IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エクソンモービル テクノロジー アンド エンジニアリング カンパニーの特許一覧

特表2024-521103金属‐有機フレームワークCu(Qc)2の製造方法およびスケールアップ方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-28
(54)【発明の名称】金属‐有機フレームワークCu(Qc)2の製造方法およびスケールアップ方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 215/48 20060101AFI20240521BHJP
   C07F 1/08 20060101ALN20240521BHJP
【FI】
C07D215/48
C07F1/08 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571860
(86)(22)【出願日】2022-05-20
(85)【翻訳文提出日】2024-01-19
(86)【国際出願番号】 US2022030183
(87)【国際公開番号】W WO2022246150
(87)【国際公開日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】63/191,579
(32)【優先日】2021-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523025539
【氏名又は名称】エクソンモービル テクノロジー アンド エンジニアリング カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ExxonMobil Technology and Engineering Company
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】アブニー,カーター ダブリュー
(72)【発明者】
【氏名】ソ,ジュリー ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】カペレフスキー,マシュー ティ
(72)【発明者】
【氏名】ズーロ,ドミニク エイ
(72)【発明者】
【氏名】ファルコフスキー,ジョセフ エム
【テーマコード(参考)】
4H048
【Fターム(参考)】
4H048AA02
4H048AB90
4H048BA66
4H048BA69
4H048BB14
4H048BB15
4H048BB16
4H048BB20
4H048BB31
4H048BC10
4H048VA56
4H048VB10
(57)【要約】
合成溶液1リットル当たり、金属‐有機フレームワーク材料中の金属‐有機フレームワークが少なくとも約50体積%、および/または金属‐有機フレームワーク材料中の金属‐有機フレームワークが約75モル%の収率で金属‐有機フレームワークを製造する方法が提供される。約30体積%未満の水の溶媒組成物を緩衝剤および複数の試薬と組み合わせて合成溶液を提供する、水溶液中のMOF Cu(Qc)の製造方法が更に提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノール、少なくとも1つの溶媒、酢酸金属塩およびキノリン‐5‐カルボン酸を混合して、合成溶液を提供する工程、
合成溶液を反応温度まで加熱する工程、および
反応温度を下げて、合成溶液1リットル当たり少なくとも約50体積%の金属‐有機フレームワークの体積収率を有する金属‐有機フレームワーク材料を製造する工程
を含み、
前記溶媒が有機溶媒であり、かつ前記合成溶液が、合成溶液1リットル当たり少なくとも0.04~0.4モルのキノロン‐5‐カルボン酸の濃度を有する非水性である、金属‐有機フレームワークの製造方法。
【請求項2】
少なくとも1つの溶媒を含む溶媒組成物を提供する工程、
溶媒組成物を複数の固体試薬と組み合わせて、合成溶液を提供する工程、
合成溶液を少なくとも80℃以上の反応温度まで加熱する工程、および
反応温度を下げて、金属‐有機フレームワーク材料を製造する工程
を含み、
複数の固体試薬が、酢酸金属塩と、合成溶液1リットル当たり少なくとも0.04~0.4モルのキノロン‐5‐カルボン酸とを含み、
金属‐有機フレームワーク材料が約75モル%の金属‐有機フレームワークを含む、金属‐有機フレームワークの製造方法。
【請求項3】
前記溶媒組成物が非水性である、請求項2に記載の金属‐有機フレームワークの製造方法。
【請求項4】
前記溶媒がジメチルホルムアミドおよび/またはテトラヒドロフランから選択される、請求項2または3に記載の金属‐有機フレームワークの製造方法。
【請求項5】
前記合成溶液中の酢酸金属塩の濃度が、溶媒1リットル当たり約0.16~0.24モルである、請求項1または2に記載の金属‐有機フレームワークの製造方法。
【請求項6】
前記金属‐有機フレームワークが、約9.0~約12.7体積%の間の溶媒含有率を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の金属‐有機フレームワークの製造方法。
【請求項7】
エタノール、酢酸金属塩およびキノリン‐5‐カルボン酸を混合して、合成溶液を提供する工程、
合成溶液を反応温度まで加熱する工程、および
反応温度を下げて、金属‐有機フレームワーク材料を製造する工程
を含み、
合成溶液が、合成溶液1リットル当たり少なくとも0.04~0.4モルのキノロン‐5‐カルボン酸の濃度を有する非水性であり、
金属‐有機フレームワーク材料が、合成溶液1リットル当たり75モル%の金属‐有機フレームワーク収率を含む、金属‐有機フレームワークの製造方法。
【請求項8】
前記合成溶液を少なくとも約24時間から約72時間加熱する、請求項1~7のいずれか1項に記載の金属‐有機フレームワークの製造方法。
【請求項9】
前記反応温度を1時間当たり約0.1~約10℃の速度で低下させる、請求項1~8のいずれか1項に記載の金属‐有機フレームワークの製造方法。
【請求項10】
前記金属‐有機フレームワーク材料がMOF Cu(Qc)を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の金属‐有機フレームワークの製造方法。
【請求項11】
MOF Cu(Qc)が、約474nmの波長において吸収極大(λmax)を有する、請求項10に記載の金属‐有機フレームワークの製造方法。
【請求項12】
約474nmの波長において吸収極大(λmax)を有し、約9.0~約12.7体積%の間の溶媒含有率を有する金属‐有機フレームワークMOF Cu(Qc)であって、 前記金属‐有機フレームワークMOF Cu(Qc)が、
エタノール、ジメチルホルムアミド、酢酸銅水和物、およびキノリン‐5‐カルボン酸を混合して、合成溶液を提供する工程、
合成溶液を少なくとも80℃の反応温度まで加熱する工程、および
反応温度を下げて、少なくとも75モル%の金属‐有機フレームワークMOF Cu(Qc)を含む金属‐有機フレームワーク材料を製造する工程
を含む方法によって製造され、
前記合成溶液が、合成溶液1リットル当たり約0.04モルのキノロン‐5‐カルボン酸の濃度を有する、金属‐有機フレームワークMOF Cu(Qc)
【請求項13】
溶媒組成物を提供する工程、
溶媒組成物を緩衝剤および複数の試薬と組み合わせて合成溶液を提供する工程、および
合成溶液を少なくとも85℃以上の反応温度に少なくとも4時間加熱して、MOF Cu(Qc)を製造する工程
を含み、
前記溶媒組成物が約30体積%未満の水を含み、
前記試薬が1つ以上の金属塩および1つ以上のリンカーを含む、MOF Cu(Qc)の製造方法
【請求項14】
前記金属塩が酢酸金属塩である、請求項13に記載のMOF Cu(Qc)の製造方法。
【請求項15】
前記リンカーがキノロン‐5‐カルボキシレートである、請求項13に記載のMOF Cu(Qc)の製造方法。
【請求項16】
前記緩衝剤が、アルキル基でブリッジされたモルホリンおよびスルホン酸を含む、請求項13に記載のMOF Cu(Qc)の製造方法。
【請求項17】
前記緩衝剤が、ブレンステッド酸とその共役塩基、またはブレンステッド塩基とその共役酸を含む、請求項13に記載のMOF Cu(Qc)の製造方法。
【請求項18】
前記緩衝剤が重炭酸塩または炭酸ナトリウムである、請求項13に記載のMOF Cu(Qc)の製造方法。
【請求項19】
前記緩衝剤がMOPS、Na MOPSまたはNaHCOである、請求項13に記載のMOF Cu(Qc)の製造方法。
【請求項20】
前記合成溶液を約100℃~約160℃の間で加熱する、請求項13、14、15、16、17、18または19に記載のMOF Cu(Qc)の製造方法。
【請求項21】
前記溶媒組成物が、水、アルコールおよび/またはテトラヒドロフランを含む、請求項13、14、15、16、17、18、19または20に記載のMOF Cu(Qc)の製造方法。
【請求項22】
前記アルコールが、n‐プロパノール、イソプロパノール、メタノール、エタノール、n‐ブタノールから選択される、請求項21に記載のMOF Cu(Qc)の製造方法。
【請求項23】
前記溶媒組成が、ハンセン溶解度パラメータの評価によって選択される、請求項13、14、15、16、17、18、19、20または21に記載のMOF Cu(Qc)の製造方法。
【請求項24】
前記合成溶液を静置、タンブリングまたは撹拌条件下で加熱する、請求項13、14、15、16、17、18、19、20、21、22または23に記載のMOF Cu(Qc)の製造方法。
【請求項25】
前記溶媒組成物が水およびアセトンを含む、請求項13に記載のMOF Cu(Qc)の製造方法。
【請求項26】
