(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-28
(54)【発明の名称】深絞り性の良好な熱延酸洗ほうろう鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240521BHJP
C22C 38/14 20060101ALI20240521BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20240521BHJP
C21D 9/48 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C22C38/14
C21D9/46 U
C21D9/48 S
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573631
(86)(22)【出願日】2022-05-31
(85)【翻訳文提出日】2024-01-26
(86)【国際出願番号】 CN2022096198
(87)【国際公開番号】W WO2022253216
(87)【国際公開日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】202110599087.9
(32)【優先日】2021-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蔡 珍
(72)【発明者】
【氏名】劉 永 前
(72)【発明者】
【氏名】胡 俊
(72)【発明者】
【氏名】劉 洋
(72)【発明者】
【氏名】劉 培 燦
(72)【発明者】
【氏名】孫 宜 強
(72)【発明者】
【氏名】劉 昌 明
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA04
4K037EA15
4K037EA18
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA31
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4K037FB03
4K037FC03
4K037FD01
4K037FD02
4K037FE03
4K037FE05
4K037JA07
(57)【要約】
化学成分はC、N、S、Al、Mn、Si、P、Ti、残部Fe及び不可避な不純物であり、その内、C、N、S、Al及びTiの重量百分率はC:0.001~0.006%、N≦0.004%、S≦0.0080%、Als:0.015~0.040%、4[C]+3.42[N]+3[S]≦[Ti] ≦0.065%であり、Si、Mn、Pの重量百分率はMn:1.0~1.5%、Si:0.001~0.03%、P≦0.015%を満足し、又はSi:0.4~0.6%、Mn:0.15~0.3%、P≦0.015%を満足し、又はSi:0.001~0.03%、Mn:0.15~0.3%、P:0.035~0.055%を満足する深絞り性の良好な熱延酸洗ほうろう鋼及びその製造方法。本発明のほうろう鋼の降伏強度は210~245MPaであり、引張強度は320MPa以上であり、伸び率は46%以上であり、r値は1.3以上であり、n値は0.3以上であり、TH値は7.0以上であり、良好な成形性、特に良好な深絞り成形性を有し、又、高い引張強度と耐つまとび性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分はC、N、S、Al、Mn、Si、P、Ti、残部Fe及び不可避な不純物であり、その内、C、N、S、Al及びTiの重量百分率はC:0.001~0.006%、N≦0.004%、S≦0.0080%、Als:0.015~0.040%、4[C]+3.42[N]+3[S]≦[Ti] ≦0.065%であり、Si、Mn、Pの重量百分率はMn:1.0~1.5%、Si:0.001~0.03%、P≦0.015%を満足し、又はSi:0.4~0.6%、Mn:0.15~0.3%、P≦0.015%を満足し、又はSi:0.001~0.03%、Mn:0.15~0.3%、P:0.035~0.055%を満足する深絞り性の良好な熱延酸洗ほうろう鋼。
