(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-31
(54)【発明の名称】ハイブリッド防弾(ballistic-resistant)成形物品
(51)【国際特許分類】
F41H 5/04 20060101AFI20240524BHJP
【FI】
F41H5/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574166
(86)(22)【出願日】2022-06-03
(85)【翻訳文提出日】2024-01-10
(86)【国際出願番号】 EP2022065270
(87)【国際公開番号】W WO2022254041
(87)【国際公開日】2022-12-08
(32)【優先日】2021-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522355798
【氏名又は名称】アビエント プロテクティブ マテリアルズ ビー. ブイ.
【氏名又は名称原語表記】Avient Protective Materials B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】ファン エルブルク, ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】ファン デア ヴェアフ, ハーム
(72)【発明者】
【氏名】ステーマン, ライナード ヨゼフ マリア
(72)【発明者】
【氏名】ディキンソン, ブラッド アラン
(72)【発明者】
【氏名】ハイセラー, ウルリッヒ
(57)【要約】
本発明は、50wt%~95wt%の間の単層A及び5wt%且つ最大50wt%の単層Bを含む一体化スタックを含む防弾成形物品であって、一体化スタックが、少なくとも7.0且つ最大15.0kg/m2の面密度を有し、スタックの2つの隣接単層の配向方向が、少なくとも40且つ90度まで異なり、単層Aが、28~80g/m2の間の配向ポリマーAの面密度を有し、単層Bが、4~28g/m2の間の配向ポリマーBの面密度を有し、単層Aの配向ポリマーAの面密度が、単層Bの配向ポリマーBの面密度よりも少なくとも5g/m2高い、防弾成形物品に関する。本発明はまた、用いられている構成成分の個々のV50に基づいて予想されるよりも良好な、垂直から30°の角度で撃たれた場合のV50を有するハイブリッド防弾成形物品に関する。本発明は、ハイブリッド防弾成形物品を可能にする高性能防弾シートにさらに関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層A及び単層Bの総重量に対して50wt%~95wt%の間の単層A及び5wt%且つ最大50wt%の単層Bを含む一体化スタックを含む防弾成形物品であって、前記一体化スタックが、少なくとも7.0且つ最大15.0kg/m
2の面密度(AD)を有し、前記単層A及び前記単層Bが、それぞれ配向ポリマーA及び配向ポリマーBを含み、前記スタックの2つの隣接する単層の前記配向ポリマーの配向方向が、少なくとも40且つ90度まで異なり、前記単層Aが、28~80g/m
2の間の前記配向ポリマーAの面密度を有し、前記単層Bが、4~28g/m
2の間の前記配向ポリマーBの面密度を有し、前記単層Aの前記配向ポリマーAの前記面密度が、前記単層Bの前記配向ポリマーBの前記面密度よりも少なくとも5g/m
2高い、防弾成形物品。
【請求項2】
前記単層Bが、配向ポリエチレンの一方向に整列したテープ又はフィラメントを含有し、前記テープ又はフィラメントが、少なくとも3.5N/texの靭性を有する、請求項1に記載の防弾成形物品。
【請求項3】
少なくとも50wt%の前記単層Bが、互いに隣接して積層され、単層Bのサブスタックを形成しており、好ましくは少なくとも80wt%の前記単層Bが、単層Bのサブスタックを形成しており、より好ましくは、実質的にすべての単層Bが単層Bのサブスタックを形成している、請求項1又は2に記載の防弾成形物品。
【請求項4】
単層Bの前記サブスタックが、前記成形物品の外側面に配置されており、好ましくは、単層Bの前記サブスタックが、前記成形物品の衝突面を形成している、請求項3に記載の防弾成形物品。
【請求項5】
前記単層Aが、単層Aに存在する前記配向ポリマーAの重量に対して5.0~20wt%の間のバインダーAを含み、及び/又は前記単層Bが、単層Bに存在する前記配向ポリマーBの重量に対して5.0~20wt%の間のバインダーBを含む、前記請求項のいずれか一項に記載の防弾成形物品。
【請求項6】
前記単層Aが、配向ポリエチレンの一方向に整列したテープ又はフィラメントを含有し、前記テープ又はフィラメントが、少なくとも2.0N/texの靭性を有する、前記請求項のいずれか一項に記載の防弾成形物品。
【請求項7】
最大13.0、好ましくは最大12.0、より好ましくは最大11.0、最も好ましくは最大10.0kg/m
2のADを有する、前記請求項のいずれか一項に記載の防弾成形物品。
【請求項8】
前記単層Bが、6~26g/m
2の間、好ましくは8~25g/m
2の間、より好ましくは10~24g/m
2の間、最も好ましくは12~22g/m
2の間の配向ポリマーBの面密度を有する、前記請求項のいずれか一項に記載の防弾成形物品。
【請求項9】
前記単層Bが、配向ポリエチレンの一方向に整列したテープ又はフィラメント及びバインダーBの複合単層である、請求項1~8のいずれか一項に記載の防弾成形物品。
【請求項10】
前記単層Bが、バインダーを実質的に含まない配向ポリエチレンの一方向に整列したフィラメントの層、及びバインダーBの層を各々含み、バインダーを実質的に含まない配向ポリエチレンの一方向に配列したフィラメントの隣接する層が、前記バインダーBによって互いに接着している、請求項1~8のいずれか一項に記載の防弾成形物品。
【請求項11】
9.8kg/m
2の前記成形物品の面密度においてAK47 7.62×39mm MSC発射体に対して試験した場合、少なくとも600m/秒の、垂直から30°の角度(26)で撃たれた場合のV50(
【数1】
)を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の防弾成形物品。
【請求項12】
単層A及び単層Bの総重量に対して50wt%~95wt%の間の単層A及び5wt%且つ最大50wt%の単層Bを含む一体化スタックを含む防弾成形物品であって、前記一体化スタックが、少なくとも7.0且つ最大15.0kg/m
2の面密度(AD)を有し、前記単層A及び前記単層Bが、それぞれ配向ポリマーA及び配向ポリマーBを含み、前記スタックの2つの隣接する単層の前記配向ポリマーの配向方向が、少なくとも40且つ90度まで異なり、前記防弾成形物品が、式(1)
【数2】
に従う、垂直から30°の角度(26)で撃たれた場合のV50(
【数3】
)を有し、
式中、X
Aは単層の前記スタックにおける単層Aの重量分率であり、X
Bは単層の前記スタックにおける単層Bの重量分率であり、
【数4】
は、単層Aのみを含む防弾成形物品の、垂直から30°の角度で撃たれた場合のV50であり、
【数5】
は、単層Bのみを含む防弾成形物品の、垂直から30°の角度で撃たれた場合のV50であり、
【数6】
が、前記それぞれの防弾成形物品の同一の面密度においてAK47 7.62×39mm MSC発射体に対して試験される、防弾成形物品。
【請求項13】
式
【数7】
、より好ましくは式
【数8】
に関する、請求項12に記載の防弾成形物品。
【請求項14】
少なくとも2つの繊維質層を含む防弾シートであって、各々の繊維質層が、配向ポリエチレンの一方向に整列したフィラメントを含有し、前記シートの2つの隣接する繊維質層間の前記ポリエチレンフィラメントの配向方向が、少なくとも40且つ90度まで異なり、前記ポリエチレンフィラメントが、少なくとも3.5N/texの靭性を有し、前記防弾シートが、配向ポリエチレンの前記フィラメントの重量に対して5.0~20wt%の間のバインダーを含み、配向ポリエチレンの一方向に整列したフィラメントの前記繊維質層が、バインダーを実質的に含まず、隣接する繊維質層が、前記バインダーによって実質的に分離されており、前記防弾シートの前記繊維質層が、各々、配向ポリエチレンの一方向に整列したフィラメントの層当たり4~28g/m
2の間、好ましくは、6~26g/m
2の間、より好ましくは8~25g/m
2の間、最も好ましくは10~24g/m
2の間の面密度を有する、防弾シート。
【請求項15】
層内の前記フィラメントが、互いに部分的に融合している、請求項14に記載の防弾シート。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、配向ポリマーを含む少なくとも2タイプの単層の一体化スタックを含むハイブリッド防弾成形物品に関する。実施形態は、とりわけ、対弾道(antiballistic)物品、好ましくは湾曲した対弾道物品(例えば、湾曲した防弾アーマー、ヘルメット及びレードームなど)の製造が可能であるように構成されている。好ましい形態では、ハイブリッド防弾成形物品は、第1のタイプの単層で形成された1つの第1の部分、及び多数の第2のタイプの単層で形成された1つの第2の部分を含む多重単層構成有し、この第2の部分は、衝撃面(strike face)、すなわち、ハイブリッド防弾成形物品の衝突時に最初に脅威に面する側に配置されている。本発明は、ある角度で撃たれた場合、それぞれのタイプの単層の弾道性能と比較して、弾道性能が改善されたハイブリッド防弾成形物品にさらに関する。本発明はまた、本発明のハイブリッド成形物品を形成する1タイプの単層を含む防弾シートに関する。
【0002】
ハイブリッド防弾成形物品は、当技術分野で周知である。例えば、防弾ヘルメット、防弾ベスト用インサート及び車両構成成分は、一方向に整列した高靭性ポリエチレンフィラメントを含有する繊維質単層の一体化スタックを含む成形物品を含みうる。防弾物品は、例えば、国際公開第2012/150169号から公知である。この公開では、第1の種類の糸によるラミネートを含む第1の層、及び第2の種類の糸によるラミネートを含む第2の層で構成された2層ハイブリッド構造が開示されている。第1の種類の糸及び第2の種類の糸は、用いられている糸の線密度が異なっている。
【0003】
防弾成形物品は、国際公開第2008/077605号からも公知である。この公開は、一方向ポリエチレン繊維及びマトリックス材料を有する単層で構築された防弾シートの製造を開示している。さらに、防弾成形物品は、セラミック衝撃面と組み合わせた、任意選択でセラミック衝撃面と防弾シートとの間に金属層を有する圧縮防弾シートに基づいて開示されている。
【0004】
配向ポリマーを含む単層を含む圧縮成形物品もまた、当技術分野で周知である。欧州特許出願公開第1699954号は、4.0GPa以上の強度を実現する配向ポリエチレンフィラメントのそのような糸を記載している。欧州特許出願公開第1699954号は、ゴムマトリックスに包埋され、圧縮成形されて、様々な脅威に対して良好な弾道性能を有するパネルを形成する、4.1GPaの引張強度を有する糸を含む繊維質単層を例示している。それにも関わらず、EP’954は、異なるタイプの単層を有する圧縮成形物品を記載していない。
