(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-31
(54)【発明の名称】圧縮成形防弾物品
(51)【国際特許分類】
F41H 5/04 20060101AFI20240524BHJP
【FI】
F41H5/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574165
(86)(22)【出願日】2022-06-03
(85)【翻訳文提出日】2024-01-15
(86)【国際出願番号】 EP2022065269
(87)【国際公開番号】W WO2022254040
(87)【国際公開日】2022-12-08
(32)【優先日】2021-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522355798
【氏名又は名称】アビエント プロテクティブ マテリアルズ ビー. ブイ.
【氏名又は名称原語表記】Avient Protective Materials B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】ファン デア ヴェアフ, ハーム
(72)【発明者】
【氏名】ファン エルブルク, ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】ステーマン, ライナード ヨゼフ マリア
(72)【発明者】
【氏名】ディキンソン, ブラッド アラン
(72)【発明者】
【氏名】ハイセラー, ウルリッヒ
(57)【要約】
本発明は、少なくとも7.0且つ最大12.0kg/m
2の面密度を有する防弾成形物品であって、繊維質単層の一体化スタックを含み、各繊維質単層が、一方向に整列した高靭性ポリエチレンフィラメントを含有し、ポリエチレンフィラメントが、少なくとも3.5N/texの靭性を有し、成形物品が、5.0~20wt%の間のバインダーを含む防弾成形物であって、少なくとも330の前記繊維質単層を含む、防弾成形物品に関する。本発明はまた、成形物品を製造するのに好適な防弾シートであって、防弾シートに存在するポリエチレンフィラメント単層当たり6~30g/m
2の間の面密度を有する、防弾シートに関する。本発明は、30度の角度で撃たれた場合の性能が改善された防弾成形物品にさらに関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも7.0且つ最大12.0kg/m
2の面密度を有する防弾成形物品であって、繊維質単層の一体化スタックを含み、各繊維質単層が、一方向に整列した高靭性ポリエチレンフィラメントを含有し、ここで、前記スタックにおける2つの隣接する繊維質単層の前記ポリエチレンフィラメントの配向方向が、少なくとも40且つ90度まで異なり、前記ポリエチレンフィラメントが、少なくとも3.5N/texの靭性を有し、前記成形物品が、前記成形物品の総重量に対して5.0~20wt%の間のバインダーを含む防弾成形物品において、
少なくとも330の前記繊維質単層を含むことを特徴とする、防弾成形物品。
【請求項2】
6.0~10.0kg/m
2の間のポリエチレンフィラメントの面密度を有する請求項1に記載の防弾成形物品。
【請求項3】
前記繊維質単層が、6~30g/m
2の間、好ましくは8~28g/m
2の間、より好ましくは10~26g/m
2の間、最も好ましくは12~24g/m
2の間の面密度を有する、請求項1又は2に記載の防弾成形物品。
【請求項4】
前記繊維質単層が、4~28g/m
2の間、好ましくは6~26g/m
2の間、より好ましくは8~25g/m
2の間、最も好ましくは10~24g/m
2の間のポリエチレンフィラメントの面密度を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の防弾成形物品。
【請求項5】
330~600の間、好ましくは350~550の間の単層、より好ましくは370~500の間の単層を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の防弾成形物品。
【請求項6】
前記繊維質単層が、一方向に整列した高靭性ポリエチレンフィラメント及びバインダーの複合単層である、請求項1~5のいずれか一項に記載の防弾成形物品。
【請求項7】
前記繊維質単層がバインダーを実質的に含まず、隣接する繊維質単層が前記バインダーの層によって互いに接着している、請求項1~5のいずれか一項に記載の防弾成形物品。
【請求項8】
AK47 7.62×39mm MSC発射体に対して試験した場合、少なくとも600m/秒の、垂直条件下で撃たれた場合のV50(
【数1】
)を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の防弾成形物品。
【請求項9】
AK47 7.62×39mm MSC発射体に対して試験した場合、少なくとも580m/秒の、30°の角度(26)で撃たれた場合のV50(
【数2】
)を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の防弾成形物品。
【請求項10】
【数3】
の
【数4】
に対する比が、少なくとも0.95、好ましくは0.98、より好ましくは少なくとも1.00、最も好ましくは少なくとも1.05である、請求項8又は9に記載の防弾成形物品。
【請求項11】
少なくとも2つの繊維質単層を含む防弾シートであって、各繊維質単層が一方向に整列した高靭性ポリエチレンフィラメントを含有し、ここで、シートにおける2つの隣接する繊維質単層のポリエチレンフィラメント間の配向方向が、少なくとも40且つ90度まで異なり、前記ポリエチレンフィラメントが少なくとも3.5N/texの靭性を有し、前記防弾シートが、前記防弾シートの総重量に対して5.0~20wt%の間のバインダーを含み、前記繊維質単層が、バインダーを実質的に含まず、隣接する繊維質単層が、前記バインダーの層によって互いに接着しており、前記防弾シートが、前記防弾シートに存在するポリエチレンフィラメント単層当たり6~30g/m
2の間、好ましくは8~28g/m
2の間、より好ましくは10~26g/m
2の間の面密度を有する、防弾シート。
【請求項12】
前記防弾シートの総重量に対して7.0~14wt%の間の前記バインダーを含む、請求項11に記載の防弾シート。
【請求項13】
7.0~12.0kg/m
2の間の面密度を有し、繊維質単層の一体化スタックを含む防弾成形品であって、各繊維質単層が、一方向に整列した高靭性ポリエチレンフィラメントを含有し、ここで、前記スタックにおける2つの隣接する繊維質単層の前記ポリエチレンフィラメント間の配向方向が、少なくとも40且つ90度まで異なり、前記ポリエチレンフィラメントが、少なくとも3.5N/texの靭性を有し、前記成形物品が、前記成形物品の総重量に対して5.0~20wt%の間のバインダーを含み、前記防弾成形物品の
【数5】
の
【数6】
に対する比が、少なくとも0.95、好ましくは0.98、より好ましくは少なくとも1.00、最も好ましくは少なくとも1.05である、防弾成形物品。
【請求項14】
前記繊維質単層が、前記一方向に整列した高靭性ポリエチレンフィラメント及び前記バインダーの複合単層である、請求項13に記載の防弾成形物品。
【請求項15】
前記繊維質単層がバインダーを実質的に含まず、前記隣接する繊維質単層が前記バインダーの層によって互いに接着している、請求項14に記載の防弾成形物品。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、繊維質単層の一体化スタックを含む防弾成形物品に関する。本発明は、そのような物品を製造するのに好適な防弾シートにさらに関する。
【0002】
そのような防弾成形物品は、当技術分野で周知である。例えば、防弾ヘルメット、防弾ベスト用インサート及び車両構成成分は、一方向に整列した高靭性ポリエチレンフィラメントを含有する繊維質単層の一体化スタックを含む成形物品を含みうる。弾道性能を維持しながら重量を減少させることは、より強い繊維の使用によって可能となる。その例は、アラミド繊維ベースの複合体から超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)ベースの複合体に切り替えることである。しかしながらそのような重量減少は、他の性能パラメーターの低下を導く。
【0003】
欧州特許出願公開第1699954号は、4.0GPa以上の強度を実現する高靭性ポリエチレンの糸を記載している。欧州特許出願公開第1699954号は、ゴムマトリックスに包埋され、圧縮成形されて、様々な脅威に対して良好な防弾性能を有するパネルを形成する、4.1GPaの引張強度を有する糸で作製された繊維質単層を例示している。
