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特表2024-520854IDH阻害剤耐性の対象を治療する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】IDH阻害剤耐性の対象を治療する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/5365 20060101AFI20240517BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240517BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240517BHJP
   A61K 31/53 20060101ALI20240517BHJP
   C07D 498/04 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
A61K31/5365
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61K31/53
C07D498/04 111
C07D498/04 CSP
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023576219
(86)(22)【出願日】2022-06-09
(85)【翻訳文提出日】2024-02-09
(86)【国際出願番号】 US2022032774
(87)【国際公開番号】W WO2022261279
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】63/208,625
(32)【優先日】2021-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】594197872
【氏名又は名称】イーライ リリー アンド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【弁理士】
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【弁理士】
【氏名又は名称】呉 英燦
(72)【発明者】
【氏名】ブルックス,ネイサン アーサー
(72)【発明者】
【氏名】ギルモア,レイモンド
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC64
4C086CB22
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、本明細書に開示の変異イソクエン酸デヒドロゲナーゼ阻害剤によるヒトがん対象の治療に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんを治療する方法であって、治療上の有効量の式:
【化1】
[式中:
は、-CHCH(CH、-CHCH、-CHCHOCH、または-CH-シクロプロピルであり;
は、-CHまたは-CHCHであり;ならびに
Xは、NまたはCHである]
で示される化合物またはその医薬的に許容される塩を、IDH2 R140変異またはIDH2 R172変異、および1つまたはそれ以上の第2のIDH2変異を有するヒトがん対象に投与することを含む、方法。
【請求項2】
Xが、Nである、前記化合物またはその医薬的に許容される塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Xが、Nであり、Rが、-CH-シクロプロピルであり、ならびにRが、-CHCHである、前記化合物またはその医薬的に許容される塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
7-[[(1S)-1-[4-[(1R)-2-シクロプロピル-1-(4-プロパ-2-エノイルピペラジン1-イル)エチル]フェニル]エチル]アミノ]-1-エチル-4H-ピリミド[4,5-d][1,3]オキサジン-2-オン;
7-[[(1S)-1-[4-[(1S)-2-シクロプロピル-1-(4-プロパ-2-エノイルピペラジン1-イル)エチル]フェニル]エチル]アミノ]-1-エチル-4H-ピリミド[4,5-d][1,3]オキサジン-2-オン;または
1-エチル-7-[[(1S)-1-[4-[1-(4-プロパ-2-エノイルピペラジン1-イル)プロピル]フェニル]エチル]アミノ]-4H-ピリミド[4,5-d][1,3]オキサジン-2-オン
である、前記化合物またはその医薬的に許容される塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
【化2】
で示される、前記化合物またはその塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
【化3】
で示される、前記化合物である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記がんが、固形腫瘍がんである、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記固形腫瘍がんが、胆管がん、頭頸部がん、軟骨肉腫、肝細胞がん、メラノーマ、膵臓がん、星細胞腫、乏突起神経膠腫、神経膠腫、膠芽腫、膀胱がん、大腸がん、肺がん、または鼻副鼻腔未分化がんである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記固形腫瘍がんが、胆管がんである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記化合物が、
【化4】
で示され、前記がんが、胆管がんである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記がんが、血液悪性腫瘍である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記血液悪性腫瘍が、急性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、骨髄増殖性腫瘍、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、T細胞急性リンパ芽球性白血病、真性多血症、本態性血小板血症、原発性骨髄線維症、または慢性骨髄性白血病である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記血液悪性腫瘍が、急性骨髄性白血病である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記化合物が、
【化5】
