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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-31
(54)【発明の名称】抗IgE抗体を含有する医薬製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240524BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240524BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20240524BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61K47/26
A61K47/22
A61K9/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575537
(86)(22)【出願日】2022-06-14
(85)【翻訳文提出日】2024-01-18
(86)【国際出願番号】 IB2022055485
(87)【国際公開番号】W WO2022264021
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2021/055217
(32)【優先日】2021-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504389991
【氏名又は名称】ノバルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】フィッシュ,アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】ボットーリ,イヴァン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB11
4C076DD60Z
4C076DD67
4C076EE23
4C076FF36
4C076FF61
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4C085GG01
(57)【要約】
本発明は、注射に適した安定な水性医薬組成物として製剤化された抗IgE抗体を提供する。本発明の水性医薬組成物は、糖(トレハロース)、緩衝剤(ヒスチジン)、及び界面活性剤(ポリソルベート20)を含む。水性医薬組成物は、高レベルの抗体凝集と、高レベルの肉眼で見えない粒子状物質とを伴うことなく、高濃度(少なくとも50mg/ml)の抗体活性成分を患者に送達するのに有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも50mg/ml~約150mg/mlの抗IgE抗体、例えばリゲリズマブと、約200~300mMのトレハロースと、約5~25mMのヒスチジンと、約0.01%~0.05%のポリソルベート20(w/v)とを含む安定な水性医薬組成物であって、前記組成物のpHが約4.7~約5.2である、水性医薬組成物。
【請求項2】
前記抗IgE抗体がリゲリズマブである、請求項1に記載の水性医薬組成物。
【請求項3】
前記組成物の粘度が約5~約30mPa-s、好ましくは約5~約20mPa-sである、請求項1又は2に記載の水性医薬組成物。
【請求項4】
前記組成物のpHが約5.0である、請求項1~3のいずれか一項に記載の水性医薬組成物。
【請求項5】
約0.01%~0.02%のポリソルベート20(w/v)を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の水性医薬組成物。
【請求項6】
約0.02%のポリソルベート20(w/v)を含む、請求項5に記載の水性医薬組成物。
【請求項7】
約10~25mMのヒスチジン緩衝液を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の水性医薬組成物。
【請求項8】
約20mMのヒスチジンを含む、請求項7に記載の水性医薬組成物。
【請求項9】
約250~270mMのトレハロースを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の水性医薬組成物。
【請求項10】
約250mMのトレハロースを含む、請求項9に記載の水性医薬組成物。
【請求項11】
約60mg/ml~約120mg/mlの間の抗IgE抗体を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の水性医薬組成物。
【請求項12】
約120mg/mlの抗IgE抗体を含む、請求項11に記載の水性医薬組成物。
【請求項13】
約120mgのリゲリズマブ、約250mMのトレハロース、約20mMのヒスチジン、及び約0.02%のポリソルベート20(w/v)を含む安定な水性医薬組成物であって、前記組成物のpHが約5.0である、水性医薬組成物。
【請求項14】
前記組成物が2~8℃で少なくとも18カ月間安定している、請求項1~13のいずれか一項に記載の水性医薬組成物。
【請求項15】
前記水性医薬組成物を、それを必要としている対象に投与するステップを含む、前記抗IgE抗体を前記対象に送達するのに使用するための、請求項1~14のいずれか一項に記載の水性医薬組成物。
【請求項16】
前記水性医薬組成物を、それを必要としている対象に投与することを含む、IgEによって媒介されるアレルギーを治療するのに使用するための、請求項1~14のいずれか一項に記載の水性医薬組成物。
【請求項17】
請求項1~14のいずれか一項に記載の水性医薬組成物を含む剤形。
【請求項18】
請求項1~14のいずれか一項に記載の水性医薬組成物を含む送達デバイス。
【請求項19】
予め充填された注射器である、請求項18に記載の送達デバイス。
【請求項20】
オートインジェクターなどの自動使い捨て注射デバイスである、請求項18に記載の送達デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リゲリズマブなどの抗IgE抗体の水性医薬製剤、その調製方法、及び製剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は新規の医薬製剤に関し、特に、活性成分がIgEに対する抗体、特に国際公開第04/70011号パンフレット及び国際公開第05/75504号パンフレットに記載される抗体、特にリゲリズマブを含む新規の医薬製剤に関する。
【0003】
抗体は、他のタンパク質治療薬と同様に複雑な分子であり、一般に、哺乳類、特にヒトにおけるその治療的に有効な用量に起因して、医薬製剤中に大量の抗体を使用する必要がある。タンパク質治療薬の液体製剤は、タンパク質治療薬の生物学的活性をそのまま保存し、製造中及び貯蔵期間中にタンパク質治療薬の官能基を分解から保護しなければならない。タンパク質の分解経路は、化学的不安定性又は物理的不安定性を含み得る。
【0004】
タンパク質治療薬の液体製剤に関して長年認識されている問題は、タンパク質分子が物理的にくっつき合った凝集の問題であり、例えば、その結果として不透明な不溶性物質又は沈殿の形成が生じ、望まれない免疫学的反応を示し得る。さらに、凝集体の形成によって引き起こされる主要な問題は、投与の間に、製剤が注射器又はポンプを詰まらせ、患者にとって危険になり得ることである。
【0005】
しかしながら、高濃度の抗体を含む製剤は貯蔵寿命が短いことがあり、製剤化された抗体は、貯蔵の間に化学的及び物理的不安定性に起因して生物学的活性を失う可能性がある。凝集、脱アミド及び酸化は、抗体分解の最も一般的な原因であることが知られている。特に、凝集は潜在的に患者における免疫応答の増大をもたらし、安全性の問題が生じ得る。したがって、凝集は最小限にされるか、又は防止されなければならない。
【0006】
高濃度の抗体製剤を製造するための方法は知られている。しかしながら、種々の医薬賦形剤、緩衝液などの存在下で凝集体を形成する又は分解するその傾向に対して抗体のアミノ酸配列が与える予測不能な影響を克服するための普遍的なアプローチは存在しない。高用量を必要とするタンパク質薬物の製剤の開発は溶解性が限られたタンパク質では困難であり、いくつかの製造、安定性、分析、及び送達の課題も生じる。濃度依存性の凝集の分解経路は、タンパク質製剤を開発するために最大の課題である。非天然タンパク質の凝集及び微粒子形成の可能性に加えて、可逆的な自己会合が生じる可能性があり、これは、注射による送達を複雑にする粘性などの特性に寄与する。さらに、水性タンパク質製剤は、例えば、冷蔵庫又は冷凍庫内で貯蔵されるので、時間と共に曇り、そして濁ることがある。曇り及び濁りは、一般に、製剤中のタンパク質の凝集又は結晶化に関連する。注射又は他の方法で製剤を患者に送達する前にろ過又は製剤を清澄化する他の手段の必要性を回避するために、タンパク質製剤における任意の曇り又は濁りを回避することが強く好まれている。
【0007】
