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特表2024-521192薬物耐性癌を処置するための組成物および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-28
(54)【発明の名称】薬物耐性癌を処置するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4188 20060101AFI20240521BHJP
   A61K 31/16 20060101ALI20240521BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240521BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240521BHJP
   C12N 9/99 20060101ALI20240521BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALN20240521BHJP
【FI】
A61K31/4188 ZNA
A61K31/16
A61P35/00
A61P43/00 121
A61P43/00 111
C12N9/99
C12Q1/68
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573405
(86)(22)【出願日】2022-05-30
(85)【翻訳文提出日】2024-01-25
(86)【国際出願番号】 CN2022095983
(87)【国際公開番号】W WO2022247954
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】63/194,585
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】523447269
【氏名又は名称】ノーベルワイズ・ファーマシューティカル・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】Novelwise Pharmaceutical Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(74)【代理人】
【識別番号】100103230
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 裕貢
(72)【発明者】
【氏名】ホアン,チョン-ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ホウ,チア-チョン
【テーマコード(参考)】
4B063
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ53
4B063QR36
4B063QR72
4B063QR77
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB05
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZB26
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206HA16
4C206KA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZB26
4C206ZC75
(57)【要約】
本発明は、テモゾロミド(TMZ)耐性癌患者を処置するための組み合わせ剤および方法であって、β-カテニン/c-Myc/SOX2シグナル伝達経路を下方調整し、WT-p53介在性MGMT阻害を上方調整することによってTMZ介在性細胞毒性効果を強化することによりTMZ耐性を克服するのに有効な相対比で、TMZとアイソフォーム選択的HDAC8阻害剤、例えば、BMXとの組み合わせ含む、組み合わせ剤および方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者においてTMZ耐性癌を処置するための組み合わせ剤であって、テモゾロミド(TMZ)および、式A:
【化1】
[式中、
は、水素、アルキル、アルケニル、C-Cシクロアルキル、5員もしくは6員の不飽和炭素環または5員もしくは6員のヘテロ環、または(CH)mRであり;
Xは、C、-O-、-N-または-S-であり;
Yは、-O-、-NHまたは-O-C-Cアルキルであり;
nは、0~10の整数であり;
mは、0~5の整数であり;
およびRは独立して、C-Cアルキルであり;
は、C-Cシクロアルキル、またはハロゲン、-CF、-ORもしくは-NRによって置換されていてもよい5員もしくは6員の不飽和炭素環もしくはヘテロ環であり、ここで、RおよびRは独立して、水素またはC-Cアルキルであり;
は、OH、NH、またはC-Cシクロアルキル、5員もしくは6員の不飽和炭素環もしくはヘテロ環であり、ここで、シクロアルキル、炭素環およびヘテロ環は、ハロゲン、NH、NO、C-Cアルコキシ、C1-6アルキルチオ、OR''、NRまたはCFによって場合により置換されていてよく;そして
は、Hであるか、ヒドロキシもしくはC-C10アルケニルによって置換されていてもよいC-C10アルキルであるか、またはRと一緒になって-C-となる]
の構造を有する化合物A、またはその薬学的に許容できる塩、立体異性体、エナンチオマー、プロドラッグまたは溶媒和物を含み、
TMZおよび化合物Aは、TMZ耐性を効果的に克服する相対比で組み合わされている、組み合わせ剤。
【請求項2】
化合物Aが、
【化2】
の構造を有する化合物BMXである、請求項1に記載の組み合わせ剤。
【請求項3】
TMZ耐性が、TMZ介在性細胞毒性効果の強化によって克服される、請求項1または2に記載の組み合わせ剤。
【請求項4】
TMZ介在性細胞毒性効果の強化が、β-カテニン/c-Myc/SOX2シグナル伝達経路を下方調整し、WT-p53介在性MGMT阻害を上方調整することによるものである、請求項3に記載の組み合わせ剤。
【請求項5】
TMZおよび化合物Aが、別々にまたは順次に投与される、請求項1~4のいずれかに記載の組み合わせ剤。
【請求項6】
TMZおよびBMXを含む、請求項1~5のいずれかに記載の組み合わせ剤。
【請求項7】
癌が、多形神経膠芽腫(GBM)または結腸直腸癌(CRC)である、請求項1~6のいずれかに記載の組み合わせ剤。
【請求項8】
患者においてTMZ耐性癌を処置するための方法であって、請求項1~6のいずれかに記載の組み合わせ剤の治療有効量を患者に投与することを含む方法。
【請求項9】
癌が、GBMまたはCRCである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
患者において薬物耐性癌の最適個別化処置のための方法であって、患者におけるWT-p53の発現を判定すること、および、WT-p53の発現が患者に存在する場合に、治療有効量の請求項1に記載の化合物Aまたはそれと前記薬物との組み合わせ剤を患者に投与することを含む、方法。
【請求項11】
薬物が、TMZである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
薬物耐性癌が、TMZ耐性のGMBまたはCRCである、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
TMZ耐性癌患者のための医薬またはキットを製造するための、請求項1~6のいずれかに記載の組み合わせ剤の使用。
【請求項14】
癌が、GBMまたはCRCである、請求項11に記載の使用。
【請求項15】
TMZ耐性のWT-p53 GBM患者またはCRC患者の最適個別化処置のための医薬またはキットを製造するための、請求項1~6のいずれかに記載の組み合わせ剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本非仮出願は、米国特許法第119条(a)に基づき、2021年5月28日出願の米国仮特許出願第63/194,585号の優先権を主張し、その全内容は引用により本明細書に包含される。
【0002】
本発明は、薬物耐性癌、特にTMZ耐性癌を処置するための新たな組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
多形神経膠芽腫(GBM)は、最も悪性度の高い腫瘍の1つであり、侵襲性パターンおよび高い再発率を有し、世界保健機関の悪性度IVの星状細胞腫である[1]。手術および放射線療法と化学療法との併用による集学的処置にもかかわらず、GBM患者の予後は依然として不良であり、平均生存期間は15か月未満であり、治療抵抗性を示す[2~4]。
【0004】
結腸癌または結腸直腸癌(CRC)は、最も一般的な悪性腫瘍の1種であり、世界的にみて癌による死亡の3番目に多い原因である。結腸癌またはCRCの標準的処置は既に十分に研究され、確立しているが、死亡率が高く、かつ臨床上挑戦的であるといった課題が依然としてある。この疾患は前兆となる症状が少ないため、患者は最初の評価時に進行癌と診断されることが多く、その結果、5年生存率は約10%である[5~6]。CRCの標準的処置は手術、放射線療法および/または化学療法であり、オキサリプラチン(Oxp)およびそのプロドラッグであるカペシタビンが臨床診療に広く使用されている[7~8]。残念ながら、この種のDNA架橋剤による処置では、全処置サイクルを完了した後でも最初の数年以内に再発することが依然として普通となっている[9]。
【0005】
テモゾロミド(TMZ)は、血液脳関門の透過性が良好である、アルキル化剤であるダカルバジンのイミダゾテトラジン親油性プロドラッグである。TMZは、生理的pHにおいて自発的な非酵素的変換を介し、反応性化合物5-(3-メチルトリアゼン-1-イル)-イミダゾール-4-カルボキサミド(MTIC)となる[10]。MTICの細胞毒性は、主にグアニンのO6位およびN7位で起こるDNAのアルキル化(メチル化)によるものと考えられている。TMZは、2005年にFDAに最初に承認されて以来、新たに診断された多形神経膠芽腫(GBM)に対する標準的化学療法として広く使用されている。GBMの他にも、TMZはダカルバジンと同等の有効性を有することが証明されている。このため、TMZは、標準的処置後の悪性黒色腫の患者にも「適応外」で使用されている。加えて、他の適応症、例えば、脳転移、リンパ腫、神経内分泌腫瘍、下垂体腫瘍、ユーイング肉腫、原始神経外胚葉性腫瘍、難治性白血病、肺癌、および他の腫瘍におけるTMZの有効性を実証するために、多くの臨床試験が進行中である[11]。TMZは、臨床において高齢者、小児、または緩和療法中の患者に対して忍容性が良好な処置であり、単剤として、またはアジュバント(放射線療法または化学療法)の第一選択(first-line)もしくは第x選択(x-line)処置として使用することができる。しかし、O6-メチルグアニンメチルトランスフェラーゼ(MGMT)の過剰発現のため、TMZで処置された患者において薬物耐性が生じる。したがって、これは、GBMを首尾良く処置するために克服しなければならない臨床的に意味のある大きな障害である。
【0006】
しかし、TMZに反応する患者は50%未満に過ぎず、それは、O6-メチルグアニンメチルトランスフェラーゼ(MGMT)が過剰発現するからであり、MGMTはグアニンのO6位のメチル化を逆行させ、それによってGBM細胞におけるDNAを修復し、化学療法の効果に抵抗する[12~14]。新たに診断されたCRC患者とTMZ処置を受けた再発CRC患者との間のMGMTタンパク質レベルを比較することにより、MGMTの減少がTMZ処置の有効性を促進する可能性が裏付けられた[15~17]。MGMTは、プロモーターのメチル化に加えて、さまざまな転写因子、例えば、p53、Sp1、NF-κB、CEBP、およびAP-18によっても調整される。これらのうち、p53は、MGMTプロモーターと直接相互作用することによってMGMT転写を下方調整する[18,19]。このため、MGMTプロモーターのメチル化に加えて、p53はMGMT発現を調整してTMZ耐性を引き起こす可能性がある。このように、TMZ耐性を克服するためには、MGMTを調整するさらなる機構を同定しなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、薬物耐性癌、特にTMB耐性のGBMまたはCRCに対する新しくより優れた療法または処置を開発することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明は、薬物耐性癌、例えば、TMZ耐性のGBMまたはCRCの処置のための新たな方法を提供する。
【0009】
本発明において、化合物X、例えば、BMXが、GBM-R細胞株ならびにCRC細胞株HT29、HCT116およびRKOに対するTMZ介在性細胞毒性効果を強化し得ることが予想外に見出された。したがって、本発明は、患者において薬物耐性癌、特にTMZ耐性のGBMまたはCRCの処置のための新たな方法であって、前記患者にBMXとTMZとの組み合わせ剤を投与することを含む方法を提供する。
【0010】
