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特表2024-521282抗うつ・抗不安の置換桂皮アミド化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-31
(54)【発明の名称】抗うつ・抗不安の置換桂皮アミド化合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 317/60 20060101AFI20240524BHJP
   A61K 31/36 20060101ALI20240524BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20240524BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20240524BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20240524BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20240524BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240524BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20240524BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240524BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20240524BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20240524BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20240524BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20240524BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20240524BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240524BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
C07D317/60 CSP
A61K31/36
A61P25/24
A61P25/22
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/08
A61K9/16
A61K9/14
A61K9/06
A61K9/10
A61K9/107
A61K9/12
A61K9/70 401
A61K45/00
A61P25/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562201
(86)(22)【出願日】2022-05-24
(85)【翻訳文提出日】2023-10-10
(86)【国際出願番号】 CN2022094753
(87)【国際公開番号】W WO2022247834
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】202110606431.2
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】505037822
【氏名又は名称】天士力医薬集団股分有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マー,シアオフイ
(72)【発明者】
【氏名】ガオ,シューコン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,シアンヤン
(72)【発明者】
【氏名】リー,シアオチン
(72)【発明者】
【氏名】リウ,ルイ
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ,シュイピン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA06
4C076AA11
4C076AA12
4C076AA17
4C076AA22
4C076AA24
4C076AA29
4C076AA30
4C076AA31
4C076AA36
4C076AA53
4C076AA72
4C076CC01
4C076FF70
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA13
4C084MA16
4C084MA17
4C084MA21
4C084MA22
4C084MA27
4C084MA28
4C084MA32
4C084MA35
4C084MA36
4C084MA37
4C084MA41
4C084MA43
4C084MA44
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA12
4C084ZA18
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086AA04
4C086BA13
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA16
4C086MA17
4C086MA21
4C086MA22
4C086MA27
4C086MA28
4C086MA32
4C086MA35
4C086MA36
4C086MA37
4C086MA41
4C086MA43
4C086MA44
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA12
4C086ZA18
(57)【要約】
本願は抗うつ・抗不安の置換桂皮アミド化合物、即ち化合物M2に関する。本願は化合物M2又はその溶媒和物又はその薬学的に許容し得る塩を含有する医薬組成物、及び抗うつ、抗不安、又は抗うつ・抗不安への用途を更に提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の構造式:
【化1】
で示される置換桂皮アミド化合物。
【請求項2】
下記の構造式:
【化2】
で示される抗うつ・抗不安の化合物。
【請求項3】
更に溶媒和物の形態で存在し得ることを特徴とする請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
更に薬学的に許容し得る塩の形態で存在し得ることを特徴とする請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の化合物を含有する医薬組成物。
【請求項6】
いかなる投与可能な医薬形態であってもよく、選択的に、前記医薬形態は錠剤、カプセル剤、経口液剤、バッカル剤、顆粒剤、丸剤、散剤、膏剤、丹剤、懸濁化剤、粉剤、溶液剤、注射剤、坐剤、軟膏剤、硬膏剤、クリーム剤、スプレー剤、ドロップ剤及び貼付剤から選ばれ、前記錠剤は選択的に糖衣錠剤、フィルムコーティング錠剤又は腸溶性コーティング錠剤であり、前記カプセル剤は選択的にハードカプセル剤又はソフトカプセル剤であり、前記注射剤は選択的に注射液、凍結乾燥粉末注射剤及び液体注射剤のうちの1種である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
使用する時に他の抗うつ薬又は抗不安薬と併用し得ており、又は、前記医薬組成物は他の抗うつ薬又は抗不安薬を更に含み、前記他の抗うつ薬又は抗不安薬はネファゾドン、スルピリド、アルプラゾラム、ロラゼパム、ブスピロン、タンドスピロン、メチルフェニデート、フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン、シタロプラム、エスシタロプラム、フルボキサミン、レボキセチン、ベンラファキシン、フルペンチキソール、メリトラセン、ニューロスタンから選ばれる、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項8】
【化3】
(E)-3-(3’,4’-メチレンジオキシ-5’-トリフルオロメチル-フェニル)-アクリル酸(即ち中間体A)とNH3とを反応させ、化合物M2を得る、請求項1又は2に記載の化合物の製造方法。
【請求項9】
下記の反応経路:
【化4】
を含む、請求項8に記載の化合物の製造方法。
【請求項10】
