(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-28
(54)【発明の名称】siRNA送達ベクター
(51)【国際特許分類】
A61K 47/54 20170101AFI20240521BHJP
A61K 47/69 20170101ALI20240521BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240521BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240521BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240521BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240521BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20240521BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20240521BHJP
C07F 9/6561 20060101ALN20240521BHJP
【FI】
A61K47/54
A61K47/69
A61K47/24
A61K48/00
A61K45/00
A61P35/00
A61K31/713
A61K9/51
C07F9/6561 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574125
(86)(22)【出願日】2022-06-03
(85)【翻訳文提出日】2023-12-28
(86)【国際出願番号】 IB2022055214
(87)【国際公開番号】W WO2022254405
(87)【国際公開日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】202111024926
(32)【優先日】2021-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508176500
【氏名又は名称】カウンシル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】コタムラジュ,スリジリダー
(72)【発明者】
【氏名】バトゥーラ,サレンダー・レッディ
(72)【発明者】
【氏名】シャイカ,アルタブ
(72)【発明者】
【氏名】ニーリ,パラヴィーン・クマール
(72)【発明者】
【氏名】サラヴヤ,パナンギパリ
(72)【発明者】
【氏名】バネルジー,ラジクマール
(72)【発明者】
【氏名】テナティ,ラジャマナール
(72)【発明者】
【氏名】ガジャラクシュミ,シングル
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4H050
【Fターム(参考)】
4C076AA65
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076DD63
4C076FF63
4C076FF68
4C084AA13
4C084AA17
4C084MA05
4C084NA03
4C084NA05
4C084NA13
4C084ZB261
4C084ZB262
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA05
4C086NA03
4C086NA05
4C086NA13
4C086ZB26
4H050AA03
4H050AB20
(57)【要約】
6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質と、負電荷を持つ薬剤との複合体が提供されている。複合体は、ナノ粒子または非ウイルスベクターに自己組織化されて、負電荷を持つ薬剤の送達を促進する。負電荷を持つ薬剤は、治療剤または診断剤であってもよい。それ故に、本発明は、そのような負電荷を持つ薬剤を標的細胞に送達する方法を提供し、特に細胞膜を横断する治療剤または診断剤の送達を促進し、また治療剤または診断剤の送達を介した治療または診断の方法を提供する。6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質はMito-Escとすることができ、負電荷を持つ薬剤はsiRNAなどの核酸とすることができる。さらに、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質は、がんの治療に有効であると考えられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質と負電荷を持つ薬剤との複合体。
【請求項2】
前記6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質が、
式中、
Rは水素、置換アルキル、置換アリール、または置換ヘテロ原子であり、
R
1はアリール、シクロアルキル、またはヘテロアリールであり、
Xは非置換の、またはアルキル、アルケニル、もしくはアルキニル側鎖で置換された、一つ以上の二重結合もしくは三重結合を含むC
1~C
30炭素鎖であるか、または、
-(CH
2)
p-R
2-(CH
2)
n-、または、
-(CH
2)
2-R
2-(CH
2)
2-R
2-(CH
2)
m-であり、
式中、
pは2または3であり、nは3~6の整数であり、mは2~4の整数であり、
R
2はO、NH、またはSである、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記複合体が式Iの化合物であり、
式中、
Zは負電荷を持つ薬剤であり、
Rは水素、置換アルキル、置換アリール、または置換ヘテロ原子であり、
R
1はアリール、シクロアルキル、またはヘテロアリールであり、
Xは非置換の、またはアルキル、アルケニル、もしくはアルキニル側鎖で置換された、一つ以上の二重結合もしくは三重結合を含むC
1~C
30炭素鎖であるか、または、
-(CH
2)
p-R
2-(CH
2)
n-、または、
-(CH
2)
2-R
2-(CH
2)
2-R
2-(CH
2)
m-であり、
式中、
pは2または3であり、nは3~6の整数であり、mは2~4の整数であり、
R
2はO、NH、またはSである、請求項1に記載の複合体。
【請求項4】
前記複合体が式IIの化合物であり、
式中、
XはC
1~C
30炭素鎖であり、
Zは負電荷を持つ薬剤であり、
Rは水素、一つ以上の置換アルキル、一つ以上の置換アリール、または一つ以上の置換ヘテロ原子である、請求項1に記載の複合体。
【請求項5】
前記複合体が式IIIの化合物であり、
式中、
Zは負電荷を持つ薬剤である、請求項1に記載の複合体。
【請求項6】
前記負電荷を持つ薬剤が治療剤、診断剤、または核酸から選択される、請求項1~5に記載の複合体。
【請求項7】
前記核酸が、低分子干渉RNA(siRNA)およびメッセンジャーRNA(mRNA)から選択される、請求項6に記載の複合体。
【請求項8】
前記複合体がナノ粒子の形態である、請求項1~7に記載の複合体。
【請求項9】
がんを治療、改善または診断する方法であって、前記方法が、請求項1~7に記載の複合体の有効量を投与することを含む、方法。
【請求項10】
がんの治療または診断に使用する、請求項1~7に記載の複合体。
【請求項11】
請求項1~7に記載の複合体と、薬学的に許容可能な担体または賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項12】
Mito-EscおよびsiRNAの複合体と、薬学的に許容可能な担体または賦形剤とを含む医薬組成物であって、Mito-Escが式VIの化合物で表される、医薬組成物。
【請求項13】
がんの治療に使用する、請求項11~12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
負電荷を持つ薬剤の細胞内送達方法であって、前記方法が、請求項1~7に記載の複合体の有効量を投与することを含む、方法。
【請求項15】
負電荷を持つ薬剤の細胞内送達方法であって、前記方法が、請求項11~12に記載の医薬組成物の有効量を投与することを含む、方法。
【請求項16】
Mito-EscおよびsiRNAの複合体であって、Mito-Escが式VIの化合物で表される、複合体。
【請求項17】
6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質と負電荷を持つ薬剤との複合体を含むナノ粒子。
【請求項18】
前記6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質が、式IV、VまたはIVの化合物から選択され、
式中、
Rは水素、置換アルキル、置換アリール、または置換ヘテロ原子であり、
R
1はアリール、シクロアルキル、またはヘテロアリールであり、
Xは非置換の、またはアルキル、アルケニル、もしくはアルキニル側鎖で置換された、一つ以上の二重結合もしくは三重結合を含むC
1~C
30炭素鎖であるか、または、
-(CH
2)
p-R
2-(CH
2)
n-、または、
-(CH
2)
2-R
2-(CH
2)
2-R
2-(CH
2)
m-であり、
式中、
pは2または3であり、nは3~6の整数であり、mは2~4の整数であり、
R
2はO、NH、またはSである、請求項17に記載のナノ粒子。
【請求項19】
式Iの化合物の複合体を含み、
式中、
Zは負電荷を持つ薬剤または負電荷を持つ対イオンであり、
Rは水素、置換アルキル、置換アリール、または置換ヘテロ原子であり、
R
1はアリール、シクロアルキル、またはヘテロアリールであり、
Xは非置換の、またはアルキル、アルケニル、もしくはアルキニル側鎖で置換された、一つ以上の二重結合もしくは三重結合を含むC
1~C
30炭素鎖であるか、または、
-(CH
2)
p-R
2-(CH
2)
n-、または、
-(CH
2)
2-R
2-(CH
2)
2-R
2-(CH
2)
m-であり、
式中、
pは2または3であり、nは3~6の整数であり、mは2~4の整数であり、
R
2はO、NH、またはSである、請求項17に記載のナノ粒子。
【請求項20】
式IIの化合物の複合体を含み、
式中、
XはC
1~C
30炭素鎖であり、
Zは負電荷を持つ薬剤または負電荷を持つ対イオンであり、
Rは水素、一つ以上の置換アルキル、一つ以上の置換アリール、または一つ以上の置換ヘテロ原子である、請求項17に記載のナノ粒子。
【請求項21】
式IIIの化合物の複合体を含み、
式中、
Zは負電荷を持つ薬剤または負電荷を持つ対イオンである、請求項17に記載のナノ粒子。
【請求項22】
前記負電荷を持つ薬剤が治療剤、診断剤、または核酸から選択される、請求項17~21に記載のナノ粒子。
【請求項23】
前記核酸が、低分子干渉RNA(siRNA)およびメッセンジャーRNA(mRNA)から選択される、請求項22に記載のナノ粒子。
【請求項24】
前記負電荷を持つ対イオンが、ハライド、メシラート、トシラート、シトラート、タルトラート、マラート、アセタート、トリフルオロアセタートから選択される、請求項17~21に記載のナノ粒子。
【請求項25】
前記ナノ粒子が100~200nmのサイズを有する、請求項17~24に記載のナノ粒子。
【請求項26】
前記ナノ粒子が30~40mVの表面電荷を有する、請求項17~24に記載のナノ粒子。
【請求項27】
がんを治療、改善または診断する方法であって、前記方法が、請求項17~26に記載のナノ粒子の有効量を投与することを含む、方法。
【請求項28】
がんの治療または診断に使用する、請求項17~26に記載のナノ粒子。
【請求項29】
請求項17~26に記載のナノ粒子と、薬学的に許容可能な担体または賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項30】
