated transgene expression in oligodendrocytes. Front. Mol. Neurosci. 9, 13. doi: 10.3389/fnmol.2016.00013)、ミクログリア特異的(例えば、F4/80)(Rosario, A. M., Cruz, P. E., Ceballos-Diaz, C., Strickland, M. R., Siemienski, Z., Pardo, M., et al. (2016). Microglia-specific targeting by novel capsid-modified AAV6 vectors. Mol. Ther. Methods Clin. Dev. 3, 16026. doi: 10.1038/mtm.2016.26)、またはCD68 (Rosario, A. M., Cruz, P. E., Ceballos-Diaz, C., Strickland, M. R., Siemienski, Z., Pardo, M., et al. (2016). Microglia-specific targeting by novel capsid-modified AAV6 vectors. Mol. Ther. Methods Clin. Dev. 3, 16026. doi: 10.1038/mtm.2016.26)、グルタミン酸作動性ニューロン特異的(例えば、ホスフェート活性化グルタミナーゼプロモーター(PAG))(Rasmussen, M., Kong, L., Zhang, G. R., Liu, M., Wang, X., Szabo, G., et al. (2007). Glutamatergic or GABAergic neuron-specific, long-term expression in neocortical neurons from helper virus-free HSV-1 vectors containing the phosphate-activated glutaminase, vesicular glutamate transporter-1, or glutamic acid decarboxylase promoter. Brain Res. 1144, 19-32. doi: 10.1016/j. brainres.2007.01.125)、または血管グルタミン酸トランスポータープロモーター(vGLUT)、(Rasmussen, M., Kong, L., Zhang, G. R., Liu, M., Wang, X., Szabo, G., et al. (2007). Glutamatergic or GABAergic neuron-specific, long-term expression in neocortical neurons from helper virus-free HSV-1 vectors containing the phosphate-activated glutaminase, vesicular glutamate transporter-1, or glutamic acid decarboxylase promoter. Brain Res. 1144, 19-32. doi: 10.1016/j. brainres.2007.01.125)、およびGABA作動性ニューロン特異的(例えば、グルタミン酸デカルボキシラーゼプロモーター(GAD))(Rasmussen, M., Kong, L., Zhang, G. R., Liu, M., Wang, X., Szabo, G., et al. (2007). Glutamatergic or GABAergic neuron-specific, long-term expression in neocortical neurons from helper virus-free HSV-1 vectors containing the phosphate-activated glutaminase, vesicular glutamate transporter-1, or glutamic acid decarboxylase promoter. Brain Res. 1144, 19-32. doi: 10.1016/j. brainres.2007.01.125)。他のプロモーターがまた使用され得る(例えば、骨格筋における発現が望ましい場合、筋肉において活性なプロモーターが使用されるべきであるが、これらに限定されない)。これらとしては、骨格P-アクチン、ミオシン軽鎖2A、ジストロフィン、筋クレアチンキナーゼをコードする遺伝子に由来するプロモーター、ならびに天然に存在するプロモーターより高い活性を有する合成筋プロモーター(Li et al., Nat. Biotech., 17:241-245 (1999) を参照のこと)が挙げられる。他の組織特異的プロモーターとしては、以下が挙げられる: 肝臓に関して組織特異的であることが公知のプロモーター(アルブミン、Miyatakeら, J. Virol., 71:5124-32 (1997);B型肝炎ウイルスコアプロモーター、Sandigら, Gene Ther., 3:1002-9 (1996);α-フェトプロテイン(AFP)、Arbuthnotら, Hum. Gene Ther., 7:1503-14 (1996))、骨オステオカルシン(Steinら, Mol. Biol. Rep., 24:185-96 (1997));骨シアロタンパク質(Chenら, J. Bone Miner. Res., 11:654-64 (1996))、リンパ球(CD2、Hansalら, J. Immunol., 161:1063-8 (1998);免疫グロブリン重鎖;T細胞レセプター鎖)。
【0108】
上記導入遺伝子生成物、上記プロモーター/エンハンサー調節配列、ならびに5’および3’ AAV ITRの組み合わせは、参照を容易にするために、本明細書でまとめて「ミニ遺伝子(minigene)」といわれ得る。
【0109】
いくつかの実施形態において、使用されるカプシドは、AAV9から得られる。いくつかの実施形態において、上記AAV9 カプシドは、以下のアミノ酸配列:配列番号3のアミノ酸残基1~736;配列番号3のアミノ酸残基138~736;または配列番号3のアミノ酸残基203~736を有するウイルスタンパク質の群(VP1、VP2、VP3など)を含む。いくつかの実施形態において、上記AAV9カプシドは、配列番号3のアミノ酸残基1~736のアミノ酸配列を有するウイルスタンパク質の群(VP1、VP2、VP3など)を含む。いくつかの実施形態において、上記AAV9カプシドは、配列番号3のアミノ酸残基138~736のアミノ酸配列を有するウイルスタンパク質の群(VP1、VP2、VP3など)を含む。いくつかの実施形態において、上記AAV9カプシドは、配列番号3のアミノ酸残基203~736のアミノ酸配列を有するウイルスタンパク質の群(VP1、VP2、VP3など)を含む。いくつかの実施形態において、上記AAV9カプシドは、配列番号3のアミノ酸残基1~736;配列番号3のアミノ酸残基138~736;または配列番号3のアミノ酸203~736と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、上記AAV9カプシドは、配列番号3のアミノ酸残基1~736と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、上記AAV9カプシドは、配列番号3のアミノ酸残基138~736と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、上記AAV9カプシドは、配列番号3のアミノ酸203~736と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0110】
いくつかの実施形態において、上記組換えAAVゲノムは、Merlinタンパク質をコードする。いくつかの実施形態において、上記Merlinは、アイソフォーム1である。いくつかの実施形態において、上記Merlinは、アイソフォーム2である。
【0111】
いくつかの実施形態において、上記導入遺伝子によってコードされる上記Merlinタンパク質は、配列番号1の配列(アイソフォーム1)と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるかまたは相同である配列を含む。いくつかの実施形態において、上記導入遺伝子によってコードされる上記Merlinタンパク質は、配列番号1の配列を含む。いくつかの実施形態において、上記組換えAAVゲノムは、Merlinタンパク質の1またはこれより多くの活性フラグメントをコードする。いくつかの実施形態において、上記1またはこれより多くの活性フラグメントとしては、配列番号1の残基1~359、配列番号1の残基1~313、配列番号1の残基1~219、配列番号1の残基1~73、配列番号1の残基312~595、配列番号1の残基479-595、配列番号1の残基503~595、またはこれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記1またはこれより多くの活性フラグメントとしては、配列番号1の残基1~359が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記1またはこれより多くの活性フラグメントとしては、配列番号1の残基1~313が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記1またはこれより多くの活性フラグメントとしては、配列番号1の残基1~219が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記1またはこれより多くの活性フラグメントとしては、配列番号1の残基1~73が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記1またはこれより多くの活性フラグメントとしては、配列番号1の残基312~595が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記1またはこれより多くの活性フラグメントとしては、配列番号1の残基479-595が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記1またはこれより多くの活性フラグメントとしては、配列番号1の残基503~595が挙げられるが、これらに限定されない。
