(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-31
(54)【発明の名称】時間制限摂食レジメンの不十分な栄養摂取を軽減するための栄養組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
G16H 10/00 20180101AFI20240524BHJP
【FI】
G16H10/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573285
(86)(22)【出願日】2022-06-15
(85)【翻訳文提出日】2023-11-27
(86)【国際出願番号】 EP2022066251
(87)【国際公開番号】W WO2022263486
(87)【国際公開日】2022-12-22
(32)【優先日】2021-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】エローテギ パスクアル, パロマ
(72)【発明者】
【氏名】エルドリッジ, アリソン エル.
(72)【発明者】
【氏名】スクッチマラ, エリック アントワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】マイナルディ, ファビオ
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA15
(57)【要約】
本発明は、間欠絶食(IF)食、特に時間制限摂食レジメン(TRF)の不十分な栄養摂取を軽減するための新規栄養組成物及び方法に関する。本発明はまた、成人における上記TRF食の栄養リスクの決定、定量化及び軽減のための人工知能(AI)ベースのシステムを包含する。
【選択図】
図1、
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間制限摂食(TRF)レジメンに従っている又は従うことを計画している個体における個々の栄養不足を特定及び/又は定量化するためのコンピュータ実施方法又はAIベースのシステムであって、
(i)前記個体の栄養要求及び/又は食事ルールを特定するステップと、
(ii)前記個体の栄養要求及び/又は食事ルールを、適合させたTRF食によって提供される栄養と比較するステップと、
(iii)潜在的な栄養不足を特定及び定量化するために分析を実施するステップと、
を含む、コンピュータ実施方法又はシステム。
【請求項2】
前記時間制限摂食レジメンが、16:8、20:4、12:12プロトコル及びこれらの変形から選択される、請求項1に記載のコンピュータ実施方法又はシステム。
【請求項3】
前記個体の栄養要求が、年齢、性別、身長、体重、身体活動、生活習慣、及び/又は医学的状態のうちの少なくとも1つに基づく、請求項1又は2に記載のコンピュータ実施方法又はシステム。
【請求項4】
前記食事ルールが、個体の具体的な食事制限又は選好性に基づく、請求項1~3のいずれか一項に記載のコンピュータ実施方法又はシステム。
【請求項5】
ステップii)の前記TRF食が、シミュレートされたTRF食である、請求項1~4のいずれか一項に記載のコンピュータ実施方法又はシステム。
【請求項6】
時間制限摂食レジメンに従っている又は従うことを計画している個体における栄養不足を軽減するためのコンピュータ実施方法又はAIベースのシステムであって、
i)規定されたTRF食下における栄養不足を特定するステップと、
ii)前記個体において特定された栄養不足を軽減するために、具体的な食事推奨及び/又は栄養解決策を提供するステップと、
iii)任意選択で、生活習慣に関する推奨を提供するステップと、
を含む、コンピュータ実施方法又はAIベースのシステム。
【請求項7】
栄養不足を特定するための前記方法が、請求項1~5のいずれか一項の記載に従う、請求項6に記載のコンピュータ実施方法又はシステム。
【請求項8】
前記方法又はシステムが、食事推奨、献立の推奨、及び/又はレシピの推奨を含む、請求項6又は7に記載のコンピュータ実施方法又はシステム。
【請求項9】
前記方法が、栄養素、食品及び飲料、ダイエタリーサプリメント、献立の推奨及び/又はレシピの推奨としての食品及び飲料の組み合わせ、並びにそれらの組み合わせからなる群から選択される、食品又は栄養素についての推奨を提供する、請求項6~8のいずれか一項に記載のコンピュータ実施方法又はAIベースのシステム。
【請求項10】
TRFレジメンに従っている又は従うことを計画している個体における栄養不足を軽減する方法であって、
i)前記個体の栄養要求及び/又は食事ルールを特定するステップと、
ii)前記個体の栄養要求及び/又は食事ルールを、TRF食によって提供される栄養と比較するステップと、
iii)潜在的な栄養不足を特定及び定量化するために分析を実施するステップと、
iv)前記個体において特定された栄養不足を軽減するために、具体的な食事推奨及び/又は栄養解決策を提供するステップと、
v)任意選択で、生活習慣に関する推奨を提供するステップと、
を含む、方法。
【請求項11】
TRFレジメンに従っている又は従うことを計画している個体の不十分な栄養摂取を軽減するための組成物であって、食品製品、飲料製品、栄養補助食品、経口栄養補助食品(ONS)、医療用食品、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、組成物。
【請求項12】
請求項6~10のいずれか一項に記載の方法に従って得られる、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか一項に記載の組成物を投与するステップを含む、TRF食を摂取している個体の不十分な栄養摂取を軽減する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間欠絶食(IF)食、特に時間制限摂食レジメン(TRF)の不十分な栄養摂取を軽減するための新規栄養組成物及び方法に関する。本発明はまた、成人における上記TRF食の栄養リスクの測定、定量化及び軽減のための、人工知能(AI)ベースのシステムにも関する。
【背景技術】
【0002】
間欠絶食(IF)は、消費されるエネルギー摂取がほとんど又は全くない期間が、摂食(フィスティングと呼ばれることもある)期間と交互にある食事パターンを説明するための総称である。IFの最も一般的なスタイルの1つは、時間制限摂食(TRF)レジメンであり、このレジメンでは、食物の摂取は、1日当たりで指定された時間のみ許容され、例えば、16:8レジメンの人々は、毎日16時間絶食し、8時間摂食する。