MOF Cu(Qc)が約0.5μm~約755μmの粒子サイズを有する、請求項1~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
MOF Cu(Qc)が約200~約300m/gのBET表面積を有する、請求項1~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
MOF Cu(Qc)が、0.5バールおよび195°Kにおいて、約40~約90cm/gのCO容量を有する、請求項1~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
MOF Cu(Qc)が、0.5バールおよび195°Kにおいて、約60cm/gのCO容量を有する、請求項1~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
MOF Cu(Qc)が、303°Kで約1.8~約2.6ミリモル/gのエタン吸着容量を有する、請求項1~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
MOF Cu(Qc)が、約2.0~約2.4のエタン吸着容量を有する、請求項1~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記金属‐有機フレームワーク材料を濾過する工程を更に含む、請求項1~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記金属‐有機フレームワーク材料を洗浄する工程を更に含む、請求項1~32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記金属‐有機フレームワーク材料を溶媒中でトリチュレーションする工程を更に含む、請求項1~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
請求項28、29および30の工程を少なくとも1回繰り返す、請求項1~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記金属‐有機フレームワークが、乾燥された金属‐有機フレームワークCu(Qc)について、約10°~約15°の間、および約25°から約30°の間の2θ値で粉末X線回折ピークを生じる、請求項1~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
MOF Cu(Qc)が、従来の合成方法によって製造された金属‐有機フレームワークCu(Qc)と等しい2θ値で粉末X線回折ピークを生じる、請求項1~36のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年5月21日に出願された米国仮出願第63/191579号の優先権およびその利益を主張し、参照によりその全体が本明細書中に援用される。
【0002】
本開示は、概して、金属‐有機フレームワーク材料中の金属‐有機フレームワークの収率の増加およびより高いモル%を提供するための金属‐有機フレームワークの製造方法に関し、より具体的には、収率の増加およびより高いモル%は、ガス分離のためのエタン選択的吸着剤としてのMOF Cu(Qc)に関する。
【背景技術】
【0003】
金属‐有機フレームワーク(「MOF」)は、配位ネットワークを形成するために自己集合する金属およびマルチトピック有機リンカー(linker)から構成される材料である。MOFは、ガス貯蔵、ガス分離、触媒、感知(sensing)、および環境浄化を含む、異なる用途のための様々な使用用途を有することができる。細孔径を調整し、強い静電性を提供する無機リンカーを使用することで、新たな選択的ベンチマークが実現されている。気体分子の分離に最も関連する3~4Åの範囲内で細孔径を制御することが難しいため、モレキュラーシーブが達成できない場合もある。孔径が調整可能であることが示されても、反応合成収率が非常に低くなることがある。そのため、金属‐有機フレームワーク(「MOF」)材料は、商業的なスケールアップに適した大量生産することができない。
【発明の概要】
【0004】
本明細書中において提供されるのは、合成溶液1リットル当たり、金属‐有機フレームワーク材料中の少なくとも約50体積%の金属‐有機フレームワークの収率を提供する方法である。金属‐有機フレームワークを製造する方法は、エタノール、少なくとも1つの溶媒、酢酸金属塩およびキノリン‐5‐カルボン酸を混合して合成溶液を提供することを含む。少なくとも1つの溶媒は有機溶媒である。合成溶液は、合成溶液1リットル当たり少なくとも0.04~0.4モルのキノロン‐5‐カルボン酸の濃度を有する非水性である。合成溶液は反応温度まで加熱される。反応温度を下げて、少なくとも約50体積%の金属‐有機フレームワークの体積収率を有する金属‐有機フレームワーク材料を製造する。1つの態様では、合成溶液中の酢酸金属塩の濃度は、溶媒1リットル当たり約0.16モル~約0.24モルの間である。1つの態様において、金属‐有機フレームワークは、約9.0~約12.7体積%の間の溶媒含有率を有する。1つの態様において、合成溶液は少なくとも約24時間から約72時間加熱される。1つの態様において、反応温度は1時間当たり約0.1~約10℃の間の速度で低下させる。1つの態様において、金属‐有機フレームワーク材料は、MOF Cu(Qc)を含む。1つの態様において、MOF Cu(Qc)は、約474nmの波長において吸収極大(λmax)を有する。
【0005】
また、本明細書中では、金属‐有機フレームワーク材料中に約75モル%の金属‐有機フレームワークをもたらす方法が提供される。金属‐有機フレームワークを75モル%で製造するこれらの方法は、少なくとも1つの溶媒を含む溶媒組成物を提供することを含む。溶媒組成物を複数の固体試薬と組み合わせて合成溶液を提供する。合成溶液を少なくとも80℃以上の反応温度に加熱する。反応温度を下げて、金属‐有機フレームワーク材料の75モル%が金属‐有機フレームワークである金属‐有機フレームワーク材料を製造する。複数の固体試薬は、酢酸金属塩と、合成溶液1リットル当たり少なくとも0.04~0.4モルのキノロン‐5‐カルボン酸を含む。1つの態様において、溶媒組成物は非水性である。1つの態様において、溶媒はジメチルホルムアミドおよび/またはテトラヒドロフランから選択される。1つの態様において、金属‐有機フレームワークは、約9.0~約12.7体積%の間の溶媒含有率を有する。1つの態様において、金属‐有機フレームワークは、約9.0~約12.7体積%の間の溶媒封入体を有する。1つの態様において、反応温度は、毎時約0.1~約10℃の間の速度で低下される。1つの態様において、金属‐有機フレームワーク材料は、MOF Cu(Qc)を含む。1つの態様において、MOF Cu(Qc)は、約474nmの波長において吸収極大(λmax)を有する。
【0006】
更に、合成溶液1リットル当たり75モル%の収率の金属‐有機フレームワークを製造する方法が提供される。これらの方法では、エタノール、酢酸金属塩およびキノリン‐5‐カルボン酸を混合して合成溶液を提供する。合成溶液を反応温度まで加熱する。反応温度を下げて、合成溶液1リットル当たり75モル%の金属‐有機フレームワーク収率を含む金属‐有機フレームワーク材料を製造する。これらの方法において、合成溶液は非水性であり、合成溶液1リットル当たり少なくとも0.04~0.4モルのキノロン‐5‐カルボン酸の濃度を有する。1つの態様において、合成溶液は少なくとも約24時間から約72時間加熱される。1つの態様において、反応温度は1時間当たり約0.1℃から約10℃の間の速度で低下させる。1つの態様において、金属‐有機フレームワーク材料は、MOF Cu(Qc)を含む。1つの態様において、MOF Cu(Qc)は、約474nmの波長において吸収極大(λmax)を有する。
【0007】
更に提供されるのは、約474nmの波長で吸収極大(λmax)を有し、約9.0~約12.7体積%の間の溶媒含有率を有する、金属‐有機フレームワーク、MOF Cu(Qc)である。金属‐有機フレームワークは、エタノール、ジメチルホルムアミド、酢酸銅水和物、およびキノリン‐5‐カルボン酸を混合して、合成溶液を提供する工程を含む方法によって製造される。合成溶液は、合成溶液1リットル当たり約0.04モルのキノロン‐5‐カルボン酸の濃度を有する。合成溶液を少なくとも80℃の反応温度まで加熱し、反応温度を低下させて、少なくとも75モル%の金属‐有機フレームワークMOF Cu(Qc)を有する金属‐有機フレームワーク材料を製造する。
【0008】
水溶液中でMOF Cu(Qc)を製造する方法も提供される。これらの方法は、約30体積%未満の水の溶媒組成物を含む。溶媒組成物は、緩衝剤および複数の試薬と組み合わされて、合成溶液を提供する。合成溶液は、少なくとも80℃以上の反応温度に少なくとも4時間加熱され、MOF Cu(Qc)を生成する。試薬は、1つ以上の金属塩および1つ以上のリンカーを含む。1つの態様において、金属塩は酢酸金属である。1つの態様において、リンカーは5‐カルボキシキノリンである。1つの態様において、緩衝剤は、アルキル基でブリッジされたモルホリンおよびスルホン酸を含む。1つの態様では、緩衝剤はブレンステッド酸とその共役塩基、またはブレンステッド塩基とその共役酸を含む。1つの態様において、緩衝剤は炭酸水素塩または炭酸ナトリウムである。1つの態様では、緩衝剤はMOPS、Na MOPSまたはNaHCOである。1つの態様では、溶媒組成はハンセン溶解度パラメータの評価によって選択される。
【0009】
本開示のこれらおよび他の特徴および属性、並びにそれらの有利な用途および/または使用は、以下の詳細な説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本明細書中の主題を作成し使用する際に関連技術分野における通常の技術者を支援するために、添付の図面を参照する。