薬学的に許容可能な担体または賦形剤とともにナノ粒子を含む医薬組成物であって、前記ナノ粒子がMito-EscおよびsiRNAの複合体を含み、Mito-Escが式VIの化合物によって表される、医薬組成物。
【請求項31】
がんの治療に使用する、請求項29~30に記載の医薬組成物。
【請求項32】
負電荷を持つ薬剤の細胞内送達方法であって、前記方法が、請求項17~26に記載のナノ粒子の有効量を投与することを含む、方法。
【請求項33】
負電荷を持つ薬剤の細胞内送達方法であって、前記方法が、請求項29~30に記載の医薬組成物の有効量を投与することを含む、方法。
【請求項34】
Mito-EscおよびsiRNAの複合体を含むナノ粒子であって、Mito-Escが式VIの化合物で表される、ナノ粒子。
【請求項35】
式Iの化合物であって、
式中、
Zは負電荷を持つ薬剤または負電荷を持つ対イオンであり、
Rは水素、置換アルキル、置換アリール、または置換ヘテロ原子であり、
R
1はアリール、シクロアルキル、またはヘテロアリールであり、
Xは非置換の、またはアルキル、アルケニル、もしくはアルキニル側鎖で置換された、一つ以上の二重結合もしくは三重結合を含むC
1~C
30炭素鎖であるか、または、
-(CH
2)
p-R
2-(CH
2)
n-、または、
-(CH
2)
2-R
2-(CH
2)
2-R
2-(CH
2)
m-であり、
式中、
pは2または3であり、nは3~6の整数であり、mは2~4の整数であり、
R
2はO、NH、またはSである、化合物。
【請求項36】
式IIの化合物であって、
式中、
XはC
1~C
30炭素鎖であり、
Zは負電荷を持つ薬剤または負電荷を持つ対イオンであり、
Rは水素、一つ以上の置換アルキル、一つ以上の置換アリール、または一つ以上の置換ヘテロ原子である、化合物。
【請求項37】
式IIIの化合物であって、
式中、
Zは負電荷を持つ薬剤または負電荷を持つ対イオンである、化合物。
【請求項38】
前記負電荷を持つ薬剤が治療剤、診断剤、または核酸から選択される、請求項35~37に記載の化合物。
【請求項39】
核酸が低分子干渉RNA(siRNA)およびメッセンジャーRNA(mRNA)から選択される、請求項38に記載の化合物。
【請求項40】
前記負電荷を持つ対イオンがメシラート、トシラート、シトラート、タルトラート、マラート、アセタート、トリフルオロアセタートから選択される、請求項35~37に記載の化合物。
【請求項41】
がんを治療、改善、または診断する方法であって、前記方法が、請求項35~40に記載の化合物の有効量を投与することを含む、方法。
【請求項42】
がんの治療または診断に使用する、請求項35~40に記載の化合物。
【請求項43】
請求項35~40に記載の化合物と、薬学的に許容可能な担体または賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項44】
式IIIの化合物であって、
式中、ZはsiRNAである、化合物と、
薬学的に許容可能な担体または賦形剤と、を含む、医薬組成物。
【請求項45】
がんの治療に使用する、請求項43~44に記載の医薬組成物。
【請求項46】
負電荷を持つ薬剤の細胞内送達方法であって、前記方法が、請求項35~40に記載の化合物の有効量を投与することを含む、方法。
【請求項47】
負電荷を持つ薬剤の細胞内送達方法であって、前記方法が、請求項43~44に記載の医薬組成物の有効量を投与することを含む、方法。
【請求項48】
式IIIの化合物であって、
式中、
ZはsiRNAである、化合物。
【請求項49】
式Iの化合物であって、
式中、
Zは負電荷を持つ薬剤または負電荷を持つ対イオンであり、
Rは水素、置換アルキル、置換アリール、または置換ヘテロ原子であり、
R
1はアリール、シクロアルキル、またはヘテロアリールであり、
Xは非置換の、またはアルキル、アルケニル、もしくはアルキニル側鎖で置換された、一つ以上の二重結合もしくは三重結合を含むC
1~C
30炭素鎖であるか、または、
-(CH
2)
p-R
2-(CH
2)
n-、または、
-(CH
2)
2-R
2-(CH
2)
2-R
2-(CH
2)
m-であり、
式中、
pは2または3であり、nは3~6の整数であり、mは2~4の整数であり、
R
2はO、NH、またはSである、
がんの治療に使用する、化合物。
【請求項50】
式IIの化合物であって、
式中、XはC
1~C
30炭素鎖であり、
Zは負電荷を持つ薬剤または負電荷を持つ対イオンであり、
Rは水素である、
がんの治療に使用する、化合物。
【請求項51】
式IIIの化合物であって、
式中、
Zは負電荷を持つ薬剤または負電荷を持つ対イオンである、
がんの治療に使用する、化合物。
【請求項52】
前記負電荷を持つ薬剤が治療剤、診断剤、または核酸から選択される、請求項49~51に記載の化合物。
【請求項53】
核酸が低分子干渉RNA(siRNA)およびメッセンジャーRNA(mRNA)から選択される、請求項52に記載の化合物。
【請求項54】
前記負電荷を持つ対イオンがハライド、メシラート、トシラート、シトラート、タルトラート、マラート、アセタート、トリフルオロアセタートから選択される、請求項49~51に記載の化合物。
【請求項55】
がんが乳がん、子宮頸がん、肺がん、肝臓がん、トリプルネガティブ乳がん、ER陽性乳がんから選択される、請求項49~51に記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスミドDNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、マイクロRNA、メッセンジャーRNAなどの核酸のための新規の送達ベクターを提供し、様々な疾患および/または障害の予防または治療のためのそれらの使用を改善する。さらに発明は、乳がんなどのがんに対する新規治療法を提供する。
【背景技術】
【0002】
核酸は、免疫療法を含むがん治療の有望な治療候補として浮上している。核酸はプラスミド、mRNA、ASO、siRNA、miRNA、低分子活性化RNA(saRNA)、アプタマー、遺伝子編集gRNA、免疫調節DNA/RNAなどの、DNAまたはRNAの多様なクラスである。核酸治療薬は、遺伝子発現の変更(上方制御または下方制御)から免疫応答の調節に至る、多用途の機能を有する。核酸の高い特異性、多用途機能性、再現性のあるバッチごとの製造、調整可能な免疫原性によって、核酸はがん免疫療法の優れた候補となる。
【0003】
例えば、低分子干渉RNA(siRNA)は、広範囲の医学的状態を治療するための新規かつ有用な治療剤として浮上している。米国食品医薬品局(FDA)に承認された初めてのこのような治療は、成人患者における遺伝性トランスサイレチン媒介性アミロイドーシス(hATTR)によって引き起こされる末梢神経疾患(多発性ニューロパチー)の治療のために開発された薬品パチシラン(ONPATTRO(商標))であり、これは末梢神経、心臓、他の器官における異常なアミロイドタンパク質の蓄積を特徴とする、希少で衰弱性の、かつしばしば致命的な遺伝性疾患である。FDAに承認されたsiRNA治療のさらなる例としては、急性肝性ポルフィリン症を有する成人患者の治療のためのGIVALAARI(商標)(ギボシラン)があり、これは(血液中の酸素を結合するのを助ける)ヘムの産生中に形成される有毒なポルフィリン分子の蓄積をもたらす遺伝性の障害である。他のsiRNA療法も開発中であり、臨床評価中である。
【0004】
siRNAは治療にとって大きな潜在的可能性を有するが、生体液と組み合わせるために裸のまたは封入された核酸のいずれかを担体に導入することは、siRNAの細胞生体内分布および細胞内バイオアベイラビリティを変化させる多くの生理学的障壁に直面するため、課題が残っている。投与後、未修飾のDNAおよびRNAは、標的細胞の表面に達することができる前に、細胞外酵素および細胞内酵素によって生体液中で急速に分解する。これは、核酸の活性、および核酸による細胞との相互作用に影響を及ぼし、核酸の治療成績を損ねる。さらに、核酸は、親水性でありかつ分子量が大きいため、細胞の取り込みが非常に制限されている。細胞に取り込まれることができるごく一部は通常、小胞(すなわち、エンドソーム)に内部移行され、これはその後リソソームに変換される。リソソーム内部での核酸の蓄積とその後消化は、核酸が細胞質または核の標的に到達することを妨げ、また核酸の有効性に対する有意な障壁である。例えば、siRNAの限られた安定性、その免疫原性、およびsiRNA治療剤を細胞内の所望の標的部位内に送達するという課題、すなわち細胞膜を横断して細胞の細胞質内にsiRNAを輸送することの困難さはすべて、siRNAの有効性に対する障壁である。核酸の細胞内バイオアベイラビリティを増加させるために、多くの戦略が検討されてきた。これらの技法には主に、核酸の化学構造を改変すること、または遺伝物質をベクター(ウイルスまたは非ウイルス)に封入することが含まれる。これらのベクターは、細胞によって取り込まれるのに十分小さく、細胞結合およびその後の取り込みを促進するために、標的化部分または過剰な正電荷のいずれかを有するべきである。概してウイルスベクターは、より高い輸送効果を達成することができるものの、このようなベクターには安全性およびスケーラビリティの制限に関する懸念が残る。従って、非ウイルスベクターは、治療効果が低いにもかかわらず、好ましい。融合性の脂質もしくはペプチドまたは膜不安定化ポリマーの組み込みを使用して、エンドソーム/リソソームから細胞質内への遺伝物質の脱出を促進することができる。pDNAを使用する場合、発現効率を高めるための核ホーミング配列でのタグ付けも利用できる。最後に、これらの複合体は、中間の安定性を有するべきであり、すなわち、核酸を標的部位に運ぶのに十分に堅牢であるべきであるが、標的の細胞内区画/細胞小器官では核酸から解離するべきである。例えば、負電荷を持つリン酸基がRNA分子内に存在することに起因して、標的部位への細胞内送達は送達ベクターの存在を必要とする。しかしながら、治療用組成物中に送達ベクターを含めることは、活性RNA薬剤の治療能力を制限することができる。
【0005】
一般的に、非ウイルスベクターは、常に電荷を持つ第四級アンモニウム系のカチオン性脂質(PCCL)またはカチオン性ポリマー(PCCP)とともに合成粒子であることになり、siRNA複合体を産生し、続いてトランスフェクションを行うことになるが、毒性を低減するために、プロトン化可能なアミン基を含むpH応答性脂質が一般的に必要であることになる。これに関して、トリ-フェニルホスホニウム(TPP)結合ポリマー系送達システムは、その優れた安全性およびトランスフェクション能力のため、アンモニウム系システムに代わる非毒性の代替物として注目を集めている。また、TPPアンカー分子は、両親媒性の特性および非局在化した正電荷に起因して、生体適合性、膜融合、細胞取り込み、またミトコンドリア標的化の向上を呈する。
【0006】
高いトランスフェクション効率を提供することができる非毒性核酸送達ベクターに対するニーズがあり続けている。
【0007】
本発明は、ホスホニウム両親媒性物質に基づく新規の核酸送達方法を提供する。好ましくは、記載のホスホニウム両親媒性物質は、凝集体を形成し、その後、ホスホニウム-siRNA複合体を形成することによってsiRNAなどの核酸を標的細胞に送達する能力を有する。本発明による例示的なホスホニウム両親媒性物質は、トリフェニルホスホニウムカチオン(TPP+)結合エスクレチンである(本明細書において「ミト-エスクレチン」または「Mito-Esc」と称され、これらの用語は本明細書において互換的に使用される)。
【0008】
Mito-Escの分子構造は、8-炭素脂肪族鎖を介して親水性6,7-ジヒドロキシクマリン分子に連結された親油性TPPカチオンから成る。それ故に、Mito-Escは、同じ分子内に疎水基および親水基という相反する面を有する構造から成る両親媒性分子である。