【0003】
TRFは、一般に減量レジメンとして使用されるが、動物及びヒトでの研究を基に血糖コントロール及び心血管の健康を含む他の健康上の利益もあると主張されている。健康パラメータに対するTRFの有効性は文献において非常に様々であるが、これは研究対象及び研究計画の多様性に起因する可能性が最も高い。
【0004】
TRF食を取る人は、典型的には、TRF食により生じる可能性のある栄養不足又はその不足量を認識しないであろう。実生活の摂食パターンは、臨床環境において管理条件下及び常時監視下で与えられる食事選択とは異なる場合があり、したがって、臨床環境においてリスクのある栄養素は実生活環境とは異なり得ることから、既存の臨床試験では上記2点について答えを得ることは容易ではない。さらに、ほとんどの無作為化比較試験は、肥満又は過体重の集団において実施されたものであり、過去の研究における研究サイズ及び対象の数は、概して小さい。最後に、栄養要求は、年齢、性別、身長、体重及び個々の状態(妊娠、授乳など)によって異なる。
【0005】
さらに、毎日記録を取るのは面倒であること、人々は個々の品目及び摂食機会を報告することを忘れること、栄養データベースへのアクセスがないこと、及び栄養不足を特定するために必要とされる専門知識を欠くことから、個人の食生活を継続的に毎日報告及び分析することは実用的ではない。
【0006】
したがって、長期間にわたって時間制限摂食(TRF)レジメンに従う個体における栄養不足を予防するための栄養組成物及び方法の形態で、解決策を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、TRFレジメン(例えば、16:8、20:4、12:12)に従っている又は従うことを計画している個体のための、個別化された栄養、食事及び生活習慣推奨のための新規な栄養推奨及び革新的方法を提供することによって、現在の技術水準における不十分な栄養摂取に対処する。
【0008】
一態様では、本発明は、時間制限摂食レジメンに従っている又は従うことを計画している個体における個々の栄養不足を特定及び/又は定量化するためのコンピュータ実施方法又はAIベースのシステムであって、
(i)個体の栄養要求及び/又は食事ルールを特定するステップと、
(ii)個体の栄養要求及び/又は食事ルールを、TRF食によって提供される栄養と比較するステップと、
(iii)潜在的な栄養不足を特定及び定量化するために分析を実施するステップと、
を含む、方法又はシステムを提供する。
【0009】
一実施形態では、個体の栄養要求は、個体の特徴、すなわち年齢、性別、身長、体重、身体活動、生活習慣、及び医学的状態、のうちの1つ以上に基づく。
【0010】
別の実施形態では、食事ルールは、個体の具体的(specific)な食事制限(例えば、グルテンフリー、ラクトースフリーなど)又は選好性(例えば、地中海式ダイエット、フレキシタリアン、菜食主義(乳製品及び卵を含むものと含まないもの)、ビーガンなど)に基づく。
【0011】
一実施形態では、TRF食は、シミュレートされたTRF食である。
【0012】
別の態様では、本発明は、新規の統合された食事推奨を提供することによって、TRFレジメンに特有な状態である不十分な食事摂取に対処する。より詳細には、本発明は、TRFレジメンに従っている又は従うことを計画している個体における栄養不足を軽減するためのコンピュータ実施方法又はAIベースのシステムを提供し、上記方法は、
i)規定されたTRF食下における栄養不足を特定するステップと、
ii)上記個体において特定された栄養不足を軽減するために、具体的な食事推奨及び/又は栄養解決策を提供するステップと、
iii)任意選択で、生活習慣に関する推奨を提供するステップと、
を含む。
【0013】
一実施形態では、栄養不足を特定する方法は上記の通りであり、別の態様では、本発明は、TRFレジメンに従っている又は従うことを計画している個体における栄養不足を軽減する方法であって、
i)個体の栄養要求及び/又は食事ルールを特定するステップと、
ii)個体の栄養要求及び/又は食事ルールを、TRF食によって提供される栄養と比較するステップと、
iii)潜在的な栄養不足を特定及び定量化するために分析を実施するステップと、
iv)上記個体において特定された栄養不足を軽減するために、具体的な食事推奨及び/又は栄養解決策を提供するステップと、
v)任意選択で、生活習慣に関する推奨を提供するステップと、
を含む、方法を提供する。
【0014】
一実施形態では、栄養解決策は、規定されたTRF食パターン、生活習慣及び食事ルール下においてこのように推奨される食品、飲料、及び/又はダイエタリーサプリメントを含む。
【0015】
本発明の利点は、ユーザが習慣的な規定食を変更する決定を下す前に、規定食の決定を支援し、TRF食に従うときに必要な食習慣の変更を案内することである。本発明は、選択された規定食をシミュレートし、生じ得る栄養ギャップを事前に分析することによって、予想される栄養状態の推定を行う。
【0016】
本発明の別の利点は、TRF食に従っている又は従うことを計画している個体が、個別化された栄養リスク軽減計画を作成するのに役立つことである。本発明は特に、規定食を取る対象者に、AIベースのモデル及び栄養科学モデルを介して、かかる規定食に従う際の不十分な摂取による栄養リスクについての認識を提供することができる。
【0017】
本発明の更なる利点は、TRFレジメンに特有の栄養必要量を満たすために、食品、飲料、及び/又はダイエタリーサプリメントを摂取することをユーザに促すことである。
【0018】
本発明はまた、TRFレジメンの順守を示す可能性がある一時的な摂食パターン(すなわち、食事を抜くこと)に従う米国成人の割合を推定し、その人口統計学的特性を特定するための分析を提供する。さらに、その栄養摂取を見ることによって、制限された摂食が、規定食の量に加えて、質(栄養密度によって測定される)に関連するかどうかを推測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】男性のカルシウム摂取量範囲についての、シミュレートされたベースライン摂取量を、16:8 TRFと比較した図である。ボックスは、各規定食について、摂取量の25パーセンタイル(下限)及び75パーセンタイル(上限)を示す。各ボックスの中央のバーは、摂取量中央値である。ベースラインの摂取量中央値は、カルシウムのRDAを超えるが、EARを上回る。全ての16:8TRFレジメンは、ベースラインにおける中央値よりも低い摂取量中央値を有する。
【