【0005】
配向ポリエチレンポリマーを有する繊維質層を含む単層を含む他の圧縮成形物品は、国際公開第13131996号から公知であり、これは、実質的にマトリックスを含まない繊維質層を含む一方、プラストマーの接着層が繊維質層間に存在する成形物品を記載している。国際公開第13131996号は、記載の防弾パネルのエネルギー吸収能と剥離挙動との間の良好なバランスの実現を主張している。
【0006】
国際公開第20127187号は、UHMWPE繊維、ポリマー樹脂及びカーボンファイバーを含むハイブリッド形成された層を追加することによって、UHMWPEベースの一体化スタックの層の構造性能、例えば、曲げ剛性又は背面変形の増加を記載している。
【0007】
[概要]
従来技術に記載されている防弾パネルは当分野における妥当な改善を提供するが、単層の圧縮成形スタックは、ある角度で撃たれた場合のそれらの性能に関してさらに改善されうることが観察された。従来技術に従って調製されたパネルは、例えば7.62×39mm Mild Steel CoreなどのAK47ライフルから撃たれた弾による垂直射撃に関しては満足のいく性能を示すことが観察された。それにも関わらず、厳しい標準を満たすことが可能なこれらのパネルは、とりわけ低面密度のパネルにおいて、角度のある射撃に対して重大な欠陥を示しうることが見出された。そのような欠陥は、垂直衝突で測定した場合の同じパネルのV50と比較して、30度の衝突角度で測定した場合、実質的により低いV50として経験されることがある。試験される単層及びパネルのタイプに依存して、本発明者らは、とりわけ、面積重量及び厚さが減少していることが公知のハイエンド弾道パネルを試験した場合に、10~30%、多くの場合はさらに多くの典型的な性能低下を観察した。垂直衝突から逸脱した場合、パネルを通る経路長及び貫通した弾道材料の質量が増加し、したがって、より少ない量の弾道材料が関与する垂直の状況と比較した場合に阻止力が優れるはずであるから、公知の防弾パネルのこの欠陥は驚くべきことでありうる。この現象の機械的側面は理解されていないが、防弾パネルのそのような挙動は、とりわけ、低面密度パネルを高エネルギーの脅威、例えば、広く普及しているAK47武器と組み合わせて一般に使用される7.62×39 Mild Steel Core(MSC)弾に対して試験した場合に観察される。
【0008】
したがって、本発明の目的は、垂直衝突から30°逸脱する角度で撃たれた場合の対弾道性能が改善された防弾パネルを提供することである。そのような改善は、例えば、垂直条件下でのV50と比較して、前記非垂直条件下でのV50のより少ない低下として見ることができる。本発明によるハイブリッド防弾成形物品は、角度のある射撃条件下で測定されたV50(
【数1】
)が、それが含む単層のタイプの
【数2】
性能の線形平均によって予測されるよりも実質的に良好であることを示しうる。
【0009】
本発明者らは、異なる量の配向ポリマーを含む単層を単層のハイブリッドスタックに組み合わせることによって、圧縮成形物品の弾道性能が個々の性能の線形平均がもたらすであろうものよりも良好であることを見出した。そのような性能は、例えば、垂直から30°の角度で撃たれた場合に予想されるV50よりも良好であると表される。
【0010】
したがってこの目的は、単層A及び単層Bの総重量に対して50wt%~95wt%の間の単層A及び5wt%且つ最大50wt%の単層Bを含む一体化スタックを含む防弾成形物品であって、一体化スタックが、少なくとも7.0且つ最大15.0kg/m2の面密度(AD)を有し、単層A及び単層Bが、それぞれ配向ポリマーA及び配向ポリマーBを含み、スタックの2つの隣接する単層の配向ポリマーの配向方向が、少なくとも40且つ90度まで異なり、単層Aが、28~80g/m2の間の配向ポリマーAの面密度を有し、単層Bが、4~28g/m2の間の配向ポリマーBの面密度を有し、単層Aの配向ポリマーAの面密度が、単層Bの配向ポリマーBの面密度よりも少なくとも5g/m2高い、防弾成形物品によって実現される。
【0011】
そのようなハイブリッド防弾成形物品は、同様の面密度であるが単層Aのみから構築された成形物品の、角度のある弾道衝突下での挙動を凌駕することが見出された。遭遇した問題に対して提供される解決法は、直感に反するものである。防弾物品の性能が十分でない場合、典型的にはさらなる単層を追加して、性能を必要レベルに高める。本発明者らは、言うなれば防弾材料の量を増加させる必要はなく、単層Aの一部を同様の質量の単層B、すなわち、単層当たりより少ない量の配向ポリマーで置き換えればよいことを特定した。したがって、弾道性能が改善された得られた物品は、全体の重量が同様のものである一方、弾道改善は、単層A及びBのそれぞれの個々の性能に基づいて予想されうるものよりも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】成形物品、すなわち、本明細書に記載の実施形態の一体化ハイブリッド防弾物品から製作することができる防護防弾ヘルメット(1)の模式図である。
【
図2】
図1のヘルメット(1)において用いられる本明細書に記載の実施形態の一体化ハイブリッド防弾シートの、点線に沿って取った模式横断面図である。
図2中、斜線部(100)は、単層Bで構成されたハイブリッドシェルの、衝撃面ともいわれる脅威に面する部分である一方、(2)は、単層Aで構成されたハイブリッドシェルの部分を表す。
【
図3】垂直(
図3a)及び非垂直(
図3b)条件下での本発明の成形物品のV50性能を決定する試験設定の上面図を示す。図は、成形物品の弾道性能の方法にさらに記載されている。
【
図4】
図4は、フィラメント特性の試験設定を模式的に示し、フィラメント線密度及び機械特性の決定の方法にさらに記載されている。
【0013】
[詳細な説明]
本発明の文脈において、成形物品は、単層のスタックをパネル、湾曲したパネル、又はヘルメットシェルなどの形状に一体化するように圧縮によって成形された物品であると理解される。統合は、単層のスタック又は前記単層を含む事前にアセンブルされたシートへの圧力及び温度の使用によって行われうる。統合のための圧力は、一般に、2~1000barの範囲であり、一方、統合中の温度は、典型的には、60~150℃の範囲である。
【0014】
単層とは、本明細書において、実質的に単一方向、すなわちポリマーの配向方向に配向されたポリマーを含む層と理解される。配向ポリマーは、フィルム、テープ又はフィラメントの形態で存在していてもよい。一方向単層ともいわれる単層は、フィルム、テープ又はフィラメントを一緒に保持しうるバインダーをさらに含んでいてもよい。前記フィルム、テープ又はフィラメントは、フィルム、テープ又はフィラメントの伸長方向又は機械方向に実質的に単一方向に配向されたポリマーを含む。
【0015】
本発明の文脈において、一方向単層は、配向ポリマーを含む。好ましくは、単層A及び単層Bに存在する配向ポリマーは、ポリオレフィン、例えば、ポリエチレン、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリアミド又はポリケトンからなる群から個々に選択される。好適なポリアミドは、例えば、脂肪族ポリアミドPA-6、PA-6,6、PA-9、PA-11、PA-4,6、PA-4,10及びそれらのコポリアミド、並びに例えば、PA-6又はPA-6,6、及び芳香族ジカルボン酸、及び脂肪族ジアミン、例えば、イソフタル酸及びテレフタル酸及びヘキサンジアミンをベースとする半芳香族ポリアミド、例えば、PA-4T、PA-6/6,T、PA-6,6/6,T、PA-6,6/6/6,T及びPA-6,6/6,I/6,Tである。好ましくは、PA-6、PA-6,6及びPA-4,6が選択される。さらに、ポリアミドブレンドも好適である。
【0016】
好適な熱可塑性ポリエステルは、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCT)のようなポリ(アルキレンテレフタレート)及びポリエチレンナフタネート(PEN)のようなポリ(アルキレンナフタネート)、並びにコポリマー及び混合物である。
【0017】
好ましくは、本発明の単層及び単層Bは、ポリオレフィン、より好ましくはポリエチレン、最も好ましくは超高分子量ポリエチレンを含む。
【0018】
単層A及び単層Bのポリマーが超高分子量ポリエチレン又はポリアミドを含む、本発明による成形物品が特に好ましい。これらのポリマーにより、最良の対弾道性能が得られる。
【0019】
超高分子量ポリエチレンは、直鎖状であっても分枝状であってもよいが、好ましくは、直鎖状ポリエチレンが使用される。直鎖状ポリエチレンは、本明細書において、100個の炭素原子当たり1つ未満の側鎖、好ましくは300個の炭素原子当たり1つ未満の側鎖を有するポリエチレンを意味すると理解され、側鎖又は分枝は、一般に、少なくとも10個の炭素原子を含有する。側鎖は、好適には、FTIRによって測定することができる。直鎖状ポリエチレンは、それと共重合可能な5mol%までの1つ又は複数の他のアルケン、例えば、プロパン、ブテン、ペンテン、4-メチルペンテン、オクテンをさらに含有していてもよい。好ましくは、直鎖状ポリエチレンは、少なくとも4dl/g、より好ましくは少なくとも8dl/g、さらにより好ましくは少なくとも10dl/g、最も好ましくは少なくとも12dl/gの固有粘度(IV、135℃でデカリン溶液で決定)を有する高分子量のものである。そのようなポリエチレンは、超高分子量ポリエチレンともいわれる。典型的には、超高分子量ポリエチレンは、最大50、より好ましくは最大45、最も好ましくは最大40dl/gのIVを有する。固有粘度は、Mn及びMwのような実際の分子質量パラメーターよりも容易に決定することができる分子量について測定する。
【0020】
フィルム及びテープとは、本明細書において、長さ寸法、幅寸法及び厚さ寸法を有し、フィルム又はテープの長さ寸法が、その幅寸法と少なくともほぼ同じであるが、好ましくは、その幅寸法よりも大きく、前記長さ寸法が、その厚さ寸法よりもはるかに大きい、長尺体と理解される。好ましくは、テープという用語はまた、リボン、ストリップの実施形態を含む。好ましい実施形態では、テープの幅寸法は、その厚さ寸法よりもはるかに大きい。好ましくは、厚さに対する幅の比は、少なくとも10、より好ましくは少なくとも50、さらにより好ましくは少なくとも10、最も好ましくは少なくとも500である。典型的には、テープは、少なくとも2mm、好ましくは少なくとも10mm、より好ましくは少なくとも50mm、最も好ましくは少なくとも100mmの幅を有する一方、好ましくは、テープは、最大500mm、好ましくは最大400mmの幅を有していてもよい。一般に、テープという用語は、長尺体が単層の全幅にわたるのに十分な幅ではない場合、例えば、単一の単層を構築するために単一のテープの幅よりも大きな幅が必要な場合に用いられる。フィルムという用語は、特に、長尺体の幅が、それが存在する単層の幅寸法に達して、単一のフィルムが一息に単層にわたるのに十分である場合に使用され、したがって、単層は、単一のフィルム又はいくつかの積層フィルムを含みうる。
