(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-31
(54)【発明の名称】フラボシトクロムB2の新規の生産方法
(51)【国際特許分類】
C12N 9/04 20060101AFI20240524BHJP
C12N 15/53 20060101ALI20240524BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20240524BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240524BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240524BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240524BHJP
C12M 1/40 20060101ALI20240524BHJP
C12N 15/90 20060101ALI20240524BHJP
C12N 11/02 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
C12N9/04 Z
C12N15/53
C12N15/31
C12N15/62 Z
C12N1/19
C12M1/34 E
C12M1/40 B
C12N15/90 Z
C12N11/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023576198
(86)(22)【出願日】2022-06-09
(85)【翻訳文提出日】2024-02-06
(86)【国際出願番号】 EP2022065632
(87)【国際公開番号】W WO2022258733
(87)【国際公開日】2022-12-15
(32)【優先日】2021-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523464015
【氏名又は名称】ディレクトセンス ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100163784
【氏名又は名称】武田 健志
(72)【発明者】
【氏名】ヘルツォーク,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】シュタイナー,ベアーテ
(72)【発明者】
【氏名】フェリーチェ,アルフォンス
(72)【発明者】
【氏名】シュルツ,クリストファー
【テーマコード(参考)】
4B029
4B033
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB16
4B029CC03
4B029FA12
4B033NA23
4B033ND05
4B033ND08
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA80X
4B065AA80Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA28
4B065CA46
(57)【要約】
天然のFCb2の成熟FCb2ペプチド配列、または前記成熟FCb2ペプチド配列の機能的に活性なバリアントを含み、前記成熟FCb2ペプチド配列のN末端が、天然のシグナルペプチド配列を置きかえる短縮されたシグナルペプチド配列からなり、前記短縮されたシグナルペプチド配列が、N末端からC末端へ以下の構造:i.メチオニン;ii.任意選択でタグ配列;iii.FCb2の天然のシグナルペプチド配列のI/L/V-x-N/A/Lモチーフのすぐ上流にある9アミノ酸以下のアミノ酸配列に対応する、天然のシグナルペプチド配列の長さ0~9アミノ酸のアミノ酸配列;ならびにiv.0、1の数を有するかまたは部分的に短縮されていてもよいI/L/V-x-N/A/Lモチーフであって、数が0であるかまたはI/L/V-x-N/A/Lが部分的に短縮されている場合、iiiのアミノ酸配列の長さが0である、I/L/V-x-N/A/Lモチーフを有し、前記組換えFCb2のアミノ酸配列が、配列番号145とは異なる、組換えフラボシトクロムb2(FCb2)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然のFCb2の成熟FCb2ペプチド配列または該成熟FCb2ペプチド配列の機能的に活性なバリアントを含む、組換えフラボシトクロムb2(FCb2)であって、
成熟FCb2ペプチド配列のN末端が、天然のシグナルペプチド配列を置きかえる短縮されたシグナルペプチド配列からなり、該短縮されたシグナルペプチド配列が、N末端からC末端へ以下の構造:
i.メチオニン;
ii.任意選択でタグ配列;
iii.FCb2の天然のシグナルペプチド配列のI/L/V-x-N/A/Lモチーフのすぐ上流にある9アミノ酸以下のアミノ酸配列に対応する、天然のシグナルペプチド配列の長さ0、1、2、3、4、5、6、7、8、9アミノ酸のアミノ酸配列;ならびに
iv.0、1の数を有するかまたは部分的に短縮されていてもよいI/L/V-x-N/A/Lモチーフであって、数が0であるかまたはI/L/V-x-N/A/Lが部分的に短縮されている場合、iiiのアミノ酸配列の長さが0である、I/L/V-x-N/A/Lモチーフ
を有し、
組換えFCb2のアミノ酸配列が、配列番号145とは異なる、
上記組換えFCb2。
【請求項2】
i.成熟FCb2ペプチド配列が、サッカロミセス・セレビシエFCb2から得られ、短縮されたシグナルペプチド配列が、配列番号37、38および39からなる群から選択されるか;または
ii.成熟FCb2ペプチド配列が、クルイベロマイセス・マルキシアヌスFCb2から得られ、短縮されたシグナルペプチド配列が、配列番号40、41および42からなる群から選択されるか;または
iii.成熟FCb2ペプチド配列が、ウィカハモマイセス・アノマルスFCb2から得られ、短縮されたシグナルペプチド配列が、配列番号43もしくは44であるか、またはアミノ酸配列MSAを有する、
請求項1に記載の組換えFCb2。
【請求項3】
タグ配列が、親和性タグ、溶解度増強タグおよび監視タグからなる群から選択される、請求項1または2に記載の組換えFCb2。
【請求項4】
配列番号4、5、6、8、9、10、12、13、14、28、29、30、31、32、33、34、35および36から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の組換えFCb2。
【請求項5】
天然のFCb2の成熟FCb2ペプチド配列または該成熟FCb2ペプチド配列の機能的に活性なバリアントを含み、N末端が、天然のシグナルペプチド配列を置きかえる短縮されたシグナルペプチド配列からなる組換えフラボシトクロムb2(FCb2)を含む、電極であって、
該短縮されたシグナルペプチド配列が、N末端からC末端へ以下の構造:
i.メチオニン;
ii.任意選択でタグ配列;
iii.FCb2の天然のシグナルペプチド配列のI/L/V-x-N/A/Lモチーフのすぐ上流にある9アミノ酸以下のアミノ酸配列に対応する、天然のシグナルペプチド配列の長さ0、1、2、3、4、5、6、7、8、9アミノ酸のアミノ酸配列;ならびに
iv.0、1の数を有するかまたは部分的に短縮されていてもよいI/L/V-x-N/A/Lモチーフであって、数が0であるかまたはI/L/V-x-N/A/Lが部分的に短縮されている場合、iiiのアミノ酸配列の長さが0である、I/L/V-x-N/A/Lモチーフ
を有する、上記電極。
【請求項6】
i.FCb2をコードしている組換え核酸配列に作動的に連結された酵母内で機能的なプロモーターを含む酵母細胞であって、該FCb2の天然のシグナルペプチド配列が、N末端からC末端へ以下の構造:
a)メチオニン;
b)任意選択でタグ配列;
c)FCb2の天然のシグナルペプチド配列のI/L/V-x-N/A/Lモチーフのすぐ上流にある9アミノ酸以下のアミノ酸配列に対応する、天然のシグナルペプチド配列の長さ0、1、2、3、4、5、6、7、8、9アミノ酸のアミノ酸配列;ならびに
d)0、1の数を有するかまたは部分的に短縮されていてもよいI/L/V-x-N/A/Lモチーフであって、数が0であるかまたはI/L/V-x-N/A/Lが部分的に短縮されている場合、c)のアミノ酸配列の長さが0である、I/L/V-x-N/A/Lモチーフ
からなる短縮されたシグナルペプチド配列で置きかえられている酵母細胞を準備する工程と、
ii.FCb2の発現をもたらす培地中で前記酵母細胞を育生する工程と
を含む、組換えフラボシトクロムb2(FCb2)を産生する方法。
【請求項7】
FCb2をコードしている組換え核酸配列が、酵母細胞のゲノム内に安定して組み込まれる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
酵母細胞が、メチロトローフ酵母細胞、好ましくはピキア・パストリス細胞または非メチロトローフ酵母細胞、好ましくはサッカロミセス・セレビシエ細胞である、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
FCb2をコードしている核酸配列が、S.セレビシエ、W.アノマルス、K.マルキシアヌス、またはO.パラポリモルファから得られる、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
i.成熟FCb2ペプチド配列が、S・セレビシエFCb2から得られ、短縮されたシグナルペプチド配列が、配列番号37、38および39からなる群から選択されるか;または
ii.成熟FCb2ペプチド配列が、K.マルキシアヌスFCb2から得られ、短縮されたシグナルペプチド配列が、配列番号40、41および42からなる群から選択されるか;または
iii.成熟FCb2ペプチド配列が、W.アノマルスFCb2から得られ、短縮されたシグナルペプチド配列が、配列番号43もしくは44であるか、またはアミノ酸配列MSAを有する、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
組換えFCb2が、好ましくは、親和性タグ、溶解度増強タグおよび監視タグからなる群から選択されるN末端タグ配列、最も好ましくはHisタグを含む、請求項6~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
組換えFCb2が、配列番号4、5、6、8、9、10、12、13、14、33、34、35および36からなる群から選択される配列を有する、請求項6~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
好ましくは酵母細胞を破壊して培地中に細胞内のFCb2を放出させることによって酵母細胞からFCb2を単離し、続いて培地からFCb2を精製する工程をさらに含む、請求項6~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~4のいずれか一項に記載の組換えFCb2をコードする、核酸分子。
【請求項15】
天然のFCb2の成熟FCb2ペプチド配列または該成熟FCb2ペプチド配列の機能的に活性なバリアントをコードし、N末端が、天然のシグナルペプチド配列を置きかえる短縮されたシグナルペプチド配列からなる核酸分子を含む、酵母宿主細胞であって、
該短縮されたシグナルペプチド配列が、N末端からC末端へ以下の構造:
i.メチオニン;
ii.任意選択でタグ配列;
iii.FCb2の天然のシグナルペプチド配列のI/L/V-x-N/A/Lモチーフのすぐ上流にある9アミノ酸以下のアミノ酸配列に対応する、天然のシグナルペプチド配列の長さ0、1、2、3、4、5、6、7、8、9アミノ酸のアミノ酸配列;ならびに
iv.0、1の数を有するかまたは部分的に短縮されていてもよいI/L/V-x-N/A/Lモチーフであって、数が0であるかまたはI/L/V-x-N/A/Lが部分的に短縮されている場合、iiiのアミノ酸配列の長さが0である、I/L/V-x-N/A/Lモチーフ
を有する、上記酵母宿主細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換え酵素、特にフラボシトクロムb2、および酵母細胞においてそのような酵素を生産する手段の分野に関する。本発明は、短縮されたN末端を含む組換えフラボシトクロムb2タンパク質に、特に関する。
【背景技術】
【0002】
L-乳酸の検出および測定は、様々な分野において重要である。食品および飲料産業、ならびに臨床的診断法において、製品の品質を決定するまたはヒトの疾患もしくは生理的状態に対するマーカーとしての機能を果たす鍵となる成分もしくは代謝産物の存在を決定する高度に選択的、高感度、迅速および信頼性が高い方法に対する必要性がある。L-乳酸は、これら代謝産物のうちの1つである。また、血液中の乳酸レベルの分析は、低酸素症、乳酸アシドーシス、ならびに薬物毒性試験、糖尿病および肝臓疾患における高乳酸血症、敗血症ならびにチアミン欠乏症の臨床的診断において重要である。また、運動選手の成績を監視し、最適な訓練レジメンを開発する際に測定される。
【0003】
乳酸含有量の決定は、L-乳酸のピルビン酸への酵素的酸化に一般に基づく。伝統的に、酵素的方法は、動物の筋肉もしくは心臓から単離されるNAD+依存的乳酸脱水素酵素(LDH)、または発色系において使用される細菌性乳酸オキシダーゼ(LOx)に基づく。他の多くの方法;例えば、分光光度法、蛍光測定、pH電位差測定ならびに電極上で検出されるO2消費およびH2O2形成に基づく電流測定バイオセンサが、同様に提案されてきた。実際の乳酸含有量は、NADHの分光光度検出またはH2O2の比色アッセイによって決定される。
【0004】
Kavita R.ら(2016年)において、電気化学的乳酸検出に基づくバイオセンサが、検討されている。
フラボシトクロムb2(FCb2)は、乳酸DET(直接電子移動)認識素子に有望な候補となる酵素である。本酵素は、酵母における乳酸代謝に関与することが公知であり、L-乳酸チトクロムc酸化還元酵素と一般に称される(EC1.1.2.3;フラボシトクロムb2、FCb2、L-乳酸チトクロムc酸化還元酵素)。FCb2は、酵母ミトコンドリアにおいてL-乳酸からチトクロムcへの電子移動を触媒する。
【0005】
天然には、FCb2は、ミトコンドリア膜間隙内に位置する。ミトコンドリア膜間隙へのタンパク質の取り込みについては、Edwards R.ら(2021年)に概説されている。それによると、FCb2が、ストップトランスファー経路によってミトコンドリア膜間隙に取り込まれることが記述される。FCb2は、N末端に正荷電を持つミトコンドリア標的化シグナル(MTS)、それに続く疎水性セグメントで構成される2部構成のシグナルを含有する。MTSは、外膜のトランスロコン(TOM)、また内膜のトランスロコン(TIM23)によって先行配列転位酵素関連モーター(PAM)を介してマトリックス内へ標的される。ストップトランスファー疎水性シグナルは、TIM23に入り、移行停止を引き起こし、続いてこのセグメントが内膜へ側方拡散すると、マトリックスへのさらなる移行は遮断される。MTSは、ミトコンドリアプロセシングペプチダーゼ(MPP)によって切断され、成熟IMSタンパク質は、IMSプロテアーゼに媒介される第2の切断事象によって放出される。
【0006】
Beasleyら(1993年)は、パッセンジャータンパク質としてのチトクロム酸化酵素サブユニットIV(CoxIV)にFCb2の最初の167残基を融合させることによって、酵母FCb2のミトコンドリア膜間隙への選別シグナルについて研究した。それにより、CoxIVの誤局在を引き起こす突然変異が、分析された。
【0007】
Hartlら(1987年)は、膜間隙へのシトクロムb2およびc1の標的化を調査した。両方のタンパク質は、細胞質リボソーム上で合成され、ミトコンドリア内で、2つの工程でプロセシングされる。最初に、前駆体は、両方のミトコンドリア膜を横切ってマトリックスへと移行され、そこでマトリックスペプチダーゼのプロセシングにより中間サイズの形態になる。第2のタンパク質分解性プロセシングは、膜間隙において起こる。著者らは、これらタンパク質の中間サイズ形態の2部構成のシグナルペプチド中の疎水性区間が、マトリックスから膜間隙内への搬出を指令する輸送シグナルとして作用すると結論する。
【0008】
Kollら(1992年)は、ミトコンドリア膜間隙へのFCb2の輸送に対するhsp60の効果を開示している。
Campoら(2016年)は、ミトコンドリア内へタンパク質および核酸を取り込むためのミトコンドリアメガチャネルについて検討している。それによると、ミトコンドリアタンパク質のシグナル配列および選別経路が、記述されている。
【0009】
Blackら(1989年)は、ハンゼヌラアノマラ(Hansenula anomala)およびサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来の2つのFCb2酵素の成熟配列が著しく類似することを開示している。これら酵素のN末端リーダー配列は、有意な類似性を共有する。これらリーダー配列の異なる領域は、機能的に類似しており、関連する多数の特徴が見出されると推定される。N末端は、取り込まれるミトコンドリアタンパク質のほとんど全てに共通する特徴である塩基性アミノ酸を高度に含有する。ミトコンドリア膜間隙へ輸送される他のポリペプチドにおいて見出されたように、リーダー配列のC末端側終端の方に非荷電セグメントが存在する。一般的な切断機序を示す保存されている特徴は、成熟N末端の第1アミノ酸の酸性の性質である。
【0010】
EP3080283A2は、アセト乳酸生成酵素をコードしているサッカロミセス・セレビシエILV2遺伝子の短縮されたバージョンを開示しており、ミトコンドリア標的化シグナルは存在せず、アセト乳酸生成酵素の細胞質形態が、遺伝子にコードされている。天然には、ILV2タンパク質は、ミトコンドリアマトリックス内に位置する。グリセロール産生を増強するための、細胞質アセト乳酸生成酵素をコードしている前記遺伝子を含む組換え酵母株が、さらに記述される。
【0011】
現在のところ、FCb2は、酵母、例えばS.セレビシエまたはH.アノマラから酵素を単離することによって得られる。しかしながら、S.セレビシエ由来FCb2は不安定であり、酵素は単離および精製が困難であり、このことが、例えば生物分析デバイスにおけるその適用に十分な酵素を生産することを困難にする。熱耐性メチロトローフ酵母ハンゼヌラポリモルファ(Hansenula polymorpha)から単離されるFCb2は、電流測定バイオセンサにおける生物学的認識素子としてこれまで使用された(Smutokら、2013年)。そこで、酵素は、直接電子移動の能力があることが示された。しかしながら、H.ポリモルファから単離されるFCb2の安定性も、限定されていた。
【0012】
WO021/167011A1は、乳酸脱水素酵素を使用して乳酸を測定するデバイスについて開示している。
ピキア・パストリス(Pichia pastoris)由来FCb2のヘムドメインとアエロコッカスビリダンス(Aerococcus viridans)由来の操作されたL-乳酸オキシダーゼとを含むキメラ融合タンパク質を生成して、多重化DET型乳酸およびグルコースセンサを作製した。融合タンパク質は、大腸菌(E.coli)内で発現された(Hirakaら、2020年)。
【0013】
したがって、本分野において、酵母において組換えFCb2、特に、例えば酵素的バイオセンサにおける乳酸DET認識素子としての使用に合わせて調整されうるFCb2バリアントを生産する手段を改善することが急務である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
組換えフラボシトクロムb2酵素を生産するための改善された手段を提供することが本発明の目的である。
本目的は、本発明の主題によって解決される。
