(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-30
(54)【発明の名称】多層構造の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20240523BHJP
【FI】
H01L27/12 B
H01L21/02 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562686
(86)(22)【出願日】2022-04-12
(85)【翻訳文提出日】2023-11-07
(86)【国際出願番号】 FR2022050691
(87)【国際公開番号】W WO2022219283
(87)【国際公開日】2022-10-20
(32)【優先日】2021-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507088071
【氏名又は名称】ソイテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルマニー マリリン
(72)【発明者】
【氏名】ナヴォン クリステル
(72)【発明者】
【氏名】キュナール セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ランドリュー ディディエ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェティズ クリステル
(57)【要約】
多層構造(100)の製造方法は、a)第1の基板(1)を備えるステップと、b)無機粒子を充填したプレセラミックポリマーを含む前駆体組成物の厚膜層(4)を第1の基板(1)上に堆積させるステップと、c)第2の基板(5)を備えるステップと、d)厚膜層(4)と第2の基板(5)を接合するステップと、e)活性層(7)を得るために、第1の基板(1)又は第2の基板(5)を薄くするステップと、f)厚膜層(4)のプレセラミックポリマーをセラミック化して、セラミックマトリックス複合材料を得るために、熱分解熱処理を施すステップとを備える。無機粒子の充填率及び特性は、厚膜層(4)が、第1の基板(1)の熱膨張係数及び第2の基板(5)の熱膨張係数と最大で15%異なる熱膨張係数を有するように、選択される。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロエレクトロニクス分野における用途のための多層構造(100)の製造方法であって、
a)第1の基板(1)を準備するステップと、
b)無機粒子を充填したプレセラミックポリマーを含む前駆体組成物の厚膜層(4)を前記第1の基板(1)の上に堆積させるステップと、
c)第2の基板(5)を準備するステップと、
d)前記厚膜層(4)と前記第2の基板(5)を接合するステップと、
e)活性層(7)を得るために、前記第1の基板(1)又は前記第2の基板(2)を薄化するステップと、
f)前記厚膜層(4)の前記プレセラミックポリマーをセラミック化して、セラミックマトリックス複合材料を得るために、熱分解熱処理を施すステップと、
を備え、
前記無機粒子の充填率及び特性は、室温と熱分解温度の間において、前記厚膜層(4)が、前記第1の基板(1)の熱膨張係数及び前記第2の基板(5)の熱膨張係数と最大で15%異なる熱膨張係数を有するように選択する、製造方法。
【請求項2】
前記ステップd)の前記厚膜層(4)と前記第2の基板(5)との間の接合は、前記第2の基板(5)及び/又は前記厚膜層(4)の上に予め形成された接着プライマー層(6)を介して行われる、請求項1に記載の多層構造(100)の製造方法。
【請求項3】
前記ステップd)の接合は、スタック(10)を形成するために前記厚膜層(4)と前記第2の基板(5)とを接触させるステップと、前記スタック(10)をホットプレスするステップi)とを含む、請求項1~2のいずれか1項に記載の多層構造(100)の製造方法。
【請求項4】
前記前駆体組成物は、前記プレセラミックポリマーの体積に対して50~80体積%の充填率の無機粒子を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の多層構造(100)の製造方法。
【請求項5】
前記無機粒子は、Si
3N
4、SiC、AlN、Al
2O
3及びこれらの無機粒子の混合物の中から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の多層構造(100)の製造方法。
【請求項6】
前記前駆体組成物の前記プレセラミックポリマーは、ポリシロキサン、ポリカルボシラン、ポリカルボシロキサン、ポリシラザン、ポリシルセスキオキサン、ポリシリルカルボジイミド、ポリシルセスキカルボジイミド、ポリシルセスキアザン、ポリボロシラン、ポリボロシロキサン、ポリボロシラザン及びこれらのポリマーの組み合わせを含むグループから選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の多層構造(100)の製造方法。