【0021】
本発明の一方向単層に存在するテープは、配向ポリマーを含み、したがって、異方性である。異方性とは、本出願の文脈において、第1の方向の弾性率が、それに垂直な方向の弾性率よりも少なくとも3倍高い2つの互いに垂直な方向を、テープの平面において定義できることを意味する。一般に、好ましくは異方性ポリマーテープ層の前記第1の方向は、ポリマーの配向方向を表し、当技術分野において、機械方向又は延伸方向(又は配向方向)ともいわれ、典型的には、最高の機械特性を有する。そのような異方性テープ又はフィルムを調製する方法は、例えば、国際公開第2010/066819号に記載されており、これは、参照により本明細書に組み込まれる。
【0022】
好ましい実施形態では、本発明の成形物品に含有された一方向単層の少なくとも一部は、物品の長さ及び幅とほぼ同じ長さ及び幅を有する単一のテープ又はフィルムを含む。本明細書の以下では、この実施形態の目的で、そのようなテープはフィルムという。したがって、フィルムの幅及び長さの寸法は、本発明の物品の寸法に依存し、これは次に、その用途に依存する。当業者であれば、前記フィルムの横方向寸法を通常通りに決定することができる。
【0023】
別の好ましい実施形態では、本発明の成形物品に含有された一方向単層の少なくとも一部は、各々複数のテープを含む。より好ましくは、本発明の成形物品に含有されたすべての単層A及び/又はすべての単層Bが、複数のテープを含む。好ましくは、前記単層を形成するテープは、10mm~500mmの間、より好ましくは20~400mmの間、最も好ましくは40mm~200mmの間の幅を有する。そのような単層において、複数のテープは、重なることなく互いの隣に一方向に配置されていてもよく、テープはまた、隣接するテープと部分的に重なって配置構成されていてもよい。一方向に整列したテープはまた、規則的又は非構造的な方法で互いに積層されていてもよい。
【0024】
テープを製造するための方法は、無端ベルトの組合せの間にポリマー粉末を供給するステップ、ポリマー粉末をその融点未満の温度で圧縮成形するステップ、及び得られた圧縮成形ポリマーを圧延し、続いて延伸するステップを含む。そのような方法は、例えば、米国特許第5,091,133号に記載されており、これは、参照により本明細書に組み込まれる。所望の場合、ポリマー粉末を供給及び圧縮成形する前に、ポリマー粉末は、前記ポリマーの融点よりも高い沸点を有する好適な液体有機化合物と混合されてもよい。圧縮成形はまた、無端ベルト間でポリマー粉末を一時的に保持しながらそれらを移送することによって実施されてもよい。これは、例えば、プレスプラテン及び/又はローラーを無端ベルトと連結して設けることによって行うことができる。
【0025】
テープを製造するための好ましい方法は、ポリマーを押出機に供給するステップ、テープをその融点を超える温度で押出するステップ、及び押出ポリマーテープをその融解温度未満で延伸するステップを含む。好ましくは超高分子量ポリエチレンを使用する場合などの所望の場合、ポリマーを押出機に供給する前に、ポリマーは、好適な液体有機化合物と混合されて、例えば、ゲルを形成してもよい。
【0026】
なお別の好ましい方法では、テープは、ゲル法によって調製される。好適なゲル紡糸法は、例えば、英国特許出願公開第2042414号、英国特許出願公開第2051667号、欧州特許出願公開第0205960及び国際公開第01/73173号、並びに「Advanced Fibre Spinning Technology」、T.Nakajima編、Woodhead Publ.Ltd(1994)、ISBN 185573 182 7に記載されている。簡潔には、ゲル紡糸法は、高い固有粘度のポリマーの溶液を調製するステップ、溶液を、溶解温度を超える温度でテープに押出するステップ、フィルムをゲル化温度未満に冷却し、それによって、テープを少なくとも部分的にゲル化するステップ、並びに溶媒の少なくとも部分的な除去の前、その間及び/又はその後に、テープを延伸するステップを含む。
【0027】
テープを調製する記載の方法において、製造されたテープの延伸、好ましくは一軸延伸は、当技術分野で公知の手段によって実施されうる。そのような手段は、好適な延伸ユニットでの押出伸長及び引張伸長を含む。機械強度及び剛性を増加させるために、延伸は、複数ステップで実施されてもよい。好ましい超高分子量ポリエチレンテープの場合、延伸は、典型的には、多数の延伸ステップで一軸に実施される。第1の延伸ステップは、例えば、3の伸長係数(stretch factor)に延伸することを含みうる。複数回の延伸により、典型的には、120℃までの延伸温度では9の伸長係数、140℃までの延伸温度では25の伸長係数、並びに150℃まで及びそれよりも高い延伸温度では50の伸長係数がもたらされうる。昇温で複数回延伸することによって、約50以上の伸長係数に達しうる。この結果、高強度のテープが得られ、超高分子量ポリエチレンのテープでは、1.8GPa以上の強度を得ることができる。
【0028】
テープを調製するためのなお別の好ましい方法は、圧力、温度及び時間の組合せ下での一方向に配向された繊維を機械により融合するステップを含む。繊維質テープとも呼ばれるそのようなテープ及びそのようなテープを調製する方法は、欧州特許出願公開第2205928号に記載されており、これは、参照により本明細書に組み込まれる。好ましくは、一方向に配向されたフィラメントは、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)フィラメントである。UHMWPEフィラメントは、ゲル紡糸法によって調製され、例えば、英国特許出願公開第2042414号又は国際公開第01/73173号に記載されているものが、好ましくは使用される。ゲル紡糸法は、高固有粘度を有する直鎖状ポリエチレンの溶液を調製するステップ、溶液を、溶解温度を超える温度でフィラメントに紡糸するステップ、フィラメントを、ゲル化が起こるようにゲル化温度未満に冷却するステップ、並びに溶媒の除去の前、その間及び/又はその後にフィラメントを延伸するステップから本質的になる。繊維の機械による融合によって調製されたUHMWPEテープにより、特に良好な対弾道特性が得られる。
【0029】
本発明の単層Aに存在するテープの面密度は、基本的に、広範囲に選択することができる。典型的には、本発明のテープの面密度は、80g/m2を超えず、より好ましくは70g/m2を超えず、さらにより好ましくは60g/m2を超えず、最も好ましくは50g/m2を超えない一方、この実施形態では、面密度は、好ましくは、少なくとも28g/m2、より好ましくは少なくとも30g/m2、さらにより好ましくは少なくとも35g/m2、最も好ましくは少なくとも40g/m2である。この実施形態の好ましい面密度は、単層Aのテープに適しており、本発明の成形物品の弾道性能への頑強且つ経済的な解決法を提供する。本発明の別の実施形態では、例えば、単層Aに存在するテープの面密度は、28g/m2を超えず、好ましくは26g/m2を超えず、より好ましくは25g/m2を超えず、さらにより好ましくは24g/m2を超えず、最も好ましくは22g/m2を超えない一方、この実施形態では、面密度は、好ましくは、少なくとも4g/m2、より好ましくは少なくとも6g/m2、さらにより好ましくは少なくとも8g/m2、最も好ましくは少なくとも10g/m2である。この実施形態の好ましい面密度は、単層Bに存在するテープに適しており、本発明の成形物品の優れた弾道性能をもたらしうる。
【0030】
本発明の目的の糸は、少なくとも2つの個々のフィラメント、好ましくは少なくとも10、100又はさらにはそれよりも多いフィラメントを含有する長尺体である。フィラメントとは、本明細書において、その長さ寸法が幅及び厚さの横寸法よりもはるかに大きい長尺体と理解される。典型的には、フィラメントは、連続した長さを有するといわれる。本発明の文脈において、フィラメントは、同様に繊維ということがある。連続した長さを有するステープル繊維の分野で認められている形状因子は、本発明の文脈においてフィラメントとは考えない。フィラメントは、規則的又は不規則な断面を有していてもよく、典型的には、断面は円形であるが、また、長円又は楕円であってもよい。
【0031】
単層A及び単層Bは、配向ポリマーを含む一方向に整列したフィラメントを各々又はいずれも含んでもよく、本明細書の以下において、それぞれ配向ポリマーA及び配向ポリマーBという。フィラメントは、互いに同じであっても異なっていてもよく、芳香族ポリアミドフィラメント、液晶ポリマー及びはしご様ポリマーフィラメント、ポリオレフィンフィラメント、ポリビニルアルコールフィラメント、並びにポリアクリロニトリルフィラメントからなる群から選択されうる。一部の実施形態によると、第1の単層又は第2の単層のうちの少なくとも1つは、超高分子量(UHMW)ポリエチレンフィラメント、ポリベンズイミダゾール繊維、ポリ(1,4-フェニレン-2,6-ベンゾビスオキサゾール繊維及び/又はポリ(2,6-ジイミダゾ[4,5-β-4’,5’-ε]ピリジニレン-1,4-(2,5-ジヒドロキシ)フェニレン)フィラメント、好ましくは超高分子量(UHMW)ポリエチレン繊維で形成されている。さらにより好ましい実施形態では、第1及び第2の単層の両方が、超高分子量(UHMW)ポリエチレン繊維を含む。好ましくは、UHMWポリエチレン繊維は、少なくとも4dl/g、より好ましくは少なくとも8dl/g、さらにより好ましくは少なくとも10dl/g、最も好ましくは少なくとも12dl/gの固有粘度(IV)を有する超高分子量ポリエチレンから作製されている。そのようなポリエチレンは、超高分子量ポリエチレンともいわれる。典型的には、超高分子量ポリエチレンは、最大50、より好ましくは最大45、最も好ましくは最大40dl/gのIVを有する。
【0032】
本発明で使用されるフィラメントを製造するための1つの方法は、ポリエチレンを押出機に供給するステップ、フィラメントをその融点を超える温度で押出するステップ、及び押出フィラメントをその融解温度未満で延伸するステップを含む。好ましくは超高分子量ポリエチレンを使用する場合などの所望の場合、ポリマーを押出機に供給する前に、ポリマーは、好適な液体化合物と混合されて、例えば、ゲルを形成してもよい。
【0033】
好ましい方法では、本発明で使用されるフィラメントは、ゲル紡糸法によって調製される。好適なゲル紡糸法は、例えば、英国特許出願公開第2042414号、英国特許出願公開第2051667号、欧州特許出願公開第0205960号及び国際公開第01/73173号に記載されている。簡潔には、ゲル紡糸法は、高固有粘度のポリエチレンの溶液を調製するステップ、溶液を、溶解温度を超える温度で溶液フィラメント(複数可)に押出するステップ、溶液繊維をゲル化温度未満に冷却し、それによって、フィラメントのポリエチレンを少なくとも部分的にゲル化するステップ、並びに溶媒の少なくとも部分的な除去の前、その間及び/又はその後に、フィラメントを延伸するステップを含む。
