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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-28
(54)【発明の名称】サンプリングデバイス
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20240521BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20240521BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240521BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20240521BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20240521BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20240521BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
G01N1/28 J
G01N33/48 S
G01N33/53 M
G01N33/543 521
G01N33/569 L
C12Q1/6851 Z
G01N1/10 V
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572004
(86)(22)【出願日】2022-05-17
(85)【翻訳文提出日】2024-01-22
(86)【国際出願番号】 EP2022063335
(87)【国際公開番号】W WO2022243323
(87)【国際公開日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】2107301.0
(32)【優先日】2021-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522404410
【氏名又は名称】レディーゴー・ダイアグノスティクス・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン・デイヴィッド・コッブ
【テーマコード(参考)】
2G045
2G052
4B063
【Fターム(参考)】
2G045FB02
2G045FB03
2G045FB17
2G045HA06
2G045HA14
2G045JA08
2G052AA29
2G052AA36
2G052AB18
2G052AB20
2G052CA02
2G052CA39
2G052DA12
2G052EA08
2G052EB11
2G052ED01
2G052FD09
2G052FD18
2G052GA11
2G052GA30
2G052JA16
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QQ03
4B063QQ28
4B063QQ41
4B063QR62
4B063QX01
(57)【要約】
サンプリングデバイスは、生体サンプルを取得するために露出されているかまたは露出可能な作業面と、このように取得されたサンプルを吸収するための多孔構造と、を有するニブ(112)を有するハンドル(110)を備える。ニブと容器(128)との間に壊れやすいプラグ(152)が位置する。プラグが破壊されると、容器はニブに流体を供給し、サンプルを反応チャンバ(114)内に搬送し分配することができ、反応チャンバにおいて、サンプルに対して分析反応、たとえば、多孔ニブにおいて事前に官能基化された膜破壊薬剤によってサンプルから放出される核酸の等温増幅を実行することができる。デバイスはまた、ニブとプラグとの間に位置し、容器からの液体によって再構成することができる、凍結乾燥された試薬(150)のペレットを含んでもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析される生体サンプルを取得するためのデバイスであって、
(a)生体サンプルを取得するために露出されているかまたは露出可能な作業面を有し、かつこのように取得された生体サンプル物質の吸収に適した多孔構造も有するニブと、
(b)手中に保持し、手動で操作するのに適した形態を有する本体であって、前記ニブが前記本体に接続されているかまたは接続可能である、本体と、
(c)前記本体内に位置し、前記ニブと流体連通して流体を前記ニブを通過させるように適合された容器と、
を備え、前記デバイスは、
(d)前記容器と前記ニブとの間の流体の通過を阻止するために前記容器と前記ニブとの間の流体通路内に位置するプラグであって、流体通路を開き、それによって、前記容器と前記ニブとの間の流体の通過を可能にするように壊れやすい、プラグをさらに備え、前記デバイスは、前記ニブが接続されているかまたは接続可能な前記本体の部分に位置するかもしくは前記部分に隣接して位置する通気孔をさらに備える、デバイス。
【請求項2】
前記壊れやすいプラグは、脆弱な部分を含み、前記脆弱な部分では、力が加えられたときに前記プラグが優先的に破壊され、前記プラグの残りの部分を通って、したがって、前記容器と前記ニブとの間を延びる流体連通路を露出させる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記壊れやすいプラグは、前記流体通路を完全には制限しないテーパ部分と、前記流体通路を完全に制限する干渉部分と、を含む、請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記本体は、より柔らかいプラスチック材料で形成され、前記壊れやすいプラグは、より硬いプラスチック材料で形成される、請求項1から3のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
前記通気孔は、ピンまたはカラーなどと組み合わされて、前記ニブを前記デバイス内の所定の位置に保持する、請求項1から4のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記通気孔は、前記ニブと前記本体との間に空気流をもたらすように前記ニブの長さに沿って設けられた溝を備える、請求項1から5のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項7】
前記通気孔は、前記本体に形成された開口部を備える、請求項1から6のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記容器は、流体を前記ニブの方へ押しかつ/または前記ニブから引き出すように動作可能であり、好ましくは、前記容器は、前記容器を手動で圧搾することによって動作可能である、請求項1から7のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
前記ニブは、取得された水性材料の量を示すようにハイドロクロミックマークに関連付けられる、請求項1から8のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項10】
前記容器は、前記ニブ上に取得された前記サンプルを処理し、好ましくは溶出させるための液体試薬製剤を収容する、請求項1から9のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項11】
前記ニブは、前記ニブ上に取得された前記サンプルを処理するための活性薬剤を備え、好ましくは、前記ニブは、前記活性薬剤によって官能基化される、請求項1から10のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項12】
前記活性薬剤は、細菌またはウイルスを溶解させることのできる1つまたは複数の膜破壊試薬を含む、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記容器から供給され、前記サンプルと接触した後に前記ニブから排出される流体を受け取るための反応チャンバをさらに備える、請求項1から12のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項14】
前記反応チャンバは、前記ニブを覆うように取り外し可能に位置することができる、請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
前記サンプルを処理するための試薬製剤を備える、請求項1から14のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項16】
前記試薬製剤は、凍結乾燥形態または乾燥堆積形態である、請求項15に記載のデバイス。
【請求項17】
前記試薬製剤は、前記サンプルにおいて特定の核酸標的を検出するための1つまたは複数の試薬を含む、請求項15または16に記載のデバイス。
【請求項18】
前記試薬製剤は、核酸を等温増幅するための試薬を含む、請求項17に記載のデバイス。
【請求項19】
前記等温増幅は、リコンビナーゼポリメラーゼ増幅である、請求項18に記載のデバイス。
【請求項20】
前記試薬製剤は、前記特定の核酸標的を検出した場合に視覚信号をもたらす、請求項15から19のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項21】
前記試薬製剤は、前記サンプル中の特定のタンパク質、ペプチド、および/またはリピドを検出するための1つまたは複数の試薬を含む、請求項15または16に記載のデバイス。
