(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-28
(54)【発明の名称】ボルト用鋼、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240521BHJP
C22C 38/46 20060101ALI20240521BHJP
C21D 8/06 20060101ALI20240521BHJP
C21D 1/32 20060101ALI20240521BHJP
C21C 7/10 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/46
C21D8/06 A
C21D1/32
C21C7/10 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573007
(86)(22)【出願日】2022-05-25
(85)【翻訳文提出日】2023-11-24
(86)【国際出願番号】 CN2022094924
(87)【国際公開番号】W WO2022247855
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】202110589959.3
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514216801
【氏名又は名称】バオシャン アイアン アンド スティール カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】ヤオ、ザン
(72)【発明者】
【氏名】ユ、ズーチュアン
(72)【発明者】
【氏名】ジン、フェン
(72)【発明者】
【氏名】チャオ、スーシン
(72)【発明者】
【氏名】チャオ、ハオヤン
【テーマコード(参考)】
4K013
4K032
【Fターム(参考)】
4K013BA08
4K013BA09
4K013BA11
4K013CE00
4K013CE01
4K032AA01
4K032AA05
4K032AA11
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4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA36
4K032BA02
4K032CA01
4K032CA02
4K032CC04
4K032CE02
4K032CF02
4K032CG01
4K032CH05
4K032CL02
(57)【要約】
本発明は、Feおよび不可避的不純物に加えて質量パーセントで以下の化学元素を含むボルト用鋼を開示する:C:0.37~0.45%;Si:0.01~0.08%;Mn:0.45~0.80%;Cr:0.90~1.30%;Mo:0.20~0.45%;Ni:0.10~0.30%;V:0.15~0.30%;およびAl:0.015~0.035%。本発明は、以下の工程を含むボルト用鋼の製造方法をさらに開示する:(1)製錬;(2)鋳造;(3)粗圧延;(4)高速ワイヤ圧延;(5)ステルモア(Stelmor)制御冷却;および(6)熱処理、ここで球状化熱処理の保持温度は760-790℃であり、そして保持時間は4-12hであり、保持後に40℃/hよりも低い冷却速度での徐冷プロセスが続く。コイルロッドの伸線減面率は伸線の間5~30%に制御される。焼き入れおよび焼き戻し熱処理の加熱温度は850~950℃である。焼き戻し温度は500~600℃である。本発明に開示されるボルト用鋼は、均一な構造および性能を有し、低い生産コストを有し、そして高強度および良好な耐遅れ破壊特性を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feおよび不可避的不純物に加えて質量パーセントで以下の化学元素を含むボルト用鋼:
C:0.37-0.45%;
Si:0.01-0.08%;
Mn:0.45-0.80%;
Cr:0.90-1.30%;
Mo:0.20-0.45%;
Ni:0.10-0.30%;
V:0.15-0.30%;および
Al:0.015-0.035%。
【請求項2】
質量パーセントで以下の化学元素からなる、請求項1に記載のボルト用鋼:
C:0.37-0.45%;
Si:0.01-0.08%;
Mn:0.45-0.80%;
Cr:0.90-1.30%;
Mo:0.20-0.45%;
Ni:0.10-0.30%;
V:0.15-0.30%;
Al:0.015-0.035%、および;
残部がFeおよび不可避的不純物。
【請求項3】
不純物元素の含有量が質量パーセントで以下を満足する、請求項2に記載のボルト用鋼:Cu≦0.05%;P≦0.01%;S≦0.010%;O≦0.001%;およびN≦0.005%。
【請求項4】
質量パーセントで元素Alの含有量と元素Oの含有量との間の比が以下を満足する、請求項3に記載のボルト用鋼:Al/O>20。
【請求項5】
元素V、元素Cおよび元素Nの含有量が質量パーセントで以下を満足する、請求項3に記載のボルト用鋼:V×(C+N)≦1/8。
【請求項6】
ボルト用鋼が焼き戻しソルバイトを含む微細構造を有する、請求項1または2に記載のボルト用鋼。
【請求項7】
微細構造がVの炭窒化物析出物をさらに有し、ここで5-50nmのサイズを有するVの炭窒化物析出物の数の割合が90%よりも高い、請求項6に記載のボルト用鋼。
【請求項8】
ボルト用鋼中の介在物が38μm未満のサイズを有する、請求項1または2に記載のボルト用鋼。
【請求項9】
ボルト用鋼が以下の特性を満足する、請求項1または2に記載のボルト用鋼:引張強度≧1200MPa、降伏対引張比>0.9、水素チャージおよび低速ひずみ試験における引張強度損失≦10%、ボルト締め付けおよびねじり変動≦8%、およびボルト疲労寿命>75000回。
【請求項10】
以下の工程を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載のボルト用鋼の製造方法:
(1)溶融鋼を製錬する工程;
(2)製錬した溶融鋼を鋳造してビレットを生産する工程;
(3)ビレットに対して粗圧延を行う工程;
(4)高速ワイヤ圧延を行ってコイルロッドを生産する工程;
(5)コイルロッドに対してステルモア(Stelmor)制御冷却を行う工程;および