本発明において、ヒストンデアセチラーゼ8阻害剤(HDAC8i)であるBMX(NBM-T-L-BMX-OS01)は、結腸直腸癌細胞、ヒト臍帯内皮細胞、肺癌細胞および神経膠芽細胞腫細胞において有意な抗細胞増殖効果を示し、これはまた、動物の異種移植(xenograph)モデルにおいて腫瘍抑制能力も示す[20,21]。しかし、BMXは癌細胞の薬物耐性を克服し得ることが、本発明において予想外に見出された。本発明の一例では、BMXは、β-カテニン/c-Myc/SOX2シグナル伝達経路を下方調整し、p53介在性MGMT阻害を上方調整することによってTMZ介在性細胞毒性効果を強化することにより、GBM-R細胞を克服することができた。ヒトGBM組織およびGBM-R細胞株におけるHDAC8の高発現はMGMTレベルと相関すること、ならびにBMXとTMZとの組み合わせ、GBM-R細胞株におけるWT(野生型)-p53介在性MGMT阻害を通じてWT-p53媒介性アポトーシスを誘導することが確認された。さらに、BMXとTMZとの組み合わせは、GBM-R細胞株におけるβ-カテニン/c-Myc/サイクリンD1/SOX2シグナル伝達経路を介した細胞増殖およびGSC表現型活性を抑制した。
【0011】
本発明の一例では、BMXとTMZとの組み合わせが、p53/p21/Puma/Baxを上方調整することを介してCRC細胞における細胞周期停止、老化、オートファジーおよびアポトーシスを誘発し、それがWnt/β-カテニン/サイクリンD1/c-Myc/p62経路の下方調整のクロストークによって損なわれることが証明された。したがって、BMXは、WT-p53を有するTMZ耐性のGBM患者またはCRC患者の最適個別化処置(プレシジョン個別化医療:precision personal treatment)のための有望な戦略となる可能性がある。
【0012】
したがって、一態様において、本発明は、TMZ耐性癌を処置するための組み合わせ剤であって、TMZおよび、式A:
【化1】
[式中、
は、水素、アルキル、アルケニル、C-Cシクロアルキル、5員もしくは6員の不飽和炭素環または5員もしくは6員のヘテロ環、または(CH)mRであり;
Xは、C、-O-、-N-または-S-であり;
Yは、-O-、-NHまたは-O-C-Cアルキルであり、
nは、0~10の整数であり、
mは、0~5の整数であり、
およびRは、独立してC-Cアルキルであり、
は、C-Cシクロアルキル、またはハロゲン、-CF、-ORもしくは-NRによって置換されていてもよい5員もしくは6員の不飽和炭素環もしくはヘテロ環であり、ここで、RおよびRは、独立して水素またはC-Cアルキルであり、
は、OH、NHまたはC-Cシクロアルキル、5員もしくは6員の不飽和炭素環もしくはヘテロ環であり、ここで、シクロアルキル、炭素環およびヘテロ環は、ハロゲン、NH、NO、C-Cアルコキシ、C1-6アルキルチオ、OR''、NRまたはCFによって場合により置換されていてもよく、
は、Hであるか、ヒドロキシもしくはC-C10アルケニルで置換されていてもよいC-C10アルキルであるか、またはRと一緒になって-C-となる]
の構造を有する化合物A、またはその薬学的に許容できる塩、立体異性体、エナンチオマー、プロドラッグまたは溶媒和物を含み、
TMZおよび化合物Aは、TMZ耐性を効果的に克服する相対比で組み合わされている、組み合わせ剤を提供する。
【0013】
本発明の一実施態様において、化合物Aは、
【化2】
の構造を有する化合物BMXである。
【0014】
本発明によれば、TMZ耐性は、β-カテニン/c-Myc/SOX2シグナル伝達経路を下方調整し、WT-p53介在性MGMT阻害を上方調整することによって、TMZ媒介性細胞毒性効果を強化することにより克服される。
【0015】
本発明において、TMZおよび化合物A、例えばBMXは、別々にまたは順次に投与される。
【0016】
本発明の一例において、癌は、多形神経膠芽腫(GBM)または結腸直腸癌(CRC)である。
【0017】
別の態様において、本発明は、患者においてTMZ耐性癌を処置するための方法であって、本発明による組み合わせ剤の治療有効量を患者に投与することを含む、方法を提供する。
【0018】
本発明の一例において、癌はGBMまたはCRCである。
【0019】
さらなる一態様において、本発明は、患者において薬物耐性癌の最適個別化処置のための方法であって、患者におけるWT-p53の発現を判定すること、および、WT-p53の発現が患者に存在する場合に、治療有効量のBMXまたはそれと前記薬物との組み合わせ剤を患者に投与することを含む方法を提供する。
【0020】
本発明の一実施態様において、薬物はTMZである。
【0021】
本発明の特定の一実施態様において、薬物耐性癌は、TMZ耐性癌、特にGMBまたはCRCである。
【0022】
本発明において、BMXがWT-p53癌細胞の阻害を強化するのに有効であることが確認された。
【0023】
さらなる一態様において、本発明は、TMZ耐性癌を処置するための医薬またはキットを製造するための、BMXおよびTMZの組み合わせ剤の使用を提供する。
【0024】
本発明を、以下の実施例によってさらに説明する。しかし、以下の実施例は、単に説明の目的を意図しており、本発明を実際に限定するものと解釈されるべきではないことを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本発明の前述の発明の概要、および以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読む場合に、より良く理解されるであろう。本発明を説明する目的で、現時点で好ましい実施態様を図面に示す。
【0026】
図1図1は、バイオインフォマティクスツールによるHDAC8と関連する可能性のある遺伝子についての経路分析を提供し、ここではshRNA HDAC8をCLUEデータベースに入力し、スコアが90を上回るCPおよびPCLを選択した(A)。標的遺伝子を、さらなる実験のためにCPDB経路分析データベース(B)に入力した。(C)shRNA HDAC8についてCPおよびPCL(スコアが90を上回る)を選択するための上位10の経路。10の経路は以下の通りである:VEGF;PI3K-Aktシグナル伝達経路;JAK STAT経路および調整;シグナル伝達経路;MAPKシグナル伝達経路-ホモサピエンス(Homo sapiens)(ヒト);アポトーシス;オートファジー;HIF-1シグナル伝達経路;TNF関連の弱いアポトーシス誘導物質(TWEAK)シグナル伝達経路;Wntシグナル伝達経路。VEGF;PI3K-Aktシグナル伝達経路;JAK STAT経路および調整;シグナル伝達経路;MAPKシグナル伝達経路-ホモサピエンス(ヒト);アポトーシス;オートファジー;HIF-1シグナル伝達経路;TNF関連の弱いアポトーシス誘導物質(TWEAK)シグナル伝達経路;Wntシグナル伝達経路。
【0027】
図2図2は、BMXがGBM細胞(U87MGおよびA172)の成長および増殖を阻害したこと、ならびにBMXおよびTMZの組み合わせ剤がGBM-R細胞(U87MG-RおよびA172-R)の成長および増殖を阻害することを示している。(A)BMXの化学構造。(B)0.5μM、10μM、15μM、30μM、または50μMのBMXによる処置後のGBMおよびGBM-R細胞株の細胞生存率。(C)0.25μM、50μM、100μM、200μM、400μM、または800μMのTMZによる処置後のGBMおよびGBM-R細胞株の細胞生存率。(D)さまざまな濃度(0.25μM、50μM、100μM、200μM、400μM、または800μM)のTMZを含むかまたは含まない10μMのBMXによる24時間の処置後のGBMおよびGBM-R細胞の生存率。(E)さまざまな濃度(0.5μM、10μM、15μM、30μM、または50μM)のBMXを含むかまたは含まない50μMのTMZによる24時間の処置後のGBMおよびGBM-R細胞の生存率。(F)10μMのBMXを含むかまたは含まない50μMのTMZによる24時間、48時間、および72時間の処置後のGBM-R細胞の生存率。(G)TMZ(50μM)を含むかまたは含まないBMX(0μM、5μM、または10μM)によるGBMおよびGBM-R細胞株の14日間のコロニー原性アッセイ。データは、3つの実験からの平均±SEMとして表される。対照(A172およびU87MG)との比較でp<0.05、#(A172-RおよびU87MG-R)との比較でp<0.05。
【0028】
図3図3は、BMXがWnt/β-カテニン/GSK3β経路を標的化してGBM-R細胞の細胞増殖を抑制することによって、TMZ介在性細胞毒性効果を強化したことを示している。(A)50μMのTMZを含むかまたは含まない5μMまたは10μMのBMXによる48時間の処置後のGBM-R細胞のGSK-3βおよびβ-カテニンの活性化状態。(B)50μMのTMZを含むかまたは含まない5μMまたは10μMのBMXによる48時間の処置後のGBM-R細胞のc-MycおよびサイクリンD1タンパク質レベル。(C)10μMのMG132を含むかまたは含まない10μMのBMXおよび50μMのTMZによる処置後のGBM-R細胞におけるβ-カテニン(Ser33/37/41)のリン酸化状態ならびにc-MycおよびサイクリンD1タンパク質発現の変化。
【0029】
図4図4は、BMXおよびTMZの組み合わせ剤が、GBM-R細胞におけるTMZ媒介性アポトーシスを促進することによって、TMZ介在性細胞毒性効果を強化したことを示している。(A)TMZを含むかまたは含まないBMXによる48時間の処置のGBM(U87MGおよびA172)およびGBM-R(U87MG-RおよびA172-R)細胞の細胞周期分布。(B)G0/G1期、S期およびG2/M期にある細胞の百分率をヒストグラムに示す。(C)subG1の百分率の棒グラフ。(D)TMZを含むかまたは含まないBMXによる48時間の処置のGBM(U87MGおよびA172)およびGBM-R(U87MG-RおよびA172-R)細胞のアネキシンV/PIアポトーシスアッセイ。(E)アポトーシス細胞の百分率を示すヒストグラム。
【0030】
図5図5は、BMXおよびTMZの組み合わせ剤が、GBM-R細胞におけるWT-p53介在性MGMT阻害によるTMZ介在性細胞毒性効果を強化したことを示している。(A)GBM(U87MGおよびA172)およびGBM-R(U87MG-RおよびA172-R)細胞株におけるWT-p53およびMGMTの発現パターン。(B)50μMのTMZを含むかまたは含まない5μMまたは10μMのBMXによる48時間の処置のU87MG-RおよびA172-R細胞でのWT-p53、MGMT、P21、Bax、Bcl-2、Puma、および切断型カスパーゼ-3のタンパク質変化。(C)GBM(U87MGおよびA172)およびGBM-R(U87MG-RおよびA172-R)細胞の、50μMのTMZを含むかまたは含まない5μMまたは10μMのBMXによる48時間の処置は、MGMTレベルを低下させ、WT-p53およびPhospho-WT-p53レベル(ser 15)を上昇させた。β-アクチンを内部対照として使用した。
【0031】
図6図6は、BMXおよびTMZの組み合わせ剤がGBM-R細胞におけるGSC形成を減少させたことを示している。(A)親細胞株と耐性娘細胞株との間でのCSC関連遺伝子(CD133、CD44、およびSOX2)発現の状態。(B)U87MG-RおよびA172-R細胞に、50μMのTMZを含むかまたは含まない5μMおよび10μMのBMXを48時間投与した後のCD133、CD44、およびSOX2タンパク質レベルの変化。(C)外科的生検で得られたヒト原発性GBM(放射線療法と化学療法との同時併用前の同じ患者)および再発GBM腫瘍組織(放射線療法と化学療法の同時併用後)におけるHDAC8およびCSC関連遺伝子(CD133およびCD44)の免疫組織化学的染色。
【0032】
図7図7は、GBM-R細胞におけるTMZ耐性を克服するためのBMXとTMZとの組み合わせの機序の作業モデルを提供する。
【0033】
図8図8は、GBM細胞株の遺伝的特徴を示す(A)ウエスタンブロットによるGBM細胞におけるAbcam company製のHDAC8の発現。
【0034】
図9図9は、BMXが強力な半合成HDAC8阻害剤であったことを示す。(B)ビッグデータ分析を通じてのMGMTメチル化ペアGBMの試験。野生型および突然変異体(mutatnt)は、それぞれ青色および赤色で標識されている(片側t検定、:p<0.05)。(A)TMZ(50μM)の存在下または非存在下で異なる用量のBMX(0~10μM)により刺激したHDAC8発現レベルを、qRT-PCRアッセイを使用して決定した。(B)TMZ(50μM)を含むかまたは含まないBMX(0~10μM)で刺激したHDAC8発現レベルを、ウエスタンブロット法を使用して決定した。
【0035】
図10図10は、BMX、およびBMXとTMZとが、U87MG、U87MG-R、A172およびA172-Rの成長および増殖を阻害したことを示している。(A)指定濃度のBMX(0.5μM、10μM、15μM、30μMまたは50μM)で24時間、48時間および72時間処置した後のGBMおよびGBM-R細胞株の細胞生存率。(B)指定濃度のTMZ(0.25μM、50μM、100μM、200μM、400μMまたは800μM)で24時間、48時間および72時間処置した後のGBMおよびGBM-R細胞株の細胞生存率。(C)異なる濃度(0.25μM、50μM、100μM、200μM、400μMまたは800μM)のTMZを含むかまたは含まない10μMのBMXで24時間、48時間および72時間処理した後のGBMおよびGBM-R細胞株の細胞生存率。(D)異なる濃度(0.5μM、10μM、15μM、30μMまたは50μM)のBMXを含むかまたは含まない50μMのTMZで24時間、48時間および72時間処置した後のGBMおよびGBM-R細胞株の細胞生存率。(E)10μMのBMXを含むかまたは含まない50μMのTMZで24、48時間および72時間処置した後のGBM-R細胞株の細胞生存率。