図2】女性のカルシウム摂取量範囲についての、シミュレートされたベースライン摂取量を、16:8 TRFと比較した図である。ボックスは、各規定食について、摂取量の25パーセンタイル(下限)及び75パーセンタイル(上限)を示す。各ボックスの中央のバーは、摂取量中央値である。ベースラインの摂取量中央値は、カルシウムのRDAを超えるが、EARを上回る。全ての16:8TRFレジメンは、ベースラインにおける中央値よりも低い摂取量中央値を有する。
【
図3】男性の繊維摂取量範囲についての、シミュレートされたベースライン摂取量を、16:8TRFと比較した図である。ボックスは、各規定食について、摂取量の25パーセンタイル(下限)及び75パーセンタイル(上限)を示す。各ボックスの中央のバーは、摂取量中央値である。ベースライン及び全ての16:8TRF食における繊維摂取量は、AI未満である。
【
図4】女性の繊維摂取量範囲についての、シミュレートされたベースライン摂取量を、16:8TRFと比較した図である。ボックスは、各規定食について、摂取量の25パーセンタイル(下限)及び75パーセンタイル(上限)を示す。各ボックスの中央のバーは、摂取量中央値である。ベースラインにおける女性の繊維摂取量中央値は、AIを上回る。繊維16:8TRFの摂取量中央値は、AI未満である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
定義
本発明を更に詳細に議論する前に、次の用語及び約束事を最初に定義する。
【0021】
時間制限摂食(TRF)の種類の例には次のものがある:
・12:12-12時間の絶食と12時間の随意(ad libitum)摂食
・16:8-16時間の絶食と8時間の随意摂食
・20:4-20時間の絶食と4時間の随意摂食
本発明の文脈において、「栄養素」は、生物の健康、発育、発達及び機能に必要な物質であって、
・主要栄養素(例えば、タンパク質、炭水化物、脂肪)及びその成分(例えば、アミノ酸、糖、デンプン、脂肪酸など)、
・微量栄養素(例えば、ビタミン類、ミネラル類)、
・他の食品成分(繊維、コレステロール、生物活性植物化学物質、アルコールなど)、
・食品及び飲料に含まれる水分、
を含む。
【0022】
「組成物」という用語は、食品、飲料、ダイエタリーサプリメント、完全栄養若しくは経口栄養補助食品(ONS)又は医療用食品組成物、又はこれらの混合物を意味し得る。
【0023】
本発明の文脈において、用語「食品」、「食品製品」及び「食品組成物」は、ヒトなどの個体による摂取が意図され、エネルギー、栄養素及び水を提供するものを含む、生物に栄養サポートを提供する製品又は組成物を意味する。本明細書に記載されている多くの実施形態を含む本開示の組成物は、上記の栄養素の1つ以上に加え、ヒトによる摂取に安全な、そうでなければ規定食において有用な、任意の追加の若しくは任意選択の原材料又は成分を含んでよく、これらから構成されてよく、又は本質的にこれらから構成されてよい。
【0024】
本発明の文脈において、用語「飲料」、「飲料製品」及び「飲料組成物」は、ヒトなどの個体による摂取のための持ち運び可能な液体製品又は組成物であって、水分を提供し、かつ個体のための、1つ以上の栄養素、及びヒトによる摂取に安全な他の原材料も含み得る、液体製品又は組成物を意味する。本明細書に記載されている多くの実施形態を含む本開示の組成物は、上記の栄養素の1つ以上に加え、ヒトによる摂取に安全な、そうでなければ規定食において有用な、任意の追加の若しくは任意選択の原材料又は成分を含んでよく、これらから構成されてよく、又は本質的にこれらから構成されてよい。
【0025】
本発明の文脈において、「ダイエタリーサプリメント」は、ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸、脂肪酸、繊維及び/又はハーブなどの1つ以上の食事原材料、並びに規定食を補うために使用される他の植物性原材料を含有する、経口摂取される製品である。ダイエタリーサプリメントは、多数の形態で提供され、錠剤、カプセル、粉末、液体として利用可能であり、「エネルギー」バーなどの特定の食品へと配合され得る。
【0026】
本明細書で使用するとき、「完全栄養」は、その組成物が投与される対象にとって唯一の栄養源とするのに十分な、十分な種類及びレベルの主要栄養素(タンパク質、脂質及び炭水化物)、微量栄養素、及びその他の食品成分を含有する。個体は、そのような完全栄養組成物から、当該個体の栄養必要量の100%を受容可能である。
【0027】
本発明の文脈において、用語「食事基準摂取量(DRI)」は、健康な人の栄養摂取を計画及び評価するために使用される基準値のセットを示す。DRIは、米国政府及びカナダ政府によって確立され、National Academies of Sciences,Engineering,and Medicine(NASEM;以前は医学研究所(IOM)と呼ばれていた;
https://www.nal.usda.gov/fnic/dri-nutrient-reports
)により公開された。本発明の文脈において、DRI(Institute of Medicine(米)Food and Nutrition Board.Dietary Reference Intakes:A Risk Assessment Model for Establishing Upper Intake Levels for Nutrients.Washington DC,USA:National Academies Press;1998.What are Dietary Reference Intakes?)を説明するために使用される用語は、次の通りである。
・1日推奨量(RDA)とは、健康な個体の必要量の97.5%を満たすのに十分であると考えられる栄養素の平均1日摂取レベルを示す。RDAは、性別、年齢、及び女性が妊娠中又は授乳中であるかどうかによって異なる。RDAは、推定平均必要量(EAR)に基づいて計算され、通常、EARよりも約20%高い。
・栄養素の目安量(AI)は、特定の年齢又は性別群のほとんどの人にとって十分な栄養を維持するのに必要な量を満たす又は超えると推定される量である。EARを計算するための十分なエビデンスがない場合、RDAの代わりにAIが設定される。
・許容上限摂取レベル(UL)は、ほとんどの人々に健康への悪影響のリスクをもたらさないと考えられる、最高量の1日栄養素摂取量である。ULより多く摂取することは、過剰摂取による有害作用のリスクを増大する。
・栄養素の推定平均必要量(EAR)は、特定の年齢及び性別群の人々の50%の必要量を満たすように計算される。
