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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-30
(54)【発明の名称】基板上への高密度クロムの堆積方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/14 20060101AFI20240523BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20240523BHJP
   C23C 14/48 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
C23C14/14 D
C23C14/34 R
C23C14/48 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571821
(86)(22)【出願日】2022-03-21
(85)【翻訳文提出日】2023-11-17
(86)【国際出願番号】 FR2022050517
(87)【国際公開番号】W WO2022243611
(87)【国際公開日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】2105207
(32)【優先日】2021-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523436137
【氏名又は名称】ハイドロメカニーク エ フロトモント
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホー、クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィラード、マキシム
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029AA27
4K029BA02
4K029BA07
4K029BA11
4K029BA16
4K029BA58
4K029BB02
4K029BC01
4K029BD03
4K029CA05
4K029CA06
4K029CA08
4K029CA13
4K029DC39
4K029EA01
4K029EA08
4K029FA05
4K029JA03
4K029JA06
(57)【要約】
本発明は、ガス中で生成されたプラズマを使用して、連続マグネトロンスパッタリングにより、ターゲットから金属基板上にクロム系材料を堆積させるための方法に関する。
本発明によれば、
●基板に向けられたガス状イオンの流れと基板に向けられた中性クロム原子の流れとの比が0.5~1.7に調整され、
●-50V~-100Vのバイアス電圧が基板に印加される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス中で生成されたプラズマ(P)を使用して、連続マグネトロンスパッタリングによってターゲットから金属基板(S)上にクロム系材料(M)を堆積させるための方法であって、
●前記基板(S)に向けられたガス状イオンの流れ(φi)と前記基板に向けられた中性クロム原子の流れ(φn)との比が0.5~1.7に調整され、及び
●-50V~-100Vのバイアス電圧が前記基板に印加される、
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記基板(S)がジルコニウム合金を含み、前記クロム系材料(M)が前記ジルコニウム合金上に堆積され、及び前記ジルコニウム合金と接触することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ガス状イオンの流れ(φi)と中性クロム原子の流れ(φn)との比が0.7~1.5であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記基板(S)が、-50V~-80Vのバイアス電圧を受けることを特徴とする、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記基板(S)上に堆積された前記材料(M)が、4μm~20μm、好ましくは11μm~17μmの厚さを有する薄層と呼ばれる層を形成することを特徴とする、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記プラズマ(P)がマイクロ波によって生成されることを特徴とする、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ガスが窒素、又は窒素及びアルゴンを含み、前記材料(M)が窒化クロムを含むことを特徴とする、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記堆積がいくつかの基板(S)上で実行され、前記基板(S)が、第1の回転(r1)で、好ましくは軸が平行な2つの組み合わせた回転(r1、r2)で、更により好ましくは軸が平行な3つの組み合わせた回転(r1、r2、r3)で、前記堆積中に移動することを特徴とする、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記基板(S)が、その幅又はその高さの10倍を超える長さを有するか、又は前記基板(S)が、その直径の10倍を超える長さを有することを特徴とする、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記基板(S)が、40mm未満の外径及び1mを超える長さの管であることを特徴とする、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記基板(S)と前記クロム系材料(M)との間にバリア層を形成することを目的とした、タングステン、タンタル、モリブデン、バナジウム又はハフニウムを含む第1の層を前記基板(S)上に堆積させる先行工程を含むことを特徴とする、請求項1~請求項10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
