(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-28
(54)【発明の名称】効率的なイオン収集部を備えたイオン生成システム
(51)【国際特許分類】
H01J 37/04 20060101AFI20240521BHJP
H01J 37/317 20060101ALI20240521BHJP
G21K 5/04 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
H01J37/04 A
H01J37/317 E
G21K5/04 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023570163
(86)(22)【出願日】2022-05-13
(85)【翻訳文提出日】2024-01-05
(86)【国際出願番号】 US2022029153
(87)【国際公開番号】W WO2022241196
(87)【国際公開日】2022-11-17
(32)【優先日】2021-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521456645
【氏名又は名称】シャイン テクノロジーズ リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】シャーマン ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】チェレクドジアン サルコ
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA39
5C101DD30
5C101DD33
5C101EE25
5C101EE35
5C101EE69
5C101FF15
(57)【要約】
システムは、第1の極性を有するイオンを生成するように構成された、イオン源と、引出エネルギーを有するイオンビームとしてイオン源からイオンを引き出すように構成された、1つ以上の引出電極と、質量分解スリット又は開口部であって、所望の同位体イオンビームが質量分解スリット又は開口部を通過するように、イオンビームから所望の同位体を選択するように構成された、質量分解スリット又は開口部と、標的であって、所望の同位体イオンビームが標的に入射するように、質量分解スリット又は開口部に対して位置決めされた、標的と、標的に結合され、かつ第1の極性を有する第1の電圧で標的を保つように構成された、電圧源とを含む。第1の電圧は、所望の同位体イオンビームが標的に近づくにつれて、引出エネルギーの減少を引き起こし、スパッタリングを最小化し、かつ標的上のイオンの収集を最大化して、イオン化材料を再構成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムであって、
第1の極性を有するイオンを生成するように構成された、イオン源と、
引出エネルギーを有するイオンビームとして前記イオン源から前記イオンを引き出すように構成された、1つ以上の引出電極と、
質量分解スリット又は開口部であって、所望の同位体イオンビームが前記質量分解スリット又は開口部を通過するように、前記イオンビームから所望の同位体を選択するように構成された、質量分解スリット又は開口部と、
標的であって、前記所望の同位体イオンビームが前記標的に入射するように、前記質量分解スリット又は開口部に対して位置決めされた、標的と、
前記標的に結合され、かつ前記第1の極性を有する第1の電圧で前記標的を保つように構成された、電圧源と
を備え、
前記第1の電圧は、前記所望の同位体イオンビームが前記標的に近づくにつれて、引出エネルギーの減少を引き起こし、かつ、スパッタリングの最小化、前記標的上の熱負荷の低減、又は前記標的上の前記イオンの収集の最大化のうちの少なくとも1つを行い、イオン化材料を再構成する、
システム。
【請求項2】
前記第1の電圧が、前記引出エネルギーよりも小さい、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第1の電圧が、前記引出エネルギーの95%よりも大きい、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記第1の電圧が、前記引出エネルギーの99%よりも大きい、請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