【請求項2】
Ti含有量は0.025~0.065%であることを特徴とする、請求項1に記載の深絞り性の良好な熱延酸洗ほうろう鋼。
【請求項3】
Si、Mn、Pの重量百分率はMn:1.0~1.5%、Si:0.005~0.025%、P≦0.015%を満足することを特徴とする、請求項1に記載の深絞り性の良好な熱延酸洗ほうろう鋼。
【請求項4】
Si、Mn、Pの重量百分率はSi:0.003~0.006%、Mn:0.15~0.3%、P:0.035~0.055%を満足することを特徴とする、請求項1に記載の深絞り性の良好な熱延酸洗ほうろう鋼。
【請求項5】
前記熱延酸洗ほうろう鋼のミクロ構造は、{111}面集合組織を均一に有するポリゴナルフェライト粒であり、且つ結晶粒度は7級を超えないことを特徴とする、請求項1に記載の深絞り性の良好な熱延酸洗ほうろう鋼。
【請求項6】
前記熱延酸洗ほうろう鋼の降伏強度は210~245MPaであり、引張強度は320MPa以上であり、伸び率は46%以上であり、r値は1.3以上であり、n値は0.3以上であり、TH値は7.0以上であることを特徴とする、請求項1~5の何れか1項に記載の深絞り性の良好な熱延酸洗ほうろう鋼。
【請求項7】
前記熱延酸洗ほうろう鋼の降伏強度は210~245MPaであり、引張強度は320~450MPaであり、伸び率は46~52%であり、r値は1.3~1.8であり、n値は0.3~0.4であり、TH値は7.0~8.5であることを特徴とする、請求項6に記載の深絞り性の良好な熱延酸洗ほうろう鋼。
【請求項8】
1)製錬、鋳造
請求項1~4の何れか1項に記載の成分で製錬、精錬、連続鋳造してスラグを得ること、
2)圧延
最終圧延温度は750~800℃であり、圧延温度≦840℃の総圧下率は60%以上であり、且つ圧延温度≦840℃の圧延工程には潤滑エマルションを投入し、前記潤滑エマルションの油水比は1~5%であること、
3)冷却
冷却速度≦6℃/s
4)巻取
巻取温度は720~780℃であること、
5)徐冷
鋼板を巻き取った後、徐冷すること、
6)酸洗
徐冷後、酸洗して鋼板表面の酸化皮膜を除去すること、
というステップを含むことを特徴とする、請求項1~7の何れか1項に記載の深絞り性の良好な熱延酸洗ほうろう鋼の製造方法。
【請求項9】
ステップ2)において、前記最終圧延温度は750~780℃であることを特徴とする、請求項8に記載の深絞り性の良好な熱延酸洗ほうろう鋼の製造方法。
【請求項10】
ステップ4)において、前記巻取温度は730~760℃であることを特徴とする、請求項8に記載の深絞り性の良好な熱延酸洗ほうろう鋼の製造方法。
【請求項11】
ステップ5)において、前記徐冷は、スタックによる徐冷と断熱カバーによる徐冷であり、前記スタックによる徐冷時には、その周囲に熱ロールを積層することを特徴とする、請求項8に記載の深絞り性の良好な熱延酸洗ほうろう鋼の製造方法。
【請求項12】
ステップ2)の圧延において、圧延温度≦840℃の総圧下率は60~85%であることを特徴とする、請求項8に記載の深絞り性の良好な熱延酸洗ほうろう鋼の製造方法。
【請求項13】
ステップ3)の冷却速度は1~6℃/sであることを特徴とする、請求項8に記載の深絞り性の良好な熱延酸洗ほうろう鋼の製造方法。
【請求項14】
請求項1~7の何れか1項に記載の深絞り性の良好な熱延酸洗ほうろう鋼を深絞り成形して製造された給湯器ライナー。
【請求項15】
