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特表2024-521373硝子体内ミトコンドリア標的化ペプチドプロドラッグおよび使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-31
(54)【発明の名称】硝子体内ミトコンドリア標的化ペプチドプロドラッグおよび使用方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 5/10 20060101AFI20240524BHJP
   A61K 38/07 20060101ALI20240524BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240524BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20240524BHJP
   A61P 27/04 20060101ALI20240524BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20240524BHJP
   A61K 47/61 20170101ALI20240524BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20240524BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20240524BHJP
   C07K 5/08 20060101ALI20240524BHJP
   C07K 7/00 20060101ALI20240524BHJP
   C07K 14/00 20060101ALI20240524BHJP
   C07K 14/76 20060101ALI20240524BHJP
   C07K 14/78 20060101ALI20240524BHJP
   C07K 14/46 20060101ALI20240524BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
C07K5/10 ZNA
A61K38/07
A61P27/02
A61P27/06
A61P27/04
A61K47/60
A61K47/61
A61K47/64
A61K9/10
C07K5/08
C07K7/00
C07K14/00
C07K14/76
C07K14/78
C07K14/46
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574702
(86)(22)【出願日】2022-06-01
(85)【翻訳文提出日】2024-01-31
(86)【国際出願番号】 US2022031728
(87)【国際公開番号】W WO2022256377
(87)【国際公開日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】63/195,697
(32)【優先日】2021-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523453101
【氏名又は名称】アイディア バイオ,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100133765
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 尚志
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア,アンドレス
(72)【発明者】
【氏名】リウ,シュンペイ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA22
4C076BB11
4C076BB24
4C076CC10
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF70
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA09
4C084BA16
4C084BA23
4C084BA42
4C084MA23
4C084MA58
4C084MA65
4C084NA15
4C084ZA331
4C084ZA332
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA12
4H045BA13
4H045BA14
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA17
4H045BA18
4H045CA40
4H045EA20
(57)【要約】
本明細書に記載されるのは、ミトコンドリア障害、および特に、加齢黄斑変性症(AMD)を含む、目のミトコンドリア障害の処置のための治療用組成物である。特に、本明細書に記載されるのは、コンジュゲーション部分への切断可能な共有結合(例えば、エステル結合)を有するミトコンドリア標的化テトラペプチドのプロドラッグであり、プロドラッグのコンジュゲーション部分は、1つ以上の複合体化剤と非共有結合的に複合体化して、定義されたアビディティを有する薬物-複合体微粒子を形成し、ならびに1つ以上の薬物-複合体微粒子は、分散媒体内に加えられおよび分散されて、眼薬物送達用の持続放出薬物送達システムとして役立つ多相性コロイド懸濁液を形成する。この持続放出薬物送達システムは、再処置を要求することなく1か月以上にわたり目におけるミトコンドリア機能障害を逆転させおよび予防するために目(例えば、硝子体)の中に注射または挿入されてもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切断可能な共有結合によりコンジュゲーション部分に連結されている、交互の陽イオン性アミノ酸残基および芳香族アミノ酸残基を含有するミトコンドリア標的化テトラペプチド(MTT)を含む、プロドラッグ化合物。
【請求項2】
式(I):
R’-R (I)
(式中、R’は、C末端アミノ酸が切断可能な共有結合によりRに共有結合的に連結されている交互の陽イオン性アミノ酸残基および芳香族アミノ酸残基を含有するミトコンドリア標的化テトラペプチド(MTT)であり、Rは、酵素切断、触媒作用、加水分解、または他の反応により除去されて遊離ミトコンドリア標的化テトラペプチドR’およびコンジュゲーション部分Rをもたらし得るコンジュゲーション部分であり、Rは、
C4~C30の脂質部分(脂肪酸もしくは脂肪族アルコール)、
C4~C30の直鎖もしくは分岐鎖脂肪族部分、
2-mer~30-merのペプチド部分、
ペグ化された部分、または
炭水化物部分
から選択される)
のプロドラッグ化合物。
【請求項3】
式(II):
R’(-O)-R (II)
(式中、R’は、C末端アミノ酸ヒドロキシル基がエステル結合を介してRに連結されている交互の陽イオン性アミノ酸残基および芳香族アミノ酸残基を含有するミトコンドリア標的化テトラペプチド(MTT)であり、Rまたは-O-Rは、
C4~C30の脂質部分(脂肪酸もしくは脂肪族アルコール)、
C4~C30の直鎖もしくは分岐鎖脂肪族部分、
2-mer~30-merのペプチド部分、
ペグ化された部分、または
炭水化物部分
から選択されるコンジュゲーション部分である)
のプロドラッグ化合物。
【請求項4】
式(III):
H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(EY005-Rとして指定される) (III)
【化1】
(式中、第4のアミノ酸は、エステル結合を介してRに連結されており、およびRまたは-O-Rは、
C4~C30の脂質部分(脂肪酸もしくは脂肪族アルコール)、
C4~C30の直鎖もしくは分岐鎖脂肪族部分、
2-mer~30-merのペプチド部分、または
ペグ化された部分、または
炭水化物部分
から選択されるコンジュゲーション部分である)
のプロドラッグ化合物。
【請求項5】
以下の式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-オクタデシル;H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-Arg()(式中、nは1~30である);H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-Glu()(式中、nは1~30である)のうちの1つを有する、プロドラッグ化合物。
【請求項6】
前記MTTが、配列番号1~635のいずれかからのミトコンドリア標的化ペプチドである、請求項1~5のいずれかに記載のプロドラッグ化合物。
【請求項7】
前記切断可能な共有結合が、エステル結合、ヒドラゾン結合、イミン結合、ジスルフィド結合、チオエステル結合、チオエーテル結合、リン酸エステル結合、ホスホン酸エステル結合、ボロン酸エステル結合のうちの1つを含む、請求項1~2のいずれかに記載のプロドラッグ化合物。
【請求項8】
前記コンジュゲーション部分が、以下:tert-ブチルアルコール、tert-アミルアルコール、3-メチル-3-ペンタノール、1-ヘプタノール(エナントアルコール)、1-オクタノール(カプリルアルコール)、1-ノナノール(ペラルゴンアルコール)、1-デカノール(デシルアルコール、カプリンアルコール)、ウンデシルアルコール(1-ウンデカノール、ウンデカノール、ヘンデカノール)、ドデカノール(1-ドデカノール、ラウリルアルコール)、トリデシルアルコール(1-トリデカノール、トリデカノール、イソトリデカノール)、1-テトラデカノール(ミリスチルアルコール)、ペンタデシルアルコール(1-ペンタデカノール、ペンタデカノール)、1-ヘキサデカノール(セチルアルコール)、cis-9-ヘキサデセン-1-オール(パルミトレイルアルコール)、ヘプタデシルアルコール(1-n-ヘプタデカノール、ヘプタデカノール)、1-オクタデカノール(ステアリルアルコール)、1-オクタデセノール(オレイルアルコール)、1-ノナデカノール(ノナデシルアルコール)、1-エイコサノール(アラキジルアルコール)、1-ヘンエイコサノール(ヘンエイコシルアルコール)、1-ドコサノール(ベヘニルアルコール)、cis-13-ドコセン-1-オール(エルシルアルコール)、1-テトラコサノール(リグノセリルアルコール)、1-ペンタコサノール、1-ヘキサコサノール(セリルアルコール)、1-ヘプタコサノール、1-オクタコサノール(モンタニルアルコール、クルイチルアルコール)、1-ノナコサノール、1-トリアコンタノール(ミリチルアルコール、メリシルアルコール)を含む、先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、脂肪族アルコールである、請求項1~4のいずれかに記載のプロドラッグ化合物。
【請求項9】
前記コンジュゲーション部分が、以下:テトラデカン酸、ペンタデカン酸、(9Z)-ヘキサデセン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン酸、(9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-9,12,15-トリエン酸、(6Z,9Z,12Z)-オクタデカ-6,9,12-トリエン酸、(5E,9E,12E)-オクタデカ-5,9,12-トリエン酸、(6Z,9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-6,9,12,15-テトラエン酸、(Z)-オクタデカ-9-エン酸、(11E)-オクタデカ-11-エン酸、(E)-オクタデカ-9-エン酸、ノナデカン酸、およびエイコサン酸を含む、先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、脂肪酸である、請求項1~4のいずれかに記載のプロドラッグ化合物。
【請求項10】
Rが、以下:ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸またはグルタミン酸とアスパラギン酸との組合せ;ポリアルギニン、ポリリジン、ポリヒスチジン、アルギニンとリジンとの組合せ、アルギニンとヒスチジンとの組合せ、ヒスチジンとリジンとの組合せ、アルギニンとヒスチジンとリジンとの組合せを含む、先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、陰イオン性、陽イオン性、または中性であってもよい、天然または合成アミノ酸を含む2-mer~約30-merのペプチド部分であり;ペプチド部分が、ポリエチレングリコール(PEG)基の付加のための1つ以上のPEG化部位を有し;ペプチド部分が、グリコシル化を含む、糖または炭水化物分子の付加による修飾のための1つ以上の部位;ポリアルギニン部分;ポリグルタミン酸部分;ポリアスパラギン酸部分;ポリヒスチジン部分;ポリリジン部分を有する、請求項2~4のいずれかに記載のプロドラッグ化合物。
【請求項11】
Rが、直鎖状、分岐鎖状、Y形状、またはマルチアーム幾何形状のポリエチレングリコール(PEG)ポリマーを含むPEGポリマー、ペグ化されたペプチド、またはペグ化されたコハク酸である、請求項2~4のいずれかに記載のプロドラッグ化合物。
【請求項12】
Rが、以下:グルコース、ガラクトース、ラクトース、マンノース、リボース、フコース、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルノイラミン酸、またはグルコース、ガラクトース、ラクトース、マンノース、リボース、フコース、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルグルコサミン、およびN-アセチルノイラミン酸のエピマーもしくは誘導体を含む、先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、2~20個の糖の炭水化物を含む炭水化物部分である、請求項2~4のいずれかに記載のプロドラッグ化合物。
【請求項13】
R’が、H-d-Arg-DMT-Lys-Pheを含む、前記MTTであり、およびRが、複数のミトコンドリア標的化ペプチドに共有結合的に連結されて前記プロドラッグの二量体または多量体を形成するリンカーまたは多量体化ドメインであり、およびnが2~約100に等しく、およびRが、PEG、PEGポリマー、ポリビニルアルコール(PVA)、またはペプチドであってもよい、請求項2に記載のプロドラッグ化合物(R’)-R。
【請求項14】
分散媒体中で混合された、ミトコンドリア標的化テトラペプチド(MTT)プロドラッグおよび1つ以上の複合体化剤を含む、多相性コロイド懸濁液の組成物。
【請求項15】
前記MTTが、配列番号1~635のうちの1つからの配列を有するミトコンドリア標的化ペプチドである、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記複合体化剤が、6つのクラス:脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成することができる有機化合物、荷電性リン脂質、荷電性タンパク質、リボ核酸、および多糖のうちの1つから選択される、MTTプロドラッグ-複合体微粒子を形成する能力を有する、不規則な形状の微粒子として製剤化される化学物質である、請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
前記複合体化剤が脂肪酸であり、前記脂肪酸が、飽和または不飽和であってもよい、および塩またはエステルの形態であってもよい、CH3(CH2)COOH(式中、nは4~30に等しい)の化学式を有する脂肪族鎖を有するカルボン酸であり、ならびに以下:パルミチン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、パルミチン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウムを含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項18】
前記複合体化剤が、ケト形態(ケトンまたはアルデヒド)とエノール形態(アルコール)との間で化学平衡を起こす能力を有する分子であるケト-エノール互変異性体を形成することができる有機化合物のうちの1つ以上であり、および以下:フェノール化合物、トコフェロール化合物、キノン化合物、リボ核酸化合物を含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項19】
前記複合体化剤が、荷電性リン脂質のうちの1つ以上であり、および以下:陰イオン性リン脂質、レシチン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、正電荷を有する合成リン脂質、DLin-MC3-DMAを含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項20】
前記複合体化剤が、正または負であってもよい荷電性タンパク質であり、およびアルブミン、合成ポリペプチド、血漿タンパク質、アルファ2-マクログロブリン、フィブリン、コラーゲンを含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項21】
前記複合体化剤が、5炭糖、リン酸基、および含窒素塩基を含む、ヌクレオチドを含むバイオポリマー高分子を含むリボ核酸である、請求項14に記載の組成物。
【請求項22】
前記複合体化剤が多糖であり、前記多糖が、グリコシド連結により結合して一緒になった単糖単位を含む長鎖ポリマー炭水化物であり、および環状多糖分子、シクロデキストリン、クラスレートを含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項23】
前記分散媒体が、多相性コロイド懸濁液を形成する能力を有し、および疎水性油の4つのクラス:飽和脂肪酸メチルエステル、不飽和脂肪酸メチルエステル、飽和脂肪酸エチルエステル、不飽和脂肪酸エチルエステルの中から選択される、請求項14に記載の組成物。
【請求項24】
前記分散媒体が、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、ブチル酸メチル、ペンタン酸メチル、ヘキサン酸メチル、ヘプタン酸メチル、オクタン酸メチル、ノナン酸メチル、デカン酸メチル、ウンデカン酸メチル、ドデカン酸メチル(ラウリン酸メチル)、トリデカン酸メチル、テトラデカン酸メチル、9(Z)-テトラデセン酸メチル、ペンタデカン酸メチル、ヘキサデカン酸メチル、ヘプタデカン酸メチル、オクタデセン酸メチル、ノナデカン酸メチル、エイコサン酸メチル、ヘンエイコサン酸メチル、ドコサン酸メチル、およびトリコサン酸メチルのうちの1つ以上を含む飽和脂肪酸メチルエステルを含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項25】
前記分散媒体が、10-ウンデセン酸メチル、11-ドデセン酸メチル、12-トリデセン酸メチル、9(E)-テトラデセン酸メチル、10(Z)-ペンタデセン酸メチル、10(E)-ペンタデセン酸メチル、14-ペンタデセン酸メチル、9(Z)-ヘキサデセン酸メチル、9(E)-ヘキサデセン酸メチル、6(Z)-ヘキサデセン酸メチル、7(Z))-ヘキサデセン酸メチル、11(Z)-ヘキサデセン酸メチルのうちの1つ以上を含む不飽和脂肪酸メチルエステルを含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項26】
前記分散媒体が、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、ブチル酸エチル、ペンタン酸エチル、ヘキサン酸エチル、ヘプタン酸エチル、オクタン酸エチル、ノナン酸エチル、デカン酸エチル、ウンデカン酸エチル、ドデカン酸エチル(ラウリン酸エチル)、トリデカン酸エチル、テトラデカン酸エチル、9(Z)-テトラデセン酸エチル、ペンタデカン酸エチル、ヘキサデカン酸エチル、ヘプタデカン酸エチル、オクタデセン酸エチル、ノナデカン酸エチル、エイコサン酸エチル、ヘンエイコサン酸エチル、ドコサン酸エチル、トリコサン酸エチルのうちの1つ以上を含む飽和脂肪酸エチルエステルを含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項27】
前記分散媒体が、10-ウンデセン酸エチル、11-ドデセン酸エチル、12-トリデセン酸エチル、9(E)-テトラデセン酸エチル、10(Z)-ペンタデセン酸エチル、10(E)-ペンタデセン酸エチル、14-ペンタデセン酸エチル、9(Z)-ヘキサデセン酸エチル、9(E)-ヘキサデセン酸エチル、6(Z)-ヘキサデセン酸エチル、7(Z))-ヘキサデセン酸エチル、11(Z)-ヘキサデセン酸エチルのうちの1つ以上を含む不飽和脂肪酸エチルエステルを含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項28】
ミトコンドリア標的化テトラペプチド(MTT)プロドラッグ多相性コロイド懸濁液を使用して目のミトコンドリア障害を処置する方法であって、硝子体内(IVT)、眼周囲、テノン嚢下、結膜下、上脈絡膜、前房内、または外用投与経路のうちの1つ以上を含む、局所眼投与により前記MTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液を投与することを含む、前記方法。
【請求項29】
前記MTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液が、乾燥型加齢黄斑変性症(AMD)、滲出型AMD、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、網膜静脈閉塞症(RVO)、ならびに遺伝性網膜変性症(IRD)、網膜変性症、外傷性傷害、虚血性血管症、後天性または遺伝性視神経症、緑内障、眼内炎、網膜炎、ぶどう膜炎、網膜およびぶどう膜の炎症性疾患、フックス角膜ジストロフィー、角膜浮腫、眼表面疾患、ドライアイ疾患、慢性進行性外眼筋麻痺症(CPEO)、結膜の疾患、眼周囲組織の疾患、ならびに眼窩の疾患のうちの1つ以上を含む、目の状態および疾患の発病の予防または進行の緩慢化、視力低下の予防または視力の改善、前記状態および疾患の破壊的なまたは変性性の態様の発病の予防または改善のうちの1つ以上により目のミトコンドリア障害を処置するために使用される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
局所眼投与による前記MTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液の投与が、インプラントからの投与を含み、不規則な形状の微粒子複合体化剤への前記MTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液のコンジュゲーション部分の可逆的な非共有結合性複合体化によるMTTプロドラッグ-複合体微粒子の形成と、疎水性分散媒体内の前記MTTプロドラッグ-複合体微粒子の安定な分散との組合せが、前記インプラントから目の生理学的環境中への放出のために利用可能な遊離MTTプロドラッグを制限する、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記目の前記ミトコンドリア障害の処置が、前記MTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液の製剤の硝子体内または眼周囲注射による治療レベルの前記MTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液への網膜色素上皮(RPE)および網膜組織の連続的な持続的な曝露によるヒト患者または動物におけるRPE異形症、RPE関連細胞外マトリックス脱調節、および/またはRPE下沈着の処置を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記目の前記ミトコンドリア障害の処置が、前記MTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液の製剤の硝子体内または眼周囲注射による治療レベルの前記MTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液への網膜色素上皮(RPE)および網膜組織の連続的な持続的な曝露による、患者における視力の改善または視力低下の予防を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
対象の目におけるミトコンドリア機能障害の処置方法であって、
処置開始時に前記対象の目の中に持続放出薬物送達システムと組み合わせられたミトコンドリア標的化テトラペプチドのプロドラッグを送達すること、
前記対象の目におけるエステラーゼの作用による、前記プロドラッグの切断により、第1の段階の間にバースト段階放出速度において前記目の中に前記ミトコンドリア標的化テトラペプチドを放出させること、および
前記エステラーゼの作用による、前記プロドラッグの切断により、第2の段階の間に定常状態放出速度において前記目の中に前記ミトコンドリア標的化テトラペプチドを放出させること
を含み、
前記バースト段階放出速度が前記定常状態放出速度よりも高く、さらに前記第1の段階が前記処置開始から約2~6週間に及び、および前記第2の段階が前記第1の段階の終わりから1か月以上に及ぶ、
前記方法。
【請求項34】
活性薬物の高い持続的な網膜および網膜色素上皮(RPE)組織レベルを生成する持続放出薬物送達システム中の製剤の局所的な硝子体内または眼周囲注射による対象の目における網膜色素上皮(RPE)異形症またはRPE下沈着の処置方法であって、
処置開始時に前記対象の目の中に前記持続放出薬物送達システムと組み合わせられたミトコンドリア標的化テトラペプチドのプロドラッグを送達すること、
前記対象の目におけるエステラーゼの作用による、前記プロドラッグの切断により、第1の段階の間にバースト段階放出速度において前記目の中に前記ミトコンドリア標的化テトラペプチドを放出させること、および
前記エステラーゼの作用による、前記プロドラッグの切断により、第2の段階の間に定常状態放出速度において前記目の中に前記ミトコンドリア標的化テトラペプチドを放出させること
を含み、
前記バースト段階放出速度が前記定常状態放出速度よりも高く、さらに前記第1の段階が前記処置開始から約2~6週間に及び、および前記第2の段階が前記第1の段階の終わりから1か月以上に及ぶ、
前記方法。
【請求項35】
活性薬物の高い持続的な網膜および網膜色素上皮(RPE)組織レベルを生成する持続放出薬物送達システム中の製剤の硝子体内または眼周囲注射による対象における視力低下の処置方法であって、
処置開始時に前記対象の目の中に前記持続放出薬物送達システムと組み合わせられたミトコンドリア標的化テトラペプチドのプロドラッグを送達すること、
前記対象の目におけるエステラーゼの作用による、前記プロドラッグの切断により、第1の段階の間にバースト段階放出速度において前記目の中に前記ミトコンドリア標的化テトラペプチドを放出させること、および
前記エステラーゼの作用による、前記プロドラッグの切断により、第2の段階の間に定常状態放出速度において前記目の中に前記ミトコンドリア標的化テトラペプチドを放出させること
を含み、
前記バースト段階放出速度が前記定常状態放出速度よりも高く、さらに前記第1の段階が前記処置開始から約2~6週間に及び、続いて前記第2の段階となる、
前記方法。
【請求項36】
活性薬物の高い持続的な網膜および網膜色素上皮(RPE)組織レベルを生成する持続放出薬物送達システムの製剤の硝子体内または眼周囲注射により対象において神経感覚網膜および/またはRPEの萎縮症の発病を予防するかまたは前記萎縮症の進行を緩慢化させる方法であって、
処置開始時に前記対象の目の中に前記持続放出薬物送達システムと組み合わせられたミトコンドリア標的化テトラペプチドのプロドラッグを送達すること、
前記対象の目におけるエステラーゼの作用による、前記プロドラッグの切断により、第1の段階の間にバースト段階放出速度において前記目の中に前記ミトコンドリア標的化テトラペプチドを放出させること、および
前記エステラーゼの作用による、前記プロドラッグの切断により、第2の段階の間に定常状態放出速度において前記目の中に前記ミトコンドリア標的化テトラペプチドを放出させること
を含み、
前記バースト段階放出速度が前記定常状態放出速度よりも高く、さらに前記第1の段階が前記処置開始から約2~6週間に及び、および前記第2の段階がその後に及ぶ、
前記方法。
【請求項37】
前記プロドラッグを送達することが、式(I):
R’-R (I)
(式中、R’は、C末端アミノ酸が切断可能な共有結合によりRに共有結合的に連結されている交互の陽イオン性アミノ酸残基および芳香族アミノ酸残基を含有するミトコンドリア標的化テトラペプチド(MTT)であり、Rは、酵素切断、触媒作用、加水分解、または他の反応により除去されて遊離ミトコンドリア標的化ペプチドR’およびコンジュゲーション部分Rをもたらし得るコンジュゲーション部分であり、Rは、
C4~C30の脂質部分、
C4~C30の直鎖もしくは分岐鎖脂肪族部分、
2-mer~30-merのペプチド部分、
ペグ化された部分、または
炭水化物部分
から選択される)
のプロドラッグ化合物を送達することを含む、
請求項33~36のいずれかに記載の方法。
【請求項38】
前記プロドラッグを送達することが、式(II):
R’(-O)-R (II)
(式中、R’は、C末端アミノ酸ヒドロキシル基がエステル結合を介してRに連結されている交互の陽イオン性アミノ酸残基および芳香族アミノ酸残基を含有するミトコンドリア標的化テトラペプチド(MTT)であり、Rは、
C4~C30の脂質部分、
C4~C30の直鎖もしくは分岐鎖脂肪族部分、
2-mer~30-merのペプチド部分、
ペグ化された部分、または
炭水化物部分
から選択されるコンジュゲーション部分である)
のプロドラッグ化合物を送達することを含む、
請求項33~36のいずれかに記載の方法。
【請求項39】
前記プロドラッグを送達することが、式(III):
H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R (III)
(式中、Rは、
C4~C30の脂質部分、
C4~C30の直鎖もしくは分岐鎖脂肪族部分、
2-mer~30-merのペプチド部分、
ペグ化された部分、または
炭水化物部分
から選択されるコンジュゲーション部分である)
の化合物を送達することを含む、
請求項33~36のいずれかに記載の方法。
【請求項40】
前記プロドラッグを送達することが、H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ステアリルとも称される、式H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-オクタデシルの化合物を送達することを含む、請求項33~36のいずれかに記載の方法。
【請求項41】
前記放出されるミトコンドリア標的化テトラペプチド薬物が、交互の陽イオン性残基および芳香族残基を有する、請求項33~36のいずれかに記載の方法。
【請求項42】
前記放出されるミトコンドリア標的化テトラペプチド薬物がH-d-Arg-DMT-Lys-Pheである、請求項33~36のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本特許出願は、参照により全体が本明細書に組み込まれる、2021年6月1日に出願された、「INTRAVITREAL MITOCHONDRIAL-TARGETED PEPTIDE PRODRUGS AND METHODS OF USE」という名称の米国仮特許出願第63195697号に対する優先権を主張する。
【0002】
参照による組込み
本明細書において言及されるすべての刊行物および特許出願は、各々の個々の刊行物または特許出願が参照により組み込まれることを特におよび個々に指し示されたのと同じ程度まで参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
背景
遺伝性または後天性のミトコンドリアの障害は、骨格筋、心臓、およびCNSを含む、身体の全体を通じた様々なシステムに影響する多くの一般的なおよび希少な疾患と関連付けられる。本出願にとって特に関心対象となるのは、目に影響するミトコンドリア疾患、特に網膜および「目の背部」に影響するミトコンドリア疾患である。ミトコンドリアは、ATP(アデノシン三リン酸)として化学エネルギーを生成する細胞小器官である。ミトコンドリア機能障害は、RPEおよび神経感覚網膜の細胞のATP産生の喪失および生体エネルギー不全を引き起こす(図1B)。しかしながら、ミトコンドリア機能障害はまた、スーパーオキシドおよび他の反応性オキシダントの産生の増加、正常なミトコンドリアカルシウム調節の喪失、ミトコンドリアと小胞体との間の異常な相互作用、ならびに最終的に細胞死を引き起こす。
【0004】
そのため、眼内のミトコンドリア機能障害を特異的に標的化する薬物は、眼疾患、特に網膜および眼背部疾患において疾患進行を停止または緩慢化させ、関連付けられる視力低下を予防し、ならびに場合によっては視力および視覚機能を回復または改善させることさえある潜在的な利益を有し得る。
【0005】
Szeto-Schiller(SS)ペプチドとしても公知であり、2000年および2003年にHazel Szetoにより開示されたテトラペプチド小分子のクラスが以前に同定されており、これは細胞およびミトコンドリアを容易に透過してミトコンドリア機能障害を逆転させることが実証されている(図1C)。これらのミトコンドリア標的化テトラペプチド(「MTT」)のうちの最もよく研究されているものはエラミプレチドである。
【0006】
インビボ前臨床モデルにおいて、エラミプレチドの全身投与は、乾燥型加齢黄斑変性症(AMD)のマウスモデルにおいて視覚機能を部分的に改善した(図2)。同様に、エラミプレチドの全身投与は、滲出型AMDおよび網膜静脈閉塞症の動物モデルにおいて部分的な有効性を実証した。
【0007】
患者において、乾燥型AMDを有する患者における皮下(SQ)注射によるエラミプレチドの1日毎の全身投与のフェーズ1/2a臨床試験(ReCLAIM-1研究、ClinicalTrials.gov識別記号NCT02848313)およびフェーズ2b臨床試験(ReCLAIM-2研究、ClinicalTrials.gov識別記号NCT03891875)は、低輝度視力の改善(図3)および外側神経感覚網膜のエリプソイドゾーンにおけるミトコンドリア構造の保存に向かう傾向を生じさせた。全身性エラミプレチドに対するこの応答は、研究参加者の50%未満において見られた。
【0008】
合わせると、前臨床およびヒト臨床試験データは、SQ投与によるエラミプレチドの全身投薬は、動物およびヒトにおいて、薬物の不十分な眼組織レベルに起因して不完全な治療奏功を提供するに過ぎないことを指し示す。そのため、このクラスの薬物、MTTの局所的な眼送達は、ミトコンドリア機能障害により特徴付けられる網膜疾患、例えば乾燥型AMDの処置のために有効であり得る。
【0009】
必要とされるのは、IVTおよび眼投与の他の経路のためのMTT、例えばエラミプレチドのための持続放出薬物送達システム(「XRDDS」)である。残念なことに、MTTは、それらの小さいサイズおよび高い水溶解性に起因して、それらのネイティブな形態においてIVTまたは眼周囲(すなわち、結膜下もしくはテノン嚢下)投与経路のために十分に適さず、現在利用可能な眼薬物送達技術との適合性が乏しく、ならびに確立された薬物送達システムにおいて成功裏に製剤化されていない。
【0010】
そのため、目において持続的な放出を達成し、および処置の所望される持続期間にわたり眼組織において予測可能な治療レベルへの連続的な曝露を提供する方式において小分子、例えばMTTのXRDDS製剤を提供することが非常に望まれている。本明細書に記載される組成物および方法は、眼使用のための新規の複合体化ベースXRDDSと適合性である。
【発明の概要】
【0011】
本開示の要約
本明細書に記載されるのは、全体として安定な多相性コロイド懸濁液を形成する、疎水性分散媒体内で混合された、1つ以上の複合体化剤微粒子と非共有結合的に相互作用してミトコンドリア標的化テトラペプチド(MTT)プロドラッグ-複合体微粒子を形成する、新規のMTTプロドラッグを含む、新規の持続放出薬物送達システム(XRDDS)のための組成物、製剤、および使用方法である。
【0012】
持続放出薬物送達システム(XRDDS)は、特定の投与経路のための特有の治療的目標のために最適化された薬物放出動態を調節する方式における特有の薬物物質の設計、生産および投与において使用されるデバイス、製剤または他のシステムである。本明細書に記載されるのは、目の中および目の周囲においてMTTプロドラッグのために最適化されているXRDDSである。
【0013】