【0004】
これとは対照的に、国際公開第13131996号は、実質的にマトリックスを含まない繊維質単層を含む成形物品を記載しており、一方、プラストマー接着剤が、隣接する繊維質単層間に存在している。国際公開第13131996号はまた、記載の防弾パネルのエネルギー吸収能と剥離挙動との間の良好なバランスの実現を主張している。
【0005】
近年公開された国際公開第20127187号は、UHMWPE繊維、ポリマー樹脂及びカーボンファイバーを含むハイブリッド形成された層を追加することによって、繊維質単層のUHMWPEベースの一体化スタックの構造性能、例えば、曲げ剛性又は背面変形の増加を記載している。
【0006】
[概要]
従来技術に記載されている防弾パネルは当分野における妥当な改善を提供するが、単層の圧縮成形スタックは、垂直ではなくある角度で撃たれた場合のそれらの性能に関してさらに改善されうることが観察された。従来技術に従って調製されたパネルは、例えば7.62×39mm Mild Steel CoreなどのAK47ライフルから撃たれた弾による垂直射撃に関しては満足のいく性能を示すことが観察された。それにも関わらず、厳しい標準を満たすことが可能なパネルは、とりわけ低面密度のパネルにおいて、ある角度で撃たれた場合に性能の低下を示しうることが観察された。そのような性能の低下は、垂直から30度の角度で決定したV50を、垂直衝突について決定したV50と比較した場合のV50の低下で表現され得、この角度は、
図2bにおいて「26」と図示されている。本発明者らは、とりわけ比較的軽量のハイエンド弾道パネルを試験した場合に、10~30%、時にはさらにより多くの性能低下を観察した。垂直衝突から逸脱した場合、パネルを通る経路長及び貫通した弾道材料の質量が増加し、したがって、垂直の状況と比較した場合に阻止力が優れるはずであるから、公知の防弾パネルのこの欠陥は驚くべきことでありうる。この現象の機械的側面は理解されていないが、防弾パネルのそのような挙動は、とりわけ、軽量パネル、すなわち低面密度を有するパネルを高エネルギーの脅威、例えば、広く普及しているAK47武器と組み合わせて一般に使用される7.62×39 Mild Steel Core(MSC)弾に対して試験した場合に観察される。
【0007】
したがって、本発明の目的は、垂直条件でのV50(
【数1】
)と比較して30°の角度で撃たれた場合のV50性能(
【数2】
)の低下を示さない、又は少なくともより少ない程度で示す、低面密度における高い対弾道性能を有する防弾パネルを提供することである。
【0008】
本発明者らは、成形防弾物品の全面密度を維持しながら成形防弾物品において少なくとも330の繊維質単層を使用することによって、ある角度でのV50の低下を実質的に減少、回避又はさらには改善しうることを見出した。
【0009】
したがって、この目的は、少なくとも7.0且つ最大12.0kg/m2の面密度(AD)を有する防弾成形物品であって、繊維質単層の一体化スタックを含み、各繊維質単層が、一方向に整列した高靭性ポリエチレンフィラメントを含有し、ここで、スタックにおける2つの隣接する繊維質単層のポリエチレンフィラメントの配向方向が、少なくとも40且つ90度まで異なり、ポリエチレンフィラメントが、少なくとも3.5N/texの靭性を有し、成形物品が、成形物品の総重量に対して5.0~20wt%の間のバインダーを含む防弾成形物品において、少なくとも330の前記繊維質単層を含むことを特徴とする、防弾成形物品によって実現される。
【0010】
そのような防弾成形物品は、同様の面密度であるがより少ない繊維質単層から構成された成形物品の非垂直弾道衝突下での挙動を凌駕することが見出された。遭遇した問題に対するそのような解決法は、直感に反するものである。防弾物品の性能が十分でない場合、典型的にはさらなる繊維質単層を追加して、防護を必要レベルに高める。本発明者らは、言うなれば防弾材料の量を増加させる必要はなく、より多数のクロスプライされた個々の繊維質単層にわたって利用可能な防弾材料を分割すればよいことを特定した。したがって、性能が改善された得られた物品は、今日までの解決法よりも軽量である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】高靭性ポリエチレンフィラメント(12)を含む3つの積層された繊維質単層(11)の一部を図示する本発明の成形物品(10)の一部の模式図である。
【
図2】垂直(
図2a)及び非垂直(
図2b)条件下での本発明の成形物品のV50性能を決定する試験設定の上面図を示す。図は、成形物品の弾道性能の方法にさらに記載されている。
【
図3】
図3は、フィラメント特性の試験設定を模式的に示し、フィラメント線密度及び機械特性の決定の方法にさらに記載されている。
【0012】
[詳細な説明]
本発明の文脈において、成形物品は、単層をパネル、湾曲したパネル、又はヘルメットシェルなどのモノリシック製品に一体化するように圧縮によって成形された物品であると理解される。統合は、繊維質単層のスタック又は前記繊維質単層を含む事前にアセンブルされたシートへの圧力及び高温の使用によって行われうる。一体化のための圧力は、例えば、2bar超、10bar超、又はさらには20bar以上であり、一方、一体化の間の温度は、典型的には、60~150℃の範囲である。一体化とは、本明細書において、単層のスタックが圧縮されて、モノリシック物品、例えば、パネル又はヘルメットシェルを形成することと理解される。そのようなモノリシック物品において、個々の単層の積層は、なお識別可能であるものの、実質的な努力及びその分解なしに、互いに分離することはできない。
【0013】
繊維質単層という用語とは、本明細書において、繊維を含む、すなわち、繊維が前駆体材料として使用される方法によって得られる単層と理解される。繊維質単層の繊維は、機械により変性されていても、されていなくてもよい。繊維質単層の例は、フィラメント及び単層のフィラメントを一緒に保持するバインダーを含む複合層、又は単層のフィラメント間にバインダーを実質的に含まない、機械により融合されたフィラメントの単層である。繊維質単層は、非繊維質単層とは構造的に異なり、これは、例えば、ポリマー粉末を圧縮、又はポリマーの溶液若しくは溶融物を紡糸して、フィルム、テープ又は単層を形成することによって得ることができる。そのような後者の単層において、フィラメントは識別可能ではなく、及び/又はフィラメントは、単層を製造するために用いられていない。本発明による繊維質単層の断面は、理想的には、顕微鏡で観察した場合、単層を形成するフィラメント間の境界を有する。したがって、本発明の文脈において、繊維質単層は、一方向に整列したテープ又はフィルムなどの他の防弾形状因子とは対照的である。
【0014】
本発明の文脈において、繊維質単層は、一方向に整列した高靭性ポリエチレンフィラメントを含有し、一方向単層ともいわれ、ここでは、単層は、一方向に整列したフィラメント、すなわち、実質的に互いに平行に配向されたフィラメントを含むことが理解される。一方向単層は、典型的には、前記一方向単層の厚さをなすように1つ又は複数の重ね合わせられた平行フィラメントを含有している。
【0015】
本発明の圧縮成形物品は、互いに隣接する複数の一方向単層のスタックを含む一方、単層におけるフィラメントの配向方向は、隣接する単層のフィラメントの配向方向に関してある特定の角度回転している。前記角度は、少なくとも40°且つ90°までであり、より好ましくは、角度は、少なくとも70°、より好ましくは少なくとも80°であり、最も好ましくは、角度は約90°である。
【0016】
本発明の圧縮成形物品は、必要量の対応する繊維質単層を積層することによって得られたものであってもよいが、スタックは、前記単層のうちの少なくとも2つを含む事前にアセンブルされたシートから構築されていてもよい。シートは、一方向に整列したフィラメントの3つ以上の単層を含んでいてもよく、各単層におけるフィラメントの方向は、隣接する単層のフィラメントに関して、上記の通り、少なくとも40°の角度回転している。好ましくは、2、4、6、8又は10個の単層のセットが、単層のスタックの一体化によってシートに事前にアセンブルされていてもよい。好ましくは、そのようなシートは、0°及び90°配向とも呼ばれる実質的に2つの配向方向に整列した高靭性フィラメントを含有する。事前にアセンブルされたシートの一体化は、シートを形成する圧力及び高温の使用によって行われうる。一体化のための圧力は、例えば、2bar超、10bar超、又はさらには20bar以上であってもよく、一方、一体化の間の温度は、典型的には、60~150℃の範囲である。
