(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-28
(54)【発明の名称】伸線加工性に優れた線材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240521BHJP
C21D 1/32 20060101ALI20240521BHJP
C21D 8/06 20060101ALI20240521BHJP
C21D 9/52 20060101ALI20240521BHJP
C22C 38/18 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
C21D1/32
C21D8/06 A
C21D9/52 103B
C21D9/52 104
C22C38/18
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573200
(86)(22)【出願日】2022-06-08
(85)【翻訳文提出日】2023-11-27
(86)【国際出願番号】 KR2022008084
(87)【国際公開番号】W WO2022265289
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】10-2021-0079485
(32)【優先日】2021-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,ビョン‐ガブ
(72)【発明者】
【氏名】パク,イン‐ギュ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジェ‐スン
(72)【発明者】
【氏名】キム,セ‐ヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム,デ‐ファン
【テーマコード(参考)】
4K032
4K043
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA06
4K032AA07
4K032AA11
4K032AA12
4K032AA16
4K032AA21
4K032AA31
4K032BA02
4K032CA01
4K032CA02
4K032CA03
4K032CB01
4K032CB02
4K032CC02
4K032CC03
4K032CE02
4K032CF02
4K043AA02
4K043AB01
4K043AB05
4K043AB06
4K043AB10
4K043AB11
4K043AB15
4K043AB20
4K043AB27
4K043BA01
4K043BA02
4K043BA03
4K043BA05
4K043EA03
4K043FA03
4K043FA13
(57)【要約】
【課題】自動車、建設用部品等に適用可能な機械構造用線材及びその製造方法に関し、伸線加工性に優れた線材及びそれを製造する方法を提供する
【解決手段】本発明は、重量%で、C:0.8~1.2%、Si:0.01~0.6%、Mn:0.1~0.6%、Cr:0.8~2.0%、Al:0.01~0.06%、N:0.02%以下(0は除く)、残りはFe及び不可避不純物からなり、
微細組織はパーライト主組織に初析セメンタイトを含み、
平均粒径30nm以下のAlNを単位面積(μm
2)当たり20個以上含み、
下記関係式1を満たす微細組織を含むことを特徴とする。
ここで[関係式1]は、〔(ブロック結晶粒の平均サイズ(μm))
2/(初析セメンタイトの長さ(μm/1200μm
2))≦0.5〕である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.8~1.2%、Si:0.01~0.6%、Mn:0.1~0.6%、Cr:0.8~2.0%、Al:0.01~0.06%、N:0.02%以下(0は除く)、残りはFe及び不可避不純物からなり、
微細組織はパーライト主組織に初析セメンタイトを含み、
平均粒径30nm以下のAlNを単位面積(μm
2)当たり20個以上含み、
下記関係式1を満たす微細組織を含むことを特徴とする伸線加工性に優れた線材。
[関係式1]
(ブロック結晶粒の平均サイズ(μm))
2/(初析セメンタイトの長さ(μm/1200μm
2))≦0.5
【請求項2】
前記初析セメンタイトは、旧オーステナイト結晶粒に沿って結晶粒界に形成され、網状に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の伸線加工性に優れた線材。
【請求項3】