図1】9~12.7%の溶媒含有量が示された、合成されたMOF Cu(Qc)の熱重量分析の結果を提供するグラフである。
図2A】合成された本発明の材料の粉末X線回折パターンを示す。
図2B】合成された本発明の材料の粉末X線回折パターンを示す。
図2C】合成された本発明の材料の粉末X線回折パターンを示す。
図2D】合成された本発明の材料の粉末X線回折パターンを示す。
図3図3は、実験1で本発明の方法で合成したMOF Cu(Qc)材料(結晶)の3.0kV、8.8mm×2.00k SE(L)で撮影したSEM画像である。
図4図4は、実験1において本発明の方法で合成されたMOF Cu(Qc)材料の3.0kV、8.8mm×400 SE(L)で撮影されたSEM画像である。
図5図5は、実験1において本発明の方法で合成されたMOF Cu(Qc)材料の3.0kV、8.7mm×10.0k SE(L)で撮影されたSEM画像である。
図6図6は、実験1において本発明の方法で合成されたMOF Cu(Qc)材料の3.0kV、8.7mm×2.00k SE(L)で撮影されたSEM画像である。
図7図7は、実験1において本発明の方法で合成したMOF Cu(Qc)材料の3.0kV、8.7mm×400 SE(L)で撮影したSEM画像である。
図8図8は、先行技術の合成で作製されたMOF Cu(Qc)材料および本発明の方法で作製された材料の破線縦線およびUV‐可視における吸収極大値を示す。
図9図9は、Cu(OAc)を用いて合成したMOF Cu(Qc)の195°KにおけるCO吸着等温線を600mLおよび2Lのスケールで示す。
図10図10は、実施例1のMOF Cu(Qc)材料についての195°KでのCO吸着データを示す。
図11図11は、代替溶媒(ジメチルホルムアミド以外)で合成したMOF Cu(Qc)の粉末X線回折パターンである。)
図12図12は、先行技術の方法で合成された比較MOF Cu(Qc)材料の3.0kV、8.4mm×10.0k SE(L)で撮影されたSEM画像である。
図13図13は、先行技術の方法で合成された比較MOF Cu(Qc)材料の3.0kV、8.4mm×2.00k SE(L)で撮影されたSEM画像である。
図14図14は、先行技術の方法で合成された比較MOF Cu(Qc)材料の3.0kV、8.4mm×2.00k SE(L)で撮影されたSEM画像である。
図15図15は、先行技術の方法で合成された比較MOF Cu(Qc)材料の3.0kV、8.5mm×2.00k SE(L)で撮影されたSEM画像である。
図16図16は、先行技術の方法で合成した比較MOF Cu(Qc)材料の3.0kV、8.5mm×400k SE(L)で撮影したSEM画像である。
図17図17は、実施例3の異なる溶媒組成で合成したMOF Cu(Qc)材料の粉末X線回折パターンを示す。
図18図18は、有機リンカーと金属の合計に対して1.25当量の濃度の緩衝剤を含む水性溶媒組成物で合成したMOF Cu(Qc)材料の粉末X線回折パターンである。
図19図19は、実施例3の実験11、実験12、実験13および実験14の水性溶媒組成物で合成したMOF Cu(Qc)材料の熱重量分析を示すグラフである。
図20A】実施例3の実験11のMOF Cu(Qc)材料(結晶)の2.0kV、13.4mm×4.50k SE(L)で撮影したSEM画像である。
図20B】実施例3の実験11のMOF Cu(Qc)材料(結晶)の2.0kV、13.4mm×3.50k SE(L)で撮影したSEM画像である。
図21A】実施例3の実験12のMOF Cu(Qc)材料の2.0kV、13.2mm×22.0k SE(L)で撮影したSEM画像である。
図21B】実施例3の実験12のMOF Cu(Qc)材料の2.0kV、13.2mm×4.50k SE(L)で撮影したSEM画像である。
図22A】実施例3の実験13のMOF Cu(Qc)材料の2.0kV、13.1mm×20.0k SE(L)で撮影したSEM画像である。
図22B】実施例3の実験13のMOF Cu(Qc)材料の2.0kV、13.1mm×4.50k SE(L)で撮影したSEM画像である。
図23A】実施例3の実験14のMOF Cu(Qc)材料の2.0kV、13.1mm×10.0k SE(L)で撮影したSEM画像である。
図23B】実施例3の実験14のMOF Cu(Qc)材料の2.0kV、13.1mm×5.00k SE(L)で撮影したSEM画像である。
図24】アセトン/水合成によって製造された実施例3の実験1および実験2のMOF Cu(Qc)材料の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
図25】実施例3の実験1および実験2のアセトン/水合成における種々の温度に対する質量Cu(BF)・6HOの熱重量分析を示すグラフである。
図26A】実施例3の実験1のMOF Cu(Qc)材料の2.0kV、13.6mm×19.2k SE(L)で撮影したSEM画像である。
図26B】実施例3の実験1のMOF Cu(Qc)材料の2.0kV、13.6mm×5.00k SE(L)で撮影したSEM画像である。
図27A】実施例3の実験2のMOF Cu(Qc)材料の2.0kV、13.3mm×25.0k SE(L)で撮影したSEM画像である。
図27B】実施例3の実験2のMOF Cu(Qc)材料の2.0kV、13.3mm×4.50k SE(L)で撮影したSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本方法およびデバイスが開示され、記載される前に、特に断らない限り、本開示は、特定の化合物、成分、組成物、反応物、反応条件、配位子、触媒構造体、メタロセン構造体などに限定されないと解されるべきである。また、本明細書中で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、限定することを意図するものではないと解されるべきである。
【0012】
本開示の目的のために、以下の定義が適用される。
本明細書中で使用される場合、本明細書中で使用される用語「a」および「the」は、単数形だけでなく複数形も包含すると理解される。
【0013】
本明細書中で使用される場合、用語「周期表」とは、2015年12月付けの国際純正応用化学連合(IUPAC)の元素周期表を意味する。
【0014】
本明細書中で使用される場合、「等温線」とは、系の温度が一定に保持されている間、濃度の関数としての吸着物の吸着を指す。
【0015】
「塩」という用語は、本明細書中に記載される化合物上に見出される特定の配位子または置換基に応じて、酸または塩基の中和によって調製される化合物の塩を含む。本開示の化合物が比較的酸性の官能基を含む場合、塩基付加塩は、そのような化合物の中性の形態を、入手したままの状態(neat)または適切な不活性溶媒中で、十分な量の所望の塩基と接触させることによって得ることができる。塩基付加塩の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、有機アミノ塩、またはマグネシウム塩、または類似の塩が挙げられる。酸付加塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、炭酸塩、一水素炭酸水素酸塩、リン酸塩、一水素リン酸塩、二水素リン酸塩、硫酸塩、一水素硫酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩などの無機酸から誘導される塩が挙げられる、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、酪酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、安息香酸、コハク酸、スベリン酸、フマル酸、乳酸、マンデル酸、フタル酸、ベンゼンスルホン酸、p‐トリルスルホン酸、クエン酸、酒石酸、メタンスルホン酸などの比較的無毒性の有機酸から誘導される塩と同様に、これらの酸を含む。本開示の特定の化合物には、塩基性官能基と酸性官能基の両方が含まれており、化合物を塩基付加塩または酸付加塩のいずれかに変換することができる。塩の水和物も含まれる。
【0016】
「溶媒」という用語は、分子を溶解し、溶液の主要成分である溶液を形成するために使用される系を意味し、溶解した分子が微量成分または溶質を構成することを含む。
【0017】
「試薬」という用語は、化学反応を引き起こすため、または反応が起こったかどうかを試験するために系に添加される分子、化合物、または混合物を意味し、反応過程で消費または変換されるかもしれないし、されないかもしれないものを含む。
【0018】
「ハンセン溶解度パラメータ」という用語は、任意の分子の凝集エネルギー密度を、分散力、永久双極子‐永久双極子力、および分子水素結合力に近似した3つの成分に分離することを指す。2つの異なる分子間のそれぞれのハンセン溶解度パラメータが類似していることは、溶解性が高い可能性を示唆している。逆に、ハンセン溶解度パラメータが著しく異なる分子は溶解しない可能性が高い。ハンセン溶解度パラメータの完全かつ徹底的な定義と説明は、「Hansen Solubility Parameters: A User's Handbook, 2nd Ed.」(Charles M. Hansen著)に記載されている。
【0019】
「粉末X線回折」(Powder X-ray Diffraction)またはPXRDという用語は、X線の回折を利用して材料の構造的特性を評価する科学技術を指す。材料中の原子は、対称的かつ規則的な周期性を持って配列しているため、散乱されたX線の建設的干渉が生じ、経路長差が波長の整数倍となり、ブラッグの法則(Bragg’s law)に従った回折極大が生じる。
【0020】
