(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-31
(54)【発明の名称】組織へのエネルギ送達によって誘発された溢出
(51)【国際特許分類】
A61N 1/00 20060101AFI20240524BHJP
A61N 1/32 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
A61N1/00
A61N1/32
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575722
(86)(22)【出願日】2022-02-04
(85)【翻訳文提出日】2024-02-01
(86)【国際出願番号】 US2022015217
(87)【国際公開番号】W WO2022260723
(87)【国際公開日】2022-12-15
(32)【優先日】2021-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】PCT/US2021/044469
(32)【優先日】2021-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522244964
【氏名又は名称】ガルヴァナイズ セラピューティクス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ニール セカンド,ロバート イー.
(72)【発明者】
【氏名】オブライエン,ティモシー ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】パストーリ,キアラ
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053JJ02
4C053JJ03
4C053JJ04
4C053JJ05
4C053JJ21
4C053JJ31
4C053JJ40
(57)【要約】
患者の標的組織を治療するためのデバイス、システム、及び方法が提供される。このようなデバイス、システム、及び方法は、流体の溢出を誘発するパルス電場エネルギ又は他のエネルギタイプ等のエネルギを標的組織エリアに送達することを含む。いくつかの例では、溢出は、毛細血管が流体を周囲組織に漏出させる浮腫又は浮腫様のものである。いくつかの実施形態では、誘発された浮腫は標的治療エリア内の分子の局所濃度を上昇させ、分子の可用性を増大させる。同様に、浮腫の効果(例えば間質圧の増大)も分子の可用性を増大させる。標的組織は間質容量を容易に増大できないので、経毛管流体ろ過の比較的小さい増加が間質液圧の大きな上昇を誘発することは認められよう。これによって圧力勾配が生じ、分子を標的組織細胞内へ入るように付勢する。同様に、形成される濃度勾配も、分子を標的組織細胞内へ入るように付勢する。
【選択図】
図5C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の標的組織エリアを治療するためのシステムであって、
前記患者内の前記標的組織エリアの近くに位置決めされるように構成された少なくとも1つのエネルギ送達部を有するエネルギ送達デバイスと、
前記少なくとも1つのエネルギ送達部と電気的に通信している発生器であって、前記標的組織エリア内で溢出を誘発するように、前記少なくとも1つのエネルギ送達部に送達可能なパルス電場エネルギの電気信号を提供するよう構成された少なくとも1つのエネルギ送達アルゴリズムを含む、発生器と、
を備える、システム。
【請求項2】
前記誘発された溢出は、前記標的組織エリアに送出された分子を前記標的組織エリアの細胞内へ入るように付勢するのに充分である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記分子は、薬品、化学療法薬、免疫療法薬、及び/又はモノクローナル抗体を含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記分子は、ポリマーナノ粒子、リポソーム、PEG修飾リポソーム、リポフェクタミン、細胞透過性ペプチド(CPC)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、コレステロール、又は、細胞膜の流動性及び力学と相互作用することが知られている他の物質を含む補助物質を含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
前記エネルギ送達デバイスは、前記患者の前記標的組織エリアへ前記分子を送達するように構成されている、請求項2から4の何れか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記溢出は、前記標的組織エリア内の血管系から前記標的組織エリア内の細胞の周りの間質腔へ分子を送達する、請求項1から5の何れか一項に記載のシステム。
【請求項7】
少なくとも1つのコンポーネントに応答して前記パルス電場エネルギの送達を制御するように構成されたコントローラを更に備える、請求項1から6の何れか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記少なくとも1つのコンポーネントは、前記患者に送達されている分子の流量を検知するセンサを含む、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記少なくとも1つのコンポーネントは、前記患者に分子を送達するように構成された注射器ポンプの圧力を検知するセンサを含む、請求項7に記載のシステム。
【請求項10】
前記少なくとも1つのコンポーネントは、タイマを含み、
前記コントローラは、前記標的組織エリアへの分子送達開始後の所定の時点で前記パルス電場エネルギの送達を実行する、請求項7に記載のシステム。
【請求項11】
前記コントローラは、前記標的組織エリアへの分子送達全体を通して前記パルス電場エネルギの送達を実行する、請求項7から10の何れか一項に記載のシステム。
【請求項12】
前記コントローラは、前記標的組織エリアへの分子送達全体を通して前記パルス電場エネルギの送達を実行し、前記分子送達よりも200~300%長く継続する、請求項7から11の何れか一項に記載のシステム。
【請求項13】
前記コントローラは、前記分子送達後の時間期間に発生する追加の分子送達全体を通して前記パルス電場エネルギの送達を実行する、請求項7から11の何れか一項に記載のシステム。
【請求項14】
前記標的組織エリア内で溢出を誘発するように前記少なくとも1つのエネルギ送達部に送達可能なパルス電場エネルギの前記電気信号は、前記標的組織エリア内で細胞死も発生させる、請求項1から13の何れか一項に記載のシステム。
【請求項15】
前記信号は、パケット間遅延によって分離された少なくとも2つのパケットの二相パルスを含む、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記発生器は更に、前記標的組織エリア内で細胞死を発生させるように前記少なくとも1つのエネルギ送達部に送達可能なパルス電場エネルギの追加の電気信号を提供するよう構成された少なくとも1つの追加のエネルギ送達アルゴリズムを含む、請求項1から13の何れか一項に記載のシステム。
【請求項17】
前記標的組織エリアは、肝臓、膵臓、胃、腸、及び/又は結腸を含む消化器系の細胞を含む、請求項1から16の何れか一項に記載のシステム。
【請求項18】
前記標的組織エリアは、肺、気道、気管支通路、及び/又は肺胞嚢を含む呼吸器系の細胞を含む、請求項1から16の何れか一項に記載のシステム。
【請求項19】
前記標的組織エリアは、膣、子宮、頸部、卵管、卵巣、精巣、陰茎、精巣上体、精管、尿道、前立腺、精嚢、及び/又は尿道球腺を含む生殖器系の細胞を含む、請求項1から16の何れか一項に記載のシステム。
【請求項20】
前記標的組織エリアは、腫瘍又は異常成長の少なくとも一部を含む、請求項1から19の何れか一項に記載のシステム。
【請求項21】
前記エネルギ送達部は、単極で機能するように構成されている、請求項1から20の何れか一項に記載のシステム。
【請求項22】
患者の標的組織エリアを治療するためのシステムであって、
前記標的組織エリアにエネルギを送達するよう構成されると共に前記標的組織エリアに複数の分子を送達するよう構成されたエネルギ送達デバイスと、
前記エネルギ送達デバイスと電気的に通信している発生器であって、前記標的組織エリア内で溢出を誘発する前記少なくとも1つのエネルギ送達部に送達可能なパルス電場エネルギの電気信号を提供するよう構成された少なくとも1つのエネルギ送達アルゴリズムを含み、前記溢出は前記標的組織エリアに送出された分子を前記標的組織エリアの細胞内へ入るように付勢するのに充分である、発生器と、
を備える、システム。
【請求項23】
前記パルス電場エネルギの送達と前記複数の分子の前記送達を調整するコントローラを更に備える、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
前記コントローラは、前記複数の分子の送達開始後の所定の時点で前記パルス電場エネルギの前記送達を開始する、請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
前記コントローラは、前記標的組織エリアの治療全体を通して前記標的組織エリアへの前記パルス電場エネルギ及び分子の同時送達を行う、請求項23又は24に記載のシステム。
【請求項26】
前記標的組織エリア内で溢出を誘発するように前記少なくとも1つのエネルギ送達部に送達可能なパルス電場エネルギの前記電気信号は、前記標的組織エリア内で細胞死も発生させ、
前記標的組織エリアの治療は、前記標的組織エリアの少なくとも一部内での細胞死を含む、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
前記コントローラは、前記標的組織エリアへの分子送達全体を通して前記パルス電場エネルギの送達を実行し、前記分子送達よりも200~300%長く継続する、請求項23から26の何れか一項に記載のシステム。
【請求項28】
前記コントローラは、前記分子送達後の時間期間に発生する追加の分子送達全体を通して前記パルス電場エネルギの送達を実行する、請求項23から27の何れか一項に記載のシステム。
【請求項29】
前記標的組織エリア内で溢出を誘発するように前記少なくとも1つのエネルギ送達部に送達可能なパルス電場エネルギの前記電気信号は、前記標的組織エリア内で細胞死も発生させる、請求項1から28の何れか一項に記載のシステム。
【請求項30】
前記信号は、パケット間遅延によって分離された少なくとも2つのパケットの二相パルスを含む、請求項29に記載のシステム。
【請求項31】
前記発生器は更に、前記標的組織エリア内で細胞死を発生させるように前記少なくとも1つのエネルギ送達部に送達可能なパルス電場エネルギの追加の電気信号を提供するよう構成された少なくとも1つの追加のエネルギ送達アルゴリズムを含む、請求項22に記載のシステム。
【請求項32】
前記追加の電気信号は、パケットを形成する複数のパルスで構成され、
前記複数のパルスの各々は、0.5~200μsの持続時間を有し、
前記パケットは、1~200μsの累積オン時間を有する、請求項31に記載のシステム。
【請求項33】
前記追加の電気信号は、40~100のパケットを含む、請求項31又は32に記載のシステム。
【請求項34】
患者の標的組織エリア内の細胞を殺すためのシステムであって、
前記患者内の前記標的組織エリアの近くに位置決めされるように構成された少なくとも1つのエネルギ送達部を有するエネルギ送達デバイスと、
前記少なくとも1つのエネルギ送達部と電気的に通信している発生器であって、前記標的組織エリア内で溢出を誘発すると共に前記標的組織エリア内で細胞を殺すように、前記少なくとも1つのエネルギ送達部に送達可能なパルス電場エネルギの電気信号を提供するよう構成された少なくとも1つのエネルギ送達アルゴリズムを含む、発生器と、
を備える、システム。
【請求項35】
前記誘発された溢出は、前記標的組織エリアに送出された分子を前記標的組織エリアの細胞内へ入るように付勢するのに充分である、請求項34に記載のシステム。
【請求項36】
前記分子は、薬品、化学療法薬、免疫療法薬、及び/又は、モノクローナル抗体を含み、
前記細胞の少なくともいくつかは、前記分子が入ることによって殺される、請求項35に記載のシステム。
【請求項37】
前記エネルギ送達デバイスは、少なくとも1つのセンサを含む、請求項34から36の何れか一項に記載のシステム。
【請求項38】
前記少なくとも1つのセンサは、前記溢出の効果を監視すると共にセンサフィードバックデータを提供するように構成されている、請求項37に記載のシステム。
【請求項39】
前記システムは、前記センサフィードバックデータ又は前記センサフィードバックデータに基づく情報をユーザに提供するための機構を含む、請求項38に記載のシステム。
【請求項40】
前記発生器は、溢出の誘発を調整するエネルギを送信するように、前記センサフィードバックデータに基づいて前記少なくとも1つのエネルギ送達アルゴリズムを変更するか又は異なるエネルギ送達アルゴリズムに切り換えるように構成されたプロセッサを含む、請求項39に記載のシステム。
【請求項41】
前記システムは、少なくとも1つのセンサを含む、請求項34から36の何れか一項に記載のシステム。
【請求項42】
前記少なくとも1つのセンサは、圧力、温度、インピーダンス、抵抗、キャパシタンス、伝導率、pH、光学特性、コヒーレンス、エコー輝度、蛍光、電気誘電率、光誘電率、及び/又はコンダクタンスを監視するセンサを含む、請求項41に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
[0001] 本出願は、2021年6月10日に出願された「Induced Extravasation by Energy Delivery to Tissue」と題する米国仮特許出願番号第63/209,335号に対する優先権と利益を主張し、また、2020年8月4日に出願された「Enhanced Transfer with Pulsed Electric Fields」と題する米国仮特許出願第63/061,114号、2020年8月4日に出願された「Pulsed Electric Fields in the Eye」と題する米国仮特許出願第63/061,091号、及び、2021年6月10日に出願された「Induced Extravasation by Energy Delivery to Tissue」と題する米国仮特許出願第63/209,335号に対する優先権と利益を主張する、2021年8月4日に出願された「PULSED ELECTRIC FIELD TRANSFER OF MOLECULES TO CELLS WHILE IN THE BODY」と題するPCT/US2021/044469号の米国一部継続出願である。前述の全ての出願の開示は、援用により全体が本願に含まれる。
【背景技術】
【0002】
[0002] 身体内の細胞は規則的に死滅し、その際は新しい細胞が分裂してそれらに置き換わる。しかしながら、細胞が制御不可能に分裂して何の役にも立たない場合、腫瘍として知られる組織の塊が出現する可能性がある。腫瘍は、腫れ(growth)又はしこり(lump)を形成する異常細胞群である。それらは、全身にある多くの細胞のうちいずれか1つで開始し得る。腫瘍は、がん性(悪性)であるか、非がん性(良性)であるか、又は前がん性であるかに応じて、異なる成長と挙動を示す。悪性腫瘍は、通常の境界を越えて成長し、身体の隣接部分に侵入する及び/又は他の臓器に広がる。後者のプロセスは転移と呼ばれ、がんによる死の主な原因である。新生物及び悪性腫瘍は、がんの一般的な名称である。
【0003】
[0003] がん治療には多くの種類がある。受ける治療の種類は、がんの種類と進行度に依存する。がんを患う人の一部は、1種類の治療だけを受ける。しかしながら、ほとんどの人は、例えば外科手術と化学療法及び放射線療法等、複数の治療を組み合わせて受ける。化学療法は、標準化された化学療法レジメンの一部として化学療法薬を使用するがん治療の一種である。化学療法は、治療目的で行われるか、又は延命もしくは症状軽減を目的とする場合がある。化学療法は、腫瘍内科と呼ばれる、特にがんの薬物療法に特化した医学分野の主要カテゴリの1つである。
【0004】
[0004] 従来の化学療法薬は、細胞分裂(有糸分裂)を阻害することによる細胞毒性があるが、これらの薬剤に対するがん細胞の感受性は大きく異なる。多くの場合、化学療法は、細胞に損傷又はストレスを与える方法と考えることができるが、これはアポトーシスが開始した場合に細胞死を招き得る。化学療法の副作用の多くは、原因をたどると、急速に分裂するので細胞分裂抑制薬に対して敏感である正常細胞、つまり、骨髄、消化管、及び毛包の細胞の損傷であり得る。結果として、化学療法の最も一般的な副作用、すなわち、骨髄抑制(血液細胞の生成の低減、従って免疫抑制でもある)、粘膜炎(消化管粘膜の炎症)、及び脱毛症(脱毛)が生じる。化学療法薬は、免疫細胞(特にリンパ球)に対する影響のため、自身に対する免疫系の有害な過活動(いわゆる自己免疫)によって生じる多くの病気で使用されることが多い。これらには、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、血管炎、及びその他の多くのものが含まれる。
【0005】
[0005] 従来の内分泌性ホルモン(主に、乳がんではエストロゲンであり、前立腺がんではアンドロゲンである)からの成長促進信号を阻害する、特定の分子又は遺伝子標的を用いる療法が開発されており、それらは現在ホルモン療法と呼ばれる。これに対して、受容体チロシンキナーゼに関連するもののような成長信号の他の阻害は、標的療法と呼ばれる。(化学療法、ホルモン療法、又は標的療法のいずれにしても)薬品は血流内に導入され、従って原理上は身体内のいかなる解剖学的位置のがんにも対処できるという点で、薬物の使用は通常、がんの全身療法を構成する。全身療法は多くの場合、放射線療法、外科手術、又は温熱療法のような、がんの局所療法(すなわち、その有効性が、使用された解剖学的エリアに限定される治療)を構成する他のモダリティと併用される。
【0006】
[0006] 全身療法は、がんと診断された患者の管理において重要な役割を持っているが、これらの薬剤の多くの使用は明らかに、長期生存者の長期毒性と関連がある。現在及び今後の課題には、急性副作用及び長期的副作用の双方を抑えながら、治療効果を最大化するために細胞毒性薬(及び、マルチモーダル抗がん治療レジメンの他の構成要素)の適切な送達を行うことが含まれる。いくつかの異なる化学療法薬の連続使用は、例えば転移性の結腸がん及び乳がんの患者で発現する腫瘍耐性を克服するためにますます一般的になっており、全生存率の改善を示す証拠がある。とは言っても、これらの患者は多くの場合、複数の化学療法薬に対する相当な暴露が蓄積し、従って累積的な治療関連副作用のリスクが高い。矛盾するようであるが、コントロールされない疾患又は見込みのある積極的抗がん治療が存在しないことよりもむしろ、そのような副作用に耐える患者の能力又は意欲が、急速に、この人々における治療成功の制限要因となり得る。
【0007】
[0007] 従って、がん及び他の腫瘍の療法の改善が望まれている。そのような治療は、安全で、効果的で、合併症を減少させるものでなければならない。また、そのような治療は、様々な種類の分子、特に高分子を細胞へ移動させることを含む療法に適用可能でなければならない。これらの目的のうち少なくともいくつかは、本明細書に記載されているシステム、デバイス、及び方法によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
[0008] 必ずしも一定の縮尺通りでない図面では、異なる図における同様の番号は同様の構成要素を記述し得る。異なる添え字を有する同様の番号は、同様の構成要素の異なる事例(instance)を表し得る。図面は概して、本文書で検討されている様々な実施形態を限定ではなく一例として示す。
【0009】
【
図2】[0010] 肺全体における肺動脈の分布を概略的に示す。
【
図3】[0011] 気管及び右主気管支を介して腫瘍の方へ気管支鏡を前進させる、腫瘍に対する管腔内(endoluminal)アプローチを示す。
【
図4】[0012] 肺通路を介して腫瘍に到達するように前進させる気管支鏡の遠位端を示す。
【
図5A】[0013] 少数の分子が標的組織エリア内に入る一方で、かなりの量が血管内に残っていることを示す。
【
図5B】[0014] 波線で示されているように、エネルギ送達部から標的組織エリアへ調節エネルギが送達されることを示す。
【
図5C】[0015] 溢出と、標的組織エリアが血管からの分子を含む流体及び溶質に浸ることを示す。
【
図6】[0016] 腫瘍内に挿入されたエネルギ送達部を示す。
【
図7】[0017] 以前は腫瘍であったものがこの時点では周縁部まで外側に延出するデブリフィールドであることを示す。
【
図8A】[0018] (矢印で示されているように)隣接する無傷肺組織からデブリフィールド内へ移動する樹状細胞及び他の免疫細胞を示す。
【
図8B】[0019] (矢印で示されているように)デブリフィールドから再び周囲の肺組織内へ移動する樹状細胞及び他の免疫細胞を示す。
【
図9】[0020] 輸入リンパ管に入っていく樹状細胞及び他の免疫細胞を示す。
【
図10】[0021] この時点ではデブリフィールドである原発腫瘍部位を付近のリンパ節及びリンパ節から流れる活性化T細胞と共に示す。
【
図11】[0022] 樹状細胞及び他の免疫細胞がリンパ管を介してリンパ節へ移動し、活性化T細胞が心臓へ移動し、活性化T細胞が身体内の遠隔位置へ移動することを示す。
【
図12】[0023] 肝臓内の転移性腫瘍へ移動する活性化T細胞を示す。
【
