(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-31
(54)【発明の名称】網膜変性疾患における使用のためのTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/416 20060101AFI20240524BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20240524BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20240524BHJP
A61K 31/517 20060101ALI20240524BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240524BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240524BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
A61K31/416
A61K31/506
A61K31/519
A61K31/517
A61P27/02
A61P9/10
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574777
(86)(22)【出願日】2022-06-07
(85)【翻訳文提出日】2024-01-25
(86)【国際出願番号】 IB2022055276
(87)【国際公開番号】W WO2022259133
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】102021000015098
(32)【優先日】2021-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523453444
【氏名又は名称】フローネクスト エス.アール.エル.
【氏名又は名称原語表記】FLONEXT S.R.L.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ジェッペッティ, ピエランジェロ
(72)【発明者】
【氏名】ナッシーニ, ロミナ
(72)【発明者】
【氏名】デ ローグ, フランチェスコ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC37
4C086BC42
4C086BC45
4C086CB22
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA33
4C086ZA36
4C086ZC41
(57)【要約】
本発明は、網膜疾患の予防及び/又は処置における、特に黄斑変性の予防及び/又は処置における使用のためのTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物に関する。本発明は、少なくとも1つの網膜変性疾患、好ましくは黄斑変性の予防及び/又は処置における局所眼科使用のための少なくとも1種のTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物を含む眼科用組成物にも関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄斑変性、糖尿病性網膜症、網膜剥離、中心性漿液性網脈絡膜症、高血圧性網膜症、黄斑円孔、黄斑パッカー、飛蚊症(浮遊物)及び近視性黄斑症から選択される少なくとも1つの網膜変性疾患の予防及び/又は処置における使用のためのTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物。
【請求項2】
前記変性病態が黄斑変性である、請求項1に記載の使用のための化合物。
【請求項3】
前記黄斑変性が乾燥老人性黄斑変性である、請求項1又は2に記載の使用のための化合物。
【請求項4】
前記黄斑変性が湿潤老人性黄斑変性である、請求項1又は2に記載の使用のための化合物。
【請求項5】
以下のクラス:
2)スルホンアミド誘導体;
5)多環複素環式芳香族誘導体;又は
6)インダゾール誘導体及び生物学的等価体
のうちの1つに属する、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための化合物、その塩、光学異性体、溶媒和物並びにプロドラッグ。
【請求項6】
クラス2)スルホンアミド誘導体に属する前記化合物が一般式A1
【化1】
[式中、A及びBは、互いに等しいか又は異なり、CH基又は窒素原子を表すことができ、Arは好ましくはアリール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピロール、イミダゾール、フラン、チオフェン及びチアゾールからなる群から選択され、1個又は複数のハロゲン原子、好ましくは1個又は複数のフッ素又は塩素原子で置換されていてもよい、5又は6員芳香族環を表すことができ、R1、R2及びR3は、互いに等しいか又は異なり、水素原子、フルオロメチル基又は次式
【化2】
(式中、X及びYは、互いに等しいか又は異なり、CH基又は窒素原子を表すことができる。)
の残基を表すことができる。]
を有する、請求項5に記載の使用のための化合物。
【請求項7】
クラス2)スルホンアミド誘導体に属し、一般式A1を有する前記化合物が式(IV)
【化3】
の化合物である、請求項6に記載の使用のための化合物。
【請求項8】
クラス5)多環複素環式芳香族誘導体に属する前記化合物が一般式A2
【化4】
(式中、Aは酸素原子、-NH-基又はカルボニル基-(C=O)-を表すことができ、Bは-CH-基又は窒素原子を表すことができる。)
を有する、請求項5に記載の使用のための化合物。
【請求項9】
クラス5)多環複素環式芳香族誘導体に属し、一般式A2を有する前記化合物が式(I)の化合物又は式(II)の化合物
【化5】
である、請求項8に記載の使用のための化合物。
【請求項10】
クラス6)インダゾール誘導体及び生物学的等価体に属する前記化合物が一般式A3
【化6】
(式中、R6、R7及びR8は、互いに等しいか又は異なり、水素原子、1~3個の炭素原子を有するアルキル基又はトリフルオロメチル基を表すことができる。)
を有する、請求項5に記載の使用のための化合物。
【請求項11】
クラス6)インダゾール誘導体及び生物学的等価体に属し、一般式A3を有する前記化合物が式(III)
【化7】
の化合物である、請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
少なくとも1つの網膜変性疾患の予防及び/又は処置における使用のための、少なくとも1種のTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物及び少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物であって、前記網膜変性疾患が黄斑変性、糖尿病性網膜症、網膜剥離、中心性漿液性網脈絡膜症、高血圧性網膜症、黄斑円孔、黄斑パッカー、飛蚊症(浮遊物)及び近視性黄斑症から好ましくは選択される、医薬組成物。
【請求項13】
前記少なくとも1種のTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物が以下のクラス:
2)スルホンアミド誘導体;
5)多環複素環式芳香族誘導体;又は
6)インダゾール誘導体及び生物学的等価体、
その塩、光学異性体、溶媒和物並びにプロドラッグのうちの1つに属する、請求項12に記載の使用のための組成物。
【請求項14】
クラス2)スルホンアミド誘導体に属する前記化合物が一般式A1
【化8】
[式中、A及びBは、互いに等しいか又は異なり、CH基又は窒素原子を表すことができ、Arは好ましくはアリール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピロール、イミダゾール、フラン、チオフェン及びチアゾールからなる群から選択され、1個又は複数のハロゲン原子、好ましくは1個又は複数のフッ素又は塩素原子で置換されていてもよい、5又は6員芳香族環を表すことができ、R1、R2及びR3は、互いに等しいか又は異なり、水素原子、フルオロメチル基又は次式
【化9】
(式中、X及びYは、互いに等しいか又は異なり、CH基又は窒素原子を表すことができる。)
の残基を表すことができる。]
を有する、請求項12又は13に記載の使用のための組成物。
【請求項15】
スルホンアミド誘導体のクラス2)に属し、一般式A1を有する前記化合物が式(IV)
【化10】
の化合物である、請求項14に記載の使用のための組成物。
【請求項16】
クラス5)多環複素環式芳香族誘導体に属する前記化合物が一般式A2
【化11】
(式中、Aは酸素原子、-NH-基又はカルボニル基-(C=O)-を表すことができ、Bは-CH-基又は窒素原子を表すことができる。)
を有する、請求項12又は13に記載の使用のための組成物。
【請求項17】
クラス5)多環複素環式芳香族誘導体に属し、一般式A2を有する前記化合物が式(I)の化合物又は式(II)の化合物
【化12】
である、請求項16に記載の使用のための組成物。
【請求項18】
クラス6)インダゾール誘導体及び生物学的等価体に属する前記化合物が一般式A3
【化13】
(式中、R6、R7及びR8は、互いに等しいか又は異なり、水素原子、1~3個の炭素原子を有するアルキル基又はトリフルオロメチル基を表すことができる。)
を有する、請求項12又は13に記載の使用のための組成物。
【請求項19】
クラス6)インダゾール誘導体及び生物学的等価体に属し、一般式A3を有する前記化合物が式(III)
【化14】
の化合物である、請求項18に記載の化合物。
【請求項20】
