IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ テンプル セラピューティクス ベスローテン フェンノートシャップの特許一覧

特表2024-521037末梢神経の線維症及び低酸素関連損傷を処置する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-28
(54)【発明の名称】末梢神経の線維症及び低酸素関連損傷を処置する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/198 20060101AFI20240521BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20240521BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240521BHJP
   A61K 38/05 20060101ALI20240521BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240521BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
A61K31/198
A61P25/02
A61P37/06
A61K38/05
A61K45/00
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023568494
(86)(22)【出願日】2022-05-04
(85)【翻訳文提出日】2023-12-21
(86)【国際出願番号】 IB2022054134
(87)【国際公開番号】W WO2022234489
(87)【国際公開日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】63/185,456
(32)【優先日】2021-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】521005890
【氏名又は名称】テンプル セラピューティクス ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】ゴーシュ ニラブ
(72)【発明者】
【氏名】グズマン ラファエル
【テーマコード(参考)】
4C084
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA09
4C084BA14
4C084BA23
4C084CA59
4C084MA02
4C084MA16
4C084MA28
4C084MA34
4C084MA63
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084NA15
4C084ZA201
4C084ZA202
4C084ZB081
4C084ZB082
4C084ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206GA20
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA36
4C206MA48
4C206MA54
4C206MA83
4C206MA85
4C206MA86
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZA20
4C206ZB08
4C206ZC75
(57)【要約】
本明細書には、末梢神経損傷、より詳細には末梢神経線維症などの低酸素関連組織損傷を処置及び予防するための方法及び組成物が記載される。記載される前記方法は、治療上有効量のグルタミンの供給源を末梢神経又は末梢神経を取り囲む1つ以上の組織に投与することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において末梢神経線維症を処置又は予防する方法であって、前記方法は、1つ以上の末梢神経又は1つ以上の末梢神経を取り囲む1つ以上の組織に投与することを含み、グルタミンの供給源を、1つ以上の末梢神経を含む手術前、手術中又は手術後に投与する、方法。
【請求項2】
1つ以上の追加用量のグルタミン供給源を、最初の投与の後の特定の期間、最初の投与の後の一定の時間間隔、及び/又は全ての外科的切開の閉鎖の直前に対象に投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記グルタミンの供給源を、1つ以上の末梢神経を含む手術中に投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記外科的処置が、前記対象の腹腔に影響する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記外科的処置が、前記対象の胸腔に影響する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記外科的処置が、前記対象の頭部、頸部、又は脊椎に影響する、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記外科的処置が、前記対象の1つ以上の四肢に影響する、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記グルタミンの供給源が、グルタミンを含むオリゴペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記オリゴペプチドが、ジペプチドである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ジペプチドが、L-アラニル-L-グルタミンである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記グルタミンの供給源が、L-グルタミンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記グルタミンの供給源が、D-グルタミンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記グルタミンの供給源を、追加の1つ以上の活性医薬成分と共に投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記グルタミンの供給源を、注射、局所投与、経皮投与、又はイオントフォレーシスによって投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
外科的処置を受ける対象において、1つ以上の末梢神経における癒着を処置又は予防する方法であって、前記方法は、末梢神経又は1つ以上の末梢神経を取り囲む組織に投与することを含み、前記グルタミンの供給源を、1つ以上の末梢神経を含む手術前、手術中又は手術後に投与する、方法。
【請求項16】
前記グルタミンの供給源が、グルタミンを含むオリゴペプチドである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記オリゴペプチドが、ジペプチドである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ジペプチドが、L-アラニル-L-グルタミンである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
対象の1つ以上の末梢神経に対する低酸素関連損傷を処置又は予防する方法であって、前記方法は、低酸素関連組織損傷を受ける組織に対して治療上有効量のグルタミン供給源を外科的処置中に対象に投与することを含み、前記グルタミンの供給源を、1つ以上の末梢神経を含む手術前、手術中又は手術後に投与する、方法。
【請求項20】
前記外科的処置が、前記対象の腹腔に影響する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記外科的処置が、前記対象の胸腔に影響する、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記外科的処置が、前記対象の頭部、頸部、又は脊椎に影響する、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記外科的処置が、前記対象の1つ以上の四肢に影響する、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記グルタミン供給源中のグルタミンが、L-グルタミンである、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記グルタミン供給源中のグルタミンが、D-グルタミンである、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
1つ以上の末梢神経又は末梢神経を取り囲む1つ以上の組織に有効量のグルタミンを投与することを含む、被験者の1つ以上の末梢神経に対する線維症の発生率を予防的に減少させる方法。