請求項8~13の何れか1項に記載の方法により前記深絞り性の良好な熱延酸洗ほうろう鋼を製造するステップと、前記深絞り性の良好な熱延酸洗ほうろう鋼を深絞り成形して前記給湯器ライナーを形成するステップとを含むことを特徴とする、給湯器ライナーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ほうろう鋼の製造技術分野に属し、具体的には深絞り性の良好な熱延酸洗ほうろう鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ほうろうは、無機ガラス質材料を溶融によりマトリックス金属に固着させ、金属と強固に結合させる複合材料である。ほうろう製品は、金属材料本来の強度、靱性、加工性だけでなく、セラミック材料の耐食性、耐老化性、耐摩耗性、高温耐性、無毒性及び装飾性も有し、金属材料及びセラミック材料の長所を兼ね備えている。金属基材として鋼板を使用したほうろう製品は、国民経済において非常に重要な役割を果たしており、軽工業、家電、冶金、化学工業、建設等の産業で広く使用されている。
【0003】
ほうろう鋼板には多くの種類があり、製造プロセスにより熱延酸洗板、冷間圧延板、クラッド板等に分けられるが、その中でも経済性の良さから熱延板の使用が増えており、例えば給湯器ライナーの製造に用いられ、その厚さは一般的に1.5~2.5mmであり、年間50万トンを超える需要がある。
【0004】
現在、給湯器ライナーはエッジ圧延や溶接方式で製造されるのが一般的であり、生産効率が低く、歩留まりが悪い。生産効率と歩留まりを向上させるために、給湯器業界では給湯器ライナーの製造に深絞りプロセスが徐々に使用され始めており、ほうろう鋼製品の引張特性を向上させる必要がある。
【0005】
プロセス条件が比較的安定している場合、熱間圧延ほうろう鋼の深絞り性は主に以下のような幾つかの性能指標に関係する。
【0006】
(1)塑性ひずみ比r値:高い塑性ひずみ比r値は、深絞り成形に有利である。
(2)硬化指数n値:板材のn値が大きいということは、材料が塑性変形分布の均一性に優れ、集中変形を起こしにくく、比較的に塑性破壊しにくいことである。
【0007】
(3)降伏比:一般に降伏比が低いほど、コンプレッサーシェルの深絞り加工に有利である。
【0008】
(4)伸び率:高い伸び率は、部品の一方向の深絞り変形に有利であり、一般に、高い伸び率は、部品のスムーズな成形を満足する重要な保証である。
【0009】
中国特許CN201310547968.1には、「降伏強度245MPaの熱間圧延シートほうろう鋼及びその製造方法」が開示されており、製造されたほうろう鋼の厚さは1.0~2.5mmであり、化学成分はC:0.001~0.010%、Si≦0.05%、Mn:0.10~0.50%、P≦0.020%、S≦0.010%、Ti:0.04~0.10%、Als:0.02~0.08%、N≦0.008%であり、その製造プロセスは、加熱温度1230~1270℃、初期圧延温度1100~1150℃、最終圧延温度860~930℃、巻取温度600~700℃である。製品の降伏強度は245~330MPaであり、引張強度は300MPa以上であり、伸び率は37~42%である。
【0010】
中国特許CN2013105483 10.2には、「降伏強度330MPaの熱間圧延シートほうろう鋼及びその製造方法」が開示されており、製造されたほうろう鋼の厚さは1.0~2.5mmであり、化学成分は重量百分率でC:0.02~0.07%、Si≦0.05%、Mn:0.10~0.50%、P≦0.020%、S≦0.010%、Ti:0.04~0.10%、Als:0.02~0.08%、N≦0.008%であり、残りはFe及び不可避な介在物であり、且つTi/C=1.0~1.5である。その製造プロセスは、加熱温度1200~1250℃、最終圧延温度860~930℃、巻取温度650~700℃である。製品の降伏強度は330~450MPaであり、引張強度は400MPa以上であり、伸び率は38~41%である。
【0011】