【0036】
図11図11は、GBM細胞におけるBMXのインビトロ細胞毒性を示す。(A)U87およびU87R細胞、ならびに(B)A172およびA172R細胞を、TMZ(50および100μM)で処置した。GBM細胞に対するTMZのこの阻害効果は、クローン原性アッセイを使用して決定した。p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【0037】
図12図12は、野生型p53(WT-p53)である2種の親GBM細胞株(A172およびU87MG)および2種のTMZ耐性GBM細胞株のHDAC8発現レベルを含む、神経膠芽細胞腫における薬物および遺伝子の情報を示す。
【0038】
図13図13は、BMX、TMZ、オキサリプラチンおよびドキソルビシンの組み合わせが、CRC細胞における細胞増殖を阻害したことを示す。(A)さまざまな薬物濃度および処置時間によるHT29、HCT116およびRKO細胞におけるBMX、TMZ、Oxp、Dox、BMX+TMZ、BMX+OxpまたはBMX+Doxの増殖を、CCK-8法を使用してアッセイした。(B)HT29、HCT116およびRKO細胞におけるBMX、TMZ、Oxp、BMX+TMZ、およびBMX+Oxpの異なる処置によるコロニー形成能アッセイで、クローンを定量し、統計図として提示した。(C)HT29、HCT116およびRKO細胞における異なる濃度のBMX、またはTMZと組み合わせた異なる濃度のBMXによる48時間の処置後の細胞周期分析、ならびに各細胞周期相にある細胞の割合。(D)異なる濃度のBMX、またはTMZと組み合わせた異なる濃度のBMXによる48時間の処置後のアポトーシス分析、ならびにHT29、HCT116およびRKO細胞における細胞のアポトーシス率。結果はすべて、3つの独立した実験からの平均±s.d.として示される。対照(HT29細胞)との比較でp<0.05、**p<0.01、***p<0.001、対照(HCT116細胞)との比較で#p<0.05、##p<0.01、###p<0.001、対照(RKO細胞)との比較で†p<0.05、††p<0.01、†††p<0.001。
【0039】
図14図14は、BMX、BMXおよびTMZの組み合わせによって誘導されるアポトーシスおよびオートファジーの効果が、p53介在性MGMT阻害によって媒介されたことを示す。(A)種々の濃度のBMX(5μMおよび10μM)および種々の濃度のBMXとTMZとの組み合わせにより48時間処置したHT29、HCT116およびRKO細胞におけるp53、p53 Lys382アセチル化、p53 Ser15リン酸化、p21、p16、MGMT、γH2AX、E2F1およびE2F3の発現のウエスタンブロット分析。(B)種々の濃度のBMX(5μMおよび10μM)および種々の濃度のBMXとTMZとの組み合わせにより48時間処置したHT29、HCT116およびRKO細胞における切断型カスパーゼ-3、切断型カスパーゼ-7、切断型カスパーゼ-8、切断型カスパーゼ-9および切断型PARPタンパク質の発現。(C)種々の濃度のBMX(5μMおよび10μM)および種々の濃度のBMXとTMZとの組み合わせにより48時間処置したHT29、HCT116およびRKO細胞におけるBax、Bcl-2、BID、Bim、BakおよびPunaタンパク質の発現。GAPDHをローディング対照として使用した。
【0040】
図15図15は、BMX、BMXおよびTMZの組み合わせが、HT29、HCT116およびRKO細胞において細胞老化を誘導することを示す。BMXおよびTMZの組み合わせの老化関連β-ガラクトシダーゼ(SAβ-gal)染色。細胞を10μMのBMX+TMZ(50μM)で48時間処置し、細胞をSAβ-galで染色した(青色の細胞質染色)。スケールバー、50μm。SAβ-gal活性の定量。結果はすべて、3つの独立した実験からの平均±s.d.として示される。対照(HT29細胞)との比較でp<0.05、**p<0.01、***p<0.001;対照(HCT116細胞)との比較で#p<0.05、##p<0.01、###p<0.001;対照(RKO細胞)との比較で†p<0.05、††p<0.01、†††p<0.001。
【0041】
図16図16は、BMXおよびTMZの組み合わせが、HT29、HCT116およびRKO細胞におけるCSC形成を減少させたことを示す。HT29、HCT116およびRKO細胞に、50μMのTMZを含むかまたは含まない5μMおよび10μMのBMXを48時間投与した後のCD133、CD44およびSOX2タンパク質レベルの変化。GAPDHをローディング対照として使用した。
【0042】
図17図17は、BMXが、CRC細胞におけるWnt/β-カテニン/GSK3β経路を標的化することによって、TMZ介在性細胞毒性効果を強化したことを示す。(A)50μMのTMZを含むかまたは含まない5μMまたは10μMのBMXによる48時間の処置後のHT29、HCT116およびRKO細胞のGSK-3β、β-カテニン活性化状態、c-MycおよびサイクリンD1。(B)GSK-3β、β-カテニン活性化状態、c-MycおよびサイクリンD1の発現は、T29、HCT116およびRKO細胞において、50μMのTMZおよびMG132を含むかまたは含まないBMXによって上方調整される。(C)P53およびMGMTの発現は、T29、HCT116およびRKO細胞において、50μMのTMZおよびMG132を含むかまたは含まないBMXによって上方調整される。GAPDHをローディング対照として使用した。
【0043】
図18図18は、オートファジーが、BMX単独(along)、BMXおよびTMZの組み合わせによる細胞死の誘導に関与したことを示す。(A)50μMのTMZを含むかまたは含まないBMX(5μMおよび10μM)で処置したHT29、HCT116およびRKO細胞におけるLC3およびP62/SQSTM1の発現を、ウエスタンブロットによって評価した。(B)P62/SQSTM1の発現は、T29、HCT116およびRKO細胞において、50μMのTMZおよびMG132を含むかまたは含まないBMXによって下方調整される。(C)BAFおよびVADによる前処置は、50μMのTMZを含むかまたは含まないBMX(5μMおよび10μM)に48時間曝露させたHT29、HCT116およびRKO細胞の細胞アポトーシスを減少させた。(D)50μMのTMZを含むかまたは含まないBMX(5μMおよび10μM)に対するVADおよびBAFの効果は、切断型カスパーゼ-3、切断型PARP、P62およびLC3の発現を誘導した。GAPDHをローディング対照として使用した。
【発明を実施するための形態】
【0044】
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0045】
本発明は、TMZおよび化合物Aの組み合わせを使用して、TMZ耐性癌(例えば、GBMおよびCRC)の患者を処置するための新たな方法を提供する。
【0046】
化合物Aは、新規の小分子アイソフォーム-選択的HDAC8阻害剤である。化合物Aは、米国特許第7,994,357号に開示されており、その内容はその全体が引用により本明細書に包含される。化合物Aは、式A、またはその薬学的に許容できる塩、立体異性体、エナンチオマー、プロドラッグもしくは溶媒和物の構造を有する:
【0047】
【化3】
[式中、
は、水素、アルキル、アルケニル、C-Cシクロアルキル、5員もしくは6員の不飽和炭素環または5員もしくは6員のヘテロ環、または(CH)mRであり;
Xは、C、-O-、-N-または-S-であり;
Yは、-O-、-NHまたは-O-C-Cアルキルであり;
nは、0~10の整数であり;
mは、0~5の整数であり;
およびRは、独立してC-Cアルキルであり;
は、ハロゲン、-CF、-ORまたは-NRによって置換されていてもよいC-Cシクロアルキルまたは5員もしくは6員の不飽和炭素環またはヘテロ環であり、ここで、RおよびRは、独立して水素またはC-Cアルキルであり;
は、OH、NHまたはC-Cシクロアルキル、5員もしくは6員の不飽和炭素環またはヘテロ環であり、ここで、シクロアルキル、炭素環およびヘテロ環は、ハロゲン、NH、NO、C-Cアルコキシ、C1-6アルキルチオ、OR”、NRまたはCFによって場合により置換されていてよく、
は、Hであるか、ヒドロキシもしくはC-C10アルケニルによって置換されていてもよいC-C10アルキルであるか、またはRと一緒になって-C-となる]。
【0048】
本発明の特定の一実施態様において、化合物AはBMXであり、これはYang YC et al.[22]で報告されているように、オストールの半合成に由来し、学習と記憶において新規な役割を果たす:
【化4】
【0049】
BMXは、毒性が最も低く、血液脳関門を通過する能力がある、アイソフォーム選択的HDAC8阻害剤であることが知られている[22]。
【0050】
本明細書で使用される場合、「テモゾロミド」または「TMZ」という用語は、特に「Temodar」という商品名で販売されていて、いくつかの脳腫瘍、例えば、多形神経膠芽腫または悪性星状細胞腫を処置するために使用される薬物を意味する。TMZは以下の構造を有する:
【化5】
【0051】
テモゾロミド(TMZ)は、一部の癌の処置、例えば、星状細胞腫に対する第二選択処置および多形神経膠芽腫に対する第一選択処置に使用されるアルキル化剤である。また、オラパリブとテモゾロミドとの組み合わせが、再発小細胞肺癌に対して実質的な臨床的活性を示すことも見出されている。
【0052】
本明細書で使用される場合、「多形神経膠芽腫」、「神経膠芽細胞腫」または「GBM」という用語は、正常な脳細胞から生じるか、または既存の低悪性度星状細胞腫から発生する脳癌を意味する。GBMを予防する方法は知られていない。処置は通常、手術を伴い、その後に化学療法および放射線療法が使用される。テモゾロミド(TMZ)による薬物療法が、化学療法の一部として使用されることが多い。
【0053】
本明細書で使用される場合、腸癌または直腸癌としても知られる「結腸癌」、「結腸直腸癌」または「CRC」という用語は、結腸または直腸(大腸の一部)から発生した癌を意味する。その徴候および症状には、便中の血液、便通の変化、体重減少、および疲労が含まれ得る。CRCの標準的処置は手術、放射線療法および/または化学療法であり、オキサリプラチン(Oxp)およびそのプロドラッグであるカペシタビンが臨床診療に広く使用されている。残念ながら、この種のDNA架橋剤による処置下での再発は、全サイクルを完了した後でさえ、最初の数年以内であることが依然として一般的である。
【0054】
本発明において、BMXは、β-カテニン/c-Myc/SOX2シグナル伝達経路を下方調整し、かつWT-p53介在性MGMT阻害を上方調整することによってTMZ介在性細胞毒性効果を強化することにより、TMZ耐性を克服することが見出された。本発明における結果は、BMXまたはそれとTMZとの組み合わせが、TMZ耐性のWT-p53 GBMまたはCRC細胞の最適個別化処置に有望であることを示した。
【0055】
本発明を、以下の実施例によってさらに説明するが、これらの例は、限定ではなく実証の目的で提供される。
【実施例
【0056】
1.1 材料および方法
【0057】
1.1.1 細胞培養および試薬
【0058】
本試験には、4種類のGBM細胞株U87、U87R、A172およびA172Rを使用した。American Type Culture Collection(ATCC;Manassas、VA、USA)から、ヒトGBM細胞株U87-MG(ATCC HTB-14;起源不明のGBM)およびA172(ATCC CRL-1620;ATCC)の提供を受けた。U87RおよびA172R細胞は、Dr.Tsung-I HsuおよびDr.Jian-Ying Chung(The Ph.D.Program for Neural Regenerative Medicine、College of Medical Science and Technology、Taipei Medical University、Taipei、Taiwan)から入手した。これらの細胞を、10%ウシ胎仔血清(FBS)および50μMのTMZを含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中で少なくとも60日間維持した。U87RおよびA172R細胞におけるTMZ耐性を、コロニー形成アッセイを使用して確認した(図11)。細胞を、10% FBS、100U/mLペニシリン、100mg/mLストレプトマイシン(すべてGibco;Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA、USA)を補充したDMEM中で培養し、加湿インキュベーター内で37℃および5% COで維持した。NBM-BMX(BMX)、(E)-2-(4-メトキシベンジルオキシ)-3-プレニル-4-メトキシ-N-ヒドロキシシナミドは、NatureWise Biotech & Medicals Corporation(Taipei、Taiwan)から提供された。
【0059】
1.1.2 細胞増殖およびコロニー形成アッセイ
【0060】
