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特表2024-521383繊維強化複合材およびこれを含む物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-31
(54)【発明の名称】繊維強化複合材およびこれを含む物品
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20240524BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20240524BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20240524BHJP
   C08K 7/04 20060101ALI20240524BHJP
   C08L 77/10 20060101ALI20240524BHJP
   D02G 3/26 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
C08L77/00
C08J5/04 CFG
C08K7/02
C08K7/04
C08L77/10
D02G3/26
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574869
(86)(22)【出願日】2022-06-14
(85)【翻訳文提出日】2023-12-05
(86)【国際出願番号】 KR2022008357
(87)【国際公開番号】W WO2022270807
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】10-2021-0083192
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518215493
【氏名又は名称】コーロン インダストリーズ インク
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】キム,サン ファン
(72)【発明者】
【氏名】ビョン,ウィヒョン
【テーマコード(参考)】
4F072
4J002
4L036
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AA08
4F072AB06
4F072AB24
4F072AC08
4F072AD44
4F072AG05
4F072AH23
4F072AL02
4F072AL16
4J002CL011
4J002CL031
4J002CL062
4J002DA016
4J002DL006
4J002FA042
4J002FA046
4J002FB262
4J002GN00
4L036MA06
4L036MA33
4L036MA35
4L036PA21
4L036PA26
4L036PA46
4L036UA07
(57)【要約】
本出願は、繊維強化複合材に関するものである。具体的に、本出願は、ポリアミド系樹脂およびアラミド短繊維を含む繊維強化複合材、およびこれを含む物品に関するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド系樹脂;および、30~200TPM(twist per meter)の範囲の撚りが付与されたアラミド短繊維を含む、繊維強化複合材。
【請求項2】
前記アラミド短繊維は、1.0~10.0mmの範囲の長さを有する、請求項1に記載の繊維強化複合材。
【請求項3】
複合材の全体の重量に対して、前記アラミド短繊維を15重量%以下で含む、請求項1に記載の繊維強化複合材。
【請求項4】
複合材全体重量に対して、前記アラミド短繊維を10重量%以下で含む、請求項1に記載の繊維強化複合材。
【請求項5】
前記ポリアミド系樹脂100重量部に対して、前記アラミド短繊維を0.1~20重量部の範囲で含む、請求項1に記載の繊維強化複合材。
【請求項6】
前記アラミド短繊維は、その表面がサイジング剤で処理された、請求項1に記載の繊維強化複合材。
【請求項7】
ガラス繊維および炭素繊維のうちから選択される1つ以上の繊維をさらに含む、請求項1に記載の繊維強化複合材。
【請求項8】
ASTM D792による比重が1.25以下である、請求項1に記載の繊維強化複合材。
【請求項9】
ASTM D638による引張強度が80~100Mpaの範囲である、請求項1に記載の繊維強化複合材。
【請求項10】
ASTM D790による屈曲強度が120~140Mpaの範囲である、請求項1に記載の繊維強化複合材。
【請求項11】