前記微細組織は、面積分率で10%以下の初析セメンタイト及び残りはパーライトであることを特徴とする請求項1に記載の伸線加工性に優れた線材。
【請求項4】
前記線材は、引張強度1200MPa以上、断面減少率が20%以上であることを特徴とする請求項1に記載の伸線加工性に優れた線材。
【請求項5】
前記線材は、伸線工程前に球状軟質化熱処理を行わず、伸線時に15%以上伸線されることを特徴とする請求項1に記載の伸線加工性に優れた線材。
【請求項6】
前記線材は、伸線及び球状化熱処理後のセメンタイトの平均アスペクト比が3以下であることを特徴とする請求項1に記載の伸線加工性に優れた線材。
【請求項7】
重量%で、C:0.8~1.2%、Si:0.01~0.6%、Mn:0.1~0.6%、Cr:0.8~2.0%、Al:0.01~0.06%、N:0.02%以下(0は除く)、残りはFe及び不可避不純物からなる鋼片を加熱し、鋼片圧延を行ってビレットを製造する段階と、
前記製造されたビレットを冷却する段階と、
前記ビレットを950~1050℃に加熱する段階と、
前記加熱されたビレットを線材圧延して線材を製造する段階と、
前記線材を巻き取り、550~650℃まで3℃/sec以上の平均冷却速度で冷却し、550~650℃以下の温度では1℃/sec以下の平均冷却速度で冷却する段階と、を含み、
前記線材圧延は、仕上げ圧延前のオーステナイト結晶粒サイズ(austenite grain size、AGS)が5~20μmとなるように行い、仕上げ圧延は、730℃~Acmの温度範囲で変形量0.3以上で行うことを含むことを特徴とする伸線加工性に優れた線材の製造方法。
【請求項8】
前記熱間圧延は、下記関係式2の条件を満たすように行うことを特徴とする請求項7に記載の伸線加工性に優れた線材の製造方法。
[関係式2]
2500*([C]-1)
2+100000*([Al]-0.035)
2+(AGS-12.5)
4/130+(仕上げ圧延温度-760)
2/65≦80
(上記関係式2において、[C]及び[Al]は合金組成C及びAlの含量(重量%)を意味し、AGSの単位はμmであり、仕上げ圧延温度の単位は℃である。)
【請求項9】
前記鋼片を1100~1300℃の温度範囲で2~10時間加熱し、前記鋼片圧延後500℃以上のビレットを5℃/s以上の冷却速度で冷却することを特徴とする請求項7に記載の伸線加工性に優れた線材の製造方法。
【請求項10】
前記ビレット加熱時間は80~120分であることを特徴とする請求項7に記載の伸線加工性に優れた線材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸線加工性に優れた線材及びその製造方法に係り、より詳しくは、自動車、建設用部品等に適用可能な機械構造用線材及びその製造方法に関し、伸線加工性に優れた線材及びそれを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、建設用部品等に用いられる機械構造用鋼材、例えば、軸受のような部品は、通常、圧延された線材を伸線加工し、伸線加工された伸線材を複雑な形状に冷間加工する方法により製造される。
しかし、上記のような鋼材は過共析鋼であって、難加工材であるため、圧延された線材を直接伸線加工することが困難である。このために球状軟質化熱処理を行い、伸線加工によって素材サイジングを行い、その後に追加の球状軟質化熱処理を行い伸線による強度の増加分を補正することで、軟質化された素材を製造する。
【0003】
上記のような球状軟質化熱処理は、冷間加工性を向上させるためのものであって、微細組織中のセメンタイトを球状化し、均質な粒子分布を誘導する。これにより、伸線加工時の断線を防止し、加工ダイスの寿命を向上させ、加工される素材の硬度を下げることができる。
しかし、上記のような球状軟質化熱処理を行うと、多くの熱処理コスト及び生産時間がかかり、製造コストを上昇させる原因となる。さらに、二酸化炭素低減のためにエネルギー消費を最小化するという最近の時代要求には合致しない。したがって、最近は軸受等に使用される線材を提供するにあたり、球状軟質化熱処理を省略又は短縮するとともに、優れた伸線特性を確保することができる線材の開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的とするところは、軸受など機械構造用部品等に用いられる線材及びその製造方法を提供することにある。具体的には、球状軟質化熱処理を省略又は短縮することができ、優れた伸線特性及び強度を確保することができる線材及びその製造方法を提供しようとするものである。
