(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-27
(54)【発明の名称】血小板の冷蔵保存のためのアポトーシス阻害剤の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 35/19 20150101AFI20240520BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240520BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20240520BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20240520BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20240520BHJP
【FI】
A61K35/19
A61K9/08
A61K47/22
A61K47/42
A61P7/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023565182
(86)(22)【出願日】2022-04-22
(85)【翻訳文提出日】2023-11-06
(86)【国際出願番号】 EP2022060763
(87)【国際公開番号】W WO2022223815
(87)【国際公開日】2022-10-27
(32)【優先日】2021-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511025329
【氏名又は名称】デーエルカー-ブルートシュペンデディーンスト・バーデン-ヴェルテンブルク-ヘッセン・ゲーゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】DRK-BLUTSPENDEDIENST BADEN-WURTTEMBERG-HESSEN GGMBH
(71)【出願人】
【識別番号】523398662
【氏名又は名称】ゼントラム フュール クリニッシュ トランスフュージョンズメディジン テュビンゲン ジージーエムビーエイチ(ゼットケーティー)
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【氏名又は名称】中島 彩夏
(74)【代理人】
【識別番号】100231647
【氏名又は名称】千種 美也子
(72)【発明者】
【氏名】バクチュール,タマム
(72)【発明者】
【氏名】セイフリード,エルハルト
(72)【発明者】
【氏名】イレーネ マリーニ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB11
4C076CC14
4C076DD59Q
4C076DD60Q
4C076EE41Q
4C076FF65
4C087AA01
4C087BB38
4C087CA04
4C087MA66
4C087NA03
4C087NA10
4C087ZA53
(57)【要約】
本発明は、適切な保存媒体中の血小板と、少なくとも1種の血小板アポトーシス阻害剤とを含む、血小板の冷蔵保存用の医薬組成物に関する。好ましくは、上記アポトーシス阻害剤は、冷蔵保存により誘導されるアポトーシスを標的とする選択的阻害剤である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
適切な保存媒体中の血小板と、少なくとも1種の血小板アポトーシス阻害剤とを含む、血小板の冷蔵保存用の医薬組成物。
【請求項2】
前記冷蔵保存は、約0℃から約10℃の間、好ましくは約2℃から約5℃の間の温度、より好ましくは約4℃でのものである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記血小板は、哺乳動物ドナー、特にヒトドナーに由来するものである、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
自家濃縮血小板若しくはアフェレーシス濃縮血小板(APC)、添加液中の血小板(PAS)、又は多血小板血漿(PRP)等の濃縮血小板として血小板を含み、ここで、好ましくは、前記PRPは、約35%を超える血漿を含まない、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記アポトーシス阻害剤は、冷蔵保存により誘導されるアポトーシスを標的とする選択的阻害剤であり、ここで、好ましくは、前記アポトーシス阻害剤は、特定のRhoAサブファミリーRho GTPアーゼ阻害剤、RhoA阻害剤のG04、特定のホスホキナーゼA(PKA)活性化剤、フォルスコリン、特定のカスパーゼ-9阻害剤、z-LEHD-fmk、及びそれらの組合せ、特にRhoA阻害剤のG04とフォルスコリンとの組合せの群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
冷蔵保存された血小板は、10日目に約50%を超える、好ましくは約55%を超える、より好ましくは約60%を超える血小板(PLT)生存率(%)を示す、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記冷蔵保存された血小板は、10日目に約40%未満、好ましくは約35%未満のアポトーシス(%)を示す、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記冷蔵保存された血小板は、7日目に約60%を超える、好ましくは約65%を超えるPLT凝集(%)を示す、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬組成物を作製する方法であって、適切な保存媒体中で冷蔵保存される血小板の試料を準備することと、前記血小板に少なくとも1種の血小板アポトーシス阻害剤を添加することとを含む、方法。
【請求項10】
前記血小板は、哺乳動物ドナー、特にヒトドナーに由来するものである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記血小板は、自家濃縮血小板若しくはアフェレーシス濃縮血小板(APC)、添加液中の血小板(PAS)、又は多血小板血漿(PRP)等の濃縮血小板、又はそれらから誘導される濃縮血小板であり、ここで、好ましくは、前記PRPは、約35%を超える血漿を含まない、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記アポトーシス阻害剤は、冷蔵保存により誘導されるアポトーシスを標的とする選択的阻害剤であり、ここで、好ましくは、前記アポトーシス阻害剤は、特定のRhoAサブファミリーRho GTPアーゼ阻害剤、RhoA阻害剤のG04、特定のホスホキナーゼA(PKA)活性化剤、フォルスコリン、特定のカスパーゼ-9阻害剤、z-LEHD-fmk、及びそれらの組合せ、特にRhoA阻害剤のG04とフォルスコリンとの組合せの群から選択される、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記医薬組成物を冷蔵保存する工程を更に含み、ここで、前記冷蔵保存は、約0℃から約10℃の間、好ましくは約2℃から約5℃の間の温度、より好ましくは約4℃でのものである、請求項9~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
医薬組成物の前記冷蔵保存は、約4日間を超える、好ましくは約7日間を超える、より好ましくは約10日間を超える、最も好ましくは約14日間を超えるものである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
疾患の予防及び/又は治療において使用される、好ましくは血小板輸血において使用される、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適切な保存媒体中の血小板と、少なくとも1種の血小板アポトーシス阻害剤とを含む、血小板の冷蔵保存用の医薬組成物に関する。好ましくは、上記アポトーシス阻害剤は、冷蔵保存により誘導されるアポトーシスを標的とする選択的阻害剤である。