前記網膜変性疾患が黄斑変性である、請求項12~19のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項21】
前記黄斑変性が乾燥老人性黄斑変性である、請求項20に記載の使用のための組成物。
【請求項22】
前記黄斑変性が湿潤老人性黄斑変性である、請求項20に記載の使用のための組成物。
【請求項23】
前記組成物が、少なくとも1種のTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物及び少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤を含む眼科用組成物である、請求項12~22のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項24】
前記眼科用組成物が局所眼科用組成物であり、好ましくは前記眼科用組成物が水溶液である、請求項23に記載の使用のための組成物。
【請求項25】
TRPA1チャネルアンタゴニスト化合物が、約0.0001%~約5%w/vの範囲の濃度で存在する、請求項24に記載の使用のための組成物。
【請求項26】
TRPA1チャネルアンタゴニスト化合物が、約0.1%~約1%w/vの範囲の濃度で存在する、請求項25に記載の使用のための組成物。
【請求項27】
TRPA1チャネルアンタゴニスト化合物が、水性組成物の約0.5%w/vの濃度で存在する、請求項25又は26に記載の使用のための組成物。
【請求項28】
局所眼科用組成物、局所眼科用組成物を含有する容器及びディスペンサーを含むキットであって、前記組成物が請求項12~27のいずれか一項に記載の使用のためのものである、キット。
【請求項29】
黄斑変性、糖尿病性網膜症、網膜剥離、中心性漿液性網脈絡膜症、高血圧性網膜症、黄斑円孔、黄斑パッカー、飛蚊症(浮遊物)及び近視性黄斑症から選択される少なくとも1つの網膜変性疾患の予防及び/又は処置における同時、別個又は逐次使用のためのTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物と抗VEGF薬及び/又は副腎皮質ステロイド薬の組合せ。
【請求項30】
前記網膜変性疾患が、黄斑変性、特に乾燥老人性黄斑変性又は湿潤老人性黄斑変性である、請求項29に記載の組合せ。
【請求項31】
前記抗VEGF薬がラニビズマブ、ベバシズマブ及び/又はアフリベルセプトから選択される、請求項30に記載の組合せ。
【請求項32】
前記副腎皮質ステロイド薬が、コルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、メプレドニゾン、ベクロメタゾン、トリアムシノロン、パラメタゾン、モメタゾン、ブデソニド、フルオシノニド、ハルシノニド、フルメタゾン、フルニソリド、フルチカゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン及び/又はフルオコルトロンから選択される、請求項30に記載の組合せ。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、網膜疾患の予防及び/又は処置における、特に黄斑変性の予防及び/又は処置における使用のための一過性受容体電位アンキリン1(TRPA1)チャネルアンタゴニスト化合物に関する。本発明は、少なくとも1つの網膜変性疾患、好ましくは黄斑変性の予防及び/又は処置における局所眼科使用のための少なくとも1種のTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物を含む眼科用組成物にも関する。
【0002】
[技術の現状]
網膜は、眼底に位置する透明な光感受性構造である。黄斑と呼ばれる網膜の中心部は、中心視覚及び色覚を担う光感受性細胞である錐体と呼ばれる多数の光受容体を含有し、黄斑を取り囲む光受容体である桿体細胞は、より低光量に応答するが、色に対する感受性がない。
【0003】
網膜は様々な種類の病態に冒され得、冒された網膜部に応じて視覚に重篤な影響を及ぼし得る。
【0004】
網膜損傷は直接的又は間接的であり得る。間接的網膜損傷による病態には緑内障がある。緑内障は、眼の内部の圧力の上昇による眼疾患であり、特に眼の内部を循環し、重要な眼構造への栄養を確保する液体である房水の流出経路が閉塞されるために起こる。その結果、生成された房水と排出された房水との間の比が増加し、眼球内の圧力が正常な14~16mmHgを超えて上昇する。この圧力上昇が顕著であるか又は長時間続く場合、視神経を損傷し得る。視神経の損傷に加えて、病態は網膜神経線維層の変化も特徴とし、したがって間接的に網膜損傷ももたらす。
【0005】
現在の医学療法は、房水の生成を低減するか又は房水の放出を増加させる機能を有する点眼薬の使用に本質的に基づく。使用された最初の薬物は、植物ピロカルプス・ヤボランジ(Pilocarpus jaborandi)からのアルカロイドであるピロカルピンであったが、幾つかの不快な副作用により現在ではほとんど使用されていない。緑内障の処置に現在使用される薬物はβブロッカー、炭酸脱水酵素阻害剤(アセタゾラミド及びジクロフェナミドを含む)、α刺激薬及びプロスタグランジン(ラタノプロスト)である。
【0006】
黄斑変性は網膜を直接損傷する病態のうちの1つである。
【0007】
黄斑変性は黄斑を冒す加齢多因子疾患である。黄斑変性は進行性疾患であり、50歳超の成人における不可逆的盲目の主因である。黄斑変性は実際に加齢に関係し、したがって寿命の増加により世界人口にこれまでより広範な影響をいずれ与えることになる疾患である。2つの異なる形態の加齢黄斑変性:乾燥型(非滲出性又は萎縮性)及び湿潤型(滲出性又は血管新生)が公知である。乾燥型の加齢黄斑変性は、桿体及び錐体の健康及び十分な機能の維持に必須の役割を果たす網膜色素上皮の変化に起因する。錐体及び桿体における老廃物の蓄積は、初期段階の加齢黄斑変性を特徴付ける黄色の斑点として見えるドルーゼンの形成をもたらし得る。乾燥型は中心網膜の進行性の菲薄化を特徴とし、該中心網膜は毛細血管による栄養補給が不十分であり、萎縮し、黄斑部における萎縮性病変の形成をもたらす。網脈絡膜萎縮部(地図状萎縮と称される)は、乾燥型の加齢黄斑変性のより進行した症例で起こる。
【0008】
他方で、湿潤型の黄斑変性は、黄斑に対応した脈絡膜からの異常な血管の成長(脈絡膜血管新生)を特徴とする。局所性黄斑浮腫又は出血は、黄斑部の上昇又は局所的な網膜色素上皮剥離をもたらし得る。最終的に、未処置の血管新生は黄斑下円板状瘢痕(submacular disciform scar)をもたらす。これらの新たに形成された血管は、ほぼ例外なく脈絡膜(脈絡膜血管新生)に起源をもち、中心網膜を破壊する線維血管の瘢痕の形成の原因となる。
【0009】
一般に、乾燥型より攻撃的な湿潤型黄斑変性は、血管の瘢痕化に起因する急速で重度の中心視覚喪失の原因となり得る。湿潤型の加齢黄斑変性患者は通常数日又は数週間以内に急速な視覚機能喪失を示す。初期症状は一般に、暗点の存在又は変形視症(直線の湾曲)を特徴とする視覚的歪み、次に黄斑の中心付近又は黄斑の中心における新しい血管の形成である。
【0010】
ほとんどの利用可能な処置は、湿潤型の血管新生黄斑変性を予防又は治癒することを目的とする。しかし、現在までに乾燥型の確立された処置は依然として存在しない。広範なドルーゼン、色素沈着の変化及び/又は地図状萎縮を有する患者は、少なくともルテイン又は他のビタミン、及び時には亜鉛又は他の栄養素を一般に含む抗酸化ビタミン及びミネラルサプリメントを摂取することによって、進行型の加齢黄斑変性を発症するリスクを25%低減することができる。近年、オメガ3脂肪酸が乾燥型の加齢黄斑変性を患う患者に処方されており、抗酸化剤と共に市販の栄養サプリメントの中に含まれる。
【0011】
このようなビタミン及び抗酸化サプリメントは、網膜の間接的な損傷ではなく、直接的な損傷、とりわけ直接的な変性損傷を軽減するために使用できる。実際に、進行性黄斑変性のリスクを顕著に低減することができる栄養サプリメントは、眼圧を低下させないため緑内障の処置に使用した場合には利点がないことが観察された。したがって、いずれも網膜に関わる緑内障及び黄斑変性の2種類の病態が、異なる分子機序を有することが明らかである。実際に、緑内障を特徴付ける過剰な眼圧に起因する損傷は、網膜色素上皮(即ちRPE層、網膜色素上皮から)及び光受容体(桿体及び錐体)ではなく、網膜の内部細胞(神経節、アマクリン、水平、双極細胞)のレベルで局在する。2つの病態、即ち緑内障及び黄斑変性の研究については、緑内障患者及び黄斑変性患者で同定された典型的な病変を分子レベルで呈する2種の動物モデルが用いられる。緑内障の動物モデルは、網膜の内部細胞(神経節、アマクリン、水平、双極細胞)に局在した病変を呈し、網膜色素上皮を冒さない(Souza Monteiro de Araujo等、2020)が、黄斑変性の動物モデルは網膜の中心極に損傷を示し、損傷は周辺部にまで及び得る(Kiuchi、Current Eye Research 2002、Machalinska、Neurochemical Res.2010、Wang、Invest Ophthalmol Vis Sci 2014、Commentaries NEURAL REGENERATION RESEARCH December 2014、Hanu、Cell Death Disc 2016、Chower、Invest Ophtalmol 2017及びKoh、Journal of Photochemistry & Photobiology、2019)。更に、黄斑変性のマウスモデルにおける網膜色素上皮細胞の喪失は光受容体だけでなく、下層の脈絡毛細管層も冒すことが観察された。光受容体の下層にある脈絡毛細管層の損傷は、緑内障の動物モデルでは観察されなかった。網膜を直接又は間接的に冒す緑内障及び黄斑変性の2つの病態間の明らかな違いにより、緑内障の処置に現在使用される薬物は黄斑変性、特に乾燥黄斑変性の処置には使用できず、逆もまた同様である。
