(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-03
(54)【発明の名称】遺伝子的に改変されたNK細胞およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20240527BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240527BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240527BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240527BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240527BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240527BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240527BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240527BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240527BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240527BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20240527BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240527BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240527BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20240527BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240527BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
A61K35/17
A61P35/00
A61P35/02
A61P9/10 101
A61P3/10
A61P1/16
A61P19/02
A61K47/68
A61K39/395 H
C12N5/0783
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N15/09 110
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571468
(86)(22)【出願日】2022-05-19
(85)【翻訳文提出日】2024-01-16
(86)【国際出願番号】 CN2022093747
(87)【国際公開番号】W WO2022242700
(87)【国際公開日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2021/094830
(32)【優先日】2021-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】518330176
【氏名又は名称】ウーシー バイオロジクス アイルランド リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】ジェン,ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ウー,チオン
(72)【発明者】
【氏名】ツァオ,ロイシウ
(72)【発明者】
【氏名】グゥ,ジージエ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4C076CC41
4C076CC50
4C076EE59
4C085AA14
4C085BB11
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087NA14
4C087ZA45
4C087ZA75
4C087ZA96
4C087ZB26
4C087ZB27
4C087ZC35
(57)【要約】
遺伝子的に改変されたNK細胞とその使用を提供する。前記の改変されたNK細胞は、癌のCAR-NK細胞の養子細胞療法に使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TIGIT、NKG2A、およびCISHのうちの二つまたは三つの機能的発現を損なうために改変される、単離された改変されたNK細胞。
【請求項2】
TIGIT、NKG2A、およびCISHのうちの一つまたは二つまたは三つの機能的発現を損なうために改変される、ならびにキメラ抗原受容体(CAR)をさらに含む、単離された改変されたNK細胞。
【請求項3】
前記機能的発現が、遺伝子ノックアウト、遺伝子突然変異、遺伝子欠損、遺伝子サイレンシング、または前述のいずれかの組み合わせにより減少または除去される、請求項1または2に記載の改変されたNK細胞。
【請求項4】
前記機能的発現が、CRISPRシステム、TALENシステム、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)システム、メガヌクレアーゼシステム、siRNA、アンチセンスRNA、マイクロRNA、短ヘアピンRNA、または前述のいずれかの組み合わせを用いて減少または除去される、請求項1または2に記載の改変されたNK細胞。
【請求項5】
前記機能的発現がCRISPRシステムを使用して減少または除去される、および使用されるsgRNAが、配列番号1~6、配列番号7~18、および配列番号19~24から選択される、請求項1または2に記載の改変されたNK細胞。
【請求項6】
機能的発現の損ないが、損ないが存在しない対応するNK細胞と比較して、改変されたNK細胞中の標的遺伝子の発現を少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、または95%減少させる、請求項1または2に記載の改変されたNK細胞。
【請求項7】
NK細胞が、脊椎動物の臍帯血、末梢血および/または胎盤(例えば、ヒトまたはげっ歯動物細胞)、および人工多能性幹細胞(iPSC)からなる群から誘導されるものである、および/またはNK細胞が自己または同種異系のものである、請求項1または2に記載の改変されたNK細胞。
【請求項8】
CARが(i)抗原認識ドメイン、(ii)細胞外ヒンジ領域、(iii)膜貫通ドメイン、および(iv)細胞内シグナル伝達ドメイン、を含む、請求項2に記載の改変されたNK細胞。
【請求項9】
抗原認識ドメインが、標的細胞上で発現するが、健康細胞上では発現しない抗原を標的とする抗体またはその抗原結合断片であり、例えば、単鎖可変断片(scFv)として結合されたモノクローナル抗体(mAb)の可変領域、もしくは重鎖抗体(VHH)の重鎖可変ドメインに由来する抗原認識ドメインである、ならびに/または
抗原認識ドメインが、サイトカイン、自然免疫受容体、TNF受容体スーパーファミリーメンバー、成長因子、および/もしくは構造タンパク質などの天然リガンド/受容体ペアのメンバーである、請求項8に記載の改変されたNK細胞。
【請求項10】
抗原認識ドメインが、以下:CD19、CD20、HER2、BCMAおよび/またはEGFR-THR、CD19、CD123、CD22、CD30、CD171、CS-1、CLL-1、CD33、EGFRvIII、GD2、GD3、BCMA、TnAg、PSMA、ROR1、FLT3、FAP、TAG72、CD38、CD44v6、CEA、EPCAM、B7H3、KIT、IL-13Ra2、レチクル、IL-11Ra、PSCA、PRSS21、VEGFR2、LewisY、CD24、PDGFRβ、SSEA-4、CD2O、葉酸受容体α、ERBB2(HER2/neu)、MUC1、EGFR、NCAM、プロテアーゼ、PAP、ELF2M、EphrinB2、IGF-I受容体、CAIX、LMP2、gp100、bcr-abl、チロシナーゼ、EphA2、フコシルGM1、sLe、GM3、TGS5、HMWMAA、o-アセチル-GD2、葉酸受容体β、TEM1/CD248、TEM7R、CLDN6、GPRC5D、CXORF61、CD97、CD179a、ALK、ポリシアル酸、PLAC1、GloboH、NYK-BR-1、UPK2、HAVCR1、ADRB3、PANX3、GPR2O、LY6K、0R51E2、TARP、WT1、NY-ESO-1、LAGEla、MAGE-A1、レグマイン、HPV E6、E7、MAGE Al、ETV6-AML、精子タンパク質17、XAGE1、Tie2、MAD-CT-1、MADCT-2、Fos関連抗原1、p53、p53変異体、prostein、サバイビンおよびテロメラーゼ、PCTA-1/Galectin8、melanAI MART1、Ras変異体、hTERT、肉腫転位断点(sarcoma translocation breakpoints)、ML-IAP、ERG(TMPRSS2-ETS融合遺伝子)、NA17、PA1X3、アンドロゲン受容体、サイクリンB1、MYCN、RhoC、TRP-2、CYP1B1、BORIS、SART3、PAX5、OY-TES1、LCK、AKAP-4、SSX2、RAGE-1、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2、腸カルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、CD79a、CD79b、CD72、LAIR1、FCAR、LILRA2、CD300LF、CLEC12A、BST2、EMR2、LY75、GPC3、FCR3MLSおよびIGLL1、ならびにウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ受容体(uPAR)、からなる群より選択される1つまたは複数の抗原を標的とする、請求項8に記載の改変されたNK細胞。
【請求項11】
