(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-31
(54)【発明の名称】T細胞を活性化する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/07 20100101AFI20240524BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240524BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240524BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240524BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240524BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
C12N5/07
C12N5/0783
C12N5/10
C12N15/09 Z
A61K35/17
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575970
(86)(22)【出願日】2022-06-10
(85)【翻訳文提出日】2024-01-26
(86)【国際出願番号】 US2022032936
(87)【国際公開番号】W WO2022261392
(87)【国際公開日】2022-12-15
(32)【優先日】2021-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520032608
【氏名又は名称】パクト ファーマ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】PACT PHARMA, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】フー, アンドリュー ワイ.
(72)【発明者】
【氏名】トゥヌグントラ, ラムヤ エイチ.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065BA30
4B065BD39
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087CA04
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB26
(57)【要約】
本開示は、新規な人工抗原提示細胞(aAPC)を提供する。本明細書に開示のaAPCは、リン脂質を含むリポソームと、リポソームの外面に呈示された刺激性リガンドとを含む。本開示のaAPCは、目的のT細胞を活性化するかつ増殖させる「既製品化」ツールとして使用することができる。また、本開示は、本明細書に開示のaAPCを使用してT細胞を活性化する方法、およびT細胞療法製品を製造する方法も提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン脂質を含むリポソームと、リポソームの外面に呈示された刺激性リガンドとを含む人工抗原提示細胞(aAPC)。
【請求項2】
刺激性リガンドが、CD3アゴニスト、CD28アゴニスト、主要組織適合性複合体(MHC)、ペプチド-MHC複合体、多量体化ネオエピトープ-HLA複合体、CD58、CD86、CD83、4-1BBL、OX40L、ICOSL(B7H2、B7RP1)、CD40L、およびLFA-1からなる群から選択される、請求項1に記載のaAPC。
【請求項3】
リポソームが、リン脂質と機能化脂質との混合物を含む、請求項1または2に記載のaAPC。
【請求項4】
混合物中のリン脂質と機能化脂質との比が、10,000:1と25:1との間である、請求項3に記載のaAPC。
【請求項5】
前記比が、1000:1と50:1との間である、請求項4に記載のaAPC。
【請求項6】
前記比が、100:1と50:1と間である、請求項4または5に記載のaAPC。
【請求項7】
リン脂質が、ホスファチジン酸(ホスファチデート)(PA)、ホスファチジルエタノールアミン(セファリン)(PE)、ホスファチジルコリン(レシチン)(PC)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスホイノシチド、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルイノシトールリン酸(PIP)、ホスファチジルイノシトール二リン酸(PIP2)、ホスファチジルイノシトール三リン酸(PIP3)、セラミドホスホリルコリン(スフィンゴミエリン)(SPH)、セラミドホスホリルエタノールアミン(スフィンゴミエリン)(Cer-PE)、およびそれらの組合わせからなる群から選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載のaAPC。
【請求項8】
リポソームが、18:1パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)および/または1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(POPE)を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のaAPC。
【請求項9】
機能化脂質が、ビオチン部分、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)部分、スルホ-NHS部分、ニトリロ三酢酸(NTA)-ニッケル、マレイミド部分、またはN-ベンジルグアニンを含む、請求項3から8のいずれか一項に記載のaAPC。
【請求項10】
機能化脂質が、1-オレオイル-2-(12-ビオチニル-(アミノドデカノイル))-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(18:1-12:0ビオチン-PE)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(ビオチニル)(16:0ビオチン-PE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(ビオチニル)(18:1ビオチン-PE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(capビオチニル)、(18:1ビオチン-Cap-PE)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(capビオチニル)(16:0ビオチン-Cap-PE)、ビオチン-ホスファチジルエタノールアミン(ビオチン-PE)、またはビオチン-1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(ビオチン-POPE)である、請求項3から9のいずれか一項に記載のaAPC。
【請求項11】
機能化脂質が、18:1ビオチン-Cap-PE、16:0ビオチン-Cap-PE、またはビオチン-POPEである、請求項10に記載のaAPC。
【請求項12】
機能化脂質が、ビオチン-POPEである、請求項10または11に記載のaAPC。
【請求項13】
刺激性リガンドが、機能化脂質を介してリポソームに付着している、請求項1から12のいずれか一項に記載のaAPC。
【請求項14】
刺激性リガンドが、CD3アゴニスト、CD28アゴニスト、またはそれらの組合わせである、請求項1から13のいずれか一項に記載のaAPC。
【請求項15】
CD3アゴニストが、抗CD3抗体である、請求項14に記載のaAPC。
【請求項16】
CD28アゴニストが、抗CD28抗体である、請求項14に記載のaAPC。
【請求項17】
抗CD3抗体および/または抗CD28抗体が、低エンドトキシンアジドフリー(LEAF)抗体である、請求項15または16に記載のaAPC。
【請求項18】
リポソームが、30nmと2μmとの間の直径を有する、請求項1から17のいずれか一項に記載のaAPC。
【請求項19】
リポソームが、50nmと600nmとの間の直径を有する、請求項18に記載のaAPC。
【請求項20】
リポソームが、100nmと400nmとの間の直径を有する、請求項18または19に記載のaAPC。
【請求項21】
請求項1から20のいずれか一項に記載のaAPCの集団。
【請求項22】
集団のリポソームが、30nmと2μmとの間の平均直径および5%から50%のサイズ分布を有する、請求項21に記載の集団。
【請求項23】
前記平均直径が、50nmと600nmとの間である、請求項22に記載の集団。
【請求項24】
前記平均直径が、100nmと400nmとの間である、請求項22または23に記載の集団。
【請求項25】
T細胞の集団および人工抗原提示細胞(aAPC)の集団を含む組成物であって、各aAPCが、リン脂質を含むリポソームと、リポソームの外面に呈示された刺激性リガンドとを含む、組成物。
【請求項26】
リポソームが、リン脂質と機能化脂質との混合物を含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
混合物中のリン脂質と機能化脂質との比が、10,000:1と25:1との間である、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
前記比が、1000:1と50:1との間である、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
前記比が、100:1と50:1との間である、請求項27または28に記載の組成物。
【請求項30】
リン脂質が、ホスファチジン酸(ホスファチデート)(PA)、ホスファチジルエタノールアミン(セファリン)(PE)、ホスファチジルコリン(レシチン)(PC)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスホイノシチド、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルイノシトールリン酸(PIP)、ホスファチジルイノシトール二リン酸(PIP2)、ホスファチジルイノシトール三リン酸(PIP3)、セラミドホスホリルコリン(スフィンゴミエリン)(SPH)、セラミドホスホリルエタノールアミン(スフィンゴミエリン)(Cer-PE)、およびそれらの組合わせからなる群から選択される、請求項25から29のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項31】
リポソームが、18:1パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)および/または1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(POPE)を含む、請求項25から30のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項32】
機能化脂質が、ビオチン部分、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)部分、スルホ-NHS部分、ニトリロ三酢酸(NTA)-ニッケル、マレイミド部分、またはN-ベンジルグアニンを含む、請求項26から31のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項33】
機能化脂質が、1-オレオイル-2-(12-ビオチニル-(アミノドデカノイル))-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(18:1-12:0ビオチン-PE)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(ビオチニル)(16:0ビオチン-PE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(ビオチニル)(18:1ビオチン-PE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(capビオチニル)、(18:1ビオチン-Cap-PE)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(capビオチニル)(16:0ビオチン-Cap-PE)、ビオチン-ホスファチジルエタノールアミン(ビオチン-PE)、またはビオチン-1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(ビオチン-POPE)である、請求項26から32のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項34】
機能化脂質が、18:1ビオチン-Cap-PE、16:0ビオチン-Cap-PE、またはビオチン-POPEである、請求項33に記載の組成物。
【請求項35】
機能化脂質が、ビオチン-POPEである、請求項33または34に記載の組成物。
【請求項36】
刺激性リガンドが、機能化脂質を介してリポソームに付着している、請求項25から35のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項37】
刺激性リガンドが、CD3アゴニスト、CD28アゴニスト、主要組織適合性複合体(MHC)、ペプチド-MHC複合体、多量体化ネオエピトープ-HLA複合体、CD58、CD86、CD83、4-1BBL、OX40L、ICOSL(B7H2、B7RP1)、CD40L、およびLFA-1からなる群から選択される、請求項25から36のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項38】
刺激性リガンドが、CD3アゴニスト、CD28アゴニスト、またはそれらの組合わせである、請求項25から37のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項39】
CD3アゴニストが、抗CD3抗体である、請求項38に記載の組成物。
【請求項40】
CD28アゴニストが、抗CD28抗体である、請求項38に記載の組成物。
【請求項41】
抗CD3抗体および/または抗CD28抗体が、低エンドトキシンアジドフリー(LEAF)抗体である、請求項39または40に記載の組成物。
【請求項42】
リポソームが、30nmと2μmとの間の直径を有する、請求項25から41のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項43】
リポソームが、50nmと600nmとの間の直径を有する、請求項42に記載の組成物。
【請求項44】
リポソームが、100nmと400nmとの間の直径を有する、請求項42または43に記載の組成物。
【請求項45】