【0028】
EARは、RDAを確立するために必要とされる。EARの標準偏差(SD)が利用可能であり、栄養素の必要量が対称的に分布している場合、RDAはEARより2SD大きい値として設定される。
RDA=EAR+2SD(EAR)
【0029】
必要量における変動性についてのデータがSDを計算するのに不十分である場合、利用可能なデータが必要量における、より大きな変動を示さない限り、EARについては10パーセントの変動係数(CV)が仮定される。CVが10%であると仮定する場合、その2倍の量がEARに加えられたとき、RDAに等しいと定義される。結果として得られるRDAの式は以下のとおりである。
RDA=1.2(EAR)
【0030】
異なる国及び地域の当局ごとに、異なる食事基準値を有する。例えば、欧州食品安全機関(EFSA)は、RDAの代わりに集団摂取基準(PRI)、及びEARの代わりに平均必要量を用いた、情報の集合的セットを食事基準値(DRV)と呼んでいる。AI及びULは米国と同じように定義されるが、値は異なり得る(EFSA Panel on Dietetic Products,Nutrition,and Allergies(NDA).Scientific Opinion on Principles for Deriving and Applying Dietary Reference Values.EFSA J.2020;8(3):1458。
https://doi.org/10.2903/j.efsa.2010.1458
)。これらの基準及び値も、本発明の文脈において使用される。
【0031】
本発明の文脈において、「栄養不足」又は「食事の不足」という用語は、ある個体における栄養素の1日当りの総食事摂取量が、上記個体に対する「推定平均必要量(EAR)」を下回ること、及び/又は十分に確立された栄養必要量を下回ることを示す。
【0032】
本発明の文脈において、「栄養不足を予防する」という表現は、TRF食に従っている個体における1つ又は複数の栄養素の不足の予防に加え、栄養不足のリスクの低減を含むと理解されるべきである。
【0033】
本発明の文脈において、本明細書で使用される数値の範囲には、明確に開示されるかどうかに関わらず、この範囲内に含まれる全ての数字及び数字の部分集合を含むことが意図されている。さらに、これらの数値の範囲は、この範囲内の任意の数字又は数字の部分集合を対象とする請求項へのサポートを提供すると解釈すべきである。例えば、1~10という開示は、1~10(1及び10を含む)、2~8、3~7、1~9、3.6~4.6、3.5~9.9などの範囲をサポートするものと解釈されたい。特別の定めのない限り、又は言及された文脈によって相容れないものと明確に暗示されていない限り、本発明の単一の特徴又は単一の制限へのあらゆる言及は、それに対応する複数の特徴又は複数の制限を含むものとし、複数の特徴又は複数の制限へのあらゆる言及は、それに対応する単一の特徴又は単一の制限を含むものとする。
【0034】
本発明の文脈において、「X及び/又はY」の文脈で使用される用語「及び/又は」は、「X」又は「Y」、又は「X及びY」として解釈すべきである。
【0035】
別段の定義がされていない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者によって通常理解されているものと同じ意味を持つ。
【0036】
実施形態
本発明は、時間制限摂食(例えば、16:8、20:4、12:12)に従っている又は従うことを計画している対象における栄養不足を軽減するための栄養推奨を提供するためのコンピュータ実施方法又はAIベースのシステムを提供する。
【0037】
第1の態様では、本発明は、TRFレジメンに従っている又は従うことを計画している個体における個体の栄養不足を特定及び/又は定量化するためのコンピュータ実施方法又はAIベースのシステムであって、
(i)個体の栄養要求及び/又は食事ルールを特定するステップと、
(ii)個体の栄養要求及び食事ルールを、TRF食によって提供される栄養と比較するステップと、
(iii)潜在的な栄養不足を特定及び定量化するために分析を実施するステップと、
を含む、コンピュータ実施方法又はシステムを提供する。
【0038】
一実施形態において、時間制限摂食は、一例として16:8プロトコルに焦点を当てる。なぜならこのプロトコルは、国内顧客(internal consumer)のインサイトデータによると消費者の間で最も人気のあるプロトコルだからである。別の実施形態では、TRFはまた、20:4若しくは12:12であってもよく、又は上記プロトコル16:8、20:4、12:12の任意の変形であってもよい。
【0039】
別の実施形態では、個体の栄養要求は、個体の特徴:年齢、性別、身長、体重、身体活動、生活習慣、及び医学的状態、のうちの1つ以上に基づく。好ましい実施形態では、栄養要求は、少なくとも性別、年齢、体重、身長及び身体活動に基づく。
【0040】
別の実施形態では、食事ルールは、個体の具体的な食事制限(例えば、グルテンフリー、ラクトースフリーなど)又は嗜好性(例えば、地中海式ダイエット、フレキシタリアン、菜食主義(乳製品及び卵を含むものと含まないもの)、ビーガンなど)に基づく。
【0041】
国民健康栄養調査(NHANES)米国疫学データ方法論からの栄養不足の一般的分析
好ましい実施形態では、統計分析を実施して、TRF食に関連する潜在的な栄養不足を特定した。NHANES調査は絶食に関する情報を収集しないことから、自発的な時間制限摂食の食事パターンに出来るだけ近く模倣するように分析を行った。この分析は、栄養ギャップの妥当な推定値を提供することができ、それにより、過度の努力又はユーザからの入力を必要とすることなく、これらのギャップを補う方法に関する推奨を提供することができる。
1. NHANES調査のいくつかのサイクルからの食事摂取データ及び人口統計を使用した。
2. 各対象について、連続する食事の間の様々な時間間隔を計算した。
3. いくつかの選択基準及び除外基準を適用した(例えば、除外基準として>5000kCal/日)。
4. 社会経済的状態が理由で食事を抜いた個体を除外するため、食料不安も考慮に入れた。
5. 潜在的な栄養不足/ギャップを特定及び定量化するために分析を実施する。
別の実施形態では、TRF食は、シミュレートされたTRF食である。
【0042】
一般的な規定食シミュレータの方法論
好ましい実施形態では、TRF食をシミュレートし、TRF食に関連する潜在的な栄養不足を特定するために、以下のステップを行う。
【0043】
