(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-28
(54)【発明の名称】肺癌の処置用組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240521BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240521BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240521BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240521BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240521BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240521BHJP
A61K 33/243 20190101ALN20240521BHJP
A61K 31/282 20060101ALN20240521BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20240521BHJP
【FI】
A61K39/395 U
A61K39/395 N ZNA
A61P11/00
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K45/00
A61P37/04
A61K33/243
A61K31/282
C07K16/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571866
(86)(22)【出願日】2022-05-24
(85)【翻訳文提出日】2023-11-20
(86)【国際出願番号】 EP2022064061
(87)【国際公開番号】W WO2022248478
(87)【国際公開日】2022-12-01
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】391008951
【氏名又は名称】アストラゼネカ・アクチエボラーグ
【氏名又は名称原語表記】ASTRAZENECA AKTIEBOLAG
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ジャーコウスキー,ザ サード,アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】デニス,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】トラーニ,レオ
(72)【発明者】
【氏名】ニュートン,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】シャイア,ノラ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA05
4C084ZA59
4C084ZB09
4C084ZB26
4C084ZC75
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB31
4C085CC23
4C085EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA12
4C086HA28
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZA59
4C086ZB09
4C086ZB26
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206JB16
4C206KA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA05
4C206ZA59
4C206ZB09
4C206ZB26
4C206ZC75
4H045AA11
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
開示されるのは、局所進行性の(病期III)、切除不能な非小細胞肺癌(NSCLC)を、化学放射線療法(cCRT)と同時に、PD-1/PD-L1活性を阻害する抗体により処置する方法である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切除不能な非小細胞肺癌(NSCLC)を患う患者において無増悪生存期間(PFS)を延長する方法であって、前記患者を、抗PD-L1抗体及び化学放射線療法により同時に処置することを含む方法。
【請求項2】
前記抗PD-L1抗体はヒト抗PD-L1抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化学放射線療法は白金ベースである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ヒト抗PD-L1抗体は、配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、及び配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインを含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒト抗PD-L1抗体は、
配列番号3のアミノ酸配列を有するVH CDR1;及び
配列番号4のアミノ酸配列を有するVH CDR2;及び
配列番号5のアミノ酸配列を有するVH CDR3;及び
配列番号6のアミノ酸配列を有するVL CDR1;及び
配列番号7のアミノ酸配列を有するVL CDR2;及び
配列番号8のアミノ酸配列を有するVL CDR3
を含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項6】
前記ヒト抗PD-L1抗体は、デュルバルマブ、アベルマブ、アテゾリズマブ、又はスゲマリマブである、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項7】
前記抗PD-L1抗体による処置は、1500mgの前記抗PD-L1抗体を前記患者に静脈内に4週毎(Q4W)に投与することを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記切除不能なNSCLCは、病期IIIである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記切除不能なNSCLCは、局所進行性である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記抗PD-L1抗体は、化学放射線療法の1日目に投与される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
切除不能な非小細胞肺癌(NSCLC)を患う患者において全奏効率(ORR)を増大させる方法であって、前記患者を、抗PD-L1抗体及び化学放射線療法により同時に処置することを含む方法。
【請求項12】
前記抗PD-L1抗体はヒト抗PD-L1抗体である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記化学放射線療法は白金ベースである、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記ヒト抗PD-L1抗体は、配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、及び配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインを含む、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記ヒト抗PD-L1抗体は、
配列番号3のアミノ酸配列を有するVH CDR1;及び
配列番号4のアミノ酸配列を有するVH CDR2;及び
配列番号5のアミノ酸配列を有するVH CDR3;及び
配列番号6のアミノ酸配列を有するVL CDR1;及び
配列番号7のアミノ酸配列を有するVL CDR2;及び
配列番号8のアミノ酸配列を有するVL CDR3
を含む、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項16】
前記ヒト抗PD-L1抗体は、デュルバルマブ、アベルマブ、アテゾリズマブ、又はスゲマリマブである、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項17】
前記抗PD-L1抗体による処置は、1500mgの前記抗PD-L1抗体を前記患者に静脈内に4週毎(Q4W)に投与することを含む、請求項11~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記切除不能なNSCLCは、病期IIIである、請求項11~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記切除不能なNSCLCは、局所進行性である、請求項11~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記抗PD-L1抗体は、化学放射線療法の1日目に投与される、請求項11~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
病期IIIの切除不能な非小細胞肺癌(NSCLC)を患う患者を処置する方法であって、前記患者を、抗PD-L1抗体及び化学放射線療法により同時に処置することを含む方法。
【請求項22】
前記抗PD-L1抗体はヒト抗PD-L1抗体である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記化学放射線療法は白金ベースである、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項24】
前記ヒト抗PD-L1抗体は、配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、及び配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインを含む、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
前記ヒト抗PD-L1抗体は、
配列番号3のアミノ酸配列を有するVH CDR1;及び
配列番号4のアミノ酸配列を有するVH CDR2;及び
配列番号5のアミノ酸配列を有するVH CDR3;及び
配列番号6のアミノ酸配列を有するVL CDR1;及び
配列番号7のアミノ酸配列を有するVL CDR2;及び
配列番号8のアミノ酸配列を有するVL CDR3
を含む、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項26】