【0112】
上記活性フラグメントは、いくつかの実施形態において、このようなフラグメントと少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるかまたは相同である配列を含み得る。
【0113】
いくつかの実施形態において、上記導入遺伝子は、配列番号1の配列を含むタンパク質またはその活性フラグメントをコードする核酸分子を含む。いくつかの実施形態において、上記核酸分子は、配列番号2の核酸配列、または上記その活性フラグメントをコードする配列を含む。いくつかの実施形態において、上記核酸分子は、配列番号2と、または上記その活性フラグメントをコードする配列と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である核酸配列を含む。
【0114】
本明細書で記載されるポリペプチドまたは核酸分子の改変体がまた、本明細書で提供され、これらは、本明細書で提供されるアミノ酸配列もしくは核酸分子と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一性を有するポリペプチドまたは核酸分子を含むか、またはその野生型配列のポリペプチドまたは核酸分子を含む。例えば、Merlin(NF2)の改変体は、配列番号1のアミノ酸配列、またはその活性フラグメントと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性または配列相同性を有するポリペプチドを含む。例えば、Merlin(NF2)をコードする核酸分子の改変体は、配列番号2と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一性を有するか、またはその活性フラグメントをコードする核酸分子を含む。
【0115】
いくつかの実施形態において、上記導入遺伝子によってコードされる上記Merlinタンパク質は、配列番号8の配列(アイソフォーム2)と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるかまたは相同である配列を含む。いくつかの実施形態において、上記導入遺伝子によってコードされる上記Merlinタンパク質は、配列番号8の配列を含む。いくつかの実施形態において、上記組換えAAVゲノムは、Merlinタンパク質の1またはこれより多くの活性フラグメントをコードする。上記活性フラグメントは、いくつかの実施形態において、このようなフラグメントと少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるかまたは相同である配列を含み得る。
【0116】
いくつかの実施形態において、上記導入遺伝子は、配列番号8の配列、または上記その活性フラグメントを含むタンパク質をコードする核酸分子を含む。いくつかの実施形態において、上記核酸分子は、配列番号9の核酸配列、または上記その活性フラグメントをコードする配列を含む。いくつかの実施形態において、上記核酸分子は、配列番号9と、または上記その活性フラグメントをコードする配列と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である核酸配列を含む。
【0117】
本明細書で記載されるポリペプチドまたは核酸分子の改変体がまた、本明細書で提供され、これらは、本明細書で提供されるアミノ酸配列もしくは核酸分子、またはその野生型配列と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一性を有するポリペプチドまたは核酸分子を含む。例えば、Merlin(NF2)の改変体は、配列番号8のアミノ酸配列、またはその活性フラグメントと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性または配列相同性を有するポリペプチドを含む。例えば、Merlin(NF2)をコードする核酸分子の改変体は、配列番号9、またはその活性フラグメントをコードするものと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一性を有する核酸分子を含む。
【0118】
2つの配列間の「同一性」または「配列相同性」(上記用語は、本明細書で交換可能に使用される)の計算は、以下のように行われる。上記配列は、最適比較の目的で整列される(例えば、ギャップは、第1のおよび第2のアミノ酸または核酸配列のうちの一方または両方において最適な整列のために導入され得、相同でない配列は、比較目的で無視され得る)。最適なアラインメントは、Blossum 62スコアリングマトリクスと、ギャップペナルティー 12、ギャップ伸長ペナルティー 4、およびフレームシフトギャップペナルティー 5で、GCGソフトウェアパッケージの中のGAPプログラムを使用して最良のスコアとして決定される。次いで、対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置におけるアミノ酸残基またはヌクレオチドが、比較される。第1の配列における位置が、第2の配列における対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドによって占有される場合、その分子は、その位置で同一である(本明細書で使用される場合、アミノ酸または核酸の「同一性」は、アミノ酸または核酸の「相同性」と等しい)。上記2つの配列間のパーセント同一性は、その配列によって共有される同一位置の数の関数である。
【0119】
本明細書で記載されるポリペプチドの改変体は、上記ポリペプチドの野生型アミノ酸配列、または上記で記載されるとおりのその任意の活性フラグメントからアミノ酸改変(例えば、欠失、付加、または置換(例えば、保存的置換))を有するものであり得る。例えば、Merlinの改変体は、Merlin(配列番号1または配列番号8)から少なくとも1個、2個、3個、4個、5個であるが、50個以下、40個以下、30個以下、20個以下、15個以下、または10個以下のアミノ酸だけ異なり得る。上記配列はまた、保存的アミノ酸置換を有し得る。「保存的アミノ酸置換」は、そのアミノ酸残基が、類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置き換えられるものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該分野で定義されている。これらのファミリーは、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、荷電されていない極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分枝側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸を含む。
【0120】
単離された核酸分子がまた、本明細書で提供される。「単離された」タンパク質または核酸分子とは、上記単離されたタンパク質または核酸分子が得られ得る天然のサンプルの少なくとも1つの構成要素のうちの少なくとも90%から取り出されている、精製されたタンパク質または核酸分子に言及する。タンパク質は、目的の種または目的の種の集団が、重量-重量ベースで、少なくとも5%、10%、25%、50%、75%、80%、90%、92%、95%、98%、または99%純粋である場合に、「少なくとも」ある程度の純度のものであり得る。
【0121】
本明細書で提供される場合、上記組換えAAVは、AAV逆位末端反復配列(ITR)を含み得る。いくつかの実施形態において、使用される逆位末端反復配列は、AAV-2逆位末端反復配列である。他のAAV血清型に由来するITRが使用されてもよく、これは、単に非限定的な例である。
【0122】
AAVがMerlinタンパク質を送達するための(例えば、Merlinタンパク質をコードするDNAを送達することによる)ビヒクルであることに加えて、他のビヒクルが使用され得る(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルスなど)。従って、いくつかの実施形態において、感染した細胞においてMerlinタンパク質、またはその活性フラグメントをコードし、Merlinまたはその活性なタンパク質フラグメントを発現する遺伝子送達のための組換えウイルスが提供される。上記AAVはまた、AAVが感染する細胞タイプを特定することを助けるために、他のウイルス構造タンパク質またはカプシドタンパク質(非AAV)で偽型化され得る。従って、いくつかの実施形態において、上記AAVは,偽型化AAVである。
