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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-31
(54)【発明の名称】複数の嚢胞を含む大型細胞微小区画
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20240524BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023576139
(86)(22)【出願日】2022-06-16
(85)【翻訳文提出日】2024-01-18
(86)【国際出願番号】 EP2022066498
(87)【国際公開番号】W WO2022263601
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】2106403
(32)【優先日】2021-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(31)【優先権主張番号】2114709
(32)【優先日】2021-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520174104
【氏名又は名称】ツリーフロッグ テラピューティクス
【氏名又は名称原語表記】TREEFROG THERAPEUTICS
【住所又は居所原語表記】30 AVENUE GUSTAVE EIFFEL BATIMENT A,33600 PESSAC,FRANCE
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】フェイユー,マクシム
(72)【発明者】
【氏名】レオナール,アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】コーヘン,フィリップ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA93X
4B065AC12
4B065BC47
4B065BD06
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】
定量的、定性的な培養のための三次元細胞培養溶液を提案する。
【解決手段】
本発明は、内部部分(14)を画定する外部ヒドロゲル層を含む、卵形、円筒形、回転楕円形、若しくは球形、又は実質的に卵形、円筒形、回転楕円形、若しくは球形の三次元細胞微小区画又は三次元細胞微小区画のアセンブリに関し、当該内部部分が、少なくとも、細胞外マトリックス要素と、少なくとも2つの嚢胞であって、各嚢胞が、管腔の周囲に三次元的に組織化された少なくとも1つの層のヒト細胞又は動物細胞によって形成されている、少なくとも2つの嚢胞と、を含み、内部部分の最小半径又は平均半径が、少なくとも100μmである。本発明はまた、そのような微小区画又は微小区画アセンブリを製造するための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部部分(14)を画定する外部ヒドロゲル層(12)を含む、卵形、円筒形、回転楕円形、若しくは球形、又は実質的に卵形、円筒形、回転楕円形、若しくは球形の三次元微小区画(10)であって、前記内部部分(14)が、少なくとも、
-細胞外マトリックス要素(16)と、
-少なくとも2つの嚢胞であって、各嚢胞が、管腔(20)の周囲に三次元的に組織化された、少なくとも1つの層のヒト細胞又は動物細胞(18)(ヒト胚性幹細胞を除く)によって形成されている、少なくとも2つの嚢胞と、を含み、
前記内部部分(14)の最小半径が、少なくとも100μmである、微小区画(10)。
【請求項2】
各層の前記細胞(18)が、上皮細胞又は上皮型形態を有する細胞であり、嚢胞を形成することができることを特徴とする、請求項1に記載の微小区画(10)。
【請求項3】
各層の前記細胞(18)が、誘導多能性幹(iPSC)細胞及び以下の細胞:腺上皮細胞、腎上皮細胞、腸上皮細胞、皮膚上皮細胞、網膜色素上皮細胞、心外膜細胞、及び心内膜細胞から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の微小区画(10)。
【請求項4】
前記内部部分(14)が、細胞外マトリックス要素を含まない液体領域も含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の微小区画(10)。
【請求項5】
前記内部部分(14)の最小半径が、少なくとも200μmであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の微小区画。
【請求項6】
前記内部部分(14)の体積が、前記微小区画の総体積の少なくとも20%、好ましくは少なくとも40%を占めることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の微小区画。
【請求項7】
閉じられていることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の微小区画。
【請求項8】
前記外層が、アルギネートを含むことを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の微小区画。
【請求項9】
少なくとも1つの嚢胞が、2つの嚢胞の融合に由来することを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の細胞微小区画。
【請求項10】
前記微小区画内に存在する前記細胞が、2~30個の細胞を外部ヒドロゲル層の内部部分にカプセル化することによって得られたことを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の微小区画。
【請求項11】
薬剤として使用するための、請求項1~10のいずれか一項に記載の微小区画。
【請求項12】
少なくとも1つの微小区画が、請求項1~10のいずれか一項に記載の微小区画であることを特徴とする、少なくとも2つの三次元細胞微小区画を含む、微小区画のアセンブリ。
【請求項13】
前記微小区画が、バイオリアクター内の培養培地中に配置されることを特徴とする、請求項12に記載の微小区画のアセンブリ。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか一項に記載の細胞微小区画、又は請求項12若しくは13に記載の細胞微小区画のアセンブリを調製するための方法であって、以下の工程:
-(a)少なくとも1つの細胞保護因子を含有する培養培地中でヒト細胞又は動物細胞をインキュベートする工程と、
-(b)工程(a)からの前記細胞を、細胞外マトリックス要素、好ましくは生物学的又は合成細胞外マトリックスと混合する工程と、
-(c)細胞の懸濁液をヒドロゲル層にカプセル化して、卵形、円筒形、回転楕円形、若しくは球形、又は実質的に卵形、円筒形、回転楕円形、若しくは球形の微小区画を形成する工程であって、内部部分を画定する外部ヒドロゲル層を含み、前記内部部分の最小半径又は平均半径が少なくとも100μmである、工程と、
-(d)得られた微小区画を、等張性リンス緩衝液中で培養し、次いで、培養培地中で、好ましくは少なくとも1つの細胞保護因子を含有する培養培地中で培養する工程と、
-(e)好ましくは、前記細胞保護因子を除去するために、前記微小区画をリンスする工程と、
-(f)前記微小区画を、細胞保護因子を含まない培養培地中で、少なくとも2回の細胞分裂サイクル(増幅)、好ましくは1~20日間、更により好ましくは2~10日間、特に5~7日間培養する工程と、
-(g)任意選択的に、前記得られた細胞微小区画を回収する工程と、を含む、方法。
【請求項15】
工程c)が、以下の2つ又は3つの溶液:
-ヒドロゲル溶液、
-任意選択的に、等張性中間溶液、
-細胞、培養培地、及び前記細胞外マトリックスを含む工程b)からの溶液を、
マイクロ流体注入器を介して同心円状に共注入することによって行われ、前記マイクロ流体注入器は、前記溶液の混合物からなるジェットを前記注入器の出口で形成することを可能にし、前記ジェットが、液滴に分解し、前記液滴が、前記ヒドロゲル溶液を硬化させて各微小区画の前記外層を形成するカルシウム槽に収集されており、各液滴の内部部分が、細胞、培養培地、及び前記細胞外マトリックスを含む工程(b)からの前記溶液からなることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記マイクロ流体注入器の最終開口部直径が、150~300μm、好ましくは180~240μmであり、前記溶液の各々の流量が、45~150ml/時、好ましくは45~110ml/時であることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