【0012】
更に、黄斑変性に関しては、利用可能な処置のほとんどが、乾燥型ではなく湿潤型の黄斑変性を予防又は処置することを目的としており、現在までに確立された処置は依然として存在しない。
【0013】
湿潤型の黄斑変性の薬理学的処置の選択としては、血管内皮成長因子のアンタゴニスト薬(抗VEGF)、例えばラニビズマブ、ベバシズマブ又はアフリベルセプトの硝子体内注射による周期的な投与が挙げられる。加えて、副腎皮質ステロイド薬、例えばトリアムシノロンが眼内注射によって抗VEGF薬と一緒に投与され得る。硝子体内投与法は、眼内圧の上昇、頭痛、硝子体炎(眼の炎症)、硝子体剥離、網膜出血(眼の後方からの出血)、視覚的妨害及び眼痛をもたらし得る侵襲性投与経路である。硝子体内投与は、頻繁には起こらないが(約1/1000)、重症例においては、視覚喪失から全盲をもたらし得る硝子体腔の感染から生じる重篤な眼内炎症性疾患である敗血症性眼内炎の原因ともなり得る。
【0014】
したがって、加齢黄斑変性の長期処置のために、投与方法に関連した副作用を招くことなく予防及び/又は長期処置を可能にする、新しい非侵襲性の治療法を提供する必要があることが明らかである。
【0015】
[発明の概要]
出願人は、現在の治療法、特に硝子体内投与を必要とする治療法の不便さ及び副作用を伴わず、場合により有効性が同等又はより高い、網膜変性疾患、特に黄斑変性の予防及び/又は長期処置のための新しい治療法の提供の問題に取り組んだ。
【0016】
出願人は、少なくとも1種のTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物の投与に基づく新しい治療法が網膜変性疾患、例えば黄斑変性の予防及び処置に有用であり得ることを驚くべきことに見出した。
【0017】
したがって、本発明の第1の態様は、黄斑変性、糖尿病性網膜症、網膜剥離、中心性漿液性網脈絡膜症、高血圧性網膜症、黄斑円孔、黄斑パッカー、飛蚊症(浮遊物)及び近視性黄斑症から選択される少なくとも1つの網膜変性疾患の予防及び/又は処置における使用のためのTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物である。
【0018】
特に、出願人は、TRPA1チャネルアンタゴニスト化合物として作用する化合物が、黄斑変性の予防及び/又は処置に特に効果的であり得ることを観察した。
【0019】
したがって、本特許出願に記載されるTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物は、黄斑変性、特に乾燥老人性黄斑変性及び湿潤老人性黄斑変性の予防及び/又は処置に有利に使用できる。
【0020】
本発明の更なる態様は、黄斑変性、糖尿病性網膜症、網膜剥離、中心性漿液性網脈絡膜症、高血圧性網膜症、黄斑円孔、黄斑パッカー、飛蚊症(浮遊物)及び近視性黄斑症から選択される少なくとも1つの網膜変性疾患の予防及び/又は処置における使用のための少なくとも1種のTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物及び少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物である。
【0021】
好ましくは、本発明による使用のための医薬組成物は、黄斑変性の予防及び/又は処置における使用のための局所眼用の眼科用組成物である。
【0022】
本発明の更なる態様は、局所眼用の眼科用組成物、局所眼用の眼科用組成物を含有する容器及びディスペンサーを含むキットであって、前記局所眼科用組成物が、上述の少なくとも1つの網膜変性疾患の予防及び/又は処置における使用のためのものである、キットである。
【0023】
本発明の更なる態様は、少なくとも1種のTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物又は本発明による使用のための眼科用組成物を患者に投与するステップを含む、黄斑変性、糖尿病性網膜症、網膜剥離、中心性漿液性網脈絡膜症、高血圧性網膜症、黄斑円孔、黄斑パッカー、飛蚊症(浮遊物)及び近視性黄斑症から選択される網膜変性疾患の、好ましくは黄斑変性の予防及び/又は処置方法である。
【0024】
本発明の最後の態様は、黄斑変性、糖尿病性網膜症、網膜剥離、中心性漿液性網脈絡膜症、高血圧性網膜症、黄斑円孔、黄斑パッカー、飛蚊症(浮遊物)及び近視性黄斑症から選択される少なくとも1つの網膜変性疾患の予防及び/又は処置における同時、別個又は逐次使用のためのTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物と抗VEGF薬及び/又は副腎皮質ステロイド薬の組合せである。
【0025】
[発明の詳細な説明]
本発明の第1の態様は、少なくとも1つの網膜変性疾患の予防及び/又は処置における使用のためのTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物である。
【0026】
出願人は、TRPA1チャネル及びTRPA1チャネル下流のシグナル伝達経路の活性の阻害が網膜変性疾患を予防及び/又は処置することができると考える。
【0027】
表現「TRPA1チャネルアンタゴニスト」は、TRPA1チャネル及びTRPA1チャネル下流のシグナル伝達経路の阻害活性を発揮することが可能な化合物を示すことが意図される。本発明による使用のための化合物はTRPA1チャネルの活性を阻害するため、TRPA1チャネルアンタゴニストとして作用する。
【0028】
本発明のTRPA1受容体アンタゴニストは、TRPA1受容体に高い親和性で結合する。いずれの場合でも、前記TRPA1アンタゴニストの結合親和性は、前記アンタゴニストとTRPスーパーファミリーの受容体の別のサブタイプとの間の結合親和性より良好である。好ましくは、前記TRPA1アンタゴニストの結合親和性は、前記アンタゴニストとTRPスーパーファミリーの受容体の別のサブタイプとの間の結合親和性より少なくとも100倍高い。化合物がTRPA1受容体アンタゴニストであるか否かを決定するための試験は、特にRadresa等、The Open Pain Journal 2013、6、(Suppl1 M14)137~153に記載されている。
【0029】
TRPチャネルは、感覚経路の活性化の調節に主として関わる、一価及び二価カチオン、特にナトリウム(Na+)及びカルシウム(Ca2+)イオンに透過性の膜イオンチャネルの大きな異種ファミリーを代表する。哺乳動物において、28種の受容体サブタイプが同定されており、6種のサブファミリー:カノニカル(TRPC1-7)、バニロイド(TRPV1-6)、アンキリン(TRPA)、メラスタチン(TRPM1-8)、ポリシスチン(TRPP1-3)及びムコリピン(TRPML1-3)に分けられている。
【0030】
TRPA1チャネルはアンキリンファミリーの唯一のメンバーである。
【0031】
特に、TRPA1チャネルは、脊髄後根、三叉神経根、結節根及び迷走神経根の神経節の一次感覚ニューロンで発現し、様々な種類の感覚信号を伝達する(機械的、化学的及び熱的)求心性神経線維を生じさせる。
【0032】
TRPA1チャネルは、炎症を受けやすい組織において酸化ストレスの化学センサーとして作用し、疼痛刺激をシグナル伝達する主要な役割を果たす。
【0033】
本発明による使用のためのTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物は、例えば論文Expert Opin.Ther.Patents 2012、22、663~95、Pharm.Pat.Anal.2015、4、75~94及びExpert Opin.Ther.Patents 2020、30、643~657に記載の化合物から選択することができる。
【0034】
このような化合物の例は、とりわけ論文Fanger等、TRPA1 as an Analgesic Target、The Open Drug Discovery Journal、2010、2、64~70及びChen等、TRPA1 as a drug target-promise及びchallenge、Naunyn-Schmiedeberg’s Arch Pharmacol、2015、388:451~463並びに本明細書に報告された特許文献及び関連のある引用にも記載されている。本発明による使用のためのTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物は、例えば本明細書に引用される文献に記載されるように調製することができる。
【0035】
本発明による使用のためのTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物は以下のクラス:
1)プリノン誘導体及び生物学的等価体;
2)スルホンアミド誘導体;
3)オキシム誘導体;
4)アミド誘導体;
5)多環複素環式芳香族誘導体;
6)インダゾール誘導体及び生物学的等価体;
7)フェニルカルバメート誘導体及び生物学的等価体;又は
8)デカリン誘導体
のうちの1つに属する化合物、その塩、光学異性体、溶媒和物並びにプロドラッグから選択することができる。
【0036】
好ましくは、本発明による使用のためのTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物は以下のクラス:
2)スルホンアミド誘導体;
5)多環複素環式芳香族誘導体;又は
6)インダゾール誘導体及び生物学的等価体、
のうちの1つに属する化合物、その塩、光学異性体、溶媒和物並びにプロドラッグから選択することができる。
【0037】
以下に言及する化合物の化学クラスを以下に記載する。