中国特許CN201510280022.2には、「優れた耐つまとび性を有するほうろう鋼及びその鋼板の製造方法」が開示されており、鋼の化学成分は重量百分率でC:0.04~0.10%、Si≦0.10%、Mn:0.30~1.0%、Ti:0.03~0.10%、P≦0.015%、S:0.010~0.045%、N:0.003~0.009%、Als:0.005~0.050%、Cr:0.05~0.25%、Ti/C:0.5~1.2である。連続鋳造スラブの加熱温度は1180~1250℃であり、仕上げ圧延の初期圧延温度は980~1100℃であり、最終圧延温度は880~950℃であり、圧延後に前段冷却方式をとり、6sの時間内で30℃/s以上の冷却速度で630~700℃まで急速冷却して巻き取り、製品の降伏強度は390~500MPaであり、引張強度は476~598MPaであり、伸び率は26~38%である。
【0012】
中国特許201510398485.9には、「地下鉄装飾用シートほうろう鋼及びその製造方法」が開示されており、ほうろう鋼の厚さは1.0~2.0mmであり、その化学成分の重量百分率は、C:0.001~0.003%、Si≦0.10%、Mn:0.05~0.10%、P≦0.010%、S≦0.005%、Als:0.01~0.02%、Ti:0.20~0.25%、N:0.010~0.020%である。吐出温度は1100~1150℃であり、最終圧延温度は800~850℃であり、巻取温度は700~750℃である。製品の降伏強度は460MPa以上であり、引張強度は550Pa以上であり、伸び率は38~42%であり、r値は1~1.5であり、n値は0.1~0.3である。
【0013】
中国特許201810663362.7には、「CSPプロセスによる低コスト高酸素ほうろう鋼及びその製造方法」が開示されており、その化学成分の重量百分率は、C≦0.01%、Mn:0.10~1.00%、O≦0.0500%、Si≦0.01%、P≦0.020%、S≦0.030%、Als≦0.01%であり、残りはFe及び不可避な不純物である。この特許は、鋼中の酸素含有量を高めることで酸化物介在物を多く形成し、水素貯蔵のトラップとして機能し、鋼板の耐つまとび性を向上させる。その製造プロセスは、吐出温度1160~1200℃、最終圧延温度860~900℃、巻取温度600~640℃、降伏強度151~214MPa、引張強度256~282MPa、伸び率35.2~45.4%である。
【0014】
中国特許CN201910697103.0には、「260MPa級熱延酸洗ほうろう鋼及びその製造方法」が開示されており、その化学成分の重量百分率は、C:0.030~0.060%、Si≦0.030%、Mn:0.30~0.60%、P≦0.020%、S≦0.010%、Als≦0.060%、B:0.0015~0.0040%、N:0.0040~0.0100%である。その製造方法は、圧延前の鋼板加熱温度を1132~1212℃、最終圧延温度を881~890℃、巻取温度を687~696℃に制御し、酸洗液中の遊離酸濃度を105~119g/L、酸温度を71.4~74℃に制御することである。製品の降伏強度は260MPa以上であり、引張強度は360MPa以上であり、伸び率は33~34%である。
【0015】
中国特許CN202010986947.Xには、「深絞り用熱間圧延ほうろう鋼及びその製造方法」が開示されており、その成分の重量百分率は、C<0.01%、Si≦0.05%、Mn:0.10~0.80%、P≦0.030%、S≦0.015%、Ti:0.01~0.08%、Al:0.01~0.07%、N≦0.010%、4≦Ti/N≦10、Ca:0.0010~0.0040%、Ca/S≦1.25である。その製造方法は、加熱温度が1150~1190℃であり、最終圧延温度が800~900℃であり、巻取温度が710~760℃であり、熱間圧延の粗圧延の累積変形率を70%以上、仕上げ圧延の累積変形率を70%以上に制御することである。レベリング圧力は700~900トンであり、前記レベリングのレベリング伸び率は7~12%である。製品の降伏強度は359~402MPaであり、引張強度は447~483MPaであり、伸び率は30~41%である。
【0016】