工程(c)で最初にカプセル化された前記細胞の全てが、それらがカプセル化される前記微小区画の体積の50%未満の体積を占めることを特徴とする、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
工程(a)と工程(c)との間、又は工程(c)の前記カプセル化と同時のいずれかで、前記細胞を細胞外マトリックスと混合する工程(b)を行うことを特徴とする、請求項14~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
工程(d)、(e)、及び(f)が、連続的又は逐次的な撹拌下で行われることを特徴とする、請求項14~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
バイオリアクター内で実施されることを特徴とする、請求項14~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
工程(a)の前又はそれと同時に、前記方法が、化学的解離、酵素的解離、又は機械的解離による前記細胞の解離工程を含むことを特徴とする、請求項14~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記方法が、工程(f)の後に前記細胞の少なくとも1回の再カプセル化を含むことを特徴とする、請求項14~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
各再カプセル化が、継代に対応することを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
各再カプセル化が、前記外部ヒドロゲル層を除去すること、好ましくは前記微小区画内で嚢胞の形態であった前記細胞が部分的に又は完全に解離される様式で再懸濁すること、及び前記方法の前記工程を再実施することからなることを特徴とする、請求項22又は23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多能性幹細胞などの上皮型細胞の三次元培養に関する。
【背景技術】
【0002】
エクスビボ細胞培養は、ますます関心を集めている分野である。培養細胞は、任意の種類の細胞であってよい。培養細胞は、異なる表現型を有する分化細胞、前駆細胞及び幹細胞を含み得る。細胞培養技術における顕著な進歩は、三次元培養システムの導入である。
【0003】
実際に、三次元培養は、有利にはインビボシステムにより近く、多くの用途、特に療法の開発に使用することができる。特に好適な技術は、国際公開第2018/096277号に記載されており、これは、幹細胞を培養するための三次元細胞微小区画(microcompartment)からなる。
【0004】
しかしながら、それらの効率にもかかわらず、既存の3D培養システムは、細胞の収率及び増殖速度に関して、安定な上皮表現型が維持されることを確実にしながら、インビボでの増殖速度及びサイクル長に更に近づけるには、依然として限界がある。
【0005】
本発明の目的は、これらの必要性の全てを満たし、従来技術の欠点及び限界を克服し、更により定量的であり、少なくとも同等に定性的な培養のための三次元細胞培養溶液を提案することである。
【発明の概要】
【0006】
上皮細胞、又は上皮型形態を有し、嚢胞を形成することができる細胞(例えば、多能性幹細胞)の3D培養のための細胞微小区画の開発に取り組む一方、本発明者らは、上皮表現型を維持しながら、管腔(嚢胞)の周囲に組織化された微小区画に含有された細胞の最大数を増加させることを可能にするシステムを開発した。
【0007】
本発明によれば、細胞の弱い播種の維持は、微小区画内の細胞の播種と、増幅された細胞を含有する微小区画の回収との間の増幅率を増加させることを可能にする。既存のシステムでは、播種時に数個の細胞(特に1~3個)を含む微小区画が死滅するか、潜伏速度で増殖を再開するが、これは培養物に有害であり、必要なカプセル化培養時間を増加させる。
【0008】
本発明によれば、これらの問題は、特に、サイズが小さすぎる微小区画、特に、内部部分の体積が小さすぎる微小区画に関連している。
【0009】
したがって、本発明は、外層及び内部部分を有する三次元細胞微小区画に関し、その内部部分は、細胞の低い初期播種から開始して、微小区画の採取時に、高い増殖速度及び大量の細胞を可能にするのに十分に大きな寸法を有する。
【0010】
特に、本発明は、卵形、円筒形、回転楕円形、若しくは球形の形状、又は実質的に卵形、円筒形、回転楕円形、若しくは球形の形状の三次元微小区画を対象とし、三次元微小区画が、内部部分を画定する外部ヒドロゲル層を含み、当該内部部分が、少なくとも、
-細胞外マトリックス要素と、
-少なくとも2つの嚢胞であって、各嚢胞が、管腔の周囲に三次元的に組織化された少なくとも1つの層の細胞によって形成されている、少なくとも2つの嚢胞と、を含み、
微小区画の内部部分の最小半径が、少なくとも100μm、好ましくは少なくとも200μmである。
【0011】
管腔の周囲に三次元的に組織化された細胞の各層の細胞は、嚢胞を形成することができる細胞、すなわち、密着結合を形成し、(嚢胞の管腔に面する)頂端面上にポドカリキシンを発現することができる基底面を有する極性細胞である。これらの細胞は、特に、上皮細胞、又はヒト若しくは動物の上皮型形態を有する細胞である。管腔の周囲に三次元的に組織化された細胞の各層の細胞は、好ましくは、誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells、iPSC)及び以下の細胞:腺上皮細胞(例えば、乳腺又は唾液腺)、腎上皮細胞、腸上皮細胞(腸細胞)、皮膚上皮細胞(ケラチノサイト)、網膜色素上皮細胞、心外膜細胞、及び心内膜細胞から選択される。
【0012】
有利なことに、そのような配置、特に、少なくとも2つの嚢胞の存在は、管腔(嚢胞)の周囲の上皮表現型を保持しながら、微小区画に含有された細胞の最大数を増加させることを可能にする。本発明による微小区画のサイズは、細胞の生理機能に適合する拡散距離を保ちながら、いくつかの嚢胞の成長を可能にするように選択される。
【0013】
本発明はまた、好ましくはバイオリアクターにおける液体懸濁液中に、本発明による少なくとも1個の細胞微小区画を含む細胞微小区画の三次元アセンブリに関する。
【0014】
本発明による微小区画は、様々な用途、特に病状の予防及び/又は治療に有用であり得る。
【0015】
本発明による細胞微小区画は、特に、以下の工程:
-(a)細胞を、培養培地中で、好ましくは少なくとも1つの細胞保護因子、特にアポトーシスの阻害剤及び/又はRho/Aキナーゼを含有する培養培地中でインキュベートする工程と、
-(b)工程(a)からの細胞を細胞外マトリックス要素、特に生物学的又は合成細胞外マトリックスと混合する工程と、
-(c)細胞の懸濁液をヒドロゲル層にカプセル化して、卵形、円筒形、回転楕円形、若しくは球形、又は実質的に卵形、円筒形、回転楕円形、若しくは球形の微小区画を形成する工程であって、内部部分を画定する外部ヒドロゲル層を含み、当該内部部分の最小半径が少なくとも100μmである、工程と、
-(d)得られた微小区画を、等張性リンス緩衝液中で、好ましくは30分間未満培養し、次いで、培養培地中で、好ましくは少なくとも1つの細胞保護因子、特にアポトーシス及び/又はRho/Aキナーゼの阻害剤を含有する培養培地中で培養する工程と、
-(e)好ましくは微小区画をリンスして、好ましくはカプセル化後48時間以内、更により好ましくは24時間以内に、細胞保護因子(アポトーシス及び/又はRho/Aキナーゼの阻害剤)を除去する工程と、
-(f)細胞保護因子を含まない培養培地中で、少なくとも2回の細胞分裂サイクル(増幅)、好ましくは1~60日間、1~30日間、1~20日間、更により好ましくは2~30日間、2~20日間、3~30日間、3~20日間、特に4~7日間、特に5~7日間、微小区画を培養する工程と、
-(g)任意選択的に、得られた細胞微小区画を回収する工程と、を含む、特定の調製方法の実施によって得ることができる。
【0016】
本発明による方法は、少なくとも2つの嚢胞を有する本発明による微小区画を得ることを可能にする。
【0017】
他の特徴及び利点は、本発明の詳細な説明及び以下の実施例から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1a】誘導多能性幹細胞のいくつかの嚢胞を含む本発明による微小区画の図である。この図は、図1bの写真に示された微小区画を表す。
図1b】本発明による微小区画の位相差顕微鏡像である。
図2a】本発明による一連の微小区画の図である。
図2b】本発明による一連の微小区画の位相差顕微鏡像である。