【0009】
米国特許第9580452号には、アテローム性動脈硬化症の治療に対するミト-エスクレチンの使用が記載されている。PCT出願第IB2020/061043号には、創傷、乾癬、脱毛の治療に対するミト-エスクレチンの使用が記載されている。しかしながら、これらの開示はいずれも、ミト-エスクレチンが核酸送達ベクターとして、好ましくはsiRNA送達ベクターとして有用である可能性も、ミト-エスクレチンが乳がんなどのがんの治療に有用である可能性も示唆していない。
【0010】
さらに最近、ミトコンドリア標的エスクレチン(Mito-Esc)が、酸化物質によって誘発される内皮機能障害を和らげることによって、アテローム性動脈硬化性疾患の進行を大幅に軽減することが証明された。それによって、Mito-Escは、酸化物質が媒介する細胞異常を改善する一方で、優先的な乳がん細胞死を引き起こすことを示している。このような背景で、本発明では、自己組織化ナノ粒子を形成し、siRNA送達ベクターなどの効率的な核酸送達ベクターとして機能させるために、TPPカチオンの疎水性特性、および6,7-ジヒドロキシクマリンの親水性特性を利用した。
【発明の概要】
【0011】
鋭意研究の結果、本発明者らは、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質が、負電荷を持つ薬剤とともに複合体を形成することを見いだした。負電荷を持つ治療剤は、治療剤または診断剤であってもよい。負電荷を持つ薬剤は、核酸、例えばプラスミドDNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、マイクロRNA、メッセンジャーRNA(mRNA)とすることができる。より具体的には、特定の疾患または障害の治療または診断を標的とするsiRNAまたはmRNAである。
【0012】
さらに本発明者らは、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質と、負電荷を持つ薬剤との複合体が、ナノ粒子または非ウイルスベクターに自己組織化されることを見いだした。それ故に本発明は、負電荷を持つ薬剤の標的細胞への送達方法、特に細胞膜を横断する薬剤の送達方法を提供する。
【0013】
随意に、本発明の複合体およびナノ粒子において、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質複合体およびナノ粒子は、式Iの化合物であり、
【化1】
式中、
Zは、負電荷を持つ薬剤、またはハライド、メシラート、トシラート、シトラート、タルトラート、マラート、アセタート、トリフルオロアセタートから選択される負電荷を持つ対イオンであり、
Rは水素、置換アルキル、置換アリール、または置換ヘテロ原子であり、
R
1はアリール、シクロアルキル、またはヘテロアリールであり、
Xは非置換の、またはアルキル、アルケニル、もしくはアルキニル側鎖で置換された、一つ以上の二重結合もしくは三重結合を含むC
1~C
30炭素鎖であるか、または、
-(CH
2)
p-R
2-(CH
2)
n-、または、
-(CH
2)
2-R
2-(CH
2)
2-R
2-(CH
2)
m-であり、
式中、
pは2または3であり、nは3~6の整数であり、mは2~4の整数であり、
R
2はO、NH、またはSである。
【0014】
好ましくは、XはC6~C10炭素鎖であり、Rは水素である。
【0015】
一つの実施形態において、本発明の複合体およびナノ粒子において、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質は、6,7-ジヒドロキシクマリン部分に共有結合されたトリフェニルホスホニウムカチオンである。より具体的に、複合体およびナノ粒子は、式IIの化合物であり、
【化2】
式中、
XはC
1~C
30炭素鎖、好ましくはC
6~C
10炭素鎖であり、
Zは負電荷を持つ薬剤またはハライドであり、
Rは水素である。
【0016】
一部の実施形態において、式Iまたは式IIの化合物の複合体およびナノ粒子は、式IIIの化合物であり、
【化3】
Zは負電荷を持つ薬剤またはハライドである。
【0017】
さらなる研究では、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質またはその薬学的に許容可能な塩が、がんの治療または診断に有用であることも示されている。従って本発明はまた、がん、特に乳がんの治療において、およびがんの治療方法において使用する、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質またはその薬学的に許容可能な塩を提供し、上記方法は、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質またはその薬学的に許容可能な塩を、それを必要とする患者に投与することを含む。
【0018】
本発明の前述の態様および実施形態、ならびにその他の態様、目的、特徴、利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】Mito-Escは、正常な細胞の生存度に影響を与えることなく、乳がん細胞死を用量依存的および時間依存的に誘導する。(A)MDA-MB-231乳がん細胞を、様々な濃度のMito-Esc(1.25~7.5μM)で処理した。細胞生存度を、24時間および48時間でトリパンブルー色素排除アッセイによって測定した。(B)細胞を親Esc(5~50μM)で処理したことを除き、Aと同じ。(C)MCF10A(正常な乳腺上皮)細胞を、Mito-Esc(5~50μM)で処理したことを除き、Aと同じ。(*=対照と有意に異なる(P<0.05)。ns=対照との有意差がない)。
【
図2】(A)DLS:Mito-Escナノ粒子のサイズ分布、(B)Mito-Escナノ粒子のSEM画像:Mito-Escナノ粒子の走査電子顕微鏡写真(スケールバー100nm)、(C)Mito-Escナノ粒子のTEM画像:Mito-Escナノ粒子の透過電子顕微鏡写真(TEM)、試料はモリブデン酸アンモニウムでネガティブ染色した(スケールバー200nm)。(D)および(E)Mito-Escの結合能力:異なるP+/P-比でのMito-Esc、およびミト-イソスコポレチン、オクチルTPPで形成されたsiRNAリポプレックスのアガロースゲル電気泳動アッセイ。
【
図3】ミトEsc投与によって乳がんの進行が退行したSCIDマウスモデル:(A)各群からの代表的な腫瘍は、示された通りに表示されている。(B)グラフは終了日の平均腫瘍体積±SEM(mm
3)を描写する。(C)グラフは腫瘍重量を示す。(D)平均壊死指数は三つの個別の腫瘍片で計算された。データは、4匹の動物の平均±SEを表す。
【
図4】Mito-Esc/siMnSOD複合体は、MnSODレベルを枯渇させることによって、Mito-Escが誘発する乳がん細胞死を増幅させる。(A)MDA-MB-231細胞を、Mito-Esc/siMnSOD(40nM)複合体、またはリポフェクトアミン-2000/siMnSOD複合体のいずれかで48時間インキュベートし、細胞生存度をトリパンブルー色素排除アッセイによって測定した。(B)MDA-MB-231細胞を、示された送達システムを用いてsiMnSOD(40nM)で48時間トランスフェクトし、MnSODタンパク質レベルをイムノブロット法によって測定した。括弧は、GAPDH(ローディング対照)に対して正規化されたMnSODの相対的な発現を示す。(*=対照と有意に異なる(P<0.05)。ns=対照との有意差がない。)。
【
図5】共焦点イメージングを使用したMito-EscによるCy-5 siRNAの細胞内送達の検出。MDA-MB-231細胞を、示された送達システムを用いてCy-5標識siRNA(40nM)で24時間トランスフェクトした。共焦点顕微鏡を使用してトランスフェクションの有効性を評価した。サイトゾル中のCy-5蛍光は青色で示されている(スケールバー10倍)。
【
図6】共焦点イメージングを使用したCy-5 siRNAの細胞内送達の比較。MCF-10A細胞を、異なる送達機構を使用してCy-5標識siRNAでトランスフェクトした。共焦点顕微鏡を使用してトランスフェクションの有効性を評価した。サイトゾル中のCy-5蛍光は青色で示されている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書で使用される以下の定義は、別段の明記がない限り適用される。特段の明記がない限り、単数形「a(一つの)」、「an(一つの)」、および「the(その)」は複数の参照を含むことが理解されるべきであるが、そうではないことが文脈から明らかである場合はこの限りではない。
【0021】
本発明における「アルキル」とは、直鎖状または分岐状炭化水素基を意味し、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、Sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソ-ペンチル、n-ヘキシル、n-オクチルなどを含む。
【0022】
「アルケニル」は、直鎖状および分枝状の炭化水素基、および少なくとも一つの二重結合を意味し、エテニル、3-ブテン-1-イル、2-エテニルブチル、3-ヘキセン-1-イルなどを含むが、これらに限定されない。
【0023】
「アルキニル」は、直鎖状および分枝状の炭化水素基、および少なくとも一つの三重結合を意味し、エチニル、3-ブチン-1-イル、プロピニル、2-ブチン-1-イル、3-ペンチン-1-イルなどを含むが、これらに限定されない。
【0024】
「アリール」とは、単一の環(例えば、フェニル)、複数の環(例えば、ビフェニル)、または少なくとも一つが芳香族である複数の縮合環(例えば、1,2,3,4-テトラヒドロナフチル、ナフチル、アントリル、またはフェナントリル)を有する芳香族炭素環基を意味し、これは、例えばハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルキルチオ、トリフルオロメチル、低級アシルオキシ、アリール、ヘテロアリール、ヒドロキシで一置換、二置換、または三置換されることができる。好ましいアリールはフェニルである。
【0025】
「ヘテロ原子」は、炭素または水素以外の任意の元素の原子を意味する。ヘテロ原子は窒素、酸素、硫黄であることが好ましい。
【0026】
「シクロアルキル」とは、3~8個の炭素原子を有する単環式または多環式のヒドロカルビル基、例えばシクロプロピル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロデシル、シクロブチル、アダマンチル、ノルピナニル、デカリニル、ノルボルニル、シクロヘキシル、シクロペンチルを意味する。
【0027】
本発明における「ハライド」という用語は、フルオライド、ブロマイド、クロライド、ヨージドを意味する。
【0028】
「ヘテロアリール」とは、窒素、酸素、または硫黄から選択される少なくとも一つかつ最大で4つのヘテロ原子を含有する、5、6、または7員環の一つ以上の芳香族環系を意味する。そのようなヘテロアリール基としては、例えばチエニル、フラニル、チアゾリル、トリアゾリル、イミダゾリル、(イソ)オキサゾリル、オキサジアゾリル、テトラゾリル、ピリジル、チアジアゾリル、オキサジアゾリル、オキサチアジアゾリル、チアトリアゾリル、ピリミジニル、(イソ)キノリニル、ナフチリジニル、フタルイミジル、ベンズイミダゾリル、ベンズオキサゾリルが挙げられる。
【0029】
本明細書で使用される「治療有効量」は、標的となる疾患または障害を軽減するのに有効な治療剤の量を指す。
【0030】