【背景技術】
【0002】
血小板輸血は現代医学において不可欠な療法となっている。血小板輸血の臨床上の利点は十分に確立されているが、輸血時の有害反応、特に細菌感染の伝播が依然として大きな課題となっている。濃縮血小板(PC)の輸血はまた、外傷後の失血を軽減し、又は化学療法中に安全な血小板(PLT)数を維持するのに不可欠である。
【0003】
現在、PCは、適切なPLTの回収、生存、及び十分な治療効力を確保するのに、室温(20℃~24℃)で一定に撹拌しながら保存される。
【0004】
しかしながら、室温(RT)での保存は、in vivo及びin vitroの両方で機能性を脅かすだけでなく(「PLT保存損傷」)、汚染されている場合には微生物が成長する潜在的なリスクも高まる[1~6]。これらの理由から、PLTの貯蔵寿命は、各国ごとのガイドラインに応じて4日~5日に制限されている[2]。しかしながら、保存時間が限られているにもかかわらず、PCの細菌汚染の発生率は依然として高く、50000単位当たり1件~10件の範囲であり、これは臨床使用のためにRTで保存されるPLTの大きな不利点である。
【0005】
PCを4℃で冷蔵保存することは細菌成長のリスクを軽減する1つの選択肢であり得る[7、8]。最近の研究では、冷蔵保存されたPLTは、RTで保存されたPLTよりも機能的かつ代謝的に優れていることが報告された[9~11]。
【0006】
現在、FDAは、外傷患者用に、血小板を1℃~6℃で撹拌せずに最大3日間冷蔵保存することを認めている(21 CFR 640.24及び640.25)。メイヨークリニックは、近年、外傷患者用にこのような3日目の血小板を使用することを進めている。軍は、かなりの調査及びデータ収集の後に、FDAに特例申請を提出した。この特例許可は、2019年8月にFDAによって「アフェレーシス血小板を1℃~6℃で撹拌せずに最大14日間保存する。冷蔵保存された血小板製品は、慣例的な血小板製品が入手可能でない場合、又はその使用が現実的でない場合に、活動性出血患者の治療に使用されることになる」というステートメントとともに承認されたばかりである。
【0007】
しかしながら、冷蔵保存の潜在的限界は、輸血後のPLTのより不十分な回収及び生存である。しかしながら、この問題は議論を醸している。実際、一部の研究では、冷蔵保存されたPLTの生存がRT保存されたPLTと比較して減少することが明らかにされているのに対し[12~14]、他の研究者によれば、4℃で保存されたPLTは循環中で数日間生存することができると報告されている[15、16]。冷蔵された血小板は循環から急速にクリアランスされることが報告されていることから、輸血用の血小板の冷蔵保存は除外される。これらの研究に基づき、冷蔵保存の概念は日常臨床において断念されている。
【0008】
最近、添加液(PAS)中でのPLT保存が利用可能となったことで、PCの冷蔵保存が復興を迎えた。4℃で保存されたアフェレーシス濃縮血小板(APC)が、マウスの血液循環中で最大5時間検出可能であることが実証されたことから、これは血小板の分解が高まらないことを暗示している。4℃で保存された血小板は、室温で保存された血小板と比較してより高いアポトーシスマーカーの発現を示すことから、RTで保存されたヒト血小板に比べた場合のヒト化動物モデルにおける循環からのクリアランスの加速につながる(非特許文献1)。
【0009】
Leytin(非特許文献2において)は、長年、アポトーシスとして知られるプログラム細胞死がもっぱら有核細胞のものであったと開示している。しかしながら、最近では、アポトーシスは、無核血小板においても、有核細胞及び血小板におけるアポトーシスの外因性経路及び内因性経路、多数の化学的刺激及び剪断応力によって誘発される血小板アポトーシス、血小板アポトーシスのマーカー、血小板アポトーシスのミトコドリア制御、並びに血小板表面受容体のPAR-1、GPIIbIIIa、及びGPIbαによって媒介されるアポトーシスにおいても文書で十分に立証されている。さらに、血小板保存中のin vitroでの血小板の老化によって引き起こされる血小板アポトーシス、ヒト及び動物モデルでの病理学的環境における血小板アポトーシス、並びにシクロスポリンA、静脈内免疫グロブリン、及びGPIIbIIIaアンタゴニスト薬による血小板アポトーシスの阻害に関するデータが発表されている。
【0010】
Xiang et al.(非特許文献3において)は、EGTA等の細胞不透過性カルシウムイオンキレート剤がin vitroで血小板の活性化及びアポトーシスを阻害し、輸血後の冷蔵保存された血小板の寿命を延長したことを開示している。EGTA処理した冷蔵保存された血小板は、出血を効果的に防いだ。彼らは、血小板製品へのEGTAの添加が、輸血用血小板の冷蔵保存を可能にする簡単かつ効果的な方法となる可能性があると結論付けている。
【0011】
Pleines I,et al.(非特許文献4において)は、マウス血小板におけるBAK/BAXの枯渇により、血小板の保存損傷の発生には内因性アポトーシスは必要とされないことが明らかとなることを開示している。血流からの古い血小板のアポトーシスによる淘汰は、機能的で止血反応性の血小板集団を維持するのに不可欠であると記載されている。内因性アポトーシスによる血小板の寿命の制限は、機能的で止血反応性の血小板集団を維持するのに極めて重要であることが開示されているため、血液バンクに預血された血小板における内因性アポトーシスの阻害は、大きな利益をもたらす可能性が低いと記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Marini I, et al.著の「添加液中での血小板の冷蔵保存:アフェレーシス濃縮血小板中の残留血漿の影響(Coldstorage of platelets in additive solution: the impact of residual plasma inapheresis platelet concentrates.)」Haematologica. 2019 Jan;104(1):207-214. doi: 10.3324/haematol.2018.195057.Epub 2018 Aug 16. PMID: 30115655; PMCID: PMC6312032
【非特許文献2】「無核血小板におけるアポトーシス(Apoptosis in theanucleate platelet.)」Blood Rev.2012 Mar;26(2):51-63. doi: 10.1016/j.blre.2011.10.002. Epub 2011 Nov 4. PMID:22055392
【非特許文献3】Xiang B, et al.著の「カルシウムイオンのキレート化により、冷蔵保存中に血小板機能が維持される(Calcium Ion Chelation Preserves Platelet Function During Cold Storage.)」 Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2021Jan;41(1):234-249. doi: 10.1161/ATVBAHA.120.314879. Epub 2020 Nov 12. PMID :33176450
【非特許文献4】「内因性アポトーシスは循環血小板の機能低下を免れるが、保存損傷を引き起こさない(Intrinsicapoptosis circumvents the functional decline of circulating platelets but doesnot cause the storage lesion.)」 Blood.2018 Jul 12;132(2):197-209. doi: 10.1182/blood-2017-11-816355. Epub 2018 May21. PMID: 29784641