前記抗PD-L1抗体は、デュルバルマブ、アベルマブ、アテゾリズマブ、又はスゲマリマブである、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項27】
前記抗PD-L1抗体による処置は、1500mgの前記抗PD-L1抗体を前記患者に静脈内に4週毎(Q4W)に投与することを含む、請求項21~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記抗PD-L1抗体は、化学放射線療法の1日目に投与される、請求項21~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
切除不能な非小細胞肺癌(NSCLC)を患う患者において無増悪生存期間(PFS)を延長する方法に使用される抗PD-L1抗体及び同時的な化学放射線療法を含む組合せ。
【請求項30】
切除不能な非小細胞肺癌(NSCLC)を患う患者において全奏効率(ORR)を増大させる方法に使用される抗PD-L1抗体及び同時的な化学放射線療法を含む組合せ。
【請求項31】
病期IIIの切除不能な非小細胞肺癌(NSCLC)の処置に使用される抗PD-L1抗体及び同時的な化学放射線療法を含む組合せ。
【請求項32】
前記抗PD-L1抗体はヒト抗PD-L1抗体である、請求項29~31のいずれか一項に記載の使用のための組合せ。
【請求項33】
前記化学放射線療法は白金ベースである、請求項29~32のいずれか一項に記載の使用のための組合せ。
【請求項34】
前記ヒト抗PD-L1抗体は、配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、及び配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインを含む、請求項32又は33に記載の使用のための組合せ。
【請求項35】
前記ヒト抗PD-L1抗体は、
配列番号3のアミノ酸配列を有するVH CDR1;及び
配列番号4のアミノ酸配列を有するVH CDR2;及び
配列番号5のアミノ酸配列を有するVH CDR3;及び
配列番号6のアミノ酸配列を有するVL CDR1;及び
配列番号7のアミノ酸配列を有するVL CDR2;及び
配列番号8のアミノ酸配列を有するVL CDR3
を含む、請求項32又は33に記載の使用のための組合せ。
【請求項36】
前記ヒト抗PD-L1抗体は、デュルバルマブ、アベルマブ、アテゾリズマブ、又はスゲマリマブである、請求項32~35のいずれか一項に記載の使用のための組合せ。
【請求項37】
前記ヒト抗PD-L1抗体による処置は、1500mgの前記抗PD-L1抗体を前記患者に静脈内に4週毎(Q4W)に投与することを含む、請求項31~36のいずれか一項に記載の使用のための組合せ。
【請求項38】
前記切除不能なNSCLCは、病期IIIである、請求項31~37のいずれか一項に記載の使用のための組合せ。
【請求項39】
前記切除不能なNSCLCは、局所進行性である、請求項31~38のいずれか一項に記載の使用のための組合せ。
【請求項40】
前記抗PD-L1抗体は、化学放射線療法の1日目に投与される、請求項31~39のいずれか一項に記載の使用のための組合せ。
【請求項41】
切除不能な非小細胞肺癌(NSCLC)を患う患者において無増悪生存期間(PFS)を延長する方法に使用される薬剤の製造における抗PD-L1抗体及び同時的な化学放射線療法を含む組合せの使用。
【請求項42】
切除不能な非小細胞肺癌(NSCLC)を患う患者において全奏効率(ORR)を増大させる方法に使用される薬剤の製造における抗PD-L1抗体及び同時的な化学放射線療法を含む組合せの使用。
【請求項43】
病期IIIの切除不能な非小細胞肺癌(NSCLC)の処置に使用される薬剤の製造における抗PD-L1抗体及び同時的な化学放射線療法を含む組合せの使用。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
肺癌は、数十年間、世界で最も共通する癌であり、2012年までに概算180万の新しい症例があり、新しい全ての癌の12.9%に相当した。また、癌による最も一般的な死因であり、159万人の死亡(総計の19.4%)があった。非小細胞肺癌(NSCLC)は、全肺癌のおよそ80%~85%を占め、患者の30%はIII期疾患を示す。パフォーマンスステータス(PS)が良好であり、且つ切除不能なIII期NSCLCの患者の標準的な処置は、根治目的で同時に施される白金ベースのダブレット化学療法及び放射線療法(cCRT)である。逐次CRTに対して同時CRTのメタアナリシスは、同時療法によるより良好な転帰を実証したが、cCRTによっても、5年全生存率(OS)は15%~32%に及ぶ。したがって、cCRTを超えて患者生存率をブーストさせる新規な治療的アプローチの大きな必要性は、まだ満たされていない。
【0002】
腫瘍微環境内での腫瘍及び骨髄細胞上のプログラム細胞死リガンド1(PD-L1)は、活性化T細胞上の免疫チェックポイントタンパク質PD-1に結合して、その活性を阻害する。デュルバルマブは、PD-1及びCD80に対するPD-L1の結合をブロックして、T細胞が腫瘍細胞を認識して殺傷することを可能にする選択的且つ高親和性のヒトIgG1モノクローナル抗体である。デュルバルマブは、複数の進行型固形腫瘍にわたる早期臨床研究において、抗腫瘍活性を促進することを示しており、白金後の局所進行性の、又は転移性の尿路上皮癌に関して承認されている。
【0003】
局所進行性の癌の臨床管理方法の向上についての必要性に対処する際に、本開示は、後期の、局所進行性の、切除不能なNSCLCを患う患者に対して、化学放射線療法(cCRT)と同時にデュルバルマブの投与を含む方法を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は、一般に、局所進行性の(病期III)、切除不能な非小細胞肺癌(NSCLC)を、化学放射線療法(cCRT)と同時に、PD-1/PD-L1活性を阻害する抗体により処置する方法に関する。
【0005】
本明細書中で提供されるのは、切除不能な非小細胞肺癌(NSCLC)を患う患者において無増悪生存期間(PFS)を延長する方法であって、患者を、抗PD-L1抗体及び化学放射線療法により同時に処置することを含む方法である。
【0006】
また、本明細書中で提供されるのは、切除不能なNSCLCを患う患者において全奏効率(ORR)を増大させる方法であって、患者を、抗PD-L1抗体及び化学放射線療法により同時に処置することを含む方法である。また、本明細書中で提供されるのは、切除不能な非小細胞肺癌(NSCLC)を患う患者において無増悪生存期間(PFS)を延長する方法に用いられる抗PD-L1抗体及び同時的な化学放射線療法を含む組合せである。
【0007】
また、本明細書中で提供されるのは、切除不能な非小細胞肺癌(NSCLC)を患う患者において全奏効率(ORR)を増大させる方法に用いられる抗PD-L1抗体及び同時的な化学放射線療法を含む組合せである。
【0008】
また、本明細書中で提供されるのは、病期IIIの切除不能な非小細胞肺癌(NSCLC)の処置に用いられる抗PD-L1抗体及び同時的な化学放射線療法を含む組合せである。
【0009】
また、提供されるのは、切除不能な非小細胞肺癌(NSCLC)を患う患者において無増悪生存期間(PFS)を延長する方法に用いられる薬剤の製造におけるヒト抗PD-L1抗体及び同時的な化学放射線療法を含む組合せの使用である。
【0010】
また、提供されるのは、切除不能な非小細胞肺癌(NSCLC)を患う患者において全奏効率(ORR)を増大させる方法に用いられる薬剤の製造におけるヒト抗PD-L1抗体及び同時的な化学放射線療法を含む組合せの使用である。
【0011】
また、提供されるのは、病期IIIの切除不能な非小細胞肺癌(NSCLC)の処置に用いられる薬剤の製造におけるヒト抗PD-L1抗体及び同時的な化学放射線療法を含む組合せの使用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】[
図1]本明細書中で開示される方法についての一般的な研究設計を示す。
【
図2】[
図2A]処置スケジュール及び定義済みのエンドポイントを示すスキーマである。各群は、6頭のマウスを含有した。腫瘍がおよそ100~200mm
3となったときに放射線療法(RT)を施した。アッセイの時点は、示すとおりであった。[
図2B]長手方向経路分析のバブルダイアグラム(表4由来)を示す。経路がY軸上に、時点がX上に記載されている。バブルのサイズは、各経路の絶対倍率変化発現値を示す。[
図2C]切除時の腫瘍容量を示す。データを、平均±SEMとして表した。各群は、6頭のマウスを含有した。*P<0.05、マン・ホイットニー検定。
【
図3】[
図3A-3C]各時点でのNT腫瘍とRT腫瘍間の差別的に調節された遺伝子及び上流レギュレータを示すネットワークマップを示す。遺伝子及び上流レギュレータは、RTによる処置後1日目(
図3A)、3日目(
図3B)、及び7日目(
図3C)にて、それらの細胞コンパートメントに分けられる。[
図3D]長手方向経路分析のバブルダイアグラム(表3のデータ由来)を示す。経路がY軸上に、時点がX上に記載されている。バブルの色は、遺伝子調節の方向を示す。バブルのサイズは、この経路の絶対倍率変化発現値を示す。経路の略語:樹状細胞(DC)とナチュラルキラー(NK)細胞間のクロストーク;細菌及びウイルスの認識-細菌及びウイルスの認識におけるパターン認識受容体の役割;自然免疫系及び適応免疫系-自然免疫細胞と適応免疫細胞間の伝達。
【
図4】[
図4A-4F]RTが、腫瘍浸潤骨髄細胞集団の変化の原因となることを示す。細胞を、RT(又は時間がマッチするNT対象)後の1、3、又は7日目の非処置(NT)(黒色のバー)又はRT処置(7Gy)(灰色のバー)腫瘍から単離した。
図4Aは、F4/80
+細胞の存在についてフローサイトメトリによって分析した腫瘍試料を示す。
図4B及び4Cは、F4/80
+細胞上でのCD86及びCD206の発現(MFI)を示す。描写的なヒストグラムが、アイソタイプ対照(黒色の線)、NT(黒色の実線)、及びRT(灰色の線)と対応する棒グラフの上に示されている。
図4Dは、F4/80
+であったCD86
+細胞及びCD206
+細胞のパーセンテージを示し、箱ひげプロットは、NT(黒色)又はRT処置(灰色)腫瘍についてのCD86
+/CD206
+比を示す。
図4E及び4Fは、腫瘍組織内でのCD11b
+Gr1
lo及びCD11b
+Gr1
hi細胞の頻度を示す。平均±SEMがプロットされている。各群は、6頭のマウスを含有した。NTを、照射を受けた群と比較した場合の*P<0.05及び**P<0.01。
【
図5】[
図5A-5F]RTが、腫瘍浸潤リンパ球の頻度及び表現型に影響を与えたことを示す。細胞を、RT(又は時間がマッチするNT対象)後の1、3、又は7日目の非処置(NT)(黒色のバー)又はRT処置(7Gy)(灰色のバー)腫瘍から単離した。