【0034】
高靭性フィラメントを調製する記載の方法において、製造されたフィラメントの延伸、好ましくは一軸延伸は、当技術分野で公知の手段によって実施されうる。そのような手段は、好適な延伸ユニットでの押出伸長及び引張伸長を含む。機械引張強度及び剛性を増加させるために、延伸は、複数ステップで実施されてもよい。
【0035】
好ましいUHMWPEフィラメントの場合、延伸は、典型的には、多数の延伸ステップにおいて一軸に実施され、ポリマーに配向がもたらされる。第1の延伸ステップは、例えば、少なくとも1.5、好ましくは少なくとも3.0の伸長係数(延伸比とも呼ばれる)への延伸を含みうる。複数回の延伸により、典型的には、120℃までの延伸温度では9までの伸長係数、140℃までの延伸温度では25までの伸長係数、並びに150℃まで及びそれよりも高い延伸温度では50以上の伸長係数がもたらされうる。昇温で複数回延伸することによって、約50以上の伸長係数に達しうる。この結果、高靭性ポリエチレンフィラメントが得られ、超高分子量ポリエチレンでは、2.0N/tex~6.0N/tex以上の靭性を得ることができる。
【0036】
本発明の防弾成形物品の単層のフィラメントは、好ましくは、少なくとも1.5N/tex、より好ましくは少なくとも2.0N/tex、さらにより好ましくは少なくとも2.5N/tex、さらにより好ましくは少なくとも3.0N/texの靭性を有する。最大靭性は、約6.0N/texまでであってもよい。一般に、靭性は、7.0N/tex未満である。一部の実施形態は、約2.5~約5.0N/texの間の靭性を有するフィラメントを用いる。他の実施形態は、約4.0~約5.0N/texの間の靭性を有するフィラメントを用いる。一部の実施形態によると、繊維は、3.0~4.0N/texの間、より好ましくは3.2~3.8N/texの間、又は最も好ましくは3.3~3.7N/texの間の靭性を示す。この靭性は、方法に記載の通りに、(25℃で)決定される。
【0037】
好ましくは、単層A及び単層Bに存在するテープ及び又はフィラメントは、高性能テープ又はフィラメントである。高性能とは、本明細書において、フィラメントの前記テープが、少なくとも2.0N/tex、好ましくは少なくとも2.2N/tex、最も好ましくは少なくとも2.5N/texの靭性を有することと理解される。そのような高靭性フィラメント又はテープは、妥当な対弾道性能をもたらすことが当技術分野で公知であり、そのため、弾道フィラメント又はテープとも呼ばれる。単層に存在するテープ又はフィラメントの靭性を限定する理由はないが、現在公知の製品は、最大8.0N/tex、又はさらには最大7.0N/tex、又はさらには最大6.0N/texなどのレベルに限定された靭性を有しうる。
【0038】
好ましくは、単層のテープ及びフィラメントは、配向ポリエチレン、好ましくは超高分子量ポリエチレンを含み、したがって、本発明の好ましい実施形態は、単層Aが配向ポリエチレン、好ましくは配向UHMWPEの一方向に整列したテープ又はフィラメントを含有し、前記テープ又はフィラメントが少なくとも2.0N/tex、好ましくは少なくとも2.2N/tex、最も好ましくは少なくとも2.5N/texの靭性を有する、防弾成形物品に関する。
【0039】
優れた防弾強度を有する単層は、本発明において単層Bとして用いるのにより好適であり、費用対性能のより良好なバランスを有するハイブリッド成形物品をもたらすことがさらに観察された。したがって、本発明の好ましい実施形態は、単層Bが配向ポリマーBの一方向に整列したテープ又はフィラメントを含有し、前記テープ又はフィラメントが少なくとも2.5N/texの靭性を有する、成形防弾物品に関する。好ましくは、単層Bの配向ポリマーのテープ又はフィラメントは、少なくとも2.8、より好ましくは少なくとも3.0、最も好ましくは少なくとも3.5N/texの靭性を有する。本発明の防弾成形物品のさらに好ましい実施形態では、単層Bのフィラメント又はテープの配向ポリマーは、ポリエチレン、より好ましくはUHMWPEであり、したがって、好ましい実施形態は、本明細書においてポリエチレンフィラメント又はテープともいう配向ポリエチレンの、一方向に整列したテープ又はフィラメントを含有する単層Bであって、前記テープ又はフィラメントが少なくとも3.5N/texの靭性を有する、単層Bに関する。好ましくは、単層Bの配向ポリエチレンのテープ又はフィラメントは、少なくとも3.8、より好ましくは少なくとも4.0、さらにより好ましくは少なくとも4.2、なおより好ましくは少なくとも4.5N/tex、最も好ましくは少なくとも4.8N/texの靭性を有する。当業者であれば、ポリエチレンフィラメント又はテープの靭性には理論及び実用限界があり、したがって、ポリエチレンフィラメント又はテープは、好ましくは、最大8.0、好ましくは最大7.0、より好ましくは最大6.0N/texの靭性を有することを認識するであろう。好ましいポリエチレンは、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)である。最良の結果は、ポリエチレンフィラメント又はテープが超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)を含み、少なくとも3.5N/tex、より好ましくは少なくとも4.0N/tex、最も好ましくは少なくとも4.2N/texの靭性を有する場合に得られた。本発明者らは、UHMWPEについて、最良の弾道性能を実現できたことを観察した。
【0040】
好ましい実施形態では、単層Bのフィラメント又はテープは、単層Aのフィラメント又はテープの靭性よりも少なくとも10%、すなわち1.10倍高い靭性を有する。より好ましくは、単層Bのフィラメント又はテープは、単層Aのフィラメント又はテープの靭性よりも少なくとも20%高い靭性を有する。さらにより好ましくは、単層Bのフィラメント又はテープは、単層Aのフィラメント又はテープの靭性よりも少なくとも30%高い靭性を有する。一般に、単層B面のフィラメント又はテープは、単層Aのフィラメント又はテープの靭性の200%未満、好ましくは150%未満の靭性を有する。
【0041】
単層A及び/又はBに存在するフィラメントは、最大10dtex、好ましくは最大6.0dtex、より好ましくは最大4.0dtex、さらにより好ましくは最大3.0、最も好ましくは最大2.0dtexの、典型的には力価といわれる線密度を有しうる。より低い力価を有するフィラメントは、改善された弾道性能を示し、性能のばらつきの少ない単層の製造を可能にすることが観察された。さらに好ましい実施形態では、単層A及び/又はBに存在するフィラメントは、少なくとも0.10dtex、好ましくは少なくとも0.20dtex、最も好ましくは少なくとも0.40dtexの線密度を有する。そのようなより低い限界は、経済面及び現在の製造法の技術によって引き起こされる。
【0042】
単層A及び単層Bは、当技術分野においてマトリックス又は接着剤ともいわれるバインダー材料を任意選択で含んでいてもよい。バインダー材料という用語は、フィラメント又はテープを一緒に結合又は保持する材料をいう。バインダー材料は、フィラメントの全体又は一部を封入していてもよく、単層の構造が取り扱い、例えば、前駆体シート、サブシート又は防弾シートの作製の間に保持されるように、積層テープを互いに連結するように作用しうる。単層A及び/又は単層Bに存在するバインダー材料は、それぞれ、バインダーA及びバインダーBといわれ、前記単層に存在する配向ポリマーの質量と比較して最大20wt%を構成しうる。好ましい実施形態では、単層A及び/又は単層Bのバインダー材料の量は、4~18重量%の範囲である。より好ましくは、単層A及び/又は単層Bのバインダー材料の量は、5~16重量%の範囲である。したがって、本発明の好ましい実施形態では、単層Aは、単層Aに存在する配向ポリマーAの重量に対して5.0~20wt%の間のバインダーAを含み、及び/又は単層Bは、単層Bに存在する配向ポリマーBの重量に対して5.0~20wt%の間のバインダーBを含む。
【0043】
本発明の圧縮成形物品に存在するバインダーの総量は、好ましくは、物品の重量に対して20.0wt%未満である。好ましくは、防弾物品に存在するバインダーの総量は、物品の総重量に対して6.0~18.0wt%である。より好ましくは、存在するバインダーの総量は、スタックの総量に対して7.0~17.0wt%、最も好ましくは8.0~16.0wt%である。
【0044】
単層Bのバインダー材料の量は0wt%であってもよいが、好ましくは、単層に存在する配向ポリマーの質量の少なくとも1wt%である。より好ましくは、単層Bのバインダー材料は、少なくとも3wt%であり、最も好ましくは、単層Bのバインダー材料は、単層Bの配向ポリマーの質量の少なくとも5wt%である。
【0045】
単層A及びBのうちの少なくとも1つにおいて用いられるバインダー材料は、エラストマーマトリックス材料であってもよく、このマトリックス材料は、典型的には、約3MPa未満、時に約2.5MPa未満、例えば、約2.0MPa未満の引張係数(すなわち、ISO 527に従って100%の歪みで、23℃で測定した割線係数)を有する。これにより、防弾成形物品はさらに改善される。一部の実施形態によると、エラストマーマトリックス材料は、約1.5MPa未満の引張係数を有していてもよい。
【0046】
エラストマーマトリックスは、ポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、エチレン-プロピレンコポリマー、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー、ポリスルフィドポリマー、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、変性ポリオレフィン、クロロスルホン化ポリエチレン、ポリクロロプレン、可塑化ポリ塩化ビニル、ブタジエンアクリロニトリルエラストマー、ポリ(イソブチレン-コ-イソプレン)、ポリアクリレート、ポリエステル、ポリエーテル、フルオロエラストマー、シリコーンエラストマー、熱可塑性エラストマー、及びエチレンコポリマーからなる群から選択される少なくとも1つの材料で構成されていてもよい。一部の実施形態によると、エラストマーマトリックス材料は、コンジュゲートジエン及びビニル芳香族モノマーのブロックコポリマーを含んでいてもよい。これに関して、コンジュゲートジエンは、ブタジエン又はイソプレンであってもよく、一方、ビニル芳香族モノマーは、スチレン、ビニルトルエン又はt-ブチルスチレンであってもよい。
【0047】