【0038】
1)
プリノン誘導体及びその生物学的等価体、例えばとりわけ以下の文献に示されるもの:
一般式
【化1】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2019152465号(Eli Lilly);
一般式
【化2】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2015164643号(Hydra Biosciences);
一般式
【化3】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2016044792号(Hydra Biosciences);
一般式
【化4】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2015155306号(Almirall);
一般式
【化5】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2017060488号(Almirall);
一般式
【化6】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2017064068号(Almirall);
一般式
【化7】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2015056094号及び国際公開第2016042501号(Glenmark);
次式
【化8】
の化合物AM-0902(CAS番号1883711-97-4)に関するJ.Med.Chem.2016、59、2794~2809(Amgen);
一般式
【化9】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2018096159号(Hoffmann La Roche、Genentech);
一般式
【化10】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2018162607号(Hoffmann La Roche、Genentech);
一般式
【化11】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2019182925号(Hoffmann La Roche、Genentech);
請求項1の9種の化合物からなるリスト(リスト1.13)から選択されるテトラゾール誘導体に関する国際公開第2021074198号(Boheringer);
一般式
【化12】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2013023102号(Hydra Biosciences)。
【0039】
このクラスの好ましい化合物は以下の化合物である:
次式のHC-030031(Hydra Bioscience、CAS番号349085-38-7)及び国際公開第2012050641号に示される類似物;
【化13】
次式のChembridge-5861528(Alomone Lab、CAS番号:332117-28-9);
【化14】
次式のCB-189625及びHX-100(Hydra Biosciences及びCubist Pharmaceuticals)並びに類似物;
【化15】
次式のGRC17536(Glenmark Pharmaceutical、CAS番号:1649479-05-9)
【化16】
【0040】
2)
スルホンアミド誘導体、例えばとりわけ以下の文献に示されるもの:
一般式
【化17】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2014049047号(Hoffmann La Roche);
一般式
【化18】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2015052264号(Hoffmann La Roche、Genentech);
一般式
【化19】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2016128529号(Hoffmann La Roche、Genentech);
一般式
【化20】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2018015410号(Hoffmann La Roche、Genentech);
一般式
【化21】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2018029288号(Hoffmann La Roche、Genentech);
一般式
【化22】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2015115507号(Ajinomoto);
一般式
【化23】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2017018495号(EA Pharma);
一般式
【化24】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2017135462号(EA Pharma);
一般式
【化25】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2010141805号(Janssen);
一般式
【化26】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2012152983(Orion);
一般式
【化27】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する欧州特許第2805718号(国際公開第2013108857号、Ajinomoto)。
【0041】
好ましい実施形態によれば、このクラスの化合物は以下の一般式A1
【化28】
[式中、A及びBは、互いに等しいか又は異なり、CH基又は窒素原子を表すことができ、Arはアリール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピロール、イミダゾール、フラン、チオフェン及びチアゾールからなる群から好ましくは選択され、1個又は複数のハロゲン原子、好ましくは1個又は複数のフッ素又は塩素原子で置換されていてもよい、5又は6員芳香族環を表すことができ、R1、R2及びR3は、互いに等しいか又は異なり、水素原子、フルオロメチル基又は次式
【化29】
(式中、X及びYは、互いに等しいか又は異なり、CH基又は窒素原子を表すことができる。)
の残基を表すことができる。]
によって表される。
【0042】
このクラスの好ましい化合物は以下の化合物である:
次式
【化30】
のJNJ-41477670(Janssen)
Janssen
【化31】
次式(IV)
【化32】
のGDC-0334(Genetech/Roche)
【0043】
特に好ましい実施形態において、少なくとも1つの網膜変性疾患の予防及び/又は処置における使用のための化合物は式(IV)の化合物である。
【0044】
特に、式(IV)の化合物は、黄斑変性、乾燥老人性黄斑変性と湿潤老人性黄斑変性の両方を予防及び/又は処置することができる。
【0045】
実際に、実験の項に示されるように、式(IV)の化合物は、黄斑の光受容体の機能を維持するのに根本的に重要であるRPE層の細胞のNaIO3誘発損傷から網膜を保護するのに特に効果的であることが証明された。
【0046】
3)
オキシム誘導体、例えばとりわけ以下の文献に示されるもの:
一般式
【化33】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2009089083号(Abbott);
一般式
【化34】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2009089082号(Abbott);
【0047】
このクラスの好ましい化合物は以下の化合物である:
文献Pain 2011、152、1165~1172に記載される次式
【化35】
のA967079(Abbott);
次式のAP-18(CAS番号55224-94-7)
【化36】
【0048】
4)
アミド誘導体、例えばとりわけ以下の文献に示されるもの:
一般式
【化37】
の化合物、特に、次式
【化38】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2016067143号(Pfizer);
一般式
【化39】
の化合物、特に、次式
【化40】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
のピリジン-3-カルボキサミドに関する国際公開第2014053694号(Orion Corporation);
一般式
【化41】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2015144976号(Orion Corporation);
一般式
【化42】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2015144977号(Orion Corporation);
特に関心のあるOrion Pharmaの化合物は頭字語ODM-108によって特定されるものである。
【0049】
一般式
【化43】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2012050512号(ASTRAZENECA);
一般式