クロム系材料(M)を含む層で覆われた金属基板(S)を含む核燃料シースを製造するための方法であって、請求項1~請求項11のいずれか一項に記載の連続マグネトロンスパッタリングによって、ターゲットから前記クロム系材料(M)を前記金属基板(S)上に堆積させる工程を含むことを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面真空処理、特に基板上へのクロムの物理蒸着の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
クロムの耐酸化特性は、従来技術から周知である。原子炉という特定のケースでは、クロムは、燃料シースをコーティングするために使用される材料の一部を形成し、燃料シースが水による酸化又は水蒸気による酸化から最も良好に保護されるようにする。
【0003】
実際、これらの燃料シースは、一般に、約300℃までの温度で非常に良好な耐酸化性特徴を有するジルコニウム又はジルコニウム合金で作られる。しかしながら、原子炉の給水障害の場合、原子炉からの水は蒸気状態に進むことが起こり得て、これは燃料シースによって放出される熱量の排出効率を大幅に低下させる。これにより、燃料シースの温度が大幅に上昇し、次いで酸化にさらされるようになる。
【0004】
水蒸気によるジルコニウム合金の酸化は、かなりの量の水素を放出し、一方ではシースのジルコニウム合金を弱めることがあり得て、他方では、反応器の上方の空気中の水素の濃度が臨界に至る場合、水素の爆発をもたらし得る。
【0005】
したがって、ジルコニウムを高温での酸化から保護するために、燃料シースの外側部分にクロム又は窒化クロム系保護層を堆積させることが考えられている。そのような層は、その機能を正しく果たすために、「高密度」、すなわち可能な限り少ない多孔度を有していなければならない。
【0006】
考えられ得る様々な技術の中でも、電気めっきとは対照的に、真空蒸着によるものが好ましく、それらは六価クロムなどの危険な汚染物質を与えない。しかしながら、様々な真空蒸着技術は、それらの生産性が工業的期待に適合していないため、又はそれらのスケール拡張が不可能であるため、同等というわけではない。実際、燃料シースという特定のケースでは、これは、長さ数メートル、典型的には長さ約5m及び直径10mmの管をコーティングすることに関する。
【0007】
工業用真空蒸着技術の中でも、陰極アーク蒸発が選択され得る。しかしながら、これは、当の問題に必ずしも適合しておらず、一方では、この技術は、形成された層に欠陥を誘発すると考えられ、これらの欠陥は溶滴として知られている。これらの溶融金属の溶滴は、コーティングされる部品上にアークによって投射され、コーティングの性能を損なう成長欠陥を生成する。
【0008】
一方、この技術は、堆積機械の高さをカバーするために非常に多数の堆積ソースを必要とし、これは、典型的には、長さ5mの基板に対して約30個のサーキュラーソースである。このような多数のソースの高コストに加えて、それらが同時に給電される場合、それらは、堆積中に部品のバイアス電流として数百アンペアを必要とし、したがって、処理工程のうちの1つの間に部品上で偶発的に発火するアークの電流を更に広く超えてしまう。
【0009】
したがって、バイアス発生器がこの電流範囲をカバーしないため、工業化の上での問題が生じる。バイアス電流を制限するために、少数のソース、例えば3つのソースのみを同時に動作させることにより、この問題が回避され得る。したがって、ソースは、機械の高さをカバーするように断続的に動作する。しかし、堆積速度を大幅に低下させることで、生産性における大幅な低下をもたらすであろう。
【0010】
閉磁場マグネトロンスパッタリング技術もまた、高密度なクロム層を製造するために使用されてきた(例えば、文献“Surface and Coatings Technology”, vol. 389 (2020), no. 125618を参照されたい)。この技術は、高密度化のために堆積陰極のプラズマを使用する。欠点は、この磁気構成がスパッタリングターゲットの使用速度を低下させることである。また、イオン衝突の強度は磁気的構成に依存し、調整が容易でないことである。
【0011】
マグネトロンスパッタリングとも呼ばれる従来のマグネトロン技術は、約100kW(キロワット)の発電機を使用することによって、数メートルの長い基板をコーティングすることを可能にする。それらの使用は、例えば、ガラス産業において、幅数メートルのガラス板をインプロセスでコーティングするために周知である。部品のバイアス電流は適度であり、市販の発電機はこの目的に適合している。この技術は溶滴を生成しないので、層は溶滴タイプの欠陥も有さない。
【0012】
しかしながら、得られた従来のマグネトロン層はカラム成長を有し、特に、論文“Protective coatings on zirconium-based alloys as accident-tolerant fuel (ATF) claddings”の図5Aに示されるように、カラムに沿って細孔が発達する。したがって、層の品質は満足のいくものではない。
【0013】
欧州特許第3195322号明細書は、マグネトロン堆積技術の変形版である、高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)の使用を推奨している。この技術では、短い超低電力パルスがスパッタリングターゲットに印加される。これらの短パルスは、一方では、スパッタリングされた金属の部分イオン化を可能にし、他方では、アルゴンの一部のイオン化を可能にする。堆積中の部品のバイアスは、これらのイオンによる層の高密度化を可能にする。従来のマグネトロンに対して、HIPIMSの収率はあまり良くない。これは、特定の金属イオンが陰極に戻ってきて、それゆえにコーティングに利用できないという事実に部分的に起因する。一般に、収率損失は、従来のマグネトロンの堆積速度に対して10%~50%である。
【0014】
HIPIMS技術は、技術的に実行可能であるが、特にこれが数メートルの長さの基板の処理に関する場合、工業化に大きな困難をもたらす。実際、HIPIMS発電機は非常に高価であり、利用可能な発電機の最大平均電力は約20kW~30kWである。従来のマグネトロンよりも3分の1~5分の1の電力では、堆積速度が特に遅くなり、生産性を著しく損なう。