CARが、CD3ζエンドドメイン(例えば、配列番号39のアミノ酸配列、または配列番号40を含むヌクレオチド分子によってコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチド)、CD27、CD28、4-1BB(CD137、例えば配列番号31のアミノ酸配列、または配列番号32を含むヌクレオチド分子によってコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチド)、OX40、CD30、CD4O、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、CD83と特異的に結合するリガンド、CDS、ICAM-1、GITR、BAFFR、HVEM(LIGHTR)、SLAMF7、NKp8O(KLRF1)、CD16O、CD19、CD4、CD8α、CD8β、IL2Rβ、IL2Rγ、IL7Rα、ITGA4、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CD11d、ITGAE、CD1O3、ITGAL、CD11a、LFA-1、ITGAM、CD11b、ITGAX、CD11c、ITGB1、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、TNFR2、TRANCE/RANKL、DNAM1(CD226)、SLAMF4(CD244、2B4)、CD84、CD96(Tactile)、CEACAM1、CRTAM、Ly9(CD229)、CD16O(BY55)、PSGL1、CD100(SEMA4D)、CD69、SLAMF6(NTB-A、Ly1O8)、SLAM(SLAMF1、CD1SO、IPO-3)、BLAME(SLAMF8)、SELPGG(CD162)、LTBR、LAT、GADS、SLP-76、PAG/Cbp、NKp44、NKp30、NKp46およびNKG2Dから選択される共刺激シグナル伝達ドメインを含む、請求項8に記載の改変されたNK細胞。
【請求項12】
CARが、ベクター、例えばレンチウイルスベクターまたはレトロウイルスベクター(例えばγ-レトロウイルスベクター、pMSCV SFFV)を介して、および/またはCRISPRシステムを介してNK細胞に形質導入される、請求項8に記載の改変されたNK細胞。
【請求項13】
改変されたNK細胞が、細胞集団、細胞培養物または製品中にある、請求項1または2に記載の改変されたNK細胞。
【請求項14】
改変されたNK細胞が、TIGIT、NKG2AおよびCISHのうちの1つまたは複数の機能的発現を損なわないNK細胞と比較して、以下:
(a)TIGIT、NKG2AおよびCISHのうちの1つまたは複数の機能的発現が減少または除去される;
(b)インビトロおよび/またはインビボ細胞の増幅が増加される;
(c)インビトロおよび/またはインビボ細胞の寿命が延長される;
(d)インビボ細胞枯渇が改善される;
(e)NK細胞の標的細胞に対する細胞毒性が高められる;および/または
(f)NK細胞によって、サイトカイン、インターロイキンおよび/または成長因子の分泌が調節される、
のうちの1つまたは複数の特徴を有する、請求項1または2に記載の改変されたNK細胞
【請求項15】
以下の工程:(i)NK細胞を提供する工程;(ii)TIGIT、NKG2AおよびCISHのうちの1つまたは複数の機能的発現を損なうようにNK細胞を改変する工程;(iii)任意にはNK細胞を改変して、キメラ抗原受容体(CAR)を含むようにする工程;および(iv)任意には改変された細胞を増幅する工程、
を含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の改変されたNK細胞を製造する方法。
【請求項16】
工程(ii)は、工程(iii)の前、同時、または後に行われる;および/または工程(iv)は、工程(i)~(iii)のうちの1つまたは複数の前または後に行われる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
疾患を治療する製品の調製における、請求項1~14のいずれか一項に記載の改変されたNK細胞の使用。
【請求項18】
有効量の請求項1~14のいずれか一項に記載の改変されたNK細胞を投与することを含む、それを必要とする対象において疾患を治療する方法。
【請求項19】
疾患の治療における使用のための、請求項1~14のいずれか一項に記載の改変されたNK細胞。
【請求項20】
治療が養子細胞療法、好ましくはCAR-NK養子細胞療法である、請求項17に記載の使用、または請求項18に記載の方法、または疾患の治療における使用のための請求項19に記載の改変されたNK細胞。
【請求項21】
疾患が、癌、自己免疫性疾患、伝染病、移植拒絶反応および他の年齢関連疾患から選択される、請求項17に記載の使用、または請求項18に記載の方法、または疾患の治療における使用のための請求項19に記載の改変されたNK細胞。
【請求項22】
疾患が、癌腫、肉腫、メラノーマ、リンパ腫および白血病からなる群より選択される、ならびに/または、血液系、リンパ系、消化系、呼吸器系、生殖系、運動器系、および神経系の癌から選択される癌である、請求項17に記載の使用、または請求項18に記載の方法、または疾患の治療における使用のための請求項19に記載の改変されたNK細胞。
【請求項23】
疾患が、アテローム性動脈硬化症、糖尿病、肝線維症および変形性関節症からなる群より選択される、請求項17に記載の使用、または請求項18に記載の方法、または疾患の治療における使用のための請求項19に記載の改変されたNK細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本開示は、遺伝子工学と免疫療法に関する。特に、がんの養子細胞療法および/またはCAR-NK療法のような疾患の治療における遺伝子的に改変されたNK細胞およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
ナチュラルキラー(NK)細胞はヒト末梢血単核細胞(PBMC)の15%を占め、腫瘍とウイルス感染を防ぐ上で重要な役割を果たしている細胞毒性リンパ細胞であり、現在、それは適応免疫系と自然免疫系をつなぐ重要な構成部分であることが知られている。
【0003】
NK細胞の活性は、標的細胞または抗原提示細胞上の対応するリガンドを認識する一連の共刺激(例えばNKG2D、CD226)と共抑制表面受容体(例えばPD-1、TIGIT、CD96、TIM-3、LAG-3、NKG2A)によって調節される。共刺激と共抑制シグナルの統合は、NK細胞の反応性を決定する。
【0004】
NKとT細胞に発現される膜貫通糖タンパク質受容体であるTIGIT(免疫グロブリンとITIMドメインを有するT細胞免疫受容体)は、T細胞とNK細胞の活性化を抑制する免疫チェックポイント分子である。IgVドメイン、膜貫通ドメイン、および免疫受容体抑制性チロシンモチーフ(ITIM, immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif)を含む。CD96は、同じ免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーであり、類似の抑制作用を持つが、TIGITに比べて、リガンドCD155との結合親和性は低い。CD155(主に)とCD112は、T細胞とNK細胞が媒介する免疫を抑制するために、TIGITとCD96が結合するリガンドとして作用する。CD155(ポリオウイルス受容体、PVR)は正常な人体組織ではほとんど発現しないが、各種腫瘍細胞系と原発性悪性腫瘍では高くに発現する。臨床前および臨床証拠は、モノクローナル抗体によるTIGIT遮断が、NK細胞およびT細胞の抗腫瘍および抗ウイルス活性を増強することを証明した。
【0005】
NKG2A(NKグループ2メンバーA)は、CD94とヘテロ二量体を形成するII型膜受容体であるNKG2ファミリーのNK細胞受容体である。NKG2AはCD94と二量化し、C型凝集体と相関する、HLA-Eを認識する抑制性受容体を形成する。これらの抑制性受容体は標的細胞上のMHC Iリガンドと相互作用し、それにより、細胞粒子の分極を完全に抑制し、細胞毒性粒子の放出を防止する。NKG2Aは、その細胞質尾部に、2つのITIMを含む。これらのITIMは、ITIM含有受容体と結合した後にリン酸化され、SH2ドメイン含有ホスファターゼ(SHP)-1とSHP-2などのチロシンホスファターゼの募集を促進する。INK細胞中の大部の下流シグナルを遮断するため、ITIM含有受容体によるSHP-1の募集は、シグナル伝達の開始を抑制するように見える。血液腫瘍と実体腫瘍の腫瘍細胞には、HLA-E発現のアップレギュレーションを示した。種々のがんにおいて、不良予後は、HLA-Eのアップレギュレーションと関係がある。そして、抗体によるCD94/NKG2A受容体の遮断を、治療戦略とすることができる
【0006】
NK細胞における重要な負の細胞内免疫チェックポイントであるCISH(サイトカイン誘導SH2含有タンパク質)は、細胞内サイトカインシグナル伝達抑制因子(SOCS)ファミリーのメンバーであり、サイトカインと成長因子シグナル伝達経路の重要な調節因子である。他のメンバーと同様に、CISHは、中心SH2ドメインを有し、このドメインは、リン酸チロシン残基とユビキチン転移酵素系を募集するSOXボックスモチーフと相互作用し、プロテアソームの分解を誘導することができる。CISHはIL-15に反応して急速に誘導されるが、CISHを欠損したNK細胞は、IL-15に対してより敏感であり、増殖、サイトカインの産生、腫瘍に対する細胞毒性が増強されることを特徴とする。
【0007】
遺伝子改変は、T細胞、樹状細胞、NK細胞を含む様々な細胞タイプの機能を再配向(redirecting)することが期待される。特に、さまざまな腫瘍抗原に対してT細胞を遺伝子的に再配向することについて、多くの研究がなされてきた。しかし、初代NK細胞の遺伝子的改変における困難は、この領域がT細胞にある程度遅れることをもたらす。いくつかの研究では、サイトカインの導入遺伝子(例えばIL-2、IL-12またはIL-15の導入遺伝子)を用いてNK細胞を改変し、それにより細胞に必要なサイトカインを直接提供することにより、NK細胞機能を増強する。しかし、多くの研究では、キメラ受容体よるNK細胞特異性の再配向が記述された。
【0008】
製造および使用中に、長期持続性があり、増強した抗腫瘍作用と減少した副作用を有するNK細胞が依然として必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の概要
本明細書は、遺伝子的に改変されたNK細胞およびその疾患治療における使用、例えばがんの養子細胞療法における使用を開示する。
【0010】
本明細書の第1の態様として、TIGIT、NKG2AおよびCISHのうちの1つまたは複数の機能的発現を損なうために改変された、単離された遺伝子的に改変されたNK細胞を開示する。いくつかの実施形態によれば、NK細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)をさらに含んでも良い。
【0011】
いくつかの実施形態では、単離された改変されたNK細胞が提供される、ここでNK細胞は改変されてTIGIT、NKG2A、およびCISHのうちの少なくとも二つの機能的発現を損なう。
【0012】
いくつかの実施形態では、単離された改変されたNK細胞が提供される、ここでNK細胞は改変されて、TIGIT、NKG2A、およびCISHのうちの1つまたは複数の機能的発現を損なう、ならびにここでNK細胞はキメラ抗原受容体(CAR)をさらに含む。