図5A及び5Bは、CD4
+及びCD8
+腫瘍浸潤T細胞の頻度を示す。
図5C及び5Dは、CD4
+及びCD8
+T細胞上でのCD69発現を示す。
図5Eは、CD4
+集団のパーセンテージとして表される腫瘍浸潤CD4
+CD25
+FoxP3
+(T
reg)細胞を示す。
図5Fは、CD8
+細胞の、T
reg細胞に対する比率を示す。平均±SEMがプロットされている。各群は、6頭のマウスを含有した。NTを、照射を受けた群と比較した場合の*P<0.05及び**P<0.01。
【
図6】[
図6A-6G]RTが、腫瘍内でのPD-1及びPD-L1双方の高い発現をもたらし、これが処置の有効性を軽減したことを示す。細胞を、RT(又は時間がマッチするNT対象)後の1、3、又は7日目の非処置(NT)(黒色のバー)又はRT処置(7Gy)(灰色のバー)腫瘍から単離した。
図6A及び6Bは、CD4
+及びCD8
+T細胞上でのPD-1発現を示す。
図6C及び6Dは、CD4
+及びCD8
+ T細胞上でのPD-L1発現を示す。
図6Eは、CD45
-腫瘍細胞上でのPD-L1発現を示す。平均±SEMがプロットされている。NTを、照射を受けた群と比較した場合の*P<0.05及び**P<0.01。
図6F及び6Gは、7Gy RT単独での、又は10mg/kgにて1週間3qwに投与されるαPD-L1 mAbと組み合わせた処置後の、腫瘍が確立されたマウスの腫瘍増殖曲線及びカプラン・マイアー曲線を示す。実験群は、少なくとも6頭のマウスを含有し、2つの独立した研究を代表する。7Gy RT単独と比較した
++P<0.01。NT対照と比較した**P<0.01及び***P<0.001。
【
図7】[
図7A-7B]時間がマッチする未処置対照腫瘍のパーセンテージとして、7Gy RT後の1、3、及び7日目に取り出した、照射を受けた腫瘍組織からの系統(
図7A)及び表現型(
図7B)マーカーの倍率変化を示すヒートマップを示す。太い箱で囲んだ値は、時間がマッチする未処置の試料と比較して、統計学的に有意であったものである。各群は、6頭のマウスを含有した。(マン・ホイットニーU、P<0.05)。
【
図8】[
図8A-8D]腫瘍細胞集団の分析に使用したゲーティング戦略を示す。
図8Aは、白血球ゲートを描くのに用いた、脾臓から単離した生きている白血球上でのゲーティングを示す。
図8Bは、腫瘍組織におけるCD4
+CD25
+ FoxP3
+細胞を示す。
図8Cは、脾臓及び腫瘍組織におけるCD11b
+Gr1
lo及び
hi集団を示す。
図8Dは、CD45
-腫瘍細胞を示す。
【
図9】[
図9]NT(黒色)又は7Gy(灰色)RT後の1、3、又は7日目に単離した腫瘍組織内でのCD45
+細胞のパーセンテージを示す。P<0.01、マン・ホイットニーU。各群は、6頭のマウスを含有した。**P<0.01、マン・ホイットニー検定。
【
図10】[
図10A-10B]NT及びRT処置腫瘍組織由来のCD4
+及びCD8
+細胞におけるCD69(
図10A)及びPD-1(
図10B)発現の描写的なヒストグラムを示す。
図10Aは、空のヒストグラムがアイソタイプ対照であることを示す。
図10Bは、パターン化されたヒストグラムがアイソタイプ対照であることを示し、黒色の線はNTであり、灰色の線は7Gy RTである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
特に定義されない限り、本明細書中で用いられる全ての科学技術用語は、本開示が属する当該技術の当業者によって一般的に理解されている意味を有する。以下の参考文献は、本開示で用いられる用語の多くの一般的な定義を当業者に提供するものである:Singleton et al.,Dictionary of Microbiology and Molecular Biology(2nd ed.1994);The Cambridge Dictionary of Science and Technology(Walker ed.,1988);The Glossary of Genetics,5th Ed.,R.Rieger et al.(eds.),Springer Verlag(1991);及びHale&Marham,The Harper Collins Dictionary of Biology(1991)。本明細書中で用いられる以下の用語は、別段の指定がない限り、以下のものに帰属する意味を有する。
【0014】
本開示において、「含む(comprises)」、「含んでいる(comprising)」、「含有している(containing)」、及び「有している(having)」等は、米国特許法においてそれらに帰する意味を有し得、「含む(includes)」、「含んでいる(including)」等を意味し得;「から本質的になる」又は「本質的になる」は、同様に、米国特許法においてそれらに帰する意味を有し得、開放型(open-ended)であり、列挙されているものの基本的又は新規な特性が、列挙されているもの以外の存在により変化しない限り、列挙されているもの以外の存在を許容するが、先行技術の態様を除外する。
【0015】
特に明記されない限り、又は文脈から明らかでない限り、本明細書中で用いられる用語「又は」は、包括的であると理解される。特に明記されない限り、又は文脈から明らかでない限り、本明細書中で用いられる用語「a」、「an」、及び「the」は、単数形又は複数形であると理解される。
【0016】
特に明記されない限り、又は文脈から明らかでない限り、本明細書中で用いられる用語「約」は、当該技術における通常の許容範囲内、例えば、平均値の2標準偏差内として理解される。約は、明示される値の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、又は0.01%以内と理解され得る。文脈から明確である場合を除き、本明細書中で提供される全ての数値は、用語約によって修飾される。
【0017】
本明細書中で提供されるあらゆる組成物又は方法は、本明細書中で提供される他の組成物及び方法のいずれかの1つ以上と組み合わされ得る。
【0018】
本明細書中で提供される範囲は、当該範囲内の値の全てに関する省略表現であると理解される。例えば、1~50の範囲は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、又は50からなる群からのあらゆる数字、数字の組合せ、又は下位範囲を含むと理解される。
【0019】
本明細書中で用いられる「抗PD-L1抗体」は、PD-L1ポリペプチドに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を指す。例示的な抗PD-L1抗体は、例えば、米国特許第8,779,108号明細書及び米国特許第9,493,565号明細書に記載されており、これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0020】
本明細書中で用いられる用語「デュルバルマブ」は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第9,493,565号明細書(ここでデュルバルマブは「2.14H9OPT」と称される)に開示されるとおり、PD-L1に選択的に結合し、且つPD-L1の、PD-1受容体及びCD80受容体への結合をブロックする抗体を指す。デュルバルマブの結晶化可能(Fc)ドメイン断片は、抗体依存性細胞媒介細胞傷害(「ADCC」)を媒介する役割を果たす補体成分C1q及びFcγ受容体への結合を引き下げるIgG1重鎖の定常ドメイン内の三重変異を含有する。デュルバルマブは、ヒトT細胞活性化のPD-L1媒介抑制をインビトロで軽減し得、異種移植モデルにおいて、T細胞依存性の機構を介して腫瘍増殖を阻害する。
【0021】
「完全奏効」(CR)は、測定可能であろうとなかろうと、全ての病変の消失、及び新たな病変なしを指す。初めて記述した日時から4週間以上の、繰返しの継続的な評価を用いて、確証を得ることができる。新たな測定不可能病変は、CRを排除する。
【0022】
「部分寛解」(PR)は、ベースラインに対して≧50%の腫瘍負荷の低下を指す。初めて記述した日時から少なくとも4週の継続的な繰返しの評価を用いて、確証を得ることができる。
【0023】
「進行性疾患」(PD)は、最小記録(最下点)に対して≧25%の腫瘍負荷の増大を指す。初めて記述した日時から少なくとも4週の継続的な繰返しの評価によって、確証を得ることができる。新たな測定不可能病変は、PDを定義しない。
【0024】
「安定」(SD)は、CR、PR、又はPDの基準を満たさないことを指す。SDは、ベースラインに対して50%の腫瘍負荷の低下が確立され得ず、且つ最下点と比較して25%の増大が確立され得ないことを示す。
【0025】
非小細胞肺癌(NSCLC)は、NSCLCの3つの主要なサブタイプ:扁平上皮細胞癌、腺癌、及び大細胞(未分化)癌のいずれかを指し得る。他のサブタイプとして、腺扁平上皮癌及び肉腫様癌が挙げられる。
【0026】
本明細書中で用いられる「PD-L1」は、PD-L1配列に対して少なくとも約85%、95%、又は100%の配列同一性を有するポリペプチド若しくはポリヌクレオチド配列、又はその断片を指し得る。PD-L1は、当該技術において、B7-H1とも称される。一部の実施形態において、PD-L1ポリペプチド、又はその断片は、NCBI登録番号NP_001254635に対して少なくとも約85%、95%、又は100%の配列同一性を有し、そしてPD-1及びCD80結合活性を有する。
PD-L1ポリペプチド配列
NCBI登録番号 NP_001254635
【化1】
【0027】
一部の実施形態において、「PD-L1核酸分子」は、PD-L1ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。例示的なPD-L1核酸分子配列は、NCBI登録番号NM_001267706で提供される。
PD-L1核酸配列
NCBI登録番号 NM_001267706 mRNA
【化2】
【化3】
【化4】
【0028】
プログラム死-1(「PD-1」)は、T細胞レギュレータの拡張CD28/CTLA4ファミリーの約31kDのI型膜タンパク質メンバーである(Ishida,Y.et al.“Induced Expression Of PD-1,A Novel Member Of The Immunoglobulin Gene Superfamily,Upon Programmed Cell Death,”EMBO J.11:3887-95(1992)参照)。
【0029】