細胞増殖培地をさらに含む、請求項25から44のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項46】
インターロイキン7(IL-7)およびインターロイキン15(IL-15)をさらに含む、請求項25から45のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項47】
T細胞の集団が、少なくとも1個のNeoTCR細胞を含む、請求項25から46のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項48】
請求項21から25のいずれか一項に記載のT細胞の集団および人工抗原提示細胞(aAPC)の集団を含む組成物。
【請求項49】
T細胞を1個以上の人工抗原提示細胞(aAPC)に曝露することを含むT細胞を活性化する方法であって、各aAPCが、リン脂質を含むリポソームと、リポソームの外面に呈示された刺激性リガンドとを含む、方法。
【請求項50】
リン脂質が、ホスファチジン酸(ホスファチデート)(PA)、ホスファチジルエタノールアミン(セファリン)(PE)、ホスファチジルコリン(レシチン)(PC)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスホイノシチド、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルイノシトールリン酸(PIP)、ホスファチジルイノシトール二リン酸(PIP2)、ホスファチジルイノシトール三リン酸(PIP3)、セラミドホスホリルコリン(スフィンゴミエリン)(SPH)、セラミドホスホリルエタノールアミン(スフィンゴミエリン)(Cer-PE)、およびそれらの組合わせからなる群から選択される、請求項50に記載の方法。
【請求項51】
リポソームが、18:1パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)および/または1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(POPE)を含む、請求項49または50に記載の方法。
【請求項52】
刺激性リガンドが、CD3アゴニスト、CD28アゴニスト、主要組織適合性複合体(MHC)、ペプチド-MHC複合体、多量体化ネオエピトープ-HLA複合体、CD58、CD86、CD83、4-1BBL、OX40L、ICOSL(B7H2、B7RP1)、およびCD40Lからなる群から選択される、請求項49から51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
刺激性リガンドが、CD3アゴニスト、CD28アゴニスト、またはそれらの組合わせである、請求項49から52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
CD3アゴニストが、抗CD3抗体である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
CD28アゴニストが、抗CD28抗体である、請求項53に記載の方法。
【請求項56】
抗CD3抗体および/または抗CD28抗体が、低エンドトキシンアジドフリー(LEAF)抗体である、請求項54または55に記載の方法。
【請求項57】
T細胞の集団をaAPCの集団と混合することをさらに含む、請求項49から56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
aAPCの集団のリポソームが、30nmと2μmとの間の平均直径および5%から50%のサイズ分布を有する、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
平均直径が、30nmと400nmとの間である、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
平均直径が、概して200nmである、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
混合物が、aAPCとT細胞とを5:1(aAPC:T細胞)と5000:1との間の比で含む、請求項57から60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
T細胞が、NeoTCR細胞である、請求項49から61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
T細胞の集団を人工抗原提示細胞(aAPC)の集団に曝露することを含むT細胞療法製品を製造する方法であって、各aAPCが、リン脂質を含むリポソームと、リポソームの外面に呈示された刺激性リガンドとを含む、方法。
【請求項64】
T細胞の集団のうちの少なくとも1個のT細胞の遺伝子編集をさらに含む、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
遺伝子編集が、ガイドRNA配列に結合されたCRISPR-Cas9ヌクレアーゼの二重リボ核タンパク質種でT細胞の集団をエレクトロポレーションすることを含み、種それぞれが内因性のTCRα遺伝子座および/または内因性のTCRβ遺伝子座を標的とする、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
曝露することが、遺伝子編集の前に行われる、請求項63または64に記載の方法。
【請求項67】
遺伝子編集が、非ウイルス性である、請求項63から66のいずれか一項に記載の方法。
【請求項68】
T細胞の集団が、1個以上のNeoTCR細胞を含む、請求項63から67のいずれか一項に記載の方法。
【請求項69】
治療を必要とする患者をT細胞療法で治療する方法であって、T細胞療法が、請求項63から69のいずれか一項に記載の方法によって得られる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年6月11日出願の米国仮出願第63/209,784号に対する優先権の利益を主張するものであり、その内容は全体を参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
過去10年間で、細胞療法が疾患を処置するための新規な療法として出現してきた。具体的には、製造されたT細胞(例えば、TIL、CAR-TおよびNeoTCRの各操作細胞)の使用が、関心が高まっている分野となっている。多くの療法が、がんの処置に関してそのような細胞療法の有効性を示す、小規模の研究段階の結果を生み出すことができるが、一方、これらの療法を患者へともたらすことに関する主たる制限事項は製造能力である。
【0003】
細胞療法の製造における極めて重要な工程の1つは、細胞のin vitro活性化である。in vitroで培養する場合、ナイーブT細胞は、T細胞受容体(TCR)刺激の後にメモリーT細胞の表面マーカー表現型を徐々に獲得し、その結果、幹細胞様メモリー(Tmsc)T細胞からセントラルメモリー(Tcm)T細胞、最終的にエフェクターメモリー(Tem)T細胞に移行する。幼若T細胞、特にTmsc細胞は、複数のがん免疫療法モデルにおいて優れた抗腫瘍効果を実証してきたが、in vivoで点滴した場合に、より長い長期生存を示す。したがって、効率的な増殖を獲得するとともにTmsc表現型を維持するために、抗腫瘍T細胞のin vitro増殖を最適化する必要がある。
【0004】
樹状細胞などの高度に免疫原性であるプロフェッショナルAPCを使用した繰り返しまたは過剰な刺激により、とりわけ、高い抗原特異的結合力を保有するT細胞の場合、T細胞が不可避的に成熟させられ、T細胞活性化誘導性の細胞死(AIDC)がもたらされる。プロフェッショナルAPCは、免疫原性が高度に強力であることから、細胞療法製品で使用するためのT細胞をin vitroで生成するための最良の選択ではない。結果として、様々な人工抗原提示細胞またはAPCアナログ(aAPC)が開発されてきた。例えば、K562などのある特定の細胞株が使用されてきた。K562は、急性転化期の慢性骨髄性白血病の患者に由来したヒト赤白血病細胞株である。K562細胞は、内因性のHLAクラスI、II、またはCD1dの各分子を発現しないが、効果的な免疫シナプスを形成するのに必要とされる接着分子であるICAM-1(CD54)およびLFA-3(CD58)を発現する。しかし、K562細胞の集団を培養することおよび維持することにはコストと時間がかかる。したがって、様々な非細胞性aAPCが開発され、市販されている。例えば、CD3(αCD3)およびCD28(αCD28)に対する活性化抗体で機能化されたマイクロビーズまたはナノ粒子が普通に使用される。しかし、これらの市販の製品は活性化抗体を固相支持体に共有結合的に結合させることから、活性化分子は静的であり、このことは、刺激性リガンドが細胞膜内を移動してT細胞活性化におけるキーとなる工程であるTCRクラスター形成を可能にする天然の抗原提示細胞とは異なる。
【0005】
現在の技術の制限として、以下が挙げられる:1)T細胞と活性化粒子間の相互作用は静的でありかつ非ネイティブである、2)ビーズまたはその他の不活性粒子は、細胞の過剰刺激をもたらすことになる慢性的な活性化を引き起こす可能性がある、3)CD8+ T細胞およびCD4+ T細胞の増殖における不同性(disparity)、4)長期間のin vitro培養後にCD8 T細胞の生存能力が、CD4細胞と比較して、より劣ること、ならびに5)サイトカイン放出の制御が欠如していること。
【0006】
本明細書に記載の方法および組成物は、患者の処置のための細胞療法の製造のためにin vitroでT細胞を活性化することに関する問題を解決することおよび満たされていない要求を満たすことを目的とする。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、目的のT細胞を活性化するかつ増殖させる「既製品化」ツールとして使用することができる新規な人工抗原提示細胞(aAPC)を提供する。
【0008】
ある特定の実施形態では、本開示は、リン脂質を含むリポソームと、リポソームの外面に呈示された刺激性リガンドとを含む人工抗原提示細胞(aAPC)を提供する。
【0009】
ある特定の実施形態では、刺激性リガンドは、CD3アゴニスト、CD28アゴニスト、主要組織適合性複合体(MHC)、ペプチド-MHC複合体、多量体化ネオエピトープ-HLA複合体、CD58、CD86、CD83、4-1BBL、OX40L、ICOSL(B7H2、B7RP1)、CD40L、およびLFA-1からなる群から選択される。ある特定の実施形態では、リポソームはリン脂質と機能化脂質の混合物を含む。
【0010】
ある特定の実施形態では、混合物中のリン脂質と機能化脂質との比が10,000:1と25:1との間である。ある特定の実施形態では、比は1000:1と50:1との間である。ある特定の実施形態では、比は100:1と50:1との間である。
【0011】
ある特定の実施形態では、リン脂質は、ホスファチジン酸(ホスファチデート)(PA)、ホスファチジルエタノールアミン(セファリン)(PE)、ホスファチジルコリン(レシチン)(PC)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスホイノシチド、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルイノシトールリン酸(PIP)、ホスファチジルイノシトール二リン酸(PIP2)、ホスファチジルイノシトール三リン酸(PIP3)、セラミドホスホリルコリン(スフィンゴミエリン)(SPH)、セラミドホスホリルエタノールアミン(スフィンゴミエリン)(Cer-PE)、およびそれらの組合わせ、からなる群から選択される。ある特定の実施形態では、リポソームは、18:1パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)および/または1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(POPE)を含む。ある特定の実施形態では、機能化脂質は、ビオチン部分、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)部分、スルホ-NHS部分、ニトリロ三酢酸(NTA)-ニッケル、マレイミド部分、またはN-ベンジルグアニンを含む。ある特定の実施形態では、機能化脂質は、1-オレオイル-2-(12-ビオチニル-(アミノドデカノイル))-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(18:1-12:0ビオチン-PE)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(ビオチニル)(16:0ビオチン-PE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(ビオチニル)(18:1ビオチン-PE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(capビオチニル)、(18:1ビオチン-Cap-PE)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(capビオチニル)(16:0ビオチン-Cap-PE)、ビオチン-ホスファチジルエタノールアミン(ビオチン-PE)、またはビオチン-1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(ビオチン-POPE)である。ある特定の実施形態では、機能化脂質は、18:1ビオチン-Cap-PE、16:0ビオチン-Cap-PE、またはビオチン-POPEである。ある特定の実施形態では、機能化脂質はビオチン-POPEである。
【0012】
ある特定の実施形態では、刺激性リガンドは、機能化脂質を介してリポソームに付着している。ある特定の実施形態では、刺激性リガンドは、CD3アゴニスト、CD28アゴニスト、またはそれらの組合わせである。ある特定の実施形態では、CD3アゴニストは抗CD3抗体である。ある特定の実施形態では、CD28アゴニストは抗CD28抗体である。ある特定の実施形態では、抗CD3抗体および/または抗CD28抗体は低エンドトキシンアジドフリー(LEAF)抗体である。
【0013】
ある特定の実施形態では、リポソームは30nmと2μmとの間の直径を有する。ある特定の実施形態では、リポソームは50nmと600nmとの間の直径を有する。ある特定の実施形態では、リポソームは100nmと400nmとの間の直径を有する。
【0014】
ある特定の実施形態では、本開示は、本明細書で開示のaAPCの集団を提供する。ある特定の実施形態では、集団のリポソームは30nmと2μmとの間の平均直径および5%から50%のサイズ分布を有する。ある特定の実施形態では、平均直径は50nmと600nmとの間である。ある特定の実施形態では、平均直径は100nmと400nmとの間である。