1つ以上のキラル中心を有する本明細書中に記載の化合物において、絶対的な立体化学が明示されていない場合、各中心は独立してR‐配座もしくはS‐配座、またはそれらの混合物であってもよいことが理解される。したがって、本明細書中で提供される化合物は、エナンチオマー的に純粋であるか、または立体異性体の混合物であってもよい。加えて、EまたはZとして定義され得る幾何異性体を生成する1つ以上の二重結合を有する本明細書中に記載の化合物において、各二重結合は、独立して、EまたはZであってもよく、またはそれらの混合物であってもよいことが理解される。同様に、記載される任意の化合物において、全ての互変異性体形態もまた含まれることが意図されることが理解される。
【0021】
更に、本明細書中で提供される化合物は、そのような化合物を構成する原子の1つ以上に、不自然な割合の原子同位体を含むこともできる。例えば、化合物は、例えばトリチウム(H)、ヨウ素125(125I)または炭素14(14C)などの放射性同位体で放射性標識されていてもよい。放射性であるか否かにかかわらず、主題化合物のすべての同位体バリエーションは、本開示の範囲内に包含されることが意図される。
【0022】
更に本明細書中の詳細な説明および特許請求の範囲内のすべての数値は、示された値を「約(about)」または「約(approximately)」で修正することを意図しており、当業者によって予想される実験誤差および変動を考慮に入れている。
【0023】
更に金属‐有機フレームワーク(「MOF」または複数形では「MOF」)は、配位ネットワークを形成するために自己集合する金属およびマルチトピック有機リンカーの両方を含む材料である。本明細書中で使用する場合、「金属‐有機フレームワーク」は、混合金属‐有機フレームワークまたは金属‐有機フレームワーク系、または米国特許出願第62/839,261号に記載されているような混合金属混合有機フレームワーク系であってもよい。
【0024】
MOFは、ガス貯蔵、ガス分離、触媒、感知、および環境浄化を含む多くの異なる用途において広範な潜在的用途を有する。金属‐有機フレームワーク、MOF Cu(Qc)(Qcはキノロン‐5‐カルボキシレート)は、パラフィンからオレフィン、特にエチレンからエタンの分離に応用される可能性がある。
【0025】
エタンとエチレンは、石油化学工業の化学原料として使用される軽質炭化水素である。天然ガスからこれらの分子を分離および回収するには、従来、エネルギー消費の大きい低温蒸留が用いられてきた。最近になって、吸着が効果的な代替分離方法であることがわかってきた。吸着は室温で操作できるため、大幅なエネルギー節約につながる。しかし、吸着剤は効果的で安定したものでなければならない。金属‐有機フレームワークが効果的であることがわかっている。更に、金属‐有機フレームワークは比較的低コストで高い吸着率を提供できる。しかしながら、金属‐有機フレームワークは、低温蒸留と比較して選択性が若干低く、安定性に問題がある。
【0026】
石油産業用のガス吸着に関して、有機金属フレームワークは、エチレン選択的吸着剤とエタン選択的吸着剤の2つのカテゴリーに分けられる。商業用途では、古典的なクラックガス(C/C=1:12~15体積:体積)からエチレンを分離するためにエタン選択性吸着剤を使用する方が、エチレン選択性吸着剤よりも効果的であることが多く、特に純度99.8%のポリマーグレードのエチレンを製造するのに適している。エタン選択性吸着剤は通常、ポリマーグレードのエチレンを得るために1サイクルの吸着工程しか必要としない。Liang et al.、2018。これらのエタン選択的MOF吸着剤には、金属‐有機フレームワークCu(Qc)(「MOF Cu(Qc)」)が含まれる。Chen et al.、Tuning Pore Size in Square-Lattice Coordination Networks for Size Selective Sieving of CO2, Chem. Int. Ed., 55, 10268-10272, 2016; Lin et al., Ethane/Ethylene Separation in a Metal Organic Framework With Iron-Peroxo Sites, Science 362, 2018を参照。MOF Cu(Qc)は、ファンデルワールスの相互作用を通じて、エチレンよりもエタンを優先的に吸着する。他のエタン選択性MOFの中でも、MOF Cu(Qc)は、その分子寸法の超微細孔構造により、天然ガス(「NG」)からのエタンの高い選択性を有する。
【0027】
Chen et al., 2016によって記載されているように、金属‐有機フレームワーク材料を生成するために、網状化学を使用して、他のクラスの多孔性材料では達成することが困難な方法で、細孔寸法および分子化学を制御することができる。ハイブリッド型超微多孔質材料では、短い有機リンカーによって細孔サイズを実現できる。更に、細孔のモレキュラーシーブ(または分子篩い分け)よりも大きな運動直径を持つ分子を排除することができるため、小さな分子の通過を可能にしながら、超高選択性を実現することができる。残念ながら、3~4オングストローム(「Å」)の範囲の孔径を制御することは困難であるため、気体分子の分離においてモレキュラーシーブを達成することは難しい。更に、低温で観察される大きな取り込み量の差は、細孔の収縮、ガス拡散速度の低下、熱運動の低下によるアーチファクト(artifact)である可能性もある。実際、これらの運動状態(dynamics)は、ゲート開口効果やふるい能力の喪失を誘発する可能性があるため、篩材料では望ましくない。
【0028】
また、Chen et al., 2016によって報告されているように、周囲条件下またはそれに近い条件下で、CHおよび/またはNを超えるCO用のモレキュラーシーブは、ほんの一握りしか知られていない。これらの例のいくつかでは、未特性の活性化構造が、観察されたモレキュラーシーブに関与している。配位ネットワークは、吸着質‐吸着剤相互作用が弱いため、必ずNおよび/またはCHよりもCOに対する選好性を示す。
【0029】
それにもかかわらず、Chen et al., 2016は、細孔サイズの微調整が超分子異性化、すなわち、同じ化学組成を有するが異なるトポロジーを有するネットワークの生成を可能にすることを報告している。例示的なものは、キノリン‐5‐カルボン酸とそれぞれの金属塩からソルボサーマル合成された式[M(キノリン‐5‐カルボキシレート)]、Qc‐5‐M‐dia(M=Co、Ni、ZnおよびCu、dia=2倍、3Dダイアモンドネットワーク)およびQc‐5‐Cu‐sql‐α(sql=2D正方格子ネットワーク)の5つの配位ネットワークである。
【0030】
更にQc‐5‐M‐dieとQc‐5‐Cu‐sol‐αは超分子異性体であることがわかった。次に、この材料は、単成分ガス収着、混合ガスの動的ブレークスルー、温度プログラム脱離(「TPD」)、および分子モデリングによって研究された。Qc‐5‐Cu‐sql‐αは、脱溶媒によりQc‐5‐Cu‐sql‐αのより安定な多形であるQc‐5‐Cu‐sql‐βへと不可逆的な相変化を起こす。b相は、脱溶媒を試みてもa相に戻ることはない。b相は、再溶媒和を試みても、加熱しても、21日間水に浸しても、a相には戻らない。興味深いことに、Qc‐5‐Cu‐sql‐βは293K、1気圧の条件下で中程度の量のCOを吸着するが、同じ条件下ではCHやNはほとんど吸着しないことから、ふるい効果が示唆される。Qc‐5‐M‐diaは正方晶系空間群に2回相互貫入したdiaネットワークとして結晶化するのに対し、Qc‐5‐Cu‐sql‐αは単斜晶系空間群P2/cに結晶化する。各金属は4個の酸素原子(2個のカルボキシレート基由来)と2個の窒素原子(2個のキノリン環由来)に配位している。リンカー配位子の配向の違いにより、Qc‐5‐Cuでは超分子異性化が起こる。Qc‐5‐Cu‐diaおよびQc‐5‐Cu‐sql‐αは、それぞれ直径4.8Åおよび3.8Åの1次元チャネルを示し、それぞれ34.7%および23.5%のネットワークボイドスペースを有する。
【0031】
これらの報告が有望であるように見えるが、MOF Cu(Qc)は現在、製造コストが高い、あるいは水蒸気が不安定であるという課題に直面している。性能を損なうことなく、MOFを簡便かつ迅速に合成する必要がある。MOFであるCu(Qc)のコストを更に下げるために、さまざまな合成法が研究されてきた。更に、性能を損なうことなくMOFの水蒸気安定性を高めるために、合成後または合成前の修飾が提案されている。例えば、銅ベースのCu(Qc)の簡便な室温合成は、エタン/エチレンの分離および天然ガスからのエタンの回収に対する性能について検討されている。Tang, Y. et al., Room Temperature Synthesis of Cu(Qc)2 and its Application for Ethane Capture from Light Hydrocarbons, Chem. Eng. Sci.、213, 2020。本発明の方法が発見される前は、この材料は少量しか製造されていなかった。
【0032】
本発明の方法は、金属‐有機フレームワーク材料および金属‐有機フレームワークの製造において、以下のようないくつかの進歩を提供する:(1)合成条件の変更(異なる金属塩を含む)により、従来とは異なる結晶子形態およびCO容量を有する金属‐有機フレームワーク材料を製造する;(2)合成濃度の変更により、製造される金属‐有機フレームワークの体積収率を増加させる;および(3)金属‐有機フレームワークの合成のスケールアップ(合成条件の他の変更の結果として)。
【0033】
従来の合成