【請求項7】
前記厚膜層(4)を堆積させる前記ステップb)は、前記前駆体組成物が液体である場合に、コーティング又はスクリーン印刷によって行われる、請求項1~6のいずれか1項に記載の多層構造(100)の製造方法。
【請求項8】
前記ステップb)の前に、弱化面(2)を形成するために前記第1の基板(1)にイオン種を注入するステップa1)を備え、前記薄化するステップe)は、前記弱化面(2)に沿った破断を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記注入するステップa1)の後に、前記注入面上に硬化層(3)を堆積させるステップa2)を備える、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記薄化するステップe)は、前記活性層(7)の厚さを10~140μmとするために、機械的な厚さ調整によって行われる、請求項1~9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
マイクロエレクトロニクスにおける用途のための多層構造(100)であって、
前記多層構造(100)は、活性層(7)と、第1の基板(1)及び第2の基板(5)のうちの一方からなる支持基板との間に設けられた厚膜層(4)を備え、
前記活性層(7)は、前記第1の基板(1)及び前記第2の基板(5)のうちの他方を薄化させたものであり、
前記厚膜層(4)は、セラミックマトリックス及び無機粒子を含む複合材料を含み、
前記無機粒子の特性及び充填率は、前記厚膜層(4)が、前記支持基板の材料のCTE及び前記活性層(7)のCTEと最大で15%異なるCTEを有するように選択されている、多層構造(100)。
【請求項12】
請求項11に記載の多層構造(100)を熱分解によって形成するための中間構造であって、
前記中間構造は、活性層(7)と、第1の基板(1)及び第2の基板(5)のうちの一方からなる支持基板との間に配置された厚膜層(4)を備え、
前記活性層(7)は、前記第1の基板(1)及び前記第2の基板(2)のうちの他方を薄化させたものであり、
前記厚膜層(4)は、無機粒子を充填したプレセラミックポリマーを含み、
無機粒子の特性及び充填率は、室温と前記プレセラミックポリマーの熱分解温度との間において、前記厚膜層(4)が、前記支持基板の材料のCTE及び前記活性層(7)のCTEと最大で15%異なるCTEを有するように選択されている、中間構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロニクス(例えば、MEMS用)、マイクロエレクトロニクス、光エレクトロニクス(例えば、LED用)、RFパワーエレクトロニクスにおける用途、パッケージング及びトランスファーハンドルのための高度な基板の製造に関する。本発明は特に、高温に耐えられる多層構造、特に、例えば、RF部品の集積のための、モジュール性を有する厚膜層によって支持基板から分離された半導体層を提供するSeOI(Semiconductor On Insulator)構造の製造方法に関する。別の態様によれば、本発明は、前記の製造方法によって得られる多層構造にも関する。
【背景技術】
【0002】
現在は、部品がますます高密度に集積され、デバイスが小型化する傾向にあり、特に優れた放熱能力や優れた温度変化耐性など、性能が向上した基板の必要性が高まっている。ますます複雑になる構造の製造では、動作温度が800℃に達する場合があることは言うまでもなく、1000℃に達する温度でのアニーリングが必要になる場合もあり、これはRF用途で顕著である。それらの多層構造を作製するために必要な様々な材料は、構造内において様々な膨張を引き起こす。これによって、負荷が生じ、欠陥が現れたり、層に亀裂が入ったり、層が剥離したりするおそれがある。これらの負荷のため、400℃までの温度にしか耐えられない従来のポリマーは、層間を接合するために使用することはできない。
【発明の概要】
【0003】
本発明の目的の1つは、上記の障害の少なくとも1つを克服する多層構造の製造方法を提供することである。この目的のために、本発明は、マイクロエレクトロニクス分野における用途のための多層構造の製造方法を提供する。
【0004】
この製造方法は、
a)第1の基板を準備するステップと、
b)無機粒子を充填したプレセラミックポリマーを含む前駆体組成物の厚膜層を第1の基板上に堆積させるステップと、
c)第2の基板を準備するステップと、
d)厚膜層と第2の基板とを接合するステップと、
e)特に電子デバイスを得るための活性層を得るために、第1の基板又は第2の基板を薄化するステップと、
f)厚膜層のプレセラミックポリマーをセラミック化して、セラミックマトリックス複合材料を得るために、熱分解熱処理を施すステップと