【0015】
ある特定の実施形態では、本開示は、T細胞の集団および人工抗原提示細胞(aAPC)の集団を含む組成物であって、各aAPCは、リン脂質を含むリポソームと、リポソームの外面に呈示された刺激性リガンドとを含む、組成物を提供する。ある特定の実施形態では、リポソームはリン脂質と機能化脂質の混合物を含む。
【0016】
ある特定の実施形態では、混合物中のリン脂質と機能化脂質との比が10,000:1と25:1との間である。ある特定の実施形態では、比は1000:1と50:1との間である。ある特定の実施形態では、比は100:1と50:1との間である。
【0017】
ある特定の実施形態では、リン脂質は、ホスファチジン酸(ホスファチデート)(PA)、ホスファチジルエタノールアミン(セファリン)(PE)、ホスファチジルコリン(レシチン)(PC)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスホイノシチド、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルイノシトールリン酸(PIP)、ホスファチジルイノシトール二リン酸(PIP2)、ホスファチジルイノシトール三リン酸(PIP3)、セラミドホスホリルコリン(スフィンゴミエリン)(SPH)、セラミドホスホリルエタノールアミン(スフィンゴミエリン)(Cer-PE)、およびそれらの組合わせ、からなる群から選択される。ある特定の実施形態では、リポソームは、18:1パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)および/または1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(POPE)を含む。ある特定の実施形態では、機能化脂質は、ビオチン部分、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)部分、スルホ-NHS部分、ニトリロ三酢酸(NTA)-ニッケル、マレイミド部分、またはN-ベンジルグアニンを含む。ある特定の実施形態では、機能化脂質は、1-オレオイル-2-(12-ビオチニル-(アミノドデカノイル))-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(18:1-12:0ビオチン-PE)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(ビオチニル)(16:0ビオチン-PE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(ビオチニル)(18:1ビオチン-PE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(capビオチニル)、(18:1ビオチン-Cap-PE)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(capビオチニル)(16:0ビオチン-Cap-PE)、ビオチン-ホスファチジルエタノールアミン(ビオチン-PE)、またはビオチン-1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(ビオチン-POPE)である。ある特定の実施形態では、機能化脂質は、18:1ビオチン-Cap-PE、16:0ビオチン-Cap-PE、またはビオチン-POPEである。ある特定の実施形態では、機能化脂質はビオチン-POPEである。
【0018】
ある特定の実施形態では、刺激性リガンドは、機能化脂質を介してリポソームに付着している。ある特定の実施形態では、刺激性リガンドは、CD3アゴニスト、CD28アゴニスト、主要組織適合性複合体(MHC)、ペプチド-MHC複合体、多量体化ネオエピトープ-HLA複合体、CD58、CD86、CD83、4-1BBL、OX40L、ICOSL(B7H2、B7RP1)、CD40L、およびLFA-1からなる群から選択される。ある特定の実施形態では、刺激性リガンドは、CD3アゴニスト、CD28アゴニスト、またはそれらの組合わせである。ある特定の実施形態では、CD3アゴニストは抗CD3抗体である。ある特定の実施形態では、CD28アゴニストは抗CD28抗体である。ある特定の実施形態では、抗CD3抗体および/または抗CD28抗体は低エンドトキシンアジドフリー(LEAF)抗体である。
【0019】
ある特定の実施形態では、リポソームは30nmと2μmとの間の直径を有する。ある特定の実施形態では、リポソームは50nmと600nmとの間の直径を有する。ある特定の実施形態では、リポソームは100nmと400nmとの間の直径を有する。
【0020】
ある特定の実施形態では、組成物は細胞増殖培地をさらに含む。ある特定の実施形態では、インターロイキン7(IL-7)およびインターロイキン15(IL-15)をさらに含むこと。ある特定の実施形態では、T細胞の集団は少なくとも1個のNeoTCR細胞を含む。
【0021】
ある特定の実施形態では、本開示は、T細胞の集団および本明細書に開示の人工抗原提示細胞(aAPC)の集団を含む組成物を提供する。
【0022】
ある特定の実施形態では、本開示は、T細胞を1個以上の人工抗原提示細胞(aAPC)に曝露することを含むT細胞を活性化する方法であって、各aAPCは、リン脂質を含むリポソームと、リポソームの外面に呈示された刺激性リガンドとを含む、方法を提供する。
【0023】
ある特定の実施形態では、リン脂質は、ホスファチジン酸(ホスファチデート)(PA)、ホスファチジルエタノールアミン(セファリン)(PE)、ホスファチジルコリン(レシチン)(PC)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスホイノシチド、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルイノシトールリン酸(PIP)、ホスファチジルイノシトール二リン酸(PIP2)、ホスファチジルイノシトール三リン酸(PIP3)、セラミドホスホリルコリン(スフィンゴミエリン)(SPH)、セラミドホスホリルエタノールアミン(スフィンゴミエリン)(Cer-PE)、およびそれらの組合わせからなる群から選択される。ある特定の実施形態では、リポソームは、18:1パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)および/または1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(POPE)を含む。
【0024】
ある特定の実施形態では、刺激性リガンドは、CD3アゴニスト、CD28アゴニスト、主要組織適合性複合体(MHC)、ペプチド-MHC複合体、多量体化ネオエピトープ-HLA複合体、CD58、CD86、CD83、4-1BBL、OX40L、ICOSL(B7H2、B7RP1)、およびCD40Lからなる群から選択される。ある特定の実施形態では、刺激性リガンドは、CD3アゴニスト、CD28アゴニスト、またはそれらの組合わせである。ある特定の実施形態では、CD3アゴニストは抗CD3抗体である。ある特定の実施形態では、CD28アゴニストは抗CD28抗体である。ある特定の実施形態では、抗CD3抗体および/または抗CD28抗体は低エンドトキシンアジドフリー(LEAF)抗体である。
【0025】
ある特定の実施形態では、本方法は、T細胞の集団をaAPCの集団と混合することをさらに含む。ある特定の実施形態では、aAPCの集団のリポソームは、30nmと2μmとの間の平均直径および5%から50%のサイズ分布を有する。ある特定の実施形態では、平均直径は30nmと400nmとの間である。ある特定の実施形態では、平均直径は概して200nmである。ある特定の実施形態では、混合物は、aAPCとT細胞を5:1(aAPC:T細胞)と5000:1との間の比で含む。ある特定の実施形態では、T細胞はNeoTCR細胞である。
【0026】
ある特定の実施形態では、本開示は、T細胞の集団を人工抗原提示細胞(aAPC)の集団に曝露することを含むT細胞療法製品を製造する方法であって、各aAPCは、リン脂質を含むリポソームと、リポソームの外面に呈示された刺激性リガンドとを含む、方法を提供する。
【0027】
ある特定の実施形態では、本方法は、T細胞の集団のうちの少なくとも1個のT細胞の遺伝子編集をさらに含む。ある特定の実施形態では、遺伝子編集は、ガイドRNA配列に結合されたCRISPR-Cas9ヌクレアーゼの二重リボ核タンパク質種でT細胞の集団をエレクトロポレーションすることを含み、ここで、種それぞれが内因性のTCRα遺伝子座および/または内因性のTCRβ遺伝子座を標的とする。ある特定の実施形態では、曝露することは遺伝子編集の前に行われる。ある特定の実施形態では、遺伝子編集は非ウイルス性である。ある特定の実施形態では、T細胞の集団は1個以上のNeoTCR細胞を含む。
【0028】
ある特定の実施形態では、本開示は、それを必要とする患者をT細胞療法で処置する方法であって、T細胞療法は、本明細書に開示の製造方法によって得られる、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1-1】抗CD3および抗CD28を呈示した表面を備えるaAPCのワークフローを示す、図である。
【
図1-2】抗CD3および抗CD28を呈示した表面を備えるaAPCのワークフローを示す、図である。
【
図2】AおよびBは、活性化フェーズ過程のT細胞クラスター形成のモニタリングを示す、図である。
【
図3A-C】種々のaAPCへの曝露に応答する活性化フェーズ過程のT細胞クラスター形成のモニタリングを示す、図である。
【
図3D】種々のaAPCへの曝露に応答する活性化フェーズ過程のT細胞クラスター形成のモニタリングを示す、図である。
【
図4】0.1~2%POPEがTmscの%の増加を示すこと、および4%POPEがTransActに匹敵するTmscの%であったこと、を示す図である。
【
図5】刺激性リガンドの投薬量の増加によりTtm/Tem集団が上昇し、Tmsc+Tcm集団が減少することを示す、図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本開示は、養子細胞療法の調製および製造に有用な人工抗原提示細胞(aAPC)を含む組成物および方法を提供する。本開示は、部分的には、リン脂質および刺激性リガンドを含むリポソームを含むaAPCを創出する本発明者らの能力に基づくものである。本開示のaAPCは、目的のT細胞を活性化するかつ増殖させる「既製品化の」ツールとして使用することができる。最終的に、本開示は、本明細書で開示の組成物および方法を使用して養子細胞療法(例えば、T細胞療法製品)を作製するための方法も提供する。本開示の非限定的な実施形態について、本明細書および実施例によって説明する。本開示の明確化のためであって、限定としてではなく、詳細な説明は以下の下位項目に分けられる:
1.定義;
2.人工抗原提示細胞;
3.T細胞の活性化;
4.NeoTCR製品;および
5.例示的実施形態。
【0031】
1.定義
別段に規定されていなければ、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、当業者によって通常理解される意味を有する。以下の参考文献は、当業者に、本開示の主題において使用される用語の多くの一般的定義を提供するものである:Concise Medical Dictionary、LawおよびMartin編、Oxford University Press、2020;A Dictionary of Biology、Hine編、Oxford University Press、2019;A Dictionary of Chemistry、LawおよびRennie編、Oxford University Press、2020;Oxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology、Cammack、Atwood、Campbell、Parish、Smith、Vella、およびStirling編、Oxford University Press、2006;ならびにPaul、William.2013.Fundamental Immunology.Philadelphia、PA:Wolters Kluwer Health/Lippincott Williams & Wilkins。本明細書で使用される場合、以下の用語は、他に明記されない限り、それらに帰する下の意味を有する。
【0032】
本明細書に記載の本発明の態様および実施形態は、態様および実施形態「を含むこと(comprising)」、態様および実施形態「からなること(consisting)」、ならびに態様および実施形態「から本質的になること(consisting essentially of)」を含むと理解される。「含む(comprises)」および「含むこと(comprising)」という各用語は、米国特許法においてそれらに帰する広い意味を有することを意図しており、「含む(includes)」、「含むこと(including)」等を意味することができる。
【0033】
本明細書で使用される場合、「約(about)」または「概して(approximately)」という各用語は、当業者によって決定される特定の値に対して許容される誤差範囲内を意味し、これは、その値が測定または決定される方法、すなわち、測定システムの限界に部分的に依存することになる。例えば、「約」は、当技術分野の実践ごとに、3または3を超える標準偏差内を意味することができる。代替的に、「約」は、所与の値の最大20%、例えば、最大10%、最大5%、または最大1%の範囲を意味することができる。代替的に、特に、生物系または方法に関して、この用語は、値の1桁の範囲内、例えば、5倍以内または2倍以内を意味することができる。
【0034】
本明細書において使用される「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、それらが所望の抗原結合性活性を呈する限り、種々の抗体構造を包含するが、これには、それらに限定されないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性および三重特異性抗体)ならびに抗体断片(例えばbis-Fab)が含まれる。本明細書において使用される「抗体断片」は、インタクトな抗体が結合する抗原を結合するインタクトな抗体の部分を含むインタクトな抗体以外の分子をいう。抗体断片の例としては、それらに限定されないが、bis-Fab;Fv;Fab;Fab、Fab’-SH;F(ab’)2;ダイアボディー;直鎖状抗体;単鎖抗体分子(例えば、scFv);および抗体断片から形成される多重特異性抗体が挙げられる。
【0035】
