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特表2024-520954カゼインを製造するための方法及びその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-27
(54)【発明の名称】カゼインを製造するための方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/47 20060101AFI20240520BHJP
   C07K 1/30 20060101ALI20240520BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240520BHJP
   A23C 19/032 20060101ALI20240520BHJP
   A23C 19/055 20060101ALI20240520BHJP
   A23C 20/00 20060101ALI20240520BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240520BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20240520BHJP
【FI】
C07K14/47
C07K1/30 ZNA
C12P21/02 Z
A23C19/032
A23C19/055
A23C20/00
C12N15/12
C12N1/21
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574258
(86)(22)【出願日】2022-05-31
(85)【翻訳文提出日】2023-12-14
(86)【国際出願番号】 EP2022064728
(87)【国際公開番号】W WO2022253816
(87)【国際公開日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】21305736.7
(32)【優先日】2021-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21306294.6
(32)【優先日】2021-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】22305313.3
(32)【優先日】2022-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523100560
【氏名又は名称】スタンディング、オバスィオン
【氏名又は名称原語表記】STANDING OVATION
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ロマン、シェイオット
(72)【発明者】
【氏名】マムー、ディアロ
(72)【発明者】
【氏名】マリオン、ロリリエール
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC15
4B064CC24
4B064CE02
4B064CE03
4B064CE20
4B064DA10
4B065AA26X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BD08
4B065BD13
4B065BD18
4B065BD23
4B065BD50
4B065CA24
4B065CA41
4H045AA20
4H045AA30
4H045CA43
4H045EA01
4H045FA74
4H045GA05
(57)【要約】
本発明は、組成物の加熱により組成物中のカゼイン比率を増加させることによってカゼイン組成物を製造するための新規方法、及び特にチーズ代替品を製造するためのその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カゼイン及び他のタンパク質を含有する組成物中のカゼインを濃縮するための方法であって、
i)カゼイン及び他のタンパク質を含有する組成物を準備する工程であって、前記組成物のpHが6.5以上、好ましくは9未満である、工程と、
ii)前記組成物の可溶性画分中の前記他のタンパク質の量を低減するように前記組成物を加熱する工程であって、加熱が、75℃~105℃の温度で実行される、工程と、
iii)前記可溶性画分を回収する工程と、
を含み、それにより、前記組成物中のカゼインを濃縮する、方法。
【請求項2】
カゼイン組成物を製造するための方法であって、
i)微生物組成物を準備する工程であって、前記微生物組成物が、カゼインをコードする少なくとも1つの核酸で形質転換された微生物を含み、前記微生物が、カゼインを発現及び産生するように培養されており、前記組成物のpHが、6.5以上、好ましくは9未満である、工程と、
ii)前記微生物組成物の可溶性画分中の他のタンパク質の量を低減するように前記組成物を加熱する工程あって、加熱が、75℃~105℃の温度で実行される、工程と、
iii)溶解した細胞組成物から前記可溶性画分を単離する工程と、
を含み、それにより、カゼイン組成物を得る、方法。
【請求項3】
ii)における加熱が、少なくとも1時間実行される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ii)における加熱によって前記可溶性画分中のカゼインの比率が増加する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記微生物組成物中の前記微生物が溶解されておらず、ii)における加熱によって前記微生物が溶解される、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ii)における加熱が、約95℃の温度で実行される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ii)における加熱が、少なくとも1時間実行される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記微生物が、2つ以上のカゼインをコードする1つ以上の核酸で形質転換されている、請求項2~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記カゼインが、ベータカゼイン、アルファ-S1カゼイン、アルファ-S2カゼイン、及びこれらのカゼインの混合物から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記カゼインが、ベータカゼイン、アルファ-S1カゼイン、及びこれらのカゼインの混合物から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
iii)において得られた前記可溶性画分のカゼインの更なる精製を実行する工程を更に含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記可溶性画分に適用される前記更なる工程が、活性炭の添加、膜濾過、クロマトグラフィー及びカゼイン沈殿からなる群から選択される少なくとも1つの工程を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記更なる工程が、カゼインの酸性沈殿である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
カゼインの酸性沈殿の前記更なる工程が、pH=4において90℃で加熱することによって行われる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記微生物組成物が細菌組成物である、請求項2~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる、カゼイン組成物。
【請求項17】
凝乳を得るための方法であって、
i)請求項16に記載のカゼイン組成物を準備する工程と、
ii)前記カゼイン組成物を、水、カルシウム、脂質及び炭水化物からなる群から選択される少なくとも1つの構成成分を含む少なくとも1つの他の成分と混合して、液体プレ凝乳組成物(LpCC)を得る工程と、
iii)前記液体組成物に少なくとも1つの凝固剤を添加して、凝乳を得る工程と、を含む、方法。
【請求項18】
食用組成物を製造するための方法であって、
i)請求項1~15のいずれか一項に記載の方法を実行する工程と、
ii)凝乳を更に処理して、食用組成物を得る工程と、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品産業に関し、カゼイン組成物を製造するための新規方法、及び特にチーズ代替品(特に、ビーガンチーズ)を製造するためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質、糖、及び脂質を豊富に含む栄養素としての乳の使用は、これまでの社会においてほぼ普遍的なものとなった。更に、乳を様々な派生品に変換することは、人間の農業産業の最も古い例のうちの1つである。地球上のあらゆる場所で多種多様なチーズが作られ、文化的な基準となっている国もあり、そのまま使用されるだけでなく、多くの料理の材料としても使用されており、ピザ、ハンバーガーに、又はパスタの添加物としてチーズを使用することは、国際標準の多くの例である。今日、チーズ市場には年間2,000万トンの製品が存在し、その価値は約1,400億ドルに相当する。
【0003】
しかしながら、乳製品には、健康上だけでなく、環境及び倫理的配慮の観点からも、いくつかの問題又は懸念が伴う。これらの懸念により、様々な問題を軽減する乳製品代替品に対する必要性が浮き彫りになっている。健康上の問題としては、乳糖不耐症、アレルギー(Mousan and Kamat(2016)Cow’s Milk Protein Allergy. Clin Pediatr (Phila),Volume 55(11)pages 1054-63.;Manuyakorn and Tanpowpong (2018)Cow milk protein allergy and other common food allergies and intolerances. Paediatr Int Child Health, Volume 39(1),pages 32-40)、その他、健康に悪影響を与える可能性があることが知られている高い飽和脂肪酸含有量などが挙げられる(Micha and Mozaffarian (2010)Saturated fat and cardiometabolic risk factors, coronary heart disease, stroke, and diabetes: A fresh look at the evidence. Lipids, Volume 45,pages 893-905;Jakobsen et al(2009)Major types of dietary fat and risk of coronary heart disease: A pooled analysis of 11 cohort studies. Am.J.Clin.Nutr; Volume 89,pages 1425-1432;Nettleton et al(2017)Saturated fat consumption and risk of coronary heart disease and ischemic stroke: A science update. Ann Nutr Metab Volume 70,pages 26-33)。乳糖不耐症は、胃及び小腸で乳糖を分解する酵素であるラクターゼが欠乏し、その結果、結腸内に乳糖が蓄積し、細菌によって乳糖が消化されることが原因である(Ugidos-Rodriguez et al(2018)Lactose malabsorption and intolerance: a review. Food Funct, Volume 9(8),pages 4056-4068)。これは人間における非常に一般的な特徴であり、遺伝的に決定されており、乳製品を含まない食事が必要になる。乳製品代替品においては、乳糖及び飽和脂肪酸、更にはアレルギー性タンパク質を避けるために、この組成を調節することができる。
【0004】
更に、動物起源の食品に関連した環境及び倫理的な懸念がここ数十年にわたって高まっている。70億人の人口(2050年には110億人)に対する動物繁殖の負担はますます大きくなっている。環境への影響は深刻である。これらは現在、主に人為起源の温室効果ガス(GHG)排出、水消費、排水による汚染、及び土地占有の観点から考慮されている。
【0005】
牧畜は今日、第一のGHG排出源のうちの1つと考えられており、年間CO2換算で7.1ギガトンと推定され、人為起源の温室効果ガス(GHG)の排出源及び方法全体の14.5%に相当する(Rotz(2017) Modeling greenhouse gas emissions from dairy farms. J Dairy Science, Volume 101,pages 6675-6690)が、2010年の国連の研究では、世界の酪農セクターだけでも人為的GGHG排出の4%に寄与していると推定された(FOOD AND AGRICULTURE ORGANIZATION OF THE UNITED NATIONs, Greenhouse Gas Emissions from the Dairy Sector. A Life Cycle Assessment)。
【0006】
非常に大量の水消費もまた畜産に関連している(Sultana et al(2014). Comparison of water use in global milk production for different typical farms. Agricultural Systems, Volume 129, pages 9-21; Ercin and Aldaya (2012) The water footprint of soy milk and soy burger and equivalent animal products. Ecological Indicators, Volume 18,pages 392-402)。更に、農業排水も環境に大きな影響を与える。作物肥料が地下水に及ぼす影響を無視してはならないが、畜産排水の影響はしばしば甚大であり、世界の多くの地域で悲惨な結果をもたらすことが証明されている(https://www.nrdc.org/issues/livestock-production)。更に、家畜は、世界の農地の最大80%近くを占めるが、世界のカロリー供給量の20%未満しか産出していない。これは、畜産が非常に高いレベルのストレスを土地資源に与えていることを示す。
【0007】
最後に、動物福祉はますます重要な関心事となっている。肉及び乳製品の製造及び処理は、その規模拡大により、集約的な工業プロセスとなり、倫理的に受け入れられないとの認識が高まっている。
【0008】
したがって、上記の問題を軽減する乳製品代替品が強く求められている。乳の大部分がチーズに変換されるため(ヨーロッパでは約38%)、この必要性は、チーズ代替品に対する必要性の大部分を占めている。
【0009】
植物性の(Plant-based)代替品は、従来の乳製品に代わる可能性がある。しかしながら、これらの製品は大豆、アーモンド又はココナツミルクから得られることが多く、乳製品の味を模倣することからは程遠い場合がある。更に、それらは、いずれにせよ組成の点で根本的に異なる。
【0010】
したがって、今日、
(i)望ましくない化合物が含まれておらず、
(ii)外観、テクスチャ及び味の点で元の製品と同様であり、
(iii)栄養の点で元の製品と同等以上である
乳製品代替品、特にチーズ代替品が必要とされている。
【0011】
牛乳の典型的な組成を表1に示す。様々な脂質、タンパク質、塩、ビタミン及び他の栄養素の列挙を含む、牛乳及び他の畜乳のより詳細な組成は、多数の情報源から見出すことができる(https://en.wikipedia.org/wiki/Milk#Cow’s_milk;Haug et al(2007)Bovine milk in human nutrition-a review, Lipids Health Dis.; Volume 6,pages 25;Dominguez-Salasa et al(2019)Contributions of Milk Production to Food and Nutrition Security; Encyclopedia of Food Security and Sustainability, Volume 3,pages 278-291)。
【0012】
【表1】
【0013】
脂質及び炭水化物(乳糖を除く)は植物から、カルシウムは無機源、動物源又は植物(海草など)から回収することができる。タンパク質の場合、動物性タンパク質はアミノ酸含有量が植物性タンパク質とは異なるため、他の供給源を考慮する必要がある。乳タンパク質は、非動物起源の成分の別の供給源である発酵によっても産生される。
【0014】
更に、乳から単離されたタンパク質は、個別に栄養補助食品及び他の用途としても使用される。したがって、他の乳構成成分とは別個に、発酵によって作製された乳タンパク質は、乳製品代替品の作製以外の用途にも使用することができる。
【0015】
発酵による産生は、発酵槽内で目的の化合物を産生する細菌又は真菌の増殖に基づいており、通常はその後に目的の化合物の回収及び精製が行われる。発酵によるタンパク質の作製は、食品産業で使用されているプロセスであり、第一の例のうちの1つは、米国食品医薬品局によって登録され許可された第一の人工的に製造された酵素である組換えキモシンであり、今日ではレンネット市場の大部分(今日、米国では80%超)を占める(Food Biotechnology in the United States: Science, Regulation, and Issues”.U.S.Department of State.Retrieved 2006-08-14)。それ以来、様々な微生物における発酵による乳の構成タンパク質又はそのホモログの製造がいくつかの研究で説明されており(下記を参照されたい)、乳代替品を作製するための発酵タンパク質を含む成分の集合についても何度か説明されている(米国特許第6270827号明細書;米国特許第5,942,274号明細書;国際公開第2018/039632号;国際公開第2020/223700号)。
【0016】