【0123】
Merlin、もしくはその活性フラグメントをコードする上記AAVまたはウイルスを含む組成物がまた、提供される。いくつかの実施形態において、上記組成物は、Merlin、またはその活性フラグメントをコードする組換えウイルス、および生理学的に適合性のキャリアを含む。いくつかの実施形態において、上記組成物は、薬学的組成物であり、薬学的に受容可能なキャリアを含む。
【0124】
「薬学的に受容可能な」とは、キャリア、希釈剤または賦形剤が、上記組換えウイルスの他の成分と適合性でなければならず、そのレシピエントに対して顕著に有害でないことを意味する。
【0125】
いくつかの実施形態において、上記組成物または薬学的組成物は、ウイルスの有効量を含む。これはまた、治療上有効な量ともいわれ得る。「治療上有効な量」とは、所望の治療結果を達成するために必要な投与量においておよび期間にわたって有効な量に言及する。上記組成物の治療上有効な量は、個体の疾患状態、年齢、性別、および体重、ならびに治療剤が個体において所望の応答を誘発する能力のような要因に従って変動し得る。治療上有効な量はまた、治療上有益な効果が、上記組成物の結果としてのあらゆる毒性効果または有害効果を上回っている量である。
【0126】
本明細書で提供されるように、上記組成物は、薬学的に受容可能なビヒクル、キャリア、または賦形剤を含み得る。本開示において有用な薬学的に受容可能なキャリア(ビヒクル)は、従来のものである。Remington’s Pharmaceutical Sciences(E. W. Martin, Mack Publishing Co., Easton, Pa., 第15版(1975))は、1またはこれより多くの治療用組成物およびさらなる薬剤の薬学的送達のために適した組成物および製剤を記載している。
【0127】
一般に、送達に適切なキャリアまたはビヒクルの性質は、使用される特定の投与様式に依存する。例えば、非経口的製剤は通常、ビヒクルとして薬学的におよび生理学的に受容可能な流体(例えば、水、生理食塩水、平衡化塩類溶液、水性デキストロース、グリセロールなど)を含む注射用の流体を含む。固体組成物(例えば、散剤、丸剤、錠剤、またはカプセル剤形態)に関しては、従来の非毒性固体キャリアとしては、例えば、製薬グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、またはステアリン酸マグネシウムが挙げられ得る。生物学的に中性のキャリアに加えて、投与されるべき薬学的組成物は、少量の非毒性補助物質(例えば、湿潤剤または乳化剤、保存剤、およびpH緩衝化剤など(例えば、酢酸ナトリウムまたはソルビタンモノラウレート))を含み得る。
【0128】
いくつかの実施形態において、組成物は、それらが溶液、懸濁物、または他の同様の形態であろうと、以下のうちの1またはこれより多くのものを含み得る: DMSO、滅菌希釈剤(例えば、注射用水、食塩溶液、好ましくは、生理食塩水、リンゲル液、等張性塩化ナトリウム、溶媒または懸濁媒体として働き得る不揮発性油(例えば、合成モノグリセリドまたはジグリセリド)、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の溶媒;抗菌剤(例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン);抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウム);キレート剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸);緩衝液(例えば、アセテート、シトレートまたはホスフェート)および張度調節のための薬剤(例えば、塩化ナトリウムまたはデキストロース)。
【0129】
配列番号2と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である配列を含む核酸分子がまた、本明細書で提供される。いくつかの実施形態において、上記核酸分子は、単離された核酸分子である。いくつかの実施形態において、上記核酸分子は、配列番号2の配列を含む。いくつかの実施形態において、配列番号2は、Merlinタンパク質をコードする内因性mRNAとMerlinタンパク質をコードするAAVから生成されるmRNAとの間を識別するために使用され得る。配列番号2は、天然のmRNAとは異なる配列の非限定的な例であり、天然の配列から識別され得る別の配列が使用され得る。よって、いくつかの実施形態において、上記AAVによってコードされるMerlin mRNAを検出する方法が、提供される。いくつかの実施形態において、上記方法は、サンプルと、mRNAをコードする上記AAVに特異的でありかつ天然のmRNAと結合しないプローブとを接触させる工程、および上記プローブがmRNAをコードする上記AAVと結合して相互作用する場合に上記AAV mRNAを検出する工程を包含する。いくつかの実施形態において、上記方法は、サンプルに対して、mRNAをコードする上記AAVに特異的なプライマーでRT-PCRを行って、上記AAVがコードしたmRNAを検出する工程を包含する。いくつかの実施形態において、上記プライマーは、上記AAVがコードしたmRNAに特異的であり、天然のmRNAと結合も相互作用もしない。本明細書で使用される場合、用語「天然のmRNA」とは、改変されていない(すなわち、遺伝的に操作されていない野生型の)上記細胞のまたは生物の本来のDNAによってコードされるRNAに言及する。アッセイのこのタイプは、上記天然のタンパク質とは異なるMerlinタンパク質をコードする上記AAVの発現を決定するために、例えば、本明細書で提供されるAAV組成物で処置されていない被験体において使用され得る。
【0130】
いくつかの実施形態において、上記核酸分子は、AAV逆位末端反復配列を含む。いくつかの実施形態において、配列番号2の配列は、上記AAV逆位末端反復配列内で結合される。いくつかの実施形態において、上記AAV逆位末端反復配列は、AAV2逆位末端反復配列である。いくつかの実施形態において、配列番号2を含む上記核酸は、配列番号2によってコードされるタンパク質の発現を誘導する調節配列に作動可能に連結される。いくつかの実施形態において、上記調節配列は、プロモーターを含む。いくつかの実施形態において、上記プロモーターは、本明細書で記載されるとおりである。いくつかの実施形態において、上記プロモーターは、構成的プロモーターまたは組織特異的プロモーターである。いくつかの実施形態において、上記プロモーターは、CAGプロモーター、CMVプロモーター、またはSV40プロモーターである。いくつかの実施形態において、上記プロモーターは、CAGプロモーターである。いくつかの実施形態において、上記プロモーターは、CMVプロモーターである。いくつかの実施形態において、上記プロモーターは、SV40プロモーターである。いくつかの実施形態において、上記核酸分子は、プラスミドである。
【0131】
いくつかの実施形態において、非ウイルスベクターが使用される。本明細書で記載される核酸分子を含む上記組成物が提供される。いくつかの実施形態において、上記組成物は、キャリアを含む。いくつかの実施形態において、上記キャリアは、トランスフェクション試薬または上記核酸分子を細胞に送達することを容易にする試薬である。いくつかの実施形態において、上記トランスフェクション試薬は、脂質ベースのトランスフェクション試薬である。いくつかの実施形態において、上記キャリアは、エレクトロポレーション薬剤である。
【0132】
本明細書で提供される核酸分子は、上記Merlinタンパク質をコードするAAVを生成するために使用され得る。AAVを生成する方法は、当業者に公知であり、任意の方法が使用され得る。非限定的な例は、米国特許第7,906,111号(これは、本明細書に参考として援用される)において提供される。例えば、上記ミニ遺伝子は、宿主細胞に送達される任意の適切なベクター(例えば、プラスミド)で運ばれ得る。上記プラスミドは、これらが複製、および必要に応じて、原核生物細胞、哺乳動物細胞、または両方における組み込みに適切であるように操作され得る。いくつかの実施形態において、これらのプラスミド(または上記5’ AAV ITR-異種分子-3’ AAV ITRを有する他のベクター)は、真核生物および/または原核生物における上記ミニ遺伝子の複製を可能にする配列、ならびにこれらのシステムの選択マーカーを含む。選択マーカーまたはレポーター遺伝子は、とりわけ、ジェネティシン、ハイグロマイシンまたはピューロマイシン耐性をコードする配列を含み得る。上記プラスミドはまた、細菌細胞におけるベクターの存在をシグナル伝達するために使用され得るある特定の選択レポーターまたはマーカー遺伝子を含み得る(例えば、アンピシリン耐性)。上記プラスミドの他の構成要素としては、複製起点およびアンプリコン(例えば、エプスタインバーウイルス核抗原を使用するアンプリコンシステム)を含み得る、このアンプリコンシステム、または他の類似のアンプリコン構成要素は、細胞において高コピーエピソーム複製を可能にする。いくつかの実施形態において、上記ミニ遺伝子を有する分子は、上記細胞へとトランスフェクトされ、ここでそれは一過性に存在し得る。あるいは、上記ミニ遺伝子(上記5’ AAV ITR-異種分子-3’ AAV ITRを有する)は、染色体にまたはエピソームのいずれかとして、上記宿主細胞のゲノムへと安定して組み込まれ得る。いくつかの実施形態において、上記ミニ遺伝子は、多数のコピーにおいて、必要に応じて、ヘッドトゥヘッド(head-to-head)、ヘッドトゥテイル(head-to-tail)、またはテイルトゥテイル(tail-to-tail)コンカテマーにおいて存在し得る。適切なトランスフェクション技術は公知であり、上記ミニ遺伝子を上記宿主細胞に送達するために容易に利用され得る。