前記第1の電圧が、前記イオンの熱エネルギーに対応する量だけ、前記引出エネルギーよりも小さい、請求項1~4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記引出エネルギーが、20kV~80kVである、請求項1~5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記引出エネルギーが、40kV~60kVである、請求項1~6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記所望の同位体イオンビームが前記標的に到達したとき、前記所望の同位体イオンビームが約100Vのエネルギーを有するように、前記第1の電圧が、前記引出エネルギーよりも約100V小さい、請求項1~7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記第1の極性が、正である、請求項1~8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記標的が、前記標的上の膜として、前記イオン化材料を収集するように構成されている、請求項1~9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記1つ以上の引出電極と前記質量分解スリット又は開口部との間に磁気分析器を更に備え、前記磁気分析器は、前記イオンビームの他の同位体からの前記所望の同位体の分離を引き起こすように構成された磁場を生成するように構成されている、請求項1~10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
前記イオンが、イッテルビウムイオンを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
前記標的が、結晶構造を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項14】
前記標的が、炭素繊維材料を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項15】
イオンを収集するための方法であって、
引出エネルギーをイオンビームに供給する工程であって、前記イオンビームは、第1の極性を有するイオンを含む、工程と、
前記イオンビームが標的に入射するように、前記標的を位置決めする工程と、
前記イオンビームが前記標的に近づくにつれて、前記第1の極性を有する電圧が前記引出エネルギーの減少を引き起こすように、前記標的を前記電圧で保つ工程と、
前記標的上の前記イオンを収集する工程と
を含む、方法。
【請求項16】
前記収集されたイオンを、構成されたイオン化材料として前記標的から取り外す工程を更に含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記電圧及び前記引出エネルギーが、前記イオンの熱エネルギーに対応する量だけ異なる、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記引出エネルギーを前記イオンビームに供給する工程が、引出電圧で保たれた電極を使用して、前記イオンを加速してイオン源から出すことを含み、前記引出電圧が、前記第1の極性を有し、かつ前記標的の前記電圧よりも大きい、請求項15~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記引出エネルギーが、前記電圧よりも大きい、請求項15~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記イオンが、イッテルビウム原子を含む、請求項15~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
請求項1~14のいずれか一項に記載のシステムを使用して実行される、請求項15~19のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年5月14日に出願された米国仮特許出願第63/188,729号の利益及びその優先権を主張するものであり、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術
本開示は、概して、重金属イオン生成の分野、例えば、医療用途で使用される、重金属イオンの生成に関する。より具体的には、本開示は、高い引出エネルギーでイオン源から加速されたイオンを収集及び構成する効率を改善することに関する。
【背景技術】
【0003】
背景