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の明細書全体の記載事項から本発明の更なる課題を理解することに何ら問題はない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の伸線加工性に優れた線材は、重量%で、C:0.8~1.2%、Si:0.01~0.6%、Mn:0.1~0.6%、Cr:0.8~2.0%、Al:0.01~0.06%、N:0.02%以下(0は除く)、残りはFe及び不可避不純物からなり、
微細組織はパーライト主組織に初析セメンタイトを含み、
平均粒径30nm以下のAlNを単位面積(μm2)当たり20個以上含み、
下記関係式1を満たす微細組織を含むことを特徴とする。
ここで[関係式1]は、(ブロック結晶粒の平均サイズ(μm))2/(初析セメンタイトの長さ(μm/1200μm2))≦0.5である。
【0006】
本発明の伸線加工性に優れた線材の製造方法は、重量%で、C:0.8~1.2%、Si:0.01~0.6%、Mn:0.1~0.6%、Cr:0.8~2.0%、Al:0.01~0.06%、N:0.02%以下(0は除く)、残りはFe及び不可避不純物からなる鋼片を加熱し、鋼片圧延を行ってビレットを製造する段階と、
上記製造されたビレットを冷却する段階と、
上記ビレットを950~1050℃に加熱する段階と、
上記加熱されたビレットを線材圧延して線材を製造する段階と、
上記線材を巻き取り、550~650℃まで3℃/sec以上の平均冷却速度で冷却し、550~650℃以下の温度では1℃/sec以下の平均冷却速度で冷却する段階と、を含み、
上記線材圧延は、仕上げ圧延前のオーステナイト結晶粒サイズ(austenite grain size、AGS)が5~20μmとなるように行い、仕上げ圧延は730℃~Acmの温度範囲で変形量0.3以上で行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、球状軟質化熱処理を省略又は短縮しても、優れた強度及び伸線加工性を有する軸受などの機械部品用線材及びその製造方法を提供することができる。これにより、製造工程上のコスト削減及び二酸化炭素低減効果を得ることができる。
本発明の多様でかつ有益な利点及び効果は、上述した内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程でより容易に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施例において、発明例1の微細組織を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。
【
図2】本発明の実施例において、比較例5の微細組織を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。
【
図3】本発明の実施例において、発明例1の微細組織を電子後方散乱回析法(EBSD)で観察した写真である。
【
図4】本発明の実施例において、比較例5の微細組織を電子後方散乱回析法(EBSD)で観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書で使用される用語は本発明を説明するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。また、本明細書で使用される単数形は、関連する定義がそれと明らかに反対の意味を示さない限り、複数の形態も含む。
本明細書で使用される「含む」の意味は、構成を具体化し、他の構成の存在や付加を除外するものではない。
他に定義しない限り、本明細書で使用される技術用語及び科学用語を含むすべての用語は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同じ意味を有する。辞書に定義された用語は、関連する技術文献と現在開示されている内容に一致する意味を有するものとして解釈される。
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の発明者らは、軸受等の機械構造用部品に使用される線材において、球状軟質化熱処理を行う場合、多くの熱処理コスト及び時間がかかり、環境への負担として作用することを認知した。そこで、上記球状軟質化熱処理を短縮又は省略しても、部品を製造するための伸線加工時に、優れた伸線加工性を確保することができる方法を鋭意研究した結果、本発明に至った。
まず、本発明の一側面である線材について詳細に説明する。
