(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-24
(54)【発明の名称】神経内分泌腫瘍の治療における二重標的化のための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
C07D 249/04 20060101AFI20240517BHJP
A61K 31/4192 20060101ALI20240517BHJP
A61K 31/495 20060101ALI20240517BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240517BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20240517BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20240517BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240517BHJP
【FI】
C07D249/04 504
C07D249/04 CSP
A61K31/4192
A61K31/495
A61P35/00
A61K47/60
C08L71/02
C08L101/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519490
(86)(22)【出願日】2022-06-02
(85)【翻訳文提出日】2024-02-02
(86)【国際出願番号】 US2022031876
(87)【国際公開番号】W WO2022260918
(87)【国際公開日】2022-12-15
(32)【優先日】2021-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520390003
【氏名又は名称】ナノファーマスーティカルス エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】NANOPHARMACEUTICALS, LLC
【住所又は居所原語表記】1 Discovery Drive, Rensselaer, New York 12144 (US)
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【氏名又は名称】小西 富雅
(72)【発明者】
【氏名】モウサ, シャカー
(72)【発明者】
【氏名】ラジャビ, ミーディ
(72)【発明者】
【氏名】カラクス, オズレム オー.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4J002
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC01
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE23
4C076EE59
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC50
4C086BC60
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC20
4J002CH021
4J002GB04
(57)【要約】
本発明は、化学組成およびその合成方法に関する。本明細書に開示および記載された組成物は、ノルエピネフリントランスポーター(NET)またはカテコールアミントランスポーターの標的に結合した甲状腺ホルモンαvβ3インテグリン受容体拮抗薬を対象とする。当該組成物は、神経内分泌腫瘍の治療および画像診断において二重標的化効果および増加した標的化効率を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
【化1】
(式中、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立して、水素、ヨウ素、フッ素、臭素、メトキシ基、ニトロ基、アミノ基およびニトリル基からなる群から選択される基を示し;
R
5、R
6、R
7およびR
8は、それぞれ独立して、水素、ヨウ素およびアルカン基からなる群から選択される基を示し;
n
1は、0以上の整数;n
2は、1以上の整数;Yは、アミンを包含する)の化合物またはその塩を含有する組成物。
【請求項2】
R
5、R
6、R
7およびR
8の少なくとも1つが、イソプロピル基およびtert-ブチル基からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
Yが、モノアミン、ジアミン、トリアゾールおよびピペラジンからなる群から選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
R
1、R
2、R
3およびR
4の少なくとも2つが、ヨウ素である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
R
1、R
2、R
3およびR
4の少なくとも2つが、メトキシ基である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
化学式
【化2】
を有する化合物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
化学式
【化3】
を有する化合物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
化学式
【化4】
を有する化合物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
一般式
【化5】
(式中、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立して、水素、ヨウ素、フッ素、臭素、メトキシ基、ニトロ基、アミノ基およびニトリル基からなる群から選択される基を示し;
R
5、R
6、R
7およびR
8は、それぞれ独立して、水素、ヨウ素およびアルカン基からなる群から選択される基を示し;
n
1は、0以上の整数;n
2は、1以上の整数;Yは、アミンを包含する)の化合物またはその塩を含有する組成物を投与することを含む腫瘍細胞を二重に標的化する方法。
【請求項10】
化合物が、N-ベンジルグアニジンおよびN-ベンジルグアニジン誘導体の1つを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
組成物が、トリヨードチロ酢酸、トリヨードチロ酢酸誘導体、テトラヨードチロ酢酸、テトラヨードチロ酢酸誘導体からなる群から選択される、チロインテグリンαvβ3受容体拮抗薬含有する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
N-ベンジルグアニジンおよびチロインテグリンαvβ3受容体拮抗薬(ここにおいて、N-ベンジルグアニジンおよびチロインテグリンαvβ3受容体拮抗薬は、リンカーで接続されている。)を包含する化合物。
【請求項13】
リンカーがポリマーを含む、請求項12に記載の化合物。
【請求項14】
ポリマーが、ポリエチレングリコール(PEG)である、請求項12に記載の化合物。
【請求項15】
ポリエチレングリコール(PEG)の分子量が、200ないし4000g/molである、請求項12に記載の化合物。
【請求項16】
チロインテグリンαvβ3受容体拮抗薬が、トリヨードチロ酢酸、トリヨードチロ酢酸誘導体、テトラヨードチロ酢酸、テトラヨードチロ酢酸誘導体からなる群から選択される、請求項12に記載の化合物。
【請求項17】
組成物が、神経内分泌腫瘍の治療への有用性を有する、請求項12に記載の化合物。
【請求項18】
神経内分泌腫瘍が、神経芽腫、褐色細胞腫、膵臓神経内分泌腫瘍およびカルチノイド腫瘍の1つである、請求項12に記載の化合物。
【請求項19】
神経内分泌腫瘍の治療における有用性が、N-ベンジルグアニジンとチロインテグリンαvβ3受容体アンタゴニストの両方によって最大限に提供される、請求項12に記載の化合物。
【請求項20】
組成物が、ノルエピネフリントランスポーターを介して神経内分泌腫瘍細胞を標的する、請求項12に記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、神経内分泌腫瘍を標的化し、当該腫瘍を治療するための組成物に関する。当該組成物は、特に、甲状腺ホルモンαvβ3インテグリン受容体拮抗薬(以下、「サイロインテグリン拮抗薬」という。)およびノルエピネフリントランスポーター(NET)またはカテコールアミントランスポーターの標的である化合物(例えばベンジルグアニジン(「BG」)またはその誘導体など)を含むことができる。
【背景技術】
【0002】