【0013】
本明細書の第2の態様として、本明細書に記載の改変されたNK細胞を含む細胞集団または細胞培養物を開示する。
【0014】
本明細書の第3の態様として、本明細書に記載の改変されたNK細胞、細胞集団または細胞培養物を含む製品を開示する。いくつかの実施形態では、製品は、医薬品、医薬組成物、またはキットである。
【0015】
本明細書の第4の態様として、本明細書に記載の改変されたNK細胞を調製するための方法を開示する。
【0016】
本明細書の第5の態様として、疾患を治療する製品の調製における本明細書に記載の改変されたNK細胞、細胞集団または細胞培養物の使用を開示する。
【0017】
本明細書の第6の態様として、必要とする対象における疾患を治療する方法を開示し、前記の方法は、有効量の本明細書に記載の改変されたNK細胞、細胞集団、細胞培養物または製品を投与することを含む。
【0018】
本明細書の第7の態様として、疾患を治療するための、本明細書に記載の改変されたNK細胞、細胞集団、細胞培養物または製品を開示する。
【0019】
本願の他の目的、特徴、利点、および態様は、以下の説明および添付の請求の範囲から当業者にとって明らかになる。しかしながら、以下の説明、添付の請求の範囲および具体的な実施例は、本願の好適な実施形態を示すが、例示的に説明として与えられることを理解すべきである。以下を読むことにより、開示された発明の要旨および範囲内の様々な変更および改変が当業者に容易に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明の新規な特徴は、添付の請求の範囲に記載される。以下の詳細な説明を参照することにより、本発明の特徴と利点のより良い理解が得られ、この詳細な説明は、本発明の原理を利用した例示的な実施形態を説明する:
【
図2】
図2は、フローサイトメトリーにより試験されたNK細胞におけるCRISPR/Cas9によるTIGITノックアウト(KO)効率を示す。
【
図3】
図3A-3Bは、フローサイトメトリーにより試験されたNK細胞におけるCRISPR/Cas9によるNKG2Aノックアウト効率を示す。
【
図4】
図4は、フローサイトメトリーにより試験されたNK細胞におけるCRISPR/Cas9によるTIGITとNKG2Aのデュアルノックアウト効率を示す。
【
図5】
図5は、ウェスタンブロットにより試験されたNK細胞におけるCRISPR/Cas9によるCISHノックアウト効率を示す。
【
図6】
図6は、HT1080腫瘍細胞のCD155およびHLA-E発現を示す。「陰性」とは、蛍光標識された対照抗体で染色された細胞の陰性対照を指す。
【
図7】
図7は、HT1080-ZsGreen標的細胞に対する遺伝子的に改変されたNK細胞の細胞毒性試験の結果を示す。
【
図8】
図8A-8Bは、改変されたNKで治療後のA 549担腫瘍マウスにおける腫瘍成長抑制を示す。統計データは二元配置分散分析によって分析される。*p0.05;**p<0.01。
【
図9】
図9A-9Bは、CD19 CAR-NKおよびmCD19 CAR-NKにおける抗CD19 CARの発現を示す。
【
図10】
図10A-10Bは、フローサイトメトリーにより試験されたmCD19CAR-NKにおけるTIGITノックアウト効率を示す。
【
図11】
図11A-11Bは、ウェスタンブロットにより試験されたmCD19CAR-NKにおけるCISHノックアウト効率を示す。
【
図12】
図12A-12Bは、Raji-luc標的細胞に対するmCD19 CAR-NK細胞の細胞毒性試験の結果を示す。統計データは二元配置分散分析によって分析される。*p<0.05;**p<0.01;****p<0.0001。
【
図13】
図13A-13Bは、Raji-luc標的細胞に対するmCD19 CAR-NK細胞の連続殺傷試験の結果を示す。統計データは二元配置分散分析によって分析される。***p<0.001。
【
図14】
図14A-14Bは細胞毒性試験におけるIFN-γのサイトカインの放出を示す。統計データは二元配置分散分析によって分析される。*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001;****p<0.0001。
【
図15】
図15A-15Bは連続殺傷試験におけるIFN-γのサイトカインの放出を示す。統計データは二元配置分散分析によって分析される。*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001;****p<0.0001。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明の詳細な説明
以下の説明および実施例は、本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明は、本明細書に記載の特定の実施形態に限定されるものではないので、変更することができることを理解すべきである。当業者であれば、本発明には多くの変更および修正が存在し、これらの変更および修正は本発明の範囲内に含まれることを認識すべきである。
【0022】
本開示は、主に、NK細胞中のTIGIT、NKG2Aおよび/またはCISHの機能的発現を損なうことにより、遺伝子的に改変されたNK細胞の細胞毒性を著しく改善し、NK細胞のインビトロまたはインビボ寿命を延長することができるという予期しない知見に基づく。この知見に基づいて、本開示は、遺伝子的に改変されたNK細胞およびその製造方法を提供する、ここでNK細胞のTIGIT、NKG2Aおよび/またはCISHのうちの少なくとも1つが損なわれ、およびここでNK細胞は、キメラ抗原受容体をさらに含んでも良いか、またはキメラ抗原受容体と結合しても良い。本明細書では、本開示のNK細胞を含む細胞集団、細胞培養物または製品、ならびに癌、自己免疫性疾患、伝染病、移植拒絶反応および他の年齢関連疾患の治療におけるそれらの使用をさらに提供する。
【0023】
特に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者が一般に理解するものと同じ意味を有する。本開示は、本開示に記載のものと同様または同等の任意の方法および材料を用いて実施または試験することができるが、好ましい方法および材料が記載される。
【0024】
本明細書で使用する場合、用語「一つ」または「一個」は、文書文法オブジェクトの「1つまたは複数」(すなわち、少なくとも1つ)を表すことを意図する。文脈に別の定義がない限り、単数表現には複数の表現が含まれる。例えば、「一つの要素」は、一つの要素または複数の要素を意味する。
【0025】
「約」は、基準の数、レベル、値、回数、頻度、百分率、寸法、サイズ、量、重量、または長さに対して、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2または1%で変化する数、レベル、値、回数、頻度、百分率、寸法、サイズ、量、重量、または長さを意味する。
【0026】
特に指示がない限り、「または」の使用は、「および/または」を意味する。
【0027】
本明細書で使用する場合、特に説明がない限り、用語「含む」、「含有」、および「含んで」は、記載された工程もしくは要素、または工程もしくは要素の群を含むと理解すべきであり、任意の他の工程もしくは要素または工程もしくは要素の群を排除するものではない。
【0028】
フレーズ「からなる」は、「からなる」というフレーズの後の内容を含み、且つそれらに限定することを意味する。したがって、「からなる」というフレーズは、列挙された要素が必要または強制的であり、かつ他の要素が存在する可能性があることを意味する。
【0029】
「単離」という用語は、天然状態において通常に付随する成分を実質的にまたは本質的に含まない材料を意味する。前記の材料は、細胞または、タンパク質または核酸などの高分子であってもよい。例えば、本明細書で用いられる「単離された細胞」とは、自然存在状態の細胞から精製された細胞を指す。
【0030】
用語「NK細胞」または「ナチュラルキラー細胞」は、自然免疫系にとって重要な細胞毒性リンパ球を指す。NK細胞は、抗腫瘍と抗ウイルス反応を媒介するため、良好な臨床応用の将来性がある。本開示のNK細胞は、血液(例えば、自己または同種異系PBMC)、NK細胞系(例えばNK-92、NKG、YT、NK-YS、HANK-1、YTS、NKLなど)または分化幹細胞(例えばiPSC)から由来しても良い。
【0031】
TIGIT、NKG2Aおよび/またはCISH
本明細書で使用する場合、用語「TIGIT」または「TIGIT遺伝子」は、T細胞およびNK細胞の活性化を抑制する免疫チェックポイント分子である免疫グロブリンおよびITIMドメインを有するT細胞免疫受容体(TIGIT)をコードするヌクレオチド分子を指す。
【0032】
TIGIT遺伝子は、配列番号25に記載された配列を有するTIGITポリペプチドなどのTIGITポリペプチド、または上記TIGITポリペプチドまたは当分野で知られている任意のTIGITポリペプチドと高い同一性(例えば、少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.8%の同一性)を有し、同じ免疫チェックポイント機能を有するTIGITポリペプチドをコードする遺伝子である。
【0033】
例えば、TIGIT遺伝子は、以下であっても良いが、これらに限定されない:配列番号26に記載された配列を有する核酸分子;上記のTIGIT遺伝子または当分野で知られている任意のTIGIT遺伝子と高い同一性(例えば、少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.8%の同一性)を有し、かつ同様に機能性TIGITポリペプチドをコード・発現するTIGITポリペプチドコード配列。
【0034】
本明細書で使用する場合、用語「NKG2A」または「NKG2A遺伝子」は、CD94とヘテロ二量体を形成し、HLA-Eと相互作用することで細胞粒子の分極を抑制し、細胞毒性粒子の放出を防止するII型膜受容体であるNKグループ2メンバーA(NKG2A)をコードするヌクレオチド分子を指す。
【0035】
NKG2A遺伝子は、配列番号27に記載された配列を有するTIGITポリペプチドなどのNKG2Aポリペプチド、または上記NKG2Aポリペプチドまたは当分野で知られている任意のNKG2Aポリペプチドと高い同一性(例えば、少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.8%の同一性)を有し、同じ免疫チェックポイント機能を有するNKG2Aポリペプチドをコードする遺伝子である。
【0036】