【0011】
本発明の線材は、重量%で、C:0.8~1.2%、Si:0.01~0.6%、Mn:0.1~0.6%、Cr:0.8~2.0%、Al:0.01~0.06%、N:0.02%以下(0は除く)、残りはFe及び不可避不純物からなる。以下、各成分の役割及び含量について説明する。下記の各成分に対する%は重量%を意味する。
【0012】
炭素(C):0.8~1.2%
上記Cは、一定レベルの強度を確保するために添加される元素である。上記Cの含量が0.8%未満の場合には、母材の強度低下により球状軟質化熱処理及び鍛造加工工程後に行われる焼入れ、焼戻し熱処理後にも十分な強度を確保しにくい点があり、一方、1.2%を超える場合には(FeCr)3C等のような新たな相の析出物がブルーム等の鋳片凝固時に中心偏析等の問題を起こす虞がある。したがって、上記Cの含量は0.8~1.2%が好ましく、0.9~1.1%がより好ましい。
【0013】
シリコン(Si):0.01~0.6%
上記Siは、代表的な置換型元素であって、一定レベルの強度を確保するために添加される元素である。上記Siが0.01%未満の場合には、鋼の強度確保及び十分な焼入れ性の確保が難しく、一方、0.6%を超える場合には、球状軟質化熱処理後の鍛造時に冷間鍛造性を悪化させるという欠点がある。したがって、上記Siの含量は0.01~0.6%であることが好ましい。
【0014】
マンガン(Mn):0.1~0.6%
上記Mnは、基地組織内に置換型固溶体を形成して固溶強化する元素であって、延性の低下なしでも目標とする強度を確保が可能な元素であり、代表的なオーステナイト形成剤(austenite former)である。上記Mnが0.1%未満であると、固溶強化による強度が保障されず、靭性の改善効果が期待できない。一方、上記Mnの含量が0.6%を超える場合には、球状軟質化熱処理後の鍛造時に、MnSによりシェブロンクラック(chevron crack)のような欠陥が発生する虞があるため、上記Mnの含量は0.1~0.6%であることが好ましい。
【0015】
クロム(Cr):0.8~2.0%
上記Crは、Mnと同様に鋼の焼入れ性を高める元素である。上記Crが0.8%未満の場合には、鍛造加工工程後に行われる焼入れ、焼戻し熱処理時に、マルテンサイトを得るための十分な焼入れ性の確保が難しくなり、一方、2.0%を超える場合には、中心偏析を助長し線材内に低温組織が多量発生する虞が高くなる。よって、上記Crの含量は0.8~2.0%であることが好ましく、1.0~2.0%であることがより好ましい。
【0016】
アルミニウム(Al):0.01~0.06%
上記Alは脱酸効果だけでなく、Al系炭窒化物を析出させてオーステナイト結晶粒の成長抑制及び初析フェライト分率を平衡相に近くなるように確保する上で役立つ元素である。上記Alが0.01%未満の場合には、アルミニウムの量が十分でなく、ほとんどのAlが固溶してしまい、熱処理時にオーステナイト結晶粒の成長を抑制させるアルミニウム窒化物(AlN)が十分に生成されない。このため、Alの含量は0.01%以上であることが好ましい。一方、0.06%を超える場合には、Al2O3などの硬質介在物が増加する可能性があり、特に連鋳の際、介在物によるノズル詰まりが発生する虞がある。したがって、上記Alの含量は0.01~0.06%であることが好ましい。
【0017】
窒素(N):0.02%以下(0は除く)
上記Nは固溶強化効果があるが、0.02%を超える場合には、窒化物に結合していない固溶窒素により素材の靭性及び延性が低下する虞があるため、上記Nの含量は0.02%以下に管理することが好ましい。
【0018】
残りは鉄(Fe)を含み、通常の製造過程では、原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあり、これを排除することはできない。これらの不純物は、製造過程において通常の技術者であれば誰でも分かるものであるため、本明細書では、その全ての内容を特に言及しない。
【0019】
一方、本発明の一側面である線材の微細組織は、パーライト主組織に初析セメンタイトを含む。具体的に、上記初析セメンタイトは、旧オーステナイト結晶粒に沿って結晶粒界に網状に形成され、結晶粒内には完全パーライトが形成される。冷却中にオーステナイト内に過飽和している炭素がFe3Cとして析出することで、旧オーステナイト結晶粒界に初析セメンタイトが形成されるが、元素の拡散経路である結晶粒の微細化により、初析セメンタイトは網状を呈するようになる。
【0020】