【請求項27】
低酸素関連の損傷を受けた末梢神経におけるHIF-1αを減少させる方法であって、前記方法は、1つ以上の末梢神経又は1つ以上の末梢神経を取り囲む1つ以上の組織へ投与することを含み、前記グルタミンの供給源を、1つ以上の末梢神経を含む手術前、手術中、又は手術後に投与する、方法。
【請求項28】
有効量のグルタミンの供給源を含む、対象における末梢神経の癒着又は線維症の処置又は軽減のためのキットであって、前記グルタミンの供給源を、外科的移植可能なフィルム、注射物質、局所用クリーム及びイオントフォレーシスに適した剤形からなる群から選択される剤形として製剤化する、キット。
【請求項29】
前記グルタミンの供給源及び生物学的に許容される担体を含むプレフィルドシリンジをさらに含む、請求項28に記載のキット。
【請求項30】
前記グルタミンの供給源を含浸した外科用フィルムをさらに含む、請求項28に記載のキット。
【請求項31】
前記グルタミンの供給源が、約10質量%~約50質量%である、請求項28に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象における低酸素関連組織損傷の処置に関する。より詳細には、本方法は、特定の投与計画に従って外科的処置の間に対象における低酸素関連組織損傷の処置に関する。
【背景技術】
【0002】
末梢神経系は、脳及び脊髄(中枢神経系)を全身につなぐ43対の運動神経及び感覚神経のネットワークである。これらの神経は、感覚、運動及び運動協調の機能を制御している。前記神経は、もろく、及び末梢神経損傷(“PNI”)は、外傷又は病期によって引き起こされ得る。慢性炎症、神経周囲癒着(perineural adhesions)、及び痕跡化(scaring)を伴う末梢神経線維症が、PNI患者でしばしば報告される。
【0003】
PNIの重症度は、低酸素症を含む様々な病理生理学的状態の存在によって影響を受け得る。慢性的な低酸素症及び低酸素症の期間は、末梢性ポリニューロパチーを誘発することが報告されている。分子レベルにおいて、低酸素症に対する応答は、酸素依存性のα-サブユニット(HIF-1α、HIF-2α)及び酸素依存性のβ-サブユニットからなる低酸素誘導因子(HIFs)によって組織化される。HIF-α-サブユニットは、構成的に発現し、及び酸素正常状態において速やかに分解される。しかしながら、低酸素下では、HIF-1α及びHIF-2αは、安定化し、及び活性転写複合体を形成する。前記複合体は、多数の下流標的遺伝子のプロモーター領域で低酸素応答エレメント(HRE)に結合し、集合的に低酸素に対する適応反応を開始する。低酸素状態下で、前記αサブユニットは、核に転移し、及び前記βサブユニットと共にヘテロ二量体を形成する。前記HIFヘテロ二量体は、低酸素応答性因子に結合し、及びさらに他のコアクチベーターと会合し、遺伝子発現を制御する。ここ数年の研究から、HIF1αシグナル伝達が、過剰なECMの活性及び産生を通じて、線維形成の促進に関与していることが示された。コラーゲン、フィブロネクチン、プロテオグリカンなどのECM因子の過剰な沈着は、組織線維化の特徴であり、及びHIF1αは、低酸素条件下でECM因子のアップレギュレーションに関与することが分かっている。さらに、線維性疾患におけるHIF1αの過剰発現は、線維症の病因にHIF1αが関与していることをさらに示している。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、末梢神経損傷、より詳細には末梢神経線維症などの低酸素関連組織損傷を処置及び予防するための化合物及び方法の必要性に関する。前記方法は、治療上有効な量のグルタミンの供給源を末梢神経又は末梢神経を取り囲む1つ以上の組織に投与することを含む。
【0005】
一態様は、対象における末梢神経線維症を処置又は予防する方法であり、前記方法は、1つ以上の末梢神経又は1つ以上の末梢神経を取り囲む1つ以上の組織に投与することを含み、グルタミンの供給源を、1つ以上の末梢神経を含む手術の前、手術中、又は手術後に投与する方法である。いくつかの実施態様において、1つ以上の追加用量のグルタミン供給源を、最初の投与の後の特定の期間、最初の投与の後の一定の時間間隔、及び/又は全ての外科的切開の閉鎖の直前に、対象に投与する。いくつかの実施態様において、グルタミンの供給源を、1つ以上の末梢神経を含む手術中に投与する。いくつかの実施態様において、グルタミンの供給源は、グルタミンを含むオリゴペプチドである。いくつかの実施態様において、前記オリゴペプチドは、ジペプチドである。いくつかの実施態様において、前記ジペプチドは、L-アラニル-L-グルタミンである。
【0006】
別の態様は、外科的処置を受けている対象において、1つ以上の末梢神経における癒着を処置又は予防する方法であって、前記方法は、末梢神経又は1つ以上の末梢神経を取り囲む組織に投与することを含み、前記グルタミンの供給源は、1つ以上の末梢神経を含む手術前、手術中、又は手術後に投与する方法である。
【0007】
別の態様は、対象の1つ以上の末梢神経に対する低酸素組織関連損傷を処置又は予防する方法であって、前記方法は、外科的処置の間に対象に低酸素関連組織損傷を受ける組織に治療上有効量のグルタミン供給源を投与する方法を含み、前記グルタミンの供給源を、1つ以上の末梢神経を含む手術前、手術中、又は手術後に投与する方法である。
【0008】
別の態様は、1つ以上の末梢神経又は前記末梢神経を取り囲む1つ以上の組織に有効量のグルタミンを投与することを含む、対象の1つ以上の末梢神経に対する線維症の発生率を予防的に減少させる方法である。
【0009】
別の態様は、低酸素関連の損傷をうけた末梢神経におけるHIF-1αを減少させる方法であって、前記方法は、1つ以上の末梢神経又は1つ以上の末梢神経を取り囲む1つ以上の組織へ投与することを含み、前記グルタミンの供給源を、1つ以上の末梢神経を含む手術前、手術中、又は手術後に投与することを含む方法である。
【0010】
別の態様は、有効量のグルタミンの供給源を含む、対象における末梢神経の癒着又は線維症の処置又は軽減のためのキットであり、前記グルタミンの供給源は、外科的移植可能なフィルム、注射物質、局所用クリーム、及びイオントフォレーシスに適した剤形からなる群から選択される剤形として製剤化される、キットである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A図1Aは、初代ラットの線維芽細胞の単離の概略図である。
図1B図1Bは、単離された細胞の形態学的及び表現型的特徴が同定され、及びα-SMA、HSP47及びVimentinを含む特定的なマーカーについてICCイメージングで確認されたことを示す。
図1C図1Cは、表現型の特徴付けの後、3つの異なる実験条件下で実験に使用された初代線維芽細胞を示す。
図2図2A~Bは、本発明の実施態様で処置した低酸素の初代ラットの線維芽細胞の細胞増殖及び細胞死の結果を示す。
図3図3A及び図3Bは、本発明の実施態様で処置した初代線維芽細胞におけるHIF-1α及び線維化促進因子の発現の減少を示す。
図4図4A~4Eは、本発明の実施態様による、in-vitro慢性低酸素モデルにおける線維化促進マーカーの発現の減少を示す。
図5図5A~5Eは、本発明の実施態様による、in-vitro慢性低酸素モデルにおける線維化促進マーカーの発現の減少を示す。
図6図6A及び6Bは、本発明の実施態様による、末梢神経線維症に関連したFBN及び他の線維化促進因子の発現の減少を示す。
図7図7A~7Cは、本発明の実施態様による、低酸素の初代ラットの線維芽細胞の線維化促進及び接着バイオマーカーの発現の減少を示す。
図8図8は、本発明の実施態様による、低酸素の初代ラットの線維芽細胞の特定的な線維化促進バイオマーカー及び癒着バイオマーカーの制御を介したシグナル伝達経路の調節を示す。
図9図9A及び9Bは、本発明の実施態様による、in-vitro慢性低酸素モデルにおける線維化促進マーカーの発現の減少を示す。
図10図10A及び10Bは、本発明の実施態様による、in-vitro慢性低酸素モデルにおける線維化促進マーカーの発現の減少を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(図面及び現在好ましい実施形態の詳細な説明)
以下の段落は、本明細書に記載の前記発明の実施態様をより詳細に定義する。以下の実施態様は、本明細書に記載される本発明、実施態様、又は特定の態様の範囲から逸脱することなく、適切な変更及び適合がなされ得ることが当業者にとって容易に明らかであるように、本発明を限定すること又はその範囲を狭めることを意味するものではない。本明細書に引用される全ての特許及び刊行物は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0013】
“グルタミン供給源”又は“グルタミンの供給源”という用語は、グルタミン及びその生理学的に許容される塩、並びに本明細書に記載されるようなグルタミンコンジュゲート及びグルタミンを含むペプチドを含む。