【0017】
本発明の文脈において、高靭性ポリエチレンフィラメントは、少なくとも3.5N/texの靭性を有するポリエチレンフィラメントであると理解される。好ましい実施形態では、高靭性ポリエチレンフィラメントを有する本発明の防弾成形物品及び防弾シートは、少なくとも3.8、好ましくは少なくとも4.0、より好ましくは少なくとも4.2、さらにより好ましくは少なくとも4.5N/tex、最も好ましくは少なくとも4.8N/texの靭性を有する。当業者であれば、高靭性ポリエチレンフィラメントの靭性には理論及び実用限界があり、したがって、高靭性ポリエチレンフィラメントは、好ましくは、最大8.0、好ましくは最大7.0、より好ましくは最大6.0N/texの靭性を有することを認識するであろう。好ましいポリエチレンは、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)である。最良の結果は、高靭性ポリエチレンフィラメントが超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)を含み、少なくとも3.5N/tex、より好ましくは少なくとも4.0N/tex、最も好ましくは少なくとも4.2N/texの靭性を有する場合に得られた。本発明者らは、UHMWPEについて、最良の弾道性能を実現できたことを観察した。
【0018】
フィラメントとは、本明細書において、その長さ寸法が幅及び厚さの横寸法、又は直径よりもはるかに大きい長尺体と理解される。典型的には、フィラメントは、連続した長さを有するといわれる。本発明の文脈において、フィラメントは、同様に繊維ということがある。連続した長さを有するステープル繊維の分野で認められている形状因子は、本発明の文脈においてフィラメントとは考えない。フィラメントは、規則的又は不規則な断面を有していてもよく、典型的には、断面は円形であるが、また、多角形、長円又は楕円であってもよい。とりわけ本発明の単層に一旦加工すると、断面の形状は、処理条件によって変更された状態でありうる。本発明の目的の糸は、多くの個々のフィラメントを含有する長尺体である。
【0019】
単層に存在するフィラメントは、最大6.0dtex、好ましくは最大4.0dtex、より好ましくは最大3.0dtex、さらにより好ましくは最大2.0dtex、最も好ましくは最大1.0dtexの、典型的には力価といわれる線密度を有しうる。より低い力価を有するフィラメントは、改善された弾道性能を示し、より均質な繊維質単層の製造を可能にすることが観察された。さらに好ましい実施形態では、単層に存在するフィラメントは、少なくとも0.1dtex、好ましくは少なくとも0.2dtex、最も好ましくは少なくとも0.4dtexの線形密度を有する。そのようなより低い限界は、経済面及び現在の製造法の技術によって引き起こされる。
【0020】
本発明の繊維質単層、又はそれから製造されたシート及び/若しくは防弾物品はまた、本発明の文脈においてマトリックス又は接着剤ともいわれるバインダーを含む。物品に存在するバインダーの総量は、物品の重量に対して20.0wt%未満である。好ましい実施形態では、成形防弾物品に存在するバインダーの総量は、スタックの総重量に対して6.0~11.0wt.%である。より好ましくは、存在するバインダーの総量は、スタックの総重量に対して、7.0~10.5wt.%、より好ましくは7.5~10.0wt.%、最も好ましくは8.0~9.5wt%である。別の好ましい実施形態では、成形防弾物品に存在するバインダーの総量は、スタックの総重量に対して11.0~19.0wt%である。より好ましくは、存在するバインダーの総量は、スタックの総重量に対して、12.0~18.0wt%、より好ましくは13.0~17.0wt%、最も好ましくは14.0~16.5wt%である。前記バインダー材料は、高靭性フィラメント間の繊維質単層に存在していてもよく、この場合、典型的にはマトリックスと呼ばれ、又は繊維質単層間に存在していてもよく、この場合、典型的には接着剤と呼ばれる。種々のバインダーが使用されてもよく、その例には、熱硬化性及び熱可塑性材料が含まれる。多種多様な熱硬化性材料が利用可能であるが、しかしながら、エポキシ樹脂又はポリエステル樹脂が最も一般的である。好適な熱硬化性及び熱可塑性材料は、例えば、参照により本明細書に含まれる国際公開第91/12136号(15~21頁)に列挙されている。熱硬化性材料の群の中でも、ビニルエステル、不飽和ポリエステル、エポキシド又はフェノール樹脂が好ましい。熱硬化性材料の群の中でも、ポリウレタン、ポリビニル、ポリアクリル、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリオレフィン、又は熱可塑性エラストマーブロックコポリマー、例えば、ポリイソプレン-ポリエチレン-ブチレン-ポリスチレン若しくはポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレンブロックコポリマーが好ましい。
【0021】
面密度とは、所与の面積のサンプルの重量をその表面積で割ったものであると理解され、平方メートル当たりのキログラム[kg/m2]又は平方メートル当たりのグラム[g/m2]で表される。実質的に平坦な物品の場合、サンプルの重量をその表面積で割ることができるが、より一般的な方法は、成形物品の平均厚さに比重を掛けることによって、湾曲した、より複雑な形状の物品を考慮して提供される。本明細書で使用される場合、平均厚さは、各測定値が他の測定値から少なくとも5cm間隔を空けた、物品にわたって分布した少なくとも5つの測定値を取り、平均値を計算することによって測定される。本明細書で使用される場合、成形物品の比重は、圧縮成形物品のサンプルを秤量し、それを前記サンプルの体積で割ることによって測定される。
【0022】
ポリエチレンは、好ましくは、少なくとも4dl/g、より好ましくは少なくとも8dl/g、最も好ましくは少なくとも12dl/gの固有粘度(IV)を有する超高分子量(UHMWPE)のものである。固有粘度は、数及び重量平均分子量(Mn及びMw)のような実際の分子質量パラメーターよりも容易に決定することができる分子量について測定する。
【0023】
代替の実施形態では、本発明の繊維質単層、又はそれから製造されたシート及び/若しくは防弾物品はまた、上記の高靭性ポリエチレンフィラメント以外のさらなるフィラメントを含んでいてもよい。これにより、ポリエチレンから製造されたもの以外のさらなる高靭性フィラメント、例えば、カーボンファイバー、鉱物繊維及びガラスファイバーのような無機材料、又はポリアミド及びポリアラミドからなる群から選択されるポリマーから製造された有機繊維、例えば、ポリ(p-フェニレンテレフタルアミド)(ケブラー(Kevlar)(登録商標)として公知)、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)、ポリ{2,6-ジイミダゾ-[4,5b-4’,5’e]ピリジニレン-1,4(2,5-ジヒドロキシ)フェニレン}(M5として公知)、ポリ(p-フェニレン-2,6-ベンゾイソキサゾール)(PBO)(ザイロン(Zylon)(登録商標)として公知)、液晶ポリマー(LCP)、ポリ(ヘキサメチレンアジパミド)(ナイロン6,6として公知)、ポリ(4-アミノ酪酸)(ナイロン6として公知)、ポリエステル、例えば、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)及びポリ(1,4シクロヘキシリデンジメチレンテレフタレート)、ポリビニルアルコール、並びにまたポリオレフィン、例えば、ホモポリマー及びコポリマープロピレンが理解される。好ましくは、そのようなさらなるフィラメントは、任意選択でバインダー又はいくつかのそのような単層を含むシートと共に前記さらなるフィラメントを含む少なくとも1つのさらなる単層に存在する。この層は、層のスタックの内面若しくは外面又はスタックの2つの単層間に、又は例えば、一方向に整列した高性能ポリエチレンフィラメントのクロスプライ繊維質単層と交互にそれらの組合せで配置されていてもよい。さらなるフィラメントは、リストの範囲から選択されうる。好ましくは、さらなるフィラメントは、無機繊維である。最も好ましくは、さらなるフィラメントは、カーボンファイバーである。
【0024】
本発明で使用される高靭性ポリエチレンフィラメントを製造するための1つの方法は、ポリエチレンを押出機に供給するステップ、フィラメントをその融点を超える温度で押出するステップ、及び押出フィラメントをその融解温度未満で延伸するステップを含む。好ましくは超高分子量ポリエチレンを使用する場合などの所望の場合、ポリマーを押出機に供給する前に、ポリマーは、好適な液体化合物と混合されて、例えば、ゲルを形成してもよい。
