IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エシロール・アンテルナシオナルの特許一覧

特表2024-521171対象者の眼屈折の最適補正を客観的に判定するための方法及び装置
<>
  • 特表-対象者の眼屈折の最適補正を客観的に判定するための方法及び装置 図1
  • 特表-対象者の眼屈折の最適補正を客観的に判定するための方法及び装置 図2
  • 特表-対象者の眼屈折の最適補正を客観的に判定するための方法及び装置 図3
  • 特表-対象者の眼屈折の最適補正を客観的に判定するための方法及び装置 図4
  • 特表-対象者の眼屈折の最適補正を客観的に判定するための方法及び装置 図5
  • 特表-対象者の眼屈折の最適補正を客観的に判定するための方法及び装置 図6
  • 特表-対象者の眼屈折の最適補正を客観的に判定するための方法及び装置 図7
  • 特表-対象者の眼屈折の最適補正を客観的に判定するための方法及び装置 図8A
  • 特表-対象者の眼屈折の最適補正を客観的に判定するための方法及び装置 図8B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-28
(54)【発明の名称】対象者の眼屈折の最適補正を客観的に判定するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/103 20060101AFI20240521BHJP
   A61B 3/10 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
A61B3/103
A61B3/10 800
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572922
(86)(22)【出願日】2022-05-24
(85)【翻訳文提出日】2023-11-24
(86)【国際出願番号】 EP2022064116
(87)【国際公開番号】W WO2022248505
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】21305678.1
(32)【優先日】2021-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518007555
【氏名又は名称】エシロール・アンテルナシオナル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】エリザ・タルタリア
(72)【発明者】
【氏名】ギョーム・ギローデ
(72)【発明者】
【氏名】ヤニス・チェンギティ
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA13
4C316AB13
4C316FA18
4C316FC21
4C316FZ01
4C316FZ02
(57)【要約】
対象者の光屈折の最適補正を客観的に判定するための方法であって、
a)レンズ度数の1つに対応する記録された神経信号が全ての他の記録された神経信号と比較して最大の神経活動を示すまで、対象者の眼に連続する個別のレンズ度数を提供し、対象者の眼が各レンズ度数を通して視覚刺激を受けている間に対象者の対応する連続する神経信号を記録するステップ(ブロックE2~E5)と、
b)対象者の眼屈折の最適補正が、ステップa)において得られた最大の神経活動と比較して所与の低減された神経活動を示す神経信号を対象者が示すレンズ度数に対応することを判定するステップ(ブロックE6及びE7)と、を含む、方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の眼屈折の最適補正を客観的に判定するための方法であって、
a)レンズ度数の1つに対応する記録された神経信号が全ての他の記録された神経信号と比較して最大の神経活動を示すまで、前記対象者の眼に連続する個別のレンズ度数を提供し、前記対象者の前記眼が各レンズ度数を通して視覚刺激を受けている間に前記対象者の対応する連続する神経信号を記録するステップと、
b)前記対象者の前記眼屈折の前記最適補正が、ステップa)の前記最大の神経活動と比較して所与の低減された神経活動を示す神経信号を前記対象者が示すレンズ度数であると判定するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
ステップb)において、前記所与の低減された神経活動が、前記対象者の前記眼の調節反応の開始に関連する所定の係数kに基づいて前記最大の神経活動を補正することによって判定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップa)において、
-前記対象者の前記眼に提供される前記レンズ度数が、連続してどんどん小さくなり、前記眼に提供される最初のレンズ度数が、前記対象者の視覚をぼやけさせるものであり、
-最後に記録された神経信号の前記神経活動が、直接以前に記録された神経信号の前記神経活動と比較され、
-ステップa)が、前記直接以前に記録された神経信号が前記最後に記録された神経信号よりも多くの神経活動を示すと停止し、前記直接以前に記録された神経信号が前記最大の神経活動を示すものである、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップa)において、前記対象者の前記眼に提供される各連続するレンズ度数が、前記対象者の前記最適補正の概算値である基準レンズ度数に基づいて選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
各レンズ度数がジオプタ(D)単位で与えられ、2つの継続するレンズ度数間のジオプタのステップが、前記レンズ度数が前記基準レンズ度数から遠いときよりも、前記レンズ度数が前記基準レンズ度数に近いときの方が小さい、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ステップa)がブレインコンピュータインターフェースによって実施され、前記レンズ度数が、前記直接以前に記録された神経信号の前記神経活動の分析に基づいて自動的に変更される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ステップb)において、前記低減された神経活動を示す前記神経信号が、前記記録された神経信号の1つであるか、又は前記記録された神経信号から外挿されたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
係数kが、以下のステップ、すなわち、
c1)最適補正が既知である対象者のグループを選択するステップ、
c2)各対象者に対して、
-前記対象者の少なくとも一方の眼が、前記最適補正の前記レンズ度数を含む連続する別個のレンズ度数を通して視覚刺激を受けている間に前記対象者の連続する神経信号を記録し、
-記録された各神経信号の前記神経活動を分析し、前記最大の神経活動を示す記録された神経信号を推測し、
-前記最大の神経活動を、前記最適補正の前記レンズ度数に対して記録された前記神経信号の前記神経活動と比較するステップ、
c3)各対象者について実施された前記神経活動を比較するステップから、係数kを推測するステップ、
によって判定される、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
ステップc2)及びc3)において、分析、比較、及び推測の動作が、機械学習によって実施される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
1つのレンズ度数に関連する前記対象者の前記神経活動が、前記レンズ度数に対して記録された前記神経信号の少なくとも1つの特徴を抽出することによって判定される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記特徴が、前記記録された神経信号に由来するスペクトル信号における振幅であり、より高い神経活動が、前記スペクトル信号におけるより高い振幅と一致する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
対象者の眼屈折の最適補正を客観的に判定するための装置であって、
-前記対象者の脳の少なくとも1つの領域から生じる神経信号を検出するための少なくとも1つの神経センサであって、前記神経信号が前記対象者の眼の視力にリンクされている、少なくとも1つの神経センサと、
-制御ユニットであって、
a)記録された神経信号の1つが全ての他の記録された神経信号と比較して最大の神経活動を示すまで、前記対象者の少なくとも一方の眼が連続する別個のレンズ度数を通して視覚刺激を受けている間に前記対象者の連続する神経信号を記録し、
b)前記対象者の前記眼屈折の前記最適補正が、ステップa)において得られた前記最大の神経活動と比較して所与の低減された神経活動を示す神経信号を前記対象者が示すレンズ度数に対応することを判定する、
ように適合された、制御ユニットと、を備える、装置。
【請求項13】