本明細書で使用される「患者」とは、任意のヒトまたは非ヒト動物(例えば、霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類など)を指す。本明細書で使用される「治療」という用語は、疾患および/または障害を可能な限り迅速に治癒すること、および重篤な疾患への進行を予防することを指す。
【0031】
本発明は、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質が、負電荷を持つ薬剤で自己凝集して、標的細胞(例えば、がん細胞)への薬剤の送達を促進するのに特に適切なベクターまたはナノ粒子を形成することができるという驚くべき発見に基づく。負電荷を持つ薬剤は、治療剤または診断剤であってもよい。好ましくは、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質は、6,7-ジヒドロキシクマリン部分と共有結合したトリフェニルホスホニウムカチオンである。好ましい6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質は、オクチルタグ付きエスクレチン(ミト-エスクレチン)である。さらに、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質は、がん、特に乳がん、子宮頸がん、肺がん、肝臓がんの治療および診断に有用であることが、複数の研究によってさらに実証されている。より具体的には、トリプルネガティブ乳がん、ER陽性乳がんなどの乳がんにおいてである。
【0032】
一つの態様において、本発明は、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質と、負電荷を持つ薬剤との複合体を提供する。
【0033】
負電荷を持つ薬剤は、核酸、例えばプラスミドDNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、マイクロRNA、メッセンジャーRNA(mRNA)とすることができる。しかしながら、必要なのは、薬剤が負の電荷を有し、その結果、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質に関連付けられることである。負電荷を持つ薬剤は、治療剤または診断剤であってもよい。一部の実施形態において、治療剤は、標的細胞の細胞質への送達が意図されていて、それによって、標的細胞の細胞質内で、意図された治療効果を発揮する。一部の実施形態において、治療剤は、負電荷を持つ抗がん剤、siRNA、またはmRNAである。siRNAは、任意の疾患または障害の治療または診断、例えばがん、末梢神経疾患、急性肝性ポルフィリン症などの治療または診断に有効でありうる。一部の実施形態において、siRNAは、乳がん、子宮頸がん、肺がん、肝臓がんの治療に使用されることができる。より具体的には、トリプルネガティブ乳がん、ER陽性乳がんなどの乳がんである。
【0034】
あるいは、治療剤は、RNAワクチン、例えばウイルス(例えばコロナウイルス)に対するRNAワクチンとすることができる。
【0035】
一つの実施形態において、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質複合体は、式Iの化合物であり、
【化4】
式中、
Zは、負電荷を持つ薬剤、またはハライド、メシラート、トシラート、シトラート、タルトラート、マラート、アセタート、トリフルオロアセタートから選択される負電荷を持つ対イオンであり、
Rは水素、置換アルキル、置換アリール、または置換ヘテロ原子であり、
R
1はアリール、シクロアルキル、またはヘテロアリールであり、
Xは非置換の、またはアルキル、アルケニル、もしくはアルキニル側鎖で置換された、一つ以上の二重結合もしくは三重結合を含むC
1~C
30炭素鎖であるか、または、
-(CH
2)
p-R
2-(CH
2)
n-、または、
-(CH
2)
2-R
2-(CH
2)
2-R
2-(CH
2)
m-であり、
式中、
pは2または3であり、nは3~6の整数であり、mは2~4の整数であり、
R
2はO、NH、またはSである。
【0036】
別の実施形態において、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質は、6,7-ジヒドロキシクマリン部分と共有結合したトリフェニルホスホニウムカチオンとすることができる。より具体的に、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質複合体は、式IIの化合物であり、
【化5】
式中、
XはC
1~C
30炭素鎖、好ましくはC
6~C
10炭素鎖であり、
Zは負電荷を持つ薬剤またはハライドであり、
Rは水素、一つ以上の置換アルキル、一つ以上の置換アリール、または一つ以上の置換ヘテロ原子である。好ましくは、Rは水素である。
【0037】
一つの実施形態において、負電荷を持つ薬剤は、治療剤または診断剤であってもよい。好ましくは、Zは負電荷を持つ治療剤である。
【0038】
一つの実施形態において、Xは非置換の、またはアルキル、アルケニル、もしくはアルキニル側鎖で置換された、一つ以上の二重結合または三重結合を含むC1~C30炭素鎖である。好ましくは、Xはオクチレン基である。
【0039】
一部の実施形態において、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質は、ミト-エスクレチンである。より具体的に、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質複合体は、式IIIの化合物であり、
【化6】
Zは負電荷を持つ薬剤またはハライドである。
【0040】
米国特許第9580452号には、式I、II、IIIによる化合物の合成方法、特にミト-エスクレチンの合成方法が記載されている。
【0041】
随意に、複合体は、RNA治療剤、例えばsiRNAと組み合わせたミト-エスクレチンを含む。
【0042】
驚くべきことに、本発明の複合体は、ナノ粒子または非ウイルスベクターに自己組織化されることができることが見いだされた。これらのナノ粒子は、治療剤または診断剤を患者に送達するのに特に適切であり、特に、負電荷を持つ治療剤を標的細胞の細胞質内に送達するのに適切である。
【0043】
従って、本発明は、上述の複合体に加えて、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質を含むナノ粒子を提供する。
【0044】
ナノ粒子は負電荷を持つ薬剤を含むことが好ましい。負電荷を持つ薬剤は、核酸、例えばプラスミドDNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、マイクロRNA、メッセンジャーRNA(mRNA)とすることができる。しかしながら、必要なのは、薬剤が負の電荷を有し、その結果、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質に関連付けられることである。負電荷を持つ薬剤は、治療剤または診断剤であってもよい。一部の実施形態において、治療剤は、標的細胞の細胞質への送達が意図されていて、それによって、標的細胞の細胞質内で、意図された治療効果を発揮する。一部の実施形態において、治療剤は、負電荷を持つ抗がん剤、siRNA、またはmRNAである。siRNAは、任意の疾患または障害の治療または診断、例えばがん、末梢神経疾患、急性肝性ポルフィリン症などの治療または診断に有効でありうる。一部の実施形態において、siRNAは、乳がん、子宮頸がん、肺がん、肝臓がんの治療に使用されることができる。より具体的には、トリプルネガティブ乳がん、ER陽性乳がんなどの乳がんである。あるいは、治療剤は、RNAワクチン、例えばウイルス(例えばコロナウイルス)に対するRNAワクチンとすることができる。一部の実施形態において、薬剤はsiRNAである。siRNAは、任意の特定の疾患または障害の治療または診断を標的とすることができる。
【0045】
一部の実施形態において、ナノ粒子は100~200nm、例えば150~180nm、好ましくは約160~170nmのサイズを有することができる。
【0046】
一部の実施形態において、ナノ粒子は30~40mVの表面電荷を有することができる。
【0047】
一部の実施形態において、ナノ粒子は30mV以上の表面電荷を有することができる。
【0048】
本発明は、本発明によるナノ粒子または複合体を含む組成物をさらに提供する。随意に、組成物は水溶液または懸濁液である。
【0049】
一部の実施形態において、本発明による組成物は薬学的に許容可能な形態である。
【0050】
特定の実施形態において、医薬組成物は経口投与用または非経口投与用に製剤化される。一部の実施形態において、医薬組成物は経口剤形として投与される。経口剤形は、錠剤、カプセル、分散錠、小袋、ふりかけ状のもの、液体、溶液、懸濁液、エマルションなどの形態であることが好ましい。経口剤形が錠剤である場合、錠剤は円形、球形、または楕円形などの任意の適切な形状とすることができる。錠剤は一体構造でも多層構造でもよい。一部の実施形態において、本発明の医薬組成物は、当技術分野で周知の従来の薬学的に許容可能な賦形剤を使用する従来のアプローチによって得られることができる。錠剤調製のために適切な薬学的に許容可能な賦形剤の例としては、希釈剤(例えば、第二リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、ラクトース、グルコース、微結晶セルロース、セルロース粉末、ケイ化微結晶セルロース、ケイ酸カルシウム、デンプン、プレゼラチン化デンプン、またはポリオール(マンニトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、およびスクロースなど))、結合剤(例えば、デンプン、プレゼラチン化デンプン、カルボキシメチルセルロース、ナトリウムセルロース、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、クロスポビドン,またはそれらの組み合わせ)、崩壊剤(例えば、架橋セルロース、架橋-ポリビニルピロリドン(クロスポビドン)、デンプングリコール酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン(ポリビドン、ポビドン)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム(クロスカルメロースナトリウム)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、キサンタンガム、アルギン酸、または大豆多糖類)、湿潤剤(例えば、ポリソルベート、ラウリル硫酸ナトリウム、またはステアリン酸グリセリル)、または潤滑剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸、ベヘン酸グリセリル、水添植物油、またはステアリン酸亜鉛)が挙げられるがこれらに限定されない。そのように調製された錠剤は、コーティングされなくてもよく、または崩壊性およびその後の有効成分の経腸吸収性を変更するために、または安定性および/または外観を改善するために、コーティングされてもよい。いずれの場合でも、当技術分野で周知の従来のコーティング剤およびアプローチを用いることができる。
【0051】