で示され、前記がんが、急性骨髄性白血病である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記ヒトがん対象が、IDH2 R140変異を有する、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記ヒトがん対象が、IDH2 R172変異を有する、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記1つまたはそれ以上の第2のIDH2変異が、Q316E、I319M、P167R、またはG260Aのうちの1つまたはそれ以上である、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記1つまたはそれ以上の第2のIDH2変異が、Q316EまたはI319Mのうちの1つまたはそれ以上である、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記ヒト対象が、式:
【化6】
[式中:
は、-CHCH(CH、-CHCH、-CHCHOCH、または-CH-シクロプロピルであり;
は、-CHまたは-CHCHであり;ならびに
Xは、NまたはCHである]
で示される化合物またはその医薬的に許容される塩以外のIDH2阻害剤で治療されている、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記ヒト対象が、エナシデニブで治療されている、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
IDH2 R140変異またはIDH2 R172変異、および1つまたはそれ以上の第2のIDH2変異を有するヒト対象においてがんの治療に使用するための、式:
【化7】
[式中:
は、-CHCH(CH、-CHCH、-CHCHOCH、または-CH-シクロプロピルであり;
は、-CHまたは-CHCHであり;ならびに
Xは、NまたはCHである]
で示される化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項22】
Xが、Nである、前記化合物またはその医薬的に許容される塩である、請求項21に記載の使用のための化合物。
【請求項23】
が、-CH-シクロプロピルである、前記化合物またはその医薬的に許容される塩である、請求項21または22に記載の使用のための化合物。
【請求項24】
が、-CHCHである、前記化合物またはその医薬的に許容される塩である、請求項21~23のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項25】
7-[[(1S)-1-[4-[(1R)-2-シクロプロピル-1-(4-プロパ-2-エノイルピペラジン1-イル)エチル]フェニル]エチル]アミノ]-1-エチル-4H-ピリミド[4,5-d][1,3]オキサジン-2-オン;
7-[[(1S)-1-[4-[(1S)-2-シクロプロピル-1-(4-プロパ-2-エノイルピペラジン1-イル)エチル]フェニル]エチル]アミノ]-1-エチル-4H-ピリミド[4,5-d][1,3]オキサジン-2-オン;または
1-エチル-7-[[(1S)-1-[4-[1-(4-プロパ-2-エノイルピペラジン1-イル)プロピル]フェニル]エチル]アミノ]-4H-ピリミド[4,5-d][1,3]オキサジン-2-オン
である、前記化合物またはその医薬的に許容される塩である、請求項21に記載の使用のための化合物。
【請求項26】
【化8】
で示される、前記化合物またはその医薬的に許容される塩である、請求項21に記載の使用のための化合物。
【請求項27】
【化9】
で示される、請求項26に記載の使用のための化合物。
【請求項28】
前記1つまたはそれ以上の第2のIDH2変異が、Q316E、I319M、P167R、またはG260Aのうちの1つまたはそれ以上である、請求項21~27のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項29】
前記1つまたはそれ以上の第2のIDH2変異が、Q316EまたはI319Mのうちの1つまたはそれ以上である、請求項21~27のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項30】
前記がんが、固形腫瘍がんである、請求項21~29のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項31】
前記固形腫瘍がんが、胆管がん、頭頸部がん、軟骨肉腫、肝細胞がん、メラノーマ、膵臓がん、星細胞腫、乏突起神経膠腫、神経膠腫、膠芽腫、膀胱がん、大腸がん、肺がん、または鼻副鼻腔未分化がんである、請求項30に記載の使用のための化合物。
【請求項32】
前記固形腫瘍がんが、胆管がんである、請求項31に記載の使用のための化合物。
【請求項33】
前記がんが、血液悪性腫瘍である、請求項21~29のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項34】
前記血液悪性腫瘍が、急性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、骨髄増殖性腫瘍、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、T細胞急性リンパ芽球性白血病、真性多血症、本態性血小板血症、原発性骨髄線維症、または慢性骨髄性白血病である、請求項33に記載の使用のための化合物。
【請求項35】
前記血液悪性腫瘍が、急性骨髄性白血病である、請求項34に記載の使用のための化合物。
【請求項36】
前記対象が、式:
【化10】
[式中:
は、-CHCH(CH、-CHCH、-CHCHOCH、または-CH-シクロプロピルであり;
は、-CHまたは-CHCHであり;ならびに
Xは、NまたはCHである]
で示される化合物またはその医薬的に許容される塩以外の変異IDH2阻害剤で治療されている、請求項21~35のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項37】
前記対象が、エナシデニブで治療されている、請求項36に記載の使用のための化合物。
【請求項38】
IDH2 R140変異またはIDH2 R172変異、および1つまたはそれ以上の第2のIDH2変異を有するヒト対象においてがんの治療剤の製造における、式:
【化11】
[式中:
は、-CHCH(CH、-CHCH、-CHCHOCH、または-CH-シクロプロピルであり;
は、-CHまたは-CHCHであり;ならびに
Xは、NまたはCHである]
で示される、化合物または医薬的に許容される塩の使用。
【請求項39】
Xが、Nである、前記化合物またはその医薬的に許容される塩である、請求項38に記載の使用。
【請求項40】
が、-CH-シクロプロピルである化合物またはその医薬的に許容される塩である、請求項38または39に記載の使用。
【請求項41】