【化44】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2020244460号(HANGZHOU WESTAN PHARMACEUTICAL);
一般式
【化45】
(式中、R
3は-NHCO-又は-CONH-であり、他の置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2018015411号(Hoffmann La Roche、Genentech)。
【0050】
このクラスの好ましい化合物は以下の化合物である:
次式
【化46】
のAZ465(ASTRAZENECA)
次式
【化47】
のPfizer
次式
【化48】
のOrion
【0051】
5)
多環複素環式芳香族誘導体、例えばとりわけ以下の文献に示されるもの:
一般式
【化49】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2015103060号及び国際公開第2018009717号(Algomedix);
一般式
【化50】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関するBioorg.Med.Chem.Lett.2014、24、3464~3468(Amgen);
一般式
【化51】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2009147079号(Janssen)。
【0052】
好ましい実施形態によれば、このクラスの化合物は以下の一般式A2
【化52】
(式中、Aは酸素原子、-NH-基又はカルボニル基-(C=O)-を表すことができ、Bは-CH-基又は窒素原子を表すことができる。)
で表される。
【0053】
多環複素環式芳香族誘導体のクラスの好ましい化合物は以下に報告する式(I)及び(II)
【化53】
の化合物である。
【0054】
式(I)の化合物は、Amgenによって開発されたTRPA1チャネルアンタゴニスト(化合物10、CAS番号1620518-03-7)である。
【0055】
式(II)の化合物は、Janssenによって開発されたTRPA1チャネルアンタゴニスト(化合物43、CAS番号1198174-47-8)である。
【0056】
特に好ましい実施形態において、本発明による使用のための化合物は式(II)の化合物である。
【0057】
特に、式(II)の化合物は、黄斑変性、乾燥加齢黄斑変性と湿潤加齢黄斑変性の両方を予防及び/又は処置することができる。実際に、実験の項に示されるように、式(II)の化合物は、黄斑の光受容体の機能を維持するのに根本的に重要であるRPE層の細胞のNaIO3誘発損傷から網膜を保護するのに特に効果的であることが証明された。
【0058】
更に特に好ましい実施形態において、本発明による使用のための化合物は式(I)の化合物である。
【0059】
特に、式(I)の化合物は、黄斑変性、乾燥加齢黄斑変性と湿潤加齢黄斑変性の両方を予防及び/又は処置することができる。
【0060】
実際に、実験の項に示されるように、式(I)の化合物は、黄斑の光受容体の機能を維持するのに根本的に重要であるRPE層の細胞のNaIO3誘発損傷から網膜を保護するのに特に効果的であることが証明された。
【0061】
6)
インダゾール誘導体及び生物学的等価体、例えばとりわけ以下の文献に示されるもの:
一般式
【化54】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関するJ.Med.Chem.2014、57、5129~5140(Novartis);
ACS Med Chem Lett.2017;8、666~671(Pfizer、アミノ及びアリールインダゾール、表1及び2);
好ましい実施形態によれば、このクラスの化合物は以下の一般式A3
【化55】
(式中、R6、R7及びR8は、互いに等しいか又は異なり、水素原子、1~3個の炭素原子を有するアルキル基又はトリフルオロメチル基を表すことができる。)
によって表される。
【0062】
このクラスの好ましい化合物を以下に示す:
【化56】
式(III)の化合物は、Novartisによって開発されたTRPA1チャネルアンタゴニスト(CAS番号1613505-14-8)である。
【0063】
特に好ましい実施形態において、本発明による使用のための化合物は式(III)の化合物である。
【0064】
特に、式(III)の化合物は、黄斑変性、乾燥老人性黄斑変性と湿潤老人性黄斑変性の両方を予防及び/又は処置することができる。
【0065】
実際に、実験の項に示されるように、式(III)の化合物は、黄斑の光受容体の機能を維持するのに根本的に重要であるRPE層の細胞のNaIO3誘発損傷から網膜を保護するのに特に効果的であることが証明された。
【0066】
7)
フェニルカルバメート誘導体及び生物学的等価体、例えばとりわけ以下の文献に示されるもの:
一般式
【化57】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2014056958号(Hofmann-La Roche);
一般式
【化58】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2014060341号(Hofmann-La Roche);
一般式
【化59】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2014072325号(Hofmann-La Roche)
【0067】
このクラスの好ましい化合物は以下の化合物である:
Hofmann-La Roche
【化60】
【0068】
8)
デカリン誘導体、例えばとりわけ以下の文献に示されるもの:
一般式
【化61】
の化合物
特に、次式
【化62】
(式中、置換基は文献自体に示される意味を有する。)
の化合物に関する国際公開第2011043954号(Merck)
【0069】
このクラスの好ましい化合物は以下の化合物である:
【化63】
【0070】
本発明による使用のためのTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物は塩、純粋な若しくは混合物の光学異性体、溶媒和物又はプロドラッグの形態であり得るが、但しこれは薬学的に許容される。
【0071】
用語「プロドラッグ」は、体内に導入されると、生物学的に不活性な分子を活性化する酵素による化学的変換を受ける生物学的に不活性な分子を指す。したがって、プロドラッグは活性成分の前駆体である。
【0072】
好ましくは、本発明による使用のための化合物は、多環式誘導体又はインダゾール誘導体のクラスに属する化合物が良好な薬物動態特性及び良好な作用プロファイルを特徴とするため、多環式誘導体又はインダゾール誘導体のクラスに属する化合物から選択される。
【0073】
多環式誘導体又はインダゾール誘導体のクラスに好ましくは属するTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物は、黄斑変性、糖尿病性網膜症、網膜剥離、中心性漿液性網脈絡膜症、高血圧性網膜症、黄斑円孔、黄斑パッカー、飛蚊症(浮遊物)及び近視性黄斑症から選択される少なくとも1つの網膜変性疾患を予防及び/又は処置することができる。
【0074】
本発明の好ましい態様によれば、多環式誘導体又はインダゾール誘導体のクラスに好ましくは属する本発明の化合物は、特定の種類の網膜変性疾患:黄斑変性を予防及び/又は処置することができる。黄斑変性は、黄斑症の大きなカテゴリーに該当する。
【0075】
本発明において、用語「黄斑変性」は、特定の種類の変性黄斑症を示すために使用される。
【0076】
用語「黄斑症」は、黄斑と呼ばれる網膜の中心部分を冒す病態を指す。黄斑症は、後天性黄斑症、近視性黄斑症及び遺伝性黄斑症に分類することができる。本発明の別の態様によれば、TRPA1チャネルアンタゴニスト化合物は、近視性黄斑症の予防及び/又は処置に使用できる。近視性黄斑症は変性又は病的近視を有する人において起こる。特に、近視性黄斑症を患う対象において、網膜は、眼球の伸長に適応できず、損傷を受ける。病的近視において、黄斑出血は突然の視力低下、時には変形視症と共に起こり得る。
【0077】
最も一般的な後天性黄斑症は加齢黄斑変性である。
【0078】
黄斑変性は、中心視覚に関わる網膜の中心部分である黄斑の劣化を特徴とする疾患である。
【0079】
本発明において、表現「加齢黄斑変性」及び「老人性黄斑変性」はいずれも上術の網膜変性黄斑症を示す。本発明によれば、上に定義したTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物は、黄斑変性の両方の形態、即ち乾燥老人性黄斑変性と湿潤老人性黄斑変性の予防及び/又は処置に有用である。
【0080】
本発明の更なる態様は、黄斑変性、糖尿病性網膜症、網膜剥離、中心性漿液性網脈絡膜症、高血圧性網膜症、黄斑円孔、黄斑パッカー、飛蚊症(浮遊物)及び近視性黄斑症、好ましくはその両方の形態の黄斑変性から選択される少なくとも1つの網膜変性疾患の予防及び/又は処置における使用のための治療有効量の少なくとも1種のTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物及び少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物、好ましくは眼科用組成物、より好ましくは局所眼用の眼科用組成物に関する。
【0081】
本発明による使用のための医薬組成物において、前記少なくとも1種のTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物は上記の1)~8)のクラスのうちの一つ、好ましくはクラス2)、5)及び6)、より好ましくは多環複素環式芳香族誘導体又はインダゾール誘導体及び生物学的等価体のそれぞれクラス5)及び6)に属する。