しかしながら、乳タンパク質の工業的製造にも、食品産業での使用に適合するグレードで必要なタンパク質を高レベルの純度で製造するだけでなく、工業レベルで、かつ開発に見合ったコストで容易に拡張可能である、適合した精製手順が必要である。理想的には、そのような手順は可能な限り単純であるべきであり、非食用化学物質の使用、及び非常に大規模に実施する場合に費用がかかる工程の使用は避けるべきである。
【0017】
ベータ-ラクトグロブリン、アルファ-ラクトアルブミン、ウシ血清アルブミン及び免疫グロブリンなどの他の乳タンパク質(一般に「乳清タンパク質」と呼ばれる)は、凝固後に乳清中で除去されるため、4つのカゼイン分子(アルファ-S1-、アルファ-S2-、ベータ-又はカッパ-カゼイン)は、乳タンパク質の80%超を占め、チーズタンパク質のほぼ全てを占める。カゼインの溶解度は、pH、温度及び塩濃度に大きく依存する(Post et al.(2012)Effect of temperature and pH on the solubility of caseins: Environmental influences on the dissociation of caseins. J. Dairy Sci. Volume 95: pages 1603-1616)が、乳中では、可溶性タンパク質として見出されず、ミセル内で組織化され、その結果、コロイド構造を形成する。カゼインミセルは、直径が50~600nmの範囲のほぼ球形の粒子で、平均直径は約200nmである(Kruif, Supra-aggregates of casein micelles as a prelude to coagulation (1998) J Dairy Sci, Volume 81 pages 3019-3028;de Kruif et al. Casein micelles and their internal structure (2012) Advances in Colloid and Interface Science, Volume 171-172,pages 36-52)。このコロイドの凝乳への進化がチーズ製造の基礎となる(Gillis JC, Ayerbe A, Le fromage 4eme edition, Lavoisier-Technique Et Documentation 20 avril 2018)。κ-カゼインはミセル構造の安定化剤として重要な役割を果たしていると考えられる。
【0018】
カゼインは、酸媒介又はレンネット媒介の凝固後の中和により、カゼインナトリウム、カルシウム又はカリウムとして乳から分離することができる(Sarode et al.(2016)Methods of Manufacture. In: Caballero, B. Finglas, P. and Toldra, F. (eds.) The Encyclopedia of Food and Health vol.1,pp.676-682.Oxford: Academic Press)。異なる個々のカゼイン(アルファ-S1-、アルファ-S2-、ベータ-又はカッパ-カゼイン)は、低温での膜濾過(Murphy and Fox (1991) Fractionation of sodium caseinate by ultrafiltration. Food Chem. Volume 39 Pages 27-38:;Ward and Bastian(1996)A method for isolating β-casein. J. Dairy Sci. Volume 79,pages 1332-1339;Huppertz et al. (2006). A method for the large-scale isolation of β-casein. Food Chem. Volume 99, pages 45-50;Lamotheet al.(2007).Short communication: Extraction of β-casein from goat milk. J. Dairy Sci. Volume 90, pages 5380-5382;O’Mahony, et al.(2007).Purification of β-casein from milk.;米国特許出願公開第0104847号明細書)又は選択的沈殿(Law and Leaver(2007)Methods of extracting casein fractions from milk and caseinates and production of novel products. Hanna Research Institute, assignee.;国際公開第03/003847号;Post et al. (2009).β-Casein as a bioactive precursor-Processing for purification. Aust.J .Dairy Technol. Volume 64,pages 84-88;Post and Hinrichs(2011)Large-scale isolation of food-grade β-casein. Milchwissenschaft, Volume 66, pages 361-364)を使用して、それらの異なる物理化学的特性に基づいて、バルクカゼイン調製物から個別に精製することもできる。
【0019】
発酵によって作製された組換えタンパク質の場合、バイオマス及び培養ブロスから組換えタンパク質を単離するために、特定の手順を開発する必要があり、そのような手順は産生微生物及び組換えタンパク質の特性に依存する。
【0020】
タンパク質産生造の主力のうちの1つである大腸菌(Escherichia coli)では、組み換えタンパク質は、しばしば封入体内に見られる。これらの細胞内粒子は本質的に、組換えタンパク質の凝集体に存する。このような凝集体から適切に折り畳まれたタンパク質を回収するには、面倒な再折り畳みプロセスが必要である(Singh et al. (2015) Protein recovery from inclusion bodies of Escherichia coli using mild solubilization process. Microbial Cell Factories, Volume 14:pages 41-51;Vallejo and Rinas (2004) Strategies for the recovery of active proteins through refolding of bacterial inclusion body proteins. Microbial Cell Factories Volume 3: pages 11)。しかしながら、封入体は小さな粒子(0.2~1.5mm)であり、それらを単離するためのプロトコールは、工業規模で行うのは容易ではない工程である高相対遠心力による遠心分離をベースとしている場合が多い(Rodriguez-Carmona et al. (2010) Isolation of cell-free bacterial inclusion bodies. Microbial Cell Factories Volume 9, pages 71)が、これは大規模バッチでは問題となる可能性がある。
【0021】
耐熱性の組換えタンパク質又はペプチドの場合、宿主の可溶性タンパク質の多くが高温で沈殿し、かつ/又は分解されるため、熱溶解の使用は興味深い精製工程であり得る(Takesawa et al. (1990) Heat-induced precipitation of cell homogenates: an investigation of the recovery of thermostable proteins. Enzyme Microb. Technol. Volume 12, pages 184-189;Kirk and Cowan 1995 Optimising the recovery of recombinant thermostable proteins expressed in mesophilic hosts. J. of Biotechnology Volume 42, pages 177-184;Sundarrajan et al.(2018)Novel properties of recombinant Sso7d-Taq DNA polymerase purified using aqueous two-phase extraction: Utilities of the enzyme in viral diagnosis. Biotechnol Rep (Amst) 19:e00270;米国特許第8603782号明細書;国際公開第2011/119703号)。
【発明の概要】
【0022】
Post et al(Journal of Dairy Science, vol.95, no.4,2012, 1603-1616)は、カゼインの精製には関係していないが、アルファカゼインに対するベータカゼインの選択的沈殿の存在理由を分析している。したがって、この文献で提供される情報は、カゼイン、特に組換えカゼインを単離することの技術的問題とは関連していない。
【0023】
米国特許第4550028号明細書は、組換えカゼインの使用、又はそれらの調製若しくは精製について記載していない。この文献(第3欄、1~22行目)は、温度が上昇した酸性pHでのカゼイン凝集について言及していることに留意されたい。これは、ここで達成される技術的効果(カゼインが溶液中に残存し、乳タンパク質ではない他のタンパク質は沈殿する)とは異なる。
【0024】
国際公開第99/54355号には、水混和性有機溶媒(特にアセトン、イソプロパノール、エタノール及びメタノール)を約5.0~約10.0のpH及び約30℃~約50℃の温度で使用して、細胞から組換えタンパク質を精製及び回収することが記載されている。この出願には、「該水混和性有機溶媒は、該組換えタンパク質を該細胞懸濁液から抽出する。該水混和性有機溶媒は、該組換えタンパク質を該細胞懸濁液から液相内に選択的に分配すると考えられる」と記載されている(6ページ、20~24行目)。その目的は本出願のものと同様である(組換えタンパク質の精製)が、技術的効果は本明細書に開示されるものとは別の方法(有機溶媒の使用)によって得られる。
【0025】
実際、食品用途では、後続の工程で除去する必要がある有機溶媒などの化学物質の使用を避けることが重要であり、本明細書に開示されるプロセスは、有機溶媒を含まない細菌培養培地上で(好ましくは細胞の溶解及び細胞破片の除去後に)実行される。
【0026】
国際公開第2020/223700号は、組換えカゼインベースの配合物(ミセル形態のアルファ及びカッパカゼイン、好ましくは段落[0006]に示されるようなベータカゼインを含まない)の調製に関する。この文献には、これらの組換えタンパク質の精製もそれらの使用も記載されておらず、実施例が、段落[00210]に見られるように「典型的に、産業界では、カゼインミセルを単離するためのスキムミルクの限外濾過と、カゼインミセルを粉末化するための噴霧乾燥技法によって得られる」か、又はミセル再構成後に得られるミセルカゼインから作製されている生鮮製品の製造に関する(実施例6)ことにも留意されたい。
【0027】
米国特許第4,519,945号明細書は、pH及び温度を調節することによる乳からの凝乳の調製に関する。したがって、この文献はカゼインの凝集を得るための条件に関するものであり、カゼインを単離及び精製するという目的とは関係しない。
【0028】
本出願人は、カゼインは高温で可溶化するか、若しくは可溶化状態のままであるのに対し、他のタンパク質は沈殿し、かつ/又は分解されることを示した。特に、本出願人は、大腸菌において、不溶性画分中に見られる組換えカゼイン(特にアルファ及びベータカゼイン)は、高温(75℃超)で加熱することにより可溶化されるが、一方、対照的に、宿主からの多くの可溶性タンパク質は、そのような温度で沈殿し、かつ/又は分解されたことを見出した。このような特性を利用して、組成物中の非カゼインタンパク質の全て又は一部を排除し、したがって、組成物中のカゼインを濃縮する(すなわち、その相対量を増加させる)ことが可能である。このようにして、細菌細胞からカゼインを単離するためのプロセスが開発され、本明細書に開示される本発明の基礎となっている。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1A】アルファ-S1カゼイン(A)、アルファ-S2カゼイン(B)及びベータカゼイン(C)を発現する組換え細胞からの抽出物の可溶性画分及び不溶性画分のSDS-PAGEによる分析。カゼインを発現するベクター(BL21-アルファ-S1カゼイン、BL21-アルファ-S2カゼイン若しくはBL21-ベータカゼイン)又は空のベクター(BL21)で形質転換した細胞を、実施例1に記載の2つの異なるプロトコールで溶解した。溶解産物を遠心分離し、SDS-PAGEで分析した。T:合計(遠心分離前)、S:上清、P:ペレット。
図1B】アルファ-S1カゼイン(A)、アルファ-S2カゼイン(B)及びベータカゼイン(C)を発現する組換え細胞からの抽出物の可溶性画分及び不溶性画分のSDS-PAGEによる分析。カゼインを発現するベクター(BL21-アルファ-S1カゼイン、BL21-アルファ-S2カゼイン若しくはBL21-ベータカゼイン)又は空のベクター(BL21)で形質転換した細胞を、実施例1に記載の2つの異なるプロトコールで溶解した。溶解産物を遠心分離し、SDS-PAGEで分析した。T:合計(遠心分離前)、S:上清、P:ペレット。
図1C】アルファ-S1カゼイン(A)、アルファ-S2カゼイン(B)及びベータカゼイン(C)を発現する組換え細胞からの抽出物の可溶性画分及び不溶性画分のSDS-PAGEによる分析。カゼインを発現するベクター(BL21-アルファ-S1カゼイン、BL21-アルファ-S2カゼイン若しくはBL21-ベータカゼイン)又は空のベクター(BL21)で形質転換した細胞を、実施例1に記載の2つの異なるプロトコールで溶解した。溶解産物を遠心分離し、SDS-PAGEで分析した。T:合計(遠心分離前)、S:上清、P:ペレット。
図2A】アルファ-S1カゼイン(A)、アルファ-S2カゼイン(B)及びベータカゼイン(C)を発現する組換え細胞からの熱処理抽出物の可溶性画分及び不溶性画分のSDS-PAGE分析。カゼインを発現するベクター(BL21-アルファ-S1カゼイン、BL21-アルファ-S2カゼイン若しくはBL21-ベータカゼイン)又は空のベクター(BL21)で形質転換した細胞を、10、20、30、60、90又は120分間加熱した(10’;20’;30’;60’;90’;120’;0’:非加熱サンプル;C:室温で120分間インキュベートしたサンプル)。溶解産物を遠心分離し、SDS-PAGEで分析した。T:合計(遠心分離前)、S:上清、P:ペレット。詳細については、実施例2を参照されたい。
図2B】アルファ-S1カゼイン(A)、アルファ-S2カゼイン(B)及びベータカゼイン(C)を発現する組換え細胞からの熱処理抽出物の可溶性画分及び不溶性画分のSDS-PAGE分析。カゼインを発現するベクター(BL21-アルファ-S1カゼイン、BL21-アルファ-S2カゼイン若しくはBL21-ベータカゼイン)又は空のベクター(BL21)で形質転換した細胞を、10、20、30、60、90又は120分間加熱した(10’;20’;30’;60’;90’;120’;0’:非加熱サンプル;C:室温で120分間インキュベートしたサンプル)。溶解産物を遠心分離し、SDS-PAGEで分析した。T:合計(遠心分離前)、S:上清、P:ペレット。詳細については、実施例2を参照されたい。
図2C】アルファ-S1カゼイン(A)、アルファ-S2カゼイン(B)及びベータカゼイン(C)を発現する組換え細胞からの熱処理抽出物の可溶性画分及び不溶性画分のSDS-PAGE分析。カゼインを発現するベクター(BL21-アルファ-S1カゼイン、BL21-アルファ-S2カゼイン若しくはBL21-ベータカゼイン)又は空のベクター(BL21)で形質転換した細胞を、10、20、30、60、90又は120分間加熱した(10’;20’;30’;60’;90’;120’;0’:非加熱サンプル;C:室温で120分間インキュベートしたサンプル)。溶解産物を遠心分離し、SDS-PAGEで分析した。T:合計(遠心分離前)、S:上清、P:ペレット。詳細については、実施例2を参照されたい。
図3A】42L発酵槽内で大腸菌において産生されたベータカゼインのSDS-PAGE分析。A.全抽出物の分析。T:全抽出物(Laemmliローディング緩衝液中、95℃で5分間加熱)。C:ベータカゼインシグマ(5、10及び20μgのタンパク質を3つの異なるレーンにロードした)。詳細については、実施例3を参照されたい。B.可溶性画分及び不溶性画分の分析。詳細については、実施例3を参照されたい。
図3B】42L発酵槽内で大腸菌において産生されたベータカゼインのSDS-PAGE分析。A.全抽出物の分析。T:全抽出物(Laemmliローディング緩衝液中、95℃で5分間加熱)。C:ベータカゼインシグマ(5、10及び20μgのタンパク質を3つの異なるレーンにロードした)。詳細については、実施例3を参照されたい。B.可溶性画分及び不溶性画分の分析。詳細については、実施例3を参照されたい。
図4A】42Lバイオリアクター内で成長させた、ベータカゼインを発現する組換え細胞からの熱処理抽出物の可溶性画分及び不溶性画分のSDS-PAGE分析。詳細については、実施例4を参照されたい。:ベータカゼインを発現するベクターで形質転換した細胞を、95℃で30、60、90又は120分間(30’;60’;90’;120’)加熱した。溶解産物を遠心分離し、可溶性画分及び不溶性画分をSDS-PAGEによって分析した。S:上清;P:ペレット。B.:ベータカゼインを発現するベクターで形質転換した細胞を、55℃で30、60、90若しくは120分間(30’;60’;90’;120’)、又は95℃で10、20、30、60、90若しくは120分間(10;20;30’;60’;90’;120’)加熱した。溶解産物を遠心分離し、可溶性画分及び不溶性画分の両方をSDS-PAGEによって分析した。0’:非加熱サンプル;C:室温で120分間インキュベートしたサンプル。
図4B】42Lバイオリアクター内で成長させた、ベータカゼインを発現する組換え細胞からの熱処理抽出物の可溶性画分及び不溶性画分のSDS-PAGE分析。詳細については、実施例4を参照されたい。:ベータカゼインを発現するベクターで形質転換した細胞を、95℃で30、60、90又は120分間(30’;60’;90’;120’)加熱した。溶解産物を遠心分離し、可溶性画分及び不溶性画分をSDS-PAGEによって分析した。S:上清;P:ペレット。B.:ベータカゼインを発現するベクターで形質転換した細胞を、55℃で30、60、90若しくは120分間(30’;60’;90’;120’)、又は95℃で10、20、30、60、90若しくは120分間(10;20;30’;60’;90’;120’)加熱した。溶解産物を遠心分離し、可溶性画分及び不溶性画分の両方をSDS-PAGEによって分析した。0’:非加熱サンプル;C:室温で120分間インキュベートしたサンプル。