イオンビームに関連する従来技術は、典型的には、基板材料に変化を創出するために、イオンビームと基板材料との間に高エネルギー衝突をもたらすことを意図している。そのようなシステムにおけるイオン自体は、基板材料内に効率的に保持されず、それらは、スパッタ、昇華、又は散乱され得る。そのようなシステム及び方法は、イオン自体の高効率な収集を提供しない。対照的に、本出願の1つの目的は、例えば、医療用途において、収集、貯蔵、輸送、使用などが可能な構成材料としての、イオンビームのイオンの収集である。
【発明の概要】
【0004】
概要
本開示の一実施態様は、システム、例えば、イオン生成システムである。システムは、第1の極性を有するイオンを生成するように構成された、イオン源と、引出エネルギーを有するイオンビームとしてイオン源からイオンを引き出すように構成された、引出電極と、イオンビームが標的に入射するように、引出システムに対して位置決めされた、標的と、標的に結合され、かつ第1の極性を有する第1の電圧で標的を保つように構成された、電圧源とを含む。第1の電圧は、引出エネルギーにおけるイオンの運動エネルギーの減少を引き起こし、それにより標的における標的イオンの有効ポテンシャルエネルギーは、引出電圧と標的の第1の電圧との間の差になる。このような有効低エネルギーは、スパッタリングを最小化し、標的上の熱負荷を低減し、かつ標的上のイオンの収集を最大化する。有効エネルギーが、蒸発したイオンの熱エネルギーと同等又はそれを下回ると、イオンは基板上に薄膜として堆積され得、したがって、イオンの捕獲を最大化する。
【0005】
いくつかの実施形態では、第1の電圧は、引出エネルギーよりも小さい。第1の電圧はまた、引出電位の95%よりも大きくてもよいか、又は引出電位の99%よりも大きくてもよい。第1の電圧は、イオンの熱エネルギーに対応する量だけ、引出電位よりも小さくてもよい。第1の電圧は、イオンビームが標的に到達したとき、イオンビームが約100Vのエネルギーを有するように、引出電位よりも約100V小さくてもよい(イオン運動エネルギーは、この文脈では、しばしばボルトで表され、1ボルトは、1クーロン当たり1ジュールに等しく、他の慣習では、これらの値はeVで表され得ることに留意されたい)。
【0006】
いくつかの実施形態では、引出エネルギーは、20kV~80kV、例えば、40kV~60kVである。いくつかの実施形態では、第1の極性は、正である。
【0007】
いくつかの実施形態では、標的は、標的上の膜としてイオン化材料を収集するように構成されている。いくつかの実施形態では、システムはまた、引出電極と標的との間の質量分解開口部も含み、開口部は、イオンの望ましくないサブセットが標的に到達するのを阻止するように構成されている。
【0008】
いくつかの実施形態では、イオンは、イッテルビウム(「Yb」)イオンを含む。標的は、結晶構造を含み得る。標的は、炭素繊維材料を含み得る。
【0009】
本開示の別の実施態様は、イオンを収集する方法である。本方法は、引出エネルギーをイオンビームに供給する工程を含む。イオンビームは、第1の極性を有するイオンを含む。本方法はまた、イオンビームが標的に入射するように、標的を位置決めする工程と、イオンビームが標的に近づくにつれて、第1の極性を有する第1の電圧が引出エネルギーの減少を引き起こすように、標的を第1の電圧で保つ工程と、標的上のイオンを収集する工程とを含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、本方法はまた、構成された中性材料として標的からイオンを取り外す工程を含む。イオンは、イッテルビウム原子を含み得る。
【0011】
引出電位は、標的の電圧より大きくてもよい。いくつかの実施形態では、第1の電圧及び引出電位は、イオンの熱エネルギーに対応する量だけ異なる。引出エネルギーをイオンビームに供給する工程は、引出電圧で保たれた電極を使用して、イオンを加速してイオン源から出すことを含み得る。引出電圧は、第1の極性を有し得、かつ標的の電圧よりも大きい。
【0012】