MTTは、陽イオン性アミノ酸と交互の芳香族アミノ酸を含む4アミノ酸ペプチドである。MTTの典型的な例は表1(配列番号1~635を含む)に列記される。XRDDSにおける製剤化のためのMTTプロドラッグを形成するためにも役立ち得る眼疾患の処置用の有用なMTTはEY005、H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(図4A)であり、その理由は、それは、第4のアミノ酸基においてカルボン酸を有して、コンジュゲーション部分への共有結合性連結を促すからである(図4B)。本明細書に記載される組成物および方法はEY005に限定されず;一般に、本明細書に記載される方法および組成物は、任意のMTT(例えば、陽イオン性アミノ酸と交互の芳香族アミノ酸を含む任意の4アミノ酸ペプチド)を用いて予測可能な放出プロファイルを結果としてもたらし得、眼疾患のミトコンドリア機能障害および態様の処置のためのネイティブなMTTの生物学的有効性は分子のクラスにわたり同等である(図5~15を参照)。結果としてもたらされる組成物の生物学的有効性の耐久性および程度は変動し得るが、XRDDS形態の組成物の放出、ならびにそれらを調合しおよびそれらを放出させる方法は、すべてのMTTにわたり予測可能である。
【0014】
コンジュゲーション部分は、MTTに共有結合できる任意の化学物質である。ある特定のコンジュゲーション部分は、ネイティブなMTTが実証しない特性を提供するそれらの能力、特に複合体化剤と可逆的な非共有結合性複合体を形成する能力について選択され得る。複合体は、MTTプロドラッグのコンジュゲーション部分と複合体化剤との間の非共有結合性相互作用として本明細書において定義される。
【0015】
複合体化剤は、1ナノメートル(nm)~1000マイクロメートル(μm)のサイズの範囲内の不規則な形状の微粒子として製剤化された化学物質として本明細書において定義される。複合体化剤は、典型的には、既知の量の複合体化剤に結合しているMTTプロドラッグの量として定義される、MTTプロドラッグの測定可能な結合能力を実証し、および、特有の分散媒体内で、測定可能な非結合-結合比、またはKdとして定義される、薬物結合の可逆性を実証する。驚くべきことに、複合体化剤はまた、MTTプロドラッグと複合体を形成することが以前には知られることも予想されることもなかった化学物質であってもよい。コンジュゲーション部分を介する複合体化剤へのMTTプロドラッグの結合は、MTTプロドラッグ-複合体微粒子の形成を結果としてもたらす。医薬品産業において利用される添加剤および賦形剤を含む、ある特定の周知の化学物質は、不規則な微粒子として製剤化された場合に、MTTプロドラッグ用の複合体化剤として役立つ以前に知られていない予想外の特性を実証する。ステアリン酸マグネシウム、レシチン、アルブミン、シクロデキストリン、およびその他の、溶解していない個々の分子である、不規則な微粒子製剤は、MTTプロドラッグ用の微粒子複合体化剤の例であり、これは以前には知られることも予想されることもなかった特性である。
【0016】
本明細書に記載されているコロイド懸濁液は、微粒子の移動も沈降もなしに微粒子の安定な分散を形成する粘性の、流動性の注射可能な液体(すなわち、コロイド混合物)である製剤である。MTTプロドラッグを含有する多相性コロイド懸濁液(例えば、MTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液)は、MTTプロドラッグが少なくとも2つの段階:遊離の、結合していないMTTプロドラッグ、および複合体化剤(その他に薬物-薬物凝集物)に結合しているMTTプロドラッグにおいて存在するコロイド懸濁液を指す。MTTプロドラッグ-複合体微粒子は、微粒子が分散媒体中に混合された場合にMTTプロドラッグ用のリザーバーとして役立つ。そのため、本明細書において使用される場合、MTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液は、移動も沈降もなしに安定的に分散されたMTTプロドラッグ-複合体微粒子を結果としてもたらす粘性の、流動性の注射可能な液体であってもよい。このMTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液は、遊離MTTプロドラッグがMTTプロドラッグ-複合体微粒子から解離して分散媒体中で遊離MTTプロドラッグ濃縮物を作出することを可能にし得、MTTプロドラッグは、多相性コロイド懸濁液システムを通じて自由に拡散してインプラントを出て隣接する環境に入ることができ、該環境においてプロドラッグは目の生理学的環境に曝露されて、コンジュゲーション部分の切断を結果としてもたらして、遊離MTTを放出する。
【0017】
MTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液は薬物送達システムを可能にし、その理由は、微粒子は、結合しているMTTプロドラッグのリザーバーであり、該MTTプロドラッグの各々は独特の結合能力およびKd(非結合-結合比)を有し、それは次いで、分散媒体中の遊離MTTプロドラッグの合計量を決定するからである。各々のMTTプロドラッグ-複合体微粒子のKdおよび結合能力の知識は、システム中の遊離MTTプロドラッグの総量を算出するために使用可能であり、該総量は放出の速度および量を決定し得る。異なるMTTプロドラッグ-複合体微粒子の相対的な比および量は、システム内の算出可能な結合していない遊離薬物を作出するために本明細書に記載されるように調整され得る。インプラントの寿命にかけてのシステム内の結合していない遊離薬物の動的な変化は、MTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液内のMTTプロドラッグ-複合体微粒子の結合能力およびKdにより決定されてもよい。
【0018】
本明細書において使用される場合、分散媒体は、コロイド混合物中で利用される媒体である。分散媒体は、MTTプロドラッグ-複合体微粒子と混合された場合に、MTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液を形成することができる疎水性油である。分散媒体は、MTTプロドラッグおよび選択された複合体化剤と多相性コロイド懸濁液を形成することが以前に知られていないものであってもよい。
【0019】
Mito XRもしくはMTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液として本明細書において参照され得る(および/またはインプラントもしくはインプラントの部分であってもよい)多相性コロイド懸濁液中のMTTプロドラッグの製剤は、目の後天性および遺伝性ミトコンドリア疾患の処置のために、所望される持続期間(1~12か月)にわたり眼組織内で治療レベルの活性MTT薬物の持続的な放出を生成するために硝子体内(IVT)または眼周囲経路により投与され得る。
【0020】
より特には、本明細書に記載される組成物および方法は、不規則な形状の微粒子として製剤化された場合に、MTTプロドラッグ用の複合体化剤として役立つことが以前に知られていない6つの化学物質のうちの1つと非共有結合性複合体を形成する能力について特に選択される化学物質の5つのクラスのうちの1つから選択されるコンジュゲーション部分への切断可能な共有結合性連結により形成される、MTTプロドラッグを含む。
【0021】
本組成物および方法において、MTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液は、20ゲージ~30ゲージサイズの針(利用に依存する)を通じて注射可能であり、インプラントの寿命の持続期間(1~12か月)にわたり目の生理学的環境に曝露された場合に移動も沈降もなしに微粒子の安定な分散体を提供し得る。目の生理学的環境は、硝子体中に通常見出される酵素およびタンパク質を含有する37℃のリン酸緩衝食塩水(もしくは同等の水性溶媒)(硝子体への注射を表す)を伴うか、または血漿を含有する37℃のリン酸緩衝食塩水(様々な眼周囲組織への注射を表す)を伴うインビトロ条件として定義される。代替的に、目の生理学的環境は、硝子体中または眼周囲組織中へのインビボでのインプラントの注射を表し得る。
【0022】
MTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液はまた、目の生理学的環境に曝露された場合に生分解性の特性を示し、生分解性は分散媒体の溶解により起こる。生分解の速度は、目の生理学的環境中での分散媒体の溶解性の程度に比例している。より高い溶解性を有する分散媒体は、目の生理学的環境に曝露された場合に多相性コロイド懸濁液のより速い生分解を可能にし、より低い溶解性を有する分散媒体は、目の生理学的環境に曝露された場合に多相性コロイド懸濁液のより遅い生分解を可能にする。MTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液のこの特性は、目の生理学的環境中でのインプラントの耐久性を決定するために、注射されるインプラントの体積と共に使用され得る。
【0023】
一般に、本明細書に記載されるミトコンドリア標的化テトラペプチド(MTT)は、微粒子複合体化剤と非共有結合性可逆的相互作用を形成するコンジュゲーション部分に共有結合的に連結されて、多相性コロイド懸濁液の例への組込みのためにその物理化学特性を最適化し得る。本明細書に記載されるのはまた、コンジュゲーション部分が、サイズ、電荷、溶解性、および媒体との物理化学的相互作用を含む、MTTの物理化学特性、ならびに他の種類の眼科用薬物送達システムにおけるMTTプロドラッグの製剤化を促し得る他の特性を変更する他の実施形態である。
【0024】
本明細書に記載されるMTTプロドラッグの1つのクラスは、複合体化剤の5つのクラスのうちの1つと非共有結合性複合体を形成する能力について特に選択された共有結合的に連結されるコンジュゲーション部分を有するものである。
【0025】
このクラスのMTTプロドラッグは、式(I):
R’-R (I)
(式中、R’は、表1(配列番号1~635)に列記される交互の陽イオン性アミノ酸および芳香族アミノ酸を有するものの中から選択され、第4の位置におけるC末端アミノ酸が、化学物質の以下の5つのクラス:C4~C30の脂質部分、C4~C30の直鎖もしくは分岐鎖脂肪族部分、2-mer~30-merのペプチド部分、ペグ化された部分、または炭水化物部分のうちの1つの中から選択されるコンジュゲーション部分Rに切断可能な結合により共有結合的に連結されている、MTTである)の化合物であってもよい。
【0026】
このクラスのMTTプロドラッグは、式(II):
R’(-O)-R (II)
(式中、R’は、表1(配列番号1~635)に列記される交互の陽イオン性アミノ酸および芳香族アミノ酸を有するものの中から選択され、第4の位置におけるC末端アミノ酸が、化学物質の以下の5つのクラス:C4~C30の脂質部分、C4~C30の直鎖もしくは分岐鎖脂肪族部分、2-mer~30-merのペプチド部分、ペグ化された部分、または炭水化物部分のうちの1つの中から選択されるコンジュゲーション部分Rに切断可能な結合により共有結合的に連結されている、MTTである)の、縮合またはエステル化反応の生成物であってもよい化合物である。
【0027】
MTTプロドラッグの共有結合的に連結されるコンジュゲーション部分は、不規則な形状の微粒子として製剤化される物質の6つの異なるクラス:脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成することができる有機分子、荷電性リン脂質、荷電性タンパク質、核酸、および多糖のうちの1つに対して非共有結合性の高アビディティの相互作用(または結合)を形成する。MTTプロドラッグ-複合体微粒子の形成は、疎水性分散媒体中での1つ以上のMTTプロドラッグ-複合体微粒子の混合により形成される複合体化ベース持続放出薬物送達システム(XRDDS)との適合性のために薬物の物理化学特性を最適化して、硝子体内(IVT)または眼周囲投与のために特に製剤化された安定な多相性コロイド懸濁液からの制御された持続放出を可能にする。
【0028】
MTTプロドラッグの特色は、生物活性MTTを不活性コンジュゲーション部分に連結する結合が、酵素反応、触媒作用、加水分解、または他の化学反応により容易に切断されることである。MTTプロドラッグ中のこの結合の切断で、放出されるMTTは、ミトコンドリア機能障害の予防または逆転のための完全な生物活性を保持する。
【0029】
切断可能な共有結合は、エステル結合、ヒドラゾン結合、イミン結合、ジスルフィド結合、チオエステル結合、チオエーテル結合、リン酸エステル結合、ホスホン酸エステル結合、ボロン酸エステル結合、アミド結合、カルバミン酸エステル結合、カルボン酸エステル結合、および炭酸エステル結合のうちの1つを含んでもよい。
【0030】
例えば、MTTのクラスの中で、本明細書においてEY005として参照される、MTT H-d-Arg-DMT-Lys-Pheは、式(II):
EY005-Rとして指定される、H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R
【0031】
【化1】
の、縮合またはエステル化反応の生成物であるプロドラッグを形成するために使用され得る。
【0032】
EY005および他のMTTの場合、Rは、MTTの第4の位置におけるアミノ酸のヒドロキシル基においてエステル結合を介して共有結合的に連結されており、化学物質の以下の5つのクラス:C4~C30の脂質部分、C4~C30の直鎖もしくは分岐鎖脂肪族部分、2-mer~30-merのペプチド部分、ペグ化された部分、または炭水化物部分のうちの1つの中から選択される(図4Bの図式)。
【0033】
EY005プロドラッグの1つの例はEY005-ステアリル(図16A)を含み、これにおいてEY005は、エステル結合を介して、長鎖飽和脂肪族アルコールの群からの1つのメンバーであるステアリルアルコールに連結されている。エステル結合の切断で、プロドラッグEY005-ステアリルはEY005 MTTを放出する。これを実験的に実証するために、EY005-ステアリルを37℃、インビトロでカルボキシエステラーゼ(0.1μg/mL)とインキュベートして、硝子体内の、目の生理学的環境およびそこに容易に豊富に存在するエステラーゼのタイプをシミュレートした。カルボキシエステラーゼとのEY005-ステアリルのインキュベーションは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析ならびに溶液中のEY005 MTTおよびEY005-ステアリルプロドラッグの定量化により明らかなように、プロドラッグエステル結合の急速な切断を生成してEY005を放出させた(図17A~17B)。エステラーゼを含まない37℃のリン酸緩衝化食塩水溶液へのEY005-ステアリルプロドラッグの添加で、EY005-ステアリルプロドラッグのエステル結合は加水分解によってより緩徐(約36時間)に切断される(図17Aおよび図17C)。そのため、目の生理学的システムにおいて、MTTを不活性コンジュゲーションに連結するプロドラッグの共有結合は、容易に酵素切断(図18)により、またはより緩徐に加水分解により切断されて、活性MTTが放出される。
【0034】
さらに、MTTプロドラッグの共有結合の切断で、ネイティブなMTTペプチドは、ミトコンドリア機能障害の処置のための生物活性を保持する。例えば、乾燥型AMDのインビトロ細胞培養モデル(モデルの詳細および細胞培養モデルにおけるMTTの効果は図5~10において考察されている)を使用して、EY005-ステアリル(5μM)を、ヒドロキノン(HQ)への曝露により誘導されたミトコンドリア機能障害を有するRPE細胞(内因性エステラーゼを有する)に加えた。EY005-ステアリルは、(細胞フラボプロテイン自家蛍光により描写されるように)RPE細胞におけるHQ誘導性ミトコンドリア機能障害を有効に逆転させ、有効性はEY005ネイティブペプチド(5μM)での処理と同等であった(図19A~19C)。EY005-ステアリルをまた、別々の培地中のカルボキシエステラーゼ(0.1μg/mL)とプレインキュベートした。切断されたEY005(5μM)を含有する回収された培地をミトコンドリア機能障害のこのRPE細胞モデルに加えたところ、これはRPEミトコンドリア機能障害の逆転のためにEY005ネイティブペプチドと同様に有効および同等の効力であった(図19A~19C)。そのため、これらの研究は、MTTプロドラッグから切断された活性MTTは、ミトコンドリア機能障害の処置のための必須のおよび改変されていない生物活性を保持することを裏付ける。
【0035】
一般に、MTTが共有結合的に連結されるコンジュゲーション部分、Rは、ミトコンドリア機能障害の予防または逆転のための生物活性に基づいて選択されない。
本明細書に開示されるのはまた、直接的にポリペプチドとして連結されて一緒になっているか、または、切断可能なコンジュゲーション部分として機能的に役立ち得る、リンカー部分として役立つ化学物質に連結されて間接的に一緒になっている、任意のMTTのホモまたはヘテロ二量体、三量体、多量体を含むMTTプロドラッグである。
【0036】
本明細書に記載されるように、MTT、R’は、化学物質の以下の5つのクラス:C4~C30の脂質部分、C4~C30の直鎖もしくは分岐鎖脂肪族部分、2-mer~30-merのペプチド部分、ペグ化された部分、または炭水化物部分のうちの1つの中から選択されるコンジュゲーション部分Rに共有結合的に連結されていてもよい。
【0037】
コンジュゲーション部分の1つのクラスはC4~C30の脂質部分であり、これは脂質部分をMTTの第4のアミノ酸に結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない。本明細書において、脂質は、水中で不溶性であるが有機溶媒中で可溶性である有機化合物として定義される。脂質は、脂肪酸、脂肪族アルコール、グリセロ脂質、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質、ポリケチド(ケトアシルサブユニットの縮合に由来する)、ステロール脂質、プレノール脂質(イソプレンサブユニットの縮合に由来する)、リン脂質、油、ワックス、およびステロイドを含む。
【0038】
コンジュゲーション部分の1つのクラスはC4~C30の直鎖または分岐鎖脂肪族部分であり、これは脂肪族炭化水素をMTTの第4のアミノ酸に結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない。このクラスは、アルカン、アルケン、およびアルキンならびに4~約30個の炭素から作られた他の炭化水素部分を含む。
【0039】
コンジュゲーション部分の1つのクラスはペプチド部分であり、これはペプチドをMTTの第4のアミノ酸に結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有さず、ペプチド部分は、2-mer~30-merの長さを有する天然または合成アミノ酸ポリマーまたはポリペプチド鎖を含み、該天然または合成アミノ酸ポリマーまたはポリペプチド鎖は、陰イオン性、陽イオン性、または中性の電荷であってもよく、および均質または不均質なアミノ酸リピートを含有してもよい。
【0040】
陰イオン性ペプチド部分は、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸またはグルタミン酸とアスパラギン酸との組合せのうちの少なくとも1つを含んでもよい。
陽イオン性ペプチド部分は、ポリアルギニン、ポリリジン、ポリヒスチジン、アルギニンとリジンとの組合せ、アルギニンとヒスチジンとの組合せ、ヒスチジンとリジンとの組合せ、アルギニンとヒスチジンとリジンとの組合せのうちの少なくとも1つを含んでもよい。
【0041】
ペプチド部分は、ポリエチレングリコール(PEG)基の付加のための1つ以上のPEG化部位を有してもよく、または、グリコシル化を含む、糖もしくは炭水化物分子の付加による修飾のための1つ以上の部位を有してもよい。
【0042】
コンジュゲーション部分の1つのクラスは、直鎖状、分岐鎖状、Y形状、もしくはマルチアーム幾何形状のポリエチレングリコール(PEG)ポリマー、ペグ化されたペプチドもしくはタンパク質、またはペグ化されたコハク酸、例えばスクシンイミジルコハク酸を含む、ペグ化された化合物部分であり、これはペグ化された化合物をMTTの第4のアミノ酸に結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない。
【0043】
コンジュゲーション部分の1つのクラスは、単糖または2~20個の糖のオリゴ糖を含むがそれに限定されない、炭水化物分子部分であり、これは炭水化物をMTTの第4のアミノ酸に結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない。炭水化物分子は、グルコース、ガラクトース、ラクトース、マンノース、リボース、フコース、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルノイラミン酸、またはこれらのいずれかのエピマーもしくは誘導体のうちの1つ以上を含んでもよい。
【0044】
一部の例において、これらのクラスのうちの2つまたはより多くからのエレメントを組み合わせていてもよいコンジュゲーション部分は、複数のミトコンドリア標的化ペプチドに共有結合的に連結されて二量体および/または多量体を形成する多量体リンカー部分として役立ち得る。そのようなリンカーは、ミトコンドリア標的化ペプチドの二量体または多量体を生成する能力を有してもよく、「多量体化ドメイン」として参照され得る。
【0045】
多量体化ドメインを有するMTTプロドラッグは、式(IV):
(R’)-R (IV)
(式中、Rは、複数のミトコンドリア標的化ペプチドR’に共有結合的に連結されてプロドラッグの二量体または多量体を形成するリンカーまたは多量体化ドメインであり、nは2~約100に等しい)を有してもよい。例は、PEGポリマー、ポリビニルアルコール(PVA)ポリマー、またはポリペプチドを含み、リンカーコンジュゲーション部分Rは、MTT R’の2つまたはより多くの分子に共有結合的に連結されて、二量体、三量体、多量体などを形成する。一部の場合において、多量体化ドメインは、MTT単位R’が結合しているアルコール、すなわち、複数の「-OH」基を有する。この状況において、多量体化ドメインに(例えば、エステルまたは別の動的な共有結合を介して)共有結合的に連結されている複数のMTTはMTTプロドラッグ多量体と言及され得る。
【0046】
例えば、プロドラッグ化合物は、以下の式(式中、「n」はPVAポリマーを構成する数である)を有してもよい:
【0047】
【化2】
本明細書に記載されるのはまた、持続放出薬物送達システムのマルチコロイド懸濁液(組成物を含む)ならびにそれらを製造および使用する方法である。本明細書に記載される持続放出薬物送達システム(XRDDS)は、1つ以上の微粒子複合体化剤と混合されて「薬物-複合体」微粒子を形成するMTTプロドラッグを含んでおり、薬物-複合体微粒子は、選択された分散媒体内で合わせられおよび分散されて、安定な多相性コロイド懸濁液を形成する。
【0048】
コロイドは、微粒子物質が、分散媒体と呼ばれる、媒体内で安定的に分散されているが、沈降も移動もしない、混合物である。これはコロイドを懸濁液から区別し、懸濁液において、粒子は重力に起因して懸濁液媒体内で沈降する。コロイドのための典型的な微粒子サイズはナノメートルの範囲内である。コロイドにおいて、混合物の定義となる特徴は、微粒子が最小の沈降または移動と共に安定的に分散されたままであることである。微粒子が液体中に分散されているコロイド混合物は「ゾル」と呼ばれる。微粒子が固体または半固体中に分散されているコロイド混合物は「固体コロイド」と呼ばれる。微粒子が粘性の半固体または固体分散媒体中に安定的に分散されているコロイド混合物は、定義された名称を与えられていない。本明細書において、我々は、典型的なコロイド中に存在するナノ微粒子ではなくより大きいサイズの安定的に分散された微粒子に関して、安定的に分散された微粒子を「コロイド懸濁液」として言及する。本明細書に記載されるように、一部の例において、分散媒体は、安定なコロイド懸濁液を促す疎水性分散媒体である。多相性コロイド懸濁液は、薬物物質が、遊離薬物、薬物-薬物凝集物、および最も重要なことに、複合体化剤微粒子に非共有結合的に結合している薬物を含む、1つより多くの相において存在する懸濁液である。本明細書に記載されるように、多相性コロイド懸濁液は、MTTプロドラッグを薬物物質として組み込んでいてもよい。
【0049】
本明細書に記載される複合体化剤は、プロドラッグのコンジュゲーション部分と非共有結合的に複合体化していてもよく、ならびに分散媒体内に組み込まれおよび安定的に分散されて、多相性コロイド懸濁液を形成していてもよい。
【0050】
分散媒体内での微粒子複合体化剤へのMTTプロドラッグの複合体化は、分散媒体中への遊離MTTプロドラッグの放出を制限するために役立つ。分散媒体はMTTプロドラッグ-複合体微粒子への水のアクセスを制約するが、遊離の結合していないMTTプロドラッグ物質は分散媒体内で自由に拡散し、分散媒体は、遊離の結合していない薬物を保持せず、該薬物は拡散して多相性コロイド懸濁液から出ることができる。
【0051】
複合体化は2つの物理化学的状況において起こる。1つの場合において、複合体化は、個々の分子の間の非共有結合性相互作用(例えば、受容体-リガンド相互作用)と共に起こる。このタイプの複合体化は分子複合体化と称される。第2の状況は、微粒子(この場合、複合体化剤)の表面に非共有結合的に結合または吸着する化学物質の分子(この場合、薬物の分子)を伴う。このタイプの複合体化は微粒子複合体化と称され、異なる微粒子吸着剤、または複合体化剤は、微粒子のサイズおよび形状、表面に存在する官能基、ならびに微粒子の表面不規則性および多孔性に基づいて異なる吸着特性を有する。微粒子複合体化の有用性は、化学的吸着剤(例えば、アルミナ、シリカゲル、活性炭)が土壌中の特有の化学物質(頻繁には夾雑物)と相互作用する土壌科学;吸着剤(例えば、ポリプロピレン、バーミキュライト、パーライト、ポリエチレン、その他)が、油こぼれを洗浄するためまたはドリリングおよびフラッキング機器からの残油を除去するために使用される炭化水素産業;ならびに吸着剤が様々な目的(すなわち、潤滑、表面冷却)のために化学物質に結合するために使用される産業コーティング(例えば、ゼオライト、シリカゲル、リン酸アルミニウム)を含む、他の学問分野において認識されている。
【0052】
医療応用において、吸着剤は、吸着剤が毒素に結合して腸から全身循環への吸着を制限する摂取(例えば、活性炭、ポリスチレン硫酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム)による急性中毒の処置のために使用される。医薬品産業において、吸着複合体化の原理は、血液中の血漿タンパク質に結合する薬物の化学、インサイチュ薬物放出用の固体スキャフォールド(例えば、薬物溶出ステント)上の薬物コーティング、ならびに経口バイオアベイラビリティおよび腸吸収を向上させるための不溶性薬物への賦形剤の付加を理解するために使用される。
【0053】
本明細書に記載される組成物および方法は微粒子複合体化を利用してもよく、複合体化剤はそのため、不規則な形状の微粒子として製剤化された場合に、MTTプロドラッグに非共有結合的に結合してMTTプロドラッグ-複合体微粒子を形成する能力を有する、眼組織と適合性の化学物質である。1つ以上のMTTプロドラッグ-複合体微粒子は疎水性分散媒体中に組み込まれておよび混合されて、安定な多相性コロイド懸濁液を形成し、これは、目の中および周囲に安全に送達されて、処置の所望される持続期間にわたり眼組織中で予測可能な治療レベルのMTTプロドラッグへの連続的な曝露を生成する。
【0054】
MTTプロドラッグのコンジュゲーション部分は、1つ以上の微粒子複合体化剤と複合体化するか、またはそれと非共有結合性相互作用を形成して「薬物-複合体」微粒子を形成するその能力について特に選択され、薬物-複合体微粒子は引き続いて、選択された分散媒体内で合わせられおよび分散されて、安定な多相性コロイド懸濁液を形成する。複合体化剤は、脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成することができる有機化合物、荷電性リン脂質、荷電性タンパク質、核酸、および多糖を含む、化学物質の6つのクラスのうちの1つから選択される。
【0055】
本明細書に記載される組成物および方法は、不規則な表面を有する不規則な形状の微粒子の形態にある場合に、MTTプロドラッグ用の有効な複合体化剤として役立つことができる、脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成することができる有機化合物、荷電性リン脂質、荷電性タンパク質、核酸、および多糖というこれらの6つのクラスの化学物質の、以前に認識されていなかった新たな特性を開示する。複合体化剤のための基準は、(1)MTTプロドラッグのフルオレセイン標識されたコンジュゲーション部分が、MTTそれ自体ではなくコンジュゲーション部分を介して微粒子に結合すること;これは顕微鏡法イメージングにより実証可能である(図20A~20D、図21A~21D、図22A~22D、図23A~23Dを参照);(2)物質の微粒子がMTTプロドラッグの溶液に加えられた場合、微粒子の遠心分離およびプルダウンで、薬理学的に有意な量の薬物が、微粒子と複合体化していることが観察されること(下記の表2を参照);(3)薬物微粒子複合体が、適切な分散媒体中に再懸濁された場合に、特定の分散媒体中での所与のMTTプロドラッグ-複合体化剤ペアについての薬物のKdまたは非結合-結合比率により実証され得る、薬物の部分的な放出を実証すること(下記の表2を参照);ならびに(4)薬物-微粒子複合体が、分散媒体からの有用な薬物動態的放出プロファイルを提供すること(図25Bを参照)を含んでもよい。合わせて、これらの4つの特性は複合体化剤を定義し、本明細書に記載される複合体化ベースXRDDSを可能にする(図26)。
【0056】
対照的に、球状の滑らかな表面、ならびに、例えばシリコーンビーズ、ラテックスビーズ、およびある特定のポリマーマイクロ微粒子を含む、非反応性コーティングを有する球状微粒子は、MTTプロドラッグと複合体を形成せず、したがって除外され得る(例えば、図24A~24Dを参照)。
【0057】
複合体化剤の1つのクラスは脂肪酸であり、これは脂肪族鎖を有するカルボン酸であり、飽和または不飽和であってもよく、塩またはエステルの形態であってもよい。例えば、脂肪酸は、CH3(CH2)COOHの化学式(式中、nは4~30に等しい)を有してもよい。塩形態の脂肪酸の特有の例は、ステアリン酸マグネシウム、パルミチン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、パルミチン酸カルシウム、およびその他を含む。
【0058】
複合体化剤の1つのクラスは、ケト-エノール互変異性体を形成することができる有機化合物である。互変異性体は、ケト形態(ケトンまたはアルデヒド)とエノール形態(アルコール)との間で化学平衡を起こす能力を有する分子を指す。通常、ケト-エノール互変異性化を起こす能力を有する化合物は、ヒドロキシル(-OH)基に隣接する二重結合した炭素原子のペア、すなわち以下に描写されているC=C-OHを含有するエノール互変異性体と平衡状態のカルボニル基(C=O)を含有する:
【0059】
【化3】
ケトおよびエノール形態の相対的な濃度は、平衡、温度またはレドックス状態を含む、特有の分子および化学的微環境の化学的特性により決定される。ケト-エノール互変異性化する能力を有する有機化合物は、フェノール、トコフェロール、キノン、リボ核酸、およびその他を含むがそれに限定されない。
【0060】
複合体化剤の1つのクラスは荷電性リン脂質である。一般に、リン脂質は、グリセロール分子、2つの脂肪酸、およびアルコールにより修飾されたリン酸基からなり、リン脂質の極性ヘッドは典型的には負に荷電している。例は、レシチン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、油中の異なるリン脂質、および多くのその他のものを含み、これらは、複合体化剤として役立つために個々にまたは組合せで使用されてもよい。陰イオン性リン脂質は、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリンまたはホスファチジルイノシトールのうちの1つを含んでもよい。一部の事例において、DLin-MC3-DMAなどの例を含むがそれに限定されない、正電荷を有する合成の、イオン化可能なリン脂質が生産され得る。追加の陽イオン性リン脂質は、ホスファチジルコリンの陽イオン性トリエステル;1,2-ジミリストイル-sn-グリセロール-3-ホスホコリン(DMPC);1,2-ジオレオイル-sn-グリセロール-3-ホスホコリン(DOPC);1,2-ビス(オレオイルオキシ)-3-(トリメチルアンモニオ)プロパン(DOTAP);1,2-ジオレオイル-sn-グリセロール-3-ホスホエタノールアミン(DOPE);1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロール-3-ホスホコリン(DPPC);1,2-ジオレオイル-sn-グリセロール-3-エチルホスホコリン(EDOPC);1,2-ジミリストイル-sn-グリセロール-3-エチルホスホコリン(EDMPC);1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロール-3-エチルホスホコリン(EDPPC)のうちの1つを含んでもよい。医薬品科学において、リン脂質は、バイオアベイラビリティ、低減された毒性、および向上された細胞透過性を向上させるために薬物製剤化および送達応用のために使用されている。しかしながら、本明細書に記載される組成物および方法において、リン脂質は、MTTプロドラッグ複合体微粒子がそこに組み込まれおよび分散される安定な多相性コロイド懸濁液の分散媒体において遊離MTTプロドラッグを調節する目的のためにMTTプロドラッグのコンジュゲーション部分に非共有結合的に結合し、およびMTTプロドラッグ複合体微粒子を形成するための複合体化剤微粒子として使用されてもよい。
【0061】
複合体化剤の1つのクラスは荷電性タンパク質である。タンパク質は、アミノ酸残基の1つ以上の長い変化を含む大きい生体分子および高分子である。タンパク質を作り上げるアミノ酸は、正、負、中性、または極性の性質であってもよく、合わせて、タンパク質を構成するアミノ酸は、タンパク質にその全体的な電荷を与える。様々なタンパク質が、サイズ、分子量、微粒子を容易に形成する能力、および眼組織との適合性に基づいて、複合体化剤として役立ち得る。タンパク質の電荷は、特有のMTTプロドラッグとのその適合性を決定し、負に荷電性タンパク質は、MTTプロドラッグの正に荷電したコンジュゲーション部分と容易に複合体化し、正に荷電性タンパク質(例えば、Arg-Gln-Ile-Arg-Arg-Ile-Ile-Gln-Arg-NHおよび正電荷を有する合成ペプチド)は、MTTプロドラッグの負に荷電したコンジュゲーション部分と容易に複合体化する。複合体化剤として役立ち得るタンパク質の例はアルブミンおよびコラーゲンを含む。
【0062】
複合体化剤の1つのクラスは核酸であり、これは、5炭糖、リン酸基、および含窒素塩基を含む、ヌクレオチドを含むバイオポリマー高分子である。生物学的機能および遺伝情報のコーディングのための核酸の重要性はよく確立されている。しかしながら、核酸はまた、核酸酵素(例えば、カーボンナノマテリアル)、アプタマー(例えば、抗体様の様式で機能する核酸ナノ構造および治療用分子の形成のため)、ならびにアプタザイム(例えば、インビボイメージングのために使用され得る)を含む、様々な応用を有する。医薬品科学において、特別に操作された核酸が、該核酸が様々なタイプの薬物のための担体システムとして役立つ担体ベースシステムにおける使用のために検討および応用されている。しかしながら、本明細書に記載される組成物および方法において、核酸は、担体システムとしてでなく、複合体化剤として考えられ、これは、核酸は高度に負に荷電しており、そのため、微粒子として製剤化されると、MTTプロドラッグの正に荷電したコンジュゲーション部分のための複合体化剤として役立ち得るからである。
【0063】
複合体化剤の1つのクラスは多糖であり、これは、グリコシド連結により結合して一緒になった単糖単位を含む長鎖ポリマー炭水化物である。頻繁に、これらはかなり不均質であり、繰返し単糖単位のわずかな修飾を含有する。構造に依存して、それらは水に不溶性であり得る。他の分子、この場合、様々なMTTプロドラッグに対する多糖微粒子複合体化剤の複合体化は様々な静電相互作用を通じて起こることができ、MTTプロドラッグのコンジュゲーション部分および多糖の電荷密度、多糖複合体化剤とMTTプロドラッグとの比、イオン強度、ならびに他の特性により影響される。複合体化剤として役立ち得る多糖の例は、環状多糖分子、シクロデキストリン、クラスレート、セルロース、ペクチン、または酸性多糖(カルボキシル基、リン酸基、または他の同様に荷電性の基を含有する多糖)を含む。
【0064】