(E)-3-(3’,4’-メチレンジオキシ-5’-トリフルオロメチル-フェニル)-アクリル酸(中間体A)をジクロロメタンに溶解し、触媒量のN,N-ジメチルホルムアミドを添加し、氷浴下で塩化オキサリルを滴下し、室温で原料の反応が完全になるまで攪拌し、反応液を濃縮乾燥させた後、ジクロロメタンを添加して溶解し、氷浴下でアンモニア水を滴下し、室温で反応終了まで反応させ、減圧下で溶媒を留去した後、希塩酸を添加して酸性に調節し、固体を析出し、ろ過して洗浄した後に粗製品を得て、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、M2を得る工程である請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1~4のいずれか1項に記載の化合物、又は請求項5~7のいずれか1項に記載の医薬組成物の、薬物のための用途。
【請求項12】
請求項1~4のいずれか1項に記載の化合物、又は請求項5~7のいずれか1項に記載の医薬組成物の、抗うつ薬、抗不安薬、又は抗うつ・抗不安薬の製造における用途。
【請求項13】
請求項1~4のいずれか1項に記載の化合物、又は請求項5~7のいずれか1項に記載の医薬組成物と、他の抗うつ薬又は抗不安薬との併用、或いは、請求項1~4のいずれか1項に記載の化合物と1種又は複数種の別の抗うつ薬又は抗不安薬との組合せの、抗うつ薬、抗不安薬、又は抗うつ・抗不安薬の製造における用途であって、前記他の抗うつ薬又は抗不安薬、又は別の抗うつ薬又は抗不安薬は、ネファゾドン、スルピリド、アルプラゾラム、ロラゼパム、ブスピロン、タンドスピロン、メチルフェニデート、フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン、シタロプラム、エスシタロプラム、フルボキサミン、レボキセチン、ベンラファキシン、フルペンチキソール、メリトラセン、ニューロスタンのような精神疾患の予防・治療薬物のうちの1種又は複数種から選ばれ得る、前記併用、或いは、前記用途。
【請求項14】
対応の需要がある患者に請求項1~4のいずれか1項に記載の化合物、又は請求項5~7のいずれか1項に記載の医薬組成物を投与することを含む、精神疾患の予防又は治療方法。
【請求項15】
前記精神疾患の予防又は治療は抗うつ、抗不安、又は抗うつ・抗不安である、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は2021年5月28日に提出した、発明名称が「抗うつ・抗不安の新規化合物」であり、出願番号が202110606431.2である中国発明特許出願の優先権を主張し、該中国特許出願の全部の内容は参照により本文に取り込まれる。
【0002】
本願は医薬化合物に関するがそれに限らず、特に抗うつ・抗不安の置換桂皮アミド類新規化合物に関する。
【背景技術】
【0003】
うつ病と不安症は人々のメンタルヘルスに害を及ぼす主な疾患であり、現代生活のリズムの加速につれて、発症者の数は年々拡大している。最近、統計によると、中国では各型のうつ病の発症者の数が2600万人にも達し、その中、青少年が比較的大きい割合を占めている。このため、抗うつ・抗不安薬の研究開発は重要な経済的及び社会的な利点を有する。
【0004】
大量の研究の結果、中枢モノアミン神経伝達物質、ドーパミン、コリン作用性の変化、対応の受容体機能の変更、及び神経内分泌機能障害は該疾患の発生進展に対して重要な作用を有する可能性があることが示される。ここで、治療原則は、視床下部モノアミン神経伝達物質の含有量及びその受容体機能の調整、並びに正常な神経内分泌への回復に焦点を当てるべきである。
【0005】
現在、うつ病と不安症の主な治療手段は依然として薬物の服用である。従来では、臨床において抗うつ・抗不安薬として、主に三環系、ベンゾジアゼピン、5-ヒドロキシトリプタミン再取り込み阻害薬、モノアミン酸化酵素阻害薬等の化学薬物が挙げられ、うつ病と不安症に対して一定の治療作用を有するが、毒性と副作用が比較的大きいという不備も存在し、モノアミン酸化酵素阻害薬は選択性及び酵素に対する不可逆的阻害により中毒性肝障害を引き起こし、一定の毒性と副作用を有する。三環系の通常薬物として、ドキセピン、アミトリプチリン、クロミプラミン等が挙げられ、上記薬物は内因性うつ病に対する効果が比較的良く、特に意気消沈、趣味減退、悲観厭世に対して80%以上の治療効果を取得できるが、心臓への毒性が強いため、不良反応も比較的多い。選択的5-HT再取り込み阻害薬(SSRI)は1980年代末期に現れた新規抗うつ・抗不安薬であり、従来の抗うつ・抗不安を保つとともに、他の受容体に発生する不良反応を有意に減少するため、現在欧米国家における通常の第一選択薬となった。通常の薬物として、フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン、シタロプラム、フルボキサミン等が挙げられる。胃腸吸収、肝臓代謝のため、胃腸機能障害が存在し、性機能障害が存在するものがあり、ある程度で治療への長期使用に影響を与えた。そして、従来の抗うつ・抗不安薬は発効が遅く(6~8週間以上)、30%程度の患者にしか発効しない。従って、重度うつ病の治療分野において、発効が速い薬物(特に自殺傾向のある患者において)、比較的良い治療効果及び比較的低い毒性と副作用を有し、新規作用メカニズムを有する薬物は緊急に求められている。
【0006】
中国特許CN102850317A(出願番号201210123842.7、以下「特許A」と略称される)とCN103687850A(出願番号201280020049.2、以下「特許B」と略称される)には置換桂皮アミド誘導体、その製造方法、及びうつ病の精神疾患の治療・予防薬物における用途が開示された。そして13種の具体的な化合物I-1~I-13が開示された。該特許において、マウス尾懸垂試験法、「後天性絶望」うつ病モデル実験、抗レセルピン眼瞼下垂うつ病モデル実験、マウス強制水泳試験により、この一連の化合物のうちのI-5、I-9、I-10、I-11、I-12及びI-13の10mg/kgの用量での7日間投与は、いずれもマウス尾懸無動時間を明らかに短縮できることが検証された。化合物のI-4、I-5、I-10、I-11、I-12和I-13の10mg/kgの用量での7日間連続投与は、レセルピンによるマウス体温低下、運動不能に有意に拮抗し、閉眼の程度を改善する作用を有し、これは5-HT、NE及びDAの再摂取に対して一定の調節作用を有することを示す。化合物のI-5、I-10及びI-13はいずれもマウス強制水泳無動時間を明らかに短縮でき、I-5によるマウス強制水泳無動時間への影響は一定の用量依存性を呈する。その中、効果が最も優れたI-5は現在臨床研究段階にある。
【0007】
中国特許CN107011313A(出願番号201710038281.3、以下「特許C」と略称される)には置換桂皮アミド誘導体の抗不安における用途が開示された。具体的に、II-3(特許A、Bにおける化合物I-3)、II-4(特許A、Bにおける化合物I-4)、II-5(特許A、Bにおける化合物I-5)、II-10(特許A、Bにおける化合物I-10)、II-11(特許A、Bにおける化合物I-11)、II-12(特許A、Bにおける化合物I-12)、II-13、II-14、II-15、II-16,III-2、III-4、III-7、III-9、III-10、III-11、III-13の合計17種の化合物が開示された。該特許において、マウス高架式十字迷路試験により、17種の化合物の10mg/kgの用量での7日間投与は、異なる程度で高架式十字迷路試験におけるマウスのオープンアームへの進入回数を増加して、マウスのオープンアームでの滞在時間を延長することができることが証明された。ラットVogel型コンフリクト試験により、17種の化合物の5mg/kgの用量での10日間投与は、いずれも異なる程度で懲罰期間でのラットの水飲用回数を増加できることが証明された。
【発明の概要】
【0008】
本願は上記特許における多くの化合物を研究した結果、多数の化合物の治療効果が優れたが、生物学的利用能が低く、発効が遅いことを発見した。
【0009】
第1態様では、本願は発効がより速く、生物学的利用能がより高い抗うつ・抗不安の置換桂皮アミド化合物、又はその溶媒和物、又は薬学的に許容し得る塩を提供し、前記置換桂皮アミド化合物の構造式は下記の通りである。
【化1】
【0010】
第2態様では、本願は上記置換桂皮アミド化合物、又はその溶媒和物、又はその薬学的に許容し得る塩を含有する医薬組成物を提供する。
【0011】
第3態様では、本願は上記置換桂皮アミド化合物の製造方法を提供する。
【0012】
第4態様では、本願は上記置換桂皮アミド化合物の抗うつ薬、抗不安薬、又は抗うつ・抗不安薬の製造における用途を提供する。
【0013】
第5態様では、本願は上記化合物と1種又は複数種の別の抗うつ薬又は抗不安薬との組合せの、抗うつ薬、抗不安薬、又は抗うつ・抗不安薬の製造における用途を提供する。
【0014】
