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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-28
(54)【発明の名称】触媒被覆膜及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1004 20160101AFI20240521BHJP
【FI】
H01M8/1004
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562935
(86)(22)【出願日】2022-05-26
(85)【翻訳文提出日】2023-10-24
(86)【国際出願番号】 GB2022051340
(87)【国際公開番号】W WO2022248864
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】2107506.4
(32)【優先日】2021-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512269535
【氏名又は名称】ジョンソン マッセイ ハイドロジェン テクノロジーズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Johnson Matthey Hydrogen Technologies Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】弁理士法人NIP&SBPJ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オサリバン、ジュリー
(72)【発明者】
【氏名】トゥルー、ピーター
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA05
5H126BB06
5H126BB08
5H126BB09
5H126FF04
5H126FF05
5H126GG18
5H126HH01
5H126HH02
5H126HH04
5H126JJ08
(57)【要約】
電気化学セル用の触媒被覆イオン伝導性膜を製造する方法が提供されており、方法は、イオン伝導性膜と、電気触媒層と、イオン伝導性膜と電気触媒層との間のマスキング層であって、マスキング層が、電気触媒層の1つ以上の露出領域及び1つ以上の非露出領域を提供するための1つ以上の開口部を備える、マスキング層と、を提供することと、電気触媒層の1つ以上の露出領域がイオン伝導性膜上に転写され、かつマスキング層が、電気触媒層の1つ以上の非露出領域がイオン伝導性膜上に転写されることを防止するように、層を接触させることと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学セル用の触媒被覆イオン伝導性膜を製造する方法であって、前記方法が、
イオン伝導性膜と、電気触媒層と、前記イオン伝導性膜と前記電気触媒層との間のマスキング層であって、前記マスキング層が、前記電気触媒層の1つ以上の露出領域及び1つ以上の非露出領域を提供するための1つ以上の開口部を備える、マスキング層と、を提供するステップと、
前記電気触媒層の前記1つ以上の露出領域が前記イオン伝導性膜上に転写され、かつ前記マスキング層が、前記電気触媒層の前記1つ以上の非露出領域が前記イオン伝導性膜上に転写されることを防止するように、前記層を接触させるステップと、を含む、方法。
【請求項2】
前記イオン伝導性膜と前記電気触媒層との間に前記マスキング層を提供する前記ステップの前に、開口部のないマスキング層を提供する初期ステップと、前記マスキング層に前記開口部を切り込むステップと、を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記層を接触させる前記ステップが、前記層を一緒にプレスすることを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記層が、ロールツーロール積層プロセスにおいて一対のローラの間で一緒にプレスされる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記層が、フラットベッドプレスによって一緒にプレスされる、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記ローラ又は前記フラットベッドプレスが、100~200℃の範囲及び100~200℃を含む温度に前記層を加熱する、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記層を接触させる前記ステップの後に、前記マスキング層と前記電気触媒層の非露出領域とを前記イオン伝導性膜から除去するステップを更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記電気触媒層の前記非露出領域が、回収され、かつ更なる使用のためにリサイクルされる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
電気触媒層が、前記イオン伝導性膜の両側に提供され、マスキング層が、前記イオン伝導性膜と各それぞれの電気触媒層との間に提供される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記イオン伝導性膜が、膜シール接合体であるように、非イオン伝導性シール材料の2つの層の間に挟まれ、前記膜シール接合体が、1つ以上の内側領域及び1つ以上の境界領域を備え、前記内側領域が、非イオン伝導性シール材料を欠き、かつイオン伝導性であり、前記境界領域が、前記非イオン伝導性シール材料を含み、かつ非イオン伝導性である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記イオン伝導性膜が、ポリマー電解質膜を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記電気触媒層及び前記マスキング層が、予め形成されたマスクされた電気触媒構成要素として一緒に提供され、前記マスキング層が、前記電気触媒層に接合される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記触媒被覆イオン伝導性膜の活性面積の周りにサブガスケットを適用するステップを更に含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法によって生成される、触媒被覆イオン伝導性膜。
【請求項15】
請求項14に記載の触媒被覆イオン伝導性膜を備える、膜電極接合体。
【請求項16】
触媒被覆イオン伝導性膜の製造に使用するためのマスクされた電気触媒構成要素を生成する方法であって、前記方法が、
電気触媒層を提供するステップと、
マスキング層を備えるマスキング構成要素であって、前記マスキング層が1つ以上の開口部を備える、マスキング構成要素を提供するステップと、