図5】大腸菌で産生され、部分的に精製されたベータカゼインのSDS-PAGEによるモニタリング。(A)細胞を回収して再懸濁し、95℃で90分間加熱し、遠心分離及び濾過によって更に処理することにより、サンプルを実施例5に記載されるように調製した。(B)加熱前後の再懸濁細胞ペレット(溶解産物)を比較するために、サンプルを実施例5に記載されるように調製した。濾過したサンプルもモニタリングした。W:洗浄液;C:再懸濁した細胞ペレット;H:加熱後の溶解産物;S:遠心分離後の溶解産物上清;P:溶解産物ペレット;F:最終濾過サンプル。
図6】部分的に精製されたベータカゼインからの凝乳の作製。実施例5に記載されるベータカゼインの部分精製調製物を、実施例6に記載されるように熱により乾燥させ、他の成分と混合した。得られた混合物にレモンを加え、成形し、インキュベートすると凝乳が形成された(A)。カゼインを除いて同じ成分で作製された混合物。この対照混合物は、冷却すると部分的に固化したが、観察されたように崩れ、保水性は悪かった(B)
図7】酸性条件での熱分解及び沈殿によるベータカゼインの精製。実施例7に記載されるようにサンプルを処理し、分析した。A.SDS-PAGEによるベータカゼインのモニタリング。ベータカゼインを、95℃で2時間の熱溶解、上清の単離及び濾過(S)、並びにこの上清のpHをpH=4に調節した後、40℃又は90℃で20分間加熱し、3220gで20分間遠心分離した。この最後の遠心分離工程の後、上清とペレットの両方を分析した:40℃での加熱後の上清(S40)、40℃での加熱後のペレット(P40)、90℃での加熱後の上清(S90)、90℃での加熱後のペレット(P90)。B.精製処理の様々な工程での再懸濁細胞ペレット(CP)における組換えDNAのモニタリング(以下を含む):95℃での2時間の加熱後の上清中(レーンA)、この上清のpHをpH4に調節した後(レーンB)、90℃で20分間の更なる加熱、沈殿したカゼインの遠心分離及び再懸濁後(C)、沈殿したカゼインの洗浄及び再懸濁後(D)、Ca(OH)添加後(Ca)。対照PCRは、DNA又は細胞サンプルの非存在下(-)、又はベータカゼインを発現する組換えプラスミドの存在下(+)で作製した。M:1kb+NEBマーカー。
図8カゼインカルシウム及びゲル化剤による凝固。LpCCを、ゲル化剤(寒天)の存在下又は非存在下で播種した。組成及びプロトコールについては実施例で説明する。水切り工程の最後に調製物が作製される。左:ゲル化剤の非存在下での凝固。中央:0.68%寒天の存在下での凝固。右:寒天0.68%、凝固剤なし。
図9カゼインカルシウムでの凝固、及び凝固後のゲル化剤の添加。組成及びプロトコールについては実施例6で説明する。水切り工程の最後の後に調製物が作製される。左:凝固後に0.53%の寒天を添加する。右:0.53%の寒天を凝固の非存在下で添加する。
図10組換えカゼインの凝固。組成及びプロトコールについては実施例10で説明する。左:ベータカゼインによる凝固。凝固は脂質及び炭水化物の存在下で、しかしゲル化剤の非存在下で行われた。水切り工程の最後に調製物が作製される。右:酸性pHでのアルファ-S1及びベータカゼインの凝固。カゼイン組成物には脂質も炭水化物も添加しなかった。左と右の写真は縮尺が合っていない。
図11組換えカゼインからのソフトチーズの作製。組成及びプロトコールについては実施例11で説明する。水切り工程の最後に調製物が作製される。左:0.68%寒天の存在下でのベータカゼイン(バッチ1)の凝固。中央:ベータカゼインの凝固、0.68%寒天、凝固剤なし。右:0.68%寒天の存在下でのアルファ-S1とベータカゼインの凝固。
図12ベータカゼイン凝固後のゲル化剤の添加。組成及びプロトコールについては実施例11で説明する。水切り工程の最後の後に調製物が作製される。左:凝固後に0.53%の寒天を添加する。右:0.53%の寒天を凝固の非存在下で添加する。
図13組換えベータカゼインから作製されたソフトチーズ代替品。生成物を、実施例12に記載されるように作製した。生成物は、7日間の熟成後のものである。
図14精製プロセスの様々な工程でのアルファ-S1及びベータカゼインのSDS-PAGE分析。実施例13に記載されるようにサンプルを処理し、分析した。A:M:分子量マーカー;レーン1:溶解産物;レーン2及び4:清澄化した溶解産物、レーン3:不溶性ペレット;レーン4:活性炭で処理した後の清澄化した溶解産物。M:分子量マーカー。バンドのサイズはゲルの左側に示した。
図15チーズ代替品。チーズ代替品を実施例14に記載したように製造した。写真は凝固後6日目に撮影した。
【発明の具体的説明】
【0030】
本発明の文脈において、「カゼイン」は、任意のカゼインタンパク質又はカゼインタンパク質の混合物である。したがって、「カゼイン」は、アルファ-S1カゼイン、アルファ-S2カゼイン、ベータカゼイン又はカッパカゼインである。場合により、そのようなタンパク質の任意の混合物を指すこともある。カゼインタンパク質全般について説明するために、「カゼイン」という用語を使用することができる。
【0031】
本発明の文脈において、「~(との間)」という用語には上限値と下限値が含まれる。
【0032】
本発明の文脈において、「チーズ代替品」という用語は、栄養価、外観、テクスチャ及び味の点でチーズの本質的な特徴を有する食品を意味する。
【0033】
「フレッシュチーズ」という用語は、無脂肪ベースで水分が80%超であり(脂肪を含まない製品の総質量に対する水の比率)、タンパク質含有量が総重量の2%~15%である(総製品質量に対するタンパク質質量の比率)チーズを指す。
【0034】
「ソフトチーズ」又は「セミソフトチーズ」という用語は、無脂肪ベースで水分が62%~80%であり(脂肪を含まない製品の総質量に対する水の比率)、タンパク質含有量が総重量の15%~30%である(総製品質量に対するタンパク質質量の比率)チーズを指す。ソフトチーズは、無脂肪ベースで67%~80%の水分を有し、セミソフトチーズは無脂肪ベースで62%~67%の水分を有する。
【0035】
本発明の文脈において、「液体プレ凝乳組成物」又は「LpCC」という用語は、レンネット及び発酵体の添加、並びに凝固(特にカゼインの凝固)の前に、少なくともカゼインと、水、カルシウム、脂質、炭水化物のうちの少なくとも1つの構成成分を含む少なくとも1つの他の成分と、を含有する組成物を指す。LpCCのカゼイン濃度は、乳のカゼイン濃度よりも高い。LpCC中の他の成分の濃度も、乳中の他の成分の濃度よりも高い。これにより、LpCCは人工(牛)乳ではないため、本出願で開示されるような組換えカゼインを含むLpCCを使用する場合には、いくらかの水を節約することが可能になる。タンパク質、脂質、カルシウム塩及び/又は炭水化物のそれぞれの濃度は、チーズ代替品の最終的な所望の組成に適合するように調節される。
【0036】
本発明の文脈において、「凝固剤」という用語は、凝固を引き起こすことができる化学的又は生化学的組成物を指す。凝固は、酸溶液の添加によって、スターター培養物(炭水化物の存在下での成長がpHの低下を引き起こす発酵体)の添加によって、熱処理によって、カルシウムキレート剤の添加によって、天然若しくは組換えレンネットの添加によって、動物プロテアーゼ若しくは植物性凝固酵素などのレンネット代替品の添加によって)、又はこれらのプロセスの組み合わせによって達成することができる。凝固剤は、単独で、又は別の若しくは他の添加剤、化合物、組成物若しくは処理物と組み合わせて、添加により凝固をもたらす任意の添加剤、化合物、組成物又は処理物であってもよい。アニマルフリーの食用組成物を調製する場合、レンネットの使用を避けるために、凝固剤が動物起源の要素を含まないように、酸性化剤(酸又はスターター培養物など)を使用することが好ましい。酸性化剤が1つ以上の乳酸菌を含む場合に有利であるが、酸性化学物質を使用することもできる。
【0037】
本発明の文脈において、「凝乳」という用語は、凝固剤の作用下でカゼインが凝固又は沈殿し、液相が存在する場合には、例えばチーズクロス上で水切りすることによって液相から分離することができる組成物を意味する。凝乳は、水及び脂質(存在する場合)などの他の成分も含む。
【0038】
本発明の文脈において、「発酵体」という用語は、チーズ代替品の製造プロセス中に添加される、少なくとも1つの微生物株を含有する組成物を指す。乳酸発酵体は乳酸発酵を引き起こし、その結果、特に培地の酸性化をもたらす。結果として、乳酸発酵体を凝固剤として使用することができる。
【0039】
他の発酵体は、凝乳を処理するためにチーズ製造において使用され、その結果、テクスチャ、味、香り及び化学組成が変化する(特に、タンパク質がより小さなペプチドに切断される)。これらの発酵体は、「熟成(maturation)用発酵体」、「熟成発酵体」又は「熟成(ripening)発酵体」と呼ばれることがあり、一般に、フレッシュチーズの製造には使用されない。このような熟成用発酵体を、凝固剤と共に添加することができる。
【0040】
本発明の文脈において、「非動物起源の」という用語は、動物に直接由来していないか、培養中の動物細胞から産生されていないか、又は乳などの動物生成物から単離されていない化合物又は組成物を意味する。したがって、微生物の発酵によって産生される化合物又は組成物は、発酵中に動物起源の産物、例えばバクトペプトンが関与する可能性があるとしても、「非動物起源の」ものである。したがって、本発明の文脈において、動物において天然に産生されるタンパク質は、たとえその配列又は構造が動物から単離されるタンパク質の配列又は構造と同一であっても、微生物(細菌若しくは酵母など)細胞又は植物細胞において産生される場合には非動物起源と呼ばれる。
【0041】
本発明の文脈において、「アニマルフリー」という用語は、動物に由来していないか、培養中の動物細胞に由来していないか、又は乳などの動物製品に由来しておらず、その製造プロセスに動物起源の原料若しくは添加物が一切含まれない化合物又は組成物を意味する。
【0042】
本発明の文脈において、「テクスチャ付与剤」という用語は、レシチンなどの乳化剤、及びカシアガム、セスバニアガム、タマリンドガム、グアーガム、コロハガム、アラビアガム、寒天(agar agar)(又は寒天(agar-agar))、カラギーナン、トラガカントガム、キサンタンガム、カロブ(ローカストビーン)ガム、セルロースガムなどの親水コロイドを含む任意のゲル化剤を意味する。
【0043】
第1の態様では、カゼイン組成物を製造するための方法であって、
i)カゼイン及び他のタンパク質を含む組成物を準備する工程と、
ii)組成物の可溶性画分中の他のタンパク質の量を低減(又は減少)するように組成物を加熱する工程と、
iii)可溶性画分を回収する工程と、
を含み、それにより、カゼイン組成物を得る、方法が本明細書に開示される。
【0044】
特に、ii)において、加熱により、可溶性画分中の他のタンパク質に対するカゼインの比率が増加し、したがって組成物のカゼインが濃縮される。
【0045】
i)の組成物は、可溶性画分及び任意選択的に不溶性画分を含有する。可溶性画分とは、遠心分離によってペレット化されない画分を指す。不溶性画分は、遠心分離後に得られるペレットである。遠心分離は、好ましくは、約3000gで20~30分間実行される。工業規模では、連続流遠心分離、又は別の方法(濾過など)を使用して可溶性画分を回収してもよい。
【0046】
所望の技術的効果は、好ましくは有機溶媒の非存在下で、又は有機溶媒を添加せずに、加熱することによって得られる。
【0047】
タンパク質の総量と比較してカゼインの相対量が増加すると、可溶性画分中のカゼインの比率が増加する。
【0048】
このような方法は、カゼイン及び他のタンパク質を含有する組成物からカゼインを単離又は精製するために使用することができる。このような方法は、タンパク質組成物中のカゼインを濃縮する、すなわち、タンパク質組成物のタンパク質画分中のカゼインの割合を増加させるために使用することもできる。
【0049】
本明細書に記載の方法の文脈において、「カゼイン組成物」は、カゼインを含有する組成物を指す。可溶性画分と不溶性画分の分離をベースとする精製工程を使用するために、カゼイン組成物は、可溶性画分を含む必要がある。しかしながら、このカゼイン組成物はその後更なる工程で乾燥させることができる。いくつかの実施形態では、カゼインは、組成物のタンパク質の25%超を占める。別の実施形態では、カゼインは、組成物のタンパク質の50%超を占める。いくつかの(come)実施形態では、カゼインは、乾燥重量の大部分(50%超)を占める。このようなカゼイン組成物は、他の化合物、特にカルシウム、他のタンパク質、脂質などを含むこともできる。微生物培養により産生されるカゼイン組成物は、非動物起源のカゼイン組成物である。
【0050】
カゼイン及び他のタンパク質を含有する組成物中のカゼインを濃縮するための方法であって、
i)カゼイン及び他のタンパク質を含有する組成物を準備する工程と、
ii)可溶性画分中のカゼインの量を増加又は維持しつつ、組成物の可溶性画分中の他のタンパク質の量を低減するように組成物を加熱する工程と、
iii)可溶性画分を回収する工程と、
を含み、それにより、組成物中のカゼインを濃縮する、方法を挙げることができる。
【0051】
他のタンパク質は、非カゼインタンパク質である。したがって、この方法により、カゼインが濃縮された組成物を得ることが可能になる。組成物中のカゼインの濃縮とは、全タンパク質含有量におけるカゼイン比率(又は相対量)の増加を指す。それは、加熱前の量と比較される。
【0052】
所望の技術的効果は、好ましくは有機溶媒の非存在下で、又は有機溶媒を添加せずに、加熱することによって得られる。
【0053】
これを考慮すると、カゼイン組成物は、プロセスの最後にカゼインのみを含有するか、又は(加熱による他のタンパク質の沈殿及び/又は分解が完了していない場合)他のタンパク質も含有する場合があるということになる。しかしながら、上に示したように、カゼインが、プロセスを実行した後に得られる組成物中のタンパク質の少なくとも50%(重量/重量)を占める場合が好ましい。好ましい実施形態では、カゼインは、プロセスを実行した後に得られる組成物のタンパク質の少なくとも60%、又は少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも85%、又は少なくとも90%、又は少なくとも91%、又は少なくとも92%、又は少なくとも93%、又は少なくとも94%、又は少なくとも95%を占める。タンパク質の量は、当技術分野で知られている任意の方法(ゲルの使用、タンパク質の投与)によって測定することができる。
【0054】
上に示したように、(i)で使用されるカゼイン及び他のタンパク質を含有する組成物は、炭水化物又は脂質などの他の構成成分も含有し得る。これは、カゼイン及び他のタンパク質を含有する組成物が、カゼインを発現する組換え微生物(真核細胞を含む)の培養物から得られる場合に特に当てはまる。このような他の構成成分(それらの全体又は一部)は、カゼイン組成物中に存在するであろう。
【0055】
(i)で使用されるカゼイン及び他のタンパク質を含有するこのような組成物は、適切な緩衝液又は溶液、しかしより好ましくは水に懸濁された微生物、又はカゼインが微生物によって分泌される場合に微生物の培養物から得られる上清を含有することができる。
【0056】
特定の実施形態では、出発組成物(カゼイン及び他のタンパク質を含有する組成物)は、アルファ-S1カゼインを含有する。一実施形態では、アルファ-S1カゼインが出発組成物中の唯一のカゼインである。
【0057】
特定の実施形態では、出発組成物(カゼイン及び他のタンパク質を含有する組成物)は、アルファ-S2カゼインを含有する。一実施形態では、アルファ-S2カゼインが出発組成物中の唯一のカゼインである。
【0058】
特定の実施形態では、出発組成物(カゼイン及び他のタンパク質を含有する組成物)は、ベータカゼインを含有する。一実施形態では、ベータカゼインが出発組成物中の唯一のカゼインである。
【0059】
特定の、しかし好ましくない実施形態では、出発組成物(カゼイン及び他のタンパク質を含有する組成物)は、カッパカゼインを含有する。したがって、好ましい実施形態では、出発組成物(カゼイン及び他のタンパク質を含有する組成物)は、カッパカゼインを含有しない。
【0060】
特定の実施形態では、出発組成物(カゼイン及び他のタンパク質を含有する組成物)は、アルファ-S1カゼイン及びベータカゼインの混合物を含有する。一実施形態では、アルファ-S1カゼイン及びベータカゼインが出発組成物中の唯一のカゼインである。
【0061】
特定の実施形態では、出発組成物(カゼイン及び他のタンパク質を含有する組成物)は、アルファ-S1カゼイン及びアルファ-S2カゼインの混合物を含有する。一実施形態では、アルファ-S1カゼイン及びアルファ-S2カゼインが出発組成物中の唯一のカゼインである。
【0062】
特定の実施形態では、出発組成物(カゼイン及び他のタンパク質を含有する組成物)は、アルファ-S2カゼイン及びベータカゼインの混合物を含有する。一実施形態では、アルファ-S2カゼイン及びベータカゼインが出発組成物中の唯一のカゼインである。
【0063】
特定の実施形態では、出発組成物(カゼイン及び他のタンパク質を含有する組成物)は、アルファ-S1カゼイン、アルファ-S2カゼイン及びベータカゼインの混合物を含有する。一実施形態では、アルファ-S1カゼイン、アルファ-S2カゼイン及びベータカゼインが出発組成物中の唯一のカゼインである。
【0064】
特定の実施形態では、出発組成物(カゼイン及び他のタンパク質を含有する組成物)は、アルファ-S1カゼイン、アルファ-S2カゼイン、ベータカゼイン及びカッパカゼインの混合物を含有する。
【0065】
特定の実施形態では、出発組成物(カゼイン及び他のタンパク質を含有する組成物)は、アルファ-S1カゼイン、アルファ-S2カゼイン、ベータカゼイン及びカッパカゼインの中から選択される2つ~3つのカゼインの組み合わせの混合物を含有する。
【0066】
可溶性画分は、カゼインを更に精製及び/又は濃縮するために、濾過(特に限外濾過、ナノ濾過、逆浸透)、クロマトグラフィー、又はカゼインの酸性沈殿などの別の沈殿などの別の精製工程に供されてもよい。特に、酸性沈殿は、pH=4、及び好ましくは約90℃で実行される。他の複数の精製工程を実行することができる。また、上記の精製方法のうちの1つ以上を操作する前又は後に、可溶性画分に活性炭を添加することもできる。