PD-1は、活性化されたT細胞、B細胞、及び単球上で(Agata et al.,“Expression of the PD-1 Antigen on the Surface of Stimulated Mouse T and B Lymphocytes,”Int. Immunol.8(5):765-72 (1996); Yamazaki et al., “Expression Of Programmed Death 1 Ligands By Murine T Cells And APC,”J.Immunol.169:5538-45 (2002))、そして低レベルにてナチュラルキラー(NK)T細胞内で発現される(Nishimura et al.,“Facilitation of Beta Selection and Modification of Positive Selection in the Thymus of PD-l-Deficient Mice,”J.Exp.Med.191:891-98(2000);Martin-Orozco et al.,“Inhibitory Costimulation and Anti-Tumor Immunity,”Semin.Cancer Biol.17(4):288-98(2007))。PD-1は、PDL-1又はPDL-2の結合による活性化に続く免疫系の下方制御を担う受容体であり(Martin-Orozco,N.et al.(2007))、細胞死誘導物質として機能する(Ishida,Y.et al.(1992);Subudhi et al.,“The Balance of Immune Responses:Costimulation Verse Coinhibition,”J.Molec.Med.83:193-202 (2005);Lazar-Molnar et al.,“Crystal Structure of the Complex Between Programmed Death-1(PD-1)and Its Ligand PD-L2,”Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.105(30):10483-88(2008))。このプロセスは、多くの腫瘍において、PD-L1の過剰発現を介して利用されて、免疫応答の抑制の原因となる。
【0030】
PD-1は、腫瘍学において免疫媒介治療に関して十分検証された標的であり、なかでも黒色腫及び非小細胞肺癌(NSCLC)の処置においては臨床試験はポジティブである。PD-1/PDL-1相互作用の拮抗阻害は、T細胞活性化を増大させて、宿主免疫系による腫瘍細胞の認識及び排除を増強する。感染症及び腫瘍を処置するための、そして適応免疫応答を上方調節するための抗PD-1抗体の使用が提案されている。
【0031】
本明細書中で用いられる用語「抗体」は、免疫グロブリン又はその断片若しくは誘導体を指し、インビトロ又はインビボのいずれで生成されるかに拘わらず、抗原結合部位を含むあらゆるポリペプチドを包含する。当該用語は、以下に限定されないが、ポリクローナル、モノクローナル、単一特異的、多特異的、非特異的、ヒト化、ヒト単鎖、キメラ、合成、組換え、ハイブリッド、変異した、及びグラフト化抗体を含む。本開示のために、「インタクトな抗体」のように用語「インタクト」によって修飾されている場合を除き、用語「抗体」は、Fab、F(ab’)2、Fv、scFv、Fd、dAb等の抗体断片、及び抗原結合機能、すなわちPD-L1に特異的に結合する能力を保持する他の抗体断片も包含する。典型的には、そのような断片は、抗原結合ドメインを含む。
【0032】
本明細書中で用いられる用語「ヒト抗体」は、ヒト生殖細胞系の免疫グロブリン配列に実質的に対応する可変領域及び定常領域を有する抗体を含む。
【0033】
本明細書中で用いられる用語「抗原結合ドメイン」、「抗原結合断片」、及び「結合断片」は、抗体と抗原との間の特異的結合を担うアミノ酸を含む抗体分子の一部を指す。場合により、抗原が大きい場合、抗原結合ドメインは、抗原の一部のみに結合し得る。抗原結合ドメインとの特異的相互作用を担う抗原分子の一部は、「エピトープ」又は「抗原決定基」と称される。抗原結合ドメインは、典型的に、抗体軽鎖可変領域(VL)及び抗体重鎖可変領域(VH)を含む;しかしながら、必ずしも双方を有する必要はない。例えば、いわゆるFd抗体断片は、VHドメインのみからなるが、依然として、インタクトな抗体の一部の抗原結合機能を保持する。
【0034】
抗体の結合断片は、組換えDNA技術によって、又はインタクトな抗体の酵素的若しくは化学的切断によって生成される。結合断片として、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、及び単鎖抗体が挙げられる。「二重特異的」又は「二機能性」抗体以外の抗体は、その結合部位の各々が同一である抗体と理解される。酵素パパインによる抗体の消化により、「Fab」断片としても知られている2つの同一の抗原結合断片、及び抗原結合活性はないが結晶化する能力を有する「Fc」断片が生じる。酵素ペプシンによる抗体の消化により、抗体分子の2つのアームが連結されたままで2つの抗原結合部位を備えるF(ab’)2断片が生じる。F(ab’)2断片は、抗原を架橋する能力を有する。本明細書中で用いられる用語「Fv」は、抗原認識部位及び抗原結合部位の双方を保持する抗体の最小断片を指す。本明細書中で用いられる用語「Fab」は、軽鎖の定常ドメイン及び重鎖のCHIドメインを含む抗体の断片を指す。
【0035】
本明細書中で用いられる用語「mAb」は、モノクローナル抗体を指す。本開示の抗体は、限定されないが、全天然抗体、二重特異的抗体;キメラ抗体;Fab、Fab’、単鎖V領域断片(scFv)、融合ポリペプチド、及び非慣用抗体を含む。
【0036】
本明細書中で用いられる用語「単離された」、「精製された」、又は「生物学的に純粋な」は、その天然の状態で見出されるような通常伴われる成分を、種々の程度で含まない物質を指す。「単離する」は、起源又は周囲からのある程度の分離を意味する。「精製する」は、単離よりも高い分離度を示す。「精製された」又は「生物学的に純粋な」タンパク質は、いかなる不純物も、タンパク質の生物学的特性に物質的に影響を及ぼしたり、その他の有害な帰結を引き起こしたりしないように、その他の物質から十分に解放されている。
【0037】
本明細書中で用いられる用語「特異的に結合する」は、分子(例えばポリペプチド)を認識し、且つこれに結合するが、試料、例えば生体試料中の他の分子を実質的に認識し、且つこれに結合しない化合物(例えば抗体)に言及することを意味する。例えば、特異的に結合する2つの分子は、生理学的条件下で比較的安定である複合体を形成する。特異的結合は、高い親和性及び低~中程度のキャパシティを特徴とし、これらは通常、親和性が低く、キャパシティが中程度~高い非特異的結合と区別される。典型的には、結合は、親和定数KAが106M-1よりも高いか、又はより好ましくは108M-1よりも高い場合に、特異的であるとみなされる。必要であれば、非特異的結合は、結合条件を変化させることによって、特異的結合に実質的に影響を及ぼすことなく引き下げることができる。結合を可能するのに適切な結合条件、例えば、抗体の濃度、溶液のイオン強度、温度、時間、ブロッキング剤(例えば、血清アルブミン、ミルクカゼイン)の濃度は、常用の技術を用いて当業者によって最適化され得る。
【0038】
本明細書中で一般に用いられる用語「処置する」、「処置している」、「処置」等は、障害若しくは疾患、及び/又は障害若しくは疾患と関連する徴候の進行を和らげ、改善し、又は遅延させることを指す。除外するものではないが、障害、疾患、又は症状の処置は、障害、疾患、若しくは症状、又は関連する徴候を完全に排除することを要求するものではないことが認識されよう。NSCLCに関連する特定の実施形態において、「処置する」、「処置している」、「処置」は、一次又は二次臨床エンドポイントのいずれか1つ又は組合せを達成することを指し得る。
【0039】
本明細書中で提供されるのは、切除不能な非小細胞肺癌(NSCLC)を患う患者において無増悪生存期間(PFS)を延長する方法であって、患者を、ヒト抗PD-L1抗体及び化学放射線療法により同時に処置することを含む方法である。
【0040】
また、本明細書中で提供されるのは、切除不能なNSCLCを患う患者において全奏効率(ORR)を増大させる方法であって、患者を、ヒト抗PD-L1抗体及び化学放射線療法により同時に処置することを含む方法である。
【0041】
また、本明細書中で提供されるのは、病期IIIの切除不能なNSCLCを患う患者を処置する方法であって、患者を、ヒト抗PD-L1抗体及び化学放射線療法により同時に処置することを含む方法である。
【0042】
一部の実施形態において、ヒト抗PD-L1抗体は、デュルバルマブ、アベルマブ、アテゾリズマブ、又はスゲマリマブである。一部の実施形態において、ヒト抗PD-L1抗体は、デュルバルマブ、アベルマブ、又はアテゾリズマブである。一部の実施形態において、ヒト抗PD-L1抗体はデュルバルマブである。
【0043】
本明細書中で提供される方法に用いられるデュルバルマブ及びその抗原結合断片は、重鎖及び軽鎖、又は重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む。デュルバルマブ軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列番号1で示され、そしてデュルバルマブ重鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列番号2で示される。デュルバルマブ重鎖可変領域相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列は、配列番号3(CDR1)、配列番号4(CDR2)、及び配列番号5(CDR3)で示され、そしてデュルバルマブ軽鎖可変領域CDRのアミノ酸配列は、配列番号6(CDR1)、配列番号7(CDR2)、及び配列番号8(CDR3)で示される。
【0044】
一部の実施形態において、本明細書中で提供される方法に用いられるデュルバルマブ又はその抗原結合断片は、配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、及び配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。一部の実施形態において、本明細書中で提供される方法に用いられるデュルバルマブ又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含み、重鎖可変領域は、配列番号3~5のKabat定義CDR1、CDR2、及びCDR3配列を含み、軽鎖可変領域は、配列番号6~8のKabat定義CDR1、CDR2、及びCDR3配列を含む。当業者であれば、当業者に知られているChothia定義、Abm定義、又は他のCDR定義を容易に識別するであろう。一部の実施形態において、本明細書中で提供される方法に用いられるデュルバルマブ又はその抗原結合断片は、米国特許第8,779,108号明細書及び米国特許第9,493,565号明細書(これらの文献はそれらの全体が参照により本明細書に組み込まれる)に開示される2.14H9OPT抗体の可変重鎖及び可変軽鎖のCDR配列を含む。
【0045】