本開示の別の実施態様は、システムであって、第1の極性を有するイオンを生成するように構成された、イオン源と、引出エネルギーを有するイオンビームとしてイオン源からイオンを引き出すように構成された、1つ以上の引出電極と、質量分解スリット又は開口部であって、所望の同位体イオンビームが質量分解スリット又は開口部を通過するように、イオンビームから所望の同位体を選択するように構成された、質量分解スリット又は開口部と、標的であって、所望の同位体イオンビームが標的に入射するように、質量分解スリット又は開口部に対して位置決めされた、標的と、標的に結合され、かつ第1の極性を有する第1の電圧で標的を保つように構成された、電圧源とを含むシステムである。第1の電圧は、所望の同位体イオンビームが標的に近づくにつれて、引出エネルギーの減少を引き起こし、スパッタリングを最小化し、かつ標的上のイオンの収集を最大化して、イオン化材料を再構成する。いくつかの実施形態では、磁気分析器は、1つ以上の引出電極と質量分解スリット又は開口部との間に位置決めされており、磁気分析器は、イオンビームの他の同位体からの所望の同位体の分離を引き起こすように構成された磁場を生成するように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本開示は、添付の図面と併せると、以下の詳細な説明からより完全に理解されるものとなり、同様の参照番号は、同様の要素を指す。
【0014】
【
図1】例示的な一実施形態による、イオン生成システムの概略図である。
【
図2】例示的な一実施形態による、正イオンに関連する一実施形態におけるイオン生成システムの標的及び電圧源の概略図である。
【
図3】例示的な一実施形態による、負イオンに関連する一実施形態におけるイオン生成システムの標的及び電圧源の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
詳細な説明
特定の実施形態を詳細に例示する図面に目を向ける前に、本開示は、明細書に記載されるか、又は図面に例示される詳細若しくは方法論に限定されないことを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、説明のみを目的としており、限定するものとみなされるべきではないことも理解されるべきである。
【0016】
図を全般的に参照すると、様々な例示的な実施形態による、イオン生成システム、例えば、重金属イオン生成システムに関するシステム及び方法が、示されている。特に、図は、様々な用途向けに収集、貯蔵、輸送、使用などが可能な材料としてイオンが再構成されるような、イオン生成システムの標的でのイオン(例えば、重金属イオン)の高効率な収集に関するシステム及び方法を全般的に示す。
【0017】
以下に詳述するように、イオンは、イオン源で生成され、イオン源から、例えば、20kV~80kV(例えば、40kV~60kV)の高い引出エネルギーを有するイオンビームとして引き出される(イオン運動エネルギーは、この文脈では、しばしばボルトで表され、1ボルトは、1クーロン当たり1ジュールに等しく、他の慣習では、これらの値はkeVで表され得ることに留意されたい)。磁気分析器であって、磁場を使用して、運動量(又は、生成された全てのイオンの電荷が同じである場合は、原子質量)によってイオンを分類する、磁気分析器と、質量分解開口部であって、他のイオンが開口部を通過するのを阻止しながら、所望のイオン(例えば、所望の同位体のイオン)を主に通過させるようにビーム及び磁気分析器に対して配置された、質量分解開口部とを、イオンビームは通過し得る。したがって、所望のイオンのみ、又は高い割合の所望のイオンを有するイオンビームは、開口部を通過する。標的(標的基板、基板など)は、所望のイオンのビームが標的に入射するように、位置決めされている。
【0018】
本明細書に記載のアプローチは、標的に付着するイオンの割合が高く、標的でのスパッタ率が低いため、(例えば、所望の同位体の)中性材料として構成されるイオンの割合が増加し、失われるイオンの割合が減少する。したがって、イオン生成システム全体の全体的な効率(例えば、生成された材料の単位当たりの電力及びリソース消費)が改善される。イオン生成システムの他の望ましくない表面上のイオンの(別様にイオンの散乱に起因し得る)蓄積もまた最小化されるか、又は防止され、それによって、イオン生成システムのダウンタイム及びメンテナンスを低減する。加えて、本明細書のアプローチは、標的基板への熱伝達(標的上の熱負荷、標的上の熱エネルギー負荷)を低減し、したがって、標的での高エネルギー衝突によって別様に引き起こされ得る、温度管理の問題を減少又は除去することができる。
【0019】