【請求項22】
前記試薬製剤は、前記サンプル中の標的に対して免疫学的アッセイベースの検出を行うための1つまたは複数の試薬を含む、請求項21に記載のデバイス。
【請求項23】
キット形態で提供される、請求項1から22のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項24】
側方流動アッセイにおいて使用されるウイルスサンプルを採取し調製する際の、請求項1から23のいずれか一項に記載のデバイスの使用。
【請求項25】
前記ウイルスサンプルは、SARS-CoV-2サンプルである、請求項24に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床サンプルを採取して、たとえば、核酸増幅および/または検出などの分子生物学的処理技法による分析のために調製することに関し、より詳細には、特にポイントオブケア(POC)またはポイントオブニード(PON)環境において有用であるが、試験のために遠隔の実験室に送る際にも使用されるサンプリングデバイスに関する。本発明では、多機能キットの形をしたデバイスが構想され、この多機能キットから、検討中の調査に適した、専用の実施形態を組み立てることができる。
【背景技術】
【0002】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、生体サンプルにおける特定の核酸(DNAまたはRNA)の存在について試験するために使用される、核酸を増幅する好都合な方法である。この方法は、いくつかある目的の中で特に、病原体または疾患についてのマーカーを識別するための診断方法として使用される。核酸サンプルを増幅する他の方法は、リコンビナーゼポリメラーゼ増幅(RPA)およびループ介在等温増幅(Loop-Mediated Isothermal Amplification、LAMP)などの等温増幅方法を含む。
【0003】
任意のそのような診断試験の前に、核酸を使用中の増幅プロセスに適合した状態にするにはサンプルの一定量の調製が必要である。実験室ベースの抽出方法は一般に、高濃度の、高純度の核酸を提供するように適合されており、その目的は、できるだけ多くの核酸を取得することである。このため、単純さが犠牲になり、実験室ベースの抽出技法では、臨床環境に適合しない、試薬および遠心分離機などの機器を使用することが必要になることが多い。
【0004】
臨床サンプルを調製するには、試験を実行するうえで必要最低限の核酸があればよい。このことは、抽出プロセスを著しく簡略化するので重要な特徴である。たとえば、単純な濾紙を使用すると、PCRを介したその後の診断について生体サンプル中の標的から十分な核酸を捕捉し、場合によっては、全血などの複合サンプルマトリックスから十分な核酸を捕捉することが可能になる(非特許文献1)。
【0005】
Readygo Diagnostics Limited名義の特許文献1は、排他的ではないが、特にDNAおよびRNA分析手順を目的として生体サンプルを採取し処理するためのサンプリングデバイスについて説明している。その出願の内容は、参照によって本明細書に組み込まれている。特許文献1において説明されたデバイスは、
(a)生体サンプルを取得するために露出されているかまたは露出可能な作業面を有し、かつこのように取得された生体サンプル物質の吸収に適した多孔構造も有するニブと、
(b)手中に保持し、手動で操作するのに適した形態を有する本体であって、ニブが本体に接続されているかまたは接続可能である、本体と、
(c)ニブと流体連通して流体をニブを通過させるように適合された容器と、
を備える。
【0006】
本発明者は現在、そのデバイスの修正バージョンを設計しており、修正された特徴によってサンプルの採取および処理を改善することが可能になることを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際出願第PCT/EP2021/057315号
【特許文献2】国際公開第WO00/62023号
【特許文献3】国際公開第WO02/16383号
【特許文献4】欧州特許出願公開第2855677号明細書
【特許文献5】国際公開第WO2005/046738号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Fuehrerら、J Clin Microbiol、2011、49(4)、1628~1630頁、Buら、Analytical Biochemistry 375(2)、370~372頁、Zouら(2017)、Nucleic acid purification from plants, animals and microbes in under 30 seconds、PLoS Biol 15(11)、e2003916
【非特許文献2】Popkinら、Cetylpyridinium chloride (CPC) exhibits potent, rapid activity against influenza viruses in vitro and in vivo、Pathogens and Immunity、2017、2(2):253~69頁
【非特許文献3】“Antimicrobial Polymers in Solution and on Surfaces” (Siedenbiedel and Tiller (2012) Polymers、(4) 46~71頁)
【非特許文献4】Bieserら、Contact-Active Antimicrobial and Potentially Self-Polishing Coatings Based on Cellulose、2011、Macromol. Biosci.、11、111~121頁
【非特許文献5】Francisら、British Journal of Nutrition、2002、(88) 587~605頁
【非特許文献6】Seemanら、Structure of membrane holes in osmotic and saponin hemolysis、1973、Journal of Cell Biology (56)、519~527頁
【非特許文献7】Hajishengallisら、Beyond the red complex and into more complexity: the polymicrobial synergy and dysbiosis (PSD) model of periodontal disease etiology、Mol Oral Microbiol、2012、27:409~419頁
【非特許文献8】Troil-Lindenら、(1995)、Salivary Levels of Suspected Periodontal Pathogens in Relation to Periodontal Status and Treatment、Journal of Dental Research
【非特許文献9】Rosenthalら、Detection of HPV related oropharyngeal cancer in oral rinse specimens、Oncotarget 2017、8:109393~109401頁
【非特許文献10】Chaiら、A pilot study to compare the detection of HPV-16 biomarkers in salivary oral rinses with tumour p16(INK4a) expression in head and neck squamous cell carcinoma patients、BMC Cancer、2016、16:178頁
【非特許文献11】Tangら、High-risk human papillomavirus detection in oropharyngeal cancers: Comparison of saliva sampling methods、Head Neck、2018
【非特許文献12】Astaniら、Comparative study on the antiviral activity of selected monoterpenes derived from essential oils、Phytother Res、2010、24(5):673~679頁
【非特許文献13】Nazzaroら、Effect of essential oils on pathogenic bacteria、Pharmaceuticals (Basel)、2013、6(12):1451~1474頁
【非特許文献14】Simoesら、Mechanism of antiviral activity of triterpenoid saponins、Phytother Res、1999 Jun、13(4):323~328頁
【非特許文献15】Puら、Polyphylla saponin I has antiviral activity against influenza A virus、Int J Clin Exp Med、2015、8(10):18963~18971頁
【非特許文献16】Kariwaら、Inactivation of SARS coronavirus by means of povidone-iodine, physical conditions and chemical reagents、Dermatology、2006、212 Suppl 1:119~123頁