第6態様では、本願は対応の需要がある患者に上記化合物を投与することを含む精神疾患の予防又は治療方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】化合物M2が抗うつ様作用を有することを示す。投与24h後、化合物M2はマウスの無動時間を有意に減少し、明らかな用量効果を呈し、投与用量が30mg/kgである場合、有意な作用を有する。
図2】化合物M2による前頭葉の興奮性シナプス伝達への影響を示し、具体的に、化合物M2の濃度が10nM、10μM、150μMである場合の前頭葉のPrL脳エリアの錐体ニューロンのsEPSCへの影響を示す。上方はsEPSC波形模式図であり、下方はデータ統計後の柱状グラフである。
図3】化合物M2による前頭葉の興奮性シナプス伝達の強化を示す。複数種の濃度で、化合物M2は前頭葉のPrL脳エリアのsEPSCの発火周波数を増加し、且つ明らかな濃度依存性を呈するが、sEPSCの発火振幅への影響が明らかではなく、150μMの化合物M2はsEPSCの発火周波数を有意に強化できる。
図4】ドーパミンD2R受容体拮抗剤Sulprideが化合物M2による前頭葉のsEPSCの強化効果を阻害することを示す。D2R拮抗剤sulprideは10μMの作用濃度でD2R受容体を阻害できる。結果により、D2Rの阻害は150μMの化合物M2によるsEPSCの発火周波数の強化作用を阻害できることが示された。
図5】ドーパミンD1R受容体拮抗剤SCH23390が化合物M2による前頭葉のsEPSCの強化効果を阻害することを示す。D1R受容体拮抗剤SCH23390は10μMの作用濃度でD1R受容体を阻害できる。結果により、D1Rの阻害は150μMの化合物M2によるsEPSCの発火周波数の強化作用を阻害できることが示された。
図6】化合物M2がmTOR関連シグナル経路を活性化することを示す。aは単回投与後30minの前頭葉関連シグナルタンパク質の変化を示し、bは単回投与後24hの前頭葉関連シグナルタンパク質の変化を示す。
図7】化合物I-5及びM2の、ラット脳シナプトソームのDA、5-HT、NAの摂取への阻害作用(IC50)を示す。
図8】強制経口及び静脈経由によりラットに化合物M2を投与した後の平均薬物血中濃度時間曲線を示す。
図9】強制経口及び静脈経由によりラットに化合物I-5を投与した後の平均薬物血中濃度時間曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
第1態様の実施形態では、本願は置換桂皮アミド化合物を提供し、前記置換桂皮アミド化合物の構造式は下記の通りである。
【化2】
【0017】
更に、本願の置換桂皮アミド化合物は溶媒和物の形態で存在し得る。
【0018】
更に、本願の置換桂皮アミド化合物は薬学的に許容し得る塩の形態で存在し得る。
【0019】
第2態様の実施形態では、本願は本願の置換桂皮アミド化合物、又はその溶媒和物、又は薬学的に許容し得る塩を含有する医薬組成物を提供する。
【0020】
本願の医薬組成物は、いかなる投与可能な医薬形態であってもく、例えば、錠剤、糖衣錠剤、フィルムコーティング錠剤、腸溶性コーティング錠剤、カプセル剤、ハードカプセル剤、ソフトカプセル剤、経口液剤、バッカル剤、顆粒剤、丸剤、散剤、膏剤、丹剤、懸濁化剤、粉剤、溶液剤、注射剤、坐剤、軟膏剤、硬膏剤、クリーム剤、スプレー剤、ドロップ剤又は貼付剤である。
【0021】
好ましくは、本願の医薬組成物は単位用量の医薬製剤の形態である。
【0022】
本願の医薬組成物では、薬剤に製作する時、単位用量の薬剤は本願の医薬活性物質を0.1~1000mg含有し得ており、残りは薬学的に許容し得る担体である。薬学的に許容し得る担体は製剤総重量の0.01~99.99重量%であってもよい。
【0023】
本願の医薬組成物は使用する時に患者の状況に応じて用法・用量を決定し、例えば1日に1~3回、1回に1~10錠等である。
【0024】
好ましくは、本願の医薬組成物は経口製剤又は注射剤である。
【0025】
前記経口製剤はカプセル剤、錠剤、ドロップピル、顆粒剤、濃縮ピル、経口液剤及び合剤から選ばれる1種である。
【0026】
前記注射剤は注射液、凍結乾燥粉末注射剤及び液体注射剤から選ばれる1種である。
【0027】
本願の医薬組成物では、経口投与の製剤は通常の賦形剤、例えば接着剤、充填剤、希釈剤、タブレット剤、潤滑剤、崩壊剤、着色剤、香味剤又は湿潤剤を含有し得ており、必要な場合に錠剤をコーティングし得る。
【0028】
好適な充填剤はセルロース、マンニトール、乳糖又は他の類似の充填剤を含む。好適な崩壊剤は澱粉、ポリビニルピロリドン又は澱粉誘導体を含み、好ましくはデンプングリコール酸ナトリウムである。好適な潤滑剤はステアリン酸マグネシウムである。好適な湿潤剤はラウリル硫酸ナトリウムである。
【0029】
本願の医薬組成物では混合、充填、打錠等の通常方法により固体経口組成物を製造し得る。繰り返し混合により、大量の充填剤が使用される組成物全体に活性物質を分布し得る。
【0030】
経口液体製剤の形態は水性又は油性の懸濁液、溶液、乳剤、シロップ剤又はエリキシル剤であってもよく、使用前に水又は他の適当な担体により配合可能な乾燥製品であってもよい。この液体製剤は通常の添加剤、例えば、ソルビトール、シロップ、メチルセルロース、ゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸アルミニウムゲル又は水素添加食用脂肪のような懸濁剤、レシチン、脱水ソルビトールモノオレエート又はアラビアガムのような乳化剤、非水性担体[食用油(例えば、アーモンド油、分留ココナッツオイル)を含み得ており、例えば、グリセリンのオイルエステル、プロピレングリコール又はエタノール)]、p-ヒドロキシ安息香酸、p-ヒドロキシ安息香酸プロピル又はソルビン酸のような防腐剤を含有し得ており、必要な場合、通常の香味剤又は着色剤を含有し得る。
【0031】
注射剤について、製造される液体単位剤型は本願の活性物質と無菌担体を含有する。担体と濃度に応じて、該化合物を懸濁し又は溶解し得る。溶液の調製については通常、活性物質を1種の担体に溶解し、適当なバイアル又はアンプルに入れる前にろ過消毒し、それから密封する。補助材料(例えば、局所麻酔薬、防腐剤及び緩衝剤)もこのような担体に溶解し得る。安定性を高めるために、バイアルに入れた後にこのような組成物を冷凍して、真空下で水を除去し得る。
【0032】
本願の医薬組成物は薬剤に製造される時に、選択的に適当な薬学的に許容し得る担体を添加し得る。前記薬学的に許容し得る担体は、マンニトール、ソルビトール、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、塩酸システイン、チオグリコール酸、メチオニン、ビタミンC、EDTA二ナトリウム、EDTAカルシウムナトリウム、一価アルカリ金属の炭酸塩・酢酸塩・リン酸塩又はその水溶液、塩酸、酢酸、硫酸、リン酸、アミノ酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、乳酸ナトリウム、キシリトール、マルトース、グルコース、フルクトース、デキストラン、グリシン、澱粉、スクロース、乳糖、マンニトール、シリコン誘導体、セルロース及びその誘導体、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、グリセリン、Tween 80、寒天、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、界面活性剤、ポリエチレングリコール、シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、リン脂質材料、カオリン、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等から選ばれる1種又は複数種である。
【0033】
本願の医薬組成物は、本願の置換桂皮アミド化合物に加えて、例えば、ネファゾドン、スルピリド、アルプラゾラム、ロラゼパム、ブスピロン、タンドスピロン、メチルフェニデート、フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン、シタロプラム、エスシタロプラム、フルボキサミン、レボキセチン、ベンラファキシン、フルペンチキソール、メリトラセン、ニューロスタン等のような精神疾患の予防・治療薬物のうちの1種又は複数種を更に含み得る。
【0034】
第3態様の実施形態では、本願は本願の置換桂皮アミド化合物の製造方法を提供し、前記置換桂皮アミド化合物は化合物M2とも称され、前記製造方法は、
【化3】
(E)-3-(3’,4’-メチレンジオキシ-5’-トリフルオロメチル-フェニル)-アクリル酸(即ち中間体A)とNH3とを反応させ、化合物M2を得ることである。
【0035】
第3態様の幾つかの実施形態では、本願による製造方法において、NH3はアンモニア水(NH3-H2O)であってもよい。