(6)熱処理工程:コイルロッドを球状化熱処理、伸線、ならびに焼き入れおよび焼き戻し熱処理に連続して供することを含み、ここで球状化熱処理の保持温度は760-790℃であり、そして保持時間は4-12hであり、保持後に40℃/hよりも低い冷却速度での徐冷プロセスが続き;ここでコイルロッドの伸線減面率は伸線の間5-30%に制御され;ここで焼き入れおよび焼き戻し熱処理の加熱温度は850-950℃であり、そして焼き戻し温度は500-600℃である。
【請求項11】
工程(1)において、真空脱気時間が製錬の間15分よりも長いように制御される、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
工程(2)において、ビレットのコアでの炭素偏析が鋳造の間1.10よりも低いように制御される、請求項10に記載の製造方法。
【請求項13】
工程(3)において、粗圧延がブルーミング後にビレットを加熱することを含み、ここでビレット加熱プロセスの間の加熱温度が960-1150℃であるように制御され、そして保持時間が1.5-3.0hであるように制御される、請求項10に記載の製造方法。
【請求項14】
工程(4)において、圧延速度が8-90m/sであるように制御される、請求項10に記載の製造方法。
【請求項15】
工程(4)において、仕上げ圧延ユニットの入り口温度が850-970℃に制御され、減速およびサイジングユニットの入り口温度が800-950℃であるように制御され、そしてレイング温度が750-900℃であるように制御される、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
工程(5)において、ステルモア(Stelmor)制御冷却が少なくとも14つのファンを使用し、ここでファンF1-F5の風量が80%以下であり、ファンF6-F12の風量が50%以下であり、そしてファンF13-F14の風量が45%以下である、請求項10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、金属材料およびその製造方法、特に鋼種およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
「工業の米」として知られるファスナーは、2つ以上のパーツ(またはコンポーネント)を留めそして接続して一体にする際に用いられる機械部品の種類のための一般用語であり、そして国家経済の様々な部門において最も広範にかつ多数に用いられる機械的基本コンポーネントである。ボルトファスナー接続は、単純、便利、複数回の分解および再組立、高い規格化および低コストの利点を有する。非常に多くの様々なファスナーが様々な機械設備、車両および船舶、航空機および衛星、鉄道および橋梁、建造物、工具および器具、電化製品および装置、日用品などに用いられる。
【0003】
現在、ファスナーは主として自動車工業、電子工業、ならびに建設業および整備業において用いられ、自動車工業におけるファスナーはそれらのなかでも最も広範に用いられ、そして自動車ファスナーのために一般的に用いられる材料は、チタン合金、鋼、銅、アルミニウム、ナイロンおよび他の金属、非金属などを含む。自動車ファスナーのための鋼は、製品の特徴に従って以下の4つのカテゴリーに分類され得る:(1)非熱処理鋼:主として低炭素鋼シリーズを含み、ここで加工された仕上げ製品のグレードは3.6-5.8である;(2)焼き入れおよび焼き戻し鋼:主として中炭素鋼、低合金鋼、および合金鋼シリーズを含む;(3)表面硬化鋼:ML18Mn、ML22Mn、およびML20Crによって代表され、ここで主要な加工された仕上げ製品は、セルフタッピングねじ、セルフタッピングセルフドリルねじおよび表面浸炭を必要とする他の製品である;および(4)非-焼き入れおよび焼き戻し鋼:合金非-焼き入れおよび焼き戻し鋼としても知られ、ここでファスナーのための非-焼き入れおよび焼き戻し鋼は、主として冷間加工硬化鋼であり、そしてその鋼グレード番号は、しばしば文字「LF」が前につく。
【0004】
現在は、市場において広範に用いられる自動車高強度ファスナーの4つの性能グレードがあり、これらはそれぞれ8.8、9.8、10.9および12.9である。8.8グレード以上の高強度ボルトは、大部分は炭素鋼または中炭素合金鋼で作製される。なぜなら、それらは大きな負荷に耐えることが要求され、そしてそれらの応力状態は非常に複雑であり、そして焼き入れおよび焼き戻しされて製品の十分な強度および降伏対引張比を確保する必要があるからである。
【0005】
自動車エンジンにおいて、一般的に用いられる高強度ファスナーは、通常いくつかのカテゴリーを含み得る:シリンダーヘッドボルト、コネクティングロッドボルト、フライホイールボルト、ベアリングキャップボルト、プーリーボルトなど、これらは自動車ファスナーの最も要求の厳しい製品でもある。自動車の走行プロセスにおいて、エンジンは高速で作動するので、エンジン締め付けボルトは引張繰り返し応力に供され、そして疲労破壊を起こしやすい。エンジン締め付けボルトは8.8グレード以上の高強度ファスナーに属する。近年、ボルトの強度はコンパクトおよび小型エンジンの開発とともに絶え間なく改良されている。このような高強度ボルトは、水素脆化遅れ破壊を起こしやすい。一旦エンジン締め付けボルトが問題を有すると、自動車エンジンの通常の作動は影響を受け、これは大きな損傷を引き起こす。エンジンシリンダーヘッドボルトなどの締め付けボルトの均一性の問題はエンジンの信頼性および燃料効率に大きく影響を与えることが分かる。
【0006】
従って、自動車エンジンの信頼性および燃料効率を確保するために、水素脆化遅れ破壊への耐性を強化し、そして自動車エンジンボルトなどの高強度ボルトの材料均一性を改善し、それによってボルトの性能の一貫性を確保することは常にエンジンボルト研究の焦点である。
【0007】
例えば:2020年9月4日に公開され、そして「優れた耐腐食性および耐遅れ破壊特性を有するボルト用丸鋼およびその生産方法」と題された中国特許公開No. CN111621714Aは、優れた耐腐食性および耐遅れ破壊特性を有するボルト用丸鋼を開示し、0.55-0.60%の炭素含有量を有し、大量のSiが1.80-2.00%まで添加され、一方、0.20-0.35%のCu元素もまた添加される。この技術的解決法では、合金の熱間圧延および熱処理の間に脱炭および亀裂を制御することは困難であり、そして加工したボルトの性能は劣っている。