1. 男性と女性それぞれ10000名ずつ、N=20000の予想食事摂取日をシミュレートした。ここで、食事摂取日は、食品及び飲料の組み合わせと、1日毎の異なる摂食機会(例えば、朝食、昼食、夕食、及び1間食)に割り当てられるその量とを規定されており、各シミュレーションは、次の要件に従う。
・年齢、性別、身長、体重、身体活動レベルに基づく摂食者のエネルギー要求を満たす。
・規定食プロトコルタイプ(例えば、16:8、20:4、12:12)によって定義されるTRFルールに従う。
・現実的な量の食品及び飲料、並びにこれらの組み合わせを提供して、1日の栄養合計を生成する。
【0044】
2. 摂食者の個々の栄養要求(年齢、性別、身長、体重、身体活動などによって異なる)を、シミュレートされるTRF食によって提供される栄養と比較する。
【0045】
3. 潜在的な栄養不足/ギャップを特定及び定量化するために分析を実施する。
【0046】
最終的に、上記方法は、規定された時間制限摂食の食事パターン下において特定される栄養不足/ギャップを最も補う食品、飲料及びダイエタリーサプリメントを推奨するために使用される。
【0047】
システム又は方法は、ある仮定を設けることで栄養ギャップの妥当な推定値を提供することができ、それにより、過度の努力又はユーザからの入力を必要とすることなく、これらのギャップを補う方法に関する推奨を提供することができる。
【0048】
特有の栄養不足/ギャップは食習慣及び文化的特徴によるものであり、世界中の異なる集団毎に異なる可能性が高いことに留意することが重要である。本明細書に記載のシステム又は方法は同じであっても、特定される栄養不足が異なる場合もある。以下に提供する例は、毎日及び毎週ベースで摂取するべき食品群の目標量を提供するUSDA健康食パターンによって指定された食品群レベルの食事の推奨に依拠する。シミュレーションツールは、他の地域に適用される場合、異なる食品ベースの食事ガイドラインに容易に適合させることができる。
【0049】
別の態様では、本発明は、間欠絶食に特有な状態である不十分な食事摂取に対処するため、
・性別、年齢、及び従っている又は従おうとする間欠絶食プロトコルに基づく、具体的な食事摂取量、
・性別、及び従っている又は従おうとする間欠絶食プロトコル基づく、毎日摂取されるべき具体的な食事推奨、
・生活習慣要素(例えば、身体活動)に関する具体的な推奨、
を組み合わせた、新規の統合された食事推奨を提供することを目的とする。
【0050】
より詳細には、本発明は、TRFレジメンに従っている又は従うことを計画している個体における栄養不足を軽減するためのコンピュータ実施方法又はAIベースのシステムを提供し、上記方法は、
i)規定されたTRF食パターン、生活習慣及び/又は食事ルール下における、栄養不足を特定するステップと、
ii)個体において特定された栄養不足を軽減するために、具体的な食事推奨及び/又は栄養解決策を提供するステップと、
iii)任意選択で、生活習慣に関する推奨を提供するステップと、
を含む。
【0051】
一実施形態では、栄養ギャップを特定及び/又は定量化する方法は、上述の通りである。除外、最小限化又は最大限化されるべき食品、食品群、及び/又は特定の栄養素などの追加の基準を指定することができる。
【0052】
好ましい実施形態では、(実施例のセクションでより詳細に説明するように)食事推奨を作成するために、本発明者らは、摂取推奨の上限及び下限を考慮して、ULを超過させずに栄養目標を特定する(カルシウム及び葉酸の例については
図1~
図4を参照されたい)。「不足量」は、食事推奨を生成するために使用される。最初に、本発明者らは、RDA、又はRDAが利用可能でない場合にはAI(又は任意の関連するガイドライン)と、2.5%摂取パーセンタイルとの間の差を上限とし、97.5%摂取パーセンタイルとの差を下限とする。任意の他のパーセンタイルを使用できることが理解される。全ての推奨は、好ましくは、2000kcalの食事のエネルギーレベルに基づく。あるいは、推奨は、所望であれば、異なるエネルギーレベルに基づいてもよい。推奨の上端(upper end)は、推奨がULを超過しないことを確保するために上限が定められる。
【0053】
更なる実施形態では、コンピュータ化された規定食シミュレータが使用されてもよい。規定食シミュレータは、ある仮定を設けることで栄養不足/ギャップの妥当な推定値を提供することができ、それにより、過度の努力又はユーザからの入力を必要とすることなく、栄養素、食品、飲料、及び/又はダイエタリーサプリメントからこれらのギャップを補う方法に関する推奨を提供することができる。
【0054】
一実施形態では、食事推奨は、
・栄養素、並びに/又は
・食品及び飲料、並びに/又は
・ダイエタリーサプリメント、並びに/又は
・献立の推奨及び/又はレシピの推奨としての食品と飲料との組み合わせ、
のうちの1つ以上に関する推奨を含む。
【0055】
一実施形態では、栄養素、食品、飲料、及びダイエタリーサプリメントについての推奨は、規定されたTRFレジメン下における特定された栄養不足/ギャップを最も補うように選択される。上記推奨は、個体の特徴、食事ルール、及びTRF食パターンに基づく。
【0056】
本発明によるシステムは、
・食品組成データベース、
・レシピデータベース、
・食事のデータベース
・栄養素スコアリングモジュール、及び
・最適化モジュール、
から構成された、規定食シミュレータである。
【0057】
本明細書に開示される組成物は、経口摂取されることが意図される。したがって、組成物の形態の非限定的な例としては、天然食品、加工食品(製粉(milling)、粉砕(grinding)、焼成、乾燥、発酵、缶詰加工、冷凍、パスチャライズ、押出、調理、及び生の食品原材料を美味しくすぐに食べられる状態にするための他の加工方法を含むが、これらに限定されない)、クリーマー、コーヒーベースの飲料などの飲料、天然果汁、濃縮物及び抽出物が挙げられる。
【0058】
いくつかの実施形態では、本発明は、TRFレジメンによって引き起こされる栄養不足又は栄養過多を軽減するための、食品、飲料、及び/又はダイエタリーサプリメントを組み込む献立の提案又はレシピを含み得る。TRFレジメンに応じて、これらの食品、飲料、及び/又はダイエタリーサプリメント、並びにそれらを使用した献立及びレシピは、毎日、又は個体がTRFレジメンを順守している間は摂食日に摂取するように推奨されてもよい。
【0059】
いくつかの実施形態では、本発明はまた、TRF食を取る個体(individuals on an TRF diet)のための食事推奨、レシピ、又は献立を含むパーツからなるTRF「キット」内に、食品、飲料、及び/又はダイエタリーサプリメントを包装してもよく、該キットは、本発明による組成物を含む。
