(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-29
(54)【発明の名称】アクリルポリマー剥離剤、剥離シート、テープ、及び両面テープ
(51)【国際特許分類】
C09D 133/00 20060101AFI20240522BHJP
C09D 5/20 20060101ALI20240522BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20240522BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20240522BHJP
C08F 220/18 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D5/20
C09J7/38
C09J201/00
C08F220/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023545901
(86)(22)【出願日】2022-01-26
(85)【翻訳文提出日】2023-07-28
(86)【国際出願番号】 IB2022050675
(87)【国際公開番号】W WO2022162550
(87)【国際公開日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2021013590
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 敏宏
【テーマコード(参考)】
4J004
4J038
4J040
4J100
【Fターム(参考)】
4J004AA10
4J004AB01
4J004DA02
4J004DB02
4J004FA08
4J038CG031
4J038CG141
4J038NA10
4J040DF001
4J040JA09
4J040JB09
4J100AL05P
4J100AL08Q
4J100BA05Q
4J100BA06Q
4J100BA14Q
4J100BB03Q
4J100BC43Q
4J100CA04
4J100CA05
4J100JA05
(57)【要約】
[課題]接着剤転写テープの軽剥離面に使用することができる軽剥離ライナーの製造に有用な長鎖アルキル系剥離剤が提供される。
[解決手段]一実施形態によるアクリルポリマー剥離剤は、24個以上の炭素原子を有する分枝アルキル基を有するアクリレートモノマーと、ベンゾフェノン構造を有するアクリルモノマーと、を含有する重合性前駆体組成物の重合生成物を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
24個以上の炭素原子を有する分枝アルキル基を有するアクリレートモノマーと、ベンゾフェノン構造を有するアクリルモノマーと、を含有する重合性前駆体組成物の重合生成物を含む、アクリルポリマー剥離剤。
【請求項2】
前記重合性前駆体組成物が、重合性成分を基準として、24個以上の炭素原子を有する分枝アルキル基を有するアクリレートモノマーを99質量%以上含有する、請求項1に記載のアクリルポリマー剥離剤。
【請求項3】
前記重合性前駆体組成物が、重合性成分を基準として、前記ベンゾフェノン構造を有するアクリルモノマーを1質量%以下含有する、請求項1又は2に記載のアクリルポリマー剥離剤。
【請求項4】
重合性成分を基準として、24個以上の炭素原子を有する分枝アルキル基を有するアクリレートモノマーを99質量%以上含有する重合性前駆体組成物の重合生成物
を含む、アクリルポリマー剥離剤。
【請求項5】
基材と、
前記基材上に配置された、請求項1~4のいずれか一項に記載のアクリルポリマー剥離剤の硬化生成物を含有する剥離コーティングと、を含む剥離シート。
【請求項6】
前記基材が白色フィルムを含む、請求項5に記載の剥離シート。
【請求項7】
請求項5に記載の剥離シートと、前記剥離シートの前記剥離コーティング上に積層された接着剤層と、
を含むテープ。
【請求項8】
前記剥離シートの前記接着剤層からの剥離力が0.1N/cm未満である、請求項7に記載のテープ。
【請求項9】
第2の剥離シートをこの順に更に含み、
前記第2の剥離シートが、第2の基材と、前記第2の基材上に配置された、第2のアクリルポリマー剥離剤の硬化生成物を含有する重剥離コーティングと、を含み、
前記第2のアクリルポリマー剥離剤が、重合性成分を基準として、24個未満の炭素原子を有するアルキル基を有するアクリレートモノマーを50質量%以上含有する第2の重合性前駆体組成物の重合生成物を含有し、
前記剥離シートの前記剥離コーティングと前記第2の剥離シートの前記重剥離コーティングとが、前記接着剤層と接触するように積層されている、
請求項7に記載のテープ。
【請求項10】
前記第2の剥離シートと前記接着剤層との間の剥離力が、前記剥離シートと前記接着剤層との間の剥離力の2.5倍以上である、請求項8に記載のテープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アクリルポリマー剥離剤、剥離シート、テープ、及び両面テープに関する。
【背景技術】
【0002】
接着テープ等の接着製品の剥離ライナー又は剥離シートに使用される剥離剤として、シリコーン系剥離剤、フッ素系剥離剤、及び長鎖アルキル系剥離剤が知られている。これらのうち、長鎖アルキル系剥離剤は、シリコーン系剥離ライナーで発生する可能性のあるシリコーン汚染の問題がない。したがって、長鎖アルキル系剥離ライナーを有する接着剤転写テープ(adhesive transfer tape、ATT)、及び両面テープ又は片面テープは、ハードディスクドライブ(hard disk drive、HDD)用途等の電子産業において広く使用されている。
【0003】
特許文献1(特開2017-165818(A)号)には、液状ポリマー(A)と、アクリルポリマー(B)と、を含有する剥離剤組成物であって、アクリルポリマー(B)が、式(1)で表される長鎖アルキル(メタ)アクリレート(b1)に由来する構成単位と、式(2)で表されるアルキル(メタ)アクリレート(b2)に由来する構成単位と、を含有する、剥離剤組成物が開示されている。
【0004】
特許文献2(特開2001-240775(A)号)には、「12~30個の炭素原子を有するアルキル基を有する第1のアルキル(メタ)アクリレートと、1~12個の炭素原子を有するアルキル基を有する第2のアルキル(メタ)アクリレートと、第1のアルキル(メタ)アクリレート及び第2のアルキル(メタ)アクリレートの重合開始剤と、を含有する剥離剤形成用重合性組成物」が開示されている。
