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特表2024-521266バランスのとれたスポーク剛性を有する非空気圧式タイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-30
(54)【発明の名称】バランスのとれたスポーク剛性を有する非空気圧式タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 7/00 20060101AFI20240523BHJP
【FI】
B60C7/00 H
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577175
(86)(22)【出願日】2022-05-20
(85)【翻訳文提出日】2023-12-13
(86)【国際出願番号】 US2022072454
(87)【国際公開番号】W WO2022266572
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】63/212,202
(32)【優先日】2021-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515168916
【氏名又は名称】ブリヂストン アメリカズ タイヤ オペレーションズ、 エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リマイ,ベンジャミン イー.
(72)【発明者】
【氏名】プロトナー,ブラッドレー エス.
(72)【発明者】
【氏名】クマー,プラシャント
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BA02
3D131BB19
3D131BC41
3D131CC03
(57)【要約】
【解決手段】 非空気圧式タイヤ及び非空気圧式タイヤを形成する方法。非空気式タイヤは、第1の直径を有する下部リングと、第1の直径よりも大きい第2の直径を有する上部リングと、を含む。上部リングは、下部リングと実質的に同軸である。複数のスポークが、下部リングと上部リングとの間に延在して、当該リングを相互接続している。複数のスポークは、11かつ150N/mm°以下の張力剛性、及び11以上かつ100N/mm°以下の圧縮剛性を有する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非空気圧式タイヤであって、
第1の直径を有する下部リングと、
前記第1の直径よりも大きい第2の直径を有する上部リングであって、前記下部リングと実質的に同軸である、上部リングと、
前記下部リングと前記上部リングとの間に延在し、かつ前記リングを相互接続する複数のスポークと、を備え、
前記複数のスポークが、11以上かつ
【数1】
以下の張力剛性、及び11以上かつ
【数2】
以下の圧縮剛性を有する、非空気圧式タイヤ。
【請求項2】
前記複数のスポークのうちのそれぞれ1つが、実質的にC字形状である、請求項1に記載の非空気圧式タイヤ。
【請求項3】
前記複数のスポークのうちのそれぞれ1つについて、前記スポークの頂点が、前記第2の直径と前記第1の直径との差の0.5~2倍の範囲の距離だけ、前記スポークの基部から前記タイヤの周方向にオフセットされる、請求項2に記載の非空気圧式タイヤ。
【請求項4】
前記複数のスポークのうちのそれぞれ1つが、線形張力挙動及び線形圧縮挙動のうちの少なくとも1つを有する、請求項1に記載の非空気圧式タイヤ。
【請求項5】
前記複数のスポークのうちのそれぞれ1つが、線形張力挙動及び線形圧縮挙動を有する、請求項1に記載の非空気圧式タイヤ。
【請求項6】
前記複数のスポークのうちのそれぞれ1つが、1~25mmの前記タイヤの周方向の厚さを有する、請求項1に記載の非空気圧式タイヤ。
【請求項7】
前記複数のスポークのうちのそれぞれ1つが、260~305mmの前記タイヤの前記タイヤの軸方向に幅を有する、請求項1に記載の非空気圧式タイヤ。
【請求項8】
前記複数のスポークが、0.3:1~8:1の範囲の張力剛性と圧縮剛性との比を有する、請求項1に記載の非空気圧式タイヤ。
【請求項9】
前記複数のスポークが、0.5:1~1:1の範囲の張力剛性と圧縮剛性との比を有する、請求項1に記載の非空気圧式タイヤ。
【請求項10】
非空気圧式タイヤを製造する方法であって、