デュルバルマブ又はその抗原結合断片は、患者に利益を提供しながら4週毎に1回投与され得る。更なる実施形態において、患者は、追加の後続用量が投与される。後続用量は、患者の年齢、体重、臨床的評価、腫瘍負荷、及び/又は主治医の判断が挙げられる他の要因に応じて、種々の時間間隔で投与され得る。
【0046】
一部の実施形態において、複数回用量のデュルバルマブ又はその抗原結合断片が患者に投与される。一部の実施形態において、少なくとも3回用量、少なくとも4回用量、少なくとも5回用量、少なくとも6回用量、少なくとも7回用量、少なくとも8回用量、少なくとも9回用量、少なくとも10回用量、少なくとも15回用量、少なくとも26用量、又は少なくとも20回用量超が患者に投与され得る。一部の実施形態において、デュルバルマブ又はその抗原結合断片は、2週毎に、2週にわたって、4週の処置期間にわたって、6週の処置期間にわたって、8週の処置期間にわたって、12週の処置期間にわたって、24週の処置期間にわたって、1年の処置期間にわたって、又は1年超の処置期間にわたって投与される。
【0047】
一部の実施形態において、用量間の間隔は、3週毎であり得る。一部の実施形態において、用量間の間隔は、4週毎(Q4W)であり得る。一部の実施形態において、用量間の間隔は、2カ月毎(例えば、維持段階の間)であり得る。
【0048】
一部の実施形態において、患者は、抗PD-L1又はその抗原結合断片の1回以上の用量が投与され、当該用量は、1500mgの固定用量である。一部の実施形態において、患者は、4週毎に1500mgのヒト抗PD-L1が投与される。一部の実施形態において、患者は、抗PD-L1の1回以上の用量が投与され、当該用量は約20mg/kgである。一部の実施形態において、患者は、1500mgのヒト抗PD-L1抗体が静脈内に4週毎(Q4W)に投与される。
【0049】
一部の実施形態において、患者は、デュルバルマブ又はその抗原結合断片の1回以上の用量が投与され、当該用量は、1500mgの固定用量である。一部の実施形態において、患者は、4週毎に1500mgのデュルバルマブが投与される。一部の実施形態において、患者は、デュルバルマブの1回以上の用量が投与され、当該用量は約20mg/kgである。
【0050】
患者に投与されることとなるデュルバルマブ又はその抗原結合断片の量は、種々のパラメータ、例えば、患者の年齢、体重、臨床評価、腫瘍負荷、及び/又は主治医の判断が挙げられる他の要因に応じて調製され得、またそれらに依存し得る。一部の実施形態において、用量は固定用量である。
【0051】
一部の実施形態において、本明細書中で提供される方法に従うデュルバルマブ又はその抗原結合断片の投与は、非経口投与を介する。例えば、デュルバルマブ又はその抗原結合断片は、静脈内注入又は皮下注射によって投与され得る。一部の実施形態において、当該投与は、静脈内注入による。
【0052】
一部の実施形態において、デュルバルマブ又はその抗原結合断片は、化学放射線療法と同時に投与される。本明細書中で用いられる用語「同時に」は、デュルバルマブ又はその抗原結合断片の投与及び化学放射線療法の施用が互いに約3日以内であることを指す。一部の実施形態において、デュルバルマブ又はその抗原結合断片は、化学放射線療法の約2日以内に投与される。一部の実施形態において、デュルバルマブ又はその抗原結合断片は、化学放射線療法の約1日以内に投与される。一部の実施形態において、デュルバルマブ又はその抗原結合断片は、化学放射線療法のサイクル1の1日目に投与される。
【0053】
一部の実施形態において、抗PD-L1抗体は、化学放射線療法の1日目に投与される。
【0054】
一部の実施形態において、化学療法は、白金ベースの治療剤を含む。
【0055】
一部の実施形態において、同時化学放射線療法は、進行型NSCLCを患う患者のための認められた標準的な第一選択のあらゆる処置を含む。一部の実施形態において、標準的な第一選択の処置として、化学療法、放射線療法、又は双方(化学放射線療法)が挙げられ得る。一部の実施形態において、療法は、1つ以上の白金ベースの化学療法剤を含み得る。一部の実施形態において、化学放射線療法は、白金ベースである。一部の実施形態において、1つ以上の白金ベースの化学療法剤は、カルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン、又はそれらの組合せから選択され得る。本明細書中に記載される白金ベースの療法は、例えば、シスプラチン又はカルボプラチンを、パクリタキセル、ドセタキセル、エトポシド、ゲムシタビン、ビノレルビン等の別の抗癌剤と共に投与する、シングレット又はダブレットレジメンを含み得る。
【0056】
本開示は、切除不能な局所進行性の非小細胞肺癌(NSCLC)を患う患者を処置する方法であって、患者に、ヒトPD-L1抗体及び化学放射線療法を同時に施すことを含む方法に関する。開示される処置の方法は、患者の無増悪生存期間(PFS)、全奏効率(ORR)、全生存期間(OS)、及びランダム化から24ヵ月目に生きている患者の割合(OS24)の相当な向上を実現することができる。
【0057】
一部の実施形態において、当該方法は、プラセボと比較して、PFSの増大を実現する。一部の実施形態において、当該方法は、プラセボと比較して、ORRの増大を実現する。一部の実施形態において、当該方法は、プラセボに対して、OSの増大を実現する。
【0058】
一部の実施形態において、切除不能な非小細胞肺癌(NSCLC)を患う患者において無増悪生存期間(PFS)を延長する方法に用いられるヒト抗PD-L1抗体及び同時的な化学放射線療法を含む組合せが提供される。一部の実施形態において、切除不能な非小細胞肺癌(NSCLC)を患う患者において全奏効率(ORR)を増大させる方法に用いられるヒト抗PD-L1抗体及び同時的な化学放射線療法を含む組合せが提供される。一部の実施形態において、病期IIIの切除不能な非小細胞肺癌(NSCLC)の処置に用いられるヒト抗PD-L1抗体及び同時的な化学放射線療法を含む組合せが提供される。
【0059】
一部の実施形態において、切除不能な非小細胞肺癌(NSCLC)を患う患者において無増悪生存期間(PFS)を延長する方法に用いられる薬剤の製造におけるヒト抗PD-L1抗体及び同時的な化学放射線療法を含む組合せの使用が提供される。一部の実施形態において、切除不能な非小細胞肺癌(NSCLC)を患う患者において全奏効率(ORR)を増大させる方法に用いられる薬剤の製造におけるヒト抗PD-L1抗体及び同時的な化学放射線療法を含む組合せの使用が提供される。一部の実施形態において、病期IIIの切除不能な非小細胞肺癌(NSCLC)の処置に用いられる薬剤の製造におけるヒト抗PD-L1抗体及び同時的な化学放射線療法を含む組合せの使用が提供される。
【0060】
全生存期間(OS)は、処置の日付から開始して、あらゆる原因による死までの期間に関する。OSは、例えば、12か月、18か月、24か月等の期間内の全生存期間を指す場合がある。そのような期間は、例えば、処置開始後の24か月目に生存している患者の数(%)を指す「OS24」として、24か月目の全生存期間のカプラン・マイアー推定法により特定され得る。
【0061】
無増悪生存期間(PFS)は、処置の日付から開始して、客観的な病勢進行(RECIST 1.1)又は死(進行の不在下でのあらゆる原因による)の日付までの期間に関する。一部の実施形態において、本開示の方法は、PFSの増大を実現する。一部の実施形態において、方法は、少なくとも9か月~少なくとも約24か月(例えば、少なくとも9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24か月、又はそれ以上、最大約5年)のPFSを実現する。
【0062】
客観的奏効率(ORR)は、RECIST 1.1による完全奏効(CR)又は部分奏効(PR)の少なくとも1つの訪問奏効(visit response)がある患者の数(%)を指す。
【0063】
本明細書中に記載され、且つ実施例によって示される方法は、局所進行性の切除不能なNSCLCの処置を実現する。一部の実施形態において、切除不能な癌として、いくつかの医学的理由の少なくとも1つのために、手術によって完全には除去され得ない癌が挙げられる。癌が切除不能であり得る理由として、例えば、腫瘍サイズ(例えば、安全に除去するには大き過ぎ、且つ/又は必須器官の部分の広範な除去を必要とし得る)、腫瘍位置(例えば、血管又は神経等の重要な構造と物理的に絡み合う腫瘍)、腫瘍の除去が、全ての癌を制御するには有効でない腫瘍転移、又は手術のリスクを許容できないレベルまで高める他の医学的状態(例えば、心疾患、肺疾患、糖尿病)が挙げられる。さらに、切除不能なNSCLCは、可能な外科切除を許容する程度まで、腫瘍のサイズを引き下げるのに有効であり得る積極的な処置の後に、永久に切除不能というわけではない場合がある。さらに、切除不能なNSCLCはまた、外科手術によって完全に除去されないが、1つ以上の外科手技によって部分的に除去され得るNSCLC(又は遠隔転移)を指し得る。例として、減量手術、並びに、肺癌の一部、及び転移性病変の一部を除去する外科手術が挙げられる。
【0064】
特定の実施形態において、本明細書中で開示される方法は、切除不能な癌に用いられ得る。
【0065】
本明細書中に記載され、且つ示される本開示の方法は、後期(例えば病期III)の局所進行性の、切除不能なNSCLCを患う患者の処置に用いられ得る。癌病期分類は、一般に知られており、且つ当該技術において受け入れられているあらゆる試験を用いて実行され得る。一部の実施形態において、癌病期分類は、American Joint Committee on Cancer’s(AJCC’s)TNMシステムを含み得る。一般に、TNMシステムは、原発腫瘍(腫瘍、T)のサイズ及び位置;癌がリンパ節に広がっているか、そして広がっているならば、発症したリンパ節(節、N)の位置及び数;並びに癌が身体の他の部分に広がっているか、そして広がっているならば、遠隔癌(転移、M)の範囲及び位置を判定するための種々の試験及びスキャンの結果を提供する。癌の各種類は、それ自体の特定のシステムを有し得るが、TNM病期分類システムは、一般に、文字毎にスケーリングされる点数化を用いる。
【0066】
一部の実施形態において、切除不能なNSCLCは、病期IIIである。一部の実施形態において、切除不能なNSCLCは、局所進行性である。一部の実施形態において、切除不能なNSCLCは、病期III且つ局所進行性である。
【0067】
腫瘍について、「T」は、一般的な腫瘍サイズ、位置、及び近隣の組織中に侵入しているかを記述する数字(例えば0~4)と関連する。より大きいか、又はより侵入的な腫瘍ほど、大きい数が付与され、そして癌に応じて、「a」、「b」、又は「m」(多発性の場合)等の小文字を加えて、更なる詳細が提供され得る。
【0068】
同様に、節について、「N」は、癌がリンパ節内に見出されたかを記述するための数字(例えば0~3)と関連し、また、癌を含有するリンパ節の数を示し得る。多くのリンパ節が癌に関与しているほど、大きい数字が割り当てられる。