例えば、NKG2A遺伝子は、以下であっても良いが、これらに限定されない:配列番号28に記載された配列を有する核酸分子;上記のNKG2A遺伝子または当分野で知られている任意のNKG2A遺伝子と高い同一性(例えば、少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.8%の同一性)を有し、かつ同様に機能性NKG2Aポリペプチドをコードおよび発現するNKG2Aポリペプチドコード配列。
【0037】
本明細書で使用する場合、用語「CISH」または「CISH遺伝子」は、サイトカイン誘導SH2含有タンパク質(CISH)をコードするヌクレオチド分子を指し、NK細胞における重要な負の細胞内免疫チェックポイントであるCISH(サイトカイン誘導SH2含有タンパク質)は、細胞内サイトカインシグナル伝達抑制因子(SOCS)ファミリーのメンバーであり、サイトカインと成長因子シグナル伝達経路の重要な調節因子である。
【0038】
CISH遺伝子は、配列番号29に記載された配列を有するTIGITポリペプチドなどのCISHポリペプチド、または上記CISHポリペプチドまたは当分野で知られている任意のCISHポリペプチドと高い同一性(例えば、少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.8%の同一性)を有し、同じ免疫チェックポイント機能を有するCISHポリペプチドをコードする遺伝子である。
【0039】
例えば、CISH遺伝子は、以下であっても良いが、これらに限定されない:配列番号30に記載された配列を有する核酸分子;上記のCISH遺伝子または当分野で知られている任意のCISH遺伝子と高い同一性(例えば、少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.8%の同一性)を有し、かつ同様に機能性CISHポリペプチドをコードおよび発現するCISHポリペプチドコード配列。
【0040】
用語「発現を損なう/抑制する」は、遺伝子またはタンパク質の発現を抑制、減少、または除去することを意味する。遺伝子(すなわちTIGIT、NKG2AまたはCISHをコードする遺伝子)の発現を抑制または減少または除去するために、遺伝子の配列および/または構造は、遺伝子が転写されない(DNAに対して)または翻訳されない(RNAに対して)、または機能性タンパク質(例えば転写因子)を生成するために転写または翻訳されることがないように改変しても良い。
【0041】
本明細書では、遺伝子発現を抑制、減少、または除去するための当技術分野で知られている様々な方法を説明する。いくつかの方法は、核酸置換、付加、および/または欠失を野生型遺伝子に導入することができる。いくつかの方法は、遺伝子に単鎖または二重鎖の断裂を導入することもできる。上述のように、タンパク質の発現を抑制または減少または除去するために、タンパク質をコードする遺伝子またはポリヌクレオチドの発現を抑制、減少または除去することができる。
【0042】
本明細書で使用する場合、用語「損なう」または「抑制」の表現は、参照対照レベルに比べて少なくとも10%、例えば少なくとも約20%、または少なくとも約30%、または少なくとも約40%、または少なくとも約50%、または少なくとも約60%、または少なくとも約70%、または少なくとも約80%、または少なくとも約90%、または最大100%(すなわち、参照サンプルと比較して存在しないレベルに)減少することを意味する。
【0043】
本明細書で使用する場合、用語「不活性化」は、遺伝子によってコードされるポリペプチド産物の発現を阻止することを意味する。不活性化は、遺伝子発現の任意の段階またはプロセス(転写、翻訳、タンパク質発現を含むがこれらに限定されない)で発生することができ、かつ、任意の遺伝子または遺伝子産物(DNA、RNA(例えばmRNA)、およびポリペプチドを含むがこれらに限定されない)に影響を与えることができる。
【0044】
いくつかの実施形態では、遺伝子の欠損により、遺伝子を抑制または不活性化する。本明細書で使用される場合、「遺伝子の欠損」とは、DNA配列の少なくとも一部を遺伝子からまたは遺伝子の近傍で除去することを意味する。いくつかの実施形態では、遺伝子の欠損を経った配列は、遺伝子のエキソン配列を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子の欠損を経った配列は、遺伝子のプロモーター配列を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子の欠損を経った配列は、遺伝子のフランキング配列を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子から、遺伝子配列の一部を除去する。いくつかの実施形態では、染色体から、完全な遺伝子配列を除去する。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、本明細書のいずれかの実施形態に記載の遺伝子の欠損を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子配列中の少なくとも1つのヌクレオチドまたはヌクレオチド塩基対の欠失により、遺伝子を抑制または不活性化し、非機能性遺伝子産物をもたらす。いくつかの実施形態では、遺伝子は遺伝子の欠損により不活化され、ここで遺伝子配列中の少なくとも1つのヌクレオチドの欠失により、もはや元の遺伝子産物の機能または活性を有さない遺伝子産物、または機能不全の遺伝子産物がもたらされる。
【0045】
いくつかの実施形態では、遺伝子の付加または置換により、遺伝子を抑制または不活性化し、ただし、遺伝子配列に少なくとも1つのヌクレオチドまたはヌクレオチド塩基対を付加または置換することにより、遺伝子を抑制または不活性化する。いくつかの実施形態では、遺伝子は遺伝子不活性化により不活性化され、ここで遺伝子配列中の少なくとも1つのヌクレオチドの組み込みまたは置換より、もはや元の遺伝子産物の機能または活性を有さない遺伝子産物、または機能不全の遺伝子産物がもたらされる。いくつかの実施形態では、遺伝子は付加または置換により不活性化され、ここで遺伝子配列への少なくとも1つのヌクレオチドの組み込みまたは置換より、機能不全の遺伝子産物がもたらされる。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、本明細書のいずれかの実施形態に記載の遺伝子の付加または置換を含む。
【0046】
宿主細胞中の遺伝子機能発現を損なう方法および技術としては、規則的な間隔をもってクラスター化された短鎖反復回文配列(clustered, regularly interspaced,short palindromic repeats、CRISPR)、転写活性因子様エフェクターヌクレアーゼ(transcription activator-like effector nuclease、TALEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(zinc-finger nuclease、ZFN)、相同組換え、非相同末端結合、メガヌクレアーゼ、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA;短ヘアピンRNAともいう)を含むが、これらに限定されない。
【0047】
いくつかの実施形態では、TIGITは、配列番号3、2、または6などの配列番号1~6から選ばれるgRNAを含むCRISPR/Cas9システムによって損なってもよい。いくつかの実施形態では、NKG2Aは、配列番号18、7、または10などの配列番号7~18から選ばれるgRNAを含むCRISPR/Cas9システムによって損なってもよい。いくつかの実施形態では、CISHは、配列番号21、19、または24などの配列番号19~24から選ばれるgRNAを含むCRISPR/Cas9システムによって損なってもよい。
【0048】
いくつかの実施形態では、デュアルノックアウトまたはトリプルノックアウトは、TIGIT、NKG2A、およびCISHのうちの2つまたは3つに対するgRNA、例えば配列番号1~6から選ばれるgRNA、配列番号7~18から選ばれるgRNA、および配列番号19~24から選ばれるgRNAからなる群から選ばれる2つ以上のgRNAを含むCRISPR/Cas9システムで行ってもよい。例えば、CRISPR/Cas9システムは、配列番号3、18および/または21のgRNAを含んでもよい。
【0049】
本願の開示によれば、TIGIT、NKG2Aおよび/またはCISHのうちの1つまたは複数の損ない(impairment)は、インビトロおよび/またはインビボ細胞増幅を増加させ、インビトロおよび/またはインビボ細胞の寿命を延長し、インビボ細胞の枯渇を改善し、NK細胞の標的細胞に対する細胞毒性を増加させ、および/またはNK細胞からのサイトカイン、インターロイキンおよび/または成長因子の分泌を調節することができる。
【0050】
キメラ抗原受容体(CAR)
本願の改変されたNK細胞は、エンジニアリングされた抗原受容体、例えば、活性化または刺激性CAR、共刺激性CAR(WO2014/055668参照)、および/または阻害性CAR(iCAR、Fedorovら、Sci. Transl. Medicine、5(215)(2013年12月)参照)を含むキメラ抗原受容体(CAR)などをさらに含んでも良い。
【0051】
CARは、通常に、1種以上の細胞内シグナル伝達成分と結合する細胞外抗原(またはリガンド)結合ドメインを含み、いくつかの態様では、こんな結合は、リンカーおよび/または膜貫通ドメインを介する。この分子は通常、天然抗原受容体を通過するシグナル、共刺激受容体と組み合わされる前記受容体を通過するシグナル、および/または単独で共刺激受容体を通過するシグナルをシミュレーションまたは模倣する。
【0052】
いくつかの実施形態では、CARは、特定の抗原(またはマーカーまたはリガンド)に特異的に構築され、当該抗原は、例えば、養子療法によって標的化された特定の細胞型で発現される抗原、例えば癌マーカーであり、および/または、阻害反応を誘導することを目的とする抗原、例えば正常または非罹患細胞型に発現する抗原である。したがって、CARは、通常に、その細胞外部分に、1つまたは複数の抗原結合断片、ドメイン、または部分である1つまたは複数の抗原結合分子、あるいは1つまたは複数の抗体可変ドメイン、および/または抗体分子を含む。いくつかの実施形態では、CARは、抗体分子の一つまたは複数の抗原結合部分を含み、例えば、モノクローナル抗体(mAb)の可変重鎖(VH)および可変軽鎖(VL)から誘導される単鎖抗体断片(scFv)を含む。
【0053】
いくつかの実施形態では、CARは、例えば、癌マーカーまたは標的となる細胞または疾患(例えば、腫瘍細胞や癌細胞)の細胞表面抗原、例えば、本明細書に記載されるまたは当技術分野で知られる任意の標的抗原などの抗原と特異的に結合する抗体重鎖ドメインを含む。
【0054】