【0036】
第3態様の幾つかの実施形態では、本願による製造方法において、前記反応は有機溶媒において行われ、前記有機溶媒はジクロロメタン(DCM)を含む。
【0037】
第3態様の幾つかの実施形態では、本願による製造方法において、(E)-3-(3’,4’-メチレンジオキシ-5’-トリフルオロメチル-フェニル)-アクリル酸(即ち中間体A)は、塩化アシル試薬、例えば、塩化オキサリル又は塩化チオニルと活性化し、それからNH3と反応し、化合物M2を得る。
【0038】
第3態様の幾つかの実施形態では、本願による製造方法において、下記反応経路により行える。
【化4】
その中、反応原料は(E)-3-(3’,4’-メチレンジオキシ-5’-トリフルオロメチル-フェニル)-アクリル酸であり、該原料は市販品として購入してもよく、従来の技術文献による方法で製造してもよい。
【0039】
本願の置換桂皮アミド化合物は下記の方法で製造し得る。
(E)-3-(3’,4’-メチレンジオキシ-5’-トリフルオロメチル-フェニル)-アクリル酸(中間体A)をジクロロメタンに溶解し、触媒量のN,N-ジメチルホルムアミドを添加し、氷浴下で塩化オキサリルを滴下し、室温で原料の反応が完全になるまで攪拌する。反応液を濃縮乾燥させた後、ジクロロメタンを添加して溶解し、氷浴下でアンモニア水を滴下し、室温で反応終了まで反応させる。減圧下で溶媒を留去した後、希塩酸を添加して酸性に調節し、固体を析出し、ろ過して洗浄した後に粗製品を得て、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物M2を得る。
【0040】
第4態様の実施形態では、本願は化合物M2又はその溶媒和物又はその薬学的に許容し得る塩、或いは化合物M2又はその溶媒和物又はその薬学的に許容し得る塩を含有する医薬組成物の、抗うつ薬、抗不安薬、又は抗うつ・抗不安薬の製造における用途を提供する。
【0041】
第4態様の幾つかの実施形態では、本願は化合物M2又はその溶媒和物又はその薬学的に許容し得る塩、或いは化合物M2又はその溶媒和物又はその薬学的に許容し得る塩を含有する医薬組成物の、薬物のための用途を提供する。
【0042】
第5態様の実施形態では、本願は化合物M2又はその溶媒和物又はその薬学的に許容し得る塩と、他の抗うつ薬又は抗不安薬との併用、或いは、化合物M2と1種又は複数種の別の抗うつ薬又は抗不安薬との組合せの、抗うつ薬、抗不安薬、又は抗うつ・抗不安薬の製造における用途を提供する。ここで、前記他の抗うつ薬又は抗不安薬、又は別の抗うつ薬又は抗不安薬は、例えば、ネファゾドン、スルピリド、アルプラゾラム、ロラゼパム、ブスピロン、タンドスピロン、メチルフェニデート、フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン、シタロプラム、エスシタロプラム、フルボキサミン、レボキセチン、ベンラファキシン、フルペンチキソール、メリトラセン、ニューロスタン等のような精神疾患の予防・治療薬物のうちの1種又は複数種から選ばれてもよい。
【0043】
第6態様の実施形態では、本願は精神疾患の予防又は治療方法を提供し、該方法は対応の需要がある患者に化合物M2又はその溶媒和物又はその薬学的に許容し得る塩、或いは化合物M2又はその溶媒和物又はその薬学的に許容し得る塩を含有する医薬組成物を投与することを含む。
【0044】
第6態様の幾つかの実施形態では、前記精神疾患の予防又は治療は抗うつ、抗不安、又は抗うつ・抗不安である。
【0045】
第6態様の幾つかの実施形態では、前記投与は経口投与、注射又は経皮投与であってもよい。
【0046】
第6態様の幾つかの実施形態では、前記精神疾患の予防又は治療方法は、1種又は複数種の別の抗うつ薬又は抗不安薬との組合せ(又は併用)を更に含む。ここで、前記別の抗うつ薬又は抗不安薬は、例えば、ネファゾドン、スルピリド、アルプラゾラム、ロラゼパム、ブスピロン、タンドスピロン、メチルフェニデート、フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン、シタロプラム、エスシタロプラム、フルボキサミン、レボキセチン、ベンラファキシン、フルペンチキソール、メリトラセン、ニューロスタン等のような精神疾患の予防・治療薬物のうちの1種又は複数種から選ばれてもよい。
【0047】
具体的な実施形態
本願の目的、技術案及び利点をより明確にするために、以下では本発明の実施例を詳述する。なお、衝突しない限り、本願における実施例及び実施例における特徴は互いに任意に組合わせることができる。
【0048】
実施例1
(E)-3-(3’,4’-メチレンジオキシ-5’-トリフルオロメチル-フェニル)-アクリル酸(15g, 0.058mol)を200mLのジクロロメタンに溶解し、触媒のN,N-ジメチルホルムアミド0.1mLを添加し、氷浴下で攪拌し、塩化オキサリル(18.3g, 0.144mol)を50mLのジクロロメタンに溶解し、反応系にゆっくり滴下し、滴下が完成した後に氷浴を終了し、室温で原料の反応が完全になるまで攪拌した。反応液を濃縮乾燥させた後に粗製品16.5gを得た。粗製品(10g, 36mmol)を取って50mLのジクロロメタンに溶解し、氷浴下で攪拌しながらアンモニア水(12.6g, 360mmol)をゆっくり滴下し、滴下が完成した後に氷浴を終了し、室温で反応完了まで反応した。
【0049】
反応系に濃塩酸を添加し、pHを酸性になるまで調節し、減圧下で回転蒸留によってジクロロメタンを留去し、乾燥まで吸引ろ過し、白色粗製品8.67gを得て、エタノール-水(体積比1:2)にて再結晶して6.4g化合物M2を得た。
【0050】
実験例1:化合物M2の効果及び脳領域機能に対する研究
本実験の研究目的は、下記2つの実験により、化合物M2の抗うつ効果及び脳領域機能のメカニズムを説明することである。
【0051】
1)強制水泳試験(絶望試験とも称され、一般的にマウスのうつ類行為をテストすることに用いられる)
【表1】
【0052】
2)脳スライス電気生理学的試験(化合物M2によるmPFCの興奮性シナプス伝達への影響を測定することに用いられる)
●動物:ひと腹の新生マウスBL/6J(20~30日)
●装置:ビブラトーム(Leica)、脳スライス電気生理学的システム(Axon)
●脳スライス電気生理学的試験方法
●sEPSC実験方法:ひと腹の新生マウスC57を麻酔した後、人工脳脊髄液(ACSF)で灌流する。頭部を切断した後に即時に脳組織を摘出し、ビブラトームでスライスを作製し、脳スライスの厚さが300μmである。脳スライスを28℃で1hインキュベートした後、脳スライス電気生理学的システムにより、電圧クランプ(-70mV)を採用してmPFC錐体ニューロンに対して全細胞記録を行う。基線記録時間は6minであり、その後に灌流システムにより、測定待ちの薬物(薬物はACSFにて溶解する)を添加し、薬物添加後の記録時間は6~10minである。Minianalysisソフトウェアにより、記録したデータを分析し、測定待ちの薬物によるC57マウスの内側前頭葉錐体ニューロンsEPSCの周波数と振幅への影響を比較する。
●データ統計
すべてのデータ分析はspssデータ処理ソフトウェアにより遂行され、データはMean±s.e.m.で示される。一元配置分散分析(One-way ANOVA)により、化合物M2及びドーパミン受容体拮抗剤の作用下での化合物M2のsEPSC電流への影響を分析し、対応のあるt検定によりsEPSC実験結果を分析する。p<0.05の場合に*と記す。
【0053】
3)ウェスタンブロット(化合物M2によるmPFCタンパク質含有量の変化への影響を測定することに用いられる)
●動物:C57 BL/6J雄性マウス(18~20g)。コントロール群、フルオキセチン(fluoxetine)群、化合物M2(30mg/kg)群、エスケタミン群の4つの群に分けられる。
●実験に用いられる一次抗体
【表2】
●ウェスタンブロット実験方法:
C57マウスに投与してから0.5h/24h後、脳組織から前頭葉脳領域をサンプリングし、組織検体を溶解して均質化した後、BCA法によりタンパク質を定量化し、SDS-PAGEゲル配合、アプライ・電気泳動、膜貫通、ブロッキング、一次抗体インキュベート、二次抗体インキュベート、タンパク質測定(現像・定着)等の工程により、化合物M2の腹腔内投与0.5時間/24時間の作用下での前頭葉脳領域のタンパク質含有量の変化の状況に対する測定を遂行する。
【0054】
3)実験結果
1、化合物M2は抗うつ様作用を有する
図1に示すように、投与24h後、化合物M2はマウスの無動時間を有意に減少し、明らかなな用量効果を呈し、投与用量が30mg/kgである場合、有意な作用を有する。化合物M2の抗うつ作用の発効は速い。実験には2種の陽性化合物がコントロールとして採用され、そのうち臨床第一選択薬のフルオキセチンは発効が比較的遅いが、エスケタミンは発効が速い。本実験の結果、単回投与24h後にフルオキセチンは抗うつ様作用を有せず、化合物M2とエスケタミンは抗うつ様作用を有することが示され、化合物M2が速い抗うつ作用の潜在能力を有することが表される。