を備え、
無機粒子の充填率及び特性は、室温と熱分解温度の間で、厚膜層が、第1の基板の熱膨張係数及び第2の基板の熱膨張係数と最大で15%異なる熱膨張係数、好適には、第1の基板の熱膨張係数及び第2の基板の熱膨張係数と最大で10%異なる熱膨張係数、例えば、第1の基板の熱膨張係数及び第2の基板の熱膨張係数と最大で5%異なる熱膨張係数を有するように、選択される。
【0005】
このようにして、本発明による製造方法では、厚膜層の特性、特に熱膨張係数(Coefficient of Thermal Expansionの略であるCTEとしても知られる)が、第1の基板及び第2の基板のCTEと適合するように調節できる多層構造を得ることができる。好適には、この構造は、かなりの熱変化を伴うプロセス又は用途に使用することができる。
【0006】
プレセラミックポリマーと無機粒子の選択肢は幅広いため、その特性及びそれが堆積される基板との適合性によって、目的の多層構造に適したポリマーを選択することができる。この場合、プレセラミックポリマー及び無機粒子は、架橋及び熱分解されて得られる複合材料が、第1及び/又は第2の支持物の熱膨張係数に近い熱膨張係数を有するように、選択される。そのようにして、多層構造の構成材料は、温度変化時に同じように膨張及び収縮し、これによって、欠陥、亀裂又は層の剥離の発生により層を損なうおそれがある構造内の負荷を回避する。使用する無機粒子によって、厚膜層は、高い放熱能力を有しながら、電気絶縁性を有する場合もある。これは特に、構造の温度を調節するのに好適であり、動作温度が800℃に達することがあるトランジスタータイプの部品を含む用途で本構造が使用される場合に特に好適である。このようにして、本発明による厚膜層によって、高いモジュール性を可能にする。
【0007】
さらに、プレセラミックポリマーは、優れた温度耐性という利点を持つ。実際、プレセラミックポリマーは、高温での熱処理後にいわゆるPDC(Polymer Derived Ceramicsの略)セラミック物体を製造するために一般的に使用される有機/無機ポリマーである。
【0008】
これによって、基板を薄くするためのイオン種の注入によって生じた欠陥を修復する場合等において、構造を高温で熱処理できる。このようにして、本方法は、多層構造の組み立てが、特にプレセラミックポリマーの熱分解のステップにもかかわらず、多層構造の製造プロセスを通じて安定し、(活性層の電子部品に関連した)高い動作温度にも耐えることを保証する。
【0009】
このようにして得られた複合材料は、所望の用途に十分な機械的強度を有する。実際、プレセラミックポリマーは、無機粒子の結合剤である。特に1000℃前後での熱分解によるセラミック化後、無機粒子が埋め込まれたセラミックマトリックスが形成される。得られたPDCセラミックマトリックスは、ほぼ非晶質、場合によっては、完全に非晶質であり、互いに合体することなくマトリックス中に一様に分布する無機粒子の結合剤を形成する。熱分解によって、厚膜層をコンパクトにすることもできる。また、目的とする用途のために、熱分解温度より高い温度で行われるセラミックの予備焼結又は焼結は必要なく、製造コストが有利に抑えられる。このように、本製造方法によって、高温でも安定しており、目的とする用途のために特性が容易に調節できる多層構造を、簡単で確実な方法で実現することができる。
【0010】
「活性層」とは、電気的事象が起きる半導体材料の層を意味する。
【0011】
「セラミック化する」又は「セラミック化」及びその他の派生語は、本明細書では、熱分解によるプレセラミックポリマーから非焼結セラミックへの変換を意味する。
【0012】
好適には、ステップa)で堆積される厚膜層の前駆体組成物は、プレセラミックポリマーの体積に対して50~80体積%の充填率の無機粒子を含む。この充填率によって、厚膜層に所望の特性、特に熱膨張係数を与えることができる。これによって、セラミック化時のプレセラミックポリマーの寸法の損失を抑えることもできる。実際、プレセラミックポリマーを使用すると、ポリマーからセラミックへの変換を可能にする熱分解時に寸法がかなり変化する。これによって、プレセラミックポリマーの成形時に、層に欠陥や、亀裂や、時に崩壊を生じさせる大きな機械的残留応力が生じる。このため、充填剤の存在は、体積の損失を抑えることを可能にする。
【0013】
さらに、充填率は、層中に十分な量のプレセラミックポリマーが存在できるように、十分に低いままである。この材料は、セラミック化の前後で、無機粒子の結合剤としての役割を維持する。
【0014】
ある構成によれば、無機粒子は、Si3N4、SiC、AlN、Al2O3及びこれらの無機粒子の混合物の中から選択される。それ自体又は混合物とみなされるこれらの粒子は、プレセラミックポリマー及びセラミックマトリックスに、多層構造で使用できる半導体材料のCTEに近いCTEを与えるために使用される。
【0015】