上記微細組織内にはAlNが析出し、上記AlNは平均粒径30nm以下のAlNが単位面積(μm2)当たり20個以上分布することが好ましい。上記AlNの平均粒径が30nmを超える場合には、ピンニング(pinning)による結晶粒の成長抑制効果が著しく減少するため、30nm以下のサイズを有することが好ましく、単位面積(μm2)当たり20個未満であると、AlNが生成されても結晶粒の成長を抑制するAlNの数が十分でなく、結晶粒が粗大化する虞がある。上記単位面積(μm2)当たり30nm以下のサイズを有するAlNの数は50個以上であることがより好ましい。
【0021】
一方、上記パーライトと初析セメンタイトは、面積分率で、10%以下の初析セメンタイトを含み、残部がパーライトであることが好ましく、付随的に5%以下の初析フェライト、ベイナイト及びマルテンサイトのうち一つ以上を含むことができる。上記初析セメンタイトの分率が10%を超える場合には、靭性が急激に低下することがあるため、10%を超えないことが好ましい。なお、線材の製造過程で初析フェライト、ベイナイト及びマルテンサイトのうち一つ以上が一部発生することがあるが、5%を超える場合には伸線中に破断が起こり易いため、5%を超えないことが好ましい。
【0022】
球状軟質化熱処理の際、結晶粒界の特徴は拡散速度を決定する主要な因子であるため、総熱処理時間を決定する役割を果たすことができる。軟質化熱処理時にパーライト組織内のセメンタイトは板状から球状に形態を変化させながら、球状化の進行程度によって素材の強度が低くなる。
軟質化熱処理の際、金属原子は、材料内の欠陥空間を介して様々な拡散経路で移動するが、原子単位の欠陥である体拡散(vacancy)とその他の線欠陥の一種である転位(dislocation or pipe)と結晶粒界(grain boundary)などを通じて拡散する。原子欠陥に比べて転位と結晶粒界は、その空間が相対的に広いため、速い速度の拡散に有利である。
【0023】
軟質化熱処理の省略ないし時間を短縮する効果のためには、結晶粒の微細化によって相対的な結晶粒界面積を増加させることが好ましいが、圧延負荷の増大による設備寿命及び生産性の低下などの逆効果が発生する虞がある。したがって、本発明の線材は、下記関係式1を満たす微細組織を介して、球状軟質化熱処理を省略又は短縮しても優れた伸線加工性を有する線材を得ることができる。
[関係式1]
(ブロック結晶粒の平均サイズ(μm))2/(初析セメンタイトの長さ(μm/1200μm2))≦0.5
上記ブロック結晶粒は、パーライトを構成するセメンタイト及びフェライトのうちフェライトの方位が同じ集団の結晶粒を意味し、平均サイズは結晶粒の平均粒径を意味する。
【0024】
上記初析セメンタイトの長さは、単位面積(1200μm2)で測定された初析セメンタイトの総長さを意味する。上述したように、上記初析セメンタイトは、旧オーステナイト結晶粒界に沿って形成されるため、上記初析セメンタイトの長さは粒界に沿って測定される長さを意味する。
【0025】
本発明の線材は、伸線工程前の球状軟質化熱処理なしで15%以上の伸線が可能であり、引張強度(TS)1200MPa以上であり、断面積減少率が20%以上である。
本発明の線材は、球状軟質化熱処理を省略しても伸線加工が可能である。一般に使用されている材料は、粗大な結晶粒サイズにより、約10%以内の伸線量でもシェブロンクラック(chevron crack)のような欠陥が発生することがある。しかし、本発明の線材は15%を超え、約30%程度の伸線量でも内部にクラックのような欠陥が発生しない。これは、伸線の加工時、コロニーの回転が容易であるため、外部の応力を解消して少しばかりのの伸線ではクラック等の欠陥を発生させない。また、伸線量が増加するほど転位(dislocation)、体欠陥(vacancy)のような空孔が生成され、伸線加工後の球状軟質化熱処理時に球状化挙動をさらに促進させる。
【0026】
複雑な形状の軸受鋼など、機械部品を製造するためには、線材を鋼線で製造するが、通常2回の球状軟質化熱処理と素材のサイジングのための伸線工程を実施する。通常の球状軟質化熱処理は、Ae1~Ae1+100℃の温度で行い、熱処理後のセメンタイトの平均アスペクト比が3以下である炭化物を表面~中心部の全領域において生成させる熱処理法である。しかし、本発明の線材は、微細粒線材の製造による伸線加工性の向上により、従来の素材よりも大きい伸線量を付与し、球状化熱処理時に球状化セメンタイトの生成を促進させ、伸線後に1回球状化熱処理だけでもセメンタイトの平均アスペクト比が3以下で、740MPa以下の低い引張強度が得られることで、最終製品を製造するための冷間圧造又は冷間鍛造加工を容易に行うことができる。