本明細書に記載される組成物および方法において、MTTプロドラッグのコンジュゲーション部分は、所与の複合体化剤に対して特有のアビディティを有し、および該複合体化剤と複合体化して、MTTプロドラッグ-複合体微粒子を形成する。このアビディティは、選択された分散媒体中での所与のMTTプロドラッグ-複合体微粒子についてのMTTプロドラッグの非結合-結合比率である、Kdとして測定され得る。追加的に、MTTプロドラッグ-複合体微粒子は、既知の量の複合体化剤に結合しているMTTプロドラッグの量として定義される、MTTプロドラッグの測定可能な結合能力を実証する。特定の複合体化剤へのMTTプロドラッグのコンジュゲーション部分の結合はそのため、所与の分散媒体からの放出のために利用可能な遊離薬物を制限するために役立つ。
【0065】
本明細書に記載されるように、EY005プロドラッグの1つの例はEY005-ステアリルを含む(例えば、図16A)。EY005はエステル結合を介してステアリルアルコールに連結されているので、結果的なEY005-ステアリルプロドラッグは、高度に親水性である修飾されていないMTT EY005と比較して、疎水性である。EY005-ステアリルは、固体脂質微粒子複合体化剤、例えばステアリン酸マグネシウムと非共有結合性複合体を容易に形成して、MTTプロドラッグ-ステアリン酸マグネシウム微粒子を形成する。このMTTプロドラッグのコンジュゲーション部分の疎水性の長鎖脂肪族アルコールと微粒子複合体化剤ステアリン酸マグネシウムとの間の高アビディティ相互作用は、MTTプロドラッグに結合するために役立ち、MTTプロドラッグ-複合体微粒子が分散された分散媒体からの放出のために利用可能な遊離の結合していないMTTプロドラッグを制限する。
【0066】
EY005プロドラッグの別の特有の例はEY005-トリグルタミン酸(triGlu)(図16B)を含み、この場合、EY005はエステル結合を介してグルタミン酸三量体/トリペプチドに連結されており、グルタミン酸三量体/トリペプチドは、正に荷電した微粒子複合体化剤と非共有結合性複合体を容易に形成してMTTプロドラッグ-複合体微粒子を形成する負に荷電したペプチドコンジュゲーション部分である。この負に荷電したコンジュゲーション部分と微粒子複合体化剤の正電荷との間の高アビディティ相互作用は、MTT-triGluプロドラッグに結合するために役立ち、MTTプロドラッグ-複合体微粒子が分散された分散媒体からの放出のために利用可能な遊離の結合していないMTTプロドラッグを制限する。
【0067】
EY005プロドラッグの別の特有の例はEY005-トリアルギニン(triArg)(図16C)を含み、この場合、EY005はエステル結合を介してアルギニン三量体/トリペプチドに連結されており、アルギニン三量体/トリペプチドは、負に荷電した微粒子複合体化剤と非共有結合性複合体を容易に形成してMTTプロドラッグ-複合体微粒子を形成する正に荷電したペプチドコンジュゲーション部分である。この正に荷電したコンジュゲーション部分と微粒子複合体化剤の負電荷との間の高アビディティ相互作用は、MTT-triArgプロドラッグに結合するために役立ち、MTTプロドラッグ-複合体微粒子が分散された分散媒体からの放出のために利用可能な遊離の結合していないMTTプロドラッグを制限する。
【0068】
本明細書に記載されるように、MTTプロドラッグ-複合体微粒子の形成は、直接的な視覚化により実験的に検証され得る。例えば、MTTプロドラッグEY005-ステアリルをフルオレセインイソチオシアネート(FITC)で蛍光標識し、異なる複合体化剤と混合した。結果的な混合物を次に直接蛍光顕微鏡法下で視覚化した。このアプローチを使用して、FITC標識されたEY005-ステアリルは、いくつかの異なる複合体化剤:ステアリン酸マグネシウム(以前に記載され、および予想されている);大きい荷電性担体タンパク質であるアルブミン;ならびに大きい環状炭水化物分子であるシクロデキストリン、および陰イオン性リン脂質であるレシチンと薬物-複合体微粒子を形成することが観察された(図20A~20D、図21A~21D、図22A~22D、図23A~23Dを参照)。対照的に、FITC標識されたEY005-ステアリルは、シリカマイクロビーズと薬物-複合体微粒子を形成することは観察されず(図24A~24Dを参照)、複合体化および薬物-複合体微粒子形成のプロセスは、薬物と複合体化剤との間の好都合な非共有結合性相互作用に高度に依存することを指し示した。
【0069】
さらに、この非共有結合性相互作用は、MTTプロドラッグのコンジュゲーション部分により特に媒介される。複合体化剤と混合されたFITC標識されたEY005-ステアリルをカルボキシエステラーゼ(0.1μg/mL)の水性溶液で処理して、プロドラッグのエステル結合を加水分解させて蛍光ペプチドを放出させた。複合体化した微粒子は顕微鏡法によりもはや蛍光標識されず、プロドラッグの複合体化はMTTプロドラッグのコンジュゲーション部分により特に媒介されることが確認された(図20D図21D図22D図23Dを参照)。
【0070】
本明細書に記載されるように、複合体化剤が薬物に対して高いアビディティを有する薬物-複合体微粒子の形成は実験的に定量化および検証され得る。例えば、MTTプロドラッグEY005-ステアリルを既知の量の選択された個々の複合体化剤と混合した。EY005-ステアリル-複合体化剤混合物を次に適切な分散媒体(この場合、ラウリン酸メチル)に加え、遠心分離して、複合体化剤に結合したEY005-ステアリルを「プルダウン」したか、または分散媒体中に存在する結合していないプロドラッグから分離した。EY005-ステアリル含有量からのプルダウンされた微粒子および分散媒体のHPLC分析により、MTTプロドラッグ/複合体化剤ペアについて、複合体化剤に結合しているMTTプロドラッグの比率が決定され、非結合対結合係数であるKd値が算出された。このタイプのアッセイを使用して、選択された分散媒体中の特有のMTTプロドラッグ/複合体化剤ペアについてKd値を生成して非結合対結合薬物比を同定することができる(例えば、下記の表2を参照)。
【0071】
本明細書に記載される組成物および方法において、本明細書において定義されている分散媒体は、MTTプロドラッグおよび微粒子複合体化剤との混合でMTTプロドラッグ複合体微粒子を安定的に分散させ、および安定な多相性コロイド懸濁液を形成する疎水性の液体である。
【0072】
本明細書に記載される組成物および方法は、ある特定の油が有効な分散媒体として役立つことを可能とする該油の新たなおよび以前に認識されていない特性を開示する。これらは、疎水性、高い出発粘度、およびMTTプロドラッグ-複合体微粒子と混合された場合に安定な多相性コロイド懸濁液を形成することを可能とする他の特性を含む。安定な多相性コロイド懸濁液を定義する基準は、インビトロで目の生理学的環境(すなわち、37℃、緩衝食塩水、硝子体酵素、希釈された血清)に曝露された後の、またはインビボで目の中に注射された場合の、インプラントの寿命の予め指定された持続期間にわたり微粒子の沈降、分離、または解離のいずれも伴わないMTTプロドラッグ-複合体微粒子の均一な混合物および分布を含む。安定性はまた、MTTプロドラッグ-複合体微粒子と油との相対的なパーセンテージ(重量対重量)ならびに微粒子のサイズおよび質量に依存する。
【0073】
安定な多相性コロイド懸濁液の形成のためにこれらの基準を満たす油の4つのクラスは、飽和脂肪酸メチルエステル、不飽和脂肪酸メチルエステル、飽和脂肪酸エチルエステル、または不飽和脂肪酸エチルエステルを含む。分散媒体は、これらのクラスのうちの1つからの個々の油であることができるか、または安定なコロイド懸濁液の所望される目標を達成するために特に設計および混合される異なる粘度値を有する油の混合物として設計され得る。
【0074】
対照的に、シリコーン油、粘性ゼラチン、および粘性プロテオグリカンを含むある特定の他の油および粘性物質は、安定な多相性コロイド懸濁液を形成しないか、または生理学的な目の微環境(例えば、37℃、緩衝食塩水、硝子体酵素、希釈された血清)に曝露されるかもしくはインビボで目の中に注射された場合に急速に機能しなくなる。
【0075】
MTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液の1つの例において、ステアリン酸マグネシウム(固体脂肪酸)複合体化剤と混合されたEY005-ステアリルおよびEY005-ステアリルはアルファ-トコフェロール(ケト-エノール互変異性体)複合体化剤と混合され、両方の薬物-複合体微粒子ペアはラウリン酸メチル中に組み込まれて、安定な多相性コロイド懸濁液、またはMito XRボーラスインプラントが形成される。
【0076】
インビトロ動態研究において、Mito XRのこのパイロット製剤は、EY005生物活性テトラペプチドの0次(すなわち、線形)動態を達成して、分散媒体内の遊離の生物活性MTTがインプラントから目の生理学的環境中に放出される3か月の薬物放出の所望される耐久性を達成した(図27を参照)。
【0077】
インビトロ有効性研究において、Mito XRのボーラスインプラントを、内因性エステラーゼを有するRPE細胞培養モデルに加えた。細胞培養データは、細胞ミトコンドリア機能障害の逆転と関連付けられる21日の時点における約80%の改善(図28A~28D)を伴う、細胞骨格の回復を実証した。複合体化剤と混合され、分散媒体中に組み込まれてMito XRの製剤中の安定な多相性コロイド懸濁液を形成するEY005-ステアリルは、多相性コロイド懸濁液の分散媒体から周囲の目の生理学的環境中へと放出されるMTTプロドラッグの切断で生物活性となる、予測可能な治療レベルのEY005の持続的な放出を生成できることをこのデータは裏付ける。
【0078】
一部の例において、MTTプロドラッグは、動物またはヒトの目の中に配置される、本明細書に記載される複合体化ベース持続放出薬物送達システム、Mito XR内に製剤化されてもよい。例えば、ウサギの目の中の複合体化ベース持続放出薬物送達システム内に製剤化されたMTTプロドラッグの硝子体内投与は、所望される1日当たりの放出速度での活性MTTの持続的な放出を生成し、ならびに硝子体および網膜中の薬物の所望される標的組織レベルを達成することが見出されている。
【0079】
インビボ動態研究において、LC/MS分析を使用して、我々は、ウサギの目におけるIVT Mito XR(EY005-ステアリルペイロード、1mg)ボーラス注射後6週を通じて持続される高い網膜EY005レベル(>300ng/g)を測定し(図29)、内因性エステラーゼはインビボで活性EY005を放出させることが確認された。回収されたボーラスは約50%の残留ペイロードを有し、インプラント製剤は、0次放出動態を考慮して、EY005レベル>EC50の約90日の放出を達成することを指し示した。
【0080】
重要なことに、Mito XRの製剤は、ウサギの目において臨床的に忍容性良好なようであり(図30A)、毒性の組織学的証拠を伴わなかった(図30B)。
EY005-ステアリルプロドラッグとは対照的に、EY005ネイティブテトラペプチドは、複合体化剤と非共有結合性相互作用を形成しない。FITC標識されたEY005は、異なる複合体化剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、アルブミン、シクロデキストリン、レシチン)と混合された場合に、可視的な薬物-複合体微粒子を生成しなかった(図20B図21B図22B、および図23B)。
【0081】
さらに、EY005-ステアリルのMito XR製剤のために使用されたものと同じ複合体化剤および同じ分散媒体を用いたEY005ネイティブ生物活性ペプチドの組込みは、インビトロで生物活性MTTの過度の放出、または「ダンプ」(dump)を生成した(図27)。追加的に、硝子体中に投与されたEY005ネイティブペプチドの多相性コロイド懸濁液ボーラス製剤は、21日を超えて検出可能なEY005組織レベルを生成せず(図29)、インビボでもネイティブMTT薬物の過度の放出を指し示した。さらに、回収されたボーラス中に残留薬物はなく、過度の薬物放出または「ダンピング」と合致している。そのため、多相性コロイド懸濁液中へのネイティブな修飾されていないMTTの組込みは、持続的な放出を生成するために不十分であり、持続放出薬物送達システムの仕様を達成しない。重要なことに、これらのデータは、多相性コロイド懸濁液の分散媒体から放出された遊離MTTプロドラッグの共有結合の切断後の組織中への活性MTTの制御された、永続性のある放出を達成するための、プロドラッグ構築物、およびMTTプロドラッグ-複合体微粒子を形成するためのプロドラッグコンジュゲーション部分と複合体化剤との間の特異的相互作用の必要性を裏付けおよび強調する(図31~32)。
【0082】
1つ以上の微粒子複合体化剤と相互作用して、適切な分散媒体中で混合された場合に、安定な多相性コロイド懸濁液およびMito XRの結果的な製剤を形成するMTTプロドラッグ-複合体微粒子を形成する、本明細書に記載されるMTTプロドラッグ化合物は、Mito XRインプラントの単回投与後に1~12か月またはより長い持続期間にわたりEC50(すなわち、ミトコンドリア機能障害の逆転のための最大応答の50%を生成する薬物の有効濃度)を満たすかまたは上回る活性MTTの硝子体および網膜濃度を提供し得る。
【0083】
持続される高い眼組織レベル、および本明細書に記載される網膜疾患病理生物学の処置のための結果的な利益は、修飾されていないミトコンドリア標的化ペプチドの全身投与または硝子体内投与を用いて実現可能でない。適合性XRDDS、この場合、複合体化ベースXRDDS中へのMTTプロドラッグの成功裏の組込みは、眼疾患(例えば、加齢黄斑変性症(AMD))のためのこれらの治療的な利益を達成するために必須である。
【0084】
本明細書に記載されるMito XRの組成物および方法は、乾燥型AMD、滲出型AMD、糖尿病網膜症(DR)、網膜静脈閉塞症(RVO)、後天性および遺伝性網膜変性症、ならびに他の網膜および視神経疾患を含む、眼疾患の様々な網膜および背部を処置するために硝子体内または眼周囲投与経路による目へのインプラントの送達により応用されてもよい。
【0085】
Mito XRのインプラントは、放出および細胞有効性についてのインビトロ研究、ならびに毒物学、薬物動態(PK)、および有効性についてのインビボ研究により特徴付けられており、網膜疾患を罹患したヒトおよび動物における臨床使用のためのそれらの潜在的な有用性を実証している。
【0086】
インプラントからの生物活性薬物の放出は、多相性コロイド懸濁液の分散媒体内の遊離の結合していないMTTプロドラッグの、周囲の目の生理学的環境中への拡散、および身体の組織区画内(すなわち、硝子体内または眼周囲組織内)の天然酵素を介する共有結合の切断によるプロドラッグからの活性MTTの放出に依存している。代替的に、プロドラッグからの活性MTTの放出は、インプラントから目の生理学的環境中に放出されるMTTプロドラッグの加水分解により起こり得る。
【0087】
局所眼投与用の治療用組成物は、本明細書に記載されるMTTプロドラッグのいずれかを含んでもよく、MTTプロドラッグのコンジュゲーション部分は、選択された適合性の複合体化剤と非共有結合性相互作用(複合体)を形成してMTTプロドラッグ-複合体微粒子を形成し、MTTプロドラッグ-複合体微粒子は次に、疎水性分散媒体内に組み込まれおよび混合されて、安定な多相性コロイド懸濁液を形成する。コンジュゲーション部分、複合体化、および多相性コロイド懸濁液内の複合体微粒子の安定な分散体の組み合わせられた効果は、活性MTT薬物の物理化学特性を変更し、インプラントから目の生理学的環境中への放出のために利用可能な遊離MTTプロドラッグの量を制限し、およびMTTプロドラッグ-複合体微粒子への水のアクセスを制約して、疾患処置の所望される持続期間にわたり治療レベルの活性薬物の持続的な放出および連続的な、予測可能な曝露を促す。
【0088】
本明細書に記載されるのはまた、分散媒体内のプロドラッグのコンジュゲーション部分と複合体化剤との間の非共有結合性相互作用を促し、および分散媒体内の遊離MTTプロドラッグの量を制限するために役立つ不活性コンジュゲーション部分に共有結合的に連結された生物活性MTTを含むMTTプロドラッグを使用することによる目におけるおよび目の周囲におけるミトコンドリア機能障害を処置する方法である。
【0089】
一般に、目におけるおよび目の周囲におけるミトコンドリア機能障害を処置する方法は、本明細書に記載される治療用組成物のいずれかを投与することを含んでもよい。
記載されるのはまた、エリプソイドゾーンを含む神経感覚網膜構造を処置または保存し、RPE異形症、RPE関連細胞外マトリックス脱調節、異常RPE代謝、RPE下沈着、および/またはドルーゼ沈着を処置する方法であって、本明細書に記載される治療用組成物のいずれかを投与して、疾患のこれらの病的特色を修飾するために十分に高い持続的な活性薬物の網膜およびRPE組織レベルを生成するMito XRの製剤の硝子体内または眼周囲注射を特に可能にすることによる、方法である。
【0090】
記載されるのはまた、網膜および眼疾患を有する患者において視力を改善するかまたは視力低下を予防する方法であって、本明細書に記載される治療用組成物のいずれかを投与して、関連する眼組織の機能を改善するために十分に高い持続的な活性薬物の眼組織レベルを生成するMito XRの製剤の硝子体内または眼周囲注射を特に可能にすることによる、方法である。
【0091】
記載されるのはまた、萎縮性網膜疾患、例えば、地図状萎縮症の発病または進行を予防する方法であって、本明細書に記載される治療用組成物のいずれかを投与して、細胞の健康状態を回復させ、細胞死を制限し、および重要組織の進行性喪失を予防するために十分に高い持続的な活性薬物の網膜およびRPE組織レベルを生成するMito XRの製剤の硝子体内または眼周囲注射を特に可能にすることによる、方法である。
【0092】
これらの方法のいずれにおいても、活性MTTは、硝子体または目の他の組織内に存在するエステラーゼによるプロドラッグの切断を介して放出されてもよい。活性ミトコンドリア標的化ペプチドは、生物活性ミトコンドリア標的化ペプチド薬物の放出を結果としてもたらす加水分解または他の反応を介して放出されてもよい。放出される生物活性MTT薬物は、H-d-Arg-DMT-Lys-Phe-OH、または表1中のリストにおいて開示される任意のMTTであってもよい。
【0093】
投与は、Mito XRのインプラントの注射を介する局所眼投与を含んでもよい。
Mito XRは、硝子体内(IVT)、眼周囲、テノン嚢下、結膜下、上脈絡膜、または前房内経路を使用して目の中に投与されてもよい。投与は、目の硝子体中へのボーラスのモダリティーとしてMito XRの製剤を注射することを含んでもよい(図33A図34))。
【0094】
投与は、持続放出薬物製剤デバイスのモダリティーとしてMito XRインプラント(多相性コロイド懸濁液)内のプロドラッグの製剤を注射することを含んでもよい。持続放出薬物送達システムは、目の硝子体中に生体内分解性または非生体内分解性インプラントを送達することを含んでもよい(図33図34)。
【0095】
これらの方法のいずれも、対象の目の中にMito XRを投与するための1~12か月の処置間隔を含んでもよい。方法は、乾燥型加齢黄斑変性症(AMD)、滲出型AMD、糖尿病網膜症(DR)、網膜静脈閉塞症(RVO)、網膜色素変性症(RP)、緑内障、視神経疾患を含む、網膜および視神経疾患を処置するか、または網膜および/もしくは視神経の神経保護のための方法であってもよい。
【0096】
方法は、血管内皮増殖因子の阻害、補体阻害、または抗炎症性薬物、例えばコルチコステロイドの投与を含む、他の処置モダリティーと組み合わせて使用されてもよい。
対象の目におけるミトコンドリア機能障害の処置方法は、処置開始時に対象の目の中にMito XRの製剤中に組み込まれたMTTプロドラッグを送達すること;およびプロドラッグの共有結合の切断により、第1の段階の間にバースト段階放出速度において;引き続いて第2の段階の間に定常状態放出速度において目の中に活性MTTを放出することを含んでもよく、バースト段階速度は定常状態投与速度よりも高く、さらに第1の段階は処置開始から約2~6週間に及び、ならびに引き続いての段階(第2の段階、ならびに一部の事例において第2および第3の段階)は第1の段階の終わりから1か月以上に及ぶ。
【0097】
対象の目におけるRPE異形症またはRPE下沈着の処置方法は、処置開始時に対象の目の中にMito XRの製剤中に組み込まれたMTTプロドラッグを送達すること;およびプロドラッグの共有結合の切断により、第1の段階の間にバースト段階放出速度において;引き続いて第2の段階の間に定常状態放出速度において目の中に活性MTTを放出することを含んでもよく、バースト段階速度は定常状態投与速度よりも高く、さらに第1の段階は処置開始から約2~6週間に及び、ならびに引き続いての段階(第2の段階、ならびに一部の事例において第2および第3の段階)は第1の段階の終わりから1か月以上に及ぶ。
【0098】
対象における視力低下の処置方法は、処置開始時に対象の目の中にMito XRの製剤中に組み込まれたMTTプロドラッグを送達すること;およびプロドラッグの共有結合の切断により、第1の段階の間にバースト段階放出速度において;引き続いて第2の段階の間に定常状態放出速度において目の中に活性MTTを放出することを含んでもよく、バースト段階速度は定常状態投与速度よりも高く、さらに第1の段階は処置開始から約2~6週間に及び、ならびに引き続いての段階(第2の段階、ならびに一部の事例において第2および第3の段階)は第1の段階の終わりから1か月以上に及ぶ。
【0099】
対象における視力低下の処置方法は、処置開始時に対象の目の中にMito XRの製剤中に組み込まれたMTTプロドラッグを送達すること;およびプロドラッグの共有結合の切断により、第1の段階の間にバースト段階放出速度において;引き続いて第2の段階の間に定常状態放出速度において目の中に活性MTTを放出することを含んでもよく、バースト段階速度は定常状態投与速度よりも高く、さらに第1の段階は処置開始から約2~6週間に及び、ならびに引き続いての段階(第2の段階、ならびに一部の事例において第2および第3の段階)は第1の段階の終わりから1か月以上に及ぶ。
【0100】
対象において萎縮性網膜疾患の発病または進行を予防する方法は、処置開始時に対象の目の中にMito XRの製剤中に組み込まれたMTTプロドラッグを送達すること;およびプロドラッグの共有結合の切断により、第1の段階の間にバースト段階放出速度において;引き続いて第2の段階の間に定常状態放出速度において目の中に活性MTTを放出することを含んでもよく、バースト段階速度は定常状態投与速度よりも高く、さらに第1の段階は処置開始から約2~6週間に及び、ならびに引き続いての段階(第2の段階、ならびに一部の事例において第2および第3の段階)は第1の段階の終わりから1か月以上に及ぶ。
【0101】
本明細書に記載される方法および装置のすべては、任意の組合せにおいて、本明細書において想定され、および本明細書に記載されている利益を達成するために使用され得る。
本明細書に記載されるのは、選択されたMTTプロドラッグが複合体化剤微粒子と混合されて、MTTプロドラッグ-複合体微粒子が形成される、Mito XRを生産する方法である。1つ以上のMTTプロドラッグ-複合体微粒子は次に、選択された分散媒体に加えられておよび組み込まれて、安定な多相性コロイド懸濁液が形成される。MTTプロドラッグ、複合体化剤、および分散媒体の結果的な製剤はMito XRのインプラントを形成する(図35)。
【0102】
Kdの特性は、所与の複合体化剤に対するMTTプロドラッグのアビディティの指標であり、所与の分散媒体中のMTTプロドラッグ-複合体微粒子についてのMTTプロドラッグの非結合-結合比率として定義される。特有のKd値は、本明細書に記載されるように、指定される放出アッセイにより測定され得る。
【0103】
インプラントからのMTTプロドラッグの放出の調節は、分散媒体内の非結合比率により決定され、これは次いで、特有の分散媒体内の所与の複合体化剤についての非結合対結合MTTプロドラッグの比として定義されるKdにより決定される。特定のMTTプロドラッグ-複合体微粒子についてのKdの知識は、予め指定された放出動態プロファイルを達成するためのプロドラッグ-複合体化剤の特有の組合せの選択を可能とする。多相性コロイド懸濁液中に1つより多くの複合体化剤を含めることは、経時的に分散媒体内の薬物の非結合比率を、およびそのためシステムの放出動態を調節するために使用され得る(図25B図35A~35E、図36を参照)。
【0104】
例えば、Mito XRの一部の製剤において、放出の第1の段階および第2の段階があってもよく、第1の段階の間のミトコンドリア標的化テトラペプチドの放出の増加があり、および引き続いての第2の段階の間のミトコンドリア標的化テトラペプチドのより低い放出がある(図36を参照)。この製剤は、2つの異なるMTTプロドラッグ-複合体微粒子の組合せにより達成されてもよく、1つの複合体微粒子は、第1の複合体化剤に対するMTTプロドラッグの低い親和性を反映して、高いKdを有し、および第2の複合体微粒子は、第2の複合体化剤に対するMTTプロドラッグの高い親和性を反映して、低いKdを有する。この状況において、放出の第1の段階は、より高いKd(低い親和性)の微粒子からのMTTプロドラッグ放出の「バースト」のより高い速度であってもよく、および放出の第2の段階は、より低いKd(より高い親和性)の微粒子からのMTTプロドラッグ放出のより遅い、定常状態である。この方式において、異なるMTTプロドラッグ-複合体微粒子は、Mito XR製剤からのMTTプロドラッグ放出の予め特定された動態プロファイルを達成するために、所望される比および割合で、特に選択および組合せされ得る。
【0105】
そのような例において、選択された分散媒体中に組み込まれた2つまたはより多くのMTTプロドラッグ-複合体微粒子の組合せについての組み合わせられた効果は、Mito XRインプラント内に組み込まれたおよび分散された個々の薬物-複合体化剤微粒子構成要素からの放出速度の積分に基づく2つまたはより多くの段階におけるMTTの放出である(図35)。
【0106】
インビボ硝子体濃度においてMito XRにより達成される実際の放出動態は、1か月またはより長い持続放出持続期間にわたりEC50を満たすかまたはそれを上回るものであってもよい。EC50は、ミトコンドリア機能障害の特有のリードアウトにより、既存のミトコンドリア機能障害の逆転およびミトコンドリア機能障害の新たな発病の予防の両方について測定されるミトコンドリア機能障害における低減のために最大応答の50%を達成するMTTプロドラッグ化合物の濃度を反映する。
【0107】
2段階放出動態を有するMito XRの製剤において、硝子体中のMTTプロドラッグの濃度は、初期バースト段階の間に逆転EC50を上回ってもよく、および引き続いて第2の(定常状態)段階にわたり予防EC50を上回ってもよく、ならびに放出動態、特有のMTTプロドラッグ-複合体微粒子の選択、異なる微粒子組合せの特有の比および割合、ならびにMito XR製剤中のMTTプロドラッグのペイロード全量は、薬物放出の所望される持続期間にわたりこの設計された放出動態を達成するために選択されてもよい。
【0108】
単一段階放出動態を有するMito XRの製剤において、硝子体中のMTTプロドラッグの濃度は、ミトコンドリア機能障害の逆転のためのEC50を上回ってもよい。
3段階放出動態を有するMito XRの製剤において、硝子体中のMTTプロドラッグの濃度は、第1の段階の間にミトコンドリア機能障害の逆転のためのEC50を上回ってもよく、第2の段階の間に定常状態放出のためにミトコンドリア機能障害の予防のためのEC50を上回ってもよく、および第3の、後期バースト段階の間にミトコンドリア機能障害の逆転のためのEC50を上回ってもよい。
【0109】
多相性コロイド懸濁液は、流動性ボーラスインプラント(図33A)、特有のサイズおよび形状の固体モールド、または生体内分解性もしくは非生体内分解性スリーブもしくは外側カバリングを充填してチューブインプラントを形成する半固体(図33B)を含む、硝子体中に注射され得る複合体化ベース持続放出薬物送達システムのいくつかのモダリティー(図33A~33Cおよび図34)のうちの1つとして製剤化されてもよい。一部の例において、チューブは、それ自体が持続放出薬物送達システムを形成していてもよい。他の例において、チューブは、眼組織と適合性の生体内分解性ポリマー(例えば、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)PLGA)を含んでもよい。一部の例において、チューブは、MTTプロドラッグの放出のために開いた1つまたは両方の端部を有してもよい。チューブは、図34(右)に示されるように硝子体中に、または眼周囲組織中に針またはカニューレ(図33B)を介して注射されてもよい。一部の例において、MTTプロドラッグを組み込んでいる持続放出薬物送達システムは、モールド成形されてもよい(図33C)。
【0110】
例えば、本明細書に記載されるのは、切断可能な共有結合によりコンジュゲーション部分に連結されている、交互の陽イオン性アミノ酸残基および芳香族アミノ酸残基を含有するミトコンドリア標的化テトラペプチド(MTT)(例えば、配列番号1~635からのMTTのいずれか)を含むプロドラッグ化合物である。
【0111】
一部の例において、プロドラッグ化合物は、式:R’-R(式中、R’は、C末端アミノ酸が切断可能な共有結合によりRに共有結合的に連結されている交互の陽イオン性アミノ酸残基および芳香族アミノ酸残基を含有するミトコンドリア標的化テトラペプチド(MTT)であり、Rは、酵素切断、触媒作用、加水分解、または他の反応により除去されて遊離ミトコンドリア標的化テトラペプチドR’およびコンジュゲーション部分Rをもたらし得るコンジュゲーション部分であり、Rは、C4~C30の脂質部分(脂肪酸もしくは脂肪族アルコール)、C4~C30の直鎖もしくは分岐鎖脂肪族部分、2-mer~30-merのペプチド部分、ペグ化された部分、または炭水化物部分から選択される)を有する。
【0112】
一部の例において、プロドラッグ化合物は、式:R’(-O)-R(式中、R’は、C末端アミノ酸ヒドロキシル基がエステル結合を介してRに連結されている交互の陽イオン性アミノ酸残基および芳香族アミノ酸残基を含有するミトコンドリア標的化テトラペプチド(MTT)であり、Rまたは-O-Rは、C4~C30の脂質部分(脂肪酸もしくは脂肪族アルコール)、C4~C30の直鎖もしくは分岐鎖脂肪族部分、2-mer~30-merのペプチド部分、ペグ化された部分、または炭水化物部分から選択されるコンジュゲーション部分である)を有する。
【0113】
一部の例において、プロドラッグ化合物は、H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(EY005-Rと呼称される):
【0114】
【化4】
(式中、第4のアミノ酸は、エステル結合を介してRに連結されており、およびRまたは-O-Rは、C4~C30の脂質部分、(脂肪酸もしくは脂肪族アルコール)、C4~C30の直鎖もしくは分岐鎖脂肪族部分、2-mer~30-merのペプチド部分、またはペグ化された部分、または炭水化物部分から選択されるコンジュゲーション部分である)の式を有する。
【0115】
一部の例において、プロドラッグ化合物は、以下の式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-オクタデシル;H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-Arg()(式中、nは1~30である);H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-Glu()(式中、nは1~30である)のうちの1つを有する。H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-オクタデシルはまた、同等にH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ステアリルと称される。
【0116】
本明細書に記載されるのはまた、分散媒体中で混合された、ミトコンドリア標的化テトラペプチド(MTT)プロドラッグおよび1つ以上の複合体化剤を含む多相性コロイド懸濁液の組成物である。MTTは、配列番号1~635のうちの1つからの配列を有するミトコンドリア標的化ペプチドである。複合体化剤は、6つのクラス:脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成することができる有機化合物、荷電性リン脂質、荷電性タンパク質、リボ核酸、および多糖のうちの1つから選択される、MTTプロドラッグ-複合体微粒子を形成する能力を有する、不規則な形状の微粒子として製剤化される化学物質であってもよい。例えば、複合体化剤は脂肪酸であってもよく、脂肪酸は、飽和または不飽和であってもよい、および塩またはエステルの形態であってもよい、CH3(CH2)COOH(式中、nは4~30に等しい)の化学式を有する脂肪族鎖を有するカルボン酸であり、および以下:パルミチン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、パルミチン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウムを含む。複合体化剤は、ケト形態(ケトンまたはアルデヒド)とエノール形態(アルコール)との間で化学平衡を起こす能力を有する分子であるケト-エノール互変異性体を形成することができる有機化合物のうちの1つ以上であってもよく、ならびに以下:フェノール化合物、トコフェロール化合物、キノン化合物、リボ核酸化合物を含む。複合体化剤は、荷電性リン脂質のうちの1つ以上であってもよく、および以下:陰イオン性リン脂質、レシチン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、正電荷を有する合成リン脂質、DLin-MC3-DMAを含む。複合体化剤は、正または負であってもよい荷電性タンパク質であってもよく、およびアルブミン、合成ポリペプチド、血漿タンパク質、アルファ2-マクログロブリン、フィブリン、コラーゲンを含む。一部の例において、複合体化剤は、5炭糖、リン酸基、および含窒素塩基を含む、ヌクレオチドを含むバイオポリマー高分子を含むリボ核酸である。一部の例において、複合体化剤は多糖であり、これは、グリコシド連結により結合して一緒になった単糖単位を含む長鎖ポリマー炭水化物であり、および環状多糖分子、シクロデキストリン、クラスレートを含む。
【0117】
分散媒体は、多相性コロイド懸濁液を形成する能力を有してもよく、および選択されたMTTプロドラッグ-複合体微粒子と混合された場合に多相性コロイド懸濁液を形成することが以前に知られていない疎水性油の4つのクラス:飽和脂肪酸メチルエステル、不飽和脂肪酸メチルエステル、飽和脂肪酸エチルエステル、不飽和脂肪酸エチルエステルの中から選択されてもよい。分散媒体は、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、ブチル酸メチル、ペンタン酸メチル、ヘキサン酸メチル、ヘプタン酸メチル、オクタン酸メチル、ノナン酸メチル、デカン酸メチル、ウンデカン酸メチル、ドデカン酸メチル(ラウリン酸メチル)、トリデカン酸メチル、テトラデカン酸メチル、9(Z)-テトラデセン酸メチル、ペンタデカン酸メチル、ヘキサデカン酸メチル、ヘプタデカン酸メチル、オクタデセン酸メチル、ノナデカン酸メチル、エイコサン酸メチル、ヘンエイコサン酸メチル、ドコサン酸メチル、およびトリコサン酸メチルのうちの1つ以上を含む飽和脂肪酸メチルエステルを含んでもよい。分散媒体は、10-ウンデセン酸メチル、11-ドデセン酸メチル、12-トリデセン酸メチル、9(E)-テトラデセン酸メチル、10(Z)-ペンタデセン酸メチル、10(E)-ペンタデセン酸メチル、14-ペンタデセン酸メチル、9(Z)-ヘキサデセン酸メチル、9(E)-ヘキサデセン酸メチル、6(Z)-ヘキサデセン酸メチル、7(Z))-ヘキサデセン酸メチル、11(Z)-ヘキサデセン酸メチルのうちの1つ以上を含む不飽和脂肪酸メチルエステルを含んでもよい。分散媒体は、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、ブチル酸エチル、ペンタン酸エチル、ヘキサン酸エチル、ヘプタン酸エチル、オクタン酸エチル、ノナン酸エチル、デカン酸エチル、ウンデカン酸エチル、ドデカン酸エチル(ラウリン酸エチル)、トリデカン酸エチル、テトラデカン酸エチル、9(Z)-テトラデセン酸エチル、ペンタデカン酸エチル、ヘキサデカン酸エチル、ヘプタデカン酸エチル、オクタデセン酸エチル、ノナデカン酸エチル、エイコサン酸エチル、ヘンエイコサン酸エチル、ドコサン酸エチル、およびトリコサン酸エチルのうちの1つ以上を含む飽和脂肪酸エチルエステルを含んでもよい。一部の例において、分散媒体は、10-ウンデセン酸エチル、11-ドデセン酸エチル、12-トリデセン酸エチル、9(E)-テトラデセン酸エチル、10(Z)-ペンタデセン酸エチル、10(E)-ペンタデセン酸エチル、14-ペンタデセン酸エチル、9(Z)-ヘキサデセン酸エチル、9(E)-ヘキサデセン酸エチル、6(Z)-ヘキサデセン酸エチル、7(Z))-ヘキサデセン酸エチル、11(Z)-ヘキサデセン酸エチルのうちの1つ以上を含む不飽和脂肪酸エチルエステルを含んでもよい。
【0118】