【0069】
転移について、「M」は、癌が身体の他の部分に広がっているか否かを示し、広がっていなければM0、又は広がっていればM1と標識される。
【0070】
T、N、及びMの結果を組み合わせて、癌の病期、典型的には4病期:病期I(1)~IV(4)のうちの1つが決定される。また、一部の癌は、病期が0(ゼロ)である。病期0は、近隣の組織に全く広がっていない、元の組織に局所的に留まる上皮内癌を記述する。この病期の癌は、多くの場合、通常、外科手術により腫瘍全体を除去することによって、根治できる可能性が非常に高い。病期I又は早期の癌は、典型的には、近隣の組織中に深くは増殖しておらず、且つリンパ節又は身体の他の部分に広がっていない小さい癌又は腫瘍を記述するのに用いられる。病期II及びIIIは、近隣の組織中により深く増殖しており、且つリンパ節に広がっている可能性もあるが、他の組織には転移していない、より大きい癌又は腫瘍を記述する。病期IVは、身体の他の器官又は部分に広がった癌を記述し、多くの場合、進行癌又は転移性癌と同定される。
【0071】
病期分類は、回復及び推奨治療の機会を提供するために、予後因子の任意選択的な分析を含んでもよい。予後因子は、癌細胞の外観、腫瘍マーカー発現の分析、及び腫瘍遺伝学の分析に基づいて癌を病期分類することを含み得る。
【0072】
癌は、処置の有効性を判定するために、又は再発癌のより多くの情報を得るために、同じ初期システムを用いて再び病期分類され得る。
【0073】
NSCLCの病期分類:NSCLCは、5つの病期:病期0(ゼロ)及び病期I~IV(1~4)がある。病期0のNSCLCは、癌が近隣の組織中に増殖しておらず、且つ肺の外側に広がっていないことを示す。
【0074】
病期IのNSCLCは、癌が、リンパ節に広がっていない小さい腫瘍であることを示す。病期Iは、腫瘍のサイズに基づいて、2つのサブステージに分けられる:病期IA腫瘍は、3センチメートル(cm)幅未満であり、病期IB腫瘍は、3cm幅を超えるが5cm幅未満である。病期IのNSCLCは、癌の完全な外科的除去が可能であり得る。
【0075】
病期IIは、2つのサブステージ(IIA及びIIB)に分けられる。病期IIAは、近隣のリンパ節に広がっていない5cm幅を超えるが7cm幅未満の腫瘍、又は近隣のリンパ節に広がっている5cm幅未満の小さい腫瘍のいずれかであり得る。病期IIBは、リンパ節に広がっている5cm幅を超えるが7cm幅未満の腫瘍、又は肺内の近隣の構造中に増殖していても又はいなくてもよいが、リンパ節に広がっていない7cm幅を超える腫瘍のいずれかを記述し得る。病期IIのNSCLCは外科的処置が可能であり得る一方、通常、他の治療が、この病期のNSCLCを処置するのに必要とされる。
【0076】
病期IIIは、サブステージIIIA又はIIIBを含む。病期IIIAの多くの癌及び病期IIIBのほぼ全ての癌では、リンパ節への癌の広がり又は肺内の近隣の構造中への増殖により、外科手術が困難又は不可能である。いずれの状況における外科手術も、典型的には、癌の部分除去を必要とする。
【0077】
病期IVのNSCLCは、他方の肺内の複数の領域への広がり、肺若しくは心臓の周囲の流体、又は身体内での遠隔転移と関連する。NSCLCは、脳、骨、肝臓、及び副腎に広がる可能性がより高い。病期IVのNSCLCは、サブステージIVA(胸部内の広がり)及びIVB(胸部外の広がり)を含む。外科手術は、殆どの病期III又はIVのNSCLCではめったに成功せず、鎖骨の上方のリンパ節、又は胸部内の重要な構造(例えば、心臓、大血管、又は主要な肺の構造)に広がったならば、除去が不可能となり得る。特定の態様において、本明細書中で開示される患者は、病期IVのNSCLC患者である。
【0078】
処置の経過の後に、再発性NSCLCが検出される。
【0079】
本明細書中で開示される方法の実践は、特に明記しない限り、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学、及び免疫学の従来の技術を使用するが、これらは十分に当業者の範囲内である。そのような技術は、“Molecular Cloning:A Laboratory Manual”,second edition(Sambrook,1989);“Oligonucleotide Synthesis”(Gait,1984);“Animal Cell Culture”(Freshney,1987);“Methods in Enzymology”;“Handbook of Experimental Immunology”(Weir,1996);“Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells”(Miller and Calos,1987);“Current Protocols in Molecular Biology”(Ausubel,1987);“PCR:The Polymerase Chain Reaction”,(Mullis,1994);及び“Current Protocols in Immunology”(Coligan,1991)等の文献に十分に説明されている。
【実施例】
【0080】
実施例1:局所進行性の、切除不能な非小細胞肺癌(病期III)を患う患者における白金ベースの化学放射線療法と組み合わせたデュルバルマブの有効性
これは、局所進行性の、切除不能なNSCLC(病期III)を患う患者における白金ベースの化学放射線療法(CRT)と同時に与えられるデュルバルマブ(デュルバルマブ+標準治療[SoC]CRT)の有効性及び安全性を評価する、第III相無作為化二重盲検プラセボ対照マルチセンター国際研究である。
【0081】
局所進行性の、切除不能なNSCLC(病期III)を患うおよそ390人の患者を動員して、300人の患者を、2:1の比率でデュルバルマブ+SoC CRT又はプラセボ+SoC CRTにランダム化した。患者を、年齢(<65対≧65歳)及び病期(IIIA対IIIB/C)によって階層化する。
【0082】
この研究における対象は、局所進行性の、切除不能な(病期III)疾患を呈する組織学的に、又は細胞学的に実証されたNSCLCの≧18歳の大人の対象を含む。全対象が、十分な器官及び髄機能を有することが必要とされた。
【0083】
対象は、放射線療法、治験薬、化学療法、及びmAbが挙げられるが、これらに限定されない、NSCLC用の以前の、又は現在の処置が施されていたならば、研究への参加から排除した。
【0084】
全ての患者は、放射線療法に加えて、以下の白金ベースのSoC化学療法オプションの1つを受ける:シスプラチン/エトポシド、カルボプラチン/パクリタキセル、ペメトレキセド/シスプラチン、又はペメトレキセド/カルボプラチン。化学療法処置レジメンを、表1において概説している。
【0085】
【0086】
【0087】
また、患者は、SoC CRTと同時(すなわち、サイクル1の1日目[±3日]に始める)の静注を介して、4週毎にデュルバルマブ1500mg又はプラセボを受ける。SoC CRTの完了後の16週腫瘍評価時の完全奏効(CR)、部分奏効(PR)、又は安定(SD)の患者が、コンソリデーション処置(1500mg q4w IV)としてデュルバルマブ/プラセボを受け続ける。SoC CRTの完了後の16週腫瘍評価時のRECIST 1.1定義済み放射線学的進行性疾患の患者が、追跡調査まで進む。75kgの平均体重に基づいて、1500mgのデュルバルマブq4wの固定用量が、20mg/kg q4wに等しい。
【0088】
この研究の主要な目的は、盲検独立中央判定(BICR)によって評価される固形腫瘍バージョン1.1(RECIST 1.1)の応答評価基準による無増悪生存に関して、プラセボ+SoC CRTと比較して、デュルバルマブ+SoC CRTの有効性を評価することである。キーセカンダリエンドポイント(すなわち、多重試験手順に含まれるもの)は、BICR、全生存期間、及び無作為化から24ヵ月目に生きている患者の割合(OS24)によって評価される、RECIST 1.1による客観的奏効率である。
【0089】
実施例2:放射線療法の免疫学的結果を実証する同系マウス腫瘍モデルにおける遺伝子発現
材料及び方法
マウス腫瘍モデル。マウスを、aspenchips-2 べッディング、sizzlenestネスティング材料、及び段ボールトンネルを備える、最大6頭の動物が入るTecniplast 1284IVCケージ内で、特定の病原体のない条件の下で収容した。マウスを、12/12の明/暗サイクルで収容して、濾過水を与えて、Teklad Global 19%タンパク質押出加工ローデントダイエットを不断給餌した。
【0090】
CT26結腸腺癌細胞株(2011年にATCCから購入)を、10%(v/v)胎仔ウシ血清及び1%(v/v)L-グルタミン(Invivogen)を補充したダルベッコ改変イーグル培地中で培養した。細胞を、3ヵ月超の間継代せず、マイコプラズマ症の不在を確認するために定期的にスクリーニングした(PlasmoTest,Source BioScience LifeSciences,U.K.)。1×105個のCT26細胞を、Balb/cマウス(Harlan Laboratories,U.K.)の後ろ、尾の基部から1cmに皮下(s.c.)注射した。腫瘍容量を、カリパスを用いて全長×幅×奥行としてmm3で測定して、体重を1日モニターした。
【0091】
腫瘍治療。腫瘍が100~200mm3に達したときに、局所放射線を送達した。マウスを、鉛のシールド内に拘束して腫瘍のみを曝露させて、12mA、及び2Gy/分の線量率での250kV X線(MXR-320/36 x-ray tube,Comet AG,Switzerland)を用いる7Gyの単回線量によるIRへの局所曝露を許容した。マウスを、時間がマッチする未処置対照と一緒に、照射の1、3、及び7日後に犠牲にした。腫瘍を収集して、フローサイトメトリによる分析にフレッシュで用いた。各腫瘍由来の少なくとも20mgの組織を、遺伝子マイクロアレイ分析のために瞬間凍結した。組合せ研究のために、マウスは、RTに続いて10mg/kgのαPD-L1モノクローナル抗体(mAb)(クローン10F.9G2,Biolegend,U.K.)を受けた(1週間3qwに投与し、RTの1日目に始めた)。腫瘍が1000mm3の容量に達したときに、又は治療後の100日目の長期生存(LT)マウスについて、マウスを犠牲にした。フローサイトメトリ表現型タイピング研究及び組合せ研究が、2件の独立実験を代表する。
【0092】
エキソンマイクロアレイ分析。マイクロアレイ評価のために、各時点にて、各処置群から5つの異なる腫瘍をサンプリングして、単回研究を行った。フレッシュな凍結RNA抽出を、RNAStat 60(Amsbio,U.K.)を用いて行って、総RNAの品質管理試験を、2100 Bioanalyzer(Agilent,U.K.)を用いて実行した。試料を、Ovation Pico WTA System v2(NuGEN Technologies,Netherlands)を用いて増幅させた。QC試験の後に、cDNAを断片化して、Encore Biotin Module(NuGEN Technologies,Netherlands)を用いて標識してから、Affymetrix GeneChip(登録商標)アレイについてのNuGENガイドラインに従って、マウスエキソンアレイにハイブリダイズした。マイクロアレイ分析を、Mouse Exon 1.0 STアレイ(Affymetrix,U.K.)を用いて実行した。全てのマイクロアレイデータをGEOに寄託した(登録番号GSE74875)。