マスクされた電気触媒構成要素を形成するように前記マスキング層を前記電気触媒層と組み合わせるステップと、を含む、方法。
【請求項17】
マスクされた電気触媒構成要素を形成するように前記マスキング層を前記電気触媒層と組み合わせる前記ステップが、マスクされた電気触媒構成要素を形成するように前記マスキング層を前記電気触媒層に接合するステップである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記マスキング層を前記電気触媒層に接合する前記ステップが、ロールツーロール積層プロセスによって実施され、前記層が、一対のローラの間で一緒にプレスされる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記マスキング層が、接着剤によって前記電気触媒層に接合される、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記マスキング構成要素が、前記マスキング層を前記電気触媒層と組み合わせる前記ステップ中に前記マスキング層を安定化させるための補強層を更に備える、請求項16~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記補強層が、補強ポリマーフィルムを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記補強層が、接着剤によって前記マスキング材料に接合される、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
前記マスキング層を前記電気触媒層に接合する前記ステップの後に、前記補強層を除去するステップを更に含む、請求項20~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記電気触媒層及び前記マスキング構成要素が各々、連続ウェブの形態で提供され、前記マスキング層が、前記ウェブの長さに沿って複数の開口部を備える、請求項16~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記マスクされた電気触媒構成要素が、連続ウェブの形態で生成され、前記マスクされた電気触媒構成要素を別個のパッチに切り込むステップを更に含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記マスクされた電気触媒構成要素が、各パッチ内の前記マスキング層が単一の開口部を備えるように、前記マスキング層の開口部の間で切り込まれる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
触媒被覆イオン伝導性膜を製造するプロセス中に、前記マスクされた電気触媒構成要素を整列させることを助けるために、前記マスクされた電気触媒構成要素に整列特徴部を切り込むステップを更に含む、請求項16~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
請求項16~27のいずれか一項に記載の方法によって生成される、予め形成された電気触媒構成要素。
【請求項29】
電気化学セルの製造に使用するためのマスクされた電気触媒構成要素であって、前記マスクされた電気触媒構成要素が、
第1の表面と、反対側に配置された第2の表面とを有する電気触媒層と、
前記電気触媒層の前記第1の表面上に配置されたマスキング層と、を備え、
前記マスキング層が、1つ以上の開口部を備え、それによって、前記電気触媒層の前記第1の表面の1つ以上の露出領域及び1つ以上の非露出領域を提供する、マスクされた電気触媒構成要素。
【請求項30】
前記マスクされた電気触媒構成要素が、ロールグッド形態であり、前記電気触媒層及び前記マスキング層が各々、連続ウェブであり、前記マスキング層が、前記ウェブの長さに沿って複数の開口部を備える、請求項29に記載のマスクされた電気触媒構成要素。
【請求項31】
前記マスクされた電気触媒構成要素が、別個のパッチの形態である、請求項29に記載のマスクされた電気触媒構成要素。
【請求項32】
前記マスキング層が、単一の開口部を備える、請求項31に記載のマスクされた電気触媒構成要素。
【請求項33】
前記電気触媒層の前記第2の表面上に配置されたキャリア層を更に備える、請求項29~32のいずれか一項に記載のマスクされた電気触媒構成要素。
【請求項34】
前記電気触媒層が、白金族金属又は白金族金属の合金を含む、請求項29~33のいずれか一項に記載のマスクされた電気触媒構成要素。
【請求項35】
前記マスキング層が、ポリマーフィルムを含む、請求項29~34のいずれか一項に記載のマスクされた電気触媒構成要素。
【請求項36】
前記ポリマーフィルムが、100~200℃の範囲及び100~200℃を含む温度で熱的に安定なポリマーを含む、請求項35に記載のマスクされた電気触媒構成要素。
【請求項37】
前記ポリマーフィルムが、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、又はそれらの混合物を含む、請求項35又は36に記載のマスクされた電気触媒構成要素。
【請求項38】
前記マスキング層が、接着剤によって前記電気触媒層に接合される、請求項29~37のいずれか一項に記載のマスクされた電気触媒構成要素。
【請求項39】
前記接着剤が、100~200℃の範囲及び100~200℃を含む温度で熱的に安定である、請求項38に記載のマスクされた電気触媒構成要素。
【請求項40】
前記接着剤が、シリコーン感圧接着剤を含む、請求項38又は39に記載のマスクされた電気触媒構成要素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気化学セル用の構成要素及び電気化学セル用の構成要素を製造する方法に関する。特に、本開示は、マスクされた電気触媒構成要素及びその製造プロセス、燃料電池又は電解槽、好ましくは、プロトン交換膜燃料電池又は電解槽などの電気化学セルにおいて使用するための触媒被覆イオン伝導性膜を作製するプロセス、そのようなプロセスによって製造された触媒被覆膜、並びにそのような触媒被覆イオン伝導性膜を含む膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質によって分離された2つの電極を含む電気化学セルである。燃料(例えば、水素、メタノール若しくはエタノールなどのアルコール、又はギ酸)が、アノードに供給され、酸化剤(例えば、酸素又は空気)が、カソードに供給される。電気化学反応が電極で発生し、燃料及び酸化剤の化学エネルギーが電気エネルギー及び熱に変換される。電解触媒は、アノードにおける燃料の電気化学的酸化、及びカソードにおける酸素の電気化学的還元を促進するために使用される。
【0003】