本明細書に記載されるのはまた、ミトコンドリア標的化テトラペプチド(MTT)プロドラッグ多相性コロイド懸濁液を使用して目のミトコンドリア障害を処置する方法であって、硝子体内(IVT)、眼周囲、テノン嚢下、結膜下、上脈絡膜、または前房内投与経路のうちの1つ以上を含む、局所眼投与によりMTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液を投与することを含む、方法である。MTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液は、乾燥型加齢黄斑変性症(AMD)、滲出型AMD、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、網膜静脈閉塞症(RVO)、ならびに遺伝性網膜変性症(IRD)、網膜変性症、外傷性傷害、虚血性血管症、後天性または遺伝性視神経症、緑内障、眼内炎、網膜炎、ぶどう膜炎、網膜およびぶどう膜の炎症性疾患、フックス角膜ジストロフィー、角膜浮腫、眼表面疾患、ドライアイ疾患、慢性進行性外眼筋麻痺症(CPEO)、結膜の疾患、眼周囲組織の疾患、ならびに眼窩の疾患のうちの1つ以上を含む、目の状態および疾患の発病の予防または進行の緩慢化、視力低下の予防または視力の改善、該状態および疾患の破壊的なまたは変性性の態様の発病の予防または改善のうちの1つ以上により目のミトコンドリア障害を処置するために使用されてもよい。
【0119】
局所眼投与によるMTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液の投与は、インプラントからの投与を含んでもよく、該投与において、不規則な形状の微粒子複合体化剤へのMTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液のコンジュゲーション部分の可逆的な非共有結合性複合体化によるMTTプロドラッグ-複合体微粒子の形成と、疎水性分散媒体内のMTTプロドラッグ-複合体微粒子の安定な分散との組合せは、インプラントから目の生理学的環境中への放出のために利用可能な遊離MTTプロドラッグを制限する。
【0120】
目のミトコンドリア障害の処置は、MTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液の製剤の硝子体内または眼周囲注射による治療レベルのMTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液への網膜色素上皮(RPE)および網膜組織の連続的な持続的な曝露によるヒト患者または動物におけるRPE異形症、RPE関連細胞外マトリックス脱調節、および/またはRPE下沈着の処置を含んでもよい。一部の例において、目のミトコンドリア障害の処置は、MTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液の製剤の硝子体内または眼周囲注射による治療レベルのMTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液への網膜色素上皮(RPE)および網膜組織の連続的な持続的な曝露による、患者における視力の改善または視力低下の予防を含む。
【0121】
例えば、対象の目におけるミトコンドリア機能障害の処置方法は、処置開始時に対象の目の中に持続放出薬物送達システムと組み合わせられたミトコンドリア標的化テトラペプチドのプロドラッグを送達すること;および、対象の目におけるエステラーゼの作用による、プロドラッグの切断により、第1の段階の間にバースト段階放出速度において目の中にミトコンドリア標的化テトラペプチドを放出させること;および、エステラーゼの作用による、プロドラッグの切断により、第2の段階の間に定常状態放出速度において目の中にミトコンドリア標的化テトラペプチドを放出させることを含んでもよく、バースト段階放出速度は定常状態放出速度よりも高く、さらに第1の段階は処置開始から約2~6週間に及び、および第2の段階は第1の段階の終わりから1か月以上に及ぶ。
【0122】
活性薬物の高い持続的な網膜および網膜色素上皮(RPE)組織レベルを生成する持続放出薬物送達システム中の製剤の局所的な硝子体内または眼周囲注射による対象の目における網膜色素上皮(RPE)異形症またはRPE下沈着の処置方法は、処置開始時に対象の目の中に持続放出薬物送達システムと組み合わせられたミトコンドリア標的化テトラペプチドのプロドラッグを送達すること;対象の目におけるエステラーゼの作用による、プロドラッグの切断により、第1の段階の間にバースト段階放出速度において目の中にミトコンドリア標的化テトラペプチドを放出させること;および、エステラーゼの作用による、プロドラッグの切断により、第2の段階の間に定常状態放出速度において目の中にミトコンドリア標的化テトラペプチドを放出させることを含んでもよく、バースト段階放出速度は定常状態放出速度よりも高く、さらに第1の段階は処置開始から約2~6週間に及び、および第2の段階は第1の段階の終わりから1か月以上に及ぶ。
【0123】
一部の例において、活性薬物の高い持続的な網膜および網膜色素上皮(RPE)組織レベルを生成する持続放出薬物送達システム中の製剤の硝子体内または眼周囲注射による対象における視力低下の処置方法は、処置開始時に対象の目の中に持続放出薬物送達システムと組み合わせられたミトコンドリア標的化テトラペプチドのプロドラッグを送達すること;および、対象の目におけるエステラーゼの作用による、プロドラッグの切断により、第1の段階の間にバースト段階放出速度において目の中にミトコンドリア標的化テトラペプチドを放出させること;および、エステラーゼの作用による、プロドラッグの切断により、第2の段階の間に定常状態放出速度において目の中にミトコンドリア標的化テトラペプチドを放出させることを含み、バースト段階放出速度は定常状態放出速度よりも高く、さらに第1の段階は処置開始から約2~6週間に及び、続いて第2の段階となる。
【0124】
活性薬物の高い持続的な網膜およびRPE組織レベルを生成する持続放出薬物送達システムの製剤の硝子体内または眼周囲注射による対象における神経感覚網膜および/または網膜色素上皮(RPE)の萎縮症の発病の予防または該萎縮症の進行の緩慢化方法は、処置開始時に対象の目の中に持続放出薬物送達システムと組み合わせられたミトコンドリア標的化テトラペプチドのプロドラッグを送達すること;および、対象の目におけるエステラーゼの作用による、プロドラッグの切断により、第1の段階の間にバースト段階放出速度において目の中にミトコンドリア標的化テトラペプチドを放出させること;および、エステラーゼの作用による、プロドラッグの切断により、第2の段階の間に定常状態放出速度において目の中にミトコンドリア標的化テトラペプチドを放出させることを含んでもよく、バースト段階放出速度は定常状態放出速度よりも高く、さらに第1の段階は処置開始から約2~6週間に及び、および第2の段階はその後に及ぶ。これらの方法のいずれにおいても、プロドラッグは、本明細書に記載されるプロドラッグ(例えば、MTTプロドラッグ)のいずれかであってもよい。
【0125】
本明細書に記載される方法および装置のすべては、任意の組合せにおいて、本明細書において想定され、および本明細書に記載されている利益を達成するために使用され得る。
本明細書に記載される方法および装置の特色および利点のより良好な理解は、実例的な実施形態を示す以下の詳細な説明、および添付の図面を参照することにより得られる。
【図面の簡単な説明】
【0126】
図1図1Aは、ミトコンドリア中の、特にミトコンドリア内膜におけるクリステの先端(203)における、電子伝達系の複合体(205)の編成における特化したミトコンドリア脂質カルジオリピン(201)の通常の作用を図示する。図1Bは、ミトコンドリア機能障害:ATP産生の縮小、スーパーオキシドおよび活性酸素種の産生の増加、カルシウム脱調節などを結果としてもたらす、カルジオリピンが過酸化物化された場合に起こる電子伝達系の複合体の破壊を示す。図1Cは、本明細書に記載されるように、過酸化物化されたカルジオリピン(209)に結合してその機能を回復させるミトコンドリア標的化テトラペプチドの使用によるカルジオリピン機能の回復後のミトコンドリア中の電子伝達系の複合体の再接近およびミトコンドリア機能障害の逆転(211)を示す。
図2図2Aは、目のRPE下および外網膜領域の電子顕微鏡観察により示されるように、RPE下沈着の退縮ならびに正常な外網膜およびRPE形態の回復を伴う、ミトコンドリア標的化テトラペプチドの1つの例(エラミプレチド)を用いた乾燥型AMDのAPOE4+高脂肪食(HFD)マウスモデルの高用量(3mg/kg)皮下処置での処置の予想外のおよび自明でない効果を図示する。図2Bは、マウスにおけるエラミプレチド処置後のERG検査におけるB波振幅の増加により反映されるような視覚機能障害の逆転および視力の改善を伴う、ミトコンドリア標的化テトラペプチドの1つの例(エラミプレチド)を用いた乾燥型AMDのAPOE4+高脂肪食(HFD)マウスモデルの高用量(3mg/kg)皮下処置での処置の予想外のおよび自明でない効果を定量化するグラフである。
図3図3は、乾燥型AMDを有する患者の2つのコホート:1)非中心性(noncentral)地図状萎縮症(GA)および2)高リスクドルーゼにおけるエラミプレチドの全身投与(40mg、皮下、1日毎)のReCLAIM研究、フェーズ1/2臨床試験の要約した結果を図示する。視覚機能の複数の尺度において、特に低輝度視覚機能において改善に向かう一般的な平均的傾向があったが、視覚機能および疾患形態に対する強く肯定的な効果が観察された、乾燥AMDのAPOE4+高脂肪食(HFD)マウスモデルにおいて投与された投薬量のほぼ10分の1の、1日1回40mg(0.4~0.9mg/kg)の最大忍容用量を患者が与えられた状況において、患者の50%のみが治療に対する奏功を実証した。
図4図4Aは、本明細書に記載されている、カルボン酸部分への共有結合によりプロドラッグとして形成され得るミトコンドリア標的化テトラペプチドの1つの例、H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(「EY005」)の構造を示す。図4Bは、本明細書に記載されている、「R」がコンジュゲーション部分である、ミトコンドリア標的化テトラペプチドのためのプロドラッグの式の1つの例(図4Aに示されるEY005に基づく)を図示する。
図5図5は、本明細書に記載されている、ミトコンドリア標的化テトラペプチド(MTT)、またはMTTのプロドラッグの効果をアッセイするための網膜色素上皮(RPE)細胞を使用する細胞培養プロトコールの1つの例を示し、ミトコンドリア機能障害は、-3日目および0日目における非致死用量のヒドロキノン(HQ)への2回の曝露により誘導される。細胞は次に薬物(または対照リン酸緩衝化食塩水(PBS)溶液)で処理され、ミトコンドリア機能障害および他の細胞変化に対する効果についてアッセイされる。
図6図6は、電子伝達系複合体II機能障害のマーカーであるフラボプロテイン自家蛍光の低減により反映されるような、培養されたRPE細胞における誘導されたミトコンドリア機能障害の逆転を伴う、乾燥型AMDのHQ細胞培養モデルに対するミトコンドリア標的化テトラペプチドの1つの例(EY005)の効果を図示する。
図7図7は、ビメンチン発現の低減により反映されるような培養されたRPE細胞における脱調節された細胞外マトリックスの逆転およびファロイジン染色により反映されるようなアクチン細胞骨格解体の逆転を伴う、高用量(≧5μM)ミトコンドリア標的化テトラペプチド(EY005)での処理の予想外のおよび自明でない効果を図示する。
図8図8A~8Bは、ミトコンドリア標的化ペプチドでの処理後のフラボプロテイン自家蛍光の低減により反映されるようなミトコンドリア機能障害の逆転を実証するグラフであり、EY005(図8B)はエラミプレチド(図8A)と比較して同等の有効性および効力を実証している。
図9図9A~9Bは、培養されたRPE細胞におけるミトコンドリア標的化テトラペプチドによる脱調節された細胞外マトリックス(ビメンチン)の逆転を示すグラフであり、用量応答研究はエラミプレチド(図9A)と比較したEY005(図9B)の同等の有効性および効力を実証している。
図10図10A~10Bは、培養されたRPE細胞におけるミトコンドリア標的化テトラペプチドによるアクチン細胞骨格解体の逆転の逆転を示すグラフであり、用量応答研究はエラミプレチド(図10A)と比較したEY005(図10B)の同等の有効性および効力を実証している。
図11-1】図11A~11Bは、マウス網膜組織の顕微鏡観察により評価された、ミトコンドリア機能障害の2つのマーカー、フラボプロテイン自家蛍光(FP-AF)(図11A)およびスーパーオキシド(図11B)を示す。対照となる、処置されていないマウスは、検出不可能なFP-AFおよびスーパーオキシドを示す。実験的な網膜静脈閉塞(RVO)後に、FP-AFおよびスーパーオキシドは大きく増加している。皮下に投与されたEY005(3mg/kg、BID)での全身処置は、RVO後のミトコンドリア機能障害の両方のマーカーを有意に減弱する。図11Cは、マウス網膜組織の内網状層および外網状層の両方における顕微鏡観察により評価されたシナプス完全性の2つのマーカー、シナプス小胞タンパク質2(SV2)およびシナプトタグミン(ZNP-1)を示す。対照となる、処置されていないマウスは、正常なシナプスマーカーを示す。実験的な網膜静脈閉塞(RVO)後に、内網状層および外網状層の両方におけるシナプスマーカーは大きく低減している。皮下に投与されたEY005(3mg/kg、BID)での全身処置は、RVO後のシナプスマーカーの喪失を有意に予防し(前処置)、および逆転させる(後処置)。図11D~11Gは、少なくとも5つの独立した実験からの図11Cからのデータを定量化しており、内および外網状層におけるシナプスマーカーの定量化をグラフの形態で示している。
図11-2】図11H~11Iは、対照、RVOおよびEY005前処置またはEY005後処置を伴うRVOで処置されたマウスにおける網膜電図(ERG)により定量化された視覚機能を示す。代表的なERGを図11Hに示している。B波振幅を各々の条件について少なくとも5つの目から定量化した。RVOはB波の完全に近い喪失を結果としてもたらした。しかしながら、前処置および後処置の両方は、B波振幅の喪失を有意にそれぞれ予防しまたは逆転させた(図11I)。
図12図12は、関連する動物モデルの1つの例、特に、本明細書に記載されるミトコンドリア標的化テトラペプチドのプロドラッグを特徴付けるために使用されるウサギベースプロトコールを図示する。このモデルにおいて、HQ(0.05mL、250mM HQ)が0日目および1日目にウサギの目の硝子体腔中に注射され、および関心対象の薬物(ミトコンドリア標的化ペプチドもしくはそのプロドラッグ)または対照(PBS)溶液が2日目にウサギの目の同じ硝子体腔中に注射される。4日目に、ウサギを安楽死させ、ミトコンドリア機能障害の代用としての細胞酸化(DCFDA)の他に、他の細胞マーカーを含む、様々な尺度についての網膜およびRPEフラットマウントの組織学的分析のために目を回収した。
図13図13は、図12において詳述されるウサギモデルにおける、処置の36時間以内の、オキシダント種の低減を伴う、ウサギの目のRPE細胞における誘導されたミトコンドリア機能障害に対するミトコンドリア標的化テトラペプチド(EY005、15μM)の回復効果の1つの例を示す。
図14図14は、ビメンチン発現の低減により反映されるようなRPE細胞における脱調節された細胞外マトリックスの逆転およびファロイジン染色により反映されるようなRPE細胞アクチン細胞骨格解体の逆転を伴う、図12において詳述されるウサギモデルにおける高用量硝子体内ミトコンドリア標的化テトラペプチドEY005(15μM)での処置の予想外のおよび自明でない効果を図示する。
図15図15A~15Dは、全身投与されたEY005(0.9mg/kg、皮下(SQ)、1日1回、ヒト臨床試験において使用された用量の後にモデル化された投薬量)と比較して硝子体内に投与されたEY005(15μM)の優れた有効性を実証する代表的な組織学標本を示す。乾燥型AMDのウサギヒドロキノン(HQ)モデル(図12)を誘導し、網膜色素上皮(RPE)のフラットマウントを単離した。対照RPE(図15A)と比較して、HQ曝露されたウサギは、皮質アクチン細胞骨格の重度の解体の他に点状のアクチン細胞内沈着を示した(図15B)。硝子体内EY005(15μM)での処置は、RPE細胞骨格異形症の完全に近い逆転を結果としてもたらした(図15C)。対照的に、EY005(0.9mg/kg、1日1回)の皮下投与は、RPE細胞骨格異形症の部分的に過ぎない逆転を結果としてもたらした(図15D)。図15Eは、図15A~15Dにおけるように処置されたウサギからのRPE異形症重篤度スコアを描写するグラフを示す。スコアは、1条件当たり少なくとも3つの目からの少なくとも100個のRPE細胞においてマスクされた専門家評点者により決定された。
図16図16Aは、エステル結合によりミトコンドリア標的化テトラペプチドに連結されたステアリルアルコールまたはオクタデシル部分を含むEY005ミトコンドリア標的化テトラペプチドのプロドラッグの例である。図16Bは、ペプチドモチーフ(例えば、陰イオン性トリGluペプチド)およびエステル結合を介してEY005に連結されたリンカー部分を含むEY005ミトコンドリア標的化テトラペプチドのプロドラッグの例である。図16Cは、ペプチドモチーフ(例えば、陽イオン性トリArgペプチド)およびエステル結合を介してEY005に連結されたリンカー部分を含むEY005ミトコンドリア標的化テトラペプチドのプロドラッグの例である。図16Dは、エステル結合によりEY005に連結されたポリエチレングリコール(PEG)を含むEY005ミトコンドリア標的化テトラペプチドのプロドラッグの例である。
図17図17A~17Cは、カルボキシエステラーゼおよび自発的な加水分解によるエステルベースEY005-ステアリルプロドラッグの切断を実証する。図17Aは、EY005-ステアリルプロドラッグ(上のトレーシング)およびEY005 MTT(下のトレーシング)のベースラインHPLC分析を示す。EY005-ステアリルを37℃、インビトロでカルボキシエステラーゼ(0.1μg/mL)とインキュベートして、目の生理学的環境および硝子体内に容易に豊富に存在するエステラーゼのタイプをシミュレートした。カルボキシエステラーゼとのEY005-ステアリルのインキュベーションは、高速液体クロマトグラフィーにおけるEY005-ステアリルプロドラッグピークの消失およびEY005ピークの出現により明らかなように、プロドラッグエステル結合の急速な切断を生成してEY005を放出させた(図17B)。エステラーゼを含まない37℃のリン酸緩衝化食塩水溶液へのEY005-ステアリルプロドラッグの添加で、EY005-ステアリルプロドラッグのエステル結合は加水分解によってより緩徐に切断される(図17C)。6時間後に、EY005 MTTへのEY005-ステアリルプロドラッグの部分的な切断が見られる。
図18図18は、エステラーゼへの曝露での2つの異なるEY005プロドラッグの急速なエステル切断を示すインビトロエステラーゼアッセイからの理論的なデータを図示する。
図19図19Aは、内因性エステラーゼを有するRPE細胞が、ミトコンドリア機能障害を誘導するためにヒドロキノン(HQ)に曝露された乾燥型AMDのインビトロ培養モデルを示す。ミトコンドリア機能障害は、フラボプロテイン自家蛍光の増加として(上パネル)およびアクチン細胞骨格の異形(下パネル)として現れる。EY005-ステアリル(5μM)は、RPE細胞におけるHQ誘導性ミトコンドリア機能障害を有効に逆転させ(細胞フラボプロテイン自家蛍光の低減およびアクチン細胞骨格機能障害の正常化により描写される)、有効性はEY005ネイティブペプチド(5μM)での処理と同等であった。EY005-ステアリルをまた、別々の培地中のカルボキシエステラーゼ(0.1μg/mL)とプレインキュベートした。切断されたEY005(5μM)を含有する回収された培地をミトコンドリア機能障害のこのRPE細胞モデルに加えたところ、これはRPEミトコンドリア機能障害の逆転のためにEY005ネイティブペプチドと同様に有効および同等の効力であった。図19Bは、図19Aにおいて表される各々の条件の少なくとも3つの複製物からのフラボプロテイン自家蛍光(FP-AF)の定量化を示す。EY005-ステアリルおよびエステラーゼ切断されたEY005-ステアリルの両方は、ネイティブEY005ペプチドに等しい効力を示す。図19Cは、図19Aにおいて表される各々の条件の少なくとも3つの複製物からのアクチン細胞骨格異形の定量化を示す。EY005-ステアリルおよびエステラーゼ切断されたEY005-ステアリルの両方は、ネイティブEY005ペプチドに等しい効力を示す。
図20図20A~20Dは、FITC標識されたEY005-ステアリルプロドラッグとの複合体化を評価するために様々な条件下でイメージングされたステアリン酸マグネシウムを示す。図20Aは、ステアリン酸マグネシウムは単独で、低い内因性の蛍光を示すことを示す。図20Bは、FITC標識されたEY005ネイティブペプチドとインキュベートされたステアリン酸マグネシウムを示す。FITC標識されたEY005ネイティブペプチドは単独で、微粒子の最小の蛍光標識化により反映されるようにステアリン酸マグネシウムとの最小の複合体化を示した。図20Cは、FITC標識されたEY005プロドラッグとインキュベートされたステアリン酸マグネシウムを示す。ステアリン酸マグネシウムとのプロドラッグの複合体化は、イメージングされたステアリン酸マグネシウム微粒子の中等度の蛍光として明らかであった。図20Dは、カルボキシエステラーゼ(0.1μg/mL)を用いた試料Cからのマグネシウムと複合体化したFITC標識されたEY005-ステアリルプロドラッグの処理は蛍光のレベルを低減させ、標識されたEY005ペプチドの放出を伴うEY005-ステアリルプロドラッグの切断を実証したことを示す。
図21図21A~21Dは、FITC標識されたEY005-ステアリルプロドラッグとの複合体化を評価するために様々な条件下でイメージングされたアルブミンを示す。図21Aは、アルブミンは単独で、低い内因性の蛍光を示すことを示す。図21Bは、FITC標識されたEY005ネイティブペプチドとインキュベートされたアルブミンを示す。FITC標識されたEY005ネイティブペプチドは単独で、溶解したFITC標識されたEY005ネイティブペプチドからの全般化された蛍光により取り囲まれたアルブミン結晶の陰性染色により反映されるようにアルブミンとの最小の複合体化を示した。図21Cは、FITC標識されたEY005プロドラッグとインキュベートされたアルブミンを示す。アルブミンとのEY005-ステアリルプロドラッグの複合体化は、イメージングされたアルブミン結晶の明るい蛍光として明らかであった。図21Dは、カルボキシエステラーゼ(0.1μg/mL)を用いた試料Cからのアルブミンと複合体化したFITC標識されたEY005-ステアリルプロドラッグの処理は蛍光のレベルを低減させ、標識されたEY005ペプチドの放出を伴うEY005-ステアリルプロドラッグの切断を実証したことを示す。
図22図22A~22Dは、FITC標識されたEY005-ステアリルプロドラッグとの複合体化を評価するために様々な条件下でイメージングされたシクロデキストリンガンマを示す。図22Aは、シクロデキストリンは単独で、低い内因性の蛍光を示すことを示す。図22Bは、FITC標識されたEY005ネイティブペプチドとインキュベートされたシクロデキストリンを示す。FITC標識されたEY005ネイティブペプチドは単独で、シクロデキストリン単独での蛍光を上回る蛍光における最小の増加により反映されるようにシクロデキストリンとの最小の複合体化を示した。図22Cは、FITC標識されたEY005プロドラッグとインキュベートされたシクロデキストリンを示す。シクロデキストリンとのEY005-ステアリルプロドラッグの複合体化は、イメージングされたシクロデキストリン微粒子の中等度の蛍光として明らかであった。図22Dは、カルボキシエステラーゼ(0.1μg/mL)を用いた試料Cからのシクロデキストリンと複合体化したFITC標識されたEY005-ステアリルプロドラッグの処理は蛍光のレベルを低減させ、標識されたEY005ペプチドの放出を伴うEY005-ステアリルプロドラッグの切断を実証したことを示す。
図23図23A~23Dは、FITC標識されたEY005-ステアリルプロドラッグとの複合体化を評価するために様々な条件下でイメージングされたレシチンを示す。図23Aは、レシチンは単独で、低い内因性の蛍光を示すことを示す。図23Bは、FITC標識されたEY005ネイティブペプチドとインキュベートされたレシチンを示す。FITC標識されたEY005ネイティブペプチドは、レシチン単独での蛍光を上回る蛍光における最小の増加により反映されるようにレシチンとの最小の複合体化を示した。図23Cは、FITC標識されたEY005プロドラッグとインキュベートされたレシチンを示す。レシチンとのEY005-ステアリルプロドラッグの複合体化は、すべてのレシチン試料の明るい蛍光として明らかであった。図23Dは、カルボキシエステラーゼ(0.1μg/mL)を用いた試料Cからのレシチンと複合体化したFITC標識されたEY005-ステアリルプロドラッグの処理は蛍光のレベルを低減させ、標識されたEY005ペプチドの放出を伴うEY005-ステアリルプロドラッグの切断を実証したことを示す。
図24図24A~24Dは、FITC標識されたEY005-ステアリルプロドラッグとの複合体化を評価するために様々な条件下でイメージングされたシリカマイクロビーズを示す。図24Aは、シリカマイクロビーズは単独で、最小の内因性の蛍光を示すことを示す。図24Bは、FITC標識されたEY005ネイティブペプチドとインキュベートされたシリカマイクロビーズを示す。FITC標識されたEY005ネイティブペプチドは単独でシリカマイクロビーズと相互作用して丸形の蛍光を作出した。図24Cは、FITC標識されたEY005-ステアリルプロドラッグとインキュベートされたシリカマイクロビーズを示す。シリカマイクロビーズとのプロドラッグの複合体化の証拠はなかった。図24Dは、カルボキシエステラーゼ(0.1μg/mL)を用いた試料Cからのシリカマイクロビーズと複合体化したFITC標識されたEY005-ステアリルプロドラッグの処理は蛍光の極めて低いレベルを変更しなかったことを示す。
図25図25Aは、EY005 MTTが、分散媒体としてラウリン酸メチルを使用して様々な複合体化剤と共に製剤化された加速インビトロ放出アッセイからのデータを示す。すべての場合において、すべてのEY005は、一部の場合において数時間以内に、およびすべての場合において3日目までに、急速に放出された。図25Bは、EY005-ステアリルプロドラッグが、分散媒体としてラウリン酸メチルを使用して様々な複合体化剤と共に製剤化された加速インビトロ放出アッセイからのデータを示す。複合体化剤を用いない製剤は、培地中へのEY005の急速な放出を示す。EY005-ステアリルプロドラッグと複合体化しないシリカマイクロビーズを用いた製剤もまた、培地中へのEY005の急速な放出を示す。対照的に、他の複合体化剤を用いた製剤は、異なる速度でのEY005の持続的な放出を実証する。特に留意されることとして、ステアリン酸マグネシウムおよびアルブミンの両方が同じ製剤中で複合体化剤として使用される場合、EY005は、いずれかの複合体化剤を単独で使用した製剤の場合の中間の速度で放出される。
図26図26は、いくつかのクラスのうちの1つのコンジュゲーション部分(105)に連結された場合に、ミトコンドリア標的化ペプチドプロドラッグ(101)を構成する、ミトコンドリア標的化テトラペプチドEY005(103)の1つの例を図式的に示す。このミトコンドリア標的化ペプチドプロドラッグは、本明細書に記載されるように、硝子体内(IVT)持続放出薬物送達システム(107)の部分として、目の硝子体(109)中に注射され得る。
図27図27は、Mito XRのパイロット製剤(三角)のインビトロ薬物動態を示す。Mito XRは、EY005生物活性テトラペプチド放出の0次(すなわち、線形)動態を達成して、分散媒体内の遊離の生物活性MTTがインプラントから目の生理学的環境中に放出される3か月の薬物放出の所望される耐久性を達成した。対照的に、同一に製剤化されたEY005ネイティブペプチド(丸)は、極めて急速な放出を有し、薬物放出の所望される耐久性を提供しなかった。
図28図28A~28Cは、内因性エステラーゼを有するRPE細胞が、ミトコンドリア機能障害を誘導するためにヒドロキノン(HQ)に曝露された乾燥型AMDのインビトロ培養モデルを描写する。ミトコンドリア機能障害は、アクチン細胞骨格の異形として現れる。これらの有効性研究において、Mito XR(多相性コロイド懸濁液中に製剤化されたEY005-ステアリル)のボーラスインプラントを、内因性エステラーゼが存在する乾燥型AMDのRPE細胞培養モデルに加えた。Mito XRインプラントでの処理は、ミトコンドリア機能障害の逆転およびアクチン細胞骨格形態の同時発生的な回復を結果としてもたらした。図28Dは、図28A~28Cからのデータのグラフ表現を示す。培養されたRPE細胞を、対照、HQ曝露された細胞およびMito XRで処理されたHQ曝露された細胞におけるアクチン細胞骨格異形の重篤度について等級付けした。少なくとも3つの複製物からの結果を定量化した。Mito XRで処理された培養物は、対照、HQ曝露された細胞と比較してRPE細胞アクチン細胞骨格異形の重篤度における80%の低減を実証する。
図29図29は、Mito XRとして製剤化されたEY005-ステアリルプロドラッグの優れたインビボ薬物動態を示す。ウサギに、製剤化されたEY005-ステアリルプロドラッグを含有する硝子体内Mito XRインプラント(IVT MitoXRからのEY005-ステアリル放出)またはEY005ネイティブペプチドを含有する同一のボーラス製剤(製剤化されたボーラスからのEY005ペプチド放出)を注射した。Mito XRとして製剤化されたEY005-ステアリルプロドラッグは、ミトコンドリア機能障害の逆転のためのEC50を上回る網膜組織濃度を示した。これらの治療薬レベルは7週時点を通じて持続され、該時点において、回収されたMito XRインプラントは50%のペイロードを依然として含有し、この製剤は所望される90日の耐久性を達成することを指し示した。対照的に、ネイティブEY005ペプチドは急速に放出され、組織濃度は3.5週目までにほぼ検出不可能であった。回収されたインプラントはEY005ネイティブペプチドを含有せず、インビボでの薬物の急速なダンピングを示唆した。
図30図30A~30Bは、Mito XR 注射後のウサギの目における予備的臨床的忍容性および網膜組織学を示す。Mito XRインプラント(矢尻、図30A)で処置されたウサギは、臨床検査において炎症の証拠も毒性の他の徴候も示さなかった。死後の組織学的評価(図30B)は、炎症または変性の証拠を伴わない保存された正常な網膜形態を示した。
図31図31は、新規の持続放出薬物送達システムからの修飾されていないEY005の放出動態を、2つのEY005プロドラッグの場合と比較した理論的なインビボ放出薬物動態データを図示し、該2つのEY005プロドラッグの各々もまた、新規の持続放出薬物送達システム中に製剤化され、ウサギの目の硝子体腔中に注射される。修飾されていないEY005は約30日までにほぼ完全に放出される一方、複合体化剤を組み込まれたEY005プロドラッグは、インビボで100日までに約40~50%の放出を伴う緩慢化された放出を実証する。
図32図32は、新規の持続放出薬物送達システムからの修飾されていないEY005の放出動態を、2つのEY005プロドラッグの場合と比較した理論的なインビボ放出薬物動態データを図示し、該2つのEY005プロドラッグの各々もまた、新規の持続放出薬物送達システム中に製剤化され、ウサギの目の硝子体腔中に注射される。修飾されていないEY005は約30日までにほぼ完全に放出される一方、複合体化剤を組み込まれたEY005プロドラッグは、インビボで約190~200日までに起こる100%の完全な放出を伴う緩慢化された放出を実証する。
図33図33A~33Cは、ミトコンドリア標的化テトラペプチドのプロドラッグと非共有結合的に複合体化した1つ以上の複合体化剤を含んでいてもよい、多相性コロイド懸濁液持続放出薬物送達システムのいずれかのインプラントを送達するための、送達形態またはモダリティーの例を図示する。図33Aは、持続放出薬物送達システム材料が注射可能な液体ボーラスとして製剤化されているボーラス注射の例を示す。図33Bは、MTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液が、プロドラッグおよび複合体化剤を含有する多相性コロイド懸濁液を充填された生分解性外側スリーブ/チュービングを有するチューブインプラントとして製剤化されている例である。図33Cは、持続放出薬物送達システム材料が移植のための固体状態を有する特定の形状にモールド成形されている例である。
図34図34は、ボーラス注射またはチューブインプラントのいずれかとして、目の中に多相性コロイド懸濁液の製剤を注射する2つの方法を図示する。
図35図35A~35Eは、複合体化ベース持続放出薬物送達システムを使用する、数式による特有の薬物動態放出プロファイルのための製剤の特別仕様の設計のための1つのアプローチを図示し、この特有の例において、本明細書に記載されているプロドラッグ形態からのミトコンドリア標的化テトラペプチドの放出のための持続放出薬物送達システムの2段階放出プロファイル(図35A)を構成する1つの方法を含む。
図36図36は、放出の異なる持続期間を有する、持続放出薬物送達システムにおけるEY005プロドラッグの2つの代表的な製剤の放出アッセイからのデータを図示する。1つの例(製剤2)は2段階放出動態を実証し、第1の早期バースト段階および第2の後期定常状態段階を示す。
【発明を実施するための形態】
【0127】
本明細書に記載されるのは、全体として安定な多相性コロイド懸濁液を形成する、疎水性分散媒体内で混合された、1つ以上の複合体化剤微粒子と非共有結合的に相互作用してミトコンドリア標的化テトラペプチド(MTT)プロドラッグ-複合体微粒子を形成する、MTTプロドラッグを含む、持続放出薬物送達システム(XRDDS)のための組成物、製剤、生産方法、および使用方法である。
【0128】
MTTクラスの以前に記載されていないメンバーは、本明細書においてEY005と称されるH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(図4A)であり、これは、第4の位置(すなわち、C末端)におけるアミノ酸がフェニルアラニンアミドではなくフェニルアラニンであるという点においてエラミプレチドとは異なる。EY005は以前に評価されていない。本明細書に記載されるように、EY005は、AMDの細胞培養系においてエラミプレチドと等効力であり(図5~10)、(アロメトリーによりスケーリングされた)ヒトにおける最大忍容用量よりも高い容量で全身に与えられた場合にRVOのマウスモデルの処置において部分的に有効である(図11)。しかしながら、(アロメトリーによりスケーリングされた)最大ヒトSQ用量で与えられた場合、EY005は、鍵となる病理の逆転の観点において乾燥型AMDのウサギモデルの処置(図12)において部分的にのみ有効であった(図15D)。対照的に、EY005の硝子体内注射は、病理の逆転において有意により有効である(図15C)。治療奏功は、硝子体内(IVT)投薬が、4時間のみの治療レベルの持続的な組織曝露を達成する全身投薬とは対照的に、4日にわたり検出可能な治療レベルのMTTを達成することを実証する薬物動態データと合致する。MTTは、有効であるためにそれらの標的への一定の持続的な曝露を要求し得るが、これは、1日1回の全身投与で起こるMTTへの一時的な間欠的な曝露によっては達成されない。
【0129】
本明細書に記載されるのは、IVTおよび眼投与の他の経路のための、MTTのための持続放出薬物送達システム(「XRDDS」)である。残念なことに、テトラペプチドとして、EY005、エラミプレチドおよびMTTクラスの他のメンバーは、それらの小さいサイズおよび高い水溶解性に起因して、それらのネイティブな形態においてIVTまたは眼周囲(すなわち、結膜下もしくはテノン嚢下)の投与経路のために良好に適さない。さらに、それらの物理化学特性に起因して、MTTは、現在利用可能な眼薬物送達技術と適合性が乏しく、この研究に先立って、確立された薬物送達システムにおいて成功裏に製剤化されていない。
【0130】
そのため、目において持続的な放出を達成し、および処置の所望される持続期間にわたり眼組織において予測可能な治療レベルへの連続的な曝露を提供する方式において製剤化されたEY005または本明細書に記載される他のMTTのXRDDS製剤は、特には目における、ミトコンドリア機能障害のための組成物および処置における意義深い改善となる。
【0131】
本明細書に記載されるのは、目における使用のための、複合体化ベースXRDDSと適合性とするために、プロドラッグとして生産されるEY005または他のMTTの組成物である。
【0132】