ノルエピネフリン/カテコールアミントランスポーター(以下、ノルエピネフリントランスポーター)は、シナプス終末や副腎クロマフィン細胞でのノルエピネフリンの取り込みに必須である。神経内分泌腫瘍では、ノルエピネフリントランスポーターは非常に活性が高く、画像診断や局所放射線治療の標的とすることができる。ノルエピネフリントランスポーターを標的とする最も広く使用されている治療薬の1つは、ノルエピネフリンのグアニジンアナログであるメタヨードベンジルグアニジン(MIBG)である。123I/131I-MIBGセラノスティクスは、神経内分泌腫瘍、特に神経芽腫、傍神経節腫、および褐色細胞腫の臨床評価ならびに管理に応用されている。123I-MIBG画像は、神経芽腫の評価に、131I-MIBGは再発高リスク神経芽腫の治療に使用されているが、治療成績は依然として最適ではない。ノルエピネフリントランスポーターおよびその標的を標的とする陽電子放射断層撮影(PET)トレーサーは、神経芽腫、傍神経節腫/褐色細胞腫およびカルチノイドの治療後の画像化ならびに評価のためのより良い選択肢である。
【0003】
インテグリンは、細胞表面接着受容体のスーパーファミリーであり、細胞外マトリックス(ECM)や他の細胞との接着を制御する。接着は細胞にとって基本的に重要であり、固定、移動の合図、成長と分化のシグナルを提供する。インテグリンは多くの正常および病的状態に直接関与しており、治療介入の主要な標的となっている。インテグリンは、インテグラルな膜貫通タンパク質で、ヘテロダイマーであり、その結合特異性は、14本のα鎖のどれが8本のβ鎖のどれかと結合しているかによって決まる。インテグリンは、β1、β2、β3またはαv鎖を含む4つの重複するサブファミリーに分類される。細胞は、各サブファミリーから数種類のインテグリンを発現している可能性がある。ここ数十年の間に、インテグリンは、細胞接着に関与する主要な受容体であり、治療的介入の標的として適していることが示されてきた。インテグリンαvβ3は、細胞の増殖と生存を制御しており、この受容体のライゲーションは、状況によっては腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する。抗αvβ3抗体、RGDペプチド、ペプチド模倣もしくは非ペプチド誘導体またはその他のインテグリン拮抗薬による細胞接着の阻害は、腫瘍の成長を遅らせることが示されている。
【0004】
チロインテグリン拮抗薬は、インテグリンαvβ3との相互作用によって、腫瘍血管新生に影響を及ぼすことが示されている。チロインテグリン拮抗薬の効果は、米国特許公開2017/0348425号公報(発明の名称:Non-Cleavable Polymer Conjugated with AlphaVBeta3(αvβ3) Integrin Thyroid Antagonists)に記載されており、その内容は参照により組み込まれる。
【0005】
チロインテグリン拮抗化合物とノルエピネフリントランスポーター標的化合物の両方を含む組成物は、当技術分野で好評であろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、癌、例えば、乳癌、結腸癌、子宮内膜癌、腎臓癌、肺癌、黒色腫、前立腺癌、甲状腺癌および白血病を含む様々な疾患の治療に有用な新規な選択的PI3Kβ阻害剤を提供する。
【0007】
本発明の一態様は、一般式
【化1】
(式中、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立して、水素、ヨウ素、フッ素、臭素、メトキシ基、ニトロ基、アミノ基およびニトリル基からなる群から選択される基を示し;
R
5、R
6、R
7およびR
8は、それぞれ独立して、水素、ヨウ素およびアルカン基からなる群から選択される基を示し;
n
1は、0以上の整数;n
2は、1以上の整数;Yは、アミンを包含する)の化合物またはその塩を含有する組成物である。
【0008】
本発明の別の一態様は、一般式
【化2】
(式中、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立して、水素、ヨウ素、フッ素、臭素、メトキシ基、ニトロ基、アミノ基およびニトリル基からなる群から選択される基を示し;
R
5、R
6、R
7およびR
8は、それぞれ独立して、水素、ヨウ素およびアルカン基からなる群から選択される基を示し;
n
1は、0以上の整数;n
2は、1以上の整数;Yは、アミンを包含する)の化合物またはその塩を含有する組成物を投与することを含む腫瘍細胞を二重に標的化する方法である。
【0009】
本発明のさらに別の一態様は、N-ベンジルグアニジンおよびチロインテグリンαvβ3受容体拮抗薬(ここにおいて、N-ベンジルグアニジンおよびチロインテグリンαvβ3受容体拮抗薬は、リンカーで連結されている。)を包含する化合物である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
特許または出願ファイルには、カラーで作成された少なくとも1つの図面が含まれている。カラー図面を含むこの特許または特許出願公開公報のコピーは、要求と必要な手数料の支払いに応じて、特許庁によって提供される。
【0011】
いくつかの実施形態は、以下の図を参照して詳細に説明されるが、図中、同様の符号は同様の部材を示す。
【0012】
【
図1】
図1は、神経内分泌腫瘍の二重標的化に使用するための例示的な組成物の一般式を示す。
【0013】
【
図2a】
図2aは、モノアミンとのリンカーを有する例示的な組成物の別の一般式を示す。
【0014】
【
図2b】
図2bは、ジアミンとのリンカーを有する例示的組成物の別の一般式を示す。
【0015】
【
図2c】
図2cは、トリアゾールとのリンカーを有する例示的な組成物の別の一般式を示す。
【0016】
【
図3】
図3は、組成物300、BG-PEG-TAT、またはBG-P-TATと呼ばれる、神経内分泌腫瘍の二重標的化に使用するための1つの例示的な組成物を示す。
【0017】
【0018】
【0019】
【
図4c】
図4cは、組成物201(BG-PEG-MAT)および組成物202(BG-PEG-DAT)と呼ばれる、2つの他の例示的な組成物を製造するための可能な合成経路の概要を示しており、その製造にはトシレート基またはアルデヒドのいずれかを使用する。
【0020】
【
図4d】
図4dは、
図4cに示す組成物を製造するための代替合成経路の概要を示し、その製造にはトシレート基またはアルデヒドのいずれかを使用する。
【0021】
【
図4e】
図4eは、アルデヒドを使用する、
図4cおよび4dの合成経路の詳細な概略図を示す。
【0022】
【
図4f】
図4fは、トシレート基を使用する、
図4cおよび4dの合成経路の詳細な概略図を示す。
【0023】
【
図5】
図5は、1~10mg/kgの範囲の異なる用量を15日間毎日皮下投与した場合、対照または組成物300のいずれかによる複数日の治療の間、マウスの体重に有意な変化がないことを示す。
【0024】
【
図6】
図6は、1~10mg/kgで組成物300を皮下投与した複数日のマウスにおける経時的(15日間)な腫瘍体積の用量依存的減少を、対照群における腫瘍体積の増加と比較して示す。
【0025】
【
図7a】
図7aは、対照群のマウスの画像で、目に見える大きな皮下腫瘍と、それに伴う中枢性の行動変化を示唆する異常な動物の頭の動きを示す。
【0026】
【
図7b】
図7bは、組成物300で治療されたマウスの画像であり、観察された動物の異常な頭部の動きの消失とともに、用量依存的に、目に見える皮下腫瘍の有意な減少または消失(腫瘍の有意な縮小~消失)を示す。
【0027】
【
図8】
図8は、組成物300の投与量の関数としての腫瘍重量のグラフであり、腫瘍の有意な縮小から完全な消失までを示す。
【0028】
【
図9a】
図9aは、組成物300の投与量の関数としての、相対的な腫瘍サイズおよび血管除去を示す腫瘍の写真である。
【0029】
【
図9b】
図9bは、組成物300の投与量の関数としての絶対的腫瘍サイズを示す腫瘍の写真であり、10mg/kgの投与量レベルにおいて、明確な腫瘍の縮小から消失までを示す。
【0030】
【
図10】
図10は、組成物300の投与量の関数としての神経芽細胞腫癌細胞生存率のグラフであり、10mg/kgの投与量レベルでの癌細胞生存率の損失から完全な損失までを示す。
【0031】
【
図11】
図11は、組成物300の投与量の関数としての神経芽細胞腫癌細胞壊死のグラフであり、3および10mg/kgの投与量で、癌細胞壊死が80~100%増加することを示す。
【0032】
【
図12a】
図12aは、MIBG、BGおよびポリマー結合BGを含む異なるベンジルグアニジン誘導体を、3mg/kgで15日間毎日皮下投与した場合の腫瘍重量収縮のグラフであり、対照(PBSビヒクル)と比較して 40~50%の範囲で同等の収縮を示す。
【0033】
【
図12b】
図12bは、ベンジルグアニジン、TAT誘導体またはBGとTAT誘導体の共投与とBG-P-TAT(組成物300)との治療の関数としての腫瘍重量縮小のグラフであり、すべて3mg/kgで15日間毎日皮下投与した(データは、BG、TATまたはBGとTATの共投与による40~50%の腫瘍縮小、BG-P-TAT(組成物300)による80%の縮小およびBG-P-TATによるがん細胞生存率の最大損失を示した)を示す。
【0034】
【
図13a】
図13aは、Cy5 標識ポリマー結合TAT(グループ1)、ポリマー結合BG(グループ2)およびポリマー結合BG-TAT(組成物300)(グループ 3)の投与後1時間および2時間における様々なマウスの蛍光画像の写真を示す。