代替の実施形態では、単層A又はBのうちの少なくとも1つに用いられているバインダー材料は、典型的には、それぞれ他の単層B又はAに用いられているマトリックス材料の引張係数よりも高い引張係数を有する。好ましくは、この引張係数(すなわち、ISO 527に従って100%の歪みで、約23℃で測定した割線係数)は、少なくとも3MPa以上、例えば、少なくとも約5MPa以上、例えば約500MPaまでの引張係数である。このバインダー材料は、アクリレート、ポリウレタン、ポリオレフィン、好ましくはポリエチレン、変性ポリオレフィン及びエチレン酢酸ビニルからなる群から選択される少なくとも1つであってもよい。好ましくは、このバインダー材料は、ポリウレタン又は変性ポリエチレンを含有する。
【0048】
水中分散剤体として適用することができるバインダー材料が特に好適である。マトリックス材料として用いられうる好適な熱可塑性材料の例としては、(ポリ)アクリレート、ポリウレタン、ポリオレフィン、好ましくはポリエチレン、変性ポリオレフィン、(ポリ)エチレン酢酸ビニル及びエチレンアクリル酸コポリマー、並びにそれらの組合せ及び誘導体が挙げられる。
【0049】
本発明の一部の実施形態は、単層A及び/又は単層Bが繊維質単層である、成形物品に関する。繊維質単層という用語とは、本明細書において、フィラメントを含む、すなわち、フィラメントが前駆体材料として使用される方法によって得られる単層と理解される。繊維質単層のフィラメントは、前記単層、並びにシート及びパネルのようなそれに由来する製品においてなお識別可能であってもよい。識別可能とは、フィラメントを、肉眼又は顕微鏡による単層又はその断面の検査によって特定することができることと理解される。フィラメントは、機械的に変性されていても、されていなくてもよい。繊維質単層は、非繊維質単層とは構造的に異なり、これは、例えば、ポリマー粉末を圧縮、又はポリマーの溶液若しくは溶融物を紡糸して、上に記載の通りのフィルム又はテープを形成することによって得ることができる。そのような後者の単層において、フィラメントは識別可能ではなく、及び/又はフィラメントは、単層を製造するために用いられていない。本発明による繊維質単層の断面は、理想的には、顕微鏡で観察した場合、単層を形成するフィラメント間の境界を有する。単層のフィラメント間にはポリマーマトリックスが存在しうる。本発明の一実施形態では、繊維質単層は、単層のフィラメント間にマトリックスを実質的に含まない。したがって、本発明の文脈において、繊維質単層は、一方向に整列したテープ又はフィルムなどの他の防弾形状因子とは対照的である。
【0050】
好ましくは、配向ポリマー、好ましくは配向ポリエチレンの一方向に整列したフィラメントを含む単層A及び/又はBは、ポリエチレンフィラメントの少なくとも1.0、より好ましくは少なくとも1.3、最も好ましくは少なくとも1.5倍の厚さである。異なる厚さを有するポリエチレンフィラメントが使用される場合、フィラメントの厚さとは、本明細書において、単層に存在するフィラメントの平均厚さと理解される。フィラメントの厚さは、当業者に公知の手段によって、例えば、単層の断面を評価することによって、若しくはフィラメント力価から導出することによって、測定することができる。好ましくは、前記層の最大厚さは、個々のフィラメントの厚さの20倍以下、より好ましくは10倍以下、さらにより好ましくは5倍以下、最も好ましくは3倍以下である。
【0051】
本発明の文脈において、一方向単層という用語は、一方向配向ポリマーを含む層をいい、好ましくは、一方向ポリマーは、繊維又はテープを形成し、配向ポリマーを含む繊維又はテープは、本質的に、互いに平行に配向されている。一方向単層は、前記一方向単層の厚さをなすように1つ又は複数の重ね合わせられた平行フィラメント又はテープを含有していてもよい。
【0052】
本発明の圧縮成形物品は、互いに隣接する複数の単層を含む一方、単層のポリマーの配向方向は、隣接する単層のポリマーの配向方向に関してある特定の角度回転している。前記角度は、少なくとも40°且つ90°までであり、より好ましくは、角度は、少なくとも70°、より好ましくは少なくとも80°であり、最も好ましくは、角度は約90°である。
【0053】
本発明の圧縮成形物品は、必要量の対応する単層を積層することによって得られたものであってもよいが、スタックは、前記単層のうちの少なくとも2つを含む事前にアセンブルされたシートから構築されていてもよい。事前にアセンブルされたシートは、当技術分野において前駆体シート又はプリプレグともいい、シートは、配向ポリマーを含む3つ以上の単層を含んでいてもよく、各単層におけるポリマー配向の方向は、上記の通り、隣接する単層のフィラメント方向に関して少なくとも40°の角度回転している。好ましくは、2、4、6、8又は10個の単層のセットが、各単層のポリマーの配向方向が、隣接する単層のポリマーの配向方向に関して回転しているように事前にアセンブルされ、続いて、シートが、0°及び90°配向とも呼ばれる実質的に2つの配向方向に配向ポリマーを含有するように、シートに単層のスタックが統合されてもよい。事前にアセンブルされたシートの一体化は、シートを形成する圧力及び温度の使用によって行われうる。一体化のための圧力は、一般に、2~1000barの範囲であり、一方、一体化の間の温度は、典型的には、60~150℃の範囲である。
【0054】
本発明の圧縮成形物品は、単層A及び単層Bの一体化スタックを含み、単層Aの重量は、物品における単層の総重量の50wt%~95wt%の間であり、単層Bの重量は、物品における単層の総重量の5wt%~50wt%の間である。好ましくは、スタックは、単層A及び単層Bの総重量に対して、60wt%~90wt%の間の単層A及び10wt%~40wt%の間の単層B、より好ましくは66wt%~85wt%の間の単層A及び15wt%~34wt%の間の単層Bを含む。そのような好ましい比の圧縮成形物品は、想定される改善を実現するためにそれほど高品質な単層Bが求められない点で、より良好な費用性能プロファイルを有する傾向がある。
【0055】
タイプA及びBの層の積層は、任意の順序、例えば、ランダム、交互、クラスター、勾配又は分離で実施してもよい。ここで層とは、単層A若しくはB、又はここで上で言及した、単層A又はBの事前にアセンブルされたシートと理解される。ランダムとは、層A及びBが、互いにランダム方式で続くこと、すなわち、スタックの層のタイプが、1つ前のものに依存しないことと理解される。交互とは、層A及びBが、互いに規則的なパターンに従うことと理解される。クラスターとは、それぞれの層A及び層Bのうちの多数が、互いに隣接し、層A及び層Bのクラスターを形成し、層A及び層Bのこのクラスターが、交互又はランダムな順序で互いに向けてさらに配置構成されていてもよいことと理解される。クラスターにおける単層A又はBの数は、例えば、10個の単層から成形物品中に存在している1つのタイプの半分又は実質的にすべての単層まで実に様々でありうる。実質的にすべてとは、少なくとも95%、好ましくは少なくとも98%、最も好ましくはすべての関連する単層と理解される。勾配とは、層Bの数及び/又は質量が、スタックにわたって不均一に分布しており、スタックの片側にタイプBの単層がより多い一方、スタックのもう一方の側では枯渇していることと理解される。そのような勾配は、ランダム又はクラスター積層原理と組み合わせられてもよい。分離とは、単層A及びBが、積層順においてほとんど混合されないことと理解される。言い換えると、1つのタイプの実質的にすべての単層が、1つ又は複数のサブスタックにグループ化されており、一方、サブスタックは、アセンブルされて成形物品が形成される。好ましくは、成形物品は、タイプAの単層の1つ又は複数の領域、及び単層Bの1つ又は複数の領域を含む。好ましい実施形態では、防弾成形物品は、単層Bのサブスタックを形成する互いに隣接して積層された少なくとも50wt%の単層Bを有し、好ましくは少なくとも80wt%の単層Bが、単層Bのサブスタックを形成し、より好ましくは、実質的にすべての単層Bがサブスタックを形成している。本発明者らは、単層を互いに分離する、すなわち、このタイプの単層のサブスタックを形成することによって、成形物品の弾道性能をさらに改善しうることを特定した。好ましくは、本発明の成形物品は、単層Bが防弾物品の一方の外側面、好ましくは物品の衝撃面においてより豊富である勾配を有する。さらに好ましい実施形態では、本発明の防弾成形物品は、成形物品の外側面に配置された、少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは実質的にすべての単層Bを含む少なくとも1つのサブスタックを含み、好ましくは、単層Bのサブスタックは、成形物品の衝撃面を形成している。
【0056】
面密度(AD)とは、所与の面積の重量をその表面積で割ったものでありと理解され、平方メートル当たりのキログラム[kg/m2]又は平方メートル当たりのグラム[g/m2]で表される。実質的に平坦な物品の場合、サンプルの重量をその面積で割ることができるが、より一般的な方法は、成形物品の平均厚さに密度を掛けることによって、湾曲した、より複雑な形状の物品を考慮して提供される。本明細書で使用される場合、平均厚さは、各測定値が他の測定値から少なくとも5cm間隔を空けた、物品にわたって分布した少なくとも5つの測定値を取り、平均値を計算することによって測定される。本明細書で使用される場合、成形物品の密度は、圧縮成形物品のサンプルを秤量し、それを前記サンプルの体積で割ることによって測定される。一部の実施形態では、構成成分、例えば配向ポリマーの面密度とは、ここでは、ある面積におけるこの構成成分の重量を、前記面積で割ったものをいうことが理解される。或いは、構成成分の面密度は、関連する部分の面密度に、前記部分における関連する構成成分の重量分率を掛けることによって計算することができる。本発明の一体化スタックは、少なくとも7.0且つ最大15.0kg/m2の面密度(AD)を有する。技術水準のパネル、例えば、厳しい標準を満たすことが可能なパネルは、角度のある射撃に対する欠陥を示すことが観察された。本発明者らは、そのような欠陥が、より低面密度の成形対弾道物品においてより顕著になることを特定した。とりわけハイエンドグレードの場合、より低いパネル面密度及び厚さが、垂直条件下でのそれらの良好な弾道性能により可能である場合に、そのような欠陥が明らかとなる。したがって、本発明は、とりわけ、減少した面密度による弾道防護に関連する。したがって、本発明の好ましい実施形態は、最大13.0、好ましくは最大12.0、より好ましくは最大11.0、最も好ましくは最大10.0kg/m2のADを有する防弾成形物品に関する。パネルをタイプBの単層とハイブリッド化することは、これらのより低い面密度の防弾成形物品においてとりわけ有利であることが観察された。それは、ある角度で衝突する発射体を受ける際の技術水準の材料の不備を低減又は解消する。したがって、垂直及び非垂直条件下の両方において高いV50性能を示す低重量の対弾道解決法が、利用可能となる。
【0057】
本発明の防弾成形物品は、単層当たり4~28g/m
2の間の配向ポリマーの面密度を有する単層Bを含む。単層をそのような低配向ポリマー面密度と組み合わせることにより、より高い面密度の配向ポリマーの単層を有する成形物品の非垂直衝突性能が実質的に改善することが示された。本発明の好ましい実施形態では、防弾成形物品に存在する単層Bは、6~26g/m