【0005】
特許文献3(特開2003-327945(A)号)には、「紫外線活性基をもったポリ(メタ)アクリル酸エステルを含み、かつ20℃及び1Hzの周波数で1×102~3×106Paの貯蔵弾性率を有するアクリル系剥離剤前駆体であって、紫外線の照射により、25.4mN/mのぬれ張力をもったメタノールと水の混合溶液(体積比90/10)に対して接触角が15°以上となる、アクリル系剥離剤前駆体」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-165818号公報
【特許文献2】特開2001-240775号公報
【特許文献3】特開2003-327945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
HDD用途等の電子産業において使用される接着剤転写テープを製造するために、接着剤層の一方の表面(軽剥離面)は、典型的には軽剥離ライナーで覆われ、他方の表面(重剥離面)は、重剥離ライナーで覆われる。接着剤転写テープにおいて、剥離ライナーを接着剤層から適切な順序で剥離し、接着剤層を被着体に確実に適用するためには、重剥離面の軽剥離面に対する剥離力比が所定値以上であることが必要である。他方では、重剥離面も容易に剥離されることが望ましい。
【0008】
このような接着剤転写テープにおいて、長鎖アルキル系剥離ライナーは一般に重剥離面に用いられ、フッ素系剥離ライナーは軽剥離面に用いられる。関連技術の長鎖アルキル系剥離ライナーを軽剥離面に用いた場合、重剥離面の軽剥離面に対する剥離力比を十分に大きくすることは困難であった。
【0009】
しかし、フッ素系材料は軽剥離を達成することができるが、廃棄を考慮する必要があり、フッ素系溶媒の使用を必要とすることが多いため、用途に応じて可能な限り使用を避けることが好ましい。したがって、シリコーン化合物もフッ素化合物も含有しない非シリコーン非フッ素(Non-Silicone,Non-Fluorine、NSNF)剥離シート及びそれを用いたテープが望まれている。
【0010】
本開示は、接着剤転写テープの軽剥離面に使用することができる軽剥離ライナーの製造に有用な長鎖アルキル系剥離剤を提供する。また、本発明は、このような長鎖アルキル系剥離剤を用いた剥離シート、テープ、及び両面テープを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の実施形態によれば、24個以上の炭素原子を有する分枝アルキル基を有するアクリレートモノマーと、ベンゾフェノン構造を有するアクリルモノマーと、を含有する重合性前駆体組成物の重合生成物を含有するアクリルポリマー剥離剤が提供される。
【0012】
第2の実施形態によれば、重合性成分を基準として、24個以上の炭素原子を有する分枝アルキル基を有するアクリレートモノマーを99質量%以上含有する重合性前駆体組成物の重合生成物を含有するアクリルポリマー剥離剤が提供される。
【0013】
別の実施形態によれば、基材と、基材上に配置された、アクリルポリマー剥離剤の硬化生成物を含有する剥離コーティングと、を含む剥離シートが提供される。
【0014】
更に別の実施形態によれば、剥離シートと、剥離シートの剥離コーティング上に積層された接着剤層と、を含むテープが提供される。
【0015】
更に別の実施形態によれば、剥離シートと、接着剤層と、第2の剥離シートと、をこの順に含む両面テープであって、第2の剥離シートが、第2の基材と、第2の基材上に配置された、第2のアクリルポリマー剥離剤の硬化生成物を含有する重剥離コーティングと、を含み、第2のアクリルポリマー剥離剤が、重合性成分を基準として、24個未満の炭素原子を有するアルキル基を有するアクリレートモノマーを50質量%以上含有する第2の重合性前駆体組成物の重合生成物を含有し、剥離シートの剥離コーティングと第2の剥離シートの重剥離コーティングとが接着剤層と接触するように積層されている、両面テープが提供される。
【発明の効果】
【0016】
本開示のアクリルポリマー剥離剤は、接着剤転写テープの軽剥離面に使用することができる軽剥離ライナーの製造に有用である。本開示のアクリルポリマー剥離剤を用いた剥離シートは、テープ及び両面テープ用剥離シートとしてNSNF接着剤転写テープに特に好適に用いることができる。
【0017】
なお、上記の説明は、本発明の実施形態及び本発明に関連する利点の全ての開示として解釈されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一実施形態の両面テープの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の代表的な実施形態を説明するために、図面を参照しながら本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0020】
本開示において、用語「(メタ)アクリル」は、アクリル又はメタクリルを指し、用語「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを指す。
【0021】
本開示において、「シート」は、「フィルム」と呼ばれる物品を包含する。
【0022】
本開示において、「両面テープ」は、特定の用途において「転写テープ」と呼ばれるものも包含する。
【0023】
本開示において、「感圧接着(性)」は、材料又は組成物が、0℃~50℃等の使用温度範囲において、ごくわずかな圧力で短時間、様々な表面に接着し、相変化(液体から固体への)を示さない材料又は組成物の特性を指す。本開示において、「接着(性)」は、「感圧接着(性)」と互換的に使用される。
【0024】
本開示において、「上に配置された」は、直接上に配置されている場合だけでなく、間接的に上に配置されている、すなわち、別の材料又は層を介して上に配置されている場合も指す。
【0025】
本開示において、「重合性成分」は、24個以上の炭素原子を有する分枝アルキル基を有するアクリレートモノマーとラジカル重合することができる成分を指す。
【0026】
第1の実施形態によれば、アクリルポリマー剥離剤は、24個以上の炭素原子を有する分枝アルキル基を有するアクリレートモノマーと、ベンゾフェノン構造を有するアクリルモノマーと、を含有する重合性前駆体組成物の重合生成物を含有する。このような重合生成物を含有するアクリルポリマー剥離剤は、紫外線又は電子ビーム等の放射線の照射により硬化させて、基材上に軽剥離面に相当する剥離コーティングを形成することができる。
【0027】