図3a】本発明による一連の微小区画を含有するバイオリアクターの図である。
図3b】本発明による一連の微小区画を含有するバイオリアクターの画像である。
図4a】本発明による微小区画における2つの嚢胞の融合の図である。
図4b】本発明による微小区画における2つの嚢胞の融合の画像である。
図5】本発明の微小区画における誘導多能性幹細胞の増幅試験の結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
定義
本発明の目的において、「アルギネート」は、β-D-マンヌロネート及びα-L-グルロネートから形成される直鎖多糖類、それらの塩、及び誘導体を意味する。
【0020】
本発明の目的において、「ヒドロゲルカプセル」又は「ヒドロゲル微小区画」は、液体、好ましくは水を使用して膨潤したポリマー鎖のマトリックスから形成される三次元構造を意味する。
【0021】
本発明の目的において、「分化した」細胞は、分化していない多能性幹細胞、又は分化を受けている前駆細胞とは対照的に、特定の表現型を有する細胞を意味する。
【0022】
本発明の目的において、「上皮細胞」又は「上皮型細胞」は、単一上皮(立方、角柱、扁平、又は偽重層、すなわち、密接に並置された細胞又は隣接細胞の層であり、その細胞の大部分が層の頂端面及び基底面に接触する)を構築する細胞間結合によって互いに結合したヒト細胞又は哺乳動物細胞を意味する。
【0023】
本発明の目的において、「ヒト細胞」は、ヒト細胞又は免疫学的にヒト化された非ヒト哺乳動物細胞を意味する。これが特定されない場合であっても、本発明による細胞、幹細胞、前駆細胞、及び組織は、ヒト細胞から、若しくは免疫学的にヒト化された非ヒト哺乳動物細胞からなるか、又はそれらから得られる。
【0024】
本発明の目的において、「変異細胞」という用語は、少なくとも1つの変異を有する細胞を意味する。
【0025】
本発明の目的において、「前駆細胞」は、既に細胞分化が約束されているが、まだ分化していない幹細胞を意味する。
【0026】
本発明の目的において、「胚性幹細胞」は、胚盤胞の内部細胞塊に由来する細胞の多能性幹細胞を意味する。胚性幹細胞の多能性は、転写因子OCT4、NANOG、及びSOX2などのマーカー、並びにSSEA3/4、Tra-1-60、及びTra-1-81などの表面マーカーの存在によって評価することができる。本発明の文脈において使用される胚性幹細胞は、例えば、Chang et al.(Cell Stem Cell,2008,2(2):113-117)に記載される技法を使用して、それらの由来となる胚を破壊することなく得られる。任意選択的に、ヒトからの胚性幹細胞を除外することができる。
【0027】
本発明の目的において、「多能性幹細胞」又は「多能性細胞」は、起源の生物全体に存在する全ての組織を形成する能力を有するが、生物全体自体を形成することができない細胞を意味する。ヒト多能性幹細胞は、本出願においてhPSCと呼ぶことができる。これらは、特に、誘導多能性幹細胞(iPSC、又はヒト誘導多能性幹細胞の場合、hiPSC(human induced pluripotent stem cell))、胚性幹細胞、又はMUSE細胞(「多系統分化ストレス耐性」について)であり得る。
【0028】
本発明の目的において、「誘導多能性幹細胞」は、分化した体細胞の遺伝子再プログラミングによって多能性になるように誘導された多能性幹細胞を意味する。これらの細胞は、特に、アルカリホスファターゼによる染色並びにタンパク質NANOG、SOX2、OCT4、及びSSEA3/4の発現などの多能性マーカーについて陽性である。誘導多能性幹細胞を得るための方法の例は、Yu et al.(Science 2007,318(5858):1917-1920)、Takahashi et al(Cell,207,131(5):861-872)、及びNakagawa et al(Nat Biotechnol,2008,26(1):101-106)による論文に記載されている。
【0029】
本発明の目的において、「細胞層」は、細胞の単層又は上皮層を意味する。
【0030】
本発明の目的において、「嚢胞」は、中心管腔を取り囲む、細胞の単層又は上皮層としての三次元球状配置を意味する。
【0031】
本発明による微小区画の(微小区画の一部の)「フェレー径」は、当該微小区画(又は当該部分)に対する2つの接線間の距離「d」を意味し、これらの2つの接線は平行であり、その結果、当該微小区画(又は当該部分)の投影全体が、これらの2つの平行した接線間に存在する。微小区画の内部部分のフェレー径は、微小区画の内部部分と外層との2つの界面の間で測定され、すなわち、当該内部部分に対する2つの接線の間の距離「d」であり、これらの2つの接線は平行であり、したがって、当該内部部分の投影全体がこれらの2つの平行な接線の間にある。
【0032】
本発明の目的において、層の「変厚」は、単一の微小区画について、層が全体にわたって同じ厚さを有しないことを意味する。
【0033】
本発明の目的において、「微小区画」又は「カプセル」は、いくつかの細胞を含有する、部分的に又は完全に閉じられた三次元構造を意味する。
【0034】
本発明の目的において、「対流培養培地」は、内部運動によって撹拌される培養培地を意味する。
【0035】
本発明の目的において、「変異」は、遺伝子変異又はエピジェネティック変異、好ましくは機能的変異を意味する。これは、特に、遺伝子配列の点修飾、構造バリアント、エピジェネティック修飾、又はミトコンドリアDNAの修飾であり得る。
【0036】
本発明の目的において、「機能的変異」は、問題の変異細胞に機能の獲得若しくは機能の喪失又は潜在的な機能喪失を付与する伝達可能な遺伝的又はエピジェネティック修飾を意味する。これは、好ましくは、問題の変異細胞の表現型の修飾を引き起こす変異である。非常に好ましくは、それは、産生される療法に関連するリスクを増加させることによって、又は産生される療法によって提供される利益を低下させることによって、細胞の集合体の治療可能性に悪影響を及ぼすゲノム配列及び/又はエピジェネティック配列の変化である。
【0037】
本発明の目的において、微小区画又は細胞クラスター又は細胞の層の「最大寸法」は、当該微小区画の最大フェレー径の値を意味する。
【0038】
本発明の目的において、微小区画又は細胞層の「最小寸法」は、当該微小区画の最小フェレー径の値を意味する。
【0039】
本発明の目的において、「組織」又は「生物学的組織」は、生物学における組織についての一般的な意味、すなわち、細胞と器官との間の中間の組織化レベルを有する。組織は、クラスター、ネットワーク、又はバンドル(線維)に分類される、同じ起源の類似細胞のアセンブリである(最も一般的に、共通の細胞株に由来するが、それらは異なる細胞株の会合に由来し得る)。組織は、機能的アセンブリを形成し、すなわち、その細胞が同じ機能に寄与する。生物学的組織は規則的に再生し、一緒に集合して器官を形成する。
【0040】
本発明の目的において、「管腔」は、細胞によって形態的に囲まれた水溶液の体積を意味する。好ましくは、その内容物は、微小区画の外側に存在する対流液体の体積と拡散平衡にない。
【0041】
本発明による微小区画の内部部分の「最小半径」は、微小区画の内部部分の最小フェレー径の値の半分を意味する。
【0042】
本発明による微小区画の内部部分の「平均半径」は、各半径が微小区画の内部部分のフェレー径の値の半分に対応する、最小区画の半径の平均を意味する。
【0043】
細胞微小区画
したがって、本発明の目的は、卵形、円筒形、回転楕円形、若しくは球形の形状、又は実質的に卵形、円筒形、回転楕円形、若しくは球形の形状の三次元微小区画10であり、三次元微小区画が、内部部分14を画定する外部ヒドロゲル層12を含み、当該内部部分14が、少なくとも、
-細胞外マトリックス要素16と、
-少なくとも2つの嚢胞であって、各嚢胞が、管腔20の周囲に三次元的に組織化された少なくとも1つの層の細胞18によって形成されている、少なくとも2つの嚢胞と、を含む。
【0044】
好ましくは、微小区画は、内部部分14の最小半径が少なくとも100μm、好ましくは少なくとも200μm、特に200~400μmであることを特徴とする。
【0045】
本発明による微小区画は、外部ヒドロゲル層を含む。好ましくは、使用されるヒドロゲルは生体適合性であり、すなわち細胞に対して非毒性である。外部ヒドロゲル層は、微小区画内に含有された細胞を供給し、かつそれらが生存することを可能にするために、酸素及び栄養素の拡散を可能にしなければならない。一実施形態により、外部ヒドロゲル層は、少なくともアルギネートを含む。それは、排他的にアルギネートからなり得る。アルギネートは、特にアルギン酸ナトリウムであることができ、80%のα-L-グルロネート及び20%のβ-D-マンヌロネートから構成され、100~400kDaの平均分子量及び0.5~5重量%の総濃度を有する。外部ヒドロゲル層は、細胞を有しない。