「がん」および「腫瘍」という各用語は、本明細書では交換可能に使用される。本明細書で使用される場合、「がん」または「腫瘍」という各用語は、悪性か良性かを問わず、全ての腫瘍性細胞の増殖(growth)および増殖(proliferation)、ならびに全ての前がん性およびがん性細胞および組織を指す。当該用語は、さらに、未制御の細胞増殖(growth)/増殖(proliferation)によって通常には特徴付けられる哺乳動物における生理的状態を指してまたはそれを記載するために使用される。がんは、様々な細胞タイプ、組織、または臓器を侵すおそれがあるが、これには、それらに限定されないが、膀胱、骨、脳、乳房、軟骨、グリア、食道、ファローピウス管、胆嚢、心臓、腸、腎臓、肝臓、肺、リンパ節、神経組織、卵巣、膵臓、前立腺、骨格筋、皮膚、脊髄、脾臓、胃、精巣、胸腺、甲状腺、気管、泌尿生殖器、尿管、尿道、子宮、および膣からなる群から選択される臓器、またはそれらの組織もしくは細胞タイプが含まれる。がんには、肉腫、癌腫、または形質細胞腫(形質細胞の悪性腫瘍)などのがんが含まれる。がんの例としては、それらに限定されないが、本明細書に記載のものが挙げられる。「がん」または「腫瘍」および「増殖性疾患」という各用語は、本明細書で使用される場合、相互に排他的ではない。
【0036】
「処置する(Treat)」、「処置(Treatment)」、および「処置すること(treating)」は互換的に使用され、本明細書で使用される場合、臨床結果を始めとする有益なまたは望ましい結果を得ることを意味する。処置の望ましい効果には、それらに限定されないが、疾患の発生または再発の予防、症状の緩和、疾患の直接的または間接的なあらゆる病理的帰結の減少、転移の防止、疾患進行速度の減速、病状の改善または緩和、および寛解または予後の改善が含まれる。一部の実施形態では、本発明のNeoTCR製品は、増殖性疾患(例えばがん)の発生を遅延させるために、またはそのような疾患の進行を遅らせるために使用される。
【0037】
本明細書で使用される「デキストラマー」は、その同族NeoTCRに特異的に結合する多量体化ネオエピトープ-HLA複合体を意味する。
【0038】
本明細書で使用される場合、「ネオ抗原」、「ネオエピトープ」または「neoE」という各用語は、例えば、体細胞突然変異から生じかつ「非自己」として認識される、新たに形成された抗原決定基を指す。「ネオ抗原」、「ネオエピトープ」または「neoE」を生み出す突然変異には、フレームシフトもしくは非フレームシフトインデル、ミスセンスもしくはナンセンス置換、スプライス部位変化(例えば、選択的スプライシングされた転写物)、ゲノム再編成もしくは遺伝子融合、任意のゲノムもしくは発現変化、または任意の翻訳後修飾が含まれ得る。
【0039】
本明細書で使用される「NeoTCR」および「NeoE TCR」は、例えば遺伝子編集法によって、T細胞へと導入されるネオエピトープ特異的T細胞受容体を意味する。
【0040】
本明細書で使用される「NeoTCR細胞」は、1個以上のNeoTCRを発現するように精密操作された1個以上の細胞を意味する。ある特定の実施形態では、細胞はT細胞である。ある特定の実施形態では、T細胞はCD8+ T細胞および/またはCD4+ T細胞である。ある特定の実施形態では、CD8+ T細胞および/またはCD4+ T細胞は、NeoTCR製品が投与されることになる患者由来の自己細胞である。「NeoTCR細胞」、「NeoTCR-P1 T細胞」および「NeoTCR-P1細胞」という各用語は、本明細書では交換可能に使用される。
【0041】
本明細書で使用される「NeoTCR製品」は、1個以上のNeoTCR細胞を含む薬学的製剤を意味する。NeoTCR製品は、自己の精密ゲノム操作のCD8+ T細胞および/またはCD4+ T細胞からなる。標的化DNA媒介性非ウイルス精密ゲノム工学手法を使用して、内因性のTCRの発現を、腫瘍排他的ネオエピトープを標的とする末梢CD8+ T細胞から単離された患者特異的NeoTCRによって排除し、それによって置き換える。ある特定の実施形態では、結果として得られる操作CD8+ T細胞またはCD4+ T細胞は、その表面上で、ネイティブ配列、ネイティブ発現レベルおよびネイティブTCR機能のNeoTCRを発現する。NeoTCR外部結合ドメインおよび細胞質シグナル伝達ドメインの配列は、ネイティブCD8+ T細胞から単離されたTCRから非改変である。NeoTCR遺伝子発現の調節は、NeoTCR遺伝子カセットがゲノムに統合されている場所の上流に位置するネイティブの内因性のTCRプロモーターによって駆動される。この手法を通して、NeoTCR発現のネイティブのレベルが、未刺激および抗原活性化のT細胞状態で観察される。
【0042】
各患者向けに製造されたNeoTCR製品は、同一の患者の末梢血から個別に単離されたneoE特異的CD8+ T細胞からクローン化された単一のneoE特異的TCRを発現するように精密ゲノム操作されている自己CD8+ T細胞および/またはCD4+ T細胞の定められた用量となっている。
【0043】
本明細書で使用される「NeoTCRウイルス製品」は、ゲノム工学がウイルス媒介法を使用して実施されることを除いて、NeoTCR製品に関する定義と同じ定義を有する。
【0044】
「薬学的製剤」は、この中に含有される活性成分の生物活性が効果的であることを可能とするような形態であり、製剤が投与されるであろう対象にとって許容できないほどに毒性であるさらなる成分を全く含有しない、調製物を指す。明確にするために、NeoTCR製品において使用される量にてのDMSOは許容できないほどに毒性であるとはみなされない。
【0045】
処置の目的に関して「対象」、「患者」、または「個体」は、ヒト、飼育動物および家畜、ならびに動物園動物、スポーツ動物、またはペット動物、例えばイヌ、ウマ、ネコ、ウシ等を含めて、哺乳動物として分類される任意の動物を指す。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0046】
本明細書で使用される「TCR」は、T細胞受容体を意味する。
【0047】
本明細書で使用される「内因性の」という用語は、細胞または組織において通常に発現される核酸分子またはポリペプチドを指す。
【0048】
本明細書で使用される「外因性」という用語は、細胞内に内因的には存在しない核酸分子またはポリペプチドを指す。したがって、「外因性」という用語は、外来性、異種の、および過剰発現された核酸分子およびポリペプチドなどの、細胞内で発現される任意の組換え核酸分子またはポリペプチドを包含することになる。「外因性」核酸は、ネイティブの野生型細胞に存在しない核酸を意味する;例えば、外因性核酸は、配列によって、位置/場所によって、またはその両方によって内因性の対応物とは異なることができる。明確にするために、外因性核酸は、そのネイティブの内因性の対応物と比較して同じ配列を有しても異なる配列を有してもよい;それは、遺伝子工学によって細胞自体またはその前駆細胞へと導入することができ、必要に応じて、非ネイティブプロモーターまたは分泌配列などの代替制御配列に連結することができる。
【0049】
それがT細胞に関連する場合、「幼若」または「より幼若の」または「幼若T細胞」は、メモリー幹細胞(Tmsc)およびセントラルメモリー細胞(Tcm)を意味する。これらの細胞は、特異的活性化時にT細胞増殖を有し、複数の細胞分裂に対してコンピテントである。それらの細胞はまた、再点滴後に生着し、それらの同族抗原への曝露時にエフェクターT細胞へと速やかに分化し、腫瘍細胞を標的としかつ殺滅するだけでなく、進行中のがんの監視および制御に対して持続する能力を有する。
【0050】
一連のT細胞の分化と成熟の連続の後では、2つの抗原経験サブタイプ:エフェクターメモリーT細胞(Tem)および最終分化エフェクターT細胞(Teff)、が存在する。
【0051】
2.人工抗原提示細胞
本開示は、養子細胞療法の調製および製造のための人工抗原提示細胞を提供する。本開示の人工抗原提示細胞(aAPC)は、CD4 T細胞およびCD8 T細胞を活性化するために使用することができる様々な薬剤を呈示することができる脂質ベシクルまたは脂質ナノ粒子として設計された。aAPCの設計に使用されるキーとなるパラメーターおよび検討事項を表1に提供する。
【0052】
aAPCを使用することのキーとなる目標の1つは、可動性リガンドを備えた活性化剤を創り出すことであった。固定リガンド(例えば、ビーズ結合試薬またはプレートコートの試薬)は、T細胞活性化プラットフォームにとって理想的ではない。対照的に、長距離の膜拡散性によりリガンドの自然な移動が可能になり、このことは、自然なT細胞活性化およびT細胞とのより自然な相互作用を模倣するのに理想的である。このことに鑑みて、細胞療法の製造に向けて最適なT細胞活性化を可能とする適切な程度の流動性(拡散性)を有した組成物を見つけるために、様々な異なる脂質組成物(すなわち、異なる脂質の組合わせとその組合わせの異なる比)を用いて実験する必要があった。
【0053】
aAPCの設計に関するキーとなる検討事項の1つは、T細胞のクラスター形成がシグナルの伝達および活性化に影響を与えるという既知の事実であった。目標は、膜の流動性を提供して表面でのタンパク質の再配置を可能にすることができるaAPCを設計すること、とした。
【0054】
αCD3/αCD28a APCのaAPC合成ワークフローの一例を
図1に提供する。示されているように、本aAPCで使用される2つの脂質はPOPCおよびPOPEであり、ここで、POPEは、抗CD3抗体および抗CD28抗体またはその他の刺激性リガンドの付着のためにビオチン化されている。
【0055】
概念実証実験をaAPCを用いてスモールスケールで実施した。概念実証実験によって:1)本発明のaAPCはT細胞に対して非毒性であることが確認され、2)リガンド呈示の許容される密度の範囲が定義され、3)投薬量の範囲(aAPC:細胞)が定義され、4)ビオチン-ストレプトアビジンのビオチンの連結を介して刺激性リガンドをAPC上に呈示することはできることが確認された。リポソームは、T細胞の増殖および生存能力に悪影響を及ぼさない。リポソームとT細胞との比は、25:1から10,000:1まで変化することができる。より好ましくは、比は100:1、250:1、500:1、1000:1、2000:1、3000:1、4000:1または5000:1である。aAPCとT細胞との比およびaAPCの平均直径は、同じ効果を維持するために反比例して変化してもよい、すなわち、より大きなリポソームをより小さなリポソームよりも低い投薬量で供給して、同一量のT活性化をもたらしてもよい。
【0056】
ある特定の実装形態では、T細胞の活性化を誘導するために2つ以上の刺激性リガンドを提示することが望ましい場合がある。複数の刺激性リガンドを、単一タイプのaAPC(例えば、αCD3とαCD28の両方を呈示するaAPC)上で共役型として提示してもよく、または異なるタイプのaAPC(例えば、αCD3のみを呈示する1つのaAPCと、αCD28のみを呈示する第2のaAPC)上で非共役型として提示してもよい。同様に、特定の任意の刺激性リガンドを、同時に呈示される刺激性リガンドに対して等しい濃度で提示しても異なる濃度で呈示してもよい。
【0057】
抗原提示細胞(APC)は、自然で、生物学的なセッティングでT細胞を活性化するシグナルを提供する。APCは、三(3)つの主要なタイプのシグナル:1)pMHC:TCR、2)細胞表面タンパク質を通した共刺激、および3)サイトカインによるT細胞運命決定、を使用してナイーブT細胞を方向付ける。
【0058】
2.1.リポソーム。
本明細書に例示の方法および手順に加えて、リポソームを調製するために当業者によって常套的に使用される種々の方法も本発明で用いることができる。例えば、Chenら、Blood 115:4778~86頁、2010;およびLiposome Technology、第1巻、第2版(Gregory Gregoriadis編(CRC Press、Boca Raton、Ann Arbor、London、Tokyo)、第4章、67~80頁、第10章、167~184頁および第17章、261~276頁(1993))に記載の方法を使用することができる。より具体的には、適切な方法には、それらに限定されないが、超音波処理法、エタノール注入法、フレンチプレス法、エーテル注入法、コール酸法、カルシウム融合法、凍結乾燥法、および逆相エバポレーション法が含まれる。リポソームの構造は特に限定されず、単層および多層などの任意のリポソームであってもよい。
【0059】
本明細書に開示の本開示のリポソームは、典型的には、生理的pHで中性であってもアニオン性であってもカチオン性であってもよい1つまたは2つ以上の脂質の組合わせを含む。ベシクルは、適切な任意の脂質または脂質の組合わせを含むか、またはそうでなければ、それらから形成されてもよい。同様に、コンジュゲートは、適切な任意の脂質を含んでもよく、またはそうでなければ、それらで形成されてもよい。一部の実施形態では、2、3、4、5、またはそれ超の異なる脂質コンジュゲート(例えば、異なる脂質と同じ標的部分、異なる脂質と異なる標的指向性部分、または同じ脂質と異なる標的指向性部分)の組合わせを同じベシクルに、挿入してもよく、またはそうでなければ、付加してもよい。
【0060】
本発明を実施するために使用される脂質または脂質形成物質には、リポソームまたはベシクル形成用の既知の物質が全て含まれる。有用な物質の例としては、リン脂質分子とコレステロールの組合わせが挙げられる。例示的なリン脂質分子としては、ホスファチジン酸(ホスファチデート)(PA)、ホスファチジルエタノールアミン(セファリン)(PE)、ホスファチジルコリン(レシチン)(PC)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスホイノシチド、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルイノシトールリン酸(PIP)、ホスファチジルイノシトール二リン酸(PIP2)、ホスファチジルイノシトール三リン酸(PIP3)、セラミドホスホリルコリン(スフィンゴミエリン)(SPH)、セラミドホスホリルエタノールアミン(スフィンゴミエリン)(Cer-PE)が挙げられる。特に好ましいのは、18:1パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)を含む組合わせである。
【0061】
リポソーム組成物は、記載の方法を使用して作製することができ、平均直径30nmから2000nm(2μm)まで、例えば、30nm、40nm、50nm、60nm、80nm、100nm、150nm、200nm、250nm、300nm、350nm、400nm、450nm、500nm、550nm、600nm、650nm、700nm、750nm、800nm、850nm、900nm、950nm、1μm、1.2μm、1.5μmおよび2μm、ならびに、サイズ分布5~50%、10~30%または15~20%を有する。好ましくは、リポソーム組成物は50nmと600nmとの間の平均直径を、より好ましくは、100nmと400nmとの間の平均直径を有する。本明細書に記載の方法を使用して、細胞療法の製造過程でT細胞を活性化するためのベシクルを提供することができる。