【0067】
特定の実施形態では、微生物は、細菌細胞である。別の実施形態では、微生物は、真菌細胞(酵母細胞を含む)である。別の実施形態では、微生物は、真核細胞、特に植物細胞である。実際、カゼインが非動物生物内で産生されることが好ましい。
【0068】
カゼインを発現するように形質転換された微生物(特に細菌)の培養又は発酵によってカゼインが産生される場合、(他のタンパク質は沈殿し、かつ/又は分解されるのに対し、高温でも可溶性のままである)カゼインの特性を利用して、カゼイン組成物を製造するための方法であって、
i)微生物組成物(好ましくは細菌組成物)を準備する工程であって、微生物組成物(好ましくは細菌組成物)が、カゼインをコードする少なくとも1つの核酸で形質転換された微生物(好ましくは細菌)を含み、微生物(好ましくは細菌)が、カゼインを発現及び産生するように培養されている、工程と、
ii)微生物組成物(好ましくは細菌組成物)を、可溶性画分中のカゼインの濃縮及び/又は可溶性画分中の他のタンパク質の量の低減を誘導する温度で加熱する工程と、
iii)ii)の加熱した溶液から可溶性画分を単離する工程と、
iv)任意選択的に、iii)において単離された可溶性画分に適用される活性炭の添加、膜濾過(限外濾過、ナノ濾過、若しくは逆浸透)、クロマトグラフィー、又はカゼインの沈殿から選択される更なる工程を実行する工程と、
を含み、それにより、カゼイン組成物を得る、方法を実行することができる。
【0069】
ii)では、微生物組成物(好ましくは細菌組成物)を加熱すると、細胞がまだ溶解していない場合には、細胞の溶解も誘導されて、微生物抽出物が産生され、可溶性画分のカゼインが濃縮され、かつ/又は可溶性画分中の他のタンパク質の量が低減される。
【0070】
したがって、微生物組成物がすでに溶解された微生物を含む場合、ii)における加熱は、可溶性画分中のカゼインを濃縮させ、かつ/又は可溶性画分中の他のタンパク質の量を低減し、微生物組成物中に存在する微生物がまだ溶解されていない場合、微生物の溶解の更なる効果が観察される。
【0071】
加熱前に微生物が溶解されている微生物組成物の可溶性画分と比較して、可溶性画分におけるカゼインの濃縮又は他のタンパク質の低減が観察される。
【0072】
したがって、このような方法により、カゼイン組成物を取得し、微生物培養物からカゼインを豊富に含む(又はカゼイン濃縮された)組成物を単離することができる。カゼインを豊富に含む組成物は、カゼインが主要なタンパク質である組成物である。好ましい実施形態では、カゼインは、上記カゼインを豊富に含む組成物中のタンパク質の50%超を占める。より好ましい実施形態では、カゼインは、上記カゼインを豊富に含む組成物中のタンパク質の80%、又は90%又は95%超を占める。
【0073】
実際、実施例に示すように、加熱すると、カゼインは不溶性画分(ペレット)から可溶性画分(上清)に移動する。実施例は、熱の作用により可溶性画分に移動するのは本質的にカゼインであることも示している。
【0074】
微生物組成物は、適切な流体(例えば、水又は以下に説明されるような他の緩衝液)中に懸濁された微生物細胞を含有する。したがって、故に、遠心分離により不溶性(ペレット)画分と可溶性画分(上清)を得ることが可能である。しかしながら、この方法は遠心分離の前に実行する場合が好ましい。この実施形態では、加熱が実行されるときに、不溶性画分は可溶性画分中に懸濁していることができる。したがって、遠心分離又は別の方法(濾過など)を使用して、可溶性画分を回収してもよい。
【0075】
一実施形態では、微生物組成物(好ましくは細菌組成物)は、培養、洗浄、及び適切な液体又は流体中で(適切な緩衝液、及びより好ましくは水中で、より好ましくは有機溶媒の非存在下で)の再懸濁後の微生物細胞(好ましくは細菌)の遠心分離によって得られる。緩衝液は、酸性ではない(6.5以上)、好ましくは中性に近い(6.5~7.5)、又は塩基性(好ましくは9未満)のpHである。実際、カゼインは酸性pHで沈殿する可能性があり、実施例7に示すように、このプロセスは加熱によって更に向上される。緩衝液がイオン性でない場合、又はイオン強度が低い場合にも、これは好ましい。iii)の可溶性画分は、ii)において加熱した組成物の遠心分離によって、又は当技術分野で知られている他の方法によって得ることができる。
【0076】
上に開示した方法におけるi)の組成物は、ii)において、約75℃~約100℃、特に75℃~105℃の温度で加熱される。このような温度により、ii)に記載した技術的及び機能的効果(他のタンパク質の除去、故にそれらの量の低減、及び/又は不溶性画分から可溶性画分へのカゼインの移動)を得ることが可能になる。水を使用する場合にも、圧力を上昇させれば100℃超の温度で機能することができる。当業者は、本明細書に開示される方法を実行するための温度、圧力、及びpHの適切な条件を決定することができる。
【0077】
「約」という用語は、測定可能な値について言及する場合、特定された値から±4%の変動を包含することを意味し、そのような変動は開示された方法を実行するのに適切である。
【0078】
特に、温度は、80℃以上、又は85℃以上、90℃以上である。特に、温度は、約85℃~約95℃であり、より具体的には約95℃である。別の実施形態では、温度は、約90℃~約95℃である。温度は、一般に100℃以下である。80℃~100℃、又は85℃~100℃の温度が好適である。
【0079】
加熱の継続時間は、当業者によって調整され得る。加熱が約95℃で実行される場合、継続時間は約5分~約2時間であってもよい。持続時間が少なくとも10分、20分、30分、40分、1時間である場合が好ましく、約2時間である場合がより好ましい。持続時間は延長可能である(特に低温の場合、又は特に高温の場合には短縮可能である)。
【0080】
上で示したように、特定の実施形態は、出発組成物(カゼイン及び他のタンパク質を含有する組成物)が細菌培養物から得られた場合の状況を包含する。このような実施形態では、細菌は、2つ以上のカゼインをコードする1つ以上の核酸で形質転換されている。
【0081】
特に、一実施形態では、細菌は、ベータカゼインをコードする1つ以上の核酸で形質転換されている。
【0082】
特に、一実施形態では、細菌は、アルファ-S1カゼインをコードする1つ以上の核酸で形質転換されている。
【0083】
特に、一実施形態では、細菌は、アルファ-S2カゼインをコードする1つ以上の核酸で形質転換されている。
【0084】
特に、一実施形態では、細菌は、ベータカゼイン及びアルファ-S1カゼインの両方をコードする1つ以上の核酸で形質転換されている。
【0085】
特に、一実施形態では、細菌は、ベータカゼイン、アルファ-S1カゼイン及びアルファ-S2カゼイン、又はそれらのうちの2つの組み合わせをコードする1つ以上の核酸で形質転換されている。
【0086】
複数のタンパク質が産生される場合、細菌は、異なる核酸(各々が異なるタンパク質をコードするもの)又は独自の核酸(様々なタンパク質の産生を可能にする要素を含有する)で形質転換可能であることに留意されたい。特に、1つ又は複数のタンパク質の産生のために微生物及び細菌を形質転換するこのような方法は、当技術分野で知られている。
【0087】
核酸は、それらがコードするカゼインの産生を可能にする全ての要素(プロモーター、エンハンサー、ターミネーターなど)を含有するようなものである。当業者はこれら全ての要素を知っており、最も適切なものを選択することができる。当業者は、カゼインを産生するために使用する微生物を選択することもできる。
【0088】
特に、カゼインの発現に適した原核生物宿主としては、大腸菌(E.coli)、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)、並びにラクトコッカス(Lactococcus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属及びスタフィロコッカス(Staphylococcus)属の様々な種が挙げられる。
【0089】
カゼインの発現に適した真核生物宿主としては、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisae)、クルイベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、又はトリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)などの真菌が挙げられる。
【0090】
植物細胞は、細胞培養物又は植物全体のいずれかにおいてタンパク質を産生するために使用することもできる。
【0091】
活性炭の添加、膜濾過、クロマトグラフィー又はカゼインの沈殿などの更なる工程を追加することができ、その結果、
i)微生物組成物(好ましくは細菌組成物)を準備する工程であって、微生物組成物(好ましくは細菌組成物)が、カゼインをコードする少なくとも1つの核酸で形質転換された微生物(好ましくは細菌)を含み、微生物(好ましくは細菌)が、カゼインを発現及び産生するように培養されている、工程と、
ii)微生物組成物(好ましくは細菌組成物)を、可溶性画分中のカゼインの濃縮及び/又は可溶性画分中の他のタンパク質の量の低減を誘導する温度で加熱する工程と、
iii)ii)の加熱した組成物から可溶性画分を単離する工程と、
iv)活性炭の添加、膜濾過、クロマトグラフィー又はカゼイン沈殿から選択される少なくとも1つの工程を追加することにより、上記可溶性画分を更に処理する工程と、
を含み、それにより、カゼイン組成物を得る、プロセスが得られる。
【0092】
この実施形態では、ii)における加熱も微生物の溶解を誘導し、それにより、微生物抽出物が得られ、この抽出物中のカゼインが濃縮され、かつ/又は他のタンパク質が減少する。
【0093】
更に、加熱プロセスは、細胞溶解とは別個に、
i)微生物抽出物を準備する工程であって、微生物抽出物が、カゼインをコードする核酸で形質転換され、かつカゼインを発現及び産生するように培養された微生物を含む微生物培養物の溶解から生じる、工程と、
ii)可溶性画分中のカゼインを濃縮し、かつ/又は組成物の可溶性画分中の他のタンパク質の量を低減するような温度で微生物抽出物を加熱する工程と、
iii)加熱後の可溶性画分を単離する工程と、
iv)活性炭の添加、膜濾過、クロマトグラフィー又はカゼイン沈殿から選択される少なくとも1つの工程を追加することにより、上記可溶性画分を更に処理する工程と、
を含み、それにより、カゼイン組成物を得る、プロセスにおいて使用することができる。
【0094】
iii)において単離された可溶性画分は、カゼインの純度を高めるために更に処理することができる。
【0095】
活性炭を可溶性画分に添加することができ、撹拌を実行する。活性炭は、可溶性画分中に存在し、iii)において可溶性画分を回収する際に除去されなかった不純物(特に有機不純物又は塩素)を吸着するために使用することができる。活性炭を用いて撹拌することが好ましく、可溶性画分に対して別の方法(以下に開示する方法など)を実行する前に活性炭を除去する。
【0096】
クロマトグラフィー法は、精製方法に広く用いられており、特にアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィーなどが挙げられる。
【0097】
特に限外濾過及びナノ濾過を含む膜濾過は、タンパク質精製にも一般的に使用され(Saxena et al. (2009) Membrane-based techniques for the separation and purification of proteins: An overview. Advances in colloids and Interface Science Volume 145, pages 1-22)、膜濾過技術は乳製品業界で広く使用されている。興味深いことに、これらは異なるカゼインを互いに分離するために使用できる(上記を参照されたい)。
【0098】
最後に、カゼインの具体的な特性(Post et al.(2012)Effect of temperature and pH on the solubility of caseins: Environmental influences on the dissociation of caseins. J. Dairy Sci. Volume 95: pages 1603-1616)及び特に酸性条件下で沈殿するカゼインの性質を利用して、更なる精製を行うことができる。
【0099】
好ましい実施形態では、上記可溶性画分の更なる処理は、酸性条件でのカゼインの沈殿によって行われる。沈殿後、カゼインを再懸濁し、適切な塩基性緩衝液を使用してそれらを再可溶化することもできる(Post et al. (2012) Effect of temperature and pH on the solubility of caseins: Environmental influences on the dissociation of caseins. J. Dairy Sci. Volume 95: pages 1603-1616)。酸性条件での沈殿は、カゼイン組成物中に存在する可能性のある任意の核酸の除去又は分解を可能にするため、微生物の培養物からカゼインを単離する場合に特に興味深い。人間が摂取することを目的とした食用組成物(チーズ代替品など)を得るためにカゼインを使用する場合、微生物のDNA又はRNAの存在が(少なくとも規制の観点から)有害であることが判明する場合がある。
【0100】
特定の実施形態では、カゼイン組成物を乾燥させる。細菌培養物から得られる場合、そのような組成物は、乾燥組成物中に約15~30%のカゼイン(w/w)及び炭水化物を含有するものとする。
【0101】
将来の水分補給を容易にするために、少量の水が残っていることが好ましい。したがって、乾燥は水の量を低減することとして理解されるべきである。いくつかの実施形態では、水の量は約50%以下(w/w)である。
【0102】
特定の実施形態では、本発明は、カゼイン組成物を製造するための方法であって、
i)は細菌組成物を準備する工程であって、細菌組成物が、カゼインをコードする少なくとも1つの核酸で形質転換された細菌を含み、細菌が、カゼインを発現及び産生するように培養されている、工程と、
ii)細菌組成物を、可溶性画分中のカゼインの濃縮及び/又は可溶性画分中の他のタンパク質の量の低減を誘導する温度で加熱する工程と、
iii)ii)の加熱した細胞組成物から可溶性画分を単離する工程と、
iv)活性炭の添加、膜濾過、クロマトグラフィー又はカゼイン沈殿から選択される少なくとも1つの工程を追加することにより、上記可溶性画分を更に処理する工程と、
を含み、それにより、カゼイン組成物を得る、方法に関する。
【0103】
細菌組成物の細菌が溶解されていない場合、ii)における加熱によっても細胞の溶解が誘導され、細菌抽出物が産生される。
【0104】
他の実施形態では、本発明は、カゼイン組成物を製造するための方法であって、
i)は細菌組成物を準備する工程であって、細菌組成物が、カゼインをコードする少なくとも1つの核酸で形質転換された細菌を含み、細菌が、カゼインを発現及び産生するように培養されている、工程と、
ii)細菌組成物を、可溶性画分中のカゼインの濃縮及び/又は可溶性画分中の他のタンパク質の量の低減を誘導する温度で加熱する工程と、
iii)ii)の加熱した細菌組成物から可溶性画分を単離する工程と、
iv)酸性条件でのカゼインの沈殿によって上記可溶性画分を更に処理する工程と、
を含み、それにより、カゼイン組成物を得る、方法に関する。
【0105】
この実施形態では、細菌組成物の細菌が溶解されていない場合、ii)における加熱によっても細菌の溶解が誘導され、それにより、細菌抽出物が産生されるものとする。
【0106】
他の実施形態では、本発明は、カゼイン組成物を製造するための方法であって、
i)細菌組成物を準備する工程であって、細菌組成物が、カゼインをコードする少なくとも1つの核酸で形質転換された細菌を含み、細菌が、カゼインを発現及び産生するように培養されている、工程と、
ii)細菌組成物を、可溶性画分中のカゼインの濃縮及び/又は可溶性画分中の他のタンパク質の量の低減を誘導する温度で加熱する工程と、
iii)ii)の加熱した細菌組成物から可溶性画分を単離する工程と、
iv)pH=4において90℃で加熱することによるカゼインの沈殿により上記可溶性画分を更に処理する工程と、
を含み、それにより、カゼイン組成物を得る、方法に関する。
【0107】
好ましい実施形態では、細菌組成物を加熱することにより細胞の溶解が誘導される。
【0108】
したがって、本明細書に開示される方法により、カゼイン組成物を得ることが可能になる。本明細書に開示される方法によって得ることができる(又は得られる)そのようなカゼイン組成物は、本発明の更なる主題である。このような組成物は、上で定義したように特徴付けることができる。
【0109】
乳中では、カゼインは、乳中に見られるミセル形態であり、ミセルには、同じ粒子内に集合したアルファ-S1、アルファ-S2、ベータ、及びカッパカゼインが含まれる。本発明の文脈において、カゼインは、ミセル形態で集合していなくてもよい。しかしながら、以下に示すように、これは適切な凝固剤を添加することによってカゼイン組成物から凝乳を得る能力を妨げるものではない。
【0110】
実際、実施例で詳述したように、このようなカゼイン組成物は、チーズ代替品、及び特にアニマルフリーのチーズ代替品、すなわち、動物起源の生成物を全く含有しないチーズ代替品(特にカゼインが細菌培養物又は酵母培養物から単離されている場合)を製造するために使用することができる。
【0111】
要約すると、カゼイン及び他のタンパク質を含有する組成物を単純に加熱することにより、可溶性画分中の他のタンパク質の大部分の量を低減することによって、組成物のカゼインを濃縮することができる。加熱することにより、細菌培養物の不溶性画分に見られるカゼインを可溶化することもできる。得られたカゼインは、ミセルを形成するのに最適な状態ではないが、凝固剤の作用により適切に凝固することができる。このような発見は予想外であった。
【0112】
特に、細菌内で作製された組換えカゼインを用いて、カッパカゼインの非存在下で凝固を達成できることが示された。
【0113】