燃料電池は、通常、使用される電解質の性質に応じて分類される。多くの場合、電解質は固体ポリマー膜であり、この膜は、電子的に絶縁性であるがイオン伝導性である。プロトン交換膜燃料電池において、イオン伝導性膜は、プロトン伝導性であり、アノードで生成されたプロトンが、イオン伝導性膜を横切ってカソードに輸送され、ここでプロトンが酸素と結合して水を形成する。
【0004】
プロトン交換膜燃料電池の主な構成要素は、複数の層で構成された膜電極接合体(membrane electrode assembly、MEA)である。中心層は、ポリマーイオン伝導性膜である。イオン伝導性膜のどちらの面にも、特定の電解反応用に設計された電気触媒を含有する電気触媒層が存在する。イオン伝導性膜と電気触媒層とのこのサンドイッチが電気化学的に活性面積を提供する。電気触媒層はまた、概して、プロトン伝導性ポリマーなどのプロトン伝導性材料を含み、アノード電解触媒からイオン伝導性膜への、及び/又はイオン伝導性膜からカソード電解触媒へのプロトンの移動を補助する。各電気触媒層に隣接して、ガス拡散層が存在する。ガス拡散層は、反応物質が電気触媒層に到達できるようにする必要があり、電気化学反応によって生成される電流を伝導する必要がある。したがって、ガス拡散層は、多孔質であり、導電性である必要がある。
【0005】
MEAは一般に、燃料電池で使用するためにサブガスケットが付けられる。サブガスケット付きMEAでは、ポリマーイオン伝導性膜の片面又は両面に、サブガスケットが存在する。サブガスケットは、MEAの活性面積を画定する開口部を含み、接着剤を使用してイオン伝導性膜又は電気触媒層に取り付けられる。これらのサブガスケットは、ガス漏れを防止するために存在し、スタック内のガス及び液体のポーティング(porting)を容易にするために燃料電池スタック内で整列される活性面積から離れた開口部を更に含んでもよい。燃料電池スタックは、例えば、ガス漏れ、水素クロスオーバー、及び性能劣化を回避するように注意深く整列された流れ場プレートとともに、多数のサブガスケット付きMEAを含むことができる。スタック全体の電力は、スタック内のこのような接合体の数に比例する。スタックの性能は、部分的には、スタック内の、及びスタック内の隣接する接合体間の健全性、様々な接触部、シーリングインタフェースに依存する。
【0006】
MEAを製造する従来のプロセスは、最初に、2つの電気触媒層の間に配置されたポリマーイオン伝導性膜を含む触媒被覆イオン伝導性膜を製造することを必要とする。これは、例えば、デカール転写プロセスによって電気触媒層をイオン伝導性膜のそれぞれの側に転写するロールツーロールプロセスによって製造することができる。サブガスケットは、第2のロールツーロールプロセスでは、触媒被覆イオン伝導性膜に適用され得る。次いで、ガス拡散層は、ガス拡散層をサブガスケット付き触媒被覆イオン伝導性膜に接合するための接着剤を使用して、活性面積上でサブガスケット付き触媒被覆イオン伝導性膜と接合される。接着剤は熱溶解性接着剤であってもよく、この場合、部品は、加熱プレス又は特注の同等の機械のいずれかで加熱したプレートを使用して接合される。これにより、接着剤が流れて部品を互いに接合することができる。接着剤はまた、感圧接着剤であり得る。
【0007】
上述のデカール転写プロセスでは、電気触媒層は、電気触媒層がポリマーイオン伝導性膜上に積層された後に剥離される一時的キャリアウェブ上にロールグッド形態で提供される。電気触媒は、一般に、アイオノマー結合剤及び/又は溶媒で分散された触媒粒子を含むインク又はペーストの形態で一時的キャリアウェブ上に堆積又は被覆される。
【0008】
当業者が理解するように、燃料電池、特にプロトン交換膜燃料電池のためのMEAの製造に関連して上述したものと同じ原理が、電解槽、特にプロトン交換膜電解槽のためのMEAの製造にも適用される。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、例えば、イオン伝導性膜上への電気触媒の転写を制御し、かつ電気触媒の消耗を低減することによって、触媒被覆イオン伝導性膜を生成するための、かつ典型的にはロールグッド形態の電気触媒層を生成するための改善されたプロセスを提供することを目的とする。
【0010】
触媒被覆膜の製造方法
本発明の第1の態様によれば、燃料電池又は電解槽、好ましくはプロトン交換膜燃料電池又は電解槽などの電気化学セル用の触媒被覆イオン伝導性膜を製造する方法が提供されており、方法は、
イオン伝導性膜と、電気触媒層と、イオン伝導性膜と電気触媒層との間のマスキング層であって、マスキング層が、電気触媒層の1つ以上の露出領域及び1つ以上の非露出領域を提供するための1つ以上の開口部を備える、マスキング層と、を提供するステップと、
電気触媒層の1つ以上の露出領域がイオン伝導性膜上に転写され、かつマスキング層が、電気触媒層の1つ以上の非露出領域がイオン伝導性膜上に転写されることを防止するように、層を接触させるステップと、を含む。
【0011】
本発明の第1の態様は、ポリマー電解質膜などのイオン伝導性膜上に電気触媒層を転写するための一種の印刷マスキングプロセスを提供しており、それによって、電気触媒層は、マスキング層の開口部に対応する露出領域においてのみイオン伝導性膜上に転写される。開口部の周りの非露出領域の電気触媒層は、積層中にマスキング層によってイオン伝導性膜から物理的に分離されているので、イオン伝導性膜に転写することができない。
【0012】
従来のデカール転写プロセスでは、電気触媒デカールは、一般に、キャリアウェブ上にインク又はペーストの形態で電気触媒の面積を被覆又は堆積することによって生成される。そのようなインク又はペーストは、ある程度流れる傾向があり、したがって、デカール転写プロセス中に膜上に転写される電気触媒デカールの正確な寸法を制御することは困難である。その結果、電気触媒デカールは、被覆しようとする膜の面積に必要な大きさよりもわずかに大きい場合があり、触媒被覆イオン伝導性膜の封止に関する問題を引き起こす可能性がある。一方で、本発明の印刷マスキングプロセスは、電気触媒デカールの寸法がマスキング層の開口部によって正確に制御されることを可能にし、例えば、そのような封止の問題を軽減する。
【0013】
一部の実施形態では、方法は、イオン伝導性膜と電気触媒層との間にマスキング層を提供するステップの前に、開口部のないマスキング層を提供する初期ステップと、マスキング層に開口部を切り込むステップと、を更に含む。これにより、開口部のサイズ及び形状、したがって電気触媒デカールのサイズ及び形状を必要に応じて制御及びカスタマイズすることが可能になる。当業者に理解されるように、開口部のサイズ及び形状は、触媒被覆イオン伝導性膜の使用目的によって決定される。例えば、開口部は、不規則若しくは規則的な形状、例えば、四辺形、例えば、実質的に長方形であり得、又は開口部は、実質的に円形又は楕円形であり得る。しかしながら、開口部のサイズ及び形状は限定されない。2つ以上の開口部が存在する場合、開口部は、好ましくは、実質的に同じ形状及びサイズである。
【0014】