【0015】
本発明は、短縮されたN末端シグナルペプチド配列を含む組換えフラボシトクロムb2(FCb2)に関する。本発明の発明者らは、収率が有意に向上され、有意に改善された活性を示す短縮されたシグナルペプチド配列を含む酵母FCb2が作製されうることを、驚くべきことに発見した。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によると天然のFCb2の成熟FCb2ペプチド配列、または前記成熟FCb2ペプチド配列の機能的に活性なバリアントを含む組換えフラボシトクロムb2(FCb2)であって、前記成熟FCb2ペプチド配列のN末端は、天然のシグナルペプチド配列を置きかえる短縮されたシグナルペプチド配列からなり、前記短縮されたシグナルペプチド配列は、N末端からC末端へ以下の構造:
i.メチオニン;
ii.任意選択でタグ配列;
iii.FCb2の天然のシグナルペプチド配列のI/L/V-x-N/A/Lモチーフのすぐ上流にある9アミノ酸以下のアミノ酸配列に対応する、天然のシグナルペプチド配列の長さ0、1、2、3、4、5、6、7、8、9アミノ酸のアミノ酸配列;ならびに
iv.0、1の数を有するかまたは部分的に短縮されていてもよいI/L/V-x-N/A/Lモチーフであって、数が0であるかまたはI/L/V-x-N/A/Lが部分的に短縮されている場合、iiiのアミノ酸配列の長さが0である、I/L/V-x-N/A/Lモチーフ
を有し、
前記組換えFCb2のアミノ酸配列は、配列番号145とは異なる、組換えFCb2が提供される。
【0017】
酵母におけるFCb2の生理的役割は、ミトコンドリア膜貫通空間におけるその存在を利用する。小胞体(および細胞輸送)における発現後またはその間に、FCb2は、シグナルペプチドによって補助される細胞性分泌と同様に、ミトコンドリア膜内への組み込みの間に成熟を受けると考えられる。酵素をミトコンドリアの中に組み込むプロセスにおいて、FCb2は、N末端で短縮され、成熟したより短い酵素は、ミトコンドリア内で次いで見られる。本プロセスは、共翻訳移行と称される。本発明者らにより特徴付けられたおよび特徴付けられていない推定のFCb2遺伝子のペプチド配列の分析から、FCb2のN末端先行配列内にいくつかの配列パターンが同定され、このことは、これまでに同定されておらず、ミトコンドリア膜間隙内へのFCb2の移行に関与すると推定される、成熟FCb2配列の上流に位置するN末端先行配列が存在する可能性を示す。
【0018】
多重配列整列化により、酵母FCb2配列が、N末端先行配列中のI/L/V-x-N/A/Lモチーフを共有することが明らかになり、本明細書においてその配列は、「シグナルペプチド配列」、「移行ペプチド配列」または「移行配列」とも称される。驚くべきことに、N末端メチオニンを除き、I/L/V-x-N/A/Lモチーフまでまたはそれをさらに含めてシグナルペプチド配列を欠失させることにより、酵母における組換えFCb2の産生の有意な改善が提供される。特に、そのような短縮されたシグナルペプチド配列を含む組換えFCb2は、元のFCb2宿主である酵母のタンパク質プロセシングおよび補因子合成能力を使用して、非常に高い活性および高収率で産生されうる。そのため、本発明の特定のシグナルペプチド配列-短縮パターンにより、細胞質ゾルにおいて機能的に活性なFCb2を発現させることが可能になる。驚くべきことに、本発明者らは、細胞質ゾルにおいて機能的に活性なFCb2を成功裏に発現させるには、ミトコンドリア内へのFCb2の移行に関与することが公知のシグナルペプチド配列のN末端領域を欠失させるでは不十分であることを見出した。その代わりに、本発明者らは、活性なFCb2の細胞質発現を成功させるためには、シグナルペプチドが、特定のパターンに従ってなお一層短縮されなければならないことを驚くべきことに見出した。この短縮パターンは、酵母FCb2配列に共通して高度に保存されているI/L/V-x-N/A/Lモチーフに基づく。特に、本発明の組換えFCb2は、天然の酵母FCb2配列から得られる成熟FCb2配列および短縮されたシグナルペプチド配列を含むまたは含有し、短縮されたシグナルペプチドの配列は、酵母FCb2の天然のシグナルペプチドの配列に対応するが、本明細書に記載の短縮を含む。特に前記短縮は、I/L/V-x-N/A/Lモチーフまでまたはそれを含めた、天然のシグナルペプチド配列の欠失である。
【0019】
特に、本明細書に記述される短縮されたシグナルペプチド配列は、N末端メチオニン、I/L/V-x-N/A/Lモチーフを含み、前記モチーフよりN末端のアミノ酸を全く含まないか、またはそれぞれの天然のシグナルペプチド配列内の前記モチーフよりN末端のアミノ酸を9個まで含み、前記9個までのアミノ酸より上流のアミノ酸を全く含まないかのいずれかである。特に、短縮されたシグナルペプチド配列は、I/L/V-x-N/A/LモチーフのN末端アミノ酸を1、2、3、4、5、6、7、8または9個までおよびN末端メチオニンを含む。
【0020】
特に、成熟FCb2ペプチド配列は、酵母ミトコンドリア内、特にミトコンドリア膜間隙内に天然に見出されるFCb2ペプチドの配列である。特に、本明細書に記述される組換えFCb2は、酵母ミトコンドリア膜間隙に天然に見出されるFCb2の成熟形態に基づく配列を含み、シトクロムb2ドメイン、フラビンドメイン、シトクロムb2ドメインとフラビンドメインを接続するヒンジ領域およびC末端に尾部領域を含む。
【0021】
特に、本明細書に記述される組換えFCb2は、少なくとも酵母ヘムドメインと酵母フラビンドメインを含む成熟FCb2ペプチド配列を含む。
特定の例によると、本明細書に記述される組換えFCb2の成熟FCb2ペプチド配列は、配列番号1もしくは配列番号2を含むまたはそれからなる。
【0022】
特定の実施形態において、本明細書に記述される組換えFCb2の成熟FCb2ペプチド配列は、酵母ミトコンドリア膜間隙に見出される天然のFCb2成熟ペプチド配列の機能的に活性なバリアントであり、それぞれの天然の成熟FCb2配列と比較して、成熟FCb2配列をコードしているヌクレオチド配列内に1つまたは複数の点突然変異を含む。特に、それは、1つもしくは複数のアミノ酸置換、付加または欠失、等を特別にもたらす1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19もしくは20個の点突然変異を含む。特に、天然の成熟FCb2ペプチド配列の機能的バリアントは、点突然変異を含む全長成熟FCb2ペプチド配列であり、または酵素活性を保持している全長成熟FCb2ペプチド配列の断片である。特に、成熟FCb2配列のバリアントは、それがL-乳酸をピルビン酸に変換する能力がある場合、機能的に活性である。特に、成熟FCb2配列の機能的に活性なバリアントは、対応する野生型成熟FCb2配列より少なくとも10、10、20、30、40、50、60、70%またはさらに高い酵素活性を有する。特に、成熟FCb2配列の機能的に活性なバリアントは、対応する野生型成熟FCb2配列より少なくとも10、20、30、40、50、60、70%またはさらに高い酵素活性を有し、前記酵素活性は、CytCアッセイおよび基質としてL-乳酸を用いて決定される。
【0023】
フラボシトクロムb2バリアントの酵素活性は、チトクロムc、フェリシアン化物または2,6-ジクロロインドフェノール(DCIP)の比色還元を決定するアッセイなど、当業者に公知のアッセイによって容易に決定されうる。特に、本明細書に記述される組換えFCb2は、Diep Leら(Diep Leら2009年)によって記述されるCytCアッセイで決定される少なくとも1U/mgの酵素活性を含む。
【0024】
特に、本明細書に記述される成熟FCb2ペプチド配列は、配列番号1もしくは配列番号2、または配列番号1もしくは配列番号2に対して少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性を含む。特に、成熟FCb2ペプチド配列は、配列番号1または配列番号2に対して少なくとも約60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98もしくは99%の配列同一性を含む。
【0025】
特定の実施形態によると、成熟FCb2ペプチド配列は、サッカロミセス・セレビシエFCb2(配列番号3)から得られ、N末端メチオニンを含む短縮されたシグナルペプチド配列は、配列番号37、38および39からなる群から選択される。特に、本明細書に記述される組換えFCb2は、配列番号4、5および6からなる群から選択される配列を含むまたはそれからなる。特に、配列番号4、5、および6からなる群から選択される配列を含む本発明の組換えFCb2は、N末端Hisタグ、好ましくは6-Hisまたは8-Hisタグをさらに含む。
【0026】
さらなる特定の実施形態によると、成熟FCb2ペプチド配列は、クルイベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)FCb2(配列番号7)から得られ、N末端メチオニンを含む短縮されたシグナルペプチド配列は、配列番号40、41および42からなる群から選択される。特に、本明細書に記述される組換えFCb2は、配列番号8、9および10からなる群から選択される配列を含むまたはそれからなる。特に、配列番号8、9、および10からなる群から選択される配列を含む本発明の組換えFCb2は、N末端Hisタグ、好ましくは6-Hisまたは8-Hisタグをさらに含む。
【0027】
なおさらなる特定の実施形態によると、成熟FCb2ペプチド配列は、ウィカハモマイセス・アノマルス(Wickerhamomyces anomalus)FCb2(配列番号11)から得られ、N末端メチオニンを含む短縮されたシグナルペプチド配列は、配列番号43もしくは44またはMSA(Met-Ser-Ala)である。特に、本明細書に記述される組換えFCb2は、配列番号12、13および14からなる群から選択される配列を含むまたはそれからなる。特に、配列番号8~10からなる群から選択される配列を含む本発明の組換えFCb2は、N末端Hisタグ、好ましくは6-Hisまたは8-Hisタグをさらに含む。
【0028】
特に、本明細書に記述される組換えFCb2は、本明細書に記載の短縮されたシグナルペプチド配列および対応する成熟FCb2ペプチド配列を含み、それらは、S.セレビシエ(S.cerevisiae)、W.アノマルス(W.anomalus)、K.マルキシアヌス(K.marxianus)、O.パラポリモルファ(O.parapolymorpha)、カンジダ・グラブラータ(Candida glabrata)、クリベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、ラカンセア・サーモトレランス(Lachancea thermotolerans)、サッカロマイコデス・ルドウィギイ(Saccharomycodes ludwigii)、ナウモボジマ・カステリ(Naumovozyma castelli)、ジゴサッカロミセス・バイリイ(Zygosaccharomyces bailii)、ジゴサッカロミセス・パラバイリイ(Zygosaccharomyces parabalii)、ラカンセア・ミランティナ(Lachancea mirantina)、テトラピシスポラ・ファフィ(Tetrapisispora phaffii)、サッカロミセス・ユーバヤヌス(Saccharomyces eubayanus)、サッカロミセス・クドリアブゼビイ(Saccharomyces kudriavzevii)、サッカロミセス・パラドクサス(Saccharomyces paradoxus)、ヴァンデルワルトザイマ・ポリスポラ(Vanderwaltozyma polyspora)、ラカンセア・ダシエンシス(Lachancea dasiensis)、ウィカハモマイセス・シフェリイ(Wickerhamomyces ciferri)、クリベロマイセス・ドブジャンスキイ(Kluyveromyces dobzhanskii)、カザツタニア・ナガニシイ(Kazachstania naganishii)、ジゴサッカロミセス・メリス(Zygosaccharomyces mellis)、カザツタニア・ソルジェエンシス(Kazachstania saulgeensis)、カンジダ・ボイジニイ(Candida boidinii)、ラカンセア・ファーメンタティ(Lachancea fermentati)、ジゴサッカロマイセス・ルーキシー(Zygosaccharomyces rouxii)、シベルリンドネラ・ファビアニイ(Cyberlindnera fabianii)、シベルリンドネラ・ジャディニイ(Cyberlindnera jadinii)、カザツタニア・アフリカーナ(Kazachstania africana)、ラカンセア・ケベセンシス(Lachancea quebecensis)、クライシア・カプスラータ(Kuraishia capsulata)、トルラスポラ・デルブルエッキイ(Torulaspora delbrueckii)、コマガテラ・パストリス(Komogatella pastoris)、コマガテラ・ファフィ(Komagatella phaffii)、ラカンセア・ノトファギ(Lachancea nothofagi)またはナウモボマイセス・ダイレネンシス(Naumovomyces dairenensis)から得られる。
【0029】
特に、本明細書に記述される組換えFCb2は、サッカロミセス・セレビシエ、クルイベロマイセス・マルキシアヌス、ウィカハモマイセス・アノマルス、ナウモボジマ・カステリまたはシベルリンドネラ・ファビアニイのFCb2から得られる成熟FCb2ペプチド配列を含む。
【0030】
特定の実施形態において、本明細書に記述される組換えFCb2はタグ配列を含む。例えばポリヒスチジンタグなどのタグ配列は、組換えタンパク質生産における有効なツールである。全長FCb2は、N末端ポリ-Hisタグなどのタグ配列と共に発現させることが困難である。驚くべきことに、本明細書に記載の短縮されたシグナルペプチド配列を含む組換えFCb2は、N末端タグと共に発現されえ、これにより生産プロセスは有意に改善され、単純化される。
【0031】
特に、タグ配列は、親和性タグ、溶解度増強タグおよび監視タグからなる群から選択される。特に、タグ配列は、N末端タグである。
特に、親和性タグは、ポリヒスチジン(ポリH)タグ、ポリアルギニン(ポリA)タグ、FLAGタグ、Strepタグ、ストレプトアビジン結合ペプチド(SBP)タグ、カルモジュリン結合ペプチド(CBP)タグ、S-tag、HAタグ、c-Mycタグ、およびSUMOタグからなる群から選択され、特に、タグは、1つもしくは複数のHisを含むHisタグであり、より具体的には、ヘキサヒスチジンまたは8-Hisタグである。
【0032】
特に、溶解度増強タグは、T7A、T7A1、T7A2、T7A3、T7A4、T7A5、T7B、T7B1、T7B2、T7B3、T7B3、T7B4、T7B5、T7B6、T7B6、T7B7、T7B8、T7B9、T7B10、T7B11、T7B12、T7B13、T7C、カルモジュリン結合ペプチド(CBP)タグ、ポリAタグ、ポリLysタグ、タンパク質Dタグ(dTAG)、ブドウ球菌プロテインAのZドメイン、およびチオレドキシンからなる群から選択される。
【0033】
特に、監視タグは、m-Cherry、GFPおよびf-アクチンからなる群から選択される。
特定の例によると、本明細書に記述される組換えFCb2は、配列番号4、5、6、8、9、10、12、13、14、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35および36から選択されるアミノ酸配列を有する。
【0034】
本明細書において、天然のFCb2の成熟FCb2ペプチド配列、または前記成熟FCb2ペプチド配列の機能的に活性なバリアントを含み、N末端が、天然のシグナルペプチド配列を置きかえる短縮されたシグナルペプチド配列からなる組換えフラボシトクロムb2(FCb2)を含む電極であって、前記短縮されたシグナルペプチド配列が、N末端からC末端へ以下の構造:
i.メチオニン;
ii.任意選択でタグ配列;
iii.FCb2の天然のシグナルペプチド配列のI/L/V-x-N/A/Lモチーフのすぐ上流にある9アミノ酸以下のアミノ酸配列に対応する、天然のシグナルペプチド配列の長さ0、1、2、3、4、5、6、7、8、9アミノ酸のアミノ酸配列;ならびに
iv.0、1の数を有するかまたは部分的に短縮されていてもよいI/L/V-x-N/A/Lモチーフであって、数が0であるかまたはI/L/V-x-N/A/Lが部分的に短縮されている場合、iiiのアミノ酸配列の長さが0である、I/L/V-x-N/A/Lモチーフ
を有する、電極がさらに提供される。
【0035】
特に、組換えFCb2を含む電極は、試料中のL-乳酸を決定するために使用されうる。特に、組換えFCb2を含む電極は、酵素的バイオセンサにおいて乳酸DET認識素子として使用されうる。
【0036】
本明細書において、以下の工程:
i.FCb2をコードしている組換え核酸配列に作動的に連結された酵母内で機能的なプロモーターを含む酵母細胞であって、前記FCb2の天然のシグナルペプチド配列が、N末端からC末端へ以下の構造:
a)メチオニン;
b)任意選択でタグ配列;
c)FCb2の天然のシグナルペプチド配列のI/L/V-x-N/A/Lモチーフのすぐ上流にある9アミノ酸以下のアミノ酸配列に対応する、天然のシグナルペプチド配列の長さ0、1、2、3、4、5、6、7、8、9アミノ酸のアミノ酸配列;ならびに
d)0、1の数を有するかまたは部分的に短縮されていてもよいI/L/V-x-N/A/Lモチーフであって、数が0であるかまたはI/L/V-x-N/A/Lが部分的に短縮されている場合、c)のアミノ酸配列の長さが0である、I/L/V-x-N/A/Lモチーフ
からなる短縮されたシグナルペプチド配列で置きかえられている酵母細胞を準備する工程と、
ii.前記FCb2の発現をもたらす培地中で前記酵母細胞を育生する工程と
を含む組換えフラボシトクロムb2(FCb2)を産生する方法が、さらに提供される。
【0037】
本明細書に提供される方法の特定の実施形態において、前記組換えFCb2をコードしている組換え核酸配列は、酵母細胞のゲノム内に安定して組み込まれる。
特に、酵母細胞は、メチロトローフ酵母細胞、好ましくはピキア・パストリス[コマガタエラ・ファフィ(Komagataella phaffii)]、クリベロマイセス・ラクティスまたは非メチロトローフ酵母細胞、好ましくはサッカロミセス・セレビシエ細胞である。
【0038】
特に、FCb2をコードしている核酸配列は、S.セレビシエ、W.アノマルス、K.マルキシアヌス、O.パラポリモルファ、ラカンセア・サーモトレランス、サッカロマイコデス・ルドウィギイ、ナウモボジマ・カステリ、ジゴサッカロミセスバイリイ、ジゴサッカロミセスパラバイリイ、ラカンセア・ミランティナ、テトラピシスポラ・ファフィ、サッカロミセス・ユーバヤヌス、サッカロミセス・クドリアブゼビイ、サッカロミセス・パラドクサス、ヴァンデルワルトザイマポリスポラ、カンジダ・グラブラータ、クリベロマイセス・ラクティス、ラカンセア・ダシエンシス、ウィカハモマイセス・シフェリイ、クリベロマイセス・ドブジャンスキイ、カザツタニア・ナガニシイ、ジゴサッカロミセス・メリス、カザツタニア・ソルジェエンシス、カンジダ・ボイジニイ、ラカンセア・ファーメンタティ、ジゴサッカロマイセス・ルーキシー、シベルリンドネラ・ファビアニイ、シベルリンドネラ・ジャディニイ、カザツタニア・アフリカーナ、ラカンセア・ケベセンシス、クライシア・カプスラータ、トルラスポラ・デルブルエッキイ、コマガテラ・パストリス、コマガテラ・ファフィ、ラカンセア・ノトファギまたはナウモボマイセス・ダイレネンシスから得られる。
【0039】
特に、成熟FCb2ペプチド配列は、S.セレビシエFCb2から得られ、短縮されたシグナルペプチド配列は、配列番号37~39からなる群から選択される。