使用される粒子のサイズは、数nm~100μmまで様々であり、主に、所望の層の厚さに応じて選択される。接着プライマー層の場合には、1μm未満のサイズが好ましいが、数百μmの厚膜層の場合には、前記の範囲全体を用いること可能である。
【0016】
具体的には、本方法は、接合するステップd)の前に、表面を平滑にし、所望の層の厚さになるように、厚膜層を機械的に厚さ調整するステップを含む。通常、厚膜層の厚さは、10~500μmである。
【0017】
1つの可能性によれば、厚膜層は、セラミック化時に、当初の厚さの20~50%を失う。厚膜層の厚さは、ステップf)のセラミック化前は、10~500μmで、セラミック化後は、5~400μmである。
【0018】
ある構成によれば、前駆体組成物のプレセラミックポリマーは、ポリシロキサン、ポリカルボシラン、ポリシラザン、ポリボロシラン、ポリシルセスキオキサン、ポリシリルカルボジイミド、ポリシルセスキカルボジイミド、ポリシルセスキアザン、ポリボロシロキサン、ポリボロシラザン及びこれらのポリマーの組み合わせの中から選択される。プレセラミックポリマーの性質の選択は、所望の多層構造のための目的とする特性に依存するが、プレセラミックポリマーが堆積される基板との適合性にも依存する。
【0019】
ポリシロキサン、ポリカルボシラン、ポリシラザンから誘導されるプレセラミックポリマーは、Hf、Zr、Ti、Alなどの金属を含んでもよい。
【0020】
目的とするセラミックマトリックスは、SiOxCy(xは2未満であり、yはゼロではない)、SiCN、Si(M)OC、Si(M)C、Si(M)CN、SiBCNのいずれかである。
【0021】
1つの可能性によれば、厚膜層を堆積させるステップb)は、前駆体組成物が液体である場合に、コーティング又はスクリーン印刷によって行われる。所望の粘度を有する液体の前駆体組成物を得るために、溶媒を前駆体組成物に加えることができる。これは、キシレン、MEK(Methyl Ethyl Ketone又は2-ブタノン溶媒、例えば、Sigma Aldrich, Spelco...から入手可能)、Diestone DLS(Socomore社によって提供されている溶媒組成物)の中から選択される。
【0022】
別の可能性によれば、前駆体組成物が固体である場合に、厚膜層を堆積させるステップb)は、ホットプレスによって行われる。
【0023】
好適には、第1及び第2の基板がシリコンでできている場合には、使用されるプレセラミックポリマーは、SILRES(登録商標) MK POWDERであり、無機粒子は、SiCであり、全体は、シリコンのCTEに非常に近いCTEを有するセラミックになる。
【0024】
本発明の方法の具体的な実施例によれば、第1の基板及び第2の基板は、シリコンでできており、前駆体組成物は、2~4重量%の割合のSILRES MK POWDERプレセラミックポリマーを65~72重量%の割合のSiC無機粒子及び24~33重量%の割合のDiestone DLS溶媒などの溶媒と混合させることによって、調製される。
【0025】
SiCの代わりに無機粒子の混合物を使用してもよく、例えば、75~85%の割合のSi3N4を15~25%の割合のAl2O3と混合させる。
【0026】
45~70%の割合のSi3N4を30~55%の割合のAlNと混合させた混合物でも、シリコンとのCTEの差が10%未満である厚膜層を得ることができる。
【0027】
好適には、ステップd)の厚膜層と第2の基板の間の接合は、第2の基板上及び/又は厚膜層上に予め形成された接着プライマー層を介して行われる。この層によって、厚膜層と第2の基板の材料の間の接合エネルギーを改善することができる。これは、多層構造が機械的な厚さ調整(rectification)などの機械的ステップを経る時の多層構造の機械的強度に寄与する。プライマー層の性質の選択は、熱分解温度に対する耐性を与え、厚膜層との良好な接着を得るために、行われる。このように、プライマー層は、液体又は固体の形で存在するプレセラミックポリマーの中から選択され、粘度を調節して塗布を容易にするために、溶媒を加えることが可能である。
【0028】
1つの可能性によれば、接着プライマー層は、1~10μmの厚さを有する。この厚さは、接合剤の役割を果たすのに十分であり、それを超えると、亀裂が入りやすい。第2の基板上及び/又は厚膜層上に予め形成された前駆体組成物は、Wacker社から入手可能なSILRES H62Cポリシロキサンなどの接着プレセラミックポリマー材料を含む。
【0029】
好適には、接着プレセラミミックポリマーが第2の基板上に堆積される時に、第2の基板は、良好な接合を可能にするために、厚膜層と接触する前に、予備架橋される。このステップは、考慮されるポリマーの架橋温度より低い温度で行われる。このステップは、プレセラミックポリマーを安定化するステップからなり、これによって、ポリマーの熱硬化状態の直前の状態に達することができる。この段階では、ポリマーは、変形可能であるが、可溶化することはできない。実際、予備架橋された接着プレセラミックポリマーは、いくつかの非架橋機能を持っており、これらが、厚膜層への接合を可能にする。