いくつかの実施形態では、CARの標的としては、BCMA、CD19、CD20、CD22、PSMA、ACE2、CD7、CS1、EGFR/EGFRVIII、ErBb2/HER2、CD3、CD138、とNKG2Dが挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
抗体断片は、完全抗体のタンパク質加水分解消化および組換え宿主細胞の製造を含むがこれらに限定されない、種々の技術によって製造することができる。いくつかの実施形態では、抗体は、組換えによって産生される断片であり、例えば、不自然に発生する配置を含む断片であり、例えば、合成リンカー(例えばペプチドリンカー)によって結合された2つ以上の抗体領域または鎖を有するものであり、および/または天然に存在する完全抗体の酵素消化によって生成された断片ではなくても良い。いくつかの態様では、抗体断片はscFvである。
【0056】
いくつかの実施形態では、CARは、細胞表面上で発現する抗原(例えば、完全抗原)を特異的に認識する抗体または抗原結合断片(例えば、scFv)を含む。いくつかの実施形態では、CARは、抗BCMA VHHを含む。
【0057】
いくつかの態様では、抗原特異的結合または認識成分は、1つまたは複数の膜貫通および細胞内シグナルドメインと接続する。いくつかの実施形態では、CARは、CARの細胞外ドメインと融合した膜貫通ドメインを含む。1つの実施形態では、CARの1つのドメインと天然に結合された膜貫通ドメインを使用する。場合によっては、アミノ酸置換により、膜貫通ドメインを選択または改変し、これらのドメインが同じまたは異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインと結合することを避け、それによって受容体複合体の他のメンバーとの相互作用を最小化する。
【0058】
いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインは、天然由来または合成由来から誘導される。由来が天然である場合、このドメインは、いくつかの態様では、任意の膜結合または膜貫通タンパク質に由来する。膜貫通領域は、T細胞受容体のα、βまたはζ鎖、CD8、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154の膜貫通領域から誘導される(すなわち、膜貫通領域を少なくとも含む)ものを含む。あるいは、いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインは、合成される。いくつかの態様では、合成的な膜貫通ドメインは、主にロイシンおよびバリンなどの疎水性残基を含む。いくつかの態様では、合成的な膜貫通ドメインの各端に、フェニルアラニン、トリプトファン、およびバリンのトリプレットが見出される。いくつかの実施形態では、CARは、CD8ヒンジおよび膜貫通領域を含む。
【0059】
いくつかの実施形態では、短いオリゴマーまたはポリペプチドリンカー(例えば、長さが2~10アミノ酸のリンカー、例えばグリシンとセリンを含むリンカー(例えばグリシン-セリンダブレット))が存在し、CARの膜貫通ドメインと細胞質シグナル伝達ドメインとの間に接続が形成される。
【0060】
CARは、通常に、少なくとも1つ以上の細胞内シグナル伝達成分を含む。いくつかの実施形態では、CARは、TCR複合体の細胞内成分、例えばT細胞活性化および細胞毒性を媒介するTCR CD3+鎖、例えばCD3ζ鎖を含む。したがって、いくつかの態様では、抗原結合分子は、1つまたは複数の細胞シグナル伝達モジュールと接続する。いくつかの実施形態では、細胞シグナル伝達モジュールは、CD3膜貫通ドメイン、CD3細胞内シグナル伝達ドメイン、および/または他のCD膜貫通ドメインを含む。いくつかの実施形態では、CARは、Fc受容体γ、CD8、CD4、CD25、またはCD16などの1つまたは複数の他の分子の一部をさらに含む。例えば、いくつかの態様では、CARは、CD3ζ(CD3-ζ)またはFc受容体γとCD8、CD4、CD25またはCD16との間のキメラ分子を含む。
【0061】
いくつかの実施形態では、CARを接続する際に、CARの細胞質ドメインまたは細胞内シグナル伝達ドメインは、NK細胞の正常なエフェクター機能または応答のうちの少なくとも1つを活性化する。
【0062】
いくつかの実施形態では、CARは、CD28、4-1BB、OX40、DAP10、ICOSなどの共刺激受容体のシグナル伝達ドメインおよび/または膜貫通部分を含む。いくつかの態様では、同じCARは、活性化成分と共刺激成分を含み、他の態様では、活性化ドメインは、1つのCARによって提供され、共刺激成分は、別の抗原を認識する別のCARによって提供される。
【0063】
特定の実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3(例えばCD3-ζ)細胞内ドメインに接続されたCD28膜貫通およびシグナル伝達ドメインを含む。いくつかの実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζ細胞内ドメインに接続されたCD28とCD137(4-1BB、TNFRSF9)とのキメラ共刺激ドメインを含む。
【0064】
いくつかの実施形態では、CARは、細胞質部分中の活性化ドメイン(例えば、プライマリ-活性化ドメイン(primary activation domain))と組み合わせた2つ以上の共刺激ドメインを含む。一つの例としては、CD3-ζ、CD28および4-1BBの細胞内成分を含む受容体である。
【0065】
いくつかの実施形態では、CARは、ヒトCD8ヒンジおよび膜貫通領域、細胞質ドメイン4-1BBおよびCD3ζを有する抗BCMA VHHを含む。
【0066】
いくつかの実施形態において、CARまたは他の抗原受容体は、受容体を発現するために細胞の形質導入またはエンジニアリングを確認するためのマーカー、例えば細胞表面受容体の切断型、例えば切断されたEGFR(tEGFR)をさらに含む。
【0067】
場合によっては、CARは、第1世代、第2世代、および/または第3世代CARと呼ばれる。いくつかの態様では、第1世代CARは、抗原結合時にCD3鎖の誘導シグナルのみを提供するCARである;いくつかの態様では、第2世代CARは、このようなシグナルおよび共刺激シグナルを提供するCARであり、例えば、CD28またはCD137のような共刺激受容体からの細胞内シグナル伝達ドメインを含むCARである;いくつかの態様では、第3世代CARは、いくつかの態様では、異なる共刺激受容体の複数の共刺激ドメインを含むCARである。
【0068】
いくつかの態様では、CARまたは他の抗原受容体は、抑制性CAR(例えば、iCAR)であり、細胞中のITAMおよび/または共刺激促進反応などの免疫反応などの反応を阻害または抑制する細胞内成分を含む。このような細胞内シグナル伝達成分の例は、PD-1、CTLA4、LAG3、BTLA、OX2R、TIM-3、TIGIT、LAIR-1、PGE2受容体、EP2/4アデノシン受容体(A2ARを含む)免疫チェックポイント分子上で発見されたものである。いくつかの態様では、エンジニアリングされた細胞は、そのような抑制性分子のシグナル伝達ドメインを含む抑制性CAR、またはそのような抑制性分子から誘導される抑制性CARを含み、そして、細胞の反応、例えば活性化および/または共刺激CARによって誘導される反応を抑制する。例えば、活性化受容体によって認識される抗原(例えばCAR)も正常細胞の表面上で発現するか、あるいは正常細胞の表面上でも発現する可能性がある場合、このCARはオフターゲット効果の可能性を低減するために使用される。いくつかの態様では、正常細胞特異性のマーカーを認識するiCARなどの抑制性受容体を導入する。
【0069】
いくつかの例示的な実施形態では、CARは、CD8シグナルペプチド(例えば、配列番号31を含むか、または配列番号32にコードされるもの)、抗CD19 scFv FMC 63(例えば、配列番号33を含むか、または配列番号34にコードされるもの)、ヒトCD8ヒンジおよび膜貫通領域(例えば配列番号35を含むか、または配列番号36にコードされるもの)、細胞質ドメイン4-1BB(例えば、配列番号37を含むか、または配列番号38にコードされるもの)、および/またはCD3ζ(例えば、配列番号39を含むか、または配列番号40にコードされるもの)を含むように設計される。
【0070】
細胞集団、細胞培養物または製品
本明細書は、本明細書で開示された改変されたNK細胞を含む細胞集団、細胞培養物または製品も提供する。
【0071】
本開示のいくつかの実施形態において、細胞集団、細胞培養物または製品のうちの少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.8%または100%の細胞は、本出願の改変されたNK細胞である。いくつかの実施形態では、細胞集団、細胞培養物または製品は、他の細胞を含まない。
【0072】
いくつかの実施形態では、細胞集団、細胞培養物または製品は、例えば医薬組成物および製剤として、疾患の治療に使用することができる。医薬組成物および製剤は、一般に、任意に薬学的に許容される1つ以上の担体または賦形剤を含む。いくつかの実施形態では、組成物は、少なくとも1つの追加の治療剤を含む。
【0073】
「薬物製剤」という用語は、製剤の形態が、それに含まれる活性成分の生物活性を有効にすることを可能にし、製剤を投与された対象に対して許容できない毒性を有する追加成分を含まないことを意味する。
【0074】
「薬学的に許容される担体」とは、活性成分を除いて、薬物製剤中の対象に対して無毒な成分を意味する。薬学的に許容される担体としては、緩衝剤、賦形剤、安定剤、または防腐剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
いくつかの実施形態では、担体の選択は、部分的に、特定の細胞、結合分子、および/または抗体および/または投与方法によって決定される。そのため、さまざまな適切な配合がある。担体は、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences 16 th edition、Osol、A.Ed.(1980)によって記述される。薬学的に許容される担体は、使用される用量および濃度において、通常に、受容者に対して無毒である。
【0076】
製剤または組成物は、結合分子または細胞を用いて治療される特定の適応症、疾患または障害のために使用されることができる1種以上の活性成分を含んでも良く、結合分子または細胞と相補的な活性を有するものが好ましく、それぞれの活性は互いに悪影響を与えない。そのような活性成分は、意図する目的に有効な量で組み合わせて適切に存在する。したがって、いくつかの実施形態では、医薬組成物は、さらに、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、メトトレキサート、パクリタキセル、リツキシマブ、ビンブラスチン、ビンクリスチンなどの化学療法剤などの他の医薬活性剤または医薬品を含む。