本明細書において使用される場合、「多相性」は、薬物物質が、遊離薬物、薬物-薬物凝集物、および最も重要なことに、複合体化剤微粒子に非共有結合的に結合している薬物を含む、1つより多くの相において存在する懸濁液を指す。
【0133】
持続放出薬物送達システム(XRDDS)は、特定の投与経路のための特有の治療的目標のために最適化された薬物放出動態を調節する方式における特有の薬物物質の設計、生産および投与において使用されるデバイス、製剤または他のシステムである。
【0134】
MTTは、陽イオン性アミノ酸と交互の芳香族アミノ酸を含む4アミノ酸ペプチドである。MTTの典型的な例は下記の表1(配列番号1~635)に列記される。XRDDSにおける製剤化のためのMTTプロドラッグを形成するためにも役立ち得る眼疾患の処置用の有用なMTTはEY005、H-d-Arg-DMT-Lys-Pheであり、その理由は、それは、第4のアミノ酸基においてカルボン酸を有して、コンジュゲーション部分への共有結合性連結を促すからである(図4B)。
【0135】
本明細書において、我々は、目の中および目の周囲においてMTTプロドラッグのために最適化されているXRDDSを開示する。
本明細書に記載されるように、多相性コロイド懸濁液は、MTTプロドラッグを薬物物質として組み込んでいる。多相性コロイド懸濁液中へのMTTプロドラッグの製剤化は、本明細書においてMito XRまたはMTTプロドラッグ多相性コロイド懸濁液と称される複合体化ベースXRDDSを形成する(および/またはインプラントもしくはインプラントの部分であってもよい)。Mito XRは、目の後天性および遺伝性ミトコンドリア疾患の処置のために、所望される持続期間(1~12か月)にわたり眼組織内で治療レベルの活性MTT薬物の持続的な放出を生成するために硝子体内(IVT)または眼周囲経路により投与され得る流動性の粘性液体である。
【0136】
より特には、本明細書に記載される組成物および方法は、特に不規則な形状の微粒子として製剤化された場合に、MTTプロドラッグ用の複合体化剤として役立つことが以前に知られていない6つの化学物質のうちの1つと非共有結合性複合体を形成する能力について特に選択される化学物質の5つのクラスのうちの1つから選択されるコンジュゲーション部分への切断可能な共有結合性連結により形成される、ミトコンドリア標的化テトラペプチド(MTT)プロドラッグを含む。MTTプロドラッグと複合体化剤との間の非共有結合性相互作用は、MTTプロドラッグ-複合体微粒子の形成を結果としてもたらす。
【0137】
本開示の複合体化ベースXRDDSは、MTTプロドラッグ-複合体微粒子と安定な多相性コロイド懸濁液を形成することが以前に知られていなかった4つの疎水性油のうちの1つから選択される分散媒体と混合された、1つ以上のMTTプロドラッグ-複合体微粒子を含む多相性コロイド懸濁液である。
【0138】
これも本明細書に開示されるように、この複合体化ベースXRDDSの放出動態は、特有の分散媒体内の各々のMTTプロドラッグ-複合体微粒子についてのMTTプロドラッグの非結合-結合比率(Kd)の知識に基づいて設計および生産され得る。異なるKdを各々が有する、複数の異なるMTTプロドラッグ-複合体微粒子ペアは、多相性コロイド懸濁液の分散媒体内のMTTプロドラッグの特有の非結合の、または遊離の、濃度を達成するために特有の比および濃度で組み合わせることが可能であり、該濃度は次いで、インプラントから目の生理学的環境中へのMTTプロドラッグの放出の動態を決定する(図35A~35E)。
【0139】
ミトコンドリア機能障害は、減少した細胞生物エネルギー論(すなわち、アデノシン三リン酸(ATP)産生の縮小)、スーパーオキシドの増加、カルシウム調節の喪失、および他の変化により特徴付けられる。トリガーとなる因子(遺伝学、年齢、環境)にかかわらず、ミトコンドリア機能障害の最終的な共通の経路は、ミトコンドリアのクリステにおける独特の二量体リン脂質であるカルジオリピンの過酸化である(図1A~1B)。カルジオリピンの物理化学特性(錐体形状、剛直性)は、クリステ先端領域の特徴的な「ヘアピンターン」を維持する原因となり、これは次いで、ATP産生およびスーパーオキシド漏出の予防のために必要な電子伝達系複合体の緊密な近接性を維持する(図1A)。カルジオリピンの過酸化で、クリステの先端は平らになり、および電子伝達系複合体は分離して、ATP産生の喪失および過剰なスーパーオキシド形成に繋がる(図1B)。様々なカルジオリピン修復プロセスが存在するが、これらは、重篤に機能不全のミトコンドリアにおいて不良に機能する。
【0140】
ミトコンドリア標的化テトラペプチド(MTT)のクラスは、Hazel Szetoにより2000年にオピオイド活性を有するペプチドをスクリーニングした際に偶然に発見された。特有のテトラペプチドがミトコンドリアに局在化していることが引き続いて発見され、さらなる研究は、このクラスの機能的なテトラペプチドは、2つの芳香族アミノ酸と交互の2つの陽イオン性アミノ酸(ミトコンドリア取込みを促す)を要求し、該2つの芳香族アミノ酸は、過酸化物化されたカルジオリピンへの結合を促して、その正常な物理化学特性を回復させ(図1C)、これは次いで、電子伝達系複合体の緊密な近接性を回復させ、およびミトコンドリア機能を改善することを明らかにした。
【0141】
例えば、エラミプレチド(旧名SS-31またはMTP-131)は、小児における希少な遺伝子ミトコンドリア障害であるバース症候群、および原発性ミトコンドリアミオパチーを含む、ミトコンドリア障害についての臨床試験で研究されている、ミトコンドリア標的化テトラペプチドのこの以前に発見されたクラスのメンバーである。臨床試験および臨床応用において、エラミプレチドは、1日毎の皮下(SQ)注射として与えられなければならない(図3)。
【0142】
エラミプレチドの全身投与は乾燥型AMDの前臨床インビトロおよびインビボモデルにおいて研究されており;RPE細胞培養において、ならびに乾燥型AMD病理のマウスモデル、特に局所的眼周囲ヒドロキノン誘導モデルおよびApoE4+高脂肪食モデルにおいてミトコンドリア機能障害の逆転のために強力であることが示されている(図2A~2B)。
【0143】
MTTの硝子体内送達は、持続的な、高い、および有効な硝子体および網膜薬物レベルを達成するために望ましい。修飾されていない形態において、MTTは、数日のうちの目からのクリアランスと共に、約5~6時間の硝子体内(IVT)半減期を有する。これは、最小でも、週毎のIVT注射を要求し、これは眼疾患に対する処置アプローチとして実際的でなく、および順守可能でない。
【0144】
さらには、MTTの小さいサイズおよびそれらの高い水溶性により、それらは、商用の薬物送達システムと不適合性となる。
本明細書に記載される新規の治療用化合物は、「ミトコンドリア標的化テトラペプチド(MTT)プロドラッグ」として参照される。MTTプロドラッグは、既存のミトコンドリア機能障害を逆転させ、およびさらなるミトコンドリア機能障害を予防し、ならびに切断可能な結合(例えば、エステル結合)を介して不活性コンジュゲーション部分の5つのクラスのうちの1つに共有結合的に連結されている、交互の陽イオン性残基および芳香族残基を有するテトラペプチドであるMTTの形態の活性剤を含んでいる。
【0145】
本明細書に記載される組成物および方法は、微粒子複合体化剤と非共有結合性可逆的相互作用を形成して、多相性コロイド実施形態中への組込みのためにその物理化学特性を最適化する能力について選択されたコンジュゲーション部分に共有結合的に連結されている、ミトコンドリア標的化テトラペプチド(MTT)を含んでもよい。想定されるのはまた、コンジュゲーション部分が、サイズ、電荷、溶解性、および媒体との物理化学的相互作用を含む、MTTの物理化学特性、ならびに他の種類の眼科用薬物送達システムにおけるMTTプロドラッグの製剤化を促し得る他の特性を変更するように選択された他の実施形態である。
【0146】
本明細書に記載されるMTTプロドラッグの1つのクラスは、複合体化剤の5つのクラスのうちの1つと非共有結合性複合体を形成する能力について特に選択された共有結合的に連結されるコンジュゲーション部分を有するものである。
【0147】
MTTプロドラッグは、式(I)または(II):
R’(-O)-R (I)
R’-R (II)
(式中、R’は、表1(および配列番号1~635)に列記される交互の陽イオン性アミノ酸および芳香族アミノ酸を有するものの中から選択され、第4の位置におけるC末端アミノ酸が、化学物質の以下の5つのクラス:C4~C30の脂質部分、C4~C30の直鎖もしくは分岐鎖脂肪族部分、2-mer~30-merのペプチド部分、ペグ化された部分、または炭水化物部分のうちの1つの中から選択されるコンジュゲーション部分Rに共有結合的に連結されている、MTTである)の、縮合またはエステル化反応の生成物であってもよい化合物である。
【0148】
プロドラッグは、活性医薬成分(API)の薬理学的に不活性の化学修飾である。プロドラッグは、宿主内で組織酵素または加水分解のいずれかにより遊離APIおよび不活性コンジュゲーション部分へと代謝される。プロドラッグは、APIの物理化学特性を改変して、吸収、バイオアベイラビリティ、または薬物動態(PK)を向上させるために一般に使用される。しかしながら、本明細書に記載される組成物および方法において、プロドラッグ戦略の目的は、複合体化ベース持続放出薬物送達システム(XRDDS)との適合性のために薬物の物理化学特性を最適化することである。これは、非プロドラッグ形態では達成され得ないであろうより遅い放出速度を有するミトコンドリア標的化テトラペプチド薬物を提供する(図25図27、および図29)。
【0149】
これらのプロドラッグは、交互の陽イオン性ペプチドおよび芳香族ペプチドのテトラペプチドモチーフを含有し、ならびにコンジュゲーション部分への共有結合性連結を促すためにテトラペプチドモチーフの第4の位置において-OH(ヒドロキシル)または-COOH(カルボン酸)基のいずれかを有する生物活性分子(4アミノ酸~30アミノ酸の長さの範囲内)を含有する。下記の表1は、プロドラッグとして製造され得る潜在的なミトコンドリア標的化テトラペプチドを列記する表である。これらのミトコンドリア標的化テトラペプチドのいずれも、本明細書に記載されているプロドラッグ(すなわち、ミトコンドリア標的化持続放出化合物)の部分として使用され得る。
【0150】
表1:
【0151】
【表1-1】
【0152】
【表1-2】
【0153】
【表1-3】
【0154】
【表1-4】
【0155】
【表1-5】
【0156】
【表1-6】
【0157】
【表1-7】
【0158】
【表1-8】
【0159】
【表1-9】
【0160】
【表1-10】
【0161】
【表1-11】
【0162】
【表1-12】
【0163】
【表1-13】
SS-01(Tyr-D-Arg-Phe-Lys)、SS-02(2,6,Dmt-D-Arg-Phe-Lys)、SS-20(Phe-D-Arg-Phe-Lys)、エラミプレチド(H-d-Arg-Dmt-Lys-Phe-NH2)およびEY005(H-d-Arg-Dmt-Lys-Phe(-OH)を含む既知の生物活性ミトコンドリア標的化ペプチドは、四量体であることならびに交互の陽イオン性アミノ酸および芳香族アミノ酸を含有することを含む共通の形質を共有する。表1は、これらの特性を共有し、およびMito XRにおける使用のためのプロドラッグとして合成され得る潜在的なペプチドアナログを含む。既知の活性ミトコンドリア標的化ペプチドの著しく機能的なアナログは、1つのアミノ酸の、類似した生物物理学的特性を有する別のアミノ酸による保存的置換により設計され得る。そのため、表1(および配列番号1~635)において見出されるペプチドの機能的アナログは、類似した特性を有する他の天然、合成または非天然アミノ酸の保存的置換により(例えば、芳香族アミノ酸の他の芳香族アミノ酸による置換、または陽イオン性アミノ酸の他の陽イオン性アミノ酸による置換により)作出され得る。天然に存在する陽イオン性アミノ酸は、リジン、アルギニンおよびヒスチジンを含み、ならびに他の陽イオン性アミノ酸は、ジアミノ酪酸(Dab)、ジアミノプロピオン酸(Dap)およびオルニチンを含むがそれに限定されない。天然に存在する芳香族アミノ酸は、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジンを含み、ならびに他の芳香族アミノ酸は、Dmt=ジメチルチロシン(Dmt)、2’-メチルチロシン(Mmt)、N,2’,6’-トリメチルチロシン(TmT)および2’-ヒドロキシ,6’-メチルチロシン(Hmt)を含むがそれに限定されない。追加的に、および一部の場合において好ましくは、D-アミノ酸はL-アミノ酸に置換可能であり、L-アミノ酸は、ミトコンドリア標的化ペプチドをプロテアーゼおよびペプチダーゼ酵素による分解に対して抵抗性とし得る。
【0164】
一般に、これらのミトコンドリア標的化薬物は、テトラペプチドモチーフの正電荷に起因してミトコンドリア中にインポートされる。図1A~1Cに記載されるように、これらのミトコンドリア標的化薬物のすべては、クリステ中の過酸化物化されたカルジオリピンへの芳香族残基の結合により正常なミトコンドリア機能の回復を促して、クリステ形態および電子伝達系(ETC)機能を回復させる。これらの効果は、同等の効力と共にエラミプレチドおよびEY005で観察されており、両方の薬物は同等の物理化学的、生化学的、および薬理学的特性を共有するので、これは予想外ではない。
【0165】
MTTプロドラッグの共有結合的に連結されるコンジュゲーション部分は、不規則な形状の微粒子として製剤化される物質の6つの異なるクラス:脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成することができる有機分子、荷電性リン脂質、荷電性タンパク質、核酸、および多糖のうちの1つに対して非共有結合性の高アビディティの相互作用(または結合)を形成する。MTTプロドラッグ-複合体微粒子の形成は、疎水性分散媒体中での1つ以上のMTTプロドラッグ-複合体微粒子の混合により形成される複合体化ベース持続放出薬物送達システム(XRDDS)との適合性のために薬物の物理化学特性を最適化して、硝子体内(IVT)または眼周囲投与のために特に製剤化された安定な多相性コロイド懸濁液からの制御された持続放出を可能にする。
【0166】
上述のように、MTTプロドラッグの1つの特色は、生物活性MTTを不活性コンジュゲーション部分に連結する結合が、酵素反応、触媒作用、加水分解、または他の化学反応により容易に切断されることである(図17A~17C、図18)。MTTプロドラッグ中のこの結合の切断で、放出されるMTTは、ミトコンドリア機能障害の予防または逆転のための完全な生物活性を保持する(図19A~19C)。
【0167】
エステラーゼ、ペプチダーゼ、ホスファターゼ、オキシムヒドロラーゼ、ケトンレダクターゼ、およびその他を含む、多数の代謝酵素が眼組織において検出されている。本明細書に記載されるミトコンドリア標的化テトラペプチドのいずれかのためのコンジュゲーション部分への連結は、これらの代謝酵素のいずれかによる特異的な切断を達成するために構成されてもよい。
【0168】
一部の例において、ミトコンドリア標的化ペプチドのプロドラッグは、様々なコンジュゲーション部分をミトコンドリア標的化ペプチドにエステル結合、ヒドラゾン/イミン結合、ジスルフィド結合、チオエステル結合、チオエーテル結合、ホスホン酸エステル結合、ボロン酸エステル結合、アミド結合、カルバミン酸エステル結合、炭酸エステル結合または医薬品化学の当業者に公知のその他を含むがそれに限定されないいくつかのタイプの動的な共有結合のいずれかを介して連結することにより形成されてもよい。
【0169】
エステルプロドラッグは特にIVT薬物製剤のために望ましいことがあり、その理由は、硝子体および網膜は、豊富に存在するエステラーゼ活性を含有するからである。
例えば、MTTのクラスの中には、本明細書においてEY005として参照される、1つの特定のMTT、H-d-Arg-DMT-Lys-Pheがある(図4A):
【0170】
【化5】
EY005は、コンジュゲーション基Rに対する縮合反応またはエステル化によりプロドラッグ中に形成されてもよく、Rは、カルボキシルエステル、リン酸エステル、またはカルバミン酸エステルを介して連結されてH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-Rを形成する特有のコンジュゲーション部分である(図4B):
【0171】
【化6】
EY005および他のMTTの場合、Rは、MTTの第4の位置におけるアミノ酸のヒドロキシル基においてエステル結合を介して共有結合的に連結されており、化学物質の以下の5つのクラス:C4~C30の脂質部分、C4~C30の直鎖もしくは分岐鎖脂肪族部分、2-mer~30-merのペプチド部分、ペグ化された部分、または炭水化物部分のうちの1つの中から選択される。この構造は図4Bにも示される。図16A~16Dは、EY005(H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-OH))のプロドラッグの例を図示する。
【0172】
一部の例において、遊離生物活性ミトコンドリア標的化テトラペプチドの切断および放出はインビトロ放出アッセイにおいて評価可能であり、該アッセイにおいて、エステルベースプロドラッグは、カルボキシエステラーゼ(もしくは他の天然もしくは合成エステラーゼ)、動物(例えば、ブタ、ウサギなど)から回収された単離された硝子体、またはヒトドナーから回収された単離された硝子体を含有する溶液中、37℃、25℃、または他の温度においてインキュベートされる。分析方法、例えばHPLCまたは質量分析を使用して、インキュベーションの開始後の様々な時点において、遊離生物活性ミトコンドリア標的化テトラペプチドおよびインタクトなプロドラッグの量を算出することができる(図17A~17B、図18)。
【0173】
一部の例において、遊離生物活性ミトコンドリア標的化テトラペプチドの切断および放出はインビトロ放出アッセイにおいて評価可能であり、該アッセイにおいて、エステルベースプロドラッグは、培地中、37℃、25℃、または他の温度においてインキュベートされる。分析方法、例えばHPLCまたは質量分析を使用して、インキュベーションの開始後の様々な時点において、遊離生物活性ミトコンドリア標的化テトラペプチドおよびインタクトなプロドラッグの量を算出することができる(図17C)。
【0174】
一部の例において、遊離生物活性ミトコンドリア標的化テトラペプチドの切断および放出は、前臨床動物モデル(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ブタなど)の硝子体腔または眼周囲組織中へのプロドラッグのインビボ注射後に評価可能であり(図29図31図32)、これにおいて、眼組織が回収され、ならびに分析方法、例えばHPLCまたは質量分析を使用して、インビボ注射後の様々な時点において、遊離生物活性ミトコンドリア標的化テトラペプチドおよびインタクトなプロドラッグの量を算出することができる。
【0175】
EY005プロドラッグの1つの特有の例はEY005-ステアリル(図16Aに描写される)を含み、これにおいて、EY005は、エステル結合を介して、長鎖飽和脂肪族アルコールの群からの1つのメンバーであるステアリルアルコールに連結されている。エステル結合の切断で、プロドラッグEY005-ステアリルはEY005 MTTを放出する。これを実験的に実証するために、EY005-ステアリルを37℃、インビトロでカルボキシエステラーゼ(0.1μg/mL)とインキュベートして、硝子体内の、目の生理学的環境およびそこに容易に豊富に存在するエステラーゼのタイプをシミュレートした。カルボキシエステラーゼとのEY005-ステアリルのインキュベーションは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析ならびに溶液中のEY005MTTおよびEY005-ステアリルプロドラッグの定量化により明らかなように、プロドラッグエステル結合の急速な切断を生成してEY005を放出させた(図17A~17B)。エステラーゼを含まない37℃のリン酸緩衝化食塩水溶液へのEY005-ステアリルプロドラッグの添加で、EY005-ステアリルプロドラッグのエステル結合は加水分解によってより緩徐(約36時間)に切断される(図17C)。そのため、目の生理学的システムにおいて、MTTを不活性コンジュゲーションに連結するプロドラッグの共有結合は、容易に酵素切断により、またはより緩徐に加水分解により切断されて、活性MTTが放出される。そのため、目の生理学的システムにおいて、MTTを不活性コンジュゲーションに連結するプロドラッグの共有結合は、容易に酵素切断により、またはより緩徐に加水分解により切断されて、活性MTTが放出される。
【0176】
ミトコンドリア機能障害は、網膜疾患に関連するインビトロ細胞培養システムを使用してモデル化され得る。1つのそのようなシステムにおいて、網膜色素上皮(RPE)細胞がコンフルエンス後まで培養されて、分化した細胞単層が確立され、次にミトコンドリア機能障害およびミトコンドリア機能障害の処置のための薬物の効果についてアッセイされる(図5)。このモデルにおいて、ミトコンドリア機能障害は、-3日目および0日目における非致死用量のヒドロキノン(HQ)への2回の曝露により誘導される。西洋的な生活様式において遍在的に存在する周知の環境毒物であるヒドロキノン(HQ)は、ミトコンドリア機能障害の生化学的誘導因子である。HQが完全に分化したRPE細胞培養物に加えられた場合、HQはミトコンドリアのユビキノンと競合して、電子伝達系から高エネルギー電子を吸い上げ、該電子は次に酸素をスーパーオキシドに還元して、カルジオリピン過酸化およびミトコンドリア機能障害に繋がる。細胞は次に、関心対象の薬物(ミトコンドリア標的化ペプチド薬物もしくはそのプロドラッグ)または対照(リン酸緩衝化食塩水(PBS)溶液)で処理され、フラボプロテイン自家蛍光(ミトコンドリアの電子伝達系複合体II代償不全の指標)の顕微鏡観察により測定されるような、ミトコンドリア機能障害に対する効果についてアッセイされる(図6)。
【0177】
ミトコンドリア機能障害のウサギモデルもまた、MTTおよびそれに由来するプロドラッグの生物活性をアッセイするために使用される。例えば、図12は、使用されたプロトコールを示し;0および1日目に、ウサギはIVT HQ(0.05mL、250mM)を与えられる。2日目に、MTT(例えば、EY005、15μM)をIVTで注射した。3日目に、ヒドロキシル、ペルオキシルおよび他の活性酸素種を測定する蛍光原色素(例えば、DCFDA)をIVTで注射し、組織を12時間後に収集した。RPEフラットマウントを複数のリードアウト:酸化副生成物(DCFDA、図13)およびRPE関連細胞外マトリックスの指標(サイトゾルビメンチン発現、図14)、およびRPE細胞異形(すなわち、アクチン細胞骨格(ファロイジン)、図14)のために加工した。すべてを顕微鏡観察により分析および定量化した。
【0178】
追加的に、高用量(>5μM)ミトコンドリア標的化テトラペプチド(例えば、EY005)での処理の予想外のおよび自明でない効果は、ビメンチン発現の低減により反映されるような培養されたRPE細胞におけるまたは乾燥型AMDのウサギモデルにおける脱調節された細胞外マトリックスの逆転(図7図9図14)およびファロイジン染色により反映されるようなアクチン細胞骨格解体の逆転(図7図10図14を参照)を含む。
【0179】
特定の例において、MTTエラミプレチドおよびEY005(H-d-Arg-DMT-Lys-Phe)でのHQ曝露されたRPE細胞の処理(図8A~8B、図9A~9B、および図10A~10B)は、ミトコンドリア機能障害の完全に近い逆転を生成して、対照となるHQ曝露された細胞と比較してフラボプロテイン自家蛍光を実質的に低減させた(図8A~8B)。EY005処理はミトコンドリア機能障害を逆転させて(図8A)、対照(「なし」または「薬物なし」)と比較してフラボプロテイン自家蛍光を実質的に低減させた。用量応答有効性の評価において、EY005は高度に強力であり、同じアッセイにおいてエラミプレチド(図8B)と匹敵するまたは同等の用量応答および効力を有した。
【0180】
同様に、EY005(15μM)は、ウサギの目のヒドロキノンモデルにおいてもミトコンドリア機能障害の逆転のために強力であった(図13)。
MTTプロドラッグの共有結合の切断で、ネイティブなMTTペプチドは、ミトコンドリア機能障害の処置のための生物活性を保持する。例えば、図19A~19Cに描写されるように、乾燥型AMDのインビトロ細胞培養モデルにおいて、EY005-ステアリル(5μM)を、ヒドロキノン(HQ)への曝露により誘導されたミトコンドリア機能障害を有するRPE細胞(内因性エステラーゼを有する)に加えた。EY005-ステアリルは、(細胞フラボプロテイン自家蛍光により描写されるように)RPE細胞におけるHQ誘導性ミトコンドリア機能障害を有効に逆転させ、有効性はEY005ネイティブペプチド(5μM)での処理と同等であった。EY005-ステアリルをまた、別々の培地中のカルボキシエステラーゼ(0.1μg/mL)とプレインキュベートした。切断されたEY005(5μM)を含有する回収された培地をミトコンドリア機能障害のこのRPE細胞モデルに加えたところ、これはRPEミトコンドリア機能障害の逆転のためにEY005ネイティブペプチドと同様に有効および同等の効力であった。そのため、これらの研究は、MTTプロドラッグから切断された活性MTTは、ミトコンドリア機能障害の処置のための必須のおよび改変されていない生物活性を保持することを裏付ける。
【0181】
例示的なMTT H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-OH)(「EY005」)を含む、本明細書に記載されるMTT、R’のクラスのいずれも、様々なコンジュゲーション部分に共有結合的に連結され得る。
【0182】
一般に、MTTが共有結合的に連結されるコンジュゲーション部分、Rは、ミトコンドリア機能障害の予防または逆転のための生物活性に基づいて選択されない。
本明細書に開示されるのはまた、直接的にポリペプチドとして連結されて一緒になっているか、または、切断可能なコンジュゲーション部分として機能的に役立ち得る、リンカー部分として役立つ化学物質に連結されて間接的に一緒になっている、任意のMTTのホモまたはヘテロ二量体、三量体、多量体を含むMTTプロドラッグである。
【0183】
本明細書に記載されるように、MTT、R’は、化学物質の以下の5つのクラス:C4~C30の脂質部分、C4~C30の直鎖もしくは分岐鎖脂肪族部分、2-mer~30-merのペプチド部分、ペグ化された部分、または炭水化物部分のうちの1つの中から選択されるコンジュゲーション部分Rに共有結合的に連結されていてもよい。
【0184】
コンジュゲーション部分の1つのクラスはC4~C30の脂質部分であり、これは脂質部分をMTTの第4のアミノ酸に結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない。本明細書において、脂質は、水中で不溶性であるが有機溶媒中で可溶性である有機化合物として定義される。脂質は、脂肪酸、脂肪族アルコール、グリセロ脂質、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質、ポリケチド(ケトアシルサブユニットの縮合に由来する)、ステロール脂質、プレノール脂質(イソプレンサブユニットの縮合に由来する)、リン脂質、油、ワックス、およびステロイドを含む。
【0185】
コンジュゲーション部分の1つのクラスはC4~C30の直鎖または分岐鎖脂肪族部分であり、これは脂肪族炭化水素をMTTの第4のアミノ酸に結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない。このクラスは、アルカン、アルケン、およびアルキンならびに4~約30個の炭素から作られた他の炭化水素部分を含む。
【0186】
コンジュゲーション部分の1つのクラスはペプチド部分であり、これはペプチドをMTTの第4のアミノ酸に結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有さず、ペプチド部分は、2-mer~30-merの長さを有する天然または合成アミノ酸ポリマーまたはポリペプチド鎖を含み、該天然または合成アミノ酸ポリマーまたはポリペプチド鎖は、陰イオン性、陽イオン性、または中性の電荷であってもよく、および均質または不均質なアミノ酸リピートを含有してもよい。
【0187】
陰イオン性ペプチド部分は、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸またはグルタミン酸とアスパラギン酸との組合せのうちの少なくとも1つを含んでもよい。
陽イオン性ペプチド部分は、ポリアルギニン、ポリリジン、ポリヒスチジン、アルギニンとリジンとの組合せ、アルギニンとヒスチジンとの組合せ、ヒスチジンとリジンとの組合せ、アルギニンとヒスチジンとリジンとの組合せのうちの少なくとも1つを含んでもよい。
【0188】
ペプチド部分は、ポリエチレングリコール(PEG)基の付加のための1つ以上のPEG化部位を有してもよく、または、グリコシル化を含む、糖もしくは炭水化物分子の付加による修飾のための1つ以上の部位を有してもよい。
【0189】
コンジュゲーション部分の1つのクラスは、直鎖状、分岐鎖状、Y形状、もしくはマルチアーム幾何形状のポリエチレングリコール(PEG)ポリマー、ペグ化されたペプチドもしくはタンパク質、またはペグ化されたコハク酸、例えばスクシンイミジルコハク酸を含む、ペグ化された化合物部分であり、これはペグ化された化合物をMTTの第4のアミノ酸に結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない。
【0190】
コンジュゲーション部分の1つのクラスは、単糖または2~20個の糖のオリゴ糖を含むがそれに限定されない、炭水化物分子部分であり、これは炭水化物をMTTの第4のアミノ酸に結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない。炭水化物分子は、グルコース、ガラクトース、ラクトース、マンノース、リボース、フコース、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルノイラミン酸、またはこれらのいずれかのエピマーもしくは誘導体のうちの1つ以上を含んでもよい。
【0191】
一部の事例において、これらのクラスのうちの2つまたはより多くからのエレメントを組み合わせていてもよいコンジュゲーション部分は、複数のミトコンドリア標的化ペプチドに共有結合的に連結されて二量体および/または多量体を形成する多量体リンカー部分として役立ち得る。ミトコンドリア標的化ペプチドの二量体または多量体を生成する能力を有するそのようなリンカーは、「多量体化ドメイン」として参照され得る。多量体化ドメインを有するMTTプロドラッグは、式(V):
(R’)-R (V)
(式中、Rは、複数のミトコンドリア標的化ペプチドR’に共有結合的に連結されてプロドラッグの二量体または多量体を形成するリンカーまたは多量体化ドメインであり、nは2~約100に等しい)を有する。例は、PEGポリマー、ポリビニルアルコール(PVA)ポリマー、またはポリペプチドを含み、リンカーコンジュゲーション部分Rは、MTT R’の2つまたはより多くの分子に共有結合的に連結されて、二量体、三量体、多量体などを形成する。一部の場合において、多量体化ドメインは、MTT単位R’が結合しているアルコール、すなわち、複数の「-OH」基を有する。この状況において、多量体化ドメインに(例えば、エステルまたは別の動的な共有結合を介して)共有結合的に連結されている複数のMTTはMTTプロドラッグ多量体と言及され得る。
【0192】
例えば、プロドラッグ化合物は、以下の式(式中、「n」はPVAポリマーを構成する数である)を有してもよい:
【0193】
【化7】
本明細書に記載されるように、プロドラッグは、ミトコンドリア標的化ペプチドとC4(4個の炭素)~C30(30個の炭素)の長さの範囲内の脂肪族アルコールとの間の縮合またはエステル化反応の生成物であってもよい。
【0194】
脂肪族アルコールは、tert-ブチルアルコール、tert-アミルアルコール、3-メチル-3-ペンタノール、1-ヘプタノール(エナントアルコール)、1-オクタノール(カプリルアルコール)、1-ノナノール(ペラルゴンアルコール)、1-デカノール(デシルアルコール、カプリンアルコール)、ウンデシルアルコール(1-ウンデカノール、ウンデカノール、ヘンデカノール)、ドデカノール(1-ドデカノール、ラウリルアルコール)、トリデシルアルコール(1-トリデカノール、トリデカノール、イソトリデカノール)、1-テトラデカノール(ミリスチルアルコール)、ペンタデシルアルコール(1-ペンタデカノール、ペンタデカノール)、1-ヘキサデカノール(セチルアルコール)、cis-9-ヘキサデセン-1-オール(パルミトレイルアルコール)、ヘプタデシルアルコール(1-n-ヘプタデカノール、ヘプタデカノール)、1-オクタデカノール(ステアリルアルコール)、1-オクタデセノール(オレイルアルコール)、1-ノナデカノール(ノナデシルアルコール)、1-エイコサノール(アラキジルアルコール)、1-ヘンエイコサノール(ヘンエイコシルアルコール)、1-ドコサノール(ベヘニルアルコール)、cis-13-ドコセン-1-オール(エルシルアルコール)、1-テトラコサノール(リグノセリルアルコール)、1-ペンタコサノール、1-ヘキサコサノール(セリルアルコール)、1-ヘプタコサノール、1-オクタコサノール(モンタニルアルコール、クルイチルアルコール)、1-ノナコサノール、1-トリアコンタノール(ミリチルアルコール、メリシルアルコール)のうちの1つ以上を含んでもよい。
【0195】
RはC30アルキル(トリアコンタニル)基であってもよいか、またはO-RはC30脂肪族アルコール(ミリチルアルコール)である。
例えば、RはC28アルキル(オクタサニル)基であってもよいか、またはO-RはC28脂肪族アルコール(モンタニルアルコール)である。
【0196】
RはC26アルキル(ヘキサコサニル)基であってもよいか、またはO-RはC26脂肪族アルコール(セリルアルコール)である。
RはC24アルキル(テトラコサニル)基であってもよいか、またはO-RはC24脂肪族アルコール(リグノセリルアルコール)である。
【0197】
RはC22アルキル(ドコサニル)基であってもよいか、またはO-RはC22脂肪族アルコール(ベヘニルアルコール)である。
RはC20アルキル(エイコサニル)基であってもよいか、またはO-RはC20脂肪族アルコール(アラキジルアルコール)である。
【0198】
RはC18アルキル(オクタデシル)基であってもよいか、またはO-RはC18脂肪族アルコール(ステアリルアルコール)である。
RはC16アルキル(ヘキサデシル)基であってもよいか、またはO-RはC16脂肪族アルコール(パルミチルアルコール)である。
【0199】
RはC14アルキル(テトラデシル)基であってもよいか、またはO-RはC14脂肪族アルコール(ミリスチルアルコール)である。
RはC12アルキル(ドデシル)基であってもよいか、またはO-RはC12脂肪族アルコール(ラウリルアルコール)である。
【0200】
RはC10アルキル(デシル)基であってもよいか、またはO-RはC10脂肪族アルコール(デカノール)である。
プロドラッグは、ミトコンドリア標的化ペプチドとC4(4個の炭素)~C34(34個の炭素)の長さの範囲内の脂肪酸との間の縮合またはエステル化反応の生成物であってもよい。
【0201】
脂肪酸は、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、(9Z)-ヘキサデセン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン酸、(9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-9,12,15-トリエン酸、(6Z,9Z,12Z)-オクタデカ-6,9,12-トリエン酸、(5E,9E,12E)-オクタデカ-5,9,12-トリエン酸、(6Z,9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-6,9,12,15-テトラエン酸、(Z)-オクタデカ-9-エン酸、(11E)-オクタデカ-11-エン酸、(E)-オクタデカ-9-エン酸、ノナデカン酸、およびエイコサン酸のうちの1つ以上を含んでもよい。
【0202】
一部の例において、ミトコンドリア標的化テトラペプチドのクラスのメンバーは、ミトコンドリア標的化テトラペプチドの第4の位置におけるアミノ酸からのヒドロキシル基へのコンジュゲーション部分としての約4~約30個の炭素を有する脂肪族基の付加を介してペプチドベースプロドラッグとして生産される。脂肪族基は、アルカン、アルケン、およびアルキンを含んでもよく、ならびに非分岐、分岐および環状基の両方を含んでもよい。
【0203】
一部の例において、ミトコンドリア標的化テトラペプチドのクラスのメンバーは、ミトコンドリア標的化テトラペプチドの第4の位置におけるアミノ酸からのヒドロキシル基へのコンジュゲーション部分としてのペプチドの付加を介してペプチドベースプロドラッグとして生産される。ペプチドベースプロドラッグは、小さいペプチド(例えば、2~30個のアミノ酸(AA))であるコンジュゲーション部分を含む。