【0035】
【
図13b】
図13bは、投与後4、6および24時間における
図13aのマウスの蛍光画像の写真である(データは、Cy5標識ポリマー結合BG-P-TAT(組成物 300)を用いた神経芽腫腫瘍およびその広がりにおける明瞭かつ最高強度の集積(描出および画像化)を明確に示した)を示す。
【0036】
【
図14】
図14は、組成物7aまたはdI-BG-P-TATと呼ばれる、神経内分泌腫瘍の二重標的化に使用するための別の例示的組成物を示す。
【0037】
【
図15】
図15は、組成物7bまたはdM-BG-P-TATと呼ばれる、神経内分泌腫瘍の二重標的化に使用するための別の例示的組成物を示す。
【0038】
【
図16】
図16は、組成物15またはBG-P-PATと呼ばれる、神経内分泌腫瘍の二重標的化に使用するための別の例示的組成物を示す。
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【
図20】
図20は、例示的な組成物のそれぞれの結合親和性を示す。
【0043】
【0044】
【0045】
【
図22】
図22は、組成物7a、7bおよび15を、3mg/kgで、皮下投与した複数日のマウスにおける腫瘍体積の経時的減少(20日間)を示すグラフであり、対照群における腫瘍体積の増加と比較するグラフを示す。
【0046】
【
図23】
図23は、組成物7a、7bおよび15を、3mg/kgで、皮下投与した複数日の治療の間の、マウスにおける経時的(20日間)な腫瘍重量の減少を、対照群についての腫瘍重量の増加と比較するグラフを示す。
【0047】
【
図24】
図24は、対照群と比較した、組成物7a、7bおよび15の効果を示す組織像である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
開示される組成物および方法の以下に記載される実施形態の詳細な説明は、図を参照して例示的に示されるものであり、限定するものではない。特定の実施形態が詳細に示され、記載されているが、添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、様々な変更および修正がなされ得ることが理解されるべきである。本開示の範囲は、構成部材の数、その材料、その形状、その色、その相対的配置などに決して限定されるものではなく、単に本開示の実施形態の一例として開示されるものである。本実施形態およびその利点のより完全な理解は、同様の参照番号が同様の特徴を示す添付の図面と併せて取られる以下の説明を参照することによって得ることができる。
【0049】
詳細な説明の前置きとして、本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上明らかにそうでないことが指示されない限り、複数の参照語を含むことに留意されたい。
【0050】
本発明の実施形態は、新規な化学組成物およびその合成方法を記載する。本明細書に開示および記載される組成物は、抗血管新生剤、特に、インテグリンαvβ3受容体ファミリーの1つ以上の細胞表面受容体と相互作用することが可能であり得るチロインテグリンアンタゴニストに向けられ得る。本明細書に開示および記載される組成物は、また、ノルエピネフリントランスポーター(カテコールアミントランスポーターとしても知られる)の標的にも向けられ得る。ノルエピネフリントランスポーターの標的は、神経内分泌腫瘍細胞標的化剤として作用し得る。
【0051】
本明細書に開示および記載される組成物は、チロインテグリン拮抗薬およびノルエピネフリントランスポーター標的の両方を含む組成物に向けられることがある。さらに、その組成物は、チロインテグリン拮抗薬とノルエピネフリントランスポーターターゲットを連結するために、ポリマーまたは他のリンカーを使用してもよい。
【0052】
ノルエピネフリントランスポーターは、正常生理におけるカテコールアミン取り込みの制御因子であり、神経芽腫のような神経内分泌腫瘍では高発現し、過剰に活性化している。ノルエピネフリンのアナログであるメタヨードベンジルグアニジン(MIBG)は、ノルエピネフリントランスポーターの基質として確立されているが、(123)I/(131)I-MIBGや、ヨウ化物(放射性)の代わりにフッ化物(F18)を有するアナログなども、神経芽腫やその他の神経内分泌腫瘍の画像診断に使用できる。
【0053】
様々な神経芽腫細胞株がαvβ3インテグリン受容体を高発現している(90~95%)ことが、これまでの研究で証明されている。しかしながら、高親和性αvβ3インテグリン受容体拮抗薬は、腫瘍増殖率およびがん生存率阻害という点で、限定的な効果(40~50%)を示した。同様に、ベンジルグアニジンおよびその誘導体は、神経芽細胞腫および他の神経内分泌腫瘍への取り込みが最大(90~100%)であるにもかかわらず、神経芽細胞腫に対する抗がん効果は限定的であった。さらに、ベンジルグアニジンまたはその誘導体のようなノルエピネフリントランスポーターターゲットとトリアゾールテトラヨードサイロ酢酸誘導体のようなサイロインテグリン拮抗薬との併用療法は、神経芽腫の増殖および生存率の50%抑制を超えることはなかった。
【0054】
対照的に、予想外にも、ベンジルグアニジン誘導体のようなノルエピネフリントランスポーター標的化合物と、トリアゾールテトラヨードトリオ酢酸誘導体のようなチロインテグリン拮抗薬とを、ポリエチレングリコール(PEG)のような異なるポリマーリンカーを介して単一の新規な化学的実体に結合させると、神経芽細胞腫および他の神経内分泌腫瘍への最大取り込みと、異なる用量での腫瘍増殖および生存率の最大(80~100%)抑制がもたらされた。ノルエピネフリン/カテコールアミントランスポーター標的化合物とリンカーを介して結合したチロインテグリン拮抗薬は、神経内分泌腫瘍標的化のための二重標的化効果を有する組成物を提供し得る。例えば、組成物は、本発明の一実施形態に従って、ベンジルグアニジン(またはベンジルグアニジン誘導体)に連結されたα-V-β-3(αvβ3)インテグリン-甲状腺ホルモン受容体拮抗薬を含み得る。
【0055】
本明細書に記載の組成物は、例えば、ノルエピネフリントランスポーターの標的と共有結合して単一の化学的実体を形成するチロインテグリン拮抗薬またはその誘導体などの化合物から構成され得る。チロインテグリン拮抗薬とノルエピネフリン標的は、リンカーを介して結合していてもよい。
【0056】
特定のチロインテグリン化合物およびノルエピネフリン化合物、例えば、テトラッ
ク、トリアックおよびベンジルグアニジンを参照することができる。これらの語句は、そのような誘導体が具体的に記載されていない場合でも、本開示の完全な教示に従って、そのような化合物の誘導体を含む。
【0057】
図面を参照すると、
図1は、リンカー130を介してノルエピネフリントランスポーターターゲット120に結合したチロインテグリン拮抗薬110からなる一般式100の実施形態を示す。この組成物は、リンカー130を介してベンジルグアニジン誘導体に結合したチロインテグリン拮抗薬誘導体またはリンカー130で修飾されたベンジルグアニジン誘導体に結合したチロインテグリン拮抗薬誘導体と称することができる。
図1は、一般式100のカルボン酸形態を示す。当業者には明らかなように、一般式100の塩(例えばナトリウム塩)も使用することができる。
【0058】
リンカー130は、スペーサー132とポリマー131を含有する。リンカー130は、生理学的条件下でリンカーが切断されずに残るように生分解に抵抗する。一実施形態において、スペーサー132は、CH
2単位と、n1反復によって定義され得るメチレン(CH
2)単位の隣接反復連結とからなり、n1は、0以上の整数である。他の実施形態において、n1は、1以上の整数、2以上の整数または3以上の整数であってもよい。リンカー130は、部分”Y”をさらに含む。部分”Y”の実施形態は、いくつかの実施態様において、アミンであってもよい。例えば、一般式の部分Yは、
図2aおよび2bの一般式200aおよび200bの例によって示されるように、1つのアミン基を有する2価のアルカンまたは2つのアミン基を有する2価のアルカンであってもよい。別の実施形態において、部分Yは、
図2cに示す一般式200cの例によって示されるように、トリアゾールであってもよい。ポリマー131は、ポリエチレングリコール(PEG)のようなポリエーテルから構成されてもよい。キトサン、アルギン酸、ヒアルロン酸および他のポリマーを含む他のポリマーを使用してもよい。ポリマー131として、PEGを使用する実施形態において、ポリマーは、1モル当たり200~4,000gの分子量を有することができる。
【0059】
甲状腺拮抗薬という用語は、例えば甲状腺ホルモン細胞表面レセプターαvβ3のような甲状腺ホルモンレセプターのインテグリンファミリーのような、当業者に知られている 1つ以上の甲状腺ホルモンレセプターを阻害または拮抗する能力を有する化合物を表す。 サイロインテグリン拮抗薬110は、抗血管新生甲状腺ホルモンまたは甲状腺ホルモンレセプター拮抗薬であってもよい。例えば、サイロインテグリン拮抗薬110は、α-V-β-3(αvβ3)インテグリン-甲状腺ホルモン受容体拮抗薬であってもよい。
