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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-31
(54)【発明の名称】発酵液から目的の化合物を得る方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/52 20060101AFI20240524BHJP
【FI】
C12P7/52
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577732
(86)(22)【出願日】2022-06-16
(85)【翻訳文提出日】2023-12-15
(86)【国際出願番号】 KR2022008552
(87)【国際公開番号】W WO2022265429
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】10-2021-0078346
(32)【優先日】2021-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513132586
【氏名又は名称】ジーエス カルテックス コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(72)【発明者】
【氏名】オム ムン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】チャン ジュン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】チョン サン-ジュン
(72)【発明者】
【氏名】イ キョン-ジュン
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AD05
4B064CE03
4B064CE06
4B064CE08
4B064CE10
4B064CE11
4B064DA16
(57)【要約】
【課題】発酵液から目的の化合物を得る方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、発酵液から不溶性物質または巨大分子の少なくとも一部を除去した後、下記の(a)~(c)のいずれか1以上の工程を行い、目的の化合物を回収して化合物を得る方法に関する:
(a)発酵液内の目的の化合物の濃度を増加させる工程
(b)発酵液内の残余炭素源またはアルコールの濃度を減少させる工程
(c)発酵液内のイオン成分の濃度を減少させる工程。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵液から不溶性物質または巨大分子の少なくとも一部を除去した後、下記の(a)~(c)のいずれか1以上の工程を行い、目的の化合物を回収して化合物を得る方法:
(a)発酵液内の目的の化合物の濃度を増加させる工程
(b)発酵液内の残余炭素源またはアルコールの濃度を減少させる工程
(c)発酵液内のイオン成分の濃度を減少させる工程。
【請求項2】
上記(a)~(c)のいずれか1以上の工程を行うとき、任意の工程を2回以上繰り返すことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記工程(a)は、蒸発、濃縮および蒸留からなる群から選択される1つ以上によって行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記工程(c)は、下記の(c)’または(c)’’によって行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法:
(c)’ :発酵液に酸処理してイオン成分を沈殿させた後、除去する工程
(c)’’:発酵液を電気透析、イオン交換およびクロマトグラフィーからなる群から選択される1つ以上で処理する工程。
【請求項5】
前記(c)’’のクロマトグラフィーは、SMB(Simulated Moving Bed)クロマトグラフィーであることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記不溶性物質は、細胞を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記巨大分子は、タンパク質、多糖類または脂質類であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記目的の化合物は、微生物の発酵によって生成された有機酸であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