図13】[0024] エネルギを標的組織エリアへ送達するためのエネルギ送達システムの一実施形態を示す。
【
図14A】[0025] 溢出を誘発するために用いられる、発生器のエネルギ送達アルゴリズムによって提供されたパルス電場エネルギの例示的な波形を示す。
【
図14B】[0025] 溢出を誘発するために用いられる、発生器のエネルギ送達アルゴリズムによって提供されたパルス電場エネルギの例示的な波形を示す。
【
図15A】[0026] 治療的処置(therapeutic treatment)を行うために用いられる、発生器のエネルギ送達アルゴリズムによって提供された例示的な波形を示す。
【
図15B】[0026] 治療的処置を行うために用いられる、発生器のエネルギ送達アルゴリズムによって提供された例示的な波形を示す。
【
図16A】[0026] 治療的処置を行うために用いられる、発生器のエネルギ送達アルゴリズムによって提供された例示的な波形を示す。
【
図16B】[0026] 治療的処置を行うために用いられる、発生器のエネルギ送達アルゴリズムによって提供された例示的な波形を示す。
【
図17】[0027] 腫瘍治療のために構成された波形の一実施形態を示す。
【
図18A】[0028] 圧力センサの実施形態を示す。
【
図18B】[0028] 圧力センサの実施形態を示す。
【
図18C】[0028] 圧力センサの実施形態を示す。
【
図19】[0029] 処置送達に関連した分子送達の3つの例示的なタイミング実施形態を示す。
【
図20】[0030] 実験室での研究結果を示す。
【
図21A】[0031] エネルギ送達デバイスから局所的に送達される分子及びエネルギを示す。
【
図21B】[0031] エネルギ送達デバイスから局所的に送達される分子及びエネルギを示す。
【
図22】[0032] 複数の歯(tine)を含む、遠位端の近くのエネルギ送達部を有するシャフトを含むエネルギ送達デバイスを示す。
【
図23】[0033] 標的組織を管腔内で治療するために構成されたかご形状(basket shape)を有するエネルギ送達部を含むエネルギ送達デバイスを示す。
【
図24】[0034] 標的組織を管腔内で治療するために構成された形状を有するエネルギ送達部を含むエネルギ送達デバイスの別の実施形態を示す。エネルギ送達部は少なくとも2つの突起を含み、各突起は半径方向外側に延出して内腔壁と接触するようになっている。
【
図25】[0035] 標的組織を管腔内で治療するために構成された形状を有するエネルギ送達部を含むエネルギ送達デバイスの別の実施形態を示す。エネルギ送達部は、電極が搭載されるか又は組み込まれた、膨張可能バルーン等の拡張可能部材を含む。
【
図26】[0036] エネルギ送達デバイスの一実施形態を示す。エネルギ送達部は、内腔壁に接触するよう構成された指先形状を有する。
【発明の概要】
【0010】
[0037] 本明細書に記載されるのは、身体内の標的組織を治療するための装置、システム、及び方法の実施形態である。同様に、本発明は、以下の番号を付けた条項に関する。
【0011】
[0038] 1.患者の標的組織エリアを治療するためのシステムであって、
患者内の標的組織エリアの近くに位置決めされるように構成された少なくとも1つのエネルギ送達部を有するエネルギ送達デバイスと、
少なくとも1つのエネルギ送達部と電気的に通信している発生器であって、標的組織エリア内で溢出を誘発するように、少なくとも1つのエネルギ送達部に送達可能なパルス電場エネルギの電気信号を提供するよう構成された少なくとも1つのエネルギ送達アルゴリズムを含む、発生器と、
を備える、システム。
[0039] 2.誘発された溢出は、標的組織エリアに送出された分子を標的組織エリアの細胞内へ入るように付勢する(bias)のに充分である、請求項1に記載のシステム。
[0040] 3.分子は、薬品、化学療法薬、免疫療法薬、及び/又はモノクローナル抗体を含む、請求項2に記載のシステム。
[0041] 4.分子は、ポリマーナノ粒子、リポソーム、PEG修飾リポソーム、リポフェクタミン、細胞透過性ペプチド(CPC)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、コレステロール、又は、細胞膜の流動性及び力学と相互作用することが知られている他の物質を含む補助物質を含む、請求項2に記載のシステム。
[0042] 5.エネルギ送達デバイスは患者の標的組織エリアへ分子を送達するように構成されている、請求項2から4のいずれかに記載のシステム。
[0043] 6.溢出は標的組織エリア内の血管系から標的組織エリア内の細胞の周りの間質腔へ分子を送達する、請求項1から5のいずれかに記載のシステム。
[0044] 7.少なくとも1つのコンポーネントに応答してパルス電場エネルギの送達を制御するように構成されたコントローラを更に備える、請求項1から6のいずれかに記載のシステム。
[0045] 8.少なくとも1つのコンポーネントは、患者に送達されている分子の流量を検知するセンサを含む、請求項7に記載のシステム。
[0046] 9.少なくとも1つのコンポーネントは、患者に分子を送達するように構成された注射器ポンプの圧力を検知するセンサを含む、請求項7に記載のシステム。
[0047] 10.少なくとも1つのコンポーネントはタイマを含み、コントローラは、標的組織エリアへの分子送達開始後の所定の時点でパルス電場エネルギの送達を実行する、請求項7に記載のシステム。
[0048] 11.コントローラは、標的組織エリアへの分子送達全体を通してパルス電場エネルギの送達を実行する、請求項7から10のいずれかに記載のシステム。
[0049] 12.コントローラは、標的組織エリアへの分子送達全体を通してパルス電場エネルギの送達を実行し、分子送達よりも200~300%長く継続する、請求項7から11のいずれかに記載のシステム。
[0050] 13.コントローラは、分子送達後の時間期間に発生する追加の分子送達全体を通してパルス電場エネルギの送達を実行する、請求項7から11のいずれかに記載のシステム。
[0051] 14.標的組織エリア内で溢出を誘発するように少なくとも1つのエネルギ送達部に送達可能なパルス電場エネルギの電気信号は、標的組織エリア内で細胞死も発生させる、請求項1から13のいずれかに記載のシステム。
[0052] 15.信号はパケット間遅延によって分離された少なくとも2つのパケットの二相パルスを含む、請求項14に記載のシステム。
[0053] 16.各パケットは10~40の二相パルスを含む、請求項15に記載のシステム。
[0054] 17.二相パルスの各々は1000μsのサイクル遅延によって分離されている、請求項16に記載のシステム。
[0055] 18.各パケットは70~100μsのオン時間を有する、請求項15から17のいずれかに記載のシステム。
[0056] 19.少なくとも2つのパケットは50~200のパケットを含む、請求項15から18のいずれかに記載のシステム。
[0057] 20.パケット間遅延は3~6秒の範囲内である、請求項15から19のいずれかに記載のシステム。
[0058] 21.電気信号は3000V~6000Vの範囲内の電圧を有する、請求項15から20のいずれかに記載のシステム。
[0059] 22.信号は100~400kHzの範囲内の周波数を有する、請求項15から21のいずれかに記載のシステム。
[0060] 23.発生器は更に、標的組織エリア内で細胞死を発生させるように少なくとも1つのエネルギ送達部に送達可能なパルス電場エネルギの追加の電気信号を提供するよう構成された少なくとも1つの追加のエネルギ送達アルゴリズムを含む、請求項1から13のいずれかに記載のシステム。
[0061] 24.電気信号は、500μsよりも大きいパルス幅を有する複数のパルスで構成されている、請求項23に記載のシステム。
[0062] 25.複数のパルスのうち少なくとも1つは10μs~10秒の遅延によって分離されている、請求項24に記載のシステム。
[0063] 26.複数のパルスの各々は二相である、請求項24に記載のシステム。
[0064] 27.複数のパルスのうち少なくとも1つは1μs~1秒の遅延によって分離されている、請求項26に記載のシステム。
[0065] 28.追加の電気信号はパケットを形成する複数のパルスで構成され、複数のパルスの各々は0.5~200μsの持続時間を有し、パケットは1~200μsの累積オン時間を有する、請求項23から27のいずれかに記載のシステム。
[0066] 29.追加の電気信号は40~100のパケットを含む、請求項28に記載のシステム。
[0067] 30.標的組織エリアは、肝臓、膵臓、胃、腸、及び/又は結腸を含む消化器系の細胞を含む、請求項1から29のいずれかに記載のシステム。
[0068] 31.標的組織エリアは、肺、気道、気管支通路、及び/又は肺胞嚢を含む呼吸器系の細胞を含む、請求項1から29のいずれかに記載のシステム。
[0069] 32.標的組織エリアは、膣、子宮、頸部、卵管、卵巣、精巣、陰茎、精巣上体、精管、尿道、前立腺、精嚢、及び/又は尿道球腺を含む生殖器系の細胞を含む、請求項1から29のいずれかに記載のシステム。
[0070] 33.標的組織エリアは腫瘍又は異常成長の少なくとも一部を含む、請求項1から32のいずれかに記載のシステム。
[0071] 34.エネルギ送達部は単極で機能するように構成されている、請求項1から33のいずれかに記載のシステム。
[0072] 35.患者の標的組織エリアを治療するためのシステムであって、
標的組織エリアにエネルギを送達するよう構成されると共に標的組織エリアに複数の分子を送達するよう構成されたエネルギ送達デバイスと、
電気的に通信している発生器であって、標的組織エリア内で溢出を誘発する少なくとも1つのエネルギ送達部に送達可能なパルス電場エネルギの電気信号を提供するよう構成された少なくとも1つのエネルギ送達アルゴリズムを含み、溢出は標的組織エリアに送出された分子を標的組織エリアの細胞内へ入るように付勢するのに充分である、発生器と、
を備える、システム。
[0073] 36.パルス電場エネルギの送達と複数の分子の送達を調整するコントローラを更に備える、請求項35に記載のシステム。
[0074] 37.コントローラは、複数の分子の送達開始後の所定の時点でパルス電場エネルギの送達を開始する、請求項36に記載のシステム。
[0075] 38.コントローラは、標的組織エリアの治療全体を通して標的組織エリアへのパルス電場エネルギ及び分子の同時送達を行う、請求項36から37のいずれかに記載のシステム。
[0076] 39.標的組織エリア内で溢出を誘発するように少なくとも1つのエネルギ送達部に送達可能なパルス電場エネルギの電気信号は、標的組織エリア内で細胞死も発生させ、標的組織エリアの治療は標的組織エリアの少なくとも一部内での細胞死を含む、請求項38に記載のシステム。
[0077] 40.コントローラは、標的組織エリアへの分子送達全体を通してパルス電場エネルギの送達を実行し、分子送達よりも200~300%長く継続する、請求項36から39のいずれかに記載のシステム。
[0078] 41.コントローラは、分子送達後の時間期間に発生する追加の分子送達全体を通してパルス電場エネルギの送達を実行する、請求項36から40のいずれかに記載のシステム。
[0079] 42.標的組織エリア内で溢出を誘発するように少なくとも1つのエネルギ送達部に送達可能なパルス電場エネルギの電気信号は、標的組織エリア内で細胞死も発生させる、請求項1からから41のいずれかに記載のシステム。
[0080] 43.信号はパケット間遅延によって分離された少なくとも2つのパケットの二相パルスを含む、請求項42に記載のシステム。
[0081] 44.各パケットは10~40の二相パルスを含む、請求項43に記載のシステム。
[0082] 45.二相パルスの各々は1000μsのサイクル遅延によって分離されている、請求項43から44のいずれかに記載のシステム。
[0083] 46.各パケットは70~100μsのオン時間を有する、請求項43から45のいずれかに記載のシステム。
[0084] 47.少なくとも2つのパケットは50~200のパケットを含む、請求項43から46のいずれかに記載のシステム。
[0085] 48.パケット間遅延は3~6秒の範囲内である、請求項43から47のいずれかに記載のシステム。
[0086] 49.電気信号は3000V~6000Vの範囲内の電圧を有する、請求項43から48のいずれかに記載のシステム。
[0087] 50.信号は100~400kHzの範囲内の周波数を有する、請求項43から49のいずれかに記載のシステム。
[0088] 51.電気信号は、500μsよりも大きいパルス幅を有する複数のパルスで構成されている、請求項35に記載のシステム。
[0089] 52.複数のパルスのうち少なくとも1つは10μs~10秒の遅延によって分離されている、請求項51に記載のシステム。
[0090] 53.複数のパルスの各々は二相である、請求項51に記載のシステム。
[0091] 54.複数のパルスのうち少なくとも1つは1μs~1秒の遅延によって分離されている、請求項53に記載のシステム。
[0092] 55.発生器は更に、標的組織エリア内で細胞死を発生させるように少なくとも1つのエネルギ送達部に送達可能なパルス電場エネルギの追加の電気信号を提供するよう構成された少なくとも1つの追加のエネルギ送達アルゴリズムを含む、請求項35に記載のシステム。
[0093] 56.追加の電気信号はパケットを形成する複数のパルスで構成され、複数のパルスの各々は0.5~200μsの持続時間を有し、パケットは1~200μsの累積オン時間を有する、請求項55に記載のシステム。
[0094] 57.追加の電気信号は40~100のパケットを含む、請求項55から56のいずれかに記載のシステム。
[0095] 58.標的組織エリアは、肝臓、膵臓、胃、腸、及び/又は結腸を含む消化器系の細胞を含む、請求項35から57のいずれかに記載のシステム。
[0096] 59.標的組織エリアは、肺、気道、気管支通路、及び/又は肺胞嚢を含む呼吸器系の細胞を含む、請求項35から57のいずれかに記載のシステム。
[0097] 60.標的組織エリアは、膣、子宮、頸部、卵管、卵巣、精巣、陰茎、精巣上体、精管、尿道、前立腺、精嚢、及び/又は尿道球腺を含む生殖器系の細胞を含む、請求項35から57のいずれかに記載のシステム。
[0098] 61.標的組織エリアは腫瘍又は異常成長の少なくとも一部を含む、請求項35から60のいずれかに記載のシステム。
[0099] 62.エネルギ送達部は単極で機能するように構成されている、請求項35から61のいずれかに記載のシステム。
[00100] 63.患者の標的組織エリア内の細胞を殺すためのシステムであって、
患者内の標的組織エリアの近くに位置決めされるように構成された少なくとも1つのエネルギ送達部を有するエネルギ送達デバイスと、
少なくとも1つのエネルギ送達部と電気的に通信している発生器であって、標的組織エリア内で溢出を誘発すると共に標的組織エリア内で細胞を殺すように、少なくとも1つのエネルギ送達部に送達可能なパルス電場エネルギの電気信号を提供するよう構成された少なくとも1つのエネルギ送達アルゴリズムを含む、発生器と、
を備える、システム。
[00101] 64.誘発された溢出は、標的組織エリアに送出された分子を標的組織エリアの細胞内へ入るように付勢するのに充分である、請求項63に記載のシステム。
[00102] 65.分子は、薬品、化学療法薬、免疫療法薬、及び/又はモノクローナル抗体を含み、細胞の少なくともいくつかは分子が入ることによって殺される、請求項64に記載のシステム。
[00103] 66.エネルギ送達デバイスは少なくとも1つのセンサを含む、請求項63から65のいずれかに記載のシステム。
[00104] 67.少なくとも1つのセンサは、溢出の効果を監視すると共にセンサフィードバックデータを提供するように構成されている、請求項66に記載のシステム。
[00105] 68.システムは、センサフィードバックデータ又はセンサフィードバックデータに基づく情報をユーザに提供するための機構を含む、請求項67に記載のシステム。
[00106] 69.発生器は、溢出の誘発を調整するエネルギを送信するように、センサフィードバックデータに基づいて少なくとも1つのエネルギ送達アルゴリズムを変更するか又は異なるエネルギ送達アルゴリズムに切り換えるように構成されたプロセッサを含む、請求項68に記載のシステム。
[00107] 70.システムは少なくとも1つのセンサを含む、請求項63から65のいずれかに記載のシステム。
[00108] 71.少なくとも1つのセンサは、圧力、温度、インピーダンス、抵抗、キャパシタンス、伝導率、pH、光学特性、コヒーレンス、エコー輝度、蛍光、電気誘電率、光誘電率、及び/又はコンダクタンスを監視するセンサを含む、請求項70に記載のシステム。
[00109] 72.患者内の標的組織エリアを調節するための方法であって、
標的組織エリアの近くに少なくとも1つの電極を位置決めすることと、
少なくとも1つの電極を介して標的組織エリアへパルス電場エネルギを送達することと、を含み、
パルス電場エネルギは、標的組織エリア内で浮腫を発生させる溢出を誘発するように構成されている、方法。
[00110] 73.患者に複数の分子を送達して、誘発された溢出が標的組織エリア内で複数の分子からの分子の濃度を上昇させるようにすることを更に含む、請求項72に記載の方法。
[00111] 74.パルス電場エネルギは標的組織エリアを治療するように構成され、複数の分子の送達は、標的組織エリアを治療するためのパルス電場エネルギの送達全体を通して実行される、請求項73に記載の方法。
[00112] 75.標的組織エリアの治療は標的組織エリア内の細胞を殺すことを含む、請求項74に記載の方法。
[00113] 76.標的組織エリアは腫瘍を含み、標的組織エリア内の細胞を殺すことは腫瘍を実質的に破壊することを含む、請求項75に記載の方法。
[00114] 77.パルス電場エネルギは標的組織エリアを治療するように構成され、複数の分子の送達は、標的組織エリアを治療するためのパルス電場エネルギの送達の第1の部分の間のみ実行される、請求項73に記載の方法。
[00115] 78.第1の部分は標的組織エリアを治療するためのパルス電場エネルギの送達の25~33%を含む、請求項77に記載の方法。
[00116] 79.パルス電場エネルギは標的組織エリアを治療するように構成され、複数の分子の送達は、標的組織エリアを治療するためのパルス電場エネルギの送達の第1の部分及び標的組織エリアを治療するためのパルス電場エネルギの送達の最後の部分の間のみ実行される、請求項73に記載の方法。
[00117] 80.第1の部分は標的組織エリアを治療するためのパルス電場エネルギの送達の25%を含み、第2の部分は標的組織エリアを治療するためのパルス電場エネルギの送達の25%を含む、請求項79に記載の方法。
[00118] 81.標的組織エリアは患者の血管系の近くであり、エネルギは、標的組織エリア内で浮腫を発生させる血管系からの流体の溢出を誘発するように構成されている、請求項72に記載の方法。
[00119] 82.血管系に複数の分子を送達することを更に含み、エネルギは、流体と共に複数の分子の一部の溢出を誘発するように構成されている、請求項81に記載の方法。
[00120] 83.標的組織エリアは患者のリンパ管の近くであり、エネルギは、標的組織エリア内で浮腫を発生させるリンパ管からの流体の溢出を誘発するように構成されている、請求項72に記載の方法。
[00121] 84.標的組織エリアは、肝臓、膵臓、胃、腸、及び/又は結腸を含む消化器系の細胞を含む、請求項72に記載の方法。
[00122] 85.標的組織エリアは、肺、気道、気管支通路、及び/又は肺胞嚢を含む呼吸器系の細胞を含む、請求項72に記載の方法。
[00123] 86.標的組織エリアは、膣、子宮、頸部、卵管、卵巣、精巣、陰茎、精巣上体、精管、尿道、前立腺、精嚢、及び/又は尿道球腺を含む生殖器系の細胞を含む、請求項72に記載の方法。
[00124] 87.標的組織エリアは腫瘍又は異常成長の少なくとも一部を含む、請求項72に記載のシステム。
[00125] 88.少なくとも1つの電極を介して標的組織エリアへ第2のエネルギを送達することを更に含み、第2のエネルギは標的組織エリアをアブレーションするように構成されている、請求項72に記載の方法。
[00126] 89.第2のエネルギはパルス電場アブレーションエネルギを含む、請求項88に記載の方法。
[00127] 90.第2のエネルギは、マイクロ波アブレーションエネルギ、高周波アブレーションエネルギ、冷凍アブレーションエネルギ、及び/又は高密度焦点式超音波(HIFU)エネルギを含む、請求項88に記載の方法。
[00128] 91.標的組織エリアは患者の血管系の近くであり、エネルギは、標的組織エリア内で浮腫を発生させる血管系からの流体の溢出を誘発するように構成されている、請求項72に記載の方法。
[00129] 92.患者内の標的細胞の近くの複数の分子の濃度を上昇させるための方法であって、
複数の分子を患者に導入することと、
患者内に少なくとも1つの電極を位置決めすることと、
標的細胞間で複数の分子の濃度を上昇させるよう溢出を誘発するように、少なくとも1つの電極を介してパルス電場エネルギを送達することと、
を含む、方法。
【0012】
[00130] これら及び他の実施形態は、添付図面に関連した以下の記載に詳述されている。
【0013】
(文献の引用)
[00131] 本明細書で言及されている全ての公報、特許、及び特許出願は、それぞれの公報、特許、又は特許出願が特定して個別に援用により組み込まれると示された場合と同様に、援用により本願に含まれる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[00132] 患者の身体内の標的組織の治療を改善するための、特に患者の身体内の腫瘍の治療を改善するためのデバイス、システム、及び方法が提供される。腫瘍は通常、全身的に又は局所的に、化学療法又は腫瘍部位への他の分子の送達を含む多種多様な方法によって治療される。本明細書に記載されているデバイス、システム、及び方法は、特に、細胞への分子の取り込み、細胞死の最終的な増大、及び腫瘍除去の改善に関連した、結果(outcome)改善を提供する。