特に、成熟FCb2ペプチド配列は、K.マルキシアヌスFCb2から得られ、短縮されたシグナルペプチド配列は、配列番号40~42からなる群から選択される。
【0040】
特に、成熟FCb2ペプチド配列は、W.アノマルスFCb2から得られ、短縮されたシグナルペプチド配列は、配列番号43もしくは44であるか、またはアミノ酸配列MSA(Met-Ser-Ala)のものである。
【0041】
特に、本明細書に提供される方法に従って生産される組換えFCb2は、好ましくは、親和性タグ、溶解度増強タグおよび監視タグからなる群から選択されるN末端タグ配列、最も好ましくはポリヒスチジンタグを含む。
【0042】
特に、本明細書に提供される方法に従って生産される組換えFCb2は、配列番号4、5、6、8、9、10、12、13、14、33、34、35および36からなる群から選択される配列を有する。
【0043】
特に、プロモーターは、メタノール誘導可能なプロモーターであり、組換えFCb2の発現をもたらす培地は、メタノールを含む。
特に、本明細書に記載の組換えFCb2の生産方法は、好ましくは酵母細胞を破壊して培地中に細胞内のFCb2を放出させることによって酵母細胞からFCb2を単離し、続いて培地からFCb2を精製する工程をさらに含む。
【0044】
特に、本明細書に提供される方法に使用される酵母細胞は、ピキア・パストリス、ハンゼヌラポリモルファ、ピキアミヌータ(Pichia minuta)、カンジダ・ボイジニイからなる群から選択されるメチロトローフ酵母細胞、またはサッカロミセス・セレビシエ、クリベロマイセス・ラクティス、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、アルクスラ・アデニニボランス(Arxula adeninivorans)、ジゴサッカロミセス・バイリイ、ピキア・スティピテス(Pichia stipites)、クルイベロマイセス・マルキシアヌス、サッカロミセス・オキシデンタリス(Saccharomyces occidentalis)、ジゴサッカロマイセス・ルーキシーからなる非メチロトローフ酵母の群から選択される酵母細胞であり、好ましくは、酵母細胞は、サッカロミセス・セレビシエ、クリベロマイセス・ラクティスまたはピキア・パストリス細胞であり、最も好ましくは、酵母細胞はピキア・パストリス細胞である。
【0045】
本明細書記述される組換えFCb2をコードしている核酸分子が、本明細書においてさらに提供される。特に、本明細書に記載の組換えFCb2をコードしている核酸分子は、配列番号145に示されるアミノ酸配列をコードしている核酸分子とは異なる。調節要素に作動的に連結された本明細書に記述される組換えFCb2を含む発現カセットが、本明細書にさらに提供される。特に、プロモーター、本明細書に記述される組換えFCb2をコードしている配列および終了配列を含む発現カセットが、提供される。
【0046】
本明細書に記述される組換えFCb2を発現する酵母宿主細胞または酵母宿主細胞株が、本明細書にさらに提供される。
天然のFCb2の成熟FCb2ペプチド配列、または前記成熟FCb2ペプチド配列の機能的に活性なバリアントをコードし、N末端が、天然のシグナルペプチド配列を置きかえる短縮されたシグナルペプチド配列からなる核酸分子を含む酵母宿主細胞であって、前記短縮されたシグナルペプチド配列が、N末端からC末端へ以下の構造:
i.メチオニン;
ii.任意選択でタグ配列;
iii.FCb2の天然のシグナルペプチド配列のI/L/V-x-N/A/Lモチーフのすぐ上流にある9アミノ酸以下のアミノ酸配列に対応する、天然のシグナルペプチド配列の長さ0~9アミノ酸のアミノ酸配列;ならびに
iv.0、1の数を有するかまたは部分的に短縮されていてもよいI/L/V-x-N/A/Lモチーフであって、数が0であるかまたはI/L/V-x-N/A/Lが部分的に短縮されている場合、iiiのアミノ酸配列の長さが0である、I/L/V-x-N/A/Lモチーフ
を有する、酵母宿主細胞が、本明細書においてさらに提供される。
【0047】
特に、宿主細胞は、ピキア・パストリス、ハンゼヌラポリモルファ、ピキアミヌータ、カンジダ・ボイジニイからなるメチロトローフ酵母の群から選択されるか、またはサッカロミセス・セレビシエ、クリベロマイセス・ラクティス、ヤロウィア・リポリティカ、アルクスラ・アデニニボランス、ジゴサッカロミセス・バイリイ、ピキア・スティピテス、クルイベロマイセス・マルキシアヌス、サッカロミセス・オキシデンタリス、ジゴサッカロマイセス・ルーキシーからなる非メチロトローフ酵母の群から選択される酵母細胞であり、好ましくは、宿主細胞はサッカロミセス・セレビシエまたはピキア・パストリス細胞である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】ScFCb2のミトコンドリア切断部位予測(TargetP)である。
【
図2】KmFCb2のミトコンドリア切断部位予測(TargetP)である。
【
図3】WaFCb2のミトコンドリア切断部位予測(TargetP)である。
【
図4】CangFCb2のミトコンドリア切断部位予測(TargetP)である。
【
図5-1】出芽酵母サッカロミセス科のファミリーに厳選された、系統発生データからのFCb2 N’端末配列の多重配列整列化を示す図である。
【
図6】WebLogoによる多重配列整列化を示す図である(「1FCB」は、分析されている結晶構造、PDB:1FCBから得られた切断され、成熟したScFCb2の参照配列である)
【
図7】ClustalOmega多重配列整列化を示す図である。下線:S.セレビシエおよびW.アノマルスFCb2の実験的に確認された切断および成熟したN末端の始まりの配列。灰色:発見されたTransP認識モチーフ。サブテキスト中の「*」、「:」および「.」は、構造的に関連する配列部分の保存の異なる程度を、良いものから悪いものに示す。
【
図8】(A)ScFCb2 TransP構築物のスクリーニングの容積活性を示す図である。(B)ScFCb2 TransP構築物の活性スクリーニング(CytCアッセイ)のデータの概要である。(C)TransP認識モチーフ(灰色)を持つN末端TransP配列および相対的活性を示す図である。
【
図9】(A)KmFCb2 TransP構築物のスクリーニングの容積活性を示す図である。(B)KmFCb2 TransP構築物の活性スクリーニング(CytCアッセイ)のデータの概要である。(C)TransP認識モチーフ(灰色)を持つN末端TransP配列および相対的活性を示す図である。
【
図10】(A)KmFCb2 TransP構築物のスクリーニングの容積活性を示す図である。(B)KmFCb2 TransP構築物の活性スクリーニング(CytCアッセイ)のデータの概要である。(C)TransP認識モチーフ(灰色)を持つN末端TransP配列および相対的活性を示す図である。
【
図11】(A)CytCアッセイの酵素単位[U/g細胞ペレット]および(B)光学的吸光度の量による精製した酵素[mg酵素/g細胞ペレット]での精製後に得られた活性、(C)精製された、hisタグ付きTransP-His FCb2構築物のSDS PAGEを示す図である。
【
図12-1】本明細書において参照されるアミノ酸配列を示す図である。
【
図13-1】経時的に乳酸濃度を増大させながら添加することによる、37℃および印加電位+0.2VにおけるFCb2修飾カーボンペースト電極の較正を示す図である。WaFCb2(A)、KmFCb2(D)およびCangFCb2(G):乳酸の段階的増大後のセンサシグナルの段階的増大を示す図である。WaFCb2(B)、KmFCb2(E)およびCangFCb2(H):30mM乳酸存在下におけるセンサシグナルの経時的低下を示す図である。WaFCb2(C)、KmFCb2(F)およびCangFCb2(I):乳酸濃度に対するセンサ電流密度の依存性を示す図である。酵素ロード量:0.8μg/mm
2
【
図14】電極の前処理による、カーボンペースト電極当たり0.8μg/mm
2 KmFCb2の電流密度の比較を示す図である。経時的に乳酸濃度を増大させながら添加することによる、37℃および印加電位+0.2VにおけるFCb2修飾カーボンペースト電極の較正を示す図である。A:CTAB;B:EGDGE;C:前処理なし。
【
図15】30mM乳酸を添加後の37℃および印加電位+0.2VにおけるKmFCb2修飾金またはカーボンペースト電極の応答を示す図である。A:金-前処理なし;B:カーボンペースト-前処理なし。
【
図16】KmFCb2の温度安定性(A);KmFCb2の熱容量曲線(B)を示す図である
【
図17】CangFCb2の温度安定性(A);CangFCb2の熱容量曲線(B)を示す図である
【
図18】ピキア・パストリスにおいて発現させたFCb2と比較した大腸菌(E.coli)において発現させたFCb2のSDS PAGEを示す図である
【発明を実施するための形態】
【0049】
別段の指示または定義がない限り、本明細書に使用される全ての用語は、当業者において通常の意味を有し、当業者には明らかになろう。例えば、Sambrookら、「Molecular cloning:A laboratory manual」(第4版)、1~3巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press(2012年);Krebsら、「Lewin’s Genes XI」、Jones & Bartlett Learning(2017年);Bergら、「Stryer Biochemie」、Springer Verlag、2018年;およびMurphy & Weaver、「Janeway’s Immunobiology」(第9版、またはより最近の版)、Taylor & Francis Inc(2017年)などの標準的な専門書を参照のこと。
【0050】
特許請求の範囲の主題は、人工的産物またはそのような人工的産物を利用もしくは製造する方法のことを特に指し、その産物は、天然の(野生型)産物のバリアントでありうる。天然の構造に対してある程度の配列同一性がありうるが、例えば、単離された核酸配列、アミノ酸配列、発現構築物、形質転換された宿主細胞および修飾タンパク質および酵素のことを特に指す本発明の材料、方法ならびに使用は、「人工」または合成であり、したがって「自然法則」の結果と見なされないことは十分理解される。
【0051】
本明細書では、用語「含む(comprise)」、「含有する(contain)」、「有する(have)」および、「含む(include)」は、同義的に使用することができ、さらなるメンバーまたは部分もしくは要素を許容する開いた定義として理解されるものとする。「からなる(consisting)」は、構成される定義の特徴のさらなる要素を含まない最も詳細な定義と見なされる。したがって、「含む(comprising)」はより広く、「からなる(consisting)」の定義を含有する。
【0052】
本明細書では用語「約」は、所与の値と同じ値または+/-5%まで異なる値のことを指す。
本明細書および特許請求の範囲において使用される、単数形、例えば、「a」、「an」および「the」は、文脈に別段の明確な指図がない限り、複数形を含む。
【0053】
本明細書では、アミノ酸とは、61種のトリプレットコドンによってコードされる20種の天然に存在するアミノ酸のことを指す。これら20種のアミノ酸は、中性荷電、正荷電および負荷電を有するものに分割されうる:
「中性」アミノ酸が、それぞれの3文字および1文字コードならびに極性と共に以下に示される:アラニン(Ala、A;無極性、中性)、アスパラギン(Asn、N;極性、中性)、システイン(Cys、C;無極性、中性)、グルタミン(Gln、Q;極性、中性)、グリシン(Gly、G;無極性、中性)、イソロイシン(Ile、I;無極性、中性)、ロイシン(Leu、L;無極性、中性)、メチオニン(Met、M;無極性、中性)、フェニルアラニン(Phe、F;無極性、中性)、プロリン(Pro、P;無極性、中性)、セリン(Ser、S;極性、中性)、トレオニン(Thr、T;極性、中性)、トリプトファン(Trp、W;無極性、中性)、チロシン(Tyr、Y;極性、中性)、バリン(Val、V;無極性、中性)およびヒスチジン(His、H;極性、陽性(10%)中性(90%))。
【0054】
「正」荷電アミノ酸は、以下の通りである:アルギニン(Arg、R;極性、正)およびリジン(Lys、K;極性、正)。
「負」荷電アミノ酸は以下の通りである:アスパラギン酸(Asp、D;極性、負)およびグルタミン酸(Glu、E;極性、負)。本発明によると用語「酵素」とは、1つもしくは複数の化学もしくは生化学的反応を多少特異的に触媒もしくは促進するタンパク質もしくはポリペプチドで完全にまたは大部分構成される任意の物質を意味する。特に、用語「酵素」は、L-乳酸をピルビン酸に変換する能力があるタンパク質またはポリペプチドのことを指すために本明細書において使用される。
【0055】
ヒトにおいて、ピルビン酸は、乳酸脱水素酵素(「LDH」)によって乳酸に変換される。
酵母において、L-乳酸は、「フラボシトクロムb2」または「FCb2」と本明細書において称されるL-乳酸チトクロムc酸化還元酵素(EC1.1.2.3)によってピルビン酸に変換される。
【0056】
本明細書に使用される用語「乳酸」とは、乳酸またはその塩のことを指す。
酵母におけるFCb2の生理的役割は、ミトコンドリア膜貫通空間におけるその存在を利用する。小胞体(および細胞輸送)における発現後またはその間に、FCb2は、シグナルペプチド認識によって補助される、ミトコンドリア膜内への組み込みの間に成熟を受けると考えられる。
【0057】
特徴付けられたおよび推定のFCb2配列の多重配列整列化から、酵母FCb2配列が、N末端先行配列においてI/L/V-x-N/A/Lモチーフを共有することが明らかになり、そのN末端先行配列は、「シグナルペプチド配列」、「シグナル配列」または「移行ペプチド配列」もしくは「移行配列」とも本明細書において称される。驚くべきことに、I/L/V-x-N/A/Lモチーフまで、またはそれをさらに含めてFCb2のシグナルペプチド配列を欠失させることにより、組換えFCb2の生産の有意な改善が可能になる。特に、そのような短縮されたシグナルペプチド配列を含む組換えFCb2は、高収率で、有意に改善された活性で生産されうる。
【0058】
天然の酵母フラボシトクロムb2(FCb2)は、「ヒンジ」リンカーを介して接続される2つの機能的ドメインを有する(57kDa単量体)。S.セレビシエ由来FCb2は、最も研究されている代表例であり、結晶化されている(PDB 1FCB)。以下のセクションが、S.セレビシエのFCb2において同定されている:
- 配列番号3のアミノ酸残基88までのN末端先行配列。このいわゆる「移行ペプチド」は、移行に際して切断される;
- シトクロム-b2ドメイン:非共有結合性ヘムbを含む<10kDaドメイン:(配列番号3のアミノ酸残基88~165に及ぶ);
- シトクロムb2ドメインとフラビンドメインを接続するドメイン接続リンカーを含むヒンジ領域(配列番号3の残基177~190に及ぶ);
- フラビンモノヌクレオチド(FMN)を含有するおよそ45kDaのフラビンドメイン(配列番号3の残基197~563に及ぶ);
- C末端で伸長し、二量体の周りを包む尾部領域(配列番号3の残基567~591を含む)。
【0059】
本発明の組換えFCb2は、少なくとも酵母シトクロムb2ドメインおよび酵母フラビンドメインを含み、それらは直接接続されてもまたはヒンジ領域を介して連結されてもよい。特に、本明細書に記述される組換えFCb2は、C末端尾部領域も含む。特に、本明細書に記述される組換えFCb2は、酵母ミトコンドリア膜間隙に天然に見出されるFCb2の成熟形態に基づく配列を含み、シトクロムb2ドメイン、フラビンドメイン、シトクロムb2ドメインとフラビンドメインを接続するヒンジ領域およびC末端に尾部領域を含む。
【0060】
本発明の組換えFCb2は、短縮されたシグナルペプチド配列をさらに含み、短縮されたシグナルペプチドの配列は、天然のシグナルペプチドのシグナルに対応するが、本明細書に記載の短縮を含む。
【0061】
特定の実施形態において、本発明の組換えFCb2は、本明細書に記載の短縮されたシグナルペプチド配列で置きかえられたN末端先行配列を除いて、上で同定されたFCb2 S.セレビシエセクションの全てまたは異なる酵母の相同物を含む。
【0062】
本明細書では、用語「シグナルペプチド配列」とは、FCb2のN末端先行配列のことを指す。シグナルペプチド配列は、ミトコンドリア内への酵素の移行後に切断されるFCb2タンパク質の配列である。天然のシグナルペプチド配列が切断されると、成熟FCb2配列が残り、ミトコンドリア内でのその生理的役割は機能的である。天然のFCb2の成熟配列は、例えば酵母細胞からFCb2を単離し、単離されたタンパク質を配列決定することによって当業者によって容易に同定されうる。酵母FCb2のシグナルペプチド配列および成熟配列は、結晶学など当業者に公知の他の通常の方法を使用して決定されてもよい。
【0063】
それにより、本明細書では用語「天然」とは、ミトコンドリア膜間隙内への輸送前の天然に存在するような、遺伝的にコードされており、プロセシングされていないアミノ酸配列のことを指す。したがって、天然のアミノ酸配列とは、天然のシグナルペプチド配列が天然のアミノ酸配列から切断され、成熟アミノ酸配列を生じる前のアミノ酸配列のことを指す。例えば、サッカロミセス・セレビシエ由来の全長FCb2の天然のアミノ酸配列は、配列番号3に示される。そのため、配列番号3内のアミノ酸1~80が、天然のシグナルペプチド配列である。成熟FCb2の配列は、配列番号1に示され、この配列は、配列番号3内のアミノ酸1~80を含まない。FCb2の例から分かるように、天然のN末端は、ミトコンドリア膜間隙内への輸送の間にアミノ酸配列から切断されるので、配列番号1に示される成熟FCb2の配列はN末端にメチオニンを含まない。
【0064】
本明細書では、用語「短縮されたシグナルペプチド配列」とは、N末端に欠失を含むFCb2のシグナルペプチド配列のことを指す。本明細書に記載の通り、本発明の組換えFCb2は、短縮されたシグナルペプチド配列を含み、短縮されたシグナルペプチドの配列は、天然のシグナルペプチドの配列に対応するが、天然のN末端から始まり、I/L/V-x-N/A/Lモチーフに及ぶまたは含む天然のシグナルペプチド配列の欠失を含む。したがって、特定の例において、本明細書に記述される組換えFCb2は、I/L/V-x-N/A/Lモチーフを含むシグナルペプチド配列の全体の欠失を含む。
【0065】
本明細書に記述される組換えFCb2は、N末端、したがって短縮されたシグナルペプチド配列のN末端でメチオニンをさらに含む。天然に見出される成熟FCb2はN末端メチオニンを有さないので、本発明の組換えFCb2がN末端メチオニンを有するので、本発明の組換えFCb2は、天然のFCb2の成熟FCb2と容易に区別されうる。
【0066】
真核生物においてタンパク質合成は、メチオニンによって開始される。リボソームは、配列AUGであるmRNA中の開始コドンに遭遇すると、アミノ酸からのタンパク質の組立てである翻訳を開始する。AUGはアミノ酸メチオニンをコードし、本明細書に記述されるFCb2のそのようなタンパク質翻訳はメチオニンで開始する。
【0067】
別の特定の例によると、本明細書に記述される組換えFCb2の短縮されたシグナルペプチド配列は、I/L/V-x-N/A/Lモチーフを依然として含むが、前記モチーフよりN末端のアミノ酸を全く含まない、すなわち、短縮されたシグナルペプチド配列においてI/L/V-x-N/A/LモチーフよりN末端の全てのアミノ酸が、N末端メチオニンを除いて、欠失している。
【0068】