“投薬量”又は“用量”又は“剤形”という用語は、本明細書で使用される場合、単回投与又は複数回投与で療法効果を生み出すのに十分な量を含有するグルタミン供給源の任意の形態又は製剤を指す。
“外科的切開”という用語は、本明細書で使用される場合、腹腔鏡又は他の最小侵襲手術的技法のために作られた切開又は侵入点を含む外科的処置の前又は最中に、メス、レーザー、又は他の切断器具などの切断器具により作られた創傷を意味する。
“の予防”という用語は、本明細書で使用される場合、低減させるという意味を含む。低減量は、約0.001%~約100%であり得る。
“有効量”という用語は、所望の効果を達成する量である。例えば、本発明において、1つ以上のグルタミン供給源の有効量は、1つ以上の投与後に、低酸素関連組織損傷を予防又は低減する量である。
“薬物負荷”という用語は、本明細書で使用される場合、剤形の合計質量に対するグルタミン供給源の質量%を指す。
“製剤”又は“組成物”という用語は、本明細書で使用される場合、1つ以上の薬学的に許容される希釈剤及び/又は賦形剤と組み合わされたグルタミン供給源を指す。
“長期放出(extened release)”又は“持続放出(sustained release)”という用語は、本明細書で使用される場合、生理学的条件下又はin vitro試験において、長期間にわたり所望のプロファイルに従って活性成分を放出する組成物を指す。“長期間”とは、少なくとも約1時間、約2時間、約4時間、約6時間、約8時間、約10時間、約12時間、約14時間、約16時間、約18時間、約20時間、約24時間、又はそれよりも更に長期の、具体的には生理学的条件下又はin vitroアッセイにおいて約18時間の期間にわたる連続した期間を意味する。
“遅延放出”という用語は、本明細書で使用される場合、活性成分が初期に放出されないように、例えば、数日、数分間又は数時間の期間後に、活性成分を放出する組成物を指す。遅延放出組成物は、例えば、生理学的条件下で又はin vitro試験において、ある特定の期間後に剤形からの薬物又は有効成分の放出を提供することができる。
【0014】
“処置”という用語は、障害に関連する状態、症状、障害、若しくはパラメータ、又はそれらの起こり易さを改善する(例えば、療法効果)ために有効な量、様式、又はモードで療法を施すことを指す。いくつかの実施態様において、“処置”という用語は、外科手術後の癒着形成を処置又は予防することを指す。他の実施態様では、“処置”という用語は、外科的手術を受けている患者の低酸素関連組織損傷を処置又は予防することを指す。
“予防的に処置する”という用語は、障害に関連する状態、症状、障害、若しくはパラメータを被る前にある量での療法を施すこと、又はそれらの起こり易さを低減することを指す。
“対象”という用語は、動物及びヒトを含むあらゆる哺乳動物を指す。前記対象は、その処置を必要とする医学的な患者であってもよい。一実施形態では、対象はヒトである。
“予防する”又は“低減する”という用語は、統計的に有意な程度又は当業者が検出可能な程度のいずれかまで、癒着又は線維症などの障害の進行を予防又は低減することを指す。
“実質的に”という用語は、本明細書で使用される場合、完全ではないが、重大な又は著しい程度であることを意味する。
“a”又は“an”は、本明細書で使用される場合、別様の指定がない限り、1つ又は複数を意味する。
“含む(include)”、“含むこと(including)”、“含有する(contain)”、“含有すること(containing)”、及び“有すること(having)”等の用語は“含むこと(comprising)”を意味する。
【0015】
本明細書に記載されるのは、低酸素関連組織損傷を処置するための方法であり、及び特に、特定の時間にグルタミン供給源を投与することによって末梢神経損傷及び末梢神経の線維性癒着を予防又は処置するための方法である。本明細書に記載される前記方法は、特定の期間内に少なくとも1回、対象にグルタミン供給源を投与することを含む。特定の実施態様において、前記グルタミン供給源を、対象に1回以上投与する。例えば、対象は、指定された期間内にグルタミン供給源の最初の用量を受け、次いで、指定された期間、一定の時間間隔、及び/又は全ての外科的切開の閉鎖の直前、及び/又は手術の完了後の期間にグルタミン供給源の1回以上の追加用量を受ける。
【0016】
本明細書に記載されるいくつかの実施態様は、末梢神経に対する低酸素関連組織損傷又は線維症を処置又は軽減する方法である。線維症は、コラーゲンの過剰な沈着、ECMマトリックスの収縮、組織損傷及び異常な創傷治癒によって特徴づけられる。痕跡化及び組織線維化は、線維芽細胞を含むエフェクター細胞の過剰活性化によって引き起こされる。線維芽細胞の過剰活性化及び筋線維芽細胞への分化は、コラーゲン形成及び痕跡組織の形成の量の差を生じさせる。末梢神経における過剰なコラーゲンの沈着は、損傷部位での軸索再生を阻害する。さらに、コラーゲンの架橋は、プロテアーゼ分解に抵抗力のある組織破壊を誘導する。慢性的な損傷による組織の線維化は、いくつかの細胞内及び細胞外因子の一連の生化学的シグナル伝達が関与する。これに加えて、低酸素の微小環境の存在は、組織損傷及び末梢性ニューロパチーを促進し得る。
【0017】
HIF-1は、線維芽細胞に作用し、低酸素条件下でECMマトリックスを制御することにより、組織構造及び線維症の重要なレギュレーターになっている。併せて、有力な証拠は、HIF1αが、様々な臓器の複雑な線維化を調節し、及びHIF1αのシグナル伝達は、臨床的に重要であることを示唆する。線維芽細胞及びマクロファージの病理学的結果に対するその役割は、PNIにおける薬理学的及び遺伝学的阻害のターゲットとしても適している。さらに、HIF-1シグナル伝達カスケードのいくつかの構成要素は、様々な細胞外増殖因子の生化学的シグナル伝達を制御しており、組織リモデリングにおけるその多様な役割をさらに示している。
【0018】
グルタミンは、吸収が良く、創傷治癒を促進し、並びに好中球、マクロファージ、及びリンパ球の機能を調節する条件付き必須アミノ酸である。抗酸化作用のあるグルタチオンの産生のための基質としても機能する。異化ストレス(外傷、敗血症、熱傷)の間、グルタミンを、筋肉の貯蔵から血清中に放出し、及び筋肉中のグルタミンの細胞内レベルは、低下する。前記組織、特に内臓器官は、グルタミンを急速に取り込み、及びグルタミンの血清濃度は、その後に低下する。以前の研究では、ラットモデルにおいて腹膜癒着形成を予防するグルタミン含有溶液の有効性が実証されている。米国特許第9,011,883号を参照。
【0019】
さらに、グルタミンは、安全であり、吸収が良く、及び副作用は報告されていない。グルタミンは、創傷治癒を促進することが知られている。グルタミン及びそのジペプチドは、重症患者及び他の臨床現場において、非経口及び経腸的な補足成分として使用されてきた。グルタミンの供給源の最初の使用は、経腸投与(例えば、食品サプリメント)又は静脈経路による非経口投与のいずれかで採用されてきた。少なくとも1つの研究は、腹膜などの高血管領域へのグルタミンの投与を記載しており、血管系に容易に吸収されやすい。これらの部位では、L-グルタミンは、脈管切除及び癒着形成を引き起こす腹膜縫合による血管新生の喪失を予防した。従って、グルタミンは、血管系に取り込まれ及び血管新生の喪失を防ぐことにより、線維化及び癒着形成を防ぐことができると考えられた。本明細書に記載されるように、グルタミン供給源の末梢神経又は前記末梢神経を取り囲む細胞への適応は、線維症及びそれに伴う癒着が著しく減少させることが発見された。
【0020】
本明細書に記載されるいくつかの実施態様は、外科的処置を受けている対象の癒着形成、線維症、又は低酸素関連組織損傷を処置又は低減する方法である。本明細書で企図される例示的及び非限定的な外科的処置は、対象の頭部若しくは頸部、骨盤腔、腹腔、胸腔、又は1つ以上の対象の四肢に影響を及ぼす手術及び処置を含む。骨盤腔に影響を及ぼす手術の例は、これらに限定されないが、筋腫析出術、卵巣摘出術、子宮摘出術、子宮内膜症の除去、卵管結紮術を含み、つまり、これらに限定されないが、子宮、卵巣、管、前立腺、尿道を含む生殖器官、並びに膀胱、骨盤結腸、及び直腸のいずれかに関与する任意の腹腔鏡、腹壁切開、若しくは開放手術あるいは処置(拡張及び掻爬、IVF等の子宮の膣内処置を含む)、又は主要な動脈、静脈、筋肉、及び骨盤腔の神経、膜、靭帯、若しくは内臓に関与する任意の手術が含まれる。腹腔に影響を及ぼす手術の例としては、これらに限定されないが、胆嚢摘出、肝臓切除、ラップバンド手術、結腸吻合、虫垂切除術、つまり、胃、肝臓、膵臓、脾臓、胆嚢、腎臓、並びに小腸及び大腸のほとんどに関与する任意の手術、主要な動脈、静脈、筋肉、及び腹腔の神経、膜、靭帯、又は内臓に関与する任意の手術を含む。胸腔に影響を及ぼす手術の例としては、これらに限定されないが、腹腔鏡又は腹壁切開又は開胸心血管手術及び処置、肺手術、肝臓手術、胆嚢手術、主要な動脈、静脈、筋肉、及び胸腔の神経、膜、靭帯、骨、又は内臓に関与する任意の手術を含む。対象の四肢の1つ以上に影響を及ぼす手術の例としては、これらに限定されないが、腕、脚、肘、肩、脊椎に関与する腹腔鏡又は腹壁切開又は開放手術を含むが、これらに限定されないが、主要な動脈、静脈、筋肉、及び神経、膜、靭帯、骨、又は内臓に関与する任意の手術を含み、頭頸部に影響を及ぼす手術の例としては、これらに限定されないが、脳眼科手術又は処置、耳、鼻咽頭、歯、歯茎及び顎の手術又は処置、顔、頭部及び頸部の美容再建手術及び処置、歯、歯茎及び顎の美容処置、主要な動脈、静脈、筋肉、及び頭頸部の神経、膜、靭帯、骨、又は内臓に関与する任意の手術を含む、腹腔鏡又は腹壁切開又は開放手術及び処置を含む。