【0015】
[00133] このようなデバイス、システム、及び方法は、パルス電場エネルギ(PEF:pulsed electric field energy)又は他の適切なエネルギタイプ等のエネルギを送達して、標的組織エリアへの流体の溢出を誘発し、任意選択的に分子の溢出も誘発することを含む。いくつかの例では、エネルギは治療エネルギと同一であり、他の例では、エネルギは特定の調節エネルギ等の異なるものである。エネルギが同一である場合は双方をPEFエネルギとすればよく、エネルギが異なる場合は、調節エネルギをPEFエネルギとして、治療エネルギを、異なる波形又は治療パラメータを有するPEFエネルギとすればよく、又は、エネルギを、マイクロ波アブレーション、高周波アブレーション、冷凍アブレーション、及び/又は高密度焦点式超音波(HIFU:high intensity focused ultrasound)等の異なるタイプとしてもよい。
【0016】
[00134] いくつかの実施形態では、PEFエネルギを用いて、損傷組織、病変組織、異常組織、閉塞組織、がん組織、又は望ましくない組織(例えば腫瘍、良性腫瘍、悪性腫瘍、嚢胞、又は病変組織の一領域等)を治療する。エネルギは、非熱であるように(すなわち、熱アブレーションを引き起こす閾値未満で)送達される。この結果、細胞外基質が存在する場合、細胞外基質は保存され、標的組織は血管とリンパ管を含む構造アーキテクチャを維持する。従って、組織の統合性及び機能性の維持にとって不可欠である、生物学的管腔、血管、神経等の敏感な構造を保存することができる。これによって多くの利点が得られる。まず、これにより、従来の方法では治療不可能であると見なされることが多い組織の治療が可能となる。敏感な構造の近くにある標的組織は通常、この組織を敏感な構造から完全かつ有効に外科的に分離できないので、外科的方法によって切除不能である。同様に、多くの従来の非外科的治療は、治療によって敏感な構造を損傷する可能性があるため、又は、敏感な構造に近いので治療が無効であると見なされるため、禁忌である。更に、敏感な構造の近くの組織を治療できると、敏感な構造の近くに悪性縁が残らないので、より総合的な治療が提供される。また、組織が治療された後、構造アーキテクチャが残存しているので、免疫系の構成要素のような生物学的要素の自然流入、又は治療的処置を促進する様々な薬剤の導入が可能である。
【0017】
[00135] 本明細書全体合を通して、溢出を誘発するエネルギを調節エネルギと呼ぶことは認められるであろうが、いくつかの例では、調節エネルギが治療エネルギでもあることは認められよう。溢出は典型的に、付近の血管系、リンパ管、又はエネルギを受ける他の組織から生じる。いくつかの例では、溢出は、毛細血管が流体を周囲組織に漏出させる浮腫又は浮腫様のものである。浮腫は、細胞内で(細胞浮腫)又は間質腔に分布するコラーゲンムコ多糖基質内で(間質浮腫)、異常な量の流体が組織内に蓄積する場合に発生する。本明細書に記載されているデバイス、システム、及び方法は、細胞外基質の腫れすなわち間質浮腫に焦点を当てている。自然発生の間質浮腫は、微小血管壁に作用する圧力(静水圧及び膠質浸透圧)の異常な変化、透水係数及び血漿タンパクの浸透反射係数の変化として現れる、内皮壁に流体及び溶質流束に対する障壁を含む分子構造の変化、又は、リンパ流出系の変化の結果として起こり得る。しかしながら、本明細書に記載されているデバイス、システム、及び方法は、特殊なエネルギの送達によって浮腫又は溢出を誘発する。いくつかの例では、血管からの流体溢出により、標的組織エリア内へ静脈内で送達される分子を運ぶ。他の例では、分子は注入等によって局部的に又は局所的に送達され、血管からの流体溢出によって溢出エリア内に分子を集中させる。また、更に別の例では、例えば治療の標的組織エリアを調整するため、分子を送達することなく溢出のみを利用する。
【0018】
[00136] 誘発された溢出は、治療にとって様々な有益な効果を有する。治療的処置の改善の例は、限定ではないが、いくつかの例を挙げると、標的組織の調節、分子の可用性の増大、分子の可用性の均一性の増大、自然に制約された標的組織に対するアクセスの増大、より大きい治療エリアの生成、及び、望ましくない副作用の可能性の低下を含む。これらの各々については、以下で更に詳しく記載する。
【0019】
I.概説
A.溢出及び治療法
[00137] 本明細書に記載されているデバイス、システム、及び方法は、様々な解剖学的位置における多種多様なタイプの標的組織の治療に適している。いくつかの実施形態において、標的組織は異常組織である。異常組織は、損傷組織、病変組織、閉塞組織、がん組織、又は望ましくない組織等、様々な異なる形態をとり得る。いくつかの例において、異常組織は、良性腫瘍又は悪性腫瘍等の腫瘍、嚢胞、又は病変組織の一領域である。異常組織の最も厄介なタイプの1つは、がんに関するものである。例示の目的のため、肺の解剖学的構造におけるがん性腫瘍の治療に関する実施形態を提供する。しかしながら、同じデバイス、システム、及び方法によって他のタイプの組織を治療できること、及び他の身体位置を治療できることは認められよう。例えば、溢出を受けるように、毛細血管の充分に近くに位置する組織を治療することができる。同様に、低侵襲アクセスから利益を得るように、血管、食道、胃、膵管、胆管、小腸、大腸、結腸、直腸、膀胱、尿道、集合尿細管、子宮、膣、卵管、尿管、尿細管、脊柱管、脊髄、気道、鼻腔、口、心腔、心臓内腔、腎臓内腔、及び臓器内腔等、管腔内アクセス用の管腔の充分に近くに位置する組織を治療することができる。しかしながら、経皮的又は外科的な方法のような他の方法によって、管腔に充分に近くない組織にアクセスできることは認められよう。
【0020】
[00138]
図1は、患者Pの肺L内の腫瘍Tを示す。腫瘍Tは、肺Lの右肺上葉内に位置している。
図2に示されているように、肺の解剖学的構造は高度に血管が発達している。
図2は、肺L全体における肺動脈の分布を概略的に示す。従って、肺L内の多くの位置は血管の近くに位置している。
図3は、腫瘍Tに対する管腔内アプローチを示す。ここでは、気管及び右主気管支を介して腫瘍Tの方へ気管支鏡50を前進させる。
図4は、腫瘍Tに到達するように肺通路内を前進させた気管支鏡50の遠位端を示す。次いで、気管支鏡50の遠位端から腫瘍Tの方へ、カテーテル又は器具又はエネルギ送達デバイス102を前進させる。この例では、エネルギ送達デバイス102は細長いシャフト106を有し、その遠位端に少なくとも1つのエネルギ送達部108を、その近位端にハンドル110を備えている。エネルギ送達デバイス102は、治療システム100の一部としての発生器104に接続可能である。これについては後の項で詳述する。
図4は、気管支鏡50から現れて肺通路の方へ向かっているエネルギ送達デバイス102を示す。この実施形態において、エネルギ送達部108は、肺通路の壁及び腫瘍Tを突き刺すことができる針の形態を有する。
【0021】
[00139]
図5Aから
図5Cは、溢出手順の複数の段階における、
図1の肺Lの腫瘍Tの近くの部分を示す。この実施形態において、エネルギ送達デバイス102は、細長いシャフト106と、細長いシャフト106の遠位端の近くに配置されたエネルギ送達部108と、を含む。前述のように、この実施形態では、エネルギ送達部108は単一の電極から成り、遠位先端部103は腫瘍Tを突き刺すように構成されている。他の実施形態では、エネルギ送達部108は傷つけない先端部を有し、組織を突き刺すことができる別個の器具を介して送達される。
図5Aで示されているように、エネルギ送達部108は、毛細血管のような血管BVの近くで腫瘍T内に位置決めされる。この実施形態では、静脈内(IV:intravenous)投与等によって血管BVを介して標的組織エリア(例えば腫瘍T)に分子110が送達される。このような分子110は、実行される治療に対して特有である。この例では、分子110は、腫瘍Tに対する治療効果を強化するための化学療法薬を含む。このような治療効果強化は、特に熱損傷の可能性を抑えながら、治療的処置の有効性を高めるか、又は、より大きい治療エリアを治療する能力を向上させることができる。がん性腫瘍に基づいて提供される例は例示の目的のものであり、本明細書に記載されている原理は他の望ましくない組織又は病変組織の治療にも適用され得ることは認められよう。同様に、他の薬品、薬剤、又は分子(例えば、DNAプラスミド、RNA(例えばメッセンジャーRNA(mRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA)、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、タンパク質、及び/又は、細胞挙動の遺伝子変化もしくは後成的変化を引き起こす物質)を、標的組織の治療的処置において送達することができ、化学療法薬に限定されない。このような薬品、薬剤、又は分子は、まとめて分子と見なされる。分子の例については後の節で更に記載する。他の実施形態において、分子110は、エネルギ送達デバイス102自体によって、又はカテーテルもしくは針注入のような別個のデバイスによって送達されることは認められよう。
【0022】
[00140]
図5Aは、わずかな分子110のみが標的組織エリア内に入るが、かなりの量が血管BV内に残っていることを示す。次いで、
図5Bに示されているように、波線113で示されている通り、エネルギ送達部108から標的組織エリアへ少なくとも1回分(dose)のエネルギを送達する。典型的に、エネルギは特殊な形態のPEFエネルギを含むが、所望の溢出を発生させるため他のタイプの特殊エネルギを使用してもよいことは認められよう。この実施形態において、特殊なPEFエネルギは、例えば透水係数及び血漿タンパクの浸透反射係数に影響を及ぼすことにより、血管BV内の内皮細胞の流体-障壁機能的統合性を可逆的に分断する。この分断によって、障壁は、血液から周囲組織の間質への流体及び高分子の移動を制限できる能力が低くなる。これにより、
図5Cで示されているように溢出が生じ、標的組織エリアは、血管BVからの分子110を含む流体及び溶質に浸る。PEFエネルギは典型的に、標的エリアにおいて最小限の細胞破壊を引き起こしつつ、毛細血管を分断する。しかしながら、このような分断は、がん又は異常組織の治療等、細胞を死滅させることを意図した治療と共に利用され得ることは認められよう。
【0023】
[00141] この溢出プロセスは、5秒、又は30秒から15分等、ある時間期間にわたって発生し得るが、溢出は典型的に30秒~30分実行される。従って、溢出プロセス中、その利点を最大化するように様々なやり方で分子110の送達を時間調整することができる。いくつかの例では、血流における分子110の最大の濃度と可用性を保証するため、PEFエネルギ送達前に血管系への分子110の送達を開始することが望ましい。いくつかの例では、PEFエネルギ送達全体を通して分子110を連続的に送達することが望ましい。また、他の例では、PEFエネルギ送達中の様々な時点で又は様々な時間期間にわたって分子を送達することが望ましい。溢出及び浮腫発生の時間期間の長さは、標的臓器、使用するパラメータ、及び治療の具体的な目的を含む多種多様な要因に応じて、様々に変動し得る。例えば、高い全身濃度で提供されない分子110は、治療手順前及び/又は治療手順中に最大の溢出効果を与える可能性がある。同様に、生体利用効率が高い分子110は、治療手順前及び/又は治療手順中に低い溢出効果を与える可能性がある。典型的に、血管BVは、血管BVを通る分子110の濃度が最高である期間中に漏れが最大となり、これによって標的組織エリア間質環境への分子110の最大の溢出を達成することが望ましい。
【0024】
[00142] 誘発された溢出は、様々な利点を与える。例示的な利点には、限定ではないが、より大きい治療エリアの生成、治療的処置を受容しやすくする治療エリアの調節、分子の可用性の増大、分子の可用性の均一性の増大、例えば血液脳関門を通る自然に制約された位置に対する分子の送達の増大、及び、治療で生じ得る副作用の可能性の低下が含まれる。これらの各々については後の節で更に詳しく記載する。
【0025】
[00143] この実施形態において、分子110は、標的治療エリアの細胞によって取り込まれることが意図されている。いくつかの実施形態では、標的組織エリアの細胞による分子110の取り込みを増大させるには、誘発された溢出のみで充分である。他の実施形態では、治療エネルギの送達によって分子110の取り込みを更に促進する。いくつかの実施形態において、治療エネルギは、前調節(pre-conditioning)PEFエネルギとは異なる波形を有するPEFエネルギから成る。いくつかの実施形態では、標的組織エリア内に位置決めされた同じエネルギ送達部108によって治療PEFエネルギが送達されることは認められよう。他の実施形態では、異なるデバイスを用いて治療エネルギが送達される。
【0026】
[00144] 他の実施形態において、分子110は、効果を引き起こすために細胞による取り込みが意図されていないことは認められよう。例えば、リガンド、サイトカイン、腫瘍壊死因子(TNF:tumor necrosis factor)、又は血管内皮成長因子(VEGF:vascular endothelial growth factor)等を含む分子110は、これらの分子110の取り込みを伴わない治療的処置の一部としてそのエリアに送達することができる。このような例では、取り込みの増大にかかわらず、溢出によって可用性及び均一性の増大等の様々な利点が得られる。
【0027】
[00145] この実施形態では、溢出プロセスの後に腫瘍Tの治療を行う。
図6は、腫瘍Tに挿入されたエネルギ送達部108を示す。この実施形態では、エネルギ送達部108を介して標的組織エリアに特殊パルス電場(PEF)エネルギを送達する。典型的に、治療PEFエネルギは調節PEFエネルギとは異なる。しかしながら、いくつかの例では、2つのエネルギは同一の波形又は他の類似点を有することは認められよう。このような療法によって、コラーゲン、エラスチン、及び基質タンパク質のような非細胞要素を維持しながら、望ましくない細胞の破壊、排除、死滅、除去等を行う。従って、異常又は病変細胞及び組織を充分に排除しながら、組織及び付近の管腔構造の統合性及び機械的特性は維持される。標的組織を治療するため、マイクロ波アブレーション、高周波アブレーション、冷凍アブレーション、及び/又は高密度焦点式超音波(HIFU)を含む他の部分治療(focal therapy)等、他の形態のエネルギ又は他の治療モダリティを使用してもよいことは認められよう。
【0028】
[00146] この実施形態では、
図6で示されているように、PEFエネルギは典型的に、エネルギ送達部108から半径方向外側に延出する様々な治療ゾーンを生成する。図示のように、エネルギ送達部108に最も近いゾーン(すなわち中心ゾーン107)は、壊死等による即時細胞死に耐える。この実施形態では、中心ゾーンを取り囲むゾーン(すなわち周辺ゾーン109)は、プログラム細胞死等による遅発性細胞死に耐える。
図7は、以前は腫瘍Tであったものがこの時点では周縁部111まで外側に延出するデブリフィールドDFであることを示す。デブリフィールドDFは次いで、
図8Aから
図8Bで示されているように、患者Pの免疫系によって取り除かれる。
図8Aは、(矢印で示されているように)隣接する無傷肺組織LTからデブリフィールドDF内へ移動する樹状細胞DC及び他の免疫細胞を示す。樹状細胞DCは、残りの細胞片、抗原、及びダメージ関連分子パターン(DAMP:damage-associated molecular pattern)を内部に取り込む。DAMPは、細胞ストレス又は組織損傷の際に放出される分子であり、非感染性炎症中に自然免疫系を活性化することによって強い炎症応答を誘発するので、内因性の危険信号と見なされる。
図8Bは、(矢印で示されているように)デブリフィールドDFから再び周囲の肺組織LT内へ移動する樹状細胞DC及び他の免疫細胞を示す。
図9で示されているように、樹状細胞DC及び他の免疫細胞は、輸入リンパ管LD内に入り、最も近い腫瘍流入リンパ節へ進み、リンパ節LNのネットワークに至る。
図10は、この時点ではデブリフィールドDFである原発腫瘍Tの部位を付近のリンパ節LNと共に示す。これにより、活性化T細胞はリンパ節LNから(矢印で示されているように)心臓Hへ流れ、心臓Hは次いで、原発腫瘍Tが存在した肺Lの右肺上葉を含めて全身にT細胞を分配する。次いでT細胞は、血管系を介してデブリフィールドDF内に浸潤する。細胞表面上の抗原によって残存腫瘍細胞Tが識別され、T細胞はそれらを殺すためにパーフォリン及び細胞毒素を放出する。あらゆる残存腫瘍細胞Tは、T細胞から放出されたパーフォリン及びグランザイムによって殺される。いくつかの実施形態では、このプロセスをサポートするチェックポイント阻害剤が提供される。このような細胞死は、リンパ節LNを通る周期で繰り返され、より多くのT細胞を活性化する。これは数回繰り返され得る。
【0029】
[00147] 更に、T細胞は遠隔転移に遭遇する可能性がある。
図11はこれらのステップを示す。すなわち、(1)樹状細胞DC及び他の免疫細胞がリンパ管LDを介してリンパ節LNへ移動する、(2)活性化T細胞が心臓Hへ移動する、(3)活性化T細胞が身体内の遠隔位置へ移動する。
図12は、ステップ(3)で、活性化T細胞が肝臓LR内の転移性腫瘍T1、T2へ移動したことを示す。次いで、転移性腫瘍T1、T2に関して同じプロセスが起こり、より多くのT細胞を活性化する。これは、患者の全身でがん性腫瘍を排除するのに役立つ。
【0030】
[00148] いくつかの例では、転移性がん細胞等のがん細胞を含むリンパ節のように、リンパ節自体が標的組織であることは認められよう。このような例では、標的リンパ組織は、本明細書に記載されている腫瘍Tと同一又は同様のやり方で治療される。また、これは、全身を移動する活性化T細胞を放出する。
【0031】
B.溢出の利点
[00149] 誘発された溢出は、標的組織エリアに行われる治療的処置に有益である様々な効果を有し得る。治療的処置の改善の例は、限定ではないが、いくつかの例を挙げると、標的組織の調節、分子の可用性の増大、分子の可用性の均一性の増大、自然に制約された標的組織に対するアクセスの増大、より大きい治療エリアの生成、及び、望ましくない副作用の可能性の低下を含む。標的組織エリアががん性腫瘍である例では、治療的処置は、化学療法薬の送達及び/又は部分治療の送達を含むことができ、その例として、マイクロ波アブレーション、高周波アブレーション、冷凍アブレーション、及び/又は高密度焦点式超音波(HIFU)、及び、細胞を破壊するように構成されたパルス電場アブレーション療法が挙げられる。従って、これらの例において、誘発された溢出は、前調節又は調節レジメの一部と見なすことができ、治療効果を強化するための治療的処置(例えば化学療法、部分治療、化学療法と部分治療の組み合わせ等)と共に利用される。がん性腫瘍に基づいて提供される例は例示の目的のものであり、本明細書に記載されている原理は他の望ましくない組織又は病変組織の治療に適用され得ることは認められよう。同様に、他の薬品、薬剤、又は分子(例えば、DNAプラスミド、RNA(例えばメッセンジャーRNA(mRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA)、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、タンパク質、及び/又は、細胞挙動の遺伝子変化もしくは後成的変化を引き起こす物質)を、標的組織の治療的処置において送達することができ、化学療法薬に限定されない。このような薬品、薬剤、又は分子は、まとめて分子と見なされる。
【0032】
[00150] いくつかの実施形態において、誘発された溢出は、仮想電極又は流体電極として機能することで、より大きい治療エリアの発生を可能とする。溢出流体又は浮腫は自然伝導性物質から成り、従って、標的治療エリア内に集まってエネルギ送達部108と接触した場合、伝導性浮腫液を通してエネルギ送達部108の範囲を拡大する。これにより、切除病変の幅、深さ、体積等のサイズを増大することができる。また、これは、PEFアブレーションの局所選択性を高めることができる。
【0033】
[00151] いくつかの実施形態において、誘発された浮腫は、標的組織エリアの細胞内微小環境の電気的特性を変化させる。これにより、標的組織エリアを通る治療PEFエネルギの有効性と伝導性が改良され得る。特に、誘発された浮腫は、恒常性の喪失又はエネルギ枯渇等によって細胞が細胞死に至る電場閾値を低下させ得る。これにより、治療PEFエネルギプロトコルでは、治療エリアの拡大に加えて、低い強度の使用が可能となり、潜在的な熱的効果が低減し、発生器の要求を緩和することができる。従って、いくつかの実施形態において、誘発された浮腫は、治療的処置の前に標的組織エリアを標準化する(例えば、安定したインピーダンス環境を生成する)。標的組織エリアは典型的に、顕微鏡スケールでは不均一な環境であるが、伝導性流体の導入は、より均一な環境を生成する。高伝導度の流体は、時には非伝導度の空気嚢と、微小スケールでインピーダンスが広く分散した他の構造とを有する結合組織によって、低伝導度の管内を流れる。環境は均一になればなるほど、組織エリア全体を通して新しいバルク組織伝導度に従っていっそう一貫した挙動を示す。部分治療だけを提供する場合、又は薬品もしくは薬剤を含む分子の送達と組み合わせて部分治療を提供する場合、これは有益であり得る。
【0034】