【0027】
次に、本発明の他の一側面である線材の製造方法について詳細に説明する。本発明の線材を製造する好ましい一例として、上述した合金組成を有する鋼片、例えば、ブルーム(bloom)を加熱し、鋼片圧延してビレットを製造し、上記ビレット(billet)を加熱、線材圧延、巻取り及び冷却して製造することができる。以下、各段階について詳細に説明する。
【0028】
まず、上述の合金組成を有する鋼片、例えば、ブルームを用意し、これを1100~1300℃まで加熱する。上記鋼片の加熱温度が1100℃未満の場合、温度が低く鋼片内の元素を拡散させるのに十分でないため、鋳造中に生成された偏析濃化層を解消することが困難である。一方、1300℃を超える場合には、上記鋼片の表面に速い速度でスケールが形成され、圧延中に表面傷を発生させたり、素材の損失(loss)により生産性が低下する。一方、上記鋼片の加熱時間は2~10時間が好ましく、上記鋼片の加熱時間が2時間未満であると、鋼片の内部まで目標温度に到達し難く、10時間を超えると、表面脱炭層の深さが厚くなり、圧延終了後にも脱炭層が残存することがあるため、10時間を超えないことが好ましい。
【0029】
上記加熱された鋼片を鋼片圧延してビレットを製造する。上記鋼片圧延後に製造されたビレットは一般的に空冷によって常温まで冷却するが、本発明では、500℃以上のビレットを5℃/s以上の冷却速度で冷却する。このために、水冷を行うことが好ましい。、具体的な一例として、上記ビレットを水冷チャンバーに装入してAlNの析出及び粗大化を極力防止することがよい。500℃未満のビレットを水冷する場合、AlNが析出して粗大化し、次工程である線材製造のためのビレット加熱中にAlNが十分に溶体化せず、30nm以下のAlNを確保することが難しい。
【0030】
上記製造されたビレットを950~1050℃の温度範囲まで加熱する。上記ビレット加熱温度が950℃未満の場合には圧延性が低下し、上記ビレット加熱温度が1050℃を超える場合には圧延のために急激な冷却が必要であるため、冷却の制御が難しいだけでなく、亀裂等が発生して良好な製品品質の確保が難しくなる可能性がある。上記加熱時間は80~120分であることが好ましい。上記加熱時間が80分未満では、素材の内部まで目標温度への到達が難しく、部分的に逆変態が完了しない雰囲気が発生することがある。120分を超える場合には、表面脱炭層の深さが厚くなり、圧延終了後に脱炭層が残存することがあるため、好ましくない。
【0031】
上記加熱されたビレットを線材圧延して線材を得る。線材圧延は、上記ビレットが、線材の形態を有するようにする孔型圧延であることが好ましい。本発明では、最終仕上げ圧延時に結晶粒を微細化するために、仕上げ圧延前のオーステナイト結晶粒サイズ(austenite grain size、AGS)を5~20μmにして確保することが好ましい。その後、仕上げ圧延は730℃~Acmの温度範囲で0.3以上の変形量で行うことが好ましい。上記変形量は0.5以上であることがより好ましい。ここで、Acmとは、過共析鋼において加熱中にセメンタイトが固溶するか、又は冷却中にセメンタイトが析出する温度を意味する。
【0032】
上記仕上げ圧延前のAGSが5μm未満である場合、低い温度で粗圧延により実現されるため、ロール負荷が高くなり設備寿命が短縮するという問題があり、一方、20μmを超える場合には、仕上げ圧延時に臨界変形量の増加が必要であり、微細粒を有する線材の製造が困難である。また、上記仕上げ圧延温度が730℃より低い場合には、圧延ロールの負荷が高くなり設備寿命が短縮し、逆に、Acmより高い場合には、相変態が発生せず、微細粒線材の製造が困難である。
上記線材圧延時に、下記関係式2の条件を満たすことが好ましい。
[関係式2]
2500*([C]-1)2+100000*([Al]-0.035)2+(AGS-12.5)4/130+(仕上げ圧延温度-760)2/65≦80
(上記関係式2において、[C]及び[Al]は合金組成C及びAlの含量(重量%)を意味し、AGSの単位はμmであり、仕上げ圧延温度の単位は℃である。)
【0033】
炭素の含量は製造された線材及び球状化熱処理材でのセメンタイト(Fe3C)の生成に影響を及ぼし、これは引張強度など機械物性に影響を及ぼすため、適正な炭素を含有しなければならず、Alはその量が少ないほどAlNの析出量が少なくなり結晶粒の成長を抑制できないため、最適化が必要である。また、仕上げ圧延前のAGSが大きいほど、結晶粒を微細化するために圧延量と仕上げ圧延温度を低くしなければならないため、工程コストの観点から適正なAGS及び仕上げ圧延温度を管理することが好ましい。上記関係式2は、このような技術的観点を反映したものであって、上記関係式2への値が80を超える場合には適正なセメンタイト形成及び結晶粒の微細化効果を期待することが困難である。