一部の実施形態では、層を接触させるステップは、層を一緒にプレスすることを含む。一部の実施形態では、層は、ロールツーロール積層プロセスにおいて一対のローラの間で一緒にプレスされる。あるいは、層は、フラットベッドプレス又は同様の装置によって一緒にプレスされてもよく、これは、層が連続ウェブとしてではなく別個のパッチとして提供される実施形態において好ましい場合がある。
【0015】
一部の実施形態では、ローラ又はフラットベッドプレスは、例えば、100~200℃の範囲及び100~200℃を含む温度まで層を加熱する。正確な積層温度は、電気触媒層及びイオン伝導性膜に使用される材料に依存することが理解されるであろう。積層温度は、電気触媒層とイオン伝導性膜とを互いに接合させるのに十分に高温であるべきであるが、層をアニール又は損傷させるほど高温ではないことが好ましい。
【0016】
一部の実施形態では、方法は、層を接触させるステップの後に、マスキング層と電気触媒層の非露出領域とをイオン伝導性膜から除去するステップを更に含む。マスキング層及び電気触媒層の非露出領域の除去は、例えば、真空の使用によって容易にすることができる。代替的に、ロールツーロールプロセスでは、剥離バー又はアイドルローラの使用によって除去を達成することができる。
【0017】
一部の実施形態では、電気触媒層の非露出領域は、回収され、かつ更なる使用のためにリサイクルされ、それによって、電気触媒材料の浪費を低減する。例えば、回収された電気触媒は、インク又はペーストに再配合され、第1の態様の方法において使用するための新しい電気触媒層にされ得る。
【0018】
一部の実施形態では、電気触媒層は、イオン伝導性膜の両側に提供され、マスキング層は、イオン伝導性膜と各それぞれの電気触媒層との間に提供される。このような実施形態では、イオン伝導性膜の両面が電気触媒で同時に被覆され、それによって、方法の効率が改善される。
【0019】
一部の実施形態では、イオン伝導性膜は、膜シール接合体であるように、非イオン伝導性シール材料の2つの層の間に挟まれ、膜シール接合体は、1つ以上の内側領域及び1つ以上の境界領域を備え、内側領域は、非イオン伝導性シール材料を欠き、かつイオン伝導性であり、境界領域は、非イオン伝導性シール材料を備え、かつ非イオン伝導性である。したがって、内側領域は、活性面積である。膜シール接合体は、例えば、本出願人の以前の出願国際公開第2015/145129(A1)号に記載されているように、触媒被覆イオン伝導性膜の活性面積を超えて延在する膜材料の量を最小限に抑えることによって、高価な膜材料の浪費を低減することを目的としている。電気触媒層の露出領域が内側領域と実質的に整列し、かつマスキング層が境界領域と実質的に整列して、その結果、電気触媒層がイオン伝導性膜上に転写され、かつマスキング層が電気触媒層の1つ以上の露出領域が非イオン伝導性シール材料上に転写されるのを防止することが理解されるであろう。電気触媒層の露出領域は、膜シール接合体の内側領域の面積よりも面積が大きく、非イオン伝導性シール材料によって生じる段差を補償し、電気触媒層の転写時にイオン伝導性膜が完全に覆われ、かつ露出したままにならないことを確実にすることが有利である。しかしながら、実質的な量の電気触媒層を非イオン伝導性シール材料上に転写することは望ましくなく、したがって、典型的には、露出領域の面積は、電気触媒層の非イオン伝導性シール材料上への転写を容易にするほど大きくない。典型的には、電気触媒層の露出領域は、膜シール接合体の内側領域の面積よりも面積が大きく、その結果、電気触媒層の露出領域は、イオン伝導性膜の内側領域の周囲に、2mmまでの幅、典型的には1mm以上の幅を有するフレームを形成する。
【0020】
一部の実施形態では、イオン伝導性膜は、ポリマー電解質膜を含む。燃料電池又は電解槽、好ましくは、プロトン交換膜燃料電池又は電解槽などの電気化学セルでの使用に適したポリマー電解質膜のタイプは、当業者に知られており、かつプロトン伝導性ポリマー、又はヒドロキシルアニオン伝導性ポリマーなどのアニオン伝導性ポリマーを含むことができる。好適なプロトン伝導性ポリマーの例としては、パーフルオロスルホン酸アイオノマー(例えば、Nafion(登録商標)(E.I.DuPont de Nemours and Co.)、Aciplex(登録商標)(Asahi Kasei)、Aquivion(商標)(Solvay Speciality Polymers)、Flemion(登録商標)(Asahi Glass Co.)、又はFuMA-Tech GmbHからFumapem(登録商標)P、E又はKシリーズ製品として入手可能なものなどのスルホン化炭化水素に基づくアイオノマー、JSR Corporation、Toyobo Corporationなどが含まれる。好適なアニオン伝導性ポリマーの例としては、Tokuyama Corporationで製造されたA901及びFuMA-Tech GmbH製のFumasep FAAが含まれる。
【0021】
同様に、電気化学セルで使用するのに適した電気触媒のタイプは、当業者に知られている。例えば、電解触媒層は、燃料電池又は電解槽、好ましくは、プロトン交換膜燃料電池又は電解槽のカソード又はアノード電解触媒層であり得る。例えば、電気触媒は、白金族金属、すなわちルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム若しくは白金、又は白金族金属の合金を含むことができる。
【0022】
電解触媒層は、好ましくは、層のイオン伝導率を改善するために、プロトン伝導性アイオノマーなどのイオン伝導性ポリマーを含む。したがって、イオン伝導性材料は、ペルフルオロスルホン酸(例えば、Nafion(登録商標)(Chemours Company)、Aciplex(登録商標)(Asahi Kasei)、Aquivion(登録商標)(Solvay Specialty Polymer)、Flemion(登録商標)(Asahi Glass Co.)、及び3M(登録商標)製ペルフルオロスルホン酸アイオノマー材料)などのアイオノマー、又はスルホン化若しくはホスホン化されたポリマーである部分的にフッ素化又は非フッ素化された炭化水素に基づくアイオノマー、例えば、FuMA-Tech GmbHからfumapem(登録商標)P、E若しくはKシリーズの製品として入手可能なもの、JSR、東洋紡、並びに他の企業から入手可能なものなどを含み得る。好適には、アイオノマーは、パーフルオロスルホン酸、特にChemours社から入手可能なNafion(登録商標)シリーズ、特にNafion(登録商標)1100EW、及びSolvayから入手可能なAquivion(登録商標)シリーズ、特にSolvay(登録商標)830EWである。
【0023】