【0025】
好ましい方法では、本発明で使用されるフィラメントは、ゲル紡糸法によって調製される。好適なゲル紡糸法は、例えば、英国特許出願第2042414号、英国特許出願第2051667号、欧州特許出願公開第0205960号及び国際公開第01/73173号に記載されている。簡潔には、ゲル紡糸法は、高固有粘度のポリエチレンの溶液を調製するステップ、溶液を、溶解温度を超える温度で溶液フィラメントに押出するステップ、溶液フィラメントをゲル化温度未満に冷却し、それによって、フィラメントのポリエチレンを少なくとも部分的にゲル化するステップ、並びに溶媒の少なくとも部分的な除去の前、その間及び/又はその後に、フィラメントを延伸するステップを含む。
【0026】
高靭性フィラメントを調製する記載の方法において、製造されたフィラメントの延伸、好ましくは一軸延伸は、当技術分野で公知の手段によって実施されうる。そのような手段は、好適な延伸ユニットでの押出伸長及び引張伸長を含む。機械引張強度及び剛性を増加させるために、延伸は、複数ステップで実施されてもよい。
【0027】
好ましいUHMWPEフィラメントの場合、延伸は、典型的には、多数の延伸ステップにおいて一軸に実施される。第1の延伸ステップは、例えば、少なくとも1.5、好ましくは少なくとも3.0の伸長係数(延伸比とも呼ばれる)への延伸を含みうる。複数回の延伸により、典型的には、120℃までの延伸温度では9までの伸長係数、140℃までの延伸温度では25までの伸長係数、並びに150℃まで及びそれよりも高い延伸温度では50以上の伸長係数がもたらされうる。昇温で複数回延伸することによって、約50以上の伸長係数に達しうる。この結果、高靭性ポリエチレンフィラメントが得られ、超高分子量ポリエチレンでは、3.5N/tex以上の靭性を得ることができる。
【0028】
言及した通り、厳しい標準を満たすことが可能な技術水準のパネルは、ある角度で撃たれた場合、不十分な性能を示すことが観察された。とりわけハイエンドグレードの場合、より低いパネル面密度及び厚さが、垂直衝突条件下でのそれらの良好な弾道性能により可能である場合に、これは明らかとなる。したがって、本発明は、とりわけ、面密度が低減された対弾道パネルに関連する。したがって、本発明の好ましい実施形態は、最大11.0、好ましくは最大10.5、より好ましくは最大10.2、最も好ましくは最大9.9kg/m2のADを有する防弾成形物品に関する。単層の数を増加することは、これらのより低い面密度の防弾成形物品においてとりわけ有利であることが観察された。それは、ある角度で衝突する発射体を受ける際の技術水準の材料の不備を低減又は解消する。
したがって、本発明により、垂直及び非垂直条件下の両方において高いV50性能を示す低重量の対弾道解決法が利用可能となる。
【0029】
本発明による防弾物品の面密度を低減できるだけでなく、驚くべきことに、防弾物品に存在する弾道フィラメントの量を低減した場合にも改善が観察されることが、さらに観察された。したがって、本発明の好ましい実施形態は、6.0~10.0kg/m2の間のポリエチレンフィラメントの面密度を有する防弾成形物品に関する。好ましくは、防弾成形物品のポリエチレンフィラメントの面密度は、6.0~9.5kg/m2の間、より好ましくは6.5~9.0kg/m2の間である。物品におけるポリエチレンフィラメントの面密度は、成形物品の所与の面積に存在する高靭性ポリエチレンフィラメントのポリエチレンの質量をその表面積で割ったものであると理解され、平方メートル当たりのキログラムで表される。ポリエチレンフィラメントの面密度はまた、物品の面密度に、そこに存在するポリエチレンの質量分率を掛けたものに基づいて演算することもできる。単なる例として、繊維質単層が87wt%のポリエチレンフィラメント及び13wt%のマトリックスを含む場合、ポリエチレンフィラメントの面密度は、物品の面密度の0.87倍である。
【0030】
本発明の好ましい実施形態では、防弾成形物品に存在する繊維質単層は、6~30g/m
2の間、好ましくは8~28g/m
2の間、より好ましくは10~26g/m
2の間、最も好ましくは12~24g/m
2の間の面密度を有する。低面密度を有する単層により、所与の面密度の防弾物品に存在する単層の数をさらに増加させ、その
【数3】
性能に正の影響を及ぼすことが可能になる。低面密度の単層は機器出力に負の影響を与えるため、単層の面密度の下限は、存在するフィラメントの厚さ、及び製造効率によって与えられる。単層面密度の上限は、最小量の単層から防弾物品を構築するための要件によって与えられる。単層が重すぎると、非垂直衝突条件下で必要な性能の改善を示さない。本発明の文脈において、単層の面密度はまた、単層の重量ともいうことがあり、平方メートル当たりのグラム[g/m
2]で表される。そのような面密度は、単層の所与の部分を秤量し、それをその表面積で割ることによって測定される。面密度はまた、圧縮成形対防弾物品の面密度をそれが含む単層の数で割ることよって導出することもできる。
【0031】
好ましい実施形態では、防弾物品の繊維質単層は、4~28g/m2の間、好ましくは6~26g/m2の間、より好ましくは8~25g/m2の間、最も好ましくは10~24g/m2の間の面密度のポリエチレンフィラメントを有する。単層に存在する高靭性フィラメントのそのような量により、製造の経済性と非垂直衝突性能の改善との間の良好な妥協点が提供される。単層におけるポリエチレンフィラメントの面密度は、単層の所与の面積に存在する高性能ポリエチレンフィラメントのポリエチレンの質量をその表面積で割ったものであると理解され、平方メートル当たりのグラムで表される。ポリエチレンフィラメントの面密度はまた、単層の面密度に、単層中又はその上に存在するポリエチレンの質量分率を掛けたものに基づいて演算することができる。
【0032】
本発明の防弾成形物品は、少なくとも330の繊維質単層を含む。防弾物品に所与の面密度の多数の単層が存在することにより、その
【数4】
性能に正の影響を及ぼし、とりわけ、
【数5】
よりも優れてはいないとしても、同様の
【数6】
が得られることが観察された。単層の数の上限は、単層の面密度の下限及び製造の経済性によって記述される。大量、すなわち1000まで又はそれよりも多い単層を組み合わせ、防弾物品に圧縮成形することもできるが、煩雑で財務的に魅力のない製品として経験されうる。最大800、又は好ましくは最大700の単層を有する防弾物品は、市販がより現実的な製品であるが、好ましくは、防弾物品は、330~600の間、より好ましくは350~550の単層、最も好ましくは370~500の間の単層を含む。防弾物品における単層の数は、当技術分野で公知の手段、例えば、物品の手動での剥離又はその断面の顕微鏡画像によって容易に確立することができる。
【0033】
本発明の好ましい実施形態は、繊維質単層を含む防弾成形物品であって、単層が、一方向に整列した高靭性ポリエチレンフィラメント及びバインダーの複合単層である、防弾成形物品に関する。そのような複合単層及びそれらの製造は、当技術分野で一般に公知であり、例えば、国際公開第2005066401号及び国際公開第2017060469号に記載されており、これらは参照により本明細書に含まれる。好ましくは、方法は、任意の形態の、マトリックスともいわれるバインダー、例えば、マトリックスの溶液、エマルジョン又は水性分散体を一方向に整列した高靭性ポリエチレンフィラメントの繊維質単層に適用するステップを含む。得られた含浸された繊維質単層は乾燥されて、複合単層が形成する。前記複合単層は、それらの順番に、上に詳述する通り、2つ以上の複合単層をクロスプライ及び圧縮成形することによって、事前にアセンブルされて複合シートを形成することができる。したがって、そのような複合シートは、バインダーに包埋された、一方向に整列した高靭性ポリエチレンフィラメントの少なくとも2つの積層された隣接する繊維質単層を含む。フィラメントは、一方向(UD)構成体としても公知の平行アレイ構成体におけるものであり、これは、種々の従来技術のうちの任意のものによって得ることができることが理解される。バインダーは、フィラメントを実質的に包埋しており、単層のフィラメントを一緒に結合する複合繊維質単層全体にわたって存在する。
【0034】
本発明の好ましい別の実施形態は、バインダーを実質的に含まない繊維質単層を含む防弾成形物品であって、隣接する繊維質単層がバインダーの層によって互いに接着している、防弾成形物品に関する。したがって、繊維質単層は、前記繊維質単層のポリエチレンフィラメント間にいずれのバインダー又はマトリックス材料も実質的に含まない。バインダー又はマトリックス材料が存在しない場合、本発明の防弾物品の防弾特性が改善しうることが観察された。実質的に含まないとは、繊維質単層が、繊維質単層の質量に対して、3.0wt%未満、好ましくは2.0wt%未満、より好ましくは1.0wt%未満、最も好ましくは0.5wt%未満のバインダーを含有することと理解される。