以下に詳述するように、本明細書の利点は、イオンと同じ極性を有しかつイオンビームの電位をわずかに下回る大きさを有する電圧で、標的を保つことによって、ある程度は達成される。標的の電圧(及び、その電圧によって作り出された電界)は、イオンビームが標的に近づくにつれて、イオンビームのエネルギーの減少を引き起こす。例えば、イオンが標的に到達すると、イオンのエネルギーが熱エネルギーに減少するように、引出電極によって提供されたイオンビームに加えられたエネルギーを(少なくとも部分的に)オフセットするために標的の電圧が選択されてもよい。そのような場合、標的におけるイオンの電子阻止(すなわち、イオン同士の間の相互作用、及びイオンの電子と標的基板の電子との間の標的相互作用)及び核阻止(すなわち、イオンの核と標的基板の核との間の相互作用)の両方が、ゼロ、又はゼロに近いレベルまで低減される。標的の電位を介してこれらの相互作用を低減することにより、高エネルギーで標的と衝突し、スパッタ又は散乱するのではなく、イオンを標的に付着させ、膜として形成させる。
【0020】
ここで
図1を参照すると、例示的な一実施形態による、イオン生成システム100のブロック図が示されている。イオン生成システム100は、イオン源102、引出電極104、磁気分析器106、質量分解開口部108、標的110、並びに接地114及び標的110に接続された電圧源112を含む。イオン源102、引出電極104、磁気分析器106、質量分解開口部108、及び標的110は、イオンがイオン源102で生成され、標的110に到達する前に、引出電極104、磁気分析器106、及び質量分解開口部108を順次通過するように、順次配置されている。以下に詳述するように、取り外し、貯蔵、輸送などが可能であり、最終的には、いくつかの用途、例えば、医療用途に使用され得る、構成された中性材料として所望のイオンの効率的な収集を標的110で提供するように、イオン生成システム100が構成されている。
【0021】
イオン源102は、イオンを生成するように構成されている。例えば、イオン源102は、イオン源102に供給されるガス、例えば、イッテルビウム蒸気などの重金属ガスをイオン化する電子を放出するように動作可能なフィラメントを含む、ベルナス(Bernas)又はフリーマン(Freeman)イオン源として構成され得る。他の金属(Lu、Tcなどもまた使用され得る)。電子とガスとの間の相互作用は、ガスをイオン化してイオンを生成する。いくつかの実施形態では、イオン源102は、正イオン(すなわち、「カチオン」、正極性を有するイオン)を生成する。他の実施形態では、イオン源は、負イオン(すなわち、「アニオン」、負極性を有するイオン)を生成する。イオン源102は、イオンがイオン源102から引き出され得るように、出口スリット又は開口部を含む。いくつかの実施形態では、イオン源102は、例えば、2020年12月8日に出願され、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国仮特許出願第63/122,699号に詳細に記載されているように、イオン源102の要素を保護し、かつイオン源102からの引出用イオンの均一性を改善するための、補助ヒータを含む。
【0022】
引出電極104は、イオン源102からイオンを引き出す電界を提供するように構成されかつ動作される、1つ以上の電極を含む。イオンは、第1の極性(異なる実施形態では、正又は負)の電荷を有するため、引出電極104における反対の極性の電圧が、イオンビームとしてイオン源からイオンを引く。引出電極104は、イオンビームを加速し、イオンビームを減速し、ビームを成形し、ビームを照準するなどのための、1つ以上の電極を含み得る。イオンビームを加速してイオン源102から出す電界を提供することによって、引出電極104は、引出電極104の電圧と同じ又は類似の大きさの引出エネルギーをイオンビームに供給する。例えば、55kVの電圧の電極は、イオンビームが引出電極104を通過するときに、55kVの引出エネルギーをイオンビームに供給することができる(イオン運動エネルギーは、この文脈では、しばしばボルトで表され、1ボルトは、1クーロン当たり1ジュールに等しいことに留意されたい)。
【0023】
したがって、高い引出エネルギーを有するイオンビームが、引出電極104の出力として提供される。様々な実施形態では、高い引出エネルギーは、20kV~80kVの範囲内、例えば、40kV~60kV(例えば、55kV)であり得る。そのような実施形態では、引出電極104で加えられる電圧は、特定のシナリオ用の所望の引出エネルギーをイオンビームに供給するように選択され得る。
【0024】
図1の例では、イオンビームは、引出電極104から磁気分析器106へ通過する。他の実施形態では、磁気分析器106は省略される。磁気分析器106は、イオンビーム上に磁力を作り出す磁場を提供するように構成されている。各イオンにおける磁力はほぼ等しくてもよいが、イオンビームは、イオンの質量が変化するように、異なる同位体のイオンを含んでもよい。磁気分析器106によって提供された磁力は、質量によるイオンの分離をもたらし得る。したがって、磁気分析器106を通過した後、イオンビームの横断面の異なる領域は、異なる同位体、すなわち、異なる質量のイオンを含み得る。