一部の実施形態では、マスキング層は、ポリマーフィルムを含む。好ましくは、ポリマーフィルムは、マスキング層による触媒被覆イオン伝導性膜の汚染を防止するために、層を積層するために使用される温度で熱的に安定なポリマーを含む。したがって、一部の実施形態では、ポリマーフィルムは、100~200℃の範囲及び100~200℃を含む温度で熱的に安定なポリマーを含む。一部の実施形態では、ポリマーフィルムは、ポリエーテルイミド、ポリイミド(polyimide、PI)、ポリエーテルスルホン(polyethersulphone、PES)、フッ素化エチレンプロピレン(fluorinated ethylene propylene、FEP)、エチレンテトラフルオロエチレン(ethylene tetrafluoroethylene、ETFE)、Viton(登録商標)、ポリエチレンオキシド(polyethylene oxide、PEO)、ポリフェニレンエーテル(polyphenylene ether、PPE)、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate、PET)、ポリエチレンナフタレート(polyethylene naphthalate、PEN)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile、PAN)、ポリ(p-フェニレンスルフィド)(poly(p-phenylene sulphide)、PPS)、ポリオレフィン及びシリコーン、好ましくはポリエチレンナフタレート(polyethylene naphthalate、PEN)、ポリエチレンイミン(polyethylenimine、PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(polyether ether ketone、PEEK)、ポリフェニレンスルフィド(polyphenylene sulfide、PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene、PTFE)、又はそれらの混合物を含む。マスキング層は、例えば、インクジェット又はグラビア印刷を使用して、電気触媒層上に印刷され得る。層を積層するために使用される温度で熱的に安定である任意の印刷可能なポリマーを使用することができる。マスキング層の印刷は、マスキング層に加えて、厚さプロファイルを含む更に高いレベルの精度を可能にする。好適には、印刷可能なインクに配合されるために溶媒を必要としない前駆体を有するポリマー、例えば、UV硬化ポリマーを使用することができる。
【0024】
一部の実施形態では、イオン伝導性膜、電気触媒層及びマスキング層は各々、別々に提供される。例えば、イオン伝導性膜、電気触媒層及びマスキング層の別々のウェブを、ロールツーロールプロセスにおいて一対の積層ローラの間に同時に供給することができる。
【0025】
他の実施形態では、電気触媒層及びマスキング層は、予め形成されたマスクされた電気触媒構成要素として一緒に提供される。好ましくは、マスキング層は、電気触媒層に接合される。一部のそのような実施形態では、マスキング層は、接着剤によって電気触媒層に接合される。好ましくは、接着剤は、接着剤による触媒被覆イオン伝導性膜の汚染を防止するために、層を積層するために使用される温度で熱的に安定である。したがって、一部の実施形態では、接着剤は、100~200℃の範囲及び100~200℃を含む温度で熱的に安定である。一部の実施形態では、接着剤は、シリコーン感圧接着剤などの感圧接着剤を含む。
【0026】
予め形成されマスクされた電気触媒構成要素は、ロールツーロールプロセスのための連続ウェブとして、又は個々のアセンブリプロセスのための別個のパッチとして提供され得る。
【0027】
一部の実施形態では、方法は、触媒被覆イオン伝導性膜の活性面積の周りにサブガスケットを適用するステップを更に含む。例えば、触媒被覆イオン伝導性膜は、接着剤によって触媒被覆イオン伝導性膜に接合される2つの半サブガスケット層の間に積層され得る。サブガスケットは、ロールツーロール積層プロセスにおいて、触媒被覆イオン伝導性膜に適用され得る。
【0028】
本開示の第2の態様によると、第1の態様の方法によって生成された触媒被覆イオン伝導性膜が提供されている。
【0029】
本発明の第3の態様によれば、第2の態様の触媒被覆イオン伝導性膜を備える、膜電極接合体が提供されている。膜電極接合体は、各電気触媒層に隣接するガス拡散層を備える。
【0030】
本発明の第4の態様によれば、第2の態様の触媒被覆イオン伝導性膜又は第3の態様の膜電極接合体を備える、燃料電池、好ましくはプロトン交換膜燃料電池が提供されている。
【0031】
本発明の第5の態様によれば、第2の態様の触媒被覆イオン伝導性膜又は第3の態様の膜電極接合体を備える、電解槽、好ましくはプロトン交換膜電解槽が提供されている。
【0032】
マスクされた電気触媒構成要素の生成方法
本発明の第6の態様によれば、触媒被覆イオン伝導性膜の製造に使用するためのマスクされた電気触媒構成要素を生成する方法が提供されている。本方法は、
電気触媒層を提供するステップと、
マスキング層を備えるマスキング構成要素を提供するステップであって、マスキング層が1つ以上の開口部を備える、提供するステップと、
マスクされた電気触媒構成要素を形成するようにマスキング層を電気触媒層と組み合わせるステップと、を含む。
【0033】
電気触媒層及びマスキング層に使用するのに適した材料は、第1の態様に関連して説明した通りである。例えば、一部の実施形態では、電気触媒層は、白金族金属又は白金族金属の合金を含む。
【0034】
好ましくは、マスクされた電気触媒構成要素を形成するようにマスキング層を電気触媒層と組み合わせるステップは、マスクされた電気触媒構成要素を形成するようにマスキング層を電気触媒層に接合するステップである。一部の実施形態では、マスキング層を電気触媒層に接合するステップは、ロールツーロール積層プロセスによって実施され、層は、一対のローラの間で一緒にプレスされる。
【0035】
一部の実施形態では、電気触媒層は、一時的キャリア層上に支持される。キャリア層は、電気触媒層を保護するのに役立ち、マスクされた電気触媒構成要素をロールに巻き取ることを可能にする。キャリア層は、マスクされた電気触媒構成要素が触媒被覆イオン伝導性膜を製造するためのプロセスにおいて使用される前に除去され得る。一時的キャリアは、電気触媒層を損傷なしに除去され得、かつ高温、例えば200℃までの温度で機械的強度/完全性を保持することができる、任意の好適な材料から形成され得る。好適な材料の例としては、フルオロポリマー、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、ペルフルオロアルコキシポリマー(perfluoroalkoxy polymer、PFA)、フッ素化エチレンプロピレン(FEP-ヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンとのコポリマー)、ポリオレフィン(例えば、二軸延伸ポリプロピレン(biaxially oriented polypropylene、BOPP))、及びポリエチレンテレフタレート(PET)が含まれる。
【0036】