【0035】
単層に結合マトリックスが実質的に存在しない、一方向に整列した高靭性ポリエチレンフィラメントの繊維質単層は、典型的には、フィラメントの融合によって形成される。融合は、好ましくは、実質的に溶融結合をもたらさない圧力、温度及び時間の組合せ下で実現される。好ましくは、DSC(10℃/分)によって検出した場合に検出可能な溶融結合は、存在しない。検出可能な溶融結合が存在しないとは、サンプルを3連で分析した場合に、部分的に溶融した再結晶UHMWPEフィラメントと一致する目視可能な吸熱効果が検出されないことを意味する。好ましくは、融合は、機械的融合である。機械的融合は、フィラメントの変形によって起こり、平行配置構成されたフィラメントの機械的連結が増加し、フィラメント間のファンデルワールス相互作用が増加すると考えられる。したがって、層内のフィラメントは、典型的には、融合している。したがって、単層は、任意の結合マトリックス又は接着剤の存在なしに良好な構造安定性を有しうる。さらに、単層は、フィラメントの融合法の間にフィラメントの溶融が起こることなく、良好な構造安定性を有しうる。良好な構造安定性とは、例えば、単層のスタックが調製される場合に、単層がフィブリル化されることも引き裂かれることもない頑強な取り扱い性能を、単層が示すことと理解される。構造安定性は、その幅方向における単層の強度又は横方向強度として表されうる。そのような強度は、0.1超、より良好には0.2MPaであるべきである。
【0036】
結合マトリックスが実質的に存在しない一方向に配向したポリエチレンフィラメントの単層は、フィラメントの平行アレイを高温及び圧力に供することによって形成されうる。圧力を適用するための手段は、カレンダー、平滑ユニット、二重ベルトプレス又は交互プレスであってもよい。圧力を適用する好ましい方法は、実質的に国際公開第2012/080274号に記載の通り、一方向に配向したフィラメントのアレイをカレンダーのニップに導入することによる。
【0037】
好ましくは、一方向に整列したポリエチレンフィラメントを含む単層の厚さは、個々のポリエチレンフィラメントの少なくとも1.0、より好ましくは少なくとも1.3、最も好ましくは少なくとも1.5倍の厚さである。異なる厚さを有するポリエチレンフィラメントが使用される場合、個々のフィラメントの厚さとは、本明細書において、利用されたフィラメントの平均厚さと理解される。好ましくは、前記層の最大厚さは、個々のポリエチレンフィラメントの厚さの10倍以下、より好ましくは8倍以下、さらにより好ましくは5倍以下、最も好ましくは3倍以下である。
【0038】
典型的には、バインダーを実質的に含まない一方向に配列したポリエチレンフィラメントの層は、4~28μm、好ましくは6~26μmの間、より好ましくは8~25μmの間、最も好ましくは10~24μmの間の厚さを有する。層の厚さは、例えば、顕微鏡を使用して、3回の測定の平均を取ることによって測定することができる。
【0039】
本発明の本実施形態では、バインダーが実質的に存在しない隣接する繊維質単層は、前記バインダーよって互いに接着されている。防弾物品は、少なくとも330の繊維質単層から形成されている。防弾物品は、同一の単層のみ、又は異なる単層の混合物を含んでいてもよい。
【0040】
バインダーという用語は、本文脈において接着剤とも呼ばれ、一方向に配列したフィラメントの隣接する単層を一緒に結合する材料をいう。接着剤は、単層又は複数のクロスプライされた単層の事前にアセンブルされたシートに構造的剛性をもたらしうる。接着剤はまた、本発明の成形物品の一方向に整列したフィラメントの隣接する単層間の層間結合を改善するように作用する。本発明の成形物品において、接着剤は、一方向に配列したポリエチレンフィラメントの隣接する単層間に中間層を形成する。接着剤は、一方向に整列したフィラメントの隣接する層の表面を完全に被覆していてもよく、又は接着剤は、前記表面を部分的にのみ被覆していてもよい。接着剤は、種々の形態及び方法で、例えば、フィルムとして、横方向結合ストリップ若しくは横方向繊維(一方向フィラメントに関して横方向)として、又は一方向に整列したポリエチレンフィラメントの層を、例えば、ポリマー溶融物、若しくは液体中ポリマー材料の溶液若しくは分散体でコーティングすることによって適用することができる。好ましくは、接着剤は、層の表面全体にわたって均質に分布するが、その一方、結合ストリップ又は結合繊維は局所的に適用することができる。
【0041】
好適なバインダーには、熱硬化性ポリマー若しくは熱可塑性ポリマー、又はその2つの混合物が含まれる。熱硬化性ポリマーには、ビニルエステル、不飽和ポリエステル、エポキシド又はフェノール樹脂が含まれる。熱可塑性ポリマーには、ポリウレタン、ポリビニル、ポリアクリル、ポリオレフィン、ポリブチレンテレフタレート(PBT)又は熱可塑性エラストマーブロックコポリマー、例えば、ポリスチレン-ポリブチレン-ポリスチレン若しくはポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレンブロックコポリマーが含まれる。熱硬化性ポリマーの群の中でも、ビニルエステル、不飽和ポリエステル、エポキシド又はフェノール樹脂が好ましい。
【0042】
好ましい熱可塑性ポリマーは、コモノマーとして2~12個のC原子を有する1つ又は複数のオレフィンを含有していてもよいエチレン、特に、エチレン、プロピレン、イソブテン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、アクリル酸、メタクリル酸及び酢酸ビニルのコポリマーを含む。ポリマー樹脂においてコモノマーが存在しない場合、多種多様なポリエチレン、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、極低密度ポリエチレン(VLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)又はそれらのブレンドが存在していてもよい。しかしながら、高密度ポリエチレン(HDPE)が好ましい。
【0043】
1つの特に好ましい熱可塑性ポリマーは、エチレン及びアクリル酸のコポリマー(エチレンアクリル酸コポリマー)、又はエチレン及びメタクリル酸のコポリマー(エチレンメタクリル酸コポリマー)を含む。好ましくは、前記接着剤は、水性懸濁液として適用される。
【0044】
代替の特に好ましい熱可塑性ポリマーは、エチレン又はプロピレン及び1つ又は複数のC2~C12α-オレフィンコモノマーのランダムコポリマーであるプラストマーである。より好ましくは、熱可塑性ポリマーは、ホモポリマー又はエチレン及び/若しくはプロピレンのコポリマーである。
【0045】
接着剤の融点は、ポリエチレンフィラメントの融点未満である。典型的には、接着剤は、155℃未満の融点を有する。好ましくは、接着剤の融点は、115℃~150℃である。
【0046】
接着剤は、典型的には、一方向に整列したポリエチレンフィラメントの単層に実質的に浸透しない。好ましくは、接着剤は、単層にまったく浸透しない。したがって、接着剤は、一方向に整列したフィラメントの単一の単層内のフィラメント間の結合剤としては作用しない。好ましくは、防弾成形物品は、その単層に結合マトリックスが実質的に存在しない、一方向に整列したポリエチレンフィラメントの複数の層、及び前記隣接する単層間に存在する複数の接着剤の層を含む。好ましくは、接着剤は、ポリエチレンフィラメントのすべての隣接する単層間に存在する。
【0047】
実質的にバインダーを含まない繊維質単層を含み、隣接する繊維質単層がバインダーによって互いに接着している、防弾成形物品の本発明の実施形態では、成形物品は、必要数のポリエチレンフィラメントを含む単層と接着剤層とを交互に積層することによって形成することができるものの、そのような方法は、最終物品に大量の層が存在する観点から煩雑となりうる。したがって、ある特定数の一方向に整列したフィラメントの単層を、接着剤層と交互に含むシートの形態の中間生成物は、本発明の防弾成形物品の製造を単純にするために興味深い中間生成物を表す。
【0048】