[00152] いくつかの実施形態において、誘発された浮腫は、標的治療エリアで分子110の局所濃度を増大させ、分子110の可用性を増大させる。分子110が血管系を介して送達された場合、血管系からの分子110の溢出により、標的組織エリアにおける局所濃度が増大する。同様に、分子110が他の方法によって提供された場合も、浮腫の効果(例えば間質圧の増大)によって分子110の可用性は増大する。標的組織は間質容量を容易に増大できないので、経毛管流体ろ過の比較的小さい増加が間質液圧の大きな上昇を誘発することは認められよう。これによって圧力勾配が生じ、分子110を標的組織細胞内へ入るように付勢する。同様に、形成される濃度勾配も、分子110を標的組織細胞内へ入るように付勢する。
【0035】
[00153] いくつかの例において、誘発された溢出は、標的治療エリア全体で分子110の分布の改善(例えば均一性の向上)をもたらす。いくつかの例において、誘発された浮腫は、例えば溢出を介して又は標的領域内への分子110の直接注入によって、間質腔内に入る標的物質の分布率及び最終的な体積分布を増大させる経路(conduit)を提供する。前述のように、いくつかの実施形態では、誘発された浮腫は、標的組織エリア内に分子を捕捉して、分子が希釈されて血液又はリンパ管に戻ることに少なくとも一時的に抵抗する。最終的に、浮腫はリンパ管に沿って自然に排出される。浮腫が分子を含む場合、余分な分子もリンパ管を介して排出される。がん細胞がリンパ管に沿って移動するがん等の場合、分子は、遊走性がん細胞が到着し得る同じリンパ節へ運ばれ、転移を阻止する可能性がある。
【0036】
[00154] いくつかの実施形態において、誘発された溢出は、自然に制約された標的組織に対するアクセスを増大する。例えば、誘発された溢出は、細胞ベースの組織層を介した物質の送達を可能とし得るが、この細胞ベースの組織層は、他の場合、この物質が通過して標的の細胞集団に到達することを阻止する。例えば、眼球の硝子体液に送達された分子110は、典型的に、網膜下腔、特に網膜色素上皮(RPE:retinal pigment epithelium)及び光受容細胞(PR:photoreceptor cell)に到達することができない。これは、極めて堅固に接続された硝子体液とその下層のRPE及びPRとの間に位置する神経節及び双極細胞のためである。この結果、様々な分子110、特に大きい分子は、これらの制約層を通って拡散することができない。本明細書で記載されている調節エネルギを、網膜表面に隣接して、硝子体内空間の深部又は外科的に生成された網膜下ブレブ内のいずれかに送達すると、網膜血管系から流体の溢出が誘発される。内網膜は、網膜中心動脈に接続された網膜血管系から血液供給を受ける。視神経頭では、網膜中心動脈はいくつかの分岐に分かれ、これらの分岐は内網膜全体の血液供給を与える。網膜循環の静脈部分は同様に配置されている。網膜中心静脈は視神経頭を介して眼球から出て、血液を海綿静脈銅内へ送り出す。分岐動脈の直径と同様に、網膜中心動脈が眼球に入る前の直径は、典型的に200mm未満である。従って、これらの血管は機能的に細動脈であり、静脈血管は機能的に小静脈である。いくつかの実施形態において、細動脈、毛細血管、脈絡膜上腔、及び、分子110を運び得る他の領域からの流体の溢出は、様々な網膜細胞層間の拡散を可能とする眼の解剖学的構造の領域の中でもとりわけ、脈絡膜上腔又は網膜腔内に蓄積する。これらの網膜細胞層は、遺伝子トランスフェクションを含む高分子取り込みのための介入PEF治療において標的となるものを含み得る。これらの環境における追加の流体は、脈絡膜上に、血管に、硝子体内に、又は、神経節及び双極細胞を含む、網膜細胞層間に注入された分子の拡散及び分散のための優れた経路を提供し、硝子体から網膜下の空間への分子110の移送の増大を可能とする。
【0037】
[00155] 別の例では、血管系に送達された分子110は多くの場合、血液脳関門のために脳の部分に到達することができない。中枢神経系(CNS:central nervous system)に血管を形成する血管は、血液脳関門(BBB:blood-brain barrier)と呼ばれる固有の特性を有し、これらの血管が血液と脳との間のイオン、分子、及び細胞の移動を厳密に制御することを可能とする。このCNS恒常性の精密な制御によって、適正な神経機能を可能とし、また、毒素及び病原菌から神経組織を保護する。生理的障壁は、血管壁を形成する内皮細胞(EC:endothelial cell)が有する一連の物理的特性、輸送特性、及び代謝特性によって調整され、これらの特性は、様々な血管細胞、免疫細胞、及び神経細胞間の相互作用によって制御される。しかしながら、本明細書に記載されている調節エネルギの送達は血液脳関門を分断し、脳内の更に深部の細胞まで分子110を通過させる。このため、いくつかの例を挙げると、PEFエネルギを利用して、BBBを分断すること、補助剤として作用する分子110(例えばカルシウム、化学療法、免疫刺激剤、電荷変調物質等)を含めることでBBBを分断すること、又は、細胞にトランスフェクションを行う分子110(例えば化学療法、もしくはRNA、DNA、プラスミド、オリゴを含む遺伝物質等)によってBBBを分断すること等を可能とする。
【0038】
[00156] 他の実施形態では、血管系を介してではなく脳脊髄液を介して分子110を送達することは認められよう。このようなアクセスは脊椎穿刺によって達成され得る。これにより、脳室のような中枢神経系の領域に対する分子110の直接アクセスが可能となり得る。次に、PEFを用いて、局所的な浮腫によって脳質を越えた領域への分子110の分布及び拡散を推進することができる。様々な臨床的用途において、分子110が最初にどのように送達されたかにかかわらず、浮腫を用いて分子110の移動及び分布を促進できることは認められよう。従って、流体の誘発された溢出は、一次送達を補助する二次送達機構として使用され得る。
【0039】
[00157] 更に別の例では、全身の血管に送達される分子110は多くの場合、例えば血管自体を治療するために内腔壁の最内層に到達することができない。場合によっては、血管の内膜を分子110が通過することは難しい。このような通過は、典型的に、薬品及び他の薬剤を平滑筋層及びその先に送達するため望まれる。これは、閉塞血管を治療する場合の再狭窄の防止において望まれることがある。いくつかの実施形態では、内腔壁に調節エネルギを送信して、内腔から内腔壁の1つ以上の層を介した分子110の溢出を引き起こす。
【0040】
[00158] いくつかの実施形態において、誘発された溢出は、潜在的なアーク放電及び/又は熱的効果のような治療デバイスによる副次的影響の可能性を低下させる。これが発生する原因は、ターゲット環境における流体の熱シンク効果、及び、本明細書で記載されているほとんどの浮腫性液体の性質が伝導性であることである。従って、ターゲット電極が組織電極界面において理想的な電気接触を持たない(弱い接触、又は一部のみが接触して残りは空気もしくは他の低伝導率組織に接触する)可能性がある領域では、流体が電気的インタフェースとして機能し、電極から残りの組織内へPEFエネルギを送達する場合がある。
【0041】
[00159] 例えば、場合によっては、含気肺実質組織に配置された電極は、組織と散発的な電気接触を持ち、このため組織接触部位で極めて高い電流が生じる。この結果、組織内のPEFエネルギ分布が不充分となり、組織の炭化及びセラミック化のような熱的効果、並びに電極から組織へのアーク放電が発生し得る。しかしながら、治療量の又は治療量以下のPEFエネルギを組織に送達した後、浮腫性液体は、含気肺胞領域、特に電極に最も近い領域を局所的に充填する。次いでこの液体は、PEFエネルギを組織全体にいっそう均等に分布させる。これにより、アーク放電、燃焼、又は他の副作用を引き起こす可能性なしに、より強いPEF治療プロトコル波形の送達が可能となる。
【0042】
[00160] より効率良くエネルギを拡散することに加えて、組織電極界面で電気的導通を向上させる領域内の浮腫性充填は、大きい電圧降下が生じる前にエネルギを更に分散することを促進し、本質的に、「仮想電極」効果によって電極の有効表面積を拡大することができる。これにより、同じ治療効果を得るために必要なエネルギの強度が低下する。これによって発生器の要求が緩和される。
【0043】
[00161] いくつかの実施形態では、調節エネルギが、最終的な細胞死に対する標的細胞エリアの細胞抵抗性を増大させることは認められよう。これは、治療がアブレーションではなく遺伝子トランスフェクション等の手順を含む場合に望まれることがある。このような例では、細胞の排除又は破壊ではなく、細胞による遺伝物質の取り込みが望まれる。このような例では、標的治療エリアは、エリア内への流体の溢出を引き起こす調節エネルギを受ける。亜致死的ストレスを受けている細胞は、ストレスに対して修復的及び予防的反応を生成し、本質的に、同様の又は異なる性質の以降のストレスに対する抵抗性を生じ、回復力を強化することが知られている。例えばいくつかの実施形態において、調節エネルギは熱ショックタンパク質(HSP:heat shock protein)を放出させる。HSPは、本明細書に記載されている調節エネルギのようなストレスの多い状態への暴露に応答して細胞が生成するタンパク質ファミリである。HSPは、初期には熱ショックに関連して説明されたが、今は、寒さへの暴露、UV光を含む他のストレス、及び、創傷治癒又は組織再成形の間にも放出されることが知られている。このグループの多くの要素は、新しいタンパク質を安定化して正しい折り畳みを保証すること、又は細胞ストレスで損傷したタンパク質のリフォールディング(refold)を促すことによって、シャペロン機能を実行する。この放出の増大は、転写によって(transcriptionally)制御されている。熱ショックタンパク質の劇的な上方制御(upregulation)は、熱ショック応答の重要部分であり、主に熱ショック因子(HSF:heat shock factor)によって誘発される。
【0044】
[00162] いくつかの実施形態では、組織又は細胞の予熱(分子110の送達前)が、細胞障害、修復、及び生存において役割を果たす熱ショックタンパク質の放出を開始させ得る。このような実施形態では、温生理食塩水のような温溶液を治療部位へ注入し、待機期間後に、エネルギ送達と共に分子110を送達することができる。待機期間は、温溶液の送達後の数分間、数時間、又は数日間とすればよい。いくつかの実施形態において、待機期間は5~30分、1~2時間、又は1~2日である。
【0045】
[00163] いくつかの実施形態では、エネルギ送達部108を用いることによって組織又は細胞を温める。そのような実施形態では、10分未満の治療のために40~50℃といった特定範囲内の局所温度を維持するよう制御した速度でエネルギを送達する。いくつかの実施形態では、約41℃前後で熱ショックタンパク質がトリガされることは認められよう。このため、より強い治療パルス電場の前に、亜致死パルス電場送達を用いて、熱ショックタンパク質の上方制御及び他の損傷修復調製を促進することができる。これにより、パルス電場による障害に対する細胞回復を促進し、望ましくない過剰な細胞死を生じることなく意味のある数の細胞に分子を移動させる能力を向上させる。従って、一実施形態では、調節エネルギを標的治療エリアに送達し、治療エリアの少なくとも一部の温度を例えば45℃まで上昇させる。これにより、そのエリアへの流体の溢出を誘発する。腫瘍内注入によって、薬品、遺伝子、又は他のタイプの分子を送達し、本明細書に記載されて言える溢出の利点から利益を得る。次いで、治療PEFエネルギのような療法(therapy)を標的治療エリアに送達する。治療エリアの細胞は細胞死に抵抗するよう以前に調節されているので、より多くの細胞が治療プロトコルの後まで生き残る。これは、遺伝子治療又は細胞生存に頼る他のタイプの治療に有益である。
【0046】
II.送達システムの実施形態
[00164] 上述のように、本明細書に記載されているデバイス、システム、及び方法は、パルス電場(PEF)又は他の混合致死もしくは亜致死エネルギを標的組織エリアに送達し、標的組織エリア内で、任意選択的に標的組織エリア付近でも、例えば毛細血管の内皮壁の変化を誘発することにより、溢出及び間質浮腫を発生させる。
図13は、そのようなPEFエネルギを標的組織エリアへ送達するためのエネルギ送達システム100の一実施形態を示す。この実施形態において、システム100は、専門のエネルギ送達デバイス102と、リターン電極106と、波形発生器104と、を備える。この実施形態において、標的組織エリアは患者Pの肝臓LR内に位置しているが、このようなデバイス、システム、及び方法を用いて全身の標的組織エリアを治療できることは認められよう。この実施形態において、エネルギ送達デバイス102は、肝臓LR内の標的組織まで管腔内で前進させることができる遠位端を有する可撓性の細長いシャフトを含む。図示のように、送達デバイス102の遠位端は、口Mから食道Eを通って胃S内へ前進させ、胃壁を通過して肝臓LR内へ入る。いくつかの実施形態において、遠位端は、胃壁及び/又は肝臓LRを突き刺すように構成された遠位先端部103を有する。他の実施形態では、別個の器具を用いて、胃壁を通る通路を形成する。次いでこの器具を除去して、傷つけない先端部を有するエネルギ送達デバイス102が通路を通過できるようにする。他の実施形態では、エネルギ送達デバイス102が経皮的であることは認められよう。
【0047】
[00165] このタイプの治療的処置を提供できるシステムの例は、「DEVICES, SYSTEMS AND METHODS FOR THE TREATMENT OF ABNORMAL TISSUE」と題する、本発明の譲受人に譲渡された特許出願PCT/US2020/028844号に与えられている。この出願はあらゆる目的のため援用により本願に含まれる。他の例示のシステムは、米国仮出願62/355,164号及び62/489,753号に対する優先権を主張する「GENERATOR AND A CATHETER WITH AN ELECTRODE AND A METHOD FOR TREATING A LUNG PASSAGEWAY」と題する国際特許出願番号PCT/US2017/039527号、米国仮出願62/610,430号に対する優先権を主張する「METHODS, APPARATUSES, AND SYSTEMS FOR THE TREATMENT OF DISORDERS」と題する国際特許出願番号PCT/US2018/067501号、並びに、2017年12月26日に出願された仮特許出願62/610,430号及び2018年7月3日に出願された仮特許出願62/693,622号に対する優先権を主張する「OPTIMIZATION OF ENERGY DELIVERY FOR VARIOUS APPLICATIONS」と題する国際特許出願番号PCT/US2018/067504号を含む、本発明の譲受人に譲渡された特許出願に記載されている肺組織変更システム(例えばエネルギ送達カテーテルシステム)を含む。これらは全て、あらゆる目的のため援用により本願に含まれる。
【0048】
[00166] 上述のように、送達デバイス102の遠位端を介して標的組織へ、調節PEFエネルギと、任意選択的に治療エネルギが送達される。送達デバイス102の近位端は、波形発生器104と電気的に接続されている。いくつかの実施形態において、発生器104は外部心臓モニタにも接続され、患者Pから検知された心臓信号と連携させたエネルギ送達を可能とする。
【0049】
[00167] エネルギは発生器104によって提供され、標的組織エリアの上、内部、又は付近に配置されたエネルギ送達部108を介して組織へ送達される。次いで、標的組織の近くでエネルギ送達部108を介して電気パルスを送達する。これらの電気パルスは、少なくとも1つのエネルギ送達アルゴリズム152によって提供される。このような実施形態において、アルゴリズム152は、印加エネルギのエネルギ振幅(例えば電圧)及び持続時間のような信号のパラメータを規定し、これらは、いくつかの例を挙げると、パルス数、パルス幅、及びパルス間の遅延で構成される。いくつかの実施形態では、エネルギ送達部の1つ以上は小さく、電極の周りに大量のエネルギを消散させる傾向がある。従って、最適なエネルギ送達が望まれる。典型的に、このような例で効率的な送達パルスを送達するために推奨される発生器構造は、ハーフトランジスタブリッジ(half transistor bridge)による大きいDCリンクキャパシタンスである。電力増幅器によって送達されるパルス電圧(帯域幅が限定される)又は指数関数的減衰発生器は、この用途には望ましくない。
【0050】
[00168] いくつかの実施形態では、二相パルスを用いることができる。このような実施形態において、追加のパラメータには、二相パルスの極性間のスイッチ時間及び二相サイクル間の不感時間が含まれ得る。センサ情報に基づくフィードバックループ及び自動停止仕様等を含めてもよい。二相波形は、患者の筋肉刺激を低減するために好都合である。これは、エネルギ送達部のわずかな移動によって容易に手順の効果がなくなる用途では、特に重要である。二相波形は、極性間の移行中の神経活性化を最小限に抑えるため、信号の位相/極性の迅速な変化を含む。複数の高速スイッチング要素(例えばMOSFET、IGBTトランジスタ)が望ましく、例えばHブリッジ構造又はフルブリッジで使用及び構成される。
【0051】
[00169] 再び
図13を参照すると、この実施形態において、発生器104は、ユーザインタフェース150と、1つ以上のエネルギ送達アルゴリズム152と、プロセッサ154と、コントローラ155と、データ記憶/検索ユニット156(メモリ及び/又はデータベース等)と、送達されるエネルギを発生及び貯蔵するエネルギ貯蔵サブシステム158と、を含む。いくつかの実施形態では、エネルギ貯蔵/送達のために1つ以上のキャパシタを用いるが、他の任意の適切なエネルギ貯蔵要素を用いてもよい。更に、1つ以上の通信ポートを含めてもよい。
【0052】
[00170] いくつかの実施形態において、発生器104は3つのサブシステムを含む。すなわち、1)高エネルギ貯蔵システム、2)高電圧中波スイッチング増幅器、及び3)システムコントローラ、ファームウェア、及びユーザインタフェースである。発生器は、交流(AC)電源を取り込み、複数の直流(DC)電力供給に給電する。発生器のコントローラによって、DC電力供給は、エネルギ送達の開始前に高エネルギキャパシタ貯蔵バンクを充電することができる。いくつかの実施形態では、エネルギ送達の開始時に、発生器のコントローラ、高エネルギ貯蔵バンク、及び二相パルス増幅器は、高電圧中波出力を生成するため同時に動作することができる。
【0053】
[00171] エネルギ送達アルゴリズムを実行するため、多数の発生器電気アーキテクチャを採用できることは認められよう。特に、いくつかの実施形態では、同じエネルギ貯蔵及び高電圧送達システムとは別に、パルス電場回路をエネルギ送達電極に向けることができる高度スイッチングシステムが用いられる。更に、迅速に変動するパルスパラメータ(例えば電圧、周波数等)又は複数のエネルギ送達電極を用いる高度エネルギ送達アルゴリズムで採用される発生器は、モジュール式エネルギ貯蔵及び/又は高電圧システムを利用して、高度にカスタマイズ可能な波形及び地理的パルス送達パラダイムを容易にすることができる。更に、本明細書で上述した電気アーキテクチャは単なる例示に過ぎず、パルス電場を送達するシステムは追加のスイッチング増幅器コンポーネントを含む場合も含まない場合もあることは認められよう。
【0054】
[00172] ユーザインタフェース150は、タッチスクリーン及び/又はもっと従来通りのボタンを含み、オペレータが患者データを入力すること、治療アルゴリズム(例えばエネルギ送達アルゴリズム152)を選択すること、エネルギ送達を開始すること、記憶/検索ユニット156上で記憶されたレコードを見ること、及び/又は他のやり方で発生器104と通信することを可能とする。
【0055】
[00173] いくつかの実施形態において、ユーザインタフェース150は、オペレータ定義の入力を受信するように構成されている。オペレータ定義の入力は、エネルギ送達の持続時間、エネルギ送達パルス、パワー、及び/又は動作モード、又はそれらの組み合わせの1つ以上の他のタイミングの態様を含み得る。例示の動作モードは(限定ではないが)、システム開始及び自己試験、オペレータ入力、アルゴリズム選択、治療前システムステータス及びフィードバック、エネルギ送達、エネルギ送達後表示又はフィードバック、治療データレビュー及び/又はダウンロード、ソフトウェアアップデート、又はそれらの任意の組み合わせ又はサブコンビネーション(subcombination)を含み得る。
【0056】
[00174] いくつかの実施形態において、プロセッサ154は、いくつかの活動の中でもとりわけ、エネルギ送達アルゴリズムを変更及び/又は切り換え、エネルギ送達及びセンサデータを監視し、フィードバックループを介して監視データに反応する。いくつかの実施形態において、プロセッサ154は、1つ以上の測定されたシステムパラメータ(例えば電流)、1つ以上の測定された組織パラメータ(例えばインピーダンス)、及び/又はそれらの組み合わせに基づいてフィードバック制御ループを実行するための1つ以上のアルゴリズムを実行するよう構成されている。
【0057】
[00175] データ記憶/検索ユニット156は、送達された治療に関するもの等のデータを記憶し、任意選択的に、デバイス(例えばラップトップコンピュータ又はサムドライブ)を通信ポートに接続することによってダウンロードできる。いくつかの実施形態において、デバイスは、例えばデータ記憶/検索ユニット156に記憶されると共にプロセッサ154によって実行可能である命令のような情報のダウンロードを指示するため用いられるローカルソフトウェアを有する。いくつかの実施形態では、ユーザインタフェース150によってオペレータは、限定ではないが、コンピュータデバイス、タブレット、モバイルデバイス、サーバ、ワークステーション、クラウドコンピューティング装置/システムのようなデバイス及び/又はシステムへのデータのダウンロードを選択することができる。有線及び/又は無線の接続性を可能とする通信ポートは、今述べたようにデータダウンロードを可能とするだけではなく、カスタムアルゴリズムのアップロード又はソフトウェアアップデートの提供のようなデータアップロードも可能とする。