乳製品カゼイン、特にアルファ-S1、アルファ-S2及びベータカゼインはリン酸化されており、更にカッパカゼインはグリコシル化されていることが知られている(Walstra et al. (2006) Dairy Science and Technology. Taylor and Francis Group, Boca Ranton,USA;Martin et al.(2003)Non bovine caseins quantitative variability and molecular diversity. In: Fox PF and Mc Sweeney PLH. Advances in Dairy Chemistry-Proteins,Vol1,Springer,New-York,227-310)。カゼインのリン酸化は、カルシウムとの相互作用及び乳製品カゼインミセルの構造において重要な役割を果たす。このような翻訳後修飾は、細菌内で作製された組換えカゼインには見られない。
【0114】
カッパカゼインも乳製品カゼインミセルの形成に重要な役割を果たすことも知られている。国際公開第2020/223700号には、組換えアルファ-S1カゼイン(脱リン酸化)及びカッパカゼイン(脱グリコシル化)を用いてミセルを形成した後、これら2つのカゼインを用いて凝乳を作製することが記載されている(本文献の実施例14を参照されたい)。しかしながら、国際公開第2020/223700号には、低リン酸化アルファカゼインの使用によりミセルがより緩むことも報告されている(本文献の実施例11を参照されたい)。したがって、翻訳後修飾及びカッパカゼインの非存在下で凝固が達成できるという事実は、予想外である。
【0115】
本明細書に開示され、上に開示された方法によって得られる、又は得ることができる組成物は、したがって、凝乳を得るための方法において使用することができ、本方法は、
i)本明細書に開示されるカゼイン組成物を準備する工程と、
ii)上記カゼイン組成物を、水、カルシウム、脂質及び炭水化物からなる群から選択される少なくとも1つの構成成分を含む少なくとも1つの他の成分と混合して、液体プレ凝乳組成物(LpCC)を得る工程と、
iii)上記液体組成物に少なくとも1つの凝固剤を添加して、凝乳を得る工程と、
を含む。
【0116】
好ましい実施形態では、上記凝固剤は、レンネットではなく、酸性化剤である。好ましい実施形態では、上記凝固剤は、乳酸菌、又は乳酸、クエン酸若しくは酢酸である。好ましい実施形態では、カゼイン組成物は、カッパカゼインを全く含有しない。好ましい実施形態では、カゼインは、翻訳後修飾を全く含有しない。一実施形態では、カゼイン組成物は、(カゼインタンパク質として)アルファ-S1カゼインのみを含有する。一実施形態では、カゼイン組成物は、(カゼインタンパク質として)アルファ-S2カゼインのみを含有する。一実施形態では、カゼイン組成物は、(カゼインタンパク質として)ベータカゼインのみを含有する。一実施形態では、カゼイン組成物は、(カゼインタンパク質として)アルファ-S1カゼイン及びベータカゼインのみを含有する。一実施形態では、カゼイン組成物は、(カゼインタンパク質として)アルファ-S2カゼイン及びベータカゼインのみを含有する。一実施形態では、カゼイン組成物は、(カゼインタンパク質として)アルファ-S1カゼイン及びアルファ-S2カゼインのみを含有する。一実施形態では、カゼイン組成物は、アルファ-S1カゼイン、アルファ-S2カゼイン及びベータカゼインを含有する。
【0117】
本発明はまた、食用組成物を製造するための方法であって、
i)本明細書に開示されるカゼイン組成物を準備する工程と、
ii)上記カゼイン組成物を、水、カルシウム、脂質及び炭水化物からなる群から選択される少なくとも1つの構成成分を含む少なくとも1つの他の成分と混合して、液体プレ凝乳組成物(LpCC)を得る工程と、
iii)液体組成物に少なくとも1つの凝固剤を添加して、凝乳を得る工程と、
iv)凝乳を更に処理して、食用組成物を得る工程と、
を含む、方法に関する。
【0118】
好ましい実施形態では、上記凝固剤は、レンネットではなく、酸性化剤である。好ましい実施形態では、上記凝固剤は、乳酸菌、又は乳酸、クエン酸若しくは酢酸である。
【0119】
上記の実施形態では、b)又はd)においてゲル化剤を添加する場合が好ましい。
【0120】
b)において添加される他の成分が全て非動物起源である場合が好ましい。本明細書に開示される凝乳及び食用組成物を製造するための方法においては、動物起源の要素を含有しない食用組成物を得るように、非動物起源の生成物のみを使用することが好ましい。
【0121】
好ましい実施形態では、b)において添加される成分は、
i.任意選択的に、カゼイン以外のタンパク質、
ii.脂質、
iii.水、及び
iv.炭水化物
を含み;好ましい実施形態では、食用組成物が乳糖不耐症の顧客により受け入れられるようにするために、炭水化物には乳糖が含まれない。
【0122】
一般に、食用組成物は、
i.タンパク質含有量が25%未満、好ましくは2~25%又は5~25%(w/w)であり、
ii.水分含有量が無脂肪ベースで62%超である。
【0123】
好ましい実施形態では、食用組成物は、チーズ代替品である。
【0124】
好ましい実施形態では、カゼイン組成物は、アルファ-S1-、アルファ-S2-、ベータ-、又はカッパ-カゼインのうちの少なくとも1つのカゼインを含有する。より好ましい実施形態では、カゼイン組成物は、アルファ-S1-、アルファ-S2-、ベータ-、又はカッパ-カゼインのうちの少なくとも2つのカゼインを含有する。より好ましい実施形態では、カゼイン組成物は、アルファ-S1-、アルファ-S2-、ベータ-、又はカッパ-カゼインを含有する。一実施形態では、アルファ-S1カゼイン、アルファ-S2カゼイン、ベータカゼイン及びカッパカゼインからなる群から選択される少なくとも1つのカゼインは、カゼイン組成物中に存在しない。一実施形態では、カッパカゼインは、カゼイン組成物中に存在しない。一実施形態では、カゼイン組成物は、ベータカゼインのみを含有する。一実施形態では、カゼイン組成物は、ベータ及びアルファ-S2カゼインのみを含有する。一実施形態では、カゼイン組成物は、ベータ及びアルファ-S1カゼインのみを含有する。一実施形態では、カゼイン組成物は、ベータ、アルファ-S1及びアルファ-S2カゼインのみを含有する。実際、本発明者らは、カッパカゼインを使用しなくても、凝乳及びチーズ代替品である食用組成物を得ることが可能であることを示したので、本発明者らは、ミセル形成の再構成、又は溶液が実際にミセルを提示するかどうかの確認を試みなかった。
【0125】
アニマルフリーの食用組成物を調製する場合、レンネットの使用を避けるために、凝固剤が動物起源の要素を含まないように、酸性化剤(酸又はスターター培養物など)を使用することが好ましい。酸性化剤が1つ以上の乳酸菌を含む場合には有利である。
【0126】
LpCCの組成は、凝固及び熟成(aging)による水の損失(これは、当業者であれば、熟成(maturation)の期間及び条件を変更することによって調節することができる)を考慮して、食用組成物にとって望ましい最終的な組成に適合される。
【0127】
一実施形態では、チーズ代替品は、フレッシュチーズの本質的な特徴を有する。フレッシュチーズは、無脂肪ベースで80%以上の水分を含有する。無脂肪ベースの水分のパーセンテージは、生成物中に存在する水の質量を、総質量から脂肪の質量を引いたもので割ったものである(=水の質量/総質量-脂肪の質量)。フレッシュチーズのタンパク質含有量は通常15%未満であり、総重量の7%又はそれより低い場合もある。
【0128】
この実施形態では、食用組成物は、好ましくは、
i.タンパク質含有量が2~15%(重量含有量)であり、
ii.水分含有量が無脂肪ベースで80%超である。
【0129】
より具体的には、食用組成物は、5~15%(重量含有量)のタンパク質含有量を有するであろう。
【0130】
b)において得られたLpCCは、
i.タンパク質含量が12%(重量含有量)未満であり、
ii.水分含有量が無脂肪ベースで80%超である
場合に、これらの特徴を得ることができる。
【0131】
特に、b)において得られたLpCCは、
i.タンパク質含有量が5%~10%(重量含有量)であり、
ii.水分含有量が無脂肪ベースで80%超である。
【0132】
この実施形態では、LpCCの0.5%~0.8%(w/w)に相当する量の寒天をLpCCに添加することが好ましい。
【0133】
食用組成物、又は食用組成物を作製するためのプロセス中に使用されるLpCCの他のいくつかの特徴を以下に記載する。これらの特徴は、単独で又は組成物中に見出すことができる:
-食用組成物の脂質含有量が、10%~30%(重量含有量)であり、
-LpCCの脂質含有量が、10%~30%(重量含有量)であり、
-食用組成物のカルシウム含有量が、2.8%(重量含有量)未満であり、
-LpCCのカルシウム含有量が、0.1%~1%(重量含有量)である。
【0134】
フレッシュチーズ代替品となるであろう食用組成物を得るための方法を実行する場合、凝乳の処理は、
a)構造化剤を凝乳と混合して、補充された凝乳を得る工程であって、構造化剤が、ゲル化剤、テクスチャ付与剤、乳化剤及びそれらの混合物からなる群から選択される、工程と、
b)補充された凝乳を成形し、水切りする工程と、
を含んでもよい。
c)他の実施形態も以下に開示される。
【0135】
この実施形態では、本発明は、食用組成物を製造するための方法であって、
a)本明細書に開示される組換えカゼイン(好ましくは本明細書に開示される組換えカゼインのみ、好ましくは非動物起源のカゼインのみ)を含むカゼイン組成物を準備する工程と、
b)上記カゼイン組成物を、水、カルシウム、脂質及び炭水化物からなる群から選択される少なくとも1つの構成成分を含む少なくとも1つの他の成分と混合して、液体プレ凝乳組成物(LpCC)を得る工程と、
c)液体プレ凝乳組成物に少なくとも1つの凝固剤を添加して、凝乳を得る工程と、
d)凝乳を更に処理して、食用組成物を得る工程と、
を含み、
ゲル化剤が、b)及び/又はd)において添加される、方法に関する。
【0136】
「非動物起源のカゼインのみを含む」は、動物起源のカゼインが存在しない(すなわち、非動物起源のみのカゼインを含む)ことを示す。好ましい実施形態では、他の元素が存在する場合、それらも非動物起源のものである。他の実施形態では、カゼイン組成物は、カゼイン(非動物起源のもの、好ましくは本明細書に記載の組換えカゼイン)以外の要素を全く含有しない。
【0137】
一実施形態では、ゲル化剤は、b)において添加される。
【0138】
別の実施形態では、ゲル化剤は、d)において添加される。
【0139】
別の実施形態では、ゲル化剤は、b)及びd)において添加される。
【0140】
この実施形態では、食用組成物の
i.タンパク質含有量が2~15%(重量含有量)であり、
ii.水分含有量が無脂肪ベースで80%超である、
場合が好ましい。
【0141】
したがって、この実施形態は、フレッシュチーズ代替品の製造によく適合する。
【0142】
別の好ましい実施形態では、チーズ代替品は、ソフトチーズ又はセミソフトチーズの本質的な特徴を有する。ソフトチーズは、無脂肪ベースで67~80%の水分を含有し、白カビタイプ又はウォッシュタイプである可能性がある。それらのタンパク質含有量は、多くの場合、総重量の20%の範囲にある。白カビタイプのソフトチーズは濃厚でクリーミーなテクスチャを有し、チーズにはわずかな弾力がある。熟成のプロセスはその厚さによって異なる。このチーズは、特定のカビを接種し、ゆっくりと水切りした混合凝固物を有する。ウォッシュタイプのソフトチーズは濃厚でクリーミーなテクスチャを有し、チーズにはわずかな弾力がある。熟成プロセス中、チーズを定期的に反転させ、ブラシをかけるか、又はビール、ミード、ワイン若しくはスピリッツを加えた塩水で洗浄する。セミソフトチーズは、無脂肪ベースで62%~67%の水分を含有する。テクスチャは、柔らかくクリーミーである可能性がある。熟成させる場合、(アルコールを含むか、又は含まない)レッドスミア(red smear)を含む塩水でチーズを洗浄することができる(ウォッシュタイプ)。チーズにブラシをかけ、かつ/又は天然の外皮(リンド)を発生させることもできる。
【0143】
特に、この実施形態では、食用組成物は、
i.タンパク質含有量が15~25%(重量含有量)であり、
ii.水分含有量が無脂肪ベースで62%~80%である。
【0144】
これは、特にb)において得られたLpCCの
i.タンパク質含有量が10~18%(重量含有量)であり、
ii.水分含有量が無脂肪ベースで62%超である、
場合に達成できる。
【0145】
この実施形態では、LpCCの0.5%~1%(w/w)に相当する量の寒天をLpCCに添加する場合が好ましい。
【0146】
この実施形態では、これは、c)において熟成(maturation)用発酵体[熟成(ripening)発酵体]を添加し、d)が凝乳の加塩(salting)及び成形を含む場合に有利である。
【0147】
特に、工程d)は、熟成用発酵体の発達を可能にする温度、特に14℃で凝乳を熟成させる工程を含む。熟成期間は、食用組成物に望ましい態様に応じて当業者によって決定される。熟成期間は、数日又は数週間である可能性がある。
【0148】
食用組成物、又は食用組成物を作製するためのプロセス中に使用されるLpCCの他のいくつかの特徴を以下に記載する。これらの特徴は、単独で又は組成物中に見出すことができる:
-食用組成物の脂質含有量が、10~30%(重量含有量)であり、
-LpCCの脂質含有量が、10%~30%(重量含有量)であり、
-食用組成物のカルシウム含有量が、2.8%(重量含有量)未満であり、
-LpCCのカルシウム含有量が、0.3~1.7%(重量含有量)である。
【0149】
特定の一実施形態では、本発明は、食用組成物を製造するための方法であって、
a)本明細書に開示される組換えカゼイン(好ましくは本明細書に開示される組換えカゼインのみ、好ましくは非動物起源のカゼインのみ)を含むカゼイン組成物を準備する工程と、
b)上記カゼイン組成物を、水、カルシウム、脂質及び炭水化物からなる群から選択される少なくとも1つの構成成分を含む少なくとも1つの他の成分と混合して、液体プレ凝乳組成物(LpCC)を得る工程と、
c)液体プレ凝乳組成物に少なくとも1つの凝固剤を添加して、凝乳を得る工程と、
d)凝乳を更に処理して、食用組成物を得る工程と、
を含み、
ゲル化剤をb)において添加し、熟成用発酵体をc)において添加し、d)が凝乳の加塩及び成形を含む、方法に関する。
【0150】
この実施形態では、食用組成物の
i.タンパク質含有量が15~25%(重量含有量)であり、
ii.水分含有量が無脂肪ベースで62%~80%である
場合が好ましい。
【0151】
この実施形態は、ソフトチーズ代替品の製造によく適合する。
【0152】
更に、本発明はまた、
i)細菌組成物を準備する工程であって、細菌組成物が、カゼインをコードする少なくとも1つの核酸で形質転換された細菌を含み、細菌が、カゼインを発現及び産生するように培養されている、工程と、
ii)細菌を、可溶性画分中のカゼインの濃縮及び/又は可溶性画分中の他のタンパク質の量の低減を誘導する温度で加熱する工程と、
iii)加熱後の可溶性画分を単離する工程と、
iv)任意選択的に、活性炭の添加、膜濾過、クロマトグラフィー又はカゼイン沈殿から選択される少なくとも1つの工程を追加することにより、上記可溶性画分を更に処理し、それによりカゼイン組成物を得る工程と、
v)上記カゼイン組成物を、水、カルシウム、脂質及び炭水化物からなる群から選択される少なくとも1つの構成成分を含む少なくとも1つの他の成分と混合して、液体プレ凝乳組成物(LpCC)を得る工程と、
vi)液体組成物に少なくとも1つの凝固剤を添加して、凝乳を得る工程と、
を含む、プロセスに関する。
【0153】
細菌が溶解されていない場合、ii)における加熱は、細胞の溶解を誘導する温度で実行され、それによって細菌抽出物を産生する。
【0154】
好ましい実施形態では、上記凝固剤は、レンネットではなく、酸性化剤である。好ましい実施形態では、上記凝固剤は、乳酸菌、又は乳酸、クエン酸若しくは酢酸である。
【0155】
「液体プレ凝乳組成物」又は「LpCC」という用語は、レンネット及び発酵体の添加、並びに凝固(特にカゼインの凝固)の前に、少なくともカゼインと、水、カルシウム、脂質、炭水化物のうちの少なくとも1つの構成成分を含む少なくとも1つの他の成分と、を含有する組成物を指す。
【0156】
「凝固剤」は、凝固を引き起こすことができる化学組成物又は生化学的組成物を指す。凝固は、酸性溶液の添加によって、スターター培養物(炭水化物の存在下でのその成長がpHの低下を引き起こす)の添加によって、天然若しくは組換えレンネットの添加によって、動物プロテアーゼ若しくは植物性凝固酵素などのレンネット代替品の添加によって、又はこれらのプロセスの組み合わせによって達成することができる。特に凝固を改善又は加速するために、熱処理を実行するか、又はカルシウムキレート剤を添加することも可能である。
【0157】
凝固剤は、単独で、又は別の若しくは他の添加剤、化合物、組成物若しくは処理と組み合わせて、添加により凝固をもたらす任意の添加剤、化合物、組成物又は処理であってもよい。
【0158】
全体的なタンパク質含有量(カゼイン及び派生ペプチドを含む)は、チーズの種類及び製造プロセスによって異なる。LpCC中のタンパク質含有量は、最終生成物のタンパク質含有量に影響を与え、所望の種類のチーズの代替品を製造するために調整され得る。LpCC中のタンパク質含有量(重量含有量)は、LpCC中のタンパク質の質量をLpCCの総質量で割ったものに相当する。
【0159】
好ましい実施形態では、LpCC中のタンパク質含量は、12%(重量含有量)未満である。より好ましい実施形態では、その含有量は、2%~10%(重量含有量)である。より好ましい実施形態では、その含有量は、5%~10%(重量含有量)である。これらの量は、フレッシュチーズの代替品の製造にとって特に興味深いものである。
【0160】
別の好ましい実施形態では、LpCC中のタンパク質含有量は、10%~25%(重量含有量)である。より好ましい実施形態では、その含有量は、10%~18%(重量含有量)である。これらの量は、ソフトチーズ又はセミソフトチーズの代替品の製造にとって特に興味深いものである。
【0161】
カルシウム及び他の塩