中国特許CN202010986956.9には、「ほうろう鋼及びその製造方法と適用」が開示されており、その成分の重量百分率は、C:0.01~0.14%、Si≦0.10%、Mn:0.20~1.6%、P≦0.040%、S≦0.040%、Ti:0.01~0.12%、Al:0.01~0.07%、N≦0.010%、Mn/S≧30である。その製造方法は、加熱温度が1200~1350℃であり、最終圧延温度が810~980℃であり、巻取温度が500~700℃であり、熱間圧延の粗圧延の累積変形率を70%以上、熱間圧延の仕上げ圧延の累積変形率を70%以上に制御し、レベリング圧力が450~650トンであり、レベリング伸び率が6%以下であり、ショットブラストによる酸洗工程では、ショットブラスト機の回転数が1650~1850rpmであり、ショットブラストの粒径が0.18~0.85mmであり、ショットブラストの硬度が40~52HRCであり、酸洗液の濃度が5~20%である。製品の降伏強度は410MPa以上であり、引張強度は490MPaであり、伸び率は25~43.5%である。
【0017】
以上のことから、従来開示されているほうろう鋼は、降伏強度が高く、伸び率が低く、深絞り性が悪く、深絞り成形中に毛羽や割れ等の品質上の問題が生じやすいため、深絞り性の良好な熱間圧延ほうろう鋼の開発は、給湯器ライナー製造業のグレードアップ、家電産業のグリーントランスフォーメーションを推進する上で重要な意味を有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、深絞り性の良好な熱延酸洗ほうろう鋼及びその製造方法を提供することであり、当該熱延酸洗ほうろう鋼の降伏強度が210~245MPaであり、引張強度が320MPa以上であり、伸び率が46%以上であり、n値が0.3以上であり、r値が1.3以上であり、TH値が7.0以上であり、良好な成形性、特に良好な深絞り成形性を有し、又、高い強度と耐つまとび性を有し、給湯器ライナーの生産要件を満たすことができる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の発明目的を実現するために、本発明の技術案は以下の通りである。
化学成分の重量百分率はC:0.001~0.006%、N≦0.004%、S≦0.0080%、Als:0.015~0.040%、Mnで強化した場合、Mn:1.0~1.5%、Si:0.001~0.03%、P≦0.015%、Siで強化した場合、Si:0.4~0.6%、Mn:0.15~0.3%、P≦0.015%、Pで強化した場合、Si:0.001~ 0.03%、Mn:0.15~0.3%、P:0.035~0.055%、Tiも含み、且つ4[C]+3.42[N]+3[S]≦[Ti]≦0.065%、残りがFe及びその他の不可避な不純物である、深絞り性の良好な熱延酸洗ほうろう鋼。
【0020】
幾つかの実施形態において、Ti含有量は0.025~0.065%である。
幾つかの実施形態において、Mnで強化した場合、Mn:1.0~1.5%、Si:0.005~0.025%、P≦0.015%である。
【0021】
幾つかの実施形態において、Pで強化した場合、Si:0.003~0.006%、Mn:0.15~0.3%、P:0.035~0.055%である。
【0022】
本発明に記載の熱延酸洗ほうろう鋼のミクロ構造は、{111}面集合組織を均一に有するポリゴナルフェライト粒であり、且つ結晶粒度は7級を超えない。
【0023】
本発明に記載の熱延酸洗ほうろう鋼の降伏強度は210~245MPaであり、引張強度は320MPa以上であり、伸び率は46%以上であり、r値は1.3以上であり、n値は0.3以上であり、TH値は7.0以上である。
【0024】
幾つかの実施形態において、本発明に記載の熱延酸洗ほうろう鋼の降伏強度は210~245MPaであり、引張強度は320~450MPaであり、伸び率は46~52%であり、r値は1.3~1.8であり、n値は0.3~0.4であり、TH値は7.0~8.5である。