【0058】
[00176] 本明細書で記載されているように、様々なエネルギ送達アルゴリズム152が発生器104内でプログラム可能であるか又は前もってプログラム可能であり、例えばメモリ又はデータ記憶/検索ユニット156に記憶することができる。あるいは、プロセッサ154によって実行するため、エネルギ送達アルゴリズムをデータ記憶/検索ユニット内に追加することができる。これらのアルゴリズム152の各々はプロセッサ154によって実行され得る。
【0059】
[00177] いくつかの実施形態において、エネルギ送達デバイス102は1つ以上のセンサを含み、いくつかの例を挙げると、このセンサを用いて、温度、インピーダンス、抵抗、キャパシタンス、伝導率、pH、光学特性(コヒーレンス、エコー輝度、蛍光)、電気又は光誘電率、及び/又はコンダクタンスを決定することができる。いくつかの実施形態では、電極のうち1つ以上が1つ以上のセンサとして作用する。他の実施形態では、1つ以上のセンサは電極とは別個である。センサデータを用いて、手順の計画、手順の監視、及び/又はプロセッサ154を介した直接フィードバックの提供を行うことができ、その後プロセッサはエネルギ送達アルゴリズム152を変更することができる。例えば、インピーダンス測定値を用いて、適用する初回量を決定するだけではなく、更にエネルギ送達の必要があるか否かを判定することができる。
【0060】
[00178] いくつかの実施形態において、システム100は、温度、様々な電圧又はAC周波数におけるインピーダンス、エネルギ送達パルス、パワー、及び/又はシステムステータスの持続時間又は他のタイミングの態様等の入力に応じて、動的に応答し、送達を調整及び/又は終了させる自動化送達アルゴリズムを含むことは認められよう。
【0061】
[00179] この実施形態において、分子110は、IVバッグ112を用いて静脈内投与により全身に送達される。これによって分子110は典型的に、肝臓LR内の標的組織を含めて患者Pの全身に分散する。他の実施形態では、分子110が局所的に送達されることは認められよう。このような実施形態において、分子110は、標的の臓器又は組織エリアに至る動脈系の上流の血管系へ送達され得る。次いで分子110は、下流の動脈循環を介して標的領域内へ進む。分子110のボーラス注入が行われる場合、分子110の突然の流れが標的組織内へ勢いよく入っていく。しかしながら、例えば注入ポンプを用いて分子110が時間をかけて送達される場合、標的組織内で安定し持続したレベルの分子110が達成され得る。他の実施形態では、標的組織への直接注入によって分子110が送達されることは認められよう。このような実施形態では、例えば標的臓器領域の実質組織内等、標的組織の内部又は付近に注入デバイスを挿入し、分子110を含有する溶液を注入する。あるいは、全身、局部的、及び局所的な送達の組み合わせを用いてもよいことは認められよう。
【0062】
[00180] いくつかの実施形態において、調節PEFエネルギは、分子110の送達前、送達中、及び/又は送達後に送達されるが、その後の標的組織エリア内の細胞に対する分子100の取り込み又は効果を向上させるため、治療的処置の前に送達される。従って、調節PEFの送達前、送達中、及び/又は送達後に分子110が送達され得ることは理解されよう。他の実施形態では、調節PEFエネルギ及び治療PEFエネルギは同じものであり、そのような例では、治療PEFエネルギの送達前、送達中、及び/又は送達後に分子110を送達すればよい。後の節で、様々なタイミング及び手順の方法論について更に詳しく説明する。
【0063】
III.分子及び強化(enhancement)
[00181] 前述のように、いくつかの実施形態において、分子110、特に小さい分子及び/又は高分子を、身体内の標的細胞のような細胞に送達するためのデバイス、システム、及び方法が提供される。いくつかの実施形態において、細胞は、分子の機能性から直接に治療上の利益を得る。このような治療的な利益は、様々な障害(disorder)の治療におけるものであり得る。
【0064】
[00182] いくつかの実施形態において、障害は、血友病(例えば血友病A又は血友病B)、フォン・ヴィレブランド病、第11因子欠乏症、フィブリノゲン障害、又はビタミンK欠乏等の凝固障害を含む。凝固障害は、フィブリノゲン、プロトロンビン、第5因子、第7因子、第8因子、第10因子、第11因子、第13因子、又は翻訳後修飾に関与する酵素、又はビタミンK代謝に関与する酵素について、遺伝子コード化における突然変異によって特徴付けることができる。いくつかの実施形態において、凝固障害は、FGA、FGB、FGG、F2、F5、F7、F10、F11、F13A、F13B、LMAN1、MCFD2、GGCX、又はVKORC1における突然変異によって特徴付けられる。
【0065】
[00183] いくつかの実施形態において、障害は、例えば神経変性疾患のような神経障害を含む。いくつかの実施形態において、神経変性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、又は多発性硬化症を含む。いくつかの実施形態において、神経変性疾患は、多発性硬化症、脳脊髄炎、腫瘍随伴症候群、自己免疫内耳疾患、又はオプソクローヌスミオクローヌス症候群等の中枢神経系(CNS)の自己免疫疾患を含む。神経障害は、脳梗塞、脊髄損傷、中枢神経系障害、精神神経疾患、又はチャネル病(例えばてんかん又は片頭痛)であり得る。神経障害は、不安障害、気分障害、小児期障害、認知障害、統合失調症、物質関連障害、又は摂食障害であり得る。いくつかの実施形態において、神経障害は、脳梗塞、脳卒中、外傷性脳損傷、又は脊髄損傷の症状である。
【0066】
[00184] いくつかの実施形態において、障害は、テイサックス病、ゴーシェ病、ファブリー病、ポンペ病、ニーマンピック病、又はムコ多糖症(MPS)等のリソソーム蓄積障害を含む。
【0067】
[00185] いくつかの実施形態において、障害は、変性心疾患、冠動脈疾患、虚血、狭心症、急性冠症候群、末梢血管疾患、末梢動脈疾患、脳血管疾患、又はアテローム性動脈硬化等、心血管障害を含む。心血管障害は、虚血性心筋症、伝導障害、及び先天性欠損から成る群から選択された変性心疾患であり得る。
【0068】
[00186] いくつかの実施形態において、障害は、例えば自己免疫障害等の免疫障害を含む。自己免疫障害は、1型糖尿病、多発性硬化症、関節リウマチ、狼瘡、脳脊髄炎、腫瘍随伴症候群、自己免疫内耳疾患、又はオプソクローヌスミオクローヌス症候群、自己免疫性肝炎、ブドウ膜炎、自己免疫性網膜症、視神経脊髄炎、乾癬性関節炎、乾癬、重症筋無力症、慢性ライム病、セリアック病、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、末梢神経障害、線維筋痛症、橋本甲状腺炎、潰瘍性大腸炎、又は川崎病であり得る。
【0069】
[00187] いくつかの実施形態において、障害は、肝炎、アラジール症候群、胆管閉鎖症、肝臓がん、肝硬変、嚢胞性疾患、カロリ症候群、先天性肝線維症、脂肪肝、ガラクトース血症、原発性硬化性胆管炎、チロシン血症、グリコーゲン貯蔵症、ウィルソン病、又は内分泌不全等の肝疾患を含む。肝疾患は、肝細胞過形成、肝細胞線種、限局性結節性過形成、又は肝細胞がん等の肝臓がんであり得る。
【0070】
[00188] いくつかの実施形態において、障害は、血液がん(例えば急性リンパ性白血病、急性骨髄芽球性白血病、慢性骨髄性白血病、ホジキン病、多発性骨髄腫、及び非ホジキンリンパ腫)、又は固体組織がん(例えば肝臓がん、腎臓がん、乳がん、胃がん(gastric cancer)、食道がん、胃がん(stomach cancer)、腸がん、大腸がん、膀胱がん、頭頸部がん、皮膚がん、又は脳腫瘍)等のがんを含む。
【0071】
[00189] いくつかの実施形態において、障害は劣性遺伝性障害を含む。いくつかの実施形態において、障害はメンデル遺伝性障害である。
【0072】
[00190] いくつかの実施形態において、障害は、網膜ジストロフィー(例えばメンデル遺伝性網膜ジストロフィー)である眼疾患を含む。網膜ジストロフィーは、レーバー先天性黒内障(LCA:leber’s congenital amaurosis)、スタルガルト病、弾性線維性仮性黄色腫、桿体錐体ジストロフィー、滲出性硝子体網膜症、ジュベール症候群、CSNB-1C、加齢性黄斑変性症、網膜色素変性症、スティックラー症候群、小頭症及び脈絡網膜炎、網膜色素変性症、CSNB2、アッシャー症候群、又はワーグナー症候群を含み得る。
【0073】
[00191] いくつかの実施形態において、本明細書に記載されているデバイス、システム、及び方法によって送達される分子110は、2019年3月15日に出願された「Synthetic DNA Vectors and Methods of Use」と題する公報WO2019178500号に記載されたもの等の合成DNAベクターを含む。この公報は、あらゆる目的のため全体が本願に含まれる。このような合成DNAベクターは、AAVベクターと同様に、静止細胞(例えば有糸分裂後細胞)の長期的な形質導入(transduction)を与えるもの等、非ウイルスDNAベクターを含む。いくつかの実施形態において、このような非ウイルスDNAベクターは、(例えば細菌発現及び部位特異的組み換えとは対照的に)等温ローリングサイクル増幅及びライゲーション媒介環状化によって環状AAV様DNAベクター(例えばDD要素等の末端反復配列を含むDNAベクター)を合成的に生成するための、インビトロ(例えば無細胞)システムによる開発である。このような開発によって、環状AAV様DNAベクターの生成における拡張性及び製造効率の向上が可能となる。更に、これらの方法によって生成されたベクターは、例えば、援用により全体が本願に含まれるLu et al., Mol. Ther. 2017, 25(5):1187-98で検討されている問題等、プラスミドDNAベクターに伴う問題の多くを克服するように設計されている。例えば、CpGアイランド及び/又はRNAPII停止部位等の細菌プラスミドDNA配列の存在を排除又は減少させることによって、転写サイレンシングを低減又は排除し、結果として異種遺伝子の持続性を増大することができる。更に、免疫原性成分(例えば細菌内毒素、DNA、又はRNA、又はCpGモチーフのような細菌のシグネチャー)の存在を排除することによって、宿主免疫系を刺激するリスクを低下させる。このような利点は、網膜ジストロフィー(例えばメンデル遺伝性網膜ジストロフィー)のような特定の障害の治療において特に有利である。
【0074】
[00192] 従って、そのようなベクターは、(i)実質的に細菌プラスミドDNA配列(例えばRNAPII停止部位、複製起点、及び/又は耐性遺伝子)及び他の細菌のシグネチャー(例えば免疫原性CpGモチーフ)を持たない、及び/又は(ii)試験管内で完全に合成及び増幅することができる(例えば、細菌内での複製は不必要であり、例えば、細菌の複製起点及び細菌の耐性遺伝子は不必要である)、合成DNAベクターを含む。いくつかの実施形態において、ベクターは、AAVベクターに特徴的なダブルD(DD)要素を含む。これにより、標的細胞は、AAVウイルスDNAのように振る舞う異種遺伝子を有する(例えば、低い転写サイレンシング及び持続性増大)DNAベクターによって、ウイルス自体を必要とせずに、形質導入することができる。
【0075】
[00193] いくつかの実施形態において、分子110は、低分子干渉RNA(siRNA:small interfering RNA)、短ヘアピンRNA(shRNA:short hairpin RNA)、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO:antisense oligonucleotide)、マイクロRNA(miRNA:microRNA)、デコイDNA、リボザイム、モルフォリノ、及びプラスミド等、核酸ベースの分子を含む。
【0076】
[00194] 低分子阻害性RNA(siRNA:small inhibitory RNA)を用いたRNA干渉を使用して、siRNAと各mRNA分子との配列相同性が検出された場合に活性化される細胞ヌクレアーゼによってmRNAレベルを下方制御することができる。従って、いくつかの実施形態では、siRNAを用いて、既知の遺伝的背景に関連した様々な疾患の発病に関与する遺伝子を抑制する。いくつかの実施形態において、分子110は、遺伝性トランスサイレチン媒介アミロイドーシスに罹っている人々における多発性神経障害の治療のためFDAに認可されたsiRNAベースの薬であるパチシランを含む。siRNAが機能するためには、siRNAは対象の標的細胞内になければならない。これは、siRNAが、標的細胞が存在する身体内の組織に輸送され、次いで細胞膜を横断しなければならないことを意味する。これらの要件は一般に、所望の位置へのsiRNAの「送達」と呼ばれる。siRNAは、自然に細胞外膜を横断しない負に帯電した分子であるので、従来の送達方法では送達は困難であることが分かっている。本明細書に記載されているデバイス、システム、及び方法は、これらの送達の困難を克服し、siRNAを標的細胞内へ送達する。
【0077】
[00195] いくつかの実施形態において、分子110はマイクロRNA(miRNA)を含む。miRNAは、標的mRNAを分解すること及び/又はそれらの翻訳を阻害することによって転写後レベルの遺伝子発現の調節に関与する、長さが約22ntの小さい非コードRNAのクラスである。
【0078】
[00196] いくつかの実施形態において、分子110はアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を含む。ASOは、配列特異的に標的RNAにハイブリダイズする合成DNAオリゴマーである。いくつかの実施形態において、ASOは、遺伝子発現の阻害、前駆体メッセンジャーRNAのスプライシングの調節、又はマイクロRNAの不活性化のために送達される。核酸分解に対してASOを安定化するためには、ホスホロチオエート、2’-O-メチルRNA、又はロック核酸等の化学的に修飾されたヌクレオチドを用いればよい。これらはヌクレアーゼ耐性を与えるからである。いくつかの実施形態では、毒性を低下させながら、送達の強化、選択性、親和性、及びヌクレアーゼ耐性を最適化して、ASOを送達する。
【0079】
[00197] 例示的なASOは、(1)AIDS患者におけるCMV網膜炎の治療等のためのホミビルセン、(2)家族性高コレステロール血症の治療等のためのミポメルセン、(3)肝静脈閉塞性疾患の治療等のためのデフィブロチド、(4)デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療等のためのエテプリルセン、(5)新生血管加齢性黄斑変性症の治療等のためのペガプタニブ、及び(6)脊髄性筋委縮症の管理等のためのヌシネルセンを含む。
【0080】
[00198] いくつかの実施形態において、分子110は、ホスホロジアミデートモルフォリノオリゴマー(PMO)等のオリゴマー分子を含む。これはモルフォリノとしても知られており、遺伝子発現を変更して遺伝子機能をノックダウンするために用いられるオリゴマー分子のタイプである。モルフォリノは、通常は長さが25塩基であり、標準的な核酸塩基対合によってRNAの相補的配列又は一本鎖DNAに結合する。モルフォリノオリゴは、選択したDNA又はRNA標的部位に特異的に結合して、その部位への細胞成分のアクセスを阻止する。この特性を利用して、翻訳の阻止、スプライシングの阻止、マイクロRNA(miRNA)又はそれらの標的の阻止、及びリボザイム活動の阻止を行うことができる。その分子構造は、ホスホロジアミデート基を介して連結されたメチレンモリホリン環の骨格に結合されたDNA塩基を含む。モルフォリノオリゴの非荷電骨格は酵素によって認識されないので、ヌクレアーゼに対して完全に安定である。いくつかの実施形態では、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の原因であるいくつかの突然変異の治療に使用され得るモルフォリノベースの薬であるエテプリルセンを送達する。他の実施形態では、DMD治療のために、モルフォリノベースの薬であるゴロディルセンを送達する。
【0081】
[00199] いくつかの実施形態において、分子110は、酵素タンパク質の作用と同様の、遺伝子発現におけるRNAスプライシングを含む特定の生化学反応を触媒する天然に存在するRNA分子であるリボザイム(リボ核酸酵素)を含む。いくつかの実施形態において、分子110は、疾患を引き起こすmRNAの特異的な切断を介してタンパク質の生成を阻害するように設計されているもの等の合成リボザイムを含む。リボザイム療法の別の用途は、HIV、C型肝炎ウイルス、SARSコロナウイルス(SARS-CoV)、アデノウイルス、並びにインフルエンザA型及びB型ウイルス等、RNAベースのウイルスの阻害を含む。
【0082】
[00200] いくつかの実施形態において、分子110はリボヌクレオタンパク質(RNP;ribonucleoprotein)を含む。RNPは、RNA及びRNA結合タンパク質の間で形成された複合体である。例えば、精製Cas9タンパク質は、ガイドRNAと組み合わされて、迅速で高効率のゲノム編集のため細胞へ送達されるRNP複合体を形成することができる。RNPは細胞内に短時間留まり、用量は最小限であるので、他の方法に比べて毒性が低くなると共に、標的外部位での編集が減少する。また、RNP複合体はDNAフリーであり、従って挿入突然変異リスクが無い。
【0083】
[00201] いくつかの実施形態において、本明細書に記載されているデバイス、システム、及び方法によって送達された分子110は、CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats Repetitive)DNA配列を含む。これはCRISPRと呼ばれる。当初、これらのDNA配列は、細菌内でウイルス配列と正確に一致するリピート間の「スペーサ」DNA配列が観察された。その後、ウイルス感染すると細菌がこれらのDNA要素をRNAに転写することが発見された。RNAは、ヌクレアーゼ(DNAを切断するタンパク質)をウイルスDNAにガイドしてこれを切断し、ウイルスに対する保護を与える。ヌクレアーゼは、「CRISPR-associated」から、「Cas」と名付けられている。
【0084】
[00202] 2012年、研究者らは、Casヌクレアーゼ(Cas9が最初に用いられた)を任意のDNA配列にガイドするようにRNAを構築できることを実証した。また、いわゆるガイドRNAは、1つだけの配列に特異的として、DNAがゲノム内のその部位で切断されるが他の部位では切断されない可能性を高めることができる。更に試験を行って、ヒトの細胞を含むあらゆるタイプの細胞でシステムが極めて良好に機能することが明らかになった。
【0085】
[00203] CRISPR/Casによって、標的遺伝子を破壊することができ、又は、DNAテンプレートが混合物に加えられた場合、所望の正確な位置に新たな配列を挿入することができる。この方法は、特定のゲノム変異を有する動物モデルを開発するために用いられている。また、嚢胞性線維症のような既知の突然変異によるヒトの疾患では、突然変異を補正するDNAを挿入することが理論的に可能である。しかしながら、ウイルスベクターのような従来の方法を用いて多数の成熟細胞にCRISPR/Cas物質を送達することは難しい。しかしながら、本明細書に記載されているデバイス、システム、及び方法は、これらの困難を克服して、CRISPR/Cas物質を含む分子110を細胞へ送達することを可能とする。
【0086】
[00204] いくつかの実施形態において、分子110は組み換えタンパク質を含む。組み換えDNA技術を用いることにより、このような治療用タンパク質は、がん、自己免疫/炎症、感染因子への暴露、及び遺伝性疾患を含む多種多様な疾患を治療するために開発されている。
【0087】
[00205] いくつかの実施形態において、分子110はタンパク質分解誘導キメラ分子(PROTAC:proteolysis targeting chimera)を含む。PROTACは、特定の望ましくないタンパク質を除去することができる小分子である。PROTACは、2つの共有結合したタンパク質結合分子で構成されている。1つはE3ユビキチンリガーゼと結合することができ、もう1つは分解を目的とする標的タンパク質と結合する。E3リガーゼを標的タンパク質へリクルートすると、標的タンパク質のユビチキン化が生じ、その後プロテアソームによる分解が生じる。PROTACは、がん、ウイルス感染、免疫障害、及び神経変性疾患を含む様々な疾患に関する異なるタイプの標的タンパク質の分解において使用され得る。
【0088】
[00206] PROTACは、薬物耐性の克服や、従来は「創薬不可能な(undruggable)」タンパク質標的の分解等、がん治療において様々な利点を有する。現在、従来の創薬技術を用いて標的にすることができるのは既知のタンパク質標的の20~25%だけである。触媒作用を持たない及び/又は触媒に依存しない機能を持つタンパク質は、依然として「創薬不可能な」標的と見なされる。更に、転写因子、クロマチンモジュレータ、及び低分子量GTPアーゼ等、大量のがんタンパク質は、直接に薬学的標的とすることが難しい。PROTACは、内因性E3リガーゼ及び/又はユビキチンプロテアソーム系をハイジャックすることによって、分解のため対象の標的タンパク質(通常はがんタンパク質)を標的にするよう設計されている。
【0089】