ASTM D3702による摩擦係数が0.12未満である、請求項1に記載の繊維強化複合材。
【請求項12】
請求項1~11のうちのいずれか一つの請求項による繊維強化複合材を含む自動車内装材。
【請求項13】
請求項1~11のうちのいずれか一つの請求項による繊維強化複合材を含む自動車外装材。
【請求項14】
ポリアミド系樹脂;30~200TPM(twist per meter)範囲の撚りが付与されたアラミド短繊維;並びに、ガラス繊維および炭素繊維のうちから選択される1つ以上の繊維を含む繊維強化複合材を含む、バランスギア(balance gear)。
【請求項15】
前記複合材は、複合材の全体の重量100重量%を基準にして、前記ガラス繊維または炭素繊維を45重量%以下で含む、請求項14に記載のバランスギア(balance gear)。
【請求項16】
30~200TPM(twist per meter)の範囲の撚りが付与されたアラミド短繊維を準備する段階;および
前記準備されたアラミド短繊維とポリアミド系樹脂とを押出機に投入した後に吐出して、繊維強化複合材を製造する段階;
を含む、繊維強化複合材の製造方法。
【請求項17】
前記方法は、サイジング剤でもって表面がコーティングされたアラミド原糸に、30~200TPMの範囲の撚りを付与し、前記撚りが付与された原糸をチョッピング工程で裁断して、1.0~10.0mmの範囲の長さで前記アラミド短繊維を準備する段階を含む、請求項16に記載の繊維強化複合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願との相互引用>
本出願は、2021年6月25日付韓国特許出願第10-2021-0083192号に基づいた優先権の利益を主張するのであり、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は、本明細書の一部として含まれる。
【0002】
<技術分野>
本出願は、繊維強化複合材に関するものである。具体的に、本出願は、ポリアミド系樹脂およびアラミド短繊維を含む繊維強化複合材、およびこれを含む物品に関するものである。
【背景技術】
【0003】
高分子樹脂と繊維のそれぞれの長所を活用することができるという期待から、金属を代替することができる素材として、繊維強化プラスチックが注目されている。
【0004】
例えば、芳香族ポリアミド繊維であるアラミド繊維は、比強度、比弾性率、耐熱性、靭性、耐摩耗性が高いという長所があり、ポリアミド系樹脂のうちの一つであるPA66は、高強度、高耐熱性、耐薬品性、難燃性、加工性に優れるという長所があるため、これらを含む繊維強化プラスチックを通じて、耐摩耗性と機械的強度に優れる材料を製造することが考慮できる。
【0005】
しかし、繊維強化プラスチックに含まれる繊維と樹脂との間の界面接着力が良くない場合が多く、樹脂内の繊維の分散性が確保されない場合には、製造された繊維強化プラスチックの特性が、期待物性に及ばないという問題が発生しうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本出願の一目的は、機械的物性(例:屈曲強度、引張強度など)に優れた繊維強化複合材を提供することである。
【0007】
本出願の他の目的は、耐磨耗(耐摩擦)特性に優れた繊維強化複合材を提供することである。
【0008】
本出願の他の目的は、機械的物性と耐磨耗特性に優れ、比重の低い繊維強化複合材を提供することである。
【0009】
本出願の他の目的は、前記繊維強化複合材を含む物品を提供することである。
【0010】
本出願の上記目的およびその他の目的は、下記の詳しく説明される本出願によって全て解決できる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本出願に関する一例で、本出願は、ポリアミド系樹脂;および、撚りが付与されたアラミド短繊維を含む繊維強化複合材(composite)に関するものである。前記複合材は、連続相であるポリアミド系樹脂内に、分散相である(複数の)アラミド短繊維が分散して存在する構造を有する。
【0012】
本出願の発明者は、繊維強化複合材における繊維の分散性と界面接着性を改善することが、複合材を軽量化しながらも、複合材の機械的特性と耐磨耗特性などを改善することができることを確認して、本出願発明を完成した。
【0013】
本出願に関する具体例で、前記アラミド短繊維は、後述のように、撚糸工程を通じて、所定の撚り数が付与されたアラミド繊維を、所定の長さに裁断(chopping)することによって得ることができる。
【0014】