従来から、金属‐有機フレームワークは、予め合成されたリンカーまたは市販のリンカーと金属イオンとの反応によって作製されている。「in situリンカー合成」と呼ばれる別のアプローチでは、特定の有機リンカー(リンカー)を出発材料からin situで反応媒体において生成することができる。金属‐有機フレームワークの合成において、有機分子は構造指示剤であるだけでなく、骨格構造の一部として取り込まれる反応物でもある。このことを念頭に置いて、従来の合成では一般に高温の反応温度が採用されている。ソルボサーマル反応条件、構造指示剤、無機化剤、およびマイクロ波アシスト合成またはスチームアシスト変換も最近導入されている。
【0034】
本明細書中で言及するように、従来の合成は、典型的には、並行反応を伴わない従来の電気加熱によって実施される応用反応である。従来の合成では、反応温度は金属‐有機フレームワークの合成の主要なパラメータであり、通常、ソルボサーマル(solvothermal)とノン・ソルボサーマル(nonsolvothermal)の2つの温度範囲が区別され、使用される反応セットアップの種類を決定する。ソルボサーマル反応は一般に密閉容器内で、使用する溶媒の沸点程度の自生圧力下で行われる。ノン・ソルボサーマル反応は、常圧下で沸点以下または沸点で行われるため、合成の要件が簡素化される。ノン・ソルボサーマル反応は、更に室温または高温に分類することができる。
【0035】
従来の金属‐有機フレームワークの合成は、溶媒中、室温から約250℃までの温度で行われる。熱は対流によって高温源であるオーブンから伝達される。あるいは、電位、電磁放射、機械波(超音波)、機械的にエネルギーを導入することもできる。エネルギー源は、系に導入される時間、圧力、および分子あたりのエネルギーと密接に関連しており、これらのパラメータの各々は、形成される金属‐有機フレームワークおよびその形態に強い影響を及ぼす可能性がある。
【0036】
本明細書中に記載されているように、MOF Cu(Qc)を作る元の合成には、高温(105℃)と長い反応時間(48時間)が必要なソルボサーマル法が含まれていた。Chen et al.の式[M(キノリン‐5‐カルボキシレート)]の5つの配位ネットワーク、Qc‐5‐M‐dia(M=Co、Ni、ZnおよびCu、dia=2倍、3Dダイアモンドネットワーク)およびQc‐5‐Cu‐sql‐α(sql=2D正方格子ネットワーク)を、HQc(キノリン‐5‐カルボン酸)およびそれぞれの金属塩からソルボサーマル法で合成した。
【0037】
しかし、この時以来、MOF Cu(Qc)の室温合成が最近開発された。例えば、Tang, Y. et al., 2020 を参照。ここでは、ZnO(23.49mg、0.29ミリモル)とCu(BF)・6HO水溶液(0.44g、0.58ミリモル)を12mLのエタノールに分散させ、常温で10分間超音波処理して、(Zn,Cu)ヒドロキシ二重塩[(Zn,Cu)(OH)BF]という中間体溶液を得た。次に、HQc(0.10g、0.58ミリモル)のDMF溶液(12mL)を加えた。同時に、混合物を撹拌し、合成反応を1時間から12時間行った。その後、濾過によりRT‐Cu(Qc)を紫色粉末として回収し、DMFで洗浄した後、エタノールに1日間浸漬した。試料を393Kで8時間真空乾燥した。Cu(BF)・6HO溶液へのZnOの添加は、Cu(Qc)の室温合成を促進するために重要であることがわかった。溶液中のZnOとCu(BF)は中間体として(Zn,Cu)ヒドロキシル二重塩を形成し、優れた陰イオン交換性を有すると報告されており(Zhao et al., 2015; Li et al., 2017; Wu et al., 2019)、常温条件下で[(Zn,Cu)(OH)BF]とQcからOHとBF の高速交換が促進された。
【0038】
現行の金属‐有機フレームワークの製造方法
本発明の方法は、金属‐有機フレームワークMOF Cu(Qc)を大量に合成し、その後、吸着分離用途、特にエタンとエチレンの分離に使用することに向けられている。このMOF Cu(Qc)材料は、孔径が小さいため、他の分離用途にも使用できる見込みがある。
【0039】
本発明の方法で製造されたMOF Cu(Qc)は、エタン/エチレン混合物の吸着分離に有用であることが示されている。本発明の方法は、文献で当初報告された合成法とは異なる特性を有する、金属‐有機フレームワーク材料の改良された合成をスケールで提供する。酢酸金属塩を使用することで、以前合成された材料と比較して、同等または改善された品質の金属‐有機フレームワーク材料を製造することができる。金属塩の変更により濃度を大幅に上げることができ、品質を損なうことなく生成物の体積収率を向上させることができる。低濃度/異なる金属塩合成と比較して、異なる結晶サイズと形態が示されている。金属‐有機フレームワーク材料の変化は、例えば紫外‐可視スペクトルにおいて示される。
【0040】
以下の実施例に更に記載されるように、金属‐有機フレームワークを製造する本発明の方法は、合成溶液1リットル当たり、金属‐有機フレームワーク材料中の少なくとも約50体積%の金属‐有機フレームワークを得ることができる。本方法は、エタノール、少なくとも1種の溶媒、酢酸金属塩およびキノリン‐5‐カルボン酸を混合して合成溶液を提供することを含む。この特定の方法論では、溶媒は有機溶媒である。合成溶液は、合成溶液1リットル当たり少なくとも0.04~0.4モルのキノロン‐5‐カルボン酸の濃度を有する非水性である。合成溶液は反応温度まで加熱される。反応温度は、金属‐有機フレームワークの少なくとも約50体積%の体積収率を有する金属‐有機フレームワーク材料を製造するために低下される。
【0041】
この方法論の種々の態様に従って、合成溶液中の酢酸金属塩の濃度は、溶媒1リットル当たり約0.16モルから約0.24モルの間である。更に、金属‐有機フレームワークは、約9.0~約12.7体積%の間の溶媒含有率を有することができる。態様において、合成溶液は少なくとも約24時間から約72時間加熱される。1つの態様において、反応温度は、1時間当たり約0.1~約10℃の間の速度で低下させる。1つの態様において、金属‐有機フレームワーク材料はMOF Cu(Qc)であり、1つの態様において、MOF Cu(Qc)は約474nmの波長で吸収極大(λmax)を有する。
【0042】
また、本明細書中には、金属‐有機フレームワーク材料において約75モル%の収率で金属‐有機フレームワークを製造する方法が提供される。これらの金属‐有機フレームワークの製造方法は、少なくとも1つの溶媒を有する溶媒組成物を使用する。溶媒組成物を複数の固体試薬と組み合わせて合成溶液を生成する。合成溶液を少なくとも80℃以上の反応温度に加熱する。反応温度を下げると、金属‐有機フレームワーク材料の約75モル%が金属‐有機フレームワークである金属‐有機フレームワーク材料が生成する。この方法論では、酢酸金属塩を含む複数の固体試薬と、合成溶液1リットル当たり少なくとも0.04~0.4モルのキノロン‐5‐カルボン酸を使用する。1つの態様において、溶媒組成物は非水性である。1つの態様において、溶媒はジメチルホルムアミドおよび/またはテトラヒドロフランから選択される。1つの態様において、金属‐有機フレームワークは、約9.0~約12.7体積%の間の溶媒含有率を有する。1つの態様において、金属‐有機フレームワークは、約9.0~約12.7体積%の間の溶媒包接を有する。1つの態様において、合成溶液は少なくとも約24時間から約72時間加熱される。1つの態様において、反応温度は1時間当たり約0.1~約10℃の間の速度で低下させる。1つの態様において、金属‐有機フレームワーク材料は、MOF Cu(Qc)を含む。1つの態様において、MOF Cu(Qc)は、約474nmの波長において吸収極大(λmax)を有する。
【0043】
本発明の方法はまた、合成溶液1リットル当たり75モル%の金属‐有機フレームワーク収率を提供することができる。ここで、エタノール、酢酸金属塩およびキノリン‐5‐カルボン酸を混合して合成溶液を提供する。合成溶液は非水であり、キノリン‐5‐カルボン酸の濃度は合成溶液1リットル当たり少なくとも0.04~0.4モルである。合成溶液は反応温度まで加熱される。反応温度を下げて、合成溶液1リットル当たり75モル%の金属‐有機フレームワーク収率を含む金属‐有機フレームワーク材料を製造する。1つの態様では、合成溶液は少なくとも約24時間から約72時間加熱される。1つの態様において、反応温度は1時間当たり約0.1~約10℃の間の速度で低下させる。1つの態様において、金属‐有機フレームワーク材料は、MOF Cu(Qc)を含む。1つの態様において、MOF Cu(Qc)は、約474nmの波長で吸収極大(λmax)を有する。
【0044】
更にここで提供されるのは、約474nmの波長で吸収極大(λmax)を有し、約9.0~約12.7体積%の間の溶媒含有率を有する金属‐有機フレームワーク、MOF Cu(Qc)である。この金属‐有機フレームワークは、エタノール、ジメチルホルムアミド、酢酸銅水和物、およびキノリン‐5‐カルボン酸を混合して合成溶液を得る工程を含む方法によって製造される。MOF Cu(Qc)を製造するために、合成溶液は、合成溶液1リットルあたり約0.04モルのキノロン‐5‐カルボン酸の濃度を有し、少なくとも80℃の反応温度に加熱される。次いで、反応温度を下げて、少なくとも75モル%の金属‐有機フレームワークMOF Cu(Qc)を含む金属‐有機フレームワーク材料を製造する。
【0045】
実施例において更に記載されるように、水溶液を使用してMOF Cu(Qc)を製造する代替的な新規方法が本明細書中において提供される。これらの方法論では、溶媒組成物を緩衝剤および複数の試薬と組み合わせて合成溶液を提供する。試薬は、1種以上の金属塩および1種以上のリンカーを含む。溶媒組成物は約30体積%以下の水である。この方法論の1つの態様では、溶媒組成はハンセンの溶解度パラメータの評価によって選択することができる。1つの態様では、溶媒組成物は水とアセトンを含む。合成溶液は、少なくとも85℃以上の反応温度に少なくとも4時間加熱され、MOF Cu(Qc)を生成する。1つの態様において、合成溶液は、静置、タンブリングまたは撹拌条件下で加熱してもよい。