注射に適した抗IgE抗体を含む液体医薬組成物は、国際公開第2004091658号パンフレットから知られている。国際公開第2004091658号パンフレットには、安定した高濃度の液体抗IgE抗体製剤のために、50~200mMの量のアルギニン、具体的にはアルギニン-HClが必要とされ得ることが開示されている。粘度、容積モル浸透圧濃度及び濁度の課題を克服する安定した抗IgE抗体製剤が例示されており、これらは全て、賦形剤アルギニン-HClを含む。
【0008】
しかしながら、アルギニンは、抗体などのタンパク質中の芳香族アミノ酸残基と相互作用を起こし得ることも知られている。個々のモノクローナル抗体には物理化学的な違いがあるために、所望の粘度を有する安定した高濃度の製剤を提供することは、依然として技術的に困難なままである。
【0009】
本発明の目的は、例えば、安定しており、ヒトに投与するのに適しており、且つ曇り/濁り/結晶化を回避する、高濃度の抗IgE抗体並びに低レベルの抗体凝集を含むさらなる及び改善された製剤を提供することである。
【発明の概要】
【0010】
したがって、本発明は、注射に適した抗IgE抗体を含む水性医薬組成物に関する。ある態様では、本発明の水性医薬組成物は、低レベル~検出不能なレベルの抗体凝集又は分解を示し、製造、調製、輸送及び長期間の貯蔵中に生物学的活性の喪失がほとんど~全くなく、抗IgE抗体の濃度は、少なくとも約50mg/ml、60mg/ml、80mg/ml、90mg/ml、100mg/ml、120mg/ml、140mg/ml、150mg/ml、又は160mg/mlである。
【0011】
本発明は、抗IgE抗体、安定剤、緩衝液、及び界面活性剤を含む水性医薬組成物を提供する。ある態様では、水性医薬組成物は、(i)少なくとも50mg/mlの抗IgE抗体、(ii)安定剤としての糖(例えば、トレハロース)、(iii)ヒスチジン緩衝液、及び(iv)界面活性剤としてのポリソルベート80又はポリソルベート20を含む。
【0012】
特定の態様では、水性医薬組成物は、少なくとも120mg/mlの抗IgE抗体リゲリズマブ、約10~30mMのヒスチジン緩衝液、約200~270mMのトレハロース、約0.01~0.03%のポリソルベート20を含み、この組成物のpHは約4.7~約5.2である。
【0013】
特定の態様では、水性医薬組成物は、少なくとも120mg/mlの抗IgE抗体リゲリズマブ、約20mMのヒスチジン緩衝液、約250mMのトレハロース、約0.02%のポリソルベート20を含み、この組成物のpHは約4.7~約5.2である。
【0014】
本発明の具体的な好ましい実施形態は、以下の特定の好ましい実施形態及び特許請求の範囲のより詳細な説明から明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、抗IgE抗体、例えば、高濃度の抗IgE抗体を含む安定な水性医薬組成物を提供する。特定の実施形態では、本発明の水性医薬組成物は2~8℃で少なくとも18カ月間安定しており、注射又は注入、例えば皮下投与を含む、それを必要としている対象への投与に適している。
【0016】
本発明は、新規の医薬製剤、特に、活性成分がリゲリズマブなどの抗IgE抗体を含む、新規の医薬製剤を提供する。一態様において、本発明は、リゲリズマブを含む安定な水性医薬組成物に関する。
【0017】
好ましい実施形態では、本発明の水性医薬組成物はリゲリズマブを含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、リゲリズマブなどの抗IgE抗体は、リゲリズマブのバイオシミラーであるか、又はリゲリズマブと互換性のあることが実証されている抗体を指すことができる。リゲリズマブのバイオシミラーは、例えば、関連の保健局(例えば、世界保健機関(World Health Organization).Expert Committee on Biological Guidelines on evaluation of similar biotherapeutic products(SBPs).Geneva,Switzerland:World Health Organization;2009)により公表されたBiosimilar Guidancesによって定義されるようなリゲリズマブのバージョンを含有するバイオシミラー製品である。それらの抗体は、本明細書に開示されるように、リゲリズマブ製剤に言及する実施形態に従って製剤化され得る。
【0019】
一実施形態において、本発明の水性医薬組成物中の抗IgE抗体、例えばリゲリズマブの濃度は、少なくとも50mg/mlである。好ましくは、本発明の水性医薬組成物は、約50mg/ml、約60mg/ml、約70mg/ml、約80mg/ml、約90mg/ml、約100mg/ml、約110mg/ml、約120mg/ml、約130mg/ml、約140mg/ml、又は約150mg/mlの抗IgE抗体、例えばリゲリズマブを含む。
【0020】
特定の実施形態では、本発明の水性医薬組成物は、約100mg/ml~約120mg/mlの間の抗IgE抗体、例えばリゲリズマブを含む。
【0021】
特定の実施形態では、本発明の水性医薬組成物は、約120mg/mlの抗IgE抗体、例えばリゲリズマブを含む。
【0022】
本明細書において使用される用語「抗体」は、抗体全体及びその任意の抗原結合断片(すなわち「抗原結合性部分」、「抗原結合ポリペプチド」、若しくは「イムノバインダー(immunobinder)」)又はその単鎖を含む。「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互につながれた少なくとも2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含む糖タンパク質又はその抗原結合部分を含む。それぞれの重鎖は、重鎖可変領域(Vと本明細書において略される)及び重鎖定常領域から構成される。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2、及びCH3から構成される。それぞれの軽鎖は、軽鎖可変領域(Vと本明細書において略される)及び軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は、1つのドメイン、CLから構成される。V領域及びV領域は、フレームワーク領域(FR)と称される、より保存された領域が点在する相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の領域にさらに細分することができる。それぞれのV及びVは、以下の順でアミノ末端からカルボキシ末端に配置される3つのCDR及び4つのFRから成り立っている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(たとえばエフェクター細胞)及び古典的補体系の第1の構成成分(C1q)を含む宿主組織又は宿主因子への免疫グロブリンの結合を媒介してもよい。
【0023】
抗体の「抗原結合性部分」(又は単に「抗体部分」)という用語は、抗原(たとえばIgE)に特異的に結合する能力を保持する、抗体の1つ又はそれ以上の断片を指す。抗体の抗原結合性の機能は、完全長抗体の断片によって実行することができることが示された。抗体の「抗原結合性部分」という用語の範囲内に包含される結合断片の例は、(i)V、V、CL、及びCH1ドメインからなる一価の断片であるFab断片;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価の断片であるF(ab’)断片;(iii)V及びCH1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の単一のアームのV及びVドメインからなるFv断片;(v)Vドメインからなる単一ドメイン若しくはdAb断片(Ward et al.,(1989)Nature 341:544-546);並びに(vi)単離された相補性決定領域(CDR)又は(vii)合成リンカーによって任意選択で接合されてよい2つ若しくはそれ以上の単離されたCDRの組み合わせを含む。さらに、Fv断片の2つのドメイン、V及びVは、別々の遺伝子によってコードされるが、それらは、それらが単一タンパク質鎖として作製されるのを可能にする合成リンカーによって、組換え方法を使用して接合させることができ、V領域及びV領域がペアになって一価の分子を形成する(単鎖Fv(scFv)として知られている;たとえばBird et al.(1988)Science 242:423-426;及びHuston et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883を参照されたい)。そのような単鎖抗体もまた、抗体の「抗原結合性部分」という用語の範囲内に包含されるように意図される。これらの抗体断片は、当業者らに知られている従来の技術を使用して得られ、断片は、インタクト抗体と同じように実用性についてスクリーニングされる。抗原結合性部分は、組換えDNA技術によって又はインタクト免疫グロブリンの酵素的若しくは化学的切断によって産生することができる。抗体は、様々なアイソタイプのもの、たとえばIgG(たとえばIgG1、IgG2、IgG3、若しくはIgG4サブタイプ)、IgA1、IgA2、IgD、IgE、又はIgM抗体とすることができる。