【非特許文献17】Meisterら、Virucidal Efficacy of Different Oral Rinses Against Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2、J Infect Dis、2020、222(8):1289~1292頁
【非特許文献18】Capriottiら、A Novel Topical 2% Povidone-Iodine Solution for the Treatment of Common Warts: A Randomized, Double-Blind, Vehicle-Controlled Trial、Dermatol Ther (Heidelb)、2015、5(4):247~252頁
【非特許文献19】Nakagawaら、The efficacy of povidone-iodine products against periodontopathic bacteria、Dermatology、2006、212 Suppl 1:109~111頁
【非特許文献20】Popkinら、Cetylpyridinium Chloride (CPC) Exhibits Potent, Rapid Activity Against Influenza Viruses in vitro and in vivo、Pathog Immun、2017、2(2):252~269頁
【非特許文献21】Bakerら、Repurposing Quaternary Ammonium Compounds as Potential Treatments for COVID-19、Pharm Res (2020) 37:104頁
【非特許文献22】Schrankら、Disinfectants, Effective against Severe Acute Respiratory Syndrome-Coronavirus-2? ACS Infect. Dis、2020, 6、1553~1557頁
【非特許文献23】Kerstingら、Multiplex isothermal solid-phase recombinase polymerase amplification for the specific and fast DNA-based detection of three bacterial pathogens、Microchim Acta (2014) 181、1715~1723頁
【非特許文献24】O’Donnellら、Potential role of oral rinses targeting the viral lipid envelope in SARS-CoV-2 infection、Function、Volume 1、Issue 1、2020
【非特許文献25】Rabenauら、Efficacy of various disinfectants against SARS coronavirus、J Hosp Infect、2005、61(2):107~111頁
【非特許文献26】Ansaldiら、(2004)、SARS-CoV, influenza A and syncitial respiratory virus resistance against common disinfectants and ultraviolet irradiation、Journal of Preventive Medicine and Hygiene、45
【非特許文献27】Martinez Lamasら、(2020)、Is povidone-iodine mouthwash effective against SARS-CoV-2? First in vivo tests、Oral Disease Cimolai, N、(2020)、Efficacy of povidone-iodine to reduce viral load、Oral Diseases、https://doi.org/10.1111/odi.13557
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載されたサンプリングデバイスは、手中に保持し、手動で操作するのに適した本体内に保持された多孔吸収性ニブと、ニブと流体連通して流体をニブを通過させる容器と、を含む。使用時には、生体サンプル、たとえば、DNAおよび/またはRNAを含むサンプルがニブ上に吸収される。流体は次いで、容器からニブを通過させられ、サンプルを放出して洗浄し、反応容器に流入させ、そこで適切なアッセイが実行され得る。
【0010】
本発明は、容器とニブとの間に位置するスナップ弁を組み込むことによって、この設計を弁が開くまで流体の通過を妨げるように適合する。このデバイスについては、本明細書では主として、核酸の分子診断試験における使用に関連して説明するが、本発明を用いて、たとえば、タンパク質、リピドなどの他の生体分子が採取されかつ/または処理されてもよく、同様に、細胞膜もしくは細胞外被などの細胞片、または細胞内小器官が採取されかつ/または処理されてもよいことが諒解されよう。
【0011】
本発明の目的は、液体(たとえば、血液、唾液、もしくは尿)などの様々な物理的形態で存在するか、または組織もしくは物体(たとえば、法医学におけるタッチ表面DNAサンプルの場合)上にバイオフィルムもしくは細胞物質として存在する場合があるそれぞれに異なるサンプルタイプの採取を可能にするデバイスの構成を提供することである。
【0012】
サンプルから得た成分(たとえば、核酸)を濃縮することを可能にして感度を向上させるか、またはより多い体積のサンプルを取得するかもしくはより簡単に取得することを可能にするデバイスの基本形態に対する任意の修正についても説明する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様によれば、分析される生体サンプルを取得するためのデバイスであって、
(a)生体サンプルを取得するために露出されているかまたは露出可能な作業面を有し、かつこのように取得された生体サンプル物質の吸収に適した多孔構造も有するニブと、
(b)手中に保持し、手動で操作するのに適した形態を有する本体であって、ニブが本体に接続されているかまたは接続可能である、本体と、
(c)本体内に位置し、ニブと流体連通して流体をニブを通過させるように適合された容器と、を備え、デバイスが、
(d)容器とニブとの間の流体の通過を阻止するために容器とニブとの間の流体通路内に位置するプラグであって、流体通路を開き、それによって、容器とニブとの間の流体の通過を可能にするように壊れやすい、プラグをさらに備え、デバイスが、ニブが接続されているかまたは接続可能な本体の部分に位置するかもしくはこの部分に隣接して位置する通気孔をさらに備える、デバイスが提供される。
【0014】
したがって、壊れやすいプラグ(本明細書ではスナップ弁と呼ばれることもある)は、開くまで流体流を阻止し、したがって、(たとえば、デバイスを使用する前またはユーザがニブ上に保持されたサンプルを処理することを望む前に)不要な流体流を阻止する。しかし、本発明者は、開いていないスナップ弁が存在すると、サンプルがニブに取り込まれるのを妨げることができることを見出した。したがって、デバイスは、ニブが接続されているかまたは接続可能な本体の部分に通気孔を含むか、またはこの部分に隣接して通気孔を含む。これによって、スナップ弁が密封されたときにニブ内への毛細管流が可能になる。
【0015】
いくつかの実施形態では、壊れやすいプラグは、力が加えられたときにプラグが優先的に破壊される脆弱な部分(たとえば、薄壁領域)を含んでもよい。この部分が破壊されると、プラグの残りの部分を通って、したがって、容器とニブとの間を延びる流体連通路が露出される。プラグは、流体通路を完全には制限しないテーパ部分と、流体通路を完全に制限するが、内部流体連通路を含む干渉部分と、を含んでもよく、脆弱な部分は、この2つの部分間の遷移部に位置するかまたは遷移部の近くに位置する。テーパ部分は、折られるまで完全な流体通路を含まない。
【0016】
いくつかの実施形態では、本体は、比較的柔らかいプラスチック材料、たとえば、ブロー成形されたポリエチレンなどのポリエチレンで形成される。これによって、製造が容易になる。壊れやすいプラグは、より硬いプラスチック材料、たとえば、硬質結晶ポリスチレンで形成されてもよく、本体の対応する部分と比較してわずかに過大にされる。これによって、液体の通過を阻止する完全な干渉ばめが可能になる。壊れやすいプラグのより硬い構造は、壊れやすいプラグがうまく破壊されるかまたは折られることを可能にし、これは、脆弱な部分と協働して、折りを、テーパ部分と干渉部分との間の遷移部またはその近くなどの所望の位置に向ける。
【0017】
通気孔は、本体における容器に最も近いニブの端部に近い位置(サンプルにさらされる部分となるニブの遠端の反対側)に(たとえば、ピンホール開口部などとして)設けられてもよい。好ましくは、孔は、ニブと重なり合う本体の領域に位置する。ただし、いくつかの実施形態では、孔は、本体のこの部分の上方に(すなわち、ニブの端部よりも容器の近くに)位置してもよい。いくつかの実施形態では、通気孔をピンまたはカラーなどと組み合わせて、ニブを所定の位置に保持するのを助けてもよい。好ましい実施形態では、孔は、容器から最も遠くの端部から測定したときにニブの長さに沿った距離の約2分の1から4分の3の間の位置に配置される。いくつかの実施形態では、通気孔は、ニブの長さに沿って溝または他の要素を含み、ニブと本体との間に空気流をもたらす。これは、本体に設けられる孔と組み合わされて設けられてもよく、または別個に設けられてもよい。