【0021】
一実施態様において、グルタミンの供給源を、対象に1つ以上の末梢神経を含む手術の前、同時、又は後に投与する。事前の投与は、1つ以上の末梢神経が、線維症及び最終的な癒着を受けることから保護される。ある場合にはグルタミンの供給源の事前投与は、対象の関節炎及び手術後の回復時間をさらに短縮又は処置し得る。別の実施態様において、グルタミンの供給源を、1つ以上の末梢神経を含む手術を受けた後に対象に投与する。同様に、1つ以上の末梢神経を、さらなる線維化及び癒着を受けることから保護する。グルタミンの供給源の投与は、癒着を減少させ得ると考えられる。
【0022】
別の実施態様では、グルタミンの供給源を、対象が1つ以上の末梢神経に損傷を受けた後に、投与する。前記末梢神経の損傷は、事故、転倒、又はスポーツによって神経が引き伸ばされたり、圧迫されたり、押しつぶされたり、若しくは切断すること;糖尿病、ギラン-バレー症候群、及び手根管症候群などの医学的状態;狼瘡、関節リウマチ、シェーグレン症候群を含む自己免疫疾患;並びに動脈の狭窄、ホルモンバランスの乱れ及び腫瘍、化学療法又は放射線療法を含む癌治療を含む他の原因から生じ得る。
【0023】
いくつかの実施態様において、対象は、以前に1つ以上の末梢神経に手術又は損傷を受け、及びグルタミンの供給源を投与され、及び末梢神経の線維症及び/又は癒着の量の減少を有する。いくつかの実施態様において、対象の末梢神経における線維症及び癒着の減少の量は、グルタミンの供給源の投与後の被験者において少なくとも10%である。いくつかの実施態様において、過去に手術又は損傷を有する対象内の癒着の減少の量は、少なくとも約20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、99%、又はさらには100%である。
【0024】
いくつかの実施態様において、線維症、炎症、血管新生、免疫細胞湿潤、痕跡化、関節柔軟性の低下、関節痛、若しくはそれらの状態の組み合わせを含む、1つ以上の末梢神経又は末梢神経に隣接した若しくは末梢神経を取り囲む1つ以上の組織の1つ以上の病理学的状態は、対象の1つ以上の末梢神経又は1つ以上の末梢神経を取り囲む1つ以上の組織にグルタミンの供給源を投与することにより軽減される。
【0025】
いくつかの実施態様において、末梢神経の1つ以上の病理学的状態の減少の量は、少なくとも約20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、99%又はさらに100%まで減少する。前記末梢神経のこれらの病理学的状態を、当技術分野で公知の臨床試験により評価し得る。
【0026】
いくつかの実施態様において、グルタミンの供給源を、末梢神経又は末梢神経の周りを取り囲む1つ以上の組織におけるグルタミンの滞留時間の増加を指せる方法で、1つ以上の末梢神経に投与する。いかなる理論にも縛られることなく、グルタミンが、癒着又は線維症の事象を受けやすい末梢神経又は組織と接触している時間を増加させることは、癒着又は線維症の程度をより大きく軽減すると考えられる。グルタミンは、本質的に回転率が高く、及びリンパ球及びマクロファージを含む免疫細胞に速やかに吸収される。
【0027】
いくつかの実施態様において、グルタミンの供給源を、単回投与で1つ以上の末梢神経に投与し、有効量のグルタミンは、少なくとも約30分~約48時間、投与部位又はその近くで保持される。いくつかの実施態様において、単回投与後の有効量のグルタミンは、少なくとも約1時間、約2時間、約4時間、約6時間、約8時間、約10時間、約12時間、約16時間、約20時間、約24時間、約28時間、約32時間、約36時間、約40時間、約44時間、又は約48時間、投与部位又はその近くで保持される。
【0028】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載される末梢神経の癒着又は1つ以上の病理学的状態を軽減するためのグルタミンの供給源の有効量を、単回投与量で投与する。いくつかの実施態様において、単回投与で投与されるグルタミンの供給源の量は、対象の体重の約0.0001g/kg~約5g/kgの範囲である。いくつかの実施態様において、単回投与で投与されるグルタミンの供給源の量は、約0.0001g/kg、約0.001g/kg、約0.01g/kg、約0.05g/kg、約1g/kg、約1.5g/kg、約2g/kg、約2.5g/kg、約3g/kg、約3.5g/kg、約4g/kg、約4.5g/kg、約5g/kgである。対象に投与されるグルタミンの供給源の正確な量は、処置される前記末梢神経が受けた手術又は損傷、並びに対象の既存の線維性又は癒着の量及び病歴に応じて異なる。グルタミンは、無害なアミノ酸であるため、予期される副作用はなく、大量に投与し得る。
【0029】
本明細書に記載されるいくつかの実施態様は、対象における末梢神経線維症及び癒着を軽減するための医薬剤形である。いくつかの実施態様は、本明細書に記載される医薬剤形で、それを必要とする対象を処置するための方法である。適切な医薬剤形は、組織または末梢神経を取り囲む組織に投与するための、グルタミンの供給源及び他の医薬的に許容される担体並びに賦形剤を含む。
【0030】
いくつかの実施態様において、グルタミン供給源は、グルタミン又は任意の薬学的に許容されるその塩を含む。いくつかの実施態様において、前記グルタミンの供給源は、D-グルタミン(D-glutatime)を含むか、若しくはD-グルタミンであるか、又はL-グルタミンを含むか、若しくはL-グルタミンである。L-グルタミンは、比較的低い水溶性(すなわち、室温で約40g/L)及び保管中の低い安定性を有することが知られている。
【0031】
従って、グルタミンの供給源は、また、さらなるキャリアアミノ酸を含むことができ、又はグルタミンは、オリゴペプチドの一部として組み込まれることができ、L-グルタミンの溶解度及び安定性の一方若しくは両方を増加させ得る。前記オリゴペプチドは、任意の天然に存在する又は天然に存在しないアミノ酸を含み得る。適切なオリゴペプチドは、L-グルタミンを含み、及びL-グルタミンを供給するために代謝されることができる。好ましくは、そのようなペプチドは、L-グルタミンの増加した水溶性及び増加した安定性を示す。多くの場合、そのようなペプチドは、また、殺菌及び保存中の分解に対する増加した耐性を示す。L-グルタミンを含むオリゴペプチドは、当技術分野で公知の切断可能なリンカーペプチド部分をさらに含み得る。これらの切断可能なリンカーを、様々な骨格及びインプラントへの付着のため、並びに本明細書に記載される投与方法のために利用し得る。いくつかの実施態様において、前記グルタミンの供給源は、ジペプチドの一部として組み込まれたL-グルタミンである。使用され得る2つのそのようなジペプチドは、L-グルタミン及びL-アラニン又はグリシンのいずれかを含むジペプチドである。前記ジペプチドのアラニル-グルタミン(C末端にグルタミン残基)は、水への高い溶解性(568g/L)を有する。グリシル-グルタミン(C末端にグルタミン)も、グルタミンに比べて水への高い溶解性を有する(154g/L)。後者のジペプチドのそれぞれは、加熱殺菌及び長期保存に十分安定であるため、それらは、静脈注射用の完全非経口栄養製剤に以前から採用されている。従って、一実施態様において、前記グルタミンの供給源は、L-アラニル-L-グルタミンを含む。他の実施態様において、前記グルタミンの供給源は、ジペプチドの一部として組み込まれたD-グルタミンを含む。使用され得る2つのそのようなペプチドは、D-グルタミン及びD-アラニン又はグリシンのいずれかを含むジペプチドである。従って、一実施態様において、前記グルタミンの供給源は、D-アラニル-D-グルタミンを含む。いくつかの実施態様において、前記グルタミンの供給源は、グルタミンを含むオリゴペプチドの一部として供給され、当該グルタミンの供給源の水溶性及び水溶液中での安定性は、グルタミン単体よりも高い。他の実施態様において、前記グルタミン供給源は、グルタミンコンジュゲートであり、少なくとも1つのグルタミン残基は、アミノエステル結合を介して化合物と結合している。そのようなグルタミン供給源の例は、ジクロロアセチルグルタミン、アセチルグルタミン、ブチリルグルタミン、ピルビルグルタミン、及びアミノエステル結合を介して任意の他の適切な有機酸とコンジュゲートしたグルタミンを含むが、これらに限定されない。
【0032】