【0082】
特に好ましい実施形態において、スルホンアミド誘導体のクラスに属する化合物は、上述の一般式A1)を有する。より好ましくは、スルホンアミド誘導体のクラスに属し、一般式A1)を有する前記化合物は、上述の式(IV)の化合物である。
【0083】
特に好ましい実施形態において、前記医薬組成物中に存在する多環式誘導体のクラスに属する化合物は一般式A2)を有し、前記化合物は好ましくは上述の式(I)又は(II)の化合物から好ましくは選択される。
【0084】
特に好ましい実施形態において、前記医薬組成物中に存在するインダゾール誘導体及び生物学的等価体のクラスに属する化合物は一般式A3を有する。
【0085】
より好ましくは、インダゾール誘導体及び生物学的等価体のクラスに属し、一般式A3を有する前記化合物は、上述の式(III)の化合物である。
【0086】
一態様によれば、眼科用組成物は、複数のTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物、好ましくは少なくとも2種のTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物を含み、前記TRPA1チャネルアンタゴニスト化合物は、多環式誘導体及び/又はインダゾール誘導体のクラスに好ましくは属し、上述の式(I)又は(II)及び(III)の化合物、更により好ましくは式(I)~(III)の化合物から好ましくは選択される。
【0087】
本発明による使用のための医薬組成物、好ましくは眼科用組成物は、黄斑変性、糖尿病性網膜症、網膜剥離、中心性漿液性網脈絡膜症、高血圧性網膜症、黄斑円孔、黄斑パッカー、飛蚊症(浮遊物)及び近視性黄斑症から好ましくは選択される網膜変性疾患の予防及び/又は処置に有利に使用できる。
【0088】
好ましくは、前記網膜変性病態は黄斑変性、特に乾燥老人性黄斑変性及び湿潤老人性黄斑変性である。
【0089】
本発明による使用のための医薬組成物は、当該病態の予防及び/又は処置に効果的な濃度を網膜レベルで達成するのに好適である限り、任意の投与経路により投与することができる。好ましくは本発明による使用のための医薬組成物は、眼に内用又は外用投与するのに好適な眼科用組成物である。
【0090】
一実施形態によれば、本組成物は、例えば注射又は外科用インプラントによる後眼部への投与に好適な、特に網膜、強膜、後眼房、硝子体眼房、網膜下腔への又は眼の脈絡膜上部分への投与に好適な組成物である。
【0091】
別の好ましい実施形態によれば、本組成物は、注射又は外科用インプラントによる前眼部への投与に好適な、特に網膜、強膜、後眼房、硝子体眼房、網膜下腔への又は眼の脈絡膜上部分への投与に好適な組成物である。
【0092】
別のより好ましい実施形態において、本発明による使用のための組成物は、例えば角膜の外面で下眼瞼嚢又は結膜円蓋に適用することによって眼に外用投与するのに好適な局所眼科用組成物である。
【0093】
本発明による使用のための局所眼科用組成物は、例えば溶液、懸濁液、エマルジョン、ゲル、軟膏、眼挿入物又は治療用コンタクトレンズの形態に製剤化することができる。例えば液滴又は点眼薬の形態での本発明の組成物の局所使用は、1つ又は複数の網膜疾患、特に黄斑変性の非侵襲性の方法での処置を有利には可能にし、黄斑変性の処置に現在一般に使用される硝子体内投与の不便さ及び副作用を回避する。
【0094】
本発明による使用のための眼科用組成物は、眼科用製剤に一般に使用されるものから選択される1種又は複数の眼科的に許容される添加剤及び/又は賦形剤を含むことができる。
【0095】
「眼科的に許容される賦形剤」は、眼に有害な影響を与えずに眼疾患又は状態を処置するために眼及び/又は瞼への医薬の投与を可能にする不活性な賦形剤である。一般に、賦形剤は、製品の経時的な保存に有利に働くだけでなく、賦形剤が含有される製品の有効性及び忍容性を高めることにも寄与する物質である。
【0096】
前記眼科的に許容される添加剤又は賦形剤の例としては増粘剤、透過促進剤、緩衝化剤、オスモル濃度調節剤、抗酸化剤、防腐剤及び界面活性剤がある。
【0097】
組成物の粘度及び結果的に薬物と眼表面の接触時間を増加させる機能を有する増粘剤は、セルロース誘導体、好ましくはヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース;ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニルアルコール、デキストラン、ゼラチン、グリセリン、ポリソルベート80及び他のゲル化剤から好ましくは選択される。
【0098】
眼膜全体で薬物の透過性を高める機能を有する透過促進剤は、シクロデキストリン、キレート剤、コロナエーテル、胆汁酸及び胆汁塩から好ましくは選択される。
【0099】
緩衝化剤は、生理的pH、好ましくは6~8にできるだけ近い組成物のpHを供給及び維持する機能を有する。この作用は、調製物の良好な忍容性を可能にするのに、及び調製物の有効性を維持するのに必須である。好ましい緩衝液はリン酸緩衝液であるが、眼科使用に好適である限り、所望の範囲内のpHを維持することが可能な他の緩衝液も含まれる。
【0100】
オスモル濃度調節剤は、液体組成物を眼液と等張にすることが可能な塩である。好ましい塩は塩化ナトリウム(NaCl)であるが、他の生物学的に許容される塩、例えば塩化カリウム(KCl)、塩化カルシウム(CaCl2)及び塩化マグネシウム(MgCl2)並びにこれらの混合物、又は物質、例えばプロピレングリコール、グリセリン、デキストロース、デキストラン40及び70若しくは上記の緩衝物質も使用できる。
【0101】
抗酸化剤は、大気中の酸素の作用によって生じる製品の劣化を予防するか又は遅延させる。抗酸化剤物質では、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、チオ尿素、チオ硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム及び重亜硫酸ナトリウムが最も一般に使用される。
【0102】
防腐剤は、製品の開封後に起こり得る細菌の増殖を阻害する物質である。好適な防腐剤としては、例えば第4級アンモニア化合物、例えば塩化ベンザルコニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム及び塩化セチルピリジニウム、塩酸ベンゼトニウム、クロロブタノール、EDTA、水銀防腐剤(例えばチメロサール)、フェニルエチルアルコール、安息香酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム及びソルビン酸が挙げられる。これらの薬剤の多くは、細菌の増殖を阻害することに加えて、角膜からの薬物の浸透に有利に働く界面活性化合物である。
【0103】
界面活性剤は、組成物を安定させ、眼構造への活性成分の浸透に有利に働く機能を有する。界面活性剤の例はポリソルベート及びポロキサマーである。
【0104】
一実施形態において、本発明による使用のための眼科用組成物は、例えば前眼部への局所投与のための点眼薬の形態の水性眼科用組成物である。
【0105】
TRPA1チャネルアンタゴニストの水性眼科用組成物は、組成物の成分の適当な濃度を達成するのに十分な量の水を含む。
【0106】
好ましくは、液体、好ましくは水性眼科用組成物中、TRPA1チャネルアンタゴニストは、水性組成物の約0.0001%~約5%w/v、より好ましくは約0.01%~約1%w/vの範囲、更により好ましくは約0.5%w/vの濃度で存在する。
【0107】
本発明による使用のための眼科用組成物は、例えば治療有効量の少なくとも1種のTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、一及び二塩基リン酸ナトリウム及び100ml程度の眼科使用のための水を含むことができる。
【0108】
一実施形態において、本発明による使用のための局所眼科用組成物、好ましくは液体組成物は、組成物、組成物を含有する容器及びディスペンサーを含むキットの一部であり得る。点眼薬の場合、ディスペンサーは液滴ディスペンサーである。
【0109】
別の実施形態において、本発明による使用のための医薬組成物、好ましくは眼科用組成物は、少なくとも1種の他の薬学的に活性な化合物を更に含むことができる。
【0110】
好ましい実施形態において、本発明による使用のための医薬組成物、好ましくは眼科用組成物は、1種又は複数の血管内皮成長因子のアンタゴニスト薬(抗VEGF)及び/又は副腎皮質ステロイド薬を更に含むことができる。
【0111】
本記載の更なる態様は、少なくとも1種のTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物又は少なくとも1種のTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物を含む医薬組成物、好ましくは眼科用組成物を対象に投与するステップを含む黄斑変性、糖尿病性網膜症、網膜剥離、中心性漿液性網脈絡膜症、高血圧性網膜症、黄斑円孔、黄斑パッカー、飛蚊症(浮遊物)及び近視性黄斑症から好ましくは選択される少なくとも1つの網膜変性疾患の予防及び/又は処置方法に関する。
【0112】
好ましい実施形態において、前記網膜変性疾患は黄斑変性であり、前記TRPA1チャネルアンタゴニスト化合物は、多環式誘導体のクラスに属する化合物が式(I)の化合物である、多環式誘導体のクラスに属する化合物、及びインダゾール誘導体のクラスに属する化合物が式(III)の化合物であるインダゾール誘導体のクラスに属する化合物から選択される。
【0113】
指針として、本発明による方法は、少なくとも1種のTRPA1チャネルアンタゴニストの投与1回あたり1~100mgを1日の総投与回数1~5回で局所眼投与するステップを含むことができる。