2の間、好ましくは8~25g/m
2の間、より好ましくは10~24g/m
2の間、最も好ましくは12~22g/m
2の間の配向ポリマーBの面密度を有する。そのような好ましい低面密度を有する単層により、防弾物品に存在する単層の数を増加させ、その
【数3】
性能に正の影響を及ぼすことが可能になる。低面密度の単層は機器出力に負の影響を与えるため、単層Bの面密度の下限は、存在するフィラメント又はテープの厚さ、及び製造効率によって与えられる。重い単層Bは、非垂直衝突条件下で必要な性能の改善を示さない。
【0058】
好ましい実施形態では、防弾物品の単層Bは、6~26g/m2の間、好ましくは8~25g/m2の間、より好ましくは10~24g/m2の間、最も好ましくは12~22g/m2の間の面密度のポリエチレンフィラメント又はポリエチレンテープを有する。単層におけるポリエチレンフィラメント又はテープの面密度は、単層の所与の面積に存在する高性能ポリエチレンフィラメントのポリエチレンの質量をその表面積で割ったものであると理解され、平方メートル当たりのグラムで表される。ポリエチレンフィラメント又はテープの面密度はまた、単層の面密度に、単層に存在するポリエチレンの質量分率を掛けたものに基づいて演算することができる。
【0059】
本発明の好ましい実施形態は、単層を含む防弾成形物品であって、単層Bが、配向ポリエチレンの一方向に整列したテープ又はフィラメント及びバインダーBの複合単層である、防弾成形物品に関する。複合単層及びそれらの製造は、当技術分野で一般に公知であり、例えば、国際公開第2005066401号及び国際公開第2017060469号に記載されており、これらは参照により本明細書に含まれる。好ましくは、方法は、任意の形態のバインダー、例えば、バインダーの溶液、エマルジョン又は水性分散体を一方向に整列したフィラメント又はテープの単層に適用するステップを含む。得られた含浸された単層は乾燥されて、複合単層が形成する。前記複合単層は、それらの順番に、2つ以上の複合単層をクロスプライ及び圧縮成形することによって、事前にアセンブルされて複合シートを形成することができる。したがって、そのような複合シートは、バインダーに包埋された、一方向に整列したフィラメント又はテープの少なくとも2つの隣接する単層を含む。フィラメント又はテープは、一方向(UD)構成体としても公知の平行アレイ構成体におけるものであり、これは、種々の従来技術のうちの任意のものによって得ることができることが理解される。バインダーは、フィラメントを実質的に包埋しており、単層のフィラメント又はテープを一緒に結合する複合単層全体にわたって存在する。
【0060】
本発明の好ましい代替の実施形態は、単層Bが、バインダーを実質的に含まない配向ポリエチレンの一方向に整列したフィラメント又はテープ、及びバインダーBの層を各々含み、バインダーを実質的に含まない配向ポリエチレンの一方向に配列したフィラメント又はテープの隣接する層が、前記バインダーBによって互いに接着している、防弾成形物品に関する。したがって、単層Bのフィラメント又はテープは、前記単層のフィラメント又はテープを含むポリエチレン間にいずれのバインダー又はマトリックス材料も実質的に含まない。フィラメント又はテープの層内にバインダー又はマトリックス材料が存在しない場合、本発明の防弾物品の防弾特性が改善しうることが観察された。本発明の文脈において、バインダーを実質的に含まないとは、配向ポリエチレンの一方向に配列したフィラメント又はテープの層が、2.0wt%未満のバインダーを含有することと理解され、バインダーの重量パーセンテージは、ポリエレンフィラメント又はテープの重量に関する重量である。好ましくは、実質的に含まないこととは、1.0wt%未満、より好ましくは、0.5wt%未満のバインダーが一方向に配列したフィラメント又はテープの層内に存在することをいう。
【0061】
結合マトリックスが実質的に存在しない配向ポリエチレンの一方向に配列したフィラメント又はテープの層は、典型的には、フィラメントの融合から形成される。融合は、好ましくは、実質的に溶融結合をもたらさない圧力、温度及び時間の組合せ下で実現される。好ましくは、DSC(10℃/分)によって検出した場合に検出可能な溶融結合は、存在しない。検出可能な溶融結合が存在しないとは、サンプルを3連で分析した場合に、部分的に溶融した再結晶繊維と一致する目視可能な吸熱効果が検出されないことを意味する。好ましくは、融合は、機械的融合である。機械的融合は、フィラメントの変形によって起こり、平行配置構成されたフィラメントの機械的連結が増加し、フィラメント間のファンデルワールス相互作用が増加すると考えられる。したがって、層内のフィラメントは、典型的には、融合している。したがって、単層は、任意の結合マトリックス又は接着剤の存在なしに良好な構造安定性を有しうる。さらに、単層は、フィラメントのどのような溶融もなしに良好な構造安定性を有しうる。
【0062】
結合マトリックスが実質的に存在しない配向ポリエチレンの一方向に配列したフィラメント又はテープの層は、フィラメントの平行アレイを高温及び圧力に供することによって形成されうる。圧力を適用するための手段は、カレンダー、平滑ユニット、二重ベルトプレス又は交互プレスであってもよい。圧力を適用する好ましい方法は、実質的に国際公開第2012/080274号に記載の通り、一方向に配向した繊維のアレイをカレンダーのニップに導入することによる。
【0063】
典型的には、バインダーを実質的に含まない配向ポリエチレンの一方向に配列したフィラメント又はテープの層は、4~28μm、好ましくは6~26μmの間、より好ましくは8~25μmの間、最も好ましくは10~24μmの間の厚さを有する。層の厚さは、例えば、顕微鏡を使用して、3回の測定の平均を取ることによって測定することができる。そのような厚さは、一方向に整列したフィラメント又はテープの層間に配置されたバインダー材料の層を除外する。
【0064】
本発発明の代替の本実施形態では、バインダーが実質的に存在しない配向ポリエチレンの一方向に配列したフィラメント又はテープの隣接する層は、前記バインダーの層によって互いに分離及び接着されている。バインダーという用語は、本文脈において接着剤とも呼ばれ、一方向に配列したフィラメント又はテープの隣接する層を一緒に結合する材料をいう。接着剤は、単層又は複数のクロスプライされた単層の事前にアセンブルされたシートに構造的剛性をもたらしうる。接着剤はまた、本発明の成形物品の一方向に整列した繊維の隣接する単層間の層間結合を改善するように作用する。本発明の成形物品において、接着剤は、一方向に配列したフィラメント又はテープの隣接する層間に層を形成する。典型的な好ましいバインダーについては、上で論じている。
【0065】
本実施形態の文脈において、接着剤は、典型的には、配向ポリエチレンの一方向に整列したフィラメントの層に実質的に浸透しない。好ましくは、接着剤は、層にまったく浸透しない。したがって、接着剤は、一方向に整列したフィラメントの単一の単層内のフィラメント間の結合剤としては作用しない。好ましくは、防弾成形物品は、結合マトリックスが実質的に存在しない一方向に整列したフィラメントの複数の層、及び前記隣接するフィラメント層間に存在する接着剤の層を含む。好ましくは、接着剤は、配向ポリエチレンの一方向に整列したフィラメントのすべての隣接する層間に存在する。
【0066】
バインダーを実質的に含まず、隣接する繊維質層がバインダーの層によって互いに接着した、配向ポリエチレンの一方向に整列したフィラメントの層を含む繊維質単層Bを含む防弾成形物品の本発明の実施形態の場合、成形物品は、必要数のポリエチレンフィラメントを含む単層と接着剤層とを交互に積層することによって形成することができる。そのような物品を製造する方法は、大量の層が積層される観点から煩雑となる。したがって、ある特定数のフィラメント層及び接着剤層の交互層を含むシートの形態の中間生成物は、本発明の防弾成形物品の製造を単純にするために興味深い生成物を表す。
【0067】
したがって、本発明の実施形態は、予備アセンブルされた防弾シート、すなわち、前駆体シートであって、少なくとも2つの繊維質層を含み、各々の繊維質層は、配向ポリエチレンの一方向に整列したフィラメントを含有し、シートの2つの隣接する繊維質層間のポリエチレンフィラメントの配向方向は、少なくとも40且つ90度まで異なり、ポリエチレンフィラメントは、少なくとも3.5N/texの靭性を有し、防弾シートは、配向ポリエチレンのフィラメントの重量に対して5.0~20wt%の間のバインダーを含み、配向ポリエチレンの一方向に整列したフィラメントの繊維質層は、バインダーを実質的に含まず、隣接する繊維質層は、バインダーによって実質的に分離されており、防弾シートの繊維質層は、各々、防弾シートに存在する配向ポリエチレンの一方向に整列したフィラメントの層当たり4~28g/m2好ましくは、6~26g/m2の間、より好ましくは8~25g/m2の間、最も好ましくは10~24g/m2の間の面密度を有する、防弾シートに関する。したがって、防弾シートは、好ましくは、2つの繊維質層を含むシートでは8~56g/m2の間、4つの繊維質層を含むシートでは16~112g/m2の間、6つの繊維質層を含むシートでは24~168g/m2の間、及び8つの繊維質層を含むシートでは32~224g/m2の間の、配向ポリエチレンのフィラメントの面密度を有する。より好ましくは、防弾シートは、2つの繊維質層を含むシートでは12~52g/m2の間、4つの繊維質層を含むシートでは24~104g/m2の間、及び6つの繊維質層を含むシートでは36~156g/m2の間、及び8つの繊維質層を含むシートでは48~208g/m2の間の配向ポリエチレンのフィラメントの面密度(AD)を有し、最も好ましくは、防弾シートは、2つの繊維質層を含むシートでは20~48g/m2の間、4つの繊維質層を含むシートでは40~96g/m2の間、及び6つの繊維質層を含むシートでは60~144g/m2の間、及び8つの繊維質層を含むシートでは80~192g/m2の間の配向ポリエチレンのフィラメントの面密度(AD)を有する。
【0068】
本実施形態の防弾物品又はシートにおいて、接着層は、完全層、例えばフィルム、連続部分層、例えばウェブ、又は分散部分層、例えば、接着剤のスポット若しくは島を含んでいてもよい。本発明の本実施形態による防弾シートのバインダーの量は、広範囲で様々であってもよく、とりわけ、湾曲した防弾成形物品の必要な最終特性、及び繊維質層に存在する配向ポリエチレンのフィラメントの性質に依存する。典型的には、防弾シートに存在するバインダーの量は、5.0~20wt%の間である。好ましい実施形態では、バインダーの前記濃度は、6.0~17wt%の間、好ましくは7.0~14wt%の間、最も好ましくは8.0~12wt%の間であり、重量パーセンテージは、防弾シートの総重量に対するバインダーの重量である。
【0069】
