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特表2024-521271表面処理されたジルコニア粉体、ジルコニア分散液およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-31
(54)【発明の名称】表面処理されたジルコニア粉体、ジルコニア分散液およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C09C 3/08 20060101AFI20240524BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240524BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20240524BHJP
【FI】
C09C3/08
C09D201/00
C09D7/62
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023524454
(86)(22)【出願日】2022-09-15
(85)【翻訳文提出日】2023-04-20
(86)【国際出願番号】 CN2022119078
(87)【国際公開番号】W WO2023213036
(87)【国際公開日】2023-11-09
(31)【優先権主張番号】202210485112.5
(32)【優先日】2022-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519094927
【氏名又は名称】山東国瓷功能材料股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANDONG SINOCERA FUNCTIONAL MATERIAL CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宋錫濱
(72)【発明者】
【氏名】馬海洋
(72)【発明者】
【氏名】艾遼東
(72)【発明者】
【氏名】奚洪亮
【テーマコード(参考)】
4J037
4J038
【Fターム(参考)】
4J037AA30
4J037CB04
4J037CB09
4J037CB16
4J037EE11
4J037EE28
4J037EE43
4J037FF02
4J038HA146
4J038KA06
4J038KA20
4J038NA25
4J038PB08
(57)【要約】
本開示は、表面処理されたジルコニア粉体、ジルコニア分散液およびその使用を提供し、光学樹脂の技術分野に属する。該表面処理されたジルコニア粉体の表面に表面処理剤が含まれており、前記表面処理剤は、R-Y構造を有し、R基が立体障害の大きい基を含み、Y基がジルコニアと作用できる基を含む。表面処理剤によりジルコニアの表面に立体障害の大きい基を導入し、この立体障害の大きい基の立体障害効果を利用してジルコニア粒子の凝集を抑制し、これによって表面処理されたジルコニア粉体の分散性および凝集抑制効果が優れる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に表面処理剤が含まれており、
前記表面処理剤は、R-Y構造を有し、
R基が立体障害の大きい基を含み、Y基がジルコニアと作用できる基を含む
ことを特徴とする表面処理されたジルコニア粉体。
【請求項2】
前記立体障害の大きい基は、置換もしくは無置換のベンゼン環、置換もしくは無置換のナフタレン環、置換もしくは無置換のナフテン、イソプロピル基、tert-ブチル基およびイソブチル基の少なくとも1種を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の表面処理されたジルコニア粉体。
【請求項3】
ジルコニアと作用できる前記基は、カルボキシル基、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、エポキシ基、カルボニル基、アミノ基、水素元素およびハロゲン元素の少なくとも1種を含む
ことを特徴とする請求項1または2に記載の表面処理されたジルコニア粉体。
【請求項4】
ジルコニア溶液に表面処理剤を添加して反応させ、反応が完了したあとに溶剤を除去して前記表面処理されたジルコニア粉体を得る
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の表面処理されたジルコニア粉体の調製方法。
【請求項5】
前記表面処理剤の添加量がジルコニアの質量の3%~20%である
ことを特徴とする請求項4に記載の調製方法。
【請求項6】