上記(b)の前記炭素源は、グリセロールまたはグルコースであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
上記(b)の前記アルコールは、微生物の発酵によって生成されたアルコールであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
上記(b)の前記アルコールは、1,3-プロパンジオールであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
上記工程(b)は、発酵液をSMB(Simulated Moving Bed)クロマトグラフィーに適用して行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
発酵液から不溶性物質または巨大分子の少なくとも一部を除去した後、(a)発酵液内の目的の化合物の濃度を増加させ、(b)発酵液内の残余炭素源またはアルコールの濃度を減少させ、(c)’:発酵液に酸処理してイオン成分を沈殿させた後、除去し、その後、(c)’’:発酵液を電気透析、イオン交換およびクロマトグラフィーからなる群から選択される1つ以上で処理し、(a)発酵液内の目的の化合物の濃度を増加させた後、目的の化合物を回収して化合物を得ることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵液から目的の化合物を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3-ヒドロキシプロピオン酸(3-HP)は、化学的合成工程と微生物発酵工程によって生産することができ、近年、大腸菌、クレブシエラのようなバクテリアを用いて3-HPを生産する方法が研究されている。例えば、韓国公開特許第10-2020-0051375号には、特定の遺伝子で形質転換された微生物を用いて3-HPを生産する技術が開示されている。
【0003】
本発明は、微生物の培養によって生成された3-HPを含む発酵液から3-HPを分離して得る方法に関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、発酵液から目的の化合物を得る方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本発明は、
発酵液から不溶性物質または巨大分子の少なくとも一部を除去した後、下記の(a)~(c)のいずれか1以上の工程を行い、目的の化合物を回収して化合物を得る方法を提供する:
(a)発酵液内の目的の化合物の濃度を増加させる工程
(b)発酵液内の残余炭素源またはアルコールの濃度を減少させる工程
(c)発酵液内のイオン成分の濃度を減少させる工程。
【発明の効果】
【0006】
本発明の方法によって、発酵液から目的の化合物を高い収率で分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の化合物を得る方法を示す模式図である。
図2】発酵液を微細ろ過機によって不溶性物質を分離した試験の結果である。
図3】単一カラムクロマトグラフィーによって発酵液内の3-HP、1,3-プロパンジオールおよびグリセロールのピークを確認した結果である。
図4】発酵液内のカルシウムイオンを沈殿して除去する過程を示す図である。
図5】イオン交換による発酵液内のイオン濃度の変化を示す図である。
図6】イオン交換によって発酵液内のイオンを除去する過程を示す図である。
図7】電気透析によって発酵液内のイオンを除去する過程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、
発酵液から不溶性物質または巨大分子の少なくとも一部を除去した後、下記の(a)~(c)のいずれか1以上の工程を行い、目的の化合物を回収して化合物を得る方法:
(a)発酵液内の目的の化合物の濃度を増加させる工程
(b)発酵液内の残余炭素源またはアルコールの濃度を減少させる工程
(c)発酵液内のイオン成分の濃度を減少させる工程に関する。
【0009】
このとき、上記(a)~(c)のいずれか1以上の工程を行うとき、任意の工程を2回以上繰り返すことができる。
【0010】
上記工程(a)は、蒸発、濃縮および蒸留からなる群から選択される1つ以上によって行うことができる。
【0011】
上記工程(c)は、下記の(c)’または(c)’’によって行うことができる:
(c)’:発酵液に酸処理してイオン成分を沈殿させた後、除去する工程