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のように、血小板輸血は現代医学において不可欠な療法となっている。上記技術は、血小板の冷蔵保存中のアポトーシスに関して決定的な筋書きを用意していない。安定かつ安全な血小板製剤の需要は依然として高い。したがって、本発明の課題は、血小板製剤を保存する新しい方略を提供することである。本発明の他の課題及び利点は、図面及び実施例を含む本発明の以下のより詳細な説明を検討する際に当業者には明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の態様において、上記課題は、適切な保存媒体中の血小板と、少なくとも1種の血小板アポトーシス阻害剤とを含む、血小板の冷蔵保存用の医薬組成物によって解決される。好ましくは、上記アポトーシス阻害剤は、冷蔵保存により誘導されるアポトーシスを標的とする選択的阻害剤であり、ここで、好ましくは、上記アポトーシス阻害剤は、特定のRhoAサブファミリーRho GTPアーゼ阻害剤、RhoA阻害剤のG04、特定のホスホキナーゼA(PKA)活性化剤、フォルスコリン、特定のカスパーゼ-9阻害剤、z-LEHD-fmk、及びそれらの組合せ、特にRhoA阻害剤のG04とフォルスコリンとの組合せの群から選択される。
【0015】
本発明の第2の態様において、上記課題は、本発明の第1の態様による医薬組成物を作製する方法であって、適切な保存媒体中で冷蔵保存される血小板の試料を準備することと、上記血小板に少なくとも1種の血小板アポトーシス阻害剤を添加することとを含む、方法によって解決される。
【0016】
本発明の第3の態様において、本発明の第2の態様による上記方法は、上記医薬組成物を冷蔵保存する工程を更に含み、ここで、上記冷蔵保存は、約0℃から約10℃の間、好ましくは約2℃から約5℃の間の温度、より好ましくは約4℃のものである。医薬組成物の冷蔵保存は、好ましくは約4日間を超える、好ましくは約7日間を超える、より好ましくは約10日間を超える、最も好ましくは約14日間を超えるものである。
【0017】
本発明の第4の態様において、上記課題は、疾患の予防及び/又は治療において使用される、好ましくは血小板輸血において使用される、本発明による医薬組成物によって解決される。
【0018】
本発明の第5の態様において、上記課題は、血小板輸血を必要とする疾患又は状態を治療又は予防する方法であって、治療又は予防を必要とする被験体に有効量の本発明による医薬組成物を与えることを含む、方法によって解決される。
【0019】
実施された実験に関連して、本発明者らは、血小板の生存率及び機能に対する様々なアポトーシス阻害剤の影響を調査した。本発明は、アポトーシス阻害剤の存在下で、例えば4℃にて冷蔵保存された血小板が、室温で保存された血小板と比較して同様の生存特性及び機能的特性を有するという驚くべき知見に基づいている。したがって、冷蔵保存により誘導される又はそれに関連するアポトーシスの阻害を、冷蔵保存後の血小板の生存及び機能の低下を防ぐアプローチとして特定した。
【0020】
したがって、本発明者らは、適切な保存媒体中の血小板と、少なくとも1種の血小板アポトーシス阻害剤とを含む、血小板の冷蔵保存用の改善された医薬組成物を提供する。
【0021】
本発明の文脈において、冷蔵保存は一般に、室温(20℃又は22℃)を下回る温度、一般に室温から氷点の間の温度、例えば約0℃~約10℃、好ましくは約2℃から約5℃の間の温度、より好ましくは約4℃でのものである。通常の冷蔵庫において約4℃で冷蔵保存するのが最も好ましい。
【0022】
保存される血小板は、冷蔵保存用のあらゆる適切な保存媒体中で提供され得る。本発明による好ましい医薬組成物は、自家濃縮血小板若しくはアフェレーシス濃縮血小板(APC)、添加液中の血小板(PAS)、又は多血小板血漿(PRP)等の濃縮血小板として血小板を含む。好ましくは、上記PRPは約35%を超える血漿を含まない。自家濃縮血小板(APC)APC又は多血小板血漿(PRP)は、上記の基底レベルを上回る、すなわち哺乳動物、例えばヒトの末梢血中に見られるレベルを上回る血小板濃度を含む基質として定義される。
【0023】
血小板添加液(PAS)は血小板の保存用にますます普及してきており、PASは血小板の保存媒体として着実に血漿に取って代わってきている。PASは血小板の保存を目的とした電解質溶液であり、特定の成分の添加により血小板の質を調節するのに使用される。現在入手可能な全てのPASには酢酸塩が含まれている。酢酸塩は、酸化して乳酸となるグルコースの量を減らし、それにより血小板の質を下げるpHの低下を防ぐ。さらに、酢酸塩の酸化は、緩衝剤として機能する重炭酸塩の生成をもたらす。PAS中にカリウム及びマグネシウムが存在すると、pHの低下が妨げられ、保存中の血小板の自発的活性化の程度が減少する。病院では、PAS中で保存された血小板は、血漿中の血小板と比較して約半数のアレルギー性輸血反応を引き起こす。輸血後の回収及び生存、並びに補正血小板増加数は、PAS中の血小板では血漿の場合と少なくとも同じくらい良好であり、最近のデータはそれらが更により良好である可能性を示唆している。したがって、濃縮血小板の保存にはPAS(例えばSSP+)又は血漿が好ましい(van der Meer PF.著の「血小板の保存にはPASか血漿か?簡潔なレビュー(PAS or plasma for storage of platelets? A concise review.)」 Transfus Med. 2016 Oct;26(5):339-342.doi: 10.1111/tme.12325. Epub 2016 Jun 7. PMID: 27273164)。
【0024】
好ましくは、添加されるアポトーシス阻害剤は、冷蔵保存により誘導される血小板におけるアポトーシスを標的とする選択的阻害剤である。様々な参考文献には、14-3-3ζ(Yan Y, Xie R, Ning Z.著の「14-3-3ζは保存中に血小板アポトーシスを調節する)」(14-3-3ζ Regulates the Platelet Apoptosis During Storage.)」 Indian J Hematol Blood Transfus. 2020 Apr;36(2):324-329.doi: 10.1007/s12288-019-01229-z. Epub 2019 Nov 14. PMID: 32425384; PMCID:PMC7229142)等の冷蔵保存により誘導される血小板におけるアポトーシスに関与する因子(上記の参照)が記載されている。
【0025】
好ましくは、本発明の文脈において使用されるアポトーシス阻害剤は、特定のRhoAサブファミリーRho GTPアーゼ阻害剤、特定のホスホキナーゼA(PKA)活性化剤、特定のカスパーゼ-9阻害剤、特定の14-3-3ζ活性化剤、及びそれらの組合せの群から選択される(Shang X, et al.著の「Gタンパク質共役型Rhoグアニンヌクレオチド交換因子を標的とする小分子阻害剤(Small-molecule inhibitors targeting G-protein-coupled Rho guaninenucleotide exchange factors.)」 Proc NatlAcad Sci U S A. 2013 Feb 19;110(8):3155-60. doi: 10.1073/pnas.1212324110. Epub2013 Feb 4. PMID: 23382194; PMCID: PMC3581902、Evelyn CR, et al.著の「CCG-1423:RhoA転写シグナル伝達の小分子阻害剤(CCG-1423:a small-molecule inhibitor of RhoA transcriptional signaling.)」 Mol Cancer Ther. 2007 Aug;6(8):2249-60.doi: 10.1158/1535-7163.MCT-06-0782. PMID: 17699722)。更なる好ましい例は、RhoA阻害剤のG04、フォルスコリン、及びz-LEHD-fmkである。特に好ましいのは、組合せ、例えば、RhoA阻害剤のG04とフォルスコリンとの組合せ、RhoA阻害剤のG04とz-LEHD-fmkとの組合せである。
【0026】