前記ジルコニア溶液は、ジルコニア水溶液と有機溶剤とを混合することにより得られたものである
ことを特徴とする請求項4に記載の調製方法。
【請求項7】
前記有機溶剤は、プロピレングリコールモノエチルエーテルを含む
ことを特徴とする請求項6に記載の調製方法。
【請求項8】
前記混合は、ジルコニア水溶液と有機溶剤の質量比が、1:0.5~2である
ことを特徴とする請求項6に記載の調製方法。
【請求項9】
前記混合は、ジルコニア水溶液と有機溶剤の質量比が、1:1である
ことを特徴とする請求項8に記載の調製方法。
【請求項10】
溶剤を除去する方法は、凍結乾燥を含む
ことを特徴とする請求項4に記載の調製方法。
【請求項11】
請求項1~3のいずれか1項に記載の表面処理されたジルコニア粉体または請求項4~10のいずれか1項に記載の調製方法により調製される表面処理されたジルコニア粉体を含む
ことを特徴とするジルコニア分散液。
【請求項12】
前記表面処理されたジルコニア粉体の含有量は、50wt.%~75wt.%である
ことを特徴とする請求項11に記載のジルコニア分散液。
【請求項13】
前記ジルコニア分散液の溶剤は、有機溶剤を含む
ことを特徴とする請求項11に記載のジルコニア分散液。
【請求項14】
前記有機溶剤は、アルコール系有機溶剤、ケトン系有機溶剤、エステル系有機溶剤、エーテル系有機溶剤、芳香族炭化水素系有機溶剤、ハロゲン化炭化水素系有機溶剤およびシクロアルカン系有機溶剤の少なくとも1種を含む
ことを特徴とする請求項13に記載のジルコニア分散液。
【請求項15】
前記ケトン系有機溶剤は、メチルエチルケトンを含む
ことを特徴とする請求項14に記載のジルコニア分散液。
【請求項16】
凝集抑制剤がさらに含まれている
ことを特徴とする請求項11に記載のジルコニア分散液。
【請求項17】
前記凝集抑制剤は、SU235、SU241、SU912、SU920およびSU983の少なくとも1種を含む
ことを特徴とする請求項16に記載のジルコニア分散液。
【請求項18】
光学フイルムの調製における、請求項11~17のいずれか1項に記載のジルコニア分散液の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光学樹脂の技術分野に属し、特に、表面処理されたジルコニアナノ粉体、ジルコニア分散液およびその使用に関する。
関係出願の相互参照
本出願は、2022年05月06日に中国専利局に提出された、出願番号が202210485112.5であり、名称が「表面処理されたジルコニアナノ粉体、ジルコニア分散液およびその使用」である中国出願に基づいて優先権を主張し、その内容のすべては本出願に参照として取り込まれる。
【背景技術】
【0002】
ジルコニアナノ粒子は、屈折率が高く、有機マトリックスに使用してマトリックスの光学特性を変えることができる。例えば、ジルコニアナノ粒子により調製されるジルコニア分散液は、光透過性を保ちながら有機マトリックスの屈折率を高めることに使用されている。ジルコニア分散液の屈折率は、添加されるジルコニアの割合およびジルコニア粒子の特性によって決められ、一次粒子間の会合度が、ジルコニア分散液の特性に影響を与える最も重要なパラメータの1つであり、粒子が凝集(会合)すると、ジルコニア分散液の屈折率、光透過率などの特性の向上に不利である。
【0003】
ジルコニアナノ粒子の表面修飾は、ナノ粒子の凝集を防止または低減し、有機マトリックスでのナノ粒子の安定性を向上させることができる。いくつかの表面修飾されたジルコニア分散液が調製された実績があったが、その多くは凝集抑制効果および安定性が劣るなどの欠陥があるため、表示分野に使用するときに効果の発揮に影響を与える。ジルコニア有機溶剤分散液を調製するとき、粒子凝集を防止するため、液相法(例えば溶剤置換または限外ろ過など)の方式で調製することが多い。このような方法は、複雑で、液体物質の輸送が困難で、コストが比較的高く、粉体を溶剤に再溶解させる方式が粉体凝集の問題を克服することができない。
【0004】
これに鑑みて、本開示を考案した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、従来技術における、ジルコニア粉体の凝集度が高く、安定性および分散性が劣る技術的問題が改善される表面処理されたジルコニア粉体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の上記の目的の少なくとも1つを実現するため、下記の技術案を採用する。
【0007】
本開示の第1局面において、表面処理されたジルコニア粉体を提供する。前記ジルコニア粉体の表面に表面処理剤が含まれており、前記表面処理剤は、R-Y構造を有し、R基が立体障害の大きい基を含み、Y基がジルコニアと作用できる基を含む。