【0204】
これらのプロドラッグのいずれにおいても、Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、天然または合成アミノ酸を含む2-mer~約30-merのペプチド部分であってもよい。Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合するリンカー部分を有するかまたは有しない、2-mer~約30-merの陰イオン性ペプチド部分であってもよい。
【0205】
コンジュゲーション部分の基Rとして役立ち得る陰イオン性ペプチド配列の例は、ポリアスパラギン酸(アスパルテート)、ポリグルタミン酸(グルタメート)、ポリ-(アスパラギン酸-グルタミン酸)またはポリ-(グルタミン酸-アスパラギン酸)リピートを含むペプチドを含むがそれに限定されない。
【0206】
陰イオン性ペプチド部分は、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸またはグルタミン酸とアスパラギン酸との組合せのうちの少なくとも1つを含んでもよい。
Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合するリンカー部分を有するかまたは有しない、2-mer~約30-merの陽イオン性ペプチドであってもよい。
【0207】
コンジュゲーション部分の基Rとして役立ち得る陽イオン性ペプチド配列の例は、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、ポリ-(リジン-アルギニン)(またはアルギニン-リジン)リピートを含むペプチド、ポリ-(リジン-ヒスチジン)(またはヒスチジン-リジン)リピートを含むペプチド、ポリ-(アルギニン-ヒスチジン)(またはヒスチジン-アルギニン)リピートを含むペプチド、ポリ-(リジン-アルギニン-ヒスチジン)リピートを含むペプチド、ポリ-(リジン-ヒスチジン-アルギニン)リピートを含むペプチド、ポリ-(アルギニン-リジン-ヒスチジン)リピートを含むペプチド、ポリ-(アルギニン-ヒスチジン-リジン)リピートを含むペプチド、ポリ-(ヒスチジン-アルギニン-リジン)リピートを含むペプチド、ポリ-(ヒスチジン-リジン-アルギニン)リピートを含むペプチドを含むがそれに限定されない。
【0208】
Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有する、天然または合成アミノ酸を含む2-mer~約30-merのペプチド部分であってもよい。ペプチド部分は、ポリエチレングリコール(PEG)基の付加のための1つ以上のPEG化部位を有してもよい。
【0209】
Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有しない、天然または合成アミノ酸を含む2-mer~約30-merのペプチド部分であってもよい。ペプチド部分は、グリコシル化を含む、糖または炭水化物分子の付加による修飾のための1つ以上の部位を有してもよい。
【0210】
Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、2-mer~約30-merのポリアルギニン部分であってもよい。
【0211】
一部の例において、プロドラッグ化合物はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、6-merのポリアルギニン部分である)である。
【0212】
これらのプロドラッグ化合物のいずれにおいても、Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、2-mer~約30-merのポリアスパラギン酸部分であってもよい。
【0213】
Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、2-mer~約30-merのポリヒスチジン部分であってもよい。
【0214】
Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、2-mer~約30-merのポリリジン部分であってもよい。
【0215】
Rは、直鎖状、分岐鎖状、Y形状、またはマルチアーム幾何形状のポリエチレングリコール(PEG)ポリマーを含むPEGポリマー、ペグ化されたペプチド、またはペグ化されたコハク酸であってもよい。
【0216】
Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)に共有結合的に結合した単糖または2~20個の糖のオリゴ糖を含む炭水化物分子を含む炭水化物部分であってもよい。例えば、炭水化物分子は、グルコース、ガラクトース、ラクトース、マンノース、リボース、フコース、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルノイラミン酸、またはグルコース、ガラクトース、ラクトース、マンノース、リボース、フコース、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルグルコサミン、およびN-アセチルノイラミン酸のエピマーもしくは誘導体のうちの1つを含んでもよい。
【0217】
Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、2-mer~約30-merのポリグルタミン酸部分であってもよい。
【0218】
プロドラッグ化合物は、以下の例におけるように、以下の式(式中、「n」はPVAポリマーを構成する数である)を有してもよい:
【0219】
【化8】
本明細書に記載されるのはまた、式(VIII)、H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(EY005-Rと呼称される):
【0220】
【化9】
(式中、第4のアミノ酸は、エステル結合を介してRに連結されており、およびRまたは-O-Rは、C4~C30の脂質部分、C4~C30の直鎖もしくは分岐鎖脂肪族部分、2-mer~30-merのペプチド部分、またはペグ化された部分、または炭水化物部分から選択されるコンジュゲーション部分である)のプロドラッグ化合物である。
【0221】
一部の例において、プロドラッグはH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O-)-非極性脂質(本明細書においてEY005-非極性脂質とも称される)の式を有する。非極性脂質は、コンジュゲーション部分としてオクタデシル(-O-Rはステアリルアルコールに由来する)またはヘキサデシル(-O-Rはパルミチルアルコールに由来する)または他の同等の分子を含む、いくつかの分子のうちの1つを含んでもよい(例は図16Aにおいて描写される)。コンジュゲーション部分として非極性脂質を有するプロドラッグは、これもまた非極性脂質である複合体化剤を含む、脂質ベース複合体化剤を成功裏に伴い得る本明細書に記載されるプロドラッグの1つのクラスに過ぎない。非極性脂質は、脂肪酸、グリセロ脂質、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質、ポリケチド(ケトアシルサブユニットの縮合に由来する)、ステロール脂質およびプレノール脂質(イソプレンサブユニットの縮合に由来する)を含むがそれに制約されない、ケトアシルおよびイソプレン基を含有する、27~50℃の温度で固体である疎水性分子である。
【0222】
一部の例において、H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-OH)(EY005)はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、O-R基は、直接的にまたはリンカー構築物を介して、第4のアミノ酸のヒドロキシル基に共有結合的に連結された、C4~C30の炭素鎖長を有する、脂肪酸または脂肪族アルコールであるコンジュゲーション部分である)として生産される。1つのそのような例は、H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、-O-R基は、エステル結合を介してH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-OH)に連結されているステアリルアルコールに由来する)(図16AにおいてもEY005-ステアリルとして描写されており、エステラーゼ切断部位が示されている)。別の例において、プロドラッグは、EY005-ヘキサデシルとして描写されている、H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、-O-R基は、パルミチルアルコールに由来し、パルミチルアルコールに由来する-O-R基は、エステル結合を介してH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-OH)に連結されている)である:
【0223】
【化10】
例えば、本明細書に記載されるのはまた、式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ノニルを有するプロドラッグ化合物である。
【0224】
プロドラッグ化合物は式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-デシルを有してもよい。
プロドラッグ化合物は式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ウンデシルを有してもよい。
【0225】
プロドラッグ化合物は式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ドデシルを有してもよい。
プロドラッグ化合物は式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-トリデシルを有してもよい。
【0226】
プロドラッグ化合物は式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-テトラデシルを有してもよい。
プロドラッグ化合物は式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ペンタデシルを有してもよい。
【0227】
プロドラッグ化合物は式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ヘキサデシルを有してもよい。
プロドラッグ化合物は式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ヘプタデシルを有してもよい。
【0228】
プロドラッグ化合物は式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-オクタデシルを有してもよい。
プロドラッグ化合物は式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ノナデシルを有してもよい。
【0229】
プロドラッグ化合物は式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-イコシルを有してもよい。
プロドラッグ化合物は式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ヘニコシルを有してもよい。
【0230】
プロドラッグ化合物は式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ドコシルを有してもよい。
プロドラッグ化合物は式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-トリコシルを有してもよい。
【0231】
プロドラッグ化合物は式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-テトラコシルを有してもよい。
プロドラッグ化合物は式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ペンタコシルを有してもよい。
【0232】
プロドラッグ化合物は式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ヘキサコシルを有してもよい。
プロドラッグ化合物は式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ヘプタコシルを有してもよい。
【0233】
プロドラッグ化合物は式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-オクタコシルを有してもよい。
プロドラッグ化合物は式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ノナコシルを有してもよい。
【0234】
プロドラッグ化合物は式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-トリアコンチルを有してもよい。
プロドラッグ化合物は式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ヘントリアコンチルを有してもよい。
【0235】
プロドラッグ化合物は式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ドトリアコンチルを有してもよい。
プロドラッグ化合物は式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-トリトリアコンチルを有してもよい。
【0236】
プロドラッグ化合物は式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-テトラトリアコンチルを有してもよい。
プロドラッグ化合物は式:H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-ペンタトリアコンチルを有してもよい。
【0237】
一部の例において、ペプチドベースプロドラッグは式H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、2~30個のアミノ酸の長さを有する陽イオン性ペプチドまたはポリペプチド分子を含むコンジュゲーション部分であり、個々のペプチドは別個であるかまたはリピートであってもよく、および、直接的にまたはリンカー構築物を介して、第4のアミノ酸のヒドロキシル基に共有結合的に連結されている)を有する。1つのそのような例はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rはポリアルギニンペプチド(例えば、ポリアルギニンヒドロクロリドアジド)である:
【0238】
【化11】
一部の例において、ペプチドベースプロドラッグは式H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、2~30個のアミノ酸の長さを有する陰イオン性ペプチドまたはポリペプチド分子を含むコンジュゲーション部分であり、個々のペプチドは別個であるかまたはリピートであってもよく、および、直接的にまたはリンカー構築物を介して、第4のアミノ酸のヒドロキシル基に共有結合的に連結されている)を有する。1つのそのような例はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rはポリグルタミン酸ペプチド(例えば、ポリグルタミン酸アジド)である:
【0239】
【化12】
プロドラッグ化合物はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、3-merのポリアルギニン部分である)であってもよい(図16Cを参照)。
【0240】
プロドラッグ化合物はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、6-merのポリアルギニン部分である)であってもよい。
【0241】
プロドラッグ化合物はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、8-merのポリアルギニン部分である)であってもよい。
【0242】
プロドラッグ化合物はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、10-merのポリアルギニン部分である)であってもよい。
【0243】
プロドラッグ化合物はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、3-merのポリグルタミン酸部分である)であってもよい(図16Bを参照)。
【0244】
プロドラッグ化合物はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、6-merのポリグルタミン酸部分である)であってもよい。
【0245】
プロドラッグ化合物はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、8-merのポリグルタミン酸部分である)であってもよい。
【0246】
プロドラッグ化合物はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、10-merのポリグルタミン酸部分である)であってもよい。
【0247】
プロドラッグ化合物はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、3-merのポリアスパラギン酸部分である)であってもよい。
【0248】
プロドラッグ化合物はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、6-merのポリアスパラギン酸部分である)であってもよい。
【0249】
プロドラッグ化合物はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、8-merのポリアスパラギン酸部分である)であってもよい。
【0250】
プロドラッグ化合物はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、10-merのポリアスパラギン酸部分である)であってもよい。
【0251】
プロドラッグ化合物はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、3-merのポリヒスチジン部分である)であってもよい。
【0252】
プロドラッグ化合物はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、6-merのポリヒスチジン部分である)であってもよい。
【0253】
プロドラッグ化合物はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、8-merのポリヒスチジン部分である)であってもよい。
【0254】
プロドラッグ化合物はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、10-merのポリヒスチジン部分である)であってもよい。
【0255】
プロドラッグ化合物はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、3-merのポリリジン部分である)であってもよい。
【0256】
プロドラッグ化合物はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、6-merのポリリジン部分である)であってもよい。
【0257】
プロドラッグ化合物はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、8-merのポリリジン部分である)であってもよい。
【0258】
プロドラッグ化合物はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)にペプチドを結合する先行するリンカー部分を有するかまたは有しない、10-merのポリリジン部分である)であってもよい。
【0259】
プロドラッグ化合物はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、直鎖状、分岐鎖状、Y形状、またはマルチアーム幾何形状のポリエチレングリコール(PEG)ポリマーを含むPEGポリマー、ペグ化されたペプチド、またはペグ化されたコハク酸である)であってもよい。
【0260】
一部の例において、プロドラッグは式H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、直接的にまたはリンカー構築物を介して、Phe-OHのヒドロキシル基に共有結合的に連結されたポリエチレングリコール(PEG)ポリマーを含むコンジュゲーション部分である)を有する。1つのそのような例はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、RはPEGポリマー部分である)(図16Dにおいても描写されている)であり、プロドラッグは、指し示されるようにエステラーゼ切断部位を有するEY005-PEGである:
【0261】
【化13】
一部の例において、プロドラッグは式H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、直接的にまたはリンカー構築物を介して、Phe-OHのヒドロキシル基に共有結合的に連結されたPEG化されたペプチドまたはタンパク質を含むコンジュゲーション部分である)を有する。1つのそのような例はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、PEG化されたペプチドまたはタンパク質である)である。
【0262】
一部の例において、プロドラッグは式H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、直接的にまたはリンカー構築物を介して、Phe-OHのヒドロキシル基に共有結合的に連結されたPEG化されたペプチドまたはタンパク質を含むコンジュゲーション部分である)を有する。1つのそのような例はは式H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、直接的にまたはリンカー構築物を介して、Phe-OHのヒドロキシル基に共有結合的に連結されたPEG化されたコハク酸を含むコンジュゲーション部分である)を有する。1つのそのような例はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、PEG化されたコハク酸である)である:
プロドラッグ化合物はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、ミトコンドリア標的化ペプチドの第4のアミノ酸のヒドロキシル(-OH)に共有結合的に結合した単糖または2~20個の糖のオリゴ糖を含む炭水化物分子を含む炭水化物部分である)であってもよい。これらは、グルコース、ガラクトース、ラクトース、マンノース、リボース、フコース、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルノイラミン酸、またはそれらのエピマーもしくは誘導体のいずれかを含む単糖またはオリゴ糖を含むがそれに限定されない。
【0263】
プロドラッグ化合物は(H-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O))-R(式中、Rは、複数のミトコンドリア標的化ペプチドに共有結合的に連結されてプロドラッグの二量体または多量体を形成するリンカーまたは多量体化ドメインであり、nは2~約100に等しい)であってもよい。多量体化ドメインは、PEG、PEGポリマー、ポリビニルアルコール(PVA)、またはペプチドのうちの1つ以上を含んでもよい。
【0264】
1つのそのような例はH-d-Arg-DMT-Lys-Phe(-O)-R(式中、Rは、Rは、第4の位置におけるアミノ酸のヒドロキシル基において1つ以上の他のミトコンドリア標的化ペプチドに連結することができるポリビニルアルコール(PVA)である)である:
【0265】
【化14】
複合体化は2つの物理化学的状況において起こる。1つの場合において、複合体化は、個々の分子の間の非共有結合性相互作用(例えば、受容体-リガンド相互作用)と共に起こる。このタイプの複合体化は分子複合体化と称される。第2の状況は、微粒子(この場合、複合体化剤)の表面に非共有結合的に結合または吸着する化学物質の分子(この場合、薬物の分子)を伴う。このタイプの複合体化は微粒子複合体化と称され、異なる微粒子吸着剤、または複合体化剤は、微粒子のサイズおよび形状、表面に存在する官能基、ならびに微粒子の表面不規則性および多孔性に基づいて異なる吸着特性を有する。微粒子複合体化の有用性は、土壌科学を含む、他の学問分野において認識されており、土壌科学において、化学的吸着剤(例えば、アルミナ、シリカゲル、活性炭)は土壌中の特有の化学物質(頻繁には夾雑物)と相互作用し、吸着-脱着特性は、栄養分、肥料、落葉剤、殺虫剤のために特に重要である。油および炭化水素産業において、吸着剤(例えば、ポリプロピレン、バーミキュライト、パーライト、ポリエチレン、その他)は、油こぼれを洗浄するためまたはドリリングおよびフラッキング機器からの残油を除去するために使用され;ならびに産業コーティング(例えば、ゼオライト、シリカゲル、リン酸アルミニウム)において、吸着剤は様々な目的(すなわち、潤滑、表面冷却)のために化学物質に結合するために使用される。
【0266】
医療応用において、吸着剤は、吸着剤が毒素に結合して腸から全身循環への吸着を制限する摂取(例えば、活性炭、ポリスチレン硫酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム)による急性中毒の処置のために使用される。
【0267】
医薬品産業において、吸着複合体化の原理は、血液中の血漿タンパク質に結合する薬物、インサイチュ薬物放出用の固体スキャフォールド(例えば、薬物溶出ステント)上の薬物コーティング、ならびに経口バイオアベイラビリティおよび腸吸収を向上させるための不溶性薬物への賦形剤の付加の形態の医薬品科学において最もよく知られている。
【0268】
しかしながら、薬物送達システムインプラントから眼組織中への薬物の放出を調節するための、複合体化システムに基づくか、または複合体化剤との薬物吸着非共有結合性相互作用を利用する、眼薬物送達用の持続放出薬物送達システムはない。
【0269】
本明細書に記載される組成物および方法は微粒子複合体化を利用してもよく、複合体化剤はそのため、不規則な形状の微粒子として製剤化された場合に、MTTプロドラッグに非共有結合的に結合してMTTプロドラッグ-複合体微粒子を形成する能力を有する、眼組織と適合性の化学物質である。このシステムは、プロドラッグ戦略を利用することにより薬物それ自体の特性または活性を変化させることなく複合体化化学システムを活用する。1つ以上のMTTプロドラッグ-複合体微粒子は疎水性分散媒体中に組み込まれておよび混合されて、安定な多相性コロイド懸濁液を形成し、これは、目の中および周囲に安全に送達される。この複合体化ベースXRDDSは、組織中への遊離MTTプロドラッグ拡散の拡散および放出を調節し、組織(硝子体)エステラーゼによる切断で遊離MTT薬物が放出されるか、またはエステルは加水分解により切断されて、組織中への薬物の放出の調節のための統合された機構が提供される。
【0270】
MTTプロドラッグのコンジュゲーション部分は、1つ以上の微粒子複合体化剤と複合体化するか、またはそれと非共有結合性相互作用を形成して「薬物-複合体」微粒子を形成するその能力について特に選択され、薬物-複合体微粒子は引き続いて、選択された分散媒体内で合わせられおよび分散されて、安定な多相性コロイド懸濁液を形成する。複合体化剤は、脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成することができる有機化合物、荷電性リン脂質、荷電性タンパク質、核酸、および多糖を含む、化学物質の6つのクラスのうちの1つから選択される。
【0271】
本明細書に記載される組成物および方法は、不規則な表面を有する不規則な形状の微粒子の形態にある場合に、MTTプロドラッグ用の有効な複合体化剤として役立つことができる、脂肪酸、ケト-エノール互変異性体を形成することができる有機化合物、荷電性リン脂質、荷電性タンパク質、核酸、および多糖というこれらの6つのクラスの化学物質の、以前に認識されていなかった新たな特性を開示する。複合体化剤のための基準は、以下の4つの特色:(1)フルオレセイン標識物が、MTTそれ自体ではなくコンジュゲーション部分を介して微粒子に結合すること;これは顕微鏡法イメージングにより実証可能である(図20Cおよび図20D図21Cおよび図21D図22Cおよび図22Dならびに図23Cおよび図23Dを参照);(2)物質の微粒子がMTTプロドラッグの溶液に加えられた場合、微粒子の遠心分離およびプルダウンで、薬理学的に有意な量の薬物が、微粒子と複合体化していることが観察されること(下記の表2を参照);(3)薬物微粒子複合体が、適切な分散媒体中に再懸濁された場合に、特定の分散媒体中での所与のMTTプロドラッグ-複合体化剤ペアについての薬物のKdまたは非結合-結合比率により実証され得る、薬物の部分的な放出を実証すること(下記の表2を参照);ならびに(4)薬物-微粒子複合体が、分散媒体からの有用な薬物動態的放出プロファイルを提供すること(図25Bを参照)を含む。合わせて、これらの4つの特性は複合体化剤を定義し、本明細書に記載される複合体化ベースXRDDSを可能にする。
【0272】
対照的に、球状の滑らかな表面、ならびに、例えばシリコーンビーズ、ラテックスビーズ、およびある特定のポリマーマイクロ微粒子を含む、非反応性コーティングを有する球状微粒子は、MTTプロドラッグと複合体を形成せず(図24C)、したがって本明細書に記載される組成物および方法から除外され得る。
【0273】
複合体化剤の1つのクラスは脂肪酸であり、これは脂肪族鎖を有するカルボン酸であり、飽和または不飽和であってもよく、塩またはエステルの形態であってもよい。例えば、脂肪酸は、CH3(CH2)COOHの化学式(式中、nは4~30に等しい)を有してもよい。脂肪酸は、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、(9Z)-ヘキサデセン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン酸、(9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-9,12,15-トリエン酸、(6Z,9Z,12Z)-オクタデカ-6,9,12-トリエン酸、(5E,9E,12E)-オクタデカ-5,9,12-トリエン酸、(6Z,9Z,12Z,15Z)-オクタデカ-6,9,12,15-テトラエン酸、(Z)-オクタデカ-9-エン酸、(11E)-オクタデカ-11-エン酸、(E)-オクタデカ-9-エン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸などのうちの1つを含んでもよい。脂肪酸は、C14とC20との間の非分岐鎖脂肪酸であってもよい。脂肪酸は、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、ステアリン酸(オクタデカン酸)、アラキドン酸(エイコサン酸)のうちの1つを含む飽和脂肪酸であってもよい。塩形態の脂肪酸の特有の例は、ステアリン酸マグネシウム、パルミチン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、パルミチン酸カルシウム、およびその他を含む。
【0274】
例えば、複合体化剤はC18脂肪酸(例えば、ステアリン酸、またはオクタデカン酸)であってもよい。一部の例において、本明細書に記載されるMTTは、ステアリン酸またはステアリルアルコールを含むコンジュゲーション部分に(例えば、エステル結合を介して)共有結合的に連結されており(例えば、EY005-オクタデシル、または図16Aに示されているEY005-ステアリル)、およびXRDDSは、複合体化剤としてステアリン酸またはその塩形態(ステアリン酸マグネシウム)を含んでもよい。
【0275】
複合体化剤の1つのクラスは、ケト-エノール互変異性体を形成することができる有機化合物である。互変異性体は、ケト形態(ケトンまたはアルデヒド)とエノール形態(アルコール)との間で化学平衡を起こす能力を有する分子を指す。通常、ケト-エノール互変異性化を起こす能力を有する化合物は、ヒドロキシル(-OH)基に隣接する二重結合した炭素原子のペア、すなわち以下に描写されているC=C-OHを含有するエノール互変異性体と平衡状態のカルボニル基(C=O)を含有する:
【0276】
【化15】
ケトおよびエノール形態の相対的な濃度は、平衡、温度またはレドックス状態を含む、特有の分子および化学的微環境の化学的特性により決定される。ケト-エノール互変異性化する能力を有する有機化合物は、フェノール、トコフェルソラン、トコフェロール、キノン、リボ核酸、およびその他を含むがそれに限定されない。
【0277】
複合体化剤の1つのクラスは荷電性リン脂質である。一般に、リン脂質は、グリセロール分子、2つの脂肪酸、およびアルコールにより修飾されたリン酸基からなり、リン脂質の極性ヘッドは典型的には負に荷電している。例は、レシチン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、油中の異なるリン脂質、および多くのその他のものを含み、これらは、複合体化剤として役立つために個々にまたは組合せで使用されてもよい。陰イオン性リン脂質は、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリンまたはホスファチジルイノシトールのうちの1つを含んでもよい。一部の事例において、DLin-MC3-DMAなどの例を含むがそれに限定されない、正電荷を有する合成の、イオン化可能なリン脂質が生産され得る。追加の陽イオン性リン脂質は、ホスファチジルコリンの陽イオン性トリエステル;1,2-ジミリストイル-sn-グリセロール-3-ホスホコリン(DMPC);1,2-ジオレオイル-sn-グリセロール-3-ホスホコリン(DOPC);1,2-ビス(オレオイルオキシ)-3-(トリメチルアンモニオ)プロパン(DOTAP);1,2-ジオレオイル-sn-グリセロール-3-ホスホエタノールアミン(DOPE);1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロール-3-ホスホコリン(DPPC);1,2-ジオレオイル-sn-グリセロール-3-エチルホスホコリン(EDOPC);1,2-ジミリストイル-sn-グリセロール-3-エチルホスホコリン(EDMPC);1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロール-3-エチルホスホコリン(EDPPC)のうちの1つを含んでもよい。医薬品科学において、リン脂質は、バイオアベイラビリティ、低減された毒性、および向上された細胞透過性を向上させるために薬物製剤化および送達応用のために使用されている。しかしながら、本明細書に記載される組成物および方法において、リン脂質は、MTTプロドラッグ複合体微粒子がそこに組み込まれおよび分散される安定な多相性コロイド懸濁液の分散媒体において遊離MTTプロドラッグを調節する目的のためにMTTプロドラッグのコンジュゲーション部分に非共有結合的に結合し、およびMTTプロドラッグ複合体微粒子を形成するための複合体化剤微粒子として使用されてもよい。
【0278】
一部の例において、陰イオン性リン脂質は、MTTプロドラッグの陽イオン性コンジュゲーション部分と非共有結合性複合体化を形成してもよい。陽イオン性リン脂質は、MTTプロドラッグの陰イオン性コンジュゲーション部分と非共有結合性複合体化を形成してもよい。
【0279】
複合体化剤の1つのクラスは荷電性タンパク質である。タンパク質は、アミノ酸残基の1つ以上の長い変化を含む大きい生体分子および高分子である。タンパク質を作り上げるアミノ酸は、正、負、中性、または極性の性質であってもよく、合わせて、タンパク質を構成するアミノ酸は、タンパク質にその全体的な電荷を与える。様々なタンパク質が、サイズ、分子量、微粒子を容易に形成する能力、および眼組織との適合性に基づいて、複合体化剤として役立ち得る。タンパク質の電荷は、特有のMTTプロドラッグとのその適合性を決定し、負に荷電性タンパク質は、MTTプロドラッグの正に荷電したコンジュゲーション部分と容易に複合体化し、正に荷電性タンパク質(例えば、Arg-Gln-Ile-Arg-Arg-Ile-Ile-Gln-Arg-NHおよび正電荷を有する合成ペプチド)は、MTTプロドラッグの負に荷電したコンジュゲーション部分と容易に複合体化する。複合体化剤として役立ち得るタンパク質の例はアルブミンおよびコラーゲンを含む。
【0280】