特定の実施形態において、非経口投与は、薬学的に許容可能な非経口投与ビヒクルとともに、溶液、懸濁液、エマルション、粒子、粉末、または凍結乾燥粉末として製剤化されることができる、または別個に提供されることができる。こうしたビヒクルの例としては、水、生理食塩水、リンゲル溶液、デキストロース溶液、約1~10%のヒト血清アルブミンがある。リポソーム、および固定油などの非水性ビヒクルも使用することができる。ビヒクルまたは凍結乾燥粉末は、等張性を維持する添加剤(例えば、塩化ナトリウム、マンニトール)、および化学的安定性を維持する添加剤(例えば、緩衝剤および保存剤)を含有することができる。製剤は、公知のまたは適切な技法によって滅菌される。一部の実施形態において、非経口製剤は、滅菌水または生理食塩水、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール、植物由来の油、水素化ナフタレンなどを含むが、これらに限定されない、一般的な賦形剤を含んでもよい。注射用の水性または油性の懸濁液は、公知の方法に従って、適切な乳化剤または加湿剤および懸濁剤を使用することによって調製されることができる。非経口投与経路としては、皮下経路、筋肉内経路、静脈内経路、髄腔内経路、または腹腔内が挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
本発明の製剤は、公知またはそうでなければ先行技術に記載のプロセス、例えばRemington’s Pharmaceutical Sciencesに開示されたプロセスによって調製されることができる。
【0053】
随意に、本発明の複合体またはナノ粒子は、がんの治療または診断に有用である可能性がある。好ましくは、例えば乳がん、子宮頸がん、肺がん、肝臓がんの治療にとって有用である可能性がある。より具体的には、トリプルネガティブ乳がん、ER陽性乳がんなどの乳がんにおいてである。
【0054】
本発明は、負電荷を持つ薬剤を送達する方法をさらに提供し、上記薬剤は、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質に複合体化される。随意に、薬剤と6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質の複合体は、上述の通り、ナノ粒子の形態である。負電荷を持つ薬剤は、治療剤または診断剤であってもよい。好ましくは、本発明は、負電荷を持つ治療剤を送達する方法を提供し、上記薬剤は、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質に複合体化される。より好ましくは、治療剤と6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質の複合体は、ナノ粒子の形態である。
【0055】
本発明は、負電荷を持つ薬剤の細胞内送達方法をさらに提供し、上記方法は、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質に複合体化された上記薬剤の有効量を投与することを含む。随意に、薬剤と6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質の複合体は上述の通り、ナノ粒子の形態である。負電荷を持つ薬剤は、治療剤または診断剤であってもよい。好ましくは、本発明は、負電荷を持つ治療剤の細胞内送達方法を提供し、上記方法は、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質と複合体を形成する上記治療剤の有効量を投与することを含む。複合体はナノ粒子の形態であることがより好ましい。
【0056】
上述の方法において、負電荷を持つ薬剤は、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質と複合体を形成し、上記複合体は、ナノ粒子または非ウイルスベクターの形態にさらに仕上げられることができる。負電荷を持つ薬剤は、核酸、例えばプラスミドDNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、マイクロRNA、メッセンジャーRNA(mRNA)とすることができる。しかしながら、必要なのは、薬剤が負の電荷を有し、その結果、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質に関連付けられることである。負電荷を持つ薬剤は、治療剤または診断剤であってもよい。一部の実施形態において、治療剤は、標的細胞の細胞質への送達が意図されていて、それによって、標的細胞の細胞質内で、意図された治療効果を発揮する。一部の実施形態において、治療剤は、負電荷を持つ抗がん剤、siRNA、またはmRNAである。siRNAは、任意の疾患または障害の治療または診断、例えばがん、末梢神経疾患、急性肝性ポルフィリン症などの治療または診断に有効でありうる。一部の実施形態において、siRNAは、乳がん、子宮頸がん、肺がん、肝臓がんの治療に使用されることができる。より具体的には、トリプルネガティブ乳がん、ER陽性乳がんなどの乳がんにおいてである。あるいは、治療剤は、RNAワクチン、例えばウイルス(例えばコロナウイルス)に対するRNAワクチンとすることができる。一部の実施形態において、薬剤はsiRNAである。siRNAは、任意の特定の疾患または障害の治療または診断を標的とすることができる。例えば、siRNAは、がんを標的にして、その特定の細胞の死を引き起こし、および/またはかかる細胞の細胞増殖および分裂を阻止するのに有効である可能性がある。例えば、siRNAは、乳がん細胞を特異的に標的とすることができる。
【0057】
それ故に、本発明はまた、がんの進行を治療または改善する方法を提供し、上記方法は、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質と、負電荷を持つ治療剤とのナノ粒子を含む薬学的に許容可能な組成物を患者に投与することを含む。
【0058】
一つの実施形態において、上記6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質はMito-Escであり、上記治療剤は、がんに対して治療的に有効なsiRNAである。
【0059】
さらなる一態様において、本発明は、がんの治療または診断に使用する6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質またはその薬学的に許容可能な塩を提供する。随意に、がんは乳がんである。
【0060】
がんの治療または診断に使用する6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質は、式Iの化合物とすることができ、
【化7】
式中、
Zは、負電荷を持つ薬剤、またはハライド、メシラート、トシラート、シトラート、タルトラート、マラート、アセタート、トリフルオロアセタートから選択される負電荷を持つ対イオンであり、
Rは水素、置換アルキル、置換アリール、または置換ヘテロ原子であり、
R
1はアリール、シクロアルキル、またはヘテロアリールであり、
Xは非置換の、またはアルキル、アルケニル、もしくはアルキニル側鎖で置換された、一つ以上の二重結合もしくは三重結合を含むC
1~C
30炭素鎖であるか、または、
-(CH
2)
p-R
2-(CH
2)
n-、または、
-(CH
2)
2-R
2-(CH
2)
2-R
2-(CH
2)
m-であり、
式中、
pは2または3であり、nは3~6の整数であり、mは2~4の整数であり、
R
2はO、NH、またはSである。
【0061】
別の実施形態において、がんの治療または診断に使用する6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質は、6,7-ジヒドロキシクマリン部分と共有結合したトリフェニルホスホニウムカチオンとすることができる。より具体的に、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質は、式IIの化合物であり、
【化8】
式中、
XはC
1~C
30炭素鎖、好ましくはC
6~C
10炭素鎖であり、
Zは、負電荷を持つ薬剤、またはハライド、メシラート、トシラート、シトラート、タルトラート、マラート、アセタート、トリフルオロアセタートから選択される負電荷を持つ対イオンであり、
Rは水素、置換アルキル、置換アリール、または置換ヘテロ原子である。好ましくは、Rは水素である。
【0062】
一つの実施形態において、Xは非置換の、またはアルキル、アルケニル、もしくはアルキニル側鎖で置換された、一つ以上の二重結合または三重結合を含むC1~C30炭素鎖である。好ましくは、Xはオクチレン基である。
【0063】
一つの実施形態において、負電荷を持つ薬剤は、治療剤または診断剤であってもよい。随意に、Zはブロマイドアニオンである。随意に、Zは負電荷を持つ治療剤、例えば治療されるがんを標的とするのに適切なsiRNAである。一部の実施形態において、がんは乳がんである。
【0064】
一部の実施形態において、がんの治療に使用する6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質は、式IIIのMito-Escであり、
【化9】
Zは、負電荷を持つ薬剤、またはハライド、メシラート、トシラート、シトラート、タルトラート、マラート、アセタート、トリフルオロアセタートから選択される負電荷を持つ対イオンである。
【0065】
さらなる一態様において、本発明は、がん、例えば乳がん、子宮頸がん、肺がん、肝臓がんを治療または診断する方法を提供する。より具体的に、トリプルネガティブ乳がん、ER陽性乳がんなどの乳がんを治療する方法であり、上記方法は、有効量の式Iの化合物を、それを必要とする患者に投与することを含み、上記化合物は式IIの化合物であり、
【化10】
式中、
XはC
1~C
30炭素鎖、好ましくはC
6~C
10炭素鎖であり、
Zは、負電荷を持つ治療剤、またはハライド、メシラート、トシラート、シトラート、タルトラート、マラート、アセタート、トリフルオロアセタートから選択される負電荷を持つ対イオンであり、
Rは水素、置換アルキル、置換アリール、または置換ヘテロ原子である。好ましくは、Rは水素である。
【0066】
一つの実施形態において、Xは非置換の、またはアルキル、アルケニル、もしくはアルキニル側鎖で置換された、一つ以上の二重結合または三重結合を含むC1~C30炭素鎖である。好ましくは、Xはオクチレン基である。
【0067】
随意に、Zはブロマイドアニオンである。随意に、Zは負電荷を持つ治療剤、例えば治療されるがんを標的とするのに適切なsiRNAである。一部の実施形態において、がんは乳がんである。
【0068】
式Iまたは式IIの化合物は、式IIIのMito-Escであることが好ましく、
【化11】
式中、Zは負電荷を持つ薬剤またはハライドである。
【0069】
一つの態様において、本開示は、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質と、負電荷を持つ薬剤との複合体に関する。
【0070】
別の態様において、本開示は、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質と、負電荷を持つ薬剤との複合体を含むナノ粒子に関する。
【0071】
本開示の一つの実施形態において、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質は、式IVの化合物であり、
【化12】
式中、
Rは水素、置換アルキル、置換アリール、または置換ヘテロ原子であり、
R
1はアリール、シクロアルキル、またはヘテロアリールであり、
Xは非置換の、またはアルキル、アルケニル、もしくはアルキニル側鎖で置換された、一つ以上の二重結合もしくは三重結合を含むC
1~C
30炭素鎖であるか、または、
-(CH
2)
p-R
2-(CH
2)
n-、または、
-(CH
2)
2-R
2-(CH
2)
2-R
2-(CH
2)
m-であり、
式中、
pは2または3であり、nは3~6の整数であり、mは2~4の整数であり、
R
2はO、NH、またはSである。
【0072】
代替的な一実施形態において、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質は、式Vの6,7-ジヒドロキシクマリン部分と共有結合したトリフェニルホスホニウムカチオンであり、