【0008】
任意で、前記立体障害の大きい基は、置換もしくは無置換のベンゼン環、置換もしくは無置換のナフタレン環、置換もしくは無置換のナフテン、イソプロピル基、tert-ブチル基およびイソブチル基の少なくとも1種を含む。
【0009】
好ましくは、ジルコニアと作用できる前記基は、カルボキシル基、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、エポキシ基、カルボニル基、アミノ基、水素元素およびハロゲン元素の少なくとも1種を含む。
【0010】
本開示の第2局面は、前記表面処理されたジルコニア粉体の調製方法を提供する。該調製方法は、ジルコニア溶液に表面処理剤を添加して反応させ、反応が完了したあとに溶剤を除去して前記表面処理されたジルコニア粉体を得る。
【0011】
任意で、前記表面処理剤の添加量がジルコニアの質量の3%~20%である。
【0012】
任意で、前記ジルコニア溶液は、ジルコニア水溶液と有機溶剤とを混合することにより得られたものである。
【0013】
好ましくは、前記有機溶剤は、プロピレングリコールモノエチルエーテルを含む。
【0014】
好ましくは、前記混合は、ジルコニア水溶液と有機溶剤の質量比が、1:0.5~2であり、1:1が好ましい。
【0015】
任意で、溶剤を除去する方法は、凍結乾燥を含む。
【0016】
本開示の第3局面において、ジルコニア分散液を提供する。該ジルコニア分散液は、前記表面処理されたジルコニア粉体を含む。
【0017】
任意で、前記表面処理されたジルコニア粉体の含有量は、50wt.%~75wt.%である。
【0018】
任意で、前記ジルコニア分散液の溶剤は、有機溶剤を含む。
【0019】
好ましくは、前記有機溶剤は、アルコール系有機溶剤、ケトン系有機溶剤、エステル系有機溶剤、エーテル系有機溶剤、芳香族炭化水素系有機溶剤、ハロゲン化炭化水素系有機溶剤およびシクロアルカン系有機溶剤の少なくとも1種を含む。
【0020】
好ましくは、前記ケトン系有機溶剤は、メチルエチルケトンを含む。
【0021】
任意で、前記ジルコニア分散液には、凝集抑制剤がさらに含まれている。
【0022】
好ましくは、前記凝集抑制剤は、SU235、SU241、SU912、SU920およびSU983の少なくとも1種を含む。
【0023】
本開示の第4局面において、光学フイルムの調製における、前記ジルコニア分散液の使用を提供する。
【0024】
従来技術に比べて、本開示は、少なくとも下記の有益な効果を有する。
【0025】
本開示に係る表面処理されたジルコニア粉体、表面処理剤によりジルコニアの表面に立体障害の大きい基を導入し、この立体障害の大きい基の立体障害効果を利用してジルコニア粒子の凝集を抑制し、これによって表面処理されたジルコニア粉体の分散性および凝集抑制効果が優れる。
【0026】
本開示に係る表面処理されたジルコニア粉体の調製方法は、プロセスが簡単で、量産に適する。
【0027】
本開示に係るジルコニア分散液は、調製される表面処理されたジルコニア粉体の再溶解により得られたものであり、ジルコニアの質量含有量が50%~75%に達することができ、粒子の凝集度が0.2~3であり、常温遮光の条件下で12ヶ月静置したあとの屈折率変化率が1%未満であり、分散が均一で、安定性が高く、再溶解効果が良好で、凝集度が小さい。
【0028】
本開示に係るジルコニア分散液を光学フイルムの調製に使用すれば、光学フイルムに安定性の良い分散液を提供でき、調製される光学フイルムの均一性が良く、光学フイルムの屈折率および性能が大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、実施例を参照しながら、本開示の技術案を明瞭かつ完全に説明する。説明する実施例は、本開示の一部の実施例にすぎず、すべての実施例ではない。本開示の実施例をもとに、当業者が発明能力を用いることなく得たすべての他の実施例も、本開示の保護範囲に属する。
【0030】
ナノサイズの粉体は、サイズが小さく、比表面積が大きく、粉体系の表面エネルギーがとても高いため、該粉体系が熱力学的に不安定な系となっている。系内の表面エネルギーを下げるため、ナノ粉体の一次粒子が寄り集まって二次粒子となり、これが凝集である。一次粒子の粒径が一次粒径であり、二次粒子の粒径が二次粒径である。
【0031】
本開示の第1局面において、表面処理されたジルコニア粉体を提供する。前記ジルコニア粉体の表面に表面処理剤が含まれており、前記表面処理剤は、R-Y構造を有し、R基が立体障害の大きい基を含み、Y基がジルコニアと作用できる基を含む。
【0032】