【0055】
2、化合物M2は内側前頭葉(mPFC)興奮性シナプス伝達を有意に強化する
実験の過程において、溶液に10μM Bicuculineを添加してGABA受容体を阻害し、これにより錐体ニューロンのsEPSCを記録した。図2に示すように、実験では異なる濃度の化合物M2による前頭葉のPrL脳領域の錐体ニューロンの自発的興奮性シナプス後電位への影響(sEPSC)が調べられる。図3に示すように、結果により、M2は前頭葉のPrL脳領域のsEPSCの発火周波数を増加し、且つ濃度依存性を呈するが、sEPSCの発火振幅への影響が明らかではないことが示される。
sEPSCの発火周波数の増加は、化合物M2が前頭葉シナプスの興奮性グルタミン酸神経伝達物質の放出を強化できることを示す。化合物M2のターゲット作用特徴に基づいて、この増加は化合物M2が中脳から前頭葉に放出したモノアミン神経伝達物質のシナプス伝達を強化することによるものである可能性があり、前頭葉モノアミン受容体への直接作用によるものである可能性もある。前頭葉興奮性シナプス伝達は抗うつ作用に密接に関与し、ケタミンのような新規抗うつ薬は前頭葉興奮性シナプス伝達を強化できる。
【0056】
3、化合物M2はドーパミンD2R受容体により前頭葉の興奮性シナプス伝達を強化する
1)ドーパミンD2R受容体は化合物M2による前頭葉sEPSCへの強化効果を阻害する
本実験では前頭葉ドーパミン受容体が化合物M2による前頭葉への作用に影響を与えるかどうかを調べる。実験ではドーパミン受容体D2Rの拮抗剤Sulprideを使用してD2R受容体を阻害する。結果により、ドーパミンD2R受容体の阻害は、化合物M2によるsEPSC発火周波数への強化作用を有意に阻害できることが示され、前頭葉のD2R受容体はM2による興奮性シナプス伝達を介する可能性があることが表される(図4に示す)。
【0057】
2)ドーパミンD1R受容体は化合物M2による前頭葉興奮性シナプス伝達への強化作用に影響を与えない
ドーパミンD1R受容体拮抗剤SCH23390を使用した結果、ドーパミンD1R受容体の阻害は、化合物M2によるsEPSC発火周波数への強化作用を阻害できないことが示され、前頭葉のD1R受容体は化合物M2による興奮性シナプス伝達に関与しない可能性があることが表される(図5に示す)。
【0058】
4、化合物M2は速く前頭葉シナプスを活性化して、関連のシグナル経路を生成する
本実験では化合物M2が抗うつ作用を発揮する可能な細胞内シグナル経路を調べる。mTORシグナル経路の活性化は速い抗うつにおいて重要な作用を発揮するため、本研究ではmTORシグナル経路の上流・下流の関連のタンパク質の変化を調べる。結果により、化合物M2投与0.5時間後(図6のa)、内側前頭葉p-mTORとp-TrkBの含有量を増加できるが、総含有量が変化しないことが示された。文献により、mTORシグナル経路は速いうつ疾患メカニズムに関連し、ケタミンの速い抗うつ作用はリン酸化mTOR含有量の増加及びTrkBタンパク質(BDNF受容体)の活性化に関連する可能性があることが示された。本結果により、化合物M2の抗うつ作用はmTORとTrkBタンパク質の活性化にも関連する可能性があることが表された。
【0059】
mTORシグナル経路が活性化された後に、シナプス関連タンパク質の発現レベルの向上が更に増加し、図6のbには、単回投与24h後、化合物M2は内側前頭葉シナプスが形成した関連タンパク質PSD95の含有量を有意に増加することが示された。該結果は電気生理学的試験により発見された、化合物M2が前頭葉シナプス伝達を強化する機能と一致する。PSD95はシナプス後密度タンパク質であり、神経可塑性に関与する。研究文献(Shinohara R , Aghajanian G K , Abdallah C G . Neurobiology of the Rapid Acting Antidepressant Effects of Ketamine: Impact and Opportunities[J]. Biological Psychiatry, 2020.)には、ケタミンが抗うつ・抗不安作用を発揮することは、PSD95タンパク質の発現レベルの増加に関連することが示された。
【0060】
従来の研究(Pizzagalli D A , Roberts A C . Correction: Prefrontal cortex and depression[J]. Neuropsychopharmacology, 2021:1-1.)により、臨床においてうつ病患者には前頭葉萎縮の形態学的特性が現れる可能性があり、且つ基礎実験研究において、慢性社会的ストレスでのモデルマウスは、前頭葉の5層目のニューロン突起密度が低下し、ニューロン興奮性シナプス後電流EPSCの周波数が低下し、EPSCの周波数の低下は、前頭葉興奮性神経伝達物質のシナプス伝達を低減する。前頭葉興奮性シナプス伝達は抗うつ・抗不安作用に密接に関与し、ケタミン、フルオキセチンのようなものは前頭葉興奮性シナプス伝達を強化できる。従って、本実験では化合物M2の薬理作用特徴を組合わせて、化合物M2による抗うつ・抗不安効果を主に調べ、及び、化合物による脳内興奮性神経伝達物質グルタミン酸作動性システムへの影響を調べる。生理状況に近い前頭葉脳スライス実験を行った結果、化合物M2はいずれもグルタミン酸神経伝達物質の放出を促進して、グルタミン酸受容体の機能を強化することができることが発見され、化合物M2が前頭葉の興奮性を強化し、濃度効果を呈することが示された。
【0061】
上記結果により、化合物M2は主にグルタミン酸作動性神経伝達物質システムに作用し、興奮性グルタミン酸作動性シナプス伝達を強化することにより、前頭葉の興奮性を向上させ、速い抗うつの薬物効果作用を発揮することが示された。また、化合物M2は速く前頭葉mTORシグナル経路を活性化する。結果により、化合物M2は速い抗うつ作用、及びシナプス伝達と脳興奮性を強化する新規抗うつメカニズムを有することが示され、臨床モノアミン類薬物より優れた抗うつ潜在能力を表現した。
【0062】
実験例2:化合物I-5及び化合物M2によるラット脳シナプトソームモノアミン再取り込みへの阻害作用
現在の観点により、中枢モノアミン神経伝達物質5-ヒドロキシトリプタミン(5-HT)、ノルエピネフリン(NA)及びドーパミン(DA)の絶対的又は相対的不足は、うつ病と不安症に密接に関与する。本実験ではインビトロモノアミン再取り込み方法により、被験化合物I-5及び化合物M2の2つの検体によるラット脳シナプトソームの5-HT、NA及びDAの再取り込みへの阻害作用を評価する。単離SDラット脳シナプトソームの調製、同位体トレーサー法を利用して、それぞれモノアミンのDA、5-HT及びNAの再取り込みを阻害する2つの被験検体のIC50を研究して、化合物I-5、化合物M2の可能な抗うつ・抗不安の作用メカニズムを調べる。
【0063】
一、実験材料
1、実験用動物:SDラット、雄性、体重200~220g
【0064】
2、実験検体:
特許A、Bの明細書の実験部分の記載から分かるように、すべての化合物のうち、化合物I-5は各項の実験での結果がいずれも良好であるため、化合物I-5をコントロールとして選択し、化合物M2によるラット脳シナプトソームモノアミン再取り込みへの阻害作用を比較する。
【表3】
【0065】
3、被験物質と陽性コントロール物質等の配合
3.1、被験物質の配合
被験物質を計量し(許容計量誤差±1%)、DMSOに溶解し、10mMの保存液に調製し、-20℃で保存する。
【表4】
実験の前に、倍加希釈法により、Kreb’s溶液で検出濃度(1nM~100μM)に必要な100倍の作用液になるように希釈する。
換算公式:
【数1】
配合過程は下記の通りである。
検出濃度(100μM)-保存液10mM:10μl*
検出濃度(10μM)-作用液濃度1mM:100μl*Kreb’s→最終体積が1000μlになる(1)
検出濃度(1μM)-作用液濃度100μM:100μl(1)Kreb’s→最終体積が1000μlになる(2)
検出濃度(100nM)-作用液濃度10μM:100μl(2)Kreb’s→最終体積が1000μlになる(3)
検出濃度(10nM)-作用液濃度1nM:100μl(3)Kreb’s→最終体積が1000μlになる(4)
検出濃度(1nM)-作用液濃度100nM:100μl(4)Kreb’s→最終体積が1000μlになる(5)
注:各ステップの配合にはタービンで均一に混合して、光を避ける必要がある。実験ごと前に、作用液を即時に調製する
【0066】
3.2、陽性コントロール物質の配合