【0015】
更に、HIPIMS技術は、特に基板キャリアバイアス発電機を必要とする。従来の発電機は、パルス中に基板に到達するイオン電流の強度が大きく増加するために、実際には非効率的である。この強度の大きい増加は、プラズマのインピーダンスの突然の低下を発生させ、したがって、発生器のバイアス電圧を0Vに低下させる。したがって、イオンは加速されない。この問題を回避するために、部品のバイアス用のHIPIMS発電機が使用される。そのパルスは堆積発電機のパルスと同期しており、工業用堆積装置に更なる複雑さを与える。
【0016】
堆積される材料の選択は腐食に耐えるために重要であるが、その基準は十分ではなく、酸化に対する効果的な保護を得るためには、その材料の構造及び外観も考慮されなければならない。
【0017】
フランス特許第2708291号明細書は、ガス状プラズマによる増強作用を伴う従来のマグネトロンを使用することによる、金属部品への別のクロム堆積方法を記載している。しかしながら、記載された方法は亜鉛被覆基板に基づくものである。加えて、この方法は、厚さが1μm未満の薄い層のみを堆積させるように適合されているようであり、これでは低い。特に、この文献は、堆積層の密度の問題を解決していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的の1つは、効率的で安価であり、したがって形成されるクロム系層が従来技術の堆積技術と少なくとも同等の密度を有する、クロムを含む材料を基板上に堆積させるための方法を提案することによって、従来技術の問題を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この目的のために、本出願人は、ガス中で生成されたプラズマを使用して、連続マグネトロンスパッタリングによってターゲットから金属基板上にクロム系材料を堆積させるための方法を開発した。
【0020】
本発明によれば、基板に向けられたガス状イオンの流れと基板に向けられた中性クロム原子の流れとの比は、0.5~1.7(両端を含む)に調整され、-50Vから-100V(両端を含む)のバイアス電圧が基板に印加される。
【0021】
本発明による方法は、使用される技術が実証済みであり、必要な材料が市場で広く入手可能であるため、実施が簡単であり、安価である。更に、これらの技術は、特に、独立したプラズマソースと組み合わされたマグネトロンスパッタリング技術、又はHIPIMSではなく独立したプラズマソースと組み合わされた従来のマグネトロン堆積を実施するため、特に困難なく大きな寸法の部品の処理に適合され得る。
【0022】
更に、一方でガス状イオンの流れと中性クロムイオンの流れとの比を0.5~1.7に調整すること、及び他方で基板のバイアス電圧を-50ボルト~-100ボルトに調整すること(これは、ガス状イオンのエネルギーを50eV~100eV(電子ボルト)に調整することになる)は、特に高密度なクロム系層を得ることを可能にし、酸化に対するより良好な保護を与える。
【0023】
したがって、これは、連続マグネトロンスパッタリングによる堆積の範囲内で、クロム系材料層の密度を改善するための方法に関する。
【0024】
ガス状イオンの流れは基板に向けられ、基板のところで基板のバイアスによって加速される。イオンと基板との間のこれらの相互作用は、基板の近くで起こる。成長層に衝突するこれらのイオンは、主にプラズマソースに由来し、わずかな割合でマグネトロン陰極に由来する。したがって、ガス状イオンの流れは、ガス状混合物のイオンを含み、例えばアルゴンイオンなどのプラズマが生成される。プラズマを生成するために窒素が使用される場合、例えば、窒素イオンも含み得る。
【0025】
中性クロム原子の流れは、ケーブルから基板へと向かう向きである。これは、ターゲットに由来するクロム系材料原子を含む。
【0026】
ガス状イオンの流れ及び中性クロム原子の流れの値は、測定値から計算された平均流量値である。実際、実施において、被覆される基板が設備内で移動可能である限り、マグネトロン陰極及びプラズマソースが固定されている間、当該基板は、所与の瞬間におけるそれらの位置取りに応じて、受け取るイオン及びクロムの量は同じではないことが理解される。
【0027】
基板のバイアス電圧、又はより簡単には基板のバイアスは、基板と本方法を実施するデバイスのグラウンドとの間に印加される電位差であると定義される。このバイアスは、連続的であってもよいし、又はパルス直流であってもよい。後者の場合、バイアス電圧は、基板に印加される電圧の平均値である。バイアス電流は、バイアス電圧に対応する(平均)強度である。
【0028】
ガス状イオンの(運動)エネルギーは、基板の周りに広がる電場の増大によってガス状イオンに与えられる。これは、バイアス電圧に関連するもので、プラズマとバイアス電圧の絶対値との間の電位差の絶対値に、考慮される粒子又は種の電荷を乗算することによって計算される。一般に、グラウンドに対するプラズマ電位は、グラウンドと部品との間の電位差に対してわずかなものであると考えられる。このことは、単一の荷電イオンについて、eV単位で表されたイオンからのエネルギーが、ボルト単位での電位差に対応するとみなすことに帰結する。
【0029】
原子炉の分野に適合した特定の実施形態では、基板はジルコニウム合金を含み、クロム系材料は当該ジルコニウム合金上に堆積され、当該ジルコニウム合金と接触している。
【0030】
堆積の密度を更に改善するために、以下の特徴は、個別に又はそれらの技術的に可能な組合せに従って存在し得る。
-ガス状イオンの流れと中性クロム原子の流れとの比は、0.7~1.5である。
-基板は、-50V~-80Vのバイアス電圧を受ける。
【0031】
本方法の実施、特に、大きさの評価の測定を簡単にするために、以下の特徴を、個別に、又はそれらの技術的に可能な組合せに従って採用してもよい。
-ガス状イオンの流れは、基板のバイアス電流から決定され、中性クロム原子の流れは、金属基板上への材料の堆積速度から決定される。
-ガス状イオンの流れは、平均バイアス電流密度を得るために、バイアス電流を基板の総表面積で除算し、次いで当該バイアス電流密度を電子の電荷で除算することによって決定され得る。