【0024】
本明細書において使用されるように、「約」という用語は値又はパラメーター自体を含み、且つ説明する。例えば、「約x」は「x」自体を含み、且つ説明する。本明細書において使用されるように、「約」という用語は、測定値に関連して使用される場合、又は値、単位、定数、若しくは値の範囲を修飾するために使用される場合、値又はパラメーター自体を含むことに加えて±1~10%の変動を指す。いくつかの実施形態では、「約」という用語は、測定値に関連して使用される場合、又は値、単位、定数、若しくは値の範囲を修飾するために使用される場合、±1、±2、±3、±4、±5、±6、±7、±8、±9、又は±10%の変動を指す。
【0025】
本明細書において使用されるように、「の間(between)」という用語は、値又はパラメーター自体を含み、且つ説明する。例えば、「xとyの間(between x and y)」は、「x」及び「y」を含み、且つ説明する。
【0026】
本明細書で使用される場合、「粘度」という用語は、「動粘度」又は「絶対粘度」であり得る。「動粘度」は、重力の影響下での流体の抵抗流れの尺度である。等体積の2つの流体を同一のキャピラリー粘度計に入れ、重力により流動させると、粘性の高い流体は、キャピラリーを通って流れるために粘性の低い流体よりも長い時間を要する。一方の流体がその流れを完了させるために200秒かかり、他方の流体が400秒かかる場合、第2の流体は、動粘度スケールで、第1の流体の2倍の粘性がある。「絶対粘度」は、動的又は単純粘度と呼ばれることもあり、動粘度と流体密度の積である。動粘度の次元は、L2/Tである(ここで、Lは長さであり、Tは時間である)。一般に、動粘度は、センチストーク(cSt)で表される。動粘度のSI単位はmm2/sであり、これは1cStである。絶対粘度は、センチポアズ(cP)の単位で表される。絶対粘度のSI単位はミリパスカル-秒(mPa.s)であり、1cP=1mPa.sである。
【0027】
本明細書において使用されるように、「安定した」という用語は、本明細書に記載される抗IgE抗体を含有する医薬製剤が、貯蔵の際にその物理的安定性及び/又は化学的安定性及び/又は生物学的活性を本質的に保持することを意味する。タンパク質の安定性を測定するための種々の分析技術は当該技術分野において利用可能であり、例えば、Peptide and Protein Drug Delivery,247-301,Vincent Lee Ed.,Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,Pubs.(1991)及びJones,A.Adv.Drug Delivery Rev.10:29-90(1993)において概説される。安定性は、例えば本明細書に記載されるAEX-HPLC(アニオン交換高速液体クロマトグラフィー)を用いて、選択された温度で選択された期間にわたって測定することができる。好ましくは、水性製剤は室温(約25℃)若しくは40℃で少なくとも1週間安定であり、及び/又は約2~8℃で少なくとも3ヶ月間、少なくとも12ヶ月間、少なくとも18ヶ月間、若しくは少なくとも24ヶ月間安定である。本明細書で使用される場合、「安定した」という用語は、リゲリズマブなどの抗IgE抗体を含有する製剤が医薬品の規制要件を満たすことも意味する。
【0028】
本明細書に記載される抗IgE抗体は、それが、色及び/若しくは澄明度の外観試験に際して又はUV光散乱(UV light scattering)、AEX-HPLCによって又はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)若しくは他の適した当技術分野において知られている方法によって測定されるように、凝集、分解、沈殿、及び/又は変性について定められた出荷規格を満たす場合、医薬製剤中で「その物理的安定性を保持している」。
【0029】
本明細書において使用されるように、「タンパク質凝集」という用語は、バイオ医薬薬物の所望の規定種(例えば、モノマー)ではなく、オリゴマー又は多量体などのより高分子量のタンパク質種の形成を意味する。したがって、タンパク質凝集は、共有結合又は非共有相互作用によって形成される、それ以上定義されない全ての種類の多量体種の形成に対する普遍的な用語である。凝集体は、サイズ排除クロマトグラフィー(SE-HPLC又はSEC)によって測定することができる。一実施形態では、水性医薬製剤中の抗IgE抗体の凝集体は、定量化の限界を下回る。
【0030】
本明細書に記載される抗IgE抗体は、室温(約25℃)又は40℃で少なくとも1週間貯蔵した後に抗体の純度が低下しない、或いは実質的に低下しない、及び/又は約2~8℃で少なくとも3ヶ月間~18ヶ月間安定であれば、水性医薬製剤中で「その安定性を保持している」。抗IgE抗体の安定性は、任意の適切な手段、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、キャピラリーゲル電気泳動及び/又はアニオン交換クロマトグラフィー(AEX)によって評価され得る。一実施形態では、抗IgE抗体は、SECによって評価される主ピークの喪失%が、室温(約25℃)若しくは40℃で少なくとも1週間、及び/又は約2~8℃で少なくとも3ヶ月間、少なくとも6ヶ月間、少なくとも9ヶ月間、少なくとも12ヶ月間、若しくは少なくとも18ヶ月間の貯蔵後に評価して、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下又は0.1%以下である場合に、水性医薬組成物中で安定である。好ましい実施形態では、抗IgE抗体は、約2~8℃で少なくとも3ヶ月間、少なくとも6ヶ月間、少なくとも9ヶ月間、少なくとも12ヶ月間、又は少なくとも18ヶ月間の貯蔵後にSECにより評価される、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下又は0.1%以下の主ピークの喪失を有する。
【0031】
一実施形態では、抗IgE抗体は、例えば還元条件下におけるキャピラリーゲル電気泳動、例えばSDSにより評価されるHC及びLCの合計の喪失%が、室温(約25℃)若しくは40℃で少なくとも1週間、及び/又は約2~8℃で少なくとも3ヶ月間、少なくとも6ヶ月間、少なくとも9ヶ月間、少なくとも12ヶ月間、若しくは少なくとも18ヶ月間の貯蔵後に評価して、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、又は0.2%以下である場合に、水性医薬組成物中で安定である。好ましい実施形態では、抗IgE抗体は、約2~8℃で少なくとも3ヶ月間、少なくとも6ヶ月間、少なくとも9ヶ月間、少なくとも12ヶ月間、又は少なくとも18ヶ月間の貯蔵後にキャピラリーゲル電気泳動により評価される、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、又は0.2%以下のHC及びLCの合計の喪失を有する。特に好ましい実施形態では、抗IgE抗体は、約2~8℃で少なくとも3ヶ月間、少なくとも6ヶ月間、少なくとも9ヶ月間、少なくとも12ヶ月間、又は少なくとも18ヶ月間の貯蔵後にキャピラリーゲル電気泳動により評価される、0.2%以下のHC及びLCの合計の喪失を有する。
【0032】
一実施形態では、抗IgE抗体は、アニオン交換クロマトグラフィー(AEX)により評価される酸性ピークの合計%が、約2~8℃で少なくとも3ヶ月間、少なくとも6ヶ月間、少なくとも9ヶ月間、少なくとも12ヶ月間、又は少なくとも18ヶ月間の貯蔵後に評価して、2%以下、1.9%以下、1.8%以下、1.7%以下、又は1.6%以下である場合に、水性医薬組成物中で安定である。
【0033】
本明細書に記載される抗IgE抗体は、例えば、当該技術分野で知られている方法を用いてIgE受容体結合の阻害を決定することにより、効力アッセイで決定されるように、所与の時点の抗体の生物学的活性が、医薬製剤が調製された時点で示された生物学的活性の約10%の範囲内であれば、水性医薬製剤中で「その生物学的活性を保持している」。
【0034】
一実施形態では、抗IgE抗体は、抗IgE抗体の生物学的活性が参照サンプルと比べて約65%と135%の間である場合に、水性医薬組成物中で安定であり、生物学的活性は、約2~8℃で少なくとも3ヶ月間、少なくとも6ヶ月間、少なくとも9ヶ月間、少なくとも12ヶ月間、又は少なくとも18ヶ月間の貯蔵後に評価される。
【0035】