重合性前駆体組成物は、24個以上の炭素原子を有する分枝アルキル基を有するアクリレートモノマーと、ベンゾフェノン構造を有するアクリルモノマーと、を含有する。
【0028】
24個以上の炭素原子を有する分枝アルキル基の長鎖アルキル部分は、アクリルポリマー剥離剤の硬化生成物の表面エネルギーを低下させるだけでなく、分枝してもいるため、硬化生成物の結晶性が低下し、アルキル基が分枝しているために硬化生成物の貯蔵弾性率が低下する。これにより、広い剥離速度で滑らかな(がたつきのない)軽剥離力を示す剥離コーティングを形成することができる。
【0029】
24個以上の炭素原子を有する分枝アルキル基を有するアクリレートモノマーの例としては、2-デシルテトラデシルアクリレート(24個の炭素原子)、2-ドデシルヘキサデシルアクリレート(28個の炭素原子)、及び2-テトラデシルオクタデシルアクリレート(32個の炭素原子)が挙げられる。24個以上の炭素原子を有する分枝アルキル基を有するアクリレートモノマーは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
24個以上の炭素原子を有する分枝アルキル基は、好ましくは、単分枝である。その結果、分枝アルキル基の長鎖アルキル部分を固定して、軽剥離力を示す剥離コーティングを形成することができる。
【0031】
24個以上の炭素原子を有する分枝アルキル基の分枝位置は、好ましくは、2位又は4位である。その結果、硬化生成物の結晶性を効果的に低下させることができ、より滑らかな剥離特性を得ることができる。
【0032】
24個以上の炭素原子を有する分枝アルキル基の分枝鎖の炭素原子の数は、好ましくは、8個以上、10個以上、又は12個以上である。その結果、分枝アルキル基の長鎖アルキル部分を複数固定して、より軽い剥離力を示す剥離コーティングを形成することができる。
【0033】
重合性前駆体組成物中の24個以上の炭素原子を有する分枝アルキル基を有するアクリレートモノマーの含有量は、好ましくは、重合性成分を基準として、約90質量%以上、約95質量%以上、又は約99質量%以上である。
【0034】
ベンゾフェノン構造を有するアクリルモノマーのベンゾフェノン構造は、電子ビーム又は紫外線等の放射線の照射によりラジカルを発生する。発生したラジカルは、重合性前駆体組成物の重合生成物の架橋、及び架橋から得られる硬化生成物の基材への接合を促進する。その結果、少ない放射線照射量でアクリルポリマー剥離剤を効率的に硬化させることができ、硬化生成物の凝集性及び硬化生成物と基材との間の接着が改善し、硬化生成物の接着剤への移行が抑制される。硬化生成物の接着剤への移行が抑制される結果、接着剤の残留接着力を高いレベルで維持することができる。
【0035】
ベンゾフェノン構造を有するアクリルモノマーの例としては、4-アクリロイルオキシベンゾフェノン、4-アクリロイルオキシエトキシベンゾフェノン、4-アクリロイルオキシ-4’-メトキシベンゾフェノン、4-アクリロイルオキシエトキシ-4’-メトキシベンゾフェノン、4-アクリロイルオキシ-4’-ブロモベンゾフェノン、及び4-アクリロイルオキシエトキシ-4’-ブロモベンゾフェノンが挙げられる。ベンゾフェノン構造を有するアクリルモノマーは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
重合性前駆体組成物中のベンゾフェノン構造を有するアクリルモノマーの含有量は、好ましくは、重合性成分を基準として、約1質量%以下、約0.8質量%以下、又は約0.5質量%以下である。ベンゾフェノン構造を有するアクリルモノマーの含有量を約1質量%以下とすることにより、剥離力の増加を抑制することができる。重合性前駆体組成物中のベンゾフェノン構造を有するアクリルモノマーの含有量は、好ましくは、重合性成分を基準として、約0.01質量%以上、約0.02質量%以上、又は約0.05質量%以上である。ベンゾフェノン構造を有するアクリルモノマーの含有量を約0.01質量%以上とすることにより、重合生成物の架橋及び硬化生成物の基材への接合を効果的に促進することができる。
【0037】
重合性前駆体組成物は、4~20個の炭素原子を有するアルキル基を有するアクリレートモノマーを含有してもよい。4~20個の炭素原子を有するアルキル基は、直鎖であっても分枝鎖であってもよい。4~20個の炭素原子を有するアルキル基を有するアクリレートモノマーの例としては、ブチルアクリレート(4個の炭素原子)、ヘキシルアクリレート(6個の炭素原子)、オクチルアクリレート(8個の炭素原子)、2-エチルヘキシルアクリレート(8個の炭素原子)、デシルアクリレート(10個の炭素原子)、8-メチルノニルアクリレート(10個の炭素原子)、ドデシルアクリレート(12個の炭素原子)、トリデシルアクリレート(13個の炭素原子)、テトラデシルアクリレート(14個の炭素原子)、ヘキサデシルアクリレート(16個の炭素原子)、オクタデシルアクリレート(18個の炭素原子)、イソオクタデシルアクリレート(18個の炭素原子)、2-ヘキシルドデシルアクリレート(18個の炭素原子)、2-オクチルデシルアクリレート(18個の炭素原子)、及びイコシルアクリレート(20個の炭素原子)が挙げられる。
【0038】
重合性前駆体組成物中の4~20個の炭素原子を有するアルキル基を有するアクリレートモノマーの含有量は、好ましくは、重合性成分を基準として、約30質量%以下、約15質量%以下、又は約8質量%以下である。
【0039】
一実施形態では、24個以上の炭素原子を有する分枝アルキル基を有するアクリレートモノマー及び4~20個の炭素原子を有するアルキル基を有するアクリレートモノマーは、アルキル基上にカルボキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、又はアミド基等の極性官能基を有しない。この実施形態では、硬化生成物が高温で曝された後も軽剥離力を維持することができる。
【0040】
重合性前駆体組成物は、一般に、重合開始剤を含有する。重合開始剤を用いることにより、重合性前駆体組成物中の重合性成分、例えば、24個以上の炭素原子を有する分枝アルキル基を有するアクリレートモノマー及びベンゾフェノン構造を有するアクリルモノマーの重合反応の開始を促進することができる。重合開始剤としては、典型的な熱重合開始剤を用いることができる。熱重合開始剤の例としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、及びジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)等のアゾ系化合物;並びに過酸化ベンゾイル及び過酸化ラウロイル等の過酸化物が挙げられる。