L-アラニル-L-グルタミンは、創傷治癒、免疫調節並びにECMマトリックス及び腹膜線維症の調節を促進する能力として知られるジペプチドである。私たちは、線維症組織における低酸素症は、傷害及び組織損傷の程度に応じて、慢性的なもの及び急性のものであり得ると考える。慢性低酸素症は、正確な傷害部位に存在すると仮定され、私たちは、一貫した低酸素症又は連続的な低酸素症として表現した。一方で、急性低酸素症は、不規則又は一時的な低酸素症に代表されるような正確な傷害部位から末梢端に存在し得る。任意の特定の理論に拘束されるわけではないが、本発明者らは、驚くべきことに低酸素の初代ラットの線維芽細胞にL-アラニル-L-グルタミンなどのグルタミン供給源を投与すると、HIF1-αが劇的にダウンレギュレートすることを見出した。さらに、HIF1-αは、SMADシグナル伝達を含む他の線維化促進因子を調節するので、本発明者らは、グルタミン供給源がこれらの因子も同様にダウンレギュレートできることを見出した。結果的に、本発明者らは、グルタミン供給源を投与すること、観察により、L-アラニル-L-グルタミンが低酸素傷害の両方の様式(慢性的な及び一時的な)を調整するという結論に至った。
【0033】
L-グルタミン及びペプチドを含むL-グルタミン(L-アラニル-L-グルタミンを含む)の薬学的に許容される製剤は、市販されている。さらに、本明細書に記載される方法において使用するためのペプチドを含むL-グルタミンも、既知の方法論に従って合成することができ、並びに医薬的使用のために精製及び殺菌し得る。他の薬学的に許容されるものを、D-グルタミン及びペプチドを含むD-グルタミン(D-アラニル-D-グルタミンを含む)の調製物含むがこれらに限定されない、本発明の実施態様に従って調製し得る。
【0034】
いくつかの実施態様において、前記グルタミンの供給源を、1つ以上の追加の医薬品有効成分と投与する。前記追加の医薬品有効成分を、グルタミンの供給源と同様の方法又は異なる適切な非経口的方法若しくは経腸的方法で投与することができる。いくつかの実施態様において、追加の1つ以上の医薬品有効成分を、グルタミンの供給源の投与前、投与と同時に、又は投与後に同じ投与経路によってグルタミンの供給源とともに投与する。他の実施態様において、追加の1つ以上の医薬品有効成分を、グルタミンの供給源の投与前、投与と同時に、又は投与後に異なる投与経路によってグルタミンの供給源とともに投与する。適切な医薬品有効成分は、関節痛、炎症、又は癒着を処置するために使用される任意の医薬品又は薬剤を含む。例示的な及び非限定的な医薬品は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)アセクロフェナック、アセメタシン、アモキシプリン(amoxiprin)、アスピリン、アザプロパゾン、ベノリラート、ブロムフェナク、カルプロフェン、セレコキシブ、サリチル酸コリンマグネシウム、ジクロフェナク、ジフルニサル、エトドラク、エトリコキシブ、ファイスラミン(faislamine)、フェンブフェン、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、ケトロラク、ロルノキシカム、ロキソプロフェン、メロキシカム、メクロフェナミン酸、メフェナム酸、メロキシカム、メタミゾール、サリチル酸メチル、サリチル酸マグネシウム、ナブメトン、ナプロキセン、ニメスリド、オキシフェンブタゾン、パレコキシブ、フェニルブタゾン、ピロキシカム、サリチル酸サリチル、スリンダク、スルフィンピラゾン、スプロフェン、テノキシカム、チアプロフェン酸、トルメチン、又はバルデコキシブ;セレコキシブ、ロフェコキシブ、プロスタグランジンなどの選択的COX-2阻害剤;ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、及びグルコサミンなどの抗関節炎サプリメント;ベタメタゾン、メチルプレドニゾロン、及びトリアムシノロンなどのコルチコステロイドを含む。前記グルタミンの供給源を、葉酸代謝拮抗薬(anti-folates)、メトトレキサート、レフルノミド、ミコフェノール酸モフェチル、スルファサラジン、アプレミラスト、トファミチニブ;トシリズマブ、セルトリズマブ、エタネルセプト、アダリムマブ、アナキンラ、アバタセプト、インフリキシマブ、及びリツキシマブなどの生物製剤を含むが、これらに限定されない疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)などの抗自己免疫疾患薬さらに投与し得る。
【0035】
いくつかの実施態様において、前記グルタミンの供給源を、関節内注射、局所投与、経皮投与、イオンフォレーシス、又は外科的に投与する。
いくつかの実施態様において、前記グルタミンの供給源を、当技術分野で公知の関節内注射方法を含む注射によって、末梢神経又は末梢神経を取り囲む組織への送達のために処方する。一実施態様において、前記グルタミン供給源(例えば、L-アラニル-L-グルタミン)を、減菌蒸留水、減菌等張液、減菌生理食塩水、又は希釈されるとそのような溶液を形成する乾燥緩衝剤及び/又は塩混合物若しくは濃縮物(concentrations)などの薬学的に許容され得る担体とともに、水溶液の一部として製剤化し得る。
【0036】
いくつかの実施態様において、前記製剤は、水相に溶解したグルタミン供給源を含む、液体、ペースト、微粒子(リポソーム及び他の小胞を含むが、これらに限定されない)、又はゲルであり得る。本明細書に記載される組成物は、そのような製剤であることができ、又は水和した場合にそのような製剤を生成することを意図した組成物であり得る。その最も簡単な形態において、本発明で使用するための製剤は、減菌水性液体ビヒクルに溶解したグルタミン供給源からなり、手術中に末梢神経に注入するために、又はその後に実施される関節内注射のために適している。前記製剤を、腹腔鏡手術又は椎弓切除術の際に作成されたポートから注入し得る。
【0037】
いくつかの実施態様において、前記グルタミンの供給源を、ゲル又はヒドロゲルの一部として製剤化する。ヒドロゲル製剤は、例えば、L-グルタミン又は少なくとも1つのグルタミン残基を含むジペプチド若しくはトリペプチドを含む適切な薬物の長期送達を可能にする。ヒドロゲルは、典型的には、薬物の高濃度適用をさらに可能にするデポー(depot)を形成する。グルタミンの供給源を含む前記ヒドロゲルを、投与前に生成し、及びさらなる移植のためにグルタミンの供給源を含浸し得る。あるいは、pH及び温度を含む環境変化後にin situで形成するヒドロゲルを、関節内注射に利用し得る。in situヒドロゲル形成のための様々な物理的及び化学的架橋ポリマーが、当技術分野で公知である。例示的な及び非例示的なヒドロゲルは、ポリエチレンオキシド(PEO)プロピレンオキシド(PPO)、ポリ(乳酸-Co-グリコール酸)(PLGA)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(プロピレンフマレート)、ポリ(カプロラクトン)等のブロックを含むコポリマーが挙げられ得る。適切なヒドロゲルは、また、天然に存在するタンパク質及びペプチドから生成され得る。特定のヒドロゲル製剤は、適用部位又は処置される特定の関節によって決定され得る。
【0038】
いくつかの実施態様において、前記グルタミンの供給源を、当該グルタミンの供給源を含む移植可能なフィルムの一部として製剤化する。前記グルタミン供給源を、外科的に移植可能なフィルム又は他の外科的インプラントに適応又は含浸させ得る。例えば、前記グルタミンの供給源を、ゲルの一部として製剤化することができ、及びインプラントの外部に付着させ得る。Ethicon社からINTERCEED(登録商標)として市販されている織られた再吸収性セルロースなどの物質からなるインプラントを、本発明の液体製剤又はゲル製剤で含浸し得る。企図される他のフィルムは、ポリエステルアミドベースフィルム(PEA-III)(例えば、PCT国際公開第2014/053542号A1を参照)を含む。いくつかの他の実施態様において、前記グルタミンの供給源は、局所投与、経皮投与、又はイオントフォレーシス投与のために製剤化される。
【0039】
いくつかの実施態様において、剤形内のグルタミンの供給源の薬物負荷は、指定範囲内の各整数を含む、約2%~約90%である。いくつかの実施態様において、前記薬物負荷は、約10%~約80%である。いくつかの実施態様において、前記薬物負荷は、約20%~約60%である。いくつかの実施態様において、前記薬物負荷は、約20%~約50%である。いくつかの実施態様において、前記薬物負荷は、約20%~約40%である。いくつかの実施態様において、前記薬物負荷は、約1%、約2%、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、又は約90%である。
【0040】
いくつかの実施態様において、前記薬物は、移植可能なフィルムに含浸されている。いくつかの実施態様において、移植可能なフィルム中の前記薬物負荷は、指定範囲内の各整数を含む、約2%~約90%である。いくつかの実施態様において、移植可能なフィルム中の前記薬物負荷は、約10%~約80%である。いくつかの実施態様において、移植可能なフィルム中の前記薬物負荷は、約20%~約60%である。いくつかの実施態様において、移植可能なフィルム中の前記薬物負荷は、約20%~約50%である。いくつかの実施態様において、移植可能なフィルム中の前記薬物負荷は、約20%~約40%である。いくつかの実施態様において、移植可能なフィルム中の前記薬物負荷は、約1%、約2%、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、又は約90%である。一実施態様において、移植可能なフィルム中の前記薬物負荷は、約30%である。別の実施態様において、移植可能なフィルム中の前記薬物負荷は、約50%である。