したがって、本発明の実施形態は、少なくとも2つの繊維質単層を含む防弾シートであって、各繊維質単層が一方向に整列した高靭性ポリエチレンフィラメントを含有し、ここで、シートにおける2つの隣接する繊維質単層のポリエチレンフィラメント間の配向方向が、少なくとも40且つ90度まで異なり、ポリエチレンフィラメントが、少なくとも3.5N/texの靭性を有し、防弾シートが、防弾シートの総重量に対して5.0~20wt%の間のバインダーを含み、繊維質単層が、バインダーを実質的に含まず、隣接する繊維質単層が、バインダーの層によって互いに接着しており、前記防弾シートが、防弾シートに存在するポリエチレンフィラメント単層当たり6~30g/m2の間、好ましくは8~28g/m2の間、より好ましくは10~26g/m2の間の面密度(AD)を有する、防弾シートに関する。したがって、防弾シートは、好ましくは、2つの単層を含むシートでは12~60g/m2の間、4つの単層を含むシートでは24~120g/m2の間、6つの単層を含むシートでは36~180g/m2の間、及び8つの単層を含むシートでは48~240g/m2の間の面密度を有する。より好ましくは、防弾シートは、2つの単層を含むシートでは16~56g/m2の間、4つの単層を含むシートでは32~112g/m2の間、及び6つの単層を含むシートでは48~168g/m2の間、及び8つの単層を含むシートでは64~224g/m2の間の面密度(AD)を有し、より好ましくは、防弾シートは、2つの単層を含むシートでは20~52g/m2の間、4つの単層を含むシートでは40~104g/m2の間、及び6つの単層を含むシートでは60~156g/m2の間、及び8つの単層を含むシートでは80~208g/m2の間の面密度(AD)を有する。
【0049】
本実施形態の防弾物品又はシートにおいて、接着層は、完全層、例えばフィルム、連続部分層、例えばウェブ、又は分散部分層、例えば、接着剤のスポット若しくは島を含んでいてもよい。
【0050】
本発明の本実施形態による防弾シートのバインダーの量は、広範囲で様々であってもよく、とりわけ、湾曲した防弾成形物品の必要な最終特性、及び単層に存在するポリエチレンフィラメントの性質に依存する。典型的には、防弾シートに存在するバインダーの量は、5.0~20wt%の間である。好ましい実施形態では、バインダーの前記濃度は、6.0~17wt%の間、好ましくは7.0~14wt%の間、最も好ましくは8.0~12wt%の間であり、重量パーセンテージは、防弾シートの総重量に対するバインダーの重量である。
【0051】
本発明による防弾成形物品は、標準の垂直条件下で撃たれた場合、すなわち、衝突の位置において垂直に物品に衝突する射撃の場合、種々の発射体、中でも、AK47弾として公知の脅威、より正確には7.62×39mm MSCに対する、低面密度成形物品における、際立った対弾道性能を有する。中でも、本発明の防弾成形物品は、技術水準の解決法の重量基準の弾道性能を凌駕しうる。したがって、好ましい実施形態は、AK47 7.62×39mm MSC発射体に対して試験した場合、少なくとも600m/秒の、垂直条件下で撃たれた場合のV50(
【数7】
)を有する、本発明の防弾成形物品に関する。好ましくは、前記条件下でのV50は、少なくとも650m/秒、より好ましくは少なくとも700m/秒、最も好ましくは少なくとも750m/秒である。物品の
【数8】
は、最大1100m/秒又はさらにはより高い、好ましくは最大1150m/秒、より好ましくは最大1200m/秒、最も好ましくは最大1250m/秒の弾道性能に達しうる。
【0052】
なおより重要なことに、本発明者らは、本発明による防弾成形物品の弾道性能がまた、ある角度で撃たれた場合、例えば、垂直衝突から30°逸脱する角度でぶつかる射撃の場合、種々の発射体、中でも、AK47弾として公知の脅威、より正確には7.62×39mm MSCに対する低面密度の成形物品における際立った対弾道性能を示すことを観察した。中でも、本発明の防弾成形品は、技術水準の解決法の重量基準の弾道性能を凌駕しうる。したがって、好ましい実施形態は、AK47 7.62×39mm MSC発射体に対して試験した場合に、少なくとも580m/秒の、垂直から30°の角度で撃たれた場合のV50(
【数9】
)を有する、本発明の防弾成形物品に関する。好ましくは、前記条件下でのV50は、少なくとも630m/秒、より好ましくは少なくとも680m/秒、最も好ましくは少なくとも730m/秒である。物品の
【数10】
は、最大1100m/秒又はさらにはより高い、好ましくは最大1150m/秒、より好ましくは最大1200m/秒、最も好ましくは最大1250m/秒の弾道性能に達しうる。
【数11】
として表される垂直条件下での弾道性能、及び
【数12】
として表されるある角度での弾道性能はいずれも、対弾道アーマーを設計する上で関連する性能特徴であるものの、当分野において、アーマーがどの位置で衝突を受けるかを予測するのは困難であり、前記アーマーは広範囲の衝突角度にわたって同レベルの防護をもたらすべきであるため、異なる角度で撃たれた場合に、アーマーの対弾道性能が実質的に変化しないことがさらにより関連する特徴である。本発明者らの主な成果は、非垂直方式でぶつかった場合の性能の損失がない対防弾成形品を開発することである。したがって、好ましい実施形態は、
【数13】
の
【数14】
に対する比が、少なくとも0.95、好ましくは少なくとも0.98、より好ましくは少なくとも1.00、最も好ましくは少なくとも1.05である、本発明による防弾成形物品に関する。この現象は容易には理解できないが、理想的には、
【数15】
として表される30度の角度での弾道性能は、貫通する弾道材料がより高質量であることに起因して、実質的により良好でありうる。したがって、
【数16】
の
【数17】
に対する比は、1.3、又は好ましくは1.4もの高さとなりうる。そのような防弾物品は、種々の用途及び脅威下での重要な防護を有し、これまでに利用可能ではない、本明細書において実現された、関連する面密度範囲における
【数18】
及び
【数19】
性能レベルを示すアーマーを設計するのに最も好適である。
【0053】
したがって、本発明はまた、7.0~12.0kg/m
2の間の面密度(AD)を有し、繊維質単層の一体化スタックを含む防弾成形物品であって、各繊維質単層が、一方向に整列した高靭性ポリエチレンフィラメントを含有し、ここで、スタックにおける2つの隣接する繊維質単層のポリエチレンフィラメント間の配向方向が、少なくとも40且つ90度まで異なり、ポリエチレンフィラメントが、少なくとも3.5N/texの靭性を有し、成形物品が、成形物品の総重量に対して5.0~20wt%の間のバインダーを含み、防弾成形物品の
【数20】
の
【数21】
に対する比が、少なくとも0.95、好ましくは0.98、より好ましくは少なくとも1.00、最も好ましくは少なくとも1.05である、防弾成形物品に関する。好ましくは、防弾成形物品の繊維質単層は、一方向に整列した高靭性ポリエチレンフィラメント及びバインダーの複合単層である。好ましい代替の実施形態では、防弾成形物品の繊維質単層は、バインダーを実質的に含まず、隣接する繊維質単層は、バインダーの層によって互いに接着している。
【0054】
本発明の防弾成形物品の好ましい適用分野は、アーマーなどの防弾物品の分野である。防弾物品の機能は2要素であり、高速の発射体を停止するべきであり、且つそれを最小の背面変形で行うべきである。背面変形は、実際には、物品の非衝突側で測定可能な衝突による凹みのサイズである。典型的には、背面変形は、防弾物品の衝突面の平面に垂直な最大変形(単位mm)で測定される。驚くべきことには、本発明に従って作製された複合シートがアーマーに使用される場合、衝突による凹みのサイズは小さいことが観察された。言い換えると、背面の痕跡が小さい。そのようなアーマーは、発射体を停止する際の背面の痕跡の低減を示し、したがって、停止された発射体がぶつかった後のヒトの頭蓋骨及び脳への外傷が低減されるため、戦闘用ヘルメットのシェルにとりわけ好適である。
【0055】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、それらに限定されることはない。
【0056】
本出願において言及される試験方法は、以下の通りである:
IV:固有粘度は、方法ASTM D1601(2004)に従って、デカリン中135℃、溶解時間16時間で、酸化防止剤として2g/l溶液の量でBHT(ブチル化ヒドロキシトルエン)を用い、異なる濃度で測定した粘度を濃度ゼロに対して外挿することによって決定する。
【0057】
フィラメントの線密度及び機械特性(フィラメントの靭性及びフィラメントの引張係数)の決定は、一定の引張力及び標点距離並びに変動励起振動数を使用する振動試験の原理(ASTM D 1577)に従う線密度測定のための一体型測定ヘッドにより、一定伸長率の原理(DIN 51 221、DIN 53 816、ISO 5079)に従って動作する半自動のマイクロプロセッサー制御した引張試験機(Favimat、試験機no.37074、Textechno Herbert Stein GmbH & Co.KG製、Monchengladbach、Germany)で実施する。Favimat試験機は、1200cN秤、no.14408989を備えている。Favimatソフトウェアのバージョン番号:3.2.0。