-中性クロム原子の流れは、金属基板上への材料の堆積速度に材料の密度を乗算し、次いで材料のモル質量で除算し、次いで、得られた結果をアボガドロ数で乗算することによって決定される。
【0032】
酸化に対する保護が核事故の場合に十分な耐久性があるように、基板上に堆積された材料は、好ましくは4μm~20μm、好ましくは11μm~17μmの厚さを有する薄層と呼ばれる層を形成する。
【0033】
本方法の実施を簡単にするために、プラズマは好ましくはマイクロ波によって生成される。
【0034】
好ましくは、ガスはアルゴンを含む。
【0035】
特定の態様では、ガスは窒素、又は窒素及びアルゴンを含み、材料は窒化クロムを含む。
【0036】
生産性及び設備の合理化を目的として、堆積はいくつかの基板にわたって同時に行われてもよく、基板は、堆積中、第1の回転で、好ましくは軸が平行な2つの組み合わせた回転で、更により好ましくは軸が平行な3つの組み合わせた回転で、移動している。
【0037】
大きな寸法の部品の処理に適合するために、基板は、好ましくは、その幅又はその高さの10倍を超える長さを有するか、又は基板は、その直径の10倍を超える長さを有する。
【0038】
原子炉燃料シースのものなどのある種の特定の場合では、基板は、好ましくは、40mm(ミリメートル)未満の外径及び1m(メートル)を超える長さの管である。
【0039】
高温での基板内のクロムの拡散を防止するために、本方法は、好ましくは、基板上に第1の層を堆積させる先行工程を含み、第1の層は、タングステン、タンタル、モリブデン、バナジウム又はハフニウムを含む。この第1の層は、基板と、続いて堆積されるクロム系材料との間にバリア層を形成する。
【0040】
本発明はまた、クロム系材料を含む層で被覆された金属基板を含む核燃料シースを製造するための方法に関わるものであって、その方法は、上述の堆積方法の技術的特徴に従って、連続マグネトロンスパッタリングによって、ターゲットから当該クロム系材料を当該金属基板上に堆積させる工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明による方法を実施するための設備の概略上面図である。
図2】-55Vのバイアス電圧で実施された第1の一連の試験中に得られた、基板上に堆積されたクロム系材料層の反射率の陰極電力に応じた推移を示すグラフである。
図3】8kW及び10kWの陰極電力で実施された第2の一連の試験中に得られた、基板上に堆積されたクロム系材料層の反射率のバイアス電圧に応じた推移を示すグラフである。
図4】ガス状イオンの流れと中性クロム原子の流れとの比を約1.0として行われた異なる試験中に得られた、基板上に堆積されたクロム系材料層のバイアス電圧に応じた反射率を示すグラフである。
図5】異なるイオンエネルギーについて、試験中に得られた、イオンの流れ/中性(クロム)の流れの比に応じた正反射率をまとめたグラフである。
図6】試験中に得られたAFM粗さをまとめたグラフである。
図7】基板が二重回転(2R)又は三重回転(3R)である場合について、試験中に得られた、イオンの流れ/中性(クロム)の流れの比に応じた正反射率をまとめたグラフである。
図8】本発明の方法に従って処理された基板の断面図である。
図9】本発明の方法に従って処理された別の基板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
表面処理の分野には、いくつかの種類の技術があり、それぞれその利点及びその欠点を有する。部品、特に燃料シース用であり得る長い部品を処理する範囲において、本出願人は、既知の堆積方法を最適化しようとしてきた。
【0043】
汚染を生じる技術、又は既存の実験的解決策ではあるがまだ工業化されていない解決策は、産業への適用における明確で困難な理由があるため、捨てられた。
【0044】
既知で工業的に可能なプラズマ強化従来型マグネトロンスパッタリングによる堆積の技術に基づいて、本出願人は、クロム系材料(M)の堆積を得ることを目的とした異なる一連の試験及び解釈を行い、基板(S)上に高密度層を形成した。
【0045】
図1を参照すると、本方法を実施するために使用される設備(1)は、ポンピングシステム(20)と、従来のマグネトロンスパッタリングソース(30)と、ガス状イオンのプラズマ(P)を生成するプラズマソース(40)と、処理される基板(S)が取り付けられる基板キャリア(50)と、を備えた、二次真空エンクロージャ(10)を含む。
【0046】
ポンピングシステム(20)は、二次真空エンクロージャ(10)内で、すなわち10-8mbar~10-3mbarの程度の真空を得ることを可能にする。ポンピングシステム(20)は、真空エンクロージャ(10)内にガスを導入することもできる。ガスは、プラズマ(P)内でイオン化されるように意図されている。これは、好ましくはアルゴンに関するが、ガスは、アルゴンと組み合わせて、又はアルゴンの代わりに窒素を含み、材料(M)が窒化クロムを含むようにすることもできる。
【0047】
マグネトロンスパッタリングソース(30)、又はマグネトロン(30)は、発電機を備えた従来のタイプのものであり、その電力は約20kWである。発電機の電力は調整可能である。いくつかの発電機を協同させて、堆積ソースにより多くの電力を供給することもできる。従来のマグネトロン(30)については、長い陰極、すなわち数メートルの長い部品を処理することができる長い陰極が利用可能である。これらの長い陰極は、適切な発電機、例えば100kWを必要とし得る。使用される設備によれば、より迅速に堆積するためにいくつかの陰極を追加することが可能であり、その場合、各陰極はその発電機(例えば、2台の50kW発電機)によって電力供給される。
【0048】
プラズマソース(40)は任意の適切なタイプのものであるが、プラズマ(P)は好ましくはマイクロ波によって生成される。
【0049】
基板キャリア(50)は、プラズマのガス状イオンを加速し、したがって基板キャリア(50)の方向にガス状イオン(φi)の流れを生成するために、バイアスされる、すなわち、その端子に負の電圧又は電位差が印加される。このガス状イオンの加速は、部品のバイアスから生じる電界が約1mm~3mmの短い距離にわたって延在するため、基板(S)の近傍で起こる。