【0041】
いくつかの実施態様において、グルタミンの供給源を含む剤形は、数か月間又は数年間にわたって安定である。いくつかの実施態様において、本明細書に記載のグルタミンの供給源の医薬剤形は、25℃及び60%の相対湿度(RH)で、約1か月間、約2か月間、約3か月間、約4か月間、約5か月間、約6か月間、約9か月間、約10か月間、約11か月間、約12か月間、又はさらに長期間にわたって安定である。
【0042】
本明細書に記載のいくつかの実施態様は、対象における末梢神経線維症又は癒着を予防又は軽減するためのキットである。本明細書に記載の前記キットは、本明細書に記載の適切な剤形のグルタミンの供給源(例えば、L-アラニル-L-グルタミン)を含む。本明細書に記載の前記キットは、処置される末梢神経に応じた指示及び適切な投与スケジュールをさらに含む。一実施態様において、前記キットは、注射物質として供給される剤形を含む。別の実施態様において、剤形は、前記グルタミンの供給源を含浸させたフィルムである剤形を含む。別の実施態様において、前記キットは、局所クリームである剤形を含む。別の実施態様において、前記キットは、イオントフォレーシス送達に適した剤形を含む。いくつかの実施態様において、前記キットは、それを必要とする対象への投与のための複数の剤形を含む。
【実施例
【0043】
試験は、ラットの坐骨神経から単離及び精製した低酸素の初代線維芽細胞のHIF1αを介した線維化反応を制御するL-アラニル-L-グルタミンの能力を調査した。
【0044】
(ラット線維芽細胞の単離及び培養)
地元の獣医委員会及び州の獣医局は、安楽死、坐骨神経の採取、及び初代線維芽細胞の単離にさらに使用することを含む我々の試験及び動物プロトコルを承認した。成体のスプラーグドーリーラットを、CO2ガスチャンバーを用いて安楽死させ、並びに坐骨神経を、無菌状態ですぐに解剖し、及び氷冷したダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)(Sigma-Aldrich)に入れた。各成体の坐骨神経は、Stereo解剖顕微鏡(Carl Zeiss Miscroscopy GmbH、ドイツ)下で作業しながら、筋肉、脂肪及び血管を含む余分な組織を取り除いた。その後、神経上膜を、細かい鉗子を用いて剥がした。続いて、神経セグメントを小さい断片(2~5nm)に切り離し、及び10%ウシ胎児血清(FBS)(BI)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(pen/strep)(Gibco)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Gibco)からなる培地を補充した6-ウェルプレートに5~6個のセグメントを12~14日間置いた。培地は、通常、2~3日ごとに交換した。初代線維芽細胞は、神経細胞から発生し(図1A)、及び細胞が、コンフルエンシーに近づくと、組織セグメントを、鉗子を用いて6-ウェルプレートから取り除いた。細胞を、氷冷したPBSで2回洗浄して、組織の残骸を除去し、0.25%トリプシン(Gibco)でトリプシン化し、続いて1800rpmで5分間遠心分離した。細胞を、トリパンブルーを用いてカウントし、及びさらなる実験までT25/T75培養フラスコ(Corning)にプレーティングした。実験の前に、単離した全ての細胞を、α-SMA、HSP47及びVimentinで染色し、これらの細胞の表現型を確認した(図1B)。初代ラット線維芽細胞を用いた全ての実験を、初代~5代まで実施した。
【0045】
(低酸素及びL-アラニル-L-グルタミン処置)
低酸素微小環境を模倣するために、初代ラット線維芽細胞を、低酸素にさらした。細胞を、連続的な低酸素及び一時的な低酸素の2つの別個の条件にさらした。連続的な低酸素については、細胞を低酸素チャンバー(2%O2)で48時間インキュベートし、並びに図1Cに示すように、L-アラニル-L-グルタミンを添加又は無添加で処置し、及び酸素正常状態に戻さなかった。その後、細胞を、回収し及び実験用に処置した。
一時的な低酸素については、細胞を、低酸素チャンバー(2%O2)で2時間インキュベートし、その後、酸素正常状態に48時間戻し、図1Cに示すようにその時点で細胞を、L-アラニル-L-グルタミンで処置、又はL-アラニル-L-グルタミンを用いず処置した。その後、細胞を、48時間後に回収し、及び実験用に処置した。
【0046】
(増殖アッセイ)
初代線維芽細胞の増殖を、アラマーブルーアッセイ(Invitrogen)で決定した。簡単に述べると、細胞を、前述の低酸素条件下で48時間、L-アラニル-L-グルタミンで処置、又はL-アラニル-L-グルタミン用いず処置した96-ウェルプレートにプレーティングした。アラマーブルーと細胞との相互作用を、540nm及び585nmでそれぞれ蛍光を測定することにより、4時間分析した。
増殖を、また、EdU-Click488(baseclick)を用いたフローサイトメトリーベースEdUアッセイを用いて検出した。
【0047】
(細胞死アッセイ)
低酸素線維芽細胞の細胞死におけるL-アラニル-L-グルタミンの効果を、フローサイトメトリーを用いるAnnexin V/ 7-AAD(BD Pharmingen)で決定した。細胞死アッセイについては、付着性の線維芽細胞を、低酸素条件下で培養し、及び様々な濃度で、L-アラニル-L-グルタミンで処置、又はL-アラニル-L-グルタミンを用いず処置した。細胞を、48時間後に回収し、及び洗浄し、及びAnnexin Vと7-AADとで染色し、並びにフローサイトメトリーを用いて分析した。
【0048】
(ウェスタンブロッティング)
タンパク質サンプルを、プロテアーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤(Roche)を含むRIPA溶解及び抽出バッファー(Thermo)中に、6-ウェルプレートで増殖している細胞を再懸濁して調製した。タンパク質濃度は、タンパク質アッセイ色素試薬(Bio-Rad)を用いて定量した。サンプルを、4X LDSサンプルバッファー(Thermo)と混合し、及び95℃で6分間煮沸して変性させた。タンパク質濃度の推定後、25μgの総タンパク質を含む等しいたんぱく質サンプルを、ロードし、及び4~15%のミニプロテインTGXゲル(Bio-Rad)で分離した。分画したタンパク質を、Trans-Blot(登録商標)TurboTM Transfer System(Bio-Rad)を用いて0.2μmのニトロセルロース膜に移した。膜を、5%スキムミルク(Non-Fat dry milk)でブロックし、及び1次抗体と一晩インキュベートした。
【0049】
一晩のインキュベートの間、以下の1次抗体を、それぞれの濃度で使用した。抗コラーゲンI(1:500;ab34710)及び抗コラーゲンIV(1:500、ab6586)を、Abcam社から購入した。抗ヒートショックタンパク質47(HSP-47)(1:400;sc-13150)及び抗フィブロネクチン(1:500;sc-8422)を、Santa Cruz Biotechnology社から取り寄せた。抗SMAD2/3(1:500;85865S)、抗GAPDH(1:5000;97166S)及び抗HIF-1α(1:750;14179S)を含む他の抗体は、Cell Signaling Technology社から入手した。
ホースラディッシュペルオキダーゼ標識2次抗体を1:5000濃度で、免疫反応に使用し、及びタンパク質バンドの検出を、PierceTM ECL Plus Western Blotting Substrate(Thermo)及びChemiDoc Imaging Systems(Bio-Rad)を用いて行った。
【0050】
(免疫蛍光染色)
免疫蛍光顕微鏡検査法のために、細胞を、L-アラニル-L-グルタミン処置を用いて又は用いずに適切な低酸素条件下で、4-ウェルプレートチャンバースライド(IBIDI)で培養した。細胞を、氷冷したPBSで洗浄した後に、4%パラホルムアルデヒドで固定した。固定した細胞を、0.5%のTriton X-100で透過処理し、及びブロッキング試薬(PBS中1%BSA)を30分間インキュベートした後に、適切な1次抗体で一晩インキュベートした。洗浄工程後、培地を、標識し及び2次抗体とインキュベートし、並びに4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール、二塩酸塩(DAPI、Sigma)を、用いて核を染色した。
【0051】