特に制限されるわけではないが、機械的物性の確保などに必要な繊維の強度などを考慮する時、前記アラミド繊維または短繊維は、500デニール以上、600デニール以上、700デニール以上、800デニール以上、900デニール以上、1000デニール以上、1100デニール以上、1200デニール以上、1300デニール以上、1400デニール以上、1500デニール以上の繊度を有することができる。前記繊度の上限は、特に制限されるわけではないが、例えば、3000デニール以下、2500デニール以下、2000デニール以下、1500デニール以下または1000デニール以下であってもよい。
【0015】
一つの例示で、前記アラミド短繊維は1.0~10.0mmの範囲の長さを有することができる。具体的に、前記アラミド短繊維の長さは、2mm以上、3mm以上、4mm以上、5mm以上、6mm以上、7mm以上、8mm以上または9mm以上であってもよく、その上限は、例えば、9mm以下、8mm以下、7mm以下、6mm以下、5mm以下、4mm以下、3mm以下または2mm以下であってもよい。前記範囲を超過する長繊維と比較するとき、アラミド短繊維は、長繊維に対比してポリアミド系樹脂内で優れた分散性を維持するのに有利である。
【0016】
前記長さの短繊維の製造は、合撚糸に対する裁断(chopping)を通じて行うことができる。具体的には、前記裁断(chopping)の対象になるアラミド繊維は、2本以上の下撚糸が共に上撚りされた(即ち、下撚糸が撚り合わせられて作られた)合撚糸構造を有する。それにより、裁断されたアラミド短繊維も、撚りが付与された構造を有することができる。
【0017】
ここで、「下撚り」は糸またはフィラメントをどちらか一つの方向に撚ることを意味し、「下撚糸」は、糸またはフィラメントが、どちらか一つの方向に撚られて作られた一本(ply)の糸、即ち、単糸(single yarn)を意味しうる。特に制限されるわけではないが、前記下撚りは、例えば、反時計回り方向の撚りを意味しうる。また、「合撚糸(plied yarn)」は、2本以上の下撚糸を、どちらか一つの方向に共に撚り合わせて作った糸を意味する。前記上撚りは、下撚りが行われる撚りに対する反対の方向の撚りを意味しうる。例えば、前記上撚りは、時計回り方向の撚りを意味しうる。
【0018】
下撚り方向で撚られて作られた前記下撚糸は、所定の撚り数を有することができる。この時、「撚り数(twist number)」は1m当りの撚りの回数を意味し、その単位はTPM(Twist per meter)であり得る。
【0019】
一つの例示で、前記アラミド短繊維は、30~200TPM(twist per meter)範囲の撚りが付与されたものであってもよい。
【0020】
本出願の具体例で、前記アラミド短繊維は、30~200TPM(twist per meter)の範囲の撚りが付与された下撚糸を含むことができる。例えば、前記短繊維に含まれている、下撚糸の撚り数の下限は、例えば、35TPM以上、40TPM以上、45TPM以上、50TPM以上、55TPM以上、60TPM以上、65TPM以上、70TPM以上、75TPM以上または80TPM以上であってもよい。そして、前記撚り数の上限は、例えば、190TPM以下、180TPM以下、170TPM以下、160TPM以下、150TPM以下、140TPM以下、130TPM以下、120TPM以下、110TPM以下、100TPM以下、90TPM以下、80TPM以下または70TPM以下であってもよい。
【0021】
本出願の具体例で、前記アラミド短繊維に含まれる下撚糸同士の間の撚り数(即ち、上撚り時の撚り数)は30~200TPM(twist per meter)の範囲であってもよい。例えば、前記短繊維に含まれている下撚糸同士の撚り数の下限は、例えば、35TPM以上、40TPM以上、45TPM以上、50TPM以上、55TPM以上、60TPM以上、65TPM以上、70TPM以上、75TPM以上または80TPM以上であってもよい。そして、前記下撚糸同士の間の撚り数の上限は、例えば、190TPM以下、180TPM以下、170TPM以下、160TPM以下、150TPM以下、140TPM以下、130TPM以下、120TPM以下、110TPM以下、100TPM以下、90TPM以下、80TPM以下または70TPM以下であってもよい。
【0022】
特に制限されるわけではないが、アラミド繊維の製造時に付与される、下撚り時の撚り数(下撚り数)と、上撚り時の撚り数(上撚り数)とは、同一または異なるのでありうる。
【0023】