【0114】
前述の疾患の処置又は予防におけるこのTRPA1アンタゴニストの投与の正確な用量及びレジメンは、多くの因子、例えば投与経路又は処置を受ける個体の苦痛の程度に依存する。
【0115】
代替的な実施形態において、方法は、黄斑変性の処置に一般に使用されている1種又は複数の薬物、好ましくは抗VEGF薬及び/又は副腎皮質ステロイド薬をTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物又は本発明による使用のための眼科用組成物と組み合わせて投与するステップを含む。
【0116】
この実施形態において、黄斑変性の処置に現在使用されている前記薬物、好ましくは抗VEGF薬及び/又は副腎皮質ステロイド薬は、TRPA1チャネルアンタゴニスト化合物及び/又は上記の眼科用組成物の投与前、投与中又は投与後投与することができる。
【0117】
少なくとも1種のTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物を含む眼科用組成物と組み合わせて投与することができる黄斑変性の処置に現在使用されている抗VEGF薬の例としてはラニビズマブ、ベバシズマブ及び/又はアフリベルセプトがある。
【0118】
少なくとも1種のTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物を含む眼科用組成物と組み合わせて投与することができる黄斑変性の処置に現在使用されている副腎皮質ステロイド薬の例としてはコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、メプレドニゾン、ベクロメタゾン、トリアムシノロン、パラメタゾン、モメタゾン、ブデソニド、フルオシノニド、ハルシノニド、フルメタゾン、フルニソリド、フルチカゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン及び/又はフルオコルトロンがある。
【0119】
特に、網膜変性疾患の予防及び/又は処置方法は、前記網膜変性疾患が糖尿病性網膜症、網膜剥離、中心性漿液性網脈絡膜症、高血圧性網膜症から選択される場合、上に列挙した副腎皮質ステロイド薬のうちの少なくとも1種の投与を含む。
【0120】
本発明によれば、抗VEGF薬及び/又は副腎皮質ステロイド薬の投与は同時に、別個に又は逐次に行うことができる。
【0121】
別の実施形態において、先に定義した少なくとも1つの網膜変性疾患の予防及び/又は処置方法は、少なくとも1種のTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物並びに抗VEGF薬及び副腎皮質ステロイド薬から選択される少なくとも1種の薬物を含む組成物を対象に投与するステップを含む。
【0122】
前記実施形態において、網膜疾患、例えば黄斑変性の処置に現在使用されている薬物は本発明の組成物に既に含まれており、したがってTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物及び/又は前記化合物を含む組成物と共投与される。
【0123】
本発明の最後の態様は、黄斑変性、糖尿病性網膜症、網膜剥離、中心性漿液性網脈絡膜症、高血圧性網膜症、黄斑円孔、黄斑パッカー、飛蚊症(浮遊物)及び近視性黄斑症、好ましくはその両方の形態の黄斑変性から選択される少なくとも1つの網膜変性疾患の予防及び/又は処置における同時、別個又は逐次使用のための、少なくとも1種のTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物と抗VEGF薬及び/又は副腎皮質ステロイド薬の組合せに関する。
【0124】
好ましくは、本発明による使用のための組合せは、上に定義したクラス2)、5)及び6)に属する少なくとも1種の化合物、より好ましくは本記載による式I~IVの化合物をTRPA1チャネルアンタゴニスト化合物として含む。
【0125】
好ましい実施形態において、前記組合せは、黄斑変性、特に乾燥加齢黄斑変性及び湿潤加齢黄斑変性の予防及び/又は処置に有用である。
【0126】
前記実施形態において、組合せはラニビズマブ、ベバシズマブ又はアフリベルセプトから選択される抗VEGF薬を含む。
【0127】
前記実施形態において、組合せはコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、メプレドニゾン、ベクロメタゾン、トリアムシノロン、パラメタゾン、モメタゾン、ブデソニド、フルオシノニド、ハルシノニド、フルメタゾン、フルニソリド、フルチカゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン及びフルオコルトロンから選択される副腎皮質ステロイド薬を含む。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【
図1A】NaIO
3又はNaIO
3のビヒクル(V1)による処置、並びに 式(IV)の化合物(FN-005として示される)-クラス2)スルホンアミド誘導体;又は 式(I)の化合物(FN-006として示される)-クラス5)多環複素環式芳香族誘導体;又は 式(II)の化合物(FN-007として示される)-クラス5)多環複素環式芳香族誘導体;又は 式(III)の化合物(FN-008として示される)-クラス6)インダゾール誘導体及び生物学的等価体;又は これらのビヒクル(V2)による処置後の、NaIO
3誘発黄斑変性モデルのマウスから4日目に採取した網膜のRPE層の免疫蛍光画像を示す図である。 RPE65はRPE層を染色するために使用した抗体を示す。
図1Aの各パネルに示される文字は以下を示す: V1/V2:マウスが様々な薬物を溶解したビヒクル(V2)の投与を受ける前後に、マウスにNaIO
3を溶解したビヒクル(V1)を投与した。したがってマウスは何らかの積極的処置を受けなかった。様々な薬物を溶解したV2ビヒクルは、0.9%NaCl中4%ジメチルスルホキシド(DMSO)、4%Tween80からなっていた。 V2/NaIO
3:マウスに、黄斑変性を有するマウスを得るためのNaIO
3のビヒクル(V1)に溶解したNaIO
3の投与前後に、様々な薬物を溶解したビヒクル(V2)を投与した。 FN-005/NaIO
3:マウスを、NaIO
3のビヒクルに溶解したNaIO
3の投与前後に、式(IV)の化合物で処置した。 FN-006/NaIO
3:マウスを、NaIO
3のビヒクルに溶解したNaIO
3の投与前後に、式(I)の化合物で処置した。 FN-007/NaIO
3:マウスを、NaIO
3のビヒクルに溶解したNaIO
3の投与前後に、式(II)の化合物で処置した。 FN-008/NaIO
3:マウスを、NaIO
3のビヒクルに溶解したNaIO
3の投与前後に、式(III)の化合物で処置した。
【
図1B】
図1Aに示す免疫蛍光実験の累積データを表すヒストグラムである。
【
図2A】NaIO
3又はNaIO
3のビヒクル(V1)による処置、並びに 式(IV)の化合物(FN-005として示される)-クラス2)スルホンアミド誘導体;又は 式(I)の化合物(FN-006として示される)-クラス5)多環複素環式芳香族誘導体;又は 式(II)の化合物(FN-007として示される)-クラス5)多環複素環式芳香族誘導体;又は 式(III)の化合物(FN-008として示される)-クラス6)インダゾール誘導体及び生物学的等価体;又は これらのビヒクル(V2)による処置後の、NaIO
3によって誘発された黄斑変性モデルのマウスから4日目に採取した網膜の酸化ストレスバイオマーカーである4-ヒドロキシノネナール(4-HNE)の免疫蛍光画像を示す図である。
図2Aの各パネルに示される文字は以下を示す: V1/V2:マウスがNaIO
3を溶解したビヒクル(V2)の投与を受ける前後に、マウスに様々な薬物を溶解したビヒクル(V1)を投与した。これらのマウスは対照を構成する。 V2/NaIO
3:マウスに、黄斑変性を有するマウスを得るためのNaIO
3のビヒクルに溶解したNaIO
3の投与前後に、様々な薬物を溶解したビヒクル(V2)を投与した。 FN-005/NaIO
3:マウスを、NaIO
3のビヒクルに溶解したNaIO
3の投与前後に、式(IV)の化合物で処置した。 FN-006/NaIO
3:マウスを、NaIO
3のビヒクルに溶解したNaIO
3の投与前後に、式(I)の化合物で処置した。 FN-007/NaIO
3:マウスを、NaIO
3のビヒクルに溶解したNaIO
3の投与前後に、式(II)の化合物で処置した。 FN-008/NaIO
3:マウスを、NaIO
3のビヒクルに溶解したNaIO
3の投与前後に、式(II)の化合物で処置した。
【
図2B】
図2Aに示す免疫蛍光実験の累積データを表すヒストグラムである。
【実施例】
【0129】
例1-黄斑変性のマウスモデル
本発明による使用のための化合物を試験するために、黄斑変性のマウスモデルを得た。
【0130】
インビボ実験をイタリアの法規(Legislative Decree 26/2014)及び欧州規則で規定される指針(EU Directive 2010/63/EU)を順守して実施した。研究は、保健省によるプロトコルの承認(プロトコル番号135/2022-PR)後に行った。
【0131】
有効な黄斑変性モデルを作成するために、NaIO3の(後眼窩静脈からの)全身投与をCharles River社(Milan、Italy)により供給された生後5~8週、体重22~25gのC57BL/6J雄マウスで行った。下記の実験を行うために合計36匹のマウスを使用した。動物を温度及び湿度制御環境(12時間の暗/明サイクル、食餌及び水の自由な摂取)で保持した。実験を温度制御室(20~22℃)で8:00~20:00に実施した。実験の最後に、動物を50%O2/50%CO2の混合物の1分間の吸入により安楽死させた。研究で使用したNaIO3、DMSO、Tween80及びNaCl0.9%試薬はMerck Life Science SRL(Milan、Italy)から購入した。