【0050】
HIPPIMSであろうと従来のマグネトロンスパッタリングであろうと、ターゲットをスパッタリングし、基板(S)上に堆積物を形成する原子を放出するために、イオンが、マグネトロンの材料(M)で作られたターゲット上に引き付けられる。本発明において、本出願人が関心を持つのはこれらのイオンではない。実際、HIPPIMSであろうと従来のマグネトロンであろうと、これらは、材料(M)堆積が成長する基板(S)上に引き付けられるイオンであり、これは堆積される層の品質にとって重要である。本出願の範囲では、イオンは、アルゴンのような気体種で構成されるか、又はアルゴン及び窒素、更には窒素のみで所望により構成される。ガス又はガス混合物は、堆積させようとする材料、特にクロム又は窒化クロムに応じて選択される。
【0051】
これらのイオンの役割は、基板上に成長する材料(M)の堆積物に衝突してそれを圧縮し、それによって形成材料(M)層の密度を増加させることである。堆積を減速させたり、進行中の堆積の品質を低下させたりしないために、基板(S)上に既に配置されている材料(M)を排出しないように注意しなければならない。
【0052】
一般に、プラズマのイオンは「遅い」ため、成長材料(M)層を圧縮する力はない。HIPPIMS中のイオンが従来のマグネトロンほど遅くないとしても、イオン増強の有無にかかわらず、それらのエネルギーは不十分である。したがって、上記のように、コーティングされる基板(S)に負電圧が印加され、正イオンを当該基板(S)に向けて引き付けて加速する。
【0053】
バイアス電圧は、-50V~-100V、好ましくは-50V~-80Vである。基板キャリア(50)、したがって基板(S)のバイアスは、ガス状イオンをその近傍で基板(S)に向かって加速することを可能にし、イオンが、成長中の堆積物に衝突し、したがってその堆積中に材料層を高密度化することを可能にする。
【0054】
プラズマ(P)中の基板(S)のバイアスの場合、基板(S)とグラウンドとの間にバイアス電圧が印加される。基板(S)とプラズマ(P)との間に電位差が確立される。イオンが加速されるのは、基板(S)の表面領域上の約1mm~3mmにわたる、この電位降下ゾーン内である。
【0055】
イオンの運動エネルギーは、プラズマ(P)と基板(S)との間の電位差と同化可能である。ほとんどのプラズマでは、プラズマの電位は不明であるが、一般的には数ボルト、例えば+5V~+10Vである。実際には、プラズマ(P)の電位は、基板(S)に印加される電圧が絶対値で数十ボルトに達すると0Vに同化される。
【0056】
この近似は、イオンが基板(S)の近くの加速段階における衝突によって減速されないので、低圧力で有効である。
【0057】
これらのイオンの加速がそれらの電荷及び電位差に比例するので、バイアス電圧は、このバイアス電圧に電子の電荷を乗算することによって、堆積中にイオンに与えられるエネルギーに同化される。実際には、考慮される技術分野では、イオンは一般に1電荷を有する。
【0058】
基板キャリア(50)は、好ましくは回転式であり、すなわち、第1の回転(r1)で駆動される第1のプレート(51)を含む。有利には、この第1のプレート(51)は、第1の回転(r1)の軸に平行な軸の第2の回転(r2)で駆動されるスピナ(52)を埋め込んでおり、また有利には、スピナ(52)自体は、第1の回転及び第2の回転(r1、r2)の軸に平行な軸の回転(r3)で駆動される支持体(53)を埋め込んでいる。
【0059】
したがって、基板は、材料(M)を受け入れるためにマグネトロン(30)の前でスクロールし、次いで、ガス状イオンの衝撃が堆積された材料(M)層を圧縮するように、プラズマソース(40)の前でスクロールする。しかしながら、基板キャリア(50)は、処理される基板(S)に応じて、任意の適切なタイプのものであってもよい。
【0060】
基板(S)上に堆積された材料(M)層内で得られた密度を容易に評価できるようにするために、試料の幾何学的形状及び堆積層の厚さに応じて2つの間接的な技術が使用される。
-反射率の測定;及び
-原子間力顕微鏡による粗さ(AFM粗さ)の測定。
【0061】
これらの2つの測定手段は相補的であり、得られた層の密度の推移を容易に評価することを可能にする。原則として、層が特にそれを構成するカラムの間でより多孔質になると、カラムの上部が丸みを帯び、これにより粗さ及び光の拡散の両方が生じる。当然ながら、これらの手段は、層の密度の推移の有用且つ迅速な指標であり、特定の数の一定のパラメータを維持する条件下で、基板(S)の粗さ、好ましくは鏡面研磨されたもの、又は更に堆積した材料の量などの比較に使用されなければならない。
【0062】
反射率の測定は、例えば550nmの波長を有する正反射率の測定である。固体の、研磨されてそれゆえに理想的に滑らかなクロムは、550nmで60%~65%の光を反射する。したがって、50%を超える反射率、好ましくは55%を超える反射率は、試験の範囲内で満足できるものと見なされる。
【0063】
しかしながら、材料(M)層が本発明の意味において厚く、すなわち10μm以上の大きさの厚さになると、材料によって形成された結晶又は粒子は、堆積層の表面にファセットを有するような寸法になり、これらのファセットは、鏡面方向とはわずかに異なる方向に光を反射する。したがって、正反射率は低下し得るが、分析される層は非常に高密度である。したがって、正反射率の測定値は、厚さが近い層を比較するために使用されなければならない。
【0064】
AFM粗さは、試料の表面状態を3次元的に解析したものである。低い粗さは、均質に成長した層の表面状態、したがって高密度に対応する。逆に、高い粗さは、まばらなカラム構造を有する層の表面状態に対応する。
【0065】
必要に応じて、例えば集束イオンビーム(FIB)によって試料を切断することも可能である。これらの切断は、堆積層の形態を観察し、得られた結晶の外観及びサイズ、並びに多孔性の欠如を確認することを可能とする。
【0066】
設備(1)内では、いくつかの一連の試験が行われている。使用される基板(S)は、いくつかの場合、コーティングされる実際の部品を表す金属管であり、他の場合、管よりも容易な特性評価を可能にする小さな研磨された平坦な試料である。