【0046】
外部ヒドロゲル層は、特に、細胞を外部環境から保護し、細胞の制御されない増殖及び(分化の場合)それらの分化を制限することを可能にする。
【0047】
外層12の平均厚さは、可変であってもよい。好ましくは5~100μm、より好ましくは20~60μmである。内部部分14の最小半径とこの厚さとの間の比は、好ましくは2~10である。
【0048】
外部ヒドロゲル層及び細胞外マトリックス要素(好ましくは細胞外マトリックス)の存在は、微小区画間の細胞の均一な分布を可能にする。更に、この外部ヒドロゲル層は、微小区画が融合することを防止することを可能にし、これらの融合事象は、細胞の表現型の均質性にとって望ましくない変動性の主な原因である。
【0049】
したがって、外部ヒドロゲル層の内側の内部部分14は、少なくとも、
-細胞外マトリックス要素16であって、好ましくは、細胞外マトリックス要素、特に、生物学的又は合成細胞外マトリックス(例えば、Matrigel(登録商標))を含む等張液の形態の、細胞外マトリックス要素16と、
-少なくとも2つの嚢胞であって、各嚢胞が、管腔20の周囲に三次元的に組織化された少なくとも1つの層の細胞18によって形成されている、少なくとも2つの嚢胞と、を含む。
【0050】
細胞外マトリックス要素は、好ましくは、インテグリンに結合することができるペプチド又はペプチド模倣配列を含む。それらは、好ましくは、細胞の嚢胞と外部ヒドロゲル層12との間の層に位置する。これらの細胞外マトリックス要素は、好ましくは、微小区画の製造中に添加され、かつ/又はそれらは事後に微小区画に添加され、かつ/又はそれらは微小区画の他の成分によって分泌若しくは誘導された。
【0051】
細胞外マトリックス要素は、好ましくは、細胞の培養及び増幅に必要な細胞外タンパク質及び化合物の混合物を含む。好ましくは、細胞外マトリックス要素は、コラーゲン、ラミニン、エンタクチン、ビトロネクチンなどの構造タンパク質、並びにTGF-ベータ及び/又はEGFなどの増殖因子を含む。一変形形態によれば、内部部分14は、Matrigel(登録商標)及び/若しくはGeltrex(登録商標)及び/若しくは修飾アルギネートなどの植物由来、若しくは合成由来のヒドロゲル型マトリックス、又はMebiol(登録商標)型のポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)とポリ(エチレングリコール)とのコポリマー(PNIPAAm-PEG)からなるか、又はそれらを含み得る。細胞外マトリックス要素の存在は、最初にカプセル化された細胞の接着を促進し、各々が嚢胞を形成するために、接触しない少なくとも2つの別個の細胞源を微小区画内で得て維持することに寄与する。
【0052】
好ましい実施形態によれば、内部部分14は、細胞外マトリックスを含む。
【0053】
微小区画が内部部分14内に細胞外マトリックスを含む場合、これは、微小区画内に存在する細胞によって分泌される細胞外マトリックス及び/又は微小区画の調製/産生時に添加される細胞外マトリックスであり得る。
【0054】
一変形形態によれば、細胞外マトリックス要素を含有する溶液は、特にそれが天然(生物学的)又は合成細胞外マトリックスである場合、ゲルを形成することができる。
【0055】
細胞の層と接触している細胞外マトリックス要素(好ましくは天然又は合成細胞外マトリックス)を含有する溶液の表面では、細胞外マトリックス要素(好ましくは天然又は合成細胞外マトリックス)を含有する溶液は、任意選択的に、1つ以上の細胞を含有することができる。
【0056】
好ましくは、細胞外マトリックス要素(好ましくは天然又は合成細胞外マトリックス)を含有する溶液は、0.05~3kDaのヤング率を有する。ヤング率は、当業者に知られている任意の方法によって、特に、中間層と同じ組成のゲルのレオロジーを測定することによって、又はAFM(atomic force microscopy、原子間力顕微鏡法)によって測定することができる。
【0057】
そのようなヤング率の値を有する細胞外マトリックス要素(好ましくは天然又は合成細胞外マトリックス)を含有する溶液は、細胞分裂中にこの中間層に含有された細胞の細胞表現型及びゲノム完全性の維持を改善することを可能にする。
【0058】
加えて、そのようなヤング率(弾性)値は、最初にカプセル化された細胞の接着を促進し、各々が嚢胞を形成するために、接触しない少なくとも2つの別個の細胞源を微小区画内で得て維持することに寄与する。細胞外マトリックス要素(好ましくは合成又は天然細胞外マトリックス)を含有する溶液の粘度はまた、最初にカプセル化された細胞の接着を促進し、各々が嚢胞を形成するために、接触しない少なくとも2つの別個の供給源細胞を微小区画内で得て維持することに寄与する。
【0059】
内部部分14はまた、細胞外マトリックス要素を含まない液体領域を含んでもよい。これらの液体領域は、培養(最初の播種及び任意の培地の交換/更新)中に存在する液体の拡散による平衡化から生じる。この液体領域は、好ましくは主に培養培地から構成される。有利には、微小区画の外層は、細胞によって分泌された因子及び要素を当該細胞の近くに(少なくとも部分的に)保持し、これが微小区画内のパラクライン及びオートクライン効果を強化する。
【0060】
本発明による微小区画の内部部分14は、少なくとも2つの嚢胞を含み、各嚢胞は、管腔20の周囲に三次元的に組織化された少なくとも1つの層の細胞18によって形成されている。
【0061】
各嚢胞は、管腔の周囲に三次元的に組織化された少なくとも1つの層の細胞によって形成され、これらのヒト細胞又は動物細胞は、好ましくは、ヒト胚性幹細胞を除く。これらの細胞は、嚢胞を形成することができる細胞、すなわち、密着結合を形成し、(嚢胞の管腔に面する)頂端面上にポドカリキシンを発現することができる基底面を有する極性細胞である。好ましい実施形態において、各嚢胞は、少なくとも1つの層の上皮細胞又は上皮型形態を有する細胞によって形成されている。好ましい実施形態において、各層の細胞18は、上皮細胞又は上皮型形態を有する細胞であり、嚢胞を形成することができる。
【0062】
好ましくは、各嚢胞は、誘導多能性幹細胞(iPSC)及び以下の細胞:腺上皮細胞(例えば、乳腺又は唾液腺)、腎上皮細胞、腸上皮細胞(腸細胞)、皮膚上皮細胞(ケラチノサイト)、網膜色素上皮細胞、心外膜細胞、及び心内膜細胞から選択される、管腔の周囲に三次元的に組織化された少なくとも1つの層のヒト細胞又は動物細胞によって形成されている。
【0063】
多能性幹細胞又は多能性細胞は、起源の生物全体に存在する全ての組織を形成する能力を有するが、それ自体が生物全体を形成することができない細胞を指す。多能性幹細胞は、特に、誘導多能性幹細胞(IPS)、成体哺乳動物の皮膚及び骨髄に見出されるMUSE(「多系統分化ストレス耐性(Multilineage-differentiating Stress Enduring)」)細胞、又は胚性幹細胞(embryonic stem cell、ES)であり得る。
【0064】
好ましくは、各嚢胞を構成する細胞は、極性化している。各嚢胞内のこれらの細胞の極性は、TJP-1又はZO-1タンパク質によって示され得、両方とも、管腔に隣接する多能性細胞の層の内部/頂端面上に位置する。
【0065】
微小区画にカプセル化された細胞が、ヒトにおける細胞療法に使用されることが意図される場合、細胞は、拒絶のあらゆるリスクを回避するために、それらを受容することが意図されるヒトと免疫適合性であり得る。
【0066】
微小区画内に存在する細胞は、機能的変異をほとんど有していないか、又は全く有していない。
【0067】
本発明による微小区画は、少なくとも80個、好ましくは少なくとも800個、少なくとも1000個、少なくとも5000個、特に少なくとも8000個の細胞を含有することができ、これらの細胞は、少なくとも2つの嚢胞の形態で組織化されている。
【0068】
微小区画内の少なくとも1つの層の細胞によって形成される各嚢胞は中空であり、すなわち、それは開口部又は管腔を含む。管腔は、好ましくは、嚢胞の形成時に、細胞によるポドカリキシンの分泌によって生成される。
【0069】
各々の嚢胞の管腔は、液体、特に、培養培地及び/又は細胞によって分泌された液体を含有し得る。有利なことに、この中空部分の存在は、細胞が組成を制御することができる小さな拡散体積を有することを可能にし、細胞連通を促進する。更に、内部部分14は、微小区画の外部の環境と平衡状態にあるが、有利には、細胞に対する代謝要素及び/又は分泌要素の作用によって濃縮され得る。
【0070】
嚢胞形状の立体配座は、2D培養物又は凝集体と比較して、細胞が受ける圧力を減少させることを可能にする。この構成により、細胞の死滅率を減少させ、培養増幅率を増加させることができる。その結果、これにより、必要な継代及び解離の回数を減少させて、最終的に必要な数の細胞に達するのに必要な培養時間を短縮することが可能になる。まとめると、これらの改善はまた、微小区画内の細胞の遺伝子完全性の維持に寄与する。