前記制御ユニットによって制御される自動屈折計を更に備えて、前記対象者の前記眼が前記視覚刺激を受けるレンズ(L1、L2、L3、L4、L5)の度数を、以前に記録された神経信号の神経活動の分析に応じて自動的に変更する、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記神経センサが、前記対象者の前記脳の後頭部から生じる神経信号を記録するために、前記対象者の頭部の後部上に配置され、且つチェアのヘッドレスト内に組み込まれた、少なくとも3つの電極を含む、請求項12に記載の装置。
【請求項15】
前記装置が、以前に記録された神経信号の神経活動の分析に応じて、前記対象者の前記眼が前記視覚刺激を受ける前記別個のレンズ度数を提供するために、前記制御ユニットによってその度数が駆動される少なくとも1つのアクティブ度数レンズを備える、請求項12に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象者の眼屈折の分野に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、対象者の眼屈折の最適補正を判定するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
屈折は、光線が2つの異なる媒体間の界面に当たったときに方向を変化する現象である。屈折は、特に、光線が対象者の眼に当たったときに起こり、その場合に「眼屈折」と呼ばれる。そのような眼屈折を、本明細書の残りの部分では、「屈折」と呼ぶことにする。そのような屈折は異常になる可能性があり、そうなると、眼で見た画像を網膜の外側に形成させる。対象者の各眼の屈折を測定できることは、眼科検査、特に視力補正が必要な場合の重要なポイントである。今日では、この測定は、2つの異なる方法、すなわち、客観的屈折検査及び主観的屈折検査から行うことができる。
【0004】
対象者の反応に依存しない客観的屈折検査は、検影器、自動屈折計、誤差測定器などの、現在処方者において広く利用可能な機器を使用して行うことができる。客観的屈折検査は、迅速且つ確実に実行される。しかしながら、客観的屈折検査は、所与の瞬間の眼の光学系の屈折異常に関する情報を提供するのみであり、そのような情報は、対象者の視覚的必要性を判定するには不十分である。したがって、客観的屈折検査は、対象者が必要とする最適補正の概算値しか与えない。
【0005】
主観的屈折検査は、伴われた脳のプロセスも考慮することによって、単なる眼の光学系を超えて視覚機能の評価を試みる。この検査は、対象者の反応に依存して、最小限の調節労力で遠方視力における最良の可能な視力を与える最適補正を判定する。したがって、主観的屈折検査は、客観的屈折検査よりも実際の対象者の視覚的必要性を把握するのに効果的であるが、主観的屈折検査の出発点として、客観的屈折検査の結果を使用すること(すなわち、最適補正の概算値を使用すること)が推奨される。
【0006】
しかしながら、主観的屈折力検査を理想的な測定方法とさせない、複数の要因が存在する。実際、対象者の反応のみに基づくという測定の性質を考慮すると、その結果は、複数の皮質領域、すなわち、視覚の質(又は視力)を評価するために重要な領域だけでなく、視覚知覚には直接関与しないが、例えば意思判定に関連する領域などのように(活性化される関連領域のタイプ及び活性化のレベルという点で)対象者に依存する異なる方法で介入する多くの関連領域によっても同時に処理される情報を伴うため、その結果はかなりノイズが多くなる可能性がある。そのような複雑且つノイズの多いプロセスでは、多くの場合、対象者自身が最も明瞭な画像知覚を与える補正を自信を持って判断できない結果となる。更に、対象者は、視力検査が果たす本質的な役割をよく理解しており、誤った結果をもたらし、又は視力検査をストレスの多い経験にしてしまう可能性のあるこれらの要因に特に注意を払う。
【0007】
これら全ての要因は、必然的に、主観的屈折検査をより長く且つより複雑な手順とすることにつながる。更に、自覚的屈折検査では、検査者間に大きなばらつきが存在し、すなわち、主観的屈折検査で判定される最適補正は、検査を実行するアイケア専門家のスキルに非常に依存する。
【0008】
したがって、対象者の屈折の最適補正の判定を改善する必要性が存在している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの目的は、対象者による最良の知覚を生み出すレンズ度数を特定することにつながる、対象者の眼屈折の最適補正を客観的に判定するための方法であって、その最良の知覚が対象者にとって長期的に可能な限り快適である、方法を提供することである。
【0010】
上記の目的は、請求項1の方法を提供することによって達成される。
【0011】
本発明では、「眼屈折」は、対象者の一方の眼の屈折であるとみなされる。対象者の屈折の「最適補正」とは、対象者の眼に対して適用される補正であり、これにより、対象者の眼を調節することなく、又は可能な限り少ない調節で、対象者が遠方距離において明瞭な視力を有することを可能にする補正である。眼を調節することなく、又は可能な限り少ない調節で、遠方距離においてでこの明瞭な視力を可能にする最適補正はまた、長期的に快適なものである。
【0012】
本発明の方法は、神経活動に依存して、どのレンズ度数が対象者の眼の最良の屈折を生み出して、対象者が長期的に快適であると感じることを可能にするかを特定する。
【0013】
驚くべきことに、視覚知覚の質(視力とも呼ばれる)に関連する脳の領域における対象者の神経活動は、対象者が視覚刺激を明瞭に見るためにいかなる調節も必要としない(又は可能な限り少ない調節の)ときではなく、対象者が調節を開始したときに最大になるようである。「調節を開始する」とは、検査に使用されるフォロプタの精度に応じて、例えば、0.25D超、又は0.50D超、又は1D超である、検査に使用されるフォロプタによって測定可能な方法で対象者が調節することを意味する。実際、先入観に反して、神経活動は対象者の脳内に現れる神経アーチファクトにより最大値に達し、それは、視覚刺激を受けている眼の調節反応の開始に関連している。そのような調節は、対象者に対して視力が改善されたような印象を与えるが、実際には、対象者の眼が満足のいく質で見るために必要ではない。更に、そのような調節は、対象者にとって長期的には不快である場合がある。神経アーチファクトを誘発する調節は、例えば、縮瞳(眼の瞳孔の収縮)、輻輳(両眼の同時に互いに向かう内向きの移動)、又は水晶体における度数変化にリンクされている。
【0014】
注目すべきことに、最適補正を判定するために、本発明の方法は、視力に関連する脳の領域において、検査中に記録される対象者の最大の神経活動と比較して所与の低減された神経活動を示す対象者の神経信号を見いだす。そうすることにより、本発明の方法は、屈折の最適補正を判定する際に、調節の開始によって誘発される神経アーチファクトの存在を考慮する。
【0015】
本発明の方法のおかげで、対象者の屈折の最適補正の判定は、依然として客観的でありながら改善される。対象者は、最適補正を判定するためのいかなる質問にも答える必要はなく、その最適補正は、対象者の少なくとも一方の眼がそれぞれのレンズ度数を通して視覚刺激を受けたときに記録されたそれぞれの神経信号のみに基づいて判定される。
【0016】
本発明の方法の有利な実施形態によれば、ステップb)において、所与の低減された神経活動は、眼の調節反応の開始に関連する所定の係数kに基づいて最大の神経活動を補正することによって判定される。
【0017】
より正確には、この有利な実施形態では、係数kは、最適補正が探索されている間に現れ得る、調節の開始によって誘発される神経アーチファクトを考慮して除去する。係数kのおかげで、対象者の屈折の最適補正の判定は、依然として客観的でありながら改善される。
【0018】
別の実施形態によれば、ステップb)において、所与の低減された神経活動は、その眼に連続する個別のレンズ度数が提供されており、その最適補正が既に正確に知られている、多くの対象者に対して記録された神経信号のセットを考慮に入れて、機械学習によって判定される。
【0019】
本発明の方法の他の有利な特性は、一緒に又は個別に、請求項3~12に与えられている。
【0020】
本発明の更なる目的は、対象者の最良の知覚を生み出すレンズ補正を特定することにつながる、対象者の眼屈折の最適補正を客観的に判定するための装置であって、その最良の知覚が対象者にとって長期的に可能な限り快適である、装置を提供することである。
【0021】
上記の目的は、請求項13に記載の装置を提供することによって達成される。
【0022】
本発明の装置は、より正確には、少なくとも、視力、すなわち対象者の眼の視覚知覚の質にリンクされた、対象者の脳の少なくとも1つの領域から生じる神経信号を検出することができる神経センサ、例えば電極と、対象者の眼がそれぞれのレンズ度数を通して視覚刺激を受けたときに得られるそれぞれの神経信号を記録し、最大の神経活動に関連する記録された神経信号を見いだし、且つどの神経信号が、ステップa)において得られた最大の神経活動と比較して所与の低減された神経活動を示すことになるかを判定する制御ユニットと、を備える。次いで、制御ユニットは、どのレンズ度数が低減された神経活動のそのような神経信号を与えることになるかを見いだし、このレンズ度数が対象者の屈折の最適補正であると結論付ける。