本明細書において使用されるように、「水性」医薬組成物は、水性キャリアが蒸留水である、医薬使用に適した組成物である。医薬使用に適した組成物は、無菌、均質及び/又は等張性であり得る。水性医薬組成物は、水性形態、例えば、すぐに使用可能な予め充填された注射器、若しくは本発明の医薬組成物を含むバイアルから調製される注射器において直接調製されてもよいし(「液体製剤」)、又は使用の直前に再構成される凍結乾燥物として調製されてもよい。本明細書において使用されるように、「水性医薬組成物」という用語は、液体製剤又は再構成される凍結乾燥製剤を指す。ある実施形態では、本発明の水性医薬組成物は、ヒト対象への点眼投与に適している。特定の実施形態では、本発明の水性医薬組成物は、硝子体内投与に適している。
【0036】
本発明の水性医薬組成物は、抗IgE抗体に加えて、さらなる成分、例えば以下のうちの1つ又は複数を含む:(i)安定剤;(ii)緩衝剤;(iii)界面活性剤;及び(iv)約4.7~約5.2の組成物のpH。このような追加の成分のそれぞれを含めることによって、抗IgE抗体の凝集が少ない組成物を得ることができる。好ましくは、本発明の水性医薬組成物は、抗IgE抗体に加えて、(i)安定剤;(ii)緩衝剤;及び(iii)界面活性剤を含む。
【0037】
本発明と共に使用するのに適した安定剤は、例えば、粘度増強剤、増量剤、可溶化剤などの役割を果たすことができる。安定剤は、イオン性又は非イオン性(例えば、糖)であり得る。糖として、単糖、例えば、フルクトース、マルトース、ガラクトース、グルコース、D-マンノース、ソルボースなど;二糖、例えば、ラクトース、スクロース、トレハロース、セロビオースなど;多糖、例えば、ラフィノース、メレジトース、マルトデキストリン、デキストラン、デンプンなど;及びアルジトール、例えば、マンニトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、キシリトール ソルビトール(グルシトール)などが含まれるが、これらに限定されない。例えば、糖は、スクロース、トレハロース、ラフィノース、マルトース、ソルビトール又はマンニトールであり得る。糖は、スクロース又はトレハロースなどの糖アルコール又はアミノ糖であり得る。スクロースが好ましい。イオン性安定剤として、NaClなどの塩を含んでいてもよい。好ましい実施形態では、糖は、3%(w/v)と11%(w/v)の間の濃度で本発明の水性医薬組成物中に存在する。他の実施形態では、糖は、約5%~約10%の濃度のトレハロースである。好ましい実施形態では、水性医薬組成物は、約7%~約9%(w/v)の濃度のトレハロースを含む。別の好ましい実施形態では、水性医薬組成物は、8.5%(w/v)の濃度のトレハロースを含む。
【0038】
本発明と共に使用するのに適した緩衝剤には、有機酸塩、例えば、クエン酸、アスコルビン酸、グルコン酸、炭酸、酒石酸、コハク酸、酢酸又はフタル酸の塩;Tris、トロメタミン塩酸塩、又はリン酸緩衝液が含まれるが、これらに限定されない。さらに、アミノ酸成分も緩衝剤として使用することができる。10~30mMのヒスチジン緩衝液を含むクエン酸又はヒスチジン緩衝液は、特に有用である。好ましい実施形態では、水性医薬組成物は、約1~60mMの間、例えば、約10~40mM、約15~30mM、約15~25mM、約10~20mM、約20mMの濃度の緩衝剤を含む。好ましい実施形態では、水性医薬組成物は、約1~60mMの間、例えば、約10~40mM、約15~30mM、約15~25mM、約10~20mM、約20mMの濃度の緩衝剤を含み、ここで、緩衝剤は、約4~約6のpKaを有するカルボン酸緩衝液である。約4~約6のpKaを有するカルボン酸緩衝液の一例は、6.0のpKaを有するヒスチジンである。また別の好ましい実施形態では、約4.86のpKaを有する酢酸塩が別の緩衝剤である。特定の実施形態では、緩衝剤はヒスチジンである。好ましい実施形態では、水性医薬組成物は、約10~30mMのヒスチジン、例えば約20mMのヒスチジンを含む。
【0039】
好ましい実施形態では、水性医薬組成物は、約10~30mMの酢酸塩、例えば、約20mMの酢酸塩を含む。
【0040】
水性医薬組成物は、改善されたpH制御を提供するために、このような緩衝剤又はpH調整剤を含む。ある実施形態では、本発明の水性医薬組成物は、4.5~約5.5のpHを有する。一実施形態では、本発明の水性医薬組成物のpHは、約4.7~約5.2である。一実施形態では、本発明の水性医薬組成物は、約4.5、約4.7、約4.8、約4.9、約5.0、約5.1、約5.2、約5.3、約5.4又は約5.5のpHを有する。好ましい実施形態では、水性医薬組成物は約4.7のpHを有する。別の好ましい実施形態では、水性医薬組成物は約5.0のpHを有する。別の好ましい実施形態では、水性医薬組成物は約5.2のpHを有する。
【0041】
本明細書において使用されるように、本明細書中の「界面活性剤」という用語は、両親媒性構造を有する有機物質を指す。界面活性剤は、界面活性部分の電荷に応じて、種々の医薬組成物及び生物学的材料の調製物のために非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び分散剤に分類することができる。
【0042】
本発明と共に使用するのに適した界面活性剤には、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤及び両性イオン界面活性剤が含まれるが、これらに限定されない。本発明と共に使用するための典型的な界面活性剤には、ソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート)、ソルビタントリオレエート、グリセリン脂肪酸エステル(例えば、グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリステート、グリセリンモノステアレート)、ポリグリセリン脂肪酸エステル(例えば、デカグリセリルモノステアレート、デカグリセリルジステアレート、デカグリセリルモノリノレエート)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート)、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル(例えば、ポリオキシエチレンソルビトールテトラステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート)、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル(例えば、ポリオキシエチレングリセリルモノステアレート)、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル(例えば、ポリエチレングリコールジステアレート)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)、ポリオキシエチレン水素化ヒマシ油(例えば、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン水素化ヒマシ油)、ポリオキシエチレン蜜ろう誘導体(例えば、ポリオキシエチレンソルビトール蜜ろう)、ポリオキシエチレンラノリン誘導体(例えば、ポリオキシエチレンラノリン)、及びポリオキシエチレン脂肪酸アミド(例えば、ポリオキシエチレンステアリン酸アミド);C10~C18アルキル硫酸塩(例えば、セチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム)、平均2~4モルのエチレンオキシド単位が付加されたポリオキシエチレンC10~C18アルキルエーテル硫酸塩(例えば、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム)、及びC~C18アルキルスルホコハク酸エステル塩(例えば、スルホコハク酸ラウリルエステルナトリウム);並びにレシチン、グリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質(例えば、スフィンゴミエリン)、及びC12~18脂肪酸のスクロースエステルなどの天然界面活性剤が含まれるが、これらに限定されない。組成物は、これらの界面活性剤のうちの1つ又は複数を含み得る。好ましい界面活性剤は、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、例えば、ポリソルベート20、40、60又は80である。ポリソルベート80又はポリソルベート20が特に好ましい。一実施形態では、水性医薬組成物は、0.01%~0.05%のポリソルベート80、又はポリソルベート20(w/v)を含む。別の実施形態では、水性医薬組成物は、0.01%~0.03%のポリソルベート80、又はポリソルベート20(w/v)を含む。好ましい実施形態では、水性医薬組成物は、0.01%、0.02%又は0.03%のポリソルベート20(w/v)を含む。一実施形態では、水性医薬組成物は、0.01%のポリソルベート80(w/v)を含む。一実施形態では、水性医薬組成物は、0.02%のポリソルベート80(w/v)を含む。別の好ましい実施形態では、水性医薬組成物は、0.01%~0.05%のポリソルベート20(w/v)を含む。一実施形態では、水性医薬組成物は0.01%のポリソルベート20(w/v)を含む。一実施形態では、水性医薬組成物は0.02%のポリソルベート20(w/v)を含む。一実施形態では、水性医薬組成物は0.03%のポリソルベート20(w/v)を含む。