蛍光顕微鏡の画像解析を、蛍光イメージングのためのPhotometrics Prime 95Bカメラを備え付けたNIKON Ti2倒立顕微鏡を用いて実施した。全ての画像を、デジタル化処理し、全ての定量化及びプレゼンテーションのためのさらなる調整は、NIS-Elements Advanced Research解析ソフトウェアを用いて行われた。定量解析のために、独立したウェルのランダムフィールドの写真を、10倍及び40倍の拡大対物レンズで撮影し、及び各マーカーの総タンパク質発現量を、DAPI定量に基づく細胞の総数を基準として決定した。
【0052】
免疫蛍光のために、1次抗体とそれぞれの濃度を、以下に示す。抗コラーゲンI(1:500;ab34710)、抗コラーゲンIV(1:500;ab6586)、及び抗α-SMA(1:500;ab124964)を、Abcamから購入した。抗HSP-47(1:250;sc-13150)、抗フィブロネクチン(1:250;sc-8422)、及び抗HIF-1α(1:500;sc-13515)をSanta Cruz Biotechnology社から取り寄せた。抗SMAD2/3(1:500;85865S)を、Cell Signaling Technology社から入手した。これに加えて、以下の2次抗体:ヤギ抗マウスAlexa Flour(AF)488(A11029)、ヤギ抗マウスAF546(A11030)、ヤギ抗ウサギAF488(A11034)、及びヤギ抗マウスAF546(A11010)をLife Technologies社から入手した。Sigma社のDAPI(D9564)を、1:1000の濃度で使用した。
【0053】
(リン酸化プロテオミクス解析のためのサンプル調製)
ラットの坐骨神経から線維芽細胞を分離した後、(8E10初代線維芽細胞)を、80μLの8M尿素、0.1M重炭酸アンモニウム、ホスファターゼ阻害剤(Sigma P5726&P0044)中で超音波処理(Bioruptor、10サイクル、30秒on/off、Diagenode、ベルギー)により溶解し、及びタンパク質を、前述のように消化した(PMID:27345528)。簡単に述べると、タンパク質を、5mMのTCEPを用いて37℃で60分間還元し、及び10mMのクロロアセトアミドを用いて37℃で30分間アルキル化した。サンプルを100mMの炭酸アンモニウム緩衝液で希釈し、最終尿素濃度を1.6Mにした後、タンパク質を、シークエンスグレードの修飾済みトリプシン(1/50、w/w;Promega、Madison、Wisconsin)と37℃で12時間インキュベートして消化した。5%TFAで酸性化した後に、ペプチドを、C18逆相スピンカラム(Macrospin、Harvard Apparatus)を用いて、製造会社の指示に従って脱塩し、真空下で乾燥させ、及び-20℃でさらに使用するまで保存した。
【0054】
ペプチドサンプルは、最近記載されたように(PMID:28107008)AssayMAP BravoプラットフォームのFe(III)-IMACカートリッジを使用して、リン酸化ペプチドを濃縮した。リン酸化濃縮ペプチドを、0.1%のギ酸水溶液に再懸濁し、並びにEASY-nLC1000及び60℃に設定した特注カラムを取り付けたQ-Exactive plus質量分析計(いずれもThermo Fisher Scientific)を用い、LC-MS/MS分析を行った。ペプチドを、C18樹脂(ReproSil-Pur C18-AQ、1.9μm樹脂;Dr.Maisch GmbH)を充填した自社製のRP-HPLCカラム(75μm×30cm)用い、0.2μL/minの流速で分離した。ペプチドの分離には、以下のグラジエント:5%B~8%Bを5分間、20%Bまでを45分間、25%Bまでを15分間、30%Bまでを10分間、35%Bまでを7分間、42%Bまでを5分間、50%Bまでを3分間、95%Bまでを2分間、次いで95%Bで18分間を、用いた。緩衝液Aは、0.1%ギ酸水溶液であり、及び緩衝液Bは、80%アセトニトリル、0.1%ギ酸水溶液であった。
【0055】
質量分析法を、ナノエレクトロスプレーイオン源を備え付けたQ-Exactive plus質量分析計(いずれもThermo Fisher Scientific)で実施した。各MS1スキャンに続いて、最も豊富な10個のプリカーサイオンの高衝突解離(high-collision-dissociation)(HCD)をダイナミックエクスクルージョンで20秒間行った。総サイクル時間は、約1秒であった。MS1では、3e6イオンを、最大100msの時間にわたってOrbitrapセルに蓄積し、及び70,000FWHMの分解能(200m/z)でスキャンした。MS2スキャンを、1e5イオンの目標設定、50msの累積時間及び17,500FWHMの分解能(200m/z)で取得した。単電荷イオン及び電荷状態が未割り当てのイオンは、MS2イベントのトリガーから除外した。規格化したコリジョンエネルギーを、27%に設定し、質量アイソレーションウィンドウは、1.4m/zに設定し、及びマイクロスキャンを、各スペクトルについて取得した。
【0056】
取得した生ファイルを、Progenesis QIソフトウェア(v2.0、Nonlinear Dynamics Limited)にインポートし、デフォルトのパラメータを適応して全サンプルのペプチド前駆体イオン強度を抽出した。生成されたmgf-ファイルは、MASCOTを使用して、MaxQuantソフトウェア(Version 1.0.13.13)のSequenceReverserツールを用いて生成されたドブネズミの予測される(Proteomes)Uniprotエントリーの正常配列及び逆配列(www.uniprot.org,release date 2020/03/10)、並びに一般に観察される汚染物質(合計60,690配列)を含むデコイデータベースに対して検索された。検索基準は、以下:完全なトリプシン特異性を、必要とし(リシン又はアルギニン残基の後に切断、プロリンが続く場合を除く);3回の切断ミスが許され;カルバミドメチル化(C)を、固定修飾として設定し;酸化(M)及びリン酸化(STY)を、可変修飾として適応し;10ppm(前駆体)及び0.02Da(断片)の質量許容差のように設定した。データベース検索結果を、データセット中の逆タンパク質配列のヒット数に基づき、ペプチドレベル及びタンパク質レベルのそれぞれで偽発見率(FDR)を1%に設定するために、イオンスコアを用いてフィルタリングした。ラベルフリー定量からの定量解析の結果を、SafeQuant Rパッケージv.2.3.2.(PMID:27345528、https://github.com/eahrne/SafeQuant/)を用いて処理し、ペプチド相対量を得た。この解析は、全てのLC-MSランにわたる総ピーク/レポーター面積を等しくすることによるグローバルデータの正規化、knnアルゴリズムを用いたデータ補完、LC-MS/MSランごとのピーク面積の合計、続いてペプチド存在比の計算が含まれる。アイソフォーム特異的なペプチドイオンシグナルのみを、定量化の対象とした。要約したペプチド発現値を、条件間で異なる豊富なペプチドの統計的検定に用いた。ここでは、経験ベイズ調整t-検定を、R/Bioconductor limmaパッケージ(http://bioconductor.org/packages/release/bioc/html/limma.html)に実装されているように、適用した。得られたタンパク質及び条件ごとの比較p-値を、Benjamini-Hochberg法を用いる多重検定のために調整した。
【0057】
(統計分析)
統計分析を、Prism 7.0ソフトウェアを用いて行った。実験データ及びグラフプロットは、特に言及しない限り、3つの生物学的複製を含む少なくとも3つの独立した実験から特定の実験の平均±標準偏差として表される。様々な条件の統計的有意性は、Student t-検定又は1元配置分析(one-way ANOVA)によって特徴づけられた。多重比較については、Sidakの多重比較検定を用い、及びP値<0.05で統計的有意とみなした。統計的に有意な値は、その有意性の度合いを、*(p<0.05)、**(p<0.01)、***(p<0.001)、****(p<0.0001)で示した。
【0058】
(結果)
低酸素の初代線維芽細胞の細胞増殖及び生存率に影響を与えないL-アラニル-L-グルタミン
低酸素は、線維化組織において主要な微小環境であるため、低酸素条件に暴露された初代ラットの神経周膜由来の線維芽細胞を用いて全てのin vitro解析を行った。L-アラニル-L-グルタミン処置が、初代ラット線維芽細胞に影響を与えるかどうかを調査するために、アラマーブルーアッセイを用いて48時間の生存率を調査した。in vitro解析は、L-アラニル-L-グルタミンが、低酸素の初代ラット線維芽細胞の生存率及び細胞増殖に影響を与えないことを示した。1mM、10mM及び100mMを含むいずれの濃度も、細胞生存率及び細胞増殖に著しい変化を引き起こさなかった。図2A~2Dに示すように、未処置の対照と比較して、連続的(48時間)及び一時的(2時間)低酸素にさらされた初期ラット線維芽細胞は、様々な濃度でL-アラニル-L-グルタミンで処置しても、細胞増殖に変化を示さなかった。