(c)’’:発酵液を電気透析、イオン交換およびクロマトグラフィーからなる群から選択される1つ以上で処理する工程。
【0012】
前記不溶性物質は、細胞を含んでいてもよく、前記巨大分子は、タンパク質、多糖類または脂質類であってもよい。このとき、発酵液から不溶性物質の少なくとも一部を除去するか、巨大分子の少なくとも一部を除去するか、不溶性物質の少なくとも一部及び巨大分子の少なくとも一部を除去することができる。このとき、発酵液から不溶性物質の少なくとも一部を除去した後、巨大分子の少なくとも一部を除去することができる。または、このとき、発酵液から巨大分子の少なくとも一部を除去した後、不溶性物質の少なくとも一部を除去することができる。前記目的の化合物は、微生物の発酵によって生成された有機酸であってもよく、好ましくは、3-ヒドロキシプロピオン酸(3-HP)であってもよい。上記(b)の前記炭素源は、グリセロールまたはグルコースであってもよい。上記(b)の前記アルコールは、微生物の発酵によって生成されたアルコールであってもよく、例えば、1,3-プロパンジオールなどであってもよい。
【0013】
本発明の好ましい一具現例において、本発明の化合物を得る方法は、発酵液から不溶性物質の少なくとも一部を除去し、巨大分子の少なくとも一部を除去した後、第一に(a)発酵液内の目的の化合物の濃度を増加させ、(b)発酵液内の残余炭素源またはアルコールの濃度を減少させ、(c)’:発酵液に酸処理してイオン成分を沈殿させた後、除去し、その後、(c)’’:発酵液を電気透析、イオン交換およびクロマトグラフィーからなる群から選択される1つ以上で処理し、第二に(a)発酵液内の目的の化合物の濃度を増加させた後、目的の化合物を回収して、化合物を得て行うことができる。
【0014】
前記発酵液は、下記の工程1:発酵液の準備工程によって準備した発酵液であってもよい。
【0015】
前記発酵液から不溶性物質または巨大分子の少なくとも一部を除去する工程は、下記の工程2:不溶性物質の分離工程または下記の工程3:巨大分子の除去及び脱色工程であってもよい。
【0016】
上記第一に(a)発酵液内の目的の化合物の濃度を増加させる工程は、下記の工程4:発酵液内の3-HPの濃度を増加させる工程であってもよい。
【0017】
上記(b)発酵液内の残余炭素源またはアルコールの濃度を減少させる工程は、下記の工程5:発酵液内のグリセロールまたはアルコールの濃度を減少させる工程であってもよい。
【0018】
上記(c)’:発酵液に酸処理してイオン成分を沈殿させた後、除去する工程は、下記の工程6:発酵液におけるイオン成分を減少させる工程(沈殿及びろ過)であってもよい。
【0019】
上記(c)’’:発酵液を電気透析、イオン交換およびクロマトグラフィーからなる群から選択される1つ以上で処理する工程は、下記の工程7:発酵液におけるイオン成分を減少させる工程(電気透析及びイオン交換)であってもよい。
【0020】
上記第二に(a)発酵液内の目的の化合物の濃度を増加させる工程は、下記の工程8:発酵液における3-HPの濃度を増加させる工程であってもよい。
【0021】
上記目的の化合物を回収する工程は、下記の工程9:回収工程であってもよい。
【0022】
工程1:発酵液の準備工程
本発明の化合物を得る方法は、発酵液の準備工程を含んでいてもよい。前記発酵液は、微生物を用いて発酵させた発酵液(発酵ブロス)、つまり培養液であってもよい。前記培養液は、3-HP及びその塩のほか、他の成分をさらに含んでいてもよい。例えば、前記培養液は、3-HPのカルシウム塩を含んでいてもよい。前記他の成分は、微生物の培養に用いられた炭素源(例えば、グリセロールなど)、有機酸(例えば、アセット酸など)、塩(例えば、硫酸塩、リン酸塩など)、アルコール(例えば、ジオール)、糖、カルシウムなどであってもよい。
【0023】
前記発酵液内の3-HPまたはその塩の濃度は、例えば、約10,000~200,000ppm、例えば、約12,000~190,000ppm、例えば、約15,000~180,000ppm、例えば、約20,000~150,000ppm、例えば、約25,000~130,000ppm、例えば、約30,000~110,000ppmであってもよい。具現例において、前記発酵液内の3-HPまたはその塩の濃度は、例えば、約10,000ppm以上、例えば、約12,000ppm以上、例えば、約15,000ppm以上、例えば、約20,000ppm以上、例えば、約25,000ppm以上、例えば、約30,000ppm以上であってもよい。具現例において、前記発酵液内の3-HPまたはその塩の濃度は、例えば、200,000ppm以下、例えば、約190,000ppm以下、例えば、約180,000ppm以下、例えば、約150,000ppm以下、例えば、約130,000ppm以下、例えば、約110,000ppm以下であってもよい。