が、-CHCHである、前記化合物またはその医薬的に許容される塩である、請求項38~40のいずれか1項に記載の使用。
【請求項42】
7-[[(1S)-1-[4-[(1R)-2-シクロプロピル-1-(4-プロパ-2-エノイルピペラジン1-イル)エチル]フェニル]エチル]アミノ]-1-エチル-4H-ピリミド[4,5-d][1,3]オキサジン-2-オン;
7-[[(1S)-1-[4-[(1S)-2-シクロプロピル-1-(4-プロパ-2-エノイルピペラジン1-イル)エチル]フェニル]エチル]アミノ]-1-エチル-4H-ピリミド[4,5-d][1,3]オキサジン-2-オン;または
1-エチル-7-[[(1S)-1-[4-[1-(4-プロパ-2-エノイルピペラジン1-イル)プロピル]フェニル]エチル]アミノ]-4H-ピリミド[4,5-d][1,3]オキサジン-2-オン;
である、前記化合物またはその医薬的に許容される塩である、請求項38に記載の使用。
【請求項43】
【化12】
で示される、前記化合物またはその医薬的に許容される塩である、請求項38に記載の使用。
【請求項44】
前記化合物が、
【化13】
である、請求項43に記載の使用。
【請求項45】
前記1つまたはそれ以上の第2のIDH2変異が、Q316E、I319M、P167R、またはG260Aのうちの1つまたはそれ以上である、請求項38~44のいずれか1項に記載の使用。
【請求項46】
前記1つまたはそれ以上の第2のIDH2変異が、Q316EまたはI319Mのうちの1つまたはそれ以上である、請求項38~44のいずれか1項に記載の使用。
【請求項47】
前記がんが、固形腫瘍がんである、請求項38~46のいずれか1項に記載の使用。
【請求項48】
前記固形腫瘍がんが、胆管がん、頭頸部がん、軟骨肉腫、肝細胞がん、メラノーマ、膵臓がん、星細胞腫、乏突起神経膠腫、神経膠腫、膠芽腫、膀胱がん、大腸がん、肺がん、または鼻副鼻腔未分化がん、請求項47に記載の使用。
【請求項49】
前記固形腫瘍がんが、胆管がんである、請求項48に記載の使用。
【請求項50】
前記がんが、血液悪性腫瘍である、請求項38~46のいずれか1項に記載の使用。
【請求項51】
前記血液悪性腫瘍が、急性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、骨髄増殖性腫瘍、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、T細胞急性リンパ芽球性白血病、真性多血症、本態性血小板血症、原発性骨髄線維症、または慢性骨髄性白血病である、請求項50に記載の使用。
【請求項52】
前記血液悪性腫瘍が、急性骨髄性白血病である、請求項51に記載の使用。
【請求項53】
前記対象が、式:
【化14】
[式中:
は、-CHCH(CH、-CHCH、-CHCHOCH、または-CH-シクロプロピルであり;
は、-CHまたは-CHCHであり;ならびに
Xは、NまたはCHである]
で示される化合物またはその医薬的に許容される塩以外の変異IDH2阻害剤で治療されている、請求項38~52のいずれか1項に記載の使用。
【請求項54】
前記対象が、エナシデニブで治療されている、請求項53に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本明細書に開示の変異イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH)阻害剤を用いて対象における癌の治療に関する。
【0002】
IDH1およびIDH2は、イソクエン酸からα-ケトグルタル酸への変換を触媒し、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)をNADPHに還元する酵素である(Megias-Vericat J, et al., Blood Lymph. Cancer: Targets and Therapy 2019; 9: 19-32)。
【0003】
IDH1における新形態(de novo)変異(例えば、IDH1アミノ酸残基R132における変異)は、固形腫瘍がんおよび血液悪性腫瘍を含む数種類のタイプのがんにおける腫瘍形成の原因となる(Badur MG, et al., Cell Reports 2018; 25: 1680)。IDH1変異は、高レベルの2-ヒドロキシグルタル酸(2-HG)を生成して、細胞分化を阻害することができ、変異IDH1阻害剤は、2-HGレベルを減少させて、細胞分化を促進することができる(Molenaar RJ, et al., Oncogene 2018; 37: 1949-1960)。変異はまた、IDH2(例えば、アミノ酸残基R140およびR172)で生じる(Yang H, et al., Clin. Cancer. Res. 2012; 18: 5562-5571; Mondesir J, et al., J. Blood Med. 2016; 7: 171-180)。
【0004】
例えば、急性骨髄性白血病(AML)は、長期間の治療の選択圧力下において動的に進化する、多種多様な範囲の変異遺伝子と、前白血病および白血病クローンを含むマルチクローン遺伝子構造とによって特徴付けられる(Bloomfield CD, et al., Blood Revs. 2018: 32: 416-425)。
【0005】
シタラビンおよびアントラサイクリンによる導入化学療法(「7+3」)は、AMLと新たに診断された対象に対して、40年以上の間標準治療となっている。近年、下記の薬がAMLの治療についてアメリカ食品医薬品局によって承認された:ミドスタウリン、エナシデニブ、CPX-351、およびゲムツズマブ オゾガマイシン(Bloomfield CD, et al., Blood Revs. 2018; 32: 416-425)、およびイボシデニブ(Megias-Vericat J, et al., Blood Lymph. Cancer: Targets and Therapy 2019; 9: 19-32)。
【0006】
AMLに罹っている成人の約60%~70%は、適切な導入療法後に完全寛解(CR)状態に到ることを予測することができ、AMLに罹っている成人の25%以上(CRに到る患者の約45%)は、3年またはそれ以上生存することを予測することができ、治癒しうる。
【0007】
エナシデニブ結合部位における変異(IDH2-Q316EおよびIDH2-I319M)は、エナシデニブを用いて再発したIDH2変異AML患者で同定された(Intlekofer et al., "Acquired resistance to IDH inhibition through trans or cis dimer-interface mutations." Nature 559, 125-129 (2018))。前臨床試験により、エナシデニブは、もはや結合し、変異酵素を阻害することができないことが示された(Intlekofer et al., 2018)。これらは、本明細書で定義さるように、いわゆる「第2の」IDH2変異と呼ばれ、変異IDH2阻害剤による治療後に再発する原因となりうる。