【0018】
容器は一般に、本体内に(たとえば、手動で動作可能なバルブとして)位置する。容器は、流体をニブの方へ押しかつ/またはニブから引き出すように動作可能であってもよい。好ましくは、容器は、容器を手動で圧搾することによって動作可能である。ただし、たとえば、プランジャ、ボタン、レバーなど、他の選択肢も利用可能である。いくつかの実施形態では、容器は、加圧されてニブに流体を与える。容器は、ニブに取り外し可能に取り付けられ、この構成は、様々な構成要素を必要に応じて交換し得るので、デバイス用のキット形態を構成するのを容易にする。
【0019】
容器は、ニブ上に取得されたサンプルを処理し、好ましくは溶出させるための液体試薬製剤を収容してもよい。
【0020】
本体は、好ましくは、手中に保持し、かつ手動で操作するのに適した形態である。たとえば、本体は、全体的に細長くてもよく、好ましくは、筆記具(ペンまたは鉛筆など)と同様の寸法を有する。このように、本体とニブとの組合せは、ユーザになじみやすく、サンプルの集合に容易に適用することができる。ニブは、通常使い捨て要素であることが期待されるが、本体は、新しいニブとともに再使用できるように構成されてもよい。
【0021】
本発明は、特に、PCR、RPA、またはLAMPなどの核酸増幅プロセスであるが、場合によっては、免疫検出などの他の分析手法によって分析されるサンプルを取得して調製する好都合な手段を提供する。このことは、液体または部分的液体の吸収によってサンプルを採取するか、または生体サンプルを含む表面を拭き取るために使用されるニブによって、少なくとも部分的に達成される。
【0022】
一形態では、ニブは、ノミ形作業面または傾斜ノミ形作業面を有し、微細な点、微細な縁部においてサンプルを取得するか、または広範囲のストロークとしてサンプルを取得するのを容易にする。このことは、法医学において様々な表面からサンプルを取得するうえで特に有用である場合がある。
【0023】
壊れやすいプラグは、ユーザがデバイスを使用する準備が整うまで液体が容器から出るのを阻止する。液体は、様々な方法で使用されてもよく、一実施形態では、液体は、サンプル採取の前にニブに提供されてニブを湿らせてもよい。これによって、乾燥したサンプル表面からのサンプル採取(たとえば、法医学における接触された領域からの採取、または前鼻孔からの採取)を容易にすることができる。他の実施形態では、ニブは、たとえば、血液、唾液、尿などの液体サンプル、および後でニブから分析物を取り出すために使用されるバルブ内の液体の採取のために乾燥させることができる。本発明者は、驚くべきことに、乾燥したニブが鼻腔サンプルを(たとえば、前鼻孔から)採取するうえで有効であり、すなわち、同じフォーマットのデバイスを使用して口または鼻からサンプルを採取することができることを見出した。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態は、そのように圧搾可能なバルブ内に液体を供給する必要がないことに留意されたい。他のフォーマット、たとえば、加圧下の液体を排出することを可能にするためにプランジャ、ボタンなどを組み込んだ固体チャンバが、同様に、本発明とともに使用するのに適している場合がある。プランジャまたはボタンは、与えられる液体の量をより正確に判定することを可能にするようにインデックス付けされてもよい。
【0025】
好適には、ニブを使用前および/または使用後に覆うために少なくとも1つの取り外し可能なキャップが設けられる。1つのそのようなキャップが、使用前にニブ上に設けられてもよく、使用後に、ニブ上に取得されたサンプルを保護するために交換可能である。
【0026】
加圧下で、サンプルを含有する液滴をバルブから圧搾された液体からニブを通して吐出することを可能にするためにキャップに開口部が設けられてもよい。
【0027】
好都合には取り外し可能なキャップの形をした反応チャンバが、ニブ上に取得されたサンプルの処理および/または分析のために設けられてもよい。デバイスは、そのような処理および/または分析用の1つまたは複数の適切な試薬を有する試薬製剤をさらに備えてもよい。試薬製剤は、好適には凍結乾燥形態または乾燥堆積形態であり、長期保管のための室温安定性をもたらす。そのような試薬は、たとえば、プロテアーゼもしくは洗剤、またはサンプルから特定の核酸標的を(たとえば、好ましくはTable 1(表1)に記載された方法のうちの1つを使用する等温核酸増幅によって)検出するための増幅試薬を含む。好ましい実施形態では、試薬製剤は、本体内に設けられ、たとえば、バルブとニブとの間に位置してもよい。そのような実施形態では、使用時に、液体は、バルブからニブに与えられ、その後、本体内に吸引されるかまたは別個の反応チャンバ(たとえば、キャップ)に流入させられてサンプルをチャンバに導入してもよく、そこで試薬が作用してもよい。キャップは、光学的に透明であり、ユーザがサンプルおよび/または試薬の存在を見ることを可能にしてもよい。いくつかの実施形態では、試薬は、規定の条件(たとえば、サンプル中に特定の標的が存在する)の下で色変化反応をもたらし、それによって、サンプル分析の高速で容易な読出しを可能にする手段を含んでもよい。
【0028】
ニブには、取得された水性サンプルの量を示すためのハイドロクロミックマークが設けられてもよい。たとえば、このマークは、ニブの長さに沿った特定の点に設けられ、所定量の水性サンプルがニブに吸引されたときにそのことを示してもよい。代替的に、マークは、ニブ全体にわたって、存在する水の量に比例して出現するかまたは消失する水感応染料の形をとってもよい。
【0029】
サンプルを乾燥させるか、サンプルを濃縮するか、またはくみ上げることのできるサンプルの体積を増大させるためのニブの加熱を容易にするための手段が設けられてもよい。この加熱手段は、好ましくは誘導によって加熱することのできる要素を備える。ニブは、適切な温度範囲が達成されたことを示すためのハイドロクロミックマークを含んでもよい。
【0030】
本発明は、(たとえば、PCRまたは等温増幅などの核酸増幅プロセスによって)分析されるサンプルを取得して調製するための好都合な手段を提供する。これは、液体または部分的液体の吸収によってサンプルを採取するか、または生体サンプルを含む表面を拭き取るために使用されるニブによって部分的に達成される。このニブには、一作用機構において、ニブに(かつニブを通して)液体を供給し、分析される分析物(たとえば、核酸)を放出する圧搾可能な収容部(または他の方法によって動作可能な容器)が連結される。
【0031】
以下により詳しく説明するように、ニブは、ニブ上に取得されたサンプルを処理するための活性薬剤を備えてもよく、好ましくは、ニブは、前記活性薬剤によって官能基化される。活性薬剤は、好ましくは、細胞(たとえば、細菌)またはウイルスを溶解させ、その成分を放出する1つまたは複数の膜破壊試薬を含む。たとえば、溶解した細胞のDNAおよび/またはRNAがさらなる処理または分析のために採取されてもよく、代替的に、リピド、タンパク質、もしくはペプチドが採取されてもよく、または細胞内小器官、または細胞膜もしくは細胞壁片を含む細胞片が採取されてもよい。好ましくは、活性薬剤はヒトに対して無毒である。1つの好ましい活性薬剤は、第4級アンモニウム化合物(QAC)を含み、より好ましい活性薬剤は塩化セチルピリジニウムである。ただし、代替物が(たとえば、Table 2(表2)に記載されているように、個別にまたは組み合わせて)使用されてもよい。いくつかの実施形態では、活性薬剤は、凍結乾燥形態または乾燥堆積形態であり、容器は、活性薬剤を再水和させるための水性流体を含む。活性薬剤の他の用途は、分析プロセスを阻害することがある特定の成分を捕捉することであってもよい。1つの好ましい用途は、たとえばSARS-CoV-2についての側方流動試験(lateral flow test)において使用されるサンプルの採取である。このウイルスについての一般的な側方流動試験は、スパイクタンパク質ではなくヌクレオカプシドを検出し、したがって、効果的な試験を可能にするにはウイルスを分解する必要がある。従来の試験では、このことは、サンプルを攪拌するかまたは物理的に破壊することによって達成される。本発明はこの代わりに、化学的破壊を可能にし、初期データは、この化学的破壊が、側方流動試験デバイスにおいてウイルスを破壊し抗体にヌクレオカプシドをさらすときの効率が改善されることを示す1桁高い感度をもたらすことを示唆している。
【0032】
特に好ましい実施形態では、サンプルは、液体生体サンプルであり、ニブは、サンプル中の細菌またはウイルスを溶解させる乾燥した無毒活性薬剤を含む。この構成は、(たとえば)唾液サンプルを患者から取得して処理するのに特に適しており、唾液は、毛細管作用を介してニブに吸収され、唾液自体が乾燥した活性薬剤を再水和させ、溶解が生じることを可能にし、その後核酸がニブ内に放出されることを可能にする。薬剤の無毒性は、中間採取ステップを使用するのではなく、患者の口から直接サンプリングすることを可能にする。
【0033】
この好ましい実施形態はまた、さらなる利点を提供する。ニブの多孔構造によって、既知の体積のサンプルがニブ内に吸引され、それによって、各患者にわたるサンプリングの一貫性が維持され、この一貫性は、乾燥した薬剤を使用し、乾燥した薬剤がサンプルの希釈を低減させることによって向上する。さらに、乾燥した溶解試薬を既知のサンプル体積とともに使用することは、試薬が活動に最適な濃度で再水和させられ、一方、その後の分析のために放出される材料の量が最大になることを意味する。採取されたサンプルは、ディスペンサに含まれる所定の体積の試薬を使用してニブから洗浄によって除去することによって、その後の分析のためにニブから溶出させることができる。この場合も、ディスペンサが既知の体積の試薬を含み、ニブが既知の体積の唾液を吸収するので、サンプリングの一貫性を維持することができ、唾液サンプルの既知の希釈が取得される。次に、このことは、デバイスを用いて正確な量の分析試薬(たとえば、等温核酸増幅のための試験化学物質)を提供することができ、それによって、廃棄物が低減するととともに分析の高い確実性が確保されるという利点を有する。