【0023】
有利には、この発明の装置は、装置の操作者とは無関係に、且つ対象者に質問することなく、対象者の屈折の最適補正を客観的に判定することを可能にする。
【0024】
本発明の装置の他の有利な特徴は、一緒に又は個別に、請求項13及び14に与えられている。
【0025】
有利には、装置は、以前に記録された神経信号の神経活動の分析に応じて、対象者の眼が視覚刺激を受けるその別個のレンズ度数を提供するために、制御ユニットによってその度数が駆動される少なくとも1つのアクティブ度数レンズを備える。
【0026】
一実施形態によれば、少なくとも1つのアクティブ度数レンズは、眼鏡又はコンタクトレンズに組み込まれる。
【0027】
実施例の詳細な説明
添付図面を参照する以下の説明により、本発明を構成するもの、及び本発明をどのように達成できるかが明らかになるであろう。本発明は、図面に示される実施形態に限定されるものではない。したがって、請求項で言及される特徴に参照符号が続く場合、かかる符号は、請求項の理解を向上させる目的でのみ含まれ、請求項の範囲を限定するものではないと理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の方法の主なステップを統合したフローチャートである。
図2】本発明の装置の概略図である。
図3】本発明による装置の神経センサの第1の実施形態の概略図である。
図4】本発明の装置の神経センサに含まれる追加電極の概略図である。
図5】+1ジオプタ~-0,75ジオプタの範囲の8つの別個のレンズ度数に対して、所与の対象者について記録された8つの神経信号に由来する8つのスペクトル信号S1~S8を示すグラフであり、x軸はヘルツ(Hz)単位の周波数を与え、y軸は(mV)2.Hz-1単位の「振幅」と呼ばれるフーリエ変換の指数を与えている。
図6図5の各スペクトル信号のメインピークの振幅をレンズ度数(ジオプタ単位)の関数として示すグラフである。
図7】+1D~-0.75Dの範囲のレンズ度数に対して、別のテスト対象者について記録された様々な神経信号から得られた各スペクトル信号のメインピークの振幅を示すグラフである。
図8A】本開示によるアクティブ度数レンズを含む眼鏡の例を示す図である。
図8B】本開示によるアクティブ度数レンズを含む眼鏡の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、対象者の眼屈折の最適補正を客観的に判定するための装置10及び方法を提供する。
【0030】
導入部で説明したように、眼屈折は、光線が対象者の一方の眼に当たったときに生じる屈折である。そのような眼屈折を、本明細書の残りの部分では「屈折」と呼ぶことにする。そのような屈折によって引き起こされる画像が網膜の外部に形成される場合、屈折は不良であるとみなされる。屈折不良の場合、対象者の視力を改善するために、屈折をどのように補正すべきかを知る必要がある。屈折の最適補正は、対象者が、対応する眼を調節することなく、又は可能な限り少ない調節で、且つ可能な限り快適な状態で、遠方距離(無限遠方距離とも呼ばれる)において明瞭な視力を有することを可能にする補正であるとみなされる。より正確には、本発明の装置10及び方法は、対象者(テスト対象者と呼ばれる)の(欠陥のある)屈折の最適補正を、
-テスト対象者の眼1の少なくとも一方がそれぞれのレンズ度数を通して所与の視覚刺激を受けている間に記録された、テスト対象者のそれぞれの神経信号の分析、及び
-視覚刺激を受けている眼の調節反応の開始によって誘発される可能性のある神経アーチファクトの存在の知識、
に基づいて客観的に判定する。
【0031】
本発明の装置に関連して説明した全ての特徴、特に装置のプロセッサに関連して説明した特徴はまた、本発明の方法に適用され、逆もまた同様である。
【0032】
図2に示されるように、本発明の装置10は、
-対象者の脳の少なくとも1つの領域から生じる神経信号を検出するための少なくとも1つの神経センサ11であって、その神経信号が対象者の対象者の視力にリンクされている、少なくとも1つの神経センサ11と、
-制御ユニット15であって、
a)記録された神経信号の1つが全ての他の記録された神経信号と比較して最大の神経活動を示すまで、テスト対象者の眼1が連続する別個のレンズ度数を通して視覚刺激を受けている間にテスト対象者の連続する神経信号を記録し、
b)対象者の眼屈折の最適補正が、ステップa)において得られた最大の神経活動と比較して所与の低減された神経活動を示す神経信号を対象者が示すレンズ度数に対応することを判定する、
ように適合された、制御ユニット15と、を備える。
【0033】
したがって、装置10は、テスト対象者の視覚を多かれ少なかれぼやけさせる異なる度数の連続するレンズL1、L2、L3、L4、L5を通してテスト対象者に視覚刺激を示している間、神経信号を記録して分析することができる。この分析に基づき、及び神経活動の一部が調節によって誘発され得ることを知っていることにより、装置10は次いで、対象者が、調節することなく、又は可能な限り少ない調節で、且つ長期的に可能な限り快適な状態で、遠方距離において視覚刺激を最も明瞭に見ることを可能にすることになる、レンズ度数が何であるかを見いだす。なお、本明細書では、「ぼやけた」という表現は、「明瞭」という表現と対立するものである。
【0034】
一般に、視覚刺激はスクリーン12上に表示され、テスト対象者は、一方の眼(単眼検査)又は両方の眼1(両眼検査)で見るように求められる。好ましくは、検査は単眼検査であり、最初の眼1が検査されている間、他方の眼は覆われている。両眼検査を選択した場合、対象者の両方の眼は、必ずしも同じレンズ度数を通して視覚刺激を見なくてもよい。
【0035】
古典的には、スクリーン12は、遠方距離における視力をシミュレーションするために、テスト対象者から約6メートル(m)の距離に配置される。スクリーン12は、本発明の装置10に含まれていてもよく、その場合、その上に示される視覚刺激は、制御ユニット15によって制御され得る。代替案では、スクリーンは、装置10から除外された独立した要素であってもよい。
【0036】
テスト対象者に見るように求められる視覚刺激は、任意のタイプの画像であり得る。例えば、視覚刺激は、明滅するガボールパッチである。そのような特定の視覚刺激により、装置10の神経センサ11によって記録される神経信号の信号対雑音比を改善することが可能になり、したがって、記録された各神経信号の更なる分析が容易になる。
【0037】
テスト対象者が視覚刺激を見るレンズ度数の変更を容易にするために、屈折計13(「フォロプタ」又は「レフラクタ」とも呼ばれる)が使用される。
【0038】
より正確には、屈折計13は、テスト対象者の検査される眼1の前に、選択された度数のレンズL1、L2、L3、L4、L5を配置することができる。各レンズL1、L2、L3、L4、L5の度数は、多かれ少なかれ、テスト対象者の眼1の視界をぼやけさせる。レンズL1、L2、L3、L4、L5の度数は、一般に、ジオプタ単位で与えられる。本明細書では、各テストレンズの度数は、基準レンズLRの度数と比較した相対度数である。基準レンズLRの度数は、好ましくは、テスト対象者の最適補正の概算推定値である。そのような概算推定値は、例えば、導入部で説明したような客観的屈折検査によって得られる。代替案として、基準レンズの度数は、0ジオプタ(D)とすることができる。代替案として、基準度数は、対象者の以前に知られている補正値とすることができる。
【0039】
したがって、テスト対象者の眼1の前でテストされたレンズの度数は、基準レンズの度数と比較して、ポジティブ又はネガティブのジオプタを示す。度数がポジティブであればあるほど、テスト対象者の対応する眼1の視界をよりぼやけさせる。
【0040】
好ましくは、屈折計13は、本発明の装置10に含まれる。より好ましくは、屈折計13は、制御ユニット15によって制御される。
【0041】
更に、有利には、装置10において、屈折計13は、装置10の制御ユニット15によって制御される自動屈折計13である。制御ユニット15は、テスト対象者の眼1が視覚刺激を受けるレンズL1、L2、L3、L4、L5の度数を自動的に変更するように屈折計10を制御する。テスト対象者の眼1の前に配置されたレンズL1、L2、L3、L4、L5のそのような自動的な変更は、好ましくは、神経センサ11によって以前に記録された神経信号の神経活動の分析に基づく。度数の変更は、操作者によって実施され得る。
【0042】
最も好ましくは、レンズ度数の変更は、以前にテストされたレンズ度数に対して以前に記録された神経信号の分析に基づいて、ブレインコンピュータインターフェースによって実施される。したがって、テスト対象者はいかなる質問も求められず、屈折率13によるレンズ度数の変更を制御するいかなる操作者の影響も受けない。更に、レンズ度数の変更は、対象者にとって最適な瞬間に生じる。本ケースでは、検査を効率的にするために、次のレンズの度数は、以前に直接記録されて分析された神経信号に基づいて選択される。
【0043】