【0071】
有利には、同じ微小区画内にいくつかの嚢胞が存在することにより、カプセル化プロセスの再現性、したがって、細胞バッチの再現性を改善することが可能になり、カプセル化が生存率を改善し、単位時間当たりの増幅が改善される。
【0072】
微小区画はまた、嚢胞に加えて、微小区画内に懸濁された細胞を含むことができる。
【0073】
一実施形態によれば、微小区画内に存在する各嚢胞は、1~30個の細胞、好ましくは1~10個、特に2~30個又は3~30個、特に2~10個又は3~10個、より好ましくは1~5個、更により好ましくは2~5個又は3~5個、好ましくは少なくとも4個の細胞を、微小区画の内部部分14にカプセル化することによって得られており、内部部分14の最小半径は、少なくとも100μm、好ましくは少なくとも200μmである。制御された濃度の細胞を大型カプセル(微小区画の内部部分の最小半径が少なくとも100μm)にカプセル化することは、微小区画内に少なくとも2つの嚢胞を得ることに寄与する。単一の細胞で2つの嚢胞を得ることは困難であり、少なくとも2個の細胞、好ましくは少なくとも3個の細胞、更により好ましくは少なくとも4個の細胞を、微小区画の内部部分14にカプセル化することが好ましい。30超の初期細胞数のカプセル化は可能であるが、カプセル化時に内部部分内に20/25体積%超の細胞を有する2つの嚢胞を得ることは困難又は不可能でさえある(確率が低下する)ため、特に、これは増幅能力を4倍に制限し、細胞バッチの生産に不利であるため、あまり有利ではない。本発明によれば、各々が嚢胞を形成するために、接触しない少なくとも2つの別個の細胞源が存在することが好ましい。
【0074】
本発明による微小区画内に存在する細胞は、好ましくは、少なくとも1個の細胞を外部ヒドロゲル層にカプセル化した後、少なくとも2回の細胞分裂サイクル後に得られた。
【0075】
好ましくは、本発明による微小区画内に存在する細胞は、少なくとも2個の細胞、好ましくは少なくとも3個の細胞、更により好ましくは少なくとも4個の細胞、特に2~30個の細胞を外部ヒドロゲル層にカプセル化した後、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、28、30回の細胞分裂サイクル後に得られた。例えば、微小区画内に存在する細胞は、細胞を外部ヒドロゲル層にカプセル化した後、少なくとも6回の細胞分裂サイクル後に得られた。
【0076】
好ましくは、本発明による方法の実施のための細胞分裂の数は、300回未満、更により好ましくは200回未満である。
【0077】
好ましくは、微小区画は、カプセル化した後、少なくとも2回、より好ましくは少なくとも3、4、5、6、7、8、9、又は10回の継代後に得られる。各継代は、例えば2~15日間、特に3~10日間継続することができる。
【0078】
好ましくは、微小区画は、少なくとも1回の再カプセル化後、より好ましくは1~14回の再カプセル化後、特に2~7回の再カプセル化後に得られる。非常に好ましくは、再カプセル化は、新しい継代に対応し、各カプセル化サイクルは、継代に対応する。
【0079】
好ましくは、1番目の細胞分裂サイクルの前に微小区画内に最初にカプセル化された細胞の全ては、それらがカプセル化される微小区画の体積の50%未満、より好ましくは、それらがカプセル化される微小区画の体積の40%、30%、20%、10%未満の体積を占める。
【0080】
したがって、一実施形態によれば、本発明による微小区画内に存在する細胞は、それらがカプセル化される微小区画の体積の50%未満、より好ましくはそれらがカプセル化される微小区画の体積の40%、30%、20%、10%未満の体積を占める細胞を外部ヒドロゲル層にカプセル化した後、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、28、30回の細胞分裂サイクル後に得られた。
【0081】
好ましくは、本発明による微小区画において、細胞は、微小区画の体積に対して50体積%超、更により好ましくは微小区画の体積に対して60体積%、70体積%、75体積%、80体積%、85体積%、90体積%超を占める。
【0082】
本発明による微小区画において、内部部分14の体積は、好ましくは微小区画の全体積の少なくとも20%、好ましくは少なくとも40%を占める。これは、増幅後により多くの細胞、したがって、より多くの嚢胞及び/又はより大きな嚢胞を収容することを可能にする。
【0083】
各嚢胞を形成する細胞の層の厚さは、好ましくは6~200μmであり、より好ましくは6~60μmである。
【0084】
図4a及び図4bに示される変形形態によれば、少なくとも2つの嚢胞が互いに融合することができる。この場合、本発明による微小区画は、2つの嚢胞の融合に由来する少なくとも1つの嚢胞を含む。
【0085】
本発明による細胞微小区画は、閉じられているか、又は部分的に閉じられており、すなわち、外層は閉じられているか、又は部分的に閉じられている。好ましくは、微小区画は、閉じられている。
【0086】
本発明による微小区画は、任意の三次元形態であってもよく、すなわち、空間内の任意の物体の形状を有し得る。微小区画は、細胞のカプセル化に適合した任意の形状を有し得る。好ましくは、本発明による微小区画は、球形若しくは細長い形状又は実質的に球形若しくは細長い形状である。本発明による微小区画は、卵形、円筒形、回転楕円形、若しくは球形の形状、又は実質的にこの形状を有し得る。
【0087】
本発明による微小区画に対して、そのサイズ及び形状を与えるのは、微小区画の外層、すなわち、ヒドロゲル層である。好ましくは、本発明による微小区画の最小寸法は、202μm~1mm、好ましくは202μm~700μm、更により好ましくは202μm~600μm、特に202μm~500μmである。
【0088】
その最大寸法は、好ましくは202μmより大きく、より好ましくは202μm~1m、更により好ましくは202μm~50cmである。
【0089】
本発明はまた、複数の微小区画が合わさったものにも関する。
【0090】
本発明はまた、少なくとも1つの微小区画が本発明による微小区画であることを特徴とする、少なくとも2つの三次元細胞微小区画を含む微小区画のアセンブリ又はシリーズに関する。
【0091】
好ましくは、本発明による一連の微小区画は、培養培地中、特に、少なくとも部分的に対流する培養培地中にある。溶解した塩の濃度が二価カチオンによるアルギネートの架橋の維持に適合する限り、細胞を培養するのに好適な任意の培地、特にリン酸緩衝生理食塩水、例えば「ダルベッコ改変イーグル培地」又は「Rowell Park Memorial Institute培地」を使用することができる。
【0092】
特に好適な実施形態によれば、本発明の目的は、閉じられたチャンバ(例えば、バイオリアクター)内の、好ましくは、閉じられたチャンバ(例えば、バイオリアクター)内の培養培地中の、一連の細胞微小区画である。したがって、好ましくは、微小区画は、閉じられたバイオリアクター内の培養培地中に配置される。
【0093】
本発明による微小区画のアセンブリ又はシリーズは、好ましくは、2~1016個の微小区画を含む。
【0094】
本発明による微小区画は、全ての用途に、特にヒト又は動物の細胞療法における薬剤として使用することができる。
【0095】
本発明による微小区画は、任意選択的に、保存のために凍結されてもよい。その後、好ましくは、使用前に解凍されなければならない。
【0096】
本発明による微小区画を得るための方法
本発明はまた、本発明による微小区画を調製するための方法に関する。
【0097】
本発明による微小区画又は微小区画のアセンブリを調製するための方法は、以下の工程:
-(a)ヒト細胞又は動物細胞を、少なくとも1つの細胞保護因子、特にアポトーシス及び/又はRho/Aキナーゼの阻害剤を含有する培養培地中でインキュベートする工程と、
-(b)工程(a)からの細胞を細胞外マトリックス要素、特に生物学的又は合成細胞外マトリックスと混合する工程と、
-(c)細胞の懸濁液をヒドロゲル層にカプセル化して、卵形、円筒形、回転楕円形、若しくは球形、又は実質的に卵形、円筒形、回転楕円形、若しくは球形の微小区画を形成する工程であって、内部部分を画定する外部ヒドロゲル層を含み、当該内部部分の最小半径又は平均半径が少なくとも100μmである、工程と、
-(d)得られた微小区画を、等張性リンス緩衝液中で、好ましくは30分間未満培養し、次いで、培養培地中で、好ましくは少なくとも1つの細胞保護因子、特にアポトーシス及び/又はRho/Aキナーゼの阻害剤を含有する培養培地中で培養する工程と、