【0034】
さらに、乾燥した溶解試薬の量は、容器からの既知の体積のフラッシングの後で、試薬の濃度が、その後の分析を阻害して感度の喪失に至ることのない程度に低くなるように選択することができる。
【0035】
核酸を放出するための細胞またはウイルスの溶解に使用される一般的な薬剤は、有毒であり、したがって、患者に対して直接使用するのは安全ではない。そのような薬剤はまた、核酸増幅または検出を阻害し、したがって、処理の前にサンプルから除去しなければならない。これに対して、無毒溶解薬剤を選択すると、患者からの直接サンプリングが可能になり、一方、サンプルの直接処理にも適合する。
【0036】
したがって、本発明は、採取および分析のための単一のデバイスであって、試薬ならびにニブおよび容器サイズの選択の結果として、デバイスを使用するプロセスの各ステップが、その後のステップに適合する、デバイスを提供する。
【0037】
デバイスに任意の修正を施すことによって、サンプルから得た成分(たとえば、核酸)の成分を濃縮して感度を向上させることが可能になり、またはより多い体積のサンプルを処理することが可能になる。
【0038】
したがって、本発明は、サンプルを取得して、サンプル中の核酸などの特定の標的分析物の存在について試験する単一の使い捨てデバイスを提供することができる。
【0039】
デバイスのいくつかの実施形態では、(a)ニブは、容器からの流出口に位置し、サンプル採取およびその後の反応チャンバの流入口への接続のために容器から突き出ており、または(b)ニブは、反応チャンバへの流入口に位置し、サンプルの採取、およびその後の容器からの流出口への接続のために突き出ている。
【0040】
好ましくは、ニブは、本体に取り外し可能に接続可能であり、デバイスは、複数の交換可能なニブおよび/または複数の本体および/または複数の反応チャンバを備える。
【0041】
本発明の別の態様によれば、ここで説明するサンプリングデバイスを組み立てるためのキットであって、選択されたニブおよび/もしくは本体、ならびに/またはキャップおよび試薬などの付属要素を備える、キットが提供され、このキットから、特定の意図される用途に適した本発明のサンプリングデバイスを組み立てることができる。このことは、標的分析物の性質および特性が既知ではないだけでなく、サンプリングデバイスの市場が非常に特殊であり、たとえば、表面の法医学検査に限定されている場合に重要である。
【0042】
特徴的な核酸内容物について分析される試験サンプルを取得して使用することに関連して説明するが、本発明はまた、免疫学的(抗体/抗原)試験手順に適用することができ、または実際には、適切な検出試薬が存在する生体サンプル中に見つかることがある他の分析物の採取および/または検出に適用することができる。たとえば、本発明の適切な用途では、リピド、タンパク質、ペプチド、細胞内小器官もしくは細胞片、細胞膜もしくは細胞壁片などがすべて採取され処理されてもよい。
【0043】
本発明は、試験サンプリングデバイスおよびその使用方法であって、デバイスが、規定の体積の試験サンプルを吸収し、乾燥プロセスを通じて事前に官能基としてニブに導入された活性原料にサンプルをさらすための多孔マトリックスを備える、試験サンプリングデバイスおよびその使用方法を提供することができる。サンプルは、ニブに吸い込まれたときにこれらの成分を再水和させる。そこから抽出される核酸(または免疫診断の場合はタンパク質、またはリピドなど)が直ちに利用可能であり、または緩衝液をニブを通過させることによる緩衝液交換によるその後の溶出のために出荷中に乾燥することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】サンプル採取および調製のためのデバイスの平面図である。
図2】デバイスの主要構成要素の分解平面図である。
図3】ハンドルの構成要素の平面図である。
図4】壊れやすいプラグを含む、本発明のデバイスの分解図である。
図5】デバイス内の所定の位置における壊れやすいプラグの詳細図である。
図6】デバイス内の所定の位置における壊れやすいプラグの詳細図である。
図7】様々なサンプル採取技法を用いて行われたSARS-CoV-2側方流動試験からの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1図3に示すように、(たとえば、特許文献1に記載されているような)サンプル採取デバイスの実施形態は、ペンの概略的な形態およびサイズを有し、取り外し可能な保護キャップ14によって覆われた一方の端部にサンプル採取ニブ12を有する細長いハンドル10を備える。
【0046】
ニブ12は、シャフト18の端部に支持され、この実施形態では、点17を形成するように傾斜ノミ形状を有するサンプリング端面16と、平坦面21が側面に位置する縁部19と、を有する。
【0047】
シャフト18は、オペレータの把持を助けるために適切に外部成形品を有するプラスチックコレクタ構成要素20に保持される。
【0048】
ハンドル10は、外部に露出される圧搾可能なバルブ28からスタブシャフト30まで長さ方向に延びる可撓性材料の内部導管26を含み、スタブシャフト30上に、ニブシャフト18の端部に流体接続するように、コレクタ構成要素20が圧入され、所定の位置にクリップ留めされ、Oリング24によって密封されている。
【0049】
ニブ12は、サンプル材料の吸収、ならびにバルブ28から圧搾された流体のニブ12への通過および/または流体のニブ12からバルブ28への通過を容易にするように多孔材料で作られている。
【0050】
本発明によるデバイスは、図4に示されている。デバイスはまた、上述のように、キャップ114で覆われたニブ112と、圧搾可能なバルブ128と、を有するハンドル110を備える。デバイスはまた、ニブ112と壊れやすいプラグ152との間に位置する凍結乾燥された試薬のペレット150を含む。
【0051】
壊れやすいプラグ152の構成は、図5および図6により詳しく示されている。プラグ152は、干渉ばめによって内部導管126内部に位置している円筒部分154と、テーパ部分156と、を含み、テーパ部分156は、導管126とテーパ部分156の外面との間の領域に流体が入るようになっている。円筒部分154は、プラグに沿って途中まで延びる中央流体導管158を含む。テーパ部分156と円筒部分154との間の接合部に脆弱領域160が形成される。デバイスの壁に、ニブ112に沿ってニブのバルブ128端部に向かって通気孔162が形成されている。
【0052】
ハンドル110およびバルブ128は、軟性ポリエチレンからブロー成形され、壊れやすいプラグ152は、ブロー成形された部分の容量と比較してわずかに過大にされた硬質結晶ポリスチレンである。これによって、液体の通過を阻止する完全な干渉ばめが可能になる。ポリスチレンの結晶構造は、壊れやすいプラグが、ユーザによって脆弱領域160においてうまく破壊されるかまたは折られることを可能にする。これが行われると、中央流体導管158は、テーパ部分156の外面と流体連通することが可能になり、それによって、バルブ128とニブ112との間の流体流が可能になる。
【0053】
通気孔162は、壊れやすいプラグが破壊されていないときにサンプルがニブ112に吸引されることを可能にするうえで有用であり、他の場合には、ユニットの密封性を考えると、毛細管流動が可能ではない場合がある。
【0054】
任意の実施可能な特徴
本発明のサンプリングデバイスは、サンプルを得て保持することのみのために使用することができ、またはサンプリングデバイス自体においてそのような試験を、たとえばLAMP、RPA、または他の等温増幅方法(たとえば、添付のTABLE 1(表1)を参照されたい)によって実行するための手段を提供することができる。このことは、デバイスの特に有利な用途を構成する。
【0055】
ニブ
適切なニブ材料は、綿ベースの材料、または好ましくは、それぞれに異なる粘度の生体試料を吸収し保持するためにある範囲の密度で製造することのできるPEもしくはPVDFなどのプラスチックベースのマトリックスが含まれる。ニブ構成の厳密な詳細は、本発明が使用される特定の用途に応じて異なることがあり、当業者は、適切な材料および密度を選択することができる。たとえば、採取されるサンプルが唾液である場合、1つのそのような適切な材料は、最大90%の多孔度の円筒形PE/PPウィックである。
【0056】
マーカーペンニブは、開気孔構造を形成するように、フェルトまたはセルロースなどの多孔質プレス成形ファイバ、または多孔質プレス成形プラスチック球で作られることが多い。本発明におけるニブは、好適には同様の材料または構造で作られてもよく、好ましくは明確な多孔度(空隙率)を有する。
【0057】
ニブは、タスク固有のニブとして設計するか、またはある範囲のそれぞれに異なるタスクに対処するように設計することができる。法医学作業の場合、いくつかの用途向けの表面の微細なスワビング、またはより広い面積をサンプリングするための広範囲の表面の微細なスワビングを可能にするニブ設計を有すると好都合である。また、たとえば表面スワブリングによる乾燥したサンプルまたは前鼻孔もしくは表皮からサンプルを採取するために湿らされたときに使用され得るニブを提供するか、または血液、尿、唾液などの液体サンプルを採取するために乾燥されたときに使用され得るニブを提供すると好都合である場合がある。