コントロール物質を計量し(許容計量誤差±1%)、再蒸留水に溶解し、10mMの保存液に調製し、-20℃で保存する。
【表5】
【0067】
二、実験方法
1、脳シナプトソームの調製
文献による方法を採用してシナプトソームを単離して、脳シナプトソームを調製する。小動物断頭器でSDラットの頭部を速く切断し、その後に脳を迅速に摘出し、氷水混合物に置いて予冷し、軟膜と血管組織を除去する。脳組織を摘出する。10倍体積(ml/g)の10mM Tris HCl緩衝液(0.32Mスクロース含有、pH 7.4)を添加し、セルディスラプター超音波均一化装置で均質化し(低温を維持する)、脳組織を10分間均質化遠心する(4℃、1,000g)。4℃で平衡遠心し(1500g、10min)、沈殿を除去し、それから上清を取って再び30min遠心する(20000g)。上清を除去し、沈殿、即ちシナプス小頭部の粗抽出物を保留する。該沈殿部分を0.32Mの冷スクロース溶液で更に懸濁した後に、管底から順に敷かされた1.2Mと0.8M(各10ml)の冷スクロース勾配溶液に注意深く敷き、4℃で60min平衡遠心する(38000g)。穿刺針で0.8~1.2Mのスクロース界面での懸濁ゾーンを注意深く収集し、10ml 0.32Mの冷スクロース溶液に添加して均一に混合し、4℃で30min平衡遠心し(20000g)、沈殿物は精製された脳シナプトソームである。沈殿物を少量のKreb’s緩衝液(NaCl 118mM、KCl 4.7mM、CaCl2 2.5mM、MgSO4 1.2mM、KH2PO4 1.2mM、NaHCO3 25mM及びGlucose 11.1mM、pH 7.2~7.4)に懸濁し、BCA法によりタンパク質定量を行い、操作ステップは説明書に従う。
【0068】
2、モノアミンの再取り込み
文献による関連方法を参照して、本発明者の実験室で最適化し、実験方法は下記の通りである。反応管に950μlの予冷したKreb’s緩衝液を添加し、それから30μlのシナプス小頭部の懸濁液を添加し、更に測定待ちの化合物を10μl添加し(氷上で操作する)、タービンで均一に混合し、37℃で5minの水浴を行う。反応管を取り出して氷上に置き、10μlの基質(3H-DA又は3H-5HT又は3H-NA、最終反応濃度:10nM)を添加し、タービンで均一に混合し、37℃で5minの水浴を行う。それから、反応管を取り出して迅速に氷上に置き、3mlの予冷したKreb’s緩衝液を添加して反応を停止させ、Milliporeセルサンプルコレクターで収集し、GF/Cガラス繊維フィルター膜を経由して迅速に吸引ろ過し、溶出液(50mM Tris-HCl、PH 7.4)3mlで3回溶出し、フィルター膜を取り外し、マイクロ波オーブンで5~6min乾燥させ、フィルター膜を1.5mlの遠心管に移し、500μlの脂溶性シンチレーター液を添加する。光を避けて30min以上静置し、計数して放射能強度(cpm値)を測定する。
【0069】
下記公式で、各化合物の同位体配位子結合への阻害率を算出する。
阻害率(I%)=(総結合管cpm-化合物cpm)/(総結合管cpm-非特異的結合管cpm)×100%
毎回3組の化合物で実験を行い、3回の個別の繰り返し実験を行う。
【0070】
三、実験結果
1、IC50の算出
1)検出化合物濃度をXとし、阻害率をYとする。
2)Xに対して対数を取り、X’=Log(X)であり、新規データを生成する。
3)新規データに対して非線形カーブフィッティングを行い、フィッティングした後に下記方程式に代入し、IC50値を算出する。上記ステップはソフトウェアGraphpadPrismでフィッティングする。
4)
【数2】
【表6】
【0071】
2、実験まとめ
モノアミン再取り込み阻害は抗うつ・抗不安薬が作用する主なターゲットの1つである。被験物質の化合物I-5、化合物M2はラット脳シナプトソームのDA、5-HT及びNAの再取り込みに対して、異なる程度の阻害作用を有し、且つ化合物I-5、化合物M2は阻害作用が同じ程度であり、化合物I-5及び化合物M2が、DA、5-HT、NAの再取り込みへの阻害により抗うつ・抗不安作用を発揮することが示された。
化合物I-5のラット脳シナプトソームのDA、5-HT及びNAの再取り込みに対するIC50値はそれぞれ26.02±1.33nM、18.52±2.47nM、17.21±1.59nMである。
化合物M2のラット脳シナプトソームのDA、5-HT及びNAの再取り込みに対するIC50値はそれぞれ37.28±1.97nM、98.87±2.42nM、23.54±3.56nMである。
【0072】
実験例3:化合物I-5及び化合物M2による抗うつ作用の研究
「行動的絶望」モデルは1977年にPorsoltらが発展したものであり、ラット・マウス強制水泳モデル及びマウス尾懸垂モデルを含み、急性ストレスモデルに属する。マウス尾懸垂試験はSternらが1985年に紹介した抗うつ薬を評価する簡単な実験方法であり、その原理は強制水泳「無動」実験と同じである。懸垂されたマウスは異常な身体姿勢を克服するためにもがくが、一定の時間の動きの後、動物は「失望」により断続的な不動状態を表現する。
本実験では測定待ちの検体の化合物I-5と化合物M2が「行動的絶望」実験におけるマウス尾懸垂行為に影響を与えるかどうか、マウスの無動時間を短縮できるかどうかを観察し、且つ化合物I-5と化合物M2の速い発効作用を比較して研究する。
【0073】
一、実験材料
1、被験検体1
名称又はコード:化合物I-5
被験物質番号:YLS-2021-CMI1203-002
バッチ番号:C16101006-C17001M
配合方法:溶媒はTween 80+水であり、最終体積が1.5%のTween 80で充分に乳化し、最終体積となるまで水を添加し、配合後の一時保存条件は4℃冷蔵庫である。
【0074】
2、被験検体2
名称又はコード:化合物M2
被験物質番号:YLS-2021-CMI1203-01-001
バッチ番号:20201029
配合方法:溶媒はTween 80+水であり、最終体積が1.5%のTween 80で充分に乳化し、最終体積となるまで水を添加し、配合後の一時保存条件は4℃冷蔵庫である。
【0075】
二、実験動物
C57 BL/6マウス、40匹、SPF級、雄性、4~5週。
【0076】
三、実験方法
1、動物グルーピング及び用量設計根拠
40匹のマウスはExcel完全ランダムグルーピング法に従って4つの群に分けられ、各群は10匹である。事前の予備実験の結果に示されたように、投与24h後、化合物M2は用量依存的に強制水泳試験におけるマウスの無動時間を低減でき、且つ投与用量が30mg/kgの場合に有意な作用を有する。このため、本実験では30mg/kgを化合物M2の低用量とするとともに、60mg/kgを化合物M2投与の高用量とし、60mg/kgの化合物I-5と比較して研究する。グルーピング及び投与については詳しくは表1を参照する。
【0077】
【表7】
【0078】
2、投与形態及び投与時間
各試験群は投与すべき薬液の強制経口(i.g.)により投与し、用量は0.2ml/10g体重である。
【0079】
3、指標検出
単回経口投与30min後にマウス尾懸垂試験を行い、尾懸垂の継続時間は6minである。マウスの6min間の静止無動の時間を記録する。
【0080】
4、統計方法
データは平均値±基準(mean±SD)差で示し、データ差異統計は一元配置分散分析(ANOVA)又はノンパラメトリック検定を採用し、群間差異はP<0.05で判断する。
【0081】
四、実験結果
マウス単回投与テスト結果に示されたように、60mg/kgの化合物M2の単回投与30min後、マウス尾懸垂の静止無動の時間を明らかに短縮でき、ブランク群と比べてp<0.05である。30mg/kgの化合物M2の単回投与30min後、マウス尾懸垂の無動時間の低減傾向が一定の程度で現れたが、統計学的に有意な差異は示さない。60mg/kgの化合物I-5の単回投与30min後、マウス尾懸垂の静止無動の時間には明らかな影響がない(表2を参照)。上記の結果により、化合物M2による抗うつ作用の発効が比較的速く、化合物M2は有意な抗うつ作用を有し、且つ抗うつ作用の発効が比較的速く、速い発効の面で明らかに化合物I-5より優れたことが示された。
【0082】
【表8】
【0083】
実験例4:化合物I-5及び化合物M2のラット絶対的バイオアベイラビリティの研究
1、実験目的
実験により、ラット血漿における化合物I-5及び化合物M2を測定するLC-MS/MS方法を確立し、化合物のラット薬物動態特徴と絶対的バイオアベイラビリティを調べる。
【0084】
2、実験材料
2.1、実験動物
Beijing Vital Riverから購入された、SPF級SD雄性ラット20匹(体重220±20g)。
2.2、被験物質
化合物I-5原薬、バッチ番号C16101006-C(20170814)M、含有量99.6%、TIANJIN TASLY PHARMACEUTICAL CO.,LTDが提供する。