牛乳は、1リットル当たり約1.2g(約0.12%、重量含有量)のカルシウムを含有する。カルシウムはチーズ中に存在し、チーズの栄養価に貢献している。カルシウムはチーズ重量の0.1~1%の範囲であり、通常、フレッシュチーズにみられるカルシウムの含有量は最も低く(0.125%、フランスの「フロマージュブラン」中の重量含有量)、一方、最も高い含有量は通常、硬質のハードチーズに見られる(エメンタールでは0.97%)。カマンベールでは、カルシウム含有量は、0.25%(重量含有率)の範囲にある。チーズ製造プロセスでは、乳中に残るカルシウムの量はプロセスによって異なり(Mietton et Chablain, Du lait au fromage: les fondamentaux technologiques. In Gillis JC, Ayerbe A, Le fromage 4eme edition, Lavoisier-Technique Et Documentation 20 avril 2018)、乳酸凝固剤(カルシウム16~17%)よりもレンネット(カルシウム62~67%)を使用することにより高い保持が達成される。更に、所与のチーズカテゴリーの特性を厳密に再現するには、LpCC中のカルシウムのパーセンテージが重要であろう。しかしながら、カルシウム含有量を高めたチーズも想定される。
【0162】
好ましい実施形態では、LpCC中のカルシウム含有量は、0.1%~1.7%である。
【0163】
カルシウムを含む一部の食品添加物、特に炭酸カルシウム(E170)は、動物起源のものである。しかしながら、鉱物又は植物(例えば、紅藻(lithothamne sea weed)など)起源のカルシウムも存在する。本明細書に開示される方法は、乳のカルシウムを非動物起源のカルシウムで置換し、それによって、動物起源の構成成分を低減することができる可能性を提供する。より好ましい実施形態では、カルシウムは、非動物起源のものである。乳の重要な構成成分であるリン酸塩などの他の塩、又はその他のものを添加することができる。
【0164】
脂質
脂質は、大半のチーズ中に存在し、感覚受容性の感覚(organoleptic sensation)に影響を及ぼす。しかしながら、ここ数十年間、健康上の懸念に対処するために、脂肪含有量を低減した(低脂肪)チーズ又は更には無脂肪チーズが製造されてきた。本明細書に開示される方法は、乳の脂質を非動物起源の脂質で置換し、それによって、動物起源の構成成分を低減することができる可能性を提供する。より好ましい実施形態では、上記脂質は、植物から抽出された脂質である。
【0165】
チーズにおいて、脂肪含有量は、完全無脂肪製品の0%~30%超まで様々である。チーズ中の脂肪含有量は、チーズ中の脂質の質量をチーズの総質量で割ったものに相当する。
【0166】
既存のチーズの組成を模倣するために、脂肪組成を、量及び質の点で調整してもよい。脂質は、大半のチーズ中に多量に存在する。乳の脂質の95%~10%は、凝固中に凝乳内に残る。しかしながら、脂質含有量は、乳の起源(ウシ、ヤギ、ヒツジ)、並びに乳の調整及びチーズの製造プロセスによって大きく異なる。
【0167】
脂質含有量は、フレッシュチーズではわずか7%、又はそれより低い場合もあり、伝統的なハードチーズでは30%超である場合もある。最近の工業チーズとしては、無脂肪製品の需要に応えるために、脂質含有量が非常に低い製品、又は脂質レベルが非常に高い(例えば、フランスのBongrain社製ブルソーでは総重量の36%)製品が挙げられる。
【0168】
本発明の文脈において、無脂肪製品又は脂肪を豊富に含む製品を得るために、LpCC中の脂肪組成を任意に変更することができる。LpCC中の脂肪含有量(重量含有量)は、LpCC中の脂質の質量をLpCCの総質量で割ったものに相当する。
【0169】
好ましい実施形態では、LpCC中の脂肪組成は、0%(重量含有量)である。別の好ましい実施形態では、脂肪組成は、10%(重量含有量)未満である。別の好ましい実施形態では、脂肪組成は、10%~20%(重量含有量)である。別の好ましい実施形態では、脂肪組成は、20%~30%(重量含有量)である。別の好ましい実施形態では、脂肪組成は、30%~40%(重量含有量)である。
【0170】
乳中の脂質は本質的にトリグリセリド、つまりエステル化によるグリセロール分子と3つの脂肪酸の融合から生じる分子からなるが、この組成は、チーズの処理中に大きく変化し、トリグリセリドの加水分解により様々な量のモノグリセリドとジグリセリド、及び遊離脂肪酸が産生される。遊離脂肪酸を更に処理することができ、最終生成物の味及び香りに非常に重要な役割を果たす。
【0171】
脂質は、植物から抽出された脂質の組成物として含まれてもよい。牛乳脂肪中の主な脂肪酸は、パルミチン酸(31%)、オレイン酸(24%)、ミリスチン酸(12%)、ステアリン酸(11%)、より小さなサイズの飽和酸(11%)、パルミトール酸(4%)、リノール酸(3%)、トランス不飽和酸(3%)、及びアルファ-リノール酸(1%)である。このような組成は、LpCCで再現できる。しかしながら、例えば不飽和脂肪酸の割合を増やすように組成を調節することもできる。
【0172】
乳製品は飽和脂肪酸を豊富に含み、乳では、飽和パルミチン酸、ミリスチン酸及びステアリン酸が、より小さなサイズの分子と共に、脂肪酸の65%を占める。例えば植物由来の脂質組成物を使用する利点のうちの1つは、より健康的な脂肪供給源を提供できる。実際、植物性脂肪は通常、動物性脂肪よりも少ない飽和脂肪酸及びトランス脂肪酸を含有する。更に、その組成において、例えばアルファ-リノレン酸、エイコサペンタエン酸又はドコサヘキサエン酸を含むオメガ-3脂肪酸など、健康上の利点があることが知られている脂質を強化することができる。
【0173】
本発明の文脈において、キャノーラ又はナタネ、ヒマワリ、大豆、ヤシ油(coco oil)、オリーブ油、クルミ油、ヘーゼルナッツ油、及びマーガリンなどの植物由来の様々な脂質供給源を使用することができる。このような製品はおおむね市販されている。しかしながら、望ましくない風味及び/又は味のキャリーオーバーを避けるために、十分な純度の生成物を使用すべきである。脱臭油も使用可能である。脱臭は、脱気され適切に処理された供給水から生成された良質の蒸気を、低い絶対圧及び十分に高い温度の下で大豆油に注入して、遊離脂肪酸(FFA)及び臭気性化合物を蒸発させ、これらの揮発性物質を原料から運び去る、蒸気ストリッピングプロセスである。様々な大豆油処理プロセスが、Practical Handbook of Soybean Processing and Utilization (1995), OCS Press. Elsevier Inc.に記載されている。
【0174】
好ましい実施形態では、脂質は、キャノーラ油、ナタネ油、ヒマワリ油、大豆油、ヤシ油、オリーブ油、クルミ油、ヘーゼルナッツ油又はマーガリンに存する。より好ましい実施形態では、脂質は、キャノーラ油、菜種油、大豆油又はヤシ油に存する。
【0175】
乳化剤及びゲル化剤
乳化剤(emulsifier)又は乳化剤(emulsifying agent)は、エマルジョンの安定剤として機能し、通常は混合しない液体の分離を防ぐ化合物又は物質である。LpCCの調製中及び調製後の固相及び液相の形成を避けるために、乳化剤を使用することが有用であり得る。レシチンが非常に普及している。この用語は実際には、動物及び植物に見られる両親媒性化合物のファミリーを指すが、市販の大豆レシチン又はヒマワリレシチンを容易に見出すことができる。
【0176】
好ましい実施形態では、液相及び固相の形成を避けるために、乳化剤が添加される。より好ましい実施形態では、この乳化剤は、レシチンである。乳化剤は、工程b)において、又はc)において凝固剤を添加する前(又はその間)にLpCCに添加することができる(しかしながら、乳化剤は、凝固前にLpCCと混合されるべきである)。
【0177】
あるいは、又は更に、寒天又はグアーガム、アラビアガム、トラガカントガム、キサンタンガム、カロブ(ローカストビーン)ガム、セルロースガム、カシアガム、セスバニアガム、タマリンドガム、コロハガム、カラギーナンなどのゲル化剤を使用することができる。このような親水コロイドは、硬さを加え、保水性を高める。ゼラチンなどの動物起源のゲル化剤は、組成物から除外すべきである。
【0178】
凝固前又は凝固後のゲル化剤の添加(凝乳と混合される)は、本発明の文脈において特に興味深い。これは、食用組成物にテクスチャを与えるのに役立つであろう。特に、ローカストビーンガムを使用することができる。
【0179】
寒天(LpCCの0.5%~0.8%(w/w)、又はLpCCの0.5%~1%(w/w)に相当する量でLpCCに添加される)は、特に興味深い。
【0180】
炭水化物
別の好ましい実施形態では、他の成分は、少なくともカルシウム、脂質及び炭水化物を含有する。乳糖は、乳の主要な炭水化物である。牛乳は、70mg/Lの乳糖、20mg/Lのガラクトース、及び様々なオリゴ糖を含む微量の他の炭水化物を含有する。チーズの熟成中及び熟成チーズにおいて、炭水化物は、最終的には完全に、又はほぼ完全に分解される。しかしながら、フレッシュチーズには依然としてかなりの量存在しており、通常、強い乳糖不耐症の人々は避けるべきである。いずれにせよ、チーズの種類ごとに、個々の反応は、乳糖不耐症の重症度によって異なる。
【0181】
乳糖は、チーズの微生物叢(発酵体)の原料であるため、重要である。しかしながら、グルコース又は他の炭水化物で置き換えることができる。グルコース、サッカロース又はフルクトースなどの炭水化物は植物由来であるが、今日市販されている乳糖の大半は動物起源である。本明細書に開示される方法は、乳の乳糖をグルコース又は非動物起源の別の炭水化物に置換し、それにより、動物起源の構成成分を低減することができる可能性を提供し、最終的に乳糖不耐症に対処するという更なる利点をもたらす。
【0182】
好ましい実施形態では、組成物中に乳糖は添加されない。より好ましい実施形態では、非動物起源の炭水化物が組成物中に添加される。更により好ましい実施形態では、この炭水化物は、グルコース、サッカロース又はフルクトースである。
【0183】
ビタミン
より好ましい実施形態では、他の成分は、少なくともカルシウム、脂質、炭水化物及びビタミンを含有する。乳製品は通常、ビタミンを豊富に含む。乳は、水溶性ビタミンB12、B、B、Bの良好な供給源であるが、ビタミンBに対する必要性にはほとんど寄与しない。乳は、脂溶性ビタミンAももたらすが、ビタミンD、E及びKの不良な供給源である。しかしながら、通常脂肪が濃縮されたチーズでは、この脂溶性ビタミン含有量の低さが軽減される。チーズ代替品は、ビタミンに関しては従来のチーズと同じ栄養価を有している場合があり、より多くの量のビタミンが補充されている場合もある。しかしながら、多くの場合、ビーガン食又は動物性生成物含有量の少ない食事に関連し得る、非動物起源の代替品に対する必要性の文脈において、ビタミンB12は、通常、本質的に動物由来の食物によってもたらされるため、提供すべき最も重要な添加物である。より好ましい実施形態では、組成物には少なくともビタミンが補充される。更により好ましい実施形態では、このビタミンは、ビタミンB12である。
【0184】
より好ましい実施形態では、他の成分は、少なくともカルシウム、脂質、炭水化物及びビタミンB12を含有する。
【0185】
凝固剤
凝乳(milk clotting)は、酸の添加によって、又は単に乳酸発酵によって達成できるが、今日の大半のチーズは、たいていの場合、乳酸菌と共に(ion conjunction with)レンネットを使用して作製される。レンネット酵素によるκ-カゼインの消化により、カゼイン/リン酸カルシウムミセルが不安定になり、凝固が起こり、その結果、凝乳が形成される。したがって、ほとんどの場合、レンネットが使用されるであろう。しかしながら、上で説明したように、様々な種類のレンネットが存在する。伝統的なレンネットは、子ウシの胃から得られているが、植物性のレンネット及び組換え微生物に由来するレンネットを含む他の種類のレンネットも開発されている。このような非動物性レンネットは、例えば、Chr. Hansen Lab.(DK),Gist Brocades/DSM.(NL),Pfizer Inc. (USA) (Le fromage Gillis JC, Ayerbe A (2018), Lavoisier ed. Parisを参照されたい)から購入できる。
【0186】
より好ましい実施形態では、非動物起源の凝固剤が添加される。好ましい実施形態では、上記凝固剤は、レンネットではなく、酸性化剤である。好ましい実施形態では、上記凝固剤は、乳酸菌、又は乳酸、クエン酸若しくは酢酸である。
【0187】
発酵体
より好ましい実施形態では、発酵体が添加される。乳酸菌は、チーズ発酵体の必須成分である。これらは乳酸産生に寄与し、その後pHを調節し、それによって物理化学的条件を変更し、レンネットと共に、最終生成物のテクスチャに寄与する。更により好ましい実施形態では、この発酵体は、少なくとも1つの乳酸菌を含む。更により好ましい実施形態では、乳酸菌は、ストレプトコッカス・クレモリス(Streptococcus cremoris)、ストレプトコッカス・ラクチス(Streptococcus lactis)、ストレプトコッカス・ジアセチラクチス(Streptococcus diacetylactis)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、ロイコノストック・ラクチス(Leuconostoc lactis、ロイコノストック・シトロボラム(Leuconostoc citrovorum)、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、及びラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)から選択される。
【0188】
乳酸菌は、乳及び凝乳の中に広がる第一の微生物であり、凝乳の組成を変更することで、次の発酵体の群への道を切り開く。この次の発酵の群と共に、非スターター乳酸菌(NSLAB)及び他の微生物を含む乳酸菌は、熟成(maturation)又は熟成(aging)に寄与する。更により好ましい実施形態では、発酵体は、少なくとも1つのNSLABを含む。更により好ましい実施形態では、このNSLABは、ラクトバチルス・パラカセイ(Lactobacillus paracasei、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ラムノースス(Lactobacillus ramnosus)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・ブフネリ(Lactobacillus bucheneri)、ラクトバチルス・フェルメンタム(Lactobacillus fermentum、エンテロコッカス・ファエカリス(Enterocuccus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterocuccus faecium)、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)、及びカルノバイオバクテリウム・ラルタロマチウム(Carbiobacterium laltaromatium)からなる群から選択される。
【0189】
更により好ましい実施形態では、発酵体は、乳酸菌ではなく、酵母、カビ又は非乳酸菌の細菌であり得る少なくとも別の微生物を含有する。更により好ましい実施形態では、発酵体は、デバリオマイセス・ハンセニ(Debaryomyces hansenii)、ゲオトリチウム・カンジジウム(Geotrichum candidum)、クルイベロマイセス・ラルシアヌス(Kluyveromyces larxianus)、クルイベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisae)、カンジダ・カテヌラテ(Candida catenulate)、カンジダ・インターメジアタ(Candida intermediata)、トルラスポラ・デルブルッキ(Torulaspora delbrueckii)、カンジダ・ゼイラノイデス(Candida zeylanoides)、ピキア・メンブラニファシエンス(Pichia mebranifaciens)、カンジダ・ルギオサ(Candida rugiosa)、及びピキア・フェルメンタンス(Pichia fermentans)からなる群から選択される酵母である少なくとも別の微生物を含有する。
【0190】
更により好ましい実施形態では、発酵体は、ペニシリウム・カメンベルティ(Penicillium camemberti)、ペニシリウム・ロックフォルティ(Penicillium roqueforti)、クリソスポリウム・スルフレウム(Chrysosporum sulfureum)、フザリウム・ドメスチシウム(Fusarium domesticum)、イソムコール・フスカス(Isomucor fuscus)、ムコール・プルムベウス(Mucor plumbeus)、ペニシリウム・コミューン(Penicillium commune)、及びスプレンドネマ・カゼイ(Sprendonema casei)からなる群から選択されるカビである少なくとも別の微生物を含有する。
【0191】
発酵体は、例えばChr. Hansen社を含む多数の企業から商業的に入手できる。
【0192】
水(水分)
牛乳において、水は、約87.4%(重量含有率)、無脂肪ベースで90.8%を占める。水含有量(重量含有量)は、所与の体積において、水の質量を総重量で割ったものである。無脂肪ベースの水含有量(水分と呼ばれる)は、生成物中に存在する水の質量を、総質量から脂肪の質量を引いたもので割ったものである(=水の質量/(総質量-脂肪の質量))。水分は、チーズの種類の重要な特徴であり、以下に定義するようなチーズの種類の主要な基準である。
【0193】
理想的には、ある程度の水切りを可能にしつつ、無駄を避けるために、LpCC中の水分を可能な限り低くする必要がある。ソフトチーズ又はセミソフトチーズ及び硬質又はハードチーズ(下記を参照されたい)の場合、LpCCの水分含有量は、乳の水分含有量を大幅に下回る可能性がある。
【0194】
好ましい実施形態では、LpCC中の水分含有量は、無脂肪ベースで90%未満である。より好ましい実施形態では、水分含有量は、80%未満である。
【0195】
乾燥カゼインを使用する場合、LpCCを得るために水と脂肪、更には乳化剤を添加することができる。例として、約23%のカゼイン、水及び他の要素(炭水化物など)を含有する乾燥カゼインを使用する場合、乾燥カゼイン1gに対して、1.3gの水、約2gの脂肪及び約0.027gの乳化剤を添加することができる。pHは、適切な酸性剤(レモン汁も使用できるが、乳酸、クエン酸又は酢酸も使用できる)を使用して約5~5.5に調節することができる。
【0196】
脂肪は、好ましくは、ピーナッツ油、ヤシ油、キャノーラ油、ヘーゼルナッツ油、クルミ油、アボカド油、オリーブ油などの植物性脂肪である。中性油(つまり、味も臭いもない油)を使用することが好ましい。特に、脱臭ヤシ油を使用することができる。