[00207] いくつかの実施形態において、分子110は、化学療法等の抗腫瘍薬で構成されている。化学療法薬は、アルキル化薬(例えばシスプラチン)、ニトロソウレア(例えばカルムスチン)、代謝拮抗剤(例えばフルオロウラシル)、アルカロイド(例えばタクソール)、抗生物質(例えばドキシルビシン)、コルチコステロイドホルモン及び性ホルモン(例えばデキサメタゾン及びタモキシフェン)、トポイソメラーゼ阻害剤(例えばエトポシド)、及びレチノイド(例えばオールトランスレチノイン酸(ATRA:all trans retinoid acid))等の薬剤を含む。
【0090】
[00208] いくつかの実施形態において、分子110は、チェックポイント阻害剤等の免疫療法薬を含む。免疫チェックポイント阻害剤は、チェックポイントタンパク質がパートナータンパク質と結合するのを阻止することによって機能する。これは、「オフ」信号が送信されるのを妨げて、T細胞ががん細胞を殺すことを可能とする。
【0091】
[00209] いくつかの実施形態において、分子110は、T細胞移植療法等の免疫療法薬を含む。この療法は、身体のT細胞ががんと闘う能力を強化する。腫瘍から免疫細胞を抽出し、腫瘍に対して最も活動的であると識別されたものを、もっとがん細胞を攻撃するよう更に変更する。一度充分な細胞が成長したら、病気と戦うためにこれらの細胞を注入によって身体内へ戻す。
【0092】
[00210] いくつかの実施形態において、分子110は、がんワクチン等の免疫療法薬を含む。これらのワクチンは、特定のがんに対する免疫反応をトリガするため投与される。これによって、がん細胞に対する免疫系の反応を高める。例示的ながんワクチンは、米国食品医薬品局によって認可された、がんを防止する以下のワクチンを含む。1)HPVワクチン。このワクチンは、子宮頸がんに罹りやすくするヒトパピローマウイルス(HPV:human papillomavirus)から守る。2)肝臓がんの原因となるB型肝炎ウイルス(HBV:hepatitis B virus)から守るB型肝炎ワクチン。
【0093】
[00211] いくつかの実施形態において、分子110は免疫系モジュレータを含む。免疫調節剤のタイプは、サイトカイン(例えばインターフェロン、インターロイキン)及び免疫調整薬(例えばサリドマイド)を含む。
【0094】
[00212] いくつかの実施形態において、分子110はモノクローナル抗体を含む。モノクローナル抗体(mAbs)は、がん細胞の特定のタンパク質と結合するように設計された、研究室で作られた免疫系タンパク質(抗体)である。これらのタンパク質はがん細胞と結合し、それらを免疫系によって認識し破壊することを可能とする。多くのモノクローナル抗体は、がんを治療するために用いられる(例えばアバスチン、ハーセプチン)。また、いくつかのモノクローナル抗体は、がんに対する免疫系の変化を支援するので、免疫療法である(例えば、抗PD-1、抗PDL-1、抗CTLA-4、抗CD20、抗CD19)。
【0095】
[00213] 分子110を組織又は細胞へ送達させる能力は、多種多様な強化を用いて変更され得る。例えばいくつかの実施形態では、分子を運ぶ溶液に加えること等によって、付加的/補助物質を身体に加え、この補助物質によって細胞は小分子又は高分子の取り込みの影響を受けやすくなる。例示的な補助物質は、ポリマーナノ粒子、リポソーム、PEG修飾リポソーム(PEGylated liposome)、リポフェクタミン、細胞透過性ペプチド(CPC:cell-penetrating peptide)、ジメチルスルホキシド(DMSO:dimethyl sulfoxide)、コレステロール、又は、細胞膜の流動性及び力学と相互作用することが知られている他の物質を含む。いくつかの実施形態では、補助物質が注入され、注入圧は、細胞による分子110の取り込みを増大するように選択又は調整される。
【0096】
[00214] 他の実施形態では、組織又は細胞を温めるか又は冷やして、分子110を良好に受容する能力を変化させる。例えばいくつかの実施形態では、分子110を運ぶ溶液を温めるか又は冷やすこと等によって細胞を温めるか又は冷やして、移動効率の向上又はエネルギ伝達後の細胞生存の可能性の向上を図る。いくつかの実施形態では、細胞を温めることで膜流動性を高め、従って分子110の受容を増大させることができる。他の実施形態では、細胞を冷却することで剛性を高め、分子110の受容を増大させる「亀裂(crack)」形成の可能性を上げることができる。
【0097】
[00215] 前述のように、プロセッサ154は、いくつかの活動の中でもとりわけ、エネルギ送達アルゴリズムを変更及び/又は切り換え、エネルギ送達及びセンサデータを監視し、フィードバックループを介して監視データに反応する。いくつかの実施形態において、プロセッサ154は、1つ以上の測定されたシステムパラメータ、1つ以上の測定された組織パラメータ、及び/又はそれらの組み合わせに基づいてフィードバック制御ループを実行するための1つ以上のアルゴリズムを実行するよう構成されている。いくつかの実施形態において、パラメータは温度を含み、エネルギ伝達の速さ(cadence)を制御することによって温度を特定範囲内に維持することができる。これは、細胞取り込み、免疫反応、全体的な安全性等を強化するために有用であり得る。
【0098】
[00216] 強化は、分子110の送達前、送達中、又は送達後、及び/又は治療エネルギの送達前、送達中、又は送達後に実行され得ることは認められよう。いくつかの実施形態において、補助物質は、多機能波形中に所望の間隔で、例えば非対称波形の短く高いパルスと長く低いパルスとの間に、患者に投与される。これは、補助物質を細胞内へ推進するか又は押し込むことを支援し得る。
【0099】
[00217] いくつかの実施形態では、等張食塩液又は高張食塩液を治療部位へ送達して局所張性を調整することは認められよう。
【0100】
IV.例示的な波形
[00218] いくつかの実施形態において、調節PEFエネルギは、単相の長時間(500μsより大きい)のパルスを含む波形を有する。
図14Aは、溢出を誘発するために用いられる発生器104のエネルギ送達アルゴリズム152によって提供されたそのようなPEFエネルギの例示的な波形を示す。この実施形態において、波形は一連のパルス400で構成され、各パルスはパルス幅402及び振幅(設定電圧404によって決定される)を有し、各パルス400は遅延406によって分離されている。この実施形態において、パルス幅は長時間と見なされ、500マイクロ秒よりも大きい。この実施形態において、パルス400間の遅延406は10μs~10sの範囲内であり、これは、10μs~100μs、1ms~100ms、100ms~500ms、500ms~1秒、1~5秒、5~10秒、1ms、500ms、1秒、2秒、5秒を含む。
図14Aでは2つのパルス400が図示されているが、調節は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10のパルス、又は10より多いパルスによって達成され得る。いくつかの実施形態において、このPEFエネルギは、標的組織エリア内の細胞による分子110の取り込みを誘発するように設計されておらず、従って、ある範囲のパルスパラメータ(例えば電圧、周波数、パルス間遅延等)を利用し得る。しかしながら、いくつかの実施形態では、治療エネルギ自体が
図14Aのものと同様であり得ることは認められよう。いくつかの実施形態において、波形は、
図14Bに示されているように二相である。ここでは、各パルス400は二相であり、遅延406によって分離されたパルス幅402を有する。この実施形態でも、パルス幅402は長時間と見なされ、500マイクロ秒よりも大きい。この実施形態において、パルス400間の遅延406は1μs~1秒の範囲内であり、いくつかの例を挙げると、1μs~10μs、10μs、1μs~100μs、100μs、1μs~250μs、250μs、1μs~500μs、500μs、1ms、2ms、5ms、又は1~5msである。いくつかの実施形態では、パルス400は極性が反転して、いくつかのパルス400が正の振幅を有すると共にいくつかのパルス400が負の振幅を有するようになっており、このような極性の反転は対称的又は非対称的であり得ることは認められよう。また、いくつかの実施形態において、パルス400は極性によってグループ化されることは認められよう。各グループ内に任意の適切な数のパルスが存在し得ると共に、各グループは同じ又は異なる数のパルスを有し得ることは認められよう。例えば、6つの正のパルスの後に2つの負のパルスが続くか、又は4つの正のパルスの後に1つの負のパルスが続く。このように、様々な組み合わせを生成することができる。このようなグループ化は、対称的又は非対称的であり得る。更に、
図13は、専門のエネルギ送達デバイス102及びリターン電極106を用いた単極送達を示すが、二極電極アレイ等の二極電極によってPEFエネルギを送達してもよい。
【0101】
[00219]
図15Aは、治療的処置を行うために用いられる発生器104のエネルギ送達アルゴリズム152によって提供された例示的な波形を示す。これらの波形は、溢出を誘発するために構成された長時間(500μsより大きい)のパルスではなく、短時間のパルス0.5~200μsを有し、これらを複数の方法で組み合わせて、パケットを構成する1~200μsの累積オン時間を得ることができる。この後、例えば組織の標的領域をアブレーションするため、治療用に構成された複数のパケットを送達することができる。また、このようなPEFエネルギも溢出を誘発し得ることは認められよう。この実施形態において、波形は一連の低電圧低周波数パルス800で構成され、各パルスはパルス幅802及び振幅(設定電圧804によって決定される)を有し、各パルス800は遅延806によって分離されている。このような波形は、遺伝物質を細胞へ移動させるために適切であり得る。この実施形態では3つのパルス800が図示されているが、移動は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10のパルス、又は10より多いパルスによって達成され得る。いくつかの実施形態では、パルス800は極性が反転して、いくつかのパルス800が正の振幅を有すると共にいくつかのパルス800が負の振幅を有することは認められよう。また、いくつかの実施形態において、パルス800は極性によってグループ化されることは認められよう。例えば
図15Bは、エネルギ送達アルゴリズム152によって提供された例示的な波形を示し、正の極性を有する2つのパルス800’の後に負の極性を有する2つのパルス800’’が続く。各グループ内に任意の適切な数のパルスが存在し得ると共に、各グループは同じ又は異なる数のパルスを有し得ることは認められよう。例えば、6つの正のパルスの後に2つの負のパルスが続くか、又は4つの正のパルスの後に1つの負のパルスが続く。このように、様々な組み合わせを生成することができる。このようなグループ化は、対称的又は非対称的であり得る。同様に、パルス800は、異なる振幅(設定電圧804によって決定される)及びパルス幅802のように異なる特徴を有し得る。
【0102】
[00220] いくつかの実施形態において、治療エネルギは単極で送達され、各パルスの振幅すなわち設定電圧804は、いくつかの例を挙げると、1~500V、1~250V、1~100V、10~100V、10~70V、10~50V、10~40V、10~30V、10~20V、10V、20V、30V、40V、50V、60V、70V、80V、90V、100Vである。使用され検討される電圧は、方形波形の上部、正弦波形もしくはのこぎり歯波形のピーク、又は正弦波形もしくはのこぎり歯波形のRMS電圧とすることができる。
【0103】
[00221] 設定電圧804は、エネルギが単極で送達されるか又は二極で送達されるかに応じて変動し得ることは認められよう。二極送達では、電場が小さく、より方向付けられるので、低電圧が使用され得る。治療での使用に選択される二極電圧は電極の分離距離に依存するのに対して、1つ以上の離れた分散パッド電極を使用する単極電極構成は、身体上に配置されたカテーテル電極及び分散電極の正確な配置についてあまり考慮することなく送達され得る。単極電極の実施形態において、分散電極は、パッド又は他の任意の受信電極によって構成され得る。典型的に、これは、サイズのため(配置された場所で局所的に効果を発動することを防止するのに充分な大きさである)及び/又は配置のため(局所効果を回避し、アーク放電の危険を冒さないよう充分に離れている)、分散電極として機能する。しかしながら、いくつかの実施形態において、分散電極は小さく、配置部位で多少の効果を有し得るが、そのような効果は無害の副作用であり得る。例えば、送達分子110は分散電極の近くでは送達を回避するため存在しない場合があり、又は、そのエリアの送達はわずかである。単極電極の実施形態では、身体を通って約10cm~100cmの有効分離距離の分散電極に達する送達エネルギの分散的な挙動のため、典型的に、より大きい電圧が用いられる。しかしながら、いくつかの実施形態では分離距離は2cm~5cmの短さであり、典型的に、適度なサイズの分散電極では5cmが最小であることは認められよう。これに対して、二極電極の構成では、1mm~1cmを含む、約0.5mm~10cmの電極の比較的近い活性領域によって、電気エネルギ濃度に対する影響が大きくなると共に、分離距離から組織へ送達される有効量が増大する。
【0104】
[00222] いくつかの実施形態において、パルス幅802は、いくつかの例を挙げると、1ms、2ms、5ms、10ms、20ms、30ms、40ms、50ms、60ms、70ms、80ms、90ms、100ms、1ms~100ms、2ms~100ms、1~2msである。いくつかの実施形態において、パルス間の遅延は、いくつかの例を挙げると、0.01~5秒、0.01~0.1秒、0.01~0.5秒、0.01~1秒、0.5秒、0.5~1秒、1秒、1~1.5秒、1~2秒、0.5~2秒、2秒、1~3秒である。いくつかの実施形態において、パルス数は、いくつかの例を挙げると、1パルス、2パルス、3パルス、4パルス、5パルス、6パルス、7パルス、8パルス、9パルス、10パルス、10より多いパルスである。
【0105】
[00223] いくつかの実施形態において、治療エネルギは、一連の高電圧高周波数パルスの後に一連の低電圧低周波数パルスを含み、この組み合わせは標的細胞に特定の効果を有する。例えば
図16Aで示されているように、複数の高電圧高周波数パルスを含み、任意選択的にパケット単位である第1のパルスセット820が送達される。このような高電圧高周波数パルスの例は、少数の例を挙げると、「Methods, apparatuses, and systems for the treatment of pulmonary disorders」と題する米国特許第10,702,337号、及び、「DEVICES, SYSTEMS AND METHODS FOR THE TREATMENT OF ABNORMAL TISSUE」と題するPCT/US2020/028844号に与えられている。これらは援用により本願に含まれる。このようなパルスは、細胞による分子110の取り込みのために細胞を調製することができる。いくつかの実施形態では、第1のパルスセット820の後に遅延822(100マイクロ秒~2秒等)が続き、その後に第2のパルスセット824が続く。この実施形態において、第2のパルスセット824は複数の低電圧低周波数パルスで構成されている。
図16Aは、第2のパルスセット824の第1のパルス826が最大で10マイクロ秒続き、その後に遅延806(例えば最大で1ms)が続き、更に第2のパルス828が続くことを示す。この実施形態において、第2のパルス828は第1のパルス826と反対の極性を有し、従って遅延806はスイッチ時間遅延807と見なすことができる。いくつかの実施形態では、パルス826、828間に遅延806/807は存在しないことは認められよう。いくつかの例では、第1のパルスセット820は分子110の取り込みのために細胞を調製し、例えば細胞を、分子受容又は移動プロセスを受け入れやすい状態にする。従って、第1のパルスセット820はプロセスを開始する。次いで第2のパルスセット824は、分子を細胞内に取り込むことを支援し、例えば分子を細胞内へ推進するか又は押し込む。任意選択的に、これらのパルスセット820、824をあるパターンで反復してもよい。
【0106】
[00224]
図16Bは、変更されたセグメントを有する別の波形例を示す。ここで、複数の高電圧高周波数パルスを含み、任意選択的にパケット単位である第1のパルスセット820が送達される。この場合も、このような高電圧高周波数パルスの例は、少数の例を挙げると、「Methods, apparatuses, and systems for the treatment of pulmonary disorders」と題する米国特許第10,702,337号、及び、「DEVICES, SYSTEMS AND METHODS FOR THE TREATMENT OF ABNORMAL TISSUE」と題するPCT/US2020/028844号に与えられている。これらは援用により本願に含まれる。いくつかの実施形態では、第1のパルスセット820の後に遅延822(100マイクロ秒~2秒等)が続き、その後に第2のパルスセット824が続く。この実施形態において、第2のパルスセット824は複数の低電圧低周波数パルスで構成されている。この実施形態において、第2のパルスセット824は、スイッチ時間遅延が存在しない一連の二相パルスで構成され、約100マイクロ秒~5ミリ秒続く。この場合も、いくつかの例では、第1のパルスセット820は分子110の取り込みのために細胞を調製し、例えば細胞を、分子受容又は移動プロセスを受け入れやすい状態にする。従って、第1のパルスセット820はプロセスを開始する。次いで第2のパルスセット824は、分子を細胞内に取り込むことを支援し、例えば分子を細胞内へ推進するか又は押し込む。任意選択的に、これらのパルスセット820、824をあるパターンで反復してもよい。
【0107】
[00225] 従って、いくつかの実施形態においてシステム100は、溢出を誘発するように設計された第1のパルスセット400を有し、その後(任意選択的に、浮腫効果が最大に発生する時間を見込んだ大きい遅延の後)、治療的処置を提供するように設計された第2のパルスセット800を有する波形を発生するためのアルゴリズム152を含む。治療的処置が標的細胞による分子110の取り込みを含む場合、第2のパルスセット800は典型的に、分子110の取り込みを増大するように構成されている。いくつかの実施形態において、治療的処置は、細胞内への遺伝物質の細胞内トランスフェクションを含む。この目的のための検討事項には、帯電していることが多い大きい遺伝物質を細胞膜の細胞表面へ移動させること、及び、細胞膜を通してそれらの遺伝物質を押し込む必要性が含まれ、一時的な分断から細胞膜の完全性への強化も含まれ得る。これは、PEFの長い持続時間の単相又は二相のシーケンスによって達成することができる。このように、間質液内に存在するプラスミドを細胞内へ導入して、下流の目的を実施する。
【0108】
[00226] 任意選択的に、第2のパルスセット800は、複数の高電圧高周波数パルスを含むパルスセット820の後の複数の低電圧低周波数パルスを含むパルスセット826等、複数の異なるタイプのパルスを含み得る。そのような例では、波形全体は3つのパルスセットを含み得る。すなわち、1)溢出を誘発するパルスセット400、2)高電圧高周波数パルスセット820、及び3)低電圧低周波数パルスセット826である。このようなパルスの組み合わせは、標的細胞による分子110の取り込みを最大化することができる。
【0109】
[00227] 溢出及び治療的処置のためのPEFエネルギ送出は、これらの目的のいずれかを促進する二次的な方法を含むことによって補足され得ることは認められよう。例えば、分子110がプラスミドを含む場合、リポフェクタミン等の薬剤をプラスミドと混合して細胞の取り込みを促進できる。これは、毛細血管分断PEFエネルギによる溢出誘発を介して最初にプラスミドとリポフェクタミンの混合物に浸かった領域でトランスフェクションを強化することができる。
【0110】
[00228] 典型的に、調節PEFエネルギは、標的組織細胞の破壊を最小限に抑えて又はこれを全く破壊することなく毛細血管を分断させる。殺される細胞と分断された毛細血管の程度及び比は、様々な標的臓器及び治療される病気によって変動する。例えば肝臓で使用する場合は、この臓器の再生的性質のため、肝細胞の付随する細胞死は一般に許容度が高い。このため、肝臓標的PEFの第1の(又は第2の)波プロトコルは、もっと敏感な臓器に比べて、より大きい体積の局所的浮腫を発生させるための大きい強度(電圧、低い周波数、長い時間、それらの多く)を有し得る。これとは対照的に、脳又は心臓のような標的は付随する細胞死に対して高い許容度を持たない場合があり、従って、これらの標的臓器における治療は、これらの敏感な臓器での過剰な細胞死を防止するため、より小さい体積の浮腫を発生させる弱いプロトコルを用いることを含み得る。
【0111】