【0067】
試験片は、真空下に置かれる前に洗浄される。平坦な試験片の場合、溶媒による脱脂は、例えば酢酸エチルを使用して進行され、エタノールですすぐ。管の場合、業界で従来使用されている手段、すなわち洗剤中での超音波脱脂が進められ、次いで水道水及び脱塩水ですすぐ。最後に、清浄な部品を熱風で乾燥させる。様々な試験片は、図示された好ましい実施形態の基板キャリア(50)上に設置される。
【0068】
ポンピングシステム(20)は、エンクロージャ(10)の内部の加熱を開始する前に、約10-3mbarの圧力まで予備ポンピングを実行する。基板キャリア(50)は、三重回転モードで移動され、処理の終了までそこに留まる。基板(S)の表面の脱着を加速する目的で、基板(S)及びエンクロージャ(10)の内部も150℃で2時間加熱される。
【0069】
こうして、残留真空度は3×10-5mbar未満に低減される。
【0070】
次いで、基板(S)の表面は、プラズマエッチングによって洗浄され、次いで、基板(S)は、マグネトロンスパッタリングによってコーティングされる。
【0071】
以下に示す表は、全ての試験について行われた堆積条件をまとめたものである。この表では、
-「Pu K」は、マグネトロン(30)の陰極の出力であり、
-「P MO」は、プラズマソース(40)の出力であり、
-「Vd」は、堆積中に測定された材料(M)の堆積速度であり、
-「Jb」は、上で説明した方法に従って計算されたバイアス電流密度であり、
-「R%」は、波長550nmで堆積後に測定された、堆積された層の正反射率であり、
-「Sa AFM」は、堆積後に測定された堆積層のAFM粗さであり、
-「φi/φn」は、ガス状イオンの流れ(φi)と中性クロム原子の流れ(φn)との比であり、
-「Ei(#Vb)」は、基板(S)のバイアス電圧の絶対値であり、この値に該当の種の電荷を乗算することによってガス状イオンのエネルギーに同化可能である。
【0072】
【表1】
【0073】
このようにコーティングされた基板(S)は、約5μmまでの中程度の厚さの層についてはCalotestによって、あるいは5μmを超える大きい厚さについては断面の顕微鏡像によって、その堆積層の厚さについて特性解析される。
【0074】
平坦な試験片について、正反射率及びAFM粗さの測定によっても特性評価が行われる。実際、まばらな層はカラム構造を有し、カラムの頂部は光を拡散させ、これにより正反射率が低下する。層が高密度化される場合、カラムの頂部が平坦化され、反射率が増加する。側面から5μmの画像で行われるAFM粗さ測定にも同様の原理が適用される。
【0075】
第1の堆積シリーズでは、マイクロ波電力は、1200W発電機で最大に調整される。ガス状イオン(φi)の流れはほぼ一定であるが、実際にはバイアス電圧の絶対値が増加するとわずかに増加する。
【0076】
バイアス電圧によってガス状イオンのエネルギーを変化させることによって層の密度を最適化することを追求する。中性クロム原子の流れは、マグネトロン(30)の陰極に印加される電力によって調整される。試験1~試験10では、堆積厚さは4.8μm~5.0μmである。マグネトロン(30)の陰極の電力が変更されると、それに沿って、同じ層厚を維持するために、堆積の継続時間が調整される。
【0077】
試験1は、三重遊星回転で処理された基板(S)上に非常に多孔質のクロム層を与える。これは、欧州特許第3195322号明細書の図面1Aで言及されているものに対応する。層が低密度であることは、特にイオンの量が非常に少ないこと(プラズマ増強なし)によって説明され、低反射率が示すように、光を拡散し、光を吸収する非常に粗い表面によって特徴付けられる。
【0078】
「三重」回転構成は、1回の同じ処理装入で処理される部品の数を最大化することを可能にし、したがって生産性を最大化することを可能にするという点で、図1を参照して本文で説明する設備にとって好ましい態様である。しかしながら、本発明の方法の実施は、「三重」回転構成での設置に限定されないことが理解されるであろう。
【0079】
試験2は、1200W発電機の最大出力に任意に調整されたプラズマ(P)によるイオン増強を加える効果を示す。層の密度のかなりの増加が観察され、これはより低い明瞭(clear)堆積速度によって特徴付けられる。実際には、表面単位当たりの同じ質量が基板(S)上に堆積される。しかし、層の密度がより大きいため、その厚さは小さい。したがって、μm/h単位の層の成長速度が低下する。層のカラム状性がより低い場合、それらのより滑らかな表面が光をより良好に反射する;正反射率は2%から52.2%へと達する。
【0080】
試験2~試験5は、基板キャリア(50)のバイアス電圧によって調整されるイオンのエネルギーの影響を試験することを目的としている。-55V、-75V及び-125Vのバイアスで行われる試験3~5の層は、試験2の堆積物よりも粗いことに留意されたい。
【0081】
図2は、-55Vの一定の基板(S)のバイアスに対して、マグネトロン(30)の陰極の電力を変化させることによって得られた反射率を表すグラフである。
【0082】
本出願人は、実施された試験のおかげで、正反射率、したがって材料(M)層の密度が、4kW~8kWの陰極電力において最適に達し、次いでそれを超えると減少する傾向があることを発見した。したがって、マグネトロン(30)の陰極電力の単独の評価は、材料(M)層を高密度化するのに十分ではない。このグラフは、陰極電力と高密度層を得るためのイオン増強との間に明確でない関係があることを示している。
【0083】
定量的測定を使用するため、及び本方法をスケール変更(scaling)することを可能にするために、これらの陰極電力の大きさ及びイオン増強の大きさが
-プラズマ(P)によるイオン強化のためのガス状イオンの流れ(φi)において、及び
-マグネトロン(30)の陰極電力のための中性クロム原子の流れ(φn)において
引き継がれる(conveyed)。
【0084】
この場合、中性クロム原子の流れ(φn)は、高密度と見なされる層のcm/sで表される堆積速度を、クロムの密度(7.15g/cm)で乗算し、クロムのモル質量(51.9961g/モル)で除算し、アボガドロ数(N=6.022×1023mol-1で表される)で乗算し、1cm当たり及び1秒当たりのクロム原子の数を与えることから決定される。