【0062】
2.2.機能化脂質。
本発明の一実施形態によれば、aAPCを形成する脂質の画分は、脂質に直接的または間接的に、コンジュゲートされた、またはそうでなければ、連結された、機能性エレメントを含む。機能性エレメントは、反応性部分、低分子、タンパク質もしくはポリペプチド、炭水化物、核酸またはそれらの組合わせとすることができる。好ましい実施形態では、機能性エレメントのうちの少なくとも1つは、標的細胞、組織および/または機能化脂質ベシクルに関連した微小環境への当該脂質ベシクルの付着、結合または会合を高める標的指向性部分である。ある特定の実装形態では、形成している脂質の画分は、反応性リガンドで機能化された脂質である。含有している適切な反応性部分の、反応性リガンドの、および機能化脂質の、具体例を表2に列記する。
【0063】
好ましくは、反応性リガンドは、ビオチン、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル、スルホ-NHSエステル、ニトリロ三酢酸(NTA)-ニッケル、アミン、マレイミド、ジチオピリジニル、ピリジルジスルフィド、ピリジルジチオプロピオナート、およびN-ベンジルグアニンから選択される。チオールとも呼ばれるスルフヒドリルは、システイン(Cys、C)アミノ酸の側鎖でタンパク質中に存在する。スルフヒドリル反応性化学基には、ハロアセチル、マレイミド、アジリジン、アクリロイル、アリール化剤、ビニルスルホン、ピリジルジスルフィド、TNB-チオール、およびジスルフィド還元剤が含まれる。
【0064】
チオエーテルコンジュゲーション用に提供される様々な脂質は、マレイミド、N-[4-(p-マレイミドフェニル)-ブチリル](MPB)または4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(MCC)基などの芳香族マレイミドを含有する。脂肪族シクロヘキサン環を含有するMCCのマレイミド官能基は、MPBの芳香族フェニル基よりも水性反応環境における加水分解に対してより安定である。タンパク質またはポリペプチドを機能化脂質にコンジュゲートさせることは、当技術分野で周知されている方法に従って実施することができる。例えば、Chemistry of protein conjugation and cross-linking、Shan Wong、CRC Press(Boca Raton、Fla.、1991);およびBioconjugate techniques、第2版、Greg Τ.Flermanson、Academic Press(London、英国、2008)を参照されたい。代替的に、抗CD3および/または抗CD28などの刺激性リガンドを、ビオチン-ストレプトアビジン相互作用を始めとする非共有結合手段を介して付着させることもできる。
【0065】
3.T細胞活性化
細胞療法製品用のT細胞の製造のためのin vitroセッティングでは、T細胞は、増殖するために刺激される必要がある。患者にとって治療上有益である十分な数の細胞を含む細胞製品を得るためには、T細胞がin vitro培養で増殖できることが必要であるので、細胞の増殖は細胞療法の開発と製造にとって極めて重要である。より具体的には、T細胞活性化によって、in vitroでの細胞増殖(すなわち、細胞製品の収量)およびT細胞分化(すなわち、細胞製品の品質)の程度が決定される。T細胞を、分裂促進因子で駆動することができる抗原非依存性刺激を使用してin vitroで刺激する。このような刺激には主たる2つのシグナルが含まれ得る:1)シグナル1、抗CD3剤はTCR複合体のCD3鎖に結合することになる;および2)シグナル2、抗CD28剤はT細胞上のCD28に結合することになる。
【0066】
ポリクローナルT細胞増殖用の市販の製品には、超常磁性粒子(例えば、TransAct、Dynabeads、ProMag Bind0IT、MagMax、およびSpherotech)、表面に埋め込まれたまたは表面に呈示されたポリマー複合体(例えば、Cloudz)、ならびに可溶型テトラマー抗体複合体(例えば、ImmunoCult)が含まれる。これらの市販の製品の主要な2つの制限とは:1)T細胞と活性化製品との間の相互作用が非ネイティブであること、および2)活性化製品のビーズ/不活性粒子が、T細胞の過剰刺激をもたらす慢性的な活性化を招くおそれがあることである。
【0067】
市販の製品に伴うさらなる問題としては以下が挙げられる:1)市販の製品は、個体の細胞療法に向けた所望のT細胞の特性を駆動するように調節可能ではないこと、2)市販の製品は、ロットによって組成や活性が異なることが多いこと、3)市販の製品は、治療上意義のある細胞数で細胞製品を製造することに必要な活性化を提供することができないことが多いこと、および4)市販の製品は非常に高価であること。
【0068】
4.NeoTCR製品
一部の実施形態では、それらの全体が本明細書に組み込まれる、PCT/US2020/17887およびPCT/US2019/025415に記載の遺伝子編集技術およびNeoTCR単離技術を使用して、NeoTCRを発現するように精密ゲノム操作されることによって、がんである同一患者由来の自己CD8+ T細胞およびCD4+ T細胞内で、NeoTCRをクローン化する。換言すると、腫瘍特異的であるNeoTCRをがん患者で特定し、次いでそのようなNeoTCRをクローン化し、次いでクローン化されたNeoTCRを当該がん患者自身のT細胞に挿入する。次いで、NeoTCR発現T細胞を、「幼若」T細胞の表現型を保存する様式で増殖させ、結果として、大部分のT細胞がTメモリー幹細胞とTセントラルメモリー表現型を呈する、NeoTCR-P1製品(すなわちNeoTCR製品)がもたらされる。
【0069】
これらの「幼若」または「より幼若」または低分化のT細胞の表現型は移植可能性の改善および点滴後の長時間の持続性を付与すると記載されている。したがって、「幼若」T細胞表現型から著しくなる、NeoTCR製品の投与は、移植可能性の改善、点滴後の長時間の持続性、およびエフェクターT細胞への速やかな分化が全身で腫瘍細胞を根絶することを通して、がんの患者に恩恵を与える可能性を有する。
【0070】
エクスビボでの作用機序の研究も、がん患者由来のT細胞を用いて製造したNeoTCR製品を用いて行った。T細胞の殺傷活性、増殖およびサイトカイン産生の抗原特異性によって測定して、同等の遺伝子編集効率および機能活性が観察されたが、このことが実証するところは、本明細書に記載の製造方法が、出発物質としてがん患者由来のT細胞を含む製品を生成することに成功していること、である。
【0071】
ある特定の実施形態では、NeoTCR製品の製造方法は、ガイドRNA配列に結合されたCRISPR-Cas9ヌクレアーゼの二重リボ核タンパク質種のエレクトロポレーションを伴い、ここで、それぞれの種はゲノムTCRα遺伝子座およびゲノムTCRβ遺伝子座を標的とする。Cas9ヌクレアーゼを標的である各ゲノム遺伝子座に送り込む特異性は、高度に特異的であると文献において先に記載されている。NeoTCR製品の包括的な試験を、それぞれCOSMIDおよびGUIDE-seqを使用して、可能性のあるオフターゲットゲノム切断部位を探索するin vitro解析およびインシリコ解析で実施した。健康なドナーからの複数のNeoTCR製品または同等の細胞生成物を、ディープシーケンシングによって候補オフターゲット部位の切断について評価したが、このことによって、選択されたヌクレアーゼは高度に特異的であるという公開された証拠が裏付けられた。
【0072】
精密ゲノム工学法のさらなる態様を、安全性について評価した。精密ゲノム工学の後のゲノム不安定性の証拠は、標的遺伝子座増幅(TLA)または標準的FISH細胞遺伝学による複数のNeoTCR製品の評価ではまったく見いだされなかった。NeoTCR配列のゲノムのどこかへのオフターゲット統合はまったく検出されなかった。細胞生成物中に残留Cas9の証拠はまったく見いだされなかった。
【0073】
NeoTCR製品および精密ゲノム工学法の包括的な評価が指示するところは、NeoTCR製品が患者へ戻す点滴の後に良好な耐容性を示すことになること、である。
【0074】
本明細書に記載のゲノム工学手法によって、固形および液性腫瘍の患者のための個別化された養子細胞療法に向けた特注のNeoTCR細胞(すなわち、NeoTCR製品)の高度に効率的な生成が可能となる。さらに、操作方法はT細胞での使用に限定されず、ナチュラルキラー細胞および造血幹細胞を含めて、他の初代細胞タイプにも成功裡に適用されてきた。
【0075】
5.例示的実施形態
ある特定の実施形態では、本開示は、リン脂質を含むリポソームと、リポソームの外面に呈示された刺激性リガンドとを含む人工抗原提示細胞(aAPC)を提供する。
【0076】
本明細書に開示のaAPCのある特定の実施形態では、刺激性リガンドは、CD3アゴニスト、CD28アゴニスト、主要組織適合性複合体(MHC)、ペプチド-MHC複合体、多量体化ネオエピトープ-HLA複合体、CD58、CD86、CD83、4-1BBL、OX40L、ICOSL(B7H2、B7RP1)、CD40L、およびLFA-1からなる群から選択される。本明細書に開示のaAPCのある特定の実施形態では、リポソームはリン脂質と機能化脂質の混合物を含む。本明細書に開示のaAPCのある特定の実施形態では、混合物中のリン脂質と機能化脂質との比が10,000:1と25:1との間である。本明細書に開示のaAPCのある特定の実施形態では、比は1000:1と50:1との間である。本明細書に開示のaAPCのある特定の実施形態では、比は100:1と50:1との間である。
【0077】
本明細書に開示のaAPCのある特定の実施形態では、リン脂質は、ホスファチジン酸(ホスファチデート)(PA)、ホスファチジルエタノールアミン(セファリン)(PE)、ホスファチジルコリン(レシチン)(PC)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスホイノシチド、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルイノシトールリン酸(PIP)、ホスファチジルイノシトール二リン酸(PIP2)、ホスファチジルイノシトール三リン酸(PIP3)、セラミドホスホリルコリン(スフィンゴミエリン)(SPH)、セラミドホスホリルエタノールアミン(スフィンゴミエリン)(Cer-PE)、およびそれらの組合わせからなる群から選択される。本明細書に開示のaAPCのある特定の実施形態では、リポソームは、18:1パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)および/または1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(POPE)を含む。本明細書に開示のaAPCのある特定の実施形態では、機能化脂質は、ビオチン部分、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)部分、スルホ-NHS部分、ニトリロ三酢酸(NTA)-ニッケル、マレイミド部分、またはN-ベンジルグアニンを含む。本明細書に開示のaAPCのある特定の実施形態では、機能化脂質は、1-オレオイル-2-(12-ビオチニル-(アミノドデカノイル))-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(18:1-12:0ビオチン-PE)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(ビオチニル)(16:0ビオチン-PE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(ビオチニル)(18:1ビオチン-PE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(capビオチニル)、(18:1ビオチン-Cap-PE)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(capビオチニル)(16:0ビオチン-Cap-PE)、ビオチン-ホスファチジルエタノールアミン(ビオチン-PE)、またはビオチン-1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(ビオチン-POPE)である。
【0078】
本明細書に開示のaAPCのある特定の実施形態では、機能化脂質は、18:1ビオチン-Cap-PE、16:0ビオチン-Cap-PE、またはビオチン-POPEである。本明細書に開示のaAPCのある特定の実施形態では、機能化脂質はビオチン-POPEである。
【0079】
本明細書に開示のaAPCのある特定の実施形態では、刺激性リガンドは、機能化脂質を介してリポソームに付着している。本明細書に開示のaAPCのある特定の実施形態では、刺激性リガンドは、CD3アゴニスト、CD28アゴニスト、またはそれらの組合わせである。本明細書に開示のaAPCのある特定の実施形態では、CD3アゴニストは抗CD3抗体である。本明細書に開示のaAPCのある特定の実施形態では、CD28アゴニストは抗CD28抗体である。本明細書に開示のaAPCのある特定の実施形態では、抗CD3抗体および/または抗CD28抗体は低エンドトキシンアジドフリー(LEAF)抗体である。
【0080】
本明細書に開示のaAPCのある特定の実施形態では、リポソームは30nmと2μmとの間の直径を有する。本明細書に開示のaAPCのある特定の実施形態では、リポソームは50nmと600nmとの間の直径を有する。本明細書に開示のaAPCのある特定の実施形態では、リポソームは100nmと400nmとの間の直径を有する。
【0081】
ある特定の実施形態では、本開示は、本明細書で開示のaAPCの集団を提供する。本明細書に開示のaAPCの集団のある特定の実施形態では、集団のリポソームは30nmと2μmとの間の平均直径および5%から50%のサイズ分布を有する。本明細書に開示のaAPCの集団のある特定の実施形態では、平均直径は50nmと600nmとの間である。本明細書に開示のaAPCの集団のある特定の実施形態では、平均直径は100nmと400nmとの間である。
【0082】
ある特定の実施形態では、本開示は、T細胞の集団および人工抗原提示細胞(aAPC)の集団を含む組成物であって、各aAPCは、リン脂質を含むリポソームと、リポソームの外面に呈示された刺激性リガンドとを含む、組成物を提供する。本明細書に開示の組成物のある特定の実施形態では、リポソームはリン脂質と機能化脂質の混合物を含む。
【0083】
本明細書に開示の組成物のある特定の実施形態では、混合物中のリン脂質と機能化脂質との比が10,000:1と25:1との間である。本明細書に開示の組成物のある特定の実施形態では、比は1000:1と50:1との間である。本明細書に開示の組成物のある特定の実施形態では、比は100:1と50:1との間である。
【0084】