【0008】
よって、特に、第2のIDH2変異が、最初の変異IDH2阻害剤治療後に生じる対象に対して、代替的な変異IDH2に関連するがん治療が必要とされている。
【0009】
一定の変異IDH1およびIDH2阻害剤は、WO2018/111707A1に開示され、(α-KG)レベルに影響を及ぼすことなく、酵素を迅速に不活性化し、2-HG生成を選択的に阻害する、アロステリック結合ポケットにおける単一システイン(Cys269)を修飾する変異IDH1のコバレント阻害剤である、「化合物A」として本明細書で定義される化合物が含まれる(WO2018/111707A1)。
【0010】
本発明は、がんを治療する方法であって、治療上有効量の式I:
【化1】

[式中:
は、-CHCH(CH、-CHCH、-CHCHOCH、または-CH-シクロプロピルであり;
は、-CHまたは-CHCHであり;ならびに
Xは、NまたはCHである]
で示される化合物またはその医薬的に許容される塩を、IDH2 R140またはIDH2 R172変異、および1つまたはそれ以上の第2のIDH2変異を有するヒトがん対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0011】
本発明の方法のある態様において、式Iの化合物において、Xは、Nであるか、その医薬的に許容される塩である。別の態様において、Xは、Nであり、Rは、-CH-シクロプロピルであり、ならびにRは、-CHCHであり、あるいはその医薬的に許容される塩である。別の態様において、Xは、Nであり、Rは、-CH-シクロプロピルであり、ならびにRは、-CHCHである。
【0012】
別の態様において、式Iの化合物は、
7-[[(1S)-1-[4-[(1R)-2-シクロプロピル-1-(4-プロパ-2-エノイルピペラジン1-イル)エチル]フェニル]エチル]アミノ]-1-エチル-4H-ピリミド[4,5-d][1,3]オキサジン-2-オン;
7-[[(1S)-1-[4-[(1S)-2-シクロプロピル-1-(4-プロパ-2-エノイルピペラジン1-イル)エチル]フェニル]エチル]アミノ]-1-エチル-4H-ピリミド[4,5-d][1,3]オキサジン-2-オン;もしくは
1-エチル-7-[[(1S)-1-[4-[1-(4-プロパ-2-エノイルピペラジン1-イル)プロピル]フェニル]エチル]アミノ]-4H-ピリミド[4,5-d][1,3]オキサジン-2-オン;
またはこれらのいずれか1つの医薬的に許容される塩である。
【0013】
別の態様において、式Iの化合物は、7-[[(1S)-1-[4-[(1S)-2-シクロプロピル-1-(4-プロパ-2-エノイルピペラジン1-イル)エチル]フェニル]エチル]アミノ]-1-エチル-4H-ピリミド[4,5-d][1,3]オキサジン-2-オンである。
【0014】
別の態様において、式Iの化合物は:
【化2】
の化合物(「化合物A」とも称される)またはその医薬的に許容される塩である。別の態様において、前記化合物は、化合物Aである。
【0015】
本発明はまた、IDH2 R140変異またはIDH2 R172変異、および1つまたはそれ以上の第2のIDH2変異を有するヒト対象においてがんの治療に使用するための、式I:
【化3】

[式中:
は、-CHCH(CH、-CHCH、-CHCHOCH、または-CH-シクロプロピルであり;
は、-CHまたは-CHCHであり;
Xは、NまたはCHである]
の化合物またはその医薬的に許容される塩を提供する。
【0016】
式Iの化合物について、Xが、Nであるか、またはその医薬的に許容される塩であることが好ましく;Rが、-CH-シクロプロピルであるか、またはその医薬的に許容される塩であることが好ましく;Rが、-CHCHであるか、またはその医薬的に許容される塩であることが好ましく;Xが、Nであり、Rが、-CH-シクロプロピルであり、ならびにRが、-CHCHであるか、またはその医薬的に許容される塩であることがより好ましく;Xが、N、であり、Rが、-CH-シクロプロピルであり、ならびにRが、-CHCHであることが最も好ましい。
【0017】
式Iの好ましい化合物は、
7-[[(1S)-1-[4-[(1R)-2-シクロプロピル-1-(4-プロパ-2-エノイルピペラジン1-イル)エチル]フェニル]エチル]アミノ]-1-エチル-4H-ピリミド[4,5-d][1,3]オキサジン-2-オン;
7-[[(1S)-1-[4-[(1S)-2-シクロプロピル-1-(4-プロパ-2-エノイルピペラジン1-イル)エチル]フェニル]エチル]アミノ]-1-エチル-4H-ピリミド[4,5-d][1,3]オキサジン-2-オン;または
1-エチル-7-[[(1S)-1-[4-[1-(4-プロパ-2-エノイルピペラジン1-イル)プロピル]フェニル]エチル]アミノ]-4H-ピリミド[4,5-d][1,3]オキサジン-2-オン;
であるか、これらのいずれか1つのその医薬的に許容される塩である。
【0018】
より好ましい式Iの化合物は、
【化4】
(化合物A)
またはその医薬的に許容される塩である。
【0019】
1の実施態様において、IDH2変異は、R140変異である。別の態様において、R140変異は、R140Q、R140L、またはR140Wである。別の態様において、R140変異は、R140Qである。別の態様において、R140変異は、R140Lである。別の態様において、R140変異は、R140Wである。
【0020】
別の態様において、IDH2変異は、R172変異である。別の態様において、R172変異は、R172K、R172M、R172G、R172S、またはR172Wである。別の態様において、R172変異は、R172Kである。別の態様において、R172変異は、R172Mである。別の態様において、R172変異は、R172Gである。別の態様において、R172変異は、R172Sである。別の態様において、R172変異は、R172Wである。
【0021】
1の実施態様において、前記1つまたはそれ以上の第2のIDH2変異は、Q316E、I319M、P167R、またはG260Aである。1の実施態様において、1つまたはそれ以上の第2のIDH2変異は、Q316EまたはI319Mである。別の態様において、前記1つまたはそれ以上の第2の変異は、Q316Eである。別の態様において、前記1つまたはそれ以上の第2の変異は、I319Mである。別の態様において、前記1つまたはそれ以上の第2の変異は、P167Rである。別の態様において、前記1つまたはそれ以上の第2の変異は、G260Aである。別の態様において、前記1つまたはそれ以上の第2のIDH2変異は、Q316E、I319M、およびG260Aである。別の態様において、前記1つまたはそれ以上の第2のIDH2変異は、Q316EおよびI319Mである。
【0022】