【0058】
フェルトペンニブは、同じ単一のニブから得られる微細なインクストロークまたは広範囲のインクストロークを可能にするように設計されることが多い。ここでは、同じ設計原則がニブに使用される。表面16、17、19、および21を有する形状は、たとえば法医学作業において、特に表面からサンプルを採取するように設計され、この場合、端面16の傾斜ノミ形状は、サンプルが微細な点、微細な縁部、または広範囲のストロークとしての表面から得られることを可能にする。しかし、ニブは、上記に説明し図示した構造の特徴を有する必要はない。ニブは、最も単純な形態では、実質的にシャフト18の単なる延長である単なる鋭くない端部または丸い端部を有してもよい。
【0059】
ニブの多孔形態は、液体試験サンプルを吸収するための毛細管間隙を形成する。多孔構造は、既知の体積のサンプル流体、たとえば、唾液を多孔構造の毛細管間隙に吸引し、それによって、得られるサンプルの量を調整し、より一貫した試験が行われるように設計することができる。
【0060】
ニブは、負に帯電された表面を形成するように処理され、かつ/または標的核酸成分からサンプルの細胞成分またはウイルス成分を溶解させるかまたは除去する手段を構成するようにアニオン性洗剤を用いて処理され、かつ/もしくは殺生物性薬剤用いて処理されていてもよい。
【0061】
セルロース繊維はわずかな負(アニオン性)電荷を有する。セルロースのヒドロキシル基(-OH)はまた、様々な試薬に部分的または完全に反応して有用な特性を有する誘導体を生成することもできる。したがって、ニブは、試験サンプルから得られる正に帯電したイオン(Fe3+など)を結合し保持する負に帯電した表面を備えてもよく、バルブは、中性のイオンおよび分子または負に帯電したイオンおよび分子(DNAなど)をニブから離れさせカチオン成分から離れるように流動させるために使用されてもよい。
【0062】
細菌などの大部分の生細胞は、脂肪リピド二重層によって囲まれている。リピド成分は、オルガネラ膜、すなわち、コレステロールおよびスフィンゴリピド含有量がより多い哺乳類の細胞膜の間で同じではない。ウイルスはまた、宿主細胞膜(リンリピド、スフィンゴリピド、あるコレステロール)と同じであると見なされるリピドエンベロープを有する。
【0063】
細胞のリピド層を破壊し、したがって、抗菌または抗ウイルス特性を示すいくつかの異なる化学基がある。これらを使用してデバイスのニブを官能基化した場合、ニブに浸漬する(細菌を含む)細胞またはウイルスが破壊され、それらのDNAおよびRNA(またはリピド、タンパク質、細胞内小器官もしくは細胞片、細胞膜もしくは細胞壁片などの他の細胞またはウイルス成分)を放出する。
【0064】
以下に添付されたTABLE 2(表2)は、ニブの官能基化の例を示す。(斜線領域に示されている)マウスウォッシュ製剤は、人間に対して安全であり有効であり、消費者がデバイスを口内に入れて試験される唾液を自己採取することを可能にすることが知られているので、特に有用であると思われる。たとえば、塩化セチルピリジニウム(CPC)は、様々なマウスウォッシュの活性原料であり、膜破壊薬剤であることが示されている(非特許文献2)。
【0065】
組合せによって、ある範囲の標的にわたって同じ製剤を使用することができるようにそれぞれに異なる有機体のリピド二重層に対するいずれかの目標とされる活動がもたらされてもよく、またはサンプルが使用後に人間に対して安全であるように追加の抗菌もしくは抗ウイルス活動を伴う両方の目標とされる調製がもたらされてもよい。
【0066】
試薬は、官能基化(たとえば、-OH基)を介して適切な化学結合によってニブに共有結合されてもよく、または乾燥されてニブ材料となり、サンプルと水和したときに活性化されてもよい。
【0067】
製剤を乾燥させてニブ上に堆積させると、唾液(または他の試験サンプル)の希釈、したがって、開裂された材料のニブマトリックスへの吸収が最低限に抑えられる。Table 2(表2)に示されたマウスウォッシュ製剤は、数秒でウイルスおよび細菌に作用することが示されている。したがって、ニブは、以下のサポート機能を提供する。
1. 場合によっては抗ウイルスおよび/または抗菌製剤を乾燥堆積させるマトリックス、処理によって唾液サンプルを希釈することが不要になる。
2. 口内に挿入されたときに唾液の産生を促す。
3. 産生が促された唾液を吸収する。
4. 既知の体積の唾液を含める。
【0068】
唾液サンプルは採取されチューブに導入されてその後処理されてもよい。あるいは、サンプラー(ニブ)を口内に挿入してその場で唾液を採取することが望ましい場合がある。その場合、ニブは、細胞(たとえば、細菌)またはウイルスを破壊することができ、DNAおよび/またはRNAおよび/または他の細胞もしくはウイルス成分を放出するが、無毒であり、したがって、生成物をそのように使用したときに安全にする化合物を用いて処理されてもよい。
【0069】
圧搾可能なバルブ
バルブの1つの用途は、ニブから得た試験サンプル材料を洗浄してキャップまたは他のリセプタクルに流入させる水性媒体のソースとして使用することである。バルブは、キャップまたはデバイス内の別の位置において乾燥堆積試薬を再水和させる機能を有してもよい。
【0070】
バルブに保持され得る適切な液体には、精製水、ミリq水、および緩衝液(たとえば、TRIS-Cl/TE緩衝液)が含まれる。
【0071】
乾燥されたサンプルとともに使用する場合、最初は空のバルブが必要になる場合もある(以下を参照されたい)。ペンチを放した状態で、バルブを使用して、水または別のキャリア液をニブ内を吸引することによってサンプルを再水和させることができる。
【0072】
圧搾可能なバルブを使用せずに本発明のデバイスを使用することが可能である。たとえば、法医学作業では、ユーザは、デバイスを用いて供給された水ではなくユーザ自身の水を使用することを望むことがあり、その場合、バルブを空の状態で供給するか、またはペンチを所定の位置に残すか、またはハンドル構造全体を省略し、後でニブにおいて捕捉された試験材料を分析するためにニブおよびキャップアセンブリのみを残すことができる。さらなる実施形態では、バルブは圧搾可能である必要はなく、流体をバルブからニブに押し出し、かつ/またはニブからバルブに押し出すための他の手段が設けられてもよい(たとえば、プランジャ、ボタン、レバーなど)。
【0073】
キャップ
密閉構造として、キャップは、ニブを安全に輸送できるように密封する。
【0074】
核酸または他の標的サンプル物質は、ニブ内に抽出された後、圧搾可能なバルブから供給された液体を使用してキャップまたは試験管内に堆積させることができる。しかし、キャップ設計を変形するかまたは1つまたは複数の追加のキャップを設けると、デバイスの可変用途または拡張用途が可能になり得る。
【0075】
たとえば、キャップの1つの設計は堆積孔を有することができる。圧搾可能バルブから加圧下の液体を与えると、液体がニブを通過してキャップに押し込まれる。圧力を引き続き加えると、液体がキャップの孔を通して押し込まれ、抽出された材料の単一の液滴をピペッタなどのチューブ内に堆積させることが可能になる。液滴サイズおよびサイズ分布は、主として孔形状の関数である。
【0076】
デバイスの変形形態では、乾燥した試薬が本体内に供給されてもよく、たとえば、バルブとニブとの間のチャンバに供給されてもよい。バルブからの流体を使用してチャンバ内の試薬を再水和させ、再水和させた試薬をニブを通してキャップ内に押し込むことができ、または流体をニブに流入させて、サンプルを保持するチャンバに再び吸引することができ、このチャンバ内で、反応が生じることができる。
【0077】
サンプルの乾燥、場合によっては加熱
生体サンプルを保持するニブは、外部環境、温度、および湿度によって決定される時間をかけて自然に乾燥する。これは、サンプルがまず採取され、将来ある時点(たとえば、次の就業日)で処理するために他の場所に送られる場合には好都合なプロセスとなることができる。しかし、自然乾燥時間は、環境要因(たとえば、低温または高湿度)によって損なわれることがあり、ポイントオブケア(POC)、ポイントオブニード(PON)、または現場試験を容易にするために環境乾燥がより急速に行われることが好ましい特定の用途があってもよい。
【0078】
乾燥は、たとえば、デバイスを乾燥炉またはホットブロックなどのホットスペースに入れることにより、デバイスを加熱することによって支援することができる。しかし、乾燥炉は、一般に実験室の外部に運び出すことができない大型専用機器であるので、乾燥炉を使用することは不都合である場合が多い。したがって、熱は、デバイスの構造に関連付けられた加熱要素を使用して供給されてもよい。たとえば、好ましくは非接触誘導電磁界によって、ニブのシャフトの周りのカラーを加熱することができる。持ち運び可能であり、実験室の外部または小実験室環境内などの限定されたリソース環境に好都合な別個の小型デバイスとして誘導ヒータを供給することができる。
【0079】
加熱要素は、シャフトの長さに沿って延びてもよく、または図面に示すようにニブから遠位のシャフトの端部の近くに配置されてもよい。任意の適切な誘導材料が使用されてもよく、この誘導材料は、炭素繊維などの非金属であってもよい。
【0080】
加熱を使用して、ニブに含まれるサンプル中の生体材料を熱によって溶解させることもできる。このことは、核酸に分子増幅を利用することができるように核酸を放出し、かつデバイス内のサンプルを生物学的に安全にするうえで重要である場合がある。