【0060】
チロインテグリン拮抗薬110の特定の実施形態は、テトラヨードチロ酢酸(tetrac)、トリヨードチロ酢酸(triac)、それらの誘導体およびそれらの変異体を含み得る。テトラックおよびトリアックからなるチロインテグリン拮抗薬の1つ以上のバリエーションの例としては、いくつかの実施形態において、ジアミノテトラック(DAT)またはジアミノトリアック(DATri)(以下、互換的に「DAT」ということがある)が挙げられ得る、モノアミノテトラック(MAT)もしくはモノアミノトリアック(MATri)(以下、「MAT」と互換可能である)、トリアゾレトラック(TAT)もしくはトリアゾレトリアック(TATri)(以下、「TAT」と互換可能である)、それらの誘導体または当業者に公知の他の甲状腺拮抗薬を含み得る。サイロインテグリン拮抗薬は、米国特許第2017/0348425号(発明の名称:Non-Cleavable Polymer Conjugated with AlpaVBeta 3 Integrin Thyroid Antagonists)に記載されており、その内容は参照により組み込まれる。
【0061】
図1の一般式100の構造に基づく例示的なチロインテグリン拮抗薬を以下の表1(a)、表1(b)および表1(c)に示す。
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
チロインテグリン拮抗薬110のいくつかの実施形態において、R5、R6、R7および
R8として描かれている変数は、それぞれ独立して、水素、ヨウ素およびアルカンなどの分子で置換されていてもよい。いくつかの実施形態において、アルカンは、4個以下の炭素を有する。例えば、表1(a)、表1(b)および表1(c)に示されるように、チロインテグリン拮抗薬110のいくつかの実施形態において、R5、R6、R7およびR8として描かれる変数は、それぞれ独立して、水素、ヨウ素またはイソプロピルもしくはイソブチルのようなアルカン基の分子で置換されていてもよい。表1(a)、表1(b)および表1(c)の実施形態において、アルカンは4個以下の炭素を有する。
【0066】
ノルエピネフリントランスポーターターゲット120は、神経内分泌腫瘍細胞標的化剤であってもよい。一例として、ノルエピネフリントランスポーターターゲット120は、ベンジルグアニジンまたはベンジルグアニジン誘導体であってもよい。さらなる例として、ノルエピネフリントランスポーターターゲット120は、N-ベンジルグアニジンまたはその誘導体であってもよい。
【0067】
図1の一般式100に基づく例示的なノルエピネフリントランスポーターターゲット 120を以下の表2(a)および表2(b)に示す。
【0068】
【0069】
【0070】
ノルエピネフリントランスポーターターゲット120のいくつかの実施形態において、
R1、R2、R3およびR4として描かれる変数は、それぞれ独立して、水素、ヨウ素、フッ素、臭素、メトキシ基、ニトロ基、アミン基およびニトリル基などの分子で置換されていてもよい。例えば、ノルエピネフリントランスポーターターゲット120のいくつかの実施形態において、R1、R2、R3およびR4として描かれた変数は、それぞれ独立して、表2(a)および表2(b)に上述したように、水素、ヨウ素、フッ素、臭素、メトキシ基、ニトロ基、アミン基、およびニトリル基の分子で置換されていてもよい。追加の実施形態および置換基もまた使用され得る。1つの実施形態において、R1、R2、R3および R4のうちの少なくとも1つは、放射性標識である。適切な放射性標識の例としては、I(123)、I(131)およびF(18)が挙げられる。本化合物は、ヒトまたは動物に投与することができる。
【0071】
例示的なチロインテグリン拮抗薬110のいずれか(本明細書で教示される他のチロインテグリン拮抗薬の実施形態のいずれかと共に)は、リンカー130を介して、例示的なノルエピネフリントランスポーターターゲット120のいずれか(本明細書で教示される他のノルエピネフリントランスポーターターゲットの実施形態のいずれかと共に)に接合されて、組成物を形成し得る。
【0072】
表1(a)、表1(b)および表1(c)ならびに表2(a)および表2(b)から明らかなように、組成物において、チロインテグリン拮抗薬110として使用され得る多数の化合物およびノルエピネフリントランスポーターターゲット120として使用され得る多数の化合物が存在する。さらに、様々なチロインテグリン拮抗薬110を様々なノルエピネフリントランスポーターターゲット120と組み合わせることができ、その結果、本明細書に記載の組成物には多数の潜在的な化学構造が生じる。
【0073】
本明細書に記載の各組成物の実施形態は、血管新生またはその阻害によって調節される複数の異なる疾患を治療するための複数のタイプの有用性を有し得る。本開示に記載される組成物のそれぞれは、記載される組成物中に存在するチロインテグリン拮抗薬110の存在の観点から、ヒトの身体および様々な動物の身体全体に見出される多数のタイプの細胞上に位置するインテグリン受容体αvβ3を標的とするための親和性を有し得る。
【0074】
さらに、本出願に記載の各組成物の実施形態は、ノルエピネフリントランスポーターの活性によって特徴付けられる複数の異なる疾患を治療するための有用性を有し得る。 本開示に記載される組成物の各々は、記載される組成物中に存在するノルエピネフリントランスポーターターゲット120の存在の観点から、それぞれノルエピネフリントランスポーターを利用するヒトの身体および種々の動物の身体全体に見出される多数のタイプの細胞を標的とするための親和性を有し得る。本開示に記載される組成物の各々は、神経内分泌腫瘍細胞などの、ノルエピネフリントランスポーターの活性の増加または平均以上の活性を示す細胞を標的とするための親和性の増加を有し得る。より具体的な例として、組成物は、神経芽細胞腫、褐色細胞腫、膵神経内分泌腫瘍およびカルチノイド腫瘍細胞を標的化するための増大した親和性を有し得る。
【0075】
さらに、チロインテグリン拮抗薬110およびノルエピネフリントランスポーターターゲット120の両方を使用する組成物のために、組成物は、特定の疾患および/または状態に対して増大した有用性および効力を有し得る。例えば、神経内分泌腫瘍は、チロインテグリン拮抗薬による治療に感受性であるが、同時にノルエピネフリントランスポーターの活性の増加も示す。本明細書に記載の組成物は、神経内分泌腫瘍細胞の治療において、二重の標的効果を得るために両方の化合物を利用する。さらに、増大した効果は、チロインテグリンアンタゴニストとノルエピネフリントランスポーターターゲットによる同時の別個の治療によって期待または達成されるいかなる増大をも凌駕する。有益な有用性に関するさらなる詳細は、実験的研究に関して後述する。
【0076】
図1の一般式100の化学構造によって示されるように、化学構造の実施形態は、一般式100のチロインテグリン拮抗薬110の追加の特徴を定義する1つ以上の変数を含み得る。例えば、チロインテグリン拮抗薬110のいくつかの実施形態において、R
5、R
6、R
7およびR
8として描かれる変数は、それぞれ独立して、水素、ヨウ素および表1(a)、表1(b)および表1(c)に上述したようなアルカンであってもよい。
【0077】
したがって、一般式100のチロインテグリン拮抗薬110として使用され得るチロインテグリン拮抗薬化合物の範囲は広い。例えば、
図2aに示すように、チロインテグリン拮抗薬110aは、R
5~R
8のためのヨウ素の置換を含んでなることができ、その結
果、3個の炭素リンカーおよびY部分としてのモノアミンを有するテトラヨードチロ酢酸(tetrac)誘導体が形成される。一般式200aは、ベンジルグアニジンまたはベンジルグアニジン誘導体にPEGを介して結合したモノアミン-テトラック(MAT)と呼ばれることがある。同様に、
図2bにおいて、テトラック分子は、炭素リンカーに連結されたジアミノY部分をさらに含む。この一般式200bは、ベンジルグアニジンまたはベンジルグアニジン誘導体にPEGを介して結合したジアミノテトラク(DAT)と呼ぶことができる。
図2cの代替実施形態では、一般式200cは、炭素リンカーの単一炭素に連結されたトリアゾール部分を含んでなることができる。この一般式200cは、ベンジルグアニジンまたはベンジルグアニジン誘導体にPEGを介して結合したトリアゾールテトラック(TAT)と呼ばれることがある。
【0078】
他のチロインテグリン拮抗薬化合物もまた本明細書に記載される組成物を形成する際に使用され得る。例えば、チロインテグリン拮抗薬110a、110bおよび110cの一般的な構造は、R5~R7のみがヨウ素を含み、それによって類似のトリアック誘導体を与えるものを使用してもよい。さらに、上記の表1(a)、表1(b)および表1(c)に示されるように、チロインテグリン拮抗薬が R5~R8のいずれかおよび/またはすべてに対して他の元素または官能基の置換を含んでなる同様の構造を使用することができる。
【0079】
ノルエピネフリントランスポーターターゲット120は、ベンジルグアニジンまたはベンジルグアニジン誘導体からなり得る。ノルエピネフリントランスポーターターゲット 120の化学構造の実施形態は、