本発明者らはウェル当たり3000個のGBM細胞を96ウェルプレートにプレーティングし、一晩かけてそれらを接着させた。BMXおよびTMZ単剤療法に対する細胞株の反応性を検証するために、細胞を異なる用量のBMXまたはTMZにより24、48、および72時間処置した。BMX-TMZの組み合わせに対する細胞の反応性を確認するために、細胞をBMX(10μM)を含むかもしくは含まない異なる用量のTMZ(0~800μg/mL)により24、48、および72時間処置するか、またはTMZ(50μM)を含むかもしくは含まない異なる用量のBMX(0~50μM)により24、48、および72時間処置した。処置後に、指定の時点でCCK8キット(Targetmol、Shanghai、China)を使用して吸収値を測定した。結果は、少なくとも3回反復の平均±標準偏差として報告する。
【0061】
A172、A172-R、U87MGおよびU87MG-R細胞を6cm培養皿に播種して(1000個/皿)、14日間インキュベートした。細胞をリン酸緩衝生理食塩水で3回洗浄し、4%パラホルムアルデヒド中で30分間固定し、0.1%クリスタルバイオレットにより25℃で20分間染色した。コロニーを水道水で注意深く洗浄した後、少なくとも50個の細胞と定義されるコロニーの数を計数して分析した。結果は、3つの独立した実験からの平均コロニー数±SEとして表される。
【0062】
1.1.3 逆転写-定量的ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)
【0063】
ABI Prism(登録商標)7700 Sequence Detection System(Applied Biosystems、Foster City、CA、USA)を、mRNA発現の定量分析に使用した。細胞(2×10個)を6ウェルプレートに播種し、Tissue Total RNA Mini Kit(Geneaid、Taipei、Taiwan)を使用して全RNAを抽出した。High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems)の使用により、全RNAの10ng試料をcDNAに転写した。Fast SYBR Green Master Mix(Applied Biosystems)を使用して、製造元が提供する手順に従い、18sを内部参照として遺伝子の発現を定量した。すべての手順は、製造元のプロトコールに従って実施した。熱サイクル条件は以下の通りとした:50℃で2分間、95℃で10分間、ならびに95℃で15秒間および60℃で1秒間を40サイクル。各試料を3連で分析した。閾値サイクル(Ct)値は、StepOnePlus(Applied Biosystems)ソフトウェアを使用して計算した。各mRNAの相対発現は、2-(ΔCt)法を使用して計算した。HDAC8のプライマー配列は以下の通りであった:
HDAC8 順方向 5’-GCGTGATTTCCAGCACATAA-3’(配列番号1)、
HDAC8 逆方向 5’-ATACTTGACCGGGGTCATCC-3’(配列番号2)。
18s 順方向 5’-TCAAGTGCAGTGCAACAACTC-3’(配列番号3)、
18s 逆方向 5’-AGAGGACAGGGTGGAGTAATCA-3’(配列番号4)。
【0064】
1.1.4 DNA細胞周期のフローサイトメトリー分析
【0065】
DNA細胞周期については、TMZ(50μM)の存在下または非存在下で異なる用量のBMX(0~10μM)による48時間の処置の後に、細胞をトリプシン処理により回収し、リン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄し、メタノールで固定した。続いて細胞を再度洗浄し、最終濃度0.05mg/mL(Sigma-Aldrich;Merck Millipore、Darmstadt、Germany)のRNアーゼAに供し、10μg/mLヨウ化プロピジウム(PI;Sigma-Aldrich;Merck Millipore)とともに、暗所で4℃で15分間インキュベートした。細胞周期分析は、蛍光活性化細胞選別(FACS)フローサイトメーター(Attune NxTフローサイトメーター、Thermo Fisher Scientific)を使用して実施した。
【0066】
1.1.5 アポトーシスのフローサイトメトリー分析
【0067】
TMZ(50μM)の存在下または非存在下で異なる用量のBMX(0~10μM)における細胞アポトーシスを分析するために、CF(登録商標)488A Annexin V and PI Apoptosis Kit(Fremont、CA、USA)を製造元の指示書に従って使用して、FITC標識アネキシンV/PI染色を行った。PIおよびアネキシンのフローサイトメトリーによる分析は、処置後48時間で行った。合計10,000個の核を、FACSフローサイトメーター(Attune NxTフローサイトメーター、Thermo Fisher Scientific)を使用して測定した。
【0068】
1.1.6 免疫組織化学染色
【0069】
4μm厚パラフィン切片に対して免疫組織化学染色を行った。切片の脱蝋および水和を行って、4℃で一晩置いた。CD133(AP1802a、Abgent、San Diego、CA、USA)、P62(ab56416、Abcam、Cambridge、MA、USA)、およびLC3II(AP1802a、Abgent)に対する抗体については、標準的なアビジン-ビオチン複合体法を使用した。切片を室温に戻した後、ビオチン化二次抗体および西洋ワサビ標識ストレプトアビジンを添加した。続いて、試料を37℃でオーブン内でインキュベートした。続いて、DAB発色、ヘマトキシリン対比染色、勾配アルコール脱水、およびキシレン透明化を実施した。その後、すべての試料を中性ゴムで密封した。ヒトの脳組織:本試験における倫理規定は、Kaohsiung Medical University Hospitalの施設内審査委員会の承認を受けた(No.KMUHIRB-F(I)-20200024)。本試験に参加した対象全員からインフォームド・コンセントを得た。
【0070】
1.1.7 ウエスタンブロット分析
【0071】
細胞を回収し、プロテアーゼ阻害剤を含有するRIPA溶解緩衝液(EMD Millipore Billerica、MA、USA、10×RIPA緩衝液)中に溶解させた。タンパク質濃度は、タンパク質アッセイキット(Bio-Rad Laboratories、Hercules、CA、USA)を使用して決定した。SDSローディング緩衝液をタンパク質試料と混合した。タンパク質(20μg/レーン)を、8%~12% SDS-PAGEを使用して分離して、PVDF膜に移行させ、これをトリス緩衝食塩水(TBS)-Tween 20(0.5%;TBS-T)中にて5%ウシ血清アルブミンにより室温で1時間かけてブロッキングし、一次抗体とともに44℃で一晩インキュベートし、続いて西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合二次抗体とともに室温で1時間インキュベートした。TBS-Tで十分に洗浄した後、HRPシグナルを化学的HRP基質で検出した。使用した抗体を表3に列挙する。各標的タンパク質のシグナルは、増強化学発光試薬とのインキュベーションおよびX線フィルムへの曝露によって可視化した。
【0072】
1.1.8 統計分析
【0073】
データは平均値±標準偏差として提示する。統計分析は一元配置分散分析を使用して行った。データはStudentのt検定を使用して比較した。統計学的有意水準はp<0.05、**p<0.01、***p<0.001に設定した。
【表1】

【0074】
1.1.9 マルチデータベースプラットフォームを通じてHDAC8阻害剤の考えられる機序を予測する
間接的プロセス:CLUEにより、shRNA HDAC8の結合性スコアをそれらの100万のプロファイルから計算し、対立的化合物および遺伝子摂動との類似性について順序付けた。基準を90を上回る正のスコアでフィルタリングし、生物学的機能におけるshRNA HDAC8調整因子として各場合の標的化遺伝子を収集した。この遺伝子リストをCPDBプラットフォームに入力してエンリッチメント分析を行って、明確な経路情報を得る。直接的プロセス:BMX-L1000遺伝子発現データに基づいて、HepG2細胞において薬物の生物学的機能に反応する上方調整遺伝子および下方調整遺伝子の両方をリスト化する。BMX(1μM)をDMSO対照と比較して、±1.5倍の変化、p値<0.05により、有意な差次的発現遺伝子(DEG)を定義する。このようにして、DEGを、経路分析のためにCPDBを検索するための入力として使用した。優先順位付けされた経路を絞り込むために、本発明者らは2つの結果に関心を抱き、共通のエレメントを選択した。
【0075】
1.2 結果:
【0076】
1.2.1 バイオインフォマティクスツールを通じてのHDAC8阻害剤の考えられる発現プロファイルの経路分析
【0077】
HDAC8阻害剤および遺伝子関与の考えられる機序について探索するために、本発明者らは、包括的機序分析のためのコネクティビティマップ(C-Map)および統合ネットワークベースの細胞シグネチャー統一環境ライブラリー(Library of Integrated Network-Based Cellular Signatures Unified Environment)(CLUE)システムデータベース(https://clue.io/)およびConsensusPathDB (CPDB) プラットフォーム(http://cpdb.molgen.mpg.de/)を使用した。本発明者らは、直接分析と間接分析という2通りのバイオインフォマティクスプロセスをそれぞれ利用した(図1A)。直接分析については、HepG2細胞を、BMXの生物学的機能に反応するL1000プレート中でBMXにより処置した(図1A、右)。1.5倍への変化を伴う有意な差次的発現遺伝子(1583個の上方調整および900個の下方調整)を使用して、CPDBプラットフォームを検索し、考えられる経路を明らかにした(p値<0.05)。次に、本発明者らは、CLUEプラットフォームの間接的アプローチ、パターンマッチングアルゴリズムを通じて、HDAC8の阻害機能を分析した。shRNA HDAC8シグネチャーをBMX処置(HDAC8阻害剤)のシミュレーションとして使用して、本発明者らは続いてCLUEにアクセスし、CLUEは、19,811種の小分子化合物または遺伝子摂動(例えば、18,493種類のshRNA、3,462種類の過剰発現コンストラクト)からの類似シグネチャーパターンに一致する100万を上回るプロファイルを計算し、続いてコネクティビティスコアを得た。正のスコアは、クエリシグネチャーとインスタンスシグネチャーとの間に類似の機序があることを示し、負のスコアは逆の機能を意味した。本発明者らの基準により、化合物(CP)、ノックダウン遺伝子(KD)、過剰発現遺伝子(OE)、および摂動因子クラス(PCL)の90を上回るコネクティビティスコアを選択した。CLUEは、類似の機能化合物または同じファミリー遺伝子を、作用機序として仮定し得る特定のグループに分類した。しかし、このビッグデータシステムは詳細な経路情報を提供しなかった。このため、本発明者らは、shHDAC8およびBMX処置細胞からの補完的分析のためにCPDBプラットフォームを組み合わせた(図1A、左)。これらの異なるバイオインフォマティクスパイプラインにより、いくつかの機序/経路が得られると考えられ、本発明者らはこれらの2つのデータセットを交差させて、可能性のある考えられる経路をフィルタリングした。Wntシグナル伝達経路は、本発明者らのマルチデータベースプラットフォーム(図1B)を介して明らかになった最上位の機序の1つである。
【0078】
1.2.2 BMXはTMZ介在性細胞毒性効果を強化し、GBM-R細胞の成長および増殖を阻害した
【0079】
HDAC8が治療抵抗性GBMと相関するか否かを調べるために、本発明者らは、2種の親GBM細胞株(A172およびU87MG、A172およびU87MGは野生型p53(WT-p53)である、図12)および2種のTMZ耐性GBM細胞株(A172-RおよびU87MG-R、WT-p53の変異体)のHDAC8発現レベルを調べた。HDAC8の過剰発現が、両方のGBM-R細胞株で検出された(図8Aおよび8B)。
【0080】
本実施例では、NBM-BMX(Nature Wise Biotech&Medicals Corporationにより提供;本稿ではBMXを使用した)をHDAC8阻害剤として使用して、さらなる実験のためにshRNA HDAC8の効果を模倣した。BMX(397.46Da)の構造を図2Aに示す。4種の細胞株をBMXで処置し、HDAC8 mRNAおよびタンパク質発現のBMX誘導阻害を検出することによって、BMXがHDAC8阻害剤であることが確認された(図9Aおよび9B)。
【0081】