本開示に係る表面処理されたジルコニア粉体は、表面処理剤によりジルコニアの表面に立体障害の大きい基を導入し、この立体障害の大きい基の立体障害効果を利用してジルコニア粒子の凝集を抑制し、これによって表面処理されたジルコニア粉体の分散性および凝集抑制効果が優れる。
【0033】
任意で、前記立体障害の大きい基は、置換もしくは無置換のベンゼン環、置換もしくは無置換のナフタレン環、置換もしくは無置換のナフテン、イソプロピル基、tert-ブチル基およびイソブチル基の少なくとも1種を含む。
【0034】
置換もしくは無置換のベンゼン環は、ベンゼン環におけるオルト位、メタ位またはパラ位の置換を含み、一置換、二置換または三置換であり得る。置換基は、ハロゲン、ニトロ基、シアノ基、水酸基、アミノ基、C1~C10アルキル基、C1~C10アルコキシ基およびアクリロイルオキシ基から選択される少なくとも1種である。
【0035】
置換もしくは無置換のナフタレン環は、置換基が、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、分岐アルキル基、シクロアルキル基、シアノ基、ニトロ基、メトキシ基、ベンゾイル基、フェノキシ基およびフェノキシメチル基から選択される少なくとも1種である。
【0036】
前記置換もしくは無置換のナフテンは、3~12員環であり得、環上の置換基が、ハロゲン、ニトロ基、シアノ基、水酸基、アミノ基、C1~C10アルキル基およびC1~C10アルコキシ基から選択される少なくとも1種である。
【0037】
好ましくは、ジルコニアと作用できる前記基は、カルボキシル基、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、エポキシ基、カルボニル基、アミノ基、水素元素およびハロゲン元素の少なくとも1種を含む。
【0038】
本開示のいくつかの実施形態において、水酸基と反応できる基は、代表的で非限定的に、カルボキシル基、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、エポキシ基、カルボニル基、アミノ基、水素元素またはハロゲン元素である。
【0039】
本開示の第2局面において、前記表面処理されたジルコニア粉体の調製方法を提供する。該調製方法は、ジルコニア溶液に表面処理剤を添加して反応させ、反応が完了したあとに溶剤を除去して前記表面処理されたジルコニア粉体を得る。
【0040】
本開示に係る表面処理されたジルコニア粉体の調製方法は、プロセスが簡単で、量産に適する。
【0041】
任意で、前記表面処理剤の添加量がジルコニアの質量の3%~20%である。
【0042】
表面処理剤の添加量が3%未満であれば、表面処理の効果が理想的ではなく、表面処理剤の添加量が20%超であれば、コストが高くなり、量産に不利である。
【0043】
本開示のいくつかの実施形態において、表面処理剤の添加量は、代表的で非限定的に、ジルコニアの質量の3%、5%、7%、9%、11%、13%、15%、17%、19%または20%である。
【0044】
任意で、前記ジルコニア溶液は、ジルコニア水溶液と有機溶剤とを混合することにより得られたものである。
【0045】
好ましくは、前記有機溶剤は、プロピレングリコールモノエチルエーテルを含む。
【0046】
プロピレングリコールモノエチルエーテルは、有機化合物であり、化学式がC12であり、安価で入手が容易で、水と溶け合うものであり、表面処理反応の進行に寄与する。
【0047】
好ましくは、前記混合は、ジルコニア水溶液と有機溶剤の質量比が、1:0.5~2であり、1:1が好ましい。
【0048】
本開示のいくつかの実施形態において、混合するジルコニア水溶液と有機溶剤との質量比は、代表的で非限定的に、1:0.5、1:1、1:1.5または1:2である。
【0049】
任意で、溶剤を除去する方法は、凍結乾燥を含む。
【0050】
凍結乾燥の方式で表面処理されたジルコニアに対して溶剤の除去を行う。凍結乾燥の過程において、固体の氷の形成が粒子の再度凝集を阻止し、氷が昇華したあと、水の表面張力の作用がないため、粒子同士が過度に接近しなく、粒子の凝集を効果的に防止することができる。
【0051】
本開示の第3局面において、ジルコニア分散液を提供する。該ジルコニア分散液は、前記表面処理されたジルコニア粉体を含む。
【0052】
本開示に係るジルコニア分散液は、調製された表面処理されたジルコニア粉体の再溶解により得られたものであり、粒子の凝集度が0.2~3であり、常温遮光の条件下で12ヶ月静置したあとの屈折率変化率が1%未満であり、分散が均一で、安定性が高く、再溶解効果が良好で、凝集度が小さい。
【0053】
任意で、前記表面処理されたジルコニア粉体の含有量は、50wt.%~75wt.%である。
【0054】