【0133】
いくつかの実施形態において、上記AAVは、上記導入遺伝子の上流かつ上記5’(左側)AAV ITRの下流に核酸分子スタッファー配列を含む。いくつかの実施形態において、上記スタッファー配列は、配列番号6の配列を含む。いくつかの実施形態において、上記AAVは、上記導入遺伝子の下流かつ上記右側(3’)AAV(例えば、AAV2) ITRの上流にあるヌクレオチドイントロン配列を含む。いくつかの実施形態において、上記イントロン配列は、HPRE配列(例えば、本明細書で記載されるもの)である。いくつかの実施形態において、上記HPRE配列は、配列番号5の配列を含む。
【0134】
いくつかの実施形態において、上記ミニ遺伝子を含むベクターをトランスフェクションによって送達する場合、上記ベクターは、約5μg~約100μg DNA、約10μg~約50μg DNAの量で、約1×10 細胞~約1×1013 細胞、または約1×10 細胞へと送達される。しかし、宿主細胞に対するベクターDNAの相対的な量は、選択されるベクター、送達方法および選択される宿主細胞のような要因を考慮に入れて、調節され得る。
【0135】
上記AAVを生成するための宿主細胞自体は、任意の生物(原核生物(例えば、細菌)細胞、および真核生物細胞(昆虫細胞、酵母細胞および哺乳動物細胞を含む)を含む)から選択され得る。いくつかの実施形態において、上記宿主細胞は、任意の哺乳動物種(A549、WEH1、3T3、10T1/2、BHK、MDCK、COS 1、COS 7、BSC 1、BSC 40、BMT 10、VERO. W138、HeLa、293細胞(これは、機能的アデノウイルスE1を発現する)、Saos-2、C2C12、L細胞、HT1080、HepG2のような細胞、ならびにヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、およびハムスターを含む哺乳動物に由来する初代線維芽細胞、肝細胞および筋芽細胞が挙げられるが、これらに限定されない)の中から選択される。使用される細胞の要件は、E1、E2aおよび/またはE4 ORF6以外のいかなるアデノウイルス遺伝子をも有していないことであり、これは、AAVの生成中の汚染ウイルスの相同組換えを回避するために行われ;そしてそれは、DNAの感染またはトランスフェクション、およびトランスフェクトされたDNAの発現の能力がある。
【0136】
いくつかの実施形態において、上記宿主細胞は、上記カプシドタンパク質(例えば、AAV9カプシド)で安定してトランスフェクトされる。それはまた、同じ細胞から生成されているrepタンパク質を有し得る。あるいは、これらのタンパク質は、Merlinをコードする上記AAVを生成するために、上記ウイルスタンパク質をコードしかつ上記宿主細胞へと同時にまたは逐次的に上記細胞へとトランスフェクトされる別個のプラスミド上にコードされ得る。例えば、使用され得る1つの宿主細胞は、repおよびcapをコードする配列で安定して形質転換され、かつアデノウイルスE1、E2a、およびE4ORF6 DNA、ならびに上記のとおりのミニ遺伝子を有する構築物でトランスフェクトされる宿主細胞である。安定なrepおよび/またはcap発現細胞株(例えば、B-50(国際特許出願公報番号WO 99/15685)、または米国特許第5,658,785号に記載されるもの)はまた、同様に使用され得る。宿主細胞の別の例は、E4 ORF6を発現するために十分な最小限のアデノウイルスDNAを含むものである。さらに他の細胞株は、本明細書で提供されるAAV9 cap配列を使用して構築され得る。
【0137】
宿主細胞の調製は、選択されるDNA配列のアセンブリのような技術を含む。このアセンブリは、従来の技術を利用して達成され得る。このような技術としては、cDNAおよびゲノムクローニング(これらは、周知であり、Sambrookら(上記で引用)に記載される)、アデノウイルスおよびAAVゲノムの重複するオリゴヌクレオチド配列の使用、ポリメラーゼ連鎖反応との併用、合成方法、および所望のヌクレオチド配列を提供する任意の他の適切な方法が挙げられる。
【0138】
上記宿主細胞への(プラスミドまたはウイルスとしての)分子の導入はまた、当業者に公知の技術を使用して、本明細書全体を通じて考察されるように達成され得る。いくつかの実施形態において、標準的なトランスフェクション技術が使用される(例えば、CaPOトランスフェクション、脂質ベースのトランスフェクション、もしくはエレクトロポレーション、および/またはヒト胚性腎臓細胞株HEK 293(トランスで作用するE1タンパク質を提供する機能的なアデノウイルスE1遺伝子を含むヒト腎臓細胞株)のような細胞株への、ハイブリッドアデノウイルス/AAVベクターによる感染)。
【0139】
上記AAV9カプシドタンパク質はまた、Merlinをコードする他のウイルスを偽型化するために使用され得る。従って、それらは、他のrAAVおよび非rAAVベクターシステムにおいて使用され得る。このようなベクターシステムとしては、とりわけ、例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、ポックスウイルス、ワクシニアウイルス、およびアデノウイルスシステムが挙げられ得る。
【0140】
よって、いくつかの実施形態において、本明細書で提供されるとおりのAAVを生成する方法が提供される。いくつかの実施形態において、上記方法は、細胞と、本明細書で提供されるとおりの核酸分子またはその組成物とを接触させて、上記AAVを生成する工程を包含する。いくつかの実施形態において、上記細胞は、AAVパッケージング細胞株である。いくつかの実施形態において、上記AAVパッケージング細胞株は、AAV9パッケージング細胞株(例えば、本明細書に記載されるかまたは米国特許第7,906,111号(これは、その全体において本明細書に参考として援用される)に記載されるもの)である。
【0141】
いくつかの実施形態において、AAVカプシドタンパク質をコードする組換え核酸分子およびMerlinタンパク質コードする組換え核酸分子を含む培養宿主細胞が提供される。いくつかの実施形態において、上記カプシドタンパク質は、本明細書で記載されるとおりのAAV9カプシドタンパク質またはその改変体である。
【0142】
いくつかの実施形態において、Merlinタンパク質を細胞に送達する方法が、提供される。いくつかの実施形態において、上記方法は、上記細胞と、MerlinをコードするAAVまたはウイルス(本明細書で記載されるもの)とを接触させる工程を包含する。いくつかの実施形態において、上記方法は、非ウイルス送達方法、例えば、ニードルインジェクション、弾道的DNAインジェクション、ソノポレーション、フォトポレーション、マグネトフェクション、ヒドロポレーション(hydro-poration)、またはエレクトロポレーション、トランスフェクション、およびこれらの任意の組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、上記非ウイルス方法は、Merlinタンパク質をコードする遺伝物質の送達のために、リポソームまたはポリマーキャリア、およびこれらの組み合わせを含む。
【0143】
いくつかの実施形態において、NF2、または他のmerlin欠損症を有する被験体を処置する方法であって、上記方法は、NF2、または他のmerlin欠損症を有する上記被験体に、MerlinをコードするウイルスまたはAAV(例えば、本明細書で提供されるもの)を投与する工程を包含する方法が提供される。上記投与方法は、任意の適切な方法(例えば、本明細書で記載されるもの)であり得る。いくつかの実施形態において、上記投与は、髄腔内、静脈内、胸膜腔内、または腫瘍内である。
【0144】
いくつかの実施形態において、被験体において神経鞘腫、髄膜腫、中皮腫、または上衣腫の増殖を阻害する方法が提供される。いくつかの実施形態において、上記方法は、上記被験体に、MerlinをコードするウイルスまたはAAV(例えば、本明細書で提供されるもの)を投与する工程を包含する。上記投与方法は、任意の適切な方法(例えば、本明細書で記載されるもの)であり得る。いくつかの実施形態において、上記投与は、髄腔内、大槽内、静脈内、胸膜腔内、または腫瘍内である。
【0145】