【化13】
式中、
Rは水素、置換アルキル、置換アリール、または置換ヘテロ原子であり、
R
1はアリール、シクロアルキル、またはヘテロアリールであり、
Xは非置換の、またはアルキル、アルケニル、もしくはアルキニル側鎖で置換された、一つ以上の二重結合もしくは三重結合を含むC
1~C
30炭素鎖であるか、または、
-(CH
2)
p-R
2-(CH
2)
n-、または、
-(CH
2)
2-R
2-(CH
2)
2-R
2-(CH
2)
m-であり、
式中、
pは2または3であり、nは3~6の整数であり、mは2~4の整数であり、
R
2はO、NH、またはSである。
【0073】
さらに代替的な実施形態において、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質は、式VIのオクチルタグ付きエスクレチン(ミト-エスクレチン/Mito-Esc)である。
【化14】
別の実施形態において、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質と、負電荷を持つ薬剤との複合体は、式Iの化合物で表され、
【化15】
式中、
Zは、負電荷を持つ薬剤、またはメシラート、トシラート、シトラート、タルトラート、マラート、アセタート、トリフルオロアセタートから選択される負電荷を持つ対イオンであり、
Rは水素、置換アルキル、置換アリール、または置換ヘテロ原子であり、
R
1はアリール、シクロアルキル、またはヘテロアリールであり、
Xは非置換の、またはアルキル、アルケニル、もしくはアルキニル側鎖で置換された、一つ以上の二重結合もしくは三重結合を含むC
1~C
30炭素鎖であるか、または、
-(CH
2)
p-R
2-(CH
2)
n-、または、
-(CH
2)
2-R
2-(CH
2)
2-R
2-(CH
2)
m-であり、
式中、
pは2または3であり、nは3~6の整数であり、mは2~4の整数であり、
R
2はO、NH、またはSである。
【0074】
代替的な一実施形態において、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質と、負電荷を持つ薬剤との複合体は、式IIの化合物によって表され、
【化16】
式中、
XはC
1~C
30炭素鎖、好ましくはC
6~C
10炭素鎖であり、
Zは、負電荷を持つ薬剤、またはメシラート、トシラート、シトラート、タルトラート、マラート、アセタート、トリフルオロアセタートから選択される負電荷を持つ対イオンであり、
Rは水素、一つ以上の置換アルキル、一つ以上の置換アリール、または一つ以上の置換ヘテロ原子である。好ましくは、Rは水素である。
【0075】
さらに代替的な実施形態において、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質と、負電荷を持つ薬剤との複合体は、式IIIの化合物で表され、
【化17】
式中、
Zは、負電荷を持つ薬剤、またはメシラート、トシラート、シトラート、タルトラート、マラート、アセタート、トリフルオロアセタートから選択される負電荷を持つ対イオンである。
【0076】
好ましい一実施形態において、Zは治療剤、診断剤、核酸から選択される、負電荷を持つ薬剤である。
【0077】
さらに別の実施形態において、負電荷を持つ薬剤は、核酸、例えばプラスミドDNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、マイクロRNA、メッセンジャーRNA(mRNA)とすることができる。しかしながら、必要なのは、薬剤が負の電荷を有し、その結果、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質に関連付けられることである。負電荷を持つ薬剤は、治療剤または診断剤であってもよい。一部の実施形態において、治療剤は、標的細胞の細胞質への送達が意図されていて、それによって、標的細胞の細胞質内で、意図された治療効果を発揮する。一部の実施形態において、治療剤は、負電荷を持つ抗がん剤、siRNA、またはmRNAである。siRNAは、任意の疾患または障害の治療または診断、例えばがん、末梢神経疾患、急性肝性ポルフィリン症などの治療または診断に有効でありうる。一部の実施形態において、siRNAは、乳がん、子宮頸がん、肺がん、肝臓がんの治療に使用されることができる。より具体的には、トリプルネガティブ乳がん、ER陽性乳がんなどの乳がんである。
【0078】
あるいは、治療剤は、RNAワクチン、例えばウイルス(例えばコロナウイルス)に対するRNAワクチンとすることができる。一部の実施形態において、薬剤はsiRNAである。siRNAは、任意の特定の疾患または障害の治療または診断を標的とすることができる。例えば、siRNAは、がんを標的にして、その特定の細胞の死を引き起こし、および/またはかかる細胞の細胞増殖および分裂を阻止するのに有効である可能性がある。例えば、siRNAは、乳がん細胞を特異的に標的とすることができる。
【0079】
好ましい一実施形態において、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質と、負電荷を持つ薬剤との複合体は、Mito-EscおよびsiRNAの複合体であり、Mito-Escは、式VIの化合物によって表される。
【化18】
別の好ましい実施形態において、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質と、負電荷を持つ薬剤との複合体を含むナノ粒子は、Mito-EscおよびsiRNAの複合体を含むナノ粒子であり、Mito-Escは、式VIの化合物によって表される。
【化19】
随意に、本開示の複合体またはナノ粒子は、がんの治療または診断に有用である。好ましくは、例えば乳がん、子宮頸がん、肺がん、肝臓がんの治療にとって有用である可能性がある。より具体的には、トリプルネガティブ乳がん、ER陽性乳がんなどの乳がんにおいてである。
【0080】
本開示は、本開示の態様によるナノ粒子または複合体を含む医薬組成物をさらに提供する。
【0081】
本開示はまた、がんの進行を治療または改善する方法を提供し、上記方法は、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質と、負電荷を持つ治療剤とのナノ粒子または複合体を含む医薬組成物を患者に投与することを含む。
【0082】
特定の実施形態において、医薬組成物は経口投与用または非経口投与用に製剤化される。一部の実施形態において、医薬組成物は経口剤形として投与される。経口剤形は、錠剤、カプセル、分散錠、小袋、ふりかけ状のもの、液体、溶液、懸濁液、エマルションなどの形態であることが好ましい。経口剤形が錠剤である場合、錠剤は円形、球形、または楕円形などの任意の適切な形状とすることができる。錠剤は一体構造でも多層構造でもよい。一部の実施形態において、本発明の医薬組成物は、当技術分野で周知の従来の薬学的に許容可能な賦形剤を使用する従来のアプローチによって得られることができる。錠剤調製のために適切な薬学的に許容可能な賦形剤の例としては、希釈剤(例えば、第二リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、ラクトース、グルコース、微結晶セルロース、セルロース粉末、ケイ化微結晶セルロース、ケイ酸カルシウム、デンプン、プレゼラチン化デンプン、またはポリオール(マンニトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、およびスクロースなど))、結合剤(例えば、デンプン、プレゼラチン化デンプン、カルボキシメチルセルロース、ナトリウムセルロース、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、クロスポビドン,またはそれらの組み合わせ)、崩壊剤(例えば、架橋セルロース、架橋-ポリビニルピロリドン(クロスポビドン)、デンプングリコール酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン(ポリビドン、ポビドン)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム(クロスカルメロースナトリウム)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、キサンタンガム、アルギン酸、または大豆多糖類)、湿潤剤(例えば、ポリソルベート、ラウリル硫酸ナトリウム、またはステアリン酸グリセリル)、または潤滑剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸、ベヘン酸グリセリル、水添植物油、またはステアリン酸亜鉛)が挙げられるがこれらに限定されない。そのように調製された錠剤は、コーティングされなくてもよく、または崩壊性およびその後の有効成分の経腸吸収性を変更するために、または安定性および/または外観を改善するために、コーティングされてもよい。いずれの場合でも、当技術分野で周知の従来のコーティング剤およびアプローチを用いることができる。
【0083】
特定の実施形態において、非経口投与は、薬学的に許容可能な非経口投与ビヒクルとともに、溶液、懸濁液、エマルション、粒子、粉末、または凍結乾燥粉末として製剤化されることができる、または別個に提供されることができる。こうしたビヒクルの例としては、水、生理食塩水、リンゲル溶液、デキストロース溶液、約1~10%のヒト血清アルブミンがある。リポソーム、および固定油などの非水性ビヒクルも使用することができる。ビヒクルまたは凍結乾燥粉末は、等張性を維持する添加剤(例えば、塩化ナトリウム、マンニトール)、および化学的安定性を維持する添加剤(例えば、緩衝剤および保存剤)を含有することができる。製剤は、公知のまたは適切な技法によって滅菌される。一部の実施形態において、非経口製剤は、滅菌水または生理食塩水、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール、植物由来の油、水素化ナフタレンなどを含むが、これらに限定されない、一般的な賦形剤を含んでもよい。注射用の水性または油性の懸濁液は、公知の方法に従って、適切な乳化剤または加湿剤および懸濁剤を使用することによって調製されることができる。非経口投与経路としては、皮下経路、筋肉内経路、静脈内経路、髄腔内経路、または腹腔内が挙げられるが、これらに限定されない。
【0084】
本発明の製剤は、公知またはそうでなければ先行技術に記載のプロセス、例えばRemington’s Pharmaceutical Sciencesに開示されたプロセスによって調製されることができる。
【0085】
本発明は、負電荷を持つ薬剤を送達する方法をさらに提供し、上記薬剤は、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質に複合体化される。随意に、薬剤と6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質の複合体は上述の通り、ナノ粒子の形態である。負電荷を持つ薬剤は、治療剤または診断剤であってもよい。好ましくは、本発明は、負電荷を持つ治療剤を送達する方法を提供し、上記薬剤は、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質に複合体化される。より好ましくは、治療剤と6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質の複合体は、ナノ粒子の形態である。
【0086】