モデル幅及びモデル設計荷重容量を有するモデルタイヤをモデル化する工程と、
前記モデル化する工程に基づいて、基準張力剛性値及び基準圧縮剛性値を選択する工程であって、前記基準張力剛性値が、11以上かつ
【数3】
以下であり、前記基準圧縮剛性が、11以上かつ
【数4】
以下である、選択する工程と、
前記選択する工程中に選択された前記基準張力剛性値及び前記基準圧縮剛性値を調整することによって、第1の設計幅及び第1の設計容量を有するタイヤ設計について、第1の理想張力剛性及び第1の理想圧縮剛性を計算する工程と、
前記第1の設計幅及び前記第1の設計容量を有し、前記計算する工程中に計算された前記第1の理想張力剛性及び前記第1の理想圧縮剛性を更に有する、第1の非空気圧式タイヤを製造する工程と、を含む、方法。
【請求項11】
前記モデル幅が300mmであり、前記モデル設計荷重容量が22,200Nである、請求項10に記載のタイヤを製造する方法。
【請求項12】
前記第1の理想張力剛性を計算する前記工程が、次式に従って計算され、
【数5】
式中、kt,度が、前記理想張力剛性であり、kt,基準が、前記選択する工程中に選択される前記基準張力剛性値であり、fが、前記第1の設計荷重容量であり、wが、前記第1の設計幅であり、
前記第1の理想圧縮剛性を計算する前記工程が、次式に従って計算され、
【数6】
式中、kc,度が、前記理想圧縮剛性であり、kc,基準が、前記選択する工程中に選択される前記基準圧縮剛性値であり、fが、前記第1の設計荷重容量であり、wが、前記第1の設計幅である、請求項11に記載の非空気圧式タイヤを製造する方法。
【請求項13】
前記基準張力剛性値と前記基準圧縮剛性値との比が、0.3:1~8:1の範囲である、請求項10に記載の非空気圧式タイヤを製造する方法。
【請求項14】
前記製造する工程が、下部リング及び上部リングを提供することと、複数のC字形状のスポークを形成することと、前記下部リング及び前記上部リングを前記複数のC字形状のスポークと相互接続することと、を含む、請求項10に記載の非空気圧式タイヤを製造する方法。
【請求項15】
前記複数のC字形状のスポークを形成する工程が、各スポークの頂点を、前記上部リングの直径と前記下部リングの直径との差の0.5~2倍の範囲の距離だけ、前記非空気圧式タイヤの周方向の各スポークの基部からオフセットすることを含む、請求項14に記載の非空気圧式タイヤを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非空気圧式タイヤに関する。より具体的には、本開示は、タイヤへの荷重を分散させるように、バランスのとれた引っ張り及び圧縮スポーク剛性を有する非空気圧式タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤが非膨張状態又は膨張不足状態で走行することを可能にする様々なタイヤの構造が開発されている。非空気圧式タイヤは、膨張を必要としないが、「ランフラット」タイヤは、パンクして部分的又は完全に減圧された後でも、長期間、比較的高速で動作し続けることができる。非空気圧式タイヤは、下部リングを上部リングに接続するスポーク又はウェビングなどの支持構造体を含み得る。他の設計パラメータの中でも、各スポークの張力剛性及び圧縮剛性を変化させることは、非空気圧式タイヤの性能に影響を及ぼす。
【0003】
低い張力剛性及び高い圧縮剛性を有するスポークを有するタイヤは、「ボトムローディング」タイヤとして知られている。これらのタイヤは、圧縮状態において大部分の荷重を担持する。ボトムローディングタイヤは、良好な荷重担持特性を提供するが、スポークの高い圧縮剛性のため、スポークが衝撃事象の発生中に「凹む」能力が限られるので、衝撃吸収性能に欠陥があり得る。これは、不十分な乗り心地特性を有するタイヤをもたらし得る。
【0004】