図1に示す一般式100のノルエピネフリントランスポーターターゲット120の追加の特徴を定義する1つ以上の変数を含み得る。例えば、ノルエピネフリントランスポーターターゲット120のいくつかの実施形態において、R
1、R
2、R
3およびR
4として描かれた変数は、それぞれ独立して表2(a)および表2(b)に上述したように、水素、ヨウ素、フッ素、臭素、メトキシ基、ニトロ基、アミン基およびニトリル基の分子に置換されていてもよい。
【0080】
図3は、一般式100の例示的な組成物300を示す。組成物300は、ベンジルグアニジン修飾PEGに結合したトリアゾールテトラックからなる。組成物300は、BG-
PEG-TATまたはBG-P-TATとも呼ばれ得る。
【0081】
本明細書に記載の組成物の合成を、主に
図3に示す例示的な組成物、すなわち組成物 300を参照して以下に示す。同様の組成物、すなわち組成物201および組成物202(
図4c~4fを参照)の合成も、例として提供され、このような組成物に本開示を限定するものではない。
【実施例】
【0082】
実施例1a:例示的組成物300の合成
【0083】
本実施例は、
図3に示す組成物300を調製するためのサンプル方法を提供する。 組成物300は、BG-PEG-TATまたはBG-P-TATという。組成物300 は、2-(4-((1-(20-(4-(グアニジノメチル)フェノキシ)-3,6,9,12,15,18-ヘキサオキサイコシル)-1H-1,2,3-トリアゾール-4-イル)メトキシ)-3,5-ジヨードフェノキシ)-3,5-ジヨードフェニル)酢酸または[4-(4-{1-[2-(2-{2-[2-(2-{2-[2-(4-グアニジノメチル-フェノキシ)-エトキシ]-エトキシ}エトキシ)-エトキシ]-エトキシ}-エトキシ)-エチル]-1H-[1, 2,3]トリアゾール-4-イルメトキシ}-3,5-ジヨード-フェノキシ)-3,5-ジヨード-フェニル]-酢酸の化学名を有する。組成物300の分子量は、1284.44g/molである。
【0084】
市販の化学薬品は、すべてさらに精製せずに使用した。溶媒は、すべて乾燥させ、活性化モレキュラーシーブ(溶媒の種類により0.3nmまたは0.4nm)を用いて無水溶媒を得た。すべての反応(特に水を反応剤、溶媒、共溶媒として含まない場合)は、Ar またはN2の雰囲気下、オーブン乾燥したガラス器具で行った。すべての新規化合物は、1 HNMRと質量分析で満足のいく結果を得た。融点は、Electrothermal MEL-TEMP(登録商標)融点測定装置で測定した後、Thomas HOOVER Uni-melキャピラリー融点測定装置で測定した。赤外スペクトルは、Thermo Electron Nicolet Avatar 330FT-IR装置で記録した。UVスペクトルは、SHIMADZU UV-1650PC UV-vis分光光度計で得た。溶液状態のNMR実験は、すべて、Rensselaer Polytechnic Institute(RPI、Troy、NY)のCenter for Biotechnology and Interdisciplinary Studies(Z 軸勾配付き低温冷却プローブ(TCI)(Bruker BioSpin、Billerica、MA)を備えたBruker Advance II800MHz分光計で行った。使用したチューブはすべて外径5mmであった。NMRデータは、クロロホルム(CDCl3 ; 7.27ppm1H, 77.20ppm13C)またはDMSO-d6(δ= 2.50ppm, 38.92ppm13C)を内部参照とした。化学シフトδは、ppmで示し、多重度は、s(シングレット)、d(ダブレット)、t(トリプレット)、q(カルテット)、m(マルチプレット)、br(ブロード)で示し、結合定数Jは、Hzで報告する。薄層クロマトグラフィーは、蛍光指示薬を用いてシリカゲルプレート上で行った。可視化は、UV光(254nmおよび365nm)および/またはモリブデン酸セリウムアンモニウムまたは硫酸溶液による染色で行った。フラッシュカラムクロマトグラフィーは、J.Org.Chem.43,14,1978,2923-2925に示された手順に従って、230-400メッシュのシリカゲルを用いてフラッシュカラムクロマトグラフィーを行った。高分解能質量分析は、Applied Biosystems API4000 LC/MS/MSまたはApplied Biosystems QSTAR XL質量分析計で行った。
【0085】
この例では、プロパルギル化テトラック(PGT)を使用する。テトラックからのPGTまたはその誘導体の調製は、米国特許公開2017/0348425号公報(発明の名称:Non-Cleavable Polymer Conjugated with Alpha V Beta 3 Integrin Thyroid Antagonists)に記載されており、その内容は参照により組み込まれる。
【0086】
図4aは、組成物300の合成経路の概要を示している。
【0087】
図4bは、
図4aからの合成経路の詳細な概略図である。
図4aは、クリックケミストリーを介したテトラックアナログのベンジルグアニン修飾PEGへのコンジュゲーションの例として、組成物300の合成スキームを示す。他の合成経路を用いてもよい。
【0088】
図4bに示す組成物300の合成スキームの個々のステップについて、以下により詳細に説明するが、その際、中間生成物はクリックケミストリーのスキームに示す番号で参照する。
【0089】
ヘテロ二官能性PEGの合成: ヘテロ二官能性リンカーは、市販されているが、本実施例では以下の合成ルートで調製した。
【0090】
【0091】
生成物2 [tert-ブチル[(4-ヒドロキシフェニル)メチル]カルバメート]の合成:
【0092】
【0093】
tert-ブチル[(4-ヒドロキシフェニル)メチル]カルバメートは、既報の保護法に従って合成した{1)ACS Medicinal Chemistry Letters, 8(10), 1025-1030; 2017; 2)European Journal of Medicinal Chemistry, 126, 384-407; 2017; 3) Tetrahedron Letters, 47(46), 8039-8042; 2006}の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。生成物1の4-ヒドロキシベンジルアミン(0.62g,5mmol)を、室温で、ジ-tert-ブチルジカーボネート(1.2g,5.1mmol)の溶液に、攪拌しながらゆっくり加えた。反応混合物を8時間撹拌した後、油状の残渣をカラムクロマトグラフィー[SiO2:EtOAc/ヘキサン(1:4)]で精製し、N-Boc-4-ヒドロキシベンジルアミン0.82g(生成物2)を無色オイルとして収率71%で得た。
【0094】
生成物3(ブロモアジド変性PEG(400)3へのtert-ブトキシカルボニル-4-ヒドロキシベンジルアミンのエーテル化)の合成
【0095】
【0096】
CsCO3(867mg、2.67mmol、3当量)を、室温で、CAN(25mL)中のtert-ブトキシカルボニル-4-ヒドロキシベンジルアミン(生成物2)(300mg、0.896mmol、1当量)の溶液に、撹拌しながら加えた。反応混合物を30分間撹拌した後、ブロモアジド変性PEG(400)(445mg,1.05mmol,1.2当量)を混合物に添加し、24時間還流まで昇温した。濾過して過剰のCsCO3を除去した。溶媒を減圧下で除去し、油状の残渣をカラムクロマトグラフィー[SiO2:EtOAc/ヘキサン(5:5)]で精製し、生成物3を黄色オイルとして得た(収量:433 mg,収率:87%)。
【0097】
生成物4の合成(BOCの脱保護)
【0098】
【0099】
生成物3(100mg,0.179mmol,3当量)を、3mlの無水1,4-ジオキサンに溶解し、3mlの塩酸(ジオキサン中4N)を加え、室温で撹拌した。24時間後、溶媒を減圧下で除去し、油状の残渣を精製して、生成物4を黄色オイルとして定量的収率で得た(収量:73mg、収率:90%)。
【0100】
生成物5の合成(生成物4のグアニジン化)
【0101】
【0102】
生成物4(85mg,0.17mmol,1当量)、N,N′-Di-Boc-1H-ピラゾール-1-カルボキサミジン(54mg,17mg,1当量)を3-4mlの無水ジエチルカルボジイミド「DCM」に溶解し、トリエチルアミン「TEA」(48μl, 0.35mmol,2当量)を溶液に加えた。反応終了後、溶媒を減圧下で除去し、残渣をEtOAc(30ml)に溶解した。有機相を5%塩酸(25ml)およびブライン(25ml)で洗浄し、乾燥させた(Mg2SO4)。溶媒を減圧下で除去し、カラムクロマトグラフィー[SiO2:EtOAc/ヘキサン(2:8)]で精製し、生成物5を得た(収量:92mg、収率:80%)。
【0103】
生成物6の合成
【0104】
【0105】
生成物5(100mg、1当量)と1当量のPGTを20mlのTHFに溶解し、5 分間撹拌した後、2mlの水に0.5当量のL-アスコルビン酸ナトリウムと0.5当量 の硫酸銅を混合物に加え、65℃で24時間撹拌した。24時間後、溶媒を減圧下で除去し、生成物6を収率65%で精製した。