本発明は、負電荷を持つ薬剤の細胞内送達方法をさらに提供し、上記方法は、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質に複合体化された上記薬剤の有効量を投与することを含む。随意に、薬剤と6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質の複合体は上述の通り、ナノ粒子の形態である。負電荷を持つ薬剤は、治療剤または診断剤であってもよい。好ましくは、本発明は、負電荷を持つ治療剤の細胞内送達方法を提供し、上記方法は、6,7-ジヒドロキシクマリンホスホニウム両親媒性物質と複合体を形成する上記治療剤の有効量を投与することを含む。複合体はナノ粒子の形態であることがより好ましい。
【0087】
本発明を、以下の実施例を参照することによって、以下に例示する。しかしながら、当業者であれば、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、これらの実施形態および原理の無数の変形、修正、適用、拡張がなされることが可能であり、論じられた特定の方法および結果は単に本発明の例示であることを理解するであろう。
【実施例】
【0088】
【実施例1】
【0089】
化合物の合成
ミト-エスクレチンおよび対照TPP分子の合成を、以下の合成プロトコルに従って行った。
【化20】
【化21】
1-(6-ヒドロキシベンゾ[d][1,3]ジオキソール-5-イル)エタン-1-オン(2)の合成手順:
セサモール(5.6g、40mmol)の無水酢酸(20mL)溶液を、窒素雰囲気下で0℃に冷却した。溶液に三フッ化ホウ素/ジエチルエーテル錯体(10mL)を緩徐に加え、次いで混合物を90℃で3時間撹拌した。得られた混合物を飽和酢酸ナトリウム水溶液(50mL)に加え、室温で撹拌した。形成された固体を濾過によって除去し、溶媒を減圧下で蒸発させ、残留固体をメタノール中に懸濁させ、それによって洗浄し、次いで濾過によって収集し、乾燥させて、2(5.850g、80%)を得た。
【0090】
8-ヒドロキシ-6H[1,3]ジオキソロ[4,5-g]クロメン-6-オン(3)の合成手順:
窒素雰囲気下、2(5g、1当量)の炭酸ジエチル(80mL)溶液に、水素化ナトリウム(2.66g、4当量)を加え、混合物を0℃で30分間攪拌した。得られた溶液を100℃で3時間加熱し、次いで0℃に冷却し、50%MeOH水溶液(10mL)を慎重に加えた。エーテル(3×100mL)で抽出した後、反応混合物を2N塩酸でpH2に酸性化し、沈殿した固体を濾過し、真空下で乾燥させて、3(4.9g、85%)を得た。
【0091】
6-オキソ-6H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]クロメン-8-イルトリフルオロメタンスルホネート(4)の合成手順:
トリフルオロメタンスルホン酸無水物(4.3mL、1.3当量)を、乾燥ジクロロメタン(30mL)中の3(4g、1当量)およびトリエチルアミン(3.5mL、1.3当量)の混合物に0℃で10分間かけて滴下した。次いで、混合物を室温で12時間撹拌した。その後、混合物を50%エーテル:ヘキサンで希釈し、短いシリカのパッドを通して濾過し、濾液を濃縮して残渣を得て、これをフラッシュクロマトグラフィーによって精製して、対応する生成物4(4.6g、70%)を得た。
【0092】
8-(8-ブロモオクト-1-イン-1-イル)-6H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]クロメン-6-オン(5)の合成手順:
丸底フラスコを高真空下で火炎乾燥させた。冷却時に、クマリン4(1.0g、1当量)、PdCl2(PPh3)2(207mg、0.1当量)、CuI(56mg、0.1当量)、アセトニトリル(10mL)、トリエチルアミン(0.61mL、1.5当量)、および8-ブロモオクチン(0.838g、1.5当量)を加えた。反応混合物を60℃で一晩撹拌した。反応(TLCでモニターした)の完了後、反応混合物を冷却し、酢酸エチル(20mL)で希釈し、短いシリカゲル床を通して濾過した。濾液を濃縮して残渣を得て、これをフラッシュクロマトグラフィーで精製して、対応する生成物5(0.790g、70%)を得た。
【0093】
8-(8-ブロモオクチル)-6H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]クロメン-6-オン(6)の合成手順:
メタノール中のクマリン5(0.7g)の混合物を十分に撹拌し、1mL/分、40℃、40barの圧力で、10%Pd/Cを充填したH-Cube反応器を通過させた。反応の完了後、溶媒を減圧下で蒸発させて、対応する生成物6(0.641g、90%)を得た。
【0094】
4-(8-ブロモオクチル)-6,7-ジヒドロキシ-2H-クロメン-2-オン(7)の合成手順:
8-(8-ブロモオクチル)-6H-[1,3]ジオキソロ[4,5-g]クロメン-6-オン6(0.6g、1.0当量)を、50mLの丸底フラスコ中で乾燥DCM(15mL)中に溶解させ、混合物を?78℃に冷却した。BBr3(DCM中1.0M、4当量)を緩徐に滴下して加えた。反応物を室温まで上昇させ、12時間撹拌した。MeOH(2mL)を加え、その後、さらに15分間撹拌し、溶媒を真空下で除去した。粗生成物を、シリカゲルのカラムクロマトグラフィーによって精製して、7(0.425g、73%)を黄色固体として得た。
【0095】
(8-(6,7-ジヒドロキシ-2-オキソ-2H-クロメン-4-イル)オクチル)トリフェニルホスホニウム(8)の合成手順:
乾燥DMF(6ml)中の化合物7(0.2g、1当量)の撹拌溶液に、トリフェニルホスフィン(0.156g、1.1当量)を加え、得られた混合物を窒素雰囲気下で120℃に12時間加熱した。反応の完了後、DMFを減圧下で完全に留去して、粗生成物を得た。粗生成物をヘキサンおよびジエチルエーテルで数回洗浄して、8(0.240g、80%)を黄色固体として得た。
【0096】
4-(8-ブロモオクチル)-6,7-ジメトキシ-2H-クロメン-2-オン(9)の合成手順:
10mlの乾燥アセトン中の化合物7(0.2g、1当量)の溶液に、K2CO3(0.302g、4当量)およびMeI(0.308g、4当量)を加えた。上記の混合物を、室温で6時間攪拌した。TLCで示された通りの反応の完了後、反応混合物を濾過し、溶媒を真空での蒸発によって除去して粗生成物を得て、続いてクロマトグラフィーによって、9(0.165g、76%)を黄色固体として得た。
【0097】
(8-(6,7-ジメトキシ-2-オキソ-2H-クロメン-4-イル)オクチル)トリフェニルホスホニウム(10)の合成手順:
乾燥DMF(6ml)中の化合物9(0.120g、1当量)の溶液に、トリフェニルホスフィン(0.087g、1.1当量)を加え、得られた混合物を窒素雰囲気下で120℃に12時間加熱した。反応の完了後、DMFを減圧下で完全に留去して、粗生成物を得た。粗生成物をヘキサンおよびジエチルエーテルで数回洗浄して、10(0.127g、72%)を黄色固体として得た。
【0098】
オクチルトリフェニルホスホニウム(12)の合成手順:
乾燥DMF(6ml)中の化合物11(0.2g、1当量)の溶液に、トリフェニルホスフィン(0.298g、1.1当量)を加え、得られた混合物を窒素雰囲気下で120℃に12時間加熱した。反応の完了後、DMFを減圧下で完全に留去して、粗生成物を得た。粗生成物を酢酸エチルおよびジエチルエーテルで数回洗浄して、12(0.277g、71%)を無色の液体として得た。
【0099】
すべての化合物を、1H NMR分光法によって確認した。
【0100】
実施例2~4の材料および方法
細胞培養:
MDA-MB-231(トリプルネガティブ乳がん細胞株、ATCC)細胞、およびMCF-10A細胞(正常な乳腺上皮細胞、ATCC)を、10%FBS、1%(v/v)ピルビン酸ナトリウム(100mM)、重炭酸ナトリウム(26mM)、L-グルタミン(4mM)、ペニシリン(100単位/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で増殖させた。細胞を、5%CO2および95%空気の加湿雰囲気中、37℃のインキュベーター内で維持した。
【0101】
透過電子顕微鏡法(TEM):
透過電子顕微鏡法による研究を、Tecnai T12顕微鏡(FEI)を用いて120kVで実施し、画像はSIS CCDカメラを使用して撮影した。試料を200または400メッシュ炭素被覆銅グリッド(Ted Pella, Inc.)上でモリブデン酸アンモニウムでネガティブ染色した。顕微鏡写真を記録する前に、グリッドを空気乾燥させた。
【0102】
走査電子顕微鏡法(SEM):
Mito-Escナノ粒子の電界放出形走査電子顕微鏡(FESEM)分析を、Carl Zeiss SIGMA HD電界放出形走査電子顕微鏡で行った。
【0103】
Mito-Escナノ粒子のサイズおよび表面電荷の測定:
光子相関分光法およびZetasizer 3000HSA(Malvern、英国)の電気泳動移動度によって、Mito-Escナノ粒子のサイズ(流体力学的直径)および表面電荷(ゼータ電位)を測定した。サンプル屈折率1.33、粘度0.88cP、温度25℃の脱イオン水中で、サイズを測定した。サイズは3回測定された。粘度0.88cP、誘電率78.5、温度25℃というパラメータを使用して、ゼータ電位を測定した。
【0104】
アガロースゲル電気泳動遅延アッセイ:
ゲル電気泳動を、トリス-酢酸-EDTA緩衝液(40mM)中のアガロースゲル(1.5%w/v)を用いて、臭化エチジウムを1滴加えて(EtBrストック溶液の濃度:H2O中0.625mg/ml)、100Vで30分間行った。記載されたP+/P-比で、siRNAをMito-Esc、ミト-イソスコポレチン、オクチルTPPカチオンと複合体化することによって、siRNAリポプレックスを調製した。試料を室温で30分間インキュベートした後、ウェルに添加した。siRNAバンドを365nmの紫外線照射下で可視化した。
【0105】
Mito-EscおよびMito-Esc/siRNA複合体の細胞傷害性:
siMnSODを用いたMito-EscまたはMito-Escリポプレックスの細胞傷害性を評価するために、トリパンブルー色素排除アッセイを用いた。簡潔に述べると、細胞を1ウェル当たり3×104細胞の密度で12ウェルプレートに播種し、トランスフェクション前に一晩培養した。培地を0.5mLの新鮮な無血清DMEMで置き換えた。siMnSOD(40nM)を、対照用のリポフェクトアミン-2000または2.5μMのMito-Escのいずれかと、無血清DMEM培地中で30分間複合体化させてから、プレートに添加した。細胞を48時間インキュベートし、実験終了時に細胞をトリプシン処理し、800gで2分間回転させ、1mLの新鮮な培地に再懸濁した。細胞懸濁液(10μl)を同量のトリパンブルーと混合し、自動セルカウンター(Countess、Life Technologies)を使用して計数した。
【0106】
ウェスタンブロット法:
処理終了時、プロテアーゼ阻害剤カクテル、ホスファターゼ阻害剤カクテル-2、3を含有するRIPA緩衝液中で細胞ペレットを溶解させた。タンパク質をSDS-PAGEによって分解し、ニトロセルロース膜上にブロットし、5%ウシ血清アルブミンでブロッキングし、洗浄し、一次抗体(1:1000)とともに4℃で一晩インキュベートした。次いで、膜を洗浄し、抗ウサギ/マウスIgG西洋ワサビペルオキシダーゼ連結二次抗体(1:5000)で1時間インキュベートした。ECL試薬(Amersham GE)を膜上に塗布し、その後、化学発光システム(Bio-Rad)を用いて現像した。
【0107】
MnSOD siRNAトランスフェクション:
細胞を、1ウェル当たり3×104細胞の密度で12ウェルプレート中で培養した(使用前日にガラスカバーリップを包含している)。簡潔に述べると、蛍光siRNAまたはsiMnSOD(40nM)を、陽性対照用のリポフェクトアミン-2000、またはMito-Esc(2.5μM)のいずれかと、無血清DMEM培地中で30分間複合体化させてから、プレートに添加した。細胞をsiRNA複合体で6時間インキュベートした後、培地を除去し、10%FBSを含有する新鮮なDMEM培地1mLで置き換え、細胞を24時間さらにインキュベートした。