いくつかの実施形態において、NF2を有する被験体を処置する方法が提供される。いくつかの実施形態において、上記被験体は、NF2を有する被験体である。いくつかの実施形態において、上記被験体は、NF2欠損症を有する被験体である。本明細書で使用される場合、用語「NF2欠損症(NF2 deficiency)」とは、変異したかまたは不活性化したMerlinタンパク質によって引き起こされる被験体における状態または障害である。これはまた、「Merlin欠損症(Merlin deficiency)」ともいわれ得る。これらの状態は、本明細書で提供される腫瘍または障害の種々のタイプであり得る。いくつかの実施形態において、上記障害は、本明細書で提供されるとおりである。いくつかの実施形態において、上記障害は、白内障、網膜剥離、眼の神経への損傷、乳頭浮腫(視神経乳頭浮腫)、眼性片頭痛(網膜性片頭痛)、網膜色素変性症(RP)(網膜変性)、網膜およびRPEの混合性過誤腫、網膜微細動脈瘤、網膜前膜結膜炎、フィジオペディア(重症ドライアイ)、眼振-動揺視(眼球粗動/交叉)、複視(diplopia)(複視(double vision))、または注視誘発性耳鳴り(GET)である。いくつかの実施形態において、merlin欠損症と関連する障害(例えば、神経線維腫症2型、神経鞘腫症、またはがん)を有するか、またはその障害のリスクにある被験体を処置する方法が提供され、上記方法は、上記被験体に、AAV(例えば、本明細書で提供されるもの)を投与する工程を包含する。
【0146】
いくつかの実施形態において、被験体において脊髄神経鞘腫または髄膜腫の増殖または形成を防止する方法が提供される。いくつかの実施形態において、上記方法は、上記被験体に、MerlinをコードするウイルスまたはAAV(例えば、本明細書で提供されるもの)を投与する工程を包含する。上記投与方法は、任意の適切な方法(例えば、本明細書で記載されるもの)であり得る。いくつかの実施形態において、上記投与は、髄腔内、静脈内、または腫瘍内である。いくつかの実施形態において、上記被験体は、NF2を有する被験体である。
【0147】
いくつかの実施形態において、merlinと関連する障害(例えば、神経線維腫症2型、神経鞘腫症、またはがん)を有するか、またはその障害のリスクにある被験体を処置する方法が提供される。いくつかの実施形態において、上記方法は、上記被験体に、MerlinをコードするウイルスまたはAAV(例えば、本明細書で提供されるもの)を投与する工程を包含する。上記投与方法は、任意の適切な方法(例えば、本明細書で記載されるもの)であり得る。いくつかの実施形態において、上記投与は、髄腔内、静脈内、胸膜腔内、または腫瘍内である。いくつかの実施形態において、上記被験体は、NF2を有する被験体である。いくつかの実施形態において、上記障害は、神経線維腫症2型、神経鞘腫症、神経鞘腫(例えば、前庭神経鞘腫);がん(例えば、血液のがん(例えば、若年性骨髄単球性白血病)、白血病(例えば、成人急性リンパ芽球性白血病、小児急性リンパ芽球性白血病、成人急性骨髄性白血病、小児急性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、またはヘアリー細胞白血病);リンパ腫(例えば、AIDS関連リンパ腫、皮膚T細胞性リンパ腫、成人ホジキンリンパ腫、小児ホジキンリンパ腫、成人非ホジキンリンパ腫、小児非ホジキンリンパ腫、中枢神経系原発性リンパ腫、セザリー症候群、皮膚T細胞性リンパ腫、皮膚ワルデンシュトレーム・マクログロブリン血症);慢性骨髄増殖性障害;ランゲルハンス細胞組織球症;多発性骨髄腫/形質細胞新生物;骨髄異形成症候群;骨髄異形成/骨髄増殖性新生物);卵巣がん(例えば、卵巣漿液性癌);乳がん;浸潤性乳管癌、または神経皮膚障害;(例えば、中皮腫、胸膜中皮腫、胸膜類上皮中皮腫(pleural epithelioid mesothelioma)、皮膚黒色腫、尿路のがん、甲状腺がん、甲状腺未分化がん、胃がん、神経鞘腫、腎細胞癌、乳頭状腎細胞癌、下垂体のがん、卵巣がん、髄膜腫、黒色腫、肺がん(例えば、扁平上皮癌、混合型肺がん、肺腺癌)、肝臓がん、大腸がん、肝細胞癌、急性骨髄性白血病(AML)、気道消化管のがん(扁平上皮癌)、膀胱がん、膀胱尿路上皮癌、骨がん(例えば、骨の肉腫)、結腸直腸癌、上衣腫、結腸直腸癌、結腸直腸腺癌、膵臓腺癌、子宮内膜(混合型腺扁平上皮癌)、子宮内膜類子宮内膜癌(endometrial endometrioid adenocarcinoma)、または神経膠腫、または従来の多形膠芽腫である。いくつかの実施形態において、上記障害は、白内障、網膜剥離、眼の神経への損傷、乳頭浮腫(視神経乳頭浮腫)、眼性片頭痛(網膜性片頭痛)、網膜色素変性症(RP)(網膜変性)、網膜およびRPEの混合性過誤腫、網膜微細動脈瘤、網膜前膜結膜炎、フィジオペディア(重症ドライアイ)、眼振-動揺視(眼球粗動/交叉)、複視(diplopia)(複視(double vision))、または注視誘発性耳鳴り(GET)である。
【0148】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a(1つの、ある)」、「1つの、ある(an)」および「the(上記、この、その)」は、文脈が別段明らかに規定しなければ、複数形への言及を含む。
【0149】
本明細書で使用される場合、用語「含む、包含する(comprise)」、「有する(have)」、「有する(has)」および「含む、包含する、が挙げられる(include)」およびそれらの縁語は、本明細書で使用される場合、「が挙げられるが、これらに限定されない(including but not limited to)」を意味する。種々の組成物、および方法が、種々の構成要素または工程を「含む」という用語で記載される(「が挙げられるが、これらに限定されない」を意味すると解釈される)が、その組成物、方法、およびデバイスは、その種々の構成要素および工程「から本質的になる(consist essentially of)」または「からなる(consist of)」こともでき、このような用語法は、本質的に閉じたメンバーの群を定義すると解釈されるべきである。
【0150】
用語「共投与(co-administration)」などは、選択された治療剤を1名の患者に投与することを包含することを意味し、上記薬剤が同じもしくは異なる投与経路によって、または同時にもしくは異なる時に投与される処置レジメンを含むことが意図される。
【0151】
用語「被験体」または「患者」とは、本明細書で使用される場合、ヒトおよび非ヒト脊椎動物(例えば、野生動物、飼い慣らされた動物、および農場動物(farm animal))が挙げられるが、これらに限定されない。ある特定の実施形態において、本明細書で記載される被験体または患者は、動物である。ある特定の実施形態において、上記被験体または患者は、哺乳動物である。ある特定の実施形態において、上記被験体は、ヒトである。ある特定の実施形態において、上記被験体または患者は、非ヒト動物である。ある特定の実施形態において、上記被験体または患者は、非ヒト哺乳動物である。ある特定の実施形態において、上記被験体または患者は、飼い慣らされた動物(例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、またはヤギ)である。ある特定の実施形態において、上記被験体または患者は、コンパニオンアニマル(例えば、イヌまたはネコ)である。ある特定の実施形態において、上記被験体または患者は、家畜(例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、またはヤギ)である。ある特定の実施形態において、上記被験体または患者は、動物園の動物である。別の実施形態において、上記被験体または患者は、研究用動物(例えば、齧歯類、イヌ、または非ヒト霊長類)である。ある特定の実施形態において、上記被験体または患者は、非ヒトトランスジェニック動物(例えば、トランスジェニックマウスまたはトランスジェニックブタ)である。
【0152】
用語「処置する(treat)」、「処置される(treated)」または「処置すること(treating)」とは、本明細書で使用される場合、治療的処置および予防的もしくは防止的手段の両方に言及し、ここでその目的は、望ましくない生理学的状態、障害もしくは疾患を阻害すること、防止することまたは遅らせる(減らす)こと、または有益なもしくは望ましい臨床結果を改善すること、阻害すること、または別の点で得ることである。本発明の目的に関して、有益なまたは望ましい臨床結果としては、症状の改善もしくは軽減;上記状態、障害もしくは疾患の程度の減少;上記状態、障害もしくは疾患の状況の安定化(すなわち、増悪しない);上記状態、障害もしくは疾患の発症の遅延または進行の減速;上記状態、障害もしくは疾患の状況の改善;検出可能であろうと検出不能であろうと寛解(部分的であろうと完全であろうと)、または上記状態、障害もしくは疾患の改善の増強;および障害もしくは疾患発現の防止が挙げられるが、これらに限定されない。処置は、過剰なレベルの副作用がない臨床上顕著な応答を誘発することを含む。処置はまた、処置を受けていない場合の予測生存と比較して、生存を長くすることを含む。
【0153】
「コードする」とは、ヌクレオチド(すなわち、rRNA、tRNAおよびmRNA)の規定された配列またはアミノ酸の規定された配列のいずれかを有する生物学的プロセスにおける他のポリマーおよび高分子の合成のテンプレートとして働くポリヌクレオチド(例えば、遺伝子、cDNA、またはmRNAもしくはウイルスRNA)中のヌクレオチドの具体的配列の固有の特性、およびそこから生じる生物学的特性に言及する。従って、遺伝子は、その遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳が、細胞または他の生物学的システムにおいてタンパク質を生成する場合に、タンパク質をコードする。コード鎖(そのヌクレオチド配列はmRNA配列と同一であり、通常は、配列表中に提供される)および非コード鎖(遺伝子またはcDNAの転写のためのテンプレートとして使用される)の両方が、その遺伝子またはcDNAのタンパク質または他の生成物をコードするといわれ得る。