化合物M2原薬、バッチ番号20201029、含有量99.8%、TIANJIN TASLY PHARMACEUTICAL CO.,LTDが提供する。
【0085】
3、実験方法
3.1、被験物質の配合及び投与用量
【表9】
【0086】
3.2、測定方法
3.2.1、化合物M2のLC-MS条件(順相)
3.2.1.1、液相条件
カラム:waters BEH C18 1.7μm; 2.1×100mm Column
内部標準:D-I-5(重水素化合物I-5、構造式は下記の通りである)
【化5】
移動相:0.1%ギ酸水溶液(A)、アセトニトリル(B)、イソクラティック溶出(A/B: 58:42v/v)
流速:0.4ml/min、カラム温度:40℃、注入量:4μL
【0087】
3.2.1.2、マススペクトル条件
イオン検出方式:選択反応モニタリング(MRM)
イオン化方式:エレクトロスプレーイオン化(ESI)
イオン極性:陽性イオン
【表10】
【0088】
3.3、薬物動態実験
SDラット20匹、ランダムに4つの群に分け、各群に5匹。投与前に断食10h、自由に水を飲ませ、投与前(0h)と投与後0.083、0.25、0.5、1、2、4、6、8、10、24hに目の縁から0.3mL静脈採血し、EDTA-K2抗凝固チューブに置き、軽く揺れて抗凝固薬と充分で均一に混合し、ウェットアイス上に置き、0.5h内に遠心を完成する。
遠心:8000rpmで遠心5min後、血漿を分離する。
保存:-20℃で凍結保存する。
【0089】
3.4、血漿検体の処理方法
50μLの血漿を取り、50μL D-I-5(20ng/mLアセトニトリルに溶解する)、タービンを30s行い、更に100μLのアセトニトリルを添加し、充分にタービンを2min行い、4℃ 12000r/minで3min遠心し、上清を50μL取り、50uLの水溶液を添加して希釈し、タービンを1min行い、4μLの注入を行ってよい。
【0090】
4、薬物動態結果分析
ラットに対してそれぞれ強制経口と静脈投与を行った後の平均血中濃度-時間曲線については図8図9を参照し、DAS3.0薬物動態ソフトウェア(中国数学薬理専業委員会、中国上海)を採用してデータ処理を行い、ノンコンパートメントモデル統計的モーメントパラメータを算出し、CmaxとTmaxは測定値である。血中濃度データと薬物動態パラメータについては詳しくは下記の表を参照する。
【0091】
【表11】
【0092】
【表12】
【0093】
【表13】
【0094】
【表14】
【0095】
【表15】
【0096】
【表16】
【0097】
5、検討
ラットに化合物M2及び化合物I-5を強制経口と静脈投与した後、薬物動態研究結果に示されたように、強制経口投与後に化合物M2及び化合物I-5の吸収がピークに到達する時間は比較的速く、ピーク到達時間tmaxは0.35hであり、化合物M2のCmaxは425.4±136.9ng/mLであり、化合物I-5のCmaxは361.1±258.2ng/mLであり、化合物M2は比較的高い血中濃度を有する。化合物M2のAUC0-tは1080.1±373.4ng.h/mLであり、化合物I-5のAUC0-tは523.3±433.3ng.h/mLである。同じ強制経口投与用量で、化合物M2は化合物I-5と比べて、ラット体内でより高い暴露量を示すとともに、より高い絶対的バイオアベイラビリティを有し、それぞれ40.8%と24.05%である。
【0098】
実験例5:M2及びその構造アナログの抗不安作用の研究
一、実験材料
1、被験検体
特許Cの明細書における2つの実験(マウス高架式十字迷路試験、ラットVogel型コンフリクト試験)の結果から分かるように、2つの実験において効果が比較的良い化合物はII-3、II-4、II-5、II-10であるため、これらの4種の化合物をコントロールとして選択して、本願の化合物M2の抗不安作用を評価する。
【0099】
(1)名称又はコード:化合物M2
【化6】
バッチ番号:20201029
被験物質番号:YLS-2021-CMI1203-01-001
由来:TASLY研究所化学薬品開発センター
【0100】
(2)名称又はコード:化合物II-3(即ち特許A、Bにおける化合物I-3)
【化7】
バッチ番号:20180521
被験物質番号:YSL-2021-CMI1203-01-023
由来:TASLY研究所化学薬品開発センター
【0101】
(3)名称又はコード:化合物II-4(即ち特許A、Bにおける化合物I-4)
【化8】
バッチ番号:20211217
被験物質番号:YSL-2022-CMI1203-01-001
由来:TASLY研究所化学薬品開発センター
【0102】
(4)名称又はコード:化合物II-5(即ち特許A、Bにおける化合物I-5)
【化9】
バッチ番号:C16101006-C17001M
被験物質番号:YSL-2021-CMI1203-01-002
由来:TASLY研究所化学薬品開発センター
【0103】
(5)名称又はコード:化合物II-10(即ち特許A、Bにおける化合物I-10)
【化10】
バッチ番号:20170601
被験物質番号:YSL-2021-CMI1203-01-023
由来:TASLY研究所化学薬品開発センター
【0104】
2、陽性コントロール物質
名称又はコード:エスタゾラム錠
バッチ番号:211007
被験物質番号:YSL-2021-CMI1203-01-022
由来:Shandong Xinyi Pharmaceutical Co., Ltd.
【0105】
3、主な機器
【表17】
【0106】
二、実験動物
2.1、実験動物
(1)種:ICRマウス(高架式十字迷路試験用)
数量:120匹
グレード:SPF級
性別:雄性
体重:18~20g
動物認証書番号:110011211113772653、110011221101333628
由来:Beijing Vital River Laboratory Animal Technology Co., Ltd.
生産許可証番号:SCXK(京)2021-0006
【0107】
(2)種:SDラット(Vogel型コンフリクト試験用)
数量:75匹
グレード:SPF級
性別:雄性
体重:180~200g
動物認証書番号:110011221102490324
由来:Beijing Vital River Laboratory Animal Technology Co., Ltd.
生産許可証番号:SCXK(京)2021-0011
【0108】
2.2、動物施設
飼育施設:Tasly Holding Group Co. LTD天津動物施設バリア環境内
施設住所:天津市北辰科技園淮河道と汀江西路との交差点の工場区内
実験動物使用許可証:SYXK(津)2017-0007
発行所:天津市科学技術委員会
【0109】
2.3、動物の飼育と管理
飼育環境:バリア環境。本施設の環境条件は中国国家標準『実験動物環境及び施設』(GB14925-2001)のバリア動物実験施設に関する標準を満たす。動物飼育と動物実験操作は『天津市実験動物管理条例』等の規定を満たす。温度:20~26℃、湿度:40%~70%、照明:12時間明、12時間暗、通風:≧15回/時間の全新鮮空気、動物は1T/h型マルチ微孔フィルター膜ろ過システムにより調製した無菌水(4級ろ過、UV滅菌)を飲む。
動物管理は動物保障部により担当され、断食以外に、毎日動物に充分な飼料と飲用水を供給する。ウォーターボトルは日ごとに1回交換する。動物飼育用床敷材は週ごとに2回交換し、特殊な場合にその都度交換する。飼育用籠は週ごとに1回交換する。動物飼料はBeijing Keao Xieli Feed Co.,Ltd.から購入され、生産許可証番号がSCXK(京)2019-0003である。
【0110】
2.4、動物の受領と検疫
実験動物が到達した後、実験員、獣医及び動物保障部は共同で受領する。受領する時、まず輸送ツールが規定を満たすかどうかを確認し、そして動物提供元が提示した動物認証書を確認して、認証書の内容と購入を申請した動物種、グレード、数量、性別との一致性を確認する。そして、パッケージが規定を満たすかどうか、及び動物のパッケージに破損があるかどうかを確認する。動物のパッケージは第1搬送キャビネットを経由して検疫室に搬送される。試験用品と実験記録は第2搬送キャビネットを経由して搬送される。
検疫室において動物のパッケージを開き、動物の性別及び数量が動物認証書に記載の事項と一致するかどうかを確認する。動物の外見(性別、体重、頭部、胴、尾部、四肢、毛皮、精神、活動等を含む)を逐一確認し、『実験動物受領記録』と『実験動物検疫記録』を記入する。動物を確認した後に動物飼育籠に置き、籠において検疫期間ラベルを吊り、それから検疫室において適応期飼育を行う。
動物の適応飼育期限は2~3日である。定期的に動物(体重、頭部、胴、尾部、四肢、毛皮、精神、活動等を含む)を観察する。
【0111】
三、実験方法