高い張力剛性及び低い圧縮剛性を有するスポークを伴うタイヤは、「トップローディング」タイヤとして知られている。これらのタイヤは、張力付与状態において大部分の荷重を担持する。トップローディングタイヤは、ボトムローディングタイヤに勝る向上した衝撃吸収性能を提供するが、トップローディングタイヤの全体的な配置におけるスポークの固有張力値及び固有圧縮値は、タイヤ構成要素に不所望に高い応力又は歪みを発生させ得る。更に、トップローディングタイヤの回転の任意の所与の瞬間において、タイヤの上半分に位置付けられたスポークは、正味の上向きの引っ張りを有するが、タイヤの下半分に位置付けられたスポークは、正味の下向きの引っ張りを有し得る。その結果、タイヤは、定格荷重を担持するように設計しなければならないだけでなく、タイヤの下半分に位置付けられたスポークの下向きの引っ張りに打ち勝つようにも設計しなければならない。これは、タイヤ構成要素における不所望に高い応力又は歪みの発生に関して、上述したトップローディングタイヤの設計上の問題を悪化させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、許容可能な衝撃吸収性能を提供すると同時に、タイヤ構成要素における許容可能な応力及び歪みも有する、非空気圧式タイヤを提供することが望ましい。
【0006】
一実施形態では、非空気圧式タイヤは、第1の直径を有する下部リングと、第1の直径よりも大きい第2の直径を有する上部リングと、を含む。上部リングは、下部リングと実質的に同軸である。複数のスポークが、下部リングと上部リングとの間に延在して、当該リングを相互接続している。複数のスポークは、11以上かつ
【0007】
【数1】
以下の張力剛性、及び11以上かつ
【0008】
【数2】
以下の圧縮剛性を有する。
【0009】
別の実施形態では、非空気圧式タイヤは、第1の直径を有する下部リングと、第1の直径よりも大きい第2の直径を有する上部リングと、を含む。上部リングは、下部リングと実質的に同軸である。複数のスポークが、下部リングと上部リングとの間に延在して、当該リングを相互接続している。複数のスポークは、0.3:1~8:1の範囲の張力剛性と圧縮剛性との比を有する。
【0010】
更に別の実施形態では、非空気圧式タイヤを製造する方法は、モデル幅及びモデル設計荷重容量を有するモデルタイヤをモデル化することを含む。当該方法は、モデル化する工程に基づいて、基準張力剛性値及び基準圧縮剛性値を選択することであって、基準張力剛性値が、11以上かつ
【0011】
【数3】
以下であり、基準圧縮剛性が、11以上かつ
【0012】
【数4】
以下である、選択することを更に含む。第1の理想張力剛性及び第1の理想圧縮剛性は、選択する工程中に選択された基準張力剛性値及び基準圧縮剛性値を調整することによって、第1の設計幅及び第1の設計容量を有するタイヤ設計について計算される。当該方法は、第1の設計幅及び第1の設計容量を有し、更に、計算する工程中に計算された第1の理想張力剛性及び第1の理想圧縮剛性を有する、第1の非空気圧式タイヤを製造することを更に含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
添付の図面では、以下に提供される詳細な説明とともに、特許請求される本発明の代表的実施形態を説明する構造が例解される。同様の要素は、同一の参照番号で特定される。単一の構成要素として示される要素を、多数の構成要素に置き換えてもよく、多数の構成要素として示される要素を、単一の構成要素に置き換えてもよいことが理解されるべきである。図面は正確な縮尺ではなく、特定の要素の比率が例解のために誇張されている場合がある。
図1図1は、非空気圧式タイヤの一実施形態の正面図である。
図2図2は、図1の非空気圧式タイヤの拡大部分正面図である。
図3図3は、図2の3-3に沿った非空気圧式タイヤの断面図である。
図4図4は、代替的な実施形態の非空気圧式タイヤの代替的な実施形態の部分正面図である、
図5a図5aは、スポークの張力剛性を決定するための試験配置の正面図を示す概略図である。
図5b図5bは、スポークの圧縮剛性を決定するための試験配置の正面図を示す概略図である。
図5c図5cは、スポークの撓みとスポークの力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下は、本明細書において採用される選択用語の定義を含む。定義は、用語の範囲内にあり、及び実装のために使用され得る構成要素の様々な例又は形式を含む。例は、限定を意図するものではない。用語の単数形及び複数形は、いずれも定義の範囲内であり得る。
【0015】
「軸方向の」及び「軸方向に」は、タイヤの回転軸と平行する方向を指す。
【0016】
「周方向の」及び「周方向に」は、軸方向に対して垂直であるトレッドの表面の外周部に沿って延在する方向を指す。
【0017】
「径方向の」及び「径方向に」は、タイヤの回転軸に対して垂直である方向を指す。
【0018】
本明細書で使用するとき、「トレッド」は、通常の膨張度及び通常の荷重において、道路又は地面と接触するタイヤの部分を指す。