BMXは、GBM細胞およびGBM-R細胞の両方において、TMZ介在性細胞毒性効果の感受性を強化し得ると考えられている。本実施例では、A172/A172-RおよびU87MG/U87MG-R細胞において、GBMおよびGBM-Rを処置する際に、BMXとTMZとの間に組み合わせ効果が存在することが見出された。MTTアッセイを行って、BMX単独群、TMZ単独群、および組み合わせ群について、異なる濃度での24、48および72時間で細胞増殖および細胞生存率を評価した。各単独処置群において、結果は、各群における細胞毒性効果が時間依存的に増加することを示唆した(図10A)。これらの結果、BMX単独でのIC50値は、A172/A172-R細胞では21.00±2.34μM/52.64±3.62μM超、およびU87MG/U87MG-R細胞では29.84±2.32μM/68.13±4.69μM超であることが明らかになり(図2B)、BMX単独ではGBM細胞増殖を阻害するが、GBM-R細胞の増殖は阻害しないことが示唆された。また、TMZ単独でのIC50値は、A172/U87MG細胞では73.48±3.65μM/80.99±1.68μM、およびA172-R/U87MG-R細胞では595.07±23.42μM/302.51±15.24μMであり、GBM-R細胞の信頼性が確認された(図2C)。組み合わせ処置群では、BMX10μMを使用して、異なる用量のTMZと組み合わせ(図2D)、TMZ 50μM(GBM-R細胞株における維持濃度と同じ)で異なる用量のBMXと組み合わせ(図2E)、GBM-R細胞におけるTMZ介在性細胞毒性効果を最も強化し得るBMXおよびTMZの用量を決定した。データから、50μMのTMZと10μMのBMXが、両方のGBM-R細胞株で最も高い細胞毒性効果を発揮したことが明らかになった。本発明者らはこの組み合わせを時間依存的に使用したところ、48時間で細胞毒性効果を認めた(図2F、BMX 10μMの48時間で:0.88倍、0.77倍、0.63倍;BMXおよびTMZ:0.74倍、0.56倍、0.47倍)。クローン原性アッセイからも、BMX単独ではなく、10μMのBMXと50μMのTMZが、GBM-R細胞を抑制したことが明らかになった(図2G)。上記のことから考えて、データは、この組み合わせ処置が、GBM細胞(U87MGおよびA172)およびGBM-R細胞(U87MG-RおよびA172-R)の成長および増殖を阻害すること、ならびに10μMのBMXおよび50μMのTMZの組み合わせがGBM-R細胞に対して最も高い細胞毒性効果(細胞増殖および細胞生存率の抑制)を発揮することを示唆している。それにもかかわらず、BMX単独での細胞生存率もなお中程度に低下し、抑制効果のないTMZ単独と比較して、A172R/U87Rにおける薬理学的細胞毒性効果の部分的能力を示した。したがって、さらなる実験では、BMXとTMZとの組み合わせ処置をBMX単独と比較した。
【0082】
1.2.3 BMXは、GBM-R細胞におけるWnt/β-カテニン/GSK3β経路を標的化することによって、TMZ介在性細胞毒性効果を強化した
【0083】
GBM-R細胞におけるTMZ介在性細胞毒性効果の強化によって機序を調べた。経路分析に基づき、標準的なWntシグナル伝達(Wnt/β-カテニンとしても知られる)経路がGBM-R細胞の増殖に関与することを仮定した。各細胞における遺伝的背景から、Wnt遺伝子、例えば、大腸腺腫性ポリポーシスおよびβ-カテニン(CTNNB1)に突然変異がないことが示された。β-カテニンの状態を検出するためのβ-カテニン活性型としてのホスホ-β-カテニン(Ser33/Ser37/Thr41)。GSK3β(S9)をβ-カテニンのリン酸化に使用して、β-カテニンを分解した。その結果、U87RおよびA172R細胞では、10μMのBMXと50μMのTMZとがβ-カテニンのタンパク質レベルを直接低下させ、GSK3βによるリン酸化を通じてホスホ-β-カテニン(Ser33/Ser37/Thr41)のタンパク質レベルを低下させ、一方、BMX単独はこれらのレベルをわずかに低下させただけであったことが示された。さらに、GSK3β(S9)のリン酸化レベルも低下したことから、GSK3β活性が上昇してβ-カテニンがリン酸化されたことが示された(図3A)。増殖マーカーであるc-MycおよびサイクリンD1に対するBMXの効果を検討したところ、BMXはTMZを含む場合も含まない場合もそれらのレベルを低下させることが認められた(図3B)。
【0084】
β-カテニンタンパク質レベルがタンパク質分解により低下することを検証するために、GBM-R細胞をプロテアソーム阻害剤MG132で処置した。その結果、MG132の適用は、10μMのBMXおよび50μMのTMZの下で、β-カテニンの分解を逆行させ、c-MycおよびサイクリンD1の発現を増加させることが明らかになった(図3C)。これらの結果から、BMXはSer9リン酸化の下方調整を通じてGSK3β活性を強化し、その結果、Ser33/Ser37/Thr41でのβ-カテニンのリン酸化を強化して、タンパク質分解を誘発することが実証された。以上を総合すると、これらのデータから、10μMのBMXおよび50μMのTMZは、部分的にWnt/β-カテニン/GSK3β経路を介して、TMZ介在性細胞毒性効果を強化し、したがって、GBM-R細胞増殖を低下させることが明らかになった。
【0085】
1.2.4 BMXは、GBM-R細胞においてTMZ介在性アポトーシスを促進することによって、TMZ介在性細胞毒性効果を強化した。
【0086】
BMXが細胞周期停止を誘導し得るか否かを調べるために、A172-RおよびU87MG-R細胞株における細胞周期に対するBMX(5μMおよび10μM)単独および50μMのTMZとの組み合わせの効果について分析した。その結果、10μMのBMXが単独で、A172-R細胞(70.34%)およびU87MG-R細胞(77.95%)においてG0/G1期の細胞周期停止を誘導したことが明らかになった。次に、5および10μMのBMXと50μMのTMZとは、両方のGBM-R細胞株において、G0/G1期の細胞周期停止量を増加させただけでなく、サブ-G1期の停止(アポトーシス)も引き起こした(図4A~C)。
【0087】
フローサイトメトリーにより、BMXとTMZとの組み合わせは、A172-R/U87MG-R細胞株において、アポトーシス細胞(21.7%/25.95%)を用量依存的に高い百分率で生じさせたことが明らかになった(図4D)。さらに、10μMのBMXおよび50μMのTMZによる処置後には、後期アポトーシスも優勢であった(図4E)。したがって、BMX単独は細胞周期停止を誘導し得、細胞増殖を抑制するのみで、アポトーシスを誘導しなかったが、BMXとTMZとの組み合わせは、GBM-R細胞においてTMZ介在性アポトーシスを促進し、細胞毒性の強化を導いた。
【0088】
1.2.5 BMXは、GBM-R細胞においてWT-p53介在性MGMT阻害によるTMZ介在性細胞毒性効果を強化した
【0089】
BMXとTMZとの組み合わせはTMZ介在性アポトーシスを促進する可能性があることから、本発明者らは、BMXはWT-p53介在性MGMT阻害を介してTMZ介在性アポトーシスを強化し得ると推測した。本発明者らはまず、A172/A172-RおよびU87MG/U87MG-R細胞におけるWT-p53およびMGMTレベルを検討し、TMZ耐性がWT-p53およびMGMTに関連することを確認した(図5A)。バイオインフォマティクス分析からも、患者の33%のみがp53突然変異を有し、それ以外はp53 WTであることが示唆された(表2)。次に、TCGAおよびドライバーDBデータベースを評価して、p53突然変異とp53 WTとの間の全生存率を比較検討した。コロニー形成アッセイ(図11)により、p53 WT症例は突然変異症例と比較してGBM患者の予後不良を示すことが明らかになった。
【0090】
本発明者らは、WT-p53介在性アポトーシスにおけるアポトーシス促進性シグナル伝達系について検討した。MGMTをTMZ修復能についても検討した。その結果、アポトーシス促進性マーカー、例えば、P21、Bax/Bcl2、およびPumaのレベルは上昇し、MGMTのレベルは50μMのTMZを含むおよび含まないBMXによる処置後に低下することが明らかになった。しかし、切断型カスパーゼ-3は、10μMのBMXと50μMのTMZとの組み合わせの場合にのみ認められた(図5B)。WT-p53介在性MGMT阻害においてアポトーシスがBMX単独、TMZ単独、またはそれらの組み合わせによって誘導されるか否かを明らかにするために、A172-RおよびU87MG-R細胞を、5および10μMのBMXを含むかまたは含まない50μMのTMZにより処置した。TMZ単独では、WT-p53およびDNA損傷マーカー(WT-p53-ser15)を増加させることなく、MGMT発現を中程度にしか抑制することができないことがわかった。しかし、10μMのBMXと50μMのTMZとの組み合わせではMGMT発現は明らかに減少した。さらに、WT-p53およびDNA損傷マーカー(WT-p53-ser15)の発現レベルも上昇し、このことはMGMTがWT-p53介在性アポトーシスによって負に調整されることを意味する(図5C)。
【0091】
さらに、p53 WTおよび突然変異細胞(図8B)の散布図を評価することによって、GBM p53 WT細胞はMGMTが高メチル化されており、MGMTの mRNAおよびタンパク質発現も低下していることが見出された。さらに、TMZ単独では、GBM-R細胞におけるWT-p53介在性アポトーシスを誘導することができなかった。しかし、これらのデータから、BMXとTMZとの組み合わせは、GBM-R細胞におけるWT-p53介在性MGMT阻害を通じてTMZ介在性細胞毒性効果を強化し得ることが示唆された。BMX単独はMGMTレベルを中程度に低下させることができたが、GBM-R細胞におけるWT-p53介在性アポトーシスを誘導しなかった。
【表2】

【0092】
1.2.6 BMXとTMZとの組み合わせはGBM-R細胞におけるGSC形成を減少させた
【0093】
GSCマーカーはGBM耐性の中核であることから、本発明者らはすべての細胞株におけるGSCマーカーのレベルを検討した;A172-RおよびU87MG-R細胞においてCD133、CD44、およびSOX2の高い発現レベルが検出され、このことはTMZ耐性が部分的にGSCマーカーと関連することを意味する(図6A)。さらに、10μMのBMXおよび50μMのTMZによる処置は、両方のGBM-R細胞株においてCD133、CD44、およびSOX2の発現レベルを明らかに低下させた(図6B)。したがって、BMXとTMZとの組み合わせは、GBM-R細胞においてGSCマーカーを減弱させて幹細胞表現型を変換させることによって、TMZ介在性細胞毒性効果を強化することができたと考えられる。
【0094】
本発明者らはまた、TMZ耐性GBMヒト組織におけるHDAC8およびGSCマーカーについても、免疫組織化学を通して検討した(図6C)。その結果、HDAC8およびGSCはGBMにおけるTMZ耐性と密接に関連することが明らかになった。
【0095】
1.3.結論
【0096】
前臨床試験では、HDACが神経膠腫に対して抗腫瘍効果を有することが示されているが、過去の研究には、化学療法抵抗性GBMの処置について言及したものや予想したものはなかった。本発明では、新規アイソタイプ選択的HDAC8阻害剤であるBMXが、β-カテニン/c-Myc/SOX2経路を下方調整することによって幹細胞性を阻害することだけでなく、TMZ耐性GBM細胞においてWT-p53介在性MGMT阻害を上方調整してアポトーシスを誘導することによっても、TMZ介在性細胞毒性効果を強化し得ることを初めて見出した。さらに、WT-p53/MGMT逆行とWnt/β-カテニン/GSKβシグナル伝達経路との逆相関が、GBMおよびTMZ耐性GBMにおける発癌性の役割に関与する可能性があることも明らかになった。
【0097】
上述の結果に基づいて、以下の作業モデルを提案する(図7参照)。
【0098】
まず、TMZ耐性GBMにおけるβ-カテニン/c-Myc/サイクリンD1/SOX2シグナル伝達経路(右側の経路)。本発明者らの以前の研究および本試験におけるバイオインフォマティクス分析によれば、Wnt/β-カテニン/GSK3β経路はGBMに対する療法の選択に影響を及ぼす可能性がある[17]。本発明では、BMXは、TMZを含まない場合も含む場合(細い線および太い線)もともに、Ser9リン酸化を下方調整することによってGSK3β活性を強化し、その結果、Ser33/Ser37/Thr41でのβ-カテニンリン酸化を強化し、β-カテニンタンパク質分解を誘発することが示された。β-カテニンの分解は、プロテアソーム阻害剤としてのMG132により確認された。未分解のβ-カテニンは核内に移行してTCL4に結合して、下流標的遺伝子、例えば、c-MycおよびサイクリンD1を活性化して、細胞増殖を誘導し、細胞周期を継続させる。BMX単独(細い線)およびBMXとTMZと(太い線)はいずれもc-MycおよびサイクリンD1の発現を抑制し、細胞周期停止を誘導した。しかし、BMX単独ではsubG1期の細胞周期停止を誘導することができなかったBMXとTMZとの組み合わせのみが顕著な細胞周期停止を誘導し、subG1期に進行させ、このことはそれがGBM-R細胞における後期アポトーシスを誘導したことを意味する(図7の右下部の点線)。
【0099】
さらに、GSCはGBMにおける治療抵抗性にも重要な働きを果たす。GSCは、神経幹細胞マーカー、例えば、CD133およびCD44、ならびに転写因子、例えば、SOX2の高発現を通じた、インビトロおよびインビボ(in vivo)の両方での自己再生能力を特徴とする[23]。本発明では、BMXがTMZを含まない場合も含む場合もともに、GSCの発現を下方調整することによって幹細胞性を抑制することにより、CD133およびCD44だけでなくSOX2も減弱させることが明らかになった[24]。以前に報告されたように、c-Mycは神経膠腫のCSCを維持するためにも必要である[24]。BMX単独およびBMXとTMZとの組み合わせは、GBM-R細胞におけるβ-カテニン/c-Myc/サイクリンD1/SOX2シグナル伝達経路を介したTMZ介在性細胞毒性効果を強化することによって細胞増殖を抑制したと結論付けることができる。
【0100】