好ましくは、マスキング層は、接着剤によって電気触媒層に接合される。そのような実施形態では、層は、マスキング層を電気触媒層に接合するために、加熱を必要としてもよく、又は必要としなくてもよい。しかしながら、マスクされた電気触媒構成要素は、例えば、第1の態様による方法では、電気触媒層がイオン伝導性膜に積層されるときに、触媒被覆イオン伝導性膜の製造プロセス中に加熱を受けてもよい。したがって、一部の実施形態では、接着剤は、触媒被覆イオン伝導性膜の積層中に接着剤が活性面積を汚染しないことを確実にするために、100~200℃の範囲及び100~200℃を含む温度で熱的に安定である。一部の実施形態では、接着剤は、シリコーン感圧接着剤などの感圧接着剤を含む。
【0037】
一部の実施形態では、マスキング構成要素は、マスキング層を電気触媒層に接合するステップ中にマスキング層を安定化させるための補強層を更に備える。マスキング層は、典型的には約10~30μm、好適には10~20μm、好ましくは10~15μmの厚さであり、したがって、補強層は、マスキング層が電気触媒層と接触させられている間にマスキング層(特に開口部の形状)が変形することを防止するための構造的安定性を提供する。
【0038】
補強フィルムは、プロセス中に機械的強度/完全性を保持することができる任意の材料を含むことができる。一部の実施形態では、補強層は、補強ポリマーフィルムを含む。補強材は典型的には高温の適用前に除去されるので、材料は高温で安定である必要はないことが好適である。したがって、材料は、低コストで機械的に堅牢な材料であり得る。一部の実施形態では、補強ポリマーフィルムは、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)を含む。PETは、低コストであり、かつ機械的に堅牢であるという利点を有する。一部の実施形態では、補強層は、接着剤によってマスキング材料に接合される。それぞれの層を一緒に接合するために接着剤が使用される実施形態では、補強層をマスキング層に接合するために使用される接着剤は、補強層が除去されるときにマスキング層が電気触媒層から分離しないことを確実にするために、マスキング層を電気触媒層に接合するために使用される接着剤よりも弱くあるべきである。別の言い方をすれば、補強層をマスキング層に接合するために使用される接着剤は、マスキング層を電気触媒層に接合するために使用される接着剤よりも粘着性が低くなければならない。
【0039】
一部の実施形態では、方法は、マスキング層を電気触媒層と組み合わせるステップの後に補強層を除去するステップを更に含み、これは、マスキング構成要素の厚さを最小限に抑える。補強層は、任意の好適な手段によって、例えば、連続ロールツーロールプロセスにおける剥離バー若しくはアイドルローラによって、又は真空の使用によって除去され得る。
【0040】
一部の実施形態では、電気触媒層及びマスキング構成要素は各々、連続ウェブの形態で提供され、マスキング層は、ウェブの長さに沿って複数の開口部を備える。一部のこのような実施形態では、マスクされた電気触媒構成要素が連続ウェブの形態で生成される場合、マスクされた電気触媒構成要素は、ロールに巻き上げられてもよく、又は触媒被覆イオン伝導性膜を製造するための更なるプロセスにおいて直接的に使用され得る。
【0041】
代替的に、一部の実施形態では、方法は、マスクされた電気触媒構成要素を別個のパッチに切り込むステップを更に含む。一部のそのような実施形態では、マスクされた電気触媒構成要素は、各パッチ内のマスキング層が単一の開口部を備えるように、マスキング層の開口部の間で切り込まれる。次いで、パッチを使用して、非ロールツーロールプロセスで個々の触媒被覆イオン伝導性膜を形成することができる。
【0042】
一部の実施形態では、方法は、触媒被覆イオン伝導性膜を製造するプロセス中にマスクされた電気触媒構成要素を整列させることを助けるために、マスクされた電気触媒構成要素に整列特徴部を切り込むステップを更に含む。触媒被覆イオン伝導性膜を製造するプロセスの間、マスクされた電気触媒構成要素中の整列特徴部は、イオン伝導性層又は膜中の対応する整列特徴部と整列され得、電気触媒層が膜上に正確に配置されることを可能にする。
【0043】
本発明の第7の態様によれば、第6の態様の方法によって生成されたマスクされた電気触媒構成要素が提供される。第7の態様のマスクされた電気触媒構成要素は、第1の態様の方法において使用され得る。
【0044】
マスクされた電気触媒構成要素
本発明の第8の態様によれば、燃料電池又は電解槽、好ましくはプロトン交換膜燃料電池又は電解槽などの電気化学セルの製造に使用するためのマスクされた電気触媒構成要素が提供されている。マスクされた電気触媒構成要素は、
第1の表面と、反対側に配置された第2の表面とを有する、電気触媒層と、
電気触媒層の第1の表面上に配置されたマスキング層と、を備え、
マスキング層は、1つ以上の開口部を備え、それによって、電気触媒層の第1の表面の1つ以上の露出領域及び1つ以上の非露出領域が提供される。
【0045】
第1の態様に関連して上述したように、電気触媒層の1つ以上の露出領域は、マスキング層の1つ以上の開口部に対応するが、電気触媒層の1つ以上の非露出領域は、開口部の周囲のマスキング層の下で覆われたままである。2つ以上の開口部があることが好ましく、それによって2つ以上の露出領域及び2つ以上の非露出領域が提供される。開口部のサイズ及び形状は、電気化学セルの使用目的によって決定される。例えば、開口部は、不規則若しくは規則的な形状、例えば、四辺形、例えば、実質的に長方形であり得、又は開口部は、実質的に円形又は楕円形であり得る。しかしながら、開口部のサイズ及び形状は限定されない。2つ以上の開口部が存在する場合、開口部は、好ましくは、実質的に同じ形状及びサイズである。
【0046】
一部の実施形態では、マスクされた電気触媒構成要素は、連続ウェブの形態(ロールグッド形態としても知られる)であり、電気触媒層及びマスキング層は各々、連続ウェブであり、マスキング層は、ウェブの長さに沿って複数の開口部を備え、それによって、電気触媒層の第1の表面の複数の露出領域及び非露出領域を提供する。開口部は、ウェブに沿って規則的な間隔で離間され得る。ロールグッド形態のマスクされた電気触媒構成要素は、ロール上に巻かれてもよく、それによって、ロールグッドアセンブリが形成される。
【0047】
他の実施形態では、マスクされた電気触媒構成要素は、別個のパッチの形態であり、これは、個々の触媒被覆イオン伝導性膜の製造において使用され得る。一部のそのような実施形態では、マスキング層は、単一の開口部を備え、それによって、電気触媒層の第1の表面の1つの露出領域及び1つの非露出領域が提供される。これは、触媒被覆イオン伝導性膜を製造するためのプロセス中に、電気触媒層の単一の露出領域が膜上に転写されることを容易にする。
【0048】