本実施形態のシートは、ポリエチレンを含むフィラメントのそのような層間にバインダーを実質的に含まない繊維質層を含む。フィラメントの層内にバインダー材料が存在しない場合、本発明の防弾物品の防弾特性が改善しうることが観察された。繊維質層が結合マトリックスを実質的に含まない配向ポリエチレンの一方向に整列したフィラメントの層は、典型的には、フィラメントの融合から形成され、好ましくは、融合は、フィラメントの変形による機械的融合であり、平行配置構成されたフィラメントの機械的連結が増加し、フィラメント間のファンデルワールス相互作用が増加する。したがって、層内のフィラメントは、典型的には、互いに部分的に融合している。したがって、単層は、存在している任意の結合マトリックス又は接着剤なしに良好な構造安定性を有しうる。さらに、単層は、フィラメントのどのような溶融もなしに良好な構造安定性を有しうる。
【0070】
本発明による防弾成形物品は、非垂直条件下で撃たれた場合、すなわち、衝突の位置において垂直から30°逸脱する角度で物品に衝突する射撃の場合、種々の発射体、中でも、AK47弾として公知の脅威、より正確には7.62×39mm MSCに対する際立った対弾道性能を有する。中でも、本発明の防弾成形物品は、技術水準の解決法の重量基準の弾道性能を凌駕しうる。したがって、好ましい実施形態は、方法に記載の通りに測定して9.8kg/m
2の面密度を有する成形物品でAK47 7.62×39mm MSC発射体に対して試験した場合、少なくとも600m/秒の、垂直から30°の角度で撃たれた場合のV50(
【数4】
)を有する、本発明による防弾成形物品に関する。好ましくは、前記条件下での
【数5】
は、少なくとも650m/秒、より好ましくは少なくとも700m/秒、最も好ましくは少なくとも750m/秒である。
【0071】
なおより重要なことに、本発明者らは、本発明による防弾成形物品の弾道性能が、防弾構成成分として単層Aのみを含む防弾物品と比較して改善された対弾道性能を示すことを観察した。単層Aの重量分率をより高性能の単層Bで置き換えることにより、全弾道性能が改善することが予想されるものの、驚くべきことに、垂直衝突から30°逸脱する角度でぶつかる射撃によって7.62×39mm MSCにより撃たれた場合に、非垂直衝突下での性能を実質的に改善できたことが観察された。本発明者らの主な成果は、非垂直方式でぶつかった場合の技術水準の材料の性能を改善する対防弾成形物品を開発することである。したがって、好ましい実施形態は、9.8kg/m
2の面密度を有する成形物品でAK47 7.62×39mm MSC発射体に対して試験した場合に、少なくとも600m/秒の、30°の角度で撃たれた場合のV50(
【数6】
)を有する本発明による防弾成形物品であって、X
Aが、単層のスタックにおける単層Aの重量分率であり、X
Bが、単層における単層Bの重量分率であり、
【数7】
が、単層Aのみを含む防弾成形物品の、垂直から30°の角度で撃たれた場合のV50であり、
【数8】
が、単層Bのみを含む防弾成形物品の、垂直から30°の角度で撃たれた場合のV50であり、
【数9】
であり、
【数10】
が、それぞれの防弾成形物品の同一の面密度において、方法に記載の通りに測定したAK47 7.62×39mm MSC発射体に対して試験される、防弾成形物品に関する。好ましくは、防弾成形物品は、
【数11】
、より好ましくは
【数12】
を有する。
【0072】
本発明のさらなる実施形態は、単層A及び単層Bの総重量に対して50wt%~95wt%の間の単層A及び5wt%且つ最大50wt%の単層Bを含む一体化スタックを含む防弾成形物品であって、一体化スタックが、少なくとも7.0且つ最大15.0kg/m
2の面密度(AD)を有し、単層A及び単層Bが、それぞれ配向ポリマーA及び配向ポリマーBを含み、スタックの2つの隣接する単層の配向ポリマーの配向方向が、少なくとも40且つ90度まで異なり、防弾成形物品が、式(1)
【数13】
に従う、垂直から30°の角度(26)で撃たれた場合の(
【数14】
)を有し、
式中、X
Aは単層のスタックにおける単層Aの重量分率であり、X
Bは単層のスタックにおける単層Bの重量分率であり、
【数15】
は、単層Aのみを含む防弾成形物品の、垂直から30°の角度で撃たれた場合のV50であり、
【数16】
は、単層Bのみを含む防弾成形物品の、垂直から30°の角度で撃たれた場合のV50であり、
【数17】
が、それぞれの防弾成形物品の同一の面密度においてAK47 7.62×39mm MSC発射体に対して試験される、防弾成形物品に関する。好ましくは、防弾成形物品は、
【数18】
、より好ましくは
【数19】
を有する。
【0073】
好ましくは、防弾成形物品の単層Bは、配向ポリエチレンの一方向に配列したフィラメント又はテープの層、及びバインダーBの層の複合単層である。好ましい代替の実施形態では、単層Bは、配向ポリエチレンの一方向に整列したフィラメントの繊維質層を含み、これは、バインダーを実質的に含まず、隣接する繊維質層は、バインダーBの層によって互いに接着している。
【0074】
本発明の防弾成形物品の好ましい適用分野は、アーマーなどの防弾物品の分野である。防弾物品の機能は2要素であり、高速の発射体を停止するべきであり、且つそれを最小の背面変形で行うべきである。背面変形は、実際には、物品の非衝突側で測定可能な衝突による凹みのサイズである。典型的には、背面変形は、防弾物品の衝突面の平面に垂直な最大変形(単位mm)で測定される。驚くべきことには、本発明に従って作製された複合シートがアーマーに使用される場合、衝突による凹みのサイズは小さいことが観察された。言い換えると、背面の痕跡が小さい。そのようなアーマーは、発射体を停止する際の背面の痕跡の低減を示し、したがって、停止された発射体がぶつかった後のヒトの頭蓋骨及び脳への外傷が低減されるため、戦闘用ヘルメットのシェルにとりわけ好適である。
【0075】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、それらに限定されることはない。
【0076】
本出願において言及される試験方法は、以下の通りである:
IV:固有粘度は、方法ASTM D1601(2004)に従って、デカリン中135℃、溶解時間16時間で、酸化防止剤として2g/l溶液の量でBHT(ブチル化ヒドロキシトルエン)を用い、異なる濃度で測定した粘度を濃度ゼロに対して外挿することによって決定する。
【0077】
フィラメントの線密度及び機械特性(フィラメントの靭性及びフィラメントの引張係数)の決定は、一定の引張力及び標点距離並びに変動励起振動数を使用する振動試験の原理(ASTM D 1577)に従う線密度測定のための一体型測定ヘッドにより、一定伸長率の原理(DIN 51 221、DIN 53 816、ISO 5079)に従って動作する半自動のマイクロプロセッサー制御した引張試験機(Favimat、試験機no.37074、Textechno Herbert Stein GmbH & Co.KG製、Monchengladbach、Germany)で実施する。Favimat試験機は、1200cN秤、no.14408989を備えている。Favimatソフトウェアのバージョン番号:3.2.0。
【0078】
フィラメントの破壊を妨げる、フィラメント引張試験の間のクランプの滑りは、
図4に従うFavimatクランプの採用によって排除する。
【0079】
上側クランプ121は、ロードセル(図示せず)に取付けられている。下側クランプ122は、引張試験の間、選択された引張試験速度で下向き方向(D)に動く。試験対象のフィラメント(125)は、2つのクランプの各々において、プレキシガラス(Plexiglass)(登録商標)で作製された2つのあご面123(4×4×2mm)間に挟まれ、セラミックピン124に対して3回巻かれている。引張試験の前に、セラミックピン間のフィラメント長の線密度を振動により決定する。フィラメントの線密度の決定は、50mmのフィラメントの標点距離(F)(
図4を参照されたい)、2.50cN/texのプレテンションで(糸の線密度及びフィラメント数から計算した予想されるフィラメントの線密度を使用して)実施する。続いて、引張試験は、25mm/分のより低いクランプの試験速度で、0.50cN/texのプレテンションにより実施し、フィラメントの靭性は、測定した破断力及び振動により決定したフィラメントの線密度から計算する。伸び歪みは、0.50cN/texの所定のプレテンションでプレキシガラスの上側及び下側あご面間の全フィラメント長を使用することによって決定する。応力-歪み曲線の開始は、一般に、いくらかのゆるみを示すため、弾性率は、2つの応力レベル間の弦弾性率として計算する。例えば、10~15cN/dtexの間の弦弾性率は、式(1):
【数20】
(式中、
ε
10=10cN/dtex(%)の応力における伸び歪み;及び
ε
15=15cN/dtex(%)の応力における伸び歪み))
によって得られる。
測定した破断伸びは、式(2):
【数21】
(式中、
EAB=補正した破断伸び(%)
EAB(測定値)=測定した破断伸び(%)
ε
5=5cN/dtexの応力における伸び歪み(%)
CM(5:10)=5~10cN/dtexの間の弦弾性率(N/tex))
によってゆるみについて補正する。
【0080】
パネル、シート又は単層の面密度(AD)は、好ましくは0.4m×0.4mのサンプルの重量を誤差0.1gで測定することによって決定した。
【0081】
本発明の成形パネルにおいて、単層又はシートの面密度は、単一又は複数の単層の厚さを測定し、決定した厚さに、関連する単層又はシートの密度を掛けることによって決定することもできる。
【0082】
成形物品の弾道性能は、8つの個々のパネルに対する8回の個々の射撃のV50値を計算することによって決定した。矩形サンプルパネル(
図4、20)は、200mm×200mmの寸法を有し、繊維配向は、2つのその側面に対してそれぞれ平行であった。サンプルパネルを、目標ホルダーフレーム(
図4には図示されていない)の後ろに、片側が地面に平行になるように固定し、接着剤テープの小片でその場に維持した。射撃距離は10メートルであり、射撃は、パネル(20)の中心(22)を狙った。使用した発射体(24)は、例えば、Sellier and Bellot,Czech Republicによって供給される7.62×39mm MSC(AK47)であった。最初の射撃は、射撃の50%が停止すると想定される発射体速度(V50)で発射する。停止できた場合、次の射撃は、前の速度よりも40m/秒速い想定速度で発射する。貫通した場合、次の射撃は、前の速度よりも40m/秒遅い想定速度で発射する。発射体の速度は、衝突の1m手前で測定した。実験により得られたV50値についての結果は、4回の最速停止及び4回の最低速貫通の算術平均である。停止又は貫通の余剰がある場合、停止となった射撃の数と、貫通となった射撃の数とが同じになるまで、これらの余剰を排除する必要がある。これは、最低射撃速度の停止を排除するか、又は最高射撃速度の貫通を排除することによって達成する。弾がパネル端部から出るという可能性の低い事象(30度の角度で試験した場合)では、この特定の射撃は無効であり、V50計算において考慮すべきではない。