【0025】
図1では、イオンビームは、磁気分析器106から質量分解開口部108へ通過するように例示されており、質量分解開口部108は、所望のイオンが質量分解開口部108を通過することを可能にしながら、イオンの望ましくないサブセットが質量分解開口部108を通過するのを阻止するように構成されている。具体的には、質量分解開口部108の通過が可能なイオンは、主に所望の1つの同位体(又は、所望の2つの同位体)のイオンであり、一方、1つ以上の他の同位体のイオンは、質量分解開口部108によって遮断される。このことは、磁気分析器106によって達成される質量による同位体の分離を利用するように、磁気分析器106に対して質量分解開口部108を位置決めすることによって達成される。様々な実施形態では、様々な幾何学的配置が可能である。したがって、磁気分析器106及び質量分解開口部108を含む例では、標的110に到達するイオンビームは、高い割合の所望の同位体(一種)又は所望の同位体(複数種)を含み、異なる同位体のイオンによる汚染の割合は低い。
【0026】
質量分解開口部108からのイオンビームは、標的110に入射する。標的110は、イオンビームのイオンを受けて収集するように構成されている。標的110の表面上の膜、及び/又は標的110の格子構造に埋設された膜として含む、イオンを受けて保持するのに好適な基板材料を、標的110は含むことができる。例えば、標的110の基板材料は、結晶構造を有し得る。別の例として、標的110の基板材料は、炭素繊維材料(例えば、炭素繊維クロス)を含み得る。標的110の材料はまた、イオンが標的110上に収集されるか、標的110に埋め込まれるか、又は他のものが標的110で受け取られた場合でも、標的110が実質的に一定の電圧で保たれることができるように選択される。標的110の材料は、標的110への又は標的110内でのイオンの付着を引き起こすのに役立つように選択されてもよい。標的110は、イオン源102の動作中に、標的110上に蓄積するイオン材料を得ることを容易にするために、イオン生成システム100において取り外し可能かつ交換可能であってもよい。
【0027】
標的110は、標的110と接地114との間に接続されている電圧源112に結合されているように示される。イオン生成システム100の他の要素はまた、その動作を可能にするための、好適なエレクトロニクス素子、電源などを含む。電圧源112は、イオンビームと同じ極性を有する電圧(本明細書では標的電圧と称される)で標的110を保つ(置く、確立する、維持するなど)ように構成されている。例えば、
図2~3に例示され、かつ以下で考察されるように、正の電圧は、正イオンがイオン源によって生成されるシナリオでは、電圧源112によって標的110に供給され、一方、負の電圧は、負イオンがイオン源によって生成されるシナリオでは、電圧源112によって標的110に供給される。
【0028】
標的電圧は、好ましくは、イオンビームが、標的電圧によって反対方向に附勢されることなく標的に到達することができるように、イオンビームの引出エネルギーよりも小さく、一方で、標的110でのイオンビームの電子阻止及び核阻止の両方を最小化するのに十分な程度に、イオンビームのエネルギーを低減するのに十分に高い(それによって、イオンと標的110との間の高エネルギー衝突によって別様に引き起こされるであろう散乱又はスパッタリングを最小化する)。例えば、標的電圧は、イオンが標的110に到達するとちょうどイオンのエネルギーが熱エネルギーに減少するように、イオンの熱エネルギーに対応する量だけ引出エネルギーよりも小さくてもよい。様々な実施形態では、標的電圧は、引出エネルギーよりも小さく、かつ引出エネルギーの95%よりも大きく、例えば、引出エネルギーの99%よりも大きい(一方で、引出エネルギーよりも小さい)。いくつかの実施例では、標的電圧は、イオンビームが目標に到達したとき、イオンビームが約100Vのエネルギーを有する(例えば、引出エネルギーから標的電圧を引くと約100Vに等しくなる)ように、引出エネルギーよりも約100V小さい。一実施例では、引出エネルギーは55kVであり、標的電圧は54.9kVである。
【0029】