使用されるアポトーシス阻害剤の量及び濃度は、当業者によって容易に決定され得て、通常0.1 μMから500 μMの間で見出される。例えば、RhoA阻害剤のG04とフォルスコリンとの組合せ又はRhoA阻害剤のG04とz-LEHD-fmkとの組合せで予想されるような相乗効果の場合、個々の濃度を相応して調整することができる。
【0027】
本発明の文脈において使用、保存、及び/又は輸血される血小板は、自家由来又は同種異系由来であり得て、好ましいのは、上記血小板が哺乳動物ドナー、特に齧歯動物ドナー又はヒトドナーに由来するものである、本発明による医薬組成物である。
【0028】
本発明による冷蔵保存される医薬組成物は、幾つかの利点を示し、例えば、本発明による医薬組成物中で冷蔵保存された血小板は、10日目に約50%を超える、好ましくは約55%を超える、より好ましくは約60%を超える血小板(PLT)生存率(%)を示す。
【0029】
更に好ましくは、本発明による医薬組成物中で冷蔵保存された血小板は、10日目に約40%未満、好ましくは約35%未満のアポトーシス(%)を示す。なおも更に好ましくは、本発明による医薬組成物中で冷蔵保存された血小板は、7日目に約60%を超える、好ましくは約65%を超えるPLT凝集(%)を示す。これらのパラメーターを試験するそれぞれの方法は、本明細書及びそれぞれの文献に開示されている。
【0030】
血小板輸血は現代医学において欠くことのできない療法となっている。血小板輸血の臨床上の利点は十分に確立されているが、輸血時の有害反応、特に細菌感染の伝播が依然として大きな課題となっている。細菌汚染は室温での保存により起こりやすく、冷蔵保存はこの臨床的に関連する問題への解決策となる可能性がある。最近、本発明者らは、アフェレーシス由来濃縮血小板(APC)中でのPLTの冷蔵保存にはおよそ35%の残留血漿含有量が実現可能であり、臨床使用のために4℃で保存されたGMP産生APCの貯蔵寿命を延長する可能性があることを示した。
【0031】
しかしながら、4℃で保存した血小板は室温と比較してより高いアポトーシスマーカーの発現を示し、ヒト化マウスモデルではより素早くクリアランスされたため、このアプローチは臨床現場では依然として適用することができない。本発明において、本発明者らは、アポトーシスの阻害がより良好なPLTの保存をもたらし、それらの機能を維持する可能性があるかどうかを解明することを目指した。本発明者らは、3種の異なるアポトーシス阻害剤、すなわちRhoA阻害剤(G04)、PKA阻害剤(フォルスコリン)、及びカスパーゼ-9阻害剤(z-LEHD-fmk)の影響を試験して、PLTの生存率及び機能における損失を回復することができるかどうかを確認した。
【0032】
本発明者らの結果は、RhoA阻害剤がPLTの寿命を有意に改善し、7日間~10日間のより長い保存期間であっても機能を回復し得ることを示している。一方、フォルスコリンは部分的にPLTの生存率を改善し、アポトーシスを減少させることができたが、PLTの機能に対する影響は観察されなかった。同様に、カスパーゼ-9阻害剤のz-LEHD-fmkによる処理後に、有意な良い効果は観察されなかった。
【0033】
まとめると、データは、アフェレーシス由来濃縮血小板中のRhoA阻害剤のG04を、特にフォルスコリンと組み合わせて使用したアポトーシスの阻害が、血小板を4℃でより長期間保存するのに適した代替方略であることを示している。
【0034】
本発明の別の態様は、本発明による医薬組成物を作製する方法であって、適切な保存媒体中で冷蔵保存される血小板の試料を準備することと、上記血小板に少なくとも1種の血小板アポトーシス阻害剤を添加することとを含む、方法に関する。
【0035】
血小板を調製する1つの好ましいアプローチは、FENWALのAMICUS(Amicus、Fresenius Kabi、ドイツ、バート・ホンブルク)を用いて収集され、血漿中又はPAS(SSP+、Macopharma、ドイツ、ランゲン)中で、例えば4℃及びRTにて35%の最終血漿濃度で保存されるアフェレーシス由来の濃縮血小板としてのものである。
【0036】
調製に際し、EDTAは血小板に損傷を与え、ヘパリンはそれらの機能を変化させるため、クエン酸塩が血液収集に好ましい抗凝固剤である。クエン酸塩は、高い血小板の収量で多血小板血漿(PRP)の迅速な生成を可能にするが、この方法は或る特定の不利点を有する。これらの問題を克服するのに、酸クエン酸塩デキストロース(ACD)で抗凝固処理されたヒト又は齧歯動物の血液から血小板を分離及び洗浄する遠心分離技術が開発された。細胞は、十分に定義された条件下、特に血漿イオン性カルシウム濃度(2 mM)の存在下、及び凝固因子又は他の血漿成分の不存在下で生理的緩衝液中に再懸濁される。
【0037】
好ましいのは、上記血小板が哺乳動物ドナー、特に齧歯動物ドナー、ヒト化齧歯動物ドナー、又はヒトドナーに由来するものである、本発明による方法である。
【0038】
上述と同様に、好ましいのは、血小板を自家濃縮血小板若しくはアフェレーシス濃縮血小板(APC)、添加液中の血小板(PAS)、又は多血小板血漿(PRP)等の濃縮血小板として準備することを含む、本発明による方法である。好ましくは、上記PRPは約35%を超える血漿を含まない。自家濃縮血小板(APC)APC又は多血小板血漿(PRP)は、上記の基底レベルを上回る、すなわち哺乳動物、例えばヒトの末梢血中に見られるレベルを上回る血小板濃度を含む基質として定義される。
【0039】
好ましくは、添加されるアポトーシス阻害剤は、血小板における冷蔵保存により誘導されるアポトーシスを標的とする選択的阻害剤である。様々な参考文献には、14-3-3ζ(Yan Y, Xie R, Ning Z.著の「14-3-3ζは保存中に血小板アポトーシスを調節する)」(14-3-3ζ Regulates the Platelet Apoptosis During Storage.)」 Indian J Hematol Blood Transfus. 2020 Apr;36(2):324-329. doi:10.1007/s12288-019-01229-z. Epub 2019 Nov 14. PMID: 32425384; PMCID: PMC7229142)等の冷蔵保存により誘導される血小板におけるアポトーシスに関与する因子(上記の参照)が記載されている。
【0040】
好ましくは、本発明の方法において使用されるアポトーシス阻害剤は、特定のRhoAサブファミリーRho GTPアーゼ阻害剤、特定のホスホキナーゼA(PKA)活性化剤、特定のカスパーゼ-9阻害剤、特定の14-3-3ζ活性化剤、及びそれらの組合せの群から選択される(Shang X, et al.著の「Gタンパク質共役型Rhoグアニンヌクレオチド交換因子を標的とする小分子阻害剤(Small-molecule inhibitors targeting G-protein-coupled Rho guaninenucleotide exchange factors.)」 Proc Natl Acad Sci US A. 2013 Feb 19;110(8):3155-60. doi: 10.1073/pnas.1212324110. Epub 2013 Feb 4.PMID: 23382194; PMCID: PMC3581902、Evelyn CR, et al.著の「CCG-1423:RhoA転写シグナル伝達の小分子阻害剤(CCG-1423: a small-molecule inhibitor ofRhoA transcriptional signaling.)」 MolCancer Ther. 2007 Aug;6(8):2249-60. doi: 10.1158/1535-7163.MCT-06-0782. PMID:17699722)。更なる好ましい例は、RhoA阻害剤のG04、フォルスコリン、及びz-LEHD-fmkである。特に好ましいのは、組合せ、例えば、RhoA阻害剤のG04とフォルスコリンとの組合せ、RhoA阻害剤のG04とz-LEHD-fmkとの組合せである。
【0041】
次に、本発明の別の態様は、血小板を含む医薬組成物を冷蔵保存する方法であって、本発明による方法を含み、かつ上記医薬組成物を冷蔵保存する工程を更に含み、ここで、上記冷蔵保存は、約0℃から約10℃の間、好ましくは約2℃から約5℃の間の温度、より好ましくは約4℃でのものである、方法に関する。通常の冷蔵庫において約7日間~10日間保存するのが好ましい。