さらに別の特定の例によると、本明細書に記述される組換えFCb2の短縮されたシグナルペプチド配列は、前記I/L/V-x-N/A/LモチーフよりN末端のアミノ酸を9個まで含むが、N末端メチオニンを除いて、前記9個までのアミノ酸より上流のアミノ酸を全く含まない。特に、短縮されたシグナルペプチド配列は、I/L/V-x-N/A/LモチーフのN末端アミノ酸を1、2、3、4、5、6、7、8または9個までおよびN末端メチオニンを含む。
【0069】
本明細書では、用語「I/L/V-x-N/A/Lモチーフ」とは、FCb2のシグナルペプチド配列のアミノ酸配列中の3アミノ酸の保存配列のことを指す。前記モチーフの1位のアミノ酸は、イソロイシン(I)、ロイシン(L)およびバリン(V)のうちのいずれか1つであり、続いて2位は、任意のアミノ酸(X)、続いて3位は、アスパラギン(N)、アラニン(A)またはロイシン(L)である。
【0070】
例えば、S.セレビシエのFCb2のシグナルペプチド配列は、配列番号3のアミノ酸1~80の範囲であり、配列番号15を含む。S.セレビシエのFCb2のシグナルペプチド配列中のI/L/V-x-N/A/Lモチーフは、アミノ酸配列IDNを有し、配列番号3の78~80位に位置する。
【0071】
本明細書では、用語「成熟FCb2ペプチド配列」とは、酵母ミトコンドリア内、特にミトコンドリア膜間隙内に天然に見出される酵母FCb2ペプチドの配列のことを指す。本明細書に記載の通り、本明細書に提供される組換えFCb2は、成熟FCb2ペプチド配列を含む。本明細書に記述される組換えFCb2の成熟FCb2ペプチド配列は、全長野生型成熟配列でありえ、その成熟配列は、酵母ミトコンドリア膜間隙内へのFCb2の移行と同時に移行ペプチドの特定の切断工程によって生成される。FCb2は、ミトコンドリア膜間隙内に天然に存在するので、FCb2のシグナルペプチドは、ミトコンドリア膜間隙内に最終的に局在化するまでに2回切断される。したがって、前記移行ペプチドの切断は、成熟FCb2の定義されたN末端を最終的にもたらす。したがって、用語「成熟FCb2ペプチド配列」とは、ミトコンドリア膜間隙内へFCb2が移行する間に特定のペプチダーゼの切断によって生成される定義されたN末端を持つFCb2配列のことを特に指す。当業者は、切断部位を決定するための特定のツールを使用することによって成熟FCb2を決定することができる。例えば、当業者は、配列整列化によって、選択したFCb2配列を本明細書に提供されるFCb2配列と比較し、本明細書に開示されるFCb2のN末端のアミノ酸に対応する前記FCb2のアミノ酸を決定することによって成熟タンパク質のN末端を予測することができる。特に、当業者は、配列番号3(サッカロミセス・セレビシエ由来の天然の、全長FCb2)、配列番号7(クルイベロマイセス・マルキシアヌス由来の天然の、全長FCb2)、配列番号11(ウィカハモマイセス・アノマルス由来の天然の、全長FCb2)、配列番号16(カンジダ・グラブラータ由来の天然の、全長FCb2)における本明細書に提供される全長FCb2配列の配列と選択したFCb2の全長配列との多重配列整列化を実行し、TransP認識モチーフI/L/V-x-N/A/Lおよび本明細書に提供される前記FCb2配列のN末端成熟配列に対する整列化を検索し、選択した成熟FCb2の対応するN末端を決定することができる。例えば、多重配列整列化を実行する方法は、EMBLのEuropean Bioinformatics Instituteによって提供されるClustalOmegaである。
【0072】
本発明の特定の実施形態において、成熟FCb2配列は、以下のN末端(N末端からC末端への配列の最初の5アミノ酸が示され、以下の配列が、完全な成熟FCb2配列のN末端のみを反映しており、成熟FCb2アミノ酸配列が、それぞれの配列の残りに統合されることは理解されるべきである):
DAAKH(配列番号157)、TSSVL(配列番号158)、DVKLE(配列番号159)、GTTKD(配列番号160)、NELRD(配列番号161)、DSMLL(配列番号162)、DPKLD(配列番号163)、EPKLD(配列番号164)、DVSIE(配列番号165)、DAKFD(配列番号166)、GAKVD(配列番号167)、DLVRD(配列番号168)、DVPKW(配列番号169)、GVKVD(配列番号170)、ATKEE(配列番号171)、ESAQQ(配列番号172)、GTKVD(配列番号173)、DNGQP(配列番号174)、ESKLA(配列番号175)、DSSSS(配列番号176)、GPVKD(配列番号177)、GPKLD(配列番号178)、DVPHW(配列番号179)、DAPTQ(配列番号180)、EAITT(配列番号181)、ESPSV(配列番号182)、DAAFD(配列番号183)、DIKYE(配列番号184)、GTVKD(配列番号185)、DDERK(配列番号186)、DVRQD(配列番号187)、DSKME(配列番号188)のうち1つを有する天然のFCb2配列の配列である。
【0073】
本発明の別の実施形態によると、本明細書に記述される組換えFCb2の成熟FCb2ペプチド配列は、野生型酵母に見られる全長成熟配列の機能的に活性なバリアントでありえ、点突然変異など本明細書に記載の1つまたは複数の遺伝子修飾を含むが、酵素活性を保持する。特に、本明細書に記載の天然の成熟FCb2ペプチド配列の機能的に活性なバリアントは、少なくともシトクロムb2ドメインおよびフラビンドメインを含む。
【0074】
本発明によると、組換えFCb2は、WO021/167011A1に開示されるアミノ酸配列、配列番号145と異なる。特定の実施形態によると、組換えFCb2は、WO2021/167011A1に開示されるアミノ酸配列と異なる。特定の実施形態によると、組換えFCb2は、WO2021/167011A1に開示される配列番号145~156に示されるアミノ酸配列と異なる。特定の実施形態によると、組換えFCb2は、WO2021/167011A1に開示される配列番号145、146、147、148、149、151、152、153、154、155および/または156に示されるアミノ酸配列と異なる。特定の実施形態によると、組換えFCb2は、WO2021/167011A1に開示される配列番号145~156に示される前記アミノ酸配列の断片または短縮された形態と異なる。特定の実施形態によると、配列番号145は、WO2021/167011A1に開示されるサッカロミセス・セレビシエFCb2のアミノ酸配列である。
【0075】
本発明によると、電極が組換えFCb2を含む場合、このFCb2は、WO2021/167011A1に開示されるアミノ酸配列、配列番号146~156と異なる。特定の実施形態によると、電極が組換えFCb2を含む場合、このFCb2は、配列番号146、147、148、149、150、151、152、153、154、155および/または156に示されるアミノ酸配列と異なる。特定の実施形態によると、電極が組換えFCb2を含む場合、このFCb2は、WO2021/167011A1に開示される配列番号146~156に示される前記アミノ酸配列の断片または短縮された形態と異なる。
【0076】
一実施形態によると、本明細書に記載の組換えFCb2を含む電極は、試料中の乳酸またはヒドロキシ酸の決定のためのバイオセンサに使用されうる。
一実施形態によると、電極を含むバイオセンサが、提供されえ、前記電極は、本明細書に記載の組換えFCb2を含む。前記バイオセンサは、乳酸またはヒドロキシ酸の分析物の決定に使用されうる。
【0077】
デヒドロゲナーゼドメインとも称されるFCb2のフラビンドメインは、そのエナンチオマー選択性、および低ミリモルまたはサブミリモル範囲のKMで一般に特徴付けられる天然の乳酸基質に対する特異性によって一般に特徴付けられる。FMN補因子と共に作用する活性部位において触媒ヒスチジン塩基によって乳酸を酸化すると、2つの電子が引き抜かれ、ピルビン酸が反応産物として放出される。その後、フラビンドメインは、そのように得られた電子の、DCIPのような適切な電子受容体またはパートナーシトクロムドメインへの輸送を支配するが、電子受容体である二原子酸素の受容には一般に応答しない。
【0078】
ヘム(heme)ドメインまたはヘム(heam)ドメインと称されるFCb2のシトクロムドメインは、隣接するフラビンドメインから、生理的な場合と同様にチトクロムcのような外部電子受容体、または人工電極へと電子を往復させる能力によって一般に特徴付けられる。一般に、「b」型の含有されるヘム補因子は、ヘムの反対側にあるライゲートヒスチジンの支えによって配位される。
【0079】
特定の実施形態において、本明細書に記述される組換えFCb2は、配列番号3の残基197~563を含むもしくはそれからなるS.セレビシエFCb2のフラビンドメインおよび配列番号3の残基88~165を含むもしくはそれからなるS.セレビシエFCb2のシトクロムドメインを含む、または異なる酵母のこれらドメインのそれぞれの相同物を含む。
【0080】
例えば、S.セレビシエにおいて、成熟FCb2配列は、I/L/V-x-N/A/Lモチーフの直後に始まり、アミノ酸EPKLD(配列番号45)で始まる。
特定の例において、本明細書に記述される組換えFCb2は、S.セレビシエのFCb2に基づく配列を含み、配列番号37、38または39のうちいずれか1つを好ましくは含む本明細書に記述される短縮されたシグナルペプチド配列を含み:
- 配列番号3のアミノ酸残基88~165に及ぶシトクロム-b2ドメイン;
- 任意選択で、シトクロムb2ドメインとフラビンドメインを接続する配列番号3の残基177~190に及ぶヒンジ領域;
- 配列番号3の残基197~563に及ぶフラビンドメイン;および
- 任意選択で、配列番号3の残基567~591を含む尾部領域を含む成熟FCb2ペプチド配列を含む。
【0081】
特定の例において、組換えFCb2の成熟FCb2配列は、配列番号2、もしくは本明細書に記載の1つもしくは複数の遺伝子修飾、例えば点突然変異もしくは欠失などを含み、S.セレビシエのFCb2の少なくともシトクロムb2ドメインおよびフラビンドメインを含むその機能的に活性なバリアントを含むまたはそれからなる。
【0082】
本明細書では用語「活性」とは、例えば、酵素活性の文脈において、機能的に活性な分子のことを指すものとする。機能的酵素は、酵素基質を認識し、基質の転換産物への転換を触媒する触媒中心によって特に特徴付けられる。フラボシトクロムb2の場合、好ましい基質は、L-乳酸であり、転換産物はピルビン酸である。酵素バリアントは、標準的な試験系においてその酵素活性を決定した際に機能的であると考えられ、例えば、酵素活性は、親(修飾されていないまたは野生型の酵素)の活性の少なくとも50%、または少なくとも60%、70%、80%、90%、100%、もしくはさらに100%超のいずれかである。
【0083】
フラボシトクロムb2バリアントの酵素活性は、チトクロムc、フェリシアン化物または2,6-ジクロロインドフェノール(DCIP)の比色還元を決定するアッセイなど、当業者に公知のアッセイによって容易に決定されうる。特に、本明細書に記述される組換えFCb2は、本明細書に記載されるおよびDiep Leら(Diep Leら2009年)によって記述されるチトクロムcアッセイによって決定される少なくとも1U/mgの酵素活性を含む。
【0084】
一般に、チトクロムcは、ヘムb2からのみ電子を受け取り、フェリシアン化物は、ヘムと酵素中のフラビンセミキノンの両方によって還元される。DCIPは、ヘムbから電子を受け取らないが、フラビンからのみ受け取る。
【0085】
例えばDiep Leらによって以前に記載されているように(Diep Leら2009年)、フラボシトクロムb2バリアントの酵素活性は、30℃および550nmでチトクロムc(CytC)の比色還元から酵素活性を評価するチトクロムcアッセイによって決定されうる;モル吸光係数=20mM-1cm-1。アッセイ混合物は、11mMリン酸カリウム、137mM NaCl、3mM KClでpH7.4に緩衝され、10mM乳酸、20μM CytCを含有し、それは、最終電子受容体として作用し、全酵素の活性を、全ての部分的電子移動の産物として特に検出する(フラビンおよびヘムドメイン)。CytCアッセイは、両方のドメイン間の分子内電子移動(IET)および外部電子受容体への電子移動の効率の尺度を、電極上の酵素の応答の指標としてそれにより提供する。酵素活性の1単位は、アッセイ条件下で1分間に1μモルの乳酸を酸化させる酵素の量(U/mg)と定義される。乳酸の反応化学量論:乳酸1分子当たり2つの電子が獲得され、2分子のCytCへと個々に移動されるので、CytCは1:2である。他の基質で活性を検出する場合、乳酸は、他の化合物に交換されうる。
【0086】
例えば、以前に記載されているように(Diep Leら2009年)、フラボシトクロムb2バリアントの酵素活性は、30℃および420nmでフェリシアン化物(Fe(III)CN6
3-)の比色還元を評価することによっても決定されうる;モル吸光係数=1.0mM-1cm-1。アッセイ混合物は、CytCアッセイについて記述される通り処方されるが、CytCの代わりに13mM フェリシアン化物を含有する。乳酸の反応化学量論:乳酸1分子当たり2つの電子が獲得され、2分子のフェリシアン化物へと個々に移動されるので、フェリシアン化物は1:2である。フェリシアン化物の還元は、FMNドメインでも同様に起こりうるので、ヘムによる最終電子移動に特異的でない。他の基質で活性を検出する場合、乳酸は、他の化合物に交換されうる。
【0087】
例えば(Gaumeら1995年)に以前に記載されているように、フラボシトクロムb2バリアントの酵素活性は、30℃および600nmで2,6-ジクロロインドフェノール(DCIP)の比色還元を評価することによっても決定されうる;モル吸光係数=22mM-1cm-1。アッセイ混合物は、CytCアッセイについて記述される通り処方されるが、CytCの代わりに0.1mM DCIPを含有する。乳酸の反応化学量論:乳酸分子当たり2つの電子が獲得され、1つのDCIP分子を移動するので、DCIPは1:1である。CytCおよびフェリシアン化物とは対照的に、DCIPは、パートナーヘムに往復する前に、FMNドメインにおいて一次電子移動から電子を受容する。他の基質で活性を検出する場合、乳酸はまた、他の化合物に交換されうる。
【0088】
本明細書に使用される用語「活性の増大」、または「増大した活性」、等は、酵素の活性の検出可能な増大のことを指しうる。本明細書に使用される用語「活性の増大」、または「増大した活性」は、例えば本明細書に記載の短縮されたシグナルペプチド配列を含むFCb2バリアントなどの修飾された酵素が、特定の遺伝子修飾を持たない酵素のような、同型の相当する酵素より高い活性を示すことを意味しうる。例えば、修飾または操作された酵素の活性は、同型の操作されていない酵素、例えば、野生型酵素の活性よりも約5%もしくはそれ以上、約10%もしくはそれ以上、約15%もしくはそれ以上、約20%もしくはそれ以上、約30%もしくはそれ以上、約50%もしくはそれ以上、約60%もしくはそれ以上、約70%もしくはそれ以上、または約100%もしくはそれ以上高くてもよい。組換えまたは操作された細胞中の特定のタンパク質もしくは酵素の活性は、親細胞、例えば、操作されていない細胞中の同型のタンパク質もしくは酵素の活性より約5%もしくはそれ以上、約10%もしくはそれ以上、約15%もしくはそれ以上、約20%もしくはそれ以上、約30%もしくはそれ以上、約50%もしくはそれ以上、約60%もしくはそれ以上、約70%もしくはそれ以上、または約100%もしくはそれ以上高くてもよい。細胞中の酵素またはタンパク質の増大した活性は、当業者に公知の任意の方法によって検証されうる。
【0089】
用語「機能的バリアント」または「機能的に活性なバリアント」は、天然に存在する対立遺伝子バリアント、および突然変異体または他の任意の天然に存在しないバリアントも含む。当業者には公知であるように、相同物とも呼ばれる対立遺伝子バリアントは、核酸もしくはポリペプチドの生物学的機能を基本的に改変しないヌクレオチドもしくはアミノ酸の1つもしくは複数の置換、欠失または付加を有すると特徴付けられる核酸もしくはペプチドの選択的形態である。特に、機能的バリアントは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19もしくは20アミノ酸残基の置換、欠失および/もしくは付加、またはその組合せを含んでもよく、特に、置換、欠失および/または付加は、保存的修飾であり、酵素の比活性度を低下させない。特に、本明細書に記載のFCb2の機能的に活性なバリアントは、本明細書に記載のCytCアッセイで決定した通り、乳酸に対して少なくとも1U/mgの特異的酵素活性を含む。
【0090】
特に、本明細書に記載の機能的バリアントは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39もしくは40アミノ酸を超えないもしくは以下の置換、欠失および/または付加を含み、特に、それらは保存的修飾であり、酵素の比活性度を低下させない。特に、本明細書に記載の機能的に活性なバリアントは、15個以下、好ましくは10個もしくは5個以下のアミノ酸置換、欠失および/または付加を含み、特にそれらは保存的修飾であり、酵素の比活性度を低下させない。
【0091】
特に、本明細書に記述される機能的に活性なバリアントは、それぞれの野生型酵素の少なくとも40、50、60、70、80もしくは90%またはより高い酵素活性を含む。特定の例によると、本明細書に記述される組換えFCb2が、S.セレビシエFCb2から得られる場合に、前記組換えFCb2は、配列番号3を含むFCb2の酵素活性の少なくとも40、50、60、70、80もしくは90%またはより高くを含む場合、機能的に活性なバリアントである。
【0092】
機能的バリアントは、例えば1つもしくは複数の点突然変異によるポリペプチドまたはヌクレオチド配列の配列改変によって得られてもよく、配列改変は、例えば安定性などの酵素の特徴を保持するまたは改善する。そのような配列改変は、(保存的)置換、付加、欠失、突然変異および挿入を含みうるが、これに限定されない。保存的置換とは、側鎖および化学的特性が関連するアミノ酸のファミリー内で起こる置換である。そのようなファミリーの例は、塩基性側鎖、酸性側鎖、無極性脂肪族側鎖、無極性芳香族側鎖、非荷電極性側鎖、小さな側鎖、大きな側鎖、等を持つアミノ酸である。
【0093】
点突然変異は、異なるアミノ酸に対する、アミノ酸の1つもしくは複数の単一(非連続)または二重の置換もしくは交換、欠失もしくは挿入において操作していないアミノ酸配列と異なるアミノ酸配列の発現をもたらすポリヌクレオチドの操作として特に理解される。
【0094】
特定の実施形態によると、本明細書に記述されるFCb2は、1つまたは複数のタグ配列、特にN末端タグ配列を含む。特に、そのようなタグ配列は、本明細書に記述される組換えFCb2のN末端メチオニンよりC末端である。そのようなタグ配列は、2、4、5、6もしくは10アミノ酸より多い、20もしくは50個以下またはより多いアミノ酸の任意の数のアミノ酸を含んでもよい。特に、本明細書に使用されるタグ配列は、当業者に公知の任意のタグ配列でもよい。特に、本明細書に使用されるタグ配列は、親和性タグ、溶解度増強タグまたは監視タグから選択される。
【0095】
親和性タグは、それが結合しているタンパク質の精製に例えば使用されうるアミノ酸配列である。これら親和性タグは、クロマトグラフィー樹脂のような固体支持体の適切なリガンドに対してまたは樹脂に対して直接、高い親和性を有する。特定の樹脂に対する親和性タグを有するタンパク質の選択的結合により、タンパク質は、1つのクロマトグラフィー工程のみで非常に有効に精製されうる。特定の実施形態によると、本明細書に使用される親和性タグ配列は、ヒスチジン(His)タグ、特にポリヒスチジンタグ、ポリアルギニンタグ、FLAGタグ、Strepタグ、ストレプトアビジン結合ペプチド(SBP)タグ、カルモジュリン結合ペプチド(CBP)タグ、S-tag、HAタグ、c-MycタグおよびSUMOタグ、または融合されるタンパク質の効率的な精製に有用であることが公知の他の任意のタグから選択される。好ましくは、タグは、1つまたは複数のHを含むHisタグ、特にヘキサヒスチジンタグである。特に、ポリまたはヘキサヒスチジンタグ(Hisタグ)を含むタンパク質は、クロマトグラフィーを使用して、例えば固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)によって捕捉、精製されうる。