【0043】
本発明の水性医薬組成物において利用され得る他の企図される賦形剤には、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、帯電防止剤、リン脂質又は脂肪酸などの脂質、コレステロールなどのステロイド、血清アルブミン(ヒト血清アルブミン)、組換えヒトアルブミン、ゼラチン、カゼインなどのタンパク質賦形剤、ナトリウムなどの塩形成対イオンなどが含まれる。本発明の製剤において使用するのに適したこれらの及びさらなる既知の医薬賦形剤及び/又は添加剤は、例えば、“The Handbook of Pharmaceutical Excipients,4th edition,Rowe et al.,Eds.,American Pharmaceuticals Association(2003);及びRemington:the Science and Practice of Pharmacy,21st edition,Gennaro,Ed.,Lippincott Williams & Wilkins(2005)に記載されるように、当該技術分野において知られている。
【0044】
ある実施形態では、それを必要とする対象を治療するための本発明の水性医薬組成物を提供するために、抗IgE抗体の凍結乾燥が企図される。
【0045】
抗体の凍結乾燥のための技術は当該技術分野において周知であり、例えば、John F.Carpenter and Michael J.Pikal,1997(Pharm.Res.14,969-975);Xialin(Charlie)Tang and Michael J.Pikal,2004(Pharm.Res.21,191-200)を参照されたい。したがって、一実施形態では、本明細書に記載される水性医薬組成物を凍結乾燥することにより調製される凍結乾燥製剤が提供される。別の実施形態では、(i)本明細書に記載される抗VEGF抗体を含む水性医薬組成物を調製するステップと、(ii)水性溶液を凍結乾燥するステップとを含む、凍結乾燥物の調製方法が提供される。
【0046】
凍結乾燥物は、患者に投与され得る前に、水性再構成剤(reconstituent)を用いて再構成されなければならない。このステップにより、凍結乾燥物中の抗体及び他の成分は再溶解され、患者への注射に適した溶液を得ることができる。
【0047】
再構成に使用される水性物質の体積は、得られる医薬組成物中の抗体の濃度を決定する。凍結乾燥前の体積よりも小さい体積の再構成剤による再構成は、凍結乾燥前よりも濃縮された組成物を提供する。再構成ファクター(凍結乾燥後の製剤の体積:凍結乾燥前の製剤の体積)は、1:0.5~1:6であり得る。1:3の再構成ファクターが有用である。上述のように、本発明の凍結乾燥物は、少なくとも50mg/ml(すなわち、少なくとも60、72、80、90、100、110、120、又は130mg/ml)の抗IgE抗体濃度を有する水性組成物を与えるように再構成することができ、再構成剤の体積はそれに応じて選択され得る。必要に応じて、再構成製剤は、患者へ投与する前に、意図される用量を送達するように適切に希釈され得る。
【0048】
凍結乾燥抗体のための典型的な再構成剤には、任意選択的に防腐剤を含有する滅菌水又は緩衝液が含まれる。凍結乾燥物が緩衝剤を含む場合、再構成剤はさらなる緩衝剤(凍結乾燥物の緩衝剤と同一であっても異なっていてもよい)を含んでいてもよいし、或いはその代わりに、緩衝剤を含まなくてもよい(例えば、WFI(注射用水)、又は生理食塩水)。
【0049】
本明細書に記載される水性医薬組成物は、液体形態であってもよい。好ましい実施形態では、水性医薬組成物は液体形態である。一実施形態では、水性医薬組成物は、液体としてバイアル中に含まれる。
【0050】
抗IgE抗体を含む本発明の水性医薬組成物は、様々な疾患又は障害を治療するために使用することができる。抗IgE抗体を含む医薬組成物は、アレルギー、食物アレルギーを治療するために特に有用である。
【0051】
本明細書において使用される「治療する」、「治療すること」及び「治療」という用語は、本明細書に記載される治療学的な処置を指す。「治療」の方法は、障害又は再発性障害を予防し、治癒させ、遅延させ、その重症度を低下させ、又はその1つ若しくは複数の症状を寛解させるため、或いはこのような治療が行われない場合の予測を越えて対象の生存を長引かせるために、このような治療を必要としている対象、例えば、IgE媒介性の障害を有する対象又は最終的にこのような障害を獲得する可能性のある対象への本発明の抗体の投与を用いる。
【0052】
本発明の水性医薬組成物は、患者に投与することができる。本明細書において使用されるように、「対象」又は「患者」という用語は、霊長類、ウサギ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、ヒツジ、及び雌ウシを含むがこれらに限定されない、ヒト及び非ヒト哺乳類を指す。好ましくは、対象又は患者はヒトである。
【0053】
投与は、通常、注射器によるものであろう。したがって、本発明は、本発明の医薬組成物を含む送達デバイス(例えば、注射器)(例えば、予め充填された注射器)と、注射器、及び本発明の医薬組成物を含むバイアルを含むキットとを提供する。患者は、有効量(すなわち、所望の効果を達成する、又は少なくとも部分的に達成するために十分な量)の抗IgE抗体を主要活性成分として受けるであろう。治療有効用量は、疾患に関連する症状又は状態において漸進的な変化さえもたらすことができれば、十分である。治療有効用量は、疾患を完全に治す必要も、症状を完全に排除する必要もない。好ましくは、治療有効用量は、疾患に既に罹患している患者において、疾患及びその合併症を少なくとも部分的に阻止することができる。この使用に有効な量は、治療されている障害の重症度及び患者自身の免疫系の全身状態に依存するであろう。
【0054】
投薬量は、疾患又は状態の治療において通常の技量を有する医師によって既知の服用量調整技術を使用して容易に決定することができる。本発明の水性医薬組成物において使用される抗IgE抗体の治療有効量は、たとえば、所望の薬用量及び投与のモードを考慮に入れることによって決定される。典型的に、治療的に有効な組成物は、用量当たり0.001mg/ml~約200mg/mlの範囲にわたる服用量で投与される。好ましくは、本発明の方法において使用される服用量は、約60mg/ml~約120mg/mlである(すなわち、約60、72、80、90、100、110、又は120mg/mlである)。好ましい実施形態では、本発明の方法において使用される抗IgE抗体の服用量は、72mg/0.6ml又は120mg/mlである。
【0055】
また本発明は、薬剤として使用するため、例えば、抗体を患者に送達するのに使用するため、或いは上記の疾患及び障害の1つ又は複数を治療する又は寛解させるのに使用するための本発明の製剤(すなわち、水性医薬組成物)も提供する。
【0056】
本発明はさらに、本発明の水性医薬組成物を患者に投与するステップを含む、抗IgE抗体を患者に送達するための方法を提供する。
【0057】
ある実施形態では、抗IgE抗体を患者に送達するための本発明の方法は、(i)本発明の凍結乾燥物を再構成して、水性製剤を得るステップと、(ii)水性製剤を患者に投与するステップとを含む。ステップ(ii)は、理想的には、ステップ(i)の24時間以内(例えば、12時間以内、6時間以内、3時間以内、又は1時間以内)に行われる。
【0058】
一実施形態では、水性医薬組成物はバイアル内に含まれる。別の実施形態では、水性医薬組成物は送達デバイス内に含まれる。一実施形態では、このような送達デバイスは、予め充填された注射器である。一実施形態では、抗IgE抗体を患者に送達するための方法は、皮下注射によって水性医薬組成物を投与することを含む。
【0059】
本明細書で使用される場合、「自動使い捨て注射デバイス」又は「オートインジェクター」という用語は、抗体製剤などの液体薬物を全ての患者群に送達するのに適した、予め充填されたガラス又はポリマー注射器用のデバイスを指す。例示的なオートインジェクターは、YpsoMateオートインジェクターである。
【0060】
本発明のある特定の実施形態は、以下に番号付けされるように記載される:
1.- 少なくとも50mg/ml~約150mg/mlの抗IgE抗体、例えばリゲリズマブと、
- 約4.5%~11%(w/v)のトレハロースと、
- 約4~約6のpKaを有する、約5~25mMのカルボン酸緩衝液、好ましくはヒスチジン又は酢酸塩と、
- 約0.01%~約0.05%のポリソルベート20(w/v)又は約0.01%~約0.05%のポリソルベート80(w/v)と
を含む安定な水性医薬組成物であって、
- 組成物のpHが約4.7~約5.2である、水性医薬組成物。
2. 抗IgE抗体がリゲリズマブである、実施形態1に従う水性医薬組成物。