別の態様において、対象は、IDH2 R140変異またはIDH2 R172変異を有するものとして同定される。別の態様において、対象は、IDH2 R140変異を有するものとして同定される。別の態様において、対象は、IDH2 R172変異を有するものとして同定される。
【0023】
別の態様において、対象は、組織においてIDH2 R140変異または組織においてIDH2 R172変異を有するものとして同定される。別の態様において、対象は、組織においてIDH2 R140変異を有するものとして同定される。別の態様において、対象は、組織においてIDH2 R172変異を有するものとして同定される。
【0024】
別の態様において、対象は、1つまたはそれ以上の第2のIDH2変異を有するものとして同定される。
【0025】
別の態様において、がんは、血液悪性腫瘍であり、対象は、血液、骨髄、リンパ節、またはリンパ液において、IDH2 R140変異またはIDH2 R172変異を有するものとして同定される。別の態様において、対象は、血液細胞、骨髄細胞、血液細胞、リンパ節細胞、またはリンパ液細胞において、IDH2 R140変異またはIDH2 R172変異を有するものとして同定される。別の態様において、対象は、1つまたはそれ以上の第2のIDH2変異を有するものとして同定される。
【0026】
別の態様において、がんは、固形腫瘍がんであり、対象は、固形腫瘍組織において、IDH2 R140変異またはIDH2 R172変異を有するものとして同定される。別の態様において、固形腫瘍組織は、胆管がん組織である。別の態様において、対象は、固形腫瘍組織細胞において、IDH2 R140変異またはIDH2 R172変異を有するものとして同定される。別の態様において、対象は、1つまたはそれ以上の第2のIDH2変異を有するものとして同定される。
【0027】
1の実施態様において、がんは、固形腫瘍である。別の態様において、固形腫瘍は、胆管がん、頭頸部がん、軟骨肉腫、肝細胞がん、メラノーマ、膵臓がん、星細胞腫、乏突起神経膠腫、神経膠腫、膠芽腫、膀胱がん、大腸がん、肺がん、または鼻副鼻腔未分化がんである。別の態様において、肺がんは、非小細胞肺がんである。別の態様において、固形腫瘍は、胆管がんである。別の態様において、固形腫瘍は、神経膠腫である。
【0028】
別の態様において、がんは、血液悪性腫瘍である。別の態様において、血液悪性腫瘍は、急性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、骨髄増殖性腫瘍、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、T細胞急性リンパ芽球性白血病、真性多血症、本態性血小板血症、原発性骨髄線維症、または慢性骨髄性白血病である。別の態様において、血液悪性腫瘍は、急性骨髄性白血病である。
【0029】
別の態様において、対象は、式Iの化合物以外の変異IDH2阻害剤で治療されている。別の態様において、式Iの化合物以外の変異IDH2阻害剤は、エナシデニブである。別の態様において、対象は、式Iの化合物による治療前に、式Iの化合物以外の変異IDH2阻害剤で治療されている。
【0030】
別の態様において、がんは、再発がんである。別の態様において、再発がんは、固形腫瘍がんである。別の態様において、再発固形腫瘍がんは、胆管がんである。別の態様において、再発がんは、血液悪性腫瘍である。別の態様において、再発血液悪性腫瘍は、再発AMLである。
【0031】
別の態様において、がんは、難治性がんである。別の態様において、難治性がんは、固形腫瘍がんである。別の態様において、難治性固形腫瘍がんは、胆管がんである。別の態様において、難治性がんは、血液悪性腫瘍である。別の態様において、難治性血液悪性腫瘍は、難治性AMLである。
【0032】
別の態様において、がんは、進行がんである。別の態様において、進行がんは、進行固形腫瘍がんである。別の態様において、進行固形腫瘍がんは、胆管がんである。別の態様において、進行がんは、進行血液悪性腫瘍である。別の態様において、進行血液悪性腫瘍は、進行AMLである
【0033】
別の態様において、AMLは、急性前骨髄球性白血病である。
【0034】
上記で用いられ、本発明の記載を通して、下記の用語は、特に示されていない限り、下記の意味を有するものと理解されるべきである。
【0035】
用語「血液組織」は、血液、骨髄、脾臓、リンパ節、またはリンパ液を意味する。
【0036】
用語「固形腫瘍組織」は、血液組織ではない組織を意味する。固形組織の非限定的な例は、胆管組織、膵臓組織、頭部組織、頸部組織、肝臓組織、皮膚組織、星細胞腫組織、乏突起膠組織、グリア組織、脳組織、膀胱組織、結腸直腸組織、肺組織、および鼻副鼻腔未分化がんである。
【0037】
用語「固形腫瘍がん」は、血液、骨髄、リンパ節、またはリンパ液ではない組織を起源とするがんを意味する。
【0038】
用語「血液悪性腫瘍」は、血液、骨髄、リンパ節、またはリンパ液におけるがんに関する。
【0039】
用語「進行血液悪性腫瘍」は、リンパ節、あるいは血液または骨髄の外の他の組織に広がった悪性腫瘍を意味する。
【0040】
用語「がん対象」は、がんと診断された対象を意味する。
【0041】
用語「難治がん」は、治療されたが、治療に応答しないヒトがん対象のがんを意味する。
【0042】
用語「再発がん」は、長期間の治療に応答を示したが、再発したヒトがん対象のがんを意味する。
【0043】
用語「進行がん」は、リンパ節またはがんの起源部位の外の他の組織に広がったがんを意味する。例えば、進行急性骨髄性白血病は、血液または骨髄の他の組織に広がった急性骨髄性白血病である。
【0044】
用語「固形腫瘍対象」は、固形腫瘍がんと診断された対象を意味する。1の実施態様において、固形腫瘍がんは、胆管がんである。
【0045】
用語「血液悪性腫瘍対象」は、血液悪性腫瘍と診断された対象を意味する。1の実施態様において、血液悪性腫瘍対象は、AML対象である。用語「AML対象」は、AMLと診断された対象を意味する。AMLを診断する方法は、例えば、Dohner H, et al., Blood 2017; 129: 424-447において当業者に公知である。
【0046】
用語「急性骨髄性白血病」、「急性骨髄性白血病」、および「急性非リンパ性白血病」は、同義である。
【0047】
「血液悪性腫瘍(例えば、AML)治療に応答性を有する」は、完全寛解(骨髄中の5%未満の骨髄芽球によって決定される)、血中の骨髄芽球の不存在、血液学的回復(赤血球の輸血を必要とすることなく、末梢血の絶対好中球数1,000細胞/μL以上および血小板数100,000/μL以上、および髄外疾患の不存在によって示される)として特徴付けられる、全生存率の改善、部分奏功、長期安定な疾患、または長期生存率の改善などが含まれる(Bloomfield CD, et al., Blood Revs. 2018; 32: 416-425).