さらに、TMZ耐性GBMにおいて、WT-p53はMGMT阻害を媒介していた(図7の左側の経路)。GBMにおけるTMZの作用機序は、O6位のグアニンへのメチル化によるDNA損傷である。MGMTはメチル化を逆行させてGBM細胞におけるDNAを修復し、GBM耐性を発揮する。MGMT非依存的経路もTMZ耐性に重要な役割を果たすものの[25~27]、MGMT依存的経路は依然としてTMZ耐性の主要な経路と考えられている。本発明では、GBM-R細胞株(A172-RおよびU87MG-R)は高レベルのMGMTタンパク質を発現しており、したがって、MGMT依存的経路が実際にこれらの細胞株におけるTMZ耐性の主要な機序であることが確認された。BMXはMGMT依存性GBM-R細胞株においてMGMT発現を抑制し、DNA損傷修復に対するMGMTの能力を減弱させたと推測され得る。GBM-R細胞株では、BMX単独はMGMT発現を中程度に低下させ、TMZ単独は低下させなかったが(図5Bおよび図5C)、これらの組み合わせは明らかにMGMTタンパク質レベルを低下させ、TMZ介在性アポトーシスをMGMT依存的に強化した。
【0101】
図7に示すように、このモデルは2つの主要なシグナル伝達経路を含む。右側の経路:β-カテニン/c-Myc/サイクリンD1/Sox 2シグナル伝達経路。GBM-R細胞株をBMX単独(細い線)またはBMXとTMZと(太い線)で処置すると、GSK3β(S9)および活性β-カテニンが減少した。続いてc-MycおよびサイクリンD1も減少して細胞周期停止を誘導し、幹細胞活性を減弱させた。しかし、BMXとTMZと(破線)のみがアポトーシスを誘導した可能性がある。左側の経路:WT-p53はMGMT阻害を媒介した。GBM-R細胞株をBMX単独またはBMXとTMZとで処置すると、BMX単独(細い線)およびBMXとTMZと(太い線)の両方で、WT-p53が増加し、MGMTレベル、細胞周期停止および幹細胞性が下方調整された。しかし、WT-p53およびDNA損傷マーカー(WT-p53-ser15、図示せず)は、細胞周期停止マーカー(P21)およびアポトーシス促進マーカー(BAX/Bcl2、およびPuma)の活性化の後に増加して、BMXとTMZと(太い線)の場合にのみアポトーシスおよび細胞死を誘導し(太い線)、著しいDNA損傷を示した。赤色は上方調整を示す。緑色は下方調整を示す。
【0102】
本実施例では、BMXはHDACの阻害において強化された効果をもたらし、WT-p53の回復を介してMGMTを減少させることが見出された(図5A~CのすべてのP53レーン)。本発明では、BMX単独(左部分の細い線)は、WT-p53レベルを中程度に上昇させてMGMT発現を中程度に下方調整させ、DNA修復能を依然として維持するように導くことが示された(図5B)。また、HDAC阻害はWT-p53の再活性を通じてMGMT発現を低下させる可能性があることも推測された。BMX単独は、WT-p53レベルを中程度に増加させ、MGMT発現を中程度に下方調整させ、DNA修復の維持を導くことが示された。さらに、BMX単独でも細胞周期停止マーカー(P21)を誘導した。本発明では、BMXとTMZとの組み合わせ(左部分の太い線)は、WT-p53(およびser15)の過剰発現およびMGMT発現の下方調整を通じて広範なDNA損傷を誘導し、最終的にWT-p53介在性アポトーシスを導いた(図5C)。この組み合わせは(BMX単独と比較して)、細胞周期停止マーカー(P21)、アポトーシス促進性タンパク質(Bax/Bcl2およびPuma)の発現を増加させ、WT-p53介在性アポトーシスのために切断型カスパーゼ-3発現を誘導することもできた。以上を総合すると、これらの結果は、BMX(図7の左部分の細い線)単独ではWT-p53介在性MGMT阻害を部分的にしか誘導しなかったが、BMXとTMZとの組み合わせ(図7の左部分の太い線)は、GBM-R細胞株におけるTMZ細胞毒性効果を強化して、TMZ耐性を克服したことを意味する。
【0103】
結論付けると、本発明において、BMXはβ-カテニン/c-Myc/SOX2シグナル伝達経路を下方調整し、WT-p53介在性MGMT阻害を上方調整することによってTMZ介在性細胞毒性効果を強化することにより、TMZ耐性を克服することが、予想外に見出された。これらの知見は、BMXとTMZとの組み合わせが、TMZ耐性WT-p53 GBM細胞の最適個別化処置に有望であることを示す。
【0104】
実施例2
【0105】
2.1.材料および方法
【0106】
2.1.1 細胞株および細胞培養
【0107】
本試験では、3種類のCRC細胞株HT29、HCT116およびRKOを使用した。American Type Culture Collection(ATCC;Manassas、VA、USA)から、ヒトCRC細胞株HT29(ATCC HTB-38;突然変異体TP53、p.R273H;APCフレームシフト、p.E1554fs;野生型β-カテニン)、HCT116(ATCC CCL-247;野生型TP53;野生型APC;欠失β-カテニン、p.S45del)およびRKO(ATCC CRL-2577;野生型TP53;野生型APC;野生型β-カテニン)の提供を受けた。上に挙げた3種のCRC細胞株を、5% CO2を含有する細胞インキュベーション内において、37℃に維持した付着培養条件下で培養した。HCT-116およびHT-29細胞の2種の細胞株は、10%ウシ胎仔血清(Gibco;Thermo Fischer Scientific、Grand Island、NY、USA)、1%ペニシリンおよび1%ストレプトマイシンを補充したMcCoy 5A培地で培養した。RKO細胞は、10% FBS、1%ペニシリン、1%ストレプトマイシンおよび1%ピルビン酸ナトリウムを補充したMEM培地で培養した。細胞培養物を、3日毎にトリプシン処理によって継代した。BM-BMX(BMX)、(E)-2-(4-メトキシベンジルオキシ)-3-プレニル-4-メトキシ-N-ヒドロキシシナミドは、NatureWise Biotech & Medicals Corporation(Taipei、Taiwan)から提供された。
【0108】
2.1.2 細胞増殖アッセイ
【0109】
本発明者らはウェル当たり4000個のCRC細胞を96ウェルプレートにプレーティングし、一晩かけてそれらを接着させた。BMXおよびTMZ単剤療法に対する細胞株の反応性を検証するために、細胞を異なる用量のBMXまたはTMZにより24、48、および72時間処置した。BMX-TMZの組み合わせに対する細胞の反応性を確認するために、細胞をBMX(5μM)を含むかもしくは含まない異なる用量のTMZ(0~1000μg/mL)により24、48、および72時間処置するか、またはTMZ(50μM)を含むかもしくは含まない異なる用量のBMX(0~10μM)により24、48、および72時間処置した。処置後に、指定の時点でCCK8キット(Targetmol、Shanghai、China)を使用して吸収値を測定した。結果は、少なくとも3回反復の平均±標準偏差として報告する。
【0110】
2.1.3 DNA細胞周期のフローサイトメトリー分析
【0111】
細胞を、TMZ(50μM)の存在下または非存在下での異なる用量のBMX(0~10μM)により48時間処置した。未処置細胞を陰性対照として使用した。すべての試料を、少なくとも3回の独立した実験において3連で実行した。ヨウ化プロピジウム(PI)のフローサイトメトリー分析を行った。DNA細胞周期については、細胞をトリプシン処理して遠心分離し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄して、メタノールで固定した。続いて細胞を再度洗浄し、PI作業溶液(10μg/mL PIおよび20mg/mL RNアーゼA)とともに暗所、37℃で15分間インキュベートした。フローサイトメーター(Attune NxTフローサイトメーター、Thermo Fisher Scientific)を使用して、10,000個の個々の核のPI蛍光を計算した。G0/G1期、S期、G2/M期、およびサブG0/G1期の細胞の画分を、Attune NxTフローサイトメトリーソフトウェアを使用して分析し、各ヒストグラムについて平均ピーク蛍光強度として決定した。
【0112】
2.1.4 アポトーシスのフローサイトメトリー分析
【0113】
TMZ(50μM)の存在下または非存在下で異なる用量のBMX(0~10μM)におけるアポトーシス誘導を、CF(登録商標)488A Annexin V and PI Apoptosis Kit(Fremont、CA、USA)を製造元の指示書に従って使用して、ホスファチジルセリンの膜外在化を検出することによってアッセイした[16]。続いて、すべての試料を直ちにフローサイトメトリーによって分析した。
【0114】
2.1.5 定量的リアルタイムRT-PCR
【0115】
Tissue Total RNA Mini Kit(Geneaid、Taipei、Taiwan)を製造元の指示書に従って使用して、細胞(2×10個)からRNAを抽出した。RNA濃度および純度を、NanoDrop(登録商標)分光光度計(Thermo Scientific、Waltham、MA、USA)を使用して260~280nmで調べた。続いて、High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems)を同じく製造元の指示書に従って使用して、cDNA合成を行った。qPCR反応は、Power SYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems)を製造元の推奨に従って使用して、7500 Real-time PCR System(Applied Biosystems)において18sを内部基準として行った。閾値サイクル(Ct)値は、StepOnePlus(Applied Biosystems)ソフトウェアを使用して計算した。各mRNAの相対発現は、2-(ΔCt)法を使用して計算した。HDAC8のプライマー配列は以下の通りであった。
HDAC8 順方向 5’-GCGTGATTTCCAGCACATAA-3’(配列番号1)、
HDAC8 逆方向 5’-ATACTTGACCGGGGTCATCC-3’(配列番号2)。
18s 順方向 5’-TCAAGTGCAGTGCAACAACTC-3’(配列番号3)、
18s 逆方向 5’-AGAGGACAGGGTGGAGTAATCA-3’(配列番号4)。
【0116】
2.1.6 コロニー形成アッセイ
【0117】
足場依存的増殖アッセイでは、細胞1,000個を培地に再懸濁させて6ウェルプレートに播種した。TMZ(50μM)の存在下または非存在下で種々の濃度のBMX(0~10μM)のみを添加した培地を2~3日毎に交換した。14日後に培地を除去して、細胞を洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで30分間固定し、0.1%クリスタルバイオレットにより25℃で20分間染色した。染色細胞をジメチルスルホキシド(DMSO)で溶解した後、クリスタルバイオレットの強度を570nmの吸光度によって定量した。結果は、3つの独立した実験からの平均コロニー±SEとして表される。
【0118】
2.1.7 老化関連(SA)β-ガラクトシダーゼ(SA-β-gal)分析
【0119】
β-gal活性のSA発現は、Senescence Detectionキット(CS0030-1KT;Sigma-Aldrich;Merck Millipore、Darmstadt、Germany)を使用して行った。手短に述べると、細胞を、TMZ(50μM)の存在下または非存在下で異なる用量のBMX(0~10μM)により48時間処置して、PBSで洗浄し、固定溶液を使用して室温で0.5時間かけて固定し、続いてSA-β-gal染色溶液とともに37℃で一晩インキュベートした。SA-β-gal活性を、pH 6.0でのX-gal(5-ブロモ-4-クロロ-3-3インドリルβ-D-ガラクトシド)染色によって検討した。青色に染色された老化細胞を写真撮影した。ランダムに選択した領域(n=3)を光学顕微鏡によって分析して、老化細胞の百分率を定量化した。
【0120】
2.1.8 ウエスタンブロット分析
【0121】
ウエスタンブロット分析を使用して、TMZ(50μM)またはOXP(5μM)の存在下または非存在下で種々の濃度のBMX(0~10μM)、およびSAHA、VPAまたはPCI-34051の下での試験細胞株の指定タンパク質発現レベルを検討した。SDS-PAGEおよびウエスタンブロット分析は、以前に概説された通りに、調製した溶解物について行った[16]。アセチル-ヒストンH3(Lys9/Lys14)、アセチル-ヒストンH4(Lys8)、P53、アセチル-P53(Lys382)、ホスホ-P53(Ser15)、P21、P16、MGMT、リン-H2AX(S139)、E2F1、E2F3、切断型カスパーゼ-3、切断型カスパーゼ-8、切断型カスパーゼ-7、切断型カスパーゼ-9、PARP、Bax、Bcl-2、Bid、Bim、Bak、Puma、β-カテニン、ホスホ-β-カテニン(Ser/33/37/41)、GSK3β、ホスホ-GSK3β(Ser 9)、c-Myc、サイクリンD1、P62、LC3B、CD133、CD44、SOX-2およびHDAC8に対する特異的一次抗体を検出に使用し、GAPDH、α-チューブリンまたはβ-アクチンを内部対照として使用した。一次抗体とのインキュベーションの後に、次いで、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合二次抗体とインキュベートして、HRPシグナルを化学的HRP基質により検出した。本発明者らが使用した抗体を表4に示す。各標的タンパク質のシグナルは、増強化学発光試薬とのインキュベーションおよびX線フィルムへの曝露によって可視化した。