【0046】
更に、この方法論の1つの実施形態によれば、金属塩は酢酸金属であり、リンカーは5‐カルボキシキノリンである。酢酸塩で作られた材料は、同じ構造を有し、表面積および分離性能は、より大きいとは言えないまでも、同じであることが示されている。緩衝剤は、アルキル基で架橋されたモルホリンとスルホン酸でもよい。緩衝剤は、ブレンステッド酸とその共役塩基、またはブレンステッド塩基とその共役酸であってもよい。更に、緩衝剤は、MOPS、Na MOPSまたはNaHCOのような重炭酸塩または炭酸ナトリウムであってもよい。
【0047】
本明細書中で提供される本方法のいずれか1つの実施形態によれば、MOF Cu(Qc)は、約0.5μm~約755μmの間の粒径を有し得る。更に、1つの態様において、MOF Cu(Qc)は、約200~約300m/gのBET表面積を有し得る。1つの態様において、MOF Cu(Qc)は、0.5バールおよび195°Kにおいて、1g当たり約40~約90立方センチメートルのCO容量を有する。本明細書中に記載される方法によっても提供されるように、MOF Cu(Qc)は、0.5バールおよび195°Kで1g当たり約60立方センチメートルの間のCO容量を有し得る。1つの態様において、MOF Cu(Qc)は、303°Kで1g当たり約1.8ミリモル~約2.6ミリモルの間のエタン吸着容量を有することができる。1つの態様において、MOF Cu(Qc)は、約2.0~約2.4の間のエタン吸着容量を有する。
【0048】
本明細書中に記載の本方法のいずれか1つは、金属‐有機フレームワーク材料を濾過する工程を更に含むことができる。加えて、本方法は、金属‐有機フレームワーク材料を洗浄する工程および/または金属‐有機フレームワーク材料をトリチュレーションする(または粉砕する;triturate)工程を任意に含むことができる。濾過、洗浄およびトリチュレーションを少なくとも1回繰り返すことができる。
【0049】
更に、本明細書中に記載の本方法のいずれか1つは、乾燥した金属‐有機フレームワークCu(Qc)について、約10°~約15°の間、および約25°~約30°の間の2θ値で粉末X線回折ピークを生じる金属‐有機フレームワークを提供することができる。更に、本発明の方法は、従来の合成によって製造される金属‐有機フレームワークCu(Qc)と等しい、2θ値における粉末X線回折ピークを有するMOF Cu(Qc)を製造することができる。
【0050】
大規模での金属‐有機フレームワーク材料の合成は、文献で報告されている元の合成とは異なる特性を有する金属‐有機フレームワークを提供することができる。MOF Cu(Qc)は、エタン/エチレン混合物の吸着分離に有用であることが示されている。本発明の方法では、酢酸金属塩または類似の金属塩を使用して、以前に合成されたものと比べて同等または改善された品質の金属‐有機フレームワーク材料を製造する。以下に述べる実験では、酢酸金属塩を用いると濃度を大幅に上げることができ、品質を損なうことなく金属‐有機フレームワーク生成物の体積収率が向上することを発見した。更に、低濃度/異なる金属塩合成と比較して、異なる結晶サイズおよび形態、並びに材料自体、例えば紫外‐可視スペクトルにおける変化が明らかになった。
【0051】
本方法は、金属‐有機フレームワーク材料およびその製造合成を向上させる。第一に、合成条件の変更(異なる金属塩を含む)により、異なる結晶子形態を有する金属‐有機フレームワークが得られ、従来技術では利用できなかったCO容量に適応できる材料が得られる。第二に、体積収率を高めるために反応合成の濃度を調整した。第三に、合成条件の他の変更の結果として、反応合成のスケールアップは、より大きなスケールへの金属‐有機フレームワーク材料の製造を可能にする。
【0052】
本方法は、MOF Cu(Qc)(ここで、Qcはキノロン‐5‐カルボキシレートである)の収量を増加させ、同じものを試験し、その後、吸着分離用途であるエタン/エチレンにおいてMOFを使用する。この材料は、孔径が小さいため、他の分離用途にも使用できる見込みがある。
【実施例
【0053】
本発明の特徴を以下の非限定的な実施例で説明する。
【0054】
実施例1:方法収率および吸着容量の増加
本発明の方法論を使用して2つの反応を実施した。1つの反応では、240ミリリットル(「mL」)のエタノール、240mLのジメチルホルムアミド、8.40グラム(「g」)の酢酸銅水和物[Cu(OAc)・xHO]、および16.0gのキノリン‐5‐カルボン酸を600mLのステンレス鋼オートクレーブに混合することによって、MOF Cu(Qc)を合成した。反応器を密閉し、250rpmで撹拌し、反応温度105℃まで72時間(「h」)加熱した。合成溶液を撹拌下、1時間あたり6℃の速度で冷却し、合成溶液が室温に達した時点で開封した。金属‐有機フレームワーク材料を濾過し、紫色の固体を回収した。この金属‐有機フレームワーク材料を300mLのジメチルホルムアミド、300mLのエタノールで洗浄した後、60℃で撹拌しながら600mLのジメチルホルムアミドでトリチュレーションし、濾過し、60℃のエタノール600mLで3時間トリチュレーションし、濾過し、60℃のメタノール600mLで12時間トリチュレーションし、濾過して紫色の粉末13.13gを得た。図1に示すように、熱重量分析(「TGA」)により、この粉末は12.7%の溶媒を含み、最終的なCu(Qc)の収量は11.46g(61%)であった。他の試料では、溶媒は9~10%と少なかった。
【0055】
より大きなスケールでは、800mLのエタノール、800mLのジメチルホルムアミド、28.0gの酢酸銅水和物[Cu(OAc)・xHO]、および53.33gのキノリン‐5‐カルボン酸を、パドル式オーバーヘッド撹拌機を備えた2リットル(「L」)のステンレス鋼製オートクレーブ(この順序)に混合することによって、Cu(Qc)を合成した。反応器を密閉し、250rpmで撹拌し、反応温度105℃まで72時間加熱した。合成溶液を撹拌下に6℃/hの速度で冷却し、室温に達したところで開放した。金属‐有機フレームワーク材料を濾過し、紫色の固体を回収した。この固体を300mLのジメチルホルムアミド、300mLのエタノールで洗浄した後、60℃で撹拌しながら600mLのジメチルホルムアミドでトリチュレーションし、濾過し、60mLのエタノールで3時間トリチュレーションし、濾過し、60mLのメタノールで12時間トリチュレーションし、濾過して48.6g(熱重量分析で測定した細孔内の計算溶媒を除いた後)の紫色粉末を得た。合成した材料の粉末X線回折パターンを図2A図2B図2C、および図2Dに示す。
【0056】
本方法論は、表1にまとめたように、いくつかの顕著な点で先行技術の方法と異なる。Cu塩は、先行技術の方法で使用されたCu(BF)またはCu(BF)・6HOからCu(OAc)・xHOに変更された。更に、金属の濃度は0.024モル/LのCuから0.096モル/LのCuに増加した。

【0057】
図3から図7に示すように、この合成で生成した結晶子の形態は、材料の配合方法を決定する上で極めて重要である。そのために、結晶子のSEM画像を得た。図3図4図5および図6に示すように、10μmから150μmの四角柱状の棒が観察され、四角の寸法は長さの寸法に比べて小さい。
【0058】
CO吸着特性は、材料の表面積を決定し、エタン/エチレン分離の能力を決定するための代理として使用することができる195Kで測定した。製造されたMOF Cu(Qc)は、1barで2.30ミリモル/gのCO容量を持つことが決定された。このCO吸着から決定されたBET表面積は229m/gであり、細孔容積は0.10cm/gであった。
【0059】
比較のポイントとして、Chen, K. et al., Tuning Pore Size in Square-Lattice Coordination Networks for Size-Selective Sieving of CO2, Angew. Chem. Int. Ed.、55, 10268-10272、2018. (比較例1)、およびLin, W. et al., Boosting Ethane/Ethylene Separation within Isoreticular Ultramicroporous Metal-Organic Frameworks, J. Am. Chem. Soc., 140, 12940-12946, 2018. (比較例2)を、本方法の合成によるデータと比較するために再現した。図12図16は、先行技術の方法で合成された比較MOF Cu(Qc)材料のSEM画像である。以下の表2に示すように、有意に異なる粒子径が示され、本合成物は、先行技術の試料と比較して、平均して一桁高い粒子径を有すると同時に、有意に大きな(より多分散性の)範囲の粒子径を有することが示された。
【0060】
更に、図8に示すように、異なる材料は、紫外‐可視分光法を通して見られるような色の違いを示す。他の材料は458nmに最大吸収を示す。図8に示すように、本発明の方法で製造された金属‐有機フレームワーク材料は、474nmに最大吸収を示す。
【0061】
図9および図10に示されるように、195KでのCO取り込みが、材料の全体的な多孔性を決定するために、これらの試料のいくつかについて測定された(材料の表面積を測定するために通常使用される77KでのNに対して多孔性ではないため)。金属‐有機フレームワーク材料のCO容量は、高い表面積を持つ優れた材料であることを示す文献に見られる値よりも高い。例えば、Tengjiao, H. et al., Ultramicroporous Metal-Organic Framework Qc-5-Cu for Highly Selective Adsorption of CO2 from C2H4 Stream, Ind. Eng. Chem. Res. 59, 7, 3153-3161, 2020.