【0096】
溶解度増強タグは、本明細書に記述されるFCb2のN末端に融合されうる。溶解度増強タグは、宿主細胞、例えばP.パストリス(P.pastoris)の細胞質ゾル中で発現されると、タグのないタンパク質の発現と比較して、可溶性タンパク質の力価を増大させうる。さらなる特定の実施形態によると、本明細書に使用される溶解度増強タグ配列は、カルモジュリン結合ペプチド(CBP)、ポリArg、ポリLys、タンパク質Dタグ(dTAG)、ブドウ球菌プロテインAのZドメインおよびチオレドキシンまたは例えば、宿主細胞における発現の間に融合されるタンパク質の可溶性を改善することが公知の他の任意のタグから選択される。特に、溶解度増強タグは、T7タグ、好ましくはT7A、T7A1、T7A2、T7A3、T7A4、T7A5、T7B、T7B1、T7B2、T7B3、T7B3、T7B4、T7B5、T7B6、T7B6、T7B7、T7B8、T7B9、T7B10、T7B11、T7B12、T7B13およびT7Cからなる群から選択される。
【0097】
さらなる特定の実施形態によると、本明細書に使用される監視タグ配列は、m-Cherry、GFPもしくはf-アクチン、または紫外線、赤外線、ラマン、蛍光などのような、単純なin situ、インライン、オンラインもしくはアットライン検出器によって発酵、単離および精製を含めた生産工程中の組換え酵素を検出もしくは定量化するのに有用な他の任意のタグである。
【0098】
宿主細胞において本明細書に記述される組換えFCb2を産生する方法が、本明細書でさらに提供される。
FCb2分子は、基質乳酸からFMN、ヘムbを経て、最終的に電極へと直接電子移動を確立するために三次元構造内に組み込まれた補因子FMNおよびヘムbを必要とするので、本発明の組換えFCb2の発現は、これら補因子を充分な量産生する能力がある宿主を使用して実行されなければならない。特にヘムb補因子を充分に産生するために、本発明による酵母生物が使用される。酵母細胞は、補因子としてヘムbを有する組換えタンパク質を成功裏に産生することができる。対照的に、細菌性細胞は、充分な量の鉄補因子ヘムbを産生することが一般にできない。また、発現系は、酵素の比活性度および安定性に影響を与える。本明細書で言及される用語「宿主細胞」は、本明細書に記述される発現産物をコードしているポリヌクレオチドを含む核酸構築物もしくは発現ベクターによる形質転換、トランスフェクション、形質導入などの作用を受けやすい、さもなければ本明細書に記述される組換え酵素を導入する作用を受けやすい任意の酵母細胞型と理解される。特に、宿主酵母細胞は、酵素の発現を可能にする条件下で維持される。宿主酵母細胞は、一倍体、二倍体または倍数体細胞でありうる。
【0099】
また、「宿主細胞株」または「産生細胞株」についても本明細書に記述され、その株は、本明細書に記述される組換え酵素などの産生過程の産物を得るためにバイオリアクタにおいて育生/培養するのにすぐに使用できる酵母細胞株であると一般に理解される。本明細書に記載の酵母宿主または酵母細胞株は、所望の組換えタンパク質を産生するために育生/培養されうる組換え酵母生物と特に理解される。
【0100】
そのような宿主細胞の遺伝子修飾は、細胞内にポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドを導入する修飾;親細胞の遺伝物質に変化をもたらす化学修飾(化学物質への曝露)を含めて、親細胞の遺伝物質の1つもしくは複数のヌクレオチドを置換、付加(すなわち、挿入)、または欠失させる修飾を含む。遺伝子修飾は、参照される種の異種性または同種性の修飾を含む。遺伝子修飾は、ポリペプチドのコード領域の修飾をさらに含む。遺伝子修飾は、遺伝子の発現またはオペロンの機能を変化させる非コード調節領域の修飾も含む。非コード領域は、5’非コード配列(コード配列の5’側)および3’非コード配列(コード配列の3’側)を含む。
【0101】
本明細書に使用される「遺伝子」とは、本明細書に記述される組換えFCb2など特定のタンパク質をコードする核酸断片のことを指し、それは、5’非コード配列および3’非コード配列(コード配列に対する相対的位置を参照して3’および5’)など、少なくとも1つの調節配列を任意選択で含みうる。
【0102】
一部の実施形態において、本明細書に記述される組換えFCb2をコードしている遺伝子は、酵母細胞に導入されても、酵母細胞の内在性遺伝物質(例えば、染色体)に挿入されてもよい。この遺伝子は、内在性遺伝子を破壊するために酵母細胞の特定の内在性遺伝子の1つまたは複数の場所に挿入されてもよい。破壊しようとする特定の内在性遺伝子は、天然のFCb2遺伝子を含んでもよい。
【0103】
組換えFCb2をコードする遺伝子は、酵母細胞に導入されうるが、酵母細胞の内在性遺伝物質に挿入されえない。例えば、遺伝子は、プラスミドなどの発現ベクターに含まれ、酵母細胞の内在性遺伝物質から分離されたままでもよい。
【0104】
遺伝子は、発現可能な形態で酵母細胞内へ導入され、酵母細胞内でその遺伝子産物を生成するために発現されうる。発現可能な形態は、遺伝子が発現調節配列に作動的に連結される構造でありうる。例えば、遺伝子は、酵母細胞において発現可能になるように外来性エンハンサー、オペレーター、プロモーターおよび転写ターミネータから選択される少なくとも1つの配列に作動的に連結されてもよく、または酵母細胞において発現可能になる酵母細胞の内在性調節配列に連結されてもよい。
【0105】
遺伝子は、酵母細胞に遺伝物質を導入する公知の任意の方法を使用して酵母宿主細胞に導入されうる(例えば、R.Gietzら、Biotechniques30:816~831頁、2001年4月を参照のこと)。導入には、スフェロプラスト法、無傷の酵母細胞の形質転換、エレクトロポレーションまたはその組合せを含みうる。例えば、無傷の酵母細胞の形質転換は、酵母細胞によるプラスミドなどのDNAの取り込みを促進するために特定の一価のアルカリ陽イオン(Na+、K+、Rb+、Cs+およびLi+)をPEGと組み合わせて使用してもよい。例えば、無傷の酵母細胞の形質転換は、PEG、LiAc、担体ssDNA、プラスミドDNAおよび酵母細胞の水性溶液に熱ショックを適用することを含んでもよい。例えば、エレクトロポレーションは、酵母細胞およびプラスミドDNAなどのDNAを含む混合培地に電気パルスを印加することを含んでもよい。
【0106】
酵母への導入において、遺伝子は、酵母細胞の親細胞の内在性遺伝物質に対する相同配列を持つベクター中に含まれてもよい。相同配列は、親酵母細胞の内在性遺伝物質中に存在する標的配列に相補的であり、したがって相同組換えによって標的配列と置換されうる。ベクターは、標的配列の5’末端および3’末端にそれぞれ相同な2つの配列を含んでもよい。この点に関して、導入は、接触中または後に選択圧下で酵母細胞を培養することを含んでもよい。選択圧とは、相同組換えが起こった細胞だけを選択することができる材料または状態を示しうる。選択圧は、抗生物質存在下で培養することを含みうる。この点に関して、ベクターは、酵母細胞に抗生物質抵抗性を与える遺伝子、例えば、抗生物質を分解する酵素をコードする遺伝子を含んでもよい。
【0107】
宿主細胞株に関して、用語「細胞培養」または「育生」(「培養する」が、本明細書において同義的に使用される)は、「発酵」とも称され、人工的な、例えば、in vitro環境において、細胞の成長、分化または活性もしくは休止状態での継続的な生存に有利に働く条件下で、産業界において公知の方法に従って特に制御されたバイオリアクタ内で細胞を維持することが意味される。育生する場合、細胞培養は、細胞培養の育生を支持するのに適切な条件下で培養容器中の細胞培養培地または基質と接触させられる。特定の実施形態において、酵母細胞を育生するまたは成長させるための当業者に周知の標準的な細胞培養技術に従って本明細書に記載の培養培地を使用して、細胞を培養する。
【0108】
酵母宿主細胞の育生は、1、2または多重相であってもよい。
特定の実施形態によると、細胞の成長および組換えタンパク質の産生は、単一相である。この場合、育生過程に使用される培地は、育生過程の最初からタンパク質の産生に必要とされるそれぞれの成分を含む。
【0109】
細胞培養培地は、制御された、人工的な、in vitro環境で細胞を維持し、成長させるのに必要な栄養素を提供する。細胞培養培地の特徴および組成は、特定の細胞要件によって変化する。重要なパラメーターには、浸透圧、pHおよび栄養素処方を含む。栄養素のフィードは、当業者に公知の方法に従って連続または非連続的様式で行われてもよい。
【0110】
細胞培養は、バッチ過程または半バッチ過程でもよい。バッチ過程とは、任意選択で本明細書に記載のFCb2の産生に必要な基質を含めて、細胞の育生に必要な全ての栄養素が、発酵中にさらなる栄養素の追加供給なく、初期培養培地中に含有される育生様式である。半バッチ過程では、フィード相が、バッチ相後に行われる。フィード相において、誘導物質、例えばメタノールなどの1つまたは複数の栄養素が、フィードによって培養に供給される。特定の実施形態において、本明細書に記載される方法は、半バッチ過程である。特に、本明細書に記載の酵素をコードしている核酸構築物で形質転換した宿主細胞は、成長相培地内で培養され、本明細書に記述される組換えタンパク質を産生するために誘導相培地に移行される。
【0111】
別の実施形態において、本明細書に記述される宿主細胞は、連続様式、例えば恒成分培養で育生される。連続発酵過程は、バイオリアクタへの、定義され、一定で連続的な速度の新しい培養培地のフィードによって特徴付けられ、その際培養ブロスは、同じく定義された、一定で連続的な除去速度でバイオリアクタから同時に除去される。同じ一定レベルで培養培地、フィード速度および除去速度を保持することにより、育生パラメーターおよびバイオリアクタ内の条件は、一定のままである。
【0112】
本明細書に記載のポリペプチド、タンパク質または酵素などの発現産物は、宿主細胞内で発現産物を発現させるためのそれぞれのコードポリヌクレオチドもしくはヌクレオチド配列を導入するか、または発現系内にあるもしくは単離されたそれぞれの発現産物を導入するかいずれかによって宿主細胞に導入されうる。宿主細胞に発現カセット、ベクターを導入する、さもなければ(例えば、コード)ヌクレオチド配列を導入するための公知の任意の手順が、使用されうる(例えば、Sambrookらを参照のこと)。
【0113】
本発明により、産生過程を試行または産業規模で実行することが特に可能になる。
本明細書に記載のバイオマスの蓄積を可能にする成長培地は、特に基礎成長培地、一般に炭素供給源、窒素供給源、硫黄供給源およびリン酸供給源である。一般に、そのような培地は、さらなる微量元素およびビタミンを含み、アミノ酸、ペプトンまたは酵母抽出物をさらに含んでもよい。
【0114】
発酵は、pH3~7.5で好ましくは実施される。
典型的な発酵時間は、20℃~35℃、好ましくは22~30℃の範囲の温度で約24~120時間である。
【0115】
特に、細胞は、本明細書に記述される組換え酵素を産生するのに適切な条件下で育生され、その酵素は細胞または培養培地から精製されうる。
本明細書では用語「外来性」とは、宿主細胞に導入された参照分子(例えば、核酸)のことを指す。核酸は、任意の適切な様式で宿主内に外部から導入されうる。例えば、核酸は、宿主細胞に導入され、宿主染色体中に挿入されえ、または核酸は、宿主染色体に組み込まれない発現ベクター(例えば、プラスミド)などの非染色体性遺伝物質として宿主に導入されうる。タンパク質をコードしている核酸は、発現可能な形態で(すなわち、核酸が転写され、翻訳されうるように)導入されるべきである。
【0116】
用語「内在性」とは、特定の遺伝子修飾(例えば、「野生型」細胞または親細胞の遺伝的構成物、形質もしくは生合成活性)の前に宿主細胞中にすでに存在している参照分子(例えば、核酸)のことを指す。
【0117】
用語「異種性」とは、参照種以外の供給源から得られる参照分子(例えば、核酸)のことを指し;用語「相同性」とは、宿主親細胞から得られる分子(例えば、核酸)または活性のことを指す。したがって、外来性分子(例えば、外来性コード核酸の発現)は、異種性(例えば、異なる種由来のコード核酸)または相同性(例えば、同じ種由来のコード核酸の追加のコピー)でもよい。
【0118】
本明細書では、ポリヌクレオチドまたはヌクレオチド配列の発現に関する用語「発現」とは、mRNAへのDNA転写、mRNAプロセシング、非コードmRNA成熟、mRNA輸出、翻訳、タンパク質折りたたみおよび/またはタンパク質輸送からなる群から選択される工程の少なくとも1つを包含することを意味する。所望のヌクレオチド配列を含有する核酸分子を使用して、そのようなヌクレオチド配列にコードされる発現産物(例えば、タンパク質またはRNA分子などの転写産物)を産生することもできる。所望のヌクレオチド配列を発現させるには、発現系を使用することが都合よく、その発現系は、宿主細胞または宿主細胞株に特定のヌクレオチド配列を発現させるために必要に応じてin vitroもしくはin vivo発現系でありうる。一般に、宿主細胞は、所望のヌクレオチド配列およびそれに作動的に連結されたプロモーターを任意選択でさらなる発現制御配列もしくは他の調節配列と一緒に含む発現カセットを含む発現系でトランスフェクトまたは形質転換される。特定の発現系は、1つまたは複数の発現カセットを含むベクターなどの発現構築物を利用する。
【0119】
本明細書では用語「発現構築物」は、宿主を形質転換し、導入された配列の発現(例えば転写および翻訳)を促進するように、DNA配列が宿主細胞中へ導入される媒体、例えばベクターまたはプラスミドを意味する。本明細書では「発現構築物」は、自己複製するヌクレオチド配列とゲノムに組み込まれるヌクレオチド配列の両方を含む。
【0120】
用語「ベクター」、「DNAベクター」および「発現ベクター」は、宿主を形質転換し、導入された配列の発現(例えば転写および翻訳)を促進するように、DNA配列(例えば外来遺伝子)が宿主細胞内に導入されうる媒体を意味する。本明細書では「ベクター」は、自己複製するヌクレオチド配列と人工染色体などのゲノムに組み込まれるヌクレオチド配列の両方を含む。プラスミドは、本発明の好ましいベクターである。
【0121】
特定の実施形態において、発現ベクターは、複数の発現カセットを含有してもよく、それぞれは、作動可能な連結で少なくとも1つのコード配列およびプロモーターを含む。
「カセット」とは、DNAコード配列または定義された制限部位でベクターに挿入されうる発現産物をコードするDNAのセグメントのことを指す。カセットの制限部位は、適当な読み枠にカセットを確実に挿入するように設計される。本明細書では「発現カセット」とは、発現系は、例えば、コードされているタンパク質または他の発現産物を含めたそれぞれの発現産物を産生するためにそのような発現カセットを使用できるように、作動可能な連結で所望のコード配列および制御配列を含有する核酸分子のことを指す。特定の発現系は、発現カセットで形質転換またはトランスフェクトされる宿主細胞もしくは宿主細胞株を利用し、その後その宿主細胞は、in vivoで発現産物を産生することができる。宿主細胞の形質転換を実施するために、発現カセットは、宿主細胞に導入されるベクターに都合よく含まれてもよく;しかしながら、関連するDNAはまた、宿主染色体内に組み込まれてもよい。コード配列は、特定のポリペプチドもしくはタンパク質の特定のアミノ酸配列をコードするか、もしくは他の任意の発現産物をコードする一般にコードDNAまたはコードDNA配列である。
【0122】
用語「発現ベクター」は、ポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドを含み、その発現を提供する制御配列に作動的に連結されている直鎖または環状DNA分子を意味する。ベクターは、適切な宿主生物中でのクローニングされた組換えヌクレオチド配列、すなわち組換え遺伝子の転写およびそのmRNAの翻訳に必要とされるDNA配列を一般に含む。コードDNA配列または発現産物をコードしているDNA分子のセグメントは、定義された制限部位でベクターに好都合に挿入されうる。ベクターを作製するために、異種性外来DNAは、ベクターDNAの1つまたは複数の制限部位に挿入されえ、次いで伝搬性のベクターDNAと共にベクターによって宿主細胞内に運ばれる。ベクターは、発現系、例えば1つまたは複数の発現カセットを含むことが好ましい。発現カセットの制限部位は、適当な読み枠にカセットを確実に挿入するように設計される。
【0123】
発現を得るために、例えば本明細書に記述されるポリペプチドまたはタンパク質のいずれかなど、所望の発現産物をコードしている配列は、転写を指示するためのプロモーターを含有する発現ベクターに一般にクローニングされる。適切な発現ベクターは、コードDNAを発現するのに適した調節配列を一般に含む。調節配列の例には、プロモーター、オペレーター、エンハンサー、リボソーム結合部位、ならびに転写および翻訳の開始および終結を制御する配列を含む。調節配列は、発現しようとするDNA配列に一般に作動的に連結される。
【0124】
プロモーターは、コードDNAの発現を開始、調節、さもなければ媒介または制御するDNA配列と本明細書において理解される。プロモーターDNAおよびコードDNAは、同じ遺伝子由来または異なる遺伝子由来であってもよく、同じもしくは異なる生物由来であってもよい。組換えクローニングベクターは、クローニングまたは発現用の1つもしくは複数の複製系、宿主における選択用の1つもしくは複数のマーカー、例えば、抗生物質抵抗性、1つもしくは複数の核局在化シグナル(NLS)および1つもしくは複数の発現カセットを多くの場合含む。
【0125】
本明細書では用語「配列同一性」は、2つのアミノ酸配列間または2つのヌクレオチド配列間の関連性と理解され、配列同一性または配列相補性の程度によって記述される。親ヌクレオチドまたはアミノ酸配列と比較したバリアント、相同物もしくはオルソログの配列同一性は、2つ以上の配列の同一性の程度を示す。2つ以上のアミノ酸配列は、ある程度、100%以下で、対応する位置に同じまたは保存的アミノ酸残基を有することができる。2つ以上のヌクレオチド配列は、ある程度、100%以下で、対応する位置に同じまたは保存的塩基対を有することができる。
【0126】
配列類似性検索は、過剰な(例えば、少なくとも50%)配列同一性を持つ相同体を同定するのに有効で信頼性が高い戦略である。しばしば使用される配列類似性検索ツールは、例えばBLAST、FASTAおよびHMMERである。
【0127】
配列類似性検索は、過剰な類似性、および共通の祖先を反映する統計的に有意な類似性を検出することによってそのような相同タンパク質またはポリヌクレオチドを同定することができる。相同物は、オルソログを包含してもよく、それは、異なる生物における同じタンパク質、例えば、異なる生物または種におけるそのようなタンパク質のバリアントと本明細書において理解される。
【0128】
2つの相補配列の%相補性を決定するためには、%相補性が、上述のアルゴリズムを使用して第1の配列と第2の変換された配列の間の%同一性として次いで算出されうる前に、2つの配列のうち一方が、その相補配列へと変換される必要がある。
【0129】