【0041】
使用される重合開始剤の量は、好ましくは、100質量部の重合性成分を基準として、約0.005質量部以上かつ約0.5質量部以下である。使用される重合開始剤の量を約0.005質量部以上とすることにより、実用的な重合速度を確保することができる。使用される重合開始剤の量を約0.5質量部以下とすることにより、重合生成物の分子量をコーティング形成に十分な程度まで高めることができる。
【0042】
重合性前駆体組成物を重合開始剤の存在下で加熱することにより、24個以上の炭素原子を有する分枝アルキル基を有するアクリレートモノマーと、ベンゾフェノン構造を有するアクリルモノマーと、任意選択的に4~20個の炭素原子を有するアルキル基を有するアクリレートモノマーとの重合生成物を得ることができる。重合生成物は、24個以上の炭素原子を有する分枝アルキル基を有するアクリレートモノマーと、ベンゾフェノン構造を有するアクリルモノマーとのコポリマーを含有し、任意選択的に、各重合性成分のホモポリマー、重合性成分の2つ以上の成分のコポリマー、及び/又は未反応の重合性成分(未反応モノマー)を含有する。残存する未反応モノマーは、アクリルポリマー剥離剤を基材に適用し、紫外線又は電子ビーム等の放射線を照射することにより重合し、アクリルポリマー剥離剤の硬化生成物に組み込まれる。
【0043】
重合方法は様々であり得るが、コーティング形成に有利な高分子量のポリマーが得られるため、重合性成分を溶媒に溶解させて実施する溶液重合が好ましい。溶液重合を用いる場合には、重合の完了後に、重合生成物の溶液をそのままアクリルポリマー剥離剤として用いることができる。重合溶媒として、n-ヘキサン及びn-ヘプタン等の脂肪族炭化水素、酢酸エチル及び酢酸ブチル等のエステル、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等のケトン、又はこれらの混合溶媒を用いることができる。分子量制御の観点から、連鎖移動剤又は鎖延長剤を用いることもできる。連鎖移動剤の例としては、2-メルカプトエタノール、3-メルカプト-2-ブタノール、3-メルカプト-2-プロパノール、3-メルカプト-1-プロパノール、ドデカンチオール、イソオクチルチオグリコレート、及び2-メルカプトエチルアミン等のチオール化合物が挙げられる。鎖延長剤の例としては、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、及びポリプロピレングリコールジアクリレート等の二価アクリルモノマーが挙げられる。重合性前駆体組成物の溶液重合は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で、約50℃~約100℃の反応温度で約2時間~約100時間実施することができる。
【0044】
重合生成物の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは約500000以上、より好ましくは約800000以上、更により好ましくは約1000000以上である。重合生成物の重量平均分子量を約500,000以上とすることにより、剥離力を低下させることができ、フィルム形成性を向上させることができ、接着剤の残留接着力を維持することができる。本開示において、「重量平均分子量」は、ゲル浸透クロマトグラフィー(gel permeation chromatography、GPC)法によるポリスチレン標準に換算した分子量である。
【0045】
重合生成物の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは約5000000以下、より好ましくは約4000000以下、更により好ましくは約3000000以下である。重合生成物の重量平均分子量を約5000000以下とすることにより、アクリルポリマー剥離剤が適用に適した粘度を有しながら、アクリルポリマー剥離剤の固形分を増加することができ、使用される溶媒の量を低減することができる。
【0046】
第2の実施形態によれば、アクリルポリマー剥離剤は、24個以上の炭素原子を有する分枝アルキル基を有するアクリレートモノマーを、重合性成分を基準として、約99質量%以上含有する重合性前駆体組成物の重合生成物を含有する。第2の実施形態では、第1の実施形態とは異なり、重合性前駆体組成物は、ベンゾフェノン構造を有するアクリルモノマーを必須成分として含まない。しかし、光重合のための時間が保証できる分野、又は高光強度を備える機器が使用できる状況では、第1の実施形態と同様に、重合性成分を基準として、24個以上の炭素原子を有する分枝アルキル基を有するアクリレートモノマーを約99質量%以上と多量に含有させることにより、広い剥離速度で滑らかな軽剥離力を示す剥離コーティングを形成することができる。
【0047】
24個以上の炭素原子を有する分枝アルキル基を有するアクリレートモノマーは、その含有量以外は第1の実施形態で記載したとおりである。重合性前駆体組成物中の24個以上の炭素原子を有する分枝アルキル基を有するアクリレートモノマーの含有量は、好ましくは、重合性成分を基準として、約99.5質量%以上、約99.8質量%以上、又は100質量%以上である。
【0048】
重合性前駆体組成物は、4~20個の炭素原子を有するアルキル基を有するアクリレートモノマーを含有してもよい。4~20個の炭素原子を有するアルキル基を有するアクリレートモノマーは、その含有量以外は第1の実施形態で記載したとおりである。重合性前駆体組成物中の4~20個の炭素原子を有するアルキル基を有するアクリレートモノマーの含有量は、好ましくは、重合性成分を基準として、約1質量%以下、約0.5質量%以下、又は約0.2質量%以下である。
【0049】
重合開始剤、連鎖移動剤、鎖延長剤、及び重合性前駆体組成物を重合させることにより重合性成分を得る方法、並びに得られた重合性成分の重量平均分子量は、第1の実施形態で記載したとおりである。
【0050】
アクリルポリマー剥離剤は、光重合開始剤を含有してもよい。光重合開始剤を用いることにより、アクリルポリマー剥離剤の硬化生成物の形成及び硬化生成物の基材への接合を促進することができる。光重合開始剤の例としては、ベンソフェノン、4-メチルベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、及び2-ベンゾイル安息香酸メチルが挙げられる。光重合開始剤の分解生成物による有機汚染を低減する観点から、アクリルポリマー剥離剤が光重合開始剤を含有しないことが有利である。
【0051】