【0034】
上記線材圧延後に巻き取り、冷却を行う。上記冷却は、550~650℃の温度範囲まで3℃/sec以上の平均冷却速度で冷却した後、550~650℃以後には平均冷却速度1℃/sec以下の冷却速度で冷却することが好ましい。上記550~650℃の温度範囲までの平均冷却速度が3℃/sec未満の場合には、圧延時に確保された微細結晶粒を変態点以下まで保持することが困難である。一方、550~650℃に到達後、それ以下での冷却速度は、ベイナイト、マルテンサイト等の低温組織を抑制する観点から1℃/sec以下であることが好ましい。
【0035】
本発明において、上記のように製造された線材を伸線した後、Ae1~Ae1+100℃に加熱して5~15時間保持した後、660℃まで20℃/hr以下で冷却する球状化熱処理を行い、球状化した素材を製造することができる。上記加熱温度がAe1未満の場合には、球状化熱処理時間が長くなるという問題があり、反対にAe1+100℃を超える場合には、球状化炭化物シードが減少して球状化熱処理効果が十分でない虞がある。ここで、Ae1とは、加熱中にオーステナイトが生成されるか、又は冷却中にオーステナイトが消滅する温度を意味する。上記保持時間が5時間未満の場合には、球状化熱処理が十分に進行しないため、セメンタイトのアスペクト比が大きくなるという問題があり、15時間を超える場合には、コストが増加するという問題がある。上記冷却速度が20℃/hrを超える場合には、速い冷却速度によりパーライトが再形成されるという虞がある。上記球状化熱処理後、伸線材は740MPa以下の弱い引張強度を示し、セメンタイトの平均アスペクト比が3以下となり、最終製品を製造するための冷間圧造又は冷間鍛造加工を容易に行うことができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例について説明する。下記の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものであり、本発明の権利範囲を限定するものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれにより合理的に類推される事項によって決定されるものである。
(実施例)
下記表1の合金組成(重量%、残りはFe及び不可避不純物である)を有する鋼片(ブルーム)を用意した後、鋼片圧延を行ってビレットを製造した。上記鋼片は、鋳造後1200℃で4時間の間均質化熱処理した後、1000℃で鋼片圧延を行った。上記鋼片圧延後に、表2の冷却方法で水冷した場合には、500℃まで空冷した後、水冷チャンバーに装入して5℃/s以上の冷却速度で冷却した。その後、製造されたビレットを下記表2の線材の製造条件で直径9mmの線材を製造した。このようにして製造された線材の微細組織と機械的物性を測定し、その結果を表3に示した。
一方、上記製造された線材を伸線加工した後、1回の軟質球状化熱処理(780℃で8時間保持した後、15℃/hrの冷却速度で640℃まで冷却する)を行ってセメンタイトの平均アスペクト比と引張強度を測定し、その結果を表4に示した。
【0037】
一方、表2において、仕上げ圧延前のオーステナイト結晶粒サイズ(AGS)は仕上げ熱間圧延前に行う切断クロップ(crop)を使用して素材を切断し、直ちに焼入れ(Quenching)し、ASTM E112法を用いてAGSを測定した。採取した試験片については、直径から1/4の任意の5点を測定した後、平均値を示した。
ブロックの結晶粒の平均サイズは、EBSDとASTM E112法を活用して測定した。ブロックは、パーライト内のフェライトの結晶方位が同じ領域であって、15度以上の結晶方位差を有する大きさをブロックサイズと定義した。下記の実施例のうち、発明例1と比較例5を観察し、それぞれ
図3及び
図4に示した。上記ブロックをASTM E112法を活用してブロックのサイズを定量化した。測定された素材は、線材圧延後に未端の水冷部を除去してから採取した試験片に対して、直径から1/4の任意の5点を測定した後、平均値で示した。また、初析セメンタイトの長さは、線材圧延後に未端の水冷部を除去してから採取した試験片に対して、直径から1/4の任意の5点をSEMを活用してX3000倍で撮影し、Leica社のClemex visionソフトウェアによって初析セメンタイトの総長さを分析し、5点の平均を求めた。