【0025】
幾つかの実施形態において、本発明に記載の熱延酸洗ほうろう鋼のフェライト中には、固溶C、N格子間原子が存在しない。
【0026】
幾つかの実施形態において、本発明は、給湯器ライナーを提供するものであり、当該給湯器ライナーの鋼材部分は、本発明の何れかの実施形態に記載の深絞り性の良好な熱延酸洗ほうろう鋼である。幾つかの実施形態において、本発明の給湯器ライナーは、本発明の何れかの実施形態に記載の深絞り性の良好な熱延酸洗ほうろう鋼を深絞り成形して製造される。
【0027】
本発明に記載の熱延酸洗ほうろう鋼の成分設計において、
C:固溶Cは鋼の降伏強度と引張強度を向上させるが、塑性を低下させるとともに、固溶Cは{111}集合組織の形成に不利であり、製品のr値を低下させる。限界絞り比が高い材料には、低い降伏強度、高い伸び率、高い{111}集合組織強度が必要となるため、固溶Cは小さいほど良いが、C含有量が低いほど、C含有量を低減するのに要する精錬コストが高くなり、精錬時間も長くなる。力学的性質と製造コストのバランスを取るために、本発明の鋼中のC含有量を0.001~0.006%に制御する。
【0028】
N:強力な固溶強化元素であり、{111}集合組織の形成に不利であり、時効を引き起こし、鋼板のプレス品質に影響を与えるが、N含有量が低すぎると、製造コストの上昇を招くため、総合的に考えると、本発明の鋼ではN含有量を0.004%以下に制御する。幾つかの実施形態において、N含有量は0.002~0.004%である。
【0029】
S:鋼中の有害な不純物元素であり、鋼中に偏析しやすく、鋼の靱性や溶接性を低下させたり、可塑性硫化物を形成して鋼板にデラミネーションを生じさせたり、鋼板の性能を劣化させ、従って、S含有量は少ないほど良いため、総合的に考えると、本発明の鋼ではS含有量を0.008%以下に制御する。
【0030】
Als:Alは強力な脱酸剤であり、鋼中の酸化物介在物を減少させ、鋼を純粋にすることができるが、Al含有量が多すぎると、結晶粒を微細化する作用が生じやすくなり、降伏強度、降伏比を向上させるため、総合的に考えると、本発明の鋼ではAlsを0.015~0.040%に制御する。
【0031】
Ti:Tiは鋼中のCやNとの親和性が高く、TiCやTiNを生成することでC、N格子間原子を固定させ、鋼中の固溶CやN含有量を低減させ、{111}集合組織形成の促進や、r値を大きくすることに有利であり、又、TiとSの結合力がTiとCの結合力よりも大きいため、Tiが固溶したC原子を確実に除去するためには、生成したTiC、TiN及びTi4C2S2の重量百分率に基づき、4[C]+3.42[N]+3[S]≦[Ti]≦0.065%を確保する必要がある。形成されたTiC、TiN及びTi4C2S2は水素貯蔵のトラップとして機能し、鋼板の耐つまとび性を向上させる。
【0032】
Si、Mn、P:フェライトとオーステナイトに固溶し、強度を高めることができるが、同時に可塑性を低下させるため、総合的に考えると、Mnで強化した場合、Mn含有量を1.0~1.5%に制御し、Si≦0.03%、例えば0.005~0.025%、P≦0.015%、例えば0.005~0.013%、Siで強化した場合、Si含有量を0.4~0.6%に制御し、Mn含有量を0.15~0.3%に制御し、P≦0.015%、例えば0.005~0.015%、Pで強化した場合、P含有量を0.035~0.055%に制御し、Si≦0.03%、例えば≦0.01%、Mn含有量を0.15~0.3%に制御する。
【0033】