特に、時間tにおいてテストされた度数に対して記録された神経信号の神経活動が、時間t-1においてテストされた度数に対して記録された神経信号の神経活動よりも高い場合、時刻t+1においてテストされる次の度数は、時間tにおいてテストされた度数よりも小さくなるべきである。逆に、時間tにおいてテストされた度数に対して記録された神経信号の神経活動が、時間t-1においてテストされた度数に対して記録された神経信号の神経活動よりも小さい場合、時間t+1においてテストされる次の度数は、時間tにおいてテストされた度数よりも大きくなるべきである。
【0044】
装置10の神経センサ11は、テスト対象者がレンズL1、L2、L3、L4、L5を通して自分に示される視覚刺激をできるだけ明瞭に見ようとしている間に、テスト対象者の脳内で発生する神経信号を検出することを目的とする。
【0045】
本実施例では、図2に示されるように、神経センサ11は、少なくとも3つの電極110、好ましくは5つの電極110を備え、これらが、テスト対象者の少なくとも一方の眼が自分の眼に受けた視覚刺激を明瞭に見ようとするときに刺激される特定の神経のグループの電気的活動を検出することができる。これらの特定の神経のグループは、好ましくは、対象者の脳の後頭部に位置する。これらの電極110によって検出される神経信号は、テスト対象者の眼の視力、すなわち、対象者の視覚知覚の質にリンクされている。
【0046】
電極110は、テスト対象者の脳の後頭部から生じる脳波(又は神経信号)を記録するために、テスト対象者の後頭部上に配置されるように設計される。本実施例では、電極110は、有利には、アームチェア2(図3を参照)のヘッドセット上に組み込まれ、このアームチェア2上にテスト対象者が座って屈折検査に進むように想定されている。
【0047】
図2及び図4に示されるように、神経センサ11は、加えて、テスト対象者が視覚刺激を明瞭に見るために自分の眼1を調節しようとしているときに刺激され、且つ画質品質処理、判断、及び分析にも関与し得る、特定の神経のグループの電気的活動を検出することができる少なくとも3つの追加電極111を備え得る。これらの特定の神経のグループは、例えば、対象者の脳の前頭前野に位置する。
【0048】
追加電極111は、テスト対象者の脳の前頭前野から生じる脳波(又は神経信号)を記録するために、テスト対象者の額上に配置されるように設計された前頭電極111である。
【0049】
図4に示されるように、本実施例では、追加電極111は、例えば、顎台上又は屈折計13の前面支持部3上に組み込まれている。
【0050】
本実施例では、電極110及び最終的な追加電極111は、頭皮からの神経活動を連続的に検出し、神経活動をその分析を容易にするために信号を増大させる増幅器(図示せず)に送信する。
【0051】
神経センサ11による各神経信号の記録は、好ましくは、特定の神経の活性化及びそれらの弛緩を検出するために、テスト対象者の眼1による視覚刺激の受容の直前、受容中、及び受容に続いて実行される。
【0052】
本発明の装置10の制御ユニット15は、神経センサ11、並びに適宜、屈折計13及び/又はスクリーン12と通信するように構成されている。この通信は、無線通信手段又は回線ベースの通信手段のいずれかを用いて確立されてもよい。
【0053】
制御ユニット15は、テスト対象者から離れた場所に配置されてもよい。代替実施形態では、制御ユニットは、テスト対象者が装着することができる。図に示される例では、制御ユニット15は、対象者から離れた場所に配置されている。図8A及び図8Bに示される例では、制御ユニット15は、対象者が装着している。この最後の例では、制御ユニット15は、眼鏡50に組み込まれている。
【0054】
図2に示されるように、ここでの制御ユニット15は、かかる神経センサ11と同様に、互いに通信するメモリ150とプロセッサ151とを備える。メモリ150及びプロセッサ151はまた、適宜、屈折計13及び/又はスクリーン12と通信する。制御ユニット15は、例えば、コンピュータに統合される。
【0055】
特に、メモリ150は、神経センサ11によって検出された各神経信号を受信し、プロセッサ151が記録された各神経信号を分析するために各神経信号を記録(又は記憶)するように構成されてもよい。
【0056】
メモリ150はまた、各神経信号に対応して、どのレンズ度数がその神経信号を誘発したかを記憶するように構成されてもよい。メモリ150はまた、テスト対象者の基準レンズ度数を記憶することができる。
【0057】
メモリ150に記録された各神経信号の分析は、制御ユニット15のプロセッサ151によって実施される。そのような分析には、主に、
-対応する神経活動を推測するための各神経信号の処理(ステップa)、
-全ての記録された神経信号の中から検出された最大の神経活動の推測(ステップa)、及び
-そのような低減された神経活動をもたらし、したがってテスト対象者の屈折の最適補正に対応するレンズ度数を見いだすために、最大の神経活動と比較して求められる所与の低減された神経活動の判定(ステップb)、
を含む。
【0058】
本発明では、2つの要素、すなわち、最大の神経活動の判定、及び所与の低減された神経活動の判定、
が特に重要である。
【0059】
実際には、低減された神経活動は、最大の神経活動に対応し、そこから調節によって誘発された神経アーチファクトが推測又は除去される。神経アーチファクトを誘発する眼の調節反応は、例えば、水晶体の縮瞳、輻輳、又は度数変化にリンクされている。
【0060】
各神経信号の処理は、その神経信号につながるテストされるレンズ度数に関連するテスト対象者の神経活動を推測することを目的とする。視力に関連する対象者の脳の領域では、対象者が視覚刺激をより良好に(より明瞭に)知覚したときに、神経活動が全てより増大することに留意されたい。
【0061】
本実施例では、1つのレンズ度数に関連するテスト対象者の神経活動は、そのレンズ度数に対して記録された神経信号の少なくとも1つの特徴を抽出することによって判定される。
【0062】
ここで、神経活動の指標を与える神経信号の特徴は、記録された神経信号に由来するスペクトル信号における振幅である。より高い神経活動は、スペクトル信号におけるより高い振幅と一致する。より具体的には、神経活動は、スペクトル信号において示されるメインピークの振幅の値から推測される。
【0063】
したがって、制御ユニット15のプロセッサ151によって実施される神経信号の分析は、ノイズからの神経信号の洗い出し、及びスペクトル信号を得るためのフーリエ変換によるその変換を主に含む。この場合、観察される特徴は、図5に示されるように、1ヘルツあたりの平方ミリボルト(mV2.Hz-1)で与えられるフーリエ変換の指数である。フーリエ変換の指数は、簡単にするため、以下「振幅」と呼ばれる。スペクトル信号からメインピークの振幅を推測することができ、したがって、そのような振幅は、テスト対象者の神経活動とみなされる。実際には、ノイズから神経信号を洗い出し、神経信号をスペクトル信号に変換する方法はよく知られている。
【0064】
本発明の更なる態様では、装置10は、制御ユニット15によってその度数が駆動される少なくとも1つのアクティブ度数レンズ51を備える。少なくとも1つのアクティブ度数レンズ51のレンズ度数は、判定するステップの間に対象者が視覚刺激を受けたときに修正されるように配置及び/又は構成されている。加えて、少なくとも1つのアクティブ度数レンズ51のレンズ度数は、いったん制御ユニット15がこの値を判定すると、最適補正に等しくなるように配置及び/又は構成されている。
【0065】
図8A及び図8Bの例では、少なくとも1つのアクティブ度数レンズ51は、対象者が装着することを意図された眼鏡50に組み込まれている。
【0066】
この例では、そのような眼鏡50は、制御ユニット15によって修正されるように配置及び/又は構成されたレンズ度数を各々が含む、2つのアクティブ度数レンズ51を備える。
【0067】
眼鏡50は、2つのアクティブ度数レンズ51を保持するフレーム52を更に備える。
【0068】
アクティブ度数レンズ51は、眼鏡50のガラスに各々が組み込まれている。
【0069】
この実施形態によれば、神経活動センサ11は、フレーム52のアイウェアテンプルに含まれてもよく、又は対象者の頭蓋骨に直接接触していてもよい。この目的のために、装置10は、電極110を備え得る。
【0070】
図8A図8B上では、装置10の電極110は、対象者の脳の少なくとも1つの領域から生じる神経信号にアクセスを与えることになる頭部の領域に延びるように、眼鏡50から展開されている。例えば、眼鏡50内に含まれた装置10の電極110は、対象者の脳の後頭部領域から生じる神経信号を記録するように配置及び/又は構成されている。装置10は、例えば、眼鏡50のフレーム52内、又は対象者の耳の後ろで終わるフレーム52の一部分の近傍に組み込まれる。
【0071】
この実施形態によれば、装置10は、屈折計13と組み合わせるべき必要はない。屈折計13は、屈折計13と同様の方法で、制御ユニット15を介して各アクティブ度数レンズ51のレンズ度数を変更することができる眼鏡50と直接置き換えられる。
【0072】