本開示のいくつかの実施形態において、ジルコニア分散液における表面処理されたジルコニア粉体の含有量は、代表的で非限定的に、50wt.%、55wt.%、60wt.%、65wt.%、70wt.%または75wt.%である。
【0055】
任意で、前記ジルコニア分散液の溶剤は、有機溶剤を含む。
【0056】
好ましくは、前記有機溶剤は、アルコール系有機溶剤、ケトン系有機溶剤、エステル系有機溶剤、エーテル系有機溶剤、芳香族炭化水素系有機溶剤、ハロゲン化炭化水素系有機溶剤およびシクロアルカン系有機溶剤の少なくとも1種を含む。
【0057】
好ましくは、前記ケトン系有機溶剤は、メチルエチルケトンを含む。
【0058】
任意で、前記ジルコニア分散液には凝集抑制剤がさらに含まれている。
【0059】
ジルコニア分散液に凝集抑制剤を添加し、凝集抑制剤が、ジルコニア粒子の表面を被覆し、表面処理剤と協働して機能し、これによって最大限で粒子の凝集を抑制することができる。
【0060】
好ましくは、前記凝集抑制剤は、SU235、SU241、SU912、SU920およびSU983の少なくとも1種を含む。
【0061】
なお、SU235、SU241、SU912、SU920およびSU983は、いずれも当分野で常用の凝集抑制剤の型番である。
【0062】
本開示のいくつかの実施形態において、凝集抑制剤は、代表的で非限定的に、SU235、SU241、SU912、SU920またはSU983である。
【0063】
上記の凝集抑制剤は、立体障害が比較的大きく、分岐鎖が比較的多く、粒子の凝集に対する抑制効果が優れる。
【0064】
本開示の第4局面において、光学フイルムの調製における、前記ジルコニア分散液の使用を提供する。
【0065】
本開示に係るジルコニア分散液を光学フイルムの調製に使用すれば、光学フイルムに安定性の良い分散液を提供でき、調製される光学フイルムの均一性が良く、光学フイルムの屈折率および性能が大幅に向上させることができる。
【0066】
以下、実施例を挙げて本開示を説明し、本開示がこれらの実施例に限定されない。本開示の実施例および比較例に使用された原材料について、具体的な条件を明記しないことについて、従来の条件またはメーカーの勧めの条件下で行うことが可能である。
【実施例
【0067】
実施例1
本実施例は、表面処理されたジルコニア粉体を調製した。具体的に下記のステップにより調製された。
1.まず、ナノジルコニアを25wt.%の水溶液に調製し、水溶液に、該水溶液に対して質量比が1:1となるプロピレングリコールモノエチルエーテルを添加して、ジルコニア溶液を得た。
2.ジルコニア溶液に2-(4-tert-ブチルシクロヘキシル)酢酸(2-(4-tert-Butylcyclohexyl)acetic acid、CAS番号:105906-07-8)を添加して表面処理を行い、2-(4-tert-ブチルシクロヘキシル)酢酸の添加量がジルコニアの質量の12%であった。
3.表面処理が完了したあと、-18℃の温度で30minの凍結乾燥を行い、表面処理されたジルコニア粉体を得た。
【0068】
実施例2
本実施例は、表面処理されたジルコニア粉体を調製した。本実施例で調製したとき、ステップ2において2-(4-tert-ブチルシクロヘキシル)酢酸の添加量がジルコニアの質量の3%であったことだけにおいて実施例1と相違しており、その他の原材料およびステップが、いずれも実施例1と同じであったため、ここで説明を省略する。
【0069】
実施例3
本実施例は、表面処理されたジルコニア粉体を調製した。本実施例で調製したとき、ステップ2において2-(4-tert-ブチルシクロヘキシル)酢酸の添加量がジルコニアの質量の20%であったことだけにおいて実施例1と相違しており、その他の原材料およびステップが、いずれも実施例1と同じであったため、ここで説明を省略する。
【0070】
実施例4
本実施例は、表面処理されたジルコニア粉体を調製した。本実施例で調製したとき、ステップ2において2-(4-tert-ブチルシクロヘキシル)酢酸の添加量がジルコニアの質量の30%であったことだけにおいて実施例1と相違しており、その他の原材料およびステップが、いずれも実施例1と同じであったため、ここで説明を省略する。
【0071】
実施例5
本実施例は、表面処理されたジルコニア粉体を調製した。本実施例で調製したとき、ステップ2において表面処理剤がtert-ブチル酢酸であったことだけにおいて実施例1と相違しており、その他の原材料およびステップが、いずれも実施例1と同じであったため、ここで説明を省略する。
【0072】
実施例6