【0154】
本明細書で使用される場合、「内因性」とは、生物、細胞、組織またはシステムに由来するかまたはその内部で生成される任意の物質に言及する。
【0155】
本明細書で使用される場合、用語「外因性」とは、生物、細胞、組織またはシステムから導入されるかまたはその外部で生成される任意の物質に言及する。
【0156】
用語「発現」とは、本明細書で使用される場合、そのプロモーターによって駆動される特定のヌクレオチド配列の転写および/または翻訳として定義される。
【0157】
「発現ベクター」とは、発現されるべきヌクレオチド配列に作動可能に連結される発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターに言及する。発現ベクターは、発現のために十分なシスで作用するエレメントを含み;発現のための他のエレメントは、宿主細胞によって、またはインビトロ発現システムの中で供給され得る。発現ベクターは、当該分野で公知の全てのものを含む(例えば、上記組換えポリヌクレオチドを組み込むコスミド、プラスミド(例えば、裸であるか、またはリポソーム中に含まれる)およびウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス))。いくつかの実施形態において、上記発現ベクターは、本明細書で記載されるとおりのアルファウイルスである。
【0158】
疾患の防止、処置または改善: 疾患を「防止すること(preventing)」とは、疾患の完全な発生を阻害することをいう。「処置すること(treating)」とは、疾患または病的状態が発生し始めた後のその徴候または症状を改善する治療介入に言及する。「改善すること(ameliorating)」とは、疾患の徴候または症状の数または重篤度の低減に言及する。
【0159】
患者への投与のための製剤および経路
臨床適用または方法が企図される場合、それは、意図した適用に適した形態において、薬学的組成物--発現構築物、ウイルス、発現ベクター、融合されたタンパク質、トランスフェクトされたかまたは形質導入された細胞を調製することが必要である。一般に、これは、本明細書で提供されるウイルスまたはプラスミド、およびヒトまたは動物に有害であり得る他の不純物を除いて、発熱物質を本質的に含まない組成物を調製することを必然的に伴う。
【0160】
上記組換え核酸、ウイルス生成物またはそれらの薬学的組成物は、例えば、1用量あたり約100万~500万個の粒子の用量で送達され得る。上記生成物を、例えば、約0.25ml~約10ml(例えば、約0.25ml、0.5ml、1ml、1.5ml、2ml、2.5ml、3ml、3.5ml、4ml、4.5ml、5ml、5.5ml、6ml、6.5ml、7ml、7.5ml、8ml、8.5ml、9ml、9.5ml、または10ml(例えば、約2ml))の1バイアルあたりの容積を含むバイアルまたは他の容器が、提供され得る。
【0161】
一般に、組換え核酸、ウイルス、またはウイルス生成物が患者に導入される場合に、適切な塩および緩衝液を使用することは望ましいことであり得る。語句「薬学的にまたは薬理学的に受容可能な」とは、動物またはヒトに投与される場合に、顕著に有害な、アレルギー性の、または他の不都合な反応を生じない分子実体および組成物に言及する。薬学的に受容可能なキャリアとしては、任意のおよび全ての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張化剤および吸収遅延剤などが挙げられる。薬学的に活性な物質のためにこのような媒体および薬剤を使用することは、公知である。任意の従来の媒体または薬剤が上記ベクターまたは細胞と不適合である場合を除いて、治療用組成物におけるその使用が企図される。補助的な活性成分はまた、上記組成物に組みこまれ得る。
【0162】
製剤化の際に、溶液は、投与製剤と適合性の様式においてかつ治療上有効であるような量において投与され得る。上記製剤は、種々の投与形態(例えば、注射用液剤、薬物放出カプセルなど)において容易に投与され得る。水性液剤での非経口的投与に関しては、例えば、上記液剤は、必要であれば適切に緩衝化され得、液体希釈剤が先ず十分な食塩水またはグルコースで等張性にされ得る。これらの特定の水性液剤は、特に、静脈内、筋肉内、皮下および腹腔内投与に適している。これに関連して、滅菌水性媒体が使用され得る。例えば、1投与量は、1mlの等張性NaCl溶液中に溶解され得、1000mlの皮下注入流体へと添加されるかまたは提唱される注入部位において注射されるかのいずれかであり得る(例えば、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」 第15版、第1035~1038ページおよび第1570~1580ページを参照のこと)。投与量のいくらかの変動は、処置されている上記被験体の状態に依存して必然的に起こる。投与に責任のある人は、いずれにしても、個々の被験体に適切な用量を決定する。さらに、ヒト投与に関しては、調製物は、FDA Office of Biologics standardsによって要求される無菌性、発熱性、および一般的な安全性および純度の標準を満たし得る。
【0163】
上記組成物は、被験体へのエアロゾル化送達のために製剤化され得る。エアロゾル送達に関しては、記載される組成物は、水性溶液(例えば、水)中、または生理学的に適合性の緩衝液(例えば、ハンクス溶液、リンゲル液、または生理食塩緩衝液)中で製剤化され得る。上記溶液は、1種またはこれより多くの製剤用薬剤(formulatory agent)(例えば、懸濁剤、安定化剤または分散剤)を含み得る。
【0164】
本開示のポリヌクレオチドを被験体の所望の細胞に送達する本開示の送達システムは、本開示のウイルスであるが、これに限定されない。いくつかの実施形態において、上記送達ベクターは、本明細書で提供されるとおりのウイルスを含む。これらは、障害または状態(例えば、本明細書で記載されるもの)を処置する方法において使用され得る。
【0165】
いくつかの実施形態において、上記治療剤は、少なくとも6ヶ月ごと、9ヶ月ごと、12ヶ月ごと、15ヶ月ごと、18ヶ月ごと、21ヶ月ごと、2年ごと、3年ごと、4年ごと、5年ごと、6年ごと、またはより長い期間ごとに投与される。いくつかの実施形態において、上記治療剤は、静脈内に、皮内に、皮下に、脳室内、大槽内、または腰部への注射を含む髄腔内に、大槽内に、胸膜腔内に、硝子体内に、網膜下に、筋肉内に、全身に、または局所に(例えば、腫瘍内注射)投与される。
【0166】
キット
さらに、これらの組換え核酸、ウイルス、またはこれらの薬学的組成物のある特定の構成要素または実施形態は、キットの中で提供され得る。例えば、上記組換え核酸、またはウイルスのいずれかは、凍結または冷蔵され、キットとして、単独でまたはコンディショニング前工程もしくはコンディショニング後工程からの他の薬剤のうちのいずれかの別個の容器、および使用についての必要に応じた指示とともにパッケージされて提供され得る。
【0167】
いくつかの実施形態はまた、キット中の前述の組成物のうちのいずれかに関する。いくつかの実施形態において、上記キットは、アンプル、使い捨てシリンジ、カプセル、バイアル、チューブなどを含み得る。いくつかの実施形態において、上記キットは、本明細書中の実施形態の局所製剤を含む単回用量容器または複数回用量容器を含み得る。いくつかの実施形態において、各用量容器は、1またはこれより多くの単位用量を含み得る。いくつかの実施形態において、上記キットは、薬学的組成物を含むプレフィルドシリンジを含む。いくつかの実施形態において、上記キットは、アプリケーターを含み得る。いくつかの実施形態において、上記キットは、コンディショニング/処置の段階に必要とされる全ての構成要素を含む。いくつかの実施形態において、上記細胞性組成物は、保存剤を有していてもよいし、保存剤非含有であってもよい(例えば、単回使用容器中で)。いくつかの実施形態において、上記組換え核酸、ウイルス生成物は、調製され得、病院または処置施設への輸送に適した所望の段階で凍結または冷蔵され得る。
【0168】
種々の配列が、本明細書で言及され、このような配列は、適用可能である場合、以下のうちの1またはこれより多くのものを含み得る:
MERLINアイソフォーム1(配列番号1):
【化1】
MELRINアイソフォーム1をコードする核酸配列(配列番号2)
【化2】
AAV9カプシド(配列番号3)
【化3】
【化4】
代替のITRとして使用され得る左側-ITR配列は、pAV-CAG-Merlin内の本来のフラグメントを置き換える(配列番号4)
【化5】
HPREフラグメント(配列番号5)
【化6】
pAV-CAG-Merlin-V2構築物中でスタッファー配列として使用され得るHPRT1イントロン1 DNA配列(配列番号6)
【化7】
pAAV2_CAG_Merlin_Kan、DNAベクター(配列番号7)
【化8】
【化9】
【化10】
MERLINアイソフォーム2タンパク質(配列番号8):
【化11】
MERLINアイソフォーム2コード領域(配列番号9):
【化12】
【化13】
【0169】
上記実施形態は、種々の好ましい実施形態に関して記載されてきたが、これらに限定されることは意図されるのではなく、むしろ当業者は、バリエーションおよび改変が、上記実施形態の趣旨および添付の特許請求の範囲の範囲内で、その中で行われ得ることを認識する。
【実施例
【0170】
実施例
【0171】
実施例1.