3. 抗IgE抗体が、リゲリズマブのバイオシミラーであるか、又はリゲリズマブと互換性のあることが実証されている抗体である、実施形態1に従う水性医薬組成物。
4. 組成物の粘度が約5~約30mPa-s、好ましくは約20mPa-s以下(約5~約20mPa-s)である、実施形態1~3のいずれかの水性医薬組成物。
5. 組成物のpHが約4.8である、実施形態1~4のいずれかの水性医薬組成物。
6. 組成物のpHが約4.9である、実施形態1~4のいずれかの水性医薬組成物。
7. 組成物のpHが約5.0である、実施形態1~4のいずれかの水性医薬組成物。
8. 組成物のpHが約5.1である、実施形態1~4のいずれかの水性医薬組成物。
9. 組成物のpHが約5.2である、実施形態1~4のいずれかの水性医薬組成物。
10. 約60mg/ml~約120mg/mlの間の抗IgE抗体を含む、実施形態1~9のいずれかの水性医薬組成物。
11. 約120mg/mlの抗IgE抗体を含む、実施形態10の水性医薬組成物。
12. 約0.01%~0.03%のポリソルベート20(w/v)を含む、実施形態1~11のいずれかの水性医薬組成物。
13. 約0.02%のポリソルベート20(w/v)を含む、実施形態12の水性医薬組成物。
14. 約10~25mMのヒスチジン緩衝液を含む、実施形態1~13のいずれかの水性医薬組成物。
15. 約20mMのヒスチジン緩衝液を含む、実施形態14の水性医薬組成物。
16. 約5.5%~9.0%(w/v)のトレハロースを含む、実施形態1~15のいずれかの水性医薬組成物。
17. 約8.5%(w/v)のトレハロースを含む、実施形態16の水性医薬組成物。
18. 8.5%(w/v)のトレハロース、20mMのヒスチジン、0.02%(w/v)のポリソルベート20を含み、組成物のpHが約5.0である、実施形態1~17のいずれかの水性医薬組成物。
19. 約200~270mMのトレハロースを含む、実施形態1~15のいずれかの水性医薬組成物。
20. 約250~270mMのトレハロース、好ましくは約250mMのトレハロースを含む、実施形態1~15のいずれかの水性医薬組成物。
21. 約120mg/mlのリゲリズマブ、約250mMのトレハロース、約20mMのヒスチジン、約0.02%(w/v)のポリソルベート20を含む安定な水性医薬組成物であって、組成物のpHが約5.0である、水性医薬組成物。
22. 前記組成物が2~8℃で少なくとも18カ月間安定している、実施形態1~21のいずれかの水性医薬組成物。
23. 前記組成物が液体である、実施形態1~22のいずれかの水性医薬組成物。
24. 前記組成物が、アルギニン、好ましくはアルギニン-HClを含有しない、実施形態1~23のいずれかの水性医薬組成物。
25. 前記組成物が、50~200mMの量のアルギニン-HClを含有しない、実施形態1~24のいずれかの水性医薬組成物。
26. 抗IgE抗体を対象に送達するための方法であって、実施形態1~25のいずれかの水性医薬組成物を前記対象に投与することを含む方法。
27. IgEによって媒介されるアレルギーを治療する方法であって、実施形態1~25のいずれかの水性医薬組成物を対象に投与することを含む方法。
28. 前記アレルギーが食物アレルギーである、実施形態27の方法。
29. アナフィラキシー、例えば、IgEによって媒介されるアナフィラキシーを治療、予防、又は低減する方法であって、実施形態1~25のいずれかの水性医薬組成物を、それを必要としている対象に投与することを含む方法。
30. 未知の及び/又は不可避なトリガーに起因する再発性の特発性アナフィラキシーを有する対象においてIgE媒介アレルギー反応を治療、予防又は低減する方法であって、実施形態1~25のいずれかの水性医薬組成物を、それを必要としている対象に投与することを含む方法。
31. 少なくとも1つのアレルゲン(例えば、昆虫刺傷/咬傷、毒液、薬物、例えば、ベータ-ラクタム抗生物質、NSAID、生物学的薬剤;空中アレルゲン、職業性アレルゲン、放射線造影剤、天然ゴムラテックス、精液)によって誘発される重度又は重篤なアレルギー性IgE媒介反応を治療、予防又は低減する方法であって、実施形態1~25のいずれかの水性医薬組成物を、それを必要としている対象に投与することを含む方法。
32. 未確認トリガーの重度又は重篤なアレルギー性IgE媒介反応(特発性アナフィラキシー)を治療、予防又は低減する方法であって、実施形態1~25のいずれかの水性医薬組成物を、それを必要としている対象に投与することを含む方法。
33. 前記投与が皮下注射である、実施形態26~32のいずれかの方法。
34. 水性医薬組成物を対象に投与するステップを含む、抗IgE抗体を対象に送達するのに使用するための、実施形態1~25のいずれか1つの水性医薬組成物。
35. 水性医薬組成物を対象に投与することを含む、IgEによって媒介されるアレルギーを治療するのに使用するための、実施形態1~25のいずれか1つの水性医薬組成物。
36. 前記アレルギーが食物アレルギーである、実施形態35に従う使用のための水性医薬組成物。
37. 前記投与が、好ましくはオートインジェクターを用いる皮下注射である、実施形態34~36のいずれかに従う使用のための水性医薬組成物。
38. 実施形態1~25のいずれかの水性医薬組成物を含む剤形。
39. 実施形態1~25のいずれかの水性医薬組成物を含む送達デバイス。
40. 予め充填された注射器である、実施形態39の送達デバイス。
41. オートインジェクターなどの自動使い捨て注射デバイスである、実施形態39の送達デバイス。
【0061】
当業者は、本文で教示される特徴、態様及び実施形態が全て互いに組み合わせ可能であることを理解し、本文の種々の部分からの特徴及び/又は実施形態を組み合わせる特定の態様は、当業者に適切に開示されると考えられるであろう。
【0062】
各実施形態が、そのような組み合わせが実施形態の説明と一致する範囲で、1つ又は複数の他の実施形態と組み合わせ可能であることは理解されるべきである。さらに、上記で提供される実施形態が、実施形態の組み合わせから生じるようなこのような実施形態を含む全ての実施形態を含むと理解されていることも理解されるべきである。
【0063】
本明細書において使用されるように、他に記載されない限り、全ての割合は重量による割合である。
【0064】
本明細書において使用されるように、及び他に記載されない限り、「a」及び「an」という用語は、「1つ」、「少なくとも1つ」又は「1つ又は複数」を意味すると考えられる。文脈により他に要求されない限り、本明細書で使用される単数形の用語は複数形を含むものとし、複数形の用語は単数形を含むものとする。
【0065】
本明細書において使用されるように、「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」、並びに「からなる(consisting)」及び「から本質的になる(essentially consisting of)」を包含し、例えば、Xを含む組成物は排他的にXからなっていてもよいし、或いは付加的な何かを含んでいてもよく、例えば、X+Yであってもよい。
【0066】
「又は」という用語は、文脈が他に明白に示さない限り、本明細書では「及び/又は」という用語を意味するために使用され、「及び/又は」という用語と互換的に使用される。
【0067】
本明細書を通して引用されるあらゆる特許、特許出願、及び参考文献の内容は、参照によってその全体が本明細書に援用される。
【0068】
本発明の他の実施形態は、本明細書の検討及び本明細書に開示される本発明の実施から当業者には明らかであろう。本明細書及び実施例は単なる例として考えられ、本発明の真の範囲及び精神は、以下の請求項及びその等価物によって示されることが意図される。
【実施例
【0069】
以下の実施例は、抗体リゲリズマブを含む安定した高濃度の溶液を提供するのに適した安定化アプローチ及び組成物を特定し、医薬品の規制要件を満たす冷蔵貯蔵条件で少なくとも12ヶ月の貯蔵寿命を有する製剤を可能にするように設計された製剤開発努力を説明する。
【0070】
以下の実施例は、2~8℃貯蔵で少なくとも18ヶ月間安定である、72及び120mg/mlのリゲリズマブ溶液の製剤開発を要約する。製剤開発努力は、凝集粒子の形成を阻害すること、並びに含有量、純度及び効力に対するUSP要件を満たすことに焦点を合わせた。
【0071】
分析方法
表示される実施例全体を通して以下の方法を使用した:SECサイズ排除クロマトグラフィー法又はSE-HPLC(サイズ排除クロマトグラフィー)、CEXカチオン交換クロマトグラフィー、バイオアナライザー(分解生成物の合計)、RP-HPLC、濁度(NTU)、粘度[mPa.s]、レーザー光散乱による分子量、粒子測定(光遮蔽(LO)による)、重量モル浸透圧濃度[mOsm/kg]、rCE-SDSによる純度、効力:IgE受容体結合の阻害、CEX。
【0072】
実施例1.製剤スクリーニング研究
好ましい投与経路として皮下注射に適したリゲリズマブの液体製剤として、液体製剤を開発した。
【0073】
pH改良研究