【0008】
別の例では:2018年12月6日に公開され、そして「優れた耐大気腐食性および耐遅れ破壊特性を有する高強度ボルト」と題された中国特許公開No. CN108754303Aは、優れた耐大気腐食性および耐遅れ破壊特性を有する高強度ボルトを開示し、これは0.30-1.20%のNiおよび0.20-0.60%のCuの添加だけでなく、0.005-0.030%のRe希土類元素の添加を必要とし、高い合金コストおよび大きな製錬制御の困難さをもたらす。
【0009】
さらに別の例では、2020年2月14日に公開され、そして「ニオブおよびチタンを含む耐大気腐食性を有する14.9-グレード高強度ボルト用鋼およびその生産方法」と題された中国特許公開No. CN110791715Aは、ニオブおよびチタンを含む耐大気腐食性を有する14.9-グレード高強度ボルト用鋼を開示し、これは0.80-1.00%のMoおよび大量のV、Nb、Ti、Cr、およびCuの添加を必要とする。この解決法におけるこのような合金は、生産するのが困難であり、そして高いコストを有し、そして加工したボルトの性能安定性は保証され得ない。
【0010】
当該分野における多くの解決法は、依然として多くの欠点を有し、そして近年、車両のエネルギー節約および排出削減効果のための法令の要求の増加と共に、市場および消費者もまた自動車についてより高い要求を提案しており、これは軽量の要求を満足しつつエンジンの効率を改善する自動車を要求することが分かる。従って、自動車エンジンが軽量および小型化の要求を満足しつつ良好な信頼性および燃料効率を有することを確保するために、高強度および優れた材料均一性ならびに耐遅れ破壊特性を有する均質な高強度耐久性ボルトの緊急の必要性がある。
【0011】
これに基づき、上記課題を解決するため、本発明は、ボルト用鋼およびその製造方法を得ることを期待し、ここでボルト用鋼は均一な構造および性能、良好な性能の一貫性および安定性、低い生産コスト、高強度および良好な耐遅れ破壊特性を有する。ボルト用鋼は、均質な高強度耐久性ボルトを製造するために用いられ得、そして製造された均質な高強度耐久性ボルトは、エンジンの締め付け力の安定性を改善するために有益であり、それによってエンジンの小型化および高い燃焼効率を実現し、エネルギー節約および排出削減の目的を達成し、これは優れた経済的および社会的利益を有する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
要約
本発明の目的の1つは、ボルト用鋼を提供することである。ボルト用鋼は均一な構造および性能、ならびに良好な耐遅れ破壊特性を有する。ボルト用鋼は、自動車エンジン、高性能精密機械などの締め付け力に対する高い要求を有する用途シナリオに効果的に適用され得る均質な高強度耐久性ボルトを製造するために用いられ得、これは、エンジンの効率および機械の機械加工精度を顕著に改善し、そしてそれゆえ広範な市場用途の見通しおよび非常に良好な経済的および社会的利益を有する。
【0013】
上記目的を達成するため、本発明は、Feおよび不可避的不純物に加えて質量パーセントで以下の化学元素を含むボルト用鋼を提供する:
C:0.37-0.45% C;
Si:0.01-0.08% Si;
Mn:0.45-0.80% Mn;
Cr:0.90-1.30% Cr;
Mo:0.20-0.45% Mo;
Ni:0.10-0.30% Ni;
V:0.15-0.30% V;および
Al:0.015-0.035%。
【0014】
好ましくは、本発明によるボルト用鋼は、質量パーセントで以下の化学元素からなる:
C:0.37-0.45% C;
Si:0.01-0.08% Si;
Mn:0.45-0.80% Mn;
Cr:0.90-1.30% Cr;
Mo:0.20-0.45% Mo;
Ni:0.10-0.30% Ni;
V:0.15-0.30% V;
Al:0.015-0.035%、および残部がFeおよび不可避的不純物。
【0015】
本発明によるボルト用鋼において、各化学元素の設計原理は以下のように具体的に記載される:
【0016】
C:本発明によるボルト用鋼において、C元素はボルト用鋼の高強度を確保するために必要な化学成分であり、そしてC元素の含有量は焼き入れおよび焼き戻し熱処理後のコイルロッドおよび仕上げボルト中に析出した炭化物の数を決定し、これは合金の硬度および強度に大いに影響を与える。従って、鋼の品質を確保するため、本発明の鋼中のC元素の含有量は、0.37%以上であるように制御される必要がある。しかし、鋼中のC元素の含有量は高すぎないべきであることに留意すべきである。高すぎる炭素含有量の設計は、材料中の炭化物の過剰な析出およびサイズ増加をもたらし、これは材料の塑性および靭性を低下させ、そして耐遅れ破壊特性の劣化をもたらす。従って、C元素の含有量は0.45%以下であるように制御する必要がある。これに基づき、本発明によるボルト用鋼において、C元素の質量含有量は0.37-0.45%であるように制御される。
【0017】
Si:本発明によるボルト用鋼において、Si元素は製錬の間に脱酸剤として鋼にしばしば添加されるが、フェライト相中に固溶したSi元素は鋼の強度を顕著に改善する。しかし、鋼中のSi元素の含有量は高すぎないべきであり、そして鋼中のSi元素の含有量が高すぎる場合、材料の冷間圧造形成能が低下し、これが材料の耐遅れ破壊特性をさらに劣化させることに留意すべきである。従って、鋼の品質を確保するため、本発明の鋼中のSi元素の含有量は、0.08%以下であるように制御される必要がある。同時に、鋼中の介在物の融点を低下させそして大きな粒子の変形不可能な介在物を除去するため、Si元素の含有量は0.01%以上であるように制御する必要がある。これに基づき、本発明によるボルト用鋼において、Si元素の質量含有量は0.01-0.08%であるように制御される。
【0018】