【0038】
伸線加工性の評価は、製造された9mmの線材を5~50%の断面減少率で伸線して評価し、伸線された素材のL字断面の中心部を5000倍で撮影し、パーライト界面、初析セメンタイト界面などにシェブロンクラック(chevron crack)のような欠陥が発生したか否かを確認し、その有無を○/×で表した。
一方、上記1回の球状化熱処理後、セメンタイトの平均アスペクト比は、線材の直径方向に1/4~1/2地点を3000倍のSEMで3視野撮影し、イメージ測定プログラムを用いて視野内のセメンタイトの長軸/短縮を自動測定した後、統計処理によって測定した。
【0039】
【0040】
【0041】
上記表2において、関係式2の欄は2500*([C]-1)2+100000*([Al]-0.035)2+(AGS-12.5)4/130+(仕上げ圧延温度-760)2/65で計算され、ここで、[C]、[Al]は合金組成におけるC及びAlの含量(重量%)であり、AGSはオーステナイトの平均粒径であって単位はμmであり、仕上げ圧延温度の単位は℃である。
【0042】
【0043】
上記表3において、初析Cは初析セメンタイト、Pはパーライト、Bはベイナイト、Mはマルテンサイトを意味する。また、関係式1は〔(ブロック結晶粒の平均サイズ(μm))2/(初析セメンタイトの長さ(μm/1200μm2))〕を意味する。
【0044】
【0045】
上記表1~4から分かるように、本発明が提案する条件を満たす発明例1~5の線材は、球状軟質化熱処理なしでも断面減少率(Reduction Area)が20%以上と優れた伸線加工性を確保するとともに、1200MPa以上の引張強度を確保することができる。また、伸線加工後に1回の球状化熱処理だけでも、セメンタイトの平均アスペクト比が3以下を有する線材を提供することができる。特に
図1は、上記発明例1の線材の微細組織をSEM(Scanning Electron Microscope)で観察した写真である。
図1を見ると、発明例1は初析セメンタイト及び完全パーライトで構成されており、
図1において矢印は初析セメンタイトを示す。
図1に示すように、初析セメンタイトは、旧オーステナイト結晶粒界に沿って形成されていることが確認できる。
図3は、上記発明例1のEBSD写真であって、結晶粒の方位差が2度以上であることが確認でき、これにより、発明例1のブロック結晶粒の平均サイズは約4.7μmと、通常の製造条件に比べて非常に小さいことが確認できた。
【0046】
一方、比較例1は鋼片圧延後に空冷を行い、鋼材内のAlNが粗大化し、比較例2の場合は、鋼組成中のAl含量が少なくAlNをほとんど生成できなかった。その結果、比較例1及び2の線材では、μm2当たり30nm以下のサイズのAlNの個数が20個以下であり、線材冷却中に結晶粒の成長を抑制できず、ブロック結晶粒のサイズが制御されなかった。比較例3は炭素の含量が低く、初析フェライトが線材に残存し、伸線特性は他の比較例に比べて優れるものの、低い炭素含量により強度が低く、球状化熱処理後にも素材の強度が低いため、用途に合わせて使用することが困難である。
【0047】
比較例4は、高いビレット加熱温度のため、仕上げ圧延前のAGSサイズが発明例に比べて大きい。粗大なAGSは高い臨界変形量により結晶粒の微細化が行われることができるため、不十分な仕上げ圧延変形量は結局、粗大な結晶粒として線材に出現することになり、伸線加工性に優れなかった。比較例5は、高い仕上げ圧延温度により微細な結晶粒が得られず、比較例4と同様に粗大な結晶粒となり伸線特性に優れない。
図2は、上記比較例5の線材の微細組織をSEMで観察した写真であり、上記
図1に比べて結晶粒のサイズが大きく、旧オーステナイト結晶粒界に沿って生成された初析セメンタイトの長さが短いことが確認できる。
図4は、上記比較例5のEBSD写真であって、上記
図3のように結晶粒の方位差を区分した。
図3と比較したとき、
図4の比較例5はブロック結晶粒サイズが粗大であることが分かる。
【0048】
比較例6は、少ない仕上げ圧延量により微細な結晶粒が得られず、粗大な結晶粒が線材に出現することになり、伸線特性に優れなかった。比較例7の線材は、圧延により作製された微細結晶粒が、初期の低い冷却速度により結晶粒が粗大化し、微細な線材結晶粒が得られず、伸線特性に優れない結果をもたらした。比較例8の場合には、速い冷却速度によりマルテンサイトとベイナイトが出現し、5%の伸線だけでも内部クラックが生じる結果が確認できた。
【国際調査報告】