【0108】
共焦点顕微鏡撮像:
簡潔に述べると、MDA-MB-231細胞を、1mLの完全DMEM中、1ウェル当たり3×104細胞の密度で、12ウェルプレートのカバーリップ上に播種し、12時間培養した。蛍光(Cy-5)siRNAを、リポフェクトアミン-2000(陽性対照)、またはMito-Esc(2.5μM)、または親エスクレチン(2.5μM)、または種々のカチオン性脂質のいずれかと、無血清DMEM培地中で30分間複合体化させてから、プレートに添加した。これらのリポプレックスを細胞に加え、6時間インキュベートした。その後、細胞をPBSで2回洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで15分間固定した。最後に、スライドを据え付け、共焦点顕微鏡を使用して細胞を撮像した。Mito-Escリポプレックスを有する蛍光標識siRNAを上述の通りに調製し、MDA-MB-231細胞で24時間インキュベートした。細胞をDAPIによって染色して、核を染色した。細胞を据え付け、共焦点顕微鏡(Olympus、日本、東京)で観察した。
【実施例2】
【0109】
乳がん細胞生存度に対するMito-Escの効果
MDA-MB-231乳がん細胞およびMCF-10A(正常な乳腺上皮細胞)を、Mito-EscおよびEscで処理した。Mito-Escは、1.5~7.5μMでMDA-MB-231細胞の用量依存的な細胞死を有意に引き起こした一方で、親エスクレチン(Esc)は、50μMから細胞傷害性を誘導した(
図1Aおよび
図1B)。
【0110】
興味深いことに、Mito-Escは、MCF-10A細胞のような正常な乳腺上皮細胞において、示された濃度(5~50μM)のいずれでも顕著な毒性を示さなかった(
図1C)。これによって、Mito-Escが、がん細胞において優先的に抗増殖効果を誘導することが示されている。Mito-Escは、MCF-10A細胞と比較して、MDA-MB-231乳がん細胞のミトコンドリア画分に有意に多く蓄積することが見いだされた。乳がん細胞におけるMito-Escの蓄積の増加は、ミトコンドリアスーパーオキシド産生の増強を誘発し、その結果、乳がん細胞死につながるミトコンドリア膜電位の脱分極を起こした。
【0111】
乳がん細胞を含むがん細胞におけるMito-Escの取り込みが増強されるのは、正常細胞と比較して、がん細胞が有するより大きい過分極膜電位(ΨIM)に起因すると恐らく考えられる。非局在化カチオン(DLC)は、がん細胞の細胞内区画に容易に侵入する。さらに、正常細胞(約-140mV)と比較して、がん細胞のミトコンドリア膜電位(約-220mV)が過分極していることは、ミトコンドリア画分にDLCがより多く蓄積することにつながる。この現象は、抗がん関連siRNAと組み合わせて抗増殖効果を最大化して、がん細胞に細胞傷害性を優先的に誘導するために、siRNA治療薬において非常に重要である可能性がある。
【0112】
それ故に、Mito-Escは、正常細胞と比較してがん細胞においてより多く蓄積し、それ故に、有意に低い濃度でがん細胞死を優先的に引き起こす。
【実施例3】
【0113】
異なるがん細胞株における生存度に対するMito-Escの効果:
異なるがん細胞株HeLa(子宮頸部)、HepG2(肝臓)、MCF-7(ER陽性乳房)、A549(肺)、DU-145(前立腺)がん細胞、MCF-10A(正常な乳腺上皮細胞)に対するMito-Escの細胞傷害性を、Mito-Esc(0.5~100μM)で24時間処理することによって決定し、細胞生存度をスルホローダミンBアッセイによって測定した。
【0114】
表1に示す通り、Mito-Escは、HeLa(子宮頸部)、HepG2(肝臓)、MCF-7(ER陽性乳房)、A549(肺)細胞の用量依存的な細胞死を有意に引き起こした一方で、MCF-10A細胞などの正常な乳腺上皮細胞において顕著な毒性を示さなかった。これによって、Mito-Escが、がん細胞において優先的に抗増殖効果を誘導することが示されている。
【表1】
【実施例4】
【0115】
ナノ粒子へのMito-Escの自己組織化:
Mito-Escの自己組織化特性を探索した。Mito-Escの水溶液(1%EtOH)の粒子サイズを、動的光散乱(DLS)を使用して測定した。Mito-Escは、サイズが166±30nm、表面電荷が33±0.4mVのナノサイズの粒子を形成した(
図2A)。Mito-Escの自己組織化ナノ粒子のサイズおよび形態を、それぞれ走査電子顕微鏡法および透過電子顕微鏡法によって調査した。Mito-Escは、200nm未満の球形ナノ粒子を形成した(
図2Bおよび2C)。この知見は、Mito-Escが水溶液中で自己組織化構造を達成できることを示す。
【実施例5】
【0116】
インビボ同所性腫瘍モデル:
SCIDマウスの乳腺脂肪体の中へのMDA-MB-231細胞の接種:実験には6週齢のメスSCIDマウスを使用した。最初に、10nMのQtracker標識溶液(Qtracker Cell Labeling Kit、Invitrogen Q25071MP)を、1.5mLの微量遠心管中で構成要素Aおよび構成要素Bをそれぞれ10μL予め混合することによって調製し、室温で5分間インキュベートした。この混合物を0.2mLの新鮮な完全増殖培地に加え、30秒間ボルテックスし、MDA-MB-231細胞を含有する75cm2組織培養フラスコに加え、37℃の5%CO2インキュベーター中で一晩インキュベートした。サブコンフルエントな標識細胞を採取し、計数した。
【0117】
細胞(1×106)を0.1mlの無血清培地中に懸濁した。これに0.1mlのマトリゲルを加え、穏やかに混合して、均一な細胞懸濁液を得た。SCIDマウスをケタミン/キシラジンカクテル(50μL/20gマウス)で麻酔し、各マウスに、上述の1×106個のQ-Tracker標識MDA-MB-231細胞を、第4対の乳腺脂肪体に同所性移植し、細胞の接種後に脂肪体を縫合した。切開が治癒するまで毎日、感染を防止するために切開部位をポビドン-ヨウ素で手当てした。マウスをチェックして腫瘍の発生を確認し、腫瘍が300mm3以上の体積に達した時点で治療を開始した。マウスを秤量し、4群(1群当たりn=4)に分け、エスクレチン(6mg/kg、bd.wt)またはミト-エスクレチン(3および6mg/kg.bd.wt)のいずれかを2週間、腹腔内(i.p)投与した。屠殺の日に、ノギスを使用して腫瘍体積を測定した。マウスを麻酔し、頸椎脱臼を使用して屠殺した。腫瘍を慎重に切除し、秤量し、さらなる病理組織学的分析のために液体窒素中に保存した。
【実施例6】
【0118】
効果的なsiRNA送達ベクターとしてのMito-Esc:
アガロースゲル電気泳動遅延アッセイのためのMito-Esc/siRNA複合体化:
Mito-Escナノ粒子溶液を、所望の最終P+:P-電荷比に応じて様々な濃度で調製した。Mito-Esc/siRNA複合体の20μL溶液を調製して、各溶液中のsiRNAの一定量を維持し(10μL中1μg)、P+:P-電荷比に応じてMito-Escの量を変化させた。調製した混合物を5分間穏やかにボルテックスし、室温で30分間インキュベートして複合体を形成した。1μgのsiRNAを2、4、6、8、10、12、14μgのMito-Escと複合体化することによって、それぞれ1:1、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1のP+:P-電荷比を得た。
【0119】
Mito-EscのsiRNA結合効率:
Mito-EscがsiRNAを結合する効率を、アガロースゲル電気泳動によって確認した。また、安定なsiRNA複合体の形成における水素結合の重要性を評価するために、ジヒドロキシ基をメチル基で保護することによってミト-イソスコポレチンを合成した。陰性対照としてオクチルTPPカチオンを使用した。
【化22】
以前の知見において、Mito-EscのみがsiRNAを4:1~7:1のP+/P電荷比で結合することができ、その結果siRNAの移動を遅らせることが見いだされた(
図2D)。対照的に、ミト-イソスコポレチンおよびオクチルTPPは、7:1のP+/P-電荷比であってもsiRNAの移動を遅らせることができないことから明らかである通り、siRNAを結合しなかった。これらの結果は、Mito-Escにおけるジヒドロキシ置換の存在が、siRNAとの安定した複合体を形成するだけでなく、自己組織化ナノ粒子の形成を促進することを示した。
【0120】
しかしながら、さらなる実験で、Mito-Escとミト-イソスコポレチンの両方が、それぞれ4:1~7:1および6:1~7:1のP+/P電荷比でsiRNAを結合し、その結果siRNAの移動を遅らせることを見いだした(
図2E)。対照的に、オクチルTPPはやはり、7:1のP+/P-電荷比であってもsiRNAの移動を遅らせることができないことから明らかである通り、siRNAを結合しなかった。これらの結果は、水素結合が安定なsiRNA複合体の形成に関与していないことを示す。
【0121】
siRNA送達ベクターとしてのMito-Escの効率を、MDA-MB-231乳がん細胞で試験した。リポプレックスは、カスタムMnSOD siRNA配列で形成された。乳がん細胞におけるMnSODレベルの枯渇は抗増殖効果を引き起こすことに留意されたい。MDA-MB-231細胞を、低減された血清(約2%)を含有するOpti-MEM培地中で6時間、リポプレックスで処理し、その後、培地を血清含有培地(10%血清)で置き換えてさらに48時間処理し、トリパンブルー色素排除法によって細胞生存度を測定した。並行して、siMnSODもリポフェクトアミン-2000(陽性対照)と複合体化させた。siMnSODと複合体化されたMito-Escは、MDA-MB-231細胞において94%の細胞死を誘導し、その一方でリポフェクトアミン-2000とsiMnSODとの複合体は66%の細胞死を誘導したことが見いだされた(
図3A)。
【0122】
さらに、Mito-Esc/siMnSOD複合体およびリポフェクトアミン-2000/siMnSOD複合体の遺伝子サイレンシング効率は、免疫ブロット法による場合と同程度に、MnSODタンパク質レベルを有意に減少させた。対照的に、親エスクレチン複合体もオクチルTPPカチオン複合体も、MnSOD発現を減少させることができなかった(
図3B)。これらの結果は、Mito-Escが乳がん細胞死を優先的に誘導するだけでなく、siRNAとの安定した複合体を形成するためのすべての構造的要件も有していることを示唆する。それ故に、Mito-Escは、治療用siRNAを首尾よく送達し、乳がん細胞における細胞傷害能を最大化し、Mito-Escが効果的なsiRNA送達ベクターとして働くことを証明する。
【0123】
MDA-MB-231細胞およびMCF-10A細胞におけるMito-Esc凝集体を用いたsiRNAの細胞内送達を、蛍光標識したCy-5 siRNAを使用する共焦点イメージング技法によってさらに検証した。
図3に示す結果と一致して、Mito-Escはリポフェクトアミン-2000と同様に、Cy-5 siRNAの細胞内送達を有意に引き起こした(
図4、青色蛍光)。特に、非がん性乳腺上皮細胞株MCF-10Aにおいて、Mito-Escを介したsiRNA送達の効率は、リポフェクトアミン-2000よりも低く、Mito-Escによるがん細胞選択的なsiRNA送達の可能性を示した(
図5)。対照的に、親エスクレチン、ミト-イソスコポレチン、オクチルTPPは、Cy-5 siRNAを細胞内に送達することができなかったが、これはそれらがsiRNAとの安定した複合体を形成することができないことに恐らく起因する。これらの結果は、Mito-Escが効果的なsiRNA送達ベクターとして働くことを立証する。
【国際調査報告】