Mn:本発明によるボルト用鋼において、Mn元素もまた鋼作製プロセスの間に脱酸剤として鋼にしばしば添加される。同時に、Mn元素は鋼中の有害元素Sに容易に結合してMnSを形成し、その結果元素Sの害は低減され得る。さらに、Mnは鋼中に一般に使用される強化元素でもあり、そして固溶強化で主として役割を果たし、その結果形成した合金セメンタイトはより高い強度を有し、そしてそれゆえ合金中のMn元素の含有量を0.45%以上であるように制御する必要がある。しかし、Mn元素の含有量は高すぎないべきであることに留意すべきである。鋼中のMn元素の含有量が高すぎる場合、材料の加熱の間の粒子粗大化の傾向が増大し、そして制御冷却構造を制御する困難性が増大する。Mn元素は残留元素の偏析を促進する傾向がある。従って、鋼中のMn元素の含有量は0.80%以下であるように制御する必要がある。これに基づき、本発明によるボルト用鋼において、Mn元素の質量含有量は0.45-0.80%であるように制御される。
【0019】
Cr:本発明によるボルト用鋼において、Cr元素の添加は、合金の焼入れ性を改善し、そしてボルトの焼き入れおよび焼き戻しプロセスの間に構造を微細化し、そしてまた材料の強度および塑性の両方を改善するセメンタイトの強度を改善するのに有益である。同時に、Cr元素は材料の耐腐食性を改善し、そして水素脆化感受性を低下させるのに有益である。従って、鋼の品質を確保するため、鋼中のCr含有量は0.90%以上であるように制御する必要がある。さらに、異常なマルテンサイト構造の発生を防止し、そしてコイルロッドの構造を制御する困難性を低減するため、鋼中のCr元素の含有量はまた高すぎないべきであり、そしてCr元素の含有量は1.30%以下であるように制御する必要がある。従って、本発明によるボルト用鋼において、Cr元素の質量含有量は0.90-1.30%であるように制御される。
【0020】
Mo:本発明によるボルト用鋼において、Mo元素の添加は、構造を微細化し、材料の焼き戻し安定性を改善し、高温焼き戻し下での材料の強度および硬度を改善し、そして材料の耐遅れ破壊特性を改善するのに有益である。しかし、鋼中のMo元素の含有量は高すぎないべきであり、そして過剰のMo元素が鋼に添加された場合、材料構造の制御の困難性が増大し、そして合金のコストが増大することに留意すべきである。従って、本発明によるボルト用鋼において、Mo元素の質量含有量は0.20-0.45%であるように制御される。
【0021】
Ni:本発明によるボルト用鋼において、Ni元素はオーステナイト形成元素であり、そしてフェライト相中に固溶し得、これは材料の強度を改善するのに有益である。同時に、Ni元素はまた材料の焼入れ性を効果的に改善し得、それによって構造の均一性を改善し、そしてボルトの焼き入れおよび焼き戻しプロセスの間に構造を微細化する。しかし、鋼中のNi元素の含有量も高すぎないべきであることに留意すべきである。高すぎるNiの含有量は、材料の生産プロセスの間に異常なマルテンサイト構造の発生を引き起こし、そしてまた合金のコストに影響を与える。従って、本発明によるボルト用鋼において、Ni元素の質量含有量は0.10-0.30%であるように制御される。
【0022】
V:本発明によるボルト用鋼において、V元素は鋼中のCおよびN元素と容易に反応して炭窒化物を析出させ得る。これらのナノスケールの析出物は、材料の強度および塑性を大いに強化する。同時に、Vの浸炭窒化は、水素トラップとして作用し得、これは鋼中の遊離水素元素と結合してその害を低減する。鋼中のVの炭窒化物の数およびサイズを制御することによって、材料の耐遅れ破壊特性の改善が実現され、一方で材料特性の一貫性もまた改善される。V元素の促進効果を発揮するため、鋼中のV元素の含有量は0.15%以上であるように設計されるが、V元素の過剰量の添加はその炭窒化物のサイズへの増大を引き起こし、材料の塑性および靭性ならびに成形性を劣化させ、そしてそれゆえ、鋼中のV元素の含有量は0.30%以下であるように制御する必要もある。これに基づき、本発明によるボルト用鋼において、V元素の質量含有量は0.15-0.30%であるように制御される。
【0023】
Al:本発明によるボルト用鋼において、Al元素は、鋼作製プロセスにおける最も効果的な脱酸元素であり、その脱酸効果を発揮する。しかし、脱酸の間、Alは鋭いエッジおよび角を有するAl2O3粒子を生成する傾向があり、これは、特に鋼中の酸素含有量が高すぎる場合、仕上げボルトの疲労寿命、耐久性および耐遅れ破壊特性に著しく影響を与える。従って、高強度ボルトの性能を確保し、そして大きな粒子の脆い介在物の発生を防止して鋼の品質を改善するため、本発明によるボルト用鋼において、Al元素の質量含有量は0.015-0.035%であるように制御され得る。
【0024】
好ましくは、本発明によるボルト用鋼において、不純物元素の含有量は質量パーセントで以下を満足する:Cu≦0.05%;P≦0.01%;S≦0.010%;O≦0.001%;およびN≦0.005%。
【0025】
上記技術的解決法において、Cu、P、S、OおよびN元素は全て鋼中の不純物元素である。より良好な性能およびより良好な品質を有する鋼を得るため、鋼中の不純物元素の含有量は、技術的条件が許す場合、できる限り低減されるべきである。
【0026】
本発明において、不純物元素Cuは高強度鋼の熱間脆性を引き起こすおそれがあり、そして同時に、材料中の過剰なCu元素の不均一な分布は材料中の残留オーステナイト含有量を増加させ、そして性能安定性を低下させ、そしてそれゆえ、本発明によるボルト用鋼において、Cu元素の含有量は0.05%以下であるように制御する必要があることに留意すべきである。
【0027】
従って、本発明において、鋼中のPおよびS元素の高すぎる含有量は、特に偏析が生じる場合、鋼の脆性を増大させ、そしてそれゆえ、本発明によるボルト用鋼において、PおよびS元素の含有量はP≦0.01%およびS≦0.010%であるように制御される必要がある。
【0028】
さらに、本発明において、N元素はまた材料の増大を引き起こし、一方NおよびC元素の高すぎる含有量は、ボルト用鋼中のマイクロ合金析出物のサイズの増大を引き起こし、材料の耐遅れ破壊特性を低下させ、そしてそれゆえ、本発明によるボルト用鋼において、N元素の含有量は0.005%以下であるように制御される必要がある。
【0029】
さらに、本発明において、不純物元素としてのO元素の含有量は0.001%以下であるように制御され得る。
【0030】
好ましくは、本発明によるボルト用鋼において、質量パーセントで元素Alの含有量と元素Oの含有量との間の比は以下を満足する:Al/O>20。
【0031】
本発明による技術的解決法において、より良好な実施効果ならびにより良好な品質および性能を有する鋼を得るため、単一の化学元素の含有量を制御する場合、好ましくはAl元素の含有量とO元素の含有量との間の比はAl/O>20を満足するよう制御することも可能である。式中の各元素は、元素の対応する質量含有量で置き換えられる。