本明細書に記述されるアミノ酸配列、相同体およびオルソログに関して「パーセント(%)同一性」とは、配列を整列させた後、必要に応じて、最大のパーセント配列同一性を達成するためにギャップを導入し、どんな保存的置換も配列同一性の一部と考慮することなく、特定のポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージと定義される。当業技術者は、比較される配列の全長にわたって最大の整列化を達成するために必要な任意のアルゴリズムを含めて、整列化を測定するための適切なパラメーターを決定することができる。配列同一性について決定されるパーセンテージの場合、完全なヌクレオチドまたはアミノ酸においてはありえない算術的小数位が、生じる可能性はありうる。この場合、パーセンテージは、全ヌクレオチドまたはアミノ酸に対して切り上げられるものとする。
【0130】
本明細書に記述される目的のために、2つのアミノ酸配列間の配列同一性は、標準的な方法を使用して、例えばNCBI BLASTプログラムバージョン2.2.29(2014年1月6日)を使用して決定される。
【0131】
例えば、核酸分子またはその部分、特にコードDNA配列のヌクレオチド配列に関して「パーセント(%)同一性」とは、配列を整列させた後、必要に応じて、最大のパーセント配列同一性を達成するためにギャップを導入し、どんな保存的置換も配列同一性の一部として考慮することなく、DNA配列中のヌクレオチドと同一である候補DNA配列中のヌクレオチドのパーセンテージと定義される。パーセントヌクレオチド配列同一性を決定することを目的とした整列化は、当業者の範囲内にある様々な手段、例えば公的に利用可能なコンピュータソフトウェアを使用して達成されうる。当業技術者は、比較される配列の全長にわたって最大の整列化を達成するために必要な任意のアルゴリズムを含めて、整列化を測定するための適切なパラメーターを決定することができる。
【0132】
最適な整列化は、配列を整列させるための任意の適切なアルゴリズムを使用して決定されえ、その非限定的な例には、Smith-Watermanアルゴリズム、Needleman-Wunschアルゴリズム、MAFFTに基づくアルゴリズム:高速フーリエ変換を使用する多重整列化、Burrows-Wheeler Transformに基づくアルゴリズム(例えば、Burrows-Wheeler Aligner)、Clustal W、Clustal X、BLAT、Novoalign(Novocraft Technologies;novocraft.comで利用可能)、ELAND(Illumina、San Diego、CA)、SOAP(soap.genomies.org.cnで利用可能)、およびMaq(maq.sourceforge.netで利用可能)を含む。
【0133】
本明細書に記述される例は、本発明の例示であり、本発明を限定することを意図するものではない。多くの修正および変更が、本発明の範囲を逸脱することなく、本明細書に記述および例示される技術に対して行われてもよい。したがって、例は、単なる例示であり、本発明の範囲を限定するものでないことは理解されるべきである。
【実施例】
【0134】
フラボシトクロムb2(FCb2)は、「ヒンジ」リンカーを介して接続される2つの機能的ドメインを有する(57kDa単量体)。S.セレビシエ由来FCb2は、最も研究されている代表例であり、結晶化されている(PDB:1FCB)。以下のセクションが同定されている:
- アミノ酸残基88までのN末端アミノ酸残基は、ミトコンドリア内への細胞性標的化に関与すると仮定される。このいわゆる「移行ペプチド」は、移行に際して切断される;
- シトクロム-b2ドメイン:非共有結合性ヘムbを含む<10kDaドメイン:(アミノ酸残基88~165に及ぶ);
- シトクロムb2ドメインとフラビンドメインを接続するドメイン接続リンカーを含むヒンジ領域(残基177~190に及ぶ);
- FMNを含有するおよそ45kDaのフラビンドメイン(残基197~563に及ぶ);
- C末端で伸長し、二量体の周りを包む尾部領域(残基567~591を含む)。
【0135】
酵母におけるFCb2の生理的役割は、ミトコンドリア膜貫通空間(IMS)におけるその存在を利用しており、このミトコンドリアの下位区画におけるその存在は、S.セレビシエ由来FCb2に関する2つの刊行物によって確認されている(Grandier-Vazeilleら2001年;Vogtleら2012年)。酵母細胞内のFCb2の最終目的地は、実験的に確認することができたので、細胞質ゾルにおいて前駆体として合成される可能性が非常に高く、前駆体内の標的化シグナルの存在を利用して、ある区画から他の区画への指向性輸送が容易になる。
【0136】
生化学的データから、結晶構造がこれまでに解像されている唯一のFCb2、PDB:1FCB(XiaおよびMathews1990年)であるS.セレビシエ由来FCb2に対して明確になったように(Ghrir、BecamおよびLederer1984年;Ledererら1985年)、FCb2配列の分析により、成熟FCb2酵素には含有されず、組み込みの間に標的化シグナルまたはシグナルペプチドとして除去されると推定されるN末端配列部分を、FCb2遺伝子が実際に含有することが明らかになった。ScFCb2に加えて、文献は、ウィカハモマイセス・アノマルス由来FCb2(WaFCb2、以前はハンゼヌラアノマラ)のデータを提供しており、文献が成熟WaFCb2を生じるN末端のプロセシングについて報告する通り、ミトコンドリア移行ペプチドの切断が示される(Haumontら1987年;Blackら1989年)。
【0137】
ミトコンドリア内への取り込みは、共通配列を共有するのではなく、類似の物理化学的特性を持つ配列区間の存在を利用すると考えられている(Abeら、2000年)。S.セレビシエミトコンドリアプロテオームのペプチダーゼ切断部位の分析は、ミトコンドリア膜を通る経路に応じて、先行配列中にいくつかの配列パターンを同定した。なお、これらパターンの保存が65%以下であったことは、配列保存が本質的に不均質であることを際立たせた(Gakh、CavadiniおよびIsaya、2002年)。
【0138】
FCb2のIMS内への輸送は、ミトコンドリアへの輸送、およびその後の2つの工程:(1)ミトコンドリア外膜を通って移動し、その後(2)膜間隙へ組み込まれる、を少なくとも含む必要がある。工程(2)に含まれる基本的な過程にもかかわらず、IMSへのFCb2酵素の最終的な標的化は、なお謎であり、ミトコンドリア外膜(およびその後内膜)を通る先行する工程(1)のより包括的な理解が、利用可能である。この初期工程は、受容体および膜に組み込まれた転位酵素によるシグナル認識、続いて起こる専門のミトコンドリアプロセシングペプチダーゼ(MPP)による切断を介する放出に支配される。ミトコンドリア前駆体タンパク質の配列分析について記述している刊行物により、MPPによって切断される先行配列の大多数に見られる3つの主要な特徴(Gakh、CavadiniおよびIsaya、2002年)、すなわち、
(i)全体的に正荷電、
(ii)両親媒性αらせんを形成すると予測される能力、および
(iii)-2位(「R-2ルール」)におけるアルギニン残基の存在が明らかになった。
【0139】
4つの切断部位モチーフが報告されている:
・xRx<>x(S/x) (R-2モチーフ);
・xRx(Y/x)<>(S/A/x)x (R-3モチーフ)
・xRx<>(F/L/I)xx(S/T/G)xxxx↓ (R-10モチーフ、順次MPP,MIP)
・xx<>x(S/x) (Rモチーフなし)
S.セレビシエの71個のミトコンドリアマトリックス標的化先行配列の調査において、R-2、R-3またはR-10モチーフは、先行配列のおよそ65%にしか見られなかった。したがって、MPP切断部位におけるアミノ酸配列の縮重は、相対的に程度が高く、このため、そのような部位が、統計または他の方法によって予測されうる信頼レベルは限定される。これら予測は、MPPによる最初の切断に続く事実によってしばしば複雑であり、多くの先行配列は、基質認識の異なる要件で、異なる場所で他のペプチダーゼによって再び切断される。これは、FCb2 N末端の二次プロセシングになる可能性が高い。
【0140】
実施例1
FCb2のN末端リーダー配列の特徴付け
N末端シグナルペプチドによるミトコンドリアへの細胞標的化を予測することが可能なオンラインツールは、少ししか現在利用できない
・Mitofates(http://mitf.cbrc.jp/MitoFates/cgi-bin/top.cgi)
・Predotar(http://urgi.versailles.inra.fr/predotar/predotar.html)
・TargetP(http://www.cbs.dtu.dk/services/TargetP/)
最も確立されている、TargetP-2.0(http://www.cbs.dtu.dk/services/TargetP/)は、様々な生物および区画について細胞性運命を予測することができる。サッカロミセス・セレビシエ(ScFCb2)、クルイベロマイセス・マルキシアヌス(KmFCb2)、ウィカハモマイセス・アノマルス(WaFCb2)およびカンジダ・グラブラータ(CangFCb2)(配列番号3、7、11、16)の確立されたFCb2配列を用いて試験を実施して、予測に対する洞察を得た。
FCb2リーダー配列の分析
・UniprotおよびNCBIに対するBLAST検索から得られたFCb2配列をアセンブリし、酵母(サッカロミセス科)からのエントリに制限した。全37個の配列を集め、1FCB結晶構造(配列番号1)は、成熟し、プロセシングされたN’-末端を含有するので陽性対照として役立った。Fastaファイルを、BLAST検索からダウンロードし、Jalviewにロードした。配列の重複を、リストから除去した。最も可能性がある配列整列化を、G-INS-Iプリセットを用いてMAFFTアルゴリズムを使用して算出し、整列化を、明らかなエラーについて検査した。整列化を、構造的に関連する部分の保存されている「WVVI」までの最初の164位まで次いで短縮し、保存のためにカラー化した。
【0141】
第2の工程において、これら関連する領域を、WebLogoオンラインツール(https://weblogo.berkeley.edu/logo.cgi)を使用して特定の残基の保存について分析した。
結果
サッカロミセス・セレビシエ(ScFCb2)
TargetP(
図1)は、位置R-A-Y32<>G33に対して93%の信頼性でミトコンドリア取り込みシグナル切断部位を認識し、TOM認識およびMPP切断R3モチーフ(R-x-Y/x<>S/A/x)を反映する(<>は、その位置で行われる切断を表す)。別のペプチダーゼ切断部位は、N80/81Eと推定される。この位置における切断は:I-D-N<>E-P-K-L-D...で切断する成熟FCb2タンパク質配列をもたらすことになる。
【0142】
Mitofatesは、位置RA-Y32<>G33で、99.6%の信頼性で同じMPP(ミトコンドリアプロセシングペプチダーゼ)切断部位を認識した。追加のペプチダーゼ切断部位は、Mitofatesによって全く予測されなかった。
クルイベロマイセス・マルキシアヌス(KmFCb2)
TargetP(
図2)は、92%の信頼性でミトコンドリア取り込みシグナル切断部位を認識し、これは、位置R-Y33<>L34-Sに対してであり、TOM認識およびMPP切断R2モチーフ(R-x<>x-S)を反映する。第2のペプチダーゼ切断部位が示されるが、定量化不能であった。
ウィカハモマイセス・アノマルス(WaFCb2)
TargetP(
図3)は、92%の信頼性でミトコンドリア取り込みシグナル切断部位を認識し、これは、位置Q-R-F27<>N28-Sに対してであり、TOM認識およびMPP切断R2モチーフ(R-x<>x-S)を反映する。他のペプチダーゼ切断部位が示されるが、定量化不能であった。
カンジダ・グラブラータ(CangFCb2)
TargetP(
図4)は、位置RG29<>I30に対して78%の信頼性でミトコンドリア取り込みシグナル切断部位を認識し、R10モチーフである可能性が高いTOM認識およびMPP切断を反映する。他のペプチダーゼ切断部位は、見られない。
【0143】
一般に、利用可能なツールが、ミトコンドリア取り込みの工程1に必要である古典的で標準的なTOM依存的ペプチダーゼ切断部位を検出しうることは明らかであった。加えて、ScFCb2分析(
図1)から分かるように、FCb2関連位置にペプチダーゼ切断に対する指標があるように思われた。確認するために、公知のFCb2配列の詳細な配列整列化を実行した(
図5A、
図5B)。
【0144】
保存されているTOM依存的MPP切断部位は、
図5B内で強調される整列化の67位において良好な保存で同定され(
図5において、位数は、それぞれの残基位置ではなく整列化の位置を示す)、これは、TargetP予測の結果を裏付ける:MPP R2モチーフ(R-x<>x-S)およびR3モチーフ(R-x-Y/x<>S/A/x)。
【0145】
配列の良好な一致は、さらに下流の(
図5A)、FCb2酵素の保存された構造領域(
図5A、143位以降)の直前にも見られた。潜在的(I/L/V-x-N/A/L)認識部位は、IDN<>EPKLDとしてScFCb2に反映される。ScFCb2においてI/L/V-x-N/A/L認識部位は、保存されているHis(整列化154位)から25位上流の127~129位に位置する。
【0146】
127~129位の配列区間内に高度な保存が存在し:I/L/V-x-N/A/Lモチーフを強調する(
図6)。この区間は、二次プロセシングのためのこれまで不明であった認識配列を表すと予想される。
【0147】
ScFCb2の結晶構造において、成熟N末端「EPLKD...」は、この予測によく合致する。成熟した酵素の構造的に関連する部分は、さらに下流に位置すると予想される。なお、酵素の活性および安定性は、リーダー配列の部分による影響を受ける可能性があり、したがって、本明細書においてさらに試験された。
【0148】
図7における整列化から観察可能なように、FCb2配列のN末端は、FCb2酵素の選択されたセットに対して非常に不均質であるようにそれ自体を示す。なお、構造的に重要な領域の上流に、認識に関与する可能性があるおよそ5~10残基のパターンがあるように見える。
【0149】
「V-x-x-H」は、構造部分の第1の保存部分であり、その領域の上流でヘムと相互作用し、アミノ酸の短い区間は、移行ペプチドペプチダーゼの認識に関与する可能性が高い。この部分は、酵母とより遠縁の子嚢菌配列中には存在しない。
【0150】
ScFCb2の成熟したN末端は、EPKLDから始まり(PDB:1FCBにおいて)、近縁の配列との類似点が、観察可能である。疎水性アミノ酸(I、L、V)、スペーサーおよびアスパラギンからなる認識モチーフがあるように見え、そのアスパラギンは、整列化においてA、Lで置換された場合もあった。
【0151】
推定認識モチーフ「I/L/V-x-N/A/L」の後では、荷電アミノ酸(D、K、E)が顕著であるように見えるが、明らかな相同性は同定されなかった(
図6)。潜在的には、成熟したN末端は、そのすぐ後の残基から形成され、成熟酵素に対する構造的に関連する影響をすでに有する。
結論
成熟FCb2タンパク質の構造的N末端は、一般によく保存されている。しかしながら、N末端の配列は、あまりよく保存されていないが、いくつかのモチーフが同定された:
- 文献から予測されたMPPモチーフR2/R3(TOM取り込み)が、この研究における様々なFCb2バリアントに対して確認できた;および
- 成熟タンパク質の構造的始まりの前に保存配列が同定され、I/L/V-x-N/A/Lモチーフと称された(また、本明細書において「TransP認識モチーフ」または単に「TransPモチーフ」とさらに称される)。
【0152】
同定されたI/L/V-x-N/A/Lモチーフに基づいて、いくつかの発現プラスミドを、S.セレビシエ(ScFCb2)、ウィカハモマイセス・アノマルス(WaFCb2)、クルイベロマイセス・マルキシアヌス(MaxFCb2)、カンジダ・グラブラータ(CangFCb2)、ナウモボジマ・カステリ(NacaFCb2)およびシベルリンドネラ・ファビアニイ(CyberFCb2)のFCb2バリアントに対して構築した。FCb2バリアントをコードしている遺伝子配列は、異なる長さで推定のI/L/V-x-N/A/L認識モチーフまで短縮され、一部のバリアントは、N末端His-タグも備えた。
【0153】
実施例2
短縮された移行ペプチド配列を含むFCb2バリアントのスクリーニング
FCb2バリアントの活性スクリーニングは、Kaushikら、2020年によって公開されている最小培地、3つの育生ステージおよび遠心分離による培地交換を含むプロトコールを使用して成功した。産生株スクリーニングを、容積500μLで、96ディープウェルプレート中で実行した。
【0154】
異なる程度の短縮によって特徴付けられる以下の移行ペプチド(TransP)バリアントを、市販のDNA合成によって調製し、メタノール誘導可能な発現および選択用の抗生物質抵抗性遺伝子を利用して、P.パストリス コンピテント細胞にその後形質転換した(
図8~
図10):
- 10x ScFCb2 TransP:Sc02、Sc22、Sc33、Sc42、Sc52、Sc62、Sc72、Sc77、Sc82、Sc86
- 10x WaFCb2 TransP:Wa02、Wa22、Wa28、Wa37、Wa47、Wa57、Wa62、Wa67、Wa72、Wa74
- 10x KmFCb2 TransP:Km02、Km22、Km34、Km42、Km52、Km62、Km72、Km77、Km82、Km87。
育生および発現
育生および発現をKaushikら、2020年(Kaushikら、2020年)による刊行物に提供される詳細なプロトコールに従って実施した。
細胞破壊
細胞破壊を、化学的タンパク質抽出試薬「Y-Per」を使用して実施し;破壊プロトコールは、供給元であるFisher scientific(78991)による標準的な操作手順および提案される適合に基づく。
【0155】
1.4000rcf、20℃で10分間、ディープウェルプレートを遠心分離する。
2.慎重に上清を除去する
3.ウェル当たり150μLのY-per酵母溶液を添加し、340rpm、33℃で30分間撹拌する。蒸発を防止するために適切な蓋で閉じる。
【0156】
4.ペレット化を助け、活性測定のために希釈するためにPBS緩衝液450μLを添加する。
5.破片を、3000rcf、20℃で10分間ペレット化する。
【0157】
6.CytCアッセイを使用する活性分析のために、上清20μLを新しい96ウェルプレートに移す。
CytCアッセイを使用する酵素活性測定
FCb2バリアントの容積(上清容積当たり、mL)および比活性度(タンパク質量当たり、mg)の決定を、セロビオースデヒドロゲナーゼおよびグルコースについて同様に記述されているように5mM Lー乳酸を用いる確立されたCytCアッセイを使用してプレートリーダー形式で実施した(Geiss A.F.ら、2021年)。
【0158】
詳細には:酵素活性を、プレートリーダー構成で、550nmでウマ心臓由来の80μMチトクロムcの還元を追跡することによって決定した(CytC、ε550nm=19.6mM-1cm-1、酵素係数=0.98)。酵素係数(EF)を使用して、200μL規模構成における時間当たりの吸光度変化(Abs分-1)の生測定値を、UmL-1として表される容積活性に再計算した。アッセイ混合物を、標準的なPBS(リン酸緩衝食塩水)緩衝液で緩衝し、Infiniteプレートリーダー(Tecan)で、それぞれの波長で、30℃で300秒間監視した。酵素試料が、非精製状態、すなわち粗抽出物または上清で存在した場合、活性は、%の最大活性と関連した。精製したFCb2バリアントのタンパク質濃度を、280nmの吸光度によって決定した。理論的なモル吸収係数ε280nmを、Expasy Prot-Param(Swiss Institute of Bioinformatics)で算出した。