複合体化剤の1つのクラスは核酸であり、これは、5炭糖、リン酸基、および含窒素塩基を含む、ヌクレオチドを含むバイオポリマー高分子である。生物学的機能および遺伝情報のコーディングのための核酸の重要性はよく確立されている。しかしながら、核酸はまた、核酸酵素(例えば、カーボンナノマテリアル)、アプタマー(例えば、抗体様の様式で機能する核酸ナノ構造および治療用分子の形成のため)、ならびにアプタザイム(例えば、インビボイメージングのために使用され得る)を含む、様々な応用を有する。医薬品科学において、特別に操作された核酸が、該核酸が様々なタイプの薬物のための担体システムとして役立つ担体ベースシステムにおける使用のために検討および応用されている。しかしながら、本明細書に記載される組成物および方法において、核酸は、担体システムとしてではなく、複合体化剤として考えられることがあり、これは、核酸は高度に負に荷電しており、そのため、微粒子として製剤化されると、MTTプロドラッグの正に荷電したコンジュゲーション部分のための複合体化剤として役立ち得るからである。
【0281】
複合体化剤の1つのクラスは多糖であり、これは、グリコシド連結により結合して一緒になった単糖単位を含む長鎖ポリマー炭水化物である。頻繁に、これらはかなり不均質であり、繰返し単糖単位のわずかな修飾を含有する。構造に依存して、それらは水に不溶性であり得る。他の分子、この場合、様々なMTTプロドラッグに対する多糖微粒子複合体化剤の複合体化は様々な静電相互作用を通じて起こることができ、MTTプロドラッグのコンジュゲーション部分および多糖の電荷密度、多糖複合体化剤とMTTプロドラッグとの比、イオン強度、ならびに他の特性により影響される。複合体化剤として役立ち得る多糖の例は、環状多糖分子、シクロデキストリン、クラスレート、セルロース、ペクチン、または酸性多糖(カルボキシル基、リン酸基、または他の同様に荷電性の基を含有する多糖)を含む。
【0282】
複合体化剤は、金属イオンを含有する化合物であってもよい。
これらの治療用組成物のいずれにおいても、イオン配位複合体化が中心イオンの周囲で起こって、大規模な非共有結合性相互作用を形成し得る。中心イオンは、銅、鉄、亜鉛、白金、またはリチウムのうちの1つを含む中心金属イオンであってもよい。
【0283】
イオン配位複合体化は、広範囲の化学物質と大規模な非共有結合性静電相互作用を形成する能力を有する、中心イオン、通常は金属の周囲での化学的複合体化プロセスである。これは、天然において最も一般的な化学プロセスの1つである。結合のアビディティは、異なる配位イオンの間で可変的であり、その一部はほぼ非可逆的であり得、その他は相対的に不安定な結合を示す。中心金属イオンは、銅、鉄、亜鉛、白金、リチウム、その他を含む。薬物送達用の複合体化剤として役立ち得る3つのクラスは、キレーター(EDTA)、ある特定の特異的な金属(白金、リチウム、ランタン)との複合体化、ならびに金属タンパク質エレメント(ヘモグロビン、ポルフィリン、スーパーオキシドディスムターゼ、および亜鉛または銅結合性ドメインを有するその他)を有する分子である。
【0284】
複合体化剤は、金属、金属タンパク質、またはスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)との複合体化のために構成されたキレーターを含んでもよい。複合体化剤は、白金、リチウム、ランタン、ヘモグロビン、ポルフィリン、亜鉛結合性ドメイン、またはスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)のうちの1つ以上との複合体化のために構成されたキレーターを含んでもよい。
【0285】
本明細書に記載される組成物および方法において、MTTプロドラッグのコンジュゲーション部分は、所与の複合体化剤に対して特有のアビディティを有し、および該複合体化剤と複合体化して、MTTプロドラッグ-複合体微粒子を形成する。このアビディティは、選択された分散媒体中での所与のMTTプロドラッグ-複合体微粒子についてのMTTプロドラッグの非結合-結合比率である、Kdとして測定され得る。特定の複合体化剤へのMTTプロドラッグのコンジュゲーション部分の結合はそのため、所与の分散媒体からの放出のために利用可能な遊離薬物を制限するために役立つ。
【0286】
そのため、疎水性分散媒体中に組み込まれた1つ以上のMTTプロドラッグ-複合体微粒子を含む複合体化ベースXRDDSにおいて、バイオアベイラビリティを向上させるための複合体化の使用ではなく、XRDDSの製剤は、多相性コロイド懸濁液の所与の分散媒体からの放出のために利用可能な遊離の結合していないMTTプロドラッグを制限するために複合体化を使用する。
【0287】
本明細書に記載されるように、EY005プロドラッグの1つの例はEY005-ステアリルを含む(図16A)。EY005はエステル結合を介してステアリルアルコールに連結されているので、結果的なEY005-ステアリルプロドラッグは、高度に親水性である修飾されていないMTT EY005と比較して、疎水性である。EY005-ステアリルは、固体脂質微粒子複合体化剤、例えばステアリン酸マグネシウムと非共有結合性複合体を容易に形成して、MTTプロドラッグ-ステアリン酸マグネシウム微粒子を形成する。このMTTプロドラッグのコンジュゲーション部分の疎水性の長鎖脂肪族アルコールと微粒子複合体化剤ステアリン酸マグネシウムとの間の高アビディティ相互作用は、MTTプロドラッグに結合するために役立ち、MTTプロドラッグ-複合体微粒子が分散された分散媒体からの放出のために利用可能な遊離の結合していないMTTプロドラッグを制限する。
【0288】
EY005プロドラッグの別の特有の例はEY005-トリアルギニン(triArg)(図16C)を含み、この場合、EY005はエステル結合を介してアルギニン三量体/トリペプチドに連結されており、アルギニン三量体/トリペプチドは、負に荷電した微粒子複合体化剤と非共有結合性複合体を容易に形成してMTTプロドラッグ-複合体微粒子を形成する正に荷電したペプチドコンジュゲーション部分である。この正に荷電したコンジュゲーション部分と微粒子複合体化剤の負電荷との間の高アビディティ相互作用は、MTT-triArgプロドラッグに結合するために役立ち、MTTプロドラッグ-複合体微粒子が分散された分散媒体からの放出のために利用可能な遊離の結合していないMTTプロドラッグを制限する。
【0289】
EY005プロドラッグの別の特有の例はEY005-トリグルタミン酸(triGlu)(図16B)を含み、この場合、EY005はエステル結合を介してグルタミン酸三量体/トリペプチドに連結されており、グルタミン酸三量体/トリペプチドは、正に荷電した微粒子複合体化剤と非共有結合性複合体を容易に形成してMTTプロドラッグ-複合体微粒子を形成する負に荷電したペプチドコンジュゲーション部分である。この負に荷電したコンジュゲーション部分と微粒子複合体化剤の正電荷との間の高アビディティ相互作用は、MTT-triGluプロドラッグに結合するために役立ち、MTTプロドラッグ-複合体微粒子が分散された分散媒体からの放出のために利用可能な遊離の結合していないMTTプロドラッグを制限する。
【0290】
EY005プロドラッグのコンジュゲーション部分がペグ化されたペプチドである例、例えばEY005-ポリエチレングリコール(PEG)(図16D)において、複合体化剤は、そのサイズおよび電荷に基づいてPEGまたはPEG化されたコンジュゲーション部分と非共有結合性相互作用を形成してもよい。
【0291】
本明細書に記載されるように、MTTプロドラッグ-複合体微粒子の形成は、直接的な視覚化により実験的に検証され得る。例えば、MTTプロドラッグEY005-ステアリルをフルオレセインイソチオシアネート(FITC)で蛍光標識し、異なる複合体化剤と混合した。結果的な混合物を次に直接蛍光顕微鏡法下で視覚化した。このアプローチを使用して、FITC標識されたEY005-ステアリルは、いくつかの異なる複合体化剤:ステアリン酸マグネシウム(以前に記載され、および予想されている);大きい荷電性担体タンパク質であるアルブミン;ならびに大きい環状炭水化物分子であるシクロデキストリンと薬物-複合体微粒子を形成することが観察された(図20C図21C図22C図23C)。対照的に、FITC標識されたEY005-ステアリルは、シリカマイクロビーズと薬物-複合体微粒子を形成することは観察されず(図24C)、複合体化および薬物-複合体微粒子形成のプロセスは、薬物と複合体化剤との間の好都合な非共有結合性相互作用に高度に依存することを指し示した。
【0292】
さらに、この非共有結合性相互作用は、MTTプロドラッグのコンジュゲーション部分により特に媒介される。複合体化剤と混合されたFITC標識されたEY005-ステアリルをカルボキシエステラーゼ(0.1μg/mL)の水性溶液で処理して、プロドラッグのエステル結合を加水分解させて蛍光ペプチドを放出させた。複合体化した微粒子は顕微鏡法によりもはや蛍光標識されず(図20D図21D図22D図23D)、プロドラッグの複合体化はMTTプロドラッグのコンジュゲーション部分により特異的に媒介されることが確認された。
【0293】
本明細書に記載されるように、複合体化剤が薬物に対して高いアビディティを有する薬物-複合体微粒子の形成は実験的に定量化および検証され得る。例えば、MTTプロドラッグEY005-ステアリルを既知の量の選択された個々の複合体化剤と混合した。EY005-ステアリル-複合体化剤混合物を次に適切な分散媒体(この場合、ラウリン酸メチル)に加え、遠心分離して、複合体化剤に結合したEY005-ステアリルを「プルダウン」したか、または分散媒体中に存在する結合していないプロドラッグから分離した。EY005-ステアリル含有量からのプルダウンされた微粒子および分散媒体のHPLC分析により、MTTプロドラッグ/複合体化剤ペアについて、複合体化剤に結合しているMTTプロドラッグの比率(結合能力)が決定され、非結合対結合係数であるKd値が算出された。このタイプのアッセイを使用して、選択された分散媒体中の特有のMTTプロドラッグ/複合体化剤ペアについて結合能力およびKd値を生成して非結合対結合薬物比を同定することができ、これは下記の表に示される:
表2:
【0294】
【表2】
表2は、様々な複合体化剤が加えられ、混合され、および1時間インキュベートされたラウリン酸メチル中に可溶化されたEY005-ステアリルプロドラッグの例を示す。各々の複合体化剤と複合体化したEY005-ステアリルプロドラッグの量をHPLCにより決定した。Kd値は、各々の条件下でのプロドラッグの[非結合]/[結合]比率として算出した。結合能力は、1mgの複合体化剤当たりの複合体化したEY005-ステアリルのμgとして算出した。これらのデータは、複合体化剤の各々のクラスとの複合体化の可変的な程度を実証した。
【0295】
XRDDSを伴わない、MTTプロドラッグ単独での硝子体内投与は、網膜における薬物の長期的な、永続性のある放出を提供するためには不十分である。遊離生物活性MTTは、硝子体および眼組織中に存在する天然に存在する酵素(例えば、エステラーゼ)への曝露でプロドラッグ分子から直ちに切断され、および遊離生物活性テトラペプチド薬物は、修飾されていないテトラペプチド薬物と同じ5~6時間の短い硝子体半減期を被って、単回IVT投与後の目からの急速なクリアランスに繋がる。
【0296】
持続放出薬物送達システム(XRDDS)は、特定の投与経路のための特有の治療的目標のために最適化された放出動態を調節する方式における特有の薬物の設計、生産および投与において使用されるデバイス、製剤または他のシステムである。
【0297】
本明細書に記載される持続放出薬物送達システム(XRDDS)は、1つ以上の微粒子複合体化剤と混合されて「薬物-複合体」微粒子を形成するMTTプロドラッグを含んでおり、薬物-複合体微粒子は、選択された分散媒体内で合わせられおよび分散されて、安定な多相性コロイド懸濁液を形成する。複合体化ベースXRDDSは、「Mito XR」、またはインプラントとして本明細書において参照され、これは、硝子体内(IVT)または眼周囲(例えば、結膜下、テノン嚢下)の投与経路により投与される。様々な異なる複合体化剤および異なるタイプの分散媒体が、本明細書に記載されるように、安定な多相性コロイド懸濁液の形成のために使用され得る。
【0298】
コロイドは、微粒子物質が、分散媒体と呼ばれる、媒体内で安定的に分散されているが、沈降も移動もしない、混合物である。これはコロイドを懸濁液から区別し、懸濁液において、粒子は重力に起因して懸濁液媒体内で沈降する。コロイドのための典型的な微粒子サイズはナノメートルの範囲内である。コロイドにおいて、混合物の定義となる特徴は、微粒子が最小の沈降または移動と共に安定的に分散されたままであることである。微粒子が液体中に分散されているコロイド混合物は「ゾル」と呼ばれる。微粒子が固体または半固体中に分散されているコロイド混合物は「固体コロイド」と呼ばれる。微粒子が粘性の半固体または固体分散媒体中に安定的に分散されているコロイド混合物は、定義された名称を与えられていない。本明細書において、我々は、典型的なコロイド中のナノ微粒子ではなくより大きいサイズの安定的に分散された微粒子に関して、安定的に分散された微粒子を「コロイド懸濁液」として言及する。本明細書に記載される組成物および方法において、分散媒体は、安定なコロイド懸濁液を促す疎水性分散媒体であってもよい。多相性コロイド懸濁液は、薬物物質が、遊離薬物、薬物-薬物凝集物、および最も重要なことに、複合体化剤微粒子に非共有結合的に結合している薬物を含む、1つより多くの相において存在する懸濁液である。多相性コロイド懸濁液は、MTTプロドラッグを薬物物質として組み込んでいてもよい。
【0299】
本明細書に記載される複合体化剤は、プロドラッグのコンジュゲーション部分と非共有結合的に複合体化していてもよく、ならびに分散媒体内に組み込まれおよび安定的に分散されて、多相性コロイド懸濁液を形成していてもよい。
【0300】
分散媒体内での微粒子複合体化剤へのMTTプロドラッグの複合体化は、分散媒体中への遊離MTTプロドラッグの放出を制限するために役立つ。分散媒体はMTTプロドラッグ-複合体微粒子への水のアクセスを制約するが、遊離の結合していないMTTプロドラッグ物質は分散媒体内で自由に拡散し、分散媒体は、遊離の結合していない薬物を保持せず、該薬物は拡散して多相性コロイド懸濁液から出ることができる。
【0301】
本明細書に記載される複合体化ベース持続放出薬物送達システム(例えば、生分解性チューブ製剤)中への修飾されていないMTT(例えば、H-d-Arg-DMT-Lys-Phe)の組込みは、インシンク条件におけるインビトロアッセイにより、または硝子体内注射後の硝子体および網膜組織中へのインビボ放出により測定された場合に、MTTプロドラッグ(例えば、H-d-Arg-DMT-Lys-Phe-O-ステアリル)の組込みと比較して、薬物の永続性のある持続放出を提供するために不十分である(図27および図29)。そのような例において、修飾されていないテトラペプチド薬物は、修飾されていないMTTと、薬物送達システムの選択された複合体化剤との間の複合体化相互作用の欠如に起因して、移植された薬物送達システムから急速に放出され、短い時間(例えば、数週以内)のうちに目からクリアランスされる。
【0302】
プロドラッグは、薬物動態を最適化し、および投与後の持続的な放出を可能にするために複合体化ベースXRDDSにおいて特有の目的を果たす。プロドラッグのコンジュゲーション部分は、選択された複合体化剤と非共有結合性複合体化相互作用を形成して、Mito XRインプラントからの放出のために利用可能な遊離薬物の量を制限するために役立つ。特有のコンジュゲーション部分および特有の複合体化剤は、所与の薬物-複合体化剤ペアについて高アビディティ非共有結合性相互作用を最適化するために設計および選択することができ、薬物と複合体化剤との2つは「薬物-複合体」微粒子を形成するために混合され、ならびに所与の薬物-複合体微粒子からの薬物放出速度は、「インシンク」条件中への薬物放出のインビトロアッセイにより測定され得る。所与のMTTプロドラッグ-複合体微粒子についての非共有結合性相互作用の相対的なアビディティは、指定される放出アッセイにおいて非結合対結合プロドラッグの比として定義される「Kd」により測定され得る。MTTプロドラッグ-複合体微粒子の1つ以上のセットは特有の分散媒体内に組み込まれておよび分散されて、XRDDSを構成する多相性コロイド懸濁液を形成する。特定の複合体化剤へのMTTプロドラッグのコンジュゲーション部分の結合はそのため、所与の分散媒体からの放出のために利用可能な遊離薬物を制限するために役立つ(図25B)。一般に、複合体化ベースXRDDSは、特有の治療的目標のために設計および最適化された、活性薬物の予め指定された放出動態を達成するために局所眼投与により投与され得るインプラントモダリティーとして製剤化される。
【0303】
本明細書において定義されている分散媒体は、MTTプロドラッグ-複合体微粒子が分散媒体中に組み込まれおよび混合された場合に安定な多相性コロイド懸濁液を形成する疎水性の液体である。
【0304】
本明細書に記載される組成物および方法は、ある特定の油が有効な分散媒体として役立つことを可能とする該油の新たな以前に認識されていない特性を開示する。これらは、疎水性、高い出発粘度、およびMTTプロドラッグ-複合体微粒子と混合された場合に安定な多相性コロイド懸濁液を形成することを可能とする他の特性を含む。安定な多相性コロイド懸濁液を定義する基準は、インビトロで目の生理学的環境(すなわち、37℃、緩衝食塩水、硝子体酵素、希釈された血清)に曝露された後の、またはインビボで目の中に注射された場合の、インプラントの寿命の予め指定された持続期間にわたり微粒子の沈降、分離、または解離のいずれも伴わないMTTプロドラッグ-複合体微粒子の均一な混合物および分布を含む。安定性はまた、MTTプロドラッグ-複合体微粒子と油との相対的なパーセンテージ(重量対重量)ならびに微粒子のサイズおよび質量に依存する。
【0305】
多相性コロイド懸濁液の分散媒体は、MTTプロドラッグ-複合体微粒子を安定的に分散させ、および周囲組織からXRDDS内の微粒子への水のアクセスを制約する。
安定な多相性コロイド懸濁液の形成のためにこれらの基準を満たす油の4つのクラスは、飽和脂肪酸メチルエステル、不飽和脂肪酸メチルエステル、飽和脂肪酸エチルエステル、または不飽和脂肪酸エチルエステルを含む。分散媒体は、これらのクラスのうちの1つからの個々の油であることができるか、または安定なコロイド懸濁液の所望される目標を達成するために特に設計および混合される異なる粘度値を有する油の混合物として設計され得る。
【0306】
飽和脂肪酸メチルエステルは、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、ブチル酸メチル、ペンタン酸メチル、ヘキサン酸メチル、ヘプタン酸メチル、オクタン酸メチル、ノナン酸メチル、デカン酸メチル、ウンデカン酸メチル、ドデカン酸メチル(ラウリン酸メチル)、トリデカン酸メチル、テトラデカン酸メチル、9(Z)-テトラデセン酸メチル、ペンタデカン酸メチル、ヘキサデカン酸メチル、ヘプタデカン酸メチル、オクタデセン酸メチル、ノナデカン酸メチル、エイコサン酸メチル、ヘンエイコサン酸メチル、ドコサン酸メチル、トリコサン酸メチル、およびその他を含んでもよい。
【0307】
飽和脂肪酸エチルエステルは、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、ブチル酸エチル、ペンタン酸エチル、ヘキサン酸エチル、ヘプタン酸エチル、オクタン酸エチル、ノナン酸エチル、デカン酸エチル、ウンデカン酸エチル、ドデカン酸エチル(ラウリン酸エチル)、トリデカン酸エチル、テトラデカン酸エチル、9(Z)-テトラデセン酸エチル、ペンタデカン酸エチル、ヘキサデカン酸エチル、ヘプタデカン酸エチル、オクタデセン酸エチル、ノナデカン酸エチル、エイコサン酸エチル、ヘンエイコサン酸エチル、ドコサン酸エチル、トリコサン酸エチルを含んでもよい。
【0308】
不飽和脂肪酸メチルエステルは、10-ウンデセン酸メチル、11-ドデセン酸メチル、12-トリデセン酸メチル、9(E)-テトラデセン酸メチル、10(Z)-ペンタデセン酸メチル、10(E)-ペンタデセン酸メチル、14-ペンタデセン酸メチル、9(Z)-ヘキサデセン酸メチル、9(E)-ヘキサデセン酸メチル、6(Z)-ヘキサデセン酸メチル、7(Z))-ヘキサデセン酸メチル、11(Z)-ヘキサデセン酸メチル、および、様々なトリコサン酸メチル分子実体を含むがそれに限定されない、様々な不飽和メチルエステルについてのその他のものを含んでもよい。
【0309】
不飽和脂肪酸エチルエステルは、10-ウンデセン酸エチル、11-ドデセン酸エチル、12-トリデセン酸エチル、9(E)-テトラデセン酸エチル、10(Z)-ペンタデセン酸エチル、10(E)-ペンタデセン酸エチル、14-ペンタデセン酸エチル、9(Z)-ヘキサデセン酸エチル、9(E)-ヘキサデセン酸エチル、6(Z)-ヘキサデセン酸エチル、7(Z))-ヘキサデセン酸エチル、11(Z)-ヘキサデセン酸エチル、および、様々なトリコサン酸エチル分子実体を含むがそれに限定されない、様々な不飽和エチルエステルについてのその他のものを含んでもよい。
【0310】
対照的に、シリコーン油、粘性ゼラチン、および粘性プロテオグリカンを含むある特定の他の油および粘性物質は、安定な多相性コロイド懸濁液を形成しないか、または生理学的な目の微環境(例えば、37℃、緩衝食塩水、硝子体酵素、希釈された血清)に曝露されるかもしくはインビボで目の中に注射された場合に急速に機能しなくなる。
【0311】
そのため、本開示の持続放出薬物送達システムは新規であり、ならびに以前に考案および設計されたシステムから区別され、その理由は、それは、その方法およびアプローチのために眼薬物送達のための先行技術が存在しない、特に目への持続放出薬物送達のための複合体化システムの化学を代わりに利用するからである。本開示のシステムは、薬物の拡散を制約するためおよび生体内分解性モダリティー、デバイス、または製剤における眼組織中への薬物放出の動態を調節するための方法として1つ以上の複合体化剤上への薬物の複合体化を使用する。
【0312】
一部の例において、遊離生物活性ミトコンドリア標的化テトラペプチドの切断および放出は、前臨床動物モデル(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ブタなど)の硝子体腔または眼周囲組織中への持続放出薬物送達システム内にプロドラッグを含有するインプラントのインビボ注射後に評価可能であり(図29)、これにおいて、眼組織が回収され、ならびに分析方法、例えばHPLCまたは質量分析を使用して、インビボ注射後の様々な時点において、遊離生物活性ミトコンドリア標的化テトラペプチドおよびインタクトなプロドラッグの量を算出することができる。
【0313】
1つの例において、ステアリン酸マグネシウム(固体脂肪酸)複合体化剤およびEY005-ステアリルと混合されたEY005-ステアリルはアルファ-トコフェロール(ケト-エノール互変異性体)複合体化剤と混合され、両方の薬物-複合体微粒子ペアはラウリン酸メチル中に組み込まれて、安定な多相性コロイド懸濁液、またはMito XRボーラスインプラントが形成される。
【0314】
インビトロ動態研究において、Mito XRのこのパイロット製剤は、EY005生物活性テトラペプチドの0次(すなわち、線形)動態を達成して、分散媒体内の遊離の生物活性MTTがインプラントから目の生理学的環境中に放出される3か月の薬物放出の所望される耐久性を達成した(図27を参照)。
【0315】
インビトロ有効性研究において、Mito XRのボーラスインプラントを、内因性エステラーゼを有するRPE細胞培養モデルに加えた。細胞培養データは、細胞ミトコンドリア機能障害の逆転と関連付けられる21日の時点における約80%の改善(図28A~28D)を伴う、細胞骨格の回復を実証した。複合体化剤と混合され、分散媒体中に組み込まれてMito XRの製剤中の安定な多相性コロイド懸濁液を形成するEY005-ステアリルは、多相性コロイド懸濁液の分散媒体から周囲の目の生理学的環境中へと放出されるMTTプロドラッグの切断で生物活性となる、予測可能な治療レベルのEY005の持続的な放出を生成できることをこのデータは裏付ける。
【0316】
一部の例において、MTTプロドラッグは、動物またはヒトの目の中に配置される、本明細書に記載される複合体化ベース持続放出薬物送達システム、Mito XR内に製剤化されてもよい。例えば、ウサギの目の中の複合体化ベース持続放出薬物送達システム内に製剤化されたMTTプロドラッグの硝子体内投与は、所望される1日当たりの放出速度での活性MTTの持続的な放出を生成し、ならびに硝子体および網膜中の薬物の所望される標的組織レベルを達成することが見出されている(図31~32)。
【0317】
インビボ動態研究において、LC/MS分析を使用して、我々は、ウサギの目におけるIVT Mito XR(EY005-ステアリルペイロード、1mg)ボーラス注射後6週を通じて持続される高い網膜EY005レベル(>300ng/g)を測定し(図29)、内因性エステラーゼはインビボで活性EY005を放出させることが確認された。回収されたボーラスは約50%の残留ペイロードを有し、インプラント製剤は、0次放出動態を考慮して、EY005レベル>EC50の約90日の放出を達成することを指し示した。
【0318】
重要なことに、Mito XRの製剤は、ウサギの目において臨床的に忍容性良好なようであり(図30A)、毒性の組織学的証拠を伴わなかった(図30B)。
EY005-ステアリルプロドラッグとは対照的に、EY005ネイティブテトラペプチドは、複合体化剤と非共有結合性相互作用を形成しない。FITC標識されたEY005は、異なる複合体化剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、アルブミン)と混合された場合に、可視的な薬物-複合体微粒子を生成しなかった(図20B図21B図22B、および図23B)。
【0319】
さらに、EY005-ステアリルのMito XR製剤のために使用されたものと同じ複合体化剤および同じ分散媒体を用いたEY005ネイティブ生物活性ペプチドの組込みは、インビトロで生物活性MTTの過度の放出、または「ダンプ」を生成した(図27)。追加的に、硝子体中に投与されたEY005ネイティブペプチドの多相性コロイド懸濁液ボーラス製剤は、21日を超えて検出可能なEY005組織レベルを生成せず(図29)、インビボでもネイティブMTT薬物の過度の放出を指し示した。さらに、回収されたボーラス中に残留薬物はなく、過度の薬物放出または「ダンピング」と合致している。そのため、多相性コロイド懸濁液中へのネイティブな修飾されていないMTTの組込みは、持続的な放出を生成するために不十分であり、持続放出薬物送達システムの仕様を達成しない(図31~32も参照)。重要なことに、これらのデータは、多相性コロイド懸濁液の分散媒体から放出された遊離MTTプロドラッグの共有結合の切断後の組織中への活性MTTの制御された、永続性のある放出を達成するための、プロドラッグ構築物、およびMTTプロドラッグ-複合体微粒子を形成するためのプロドラッグコンジュゲーション部分と複合体化剤との間の特異的相互作用の必要性を裏付けおよび強調する。
【0320】
複合体化剤は、プロドラッグのコンジュゲーション部分と非共有結合的に複合体化されてもよく、ならびに、複合体化ベース持続放出薬物送達システムの製剤を含む、分散媒体内に組み込まれおよび分散されてもよく、それにより、薬物の拡散を制限し、および持続放出薬物送達システム内の微粒子への周囲組織からの水のアクセスを制約してもよい(図25B)。
【0321】
分散媒体は、MTTプロドラッグ-複合体微粒子を安定的に分散させて、安定な多相性コロイド懸濁液を形成させるために役立つ。分散媒体は、油、液体脂質、および半固体脂質のうちの1つ以上を含んでもよい。分散媒体は、飽和脂肪酸(メチル)エステル、飽和脂肪酸(エチル)エステル、不飽和脂肪酸(メチル)エステル、および不飽和脂肪酸(エチル)エステルのうちの1つ以上を含んでもよい。
【0322】
1つ以上の微粒子複合体化剤と相互作用して、適切な分散媒体中で混合された場合に、安定な多相性コロイド懸濁液およびMito XRの結果的な製剤を形成するMTTプロドラッグ-複合体微粒子を形成する、本明細書に記載されるMTTプロドラッグ化合物は、Mito XRインプラントの単回投与後に1~12か月またはより長い持続期間にわたりEC50(すなわち、ミトコンドリア機能障害の逆転のための最大応答の50%を生成する薬物の有効濃度)を満たすかまたは上回る活性MTTの硝子体および網膜濃度を提供し得る。
【0323】
持続される高い眼組織レベル、および本明細書に記載される網膜疾患病理生物学の処置のための結果的な利益は、修飾されていないミトコンドリア標的化ペプチドの全身投与または硝子体内投与を用いて実現可能でない。適合性XRDDS、この場合、複合体化ベースXRDDS中へのMTTプロドラッグの成功裏の組込みは、眼疾患および網膜疾患、例えばAMDのためのこれらの治療的な利益を達成するために必須である。
【0324】
例えば、エラミプレチドの最大全身投薬は、皮下投与経路により送達される1日当たり40mg、または約0.4~0.9mg/kgである。ウサギにおいて、1mg/kgのエラミプレチドの皮下投与後に、1時間時のピーク脈絡膜レベルは約50nMであり、これは4時間後に検出不可能となるまで低下し;薬物は、網膜透過を妨げる血液網膜関門に起因して、ウサギにおいて皮下投与後の網膜中に検出されない。一方、15μgのエラミプレチドの硝子体内注射後のピーク網膜レベルは約15μMである。そのため、最大忍容用量の全身投与後のミトコンドリア標的化ペプチドの網膜バイオアベイラビリティは、硝子体内投与と比較して最適以下である。皮下投与経路による投薬の投薬レベルおよび頻度は、高用量製剤を用いるかまたはミトコンドリア標的化テトラペプチド薬物の1日毎よりも頻繁な投薬を用いて起こる局所的な注射部位反応の毒性により制限される。さらには、硝子体中の修飾されていないミトコンドリア標的化テトラペプチドの半減期はわずか5~6時間であるので、修飾されていないペプチド薬物の硝子体内注射は永続性のある組織レベルを生成しない。薬物はわずか数日のうちに目からクリアランスされ、ヒトにおける週1回の硝子体内注射は、臨床プラクティスにおける疾患の処置のために実際的でも実行可能でもない。そのため、持続放出薬物送達システムは、硝子体、網膜、およびRPE内の薬物の持続的な、高いレベルを達成するために必須である。
【0325】
一部の例において、プロドラッグおよび複合体化ベース持続放出薬物送達システム(すなわち、Mito XR)中に組み込まれたプロドラッグの製剤を含む、本明細書に記載される組成物、製剤および方法は、十分に高い用量で投与された場合に、RPE異形症に対する自明でないおよびさもなければ予想外の肯定的な利益を実証する。図5および図12において記載されるプロトコールにおけるHQ曝露モデルを含む、乾燥型AMDのインビトロおよびインビボモデルは、サイトゾルビメンチン(AMDの目のRPEにおいて上方調節され、および細胞外マトリックス中に分泌される中間フィラメント)の発現の上方調節の形態における細胞外マトリックスの脱調節、ならびにRPE細胞アクチン細胞骨格解体の形態におけるRPE細胞異形を含む、乾燥型AMDの追加の病理学的特色を実証する(図7および図14)。十分に高い薬物レベルのミトコンドリア標的化テトラペプチド、この例においてEY005(5μM)での処理は、RPE細胞外マトリックスの脱調節を逆転させて、サイトゾルビメンチンの発現を下方調節し、ならびに正常なRPE細胞形態を回復させて、アクチン細胞骨格解体を逆転させ、およびサイトゾルアクチン凝集物形成を排除する(図7図9~10、図14)。
【0326】
ヒトにおいて本明細書に記載される組成物、製剤および方法により可能にされる、十分に高い用量のミトコンドリア標的化テトラペプチドでの処置はまた、RPE下沈着形成に対する自明でないおよびさもなければ予想外の肯定的な利益を実証する。例えば、図2Aは、皮下(SQ)投与により全身的に投与された高用量エラミプレチド(3mg/kg BID)によるApoE4マウスモデルにおける既存のRPEミトコンドリア機能障害およびRPE下沈着の逆転を図示する。高脂肪食(HFD)を与えられた加齢ApoE4マウスは、乾燥型AMDを有する患者におけるRPE下ドルーゼの病理生物学を反映するRPE下沈着を発症する。ApoE4マウスを、過去3か月からHFDを継続して、エラミプレチド(n=5;3mg/kg、SQ、1日毎)または媒体(n=5)で4週間処置した。図2Aは、左に示されるHFDの開始の4か月後の媒体を与えられたマウスにおける透過電子顕微鏡法(TEM)による外網膜形態の分析を示す。これらの処置されていないマウスは、濃い、重度の沈着を有した。対照的に、4週にわたりSQ投与により1日毎の高用量エラミプレチドを与えられたマウスは、図2Aの右パネルに示されるように、最小の沈着および外側RPE細胞形態の回復を実証した。
【0327】
十分に高い用量は、齧歯動物において、それらの小さいサイズに起因して、ならびに投薬のために要求される最小量の薬物用量および体積に起因して、全身性SQ投与により達成され得る。これは、ヒトのより大きいサイズに起因して、およびエラミプレチドのSQ製剤での局所的な注射部位反応の用量制限毒性に起因して、ヒトにおいて可能ではなく;ヒトのための最大の忍容される投薬は、1日1回の40mg SQ、約0.3~0.9mg/kg、またはマウスにおける有効な投薬よりも約3~10倍低い投薬である(図3)。以上を合わせると、これらのデータは、目に対する十分に高い用量および十分に高い眼組織薬物レベルを達成するために特に製剤化されたエラミプレチドのアナログを利用する、本明細書に記載されるプロドラッグおよび硝子体内に投与されるMito XRに関する本明細書に記載される組成物、製剤、および方法を含む、十分に高い用量のミトコンドリア標的化薬物での処置は、RPE下沈着の退縮ならびにRPE細胞の形態および健康状態の回復を促進することができる。
【0328】
SQ注射によるミトコンドリア標的化テトラペプチドの全身送達は、不十分な網膜バイオアベイラビリティに起因してヒト患者において最適以下の有効性を有する。ミトコンドリア標的化テトラペプチドの十分なレベルは、標的組織部位(すなわち、網膜)において達成され得ない。例えば、ヒトにおいて、最大投薬は、SQ注射部位の毒性により制限される用量である40mg SQ(約0.3~0.9mg/kg)である(図3)。マウスにおいて、有効な投薬は3mg/kgを要求したが、これは、ヒトにおける体重調整された用量よりも3~10倍高い。ピーク血漿レベルはまた、薬物の急速な血液クリアランスにより制限され、血液眼関門もまた網膜透過を妨げ得る。よって、ウサギにおける1mg/kgのエラミプレチドのSQ投与の1~8時間後に、1時間時のピーク脈絡膜レベルは約50nMであり、これは4時間後に検出不可能まで低下し;薬物は網膜において検出されず、SQ投与経路もまた、必要な組織レベルを十分な持続期間で達成するために不十分であることを指し示す。ミトコンドリア機能障害の予防のためのインビトロEC50は約10~100nMであり、逆転のためには約1μMである(48時間の持続期間の薬物曝露)。そのため、連続的な薬物曝露でのより高い網膜および脈絡膜薬物レベルが望ましい。本明細書に記載されるMTTプロドラッグおよびMito XR(多相性コロイド懸濁液中に製剤化されたプロドラッグ)の製剤は、全身投与により達成可能であるよりも長い時間的期間にかけてのIVTまたは眼周囲投与を可能にする。
【0329】
一部の例において、プロドラッグおよび複合体化ベース持続放出薬物送達システム(すなわち、Mito XR)中に組み込まれたプロドラッグの製剤を含む、本明細書に記載される組成物、製剤および方法は、ミトコンドリア機能障害の逆転を実証する。例えば、ウサギの目のヒドロキノンモデルにおいて、ウサギのためのアロメトリーによりスケーリングされた最大に忍容されるヒト用量のミトコンドリア標的化ペプチド(EY005)の全身投与は、RPEアクチン細胞骨格完全性を部分的にのみ回復させる(図15D)。対照的に、EY005のIVT注射は、RPEビメンチン発現の下方調節(図14)および正常なRPEアクチン細胞骨格完全性の回復(図15C)を結果としてもたらす。追加的に、図13は、薬物処置の36時間後における、15μgの単回IVT用量のEY005または媒体についての結果を示す。図13において、一番右のカラムは、DCFDA(酸化生成物マーカー)の各々についての正常な出現を示す。左のカラムは、処置されていない、HQ曝露された目を示し、中央カラムは、EY005処置された、HQ曝露された目を示す。IVT EY005処置は、酸化副生成物の約75%の低減を生成した。結果は、単回用量のIVT EY005は、十分に高い用量で投与された場合に、インビボで36時間以内に両方の既存の重度のミトコンドリア機能障害を逆転させることを指し示す。重要なことに、網膜毒性は観察されなかった。この状況において、ウサギにおいてIVT投与により達成された網膜およびRPE組織レベルは、ウサギについてアロメトリーによりスケーリングされた最大に忍容されるヒト用量のSQ投与により得られた組織レベルよりも実質的に高い。
【0330】