【0019】
以下の説明で使用される同様の用語によって一般的なタイヤ構成要素が説明されるが、当然のことながら、用語は若干異なる含意を有するため、当業者は、以下の用語のうちのいずれか1つが、一般的なタイヤ構成要素の説明に使用される別の用語と単に交換することができるとはみなさないであろうことを理解されたい。
【0020】
本明細書では、方向は、タイヤの回転軸を基準にして述べられる。「上向きの」及び「上向きに」という用語は、タイヤのトレッドに向かう一般方向を指し、「下向きの」及び「下向きに」は、タイヤの回転軸に向かう一般方向を指す。したがって、「上部の」及び「下部の」又は「頂部の」及び「底部の」など相対的な方向用語が要素に関連して使用されるとき、「上部の」又は「頂部の」要素は、「下部」又は「底部」の要素よりもトレッドに近い位置に離間配置される。追加的に、「上」又は「下」など相対的な方向用語が要素に関連して使用されるとき、別の要素の「上」にある要素は、他の要素よりもトレッドに近い。
【0021】
「内側の」及び「内側に」という用語は、タイヤの赤道面に向かう一般方向を指し、「外側の」及び「外側に」は、タイヤの赤道面から離れ、タイヤの側部に向かう一般方向を指す。したがって、「内部」及び「外部」など相対的な方向用語が要素と関連して使用されるとき、「内部」要素は、「外部」要素よりもタイヤの赤道面の近くに離間配置される。
【0022】
図1及び図2は、非空気圧式タイヤ100の一実施形態の正面図である。非空気圧式タイヤ100は、第1の直径を有する下部リング110と、第1の直径よりも大きい第2の直径を有する上部リング120と、を含む。下部リング110及び上部リング120の各々は、軸方向に延在してタイヤ幅を画定する。上部リング120は、下部リング110と実質的に同軸である。下部リング110は、ハブ130に取り付けられている。ハブ130は、例えば、非空気圧式タイヤ100を車両に取り付けるために使用され得る。代替の実施形態では、ハブは、省略され得る。
【0023】
周方向トレッド140は、上部リング120の周りに配置されている。トレッド140は、溝、リブ、ブロック、ラグ、サイプ、スタッド、及び他の要素などのトレッド要素を含み得る。剪断バンド、剪断要素、又は補強構造体(図示せず)は、上部リング120とトレッド140との間に配置され得る。代替の実施形態では、トレッドが省略され得、トレッド要素が上部リングに直接形成され得る。
【0024】
複数のスポーク200は、下部リング110と上部リング120との間に延在して、当該リングを相互接続している。例解される実施形態では、複数のスポーク200のうちのそれぞれ1つの設計は、実質的に同一である。したがって、複数のスポーク200の更なる説明は、単一のスポークを参照して行われる。しかしながら、代替の実施形態では、異なるスポークの幾何学的形状が異なり得ることが理解されるべきである。他の代替的な実施形態では、下部リング及び上部リングを相互接続するためにウェビングが使用され得る。
【0025】
スポーク200のそれぞれ1つは、非空気圧式タイヤ100の略径方向に沿って、第1の端部205と第2の端部210との間に延在している。第1の端部205は、下部リング110に取り付けられている。第2の端部210は上部リング120に取り付けられている。スポーク200はまた、非空気圧式タイヤ100の略軸方向に沿って、第1の縁部215と第2の縁部220との間に延在して、スポーク幅を画定する。例解される実施形態では、スポーク200の幅は、下部リング110及び上部リング120の幅よりも僅かに狭い。代替の実施形態では、スポークは、下部リング若しくは上部リングに等しい幅を有し得、又はスポークは、下部リング若しくは上部リングよりも広い幅を有し得る。
【0026】
各スポーク200は、張力剛性と称され得る、第1の張力における剛性kを有する。各スポーク200はまた、圧縮剛性と称され得る、第2の圧縮における剛性kを有する。各スポーク200の張力剛性k及び圧縮剛性kは、非空気圧式タイヤ100の性能特性に影響を及ぼす。
【0027】
図5aは、スポークの張力剛性kを決定するための試験配置の正面図を示す概略図である。スポークサンプルSは、静止状態に保持された第1の端部510と、第1の端部510に対して自由に移動できる第2の端部515と、を有する。荷重は、スポークサンプルSの第2の端部515に、矢印A1によって示される第1の方向に印加される。荷重は、スポークSの第2の端部515を第1の端部510に対して張力距離d(この図には示さず)だけ撓ませる。荷重は、同様に、第2の端部515が張力距離dだけ移動したときに、スポークサンプルSに張力fを生じさせる。