装置10の制御ユニット15は、スクリーン12と通信可能に構成されている。例えば、視覚刺激を表示するスクリーン12は、眼鏡50から2メートル又は4メートルの距離に配置されたコンピュータ画面又はスマートフォン画面であり得る。
【0073】
眼鏡50の各度数アクティブレンズ51のレンズ度数は、修正することができる。この目的のために、眼鏡50に組み込まれた装置10の制御ユニット15、メモリ150、プロセッサは、屈折計13を使用する図2の例のように動作する。
【0074】
制御ユニット15は、本開示の方法に従って、各レンズ51のレンズ度数を変更するように構成されている。実際には、装置10の制御ユニット15は、テスト対象者の眼1が視覚刺激を受ける各アクティブ度数レンズ51のレンズ度数を制御する。度数レンズのそのような変更は、好ましくは、神経センサ11によって記録された信号の神経活動の分析に基づく。
【0075】
各神経信号の分析は、眼鏡50に組み込まれた制御ユニット15のプロセッサによって実施される。いったん使用者の最適補正が判定されると、眼鏡50はその結果をメモリ150に記憶し、それを使用して各アクティブ度数レンズ51のレンズ度数を適宜補正する。
【0076】
したがって、操作者が、アクティブ度数レンズ51のレンズ度数を変更する必要はない。また、屈折測定は、操作者のいかなる助けも借りることなく、対象者が直接実行することができる。したがって、この装置は、操作者の助けが必要な図2に開示された装置10よりも自律的である。
【0077】
図8B上では、眼鏡50は、各アクティブ度数レンズ51のレンズ度数の変化を制御して神経信号を記録するように構成及び/又は配置された、1つの制御ユニット15のみを備える。別の実施形態では、眼鏡50は、各アクティブ度数レンズ51に関連する制御ユニット12を備える。
【0078】
装置10によって実行される方法は、例えば毎月、若しくは毎年、毎月などの特定の日に実行されるようにプログラムすることができ、及び/又は例えば、近視の進化の場合若しくは対象者の老眼の場合の、対象者の補正の変更に基づき得る。最適補正が制御ユニット15によって判定されると、各レンズ51のレンズ度数は、以前に判定された最適補正と等しくなるように変更される。
【0079】
眼鏡50は、異なるタイプのアクティブ度数レンズ51、例えば、
-当該技術分野で知られているアルバレスレンズ、
-流体レンズ、例えば、欧州特許第2149537号明細書に開示されているもの、
-液晶ベースのアクティブレンズ、例えば、青色位相状態を使用する欧州特許第3115436号明細書に開示されているものなど、
を備え得る。
【0080】
各度数アクティブレンズ51は、アイウェア上のアクティブレンズであり得る。
【0081】
別の実施形態では、アクティブ度数レンズ51は、例えば、文献:米国特許出願公開第2020064658号明細書に開示されているように、コンタクトレンズに組み込まれる。したがって、この最後の実施形態では、眼鏡50は、フレーム52を備えない。アクティブ度数レンズ51は、対象者の眼の上でコンタクトレンズによって直接保持される。神経活動センサ11は、コンタクトレンズに含まれ得る。加えて、センサは、アクティブ度数レンズ51に無線で接続され得る電極110を含んでもよい。制御ユニット15は、好ましくは、各コンタクトレンズに直接含まれる。
【0082】
別の実施形態では、アクティブ度数レンズ51は、アクティブ眼内レンズ光学部品(IOL)であり得る。
【0083】
各アクティブ度数レンズ51は、対象者の眼に関連付けられるため、各アクティブ度数レンズ51のレンズ度数は、同様に独立して変化させることができる。
【0084】
図5上では、テスト対象者が様々な度数のそれぞれのレンズ(合計8つの異なるレンズ)を通して明滅するガボールパッチを見ている場合の、電極110によって記録された神経信号に由来する8つのスペクトル信号が示されている。スペクトル信号S1は、+1ジオプタのレンズ度数に対して得られ、スペクトル信号S2は、+0.75ジオプタのレンズ度数に対して得られ、スペクトル信号S3は、+0.5ジオプタのレンズ度数に対して得られ、スペクトル信号S4は、+0.25ジオプタのレンズ度数に対して得られ、スペクトル信号S5は、0ジオプタのレンズ度数に対して得られ、スペクトル信号S6は、-0.25ジオプタのレンズ度数に対して得られ、スペクトル信号S7は、-0.5ジオプタのレンズ度数に対して得られ、スペクトル信号S8は、-0.75ジオプタのレンズ度数に対して得られる。本実施例では、0ジオプタのレンズ度数は、テスト対象者が主観的屈折検査によって得られた自分の屈折の最適補正に対応する度数のレンズを通して視覚刺激を見ていることを示している。与えられた全ての他の度数は、最適補正のレンズ度数と比較した相対度数である。
【0085】
図5上では、各スペクトル信号の形状は類似しており、すなわち、各スペクトル信号は、[5Hz;25Hz]、好ましくは[14Hz;15Hz]の範囲内に含まれる周波数を中心とするメインピークを含み、その周波数はスペクトル信号ごとに最終的に異なる。
【0086】
制御ユニット15は、全てのスペクトル信号を比較し、S1~S8の中のどのスペクトル信号が最大振幅Aを有するピークを示すかを見いだすことができる。
【0087】
ここで、スペクトル信号のピークの最小振幅を与えるレンズ度数は、テスト対象者が最もぼやけた視覚刺激を知覚するレンズである。
【0088】
図5に示されるように、レンズ度数が減少するほど、対象者による視覚刺激の知覚が良好になり、したがって、スペクトル信号のピークの最高(又は最大)振幅を与える特定のレンズ度数まで、対応するスペクトル信号のピークの振幅が大きくなる。そのような最大振幅は、テスト対象者の脳に対して最も明瞭な視覚刺激の知覚に対応する。しかしながら、そのような最も明瞭な知覚は、調節を意味する場合、対象者にとって長期的には快適ではない。
【0089】
図5に示されるように、レンズ度数が最大振幅を得られるレンズ度数を下回って減少すると、テスト対象者による視覚刺激の知覚が低下して再びぼやけるようになるため、対応するスペクトル信号のピークの振幅は減少する。そのような現象は、例えば、テスト対象者がこの低いレンズ度数では十分に調節できないという事実、又は他の眼科的制約によるものである。
【0090】
図5の例では、最小振幅を有するメインピークを示すスペクトル信号は、レンズ度数+1ジオプタに対して得られたスペクトル信号S1であり、最大振幅を有するメインピークを示すスペクトル信号は、レンズ度数-0.5ジオプタに対して得られたスペクトル信号S7である。レンズ度数を+0.75D~-0.25Dの間で徐々に減少させることで得られたスペクトル信号S2~S6は、それぞれのメインピークの振幅が徐々に増大していることを示す一方で、-0.75Dのレンズ度数に対して得られたスペクトル信号S8は、最大振幅よりも小さな振幅を有するメインピークを示している。
【0091】
図5に示されるように、最適補正(0D)に対して記録された神経信号から得られたスペクトル信号S5の振幅は、スペクトル信号S7に対して得られた最大振幅ではない。
【0092】
図6は、図5のスペクトル信号の分析後に得られたものである。図6は、図5の各スペクトル信号のメインピークの振幅Aの値を、かかるスペクトル信号をもたらすレンズの度数(ジオプタ又はD単位)の関数として与えている。
【0093】
図7は、図6と同様の方法で得られたものであるが、最適補正が求められる別のテスト対象者に対するものである。言い換えれば、図7は、かかる他のテスト対象者が、-0.75D~+1Dの範囲の様々なレンズ度数を通して、自分の眼に視覚刺激(ガボールパッチなど)を受けている間に、かかる他のテスト対象者の神経信号を記録した後に得られたものである。図7では、0Dのレンズ度数は、テスト対象者が自分の基準レンズを通して視覚刺激を見ていることを示し、このレンズ度数は、例えば導入部で説明したような客観的屈折検査から得られた、自分の最適補正の概算推定値に対応している。与えられた全ての他の度数は、基準レンズ度数と比較した相対度数である。
【0094】
図6及び図7はそれぞれ、それぞれのテスト対象者について、どのレンズ度数が最大の神経活動を有する神経信号につながるかをグラフィカルに判定するのに有用であり、ここでの最大の神経活動は、全てのスペクトル信号における最大振幅とみなされる。
【0095】
本発明では、「最大」は、2つの周囲の点よりも高いものとして定義される。言い換えれば、所与のレンズ度数に対して記録された神経信号は、所与のレンズ度数を取り囲む、より小さいレンズ度数及びより大きいレンズ度数の両方に対して記録された神経信号よりも多くの神経活動を示す場合にのみ、最大の神経活動を示す。
【0096】
もちろん、制御ユニット15は、最大をグラフィカルに判定する必要はなく、計算に基づいてのみ判定することができる。図6及び図7は、読者がレンズ度数の変化を伴う神経活動の進展を理解し、かかる最大の神経活動の判定を理解するのに視覚的に役立つ。
【0097】
いったん最大の神経活動が見いだされると、制御ユニット15のプロセッサ151は、可能な限り少ない調節で、又は全く調節することなく、視覚刺激の知覚に対応すべき低減された神経活動を判定する。言い換えれば、眼の調節反応なしで得られるべき、低減された神経活動を判定する。再び言い換えれば、低減された神経活動が、眼のその調節反応に関連する神経アーチファクトによって誘発される神経活動が除去された、最大の神経活動に対応することを判定する。