【0106】
組成物300(生成物7:2-(4-(1-(20-(4-(グアニジノメチル)フェノキシ)-3,6,9,12,15,18-ヘキサオキサイコシル)-1H-1,2,3-トリアゾール-4-イル)メトキシ)-3,5-ジヨードフェノキシ)-3,5-ジヨードフェニル)酢酸)の合成
【0107】
【0108】
生成物6(50mg)を3mlの無水1,4-ジオキサンに溶解し、3mlの塩酸(ジオキサン中4N)を加え、40℃で撹拌した。24時間後、溶媒を減圧下で除去し、油状残渣を精製して、組成物300(生成物7)を黄色粉末として得た。
【0109】
組成物300に到達するため、または
図1に示す一般式100を有する他の組成物に到達するために、他の合成方法を使用することができる。
【0110】
実施例1b:追加の例示的組成物の合成
【0111】
図4cおよび
図4dは、トシレート基またはアルデヒドのいずれかを使用した、他の例示的な組成物、例えば一般式200aに従う組成物201および一般式200bに従う組成物202の合成経路の概要を示す。
【0112】
組成物201は、BG-P-MAT、BG-PEG-MATまたはPEGを介してモノアミノテトラクに結合したベンジルグアニジンと称され得る。組成物202は、BG-P-DAT、BG-PEG-DATまたはPEGを介してジアミノテトラクにコンジュゲートされたベンジルグアニジンと称され得る。ベンジルグアニジン誘導体または他のノルエピネフリントランスポーターターゲットは、本明細書に記載されるように使用され得る。 テトラック誘導体または他のチロインテグリン拮抗薬もまた、トリアックおよびトリアック誘導体を含むがこれらに限定されず、本明細書に記載されるように使用され得る。
【0113】
図4eおよび
図4fは、
図4cおよび
図4dからの合成経路の詳細な概略図を示す。
図4eおよび
図4fは、クリックケミストリーを介したベンジルグアニン変性PEGへのテトラックアナログの共役のさらなる例として、組成物201および組成物202の合成スキームを示す。ここでも、他の合成経路を使用してもよい。
【0114】
使用方法
【0115】
本明細書に開示される組成物(組成物300、組成物201および組成物202などの例示的組成物を含むが、これらに限定されない)は、癌細胞および腫瘍の治療において、特に神経芽細胞腫、褐色細胞腫、膵神経内分泌腫瘍およびカルチノイド腫瘍などの神経内分泌腫瘍の治療において、新規な二重標的化を示す。さらに、チロインテグリン拮抗薬またはノルエピネフリントランスポーターターゲットを別々に使用または投与した場合、すなわち、単一の組成物に結合していない場合と比較すると、組成物は神経内分泌腫瘍細胞に対して増大した効力を示す。
【0116】
組成物はまた、癌細胞/腫瘍の画像化に使用することもできる。例えば、本明細書に記載の組成物は、神経芽細胞腫、褐色細胞腫、膵神経内分泌腫瘍およびカルチノイド腫瘍の画像化に使用することができる。 画像化は、診断のためおよび/または治療モニタリングのために望ましい場合がある。さらに、組成物は、治療と画像化を同時に行うために使用され得る。例えば、組成物は、標的化された癌細胞/腫瘍において増加した保持を示し、強化された治療およびより効果的な画像化を可能にし得る。
【0117】
実施例2:雌性ヌードマウス皮下移植腫瘍に対する効果
【0118】
ヌード雌性マウスに移植した神経芽細胞腫SKNF2細胞を用いて、組成物300(BG-P-TAT)の有効性を試験した。
【0119】
15匹の雌性ヌードマウスに106細胞/移植を2回移植した。SKNF2細胞株は皮下異種移植で使用した。
【0120】
移植から8日後、マウスを4群に分け、以下の治療を15日間行った。
【0121】
【0122】
15日間の治療後、病理組織学を評価するために腫瘍を採取し、以下の結果を得た。
【0123】
図5は、SKNF2細胞株を移植したマウスの体重に対する対照および組成物300(BG-PEG-TAT)治療の効果を示す。示されるように、体重は全群で一定であった。データは、組成物300(BG-PEG-TAT)を異なる用量1、3および10mg/kgで15日間毎日投与しても、対照動物に対して動物の体重に影響を及ぼさないことを示している。
【0124】
図6は、SKNF2細胞株を移植したマウスの腫瘍体積に対する組成物300(BG-PEG-TAT)治療対対照の効果を示す。示されるように、対照群は、治療の15日間で、腫瘍体積の約825mm
3から1050mm
3への増加を示した。組成物300(BG-PEG-TAT)による治療を受けた全群は、腫瘍サイズの減少を示したさらに、組成物300(BG-PEG-TAT)による治療を受けた群は、腫瘍サイズの用量依存的な減少を示し、10mg/kg群は、腫瘍サイズの約825mm
3から100mm
3への減少を示した。
【0125】
図7a~
図7bは、皮下腫瘍70を視覚的に比較することができる各治療群のマウスの写真からなる。
図7aに示すように、対照群は、大きく、はっきりと見える腫瘍70 を示す。対照動物はまた、異常な旋回(頭部の回転)79を示したが、これは全ての治療群では見られなかった。異常な旋回運動は、中枢神経系に対する腫瘍の影響であると考えられる。
【0126】
図7bに示されるように、治療群は、10mg/kgの用量において、腫瘍70のサイズが完全に消失するまでの明確な用量依存性の減少を示す。示されるように、10mg/kg 治療群では、腫瘍位置70’に可視腫瘍が存在しない。
【0127】
図8は、SKNF2細胞株を移植したマウスの腫瘍重量に対する対照および組成物300(BG-PEG-TAT)治療の効果を示す。示されるように、治療群は対照群と比較して、腫瘍重量の用量依存的な減少を示した。データは、1、3、10mg/kg投与でそれぞれ60%、80%、100%の腫瘍縮小を示した。
【0128】
図9aおよび
図9bは、SKNF2細胞株を移植したマウスの血管系および腫瘍サイズに対する対照および組成物300(BG-PEG-TAT)治療効果を示す。示されるように、対照群は、脈管形成の増加として腫瘍70のサイズの有意な増加を示した。対照群の腫瘍70の脈管形成領域90がはっきりと見える。対照的に、治療群は、10mg/kg用量での腫瘍縮小を含む、腫瘍70の大きさの用量依存的減少を示した。腫瘍血管系もまた、示されるように明らかに減少した。実際、
図9bに示されるように、10mg/kg群に関しては、病理組織学的検査のために除去されるべき移植腫瘍70’(
図7bを参照のこと)の位置に壊死皮膚75が存在するだけであった;治療は、この用量で腫瘍縮小を示した。
【0129】
図10は、SKNF2細胞株を移植したマウスの腫瘍細胞生存率に対する対照および組成物300(BG-PEG-TAT)治療の効果を示す。示されるように、治療群は、腫瘍細胞生存率において用量依存的な減少を示す。対照では70-75%の細胞生存率が示され、腫瘍中心部では20-30%の壊死が認められた。対照的に、組成物300(BG-PEG-TAT)を異なる用量で投与した場合、1、3、10mg/kg、15日間連日投与で、それぞれ50%、20%、0.00%まで細胞生存率が低下した。10mg/kg投与群では、15日間の投与後、生存可能な腫瘍細胞が完全に消失した。
【0130】
図11は、SKNF2細胞株を移植したマウスの腫瘍細胞壊死に対する対照および組成物300(BG-PEG-TAT)治療効果を示す。示されるように、治療群は、腫瘍細胞壊死において用量依存的な増加を示す。10mg/kg群は、100%に近い腫瘍細胞壊死率を示し、3mg/kg群は、約80%の腫瘍細胞壊死率を示し、1mg/kg群は、約50%の腫瘍細胞壊死率を示した。
【0131】
実施例3:比較例
【0132】
図12aおよび
図12bは、SKNF2細胞株を移植したマウスの腫瘍細胞壊死に対する、BG、BG誘導体、TAT誘導体などのチロインテグリン拮抗薬およびそれらの組み合わせ(共投与)による対照および治療と、組成物300(BG-P-TAT)との効果を示す。
【0133】
要約すると、腫瘍細胞の治療のための公知のチロインテグリン拮抗薬は、組成物300 (BG-P-TAT)と比較した場合、実質的に劣った結果を達成する。例えば、3mg/kgで3週間毎日皮下投与されるトリアゾールテトラック誘導体は、腫瘍増殖を約40~50%減少させ、腫瘍生存率を約40~50%減少させることが示されている。同様に、トリアゾールテトラック誘導体も腫瘍増殖を約40-50%減少させ、腫瘍生存率を約40-50%減少させることが示されている。さらに、2種類のトリアゾールテトラカルボン酸誘導体を3mg/kgで3週間毎日皮下投与する併用療法でさえ、腫瘍増殖および腫瘍生存率について 40~50%の減少しか達成できない。ベンジルグアニジンおよびベンジルグアニジン誘導体を用いた治療でも同様の結果が得られた。さらに、ベンジルグアニジンとチロインテグリン拮抗薬の同時投与でも、40-50%以上の有効性の増加は認められない。
【0134】
対照的に、組成物300(BG-P-TAT)による治療では、残存腫瘍の生存率が 80%減少した。
【0135】
比較例3a:腫瘍重量に対するTAT誘導体の効果:
【0136】