本明細書に開示の組成物のある特定の実施形態では、リン脂質は、ホスファチジン酸(ホスファチデート)(PA)、ホスファチジルエタノールアミン(セファリン)(PE)、ホスファチジルコリン(レシチン)(PC)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスホイノシチド、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルイノシトールリン酸(PIP)、ホスファチジルイノシトール二リン酸(PIP2)、ホスファチジルイノシトール三リン酸(PIP3)、セラミドホスホリルコリン(スフィンゴミエリン)(SPH)、セラミドホスホリルエタノールアミン(スフィンゴミエリン)(Cer-PE)、およびそれらの組合わせからなる群から選択される。本明細書に開示の組成物のある特定の実施形態では、リポソームは、18:1パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)および/または1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(POPE)を含む。本明細書に開示の組成物のある特定の実施形態では、機能化脂質は、ビオチン部分、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)部分、スルホ-NHS部分、ニトリロ三酢酸(NTA)-ニッケル、マレイミド部分、またはN-ベンジルグアニンを含む。本明細書に開示の組成物のある特定の実施形態では、機能化脂質は、1-オレオイル-2-(12-ビオチニル-(アミノドデカノイル))-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(18:1-12:0ビオチン-PE)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(ビオチニル)(16:0ビオチン-PE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(ビオチニル)(18:1ビオチン-PE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(capビオチニル)、(18:1ビオチン-Cap-PE)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(capビオチニル)(16:0ビオチン-Cap-PE)、ビオチン-ホスファチジルエタノールアミン(ビオチン-PE)、またはビオチン-1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(ビオチン-POPE)である。本明細書に開示の組成物のある特定の実施形態では、機能化脂質は、18:1ビオチン-Cap-PE、16:0ビオチン-Cap-PE、またはビオチン-POPEである。本明細書に開示の組成物のある特定の実施形態では、機能化脂質はビオチン-POPEである。
【0085】
本明細書に開示の組成物のある特定の実施形態では、刺激性リガンドは、機能化脂質を介してリポソームに付着している。本明細書に開示の組成物のある特定の実施形態では、刺激性リガンドは、CD3アゴニスト、CD28アゴニスト、主要組織適合性複合体(MHC)、ペプチド-MHC複合体、多量体化ネオエピトープ-HLA複合体、CD58、CD86、CD83、4-1BBL、OX40L、ICOSL(B7H2、B7RP1)、CD40L、およびLFA-1からなる群から選択される。本明細書に開示の組成物のある特定の実施形態では、刺激性リガンドは、CD3アゴニスト、CD28アゴニスト、またはそれらの組合わせである。本明細書に開示の組成物のある特定の実施形態では、CD3アゴニストは抗CD3抗体である。本明細書に開示の組成物のある特定の実施形態では、CD28アゴニストは抗CD28抗体である。本明細書に開示の組成物のある特定の実施形態では、抗CD3抗体および/または抗CD28抗体は低エンドトキシンアジドフリー(LEAF)抗体である。
【0086】
本明細書に開示の組成物のある特定の実施形態では、リポソームは30nmと2μmとの間の直径を有する。本明細書に開示の組成物のある特定の実施形態では、リポソームは50nmと600nmとの間の直径を有する。本明細書に開示の組成物のある特定の実施形態では、リポソームは100nmと400nmとの間の直径を有する。
【0087】
本明細書に開示の組成物のある特定の実施形態では、組成物は細胞増殖培地をさらに含む。本明細書に開示の組成物のある特定の実施形態では、組成物は、インターロイキン7(IL-7)およびインターロイキン15(IL-15)をさらに含む。本明細書に開示の組成物のある特定の実施形態では、T細胞の集団は少なくとも1個のNeoTCR細胞を含む。
【0088】
ある特定の実施形態では、本開示は、T細胞の集団および本明細書に開示の人工抗原提示細胞(aAPC)の集団を含む組成物を提供する。
【0089】
ある特定の実施形態では、本開示は、T細胞を1個以上の人工抗原提示細胞(aAPC)に曝露することを含むT細胞を活性化する方法であって、各aAPCは、リン脂質を含むリポソームと、リポソームの外面に呈示された刺激性リガンドとを含む、方法を提供する。
【0090】
本明細書に開示の方法のある特定の実施形態では、リン脂質は、ホスファチジン酸(ホスファチデート)(PA)、ホスファチジルエタノールアミン(セファリン)(PE)、ホスファチジルコリン(レシチン)(PC)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスホイノシチド、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルイノシトールリン酸(PIP)、ホスファチジルイノシトール二リン酸(PIP2)、ホスファチジルイノシトール三リン酸(PIP3)、セラミドホスホリルコリン(スフィンゴミエリン)(SPH)、セラミドホスホリルエタノールアミン(スフィンゴミエリン)(Cer-PE)、およびそれらの組合わせからなる群から選択される。本明細書に開示の方法のある特定の実施形態では、リポソームは、18:1パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)および/または1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(POPE)を含む。
【0091】
本明細書に開示の方法のある特定の実施形態では、刺激性リガンドは、CD3アゴニスト、CD28アゴニスト、主要組織適合性複合体(MHC)、ペプチド-MHC複合体、多量体化ネオエピトープ-HLA複合体、CD58、CD86、CD83、4-1BBL、OX40L、ICOSL(B7H2、B7RP1)、およびCD40Lからなる群から選択される。本明細書に開示の方法のある特定の実施形態では、刺激性リガンドは、CD3アゴニスト、CD28アゴニスト、またはそれらの組合わせである。本明細書に開示の方法のある特定の実施形態では、CD3アゴニストは抗CD3抗体である。本明細書に開示の方法のある特定の実施形態では、CD28アゴニストは抗CD28抗体である。本明細書に開示の方法のある特定の実施形態では、抗CD3抗体および/または抗CD28抗体は低エンドトキシンアジドフリー(LEAF)抗体である。
【0092】
本明細書に開示の方法のある特定の実施形態では、本方法は、T細胞の集団をaAPCの集団と混合することをさらに含む。本明細書に開示の方法のある特定の実施形態では、aAPCの集団のリポソームは、30nmと2μmとの間の平均直径および5%から50%のサイズ分布を有する。本明細書に開示の方法のある特定の実施形態では、平均直径は30nmと400nmとの間である。本明細書に開示の方法のある特定の実施形態では、平均直径は概して200nmである。本明細書に開示の方法のある特定の実施形態では、混合物は、aAPCとT細胞を5:1(aAPC:T細胞)と5000:1との間の比で含む。本明細書に開示の方法のある特定の実施形態では、T細胞はNeoTCR細胞である。
【0093】
ある特定の実施形態では、本開示は、T細胞の集団を人工抗原提示細胞(aAPC)の集団に曝露することを含むT細胞療法製品を製造する方法であって、各aAPCは、リン脂質を含むリポソームと、リポソームの外面に呈示された刺激性リガンドとを含む、方法を提供する。
【0094】
本明細書に開示の方法のある特定の実施形態では、本方法は、T細胞の集団のうちの少なくとも1個のT細胞を遺伝子編集することをさらに含む。本明細書に開示の方法のある特定の実施形態では、遺伝子編集は、ガイドRNA配列に結合されたCRISPR-Cas9ヌクレアーゼの二重リボ核タンパク質種でT細胞の集団をエレクトロポレーションすることを含み、ここで、種それぞれが内因性のTCRα遺伝子座および/または内因性のTCRβ遺伝子座を標的とする。本明細書に開示の方法のある特定の実施形態では、曝露することは遺伝子編集の前に行われる。本明細書に開示の方法のある特定の実施形態では、遺伝子編集は非ウイルス性である。本明細書に開示の方法のある特定の実施形態では、T細胞の集団は1個以上のNeoTCR細胞を含む。
【0095】
ある特定の実施形態では、本開示は、それを必要とする患者をT細胞療法で処置する方法を提供する。本明細書に開示の方法のある特定の実施形態では、T細胞療法は、本明細書に開示の製造方法によって得られる。
【実施例】
【0096】
以下は、本発明の方法および組成物の実施例である。上に提供した一般的な説明を前提とすると、種々の他の実施態様を実施することができること、が理解されよう。
【0097】
実施例1.利用可能な活性化剤の評価。
NeoTCR製品の製造で使用するための適合性について6種類の活性化剤を比較した。活性化剤には4種類の市販の製品を含めた:(a)TRANSACT(商標)(ヒト化CD3アゴニストおよびCD28アゴニストにコンジュゲートされているコロイド状ポリマーナノマトリックス、Miltenyi Biotec)、(b)CLOUDZ(商標)(完全ヒト化抗CD3抗体および抗CD28抗体で誘導体化された、アルギン酸塩ベースのヒドロゲルで構成される直径12~100μmのミクロスフェア、R&DSystems)、(c)IMMUNOCULT(商標)(抗ヒトCD3単一特異性抗体複合体および抗ヒトCD28単一特異性抗体複合体、Stemcell Technologies)、および(d)ImmunoCult+CD2。加えて、T細胞を、comPACTテトラマー(4つのビオチン化comPACTタンパク質に結合させたストレプトアビジンコア)およびcomPACT-デキストランコンジュゲート(ビオチン化comPACTタンパク質に結合させたストレプトアビジンコーティングデキストラン)に曝露させたが、これについては、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第10,875,905号により詳細に記載されている)。TransActおよびCloudzについても、IL2がT細胞活性化を改善しかつ細胞増殖および生理機能の改善につながるか判定するために、IL2の存在下および非存在下で試験した。
【0098】
編集したT細胞は、米国特許第10,584,357号に先に記載されているように調製した。手短に、CD8ポジティブT細胞およびCD4ポジティブT細胞を、アフェレーシスにより血液から単離した末梢血単核細胞(PBMC)から、製造業者のプロトコールに従って磁気ビーズ(Miltenyi)を使用したポジティブ選択によって濃縮した。濃縮したT細胞を試験試薬で刺激し、培地(TexMACS、それぞれIL-7およびIL-15 12.5ng/mLを含有する3%ヒト血清)とともに13日間培養した。TransAct、CloudzおよびImmunoCultは製造業者の指示の通りに使用した。2日目に、TRAC遺伝子座でのNeoTCRをコードする遺伝子のCRISPR/Cas9媒介性挿入のために、細胞にNeo-TCR相同組換えテンプレートをエレクトロポレーションした。T細胞を13日目まで培地中で培養し、その時点で遺伝子編集効率を決定した(表3)。
【0099】
CloudzおよびImmunoCultの活性化は遺伝子編集を促進したが、一方、遺伝子編集効率はCD8 T細胞に特異的であり、CD8 T細胞に偏っていた(表4)。
【0100】
したがって、CloudzおよびImmunoCultは、CD4 T細胞とCD8 T細胞の両方の効果的な遺伝子編集が望まれる細胞療法にとって良好な選択肢ではない。さらに、Cloudzは直径約12~100μmのポリマーであり、エレクトロポレーション前に(効率的な遺伝子編集を促進するため)および/または最終製品(患者に点滴するように設計されている最終細胞療法製品は好ましくはかかるポリマーが排除されている)からかかるポリマーを除去することは、時間とリソースを大量に消費する些細ではないタスクである。
【0101】
実施例2.POPCリポソームのT細胞耐容性
リポソームを、抗原提示細胞(APC)を模倣するように設計した。リポソームは、生体膜の曲率と剛性と同様のものを備える流体膜プラットフォームとして機能し、リポソーム上の抗CD3抗体および抗CD28抗体の表面呈示によって、T細胞受容体CD3複合体、およびナイーブ細胞上の共刺激受容体CD28を始めとする受容体にシグナルを供給する。
【0102】
本実施例に記載の実験では、様々な濃度の18:1パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)リポソームに対する濃縮初代CD4/CD8細胞の耐容性について、リポソーム:細胞が10:1、100:1または1000:1の比で、13日間さらに調べる。ストック脂質をクロロホルムに可溶化した。ホウケイ酸塩バイアル中で、脂質を体積で過剰のクロロホルム中で混合して、所望の脂質組成物を得た。不活性ガスを使用して、大半のクロロホルム溶媒をエバポレートして薄い脂質フィルムを得る。脂質フィルム中の残留クロロホルムは、減圧下でデシケーター内で一晩一掃する。乾燥脂質を、添加剤を含まない室温の培養培地中で少なくとも20分間水和させた。リポソーム形成を、(1)既知の細孔サイズのトラックエッチドメンブレンを通した押出しまたは(2)超音波処理によって行った。
【0103】
血液から単離した末梢血単核細胞(PBMC)を培地で培養した。翌日、CD8およびCD4のポジティブT細胞を、製造業者のプロトコールに従って磁気ビーズ(Miltenyi)を使用したポジティブ選択によって濃縮し、24ウェルG-Rex(登録商標)(ガス透過性急速増殖)プレートの16ウェルに7.15×10
6個のCD4細胞およびCD8細胞を播種し、0日目と8日目に新鮮な培地(TexMACS培地、3%hAB、IL-7、IL-15)およびTransActを供給した。リポソームを2日目と8日目に供給した。T細胞の生存率およびカウントをアクリジンオレンジとDAPIの染色を介して、市販のセルカウンターを用いて、0日目、2日目、8日目と13日目に評価した。
【0104】