【0172】
Merlinアイソフォーム1をコードするAAVデザイン
Merlinアイソフォーム1をコードするAAVベクターを生成するためのAAVプラスミドを、デザインした。導入遺伝子を、KpnIおよびXhoI部位においてpAV-ACG(Vigene Biosciences)へとサブクローニングした。その全体のAAVゲノム(ITRを除く)を配列確認した。
【0173】
Merlinの配列は、以下のとおりである:
【化14】
【0174】
上記ベクター中に提供されるヌクレオチド配列は、単に例証であり、遺伝コードの縮重に起因して、上記Merlinタンパク質をコードするために他のヌクレオチド配列が使用され得る。本実施例では、以下のヌクレオチド配列を使用して、上記Merlinタンパク質をコードし得る(終止コドンは示されていない)。
【化15】
さらに、本実施例、および以下の実施例は、Merlinのアイソフォーム1の使用を例証するが、Merlinのアイソフォーム2がまた、その代わりに使用され得る。
【0175】
実施例2: ベクターはMerlinタンパク質を発現し得る
【0176】
AAV9ベクターを使用して、HEK293細胞を形質導入した。上記ベクターは、図1または図2に示されるプラスミドに基づき得る。上記AAV9ベクターは、Merlinタンパク質をコードする導入遺伝子を含んだ。上記細胞を、Merlinタンパク質の発現に関して分析し、検出した。これらの結果を、図3に図示する。これは、上記タンパク質の発現を検出するウェスタンブロットを示す。
【0177】
実施例3. NF2を処置するためのMerlinのウイルス送達
【0178】
通常の(野生型)NF2(Merlin)をコードするアデノ随伴ウイルス(AAV)を、NF2に罹患している患者の中枢神経系(CNS)へと投与する。上記AAVを、髄腔内注射によって投与するが、多数回の腫瘍内注射によって、脳室内に、または静脈内に投与することも可能である。CNSにおけるMerlinの発現は、腫瘍進行を停止させる、および/または腫瘍退縮をもたらす。上記AAVは、上記AAV カプシド、および構成的プロモーターに作動可能に接続されたNF2導入遺伝子を含む。上記AAVは、AAV-DJに基づく(Grimm D, et al. (2008) In vitro and in vivo gene therapy vector evolution via multispecies interbreeding and retargeting of adeno-associated viruses. J Virol. 82:5887-911.) or AAV-9 (Gao G. et al. (2004) Clades of Adeno-associated viruses are widely disseminated in human tissues. J Virol. 78:6381-8; Hocquemiller, M. et al. (2016) Adeno-Associated Virus-Based Gene Therapy for CNS Diseases. Hum Gene Ther. 7:478-496)。上記構成的プロモーターは、CAGである(Fitzsimonsら,(2002) Promoters and regulatory elements that improve adeno-associated virus transgene expression in the brain. Methods 28:227-36.)。いかなる特定の理論にも拘束されないが、このプロモーターの使用は、上記導入遺伝子が大部分の細胞において構成的に発現されることを可能にする。しかし、組織特異的プロモーターを使用することもできる。上記NF2導入遺伝子は、ヒト配列最適化神経線維腫症2型(NF2)遺伝子であり、これはまた、「h-soNF2」ともいわれ得る。使用されているNF2のアイソフォームは、最長(595アミノ酸)であるが、他のアイソフォーム、またはその活性フラグメントをその代わりに使用することもできる。
【0179】
実施例4. NF2の発現は、NF2トランスジェニックマウスにおける脊髄神経鞘腫を、およびヌード(SCID)マウスにおける髄膜腫異種移植片を低減する。 実施例1のAAVを、脊髄神経鞘腫を有する成体トランスジェニックNF2マウスまたは髄膜腫異種移植片を有するヌードマウスの髄腔内に送達する。上記マウスをモニターし、次いで、屠殺の際に、腫瘍細胞ならびに正常のシュワン細胞およびくも膜細胞を採取する。全長ヒトmerlinの存在を、ウェスタンブロットを介して確認する。腫瘍の容積測定を行い、腫瘍負荷が低減されていることが見出される。
【0180】
実施例5. AAV-NF2は、神経線維腫症2型の細胞培養モデルにおいて機能的である。 最初に、実施例1のAAVを使用して、merlin遺伝子を細胞に送達する。上記遺伝子は、機能的であり、上記Merlinタンパク質を生成する。上記AAVで送達した導入遺伝子からのヒトmerlin生成を、ヒトmerlin特異的抗体を使用するウェスタンブロット法によって評価する。上記細胞株は、例えば、RT4ラット神経鞘腫細胞株であり得る。コロニー形成アッセイを同様に行い、上記AAV-NF2は、軟寒天アッセイにおいてコロニー形成を低減させることが見出される。
【0181】
実施例6. pAV-CAG-Merlin-V2は、改善されたAAV遺伝子治療プラスミドである。
【0182】
pAV-CAG-Merlin-V2を、図1および図2に示されるとおりの本来のMerlin構築物(pAV-CAG-Merlin)における配列エレメントを改変することによって生成した。そのクローニングストラテジーは、本来のMerlin構築物におけるヌクレオチド位置に基づく。pAV-CAG-Merlin-V2は、6892塩基対(bp)のサイズを有する組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)DNAプラスミドである(図2)。これは、AAV血清型2(AAV2)に由来する逆位末端反復配列(ITR)およびMerlinタンパク質を発現する導入遺伝子カセットを含む。pAV-CAG-Merlin-V2において、その左側-ITRを、スタッファー配列を含むように改変する。この配列を使用して、最適なAAVパッケージング効率を付与し得る。HPRE配列を、導入遺伝子発現を促進するために、上記Merlinタンパク質をコードする配列の下流に挿入する。上記ベクターを、組換えAAV生成において使用されるDNA生成物を製造しやすくするために、カナマイシン耐性遺伝子を含むように改変した。
【0183】
発現カセットは、コドン最適化したMerlinタンパク質をコードする配列に連結したCAGプロモーター、続いて、B型肝炎ウイルスの転写後調節エレメント(HPRE)、次に転写終結SV40ポリアデニル化(SV40-ポリA)配列から構成される。いかなる特定の理論にも拘束されないが、上記HPREエレメントは、イントロンのない転写物の細胞質局在を容易にし、より高い遺伝子発現に寄与する、シスで作用する配列である。さらに、ヒポキサンチンホスホ-リボシル-トランスフェラーゼ1(HPRT1)遺伝子のイントロン1領域に由来する400bp スタッファー配列を、左側ITRの下流かつ上記CAGプロモーターの上流に挿入して、AAVパッケージングサイズを4487bpへと拡げる。カナマイシン耐性遺伝子(KanR)を、選択マーカーとして上記プラスミド骨格の中に含める。
【0184】
プラスミドを生成して、AAVパッケージング効率を増大させるために、左側ITR配列を改変し得る。左側ITRは、以下を含み得る:
【化16】
【0185】
任意の人工的なタグ(例えば、ヒスチジンタグまたはFLAGタグ)を除去するベクターを作製した。遺伝子治療ベクターによって運ばれる導入遺伝子は、大抵はイントロン配列を欠いている。イントロンのない転写物は、安定性が低く、核の内部に蓄積する傾向にある可能性がある。B型肝炎ウイルスの転写後調節エレメント(PRE)(HPRE)は、核から細胞質へのmRNA移出を促進し、3’末端プロセシングおよび安定性を高めることによって、イントロンのない遺伝子の細胞質mRNAの蓄積を増大させ得る。従って、HPREエレメントを、上記組換えMerlin転写物に付加して、導入遺伝子mRNA安定性および導入遺伝子発現を改善する。上記HPREフラグメントを合成し、XhoI部位(2906)とEcoRV部位(3000)との間に挿入する。B型肝炎ウイルスの転写後調節エレメント(PRE)(HPRE)は、以下のとおりであり得る:
【化17】
【0186】