【0028】
図5bは、スポークサンプルSの圧縮剛性kを決定するための試験配置の正面図を示す概略図である。この配置では、スポークサンプルSの第2の端部515に印加される荷重は、矢印A2によって示される第2の方向であり、図5aに示される第1の方向の反対である。荷重は、スポークサンプルSの第2の端部515を第1の端部510に対して圧縮距離d(この図には示さず)だけ撓ませる。荷重はまた、第2の端部515が圧縮距離dだけ移動したときに、スポークサンプルSへの圧縮力fを生じさせる。
【0029】
図5cに示されるグラフは、スポークの撓みとスポークの力との関係を示し、撓みがx軸に沿ってプロットされ、力がy軸に沿ってプロットされている。グラフの右側は、張力f及び張力距離dのプロットであり、一方で、グラフの左側は、圧縮力f及び圧縮距離dのプロットである。張力剛性kは、点(0,0)を点(d,f)に接続する線の傾斜を測定することによって決定される。圧縮剛性kは、点(0,0)を点(d,f)に接続する線の傾斜を測定することによって決定される。
【0030】
既知の非空気圧式タイヤは、概して、「ボトムローディング」又は「トップローディング」としてカテゴリ化され得る。ボトムローディングタイヤは、主に、タイヤが載置される地面と荷重がタイヤに印加される点との間のタイヤの圧縮によって荷重を担持し、地面の近くに位置付けられたごく少数のスポークが、タイヤの回転中の任意の所与の瞬間に大部分の荷重を担持する。このように、ボトムローディングタイヤのスポークの圧縮剛性は、主な設計要素であるが、スポークの張力剛性は、あまり重要ではない。ボトムローディングタイヤは、良好な荷重担持特性を提供することができるが、不十分な衝撃吸収性能を提供し得る。
【0031】
比較すると、トップローディングタイヤは、主に、フープ状の構造体の使用を通じて荷重を担持する。ごく少数のスポークが大部分の荷重を担持するボトムローディングタイヤとは異なり、トップローディングタイヤのフープ状の構造体は、荷重をより均一にタイヤの全てスポークに分配する。このように、トップローディングタイヤのスポークの圧縮剛性及び張力剛性はどちらも、重要な設計要素である。特定のトップローディングタイヤの配置では、スポークの張力剛性は、スポークの圧縮剛性よりも桁違いに高くなり得、これは、タイヤの力にアンバランスを生じさせ得る。したがって、トップローディングタイヤは、良好な衝撃吸収性能を提供することができるが、トップローディングタイヤは、この力のアンバランスのため、タイヤ構成要素における不所望に高い応力又は歪みが欠点である。
【0032】
本開示は、上述した問題を解決し、許容可能な衝撃吸収性能を有すると同時に、タイヤ構成要素における許容可能な応力及び歪みも有する非空気圧式タイヤを提供する、非空気圧式タイヤを設計するために使用することができる式及び値を特定する。具体的には、本開示は、所望の幅及び所望の荷重容量のタイヤについて、理想張力剛性kt,度及び理想圧縮剛性kc,度を計算するために使用することができる式及び値を特定するものであり、理想張力剛性kt,度及び理想圧縮剛性kc,度は、各々が、1度当たりのスポーク剛性で表され、
【0033】
【数5】
の単位を有する。
【0034】
非空気圧式タイヤ200の性能特性は、スポーク20の総数に影響を受けるので、理想張力剛性kt,度及び理想圧縮剛性kc,度の値は、1度当たりのスポーク剛性
【0035】
【数6】
に関して最適に表される。一般的に言えば、スポークの総数を減少させるには、各スポークの圧縮剛性及び張力剛性を増加させることが必要であり、スポークの総数を増加させるには、各スポークの圧縮剛性及び張力剛性を減少させることが必要である。例えば、タイヤは、最初に60本のスポークで設計されて、ベースラインの性能特性を提供する。この初期設計から始めて、スポークの総数を減少させる場合には、ベースラインの性能特性を維持するために、各スポークの張力剛性及び圧縮剛性を増加させて、スポークの減少を補償しなければならない。スポークの総数を初期設計から増加させる場合には、ベースラインの性能特性を維持するために、各スポークの張力剛性及び圧縮剛性を減少させて、スポークの増加を補償しなければならない。
【0036】
前述したことを考慮すれば、以下の式及び値を使用して、1度当たりのスポーク剛性に関して表される理想張力剛性kt,度及び理想圧縮剛性kc,度の値を計算することができる。