表5に示すように、濃縮した、TransAct活性化CD4/CD8の生存率および増殖能力の両方とも、1000aAPC/細胞の投薬量までブランクaAPCの存在によって影響を受けなかった。
【0105】
実施例3.CD3アゴニストおよびCD28アゴニストのタイトレーション。
シグナル伝達分子抗CD3および抗CD28の表面密度の影響を調べるために、0%、0.1%、1%、2%、および4%ビオチンCAP-PEを含むPOPCを使用して、直径800nmのリポソームを上記のように調製したが、さらにモックコントロールも含める(製造業者の取扱説明書に従ったTransAct)。
図1に例示するように、αCD3抗体およびαCD28抗体をリポソームの表面に結合させた。手短に、CD3またはCD28に特異的なビオチンコンジュゲート抗体(両方ともMiltenyiから入手)を、αCD3:αCD28:ストレプトアビジン 3:3:2の比(効果的にはストレプトアビジン1分子当たり3:1の抗体分子)でストレプトアビジンと混合して、抗体-ストレプトアビジン三量体を形成した。次いで、これらの三量体をビオチン-CAP-PE含有リポソームに過剰で添加して、刺激性リガンド、αCD3およびαCD28を呈示するaAPCを生成した。全ての条件を2重でランした。
【0106】
aAPC条件の2日目の生存率は、リガンド呈示の上昇とともに97%から94%にわずかに下向く傾向があったが、いずれもTAコントロール細胞の生存率と同等以上であり、TAコントロールから予想された生存率と一致していた。全てのaAPC条件では、0日目から2日目まで細胞増殖があった;TAコントロールでは細胞数がわずかに低下した。刺激性リガンドの提示が上昇すると、CD69の発現が上昇し、Ki67の発現が低下した(表6)。TAコントロールは、0.1%PE条件と同様のレベルのCD69およびKi67を有した。全ての条件およびTAコントロールは実質的に同じCD25発現レベルを有した。
【0107】
8日目では、TAコントロールを含めて、全ての条件で生存率が劣り、細胞増殖が劣った。生存率は、刺激性リガンドの提示の上昇とともに下向く傾向があった。CloudzおよびImmunocultとは異なり、本発明のリポソームで活性化された場合、CD4+細胞とCD8+細胞との間で編集効率にほとんど差がなかった(データ示さず)。フロー上のFSC 対 SSCのリンパ球集団は極めて少なく、これらの細胞ではTCRシグナルがなく、したがって、このことはアーチファクトである可能性があった。8日目では、生存率および細胞カウントは、Ki67発現と正に相関し、CD69発現と負に相関した。
【0108】
実験を繰り返し、より広範なaAPC投薬戦略の評価を13日目まで細胞増殖に関して実施した。全てのaAPCによる活性化は、ポジティブコントロールであるTransActで得られた活性化とおよそ同様であった(表7)。
【0109】
増殖倍率は2%POPE aAPC条件で最大であることが決定された。2%POPE aAPC条件に関するさらなる調査を実行して、遺伝子編集に対する効果を決定した。2%PE aAPC条件では、13日目に50%の編集がそして最多数の編集細胞が示される。
【0110】
細胞表現型に対するリガンド密度の影響も調べた。
図4に示すように、0.1~2%POPEで、%Tmscの上昇が示されており、4%POPEではTransActと同等の%Tmscであった。また、1~4%POPEで、TransAct活性化細胞と比較して、エフェクター細胞、すなわち「より古い」T細胞がより低いこと、が示された。さらに、リガンド密度の上昇は、T細胞の集団のCD4画分の増加と相関したが、それゆえ、CD4/CD8 T細胞の分布は抗CD3:抗CD28比を調整することによって調節可能である場合がある。
【0111】
結論。細胞増殖は、aAPC表面上のリガンド密度の上昇および細胞あたりのaAPCの投薬量の増加とともに有意に改善した。1~4%PE条件では、TransAct活性化細胞集団に勝ってNeoTCR+の%が>160%で改善した。様々なエレクトロポレーションシステムでさらなる試験を実行して、aAPC活性化細胞の遺伝子編集率をさらに最適化することができる。さらに、抗CD3:抗CD28のモル比を調整して、CD4:CD8 T細胞の集団を最適化することができる。
【0112】
実施例4.T細胞活性化のためのaAPC直径
CD8ポジティブT細胞およびCD4ポジティブT細胞を、アフェレーシスにより血液から単離した末梢血単核細胞(PBMC)から、製造業者のプロトコールに従って磁気ビーズ(Miltenyi)を使用したポジティブ選択によって濃縮し、24ウェルG-Rexプレートの16ウェルに7.15×106個のCD4細胞およびCD8細胞を播種し、0日目に新鮮な培地(TexMACS培地、3%hAB、IL-7、IL-15)およびaAPCを供給した。aAPCを100リポソーム/細胞(直径30、100、200、400nm)で、活性化した濃縮CD4 T細胞およびCD8 T細胞に2重で投薬した。これらのaAPCは、1:1のαCD3/αCD28および1%のビオチン-PE濃度で存在した。2日目に、CD4/CD8 T細胞を活性化マーカーに関して評価し、その後に、TRAC遺伝子座でのNeoTCRをコードする遺伝子のCRISPR/Cas9媒介性挿入のために、Neo-TCR相同組換えテンプレートであるPACT35-TCR89をエレクトロポレーションした。培地を8日目に交換した。増殖した細胞の遺伝子編集および表現型状態の転帰を8日目と13日目に評価した。T細胞の生存率およびカウントをアクリジンオレンジとDAPIの染色を介して、市販のセルカウンターを用いて、0日目、2日目、8日目と13日目に評価した。
【0113】
aAPC条件の2日目の生存率は、aAPCサイズの増大とともに97%から94%にわずかに下向く傾向があったが、いずれもTAコントロール細胞の生存率と同等以上であった(表8)。全てのaAPC条件では、0日目から2日目まで細胞増殖があった;TAコントロールでは細胞数がわずかに減少した。
【0114】
30nmのaAPC条件では、未染色コントロール(同じドナー)と同様のレベルのCD25、CD69、およびKi67の発現を有したが、このことは、細胞を活性化するには刺激性リガンドが不十分であることを指摘している可能性がある(表9)。30nm超のaAPCによるaAPC条件では、TA活性化コントロールと同等のレベルのCD25が示された。aAPCサイズの増大により、T細胞上のCD69の発現が上昇した。30超のaAPCによるaAPC条件では、TAコントロールと同等以上のCD69発現があった。30nmを除けば全てのaAPC条件では、TAコントロールよりも高いKi67発現があった。CD25、CD69、およびKi67の発現は、CD4+細胞とCD8+細胞との間で実質的に差がなかった(データ示さず)。同様に、遺伝子編集効率もリポソームサイズに関連してまったく傾向を示さなかった(データ示さず)。
【0115】
上記の検討事項に基づいて、aAPCからのT細胞の分離および精製を可能とするには直径200nmが最適であること、および、活性化には2%または4%のリガンド表面被覆が最適であること、が決定された。
【0116】
実施例5.T細胞活性化のためのaAPCのアゴニスト負荷
αCD3/αCD28抗体を異なるリポソーム(200nm)上へと分けることを評価するために、別々のαCD3三量体およびαCD28三量体を生成し、合計100リポソーム/細胞(50リポソーム/各種の細胞)へとaAPCに結合させた。共役リガンド提示条件と非共役リガンド提示条件の両方で、0~2日目よりTAコントロールよりも細胞増殖が良好であった;共役条件 対 非共役条件において、生細胞が20%超で存在した(データ示さず)。2つの条件間で活性化マーカーにまったく有意差はなかった。8日目の共役条件下で細胞増殖と編集細胞の総数がわずかにより高めであったが、2つの条件間のNeoTCR+の%またはKOの%に対して有意な影響はまったくなかった。
【0117】
上に提示の結果が示唆するところは、aAPCサイズおよびリガンド提示様相および密度へのT細胞活性化の依存性、である。これらの結果がまた指摘するところは、プロセス2日目に測定して、過剰刺激によって濃縮CD4 T細胞およびCD8 T細胞の効果的な活性化状態が邪魔されていること、である。本研究では、以下の2つの手段を介する刺激性リガンド投薬量がより低いことの影響について調査した:(1)表面密度がより低いことおよび(2)T細胞あたりのaAPC投薬量がより低いこと。この目的のために、200nmのaAPCサイズで0.01~1%PEのラージスケール(6ウェル)反復を実行した。10aAPC/細胞から100aAPC/細胞の範囲でaAPC投薬量をタイトレーションした。
【0118】
CD8ポジティブT細胞およびCD4ポジティブT細胞を、アフェレーシスにより血液から単離した末梢血単核細胞(PBMC)から、製造業者のプロトコールに従って磁気ビーズ(Miltenyi)を使用したポジティブ選択によって濃縮し、24ウェルG-Rexプレートの16ウェルに7.15×107個のCD4細胞およびCD8細胞を播種し、0日目に新鮮な培地(TexMACS培地、3%hAB、IL-7、IL-15)およびaAPCを供給した。2日目に、CD4/CD8 T細胞を活性化マーカーに関して評価し、その後に、TRAC遺伝子座でのNeoTCRをコードする遺伝子のCRISPR/Cas9媒介性挿入のために、Neo-TCR相同組換えテンプレートであるPACT35-TCR89をエレクトロポレーションした。培地を8日目に交換した。増殖した細胞の遺伝子編集および表現型状態の転帰を8日目と13日目に評価した。T細胞の生存率およびカウントをアクリジンオレンジとDAPIの染色を介して、市販のセルカウンターを用いて、0日目、2日目、8日目と13日目に評価した。活性化を2日目に評価した。T細胞表現型および疲弊について8日目と13日目に評価した。
【0119】
最低レベルの刺激性リガンドを除く全てで、本発明のaAPCは、活性化マーカー、CD25およびCD69の発現をポジティブコントロールの発現と同様のレベルまで誘導した。見られるように、aAPCへの先行曝露により、増殖マーカーKi67の発現が誘導されたが、ポジティブコントロールよりも低いレベルであった。活性化マーカーと同様に、最低レベルの刺激性リガンドを除く全てが、同様のレベルのKi67の発現を示した。
【0120】
Ki67発現は、aAPCで活性化したものと比較して、TA条件ではCD4 T細胞でより高く、CD8 T細胞でより低かった(表11)。刺激性リガンドが最も低いaAPC条件(10aAPC/細胞にて0.01%PE)で、他の条件よりもCD25、CD69、およびKi67の発現が低かった。
【0121】
遺伝子編集を、T細胞の活性化および会合に対する抗CD3および抗CD28の表面呈示およびaAPCサイズのタイトレーションに関連して調べた。刺激性リガンドのモルがより高い条件では、刺激性リガンドがより低い条件と比較して、NeoTCR発現がより高かったが、ノックアウトのレベルは同等であった(データ示さず)。8日目までに、aAPCは、CD4:CD8比に対してまったく影響を及ぼさなかったが、この比は、TAコントロールを含めて、試験した全ての条件で概して3:1であった。
【0122】
刺激性リガンドの量が一定に保たれた場合に、T細胞の活性化および会合に対するaAPCサイズの影響があるか判定するために活性化マーカーを解析した。CD69およびCD25を活性化マーカーとして使用し、Ki67を増殖マーカーとして使用した。aAPC(0.1%PE)を、aAPC/細胞が6~100の可変用量条件で200~800nmの範囲の間で選択した。刺激性リガンドのモルは、全ての条件で一定に保たれた(アッセイごとにαCD3抗体およびαCD28抗体それぞれ3.02ピコモル、またはT細胞あたり概して25,000の刺激性リガンド)。同様に、ベシクルおよび用量(APC)のサイズを、リポソームの総表面積が一定(1.26×10
7nm
2)になるように反比例して変化させた。CD25、CD69およびKi67の発現レベルは、サイズおよび等モルのアゴニストレベルにてのaAPC/細胞の投薬量とは無関係であった(表12)。刺激性リガンドのモルが一定に保たれた場合、aAPCサイズ/投薬量はneoTCR発現に影響を及ぼさなかった(表R)。
【0123】
これらの実験が示すところは、濃縮CD4/CD8 T細胞の活性化および編集に影響を及ぼすのは、サイズまたはaAPCの投薬量ではなく、刺激性リガンドの総量であること、である。
【0124】
実施例6.T細胞との融合に対するリポソーム抵抗性
本発明のaAPCは、様々な活性化シグナル伝達分子のコンジュゲートストレプトアビジン三量体を含むPOPCおよびビオチン-POPE脂質などの脂質からなるリポソームコンストラクトである。このようなaAPCは、CD4/CD8 T細胞の活性化に使用することができる。しかし、リポソームは、リガンド相互作用の過程で患者の細胞と融合する可能性がある。リポソームが患者細胞と融合するかどうか、またはその融合がどの程度に起こるかを確立するために、Texas Redにコンジュゲートされている脂質、Texas Red DHPEをリンパ球との脂質融合のマーカーとして使用した。抗CD3/抗CD28の三量体を生成し、リポソーム上のビオチン化脂質に結合させた(1% Texas Red、POPC中の1%ビオチン-POPE)。
【0125】
フローサイトメトリーを使用して融合を評価した。-1(マイナス1)日目、解凍した濃縮CD4/CD8 T細胞を完全培地にプレーティングし、24時間静止させた。0日目、Texas Redリポソーム(αCD3/αCD28を含むTR-リポソーム(1%PE))を直径800nmで作製し、細胞あたり10リポソームの用量で培養物に添加した。評価するタイムポイントは、静止の後、0日目、遠心分離前2日目、遠心分離後2日目、およびエレクトロポレーション後2日目とした。0日目に、5つのウェルに10M細胞をプレーティングし、aAPCを10aAPC/細胞で添加した。0日目の2時間後、1つのウェルを採取し、1%BSA/PBSで希釈し、フローでランさせて、赤色シグナルおよびaAPCの存在をチェックした。リポソームのベースラインの測定値を有するために、Tx-Redリポソームの平均蛍光強度(MFI)も測定した。
【0126】
2日目に、aAPC融合に対するエレクトロポレーションの影響を試験するために試料を評価した。細胞を培地へと再懸濁し、遠心分離前の試料のアリコートを、再懸濁前の培養物からの上清とともに採取し、次いで再懸濁後の試料を採取した。残りの培養物のうちの2つを再懸濁し、100gで10分間遠心分離した。遠心分離後のD2の場合、上清を採取し、ペレットを1%BSA/PBSに再懸濁した。エレクトロポレーション後の試料の場合、上清を除去し、ペレットをP3 Primary Cell Nucleofector Solution(Lonza)バッファー100μLに再懸濁し、Xキュベット中でエレクトロポレーションを行った。10分後、細胞を培地に戻し、37℃で2時間培養し、その後、フロー解析のために細胞を採取した。
【0127】