【0042】
好ましいのは、医薬組成物の上記冷蔵保存が、約4日間を超える、好ましくは約7日間を超える、より好ましくは約10日間を超える、最も好ましくは約14日間を超えるものである、本発明による方法である。本発明の文脈において、アポトーシス阻害剤の存在下で4℃にて保存された血小板が、室温で保存された血小板と比較して同様の生存特性及び機能的特性を有することが判明した。
【0043】
本発明の文脈において、「約」という用語は、別段の指示がない限り、所与の値の±10%を意味するものとする。
【0044】
次に、本発明の別の態様は、疾患の予防及び/又は治療において使用される、好ましくは血小板輸血において使用される、より好ましくは敗血症、癌、AIDS、白血病、再生不良性貧血、脾機能亢進症の治療、骨髄移植、臓器移植、又は心肺バイパス術のような手術、及び/又は放射線療法において使用される、本明細書に開示される本発明による医薬組成物に関する。担当医は、それぞれの療法を本発明による医薬組成物に合わせることができる。この使用は、上記開示のように所望のPLTの機能を試験する工程を更に含んでいてもよい。
【0045】
次に、本発明の別の態様は、血小板の欠乏に関連する、血小板の欠乏に付随する、及び/又は血小板の欠乏によって引き起こされる疾患又は状態を治療又は予防する方法であって、治療又は予防を必要とする被験体に有効量の本明細書に開示される本発明による冷蔵保存された医薬組成物を与えることを含む、方法に関する。治療又は予防は、上記被験体、例えばヒト患者における敗血症、癌、AIDS、白血病、再生不良性貧血、脾機能亢進症、骨髄移植、臓器移植、又は心肺バイパス術のような手術、及び/又は放射線療法の場合であり得る。担当医は、それぞれの療法を本発明による医薬組成物に合わせることができる。この使用は、上記開示のように所望のPLTの機能を試験する工程を更に含んでいてもよい。
【0046】
本発明の基礎となる研究において、本発明者らは、APCの冷蔵保存中のPLTの生存及び機能に対する保存温度及びその後のアポトーシス阻害の影響を調査した。
【0047】
先に、本発明者らは、4℃でのAPCの保存が室温での保存と比較してPLTの機能性を高めるため、それらの臨床上の利点が大幅に改善されることを示した。しかしながら、PLTの冷蔵保存は、保存期間が長くなると不十分な生存をもたらす。興味深いことに、生存率の低下とともに、大幅により多量のアポトーシス細胞が観察されたため、本発明者らは、より長い保存期間でもアポトーシスの阻害によりPLTの生存率が改善されるのではないかと推測した。本発明者らは、アポトーシス経路の3種の異なる阻害剤を試験し、PLTの生存率だけでなく機能も分析した。これらの結果は、特にRhoA阻害剤であるG04がPLTの生存率及び機能を大幅に回復することを実証している。
【0048】
APCを4℃で保存する試みは、冷蔵保存されたPLTの生存が減少したことによって阻まれた。一貫して、本発明の文脈において、4℃で保存されたAPCからのPLTでは、RTで保存されたものと比較して常に劣った生存曲線が示されたことから、冷蔵保存されたPLTのクリアランスの加速に関する以前の報告が確認される[13、14]。動物モデルからのデータにより、GPIbの脱シアル化が冷蔵保存されたPLTの排除の加速の原因であることが示唆された[13、24]。しかしながら、本発明者らは、RTで保存されたPLT及び冷蔵保存されたPLTにおいて同様のβ-ガラクトース曝露を見出しており、これはヒトPLTのシアル化の再構成が冷蔵保存されたAPCのクリアランスの加速を妨げないことを示した臨床研究の結果と一致する[25]。
【0049】
興味深いことに、本発明者らは、冷蔵保存がホスファチジルセリン曝露を誘発することから、より高いPLTのアポトーシスが示されることを見出した。差は必ずしも有意ではなかったが、その傾向は明らかであった。これは、冷蔵保存されたPLTのin vivoでの生存の減少がむしろアポトーシス関連の機構によって引き起こされることを示し得る。実際、冷蔵保存は、以前に、受容体をPLTのアポトーシス及びマクロファージ認識についての開始部位にするGPIbαのクラスター化を誘導することが判明している[26]。プロスタサイクリンの阻害は、冷蔵により誘導されるGPIbの変化を軽減することが示唆されており[27]、これを結果によって強調することができた。注目すべきことに、冷蔵により誘導されるアポトーシスはP-セレクチン又はCD63のより高い自発的発現を伴わなかったことから、これは、PLT保存中のアポトーシス及び活性化が2つの独立した機構によって媒介されることを示している。したがって、冷蔵により誘導されるアポトーシスの選択的な標的化は、PLTの保存損傷を軽減する新しいアプローチを提供する可能性がある。実際、最近では、PLTの冷蔵保存によりvWFのGPIbαへの結合が強化され、細胞内カルシウム濃度及びホスファチジルセリン曝露の増加が誘導され、最終的にPLTの素早いクリアランスがもたらされることが報告された。著者らは、GPIbαを認識する特定のペプチドを使用して、この結合及び結果としての下流のカスケードを阻害すると、冷蔵保存されたPLTの回収及び寿命が大幅に増加することを実証した[28]。別の研究では、特定のカスパーゼ-3阻害剤が7日間の保存中にPLTの機能性及び生存率を大幅に改善することが示された[29]。本結果と合わせると、アポトーシスの阻害は、冷蔵保存による損傷を軽減する有望なアプローチであると考えられる。
【0050】
最後に、本発明者らは、研究結果を日常的な生産へと応用することができるかを調査し、PCの貯蔵寿命を延ばす可能性を探った。異なるドナーの影響を排除するのに、本発明者らは、各ドナーが35%の血漿を含むPAS中のAPCを二重で献血する追跡研究を設計した。各APCをRT又は4℃のいずれかで最大10日間保存した。本発明者らは、日常的な血液バンクの条件下で4℃にて収集及び保存されたAPCからのPLTが、RTで保存されたものと比較して、活性化(TRAPに応答した顆粒放出)及び凝集の点でより良好に機能性を維持することを見出した。これらの結果は、分割設計の研究からの結果に対応する。まとめると、臨床使用のためのAPC中でのPLTの冷蔵保存を達成するには、約35%の残留血漿含有量が実現可能である。本発明者らの結果は、PLTのアポトーシスを阻害することにより、臨床使用のために4℃で保存されたGMP産生APCの貯蔵寿命を延長する可能性を示している。
【0051】
要約すると、本発明は、冷蔵保存されたPLTのin vitroでの止血機能への情報を提供し、4℃で保存されたPLTにおけるアポトーシスの阻害が、PLTの貯蔵寿命を延長し、続いて現在の標準治療を改善する代替的な方法となり得ることを示唆している。
【0052】
本発明は、特に以下の項目に関する。
【0053】
項目1: 適切な保存媒体中の血小板と、少なくとも1種の血小板アポトーシス阻害剤とを含む、血小板の冷蔵保存用の医薬組成物。
【0054】
項目2. 上記冷蔵保存は、約0℃から約10℃の間、好ましくは約2℃から約5℃の間の温度、より好ましくは約4℃でのものである、項目1に記載の医薬組成物。
【0055】
項目3. 上記血小板は、哺乳動物ドナー、特にヒトドナーに由来するものである、項目1又は2に記載の医薬組成物。
【0056】
項目4. 自家濃縮血小板若しくはアフェレーシス濃縮血小板(APC)、添加液中の血小板(PAS)、又は多血小板血漿(PRP)等の濃縮血小板として血小板を含み、ここで、好ましくは、上記PRPは、約35%を超える血漿を含まない、項目1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【0057】
項目5. 上記アポトーシス阻害剤は、冷蔵保存により誘導されるアポトーシスを標的とする選択的阻害剤であり、ここで、好ましくは、上記アポトーシス阻害剤は、特定のRhoAサブファミリーRho GTPアーゼ阻害剤、RhoA阻害剤のG04、特定のホスホキナーゼA(PKA)活性化剤、フォルスコリン、特定のカスパーゼ-9阻害剤、z-LEHD-fmk、及びそれらの組合せ、特にRhoA阻害剤のG04とフォルスコリンとの組合せの群から選択される、項目1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【0058】