【0093】
データ解析。生のマイクロアレイデータを、Robust Multichip Algorithm(RMA)にかけて、コアトランスクリプトプローブに関して前処理/正規化した(Bolstad et al.,Bioinformatics 19(2):185-93(2003))。続いて、品質管理を、データ保全性評価後に3つの外れ値(1日目の各処置群から1つ、及び3日目の放射線処置群から1つ)を除外して実行した。Affy AFFX対照トランスクリプトを、情報価値がないトランスクリプトと一緒に除去した(log2発現閾値<3.6473及び分散閾値<0.0088)。8500個の確実に検出されたトランスクリプトID(AffymetrixトランスクリプトクラスターID)を、分析のために残した。
【0094】
比較を、時点単位で処置群に実行して(非処置対照射)、差別的に発現されたトランスクリプトID(上方制御又は下方制御)を、0.05のカットオフp値を用いて特定した(ANOVA)。時点単位のトランスクリプトID毎のメジアンlog2強度値を、未処置の腫瘍群について算出してから、等しい時点にて処置試料から減算して、時点単位の対照正規化トランスクリプト発現強度を得た。階層クラスター分析(HCA);非正規化、リンケージ=Ward及び距離=アンセンタード相関(Omicsoft ArrayStudio)を実行して、試料及びトランスクリプトID単位で対照正規化トランスクリプト発現データをクラスター化した。差別的に調節された経路カテゴリー化遺伝子セットデータを、バブルダイアグラムとして時点単位でプロットした(MatLab)。バブルの色は、遺伝子調節の方向を示す。バブルのサイズは、各経路の絶対倍率変化発現値を示す。マウス遺伝子アノテーションを、BioMart(Mus Musculus遺伝子GRCm38.p2)及びIDコンバータ(Alibes et al.,BMC Bioinformatics 8:9.doi:10.1186/1471-2105-8-9 (2007))を用いてトランスクリプトIDに割り当てた。機能的エンリッチメント及びネットワーク分析を、Ingenuity Pathway Analysis(IPA,Ingenuity(登録商標)Systems)を用いて実行した。少なくとも1.5倍上方制御又は下方制御されたトランスクリプトを経路に、そして上流レギュレータにマップした。Gene Ontologyエンリッチメント分析を、g:Profiler(Reimand et al.,(2011 update),Nucleic Acids Res. 39(Web Server issue):W307-15.doi:10.1093/nar/gkr378(2011))内のg:GOSt機能により実行した。
【0095】
フローサイトメトリ。腫瘍を、1mm3のピースに切り分けて、PBS中2U/mL DNase(Sigma,U.K.)、300CDU/mLコラゲナーゼI(Life Technologies,U.K.)、及び0.9mg/mLディスパーゼII(Sigma,U.K.)中で37℃にて40分間インキュベートして、FACSバッファ(10%FCS入りPBS)により100μm細胞ストレーナに押し通した。CD16/CD32 Fcブロッキング抗体(Life Technologies,U.K.)とのインキュベーション後に、CD4、CD8(BD Biosciences,U.K.)、CD11b、CD11c、CD45、CD69、CD86、CD206(Biolegend,U.K.)、MHC-II、F4/80、Gr1、NKp46、B220、PD-1、及びCTLA-4(特に明記しない限り、全てeBiosciences,U.K.)の発現を、フローサイトメトリによって分析した。viability stain(Life Technologies,U.K.)を、死んだ細胞を排除するために含めた。調節T細胞を、Mouse Regulatory T-cell Staining Kit #3(eBioscience,U.K.)を用いて分析した
【0096】
統計分析。マン・ホイットニーU検定を用いて、2つの群間でフローサイトメトリーデータ及び腫瘍容量を比較した。遺伝子発現プロファイリングデータを、先に記載するように評価した。ログランクマンテル・コックス検定を、生存率データに実行した。p<0.05であれば、データは統計的に異なるとみなした。
【0097】
RTは、自然免疫及び適応免疫の活性化の原因となる。確立したCT26腫瘍を有する免疫応答性Balb/cマウスは、RTの単回7Gy線量を受け、そして腫瘍を、早期の転写変化を特定するエキソンマイクロアレイ分析用に、処置後1、3、及び7日目に切り出した(
図2A及び2C)。照射を受けた腫瘍のトランスクリプトームを、非処置(NT)の、時間がマッチする対照のものと比較して、時点の少なくとも1つについて、有意に差別的に発現された(上方制御又は下方制御された)757個の遺伝子(+/-1.5倍率変化及びp≦0.05)を特定した(表2)。予想されるp53活性化経路(放射線依存性DNA損傷及び細胞死)に加えて、データのIPA機能的エンリッチメント分析は、自然免疫機能及び適応免疫機能について、強い偏りを強調した。これらは、抗原提示、T細胞活性化及び細胞傷害、並びにケモカイン生成を含んだ(
図2B及び3、並びに表3及び4)。差別的に調節された遺伝子の数が、1日目~7日目まで明らかに増大することは、注目に値した(表2)。
【0098】
表2:異なる時点でのカットオフ閾値(≧+/-1.5倍率変化及びp≦0.05、ANOVA)を満たす上方制御又は下方制御された遺伝子の数。
【0099】
【0100】
表3:7Gy IR後のCT26腫瘍における3つの時点(1、3、及び7日目)にて差別的に発現された遺伝子(倍率変化=+/-1.5及びp≦0.05)と関連するキー支配的免疫学的経路(IPAソフトウェアによって分析)。*複数の時点にて関係する経路。最も有意なp値のトップ10に存在する非疾患関連免疫経路を強調している。
【0101】
【0102】
表4:免疫又は放射線調節の関連がある機能的セットへのヒートマップ(
図2)由来の各クラスター(A~E)内のキー遺伝子の分類。各時点(放射線処置対非処置腫瘍)での遺伝子発現倍率変化を示し、有意なp値をアスタリスクにより示す(p≦0.05*;p≦0.01**;p≦0.005***)。機能分類を、Nanostring nCounter Mouse PanCancer Immune Profiling Panel及び著者の知識によってガイドした。
【0103】
【0104】
【0105】
また、応答のパターンは、各時点にて有意に差別的に調節されたトップ免疫関連上流レギュレータから増築したネットワークマップにおいて、明らかである(
図3)。さらに、経路分析は、上方制御された遺伝子及び下方制御された遺伝子の30.8%が、免疫系プロセス(GO:0002376)と関連することを強調しており、照射後の7日以内に免疫プロセスの優位性を強調する遺伝子セットと共に見られる4.35E-72の最も有意なエンリッチメントp値を与えた。しかしながら、遺伝子のほぼ5%超が、全3時点にわたって類似した挙動を示した(38上方/3下方)ので、評価した3つの時点での放射線応答の異なる段階を強調した。
【0106】
差別的に発現された遺伝子の詳細な階層クラスター分析(HCA)が、5つのクラスターを特定し、各々、異なる時点にて同時調節される遺伝子を含有した(
図2B)。対照腫瘍における発現と比較した場合に、クラスターA内の遺伝子が、7日目に有意に上方制御された。経路分析は、大多数のこれらの遺伝子が、T細胞受容体シグナル伝達及びCD28シグナル伝達が挙げられる適応免疫細胞応答と関連することを実証した。この点の例証は、Cd3d/e/g、Cd8a、及びCd28発現の増大であり、これは、CD3
+/CD8
+T細胞の浸潤又は増殖の増大を示唆している。また、活性抗腫瘍免疫応答のサインが、Ifnγの上方制御によって示唆された。関心対象の別の上方制御された遺伝子は、Tnfsf10であり、これは細胞死受容体TRAILをコードする。放射線が、細胞死受容体及びそのリガンドの腫瘍細胞表面発現を誘導することが知られており、そしてT細胞上のTRAILの上方制御が、TRAIL受容体の活性化を介して腫瘍細胞の死滅を導くのを助力し得る。興味深いことに、抑制免疫チェックポイント(例えば、Pd-1、Lag3、及びCtla4)の観察された同時発現は、この適応免疫応答が一過性であり得ることを示唆した。また、この免疫抑制腫瘍微環境の発達は、Cd39/Entpd1の上方制御によって補強され、これは、Cd73の酵素活性と関連して、アデノシン依存性免疫細胞抑制に寄与することが知られている。
【0107】
第2のクラスター(B)は、自然免疫と関連する遺伝子だけでなく、免疫系の自然アームと適応アーム間の伝達に関係するタンパク質をコードする遺伝子によっても富化される。これらの遺伝子は、実験中に継続的に上方制御された。一部の遺伝子は1日目に有意に上方制御されたが、大部分の遺伝子の発現は3日目から有意に上方制御された。この発現パターンは、自然免疫応答が初期に開始されて、RTの単回線量後の第1週の間、比較的一定のままであることを示唆している。このクラスター内の関連遺伝子は、Cd80(APC上で発現される共刺激受容体)及びIL15(ナチュラルキラー細胞及びT細胞の強力なインデューサ/アクティベータとしての機能を果たす、単球及び樹状細胞によって発現されるサイトカイン)を含んだ。加えて、クラスターBは、Nos2(活性化されたマクロファージ上のIFNγによって誘導される酵素)、Cfb(触媒サブユニットBbがC3転換酵素を活性化して、その後B細胞を活性化することができる補体B因子)、及びtoll様受容体3(Tlr3)を含有した。さらに、Irf7、Irf9、Mx1、Oas1a/g、及びOas2、並びにケモカイン遺伝子Cxcl10、Ccl2/5/6及び7が挙げられるI型及びII型インターフェロン調節遺伝子が、このクラスターにおいて富化された。
【0108】
クラスターCのプロファイルは、時点にわたってより一貫しており、クロノロジカル応答に関して「第1の遺伝子クラスター」とみなされ得る。これは、より早期の時点(1及び3日目)にて有意に上方制御された大きなセットの遺伝子を含み、より小さなサブセットが、後に上方制御された(3日目~7日目)。自然免疫応答、放射線依存性DNA損傷修復及び細胞死、並びにケモカインは、このクラスターにおいて支配的な機能的エンリッチメントであったが、T細胞及び細胞傷害性、並びに抗原提示及びB細胞と関連するいくつかの遺伝子もまた存在した。自然免疫と関連する遺伝子は、C3、C1ra、及びC1rb等の補体をコードするもの、並びにStat1が挙げられるインターフェロン調節遺伝子を含んだ。興味深いことに、Stat1は、IPA機能的エンリッチメント分析において全3時点にて上流レギュレータとして強調された(