αvβ3 インテグリン受容体拮抗薬(チロインテグリン拮抗薬)は、神経芽細胞腫、褐色細胞腫、膵神経内分泌腫瘍およびカルチノイド腫瘍などの神経内分泌腫瘍の場合、腫瘍増殖率および癌生存率阻害の点で限定的(40~50%)な有効性を示した。例えば、
図12bのグラフは、対照群(リン酸緩衝生理食塩水「PBS」)と比較した場合の腫瘍重量に対するトリアゾールテトラック誘導体(TAT と呼ばれる)の効果を含む。 試験された特定の誘導体は、βシクロデキストリントリアゾールテトラックであった。 示されたように、3mg/kgの投与で腫瘍重量が約40-50%減少した。
【0137】
比較例3b:腫瘍重量に対するベンジルグアニジンおよび誘導体の効果:
【0138】
同様に、ベンジルグアニジンおよびその誘導体は、神経芽細胞腫、褐色細胞腫、膵神経内分泌腫瘍およびカルチノイド腫瘍のような神経内分泌腫瘍の場合、腫瘍増殖率および癌生存率阻害の点で限定的な(40~50%)有効性を示す。例えば、
図12aのグラフには、対照群(PBS)と比較した場合の、ベンジルグアニジン(BG)およびベンジルグアニジン誘導体(MIBG およびポリマー結合ベンジルグアニジン(具体的には PLGA-PEG-BG、ポリマー-BGと呼ばれる)など)の腫瘍重量に対する効果が含まれている。 この治療化合物は、神経芽細胞腫や他の神経内分泌腫瘍への取り込みが最大(90~100%)であるにもかかわらず、神経芽細胞腫の抗がん効果は限定的であることが示された。
【0139】
比較例3c:ノルエピネフリントランスポーターターゲットとチロインテグリン拮抗薬を別々に併用投与した場合の効果:
【0140】
さらに、ベンジルグアニジンまたはその誘導体のようなノルエピネフリントランスポーター標的化合物と、トリアゾールテトラヨードサイロ酢酸誘導体のようなサイロインテグリン拮抗薬との共投与からなる治療の組み合わせは、神経芽細胞腫の増殖および生存率の40~ 50%の抑制を超えなかった。例えば、ベンジルグアニジンをテトラック誘導体(BG+TAT)と共投与しても、
図12b(BG+TAT)に示すように、いずれかの化合物を単独で投与した場合に示された 40-50%の有効性を超えることはなかった。ここでも、β-シクロデキストリン・トリアゾール・テトラックがテトラック誘導体として使用された。
【0141】
比較例3d:組成物300(BG-P-TAT)(PEGを介してTATに結合したベンジルグアニジン)の効果:
【0142】
ここでも、組成物300(BG-P-TAT)による治療は、
図12bに示すように、対照および他のタイプの治療の両方と比較して、腫瘍重量に対する効果に有意な改善をもたらした。組成物300は、腫瘍の約80%の減少を達成する。さらに、残存腫瘍の生存率は80%減少した。実際、組成物300(BGに結合したTAT)は、TATとBG を別々に共投与した場合(BG+TAT)よりも有効性が有意に増加した。
【0143】
【0144】
【0145】
実施例4:無胸腺症雌マウスにおける皮下移植腫瘍の画像化
【0146】
無胸腺症の雌性マウスに、106細胞/インプラントを2回ずつ移植した。SKNF1 細胞株は皮下異種移植で使用した。
【0147】
グループ1は、3匹のマウスで構成され、PEG-TAT-dye(Cy5)で治療された。グループ2は、3匹のマウスで構成され、PEG-BG-色素(Cy5)で治療された。グループ3は、3匹のマウスで構成され、化合物300として、TATとBGが PEGリンカーで共有結合されたTAT-PEG-BG色素(Cy5)で治療された。 治療群を以下の表5に示す。
【0148】
【0149】
投与1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、24時間後に蛍光イメージング(Cy5)を行った。イメージングの結果は
図13aおよび13bに示されており、腫瘍の位置は黄色で囲まれており、Cy5色素は赤色で表示されている。これらの図に示すように、TATとBGを共有結合させると蛍光シグナルが劇的に増加し、トリアゾールテトラ誘導体単独またはベンジルグアニジン誘導体単独と比較した場合、SKNF1神経芽腫腫瘍への取り込みと腫瘍内での滞留時間の両方で、組成物300が顕著な改善を示した。
【0150】
神経芽腫腫瘍細胞は、論じた治療例で使用された。当業者であれば、これらの例が他の腫瘍型、特に他の神経内分泌腫瘍の治療に有効なモデルであることを理解するであろう。 さらに、チロインテグリンの調節された血管新生阻害活性が所望されるノルエピネフリントランスポーターの活性の増加を示す任意の腫瘍または疾患状態は、開示された組成物によって治療され得る。
【0151】
これらの例を考慮すると、本明細書に記載の組成物は、腫瘍細胞、特に神経内分泌腫瘍に対して増大した効力を示す。これらの組成物は、神経芽細胞腫、褐色細胞腫、膵神経内分泌腫瘍、およびカルチノイド腫瘍などの神経内分泌腫瘍を治療するために、例えば、注射、局所、舌下、経口および他の投与経路によって使用され得る。
【0152】
追加の例示化合物
【0153】
上述したように、一般構造100に基づく組成物は、R1~R8におけるバリエーション、および/またはリンカー130におけるバリエーション、例えば、スペーサー132、ポリマー131および/または部位Yにおけるバリエーションを含み得る。これらの例示的な実施形態は、具体的に提示された実施形態のいずれかに本開示を限定することを意味するものではない。代わりに、様々な実施形態の説明は、例示の目的で提示されており、網羅的であること、または開示された実施形態に限定されることは意図されていない。記載された実施形態の範囲および精神から逸脱することなく、多くの修正および変形が当業者には明らかであろう。
【0154】
図14は、一般式100の例示的な組成物7aを示す。組成物7aは、ヨード基がベンジルグアニジン芳香環上の置換基として選択された、ベンジルグアニジン修飾PEGにコンジュゲートされたトリアゾールテトラックからなる。組成物7aは、dI-BG-PEG-TATまたはdI-BG-P-TATとも呼ばれ得る。
【0155】
図15は、一般式100の例示的な組成物7bを示す。組成物7bは、ベンジルグアニジン芳香環上の置換基としてメトキシ基が選択された、ベンジルグアニジン修飾PEG にコンジュゲートされたトリアゾールテトラックからなる。組成物7bは、dM-BG-PEG-TATまたはdM-BG-P-TATとも呼ばれ得る。
【0156】
図16は、一般式100の例示的な組成物15を示す。組成物15は、部分Yのアミンがピペラジンである、ベンジルグアニジン修飾PEGにコンジュゲートされたテトラックからなる。組成物15は、BG-PEG-PATまたはBG-P-PATとも呼ばれ得、ここでPATはピペラジンテトラックを指す。
【0157】
これらの組成物の合成を以下に示す。
【0158】
実施例5:組成物7aおよび7bの合成
【0159】
dI-BG-P-TAT(7a)およびdM-BG-P-TAT(7b)の合成は、スキーム1に記載したように行った。ヨードおよびメトキシ置換4-ヒドロキシベンジルアミンのアミン基をジ-tert-ブチルジカーボネートで保護した。化合物2aおよび2bを1H-NMRで特性評価した。1.49ppm に観測されたピークはtert-ブチルオキシカルボニル(Boc)プロトンに割り当てられた。次の反応では、化合物2aおよび2bを市販のBr-PEG6-N3、K2CO3およびACNの存在下、還流条件下で反応させ、化合物3aおよび3bをそれぞれ90%および85%の収率で得た。化合物3aおよび化合物3bの1H-NMRスペクトルは、3.40から3.97ppmの間にPEGプロトンのピークを示した。次に、アミノ基を4N塩酸(ジオキサン中)で脱保護し、化合物4aおよび化合物4bの1H-NMRスペクトルにおいて、1.48および1.49ppmのBoc-プロトンのシグナルが消失することで生成物を確認した。次の段階で、N,N′-ジ-Boc-1H-ピラゾール-1-カルボキサミジンを化合物4aおよび化合物4bと反応させ、Boc保護グアニジン化合物5aおよび化合物5bを得た。化合物5aおよび化合物5bの1H-NMRスペクトルは、それぞれ1.49-1.52および1.50-1.52ppmにピークを明瞭に示し、これは2つの別々のBoc基のプロトンに割り当てられる。
【0160】
【0161】
スキーム1は、化合物7aおよび化合物7bの合成図である。aは、Boc
2O、6時間;bは、K
2CO
3、ACN、Br-PEG6-N
3、還流、24時間;cは、HCl(ジオキサン中4N),室温、4時間;dは、DCM、TEA、N,N′-di-Boc-1H-pyrazole-1-carboxamidine、室温、12時間;eは、PGT、THF:水4:1、CuSO
4、アスコルビン酸Na、室温、24時間;fは、HCl(ジオキサン中4N)、室温、24時間である。スキーム1を
図17に示す。
【0162】
次に、アジド基含有化合物5aおよび化合物5bを、末端アルキン含有テトラカルボン酸であるプロパルギル化テトラカルボン酸(PGT)とクリック反応で共役させ、トリアゾール環を形成させて化合物6aおよび化合物6bを得た。(PGT)
36とクリック反応させ、トリアゾール環を形成させ、化合物6aと化合物6bを得た。CuSO
4/Naアスコルビン酸(0.3eq:0.6eq)をTHF:水(4:1)に溶解し、室温でその場でCu
+を生成させた。化合物6aおよび化合物6bの