【0085】
全バイアス電流をバイアスされた面の全面積で除算することにより、基板上の平均電流密度を得る。これを基本電荷(1.6×10-19C)で除算することにより、1秒当たり1cmの基板(S)表面積に当たる単一荷電イオンの数が得られる。
【0086】
実際、プラズマ(P)はプラズマソース(40)に位置し、基板(S)の衝突はその近くで発生するが、基板(S)によって回収される総電流は、表面の全てが常に平均イオン衝突、すなわち平均電流密度を受ける場合と同じである。
【0087】
中性クロム原子の流れ(φn)の計算は、暗黙的に同じ方法で行われ、マグネトロン陰極(30)の前の基板(S)の通過中に堆積物が形成されるという事実にもかかわらず、堆積物の厚さを堆積継続時間で除算することによって、平均堆積速度が決定される。しかしながら、堆積の全期間中にコーティングされた対象として基板(S)の表面全体があり、したがって、表面全体がこのように計算された中性クロム原子の流れ(φn)を恒久的に受けていたものとする(as if)。
【0088】
試験条件では、プラズマ(P)を生成するためのマイクロ波電力は最大に固定されている。ガス状イオンの流れ(φi)と中性クロム原子の流れ(φn)との比を調整するために、マグネトロン(30)の陰極電力は、ガス状イオンの加速電圧が-55V~-125Vに調整されると同時に8kWに減少させる(試験6~試験9)。堆積物が最もコンパクトに見えるのは、-55V~-75Vの電圧の場合である。エネルギーが大きすぎるイオンは、堆積物の質を低下させる。
【0089】
追記として、バイアス電流密度は0.05mA/cm~2mA/cmである。しかしながら、試験が示すように、堆積層の良好な高密度化を得るには不十分であり、ガス状イオンの流れと中性クロム原子の流れとの間の比φi/φnが0.5~1.7という基準を満たすために、堆積速度に応じて調整されなければならない。
【0090】
これに関して、試験5を試験6~試験9と比較することによって、(試験5の)より高い陰極電力、すなわち陰極のより高い電流密度は、堆積速度を改善するが、許容可能な密度の層を得ることを可能にはしないことに留意されたい。これは、時間単位当たりに基板上に到達する中性クロム原子の量が多すぎる(比率0.67)ためである。試験6~試験9では、陰極電力、すなわち陰極の電流密度は例5よりも低いが、比φi/φnはより高く、0.7よりも大きく、堆積層の密度を改善する。
【0091】
マグネトロン(30)の陰極電力を適合させることによって、ガス状イオンの流れ(φi)と中性クロム原子の流れ(φn)との比が増加し続けると、層の密度は増大し続ける(試験10及び11)。
【0092】
試験12では、マグネトロン(30)の陰極電力の減少は、過剰なイオン衝突による材料(M)層の成長の劣化をもたらす。その意味で、ガス状イオンの流れ(φi)と中性クロム原子の流れ(φn)との比として1.88は過剰である。
【0093】
図3は、マグネトロン(30)の陰極電力を8kW又は10kWの一定値として、基板(S)のバイアス電圧を変化させることによって得られた反射率を表す別のグラフである。これらのグラフは、図2の教示を完結させ、そこでは、基板(S)が-100Vでバイアスされている場合、やはり10kWの陰極電力は高密度な堆積物を得ることに使用することができることが分かる。これは、イオンのわずかな不足がバイアス電圧の増加によって部分的に補償され得ることを示している。しかしながら、反射率は少しながらより低いままである。
【0094】
しかしながら、8kWの陰極電力は、非常に高い電圧に対して悪い結果を与え得る。これは、更に、試験7の条件下のように、過剰なエネルギーを有するイオンが堆積層の表面を劣化させることを回避するために、ガス状イオンの流れ(φi)と中性クロム原子の流れ(φn)との間の比に加えてバイアス電圧範囲が考慮されるべきであることを示す。
【0095】
この点は、図4によって確認され、図4は、番号6、7及び10の3つの試験によって得られた反射率を示すグラフであり、ガス状イオンの流れ(φi)と中性クロム原子の流れ(φn)との比は1.0に近い。ここで、-125Vでの試験7の高すぎるバイアス電圧は、材料(M)層を高密度化するのではなく、それを劣化させるように、ガス状イオンに過度のエネルギーを与えることが分かる。
【0096】
したがって、イオンエネルギーが50eV~75eV、中性の流れに対するイオンの流れの比が0.7~1.5で生成された層は、良好な成長特徴を組み合わせて、クロムベースの高密度材料(M)堆積物を有する(本発明による試験8~試験11)。試験1~試験7の層は、迅速に堆積されるが、いくつかは理想的にコンパクトな層の特徴を有さないため、全てが合致(conform)しているわけではない。試験12は適合性ゾーンから出ており、その特徴はわずかに劣化し、その堆積速度も興味を引くものではない。
【0097】
試験13及び14では、常に5μmの厚さの層について、マグネトロン(30)の陰極電力が増加されて、堆積速度を増加させる。ガス状イオンの流れ(φi)及び中性クロム原子の流れ(φn)を維持するために、1200Wのプラズマソース(40)のマイクロ波発生器は、試験13用の2000W発生器に置き換えられている。プラズマソース(40)のマイクロ波発生器の設定は2000Wに固定されている。
【0098】
更に進むと、試験14では、第2のプラズマソース(40)が追加される。この第2のプラズマソース(40)も2000Wのマイクロ波発生器を備えている。試験14では、各マイクロ波発生器は1800Wの出力を有し、これにより、プラズマ(P)によるイオン増強のために総電力が3600Wになる。
【0099】
プラズマ(P)によるイオン増強の総電力を増加させることにより、マグネトロン(30)の陰極への電力を増加させることが可能になり、それにより、三重回転での堆積速度が0.6μmを超え1.8μm/hに達する。
【0100】
図5及び図6は、それぞれ図5に正反射率及び図6にAFM粗さを表す、実施された試験をまとめた2つのグラフである。後者では、正反射率とAFM粗さとの間の相関がよりよく見えるように縦座標スケールが反転されているが、これは実際には逆相関に関連し、AFM粗さが低いほど、正反射率が大きくなる。