pH改良研究では、150mg/mLのリゲリズマブ濃度でpH範囲5.0~5.5の評価に焦点が合わせられ、このタンパク質濃度での最適なpH値を評価し、ヒスチジン緩衝液の緩衝能力の改善に通じるpHのわずかな上昇の可能性をチェックした。
【0074】
試験製剤を40℃で4週間貯蔵した後、pH、目視観察による外観、及び分解生成物の合計を評価基準として使用した。沈殿は、pH5.50で生じた。したがって、最初のスクリーニング2のためにpH≦5.25を選択した。
【0075】
一連の可能性な12の液体製剤を試験した。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
【表5】
【0081】
スクリーニングされた安定剤(マンニトール、トレハロース、グリシン)、塩(アルギニン塩酸塩、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム)、及び界面活性剤(ポリソルベート20及び80、ポロキサマー188)が、試験された製剤の品質特性に与える影響を分析した。製剤6、7及び8のあまり好ましくない安定性挙動は、SEC凝集生成物及びSEC分解生成物において、40℃の貯蔵で観察された(データは示さず)。
【0082】
より高感度のフォローアップ研究を設計した。より高いpH値(5.5、5.75、及び6.0)を有する製剤も包含させて、選択された安定剤の存在下、これらのpH値での溶解性を評価した。一方では短い時間枠(3m)内での最良の製剤型の選択を可能にし、他方ではより長期間にわたる安定性データの収集を可能にするために、6mまでの徹底的な安定性プログラム(さらに5℃でのバックアップを追加)を設定した。
【0083】
【表6】
【0084】
製剤15のpHをpH6.00に調整している間に、沈殿が生じた。したがって、この製剤は、安定性プランから削除された。続いて、5℃で貯蔵している間に、製剤14も沈殿した。室温において150rpmで振とう中、そして5℃における貯蔵中に、製剤13に同じことが起こった。これらの製剤は全て、その後に安定性プランから削除された。
【0085】
【表7】
【0086】
製剤9834.01.DN、9834.02.DN、9834.03.DN、9834.04.DN、9834.05.DN、9834.06.DN、及び9834.09.DNについては、凍結/解凍ストレス(-20℃から室温(RT)までの5サイクル)後の分子量平均の増大が検出された。これは、これらの製剤のタンパク質の凝集体の形成を示す。全体として、製剤9834.06.DN、9834.07.DN、9834.08.DN、9834.10.DN、9834.11.DN、9834.12.DNの結果は、マンニトールと比較して、安定剤としてのトレハロースのより優れた適合性を示す。
【0087】
製剤9834.07.DN及び9834.08.DNについては、振とうストレス(150rpmでの振とう:室温で1週間)後に最少量の粒子が観察された。
【0088】
トレハロースの濃度に関しては、製剤9834.07.DN、9834.08.DN及び9834.11.DNについて、6Mのプルポイント(pull point)(25℃)での測定を実行した。270mMのトレハロースを含有する製剤9834.11.DNでは、25℃で6Mの貯蔵後に、より高いか又はより低い濃度のトレハロースを含有する製剤9834.07.DN及び9834.08.DNよりも少ない粒子が測定された。
【0089】
最適化スクリーニングにおいてさらに評価される製剤の選択は、フォーカススクリーニングの最後に選択された最有力候補の製剤に基づいた(150mg/mlのリゲリズマブ、270mMのトレハロース、0.02%のポリソルベート20、及び10mMのヒスチジン)。しかしながら、ヒスチジンは、そのpKaが6.0であるためにpH5.0の緩衝液には最適でないため、最適化スクリーニングでは、可能性のある代替の緩衝剤として酢酸塩(pKa:4.86)を含めることが決定された。10及び20mMの2つの異なる酢酸塩濃度を評価し、20mMの酢酸緩衝液を含有する製剤は、可能性のある貯蔵期間仕様の最後に起こり得るpH範囲においてリゲリズマブのpHロバスト性を評価するために、pH5.0に加えてpH4.7及び5.3で試験した。
【0090】
【表8】
【0091】
粘度、濁度及び重量モル浸透圧濃度及びRP-HPLCを除いて、安定性プログラムの間に、製剤1~4の間で関連のある差異は検出できなかった。ヒスチジンを含有する製剤の粘度は、酢酸塩を含有する製剤の粘度よりも低かった。さらに、粘度は、ヒスチジン濃度に反比例した。また、異なるpH(4.7及び5.3、しかしながら、緩衝液としてヒスチジンの代わりに酢酸塩を使用)に設定された製剤5及び6は、粘度、濁度及び重量モル浸透圧濃度について評価したときに、製剤1~4とは異なっていた(結果は示されない)。これらの結果に基づいて、さらなるスクリーニングのために、20mMのヒスチジンを含有する製剤(製剤10110.02.SR)が選択された。しかしながら、この製剤は、製造プロセスに対応するように適合される必要があり、そのため製剤は、140mg/mLのリゲリズマブ、20mMのヒスチジン、250mMのトレハロースに適合された。さらなる最適化スクリーニングを実行して、リゲリズマブ及びヒスチジンのpH及び濃度が製剤の粘度に与える影響を調査した。
【0092】
【表9】
【0093】
【表10】
【0094】
結果の統計的評価(ソフトウェアJMP、バージョン14.2.0.を使用)は、評価した3つの因子(pH、API濃度、及びヒスチジン濃度)の全てが、粘度に対して有意な影響を与えることを示した。粘度が高くなるほど、pHは低く、ヒスチジン濃度は低く、リゲリズマブ濃度は高くなる。評価は、120mg/mLのリゲリズマブ、20mMのヒスチジン及びpH5.0の場合、予測粘度及び95%信頼区間が20mPa.sをはるかに下回ることを示した。pHを5.0に、そしてヒスチジンを20mMに固定する場合、粘度が20mPa.sを超えないことを95%確信するために、リゲリズマブ濃度は135.15mg/mL以下でなければならない。さらに、pHを4.7(最大粘度を引き起こす)に、そしてヒスチジンを10mM(最大粘度を引き起こす)に固定する場合、粘度が20mPa.sを超えないことを95%確信するために、リゲリズマブ濃度は128mg/mL以下でなければならない。
【0095】
結果に基づいて、オートインジェクターで使用できるようにリゲリズマブ溶液の粘度は20mPa.sよりも低くなければならないので、pH5.0で120mg/mLのリゲリズマブ、20mMのヒスチジン、250mMのトレハロース及び0.02%のポリソルベート20からなる製剤12130.06が好ましい。
【0096】
5℃での貯蔵(長期貯蔵条件)及び25℃/60%相対湿度(RH)での貯蔵(臨床バッチのための加速貯蔵条件)
5℃で24ヶ月の貯蔵後に、全ての結果はまだ臨床製剤の長期貯蔵のために定義された要件の範囲内にある。5℃で60ヶ月の貯蔵後に、全ての結果は長期貯蔵のために定義された要件の範囲内にある。
【0097】
25℃/60%RHで6ヶ月の貯蔵後に、SECによる純度を除いて、全ての結果はまだ長期貯蔵のために定義された要件の範囲内にある。
【0098】
25℃/60%RHで12ヶ月の貯蔵後に、加速貯蔵により予想されるように、結果の一部は、ストレス貯蔵条件により、長期貯蔵のために定義された要件の範囲内に含まれない。
【0099】
これらの結果により、リゲリズマブ120mg/mLの選択された製剤は、医薬品の規制要件を満たすのに適していることが確認される。ヒスチジン緩衝液がpH緩衝液として選択され、選択された20mMの濃度は、リゲリズマブ製剤の目的の用途のために好ましい粘度を示した。ポリソルベート20は、製剤がポロキサマー188を含有する製剤よりも優れた安定性挙動を示したために選択された。トレハロースが安定剤として選択された:270mMの濃度では、フォーカススクリーニングで最良の結果が示され、これは最適化スクリーニング1において確認された。120mg/mLのリゲリズマブの最終濃度がより低い(フォーカススクリーニング及び最適化スクリーニング1での150mg/mLと比較して)ことから、トレハロースの濃度は250mMに適合された。
【0100】
実施例2.製剤と注射器の組み合わせの研究
120mg/mLのリゲリズマブ製剤のpHを5に緩衝させた。本明細書に記載されるように、高感度の抗体製剤との適合性における注射器材料の構築の重要性は、重大な意味を有する。特に、抗体製剤中の粒子に対する潤滑剤又はその不在の影響。さらに、3つの異なる注射器バレルにプランジャーを脱出及び滑走させるのに必要とされる力について比較を行った。
【0101】
通常のガラスと比較して寸法変動が10~100倍低いカスタマイズされた0.2mLのトランスファーシリンジ(transfer syringe)を使用した。一体型ルアーシリンジバレル設計により、ルアーチップ内のデッドボリュームが減少した。小容量の0.2mLのバレルは、従来の1mLの注射器形式と比較して、薬物の無駄がはるかに少なかった。これらの設計強化の組み合わせにより、用量精度5%以内で0.02mLの薬物注射容積が可能になった。さらに、注射器バレル上のシリコーンオイルを置き換えるために、薬物製品へ浸出するオイル様粒子を少なくする革新的な潤滑剤が開発された。潤滑剤は、独特のプラズマ強化学蒸着プロセス(PECVD)によって堆積された。