[00229] いくつかの実施形態において、調節PEFエネルギは、アブレーション及び/又は免疫反応を含む治療的処置と共に使用され、この治療的処置は単独で、又は化学療法薬のような薬品もしくは薬剤を含む分子と組み合わせて用いられる。このような例では、治療的処置の前に標的組織エリアを標準化するため(例えば、安定したインピーダンス環境を生成するため)、溢出が調節PEFによって誘発され、及び/又は仮想電極もしくは流体電極を生成することで標的治療エリアを拡大する。これは特に、細胞による取り込みのための分子を含むことなく治療と組み合わせて調節PEFエネルギを利用する場合に当てはまり得る。このような治療的処置は、マイクロ波アブレーション、高周波アブレーション、冷凍アブレーション、高密度焦点式超音波(HIFU)、及び/又はパルス電場療法を含み得る。このタイプのアブレーションパルス電場治療的処置を提供するシステム及び波形の例は、米国仮出願62/355,164号及び62/489,753号に対する優先権を主張する「GENERATOR AND A CATHETER WITH AN ELECTRODE AND A METHOD FOR TREATING A LUNG PASSAGEWAY」と題する国際特許出願番号PCT/US2017/039527号、米国仮出願62/610,430号に対する優先権を主張する「METHODS, APPARATUSES, AND SYSTEMS FOR THE TREATMENT OF DISORDERS」と題する国際特許出願番号PCT/US2018/067501号、並びに、2017年12月26日に出願された仮出願62/610,430号及び2018年7月3日に出願された仮出願62/693,622号に対する優先権を主張する「OPTIMIZATION OF ENERGY DELIVERY FOR VARIOUS APPLICATIONS」と題する国際特許出願番号PCT/US2018/067504号を含む、本発明の譲受人に譲渡された特許出願に記載されている肺組織変更システム(例えばエネルギ送達カテーテルシステム)を含む。これらは全て、あらゆる目的のため援用により本願に含まれる。
【0112】
[00230] いくつかの実施形態では、薬品又は薬剤のような分子110と共に部分治療が用いられる。このため、調節溢出及び浮腫は、部分治療、細胞による分子110の取り込み、又はそれら双方を改善させることができる。部分治療と組み合わせて分子110が送達された場合、分子110はネオアジュバント療法として作用し得る。ネオアジュバント療法は、がん治療で使用することができ、一次治療の前に送達されて、腫瘍のサイズを縮小すること又は広がったがん細胞を殺すことに役立つ。
【0113】
[00231] いくつかの実施形態において、分子110は化学療法薬を含む。化学療法は典型的に、血流内へ導入される全身療法であるので、原理上は身体内のいかなる解剖学的位置のがんにも対処することができる。従来の化学療法薬は、細胞分裂を阻害することによる細胞毒性があるが、これらの薬剤に対するがん細胞の感受性は大きく異なる。多くの場合、化学療法は、細胞に損傷又はストレスを与える方法と考えることができるが、これはアポトーシスが開始した場合に細胞死を招き得る。化学療法の副作用の多くは、原因をたどると、急速に分裂するので細胞分裂抑制薬に対して敏感である正常細胞、特に、骨髄、消化管、及び毛包の細胞の損傷であり得る。また、化学療法は、腫瘍組織に対して局所的に投与されることもある。
【0114】
[00232] いくつかの実施形態では、調節PEFエネルギを用いて、標的組織エリアで化学療法の濃度を増大させる溢出及び浮腫を誘発する。それに加えて、治療PEFエネルギによって標的組織を治療する。このような治療は細胞恒常性を分断して、プログラムされた細胞死のような効果を開始させ、化学療法による更に効果的な損傷のため永久細胞死又は細胞のプライミングを生じ得る。このようなプライミングは、治療PEFによる治療と化学療法との相乗効果を与え、どちらか一方だけの治療を上回る結果を生む。従って、このような組み合わせ治療は、より効果的な治療及び大幅に改善した反応を引き起こす可能性がある。
【0115】
[00233] いくつかの実施形態において、PEFエネルギは、腫瘍治療、特にがん性腫瘍の治療のために構成された波形及び信号パラメータを有する。
図17は、エネルギ送達アルゴリズム152によって規定されたそのような波形900の一実施形態を示す。ここで、2つのパケット、すなわち第1のパケット902及び第2のパケット904が示され、これらのパケット902、904は休息期間906によって分離されている。腫瘍の治療では、典型的に複数のパケットが標的組織へ送達されることは認められよう。この実施形態において、各パケット902、904は、第1の二相パルス(第1の正のピーク908及び第1の負のピーク910を含む)と第2の二相パルス(第2の正のピーク908’及び第2の負のピーク910’を含む)から構成されている。第1及び第2の二相パルスは、各サイクル間の不感時間又はサイクル間遅延912(すなわち中断)によって分離されている。いくつかの実施形態では、サイクル間遅延912は250μs~5000μsであり、特に1000μsである。他の実施形態では、遅延912はもっと大きく、例えば2000μs~5000μsである。この実施形態において、二相パルスは対称的であり、正及び負のピークの設定電圧916は同一である。ここで、二相の対称的な波は方形波であり、正電圧波の大きさ及び時間は負電圧波の大きさ及び時間とほぼ等しい。正電圧波によって、通常は負に帯電した細胞が短時間正に変わる細胞脱分極が生じる。負電圧波によって、細胞電位が負である過分極が生じる。
【0116】
[00234] いくつかの実施形態において、各高電圧パルスすなわち設定電圧916は約3000V~6000Vであり、例えば3000V~3300V、3000V~3500V、3000V~4000V、3000V、3100V、3200V、3300V、3400V、3500V、3600V、3700V、3800V、3900V、4000V、4100V、4200V、4300V、4400V、4500V、4600V、4700V、4800V、4900V、5000V、5100V、5200V、5300V、5400V、5500V、5600V、5700V、5800V、5900V、6000Vである。設定電圧916はエネルギが単極で送達されるか又は二極で送達されるかに応じて変動し得ること、及び、このような値は単極送達に特有であることは認められよう。
【0117】
[00235] 単位時間当たりのパルス数は周波数である。いくつかの実施形態において、信号の周波数は100~600kHzの範囲内であり、例えば100~200kHz、100~300kHz、100~400kHz、100~500kHz、400~500kHz、100kHz、200kHz、300kHz、400kHz、500kHz、600kHzである。更に、いくつかの実施形態では、心拍同期を用いて望ましくない心筋刺激を低減又は回避する。いくつかの実施形態では、二相パルスを用いて、望ましくない筋刺激、特に心筋刺激を低減する。信号アーチファクトを最小限に抑える構成要素を用いて、もっと高い周波数が使用され得ることは認められよう。
【0118】
[00236] サイクルカウント920は、各パケット内のサイクル数である。
図17を参照すると、第1のパケット902のサイクルカウント920は2である(すなわち、2つの二相パルス)。いくつかの実施形態では、サイクルカウント920はパケット当たり10~60サイクルに設定され、これらの間の全ての値及び部分範囲(subrange)を含む。いくつかの実施形態において、サイクルカウント920は、10サイクル、20サイクル、30サイクル、40サイクル、50サイクル、60サイクル、10~20サイクル、20~30サイクル、30~40サイクル、40~50サイクル、50~60サイクルであり、これらの間の全ての値及び部分範囲を含む。いくつかの実施形態において、パケット当たりのオン時間は70~100μsであり、70μs、80μs、90μs、100μsを含む。周期(period)は、信号がオンとオフのサイクルを完了するために要する時間であるので、あるサイクルのオン時間は、そのサイクルが「オン」である時間である。同様に、パケット当たりのオン時間は、パケット内のサイクルのオン時間の和である。パケット持続時間は、周波数に基づくパケットの周期の和である。
【0119】
[00237] いくつかの実施形態において、治療中に送達されるパケットの数は1~1000パケットの範囲内であり、典型的には20~400パケット又は40~100パケットであり、50パケット、100パケット、150パケット、200パケットを含み、これらの間の全ての値及び部分範囲を含む。いくつかの実施形態において、休息期間又はパケット間遅延906と呼ばれるパケット間の時間は約3~6秒であり、例えば3秒、4秒、5秒、6秒であり、これらの間の全ての値及び部分範囲を含む。いくつかの実施形態では、信号を心律動と同期させることで、各パケットが心拍間に送達され、従って休息期間が心拍と一致するようになっている。このため、パケット間の休息期間は心拍同期の影響を受ける可能性があるので、休息期間906は様々に変動し得る。
【0120】
[00238] 標的組織を望ましく変更するための特定の設定は、相互に及び電極設計に依存することは認められよう。従って、本明細書に提供されている実施形態は特定の波形例を示しており、所望の組織効果を達成するために複数の波形及び/又は特徴を任意の組み合わせで使用することは本発明の範囲内である。
【0121】
[00239] いくつかの実施形態において、
図17の波形は溢出を誘発し、治療の目的に加えてこの目的のために用いることができる。このような波形の特定の例は、1400Vの電圧、300kHzの周波数、30サイクル、100μsのオン時間、100パケット、1000μsのサイクル遅延、及び3秒のパケット遅延を有する。従って、この例における全治療時間は約5分である(すなわち、100パケット*3秒=300秒すなわち約5分)。この例を用いて、後の節に記載されている様々なタイミング例を説明する。
【0122】
センサ
[00240] いくつかの実施形態において、エネルギ送達デバイス102は1つ以上のセンサを含み、いくつかの例を挙げると、このセンサを用いて、圧力、温度、インピーダンス、抵抗、キャパシタンス、伝導率、pH、光学特性(コヒーレンス、エコー輝度、蛍光)、電気又は光誘電率、及び/又はコンダクタンスを決定することができる。いくつかの実施形態では、エネルギ送達部108の電極のうち1つ以上が1つ以上のセンサとして作用する。他の実施形態では、1つ以上のセンサは電極とは別個である。センサデータを用いて、手順の計画、手順の監視、及び/又はプロセッサ154を介した直接フィードバックの提供を行うことができ、その後プロセッサはエネルギ送達アルゴリズム152を変更することができる。
【0123】
A.圧力検知
[00241] 通常、細胞は機械的な刺激に応答することは認められよう。機械的な刺激の1つのそのようなタイプは圧力である。一般に、静水圧は、間質液の体積と標的組織間質の全体的なコンプライアンスによって決定される。これは組織タイプによって変わることに注意しなければならない。一部の臓器は剛性の高い/コンプライアンスの低い構造内に収容され(例えば脳、腎臓等)、他の臓器はもっと自由に膨張/収縮する(例えば肺、筋肉、皮膚等)。静水圧が増大すると、局所細胞膜の浸透性が高くなる可能性がある。従って、多くの場合、特に分子110の局所注入中に標的組織に加わる圧力に留意することは有益である。このため、いくつかの実施形態において、エネルギ送達デバイス102は圧力センサを含む。圧力センサ測定を用いて、分子110及び治療エネルギの注入前、注入中、及び/又は注入後に、溢出から生じる浮腫レベルを監視できる。従って、全治療プロトコル中の特定の時点で所望の浮腫レベルに到達するように、溢出の誘発を調整することができる。
【0124】
[00242] 様々な圧力センサ200を用いることができる。いくつかの実施形態では、
図18Aで示されているように、圧力センサ200はエネルギ送達デバイス102の遠位先端部に沿って配置されている。ここで、エネルギ送達デバイス102は針形状を有するエネルギ送達部108を含み、エネルギ送達部108は少なくとも部分的に絶縁スリーブ202で覆われている。図示のように、分子110はエネルギ送達部108を通って近くの標的組織エリアに至る。このため、圧力センサ200は、分子110の注入中及び治療エネルギの印加中の圧力を監視することができる。他の実施形態では、
図18Bで示されているように、圧力センサ200はエネルギ送達デバイス102の遠位端に沿って配置されているが、先端部に対して近位にある。ここで、圧力センサ200は、少なくとも部分的にエネルギ送達部108を覆う絶縁スリーブ202に沿って配置されている。組織レベルの相対圧力測定値を取得すると、ユーザは組織内の注入分子110の分布を知ることができる。注入溶液が既知の圧力及び流量である(デバイス102の近位端の近くで容易に値を測定できる)ことを考慮すると、遠位端における追加の相対測定値によって、標的組織に沿った分子の空間分布を知るための情報及び一時的な圧力プロファイルが提供される。
【0125】
[00243] いくつかの実施形態において、圧力センサ200はひずみゲージ変換器である。ひずみゲージ変換器は典型的に、測定量(すなわち、ひずみ、電気抵抗、又は波長)に応答して出力形態の変化を示すことにより特徴付けられる。感度は、長さに対する抵抗の相対的変化によって決定される。
【0126】
[00244] 他の実施形態において、圧力センサ200はダイヤフラム変位センサを含む。ダイヤフラム変位センサはマクロ電気機械システム技術に基づくものであり、センサは密閉キャビティの上に曲げられる平面(ダイヤフラム)を有する。ダイヤフラムは、圧力変化に応答して曲がるすなわち変形する。得られる出力の形態は、キャパシタンスに基づくか又は圧電変換器に基づくものであり得る。いくつかの実施形態において、センサ200はエネルギ送達デバイス102の遠位先端部に配置され、対応するダイヤフラムはセンサ200に対して近位に配置され、これにより、それらの間の距離を介した圧力低下の測定が可能となる。例えばサイズの制約のためにこのようなセンサの配置が難しい例では、圧力検知光ファイバが好適である場合がある。
【0127】
[00245] いくつかの実施形態では、
図18Cで示されているように、エネルギ送達デバイス102は遠位先端部に沿って配置された拡張可能部材204を含む。ここで、拡張可能部材204は、針形状を有するエネルギ送達部108を少なくとも部分的に覆う絶縁スリーブ202上に搭載されている。このような拡張可能部材204の位置決めは、エネルギ送達デバイス102を挿入することで生成される通路を逆流する分子110の溶液のリフロー(reflow)の防止に役立ち得る。これにより、標的組織内の圧力分布が改善され、従って分子110の全体的な送達が改善され得る。また、拡張可能部材204は、PEFエネルギ送達中に針形状エネルギ送達部108の移動を防止し得る。いくつかの実施形態において、拡張可能部材204上に搭載された圧力センサ200は拡張可能部材204内の圧力を監視する。これにより、拡張可能部材204の適正な膨張を保証する。更に、いくつかの実施形態において、圧力センサ200は、分子110の注入及び/又はPEFエネルギの送達の間の組織圧力を監視する。
【0128】
タイミングの実施形態
[00246] 結果の改善のため、例えば腫瘍のような異常組織の治療改善のために、PEFエネルギの送達及び分子110の送達のタイミングを最適化できることは認められよう。
図19は、処置送達に関連した分子110の送達の3つの例示的なタイミング実施形態を示す。ここで、x軸はPEFエネルギ送達のタイミングを示す。個々の区画は、PEFエネルギ送達プロトコルの開始950及びPEFエネルギ送達プロトコルの終了952を含む。このようなプロトコルは、例えば腫瘍の全て又は所望量を殺すことによって腫瘍を治療する等、標的組織エリアを治療するために充分であると考えられる。説明の目的のため、上述した波形(すなわち、1400Vの電圧、300kHzの周波数、30サイクル、100μsのオン時間、100パケット、1000μsのサイクル遅延、及び3秒のパケット遅延)を用いる。この例では、治療の開始と終了との間の時間は約5分間である。治療の過程の約3分の1(33%)を示す区画954や、治療の過程の約3分の2(66%)を示す区画956等、追加の境界が与えられている。
【0129】
[00247] 第1の例において、分子110AはPEFエネルギ送達開始950の付近で送達され、PEFエネルギ送達の第1の部分を通して、例えばPEFエネルギ送達の最初の25~33%を通して、送達が継続される。この例では、分子110Aは約1.25~1.67分間送達される。いくつかの例では、(破線960Aで示されるように)PEFエネルギ送達開始950の前にも分子110Aを追加的に送達して、PEFエネルギ送達が開始する時点までに分子110Aが標的組織に到達することを保証することは認められよう。いくつかの実施形態では、PEFエネルギ送達の10秒~10分前、典型的にはPEFエネルギ送達の1分~10分前に分子110Aを送達する。分子110Aは、局所注入、局所送達、及び全身送達、例えば静脈送達を含めて、本明細書に記載されている様々な方法によって送達され得ることは認められよう。全身送達のような送達方法は、ダイナミクスを考慮すると、局所送達よりも早く開始することによって利益を得られる。治療効果(例えば溢出及びアブレーション)の大部分は典型的に治療時間の最初の25~33%で発生するが、残りのPEFエネルギ送達が効果の補強に役立つことは認められよう。従って、この期間と分子110Aの送達を揃えることによって、この貴重な時間中に分子110Aが利用可能となり、それらの効果を最大化することができる。
【0130】
[00248] 第2の例において、分子110B’はPEFエネルギ送達開始950の付近で送達され、PEFエネルギ送達の第1の部分を通して、例えばPEFエネルギ送達の最初の25%を通して、連続的に送達される。PEFエネルギ送達終了950の前に、分子110B’’の追加の送達が行われ、例えばPEFエネルギ送達期間の最後の25%で送達が行われる。従ってこの例では、PEFエネルギ送達開始付近の約1.25分間に分子110B’が送達され、2.50分間は送達が行われず、その後、PEFエネルギ送達終了952までの約1.25分間に分子110B’’が送達される。この場合も、いくつかの例では、(破線960Bで示されるように)PEFエネルギ送達開始950の前にも分子110B’を追加的に送達して、PEFエネルギ送達が開始する時点までに分子110B’が標的組織に到達することを保証することは認められよう。分子110B’、110B’’は、局所注入、局所送達、及び全身送達、例えば静脈送達を含めて、本明細書に記載されている様々な方法によって送達され得ることは認められよう。全身送達のような送達方法は、ダイナミクスを考慮すると、局所送達よりも早く開始することによって利益を得られる。この場合も、治療効果(例えば溢出及びアブレーション)の大部分は典型的に治療時間の最初の25~33%で発生するが、残りの送達が効果の補強に役立つことは認められよう。従って、この期間と分子送達を揃えることによって、この貴重な時間中に分子が利用可能となり、それらの効果を最大化することができる。更に、PEFエネルギ送達期間の後の部分で分子110B’’を送達することにより、溢出後の最後の分子押し出しで多くの分子110B’’を治療エリア内に定着させる等、効果の補強を増大する。
【0131】
[00249] 第3の例において、分子110CはPEFエネルギ送達開始950の付近で送達され、PEFエネルギ送達期間を通してPEFエネルギ送達期間終了952まで連続的に送達される。従ってこの例では、分子110Cは、PEFエネルギ送達期間を通して約5分間にわたって送達される。この場合も、いくつかの例では、(破線960Cで示されるように)PEFエネルギ送達開始950の前にも分子110Cを追加的に送達して、PEFエネルギ送達が開始する時点までに分子110Cが標的組織に到達することを保証することは認められよう。分子110Cは、局所注入、局所送達、及び全身送達、例えば静脈送達を含めて、本明細書に記載されている様々な方法によって送達され得ることは認められよう。全身送達のような送達方法は、ダイナミクスを考慮すると、局所送達よりも早く開始することによって利益を得られる。このような、例えば一定の注入速度での分子110Cの連続送達は、治療全体を通して分子、溢出、及びアブレーションの調整された相互作用を最大化する。いくつかの例では、この組み合わせによって最も強力な結果が得られる。5分間のPEFエネルギ送達にわたる分子110Cの低速で一定の送達は、より多くの分子110Cをゆっくりと組織に拡散させることができ、PEFエネルギの各パケットの送達と共にエネルギ送達デバイスから衝撃波のような機械力が放出されるという追加の利点も得られる。
【0132】
[00250]
図20は、この現象を説明する実験室での研究の結果を示す。この研究では、ブタに麻酔した後、肝臓を露出する開腹手術を実行した。ブタの肝臓にシスプラチン(0.1mg)を注入し、3つのモダリティを用いたPEFエネルギ送達と組み合わせた。すなわち、1)PEFエネルギ送達を行わないシスプラチンの局所注入(CISのみの群)、2)ブタの肝臓の異なるエリアにシスプラチンを注入し、薬品のボーラス投与の2分後に同じ位置にPEFを送達した(ボーラス及びPEF群)、3)PEF送達と同時に5分間にわたってシスプラチンを送達した(注入及びPEF群)。PEF送達の2時間後に肝臓を収集し、処置したエリアを分割して、中心部、周辺部、及び外周部に分離した。中心部の処置エリアを選択するため、6mmパンチ生検を用いた。周辺部を収集するため、10mmパンチ生検を用いた。また、外周部を隔離するため、15mmパンチ生検を用いた。質量分析によって肝臓サンプルを分析し(ICP-MS)、シスプラチンの濃度を定量化した。
図20で示されているように、中心部及び周辺部の双方におけるシスプラチンの最高濃度は、薬品及びPEFエネルギを同時に送達した場合(注入及びPEF群)、特に、PEFエネルギによる処置全体を通して薬品を送達した場合に達成された。
【0133】
[00251] 上述した