【0037】
【数7】
【0038】
理想張力剛性kt,度及び理想圧縮剛性kc,度の値を計算する際の第1の工程は、モデルタイヤをモデル化して、基準張力剛性kt,基準及び基準圧縮剛性kc,基準の値を最適化することである。モデル化は、例えば有限要素解析を使用して実行され得る。このモデル化は、固有モデル幅w基準及び固有モデル荷重容量f基準を有するモデルタイヤを使用して実行される。例示的な一実施形態では、モデルタイヤは、300mmの幅w基準及び22,200Nの荷重容量f基準を有する。
【0039】
タイヤをモデル化する際に、設計者は、非空気圧式タイヤの意図する用途を考慮に入れる。基準圧縮剛性kc,基準を増加させると、より硬い乗り心地及び比較的小さい占有面積を有するタイヤが提供され、一方で、圧縮剛性kc,基準を減少させると、より軟かい乗り心地及び比較的大きい占有面積を有するタイヤが提供される。基準張力剛性kt,基準を増加及び減少させることで、同様の変化が得られる。しかしながら、一般的に言えば、11~
【0040】
【数8】
の範囲の基準張力剛性kt,基準、及び11~
【0041】
【数9】
の範囲の基準圧縮剛性kc,基準が、望ましい非空気圧式タイヤ性能特性を提供することが分かっている。より好ましくは、17~
【0042】
【数10】
の範囲の基準張力剛性kt,基準及び11~
【0043】
【数11】
の範囲の基準圧縮剛性kc,基準を有するタイヤが提供される。更により好ましくは、17~
【0044】
【数12】
の範囲の基準張力剛性kt,基準及び11~
【0045】
【数13】
の範囲の基準圧縮剛性kc,基準を有するタイヤが提供される。最も好ましくは、タイヤは、17~
【0046】
【数14】
の範囲の基準張力剛性kt,基準及び17~
【0047】
【数15】
の範囲の基準圧縮剛性kc,基準を有するタイヤが提供される。
【0048】
また、基準張力剛性kt,基準及び基準圧縮剛性kc,基準の固有値にかかわらず、0.3:1~8:1の範囲の基準張力剛性kt,基準と基準圧縮剛性kc,基準との比が、望ましい非空気圧式タイヤ性能特性をもたらすことが見出されている。より好ましくは、基準張力剛性kt,基準と基準圧縮剛性kc,基準との比が0.5:1~8:1の範囲であるタイヤが提供される。最も好ましくは、基準張力剛性kt,基準と基準圧縮剛性kc,基準との比が0.5:1~1:1の範囲であるタイヤが提供される。kt,基準が1未満である場合、タイヤのスポークは、圧縮状態において荷重の大部分を担持し得る。しかしながら、タイヤ構造は、トップローディングタイヤの場合のように、力がタイヤの外周の周りに伝達され、それにより、荷重を伝達する際にスポークの全てが重要な役割を果たす。
【0049】
前述のガイドラインが確立されることで、基準張力剛性kt,基準及び基準圧縮剛性kc,基準の正確な値が、モデルタイヤのモデル化及び所望の性能特性に基づいて選択される。次いで、基準張力剛性kt,基準及び基準圧縮剛性kc,基準を式に入力して、第1の設計幅及び第1の設計荷重容量を有する所望のタイヤ設計のための理想張力剛性kt,度及び理想圧縮剛性kc,度の値を計算することができる。設計されるタイヤの幅(すなわち、第1の設計幅)は、wで表され、ミリメートルで測定されて、スポーク、下部リング、及び上部リングの全てが同じ幅であると仮定する。設計されるタイヤの設計荷重容量(すなわち、第1の設計荷重容量)は、fで表され、ニュートンで測定される。
【0050】
1つの非限定的な例では、モデル化されるタイヤが、設計されるタイヤの理想張力剛性kt,度及び理想圧縮剛性kc,度の値に到達するために、基準張力剛性kt,基準及び基準圧縮剛性kc,基準の値を調整する際に、300mmのモデル幅w基準及び22,200Nのモデル荷重容量f基準が再度使用される。その結果、式は、以下のようになる。
【0051】
【数16】
【0052】
この例では、300mmのモデル幅w基準及び22,200Nのモデル荷重容量f基準を有するタイヤを使用して最初のモデル化が実行された時点で、理想張力剛性kt,度及び理想圧縮剛性kc,度の値を、異なるタイヤ幅及び異なるタイヤ設計荷重容量について迅速に調整することができる。このため、第1の設計幅及び第1の設計荷重容量を有するタイヤの理想張力剛性kt,度及び理想圧縮剛性kc,度の値が計算された時点で、式を再度使用して、第2の設計幅及び第2の設計荷重容量を有するタイヤの理想張力剛性kt,度及び理想圧縮剛性kc,度の値を計算することができる。これにより、第1の、第2の、及び後続のタイヤ設計を迅速に設計することができる。