【0122】
【表3-1】
【表3-2】
【0123】
2.1.9 統計分析
【0124】
データは平均値±標準偏差で示す。統計分析は一元配置分散分析を使用して行った。データはStudentのt検定を使用して比較した。統計学的有意水準はp<0.05、**p<0.01、***p<0.001に設定した。
【0125】
2.2.結果
【0126】
2.2.1 3種のCRC細胞株におけるBMXとTMZとの組み合わせを最適化する
【0127】
CRC細胞の成長に対するBMXまたはTMZの影響を調べるために、HT29(p53突然変異)、HCT116(p53野生型)およびRKO(p53野生型)の3種のヒト結腸直腸癌細胞株を利用した。それらをBMX(0.313、0.625、1.25、2.5、5および10μM)またはTMZ(25、50、100、200、400、800および1,000μM)により別々に24、48および72時間処置した。その結果、CRC細胞の生存性は用量依存的に有意に阻害されることが示された。HT-29、HCT-116およびRKO細胞におけるBMXまたはTMZ単独の最大半値阻害濃度(IC50)値を導き出した(表5)。インビボ腫瘍形成能を表すクローン原性アッセイを用いたところ、TMZは、HT29、HCT116およびRKO細胞のクローン原性アッセイにおける腫瘍球形成に対して有効であり、TMZのIC50値はそれぞれ359.45±50.43、137.66±22.73および244.01±29.42μMであった。その結果、HT-29、HCT-116およびRKOを含む3種の結腸直腸癌細胞に対して、3通りのインキュベーション時間でBMXおよびTMZの基本的な細胞増殖阻害率が示された。
【0128】
【表4】
【0129】
BMXがTMZの化学的感受性を改善するか否かを評価するために、BMXおよびTMZを、HT-29、HCT-116およびRKO細胞に対して一緒に投与した。BMX(5μM)とTMZ(25、50、100、200および400μM)との組み合わせは、BMXとTMZを個々に投与した場合よりも大きな細胞成長阻害効果を示した。BMX(5μM)とTMZ(25、50、100、200および400μM)との組み合わせは、BMXとTMZを個々に投与した場合よりも大きな細胞成長阻害効果を示した。その後、TMZ 50μMと異なる濃度のBMX(0.313、0.625、1.25、2.5、5および10μM)との組み合わせを選択して、TMZおよびBMXが細胞増殖を時間依存的に抑制することについて検証した。注目されることに、BMXは、HT-29、HCT-116およびRKO細胞においてTMZのIC50を低下させた(表5)。これらの知見は、BMXがCRC細胞の増殖を阻害し、TMZの化学的感受性を改善することを示唆した。50μMのTMZと5μMのBMXとは、HT-29、HCT-116およびRKO細胞において最も高い細胞毒性効果を示した。本発明者らはこの組み合わせを時間依存的な様式で使用したところ、48時間で細胞毒性効果を認めた。この知見から、BMXがTMZの化学的感受性を改善することが示唆された。BMXとTMZとの組み合わせは細胞増殖を時間依存的に抑制した。したがって、その後のすべての実験は、TMZ 50μMを異なる濃度のBMX(2.5、5および10μM)と組み合わせて48時間使用することで行った。
【0130】
本発明者らは次に、BMX単独またはTMZとの組み合わせの存在下でのコロニー形成を検討した。通常の連続的様式では、本発明者らは、BMXを50μMのTMZを組み合わせた場合にこの阻害効果が増加することを見出した。TMZ(150μM)を増やすと、BMXは5~10μMではなく1~2μMに低下させることができる可能性がある。以上を総合すると、これらの結果から、BMXとTMZとの組み合わせ使用は、CRC癌細胞の増殖およびコロニー形成を相乗的に阻害することが示された。したがって、その後のすべての実験は、TMZ 50μMを異なる濃度のBMX(2.5、5および10μM)と組み合わせて48時間使用することで行った。
【0131】
2.2.2 BMXとTMZとの組み合わせのCRCに対する影響の従来の薬物との比較
【0132】
細胞周期の停止は、細胞増殖の阻害の主な原因の1つである。BMXまたは組み合わせによる処置が細胞成長を阻害したことの考えられる機序を評価するために、細胞周期プロフィールをフローサイトメトリーを使用してアッセイした。図13に示すように、組み合わせ処置はHT29およびHCT116細胞においてG2/M期停止を有意に誘導し、他のいかなる単独の薬物よりもG2/M期停止に対してはるかに強い効果を示した。50μMのTMZと2.5、5および10μMのBMXとは、G0/G1期の細胞周期停止の量を増加させただけでなく、RKO細胞株のsubG1期の停止(アポトーシス)も引き起こした。
【0133】
48時間の処置後のBMXとTMZとの相乗効果を、3種のCRC細胞におけるアネキシンV結合によって測定した。BMXおよびTMZによる処置は、各薬剤の個々と比較してアポトーシス細胞の百分率の顕著な増加を誘導した。BMXは、HT29、HCT116およびRKO細胞において初期アポトーシス細胞を23.78%、49.34%および59.18%まで増加させ、後期アポトーシスも増加させた。組み合わせ処置では、48時間のインキュベーション後に、HT29、HCT116およびRKO細胞における後期アポトーシスの集団は、1.08%から10.36%に、3.67%から19.37%に、および0.32%から16.48%に増加した。
【0134】
2.2.3 BMX、およびBMXとTMZとの組み合わせにより誘導されるアポトーシスは、p53介在性MGMT阻害によって媒介される
【0135】
p53経路は、化学療法薬によって誘導されるさまざまな癌細胞のアポトーシスに関与することが報告されている[28]。BMXはp53を活性化し、β-カテニン経路によって媒介される細胞死を導くことが示されている[16]。BMXおよびTMZの抗癌効果がDNA損傷に起因するか否かを明らかにするために、本発明者は異なるp53表現型を有する3種のCRC細胞株における、DNA損傷および対応するp53経路マーカーについて検討した。HT29、HCT116およびRKO細胞におけるp53、アセチル-p53(Lyx382)、p53(Ser15)、p21、p16、MGMT、γ-H2AX、E2F1、E2F3、GAPDHを含むマーカーの基本的なタンパク質発現状態を考慮すると、BMX単独は、p53の発現を強化しただけでなく、細胞成長に干渉する他の重要な遺伝子も調整した可能性がある。BMX単独またはBMXとTMZとの組み合わせによる処置は、HT29、HCT116およびRKO細胞におけるp53のリン酸化(Ser15)およびγ-H2AXのリン酸化(Ser139)のレベルを用量依存的に増加させた。HT29、HCT116およびRKO細胞において、Lys382におけるp53のアセチル化は時間依存な様式で増加し、p53の下流標的であるp21およびp16の発現が強化された。p53野生型細胞および突然変異体細胞に対するウエスタンブロット法の結果に示されるように、CRCのp53野生型細胞はMGMTが高メチル化されており、MGMTタンパク質発現もより同様に低下していた。さらに、BMXとTMZとの組み合わせは、E2F3発現を有意に減少させた(図14A)。興味深いことに、ヒストンH3のアセチル化も、BMXまたはBMXとTMZとによって増加した。このことは、BMXが細胞内のヒストンアセチルトランスフェラーゼおよび/またはHDACの活性に影響を及ぼし、それがp53を含むタンパク質のアセチル化を導くことを示唆する。BMXをTMZと組み合わせることにより、p53発現の強化およびp53機能により媒介されるMGMT阻害の活性化を通じて、p21、p16の発現およびγH2AXのリン酸化を増加させることができる(図14A)。
【0136】
アポトーシス促進性(ストレスまたは死)シグナルと、Bcl-2およびBid、Baxまたはpomaを含む抗アポトーシス分子との間のバランスが、カスパーゼ依存的経路を通じてアポトーシス応答が引き起こされる主な理由である[29]。図14Bに示されるカスパーゼの切断から、カスパーゼ-7、カスパーゼ-8、カスパーゼ-9およびカスパーゼ-3の活性は低濃度のBMXの下では有意な変化を示さないが、HT29細胞においてTMZと組み合わされると用量依存的な様式で高度に上方調整され、最終的にPARP切断およびアポトーシスに寄与することが示唆された。切断型カスパーゼ3、カスパーゼ7、カスパーゼ9およびカスパーゼPARPのアポトーシスタンパク質発現レベルは、HCT116およびRKO細胞株において、BMX 10μM処置後に濃度依存的に有意に増加することが見出された。さらに、本発明者らは、p53野生型細胞介在性アポトーシスにおけるアポトーシス促進性シグナル伝達系について検討した。その結果、BMX処置は抗アポトーシスタンパク質Bcl-2のレベルを低下させ、アポトーシス促進性タンパク質Bax、BimおよびPumaを増加させることが明らかになった。しかし、BMX処置はアポトーシス促進性Bcl-2ファミリータンパク質BakおよびBidの上方調整を導かなかった。加えて、BMXとTMZとの相乗効果はBMX単独よりも優れていた(図14C)。TMZとBMXとの組み合わせは、特にp53野生型細胞、例えば、HCT116およびRKOにおいて、各処置単独よりも多くの老化細胞を生じさせた(図15)。CD133、CD44、およびSOX2はCSCの薬物耐性と高度に関連し、CRCを含むCSCの表現型マーカーとして使用されているため、BMXおよびTMZによる処置は、HT29、HCT116およびRKOにおいてCD133、CD44、およびSOX2の発現レベルを明らかに用量依存的に低下させた(図16)。したがって、BMXとTMZとの組み合わせは、CSCマーカーを減弱させてCRC細胞の幹細胞性表現型を変換させることによって、TMZ介在性細胞毒性効果を強化することができたと考えられる。したがって、上記の結果から、CRC細胞におけるBMXとTMZとの組み合わせ処置により、カスパーゼ依存的シグナル伝達経路が活性化され、細胞アポトーシスが誘導されることが示された。
【0137】
2.4 BMXは、CRC細胞におけるWnt/βカテニン/GSK3β経路を標的化することにより、TMZ介在性細胞毒性効果を強化した
【0138】
次に、BMXがWnt/β-カテニン活性に対するTMZ介在性細胞毒性効果を強化する機序を、3種のCRC細胞で調べた。図3Aに示すように、3種のCRC細胞では、BMX処置によって、β-カテニン、ホスホ-β-カテニン(Ser33/Ser37/Thr41)およびホスホ-GSK-3β(Ser9)タンパク質の発現レベルが増加したが、ホスホ-β-カテニン(Ser33/Ser37/Thr41)およびホスホ-GSK-3β(Ser9)レベルは減少した。5μMのBMXとTMZとの組み合わせ処置により、3種の細胞株においてβ-カテニンのタンパク質レベルは直接低下し、ホスホ-β-カテニン(S33/S37/T41)のタンパク質レベルはGSK3βによるリン酸化を通じて低下した。さらに、本発明者らは、増殖マーカーc-MycおよびサイクリンD1に対するBMXの影響をさらに検討し、TMZを含むかまたは含まないBMX両方が、増殖マーカーであるc-MycおよびサイクリンD1を減少させ得ることを認めた(図17A)。これらの結果から、5μMのBMXとTMZとの組み合わせ処置が、Ser9のリン酸化の下方調整を通じてGSK3β活性を強化し、その結果、Ser33/Ser37/Thr41でのβ-カテニンのリン酸化が強化して、タンパク質分解を誘発することが実証された(図17B)。加えて、MG132の適用は、5μMのBMXおよび50μMのTMZの下でβ-カテニンの分解を逆行させ、MGMT発現を増加させた(図17C)。以上を総合すると、これらのデータから、BMXおよびTMZが、部分的にWnt/β-カテニン/GSK3β経路を介してTMZ介在性細胞毒性効果を強化し、したがって、CRC細胞の増殖を減少させることが明らかになった。
【0139】
2.5 オートファジーは、BMX、BMXとTMZとの組み合わせによって誘導される細胞死において重要な調整因子として機能した
【0140】