いくつかの実施形態では、電圧源112及び標的110は、イオン生成システム100の動作中、かつ標的110上に(例えば、標的110上の、標的110に埋設された膜として)イオンが集まり、中性材料(例えば、所望の同位体の)に構成されるとき、標的110の電圧が実質的に一定であるように、構成されている。いくつかの例では、標的110からの構成されたイオン化材料の取り外しを容易にするために、標的110は、イオン生成システム100から取り外し可能であり得る。いくつかのそのような例では、電圧源112は、標的110が、その上に収集されたイオン化材料を妨害することなく、電圧源112から接続解除されることを可能にするために、標的電圧をゼロに向かって徐々に減少させるように制御される。いくつかの実施形態では、標的110(又は、その一部分)は、イオン化材料の輸送及び更なる処理で使用するために取り外され、イオン生成システム100の後続の動作で使用するために新しい標的110(又はその新しい部分)と交換される。他の実施形態では、標的110が、より多くのイオンを収集するために、イオン生成システム100の後続の動作で再利用され得るように、イオン化材料は、標的110から取り外され得、レセプタクル(又は、他の収集及び保持デバイス)に収集され得る。
【0030】
ここで
図2を参照すると、例示的な一実施形態による、正イオンビーム200に関連する一実施形態におけるイオン生成システム100の標的110及び電圧源112の概略図が示される。
図2は、標的110に向けられ、標的110に入射する正イオンビーム200(すなわち、正荷電イオンのビーム)を示す。
【0031】
正イオンビーム200は正極性を有するため、標的110の電圧にも正極性が供給される。
図2は、標的110が電圧源112の正端子に接続されており、電圧源112の負端子は接地114に接続されていることを例示する。電圧源112は、標的110を正電位、すなわち、正イオンビーム200と同じ極性の電位に保つ。
【0032】
標的110の正電位は、標的110に向かうイオンビーム200の移動に抵抗する電界を提供する。イオンビーム200は、標的110に到達するために、この電界を横断する必要がある。そうすると、イオンビーム200の運動エネルギーは、標的110の正電位によって作り出された電界内のイオンの電位に変換される。これは、標的110に到達するために「上り坂」を転がるイオンに類似していると考えられ得る。上で考察されたように、標的電圧は、正イオンが標的110に到達するとちょうど、正イオンビーム200が低エネルギー、例えば、熱エネルギーに到達するように、選択及び維持される。熱エネルギーに減少すると、正イオンビーム200は、それが標的110から離れることになるか又はスパッタリング若しくは散乱を引き起こすことになる余分な運動エネルギーを有さず、したがって、正イオンビーム200のイオンは、例えば、
図2に示すように、正イオン膜202として形成するように、標的110で付着する。
【0033】
ここで
図3を参照すると、例示的な一実施形態による、負イオンビーム300に関連する一実施形態におけるイオン生成システム100の標的110及び電圧源112の概略図が示される。
図2は、標的110に向けられ、標的110に入射する負イオンビーム300(すなわち、負荷電イオンのビーム)を示す。
【0034】
負イオンビーム300は負極性を有するため、標的110の電圧にも負極性が供給される。
図3は、標的110が電圧源112の負端子に接続されており、電圧源112の正端子は接地114に接続されていることを例示する。電圧源112は、標的110を負電位、すなわち、負イオンビーム300と同じ極性の電位に保つ。
【0035】
標的110の負電位は、標的110に向かうイオンビーム300の移動に抵抗する電界を提供する。イオンビーム300は、標的110に到達するために、この電界を横断する必要がある。そうすると、イオンビーム300の運動エネルギーは、標的110の負電位によって作り出された電界内のイオンの電位に変換される。これは、標的110に到達するために「上り坂」を転がるイオンに類似していると考えられ得る。上で考察されたように、標的電圧は、負イオンが標的110に到達するとちょうど、負イオンビーム300が低エネルギー、例えば、熱エネルギーに到達するように、選択及び維持される。熱エネルギーに減少すると、負イオンビーム300は、それが標的110から離れることになるか又はスパッタリング若しくは散乱を引き起こすことになる余分な運動エネルギーを有さず、したがって、負イオンビーム300のイオンは、例えば、
図3に示すように、負イオン膜302として形成するように、標的110で付着する。