一部の実施形態では、マスクされた電気触媒構成要素は、電気触媒層の第2の表面上に配置されたキャリア層を更に備える。キャリア層は、電気触媒層を支持及び保護するのに役立ち、マスクされた電気触媒構成要素の連続ウェブをロールに巻き取ることを可能にする。好適なキャリア材料の例としては、フルオロポリマー、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、ペルフルオロアルコキシポリマー(PFA)、フッ素化エチレンプロピレン(FEP-ヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンとのコポリマー)、ポリオレフィン(例えば、二軸延伸ポリプロピレン、(BOPP))、及びポリエチレンテレフタレート(PET)が含まれる。
【0049】
電気触媒層及びマスキング層に使用するのに適した材料は、第1の態様に関連して説明した通りである。例えば、一部の実施形態では、電気触媒層は、白金族金属又は白金族金属の合金を含む。
【0050】
一部の実施形態では、マスキング層は、接着剤によって電気触媒層に接合される。好ましくは、接着剤は、接着剤による触媒被覆イオン伝導性膜の汚染を防止するために、触媒被覆イオン伝導性膜を製造するためのプロセスで使用される積層温度で熱的に安定である。したがって、一部の実施形態では、接着剤は、100~200℃の範囲及び100~200℃を含む温度で熱的に安定である。一部の実施形態では、接着剤は、シリコーン感圧接着剤などの感圧接着剤を含む。
【0051】
一部の実施形態では、マスクされた電気触媒構成要素は、例えば、本発明の第1の態様に従って触媒被覆イオン伝導性膜を製造するプロセス中にマスクされた電気触媒構成要素を整列させることを助けるための整列特徴部を備える。触媒被覆イオン伝導性膜を製造するプロセスの間、マスクされた電気触媒構成要素中の整列特徴部は、イオン伝導性層中の対応する整列特徴部と整列され得、電気触媒層がイオン伝導性膜上に正確に配置されることを可能にする。整列特徴部は、例えば、孔、ノッチ、スロット又は溝などの、マスキング層又はマスキング層及び電気触媒層に切り込まれた開口部であり得る。代替的に、整列特徴部は、整列のために視覚システムによって検出され得る、マスキング層又はマスキング層及び電気触媒層上に作製された可視マークであり得る。
【0052】
第8の態様のマスクされた電気触媒構成要素は、第1の態様の方法において使用され得る。
【0053】
第1、第2、第3、第6、第7、又は第8の態様に関連して説明される任意の特徴は、適宜、任意の他の態様と自由に組み合わせられてもよいことが理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0054】
以下の図面を参照して、本発明の実施形態をより詳細に説明する。これは例示的なものであり、本発明を限定するものではない。
図1】本発明の実施形態によるマスクされた電気触媒構成要素の斜視図である。
図2図1のマスクされた電気触媒構成要素の断面図である。
図3】本発明の実施形態によるマスクされた電気触媒構成要素の斜視図である。
図4図3のマスクされた電気触媒構成要素の断面図である。
図5】本発明の実施形態による触媒被覆イオン伝導性膜を製造するための方法を示すプロセスフロー図である。
図6】本発明の実施形態による触媒被覆イオン伝導性膜を製造するための方法を示すプロセスフロー図である。
図7】本発明の態様によるロールツーロールプロセスによって製造されている触媒被覆イオン伝導性膜を示す。
図8】本発明の一実施形態によるマスクされた電気触媒構成要素を製造するための方法を示すプロセスフロー図である。
図9】本発明の一実施形態によるマスクされた電気触媒化合物を製造するための方法を示すプロセスフロー図である。
図10A】本発明の方法によるマスクされた電気触媒構成要素を製造するためのロールツーロールベースのシステムのサブシステムを示す。
図10B】本発明の方法によるマスクされた電気触媒構成要素を製造するためのロールツーロールベースのシステムのサブシステムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0055】
図1及び図2は、本発明の一実施形態によるマスクされた電気触媒構成要素100を示す。示された実施形態では、マスクされた電気触媒構成要素100は、個々の触媒被覆イオン伝導性膜の製造に使用するための別個のパッチの形態である。
【0056】
マスクされた電気触媒構成要素100は、第1の表面4及び反対側に配置された第2の表面6を有する、電気触媒層2を備える。マスクされた電気触媒構成要素100は、電気触媒層2の第1の表面4上に配置されたマスキング層8を更に備える。マスキング層8は、マスキング層8の下に配置された電気触媒層2の領域を露出させる開口部10を含む。開口部10に対応する電気触媒層2の領域は、露出領域12と呼ぶことができ、一方で、開口部10の周囲のマスキング層8の下に残る電気触媒層2の領域は、非露出領域14と呼ぶことができる。図示された実施形態では、マスキング層8は、接着剤層16によって電気触媒層2に接合される。これは、マスクされた電気触媒構成要素のより容易な取り扱いを容易にするので好ましい。
【0057】
図3及び図4は、本発明の別の実施形態によるマスクされた電気触媒構成要素200を示しており、これは、別個のパッチではなく、連続ウェブ(ロールグッドで使用され得る)の形態である。図1及び図2に示す実施形態と図3及び図4に示す実施形態との間で共通である構成要素には、同じ参照番号が使用されている。
【0058】
図示された実施形態では、キャリア層18は、電気触媒層2の第2の表面6に隣接して提供されており、電気触媒層2を支持及び保護するのに役立つ。マスキング層8は、複数の開口部10を備える連続ウェブとして提供されており、それによって、電気触媒層2の複数の露出領域12が形成される。
【0059】
図示の実施形態では、触媒被覆イオン伝導性膜の製造中に、マスクされた電気触媒構成要素200をイオン伝導性膜と整列させることを助けるために、整列特徴部20が提供されている。整列特徴部20は、マスクされた電気触媒構成要素200に切り込まれたノッチである。整列特徴部20はまた、2つのそのような構成要素がイオン伝導性膜に同時に適用される場合、第2のマスクされた電気触媒構成要素との整列を補助し得る。
【0060】
図5は、本発明の実施形態による触媒被覆イオン伝導性膜を製造するための方法のフロー図を示す。第1のステップでは、イオン伝導性膜と、電気触媒層と、イオン伝導性膜と電気触媒層との間のマスキング層と、が提供される(306)。マスキング層は、電気触媒層の1つ以上の露出領域及び1つ以上の非露出領域を提供するために、1つ以上の開口部を備える。第2のステップでは、層を接触させ(308)、その結果、電気触媒層の1つ以上の露出領域がイオン伝導性膜上に転写され、かつマスキング層が、電気触媒層の1つ以上の非露出領域がイオン伝導性膜上に転写されることを防止する。
【0061】
したがって、マスキング層の開口部に対応する電気触媒デカールがイオン伝導性膜上に転写され、これは、マスキング層の開口部のサイズ及び形状を修正することによって、電気触媒デカールの正確なサイズ及び形状を正確に制御することを可能にする。結果は、非常に正確に画定された電気触媒層を有する触媒被覆イオン伝導性膜であり、これは意図された活性面積を越えて望ましくない距離まで延在しない。