-(e)好ましくは微小区画をリンスして、好ましくはカプセル化後48時間以内、更により好ましくは24時間以内に、細胞保護因子(アポトーシス及び/又はRho/Aキナーゼの阻害剤)を除去する工程と、
-(f)微小区画を、細胞保護因子(アポトーシス及び/又はRho/Aキナーゼの阻害剤)を含まない培養培地中で、少なくとも2回の細胞分裂サイクル(増幅)、好ましくは1~20日間、更により好ましくは2~10日間、特に5~7日間培養する工程と、
-(g)任意選択的に、得られた細胞微小区画を回収する工程と、を含んでもよい。
【0098】
工程c)において各微小区画にカプセル化される細胞の数は、好ましくは1~30個の細胞、特に2~30個又は3~30個、好ましくは1~10個、特に2~10個又は3~10個、より好ましくは1~5個、更により好ましくは2~5個又は3~5個、好ましくは少なくとも4個の細胞である。制御された濃度の細胞を大型カプセル(微小区画の内部部分の最小半径が少なくとも100μm)にカプセル化することは、微小区画内に少なくとも2つの嚢胞を得ることに寄与する。単一の細胞で2つの嚢胞を得ることは困難であり、少なくとも2個の細胞、好ましくは少なくとも3個の細胞、更により好ましくは少なくとも4個の細胞を、微小区画の内部部分14にカプセル化することが好ましい。30超の初期細胞数のカプセル化は可能であるが、カプセル化時に内部部分内に20/25体積%超の細胞を有する2つの嚢胞を得ることは困難又は不可能でさえある(確率が低下する)ため、特に、これは増幅能力を4倍に制限し、細胞バッチの生産に不利であるため、あまり有利ではない。本発明によれば、各々が嚢胞を形成するために、接触しない少なくとも2つの別個の細胞源が存在することが好ましい。
【0099】
細胞、特に多能性幹細胞を培養するのに好適な任意の培養培地、特に、例えば、「Rowell Park Memorial Institute培地」又はMtestr1若しくはE8 Essentialなどのリン酸緩衝生理食塩水を使用することができる。
【0100】
細胞保護因子は、例えば、当業者に既知のRHO/ROCK(「Rho関連タンパク質キナーゼ」)経路の1つ以上の阻害剤及び/若しくはアポトーシスの阻害剤、又は当業者に既知の任意の他の細胞保護因子であり得る。細胞保護因子は、細胞の生存を促進することを可能にしなければならず、細胞外マトリックスが存在する場合、当該細胞外マトリックスの周囲に外部ヒドロゲル層が形成される時点で、細胞外マトリックスへの細胞の付着を促進することを可能にしなければならない。
【0101】
本発明による方法において、工程(c)で最初にカプセル化された細胞の全ては、それらがカプセル化される微小区画の体積の50%未満、より好ましくはそれらがカプセル化される微小区画の体積の40%、30%、20%、10%未満の体積を占める。
【0102】
本発明による方法は、工程a)又はb)の前に、化学的解離、酵素的解離、又は機械的解離による細胞の解離工程を含み得る。上皮型の細胞、特に幹細胞は接着細胞であるので、この工程は非常に好ましく必要である。
【0103】
カプセル化された細胞は、単一細胞及び/又は少なくとも2個の細胞のクラスター若しくはアセンブリ(「クラスター」)の形態で懸濁される。好ましくは、少なくとも3個の細胞が存在する場合、単一細胞は、工程(b)で最初にカプセル化された細胞の全ての数の50%未満を占める。実際に、細胞のクラスターをカプセル化することは、染色体分離における歪み及び不正確な染色体分離を減少させ、その結果、新たな変異の出現を減少させるので、また、単離された細胞が細胞間相互作用の欠如によって死滅するリスクがあり、細胞の完全な解離が遺伝的異常の増加につながるため、細胞のゲノム完全性の維持に寄与するので、好ましい。
【0104】
好ましくは、工程(c)で最初にカプセル化された各細胞クラスターは、それがカプセル化される微小区画の最大寸法の20%未満、更により好ましくは10%未満の最大寸法を有する。実際に、細胞クラスターは、微小区画のサイズと比較して大きすぎるサイズを有してはならない。なぜなら、大きすぎるこれらの初期の細胞クラスターの寸法は、細胞分裂の間に、早すぎるカプセル中の早すぎる細胞コンフルエンスをもたらし得るからである。カプセルの全て又は一部のこの早すぎるコンフルエンスは、細胞内圧の増加を引き起こし、細胞増殖だけでなく染色体分離にも影響を及ぼす細胞ストレス引き起こす可能性がある。
【0105】
本発明による方法は、工程a)と工程c)との間に、細胞を細胞外マトリックスと混合する工程b)を含む。一変形形態によれば、この工程b)は、任意選択的に、工程(a)の前に、又は工程(c)におけるカプセル化と同時に実施することができる。
【0106】
カプセル化工程c)は、当業者に既知の技術に従って実施される。実際に、ヒドロゲルカプセル内に細胞外マトリックス及び細胞を含有する細胞微小区画を作製するための任意の方法を、本発明による調製方法の実施のために使用することができる。特に、Alessandriet al.,2016(「A 3D printed microfluidic device for production of functionalized hydrogel microcapsules for culture and differentiation of human Neuronal Stem Cells hNSC」,Lab on a Chip,2016,vol.16,no.9,pp.1593-1604)に記載されている方法及びマイクロ流体デバイスを、以下に記載する工程に従って適合させることによって、微小区画を調製することが可能である。
【0107】
好ましくは、工程c)は、マイクロ流体チップを使用してヒドロゲルカプセルを生成することが可能なデバイスにおいて実施される。例えば、デバイスは、マイクロ流体注入器によって同心円状に注入されるいくつかの溶液のためのシリンジポンプを含み得、液滴に分解するジェットを形成することを可能にし、液滴は、次いで、カルシウム槽内に収集される。特に好適な実施形態によると、以下の2つ又は3つの溶液が、2つ又は3つのシリンジポンプにロードされる:
-ヒドロゲル溶液(例えば、アルギネート)、
-任意選択的に、注入器内でのヒドロゲルの過度に早すぎる架橋を回避するための、等張性中間溶液、好ましくはCa2+又はMg2+などの二価カチオンを含有しない等張液、例えばソルビトール溶液、
-細胞、培養培地、及び細胞外マトリックスを含む工程b)からの溶液。
【0108】
3つの溶液は、液滴に分解するジェットを形成することを可能にするマイクロ流体注入器又はマイクロ流体チップによって同心円状に共注入(同時注入)され、その外層が、ヒドロゲル溶液であり、そのコアが、細胞を含む工程(b)からの溶液であり、これらの液滴は、アルギン酸溶液を架橋及び/又はゲル化させてシェルを形成するカルシウム槽に収集される。
【0109】
細胞微小区画の単分散性を改善するために、好ましくは、ヒドロゲル溶液を直流(1~10kV)で帯電させる。リングから接地までは、電場を生成するために、任意選択的に、マイクロ流体注入器(共押出チップ)から出るジェットの軸に垂直な平面内で、先端から1mm~20cm、好ましくは3mm~10cm、更により好ましくは1cm~5cmの先端からの距離に配置されてもよい。
【0110】
好ましくは、溶液は、細胞外マトリックス要素の存在により溶液がゲル化するのを防ぐために、注入前に4℃未満の温度で維持される。
【0111】
本発明によれば、内部部分が少なくとも100μmの平均半径又はそれよりも小さい半径を有するカプセルを生成することが必要である。共押出チップ(マイクロ流体注入器又はマイクロ流体チップ)を用いてそのような寸法を有するカプセルを生成するために、本発明は、特に、共押出溶液の流量及び共押出チップの最終開口部を変更することを提案する。「流量」は、注入器に到達する各溶液の流量を意味する。「共押出チップの最終開口部」は、チップの出口チャネルの内部開口部を意味する。
-流量について:本方法は、先行技術から既知の標準的なカプセルサイズの各共押出溶液について、好ましくは20~40ml/時の値から45~150ml/時の値まで、本発明の変形形態では、好ましくは45~110ml/時の値になる。
-共押出チップ(マイクロ流体注入器)の最終開口部直径について、先行技術から既知の標準的なカプセルサイズについて、好ましくは50~120μmの値から150~300μmの直径値まで、好ましくは180~240μmの直径値になる。
【0112】
したがって、特定の実施形態によれば、カプセル化工程(c)は、マイクロ流体注入器を使用して行われ、マイクロ流体注入器の最終開口部直径は、150~300μm、好ましくは180~240μmであり、3つの溶液の各々の流量は、45~150ml/時、好ましくは45~110ml/時である。一実施形態によれば、このカプセル化は、以下の3つの溶液:
-ヒドロゲル溶液、
-中間等張液(例えば、ソルビトール溶液)、
-細胞、培養培地、及び細胞外マトリックスを含む工程b)からの溶液を、