結果
TransP ScFCb2(Hisなし)
図8は、ScFCb2では配列「I-D-N」のものであるTransP認識モチーフに達するまで、ScFCb2 TransP構築物が、容積活性(収率)を増大させることを示す。測定は、高品質なものであり、標準偏差は合理的である。
【0159】
「I/L/V-x-N/A/L」モチーフだけが移行ペプチドに残っている場合、最大活性(0.23U/mL)はSc77に見られうる。これは、EPKLDがN末端を形成する天然のScFCb2(1FCB)の結晶構造と対照的である。
TransP KmFCb2(Hisなし)
KmFCb2では配列「I-Q-N」のものであるTransP認識モチーフに達するまで、KmFCb2 TransP構築物も、容積活性(収率)を増大させる(
図9)。ScFCb2と類似して、TransP認識モチーフの「I-Q-N」だけがN末端を形成する場合に、最大活性(1.74U/mL)は、Km77に見られうる。
【0160】
全体として、活性は、ScFCb2と比較しておよそ8倍高く、KmFCb2で例外的な収率が明確になる。ScFCb2とは対照的に、天然のTransP構築物であるKm02については有意な活性を見ることはできなかった(最大3%)。
TransP WaFCb2(Hisなし)
WaFCb2では配列「I-S-A」のものであるTransP認識モチーフに達するまで、WaFCb2 TransP構築物も、容積活性(収率)を増大させる(
図10)。「I-x-N」の部分だけがN末端を形成する場合、最大活性(2.12U/mL)は、Wa72に見られうる。
【0161】
全体の活性は、ScFCb2と比較しておよそ10倍高い。KmFCb2と類似して、およびScFCb2とは対照的に、天然のTransPでは僅かな活性しか見ることができなかった(13%のみ)。
結論
96ディープウェルプレートおよび最小培地を利用するこれまでに試験され、適合されたスクリーニングプロトコール(Kaushikら、2020年)を利用して、FCb2 TRansPバリアントをスクリーニングした。一般に、結果の混合スペクトルが、天然のTransP構築物に対して得られた:
- TransP配列を含む天然のKmFCb2の場合、いかなる活性も生むことはできなかった(3%)
- TRansP配列を含む天然のWaFCb2の場合、僅かな活性を得た(13%)
- TransP配列を含む天然のScFCb2の場合、有意な活性が報告される(79%)
部分的短縮がある配列は、良好な結果を生まず、特定の配列の特徴が、適当なプロセシングまたは発現を妨げる可能性が高いと思われる。
【0162】
TransPモチーフ「I/L/V-x-N/A/L」の予測は正確であり、P.パストリス発現プラットフォームにおけるFCb2の活性および収率に対するその影響が内在する。
【0163】
データは、高収率および発現の成功を容易にするために全ての移行ペプチドを除去する必要はないが、その前にある配列は良好な成績を妨害することを示唆する。移行ペプチドが「I/L/V-x-N/A/L」モチーフまで除去された配列は、3つ全てのバリアント、KmFCb2、WaFCb2およびScFCb2で最良に機能した。
【0164】
ScFCb2の場合、所与の構成において最も高い容積活性(
図8)は、「I/L/V-x-N/A/L」、前記モチーフのすぐ上流に1アミノ酸およびN末端Metを保有するSc77で示された。全体で、Sc77のシグナルペプチドは、5アミノ酸を有する(配列「EPKLD」は、本明細書の他の場所に記述される成熟N末端である)。
【0165】
KmFCb2の場合、所与の構成において最も高い活性(
図9)は、「I/L/V-x-N/A/L」、前記モチーフのすぐ上流に2アミノ酸およびN末端Metを保有するKm77で示された。全体で、Km77のシグナルペプチドは、6アミノ酸を有する(配列「ATKEE」は、本明細書の他の場所に記述される成熟N末端である)。
【0166】
WaFCb2の場合、所与の構成において最も高い活性(
図10)は、「I/L/V-x-N/A/L」の短縮された形態+N末端Metを保有するWa72で示された。全体で、Wa72のシグナルペプチドは、3アミノ酸を有する(配列「DVPH」は、
図7において本明細書に示される成熟N末端である)。
【0167】
ScFCb2およびKmFCb2の場合、天然のシグナルペプチドのアミノ酸77までの短縮が、最も高い容積活性をもたらした。WaFCb2において、天然のシグナルペプチドのアミノ酸72までの短縮が、最も高い容積活性をもたらした。「I/L/V-x-N/A/L」モチーフを含めた全ての移行ペプチドが除去された配列も、よく機能し、高収率および発現の成功を示した。
【0168】
「I/L/V-x-N/A/L」モチーフの上流にある天然のシグナルペプチドの配列が、天然のシグナルペプチドを9アミノ酸より多く含む場合、容積活性はかなり低下する。
図8に示すように、Sc22、Sc33、Sc42、Sc52およびSc62の容積活性は、非常に低い。したがって、
図9に示すように、Km02、Km22、Km34、Km42、Km52およびKm62の容積活性も、非常に低い。そして最終的に、配列Wa02、Wa22、Wa28、Wa37、Wa47およびWa57も、非常に低い容積活性を示す(
図10)。
【0169】
結果は、特定の短縮パターンのシグナル配列だけが、相当な収率/容積活性で機能的に発現されるFCb2をもたらすことを示す。
サッカロミセス・セレビシエの新生チトクロムC(CytC)は、ヘム補因子を欠いているアポ酵素であり、CytCは、ミトコンドリア膜間隙(IMS)に到達した後にヘムを結合させる専用のリアーゼ酵素と相互作用することによってのみ活性化されるとDiekert K.ら(2001年)によって特に報告されたので、細胞質ゾルにおいて機能的に活性なFCb2を発現させることが全く可能であることは、驚きであった。酵母においてCytCとFCb2には複数の一致点が存在し:それらは、N末端マトリックス標的化シグナルおよびC末端疎水性区間からなる2部構成の先行配列を含む類似のリーダー配列構造を共有しており、両方とも非共有結合性ヘム補因子を有し、両方ともミトコンドリア膜間隙に存在し、両方とも呼吸器鎖の一部である。CytCとFCb2の両方とも、非共有結合ヘム補因子に依存的なので、FCb2が、触媒活性を活性化するにはIMSに位置する支持酵素の作用も必要であろうことが仮定されよう。ミトコンドリアの外側におけるFCb2活性は報告されておらず、細胞質ゾルにおけるFCb2の存在も、これまで報告されなかった。したがって、ミトコンドリア膜間隙内に位置しない機能的に活性なFCb2の発現は、予測不能であり、驚きであった。FCb2が、ミトコンドリア膜間隙における活性化を必要とせず、FCb2が、細胞質ゾルにおいて全く活性であることは、驚きであった。
【0170】
シグナルペプチドの特定の短縮により、FCb2のN末端は、異なるプロセシングを受け、本明細書で発現されるFCb2のN末端は、酵母細胞において天然に発現されるFCb2と同一ではない。本明細書に示されるように、FCb2は、N末端でMet、その後に成熟FCb2配列を有するか、または別法としてMet、その後に短縮された天然のシグナルペプチドを有する。一般に、タンパク質のN末端の人工的な修飾は、タンパク質の機能に対して有害な効果を有する場合がある。例えば、Petrovicら(2018年)によって報告されたように、酵素、溶解性多糖オキシゲナーゼは、その活性に不可欠であるN末端メチル化メチオニンを保有する。本発明によるFCb2が、その成熟N末端の修飾にもかかわらず、人工メチオニンを付加するだけで活性であることは、驚きであった。また、定義されたN末端の前提条件とも一致して、FCb2のシグナル配列の本明細書に提供される短縮の効果は、本発明の定義された短縮に限定され、より長いシグナル配列は、FCb2の急速な機能喪失をもたらす。
【0171】
プロセスの多くのステージにおいて変性、分解または制御された崩壊が起こる可能性があるので、タンパク質のシグナルペプチドを改変することによる本明細書に示されるFCb2の場合のような翻訳後移行プロセスの人工的修飾は、活性の喪失をもたらす可能性がある。一般に、成熟ミトコンドリア膜間隙タンパク質の発現は、小胞体(ER)、細胞質ゾル、ミトコンドリアマトリックス、ミトコンドリア膜間隙の経路を通る無傷で安定なプレバージョンの存在を常に利用し、後に切断されたシグナル配列と後の「成熟」タンパク質の残りとの相互作用も利用する。
【0172】
Beasleyら(1993年)に記載の通り、FCb2のシグナル配列は、2部構成であり、シグナルペプチドのN末端領域は、マトリックス標的化シグナルとしてミトコンドリアマトリックス内への移行に関与する。シグナルペプチドのC末端領域は、膜間隙への選別に必要である。S.セレビシエFCb2の特定の例において、N末端マトリックス標的化シグナルは、配列番号3に示す天然の全長シグナル配列のアミノ酸1~32を含み、膜間隙内へ選別するためのシグナルペプチドは、配列番号3に示される天然のシグナル配列のアミノ酸33~80を含む。細胞質ゾルにおける機能的FCb2の発現が、一般に全く可能であることはすでに驚きであったが、シグナルペプチドの2部構成の性質を考慮すると、この機能的発現が、マトリックス標的化シグナルを欠失させるだけでは不可能であったことは、なおさらに驚きであった。その代わり、データは、シグナルペプチドのさらなる短縮が必要であることを明らかに示す。FCb2のマトリックス標的化シグナルの欠失により、ミトコンドリアマトリックス内への移行のためのシグナルがもはや存在しないので、これらFCb2は、細胞質ゾル内にとどまらなければならないが、このマトリックス標的化シグナルにだけ短縮を含むFCb2に対する活性は、見られないまたは僅かしか見られなかった。本明細書に示されたFCb2の特定の短縮されたシグナルペプチドを使用して、機能的FCb2を細胞質ゾル内で発現させることができた。
【0173】
本発見は、本明細書に示す短縮されたシグナルペプチドのようにより長いシグナルペプチド配列を持つFCb2配列が、細胞質ゾルにおいて機能的に活性でないことを示す。本発明の特定の短縮パターンは、天然のシグナル配列の配列部分が、将来活性なFCb2と不活性なFCb2とを区別することを可能にする指針を示す。
【0174】
要約すると、TransPモチーフ「I/L/V-x-N/A/L」までまたはそれを含めたFCb2配列のN末端の短縮は、発現速度、活性および収率を有意に増大させる。
この効果は、異なる生物:S.セレビシエ、K.マルキシアヌスおよびW.アノマルス由来の3種の異なるFCb2配列について示された。以下の実施例3および実施例4において、実施例2のこれら発見および本明細書に提供されるシグナルペプチドの短縮を使用して、他の生物のFCb2の細胞質ゾルにおける機能的発現を予測できることが示される。
【0175】
実施例3
Hisタグ付きFCb2バリアントの発現
この例は、生産プロセス(発現および精製)の結果ならびにS.セレビシエ(ScFCb2)、K.マルキシアヌス(KmFCb2)、W.アノマルス(WaFCb2)およびC.グラブラータ(CangFCb2)由来FCb2 TransP-His構築物の特徴付けを要約し、評価する。全て、N末端His8-タグおよび異なる3つの長さのtransP配列を含有する。バリアントを、市販のDNA合成によって調製し、メタノール誘導可能な発現および選択用の抗生物質抵抗性遺伝子を利用して、P.パストリス コンピテント細胞にその後形質転換した:
- TransP、全長+His:
Sc02-His(配列番号17)
Km02-His(配列番号18)
Wa02-His(配列番号19)
Cang02-His(配列番号20)
- TransP、-MPP+His:
Sc33-His(配列番号21)
Km34/His(配列番号22)
Wa28/His(配列番号23)
- TransP、陰性+His:
Sc82/His(配列番号24)
Km82/His(配列番号25)
Wa74/His(配列番号26)
Cang80/His(配列番号27)
育生、細胞破壊および精製
細胞の成長および酵素発現の誘導を、Geissら、2021年による刊行物に記述されているように実施し、僅かに変更した。育生ステージ後、培養液600mLから細胞ペレットおよそ13gを得て、外部圧力1500バールで操作する30mLフレンチプレス細胞ホモジナイザーを使用して、4サイクルで細胞破壊に供した。そのように発生した細胞残屑を、10000rcfで30分間遠心分離し、上清を得、粗抽出物を、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)戦略を基本的に使用して、刊行物に記述されているように精製した。
CytCアッセイを使用する酵素活性測定
容積(上清容積当たり、mL)および比活性度(タンパク質量当たり、mg)の決定を、セロビオースデヒドロゲナーゼおよびグルコースについて同様に記述されているように5mM Lー乳酸を用いる確立されたCytCアッセイを使用してプレートリーダー形式で実施した(Geiss A.F.ら、2021年)。詳細には:酵素活性を、プレートリーダー構成で、550nmでウマ心臓由来の80μMチトクロムcの還元を追跡することによって決定した(CytC、ε550nm=19.6mM-1cm-1、酵素係数=0.98)。酵素係数(EF)を使用して、200μL規模構成における時間当たりの吸光度変化(Abs分-1)の生測定値を、UmL-1として表される容積活性に再計算した。アッセイ混合物を、標準的なPBS(リン酸緩衝食塩水)緩衝液で緩衝し、Infiniteプレートリーダー(Tecan)で、それぞれの波長で、30℃で300秒間監視した。精製したFCb2バリアントのタンパク質濃度を、280nmの吸光度によって決定した。理論的なモル吸収係数ε280nmを、Expasy Prot-Param(Swiss Institute of Bioinformatics)で算出した。
純度
精製したTransP-His構築物のSDS PAGEを実施した:
- 全ての試料を、無菌hq水中におよそ0.4mg/mLに希釈した
- 希釈した酵素試料10μLを、99℃で5分間加熱した2×Laemmli緩衝液10μLと混合し、次いで氷上に5分間置いた
- 試料14μLを、Mini-PROETAN TGXゲルポケットにロードした
- Presision Plus unstained protein marker(Bio-Rad)5μLを参照とした
- ゲルを、90Vで5分間、次いで150Vでおよそ50分間流す
- タンパク質バンドの可視化を、紫外線照明で実現した
結果
全てのTransP-His構築物の発現および精製プロセスの結果を、表1に要約する。
【0176】
【0177】
要約すると、表1および
図11A/B/Cは、4つ全てのHisタグ付きバリアント(ScFCb2、KmFCb2、WaFCb2およびCangFCb2)を示す:移行ペプチド配列が短いほど、発現および精製収率は高くなり、比活性度ならびにヘム補因子の吸光度によるFCb2酵素のスペクトル純度の指標となるRZ値(A
412nm/A
276nm)が高くなる。
S.セレビシエ(ScFCb2)
TransP Sc02-His FCb2:Hisタグ付きScFCb2は、全長移行ペプチドを含む場合、発現させることができなかった。酵素を得ることはできなかった。
【0178】
TransP Sc33-His FCb2:トランスP-MPPおよび追加のN末端His8-タグを含有し、ScFCb2を発現させ、IMACによって十分に精製することができなかった。
【0179】
- 0.019Uおよび0.06mg酵素/g細胞ペレット(精製収率:0.34%)
- Cytcによる比活性度の減少;RZ値の減少
- SDS PAGE:酵素の不純物または分解産物を示す
>純粋なまたは完全に発現された酵素は得られなかった
TransP Sc82-His FCb2:移行ペプチドを含有しないが、追加のN末端His8-タグを含有し、ScFCb2を発現させ、IMACによって成功裏に精製することができた
- 8.6Uおよび0.34mg酵素/g細胞ペレット(精製収率:109%)
- 比活性度:25.7U/mg;RZ値:1.34
- SDS PAGE:およそ58kDaの強いバンドが示される(
図11C)
>完全に発現させ、活性な酵素を得た
実施例2に示すように、全長ScFCb2(全ての移行ペプチドを含む)を発現させることができた。しかしながら、N末端His-タグを付加した場合、全長ScFCb2はもはや発現されない。この実施例に示すように、移行ペプチドを欠失させた場合、完全に活性なHisタグ付きScFCb2を成功裏に発現させ、精製することができる。
K.マルキシアヌス(KmFCb2)
TransP Km02-His FCb2:完全な移行ペプチドおよび追加のN末端His8-タグを含み、KmFCb2を発現させ、使用したプロトコールに従ってIMACによって十分に精製することができなかった
- 0.37Uおよび0.15mg酵素/g細胞ペレット(精製収率:3%)
- Cytcによる比活性度の減少;RZ値の減少
- SDS PAGE:およそ60kDaのバンド、しかし一部の不純物もある(
図11C)
>純粋でなく、あまり活性がない酵素が、得られた
TransP Km34-His FCb2:トランスP-MPPおよび追加のN末端His8-タグを含有する、KmFCb2を発現させることはできたが、使用したプロトコールに従ってIMACによって十分に精製することができなかった
- 7.4Uおよび0.86mg酵素/g細胞ペレット(精製収率:15%)
- Cytcによる比活性度の減少;RZ値の減少
- SDS PAGE:およそ60kDaの強いバンドを示す(
図11C)
>純粋な酵素を得たが、活性低下を示す
TransP Km82-His FCb2:移行ペプチドを含有しないが、追加のN末端His8-タグを含有し、KmFCb2を、成功裏に発現させ、使用したプロトコールに従ってIMACによって精製した
- 240Uおよび5mg酵素/g細胞ペレット(精製収率:153%)
- 比活性度:47.4U/mg;RZ:1.56
- SDS PAGE:およそ58kDaに強いバンドが示される(
図11C)
>完全に発現させ、活性な酵素を得た
W.アノマルス(WaFCb2)
TransP Wa02-His FCb2:完全な移行ペプチドおよび追加のN末端His8-タグを含み、WaFCb2を発現させることはできなかった、さらに使用したプロトコールに従って精製できなかった
>いかなる酵素も得られなかった
TransP Wa28-His FCb2:トランスP-MPPおよび追加のN末端His8-タグを含有する、WaFCb2を発現させ、使用したプロトコールに従ってIMACによって十分に精製することができなかった
- 0.04Uおよび0.03mg酵素/g細胞ペレット(精製収率:0.4%)
- Cytcによる比活性度の減少;RZ値の減少
- SDS PAGE:不純物または分解産物を示す(
図11C)
>純粋なまたは完全に発現された酵素は得られなかった
TransP Wa74-His FCb2:移行ペプチドを含有しないが、追加のN末端His8-タグを含有し、WaFCb2を発現させ、使用したプロトコールに従ってIMACによって精製できた
- 8.3Uおよび0.21mg酵素/g細胞ペレット(精製収率:37%)
- 比活性度:17.5U/mg;RZ値:1.52
- SDS PAGE:およそ58kDaに強いバンドが示される(
図11C)
>完全に発現させ、活性な酵素を得た
C.グラブラータ(CangFCb2)
TransP Cang02-His FCb2:完全な移行ペプチドおよび追加のN末端His8-タグを含み、CangFCb2を発現させることはできなかった、さらに使用したプロトコールに従って精製できなかった
→いかなる酵素も得られなかった
TransP Cang80-His FCb2:移行ペプチドを含有しないが、追加のN末端His8-タグを含有し、CangFCb2を発現させ、使用したプロトコールに従ってIMACによって成功裏に精製できた