【0081】
試薬は、実行中の試験のタイプに応じて制御された方式で加熱によって開発されてもよい。
【0082】
サンプル濃縮
ニブを加熱してサンプルを乾燥することとは別に、熱を使用してサンプルを濃縮するか、または蒸発を使用して吸引することのできるサンプルの体積を増大させてもよい。ニブ内の液体は、端部における液相の蒸発を介してヒートフロントまで吸引される。したがって、このフロントは、より湿ったニブからのサンプルの連続的な毛細管吸引を生じさせる。非加熱ニブがある体積の液体中、たとえば、容器内に位置する場合、液体が加熱端部において蒸発するときに、最終的にすべての液体がニブに吸引される。このようにして、ニブ内の液体は、液体サンプルが枯渇するまで濃縮される。この手法を使用して、ニブを舌の下に配置し、誘導加熱を施すことによって、唾液の実質的なサンプルを吸引することもできる。蒸発した水は、蒸気(水蒸気)として局所環境に散逸する。体積が小さく(<200μL)、数分で蒸発するので、凝集物は最小限である。
【0083】
したがって、加熱を使用して乾燥プロセスを加速することができるだけでなく、より多くのサンプルをニブに流入させることを可能にし、それによって、ニブ自体の体積よりも多い量の液体から分析物を濃縮することができる。
【0084】
サンプル放出
ニブは、抽出された材料(上記を参照されたい)を放出する前に乾燥させる必要がある場合がある。
【0085】
核酸は、負に帯電した分子である。ニブも負に帯電している場合、核酸は、同じ電荷によって反発され、ニブから押し出されるときに容易に移動相に放出される。
【0086】
ニブの界面化学作用に応じて、ニブはまた、核酸を結合するために正に帯電されてもよい。この電荷は、結合された核酸の移動相における放出を容易にするように(たとえば、緩衝液交換によって)変化させてもよい。pHを変化させることによって、特定の帯電された分子が放出される。
【0087】
もちろん、他の細胞またはウイルス成分を採取してもよく、成分およびニブの性質に応じてサンプル保持およびその後の放出を可能にするための適切な化学作用および方法が知られている。
【0088】
使用に関するフィードバック
ニブは、使用に関するフィードバック情報を提供するように処理することができる。たとえば、ニブ上で指示染料を使用して、液体サンプルを取得するためにニブがいつおよび/またはどのように使用されたかを示すことができる。
【0089】
サーモクロミックインクは、特定の温度にさらされたときに色を変化させる。ハイドロクロミックインクは、濡れたときに色を変化させる。これらを特定のシナリオにおいて使用して、いつデバイスが使用されたか、およびデバイスが正しく使用されたかどうかを示すことが望ましい場合がある。たとえば、これらをニブに適用して、ニブが十分な液体にさらされたこと、およびニブがたとえば、最高で>90℃に加熱されたかどうかの視覚的指示を提供することができる。
【0090】
したがって、ニブの遠位部をハイドロクロミックインクを用いて処理することによって、ニブをそのマーカー位置まで充填するのに十分な液体をニブが受けた後に色の変化が生じる。このことは、デバイスが使用されたこと、および十分な材料が採取されたことの肯定指示を与えるために有用である場合がある。
【0091】
ニブの多孔構造は、既知の体積のサンプル流体、たとえば、唾液をニブの毛細管間隙内に吸引し、それによって、得られるサンプルの量を調整し、より一貫した試験が行われるように設計することができる。
【0092】
表面処理化学作用によってニブに溶解機能を付加することができる。いくつかの殺生物化学作用はまた、その作用機構によって溶解機能をもたらす。他の化学作用は、尿などの高濃度の阻害成分を含むサンプルにとって重要である場合がある特定の化学基を捕捉する手段をもたらす。
【0093】
溶解化学作用
Whatman, Incの特許文献2および3は、アニオン性洗剤、たとえばSDSで被覆された被覆濾過材(FTA処理ニトロセルロース)を使用して細胞を溶解させ核酸を隔離するための方法を記載している。この被覆が細胞を溶解させ、FTA処理フィルタが核酸を吸着する。この被覆は、フィルタに共有結合されず、洗浄によって除去され得る。核酸は、その後の処理のためにフィルタから溶出させることができる。これらの材料は、本発明を実施するうえで有用である場合がある。
【0094】
殺生物性薬剤
特許文献4は、表面を殺生物性薬剤によって官能基化することによって、室温で作用し、細菌、真菌、およびウイルス細胞を破壊することができ、核酸をダイレクトPCR分析用の溶液に放出する、紙ベースのシステムについて記載している。殺生物性薬剤は好ましくは、複数の官能基を含む。これらの官能基は、好ましくは、薬剤を基板に結合することに関与する結合成分と、疎水性成分と、帯電成分と、を含む。疎水性成分は、細胞壁または細胞膜と相互作用し、細胞壁または細胞膜を貫通する。これらの材料は、本発明を実施するうえで有用である場合がある。
【0095】
好ましい実施形態では、疎水性成分は、アルキル鎖、たとえばC5~C30アルキル、好ましくはC10~C20アルキルであってもよい。アルキル鎖が細胞壁を貫通するとき、壁は脆弱化し壁に穴が開く。帯電成分は、好ましくは正に帯電しており、帯電した細胞壁を引き付けることができ、細胞膜に接触したときにイオン流およびホメオスタシスを妨害することができ、それによって、細胞を破壊して核酸を放出するのを助ける。帯電成分は、好ましくは第4級アンモニウム基である。結合成分は、ヒドロキシル基を含んでもよい。
【0096】
好ましい実施形態では、官能基は、好ましくは、アルキル鎖(疎水性成分)、シリル基(結合成分)、および塩化アンモニウム基(帯電成分)である。好ましい殺生物性薬剤には、第4級アンモニウム化合物(SiQAC)、特に3-(トリメトキシリル)プロピルジメチルオクタデシル塩化アンモニウム(3-TPAC)が含まれる。他の殺生物性薬剤には、ベンジル塩化アンモニウムが含まれる。SiQACの致死作用機構は、正に帯電した分子が負に帯電した細胞表面上に吸着され、細胞膜がSiQAC分子上の親油性鎖によって破壊され、膜内に拡散が生じて細胞が溶解することによって進行することが一般に認められている。
【0097】
当業者には、使用されてもよい他の適切な殺生物性薬剤が認識されよう。特定の薬剤の選択は、上記で説明した好ましい官能基の存在、および対象となる生体サンプルの性質に応じて行われ、たとえば、処理されるサンプルが哺乳類の細胞サンプルである場合、貫通する細胞壁は存在せず、他の官能基が適切である場合がある。
【0098】
使用されてもよい他の成分の調査については、非特許文献3を参照されたい。本発明において使用されてもよい殺生物性薬剤の具体的な例には、以下の薬剤が含まれる。
(i) テレキーレックポリ-(2-アルキル-1、3-オキサゾリン)。
(ii) 接触時に接近する細胞を殺傷する、抗菌DDA基がPEtOxを介して移植されたセルロース系繊維(非特許文献4)。
(iii) 多数の植物に広く存在するサポニン(ステロイドまたはトリペルテノイド配糖体)は、以前から、赤血球膜に対して溶解作用を有することが知られており、多くのサポニンが抗菌性を有することが知られている(非特許文献5)。サポニンの膜透過化特性には広範囲の研究が実施されている。これらの構造的に多様な化合物は、原虫を殺傷し、抗菌剤および抗ウイルス剤として働くことも認められている。サポニンを用いて処理されたときにヒト赤血球から得られる単離細胞膜には、直径が40A~50Aの孔が形成され、これに対して、人工膜には80Aの孔が形成された(非特許文献6)。
【0099】
結合成分
DNA抽出および濃縮のためにキトサン修飾Fusion 5濾紙(非修飾Fusion 5濾紙はGE Healthcareから購入される)が首尾よく開発されている(非特許文献5)。修飾濾紙は、2つの別個の機構、すなわち、長鎖DNAの濾紙の繊維マトリックスとの物理的絡み合い、およびキトサン修飾フィルタ繊維へのDNAの静電吸着を使用する。これによって、DNAを繊維に結合して捕捉し、その後PCRの前に阻害物質を洗浄することが可能になる。
【0100】
使用事例シナリオ
1. サンプル採取
サンプルコレクタは、大規模な試験プロセスまたは集中試験プロセスの一部として独自に使用することができる。たとえば、2020 SARS-CoV-2パンデミックでは、様々な集団検査戦略が全世界で実施された。このような試験は、一般に、集中臨床検査ネットワーク内で実施され、毎日数十万個のサンプルが処理されている。
【0101】
ウイルスのリピドカプシドを破壊することが知られている化合物によって官能基化されたニブとともにサンプルコレクタを使用して、その後のポストへの返送用に家庭でサンプルを採取することが可能である。これによって、当業者が効果的にとる必要がある鼻咽頭サンプルをとる必要性が低減する。サンプルコレクタは、ロボットサンプル処理研究所における自動化液体ハンドリングユニットのプラスチックピペットチップと相互作用するガスケット部を備えてもよい。いくつかの実施形態では、キャップは、採取されたサンプルを受け取るように設計されてもよく、サンプルはその後、バルブからの液体を使用してニブから溶出させられ、キャップは次いで、取り外し、密封し、さらなる処理のために送ることができる。代替的に、ニブ自体を取り外して、溶出を含まないさらなる処理のために送ってもよい。
【0102】
追加的な利点は、サンプルがハンドリングされ試験施設に送り返されるときに、ウイルスが破壊され、RNAがチップ内に放出されることである。事前に溶解した材料が実験室において溶出すると、実験室における抽出の必要なしにサンプルをより簡単に試験することが可能になる。