【0062】
実施例2:MOF Cu(Qc) を製造するための代替溶媒組成物
MOF Cu(Qc)を、従来の合成における有毒なジメチルホルムアミドを置き換えることを意図した代替溶媒組成物中で合成した。反応パラメータを以下の表3に示す。
【0063】
代替溶媒組成物は、図11の粉末X線回折パターンに従ってMOF Cu(Qc)を製造した。MOF Cu(Qc)を製造する本発明の方法は、有毒で危険なジメチルホルムアミドが、より穏やかで、おそらくより安価な溶媒に置き換えられるという点で、極めて実用的である。
【0064】
実施例3:水性溶媒組成物中でのMOF Cu(Qc) の製造
極性非プロトン性溶媒を使用せずにMOF Cu(Qc)を製造する方法が、本実施例において記載される。本明細書中に記載されるように、金属‐有機フレームワークを製造する従来の合成は、典型的には、危険で高価な極性非プロトン性溶媒、特にジメチルホルムアミド(「DMF」)の使用を伴う。ハンセンの溶解度パラメータを活用し、安価な汎用緩衝剤を組み込んでpHを合わせることで、代替溶媒配合物(「溶媒組成物」)は、危険で高価な極性非プロトン性溶媒を必要としない。結果として得られる方法は、炭酸ナトリウム/炭酸水素ナトリウム緩衝剤を有する水/アセトン系であり、DMF中および/または他の極性非プロトン性溶媒を用いて金属‐有機フレームワークを作製することからコストを削減する。
【0065】
MOF Cu(Qc)の従来の合成を以下のように用いた:5‐カルボキシキノリン(CAS 7250.53-5)500mgおよびCu(BF)(MIDAS 18-084608-0;CAS 15684-35-2)500mgを、1:1のDMF/メタノール溶液30mL中で混合する。その後、合成溶液を一晩105℃に加熱した。試薬を丸底フラスコ内で混合し、ジャケット付きコンデンサーで還流する。
【0066】
1:1DMF/メタノール溶液のハンセン溶解度パラメータを考慮すると、さまざまな選択肢がある。前述の溶媒組成物をDMF/メタノールに置き換えて、前述の作製を繰り返した。溶媒組成は以下の表4に記載されている。1つの合成を85℃で試みた。MOF Cu(Qc)を作るための従来の合成は、対照として105℃でDMF/MeOH中で行った。
【0067】
図17は、これらの合成から得られた粉末X線回折(「PXRD」)データを示している。Cu(Qc)の対照は、予想されたものとは異なっている。代替溶媒中で合成された材料では、対照と同様のピークが観察された。
【0068】
MOF合成において役割を果たすことが知られているが、pHは表4に記載の合成では制御されなかった。これは、溶媒組成物の性能が低かった理由の根拠となり得る。しかしながら、これは対照実験の結果に対する洞察を提供するものではなかった。
【0069】
したがって、その後の実験では、合成のその態様を制御し、意図した相を達成するために、弱い酸/塩基対(すなわち、緩衝剤)を含めた。緩衝剤の挙動は、それらが溶解する溶媒の同一性によって決定される。ほとんどの緩衝剤は水溶液に対してのみ知られている。従って、以下の表5に示す追加合成では、水の最小体積分率は25%に設定された。
【0070】
水25%、n‐プロパノール5%、テトラヒドロフラン33%、アセトニトリル37%と同定された1つの溶媒組成物(表5)、およびアセトン73%、水27%と同定された別の溶媒組成物(表6)が、MOF Cu(Qc)合成として調査された。合成には、有機リンカーと金属の合計に対して1.25当量(「eq」)の濃度の緩衝剤が含まれた。図18および19は、表5に記載された組成物のPXRDデータを示す。
【0071】
図18に示すように、粉末X線回折分析によって、Cu(Qc)に対して予想される相と同様の共通の相が得られることが示される。図19に示すように、熱重量分析データは、試料中の共通の分解温度および一貫した無機含有量を明らかにしている。図20A図20B図21A図21B図22A図22B図23Aおよび図23BのSEM画像は、複雑な形態が得られ、合成pHの関数として、適度に明確に定義された相互成長したキャップ付きの幾何学的プリズムから、主にワイヤー状の凝集体へと進行することを示している。
【0072】
アセトン/水合成について、追求した条件を以下の表6に示す。図24、および図25に示す特性評価データ、および図26A図26B図27A、および図27Bに同じもののSEM画像を示す。試料2は、Cuのモル体積が異なるため、初期作製を無水金属で行うか水和金属で行うかを試験するために、金属含有量を高くして実施した。この結果は、金属含有量は合成において重要な要因ではないことを示唆している。
【0073】
本明細書中において、数値下限値及び数値上限値が記載されている場合、任意の下限値から任意の上限値までの範囲が想定される。本開示の例示的な実施形態は、特定性をもって説明されてきたが、本開示の精神および範囲から逸脱することなく、様々な他の改変が当業者に明らかであり、当業者によって容易になされ得ることが理解される。従って、本明細書中に添付された特許請求の範囲の範囲は、本明細書中に記載された実施例および説明に限定されることを意図するものではなく、むしろ、特許請求の範囲は、本開示に存在する特許可能な新規性を有する全ての特徴を包含するものと解釈され、本開示が関連する技術分野の当業者によってその等価物として扱われる全ての特徴を包含するものと解釈される。
【0074】
更に、または代替的に、本発明は、以下に関する。
【0075】
実施形態1
(a)エタノール、少なくとも1つの溶媒、酢酸金属塩およびキノリン‐5‐カルボン酸を混合して、合成溶液を提供する工程、
(b)合成溶液を反応温度まで加熱する工程、および
(c)反応温度を下げて、合成溶液1リットル当たり少なくとも約50体積%の金属‐有機フレームワークの体積収率を有する金属‐有機フレームワーク材料を製造する工程
を含み、
前記溶媒が有機溶媒であり、かつ前記合成溶液が、合成溶液1リットル当たり少なくとも0.04~0.4モルのキノロン‐5‐カルボン酸の濃度を有する非水性である、金属‐有機フレームワークの製造方法。
【0076】
実施形態2
(a)少なくとも1つの溶媒を含む溶媒組成物を提供する工程、
(b)溶媒組成物を複数の固体試薬と組み合わせて、合成溶液を提供する工程、
(c)合成溶液を少なくとも80℃以上の反応温度まで加熱する工程、および
(d)反応温度を下げて、金属‐有機フレームワーク材料を製造する工程
を含み、
複数の固体試薬が、酢酸金属塩と、合成溶液1リットル当たり少なくとも0.04~0.4モルのキノロン‐5‐カルボン酸とを含み、
金属‐有機フレームワーク材料が約75モル%の金属‐有機フレームワークを含む、金属‐有機フレームワークの製造方法。
【0077】
実施形態3
前記溶媒組成物が非水性である、実施形態2に記載の金属‐有機フレームワークの製造方法。
【0078】
実施形態4
前記溶媒がジメチルホルムアミドおよび/またはテトラヒドロフランから選択される、実施形態2または3に記載の金属‐有機フレームワークの製造方法。
【0079】
実施形態5
前記合成溶液中の酢酸金属塩の濃度が、溶媒1リットル当たり約0.16~0.24モルである、実施形態1または2に記載の金属‐有機フレームワークの製造方法。
【0080】
実施形態6
前記金属‐有機フレームワークが、約9.0~約12.7体積%の間の溶媒含有率を有する、実施形態1~5のいずれか1項に記載の金属‐有機フレームワークの製造方法。