【0098】
装置の第1の有利な実施形態では、低減された神経活動の判定は、眼の調節反応に関連する所定の係数kに基づく最大の神経活動の補正に基づく。係数kはここで、テスト対象者の神経アーチファクトを誘発する調節に関連付けられる。言い換えれば、係数kは、調節にリンクされた神経アーチファクトによって誘発される追加の神経活動を補正する。
【0099】
係数kは、本発明の方法を実施する前に判定される。例えば、係数kは、制御ユニット15のメモリ150に記憶される。
【0100】
係数kは、好ましくは、1以下の一定値である。好ましくは、係数kの値は、厳密には1よりも小さい。
【0101】
係数kの値は、神経活動の判定の基礎となる神経信号の特徴に依存する。特に、神経活動を示す神経信号の特徴がスペクトル信号のピークの振幅Aである場合、係数kは、0.2~0.95、好ましくは0.6~0.95、より好ましくは0.7~0.9で選択される一定値である。係数kは、特に、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.55、0.6、0.65、0.7、0.75、0.8、0.85、0.9、又は0.95に等しくすることができる。
【0102】
第1の代替案では、kは、全ての個人にわたって固定される。
【0103】
第2の代替案では、係数kは、母集団のセグメントごとに変動し得る。母集団のセグメントは、例えば年齢に基づくことができ、子供である対象者の係数kは、若年成人である対象者の係数kとは異なり、高齢者である対象者の係数kとも異なる。母集団のセグメントは、補完的又は代替的に、対象者の異なる眼の欠陥、例えば、屈折異常に基づき得る。
【0104】
調節が関与するときに最大の神経活動が得られるため、調節がゼロに近づくと、係数kの値は1により近くなる。言い換えれば、係数kは、対象者が大きな調節能力を示すときよりも、対象者が調節能力をほとんど又は全く残していないときの方が大きくなるべきである。
【0105】
実際には、眼の調節反応の開始に関連する対象者の神経アーチファクトを補償することになる係数kの値を判定するために、以下の手順を実行することができる。
c1)最適補正が既知である対象者のグループが選択され、
c2)各対象者に対して、
-対象者の少なくとも一方の眼が、最適補正のレンズ度数を含む連続する別個のレンズ度数を通して視覚刺激を受けている間に、対象者の連続する神経信号を記録し、
-記録された各神経信号の神経活動が分析され、そこから最大の神経活動を示す記録された神経信号が推測され、
-最大の神経活動が、最適補正のレンズ度数に対して記録された神経信号の神経活動と比較され、
c3)各対象者について実施された神経活動の比較ステップから、係数kが推測される。
【0106】
より正確には、ステップc1)において、グループは少なくとも10人、好ましくは20人以上の対象者を含み得る。もちろん、対象者のグループは、好ましくは、テスト対象者を含まない。
【0107】
ステップc1)では、グループの各対象者の各眼の実際の正確な最適補正は、例えば導入部で説明した主観的屈折検査から既に知られている。
【0108】
ステップc1)では、係数kが全ての個人にわたって固定されている場合、グループの対象者は、好ましくは、ランダムに選択される。
【0109】
逆に、ステップc1)では、係数kが母集団の1つのセグメントから別のセグメントに変化する場合に、グループの対象者は、好ましくは、対象者が共通して有する特徴に基づいて選択される。言い換えれば、グループの対象者は、問題の母集団のセグメントを代表するように選択される。例えば、対象者は全て、所与の範囲において同じ年齢を有してもよく、すなわち、対象者は全て、5歳~15歳、又は15歳~25歳、又は25歳~40歳などの年齢を有し得る。代替例又は補足例では、対象者が同じ基準レンズ度数、又は同じ最適補正を有する場合、対象者は、同じグループの一部であるように選択される。代替例又は補足例では、対象者が全て眼の同じ欠陥を有する場合、対象者は、同じグループの一部であるように選択される。
【0110】
ステップc2)において、グループの各対象者は、かかる対象者の最適補正の度数を含む、異なる度数のレンズを通して視覚刺激を受けたときに発生する神経信号を記録するために、個別にテストされる。
【0111】
次いで、最大の神経活動を示す神経信号が判定される。
【0112】
ステップc3)では、最大の神経活動は次に、最適補正のレンズ度数に対して得られた神経活動と比較され、そこから係数kが推測される。
【0113】
より正確には、ステップc2)及びc3)の第1の代替案では、最大の神経活動の判定は、図5及び図6を参照して上記で説明したものと同様の方法で行われる。言い換えれば、神経活動の分析は、スペクトル分析を含み、より高い神経活動は、スペクトル神経信号のメインピークのより高い振幅と一致する。この代替案では、最大の神経活動と最適補正のために得られた神経活動との間の比較は、対応するスペクトル信号の振幅の比較を含む。
【0114】
個別化係数kiがこの比較から判定され、所与の対象者の調節反応を補償する。
【0115】
より正確には、個別化係数kiは、以下の式から得ることができる。
【数1】
式中、Amaxは、全てのスペクトル信号から得られた最大振幅であり、Aoptは、対象者の最適補正レンズに対応するスペクトル信号の振幅である(図6を参照)。
【0116】
係数kは、各対象者に対して判定された全ての個別化係数kiの比較から推測される。言い換えれば、係数kは、各対象者について実施されたスペクトル信号の振幅のかかる比較に基づく。
【0117】
例えば、係数kは、対象者のグループに対して得られた最大の個別化係数kiであり得る。代替案として、係数kは、全ての個別化係数kiの平均値であり得る。
【0118】
ステップc2)及びc3)の第2の代替案では、分析、比較、及び推測の動作は、機械学習によって実施される。より正確には、機械学習アルゴリズムにより、各テストレンズ度数に、対応する神経活動を関連付け、最大の神経活動と最適補正で得られた神経活動との間の関係を判定し、この相関から係数kを推測することが可能になる。そのような代替案は、第1の代替案を実施したときに得られた個別化係数kiに大きなばらつきが見いだされる場合に好ましい。そうである場合、各対象者及び各レンズ度数に対して得られた記録された神経信号は、最大の神経活動を見いだすために神経信号のどの特徴を分析すべきかを推測し、且つ最適補正に対応するレンズ度数に対して得られた神経信号を最大の神経活動を示す神経信号と比較することを可能にする係数kを判定する機械学習アルゴリズムに提供される。そのような機械学習アルゴリズムは、例えば、多くのデータ(最適補正を含む神経信号及び対応するレンズ度数)を用いて訓練された人工ニューラルネットワークを備えて、人工ニューラルネットワークに、
1.神経活動の判定及び/又は分類の基礎となるべき神経活動の特徴、並びに
2.そのおかげで最大の神経活動を最適補正で得られた神経活動と比較することができる、係数k、
を見いださせる。
【0119】
ここで、係数kが判定され得る方法を説明したので、この係数kを使用して低減された神経活動を判定し、次いで対象者の屈折の最適補正を推測する方法を説明することにする。
【0120】
そのような判定は、図7上にグラフィカルに表されている。
【0121】
神経活動がスペクトル信号のメインピークの振幅を通して得られる本実施例では、プロセッサ151は、全てのスペクトル信号の分析から見いだされた最大振幅Amaxに係数kを適用し、したがって、以下の低減された振幅A(reduced)を見いだす。
A(reduced)=k*Amax
【0122】
テスト対象者の屈折の最適補正は、対象者がその低減された神経活動の神経信号を記録することになるレンズ度数に対応する。
【0123】
低減された神経活動は、記録された神経信号の1つの神経活動であることができ、又は外挿された神経信号の神経活動であることができることに留意されたい。本実施例では、図7に示されるように、低減された神経活動は、神経信号の1つの神経活動に対応する。
【0124】
いったんプロセッサ151が最大の神経活動に関連するテスト対象者の神経信号を判定し、且つ係数kを通して低減された神経活動を計算すると、プロセッサ151は次いで、神経信号がそのような低減された神経活動を示す結果となる対応するレンズの度数を見いだす。
【0125】
より正確には、神経活動がスペクトル信号のメインの振幅を通して得られる本実施例では、プロセッサ151は、どのレンズ度数がスペクトル信号A(reduced)の低減された振幅を与えるべきかを推測する。計算された低減された振幅に対応するレンズ度数は、低減された神経活動が外挿された神経信号のものであれ、又は記録された神経信号のものであれ、例えば図7上で容易に読み取ることができる。
【0126】
得られたレンズ度数は、テスト対象者の最適補正である。
【0127】