一実施形態では、アクリルポリマー剥離剤は、シリコーン及びフッ素化合物を実質的に含まないか、又は含まない。この実施形態のアクリルポリマー剥離剤は、HDD等の電子部品又は電子製品に好適なNSNF剥離ライナー、及びNSNF剥離ライナーを用いて製造されるNSNF両面テープ又は接着剤転写テープを提供することができる。本開示において、「シリコーン及びフッ素化合物を実質的に含まない」とは、アクリルポリマー剥離剤に含有されるシリコーン及びフッ素化合物の合計が、アクリルコポリマー剥離剤の固形分100質量部に基づいて、1質量部未満、好ましくは0.5質量部未満、より好ましくは0.1質量部未満であることを意味する。
【0052】
一実施形態による剥離シートは、基材と、基材上に配置された、アクリルポリマー剥離剤の硬化生成物を含有する剥離コーティングと、を含む。
【0053】
基材の例としては、ポリエステル及びポリオレフィン等のプラスチックフィルム、紙、又はこのようなプラスチック材料でコーティングされた紙基材が挙げられる。基材の一例として、着色フィルムを用いてもよい。着色フィルムは、プラスチック中の染料の混合物、着色紙、又は着色インクでコーティングされた透明フィルムであり得る。例えば、着色フィルムとして白色フィルムを用いる例を後述する。着色フィルムを用いることにより、使用者が剥離シートを認識しやすくなる。更に、フィルムには、ロゴや使用方法の説明等が印刷されていてもよい。着色フィルムを用いることにより、使用者はこれらの印刷された文字等が見やすくなる。基材の厚さは、用途に応じて変化してもよく、例えば、約1μm以上かつ約300μm以下であり得る。
【0054】
剥離シートは、例えば、以下の手順を用いて製造することができる。アクリルポリマー剥離剤は、必要に応じて、n-ヘキサン及びn-ヘプタン等の脂肪族炭化水素、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル及び酢酸ブチル等のエステル、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等のケトン、若しくは塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素、又はこれらの物質の混合溶媒で希釈される。次いで、得られた溶液を、バーコーター、ロールコーター、スプレー等を用いて所定の厚さの基材上に適用し、必要に応じて加熱により乾燥させて、基材上に剥離前駆体層を形成する。希釈溶媒は、溶液重合を実施する際の溶媒と同じであっても異なっていてもよい。適用されるアクリルポリマー剥離剤の量は、基材に応じて変化し得る。アクリルポリマー剥離剤は、一般に、乾燥厚さが約0.01μm以上かつ約10μm以下となるように適用される。基材がポリエステル又はポリオレフィン等のプラスチックフィルムである場合、一般に、乾燥厚さは約0.05μm以上かつ約1μm以下である。吸収性又は低い平滑性を有する紙等の基材の場合、一般に、乾燥厚さは約0.1μm以上かつ約5μm以下である。
【0055】
次いで、剥離前駆体層に電子ビーム又は紫外線等の放射線を照射して、基材上に剥離コーティングを形成する。剥離コーティングは、放射線の照射によって基材に接着する。このようにして、剥離シートを得ることができる。電子ビームの照射の場合、吸収量は剥離前駆体層の厚さ及び組成に依存し、典型的には、約1kGy~約100kGyである。紫外線の照射の場合、紫外線エネルギーは、剥離前駆体層の厚さ及び組成に依存する。紫外線エネルギーは、典型的には、約10mJ/cm2~約3000mJ/cm2、好ましくは約20mJ/cm2~約500mJ/cm2である。紫外線の照射は、電子ビームの照射とは異なり、大掛かりな装置を必要としないため、低コストかつ高生産性で剥離シートを製造することができる。
【0056】
別の実施形態の剥離シートは、第1の表面及び第1の表面の反対側の第2の表面を有する基材と、基材の第1の表面上に配置された第1の剥離コーティングと、基材の第2の表面上に配置された第2の剥離コーティングと、を含む。第1の剥離コーティングは、アクリルポリマー剥離剤の硬化生成物を含有する。第1の剥離コーティングと第2の剥離コーティングとは、互いに同じであっても異なっていてもよい。第2の剥離コーティングは、アクリルポリマー剥離剤の硬化生成物を含有してもよく、他の剥離剤から形成されてもよい。例えば、この実施形態の剥離シートが巻芯に巻かれたロール状で流通する両面テープに用いられる場合、外周面側が第1の剥離コーティング(軽剥離コーティング)となり、内周面側が第2の剥離コーティング(重剥離コーティング)となるように剥離シートを配置することができる。
【0057】
一実施形態のテープは、基材、及び基材上に配置された、アクリルポリマー剥離剤の硬化生成物を含有する剥離コーティングを有する剥離シートと、剥離シートの剥離コーティング上に積層された接着剤層と、を含む。この接着剤層は、接着剤層が剥離シートから分離されて被着体に接着される態様で使用される場合、転写テープとも称される。
【0058】
この実施形態のテープは、接着剤層の、剥離シートとは反対の表面に積層された、紙、プラスチックフィルム、アクリル又はウレタン等の発泡体材料、及び不織布等の支持基材を更に含んでもよい。この実施形態では、支持基材の、接着剤層と対向する表面とは反対側の表面が第2の接着剤層を有する場合、基材は、いわゆる基材付き両面テープ(基材付き転写テープを含む)の形態である。支持基材の、接着剤層と対向する表面とは反対の表面が接着剤層を有しない場合、基材は、いわゆる片面テープの形態である。
【0059】
接着剤層は、例えば、アクリル、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、又はゴム系ポリマー等の接着性ポリマーを含有する接着剤を使用することにより形成することができる。要件がシリコーン仕様を満たす場合、シリコーン系接着剤も適用可能である。接着剤は、溶媒系、エマルション系、又は無溶媒であってもよい。接着剤は、ホットメルト接着剤、熱硬化性接着剤、又は紫外線硬化性接着剤であってもよい。一実施形態では、接着剤層は、溶媒系アクリル接着剤を用いて形成される。接着剤は、剥離シート上に直接適用して接着剤層を形成してもよい。ライナー上に形成される接着剤層は、剥離シート上に転写されて積層されてもよい。接着剤層は、その内部に、紙、プラスチックフィルム、不織布等から作製された支持体を有していても、有していなくてもよい。
【0060】
接着剤層の厚さは、典型的には、約1μm以上、約5μm以上、又は約10μm以上、かつ約100μm以下、約80μm以下、又は約50μm以下であり得る。