- 67Uおよび1.3mg酵素/g細胞ペレット(精製収率:67%)
- 比活性度:53U/mg;RZ値:1.45
- SDS PAGE:およそ58kDaに強いバンドが示される(
図11C)
→完全に発現させ、活性な酵素を得た
結論
FCb2の発現および精製収率(および比活性度)に対するN末端配列の明確な効果が示される:
TransP、全長+His(Sc02、Km02、Wa02、Cang02):FCb2を完全に発現させることはできず、したがってIMACによってさらに精製することはできなかった。
【0180】
TransP、-MPP+His(Sc33、Km34、Wa28):FCb2を十分に発現させることはできず、低下した比活性度および異なるRZ値でIMACによって精製する。
【0181】
TransP、陰性+His(Sc82、Km82、Wa74、Cang80):FCb2を成功裏に発現させ、IMACによって精製することができた。
さらに、本発明によるシグナルペプチドの短縮を含むCang80を、細胞ペレット中で高い活性および収率で機能的に発現させることができたので、実施例2の短縮されたシグナルペプチドに関連する発見を使用して、細胞質ゾルにおけるFCb2の機能的発現を予測できることが示される(
図11)。
【0182】
実施例4
短縮された移行ペプチド配列を含む新たなFCb2構築物の収率および生化学的性質
新たなFCb2配列の選択は、系統発生的関係のバイオインフォマティクス分析および利用可能なオンラインツール:BlastP(配列検索、https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/)、NGPhylogeny(系統発生、https://ngphylogeny.fr/)、SWISS-MODEL(構造予測、https://swissmodel.expasy.org/)およびSCooP(安定性予測、http://babylone.ulb.ac.be/SCooP)を使用する熱安定性の予測に基づいた。発現構築物を、実施例3におけるこれまでの知見に従って設計し、天然のN末端を、保存されているI/L/V-x-N/A/Lモチーフまで短縮し、His8-タグを、最初のメチオニンの後に付加した。
【0183】
バリアントの細胞内発現を、振盪フラスコ形式で再び実施し、得られた細胞ペレットを、細胞破壊および実施例3に記述されるIMACによる精製の前に冷凍貯蔵した。バリアントを、実施例3に記述されるプロセスと同様に分析した。
【0184】
この例は、I/L/V-x-N/A/Lモチーフまで短縮されたシグナル配列を含む新たなFCb2バリアントの結果(発現、精製および生化学的特徴付け)を要約する。
- ウィカハモマイセス・アノマルスFCb2(WaFCb2、配列番号28)
- クリベロマイセス・マルキシアヌスFCb2(KmFCb2、配列番号29)
- キャンディアグラブラータFCb2(CangFCb2、配列番号30)
- シベルリンドネラ・ファビアニイFCb2(CyberFCb2、配列番号31)
- ナウモボジマ・カステリFCb2(NacaFCb2、配列番号32)
結果
新たなFCb2バリアント全ての収率および生化学的特徴付けの結果を、表2に要約する:[WaFCb2(His):配列番号28;KmFCb2(His):配列番号29;CangFCb2(His):配列番号30;CyberFCb2(His):配列番号31;NacaFCb2(His):配列番号32]
【0185】
【0186】
要約すると、全てのバリアントが、優れた収率、および生産に適した比活性度を示した。実施例4において、本発明によるシグナルペプチドの短縮を使用して、細胞の細胞質ゾルにおいて高い収率および比活性度を持つ機能的酵素としてFCb2配列の発現を予測できることが示される。本データは、示したFCb2全ての細胞質ゾルにおける機能的発現が、本発明によるシグナルペプチドの特定の短縮の技術的特徴のため可能になることを示す。
【0187】
実施例5
FCb2バリアント修飾カーボンペースト電極の直接電子移動
WaFCb2、KmFCb2、CangFCb2を、Geissら(2021年)から適合させた2工程プロトコールに従って市販のカーボンペースト電極(DRP-C110型;Metrohm/DropSens)上に固定化した。最初に、電極を、0.1M NaOHに溶解したエチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDGE;Polysciences)の1%(容積/容積)溶液に60℃で1時間浸した。水による洗浄工程および窒素による乾燥後、酵素溶液(10mg mL
-1)1μLを、作用電極に塗布し、シリカゲル存在下で、室温で1時間乾燥させた。修飾した作用電極の電気化学的読み取りを、定電位電解装置(EmStat3、PalmSens)およびスクリーン印刷カーボンカウンターならびにAg|AgCl(0.14M NaCl)疑似参照電極を使用して行った。乳酸濃度の増大に対する電流応答を、8gL
-1 NaClおよび0.2gL
-1 KCl、pH7.4を含有する50mMリン酸カリウム緩衝液中に垂直に浸漬したセンサについて37℃、印加電位+0.2Vで疑似参照電極と対比して測定した。電流密度を、電流を酵素で被覆した作用電極領域と関連付けることによって算出した。
結果
試験したFCb2バリアント全てが、乳酸濃度の増大と共に増大するセンサシグナルを示し、低mM範囲で飽和し、経時的に低下する(
図13を参照のこと)。起こりうる不活性化または電極表面からの酵素層の脱離が経時的に進行し、架橋または膜のような対抗する安定化の方策が適用されないので、この低下は予想されうる。センサシグナルは、媒介物が存在しないので、酵素と電極間の直接電子移動から生じる。バリアントの間のセンサ電流の差異は、異なる酵素活性ならびに電極表面上の(異なる)酵素構造および配向によって支配される直接電子移動の能力の変動から生じている可能性がある。
【0188】
実施例6
前修飾したカーボンペースト電極に対する直接電子移動
DETを改善するために、市販のカーボンペースト電極(DRP-C110型;Metrohm/DropSens)の表面を、2つの手段で前修飾した:
1:陽イオン性洗剤である臭化セチルトリメチルアミン(CTAB)を、電極を0.2%(重量/容積)溶液に30分間浸漬することによって塗布し、次いで水でゆすぎ、窒素中で乾燥させた。
【0189】
2:エチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDGE)を、Geissら(2021年)から適合させた2工程プロトコールに従って塗布した。最初に、電極を、0.1M NaOH中の1%(容積/容積)(EGDGE;Polysciences)溶液に60℃で1時間浸し、次いで水でゆすぎ、窒素中で乾燥させた。
【0190】
対照:前処理なし。電極は、納品されたものを使用した。
KmFCb2を、10mg mL
-1溶液1μLを添加し、シリカゲル存在下で、室温で1時間乾燥させることによって前処理した電極上に固定化した。修飾した作用電極の電気化学的読み取りを、定電位電解装置(EmStat3、PalmSens)カーボンペーストカウンター電極およびAg|AgCl(0.14M NaCl)疑似参照電極を使用して行った。乳酸濃度の増大に対する電流応答を、8gL
-1 NaClおよび0.2gL
-1 KCl、pH7.4を含有する50mMリン酸カリウム緩衝液中に垂直に浸漬したセンサについて37℃、印加電位+0.2Vで疑似参照電極と対比して測定した。電流密度を、電流を作用電極領域当たりの酵素量と関連付けることによって算出した。
結果
前修飾したカーボンペースト電極に固定化したKmFCb2は、30mM乳酸に対して3000nA mm
-2を超える高い電流密度を発生することができる。電流は、媒介物質が存在しないので、媒介されない電子移動から生じるが、電流密度は、前修飾の型によってモジュレートされる;
図14を参照のこと。
【0191】
実施例7
金およびカーボンペースト電極における直接電子移動
本例は、作製したFCb2バリアントが、金またはカーボンペーストなどのバイオセンサに関連する導電材料への直接電子移動(DET)を実行する能力を実証する。
【0192】
KmFCb2を、10mg mL
-1酵素溶液1μLを添加し、シリカゲル存在下で、室温で1時間乾燥させることによって金(Zensor R&D co.Ltd)またはカーボンペースト作用電極(DRP-C110型;Metrohm/DropSens)上に固定化した。修飾した作用電極の電気化学的読み取りを、定電位電解装置(EmStat3、PalmSens)、金またはカーボンペーストカウンター電極およびAg|AgCl(0.14M NaCl)疑似参照電極を使用して行った。30mM乳酸添加後の電流応答を、8gL
-1 NaClおよび0.2gL
-1 KCl、pH7.4を含有する50mMリン酸カリウム緩衝液中に垂直に浸漬したセンサについて37℃、印加電位+0.2Vで疑似参照電極と対比して測定した。電流密度を、電流を酵素で被覆した作用電極領域と関連付けることによって算出した。
結果
金またはカーボンペースト電極上に固定化したKmFCb2は、30mM乳酸を添加した場合に、例えば、チオールに基づく自己組織化単分子層のような促進層を必要とせずに、明らかな接触電流を発生する;
図15を参照のこと。媒介物質が存在しないので、電流は直接電子移動から生じた。
【0193】
実施例8
温度安定性
異なるFCb2酵素の安定性を、温度範囲:30℃、34℃、39℃、41℃、47℃、51℃、55℃および60℃に対して決定した。FCb2酵素のインキュベーションのために、サーモサイクラーを使用した。それぞれの酵素試料を、100mM PPB、1mM EDTA、pH7.0中でおよそ0.4~1mg/mLの濃度でインキュベートした。それにより、アリコート70μLを、各時点でインキュベートし(3つ組の活性測定)、70μLを、参照測定のために氷上に貯蔵した。試料を30分間インキュベートした。インキュベーション後、試料を氷上に10分間置いた。残りの活性を、PBS緩衝液、pH7.4中のCytCで、30℃、550nmで5分間アッセイした。その後、T50を決定した。T50温度またはT50%温度は、酵素の残存活性が、定義された時間にわたる熱チャレンジ後に50%減少する温度を反映する。KmFCb2およびCangFCb2に対するT50を以下の表3に示す。
【0194】
【0195】
測定した温度範囲に及ぶ残りの活性を示すデータを、KmFCb2(A)については
図16A、CangFCb2(A)については
図17Aに示した。KmFCb2の熱容量曲線を、
図16Bに示し;CangFCb2の熱容量曲線を、
図17Bに示す。熱容量は、示差走査熱量測定(DSC)によって決定された。示差走査熱量測定(DSC)は、試料の温度依存的構造転移、したがって安定性を試験することを可能にする温度勾配に対する熱消費を測定する。一般に、データは、融解温度(Tm)として示され、タンパク質の熱安定性の指標である。精製した酵素試料は、PBS緩衝液pH7.4中に1.0mg/mLで使用された。測定を、参照細胞における同じPBS緩衝液に対してPEAQ DSC Automated、Malvern Panalytical設備で実行した。各試料スキャンを2回行った。1回目のスキャンは、熱消費データを示す。2回目のスキャン(再スキャン)のデータは、ピークが決定されない場合、1回目のスキャンから完全に変性した酵素を示し、データ評価においてブランクとして使用されうる。1℃/分工程(60℃/時間)の増大で20~100℃の温度上昇を実行した。また、冷却および再スキャンには、同じ率の温度変化を使用した。データ処理を、バックグラウンドとして再スキャン、融解温度の決定に非2状態フィッティングを使用して、PEAQ Microcalソフトウェアで行った。
【0196】
KmFCb2およびCangFCb2の融解温度(Tm1およびTm2)を、以下の表4に示す。
【0197】
【0198】
実施例9
大腸菌におけるFCb2の発現
酵母細胞におけるFCb2の発現と比較して、大腸菌BL21細胞におけるFCb2の発現を試験し、pET21 His8 KmFCb2の発現研究をこの例に示す。それにより、pET21 His8 KmFCb2を大腸菌BL21発現株に形質転換した。8つの形質転換コロニーのCytC活性を、ディープウェルプレート形式で産生株スクリーニングで確認した。最も高い活性(8U/mL)を示すウェルの新たな画線を調製して、発現研究のための単一コロニーを得た。ここで、His KmFCb2を、大腸菌BL21においてTBAmp培地4×250mL規模で発現させた。細胞ペレットを採取し、さらなる精製研究用として-20℃で貯蔵した。
【0199】
前培養(終夜培養液)のために、TBAmp培地2×6mLを、大腸菌BL21 pET21 His8 KmFCb2の同じコロニーで接種した。インキュベーションを、振盪しながら37℃で終夜実行した。
【0200】
本培養(発酵)を、TBAmp培地4×250mL規模で実行した。TBAmp培地250mLを、1Lのエルレンマイヤーフラスコ(調節板なし、無菌)に満たした。培地を終夜培養液2.5mLで接種し、37℃、150rpmでインキュベートした。
【0201】
1時間後、OD600が最低0.5に達するまで確認を始めた。培養液を、IPTG(500mM)50μLで誘導し、20℃、250rpmで次の日までさらにインキュベートした(発現時間およそ20時間)。
【0202】
OD600:
1時間インキュベーション:フラスコ1:0.06;フラスコ2:0.05;フラスコ3:0.06;フラスコ4:0.06
2時間インキュベーション:フラスコ1:0.18;フラスコ2:0.20;フラスコ3:0.19;フラスコ4:0.19
2時間40分間インキュベーション:フラスコ1:0.51;フラスコ2:0.53;フラスコ3:0.52;フラスコ4:0.54
細胞採取:各フラスコの培養液を、予冷した500mL遠心分離ビーカーに移し、4℃、5000rpmで20分間遠心分離した。ペレットを、50mM KPP(pH6.5)に再懸濁し、再び遠心分離した。ペレットを、風袋を計量したファルコンチューブへ移し、緩衝液でさらに2回洗浄した。
【0203】
細胞ペレットの重量:1:2.5g;2:2.4g;3:3.1g;4:2.7g
ペレットを、-30℃で貯蔵した。
結果として、4つのピンク色の細胞ペレット2.5g~3.1gを採取した。
【0204】
最終的に、His8 KmFCb2を大腸菌BL21において発現させた。4つのピンク色の細胞ペレット2.5~3.1gを採取し、精製のために-20℃で貯蔵した。
以下において、大腸菌BL21において発現させたHis8 KmFCb2のIMAC精製研究について記述し、得られた比活性度を、酵母、より具体的にはピキア・パストリスにおいて発現させたKmFCb2の活性と比較する。
【0205】
大腸菌の細胞破壊:2.4および3.1gの2つの凍結細胞ペレットを氷上で解凍し、緩衝液Aに再懸濁した(10mLまで満たした)。細胞破壊直前に、PMSF(10mg/mL)2000μLを細胞懸濁液に添加した。細胞懸濁液を、液体が自由に流れ、粘性がなくなるまで、フレンチプレスにおいて4回の連続サイクルでホモジナイズした。プロセスの全体を通じて低温を維持した。
【0206】
細胞破壊後、溶解物30mLを、50mL遠心分離ビーカー内に慎重に移した。追加の緩衝液A 10mLを使用してチューブをゆすぎ、遠心分離ビーカーへ移した。容積を、緩衝液Aで40mLにした。遠心分離を、20000rpm(48000g)で、4℃で30分間実施した。遠心分離後、上清を緩衝液Aで100mLまで満たし、濾過した。
【0207】
IMAC精製を、5mLカラムを使用して実行した。異なる結合および溶出緩衝液を、使用した:
・緩衝液A:50mM PPB(カリウム)、500mM NaCl、50mMイミダゾル、pH6.5
・緩衝液B:50mM PPB(カリウム)、500mM NaCl、750mMイミダゾル、pH6.5
精製した酵素を、100mM PPB、1mM EDTA、pH7.0に再緩衝した。
【0208】
大腸菌His8 KmFCb2の精製表を、以下の表5に示す。
【0209】
【0210】
比活性度およびRZ値、大腸菌対P.パストリス発現酵素:
・大腸菌His8 KmFCb2:2.2U/mg;RZ:0.2
・P.パストリスHis8 KmFCb2:180U/mg;RZ:1.5
SDS PAGE分析を、大腸菌CE、大腸菌KmFCb2最終I、大腸菌KmFCb2最終II、P.パストリスHis8 KmFCb2、P.パストリスHis8 KmFCb2に対して実行した。
【0211】
SDS PAGE用の試料を、以下によって調製した:
・精製した酵素試料を、H2Oでおよそ1mg/mLに希釈する
・大腸菌CEを、H
2Oでおよそ3mg/mLに希釈する
・試料15μLを、Laemmli緩衝液(2×濃度)15μLと混合する
・試料25μL、タンパク質標準5.5μLをゲルにロードする
・ゲルを、90Vで5分間、次いで150Vでおよそ50分間流す
SDS PAGEの結果を
図18に示す。大腸菌BL21におけるFCb2の発現は、大腸菌CEの58kDa程度で太いバンドを示す。大腸菌およびP.パストリスの精製His8 KmFCb2は、同じバンドパターンを示す:
・およそ58kDaのバンドは、FCb2(理論サイズ57.8kDa)を示す
・およそ37kDaおよび25kDaのバンドは、酵素をより長く4℃で貯蔵するほどより強くなる
しかしながら、大腸菌において発現させた精製FCb2は、ピキア・パストリスにおいて発現させた精製FCb2より明らかに赤色でない色を示した。
【0212】
最終的に、大腸菌由来His8 KmFCb2を、大腸菌BL21において完全に発現させ、IMACによって精製できた。2つの精製した酵素試料:それぞれおよそ45mg;100U(40%収率)。比活性度は、2.2U/mgおよびRZ:0.2であった。SDS PAGEは、酵素の正しいサイズ(およそ58kDa)を裏付けた。しかしながら、大腸菌His8 KmFCb2は、正しいサイズを有したが、低いRZ値を示した。なお、CytCとの低い比活性度および酵素溶液の色は、ヘムを含まない完全に発現された酵素を示す。
【0213】
さらに、大腸菌対P.パストリスにおける最終電子移動能力を、電子受容体としてDCIPおよびCytCを使用して比較した。以下の表6は、異なる発現のKmFCb2におけるCytCとDCIP活性の比較を示す。
【0214】
【0215】
記述されているように、KmFCb2は、P.パストリスにおいて短縮された形式(MHHHHHHHH-QNATKEELN:配列番号189)で、細胞内で産生され、N末端His8-タグを含んだ。それを、機械的細胞破壊によって培養液から単離し、明らかに均一になるまでIMACクロマトグラフィーによって精製した。大腸菌KmFCb2は、同じ設計であり、大腸菌において細胞内発現され、N末端His8-タグも利用した。それは、機械的細胞破壊(フレンチプレス)によって細胞ペレットから同様に放出され、その後のIMACクロマトグラフィーによって単離され、2つの部分的に重なり合ったピーク(IおよびII)で溶出された。スペクトル比の大幅な減少およびCytC活性の実質的消失、CytC:DCIP比のシフトは、発現宿主の変化によるヘム補因子の欠如の明らかな証拠である。これは、精製酵素溶液の画像からも観察可能である。CytCによる残りの最小限の活性は、試料中の、ヘムを組み込んだホロ酵素のごく一部を指す可能性がある(大腸菌b型ヘムの合成は、限定されるが、完全に存在しないとは限らない)。あるいは、それは、FMN DH部分と電極との遅く、非特異的な相互作用(FMN拡散)の結果である可能性がある。興味深いことに、DCIP活性は、3つの調製物間で同程度であり、発現宿主に有意に依存しないようである。その後の電極測定において、直接電子電流は、いずれの大腸菌産生KmFCb2試料においても記録できなかった。
【0216】
【0217】
【0218】
【配列表】
【国際調査報告】