マイクロ流体注入器を介して同心円状に共注入することによって行われ、マイクロ流体注入器は、3つの溶液の混合物からなるジェットを注入器の出口で形成することを可能にし当該ジェットが、液滴に分解し、当該液滴が、ヒドロゲル溶液を硬化させて各微小区画の外層を形成するカルシウム槽に収集されており、各液滴の内部部分が、細胞、培養培地、及び細胞外マトリックスを含む工程(b)からの溶液からなる。
【0113】
非常に好ましくは、工程(d)、(e)、及び(f)は、連続的又は逐次的な撹拌下で行われる。この撹拌は、培養環境の均質性を維持し、拡散勾配の形成を回避するため、重要である。例えば、細胞酸素化レベルの均一な制御を可能にする。したがって、低酸素症に関連する壊死又は過酸素症に関連する酸化ストレスの現象を回避する。細胞死亡率及び/又は酸化ストレスの増加を回避することによって、撹拌は、遺伝子完全性の維持に寄与する。
【0114】
本発明による方法は、好ましくは、閉じられたバイオリアクターなどの閉じられたチャンバ内で行われる。
【0115】
工程(f)における細胞分裂サイクルの数は、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15回の細胞分裂サイクルである。
【0116】
好ましくは、微小区画は、少なくとも2回の継代(ここで、継代は、工程(a)、(b)、及び(e)、任意選択的に、(c)及び(d)の完全なサイクルに対応する)、より好ましくは少なくとも3、4、5、6、7、8、9又は10回の継代後に得られる。各継代は、例えば、2~15日間、特に3~8日間継続してもよい。
【0117】
好ましい変形例では、本発明による方法は、工程(f)の後の細胞の少なくとも1回の再カプセル化、すなわち少なくとも2回のカプセル化サイクルを含む。好ましくは、各カプセル化サイクルは、継代に対応する。本方法のこの変形形態(工程(e)の後の細胞の少なくとも1回の再カプセル化)において、(全ての継代についての)本方法全体の細胞分裂の数は、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30回の細胞分裂サイクルである。
【0118】
本発明による方法において、いくつかの再カプセル化、好ましくは1~100回、特に、1~10回の再カプセル化が存在してもよい。
【0119】
各再カプセル化は、
-細胞の懸濁液又は細胞クラスターの懸濁液を得るために、微小区画又は一連の微小区画を解離させることからなる工程を含み得、外部ヒドロゲル層は、特に、加水分解、溶解、穿孔、及び/又は任意の生体適合性手段、すなわち細胞に対して毒性でない手段による破壊によって除去することができる。例えば、除去は、リン酸緩衝生理食塩水、二価イオンキレート剤、ヒドロゲルがアルギネートを含む場合にアルギン酸リアーゼなどの酵素、及び/又はレーザーマイクロダイセクションを使用して、かつ
-細胞又は細胞クラスターの全部若しくは一部をヒドロゲルカプセルに再カプセル化する工程を使用して達成され得る。再カプセル化は、多能性工程から生じる細胞増幅を増加させ、変異のリスクを減少させるのに適した手段である。
【0120】
再カプセル化は、外部ヒドロゲル層を除去すること、好ましくは微小区画内で嚢胞の形態であった細胞が部分的に又は完全に解離される様式で再懸濁すること、及び本方法の工程を再実施することからなる。
【0121】
一実施形態によれば、再カプセル化は、以下の工程:
-(i)外部ヒドロゲル層を除去する工程と、
-(ii)少なくとも1つの細胞保護因子を含有する培養培地中で単一細胞及び/又は細胞の少なくとも1つのアセンブリ若しくはクラスターを得るために、微小区画内に含有された細胞を再懸濁させる工程と、
-(iii)工程(a)からの細胞を細胞外マトリックス要素と混合する工程と、
-(iv)細胞の溶液をヒドロゲル層にカプセル化して、卵形、円筒形、回転楕円形、若しくは球形、又は実質的に卵形、円筒形、回転楕円形、若しくは球形の微小区画を形成する工程であって、内部部分を画定する外部ヒドロゲル層を含み、当該内部部分の最小半径又は平均半径が、少なくとも100μmである、工程と、
-(v)得られた微小区画を、少なくとも1つの細胞保護因子、特にアポトーシス及び/又はRho/Aキナーゼの阻害剤を含有する培養培地中で培養する工程と、
-(vi)好ましくは、細胞保護因子を除去すために、微小区画をリンスする工程と、
-(vii)少なくとも1回の細胞分裂サイクルの間、細胞保護因子を含まない培養培地中で微小区画を培養する工程と、
-(viii)任意選択的に、得られた細胞微小区画を回収する工程と、を含む。
【0122】
微小区画への区画化は、他のカプセルよりも更に多くの変異細胞を含有する微小区画を除去することを可能にする。変異細胞が急速に増殖した場合であっても、それらがカプセル内コンフルエンスに達し、その増殖を制限するであろう。区画化はまた、細胞集団全体を汚染しないことを可能にし、また、任意の時点で、特に、再カプセル化工程の前に、変異細胞を含有するカプセルを除去することを可能にする。この選別は、例えば、インライン分析によって、又は充填されたカプセルを他のカプセルよりも迅速に除去することによって行うことができる。
【0123】
本発明の一変形形態によれば、カプセル化された細胞は、微小区画の形成中にヒドロゲルカプセル内で多能性細胞に再プログラムされる分化細胞である。一変形形態によれば、細胞再プログラミング剤は、工程(a)及び/又は(b)及び/又は(c)及び/又は(d)及び/又は(ii)及び/又は(iii)及び/又は(iv)及び/又は(v)において添加されてもよい。好ましくは、それらは、ヒドロゲル層を透過しない細胞再プログラミング剤である。再プログラミング剤の添加は、最初にカプセル化された細胞が、特に多能性段階まで脱分化される分化細胞である場合に、特に関連する。当業者は、本発明において「再プログラミング剤」と称される特定の因子によって胚段階に関連する遺伝子の発現を再活性化することによってどのように分化細胞を幹細胞に再プログラミングするかを知っている。以下に記載される方法は、例として引用され得る。Takahashi et al.,2006(「Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors」Cell,2006 Vol 126,pages 663-676)、Ban et al.,2009(「Efficient induction of transgene-free human pluripotent stem cells using a vector based on Sendai virus,an RNA virus that does not integrate into the host genome」Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci.2009;85(8):348-62)、及びその表題が「Production of reprogrammed pluripotent cells」である国際公開第2010/105311号。再プログラミング剤は、有利には、生成物を濃縮し、全ての細胞との接触を促進するように、分化細胞とともにカプセル化される。ヒドロゲル層に浸透する再プログラミング剤の場合、カプセル化工程の後に当該薬剤を培養培地に添加することが可能である。再プログラミング剤は、細胞に対して多能性段階までの一連の表現型変化を課すことを可能にする。有利には、再プログラミングの工程は、特定の培養培地を使用して行われ、これらの表現型の変化を促進する。例えば、細胞を、10%のヒト若しくはウシ血清を含む第1の培地中、セリン/スレオニンプロテインキナーゼ受容体阻害剤(例えば、製品SB-431542(C2216))、1つ以上のRHO/ROCK(RHO関連プロテインキナーゼ)経路阻害剤、例えば、チアゾビビン及び/又はY-27632、線維芽細胞増殖因子、例えば、FGF-2、アスコルビン酸及び抗生物質、例えば、トリコスタチンA(C1722)を追加したイーグル最小必須培地(DMEM)中で培養する。次いで、培養培地を、mTeSR(登録商標)1培地などの多能性細胞の増殖を促進する培地と交換する。
【0124】
工程(a)及び/又は(ii)におけるインキュベーションは、好ましくは数分間~数時間、好ましくは2分間~2時間、より好ましくは10分間~1時間の時間にわたって行われる。
【0125】
細胞保護因子とともに培養する工程(d)及び/又は(v)は、2~48時間の時間、好ましくは6~24時間の時間、より好ましくは12~18時間の時間にわたって行われる。
【0126】
リンス工程は、工程(d)及び/又は(v)の開始後、48時間未満、好ましくは24時間未満、より好ましくは12~18時間、RHO/ROCK経路阻害剤を含まない連続培養培地中で、1回以上のリンス操作によって行うことができる。
【0127】