【0197】
乳化剤は、食品用途について認可されているこのような乳化剤のリストから選択される。レシチン(特に大豆レシチン)、プロピレングリコール脂肪酸エステル(PGMS)、モノグリセリド及びジグリセリドを挙げることができる。
【0198】
凝乳の処理
その後、凝乳を更に処理して、チーズ代替品を得ることができる。
【0199】
このような凝乳の処理は、次のような1つ以上の工程:
-凝乳を切断し、加熱する工程、
-凝乳がマットを形成できるように、凝乳を水切りして水を除去する工程(これは、乳を使用する伝統的なチーズ処理における乳清の除去に相当する)、
-凝乳にテクスチャを付与する工程:必要に応じてより多くの水を排出するように、又は発酵を継続できるように、凝乳を断片に切断し、積み重ね、反転させ(flip)、圧搾することができる、
-生成物に対して乾燥及び/又は加塩及び/又は塩水処理する工程、
-チーズ代替品のブロックを形成する工程
を含む。
【0200】
代替品は、特に味及びテクスチャを熟成及び発展させるために、保存して熟成させることができる。
【0201】
凝乳の処理は、チーズを作製するための凝乳の処理と本質的に同様である。
【実施例
【0202】
実施例1:大腸菌抽出物の可溶性画分及び不溶性画分中の組換えカゼインのモニタリング
天然のカゼイン遺伝子は、シグナルペプチドを含む前駆体タンパク質をコードする。哺乳動物では、このペプチドは、カゼイン処理中に切断され、乳中の成熟タンパク質には存在しない。アルファ-S1、アルファ-S2及びベータカゼインをコードする合成遺伝子(それぞれ天然遺伝子P02662、P02663及びP02666に関連する)は、シグナルペプチドを除去するために改変した。新たな合成オープンリーディングフレームの配列を表1の最終欄に示す)。それらの遺伝子をpET25b+にクローニングし、得られたプラスミドをBL21(DE3)株に形質転換した。個々の形質転換クローンを単離し、合成遺伝子ごとに1つのクローンを使用してLB培地に接種した。空のベクター(pET25b+)で形質転換したクローンを対照として使用した。
【0203】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【0204】
2つの異なるプロトコールを使用して細胞を溶解し、全抽出物並びに可溶性画分及び不溶性画分のサンプルをSDS PAGEによって分析した。2つの異なるプロトコールを使用して、細胞抽出物の可溶性画分及び不溶性画分中のカゼインをモニタリングした。空のベクター(pET25b+)で形質転換した細胞を対照として使用した。
【0205】
プロトコール1:
100mL培養物から得られた細胞ペレットを、溶解緩衝液(50mM Tris HCl(pH7.5)、1mg/mLリゾチーム、0.03mg/mL Dnase)中で再懸濁することによって溶解した。懸濁液を氷上で30分間インキュベートし、次いで10秒間超音波処理した(10%振幅、Q Sonica XL-2000)。全画分10μLを採取し、SDS-PAGE分析用に保管した。可溶性画分及び不溶性画分を、3220g、4℃で20分間の遠心分離によって分離した。上清を回収し、保存のために10%グリセロールを補充した。ペレットを、2%SDSを含むTris50mM中に更に再懸濁し、保存のために10%グリセロールを補充した。各画分の10μLをSDS-PAGE用に採取した。
【0206】
プロトコール2:
100mLの培養物から得られた細胞ペレットを、0.4% Lysonase(Millipore社)を含むBugbuster(Millipore社)中に再懸濁することによって溶解した。混合物を室温で5分間インキュベートし、その後3220g、4℃で20分間遠心分離した。上清を回収し、上清10μLを採取し、SDS-PAGE分析用に保存した。ペレットを更に2%SDSに再懸濁し、不溶性画分に相当する懸濁液10μLを採取し、SDS-PAGE分析用に保存した。
【0207】
図1に示すように、アルファ-S1カゼインは、可溶性(S)画分と不溶性(P)画分の両方に見られた(図1A)が、一方、アルファ-S2は、本質的には不溶性画分中に見られた(図1B)。大腸菌における組換えタンパク質の過剰発現でしばしば観察されるように、ベータカゼインの大部分(プロトコール1)又は全部(プロトコール2)が、不溶性画分中に見られた(図1C)。これは、大腸菌ではカゼインが封入体中に存在する可能性があることを示唆している。異なる定量的結果は、プロトコールに応じて、ベータカゼインの異なる溶解度又は封入体の異なる安定性に起因する可能性がある。それにもかかわらず、これらのプロトコールを使用して抽出物の可溶性画分からカゼインを回収すると、組換えタンパク質の大部分又は全てが失われる。
【0208】
実施例2:加熱から生じる大腸菌抽出物の可溶性画分及び不溶性画分中の組換えカゼインのモニタリング
カゼインに対する加熱による溶解の影響を、実施例1に記載の組換え株を用いて試験した。空のベクター(pET25b+)で形質転換したクローンを対照として使用した。
【0209】
培養物を遠心分離し、細胞ペレットを1容量の滅菌水に再懸濁し、遠心分離し、別の容量の水で洗浄し、1容量の水に再懸濁した。この細胞懸濁液の1mLサンプルを95℃で0(非加熱)、10、20、30、60、90及び120分間加熱して処理し、その結果、細胞が溶解し、可溶性画分と不溶性画分を遠心分離により分離した。不溶性画分を1mLの緩衝液(50mM Tris HCl(pH7.5)、300mM NaCl、10mM MgCl2、2mM DTT、0.5%Triton及びSigmafast Protease Inhibitor(Sigma社))に再懸濁し、可溶性画分と不溶性画分の両方のアリコート10μLをSDS-PAGEにより分析した。このような条件では、可溶性画分のサンプル10μLと不溶性画分のサンプル10μLは、ほぼ同量の全細胞抽出物である。加熱していない時には(図2の0’)、細胞溶解は起こらないか、水中の残留細胞の溶解のみが起こった。ペレットは、カゼインを含む、基本的に細胞全体を含有し、このサンプルは実際には、全細胞抽出物に相当する。
【0210】
驚くべきことに、温度による溶解が可溶性画分及び不溶性画分中のカゼインの分布に影響を与えることが観察された(図2)。
【0211】
95℃で10分の加熱まで(又はその前)に、アルファ-S1カゼインは、可溶性画分中にほぼ全部見られたが(図2A)、一方、実施例1では、可溶性画分と可溶性画分の両方に同様の量で見られた。
【0212】
カゼインベータは、10分の加熱まで(又はその前)に、この組換えタンパク質を大量に含有する可溶性画分に徐々に移行し、30分までに大部分が移行した(図2C)。実施例1では、ベータカゼインは不溶性画分中にほとんど又は全部見られた。
【0213】
カゼインアルファ-S2の分布(実施例1では不溶性画分中に全部存在する)は熱感受性が低いようであり、120分の加熱までに、大部分が依然として不溶性画分中に見られた(図2B)。それにもかかわらず、95℃で20分の加熱までに可溶性画分中に出現し、時間の経過とともに不溶性画分中ではわずかに減少していた。
【0214】
不溶性画分に由来する他の多くのタンパク質バンドも時間の経過とともに同様に減少したが(図2A、2B及び2C)、可溶性画分には移行しなかった。加熱したサンプルの可溶性画分においては、カゼインバンドに加えて、かすかなタンパク質バンドがいくつか見られただけであった。
【0215】
これらの結果は、加熱による溶解が、カゼイン、特にアルファ-S1及びベータカゼインの高速精製を実行する良好な方法であることを示している。
【0216】
実施例3:42L発酵槽での組換えベータカゼインの製造
実施例1に記載の組換え株の培養物を使用して、42L発酵槽(Biostat CPlus, Sartorius社)に接種した。
【0217】
30g/Lの酵母エキス(NuCel 751 MG)及び0.1mg/Lのアンピシリンを補充した30LのLB培地を、42Lの発酵槽に注ぎ入れた。初期OD600が0.06に達するまで、発酵槽に組換えクローンのプレ培養物を接種した。発酵は、pH=7、T=37℃、pO=10%で、143g/LのD-グルコース及び214g/Lの酵母抽出物を含有する溶液を培養物に供給するフェドバッチモードで実施した。24時間後にアンピシリンを添加した(0.1mg/Lの培養物)。17時間後、培養物のODは約10に達し、IPTG(最終1mM)を添加することによって製造を開始した。培養はT=41.3、OD600=44で停止した。細胞を10℃での遠心分離により回収した。
【0218】
分析のために、細胞のアリコートを遠心分離し、1容量の溶解緩衝液(50mM Tris HCl(pH7.5)、300mM NaCl、10mM MgCl2、2mM DTT、0.5%Triton及びSigmafast Protease Inhibitor(Sigma社))に再懸濁した。懸濁液を氷上で30分間インキュベートし、その後1分間超音波処理し(15%振幅、QSonica XL-2000)、全画分10μLをSDS-PAGEによって分析した(図3A)。
【0219】
乳から精製したベータカゼイン(Sigma)を対照として使用したが、以前に他の人が観察したように、その見かけの分子量はより高かった(Simons et al. Overproduction of bovine beta-casein in Escherichia coli and engineering of its main chymosin cleavage site (1993) Protein Engineering 7: 763-770)。組換えカゼイン製造量は、細菌培養液1L当たり3gの範囲であると推定された。
【0220】
実施例1と同じ2つのプロトコールを使用して、サンプルを可溶性画分及び不溶性画分中の組換えベータカゼインの存在についても分析した。結果は実施例1で観察されたものと同様であり、ベータカゼイン(casein beta)の大部分(プロトコール1)又は全て(プロトコール2)が不溶性画分中に見られた(図3B)。
【0221】
実施例4:様々な温度での加熱から生じる大腸菌抽出物の可溶性画分及び不溶性画分中の組換えベータカゼインのモニタリング
組換えベータカゼインに対する、加熱による溶解の影響を、実施例3に記載の菌株培養物で試験した。
【0222】
1Lの細胞(約15gの乾燥細胞重量)を遠心分離し、細胞を1Lの滅菌水に再懸濁し、遠心分離し、別の1リットルの水で洗浄し、1Lの水に再懸濁した。この細胞懸濁液の70mLサンプルを95℃で30、60、90及び120分間加熱して処理し、その結果、細胞を溶解させ、可溶性画分と不溶性画分を遠心分離により分離した。不溶性画分を1容量の溶解緩衝液(50mM Tris HCl(pH7.5)、300mM NaCl、10mM MgCl2、2mM DTT、0.5%Triton及びSigmafast Protease Inhibitor(Sigma社))に再懸濁し、アリコート10μLをSDS-PAGEにより分析した。
【0223】
図4Aに示すように、熱溶解を伴う実施例2で観察された結果と一致して、かつ他の熱溶解プロトコールを用いる実施例1で観察された結果とは対照的に、過剰発現タンパク質は、30分の加熱まで(又はその前)に、可溶性画分中に大部分が見られた。
【0224】
不溶性画分に由来する他の多くのタンパク質バンドも時間の経過とともに同様に減少したが、可溶性画分には移行しなかった。加熱したサンプルの可溶性画分では、ベータカゼインバンドに加えて、いくつかのかすかなタンパク質バンドを見ることができたが、時間の経過とともに減少しており、この結果は、おそらくはサンプル濃度がより低いために、実施例2ではほとんど観察できないものであった。
【0225】
これらの結果は、好熱性タンパク質又は熱安定性タンパク質の産生及び精製に特化した研究で観察された、溶解産物タンパク質の進行性の熱分解と一致している。(Takesawa et al. (1990) Heat-induced precipitation of cell homogenates: an investigation of the recovery of thermostable proteins. Enzyme Microb.Technol.12, 184-189;Kirk and Cowan 1995 Optimising the recovery of recombinant thermostable proteins expressed in mesophilic hosts. J. of Biotechnology 42: 177-184;Sundarrajan et al. (2018) Novel properties of recombinant Sso7d-Taq DNA polymerase purified using aqueous two-phase extraction: Utilities of the enzyme in viral diagnosis. Biotechnol Rep (Amst) 19: e00270;米国特許第8603782号明細書;国際公開第2011/119703号)。
【0226】
同じプロトコールに従って、可溶性画分と不溶性画分の両方に対する様々な温度、つまり55℃、75℃及び95℃の影響も試験した。図4Bに示すように、55℃では、可溶性画分中のベータカゼイン量のわずかな増加が120分までに観察できた。75℃では、可溶性(及び不溶性画分)において他の可溶性タンパク質の減少が1時間までに観察され、可溶性画分中でのベータカゼインの回収がより顕著であった。95℃では、10分の加熱までに可溶性画分中にベータカゼインがはっきりと観察され、他のバンドは時間の経過とともに不溶性画分と可溶性画分の両方において減少し、この最後の観察は30分の加熱までに両方の画分において明確になった。
【0227】
これらの結果は、細胞内カゼインの可溶化と非カゼインタンパク質の除去の両方によって、加熱による溶解がベータカゼインの高速精製にとって興味深いものとなることを示した。
【0228】
また、溶解とは別個に、他の非熱安定性タンパク質からカゼインを分離するために加熱を使用できることも示された。
【0229】
実施例5:組換えベータカゼインの生精製
細胞からカゼインベータを生精製するためのプロトコールを設定した。
【0230】
乾燥細胞重量15gに相当する細胞サンプルを1Lの滅菌水に再懸濁した。細胞を95℃で90分間加熱することにより処理した。溶解産物を3220g、4℃で20分間遠心分離し、真空駆動濾過システムを使用して上清を0.2μm膜で濾過した(Stericup Quick Release、Millipore社)。
【0231】
様々な工程からのサンプルのアリコートをSDS-PAGEによって分析した。図5に示すように、最終的な濾過タンパク質画分(レーンF)は組換えタンパク質が大幅に濃縮されており、これが最終的に調製物中のタンパク質の大部分を占めた。
【0232】
更に、熱溶解を含むプロトコールは、非常に高い収率を有し得る。別の実験では、乾燥細胞重量7.5gに相当する細胞サンプルを洗浄し、滅菌水に再懸濁し、95℃で90分間加熱する前後にSDS-PAGEでベータカゼインをモニタリングした。ベータカゼインの量は、これら2つの条件及び加熱抽出物の濾過サンプル中でも非常に類似していることが判明した(図5B)。ベータカゼイン量は、標準タンパク質調製物との視覚的比較によって推定され、3つのサンプル全てにおいて培養物1リットル当たり約3gの組換えタンパク質が観察されることが示された。同じ培養物からのサンプルを95℃で90分間の代わりに、100℃、2bar圧力で30分間加熱した場合にも、同様の定量的結果が観察された。
【0233】
実施例6:部分的に精製されたベータカゼインからの凝乳の作製
実施例5に記載したカゼイン溶液(バッチ1)を熱により乾燥させた。SDS-PAGEによる分析を使用してこの抽出物中のカゼインを定量し、乾燥生成物の23%がベータカゼインに相当すると推定された。
【0234】
乾燥カゼイン調製物1.8g(カゼイン0.41g)を水2.4gと混合し、室温で3.5時間インキュベートして、完全に再水和した。3.5gの脱臭ヤシ油(BioPlanete,France)及び0.05gのレシチンを添加し、0.1gのレモン汁でpHを5に調節した。混合物を成形のために4℃で30分間インキュベートし、その後室温で型から取り出した。
【0235】
最終組成(チャイブを除く)を表2(組成1)にまとめた生成物の特徴を図6Aに示す。型から外すと室温で堅く安定したテクスチャを示し、保水性は完全である。カゼイン含有量は5.3%と推定されている。
【0236】
このテクスチャ及び保水性は、1.8gの乾燥カゼイン調製物を添加しなかった場合には達成できなかった(表2の組成物2、図6B)。代わりに、ヤシ油による固相が観察されたが、型から外すと崩れてしまい、かなりの水損失が観察された。
【0237】
【表3】
【0238】
実施例7:加熱及び酸沈殿による組換えベータカゼインの精製と組換えDNAのモニタリング
実施例3に記載した培養物のサンプルを実施例5に記載したように処理した。細胞を滅菌水に再懸濁し、遠心分離し、水に再懸濁し、懸濁液を95℃で2時間加熱し、溶解産物上清を単離し、0.2μm膜で濾過した。次いで、上清を酸性条件で加熱してカゼインを沈殿させた。上清のpHを0.1M HCl溶液でpH4に下げ、次いで40℃又は90℃で20分間加熱した。次に、懸濁液を3220gで20分間遠心分離し、上清とペレットをSDS-PAGEによって分析した。図7Aに示すように、このような酸性条件で加熱すると、40℃でカゼインベータが部分的に沈殿し、90℃で完全に沈殿した。
【0239】
中性のpH溶液を達成するために、このプロトコールに追加の工程を追加した。沈殿したカゼインを含有するペレットをHSO溶液(pH4)で1回、滅菌水で1回洗浄し、滅菌HOに再懸濁し、1M Ca(OH)でpHを7に調節すると、カゼインカルシウム懸濁液(図示せず)が得られた。
【0240】
酸性条件での加熱はDNAの分解を促進することが知られている。カゼイン調製物中の微生物産生菌株からのDNAの存在を評価するために、同じプロトコールを別のサンプルに適用し(しかしながら、濾過工程についてはスキップした)、PCR増幅を使用してDNAをモニタリングした。反応は、ベータカゼインコード配列を含有する929bp領域を増幅するように設計された2つのプライマーを使用して実行した。
【0241】
【化1】
【0242】
【化2】
【0243】