【0083】
【数22】
試験(
図4a)の場合、目標ホルダー(図示せず)は、発射体(24)の射線(21)が衝突の位置(22)においてパネル(20)に直交する(90°の角度25)、すなわち、射線(21)が衝突の位置(22)において垂直(23)と同一であるように配置される。
【0084】
【数23】
試験の場合(
図4b)、目標ホルダー(図示せず)は、その垂直軸に対して30°の角度回転しており、発射体(24)の射線(21)が衝突の位置(22)において垂直(23)に対して30°の角度(26)を形成している。疑義を避けるために、したがって、パネル(20)と射線(21)との間の角度は、60°である。
【0085】
前駆体シートA
前駆体シートAは、ダイニーマ(Dyneema)(登録商標)880 dtex SK99(DSM、The Netherlands)から製造された。糸を、張力を制御したクリールでボビンからほどき、リードに通した。続いて、糸を展開ユニットに供給することによって、糸を展開して、幅約550mmのフィラメントの隙間のない床を形成した。次いで、展開した糸をカレンダーに供給した。カレンダーのロールは直径400mmを有し、適用したライン圧は2000N/cmであった。8m/分のライン速度及び154℃のロール表面温度でラインを操作した。カレンダーにおいて、糸は繊維質テープに融合した。テープを、第1のローラースタンドによってカレンダーから取り出した。粉末散布ユニットをカレンダーと第1のローラースタンドとの間に配置し、繊維質テープに対して約10wt%の、Borealis、Vienna、Austriaから入手可能なバインダーQueo 1007粉末をテープの上面に適用した。粉末を有するテープを高温でカレンダー処理し、巻き取った。約550mmの幅及び37g/m2の総面密度を有する繊維質テープを製造した。テープにおける高度に配向されたポリエチレンの面密度は、33.6g/m2であった。
【0086】
前記繊維質テープのうちの3つを、平行に隣接して整列させて、1600mm幅の単層Aを形成した。第2の同一の、5つのテープの単層を、上向きであるが、隣接する単層の繊維に垂直に整列して、両方の単層の接着剤層と共に第1の単層の上に形成した。74g/m2の面密度を有する2層のクロスプライ前駆体シートAを製造した。
【0087】
前駆体シートB
方法に供給する糸の数を減らすことによって、製造された繊維質テープの面密度を低減したことを除いて、前駆体シートAについての方法を繰り返した。したがって、27g/m2の総面密度を有する繊維質単層を製造し、単層における高度に配向されたポリエチレンの面密度は24.5g/m2であり、マトリックス含有量は約10wt%であった。
【0088】
前記単層の、108g/m2の面密度を有する4層のクロスプライ前駆体シートBを製造した。
【0089】
比較実験(CE)1.1
400×400mmの寸法を有する133の前駆体シートAを、フィラメントの方向を交互に0°/90°に確実に維持するようにして、積層した。前駆体シートのスタックは、9.78kg/m2の面密度を有した。前駆体シートのスタックを、16.5MPa及び145℃で40分間、成形物品に圧縮し、続いて、2MPaで20分間冷却した。得られたパネルを、さらなる試験のために200×200mmの4つの等しい正方形に切り出した。
【0090】
成形パネルを、7.62×39mm MSC(AK47)弾により30°衝突で試験して、表2に報告する通りに弾道性能を決定した。
【0091】
比較実験(CE)1.2
CE1.1と同様に、91の前駆体シートBを積層し、圧縮成形して、単層Bのみを含むパネルを得た。
【0092】
実施例1.1~1.3
それぞれ90、80及び70wt%の単層A、並びに10、20及び30wt%の単層Bを含むハイブリッドパネルを、最初に、対応する数の400×400mmの前駆体シートA、続いて、対応する量の400×400mm前駆体シートBを積層することによって製造した。スタックを圧縮成形し、CE1.1に記載の通り、200×200mmのパネルに切り出した。防弾パネルの詳細は表1に見出すことができる。成形パネルの単層Bを含む側を、7.62×39mm MSC(AK47)弾で撃って、30°の角度条件におけるV50を決定した。その結果を表2に報告する。
【0093】
観察できる通り、Ex1.1~1.3のパネルの
【数24】
は、単層Aのみを含むCE1のパネルを実質的に凌駕しているが、前記パネルはまた、CE1.1及び1.2の個々のパネルの
【数25】
の線形平均計算に基づいて予想されうるもの(「予想される
【数26】
」の列)よりも実質的に高い
【数27】
を示す。例えば、パネルCE1.1の10wt%の単層Aを10wyt%の単層Bで置き換えることにより、理論的には、パネルの
【数28】
は約15m/秒増加するはずであるが、実施例1.1は、ほぼ120m/秒の改善である、848m/秒の実際の
【数29】
、を示す。
【0094】
【0095】
【手続補正書】
【提出日】2024-02-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層A及び単層Bの総重量に対して50wt%~95wt%の間の単層A及び5wt%且つ最大50wt%の単層Bを含む一体化スタックを含む防弾成形物品であって、前記一体化スタックが、少なくとも7.0且つ最大15.0kg/m
2の面密度(AD)を有し、前記単層A及び前記単層Bが、それぞれ配向ポリマーA及び配向ポリマーBを含み、前記スタックの2つの隣接する単層の前記配向ポリマーの配向方向が、少なくとも40且つ90度まで異なり、前記単層Aが、28~80g/m
2の間の前記配向ポリマーAの面密度を有し、前記単層Bが、4~28g/m
2の間の前記配向ポリマーBの面密度を有し、前記単層Aの前記配向ポリマーAの前記面密度が、前記単層Bの前記配向ポリマーBの前記面密度よりも少なくとも5g/m
2高い、防弾成形物品。
【請求項2】
前記単層Bが、配向ポリエチレンの一方向に整列したテープ又はフィラメントを含有し、前記テープ又はフィラメントが、少なくとも3.5N/texの靭性を有する、請求項1に記載の防弾成形物品。
【請求項3】
少なくとも50wt%の前記単層Bが、互いに隣接して積層され、単層Bのサブスタックを形成しており、好ましくは少なくとも80wt%の前記単層Bが、単層Bのサブスタックを形成しており、より好ましくは、実質的にすべての単層Bが単層Bのサブスタックを形成している、請求項
1に記載の防弾成形物品。
【請求項4】
単層Bの前記サブスタックが、前記成形物品の外側面に配置されており、好ましくは、単層Bの前記サブスタックが、前記成形物品の衝突面を形成している、請求項3に記載の防弾成形物品。
【請求項5】
前記単層Aが、単層Aに存在する前記配向ポリマーAの重量に対して5.0~20wt%の間のバインダーAを含み、及び/又は前記単層Bが、単層Bに存在する前記配向ポリマーBの重量に対して5.0~20wt%の間のバインダーBを含む、請求項
1に記載の防弾成形物品。
【請求項6】
前記単層Aが、配向ポリエチレンの一方向に整列したテープ又はフィラメントを含有し、前記テープ又はフィラメントが、少なくとも2.0N/texの靭性を有する、請求項
1に記載の防弾成形物品。
【請求項7】
最大13.0、好ましくは最大12.0、より好ましくは最大11.0、最も好ましくは最大10.0kg/m
2のADを有する、請求項
1に記載の防弾成形物品。
【請求項8】
前記単層Bが、6~26g/m
2の間、好ましくは8~25g/m
2の間、より好ましくは10~24g/m
2の間、最も好ましくは12~22g/m
2の間の配向ポリマーBの面密度を有する、請求項
1に記載の防弾成形物品。
【請求項9】
前記単層Bが、配向ポリエチレンの一方向に整列したテープ又はフィラメント及びバインダーBの複合単層である、請求項
1に記載の防弾成形物品。
【請求項10】
前記単層Bが、バインダーを実質的に含まない配向ポリエチレンの一方向に整列したフィラメントの層、及びバインダーBの層を各々含み、バインダーを実質的に含まない配向ポリエチレンの一方向に配列したフィラメントの隣接する層が、前記バインダーBによって互いに接着している、請求項
1に記載の防弾成形物品。
【請求項11】
9.8kg/m
2の前記成形物品の面密度においてAK47 7.62×39mm MSC発射体に対して試験した場合、少なくとも600m/秒の、垂直から30°の角度(26)で撃たれた場合のV50(
【数1】
)を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の防弾成形物品。
【請求項12】
単層A及び単層Bの総重量に対して50wt%~95wt%の間の単層A及び5wt%且つ最大50wt%の単層Bを含む一体化スタックを含む防弾成形物品であって、前記一体化スタックが、少なくとも7.0且つ最大15.0kg/m
2の面密度(AD)を有し、前記単層A及び前記単層Bが、それぞれ配向ポリマーA及び配向ポリマーBを含み、前記スタックの2つの隣接する単層の前記配向ポリマーの配向方向が、少なくとも40且つ90度まで異なり、前記防弾成形物品が、式(1)
【数2】
に従う、垂直から30°の角度(26)で撃たれた場合のV50(
【数3】
)を有し、
式中、X
Aは単層の前記スタックにおける単層Aの重量分率であり、X
Bは単層の前記スタックにおける単層Bの重量分率であり、
【数4】
は、単層Aのみを含む防弾成形物品の、垂直から30°の角度で撃たれた場合のV50であり、
【数5】
は、単層Bのみを含む防弾成形物品の、垂直から30°の角度で撃たれた場合のV50であり、
【数6】
が、前記それぞれの防弾成形物品の同一の面密度においてAK47 7.62×39mm MSC発射体に対して試験される、防弾成形物品。
【請求項13】
式
【数7】
、より好ましくは式
【数8】
に関する、請求項12に記載の防弾成形物品。
【請求項14】
少なくとも2つの繊維質層を含む防弾シートであって、各々の繊維質層が、配向ポリエチレンの一方向に整列したフィラメントを含有し、前記シートの2つの隣接する繊維質層間の前記ポリエチレンフィラメントの配向方向が、少なくとも40且つ90度まで異なり、前記ポリエチレンフィラメントが、少なくとも3.5N/texの靭性を有し、前記防弾シートが、配向ポリエチレンの前記フィラメントの重量に対して5.0~20wt%の間のバインダーを含み、配向ポリエチレンの一方向に整列したフィラメントの前記繊維質層が、バインダーを実質的に含まず、隣接する繊維質層が、前記バインダーによって実質的に分離されており、前記防弾シートの前記繊維質層が、各々、配向ポリエチレンの一方向に整列したフィラメントの層当たり4~28g/m
2の間、好ましくは、6~26g/m
2の間、より好ましくは8~25g/m
2の間、最も好ましくは10~24g/m
2の間の面密度を有する、防弾シート。
【請求項15】
層内の前記フィラメントが、互いに部分的に融合している、請求項14に記載の防弾シート。
【国際調査報告】