【0032】
本発明において、Al/O>20を制御することは、多すぎる粗い単一粒子介在物の発生を回避しつつ、鋼中の酸素含有量を低減するのに有益であり、これは、生成した大粒子介在物が38μm未満のサイズを有し、それによって材料の塑性および靭性ならびに耐遅れ破壊特性への損害を防止することを確保し得る。
【0033】
好ましくは、本発明によるボルト用鋼において、元素V、元素Cおよび元素Nの含有量は質量パーセントで以下を満足する:V×(C+N)≦1/8。
【0034】
本発明による技術的解決法において、単一の化学元素の含有量を制御しつつ、V元素、C元素およびN元素の含有量はV×(C+N)≦1/8を満足するよう制御することも可能である。式中の各元素は、元素の対応する質量含有量のパーセントの記号の前の数値で置き換えられる。
【0035】
本発明において、好ましくは、仕上げボルト中の5-50nmのサイズを有するVの炭窒化物析出物の割合が90%よりも高いように、V×(C+N)≦1/8をさらに制御し、それによって鋼中のV元素の含有量を制御することが可能である。このようなナノサイズの炭化物の存在は、材料の強度ならびに塑性および靭性を有利に増大させ、それと同時にボルトの水素脆化の傾向を低下させる水素トラップとして作用する。
【0036】
好ましくは、本発明によるボルト用鋼は、焼き戻しソルバイトを含む微細構造を有する。
【0037】
好ましくは、本発明によるボルト用鋼の微細構造は、Vの炭窒化物析出物をさらに有し、ここで5-50nmのサイズを有するVの炭窒化物析出物の数の割合は90%よりも高い。
【0038】
本明細書中、Vの炭窒化物析出物および介在物に関して「サイズ」は、単一の析出物または介在物のサイズ、具体的には析出物または介在物の中心を通過する最長線セグメントの長さ、例えば直径(球形またはおおよそ球形である場合)または長軸(楕円形またはおおよそ楕円形である場合)または他の長さ(他の形状である場合)などに言及する。
【0039】
好ましくは、本発明によるボルト用鋼中の介在物は、38μm未満のサイズを有する。
【0040】
好ましくは、本発明によるボルト用鋼は、以下の特性を満足する:引張強度≧1200MPa、降伏対引張比>0.9、水素チャージおよび低速ひずみ試験における引張強度損失≦10%、ボルト締め付けおよびねじり変動≦8%、およびボルト疲労寿命>75000回。「降伏対引張比」は降伏強度と引張強度との間の比に言及する。
【0041】
本明細書中、鋼の機械特性は、GB/T 228.1-2010「金属材料-引張試験」に従って決定される。「ボルト疲労寿命」は、ボルトが破壊する時の試験の数に言及し、そしてGBT 13682-1992「ねじ切りファスナーについての軸方向荷重疲労試験」に従って決定される。「水素チャージおよび低速ひずみ試験における引張強度損失」は、(大気条件下の引張強度)-(水素腐食条件下の引張強度)/(大気条件下の引張強度)として計算され、そしてGB/T 15970.7-2017「金属および合金の腐食-応力腐食試験第7部:低歪み速度試験」に従って決定される。「ボルト締め付けおよびねじり変動」は、(ボルト締め付けの間に実際に負荷されるトルク)-(目標トルク)/(目標トルク)として計算され、ここで値が小さくなると、材料の均一性はより良好になる。
【0042】
従って、本発明の別の目的は、ボルト用鋼の製造方法を提供することである。製造方法は操作するのが簡単であり、そして該方法によって製造されたボルト用鋼は均一な構造および性能を有する。鋼は、1200MPa以上の引張強度、0.9より大きい降伏対引張比、水素チャージおよび低速ひずみ試験における引張強度損失≦10%、8%以下のボルト締め付けおよびねじり変動、および75000回を超えるボルト疲労寿命を有する。鋼は、自動車エンジン、高性能精密機械などの締め付け力に対する高い要求を有する用途シナリオに効果的に適用され得るボルトを製造するために用いられ得、そしてそれゆえ非常に良好な経済的および社会的利益を有する。
【0043】
上記目的を達成するため、本発明は、以下の工程を含むボルト用鋼の製造方法を提供する:
(1)溶融鋼を製錬する工程;
(2)製錬した溶融鋼を鋳造してビレットを生産する工程;
(3)ビレットに対して粗圧延を行う工程;
(4)高速ワイヤ圧延を行ってコイルロッドを生産する工程;
(5)コイルロッドに対してステルモア(Stelmor)制御冷却を行う工程;および
(6)熱処理工程:コイルロッドを球状化熱処理、伸線、ならびに焼き入れおよび焼き戻し熱処理に連続して供することを含み、ここで球状化熱処理の保持温度は760-790℃であり、そして保持時間は4-12hであり、保持後に40℃/hよりも低い冷却速度での徐冷プロセスが続き;ここでコイルロッドの伸線減面率は伸線の間5-30%に制御され;ここで焼き入れおよび焼き戻し熱処理の加熱温度は850-950℃であり、そして焼き戻し温度は500-600℃である。
【0044】
好ましくは、本発明によるボルト用鋼の製造方法において、伸線後の冷間圧造などの当該分野においてボルト用鋼の製造プロセスで一般的に行われる他の工程がさらに含まれていてもよい。
【0045】
本発明によるボルト用鋼の製造方法によって、本発明による上記優れた特性を有するボルト用鋼のコイルロッドが効率的に製造され得る。
【0046】
本発明の技術的解決法において、工程(1)の製錬プロセスにおいて、溶融鋼は電気炉または転炉によって製錬され得、そして次いで外部精錬に供される。具体的には、外部精錬において、取鍋(レードル)炉(LF)および真空脱ガス(VD)またはRuhrstahll Heraeus (RH)脱ガスプロセスが用いられ得;合成スラグの組成および添加量は製錬プロセスの間に調節され、鋼中の不純物元素の含有量は制御され、そして真空脱気時間は15分よりも長いように制御される。製錬プロセスにおいて、鋼中の不純物元素PおよびSの含有量は0.010%よりも低いように制御され得、真空脱気時間は15分よりも長いことが要求され、O含有量の終点は0.0010%よりも低いように制御され、N含有量の終点は0.0050%よりも低いように制御され、そしてH含有量の終点は2ppmよりも低いように制御される。
【0047】