【0058】
フィラメントの破壊を妨げる、フィラメント引張試験の間のクランプの滑りは、
図3に従うFavimatクランプの採用によって排除する。
【0059】
上側クランプ121は、ロードセル(図示せず)に取り付けられている。下側クランプ122は、引張試験の間、選択された引張試験速度で下向き方向(D)に動く。試験対象のフィラメント(125)は、2つのクランプの各々において、プレキシガラス(Plexiglass)(登録商標)で作製された2つのあご面123(4×4×2mm)間に挟まれ、セラミックピン124及び125に対して3回巻かれている。引張試験の前に、セラミックピン間のフィラメント長の線密度を振動により決定する。フィラメントの線密度の決定は、50mmのフィラメントの標点距離(F)(
図2を参照されたい)、2.50cN/texのプレテンションで(糸の線密度及びフィラメント数から計算した予想されるフィラメントの線密度を使用して)実施する。続いて、引張試験は、25mm/分のより低いクランプの試験速度で、0.50cN/texのプレテンションにより実施し、フィラメントの靭性は、測定した破断力及び振動により決定したフィラメントの線密度から計算する。伸び歪みは、0.50cN/texの所定のプレテンションでプレキシガラスの上側及び下側あご面間の全フィラメント長を使用することによって決定する。応力-歪み曲線の開始は、一般に、いくらかのゆるみを示すため、弾性率は、2つの応力レベル間の弦弾性率として計算する。例えば、10~15cN/dtexの間の弦弾性率は、式(1):
【数22】
(式中、
ε
10=10cN/dtex(%)の応力における伸び歪み;及び
ε
15=15cN/dtex(%)の応力における伸び歪み)
によって得られる。
測定した破断伸びは、式(2):
【数23】
(式中、
EAB=補正した破断伸び(%)
EAB(測定値)=測定した破断伸び(%)
ε
5=5cN/dtexの応力における伸び歪み(%)
CM(5:10)=5~10cN/dtexの間の弦弾性率(N/tex))
によってゆるみについて補正する。
【0060】
パネル、シート又は単層の面密度(AD)は、好ましくは0.4m×0.4mのサンプルの重量を誤差0.1gで測定することによって決定した。
【0061】
成形物品の弾道性能は、8つの個々のパネルに対する8回の個々の射撃のV50値を計算することによって決定した。矩形サンプルパネル(
図2、20)は、200mm×200mmの寸法を有し、フィラメント配向は、2つのその側面に対してそれぞれ平行であった。サンプルパネルを、目標ホルダーフレーム(
図2には図示されていない)の後ろに、片側が地面に平行になるように固定し、接着剤テープの小片でその場に維持した。射撃距離は10メートルであり、射撃は、パネル(20)の中心(22)を狙った。使用した発射体(24)は、例えば、Sellier and Bellot,Czech Republicによって供給される7.62×39mm MSC(AK47)であった。最初の射撃は、射撃の50%が停止すると想定される発射体速度(V50)で発射する。停止できた場合、次の射撃は、前の速度よりも40m/秒速い想定速度で発射する。貫通した場合、次の射撃は、前の速度よりも40m/秒遅い想定速度で発射する。発射体の速度は、衝突の1m手前で測定した。実験により得られたV50値についての結果は、4回の最速停止及び4回の最低速貫通の算術平均である。停止又は貫通の余剰がある場合、停止となった射撃の数と、貫通となった射撃の数とが同じになるまで、これらの余剰を排除する必要がある。これは、最低射撃速度の停止を排除するか、又は最高射撃速度の貫通を排除することによって達成する。弾がパネル端部から出るという可能性の低い事象(30度の角度で試験した場合)では、この特定の射撃は無効であり、V50計算において考慮すべきではない。
【0062】
【数24】
試験(
図2a)の場合、目標ホルダー(図示せず)は、発射体(24)の射線(21)が衝突の位置(22)においてパネル(20)に直交する(90°の角度25)、すなわち、射線(21)が衝突の位置(22)において垂直(23)と同一であるように配置される。
【0063】
【数25】
試験の場合(
図2b)、目標ホルダー(図示せず)は、その垂直軸に対して30°の角度回転しており、発射体(24)の射線(21)が衝突の位置(22)において垂直(23)に対して30°の角度(26)を形成している。疑義を避けるために、したがって、パネル(20)と射線(21)との間の角度は、60°である。
【0064】
比較実験1.1~1.3
異なる面密度を有するポリエチレンフィラメントの2つの複合単層を、国際公開第2005066401号に記載の通りの方法に従って調製した。ここで、880dtexの糸力価及び4.25N/texの靭性を有する、780本のフィラメントを有するマルチフィラメント糸を使用して、クリールのいくつかのボビンから糸を供給し、フィラメントを展開し、バインダー材料としてクレイトン(Kraton)(登録商標)D1107スチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマーの水性分散体にフィラメントを含浸することによって一方向(UD)単層を作製した。乾燥後、UD単層は、34g/m2及び49g/m2のそれぞれの面密度を有し、いずれもバインダー含有量は約17wt%であった。4つのそのような一方向層を、0°90°0°90°配列でクロスプライし、30barの圧力及び115℃の温度で30秒間、一体化させた。得られたシートは、それぞれ136g/m2及び196g/m2の面密度を有した。
【0065】
400mm×400mmの寸法を有するシートを積層して、9.8及び12.5kg/m
2の目標パネル面密度を有するアセンブリを形成した。合計で、50、72及び92のシートを使用し、スタック全体にわたって隣接する単層のフィラメントの方向を交互に0°/90°に維持した。シートのアセンブリを、125℃、16.5MPaで40分間プレスし、続いて、2MPaで20分間冷却し、最後に、弾道試験のために200mm×200mmのパネルに切り出した。成形パネルは、CE1.1、1.2及び1.3として表1に報告する。成形パネルを、7.62×39mm MSC(AK47)弾で撃って、
【数26】
及び
【数27】
を決定した。
【0066】
表2に報告されている結果から観察できる通り、高いパネル面密度を有するCE1.3のパネルは、
【数28】
の低下を示さない一方、より低い面密度を有するパネルは、30°の角度で撃たれた場合の弾道性能の顕著な低下を示す。
【0067】
比較実験2.1
4層シートを、国際公開第2019121545号の実施例2に記載の方法に従って、中和エチレンアクリル酸コポリマーをバインダーとして用いて調製した。約14wt%のマトリックス含有量及び約128g/m2の面密度を有する得られた複合シートを、比較実験1に則して積層し、プレスし、切り出して、9.8kg/m2の面密度を有する硬質防弾パネルを形成した。パネル及び材料の詳細を表1に示す。前記パネルを、7.62×39mm MSC(AK47)弾により垂直及び30°衝突で各々試験し、結果を表2に報告した。
【0068】
観察できる通り、パネルは、30度の角度で撃たれた場合に弾道性能の顕著な低下を示す。
【0069】
比較実験3.1~3.4
前駆体シートを、880dtexの糸力価及び4.25N/texの靭性を有する、780本のフィラメントを有するマルチフィラメント糸から製造した。糸を、張力を制御したクリールでボビンからほどき、リードに通した。続いて、糸を展開ユニットに供給することによって、糸を展開して、幅320mmのフィラメントの隙間のない床を形成した。次いで、展開した糸をカレンダーに供給した。カレンダーのロールは直径400mmを有し、適用したライン圧は2000N/cmであった。8m/分のライン速度及び154℃のロール表面温度でラインを操作した。カレンダーにおいて、糸は繊維質単層に融合した。単層を、第1のローラースタンドによってカレンダーから取り出した。粉末散布ユニットを、カレンダーと第1のローラースタンドとの間に配置し、910kg/m3の密度及び6.6のメルトフローレート(190℃、2.16kg)で10wt%のエチレンベースのオクテン-1プラストマーを単層の上面に適用した。粉末を有する単層を約130℃の温度でカレンダー処理し、ローラースタンドに巻き取った。
【0070】