撚り数が前記範囲を満足しない場合、連続相であるポリアミド系樹脂に対するアラミド短繊維の接触面積が低くなるのに伴い、ポリアミド系樹脂とアラミド短繊維との間の界面接着力が低くなりうる。また、撚り数が過度に、大きいか小さいアラミド短繊維であると、後述のサイジング剤がコーティングされる繊維における表面積の減少が発生するため、繊維と樹脂との間の十分な界面接着力が提供されず、繊維がポリアミド系樹脂内にて優れた分散性を有することができない。結果的に、機械的物性などの十分な改善のためには、前記撚り数を満足することで、繊維と樹脂との間の物理的接触面積を高めることが有利である。
【0024】
一つの例示で、前記アラミド繊維またはアラミド短繊維は、2本の下撚糸が撚り合わせられた2プライ構造、または3本の下撚糸が撚り合わせられた3プライ構造を有することができるが、これらに制限されるわけではない。
【0025】
一つの例示で、前記繊維強化複合材は、前記複合材の全体重量の100重量%に対して、前記アラミド短繊維を15重量%以下で含むことができる。具体的には、前記複合材中で、前記アラミド短繊維の含量は、例えば、15重量%未満、より具体的には、14重量%以下、13重量%以下、12重量%以下、11重量%以下、10重量%以下、9重量%以下、8重量%以下、7重量%以下、6重量%以下または5重量%以下であってもよい。前述の撚り数のアラミド短繊維は、ポリアミド系樹脂に対する界面接着力と分散性に優れているため、前記のように少ない含量(例えば、10重量%以下)のアラミド短繊維を使用する場合にも、複合材物性の十分な改善を期待することができる。
【0026】
特に制限されるわけではないが、前記繊維強化複合材中の前記アラミド短繊維の含量の下限は、複合材の機械的強度などを考慮して調節することができ、例えば、0.5重量%以上、1.0重量%以上、1.5重量%以上、2.0重量%以上、2.5重量%以上、3.0重量%以上、3.5重量%以上、4.0重量%以上、4.5重量%以上または5.0重量%以上であってもよい。
【0027】
一つの例示で、前記繊維強化複合材は、前記ポリアミド系樹脂100重量部に対して、前記アラミド短繊維を20重量部以下で含むことができる。具体的には、ポリアミド系樹脂100重量部を基準とするとき、前記アラミド短繊維の含量の上限は、15重量部以下、10重量部以下または5重量部以下であってもよい。前述の撚り数のアラミド短繊維は、ポリアミド系樹脂に対する界面接着力と分散性に優れているため、前記のように、ポリアミド系樹脂の含量と対比して、非常に少ない含量(1/5水準以下)のアラミド短繊維が使用されても、複合材物性の十分な改善を期待することができる。
【0028】
特に制限されないが、ポリアミド系樹脂100重量部を基準とするとき、前記アラミド短繊維の含量の下限は、複合材の機械的強度などを考慮して調節することができ、例えば、0.1重量部以上、0.5重量部以上、1.0重量部以上、1.5重量部以上、2.0重量部以上、2.5重量部以上、3.0重量部以上、3.5重量部以上、4.0重量部以上、4.5重量部以上、5.0重量部以上であってもよい。
【0029】
一つの例示で、前記アラミド短繊維は、その表面がサイジング剤で処理されたものであってもよい。即ち、前記アラミド短繊維の表面には、サイジング剤が結合されていてもよい。サイジング剤は、アラミド繊維に優れた裁断性を付与するだけでなく、ポリアミド系樹脂とアラミド短繊維との間の界面接着力(例:化学的結合力)と、アラミド短繊維の分散性とを改善することができる。後述のように、サイジング剤処理は、アラミド繊維に対する裁断以前に行うことができる。
【0030】
本出願でサイジング剤の種類は特に制限されない。例えば、前記サイジング剤としては、公知のウレタン系サイジング剤、エポキシ系サイジング剤および/またはアミド系サイジング剤を使用することができる。
【0031】
一つの例示で、前記アラミド繊維またはアラミド短繊維に対するサイジング剤の含量の比率は、1.0~10.0重量%の範囲であってもよい。前記サイジング剤の含量は、アラミド繊維に対するサイジング剤の付着率を意味するものであって、いわゆるピックアップ率に関する下記式1によって計算されうる。
【0032】
[式1]
ピックアップ率(%)=[(W2-W1)/W1]×100
【0033】
式1中、W1は、乾燥状態アラミド繊維の重量であり、W2は、サイジング剤表面処理後のアラミド繊維の重量を意味する。ここで、サイジング剤表面処理後の時点は、サイジング剤に対する繊維浸漬後の熱処理が完了した時点を意味する。
【0034】
具体的には、前記アラミド繊維またはアラミド短繊維に対するサイジング剤の含量比率は、その下限が2重量%以上、3重量%以上、4重量%以上、5重量%以上、6重量%以上、7重量%以上、8重量%以上または9重量%以上であってもよい。そしてその上限は例えば、9重量%以下、8重量%以下、7重量%以下、6重量%以下、5重量%以下、4重量%以下、3重量%以下または2重量%以下であってもよい。