【0030】
接着プライマー層が厚膜層上に堆積される時には、厚膜層のプレセラミックポリマーは、例えば、プレセラミックポリマーの架橋温度より低い温度、通常は50~400℃で熱処理を施すことによって、予め予備架橋される。
【0031】
(接着プライマー層の)接着プレセラミックポリマーが固体粉末の形、例えば、SILRES MK POWDERである変形例によれば、それを厚膜層上に分配することができる。粉末が溶けた時に、接合が行われる。
【0032】
あるいは、接着プライマー層は、接着プレセラミックプライマーの総体積の最大50%の充填を含む。これによって、接着ポリマーの架橋時の体積の収縮を抑えることができるほか、充填物の性質及び充填率によってプライマー層を機能化することもでき、例えば、Cu、Ag、Alで電気伝導性を与えたり、SiC、AlN、BNで熱伝導性を与えたりすることができる。
【0033】
好適には、ステップd)の接合は、スタックを形成するために厚膜層と第2の基板を接触させるステップと、前記のスタックをホットプレスするステップi)とを含む。このステップによって、厚膜層と第2の基板の間の接合エネルギーを高め、多層構造に通じるスタックの機械的強度を上げ、接合を安定させることができる。本明細書では、接触は、厚膜層と第2の基板の直接接触によって、又は、上記のように接着プライマー層を介して得られる間接接触によって、行えることが理解される。
【0034】
1つの可能性によれば、ホットプレスするステップi)は、厚膜層のプレセラミックポリマーの架橋を得るために、100~400℃の間で変化する温度及び500kPa未満の圧力で架橋熱処理を施すことを含む。圧力の使用によって、接合前の面倒な表面準備のステップは必要なくなるが、それでも、圧力が高ければ高いほど、基板の破損を避けるために、表面は平坦で、塵が取り除かれていなければならない。さらに、適切な場合には、接着プレセラミックポリマーもこのステップによって架橋される。
【0035】
SILRES MK POWDERプレセラミックポリマーを使用する特定の場合には、架橋熱処理は、0.1~20℃/分、好ましくは0.5~5℃/分、例えば1℃/分の加熱勾配で施される。
【0036】
1つの可能性によれば、本方法のステップe)の薄化は、Smart Cut(登録商標)技術によって得られる。本方法は、ステップb)の前に、弱化面を作るために第1の基板にイオン種を注入するステップa1)を備え、薄化ステップe)は、弱化面に沿った破断のステップを含む。
【0037】
破断のステップは、熱処理を施し、その後に機械的負荷を加えることによって、又は機械的負荷を加えずに、得ることができる。その後、通常、破断処理の続きとして、熱分解熱処理がアルゴン下などの中性雰囲気中で行われ、接合界面を強化する。加熱勾配は、構造の変形を避けるために、層の厚さ、熱膨張係数、考慮される材料に応じて適切に適用される。
【0038】
ホットプレスするステップi)は、適切な場合には、ステップe)の破断熱収支に寄与することができる。
【0039】
1つの可能性によれば、本方法は、注入ステップa1)の後に、注入面上に硬化層を堆積させるステップa2)を含む。好適には、硬化層は、厚膜層を堆積させるステップb)の前に堆積される。
【0040】
好ましくは、硬化層は、300℃のPECVDなどの低温堆積技術によって、500nm~4μmの厚さに、Si3N4で形成される。硬化層の材料は、熱分解温度で安定しており、基板のCTEに近いCTEを有する。さらに、用いられる堆積条件は、本方法のこの段階で破断を生じないように、注入領域を維持する。
【0041】
あるいは、本方法は、厚膜層を堆積させるステップb)の前に、厚膜層と硬化層との間の接触を改善するために、硬化層の上に、プレセラミックポリマーでできた補完的な接着プライマー層を堆積させることを含む。この補完的な接着プライマー層は、補完的な硬化効果も与える。硬化層の厚さは、それに応じて減らすことができる。
【0042】
破断によって行われるステップe)の代替案によれば、本方法は、10~140μm、好適には20~120μm、例えば90~110μmの活性層の厚さを得るために、機械的な厚さ調整によって薄化を行う。
【0043】
好適には、本方法のステップf)は、窒素存在下又はアルゴン雰囲気で真空熱分解熱処理を施すことを含む。熱分解は、制御された雰囲気下で行われる。例えば、空気中、酸素存在下で熱分解すると、しばしば粉末の形で、望ましくない酸化物が生じる。熱分解熱処理の温度は、セラミックマトリックスの焼結温度より低い。それは、使用するプレセラミックポリマーの性質に依存する。
【0044】