従って、本発明による製造方法の工程(2)において、ブルーム鋳造機を用いて鋳造プロセスの間に正方形ブルームが鋳造され得、鋳造プロセスの間にアルゴン保護が用いられ得、正方形ブルームのサイズは300-450mmであるように制御され得、そして伸線速度、ならびに連続鋳造プロセスの間に冷却パラメーターおよび軟質末端圧下パラメーターを調節することによって、ビレットのコアでの炭素偏析は1.10よりも低いように制御され得る。
【0048】
本明細書中、「コアでの炭素偏析」は、鋳造スラブの平均炭素含有量に対する鋳造スラブのコアの炭素含有量の比に言及し、ここで炭素含有量は規格GB/T 20123に従って決定され得る。
【0049】
本発明による製造方法の工程(3)、すなわち粗圧延工程において、連続鋳造スラブは1050-1250℃の温度でブルームにされて2回加熱生産プロセスを採用することによって150-250mmの正方形ビレットにされる。正方形ビレットが過流検査、磁粉検査、砥石車トリミング、補助磁粉検査およびトリミングに供された後、処理した正方形ビレットは加熱炉中で加熱される。ビレット加熱プロセスの間、加熱温度は960-1150℃であるように制御され得、そして保持時間は1.5-3.0hであるように制御され得る。
【0050】
さらに、本発明による製造方法の工程(4)において、高速ワイヤ圧延プロセスにおいて、圧延速度は8-90m/sであるように制御され得る。明らかに、いくつかの好適な実施態様において、より良好な実施効果を達成するため、オンライン温度における仕上げ圧延ユニットの入り口温度は、好ましくは850-970℃であるように制御され得、減速およびサイジングユニットの入り口温度は800-950℃であるように制御され得、そしてレイング温度は750-900℃であるように制御され得る。
【0051】
さらに、本発明において、圧延によって得られるコイルロッドのサイズ仕様はФ6-26mmであり得、そしてコイルロッドの構造変態は、ステルモア(Stelmor)ワイヤファンの風量を調節して本発明の工程(5)のステルモア(Stelmor)制御冷却プロセスの間のコイルロッドの構造を最適化することによって制御され得る。
【0052】
従って、本発明の製造方法の工程(6)において、熱処理工程において、製造したコイルロッドは球状化熱処理に供され得、ここで球状化熱処理の保持温度は760-790℃であるように制御され得、保持時間は4-12hであるように制御され得、保持後に40℃/hよりも低い冷却速度での徐冷プロセスが続く。コイルロッドの伸線減面率は5-30%であるように制御され得、焼き入れおよび焼き戻し熱処理の加熱温度は850-950℃であるように制御され得、そして焼き戻し温度は500-600℃であるように制御され得る。
【0053】
好ましくは、本発明の製造方法において、工程(1)において、真空脱気時間は製錬の間15分よりも長いように制御される。
【0054】
好ましくは、本発明の製造方法において、工程(2)において、ビレットのコアでの炭素偏析は鋳造の間1.10よりも低いように制御される。
【0055】
好ましくは、本発明の製造方法において、工程(3)において、ビレット加熱プロセスの間、加熱温度は960-1150℃であるように制御され、そして保持時間は1.5-3.0hであるように制御される。
【0056】
好ましくは、本発明の製造方法において、工程(4)において、圧延速度は8-90m/sであるように制御される。
【0057】
好ましくは、本発明の製造方法において、工程(4)において、仕上げ圧延ユニットの入り口温度は850-970℃であるように制御され、減速およびサイジングユニットの入り口温度は800-950℃であるように制御され、そしてレイング温度は750-900℃であるように制御される。
【0058】
好ましくは、本発明による製造方法において、工程(5)において、ステルモア(Stelmor)制御冷却は少なくとも14つのファンを使用し、ここでファンF1-F5の風量は80%以下であり、ファンF6-F12の風量は50%以下であり、そしてファンF13-F14の風量は45%以下である。
【0059】
本明細書中、単位%を有する「風量」は、各ファンの風量の割合に言及し、ここで各ファンの風量は200,000m3/hである。例えば、「ファンF1-F5の風量は80%以下である」は、ファンF1-F5のそれぞれの風量の割合が80%以下である、すなわちファンF1-F5のそれぞれの風量が160,000m3/h以下であることに言及し;「ファンF6-F12の風量は50%以下である」は、ファンF6-F12のそれぞれの風量の割合が50%以下である、すなわちファンF6-F12のそれぞれの風量が100,000m3/h以下であることに言及し;そして「ファンF13-F14の風量は45%以下である」は、ファンF13-F14のそれぞれの風量が45%以下である、すなわちファンF13-F14のそれぞれの風量が90,000m3/h以下であることに言及する。
【0060】
本発明の上記技術的解決法において、ステルモア(Stelmor)制御冷却は少なくとも14つのファンを用いることによって行われ、そしてステルモア(Stelmor)制御冷却後に得られるボルト用鋼のコイルロッドは良好な塑性および靭性を得ることができる。
【0061】
先行技術と比較して、本発明によるボルト用鋼およびその製造方法は、以下の利点および有益な効果を有する:
【0062】
本発明によるボルト用鋼は、均一な構造および性能、良好な性能一貫性および安定性、低い生産コスト、高強度および良好な耐遅れ破壊特性を有する。ボルト用鋼は、均質な高強度耐久性ボルトを製造するために使用され得、そして製造された均質な高強度耐久性ボルトは、自動車エンジン、高性能精密機械などの締め付け力に対する高い要求を有する用途シナリオに効果的に適用され得、これはエンジンの効率および機械の機械加工精度を顕著に改善し得る。広範な市場用途の見通しおよび非常に良好な経済的および社会的利益を有する。
【0063】
本発明によるボルト用鋼は、焼き入れおよび焼き戻し熱処理後に微細化焼き戻しソルバイト構造を有し、そして均一な構造および性能を有する。いくつかの好適な実施態様において、5-50nmのサイズを有するVの炭窒化物析出物の数の割合は90%よりも高い。介在物は38μm未満のサイズを有する。引張強度は1200MPa以上に達し得る。
【0064】