aAPCがD0からD2までの濃縮T細胞と相互作用するかどうか判定するために、T細胞およびaAPCを2日の期間にわたりモニタリングした。D0に、25000個のT細胞の4つのウェルに10aAPC/細胞をプレーティングした。2つのウェルは完全なaAPCを受けたが、一方、他の2つのウェルは刺激性リガンドのネガティブコントロールとしてブランクのaAPC(Texas Red含、ビオチンPE不含)を受けた。T細胞:aAPC相互作用を評価するために、2日間にわたって2時間ごとに画像を取得した。
【0128】
細胞のプロセシングのタイムラインは以下の通りである:1)-1日目:aAPC用の脂質[1%TR、1%ビオチン-PE]を乾燥させ、解凍し10M/ウェルで細胞を静止させる;2)0日目:静止細胞に10aAPC/細胞、αCD3/αCD28を含む直径800nm、を添加する;D0融合を評価する;および3)2日目:Xキュベット条件4、5でエレクトロポレーションを行い、エレクトロポレーションの2時間後に融合を評価する;D0融合を評価する。
【0129】
TransAct活性化細胞は互いにクラスター形成しており、これは、48時間で最も視認可能である(データ示さず)。この現象は、aAPC活性化条件では同程度には見られない。これは、(1)自己クラスター形成に必要なLFA-1 ICAM-1アップレギュレーションに必要な刺激性リガンドの欠如、または(2)aAPCによるLFA-1 ICAM-1相互作用の立体ブロッキング、が原因と考えられる。
【0130】
0日目に、aAPCの添加4時間後の細胞だけが何らかのTxRedシグナルを有した。このことが示唆するところは、T細胞は、定着する前に培養4時間までにaAPCと会合すること、である。
【0131】
2日目には、培養上清試料だけがTxRedシグナルを有する。このことが実証するところは、初期サイズ800nmのaAPCは培養物中で定着しないこと、である。遠心分離前の細胞にはTxRedシグナルがまったくなく、このことが示唆するところは、2日目までに定着後のaAPCとの融合または会合はないこと、である。遠心分離後およびエレクトロポレーション後の細胞もTxRedシグナルを有さなかった。このことが示唆するところは、遠心分離はT細胞とのaAPCの融合を促進せず、エレクトロポレーション前にaAPCを排除するのに十分であること、である。
【0132】
実施例7.aAPC用量およびリガンド密度駆動性T細胞クラスター形成
概要。Zumwaldeら、J.Immunol.2013 191:3681~3693頁が示したところはLFA-1/ICAM-1相互作用が活性化T細胞どうし間のホモタイプ接着を媒介するが、なぜなら、T細胞はLFA-1もICAM-1も両方を発現するからであること、である。このようなホモ型凝集は、in vitroでの効率的なT細胞活性化のホールマークであり、T細胞クラスターはまたin vivoでの抗原特異的T細胞活性化の後にも観察された。ICAM-1は、IL-12によって制御される早期T細胞活性化マーカーであり、T細胞クラスターの破壊は、活性化したCD8 T細胞への抗原のアクセスも、CTLA-4およびエオメソデルミンの発現レベルも両方を調節することにより、CD8 T細胞エフェクター機能の発達を増強する早期T細胞活性化マーカーである。
【0133】
T細胞のクラスター形成は、細胞培養物の定期的に画像を取得するSartorius IncuCyte装置でモニタリングすることができる。aAPCを異なるaAPC:T細胞比で投薬し、2時間ごとに画像を得てクラスター形成事象をモニタリングした。実験には、比較解析のため、それぞれポジティブコントロールおよびネガティブコントロールとしてTransAct刺激T細胞および非刺激T細胞を含めた。aAPC刺激によりT細胞クラスター形成事象が開始したが、しかし、クラスター形成の程度はTransActビーズ活性化細胞培養物に比べてはるかに低かった。
【0134】
上記の13プロセス日の広範な研究を実施する代わりに、T細胞クラスター形成を、ラージスケールでの試験に必要とされるaAPC用量とリガンド密度コンストラクトの最適範囲を評価しかつ潜在的に絞り込むための代用として使用した。付加的に、これらの測定により、クラスター形成プロセスが2日目にてのエレクトロポレーション前の十分なT細胞活性化にとって不可欠な前駆体であるかどうかが明確となった。
【0135】
本実施例に記載の実験は、aAPC表面の0.1~4%のαCD3/αCD28リガンド密度およびまた100~5000aAPC/細胞の用量範囲のスクリーニングについて記載する。
【0136】
CD8ポジティブT細胞およびCD4ポジティブT細胞を、アフェレーシスにより血液から単離した末梢血単核細胞(PBMC)から、製造業者のプロトコールに従って磁気ビーズ(Miltenyi)を使用したポジティブ選択によって濃縮した。条件を、96ウェルプレート形式で3重でプレーティングした。各ウェルに100,000個のT細胞およびaAPC(総量10μL)を播種し、2時間ごとに捉えた画像で48時間にわたりモニタリングした。TransActは製造業者の取扱説明書に従って使用した。全てのリポソームは直径概して200nmとして調製した。測定値は、0日目(CD4/CD8 T細胞の濃縮、細胞カウントと生存率、IncuCyte研究用のプレーティング)および2日目(画像解析)に取得した。全ての細胞を、TexMACs 3%HS+IL7およびIL15(両方とも12.5ng/mL)中で培養した。
【0137】
本実験モデルにおけるaAPCの無毒性を確認するために、細胞を0、10、100、および1000リポソーム/細胞の各濃度でPOPCリポソーム(0%PE)の存在下での培養物中で増殖させ、TransActで活性化した。リポソームの非存在を含めて、リポソーム/細胞の濃度全体にわたり増殖速度に差はなかった。このことにより、aAPCは毒性ではないことが確認される。
【0138】
T細胞のクラスター形成を活性化フェーズ過程でモニタリングした(
図2Aおよび2B)。これらの実験の場合、25,000個のT細胞を、0.1%と4%との間のPEを含むaAPCとともにそしてaAPC:細胞が100:1と5000:1との間の投薬量で96ウェルプレートにプレーティングした(各条件を3重でプレーティングした)。活性化期間過程で6時間ごとに画像を得た。活性化過程のT細胞のICAM-1依存性ホモ型クラスター形成をモニタリングした。
【0139】
aAPC投薬量の増加とともにT細胞のクラスター形成が改善することになるか判定するために実験を行った。全ての条件について、活性化誘導性クラスター形成に関してIncuCyte上で評価した。
図3Aに、投薬量を1000:1のaAPC:細胞で一定に保った場合の、CD3アゴニストおよびCD28アゴニストに応じたクラスター形成を例示する。クラスター形成の量は、リガンド密度が0.1%PEから2%PEへと上昇するにつれて増加したが、4%PEでは実質的に低下した。
図3Bに、全てのリポソームがPOPC中に1%PEを含有する場合での、クラスター形成に対する投薬量の影響を例示する。クラスター形成は、100aAPC:細胞から1000aAPC:細胞までの投薬量とともに増加したが、この1000aAPC:細胞のポイントにて、さらなるリポソームの供給はほとんど効果がなかった。
図3Cが実証するところは、1000:1の用量にての2%PEを有するaAPCによって、2000:1の用量にての1%PEを有するaAPCよりもわずかに多くのクラスター形成が誘導されること、である。活性化細胞の画像を
図3Dに提供する。
【0140】
実施例8.最適化したラージスケールキュベットベースのエレクトロポレーションによるラージスケールaAPC-リガンド密度
概要。最適化したラージスケールキュベットベースのエレクトロポレーションシステム(1mLキュベット)を使用したエレクトロポレーション用に濃縮CD4/CD8 T細胞を活性化するためのaAPCの使用を評価した。上で、TransActコントロールと比較してノックインが同等でありかつノックアウトが改善されている状況を伴って、スモールスケールにてのCD4およびCD8用のアクチベーターとしてaAPCを使用すること、が実証された。また、ラージスケールの1mLキュベットの最適化したエレクトロポレーションシステムを使用して、エレクトロポレーション効率が改善されることも実証された。本実施例で記載する実験では、ラージスケールの1mLキュベット最適化エレクトロポレーションシステムでのTransAct活性化と比較した異なる3つのaAPCリガンド表面密度について試験した。
【0141】
CD8ポジティブT細胞およびCD4ポジティブT細胞を、アフェレーシスにより血液から単離した末梢血単核細胞(PBMC)から、製造業者のプロトコールに従って磁気ビーズ(Miltenyi)を使用したポジティブ選択によって濃縮した。71.5M細胞を6ウェルG-Rexプレートで各条件ごとに活性化した。リガンド密度を1~4%PEの範囲とし、投薬量を1000から4000までのaAPC:細胞の範囲とし、一方、概して200nmの一定の平均直径を維持した。2日目に、各条件からの50M細胞をP3バッファー中のPACT035 TCR089でエレクトロポレーションした。本研究は、IL-7およびIL-15を補充したTexMACS中で13日間ランした。培地を8日目に交換した。増殖した細胞の遺伝子編集および表現型状態の転帰を8日目と13日目に評価した。T細胞の生存率およびカウントをアクリジンオレンジとDAPIの染色を介して、市販のセルカウンターを用いて、2日目、8日目と13日目に評価した。
【0142】
13日目にてのaAPC評価が示したところは、最高の刺激性リガンド投薬量によって最高の編集がもたらされるが、より低い刺激性リガンドよりもわずかに低い増殖がもたらされること、である(表13)。TransActは増殖および編集が最も低かった。aAPC活性化条件で13日目でWTが最高でも3.6%であったが、一方、TransAct条件で14.3%であった(データ示さず)。全ての条件でCD4+細胞が13~20%の間であったこと、および、刺激性リガンドの投薬量が増加するとTtm/Tem集団が増加し、Tmsc+Tcm集団が減少することも示された(
図6)。
【0143】
13日目に、NeoTCR+発現が高くかつ野生型細胞の%が低いという状態で、インターメディエートスケールにてaAPCを用いて濃縮CD4/CD8 T細胞を首尾よく活性化することができる。刺激性リガンドの投薬量が増加するにつれて、Ttm/Tem集団の増加が観察された。リガンド投薬量が最も低い場合、TransActと比較してCD8 T細胞のTmsc/Tcm集団の改善が観察された。
【0144】
実施例9.aAPC表面での抗CD3抗体と抗:CD28抗体との比のダイナミックレンジ
概要。本実施例で行われた実験は、aAPCの表面での抗CD3:抗CD28比の効果を決定するために設計した。
【0145】
結果。aAPC上のリガンド呈示をタイトレーションすることができることを確認するために、リポソームを上記のように調製したが、ビオチン化フルオロフォア(AlexaFluor 488-ビオチン化、AlexaFluor 594-ビオチン化)をビオチン化刺激性リガンドの代わりに使用した。異なるコンストラクトの個々のMFIの幾何平均によって示されたところは、様々なaAPC種を解明し創出することができること、である(表14)。
【0146】
CD8ポジティブT細胞およびCD4ポジティブT細胞を、アフェレーシスにより血液から単離した末梢血単核細胞(PBMC)から、製造業者のプロトコールに従って磁気ビーズ(Miltenyi)を使用したポジティブ選択によって濃縮した。
【0147】
次の疑問は、エレクトロポレーションの活性化およびプライミングに最適なリガンド比を特定することができるかどうかであった。CD8ポジティブT細胞およびCD4ポジティブT細胞を、アフェレーシスにより血液から単離した末梢血単核細胞(PBMC)から、製造業者のプロトコールに従って磁気ビーズ(Miltenyi)を使用したポジティブ選択によって濃縮し、24ウェルG-Rexプレートの16ウェルに7.15×10
6個のCD4細胞およびCD8細胞を播種し、0日目に新鮮な培地(TexMACS培地、3%hAB、IL-7、IL-15)およびaAPCを供給した。細胞培地を8日目に交換した。αCD28呈示の範囲は細胞の増殖および生存率に影響を与えないように見えた。対照的に、αCD3呈示の範囲は影響を及ぼした。具体的には、5:1では細胞増殖の向上が示され、αCD3:αCD28比を10:1まで上昇させるとセルヘルスが改善した(表15)。
【0148】
遺伝子編集に対するリガンド比の影響を評価するために、2日目のエレクトロポレーションの前に、細胞をaAPC(1%PE、直径200nm、1000aAPC:細胞にて、異なるリガンド比で)とともに44~48時間培養した。2日目に、各条件下で培養した5,000万個の細胞にヌクレオフェクションを行い、次いでaAPCを補充した新鮮な培地で培養した。8日目に培地を交換した。抗CD28表面呈示の増加により編集効率が向上し、その結果、αCD28の5×増加によりNeoTCR+細胞の23%増加がもたらされた。対照的に、抗CD3表面呈示の増加により編集効率が低下し、その結果、αCD3刺激の10倍増加でNeoTCR+の17%低下があった(表15;活性化マーカーは測定したが、データ示さず)。
【0149】
低エンドトキシン、アジドフリー(LEAF)製剤のリガンド(Miltenyi RUO抗体(クローンOKT3、15E8)およびBiolegend LEAF抗体(クローンOKT3、28.2))が細胞増殖および/または遺伝子編集効率に影響を与えるか判定するための実験も実施した。データが示したところは、LEAF活性化因子を含むaAPCは細胞増殖を改善するだけでなく、2×より大きい細胞増殖による2×より大きい乳酸蓄積があったことから、aAPC活性化T細胞の培地消費速度も上昇すること、である。さらに示されたところは、表面リガンド密度1%でさえも(aAPC活性化T細胞は25%より高いNeoTCR+の%をもたらす)こと、およびaAPC活性化T細胞によって2倍より大きな総編集細胞が得られること、である。要約すると、共刺激リガンドの1%表面積被覆にてのBiolegend LEAF抗体である、aAPCによって、より高いエレクトロポレーション効率が駆動され、より多数の編集細胞がもたらされること、が示された。
【0150】
本発明を、いくつかの説明した実施形態に関連して、ある程度の長さで、いくつかの特性を用いて説明してきたが、本発明は、そのようなあらゆる特性もしくは実施形態またはいずれかの特定の実施形態に限定されるべきことを意図するものではなく、先行技術の点でこのような特許請求の範囲の最も広い可能な解釈を提供し、したがって、本発明の意図する範囲を効果的に包含するように、添付の特許請求の範囲を参照して解釈されるべきである。
【0151】
本明細書に挙げられる全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、それらの全体が参照により組み込まれる。矛盾が生じた場合、定義を含めて本明細書が優先するものとする。加えて、見出し項目、物質、方法および実施例は、例示的なものにすぎず、限定しようとするものではない。
【国際調査報告】