本発明は、超低C及びマイクロアロイング(Tiの添加)を採用して、フェライト中に固溶C、N格子間原子がなく、低温高圧下での潤滑圧延と高温巻取を行い、粗大で均一なサイズで{111}面集合組織を有するフェライト粒を得て、製品の深絞り成形性を向上し、更にSi、Mn、Pの固溶強化により製品の引張強度と伸び率を向上する。尚、Ti、C、N、Sの成分比を制御することで、粗大なフェライト粒(TiC、TiN及びTi4C2S2)を形成し、水素貯蔵のトラップとして機能し、鋼板の耐つまとび性を向上させ、製品の降伏強度210~245MPa、引張強度≧320MPa、伸び率≧46%、n値≧0.3、r値≧1.3、TH値≧7.0を達成し、製品は良好な成形性、特に良好な深絞り成形性を有し、同時に高い引張強度と耐つまとび性を有する。
【0034】
本発明に記載の深絞り性の良好な熱延酸洗ほうろう鋼の製造方法は、
1)製錬、鋳造
上記の成分で製錬、精錬、連続鋳造してスラグを得ること、
2)圧延
最終圧延温度は750~800℃であり、圧延温度≦840℃の総圧下率は60%以上であり、且つ圧延温度≦840℃の圧延工程には潤滑エマルションを投入し、前記潤滑エマルションの油水比は1~5%であること、
3)冷却
冷却速度≦6℃/s
4)巻取
巻取温度は720~780℃であること、
5)徐冷
鋼板を巻き取った後、徐冷すること、
6)酸洗
徐冷後、酸洗して鋼板表面の酸化皮膜を除去すること、というステップを含む。
【0035】
好ましくは、ステップ2)において、前記最終圧延温度は750~780℃である。
好ましくは、ステップ4)において、前記巻取温度は730~760℃である。
【0036】
好ましくは、ステップ5)において、前記徐冷は、スタックによる徐冷と断熱カバーによる徐冷であり、前記スタックによる徐冷時には、その周囲に熱ロールを積層する。
【0037】
幾つかの実施形態において、ステップ2)の圧延において、圧延温度≦840℃の総圧下率は60~85%である。
【0038】
幾つかの実施形態において、ステップ3)の冷却速度は1~6℃/sである。
本発明に記載の熱延酸洗ほうろう鋼の製造方法において、
圧延工程において最終圧延温度を750~800℃に制御することで、{111}集合組織の形成を促進し、製品のr値を高め、フェライト粒を粗大化することができる。最終圧延温度が800℃を超えると、フェライト粒が微細化し、{111}集合組織が減少し、製品強度が向上し、伸び率、n値、r値が低下する。最終圧延温度が750℃未満の場合、巻取温度≧720℃が確保できず、変形したフェライトが十分に回復せず、却って製品の成形性を悪化させる。
【0039】
本発明の圧延プロセスは低温潤滑圧延を採用し、鋼板は840℃以下でフェライト圧延が起こり、圧延温度がフェライト相領域で総圧下率≧60%を制御し、{111}集合組織の形成を促進し、{111}面集合組織を有するフェライト粒が得られ、製品のr値が向上する。圧延温度≦840℃のフェライト圧延工程において潤滑圧延を行う目的は、厚さ方向に均一な{111}集合組織を得て、表面に{110}集合組織の形成を回避し、製品のr値を向上させることである。潤滑圧延時の潤滑エマルションの油水比を1~5%に制御し、油水比が1%未満の場合、鋼板とロール間の摩擦係数が大きく、成形に不利なせん断集合組織を形成しやすくなる。油水比が5%を超えると、圧延時に滑りやすくなり、圧延安定性が悪くなり、製品の歩留まりが低い。本発明の潤滑エマルションに使用される油は、本分野で従来から圧延に使用されている油でよい。
【0040】
フェライトの十分な回復を促進するために、冷却速度を6℃/s以下に制御する。
前記巻取は高温巻取を採用し、巻取温度を720~780℃に制御し、鋼コイルの徐冷と組み合わせて、圧延終了時に圧延方向に伸びたフェライトを十分に回復させて、粗大で均一なフェライト粒を形成して所望の性能を得る。巻取温度が720℃未満の場合、変形したフェライトが十分に回復せず、製品の成形性を悪化させる。既存のプロセス及び装置条件では、冷却工程で温度が低下し、設定した最終圧延温度では、フェライトが十分に回復し、粗大で均一なフェライト粒を実現することができる最高温度は780℃となり、巻取温度が780℃より高い場合、性能に大きな影響を与えない一方で、その実現はより困難になる。
【0041】