【0077】
いくつかの実施形態では、遺伝子工学細胞の場合、対象に約100万~約1000億個の細胞、例えば100万~約500億個の細胞(例えば、約500万個の細胞、約2500万個の細胞、約5億個の細胞、約10億個の細胞、約50億個の細胞、約200億個の細胞、約300億個の細胞、約400億個の細胞、または上記の値のいずれかによって定義される範囲)、例えば、約1000万~約1000億個の細胞(例えば、約2000万個の細胞、約3000万個の細胞、約4000万個の細胞、約6000万個の細胞、約7000万個の細胞、約8000万個の細胞、約9000万個の細胞、約100億個の細胞、約250億個の細胞、約500億個の細胞、約750億個の細胞、約900億個の細胞、または上記の値のいずれかで定義される範囲)、かつ場合によっては、約1億個の細胞~約500億個の細胞(例えば、約1億2000万個の細胞、約2億5000万個の細胞、約3億5000万個の細胞、約4億5000万個の細胞、約6億5000万個の細胞、約8億個の細胞、約9億個の細胞、約30億個の細胞、約300億個の細胞、約450億個の細胞)またはこれらの範囲の任意の値、および/または対象の体重1kg当たりの細胞数を投与する。
【0078】
本開示の医薬品は、標準的な投与技術、製剤、および/または装置を用いて投与することができる。組成物の貯蔵および投与のための製剤および装置、例えば注射器およびバイアルが提供される。細胞の投与は、自己または異種であってもよい。例えば、免疫応答細胞または祖先細胞は、1つの対象から獲得し、同じ対象または異なる適合な対象に投与することができる。末梢血由来の免疫応答細胞またはその子孫は、カテーテル投与、全身注射、局所注射、静脈注射、または非経口投与を含む局所注射によって投与することができる。治療組成物(例えば、遺伝子改変免疫応答細胞を含む医薬組成物)を投与する場合、通常、これは単位用量当たりの注射可能な形態(溶液、懸濁液、エマルジョン)に製剤化される。
【0079】
製剤は、経口、静脈内、腹腔内、皮下、肺、経皮、筋肉内、鼻内、口腔、舌下または座薬で投与する製剤を含む。いくつかの実施形態では、細胞集団は、非経口投与される。本明細書で使用される「非経口」という用語は、静脈内、筋肉内、皮下、直腸、膣および腹膜内投与を含む。いくつかの実施形態では、細胞集団は、静脈内、腹腔内または皮下注射による外周全身送達で対象に投与される。
【0080】
治療方法と使用
本開示のエンジニアリングされた細胞、細胞集団、細胞培養物、製品の治療方法および使用も提供する。方法および使用は、NK細胞によって治療可能な疾患、病状、または障害を有する対象に細胞または細胞を含む組成物を投与することに関する。
【0081】
本明細書で使用する場合、「治療」(およびその文法的変形、例えば「処置」または「療法」)は、疾患、病状または障害、またはそれに関連する症状、副作用または結果または表現型の完全または部分的な改善または減少を指す。所望の治療効果としては、疾患の発生または再発の予防、症状の軽減、疾患の直接的または間接的な病理的結果の軽減、転移の防止、疾患進行速度の低下、疾患状態の改善または軽減、および予後の緩和または改善が挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
本明細書で使用する場合、「有効量」という用語は、投与の場合、治療結果などの所望の結果を達成するために必要な用量/量および期間内に有効な量を意味する。薬剤(例えば、薬物製剤)の「治療有効量」とは、必要な治療結果、例えば、疾患、病状または障害の治療、および/または治療のための薬物動態学的または薬効学的効果を達成するために必要な投与量および期間内に有効な量を意味する。治療有効量は、対象の疾患状態、年齢、性別、体重、および投与される細胞集団などの要因に応じて変化することができる。
【0083】
本明細書で使用する場合、「対象」は脊椎動物、例えば哺乳動物、例えばヒトまたは他の動物であり、通常ヒトである。いくつかの実施形態では、対象は、例えば、化学療法、放射線療法、および/または造血幹細胞移植(HSCT)、例えば同種異系HSCTを含む他の療法による治療の後、持続性または再発性疾患に罹患する。いくつかの実施形態では、対象は再発しなかったが、再発のリスクがある(例えば再発のリスクが高い)と判断され、したがって、再発の可能性を低減する、または再発を予防するなどの化合物または組成物を予防的に投与する。
【0084】
疾患や障害は、癌を含む。どの癌も、本明細書に記載の遺伝子改変されたT細胞を用いて治療することができる。いくつかの実施形態では、癌は血液がんである。いくつかの実施形態では、癌は、癌腫または肉腫である。いくつかの実施形態では、癌は、急性リンパ球白血病、急性骨髄性白血病、Burkittリンパ腫、中枢神経系リンパ腫、慢性リンパ球白血病、慢性骨髄性白血病、有毛細胞白血病、慢性骨髄増殖性障害、骨髄増殖異常症候群、成人急性骨髄増殖性障害、多発性骨髄腫、皮膚T細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫または非ホジキンリンパ腫である。いくつかの実施形態では、癌は、乳癌、前立腺癌、睾丸癌、腎細胞癌、膀胱癌、肝臓癌、卵巣癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、肺癌、結腸直腸癌、肛門癌、膵臓癌、胃癌、食道がん、肝細胞癌、腎臓癌、頭頚部癌、神経膠芽腫、中皮腫、黒色腫、軟骨肉腫または骨または軟組織肉腫である。いくつかの実施形態では、癌は、副腎皮質癌、肛門癌、虫垂癌、星細胞腫、基底細胞癌、胆管癌、骨腫瘍、脳幹神経膠腫、脳癌、小脳星細胞腫、脳星細胞癌、室管膜腫、髄母細胞腫、幕上原始神経外胚葉腫、視覚通路および下視床神経膠腫または気管支腺腫である。いくつかの実施形態では、癌は結合促進組織増殖性小円球腫、室管膜腫、上皮様血管内皮腫(EHE)、Ewing肉腫、頭蓋外生殖細胞腫、性腺外生殖細胞腫、肝外胆管癌、眼内黒色腫、網膜芽細胞腫、胆嚢癌、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍(GIST)、生殖細胞腫瘍、妊娠性絨毛腫瘍(gestational trophoblastic tumor)、胃カルチノイド、心臓癌、下咽頭癌、視床下部と視覚通路神経膠腫、小児眼内黒色腫、膵島細胞癌、カポジ肉腫、喉頭癌、唇口癌、脂質肉腫、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、巨球蛋白血症、男性乳癌、骨悪性繊維組織細胞腫、髄母細胞腫、メラノーマ、メルケル細胞癌、中皮腫、転移性頸部扁平上皮癌、口癌、多発性内分泌腫症候群、菌状息肉症(mycosis fungoides)、慢性粘液腫、鼻腔癌および副鼻腔癌、鼻咽頭癌、神経母細胞腫、少突起膠質腫、口腔癌、中咽頭癌、骨肉腫、卵巣上皮癌、卵巣生殖細胞腫、卵巣低悪性潜在腫瘍、副鼻腔癌および鼻腔癌、副甲状腺癌、陰茎癌、咽頭癌、好クロム細胞腫、松果体星形細胞腫、松果腺生殖細胞腫、松果体芽腫、幕上原始神経外胚葉腫、下垂体腫、形質細胞腫、胸膜肺母細胞腫、原発性中枢神経系リンパ腫、腎細胞癌、網膜母細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺癌、子宮肉腫、Sezary症候群、非粘液腫皮膚癌、メラノーマ、Merkel細胞皮膚癌、小腸癌、扁平上皮癌、頸部扁平上皮癌、のどの癌、胸腺腫、甲状腺癌、腎盂(Renal pelvis)および尿管移行細胞癌、絨毛性腫瘍、妊娠期、尿道癌、子宮癌、膣癌、外陰癌、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症またはウィルムス腫瘍である。
【0085】
疾患や病状は、自己免疫性疾患や炎症性疾患を含む。例示的な疾患および病状は、多発性硬化症、リウマチ性関節炎、および全身性エリテマトーデス(SLE)を含む。
【0086】
がんのほか、他の疾患や病状は年齢関連疾患も含む。例示的な疾患および病状は、アテローム性動脈硬化症、糖尿病、肝線維化および変形性関節症(ostarthritis)を含む。
【0087】
いくつかの実施形態では、方法は、本開示の遺伝子工学細胞を対象に投与するための養子細胞療法を含む。このような投与は、疾患または病状の細胞が標的的に破壊されるように、細胞の活性化(例えば、NK細胞活性化)を標的的に促進することができる。
【0088】
養子細胞療法は、癌免疫療法の新しいモデルを代表するが、それは転移T/NK細胞の持続性と機能差に制限される可能性がある。ナチュラルキラー(NK)細胞は、異種移植が可能であり、既有の製品になる可能性があり、NK細胞またはCAR-NK細胞の養子細胞療法に普遍性を持たせる。
【0089】
例えば、我々が、CRISPR-Cas9変異誘発スクリーニング方法を用いて、TIGIT、NKG2Aおよび/またはCISHを標的とすることで、NK細胞を、腫瘍中に広く蓄積し、より優れた持続性と強力のエフェクター機能を有する長寿命エフェクター細胞に再プログラムする;また、CARをさらに含む改変されたNK細胞は、改善された抗腫瘍効果を産生する。それにより、我々が、腫瘍などの疾患の養子細胞療法に有望な改変されたNK細胞を提供する。
【0090】
提供される方法および使用は、養子細胞療法の方法および使用を含む。いくつかの実施形態において、方法は、細胞または細胞を含む組成物を対象、組織または細胞、例えば、疾患、病状または障害に罹患している、疾患、病状または障害のリスクがある、または疾患、病状または障害が疑われるものに投与することを含む。いくつかの実施形態では、細胞、集団および組成物は、例えば、養子NK細胞療法またはCAR-NK細胞療法などの養子細胞療法で治療しようとする特定の疾患または障害を有する対象に投与される。いくつかの実施形態では、細胞または組成物は、例えば、疾患または障害に罹患している、または疾患または障害のリスクがある対象に投与される。いくつかの態様では、以上のことにより、この方法は、例えば腫瘍の負担を軽減することによって、疾患または障害の1つまたは複数の症状を治療(例えば改善)する。
【0091】
養子細胞療法のための細胞投与方法は既知であり、提供される方法および組成物と組み合わせて使用することができる。いくつかの実施形態では、細胞療法、例えば養子細胞療法、例えば養子T細胞療法は、自己移植によって行われ、ここで、細胞は、細胞療法を受ける対象から、またはそのような対象から誘導されるサンプルから単離および/または他の方法で調製される。したがって、いくつかの態様では、細胞は、治療を必要とする対象、例えば患者に由来し、細胞の単離と処理後に、同じ対象に投与する。
【0092】