項目6. 上記冷蔵保存された血小板は、10日目に約50%を超える、好ましくは約55%を超える、より好ましくは約60%を超える血小板(PLT)生存率(%)を示す、項目1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【0059】
項目7. 上記冷蔵保存された血小板は、10日目に約40%未満、好ましくは約35%未満のアポトーシス(%)を示す、項目1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【0060】
項目8. 上記冷蔵保存された血小板は、7日目に約60%を超える、好ましくは約65%を超えるPLT凝集(%)を示す、項目1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【0061】
項目9. 項目1~8のいずれか一項に記載の医薬組成物を作製する方法であって、適切な保存媒体中で冷蔵保存される血小板の試料を準備することと、上記血小板に少なくとも1種の血小板アポトーシス阻害剤を添加することとを含む、方法。
【0062】
項目10. 上記血小板は、哺乳動物ドナー、特にヒトドナーに由来するものである、項目9に記載の方法。
【0063】
項目11. 上記血小板は、自家濃縮血小板若しくはアフェレーシス濃縮血小板(APC)、添加液中の血小板(PAS)、又は多血小板血漿(PRP)等の濃縮血小板、又はそれらから誘導される濃縮血小板であり、ここで、好ましくは、上記PRPは、約35%を超える血漿を含まない、項目9又は10に記載の方法。
【0064】
項目12. 上記アポトーシス阻害剤は、冷蔵保存により誘導されるアポトーシスを標的とする選択的阻害剤であり、ここで、好ましくは、上記アポトーシス阻害剤は、特定のRhoAサブファミリーRho GTPアーゼ阻害剤、RhoA阻害剤のG04、特定のホスホキナーゼA(PKA)活性化剤、フォルスコリン、特定のカスパーゼ-9阻害剤、z-LEHD-fmk、及びそれらの組合せ、特にRhoA阻害剤のG04とフォルスコリンとの組合せの群から選択される、項目9~11のいずれか一項に記載の方法。
【0065】
項目13. 上記医薬組成物を冷蔵保存する工程を更に含み、ここで、上記冷蔵保存は、約0℃から約10℃の間、好ましくは約2℃から約5℃の間の温度、より好ましくは約4℃でのものである、項目9~12のいずれか一項に記載の方法。
【0066】
項目14. 医薬組成物の上記冷蔵保存は、約4日間を超える、好ましくは約7日間を超える、より好ましくは約10日間を超える、最も好ましくは約14日間を超えるものである、項目13に記載の方法。
【0067】
項目15. 疾患の予防及び/又は治療において使用される、好ましくは血小板輸血において使用される、項目1~8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【0068】
項目16. 血小板の欠乏に関連する、血小板の欠乏に付随する、及び/又は血小板の欠乏によって引き起こされる疾患又は状態を治療又は予防する方法であって、治療又は予防を必要とする被験体に有効量の本明細書に開示される本発明による冷蔵保存された医薬組成物を与えることを含む、方法。
【0069】
項目17. 上記疾患又は状態は、上記被験体、例えばヒト患者における敗血症、癌、AIDS、白血病、再生不良性貧血、脾機能亢進症、骨髄移植、臓器移植、又は心肺バイパス術のような手術、及び/又は放射線療法から選択される、項目16に記載の方法。
【0070】
本発明は、以下の更なる特定の実施の形態に関係し得る。
【0071】
このような更なる特定の実施の形態の1つの好ましいものにおいては、本発明の医薬組成物中で冷蔵保存された血小板は、アポトーシス阻害剤を含まない医薬組成物内で冷蔵保存された血小板と比較して(好ましくは、他の点では同一又は類似の条件下と比較して)接着能力の増加を示す。この実施の形態において、アポトーシス阻害剤は、好ましくはRhoA阻害剤、最も好ましくは、本明細書で上記したRhoA阻害剤、例えばRhoA阻害剤のG04である。
【0072】
別の好ましい更なる特定の実施の形態において、接着性PLTの数は、本発明の医薬組成物中で少なくとも4日間冷蔵保存した後に、アポトーシス阻害剤を含まない医薬組成物中で冷蔵保存された少なくとも4日の冷蔵保存後の血小板と比較して、少なくとも30%、少なくとも45%、少なくとも60%増加する。
【0073】
好ましい場合がある1つの更なる特定の実施の形態において、接着性PLTの数は、本発明の医薬組成物中で少なくとも7日間冷蔵保存した後に、アポトーシス阻害剤を含まない医薬組成物中で冷蔵保存された少なくとも7日の冷蔵保存後の血小板と比較して、少なくとも65%、少なくとも90%、少なくとも115%増加する。
【0074】
これらの更なる特定の実施の形態における接着能力は、好ましくはフィブリノーゲン被覆カバースリップ上に播種されたPLTの数に対する、フィブリノーゲン被覆カバースリップに接着する播種されたPLTの数を指す。更なる特定の実施の形態における接着能力を、以下の実験条件下で決定することができる:100 mg/mLのフィブリノーゲンをカバースリップ上に被覆し、PLT(1 mL当たり1×108個のPLT)をこれらのカバースリップ上に播種し、0.1 Mのトロンビン受容体活性化ペプチド(TRAP)とともに1時間インキュベートする。次いで、接着細胞を4%のパラホルムアルデヒドを用いてRTで20分間固定する。
【0075】
好ましい場合もある1つの追加的な更なる特定の実施の形態において、アポトーシス阻害剤は、細胞接着、トロンビン生成、及び血塊形成から選択されるPLTの機能的パラメーターに悪影響を及ぼさない化合物から選択される。このパラメーターは、本明細書の
図7、
図8、及び
図9の実験で示される条件下でコントロールと比較して決定され得る。
【0076】
ここで、本発明を、添付の図面を参照して以下の実施例において更に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。本発明のために、本明細書において引用される全ての参考文献は、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【
図1】RhoA阻害剤のG04が、より長いAPCの保存期間で生存率の増加及びアポトーシスの減少をもたらすことを示す図である。
【
図2】Rho阻害剤のG04の存在下で冷蔵保存すると、δ顆粒分泌の損失及びPLT凝集が回復することを示す図である。
【
図3】フォルスコリン処理により、PLTの生存が部分的に回復し、冷蔵保存されたAPCのアポトーシスが減少することを示す図である。
【
図4】PKA阻害剤のフォルスコリンが、より長い冷蔵保存期間中にPLTの機能の低下に影響を及ぼさないことを示す図である。
【
図5】カスパーゼ-9阻害剤のz-LEHD-fmkが、PLTの生存率を部分的に回復し、冷蔵保存されたAPCにおけるアポトーシスを減少させることを示す図である。
【
図6】カスパーゼ-9阻害剤のz-LEHD-fmkが、より長期間でPLTの機能の減少に影響を及ぼさないことを示す図である。
【
図7】RhoA阻害剤のG04が、PLT接着を回復させ、トロンビン生成及び血塊形成に影響を与えないことを示す図である。
【
図8】フォルスコリン処理が、PLT接着、トロンビン生成、及び血塊形成を損なわないことを示す図である。
【
図9】カスパーゼ-9阻害剤のz-LEHD-fmkが、冷蔵保存中にPLTの機能に影響を及ぼさないことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0078】
材料及び方法
アフェレーシス濃縮血小板(APC)の調製
ドイツの血液療法ガイドラインに従って健康なボランティアからAPCを収集した。10人が2単位のAPCを供与し、これらは、FENWALのAMICUS(Amicus、FreseniusKabi、ドイツ、バート・ホンブルク)を用いて収集され、血漿又はPAS(SSP+、Macopharma、ドイツ、ランゲン)中で4℃及びRTにて35%の最終血漿濃度において保存された。