【0061】
一実施形態では、剥離シートの接着剤層からの剥離力は0.1N/cm未満である。0.1N/cm未満の剥離力を有する剥離シートは、両面テープ又は接着剤転写テープ用の軽剥離ライナーとして使用するのに好適である。
【0062】
一実施形態では、剥離シートを除去した後の接着剤層の残留接着力は、剥離シートが適用されなかった接着剤層の残留接着力の約85%以上、約90%以上、又は約95%以上である。
【0063】
一実施形態の両面テープは、基材、及び基材上に配置された、アクリルポリマー剥離剤の硬化生成物を含有する剥離コーティングを有する剥離シートと、接着剤層と、第2の剥離シートと、をこの順に含む。第2の剥離シートは、第2の基材と、第2の基材上に配置された、第2のアクリルポリマー剥離剤の硬化生成物を含有する重剥離コーティングと、を含む重剥離シートである。剥離シートの剥離コーティングと第2の剥離シートの重剥離コーティングとは、接着剤層と接触するように積層されている。
【0064】
図1は、一実施形態による両面テープの概略断面図を示す。両面テープ100は、基材12及び基材12上に配置された剥離コーティング14(軽剥離コーティング)を含む剥離シート10(軽剥離シート)と、接着剤層20と、第2の基材32及び第2の基材32上に配置されたガン剥離コーティング34を含む第2の剥離シート30(重剥離シート)と、の積層体である。剥離シート10の剥離コーティング14と第2の剥離シート30の重剥離コーティング34とは、接着剤層20と接触している。
【0065】
別の実施形態の両面テープは、第1の表面及び第1の表面の反対側の第2の表面を有する基材、基材の第1の表面上に配置された第1の剥離コーティング、並びに基材の第2の表面上に配置された第2の剥離コーティングを含む剥離シートと、第1の表面及び第1の表面の反対側の第2の表面を有する接着剤層と、を含み、両面テープは巻きロールであり、接着剤層の第1の表面は剥離シートの第1の剥離コーティングと接触し、接着剤層の第2の表面は剥離シートの第2の剥離コーティングと接触する。第1の剥離コーティングは、アクリルポリマー剥離剤の硬化生成物を含有する。第2の剥離コーティングは、第2のアクリルポリマー剥離剤の硬化生成物を含有する重剥離コーティングである。この実施形態では、両面テープの外周面側が第1の剥離コーティング(軽剥離コーティング)となり、内周面側が第2の剥離コーティング(重剥離コーティング)となるように剥離シートを配置することができる。
【0066】
第2のアクリルポリマー剥離剤は、重合性成分を基準として、24個未満の炭素原子を有するアルキル基を有するアクリレートモノマーを50質量%以上含有する第2の重合性前駆体組成物の重合生成物を含有する。24個未満の炭素原子を有するアルキル基を有するアクリレートモノマーの例としては、ブチルアクリレート(4個の炭素原子)、ヘキシルアクリレート(6個の炭素原子)、オクチルアクリレート(8個の炭素原子)、2-エチルヘキシルアクリレート(8個の炭素原子)、デシルアクリレート(10個の炭素原子)、8-メチルノニルアクリレート(10個の炭素原子)、ドデシルアクリレート(12個の炭素原子)、トリデシルアクリレート(13個の炭素原子)、テトラデシルアクリレート(14個の炭素原子)、ヘキサデシルアクリレート(16個の炭素原子)、オクタデシルアクリレート(18個の炭素原子)、イソオクタデシルアクリレート(18個の炭素原子)、2-ヘキシルドデシルアクリレート(18個の炭素原子)、2-オクチルデシルアクリレート(18個の炭素原子)、イコシルアクリレート(20個の炭素原子)、及びドコシルアクリレート(C22)が挙げられる。第2の重合性前駆体組成物中の24個未満の炭素原子を有するアルキル基を有するアクリレートモノマーの含有量は、好ましくは、重合性成分を基準として、約60質量%以上、約70質量%以上、又は約80質量%以上である。
【0067】
第2の重合性前駆体組成物の重合性成分の残部は、24個以上の炭素原子を有する直鎖若しくは分枝アルキル基を有するアクリレートモノマー、ベンゾフェノン構造を有するアクリルモノマー、他のラジカル重合性モノマー、又はこれらの組み合わせであってもよい。24個以上の炭素原子を有する分枝アルキル基を有するアクリレートモノマー及びベンゾフェノン構造を有するアクリルモノマーは、第1の実施形態で記載したとおりである。24個以上の炭素原子を有する直鎖アルキルを有するアクリルモノマーの例としては、テトラコシルアクリレート(C24)、オクタコシルアクリレート(C28)、及びドトリアコンチルアクリレート(dotriacyl acrylate)(C32)が挙げられる。他のラジカル重合性モノマーの例としては、スチレン、シクロヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、及びジシクロペンテニルアクリレートが挙げられる。
【0068】
第2の重合性前駆体組成物について、重合開始剤、連鎖移動剤、鎖延長剤、及び重合性前駆体組成物を重合させることにより重合性成分を得る方法、並びに得られた重合性成分の重量平均分子量は、第1の実施形態で記載したとおりである。
【0069】
第2のアクリルポリマー剥離剤を用いて第2の剥離シートを製造する方法は、上述したアクリルポリマー剥離剤と同じである。両面テープは、テープの接着剤層上に第2の剥離シートを積層することによって製造することができる。両面テープは、また、第2の剥離シート上に接着剤層を形成し、その上に剥離シートを積層することによっても製造することができる。
【0070】
一実施形態では、第2の剥離シート(重剥離シート)と接着剤層との間の剥離力は、剥離シート(軽剥離シート)と接着剤層との間の剥離力の約2.5倍以上、約4倍以上、約10倍以下、又は約5倍以下である。
【0071】
一実施形態では、第2の剥離シート(重剥離シート)と接着剤層との間の剥離力は、約1N/10mm以下、又は約0.5N/10mm以下である。
【0072】
本開示のアクリルポリマー剥離剤、剥離シート、テープ、及び両面テープは、非常に軽い剥離力が必要とされる用途に使用することができる。本開示のアクリルポリマー剥離剤を用いた剥離シートは、NSNF接着剤転写テープ(ATT)の軽剥離面に特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0073】
以下の実施例では、本開示の具体的な実施形態を例示するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。全ての部及び百分率は、特段の記載がない限り、質量に基づく。