第2の態様によれば、本発明は、マイクロエレクトロニクスにおける用途のための多層構造を提供する。この多層構造は、活性層と第1の基板及び第2の基板のうちの一方からなる支持基板との間に配置された厚膜層を含み、活性層は、第1の基板及び第2の基板のうちの他方の薄化から生じ、厚膜層は、ポリマーから誘導されたセラミックマトリックスと無機粒子を含む又は同セラミックマトリックスと同無機粒子からなる複合材料を含み又は同複合材料からなり、複合材料の無機粒子の性質及び充填率は、厚膜層が、支持基板の材料のCTE及び活性層のCTEと最大で15%異なる、特に支持基板の材料のCTE及び活性層のCTEと最大で10%異なる、例えば支持基板の材料のCTE及び活性層のCTEと最大で5%異なるCTEを有するように選択される。
【0045】
このように構成された多層構造は、室温と使用温度、例えば、800~1000℃との間で、優れた機械的強度を有する。
【0046】
本明細書では、セラミックマトリックスのセラミックは、無機粒子を充填したプレセラミックポリマーの熱分解から生じるポリマーから誘導されたセラミックであると理解される。前記のセラミックマトリックスは、焼結が全くない。それは、通常非晶質、場合によって完全に非晶質であり、通常多結晶である焼結セラミックとは異なる。
【0047】
好適には、第1及び第2の基板は、同じ材料で構成される。
【0048】
ある構成によれば、第1の基板及び/又は第2の基板は、単結晶シリコンでできている。
【0049】
1つの可能性よれば、部品の性能を最適化するために、活性層の材料は単結晶材料の中で選択される。
【0050】
別の可能性によれば、多層構造は、シリコンでできた活性層及び支持基板を含み、厚膜層は、SiOxCy(xは2未満であり、yはゼロではない)のセラミックマトリックスであり、無機粒子は、SiCである。
【0051】
他の特徴によれば、本発明の多層構造の製造方法及び多層構造そのものは、単独で又は組み合わせて考慮される以下のオプションとしての特徴のうちの1つ又は複数を含む。
-厚膜層は、10~500μmの厚さを有する。それを超えると、セラミック化時(つまり、熱分解時)に亀裂が生じるリスクが高まる。
-セラミック化された厚膜層、すなわち、セラミックマトリックス複合材料と無機粒子を含む厚膜層は、約5~400μmの厚さを有する。
-厚膜層は、接着プライマー層を介して支持基板又は活性層に接合される。
-接着プライマー層は、SILRES H62CやSILRES MK POWDERなどのポリシロキサンプレセラミックポリマーから形成される。
-接着プライマー層は、20~30重量%の割合のDiestone DLS溶媒で希釈された、70~80重量%の割合のSILRES H62Cのポリシロキサンプレセラミックポリマーを含む組成物から形成される。
-接着プライマー層は、1~10μmの厚さを有する。
-活性層は、1.4~100μmの厚さを有する。
-破断による薄化によって得られる活性層は、好適には、1.4~1.6μmの厚さを有する。
-機械的な厚さ調整による第1又は第2の基板の薄化により生成する場合、活性層は、10~100μmの厚さを有する。
-第1の基板及び第2の基板の材料は、半導体材料、特にSi、Ge、GaN、及び/又はSiCから選択される。
-第1の基板及び第2の基板の材料は、異なる性質の2つの材料で構成される。
-第1の基板及び第2の基板の材料は、同じ性質の2つの材料で構成される。
-第1の基板及び/又は第2の基板の材料は、単結晶である。
【0052】
このようにして形成された前記の多層構造は、機械的な厚さ調整、薄化、化学機械研磨、エッチング、誘電体若しくは金属の堆積、少なくとも1つの電子部品を得るための活性層を含む少なくとも1つの層の堆積、パターニング、不動態化、熱処理、又はこれらの処理のうちの少なくとも1つの組み合わせなど、電子部品の製造のための処理を受けることができる。
【0053】
本発明の他の態様、目的及び利点は、添付の図面を参照しながら、非限定的な例として与えられた、以下の2つの実施形態の記述を読むことによって、さらに明らかになる。図は、より読みやすくするために、示されたすべての要素の大小に必ずしも従っていない。図では、連続した形の材料層の弱化面を明確・明瞭に示すために、点線を用いている。以下の記述では、簡単のため、異なる実施形態の同一、類似又は同等の要素には同じ参照番号を付す。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】本発明の第1の実施形態による、第1の基板に注入を行うステップa1)を示す概略図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態による、硬化層を堆積させるステップa2)を示す概略図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態による、厚膜層を堆積させるステップb)を示す概略図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態による、接着プライマー層で覆われた第2の基板を準備するステップc)を示す概略図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態による、第2の基板に接触した厚膜層をホットプレスするステップi)を示す概略図である。