【0053】
理想張力剛性kt,度及び理想圧縮剛性kc,度を計算した後に、以下の式を使用することによって、各スポークの固有張力剛性kt,固有及び固有圧縮剛性kc,固有を決定することができる。
【0054】
【数17】
【0055】
これらの式によれば、各スポークの固有張力剛性kt,固有及び固有圧縮剛性kc,固有は、理想張力剛性kt,度及び理想圧縮剛性kc,度の各々に(360°/n)を乗算することによって決定することができ、ここで、nは、設計されるタイヤのスポークの総数である。この演算を実行することで、N/mmで表される、各スポークの固有張力剛性kt,固有及び固有圧縮剛性kc,固有の値を提供する。このため、固有張力剛性kt,固有及び固有圧縮剛性kc,固有は、異なる数のスポークを有するタイヤについて迅速に調整することができる。
【0056】
様々なスポーク設計は、上記の式に従って計算される所望の固有張力剛性kt,固有及び固有及び固有圧縮剛性kc,固有を提供し得、また、例えば、幾何学的形状、材料選択、及び補強材の組み合わせを通して達成され得る。図4は、無荷重状態にあり、かつ所望の固有張力剛性kt,固有及び固有圧縮剛性kc,固有を提供することができる例示的なスポーク設計を有する、非空気圧式タイヤ400の一部を示す。図4の非空気圧式タイヤ400は、図1図3の非空気圧式タイヤ100と実質的に同様である。したがって、図4のタイヤの説明は省略され、同様の特徴部は、「300」だけ増加させた数字によって識別される。
【0057】
非空気圧式タイヤ400は、第1の直径を有する下部リング410と、第1の直径よりも大きい第2の直径を有する上部リング420と、を含む。下部リング410と上部リング420との間の距離は、Rによって表される。上部リング420は、下部リング410と実質的に同軸である。複数のスポーク500は、下部リング410と上部リング420との間に延在して、当該リングを相互接続している。複数のスポーク500のうちのそれぞれ1つの設計は、実質的に同一である。このため、複数のスポーク500の更なる説明は、単一のスポークを参照して行われる。
【0058】
スポーク500のそれぞれ1つは、実質的にC字形状であり、非空気圧式タイヤ400の略径方向に沿って、第1の端部505と第2の端部510との間に延在している。第1の端部505は、下部リング410に取り付けられている。第2の端部510は、上部リング420に取り付けられている。第1の端部505及び下部リング410の取り付け点の間に描かれた直線は、基部と称され得、Bで表される。C字形状のスポークの頂点Aは、基部Bからタイヤの周方向に沿って、距離rだけオフセットされる。
【0059】
上述した式を使用して計算される所望の固有張力剛性kt,固有及び圧縮剛性kc,固有を有するスポーク500は、以下の式を使用して設計できることが見出された。
r=(0.5)R
この式では、既知の内径及び外径を有する非空気圧式タイヤ400について、下部リング410と上部リング420との間の距離Rを計算することができる。1つの例示的な実施形態によれば、距離Rに(0.5)を乗算してオフセット距離rを計算することで、望ましい非空気圧式タイヤの性能特性を提供することが見出された。他の例示的な実施形態では、距離Rに0.5~2の範囲の値を乗算することで、許容可能な非空気圧式タイヤ特性を提供することが見出された。所望の固有張力剛性kt,固有及び固有圧縮剛性kc,固有を有するスポークを提供することに加えて、上記の式はまた、ほぼ線形の張力挙動及び圧縮挙動を有するスポークを提供することが見出された。
【0060】
1つの例示的な実施形態によれば、C字形状のスポーク500は、約200ギガパスカルの弾性係数、1.575mmの周方向厚さ、及び305mmの軸方向幅で、鋼から製造される。これらのパラメータは、固有張力剛性kt,固有及び圧縮剛性kc,固有に関して上で論じた設計目的を逸脱することなく、変化し得る。例えば、スポークは、炭素繊維強化ポリマー、ガラス強化ポリマー、プラスチック(熱可塑性物質又は熱硬化性物質)、及びステンレス鋼などの他の金属から製造され得る。別の例として、スポークは、1~25mm、より好ましくは1~10mmの厚さを有し得る。更に別の例として、スポークは、200~305mm、より好ましくは260~305mmの幅を有し得る。1つの設計パラメータを変更するには、固有張力剛性kt,固有及び圧縮剛性kc,固有に関して所望の設計目的を維持するために、別の設計パラメータを変更することが必要になり得ることが理解される。例えば、スポークが鋼ではなくポリマーから作製される場合、スポークの幅が305mmのままであると仮定すると、スポークの厚さを23mmに増加させることが必要であり得る。別の例として、スポークの幅を狭くする場合は、スポークの厚さを増加させることが必要であり得る。