【0102】
注射器及びプランジャー
3つの異なる1mLのステーキドニードル(staked needle)注射器の組み合わせをこの研究で使用した。これらの組み合わせのうちの2つは、SiO2(PECVD)及びSiO2(NONE)と称されるSiO2ハイブリッド注射器であった。SiO2(PECVD)注射器は、PECVDバリアコーティング系及びPECVD潤滑剤でコーティングした。West Novapure(登録商標)プランジャーをSiO2(PECVD)注射器と共に使用した。SiO2(NONE)注射器は潤滑剤を含まず、PECVD3層バリアコーティング系のみをコーティングした。独自の潤滑剤を含まないプランジャーをSiO2(NONE)注射器と共に使用した。SiO2(PECVD)及びSiO2(NONE)注射器はいずれも、27ゲージ針が埋め込まれた環状オレフィンポリマー(COP)から成形された。
【0103】
Glass(Silicone)と称される基準ホウケイ酸ガラス注射器は、注射器バレル上にスプレー式シリコーンオイル潤滑剤をコーティングした。West Novapure(登録商標)プランジャーをGlass(Silicone)注射器と共に使用した。
【0104】
薬物安定性は、25℃で3及び6ヶ月後、並びに40℃で1、2及び3ヶ月後に、加速条件で評価した。
【0105】
試験方法
凝集体及び粒径の広い範囲をカバーするために、Flowcam(2~80ミクロン)、共鳴質量測定(0.3~4ミクロン)及び分析超遠心分離(1~400ナノメートル(すなわち、0.4ミクロン))を含む3つの異なる分析方法を使用した。
【0106】
本明細書に記載される研究では、VPの100%目視検査のための薬局方方法を、注射器内で貯蔵したリゲリズマブ製剤に適用した。各パッケージングの組み合わせについて同じ20本の注射器を貯蔵前に検査し、貯蔵期間を通して再検査して、その方法の確率的性質を考慮して初期の目視検査を逃れた粒子ではなく、VPの変化をモニターした。全体として、Glass(Silicone)注射器(すなわち、スプレー式シリコーンオイル潤滑剤を有するホウケイ酸ガラス)は、25℃及び40℃での貯蔵後に増大するVPの数が最高であることを示した。SiO2(PECVD)注射器(すなわち、独自の潤滑剤を有するSiO2ハイブリッド注射器)は、Glass(Silicone)注射器と比較してより少ないVPを有したが、40℃の貯蔵時間と共に増大した。SiO2(PECVD)及びGlass(Silicone)注射器中で貯蔵された薬物製剤において検出されたVPのほとんどは、潤滑剤の液滴であった。SiO2(NONE)(すなわち、SiO2ハイブリッド潤滑剤を含まない)は、VPの数が最低であり、両方の温度で時間と共にわずかな増大を示した。
【0107】
肉眼で見えない粒子(SVP)は直径1~100ミクロンであり、目で確実に検出するには小さすぎる。これは、その起源の場所を決定するのに役立つその組成を検出、定量化、及び特徴付けるためにより高度な分析方法の組み合わせを必要とする。注射用薬物製品の場合、SVPは、欧州及び日本のガイダンスと調和している米国薬局方(USP)<788>に従って定量化される。USP<788>ガイダンスの当初の目標は、静脈内薬物注射後に、10及び25ミクロンよりも大きいSVPによるキャピラリーサイズの血管の閉塞を防止することであった。これは主に、例としてガラス又は金属製の固体異物粒子に当てはまる。対照的に、生物学的調製物中のSVPは部分的にタンパク質凝集体であり、これは、免疫原性の増大及び/又は中和抗体形成の増大の可能性のために望ましくない。
【0108】
この研究では、3つの全ての注射器パッケージングの組み合わせで貯蔵されたタンパク質薬物製剤のマイクロフローイメージングにより、2ミクロンよりも大きいSVPを評価した。1)丸いシリコーンオイル液滴、2)非シリコーンオイルのタンパク質様クラスター、及び3)未分類を含む、3つの異なる粒子カテゴリーをその外観に基づいて定義した。SiO2(PECVD)及びGlass(Silicone)注射器からの非シリコーンオイル及び未分類のSVPの大部分は、より小さいシリコーンオイルSVPのクラスターであった。したがって、シリコーンオイル様SVPの数は、実際よりも少なく数えられる。
【0109】
Flowcamを使用して、リゲリズマブ製剤中の2~100ミクロンのサイズ範囲のSVPを測定した。実際には、薬物製剤がSiO2(NONE)注射器内で貯蔵される場合、SVPは検出されなかった。分析超遠心分離(AUC)を使用して、1~400ナノメートル(すなわち、0.4ミクロン)サイズ範囲のモノマー並びに高分子量(HMWS)種及び低分子量種(LMWS)を評価した。
【0110】
脱出(break-loose)力(BLF)及び滑走(gliding)力(GF)の評価は、3つの全ての注射器パッケージングの組み合わせに対して実施した。全体として、3つの全ての注射器パッケージングの組み合わせにおいて、リゲリズマブ製剤の高粘度のために、GFは高かった(すなわち、貯蔵に関わらず、SiO2パッケージングの場合は12~16Nm、40℃で3ヶ月後のスプレー式シリコン処理ガラス注射器の場合はほぼ16N)。より高粘度の流体は、水と比較して流れ抵抗がより高く、したがって、注射中にプランジャーにかかる流体動圧がより大きくなる。さらに、注射器バレルの長さ方向にプランジャーを同じ速度で押し下げるために、より大きい力が必要とされる。
【0111】
PECVD潤滑剤の有無に関わらずSiO2ハイブリッド注射器は、スプレー式シリコン処理ガラス注射器と比較して、界面活性剤を含有する高濃度mAb製剤と共に25℃及び40℃での貯蔵後に、有意に少ない量の肉眼で見えない粒子(SVP)を示した。流体画像評価により、SVPは主にシリコーン液滴であることが示された。潤滑剤を含まないSiO2ハイブリッド注射器では、実質的に潤滑剤液滴を測定することができず、これは、RMMによっても確認された。スプレー式シリコン処理ガラス注射器における25℃及び40℃での貯蔵後に、目に見えるシリコーン液滴が形成されたが、PECVD潤滑化SiO2ハイブリッド注射器では比較的有意に少なかった。潤滑剤を含まないSiO2ハイブリッド注射器では、貯蔵関連の変化は示されなかったが、製造関連の目に見える粒子(VP)が示され、これは、製造プロセス(GMPプロセス)を最適化することによって回避することができる。
【0112】
SVP及びVPについて示されたシリコーンオイルの浸出は、スプレー式シリコン処理ガラス注射器の初期値と比較して、滑走力(最大12~15N)の有意な増大をもたらした。SiO2注射器は貯蔵関連の変化を全く示さなかったが、高濃度の粘性リゲリズマブ製剤では安定した高い滑走力値を示した。ガラス及びSiO2注射器の内層の試験により、スプレー式シリコーン層(ガラス注射器)の実質的に完全な剥離と、プラズマプロセスによって適用されたSiO2層の完全に安定した状態とが証明された。
【0113】
この研究により、タンパク質製剤と、シリコン処理された/シリコーンを含まない注射器パッケージング材料との間に、機能性及び安定性に影響を与える相互作用現象があることが示された。スプレー式シリコン処理された「モバイル」注射器は、生物製剤分子との潜在的な相互作用に関する懸念を引き起こすだけでなく、製剤成分(ポリソルベート及び低pH)のために、そしてタンパク質相互作用のために、シリコーンの枯渇に関する懸念も引き起こす。リゲリズマブ製剤についてのこの研究によると、新規のストッパー(シリコーンコーティングを含まない)と組み合わせた新規のシリコーンを含まないシクロオレフィンポリマー又はガラス注射器は、より良好に機能した。
【0114】
本発明及び本発明の実施形態を詳細に説明した。しかしながら、本発明の範囲は、本明細書において記載されるあらゆるプロセス、製造、合成物、化合物、手段、方法、及び/又はステップの特定の実施形態に限定されるようには意図されない。本発明の精神及び/又は本質的な特徴から逸脱することなく、様々な修飾、置換、及び変更を、開示される構成要素に対してなすことができる。したがって、当業者は、本明細書において記載される実施形態と同じ機能を実質的に実行する又は同じ結果を実質的に実現する後からの修飾、置換、及び/又は変更が、本発明のそのような関係のある実施形態に従って活用されてもよいことを本開示から容易に認識するであろう。したがって、以下の請求項は、本明細書において開示されるプロセス、製造、合成物、化合物、手段、方法、及び/又はステップに対する修飾、置換、及び変更をそれらの範囲内に包含することが意図される。請求項は、記載される順序又は要素に限定されるとして、そういった趣旨の指定のない限り解釈されるべきではない。形態及び詳細における様々な変更が、添付される請求項の範囲から逸脱することなくなされてもよいことが理解されるべきである。
【国際調査報告】