幾つかの実施形態において、本発明は、給湯器ライナーの製造方法を提供するものであり、当該製造方法は、本発明の何れかの実施形態に記載の方法により前記深絞り性の良好な熱延酸洗ほうろう鋼を製造するステップと、前記深絞り性の良好な熱延酸洗ほうろう鋼を深絞り成形して前記給湯器ライナーを形成するステップとを含む。本発明の給湯器ライナーは、本分野で周知の深絞り法によって製造することができる。
【0042】
本発明は下記の有益な効果を有する。
1.本発明の成分設計は、超低炭素及びTiマイクロ合金の化学成分設計を採用し、更にSi、Mn、Pの固溶強化により、フェライト中に固溶C、N格子間原子がなく、熱延酸洗ほうろう鋼のミクロ構造が、粗大で均一なサイズで{111}面集合組織を有するポリゴナルフェライト粒となり、製品の深絞り性が向上する。尚、Ti、C、N、Sの成分比を制御することで、TiC、TiN及びTi4C2S2等の不可逆な水素貯蔵トラップを形成し、マトリックス中の溶存水素を減少してつまとびのリスクを低減し、鋼板の耐つまとび性を向上させ、製造された熱延酸洗ほうろう鋼製品が、良好な成形性、特に良好な深絞り成形性を有し、又、高い引張強度と良好な耐つまとび性を有するようになる。
【0043】
2.本発明は、成分設計を基に、圧延工程において圧延温度がフェライト相領域で総圧下率を60%超に制御し、潤滑圧延と組み合わせて{111}面集合組織を有するフェライト粒を得て、その後徐冷と高温巻取を行い、フェライトを十分に回復させ、粗大で均一なポリゴナルフェライト粒を形成し、熱延酸洗ほうろう鋼の降伏強度が210~245MPaであり、引張強度が320MPa以上であり、伸び率が46%以上であり、n値が0.3以上であり、r値が1.3以上であり、製品は良好な深絞り成形性を有するだけでなく、高い引張強度を備え、更にTH値が7.0以上であり、良好な耐つまとび性を有する。
【0044】
3.本発明は低温フェライトの圧延工程では潤滑圧延を採用し、潤滑エマルションの油水比を1~5%に制御し、成形に不利なせん断集合組織の形成を回避し、フェライト相が一定の圧下率を累積して、プレス成形に有利な{111}面集合組織を生成し、その後の徐冷と高温巻取と組み合わせて、粗大で均一なフェライト粒が形成され、所望の力学的性質が得られる。
【0045】
4.本発明により得られた熱延酸洗ほうろう鋼は深絞り性が良く、生産効率や歩留まりが低いエッジ圧延や溶接成形方式に代わり、深絞り成形による給湯器ライナーの製造に使用することができ、給湯器ライナー製造業のグレードアップ、家電産業のグリーントランスフォーメーションを推進する上で重要な意味を有している。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、実施例を参照しながら、本発明を具体的に説明する。
本発明の実施例の具体的な成分を表1に示し、実施例のプロセスパラメータを表2に示し、各実施例の熱延酸洗ほうろう鋼の性能を表3に示す。
【0047】
試料を標準サイズに加工した後、EN10002規格に準拠し、引張試験機で降伏強度、引張強度、n値、r値を測定する。水素透過試験法により、EN10209規格に準拠し、ほうろうの耐つまとび感度であるTH値を測定する。
【0048】
本発明により得られた熱延酸洗ほうろう鋼のミクロ構造は粗大で均一なサイズで{111}面集合組織を有するポリゴナルフェライト粒であり、その降伏強度が210~245MPaであり、引張強度が320MPa以上であり、伸び率が46%以上であり、n値が0.3以上であり、r値が1.3以上であり、TH値が7.0以上であり、良好な成形性、特に良好な深絞り成形性を有し、又、高い引張強度と良好な耐つまとび性を有し、生産効率や歩留まりが低いエッジ圧延や溶接成形方式に代わり、深絞り成形による給湯器ライナーの製造に使用することができ、給湯器ライナー製造業のグレードアップ、家電産業のグリーントランスフォーメーションを推進する上で重要な意味を有している。
【0049】
【0050】
【0051】
【国際調査報告】