【0079】
アポトーシス阻害剤によるAPCの処理
阻害剤についての適切な濃度を、実験前に様々な濃度を滴定することによって決定した。収集の直後に、APCを撹拌せずに1時間保存した。APCを無菌条件下で異なる培養バッグへと更に分割し、滅菌した酸素透過性バッグ(Fresenius Kabi AG、ドイツ、バート・ホンブルク)中で保存した。APCを150 μMのRhoA阻害剤のG04、0.75 μMのホスホキナーゼA(PKA)活性化剤のフォルスコリン、又は40 μMのカスパーゼ-9阻害剤のz-LEHD-fmkで処理した。全ての阻害剤をDMSO中で希釈したため、溶媒を介した効果を一切排除するのにDMSO(600 μM)をビヒクルコントロールとして使用した。何も加えられていないAPCをネガティブコントロールとして使用した。室温で2時間処理した後、RTでのコントロールを除く全ての試料を一定に穏やかに撹拌しながら4℃で保存した。全ての試料を、測定前にトロンビン受容体活性化ペプチドTRAP(20 μM、HART Biologicals)で活性化した。
【0080】
アポトーシスの判定
APCからのPLTを洗浄し、1 mMのCaCl2で再懸濁し、アネキシンV-FITC(Beckman Coulter)を用いてRTで60分間染色した。新たに分離したPLTを10 μMのイオノマイシン(Abcam、英国、ケンブリッジ)とともにインキュベートし、これをポジティブコントロールとして使用した。
【0081】
血小板の活性化及び顆粒の放出
PLT(1 mL当たり10×106個)をTRAP6(20 μM)とともに37℃で30分間インキュベートし、4%のPFAを用いてRTで20分間固定した。CD62P(CLBThromb/6、Beckman Coulter)及びCD63(CLBGran/12、Beckman Coulter)の発現をFCによって決定した。TRAPによる活性化時の糖タンパク質(GP)IIb/IIIa複合体の構造変化を、FCを使用してPAC-1抗体(BD Bioscience)によって検出した。
【0082】
血小板凝集
PLTの機能を、FC及び4チャンネル血小板凝集計(Labitec、ドイツ、アーレンスブルク)を使用した光透過PLT凝集アッセイ(LTA)によって分析した。コラーゲン(8 μg/ml)、リストセチン(1.5 μM)(両方ともMoelab、ドイツ、ランゲンフェルト)、又はADP(80 μM、Nycomed、ドイツ、コンスタンツ)を誘導物質として使用した。
【0083】
マウスにおける冷蔵保存されたAPCの試験
150 μMのRhoA阻害剤のG04で処理した冷蔵保存されたAPCを、マウスモデルを使用して試験して、それらの生存及び機能をin vivoで分析する。阻害剤で前処理された試料を7日目及び10日目に収集し、NOD/SCIDマウスに輸血する。PLTの回収率及び排除動態を未処理のコントロールと比較する。さらに、PLTの分解機構を調べる。
【0084】
統計学的分析
統計学的分析を、GraphPad Prism 7(米国、ラホヤ)を使用して実施した。T検定を使用して、正規分布結果を分析した。データがダゴスティーノ及びピアソンのオムニバス正規性検定によって評価された正規分布に従わない場合にはノンパラメトリック検定を使用した。カテゴリー変数を用いたウィルコクソンの順位和検定及びフィッシャーの正確確率検定を使用して群間比較を実施した。0.05未満のp値を、統計的有意性を表すものと見なした。
【0085】
RhoA阻害剤のG04と組み合わせて冷蔵保存すると、より長い保存期間で生存率の増加及びアポトーシスの減少がもたらされる
本発明者らは、冷蔵保存されたAPCにおける血小板の生存率及びアポトーシスに対するRhoA阻害剤のG04の影響を研究した。APCを、150 μMのG04とともに又はそれを伴わずに4℃で一定に穏やかに撹拌しながらインキュベートした。G04で処理されたPLTにおいては7日目に生存率の有意な増加が観察され(
図1A)(生存細胞(%) 89.13対80.42、p=0.040)、これは10日目に更に改善した(60.82対33.07、p=0.0023)。この傾向との確証において、G04処理によりさらに、4日目にPLTのアポトーシスが有意に減少し(アポトーシス細胞(%) 9.3対17.6、p=0.0400)、10日目には更にもっと大きく減少した(アポトーシス細胞(%) 33対60.1、p=0.0020)(
図1B)。ミトコンドリアの膜内外電位差の測定においても7日目及び10日目に同様の傾向が観察された(ΔΨm MFI それぞれ17.88対10.34、p=0.0131及び11.02対3.95、p=0.034)(
図1C)。
【0086】
Rho阻害剤のG04と組み合わせて冷蔵保存すると、δ顆粒分泌の損失が回復し、PLTの機能が改善する
G04の添加によるPLT生存の有意な改善の後、本発明者らはPLTの機能に対する更なる影響を分析した。PLTをG04で処理した後の4日目(CD63のMFI 6.38対2.32、p=0.0215)、7日目(CD63のMFI 2.98対1.25、p=0.035)、及び10日目(CD63のMFI 3.97対1.24、p=0.049)に、CD63発現倍率の有意な増加(
図2B)が観察された。PAC-1の分析(
図2C)により、7日目に有意な増加が示されたが(PAC1のMFI 8.82対2.45、p=0.0047)、4日目及び10日目には示されなかった。同様に、G04で処理されたPLTにおいて、7日目にPLT凝集の増強(
図2D)が観察された(最大凝集(%) 67.33対21.98、p=0.0186)。CD62発現のレベル及びPLT収縮率に有意差は観察されなかった。
【0087】
冷蔵保存されたAPCに対するフォルスコリンを使用したPKA阻害の効果
さらに、本発明者らは、冷蔵保存されたAPCにおける血小板の生存率及びアポトーシスに対する臨床的に承認されたPKA阻害剤であるフォルスコリンの効力を試験した。APCを、0.75 μMのフォルスコリンとともに及び/又はそれを伴わずに4℃で穏やかに撹拌しながらインキュベートした。フォルスコリンで処理されたPLTにおいては、7日目(生存細胞(%) 87.1対73.4、p=0.0416)及び10日目(58.95対44.46、p=0.044)に生存率の有意な増加が観察された(
図3A)。この傾向との確証において、フォルスコリン処理によっても、7日目にPLTのアポトーシスが有意に減少し(アポトーシス細胞(%) 9.3対17.6、p=0.0400)、10日目には更にもっと大きく減少した(アポトーシス細胞(%) 33対60.1、p=0.0020)(
図3B)。ミトコンドリアの膜内外電位差の測定においても7日目及び10日目に同様の傾向が観察された(ΔΨm MFI それぞれ17.88対10.34、p=0.0131及び11.02対3.95、p=0.034)(
図3C)。
【0088】
冷蔵保存されたAPCの機能に対するPKA阻害の効果
フォルスコリンとともにインキュベートした冷蔵保存されたAPCもそれらの機能的パラメーターについて分析した。本発明者らの実験で利用されたどのパラメーターにおいても有意な影響は見られなかった。フォルスコリンによる処理後にPAC-1の発現が増加する傾向が見られたが、それは有意ではなかった。凝集の僅かな増強が4日目に観察されたが、これは未処理のAPCでも観察された。
【0089】
冷蔵保存されたAPCに対するカスパーゼ-9阻害の効果:
本発明者らは、G04及びフォルスコリンとともに、血小板のアポトーシスにおける役割が実証されているカスパーゼ-9経路の既知の阻害剤であるz-LEHD-fmkも含めた。z-LEHD-fmkは、PLTの生存率及び冷蔵保存されたPLTの機能も改善した。z-LEHD-fmkによる処理後の10日目(生存細胞(%) 60.38対41.04、p=0.0336)に、PLTの生存率の増加(
図5A)が観察された。アポトーシスの分析(
図5B)により、処理後の7日目(アポトーシス細胞(%) 9.85対21.69、p=0.038)及び10日目(アポトーシス細胞(%) 39.00対61.12、p=0.0136)に、アポトーシス細胞の減少が明らかになった。ミトコンドリアの膜内外電位差測定(