本実施例は、表面処理されたジルコニア粉体を調製した。本実施例で調製したとき、ステップ2において表面処理剤が4-[6-(アクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ]安息香酸であったことだけにおいて実施例1と相違しており、その他の原材料およびステップが、いずれも実施例1と同じであったため、ここで説明を省略する。
【0073】
実施例7
本実施例は、表面処理されたジルコニア粉体を調製した。本実施例で調製したとき、ステップ2において表面処理剤がアダマンタン酢酸であったことだけにおいて実施例1と相違しており、その他の原材料およびステップが、いずれも実施例1と同じであったため、ここで説明を省略する。
【0074】
実施例8
本実施例は、ジルコニア分散液を調製した。実施例1により得た表面処理されたジルコニア粉体をメチルエチルケトン(MEK)に分散させ、添加量がジルコニアの質量の1%である添加量で凝集抑制剤のSU983、SU983を添加して、MEK型ナノジルコニア分散液を得た。
【0075】
実施例9
本実施例は、ジルコニア分散液を調製した。本実施例で調製したとき、SU983の添加量がジルコニアの質量の5%であったことだけにおいて実施例8と相違しており、その他の原材料およびステップが、いずれも実施例8と同じであったため、ここで説明を省略する。
【0076】
実施例10
本実施例は、ジルコニア分散液を調製した。本実施例で調製したとき、SU983の添加量がジルコニアの質量の8%であったことだけにおいて実施例8と相違しており、その他の原材料およびステップが、いずれも実施例8と同じであったため、ここで説明を省略する。
【0077】
実施例11
本実施例は、ジルコニア分散液を調製した。本実施例で調製したとき、SU983の添加量がジルコニアの質量の20%であったことだけにおいて実施例8と相違しており、その他の原材料およびステップが、いずれも実施例8と同じであったため、ここで説明を省略する。
【0078】
実施例12
本実施例は、ジルコニア分散液を調製した。本実施例で調製したとき、実施例5による表面処理されたジルコニア粉体を使用したことだけにおいて実施例9と相違しており、その他の原材料およびステップが、いずれも実施例9と同じであったため、ここで説明を省略する。
【0079】
実施例13
本実施例は、ジルコニア分散液を調製した。本実施例で調製したとき、実施例2による表面処理されたジルコニア粉体を使用したことだけにおいて実施例9と相違しており、その他の原材料およびステップが、いずれも実施例9と同じであったため、ここで説明を省略する。
【0080】
実施例14
本実施例は、ジルコニア分散液を調製した。本実施例で調製したとき、実施例3による表面処理されたジルコニア粉体を使用したことだけにおいて実施例9と相違しており、その他の原材料およびステップが、いずれも実施例9と同じであったため、ここで説明を省略する。
【0081】
実施例15
本実施例は、ジルコニア分散液を調製した。本実施例で調製したとき、実施例4による表面処理されたジルコニア粉体を使用したことだけにおいて実施例9と相違しており、その他の原材料およびステップが、いずれも実施例9と同じであったため、ここで説明を省略する。
【0082】
実施例16
本実施例は、ジルコニア分散液を調製した。本実施例で調製したとき、使用した凝集抑制剤がSU920であることだけにおいて実施例9と相違しており、その他の原材料およびステップが、いずれも実施例9と同じであったため、ここで説明を省略する。
【0083】
実施例17
本実施例は、ジルコニア分散液を調製した。本実施例で調製したとき、使用した凝集抑制剤がSU912であることだけにおいて実施例9と相違しており、その他の原材料およびステップが、いずれも実施例9と同じであったため、ここで説明を省略する。
【0084】
実施例18
本実施例は、ジルコニア分散液を調製した。本実施例で調製したとき、使用した凝集抑制剤がSU241であることだけにおいて実施例9と相違しており、その他の原材料およびステップが、いずれも実施例9と同じであったため、ここで説明を省略する。
【0085】
実施例19
本実施例は、ジルコニア分散液を調製した。本実施例で調製したとき、使用した凝集抑制剤がSU235であることだけにおいて実施例9と相違しており、その他の原材料およびステップが、いずれも実施例9と同じであったため、ここで説明を省略する。
【0086】
実施例20
本実施例は、ジルコニア分散液を調製した。本実施例で調製したとき、凝集抑制剤が使用されなかったことだけにおいて実施例9と相違しており、その他の原材料およびステップが、いずれも実施例9と同じであったため、ここで説明を省略する。
【0087】
実施例21
本実施例は、ジルコニア分散液を調製した。本実施例で調製したとき、実施例6による表面処理されたジルコニア粉体を使用したことだけにおいて実施例9と相違しており、その他の原材料およびステップが、いずれも実施例9と同じであったため、ここで説明を省略する。