【0035】
一つの例示で、前記繊維強化複合材は、ガラス繊維(glass fiber)および炭素繊維(carbon fiber)のうちから選択される1つ以上の繊維をさらに含むことができる。
【0036】
前記ポリアミド系樹脂の種類は特に制限されない。例えば、前記ポリアミド系樹脂としては、例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66の共重合体、ナイロン6/66/610共重合体、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体およびナイロン66/PPS共重合体;または、これらのN-アルコキシアルキル化物などを使用することができる。
【0037】
一つの例示で、前記繊維強化複合材は、ASTM D792による比重が1.25以下であってもよい。具体的に、前記繊維強化複合材は、1.20以下、より具体的には、1.19以下、1.18以下、1.17以下、1.16以下、1.15以下または1.14以下の比重を有することができる。前述のように、本出願では、ポリアミド系樹脂に対する界面接着力と分散性に優れるようにその特性が調節されたアラミド短繊維が使用されるため、少ない含量のアラミド短繊維を使用することができ、複合材の軽量化が可能である。
【0038】
特に制限されないが、前記繊維強化複合材の比重の下限は、例えば、1.10以上、1.11以上、1.12以上、1.13以上、1.14以上または1.15以上であってもよい。
【0039】
一つの例示で、前記比重を満足する繊維強化複合材は、ASTM D638による引張強度が80~100Mpaの範囲を満足しうる。具体的には、前記繊維強化複合材の引張強度は、81Mpa以上、82Mpa以上、83Mpa以上、84Mpa以上、85Mpa以上、86Mpa以上、87Mpa以上、88Mpa以上、89Mpa以上、90Mpa以上、91Mpa以上、92Mpa以上、93Mpa以上、94Mpa以上または95Mpa以上であってもよい。前述のように、本出願では、ポリアミド系樹脂に対する界面接着力と分散性に優れるように、その特性が調節されたアラミド短繊維が使用され、それによって、低い比重でも前記範囲のように十分な引張強度を有する複合材が提供されうる。
【0040】
一つの例示で、前記比重を満足する繊維強化複合材は、ASTM D790による屈曲強度が120~140Mpa範囲を満足することができる。具体的には、前記繊維強化複合材の屈曲強度は、121Mpa以上、122Mpa以上、123Mpa以上、124Mpa以上、125Mpa以上、126Mpa以上、127Mpa以上、128Mpa以上、129Mpa以上、130Mpa以上、131Mpa以上、132Mpa以上、133Mpa以上、134Mpa以上または135Mpa以上であってもよい。前述のように、本出願では、ポリアミド系樹脂に対する界面接着力と分散性に優れるように、その特性が調節されたアラミド短繊維が使用され、それによって、低い比重でも前記範囲のように十分な屈曲強度を有する複合材が提供されうる。
【0041】
一つの例示で、前記比重を満足する繊維強化複合材は、ASTM D3702による摩擦係数が0.12未満を満足することができる。具体的には、前記繊維強化複合材の摩擦係数は、0.11以下、0.10以下、0.09以下、0.08以下、0.07以下または0.06以下であってもよい。複合材と関連した摩擦は、通常、繊維が樹脂から離脱するため発生する場合が大部分である。したがって、摩擦問題を改善するために、即ち、摩擦係数を低めるためには、繊維が樹脂から離脱せずに樹脂内に存在するように、繊維の分散性を改善することが必要である。前述のように、本出願ではポリアミド系樹脂に対する界面接着力と分散性に優れるようにその特性が調節されたアラミド短繊維が使用され、それによって少ない含量のアラミド繊維を使用しながらも前記範囲のように十分に低い摩擦係数を有する複合材が提供されうる。
【0042】
前記のような本願発明複合材の用途は特に制限されない。
【0043】