1H-NMRスペクトルにおいて、トリアゾール環プロトンの特徴的な一重項ピークがそれぞれ8.59および8.60ppmに現れた。最後に、保護Boc基を4N塩酸(ジオキサン中)で除去し、得られた生成物をMeOH:水(70:30)を用いた逆相カラムクロマトグラフィーで精製し、化合物7aおよび化合物7bを得た。化合物7aおよび化合物7bの
1H-NMR(
図S21,
図23)、
13C-NMRおよびマススペクトルから、その構造が確認された。
【0163】
実施例6:組成物15の合成
【0164】
BG-P-PAT15の合成は、スキーム2に記載されているように行った。まず、4-ヒドロキシベンジルアミン(化合物8)のアミノ基をBoc基で保護した。次に、Br-PEG7-OHを、K2CO3およびACNの存在下、還流温度で化合物9のフェノール性OH基と反応させ、化合物10を得た。1H-NMRで、3.6-3.8ppmにPEG プロトンピークを観測し、その特徴を調べた。
【0165】
【0166】
スキーム2は、化合物15の合成図である。aは、Boc
2O、6時間;bは、K
2CO
3、ACN、Br-PEG7-OH、還流、24時間;cは、Tos-Cl、DCM、TEA、0°C~室温,2時間;dは、化合物19(スキーム3参照)、ACN、K
2CO
3、60°C、18時間;eは、HCl(ジオキサン中4N)、室温、4時間;fは、DCM、TEA、N,N′-ジ-Boc-1H-ピラゾール-1-カルボキサミジン、室温、12時間;gは、ジオキサン・水、conc.HCl、室温、24時間である。スキーム 2を
図18に示す。
【0167】
PEG上にテトラックユニットを導入するために、別の方法を用いた(スキーム3)。まず、テトラック16のカルボン酸基をMeOH中でメチルエステルに変換し、SOCl2、化合物17を得た。次に、これをtert-ブチル4-(3-(メタンスルホニルオキシ)プロピル)ピペラジン-1-カルボキシレート塩酸塩(化合物18)と、塩基としてCs2CO3とACN中で反応させ、続いてHCl(ジオキサン中4N)溶液で処理して Boc基を脱保護した。得られた化合物19の構造を1H-NMRで特徴付けた。
テトラックの芳香族プロトンは、7.32ppmと8.04ppmに、ピペラジンプロトンは、2.77ppmと2.94ppmに観測された。
【0168】
【0169】
スキーム3中、aは、SOCl
2、MeOH;bは、化合物17,ACN,Cs
2CO
3 60°C、18h;cは、ジオキサン中、4NHCl、2時間である。スキーム3を
図19に示す。
【0170】
K
2CO
3およびACNの存在下、PEG-OH10をトシル化反応させた後、PEG ユニットに化合物19を導入し(スキーム2参照)、化合物12を得た。12の
1H-NMRスペクトル(
図S40)は、それぞれ7.18-7.79および6.88-7.20にテトラックおよびN-Bocベンジルアミンの芳香族プロトンピークを観測し、構造を確認した。化合物12のN-Boc脱保護後、13の遊離アミンをDCM中、N,N′-ジ-Boc-1H-ピラゾール-1-カルボキサミジンとTEAを塩基として用い、Boc保護グアニジン基を導入し、化合物14を得た。最後に、メチルエステルおよびBoc保護基を、ジオキサン:水中、濃塩酸で加水分解し、所望の化合物15を得た。
1H-NMR(
図S46)および質量スペクトルから、化合物15の構造が確認された。最終合成物7a、7bおよび15の純度は、HPLCにより、95%以上であることが確認された。
【0171】
化合物dI-BG-P-TAT(7a)、dM-BG-P-TAT(7b)およびBG-P-PAT(15)は、精製インテグリンαvβ3受容体に対して比較的高い結合親和性を示し、BG-P-TATの10.3nMと比較して、IC
50値はそれぞれ1.1nM、0.5nMおよび0.3nMと低かった。したがって、化合物15のBGP-PATは、BG-P-TATに対して約30倍の結合親和性の増加を示している。
図20は、精製インテグリンαvβ3受容体に対するそれぞれの結合率を示している。
【0172】
さらに、当該化合物は、BG-P-TATと同様のin vitro細胞取り込み(SK-N-F1神経芽腫細胞)を示した。取り込みを
図21Aおよび21Bにグラフで示す。
【0173】
化合物7a、7b、15についても分子ドッキングを行った。分子ドッキングの結果、結合部位で分子が屈曲した構造を示した。相互作用とドッキング解析の結果、化合物15 は、結合エネルギーが-14.4 kcal/molと高く、インテグリンβ3サブユニット7aと7bとの結合エネルギーがそれぞれ-6.1kcal/molと-7.8kcal/molで9個の水素結合を形成し、7aは、6個の水素結合(αvドメインと1 個、β3ドメインと5個)、7bは、6個の水素結合(αvドメインと1個、β3ドメインと4個、Mn原子と1個)を形成し、最も相互作用率が高いことが明らかになった。7a、7bおよび15の結合エネルギーと相互作用に関与する残基のエネルギー値を表6に示す。BG-P-TATに比べ、15のαvβ3結合親和性が30倍高いのは、15のBG部分がAsp-127およびAsp-126と水素結合しているためと考えられる。これは、BG-P-PATのリンカー鎖が長いため、BG-P-TATのBG部分よりもこのドメインにBG部分がアクセスしやすくなっているためと考えられ、またピペラジン窒素の水素結合も追加されている。
【0174】
【0175】
使用方法
【0176】
実施例7:雌性ヌードマウス皮下移植腫瘍に対する効果
【0177】
組成物7a(dI-BG-P-TAT)、7b(dM-BG-P-TAT)および15(BG-P-PAT)の有効性を、組成物300(BG-P-TAT)について上述した実施例と同様に、ヌード雌マウスに移植した神経芽細胞腫SKNF1細胞を用いて試験した。
【0178】
3mg/kgで、20日間(組成物7aは、皮膚刺激と不快感のため7日間)投与した後、病理組織学を評価するために腫瘍を採取し、以下の結果を得た。
【0179】
図22は、SKNF1細胞株を移植したマウスの腫瘍体積に対する組成物7a(dI-BG-P-TAT)、7b(dM-BG-P-TAT)および15(BG-P-PAT)の対照に対する効果を示す。示されるように、完了した治療群(組成物7b(dM-BG-P-TAT)および15(BG-P-PAT))はいずれも、対照と比較して腫瘍体積の減少を示した。対照群では、20日間で175mm
3から1000mm
3への増加が見られたが、完了した治療群では腫瘍体積の実質的な増加は見られなかった。
【0180】
図23は、SKNF1細胞株を移植したマウスの腫瘍重量に対する組成物7a(dI-BG-P-TAT)、7b(dM-BG-P-TAT)および15(BG-P-PAT)の対照に対する効果を示す。示されるように、完了した治療群は対照群と比較して腫瘍重量の減少を示した。データによると、組成物15(BG-P-PAT)では腫瘍重量が90%減少し、組成物7b(dM-BG-P-TAT)では腫瘍重量が86%減少した。 組成物7a(dI-BG-P-TAT)の投与中止群でさえ、腫瘍重量の67%減少を示した。
【0181】
さらに、対照群と治療群の腫瘍の病理組織学的変化を比較するために、腫瘍を採取、固定し、ヘマトキシリン・エオジン(H&E)で染色した。図に示すように、化合物7a、7bおよび15で治療した動物の腫瘍の低倍率での壊死が、対照群に対して明瞭に見られた。染色は、約98%(組成物15)(BG-P-PAT)、85%(組成物7b)(dM-BG-P-TAT)および70%(組成物7a)(dI-BG-P-TAT)の壊死、線維化および細胞破片の大きな領域を示した。一方、未治療群の腫瘍はほとんどが生存腫瘍細胞であった。より高倍率(40倍)で見ると、組成物15(BG-PPAT)で治療した腫瘍は、正常組織と置き換わった壊死の大きな領域を示した。(ここでも、化合物7a(dI-BG-P-TAT)は7日間しか投与されなかったのに対し、他の2つのレジームでは20日間投与された)。
【0182】
神経芽腫腫瘍細胞は、議論された治療例で使用された。当業者であれば、これらの例が他の腫瘍型、特に他の神経内分泌腫瘍の治療に有効なモデルであることを理解するであろう。さらに、チロインテグリンの調節された血管新生阻害活性が望まれる、ノルエピネフリントランスポーターの活性の増加を示す任意の腫瘍または疾患状態は、開示された組成物によって治療され得る。
【0183】
これらの例を考慮すると、本明細書に記載の組成物は、腫瘍細胞、特に神経内分泌腫瘍に対して増大した効力を示す。これらの組成物は、神経芽細胞腫、褐色細胞腫、膵神経内分泌腫瘍およびカルチノイド腫瘍などの神経内分泌腫瘍を治療するために、例えば、注射、局所、舌下、経口および他の投与経路によって使用され得る。
【0184】
本発明の様々な実施形態の説明は、例示の目的で提示されたが、開示された実施形態を網羅的または限定することを意図するものではない。説明した実施形態の範囲および精神から逸脱することなく、多くの修正および変形が当業者には明らかであろう。本明細書で使用される用語は、実施形態の原理、市場で見出される技術に対する実用化または技術的改良を最もよく説明するため、または当業者が本明細書で開示される実施形態を理解できるようにするために選択された。
【図】
【国際調査報告】