【0036】
したがって、イオン生成システム100は、構成されたイオン化材料としてイオンの高効率の生成及び収集のために構成されている。前述のように標的110を標的電圧に設定することにより、標的110に入射する高い割合のイオンを、標的110で付着させ、例えば、標的110に膜を形成する。したがって、イオン生成システム100の効率は、イオン源102によって作り出された高い割合の所望のイオンの収集を提供することによって、改善される。加えて、材料が低率又はゼロ率でスパッタ又は散乱されるため、イオン生成システム100における他の望ましくない表面上に蓄積することも実質的に防止され、それによって、イオン生成システム100のダウンタイム、洗浄、メンテナンスなどを低減する。加えて、標的における高エネルギーイオンの電子阻止又は核阻止(すなわち、原子間の衝突)は、標的の熱エネルギーを大幅に増加させることになるが、本明細書の実施形態は、電圧源112によって提供される電位を使用してイオンのエネルギーを低減し、それによって、標的での熱エネルギーの蓄積を回避する。
【0037】
上の考察は、イオン生成システム100の動作と関連付けられた物理の法則及びイオンビームに対する標的電圧の作用の全般的な概要を述べているが、イオンビームの挙動が複雑であることと、追加の又は代替の理論又は実験結果を使用して、本明細書に記載のシステム及び方法の様々な利点の更なる又は代替の説明を提供し得ることとを理解されたい。実験結果は、上述したように、イオンビームと同じ極性の標的電圧を標的110に供給することによって、本明細書に記載される利点が得られることを示している。
【0038】
本明細書で使用される場合、「およそ」、「約」、「実質的に」という用語、及び同様の用語は、本開示の主題が関連する当業者による一般的かつ受け入れられた使用法と調和した、幅広い意味を有することが意図される。これらの用語は、記載されかつ特許請求される特定の特徴の説明を、これらの特徴の範囲を、提供された正確な数値又は理想的な幾何学的形態に限定することなく可能にすることが意図されていることを、本開示を検討する当業者は理解するはずである。したがって、これらの用語は、記載されかつ特許請求される主題の非実質的な又は重要でない改変又は変更が、添付の特許請求の範囲に列挙されるような本開示の範囲内であるとみなされることを示すと解釈されるべきである。
【0039】
「結合された」という用語及びその変形は、本明細書で使用される場合、互いに直接的又は間接的に2つの部材の接合を意味する。そのような接合は、固定(例えば、永続的又は不変)又は可動(例えば、取り外し可能又は解放可能)であり得る。そのような接合は、互いに直接結合された2つの部材、別個の介在部材及び互いに結合された任意の追加の中間部材を使用して互いに結合された2つの部材、又は2つの部材のうちの1つと単一の一体物として一体的に形成された介在部材を使用して互いに結合された2つの部材によって、達成され得る。「結合された」又はその変形が追加の用語(例えば、直接結合された)によって改変される場合、上記に示した「結合された」の一般的な定義は、追加の用語の平易な言語の意味によって改変され(例えば、「直接結合された」は、別個の介在部材なしでの2つの部材の接合を意味する)、上記に示した「結合された」の一般的な定義よりも狭い定義になる。そのような結合は、機械的、電気的、又は流体的であり得る。
【0040】
要素の位置(例えば、「上部」、「下部」、「の上」、「の下」)への本明細書での参照は、単に、図面における様々な要素の配向を説明するために使用される。様々な要素の配向は、他の例示的な実施形態に従って異なる場合があり、そのような変形は、本開示によって包含されることが意図されることに留意されたい。
【0041】
図面及び説明は、方法のステップの特定の順序を例示し得るが、そのようなステップの順序は、上記で別様に指定されない限り、描写及び説明されるものとは異なってもよい。また、2つ以上のステップは、上記で異なって指定されない限り、同時に、又は部分的に同時に実行され得る。そのような変形形態は、例えば、選択されたソフトウェア及びハードウェアシステム、並びに設計者の選択に依存し得る。全てのそのような変形形態は、本開示の範囲内である。同様に、記載される方法のソフトウェアの実装は、様々な接続ステップ、処理ステップ、比較ステップ、及び判定ステップを達成するために、ルールベースのロジック及び他のロジックを用いた標準的なプログラミング技術によって達成され得る。
【0042】
他の実施形態は、以下の特許請求の範囲に記載される。
【国際調査報告】