【0061】
前述のスポーク設計は、本明細書に開示される固有の張力剛性kt,固有及び圧縮剛性kc,固有を提供する設計の1つの可能性に過ぎない。固有の張力剛性kt,固有及び圧縮剛性kc,固有の設計目的を満たす他のスポーク設計が可能である。
【0062】
本明細書又は特許請求の範囲で使用される範囲において、「含む(comprising)」という用語が特許請求項で移行句として用いられる際の解釈と同様に、「含む(includes)」又は「含むこと(including)」という用語が包括的であることが意図される。更に、「又は(or)」という用語が用いられる範囲において(例えば、A又はB)、「A若しくはB、又は両方」を意味することが意図されている。本出願人らが「両方ではなくA又はBのみ」を示すことを意図する場合、「両方ではなくA又はBのみ(only A or B but not both)」という用語が用いられる。したがって、本明細書における「又は」という用語の使用は、排他的ではなく、包括的である。Bryan A.Garner,A Dictionary of Modern Legal Usage 624(2d.Ed.1995)を参照されたい。また、「中(in)」又は「中へ(into)」という用語が、本明細書又は特許請求の範囲において使用される範囲において、「上(on)」又は「上へ(onto)」を追加的に意味することが意図される。更に、「接続する(connect)」という用語が本明細書又は特許請求の範囲において使用される範囲において、「~と直接接続する(directly connected to)」ことだけではなく、別の構成要素を介して接続することなどのように「~と間接的に接続する(indirectly connected to)」ことも同様に意味することが意図される。
【0063】
本出願をその実施形態の記述によって例解し、またその実施形態をかなり詳細に説明してきたが、添付の特許請求の範囲の範囲をこのような詳細に制限するか、又はいかなる形式でも限定することは、出願人らの意図するものではない。追加の利点及び改良が、当業者には容易に明らかとなるであろう。したがって、そのより広い態様における本出願は、図示及び説明される、特定の詳細、代表的な装置及び方法、並びに例示的実施例に限定されるものではない。このため、出願人の一般的な発明概念の趣旨又は範囲から逸脱することなく、そのような詳細からの逸脱がなされてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図5c
【手続補正書】
【提出日】2023-12-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非空気圧式タイヤであって、
第1の直径を有する下部リングと、
前記第1の直径よりも大きい第2の直径を有する上部リングであって、前記下部リングと実質的に同軸である、上部リングと、
前記下部リングと前記上部リングとの間に延在し、かつ前記リングを相互接続する複数のスポークと、を備え、
前記複数のスポークが、11以上かつ
【数1】
以下の張力剛性、及び11以上かつ
【数2】
以下の圧縮剛性を有する、非空気圧式タイヤ。
【請求項2】
前記複数のスポークのうちのそれぞれ1つが、実質的にC字形状である、請求項1に記載の非空気圧式タイヤ。
【請求項3】
前記複数のスポークのうちのそれぞれ1つについて、前記スポークの頂点が、前記第2の直径と前記第1の直径との差の0.5~2倍の範囲の距離だけ、前記スポークの基部から前記タイヤの周方向にオフセットされる、請求項2に記載の非空気圧式タイヤ。
【請求項4】
前記複数のスポークのうちのそれぞれ1つが、線形張力挙動及び線形圧縮挙動のうちの少なくとも1つを有する、請求項1に記載の非空気圧式タイヤ。
【請求項5】
前記複数のスポークが、0.3:1~8:1の範囲の張力剛性と圧縮剛性との比を有する、請求項1に記載の非空気圧式タイヤ。

【国際調査報告】