本発明によるボルト用鋼から製造される仕上げ高強度ボルトの疲労寿命および耐遅れ破壊特性は、従来の材料の疲労寿命および耐遅れ破壊特性と比較して2倍以上であり、そして同時に、ボルト締め付けおよびねじり変動は8%以下であり、その結果ボルトの締め付け力の均一性は顕著に改善され得、それによってエンジンの小型化および高い燃焼効率を実現し、そしてエネルギー節約および排出削減の目的を達成する。
【発明を実施するための形態】
【0065】
詳細な説明
次に、本発明によるボルト用鋼およびその製造方法は、具体的な実施例を参照してさらに説明および例示される。しかし、この説明および例示は本発明の技術的解決法の不適切な限定を構成しない。
【0066】
実施例1-10および比較例1-4
実施例1-10におけるボルト用鋼は全て、以下の工程によって製造する:
(1)表1-1および表1-2に示す化学組成に従って溶融鋼を製錬する:溶融鋼を電気炉または転炉によって製錬し、そして次いで外部精錬に供し、ここで外部精錬は取鍋(レードル)炉(LF)および真空脱ガス(VD)またはRuhrstahll Heraeus (RH)脱ガスプロセスを用い、合成スラグの組成および添加量は製錬プロセスの間に調節し、そして真空脱気時間は製錬プロセスの間15分よりも長いように制御する。
【0067】
(2)製錬した溶融鋼を鋳造してビレットを生産し:ブルーム鋳造機によって正方形ブルームを鋳造し、ここでアルゴン保護を鋳造の間に用いることができ、正方形ブルームのサイズは300-450mmであるように制御することができ、そして伸線速度、ならびに連続鋳造プロセスの間に冷却パラメーターおよび軟質末端圧下パラメーターを調節することによって、ビレットのコアでの炭素偏析は1.10よりも低いように制御することができる。
【0068】
(3)ビレットを粗圧延に供する:連続鋳造スラブを1100-1250℃の温度でブルームにし、2回加熱生産プロセスを採用することによって150-250mmの正方形ビレットにする。正方形ビレットを超音波検査、磁粉検査、砥石車トリミング、補助磁粉検査およびトリミングに供した後、処理した正方形ビレットを加熱炉中で加熱する。ビレット加熱プロセスの間、加熱温度は960-1150℃であるように制御し、そして保持時間は1.5-3.0hであるように制御する。
【0069】
(4)高速ワイヤ圧延を行ってФ6-26mmのサイズ仕様を有するコイルロッドを生産する:ここで圧延速度は8-90m/sであるように制御し、仕上げ圧延ユニットの入り口温度は850-970℃であるように制御し、減速およびサイジングユニットの入り口温度は800-950℃であるように制御し、そしてレイング温度は750-900℃であるように制御する。
【0070】
(5)コイルロッドに対してステルモア(Stelmor)制御冷却を行う:コイルロッドに対して14つのステルモア(Stelmor)ラインファンを用いることによってステルモア(Stelmor)制御冷却を行い、ここでファンF1-F5の風量は80%以下であり、ファンF6-F12の風量は50%以下であり、ファンF13-F14の風量は45%以下であり、そしてコイルロッドの構造変態を、ステルモア(Stelmor)ラインファンの風量を調節してコイルロッドの構造を最適化することによって制御する。
【0071】
(6)熱処理:コイルロッドを球状化熱処理、伸線、ならびに焼き入れおよび焼き戻し熱処理に連続して供することを含み、ここで球状化熱処理の保持温度は760-790℃であるように制御し、保持時間は4-12hであり、保持後に40℃/hよりも低い冷却速度での徐冷プロセスが続き、コイルロッドの伸線減面率は5-30%であるように制御し、焼き入れおよび焼き戻し熱処理の加熱温度は850-950℃であるように制御し、そして焼き戻し温度は500-600℃である。
【0072】
本発明の実施例1-10におけるコイルロッドは、上記工程を用いることによって製造し、そして本発明の設計仕様制御要求を満足する化学成分および関連するプロセスパラメーターを有することに留意すべきである。比較例1-4における比較コイルロッドもまた、製錬、鋳造、粗圧延、高速ワイヤ圧延、ステルモア(Stelmor)制御冷却および熱処理のプロセスを用いることによって製造するが、化学成分および関連するプロセスパラメーターにおいて本発明の設計要求を満足しないパラメーターがある。
【0073】
表1は、実施例1-10におけるボルト用鋼および比較例1-4における比較鋼の各化学元素の質量パーセントを列挙する。
【0074】
【0075】
【0076】
表2-1および表2-2は、実施例1-10におけるボルト用鋼および比較例1-4における比較鋼の、上記工程における特定のプロセスパラメーターを列挙する。
【0077】
【0078】
【0079】
最終的に製造した実施例1-10におけるボルト用鋼および比較例1-4における比較鋼を別個にサンプリングし、そして実施例および比較例における鋼サンプルを観察および分析し、実施例および比較例における鋼の構造を得る。観察完了後に実施例および比較例における鋼サンプルに機械特性試験を行い、そして観察および機械特性試験の結果をそれぞれ表3および表4に示す。
【0080】
関連する機械特性試験の方法を以下に記載する:
引張試験:試験を室温条件下、GB/T 228.1-2010「金属材料-引張試験」に従って行う。
【0081】
表3は、実施例1-10におけるボルト用鋼および比較例1-4における比較鋼の構造観察結果を列挙する。
【0082】
【0083】
表3に示すように、本発明において、実施例1-10におけるボルト用鋼の微細構造が焼き戻しソルバイトを含むことに留意すべきである。
【0084】
さらに、本発明の実施例1-10におけるボルト用鋼において、微細構造はVの炭窒化物析出物もまた有し、ここで5-50nmのサイズを有するVの炭窒化物析出物の割合が90%よりも高いことに留意すべきである。
【0085】
さらに、本発明の実施例1-10におけるボルト用鋼において、鋼中の介在物は38μm未満のサイズを有する。
【0086】
表4は、実施例1-10におけるボルト用鋼および比較例1-4における比較鋼の機械特性試験の結果を列挙する。
【0087】
【0088】
実施例1-10におけるサンプリングしたボルト用鋼および比較例1-4におけるサンプリングした比較鋼を加工して対応するボルトを得ることに留意すべきである。実施例1-10および比較例1-4において得られるボルトを関連する特性について試験し、そして得られた特性試験結果を表5に列挙する。
【0089】