【実施例1】
【0060】
実施例1:国民健康栄養調査(NHANES)米国疫学データからの栄養不足の分析
国民健康栄養調(NHANES)は、米国における成人及び小児の健康及び栄養状態を評価するために設計された研究プログラムである。この調査は、インタビューと身体検査とを組み合わせているという点で独特である。NHANESインタビューは、人口統計、社会経済、食事、及び健康関連の質問を含む。検査項目は、医学的測定、歯科的測定、及び生理学的測定、並びに高度に訓練された医療関係者によって行われる実験室試験を含む。調査のためのサンプルは、全ての年齢の米国住民を代表するように選択される。信頼できる統計を生成するために、NHANESは、60歳以上の人、アフリカ系アメリカ人、及びヒスパニックをオーバーサンプリングする。データ収集のサイクルは1999年に開始し、現在まで継続している。
【0061】
この例では、2013~2014、2015~2016、2017~2018のNHANESサイクル、より具体的には、ファイル「Dietary Interview-Individual Foods,First Day」及び「Demographic Variables and Sample Weights」を使用した。データセットは、https://wwwn.cdc.gov/nchs/nhanes/default.aspxからダウンロードした。
【0062】
食事データは、Automated Multiple-Pass Methodを用いて実施された1回又は2回の24時間の思い出しからなる。本発明者らは、各対象の最初の24時間の思い出しのみを分析した。食事ファイルから、各個体によって報告された食品のリスト、HH:MM:SS形式の時刻、食事の名称、及びKCALを抽出した。これを人口統計ファイルとマージして年齢を読み出した。年齢には≧18のフィルターをかけた。カロリーを提供しない飲食機会(例えば、水、無糖ブラックコーヒー)は考慮しなかったので、1杯の水では「摂食機会」とみなさなかった。
【0063】
計算
各対象について、連続する食事の間の時間間隔を計算した。例えば、食事が7:00、12:00、16:00、20:00に報告された場合、時間間隔は、7時間、5時間、4時間、4時間、4時間である。
【0064】
記述統計
・最初と最後の摂食時刻。午前5時よりも前に食品摂取を報告した対象の数はn=1206であった。
・摂食のタイムスパン。各対象について、時間間隔「最後の摂食時刻-最初の摂食時刻」を報告する。
・絶食間隔のカウント。残りの分析については、最初の摂食時間が午前5時よりも前の対象を除外する。連続する食事間の間隔は、数分~23.5時間の範囲であり、中央値は3.5時間である。
・分析のために次の通りの絶食間隔を選択した。
○<12時間の絶食(n=64940)
○12時間~16時間の絶食(n=4717)
○>16時間の絶食(n=761)。このグループの人は、少なくとも16時間の「ギャップ」を有する摂食時間を報告しており、例えば、午前6時~午後10時に食品を摂取していない。
・その後、5000kcalのカットオフを適用した。カットオフを超える全てのエネルギー摂取を分析から除去した。
・金銭不足のために食物摂取を制限したと宣言した回答者を除外した後に、分析を繰り返した。食糧安全保障アンケート(Food Security Questionnaire)に対する未回答率が非常に高い(>50%)ことに留意すべきである。
【0065】
異なる絶食間隔内にあり、食糧安全保障アンケートフィルターを適用した後の人の数は次の通りであった。
○<12時間の絶食(n=14088)、
○12時間~16時間の絶食(n=1439)、及び
○>16時間の絶食(n=129)。
【0066】
社会経済的状態が理由で食物摂取を制限した人々を特定するために、食糧安全保障アンケートからの以下の質問を使用した。
「先月からの過去12ヶ月において、{あなた/あなた又はあなたの世帯の他の成人は}食品のための十分なお金がないという理由で、食事の量を減らしたり又は食事を抜いたりしましたか?」
1:はい
2:いいえ
9:わからない
NHANESでは、意図的な絶食に関連する質問がないことから、これらの間隔とTRFレジメンとの間を直接関連付けることはできない。しかしながら、本発明者らは、摂食を8時間間隔に制限する人の栄養要求は、意図的に16:8TRF食に従う人と同様であると仮定した。
【0067】
時間制限した摂食間隔の分析
選択した3つの絶食間隔(<12時間、12時間~16時間、及び>16時間)について、主要栄養素の摂取量を計算した(表1)。脂肪と、タンパク質と、炭水化物との間のエネルギーの再配分は、3つのグループの間で同様であり;平均及び中央値は、米国国立科学アカデミー(US National Academy of Sciences)によって定義されるように、許容可能な主要栄養素分布範囲:脂肪(エネルギーの20~35%)、タンパク質(エネルギーの10~35%)、及び炭水化物(エネルギーの45~65%)内に入る(https://ods.od.nih.gov/HealthInformation/Dietary_Reference_Intakes.aspx)。
【表1】
【0068】
選択した3つの絶食間隔、すなわち、<12時間、12時間~16時間、及び>16時間について、微量栄養素の摂取量を計算した(表2)。考慮した全ての栄養素は、エネルギーコファウンダー(energy cofounder)(1000kCalで調整される)について調整した後であっても、「<12時間」の群と「>16時間」の群との間で統計的に有意な分布を有する(Wilcoxon検定、p<0.05)。
【表2】
【0069】
絶食間隔別の時間制限摂食の摂取不足のリスク
【表3】
【0070】
実施例2:シミュレートされた規定食を用いた間欠絶食プロトコルの不十分な栄養摂取のリスク
無作為化比較試験(RCT)又は従来の食事評価法(例えば、24時間の食品想起、食品摂取頻度調査法、食品記録)を使用せずに、TRF食による栄養不足の潜在的リスクを推定するために、本発明者らは、TRF食を順守している様々な個体の約20,000日の食品摂取を、デジタルツールを用いてインシリコでシミュレートした。この実施例では、TRF食の例示的な例として16:8プロトコルを使用した。
【0071】