【0048】
用語「IDH2 R140変異」は、例えば、対象の核酸(例えば、DNA)において決定されるように、対象のIDH2酵素のアミノ酸残基140におけるIDH2変異を意味する。本明細書で用いられるように、「IDH2 R140変異」は、「第2のIDH2変異」ではない。
【0049】
用語「IDH2 R172変異」は、例えば、対象の核酸(例えば、DNA)において決定されるように、対象のIDH2酵素のアミノ酸残基172におけるIDH2変異を意味する。本明細書で用いられるように、「IDH2 R172変異」は、「第2のIDH2変異」ではない。
【0050】
用語「第2のIDH2変異」は、本明細書に記載の式Iの化合物以外の変異IDH2阻害剤による治療後にヒト対象におけるIDH2酵素で生じるIDH2変異を意味する。1の実施態様において、1つまたはそれ以上の第2のIDH2変異は、IDH2におけるQ316E、I319M、P167R、またはG260Aのうちの1つまたはそれ以上である。1の実施態様において、1つまたはそれ以上の第2のIDH2変異は、IDH2におけるQ316EまたはI319Mのうちの1つまたはそれ以上である。しかしながら、他の第2のIDH2変異は、後に報告されたものであってもよい。本明細書で用いられるように、「第2のIDH2変異」は、「IDH2 R140変異」または「IDH2 R172変異」ではない。
【0051】
用語「変異IDH2阻害剤」は、変異IDH2酵素による2-HGの酵素活性および/または生成を阻害する化合物を意味する。変異IDH2酵素活性をアッセイする方法は、例えば、WO2018/111707 A1において、当業者に公知である。用語「変異IDH2阻害剤」における単語「変異」は、IDH2遺伝子を意味するものであって、阻害剤を意味するものではない。
【0052】
用語「IDH2 R140変異を有するとして同定される」は、ヒト対象の組織または細胞からの核酸(例えば、DNA)が、ヒト対象がIDH2 R140変異を有するか否かを調べるために分析されることを意味する。1の実施態様において、ヒト対象の血液細胞、骨髄細胞、リンパ節、リンパ節細胞、リンパ液、またはリンパ液細胞のうちの1つまたはそれ以上が、IDH2 R140変異について分析される。別の態様において、ヒト対象の固形組織が、IDH2 R140変異について分析される。
【0053】
用語「IDH2 R172変異を有するとして同定される」は、ヒト対象の組織または細胞からの核酸(例えば、DNA)が、ヒト対象がIDH2 R172変異を有するか否かを調べるために分析されることを意味する。1の実施態様において、ヒト対象の血液細胞、骨髄細胞、リンパ節、リンパ節細胞、リンパ液、またはリンパ液細胞のうちの1つまたはそれ以上が、IDH2 R172変異について分析される。別の態様において、ヒト対象の固形組織が、IDH2 R172変異について分析される。
【0054】
本発明の方法において、ヒト対象をIDH2 R140変異またはIDH2 R172変異を有するとして同定する集団は、化合物を投与する集団と異なっていてもよい。1の実施態様において、ヒト対象をIDH2 R140変異またはIDH2 R172変異を有するとして同定する集団は、化合物を投与する集団とは異なる。
【0055】
用語「1つまたはそれ以上の第2のIDH2変異を有するとして同定される」は、ヒト対象の血液細胞、骨髄細胞、リンパ節、リンパ節細胞、リンパ液またはリンパ液細胞のうちの1つまたはそれ以上からの核酸(例えば、DNA)が、ヒト対象が1つまたはそれ以上の第2のIDH2変異を有するか否かを決定するために分析されることを意味する。
【0056】
遺伝子変異を同定するための分析方法は、当業者(Clark, O., et al., Clin. Cancer. Res. 2016; 22: 1837-42)に公知であり、以下に限定されないが、核型分析(Guller JL, et al., J. Mol. Diagn. 2010; 12: 3-16)、蛍光in situハイブリダイゼーション(Yeung DT, et al., Pathology 2011; 43: 566-579)、サンガーシークエンス(Lutha, R et al., Haematologica 2014; 99: 465-473)、代謝プロファイリング(Miyata S, et al., Scientific Reports 2019; 9: 9787)、ポリメラーゼ鎖反応法(Ziai, JM and AJ Siddon, Am. J. Clin. Pathol 2015; 144: 539-554)、および次世代シークエンス(例えば、全トランスクリプトームシークエンス)(Lutha, R et al., Haematologica 2014; 99: 465-473; Wang H-Y, et al., J. Exp. Clin. Cancer Res. 2016; 35: 86)が挙げられる。
【0057】
用語「治療(treatment)」、「治療する(treat)」、「治療(treating)」などは、がんの進行を遅延させ、停止させ、または逆にさせることを含むことを意味する。これらの用語にはまた、がんが実際に排除されない場合であっても、がんの進行がそれ自体遅延させ、停止させ、または逆にさせない場合であっても、障害または病気の1つまたはそれ以上の症状を軽減し、緩和し、減衰し、排除し、または減少することが含まれる。