図7に示されるように、ここでの他のテスト対象者の最適補正は、(ここでは0Dで示される基準レンズ度数と比較して)+0.5Dであるレンズに対応する。最適補正は、必然的に、最大振幅をもたらすレンズの度数よりも大きい度数のレンズであることに留意されたい。図7上では、最適補正は、その最適補正の概算値に対応する基準レンズの度数でも、スペクトル信号において最大振幅をもたらすレンズの度数でもないことが確認される。
【0128】
図1は、テスト対象者の屈折の最適補正を客観的に判定するための本発明の方法の主なステップを示している。
【0129】
より正確には、方法は、
a)レンズ度数の1つに対応する記録された神経信号が全ての他の記録された神経信号と比較して最大の神経活動を示すまで、テスト対象者のその眼1に連続する個別のレンズ度数を提供し、テスト対象者のその眼1が各レンズ度数を通して視覚刺激を受けている間にテスト対象者の対応する連続する神経信号を記録すること(ブロックE2~E5)と、
b)対象者の眼屈折の最適補正が、ステップa)の最大の神経活動と比較して所与の低減された神経活動を示す神経信号を対象者が示すレンズ度数であると判定すること(ブロックE6及びE7)と、
を含む。
【0130】
方法は、本明細書で上述したように、屈折計13及び視覚刺激を表示するためのスクリーン12とともに、本発明の装置10によって実施され得る。
【0131】
より正確には、制御ユニット15のプロセッサ151は、以下に説明する本発明の方法の計算ステップを実施するように構成され得る。
【0132】
例えば、ステップa)は、最終的に制御ユニット15によって制御される屈折計13によって実施され、神経信号はメモリ150に記録され、プロセッサ151によって分析される。ステップb)では、低減された神経活動の神経信号は、制御ユニット15のプロセッサ151によって判定される。
【0133】
ステップa)
ステップa)は、ステップb)の前に必ず実施される。
【0134】
ステップa)において、対象者は、好ましくは一方の眼のみであるが、異なる度数のレンズを通して視覚刺激を見るように求められる。対象者は、少なくとも3つの異なる度数のレンズをテストすべきである(図1のブロックE2)。
【0135】
そうするために、それぞれの第1、第2、第3の度数の第1、第2、第3のレンズL1、L2、L3が、対象者の眼の前に連続して配置される。テスト対象者が視覚刺激を見ている間、それぞれの神経信号が、例えば神経センサ11によって連続的に検出される。検出された各神経信号は、例えばメモリ150に記録される。
【0136】
図1のブロックE3に示されるように、次いで、ある点が2つのより小さい値によって取り囲まれている場合にのみ最大値とみなし得ることを考慮して、最大値に達しているかどうかを見いだすために、各神経信号の神経活動が分析される。例えば、3つのレンズ度数が、第1のレンズL1の度数が、それ自体が第3のレンズL3の度数よりも小さい第2のレンズL2の度数よりも小さい場合、第2のレンズL2で得られた神経活動が、第1のレンズL1で得られた神経活動よりも大きく、且つ第3のレンズL3で得られた神経活動よりも大きい場合にのみ、神経活動は最大に達している。
【0137】
上記で説明したように、1つのレンズ度数に関連する対象者の神経活動は、そのレンズ度数に対して記録された神経信号の少なくとも1つの特徴を抽出することによって判定される。
【0138】
ここで、神経活動の指標を与える神経信号の特徴は、記録された神経信号に由来するスペクトル信号における振幅である。より高い神経活動は、スペクトル信号におけるより高い振幅と一致する。より具体的には、神経活動は、スペクトル信号において示されるメインピークの振幅の値から推測される。
【0139】
最大値に達している場合、方法は、ステップb)に進む(図1のブロックE6及びE7)。
【0140】
最大値にまだ達していない場合、以前にテストした度数とは異なる度数で、更なるレンズがテストされる(図1のブロックE4)。
【0141】
このように、更なるレンズが対象者の目の前に配置され、対応する神経信号が神経センサ11によって検出されて、更なる分析のために記録される。
【0142】
再び、神経活動が最大に達しているかどうかが分析される(図1のブロックE5)。そうである場合、方法は、ステップb)に進む(ブロックE6及びE7)。そうでない場合、方法は、新たな度数を示す更なるレンズをテストするためにブロックE4及びE5を繰り返す。ブロックE4及びE5の反復は、最大の神経活動に達するまで繰り返される。
【0143】
好ましくは、テスト対象者の眼1にレンズを提供するとき(ブロックE2及びE4)、2つの継続するテストレンズ度数間のジオプタのステップは、0.1~0.5D内で構成され、例えば、0.25Dである。本発明において、「継続する」という表現は、レンズの度数を比較するために使用され、必ずしもかかるレンズ度数がテスト対象者に提供される瞬間を比較するために使用されるものではないが、「連続する」という表現は、かかるレンズ度数がテスト対象者に提供される瞬間を比較するために使用される。
【0144】
好ましくは、テスト対象者の眼1に提供される各継続するレンズ度数は、以前に説明したように、テスト対象者の最適補正の概算推定値である基準レンズ度数に基づいて選択される。そのような基準レンズ度数は、導入部で説明したように、客観的屈折検査によって得ることができる。基準レンズ度数は、例えば、方法を実施する前のステップにおいて判定することができる(図1のブロックE1)。基準レンズ度数はまた、テスト対象者の以前の補正値であってもよい。
【0145】
より正確には、2つの継続するレンズ度数間のジオプタ(D)のステップは、好ましくは、レンズ度数が基準レンズ度数から遠いときよりも、レンズ度数が基準レンズ度数に近いときの方が小さい。例えば、2つの継続するレンズ度数間のステップは、度数が基準レンズ度数と比較して±1D以上であるときに0.5Dであり、度数が基準レンズ度数と比較して±1Dより小さいときに0.25又は更には0.1Dである。
【0146】
実際、基準レンズ度数に近い度数を示すレンズに対して得られる神経信号は、最大の神経活動を示す可能性がより高い。したがって、互いに近いレンズの度数をテストすることにより、最大の神経活動の判定における精度が向上する。
【0147】
本発明の方法の有利な特徴によれば、ブロックE2及びE4において対象者の眼の前に配置される各連続するレンズの度数は、ランダムに選択されるのではなく、特定の順序で選択される。
【0148】
より具体的には、テスト対象者の眼1に提供されるレンズ度数は、連続してどんどん小さくなり、眼に提供される最初のレンズ度数は、対象者の視覚をぼやけさせるものである。言い換えれば、第1のレンズ度数は、好ましくは、対象者の基準レンズ度数よりも大きいジオプタ、例えば、基準レンズ度数と比較して+2ジオプタ又は+1ジオプタで選択される。
【0149】
神経信号の1つによって最大の神経活動に達しているかどうかを分析し、且つ対象者の眼1の前に配置された連続するレンズがどんどん小さくなる度数を示すことを知るために、最後に記録された神経信号の神経活動を、直接以前に記録された神経信号の神経活動と比較すれば十分である。したがって、直接以前に記録された神経信号が最後に記録された神経信号よりも多くの神経活動を示す場合、最大の神経活動に達しているとみなされ、その直接以前に記録された神経信号は、最大の神経活動を示すものである。
【0150】
本発明の方法の有利な特徴によれば、対象者の眼の前に配置される次のレンズの度数は、ブレインコンピュータインターフェースによって判定され、レンズ度数は、以前に記録された神経信号の神経活動の分析に基づいて自動的に変更される。「自動的に」とは、機械とは別に誰もレンズの交換を操作しないことを意味し、そのような操作は、以前に記録された神経信号の分析に基づく。有利には、連続して記録された2つの神経信号の分析及び比較は、リアルタイムで、すなわち1分未満、例えば約30秒で行うには十分に高速である。連続する2つの神経信号とそれらのそれぞれの神経活動との比較は、図6に示されるように、レンズ度数の関数として神経活動(ここではスペクトル信号のピークの振幅)をプロットすることによって行うことができる。2つの連続する神経信号とそれらのそれぞれの神経活動との比較はまた、計算によって行うことができる。
【0151】
したがって、ブレインコンピュータインターフェースによって駆動される自動屈折計を用いて実施される、本発明の方法による屈折検査は、グローバルで約10分、すなわち約15~20分かかる主観的屈折検査よりもはるかに短い時間で行うことができる。
【0152】
最大の神経活動が見いだされるやいなや、ステップa)は停止することができ、ステップb)が開始する(図1のブロックE6及びE7)。
【0153】
ステップb)
いったん最大の神経活動が見いだされると、かかる最大の神経活動から低減された神経活動が判定される。
【0154】
例えば、本発明の装置に関連して上記で説明したように、眼の調節反応に関連する係数kに基づいて最大の神経活動を補正することによって、所与の低減された神経活動が判定される。
【0155】
言い換えれば、脳が調節による神経アーチファクトを示さない場合に得られるであろう低減された神経活動を見いだすために、補正係数kがその最大の神経活動に適用される(図1のブロックE6)。
【0156】
例えば、係数kは、方法の実施前に制御ユニット15のメモリ150に提供される。