一部の例において、プロドラッグおよび複合体化ベース持続放出薬物送達システム(すなわち、Mito XR)中に組み込まれたプロドラッグの製剤を含む、本明細書に記載される組成物、製剤および方法は、硝子体内(IVT)経路により十分に高い用量で投与された場合に、RPE異形症に対する自明でないおよびさもなければ予想外の肯定的な利益を実証する。図14は、薬物処置の36時間後における、15μgの単回IVT用量のEY005または媒体についての結果を示す。ビメンチン(細胞外マトリックス脱調節のマーカー)ならびにファロイジン(アクチン細胞骨格および細胞形態のための標識)染色により明らかなように、IVT EY005処置は、ビメンチン染色の約90%の逆転、および細胞骨格解体の約80%の低減を生成して、RPE細胞傷害および異形の逆転ならびにRPE健康状態の回復を実証した。
【0331】
一部の例において、プロドラッグのIVT Mito XR製剤は、3か月以上にわたる連続的な薬物放出を伴う持続的な時間的期間にわたる薬物の十分に高い眼組織レベルを生成して(図29)、乾燥型AMDならびに潜在的に他の網膜および後眼部疾患の状況において、ミトコンドリア機能障害に伴う疾患修飾だけでなく、RPEの形態および健康状態ならびに網膜視覚機能に対する自明でないおよびさもなければ予想外の肯定的な効果を結果としてもたらす。
【0332】
Mito XRを含む、本明細書に記載される組成物および方法は、乾燥型加齢黄斑変性症(AMD)、滲出型AMD、糖尿病網膜症(DR)、網膜静脈閉塞症(RVO)、後天性および遺伝性網膜変性症、ならびに他の網膜および視神経疾患を含む、眼疾患の様々な網膜および背部を処置するために硝子体内または眼周囲投与経路による目へのインプラントの送達により応用されてもよい。
【0333】
本明細書に記載される組成物、製剤および方法は、乾燥型AMDを既に有する患者、乾燥型AMDについてリスクがある患者、乾燥型AMDの進行についてリスクがある患者、またはAMDの進行した形態(例えば、地図状萎縮症(GA)、中心性GAもしくは非中心性GAのいずれか)の結果として視力低下についてリスクがある患者を含む、それを必要とする患者において、乾燥型AMDを処置するために使用されてもよい。
【0334】
本明細書に記載される組成物、製剤および方法は、新生血管AMDを既に有する患者、新生血管AMDについてリスクがある患者、新生血管AMDの進行についてリスクがある患者、または新生血管AMDの進行した形態(例えば、萎縮性疾患、線維症、瘢痕など)の結果として視力低下についてリスクがある患者を含む、それを必要とする患者において、新生血管AMDを処置するために使用されてもよい。
【0335】
本明細書に記載される組成物、製剤および方法は、それを必要とする患者、新生血管AMDについてリスクがある患者、または乾燥型AMDから新生血管AMDへの進行の結果として視力低下についてリスクがある患者において、乾燥型AMDから新生血管AMDへの進行を処置および予防するために使用されてもよい。
【0336】
本明細書に記載される組成物、製剤および方法は、網膜静脈閉塞症(RVO)を既に有する患者、RVOについてリスクがある患者、RVOの進行についてリスクがある患者、またはRVOの進行した形態(例えば、黄斑浮腫、網膜無灌流、網膜出血、網膜虚血、網膜もしくは眼血管新生、網膜萎縮症、硝子体出血など)の結果として視力低下についてリスクがある患者を含む、それを必要とする患者において、RVOを処置するために使用されてもよい。
【0337】
Mito XRのインプラントは、放出および細胞有効性についてのインビトロ研究、ならびに毒物学、薬物動態(PK)、および有効性についてのインビボ研究により特徴付けられており、網膜疾患を罹患したヒトおよび動物における臨床使用のためのそれらの潜在的な有用性を実証している。
【0338】
インプラントからの生物活性薬物の放出は、多相性コロイド懸濁液の分散媒体内の遊離の結合していないMTTプロドラッグの、周囲の目の生理学的環境中への拡散、および身体の組織区画内(すなわち、硝子体内または眼周囲組織内)の天然酵素を介する共有結合の切断によるプロドラッグからの活性MTTの放出に依存している。代替的に、プロドラッグからの活性MTTの放出は、インプラントから目の生理学的環境中に放出されるMTTプロドラッグの加水分解により起こり得る。
【0339】
局所眼投与用の治療用組成物は、本明細書に記載されるMTTプロドラッグのいずれかを含んでもよく、MTTプロドラッグのコンジュゲーション部分は、選択された適合性の複合体化剤と非共有結合性相互作用(複合体)を形成してMTTプロドラッグ-複合体微粒子を形成し、MTTプロドラッグ-複合体微粒子は次に、疎水性分散媒体内に組み込まれおよび混合されて、安定な多相性コロイド懸濁液を形成する。コンジュゲーション部分、複合体化、および多相性コロイド懸濁液内の複合体微粒子の安定な分散体の組み合わせられた効果は、活性MTT薬物の物理化学特性を変更し、インプラントから目の生理学的環境中への放出のために利用可能な遊離MTTプロドラッグの量を制限し、ならびに遊離薬物およびMTTプロドラッグ-複合体微粒子への水のアクセスを制約して、疾患処置の所望される持続期間にわたり治療レベルの活性薬物の持続的な放出および連続的な、予測可能な曝露を促す。
【0340】
本明細書に記載されるのはまた、分散媒体内のプロドラッグのコンジュゲーション部分と複合体化剤との間の非共有結合性相互作用を促し、および分散媒体内の遊離MTTプロドラッグの量を制限するために役立つ不活性コンジュゲーション部分に共有結合的に連結された生物活性MTTを含むMTTプロドラッグを使用することによる目におけるおよび目の周囲におけるミトコンドリア機能障害を処置する方法である。
【0341】
一般に、目におけるおよび目の周囲におけるミトコンドリア機能障害を処置する方法は、本明細書に記載される治療用組成物のいずれかを投与することを含んでもよい。
記載されるのはまた、エリプソイドゾーンを含む神経感覚網膜構造を処置または保存し、RPE異形症、RPE関連細胞外マトリックス脱調節、異常RPE代謝、RPE下沈着、および/またはドルーゼ沈着を処置する方法であって、本明細書に記載される治療用組成物のいずれかを投与して、疾患のこれらの病的特色を修飾するために十分に高い持続的な活性薬物の網膜およびRPE組織レベルを生成するMito XRの製剤の硝子体内または眼周囲注射を特に可能にすることによる、方法である。
【0342】
記載されるのはまた、網膜および眼疾患を有する患者において視力を改善するかまたは視力低下を予防する方法であって、本明細書に記載される治療用組成物のいずれかを投与して、関連する眼組織の機能を改善するために十分に高い持続的な活性薬物の眼組織レベルを生成するMito XRの製剤の硝子体内または眼周囲注射を特に可能にすることによる、方法である。
【0343】
記載されるのはまた、萎縮性網膜疾患、例えば、地図状萎縮症の発病または進行を予防する方法であって、本明細書に記載される治療用組成物のいずれかを投与して、細胞の健康状態を回復させ、細胞死を制限し、および重要組織の進行性喪失を予防するために十分に高い持続的な活性薬物の網膜およびRPE組織レベルを生成するMito XRの製剤の硝子体内または眼周囲注射を特に可能にすることによる、方法である。
【0344】
これらの方法のいずれにおいても、活性MTTは、硝子体または目の他の組織内に存在するエステラーゼによるプロドラッグの切断を介して放出されてもよい。活性ミトコンドリア標的化ペプチドは、生物活性ミトコンドリア標的化ペプチド薬物の放出を結果としてもたらす加水分解または他の反応を介して放出されてもよい。放出される生物活性MTT薬物は、H-d-Arg-DMT-Lys-Phe-OH、または表1(配列番号1~635)中のリストにおいて開示される任意のMTTであってもよい。
【0345】
投与は、Mito XRのインプラントの注射を介する局所眼投与を含んでもよい。
Mito XRは、硝子体内(IVT)、眼周囲、テノン嚢下、結膜下、または前房内経路を使用して目の中に投与されてもよい。投与は、目の硝子体中へのボーラスのモダリティーとしてMito XRの製剤を注射することを含んでもよい。
【0346】
投与は、持続放出薬物製剤デバイスのモダリティーとしてMito XRインプラント(多相性コロイド懸濁液)内のプロドラッグの製剤を注射することを含んでもよい。持続放出薬物送達システムは、目の硝子体中に生体内分解性または非生体内分解性インプラントを送達することを含んでもよい。
【0347】
これらの方法のいずれも、対象の目の中にMito XRを投与するための1~12か月の処置間隔を含んでもよい。方法は、乾燥型加齢黄斑変性症(AMD)、滲出型AMD、糖尿病網膜症(DR)、網膜静脈閉塞症(RVO)、網膜色素変性症(RP)、緑内障、視神経疾患を含む、網膜および視神経疾患を処置するか、または網膜および/もしくは視神経の神経保護のための方法であってもよい。
【0348】
方法は、血管内皮増殖因子の阻害、補体阻害、または抗炎症性薬物、例えばコルチコステロイドの投与を含む、他の処置モダリティーと組み合わせて使用されてもよい。
対象の目におけるミトコンドリア機能障害の処置方法は、処置開始時に対象の目の中にMito XRの製剤中に組み込まれたMTTプロドラッグを送達すること;およびプロドラッグの共有結合の切断により、第1の段階の間にバースト段階放出速度において;引き続いて第2の段階の間に定常状態放出速度において目の中に活性MTTを放出することを含んでもよく、バースト段階速度は定常状態投与速度よりも高く、さらに第1の段階は処置開始から約2~6週間に及び、ならびに引き続いての段階(第2の段階、ならびに一部の事例において第2および第3の段階)は第1の段階の終わりから1か月以上に及ぶ。
【0349】
対象の目におけるRPE異形症またはRPE下沈着の処置方法は、処置開始時に対象の目の中にMito XRの製剤中に組み込まれたMTTプロドラッグを送達すること;およびプロドラッグの共有結合の切断により、第1の段階の間にバースト段階放出速度において;引き続いて第2の段階の間に定常状態放出速度において目の中に活性MTTを放出することを含んでもよく、バースト段階速度は定常状態投与速度よりも高く、さらに第1の段階は処置開始から約2~6週間に及び、ならびに引き続いての段階(第2の段階、ならびに一部の事例において第2および第3の段階)は第1の段階の終わりから1か月以上に及ぶ。
【0350】
対象における視力低下の処置方法は、処置開始時に対象の目の中にMito XRの製剤中に組み込まれたMTTプロドラッグを送達すること;およびプロドラッグの共有結合の切断により、第1の段階の間にバースト段階放出速度において;引き続いて第2の段階の間に定常状態放出速度において目の中に活性MTTを放出することを含んでもよく、バースト段階速度は定常状態投与速度よりも高く、さらに第1の段階は処置開始から約2~6週間に及び、ならびに引き続いての段階(第2の段階、ならびに一部の事例において第2および第3の段階)は第1の段階の終わりから1か月以上に及ぶ。
【0351】
対象において萎縮性網膜疾患の発病または進行を予防する方法は、処置開始時に対象の目の中にMito XRの製剤中に組み込まれたMTTプロドラッグを送達すること;およびプロドラッグの共有結合の切断により、第1の段階の間にバースト段階放出速度において;引き続いて第2の段階の間に定常状態放出速度において目の中に活性MTTを放出することを含んでもよく、バースト段階速度は定常状態投与速度よりも高く、さらに第1の段階は処置開始から約2~6週間に及び、ならびに引き続いての段階(第2の段階、ならびに一部の事例において第2および第3の段階)は第1の段階の終わりから1または複数月に及ぶ。
【0352】
XRDDSの別の実施形態は、保持媒体内に製剤化されたMTT(エラミプレチドを含む)、MTTプロドラッグ、およびMTTプロドラッグ-複合体微粒子を含む。保持媒体は、保持媒体からの薬物物質の放出を制約または制限する方式における薬物物質との相互作用のために物理化学特性に基づいて媒体が選択される液体または半固体物質である。例は、水中油エマルション、油中水エマルション、粘性ゼラチン、ハイドロゲル、および粘性コンドロイチン硫酸を含むがそれに限定されず、これらのすべては、MTT(エラミプレチドを含む)、MTTプロドラッグ、およびMTTプロドラッグ-複合体微粒子を製剤化するために使用され得る。保持媒体ベースXRDDSは、MTTプロドラッグまたはMTTプロドラッグ-複合体微粒子の安定な分散のためにいかなる要求も有さず、および薬物放出は、薬物物質との保持媒体の相互作用により決定され、保持媒体は、媒体から目の生理学的環境中への拡散を妨げるかまたは緩慢化させる。これらの特性は、多相性コロイド懸濁液XRDDS中のMTTプロドラッグの例とは異なり、多相性コロイド懸濁液XRDDSにおいては、MTTプロドラッグ-複合体微粒子は、沈降も移動もなしに安定的に分散され、および分散媒体はインプラントからのMTTプロドラッグの拡散を妨げるかまたは緩慢化させることは要求されない。
【0353】
XRDDSの別の実施形態は、受動放出、生体内分解性製剤戦略である、担体ベースXRDDS内に製剤化されたMTT(エラミプレチドを含む)、MTTプロドラッグ、およびMTTプロドラッグ-複合体微粒子を含む。担体ベースXRDDSは、特有の担体中に物理的に捕捉されるように設計されるが、その後にシステムは、遊離薬物を放出するために、XRDDS内の内因性の機構ではなく、組織との相互作用を介して分解しなければならない。一部の実施形態において、担体製剤は、組織から薬物を区画分けする単一のデバイスを含む。例は、ポリマーベースロッドまたは他の形状(薬物は、ロッドに押出成形されたかまたは異なる形状にモールド成形された化学物質中に捕捉される)、薬物が、注射可能な粘性ポリマーまたはポリマーベースロッドもしくは他の形状に製剤化されたポリマー内に捕捉される、PLGAおよび他の架橋可能な基材を含む光重合可能なまたは光架橋されるブロックポリマー、ポリマーベースマイクロ粒子(薬物を捕捉するために小さいブロックポリマーの化学的な共有結合性架橋を要求する)、薬物を捕捉するために音波処理されるリポソーム(水中リン脂質エマルション)を含むがそれに限定されず、これらのすべては、MTT(エラミプレチドを含む)MTTプロドラッグ、およびMTTプロドラッグ-複合体微粒子を製剤化するために使用され得る。すべての担体ベースシステムの共通の特色は、薬物は担体材料内に捕捉され;担体が分解、溶解、または他に破壊されるにつれて、遊離薬物が組織中に放出されるということである。これは、組織微環境により提供される化学または酵素反応を要求してもよい。追加的に、分解の間に担体システムにおいて作られる欠陥は、微環境からの水へのアクセスを可能とし、これは薬物物質の放出をさらに促進する。担体ベースシステムは、疎水性分散媒体を有し、したがって水をはじいてシステムに入らないようにする多相性コロイド懸濁液とは異なる。さらに、多相性コロイド懸濁液において、インプラントからMTTプロドラッグを放出するために複合体化ベースXRDDSが組織との相互作用を介して分解することは要求されない。放出動態は、薬物が捕捉された複合体化ベースXRDDSにより決定されない。遊離薬物は分散媒体中に存在し、ならびに多相性コロイド懸濁液についての放出動態は、疎水性および撥水性であるインタクトなシステムからの薬物の拡散により決定される。
【0354】
本明細書に記載されるのは、選択されたMTTプロドラッグが複合体化剤微粒子と混合されて、MTTプロドラッグ-複合体微粒子が形成される、Mito XRを生産する方法である。1つ以上のMTTプロドラッグ-複合体微粒子は次に、選択された分散媒体に加えられておよび組み込まれて、安定な多相性コロイド懸濁液が形成される。MTTプロドラッグ、複合体化剤、および分散媒体の結果的な製剤はMito XRのインプラントを形成する。
【0355】
Kdの特性は、所与の複合体化剤に対するMTTプロドラッグのアビディティの指標であり、所与の分散媒体中のMTTプロドラッグ-複合体微粒子についてのMTTプロドラッグの非結合-結合比率として定義される。特有のKd値は、本明細書に記載されるように、指定される放出アッセイにより測定され得る。
【0356】
インプラントからのMTTプロドラッグの放出の調節は、分散媒体内の非結合比率により決定され、これは次いで、特有の分散媒体内の所与の複合体化剤についての非結合対結合MTTプロドラッグの比として定義されるKdにより決定される。特定のMTTプロドラッグ-複合体微粒子についてのKdの知識は、予め指定された放出動態プロファイルを達成するためのプロドラッグ-複合体化剤の特有の組合せの選択を可能とする。多相性コロイド懸濁液中に1つより多くの複合体化剤を含めることは、経時的に分散媒体内の薬物の非結合比率を、およびそのためシステムの放出動態を調節するために使用され得る(図35A~35Eおよび図36を参照)。
【0357】
例えば、Mito XRの一部の製剤において、放出の第1の段階および第2の段階があってもよく、第1の段階の間のミトコンドリア標的化テトラペプチドの放出の増加があり、および引き続いての第2の段階の間のミトコンドリア標的化テトラペプチドのより低い放出がある(図36を参照)。この製剤は、2つの異なるMTTプロドラッグ-複合体微粒子の組合せにより達成されてもよく、1つの複合体微粒子は、第1の複合体化剤に対するMTTプロドラッグの低い親和性を反映して、高いKdを有し、および第2の複合体微粒子は、第2の複合体化剤に対するMTTプロドラッグの高い親和性を反映して、低いKdを有する。この状況において、放出の第1の段階は、より高いKd(低い親和性)の微粒子からのMTTプロドラッグ放出の「バースト」のより高い速度であってもよく、および放出の第2の段階は、より低いKd(より高い親和性)の微粒子からのMTTプロドラッグ放出のより遅い、定常状態である。この方式において、異なるMTTプロドラッグ-複合体微粒子は、Mito XR製剤からのMTTプロドラッグ放出の予め特定された動態プロファイルを達成するために、所望される比および割合で、特に選択および組合せされ得る。
【0358】
そのような例において、選択された分散媒体中に組み込まれた2つまたはより多くのMTTプロドラッグ-複合体微粒子の組合せについての組み合わせられた効果は、Mito XRインプラント内に組み込まれたおよび分散された個々の薬物-複合体化剤微粒子構成要素からの放出速度の積分に基づく2つまたはより多くの段階におけるMTTの放出である。
【0359】
インビボ硝子体濃度においてMito XRにより達成される実際の放出動態は、1か月またはより長い持続放出持続期間にわたりEC50を満たすかまたはそれを上回るものであってもよい。EC50は、ミトコンドリア機能障害の特有のリードアウトにより、既存のミトコンドリア機能障害の逆転およびミトコンドリア機能障害の新たな発病の予防の両方について測定されるミトコンドリア機能障害における低減のために最大応答の50%を達成するMTTプロドラッグ化合物の濃度を反映する。
【0360】
本明細書に記載される持続放出薬物送達システムにおいて、所与の放出持続期間および全ペイロードのために所望される標的放出プロファイルを達成する特有の製剤は、数式により特別設計され、および引き続いて反復的な精密化により構築され得る。別個のKd値を有する「薬物-複合体」微粒子の2つまたはより多くのセットは、個々のKd値を考慮に入れる、および分散媒体中で組み合わせられた場合に薬物-複合体微粒子の個々のセットの薬物放出速度を統合する数式を使用して標的薬物動態放出プロファイル(すなわち、1日当たりの薬物放出速度)を特に設計、カスタマイズ、および「チューニング」するために異なる比および量で組み合わせられ得る。標的放出プロファイルは、所与の薬物ペイロードおよび薬物放出の所望される持続期間のために、放出動態の1つ以上の段階を用いて設計され得る。
【0361】
例えば、図35A~35Eは、生物活性ミトコンドリア標的化薬物のための所望される薬物放出動態プロファイルを生成する持続放出薬物送達システム(XRDDS)インプラントの設計および構築のための理論的な基礎を図示する。最初に、この描写において対数変換により線形化されている、理論的な薬物動態放出曲線(すなわち、標的放出プロファイル)(図35A)が、所望される1日当たりの放出速度、送達の全持続期間、および最終の持続放出薬物送達システムインプラント中の薬物ペイロードを与えるために、所望される初期バースト段階および引き続いての定常状態放出段階を示すように設計される。プロドラッグおよびそのコンジュゲーション部分の物理化学特性に基づいてプロドラッグの特定のコンジュゲーション部分と非共有結合性相互作用を形成することが予想される、複合体化剤の2または3つの異なるクラスからの特有のメンバー化合物を同定するために反復的なプロセスが行われる。各々の薬物-複合体化剤は最初に初期量および比で組み合わせられ、ならびに薬物-複合体微粒子は次に混合され、および提案される分散媒体内に組み込まれる。薬物-複合体-培地システムは「シンク」条件に置かれ、ならびに薬物-複合体ペアの2つの特性が測定される:1、3、7、14、および21日目におけるKd(非結合-結合比率)(バーストおよび一般的な結合アビディティの良好な指標);ならびに放出動態(経時的な放出される薬物の、初期ペイロードのうちの%)(Kd1は薬物-複合体1に対応し、Kd2は薬物-複合体2に対応する(それぞれ図35C1および図35C2))。
【0362】
曲線フィッティングが次に各々の薬物-複合体の放出曲線に対して適用され、および線形化された曲線が次に、予め決定された所望される複合標的生成物プロファイルを満たす放出動態を与える(2または3つの特有の薬物-複合体ペアの)正しい組合せを決定するために解析される(図35D)。
【0363】
図35Dに示されるように、2または3つの薬物-複合体ペアの組合せを含有するこの「理論的に設計された」製剤は次に製剤化され、および実際の放出動態について試験される。必要な場合、2~3個の選択された薬物-複合体ペアの比は、最終の放出動態が予め決定された標的生成物放出プロファイルを満たすまで反復的に再調整され得る(図35E)。
【0364】
一部の事例において、第2または第3の薬物-複合体ペアについて、生物活性薬物は、異なるコンジュゲーション部分に共有結合的に連結されて異なるプロドラッグ構造を形成してもよく、および複合体化剤は第1のものとは別個であってもよく、ペアの間の異なるコンジュゲーション部分および異なる複合体化剤の両方に基づいて、薬物-複合体ペアの別個のKd値、Kd1およびKd2を有してもよい。
【0365】
代替的に一部の事例において、プロドラッグのコンジュゲーション部分は、第1の薬物-複合体ペアと第2の薬物-複合体ペアとの間で異なってもよいが、複合体化剤は同じであってもよく、ペアの間の異なるコンジュゲーション部分に基づいて、薬物-複合体ペアの別個のKd値、Kd1およびKd2を有してもよい。
【0366】
複合持続放出薬物送達システムは、システムから組織中への遊離MTTプロドラッグの放出を調節するためにMTTプロドラッグの物理化学特性について設計およびカスタマイズされ、プロドラッグは、エステラーゼまたは加水分解により切断されて活性MTTを放出する。
【0367】
2段階放出動態を有するMito XRの製剤において、硝子体中のMTTプロドラッグの濃度は、初期バースト段階の間に逆転EC50を上回ってもよく、および引き続いて第2の(定常状態)段階にわたり予防EC50を上回ってもよく、ならびに放出動態、特有のMTTプロドラッグ-複合体微粒子の選択、異なる微粒子組合せの特有の比および濃度、ならびにMito XR製剤中のMTTプロドラッグのペイロード全量は、薬物放出の所望される持続期間にわたりこの設計された放出動態を達成するために選択されてもよい。2段階放出動態は、既存の疾患症状を逆転させるための薬物放出の「負荷用量」段階、および、引き続いての、疾患症状の再発を予防するための薬物放出の「維持」段階のために望ましいことがある。
【0368】
単一段階放出動態を有するMito XRの製剤において、硝子体中のMTTプロドラッグの濃度は、ミトコンドリア機能障害の逆転のためのEC50を上回ってもよい。
3段階放出動態を有するMito XRの製剤において、硝子体中のMTTプロドラッグの濃度は、第1の段階の間にミトコンドリア機能障害の逆転のためのEC50を上回ってもよく、第2の段階の間に定常状態放出のためにミトコンドリア機能障害の予防のためのEC50を上回ってもよく、および第3の、後期バースト段階の間にミトコンドリア機能障害の逆転のためのEC50を上回ってもよい。後期「バースト」の第3の段階を伴う3段階放出動態は、タキフィラキシーに起因するか、または細胞ミトコンドリア機能障害および/もしくは網膜もしくはRPE疾患のトリガーもしくはドライバーの増加に起因する薬物の効力の喪失がある状況のために望ましいことがある。
【0369】
例えば、図36は、本明細書に記載されている、異なるコンジュゲーション部分を各々が有する、複合体化ベースXRDDS中のEY005プロドラッグの2つの別個の製剤の例:EY005-オクタデシル(製剤1)およびEY005-8-merペプチド(製剤2)についての放出動態を図示する。図36に示されるように、製剤1および製剤2の両方は、早期バースト、続いてより線形の放出を伴う、2段階動態を有した。しかしながら、製剤1はより長い初期早期バーストを有して、120日の耐久性を結果としてもたらしたが、製剤2はより短い早期バーストおよびより長い定常状態放出段階を有して、210日の放出を結果としてもたらした。
【0370】
関係Css=放出速度/クリアランスおよび半減期(t1/2)を利用して、持続放出薬物送達システムインプラントのおおよその所望される1日当たりの放出速度および薬物ペイロードを算出することができる。
【0371】
例として、約100μgの薬物のペイロードは、約200~500ng/日の放出速度と共に6~8か月の有効性および耐久性を達成し得る。2段階放出動態は、1か月にわたる早期バースト(網膜を薬物で負荷するため)、続いて5~7か月の定常状態放出を含んでもよい。選択されたプロドラッグのコンジュゲーション部分と好都合に相互作用してプロドラッグ化合物の拡散を制限することが予想される複合体化剤が次に選択され、および持続放出薬物送達システムのチューブインプラントまたはボーラスモダリティー中に組み込まれる(例えば、図33Aおよび図33Bを参照)。
【0372】
多相性コロイド懸濁液は、流動性ボーラスインプラント(図33A)、特有のサイズおよび形状の固体モールド、または生体内分解性もしくは非生体内分解性スリーブもしくは外側カバリングを充填してチューブインプラントを形成する半固体(図33B)を含む、硝子体中に注射され得る複合体化ベース持続放出薬物送達システムのいくつかのモダリティー(図33および図34)のうちの1つとして製剤化されてもよい。一部の例において、チューブは、それ自体が持続放出薬物送達システムを形成していてもよい。他の例において、チューブは、眼組織と適合性の生体内分解性ポリマー(例えば、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)PLGA)を含んでもよい。一部の例において、チューブは、MTTプロドラッグの放出のために開いた1つまたは両方の端部を有してもよい。チューブは、図34(右)に示されるように硝子体中に、または眼周囲組織中に針またはカニューレを介して注射されてもよい。一部の例において、MTTプロドラッグを組み込んでいる持続放出薬物送達システムは、モールド成形されてもよい(図33C)。
【0373】
以上の概念および下記においてより詳細に議論される追加の概念のすべての組合せ(但し、そのような概念は相互に不整合ではない)は、本明細書に開示される本発明の主題の部分であることが想定され、および本明細書に記載される利益を達成するために使用され得ることが理解されるべきである。
【0374】
本明細書において記載および/または説明される方法パラメーターおよびステップの配列は、例として与えられているに過ぎず、所望されるように変更され得る。例えば、本明細書において説明および/または記載されるステップは、特定の順序で示されるかまたは議論されることがあるが、これらのステップは、説明または議論される順序で行われることは必ずしも必要とされない。本明細書において記載および/または説明される様々な例示的な方法はまた、本明細書において記載もしくは説明されるステップのうちの1つ以上を省略してもよいか、または開示されるステップに加えて追加のステップを含んでもよい。
【0375】
特徴部または要素が別の特徴部または要素「上」(on)にあるとして本明細書において言及される場合、それは、他の特徴部もしくは要素上に直接的に存在することができるか、または介在する特徴部および/もしくは要素もまた存在してもよい。対照的に、特徴部または要素が別の特徴部または要素「上に直接的に」あるとして言及される場合、介在する特徴部または要素は存在しない。特徴部または要素が別の特徴部または要素に「接続されている」、「取り付けられている」または「連結されている」として言及される場合、それは、他の特徴部もしくは要素に直接的に接続されているか、取り付けられているか、もしくは連結されていることができるか、または介在する特徴部もしくは要素が存在してもよいこともまた理解される。対照的に、特徴部または要素が別の特徴部または要素に「直接的に接続されている」、「直接的に取り付けられている」または「直接的に連結されている」として言及される場合、介在する特徴部または要素は存在しない。1つの実施形態に関して記載されているかまたは示されていても、そのように記載されているかまたは示されている特徴部および要素は、他の実施形態に適用され得る。別の特徴部に「隣接して」配されている構造または特徴部への言及は、隣接する特徴部の上に重なるかまたは下にある部分を有してもよいこともまた当業者により理解される。
【0376】
本明細書において使用される技術用語は、特定の実施形態を記載する目的のものに過ぎず、本発明を限定することは意図されない。例えば、本明細書において使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が他に明確に指し示さなければ、複数形もまた含むことが意図される。用語「含む」(comprises)および/または「含む」(comprising)は、本明細書において使用される場合、記載される特徴部、ステップ、操作、要素、および/または構成要素の存在を指定するが、1つ以上の他の特徴部、ステップ、操作、要素、構成要素、および/またはその群の存在または追加を除外しないことがさらに理解される。本明細書において使用される場合、用語「および/または」は、関連付けて列記された項目のうちの1つ以上の任意のおよびすべての組合せを含み、ならびに「/」として略記されることがある。
【0377】
空間的に相対的な用語、例えば「下」(under)、「下」(below)、「下」(lower)、「上」(over)、および「上」(upper)などは、図に示されるような別の要素または特徴部に対する1つの要素または特徴部の関係性を記載するための記載を容易にするために本明細書において使用され得る。空間的に相対的な用語は、図において描写される配向性に加えて使用または操作におけるデバイスの異なる配向性を包含する意図であることが理解される。例えば、図中のデバイスが反転している場合、他の要素または特徴部の「下」(under)または「下」(beneath)にあるとして記載される要素は、他の要素または特徴部の「上」(over)に配向することになる。そのため、例示的な用語「下」(under)は、上および下の両方の配向性を包含することができる。デバイスは他に配向(90度回転しているかまたは他の配向性にある)していてもよく、および本明細書において使用される空間的に相対的な記載はそれにしたがって解釈される。同様に、用語「上に」、「下に」、「鉛直の」、および「水平の」などは、他に特に指し示されなければ、説明の目的のために本明細書において使用されているに過ぎない。
【0378】
用語「第1」および「第2」が様々な特徴部/要素(ステップを含む)を記載するために本明細書において使用されることがあるが、これらの特徴部/要素は、文脈が他に指し示さなければ、これらの用語により限定されるべきではない。これらの用語は、1つの特徴部/要素を別の特徴部/要素から区別するために使用されることがある。そのため、本発明の教示から離れることなく、下記において議論される第1の特徴部/要素は第2の特徴部/要素と称されることが可能であり得、同様に、下記において議論される第2の特徴部/要素は第1の特徴部/要素と称されることが可能であり得る。
【0379】
本明細書および後続する特許請求の範囲の全体を通じて、文脈が他に要求しなければ、語「含む」(comprise)、ならびに変形形態、例えば「含む」(comprises)および「含む」(comprising)は、様々な構成要素が方法および物品(例えば、組成物およびデバイスを含む装置および方法)において共同的に用いられ得ることを意味する。例えば、用語「含む」は、任意の記載された要素またはステップを含むが、任意の他の要素またはステップを除外しないことを含意することが理解される。
【0380】
一般に、本明細書に記載される装置および方法のいずれも、包含的であることが理解されるべきであるが、構成要素および/またはステップのすべてまたは部分集合は代替的に排他的であってもよく、ならびに様々な構成要素、ステップ、部分構成要素または部分ステップ「からなる」または代替的に「から本質的になる」として表現されることがある。
【0381】
実施例において使用される場合を含む、本明細書および特許請求の範囲において本出願において使用される場合、他に明示的に特定されなければ、すべての数は、「約」または「おおよそ」という用語が明示的に現れなくても、該語により先行されているかのように読まれ得る。語句「約」または「おおよそ」は、記載される値および/または位置が値および/または位置の合理的な予想される範囲内にあることを指し示すために規模および/または位置を記載する場合に使用されることがある。例えば、数値は、記載される値(または値の範囲)の+/-0.1%、記載される値(または値の範囲)の+/-1%、記載される値(または値の範囲)の+/-2%、記載される値(または値の範囲)の+/-5%、記載される値(または値の範囲)の+/-10%などの値を有し得る。本明細書において与えられる任意の数値はまた、文脈が他に指し示さなければ、約またはおおよそその値を含むことが理解されるべきである。例えば、値「10」が開示される場合、「約10」もまた開示される。本明細書において記載される任意の数値範囲は、その中に包含されるすべての部分範囲を含むことが意図される。値が開示される場合、値「以下」、「値以上」および値の間の可能な範囲もまた、当業者により適切に理解されるように、開示されることもまた理解される。例えば、値「X」が開示される場合、「X以下」の他に「X以上」(例えば、Xは数値である)もまた開示される。本出願の全体を通じて、データが多数の異なる形式において提供されること、ならびにこのデータは、終点および出発点、およびデータ点の任意の組合せについての範囲を表すこともまた理解される。例えば、特定のデータ点「10」および特定のデータ点「15」が開示される場合、10および15より大きい、10および15以上、10および15未満、10および15以下、ならびに10および15に等しいデータ点の他に、10~15が開示されると考えられる。2つの特定の単位の間の各々の単位もまた開示されることもまた理解される。例えば、10および15が開示される場合、11、12、13、および14もまた開示される。
【0382】
様々な実例的な実施形態が上記されるが、任意の多数の変更が、請求項に記載されている本発明の範囲から離れることなく様々な実施形態に対して為され得る。例えば、様々な記載される方法ステップが行われる順序は、多くの場合に、代替的な実施形態において変更されてもよく、および他の代替的な実施形態において、1つ以上の方法ステップは全体的に省略されてもよい。様々なデバイスおよびシステムの実施形態の任意選択的な特色は、一部の実施形態において含まれてもよく、およびその他の実施形態において含まれなくてもよい。したがって、以上の記載は、主に例示的な目的のために提供され、本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではなく、本発明の範囲は請求項において記載される。
【0383】
本出願に含まれる例およびイラストレーションは、限定ではなく実例として、主題が実施され得る特有の実施形態を示す。記載されるように、構造的なおよび論理的な置換および変更が本開示の範囲から離れることなく為され得るような他の実施形態が利用および導出され得る。本発明の主題のそのような実施形態は、単に簡便性のために、および、1つより多くの発明または発明的概念が実際に開示される場合に、本出願の範囲を任意の単一の発明または発明的概念に自発的に限定することを意図することなく、本明細書において個々にまたは総称的に用語「発明」と言及され得る。そのため、特有の実施形態が本出願において図示および記載されているが、同じ目的を達成するために算出される任意の構成が、示される特有の実施形態のために代用されてもよい。本開示は、様々な実施形態の任意のおよびすべての適合または変形形態をカバーすることが意図される。上記の実施形態の組合せ、および本明細書に特に記載されていない他の実施形態は、上記の記載を検討した当業者に明らかである。
図1
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【配列表】
2024521373000001.app
【国際調査報告】