表5は、実施例1-10のボルト用鋼および比較例1-4における比較鋼を加工して得たボルトの特性試験結果を列挙する。
【0090】
【0091】
表4および5に関連して分かるように、比較例1-4における比較ボルトは全て、実施例1-10におけるボルトよりも性能が著しく劣っている。本発明において、実施例1-10におけるボルト用鋼は全て、1200MPa以上の引張強度、0.9より大きい降伏対引張比、水素チャージおよび低速ひずみ試験における引張強度損失≦10%、8%以下のボルト締め付けおよびねじり変動、および75000回を超えるボルト疲労寿命という良好な性能を有する。
【0092】
本発明によるボルト用鋼は、均質な高強度耐久性ボルトを製造するために用いられ得、そして製造された均質な高強度耐久性ボルトは、自動車エンジン、高性能精密機械などの締め付け力に対する高い要求を有する用途シナリオに効果的に適用され得、これは、エンジンの効率および機械の機械加工精度を顕著に改善し得、そしてそれゆえ広範な市場用途の見通しおよび非常に良好な経済的および社会的利益を有する。
【0093】
さらに、本発明における技術的特徴の組み合わせは、本発明の特許請求の範囲または特定の実施態様における組み合わせに限定されず、そして本発明における全ての技術的特徴は、それらの間で矛盾がない限り、いかなる方法によっても自由に組み合わされまたは結合され得る。
【0094】
上記で列挙した実施態様は本発明の特定の実施態様でしかないことに留意すべきである。明らかに、本発明は上記実施態様に限定されず、そしてそれらを用いて作られる類似の変形または改変は、本発明によって開示される内容から直接得られ得るかまたは当業者によって容易に関連付けられ得、そして全て本発明の保護範囲内に含まれる。
【手続補正書】
【提出日】2023-11-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feおよび不可避的不純物に加えて質量パーセントで以下の化学元素を含むボルト用鋼:
C:0.37-0.45%;
Si:0.01-0.08%;
Mn:0.45-0.80%;
Cr:0.90-1.30%;
Mo:0.20-0.45%;
Ni:0.10-0.30%;
V:0.15-0.30%;および
Al:0.015-0.035%。
【請求項2】
質量パーセントで以下の化学元素からなる、請求項1に記載のボルト用鋼:
C:0.37-0.45%;
Si:0.01-0.08%;
Mn:0.45-0.80%;
Cr:0.90-1.30%;
Mo:0.20-0.45%;
Ni:0.10-0.30%;
V:0.15-0.30%;
Al:0.015-0.035%、および;
残部がFeおよび不可避的不純物。
【請求項3】
不純物元素の含有量が質量パーセントで以下を満足する、請求項2に記載のボルト用鋼:Cu≦0.05%;P≦0.01%;S≦0.010%;O≦0.001%;およびN≦0.005%。
【請求項4】
質量パーセントで元素Alの含有量と元素Oの含有量との間の比が以下を満足する、請求項3に記載のボルト用鋼:Al/O>20。
【請求項5】
元素V、元素Cおよび元素Nの含有量が質量パーセントで以下を満足する、請求項3に記載のボルト用鋼:V×(C+N)≦1/8。
【請求項6】
ボルト用鋼が焼き戻しソルバイトを含む微細構造を有する、請求項1または2に記載のボルト用鋼。
【請求項7】
微細構造がVの炭窒化物析出物をさらに有し、ここで5-50nmのサイズを有するVの炭窒化物析出物の数の割合が90%よりも高い、請求項6に記載のボルト用鋼。
【請求項8】
ボルト用鋼中の介在物が38μm未満のサイズを有する、請求項1または2に記載のボルト用鋼。
【請求項9】
ボルト用鋼が以下の特性を満足する、請求項1または2に記載のボルト用鋼:引張強度≧1200MPa、降伏対引張比>0.9、水素チャージおよび低速ひずみ試験における引張強度損失≦10%、ボルト締め付けおよびねじり変動≦8%、およびボルト疲労寿命>75000回。
【請求項10】
以下の工程を含む、請求項
1に記載のボルト用鋼の製造方法:
(1)溶融鋼を製錬する工程;
(2)製錬した溶融鋼を鋳造してビレットを生産する工程;
(3)ビレットに対して粗圧延を行う工程;
(4)高速ワイヤ圧延を行ってコイルロッドを生産する工程;
(5)コイルロッドに対してステルモア(Stelmor)制御冷却を行う工程;および
(6)熱処理工程:コイルロッドを球状化熱処理、伸線、ならびに焼き入れおよび焼き戻し熱処理に連続して供することを含み、ここで球状化熱処理の保持温度は760-790℃であり、そして保持時間は4-12hであり、保持後に40℃/hよりも低い冷却速度での徐冷プロセスが続き;ここでコイルロッドの伸線減面率は伸線の間5-30%に制御され;ここで焼き入れおよび焼き戻し熱処理の加熱温度は850-950℃であり、そして焼き戻し温度は500-600℃である。
【請求項11】
工程(1)において、真空脱気時間が製錬の間15分よりも長いように制御される、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
工程(2)において、ビレットのコアでの炭素偏析が鋳造の間1.10よりも低いように制御される、請求項10に記載の製造方法。
【請求項13】
工程(3)において、粗圧延がブルーミング後にビレットを加熱することを含み、ここでビレット加熱プロセスの間の加熱温度が960-1150℃であるように制御され、そして保持時間が1.5-3.0hであるように制御される、請求項10に記載の製造方法。
【請求項14】
工程(4)において、圧延速度が8-90m/sであるように制御される、請求項10に記載の製造方法。
【請求項15】
工程(4)において、仕上げ圧延ユニットの入り口温度が850-970℃に制御され、減速およびサイジングユニットの入り口温度が800-950℃であるように制御され、そしてレイング温度が750-900℃であるように制御される、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
工程(5)において、ステルモア(Stelmor)制御冷却が少なくとも14つのファンを使用し、ここでファンF1-F5の風量が80%以下であり、ファンF6-F12の風量が50%以下であり、そしてファンF13-F14の風量が45%以下である、請求項10に記載の製造方法。
【国際調査報告】