デジタルシミュレーションツールは、USDA健康食計画ガイドラインに可能な限り適合させて食事の栄養バランスを最大化するために、利用可能な食事の最適な組み合わせを見つけることによって、複数日の食物摂取量をシミュレートする。実世界の食品摂取を可能な限り模倣するために、本発明者らは、米国疾病管理予防センター(CDC)によって実施された調査である国民健康栄養調査(NHANES)において報告されているように、人々によって摂取された実際の食事を利用した。データセットは、
https://wwwn.cdc.gov/nchs/nhanes/default.aspx
からダウンロードした。NHANESサイクル2013~2014、2015~2016、2017~2018、より具体的には、ファイル「Dietary Interview-Individual Foods,First Day」及び「Demographic Variables and Sample Weights」を使用した。これにより、シミュレートされた規定食が、米国民によって実際に摂取された食事から構成されるようになる。
【0072】
特有の栄養不足は食習慣及び文化的特徴に依存し、世界中の異なる集団毎に異なる可能性が高いことに留意することが重要である。本明細書に記載のシステム又は方法は同じであっても、特定される栄養不足が異なる場合もある。
【0073】
シミュレーションツール内で、ユーザは、1日当たりの推定エネルギー必要量(EER)を計算するために、性別、年齢、身長、体重、及び身体活動レベルに基づいて1セットの個体の特性を指定する。次いで、シミュレーションツールは、整数計画法技術を使用して、規定食全体の栄養バランスを最適化する献立計画をインシリコで作成する。この実施例では、シミュレーションツールは、毎日及び毎週ベースで摂取するべき食品群の目標量を提供するUSDA健康食パターンによって指定された食品群レベルの食事推奨に依拠する。(シミュレーションツールは、他の地域に適用される場合、異なる食品ベースの食事ガイドラインに適合させることができる)。
【0074】
追加の栄養レベル制約は、ナトリウム、添加糖、及び飽和脂肪などの栄養素に対する上限として設定される。制約を個体のEERに基づいて調整して、1日当たり及び1週間当たりに摂取される食品群及び栄養素の所望の範囲を得た。目的関数は、個々の食品群及び栄養素のそれぞれの実際の量と最適範囲との間の差のスカラー加重線形結合として作成される。規定食は、食品群及び栄養素の摂取を最適範囲内に保つことを試みながら、エネルギー必要量を満たす食事の組み合わせを選択することによって作成される。
【0075】
ベースライン食のシミュレーション
TRFレジメン(例えば、16:8)の食事摂取をシミュレートするために、本発明者らは、他のルールを適用せずに、上記の健康食パターンを最大化することによって、約20,000日間の「ベースライン」食をシミュレートした。この「ベースライン」食は、健康でバランスのとれた規定食であるとみなされる(表4)。この実施例では、18歳から70歳までの範囲の、様々な身長及び体重、並びに座位(sedentary)身体活動レベルについて、それぞれ7日間、各性別の1,400名の個体のベースラインをシミュレートした。NHANESから抽出された食事を使用する場合、シミュレートされる規定食は実際の人々による摂取が報告されている食事を使用することになるが、食品群のバランスを最適化した場合、人々が実際に食べそうなものよりも健康的な食事に寄った規定食が生成される。本発明者らは、これらは普段の食事(realistic diets)ではなく「理想的な」規定食であり、現実世界で生じるよりも高い栄養摂取を有する傾向があると考えた。
【表4】
【0076】
いくつかの栄養素のベースラインが低いことは、特にIF食だから当該栄養素についてリスクがあるのではなく、US食/ベースラインで一般的なものであることに留意されたい。
【0077】
16:8TRFプロトコル食シミュレーション
16:8TRFプロトコルは、16時間の絶食と8時間の摂食というプロトコルのルールに従って食事を除くことによってベースライン食から作成した。この場合、シミュレーションは、朝食の食事機会を省くことによって実施した。
【0078】
ベースラインの不足量を異なるTRFプロトコルと比較することによって、本発明者らは、この種のTRFプロトコルに従ったときに栄養摂取がどのように変化するかを特定することができる(表5)。このシミュレーション方法は、ベースライン食がIFプロトコルのルールに適合するように修正し、結果を比較可能にし、シミュレーションプロセスに内在するランダム性と、TRFレジメンに内在するのではなくシミュレーションプロセスから生じ得る栄養不足とを制御しながら、様々なプロトコルに対する栄養不足の相対リスクを特定することを可能にする。
【表5】
【0079】
シミュレートされた個体のそれぞれについての規定食を、各栄養素の平均摂取量をその個体のDRIと比較することによって、年齢及び性別に基づいて分析する。栄養摂取は正規分布しない傾向があるので、ブートストラップ信頼区間は、適切なDRIと比較した平均値について作成される。様々なDRIを有する個体についての結果をプールするために、各個体についての結果を、そのDRIに対するその平均摂取量の比として計算する。シミュレートされた摂取とDRIとの間の全体的なギャップは、これらの比の平均をとることによって作成される。不足のリスクは、シミュレートされた個体のうち各栄養素について摂取不足の個体のパーセンテージを取ることによって作成される。
【0080】
各群についての分析の結果及び得られた推奨を以下に示す。これらの表は、分析の結果一式を示す。
【0081】
16:8TRFレジメンによる不十分な摂取のリスク
表6~表7は、16:8TRFレジメンで男性及び女性について特定された不足のリスクを示す。ほとんどの栄養素にEARがあるが、EARを割り当てるのに十分なデータがない場合、代わりにAIを割り当てた(Institute of Medicine,US)。以下の表において、「平均不足量」は、EAR又はAI未満の量である。「不足%」は、EAR又はAI未満の個体のパーセントを示す。モデル化された規定食の大部分が不足を生じる場合、それらの栄養素は不足に関して「リスク有」と考えられる。この解釈は、AIについては多少異なり、AIを超えるパーセントでは、概して十分であると仮定できるが、AIより低いパーセントは必ずしも不十分であることを意味しない。負の平均不足量は、摂取が十分である傾向があることを示す。
【表6】
【表7】
【0082】
分析:摂取量分布
表8~9は、対象となる栄養素の摂取量分布を示す。対象となる栄養素は、注目に値するほど大きい不足のリスクを有するものとして選択されている。ここで、シミュレートされた規定食のパーセンテージは、ベースラインとは有意に異なる摂取不足を有する。