CE3.1~3.3について、320mmの幅及び37g/m2面密度を有する繊維質単層を製造した。CE3.4について、320mmの幅及び33g/m2の面密度を有する繊維質単層を製造した。
【0071】
前記繊維質単層のうちの5つを、平行に隣接して整列させて、1600mm幅の層を形成した。第2の同一の、単層の層を、上向きであるが、隣接する単層のフィラメントに垂直に整列して、両方の単層の接着剤層と共に第1の層の上に形成した。それぞれ65及び74g/m2の面密度を有する2層のクロスプライ前駆体シートを得た。これらの前駆体シートを、200mm×200mm角に切り出した。フィラメントの方向を交互に0°/90°に確実に維持して、複数の正方形を積層した。スタックを、表1に詳述する通りに異なる面密度の成形パネルに加工した。成形を16.5MPa及び145℃で40分間実施し、続いて、2MPaで20分間冷却した。
【0072】
成形パネルを、7.62×39mm MSC(AK47)弾により垂直及び30°衝突で試験して、表2に報告する通りに弾道性能を決定した。
【0073】
観察できる通り、高いパネル面密度を有するCE3.3のパネルは、その
【数29】
と比較して
【数30】
の非常に小さな低下を示す一方、より低い面密度を有するパネルは、30度の角度で撃たれた場合、弾道性能の顕著な低下を示す。33g/m
2の単層面密度を有するパネルの
【数31】
性能は、30°の角度で撃たれた場合、わずかな性能の改善をなお示している。
【0074】
実施例1.1及び1.2
実施例1.1について、クリールのいくつかのボビンから供給される糸を、約17wt%のマトリックス含有量で、28g/m2の一方向複合単層の面密度になるように展開したことを除いて、比較実験1.2を繰り返した。得られた4プライシートは、113g/m2の面密度を有した。実施例1.2について、糸の量をさらに減少させて、一方向単層の面密度を24g/m2とし、マトリックス含有量は約17wt%のままとした。さらに、2つの一方向単層のみをクロスプライして、48g/m2の面密度を有する2プライシートを得た。
【0075】
400mm×400mmの寸法を有するそれぞれ87及び204のシートを積層し、圧縮して、9.8kg/m2の目標パネル面密度を有するアセンブリを形成した。成形パネルは、Ex1.1及び1.2として表1に報告する。成形パネルを、7.62×39mm MSC(AK47)弾で撃って、垂直及び30°条件におけるV50を決定した。その結果を表2に報告する。
【0076】
観察できる通り、実施例1.1のパネルは、30°の角度で撃たれた場合、弾道性能の低下を何ら示さず、一方、Ex1.2は、30°の角度において、垂直条件下よりも高いV50さえ示す。
【0077】
実施例2.1~2.3
方法に供給する糸の数を減らすことによって、製造された繊維質単層の面密度をさらに低減したことを除いて、比較実験3.4を繰り返した。したがって、29及び26g/m2の面密度を有する繊維質単層を製造した。方法の間、両方の単層に、10wt%のプラストマー接着剤を添加した。
【0078】
実施例2.1及び2.2について、それぞれ57及び52g/m2の面密度を有する2層クロスプライ前駆体シートを得た。実施例2.3について、104g/m2の面密度を有する4層クロスプライ前駆体シートを得た。
【0079】
製造した2及び4プライシートを積層して、約9.8kg/m2のパネル面密度を得た。弾道パネルの詳細を表1に示す。成形パネルを、7.62×39mm MSC(AK47)弾で撃って、垂直及び30°の角度におけるV50を決定した。その結果を表2に報告する。
【0080】
観察できる通り、Ex2.1、Ex2.2及びEx2.3のパネルすべてが、ある角度で撃たれた場合に弾道性能の等しい又はわずかな改善を示す。これは、それぞれ15及び6%の
【数32】
の低下が観察された、より少ない単層を有する比較実験3.2及び3.4とは対照的である。
【0081】
【0082】
【手続補正書】
【提出日】2024-02-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも7.0且つ最大12.0kg/m
2の面密度を有する防弾成形物品であって、繊維質単層の一体化スタックを含み、各繊維質単層が、一方向に整列した高靭性ポリエチレンフィラメントを含有し、ここで、前記スタックにおける2つの隣接する繊維質単層の前記ポリエチレンフィラメントの配向方向が、少なくとも40且つ90度まで異なり、前記ポリエチレンフィラメントが、少なくとも3.5N/texの靭性を有し、前記成形物品が、前記成形物品の総重量に対して5.0~20wt%の間のバインダーを含む防弾成形物品において、
少なくとも330の前記繊維質単層を含むことを特徴とする、防弾成形物品。
【請求項2】
6.0~10.0kg/m
2の間のポリエチレンフィラメントの面密度を有する請求項1に記載の防弾成形物品。
【請求項3】
前記繊維質単層が、6~30g/m
2の間、好ましくは8~28g/m
2の間、より好ましくは10~26g/m
2の間、最も好ましくは12~24g/m
2の間の面密度を有する、請求項
1に記載の防弾成形物品。
【請求項4】
前記繊維質単層が、4~28g/m
2の間、好ましくは6~26g/m
2の間、より好ましくは8~25g/m
2の間、最も好ましくは10~24g/m
2の間のポリエチレンフィラメントの面密度を有する、請求項
1に記載の防弾成形物品。
【請求項5】
330~600の間、好ましくは350~550の間の単層、より好ましくは370~500の間の単層を含む、請求項
1に記載の防弾成形物品。
【請求項6】
前記繊維質単層が、一方向に整列した高靭性ポリエチレンフィラメント及びバインダーの複合単層である、請求項
1に記載の防弾成形物品。
【請求項7】
前記繊維質単層がバインダーを実質的に含まず、隣接する繊維質単層が前記バインダーの層によって互いに接着している、請求項
1に記載の防弾成形物品。
【請求項8】
AK47 7.62×39mm MSC発射体に対して試験した場合、少なくとも600m/秒の、垂直条件下で撃たれた場合のV50(
【数1】
)を有する、請求項1~
7のいずれか一項に記載の防弾成形物品。
【請求項9】
AK47 7.62×39mm MSC発射体に対して試験した場合、少なくとも580m/秒の、30°の角度(26)で撃たれた場合のV50(
【数2】
)を有する、請求項
8に記載の防弾成形物品。
【請求項10】
【数3】
の
【数4】
に対する比が、少なくとも0.95、好ましくは0.98、より好ましくは少なくとも1.00、最も好ましくは少なくとも1.05である、請求項
9に記載の防弾成形物品。
【請求項11】
少なくとも2つの繊維質単層を含む防弾シートであって、各繊維質単層が一方向に整列した高靭性ポリエチレンフィラメントを含有し、ここで、シートにおける2つの隣接する繊維質単層のポリエチレンフィラメント間の配向方向が、少なくとも40且つ90度まで異なり、前記ポリエチレンフィラメントが少なくとも3.5N/texの靭性を有し、前記防弾シートが、前記防弾シートの総重量に対して5.0~20wt%の間のバインダーを含み、前記繊維質単層が、バインダーを実質的に含まず、隣接する繊維質単層が、前記バインダーの層によって互いに接着しており、前記防弾シートが、前記防弾シートに存在するポリエチレンフィラメント単層当たり6~30g/m
2の間、好ましくは8~28g/m
2の間、より好ましくは10~26g/m
2の間の面密度を有する、防弾シート。
【請求項12】
前記防弾シートの総重量に対して7.0~14wt%の間の前記バインダーを含む、請求項11に記載の防弾シート。
【請求項13】
7.0~12.0kg/m
2の間の面密度を有し、繊維質単層の一体化スタックを含む防弾成形品であって、各繊維質単層が、一方向に整列した高靭性ポリエチレンフィラメントを含有し、ここで、前記スタックにおける2つの隣接する繊維質単層の前記ポリエチレンフィラメント間の配向方向が、少なくとも40且つ90度まで異なり、前記ポリエチレンフィラメントが、少なくとも3.5N/texの靭性を有し、前記成形物品が、前記成形物品の総重量に対して5.0~20wt%の間のバインダーを含み、前記防弾成形物品の
【数5】
の
【数6】
に対する比が、少なくとも0.95、好ましくは0.98、より好ましくは少なくとも1.00、最も好ましくは少なくとも1.05である、防弾成形物品。
【請求項14】
前記繊維質単層が、前記一方向に整列した高靭性ポリエチレンフィラメント及び前記バインダーの複合単層である、請求項13に記載の防弾成形物品。
【請求項15】
前記繊維質単層がバインダーを実質的に含まず、前記隣接する繊維質単層が前記バインダーの層によって互いに接着している、請求項14に記載の防弾成形物品。
【国際調査報告】