いくつかの実施形態では、細胞療法、例えば養子細胞療法、例えば養子NKまたはCAR-NK細胞療法は、異種移植によって行われ、ここで、細胞を、細胞療法を受けるかまたは最終的に受ける対象(例えば、第1の対象)以外の対象から単離および/または他の方法で調製される。そのような実施形態では、次いで、細胞を同じ種の異なる対象、例えば第2の対象に投与する。いくつかの実施形態では、第1および第2の対象は、遺伝子的に同じである。いくつかの実施形態では、第1および第2の対象は、遺伝子的に類似している。いくつかの実施形態では、第2の対象は、第1の対象と同じHLAクラスまたはスーパータイプを発現する。
【0093】
疾患の種類および重症度に応じて、細胞または医薬組成物の投与量は、約1μg/kg~15mg/kg(例えば、0.1mg/kg~10mg/kg)、約1μg/kg~100mg/kg以上、約0.05mg/kg~約10mg/kg、0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kgまたは10mg/kgを含むことができる。複数の用量、例えば、週1回または3週間に1回間欠的に投与することができる。投与は、最初のより高負荷使用量、その後の一回以上の低使用量で行っても良い。
【0094】
哺乳動物(例えばヒト)に細胞を投与した後、エンジニアリングされた細胞集団および/または医薬組成物の生物活性は、任意の公知の方法により測定することができる。評価されたパラメータには、エンジニアリングされたNK細胞と抗原のインビボ(例えばイメージング)またはエクスビボ(ex vivo)(例えばELISAまたはフローサイトメトリー)での特異的結合が含まれる。特定の実施形態では、エンジニアリングされた細胞が標的細胞を破壊する能力は、当技術分野で知られている任意の適切な方法、例えば細胞毒性アッセイを用いて測定することができる。特定の実施形態では、細胞の生物活性は、また、特定のサイトカインの発現および/または分泌を測定することによって測定することができる。いくつかの態様では、腫瘍量または負荷の減少などの臨床結果を評価することによって、生物活性を測定する。
【0095】
いくつかの実施形態では、細胞または医薬組成物は、併用治療の一部として投与され、例えば、別の治療介入(例えば、別のエンジニアリングされた細胞または受容体または試薬、例えば細胞毒性剤または治療剤)と同時にまたは順番に任意の順序で投与する。
【0096】
本明細書で参照された出版物とその参照された材料は、参照によってすべて本明細書に組み込まれる。特に記載がない限り、すべての試薬は商業的に入手されている。特に記載がない限り、すべての部とパーセンテージは重量に基づく。特に説明がない限り、結果の平均値が与えられる。特に定義がない限り、ここで使用される略語は一般的な略語である。
【実施例】
【0097】
実施例
実施例1 K562フィーダ細胞によるNK細胞の体外増幅
Sleeping Beauty トランスフェクションシステム(Addgene)を用いて全長4-1BBLと膜結合型IL-21(mBIL-21)を発現するK562細胞を構築した。mBIL-21および4-1BBLをコードする遺伝子配列を、pSBbi-RBプラスミド(Adddgene-60522)にクローニングした。pSBbi-RB-mBIL 21-4-1BBLプラスミドは、Sleeping Beauty トランスポザーゼ(SB 100 X、CAT#Adgene-127909)と共に、3:1の割合でインキュベートすることによりK562細胞に形質転換された。エンジニアリングされたK562細胞は、ブラストサイジンの圧力下で数週間選択され、mBIL-21および4-1BBLの発現を確認した後、NKフィーダとして使用され、体外でNK細胞を十分に培養した。
【0098】
健康ドナーからの新鮮なPBMCは、SailyBio(中国上海)とAllCells(中国上海、中国)が提供した。K562フィーダ細胞の細胞増殖を停止するために、50μg/mLのマイトマイシンC(Sigma-M4287)で37℃、5%CO2で1時間前処理した。PBMCと不活化されたK562フィーダ細胞を、10%FBSと200 U/mL(R&D-202-IL)ヒトIL-2を含むRPMI-1640培地中で37℃、5%CO2で1:1の割合で共培養した。培地は2日または3日ごとに交換される。
【0099】
実施例2 増幅されたNK細胞の純度測定
14日目に、増幅されたNK細胞(1×105細胞/ウェル)を、APC-抗-CD3(Biolegend-300439)およびPE-抗-CD56抗体(Biolegend-31805)と共に、4℃で1時間インキュベートした。1%BSA/PBSで洗浄した後、細胞をさらに洗浄し、1%BSA-PBS(w/v)に再懸濁して、フローサイトメトリーに使用し、FlowJoによりデータを分析した。
【0100】
NK細胞集団(CD3
-CD56
+を特徴とする)の純度を、
図1と表1に示す。
表1 6つのドナーからの増幅されたNK細胞の純度
【表1】
その結果、NK細胞は首尾よく新鮮なPBMCから高純度で増殖された。
【0101】
実施例3 CRISPR/Cas9によるTIGIT、NKG2Aおよび/またはCISHのシングルノックアウトまたはダブルノックアウト
3.1 sgRNA配列
TIGIT、NKG2A、またはCISHの低分子ガイドRNA(sgRNA)配列は、CRISPORウェブサイト上で設計されて(http://crispor.tefor.net/)、GenScript(中国南京)で合成された。sgRNAの配列を表2に示す。
表2 TIGIT、NKG2A、およびCISHのsgRNA配列
【表2】
【0102】
3.2 CRISPR/Cas9によってTIGIT、NKG2AおよびCISHのノックアウト
CRISPR-Cas9リボ核タンパク質(RNP)複合体は、4 D-NucleofectorTMシステム(4D-Nuclefector Core Unit、Lonza)を介して、増幅されたNK細胞に送達された。
【0103】
培地(10%FBSと200U/mLヒトIL-2を含むRPMI-1640)を、細胞培養プレート中で37℃で30分間予熱し、NK細胞をヌクレオフェクション(nucleofection)用に収穫した。Cas9(100pmol、Invitrogen-A 36498)とsgRNA(200pmol)のRNP(リボ核タンパク質)複合体を混合し、室温で20分間インキュベートした。室温で、各反応につき1×106個の増幅されたNK細胞とsgRNA含有RNP複合体を100μL P3一次核トランスフェクション溶液(Lonza-V 4 XP-3024)中で軽く混合し、その後、混合物をNucleocuvette容器に移した。Lonza 4 D Nuclefectorに容器を挿入し、プログラムCM-137を用いて核トランスフェクションを行った。容器を取り出した後、すぐに予熱した培地を各カセットウェルに加えた。培地/細胞/RNP混合物を、6ウェルプレート中の予熱RPMI-1640培地に移し、37℃、5%CO2でインキュベートした。3日目に、次いで、ノックアウト効率を、フローサイトメトリーまたはウェスタンブロットにより決定した。
【0104】
シングルプロテインノックアウトにおいて顕著な効果を有するsgRNA-3(TIGITに対して)、sgRNA-18(NKG2Aに対して)、およびsgRNA21(CISHに対して)を用いて、デュアルノックアウト(DKO)を行った。
【0105】
3.3 フローサイトメトリーによるノックアウト効率の測定
フローサイトメトリーによる細胞表面タンパク質TIGITとNKG2Aのシングルノックアウト効率およびデュアルノックアウト効率を測定した。
【0106】
NK細胞(1×105細胞/ウェル)をAPC-抗-TIGIT抗体(eBioscience-17-900-42)と4℃で1時間インキュベートした。1%BSA/PBSで洗浄した後、細胞を洗浄し、1%BSA-PBS(w/v)に再懸濁して、フローサイトメトリーに使用し、FlowJoによりデータを分析した。
【0107】
TIGIT、NKG2Aおよびデュアルノックアウトの効率を、それぞれ
図2-4および表3-5に示す。
表3 TIGITのノックアウト効率
【表3】
表4 NKG2Aのノックアウト効率
【表4】
表5 TIGITとNKG2Aのデュアルノックアウトの効率
【表5】
結果は、少なくともいくつかのsgRNAが、TIGITおよび/またはNKG2Aをノックアウトするのに有効であることを示している。
【0108】
3.4 ウェスタンブロットによるノックアウト効率の測定
細胞内タンパク質CISHの単独の効率をウェスタンブロットにより測定した。
【0109】
NK細胞(1×107細胞)を収集し、冷たいPBSで洗浄し、細胞溶解緩衝液(cell Signaling Technology-9803)中で溶解した。等量のタンパク質を含む細胞溶解物を、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)により分離し、ポリフッ化ビニリデン膜上に移した。0.1%Tween20を含むTris緩衝塩水中の5%脱脂乳中でブロッキングした後、膜をウサギ抗CISH抗体(Cell Signaling Technology-8731)と4℃で一晩インキュベートし、次いで、室温でHRPヤギ抗ウサギIgG(Cell Signaling Technology-7070 S)に2時間暴露した。免疫反応性タンパク質を、増強化学発光システム(ChemiDocMF,Bio-Rad)を用いて観察した。ストリップをTBSTで洗浄し、次いで、マウス抗GAPDH抗体(Cell Signaling Technology-97166)と4℃で一晩インキュベートした。第2の抗体インキュベーション(HRPヤギ抗マウスIgG(CAT#Bethyl Laboratories-A 90-231 P)後、化学発光シグナルを再捕捉した。
【0110】
データを
図5に示す。結果は、いくつかのsgRNAがCISHノックアウトに有効であることを示している。
【0111】
実施例4 改変されたNK細胞の細胞毒性
細胞表面に内因性CD155を発現し、IFN-γ誘導後にHLA-Eの発現を上昇するヒト線維肉腫細胞系HT1080(ECACC-no.8511505)を、改変されたNK細胞の細胞毒性の評価に用いた。ZsGreenを発現するレンチウイルスは、Sangon(中国上海)で合成されたレンチウイルススシャトルベクターと包装プラスミドPsPAX.2(Addgene-1260)とPMD 2.G(Addgene-1259)で包装された。0.5μg/mL IFN-γの存在下、ZsGreenレンチウイルスでトランスフェクションしたHT1080細胞を、96ウェルプレートに24時間プレ接種し、培養プレートの平底に接着させた。
【0112】
CD155およびHLA-E発現レベルは、PE-抗-CD155抗体(eBioscience-12-1550-41)およびAPC-抗-HLA-E抗体(Biolegend-342606)を用いて、フローサイトメトリーにより決定した。
図6は、HT1080細胞におけるCD155(TIGITのリガンド)とHLA-E(NKG2Aのリガンド)の高い発現レベルを示す。