【0088】
実施例22
本実施例は、ジルコニア分散液を調製した。本実施例で調製したとき、実施例7による表面処理されたジルコニア粉体を使用したとだけにおいて実施例9と相違しており、その他の原材料およびステップが、いずれも実施例9と同じであったため、ここで説明を省略する。
【0089】
比較例1
本比較例は、表面処理されたジルコニア粉体を調製した。本実施例で調製したとき、表面処理剤が酢酸であったことだけにおいて実施例1と相違しており、その他の原材料およびステップが、いずれも実施例1と同じであったため、ここで説明を省略する。
【0090】
比較例2
本比較例は、ジルコニア粉体を調製した。本実施例で調製したとき、表面処理剤が添加されなかったことだけにおいて実施例1と相違しており、その他の原材料およびステップが、いずれも実施例1と同じであったため、ここで説明を省略する。
【0091】
比較例3
本比較例は、ジルコニア分散液を調製した。本実施例で調製したとき、比較例1による表面処理されたジルコニア粉体を使用したことだけにおいて実施例9と相違しており、その他の原材料およびステップが、いずれも実施例9と同じであったため、ここで説明を省略する。
【0092】
比較例4
本比較例は、ジルコニア分散液を調製した。本実施例で調製したとき、比較例2によるジルコニア粉体を使用したことだけにおいて実施例9と相違しており、その他の原材料およびステップが、いずれも実施例9と同じであったため、ここで説明を省略する。
【0093】
テスト実験例
実施例8~22および比較例3~4のそれぞれにより得たジルコニア分散液に対して粒子の凝集度および屈折率変化の測定を行った。
【0094】
粒子の平均粒径は、英国マルバーン社製のレーザーマルバーン粒度測定装置のマルバーン2000を用いて測定した。測定方法として、GB/T19077.1-2003に従って測定した。
【0095】
粒子の凝集度=(粉体粒子の平均二次粒径-粉体粒子の平均一次粒径)/粉体粒子の平均一次粒径 式(1)
【0096】
上記の式(1)から分かるように、粒子の凝集度が0である場合、粉体粒子の平均二次粒径と粉体粒子の平均一次粒径とが同じであり、すなわち、粉体の凝集が発生しないことが示され、粒子の凝集度の値が大きいほど、粉体粒子の凝集がひどくなることが示される。
【0097】
本開示において、ジルコニア粒子の平均一次粒径がジルコニア水溶液における粒子の平均粒径であり、ジルコニア粒子の平均二次粒径がジルコニア有機MEK型分散液における粒子の平均粒径である。
【0098】
屈折率変化の測定は、Hanon Instruments製の自動屈折計A670を使用した。測定方法として、GB/T614-2006に従って測定した。
【0099】
測定により得られたデータは、表1に示されている。
【0100】
【表1】
【0101】
表1から分かるように、実施例9と比較例3とを比べると、比較例3において、表面処理剤の酢酸に立体障害の大きい基が含まれなく、粒子の凝集度が5.7であり、対応するMEK型分散液の屈折率変化率が1.45%であり、これらの数値がいずれも実施例9によるもののパラメータよりも高かった。これにより、立体障害の大きい基が粒子の凝集の抑制および分散液の安定性の維持において重要な役割を果たしていることはわかる。実施例20および比較例4は、それぞれ凝集抑制剤および表面処理剤が添加されなく、粒子の凝集度および分散液の屈折率変化率がいずれも実施例9よりも劣る。比較例4により調製できたMEK型分散液にジルコニアの析出も発生した。これにより、表面処理剤および凝集抑制剤が粒子凝集の抑制および分散液の安定性の維持に対して協働作用を発揮しており、2種の成分がいずれも不可欠なものであることはわかる。また、表面処理剤および凝集抑制剤の含有量は、粒子凝集の抑制および分散液の調製に対する影響が大きく、適宜の範囲に収めるべきであり、そうしないと、逆効果となるだけでなく、コストの増も招いてしまい、実施例8~11、13~15がこの点を証明した。また、実施例9、12、21、22は、表面処理剤の種類によって、粒子の凝集度およびMEK型分散液の屈折率変化率が大きく異なり、つまり、異なる表面処理剤の立体障害の大きい基の構造の違いによって、立体障害能力が異なり、粒子凝集の抑制の効果も異なることはわかる。同様に、実施例9、16~19は、凝集抑制剤の種類によって、粒子の凝集度およびMEK型分散液の屈折率変化率が大きく異なり、つまり、異なる凝集抑制剤の粒子凝集の抑制能力も異なる。
【0102】
具体的な実施例を用いて本開示を説明したが、本開示の精神および範囲を逸脱しない限り、変更や変化を行ってもよい。したがって、特許請求の範囲は、本開示の範囲に属するすべての変更および変化を含む。