【
図6】本発明の第1の実施形態による、弱化面に沿って薄化するステップe)を示す概略図である。
【
図7】本発明の第1の実施形態によって得られた多層構造を示す概略図である。
【
図8】本発明の第2の実施形態による、厚膜層を堆積させるステップb)を示す概略図である。
【
図9】
図8の実施形態によるホットプレスするステップi)を示す概略図である。
【
図10】
図8の実施形態による薄化するステップe)を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本発明の方法の第1の実施形態は、
図1~7に示されており、多層構造100は,Smart Cut技術によって得られる。そうするために、
図1に示されているように、シリコンでできた第1の基板1が準備され(ステップa)、基板1のかなり深い位置に弱化面2を得るために、160keVのエネルギーで水素イオンが注入される(ステップa1)。その後、第1の基板1の注入面上にSi
3N
4からなる硬化層を堆積させるステップa2)が行われる。堆積は、300℃のPECVDなどの低温技術を用いて、約4μmの厚さにする。このようにして構成された硬化層3のCTEは、約3.3×10
-6/℃であり、これは、シリコンのCTEと同じくらいである。
【0056】
図3によれば、厚膜層4は、30体積%のポリシロキサンプレセラミックポリマーと70体積%のSiC無機粒子(matweb.comのウェブサイトによれば、CTEは4~4.5×10
-6/℃)を含む前駆体組成物(乾燥前駆体組成物の総体積が100%)をコーティングすることによって得られる。図示されていない他の変形例によれば、無機粒子の体積充填率は、粒子の性質及び考慮される基板の材料に応じて、50~70体積%である。
【0057】
より詳細には、前駆体組成物は、約2.4重量%の割合のWacker社によって粉末の形で提供されているSILRES MK POWDERポリシロキサンプレセラミックポリマーを、約27.9重量%の割合のDiestone DLS溶媒及び69.7重量%の割合のSiC無機粒子と混合させることによって、調製される。この前駆体組成物の組成のCTEは、シリコンのCTEとの差が10%未満であり、J. Haisman(Applied Optics 1999)によれば、その値は200~1000℃で、3~4×10-6/℃である。別の変形例によれば、SiC無機粒子は、75~85体積%の割合のSi3N4(CTEは3.3×10-6/℃)と15~25体積%の割合のAl2O3(CTEは8.2×10-6/℃)の混合物に置き換えられる。さらに別の変形例によれば、SiC無機粒子は、45~70体積%の割合のSi3N4と30~55体積%の割合のAlN(MatWebのウェブサイトによれば、25~1000℃で、CTEは5.5×10-6/℃)の混合物に置き換えられる。
【0058】
その後、厚膜層4の溶媒は、室温で蒸発させられ、厚膜層4は、所望の厚さまで薄くして、表面を平坦にするために、機械的に厚さ調整される。厚膜層4の通常の厚さは、所望の用途に応じて、溶媒を蒸発させた後で、10~500μmである。
【0059】
図示されていない変形例によれば、溶媒は、30~100℃に設定されたオーブン内で蒸発させられる。
【0060】
図示されていない別の変形例によれば、厚膜層4の堆積は、SILRES MK POWDERとSiCをベースとする前駆体組成物が溶媒を含まない場合に、ホットプレスによって行われる。
【0061】
図4に示されているように、本方法のステップc)にしたがって、第2のシリコン基板5が準備される。厚膜層4との接合を容易にするために、表面に接着プライマー層6が堆積され、10μmの厚さに達するようにする。このプライマー層は、高熱処理に耐えるため、また、それ自体がプレセラミックポリマーでできている厚膜層4との接着及び接合を容易にするために、接着プレセラミックポリマーの中で選択される。ここでは、供給者のWackerから液体の形で入手可能なSILRESR H62Cポリシロキサン(前駆体組成物全体の75重量%)であり、Diesstone DLS溶媒(前駆体組成物全体の25重量%)で希釈される。図示されていない他の可能性によれば、接着プライマー層6の前駆体組成物は、目的とする特性に応じて、及び/又は、熱分解時の体積の収縮を抑えるために、金属、セラミック若しくはポリマー粒子で強化される。
【0062】
この接着プライマー層6には、175℃の温度で熱処理を1時間施すことによる、予備架橋ステップが施される。このステップによって、架橋温度より低い温度で接着プレセラミックポリマーを予備硬化させることができ、厚膜層4に拡散することなく、厚膜層4との接合を可能にする接着特性を与えることができる。図示されていない別の構成によれば、接着プライマー層6は、第2の支持基板5との接合のために、予め予備架橋された厚膜層4上に堆積される。