【0081】
実施形態7
(a)エタノール、酢酸金属塩およびキノリン‐5‐カルボン酸を混合して、合成溶液を提供する工程、
(b)合成溶液を反応温度まで加熱する工程、および
(c)反応温度を下げて、金属‐有機フレームワーク材料を製造する工程
を含み、
合成溶液が、合成溶液1リットル当たり少なくとも0.04~0.4モルのキノロン‐5‐カルボン酸の濃度を有する非水性であり、
金属‐有機フレームワーク材料が、合成溶液1リットル当たり75モル%の金属‐有機フレームワーク収率を含む、金属‐有機フレームワークの製造方法。
【0082】
実施形態8
前記合成溶液を少なくとも約24時間から約72時間加熱する、実施形態1~7のいずれか1項に記載の金属‐有機フレームワークの製造方法。
【0083】
実施形態9
前記反応温度を1時間当たり約0.1~約10℃の速度で低下させる、実施形態1~8のいずれか1項に記載の金属‐有機フレームワークの製造方法。
【0084】
実施形態10
前記金属‐有機フレームワーク材料がMOF Cu(Qc)を含む、実施形態1~9のいずれか1項に記載の金属‐有機フレームワークの製造方法。
【0085】
実施形態11
MOF Cu(Qc)が、約474nmの波長において吸収極大(λmax)を有する、実施形態10に記載の金属‐有機フレームワークの製造方法。
【0086】
実施形態12
約474nmの波長において吸収極大(λmax)を有し、約9.0~約12.7体積%の間の溶媒含有率を有する金属‐有機フレームワークMOF Cu(Qc)であって、 前記金属‐有機フレームワークMOF Cu(Qc)が、
(a)エタノール、ジメチルホルムアミド、酢酸銅水和物、およびキノリン‐5‐カルボン酸を混合して、合成溶液を提供する工程、
(b)合成溶液を少なくとも80℃の反応温度まで加熱する工程、および
(c)反応温度を下げて、少なくとも75モル%の金属‐有機フレームワークMOF Cu(Qc)を含む金属‐有機フレームワーク材料を製造する工程
を含む方法によって製造され、
前記合成溶液が、合成溶液1リットル当たり約0.04モルのキノロン‐5‐カルボン酸の濃度を有する、金属‐有機フレームワークMOF Cu(Qc)
【0087】
実施形態13
(a)溶媒組成物を提供する工程、
(b)溶媒組成物を緩衝剤および複数の試薬と組み合わせて合成溶液を提供する工程、および
(c)合成溶液を少なくとも85℃以上の反応温度に少なくとも4時間加熱して、MOF Cu(Qc)を製造する工程
を含み、
前記溶媒組成物が約30体積%未満の水を含み、
前記試薬が1つ以上の金属塩および1つ以上のリンカーを含む、MOF Cu(Qc)の製造方法
【0088】
実施形態14
前記金属塩が酢酸金属塩である、実施形態13に記載のMOF Cu(Qc)の製造方法。
【0089】
実施形態15
前記リンカーがキノロン‐5‐カルボキシレートである、実施形態13に記載のMOF Cu(Qc)の製造方法。
【0090】
実施形態16
前記緩衝剤が、アルキル基でブリッジされたモルホリンおよびスルホン酸を含む、実施形態13に記載のMOF Cu(Qc)の製造方法。
【0091】
実施形態17
前記緩衝剤が、ブレンステッド酸とその共役塩基、またはブレンステッド塩基とその共役酸を含む、実施形態13に記載のMOF Cu(Qc)の製造方法。
【0092】
実施形態18
前記緩衝剤が重炭酸塩または炭酸ナトリウムである、実施形態13に記載のMOF Cu(Qc)の製造方法。
【0093】
実施形態19
前記緩衝剤がMOPS、Na MOPSまたはNaHCOである、実施形態13に記載のMOF Cu(Qc)の製造方法。
【0094】
実施形態20
前記合成溶液を約100℃~約160℃の間で加熱する、実施形態13、14、15、16、17、18または19に記載のMOF Cu(Qc)の製造方法。
【0095】
実施形態21
前記溶媒組成物が、水、アルコールおよび/またはテトラヒドロフランを含む、実施形態13、14、15、16、17、18、19または20に記載のMOF Cu(Qc)の製造方法。
【0096】
実施形態22
前記アルコールが、n‐プロパノール、イソプロパノール、メタノール、エタノール、n‐ブタノールから選択される、実施形態21に記載のMOF Cu(Qc)の製造方法。
【0097】
実施形態23
前記溶媒組成が、ハンセン溶解度パラメータの評価によって選択される、実施形態13、14、15、16、17、18、19、20または21に記載のMOF Cu(Qc)の製造方法。
【0098】
実施形態24
前記合成溶液を静置、タンブリングまたは撹拌条件下で加熱する、実施形態13、14、15、16、17、18、19、20、21、22または23に記載のMOF Cu(Qc)の製造方法。
【0099】
実施形態25
前記溶媒組成物が水およびアセトンを含む、実施形態13に記載のMOF Cu(Qc)の製造方法。
【0100】
実施形態26
MOF Cu(Qc)が約0.5μm~約755μmの粒子サイズを有する、実施形態1~25のいずれか1項に記載の方法。
【0101】
実施形態27
MOF Cu(Qc)が約200~約300m/gのBET表面積を有する、実施形態1~26のいずれか1項に記載の方法。
【0102】
実施形態28
MOF Cu(Qc)が、0.5バールおよび195°Kにおいて、約40~約90cm/gのCO容量を有する、実施形態1~27のいずれか1項に記載の方法。
【0103】
実施形態29
MOF Cu(Qc)が、0.5バールおよび195°Kにおいて、約60cm/gのCO容量を有する、実施形態1~28のいずれか1項に記載の方法。
【0104】
実施形態30
MOF Cu(Qc)が、303°Kで約1.8~約2.6ミリモル/gのエタン吸着容量を有する、実施形態1~29のいずれか1項に記載の方法。
【0105】
実施形態31
MOF Cu(Qc)が、約2.0~約2.4のエタン吸着容量を有する、実施形態1~30のいずれか1項に記載の方法。
【0106】
実施形態32
前記金属‐有機フレームワーク材料を濾過する工程を更に含む、実施形態1~31のいずれか1項に記載の方法。
【0107】
実施形態33
前記金属‐有機フレームワーク材料を洗浄する工程を更に含む、実施形態1~32のいずれか1項に記載の方法。
【0108】
実施形態34
前記金属‐有機フレームワーク材料を溶媒中でトリチュレーションする工程を更に含む、実施形態1~33のいずれか1項に記載の方法。
【0109】
実施形態35
実施形態28、29および30の工程を少なくとも1回繰り返す、実施形態1~34のいずれか1項に記載の方法。
【0110】
実施形態36
前記金属‐有機フレームワークが、乾燥された金属‐有機フレームワークCu(Qc)について、約10°~約15°の間、および約25°から約30°の間の2θ値で粉末X線回折ピークを生じる、実施形態1~35のいずれか1項に記載の方法。
【0111】
実施形態37
MOF Cu(Qc)が、従来の合成方法によって製造された金属‐有機フレームワークCu(Qc)と等しい2θ値で粉末X線回折ピークを生じる、実施形態1~36のいずれか1項に記載の方法。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20A
図20B
図21A
図21B
図22A
図22B
図23A
図23B
図24
図25
図26A
図26B
図27A
図27B
【国際調査報告】