【0132】
例2で試験した化合物[スルホンアミド誘導体のクラス2)に属し、式(IV)(GDC-0334)を有し、以降FN-005と称される化合物;多環複素環式芳香族誘導体のクラス5)に属し、式(I)を有し(化合物10、Amgen)、以降FN-006と称される化合物;多環複素環式芳香族誘導体のクラス5)に属し、式(II)を有し(化合物43、Janssen)、以降FN-007と称される化合物;並びにインダゾール誘導体及び生物学的等価体のクラス6)に属し、式(III)を有し(化合物31、Novartis)、以降FN-008と称される化合物]を、当技術分野で公知の方法に従って合成した。
【0133】
NaIO3の(後眼窩静脈による)全身投与によって得られたマウスモデルは黄斑変性のモデルである。
【0134】
実際に、投与の3日後、NaIO3により、ヒトの加齢黄斑変性で観察されたのと同様の特徴と共に実験を受けたマウスにおいて持続的な網膜損傷が誘発されたことが観察された。
【0135】
例2-本記載に示すクラス2)、5)及び6)に属する好ましい化合物の投与
黄斑変性に特有の網膜損傷の低減及び処置における本記載によるクラス2)、5)及び6)に属する好ましい化合物の有効性を評価するために、実験を例1に記載した手順に従って得たモデルマウス6群に対して設定した。
【0136】
特に、以下の化合物を試験した:
スルホンアミド誘導体のクラス2)に属し、式(IV)を有し(GDC-0334)、以降FN-005と称される化合物;
多環複素環式芳香族誘導体のクラス5)に属し、式(I)を有し(化合物10、Amgen)、以降FN-006と称される化合物;
多環複素環式芳香族誘導体のクラス5)に属し、式(II)を有し(化合物43、Janssen)、以降FN-007と称される化合物;並びに
インダゾール誘導体及び生物学的等価体のクラス6)に属し、式(III)を有し(化合物31、Novartis)、以降FN-008と称される化合物。
【0137】
マウスに、上述の化合物又は0.9%NaCl中4%DMSO、4%Tween80からなる上述の化合物のビヒクルを点眼薬により局所投与した。
【0138】
特に、6匹のマウス群(対照として使用)に、後眼窩静脈への注射60分前に、(1ml/kg)のNaIO3のビヒクル(V1)(NaCl、0.9%)を点滴により投与し、その後薬物のビヒクル(V2)(0.9%NaCl中4%DMSO、4%Tween80)を含有する点眼薬(5μl)を1日3回投与した。
【0139】
別の30匹のマウスは、各6匹のマウス群で、後眼窩静脈への注射の60分前に、(1ml/kg)のNaIO3(1%、20mg/kg)を受け、その後前述の化合物FN-005、FN-006、FN-007、FN-008又は前述の化合物のビヒクル(V2)(0.9%NaCl中4%DMSO、4%Tween80)の10mM溶液の点眼薬(5μl)を点滴により1日3回受けた。
【0140】
マウス群ごとに、式(IV)の化合物、式(I)の化合物、式(II)の化合物及び式(III)の化合物又はビヒクル(V2)の初回投与(1日目)をNaIO3又はNaIO3のビヒクル(V1)の注射の60分前に実施し、第2及び第3の投与を、それぞれビヒクル(V1)又はNaIO3の注射の6及び12時間後に実施した。ビヒクル(V1)又はNaIO3の注射後2日間(2日目及び3日目)で、式(IV)、(I)、(II)及び(III)の化合物又はビヒクル(V2)を様々なマウス群に8:00、14:00及び20:00に投与した。
【0141】
ビヒクル(V1)又はNaIO3による処置後4日目の9:00に、FN-005、FN-006、FN-007、FN-008として上述の化合物又は上述の化合物のビヒクル(V2)を与えたマウスを屠殺し(先に報告した通り)、眼球除去し、眼球をその後の損傷の分析のために処理した。
【0142】
例3-網膜色素上皮の損傷を評価するための免疫蛍光法
直接免疫蛍光法を使用して、網膜の視覚細胞に栄養を与え、下層の脈絡膜及び上層の視覚網膜細胞に強固に付着した神経感覚網膜に隣接する色素細胞層に相当するRPE(網膜色素上皮)の損傷を評価した。
【0143】
RPE層の染色強度を、V2/V1で、V2/NaIO3で、式(IV)の化合物及びNaIO3(FN-005/NaIO3)で、多環複素環式芳香族誘導体の式(I)の化合物及びNaIO3(FN-006/NaIO3)で、式(II)の化合物及びNaIO3(FN-007/NaIO3)で並びに式(III)の化合物及びNaIO3(FN-008/NaIO3)で処置したマウス6群において、二次フルオロフォア標識抗体(Alexa Flu又は488、#A28175、Thermo Fisher Scientific)が結合する一次抗体(RPE65、#ab13826、マウスモノクローナル、1:100、Abcam、Cambridge、UK)を使用して定量した。細胞核をDAPI有機色素(#ab228549、Abcam、Cambridge、UK)を使用して視覚化した。
【0144】
図1A及び1Bは、V2/V1で、V2/NaIO
3で、式(IV)の化合物及びNaIO
3(FN-005/NaIO
3)で、式(I)の化合物及びNaIO
3(FN-006/NaIO
3)で、式(II)の化合物及びNaIO
3(FN-007/NaIO
3)で並びに式(III)の化合物及びNaIO
3(FN-008/NaIO
3)で処置したマウス6群の4日目に採取した網膜において、一次抗体(RPE65)を用いて実施したRPE層の免疫蛍光染色の代表的な画像及び累積データを示す。
【0145】
上述の処置をV2/V1、V2/NaIO
3、FN-005/NaIO
3、FN-006/NaIO
3、FN-007/NaIO
3及びFN-008/NaIO
3として
図1Aに示す。
【0146】
NaIO
3の注射を受けたマウスにおいて、60.7±5.00%(P<0.01対V1/V2)のRPE層の染色強度の低下が観察された(
図1A及び1B)。式(IV)の化合物、式(I)の化合物、式(II)の化合物及び式(III)の化合物を含む点眼薬による処置は、V2と比較してRPE層のNaIO
3誘発損傷をそれぞれ84.5±33%(P<0.01対V2/NaIO
3)、48.0±9.1%(P<0.01対V2/NaIO
3)、60.0±12.8%(P<0.01対V2/NaIO
3)及び96.8±20.0%(P<0.01対V2/NaIO
3)統計的に有意に低下させた(
図1A及び1B)。
【0147】
蛍光強度値に関するデータは、平均±SEMとして処置ごとに提示される。
図1Bにおいて
*p<0.05対V1/V2;§p<0.05対NaIO
3。一元配置分散分析(ANOVA)検定及びボンフェローニ検定を用いた統計分析。
【0148】
例4-網膜レベルでの酸化ストレスの評価
酸化ストレスのレベルを、酸化ストレスの最終的な指標である反応性カルボニル種である4-ヒドロキシノネナール(4-HNE)の免疫蛍光強度を測定することにより網膜の厚さ全体にわたって評価した。
【0149】
4-HNEのレベルを、上記のように処置したマウス6群において、二次フルオロフォア標識抗体(Alexa Fluor 594、#A A32742、Thermo Fisher Scientific)が結合する一次抗体(#ab48506、マウスモノクローナル[HNEJ-2]、1:40、Abcam、Cambridge、UK)を用いて定量した。
【0150】
細胞核をDAPI有機色素(#ab228549、Abcam、Cambridge、UK)を用いて視覚化した。
【0151】
図2A及び2Bは、V2/V1で、V2/NaIO
3で、式(IV)の化合物及びNaIO
3(FN-005/NaIO
3)で、式(I)の化合物及びNaIO
3(FN-006/NaIO
3)で、式(II)の化合物及びNaIO
3(FN-007/NaIO
3)で並びに式(III)の化合物及びNaIO
3(FN-008/NaIO
3)で処置したマウス6群の酸化ストレスバイオマーカーである4-HNEの免疫蛍光染色の代表的な画像及び累積データを示す。
【0152】
上述の処置をV2/V1、V2/NaIO
3、FN-005/NaIO
3、FN-006/NaIO
3、FN-007/NaIO
3及びFN-008/NaIO
3として
図2Aに示す。
【0153】
NaIO
3の投与は、網膜組織全体で4-HNE免疫蛍光の62.89±4.20%(P<0.001対V1/V2)の増加を誘発した(
図2A及び2B)。
【0154】
式(IV)の化合物、式(I)の化合物、式(II)の化合物及び式(III)の化合物による処置は、4-HNEを網膜レベルでそれぞれ64.16±17.51%(P<0.01対V2/NaIO
3)、59.56±6.31%(P<0.01対V2/NaIO
3)、50.32±6.30%(P<0.01対V2/NaIO
3)、62.10±7.55%(P<0.01対V2/NaIO
3)統計的に有意に低下させた(
図2A及び2B)。
【0155】
蛍光強度値に関するデータは、平均±SEMとして処置ごとに提示される。
図2Bにおいて
*p<0.05対V1/V2;§p<0.05対NaIO
3。一元配置分散分析(ANOVA)検定及びボンフェローニ検定を用いた統計分析。
【0156】
したがって、被験化合物が黄斑の光受容体機能の維持に根本的に重要であるRPE層の細胞のNaIO3誘発損傷に対して保護作用を発揮すると実験的証拠から結論を出すことが可能である。更に、式(IV)、(I)、(II)及び(III)を有する被験化合物が4-HNEのNaIO3誘発性の増加から網膜を保護することが観察された。
【国際調査報告】