【0103】
この同じ手法が、より集中された試験を必要とする他の標的に使用されてもよい。
【0104】
ニブは、タスクに応じて異なる特性をもたらすそれぞれに異なる材料から形成されてもよい。特に有用な2つの主要なプラスチックは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)およびポリエチレン(PE)である。
【0105】
PVDFは、二フッ化ビニリデンを重合させることによって生成される高い非反応性を有する熱可塑性フルオロポリマである。PVDFは、最高の純度、ならびに溶剤、酸、および炭化水素に対する耐性を必要とする用途において使用されるプラスチックである。PVDFは通常、焼結プロセスを使用して作られるペン用のニブとして製造される。PVDFは一般に、良好な流動特性を有し、それぞれに異なる「硬度」を有することができるニブを形成する。このことは、ニブが、表面を拭き取るかまたはサンプルを粉砕して滲出液を放出させ、この滲出液をニブに吸引して試験することなどの物理プロセスに使用する必要がある場合に特に有用である。
【0106】
PEは、可変結晶構造を有する軽量で耐久性のある熱可塑性材料である。PEは、世界で最も広く生産されているプラスチックの1つである(毎年世界中で1千万トンのPEが生産されている)。PEは、フィルム、チューブ、プラスチック部品、積層体などの用途において使用される。PEは、唾液の採取において特に有用な開放構造を有する材料を作製するために使用されている。この製造は、それぞれに異なる保持率および流動率内の材料を提供するように制御することができる。
【0107】
2. サンプル採取および分配
この組合せは、サンプルを採取し、抽出された材料を溶出させて分子診断または免疫診断などの別の試験を受けさせることが可能である。既知の体積がニブ材料内に吸引され、ニブ材料において、特定の官能基化がサンプルマトリックス内に含まれる微生物に作用する。抽出された材料は、デバイスのディスペンサ/バルブ要素に含まれる試薬を使用してチップから落とされる。再水和緩衝液をニブを通してディスペンサから押し出すと、唾液が試験キャップ内に落とされる。ニブが既定の体積(たとえば、25μL)を吸収し、ディスペンサ/バルブが既知の体積(たとえば、200μL)を有するので、体積による制御によって、唾液の既知の希釈が行われる。
【0108】
3. サンプル採取、分配、および試験
この組合せは、専門家によるポイントオブケア試験と消費者による非処方試験との両方を可能にする。ニブの端部での吸引によって唾液を採取すると、ニブ内に採取される唾液が得られる。5分後に、十分な唾液が採取され、標的となる細菌が、ニブマトリックスに官能基として導入された抗菌剤によって破壊される。これによって、核酸が水相に放出される。再水和緩衝液をニブを通してディスペンサ/バルブから押し出すと、唾液が試験キャップ内に落とされる。ニブが既定の体積(たとえば、25μL)を吸収し、ディスペンサ/バルブが既知の体積(たとえば、200μL)を有するので、体積による制御によって、唾液の既知の希釈が行われる。好ましくは、リコンビナーゼポリメラーゼ増幅などの等温増幅用の、試験化学物質が、再水和させられ、ニブ内に標的DNAが存在する場合に、ある期間にわたって色の変化を生じさせる。この場合、pHインジケータを使用して単純な色変化を生じさせても(たとえば、黄色から赤)、または蛍光色を生じさせても(たとえば、青から緑)よい。
【0109】
いくつかの具体的な用途
デバイスがサンプリング、サンプル処理、溶出、および試験に必要なステップのすべてを可能にするので、本発明の用途は広範囲である。具体的な用途の例を以下に示す。
【0110】
歯周病または歯周炎は、歯垢細菌叢内のディスバイオシスによって発症し、組織恒常性を崩壊させる(非特許文献7)。歯周病は、全世界において、成人の10%~15%に影響を及ぼし、歯の喪失の最も一般的な原因である。OTCで購入することのできる試験は、家庭において、歯周病を発症させる細菌の存在量をよりうまく追跡するのを可能にする。
【0111】
歯周病の主要な原因のいずれかがサンプル中に存在する場合に陽性を報告することのできるシステムを提供することは、OTCデバイスとして特に有用であり、たとえば、以下の6つの種は、歯周病を示すと考えられ得る。
ポルフィロモナスジンジバリス、ATCC33277
アクチノバチルスアクチノミセテムコミタンス、ATCC29523
フソバクテリウムヌクレアタム、No. 2
タンナネラフォーサイセンシス、ATCC43937
プレボテラインターメディア、ATCC25611
スプレプトコッカスアンギノーサス、ATCC33397
【0112】
ポルフィロモナスジンジバリスおよびアクチノバチルスアクチノミセテムコミタンスは、歯周組織、すなわち、歯を囲み支持する組織の慢性炎症性疾患の原因となる主要な起炎菌であることが示されている。どちらの種も、軽度の歯周病を有する対象者のそれぞれ33%および44%ならびに進行した歯周病を有する対象者のそれぞれ60%および40%に見られた。(非特許文献8)
【0113】
一部の癌: 口腔癌の約4症例に1症例および咽頭癌の3症例に1症例がHPVに関係があるが、より若い患者では、現在、大部分の咽頭癌がHPVに関係がある。2009年~2010年に実施された調査では、アメリカ人男性の10人に1人およびアメリカ人女性の100人に4人が、口腔におけるHPV感染を有していた。2017年に公開された別の調査では、100人に6人の男性および100人に1人の女性が、癌を発症させる可能性のあるタイプのHPVを口腔内に保有していた。
【0114】
口腔咽頭癌(OPC)患者においてHPV DNAを検出するための診断試験についての対象として唾液の使用を支持する明確な証拠がある。(非特許文献9および10)
【0115】
さらに、それぞれに異なる方法(ストローを用いるかまたは口腔をすすぐ)によって採取された唾液中のHPV DNAを検出すると、比較可能な結果が得られ、HPVの検出についての良好な感度が示され、この場合も、OPCについての診断媒体として唾液を使用することの実現可能性が支持される。(非特許文献11)
【0116】
癌の原因となる、HPVの主要な遺伝子型のいずれかが、唾液サンプル中に存在する場合に陽性を報告することのできるシステムを提供することは、OTCデバイスとして特に有用である。
【0117】
クルマエビにおけるホワイトスポット病は、ホワイトスポット病原菌ウイルス(WSSV)によって発症する。これは、養殖クルマエビの経済面で最も重要な疾患であり、1990年代に出現して以来、80億ドル~150億ドルと推定される広範囲の経済損失をもたらしている。大流行の管理において、かつ漁獲高の減少を回避するために、疾患の早期診断が重要である。
【0118】
まずエビの一部を潰してWSSVを含むヘムを放出し、次いで、核酸の抽出、溶出、および試験のためにヘムをニブ内に吸収させることは、農水産診断用のデバイスとして特に有用である。
【0119】
実施例-側方流動試験
説明したデバイスを使用して、SARS-CoV-2についての試験側方流動アッセイにおいて使用されるサロゲートサンプルを採取した。この実施例では、ニブをシトラールによって官能基化してあらゆるウイルス粒子からヌクレオカプシドを放出させ、BSAを含むPBS緩衝液を容器に充填した。
【0120】
サロゲートサンプルは、スパイクがブタの粘液に結合したSARS-CoV-2であった。ブタの粘液は、側方流動デバイスの試験について広く認められているサロゲートである。本明細書で説明したデバイスを用いて採取された陽性サンプルを使用した場合と陰性サンプルを使用した場合とで比較を行った。陽性サンプルは、従来の側方流動試験デバイスキット(Surescreen Ltd.から市販されている)を用いて採取された。
【0121】
サンプル採取および処理の後に、サンプルを側方流動試験に追加した。結果は図7に示されている。左から右に、試験キット172は、本明細書で説明したデバイスを用いて採取された陰性サンプルであり、試験キット174は、本明細書で説明したデバイスを用いて採取された陽性サンプルであり、試験キット176は、従来の側方流動試験デバイスキットを用いて採取された陽性サンプルであった。さらに、試験キット176については、処理から取得されたサンプルの量の2倍の量を用いて試験した。試験キット174は、化学的に官能基化されたニブ(化学手段を介してヌクレオカプシドを放出する)を使用した採取および処理後に、物理的手段を介して放出される従来のキットからの信号と比較して、強い信号をもたらすことがわかる。
【0122】
これによって、本明細書で説明したデバイスが、下流試験および分析に適した形態で物理的な破壊なしに生体材料を放出するうえで有効であることが実証される。
【0123】
【表1】
【0124】
【表2A】
【表2B】
【符号の説明】
【0125】
10 ハンドル
12 サンプル採取ニブ
14 取り外し可能な保護キャップ
16 サンプリング端面
17 点
18 シャフト
19 縁部
20 プラスチックコレクタ構成要素
21 平坦面
24 Oリング
26 内部導管
28 圧搾可能なバルブ
30 スタブシャフト
110 ハンドル
112 ニブ
114 キャップ
126 内部導管
128 圧搾可能なバルブ
150 試薬のペレット
152 壊れやすいプラグ
154 円筒部分
156 テーパ部分
158 中央流体導管
160 脆弱領域
162 通気孔
172 試験キット
174 試験キット
176 試験キット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】