【0024】
このとき、前記発酵液のpHを調節する工程をさらに含んでいてもよい。pHは、酸またはアルカリを前記発酵液に処理して調節することができる。前記酸またはアルカリの種類は、特に制限されず、発酵液のpHを調節する際に使用する通常の酸またはアルカリを用いることができる。例えば、このとき、所望のpHは、3-HPと分離しようとする化合物の種類およびその後の分離工程の方法に応じて異にして適宜調節することができる。
【0025】
工程2:不溶性物質の分離工程
本発明の化合物を得る方法は、発酵液から不溶性物質の少なくとも一部を分離する工程を含んでいてもよい。このとき、前記発酵液は、工程1で準備した発酵液または工程1及び3を経た発酵液、つまり処理液であってもよい。前記不溶性物質は、微生物、つまり細胞、固形物などであってもよい。
【0026】
前記不溶性物質の分離は、遠心分離機、ろ過工程などを用いて行うことができるものの、特に制限されない。これにより、発酵液から微生物、つまり細胞が分離され得る。
【0027】
例えば、微細ろ過によって微生物及び発酵液内の固形物を除去することができる。微細ろ過は、0.04~5μmの気孔サイズを有する高分子またはセラミックメンブレンに前記発酵液を通過させて行うことができる。このとき、微細ろ過操作は、フラックス(Flux)(メンブレンの単位面積及び単位時間当たり処理量)が減少する傾向により、2工程以上から構成することができる。一具現例において、フラックスが顕著に低下する時点で、回収率の増加のため発酵液にさらに水を投入することができる。
【0028】
工程3:巨大分子の除去及び脱色工程
本発明の化合物を得る方法は、発酵液から巨大分子の少なくとも一部を分離する工程を含んでいてもよい。このとき、前記発酵液から巨大分子の少なくとも一部を分離する工程は、発酵液における巨大分子を除去して脱色する工程を含んでいてもよい。このとき、前記発酵液は、工程1で準備した発酵液または工程1及び2の段階を経た発酵液、つまり処理液であってもよい。前記巨大分子は、タンパク質、多糖類、脂質類などであってもよい。
【0029】
一具現例において、上記巨大分子の除去及び脱色工程は、前記発酵液に活性炭及びろ過補助剤を混合した後、ろ過して行うことができる。具体的に、一具現例において、微生物を除去した発酵液に活性炭及びろ過補助剤(珪藻土、白土など)を混合した後、ろ過(例えば、フィルタプレスなど)して、巨大分子の除去及び脱色効果を得ることができる。前記ろ過は、通常に使用され得る粉末粒子のろ過方法(例えば、フィルタプレス、ドラムフィルタ、キャンドルフィルタ、リーフフィルタなど)を用いることができ、特に制限されない。
【0030】
活性炭の添加によって一部のタンパク質、多糖類などの巨大分子を除去することにより、その後、3-HPの濃度を増加させる過程で発生し得る粘着性物質の発生を抑えることができる。活性炭の適用は、粉末活性炭のみならず、粒状活性炭の適用も可能である。例えば、発酵液重量に対して0.1~2wt%の粉末活性炭を添加した後、30~80℃の条件で、1~5時間攪拌した後、ろ過することにより、発酵液の色を除去することができた。1.5%の粉末活性炭を発酵液に混合した後、40℃で1時間攪拌した後、ろ過時、発酵液のAPHA(American Public Health Association)カラー値は、2.7となった。また、粒状活性炭を発酵液重量に対して5~15%の質量分率で適用するとき、粉末活性炭に類似する脱色性能を期待することができ、この場合、経済性を確保するためスチームなどを用いた活性炭の再生システムを併せて備える必要がある。
【0031】
さらに他の具現例において、前記巨大分子の除去及び脱色工程は、前記処理液の膜分離によって行うことができる。このとき、前記膜分離方式は、限外ろ過(ultrafiltration)またはナノろ過などであってもよく、この場合、さらなる脱色工程なしで、巨大分子の除去及び脱色効果を得ることができる。
【0032】
このとき、限外ろ過は、5000~100,000DaのMWCO(Molecular Weight of Cut-Off)を有する限外ろ過膜を適用した後、150~300Daのナノろ過膜を適用することにより、3-HP塩の損失は最小化しつつ、タンパク質、多糖類、脂質類などの巨大分子のみを除去することができる。
【0033】
工程4:発酵液内の3-HPの濃度を増加させる工程