【0074】
アクリルポリマー剥離剤、剥離シート、及びテープを調製又は製造するために使用した材料を表1に示す。
【表1】
【0075】
合成例1(iso-C20アクリレート)
米国特許第8137807号、13頁、方法2に開示されている反応条件及び精製方法を使用して、2-オクチル-1-ドデカノール(iso-C20アルコール)と塩化アクリロイルとのエステル化反応から、iso-C20アクリレート(2-オクチルドデシルアクリレート)を合成した。IRスペクトルによりiso-C20アクリレートが生成されていることを確認した。
【0076】
合成例2(iso-C28アクリレート)
米国特許第8137807号、13頁、方法2に開示されている反応条件及び精製方法を使用して、2-ドデシル-1-ヘキサデカノール(iso-C28アルコール)と塩化アクリロイルとのエステル化反応から、iso-C28アクリレート(2-ドデシルヘキサデシルアクリレート)を合成した。
【0077】
合成例3(iso-C32アクリレート)
米国特許第8,137,807号、13頁、方法2に開示されている反応条件及び精製方法を使用して、2-テトラデシル-1-オクタデカノール(iso-C32アルコール)と塩化アクリロイルとのエステル化反応から、iso-C32アクリレート(2-テトラデシルオクタデシルアクリレート)を合成した。
【0078】
アクリルポリマー剥離剤に含有される重合生成物(この例では「前駆体ポリマー」とも呼ばれる)を、重合性前駆体組成物の溶液重合を含む以下の手順によって調製した。
【0079】
前駆体ポリマー1
100質量部のiso-C16アクリレートと0.2質量部のAEBPとを混合してモノマー混合物を得た。モノマー混合物を酢酸エチル/n-ヘプタン(50質量%/50質量%)の混合溶媒で希釈し、モノマー濃度が75質量%となるまで希釈した。更に、100質量部のモノマー成分に対して0.1質量部のV-601を開始剤として添加し、重合性前駆体組成物1を得た。重合性前駆体組成物1を含有する系を窒素ガスで2分間パージし、次いで65℃の恒温槽中で48時間溶液重合を実施し、透明な粘性溶液を得た。得られた重合生成物の重量平均分子量(Mw)は約1.80×106であった。この例では、重合生成物の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いてクロロホルム溶媒中で測定したポリスチレン標準に換算した値である。
【0080】
前駆体ポリマー4
iso-C16アクリレートをiso-C24アクリレートに変更し、100質量部のモノマー成分に対して0.2質量部のV-601を添加し、100質量部のモノマー成分に対して0.1質量部のNDDAを添加した以外は、前駆体ポリマー1と同じ手順で前駆体ポリマー4を調製した。得られた重合生成物の重量平均分子量(Mw)は約1.88×106であった。
【0081】
前駆体ポリマー9
iso-C16アクリレートをiso-C24アクリレートに変更し、AEBPをABPに変更し、100質量部のモノマー成分に対して0.2質量部のV-601を添加し、100質量部のモノマー成分に対して0.1質量部のNDDAを添加した以外は、前駆体ポリマー1と同じ手順で前駆体ポリマー9を調製した。得られた重合生成物の重量平均分子量(Mw)は約1.9×106であった。
【0082】
前駆体ポリマー10
iso-C16アクリレートをiso-C24アクリレートに変更し、AEBPを使用せず、100質量部のモノマー成分に対して0.2質量部のV-601を添加し、100質量部のモノマー成分に対して0.1質量部のNDDAを添加した以外は、前駆体ポリマー1と同じ手順で前駆体ポリマー10を調製した。得られた重合生成物の重量平均分子量(Mw)は約1.74×106であった。
【0083】
前駆体ポリマー15
iso-C16アクリレートを直鎖C18アクリレートと直鎖C22アクリレートとの1:1(質量比)混合物に変更し、100質量部のモノマー成分に対して0.2質量部のV-601を添加し、モノマー濃度を50質量%とした以外は、前駆体ポリマー1と同じ手順で前駆体ポリマー15を調製した。得られた重合生成物の重量平均分子量(Mw)は約1.27×106であった。
【0084】
前駆体ポリマー16
iso-C16アクリレートをiso-C12アクリレートに変更し、V-601をV-65に変更し、溶媒を酢酸エチルに変更してモノマー濃度を50質量%とした以外は、前駆体ポリマー1と同じ手順で前駆体ポリマー16を調製した。得られた重合生成物の重量平均分子量(Mw)は約1.89×106であった。
【0085】
前駆体ポリマー2、3、5~8、及び11~14
アクリレートの種類、他の成分及びその添加量、並びにモノマー濃度を表2に示されるとおりにした以外は、前駆体ポリマー1及び4又は9と同じ手順で前駆体ポリマー2、3、5~8、及び11~14を調製した。得られた重合生成物の重量平均分子量(Mw)を表2に示す。
【0086】
【0087】
実施例1
剥離シートを以下の手順で調製した。トルエン/メチルエチルケトン(methyl ethyl ketone、MEK)の混合溶媒(50質量%/50質量%)を用いて、前駆体ポリマー4を1質量%に希釈することにより、アクリルポリマー剥離剤を調製した。得られたアクリルポリマー剥離剤を、バーコーター(#04)を用いてポリエステルフィルムS-50上に適用した。溶媒を蒸発させて、厚さ約0.1μmの剥離前駆体層を形成した。紫外線照射装置(F300、中圧水銀ランプ(Hバルブ)、Heraeus(Hanau,Hessen,Germany))を用いて、窒素ガス雰囲気中、ライン速度20m/分で、剥離前駆体層を有するポリエステルフィルムに紫外線を1パス照射して剥離前駆体層を硬化させることにより、剥離シートを製造した。照射時、EITから入手可能なUV POWER PUCK(商品名)により測定した際の1パス当たりの紫外線照射条件は、350mJ/cm2、UVA 168mJ/cm2、UVB 158mJ/cm2、及びUVC 24mJ/cm2であった。
【0088】
実施例2~10、比較例1~7、及び参考例1