3.1、化合物M2単回投与用量の探索研究(高架式十字迷路試験)
(1)動物グルーピング及び投与
雄性の50匹のICRマウスをランダムに5つの群(溶媒コントロール群、エスタゾラム群、M2高用量群、M2中用量群、M2低用量群)に分け、群ごとに10匹である。そのうち、化合物M2の高・中・低用量群ではそれぞれ20mg/kg、10mg/kg、5mg/kgで強制経口投与し、陽性薬のエスタゾラムは2.5mg/kgで強制経口投与し、溶媒コントロール群では同等容積の溶媒を強制経口投与する。各群ではいずれも単回投与30min後に行為テストを行う。実験は午前8:00~14:00の間に行われ、すべての動物は前日にテスト実験室に入る。
用量設計根拠:前期抗不安実験結果(特許C)に示されるように、化合物M2の構造アナログである化合物II-3、II-4、II-5等は、マウス高架式十字迷路試験において、その抗不安の有効用量が10mg/kgである。今回の実験では10mg/kgを化合物M2の中用量とし、用量をそれぞれ5mg/kg下げ、20mg/kg上げる。抗不安の陽性薬のエスタゾラムの臨床用量は6mg/人/日であり、マウス臨床効果同等用量に換算すると6mg/60kg*12.3=1.23mg/kgであり、2倍臨床用量は2.5mg/kgであり、ラット臨床効果同等用量に換算すると6mg/60kg*6.2=0.62mg/kgであり、2倍臨床用量は1.24mg/kgである。
【0112】
【表18】
【0113】
(2)行為テスト
実験室では光線が暗くて(1.5m距離のところでマウスの微動を区別できる最低明るさを基準とする)、明るさを一定にし、室温が20℃程度であり、静かさを維持する。迷路試験前に各マウスを1つの35cm*10cm*5cmのプラスチック箱に置き、自由に探索させ、5min後に迅速に高架式十字迷路の中央プラットホームに置き、頭部をそのうちの1つのオープンアームに向け、解放した後に下記指標を記録する。各匹のマウスを5minテストする。観察員は1.5m距離のところで動物の活動をそれぞれ観察して記録する。中途で湿布で迷路を拭き、糞便を取り除き、続いて乾布で拭いた後に次のマウスに対するテストを行う。
【0114】
(3)行動観察指標
(1)オープンアームへの進入回数(open armentry、OE):いずれかのオープンアームへの進入回数であり、マウスの4つの足がいずれもアーム内に入ることを基準とし、途中で1つの足が該アームから完全に抜いたことは今回の進入活動の完成を示す。
(2)オープンアームへの進入時間(open arm time、OT):オープンアームに進入する時間であり、単位が秒である。
(3)クローズドアームへの進入回数(close arm entry、CE):いずれかのクローズドアームへの進入回数であり、マウスの4つの足がいずれもアーム内に入ることを基準とする。
(4)クローズドアームへの進入時間(close arm time、CT):クローズドアームに進入する時間であり、単位が秒である。
(5)オープンアーム時間のパーセンテージ:OT%=OT/(OT+CT)*100%
(6)オープンアーム回数のパーセンテージ:OE%=OE/(OE+CE)*100%
【0115】
3.2、化合物M2及び構造アナログの単回投与薬物効果の比較研究(高架式十字迷路試験)
(1)動物グルーピング及び投与
雄性の70匹のICRマウスをランダムに7つの群(溶媒コントロール群、エスタゾラム群、化合物M2群、化合物II-3群、化合物II-4群、化合物II-5群、化合物II-10群)に分け、群ごとに10匹である。そのうち、M2及びその4つの構造アナログの用量を3.1の実験結果に基づいて20mg/kgとし、陽性薬のエスタゾラムは2.5mg/kgで強制経口投与し、溶媒コントロール群では同等容積の溶媒を強制経口投与する。各群ではいずれも単回投与30min後に行為テストを行う。実験は午前8:00~14:00の間に行われ、すべての動物は前日にテスト実験室に入る。
【0116】
【表19】
行為テスト方法及び行動観察指標は3.1と同じである。
【0117】
3.3、化合物M2及び構造アナログの単回投与薬物効果の比較研究(Vogel型コンフリクト試験)
(1)動物グルーピング及び投与
75匹の体重が180~220gの雄性SDラットを適応的に1週間飼育した後に、断水24hで訓練期テストを行い、適格な動物を選別して、体重によりランダムに7つの群(溶媒コントロール群、エスタゾラム群、化合物M2群、化合物II-3群、化合物II-4群、化合物II-5群、化合物II-10群)に分け、群ごとに8匹である。そのうち、化合物M2及びその4つの構造アナログの用量を3.1の実験結果に基づいて10mg/kgとし、陽性薬のエスタゾラムは1.24mg/kgで強制経口投与し、溶媒コントロール群では同等容積の溶媒を強制経口投与する。群に分けられた動物を続いて24h断水して、単回投与を行い、単回投与30min後に懲罰実験テストを行う。
【0118】
【表20】
【0119】
実験は二段階で行われる。第1段階は訓練期であり、断水24h後に動物を個別に操作箱に置き、ボトルの口を発見して水を舐め始めるまで充分に探索させ(電撃強度0mA)、カウンターで3min内の水舐め回数を自動的に記録し、水舐め回数が300回より低い動物を淘汰する。第2段階は懲罰期であり、淘汰されていない動物に対して続いて24hの断水を行った後に投与し、再び個別に操作箱に置き、動物の20回水舐めからカウンターでカウントを自動的に開始して1回の電撃を行い(水舐めと電撃回数との比は20:1である)、電撃強度は一般的に0.3mAであり、2s維持するが、動物がボトルの口から抜けることにより電撃を解除し得る。3minの動物の水舐め回数と電撃回数を記録する。
観察指標:懲罰期内のラットの水舐め回数。
【0120】
3.4、統計方法
データを平均値±基準(mean±SD)差で示し、データ差異統計は一元配置分散分析(ANOVA)又はノンパラメトリック検定を採用し、群間差異はP<0.05で判断する。
【0121】
四、実験結果
4.1、化合物M2単回投与用量の探索研究(高架式十字迷路試験)
化合物M2単回投与用量の探索研究結果に示されるように、化合物M2の高(20mg/kg)・中(10mg/kg)・低用量(5mg/kg)の単回強制経口投与は、いずれも異なる程度で高架式十字迷路試験におけるマウスのオープンアームへの進入回数を増加して、マウスのオープンアームでの滞在時間を延長することができる。そのうち、化合物M2の高用量群は溶媒コントロール群と比べて有意な差異を有する(P<0.05、P<0.01)。
上記結果に示されるように、化合物M2の単回投与は有意な抗不安活性を有し、その単回投与の有効用量は20mg/kgである。
【0122】
【表21】
【0123】
4.2、化合物M2及び構造アナログの単回投与薬物効果の比較研究(高架式十字迷路試験)
高架式十字迷路試験の研究結果に示されるように、化合物M2及びその構造アナログである化合物II-3、II-4、II-5、II-10の20mg/kgでの単回強制経口投与は、いずれも異なる程度で高架式十字迷路試験におけるマウスのオープンアームへの進入回数を増加して、マウスのオープンアームでの滞在時間を延長することができる。そのうち、化合物M2、化合物II-4、化合物II-5、化合物II-10群は溶媒コントロール群と比べて有意な差異を有する(P<0.05、P<0.01)。化合物M2及びその構造アナログであるII-4、II-5、II-10は該モデルにおいて有意な抗不安活性を有し、且つ化合物M2はII-3、II-4、II-5、II-10と比べて、その抗不安活性が最適であることが示された。
【0124】
【表22】
【0125】
4.3、化合物M2及び構造アナログの単回投与薬物効果の比較研究(Vogel型コンフリクト試験)
Vogel型コンフリクト試験の研究結果に示されるように、化合物M2及びその構造アナログである化合物II-3、II-4、II-5、II-10の20mg/kgでの単回強制経口投与は、いずれも異なる程度でVogel型コンフリクト試験におけるラットの水飲み回数を増加できる。そのうち、化合物M2、化合物II-5、化合物II-10群は溶媒コントロール群と比べて有意な差異を有する(P<0.05)。化合物M2及びその構造アナログである化合物II-5、II-10は該モデルにおいて有意な抗不安活性を有し、且つ化合物M2はII-3、II-4、II-5、II-10と比べて、その抗不安活性が最適であることが示された。
【0126】
【表23】
【0127】
五、実験結論
以上を纏めて、化合物M2は有意な抗不安活性を有し、単回投与の有効用量は20mg/kgであり(マウス)、且つ化合物M2はその構造アナログである化合物II-3、II-4、II-5、II-10と比べて、その抗不安活性が最適である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】