【0113】
その後、改変されたNK細胞を、3:10の割合で各ウェルに添加した。IncuCite ZOOM(Essen Bioscience)自動生細胞イメージングシステムにより監視された緑色蛍光シグナルにより、生細胞の数を評価した。
【0114】
図7のデータは、NK/腫瘍細胞の割合が3:10の場合、TIGIT、NKG2Aおよび/またはCISHノックアウトされたNK細胞の細胞毒性が増強されることを示し、その中で、TIGIT/NKG2A、TIGIT/CISHとNKG2A/CISHのデュアルノックアウトは、良好な抗腫瘍活性を示し、TIGIT+CISHデュアルノックアウトは、すべての試験群の中で最も良い効果を示した。
【0115】
実施例5 エンジニアリングされたNKのインビボ研究
6~8週齢の雌NSG(Biocytogen、中国)マウスを、特定病原体除去条件下に、配置して処理し、高圧滅菌された食料と水を提供した。研究における動物の処理、看護、治療に関するすべての手順は、実験室動物看護評価と認証協会(AAALAC)の指導の下で行われた。0日目に、4x106個のA549細胞を、100mL PBS中で、NSGマウスの右腹部に皮下注射した。腫瘍が50~100mm3に達した場合、マウスを4群(ビヒクルPBS、未改変NK、TIGIT/CISHノックアウトNK、NKG2A/CISHノックアウトNK、n=6)に分け、0日目、3日目、6日目に、1x107個のNK細胞を静脈内で投与した。腫瘍体積とマウス体重を3日ごとに測定した。3日ごとにカリパスを用いて腫瘍体積を測定し、次の方程式を用いて計算した:V=0.5ab2、aとbは、それぞれ腫瘍の長径と短径である。
【0116】
結果をそれぞれ
図8A(腫瘍成長抑制)と
図8B(体重変化)に示す。
【0117】
図8Aの結果は、TIGIT/CISHノックアウトまたはNKG2A/CISHノックアウトを有するNK細胞が、マウスにおけるHT1080腫瘍成長の除去に優れた効果を有することを示している。また、
図8(b)に示すように有意差は認められず、NK治療の安全性が示唆された。
【0118】
実施例6 CAR-NKおよび改変されたCAR-NK製剤
6.1抗CD19 CARプラスミドとレトロウイルスベクターの構築
設計されたCD19標的CARは、CD8シグナルペプチド(配列番号31のアミノ酸配列、配列番号32のコード配列)、抗CD19 scFv FMC63(配列番号33のアミノ酸配列、配列番号34のコード配列)、ヒトCD8ヒンジと膜貫通領域(配列番号35のアミノ酸配列、配列番号36のコード配列)、細胞質ドメイン4-1BB(配列番号37のアミノ酸配列、配列番号38のコード配列)およびCD3ζ(配列番号39のアミノ酸配列、配列番号40のコード配列)を含む。CAR cDNA構築物を、レトロウイルスシャトルベクターpMSCV SFVのマルチクローニングサイトに合成した。
【0119】
0日目に、1×107個の293T細胞(ATCC-CRL-3216)を150mmシャーレに播種した。翌日、CD19 CARとベクターは、レトロウイルス包装プラスミド、pCMV gag-pol、PMD 2.BaEV(配列番号41のアミノ酸配列、配列番号42のコード配列)と一緒に、293T細胞に共トランスフェクションした。2日目に、トランスフェクションされた293T細胞の培地を、新鮮な培地に置換した。3日目に、トランスフェクションされた293T細胞から、レトロウイルス上清を収集し、0.45μmポリエーテルスルホン(PES)膜フィルターで濾過した。必要に応じて、レトロウイルス上清を超遠心分離(Beckman)により濃縮した。
【0120】
HT1080(ECACC、番号85111505)感染法を用いて、レトロウイルスの力価を測定した。簡単に言えば、HT1080細胞を96ウェルプレートに10,000/ウェルの密度で一晩播種した。完全DMEM培地で5倍連続希釈したレトロウイルスを、HT1080細胞に添加し、軽く混合した。培養プレートを37℃のインキュベーターに入れて72時間培養した。フローサイトメトリーを用いて、HT1080細胞中のCAR発現を蛍光により特徴づけた。レトロウイルスの力価は以下のように計算される:
レトロウイルスの力価(TU/mL)=(形質転換された細胞数×蛍光陽性%)/(ウイルス体積)。
【0121】
6.2抗CD19 CAR-NK細胞の産生
増幅されたNK細胞を、MOIが4であるレトロウイルス粒子、およびNK細胞のレトロウイルス形質導入効率を高めるものとして知られているポリブレン(Millipore-TR-1003-G、4μG/mL)と混合した。その後、細胞を6ウェルプレート中で90分間遠心分離し(32℃で1500rpm)、次いで37℃の完全RPMI 1640培地中で18時間インキュベートした。その後、遠心分離により形質導入混合物を除去し、IL-2(200U/mL)およびIL-15(140U/mL)が存在する新鮮な完全RPMI 1640培地で置換した。
【0122】
6.3改変されたCAR-NK細胞の産生
トランスフェクション後4日目に、TIGITとCISHのデュアルノックアウトにより、抗CD19 CAR-NKから改変された抗CD19 CAR-NK(mCD19 CAR-NK)が得られた。TIGITとCISH-RNP複合体を有するCAR-NKの電気穿孔プロセスは、実施例3.2に記載されている。次いで、IL-2(200U/mL)およびIL-15(140U/mL)が存在する完全1640培地中で、mCD19 CAR-NK細胞を、マイトマイシンCで処理したK562フィーダ細胞(実施例1の処理と同じ)と共培養した。
【0123】
6.4 CD19 CAR-NKの形質導入効率測定
CD19 CARおよびmCD19 CAR-NK細胞の形質導入効率は、トランスフェクション後8日目(すなわちK562フィーダ細胞との5日間の共培養後)に、フローサイトメトリーにより評価した。簡単に言えば、CAR-NKとmCAR NK細胞を収穫し、PEラベルされたCD19抗原(Acro Biosystems、CD9-HP2H3、希釈度1:100)と、4℃で1時間インキュベートした。1%BSA/PBSで洗浄した後、細胞を洗浄し、1%BSA-PBSに再懸濁して、フローサイトメトリーに使用し、FlowJoによりデータを分析した。
【0124】
図9Aおよび9Bの結果は、抗CD19 CAR-NK細胞が高い形質導入効率で効果的に産生されることを示している。
【0125】
6.5 FACSとウェスタンブロットによるノックアウト効率の測定
mCD19 CAR NK細胞のTIGITとCISHノックアウト効率を、フローサイトメトリーとウェスタンブロットによりそれぞれ測定した。
図10A、10B、11A、11Bに示す結果は、mCD19 CAR NK細胞におけるTIGITとCISHの高いノックアウト効率を証明している。
【0126】
実施例7 CAR-NKの体外特性付け
CAR-NK細胞は、腫瘍細胞の殺傷能力試験およびトランスフェクション後14日目のサイトカインの放出によって、特徴付けられた。
【0127】
7.1 細胞毒性測定
ルシフェラーゼを発現する標的細胞を産生するために、レンチウイルスルシフェラーゼをRaji細胞に形質転換した。3:1および1:1の割合で、CD19 CAR-NKとmCD19 CAR-NK細胞を、20000個のルシフェラーゼを発現するRaji(Raji-luc、ATCC-CL86)細胞と24時間共培養した。各ウェルに、One-Gloルシフェラーゼ測定試薬(CAT#Promega E6120)を添加した。プレートを室温で5分間揺らした後、EnVisionリーダー(PerkinElmer)を用いて発光を検出した。上清を集め、IFN-γ放出のために-80℃で凍結した。細胞毒性は以下の式により計算される:細胞毒性=RLU試験群/RLU対照群X100%。
【0128】
図12Aおよび12Bの結果は、未改変CD19 CAR-NK細胞に比べて、mCD19 CAR-NK細胞の癌細胞に対する毒性が顕著に増加したことを示しており、改変されたCAR-NK細胞が癌の治療においてより有効であることが示唆された。
【0129】
7.2連続殺傷試験
連続殺傷試験を用いてmCD19 CAR-NKの細胞毒性をさらに検討した。3:1および1:1の割合で、CD19 CAR-NKとmCD19 CAR-NK細胞を、20000個のRaji-luc細胞と24時間共培養し、そして、同じ量の新しいRaji-luc細胞を添加した。24時間後、100μLの上清を回収し、IFN-γ放出のために-80℃で凍結した。各ウェルに、One-Gloルシフェラーゼ測定試薬(CAT#Promega E6120)を添加した。プレートを室温で5分間揺らした後、EnVisionリーダー(PerkinElmer)を用いて発光を検出した。
【0130】
図13Aと13Bの結果は、連続殺傷試験において、mCD19 CAR-NK細胞の癌細胞に対する細胞毒性が増加したことを示しており、改変されたCAR-NK細胞が癌の治療においてより有効である可能性があることが示唆された。
【0131】
7.3 サイトカイン放出検査
実施例7.1および7.2に記載したように収集した上清を解凍し、整合した抗体ペアを用いて、酵素結合免疫吸着試験(ELISA)によるIFN-γ定量を行った。
標準品として、組換えヒトIFN-γ(cat#PeproTech-300-02)を使用した。ヒトIFN-γ特異的捕捉抗体(cat#Pierce-M700A)を用いて、プレートをプレコートした。ブロッキングした後、100μL標準品またはサンプルを各ウェルに移し、周囲温度で2時間インキュベートした。未結合物質を除去した後、IFN-γに特異的なビオチン結合検出抗体(cat#Pierce-M701B)をウェルに添加し、1時間インキュベートした。次いで、ストレプトアビジンが結合されたホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ(HRP)(cat#Invitrogen-SN1004)をウェルに添加し、周囲温度で30分間インキュベートした。TMBマトリックス100μlを割り当てて発色させ、次に2N HCl 100μlで発色を停止した。マイクロプレート分光光度計を用いて450 nMで吸光度を読み取った。
【0132】
図14A、14B、15A、15Bの結果は、mCD19 CAR-NK細胞のヒトIFN-γ放出がCD19 CAR-NKよりはるかに高いことを示している。
【0133】
本発明の範囲は、本明細書に開示された実施形態に限定されるものではなく、これらの実施形態は、本発明の様々な態様の単一の図示として意図され、いかなる機能的に同等の実施形態も本発明の範囲内にある。本明細書に記載されているものに加えて、本発明の組成物および方法の様々な変更は、当業者にとって前述の説明および教示から明らかになり、同様に本発明の範囲内に入ることが意図される。このような修正または他の実施形態は、本発明の真の範囲および要旨から逸脱することなく実施することができる。
【0134】
【配列表】
【国際調査報告】