【0157】
実際には、係数kは、最大の神経活動の判定が基づく神経信号の特徴に適用される。ここで、係数kは、低減された振幅A(reduced)を見いだすために、スペクトル信号の分析から得られた最大振幅Amaxに対して乗算される。
A(reduced)=k*Amax
【0158】
係数kは、ステップb)の前のステップにおいて、好ましくは本発明の方法の実施前に、装置と関連して上記で説明した方法で予め判定される。
【0159】
装置の記載で説明したように、係数kは、神経活動の判定の基礎となる神経信号の特徴に依存する定数値である。
【0160】
例えば、神経活動を示す神経信号の特徴がスペクトル信号のピークの振幅である場合、係数kは、0.6~0.95、好ましくは0.7~0.9で選択される一定値である。係数kは、特に、0.6、0.65、0.7、0.75、0.8、0.85、0.9、又は0.95に等しくすることができる。
【0161】
更に、係数kは、対象者の年齢、及び/又は屈折補正などの対象者の眼の欠陥に依存し得る。
【0162】
低減された神経活動は、記録された神経信号の1つの神経活動であることができ、又は外挿された神経信号の神経活動であることができる。
【0163】
言い換えれば、低減された神経活動を示す神経信号(ここでは、スペクトル信号において低減された振幅Areducedを示す神経信号であるとみなされる)は、記録された神経信号の1つであるか、又はその記録された神経信号から外挿される。外挿されるとは、神経信号が、記録されていなかったが、記録された神経信号から推測されることを意味する。そのような外挿は、例えば、グラフィカルな又は数学的な外挿であり得る。
【0164】
次いで、例えば図7に基づいて、どのレンズ度数が低減された神経活動のそのような神経信号(図1のブロックE7)を与えることになるかを推測することができる。そのようなレンズ度数は、テスト対象者の屈折の最適補正である。
【0165】
したがって、本発明の方法及び装置のおかげで、たとえテスト対象者が自分の知覚について不確かな場合であっても、テスト対象者にとって最良の補正を客観的に特定することが可能である。
【0166】
本発明は、ここで上述したものに限定されない。
【0167】
特に、本発明の方法及び装置の第2の有利な実施形態では、制御ユニット15は、機械学習アルゴリズムを更に提供するように適合され得る。
【0168】
そのような機械学習アルゴリズムは、特に、ステップb)において、低減された神経活動と、そのような低減された神経活動をもたらすべきレンズ度数との両方を提供するために使用され得る(図1のブロックE6及びE7)。
【0169】
係数kが個人によって大きく変動すると思われる場合、そのような第2の実施形態は特に興味深い。
【0170】
機械学習アルゴリズムは、非常に複雑な神経信号を処理し、かかる神経信号を、対象者の脳における神経アーチファクトを誘発する眼の最適補正及び/又は調節反応に関連付けることができる。
【0171】
より正確には、機械学習アルゴリズムは、観察されたデータ点の訓練セットを入力として採用して、式、ルールのセット、又は他のデータ構造などのデータ構造を「学習」する。この学習されたデータ構造又は統計モデルは、次いで、訓練セットに関する一般化又は新たなデータに関する予測を行うために使用され得る。本明細書で使用する場合、「統計モデル」とは、2つ以上のデータパラメータ(例えば、入力及び出力)間の関係を確立又は予測する、任意の学習済み及び/又は統計データ構造を指す。以下、ニューラルネットワークを参照して本発明を説明するが、本発明に従って他のタイプの統計モデルが採用されてもよい。例えば、訓練データセットの各データ点は、データ点における別の値と相関する、又は予測する値のセットを含むことができる。
【0172】
ここで、機械学習アルゴリズムは、その眼に連続する別個のレンズ度数が提供され、且つその最適補正が、例えば、主観的屈折検査によって判定されたために、既に正確に知られている、多くの対象者について記録された神経信号のセットを用いて訓練される。
【0173】
本発明において、機械学習アルゴリズムは、機械学習アルゴリズムに提供される記録された各神経信号の神経活動を、対象者の屈折の最適補正の神経活動に関連付けるように構成され得る。言い換えれば、機械学習アルゴリズムの入力は、最大の神経活動を示す神経信号を含む、テスト対象者について記録された神経信号であってもよく、その出力は、対象者の最適補正の特徴である所与の神経活動を示す神経信号であってもよい。ここで、所与の神経活動は、機械学習アルゴリズムによって、最大の神経活動と比較して低減された神経活動として判定される。低減された神経活動は、調節することなく(又は可能な限り少ない調節で)、対象者が視覚刺激を明瞭に見ていることの特徴である。
【0174】
制御ユニット15のかかる機械学習アルゴリズムは、長短期記憶(LSTM)技術又は畳み込みニューラルネットワーク(CNN)のいずれかに基づくことができる。
【0175】
LSTM技術は、再帰ニューラルネットワーク(RNN)の一部である。古典的なRNN技術は、連続するレイヤに編成されたニューラルノードのネットワークを含む。所与のレイヤ内の各ノード(ニューロンとも呼ばれる)は、次のレイヤ内のノードの各々に対して一方通行で接続されている。この構造により、以前の瞬間t-1に対する第1のレイヤが現在の瞬間tに対する第2のレイヤに接続されているため、ニューラルネットワークにおいて以前の瞬間を考慮することが可能になる。この第2のレイヤはまた、その後の瞬間t+1に対する第3のレイヤに接続されており、そうして複数のレイヤを有する。したがって、入力として提供された各信号は、以前の瞬間に提供された信号を考慮に入れて、時間的な方法で処理される。
【0176】
CNN技術では、時間的な方法ではなく、信号を画像として使用する。取得された複数の信号は、所与のテスト期間中に取得された全てのデータで一度に処理される。次いで、機械学習アルゴリズムの出力を判定するために、複数の取得された信号で得られた画像に対して、数学的画像処理演算、例えば畳み込み積分が適用される。
【0177】
機械学習アルゴリズムは、判定ルールを定義するガイドモデルを含んでもよく、かかるガイドモデルは、機械学習アルゴリズムの予測をガイドするように構成される。これらのルールは、最大の神経活動を示す記録された神経信号と、対象者の最適補正のために得られた記録された神経信号との間の副相関を含み得る。例えば、このガイドモデルは、最大の神経活動を示す神経信号と、最適補正で得られた神経信号との間の特定の特性の所与の変動が、(わずかな調節反応から調節なし又はほとんど調節なしへの)調節の変動に相関しなければならず、したがって、屈折の最適補正に相関しなければならないことを規定することができる。別の例では、ガイドモデルは、最大の神経活動を示す上記神経信号と、最適補正で得られた上記神経信号との間の特定の特性の変動の所定の組み合わせが、(わずかな調節反応から調節なし又はほとんど調節なしへの)調節の変動を意味し、したがって、屈折の最適補正が見いだされたことを意味することを規定することができる。このガイドモデルにより、機械学習による相関を容易にすることが可能になり、したがって、相関にかかる時間を低減するとともにその精度も改善する。
【0178】
制御ユニット15は、既に訓練された機械学習アルゴリズムを使用することができ、すなわち、機械学習アルゴリズムのニューラルネットワークは、最大の神経活動を示す記録された神経信号と、最適補正の特徴的な神経信号の神経活動であるべきものとの間の相関を提供するように構成された式又はルールのセットを既に含む。或いは、制御ユニット15は、この相関を判定するために機械アルゴリズムを訓練するように構成される。
【0179】
機械学習アルゴリズムの訓練は、好ましくは、最適補正が既知である初期対象者のセットに関連する複数の記録された神経信号を、アルゴリズムに提供することによって実行される。「初期対象者」とは、機械学習アルゴリズムの学習に参加する対象者を意味する。言い換えれば、初期対象者は、機械学習アルゴリズムが、記録された神経信号を対象者に提供された各レンズ度数に相互に関連付けること、特に、記録された全ての神経信号の中の最大の神経活動を、最適補正に関連する神経信号の低減された神経活動に関連付けることを可能にするデータを提供する。逆に、「テスト対象者」とは、機械学習アルゴリズムに基づいて最適補正の判定が実行される対象者、すなわち、記録された神経信号に基づいて自分の最適補正の予測が実行され得る対象者を指す。
【0180】
この訓練は、アルゴリズムをより正確にするために何度も繰り返される。一例として、アルゴリズムの訓練には、少なくとも100人の初期対象者、好ましくは、1000人の初期対象者が含まれる場合がある。
【符号の説明】
【0181】
1 眼
2 アームチェア
3 前面支持部
10 装置
11 神経活動センサ
12 制御ユニット
13 自動屈折計
15 制御ユニット
50 眼鏡
51 アクティブ度数レンズ
52 フレーム
110 電極
111 追加電極
150 メモリ
151 プロセッサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
【国際調査報告】