例えば、前記複合材は、自動車分野に使用できる。具体的には、前記複合材は自動車内装材、自動車外装材またはバランスギア(Balanced gear)のような物品に含まれてもよい。より具体的には、前記複合材は、ドアフレームインナーカバー(Door frame inner cover)、トランスミッションギアサポート(Transmission gear support)、サンバイザーリテーナー(Sun visor retainer)、インナードアハンドルアセンブリー(Inner door handle assembly)、ウィンドウドラム(Window drum)、キャリアプレート(Carrier plate)、セーフティーベルトジョインター(Safety belt jointer)、ブッシュ(bush)、エンジンマウント(Engine mount)、ヘッドレストガイド(Head rest guide)などに使用できる。
【0044】
また他の例示で、前記複合材は軽量化そして耐磨耗や耐摩擦性能が必要な部品に使用できる。具体的に、前記複合材は、ATMやプリンタ機器などに使用される各種ギア(gear)で、または冷蔵庫や洗濯機などのドアグローザーパート(Door closer part)で使用でき、その外にもセントラライザー(Centralizer)、コンベヤーベルト(Conveyor belt)、ベアリング(bearing)、キャスター(Caster)などに使用されうる。
【0045】
本出願に関する他の一例で、本出願は繊維強化複合材の製造方法に関するものである。
【0046】
具体的には、前記方法は、30~200TPM(twist per meter)範囲の撚りが付与されたアラミド短繊維を準備する段階;および、前記準備されたアラミド短繊維とポリアミド系樹脂とを押出機に投入した後に吐出して、繊維強化複合材を製造する段階を含むことができる。
【0047】
繊維強化複合材、およびこれを構成する各成分に関する特性などは、前述の通りである。
【0048】
一つの例示で、前記アラミド短繊維は、サイジング剤でもって表面コーティングされたアラミド原糸(繊維)に、撚りを付与した後(下撚糸および上撚糸の製造)、撚りが付与された原糸をチョッピング工程で裁断する方式で製造されうる。即ち、前記方法は、サイジング剤でもって表面コーティングされたアラミド原糸に、撚りを付与した後、撚りが付与された原糸を裁断する段階をさらに含むことができる。この際、撚り数は、前述の通りであり、チョッピングによって前述の長さ(1.0~10.0mm範囲)の短繊維を得ることができる。
【0049】
前記サイジング剤による表面コーティング方式は特に制限されない。例えば、アラミド原糸(繊維)をサイジング剤液に浸漬し熱処理する段階を行うことができる。特に制限されないが、サイジング剤が適正量塗布されるように、サイジング剤に対するアラミド原糸(繊維)の浸漬時間は、約1秒~30秒範囲、約2秒~20秒または約3秒~10秒範囲であってもよい。そして、サイジング剤が塗布された繊維に対する熱処理は、サイジング剤の十分な乾燥と熱による損傷抑制などを考慮して、約200~500℃または約250~300℃の温度で、約3~30秒間行うことができる。
【0050】
一つの例示で、前記サイジング剤のコーティングの程度は、前述のピックアップ率を満足するように行うことができる。
【0051】
押出機に投入される樹脂と繊維の含量比率は前述の通りである。
【0052】
一つの例示で、前記方法は、一つの投入口を含む押出機を用いて行うことができる。
【0053】
一つの例示で、前記方法は、2つ以上の投入口を含む押出機を用いて行うことができる。この場合、短繊維がより均一に樹脂内で分散できる。例えば、いずれか一つの投入口は、ポリアミド系樹脂を投入することに使用されるものであり、他の投入口は、アラミド短繊維を投入することに使用されるものであってもよい。前記投入口を通じて押出機内部に投入された樹脂と繊維は、押出機内部のスクリューに乗って混合および移動しながら吐出口を通じてダイ(die)に排出できる。
【0054】
一つの例示で、前記投入口は押出機に含まれるスクリューの長さに沿って一定の距離ごとに形成されてもよい。
【0055】
特に制限されないが、ポリアミド系樹脂が投入される投入口をホッパーと呼称でき、アラミド短繊維が投入される投入口をフィーダーと呼称できる。
【0056】
一つの例示で、前記方法は、二軸スクリュー押出機を用いて行うことができるが、特に制限されるわけではない。
【0057】
吐出された繊維強化複合材の形態は特に制限されない。例えば、ペレットの形態やシートの形態などの繊維強化複合材が提供できる。
【0058】
本出願に関する一例で、本出願は、前記繊維強化複合材を含む物品に関するものである。繊維強化複合材の特性は前述の通りである。
【0059】
繊維強化複合材を含む物品は特に制限されない。
【0060】