【0063】
図示されていないさらに別の変形例によれば、接着プライマー層6は、厚膜層4の堆積前に、硬化層3上に堆積され、これによって、硬化層3と厚膜層4との間の良好な接着が可能になるだけでなく、厚膜層4の空隙を塞いで、硬化層3の硬化効果を完全にすることができる。
【0064】
図示されていない別の可能性によれば、本方法は、接着プライマー層6を形成するステップを含まず、選択された材料の特性及び条件によって、この層が存在しなくても、その後の所望の操作に十分な接合エネルギーを得ることができる。
【0065】
図5に示された本方法のステップd)によれば、厚膜層4は、接着プライマー層6を介して第2の基板5と接触させられ、スタック10を形成する。その後、スタック10に、ホットプレスのステップi)が4時間にわたって施される。加えられる圧力は、470kPaで、熱処理は、SILRES MK POWDER及びSILRES H62Cの架橋と初期圧縮を可能にする200℃の温度で行われる。架橋温度は、従来の通り、0.1~20℃/分の加熱勾配によって適用される。この具体例では、1℃/分である。
【0066】
その後、
図6に示されているように、弱化面2に沿って分離させるために、破断熱収支を適用して、薄化のステップe)が行われる。この具体例では、熱収支は、5℃/分の加熱勾配で、300℃と500℃で1時間のステージを持つように、適用される。このようにして、1.5μmの厚さを有するシリコンの活性層7が得られる。
【0067】
最後に、
図7に示されているように、本方法は、アルゴン雰囲気で、SILRES MK POWDERのセラミック化温度に達するまでそれぞれ600℃と800℃で温度が自由に下がる1時間の2つのステージを設けて1℃/分の加熱勾配で1000℃まで昇温する、熱分解熱処理のステップf)を含む。1000℃での熱処理によって、シリコンにおける注入欠陥を修復することもできる。厚膜層4も圧縮され、その当初の厚さは約半分になる。このようにして、多層構造100が得られ、この多層構造100は、表面から基部に向かって、シリコンでできた活性層7、Si
3N
4の硬化層3、焼結されておらず、SiC粒子が充填された、非晶質セラミックマトリックス複合材料の厚膜層4、接着プライマー層6、そして第2のシリコン基板5を含む。
【0068】
ここからは、
図8~10を参照しながら、本発明の第2の実施形態について記述する。この実施形態は、特に、薄化のステップe)が、第1の基板1又は第2の基板5を機械的に厚さ調整する作業によって得られる点で、前の実施形態と異なる。
図8に示されているように、第1の単結晶シリコン基板1上に、スクリーン印刷によって、前駆体組成物の厚膜層4が堆積される。この前駆体組成物は、SILRES MK POWDER(50体積%)と、それぞれ80/20の割合であるSi
3N
4及びAl
2O
3の無機粒子(50体積%)との混合物で構成されており、そこに、スクリーン印刷による堆積のために所望の粘度に達するように、Diestone DLS溶媒が加えられる。室温で溶媒を乾燥させた後、予備架橋されたプレセラミックポリマーでできた接着プライマー層6で覆われた第2の多結晶シリコン基板5が、厚膜層4との接触及び接合のために準備される。得られたスタック10を安定化するために、プレセラミックポリマーの架橋温度でホットプレスするステップi)が行われる(
図9)。その後、約20μmの厚さを有する単結晶シリコンでできた活性層7を得るために、第1の基板1に対して機械的に厚さ調整するステップe)が行われる。なお、機械的な厚さ調整によって薄化を行う場合には、硬化層3は必要ない。1000℃での熱分解処理は、1℃/分の加熱勾配で、600℃と800℃での2つのステージを含めて、行われる(ステップf)。この2つのステージはそれぞれ、1時間続き、その間は、温度は自由に下がることができる。このようにして、基部から表面に向かって以下を含む多層構造100が得られる。
【0069】
-接着プライマー層6で覆われた第2の基板5からなる支持基板
-焼結がなく、Si
3N
4及びAl
2O
3の無機充填物を含み、100μmの厚さを有する、非晶質SiOCセラミックマトリックス複合材料の厚膜層4、及び
-単結晶Siからなり、20μmの厚さを有する活性層7
好適には、厚膜層4は、支持基板の材料のCTEと最大で15%異なるCTEを有する(
図10)。
【0070】
このように、本発明は、簡単に実施できる多層構造の製造方法を提供する。層の性質及び厚さの選択によって、構造は、高温に対する耐性及び顕著な放熱の能力を持つ。無機充填物の率及び性質の選択のように、使用するプレセラミックポリマーの適切な選択によって、異なる層のCTEに関する望ましい特性を保存しながら、他の特性を得ることができる。
【国際調査報告】