図19のタイミングの例は処置時間に関して与えられるが、分子及びPEFエネルギの送達の相対的なタイミングは、送達される分子110の体積及び/又は送達速度/流量のような他の要因に基づいて制御され得ることは認められよう。例えばいくつかの実施形態では、治療プロトコル中のPEFエネルギ送達全体を通して標的組織エリアに所定の体積の分子110が送達される。従って、送達される速度は、送達される分子の合計体積と所定の治療時間とに基づく。他の実施形態では、エネルギ送達の第1の部分、例えばエネルギ送達の最初の25~33%の間に、所定の体積の分子が送達され、その後、治療の残り部分では分子は送達されない。他の実施形態では、エネルギ送達の第1の部分、例えばエネルギ送達の25%の間に、所定の体積の半分の分子が送達され、エネルギ送達の第2の部分、例えばエネルギ送達の最後の25%の間に、所定の体積の半分が送達される。これらの状況の各々において、送達速度は、特定の体積の分子と特定の量の処置時間に基づく。分子が処置プロトコル全体を通して送達される例では、分子は最低の流量で送達されると推測することができる。同様に、分子がエネルギ送達の最初の25~33%で送達され、その後、処置の残り部分で送達されない例では、最高の流量が発生する。
【0134】
[00252] いくつかの実施形態では、ユーザが分子を手作業で送達する(例えば局所注入、局部注入、全身注入等によって)と共に、発生器を活性化してPEFエネルギを送達する(例えば足踏みスイッチによって)。このような実施形態では、タイミング及び調整は、ユーザのみによって達成されるか、又は、タイマ、センサ、アラート、データフィードバック等の様々なコンポーネントの補助によって達成される。
【0135】
[00253] 他の実施形態では、1つ以上のセンサ、1つ以上のタイマ、1つ以上のモニタ、それらの組み合わせ等、1つ以上のコンポーネントに応答してPEFエネルギが送達される。いくつかの実施形態では、1つ以上のコンポーネントに応答してパルス電場エネルギの送達を制御するように構成されたコントローラが提供される。例示的なコントローラは、いくつかの例を挙げると、スイッチボックス、送達制御盤、リレーシステム、発送ユニット、マイクロコントローラ、分子分布制御盤、分子制御システム、流体制御システム、流体制御弁、分子流体サーボシステムを含む。コントローラは、発生器に含まれるか又は発生器とは別個とすることができ、PEFエネルギ送達を制御するように発生器と関連して機能する。いくつかの実施形態において、コントローラは、患者に送達されている分子の流量を検知するセンサを含む1つ以上のコンポーネントを利用する。他の実施形態において、コントローラは、患者に分子を送達するように構成された注射器ポンプの圧力を検知するセンサを含む1つ以上のコンポーネントを利用する。他の実施形態において、コントローラは、タイマを含む1つ以上のコンポーネントを利用し、コントローラは、標的組織エリアへの分子送達開始後の所定の時点でパルス電場エネルギの送達を実行する。
【0136】
[00254] 本明細書において上述した例に関して、いくつかの実施形態では、コントローラは、標的組織エリアへの分子送達全体を通してパルス電場エネルギの送達を実行する。エネルギ送達の第1の部分、例えばエネルギ送達の最初の25~33%の間に、所定の体積の分子が送達され、その後、処置の残り部分では分子が送達されない実施形態では、コントローラは、標的組織エリアへの分子送達全体を通してパルス電場エネルギの送達を実行し、その後、分子送達よりも200~300%長い期間にわたってパルス電場エネルギの送達を継続し得る。エネルギ送達の第1の部分、例えばエネルギ送達の25%の間に、所定の体積の半分の分子が送達され、後の部分、例えばエネルギ送達の最後の25%の間に、所定の体積の半分が送達される実施形態では、コントローラは、分子の初期送達後の時間期間で発生する追加の分子送達全体を通してパルス電場エネルギの送達を実行し得る。
【0137】
[00255] いくつかの実施形態において、PEFエネルギ及び分子110は別々のデバイスによって送達され、別の実施形態において、PEFエネルギ及び分子110は同一のデバイスによって送達されることは認められよう。従っていくつかの実施形態では、エネルギ送達デバイス102は、標的組織エリアへエネルギを送達するように構成されると共に標的組織エリアへ複数の分子を送達するように構成されている。このような実施形態では、エネルギはエネルギ送達部108を介して送達され、分子110はデバイス102の管腔及び遠位端付近のポートを介して送達することができる。いくつかの実施形態において、分子110は、デバイス102とは別個であり管腔と接続可能である容器、ポンプ、又は注射器に貯蔵される。他の実施形態において、分子110は、管腔と接続されているか又はポートに直接接続されているデバイス102内の容器に貯蔵される。
【0138】
代替的なデバイス設計
[00256] エネルギは、様々なエネルギ送達デバイス102によって送達され得る。典型的に、エネルギ送達デバイス102は、身体内の標的組織へ前進させることができる遠位端を有する可撓性の細長いシャフトと、遠位端の近くに配置されたエネルギ送達部108と、を含む。エネルギ送達部108は、標的組織にエネルギを送達する1つ以上の電極を含む。
【0139】
[00257] いくつかの実施形態において、分子110及びネルギはエネルギ送達デバイス102によって送達される。これは、
図5Aから
図5Cに関して説明及び図示した分子110のシステム送達とは対照的である。この例では、誘発された溢出により、標的治療エリア全体にわたって改善した(例えばより均一な)分子分布を生成すること、及び/又は、分子が少なくとも一時的に希釈しないように分子110を標的組織エリア内に捕捉することができる。
【0140】
[00258]
図21Aから
図21Bは、針形状のエネルギ送達部108を有するエネルギ送達デバイス102を示す。針形状の先端部は、針と同様に突き通して分子110を内腔で送達することができる。更に、エネルギ送達部108は、電極として作用する針形状の先端部を除いて、絶縁層504で電気的に絶縁されている。
図21Aは、エネルギ送達部108を介して標的組織へ分子110を直接注入することを示す。この場合も、標的組織は細胞Cとして示されている(一定の縮尺通りではない)。先端部は標的組織の内部又は付近に挿入されて、注入された分子110が標的組織を浸すことができ、任意選択的に生体内分布のため存在するようにする。
図21Bを参照すると、その後、波線502で示されているように、PEFエネルギがエネルギ送達部108から標的組織へ送達される。PEFエネルギが調節PEFである場合、結果として局所浮腫が生じる。PEFエネルギが治療PEFである場合、エネルギは、細胞Cへの分子110の取り込みを促進するか、又は細胞に対する分子110の効果に影響を与える。
【0141】
[00259]
図22は、遠位端の近くにエネルギ送達部108を有するシャフト106を含むエネルギ送達デバイス102を示す。エネルギ送達部108は複数の歯600を含む。典型的に、歯600は組織を突き刺すように尖った形状を有する。同様に、歯600は典型的にシャフト106から横方向外側に延出し、いくつかの実施形態において、歯600はシャフト106の周りで円周方向に配置される。いくつかの実施形態において、歯600はシャフト106の一方側で、例えば一列に並べて配置されることは認められよう。いくつかの実施形態において、歯600はシャフト106から同じ距離だけ延出し、他の実施形態において、歯600は様々な距離にわたって延出する。いくつかの実施形態において、歯600の少なくともいくつかのシャフト106からの延出距離は調整可能であることは認められよう。
【0142】
[00260] 典型的に、各歯600はそれから分子110及び/又はエネルギを送達する。いくつかの実施形態において、分子110は歯600の先端部601から送達され、他の実施形態において、分子110は歯600に沿った送達ポート602から送達される。いくつかの実施形態において、歯600は(単一の電極として作用するように)一緒に励起可能であり、又は、歯600の少なくともいくつかは(二極対として作用するように)個別に励起可能である。
【0143】
[00261] この実施形態において、シャフト106は、3つのセクション、すなわち第1のセクション106a、第2のセクション106b、及び第3のセクション106cを有する。
図22で示されているように、第1のセクション106aは第2のセクション106bに対して遠位にあり、第2のセクション106bは第3のセクション106cに対して遠位にある。各セクション106a、106b、106cは、様々な異なる電極の組み合わせを生成するように絶縁されているか又は非絶縁とすることができる。これにより、様々な電場形状を可能とすること及び/又は所望の方向に電場を向かわせることができる。また、いくつかの実施形態において、少なくとも1つの歯600の少なくとも一部は、そこから発するエネルギを方向付けるように絶縁されていることは認められよう。概して、歯600は多くの場合、エネルギ送達デバイス102を1度配置するだけで、単一の針を含むエネルギ送達部108を有するデバイス102よりも大きい体積の標的組織へ分子110及び/又はエネルギを送達することができる。
【0144】
[00262]
図23は、標的組織を管腔内で治療するために構成されたかご形状を有するエネルギ送達部108を含むエネルギ送達デバイス102を示す。ここで、標的組織は体腔の壁Wの近くに配置された細胞Cを含み、特に、体腔を少なくとも部分的に円周方向に包んでいる。この実施形態において、エネルギ送達部108は、電極として機能するらせん形バスケットを形成する複数のワイヤ又はリボン120から成る。いくつかの実施形態において、エネルギ送達部108は自己拡張可能であり、折り畳んだ構成で標的エリアに送達される。この折り畳んだ構成は、例えばエネルギ送達部108の上に外装を配置することによって達成できる。外装を後退させること、又は外装からエネルギ送達部108を前進させることによって、エネルギ送達部108の自己拡張を可能とする。他の実施形態において、エネルギ送達デバイス102は、エネルギ送達部操作ノブを有するハンドルを含み、このノブを移動させるとバスケット形状電極の拡張又は後退/折り畳みが生じる。バスケット形状電極は、体腔又は通路(身体内で自然に発生するか又は生成される)内で拡張可能であり、体腔の壁Wの少なくとも一部に接触するようになっている。
図23で示されているように、例えばバスケット形状電極内の分子110は、例えば遠位端ポート510を介して及び/又はデバイス102のシャフト106に沿った様々な側面ポート512を介して、エネルギ送達デバイス102から送達される。分子110は標的組織を浸すことができ、任意選択的に生体内分布のため存在する。波線502で示されているように、調節PEFエネルギがエネルギ送達部108から標的組織へ送達される。これにより、管腔を取り囲む局所エリアで溢出が誘発される。治療PEFエネルギは、細胞Cへの分子110の取り込みを促進するか、又は細胞に対する分子110の効果に影響を与える。
【0145】
[00263]
図24は、標的組織を管腔内で治療するために構成された形状を有するエネルギ送達部108を含むエネルギ送達デバイス102の別の実施形態を示す。この実施形態において、エネルギ送達部108は少なくとも2つの突起514を含み、各突起は半径方向外側に延出して内腔壁Wと接触するようになっている。単一の突起が存在してもよいが、管腔壁に対して実質的に対抗する力を加えるため、典型的に2つの突起が存在することは認められよう。
図24の実施形態では、3つの突起514が存在する。いくつかの実施形態において、各突起514は、電極として作用するワイヤ又はリボンで形成され、これは、送達デバイス102の長手方向軸又はシャフト106から半径方向外側に曲がる又はたわむ。この実施形態において、突起514は一緒に単一の電極として作用する。しかしながら他の実施形態において、1つ以上の突起514は、複数の電極(例えば1つ以上の二極対)として作用するように個別に励起可能である。突起514は、ステンレス鋼、ばね鋼、又は他の合金等、電極として作用する様々な適切な材料で構成することができ、例えば、丸線又はリボンとすればよい。いくつかの実施形態において、突起514の一部は、ポリマー(例えばPET、ポリエーテルブロックアミド、ポリイミド)等の絶縁セグメントによって絶縁される。例えばいくつかの実施形態において、エネルギ送達部108の近位端及び遠位端の少なくとも一部は、エネルギを壁Wの方へ横方向に向けるため絶縁される。
【0146】
[00264] いくつかの実施形態において、
図24のエネルギ送達部108は自己拡張可能であり、折り畳んだ構成で標的エリアへ送達される。体腔又は通路(身体内で自然に発生するか又は生成される)内での拡張中に、突起は外側にたわみ、体腔の壁Wの少なくとも一部と接触するようになっている。
図24で示されているように、エネルギ送達デバイス102から、例えばエネルギ送達部108内のポート516を介して、分子110が送達される。分子110は標的組織を浸すことができ、任意選択的に生体内分布のため存在する。次いで、波線502で示されているように、PEFエネルギがエネルギ送達部108から標的組織へ送達される。PEFエネルギは、分子110を細胞Cへ送達する。
【0147】
[00265]
図25は、標的組織を管腔内で治療するために構成された形状を有するエネルギ送達部108を含むエネルギ送達デバイス102の別の実施形態を示す。この実施形態において、エネルギ送達部108は、電極520が搭載されるか又は組み込まれた、膨張可能バルーン等の拡張可能部材518を含む。エネルギ送達部108は、折り畳んだ構成で標的エリアへ送達される。この実施形態において、電極520は、比較的広い表面積と薄い断面を有するパッドの形態を有する。パッド形状は、ワイヤ形状のような他の形状よりも広い表面積を与える。各電極520は、電極520を発生器と電気的に接続する伝導ワイヤ522に接続されている。この実施形態では3つの電極520が見えるが、拡張可能部材518の周りに追加の電極が存在し得ることは認められよう。任意の数の電極520が存在して、単一の電極として作用し得るか、又は別個にもしくは組み合わせて作用し得ることは認められよう。電極520の配置及び/又は電極520の選択的な励起によって、エネルギを特定の標的位置へ向けることができる。いくつかの実施形態において、電極520は、拡張可能部材518に取り付けられた可撓性回路パッドもしくは他の材料で構成されるか、又は拡張可能部材518内に形成される。いくつかの実施形態において、電極520は、拡張可能部材518の円周に沿って半径方向に分散させる、及び/又は拡張可能部材518の長さに沿って長手方向に分散させる。このような設計によって展開及び後退の品質改善を促進し、ユーザ動作を容易にし、導入器具(introducer)管腔との適合を改善する。
【0148】
[00266] 拡張可能部材の拡張時、電極520のうち1つ以上は、管腔の壁Wの少なくとも一部と接触するように位置決めされる。
図25で示されているように、エネルギ送達デバイス102から、例えば遠位端ポート510を介して、分子110が送達される。分子110は標的組織を浸すことができ、任意選択的に生体内分布のため存在する。波線502で示されているように、調節PEFエネルギがエネルギ送達部108から標的組織へ送達される。これにより、管腔を取り囲む局所エリアで浮腫が誘発される。治療PEFエネルギは、細胞Cへの分子110の取り込みを促進するか、又は細胞に対する分子110の効果に影響を与える。
【0149】
[00267]
図26は、エネルギ送達デバイス102の別の実施形態を示す。ここで、エネルギ送達部108は、内腔壁Wに接触するよう構成された指先形状を有する。この実施形態において、エネルギ送達デバイス102は、細長いシャフト106と、遠位先端部に配置された指先電極530と、を有する。指先電極530は、標的組織細胞Cの近くの管腔壁Wの部分に対して位置決め可能である。分子110は、例えば全身的に、局部的に、又は局所的に、例えば別個のデバイスによる注入もしくはエネルギ送達デバイス102によって、任意の適切な方法で送達すればよい。
図26は、指先電極530を介した分子110の送達を示す。波線502で示されているように、調節PEFエネルギが指先電極530から標的組織へ送達される。これにより、管腔を取り囲む局所エリアで溢出が誘発される。治療PEFエネルギは、細胞Cへの分子110の取り込みを促進するか、又は細胞に対する分子110の効果に影響を与える。
【0150】
[00268] いくつかの実施形態において、PEFエネルギは、標的組織と接触している伝導性流体(例えば血液、生理食塩水等)に送達されることは認められよう。このため、エネルギは、伝導性流体を通って送達の標的組織に到達することができる。他の実施形態では、伝導性流体へのエネルギ送達は、例えば血液中の白血球への送達等、流体自体の細胞への分子送達を促進する。
【0151】
[00269] 本明細書に記載されている様々な実施形態は、溢出、分子送達、トランスフェクション、アブレーションのような多数のステップ又は方法論を含み、その各々は単独で又は任意の他の方法との任意の組み合わせで使用され得ることは認められよう。例えば溢出は、後続療法を用いて又は用いずに、様々な目的で誘発され得る。PEFエネルギは、様々な療法で組織間の分子の拡散及び分布を向上させるために使用することができ、それらの療法の多くはアブレーション又は別の療法を伴わないことは認められよう。例えば、吸入によって薬剤を送達する場合、吸入前、吸入中、又は吸入後にPEFエネルギを送達して、例えば平滑筋細胞や軟骨のような肺の解剖学的構造内のより深部の細胞まで薬剤を到達させることができる。同様に、IV、局所注入によって、又は脳脊髄液を介して抗てんかん薬を送達する場合、PEFエネルギを送達することで、発作が開始する場所の中心間に薬品をより良好に分散させることができる。これらは、病気又は疾患を治療する薬剤の送達改善のほんの一部の例に過ぎない。
【0152】
[00270] 同様に、溢出を誘発することなく、様々な療法及び療法の組み合わせを患者に提供してもよい。また、療法の部分のいくつかの効果は、療法における特定のステップの存在とは無関係に発生し得る。同様に、本明細書に記載されている様々な治療態様は、方法論のステップの全てを含むことなしに生じ得る。例えば、デブリフィールドDFの生成後に生じるステップ(
図8Aから
図8B)は、手順における溢出誘発の使用とは無関係に発生する。従って、デブリフィールドDFの除去と、その結果として起こる、転移に対する効果を含む免疫反応は、溢出誘発の使用とは無関係に起こる。しかしながら、溢出誘発は、例えばデブリフィールドのサイズ、深さ、成分等を改善することによって、これらの効果の程度に影響を与え得る。
【0153】
[00271] 上記の詳細な説明は、詳細な説明の一部を形成する添付図面に対する参照を含む。図面は、一例として、本発明を実施することができる特定の実施形態を示す。本明細書では、これらの実施形態を「実施例(example)」とも呼ぶ。このような実施例は、図示又は記載したものに追加される要素を含み得る。しかしながら、本発明は、図示又は記載した要素のみが提供される実施例も想定する。更に、本発明者らは、本明細書に図示もしくは記載した特定の実施例(もしくはその1つ以上の態様)に関して、又は他の実施例(もしくはその1つ以上の態様)に関して、図示又は記載した要素の任意の組み合わせ又は並べ換えを用いた実施例(又はその1つ以上の態様)も想定する。
【0154】
[00272] 本文書と援用により本願に含まれるいずれかの文書との間に矛盾する使用法がある場合は、本文書の使用法が支配する(control)。
【0155】
[00273] 本文書では、「a(1つの)」又は「an(1つの)」という用語は、特許文書では一般的であるように、「少なくとも1つ」又は「1つ以上」の他のいずれかの例又は使用とは無関係に、1つ以上を含むために用いられる。本文書では、「or(又は)」という用語を用いて非排他的orを表すので、「A又はB」は、別段の指示がない限り、「Aを含むがBを含まない」、「Bを含むがAを含まない」、並びに「A及びBを含む」を含む。本文書では、「including(~を含む)」及び「in which(~において)」という用語は、「comprising(~を備える)」及び「wherein(~において)」の各用語を表す平易な英語の相当語句(equivalent)として用いられる。また、以下の特許請求の範囲において、「including(~を含む)」及び「comprising(~を備える)」という用語はオープンエンドである。すなわち、特許請求項においてこのような用語の後に列挙されたものに加えて要素を含むシステム、デバイス、物品(article)、組成物、配合、又はプロセスは、その特許請求項の範囲内に該当すると見なされる。更に、以下の特許請求の範囲では、「第1の」、「第2の」、及び「第3の」等の用語は、単に識別名として用いられ、それらの物体に数値要件を課すことは意図されない。
【0156】
[00274] 上記の記載は、限定ではなく例示であることを意図している。例えば、上述の例(又はそれらの1つ以上の態様)は、相互に組み合わせて用いてもよい。例えば当業者が上記の記載を再検討することによって、他の実施形態を用いることができる。読者が技術的開示の性質を迅速に確認することを可能とするため、米国特許法施行規則1.72条(b)項に従って要約を提供する。これは、特許請求の範囲の範囲又は意味を解釈又は限定するために使用されないという理解のもとに提出される。また、上記の「発明を実施するための形態」では、様々な特徴をまとめて開示を効率化することができる。これは、未請求の開示された特徴がいずれかの特許請求項にとって不可欠であることを意図していると解釈されるべきではない。発明の主題は、特定の開示された実施形態の全ての特徴に存在するわけではない場合がある。このため、以下の特許請求の範囲は、実施例又は実施形態として「発明を実施するための形態」に組み込まれ、各特許請求項は別個の実施形態として独立しており、そのような実施形態は様々な組み合わせ又は並べ換えで相互に組み合わせることができることが想定される。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲を参照して、そのような特許請求の範囲が権利を与えられる均等物の全範囲と共に決定するべきである。
【国際調査報告】