本発明の化合物を得る方法は、発酵液内の3-HPの濃度を増加させる工程を含んでいてもよい。このとき、工程4の前記発酵液は、工程2及び/又は工程3の段階を経た処理液であってもよい。または、工程4の前記発酵液は、工程2及び/又は工程3を経た後、工程5~8のいずれか1以上の段階を経た発酵液を経た処理液であってもよい、このとき、発酵液内の液体の少なくとも一部を蒸発させるか、または濃縮させるなどの方法によって3-HPの濃度を増加させることができる。このとき、発酵液1L当たり100~500gの3-HP当量で濃度を増加させることができる。このとき、濃度の増加は、圧力の調節を伴い得、適宜な圧力下で行うことができ、例えば、絶対圧力を基準に約20~300mbar、例えば、約25~280mbar、例えば、約30~250mbar、例えば、約50~200mbar、例えば、約70~190mbar、例えば、約80~180mbarで行うことができる。一具現例において、前記濃度の増加工程は、例えば、約20mbar以下、例えば、約25mbar以下、例えば、約30mbar以下、例えば、約50mbar以下、例えば、約70mbar以下、例えば、約80mbar以下で行うことができる。一具現例において、前記濃度の増加工程は、例えば、約300mbar以下、例えば、約280mbar以下、例えば、約250mbar以下、例えば、約200mbar以下、例えば、約190mbar以下、例えば、約180mbar以下で行うことができる。
【0034】
例えば、50mbar減圧の条件で、Rotary evaporatorのBath温度条件を50℃に維持して、3-HPの濃度が500g/L以上になるまで濃縮することができた。400g/L以上の濃度条件では、濃縮を終了後、温度の低下により、3-HPカルシウム塩の結晶が生成されることを確認することができ、それ以上の濃度増加により、濃縮過程でも結晶が生成されることを確認することができた。
【0035】
工程5:発酵液内のグリセロールまたはアルコールの濃度を減少させる工程
本発明の化合物を得る方法は、発酵液内のグリセロールまたはアルコールの濃度を減少させる工程を含んでいてもよい。このとき、工程5の前記発酵液は、工程2及び/又は工程3の段階を経た処理液であってもよい。または、工程5の前記発酵液は、工程2及び/又は工程3の段階を経た後、さらに工程4または工程6~8のいずれか1以上の工程を経た処理液であってもよい。前記グリセロールは、微生物を培養する際に使用していた炭素源であってもよく、前記アルコールは、1,3-プロパンジオール(1,3-PDO)などのような微生物の培養産物であってもよい。炭素源としてグルコースが用いられる場合、工程5によって発酵液内のグルコースの濃度が減少し得る。このとき、イオン交換樹脂を用いたクロマトグラフィー(例えば、SMB(Simulated Moving Bed)クロマトグラフィー)を適用して、発酵液内のグリセロールまたはアルコールの濃度を減少させることができ、これは、本発明の方法で得られた3-HPを用いて高分子重合を行う場合、製品の品質に影響を及ぼす重要な因子である。クロマトグラフィーまたはSMBクロマトグラフィーを用いる場合、移動相をFeedと共に注入して、1個以上の3-HPが豊富な分画(分画A)と、1個以上の3-HPでない他の化合物が豊富な分画(分画B)を得ることができる。
【0036】
工程6:発酵液におけるイオン成分を減少させる工程(沈殿及びろ過)
本発明の化合物を得る方法は、発酵液におけるイオン成分を減少させる工程を含んでいてもよい。このとき、工程6の前記発酵液は、工程2及び/又は工程3の段階を経た処理液であってもよい。または、工程6の前記発酵液は、工程2及び/又は工程3の段階を経た後、工程4、5、7および8のいずれか1以上の段階を経た処理液であってもよい。一具現例において、前記工程5を行う場合、グリセロール及びアルコールが低減した発酵液のうち最大不純物は、発酵液を製造する段階において、pHを調節するために流入したpH調節剤のカチオンである。分離精製工程によって異なるpH調節剤の使用が可能であるため、前記カチオンの種類は、様々になり得、通常は、カルシウム、マグネシウムなどのカチオンであるものの、これに制限されるものではない。3-HPと弱い化学的結合によって様々な3-HP塩の形態で存在する、かかるカチオンは、酸処理によって沈殿物の形態に効率良く除去することができる。沈殿物の除去は、フィルタプレス、ドラムフィルタなどを用いることができるものの、これに制限されず、沈殿物を除去できる一般的な方法であれば用いることができる。これらの酸処理過程によって溶液のpHは、約1~3に減少し得る。例えば、pHを約1.5~約2.5に減少させることができ、例えば、pHを約1.5~2.0に減少させることができる。
【0037】