【0058】
「治療上有効量」は、対象における生物学的または医学的な応答あるいは所望される治療効果を生じる、対象に投与される化合物またはその医薬的に許容される塩の量を意味する。治療上有効量は、公知技術を使用すること、および同様の状況下で得られた結果を観察することによって当業者として担当医が容易に決定することができる。対象の有効量を決定する際に、以下に限定されないが、対象の大きさ、年齢、および総体的な健康;関連する具体的な疾患または障害;疾患または障害の程度、関連、または重症度;各対象の応答性;投与される具体的な化合物;投与様式;投与される製剤のバイオアベイラビリティの特徴;選択される投薬レジメン;併用医薬の使用;およびその他の関連事項を含む、多くの因子が担当医によって考慮される。
【0059】
本明細書に記載の式Iの化合物は、経口、静脈内、および経皮経路を含む、化合物を生体利用可能にするいずれかの経路によって投与される医薬組成物として、適宜製剤化することができる。このような組成物は、経口投与のために製剤化されることが好ましい。このような医薬組成物およびこれを製造する方法は、当該技術分野で周知である(例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy (D.B. Troy, Editor, 21st Edition, Lippincott, Williams & Wilkins, 2006を参照のこと)。
【0060】
「医薬的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤」は、生物学的に活性な薬剤の哺乳類(例えば、ヒト)への送達のために当該技術分野で一般的に許容される媒体である。
【0061】
本発明の方法で投与される化合物が塩を形成することができることは、当業者によって理解されている。化合物は、多くの無機酸および有機酸のいずれかと反応して、医薬的に許容される酸付加塩を形成する。このような医薬的に許容される酸付加塩およびこれらを調製する一般的な方法は、当該技術分野で周知である。例えば、P. Stahl, et al., HANDBOOK OF PHARMACEUTICAL SALTS: PROPERTIES, SELECTION AND USE, (VCHA/Wiley-VCH, 2008を参照のこと。
【0062】
「医薬的に許容される塩」は、本発明の化合物の比較的非毒性の無機塩および有機塩を意味する(S.M. Berge, et al., "Pharmaceutical Salts", Journal of Pharmaceutical Sciences, Vol 66, No. 1, January 1977)。
【実施例
【0063】
材料、方法、および結果
化合物および製剤
化合物Aは、WO/18/111707に記載されるように合成されうる。化合物Aは、100% DMSO(ジメチルスルホキシド)(Sigma,D2438)中の20mM 保存液として調製し、100% DMSO中で連続希釈して所望される濃度とする。DMSO調製物は、アッセイで加える前に細胞培養培地でさらに希釈する。
【0064】
細胞株
U-87 MG細胞(ATCC,HTB-14)を、2mM GlutaMAX(Gibco,35050)、1mM ピルビン酸(Gibco,11360)、0.1mM NEAA((非必須アミノ酸)Gibco,11140)、および10% 透析FBS(ウシ胎児血清)(Gibco,26400)を含むMEM(Gibco,11095)中で培養し、アッセイする。
【0065】
細胞に基づく阻害アッセイ
細胞に基づくアッセイは、IDH2変異が発現されるU-87 MG細胞中の2-HGを測定することで行う。
【0066】
IDH2変異をコードするDNA構築物を、トランスフェクション(Promega FuGENE HD,E2311)またはレンチウイルス形質導入を用いて、U-87 MG細胞に導入し、IDH2変異を発現する細胞株を、ブラストサイジン(5μg/ml)またはピューロマイシン(1μg/ml)を用いて選別する。第2の部位の変異(Q316E、I319M、P167R、およびG260A)を、シス(ダイマー内のドライバー変異と同一のモノマー)またはトランス(ダイマー内のドライバー変異とは反対のモノマー)で評価する。化合物の処理では、培養培地(各々、150μlまたは100μl)中で1ウェルあたり12,500または50,000細胞を、処理2時間前に96ウェル細胞培養プレート(Falcon,353377)にプレーティングする。細胞を、標準的な増殖培地中の化合物Aの連続希釈液で処理する。プレートを、哺乳類細胞培養インキュベーター(加湿,37℃,5% CO)内で16または72時間インキュベートする。インキュベーション時間後、該培地を吸引し、細胞抽出物を、イオン対LC-MS法のために、1ウェルあたり液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)内部標準物(1μM 13 α-KGおよび13 2-HG)を含有する氷冷80% メタノール/20% 水(100μL)を加えることによって調製する。次に、96ウェル試料プレートを密閉し、450rpmで10分間攪拌し、次いで-20℃に置き、LC-MS分析まで保存する。