【表8】
【表9】
【0083】
分析:不足量
表10~表11は、対象となる対象の栄養素について、各パーセンタイル(2.5%、50%及び97.5%)におけるEAR又はAI未満の量を示す。注目に値するほど大きい不足のリスクを有するものとして選択されている。ここで、シミュレートされた規定食のパーセンテージは、ベースラインとは有意に異なる摂取不足を有する。値が負である場合、摂取がDRIを上回る傾向があることを意味する。
【表10】
【表11】
【0084】
NHANESデータベースからの疫学データの分析(実施例1)は、間欠絶食レジメンに適合する一時的摂食パターンが、微量栄養素の不十分な摂取に関連する可能性がより高いという事実を支持する。これは、規定食シミュレータによって生成された結果が、集団において観察されたパターンと一致することを示唆する。しかしながら、NHANESは本質的に横断的であり、一方、規定食シミュレータは、大規模な集団において測定することが困難な縦断的な次元を有する。
【0085】
推奨(実施例1及び2に適用可能)
食事推奨を作成するために、本発明者らは、摂取推奨の上限及び下限を考慮して、ULを超過させずに栄養目標を特定する(カルシウム及び葉酸の例については
図1~
図4を参照されたい)。「不足量」は、食事の推奨を生成するために使用される。最初に、本発明者らは、RDA、又はRDAが利用可能でない場合にはAIと、2.5%摂取パーセンタイルとの間の差を上限とし、97.5%摂取パーセンタイルとの差を下限とする。全ての推奨は、2000kcalの規定食のエネルギーレベルに基づく。推奨の上端は、推奨がULを超過しないことを確保するために上限が定められる。
【0086】
次に、コンピュータ化された規定食シミュレータを使用する。ある仮定を設けることで、規定食シミュレータは、栄養ギャップの妥当な推定値を提供することができ、それにより、過度の努力又はユーザからの入力を必要とすることなく、栄養素、食品、飲料、及び/又はダイエタリーサプリメントによりこれらのギャップを補う方法に関する推奨を提供することができる。この実施例では、以下の仮定を行った。
・個体は、典型的な食事パターン(例えば、朝食、昼食、夕食及び1日1回の軽食)をとる、
・個体は、上記の食事及び軽食として、典型的な食品と飲料との組み合わせ(例えば、NHANESで報告されている食事及び軽食)を摂食する、及び、
・個体は、食事推奨(例えば、USDA健康食パターン)に従ってバランスのとれた食事に従うことを意図する。
【0087】
規定食シミュレータが使用する食品組成データベースは、各食品について100g当たり及び代表的なサービングサイズ当たりの、主要栄養素及び微量栄養素を含む栄養素含量を含む。この実施例では、USDA Food Data Centralデータベースを使用して、先行するステップで「リスク有」と特定された栄養素を十分なレベルで含有する食品及び飲料を特定する。規定食シミュレータはまた、「リスク有」の栄養素の食品源を含有するレシピを特定することができるよう、レシピデータベースにリンクされる。
【0088】
両方の方法論において、本発明者らは、ベースライン食及びTRF食の両方で、ビタミンD、ビタミンE及び繊維の不足(>80%の不足)を特定した。両方の方法論において、本発明者らはまた、TRF食に排他的に関連する不足(>40%の不足)として、カルシウム、葉酸、及び亜鉛を特定した。両方の方法論において、本発明者らはまた、TRF食に排他的に関連するその他の不足(>30%の不足)として、マグネシウム及びビタミンB12を特定した。カリウム、ビタミンA及びビタミンCの不足(>80%)も、方法論の1つにおいて特定された(実施例1)。本発明者は、推奨を例示するためにこれらの栄養素のうち2つのみを選択した。
【0089】
これらの実施例において、繊維及びカルシウムは、16:8TRFレジメンに必要な栄養素として特定された。
図1~
図4を参照されたい。
図1は、男性のカルシウム摂取量範囲についての、シミュレートされたベースライン摂取量と16:8TRFレジメンとの比較を示す。
図2は、女性のカルシウム摂取範囲についての、シミュレートされたベースライン摂取量と、16:8TRFレジメンとの比較を示す。
図3は、男性の繊維摂取量範囲についての、シミュレートされたベースライン摂取量と、16:8TRFレジメンとの比較を示す。
図4は、女性の繊維摂取量範囲についての、シミュレートされたベースライン摂取量と、16:8TRFレジメンとの比較を示す。
【0090】
以下の食事推奨などの実施例は、TRF食に関するフィードバックを伴うように生成される。同様にして、「リスク有」として特定された全ての栄養素についての食事推奨を生成することができる。例示として、カルシウム及び食物繊維の例を以下に示す。
【0091】
カルシウム:
カルシウムは、食品源から推奨されてもよい。例えば、菜食主義食を指定する(specifying)人は、角切りの豆腐を推奨され得る。1カップ(248g)は275mgのカルシウムを提供する。同様に、豆腐とミックスベジタブルのレシピ、例えばブロッコリーとニンジンに大豆ベースのソースをかけたものなどのレシピが推奨されてもよい。2カップ(434g)は286mgのカルシウムを提供する。
【0092】
カルシウムは飲料から推奨されてもよい。例えば、フレキシタリアン食を指定する人は、低脂肪乳を推奨され得る。1カップ(246g)の低脂肪乳は、310mgのカルシウムを含有する。
【0093】
カルシウムは、ダイエタリーサプリメントとして推奨されてもよい。好適な形態のカルシウムの非限定的な例としては、酢酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、乳酸カルシウム、又はこれらの混合物などの1つ以上のカルシウム塩が挙げられる。
【0094】
推奨される追加のカルシウムの量は、シミュレーションで特定された必要性に応じて異なる。
【0095】
繊維:
繊維は、食品源から推奨されてもよい。例えば、ビーガン食を指定する人は、調理したオートミールを推奨され得る。1カップ(234g)は、4mgの食物繊維を提供する。同様に、オートミールレーズンクッキーのレシピが推奨され得る。2枚のクッキー(48g)は1.6gの繊維を提供する。
【0096】
繊維は、ダイエタリーサプリメントから推奨されてもよい。繊維サプリメントの非限定的で好適な形態としては、小麦デキストリン、メチルセルロース、サイリウムハスク、ポリカルボフィル、グアー繊維、グルコマンナン又はβ-グルカンを含有するものが挙げられる。
【国際調査報告】