工程7:発酵液におけるイオン成分を減少させる工程(電気透析及びイオン交換)
本発明の化合物を得る方法は、発酵液におけるイオン成分を減少させる工程を含んでいてもよい。このとき、工程7の前記発酵液は、工程2及び/又は工程3の段階を経た処理液であってもよい。または、工程7の前記発酵液は、工程2及び/又は工程3の段階を経た後、さらに工程4~6または8のいずれか1以上の段階を経た処理液であってもよい。一具現例において、工程6で除去して残った少量のイオンが工程7でさらに除去され得る。工程7では、電気透析、イオン交換、SMBクロマトグラフィーのような工程を適用して、発酵液に残留するイオン成分を分離、低減することができる。前記イオンは、硫酸イオン、リン酸イオン、ナトリウムイオン、アンモニウムイオン、カルシウムイオン、カリウムイオン、及びマグネシウムイオンなどであってもよい。このとき、イオン成分を例えば、約20,000ppm以下、例えば、約19,000ppm以下、例えば、約18,500ppm以下、例えば、約18,000ppm以下、例えば、約17,500ppm以下、例えば、約17,000ppm以下、例えば、約16,000ppm以下、例えば、約100~15,500ppm、例えば、約150~15,000ppmに減少させることができる。一具現例において、減少したイオン成分の濃度は、例えば、0ppm超、例えば、10ppm超、例えば、20ppm超、例えば、50ppm超であってもよい。
【0038】
工程8:発酵液における3-HPの濃度を増加させる工程
本発明の化合物を得る方法は、イオン成分が減少した発酵液における3-HPの濃度を増加させる工程を含んでいてもよい。このとき、工程8の前記発酵液は、工程2及び/又は工程3の段階を経た処理液であってもよい。または、工程8の前記発酵液は、工程2及び/又は工程3の段階を経た後、さらに工程4~7のいずれか1以上の段階を経た処理液であってもよい。このとき、蒸発、濃縮などの方法を用いて、イオン成分が減少した処理液における3-HPの濃度を高めることができる。
【0039】
一具現例において、3-HPのほか、他の成分を除去または濃度を低くした発酵液を蒸発及び/又は濃縮して、3-HPの濃度を増加させることができる。一具現例において、工程1~7を経た後、工程8を行って3-HPの濃度を増加させることができ、この場合、濃縮した発酵液は、水を除くほとんどの不純物が除去された水溶液の形態、つまり3-HP溶液であってもよい。この場合、水溶液の形態である濃縮した発酵液の3-HPの濃度は、例えば、15wt%以上、例えば、16wt%以上、例えば、17wt%以上、例えば、18wt%以上、例えば、19wt%以上、例えば、20wt%以上であってもよい。このとき、水溶液の形態である、濃縮した発酵液の3-HPの濃度は、約80wt%以下であってもよい。このとき、蒸発、濃縮は、真空及び/又は熱を適用して行うことができ、水を蒸発させて除去することにより、3-HPの濃度を調節することができる。
【0040】
例えば、真空蒸留を用いて発酵液を蒸留して、3-HPの濃度を高める工程を行う場合、例えば、絶対圧力を基準に約10~300mbar、例えば、約25~280mbar、例えば、約30~250mbar、例えば、約50~200mbar、例えば、約70~190mbar、例えば、約80~180mbarで行うことができる。具現例において、真空蒸留を用いて3-HPの濃度を高める工程は、例えば、約20mbar以下、例えば、約25mbar以下、例えば、約30mbar以下、例えば、約50mbar以下、例えば、約70mbar以下、例えば、約80mbar以下で行うことができる。一具現例において、真空蒸留を用いて3-HPの濃度を増加させる工程は、例えば、約300mbar以下、例えば、約280mbar以下、例えば、約250mbar以下、例えば、約200mbar以下、例えば、約190mbar以下、例えば、約180mbar以下で行うことができる。
【0041】
前記蒸留は、流下膜蒸留装置、ワイパー式薄膜蒸発装置、薄膜蒸発装置、遠心分子蒸留装置、薄膜上昇式蒸発装置などを用いて行うことができるものの、これに制限されず、多用途管で構成することができ、エネルギー効率化のために熱的再圧縮、機械的再圧縮工程を適用することができる。
【0042】
工程9:回収
本発明の化合物を得る方法は、発酵液から3-HPを回収する工程をさらに含んでいてもよい。このとき、工程9の前記発酵液は、工程2及び/又は工程3の段階を経た後、さらに工程4~8のいずれか1以上の段階を経た処理液であってもよい。3-HPは、水溶液状態で回収することができる。
【0043】
本発明の化合物を得る方法