前駆体ポリマー4の代わりに表3に示す前駆体ポリマーを用いて、実施例1と同様にして剥離シートを製造した。トルエン/MEK混合溶媒(50質量%/50質量%)の代わりに、トルエン/メチルエチルケトン(MEK)/n-ヘプタン混合溶媒(34質量%/33質量%/33質量%)を用いて、実施例3、4、及び8(前駆体ポリマー6、7、及び12)を1質量%に希釈して、アクリルポリマー剥離剤を調製した。実施例9では、アクリルポリマー剥離剤を、ポリエステルフィルムS-50上に適用する代わりに、白色ポリエステルフィルム#75-E20上に適用した以外は、実施例8と同様にして剥離シートを製造した。実施例10では、1質量%希釈溶液の代わりに1.5質量%希釈溶液を用い、ポリエステルフィルムS-50上に適用する代わりに白色ポリエステルフィルムK1212-100に適用した以外は、実施例8と同様にして剥離シートを製造した。実施例4(前駆体ポリマー7)では、実施例1と同じ1パス当たりの紫外線照射条件下で照射を8パス実施した。実施例6及び7(前駆体ポリマー10及び11)では、実施例1と同じ1パス当たりの紫外線照射条件下で照射を10パス実施した。参考例1は、重剥離面シートである。
【0089】
比較例8
シリコーンコーティングされたポリエステルフィルムSP-PET(商品名)38O1-BUを剥離シートとして使用した。
【0090】
【0091】
単純剥離試験
剥離特性の予備評価として、3M(商品名)#810テープ(幅18mm、長さ150mm、スリーエムジャパン株式会社(日本、東京都、品川区))を、ローラーを用いて剥離シートに貼り付け、70℃で3日間放置した後、室温で一晩放置した。剥離シートS-50(又は#75-E20、K1212-100)の露出面(剥離剤を有する表面の裏側)を、両面テープを用いてSUS板に貼り付けた。精密万能試験機オートグラフAG-X(島津製作所、日本、京都府、京都市)を用いて、300mm/分の剥離速度で180度方向に#810テープを剥離した際の剥離力を測定した。結果を表4に示す。
【表4】
【0092】
実施例4(前駆体ポリマー7)の剥離シートについては、同じアクリレートを有する実施例3(前駆体ポリマー6)と同じ剥離力が得られた。
【0093】
剥離力及び残留接着力
剥離シートを用いて製造したテープの剥離力及び残留接着力を、2通りの方法:(1)剥離シート上に接着剤溶液を直接適用してテープを製造する方法(直接適用)、及び(2)基材上に形成された接着剤層に剥離シートを接合してテープを製造する方法(ドライラミネート)により製造したテープについて評価した。
【0094】
(1)直接適用
100質量部のBPS 5127を20質量部のトルエンで希釈し、それに0.67質量部のコロネートL-45Eを混合して接着剤溶液を調製した。接着剤溶液を剥離シート上に適用し、105℃で3分間乾燥した。乾燥した接着剤層は約25μmの厚さを有した。3M(商品名)プライマーN-200(スリーエムジャパン株式会社(日本、東京都、品川区))でプレコーティングしたテープ基材(ポリエステルフィルムS-50)を接着剤層上に積層することによりテープを製造し、70℃で3日間放置した。
【0095】
(2)ドライラミネート
100質量部のBPS 5127を20質量部のトルエンで希釈し、それに0.67質量部のコロネートL-45Eを混合して接着剤溶液を調製した。接着剤溶液を、3M(商品名)プライマーN-200(スリーエムジャパン株式会社(日本、東京都、品川区))でプレコーティングしたテープ基材(ポリエステルフィルムS-50)上に適用し、105℃で3分間乾燥した。乾燥した接着剤層は約25μmの厚さを有した。剥離シートを接着剤層上に積層し、70℃で3日間放置してテープを製造した。
【0096】
(3)剥離力
テープ基材の露出面(接着剤を有する表面の裏側)を、両面テープを用いてSUS板に貼り付けた。精密万能試験機オートグラフAG-X(島津製作所、日本、京都府、京都市)を用いて、300mm/分の剥離速度で180度方向に剥離シートを剥離した際の剥離力を測定した。結果を表5に示す。
【0097】
(4)残留接着力
剥離力試験後、SUS板上に残ったテープを両面テープから剥離し、露出した接着剤層をSUS304(BA)板に貼り付けた。板を室温で30分間放置した後、精密万能試験機オートグラフAG-X(島津製作所、日本、京都府、京都市)を用いて、300mm/分の剥離速度で180度方向にテープを剥離した際の接着力を残留接着力として測定した。結果を表5に示す。
【表5】
【0098】
表5に示すように、実施例1~3及び5~8(軽剥離面)並びに参考例1(重剥離面)の剥離力から算出した、重剥離面の軽剥離面に対する剥離力比は、2.9~3.8(直接適用)及び2.7~3.7(ドライラミネート)であった。
【0099】
剥離力及び残留接着力試験-2
アクリルPSA溶液の調製
90質量部のIOAと10質量部のAAとを混合し、酢酸エチル/メチルエチルケトン(75質量%/25質量%)の混合溶媒で希釈し、モノマー濃度が40質量%となるまで希釈した。更に、100質量部のモノマー成分に対して0.15質量部のV-601を開始剤として添加し、重合性前駆体組成物を得た。重合性前駆体組成物を含有する系を窒素ガスで2分間パージし、次いで65℃の恒温槽中で24時間溶液重合を実施し、透明な粘性溶液を得た。得られた重合生成物の重量平均分子量(Mw)は約9.1×105であった。この例では、重合生成物の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いてテトラヒドロフラン溶媒中で測定したポリスチレン標準に換算した値である。
【0100】
(1)直接適用
100部の調製したポリマー溶液を、最初に、0.48部の1,1-イソフタロイルビス(2-メチルアジリジン)溶液(トルエン中3質量%)と混合した。次いで、混合した溶液を、調製した剥離シート上にコーティングし、120℃で3.5分間乾燥した。乾燥した接着剤層は、約50μmの厚さを有した。3M(商品名)プライマーN-200(スリーエムジャパン株式会社(日本、東京都、品川区))でプレコーティングしたテープ基材(ポリエステルフィルムS-50)を接着剤層上に積層することによりテープを製造し、70℃で3日間放置した。
【0101】
(2)ドライラミネート
100部の調製したポリマー溶液を、最初に、0.48部の1,1-イソフタロイルビス(2-メチルアジリジン)溶液(トルエン中3質量%)と混合した。次いで、混合溶液を、3M(商品名)プライマーN-200(スリーエムジャパン株式会社(日本、東京都、品川区))でプレコーティングしたテープ基材(ポリエステルフィルムS-50)上に適用し、3分間120℃で3.5分間乾燥した。乾燥した接着剤層は、約50μmの厚さを有した。剥離シートを接着剤層上に積層し、70℃で3日間放置してテープを製造した。
【0102】
(3)剥離力及び残留接着力
剥離力及び残留接着力は、上記と同様に測定した。結果を表6に示す。
【表6】
【0103】
参照符号リスト
100 両面テープ
10 剥離シート
12 基材
14 剥離コーティング
20 接着剤層
30 重剥離シート
32 第2の基材
34 重剥離コーティング
【国際調査報告】