【0103】
産業上の利用可能性
本開示に係る表面処理されたジルコニア粉体は、表面処理剤によりジルコニアの表面に立体障害の大きい基を導入し、この立体障害の大きい基の立体障害効果を利用してジルコニア粒子の凝集を抑制し、これによって表面処理されたジルコニア粉体の分散性および凝集抑制効果が優れ、産業でのジルコニア分散液および光学フイルムの調製に使用することができる。
【手続補正書】
【提出日】2023-04-20
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本開示は、光学樹脂の技術分野に属し、特に、表面処理されたジルコニア粉体、ジルコニア分散液およびその使用に関する。
関係出願の相互参照
本出願は、2022年05月06日に中国専利局に提出された、出願番号が202210485112.5であり、名称が「表面処理されたジルコニア粉体、ジルコニア分散液およびその使用」である中国出願に基づいて優先権を主張し、その内容のすべては本出願に参照として取り込まれる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に表面処理剤が含まれており、
前記表面処理剤は、R-Y構造を有し、
R基が立体障害の大きい基を含み、Y基がジルコニアと作用できる基を含む
ことを特徴とする表面処理されたジルコニア粉体。
【請求項2】
前記立体障害の大きい基は、置換もしくは無置換のベンゼン環、置換もしくは無置換のナフタレン環、置換もしくは無置換のナフテン、イソプロピル基、tert-ブチル基およびイソブチル基の少なくとも1種を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の表面処理されたジルコニア粉体。
【請求項3】
ジルコニアと作用できる前記基は、カルボキシル基、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、エポキシ基、カルボニル基、アミノ基、水素元素およびハロゲン元素の少なくとも1種を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の表面処理されたジルコニア粉体。
【請求項4】
ジルコニア溶液に表面処理剤を添加して反応させ、反応が完了したあとに溶剤を除去して前記表面処理されたジルコニア粉体を得る
ことを特徴とする請求項1に記載の表面処理されたジルコニア粉体の調製方法。
【請求項5】
前記表面処理剤の添加量がジルコニアの質量の3%~20%である
ことを特徴とする請求項4に記載の調製方法。
【請求項6】
前記ジルコニア溶液は、ジルコニア水溶液と有機溶剤とを混合することにより得られたものである
ことを特徴とする請求項4に記載の調製方法。
【請求項7】
前記有機溶剤は、プロピレングリコールモノエチルエーテルを含む
ことを特徴とする請求項6に記載の調製方法。
【請求項8】
前記混合は、ジルコニア水溶液と有機溶剤の質量比が、1:0.5~2である
ことを特徴とする請求項6に記載の調製方法。
【請求項9】
前記混合は、ジルコニア水溶液と有機溶剤の質量比が、1:1である
ことを特徴とする請求項8に記載の調製方法。
【請求項10】
溶剤を除去する方法は、凍結乾燥を含む
ことを特徴とする請求項4に記載の調製方法。
【請求項11】
請求項1に記載の表面処理されたジルコニア粉体を含む
ことを特徴とするジルコニア分散液。
【請求項12】
前記表面処理されたジルコニア粉体の含有量は、50wt.%~75wt.%である
ことを特徴とする請求項11に記載のジルコニア分散液。
【請求項13】
前記ジルコニア分散液の溶剤は、有機溶剤を含む
ことを特徴とする請求項11に記載のジルコニア分散液。
【請求項14】
前記有機溶剤は、アルコール系有機溶剤、ケトン系有機溶剤、エステル系有機溶剤、エーテル系有機溶剤、芳香族炭化水素系有機溶剤、ハロゲン化炭化水素系有機溶剤およびシクロアルカン系有機溶剤の少なくとも1種を含む
ことを特徴とする請求項13に記載のジルコニア分散液。
【請求項15】
前記ケトン系有機溶剤は、メチルエチルケトンを含む
ことを特徴とする請求項14に記載のジルコニア分散液。
【請求項16】
凝集抑制剤がさらに含まれている
ことを特徴とする請求項11に記載のジルコニア分散液。
【請求項17】
前記凝集抑制剤は、SU235、SU241、SU912、SU920およびSU983の少なくとも1種を含む
ことを特徴とする請求項16に記載のジルコニア分散液。
【請求項18】
光学フイルムの調製における、請求項11~17のいずれか1項に記載のジルコニア分散液の使用。
【国際調査報告】