例えば、前記複合材は、自動車関連物品に含まれてもよい。具体的には、本出願は、前記複合材を含む自動車内装材、自動車外装材またはバランス(バランサー)ギア(Balanced gear)といった自動車関連物品に関するものであり得る。より具体的には、前記複合材は、ドアフレームインナーカバー(Door frame inner cover)、トランスミッションギアサポート(Transmission gear support)、サンバイザーリテーナー(Sun visor retainer)、インナードアハンドルアセンブリー(Inner door handle assembly)、ウィンドウドラム(Window drum)、キャリアプレート(Carrier plate)、セーフティーベルトジョインター(Safety belt jointer)、ブッシュ(bush)、エンジンマウント(Engine mount)、ヘッドレストガイド(Head rest guide)などに使用できる。
【0061】
また他の例示で、前記複合材は軽量化そして耐磨耗や耐摩擦性能が必要な物品に含まれてもよい。具体的には、前記複合材はATMやプリンタ機器などに使用される各種ギア(gear)で、または冷蔵庫や洗濯機などのドアグローザーパート(Door closer part)で使用でき、その外にもセントラライザー(Centralizer)、コンベヤーベルト(Conveyor belt)、ベアリング(bearing)、キャスター(Caster)などに使用できる。
【0062】
本出願に関する具体例で、本出願は、繊維強化複合材を含むバランスギア(balance gear)に関するものであり得る。後述の実験例のように、前記アラミド短繊維を含む複合材は、優れた耐摩耗性を提供することができ、これに加えて、素材の耐摩耗性を改善することができるとして知られたガラス繊維や炭素繊維を、前述のアラミド短繊維と共に複合材の構成として使用する場合、金属との摩擦によって、優れた耐磨耗耐久性が要求されるバランスギアの用途に適すると考えられる。
【0063】
それによって、本出願の具体例で、前記バランスギアは、ポリアミド系樹脂;30~200TPM(twist per meter)の範囲の撚りが付与されたアラミド短繊維;並びに、ガラス繊維および炭素繊維のうちから選択される1つ以上の繊維を含む繊維強化複合材を含む。
【0064】
バランスギアに含まれる繊維強化複合材に関連して、ポリアミド系樹脂およびアラミド短繊維の特性などに関する説明は、前述の通りである。
【0065】
一つの例示で、前記ガラス繊維および/または炭素繊維は、短繊維または長繊維の形態であってもよい。具体的には、短繊維であるガラス繊維および/または炭素繊維は、その長さが1~10mm範囲であってもよい。そして、長繊維であるガラス繊維および/または炭素繊維はその長さが、10mm以上であってもよく、例えば、10~20mm範囲であってもよい。
【0066】
一つの例示で、前記ガラス繊維および/または炭素繊維には、撚りが付与されてもよい。特に制限されないが、ガラス繊維および/または炭素繊維に付与される撚り数は、前述のアラミド短繊維に対するそれと同一または異なるのでありうる。
【0067】
一つの例示で、前記複合材は、複合材の全体の重量に対して、前記ガラス繊維および/または炭素繊維を45重量%以下で含むことができる。例えば、前記複合材は、全体の複合材100重量%を基準にして、ガラス繊維を45重量%以下で含むか、炭素繊維を45重量%以下で含むことができる。また他の例示で、前記複合材は、全体の複合材100重量%を基準にして、ガラス繊維および炭素繊維の合計が45重量%以下になるように、ガラス繊維および炭素繊維を含むことができる。45重量%を超過するこれら繊維の含量は、押出時におけるスクリュー内のレジンの流れを妨害して、複合材の製造を難しくすることがある(工程性または生産性の低下)。また、45重量%を超過するというように過多な含量の繊維が使用されれば、ペレットの形態に加工する際に、ペレットカッティングが難しくなるか、カッティング面が不良になり、製造されたペレットの外部表面に補強繊維が露出されて商品性が良くない。
【0068】
特に制限されないが、全体の複合材100重量%を基準にして、前記ガラス繊維および/または炭素繊維の含量の上限は、例えば、40重量%以下、35重量%以下、30重量%以下、25重量%以下、20重量%以下、15重量%以下または10重量%以下であってもよく、その下限は、例えば、5重量%以上、10重量%以上、15重量%以上、20重量%以上、25重量%以上または30重量%以上であってもよい。
【発明の効果】
【0069】
本出願の具体例によれば、低い比重を有しながらも機械的物性と耐摩耗性に優れた複合材が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0070】