【0059】
連続的な低酸素下にさらされた初代線維芽細胞の線維性タンパク質の発現を下方制御するL-アラニル-L-グルタミン
低酸素は、線維性疾患における線維化促進バイオマーカー及び癒着バイオマーカーの発現を増加させる。L-アラニル-L-グルタミンが、低酸素微小環境に任意の変化を誘導するどうか調べるために、様々な濃度のL-アラニル-L-グルタミンの処置下でHIF1-αの発現を試験した。図3Aに示すように、低酸素初代線維芽細胞の全ての細胞溶解液のウェスタンブロッティングは、L-アラニル-L-グルタミンが、低酸素微小環境、HIF1-α及びSMAD2/3の誘導に関与するマーカーを著しく下方制御することを示した。
HIF1-αは、1mM、10mM及び100mMの濃度のL-アラニル-L-グルタミンを用いる処置において著しく下方制御された。SMAD2/3も、図3Aに示すように、低酸素の初代線維芽細胞において、100mMのL-アラニル-L-グルタミンのみで著しく下方制御された。
【0060】
加えて、他の線維化促進因子についてのL-アラニル-L-グルタミンの効果をさらに調べた。48時間の連続的な低酸素は、酸素正常状態の未処置の対照と比較して、コラーゲン-IV、コラーゲン-I、及びフィブロネクチンを含む線維化促進マーカーの発現を誘導することが観察された。図3Bに示すように、1mM、10mM及び100mMのL-アラニル-L-グルタミンでの処置は、これらの線維性タンパク質の発現を用量依存的に著しく減少させた。HYP47は、コラーゲンの生合成を担うもう1つの重要な線維化促進因子であるので、HSP47についての我々の仮説を検証し、及び図3Bに示すようにL-アラニル-L-グルタミンは、HSP47の発現を低下させるが、著しい下方制御は観察されなかった。
【0061】
L-アラニル-L-グルタミンを様々な濃度で処置、又はL-アラニル-L-グルタミンなしで処置した低酸素の初代線維芽細胞の免疫蛍光分析も、実施した。In vitro免疫蛍光分析が、図4A、4B、4C及び9Aに示すように、L-アラニル-L-グルタミン処置は、HIF1-α及びSMAD2/3を含む低酸素に対する細胞応答を担う因子の著しい減少をもたらすことを明らかにした。HIF1-α及びSMAD2/3は、核を染色され、及び両者は、L-アラニル-L-グルタミンで処置すると下方制御された。
【0062】
フィブロネクチン、コラーゲン-IV、コラーゲン-I及びHSP47を含む線維化促進因子の細胞質の染色も行った。図4A、4B、4D、4E及び9Bに示すように、これらの標的は、低酸素の初代線維芽細胞に蓄積しており、及びL-アラニル-L-グルタミン処置された線維芽細胞において、それに対応して著しく下方制御されている。我々の統計解析は、L-アラニル-L-グルタミン処置された線維芽細胞におけるHIF1-α、SMAD2/3、コラーゲン-IV、及びHSP47の用量依存的な下方制御を明らかにしたが(図4A、4C、4D及び4E)、フィブロネクチン及びコラーゲンIについては用量非依存的に著しく減少した(図4A及び4B)。この制御を理解するためのさらなる実験を、コラーゲンの生合成に関与する因子を減少させるL-アラニル-L-グルタミンのこの挙動を理解するために行う必要がある。
【0063】
一時的な低酸素下にさらされた初代線維芽細胞の線維性タンパク質の発現を下方制御するL-アラニル-L-グルタミン
線維化組織におけるHIF1-αの過剰発現は、慢性又は急性の低酸素微小環境を生じさせる。一時的な低酸素下の初代ラット線維芽細胞における線維化促進因子に対するL-アラニル-L-グルタミンの効果を、試験した。一時的な低酸素状態に2時間さらされ、その後にL-アラニル-L-グルタミンを併用又は併用せずに48時間処置した低酸素の初代線維芽細胞におけるL-アラニル-L-グルタミンの効果を調査した。
【0064】
HIF1-αシグナル伝達で制御されるタンパク質と同様に、線維形成能を担う特定の標的の細胞内染色を、実施した。免疫蛍光分析は、図5A、5B、5D、5E及び10Bに示すように、L-アラニル-L-グルタミンが、フィブロネクチン、コラーゲン-I、コラーゲン-IV及びHSP47を含む線維化促進タンパク質の発現を効果的に減少させることを示した。図5A、5B、5C及び10Aに示すように、HIF1-αシグナル伝達経路の下流標的、すなわちL-アラニル-L-グルタミンにおけるHIF1-α及びSMAD2/3の著しい下方制御も、同様に観察された。免疫細胞化学の後、細胞当たりの平均強度を、L-アラニル-L-グルタミン処置サンプルにおけるこれらのタンパク質について計算し、及び未処置の低酸素サンプルと比較した。L-アラニル-L-グルタミンは、用量依存的に癒着及び線維性タンパク質の発現を著しく減少させた。図5B~5Eに示されるような全ての上記因子は、低酸素サンプルで著しく増加した(図5B~5E)。コラーゲン-Iを除く全てのタンパク質の発現の用量依存的な減少を、観測した。コラーゲンIは、1mMのL-アラニル-L-グルタミンで著しく減少したが、その後は一定であった(図5A、5B;補足3B)。
【0065】
一時的低酸素の初代線維芽細胞の全ての細胞溶解液のウェスタンブロッティングも、実施した。免疫細胞化学とは対照的に、ウェスタン分析は、所望の標的の用量依存的な制御はいずれも見られなかった。HIF1-αシグナル伝達因子及び線維化促進機構標的は、L-アラニル-L-グルタミン処置サンプルと比較して、低酸素サンプルで著しく増加した。図6Bに示すように、L-アラニル-L-グルタミンの様々な濃度にわたって顕著なダウンレギュレーションは、なにもなかった。興味深いことに、図6に示す1mMのL-アラニル-L-グルタミン処置の低酸素線維芽細胞では、COL-IVの顕著なダウンレギュレーションを見出したが、図5Eに示すように、免疫蛍光分析とはわずかに異なった。
【0066】
L-アラニル-L-グルタミンで処置した低酸素線維芽細胞における重要なタンパク質の同定及びパスウェイ解析
この研究は、異なるL-アラニル-L-グルタミンの濃度で処置された慢性低酸素条件下で処置されたL-アラニル-L-グルタミンのリン酸化プロテオームプロファイルを編集する最初の試みである。合計5110個のタンパク質が、全4条件(0mM、1mM、10mM及び100mM)でプロファイルされた。0mMの低酸素サンプルと比較した場合、1322個のタンパク質が処置群(1mM、10mM及び100mM)間で著しく制御されていることが分かった。これらの1322個のタンパク質のうち、L-アラニル-L-グルタミンでは、607個のタンパク質が著しくダウンレギュレートし、及び715個は、著しくアップレギュレートした。各条件の生物学的トリプリケートを、使用し、及び全ての生物学的トリプリケートのプール解析を、処置群及び未処置の0mM条件間で実施した。log_2比の正の値は、L-アラニル-L-グルタミン処置群における関連タンパク質のアップレギュレーションを示し、一方で負の値は、ダウンレギュレーションを示す。重要な因子及び関連するパスウェイを同定するためのさらなる解析を、前述のようにDAVID統計ソフトウェア及びKEGGパスウェイ解析を用いて実施した。解析は、ダウンレギュレートした標的に焦点を当て、L-アラニル-L-グルタミンによって制限され、線維化表現型を減少させるタンパク質及び関連経路を同定した。パスウェイ解析は、処置群で著しくダウンレギュレートしたタンパク質が、mTOR、PI3k、細胞接着及び接着斑(focal adhesion)と関連していたことを示した。
【0067】
図7A~7Cに示すように、L-アラニル-L-グルタミンは、細胞接着及び線維化の進行に関与する重要な因子を効果的にダウンレギュレートするが、これらの因子の発現におけるL-アラニル-L-グルタミンの用量依存的効果を同定することもできた。HIF1-α、ECM-相互作用、ERBb、FOXO及びTGF-βシグナル伝達経路に関連するいくつかの標的も、見出された。重要なことは、図8に示されるように、Fndc1、Fndc3b、Col1a1及びAkt1s1、並びにPxnを含む重要な線維化促進因子が、未処置の慢性低酸素サンプルと比較して、L-アラニル-L-グルタミン処置サンプルで著しくダウンレギュレートされており、ウェスタンブロッティング及び免疫蛍光イメージングによるin-vitroの所見と一致している。
【0068】
さらに、タンパク質の分析は、L-アラニル-L-グルタミンで処置した初代線維芽細胞で著しくアップレギュレートされていることを見出した。パスウェイ解析は、これらのタンパク質が、GnRHシグナル伝達、グルタミン酸作動性誘導シグナル伝達、軸索誘導シグナル伝達のアップレギュレーションと関連していることが示された。図7A~7Cは、アップレギュレートされた因子の所見を要約したものである。
【0069】
本発明の特定の実施態様を、図示及び記載してきたが、本発明は、本明細書に記載した実施態様に限定されないことは明らかであろう。多数の修正、変更、変形、置換及び等価物は、以下に続く特許請求の範囲によって記載される本発明の要旨及び範囲から逸脱することなく、当業者に明らかであろう。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
【国際調査報告】