図5C)により、10日目に増加が示された(ΔΨm MFI 6.26対3.34、p=0.0472)。
【0090】
z-LEHD-fmkとともにインキュベートした冷蔵保存されたAPCの機能的分析により、本発明に含まれるPLTのパラメーターに有意な影響がないことが明らかになった。処理後4日目にPLT凝集の減少傾向が観察されたが、これは有意ではなかった(
図6C)。
【0091】
結果の概要を表1及び表2に示す。
【0092】
表1:結果の概要、4℃で保存されたAPCの生存率及びアポトーシス
【表1】
【0093】
表2:結果の概要、4℃で保存されたAPCのPLT凝集
【表2】
【0094】
PLTの機能性に対するアポトーシス阻害剤のG04、フォルスコリン、及びカスパーゼ-9のz-LEHD-fmkの影響に関する追加の研究
本発明者らは、冷蔵保存された血小板のin vitroでの止血機能に対するアポトーシス阻害剤の影響を更に調査した。以下のデータに示されるように、RhoA阻害剤のG04は7日間の保存後でも細胞機能を回復することができる。さらに、PKA活性化剤のフォルスコリン及びカスパーゼ-9阻害剤のz-LEHD-fmkは、冷蔵保存中にPLTの機能性に対する悪影響を示さなかった。
【0095】
材料及び方法
血小板の接着
カバースリップ(Corning、米国、ニューヨーク)を100 mg/mLのフィブリノーゲン(SigmaAldrich、ドイツ、ミュンヘン)で被覆した。4日間及び7日間の保存後に、PLT(1 mL当たり1×108個のPLT)をカバースリップ上に播種し、TRAP(0.1 mM、HartBiologicals、英国、ハートルプール)とともに室温(RT)で1時間インキュベートした。接着細胞を4%のパラホルムアルデヒドを用いてRTで20分(min)間固定した。5つの異なる顕微鏡視野/カバースリップ(100倍、OlympusのIX73、日本、東京)から画像を取得した。
【0096】
トロンビンの生成
トロンビンの生成を、較正された自動トロンボグラムシステム(CAT、Stago、オランダ、マーストリヒト)を使用して蛍光ベースのアッセイを実施して定量化した。蛍光シグナルを、390 nmの110励起/460 nmの蛍光フィルターのセットを使用して60分間かけて取得した。
【0097】
血塊形成
血塊形成を、6チャンネルトロンボエラストメーター装置(Clot Pro、Enicor、ドイツ)を使用して分析し、パラメーターを専用ソフトウェアによって自動的に計算した。
【0098】
結果
RhoA阻害剤と組み合わせて冷蔵保存すると、PLT接着が回復し、トロンビン生成及び血塊形成に影響が及ぼされない。
本発明者らは、冷蔵保存されたPLTの4日間及び7日間の保存後の接着能力を分析した。PLTをG04で処理した後、接着細胞の数の有意な増加が観察された(
図7A)。さらに、各保存時点で、RhoA阻害剤の存在下又は不存在下で、同等のトロンビンの生成(AUC、曲線下面積)が検出された(
図7B)。同様に、G04とともにインキュベートした冷蔵保存されたPLTの血塊形成に対する有意な影響(MCF、最大血塊硬さ)は観察されなかった(
図7C)。
【0099】
冷蔵保存されたPLTの機能性に対するフォルスコリンの効果
さらに、フォルスコリンと組み合わせて4℃で保存されたPLTの機能性を分析した。緩衝液中で保存されたPLTと比較して、全てのパラメーター、つまり細胞接着(
図8A)、トロンビンの生成(
図8B)、及び血塊形成(
図8C)に対して有意な影響は見られなかった。フォルスコリンによる処理後の1日目、4日目、及び7日目に血塊形成の減少傾向が観察されたが、これは統計的に有意ではなかった(
図8C)。
【0100】
冷蔵保存中のPLTの機能に対するカスパーゼ-9阻害剤の効果
カスパーゼ-9阻害剤とともにインキュベートした冷蔵保存されたPLTの機能的調査により、各保存時点で未処理の細胞と比較して、本発明者らの実験で試験されたどのパラメーターにおいても有意な影響がないことが明らかになった(
図9A、
図9B、及び
図9C)。
【0101】
まとめ
これらの新たな知見により、特にRhoA阻害剤によるアポトーシスの阻害が、PLTを4℃でより長時間保存するのに有望かつ適切な代替方略であることが確認される。結果の要約を表3に示す。
【0102】
表3:結果の要約、PLTの機能に対するG04、フォルスコリン、及びz-LEHD-fmkの効果
【表3】
【0103】
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【0104】
図面訳
図1
% Viable cells(Calcein) 生存細胞(%)(カルセイン)
storage time(days) 保存時間(日)
buffer 緩衝液
% Apoptoticcells (Annexin) アポトーシス細胞(%)(アネキシン)
図2
Fold IncreaseCD62 (MFI with / without TRAP) CD62の増加倍率(TRAPあり/なしでのMFI)
storage time(days) 保存時間(日)
buffer 緩衝液
Fold IncreaseCD63 (MFI with / without TRAP) CD63の増加倍率(TRAPあり/なしでのMFI)
Fold IncreasePAC-1 (MFI with / without TRAP) PAC-1の増加倍率(TRAPあり/なしでのMFI)
max.aggregation (%) 最大凝集(%)
shrunk PLTs (%of population) 収縮したPLT(集団の%)
図3
% Viable cells(Calcein) 生存細胞(%)(カルセイン)
storage time(days) 保存時間(日)
buffer 緩衝液
forskolin フォルスコリン
% Apoptoticcells (Annexin) アポトーシス細胞(%)(アネキシン)
図4
Fold IncreaseCD62 (MFI with / without TRAP) CD62の増加倍率(TRAPあり/なしでのMFI)
storage time(days) 保存時間(日)
buffer 緩衝液
forskolin フォルスコリン
Fold IncreaseCD63 (MFI with / without TRAP) CD63の増加倍率(TRAPあり/なしでのMFI)
Fold IncreasePAC-1 (MFI with / without TRAP) PAC-1の増加倍率(TRAPあり/なしでのMFI)
max.aggregation (%) 最大凝集(%)
shrunk PLTs (%of population) 収縮したPLT(集団の%)
図5
% Viable cells(Calcein) 生存細胞(%)(カルセイン)
storage time(days) 保存時間(日)
buffer 緩衝液
% Apoptoticcells (Annexin) アポトーシス細胞(%)(アネキシン)
図6
Fold IncreaseCD62 (MFI with / without TRAP) CD62の増加倍率(TRAPあり/なしでのMFI)
storage time(days) 保存時間(日)
Fold IncreaseCD63 (MFI with / without TRAP) CD63の増加倍率(TRAPあり/なしでのMFI)
buffer 緩衝液
max.aggregation (%) 最大凝集(%)
shrunk PLTs (%of population) 収縮したPLT(集団の%)
図7
Number ofadherent cells/field 視野当たりの接着細胞の数
Storage time(days) 保存時間(日)
buffer 緩衝液
図8
Number ofadherent cells/field 視野当たりの接着細胞の数
Storage time(days) 保存時間(日)
buffer 緩衝液
forskolin フォルスコリン
図9
Number of adherentcells/field 視野当たりの接着細胞の数
Storage time(days) 保存時間(日)
buffer 緩衝液
【国際調査報告】