DreamTaq Green PCR Master Mix(2X)(ThermoScientific社)を使用し、20μL中のサンプル1μLでPCR反応を実行した。SimpliAmpサーマルサイクラー(Applied Biosystems社)を用いてPCRを実行し、サイクリング条件は以下のとおりであった:95℃で5分、主反応(95℃で30秒、61.4℃で30秒、72℃で1分)を30サイクル、及び72℃で5分。増幅産物を1%アガロースゲル上にロードし、GeneFlash(Syngene社)UVトランスイルミネーターを使用して視覚化した。図7Bに示すように、組換えDNAは、熱分解後(レーンA)及び上清のpHをpH4に調節した後(レーンB)、これらの条件下でも依然として検出可能であったが、このような酸性条件下において90℃で加熱した後(レーンC)及びその後の工程では(レーンD及びCa)検出できなかった。
【0244】
実施例8:フレッシュチーズ代替品の調製に対するゲル化剤の影響の試験
カゼインカルシウム、寒天、水、脱臭ヤシ油及びグルコースの混合:
18gのカゼインカルシウムカゼイン(Armor Proteine社、カゼイン塩として92%のカゼイン、1%の脂質及び1%のカルシウムを含有)を195gの水に再懸濁し、水懸濁液中7.8%(w/w)カゼインを得た。このカゼイン組成物15グラムを、2gの脱臭ヤシ油(BioPlanete社、フランス)及び2.5gの25%(w/w)グルコース水溶液と混合した。新たな組成物を45℃に加熱し、加熱した0%、2%、3%又は4%寒天調製物(水に溶かした寒天)4mlを穏やかに混合しながら加えた。サンプル1~4をサンプル5~8として複製した(サンプル1、4及び8は、2回目の独立した実験で複製した)。得られた組成物(LpCC)を表4に記載する。pHは約7.0である。
【0245】
【表4】
【0246】
凝固
0.2gの乳酸発酵体(ストレプトコッカス・サーモフィルス、ラクトバチルス・ブルガリクス、Alsa社)をサンプル1~4(初期温度25℃)には添加したが、サンプル5~8には添加せず(表5を参照されたい)、組成物を40℃で10時間インキュベートした。サンプル1~4では、pHが約4.5に低下し、乳酸発酵が活発に行われたことを示している。サンプル5~8では、pHは約7.0で安定に保たれた。
【0247】
水切り
組成物全体を穏やかに撹拌して、最も高い寒天濃度で得られた滑らかな構造を破壊し、チーズクロス上に置き、4℃で16時間水切りした。表5に記載されているように、凝乳重量は約7g~約15gの範囲であった。カゼイン、脂質及び寒天が凝乳中に全て保持されているという仮定に基づいて、組成を推定した(表5)。実際、サンプル1~4の水切り液にはほとんど着色が観察されず、4℃の水切り液中にはヤシ油及び寒天の凝固物は観察されなかった。対照的に、カルシウム及びグルコースの推定値は最大推定値であり、これらの化合物の一部は水切り液中に見られる可能性がある。同じ理由で、水分含有量の推定値(合計ベース及び無脂肪ベース)は最小推定値である。
【0248】
【表5】
【0249】
結果は、ゲル化剤を使用して水分を調節し、したがって組成物全体を調節できることを示している。0.68%の寒天を使用すると、60%超のLpCCが保持され(ゲル化剤を使用しない場合は30%)、生成物は、予想どおりにフレッシュチーズのカゼイン含有量及び水分、並びに可塑性のテクスチャ及び外観を有していた(図8)。
【0250】
乳酸発酵がない場合、サンプル5~8では、寒天濃度に応じて様々なサイズの固相が得られた。水切り液の着色は、カゼインの一部が固相から失われたことを示唆しているため、推定値は表4には示していない。発酵体を使用せずに得られた固相は、発酵凝乳対応物と比較して小さかったが(表4)、緩い構造も保っていた(図8)。
【0251】
凝固後にゲル化剤を添加した場合
凝固後にゲル化剤を添加することによっても同じ効果が達成された:サンプル:同様の組成を有するLpCCを乳酸菌とともに40℃で10時間インキュベートした。pHは約7.0から約4.5に低下した。凝固後、上述のように水中4%の寒天3mlを添加し、凝乳及び液相を含む全混合物を穏やかに撹拌し、水切り用のチーズクロス上に置いた。
【0252】
凝固前(LpCC)、凝固及び寒天添加後の組成、並びに水切り後の推定値を表6に示す。凝固及び水切り後の組成については上記と同じ規定である。4℃で16時間水切りした後、2つの独立したサンプルにおいて約12gの凝乳が得られ、ゲル化剤の非存在下で観察されたものより優れた保水性(全体の53%)を示した(上記を参照されたい)。
【0253】
この生成物は、予想どおりにフレッシュチーズのカゼイン含有量及び水分(表6)、並びに可塑性のテクスチャ及び外観を有した(図9)。したがって、半固体形状で残るある特定の種類のチーズについては、凝固の前又は後に添加することが可能である。
【0254】
この手順を発酵体の非存在下で再現した。より軽量の固相(約6g、全体の27%)が得られた。しかしながら、図9に示すように、テクスチャは非常に緩いものであった。
【0255】
【表6】
【0256】
実施例9:組換えアルファ及びベータカゼインバッチの製造
天然のカゼイン遺伝子は、シグナルペプチドを含む前駆体タンパク質をコードする。哺乳動物では、このペプチドは、カゼイン処理中に切断され、乳中の成熟タンパク質には存在しない。実施例1に示すように、アルファ-S1及びベータカゼインをコードする合成遺伝子(それぞれ天然遺伝子P02662及びP02666に関連する)は、シグナルペプチドを除去するために改変した。新たな合成オープンリーディングフレームの配列を表7の最終欄に示す)。
【0257】
【表7】
【0258】
得られたORFを細菌内で過剰発現させ、前述の実施例に記載した方法に従ってカゼインを精製した。最終的に、アニマルフリーの組換えカゼインの3つのバッチがカゼインカルシウムとして得られた。濃縮カゼインカルシウムを得るために、pH=4.6においてHSOで沈殿させたカゼイン抽出物を水に再懸濁し、Ca(OH)でpHをゆっくりと7に調節した。調製物をRotavapor R-300(Buchi社)装置を使用して蒸発により濃縮した。
【0259】
バッチ1:ベータカゼイン(カゼインカルシウム)、150mg/gの組成物、pH7。
バッチ2:アルファ-S1カゼイン及びベータカゼイン(カゼインカルシウム)、それぞれ約50mg/g及び25mg/g、pH=7。
バッチ3:アルファ-S1カゼイン及びベータカゼイン(カゼインカルシウム)、それぞれ約6mg/g及び3mg/g、pH=7。
【0260】
これらのバッチには、おそらく他のタンパク質及び他の有機分子が存在したが、カゼインは全タンパク質の90%超を占め、乾燥重量の2/3超を占めると推定された。
【0261】
実施例10:部分的に精製された組換えベータカゼインの凝固試験
実施例9からのバッチ1を使用して、組換えベータカゼインを含有するカゼイン組成物を使用して、テクスチャ付与剤の非存在下で、組換えベータカゼインの凝固能力を試験した。このために、実施例8のサンプル1とほぼ同じカゼイン、脂質及び水含有量を有する調製物を調製したが、市販のカゼイン塩の代わりに組換えベータカゼインを使用した。
【0262】
バッチ1調製物を水で希釈して、58.7mg/gの濃度の組換えベータカゼイン組成物を得た。このカゼイン組成物20gを、水に溶かしたヤシ油、グルコース及び寒天と混合して、水中に5%のカゼイン、8.5%の脂質、2.7%のグルコース及び0.68%の寒天を含有する23.5gの組成物を得た。追加の炭水化物及びタンパク質は、塩だけでなくカゼイン組成物からもたらされる可能性があるが、この表では考慮されていない。したがって、水分含有量も同様に推定値にすぎないが、初期のカゼイン組成においてカゼインが乾燥重量の少なくとも2/3を占めていたことを考えると、水分含有量の誤差は3%を超えてはならない。
【0263】
組成物に乳酸発酵体0.3gを播種し、40℃で10時間インキュベートした。pHは、約7.0から約4.5に低下した。次いで、組成物全体をチーズクロス上に置き、4℃で16時間水切りした。市販のカゼイン塩を使用した同様の条件で得られたものほど硬質ではないものの、水切り後に7gの凝乳を得ることができた(図10)。
【0264】
実施例7からのアルファ-S1及びベータカゼインが低pHで効率的に凝固する能力を、90mlの低濃度バッチ3組成物中に乳酸を添加してpHを約4.5に調節することによって単純に試験した。チーズクロス上での濾過による分離後、約0.7gの物質が得られた(図6)。対照的に、同じ体積の組成物に乳酸を添加しなかった場合、組成物全体がチーズクロスを通って流れた。
【0265】
実施例11:部分的に精製された組換えカゼインからのフレッシュチーズ代替品の製造
バッチ1調製物を水で希釈して、78.2mg/gの濃度の組換えベータカゼイン組成物を得た。実施例8に記載されたように、このカゼイン組成物15gをヤシ油、グルコース及び寒天と混合して、表5に記載の組成物を得た。追加の炭水化物及びタンパク質は、塩だけでなくカゼイン組成物からもたらされる可能性があるが、この表では考慮されていない。したがって、水分含有量も同様に推定値にすぎないが、初期のカゼイン組成においてカゼインが乾燥重量の少なくとも2/3を占めていたことを考えると、水分含有量の誤差は3%を超えてはならない。
【0266】
組成物に乳酸発酵体0.3gを播種し、40℃で10時間インキュベートした。pHは、約7.0から約4.5に低下した。次いで、組成物全体を穏やかに撹拌し、チーズクロス上に置き、4℃で16時間水切りした。
【0267】
凝乳重量は約14gであった。その組成(表8)を、上記及び実施例9と同じ規定に従って推定した。約60%のLpCCが保持された。得られた生成物は、フレッシュチーズに必要なカゼイン含有量及び水分を有した。テクスチャは、実施例8の市販のカゼインカルシウムほど硬くなかったが、それでもフレッシュチーズに適しており、安定した形状に成形するための可塑性及び硬さを示した(図11)。比較のために、同じ手順に従って乳酸菌を含まないサンプルを調製した。凝固剤を使用しない場合、約13gの固相を得ることができたが、構造は緩く、形状を安定に保持できなかった(図11)。
【0268】
アルファ-S1カゼイン及びベータカゼインを含有するカゼインのバッチ2を使用して、同じ手順に従った。38%のLpCCしか保持されず、これはタンパク質含有量が低いためであると考えられるが(LpCCの2.5%)、得られた生成物はフレッシュチーズに望まれるカゼイン含有量及び水分を有した。テクスチャは、実施例8の市販のカゼインカルシウムほど硬くなかったが、それでもフレッシュチーズに適しており、安定した形状に成形するための可塑性及び硬さを示した(図11)。
【0269】
【表8】
【0270】
凝固後にゲル化剤を添加した場合
実施例8と同じ手順に従って、凝固後のゲル化剤の添加も試験した。凝固前(LpCC)、凝固及び寒天添加後の組成、並びに水切り後の推定値を表9に示す。凝固及び水切り後の組成については上記と同じ規定である。乳酸発酵、寒天(0.53%)の添加、及びチーズクロスにおける4℃で16時間の水切り後、約10gの凝乳(全体の44%)が得られた。発酵体を使用しない場合、より軽量の固相(約6g、全体の27%)が得られた。しかしながら、図12に示すように、テクスチャは非常に緩いものであった。
【0271】
【表9】
【0272】
実施例12:部分的に精製された組換えカゼインからソフトチーズ代替品を作製する
バッチ1の調製物を更に濃縮して、組成物250mg/gの濃度に達した。
【0273】
15gのヒマワリ油、34gの加水カシューナッツ(加水カシューナッツの組成については、上記実施例5を参照されたい)、70gの水及び1.5gの寒天を混合した。混合物を沸騰させ、10~20秒間沸騰させた。25gの組換えベータカゼインを含有する100gの濃縮カゼイン組成物をこの混合物に添加し、穏やかに混合した。LpCC組成の詳細を表10に示す。
【0274】
凝固、水切り、加塩及び熟成
このLpCC200g(合計220.5gのうち)に、乳酸菌(MBT、SOGEBUL社、ドル、フランス)、酵母(DH2d SOGEBUL社、ドル、フランス)、及び追加の熟成発酵体(PC12H、SOGEBUL社、ドル、フランス)を含む発酵体を、35℃未満の温度で播種した。組成物を型内において20℃で24時間インキュベートした。
【0275】
製品を型から取り出し、水切り用の格子上に置いた。生成物と格子をボックスに入れて湿度を制御した。所望の味に応じて、小さじ1/4~1/2程度の食卓塩(La Baleine社、フランス)を上面に広げることができ、生成物を14℃でインキュベートする。24時間後、生成物を反転させ、同じ塩組成物を反対側の面に広げる。湿度を制御するために、生成物を精製ボックス内の格子上で14℃でインキュベートし、数週間にわたって2日ごとに反転させる。この期間中、定期的に精製ボックスから水を除去する。7日目の生成物を図13に示す。
【0276】
重量減少は、本質的に水に存する。初期の組成は既知であるため(乾燥カシューナッツの組成は、炭水化物約22%、タンパク質20%、脂質53%、水数パーセントである)、水損失の評価は、生成物組成を計算するため、特に水分(無脂肪ベースで62%~80%の水分)の観点から、期待される組成又はソフトチーズを達成するために使用することができる。7日目までに、製品は150g、タンパク質及び脂質の含有量はそれぞれ17.4%(カゼイン及び由来ペプチド15.1%を含む)及び16.6%、水分は無脂肪ベースで76%であると推定された。
【0277】
【表10】
【0278】
実施例13:組換えアルファ-S1及びベータカゼインの精製
組換えアルファ-S1及びベータカゼインを共発現するベクターを構築した。基本的に、表1からのアルファS1及びベータカゼインをコードするORF(P02662及びP02666)はいずれもpET25+に挿入し、ベータカゼインはプロモーターの近位にあり、T7リボソーム結合部位は2つのORFのそれぞれの前に挿入した。得られたプラスミドをBL21(DE3)株に形質転換した。個々の形質転換クローンを単離し、1つのクローンをLB培地への接種に使用した。次いで、実施例3に示すように、細菌の増殖及びカゼイン発現を42L発酵槽(Biostat CPlus、Sartorius社)内で行った。
【0279】
発酵終了時の最終ODは約70であった。細胞を遠心分離(2000g、30分、+4℃)によって回収し、-80℃で保存した。ODが0~1の間の透明な黄色の上清を得た。解凍後、均一な懸濁液になるまで細胞を15Lの浸透滅菌水に再懸濁し、95℃で120分間加熱した。細胞破片と大腸菌の沈殿タンパク質を廃棄した(2000g、40分、+4℃)。0~1のODを有する透明な淡黄色の上清を、-20℃で保存した。解凍後、以下の条件で追加の高速遠心分離を実施して、残留細胞破片及び懸濁液中の沈殿タンパク質を除去した:13000g、+4℃、20分。
【0280】
透明な淡黄色の上清を市販の活性炭(Sigma-Aldrich社、参照番号161551)とともに10g.L-1の濃度で200rpm及び+22℃で30分間撹拌した。次に活性炭を高速遠心分離(13000g、20分、+4℃)で廃棄し、真空駆動濾過システム(Stericup Quick Release、Millipore社)を使用して上清を0.2μmフィルターで濾過した。実用的な理由から、透明なベージュ色の上清を+4℃で一晩保存した。次いで、溶液のpHを、市販の乳酸溶液(Sigma-Aldrich社、参照番号27714)を用いてpH4.6に下げた。白色の沈殿物が徐々に出現した。得られた懸濁液を遠心分離し(2000g、20分間、室温)、無色で濁った上清を廃棄した。次いで、酸性で沈殿したカゼインを7.5Lの浸透滅菌水に再懸濁し、得られた均一な懸濁液を遠心分離(2000g、20分間、室温)し、洗浄水を廃棄した。追加の洗浄工程を同じ実験条件で実行した。
【0281】
酸性で沈殿したカゼインを750mLの浸透滅菌水に再懸濁した。得られた均質な懸濁液を+30℃、600rpmで撹拌し、濃度0.2Mの均質な水酸化カルシウム懸濁液を添加することにより、pHをpH=7.0まで徐々に上昇させた。その後、得られた懸濁液を、-80℃で3時間凍結させた後、凍結乾燥させた(0.002ミリバール、+4℃、60時間)。凍結乾燥したカゼインカルシウムを、更なる利用又は分析のために-20℃で保存した。
【0282】
図14に示すように、プロセスの様々な工程でサンプルをSDSPAGEによって分析した。
【0283】
実施例14:組換えカゼインアルファ-S1とベータからのソフトチーズ代替品の製造
カゼインの組成物を、同じ細菌内でカゼインアルファ-S1とカゼインベータを共発現させることによって調製した。このために、表1のオープンリーディングフレームP02662及びP02666を、同じ発現ベクターにクローニングし、大腸菌に形質転換し、発酵槽内で実施例13に記載のプロトコール(0.2mmの代わりに0.45mm濾過を使用)で産生させた。カゼイン濃度を、SDS-PAGEによって推定した。この調製物は、少なくとも95%の純度を有し、アルファ-S1カゼインの約半分と、ベータ-カゼインの半分とを含有すると推定された。以下の全ての計算において、この組成物は純粋とみなされる(したがって、カゼイン含有量は正確に95%であるべきである)。
【0284】
この乾燥カゼイン組成物13gを水39gと混合し、14℃で3時間インキュベートした。水(15g)、カシューナッツ(20g)、ヒマワリ油(30g)、炭酸カルシウム(1g)及びグルコース(10g)の混合物をブレンドし、この混合物22gを、水16gとともに上記の水和カゼイン組成物45gに添加し、表11に記載のLpCCを得た。
【0285】
【表11】
【0286】
この組成物80gを、乳酸菌(MBT、SOGEBUL社、ドル、フランス)、酵母(DH2d SOGEBUL社、ドル、フランス)及び追加の熟成発酵体(PC12H、SOGEBUL社、ドル、フランス)を含む発酵体を播種した型に入れ、50℃の温度で16時間インキュベートした。
【0287】
次いで、製品を型から取り出し水切り用の格子上に置いた。生成物と格子をボックスに入れて湿度を制御した。食卓塩(La Baleine社、フランス)を上面に広げ、生成物を14℃でインキュベートした。24時間後、生成物を反転させ、同じ塩組成物をもう一方の面に広げた。生成物を、湿度を制御するために精製ボックス内の格子上で14℃でインキュベートし、2日おきに6日間反転させ、その後4℃に保った。生成物の重量は、表12に記載される組成で60gと推定された。この組成は、各カテゴリーについての脂肪分解、タンパク質分解、及びスターター細菌及び熟成発酵体)の活動から生じる糖代謝から生じる分解産物も考慮に入れている。水分は無脂肪ベースで68.5%であると推定された。6日目の生成物を図15に示す。
【0288】
【表12】
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【配列表】
2024520954000001.app
【国際調査報告】