本発明の化合物を得る方法は、上記に記載の工程の全てを実施することができ、2以上の工程を選択して実施することができ、3以上の工程を選択して実施することができる。また、本発明は、ここに記載の工程を任意に選択して、任意の順序に実施することができる。例えば、ろ過後、発酵液内のpH濃度を増加させることができ、発酵液内のpH濃度を増加させた後、ろ過を行うことができる。また、本発明は、ここに記載の工程のほか、さらに他の工程をさらに行うこともできる。
【0044】
本発明の利点及び特徴、そしてそれらを達成する方法は、詳細に後述する実施例を参照すれば明確になる。しかしながら、本発明は、以下で開示の実施例に限定されるものではなく、互いに異なる様々な形態に具現されるものである。但し、本実施例は、本発明の開示を完全にして、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に発明の範疇を完全に知らせるために提供されるものであり、本発明は、請求項の範疇によって定義されるだけである。
【0045】
<実験例1>工程2:不溶性物質の分離試験
組換え大腸菌を用いてグリセロールを唯一の炭素源とする培地において、バッチ発酵によって3-HP発酵液を製造した。発酵液の上澄み液を、液体クロマトグラフィー法を用いて分析した結果、3-HPが100g/L、1,3-PDOが0.5g/L、アセット酸が0.3g/L含まれており、グリセロールは、0.1g/L以下で存在した。
【0046】
前記発酵液を多孔性高分子膜でろ過して、不溶性物質を分離した。その結果、前記膜に入れた初期発酵液に対して91%の3-HP(ろ過前に投入した発酵液の3-HP量に対してろ過した発酵液内の3-HP量)を回収することができた。
【0047】
その後、ろ過して残った発酵液に、初期発酵液用量(体積基準)に対して約10%のDI-WATER(deionized water)を投入して攪拌した後、再びろ過を行った。これは、ろ過装置内に駆動のためDEAD VOLUME(装備を稼働するために要する空間、ここにある発酵液は、ろ過していない)が存在することから、上記のようなさらなる水の投入及び追ってろ過過程がさらに必要であるからである。
【0048】
その結果、初期発酵液内に含まれた3-HP量に対して96.7%まで3-HPの回収率を増加させることができた。すなわち、初期に比べて、ろ過液を91%まで回収した後、一定量の水をさらに投入した後、再びろ過液をさらに生産することにより、96.7%まで3-HPの回収率を増加させることができる(図2)。
【0049】
<実験例2>工程5:単一カラムクロマトグラフィーによる1,3-プロパンジオール及びグリセロールのピークの確認
上記実験例1で製造された、ろ過した発酵液を濃縮して、約30w/w%の3-HP液を製造し、それを実験例2のFeedとして使用した。確認の結果、前記Feedには3-HPがカルシウム塩の形態に含まれていた。380mlのガラスカラムにカチオン交換樹脂を充填し、定量ポンプで30%の3-HP発酵液20mlをパルスで満たし、DI-Waterを溶離剤として使用して、10ml/minで、下方から上方の方向にイオン交換樹脂カラムを通過させた。カラムを通過した液から10mlずつサンプルを採取して、液体クロマトグラフィー法で分析した(単一カラムクロマトグラフィーで、50℃の条件で、空間速度1hr-1に処理した)。
【0050】
その結果、1,3-PDOとグリセロールのピークが3-HPのテール(tail)近く類似に形成されることを確認することができた(図3)。よって、3-HP塩と樹脂との反発力を用いて、SMBクロマトグラフィーによって3-HPを1,3-PDO及びグリセロールと分離することができると類推できる。
【0051】
一方、同じイオン交換樹脂と3インチ径のカラムを適用して、SMBクロマトグラフィー実験を行った。3-HPを含む発酵液を限外ろ過及び濃縮して製造した3-HP300g/LのFeedがSMB装置に注入されており、Feedの温度を25~50℃水準に維持しながら、溶離剤(Eluent)(水)をFeedに対して1~3倍の割合(重量基準)で注入しつつ、ExtractとRaffinateのフロー比(=E/R ratio)を0.1~5.0の間に調節することにより、Raffinateのフローにおけるグリセロールと1.3-プロパンジオールを30ppm以下に除去することができ、Raffinateにおける3-HPの濃度は、70g/L~250g/Lであった。また、1.3-プロパンジオールの残留量を50ppm水準に高める場合、99.4%の回収率(Feedで注入された3-HP量に対してRaffinateに出る3-HP量)を達成することができた。
【0052】