スタッファー配列を、上記構築物の5’末端においてCAGプロモーターの前に挿入する。AAVベクターの最適なパッケージングサイズは、4.1~4.9kbである(Griegerら. 2005)。本来のMerlin構築物のパッケージングサイズは、ちょうど3.5kbであった。上記AAVベクターパッケージングサイズを増大させるために、HPRT1遺伝子のイントロン1領域に由来する400bpスタッファー配列を、左側ITR配列の下流かつCAGプロモーター配列の上流に挿入する。この配列付加があると、上記AAVは、上記AAVカプシドへの効率的パッケージングを促進するために増大される。HPRT1イントロン1配列を、スタッファー配列として使用するが、他のスタッファー配列を使用することもできる: 上記スタッファー配列は、以下のとおりであり得る:
【化18】
【0187】
実施例7. カニクイザルにおいてAAVベクターから小脳で発現されるMerlin
【0188】
カニクイザルの大槽内(ICM)に与えられる場合に、神経線維腫症2型(NF2)の処置に関して、AAV9-CAG-Merlin-v2およびAAV9-CAG-eGFPの安全性および体内分布を評価する試験を行った。さらなる目的は、導入遺伝子送達、ならびに目的の領域のシュワン細胞、くも膜細胞、および上衣細胞における上記ベクターの各々からの発現を確認することであった。各収集した組織の切片を、緑色蛍光タンパク質(GFP;ウサギ抗GFP)に関して(免疫染色を介して)分析した。各組織サンプルのスキャンを、GFPの免疫染色および免疫蛍光のために準備した。図4は、ICM投与によってAAV9-CAG-eGFPを投与したカニクイザルの小脳におけるeGFPの体内分布の免疫組織化学画像を示す。代理生体マーカー体内分布を使用するこれらのデータは、ICM投与経路によって提供されるAAV9ベクターが、適切な組織においてタンパク質を発現し得ること、そしておそらくMerlinタンパク質を発現するAAV9ベクターが正常なmerlin機能を回復させ得るという証拠を提供し得ることを明らかに示す。eGFP発現を、Merlin発現に関する代理マーカーとして使用した。なぜなら動物は、天然のMerlinタンパク質(これは上記AAV9ベクターから発現されるmerlinから識別可能ではなかった)を発現するからである。
【0189】
実施例8. AAV9-CAG-Merlin v2を投与したNF2ノックアウトマウスにおいて、AAV9-CAG-GFPで処置したマウスと比べてシュワン細胞の密度の低減が存在した。
【0190】
Postn-Cre;Nf2flox/floxマウスの大槽(ICM)に、5μLまたは10μLの試験物品(AAV9-CAG-MerlinまたはAAV9-CAG-Merlin-v2)または陰性コントロールベクター(AAV9-CAG-GFP)を注射した。Postn-Cre;Nf2flox/floxマウスモデルにおいて、SC過形成は、NF2を有するヒトにおいて観察されるものに類似して、Postn-Cre;Nf2flox/floxマウスの後根神経節(DRG)において観察される。6ヶ月齢において、Postn-Cre;Nf2flox/floxマウスは、コントロールマウスと比較して、DRGにおいて顕著に増大したSC数(SC過形成および神経鞘腫の多発小腫瘍)を有する。Periostin-Cre:NF2flox/floxマウスを、NF2flox/floxマウスと交配した。
【0191】
試験デザイン:
【表1】
【0192】
群1a: 4× 1ヶ月齢の仔に、AAV9-CAG-GFP(低用量コントロール、5.6 E12 vg/kg)を注射した
【0193】
群1b: 4× 1ヶ月齢の仔に、AAV9-CAG-GFP(高用量コントロール、4 E13 vg/kg)を注射した
【0194】
群2a: 10× 1ヶ月齢の仔に、AAV9-CAG-Merlin v1(低用量、5.6 E12 vg/kg)を注射した
【0195】
群2b: 10× 1ヶ月齢の仔に、AAV9-CAG-Merlin v2(高用量 7 E13 vg/kg)を注射した
【0196】
群3: 5× 1ヶ月齢の仔に、AAV-GFP(低用量コントロール、5.6 E12 vg/kg)を注射し、組織分布を分析するために注射後4週間で屠殺した。
【0197】
投与後に、マウスを、5ヶ月間(群1a、1b、2a、2b)、または4週間(群3)観察した。2匹の群1bマウス(AAV9-CAG-GFP)を、過度な体重減少に起因して、それぞれ22日後および50日後に屠殺した。投与後観察期間の後に、マウスをさらなる分析のために屠殺した。AAV9-CAG-Merlinの抗増殖活性を評価するために、後根神経節(DRG)組織学切片におけるシュワン細胞(SC)の数を、SC核の数/μmおよびAAV9-CAG-GFPを注射したコントロールと比べたAAV9-CAG-Merlinを注射したマウスについての値の統計分析によって測定した。GFP抗体での免疫組織化学を使用して、AAV-GFP発現および組織分布(群3)、ならびに6ヶ月でのAAV-GFP発現の持続(群2)を分析した。
【0198】
上記AAV9-CAG-merlin構築物の体内分布の代理として、AAV9-CAG-eGFP構築物(ここでMerlin導入遺伝子は、代理生体マーカータンパク質で置き換えられる)を開発した。この構築物からのeGFP発現は、上記Merlin構築物で形質導入した類似組織の予測される体内分布と相関することが予測された。eGFPの顕著な体内分布が、図5の増強型免疫蛍光顕微鏡写真において示されるように、AAV9-CAG-GFPを注射したPostn-Cre;Nf2flox/floxマウスのDRGにおいて観察される。増強型免疫蛍光分析は、ICM投与を介して低用量(群3; 5.6 E12 vg/kg)のAAV9-CAG-GFPを投与し、4週間後に屠殺したマウスの軸索細胞(シュワン細胞)を囲む上記細胞でのeGFP発現の存在を示した(図6)。DRGに対して遠位側の神経はまた、シュワン細胞でのeGFPの発現を示した(図7)。DRGの全幅の切片は、DRGの全領域にわたって分布したeGFPの発現を明らかに示した。
【0199】
AAV9-CAG-MerlinおよびAAV9-CAG-Merlin-v2の抗増殖活性を評価するために、組織の平方ミクロンあたりの核の数を、AAV9-CAG-MerlinおよびAAV9-CAG-Merlin-v2処置動物において計数し、AAV9-CAG-eGFPの陰性コントロールを投与したマウスに対して比較した。SC核の数/μmの統計的に有意な低減を、AAV9-CAG-GFPの等しい用量を投与した類似のマウスと比較して、AAV9-CAG-Merlin-v2の高用量アームにおいて観察した。SC核の数/μmにおけるわずかな低減(統計的有意ではない)を、AAV9-CAG-GFPと比較して、AAV9-CAG-Merlin v2の低用量アームにおいて観察した。図8は、AAV9-CAG-GFPを注射したコントロールと比較して、AAV9-CAG-Merlin投与の5ヶ月後に6ヶ月齢のPostn-Cre;Nf2flox/floxマウスのDRGの切片においてシュワン細胞(SC)核の密度(核/μm)の有意な低減を示す。
【0200】
本出願において引用される全ての文献および類似の資料(特許、特許出願、論文、書籍、条約、およびウェブページが挙げられるが、これらに限定されない)は、このような文献および類似の資料の形式にかかわらず、それらの全体において明示的に参考として援用される。援用される文献および類似の資料のうちの1またはこれより多くのものが、本出願(定義された用語、用語の使用法、記載される技術などが挙げられるが、これらに限定されない)とは異なるまたは矛盾する場合には、本出願が優先する。
【0201】
組成物、方法などは、種々の実施形態および例とともに記載されてきたが、それらがこのような実施形態および例に限定されることは意図されない。逆に、本開示は、当業者によって理解されるように、種々の代替、改変、および均等物を包含する。
【0202】
組成物および方法は、具体的で例証的な非限定的な実施形態を参照しながら示され、記載されてきたが、形態および詳細における種々の変更が、本開示の趣旨および範囲から逸脱することなく行われ得ることは、理解されるべきである。従って、本開示の範囲および趣旨の範囲内に入る全ての実施形態、ならびにそれらに対する均等物は、特許請求されることが意図される。本開示の組成物、方法、システム、およびアッセイの請求項、説明および図は、その効果に対して別段述べられなければ、要素の記載される順序に限定されると読まれるべきではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】