【0101】
得られた層の密度を検証するために、試験11は、厚さが5.0μm~14.0μmを通過するように堆積時間を増加させることによって、試験11’で再現されている。わずかな反射率の低下が観察され、14μmに近い厚さについては47.3%であるのに対し、5μmの厚さの層については60.1%を超える。AFM粗さSaは、厚さ5μmの層に対して7.2nmであるのに対し、14μmに近い厚さに対して10nmで、中程度のままである。
【0102】
三重回転試験と並行して、回転モードからの影響があるかどうかを検証する目的で、基板(S)は、二重回転構成でコーティングされる。結果は図7にまとめられており、図7は流れ比に応じた反射率の推移を示している。この図から分かるように、二重回転では、0.5~1.0のφi/φn比に対して、すなわち三重回転よりも低い比に対して、50%を超える反射率が得られる。最大反射率を得るために、このモードでは、好ましくは0.7~1.0の比が選択されるであろう。また、反射率の最大値は、三重回転よりも二重回転の方が低いことが観察されるが、これは堆積物の厚さがより厚いためである。
【0103】
実際、2つの回転モードには、対象物装填(charge)の充填率による違いがある。二重回転モードでは、対象物装填は直径110mmのシリンダで構成され、その上に基板(S)が固定される。これは最適な充填に関連すると考えられ得る。他方、三回転モードでは、対象物装填は直径10mmの12本の管の環状配置で構成され、管の間に約15mmの空間がある。したがって、これは比較的穴がある(perforated)充填に関する。この場合、堆積速度はより遅く、斜め入射で、熱運動化された流れによる堆積がおそらくより多く存在する(すなわち、中性原子の運動エネルギーは、ガスとの衝突により低下している)。したがって、堆積物を高密度化するためにはより多くのイオンが必要であることが観察される。反射率50%の境界値は、0.7の比を超えるところで交差し、反射率は約1.7の比まで高いままであり、その後、ガス状イオンによる過剰衝突によって低下する。最適値は、1.0~1.5の比に対して得られる。
【0104】
この穴の開いた搭載様式(mounting)は、長い管を処理する場合に必要であり、その非常に長い長さ及びこれに起因する可能な矢印(fleche(最初のeはアクサン・グラーブ))
のため、部品間の接触を回避するために、処理中において管同士の間にかなりの距離が必要であると思われる。図8及び図9は、基板(S)上に堆積された材料(M)層の形態を観察するためにFIBによって切断されたコーティングの断面図である。技術的理由から、FIB切断を進めるために、アルミニウム(a)層が試料上に追加されている。走査型電子顕微鏡下で行われたこれらの観察では、堆積層の厚さの測定のために検出器に向けたプレートの傾斜を補正することは行っておらず、これらの断面図は、単に堆積層の外観を観察することのみに役立つようにしている。
【0105】
図8は、試験11中に得られた層の断面図であり、特に、基板(S)の表面上に形成されたクロム系材料(M)粒子の外観を示す。堆積の厚さは薄く、全ての粒成長方向が存在しており、粒子は全ての方向に配向される。
【0106】
図9は、試験11’中に得られた層の断面図である。
【0107】
堆積のベース部分は、層の厚さのうちベース部分以外の部分における粒子よりも小さい粒子(g)で構成される。層は、好ましい成長方向を選択することにより堆積し、上部においては、層はもはや大きな粒子(G)から構成されるのではなく、層の成長方向に拡張している。粒子(G)の上部は、鏡面方向とわずかに異なる方向に光を反射するはっきりとしたファセットを形成する傾向がある。このことは、観察される正反射率の低下を説明するものである。しかしながら、粒子同士が接触しており、粒子間に多孔性が見られないことは明らかである。
【0108】
クロム以外の材料は、例えば窒化クロムなど、金属基板の耐酸化性を可能にすることが知られている。アルゴンに加えて窒素をエンクロージャ(10)に導入することによって、この場合に記載される方法を反応モードに渡す(pass)ことが可能である。
【0109】
したがって、2つの材料を交互にすることによって、例えば、高密度クロム層上に窒化クロム層を追加するように、多層堆積を行うことさえ、容易に可能であろう。
【0110】
図示されていない変形例によれば、タングステン、タンタル、モリブデン、バナジウム又はハフニウムなどの金属を含む第1の層の基板(S)上への先行堆積は、クロム系材料(M)の堆積に先立って進行する。
【0111】
基板(S)と材料(M)との間に堆積されたこの第1の層は、高温で材料(M)のクロムが基板(S)内で拡散しないようにバリア層を形成することを意図しており、その拡散は、溶融温度を低下させる可能性があり、それゆえに燃料シースという特定の場合には、事象(incident)が悪化する速度を速める可能性がある。この第1の層は、第2のマグネトロン陰極(第1の層の材料のソース)を実装することによって、且つ同じプラズマソース(40)を使用することによって堆積される。
【0112】
更に、本方法は、特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、与えられた例とは異なる方法で実施され得る。
【0113】
図示されていない変形例では、イオン増強のプラズマ(P)はマイクロ波によって生成されるのではない。実際、重要なのはプラズマソース(40)によって消費される電力ではなく、部品で利用可能なガス状イオンの量、すなわち本出願人の提案するガス状イオンの流れ(φi)の解釈である。
【0114】
他のガス状イオンソースを使用することができる。閉磁場マグネトロンスパッタリングも可能である。これらの変形例は、流れの比の範囲を実現するために、マグネトロンの不均衡及び陰極間の磁力線のループを正確に調整することを必要とし得る。
【0115】
更に、上述の様々な態様及び変形例の技術的特徴は、全体的に又はそれらの一部について、一緒に組み合わされ得る。したがって、方法及び設備(1)は、コスト、機能性及び性能に関して適合させることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】