【0067】
条件培地および細胞溶解物のLC-MS代謝解析
2-HG濃度による阻害剤の効果を、下記に記載されるように、イオン対法を用いて細胞溶解物のLC-MS分析によって調べる。
【0068】
検量線を、2-HGおよびα-KGを、LC-MS内部標準(1μM 13 α-KGおよび1μM 13 2-HG)を含有する80% メタノール/20% 水にスパイクすることによって調製する。2-HGおよびα-KGの定量を、エレクトロスプレーイオン化(ESI)プローブを備えたAB Sciex 6500質量分光計を用いて行い、ネガティブ多重反応モニタリング(MRM)モードでUltra Performance液体クロマトグラフィー(UHPLC)システムで適合させる。前記UHPLCシステムは、Agilent 1290バイナリポンプ、サーモスタット付きカラムコンパートメント(TCC)、およびサンプラーから構成される。インジェクション体積は、細胞培養抽出物の1μLである。該抽出物を、Hypercarbカラム、2.1x20mm、5.0mm Javelin HTS(Thermo Scientific,PN:35005-022135)を用いてクロマトグラフにより分析する。移動相Aは、水/10mM トリブチルアミン/15mM 酢酸である。移動相Bは、アセトニトリル/20mM トリブチルアミン/30mM 酢酸である。溶媒流速は、1.0mL/分である。定組成条件は、26% 移動相Bで保つ。バルブ、サンプルループ、およびニードルを、50% アセトニトリル:50% メタノールで20秒間洗浄する。カラム温度を55℃に保つ。検量線を、1/x加重による最小二乗線形回帰により算出する。2-HGおよびα-KGを、内部標準に対する分析物の標準曲線およびピーク面積比を用いて定量化する。データ解析を、MultiQuant 3.0(AB Sciex)を用いて行う。生データをMicrosoft Excelスプレッドシートにエクスポートする。
【0069】
IC50曲線の決定
各化合物のIC50曲線を、GraphPad/Prismソフトフェアにおける4パラメータデータ適合分析を用いて取得する。
【0070】
本質的に上記に記載されるように行った実験において、表1~5に示すIC50の結果を得た。
【0071】
表1:化合物AによるIDH2変異T細胞における72時間のインキュベーション時間での2-HG生成の阻害
【表1】
Std Devは、標準偏差を意味し、nは、アッセイ流動数を意味する。
12.5K細胞/ウェル;150μl培地/ウェル
表1の結果は、化合物Aが、変異IDH2阻害剤エナシデニブに対して耐性を有するIDH2ドライバー変異(R140QおよびR172K)およびIDH2第2部位変異(Q316EおよびI319M)に対して活性を有することを示す。
【0072】
表2:化合物AによるIDH2 R140Q変異T細胞における16時間のインキュベーション時間での2-HG生成の阻害
【表2】
Std Devは、標準偏差を意味し、nは、アッセイ流動数を意味する。
50K細胞/ウェル;100μl培地/ウェル
72時間のインキュベーション時間でのIC50;12.5K細胞/ウェル
表2の結果は、化合物Aが、IDH2ドライバー変異(R140Q)およびIDH2第2部位変異(I319M、Q316E、P167R、およびG260A)に対して活性を有することを示す。
【0073】
表3:化合物AによるIDH2 R140L変異T細胞における16時間のインキュベーション時間での2-HG生成の阻害
【表3】
Std Devは、標準偏差を意味し、nは、アッセイ流動数を意味する。
50K細胞/ウェル;100μl培地/ウェル
表3の結果は、化合物Aが、IDH2ドライバー変異(R140L)およびIDH2第2部位変異(Q316E)に対して活性を有することを示す。
【0074】
表4:化合物AによるIDH2 R172K変異T細胞における16時間のインキュベーション時間での2-HG生成の阻害
【表4】
Std Devは、標準偏差を意味し、nは、アッセイ流動数を意味する。
50K細胞/ウェル;100μl培地/ウェル
表4の結果は、化合物Aが、IDH2ドライバー変異(R172K)およびIDH2第2部位変異(Q316E、P167R、およびG260A)に対して活性を有することを示す。
【0075】
表5:化合物AによるIDH2 R172W変異T細胞における16時間のインキュベーション時間での2-HG生成の阻害
【表5】
Std Devは、標準偏差を意味し、nは、アッセイ流動数を意味する。
50K細胞/ウェル;100μl培地/ウェル
72時間のインキュベーション時間でのIC50;12.5K細胞/ウェル
表5の結果は、化合物Aが、IDH2ドライバー変異(R172W)およびIDH2第2部位変異(P167R)に対して活性を有することを示す。
【0076】
化合物Aは、現在、進行性血液悪性腫瘍(NCT04603001)および進行固形腫瘍(NCT04521686)についての第1相臨床試験である。予備データにより、化合物Aの投与は、以前にエナシデニブ治療を受け、IDH2第2部位変異を有する2人のAML患者(1人の患者は、IDH2 R172K変異およびG260A第2部位変異を有し;もう1人の患者は、IDH1変異、およびIDH2 R140L変異とQ316E第2部位変異を有する)において2-HGの阻害を生じることが示されている。
【国際調査報告】