図3及び表4)。また、Ccl4(マクロファージ及びNK細胞の漸増と関連するケモカイン)等のケモカインは、1日目に強く上方制御された;抗原プロセシングと関連する遺伝子(Psmb8/9/10、Tap1、及びTapbp)と同様であった。放射線依存性DNA損傷修復及び細胞死、並びにT細胞及び細胞傷害が、このクラスターにおける支配的な機能的エンリッチメントであった。注目に値するデータセットの証明は、p53シグナル伝達と関連する遺伝子の発現であり、これは、IRの直接的な効果と関連がある。IRによって引き起こされるDNA損傷等の細胞ストレスが、p53を活性化して、細胞増殖を阻害して、腫瘍細胞にアポトーシスを開始させる。例えば、p53活性化は、細胞周期進行遺伝子Cdkn1aのインヒビタの発現を誘導する(3日目にて1.7倍上方制御、p<0.01)。同様に、死受容体(1日目にて1.8倍上方制御、p<0.01)が、活性化p53によって誘導されることが知られており、細胞を、免疫エフェクタ細胞を発現するFAS-リガンドに対して高感度にする。適応免疫と関連する関連上方制御遺伝子が、Cd40lg(通常、活性化CD4
+ T細胞上で発現される)、免疫チェックポイントタンパク質Pd-l1(Cd274)(3日目から有意に上方制御される)、及びGzmb(グランザイムB)(標的細胞死滅の機能に加えて、基底膜リモデリング及びリンパ球移行に関与し、1日目以降有意に上方制御された)を含んだ。
【0109】
クラスターD内の遺伝子が、1日目に一過的に上方制御されてから、3日目に有意に下方制御された。経路分析は、ケモカイン発現(Cxcl9及びCxcl12)と共に、抗原提示(H2遺伝子、Cd74、Cd209d、及びCd209c)及びB細胞活性化(Cd24a)と関連する遺伝子のエンリッチメントを実証した。抗原提示及びB細胞関連遺伝子のいずれも、7日目までに有意に差別的に調節されなかった。このことは、効果のカスケードが、免疫機能経路のさらに下流で進行したことを示唆している。
【0110】
特定された最後のクラスター(クラスターE)は、最も大きなクラスターであり、180個の遺伝子を含有した。放射線依存性DNA損傷修復が、早ければ1日目に特定の遺伝子について明らかな有意な下方制御があるキー機能的エンリッチメントである(1日目Lig4;1及び3日目Gadd45a、又は7日目Brca1、Brca2、Ercc1、Pola1、及びParbp)。このデータは、照射後24時間以内にDNAの迅速な修復を明らかにする以前の研究を支持している。最後に、コレステロール生合成下方制御と放射線との強い関連が特定された。
【0111】
全体として、トランスクリプトーム分析は、CT26腫瘍への放射線の単回線量が、p53依存性細胞死をトリガーすることを確認する。細胞死のトリガーは、おそらく、照射された腫瘍において、自然免疫応答及び適応免疫応答の双方を開始する律速工程である。実際に、遺伝子発現プロファイルは、RT誘導腫瘍細胞死が、自然免疫の補充及び活性化(IFNα発現、抗原プロセシング/提示、マクロファージ補充、及び樹状細胞成熟)の後に、適応免疫応答の活性化(IFNγシグナル伝達、T細胞細胞傷害、T細胞受容体シグナル伝達、及びB細胞活性化)の原因となることを示唆している。しかしながら、あらゆる生理系について、この生物学的免疫応答は、いくつかの免疫抑制分子の発現の増大によって実証されるように、一過性であると予想される。
【0112】
遺伝子マイクロアレイデータを確認して、タンパク質レベルでのIRに従う免疫構成要素の表現型変化をさらに調査するために、同じ組織を、フローサイトメトリによって同時に分析した。マッチした腫瘍組織からの系統マーカー及び表現型マーカーの倍率変化を示すヒートマップを、
図7に要約している。
【0113】
RTは、腫瘍浸潤骨髄細胞集団の表現型を変更する。マクロファージが、高い程度の系統可塑性を示す。しかしながら、腫瘍関連マクロファージ(TAM)は支配的に、いくつかの癌型において、M2表現型に向けて歪められている。M2細胞は、CD206(マンノース受容体又はMRC1としても知られている)を発現し、不十分なAPCであり、そして血管新生促進因子及び免疫抑制因子の放出を通して免疫逃避及び疾患進行に寄与し得る。これに対し、M1分化マクロファージは、有効なリンパ球活性化を可能にするCD86等の共刺激分子を共発現する。RT処置腫瘍及び時間マッチNT対照腫瘍におけるTAMの頻度及び分化状態の双方を分析した。F4/80
+TAMの全体数は、RT後に有意に変更しなかった(
図4A)一方、CD86及びCD206の発現は調節された。RTの7日後、F4/80
+細胞は、NT時間マッチ対照と比較して、CD86の発現を引き下げた(695.0±46.6 NT対494.7±13.9照射のMFI、P<0.05;
図4B)。さらに、CD206発現は、RTの3日後に、腫瘍浸潤F4/80
+細胞上で有意に引き下げられた(NTの263.7±23.8対照射を受けた腫瘍の99.5±8.1のMFI。P<0.001;
図4C)。また、この発現の引下げは、RT後7日目に観察された。また、応答の類似パターンが、トランスクリプトーム分析において観察された(表4)。CD86
+の、CD206
+陽性F4/80
+細胞に対する比率は、時間マッチNT対照と比較して、3日目に増大した(1.8±0.05 NT対2.7±0.12照射、P<0.01)(
図4D)。CD86及びCD206の発現の変化に加えて、マクロファージ表現型のシフトもまた、照射後の遺伝子プロファイリングデータにおいて観察されるNos2及びStat1発現の増大によって示唆される(
図3及び表4)。さらに、M2様表現型に関係があるレジスチン様アルファ(Retnla)及びCd163の遺伝子発現の低下(それぞれ6.9及び2倍)もまた、RTの3日後に特定された(
図3及び表4)。TAMの全体数の変化が見出されなかったならば、これらのデータは、RTが、M1表現型に向かうマクロファージの一過性の偏りの原因となることを示唆している。
【0114】
骨髄由来抑制細胞(MDSC)は、抗腫瘍免疫応答を抑制する能力を有するので、RTの免疫原性に影響を与え得る。腫瘍浸潤CD11b
+Gr1
lo細胞の頻度の変化が、RT後のいかなる時点でも観察されなかった(
図4E及びゲーティング戦略の
図8)一方、CD11b
+Gr1
hi細胞の2.7倍の増大(表現型的にMDSCと定義される)が、RT処置腫瘍において3日目に観察された(
図4F)。この増大は、一過性であるようであった。というのも、7日目までに、CD11b
+Gr1
hi細胞の頻度の有意差が、NT群とRT処置群との間で観察されなかったからである。
【0115】
RTが、T細胞活性化の原因となり、そして腫瘍におけるCD8:Treg比を変更する。RTが、腫瘍に浸潤するCD45
+細胞の割合の全体的な増大の原因となった(
図9)が、CD4
+及びCD8
+T細胞数は、時間マッチ対照と比較した場合に、RTの3日後にそれぞれ52%及び63%引き下げられることが見出された(
図5A及び5B)。CD4
+T細胞数が処置の7日後に枯渇したままであった一方、CD8
+T細胞数が回復して、RT処置腫瘍において増殖に向かう強い傾向があった(15.9±3.0%~25.9±3.8%。P=0.06)。興味深いことに、時間マッチ対照と比較して、早期の活性化マーカーCD69の高い発現が、残りの腫瘍浸潤CD4
+(RT後3及び7日目)及びCD8
+(RT後1及び3日目)T細胞上で観察された(
図5C及び5D並びに
図10A)。このことは、RTがT細胞活性化を誘導したことを示唆している。
【0116】
NT腫瘍内ですら、Treg表現型を有するCD4
+細胞の割合は、1日目から7日目まで3.3倍増大した(
図5E)。このことは、腫瘍微環境が経時的にどのように変化するかを実証している。しかしながら、時間マッチ腫瘍の比較は、処置後7日目に評価した場合に、RTがさらに、Tregの頻度をさらに32%増大させることを明らかにした。これにも拘わらず、多くの場合、癌においてより良好な予測と関連することが報告されているCD8:Treg細胞比は、7日目のNT対照と比較した場合に、RT処置腫瘍において2.5倍高かった(
図5F)。
【0117】
RTは、抗腫瘍有効性を制限する腫瘍微環境におけるPD-1及びPD-L1の発現の原因となる。遺伝子プロファイリングデータは、RTが腫瘍においていくつかの共抑制免疫チェックポイントの発現の増大の原因となることを明らかにした。RT後に観察されるPd-l1の、mRNAレベルでの一貫した上方制御、及び7日目のPdcd1(PD-1)の発現(
図3及び表4)を考えると、最初の研究は、PD-1/PD-L1経路に集中した。フローサイトメトリは、mRNAデータの更なるコンテクスト化を可能にして、RTの7日後のCD4
+及びCD8
+T細胞上でのPD-1及びPD-L1の双方の発現の増大を明らかにした(
図6A~6D及び
図10B)。さらに、RTはまた、試験した全ての時点にて、腫瘍細胞上でのPD-L1の発現の増大の原因となった(
図6E)。このデータは、密接に、mRNAレベルにて観察される発現パターンに似ていた(
図3及び表4)。
【0118】
PD-1/PD-L1軸の遮断が、RTの抗腫瘍有効性に影響を与えるかを判定するために、治療研究を行った。マウスは、RT(単回線量として7Gy)を単独で、又はαPD-L1 mAbと組み合わせて受けた。NTコホートにおけるメジアン生存期間は15.5日であった。これは、単剤療法として3qw送達されるαPD-L1 mAbによって有意に向上しなかった(メジアン生存期間=18日;
図6F及び6G)。しかしながら、αPD-L1 mAbと組み合わせて施される場合のRTは、単独療法と比較した場合に、生存の有意な向上の原因となり、>70%のマウスが完全治療奏効を経験した。
【0119】
配列表
配列番号1
EIVLTQSPGTLSLSPGERATLSCRASQRVSSSYLAWYQQKPGQAPRLLIYDASSRATGIPDRFSGSGSGTDFTLTISRLEPEDFAVYYCQQYGSLPWTFGQGTKVEIK
配列番号2
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSRYWMSWVRQAPGKGLEWVANIKQDGSEKYYVDSVKGRFTISRDNAKNSLYLQMNSLRAEDTAVYYCAREGGWFGELAFDYWGQGTLVTVSS
配列番号3-VH CDR1
GFTFSRYWMS
配列番号4-VH CDR2
NIKQDGSEKYYVDSVKG
配列番号5-VH CDR3
EGGWFGELAFDY
配列番号6-VL CDR1
RASQRVSSSYLA
配列番号7-VL CDR2
DASSRAT
配列番号8-VL CDR3
QQYGSLPWT
【配列表】
【国際調査報告】