脂質化されたLC3およびオートファジー基質P62は、オートファゴソームおよびオートファジーを評価するためのマーカーとしてよく使用される[17]。BMXによる処置またはBMXとTMZとの組み合わせ処置でも、P62およびLC3のプロセシングされた形態であるLC3-IIの発現が濃度依存的に増加した(図18A)。β-カテニンはP62の発現を負に調整する[17,30]。P62のタンパク質レベルの低下がβ-カテニンタンパク質の分解によって引き起こされたことを検証するために、プロテアソーム阻害剤MG132を、BMXまたはBMXとTMZとの組み合わせにより処置した細胞に適用した。予想された通り、BMX誘導βカテニン分解は逆行し、P62発現もMG132を適用すると抑制された(図18B)。組み合わせ処置によるβ-カテニンタンパク質の分解により、P62はもはや阻害されなくなり、次いで、下流のオートファジー経路を誘発した(図18B)。BMXまたはBMXとTMZとの組み合わせにより誘導される細胞死におけるオートファジーの役割を判定するために、本発明者らは、オートファジーの後期を阻害するタンパク質生合成阻害剤であるBAF、および細胞透過性汎カスパーゼ阻害剤(caspase inhibited)であるZ-VAD-FMK(カルボベンゾキシ-バリル-アラニル-アスパルチル-[O-メチル]-フルオロメチルケトン)を使用し、BMXまたはBMXとTMZとの組み合わせの添加前に細胞を処置したところ、本発明者らは、Z-VAD-FMKが、3種の細胞株においてBMXおよびTMZ処置により誘導される初期アポトーシスを抑制することを見出した。加えて、BAF A1による前処置は、フローサイトメトリーを介して得られるBMXまたはBMXとTMZとの組み合わせによって誘導される細胞死を減少させ、これはBMXまたはBMXとTMZとの組み合わせによって誘導される切断型カスパーゼ-3、カスパーゼ-7、カスパーゼ-8およびカスパーゼ-9の発現低下の結果と一致していた。異なるオートファジー/アポトーシス関連タンパク質および対応するシグナル伝達経路の間の相互作用が同定されており、これは2つの経路間にクロストークが存在することを意味する。6cにより誘導されるオートファジーにおけるアポトーシスの役割を検討するために、本発明者らは、BMXまたはBMXとTMZとの組み合わせを添加する前に、細胞をBAFまたはZ-VAD-FMKで処置した。図18Dに示すように、Z-VAD-FMKおよびBAFは早期のアポトーシス抑制を示したものの、BAFはすべての細胞においてLC3I/IIに干渉することなく、BMXとTMZとの組み合わせにより誘導されるカスパーゼ3活性化を抑制した。しかし、Z-VAD-FMKは、p53突然変異体型細胞株において、LC3 I/IIの干渉を伴って、BMXとTMZとの組み合わせにより誘導されるカスパーゼ3活性化を阻害した。以上を総合すると、これらの結果から、細胞死に際してオートファジーを刺激することの重要性が強調された。
【0141】
2.3.結論
【0142】
従来の放射線化学療法を使用するCRC処置は、時に非効率的であるが、これは一部には、CRC患者がこの療法レジメンに応答しないこと、および/または重度の薬物毒性に苦しむことが理由である。本発明では、BMXとTMZとの組み合わせが、HCC細胞、特にHCT116およびRKOにおいて、特異的かつ効率的で相乗的な抗増殖効果およびアポトーシス効果を示すことが実証された。結論として、BMXおよびTMZは最良の相乗効果をもたらし、その機序は現時点で最も重要なリンクである。また、特異的HDAC8iであるBMXは、テモゾロミド(TMZ)との組み合わせで細胞増殖を阻害し、細胞周期停止、細胞老化、オートファジーおよびアポトーシスを誘導し、細胞死をもたらしたと結論付けられる。
【0143】
また、BMXとTMZとの組み合わせは、カスパーゼ-3切断およびPARP活性化を通じて相乗的なアポトーシス性細胞死を誘導することが見出された。本発明では、BMXとTMZとの組み合わせが、ホスホ-p53(ser15)の増強、ならびにDNA損傷、例えば、γ-H2AX病巣の増加を誘導することが実証された。ホスホ-p53(ser15)の発現増加は、本発明者らの以前の研究[16,17]で報告されたp53の総発現量の増加に起因する可能性がある。加えて、本研究では、BMXがCRC細胞の生存率に対してTMZとのHDAC依存的相乗効果を有する可能性があることも明らかになった。
【0144】
上記のことを考慮すると、ヒトGBM組織およびGBM-R細胞株におけるHDAC8の高発現は、MGMTレベルと相関する。BMXとTMZとの組み合わせは、GBM-R細胞株において、WT-p53介在性MGMT阻害を通じて、WT-p53介在性アポトーシスを誘導した。さらに、BMXとTMZとの組み合わせは、GBM-R細胞株においてβ-カテニン/c-Myc/サイクリンD1/SOX2シグナル伝達経路を介した細胞増殖およびGSC表現型活性も抑制した。したがって、BMXは、WT-p53およびTMZ耐性のGBM患者の精確個別化処置のための有望な戦略となり得る。
【0145】
全体的に、相乗的機序の指標として、本発明では、BMXとTMZとの組み合わせが、p53/p21/E2F3/Baxを上方調整し、Wnt/β-カテニン/サイクリンD1/c-Myc/p62経路を下方調整することによって、CRCの細胞死の誘導に有効であることが実証された。したがって、BMXとTMXとの組み合わせは、アポトーシスおよびオートファジーの誘導を含む細胞死に対して有望な効果をもたらすことが見出された。実施例における結果は、BMXとTMZとの組み合わせが、CRC細胞死に対するHDAC8依存的相乗作用を理解するのに役立つことによって役割を果たす可能性を示す。これらの知見は、組み合わせ化学療法レジメンに対する耐性が生じる臨床的に重要な新たな機序を示唆する。
【0146】
本明細書は多くの詳細を含むが、これらは本発明の範囲または特許請求の範囲に対する限定として解釈されるべきではなく、そうではなくて本発明の特定の実施態様または実施例にとって特徴的な特徴の記載として解釈されるべきである。別々の実施態様または実施例の文脈において本明細書に記載されるある特定の特徴は、単一の実施態様において組み合わせて実施することも可能である。
【0147】
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図1-1】
図1-2】
図1-3】
図2
図3
図4
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図6
図7
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図9
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図11
図12
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【配列表】
2024521192000001.app
【手続補正書】
【提出日】2024-01-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者においてTMZ耐性癌を処置するための組み合わせ剤であって、テモゾロミド(TMZ)および、式A:
【化1】
[式中、
は、水素、アルキル、アルケニル、C-Cシクロアルキル、5員もしくは6員の不飽和炭素環または5員もしくは6員のヘテロ環、または(CH)mRであり;
Xは、C、-O-、-N-または-S-であり;
Yは、-O-、-NHまたは-O-C-Cアルキルであり;
nは、0~10の整数であり;
mは、0~5の整数であり;
およびRは独立して、C-Cアルキルであり;
は、C-Cシクロアルキル、またはハロゲン、-CF、-ORもしくは-NRによって置換されていてもよい5員もしくは6員の不飽和炭素環もしくはヘテロ環であり、ここで、RおよびRは独立して、水素またはC-Cアルキルであり;
は、OH、NH、またはC-Cシクロアルキル、5員もしくは6員の不飽和炭素環もしくはヘテロ環であり、ここで、シクロアルキル、炭素環およびヘテロ環は、ハロゲン、NH、NO、C-Cアルコキシ、C1-6アルキルチオ、OR''、NRまたはCFによって場合により置換されていてよく;そして
は、Hであるか、ヒドロキシもしくはC-C10アルケニルによって置換されていてもよいC-C10アルキルであるか、またはRと一緒になって-C-となる]
の構造を有する化合物A、またはその薬学的に許容できる塩、立体異性体、エナンチオマー、プロドラッグまたは溶媒和物を含み、
TMZおよび化合物Aは、TMZ耐性を効果的に克服する相対比で組み合わされている、組み合わせ剤。
【請求項2】
化合物Aが、
【化2】
の構造を有する化合物BMXである、請求項1に記載の組み合わせ剤。
【請求項3】
TMZ耐性が、TMZ介在性細胞毒性効果の強化によって克服される、請求項1に記載の組み合わせ剤。
【請求項4】
TMZ介在性細胞毒性効果の強化が、β-カテニン/c-Myc/SOX2シグナル伝達経路を下方調整し、WT-p53介在性MGMT阻害を上方調整することによるものである、請求項3に記載の組み合わせ剤。
【請求項5】
TMZおよび化合物Aが、別々にまたは順次に投与される、請求項1に記載の組み合わせ剤。
【請求項6】
TMZおよびBMXを含む、請求項1に記載の組み合わせ剤。
【請求項7】
癌が、多形神経膠芽腫(GBM)または結腸直腸癌(CRC)である、請求項1に記載の組み合わせ剤。
【請求項8】
患者において薬物耐性癌の最適個別化処置のための方法に使用するための、請求項1に記載の化合物Aまたはそれと前記薬物との組み合わせ剤を含む医薬であって、ここで、該方法は、患者におけるWT-p53の発現を判定すること、および、WT-p53の発現が患者に存在する場合に、治療有効量の請求項1に記載の化合物Aまたはそれと前記薬物との組み合わせ剤を患者に投与することを含む、医薬
【請求項9】
薬物が、TMZである、請求項に記載の医薬
【請求項10】
薬物耐性癌が、TMZ耐性のGMBまたはCRCである、請求項またはに記載の医薬
【請求項11】
請求項1~6のいずれかに記載の組み合わせ剤を含む、TMZ耐性癌患者のための医薬またはキッ
【請求項12】
癌が、GBMまたはCRCである、請求項11に記載の医薬またはキット
【請求項13】
請求項1~6のいずれかに記載の組み合わせ剤を含む、TMZ耐性のWT-p53 GBM患者またはCRC患者の最適個別化処置のための医薬またはキッ
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0146
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0146】
本明細書は多くの詳細を含むが、これらは本発明の範囲または特許請求の範囲に対する限定として解釈されるべきではなく、そうではなくて本発明の特定の実施態様または実施例にとって特徴的な特徴の記載として解釈されるべきである。別々の実施態様または実施例の文脈において本明細書に記載されるある特定の特徴は、単一の実施態様において組み合わせて実施することも可能である。
さらに、本願発明は次の態様を含む。
[態様1]
患者においてTMZ耐性癌を処置するための組み合わせ剤であって、テモゾロミド(TMZ)および、式A:
【化6】
[式中、
は、水素、アルキル、アルケニル、C -C シクロアルキル、5員もしくは6員の不飽和炭素環または5員もしくは6員のヘテロ環、または(CH )mR であり;
Xは、C、-O-、-N-または-S-であり;
Yは、-O-、-NHまたは-O-C -C アルキルであり;
nは、0~10の整数であり;
mは、0~5の整数であり;
およびR は独立して、C -C アルキルであり;
は、C -C シクロアルキル、またはハロゲン、-CF 、-OR もしくは-NR によって置換されていてもよい5員もしくは6員の不飽和炭素環もしくはヘテロ環であり、ここで、R およびR は独立して、水素またはC -C アルキルであり;
は、OH、NH 、またはC -C シクロアルキル、5員もしくは6員の不飽和炭素環もしくはヘテロ環であり、ここで、シクロアルキル、炭素環およびヘテロ環は、ハロゲン、NH 、NO 、C -C アルコキシ、C 1-6 アルキルチオ、OR ''、NR またはCF によって場合により置換されていてよく;そして
は、Hであるか、ヒドロキシもしくはC -C 10 アルケニルによって置換されていてもよいC -C 10 アルキルであるか、またはR と一緒になって-C -となる]
の構造を有する化合物A、またはその薬学的に許容できる塩、立体異性体、エナンチオマー、プロドラッグまたは溶媒和物を含み、
TMZおよび化合物Aは、TMZ耐性を効果的に克服する相対比で組み合わされている、組み合わせ剤。
[態様2]
化合物Aが、
【化7】
の構造を有する化合物BMXである、態様1に記載の組み合わせ剤。
[態様3]
TMZ耐性が、TMZ介在性細胞毒性効果の強化によって克服される、態様1または2に記載の組み合わせ剤。
[態様4]
TMZ介在性細胞毒性効果の強化が、β-カテニン/c-Myc/SOX2シグナル伝達経路を下方調整し、WT-p53介在性MGMT阻害を上方調整することによるものである、態様3に記載の組み合わせ剤。
[態様5]
TMZおよび化合物Aが、別々にまたは順次に投与される、態様1~4のいずれかに記載の組み合わせ剤。
[態様6]
TMZおよびBMXを含む、態様1~5のいずれかに記載の組み合わせ剤。
[態様7]
癌が、多形神経膠芽腫(GBM)または結腸直腸癌(CRC)である、態様1~6のいずれかに記載の組み合わせ剤。
[態様8]
患者においてTMZ耐性癌を処置するための方法であって、態様1~6のいずれかに記載の組み合わせ剤の治療有効量を患者に投与することを含む方法。
[態様9]
癌が、GBMまたはCRCである、態様8に記載の方法。
[態様10]
患者において薬物耐性癌の最適個別化処置のための方法であって、患者におけるWT-p53の発現を判定すること、および、WT-p53の発現が患者に存在する場合に、治療有効量の態様1に記載の化合物Aまたはそれと前記薬物との組み合わせ剤を患者に投与することを含む、方法。
[態様11]
薬物が、TMZである、態様10に記載の方法。
[態様12]
薬物耐性癌が、TMZ耐性のGMBまたはCRCである、態様10または11に記載の方法。
[態様13]
TMZ耐性癌患者のための医薬またはキットを製造するための、態様1~6のいずれかに記載の組み合わせ剤の使用。
[態様14]
癌が、GBMまたはCRCである、態様11に記載の使用。
[態様15]
TMZ耐性のWT-p53 GBM患者またはCRC患者の最適個別化処置のための医薬またはキットを製造するための、態様1~6のいずれかに記載の組み合わせ剤の使用。
【国際調査報告】