<実験例3>工程6:カルシウムイオンの除去試験
前記実験例1で製造された、ろ過した発酵液を、濃縮過程を経て約20w/v%の3-HP液を作り、実験例3のFeedとして使用した。Feedをイオンクロマトグラフィー法で分析した結果、Caイオンの濃度が約40,000ppm存在し、Feed内の3-HPの濃度は、213g/Lであった。
【0053】
前記Feed(3-HP発酵液)1300gをガラスビーカーに入れた後、15%の硫酸溶液約870gを定量ポンプを用いて、30mL/minの速度で入れて、200rpmで攪拌した。硫酸溶液を全部入れた後、約1時間程さらに攪拌した。生成された白色硫酸カルシウム粒子を0.2マイクロフィルタで真空ろ過した。
【0054】
その結果、130g/Lの3-HPが含まれ、Caイオンがほとんど除去されたpH2~3のろ過液を得ることができた。ろ過紙の上端には、濡れた状態の白色固形物が約290g残っていた。白色固形物は、水分が約40重量%以上含有された石膏(Gypsum)である。
【0055】
沈殿反応の進行は、pHと電気伝導度をモニタリングすることで確認することができた。沈殿過程が終わった後、ろ過液内のCaイオンの濃度は、500ppm以下の水準と確認された(図4)。
【0056】
<実験例4>工程7:イオン交換試験
実験例3によってpHが低くなった発酵液のうち3-HPは、非解離酸の形態で存在し、イオン交換樹脂処理によって発酵液のうち残留しているイオンをさらに除去することができる。上記実験例1で製造された、ろ過した発酵液を実験例3のように、硫酸反応によってカルシウムを除去した後、イオン含量が約16,600ppmであるFeedを作って、実験例4のFeedとして使用した。その結果、Feed250mLをカチオン交換樹脂65mL、アニオン交換樹脂40mLに5mL/minの流速で注入して通過させる場合、3-HPとその他非解離状態の有機酸は、イオン交換樹脂を通過し、最終イオン濃度は、約200ppmの水準と確認された(図5)。よって、イオン交換樹脂の通過過程で、3-HPを回収するために投入された水の量のため、3-HPの濃度は、最初125g/Lから75g/Lに減少したが、これを鑑みても、Feed内のイオンの98%を除去可能であることを確認した(図6)。
【0057】
前記カチオン交換樹脂及びアニオン交換樹脂を1回通過させる、1段階イオン交換では除去されていないイオンがあったが、これらのイオンは、2価カチオン(Mg、Ca)とカリウムであり、これは、さらなる少量のカチオン交換樹脂処理によって除去することができるだろう。
【0058】
<実験例5>工程7:電気透析試験
実験例1で作られた、ろ過した発酵液を実験例3と同様の処理過程を経て、実験例5のFeedとして使用した。前記Feed内のイオン含量は、約16,600ppmであった。処理対象であるイオンの濃度が3000ppm以上であるため、効率の良いイオン成分を除去するためには、電気透析またはSMBクロマトグラフィーを適用して、主なイオン成分を除去することが好ましい。発酵液内のイオン成分は、電気透析、イオン交換、SMBクロマトグラフィーのいずれか工程のみで除去することもできるが、好ましくは、2つ以上の工程の組み合わせによってイオン除去の効率性を高めることが、廃水の発生や運営コストを低減する側面から有利であることが予想された。
【0059】
前記イオンの含量が約16,600ppmであるFeed1Lを不均質イオン交換膜(10set:カチオン交換膜とアニオン交換膜を10枚交互に積層する)が取り付けられた電気透析装置を用いて、発酵液内に残留するイオン性物質を除去した。発酵液は、カチオン交換膜及びアニオン交換膜の間を流れ、その流量は、0.6GPM(2.27LPM)である。イオン交換膜の間には8Vの電圧が荷電した。発酵液内のイオン量の変化は、発酵液の電気伝導度の変化から分かる。前記透析を4時間行った結果、発酵液の電気伝導度は、21.37mS/cmから1.35mS/cmに低下した。これにより、95%程度のイオン除去が可能であることを確認した(図7)。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、発酵液から不溶性物質または巨大分子の少なくとも一部を除去した後、下記の(a)~(c)のいずれか1以上の工程を行い、目的の化合物を回収して化合物を得る方法に関する:
(a)発酵液内の目的の化合物の濃度を増加させる工程
(b)発酵液内の残余炭素源またはアルコールの濃度を減少させる工程
(c)発酵液内のイオン成分の濃度を減少させる工程。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】