【0062】
好ましくは、層を接触させるステップ308は、層を一緒にプレスすることを含む。層は、ロールツーロール積層プロセスにおける一対のローラの間で、又はフラットベッドプレスの2つのプレートの間で一緒にプレスされ得る。ローラ又はフラットベッドプレスは、別々の接着剤を使用する必要なく、電気触媒デカールをイオン伝導性膜に接着することを助けるために、100~200℃の範囲及び100~200℃を含む温度に層を加熱し得る。
【0063】
図6は、本発明の別の実施形態による触媒被覆イオン伝導性膜を製造するための方法のフロー図を示す。マスキング層が最初に提供され(302)、開口部がマスキング層に切り込まれる(304)。開口部のサイズ及び形状は、触媒被覆イオン伝導性膜における電気触媒層の要件に合わせて調整され得る。
【0064】
次に、イオン伝導性膜、電気触媒層、及びマスキング層が提供され(306)、マスキング層は、イオン伝導性膜と電気触媒層との間に提供される。マスキング層中の1つ以上の開口部は、電気触媒層の1つ以上の露出領域及び1つ以上の非露出領域を提供する。
【0065】
次いで、層を接触させ(308)、その結果、電気触媒層の1つ以上の露出領域がイオン伝導性膜上に転写され、かつマスキング層が、電気触媒層の1つ以上の非露出領域がイオン伝導性膜上に転写されることを防止する。前述したように、層を接触させること308は、層を一緒にプレスすることを含み得る。層は、ロールツーロール積層プロセスにおける一対のローラの間で、又はフラットベッドプレスの2つのプレートの間で一緒にプレスされ得、ローラ又はフラットベッドプレスは、層を100~200℃の範囲及び100~200℃を含む温度に加熱し得る。
【0066】
次のステップでは、マスキング層及び電気触媒層の非露出領域をイオン伝導性膜から除去し(310)、イオン伝導性層上に電気触媒デカールのみを残す。次いで、電気触媒層の非露出領域を回収し、更なる使用のために、例えば、プロセスの開始時に提供される(306)新しい電気触媒層において、リサイクルすることができる(312)。
【0067】
本発明による触媒被覆イオン伝導性膜を製造するためのロールツーロールプロセスを示す図7に示されるように、電気触媒層2(キャリア層又は裏打ちライナー18上に配置されて示される)は、イオン伝導性膜22の両側に提供され得、マスキング層8は、イオン伝導性膜22と各それぞれの電気触媒層2との間に配置される。
【0068】
層は、一対の積層ローラ24の間に同時に提供され、積層ローラ24は、層を積層し、かつ電気触媒層2の露出領域12(マスキング層8の開口部10に対応する)をイオン伝導性膜22上に転写する。次に、マスキング層8及び電気触媒層2の非露出領域14を(裏打ちライナー18とともに)イオン伝導性膜22から剥離し、電気触媒層の露出領域12を電気触媒デカールとしてイオン伝導性膜22上に残す。示されるロールツーロールプロセスにおいて、それぞれの層は各々、連続ウェブとして提供され、その結果、得られる触媒被覆イオン伝導性膜がまた、連続ウェブの形態で、すなわちロールグッド形態で生成される。次いで、触媒被覆イオン伝導性膜は、膜電極接合体を製造するためのロールツーロールプロセスにおいて直接的に使用されるか、又は将来の使用のためにロール上に巻き取られるかのいずれかであり得る。
【0069】
したがって、本発明のプロセスは、正確に画定された電気触媒デカールを有するロールグッド形態の触媒被覆イオン伝導性膜を製造するための高効率のプロセスを提供することができる。
【0070】
マスキング層8及び電気触媒層2は、ローラ24の間に提供される別々の層として示されているが、それらはまた、予め形成されたマスクされた電気触媒構成要素として一緒に接合されて提供され得る。
【0071】
図8は、本発明の一実施形態によるマスクされた電気触媒構成要素を製造するための方法のフロー図を示す。最初に、電気触媒層が提供され(402)、マスキング層を備えるマスキング構成要素が提供される(404)。次に、マスクされた電気触媒構成要素を形成するようにマスキング層が電気触媒層に接合される(406)。接合は必要ではないが、マスクされた電気触媒材料のより容易な取り扱いを容易にするので、接合が好ましい。マスキング層及び電気触媒層は、例えば、接着剤によって接合され得る。接着剤は、好ましくは、触媒被覆イオン伝導性膜を製造するためのプロセスで使用される積層温度で熱的に安定であるべきである。例えば、接着剤は、シリコーン感圧接着剤であり得る。
【0072】
図9は、本発明の別の実施形態によるマスクされた電気触媒構成要素を製造するための方法のフロー図を示す。電気触媒層が提供され(402)、マスキング層と補強層とを備えるマスキング構成要素が提供される(403)。補強層は、マスキング層を安定化させ、電気触媒層と接触させながらその形状を維持するのに役立つ。マスキング層を電気触媒層に接合する(406)前に、補強層をマスキング構成要素から除去することができる(405)。次に、マスクされた電気触媒構成要素に整列特徴部を切り込むことができる(410)。
【0073】
補強層を除去することは必須ではないが、触媒被覆イオン伝導性膜を製造するためのプロセス中にマスキング構成要素の厚さを最小限に抑えるのに役立つ。補強層を除去することはまた、補強層が、触媒被覆イオン伝導性膜を製造するためのプロセス中に使用される積層温度で熱的に安定である必要がないポリマーから作製され得ることを意味する。
【0074】
図10A及び図10Bは、本発明の実施形態による、マスクされた電気触媒構成要素を製造するためのロールツーロールベースのシステムのモデルサブシステムを示す。
【0075】
マスキング層と補強層とを備えるマスキング構成要素60は、マスキング層に開口部を切り込む回転ダイカッター62に供給される。マスキング層上に予め塗布された接着剤を覆う保護層64がまた、この時点で除去される。その時に、マスキング層に開口部を備えるマスキング構成要素が電気触媒層2上に静かに置かれる。マスキング構成要素及び電気触媒層は、ローラ66の間で一緒に積層される。次に、補強層68は、剥離バー70によってマスキング層から剥離され、マスキング層及び電気触媒層を備える、マスクされた電気触媒構成要素72が残る。
【0076】
整列特徴部は、回転ダイカッター74によって、マスクされた電気触媒構成要素に切り込まれ得る。次いで、マスクされた触媒構成要素は、触媒被覆イオン伝導性膜を製造するためのプロセスに直接的に提供されない場合、後の使用のためにロール76上に巻き取られてもよい。
【0077】
本発明の実施形態を例示するために本明細書で使用される図面は、正確な縮尺で作成されておらず、純粋に本発明の理解を助けるために提供されていることが理解されよう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
【国際調査報告】