一実施形態において、工程の少なくとも1つ(好ましくは全ての工程)は、4~42℃の、細胞の生存に好適な温度で行われる。細胞増殖中の温度は、修復酵素の性能を低下させることによって、変異を誘発することを回避するために、好ましくは32~37℃でなければならない。同様に、好ましくは、温度は、工程(c)における細胞に対するストレスを管理するために低くなければならない(理想的には約4℃)。
【0128】
どの時点でも、本発明による方法は、微小区画内に含有された細胞の表現型を検証することからなる工程を含み得る。この検証は、微小区画内に含有された少なくともいくつかの細胞によって、求められる表現型に特異的な少なくとも1つの遺伝子の発現を同定することによって行うことができる。
【0129】
次いで、本発明の方法に従って得られた細胞微小区画は、任意の使用前に凍結され得る。凍結は、好ましくは、-190℃~-80℃の温度で行われる。解凍は、細胞を極めて迅速に解凍するために温水槽中(好ましくは37℃)で行うことができる。使用前の本発明による微小区画は、使用前の限られた時間にわたって、4℃より高い温度で、好ましくは4℃~38℃で維持されてもよい。
【0130】
本発明による方法の実施は、少なくとも80個、好ましくは少なくとも800個、少なくとも1000個、少なくとも5000個、特に少なくとも8000個の細胞を含む微小区画を得ることを可能にし、これらの細胞は、少なくとも2つの嚢胞の形態で組織化されている。
【0131】
有利には、微小区画内の細胞の三次元構造、及びカプセル化の間に単離された細胞の低いパーセンテージ又は更にゼロのパーセンテージ(細胞の大部分は、細胞クラスターの形態でカプセル化される)は、染色体分離を減少させ、その結果、新しい変異の出現を減少させる。
【0132】
本発明は、特に、高い増幅率で増幅を促進し、その結果、非常に多数の細胞を得るための培養時間及び分裂数を減少させ、したがって、新たな変異を制限する。
【0133】
外層による細胞の保護、及び存在する場合の細胞外マトリックス要素の存在は、染色体分離を減少させ、細胞の機械的ストレスを制限し、その結果、新たな変異の出現を減少させる。
【0134】
有利なことに、各微小区画におけるいくつかの嚢胞の存在はまた、初期の細胞生存を促進し、非同調増殖を滑らかにすることを可能にする。
【0135】
次に、本発明を、実施例及び結果を使用して説明する。
図1a及び図1bは、中心微小区画におけるヒト多能性幹細胞のいくつかの嚢胞の増殖を可能にする中空ヒドロゲルカプセルを示す。
【0136】
図2a及び図2bは、カプセル化後6.5日目の顕微鏡画像を示し、ヒト多能性幹細胞を含有する複数の中空アルギン酸カプセルを示す。スケールバーは500μmである。本発明による微小区画は、幹細胞のいくつかの3Dコロニーを含む。これらのコロニーは全て、170μmの平均直径を有する均一な嚢胞構成を有する。培養のこの段階では、平均で、1カプセル当たり2.6個のコロニー(嚢胞)が観察される。
【0137】
図3a及び図3bは、バイオリアクター内で浮遊培養された複数のマルチ嚢胞カプセルを示す。
【0138】
10リットルバイオリアクターにおける本発明によるカプセル化の例の重要なパラメータ及び結果を、以下の表1に示す。
【0139】
【表1】
【0140】
hiPSCのカプセル化及び浮遊培養を、2回の別個のサイクルで行った。20%溶存酸素の目標酸素レベルは、低酸素状態として記載される(正常酸素状態として記載される100%の溶存酸素レベルを有するバイオリアクターとは異なる)。「流加」戦略、すなわち、一定間隔での培地の除去/添加による培養培地の更新を適用すると、作業体積が増加し、総体積に対するカプセルの濃度が減少した。細胞密度は、カプセル1ミリリットル当たりの細胞数(百万個単位)で表すことができる。採取したカプセルの体積を、ガラスメスシリンダーで測定する。測定された細胞数は、そこからカプセル体積当たりの細胞濃度を推定するために、この以前に測定されたカプセル体積に関連付けることができる。増幅率(amplification factor、AF)は、AF=N(t0+Dt)/N(t0)のように定義され、式中、N(t0)及びN(t0+Dt)は、それぞれ、t0及びt0+Dtでの初期細胞数である。集団の倍加レベル(doubling level of the population、PDL)は、PDL(t)=ln(AF)/ln(2)として定義される。集団の倍加時間(doubling time of the population、PDT)は、PDT(t)=Dt/PDL(式中、Dtは培養時間である)と定義される。
【0141】
生存率は、Nucleocounter NC-3000(Chemometech)によって評価した。脱カプセル化及び解離した細胞を固定し、OCT4、SOX2、及びNANOGについて染色し、BD Accuri C6 Plusフローサイトメトリーによって分析した。増幅率に関する結果も図5に示されている。
【0142】
図4bは、本発明によるいくつかの嚢胞を含むカプセルのビデオ顕微鏡からの一連の写真を示す。
【0143】
観察は、×10対物レンズを備えたNikon bio-station IMを用いて、透過で行われる。準球形カプセルの平均外径は、100μmスケールバーによって示されるように、288μmである。最初の写真は、カプセル化の4日後に撮影された。配列は、中空ヒドロゲルカプセル中の多能性幹細胞のいくつかのコロニーの増殖を示す。これらのコロニーは、架橋されたアルギネート層によって外部から画定される閉じられた3D微小区画において培養される。内部区画は、架橋されたアルギネートを含有しないという意味で中空であると記載される。細胞を含有する内部区画は、アルギネートの粒度とは異なる粒度によって顕微鏡で見ることができる細胞外マトリックス(ここでは、Matgel(登録商標))も含有する。
【0144】
カプセル化の間、内部微小区画に注入された体積の50%は細胞/マトリックス混合物に由来し、50%は等モルソルビトール溶液に由来する(方法を参照されたい)。したがって、内部空間は少なくとも50%が液体である。
【0145】
最初に、3つのコロニーは、それぞれ76μm、100μm、及び78μmの直径を有する均一な嚢胞構成を有する(画像の右下の嚢胞)。この初期段階では、これらの嚢胞の上皮の厚さは、それぞれ10μm、13μm、及び12μmである。カプセルの左上の2つの嚢胞が徐々に接触し、それらの内部管腔並びにそれらの上皮が融合することが観察される。その結果、より大きなサイズの幹細胞のコロニーが得られ、これも円形で対称的な嚢胞構造を有する。
【0146】
観察の開始から54時間後(右側の画像、図4bの最後から2番目のライン)、カプセルに存在する2つの嚢胞コロニーが接触する。この段階で、これらの嚢胞の直径は、232及び175μmである。これらの嚢胞の細胞層のそれぞれの厚さは、それぞれ36及び24μmである。これらのコロニー間の接触は、管腔又は上皮の融合を伴わないことが観察される。これら2つの構造間の境界は、最後の画像及び12番目の画像(75時間目)上で明確に識別可能なままである。
【0147】
最大のコロニーが左に20μmシフトしていることが観察される。このコロニーは小さなコロニーによって押しのけられているように見える。しかしながら、2つのコロニー間の接触ゾーンのわずかな平坦化にもかかわらず、それらの対称的な嚢胞構造は、2つのコロニーの各々について残存し、それぞれ50及び40μmの均一な細胞層の厚さを有する。カプセル化されたコロニーのこの増殖及びそれらが内部カプセル空間で互いに押しのける見かけの能力は、この内部中空空間の少なくとも部分的に液体の性質によって促進される。更に、徐々に分解可能な細胞外マトリックス(例えば、Matrigel)の使用はまた、固体ヒドロゲルビーズ中へのカプセル化の間よりも、より許容的な3D環境において細胞が増殖することを可能にし、それによって、細胞増殖によって生じる力にもかかわらず、嚢胞上皮構造を維持することを可能にする。
【0148】
全体として、この大きなカプセルの部分的に液体の中空のカプセル内空間は、安定な嚢胞上皮表現型を維持しながら幹細胞の3Dコロニーが成長することを可能にする。この表現型の安定性は、産生された細胞の良好な表現型の均質性及び頑強な/信頼できる生物産生方法を可能にし、いくつかの嚢胞の増殖の間の上皮表現型の持続を示す。
【0149】
図4aは、カプセル中の「マルチ嚢胞」融合配列を示す:
-A:微小区画内の幹細胞の3Dコロニーの自己組織化及び管腔形成。カプセル化された幹細胞嚢胞の形成。
-B:幹細胞嚢胞の増殖:嚢胞の直径、管腔の直径、及び嚢胞の厚さの漸増。
-C:嚢胞が接触する。
-D:嚢胞のそれらの細胞層が融合する。
-E:また、嚢胞のそれらの管腔が融合し、より大きなサイズの単一の嚢胞が得られる。
図1a
図1b
図2a
図2b
図3a
図3b
図4a
図4b
図5
【国際調査報告】