以下、発明の具体的な実施例を通じて、発明の作用、効果をより具体的に説明することとする。但し、これは発明の例示として提示されたものであって、これによって発明の権利範囲が、いかなる意味でも限定されるのではない。
【実施例
【0071】
<実験例1:複合材の引張強度、屈曲強度、および比重測定>
下記実施例および比較例で準備された試片に対して、引張強度、屈曲強度および比重を測定した。
【0072】
<実施例1>
<アラミド短繊維の準備>:総繊度約2,000デニールであるアラミド繊維を、ウレタン系サイジング剤に約7秒間浸漬した後、約285℃の温度で約15秒間、熱処理して、表面がサイジング剤でコーティングされたアラミド繊維を得た(ピックアップ率約5重量%)。そして、撚糸工程を通じて、前記サイジング剤でもって表面がコーティングされた繊維に、約70TPMの撚り数を付与した。具体的には、撚糸工程時、上撚りと下撚りの両方とも70TPMに設定され、撚りが付与された繊維は2プライ(2本撚り)構造を有する。その次に、撚り数が付与されたアラミド繊維の長さが、約5mmになるように繊維を裁断(chopping)した。
【0073】
<ペレット形態の複合材(composite)の製造>:押出機を用いて前記アラミド短繊維がポリアミド系樹脂(PA66)に分散した複合材を製造した。この際、樹脂中に短繊維を均一に分散させるために、押出機の入口側(吐出口の反対側)に位置させたフィーダーを通じて(ホッパーを通じて投入されるポリアミド系樹脂とは別に)繊維を投入した。製造されたペレットは、高さが約5mmであり、直径が約5mmである円柱の形態を有する。
【0074】
製造された複合材の特性は、表1のとおりである。
【0075】
<実施例2>
下記表1に記載されたことを除いて、実施例1と同様の方法で複合材を製造した。
【0076】
<比較例1~3>
市販中のRTP company社の製品を比較例として使用した。ここで、比較例1~3は、アラミド短繊維とポリアミド系樹脂の含量が、表1のように異なることを除いて、同一である。
【0077】
【表1】
【0078】
上記表1のように、市販中の製品と比較するとき、本願発明による実施例の複合材は、相対的に低い含量でアラミド繊維を含む場合(即ち、比重が低い)にも、優れた引張強度と屈曲強度を提供可能であるということが確認される。
【0079】
<実験例2:摩擦係数測定>
下記実施例および比較例で準備された試片に対して摩擦係数を測定した。
【0080】
<実施例3>
前記実施例1で製造された複合材を使用した。
【0081】
<実施例4>
前記実施例2で製造された複合材を使用した。
【0082】
<比較例4>
市販中のRTPcompany社の製品(RTP 200)を比較例4として使用した。
【0083】
<比較例5>
耐磨耗特性強化に主に使用されるカーボン繊維(carbon fiber)を、20重量%含量で含む複合材を比較例5として使用した。カーボン繊維に撚りが付与されていないことを除いて、実施例1と同一の過程で複合材を製造した。
【0084】
<比較例6>
耐磨耗特性強化に主に使用されるガラス繊維(glass fiber)を、20重量%含量で含む複合材を比較例6として使用した。ガラス繊維に撚りが付与されていないことを除いて、実施例1と同一の過程で複合材を製造した。
【0085】
<比較例7>
アラミド繊維を15重量%含むSolvay社のTribocomp(登録商標)を比較例7として使用した。
【0086】
<比較例8>
市販中のRTP company社の製品(RTP 200 AR 15 TFE 15)を比較例8として使用した。当該製品は、摩擦係数を低めるために使用されるテフロン(登録商標)(TFE)樹脂15重量%が含まれたものである。
【0087】
【表2】
【0088】
表2のように、本願発明の実施例複合材の摩擦係数が低いということが確認される。これは、本願発明の複合材の耐磨耗特性が優れているということを意味する。これは、所定の撚り数が付与されたアラミド繊維が、ポリアミド系樹脂と適正水準の接触面積を有することができるためであると考えられる。また、前記のような低い摩擦係数の確保には、サイジング剤の使用によって、ポリアミド系樹脂内におけるアラミド繊維の分散性が良くなったことも、影響を与えたと判断される。
【0089】
一方、繊維の含量が多くなるほど、摩擦係数が減少するということが一般的であるが、実施例3と4とにおける摩擦係数はその差が大きくないということが確認される。即ち、本願発明によれば、アラミド繊維を少量含む軽量性の複合材であって、優れた機械的強度(表1)と、優れた耐磨耗特性(低い摩擦係数)(表2)とを有する複合材が提供される。
【国際調査報告】